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特表2024-539458破壊されたTDP-43結合部位を有するヒト化スタスミン2マウスモデルに関連する方法および組成物
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  • 特表-破壊されたTDP-43結合部位を有するヒト化スタスミン2マウスモデルに関連する方法および組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】破壊されたTDP-43結合部位を有するヒト化スタスミン2マウスモデルに関連する方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/0278 20240101AFI20241018BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241018BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20241018BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241018BHJP
   C07K 14/48 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20241018BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
A01K67/0278 ZNA
C12N15/12
C12N15/09 100
C12Q1/02
C07K14/48
A61K45/00
A61P21/00
A61P25/02
A61P25/00
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529784
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 US2022080224
(87)【国際公開番号】W WO2023092118
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】63/282,023
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398066918
【氏名又は名称】ザ ジャクソン ラボラトリー
【氏名又は名称原語表記】THE JACKSON LABORATORY
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ルッツ, キャスリーン マリー
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA07
4B063QQ02
4B063QQ43
4B063QQ53
4B063QS38
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA222
4C084ZA941
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA22
4C086ZA94
4C086ZC41
4H045AA50
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA21
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、ヒトエクソン2aポリヌクレオチド配列を含む内因性スタスミン2(Stmn2)遺伝子を含むマウスモデルを提供する。本開示は、一部の態様において、Tar DNA結合タンパク質43(TDP-43)タンパク質症(例えば、筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症)のマウスモデルを提供する。これらのマウスモデルは、そのようなタンパク質症におけるスタスミン-2(Stmn2)遺伝子破壊を示す実験的証拠に部分的に基づく。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外因性ポリヌクレオチド配列を含むヒト化スタスミン-2(Stmn2)遺伝子を含むマウスであって、該外因性ポリヌクレオチド配列はヒトSTMN2エクソン2a配列を含む、マウス。
【請求項2】
前記ヒトSTMN2エクソン2a配列が約200ヌクレオチド~約300ヌクレオチドの長さ、必要に応じて約220ヌクレオチド~約225ヌクレオチドの長さを有する、請求項1に記載のマウス。
【請求項3】
前記外因性ポリヌクレオチド配列が、前記ヒトSTMN2エクソン2a配列に隣接するヒトゲノムDNAを含む、請求項1または2に記載のマウス。
【請求項4】
前記ヒトSTMN2エクソン2a配列がヒトMS2ステムループ配列を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のマウス。
【請求項5】
前記ヒトMS2ステムループ配列が5’-ACATGAGGATCACCCATGT-3’(配列番号4)の配列を含む、請求項4に記載のマウス。
【請求項6】
前記ヒトMS2ステムループ配列がTDP-43結合配列を置換する、請求項5に記載のマウス。
【請求項7】
前記TDP-43結合配列が5’-TGTGTGAGCATGTGTGCGTGTGTG-3’(配列番号5)の配列を含む、請求項6に記載のマウス。
【請求項8】
前記ヒトSTMN2エクソン2a配列が、マウスStmn2遺伝子のイントロン1中にある、前記請求項のいずれか一項に記載のマウス。
【請求項9】
前記マウスがC57BL/6遺伝的背景を有する、前記請求項のいずれか一項に記載のマウス。
【請求項10】
前記マウスの遺伝子型がC57BL/6J-Stmn2em8(STMN2*)Lutzy/Mmjaxである、請求項9に記載のマウス。
【請求項11】
前記マウスがTar DNA結合タンパク質43(TDP-43)タンパク質症の1つまたは複数の症状を示し、必要に応じて、該TDP-43タンパク質症は筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭変性症(FTD)から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載のマウス。
【請求項12】
候補治療剤を前記請求項のいずれか一項に記載のマウスに投与する工程、および改変された表現型について該マウスをアッセイする工程を含む、方法。
【請求項13】
前記候補治療剤がStmn2 mRNA前駆体の異常なスプライシング/潜在的スプライシングを遮断する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記候補治療剤が、ヒトエクソン2aポリヌクレオチド配列に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記候補治療剤が小分子薬である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
前記表現型が行動表現型、病理学的表現型、認知欠損、運動欠損、運動ニューロン変性、神経筋脱神経から選択される、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記表現型が運動欠損である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記運動欠損が振戦、麻痺、異常歩行、または下肢の握り行動から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記運動欠損がオープンフィールド分析、握力分析、またはロータロッド分析によってアッセイされる、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記表現型が認知欠損である、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~11のいずれか一項に記載のマウスを作製する方法であって、外因性ポリヌクレオチド配列をマウスの内因性Stmn2遺伝子のイントロンに、必要に応じて遺伝子編集技術を使用して、導入する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2021年11月22日に出願された米国特許仮出願第63,282,023号の米国特許法第119条(e)の下での利益を主張し、この米国特許仮出願はその全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
(政府の実施権)
本発明は、アメリカ国立衛生研究所によって授与された助成金番号R01 NS124203の下での政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
(電子配列表の参照)
電子配列表(J022770109WO00-SEQ-HJD.xml;サイズ:12,142バイト;作成日:2022年11月22日)の内容は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0004】
(背景)
神経変性障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症)は、世界中で数百万人の人々が罹患している。神経変性疾患は、脳または末梢神経系の神経細胞が経時的に機能を喪失する場合に生じ、最終的には死ぬ。今後40年間にわたり、神経変性疾患の有病率は、米国において二倍になると推定される。処置は、神経変性疾患に関連する身体症状または精神症状の一部を軽減するのを助け得るが、疾患の進行を遅くするための方法は現在存在せず、既知の治療法は存在しない。治療アプローチを開発するために、神経変性疾患患者において観察される主要な疾患機構を再現する非ヒト動物モデルについての継続的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(概要)
本開示は、一部の態様において、Tar DNA結合タンパク質43(TDP-43)タンパク質症(例えば、筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症)のマウスモデルを提供する。これらのマウスモデルは、そのようなタンパク質症におけるスタスミン-2(Stmn2)遺伝子破壊を示す実験的証拠に部分的に基づく。この遺伝子はそのmRNAの潜在的スプライシング(cryptic splicing)を経て、切断型mRNAを生じる。本明細書において記載されているマウスモデルは、広範な範囲の神経変性状態の中心となる疾患機構を再現し、このマウスモデルは、例えば、Stmn2 mRNA前駆体の潜在的(異常な)スプライシングを遮断する薬剤(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび/または小分子薬)の同定を通じてTDP-43タンパク質症における治療法を開発するために、使用され得る。
【0006】
本開示の一部の態様は、外因性ポリヌクレオチド配列を含むヒト化スタスミン-2(Stmn2)遺伝子を含むTar DNA結合タンパク質43(TDP-43)タンパク質症のマウスモデルを提供し、その外因性ポリヌクレオチド配列はヒトSTMN2エクソン2a配列を含む。
【0007】
一部の実施形態において、そのヒトSTMN2エクソン2a配列は、約200ヌクレオチド~約300ヌクレオチドの長さ、必要に応じて約220ヌクレオチド~約225ヌクレオチド、好ましくは222ヌクレオチドの長さを有する。
【0008】
一部の実施形態において、その外因性ポリヌクレオチド配列は、そのヒトSTMN2エクソン2a配列に隣接するヒトゲノムDNAを含む。
【0009】
一部の実施形態において、そのヒトSTMN2エクソン2a配列はヒトMS2ステムループ配列を含む。
【0010】
一部の実施形態において、そのヒトMS2ステムループ配列は5’-ACATGAGGATCACCCATGT-3’(配列番号4)の配列を含む。
【0011】
一部の実施形態において、そのヒトMS2ステムループ配列はTDP-43結合配列を置換する。
【0012】
一部の実施形態において、そのTDP-43結合配列は5’-TGTGTGAGCATGTGTGCGTGTGTG-3’(配列番号5)の配列を含む。
【0013】
一部の実施形態において、そのヒトSTMN2エクソン2a配列はそのマウスStmn2遺伝子のイントロン1中にある。
【0014】
一部の実施形態において、そのマウスモデルはC57BL/6遺伝的背景を有する。
【0015】
一部の実施形態において、そのマウスの遺伝子型はC57BL/6J-Stmn2em8(STMN2*)Lutzy/Mmjaxである。
【0016】
一部の実施形態において、そのTDP-43タンパク質症は筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭変性症(frontotemporal degeneration)(FTD)から選択される。
【0017】
他の態様は、候補治療剤を先行する請求項のいずれか一項に記載のマウスに投与する工程、および改変された表現型についてそのマウスをアッセイする工程を含む、方法を提供する。
【0018】
一部の実施形態において、その候補治療剤は、Stmn2 mRNA前駆体の異常なスプライシング/潜在的スプライシングを遮断する。
【0019】
一部の実施形態において、その候補治療剤は、そのヒトエクソン2aポリヌクレオチド配列に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である。
【0020】
一部の実施形態において、その候補治療剤は小分子薬である。
【0021】
一部の実施形態において、その表現型は、行動表現型、病理学的表現型、認知欠損、運動欠損、運動ニューロン変性、神経筋脱神経から選択される。
【0022】
一部の実施形態において、その表現型は運動欠損である。
【0023】
一部の実施形態において、その運動欠損は、振戦、麻痺、異常歩行、または下肢の握り行動(hindlimb clasping)から選択される。
【0024】
一部の実施形態において、その運動欠損は、オープンフィールド分析、握力分析、またはロータロッド分析によってアッセイされる。
【0025】
一部の実施形態において、その表現型は認知欠損である。
【0026】
さらに他の態様は、請求項1~11のいずれか一項に記載のマウスを作製する方法を提供し、その方法は、その外因性ポリヌクレオチド配列をそのマウスの内因性Stmn2遺伝子のイントロンに、必要に応じて遺伝子編集技術を使用して、導入する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1AはヒトSTMN2遺伝子の模式図を示す。図1BはマウスStmn2遺伝子の模式図を示す。
図2図2Aは、ヒトSTMN2のイントロン1の394塩基対セグメントを含むマウスStmn2アレルの模式図を示す。この改変されたアレルは、本明細書において「ヒト化マウスStmn2アレル」と呼ばれる。図2Bは、ヒトTDP-43結合部位がMS2結合部位によって置換されてエクソン2(上から下へ、配列番号5および配列番号4)の構成的含有をもたらした、ヒト化マウスStmn2アレルの模式図を示す。
図3図3A図3Dは、ヒト化Stmn2マウス(すなわち、ヒト化マウスStmn2アレルを含むマウス)の作製およびインビトロ確認に関連する模式図およびデータを示す。一次皮質ニューロンが、スタスミン-2マウス遺伝子のイントロン1内にヒトエクソン2aゲノム領域を保有するように編集されたマウス胚(Stmn2Hum/+マウス)から作製され、マウスTDP-43を標的とするRNase-H依存型ASOを1μMまたは3μM用いて12日間処理された(図3A)。定量RT-PCRはTDP-43の効率的減少を示し(図3B)、これは全長スタスミン-2 mRNAのレベル減少をもたらす(条件1つ当たりの生物学的反復n=3(図3C);p<0.05、***p<0.001、一元配置分散分析)。スタスミン-2の減少は、TDP-43喪失の際にマウスエクソン1とヒトエクソン2aとの間の異常なスプライシングによって媒介され、ヘテロ接合性Stmn2Hum/+に由来するニューロンにおいてRT-PCRによって検出されるが野生型胚に由来するニューロンでは検出されない(図3D)。
図4図4A図4Cは、TDP-43結合部位がMS2部位によって置換されたヒトエクソン2aを含むように編集されたマウス神経芽腫細胞からのデータを示し、これらは、Stmn2の構成的ミススプライシングおよび減少を示す。野生型(WT)同系クローンと比較してTDP-43結合部位を含まないヒトエクソン2a(図2Bを参照のこと)を一方のアレル(Het)または両方のアレル(Homo)中に導入するためのCRISPR/Cas9編集後の、N2A神経芽腫クローンにおける全長マウスStmn2についての定量RT-PCR(図4A)(**p<0.001、一元配置分散分析)。ヘテロ接合性クローンおよびホモ接合性クローンにおけるマウスエクソン1とヒトエクソン2aとの間の構成的スプライシングを示すRT-PCR(図4B)。スタスミン-2 mRNAの構成的ミススプライシングおよびレベル減少は、ヘテロ接合性細胞およびホモ接合性細胞において、それぞれ、STMN2タンパク質の50%減少または完全喪失をもたらす(図4C)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(詳細な説明)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)(上位運動ニューロンおよび下位運動ニューロンの早発性喪失が致死性麻痺をもたらす疾患)は、前頭側頭変性症(FTD)(行動機能障害および言語機能障害によって特徴付けられる神経変性障害)と臨床的、遺伝的、および病理学的な重複を有すると、現在認識されている。運動ニューロンまたは皮質ニューロンの加齢依存的機能障害の基礎をなすものは、未解明のままである。ALSおよびFTDの細胞機構を理解することへの目印となる寄与が、ALSのほとんどの場合(>95%)ならびにFTD患者の約50%における、罹患ニューロンからのRNA結合タンパク質TDP-43の細胞質での蓄積および核での喪失という発見から生じた。TDP-43の破壊は、孤発性形態および家族性形態の両方のALSならびにFTD(TDP-43をコードする遺伝子(TARDBP)およびプログラニュリンをコードする遺伝子(GRN)における変異を有する患者ならびにC9ORF72遺伝子においてG4C2反復伸長を有する患者を含む)において、共通する病理学的特徴を示す。TDP-43病理は、ALS、FTD、ならびに種々の形態のパーキンソニズムおよび認知症が挙げられる広範囲の神経変性状態(TDP-43タンパク質症と呼ばれる)において報告されている。30%を超える患者が、アルツハイマー病または辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症(limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy)を有する。
【0029】
広範に発現され主に核の、TDP-43は、RNA代謝調節の種々の局面において役割を果たすRNA結合タンパク質である。患者において、このタンパク質は、罹患していないニューロンの核において検出可能であるが、細胞質凝集物を含むニューロンにおいて核から除去され、これは、TDP-43機能喪失が、ALS病因およびFTD病因の基礎をなす疾患機構の重要な側面であることを強く支持する証拠である。ゲノムワイドアプローチが使用されて、数千個のRNA標的上でのTDP-43の結合部位(好ましい結合部位としてGUリッチ配列を有する)を規定し、マウス転写物およびヒト転写物のRNAスプライシングおよび発現に対するTDP-43破壊の影響を規定した。
【0030】
TDP-43は必須タンパク質であり、マウスにおけるその広範な欠失は胚致死性である。ヒトTDP-43を発現する多数のトランスジェニック齧歯類が、疾患を引き起こす変異を含んで、または疾患を引き起こす変異を含まずに、種々のプロモーター下で、作製されている。TDP-43の過剰発現は、変異の存在とは無関係にいくつかの致死性表現型を誘導する。しかし、内因性TDP-43に近いレベルを発現するマウスは、変異体および加齢に非依存的な神経学的表現型(軽度の運動欠損および認知欠損、運動ニューロン変性、ならびに神経筋脱神経が挙げられるが、麻痺も寿命の減少も含まない)を発現する。
【0031】
TDP-43タンパク質症の動物モデル化の重要な警告事項は、TDP-43によって結合されるRNAのレパートリーが種間で異なり、TDP-43機能障害によって誘発されるRNAプロセシングの変化がマウスとヒトとの間で異なることである。実際、最近のデータは、TDP-43破壊によって最も影響を受けるヒトRNAは神経成長関連因子スタスミン-2(SCG10としても知られる)をコードするが、スタスミン-2 RNAは齧歯類においてTDP-43によって結合も調節もされないことを示す。スタスミン-2の異常なプロセシングは、TDP-43導入遺伝子を発現するマウスまたはTDP-43欠損性マウスにおいて再現されず、その理由は、ヒトスタスミン-2遺伝子のイントロン1中の潜在的ポリアデニル化シグナルおよび3つのGUリッチTDP-43結合部位が、対応するマウスイントロンでは見出されないからである(図1Aおよび図1B)。一貫して、スタスミン-2 mRNA前駆体はマウスにおいてTDP-43によって結合されず、スタスミン-2 mRNAレベルは、マウスN2A細胞および野生型マウスの中枢神経系において、TDP-43のsiRNA媒介性減少またはASO媒介性減少後に変化しない。Melamedら、(2019)Nat.Neurosci.(参照により本明細書に援用される)を参照のこと。
【0032】
(I.Tar DNA結合タンパク質43(TDP-43)およびスタスミン-2)
いくつかの神経変性疾患の共通する神経病理学的特徴はTar DNA結合タンパク質43(TDP-43)の誤った局在化および凝集であり、このタンパク質は、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質(hnRNP)ファミリーのメンバーであり、通常は中枢系全体にわたって核で広範に発現される。TDP-43の通常の機能および神経変性の病因におけるその役割に関する徹底的な調査は、TDP-43摂動が神経毒性をもたらす種々の経路を同定した。筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭葉変性症(FTD)におけるユビキチン化細胞質封入体の主要成分として元々同定されたので、TDP-4病理は、アルツハイマー病ならびにパーキンソン病およびハンチントン病、さらに変性筋疾患封入体ミオパチーのかなりの比率の症例の神経病理学的的特徴として現在認識されている(Glass JD、J Clin Invest.、2020年11月2日;130(11):5677~5680を参照のこと)。
【0033】
TDP-43は転写サプレッサーである。TDP-43の非存在下で、すなわち、TDP-43が細胞質へと誤った場所に局在化するのでTDP-43が核から除去された場合に、潜在的エクソンが露出され転写されて、ALSモデルにおいて神経毒性をもたらす異常なmRNAを生じる。最近、このTDP-43サプレッサー機能は、タンパク質スタスミン-2(STMN2)のmRNA前駆体において潜在的初期ポリアデニル化部位を抑制することに特に関係付けられた。TDP-43の喪失は、未成熟ポリAテールの組込みを可能にして、切断型で非機能的形態のSTMN2を生じる(Klim JRら、Nat Neurosci.、2019;22(2):167~179およびMelamed Zら、Nat Neurosci.、2019;22(2):180~190)。STMN2は、軸索の伸長および維持に必須である高度に保存された細胞質タンパク質である。STMN2ノックアウトマウスは遅発性の主に運動の軸索障害を発症し(Liedtke Wら、Am J Pathol.、2002;160(2):469~480)、これは、ヒトALSにおいて見られるものと類似する。
【0034】
スタスミン遺伝子ファミリーの4つのメンバー(別々のゲノム座位から各々がコードされる)のうち、スタスミン-2は、マウスおよびヒトの両方の運動ニューロンにおいて最も顕著に発現される。実際、スタスミン-2は、ALSにおいて特に影響を受けるこのニューロン集団において最も濃縮されるmRNAの上位25種の一つである。スタスミン-2は、おそらく、軸索成長円錐において微小管動態を促進することによって、神経突起成長48において重要な役割を果たすと提唱されている。それはα/β-チューブリンダイマーに結合する。それは、軸索再生に必須であることが示された。軸索損傷の際に、スタスミン-2はアップレギュレートされ、軸索を再生する成長円錐に動員される。それは、成体マウスにおいて神経筋接合部(NMJ)の運動軸索終末で蓄積することが、決定された。
【0035】
例示的なヒトスタスミン-2タンパク質配列は以下である:
【化1】
【0036】
例示的なマウススタスミン-2タンパク質配列は以下である:
【化2】
【0037】
一部の実施形態において、本明細書において提供されているマウス(マウスモデル)は、遺伝子型C57BL/6J-Stmn2em8(STMN2*)Lutzy/Mmjax(一般名Stmn2em8(STMN2*)、例えば、MMRRC系統番号069792-JAX)を有する。Stmn2em8(STMN2*)は、ヒトSTMN2エクソン2aの222ヌクレオチドを保有するスタスミン様2(Stmn2)遺伝子のCRISPR/cas9により作製された変異体である。そのSTMN2配列は、ヒトMS2ステムループ配列を含みTDP-43結合エレメントを置換するように、改変されている。これらのマウスは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の前臨床研究において有用であり得る。
【0038】
そのStmn2em8(STMN2*)アレルは、CRISPR/cas9エンドヌクレアーゼ媒介性ゲノム編集を使用して作製された。ガイドRNAが、スタスミン様2遺伝子(Stmn2)のイントロン1を標的として改変型ヒトSMNT2エクソン2aを挿入するように、選択された。この系統中のヒト化/変異体エクソン2aは、222ヌクレオチド長であり、エクソン2aの5’および3’にそれぞれ位置する1491bpおよび1548bpのヒトゲノムDNAが両側に隣接している。その19ヌクレオチドMS2ステムループは配列5’-ACATGAGGATCACCCATGT-3’(配列番号4)を含む。これは、エクソン2a含有マウス-ヒトハイブリッドSTMN2未成熟終止mRNA転写物の3’-UTRにおいて24ヌクレオチドTDP-43結合配列5’-TGTGTGAGCATGTGTGCGTGTGTG-3’(配列番号5)を置換するために使用された。そのドナープラスミド、両方のガイドおよびcas9ヌクレアーゼが1細胞C57BL/6J接合子に導入され、偽妊娠雌に移入された。そのドナープラスミド中に存在する隣接するマウスイントロン1配列はN2A細胞株に由来したことに留意されたい。その左アーム中には、Ensemblにおいて報告されているC57BL/6J配列間で異なる3つのSNPが存在する。これらのSNPのいずれかがエクソン2aの使用に影響を与えるとは、予期されていない。子孫がDNA配列決定によってスクリーニングされて、正確に標的とされた仔が同定され、その後、それらの仔が、生殖系列伝達のためにC57BL/6Jマウスと繁殖させた。そのアレルを保有する正確に標的とされた単一の樹立系統(founder)に由来するN1子孫が、コロニーを確立するために、C57BL/6Jと少なくとも2世代の間、戻し交雑された。
【0039】
マウス中のヒト化エクソン2A(変異体TDP-43)の予想ゲノム配列:
【化3-1】
【化3-2】
【0040】
その挿入されたMS2結合配列ACATGAGGATCACCCATGT(配列番号4)は、配列TGTGTGAGCATGTGTGCGTGTGTG(配列番号5)の置換によってTDP-43結合エレメントを破壊する。
【0041】
そのヒトエクソン2A配列は以下の配列を含む:
【化4】
【0042】
そのポリAシグナル配列はATTAAAである。
【0043】
そのMutプライマー結合部位は、CCCTCCTGGTAAGCTCTGGT(配列番号7)およびGGAAGTCAACCTACAGATCAGAAA(配列番号8)である。
【0044】
その隣接マウスイントロン配列に下線を付している。
【0045】
以下の2つの独立した戦略が、TDP-43が減少される場合に最も影響を受けるヒトRNAであるスタスミン-2をコードするmRNAを同定するために使用されてきた:1)ヒト神経細胞株におけるsiRNAによるTDP-43の枯渇;および(2)ALSを引き起こす変異TDP-43N352Sを両方の内因性TDP-43遺伝子座に導入するためのゲノム編集。RNAseqを使用すると、スタスミン-2は、TDP-43の減少によって最も影響を受けたmRNAであり、22kDスタスミン-2タンパク質の対応するほぼ完全な喪失を伴った(Melamed Zら、Nat Neurosci.、2019;22(2):180~190)。そのスタスミン-2遺伝子は、5つの注釈付きエクソンを含む。しかし、TDP-43の減少または変異は新規なスプライシングされたエクソンを誘導し、RNA-seq読取りはイントロン1内にマッピングされた(Melamed Zら、2019)。この新規なエクソン(本明細書において「エクソン2a」と呼ぶ)は、野生型細胞には存在しなかったが、TDP-43が枯渇された場合または内因性TDP-43がN352S変異を保有するように編集された場合のいずれかで出現した。潜在的3’スプライス部位の使用は、TDP-43枯渇後またはTDP-43N352S変異の存在下でSH-SY5Y細胞中でエクソン2aに連結されたエクソン1を含むRNAを生じた(RT-によって確認した)が、なんらかの下流エクソン2に連結されたエクソン2aを含むRNAは、何も同定されなかった。むしろ、エクソン2aの3’境界は、通常はイントロン1であるものの内部で潜在的ポリアデニル化部位の使用によって生成されることが、決定された(Melamed Z,ら、2019)。TDP-43の可能性のある結合部位に印を付ける3つの「GUGUGU」ヘキサマーが、潜在的3’スプライス部位と、未成熟ポリA部位との間の領域において同定された。その使用がエクソン2aを生成する。実際、ヒトSH-SY5Y細胞中のTDP-43についての紫外線架橋免疫沈降法(iCLIP)データの分析は、TDP-43がこれらの3つのGUGUGU配列(スタスミン-2 mRNA前駆体に結合するTDP-43の唯一の部位群)でスタスミン-2 mRNA前駆体に結合することを確認し(図1e)、これにより、そのmRNA前駆体とTDP-43との物理的相互作用を確認した。まとめると、TDP-43の減少または疾患関連変異はヒトスタスミン-2 mRNA前駆体の異常なスプライシングおよび未成熟ポリアデニル化を駆動し、それにより、スタスミン-2生成をサイレンシングする(Melamed Zら、2019)。
【0046】
(II.マウスモデル)
本明細書において、簡潔性のために、「マウス」および「マウスモデル」(例えば、ヒト状態の代替物)への言及がなされる。これらの用語は、特に言及されない限りは、本明細書全体を通じて「齧歯類」および「齧歯類モデル」(マウス、ラットおよび他の齧歯類の種が挙げられる)を含むために交換可能に使用され得ることが、理解されるべきである。
【0047】
本明細書において使用されている標準的な遺伝学的命名法は種々の齧歯類系統についての独特な識別を提供し、その系統記号は、使用される系統またはストックの型についての基本情報およびその系統の遺伝的内容を伝えることもまた、理解されるべきである。系統およびストックを記号化するための規則は、マウスの遺伝学的命名法の標準化に関する国際委員会(International Committee on Standardized Genetic Nomenclature for Mice)によって公表されている。これらの規則は、Mouse Genome Database(MGD;informatics.jax.org)からオンラインで入手可能である。これらの規則は、印刷版で刊行された(Lyonら、1996)。系統記号は、代表的には、施設登録コード(ラボコード(Lab Code))を含む。その登録簿は、米国科学アカデミー(National Academy of Sciences、Washington,D.C.)にある実験動物研究協会(Institute for Laboratory Animal Research(ILAR)で維持される。ラボコード(Lab Code)は、ILARのウェブサイト(nas.edu/cls/ilarhome.nsf)にて電子的に入手され得る。Davisson MT、Genetic and Phenotypic Definition of Laboratory Mice and Rats/What Constitutes an Acceptable Genetic-Phenotypic Definition、National Research Council(US)International Committee of the Institute for Laboratory Animal Research、Washington(DC):National Academies Press(US);1999もまた、参照のこと。
【0048】
本明細書において提供されているマウスモデルは、外因性ヒトスタスミン-2ポリヌクレオチド配列を含むように遺伝子改変された内因性スタスミン-2遺伝子(本明細書において「ヒト化スタスミン-2遺伝子」と呼ばれる)を発現する、トランスジェニックマウスモデルである。トランスジェニックマウスは、そのゲノム中に(組み込まれた)外因性核酸(例えば、導入遺伝子または導入遺伝子領域)を有するマウスである。
【0049】
トランスジェニックマウスを作製する方法は周知である。トランスジェニックマウスの作製のために使用される3つの従来の方法としては、DNAマイクロインジェクション(GordonおよびRuddle、Science、1981:214:1244~124(参照により本明細書に援用される))、胚性幹細胞媒介性遺伝子移入(Gosslerら、Proc.Natl.Acad.Sci.1986、83:9065~9069(参照により本明細書に援用される))およびレトロウイルス媒介性遺伝子移入(Jaenisch、Proc.Natl.Acad.Sci.、1976、73:1260~1264(参照により本明細書に援用される))が挙げられ、これらのいずれかが、本明細書において提示されているとおりに使用され得る。例えば、クラスター化された規則的に間隔を空けたパリンドロームリピート(CRISPR/Cas)ヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、またはジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を使用するゲノム編集方法が、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0050】
受精した胚(例えば、1細胞胚(例えば、接合子)または多細胞胚(例えば、接合子後の発生段階、例えば、胚盤胞)への核酸の送達後に、その受精した胚は偽妊娠雌に移入され、その後、これは子孫を出産する。ヒト化スタスミン-2遺伝子をコードする核酸の有無は、例えば、多数の遺伝子型決定法(例えば、配列決定および/またはゲノムPCR)を使用して確認され得る。
【0051】
(III.核酸:操作および送達)
本明細書において提供されている核酸は、一部の実施形態において、操作されている。操作された核酸とは、天然では存在しない核酸(例えば、互いに共有結合された少なくとも2個のヌクレオチドであり、一部の場合では、ホスホジエステル結合(ホスホジエステル骨格と呼ばれる)を含む)である。操作された核酸としては、組換え核酸および合成核酸が挙げられる。組換え核酸とは、2つの別々の生物(例えば、ヒトおよびマウス)に由来する核酸(例えば、単離された核酸、合成核酸またはそれらの組合せ)を連結することによって構築された分子である。合成核酸とは、増幅されているか、または化学的にかもしくは他の手段によって合成されている分子である。合成核酸としては、化学的に改変されているかまたは別の方法で改変されているが、天然に存在する核酸分子と塩基対形成(結合)し得る、核酸が挙げられる。組換え核酸および合成核酸としてはまた、上記のいずれかの複製から生じる分子が挙げられる。
【0052】
操作された核酸は、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNAもしくはゲノムDNAとcDNAとの組合せ)、RNAまたはハイブリッド分子を含み得、例えば、その核酸は、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチド(例えば、人工または天然)との任意の組合せ、ならびに2種以上の塩基(ウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシンおよびイソグアニンが挙げられる)の任意の組合せを含む。
【0053】
一部の実施形態において、核酸は相補的DNA(cDNA)である。cDNAは、逆転写酵素によって触媒される反応において、一本鎖RNA(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)またはマイクロRNA(miRNA))テンプレートから合成される。
【0054】
本開示の操作された核酸は、標準的な分子生物学の方法を使用して作製され得る(例えば、GreenおよびSambrook、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、2012、Cold Spring Harbor Pressを参照のこと)。一部の実施形態において、核酸は、GIBSON ASSEMBLY(登録商標)Cloning(例えば、Gibson,D.G.ら、Nature Methods、343~345、2009;およびGibson,D.G.ら、Nature Methods、901~903、2010(その各々が本明細書に参照により援用される)を参照のこと)を使用して作製される。GIBSON ASSEMBLY(登録商標)は、代表的には、単一試験管反応において、5’エキソヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼの3’伸長活性およびDNAリガーゼ活性という、3種の酵素活性を使用する。その5’エキソヌクレアーゼ活性は、5’末端配列を部分的に切断(chew back)し、その相補配列をアニーリングのために露出させる。その後、そのポリメラーゼ活性は、アニールされたドメインにある間隙を埋める。その後、DNAリガーゼが、そのニックを塞ぎ、DNAフラグメントを一緒に共有結合する。隣接するフラグメントの重複配列は、Golden Gate Assemblyにおいて使用される重複配列よりもかなり長く、したがって、より高い割合の正確なアセンブリを生じる。操作された核酸を作製する他の方法が、本開示にしたがって使用され得る。
【0055】
遺伝子はヌクレオチドの明瞭な配列であり、そのヌクレオチドの順序は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド中のモノマーの順序を決定する。遺伝子は、代表的にはタンパク質をコードする。遺伝子は、内因性(宿主生物に天然で存在する)であってもよく、外因性(宿主生物に天然で移入されるかもしくは遺伝子操作を通じて移入される)であってもよい。アレルは、変異によって生じ染色体上の同じ座位において見出される、遺伝子の2種以上の選択的形態のうちの一つである。遺伝子は、一部の実施形態において、プロモーター配列、コード領域(例えば、エクソン)、非コード領域(例えば、イントロン)、および調節領域(調節配列とも呼ばれる)を含む。
【0056】
ヒト遺伝子を含むマウスは、ヒト導入遺伝子を含むと考えられる。導入遺伝子は、宿主生物にとって外因性である遺伝子である。すなわち、導入遺伝子は、宿主生物に天然で移入されたかまたは遺伝子操作を通じて移入された、遺伝子である。導入遺伝子は、その宿主生物(その導入遺伝子を含む生物(例えば、マウス))に天然では存在しない。
【0057】
プロモーターは、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始するヌクレオチド配列(例えば、ATG)である。プロモーターは、代表的には、転写開始部位からすぐ上流(その5’末端)に位置する。一部の実施形態において、プロモーターは内因性プロモーターである。内因性プロモーターは、その宿主動物に天然で存在するプロモーターである。
【0058】
オープンリーディングフレームは、開始コドン(例えば、ATG)で始まり終止コドン(例えば、TAA、TAG、またはTGA)で終わる連続する一続きのコドンであり、ポリペプチド(例えば、タンパク質)をコードする。オープンリーディングフレームは、あるプロモーターがそのオープンリーディングフレームの転写を調節する場合には、そのプロモーターに作動可能に連結されている。
【0059】
エクソンは、遺伝子のうちのアミノ酸をコードする領域である。イントロン(および他の非コードDNA)は、遺伝子のうちのアミノ酸をコードしない領域である。
【0060】
生成物(例えば、タンパク質)をコードするヌクレオチド配列は、一部の実施形態において、200塩基対(bp)~100キロベース(kb)の長さを有する。そのヌクレオチド配列は、一部の実施形態において、少なくとも10kbの長さを有する。例えば、そのヌクレオチド配列は、少なくとも15kb、少なくとも20kb、少なくとも25kb、少なくとも30kb、または少なくとも35kbの長さを有し得る。一部の実施形態において、そのヌクレオチド配列は、10kb~100kb、10kb~75kb、10kb~50kb、10kb~30kb、20kb~100kb、20kb~75kb、20kb~50kb、20kb~30kb、30kb~100kb、30kb~75kb、または30kb~50kbの長さを有する。
【0061】
本明細書において提供されている核酸のいずれか1つは、200bp~500kb、200bp~250kb、または200bp~100kbの長さを有し得る。核酸は、一部の実施形態において、少なくとも10kbの長さを有する。例えば、核酸は、少なくとも15kb、少なくとも20kb、少なくとも25kb、少なくとも30kb、少なくとも35kb、少なくとも50kb、少なくとも100kb、少なくとも200kb、少なくとも300kb、少なくとも400kb、または少なくとも500kbの長さを有し得る。一部の実施形態において、核酸は、10kb~500kb、20kb~400kb、10kb~300kb、10kb~200kb、または10kb~100kbの長さを有する。一部の実施形態において、核酸は、10kb~100kb、10kb~75kb、10kb~50kb、10kb~30kb、20kb~100kb、20kb~75kb、20kb~50kb、20kb~30kb、30kb~100kb、30kb~75kb、または30kb~50kbの長さを有する。核酸は、環状であってもよく、直鎖状であってもよい。
【0062】
本明細書において記載されている核酸は、一部の実施形態において、改変を含む。改変とは、核酸に関して言えば、対応する野生型核酸(例えば、天然に存在する核酸)と比較したその核酸のあらゆる操作である。したがって、ゲノム改変とは、ゲノム中の対応する野生型核酸(例えば、天然に存在する(改変されていない)核酸)と比較した、ゲノム中の(例えば、コード領域中、非コード領域中、および/または調節領域中の)核酸のあらゆる操作である。核酸(例えば、ゲノム)改変の非限定的例としては、欠失、挿入、「インデル」(欠失および挿入)、ならびに置換(例えば、点変異)が挙げられる。一部の実施形態において、遺伝子における欠失、挿入、インデル、または他の改変は、その遺伝子が機能的生成物(例えば、タンパク質)をもはやコードしないように、フレームシフト変異を生じる。改変はまた、化学的改変、例えば、少なくとも1核酸塩基の化学的改変を含む。核酸改変の方法(例えば、遺伝子不活性化を生じる方法)は公知であり、その方法としては、RNA干渉、化学的改変、および遺伝子編集(例えば、リコンビナーゼまたは他のプログラム可能なヌクレアーゼシステム(例えば、CRISPR/Cas、TALEN、および/もしくはZFN)を使用する)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0063】
核酸(例えば、遺伝子のアレルまたはアレル(複数))は、検出可能なレベルの機能的遺伝子生成物(例えば、機能的タンパク質)をその核酸が生成しないように、改変され得る。したがって、不活性化されたアレルとは、検出可能なレベルの機能的遺伝子生成物(例えば、機能的タンパク質)を生成しないアレルである。タンパク質の検出可能なレベルとは、標準的なタンパク質検出アッセイ(例えば、フローサイトメトリーおよび/またはELISA)を使用して検出されるタンパク質のあらゆるレベルである。一部の実施形態において、不活性化されたアレルは、転写されない。一部の実施形態において、不活性化されたアレルは、機能的タンパク質をコードしない。
【0064】
核酸の送達のために使用されるベクターとしては、ミニサークル、プラスミド、細菌人工染色体(BAC)、および酵母人工染色体が挙げられる。しかし、ベクターは必要ではない可能性があることが、理解されるべきである。例えば、環状化核酸または直鎖状核酸が、そのベクター骨格を用いずに胚に送達され得る。ベクター骨格は小さく(約4kb)、一方、環状化されるドナーDNAは、例えば、>100bp~50kbの範囲であり得る。
【0065】
トランスジェニックマウスの作製のために核酸をマウス胚に送達するための方法としては、エレクトロポレーション(例えば、Wang Wら、J Genet Genomics、2016;43(5):319~27;WO2016/054032;およびWO2017/124086(それらの各々が参照により本明細書に援用される)を参照のこと)、DNAマイクロインジェクション(例えば、GordonおよびRuddle、Science、1981:214:1244~124(参照により本明細書に援用される)を参照のこと)、胚性幹細胞媒介性遺伝子移入(例えば、Gosslerら、Proc.Natl.Acad.Sci.、1986;83:9065~9069(参照により本明細書に援用される)を参照のこと)、ならびにレトロウイルス媒介性遺伝子移入(例えば、Jaenisch、Proc.Natl.Acad.Sci.、1976;73:1260~1264(参照により本明細書に援用される)を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されず、これらの各々が、本明細書において提示されているとおりに使用され得る。
【0066】
(IV.ゲノム編集方法)
操作された核酸(例えば、ガイドRNA、ドナーポリヌクレオチド、および他の核酸コード配列など)は、任意の適切な方法を使用して胚のゲノムに導入され得る。本出願は、例えば、トランスジェニック齧歯類を作製するために胚のゲノムに核酸を導入するための、種々の遺伝子編集技術の使用を企図する。非限定的例としては、プログラム可能なヌクレアーゼベースのシステム、例えば、クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート(CRISPR)システム、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)が挙げられる。例えば、Carroll D、Genetics、2011;188(4):773~782;Joung JKら、Nat Rev Mol Cell Biol.、2013;14(1):49~55;およびGaj Tら、Trends Biotechnol.、2013年7月;31(7):397~405(これらの各々が本明細書に参照により援用される)を参照のこと。
【0067】
一部の実施形態において、CRISPRシステムが、本明細書において提供されているマウス胚のゲノムを編集するために使用される。例えば、Harms DWら、Curr Protoc Hum Genet.、2014;83:15.7.1~15.7.27;およびInui Mら、Sci Rep.、2014;4:5396(これらの各々が本明細書に参照により援用される)を参照のこと。例えば、Cas9 mRNAもしくはCas9タンパク質、1つもしくは複数のガイドRNA(gRNA)、および/またはドナー核酸が、1細胞(接合子)期もしくはより後期のマウス胚に直接送達(例えば、注射もしくはエレクトロポレーション)され得、相同組換え修復(HDR)を促進し、例えば、操作された核酸(例えば、ドナー核酸)をゲノム中に導入し得る。
【0068】
CRISPR/Casシステムは、遺伝子編集のためのRNA誘導型DNA標的化プラットフォームとして別目的で利用されていた、原核生物中の天然に存在する防御機構である。操作されたCRISPRシステムは、ガイドRNA(gRNA)およびCRISPR関連エンドヌクレアーゼ(例えば、Casタンパク質)という2種の主要成分を含む。このgRNAは、ヌクレアーゼ結合のための足場配列と、改変されるべきゲノム標的(例えば、遺伝子)を規定するユーザーが規定したヌクレオチドスペーサー(例えば、約15~25ヌクレオチド、または約20ヌクレオチド)とから構成された、短い合成RNAである。したがって、そのgRNA中に存在する標的配列を単に変更することによって、そのCasタンパク質のゲノム標的を変更し得る。一部の実施形態において、そのCas9エンドヌクレアーゼは、Streptococcus pyogenes(NGG PAM)またはStaphylococcus aureus(NNGRRTもしくはNNGRR(N) PAM)に由来するが、他のCas9ホモログ、Cas9オルソログ、および/またはCas9バリアント(例えば、Cas9の進化したバージョン)が、本明細書において提供されているとおり使用され得る。本明細書において提供されているとおり使用され得るRNA誘導型ヌクレアーゼのさらなる非限定的例としては、Cpf1(TTN PAM);SpCas9 D1135Eバリアント(NGG(減少したNAG結合)PAM);SpCas9 VRERバリアント(NGCG PAM);SpCas9 EQRバリアント(NGAG PAM);SpCas9 VQRバリアント(NGANまたはNGNG PAM);Neisseria meningitidis(NM)のCas9(NNNNGATT PAM);Streptococcus thermophilus(ST)のCas9(NNAGAAW PAM);およびTreponema denticola(TD)のCas9(NAAAAC)が挙げられる。一部の実施形態において、そのCRISPR関連エンドヌクレアーゼは、Cas9、Cpf1、C2c1、およびC2c3から選択される。一部の実施形態において、そのCasヌクレアーゼはCas9である。
【0069】
ガイドRNAは、標的核酸配列にハイブリダイズ(結合)する少なくとも1つのスペーサー配列と、そのエンドヌクレアーゼに結合してそのエンドヌクレアーゼをその標的核酸配列へと誘導するCRISPR反復配列とを、含む。当業者によって理解されるとおり、各gRNAは、そのゲノム標的配列に対して相補的なスペーサー配列を含むように設計される。例えば、Jinekら、Science、2012;337:816~821およびDeltchevaら、Nature、2100;471:602~607(これらの各々が本明細書に参照により援用される)を参照のこと。
【0070】
一部の実施形態において、そのRNA誘導型ヌクレアーゼとそのgRNAとは、胚への送達の前に、リボヌクレオタンパク質(RNP)を形成するように複合体化される。
【0071】
RNA誘導型ヌクレアーゼまたはそのRNA誘導型ヌクレアーゼをコードする核酸の濃度は、変化し得る。一部の実施形態において、その濃度は、100ng/μl~1000ng/μlである。例えば、その濃度は、100ng/μl、150ng/μl、200ng/μl、250ng/μl、300ng/μl、350ng/μl、400ng/μl、450ng/μl、500ng/μl、550ng/μl、600ng/μl、650ng/μl、700ng/μl、750ng/μl、800ng/μl、850ng/μl、900ng/μl、950ng/μl、または1000ng/μlであり得る。一部の実施形態において、その濃度は、100ng/μl~500ng/μl、または200ng/μl~500ng/μlである。
【0072】
gRNAの濃度もまた、変化し得る。一部の実施形態において、その濃度は、200ng/μl~2000ng/μlである。例えば、その濃度は、200ng/μl、300ng/μl、400ng/μl、500ng/μl、600ng/μl、700ng/μl、800ng/μl、900ng/μl、1000ng/μl、1100ng/μl、1200ng/μl、1300ng/μl、1400ng/μl、1500ng/μl、1600ng/μl、1700ng/μl、1700ng/μl、1900ng/μl、または2000ng/μlであり得る。一部の実施形態において、その濃度は、500ng/μl~1000ng/μlである。一部の実施形態において、その濃度は、100ng/μl~1000ng/μlである。例えば、その濃度は、100ng/μl、150ng/μl、200ng/μl、250ng/μl、300ng/μl、350ng/μl、400ng/μl、450ng/μl、500ng/μl、550ng/μl、600ng/μl、650ng/μl、700ng/μl、750ng/μl、800ng/μl、850ng/μl、900ng/μl、950ng/μl、または1000ng/μlであり得る。
【0073】
一部の実施形態において、RNA誘導型ヌクレアーゼまたはそのRNA誘導型ヌクレアーゼをコードする核酸の濃度と、gRNAの濃度との比は、2:1である。他の実施形態において、RNA誘導型ヌクレアーゼまたはそのRNA誘導型ヌクレアーゼをコードする核酸の濃度と、gRNAの濃度との比は、1:1である。
【0074】
ドナー核酸は、代表的には、ホモロジーアームが両側に隣接している目的の配列を含む。ホモロジーアームは、ゲノム座位中に位置するゲノムDNA領域と相同なssDNA領域である。一方のホモロジーアームは(目的の配列が導入される)目的のゲノム領域の左(5’)側に位置し(左ホモロジーアーム)、別のホモロジーアームは目的のゲノム領域の右(3’)側に位置する(右ホモロジーアーム)。これらのホモロジーアームは、そのssDNAドナーとゲノム座位との間での相同組換えを可能にして、(例えば、CRISPR/Cas9媒介性相同組換え修復(HDR)を介して)目的のゲノム座位への目的の配列の挿入をもたらす。
【0075】
そのホモロジーアームは、長さが変化し得る。例えば、各ホモロジーアーム(左アームおよび右ホモロジーアーム)は、20ヌクレオチド塩基~1000ヌクレオチド塩基の長さを有し得る。一部の実施形態において、各ホモロジーアームは、20ヌクレオチド塩基~200ヌクレオチド塩基、20ヌクレオチド塩基~300ヌクレオチド塩基、20ヌクレオチド塩基~400ヌクレオチド塩基、20ヌクレオチド塩基~500ヌクレオチド塩基、20ヌクレオチド塩基~600ヌクレオチド塩基、20ヌクレオチド塩基~700ヌクレオチド塩基、20ヌクレオチド塩基~800ヌクレオチド塩基、または20ヌクレオチド塩基~900ヌクレオチド塩基の長さを有する。一部の実施形態において、各ホモロジーアームは、20ヌクレオチド塩基、30ヌクレオチド塩基、40ヌクレオチド塩基、50ヌクレオチド塩基、60ヌクレオチド塩基、70ヌクレオチド塩基、80ヌクレオチド塩基、90ヌクレオチド塩基、100ヌクレオチド塩基、150ヌクレオチド塩基、200ヌクレオチド塩基、250ヌクレオチド塩基、300ヌクレオチド塩基、350ヌクレオチド塩基、400ヌクレオチド塩基、450ヌクレオチド塩基、500ヌクレオチド塩基、550ヌクレオチド塩基、600ヌクレオチド塩基、650ヌクレオチド塩基、700ヌクレオチド塩基、750ヌクレオチド塩基、800ヌクレオチド塩基、850ヌクレオチド塩基、900ヌクレオチド塩基、950ヌクレオチド塩基、または1000ヌクレオチド塩基の長さを有する。一部の実施形態において、一方のホモロジーアームの長さは、もう一方のホモロジーアームの長さとは異なる。例えば、一方のホモロジーアームは20ヌクレオチド塩基の長さを有し得、もう一方のホモロジーアームは50ヌクレオチド塩基の長さを有し得る。一部の実施形態において、そのドナーDNAは一本鎖である。一部の実施形態において、そのドナーDNAは二本鎖である。一部の実施形態において、そのドナーDNAは、例えば、ホスホロチオエート化を介して、改変される。他の改変が、なされ得る。
【0076】
(V.使用の方法)
本明細書において提供されているマウスモデルは、一部の実施形態において、スタスミン-2がどのように神経機能に寄与するのかを決定するために、使用され得る。他の実施形態において、そのマウスモデルは、神経変性疾患(例えば、ALS、FTD、および種々の形態のパーキンソニズムなどが挙げられる、TDP-43タンパク質症など)を処置するための治療アプローチを開発するために使用され得る。したがって、一部の態様において、マウスモデルに候補治療剤分子を投与する工程、およびそのマウスにおける改変された表現型についてアッセイする工程を含む、方法が、本明細書において提供される。
【0077】
神経変性疾患のための遺伝子療法の最も有望な橋渡し戦略の中では、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)が、致死性遺伝子発現またはRNAプロセシング欠陥を矯正することによって寿命を伸ばす実行可能な治療アプローチとして出現してきた。ASOはその相補的標的RNA分子に結合する化学的に改変された短い一本鎖核酸であり、ASOは、改変されていないASOについて、細胞エンドヌクレアーゼであるリボヌクレアーゼHによってDNA-RNAハイブリッドとして認識されるキメラ二重鎖を生成して、その標的RNAの切断および分解をもたらすが、ASO62はそうしない。スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子中に変異を有する家族性ALS患者の処置のための現在臨床治験中の、中枢神経系におけるASO投与という先駆的努力において、SOD1をコードするmRNAを低下させると、疾患進行の顕著な緩徐化をもたらした。それ以来、ASOは、いくつかの神経学的疾患(ハンチントン病、C9ORF72-ALS/FTD67-70、タウオパチー、孤発性ALSおよび脊髄小脳失調症、バッテン病、およびペリツェウス・メルツバッハ病が挙げられる)の遺伝的原因を標的とするために利用されてきた。リボヌクレアーゼHによって認識されないように改変された場合、ASOはmRNA前駆体プロセシングを調節し得る。実際、致死性神経発達疾患である脊髄性筋萎縮症(SMA)についての最初の処置は、この戦略を使用する。SMA薬物であるスピンラザ(Spinraza)(ヌシネルセン(Nusinersen)としても知られている)は、リボヌクレアーゼH酵素を動員することなくその標的化mRNAに結合する、化学的に改変されたASOベースの薬物であり、スプライシング調節をもたらすが、mRNA分解はもたらさない。
【0078】
スタスミン-2レベルの減少は、ALS/FTDの特徴であり、孤発性ALSおよびFTDについて現在知られている最も有望な治療的遺伝子標的のうちの一つである。本明細書において提供されているマウスモデルは、一部の実施形態において、スタスミン-2 mRNA前駆体の異常なスプライシングを遮断することによってスタスミン-2レベルを回復するように標的化された、アンチセンスASOベースの治療法を開発するために使用され得る。SMAにおいてSMN2 mRNA前駆体のスプライシングにおけるASO媒介性変化を連想させるアプローチを使用して、例えば、これらのマウスモデルは、孤発性および家族性のALS/FTDにおいてスタスミン-2 ASOの治療能力を試験するために使用され得る。
【0079】
本開示の候補治療剤分子としてはまた、スタスミン-2 mRNA前駆体またはスタスミン-2 mRNAのスプライシングの推定または既知の小分子調節因子(例えば、インヒビター、薬物)が挙げられる。
【0080】
マウス表現型における改変(変化)をアッセイすることまたは評価することは、神経変性疾患モデルに関連する種々の表現型と同様に、公知である。その表現型は、例えば、行動表現型または病理学的(例えば、神経病理学的)表現型であり得る(例えば、Kang J.ら、STAR Protoc.、2021年7月7日;2(3):100654)を参照のこと。Janus Cら、Methods Mol Biol.、2010;602:323~45;Choi J.ら、NMR Biomed.、2007;20:26~237;van der Staay F.ら、Behav Brain Funct.、2009年2月25日;5:11もまた、参照のこと。
【0081】
一部の実施形態において、その表現型は運動欠損である。運動欠損の非限定的な例としては、振戦、麻痺、異常歩行、および下肢の握り行動が挙げられる。一部の実施形態において、その運動欠損は、オープンフィールド分析、握力分析、またはロータロッド分析によってアッセイされる。
【0082】
一部の実施形態において、その表現型は認知欠損である(例えば、Holter S.ら、Curr Protoc Mouse Biol.、2015年12月2日;5(4):331~358を参照のこと)。
【0083】
評価され得る他の表現型としては、運動ニューロン変性および/または神経筋脱神経が挙げられる。
【0084】
(さらなる実施形態)
以下の番号を付けた実施形態が、本開示によって包含される:
1. 切断型スタスミン-2メッセンジャーリボ核酸(mRNA)をコードする核酸を含むマウス。
2. 上記切断型スタスミン-2 mRNAが、内因性マウススタスミン-2遺伝子のエクソン2~エクソン5によってコードされるポリヌクレオチド配列を欠く、実施形態1に記載のマウス。
3. 上記切断型スタスミン-2 mRNAが、ヒトスタスミン-2 mRNAの領域を含む、実施形態1または2に記載のマウス。
4. 上記ヒトスタスミン-2 mRNAの領域がヒトスタスミン-2エクソン2aポリヌクレオチド配列によってコードされる、実施形態3に記載のマウス。
5. ヒトスタスミン-2遺伝子の領域を含む核酸を含むマウス。
6. 上記領域がヒトスタスミン-2エクソン2aポリヌクレオチド配列とポリアデニル化配列とを含む、実施形態5に記載のマウス。
7. 内因性スタスミン-2遺伝子座を含むマウスであって、当該内因性スタスミン-2遺伝子座は、ヒトスタスミン-2エクソン2aポリヌクレオチド配列と、必要に応じてポリアデニル化配列とを含む核酸を含む、マウス。
8. 上記ヒトスタスミン-2エクソン2aポリヌクレオチド配列が350ヌクレオチド塩基対~450ヌクレオチド塩基対の長さを有する、実施形態4、6、または7に記載のマウス。
9. 上記ヒトスタスミン-2エクソン2aポリヌクレオチド配列が、配列番号6のヌクレオチド配列、または配列番号6のヌクレオチド配列と少なくとも90%同一性もしくは少なくとも95%同一性を有する配列を含む、実施形態8に記載のマウス。
10. 上記ヒトスタスミン-2エクソン2aポリヌクレオチド配列が上記内因性スタスミン-2遺伝子座のイントロン領域中にある、実施形態4または6~9のいずれか1つに記載のマウス。
11. 上記ヒトスタスミン-2エクソン2aポリヌクレオチド配列が上記内因性スタスミン-2遺伝子座のエクソン1とエクソン2との間にある、実施形態10に記載のマウス。
12. 上記ヒトスタスミン-2エクソン2aポリヌクレオチド配列がTar DNA結合タンパク質43(TDP-43)結合部位を含む、実施形態4または6~11のいずれか1つに記載のマウス。
13. 上記ヒトスタスミン-2エクソン2aポリヌクレオチド配列が、TDP-43に結合しない改変型TDP-43結合部位を含む、実施形態4または6~11のいずれか1つに記載のマウス。
14. 実施形態1~13のいずれか1つに記載のマウスに候補治療剤分子を投与する工程;および
当該マウスにおける改変された表現型についてアッセイする工程
を含む、方法。
15. 上記候補治療剤分子がStmn2 mRNA前駆体の異常なスプライシングを遮断する、実施形態14に記載の方法。
16. 上記候補治療剤が、上記ヒトエクソン2aポリヌクレオチド配列に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である、実施形態14または15に記載の方法。
17. 上記候補治療剤が小分子薬である、実施形態14または15に記載の方法。
18. 上記表現型が行動表現型または病理学的表現型である、実施形態14~17のいずれか1つに記載の方法。
19. 上記表現型が運動欠損である、実施形態14~18のいずれか1つに記載の方法。
20. 上記運動欠損が振戦、麻痺、異常歩行、または下肢の握り行動から選択される、実施形態19に記載の方法。
21. 上記運動欠損がオープンフィールド分析、握力分析、またはロータロッド分析によってアッセイされる、実施形態19または20に記載の方法。
22. 上記表現型が認知欠損である、実施形態14~18のいずれか1つに記載の方法。
23. 上記表現型が運動ニューロン変性および/または神経筋脱神経である、実施形態14~18のいずれか1つに記載の方法。
24. 実施形態1~13のいずれか1つに記載のマウスを作製する方法であって、上記核酸を上記マウスのゲノムに導入する工程を含む、方法。
【実施例
【0085】
(実施例1.ノックインヒト化Stmn2マウスの作製)
スタスミン-2がどのように神経機能に寄与するかを決定するため、およびALSおよびFTDにおけるスタスミン-2レベルの回復に基づく治療アプローチを開発するために、当該分野は、ヒトにおいて当てはまることが実証されているとおり、スタスミン-2転写物のプロセシングがTDP-43機能に依存的である、より忠実な動物モデルを必要する。本実施例において、スタスミン-2遺伝子のイントロン1の一部をヒト化したALS/FTDマウスモデルを、作製した。このアプローチを使用して、種々のALS/FTDモデルにおけるTDP-43機能障害の程度を評価し得、異常なスタスミン-2 mRNAプロセシングが神経変性に寄与するか否かを確立し得る。
【0086】
上記のとおり、そのマウスStmn2遺伝子は、ヒトエクソン2aの正確なホモログを含まない。しかし、それは、そのStmn2遺伝子のイントロン1内に、推定上の(しかし、使用されない)スプライス配列を含む偽エクソン2a領域を含むが、それは、TDP-43結合配列およびポリアデニル化シグナルの両方を欠く。TDP-43依存的な潜在的スプライシングおよび未成熟ポリアデニル化駆動性スタスミン-2喪失を再現する齧歯類モデルを作製するために、CRISPR/Cas9ゲノム編集を使用して、偽エクソン2aを含むマウスイントロン1の479ヌクレオチド(nt)領域を、75個の隣接塩基および92個の隣接塩基とともに227塩基のヒトエクソン2aを含む394ntヒト配列で置換した(図2A)。正確なゲノム編集を、ショートレンジおよびロングレンジのPCRとその後の配列決定とによって確認した。その後、ヘテロ接合性ヒト化Stmn2マウスおよびホモ接合性ヒト化Stmn2マウス(本明細書においてStmn2Hum/+およびStmn2Hum/Humと呼ぶ)の両方が生存可能であり繁殖能力があることを、決定した。これらのStmn2Hum/+マウスに由来する培養した一次皮質ニューロンを使用して(図3A)、ヒト化Stmn2 mRNA前駆体のプロセシングがTDP-43依存的であると確認した。実際、これらのヒト化一次ニューロンにおけるTDP-43のASO媒介性減少(図3B)は全長スタスミン-2 mRNAの減少を誘発し(図3C)、潜在的スプライス部位およびポリアデニル化部位の両方が使用されて切断型Stmn2 mRNAが生成された(ここで、マウスエクソン1がスプライシングされてヒトエクソン2aになった-図3D)。
【0087】
(実施例2.スタスミン-2 mRNA前駆体の潜在的スプライシング/ポリアデニル化の確認)
インビトロ予備結果は、内因性マウススタスミン-2遺伝子におけるヒトエクソン2a配列の挿入がスタスミン-2 mRNA前駆体プロセシングのTDP-43依存性を効率的に再現することを強く支持するが、この結果を、P1 Stmn2Hum/Hum仔においてTDP-43 shRNAまたは対照shRNAを発現するAAV9のICV注射を使用して、成体神経系で確認する。組織を注射の4週間後に採集して、イムノブロットおよび定量RT-PCRによってTDP-43および全長スタスミン-2のRNAレベルおよびタンパク質レベルを測定する。切断型エクソン2a含有Stmn2 RNAの作製を、皮質、海馬および小脳から抽出したRNAで評価する(1群当たりn=6)。TDP-43のshRNA媒介性減少の代替法は、成体マウスにおいてマウスTDP-43 mRNAを標的とするASOのICV注射を使用することであり、これは、忍容性が良好であり中枢神経系におけるTDP-43レベルを一時的に減少させると以前に報告された方法である。
【0088】
(実施例3.Stmn2へのTDP-43の結合を遮断すると、ヒト化エクソン2aを含むマウス細胞においてStmn2の構成的ミススプライシングおよび減少を誘導する)
マウス内因性遺伝子におけるエクソン2aをコードする領域のヒト化(図2A)は、TDP-43減少の際に潜在的スプライシングを誘導した(図3A図3D)。しかし、そのような細胞系を越えての本質的確認は、哺乳動物神経系の真のインビボでの状況でスタスミン-2潜在的スプライシングを標的とする最も効率的なASOの同定を可能にすることである。このことを達成するために、スタスミン-2を標的とする薬物のインビボスクリーニングを、TDP-43破壊を必要としない構成的スタスミン-2ミススプライシングを含むマウスモデルによって促進する。このために、試験を実施して、TDP-43結合部位を変異させると、ヒト化エクソン2aを保有するように操作したマウスN2a神経細胞においてスタスミン-2ミスプロセシングをもたらしたか否かを決定した。CRISPR/Cas9操作アプローチを使用して、TDP-43によって結合された3つのGUモチーフを含む24ヌクレオチドを、MS2コートタンパク質(MCP)によって高親和性で結合されるRNAステムループ構造を採用することが公知である19ヌクレオチドMS2アプタマー配列で置換した(図2B)。そのキメラヒト/マウス内因性スタスミン-2遺伝子の一方のアレルまたは両方のアレル中のTDP-43結合部位を変異させると(図2B)、切断型スタスミン-2転写物の長期的生成(図4B)および全長スタスミン-2 mRNAレベルの減少(図4A)および全長スタスミン-2タンパク質レベルの減少(図4C)をもたらした。したがって、スタスミン-2ミスプロセシングを標的とする薬物の効率的なインビボ試験のための新規マウスモデルを、作製した。
【0089】
3つのTDP-43結合部位を含むエクソン2aの24塩基セグメントを19塩基MS2結合部位で置換したヒト化スタスミン-2アレルを含む、マウスを作製した(図2B)。2匹の樹立系統を同定した。系統を現在増殖中である。これらを用いて、ヘテロ接合性マウスおよびホモ接合性マウス(Stmn2Hum-ΔGU/+およびStmn2Hum-ΔGU/Hum-ΔGU)の生存能力を決定し、その後、RNAおよびタンパク質を1月齢動物の種々の脳領域から抽出して(1群当たりn=5、両方の性別)、N2a細胞において観察される(図4A図4C)とおり、スタスミン-2がTDP-43機能とは無関係にミスプロセシングされるか否かを決定する。
【0090】
本明細書において開示されているすべての参考文献、特許および特許出願は、各々が引用される主題に関して参照により援用され、一部の場合では、それはその文書の全体を含み得る。
【0091】
本明細書および特許請求の範囲において文書中で使用される不定冠詞「ある(1つの)(a)」および「ある(1つの)(an)」は、特に反対の明示がなければ、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0092】
特に反対の明示がなければ、本文書において特許請求される1つよりも多い工程または動作を含むあらゆる方法において、その方法の工程または動作の順序は、その方法の工程または動作が記載されている順序には必ずしも限定されないこともまた、理解されるべきである。
【0093】
特許請求の範囲ならびに上記の本明細書において、すべての移行句、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「保有する(carrying)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、「含む(involving)」、「保持する(holding)」、「から構成される(composed of)」などは、非限定的であり、すなわち、含むが、それらに限定されないことを意味すると理解されるべきである。移行句「からなる」および「から本質的になる」のみは、米国特許庁の特許審査手続きのマニュアル(Manual of Patent Examining Procedures)のセクション2111.03に示されるとおり、それぞれ、限定的移行句または半限定的移行句である。
【0094】
数値の前にある用語「約」および「実質的に」は、記載された数値の±10%を意味する。
【0095】
一定範囲の値が提供される場合、その範囲の上端と下端との間(上端および下端を含む)の各値が、本出願において具体的に企図され記載されている。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2024539458000001.xml
【国際調査報告】