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特表2024-539445硝子体内コルチコステロイド徐放性インプラント及び使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】硝子体内コルチコステロイド徐放性インプラント及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/573 20060101AFI20241018BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20241018BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241018BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A61K31/573
A61K31/58
A61K9/10
A61K47/14
A61K47/12
A61K47/22
A61K47/34
A61P27/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529482
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 US2022080164
(87)【国際公開番号】W WO2023092087
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】63/281,052
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523453101
【氏名又は名称】アイディア バイオ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア,アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シュンペイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA23
4C076AA51
4C076AA94
4C076BB11
4C076BB15
4C076BB24
4C076BB32
4C076CC04
4C076CC10
4C076DD41
4C076DD45
4C076DD59
4C076EE24
4C076EE49
4C076FF32
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086DA12
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA23
4C086MA58
4C086MA67
4C086NA12
4C086ZA33
4C086ZB11
(57)【要約】
コルチコステロイド原薬(例:フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニド)又は、又はその塩若しくは誘導体と、1若しくは複数の不規則形状微粒子脂肪酸又はケト-エノール互変異性体複合体化剤とを、分散媒中に混合された状態で含むコルチコステロイド組成物であり、薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有する。これらの組成物は、徐放性コルチコステロイド組成物であり、臨床的に有用なレベルのコルチコステロイドを体内で1か月超~12か月間にわたって放出し得る。また、本明細書には、これらの組成物の形成方法及び使用方法も記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相コロイド懸濁組成物であって、前記組成物は、コルチコステロイド原薬又は、又はその塩若しくは誘導体、及び1又は複数の複合体化剤を、前記コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含み、前記1又は複数の複合体化剤は、前記コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によってコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、前記1又は複数の複合体化剤は、脂肪酸、又はケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物のうちの1つであり、前記コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニドのいずれか1つからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、前記分散媒は、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルのうちの少なくとも1つを含む疎水性液体油である、多相コロイド懸濁組成物。
【請求項2】
前記1又は複数の複合体化剤が、ステアリン酸マグネシウムを含む脂肪酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記1又は複数の複合体化剤が、トコフェロール化合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記1又は複数の複合体化剤が、ステアリン酸マグネシウム及びトコフェロール化合物の両方を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記1又は複数の複合体化剤が、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記1又は複数の複合体化剤が、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールを含み、前記分散媒が、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記分散媒が、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記多相コロイド懸濁組成物が、眼内及び眼周囲への直接注射用に構成された流動性ペースト又はボーラスインプラントとして製剤される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記多相コロイド懸濁組成物が、18ゲージ~32ゲージの注射針を介して眼内及び眼周囲に注射するための、2ミリメートル以上の長さのチューブインプラントとして製剤される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記多相コロイド懸濁組成物が、中空チューブとして製剤され、前記中空チューブは、前記多相コロイド懸濁組成物の表面浸食を前記中空チューブの開放端部における露出表面領域に限定する1又は複数の前記開放端部を備える、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記中空チューブが、浸食性であり、生分解性又は生体吸収性ポリマーであるポリラクチド(PLA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ-DLラクチド(PDLLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、PLA及びPGAの他のコポリマー、又はそれらの組み合わせから構成される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記生分解性中空チューブが、分子量150,000~300,000ダルトンのPLGAポリマーから構成され、およそ70~95%のL(乳酸/ラクチド)及び5~30%のG(グリコール酸/グリコリド)から形成されている、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記多相コロイド懸濁組成物が、約10重量%~60重量%の前記コルチコステロイド原薬を含み、前記1又は複数の複合体化剤が、約1重量%~50重量%のステアリン酸マグネシウム、及び約1重量%~50重量%のアルファ-トコフェロールを含み、前記分散媒が、1重量%~90重量%のドデカン酸メチルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記コルチコステロイド原薬が、フルオシノロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、又はそれらの塩若しくは誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
多相コロイド懸濁組成物であって、前記組成物は、コルチコステロイド原薬又は、又はその塩若しくは誘導体、及び1又は複数の複合体化剤を、分散媒中に混合された状態で含み、前記1又は複数の複合体化剤は、前記コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によってコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、前記1又は複数の複合体化剤は、脂肪酸、又はケト-エノール互変異性体を形成する有機化合物のうちの1つであり、前記コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニドのいずれか1つからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、前記分散媒は、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルのうちの少なくとも1つを含む疎水性液体油である、多相コロイド懸濁組成物。
【請求項16】
多相コロイド懸濁組成物であって、前記組成物は、
コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体、及び1又は複数の複合体化剤を、前記コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含み、前記1又は複数の複合体化剤は、前記コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によってコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、前記1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールのうちの少なくとも1つを含み、
前記コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニドのいずれか1つからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、前記分散媒は、ラウリン酸メチルである、多相コロイド懸濁組成物。
【請求項17】
多相コロイド懸濁組成物であって、前記組成物は、
コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体、及び1又は複数の複合体化剤を、分散媒中に混合された状態で含み、前記1又は複数の複合体化剤は、前記コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によってコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、前記1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを含み、
前記コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニドのいずれか1つからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、前記分散媒は、ラウリン酸メチルである、多相コロイド懸濁組成物。
【請求項18】
多相コロイド懸濁組成物であって、前記組成物は、
コルチコステロイド原薬、及び1又は複数の複合体化剤を、前記コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含み、
前記コルチコステロイド原薬は、約10重量%~約60重量%の、フルオシノロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、又はそれらの塩若しくは誘導体であり、
前記1又は複数の複合体化剤は、前記コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によって薬物のコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する、約1重量%~50重量%の不規則形状の微粒子として製剤され、前記1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールのうちの少なくとも1つであり、
さらに、前記分散媒は、1重量%~90重量%のドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含む疎水性液体油である、多相コロイド懸濁組成物。
【請求項19】
前記多相コロイド懸濁組成物が、眼内及び眼周囲への直接注射用に構成された流動性ペースト又はボーラスインプラントとして製剤される、請求項15~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記多相コロイド懸濁組成物が、18ゲージ~32ゲージの注射針を介して眼内及び眼周囲に注射するための、2ミリメートル以上の長さのチューブインプラントとして製剤される、請求項15~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記多相コロイド懸濁組成物が、中空チューブ内に存在し、前記中空チューブは、前記多相コロイド懸濁組成物の表面浸食を前記中空チューブの開放端部における露出表面領域に限定する1又は複数の前記開放端部を備える、請求項15~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記中空チューブが、浸食性であり、生分解性又は生体吸収性ポリマーであるポリラクチド(PLA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ-DLラクチド(PDLLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、PLA及びPGAの他のコポリマー、又はそれらの組み合わせから構成される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記生分解性中空チューブが、分子量150,000~300,000ダルトンのPLGAポリマーから構成され、およそ70~95%のL(乳酸/ラクチド)及び5~30%のG(グリコール酸/グリコリド)から形成されている、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
多相コロイド懸濁組成物であって、前記組成物は、
コルチコステロイド原薬、及び1又は複数の複合体化剤を、分散媒中に混合された状態で含み、
前記コルチコステロイド原薬は、約10重量%~約60重量%の、フルオシノロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、又はそれらの塩若しくは誘導体であり、
前記1又は複数の複合体化剤は、前記コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によって薬物のコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する、約1重量%~50重量%の不規則形状の微粒子として製剤され、前記1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールを含み、
さらに、前記分散媒は、1重量%~90重量%のドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含む疎水性液体油である、多相コロイド懸濁組成物。
【請求項25】
眼の障害又は疾患を治療する方法であって、前記方法は、コルチコステロイド原薬を含む多相コロイド懸濁液を、眼内の硝子体液、房水、上脈絡膜腔、網膜下、結膜下、テノン嚢下、又は眼窩組織のうちの1又は複数に投与して、眼組織内に、組織1グラム当たり1ナノグラム~999マイクログラムの範囲内である治療レベルのコルチコステロイド原薬を1か月以上にわたって持続放出させることを含む、方法。
【請求項26】
前記多相コロイド懸濁液が、コルチコステロイド原薬、及び1又は複数の複合体化剤を、前記コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含み、前記1又は複数の複合体化剤は、前記コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によって薬物のコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールのうちの1つであり、前記コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのいずれかからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、前記分散媒は、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含む疎水性液体油である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
眼の障害又は疾患を治療する方法であって、前記方法は、多相コロイド懸濁液から治療有効量のコルチコステロイド原薬を投与することを含み、前記コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのうちの1又は複数であり、投与は、第一の複合体化剤に非共有結合で結合した前記コルチコステロイド原薬の第一の複合体と、第二の複合体化剤に非共有結合で結合したコルチコステロイド原薬の第二の複合体とを含む前記多相コロイド懸濁液を前記眼に注射することを含み、各原薬-複合体の微粒子は、疎水性分散媒中に混合されて前記多相コロイド懸濁液を形成し、それによって、前記治療有効量のコルチコステロイドが1か月以上にわたって前記眼の組織中に放出されるように、前記多相コロイド懸濁液からの前記コルチコステロイド原薬の拡散が制限される、方法。
【請求項28】
徐放性薬物送達システムの製剤を硝子体内又は眼周囲に注射して、活性薬物の網膜及び網膜色素上皮(RPE)組織レベルを持続させることによって、対象の視力喪失を治療する方法であって、前記方法は、
治療開始時に、コルチコステロイド原薬を含む多相コロイド懸濁液を前記対象の眼に送達することを含み、前記コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのうちの1又は複数を含み、
前記コルチコステロイド原薬は、初期バースト相及び定常状態放出速度で薬物放出する後続相を含む2つ以上の相で放出され、前記初期バースト相の速度は、前記定常状態放出速度よりも大きく、さらに、前記初期バースト相は、前記治療開始から約2~6週間にわたり、前記後続相は、前記初期バースト相の終了から1か月以上にわたる、方法。
【請求項29】
糖尿病性網膜症及び糖尿病性黄斑浮腫を治療する方法を含む、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記バースト相速度が、前記定常状態放出速度よりも大きく、さらに、前記初期バースト相が、前記治療開始から約2~6週間にわたり、前記後続相が、前記初期バースト相の終了から1か月以上にわたる、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
嚢胞様黄斑浮腫を治療する方法を含む、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
眼内炎症及びぶどう膜炎を治療する方法を含む、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
加齢黄斑変性症(AMD)、網膜色素変性症(RP)、緑内障、視神経症を含む網膜及び視神経の疾患を治療する方法、又は網膜/又は視神経の神経保護のための方法を含む、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
障害又は疾患を治療する方法であって、前記方法は、コルチコステロイド原薬を含む多相コロイド懸濁液を患者に投与して、前記患者組織内に、組織1グラム当たり1ナノグラム~999マイクログラムの範囲内である治療レベルのコルチコステロイド原薬を1か月以上にわたって持続放出させることを含み、前記多相コロイド懸濁液は、関節内注射、皮下注射、筋肉内注射、及び眼内注射のうちの1又は複数によって送達される、方法。
【請求項35】
前記多相コロイド懸濁液が、コルチコステロイド原薬、及び1又は複数の複合体化剤を、前記コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含み、前記1又は複数の複合体化剤は、前記コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によって薬物のコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールのうちの1つであり、前記コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのいずれかからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、前記分散媒は、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含む疎水性液体油である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
障害又は疾患を治療する方法であって、前記方法は、
第一の複合体化剤に非共有結合で結合したコルチコステロイド原薬の第一の複合体と、第二の複合体化剤に非共有結合で結合したコルチコステロイド原薬の第二の複合体とを含む多相コロイド懸濁液を、関節内注射、皮下注射、筋肉内注射、及び眼内注射のうちの1又は複数によって送達することであって、各原薬-複合体の微粒子は、疎水性分散媒中に混合されて前記多相コロイド懸濁液を形成し、それによって、前記多相コロイド懸濁液からの前記コルチコステロイド原薬の拡散が制限される、送達すること、並びに
前記多相コロイド懸濁液から治療有効量の前記コルチコステロイド原薬を組織中に放出することであって、前記コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのうちの1又は複数であり、
それによって、前記治療有効量のコルチコステロイドが、1か月以上にわたって前記組織中に放出される、放出すること、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、参照によりその全内容が本明細書に援用される「INTRAVITREAL CORTICOSTEROID EXTENDED RELEASE IMPLANT AND METHODS OF USE」と題する、2021年11月18日に出願された米国特許仮出願第63/281,052号の優先権を主張するものである。
【0002】
参照による援用
本明細書で言及されているすべての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願が参照により援用されると具体的に及び個別に示されている場合と同程度に、その全内容が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
糖尿病性網膜症(DR)は、20~74歳の成人の視力喪失の主な原因である。1990年から2010年において、DRは、予防可能な失明の原因の第5位、及び中等度から重度の視力障害の原因の第5位となった。2010年には、世界中の推定2億8500万人の糖尿病患者のうち、3分の1以上にDRの徴候があり、そのうちの3分の1が、重度の非増殖性DR又は増殖性DR又はDMEの存在として定義される視力を脅かす危険のある糖尿病性網膜症に罹患している。
【0004】
糖尿病性眼疾患は、典型的には、非増殖糖尿病性網膜症(NPDR)として始まり、軽度から中等度、重度のNPDRへと進行した後、増殖糖尿病性網膜症(PDR)となる可能性がある。DRのいずれかのステージにおいて、患者は、黄斑血管の漏出により黄斑及び/又は中心窩が腫脹する糖尿病性黄斑浮腫(DME)に罹患する可能性がある。網膜虚血が血管新生を引き起こすPDR患者は、視力障害を起こす硝子体出血及び/又は失明性である牽引性網膜剥離を経験する。DMEの患者は中心視力の喪失を経験し、それは、治療が成されない場合、永久的なものとなり得る。
【0005】
DR及びDMEの病変形成は、低酸素/虚血及び炎症生物学の両方を含む多因子性である。多くの研究室による広範な研究、さらにはヒトにおける無作為化臨床試験により、炎症が、DR/DMEの主要な病原因子であることが示唆され、並びにコルチコステロイド薬が、DR及びDMEの両方の治療に有効であることが示された。
【0006】
糖尿病に罹患している患者は、労働年齢であることが多く、及び自身の疾患の多くの合併症を経験していることで医療の負担が極めて大きく、このことは、特に労働年齢の患者にとって負担であり、その結果、患者の医学的治療に対するアドヒアランスが悪い場合が多い。
【0007】
硝子体内血管内皮増殖因子(VEGF)阻害剤及びコルチコステロイド療法は、DMEの治療として世界的に承認されている。抗VEGF療法は、中心部が関連するDMEに対して一般的に有効であるが、抗VEGF治療を受けたDMEに罹患した眼の多くの割合が、視力20/20又は網膜肥厚の完全消失を達成していない。さらに、抗VEGF療法では、治療効果を実現するために頻繁な注射が必要である。したがって、抗VEGF薬に対する代替薬、並びにDR及びDMEに伴う患者の治療負担を軽減し得る徐放性医薬の両方に対する医療的アンメットニーズが存在する。コルチコステロイド療法は、抗VEGF療法では標的とされないDMEのより広範な炎症因子を標的としており、抗VEGF療法に反応しない患者において特に有用であることが示され得る。
【0008】
DR及びDMEに加えて、いくつかの他の眼病状を、持続放出性コルチコステロイド薬の投与によって緩和することができる。DMEと同様に、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)及び網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)の両方を含む網膜静脈閉塞症(RVO)も、硝子体内注射される医薬による治療が多くの場合行われる。硝子体内血管内皮増殖因子(VEGF)阻害剤及びコルチコステロイド療法は、RVOの治療として世界的に承認されている。抗VEGF薬が第一選択薬であるが、RVO患者の大部分はコルチコステロイド薬にも反応し、場合によっては、抗VEGF療法にあまり反応しないRVOも、コルチコステロイド薬で効果的に治療することができる。
【0009】
眼に影響を及ぼす炎症性の病状、特に後眼部に影響を及ぼすものは、多くの場合、硝子体内又は眼周囲のコルチコステロイドで治療される。そのような病状としては、術後の炎症、並びに嚢胞様黄斑浮腫(CME)、CMEを伴うぶどう膜炎、及び後部ぶどう膜炎の他の形態が挙げられる。コルチコステロイド薬は、術後CME及びCMEを伴う非感染性ぶどう膜炎の治療として世界的に承認されている。これらの場合、コルチコステロイド薬は、迅速な作用開始を提供し、眼内炎症及び併発するCMEの制御に有効である。
【発明の概要】
【0010】
本明細書では、コルチコステロイドの徐放性組成物を含む組成物、徐放性コルチコステロイド組成物の形成方法、及び徐放性コルチコステロイド組成物の使用方法が記載される。これらの徐放性コルチコステロイド組成物は、臨床的に有用なレベルのコルチコステロイドを体内で1か月超~12か月間にわたって放出し得る多相放出プロファイルを有する多相徐放性コルチコステロイド組成物であり得る。
【0011】
一般に、これらの徐放性コルチコステロイド組成物は、分散媒中にコルチコステロイドと脂肪酸との複合体、さらにはやはり分散媒中にコルチコステロイドとケト-エノール互変異性体との複合体を含む。この組成物は、眼の硝子体中などの体内に移植された場合に、コルチコステロイドの特に望ましい放出動態をもたらし得る。コルチコステロイドと脂肪酸との複合体の一部として用いられ得る脂肪酸の例としては、C4~C30脂肪酸が挙げられる。これらの脂肪酸は、飽和又は不飽和(例:一価不飽和又は多価不飽和)であってよい。これらの脂肪酸はまた、中性であってよく、又は塩(例:ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなど)として調製されてもよい。例えば、脂肪酸は、C14~C20又はC14~C18の脂質数(lipid number)(例:炭素の数)を有する脂肪酸であってよい(例:テトラデカン酸、ペンタデカン酸、(9Z)-ヘキサデセン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9.12-トリエン酸、(5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸、(Z)-オクタデカ-9-エン酸、(11E)-オクタデカ-11-エン酸、(E)-オクタデカ-9-エン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸などのうちの1又は複数)。いくつかの例では、脂肪酸は、C14~C20の非分岐脂肪酸であってもよい。いくつかの例では、脂肪酸は、飽和脂肪酸(限定されるものではないが、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、アラキジン酸(エイコサン酸)など、であり得る。用いられ得るケト-エノール互変異性体の例としては、トコフェロール化合物又はトコフェロール誘導体(例:アルファ-トコフェロール、酢酸アルファ-トコフェロール、酢酸DL-アルファ-トコフェロール、コハク酸アルファ-トコフェロール、13-ヒドロキシ-アルファ-トコフェロール、リン酸アルファ-トコフェロール、アルファ-トコフェロールメチルエーテル、ベータ-トコフェロール、デルタ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、デヒドロ-ガンマ-トコフェロール、13-ヒドロキシ-ガンマ-トコフェロール、トコフェロールコハク酸エステルカルシウムなど)、単糖類(例:D-グルコース、アルドースなど)、微結晶セルロース、フェノール化合物、キノン化合物、リボ核酸化合物が挙げられる。疎水性油分散媒の例としては、飽和脂肪酸メチルエステルである酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ペンタン酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)、トリデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、9(Z)-テトラデセン酸メチル、ペンタデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、オクタデセン酸メチル、ノナデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ヘンエイコサン酸メチル、ドコサン酸メチル、トリコサン酸メチルなどが挙げられる。コルチコステロイドと脂肪酸との複合体の一部として用いられ得る脂肪酸としては、飽和脂肪酸エチルエステルである酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル(ラウリン酸エチル)、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸エチル、9(Z)-テトラデセン酸エチル、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデセン酸エチル、ノナデカン酸エチル、エイコサン酸エチル、ヘンエイコサン酸エチル、ドコサン酸エチル、トリコサン酸エチルなども挙げられ得る。コルチコステロイドと脂肪酸との複合体の一部として用いられ得る脂肪酸としては、不飽和脂肪酸エステルも挙げることができ、10-ウンデセン酸メチル、11-ドデセン酸メチル、12-トリデセン酸メチル、9(E)-テトラデセン酸メチル、10(Z)-ペンタデセン酸メチル、10(E)-ペンタデセン酸メチル、14-ペンタデセン酸メチル、9(Z)-ヘキサデセン酸メチル、9(E)-ヘキサデセン酸メチル、6(Z)-ヘキサデセン酸メチル、7(Z))-ヘキサデセン酸メチル、11(Z)-ヘキサデセン酸メチル、さらにはトリコセン酸メチル分子実体を含むがこれらに限定されない不飽和メチル及びエチルエステルを含む。
【0012】
例えば、徐放性コルチコステロイド製剤、これらの徐放性コルチコステロイド製剤の製造方法、及びこれらの徐放性コルチコステロイド製剤の、それを必要とする患者を治療するための使用方法が本明細書において記載され、徐放性コルチコステロイドは、フルオシノロンアセトニドなどの合成ヒドロコルチゾン誘導体(これらに限定されないが)を含むヒドロコルチゾン誘導体である。
【0013】
例えば、いくつかの臨床的に有用であるコルチコステロイド薬(例:フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、デキサメタゾン遊離塩基、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニド)をステアリン酸マグネシウムと複合体化し、さらにアルファ-トコフェロールと複合化し、これらの複合体化コルチコステロイド薬をラウリン酸メチル分散媒と組み合わせた徐放性製剤が本明細書で記載される。いくつかの例では、この徐放性製剤は、例えば眼の硝子体内などの眼内へ注射するために、混合されて、例えばPLGAコポリマーから構成される生体浸食性チューブインプラント中に充填され得る。徐放性製剤は、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、眼炎症/ぶどう膜炎、及び加齢黄斑変性のうちの1又は複数を治療するために用いられ得る。本明細書で述べるように、これらの組成物は、フルオシノロンアセトニドをおよそ1~12か月間又はそれ以上にわたって放出し得る。
【0014】
したがって、本明細書において、治療的有効濃度のコルチコステロイド薬の持続投与によって緩和される病状を治療するための、物質組成物、製剤、並びにそれらの製造方法及び使用方法が記載される。コルチコステロイド薬は、炎症を低減すること、及び内皮バリア機能を高めることによって作用することが知られており、血管漏出又は網膜浮腫又は黄斑浮腫を含む数多くの眼病状に有益な効果である。血管漏出及び他の有害な影響をもたらす炎症は、糖尿病性黄斑浮腫(DME)及び糖尿病性網膜症(DR)などの糖尿病性眼疾患、さらには後眼部の他の多くの病状の主な原因であることが知られている。本明細書に記載されるコルチコステロイド療法は、糖尿病性眼疾患の治療に用いられ得る。
【0015】
DR及びDMEに加えて、本明細書に記載されるコルチコステロイド療法は、RVO、術後CME、ぶどう膜炎、及びぶどう膜炎CMEを含む他のいくつかの眼病状の治療にも用いられ得る。
【0016】
本明細書に記載される組成物、製剤、及び方法は、硝子体内(IVT)投与又は眼周囲投与用に特に製剤されたコルチコステロイド薬を含む。そのような製剤は、複数のコルチコステロイド薬の徐放を可能とするために特別に設計、製造される。これらの製剤はさらに、様々な治療目標を達成するために望ましい可能性のある様々な薬物放出プロファイルを可能とするようにも操作され得る。
【0017】
さらに、これらのコルチコステロイド(本明細書において一般に「薬物」又は「薬剤」と称されることがある)は、複合体化システムの化学に基づく本明細書に記載の新規な徐放性薬物送達システム(「XRDDS」)と組み合わせて製剤され得る。このXRDDSでは、1又は複数の複合体化剤がコルチコステロイドと非共有結合の複合体を形成するものであり、薬物-複合体化剤の相対的な結合活性が、指定の放出アッセイにおける非結合薬剤(例:コルチコステロイド)対結合薬剤の比として定義されるKdによって測定可能であることから、標的とする放出動態を達成するように、複合体化剤の特定の組み合わせが選択、構成され得る。薬剤と複合体化剤との非共有結合での複合体化により、「薬物-複合体」微粒子が形成され、次いで、1又は複数セットの「薬物-複合体」が組み合わされて、選択された分散媒中に分散され得る。薬剤と徐放性薬物送達システム(1又は複数の複合体化剤を含む)との組み合わせは、本明細書において徐放性組成物又は製剤と称されることがあり、また本明細書において「CS XR」、又は徐放性コルチコステロイドと称される場合もあり、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症(DR)、及び/又は網膜静脈閉塞症(RVO)、ぶどう膜炎、加齢黄斑変性症(AMD)、並びに他の網膜、視神経、及び「眼底」の疾患を治療するために、硝子体内又は眼周囲の投与経路用に適用され得る。
【0018】
「CS XR」のコルチコステロイド薬剤(「薬物」)及び製剤は、放出に関するin vitro試験、並びに毒性、薬物動態(PK)、及び有効性に関するin vivo試験によって特性評価された。コルチコステロイド薬は、CS XRの製剤を作製するためにXRDDSに組み込まれると、単一の硝子体内注射又は眼周囲注射で、糖尿病性眼疾患及び他の病状の治療に有効であることが知られている組織レベルを満たす又は超えるコルチコステロイド薬の硝子体及び網膜濃度を、1か月以上であるが、典型的にはおよそ6か月以上にわたって提供し得る。
【0019】
例えば、本明細書において、眼の病状(例:DME、RVO、CME)を治療することを含むコルチコステロイド療法によって緩和される病状を治療するための、物質組成物、製剤、使用方法が記載される。
【0020】
フルオシノロンアセトニド、リン酸デキサメタゾン、デキサメタゾン遊離塩基、及びトリアムシノロンアセトニドを含むがこれらに限定されない様々なコルチコステロイド薬が、コルチコステロイド薬と非共有結合での相互作用(又は複合体)を形成する1又は複数の複合体化剤を含む、記載される徐放性薬物送達システム(本明細書において、徐放性薬物送達マトリックス、又は徐放性薬物送達組成物とも称される)内に組み込まれ得る。体内に移植される場合、XRDDSに組み込まれたコルチコステロイド薬で、CS XR(徐放性コルチコステロイド組成物)とも称されるこの組み合わせは、インプラントから組織中へのコルチコステロイド薬の放出を制限、制御するように特に設計、製剤されている。徐放性薬物送達システムからの活性薬物(コルチコステロイド)の放出は、徐放性薬物送達システムインプラント表面へのコルチコステロイドの拡散に部分的に依存し得る。徐放性薬物送達システムの組成、具体的には、特定のコルチコステロイド薬の物理化学的特性に関連する1又は複数の複合体化剤の選択は、一相放出、二相放出、三相放出を含む所望される薬物放出動態プロファイルを達成するために、意図的に設計及び選択される。
【0021】
一相放出プロファイルは、インプラントの寿命にわたる単一の一定の薬物放出速度によって作り出される。二相放出プロファイルは、薬物放出速度が比較的速い最初の「バースト」と、それに続く、より遅い速度での長時間の定常状態放出とによって作り出される。最後に、三相放出は、二相に類似するが、インプラントの寿命の最後に、薬物放出の追加の「バースト」を有する。
【0022】
XRDDSに組み込まれたコルチコステロイド(CS XR)の全体的な組成は、特定の微粒子のKdに基づく特定の放出速度を各々が有する1又は複数セットの「薬物-複合体」微粒子で構成されることから、複合薬物放出動態プロファイルは、XRDDSの選択された分散媒中に組み込まれ、分散された薬物-複合体微粒子の個々の放出速度を統合する数式によって、具体的に設計、カスタマイズ、及び決定することができる。
【0023】
薬物送達システム中の複合体化剤がコルチコステロイドと複合体化され、選択された分散媒中に組み込まれ、分散されている、CS XRとしても知られる得られた徐放性薬物送達システムは、次いで、例えば疾患の治療のための、例えば硝子体内又は眼周囲の投与経路のために、体内に挿入され得る。
【0024】
例えば、コルチコステロイド原薬又は、又はその塩若しくは誘導体、及び1又は複数の複合体化剤を、コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含む多相コロイド懸濁組成物が本明細書に記載され、1又は複数の複合体化剤は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によってコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、脂肪酸、又はケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物のうちの1つであり、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニドのいずれか1つからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、分散媒は、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルのうちの少なくとも1つを含む疎水性液体油である。
【0025】
いくつかの例において、多相コロイド懸濁組成物は、コルチコステロイド原薬又は、又はその塩若しくは誘導体、及び1又は複数の複合体化剤を、分散媒中に混合された状態で含み、1又は複数の複合体化剤は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によってコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、脂肪酸、又はケト-エノール互変異性体を形成する有機化合物のうちの1つであり、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニドのいずれか1つからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、分散媒は、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルのうちの少なくとも1つを含む疎水性液体油である。
【0026】
例えば、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸又はその塩(例:ステアリン酸マグネシウム)を含む脂肪酸を含み得る。いくつかの例では、1又は複数の複合体化剤は、トコフェロール化合物を含む。1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸又はその塩及びトコフェロール化合物の両方を含み得る。いくつかの例では、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールを含む。例えば、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールを含んでよく、分散媒は、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)である。
【0027】
分散媒は、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含み得る。
いくつかの例では、多相コロイド懸濁組成物は、眼内及び眼周囲への直接注射用に構成された流動性ペースト又はボーラスインプラントとして製剤される。多相コロイド懸濁組成物は、18ゲージ~32ゲージの注射針を介して眼内及び眼周囲に注射するために、2ミリメートル以上の長さのチューブインプラント中に製剤され得る。いくつかの例では、多相コロイド懸濁組成物は、中空チューブ中に製剤され、及び投与され、中空チューブは、多相コロイド懸濁組成物の表面浸食を中空チューブの開放端部における露出表面領域に限定する1又は複数の開放端部を備える。中空チューブは、浸食性であってよく、生分解性又は生体吸収性ポリマーであるポリラクチド(PLA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ-DLラクチド(PDLLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、PLA及びPGAの他のコポリマー、又はそれらの組み合わせから構成される。例えば、生分解性中空チューブは、分子量150,000~300,000ダルトンのPLGAポリマーから構成されてよく、およそ70~95%のL(乳酸/ラクチド)及び5~30%のG(グリコール酸/グリコリド)から形成されている。
【0028】
多相コロイド懸濁組成物は、約10重量%~60重量%のコルチコステロイド原薬を含んでよく、1又は複数の複合体化剤は、約1重量%~50重量%のステアリン酸マグネシウム、及び約1重量%~50重量%のアルファ-トコフェロールを含み、分散媒は、1重量%~90重量%のドデカン酸メチルを含む。
【0029】
一般に、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、又はそれらの塩若しくは誘導体であってよい。
例えば、多相コロイド懸濁組成物は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体、及び1又は複数の複合体化剤を、コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含んでよく、1又は複数の複合体化剤は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によってコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸マグネシウム及びトコフェロールのうちの少なくとも1つを含み、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニドのいずれか1つからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、分散媒は、ラウリン酸メチルである。
【0030】
例えば、多相コロイド懸濁組成物は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体、及び1又は複数の複合体化剤を、分散媒中に混合された状態で含んでよく、1又は複数の複合体化剤は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によってコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸マグネシウム及びトコフェロールを含み、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、及びトリアムシノロンアセトニドのいずれか1つからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、分散媒は、ラウリン酸メチルである。
【0031】
いくつかの例では、多相コロイド懸濁組成物は、コルチコステロイド原薬、及び1又は複数の複合体化剤を、コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含み、コルチコステロイド原薬は、約10重量%~60重量%の、フルオシノロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、又はその塩若しくは誘導体であり、1又は複数の複合体化剤は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によって薬物のコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する約1重量%~50重量%の不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールのうちの少なくとも1つであり、さらに、分散媒は、1重量%~90重量%のドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含む疎水性液体油である。
【0032】
述べたように、多相コロイド懸濁組成物は、眼内及び眼周囲への直接注射用に構成された流動性ペースト又はボーラスインプラントとして製剤され得る。多相コロイド懸濁組成物は、18ゲージ~32ゲージの注射針を介して眼内及び眼周囲に注射するための、2ミリメートル以上の長さのチューブインプラントとして製剤され得る。多相コロイド懸濁組成物は、中空チューブ中に製剤され、及び投与されてよく、中空チューブは、多相コロイド懸濁組成物の表面浸食を中空チューブの開放端部における露出表面領域に限定する1又は複数の開放端部を備える。中空チューブは、浸食性であってよく、生分解性又は生体吸収性ポリマーであるポリラクチド(PLA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ-DLラクチド(PDLLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、PLA及びPGAの他のコポリマー、又はそれらの組み合わせから構成され得る。いくつかの例では、生分解性中空チューブは、分子量150,000~300,000ダルトンのPLGAポリマーから構成され、およそ70~95%のL(乳酸/ラクチド)及び5~30%のG(グリコール酸/グリコリド)から形成されている。
【0033】
例えば、多相コロイド懸濁組成物は、コルチコステロイド原薬、及び1又は複数の複合体化剤を、分散媒中に混合された状態で含んでよく、コルチコステロイド原薬は、約10重量%~60重量%の、フルオシノロン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、又はその塩若しくは誘導体であり、1又は複数の複合体化剤は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によって薬物のコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する約1重量%~50重量%の不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールを含み、さらに、分散媒は、1重量%~90重量%のドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含む疎水性液体油である。
【0034】
また、本明細書において、これらの組成物のいずれかを製剤する方法、及び/又は1若しくは複数の適応症を治療するためのこれらの組成物のいずれかを使用する治療方法も記載される。例えば、眼の障害又は疾患を治療する方法であって、方法は、コルチコステロイド原薬を含む多相コロイド懸濁液を、眼内の硝子体液、房水、上脈絡膜腔、網膜下、結膜下、テノン嚢下、又は眼窩組織のうちの1又は複数に投与して、眼組織内に、組織1グラム当たり1ナノグラム~999マイクログラムの範囲内である治療レベルのコルチコステロイド原薬を1か月以上にわたって持続放出させることを含む。
【0035】
多相コロイド懸濁液は、コルチコステロイド原薬、及び1又は複数の複合体化剤を、コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含んでよく、1又は複数の複合体化剤は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によって薬物のコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールのうちの1つであり、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのいずれかからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、分散媒は、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含む疎水性液体油である。
【0036】
眼の障害又は疾患を治療する方法は、多相コロイド懸濁液から治療有効量のコルチコステロイド原薬を投与することを含んでよく、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのうちの1又は複数であり、投与は、第一の複合体化剤に非共有結合で結合したコルチコステロイド原薬の第一の複合体と、第二の複合体化剤に非共有結合で結合したコルチコステロイド原薬の第二の複合体とを含む多相コロイド懸濁液を眼に注射することを含み、各原薬-複合体の微粒子は、疎水性分散媒中に混合されて多相コロイド懸濁液を形成し、それによって、治療有効量のコルチコステロイドが1か月以上にわたって眼の組織中に放出されるように、多相コロイド懸濁液からのコルチコステロイド原薬の拡散が制限される。
【0037】
また、徐放性薬物送達システムの製剤を硝子体内又は眼周囲に注射して、活性薬物の網膜及び網膜色素上皮(RPE)組織レベルを持続させることによって、対象の視力喪失を治療する方法も記載され、この方法は、治療開始時に、コルチコステロイド原薬を含む多相コロイド懸濁液を対象の眼に送達することを含み、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのうちの1又は複数を含み、コルチコステロイド原薬は、初期バースト相及び定常状態放出速度で薬物放出する後続相を含む2つ以上の相で放出され、初期バースト相の速度は、定常状態放出速度よりも大きく、さらに、初期バースト相は、治療開始から約2~6週間にわたり、後続相は、初期バースト相の終了から1か月以上にわたる。
【0038】
いくつかの例では、方法は、糖尿病性網膜症及び糖尿病性黄斑浮腫を治療する方法を含み得る。本明細書で述べるように、バースト相速度は、定常状態放出速度よりも大きくてよく、さらに、初期バースト相は、治療開始から約2~6週間にわたり、後続相は、初期バースト相の終了から1か月以上にわたる。
【0039】
いくつかの例では、これらの方法は、嚢胞様黄斑浮腫を治療する方法であり得る。方法は、眼内炎症及びぶどう膜炎を治療する方法を含み得る。方法は、加齢黄斑変性症(AMD)、網膜色素変性症(RP)、緑内障、視神経症を含む網膜及び視神経の疾患を治療する方法、又は網膜/又は視神経の神経保護のための方法を含み得る。
【0040】
また、本明細書では、障害又は疾患を治療する方法も記載され、その方法は、コルチコステロイド原薬を含む多相コロイド懸濁液を患者に投与して、患者組織内に、組織1グラム当たり1ナノグラム~999マイクログラムの範囲内である治療レベルのコルチコステロイド原薬を1か月以上にわたって持続放出させることを含み、多相コロイド懸濁液は、関節内注射、皮下注射、筋肉内注射、及び眼内注射のうちの1又は複数によって送達される。
【0041】
多相コロイド懸濁液は、コルチコステロイド原薬、及び1又は複数の複合体化剤を、コルチコステロイド原薬が薬物放出の1又は複数の相を有する放出プロファイルを有するように分散媒中に混合された状態で含んでよく、1又は複数の複合体化剤は、コルチコステロイド原薬又はその塩若しくは誘導体との非共有結合の可逆的結合によって薬物のコルチコステロイド原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として製剤され、1又は複数の複合体化剤は、ステアリン酸(オクタデカン酸)又はその塩及びアルファ-トコフェロールのうちの1つであり、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのいずれかからのコルチコステロイド又はその塩若しくは誘導体であり、さらに、分散媒は、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)を含む疎水性液体油である。
【0042】
障害又は疾患を治療する方法は、第一の複合体化剤に非共有結合で結合したコルチコステロイド原薬の第一の複合体と、第二の複合体化剤に非共有結合で結合したコルチコステロイド原薬の第二の複合体とを含む多相コロイド懸濁液を、関節内注射、皮下注射、筋肉内注射、及び眼内注射のうちの1又は複数によって送達することであって、各原薬-複合体の微粒子は、疎水性分散媒中に混合されて多相コロイド懸濁液を形成し、それによって、多相コロイド懸濁液からのコルチコステロイド原薬の拡散を制限する、送達すること;及び治療有効量のコルチコステロイド原薬を多相コロイド懸濁液から組織中に、治療有効量のコルチコステロイドが1か月以上にわたって組織中に放出されるように放出することであって、コルチコステロイド原薬は、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドのうちの1又は複数である、放出すること、を含み得る。
【0043】
本明細書に記載される方法及び装置はすべて、いずれの組み合わせであっても、本明細書において企図されており、本明細書に記載される有益性を達成するために用いることができる。
【0044】
本明細書に記載の方法及び装置の特徴並びに利点のより良好な理解は、例示的な実施形態を示す以下の詳細な記述及び添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1A図1Cは、本明細書に記載のフルオシノロンアセトニドの放出のための徐放性薬物送達システムの二相放出プロファイルを構成する1つの方法であるこの具体例の場合を含む、複合体化に基づく徐放性薬物送達システムを用いた特定の薬物動態放出プロファイルのための製剤のカスタム設計の手法を示す。図1Aは、フルオシノロンアセトニドの放出における、対数変換によって線形化された所望される二相動態の例を示す。図1Bは、フルオシノロンアセトニド(「薬物」)と共に用いられるべき2つの複合体化成分を示しており、分散媒(例:ラウリン酸メチル)中のフルオシノロンアセトニドと脂肪酸(例:ステアリン酸マグネシウム)との第一の複合体、及びやはりラウリン酸メチル分散媒中のフルオシノロンアセトニドとケト-エノール互変異性体(例:アルファ-トコフェロール)との第二の複合体を含む。図1Cは、第一の薬物複合体及び第二の薬物複合体の両方を含む製剤について、実験的に決定された放出関係を示す。
図2図2Aは、薬物と複合体化剤との異なる製剤が、in vitroにおいて特異的で異なる放出動態を生じる様子を示し、各製剤の薬物放出動態は、この例では2つの異なる複合体化剤の比率を変化させることにより、予測可能に設計及び調整されている。製剤1は、より短い持続時間の放出プロファイル(すなわち120日間)を示し、一方製剤2は、より長い持続時間の二相放出プロファイル(すなわち210日間)を示す。図2Bは、所与の薬物ペイロードの製剤中における複合体化剤の比率及び割合を変化させることを用いて、予測可能に放出動態を調整することができることを示している。図2Bでは、脂肪酸と複合体化したフルオシノロンアセトニドのみを含む製剤1が、脂肪酸と複合体化したフルオシノロンアセトニド及びケト-エノール互変異性体と複合体化したフルオシノロンアセトニドの比率を変えた製剤と比較されている:製剤2-75%/25%;製剤3-66%/33%;製剤4-50%/50%。
図3-1】図3Aは、促進溶解アッセイにおける、様々な比率で複合体化剤のステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを含むフルオシノロンアセトニドの異なる製剤のグラフであり、これらの異なる比率が、様々な網膜疾患の治療に有用であり得る様々な放出プロファイル及び持続時間でフルオシノロンアセトニドの徐放を提供し得る様子を示している。製剤1は、フルオシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム40%、アルファ-トコフェロール11%、及びラウリン酸メチル29%を含み、製剤2は、フルオシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム25%、アルファ-トコフェロール25%、及びラウリン酸メチル30%を含み、製剤3は、フルオシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム11%、アルファ-トコフェロール40%、及びラウリン酸メチル29%を含む。図3Aは、最初の21日間にわたるAPI(この例ではフルオシノロンアセトニド)の放出パーセントを示しており、これは、180日間以上の期間にわたる標準状態のin vitroでの放出をシミュレートするものである。図3Bは、促進溶解アッセイにおける、様々な比率で複合体化剤のステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを含むトリアムシノロンアセトニドの異なる製剤のグラフであり、これらの異なる比率が、様々な網膜疾患の治療に有用であり得る様々な放出プロファイル及び持続時間でトリアムシノロンアセトニドの徐放を提供し得る様子を示している。製剤1は、トリアムシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム40%、アルファ-トコフェロール11%、及びラウリン酸メチル29%を含み、製剤2は、トリアムシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム25%、アルファ-トコフェロール25%、及びラウリン酸メチル30%を含み、製剤3は、トリアムシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム11%、アルファ-トコフェロール40%、及びラウリン酸メチル29%を含む。図3Bは、最初の21日間にわたるAPI(この例ではトリアムシノロンアセトニド)の放出パーセントを示しており、これは、180日間以上の期間にわたる標準状態のin vitroでの放出をシミュレートするものである。
図3-2】図3Cは、促進溶解アッセイにおける、様々な比率で複合体化剤のステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを含むデキサメタゾン遊離塩基の異なる製剤のグラフであり、これらの異なる比率が、様々な網膜疾患の治療に有用であり得る様々な放出プロファイル及び持続時間でデキサメタゾン遊離塩基の徐放を提供し得る様子を示している。製剤1は、デキサメタゾン遊離塩基20%、ステアリン酸マグネシウム40%、アルファ-トコフェロール11%、及びラウリン酸メチル29%を含み、製剤2は、デキサメタゾン遊離塩基20%、ステアリン酸マグネシウム25%、アルファ-トコフェロール25%、及びラウリン酸メチル30%を含み、製剤3は、デキサメタゾン遊離塩基20%、ステアリン酸マグネシウム11%、アルファ-トコフェロール40%、及びラウリン酸メチル29%を含む。図3Cは、最初の21日間にわたるAPI(この例ではデキサメタゾン遊離塩基)の放出パーセントを示しており、これは、180日間以上の期間にわたる標準状態のin vitroでの放出をシミュレートするものである。図3Dは、促進溶解アッセイにおける、様々な比率で複合体化剤のステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを含むリン酸デキサメタゾンの異なる製剤のグラフであり、これらの異なる比率が、様々な網膜疾患の治療に有用であり得る様々な放出プロファイル及び持続時間でリン酸デキサメタゾンの徐放を提供し得る様子を示している。製剤1は、リン酸デキサメタゾン20%、ステアリン酸マグネシウム40%、アルファ-トコフェロール11%、及びラウリン酸メチル29%を含み、製剤2は、リン酸デキサメタゾン20%、ステアリン酸マグネシウム25%、アルファ-トコフェロール25%、及びラウリン酸メチル30%を含み、製剤3は、リン酸デキサメタゾン20%、ステアリン酸マグネシウム11%、アルファ-トコフェロール40%、及びラウリン酸メチル29%を含む。図3Dは、最初の21日間にわたるAPI(この例ではリン酸デキサメタゾン)の放出パーセントを示しており、これは、180日間以上の期間にわたる標準状態のin vitroでの放出をシミュレートするものである。
図4図4A及び図4Bは、新規XRDDS中のフルオシノロンアセトニドの2つの異なる製剤について、良好なin vitro対in vivoの相関を示している。描かれた曲線は、in vitro放出プロファイルを反映し、一方丸で囲んだ個々の着色点は、ウサギの眼からのin vivo放出データを表す。
図5-1】図5Aは、徐放性コルチコステロイド製剤の異なる例について、放出される有効活性成分(API)の%としての放出プロファイルの例を示す。図5Aでは、製剤は、ステアリン酸マグネシウム50.4%及びアルファ-トコフェロール21.6%と複合体化され、ラウリン酸メチル分散媒中に製剤された全コルチコステロイドAPIを10%含む。図5Bは、促進溶解条件下で分析した、図5Aに示したものと同一のインプラントの放出プロファイルを示し、データは放出されたAPI%として表される。促進放出アッセイのデータは、長期間放出データとの相関を有し、これを再現するものである。
図5-2】図5Cは、インプラントとして構成された徐放性コルチコステロイド製剤の例における放出速度データを示し、初期バースト放出相(第30日までにペイロードの10~30%が放出)、及び続いての第二の維持相を有する二相放出曲線が得られている。これらの製剤は、ステアリン酸マグネシウム50.4%及びアルファ-トコフェロール21.6%と複合体化され、ラウリン酸メチル分散媒中に製剤された全コルチコステロイドAPIを10%含む。
図6-1】図6A及び図6Bは、それぞれ、異なる徐放性コルチコステロイド製剤の例における放出プロファイルの例を、放出されるAPI%及び放出速度(ug/日)として示す。図6Aでは、製剤は、ステアリン酸マグネシウム44.8%及びアルファ-トコフェロール19.2%と複合体化され、ラウリン酸メチル分散媒中に製剤された全コルチコステロイド薬を20%含む。図6Bは、促進溶解条件下で分析した、図6Aに示したものと同一のインプラントの放出プロファイルを示し、データは放出されたAPI%として表される。促進放出アッセイのデータは、長期間放出データとの相関を有し、これを再現するものである。
図6-2】図6Cは、インプラントとして構成された徐放性コルチコステロイド製剤の例における放出速度データを示し、初期バースト放出相(第30日までにペイロードの10%~50%が放出)、及び続いての第二の維持相を有する二相放出曲線が得られている。これらの製剤は、ステアリン酸マグネシウム44.8%及びアルファ-トコフェロール19.2%と複合体化され、ラウリン酸メチル分散媒中に製剤された全コルチコステロイド薬を20%含む。
図7図7A~7Eは、コルチコステロイド薬と非共有結合で複合体化された1又は複数の複合体化剤で構成され得る徐放性薬物送達システムのいずれかを送達するための送達形態又はモダリティの例を示す。図7Aは、徐放性コルチコステロイド製剤が注射可能な半固体ペーストとして製剤されたボーラス注射の例を示す。図7Bは、徐放性コルチコステロイド製剤が、コルチコステロイド薬及び複合体化剤を含む材料が充填された生分解性スリーブを有するチューブインプラントとして製剤された例である。図7Cは、徐放性コルチコステロイド製剤が固体状態の特定の形状に成形される例である(例:固形インプラント)。図7Dは、徐放性コルチコステロイド製剤材料が、粉砕されて粒子とされ、続いて、注射又は投与に適合するビヒクル中に再懸濁され得るという例である。
図8図8は、徐放性コルチコステロイド製剤をボーラス注射又はチューブインプラントのいずれかとして眼に注射する2つの方法を示す。
図9図9A図9Cは、眼の硝子体(図9C)にボーラス注射(図9B)によって注射(すなわち、硝子体内注射、IVT)することができる流体又はペースト(図9A)として製剤された徐放性コルチコステロイド製剤を示す。
図10図10A図10Dは、放出用の浸食性/生分解性デポー(例:チューブ)インプラントを用いた徐放性コルチコステロイド製剤の使用、及び硝子体内注射による眼の硝子体内への移植を示す。
図11図11A及び図11Bでは、in vitroでのコルチコステロイド薬の保持を比較している。結晶としてチューブに充填された薬物(徐放性薬物送達システム(XRDDS)に製剤されていない)が、急速に媒体中に放出されるのに対し(図11A)、徐放性コルチコステロイド製剤に製剤されてチューブに充填された薬物は、(この例では)4ヵ月間保持されている(図11B)。
図12図12A図12Bは、XRDDSの注射用チューブインプラントモダリティの開放端部の内径/半径を変化させた場合の効果を示す。予測した通り、放出速度は、チューブ端部の半径/直径に比例して低下する。図12Aは、チューブ(デポー)端部の寸法を示す。図12Bは、各々異なる内径/半径(r)のチューブから放出される所与の徐放性コルチコステロイド製剤の2つの例について、経時(日)での放出速度を示すグラフである。予測した通り、r値が低い方のPE10チューブ内の製剤は、r値が高い方のPE50内の製剤と比較して、より低い放出速度を有する。図12Cは、硝子体内注射に適する超薄壁25ゲージ針の使用を示しており、徐放性コルチコステロイド製剤を放出するための生体浸食性又は非生体浸食性チューブ(デポー)を備え、それが25ゲージ針の内腔から出ている状態である。
図13図13A図13Dは、二相薬物放出プロファイルを可能とし得る生体浸食性チューブの組成物(図13B)、又はより遅い時点における加速放出を可能にする三相薬物放出プロファイルを可能とし得る生体浸食性チューブの組成物を示す。図13Aでは、生体浸食性チューブは、PLGA組成物82L/18Gチューブのチューブであり、このチューブは、薬物がすべて放出された後に無傷であることを示している。図13Bは、徐放性コルチコステロイド製剤を充填した図13Aのチューブにおいて、得られた二相動態プロファイルを示すグラフである。図13Cは、生体浸食性チューブが、図13Dに示される徐放性コルチコステロイド製剤を放出する際、薬物がすべて放出される前に分解し、その結果として三相放出プロファイルをもたらすPLGA組成物80L/20Gチューブを有することを示す。
図14図14A及び図14Bは、XRDDSマトリックス中のコルチコステロイド薬の照射が、特に放出の初期バースト相及び後続の定常状態放出の初期期間において、放出速度を調節するために用いられ得ることを示し、より高い線量で照射されたインプラントからの薬物放出が増加している。図14Aは、照射されていない(「非照射」)徐放性コルチコステロイド製剤(フルオシノロンアセトニド)を、照射された同じ製剤(「照射40kGy」)と比較した1つの例の経時での放出速度を示す。図14Bは、照射されていない(「非照射」)徐放性コルチコステロイド製剤(フルオシノロンアセトニド)を、照射された同じ製剤(「照射40kGy」)と比較したさらに別の例の経時での放出速度を示す。いずれの場合も(図14A及び14B)、照射インプラントは、非照射インプラントと比較して、最初の1か月間の初期バースト時のより高い放出速度、さらには維持相の最初の1か月間のより高い放出速度を示している。
図15図15A及び図15Bは、インプラントの長さを制御することにより薬物放出の持続時間を調節することを示し、例えば、より長い若しくはより短い生体浸食性又は非生体浸食性チューブを用い、より短いチューブは相対的に短い放出持続時間を有し、より長いチューブはより長い薬物放出持続時間を有する。図15Aは、生体浸食性チューブの例示的な寸法を示す。図15Bは、長さ6mmのインプラント対長さ4mmのインプラントについて、徐放性コルチコステロイド製剤のin vivoでの放出持続時間を経時(日)で比較したグラフである。予測した通り、長さ6mmのインプラントは、4mmのチューブインプラントと比較して、より長い薬物放出の持続時間をもたらしている。
図16図16は、ウサギの眼に注射した2つの異なる徐放性コルチコステロイド(フルオシノロンアセトニド)製剤におけるin vivo放出プロファイルの比較であり、網膜API濃度を経時(日)で特定したものである。試験した製剤はいずれも、180日以上にわたって継続するFAの持続放出をもたらし、初期バースト、及びそれに続く持続的な低放出速度を示したが、各々は、初期バーストでの組織薬物レベル及び中間での薬物レベルが異なる独特の放出プロファイルを有していた。具体的には、製剤1は、短期間(およそ3週間)の初期バースト放出を、より低い定常状態の中間放出と共にもたらし、その後、およそ5か月での最終バースト放出となるように設計した。対照的に、製剤2は、より長期間の初期バースト放出(およそ6週間)、及び続いて、最終バースト放出なしで、比較的高い一定の定常状態放出をもたらすものである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
物質組成物、製剤、及び徐放性コルチコステロイド製剤を形成する方法が、本明細書において記載される。これらの組成物は、治療有効濃度のコルチコステロイド薬の持続投与によって緩和される病状の治療に特に有用であり得る。これらの組成物はまた、疾患又はある特定の疾患の合併症の予防にも有用であり得る。したがって、これらの病状を治療するために、これらの徐放性コルチコステロイド製剤のいずれかを用いる方法も、本明細書において記載される。そのような病状としては、限定されるものではないが、糖尿病性黄斑浮腫(DME)及び糖尿病性網膜症(DR)を含む糖尿病性眼疾患が挙げられる。そのような病状としては、さらに、網膜静脈閉塞症(RVO)又は網膜動脈閉塞症(RAO)などの他の網膜血管疾患も挙げられる。そのような病状としては、さらに、術後炎症、嚢胞様黄斑浮腫、及びぶどう膜炎などの炎症性眼疾患も挙げられる。そのような病状としては、さらに、加齢黄斑変性などの黄斑疾患も挙げられる。
【0047】
したがって、「IVT CS XR」とも本明細書で称される硝子体内徐放性コルチコステロイド薬物送達システムが、本明細書において記載される。これらの徐放性コルチコステロイド製剤は、DME及びDRを治療するための新規な硝子体内療法を提供し、並びに視神経、網膜、又は後眼部(すなわち「眼底」)に影響を及ぼす他の網膜血管疾患、炎症性疾患、又は変性疾患の治療にも用いられ得る。IVT CS XRを含むこれらの徐放性コルチコステロイド製剤のいずれの有効活性成分(API)も、以下の表1に記載のものを含むコルチコステロイド薬のクラスの中から選択されてよい。コルチコステロイドは、ヒドロコルチゾン又はヒドロコルチゾン誘導体であってもよい。例えば、薬剤(API)は、フルオシノロンアセトニドであってもよい。
【0048】
持続放出性フルオシノロンアセトニドを含む徐放性コルチコステロイドは、硝子体内投与用に開発されてきたが、これらの組成物は、本開示で詳述する組成物によって対処される限界を有する。例えば、Retisert(登録商標)は、眼の後眼部を冒す慢性非感染性ぶどう膜炎の治療に適応を持つコルチコステロイドである。Retisert(登録商標)は、DMEの治療薬としては承認されていない。Iluvien(登録商標)(フルオシノロンアセトニド硝子体内インプラント)0.19mgは、一連のコルチコステロイドによる治療を過去に受けたことがあり、眼圧が臨床的に有意に上昇しなかった患者におけるDMEの治療に適応を持つ。どちらの製品も生分解性ではなく、30~36か月間にわたってフルオシノロンアセトニドを放出する。Yutiq(登録商標)は、フルオシノロンアセトニド0.18mgを含有するIluvienと実質的に同様のインプラントで、非感染性ぶどう膜炎の治療用に開発され、承認されている。特に、Retisert、Iluvien、及びYutiqの各々は、純粋なAPIを外部の組織環境から分離する半透膜を含む不透過性リザーバーを使用することによって、持続的な薬物放出をもたらす。この膜は、APIへの水分のアクセスを制限し、そうすることで、インプラントからの経時でのAPIの徐放を媒介する。コルチコステロイドの持続放出性組成物の他の例としては、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)をベースとした生体浸食性の薬物送達システムに700マイクログラムのデキサメタゾンを含有し、DME及びRVOの治療に承認されているOzurdex(登録商標)が挙げられる。Ozurdex(登録商標)の場合、APIは、PLGAポリマーマトリックス中に捕捉され、水性環境中でのPLGAの加水分解の結果、薬物が徐々に放出される。Ozurdexは、動物(ウサギ及び非ヒト霊長類)のPK実験に基づいて、硝子体内でおよそ1~2か月間の薬物放出を提供する。
【0049】
しかし、2~3か月間よりも長い期間(例:5か月間以上、6か月間以上など)にわたって持続的な送達が得られることが非常に望ましい。特に、より長期間にわたる放出のために、初期の高組織薬物レベルを第一相で放出し、続いてより低い維持組織薬物レベルを第二相(又は第三相など)で放出する多相放出動態を有する持続放出性コルチコステロイドを有することが非常に望ましい。6~9か月間の持続送達生分解性コルチコステロイド硝子体内療法は、適用内投与の場合、現行の抗VEGF療法又はコルチコステロイド注射よりも、必要とされる硝子体内注射の回数がはるかに少なく、抗VEGF療法に反応しない患者又は頻繁な来院が不可能である患者の中で、より良好な転帰をもたらす可能性がある。加えて、このような医薬品は、最大36か月間放出するRetisert(登録商標)及びIluvien(登録商標)などの他の持続放出性コルチコステロイドと比較して、コルチコステロイド放出の持続時間がより短いコルチコステロイド製品を必要とする患者にとっての代替的治療選択肢を提供する可能性があり、また、Ozurdex(登録商標)などの他の製品で見られるよりも長く一定した放出プロファイルを有する可能性もある。本明細書に記載の組成物及び方法は、非常により制御可能で信頼性の高い徐放性コルチコステロイド組成物を提供し得る。
【0050】
本明細書に記載されるコルチコステロイド薬の徐放性製剤を製造することができ、コルチコステロイド薬は、複合体化システムの化学に基づく、1又は複数の複合体化剤が組み込まれた、眼内送達(例:硝子体内送達)のための新規な徐放性薬物送達システム(XRDDS)に組み込まれる。
【0051】
半透膜を用いたリザーバーシステムとは対照的に、本明細書で述べる複合体化に基づくXRDDSは、多様な意図する用途に適した広く様々な薬物放出プロファイル及び持続時間を提供するように調整することができる。これらの組成物は、膜又は複雑な放出アセンブリなしで使用することができる。
【0052】
一般に、本明細書で述べる持続放出性コルチコステロイド薬は、XRDDSの1又は複数の複合体化剤と非共有結合の複合体化相互作用を形成することができ、薬物と複合体化剤との相互作用は、拡散を抑制し、薬物送達システムインプラントからの薬物の放出を調整し得る。特定の複合体化剤は、所与の薬物の物理化学的特性に基づいて、所与のコルチコステロイド薬に対して結合活性である(avid)非共有結合相互作用を最適化するように選択することができ、薬物及び複合体化剤は、混合されて「薬物-複合体」微粒子を形成し、所与の薬物-複合体対からの薬物放出速度は、「シンク」条件("in sink" conditions)への薬物放出のin vitroアッセイによって測定することができる。薬物-複合体化剤の非共有結合による相互作用の相対的な結合活性は、指定の放出アッセイにおける非結合薬剤対結合薬剤(例:コルチコステロイド)の比として定義される「Kd」によって測定することができる。1又は複数セットの「薬物-複合体」微粒子が、特定の分散媒中に組み込まれ、分散されて、徐放性薬物送達システムを形成する。
【0053】
異なるKd値を有する2セット以上の「薬物-複合体」微粒子を混合によって組み合わせ、続いて異なる比率及び量で製剤することにより、個々のKd値を考慮し、分散媒中で組み合わせた場合の薬物-複合体微粒子の個々のセットの薬物放出速度を統合する数式を用いて、標的とする薬物動態放出プロファイル(すなわち、1日の薬物放出速度)を具体的に設計、カスタマイズ、及び「調整」することができる。標的とする放出プロファイルは、所与の薬物ペイロード及び薬物放出の所望される持続時間に対して、放出動態の1又は複数の相を伴って設計することができる。
【0054】
例えば、図1A図1Cは、コルチコステロイド薬に対する所望の薬物放出速度プロファイルを作り出す徐放性薬物送達システム(XRDDS)インプラントの設計及び構築の理論的基礎を示す。最初に、対数変換によって線形化された図1Aに示されるような理論的薬物動態放出曲線(すなわち、標的とする放出プロファイル)が、所望の初期バースト相及び後続の定常状態維持放出相を表すように設計され、最終的な徐放性薬物送達システムインプラントにおける所望の1日放出速度、全送達持続時間、及び薬物ペイロードが得られる。薬物の物理化学的特性に基づいて特定のコルチコステロイド薬と非共有結合の相互作用を形成することが予測される、2つ又は3つの異なるクラスの複合体化剤から特定のメンバー化合物を同定するために、反復プロセスが行われ得る。各薬物-複合体化剤は、まず初期量及び初期比率で組み合わされ、次に薬物-複合体微粒子は、提案された分散媒中に混合され、組み込まれる。図1Bに示されるように、薬物-複合体-媒体系は、「シンク」条件下に置かれてよく、薬物-複合体対の2つの特性:第1日、3日、7日、14日、及び21日におけるKd(未結合-結合比)(バースト及び一般的な結合活性の良好な指標)と、放出動態(経時で放出された薬物の初期ペイロードに対する%)と、が測定され、この場合、Kd1は薬物-複合体1に対応し、Kd2は薬物-複合体2に対応する。
【0055】
次に、各薬物-複合体の放出曲線に曲線フィッティングを適用し、続いて線形化された曲線を解いて、所定の所望される複合標的製品プロファイルを満たす放出動態を与える適切な組み合わせ(2つ又は3つの特定の薬物-複合体対)を決定する。図1Cでは、設計者は、次に、第一及び第二の薬物複合体(薬物複合体1、薬物複合体2)、並びに組み合わせた(「ブレンド」)徐放性コルチコステロイド組成物のKd(例:放出速度)を実験的に決定し得る。
【0056】
図2に示されるように、1又は複数の薬物-複合体対の組合せを含む「理論的に設計された」製剤(例:製剤1及び製剤2)が製剤され、実際の放出動態について試験され得る。必要であれば、最終的な放出動態が所定の標的製品放出プロファイルを満たすまで、2~3つの選択された薬物-複合体対の比率が反復的に再調節され得る。
【0057】
複合徐放性薬物送達システムは、API(例:コルチコステロイド薬)の物理化学的特性に対して設計及びカスタマイズされて、例えば薬物デポーからの、組織中へのその放出が調節され得る。本明細書に記載の徐放性コルチコステロイド組成物(例:CS XR)の場合、API(コルチコステロイド)の放出は、主として外部の薬物送達システムインプラント-組織界面に沿って起こり得るものであり、なぜなら、複合体化APIは、複合体化相互作用から放出されて、遊離APIのXRDDSインプラント界面への拡散が可能となり、その界面で、薬物が組織への放出のために生体利用可能となるからである。
【0058】
XRDDSは、対象とするAPIに対して適切な親和性及び結合活性を有する複合体化剤の選択、さらには溶解したAPIの溶解性が低い分散媒の選択に依存する。APIと、複合体化剤及び/又は分散媒との間の相互作用は、APIのオクタノール溶解度指数(OSI)及びトポロジカル極性表面積(TPSA)に基づいて予測することができる。TPSAは、分子に含まれる極性原子の数に基づいて計算される分子の極性の尺度である。OSIは、化合物の親油性の尺度であり、以下の式により、化合物のlogP及び最大水溶解度を用いて計算することができる。
【0059】
OSI=logP+log(水溶解度)
類似のOSI及びTPSAを有するAPIは、選択された複合体化剤及び分散媒とのその相互作用が実質的に類似していることに起因して、XRDDSの所与の製剤中で同様に機能する。このことは、フルオシノロンアセトニド(OSI 3.48、TPSA 93.1Å)、デキサメタゾン遊離塩基(OSI 3.85、TPSA 94.8Å)、リン酸デキサメタゾン(OSI 3.71、TPSA 141Å)、及びトリアムシノロンアセトニド(OSI 3.82、TPSA 93.1Å)など、類似のOSI及びTPSAを有する4つのコルチコステロイドAPIがすべて、ステアリン酸マグネシウムとアルファ-トコフェロールとが複合体化剤として作用し、ラウリン酸メチルが分散媒である本発明者らのXRDDSでの徐放用に製剤可能であることで実証される。
【0060】
本明細書に記載の徐放性薬物送達システムは、硝子体又は眼周囲組織への送達のために、本明細書に記載のコルチコステロイド薬と非共有結合の相互作用を形成する成分、すなわち複合体化剤を含み、それによって、薬物は、所与の薬物ペイロードに対して所望される持続時間にわたって標的組織薬物レベルで、硝子体又は眼組織に放出される。
【0061】
本明細書に記載の複合体化に基づく徐放性薬物送達システムは、眼内薬物放出の動態を調節するために、1又は複数の複合体化剤への薬物の複合体化を用いている。いくつかの例では、徐放性薬物送達システムは、薬物と複合体化する1又は複数の複合体化剤を用いて製剤され、それによって、薬物は、複合体化剤と複合体化し、生体浸食性又は非浸食性のインプラント中に保持され得る。一般に、徐放性薬物送達システムは、特定の投与経路での特定の治療目標に対して最適化された薬物放出動態で、特定の有効活性成分(例:コルチコステロイド薬)を投与するように製剤される。
【0062】
本明細書に記載の徐放性薬物送達システムは、コルチコステロイド薬を1又は複数の複合体化剤上に非共有結合で複合体化して、特定の分散媒中に分散した微粒子を形成することに基づいている。特定の薬物-複合体化剤微粒子(「薬物-複合体」)は、薬物放出アッセイで測定することができる「Kd」(未結合-結合比)によって特定される独特の放出動態を示す。
【0063】
本明細書に記載の徐放性コルチコステロイド組成物の大部分は、典型的には1つのコルチコステロイド(例:ヒドロコルチゾン誘導体)APIを含むが、複数のコルチコステロイド(又は他のAPI)が、放出動態の推定、及び異なるKdを有する非共有結合薬物-複合体化剤の微粒子を形成するための1又は複数の(例:2つ以上の)複合体化剤の選択を含む本明細書に記載の同じ原理を用いて、同じ組成物中に組み込まれ、製剤されてもよい。
【0064】
広範な物質が、薬物送達を目的とした複合体化剤として作用することができ、異なるKd(結合-非結合係数)を有するために非結合の割合が異なる非共有結合で結合した薬物-複合体化剤の微粒子が形成される。本明細書に記載の徐放性薬物送達システムでは、生体利用度を改善するために複合体化を用いるのではなく、これらの製剤は、複合体化を用いることで、特定の分散媒への組み込み及び徐放性薬物送達システム内での薬物-複合体の制約により、薬物の生体利用度を制限するものである。複合体化剤は、カテゴリー(複合体化の機構)、クラス(カテゴリー内での特定のサブタイプ)、及び/又は1つのクラス内での異なるメンバーによる分類が可能である。複数の複合体化剤を用いることには、所望される又は標的とする用量範囲内で多相性放出プロファイルを達成する目的で同一製剤内で異なるクラスの異なる複合体化剤を用いることを含め、有益性が存在し得る。
【0065】
コルチコステロイド薬と選択された複合体化剤との複合体は、当業者に公知の様々な混合方法によって生成することができる。次いで、所望される比率のコルチコステロイド薬複合体が分散媒内に分散され、その後、図7に示すように、多数の構成又はモダリティに製剤されてよく、図8に示すように、様々な経路及び様々な形態で眼内又は眼の周り(すなわち、眼周囲)に送達されてよい。
【0066】
吸着によって薬物複合体を形成する異なるクラスの複合体化剤の例としては、中性脂肪酸、及びケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物が挙げられる。
加えて、多くの異なる物質が、薬物送達を目的とした分散媒として作用することができ、徐放性薬物送達システム内で薬物-複合体微粒子を分散させ、選択された薬物-複合体微粒子のマトリックスを作り出すように作用する。全体的な効果は、薬物の拡散を制限し、周囲の組織から徐放性薬物送達システム内の微粒子及び遊離薬物への水分のアクセスを限定することである。遊離の(すなわち非結合)薬物は、インプラント-組織界面に到達するにしたがって、拡散によって放出される。二次的に、分散媒及び微粒子が経時で生分解するにしたがって、遊離薬物が組織内に放出される。
【0067】
分散媒の例としては、飽和脂肪酸(メチル)エステル、飽和脂肪酸(エチル)エステル、不飽和脂肪酸(メチル)エステル、不飽和脂肪酸(エチル)エステル、及び他のタイプの脂肪酸エステルを含むがこれらに限定されない、油、液体脂質、及び半固体脂質のクラスが挙げられる。
【0068】
図7A図7D及び図8に示されるように、徐放性薬物送達システムは、様々な異なるインプラントモダリティに製剤することができ、限定されるものではないが、ボーラスを形成する流動性ペースト(図7Aに示されるように)、徐放性薬物送達システム材料を含む生分解性スリーブで構成されるチューブ(図7Bに示されるように)、特定のサイズ及び形状の固体モールド(図7Cに示されるように)、適合性ビヒクル中に懸濁された徐放性薬物送達システム材料の粉砕粒子(図7Dに示されるように)、適合性ビヒクル中に製剤された粉砕粉末などが挙げられ、これらは、インジェクタ、シリンジ及び針、マイクロニードルなどを介して体内(例:眼内)に送達又は挿入されてよく、並びにこれらはすべて、硝子体内投与経路(図8に示されるように)、又は別の選択肢として、眼周囲投与経路に適している。
【0069】
ボーラス形態(図7A及び図8)並びに充填チューブ形態(図7B及び図8)を含む徐放性薬物送達システムのある特定のインプラントモダリティは、特定の物理的特性を有する流動性ペーストとして製剤される必要がある。1つの特性は、アインシュタイン粘度係数μfで定義することができる製剤粘度である。
【0070】
μf=(1+αfφ)μd
式中、αfは、分散媒の潤滑摩擦係数であり、φは、分散媒に対する固体API及び複合体化剤の粒子分率であり、μdは、分散媒の粘度である。したがって、所望されるAPIのペイロード、必要とされる複合体化剤の体積、及び分散媒の物理的特性が、XRDDSのボーラス又はチューブ形態での調製における所与の製剤の適切性を定める。製剤に占める割合としてのAPI、複合体化剤、及び分散媒の許容範囲は、所与のインプラントについてこれまでに定められた許容されるμf値に基づいて予測することができる。
【0071】
本明細書に記載の手法を用いて、徐放性薬物送達システムの実際の放出動態を、徐放持続時間(例:1か月間~12か月間又はそれ以上)にわたって既知の有効な閾値を満たすin vivo硝子体濃度を達成するように設計し、確認することができる。
【0072】
徐放性薬物送達システムは、特定の投与経路における特定の治療目標に対して最適化された放出動態を調節するように特定の薬物の設計、製造、及び投与に用いられるデバイス、製剤、又は他のシステムである。
【0073】
徐放性薬物送達システムの先行技術は、懸濁液、油、又はエマルジョンなどの保持ビヒクル(retention vehicles)の形態であり得る。保持ビヒクルベースの製剤は、保持ビヒクル内に混合又は包埋された未修飾薬物を利用する製剤である。保持ビヒクルは、化学的に修飾されたビヒクル中で疎水性又は親水性相互作用を通して薬物の溶解性を最適化することにより、遊離薬物を最大化し、薬物放出動態を改善し得る。例としては、賦形剤で修飾された水性ビヒクル、油、水中油型エマルジョン、及び油中水型エマルジョンが挙げられ、各々、保持ビヒクルの特性を利用して薬物の放出を遅延させる。そのような保持ビヒクルベースの製剤では、保持ビヒクルは、その特性を最適化するために化学的又は物理的修飾の標的となる場合があり、薬物自体は標的とされないが、保持ビヒクルによってもたらされる薬物の溶解性向上により、その溶解及び周囲組織への放出が促進される。
【0074】
他の薬物送達システムは、リポソーム、ポリマー、ロッドなどを含むキャリアシステム又はリザーバーの形態であり得る。リザーバー及び薬物溶出システムは、溶解又浸食を受けないデバイスからの薬物の拡散を可能とするように設計された非浸食性の薬物送達デバイスであってよく、これらのデバイスは、自給式の縫合されたインサート、非浸食性の注射用プラスチックチューブ、薬物コーティングされたネジ、外科的に移植された再ロード可能なポートなどを含む、いくつかの形態又はモダリティの1つであり得る。キャリアベースのシステムは、受動的放出の生体浸食性製剤戦略である。キャリアベースのシステムは、特定のキャリア中に薬物を物理的に捕捉するように設計され得るが、キャリアシステムはその後、徐放性薬物送達システムに固有の機構からではなく、組織との相互作用を介して分解して、遊離薬物を放出する。いくつかの実施形態では、キャリア製剤は、組織から薬物を区画する単一のデバイスを含む。これらとしては、ポリマーベースのロッド又は他の形状で、押出しによってロッド状に又は成型によって異なる形状にされた化学的キャリア物質中に薬物が捕捉されたもの、並びにヒドロゲルのロッド又は他の形状で、薬物がヒドロゲルキャリア中に捕捉されたものが挙げられ得る。キャリア中薬物捕捉システム(Drug-trapped-in-carrier)としてはまた、薬物を捕捉するために小さいブロックポリマーの化学的共有結合架橋を必要とするポリマーベースのマイクロ粒子、薬物を捕捉するために超音波処理される水中リン脂質型エマルジョンであるリポソーム、薬物が乳化剤でコーティングされた固体脂質マイクロスフェロイド内に捕捉される固体脂質粒子なども挙げられる。すべてのキャリアベースのシステムに共通する特徴は、薬物がキャリア材料内に捕捉されていることであり、キャリアが分解、溶解、又はそれ以外で崩壊するに従って、遊離薬物が組織中に放出される。これには、組織微小環境によって提供される化学反応又は酵素反応が必要とされ得る。
【0075】
本明細書に記載される徐放性薬物送達システムは、新規であり、これまでに考案、設計されたシステムとは差別化されるものであり、なぜなら、それらとは異なり、例えば眼への徐放性薬物送達に特化した複合体化システムの化学的性質を利用しているからであり、眼内薬物送達について既存の先行技術が存在しない方法及び手法である。本発明のシステムは、薬物の拡散を限定する方法として、及び生体浸食性のモダリティ、デバイス、又は製剤で眼組織への薬物放出の動態を調節する方法として、1又は複数の複合体化剤への薬物の複合体化を用いる。
【0076】
複合体化剤への薬物の非共有結合による複合体化は、「薬物-複合体」微粒子を形成し、原薬は、図1Bに示されるように、薬物放出アッセイで測定することができる値である「Kd」、未結合対結合比、によって測定されるように、複合体化剤に対して特異的な結合活性を有する。
【0077】
広範な物質が、薬物送達を目的とした複合体化剤として作用することができる。複合体化剤は、カテゴリー(複合体化の機構)、クラス(カテゴリー内での特定のサブタイプ)、及び1つのクラス内での異なるメンバーによるサブ分類が可能である。「薬物-複合体」微粒子を形成することができる異なるクラスの複合体化剤の例としては、限定されるものではないが、中性脂肪酸、及びケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物が挙げられる。
【0078】
複数セットの「薬物-複合体」微粒子が、組み合わされ、特定の分散媒中に組み込まれて、複合薬物送達システムが形成されてもよく、全体としての薬物動態放出プロファイルは、そのKd値に基づいて、各々の異なる「薬物-複合体」微粒子の薬物放出曲線を統合する数式によって決定される。この手法により、所望される放出持続時間にわたる有効活性成分(API)の放出動態を意図的に設計し、カスタマイズすることが可能となる。例えば、2つの異なる「薬物-複合体」の組み合わせが、二相放出プロファイルを促進するために選択されてよく、この場合、高放出量の有効活性成分が、放出の第一の相の最初の2~6週間(例:3~6週間、3~5週間、4週間など)にわたって存在し(すなわち、初期「バースト」放出)、それに続いて、低放出量の有効活性成分(API)が、放出の第二の相の後続の1~11か月間にわたって存在する(すなわち、長期の「定常状態」放出)。
【0079】
このような二相放出プロファイルは、進行中の疾患の治療及び回復(すなわち、初期バースト相による)、及びそれに続く疾患不活性状態の持続的維持(すなわち、後続の維持相による)において特に望ましいものであり得る。1つの例は、DMEの治療であり、この場合、黄斑浮腫を回復させ、その後の再発を防止する必要がある。
【0080】
別の選択肢として、単一相放出は、背景糖尿病性網膜症の治療時に見られるような、疾患の進行又は発症の予防において望ましいものであり得る。
三相放出プロファイルは、コルチコステロイド薬の場合に見ることができるような、薬物がその薬物動態に対して長い時間の薬力学的効果を呈する場合に(すなわち、PK-PD非相関(PK-PD disconnect))、望ましいものであり得る。この場合、薬物のバーストが放出される第三相は、二相放出インプラントによって達成することができる以上の治療効果の持続性を追加する可能性がある。
【0081】
本発明の徐放性薬物送達システムは、原薬の物理化学的特性に基づいて特に選択された複数の成分から構成されている。生体利用度を向上させるのではなく、「薬物-複合体」微粒子の非共有結合による複合体化相互作用は、体内に移植された場合に、薬物送達システムから組織への原薬の拡散を制限する。
【0082】
本明細書に記載の徐放性薬物送達システムでは、原薬は、コルチコステロイド薬である。特定の複合体化剤は、選択された薬物と非共有結合による相互作用を形成して、特定の分散媒中に分散された微粒子を形成する。特定の複合体化剤の種類、それらの特定の分散媒への組み込み、及びそれらの特定の組み合わせ比率が、意図的に選択及び設計されて、様々な眼障害の治療のための薬物放出動態及び放出持続時間を最適化する特定の標的薬物放出プロファイルを達成することができる。複合徐放性薬物送達システムからのコルチコステロイド薬の放出は、徐放性薬物送達システムインプラント表面への薬物の拡散と、XRDDS成分の溶解による薬物の放出とに依存している。
【0083】
このように、本明細書に記載される徐放性薬物送達システムは、薬物放出の調節のための複合体化システム、すなわち各々が異なる結合活性及び放出プロファイルを有する1又は複数の「薬物-複合体」微粒子を形成するための、選択された複合体化剤とコルチコステロイドとの特異的な非共有結合による相互作用、を利用するものであり、並びに特定の標的薬物放出プロファイルの意図的な設計のために、組み合わせる薬物-複合体微粒子の特定の比率及び量をカスタマイズすることは、新規であり、先行技術の保持ビヒクルの徐放性薬物送達システム及び眼内薬物送達のためのキャリアベースの受動的放出システムとは容易に差別化される。
【0084】
吸着とは、粒子、細胞、足場、膜、又は他の大型分子の表面への化学物質の非共有結合による結合である。単純な非医薬的吸着システムは、充分に確立されており、薬物送達以外の分野でも広く研究されている。吸着は、粒子表面の不規則性によって媒介され、その不規則性は、粒子体積と比較して高い表面積をもたらす微視的レベルでの不規則な、刻みつけられた、複雑な、及び/又は多孔質の表面によって定性的に定められる。粒子表面の不規則性は、マイクロ粒子物質のガス吸着測定を利用した表面積測定のブルナウアー・エメット・テラー(BET)法によって定量的に定められる。一般に、計算によるBET表面積が約2.0m2-1よりも大きいマイクロ粒子物質は、複合体化剤としての使用に適しており、本明細書において「不規則形状微粒子」と称される。
【0085】
吸着-脱着平衡係数Kdは、充分に明らかにされている。異なる形状の曲線、吸着等温線が識別され、非共有結合による相互作用の性質及び結合活性に基づいて、直線、対数曲線、及び「S」字状曲線の化学物質放出パターンが確認された。吸着は、吸着-脱着特性が栄養、肥料、枯葉剤、殺虫剤に関して特に重要である土壌科学において、及び石油産業において特に重要である。
【0086】
複合体化戦略の中で、吸着複合体化は、薬学において、血液中の血漿タンパク質に結合する薬物、in situ薬物放出のための固体足場への薬物コーティング(例:薬物溶出型ステント)、並びに経口生体利用度及び吸収を改善するための不溶性薬物への賦形剤の付加の形態で最もよく知られている。しかし、これまでのところ、複合体化システムに基づいて、又は複合体化剤との薬物吸着非共有結合による相互作用を利用して、薬物送達システムインプラントから眼組織への薬物の放出を調節する、眼内薬物送達のための徐放性薬物送達システムは存在しない。
【0087】
徐放性コルチコステロイド組成物
上記で詳述したように、本明細書に記載の徐放性コルチコステロイド組成物の主要成分は、コルチコステロイド、コルチコステロイドと非共有結合で複合体化する第一の複合体化剤、所望に応じて、コルチコステロイドと非共有結合で複合体化する異なる第二の(又はそれ以上の)複合体化剤、及び疎水性分散媒を含む。コルチコステロイドと第一の複合体化剤との複合体、及びコルチコステロイドと第二の(又はそれ以上の)複合体化剤との複合体は、疎水性分散媒中に懸濁される複合体を形成し得る。上記で詳述したように、コルチコステロイドと第一の複合体化剤との複合体は、コルチコステロイドの第一の放出速度を有してよく、コルチコステロイドと第二の(又はそれ以上の)複合体化剤との複合体は、コルチコステロイドの第二の(又はそれ以上の)放出速度を有してよく、混合された放出動態の結果として、2~6週間持続する初期バースト相、及びそれに続く1~11か月間又はそれ以上に及ぶ中後期相、及び所望に応じて、放出動態の第三の相を含む、2つ以上の相を有するコルチコステロイドの放出プロファイルが得られ得る。中後期相で放出されるコルチコステロイドのパーセントは、1日あたり0.2%(例:±0.1、例:±0.05、±0.06、±0.07、±0.08、±0.09、±0.1、±0.11、±0.12、±0.13、±0.14、±0.15)と比較的一定であり得る。バースト相での1日あたりに放出されるパーセントは、第二の中後期放出相での1日あたりに放出されるパーセントよりも1.5~2倍以上高い可能性がある(例:1.5倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍など)。
【0088】
一般に、コルチコステロイドは、プロゲステロン及びプロゲステロン誘導(「プロゲステロン型」)コルチコステロイド、ヒドロコルチゾン及び/若しくはヒドロコルチゾン誘導(「ヒドロコルチゾン型」)コルチコステロイド、メタゾン及び/若しくはメタゾン誘導(「メタゾン型(16-メチル化)型」)コルチコステロイド、又はアセトニド(「アセトニド型」)コルチコステロイドを含む、いかなるコルチコステロイドであってもよい。表1は、用いられ得るコルチコステロイドの例を列挙している。
【0089】
【表1-1】
【0090】
【表1-2】
【0091】
【表1-3】
【0092】
【表1-4】
【0093】
【表1-5】
【0094】
【表1-6】
【0095】
いくつかの例では、コルチコステロイドは、ヒドロコルチゾンタイプ(例:ヒドロコルチゾン又はヒドロコルチゾン誘導体)であり、以下の1つ以上を含む合成ヒドロコルチゾンなどである。クロロプレドニゾン(6α-クロロ-17α,21-ジヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,11,20-トリオン)、クロプレドノール(6-クロロ-11β,17α,21-トリヒドロキシプレグナ-1,4,6-トリエン-3,20-ジオン)、ジフルプレドナート(6α,9α-ジフルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン17α-ブチレート21-アセテート、フルドロコルチゾン(9α-フルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシプレグナ-4-エン-3,20-ジオン)、フルオシノロン(6α,9α-ジフルオロ-11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、フルペロロン(9α-フルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-21-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、フルプレドニゾロン(6α-フルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、ロテプレドノール(11β,17α,ジヒドロキシ-21-オキサ-21-クロロメチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、メチルプレドニゾロン(6α-メチル-11β,17α,21-トリヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、プレドニカルベート(11β,17α,21-トリヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン17α-エチルカーボネート21-プロピオネート)、プレドニゾロン(11β,17α,21-トリヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、プレドニゾン(17α,21-ジヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,11,20-トリオン)、チキソコルトール(11β,17α-ジヒドロキシ-21-スルファニルプレグナ-4-エン-3,20-ジオン)、及びトリアムシノロン(9α-フルオロ-11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)。いくつかの例では、コルチコステロイドは、フルオシノロンアセトニドなどの合成ヒドロコルチゾン誘導体である。
【0096】
いくつかの例では、コルチコステロイドは、メタゾンタイプ(例:16-メチル化)であり、以下の1又は複数を含む。アルクロメタゾン(7α-クロロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、ベクロメタゾン(9α-クロロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-16β-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、ベタメタゾン(9α-フルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-16β-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、クロベタゾール(9α-フルオロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16β-メチル-21-クロロプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、クロベタゾン(9α-フルオロ-16β-メチル-17α-ヒドロキシ-21-クロロプレグナ-1,4-ジエン-3,11,20-トリオン)、クロコルトロン(6α-フルオロ-9α-クロロ-11β,21-ジヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、デスオキシメタゾン(9α-フルオロ-11β,21-ジヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、デキサメタゾン(9α-フルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、ジフロラゾン(6α,9α-ジフルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-16β-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、ジフルオコルトロン(6α,9α-ジフルオロ-11β,21-ジヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、フルクロロロン(6α-フルオロ-9α,11β-ジクロロ-16α,17α,21-トリヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、フルメタゾン(6α,9α-ジフルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、フルオコルチン(6α-フルオロ-11β,21-ジヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20,21-トリオン)、フルオコルトロン(6α-フルオロ-11β,21-ジヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、フルプレドニデン(9α-フルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-16-メチレンプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、フルチカゾン(6α,9α-ジフルオロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16α-メチル-21-チア-21-フルオロメチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、フルチカゾンフロエート(6α,9α-ジフルオロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16α-メチル-21-チア-21-フルオロメチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン17α-(2-フロエート))、ハロメタゾン(2-クロロ-6α,9α-ジフルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、メプレドニゾン(16β-メチル-17α,21-ジヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,11,20-トリオン)、モメタゾン(9α,21-ジクロロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、モメタゾンフロエート(9α,21-ジクロロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン17α-(2-フロエート))、パラメタゾン(6α-フルオロ-11β,17α,21-トリヒドロキシ-16α-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、プレドニリデン(11β,17α,21-トリヒドロキシ-16-メチレンプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、リメキソロン(11β-ヒドロキシ-16α,17α,21-トリメチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、及びウロベタゾール(ハロベタゾール)(6α,9α-ジフルオロ-11β,17α-ジヒドロキシ-16β-メチル-21-クロロプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)。
【0097】
いくつかの例では、コルチコステロイドは、アセトニド又は関連するコルチコステロイドであり、以下の1又は複数などである。アムシノニド(9α-フルオロ-11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン シクロペンタノンとの環状16α,17α-アセタール,21-アセテート)、ブデソニド(11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン ブチルアルデヒドとの環状16α,17α-アセタール)、シクレソニド(11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン (R)-シクロヘキサンカルボキシアルデヒドとの環状16α,17α-アセタール,21-イソブチレート)、デフラザコート(11β,21-ジヒドロキシ-2’-メチル-5’H-プレグナ-1,4-ジエノ[17,16-d]オキサゾール-3,20-ジオン21-アセテート)、デソニド(11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン アセトンとの環状16α,17α-アセタール)、ホルモコータル(フルオロホルミロン)(3-(2-クロロエトキシ)-9α-フルオロ-11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシ-20-オキソプレグナ-3,5-ジエン-6-カルボキシアルデヒド アセトンとの環状16α,17α-アセタール,21-アセテート)、フルクロロロンアセトニド(フルクロロニド)(6α-フルオロ-9α,11β-ジクロロ-16α,17α,21-トリヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン アセトンとの環状16α,17α-アセタール)、フルドロキシコルチド(フルランドレノロン、フルランドレノリド)(6α-フルオロ-11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-4-エン-3,20-ジオン アセトンとの環状16α,17α-アセタール)、フルニソリド(6α-フルオロ-11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン アセトンとの環状16α,17α-アセタール)、フルオシノロンアセトニド(6α,9α-ジフルオロ-11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン アセトンとの環状16α,17α-アセタール)、フルオシノニド(6α,9α-ジフルオロ-11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン アセトンとの環状16α,17α-アセタール,21-アセテート)、ハルシノニド(9α-フルオロ-11β,16α,17α-トリヒドロキシ-21-クロロプレグナ-4-エン-3,20-ジオン アセトンとの環状16α,17α-アセタール)、及びトリアムシノロンアセトニド(9α-フルオロ-11β,16α,17α,21-テトラヒドロキシプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン アセトンとの環状16α,17α-アセタール)。
【0098】
第一、第二、又は他の追加の複合体化剤は、中性脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物、荷電リン脂質、1又は複数の芳香環を含む有機化合物、大型タンパク質、核酸、又は活性炭であってもよい。開示されるように、徐放性薬物送達システムの特定の複合体化剤は、コルチコステロイド薬の特定の物理化学的特性に応じて選択され得る。複合体化剤は、コルチコステロイド薬と非共有結合による複合体化(吸着)相互作用を形成するように選択され得る。フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン遊離塩基、リン酸デキサメタゾン、及びトリアムシノロンアセトニドなどのコルチコステロイド薬の場合、好ましい複合体化剤は、脂肪酸(例:ステアリン酸マグネシウム)及びケト-エノール互変異性体(例:アルファ-トコフェロール)のクラスに由来する。
【0099】
例えば、フルオシノロンアセトニドなどの疎水性コルチコステロイド薬物が製剤される場合、主要な物理化学的特性、特に疎水性相互作用及びスタッキングに起因してコルチコステロイド薬及び他の脂肪酸の両方と中程度に結合活性である非共有結合による相互作用を形成する脂肪酸複合体化剤が用いられ得る。したがって、徐放性薬物送達システムの脂肪酸複合体化剤(又は賦形剤)は、それ自体(例:同じ脂肪酸の他の分子)と、複合体化基質として添加された他の追加の脂肪酸と、相互作用し得る。いくつかの例では、複合体化剤は、1又は複数のC4~C30脂肪酸である。これらの脂肪酸は、飽和又は不飽和(例:一価不飽和又は多価不飽和)であってよい。これらの脂肪酸はまた、中性であってよく、又は塩(例:ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなど)として調製されてもよい。例えば、脂肪酸は、C14~C20又はC14~C18の脂質数(例:炭素の数)を有する脂肪酸であってよい(例:テトラデカン酸、ペンタデカン酸、(9Z)-ヘキサデセン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9.12-トリエン酸、(5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸、(Z)-オクタデカ-9-エン酸、(11E)-オクタデカ-11-エン酸、(E)-オクタデカ-9-エン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸などのうちの1又は複数)。いくつかの例では、脂肪酸は、C14~C20の非分岐脂肪酸であってもよい。いくつかの例では、脂肪酸は、飽和脂肪酸(限定されるものではないが、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、アラキジン酸(エイコサン酸)など、であり得る。本明細書に記載される脂肪酸複合体化剤の例としては、主としてステアリン酸マグネシウムが挙げられるが、予備データから、上記で参照した脂肪酸(又はその塩)のいずれも、ステアリン酸マグネシウムと同等に作用し、ステアリン酸マグネシウムの代わりに又はステアリン酸マグネシウムに加えて用いられ得ることが示唆される。
【0100】
例えば、複合体化剤は、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン遊離塩基、リン酸デキサメタゾン、及びトリアムシノロンアセトニドを含む複数のコルチコステロイド薬と複合体化するC18脂肪酸(例:ステアリン酸又はオクタデカン酸)であり得る(例えば、以下にさらに詳細に記載する図3図5A図5C、及び図6A図6Cを参照)。
【0101】
用いられ得る別のクラスの複合体化剤としては、ケト-エノール互変異性体(KET)が挙げられる。一部のKETは、荷電状態から中性状態の間での酸化還元反応を起こし、したがって、本明細書に記載されるある特定のコルチコステロイド薬を含む、中性又は荷電状態のいずれのAPIとも高い結合活性の相互作用を形成することができる。コルチコステロイド薬の製剤に用いられ得るKETの例としては、限定されるものではないが、トコフェロール化合物又はトコフェロール誘導体(例:アルファ-トコフェロール、酢酸アルファ-トコフェロール、酢酸DL-アルファ-トコフェロール、コハク酸アルファ-トコフェロール、13-ヒドロキシ-アルファ-トコフェロール、リン酸アルファ-トコフェロール、アルファ-トコフェロールメチルエーテル、ベータ-トコフェロール、デルタ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、デヒドロ-ガンマ-トコフェロール、13-ヒドロキシ-ガンマ-トコフェロール、トコフェロールコハク酸エステルカルシウムなど)、単糖類(例:D-グルコース、アルドースなど)、微結晶セルロース、フェノール化合物、キノン化合物、リボ核酸化合物が挙げられる。本明細書に記載されるKET複合体化剤の例としては、主としてアルファ-トコフェロールが挙げられるが、予備データから、上記で参照したKETのいずれも、アルファ-トコフェロールと同等に作用し、アルファ-トコフェロールの代わりに又はアルファ-トコフェロールに加えて用いられ得ることが示唆される。
【0102】
いくつかの例では、脂肪酸群及びKET群の両方からの異なる複合体化剤の組み合わせが、いずれかの複合体化剤単独とは異なる薬物放出プロファイルを達成するために、コルチコステロイド薬と共に用いられ得る。
【0103】
多くの場合、最適な複合体化剤は、製剤されるべきAPIの物理化学的特性に基づいて決定される。図5A図5C及び図6A図6Cは、各々が異なるコルチコステロイドAPIを含む4つの異なる製剤の放出動態を比較したin vitro放出薬物動態データを示す。
【0104】
類似のOSI及びTPSAを有するAPIは、選択された複合体化剤及び分散媒とのその相互作用が実質的に類似していることに起因して、XRDDSの所与の製剤中で同様に機能する。このことは、フルオシノロンアセトニド(OSI 3.48、TPSA 93.1Å)、デキサメタゾン遊離塩基(OSI 3.85、TPSA 94.8Å)、リン酸デキサメタゾン(OSI 3.71、TPSA 141Å)、及びトリアムシノロンアセトニド(OSI 3.82、TPSA 93.1Å)など、類似のOSI及びTPSAを有する4つのコルチコステロイドAPIがすべて、ステアリン酸マグネシウムとアルファ-トコフェロールとが複合体化剤として作用し、ラウリン酸メチルが分散媒である本発明者らのXRDDSでの徐放用に製剤可能であることで実証される(図5A図5C及び図6A図6C)。
【0105】
図6Aは、各製剤について、製剤されたコルチコステロイド薬の経時で放出された割合を示す。図Bは、促進溶解条件下で分析された図6Aに示したものと同じ製剤を示す。本明細書において、インプラントをリン酸緩衝生理食塩水中、シンク条件下での高められた温度、この場合は60℃でインキュベートすることにより、促進溶解アッセイを行ったが、これは標準条件下のin vitroでの、及びin vivoでのインプラント薬物放出の予測に用いることができる。図6Cは、図6Aと同じ製剤について、標準条件下の経時での放出速度を示す。これらの製剤において、組成は、コルチコステロイドAPI 20%、ステアリン酸マグネシウム 44.8%、アルファ-トコフェロール 19.2%、及びラウリン酸メチル 16%であった。これらのデータは、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン遊離塩基、及びリン酸デキサメタゾンを含む多くのコルチコステロイド薬が、ステアリン酸マグネシウム及び/又はアルファ-トコフェロールを複合体化剤として、並びにラウリン酸メチルを分散媒として利用する多相コロイド懸濁液ベースの薬物送達システムを用いた徐放用に製剤され得ることを示している。
【0106】
図6Aは、異なる徐放性コルチコステロイド製剤の例について、標準条件下で得られた放出プロファイルの例を、放出されたAPI%として示す。図6Aでは、徐放性コルチコステロイド製剤は、インプラントとして構成され、初期バースト放出相(第30日までにペイロードの10%~50%が放出)、及び続いての第二の維持相を有する二相放出曲線が得られている。これらの製剤は、ステアリン酸マグネシウム44.8%及びアルファ-トコフェロール19.2%と複合体化され、ラウリン酸メチル分散媒中に製剤された全コルチコステロイド薬を20%含む。図6Aはまた、賦形剤ブレンドが個々のAPIに対してカスタマイズされるという原理も示し、1つのAPIに所望される薬物動態放出プロファイルをもたらす所与のブレンドは、同じペイロードの第二の異なるAPIに用いられた場合、異なる薬物動態放出プロファイルをもたらし得る。
【0107】
図6Bは、異なる徐放性コルチコステロイド製剤の例について、促進溶解条件下で得られた放出プロファイルの例を、放出されたAPI%として示す。図6Bでは、徐放性コルチコステロイド製剤は、インプラントとして構成され、初期バースト放出相、及び続いての第二の維持相を有する二相放出曲線が得られている。特筆すべきことには、様々なコルチコステロイドAPIを含む製剤のプロファイル及び相対的放出プロファイルは、標準条件下で得られた放出アッセイと比較して、促進溶解アッセイでは類似していることである。これは、促進溶解試験を用いて、XRDDS中に製剤されたコルチコステロイドAPIの放出特性を特性評価可能であることを示している。図6Aの場合と同様に、これらの製剤は、ステアリン酸マグネシウム44.8%及びアルファ-トコフェロール19.2%と複合体化され、ラウリン酸メチル分散媒中に製剤された全コルチコステロイド薬を20%含む。この例はさらに、賦形剤ブレンドが個々のAPIに対してカスタマイズされるという原理も示し、1つのAPIに所望される薬物動態放出プロファイルをもたらす所与のブレンドは、同じペイロードの第二の異なるAPIに用いられた場合、異なる薬物動態放出プロファイルをもたらし得る。
【0108】
図6Cは、インプラントとして構成された徐放性コルチコステロイド製剤の例における放出速度データを示し、初期バースト放出相(第30日までにペイロードの10%~50%が放出)、及び続いての第二の維持相を有する二相放出曲線が得られている。これらの製剤は、ステアリン酸マグネシウム44.8%及びアルファ-トコフェロール19.2%と複合体化され、ラウリン酸メチル分散媒中に製剤された全コルチコステロイド薬を20%含む。この例は、賦形剤ブレンドが個々のAPIに対してカスタマイズされるという原理を示し、1つのAPIに所望される薬物動態放出プロファイルをもたらす所与のブレンドは、同じペイロードの第二の異なるAPIに用いられた場合、異なる薬物動態放出プロファイルをもたらし得る。
【0109】
広範な物質が、薬物送達を目的とした分散媒として作用することができ、徐放性薬物送達システム内で薬物-複合体微粒子を分散させ、選択された薬物-複合体微粒子のマトリックスを作り出すように作用する。全体的な効果は、薬物の拡散を制限し、周囲の組織から徐放性薬物送達システム内の微粒子及び遊離薬物への水分のアクセスを限定することである。したがって、遊離薬物は、拡散を介して水溶液-XRDDS界面で、並びに分散媒及び微粒子成分が経時で生分解されるに従って、放出される。
【0110】
分散媒の例としては、油、液体脂質、半固体脂質のクラスが挙げられる。これらとしては、飽和脂肪酸メチルエステルである酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ペンタン酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)、トリデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、9(Z)-テトラデセン酸メチル、ペンタデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、オクタデセン酸メチル、ノナデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ヘンエイコサン酸メチル、ドコサン酸メチル、トリコサン酸メチルなどが挙げられる。これらとしては、飽和脂肪酸エチルエステルである酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル(ラウリン酸エチル)、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸エチル、9(Z)-テトラデセン酸エチル、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデセン酸エチル、ノナデカン酸エチル、エイコサン酸エチル、ヘンエイコサン酸エチル、ドコサン酸エチル、トリコサン酸エチルなどが挙げられる。これらとしてはまた、不飽和脂肪酸エステルも挙げられ、10-ウンデセン酸メチル、11-ドデセン酸メチル、12-トリデセン酸メチル、9(E)-テトラデセン酸メチル、10(Z)-ペンタデセン酸メチル、10(E)-ペンタデセン酸メチル、14-ペンタデセン酸メチル、9(Z)-ヘキサデセン酸メチル、9(E)-ヘキサデセン酸メチル、6(Z)-ヘキサデセン酸メチル、7(Z))-ヘキサデセン酸メチル、11(Z)-ヘキサデセン酸メチルなどを様々な不飽和メチル及びエチルエステルについて含み、様々なトリコセン酸メチル分子実体を含むがこれらに限定されない。
【0111】
コルチコステロイド薬を徐放性薬物送達システムに組み込むことで、薬物の持続的で高く有効な組織薬物レベルが達成され得る。コルチコステロイド薬は、未修飾形態の場合、典型的には半減期が短く、トリアムシノロンアセトニド(Triesence)などのより難溶性の薬物の場合、PK持続時間は最大で2~3か月間に制限される。さらに、未修飾のコルチコステロイド薬を注射すると、注射後に非常に高い治療用量を超えた薬物レベルとなり、そのため、主としておよそ2~3か月間のPK放出の持続という目標を達成するために、非常に大量の薬物が注射される。
【0112】
本明細書に記載される方法及び組成物は、本明細書に開示される具体例による戦略を利用するものであり、この場合、コルチコステロイド薬は、複合体化システムの化学に基づく新規な徐放性薬物送達システムに組み込まれ、これにより、単一のIVT又は眼周囲投与の後、所望される期間(例:典型的には少なくとも3か月間以上)にわたって、標的放出速度で持続的な徐放が得られ得る。
【0113】
本明細書に記載される例では、コルチコステロイド薬を徐放性薬物送達システムに組み込むことにより、所望される標的1日放出速度でのコルチコステロイド薬の持続的な徐放が容易となり、そして薬物ペイロードは、この放出速度を所望される放出持続時間にわたって維持するように選択される。そのような例では、コルチコステロイド薬は、選択された複合体化剤と非共有結合による複合体を形成し、このことは、システムの薬物-複合体微粒子が薬物の放出を妨げ、薬物は拡散を介してインプラント-組織界面で、及び薬物送達システムの成分が経時で生分解されるに従って放出されることから、薬物放出を調節するように作用する。この手法は、小分子サイズであること、及び場合によってはコルチコステロイド薬の水溶性が高いことといった制限を克服して、徐放性の薬物動態プロファイルを作り出し、網膜及び眼組織内での連続的な薬物レベルを提供し、定期的な(例:1か月ごと、2か月ごと、3か月ごと、4か月ごと、5か月ごと、6か月ごとなど)眼内投与だけとなって投与が容易となる。
【0114】
本明細書に記載される例において、コルチコステロイド薬は、これらの組成物の投与及び製剤のためのデバイス、製剤、又は他のシステムを含み得る徐放性薬物送達システムと共に用いられ得る。これらの組成物は、硝子体内注射又は眼周囲注射のために最適化された放出動態を有するように構成されてよく、所望される組織薬物レベル及び放出持続時間のための所定の薬物動態プロファイルを有し得る。
【0115】
所望される徐放プロファイルは、コルチコステロイド薬を徐放性薬物送達システムの1又は複数の複合体化剤と非共有結合によって複合体化させて、分散媒中に分散され得る微粒子を形成することによって達成され得る。薬物-複合体化剤(「薬物-複合体」)微粒子は、分子間の相互作用の相対的な結合活性によって決定される放出動態を有し、これは薬物放出アッセイで測定することができる値であるKd(未結合-結合比)に反映される。
【0116】
いくつかの例では、「薬物-複合体」微粒子の異なるセット又は対(すなわち、異なる複合体化剤を伴う薬物)が、次に、本明細書に記載されるように、特定の比率及び量で、並びに異なるインプラントモダリティで、組み合わされ、混合され、特定の分散媒中に組み込まれる。複合体化剤、特定の分散媒へのそれらの組み込み、及びそれらの組み合わせの特定の比率は、API(例:コルチコステロイド)の物理化学的特性及び標的薬物放出プロファイルに対して構成されてよく、治療適応症(例:DME)に対する所望される薬物放出動態及び放出持続時間を最適化するように選択されてよい(本明細書に記載のように)。
【0117】
いくつかの例では、コルチコステロイド薬及び薬物送達システム(例:1又は複数の複合体化剤による)が一緒に組み込まれて、眼内又は眼周囲での使用に適し、硝子体内又は眼組織内で少なくとも1か月間以上(例:少なくとも2か月間、少なくとも3か月間、少なくとも4か月間、少なくとも5か月間、少なくとも6か月間など)にわたる放出を提供する放出動態を有する徐放性製剤が形成される。
【0118】
本発明で記載される徐放性薬物送達システムでは、所与の放出持続時間及び総ペイロードに対して所望される標的放出プロファイルを達成する特定の製剤を、数式によってカスタム設計し、その後の反復精密化(iterative refinement)によって構築することができる。
【0119】
数式によるカスタム設計の例では、徐放性薬物送達システム製剤の開発は、所望される放出プロファイルを表す理論的な薬物動態(PK)放出曲線(すなわち、標的放出プロファイル)の設計から開始する。いくつかの例では、所望される放出プロファイルは、有限の期間(例:1か月間)にわたる高い1日薬物放出速度の初期バーストと、それに続く定められた期間(例:1~11か月間)にわたる後続の定常状態(例:線形放出)を有する二相放出プロファイルである。この理論的曲線は、次に、最終的な徐放性インプラントにおける経時での所望される1日放出速度、全送達持続時間、及び薬物ペイロードを決定するために用いられる。次に、コルチコステロイドとの非共有結合による相互作用を形成することが予測される、本明細書に記載の2つ又は3つの異なるクラスの複合体化剤(例:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体など)から特定の考え得る「メンバー化合物」を識別するために、反復プロセスが実施される。各薬物-複合体対は、微粒子を形成するために混合され、提案される分散媒に添加される。薬物-複合体-媒体システムは、in vitroでのシンク条件下に置かれ、薬物-複合体微粒子の2つの特性:第1日、3日、7日、14日、及び21日におけるKd(未結合-結合比)(バースト及び一般的な結合活性の良好な指標)と、放出動態(経時で放出された薬物の初期ペイロードに対する%)と、が測定される。各薬物-複合体微粒子対の放出曲線に曲線フィッティング分析を適用し(すなわち、適切なソフトウェアを用いて)、線形化された曲線を解いて、所定の標的製品プロファイルを満たす放出動態を与える最適な組み合わせ(2つ又は3つの特定の薬物-複合体の)を決定する。2つ又は3つの薬物-複合体の組み合わせを含むこの「理論的に設計された」製剤が、組み合わされ、提案された分散媒に組み込まれて、所望される製剤が作製され、その後、in vitroのシンク条件下で実際の放出動態が試験される。必要であれば、最終的な放出動態が所定の設計された標的製品プロファイルを満たすまで、2~3つの選択された薬物-複合体の比率が反復的に再調節され得る。
【0120】
いくつかの例では、徐放性薬物送達システムは、定常状態の薬物放出を長期間(例:1~11か月間又はそれ以上)提供する単一相放出動態を有するように製剤され得る。そのような設計は、疾患発現の開始を防止するための定常状態の薬物放出を介して、疾患の予防又は静止疾患状態の維持のために望ましい場合がある。
【0121】
いくつかの例では、徐放性薬物送達システムは、より高いレベルのコルチコステロイド薬が放出される最初の2~6週間(例:4週間)の期間(例:「バースト」相)、及びそれに続く長期間(例:1~11か月間又はそれ以上)にわたる定常状態のより低いレベルの薬物放出を提供する二相放出動態を有するように製剤され得る。このような設計は、既存の疾患発現を回復させるための薬物放出の「負荷投与量」相、及びその後の疾患発現の再発を予防するための薬物放出の「維持」相に対して望ましい場合がある。
【0122】
いくつかの例では、徐放性薬物送達システムは、より高いレベルのコルチコステロイド薬が放出される最初の2~6週間(例:4週間)の期間(例:「バースト」相)、及びそれに続く長期間(例:1~11か月間又はそれ以上)にわたる定常状態のより低いレベルの薬物放出、及びそれに続くより高いレベルの薬物が放出される後期期間(例:後期「バースト」相)、を提供する三相放出動態を有するように製剤され得る。このような後期「バースト」の第三の相を伴う設計は、タキフィラキシー、炎症若しくは血管漏出の誘因又は促進因子の増加、又は薬物の薬物動態を上回る長期間の薬力学的効果の要求に起因して薬物の効力が失われる状況において望ましい場合がある。
【0123】
いくつかの例では、徐放性薬物送達システムは、本明細書に記載の方法によってカスタム設計されて、各々がコルチコステロイド薬と複合体化する2つ(又はそれ以上)の複合体化剤を含み得る。製剤からの放出速度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を例とする適切な分析法を用いたin vitroでのシンクアッセイによって、最初に測定され得る。例えば、2つの薬物-複合体対を含む製剤において、2つの薬物-複合体対の異なる比率及び量は、異なるPK放出プロファイルを提供し、その比率及び量は、最終的な多相放出プロファイルを最適化するために調節することができる。
【実施例
【0124】
上記で述べたように、本明細書に記載される徐放性コルチコステロイド組成物のいずれにおける放出動態も、1又は複数の複合体化剤を含めることによって調節され得る。2つ以上の複合体化剤が用いられる場合、最終組成物中の各複合体化剤の割合は変更されてよい。いくつかの場合では(例:「二相」放出プロファイルが所望される場合)、移植される徐放性コルチコステロイド組成物に2つの複合体化剤を用いることが有益であり得る。例えば、図2Aは、一相徐放性コルチコステロイド組成物(単一の複合体化剤を有する)と二相徐放性コルチコステロイド組成物(2つの異なる複合体化剤を有する)との比較を示す。この例では、一相放出を有する製剤1は、脂肪酸(例:ステアリン酸マグネシウム)と複合体化したフルオシノロンアセトニドのみから構成され、ラウリン酸メチル油中に分散された微粒子を形成している。対照的に、二相放出プロファイルを有する製剤2では、コルチコステロイド組成物は、脂肪酸(例:ステアリン酸マグネシウム)と複合体化したフルオシノロンアセトニドの第一の複合体対と、ケト-エノール互変異性体(KET)と複合体化したフルオシノロンアセトニドの第二の複合体対とを含み、いずれもラウリン酸メチル油中に分散された微粒子を形成している。図2Bでは、製剤1を、ステアリン酸マグネシウムと複合体化したフルオシノロンアセトニド及びケト-エノール互変異性体と複合体化したフルオシノロンアセトニドの比率を変えた製剤である製剤2-75%/25%;製剤3-66%/33%;製剤4-50%/50%、と比較している。図2Bに示されるように、所与の薬物ペイロードの製剤中における複合体化剤の比率及び割合を変化させることを用いて、予測可能に放出動態を調整することができる。
【0125】
図3Aは、ラウリン酸メチル分散媒中にステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを変化させた比率で含むXRDDS中に製剤されたフルオシノロンアセトニドの様々な製剤例を示す。これらの製剤を、上述した促進溶解アッセイで評価し、これらの異なる比率が、様々な網膜疾患の治療に有用であり得る様々な放出プロファイル及び放出持続時間を有するフルオシノロンアセトニドの徐放をどのように提供し得るかを示している。製剤1は、フルオシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム40%、アルファ-トコフェロール11%、及びラウリン酸メチル29%を含み、製剤2は、フルオシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム25%、アルファ-トコフェロール25%、及びラウリン酸メチル30%を含み、製剤3は、フルオシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム11%、アルファ-トコフェロール40%、及びラウリン酸メチル29%を含む。図3Aは、最初の21日間にわたるAPI(この例ではフルオシノロンアセトニド)の放出パーセントを示しており、これは、180日間以上の期間にわたる標準状態のin vitroでの放出をシミュレートするものである。図3Aでは、API(フルオシノロンアセトニド)は、およそ20重量%であり、一般に、APIは、上述したように10重量%~60重量%であってよく、複合体化剤(例:この例ではステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロール)及び分散媒(例:ラウリン酸メチル)の割合は、適宜調節することができる。
【0126】
図3Bは、ラウリン酸メチル分散媒中にステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを変化させた比率で含むXRDDS中に製剤されたトリアムシノロンアセトニドの様々な製剤例を示す。これらの製剤を促進溶解アッセイで評価し、これらの異なる比率が、様々な網膜疾患の治療に有用であり得る様々な放出プロファイル及び放出持続時間を有するトリアムシノロンアセトニドの徐放をどのように提供し得るかを示している。製剤1は、トリアムシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム40%、アルファ-トコフェロール11%、及びラウリン酸メチル29%を含み、製剤2は、トリアムシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム25%、アルファ-トコフェロール25%、及びラウリン酸メチル30%を含み、製剤3は、トリアムシノロンアセトニド20%、ステアリン酸マグネシウム11%、アルファ-トコフェロール40%、及びラウリン酸メチル29%を含む。図3Bは、最初の21日間にわたるAPI(この例ではトリアムシノロンアセトニド)の放出パーセントを示しており、これは、180日間以上の期間にわたる標準状態のin vitroでの放出をシミュレートするものである。図3Bでは、API(トリアムシノロンアセトニド)は、およそ20重量%であり、一般に、APIは、上述したように10重量%~60重量%であってよく、複合体化剤(例:この例ではステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロール)及び分散媒(例:ラウリン酸メチル)の割合は、適宜調節することができる。
【0127】
図3Cは、ラウリン酸メチル分散媒中にステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを変化させた比率で含むXRDDS中に製剤されたデキサメタゾン遊離塩基の様々な製剤例を示す。これらの製剤を促進溶解アッセイで評価し、これらの異なる比率が、様々な網膜疾患の治療に有用であり得る様々な放出プロファイル及び放出持続時間を有するデキサメタゾン遊離塩基の徐放をどのように提供し得るかを示している。製剤1は、デキサメタゾン遊離塩基20%、ステアリン酸マグネシウム40%、アルファ-トコフェロール11%、及びラウリン酸メチル29%を含み、製剤2は、デキサメタゾン遊離塩基20%、ステアリン酸マグネシウム25%、アルファ-トコフェロール25%、及びラウリン酸メチル30%を含み、製剤3は、デキサメタゾン遊離塩基20%、ステアリン酸マグネシウム11%、アルファ-トコフェロール40%、及びラウリン酸メチル29%を含む。図3Cは、最初の21日間にわたるAPI(この例ではデキサメタゾン遊離塩基)の放出パーセントを示しており、これは、180日間以上の期間にわたる標準状態のin vitroでの放出をシミュレートするものである。図3Cでは、API(デキサメタゾン遊離塩基)は、およそ20重量%であり、一般に、APIは、上述したように10重量%~60重量%であってよく、複合体化剤(例:この例ではステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロール)及び分散媒(例:ラウリン酸メチル)の割合は、適宜調節することができる。
【0128】
図3Dは、ラウリン酸メチル分散媒中にステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを変化させた比率で含むXRDDS中に製剤されたリン酸デキサメタゾンの様々な製剤例を示す。これらの製剤を促進溶解アッセイで評価し、これらの異なる比率が、様々な網膜疾患の治療に有用であり得る様々な放出プロファイル及び放出持続時間を有するリン酸デキサメタゾンの徐放をどのように提供し得るかを示している。製剤1は、リン酸デキサメタゾン20%、ステアリン酸マグネシウム40%、アルファ-トコフェロール11%、及びラウリン酸メチル29%を含み、製剤2は、リン酸デキサメタゾン20%、ステアリン酸マグネシウム25%、アルファ-トコフェロール25%、及びラウリン酸メチル30%を含み、製剤3は、リン酸デキサメタゾン20%、ステアリン酸マグネシウム11%、アルファ-トコフェロール40%、及びラウリン酸メチル29%を含む。図3Dは、最初の21日間にわたるAPI(この例ではリン酸デキサメタゾン)の放出パーセントを示しており、これは、180日間以上の期間にわたる標準状態のin vitroでの放出をシミュレートするものである。図3Dでは、API(リン酸デキサメタゾン)は、およそ20重量%であり、一般に、APIは、上述したように10重量%~60重量%であってよく、複合体化剤(例:この例ではステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロール)及び分散媒(例:ラウリン酸メチル)の割合は、適宜調節することができる。
【0129】
本明細書に記載の徐放性コルチコステロイド組成物の予測される放出動態を、in vivoで確認した。例えば、徐放性コルチコステロイド組成物を注射した動物(例:ウサギ)の眼は、予測された放出動態と非常に優れた一致を示している。図4A及び図4Bは、新規XRDDSにおけるフルオシノロンアセトニドの2つの異なる製剤について、良好なin vitro対in vivoの相関を示している。フルオシノロンアセトニドのウサギ硝子体レベル(丸で囲んだデータ点)は、個々のウサギの眼のデータ点において示され、放出パーセントを示す曲線は、in vitro放出データを反映している。
【0130】
図5A図5Cは、各々が異なるコルチコステロイドAPIを含む4つの異なる製剤の放出動態を比較したin vitro放出薬物動態データを示す。これらのデータは、新規XRDDSを、様々なコルチコステロイド薬の持続放出を可能とするように構成可能であることを示している。
【0131】
類似のOSI及びTPSAを有するAPIは、選択された複合体化剤及び分散媒とのその相互作用が実質的に類似していることに起因して、XRDDSの所与の製剤中で同様に機能する。このことは、フルオシノロンアセトニド(OSI 3.48、TPSA 93.1Å)、デキサメタゾン遊離塩基(OSI 3.85、TPSA 94.8Å)、リン酸デキサメタゾン(OSI 3.71、TPSA 141Å)、及びトリアムシノロンアセトニド(OSI 3.82、TPSA 93.1Å)など、類似のOSI及びTPSAを有する4つのコルチコステロイドAPIがすべて、ステアリン酸マグネシウムとアルファ-トコフェロールとが複合体化剤として作用し、ラウリン酸メチルが分散媒である本発明者らのXRDDSでの徐放用に製剤可能であることで実証される。したがって、XRDDSは、多くのコルチコステロイド薬に適合し、コルチコステロイドAPIの180日以上にわたる持続放出を支持することができる。
【0132】
XRDDS製剤は、遊離薬物単独のインプラントでは達成することのできない、充分に明確な薬物放出プロファイルを確立する。図11Aに示されるように、チューブ中のXRDDSなしのフルオシノロンアセトニド結晶は、in vitroでのシンク条件下で、30分間以内にほぼ完全に放出される。対照的に、図11Bに示されるように、XRDDS中に組み込まれたフルオシノロンアセトニドは、in vitroで安定に維持される。図4A図6Cに示されるように、XRDDSの製剤中のフルオシノロンは、in vitroでの完全放出がおよそ180日以上(例:210日を超える)までに生ずるゆっくりした放出を示す。同様の持続放出は、他のAPIでも達成される。
【0133】
図5Aは、異なる徐放性コルチコステロイド製剤の例について、標準条件下で得られた放出プロファイルの例を、放出されたAPI%として示す。図5Aでは、徐放性コルチコステロイド製剤は、インプラントとして構成され、初期バースト放出相(第30日までにペイロードの10%~30%が放出)、及び続いての第二の維持相を有する二相放出曲線が得られている。図5A図5Cでは、徐放性コルチコステロイド製剤は、インプラントとして構成され、初期バースト放出相、及び続いての第二の維持相を有する二相放出曲線が得られている。これらの製剤は、ステアリン酸マグネシウム50.4%及びアルファ-トコフェロール21.6%と複合体化され、ラウリン酸メチル分散媒中に製剤された全コルチコステロイドAPIを10%含む。この例は、ステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを複合体化剤として用いたXRDDSを用いて、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン遊離塩基、及びリン酸デキサメタゾンを含むいくつかのコルチコステロイド薬の持続放出を達成することができるという原理を示している。
【0134】
図5Bは、異なる徐放性コルチコステロイド製剤の例について、促進溶解条件下で得られた放出プロファイルの例を、放出されたAPI%として示す。図5Bでは、徐放性コルチコステロイド製剤は、インプラントとして構成され、初期バースト放出相、及び続いての第二の維持相を有する二相放出曲線が得られている。特筆すべきことには、様々なコルチコステロイドAPIを含む製剤のプロファイル及び相対的放出プロファイルは、標準条件下で得られた放出アッセイと比較して、促進溶解アッセイでは類似していることである。これは、促進溶解試験を用いて、XRDDS中に製剤されたコルチコステロイドAPIの放出特性を特性評価可能であることを示している。図5Aの場合と同様に、これらの製剤は、ステアリン酸マグネシウム50.4%及びアルファ-トコフェロール21.6%と複合体化され、ラウリン酸メチル分散媒中に製剤された全コルチコステロイドAPIを10%含む。この例は、ステアリン酸マグネシウム及びアルファ-トコフェロールを複合体化剤として用いたXRDDSを用いて、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン遊離塩基、及びリン酸デキサメタゾンを含むいくつかのコルチコステロイド薬の持続放出を達成することができるという原理を示している。
【0135】
図5Cに示されるように、すべての場合において、初期バースト相の間のより高い放出速度、及び放出維持相の間の安定した放出速度を含む二相放出速度が見られた。
上記で考察したように、図6Aは、各々類似の複合体化剤対を用いた新規XRDDS中のフルオシノロンアセトニド、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン遊離塩基、及びリン酸デキサメタゾンの4つの独特な製剤の別のセットについて、経時で放出された製剤コルチコステロイド薬の割合を示す。図6Bは、図6Cの場合と同じ製剤についての経時での放出速度を示す。すべての場合において、初期バースト速度及び線形の中後期速度を含む二相放出速度が見られた。
【0136】
徐放性薬物送達システムに組み込まれた薬物の異なる製剤は、各々、異なる放出動態を有し得る。しかし、一般的には、異なる製剤は、初期バースト相及びそれに続くより線形な放出プロファイルの維持相を含む二相動態を有し得る。いくつかの製剤は、例えば120日間の持続性をもたらす、より長い初期バーストを有してよく(例:図13Bを参照)、一方、他の製剤は、より短い初期バースト、及び例えば210日間の放出をもたらす、より長い定常状態放出相を有してもよい(例:図13Dを参照)。
【0137】
一例として、およそ100μgの薬物ペイロードで、6~8か月間の有効性及び持続性が達成され得る。二相放出動態は、1日あたり約600~700ngの放出速度での1か月間の初期バースト(網膜に薬物を負荷投与するため)、及び続いての1日あたり約350~500ngの放出速度での5~7か月間の定常状態の放出を含み得る。次に、選択されたコルチコステロイド薬と都合良く相互作用して、インプラント表面へのコルチコステロイド薬の拡散を制限すると予測される複合体化剤が選択され、徐放性薬物送達システムのチューブインプラントモダリティに組み込まれる。
【0138】
いくつかの例では、コルチコステロイド薬は、徐放性薬物送達システム内で製剤されて、硝子体内注射によって眼内に投与されてよく、1日の放出速度は、二相放出動態を有してよく、進行中の炎症又は血管漏出の緩和に必要なレベルを超え(約1か月間にわたる初期バースト放出時)、続いて薬物放出速度が炎症又は血管漏出の再発の予防に充分な組織レベルを媒介する第二の相(約5~7か月間にわたる定常状態放出時)となる。
【0139】
いくつかの例では、コルチコステロイド薬は、徐放性薬物送達システム内に製剤されて、前臨床試験においてウサギの眼内に硝子体内注射を介して投与されてよく、1日の放出は、単一相放出動態を有してよく、6~8か月間にわたって、進行中の炎症又は血管漏出の回復に必要な組織レベルを超える。いくつかの例では、コルチコステロイド薬は、硝子体内注射によってウサギの眼内に配置される徐放性薬物送達システム内に製剤されてよく、1日の放出は、単一相放出動態を有してよく、6~8か月間にわたる炎症又は血管漏出の予防に充分な組織レベルとなる。
【0140】
いくつかの例では、コルチコステロイド薬は、徐放性薬物送達システム内で製剤されて、硝子体内注射によって眼内に投与されてよく、1日の放出速度は、三相放出動態を有してよく、炎症又は血管漏出の回復に必要な組織レベルを超え(約1か月間にわたる初期バースト放出時)、炎症又は血管漏出の再発の予防のための組織レベルを超え(約4~6か月間にわたる定常状態放出時)、及び炎症又は血管漏出の回復のための組織レベルを超える(約1か月間にわたる後期バースト放出時)。
【0141】
いくつかの例では、徐放性薬物送達システム内に製剤されたコルチコステロイド薬は、図7A図7D図8図9A図9C、及び図10A図10Dに示されるように、いくつかの適切なモダリティの1つによって送達され得る。
【0142】
図9A図9Cは、本明細書に記載の徐放性コルチコステロイド薬物送達システムの送達形態の例を示す。例えば、コルチコステロイド薬を含む徐放性薬物送達システムは、図9B図9Cに示されるように、硝子体内へ注射(例:ボーラス注射による)することができる流動性ペースト(図9A)として形成され得る。
【0143】
図10A図10Dは、コルチコステロイド薬を含む徐放性薬物送達システムが、生分解性チューブ内に製剤された例を示す(図10Aは、左側の空のチューブ(1001)、及び右側の充填されたチューブの両方を示す)。いくつかの例では、チューブ自体が、徐放性薬物送達システムで形成され得る。いくつかの例では、チューブは、コルチコステロイド薬を放出するための開口部を一方又は両方の端部に有し得る。チューブは、図10C及び図10Dに示されるように、針若しくはカニューレを介して硝子体内に、又は眼周囲組織に注射され得る。いくつかの例では、徐放性薬物送達システム及びコルチコステロイド薬は、形状を持つように成形されてよく(図7C)、又は粒子に粉砕されてもよい(図7D)。
【0144】
一般に、本明細書に記載される徐放性コルチコステロイド組成物は、材料の徐放性を大きく高め得る。例えば、図11Aは、フルオシノロンが本明細書に記載の徐放性コルチコステロイドの一部として複合体化されていない場合における、薬物デポー(チューブ)として製剤されたフルオシノロン結晶の迅速な溶解を示す。この例では、生理食塩水中でインキュベートした場合、フルオシノロンは、分単位で(15~30分以内)溶解し、放出される。対照的に、フルオシノロンが第一及び第二の複合体化剤と複合体化され、分散媒中に組み込まれ、本明細書に記載の徐放性コルチコステロイド製剤の一部として含まれた場合、図11Bに示されるように、フルオシノロン(徐放性製剤内)は、in vitroでのシンク条件下で、4か月間にわたってチューブ製剤中に維持される。
【0145】
徐放性コルチコステロイドが、デポーとして作用するチューブから経時で放出される例では、チューブの特性(例:寸法、組成など)を変更することで、所望される放出動態が達成され得る。例えば、図12は、チューブの例示的な寸法を示す(半径r、チューブ壁厚t、及び外径ODを示す)。いくつかの例では、チューブ内径(ID、この例では、半径rの2倍)を変えることで、所望される薬物放出動態が得られ得る。IDが小さいと、インプラント-組織界面での露出が減少し、CS XRの所与の製剤からの放出速度が遅くなる結果となる一方、IDが大きいチューブは、インプラント-組織界面での露出表面積が増加し、薬物の放出速度が速くなる。例えば、図12Bは、内径580μmのチューブと内径280μmのチューブの経時での放出速度を比較して示す。このように、チューブの物理的寸法は、CS XRの所与の製剤又は組成物における放出特性を改変し得る。CS XRの露出面の関係は、両端部が開いているチューブの場合、2πr2で定義することができ、この場合、rは半径(すなわち、内径(ID)の半分)である。チューブの物理的寸法は、硝子体内投与に適合するように選択されてよく、一般に、チューブは、図12Cに示す針などの針を用いて挿入(注射)され得る。この例では、25gの超薄壁(UTW)針が、安全で忍容性が充分である硝子体内投与を維持しながら、最適なAPIペイロード及びインプラントの放出特性を可能とする。図12Cでは、チューブのID及びODは、25ゲージ(25g)のUTW注射針に関する適切な公差(内径:0.011インチ+/-0.001、外径:0.014インチ+/-0.001)を有している。ODは、インプラントを固定するのに充分に針のIDに近くてよく、同時に、ODは、インプラントを、針の中に引っ掛かることなく容易に注射可能とし得る。他の針(例:18g~32g)が使用されてもよく、チューブインプラントのOD及びIDの寸法に基づいて選択される。
【0146】
他の例では、チューブは、特定の臨床用途に適した特定のゲージの針を介して送達可能であるように、特定の外径(OD)で設計されてもよい。ODは、注射手技中に脱落することなく、所望されるゲージの針の口径内に保持されるのに充分に大きい必要があるが、ODは、過度の抵抗なしに針からインプラントを注射可能であるのに充分に小さい必要もある。
【0147】
いくつかの例では、生体浸食性チューブの特性は、含有されるすべてのCS XRが完全に放出される前にチューブが分解、崩壊して、薬物の後期バーストを含む三相放出プロファイルが得られるように選択され得る。別の選択肢として、生体浸食性チューブの特性は、チューブが分解する前にすべての薬物が放出され、二相放出プロファイルが得られるようなものであってもよい。
【0148】
二相又は三相の放出動態を有するインプラントを製剤する1つの考え得る方法は、XRDDSが中に配置される生体浸食性チューブの特性を変更することである。例えば、図13A図13Dは、示されるように、チューブが使用中に分解しない二相放出動態を有する徐放性コルチコステロイドシステム(図13A図13B)と、少なくとも部分的に分解が起こって、含まれる徐放性コルチコステロイド組成物の露出表面積を増加させることによって第三の相放出を誘発するようにチューブの材料を選択することにより、三相放出プロファイルが達成される徐放性コルチコステロイドシステムとの比較を示す。したがって、チューブポリマーの選択によって、二相放出動態か三相放出動態かが決定され得る。チューブの壁厚と組成は、耐久性及び所望される放出の相を調節するための変更可能な特性として見なされ得る。チューブがより厚い、又はより耐久性があってXRDDSがすべての薬物を放出するまで損なわれることなく維持される(図13Aのように)材料(例:PLGAブレンド)で構成されている場合、図13B(相1及び2と表示)に示されるように、二相放出が得られ得る。図13Cに示されるように、チューブの厚さがより小さい、又はより耐久性が低くXRDDSから薬物が完全に放出される前に分解若しくは破断を開始する材料(例:異なるPLGAブレンド)で構成されている場合、図13Dに示されるように、三相放出プロファイルが得られ得る。
【0149】
図14A及び図14Bは、照射されていない(「非照射」)徐放性コルチコステロイド製剤(フルオシノロンアセトニド)を、照射された同一の製剤(「照射40kGy」)と比較した2つの例の経時での放出速度を比較している。いずれの製剤でも(図14A及び14Bに個別に示す)、照射インプラントは、非照射インプラントと比較して、最初の1か月間の初期バースト時のより高い放出速度、さらには維持相の最初の1か月間のより高い放出速度を示している。
【0150】
一般に、XRDDSインプラントは、生体浸食性又は非浸食性リザーバーとして構成されてよく、生体浸食性又は非浸食性のチューブ、インサート、コーティングステントなどである。
【0151】
チューブの長さも、薬物の放出持続時間を改変し得る。この1つの例が、図15A図15Bに示される。図15Aは、用いられ得るチューブの寸法例を示している。図15Bは、4mm及び6mmの長さに切断したチューブで行ったin vivo放出実験を示しており、チューブの長さを変えることで薬物放出持続時間を改変することができることを示している。より短いチューブを用いることで持続時間を短くすることができ、一方より長いチューブを用いることで持続時間を長くすることができる。
【0152】
図16は、ウサギの眼への硝子体内注射後の、新規XRDDS中のフルオシノロンアセトニドの2つの独特な製剤のin vivo放出データ(網膜組織フルオシノロンアセトニド(FA)レベル)を示す。製剤1は、FA36.9%、ステアリン酸マグネシウム27.1%、アルファ-トコフェロール11.6%、ラウリン酸メチル24.4%から構成され、6mmのチューブインプラント中に製剤されている。製剤2は、FA40.2%、ステアリン酸マグネシウム9.9%、アルファ-トコフェロール3.2%、ラウリン酸メチル46.7%から構成され、6mmのチューブインプラント中に製剤されている。試験した製剤はいずれも、180日以上にわたって継続するFAの持続的放出をもたらし、初期バースト、及びそれに続く持続的な低放出速度を示したが、各々は、初期バーストでの組織薬物レベル及び中間での薬物レベルが異なる独特の放出プロファイルを有していた。具体的には、製剤1は、短期間(およそ3週間)の初期バースト放出を、より低い定常状態の中間放出と共にもたらし、その後、およそ5か月での最終バースト放出となるように設計した。対照的に、製剤2は、より長期間の初期バースト放出(およそ6週間)、及び続いて、最終バースト放出なしで、比較的高い一定の定常状態放出をもたらすものである。個々の複合体化剤の割合を変化させることにより、様々な放出時点における特定の所望される放出速度をin vivoで達成することができる。
【0153】
図16の製剤を、眼科用途での徐放性コルチコステロイド薬のIND申請を支援するため、商業的受託研究機関であるITRにおいて、ウサギでの優良試験所基準(GLP)毒性試験によって正式に評価した。体重、眼底検査、McDonald-Shadduck眼科検査、眼組織学検査、網膜電図、及び剖検についての評価を行った。結果を以下の表2にまとめて示す。これらの試験は、XRDDS中のステロイド製剤が、忍容性が高く、ヒトでの試験を通してのさらなる開発に適していることを示している。
【0154】
【表2】
【0155】
本明細書に記載される方法(ユーザーインターフェースを含む)のいずれも、ソフトウェア、ハードウェア、又はファームウェアとして実行されてよく、プロセッサ(例:コンピュータ、タブレット、スマートフォンなど)によって実行可能であり、プロセッサによって実行された場合に、プロセッサに、表示、ユーザーとの通信、分析、パラメータ(タイミング、頻度、強度などを含む)の変更、決定、警告などを含むがこれらに限定されないステップのいずれかの実行を制御させる命令のセットを記憶する非一時的コンピュータ可読記憶媒体として記載され得る。
【0156】
前述の概念及び以下でさらに詳細に考察される追加の概念のすべての組み合わせ(ただし、そのような概念が相互に矛盾しないことを条件とする)が、本明細書に開示される本発明の主題の一部であるとして企図され、本明細書に記載される有益性を達成するために用いられ得ることは理解されるべきである。
【0157】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態を記載するためだけのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。例えば、本明細書で用いられる場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈上明らかにそれ以外が示されない限り、複数形も含むことを意図している。本明細書中で用いられる場合、用語「含む(comprises)」及び/又は「含んでいる(comprising)」は、記載された特徴、ステップ、操作、要素、及び/又は成分の存在を指定するが、1又は複数の他の特徴、ステップ、操作、要素、成分、及び/又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではないことは、さらに理解されるであろう。本明細書で用いられる場合、用語「及び/又は」は、関連する列挙された項目の1又は複数のあらゆる組み合わせを含み、「/」と略記される場合がある。
【0158】
本明細書において、様々な特徴/要素(ステップを含む)を記載するために「第一の」及び「第二の」という用語が用いられる場合があるが、これらの特徴/要素は、文脈上それ以外が示されない限り、これらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、ある特徴/要素を別の特徴/要素と区別するために用いられ得る。したがって、本発明の教示内容から逸脱することなく、以下で考察される第一の特徴/要素は、第二の特徴/要素と称される可能性があり、同様に、以下で考察される第二の特徴/要素は、第一の特徴/要素と称される可能性がある。
【0159】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲を通して、文脈上それ以外が必要とされない限り、「含む(comprise)」の語、並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」などの変化形は、様々な成分が、方法及び物品(例:デバイス及び方法を含む組成物並びに装置)において一緒に用いられ得ることを意味する。例えば、「含んでいる(comprising)」の用語は、記載されたいずれの要素又はステップも含むが、それ以外のいずれの要素又はステップも排除するものではないことを示唆すると理解される。
【0160】
一般に、本明細書に記載される装置及び方法はいずれも、包括的であると理解されるべきであるが、別の選択肢として、成分及び/若しくはステップのすべて又はサブセットは、排他的であってもよく、様々な成分、ステップ、サブ成分、又はサブステップから「成る」又は別の選択肢として「本質的に成る」と表現される場合もある。
【0161】
本明細書及び特許請求の範囲で用いられる場合、例で用いられる場合を含め、及び特に明示的な指定のない限り、すべての数字は、「約」又は「およそ」の語が、その用語が明示的に現れていない場合であっても、前に置かれているものとして読まれ得る。大きさ及び/又は位置を記載する際に、記載された値及び/又は位置が、値及び/又は位置の合理的な予想範囲内にあることを示すために、「約」又は「およそ」の語句が用いられ得る。例えば、数値は、記載された値(又は値の範囲)の+/-0.1%、記載された値(又は値の範囲)の+/-1%、記載された値(又は値の範囲)の+/-2%、記載された値(又は値の範囲)の+/-5%、記載された値(又は値の範囲)の+/-10%などの値を有し得る。また、本明細書で与えられるいずれの数値も、文脈上それ以外が示されない限り、約その値又はおよそその値、を含むものと理解されるべきである。例えば、「10」という値が開示される場合、「約10」も開示されている。本明細書に列挙されるいずれの数値範囲も、その範囲内に包含されるすべてのサブ範囲を含むことを意図している。また、当業者であれば適切に理解されるように、ある値が開示される場合、「その値以下」、「その値以上」、及び値の間の可能な範囲も開示されることは理解される。例えば、値「X」が開示される場合、「X以下」、さらには「X以上」(例:Xが数値である場合)も開示される。また、本出願全体を通して、データが多くの異なるフォーマットで提供されていること、並びにこのデータが、終点、及び始点、及びそのデータ点のいずれかの組み合わせにおける範囲を表すことも理解される。例えば、特定のデータ点「10」及び特定のデータ点「15」が開示される場合、10~15だけでなく、10超及び15超、10以上及び15以上、10未満及び15未満、10以下及び15以下、並びに10に等しい及び15に等しいも開示されると見なされることは理解される。また、2つの特定のユニット間の各ユニットも開示されることも理解される。例えば、10及び15が開示される場合、11、12、13、及び14も開示される。
【0162】
様々な例示的実施形態が上述されるが、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な実施形態に対して数多くの変更のうちのいずれが成されてもよい。例えば、様々な記載された方法ステップが実施される順序は、代替的実施形態において多くの場合変更されてよく、他の代替的実施形態では、1又は複数の方法ステップが完全に省略されてもよい。様々なデバイス及びシステムの実施形態の所望に応じて存在してよい特徴は、含まれる実施形態があってもよく、含まれない実施形態があってもよい。したがって、上記の記述は、主として例示の目的で提供されるものであり、特許請求の範囲に示される本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に含まれる例及び例証は、限定ではなく例示として、主題が実践され得る具体的な実施形態を示す。述べたように、本開示の範囲から逸脱することなく、構造的及び論理的な置換並びに変更が成され得るように、他の実施形態が利用され、そこから誘導され得る。本発明の主題のこのような実施形態は、本明細書において、単に便宜上、及び2つ以上が実際に開示されている場合に、本出願の範囲をいずれか単一の発明又は発明概念に自発的に限定することを意図することなく、「発明」の用語で個々に又は集合的に参照され得る。したがって、本明細書において特定の実施形態が例示され、記載されてきたが、同じ目的を達成するように計算されたいずれの配置も、示される特定の実施形態に置き換えられ得る。本開示は、様々な実施形態のあらゆる適応又は変型例を包含することを意図している。上記の実施形態の組み合わせ、及び本明細書に特に記載されていない他の実施形態は、当業者であれば、上記の記述を検討することで明らかであろう。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
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図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
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【国際調査報告】