(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】ガラス性結晶およびその能動的に制御可能な圧力熱量効果材料の固体相転移による蓄熱および放熱の方法、装置及び応用
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20241018BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C09K5/14 E
F28D20/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527055
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 CN2022072655
(87)【国際公開番号】W WO2023133909
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】202210034888.5
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522094967
【氏名又は名称】中国科学院金属研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲へい▼
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲こん▼
(72)【発明者】
【氏名】張 志東
(57)【要約】
本発明は、ガラス性結晶に基づく固体相転移熱貯蔵および放熱方法、装置および応用を開示するものであり、固体相転移エネルギー貯蔵の技術分野に属する。ガラス性結晶相は、高温柔粘性結晶相から規則的な結晶相への転移中に形成される中間準安定状態であり、圧力熱量効果材料の高温柔粘性結晶の無秩序状態を急速に冷却することによって得ることができる。急速冷却により、材料の高温での無秩序な状態が過冷却で凍結されるため、通常は低温で発生する完全な配向秩序が回避される。それにわずかな圧力を加えると、ガラス性結晶相から規則的な結晶相への変態が達成され、それによって熱が放出される。このガラス性結晶相は熱安定性に優れているため、長期保存、長距離輸送、熱エネルギーの制御放出が可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力熱量効果材料の制御可能な固体相変化蓄熱および放熱方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする方法。
ステップ1:圧力熱量効果材料サンプルを加熱して、高温の柔粘性結晶相にする。
ステップ2:高温柔粘性結晶相の圧力熱量効果材料を急冷してガラス性結晶相の圧力熱量効果材料を取得し、ガラス性結晶相の圧力熱量効果材料に長期の熱エネルギー貯蔵を達成する。
ステップ3:熱を放出する必要がある場合、駆動方法として圧力を加えて熱の放出を制御し、熱エネルギーの制御可能な貯蔵、移動、利用を実現する。
【請求項2】
前記ステップ2において、前記ガラス性結晶相を得るための急冷方法は、2K/分以上の冷却速度で冷却すること、または前記高温柔粘性結晶相のサンプルを氷水または液体窒素で瞬時に冷却することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ3において、圧力を加える方法は静水圧加圧または針刺し加圧を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記圧力熱量効果材料は、ガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記圧力熱量効果材料が、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (CH
3)C(CH
2)(CH
2OH)
2 (AMP)、m-カルボラン C
2B
10H
12、1-シアノアダマンタン C
11H
15N (CAN)、アダマンタノン C
10H
14O (AON)、およびペンタクロロニトロベンゼン C
6C
l5NO
2 (PCNB)のうちの1つ以上であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記圧力熱量効果材料が2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMP)である場合、355Kで相転移が起こり、熱を吸収して高温の柔粘性結晶相状態に変化し、対応するエンタルピー変化の値は215Jg
-1、エントロピー変化の値は606Jkg
-1K
-1であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
高温柔粘性結晶相状態にある2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMP)を273Kの低温状態まで急冷する際に、ガラス性結晶相状態が得られることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
得られたガラス性結晶相状態の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMP)を273Kで保存し、または加熱して室温以下の温度の状態では、自発的な相転移および熱の放出が起こることがなく、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMP)材料に熱を長期間蓄えることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
273K温度で保温状態の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMP)に圧力を加えると、明らかな発熱ピークが現れ、対応するエンタルピー変化の値は133Jg
-1、エントロピー変化の値は487Jkg
-1K
-1であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
加えられる圧力値が67bar以上であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
圧力熱量効果材料を含む蓄熱および熱交換装置であって、加熱ユニット、急速冷却ユニット、加圧ユニットを含む。前記加熱ユニットは、圧力熱量効果材料を加熱して高温の柔粘性結晶相にするために使用される。前記急速冷却ユニットは、高温の柔粘性結晶相の圧力熱量効果材料を急速に冷却して、ガラス性結晶相の圧力熱量効果材料を得るために使用される。前記加圧ユニットは、熱を放出する必要がある場合、圧力熱量効果材料に静水圧または針刺し加圧を加えて熱の放出を制御し、熱エネルギーの制御可能な貯蔵、移動、利用を実現する。
【請求項12】
請求項11に記載の蓄熱熱交換装置において、前記圧力熱量効果材料は、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (CH
3)C(CH
2)(CH
2OH)
2 (AMP)、m-カルボラン C
2B
10H
12、1-シアノアダマンタン C
11H
15N (CAN)、アダマンタノン C
10H
14O (AON)、およびペンタクロロニトロベンゼン C
6C
l5NO
2 (PCNB)のうちの1つ以上であることを特徴とする、蓄熱熱交換装置。
【請求項13】
請求項1に記載の圧力熱量効果材料を利用して、発電所の冷却塔のパイプライン、ボイラーのブローダウンコンポーネント、脱気器の排気コンポーネントなどの設備の熱を吸収し、材料を高温柔粘性結晶相に相転移させ、さらに、材料を高温柔粘性結晶相からガラス性結晶相に変態させる。そして、材料のガラス性結晶相状態を維持することにより、低温での蓄熱を実現し、最終的には圧力を加えることで熱を放出して利用することを特徴とする火力発電所の廃熱の再利用方法。
【請求項14】
請求項1に記載の圧力熱量効果材料を利用して、太陽熱集熱器によって発生する熱を吸収し、材料を高温柔粘性結晶相に相転移させ、さらに、材料を高温柔粘性結晶相からガラス性結晶相に変態させる。そして、材料のガラス性結晶相状態を維持することにより、低温での蓄熱を実現し、最終的には圧力を加えることで熱を放出して利用することを特徴とする太陽エネルギーを貯蔵する方法。
【請求項15】
請求項1に記載の圧力熱量効果材料を利用して、データセンターから発生する熱を吸収し、材料を高温柔粘性結晶相に相転移させ、さらに、材料を高温柔粘性結晶相からガラス性結晶相に変態させる。そして、材料のガラス性結晶相状態を維持することにより、低温での蓄熱を実現し、最終的には圧力を加えることで熱を放出して利用することを特徴とするデータセンターのコンピュータ室の廃熱のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体相転移エネルギー貯蔵の技術分野に関する。特に、ガラス性結晶およびその能動的に制御可能な圧力熱量効果(barocaloric, バロカロリック)材料の固体相転移による蓄熱および放熱の方法、装置及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
気候変動は人類が直面する世界的な問題であり、各国が二酸化炭素を排出するにつれて温室効果ガスが増加し続けており、生態系に脅威を与えている。このような背景から、世界各国は温室効果ガス排出削減に向けた世界協定を採択しており、中国も「カーボンピーキング」と「カーボンニュートラル」という戦略目標を提唱している。クリーンエネルギーの使用とエネルギー効率の向上は、カーボンニュートラルの目標を達成する効果的な方法である。しかし、現在のデータによると、世界中でエネルギー変換プロセスにおいて、無駄にされているエネルギーが72%に達している。主に熱エネルギーの形で散逸されているため、有効利用することができず、エネルギー利用効率の低下と化石エネルギーの散逸問題となっている。熱エネルギーの回収と利用は、持続可能なエネルギー利用を達成する上で広範かつ重要な役割を果たす。蓄熱技術は、蓄熱材を媒体として太陽熱、地熱、産業廃熱、低品位廃熱などの熱エネルギーを蓄え、必要なときに放出することで、時間、空間、または強度における熱エネルギーの供給と需要の不一致によって引き起こされる問題を解決し、システム全体のエネルギー利用を最大化することを目的として徐々に開発された技術である。したがって、高性能蓄熱材料の開発は、エネルギー利用を改善し、エネルギー消費を削減し、最終的には炭素排出問題を解決するための重要なアプローチとなる。
【0003】
相転移材料をベースとした潜熱蓄熱技術は、材料自身の相転移の過程を利用して熱を吸収・放出し、熱の貯蔵と利用を実現する。相転移潜熱蓄熱材は顕熱蓄熱技術に比べてエネルギー出力が安定しており、単位体積当たりの蓄熱量が顕熱蓄熱材の数倍に達する。このうち、固体-固体相転移蓄熱材は、相転移の過程で液相を生成せず、相転移前後の体積変化が比較的小さい。無毒、非腐食性であり、容器の材質や加工技術への要求が低く、過冷却度が小さく、耐用年数が長いため、最も理想的な蓄熱方法と考えられている。しかし、従来の固体-固体相転移材料は、相転移の潜熱が小さく、蓄熱容量が限られている。同時に、従来の固体-固体相転移材料の相転移挙動は周囲温度の変化に完全に依存しており、周囲温度が徐々に低下すると自発的に相転移が発生し、制御不能な熱放出が発生し、熱放出の時間を正確に制御することは不可能であり、熱量制御の主導権を欠いている。その結果、このような材料は長距離輸送や温度範囲の広い低温環境での使用ができず、熱エネルギーの回収や利用が著しく制限される。蓄熱技術への要求が高まる中、高い蓄熱性能を持ち、熱の放出を能動的に制御できる固体相転移蓄熱材料の開発は新たな課題となっている。
【0004】
固体-固体相転移材料には、結晶相、柔粘性結晶(プラスチッククリスタル)相、ガラス性結晶相の3つの相構造が関係する。結晶相は、結晶格子の配向や構造単位を含めて完全に秩序化された規則的な状態である。柔粘性結晶相は、高度に無秩序な状態であり、材料を構成する有機分子または無機構造単位の配向が完全に乱れている状態であるが、質量中心の位置は依然として長距離で規則的な結晶格子を維持している。ガラス性結晶相の秩序度は結晶相と柔粘性結晶相の中間にあり、質量中心は秩序化しているが配向が乱れている状態(凍結状態)である。すべての固体相転移材料がこれら3つの相構造を同時に持つわけではなく、一部の材料のみが同時に柔粘性結晶相を持ち、柔粘性結晶材料のほんの一部だけがガラス性結晶相を持つ。
【0005】
圧力熱量効果(barocaloric, バロカロリック)とは、圧力によって相転移が起こり、熱量効果が生じる現象を指す。近年、出願人のチームは、圧力熱量効果を有する圧力熱量効果材料の研究において画期的な進歩を遂げ、一部の圧力熱量効果材料のエントロピー変化は数百Jkg-1K-1に達することが可能である。圧力熱量効果冷凍技術においては、可逆的な圧力熱量効果が効率的な固体冷凍技術の適用を実現するための前提条件である。しかしながら、出願人のチームは、ガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料の研究中に、圧力熱量効果が不可逆的であることを発見した。つまり、ガラス性結晶相を有するこの種の材料は、昇温プロセス中、規則的な結晶相から柔粘性結晶相に変化することが可能であるが、降温プロセス中、相転移点よりもはるかに低い温度でも、可逆的な相転移は依然として起こらなかった。したがって、このような非可逆圧力熱量効果を有する圧力熱量効果材料は、エントロピー変化が非常に大きいものの、実際には圧力熱量効果冷凍材料として使用することはできない。驚くべきことに、ガラス性結晶相を有するこの種の圧力熱量効果材料の不可逆的な相転移に基づいて、長期にわたり、広い温度範囲で、地域を跨る熱貯蔵の実現が期待されている。これは、ガラス性結晶相を有するこの種の材料は、温度が低下しても自発的に相転移を起こさないためである。この結果をもたらす理由の1つは、この種の圧力熱量効果材料が急速冷却プロセス中に過冷却で凍結されガラス性結晶相が形成される。直接完全に秩序化された規則的な低温秩序相に変化することが無かった。大量の無秩序な状態が保存および凍結されるため、ガラス性結晶相の材料は依然として大きなエントロピーを有し、十分な蓄熱が確保されている。
【0006】
また、圧力熱量効果材料の相転移の圧力駆動可能と同様に、柔粘性結晶相を急冷してガラス性結晶相を形成した後、静水圧を加える駆動方式によって、ガラス性結晶相から低温規則結晶相へ相転移を実現することができ、潜熱を放出するという目的を達成する。ガラス性結晶相は圧力制御ができるため、この種の圧力熱量効果材料を蓄熱材料として使用する場合、放熱時間を正確に制御できる手段が提供される。これによると、この種の圧力熱量効果材料の柔粘性結晶相とガラス性結晶相の有効的な結合により、固体-固体圧力熱量効果材料における現在の相転移蓄熱材料の限界を突破し、温度区域を跨り、遠距離、長時間の蓄熱、放熱時間の正確な制御を実現することが期待されている。
【発明の概要】
【0007】
固体相転移による熱の貯蔵と放出における上記の問題を克服するために、本発明の目的は、能動的に放熱を制御できる圧力駆動の固体蓄熱・放熱方法、装置および用途を提供することである。
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明が採用する技術的解決策は以下のとおりである。
【0009】
圧力熱量効果材料の制御可能な固体相転移蓄熱および放熱方法であって、以下の三つのステップを含む。ステップ1は、圧力熱量効果材料サンプルを高温の柔粘性結晶相状態になるように加熱する。ステップ2は、高温柔粘性結晶相の圧力熱量効果材料を急速に冷却してガラス性結晶相の圧力熱量効果材料を得る。ガラス性結晶相状態で圧力熱量効果材料内の長期的な熱エネルギー貯蔵を実現する。ステップ3は、放熱が必要な場合は、駆動方法として圧力を加えて放熱を抑制することにより、熱エネルギーの制御可能な貯蔵、移動、利用を実現する。
【0010】
このうち、ステップ2では、ガラス性結晶相を得る急速冷却の方法には、≧2K/分の冷却速度で冷却すること、または、氷水または液体窒素で高温柔粘性結晶相サンプルを瞬間冷却することが含まれる。ステップ3では、圧力を加える方法には、静水圧または針刺しで加圧することが含まれる。前記圧力熱量効果材料としては、柔粘性結晶材料のうち、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (CH3)C(CH2)(CH2OH)2 (AMP)、m-カルボラン C2B10H12、1-シアノアダマンタン C11H15N (CAN)、アダマンタノン C10H14O (AON)、およびペンタクロロニトロベンゼン C6Cl5NO2 (PCNB)から選択される1種以上の柔粘性結晶材料である。
【0011】
圧力熱量効果材料が2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (AMP)である場合、355Kで相転移が起こり、熱を吸収して高温の柔粘性結晶相状態に変化し、それに対応するエンタルピー変化は215Jg-1であり、エントロピー変化は606Jkg-1K-1である。高温の柔粘性結晶相にある2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (AMP)を273Kの低温状態まで急冷すると、ガラス性結晶相が得られる。得られたガラス性結晶相の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (AMP)を273Kで保存し、または、加熱して室温以下の温度状態で、長期間で熱を蓄えることができる。2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (AMP)は自発的に相転移を起こして熱を放出することはない。温度273Kで保持状態の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (AMP)に67bar以上の圧力をかけると、顕著な放熱ピークが生じる。それに対応するエンタルピー変化は133Jg-1であり、エントロピー変化は487Jkg-1K-1である。
【0012】
圧力熱量効果材料を含む蓄熱および熱交換装置であって、前記装置は、加熱ユニット、急速冷却ユニット、加圧ユニットを含む。前記加熱ユニットは、圧力熱量効果材料を高温の柔粘性結晶相にするために使用される。前記急速冷却ユニットは、高温の柔粘性結晶相の圧力熱量効果材料を急速に冷却して、ガラス性結晶相の圧力熱量効果材料を得るために使用される。前記加圧ユニットは、熱を放出する必要がある場合、圧力熱量効果材料に静水圧または針刺し加圧を加えて熱の放出を制御し、熱エネルギーの制御可能な貯蔵、移動、利用を実現する。圧力熱量効果材料は、ガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料であることが好ましく、さらに、圧力熱量効果材料は、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (CH3)C(CH2)(CH2OH)2 (AMP)、m-カルボラン C2B10H12、1-シアノアダマンタン C11H15N (CAN)、アダマンタノン C10H14O (AON)、およびペンタクロロニトロベンゼン C6Cl5NO2 (PCNB)の中の1種以上から選択される。
【0013】
火力発電所の廃熱を再利用する方法であって、本発明のガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料を用いて、発電所の冷却塔のパイプライン、ボイラーのブローダウンコンポーネント、脱気器の排気コンポーネントなどの設備の熱を吸収し、材料を高温柔粘性結晶相に相転移させ、さらに、材料を高温柔粘性結晶相からガラス性結晶相に変態させる。そして、材料のガラス性結晶相状態を維持することにより、低温での蓄熱を実現し、最終的には圧力を加えることで熱を放出して利用することを実現する。
【0014】
太陽エネルギーを貯蔵する方法であって、本発明のガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料を利用して太陽熱集熱器によって発生する熱を吸収し、材料を高温柔粘性結晶相に相転移させ、さらに、材料を高温柔粘性結晶相からガラス性結晶相に変態させる。そして、材料のガラス性結晶相状態を維持することにより、低温での蓄熱を実現し、最終的には圧力を加えることで熱を放出して利用することを実現する。
【0015】
データセンターのコンピュータ室で廃熱をリサイクルして利用する方法であって、本発明のガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料を使用して、データセンターで発生する熱を吸収し、その結果、材料を高温柔粘性結晶相に相転移させ、さらに、材料を高温柔粘性結晶相からガラス性結晶相に変態させる。そして、材料のガラス性結晶相状態を維持することにより、低温での蓄熱を実現し、最終的には圧力を加えることで熱を放出して利用することを実現する。
【0016】
本発明の利点および有益な効果は次のとおりである。
1.従来の相転移蓄熱材では放熱時間を正確に制御できない。熱放出時間は周囲環境の温度のみに依存し、長距離の輸送や利用が実現できない。たとえば、人々は太陽が昇っているときにのみソーラークッカーを加熱できるが、夕食を作ろうとする頃には、ソーラークッカーは蓄えられた熱をすべて涼しい夜の空気に放散している可能性がある。本発明は、圧力熱量効果材料の柔粘性結晶相とガラス性結晶相を有機的に組み合わせ、この2つの相がそれぞれ持つ特性や利点を利用することで、相転移潜熱が小さい、蓄熱量が少ない、長距離輸送が実現できない、熱の放出時間を正確に制御できないといった、従来の固相-固相転移蓄熱材の限界を解決することができる。
【0017】
2.本発明の解決策は、複数のシナリオで廃熱を吸収するために使用することが可能である。柔粘性結晶相転移過程の大きなエントロピー変化特性に基づいて、熱源の効率的な冷却効果を達成する。従来の固体-固体相転移蓄熱材料と比較して、柔粘性結晶相転移過程は巨大な潜熱とエントロピー変化を生み出すことができる。柔粘性結晶相は高度に無秩序な状態であるため、材料の構造単位分子の配向は完全に無秩序であるが、質量の中心位置は長距離で規則的な格子を形成している。分子配向の乱れが著しく大きいため、固体相転移時のエントロピー変化が融解エントロピーよりも大きくなり、系の全自由度に占める無秩序な自由度の割合が、固体の剛性を維持する限界に近づいていく。巨大な相変化エントロピー変化により、熱源から発生する熱を大量に吸収し、熱源の温度を効果的に低下させ、効率的な冷凍効果を実現する。
【0018】
3.本発明の解決策は、圧力熱量効果材料のガラス性結晶相の特性を最大限に利用して、熱の長期保存と長距離輸送を達成する。ガラス性結晶相は、材料が高温の柔粘性結晶相から低温の規則的な結晶相に変態する際に形成される中間の準安定状態である。急速冷却により、材料の高温での無秩序な状態が過冷却で凍結される。これにより、低温で通常起こる完全配向秩序化を避けることができる。ガラス性結晶相に無秩序な状態が存在すると、大きなエントロピー変化が生じる。同時に、ガラス性結晶相と低温規則的な結晶相との間にはエネルギー障壁があるため、この状態は外場の影響を作用されない限り、長時間低温状態で保存しても、低温結晶相に自発的に転移することなく、長距離の熱輸送が可能になる。
【0019】
4.他の圧力熱量効果材料と同様に、ガラス性結晶相から規則的な結晶相への相転移は、静水圧を加える等の方法によって達成でき、それによって大量の相転移潜熱が放出される。この過程は操作が簡単で、経済コストが低く、過酷で複雑な装置や作業環境を必要としない。これにより、氷点付近などの低温環境や熱利用が必要な場面において、ガラス性結晶相の圧力熱量効果材料に静水圧や針刺しで加圧することで、制御可能な放熱・利用が可能となる。
【0020】
5.本発明に係る相転移挙動は全て固体-固体相転移であり、体積の変化が小さく、相分離がなく、液漏れがなく、腐食性が低く、装置が簡単であるという利点を有する。2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (CH3)C(CH2)(CH2OH)2 (AMP)を例に挙げると、他の固体-固体相転移材料と比較して、その蓄熱能力には大きな利点がある。エントロピー変化は487Jkg-1K-1にも達する。
【0021】
6.本発明の解決策は、火力発電所における廃熱のリサイクルに適用することができ、廃熱を圧力熱量材料に移動して貯蔵し、回収した廃熱を暖房が必要な低温環境まで長距離輸送できる。熱が必要な場面では、より少ない圧力で熱を放出して暖房するという目的を達成する。本発明は、太陽エネルギーの長期貯蔵および利用、データセンターのコンピュータ室における廃熱のリサイクルなどにも適用することができ、幅広い応用の可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料の相転移過程および熱の吸収および放出の概略図である。
【
図2】低温規則的な結晶相から高温柔粘性結晶相へのAMPの加熱昇温過程の熱流曲線である。
【
図3】高温柔粘性結晶相からガラス性結晶相へのAMPの冷却降温過程の熱流曲線である。
【
図4】放熱を達成するために273Kの断熱状態にあるAMPガラス性結晶相に圧力を加えたときの熱流曲線を示している。
【
図5】放熱を達成するために室温でAMPガラス性結晶相に圧力を加えた場合の温度変化曲線である。
【
図6】高温柔粘性結晶相とガラス性結晶相の間のAMPの循環的熱流曲線である。
【
図7】273Kで24時間維持したAMPのガラス性結晶相の熱流曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明をさらに理解するために、以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、これらの実施例は本発明の特徴および利点をさらに説明するためのものであり、本発明の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0024】
本発明の解決策は、圧力熱量効果材料の制御可能な固体相転移蓄熱および放熱方法であり、以下を含む。
【0025】
ステップ1:高温柔粘性結晶相になるように圧力熱量効果材料サンプルを加熱する。加熱方法には、マイクロ熱量計のサンプルチャンバーを使用して温度を上げる方法や、加熱ステージを使用してサンプルを直接加熱する方法が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0026】
ステップ2:高温柔粘性結晶相の圧力熱量効果材料を急速に冷却して、ガラス性結晶相の圧力熱量効果材料を得る。これにより、圧力熱量効果材料に長期の熱エネルギー貯蔵が達成される。ガラス性結晶相は、圧力熱量効果材料が規則的な結晶に変態する過程で形成される中間準安定状態であり、柔粘性結晶相の高温無秩序状態を十分に急速に冷却することによって得られる。急速冷却により、柔粘性結晶相の高温で無秩序な状態が過冷却で凍結されるため、これにより、低温で通常起こる完全配向秩序化を避けることができる。ガラス性結晶相に無秩序な状態が存在することにより、その状態の材料は依然として大量のエントロピー変化を保持している。この状態は外場の影響を作用されない限り、長時間低温状態で保存しても、低温結晶相に自発的に転移することなく、長距離の熱輸送が可能になる。急速冷却の方法には、≧2K/分の冷却速度での急速冷却、または氷水または液体窒素による高温柔粘性相サンプルの瞬間冷却が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0027】
ステップ3:低温でガラス性結晶相材料に小さな外圧を加えると、ガラス性結晶から規則的な結晶への相転移が達成され、分子の無秩序な状態が完全な配向と秩序変態を起こし、同時に大きなエントロピー変化を伴い、熱の放出も達成される。熱を放出する必要がある場合、駆動方法として静水圧または針刺し加圧が使用され、熱の放出を制御して、制御可能な熱の貯蔵、移動、利用を実現する。
【0028】
本発明の解決策は、圧力熱量効果材料を含む蓄熱および熱交換装置にも関する。前記装置は、加熱ユニット、急速冷却ユニット、加圧ユニットを含む。前記加熱ユニットは、圧力熱量効果材料を高温の柔粘性結晶相にするために使用される。前記急速冷却ユニットは、高温の柔粘性結晶相の圧力熱量効果材料を急速に冷却して、ガラス性結晶相の圧力熱量効果材料を得るために使用される。前記加圧ユニットは、熱を放出する必要がある場合、圧力熱量効果材料に静水圧または針刺し加圧を加えて熱の放出を制御し、熱エネルギーの制御可能な貯蔵、移動、利用を実現する。
図1はそのサイクル過程を示している。圧力熱量効果材料は、蓄熱および熱交換装置のエネルギー伝達材料として使用し、低温規則的な結晶相から高温柔粘性結晶相へ転移する吸熱過程を利用して固体冷凍機能を実現する。静水圧加圧等の駆動方法でガラス性結晶相から低温規則的な結晶相に相転移し、固体相転移の蓄熱およびその利用機能を実現する。
【0029】
本発明の圧力熱量効果材料は、ガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料であり、好ましくはガラス性結晶相を有する柔粘性結晶材料である。柔粘性結晶材料は高度に無秩序な固体材料の一種であるため、構造単位分子の配向は完全に乱れているが、重心位置は長距離で規則的な格子を形成しているため、回転無秩序結晶とも呼ばれる。分子配向の乱れが著しく大きいため、固体相転移時のエントロピー変化が融解エントロピーよりも大きくなり、系の全自由度に占める無秩序な自由度の割合が、固体の剛性を維持する限界に近づいていく。分子間の弱い相互作用は非常に大きな圧縮率をもたらし、微小な圧力でも分子間相互作用を調節可能で、秩序相と無秩序相の間の相転移を引き起こし、これはエントロピーの変化となる。ガラス性結晶相の場合、柔粘性結晶相と比較すると、重心位置は長距離秩序状態を維持しているが、有機分子や無機構造単位の配向乱れ状態は過冷却で凍結されており、完全に無秩序な回転状態ではなくなった。それにも関わらず、ガラス性結晶相は、従来の結晶相に比べて依然として高度な無秩序性を有している。表1は、さまざまな相構造と状態間の具体的な違いを示している。したがって、ガラス性結晶相を有する柔粘性結晶圧力熱量効果材料は、大きな相転移エントロピー変化、圧力によって調整可能な相転移およびエントロピー変化の制御性などの特性を有しており、これらの特徴は本発明の方法、装置、および応用に完全に適用可能である。本発明の実施形態で使用される圧力熱量効果材料はガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料であり、好ましくは柔粘性結晶材料中の2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール ((CH3)C(CH2)(CH2OH)2 (AMP)、m-カルボラン C2B10H12、1-シアノアダマンタン C11H15N (CAN)、アダマンタノン C10H14O (AON)、およびペンタクロロニトロベンゼン C6Cl5NO2 (PCNB)の中の1種以上から選択される。これらの中でも、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (CH3)C(CH2)(CH2OH)2 (AMP)、またはm-カルボラン C2B10H12がより好ましく、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (CH3)C(CH2)(CH2OH)2 (AMP)さらに好ましい。
【0030】
【0031】
本発明の用途には、火力発電所における廃熱のリサイクルも含まれる。一実施形態では、ガラス性結晶相を有する低温規則的な結晶相の圧力熱量効果材料が発電所の冷却塔内に配置され、廃熱により加熱された循環冷却水が圧力熱量効果材料を流れると、材料は低温相から高温の柔粘性結晶相に変化し、廃熱が材料に伝達されて蓄えられる。同時に、循環水は冷却され、発電所からの廃熱を回収するために回流し続ける。高温の柔粘性結晶相材料を急速冷却した後、ガラス性結晶相に変化させる。これにより、加熱が必要な低温環境への廃熱収集材料の長距離輸送を実現できる。熱が必要な場合、より小さな圧力を加えることで材料がガラス性結晶相から低温規則的な結晶相に変化し、加熱のために熱を放出するという目的が達成される。
【0032】
本発明の応用には、太陽エネルギーを貯蔵するためのガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料の使用も含まれる。一実施形態では、圧力熱量効果材料を使用して太陽熱集熱器によって生成された熱を吸収する。たとえば、圧力熱量効果材料が太陽熱集熱器または蓄熱コンポーネントに配置され、材料が高温の柔粘性結晶に相転移する。その後、材料は高温の柔粘性結晶相からガラス性結晶相に変化し、そのガラス性結晶相の状態を維持することにより、低温での蓄熱が実現され、最後に圧力を加えることで熱を放出し利用する。
【0033】
本発明の応用には、データセンターのコンピュータ室における廃熱のリサイクルも含まれる。一実施形態では、データセンターで発生する熱を吸収するためにガラス性結晶相を有する圧力熱量効果材料を使用する。たとえば、圧力熱量効果材料をデータセンターホストの放熱端に設置して、材料が熱を受けて、高温柔粘性結晶相状態に相転移する。その後材料は高温柔粘性結晶相からガラス性結晶相に変化する。材料のガラス性結晶相状態を維持することにより、低温での蓄熱が実現され、最後に圧力を加えることで熱を放出し利用する。
【0034】
以下では、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール (CH3)C(CH2)(CH2OH)2 (AMP)を例として、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0035】
ガラス性結晶相を得る第1の実施形態:
低温規則的な結晶相のAMPバルクサンプルを気密高圧サンプルセルに入れ、比較サンプルセルを空のままμDSC7(Setalam、フランス)微量熱量計のサンプルチャンバーに入れる。ブースター装置を使用して2つのサンプルセルに窒素を流し、常圧(0.1MPa)を維持し、2K/分の昇温速度で228Kから383Kまで加熱し、サンプルの熱流データを記録し、
図2の曲線に示している。AMPは355Kで相転移が起こり、対応するエンタルピー変化の値は215Jg
-1、エントロピー変化の値は606Jkg
-1K
-1であることがわかる。このプロセスを使用すると、熱源からの熱を吸収して冷却効果を得ることができる。また、381K付近に現れる吸熱ピークはAMPの融点に相当する。このようにして、AMPの高温柔粘性結晶相が得られる。
【0036】
次に、高温柔粘性結晶相のサンプルを2K/分以上の冷却速度で273Kの低温状態まで急冷し、サンプルの高温無秩序状態を過冷却で凍結させ、これにより、低温で通常起こる完全配向秩序化を避けることができる。最終的にはAMPがガラス性結晶相状態に移行する。記録されたサンプルの熱流データは、
図3の曲線に示す。AMPの凝固点に相当する378Kに放熱ピークが現れていることがわかる。昇温過程とは異なり、それ以下の冷却過程中に明らかな放熱ピークは見られなかった。この特徴を利用して、冷却による自発的な相転移の影響を受けることなく、熱を保存および輸送できる。
【0037】
ガラス性結晶相を得る第2の実施形態:
規則的な結晶相のAMP粉末サンプルを室温のガラス容器に入れ、加熱台などの加熱装置を用いて加熱し、AMPの加熱相転移温度(低温規則的な結晶相から高温柔粘性結晶相への転移)を超えると、高温柔粘性結晶相のAMPが得られる。この状態のAMPを氷水や液体窒素で急冷することにより、高温の無秩序状態を瞬時に過冷却で凍結させ、ガラス性結晶相状態が得られる。
【0038】
熱エネルギーの貯蔵:
得られたガラス性結晶相を273Kで持続的に保存し、または、室温以下の温度に昇温することにより、AMPは低温規則的な結晶相に自発的に変化することなく、長期間ガラス性結晶相に保持することができる。この機能により、ガラス性結晶相のAMP材料をさまざまな低温環境で使用できるようになり、温度変化による自発的な相転移も回避できるため、自発的な相転移や放熱を伴うことなく長距離輸送が可能になる。
【0039】
制御可能な熱放出:
第1の実施形態で得られたガラス性結晶相AMP材料を273Kの温度で持続的に保管する。この状態で2時間保温した後、ブースター装置を使用して2つのサンプルセルに窒素を流し、ガス圧力を瞬時に67barまで上昇させ、サンプルの熱流データを記録し、
図4の曲線に示す。273Kの温度で保温状態のAMPガラス性結晶相に67barの圧力を加えると、サンプルは明らかな放熱ピークが現れ、これはAMPガラス性結晶相から加圧による低温相への相転移の発熱過程に対応する。対応するエンタルピー変化の値は133Jg
-1、エントロピー変化の値は487Jkg
-1K
-1である。この結果は、AMPガラス性結晶相に蓄えられた熱を小さな圧力で制御して積極的な熱放出を達成できることを示している。AMPのガラス性結晶相から規則的な結晶相への変換は、圧力によって達成できる。この相転移には大量の潜熱の放出が伴い、それによって、AMP材料内部に蓄えられた熱の制御された放出と制御可能な利用が達成される。
【0040】
第2の実施形態によって得られたサンプルについては、K型熱電対を使用して、室温で保存されたガラス性結晶相状態のAMP材料の温度をリアルタイムで測定し監視する。温度が室温で一定である場合、針などの鋭利な物体で刺して圧力を加えてガラス性結晶相から低温規則的な結晶相に相転移させ、同時にサンプルの温度をリアルタイムで監視する。その結果は
図5の曲線に示されている。相転移と同時に、サンプルの温度が瞬時に上昇し、不完全な断熱条件下では、温度変化が32.5Kに達することが示され、それによって蓄積された熱の積極的な放出と制御可能な利用が達成される。
【0041】
高温相からガラス性結晶までのAMPの昇温/降温サイクルプロセス:
低温規則的な結晶相のAMPサンプルを気密高圧サンプルセルに入れ、比較サンプルセルを空のままμDSC7(Setalam、フランス)微量熱量計のサンプルチャンバーに入れた。ブースター装置を使用して2つのサンプルセルに窒素を流し、常圧(0.1MPa)を維持し、2K/分の加熱速度で273Kから383Kまで加熱し、その後2K/分の冷却速度で273Kまで冷却する。上記のプロセスを6回繰り返し、サンプルの熱流データを記録し
図6の曲線に示す。この結果は、AMPが高温から273Kまでの温度範囲において、昇温または降温過程でも、ガラス性結晶相から低温秩序相への転移は見られず、循環可能である。
【0042】
AMPガラス性結晶相の経時安定性:
低温規則的な結晶相のAMPサンプルを気密高圧サンプルセルに入れ、比較サンプルセルを空のままμDSC7(Setalam、フランス)微量熱量計のサンプルチャンバーに入れた。ブースター装置を使用して2つサンプルセルに窒素を導入し、常圧(0.1MPa)を維持し、2K/分の加熱速度で273Kから383Kまで加熱し、その後2K/分の冷却速度で273Kまで冷却する。その後、温度を273Kに設定して24時間保温し、サンプルの熱流データを記録し
図7の曲線に示す。この結果は、AMPのガラス性結晶相が周囲温度273Kの環境下で安定に保存でき、経時安定性を具備していることを示している。この特徴により、この種の材料の低温環境での熱エネルギー貯蔵が保証される。
【0043】
固体相転移蓄熱における本発明の方法および材料の応用例1:
通常、火力発電所の実際の熱効率は低く、約60%の熱が復水器の循環冷却水によって奪われ、環境に放出される。発電所で循環する冷却水は低品位の熱エネルギーであり、直接利用できる範囲は限られており、かつては冷却塔による直接排出方式が使用されていた。一方、火力発電所の生産過程では、シャフトシールの蒸気漏れ、ボイラーのブローダウン、脱気装置の排気など、さまざまな廃熱が発生するが、これらはすべて廃熱を運ぶプロセスである。この熱量はこれまで利用されずに環境に直接放出されていた。放出される熱は環境に熱汚染を引き起こすだけでなく、火力発電所のエネルギー効率も低下させる。上記の発熱と放熱の過程において、低温規則的な結晶質AMPが発電所の冷却塔、ボイラーのブローダウンコンポーネント、脱気装置の排気コンポーネントおよびその他の機器のパイプラインに配置されることにより、上記のパイプラインまたはコンポーネントの温度が355Kを超える場合、AMPが低温相から高温の柔粘性結晶相に変化し、それによって廃熱がAMPに伝達されて蓄えられ、同時にパイプラインまたはコンポーネントの冷却が達成される。廃熱を回収した後、周囲温度が低下すると、AMPは低温規則的な結晶相に変化することなく、高温相から徐々にガラス性結晶相に変態し、エネルギーを損失することなく蓄熱を実現する。周囲温度の低下により自発的な相転移および熱の放出が起こらない。したがって、ガラス性結晶相のAMPは長距離輸送が可能であり、遠隔の低温環境(例えば273K未満)に輸送することができる。最後に、熱の使用が必要なシナリオでは、小さな圧力を加えることで、AMPをガラス性結晶相から低温規則的な結晶相に変換することができ、このプロセスには大量の潜熱の放出が伴う。相転移を制御し、圧力刺激を利用して熱放出を能動的な制御する目的を実現する。
【0044】
固体相転移蓄熱における本発明の方法および材料の応用例2:
太陽エネルギーはクリーンな再生可能エネルギーであり、再生可能エネルギーの中で、太陽エネルギーは最も広く分布しており、最も利用しやすい。しかし、太陽エネルギーは非常に断続的で不安定である。太陽エネルギーの利用を安定的に運用するには、太陽エネルギーを蓄える蓄熱装置が必要である。上記の太陽熱貯蔵シナリオに基づいて、低温規則的な結晶相AMPを太陽熱収集器または蓄熱コンポーネントに配置でき、上記の熱が収集され、AMPの温度が355Kを超えると、AMPが低温相から高温の柔粘性結晶相に変化し、太陽エネルギーによって生成された熱エネルギーがAMPに伝達され、蓄熱される。大量の熱を収集した後、周囲温度が急速に低下すると、AMPは低温規則的な結晶相に変化することなく、高温相から徐々にガラス性結晶相に変態し、蓄熱を実現する。周囲温度の低下により自発的な相転移および熱の放出が起こらない。したがって、ガラス性結晶相のAMPは長距離輸送が可能であり、遠隔の低温環境(例えば273K未満)に輸送することができる。最後に、熱の使用が必要なシナリオでは、小さな圧力を加えることで、AMPをガラス性結晶相から低温規則的な結晶相に変換することができる。このプロセスには大量の潜熱の放出が伴う。相転移を制御し、圧力刺激を利用して熱放出を能動的な制御する目的を実現する。
【0045】
固体相転移蓄熱における本発明の方法および材料の応用例3:
データセンターは世界中でますます人気が高まっている。一方で、5Gは徐々に大規模な商用利用に向けて動き始めており、データセンターは情報処理機器のキャリアとして膨大なビジネスニーズを担っている。一方、データセンターは国家の「新インフラストラクチャー」戦略カテゴリーに含まれており、国家情報インフラストラクチャー構築の重要な部分となり、「経済の二重循環」パターンを構築するための重要な支援となっている。しかし、データセンター内の単一マシンの消費電力の急激な増加は、コンピュータ室の機器の温度の大幅な上昇に直結し、機器の性能を損なうだけでなく、エアコンなどの冷凍機器の稼働に多大な電力コストを消費する。このような用途としては、例えば、低温規則的な結晶相を有するAMPをデータセンターホストの放熱端に設置することができ、散熱温度が355Kを超えると、AMPは低温相から高温の柔粘性結晶相に相転移し、これにより熱がAMPに伝達され、蓄えられる。大量の熱を収集した後、周囲温度が急速に低下すると、AMPは低温規則的な結晶相に変化することなく、高温相から徐々にガラス性結晶相に変態し、蓄熱を実現する。周囲温度の低下により自発的な相転移および熱の放出が起こらない。したがって、ガラス性結晶相のAMPは長距離輸送が可能であり、遠隔の低温環境(例えば273K未満)に輸送することができる。最後に、熱の使用が必要なシナリオでは、小さな圧力を加えることで、AMPをガラス性結晶相から低温規則的な結晶相に変換することができる。このプロセスには大量の潜熱の放出が伴う。相転移を制御し、圧力刺激を利用して熱放出を能動的な制御する目的を実現する。
【0046】
上述の実施形態は、本発明の技術的概念および特徴を説明するためのものにすぎない。この目的は、技術に精通した者が本発明の内容を理解し、それに応じて実施できるようにすることであり、本発明の保護範囲を限定するものではない。逆に、本発明の精神に基づいて行われるいかなる効果的な変更または修正も本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【国際調査報告】