(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】機能性ヒト神経組織を印刷するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0793 20100101AFI20241018BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C12N5/0793
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529904
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 US2022050433
(87)【国際公開番号】W WO2023091681
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591013274
【氏名又は名称】ウィスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション
(71)【出願人】
【識別番号】524189845
【氏名又は名称】チャン ス-チュン
(71)【出願人】
【識別番号】524189856
【氏名又は名称】ヤン ユアンウェイ
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】チャン ス-チュン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ユアンウェイ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ61
4B063QQ79
4B063QR66
4B063QR72
4B063QS28
4B063QS32
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BC46
4B065BD22
4B065BD39
4B065BD44
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本開示は、概して、神経組織構築物を調製するための方法及び組成物に関する。特に、本明細書には、グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及びバイオインクを使用して神経組織構築物を生成するための方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経組織構築物を生成する方法であって、
(a) 好適な表面上に、混合物を含むバンドをバイオプリントすることによって水平堆積させる工程であって、前記混合物が、
(i)グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、
(ii)GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及び
(iii)バイオインク、を含む工程と、
(b) (a)の堆積工程を複数回繰り返して、複数のバンドを形成する工程と、
(c) 前記細胞が神経組織構築物を形成することを可能にするために、前記堆積した複数のバンドを成熟させる工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記バイオインクが、ヒドロゲル及びヒアルロン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒドロゲルが、フィブリノーゲン及びトロンビンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒドロゲルが、プロテアーゼ阻害剤を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロゲルが、前記堆積工程の各々の後に架橋剤を使用して架橋される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記架橋剤が、緩衝液CaCl
2、トロンビン、及びトランスグルタミナーゼ(TG)を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記複数のバンドが、物理的に分離されている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記複数のバンドの各々が、約50μmの水平方向の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記グルタミン酸作動性皮質前駆細胞及び前記GABA作動性介在ニューロン前駆細胞が、4:1の比率で前記混合物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記グルタミン酸作動性皮質神経前駆細胞が、21日目のヒト多能性幹細胞(hPSC)由来のグルタミン酸作動性皮質神経前駆細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記GABA作動性介在ニューロン前駆細胞が、21日目のヒト多能性幹細胞(hPSC)由来のGABA作動性介在ニューロン前駆細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記混合物が、星状細胞前駆細胞を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、前記GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及び前記星状細胞前駆細胞が、5:1:4の比率で前記混合物中に存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合物が、ミクログリア細胞を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記神経組織構築物が、機能的ニューラルネットワークを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記機能的ニューラルネットワークが、約2週間~約4週間以内に形成される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記神経組織構築物が、機能的神経グリアネットワークを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記機能的神経グリアネットワークが、約2週間~約4週間以内に形成される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記成熟が、2%B-27、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、ROCK阻害剤、又はγ-セクレターゼ及びノッチ経路阻害剤のうちの少なくとも一つを含む神経基本培地中で起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法によって作製される神経組織構築物。
【請求項21】
試験剤をスクリーニングする方法であって、
(a) 請求項1に記載の神経組織構築物上に試験剤を堆積させる工程と、
(b) 前記接触した神経組織構築物の機能的パラメータを測定する工程と、
(c) 前記機能的パラメータを、前記試験剤と接触していない神経組織構築物で測定されたパラメータと比較する工程であって、前記試験剤と接触した後の前記機能的パラメータの調節が、前記試験剤が候補治療薬であることを示す、工程と、を含む、方法。
【請求項22】
前記試験剤が、(i)有機化合物、(ii)核酸、(iii)ペプチド、(iii)ポリペプチド、又は(iv)抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記神経組織構築物が、DARPP32
+線条体中型有棘神経細胞を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記神経組織構築物中の皮質ニューロンが、ChR2-EYFPを発現し、線条体ニューロンが、赤色カルシウム指示薬jRGECO1bを発現する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項23に記載の方法によって作製される神経組織構築物。
【請求項26】
前記神経組織構築物の前記細胞が、前記試験剤に応答する検出可能なマーカーを発現する、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記検出可能なマーカーが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、mCherry、及びChR2-EYFP、又は赤色カルシウム指示薬jRGECO1bを含むがこれらに限定されない、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月18日出願の米国仮特許出願第63/280,886号に対する優先権を主張するものであり、その開示は参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
コンピュータ可読フォームは、電子提出によって本出願とともに出願され、その全体が参照により本出願に組み込まれる。コンピュータ可読フォームは、ファイル名「Muscle_Contraction1.avi」で、サイズが122メガバイトである2022年11月17日に作成された第一のファイル、及びファイル名「Muscle_Contraction2.avi」で、サイズが88メガバイトである2022年11月17日に作成された第二のファイルに含まれる。
【0003】
本開示は、概して、神経組織構築物を調製するための方法及び組成物、特に機能的連結性を有する脳領域特異的組織を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ヒト脳は、特殊な神経細胞及びグリア細胞によって形成され、これは記憶、意識、言語、及び思考を含む基本的な機能のためのニューラルネットワークを形成する。神経グリアネットワークの研究は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及び自閉症スペクトラム障害(ASD)を含む神経学的疾患を探索するために不可欠である。
【0005】
従来、このような研究は、生きているヒト神経組織の信頼できるモデルの欠如が原因で困難であることが証明されてきた。人工多能性幹細胞(iPSC)又は胚性幹細胞(hESC)を含む、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から生成される脳オルガノイドは、潜在的な解決策を提示する。しかしながら、オルガノイドにおける機能的ニューラルネットワークの形成には、多くの場合、数か月、場合によっては1年以上かかり、アセンブロイド間で形成される回路は、これまでのところランダムに位置付けられている。オルガノイド系を相補する潜在的な方法は、3Dバイオプリンティングであり、これにより、生細胞及びヒドロゲルの堆積を空間的に制御することによってヒト組織の組み立てが可能になり、生物学的に複雑な細胞構築を生成する。神経組織の印刷が探索されているが、印刷された組織は機能的ニューロンネットワークを示さない。
【0006】
したがって、当技術分野において、ニューロンサブタイプ及びグリアサブタイプを含み、ニューロン間、並びにその中のニューロンとグリアとの間に機能的ネットワークを形成する、神経組織を迅速かつ確実に組み立てるためのプラットフォームを生成するための試薬及び方法に対するニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、ニューロン間、及びニューロンとグリアとの間に、急速に、すなわち、数週間以内に機能的ネットワークを形成するニューロンサブタイプ及びグリアサブタイプを含む神経組織を組み立てるための試薬及び方法を記載する。本開示は、神経組織構築物を調製するための方法及び組成物を提供し、特に、機能的結合性を有する脳領域特異的組織を作製するための方法及び組成物を提供する。特に、本明細書には、グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及びバイオインクを使用して神経組織構築物を生成するための方法が提供される。本発明は更に、アレキサンダー病(AxD)及び他の神経変性障害に対するヒトニューラルネットワークをモデル化し、AxD及び他の神経変性障害に対する治療剤をスクリーニングするための治療方法を提供する。
【0008】
本明細書は、神経組織構築物を生成する方法であって、
(a)好適な表面上に、混合物を含むバンドをバイオプリントすることによって水平に堆積させることであって、混合物は、
(i) グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、
(ii) GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及び
(iii) バイオインク、を含み、
(b) (a)の堆積工程を複数回繰り返して、複数のバンドを形成することと、
(c) 細胞が神経組織構築物を形成することを可能にするために、堆積した複数のバンドを成熟させることと、を含む、方法を提供する。
【0009】
また、本明細書は、試験剤をスクリーニングする方法が提供しており、方法は、(a)本明細書に開示される神経組織構築物上に試験剤を堆積させることと、(b)接触した神経組織構築物の機能的パラメータを測定することと、(c)機能的パラメータを、試験剤と接触していない神経組織構築物で測定されたパラメータと比較することと、を含み、試験剤との接触後の機能的パラメータの調節は、試験剤が候補治療薬であることを示す。
【0010】
本発明のこれら及びその他の特徴、目的、利点は、以下の説明からより良く理解されるであろう。説明において、添付図面への参照がなされ、添付図面は本明細書の一部を形成し、添付図面において本発明の実施形態が、限定ではなく例示として示されている。好ましい実施形態の説明は、本発明を限定することを意図するものではなく、すべての変更、均等物、代替物を網羅する。従って、本発明の範囲を解釈するためには、本明細書に列挙される特許請求の範囲を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1A~1Bは、21日目のhPSCからの分化皮質前駆細胞についての神経マーカーFOXG1及びPAX6の免疫蛍光及び定量化を示す。
【
図2】
図2A~2Bは、21日目のhPSCからの分化GABA介在ニューロン前駆細胞に対するマーカーNKX2.1及びGABAの免疫蛍光及び定量化を示す。
【
図3】
図3A~3Bは、hPSCからの分化星状細胞前駆細胞に対するマーカーS100β及びGFAPの免疫蛍光及び定量化を示す。
【
図4】
図4は、フィブリノーゲン及びトロンビンの異なる組成物のゲル化時間を示す。一定濃度のフィブリノゲン(5又は2.5mg/mL)では、ゲル化時間は、トロンビンのレベルの増加と共に減少した。0.5Uトロンビンでは、ゲル化時間もフィブリノーゲン濃度の増加と共に減少した。
【
図5】
図5は、フィブリンゲル中の培養神経前駆細胞(NPC)の設計を概説する概略図を示す。
【
図6A】
図6A~6Eは、異なる濃度のフィブリンゲルで増殖するNPCを示す。
図6Aは、1Uで固定トロンビン濃度を有する異なる濃度のフィブリノーゲン(2.5、5、10mg/mL)での細胞増殖、及び2.5mg/mLで固定フィブリノーゲン濃度を有する異なる濃度のトロンビン(1、5、10U/mL)での細胞増殖の明相画像を示す。
【
図6B】
図6Bは、異なる濃度のフィブリノゲン及びトロンビンでの神経系細胞増殖の細胞生存率(生細胞の割合)を示す(一元配置分散分析、相互作用F(4、38)=29.25、***P<0.001、一元配置分散分析、相互作用F(2、24)=11.32、**P<0.01、独立t検定、*P<0.05)。
【
図6C】
図6Cは、異なる濃度のフィブリノゲン及びトロンビンでの神経系細胞増殖の細胞生存率(生細胞の割合)を示す(一元配置分散分析、相互作用F(4、38)=29.25、***P<0.001、一元配置分散分析、相互作用F(2、24)=11.32、**P<0.01、独立t検定、*P<0.05)。
【
図6D】
図6Dは、6時間7日目にフィブリンゲル中で増殖した神経細胞の生きた染色及び死んだ染色(緑色:「生きた染色」、赤色:「死んだ染色」)を示す。
【
図6E】
図6Eは、異なる時点(n=9又は10)での神経細胞の生存率(生細胞の割合)を示す。
【
図7A】
図7A~7Bは、フィブリンゲル中で成長したNPCを示す。
図7Aは、1か月の時点でのフィブリンゲル中で成長したNPCの明相画像を示す。
【
図7B】
図7Bは、ゲル中の4日目の神経マーカーTUJ1、OTX2、及びMAP2の免疫染色を示す。Hoe: Hoechst 33342.
【
図8A】
図8A~8Fは、フィブリンヒドロゲル中でのヒト神経細胞の生存及び分化を示す。
図8Aは、ニューロンが錐体の形態を有し、ゲル中で1か月増殖した後、GFPによって明らかにされた樹状構造を形成したことを示す。
【
図8B】
図8Bは、39日目の神経マーカーMAP2及びNeuNの免疫染色を示す。
【
図8C】
図8Cは、フィブリンゲル中での4日目、19日目及び39日目のTUJ1、MAP2、及びNeuN(n=10)の発現の定量分析を示す。TUJ1、4日目対19日目、多重t検定、**P<0.01、4日目対39日目、多重t検定、****P<0.0001。MAP2、4日目対19日目、多重t検定、*** P < 0.001、4日目対39日目、多重t検定、**** P < 0.0001。NeuN、4日目対19日目、多重t検定、*** P < 0.001;4日目対39日目、多重t検定、**** P < 0.0001。
【
図8D】
図8Dは、ゲル中での40日目にMAP2を有する樹状突起棘マーカーであるドレブリンの免疫染色を示す。
【
図8E】
図8Eは、フィブリンゲル中での35日目にTUJ1又はMAP2を有するシナプスvGlut1、SYN1の免疫染色を示す。
【
図8F】
図8Fは、フィブリンゲル中での35日目にTUJ1又はMAP2を有するシナプスvGlut1、SYN1の免疫染色を示す。Hoe: Hoechst 33342. スケールバー、200μm(c)、20μm(i)、10μm(h、j)。
【
図9】
図9は、本明細書に開示される印刷プロセスの設計を示す概略図である。
【
図10A】
図10A~10Eは、本明細書に開示される方法に従って生成された印刷構造を示す。
図10Aは、24ウェルプレート内の試験用バイオインクを使用した印刷構造(5×2.5×0.5mm)の概要を示す。
【
図10B】
図10Bは、印刷の7日後に緑色-赤色の層状パターンを有する印刷された神経組織を示す。緑色蛍光タンパク質(GFP)、単量体赤色蛍光タンパク質mCherry及びMAP2の免疫染色である。
【
図10C】
図10Cは、ヒアルロン酸及びフィブリンゲルをバイオインクとして使用した印刷された層の明相画像を示す。
【
図10D】
図10Dは、印刷後7日目にMAP2染色を用いたGFP
+層及びGFP
-層の免疫染色を示す。
【
図10E】
図10Eは、2層にわたるSYN1の免疫染色を示す。Daf、フィブリンゲル中での成長後の日数。Hoe: Hoechst 33342.
【
図11】
図11は、印刷された神経組織の3D再構成を示す。印刷された神経組織の3D画像(印刷後20日)を、GFP、mCherry、及びMAP2について染色した。挿入図は、右側に分割チャネル、下部に3D再構成ビューで拡大されている。Hoe: Hoechst 33342.
【
図12A】
図12A~12Bは、GABA作動性介在ニューロン及びグルタミン酸ニューロンの印刷された組織への組み込みを示す。
図12Aは、実施例1に開示された実験の設計を示す概略図である。
【
図12B】
図12Bは、印刷の3日後のGABA及びMAP2を用いた組織の免疫染色を示す。スケールバーは100μm、Hoe: Hoechst 33342.
【
図13A】
図13A~13Bは、印刷された組織のシナプス形成を示す。
図13Aは、印刷後20日目のSYN1及びPSD95点に対する皮質及びMGE前駆細胞を有する印刷された組織の免疫染色を示す。
【
図13B】
図13Bは、印刷後30日目にMAP2を用いたシナプスマーカーSYN1、vGAT及びPSD95の免疫染色を示す。
【
図14A】
図14A~14Fは、印刷された組織の電気生理学的記録を示す。
図14Aは、印刷された組織の電気生理学的記録を示す概略図である。
【
図14B】
図14Bは、21日目のGlut及びGABAニューロンが組み込まれた印刷された組織からのグルタミン酸皮質細胞の自発的活動電位(sAP)を示す。
【
図14C】
図14Cは、印刷後5週時点での、Glutニューロンのみ又はGlut及びGABA(Glut+GABA)組織を有する組織におけるグルタミン酸作動性ニューロンから記録された増殖した潜在的幹細胞(EPSC)の代表的なトレースを示す。
【
図14D】
図14Dは、印刷の5週間後の異なる群についてのEPSC頻度の定量分析を示す(t検定、**P<0.01)。
【
図14E】
図14Eは、印刷後5週時点でのGlutニューロンのみ又はGlut及びGABAニューロン(Glut+GABA)を有する印刷された組織におけるグルタミン酸作動性ニューロンから記録されたIPSCの代表的なトレースを示す。
【
図14F】
図14Fは、印刷の5週間後の異なる群についてのIPSC頻度の定量分析を示す(t検定、****P<0.0001)。
【
図15A】
図15A~15Bは、印刷された組織におけるニューロンの成熟を示す。
図15Aは、印刷後30日目のGFAP、NeuN及びMAP2の印刷された組織の免疫染色を示す。
【
図15B】
図15Bは、ニューロンの90%超がNeuN
+であることを示したNeuN発現の定量分析を示す。
【
図16A】
図16A~16Gは、ニューロン及び星状細胞の印刷された組織への組み込みを示す。
図16Aは、実施例1に開示された実験の設計を示す概略図である。
【
図16B】
図16Bは、GFAP及びMAP2の組織の免疫染色を示す(印刷の3日後)。
【
図16C】
図16Cは、印刷後60日目のGFAP及びMAP2の印刷された組織における星状細胞及びニューロンの免疫染色を示す。
【
図16D】
図16Dは、60日目の印刷された組織におけるGFAPの染色を伴う星状細胞の3D形態を示す。
【
図16E】
図16Eは、60日目のGLT-1及びGFAPを用いた組織の免疫染色を示す。
【
図16F】
図16Fは、印刷後30日目のGFP-GCaMP6及びmCherryの免疫染色を示す。
【
図16G】
図16Gは、fからの3Dイメージングを示す。Hoe: Hoechst 33342. スケールバー、100μm(b)、10μm(d)。
【
図17A】
図17A~17Hは、印刷された組織のカルシウム及びグルタミン酸塩のライブイメージングを示す。
図17Aは、ニューロン及び星状細胞を有する印刷された組織のカルシウムイメージングを示す概略図である。ニューロンはmCherry標識化され、星状細胞は印刷前にGCaMP6に感染した。
【
図17B】
図17Bは、高濃度のKCl溶液を用いた刺激に応答する印刷された組織中の細胞を示す。
【
図17C】
図17Cは、GCaMP6イメージングの代表的なトレースを示す。ROI1~6はGCaMP6-星状細胞を示し、ROI7、8はmCherry-ニューロンを示した。ROI、関心領域。
【
図17D】
図17Dは、印刷後2週、4週、及び6週での組織におけるΔF/Fの総GCaMP6振幅を示す(一元配置分散分析、**P<0.01、*P<0.05)。
【
図17E】
図17Eは、ニューロン及び星状細胞を用いた印刷された組織のグルタミン酸イメージングを示す概略図である。ニューロンはmCherry標識され、星状細胞は印刷前にiGluSnFRに感染させた。
【
図17F】
図17Fは、高濃度KCl溶液を用いた刺激に応答する印刷された組織中の細胞を示す。
【
図17G】
図17Gは、iGluSnFR撮像の代表的なトレースを示す。ROI1-5は、iGluSnFR-星状細胞を示した。
【
図17H】
図17Hは、印刷後2週及び4週での組織におけるΔF/Fの総iGluSnFR振幅を示す(t検定、**P<0.01)。
【
図18A】
図18A~18Eは、アレキサンダー病(AxD)における3D印刷の適用を示す。
図18Aは、実施例2に開示された実験の設計を示す概略図である。
【
図18B】
図18Bは、GFAPの対照組織及びAxD組織の免疫染色を示し、印刷後60日目のGFAP繊維の凝集を示す。白色の三角形は、GFAP凝集体を示す。
【
図18C】
図18Cは、印刷後20日目のGLT-1、GFAP、及びMAP2の対照組織及びAxD組織の免疫染色を示す。
【
図18D】
図18Dは、SYN1、GFAP及びMAP2(印刷後30日)の組織の免疫染色を示す。
【
図18E】
図18Eは、SYN1点密度の定量分析を示す(t検定、****P < 0.0001)。Hoe: Hoechst 33342. スケールバー、5μm(b)、20μm(d)、50μm(c)。
【
図19A】
図19A~19Gは、モデル化アレキサンダー病における機能的特徴を示す。
図19Aは、AxDモデルの印刷された組織のカルシウムイメージングを示す概略図である。健康なニューロンをmCherry標識し、AxD又は対照星状細胞を印刷前にGCaMP6に感染させた。
【
図19B】
図19Bは、対照及びAxDからのGCaMP6シグナルのΔF/Fを示すヒートマップである。
【
図19C】
図19Cは、対照組織及びAxD組織における経時的なΔF/Fの総GCaMP6振幅を示す(多重t検定、*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001)。
【
図19D】
図19Dは、AxDモデルの印刷された組織のグルタミン酸撮像を示す概略図である。健康なニューロンをmCherry標識し、AxD又は対照星状細胞を印刷前にiGluSnFRに感染させた。
【
図19E】
図19Eは、高濃度KCl溶液を用いた刺激に応答する印刷された組織中の細胞を示す。
【
図19F】
図19Fは、対照組織及びAxD組織からのiGluSnFR変化(ΔF/F)の代表的なトレースを示す。
【
図19G】
図19Gは、印刷後2週及び4週での対照組織及びAxD組織におけるΔF/Fの総iGluSnFR振幅を示す(多重t検定、*P<0.05、**P<0.01)。スケールバーは100μmである。
【
図20】
図20は、印刷された組織におけるニューロン、星状細胞、及びミクログリアの組み込みを示す。Iba1、GFAP、及びMAP2の免疫染色は、印刷3日後に印刷された組織内のニューロン、星状細胞、及びミクログリアの存在を示す。
【
図21】
図21は、ヒトPSCから産生された分化型線条体前駆細胞からの免疫蛍光マーカーDARPP32、GABA、及びGAD67を示す顕微鏡写真を示す。
【
図22A】
図22A及び22Bは、印刷された皮質線条体組織の特徴付けを示す顕微鏡写真である。
図22Aは、印刷5日後のGFP、mCherry及びDARPP32染色について印刷された皮質線条体組織の代表的な画像を示すが、
【
図22B】
図22Bは、印刷2週間後のGFP、mCherry及びMAP2について印刷された組織の免疫染色を示す。
【
図23A】
図23A、23B、及び23Cは、皮質線条体組織の印刷の計画及び実行を図示する。
図23Aは、皮質-線条体組織を印刷するための実験設計を示す概略図である。
【
図23B】
図23Bは、GFP及びmCherryの組織の免疫染色を示し、印刷後15日での印刷された皮質線条体層の存在を示す(スケールバー、100μm)。
【
図23C】
図23Cは、皮質-線条体層の境界を横切る神経突起の存在を示し、矢印は、印刷後21日でのGFP
+皮質神経突起とmCherry
+線条体ニューロンとの間の接触を示す。Hoe, Hoechst 33342.
【
図24A】
図24A~
図24Eは、印刷された皮質線条体組織のカルシウムイメージングを示す。
図24Aは、皮質ニューロン及び線条体ニューロンを有する印刷された組織のカルシウムイメージングを示す概略図である。皮質ニューロンはChR2細胞であり、線条体ニューロンは非着色であり、印刷前にレンチウイルス-jRGECO1bに感染させた。
【
図24B】
図24Bは、光刺激に応答する印刷された組織(印刷後2週間)の顕微鏡写真であり、刺激前後のjRGECO1bシグナル(赤色)の変化を示す。
【
図24C】
図24Cは、二つの関心領域からのカルシウムイメージングの代表的なトレースを示す。ROI、関心領域。
【
図24D】
図24Dは、これらの実験で得られたカルシウムイメージングの総トレースを示す。
【
図24E】
図24Eは、光刺激後の組織におけるΔF/Fの総jRGECO1b振幅を示す(5つの異なるバッチからの21個のサンプル)。
【
図25A】
図25A~
図25Fは、印刷された皮質線条体組織の機能的特徴を示す。
図25Aは、印刷された皮質-線条体組織における光遺伝学的活性化を伴う全細胞パッチクランプ記録を示す概略図である。皮質ニューロンはChR2細胞であり、線条体ニューロンはmCherry標識化された。
【
図25B】
図25Bは、光刺激によって印刷された組織内の線条体ニューロンの自然活動電位、EPSP、及びEPSCの代表的な電気生理学的トレースである。
【
図25C】
図25Cは、光刺激によって印刷された組織内の線条体ニューロンの自然活動電位、EPSP、及びEPSCの代表的な電気生理学的トレースである。
【
図25D】
図25Dは、光刺激によって印刷された組織内の線条体ニューロンの自然活動電位、EPSP、及びEPSCの代表的な電気生理学的トレースである。
【
図25E】
図25Eは、EPSC記録に対する光刺激を有する応答性の細胞の割合を示す。
【
図25F】
図25Fは、光刺激の前、間、及び後のEPSC頻度の定量分析を示す棒グラフである(対応t検定、*P<0.05、データは平均±s.e.m.(三つの異なるバッチからのニューロン)。
【
図26】
図26は、依然として、印刷された皮質-筋肉組織の収縮を示すビデオ録画からのフレームである。印刷後30日目における印刷された筋組織における筋細胞収縮の時間経過。赤い矢印は、筋細胞の動きを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、概して、神経組織構築物を調製するための方法及び組成物に関する。特に、本明細書には、グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及びバイオインクを使用して神経組織構築物を生成するための方法が提供される。これらの神経組織構築物は、ニューラルネットワークの配線の理解、病理学的プロセスのモデル化、及び薬物試験のためのプラットフォームとしての役割を果たすのに有用である。
【0013】
特許及び特許出願を含むがしかしこれに限定されない、本明細書に引用されるすべての出版物は、本出願にその全体が記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0014】
本開示の原理の理解を促進する目的で、ここで実施形態を参照し、特定の言語を使用してそれを説明する。それにもかかわらず、本開示の範囲を制限することは意図されず、本明細書に例示されるように、本開示のこうした変更及びさらなる修正は、本開示が関連する当業者に通常起こるであろうように企図されることが理解されるであろう。
【0015】
定義
本明細書で使用される場合、冠詞「a」及び「an」は、本明細書では、冠詞の文法的な目的語のうちの一つ又は二つ以上(すなわち、少なくとも一つ)を指すために使用される。一例として、「要素(an element)」とは、少なくとも1つの要素を意味し、2つ以上の要素を含むことができる。
【0016】
「約」は、所与の値が、所望の結果に影響を与えることなく、エンドポイントを「わずかに上回る」又は「わずかに下回る」ことができることを提供することによって、数値範囲のエンドポイントに柔軟性を提供するために使用される。数値と関連した「約」という用語は、数値が数値の±5%以内で変化し得ることを意味する。
【0017】
本明細書全体を通して、文脈が別途必要としない限り、「備える(comprise)」及び「含む(include)」という用語、並びに変形(例えば、「comprises」、「comprising」、「includes」、「including」)は、記載された構成要素、特徴、要素、又は構成要素、特徴、要素、又はステップのうちのステップもしくはグループを含めることを意味するが、任意の他の整数、又は整数又はステップのうちのステップもしくはグループを除外するものではないことが理解されるであろう。
【0018】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」は、関連する列挙された品目のうちの一つ又は複数の可能性のあるあらゆる組み合わせだけでなく、代替(「又は」)で解釈される組み合わせの欠如を意味するとともに、それを包含する。
【0019】
本明細書の値の範囲の列挙は、本明細書に別段の示唆がない限り、その範囲内に収まる各別個の値に個別に言及する簡潔な方法として機能することが単に意図されているだけである。更に、各別個の値は、本明細書に個別に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。例えば、範囲が1~50として記載される場合、2~4、10~30、又は1~3などの値が本開示で明示的に列挙されることが意図される。これらは、具体的に意図されているものの例に過ぎず、列挙された最低値と最高値との間の数値の全ての可能な組み合わせは、本開示に明示的に記載されるとみなされるべきである。
【0020】
「接触」という用語は、少なくとも一つの物質の別の物質への物理的な接触を含む。
【0021】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0022】
特定の実施形態では、本明細書に提供されるのは、神経組織構築物を生成する方法であって、
(a) 好適な表面上に、混合物を含むバンドをバイオプリントすることによって水平に堆積させることであって、混合物は、
(i) グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、
(ii) GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及び
(iii) バイオインク、を含み、
(b) (a)の堆積工程を複数回繰り返して、複数のバンドを形成することと、
(c)細胞が神経組織構築物を形成することを可能にするために、堆積した複数のバンドを成熟させることと、を含む、方法を提供する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「バイオインク」は、バイオプリンティングで使用するための液体、半固体、又は固体組成物を意味する。一部の実施形態では、バイオインクは、押出成形化合物(すなわち、バイオインクの押出成形特性を修正する化合物)を含む。押出成形化合物の例としては、ゲル、ヒドロゲル、ペプチドヒドロゲル、アミノ酸系ゲル、界面活性剤ポリオール(例えば、プルロニック(登録商標)F-127又はPF-127)、熱応答性ポリマー、ヒアルロン酸、アルギン酸、細胞外基質成分(及びその誘導体)、コラーゲン、ゼラチン、他の生体適合性天然又は合成ポリマー、ナノファイバー、及び自己組織化ナノファイバーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
一部の実施形態では、バイオインクは、ヒドロゲル及びヒアルロン酸を含む。適切なヒドロゲルには、フィブリノーゲン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ヒアルロナン、フィブリン、トロンビン、アルギン酸、アガロース、キトサン、及びそれらの組み合わせに由来するものが含まれる。いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、フィブリノーゲン及びトロンビンを含む。特定の実施形態では、ヒドロゲルは、2.5mg/mLのフィブリノーゲン及び0.5Uのトロンビンを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、セリン阻害剤などのプロテアーゼ阻害剤を更に含む。特定の実施形態では、プロテアーゼ阻害剤は、いくつかのセリンプロテアーゼ、具体的にはトリプシン、キモトリプシン、及びプラスミンを阻害するアプロチニンである。
【0026】
特定の実施形態では、前駆細胞は、約1×106/mL、約1×107/mL、約1×108/mL、又は約1×109/mLの密度でヒドロゲル及びヒアルロン酸と混合される。
【0027】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、架橋可能な構成要素を含む。例えば、いくつかの実施形態では、好適なヒドロゲルは、フィブリノーゲン含有の架橋可能なヒドロゲルを含む。様々な実施形態では、好適なヒドロゲルは、約0.1、0.5、1、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、又はそれ以上のパーセントのフィブリノゲンを含む。様々な実施形態では、好適なヒドロゲルは、約15、20、25、30、35、40、45、50パーセント以上のフィブリノゲンを含む。一部の実施形態では、バイオプリンティング後、構築物は、CaCl2、トロンビン、及びトランスグルタミナーゼ(TG)を含む溶液などのヒドロゲルを化学的に架橋するために、薬剤と共にインキュベートされる。
【0028】
本明細書で使用される場合、バイオプリントとは、自動又は半自動のコンピュータ支援三次元プロトタイピング装置(例えば、バイオプリンター)と互換性のある方法論を介して、前駆細胞及びバイオインクを含む混合物の正確な堆積を利用することを意味する。
【0029】
一部の実施形態では、複数のバンドが、好適な表面上に互いに隣り合ってバイオプリントされて、神経組織構築物を形成する。様々な実施形態では、2層、3層、4層、5層、6層、7層、8層、9層、10層、11層、12層、13層、14層、15層、又はそれ以上の層がバイオプリントされて、神経組織構築物を形成する。
【0030】
特定の実施形態では、バンドは、5000(L)×500(W)×50(H)μmの寸法で一度に一つの層が水平に印刷される。典型的には、混合物の帯は、約100μm以下、約75μm以下、約50μmcm以下の水平厚さを有する。特定の実施形態では、バンドは水平方向に約50μmの厚さを有する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「好適な表面」とは、神経前駆細胞の付着、移動、増殖、及び/又は成熟を支持する表面を指す。
【0032】
特定の実施形態では、複数のバンドは物理的に分離される。印刷された層の混合を防止するために、例えば、トロンビンなどの架橋剤を混合物の堆積の直後に添加して、次の層を印刷する前に所望の形状を形成することができる。
【0033】
特定の実施形態では、バイオプリントに使用される混合物は、グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及びバイオインクを含む。特定の実施形態では、混合物は、星状細胞前駆細胞を更に含む。特定の実施形態では、混合物は、ミクログリア細胞を更に含む。
【0034】
一部の事例では、本明細書に提供される方法で使用するための前駆細胞は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)の方向性のある分化によって取得される。胚性幹細胞(ESC)及び誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む多能性幹細胞は、グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及び星状細胞前駆細胞を産生するために使用され得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、多能性幹細胞(hPSC)という用語は、自己再生を継続することができ、適切な条件下で、三つの胚葉すべての細胞に分化することができる細胞を意味する。hPSCは、SOX2+及びOCT4+を含む遺伝子発現プロファイルを示す。ヒトPSC(hPSC)の例としては、ヒト胚性幹細胞(hESC)及びヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)が挙げられる。ESCは、WiCell研究所(ウィスコンシン州マディソン)などの供給源から市販されている。本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞」又は「iPS細胞」は、効力決定因子の特定のセットに関して変化する場合がある、及びそれらを単離するために使用される培養条件に関して変化する場合がある、しかしそれにもかかわらず、それらのそれぞれの分化した元の体細胞と実質的に遺伝的に同一である、及び本明細書で説明されているよう、ESCなどの、より高い効力の細胞と類似する特性を示す、多能性細胞又は多能性細胞の集団を指す。例えば、Yu et al., Science 318:1917-1920 (2007)を参照。
【0036】
本明細書で使用される神経前駆細胞は、異なる段階由来であってもよい。特定の実施形態では、グルタミン酸作動性皮質神経前駆細胞は、21日目のヒト多能性幹細胞(hPSC)由来のグルタミン酸作動性皮質神経前駆細胞である。特定の実施形態では、GABA作動性介在ニューロン前駆細胞は、21日目のヒト多能性幹細胞(hPSC)由来のGABA作動性介在ニューロン前駆細胞である。
【0037】
特定の実施形態では、グルタミン酸作動性皮質前駆細胞及びGABA作動性介在ニューロン前駆細胞は、4:1の比率で混合物中に存在する。特定の実施形態では、グルタミン酸作動性皮質前駆細胞、GABA作動性介在ニューロン前駆細胞、及び星状細胞前駆細胞は、5:1:4の比率で混合物中に存在する。
【0038】
細胞が神経組織構築物を形成することを可能にするように、堆積された複数のバンドを成熟させることは、任意の好適な培地中で行われ得る。好適な培地としては、例えば、神経基本培地が挙げられる。特定の実施形態では、神経組織構築物は、機能的ニューラルネットワーク及び/又は機能的神経膠細胞ネットワークを形成するのに十分な時間、例えば、培養物中で少なくとも7日、少なくとも14日、少なくとも3週間、又は少なくとも4週間培養される。特定の実施形態では、ニューロン基本培地は、2%B-27、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、ROCK阻害剤、又はγ-セクレターゼ及びノッチ経路阻害剤のうちの少なくとも一つを含む。
【0039】
印刷された神経系構築物の機能評価は、全細胞パッチクランプなどの電気生理学的記録を含み得る。機能的神経組織構築物は、例えば、内向きNa+及び外向きK+電流、印刷後の自発的活動電位(sAP)、並びに興奮性及び阻害性のシナプス後電流を有する。星状細胞を含む機能的神経組織構築物は、神経興奮に応答して、星状細胞におけるカルシウム流動及びグルタミン酸取り込みを有する。
【0040】
また、本明細書に開示の方法によって産生される神経組織構築物が本明細書に提供されている。
【0041】
特定の実施形態では、本明細書において、試験剤をスクリーニングする方法が開示され、方法は、本明細書に開示される神経組織構築物上にバイオプリントすることによって、試験剤を堆積させることと、前記接触した神経組織構築物の機能的パラメータを測定することと、機能的パラメータを、試験剤と接触していない神経組織構築物で測定されたパラメータと比較することと、を含み、試験剤との接触後の前記機能的パラメータの調節が、前記試験剤が候補治療薬であることを示す。
【0042】
一部の実施形態では、試験剤は、試験剤が生理学的に許容可能な状態から離れて機能的パラメータを調節するとき、神経毒性を有することを特徴とし得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、神経組織構築物の細胞は、試験剤に応答する検出可能なマーカーを発現する。こうした検出可能なマーカーの例としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、mCherry、及びChR2-EYFP(Dong et al., 2020, iScience 23: 100829を参照)、並びに赤色カルシウム指示薬jRGECO1b(Dana et al., 2016, Elife 5)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
試験剤とは、特定の表現型エンドポイントを変更する能力について評価される分子を指す。試験剤の例としては、(i)約600ダルトン未満の分子量の有機化合物、(ii)核酸、(iii)ペプチド(ステープルペプチドを含む)、(iv)ポリペプチド、及び(v)抗体又はその抗原結合断片が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本開示に従って利用される場合、別段の指示がない限り、すべての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有すると理解されるべきである。文脈により別段の要求がない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0046】
本開示を限定することなく、本開示のいくつかの実施形態を、例示の目的で以下に記述する。
【実施例】
【0047】
以下の実施例は、本開示の具体的な実施形態、及びその様々な使用の例示である。これらは説明的な目的でのみ記載され、またいかなるやり方でも本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0048】
実施例1:神経組織構築物の生成
神経前駆細胞及び星状細胞前駆細胞は、ヒト胚性幹細胞(ESC)及びヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む、ヒト多能性幹細胞(ヒトPSC)から生成された。ヒトPSCから分化した前駆細胞を分析し、免疫蛍光法によって特徴付けた。
【0049】
第一に、ヒトESC(H9、GFP-H9、mCherry-H9)を、幹細胞増殖培地中のマウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー上に、又はTeSR-E8培地(StemCell Technologies, Inc.、バンクーバー、カナダ)中のマトリゲル被覆プレート上に、前述のように維持した(Li, X. et al. Stem Cell Reports 11, 998-1008, doi:10.1016/j.stemcr.2018.08.019 (2018)、Yan, Y. et al. Biomaterials 73, 231-242, doi:10.1016/j.biomaterials.2015.09.020 (2015))。MEFフィーダーベースの培養については、細胞を、ディスパーゼ(1mg/mL、Gibco)を使用して、照射MEF(WiCell)の単層上にプレーティングすることによって毎週継代した。hPSC培養培地は、DMEM/F12基本培地(Gibco)、20%ノックアウト血清置換(Gibco)、0.1mM b-メルカプトエタノール(Sigma)、1mM L-グルタミン(Gibco)、必須アミノ酸(Gibco)、及び4ng/mL線維芽細胞増殖因子(FGF)-2(R&D Systems)から構成された。TeSR-E8培地ベースの培養については、細胞を、アキュターゼ(Chemicon)によって6~7日ごとに継代し、ROCK阻害剤Y27632(10μM、Sigma)の存在下で単層培養のためにマトリゲル被覆6ウェルプレート上に播種して、細胞生存を促進した。
【0050】
皮質神経前駆物質の生成は、前述のように実施された(Yan, Y. et al. Biomater 42, 114-126, doi:10.1016/j.actbio.2016.06.027(2016)、Chambers, S. M. et al. Nat Biotechnol 27, 275-280, doi:10.1038/nbt.1529 (2009)、Yan, Y. et al. Tissue Eng Part A, doi:10.1089/ten.TEA.2017.0423 (2018))。簡潔に述べると、hPSC を、1mLの TeSRE8培地中、1ウェル当たり3.0~3.5×10
5細胞で超低付着(ULA)24ウェルプレート(Corning, Inc.、コーニング、ニューヨーク州)に播種し、2日間増殖させた。ROCK阻害剤Y27632(10μM)を播種中に添加し、24時間後に除去した。次いで、培養物を、ダルベッコ変法イーグル培地/栄養素混合物F-12(DMEM/F12)+2%B27マイナスビタミンA無血清サプリメント(Life Technologies) から構成される神経分化培地に切り替えた。神経培地中、1日目に、細胞 を二重SMADシグナル伝達 阻害剤:10μMのSB431542(Sigma)及び100nMのLDN193189(Sigma)で処理した。7日後、細胞をシクロパミン(1μM、Sigma)、FGF-2(10ng/mL、R&D Systems)、及び上皮成長因子(EGF、10ng/mL、R&D Systems)と共に更に8日間インキュベートした。細胞培養物を、懸濁培養で21日目までFGF-2中で維持し、印刷のためにアキュターゼによって分離した。21日目の皮質前駆細胞は、
図1に見られるように、FOXG1、PAX6、及びMAP2の染色によって特徴付けられた。
【0051】
GABA作動性介在ニューロンの分化は、以前に開発されたプロトコルに基づくものであった(Liu,Y.et al. Nat Protoc 8, 1670-1679, doi:10.1038/nprot.2013.106 (2013)、Liu, Y. et al. Nat Biotechnol 31, 440-447, doi:10.1038/nbt.2565 (2013))。上記の神経分化の7日後、ソニックヘッジホッグ(SHH)活性化剤パルモルファミン(1μM、Sigma)を添加した。21日目に、GABA作動性介在ニューロン前駆細胞も、印刷のために単一細胞に解離した。21日目のGABA作動性介在ニューロン前駆細胞は、
図2に見られるように、NKX2.1、GABA、TUJ1、及びMAP2の染色によって特徴付けられた。
【0052】
星状細胞前駆細胞の生成は、前述のように実施された(Li,X.et al. Stem Cell Reports 11, 998-1008, doi:10.1016/j.stemcr.2018.08.019 (2018)、Krencik, et al. Nat Biotechnol 29, 528-534, doi:10.1038/nbt.1877 (2011))。上述の21日目の神経球を、CNTF(10ng/ml、R&D Systems)、LIF(10ng/ml、Millipore)、又はFBS(FBS、10%、Gibco)の存在下でラミニン基質と結合した単一細胞にアキュターゼで解離した。そして、単一の星状細胞前駆細胞を、印刷のために調製した。星状細胞前駆細胞は、
図3に見られるように、S100β及びGFAPの染色によって特徴付けられた。
【0053】
分化細胞を特徴付けし、免疫蛍光法によって分析した。簡潔に述べると、カバーリップ/ウェル上の細胞をPBSですすぎ、4%パラホルムアルデヒド中で20分間固定した。PBSで2回リンスした後、細胞を0.3%トリトンで10分間処理し、続いて10%ロバ血清で1時間処理した後、一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。次いで、細胞を、二次抗体(Life Technologies)とともに室温で1時間インキュベートした。核をHoechst(Ho)(Sigma-Aldrich)で染色した。Nikon A1R-Siレーザー走査共焦点顕微鏡(ニコン、東京、日本)を用いて画像を撮影した。使用した一次抗体には以下が含まれる:ウサギ抗FOXG1(1:100、ab18259、Abcam)、マウス抗PAX6(1:5000、PAX6、DSHB)、ウサギ抗TUJ1(1:10000、PBR-435P、Covance)、マウス抗TUJ1(1:1000、ab117988、Abcam)、ウサギ抗MAP2(1:1000、Millipore)、マウス抗MAP2(1:1000、M1406-2ML Sigma)、ニワトリ抗MAP2(1:5000、ab5392、Abcam)、マウス抗NeuN(1:500、MAB377、Millipore)、ウサギ抗ドレブリン(1:1000、AB10140、Millipore)、ウサギ抗vGlut1(1:1000、135303、Synaptic Systems)、ウサギ抗SYN1(1:1000、106-003、Synaptic Systems)、マウス抗PSD95(1:500、124011、Synaptic Systems)、マウス抗ゲフィリン(1:500、147011、Synaptic Systems)、ウサギ抗vGAT(1:1000、131002、Synaptic Systems)、ウサギ抗GABA(1:1000、A2052、Sigma)、ウサギ抗GFAP(1:1000、Z033429、Dako)、マウス抗GFAP(1:1000、IF03L、Millipore)、マウス抗S100β(1:1000、ab11178、Abcam)、マウス抗GLT1(1:500、611654、BD Transduction Laboratories)、ヤギ抗OTX2(1:1000、AF1979、R&D)、マウス抗NKX2.1(1:500、MAB5460、Millipore)、ウサギ抗SOX2(1:500、AB5603、Millipore)、ウサギ抗TBR1(1:1000、ab31940、Abcam)、ラット抗CTIP2(1:1000、ab18465、Abcam)、マウス抗SATB2(1: 25、ab51502、Abcam)、ウサギ抗カルレチニン(1:1000、2624-1、Epitomics Inc.)、ウサギ抗カルビジン(1:1000、ab25085、Abcam)、マウス抗パルブミン(1:500、MAB1572、Millipore)、ラット抗ソマトスタチン(1:200、MAB354、Millipore)。同様の密度のHoechst+細胞を含有する領域におけるカバーリップ全体にわたって核染色のために蛍光フィルタ下で複数のフィールドをランダムに選択し、総細胞を計数した。蛍光フィルタをイメージング中にシフトさせて、同じ方法で同じフィールドで異なる抗体によって標識された細胞を計数した。定量的データを3回繰り返した。
【0054】
フィブリノゲン及びトロンビンの最適な濃度を、hPSC由来の皮質神経前駆細胞(NPC)の生存を測定することによって特定した。フィブリンゲルをフィブリノーゲン及びトロンビンから調製した。50mg/mLのフィブリノゲン、100Uのトロンビン、250mMのCaCl2(100×)、及び10mg/mLのアプロチニン(20×)の原液を、以下の様式で調製した。フィブリノーゲン(F3879、Sigma)を、カルシウム及びマグネシウムを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)に37℃で4時間溶解した。溶液を滅菌濾過し、使用のために-80℃で保存した。CaCl(Sigma)を脱イオン(DI)水に溶解し、使用のために濾過した。トロンビン(T7009、Signa)をDPBSに溶解させ、滅菌濾過した。溶液を、使用まで-20℃で保存した。アプロチニン(A1153、Sigma)をDPBSに溶解し、使用まで-20℃で保存した。
【0055】
フィブリンゲルのゲル化試験は、以前の報告(Kubota, K. et al. Colloids Surf B Biointerfaces 38, 103-109, doi:10.1016/j.colsurfb.2004.02.017 (2004); Sproul, E. P., Hannan, R. T. & Brown, A. C. Methods Mol Biol 1758, 85-99, doi:10.1007/978-1-4939-7741-3_7 (2018))から修正された。異なる濃度のフィブリノゲン溶液及びトロンビン溶液を調製した。1μLのフィブリノゲン溶液をカバースライド上に滴下し、同体積のトロンビンとよく混合した。ゲル化を試験するために、2μLのピペットチップをゲルに接触させ、ゲルが固体であるかどうかを確認した(ピペットチップによって液体を採取することはできなかった)。トロンビンの添加及びゲルの形成からの時間を記録し、ゲル化時間として定義した。フィブリノゲン及びトロンビンの異なる組成物のゲル化時間を
図4に示す。一定濃度のフィブリノゲン(5又は2.5mg/mL)では、ゲル化時間は、トロンビンのレベルの増加と共に減少した。0.5Uトロンビンでは、フィブリノーゲン濃度の増加と共にゲル化時間も減少した。2.5mg/mLフィブリノゲン及び0.5Uトロンビンをヒドロゲル構築物に使用し、24ウェルプレートを印刷するのに十分であった約145±10秒のゲル化時間を得た。
【0056】
フィブリンゲル中での細胞培養については、1×10
6の密度で解離したhPSC-NPCを、
図5に示すように、以下の濃度(1、2.5、5、10、及び20mg/mL)でフィブリノーゲンと混合した。ゲル分解を防止するために0.5mg/mLのアプロチニンを添加した。1μLのフィブリノーゲンを豊富に含む細胞を、ポリOコーティングプレート上にRT(室温)で滴下した。次いで、2.5mMのCaCl
2を含む1μLの異なる濃度のトロンビン(0.5、1、2.5、5、及び10U)溶液を添加し、細胞-フィブリノーゲン溶液と混合した。ゲル化後に新鮮な培地を加えた。細胞をフィブリンゲル構築物に封入し、特徴付けのために37℃のインキュベータで培養した。生/死アッセイからの全細胞に対する生細胞のパーセントによって示される細胞生存率は、2.5mg/mlの固定フィブリノーゲン濃度でトロンビン濃度が増加するにつれて減少したが、
図6に示すように、一定の低濃度のトロンビン(0.5U)でのフィブリノーゲン濃度の増加による影響を受けなかった。しかしながら、細胞は、より高いフィブリノーゲンレベルで凝集する傾向があった。したがって、0.5又は1Uのトロンビンを有する2.5又は5mg/mLのフィブリノゲンを使用して、最適なゲル化時間を特定した。
【0057】
細胞生存率を、生/死アッセイによって測定した。簡潔に述べると、Live/Dead(登録商標)染色キット(Molecular Probes)を使用して、細胞生存率を評価した。採取直後に、細胞を、1μMのカルセインAM及び2μMのエチジウムホモ二量体Iを含有するDMEM/F12中で30分間インキュベートした。細胞を洗浄し、試料の代表的な画像を撮影した。Image-JのCell Counterを使用して、生きた細胞(緑色)及び死んだ細胞(赤色)の数を各領域で計数した。1つの試料の5つの画像からの生/死細胞数を平均化して、各データ点を得、5つの試料を使用して生存率を決定した。
【0058】
神経組織印刷の特別な要件は、バイオインクが神経突起の成長及びシナプス形成を支持することである。皮質NPCは、GFP標識hESC又はmCherry標識hESCから21日間分化され、
図1に示されるように前脳皮質前駆細胞マーカーFOXG1及びPAX6を発現した。フィブリンゲル中で培養されたとき、前駆細胞は、4日目に早くもプロセスベアリングのTUJ1陽性ニューロンとなり、
図7及び
図8に示すように、成熟神経マーカーMAP2及びNeuNを漸進的に発現させた。多くのニューロンは、ゲル中での培養の1か月後に錐体の形態を示した。重要なことに、ニューロンは、GFP標識によって明らかにされた微細な樹状構造を有する精緻な神経突起を拡張した。これは、40日目の樹状突起棘マーカーであるドレブリンについて陽性の染色によって確認された。vGlut1及びシナプシン(SYN1)の染色によって識別されたシナプス点を、TUJ1
+又はMAP2
+神経突起で35日目に観察した。まとめると、フィブリンゲルは、皮質ニューロンの成熟及びシナプス形成を支持した。
【0059】
フィブリンが神経細胞の成長、成熟、及び機能を支持したことが実証された後、細胞を印刷してパターン化された構造を作製した。脳は、シナプスによって互いに結合される層又は核に組織化される。したがって、構造が維持されている間に、印刷された神経前駆細胞が成熟し、層にわたってシナプスを形成する、層状神経組織を構築することを探求した。「組織ブロック」を切片化する必要性を避けて、層を明らかにするために、かつ約50umの厚さの顕微鏡による直接的な生きた状態での観察を容易にするために、セル層、又は「バンド」を水平に順次印刷した。これらの水平のバンドは、90°回転すると、
図9に示すように垂直の層を示す。
【0060】
印刷手順は、
図9に示すように実施された。簡潔に述べると、プリンターはCELLINK(登録商標)、INKREDIBLE+(商標)及びBioX(商標)(https://www.cellink.com/bioprinting/bio-x/)からのものであった。プリンターには2つ又は3つの印刷ヘッドがあり、複数のタイプのセルを同時に堆積させることができる。分配装置をプリンターに接続して、異なる内径を有するマイクロノズルを通して異なるバイオインクを押し出した。印刷前に、UV光を5分間オンにして、印刷のための滅菌環境を作った。細胞を豊富に含むバイオインクを用いた印刷については、5mm/秒の印刷速度(ライン分注印刷モード)、及び30Gのブラント針(NZ5300505001、Cellink、内径150μm)又は27Gのブラント針(NZ6270505001、Cellink、内径200μm)を使用した50kPaの印刷圧力を使用した。すべての印刷経路は、3つのモデルからのソフトウェアSlic3Rによって生成されたGコードコマンドを使用して制御された。
【0061】
印刷用のバイオインクを、ヒアルロン酸(HA)及びフィブリンゲルから調製した。簡潔に述べると、1:1の体積比で、HA(53747、Sigma)及び10mg/mLフィブリノゲンからバイオインクを作製した。3%(w/v)HAを37℃のDPBS中で調製し、完全に溶解するまで撹拌した。印刷を室温で行った。印刷後、ヒドロゲルをトロンビン+トランスグルタミナーゼ(TG)+CaCl2で室温で3~5分間架橋した。そして37℃のインキュベータでの架橋後に新鮮な培地を加えて、特徴付けを行った。
【0062】
GFP又はmCherryで標識されたhPSC由来NPCを、バイオインク中で解離し、
図10に示すように、24ウェルプレートの1ウェルにおいて、5000(L)×500(W)×50(H)μmの寸法で一度に1つの層を印刷した。印刷された層の混合を防止するために、セル-ゲル混合物の堆積の直後に架橋剤-トロンビンを添加して、次の層を印刷する前に設計された形状を形成した。実際に、一つの層のGFP細胞は、印刷後7日目に次のmCherry細胞から十分に分離された。印刷された神経前駆細胞は、細胞周期終了を促進する化合物Eの存在下で規則的な分化培地中で3日間培養されたとき、MAP2陽性となり、層内及び層をまたいでニューロンプロセスが延長した。印刷された細胞は大部分が、代替的な赤色及び緑色のバンドによって示されるように、指定された領域内に留まった。長期の培養にわたり、多細胞の厚さを有する層状構造が保持され、一方で神経突起がより多くなり、シナプスの形成を伴う層を交差させた。3D再構成は、
図11に示すように、複数の細胞を深さで明らかにした。したがって、印刷された組織は、神経前駆細胞が成熟し、ニューラルネットワークを形成する安定した構造を保持した。
【0063】
着色された細胞(GFP及びmCherry標識)又は非標識化細胞を使用して層状組織を印刷するために、神経細胞(グルタミン酸神経前駆細胞、GABA神経前駆細胞、星状細胞前駆細胞)を解離し、濾過して、単一細胞を作製した。これらを別個に調製し、1×107/mLの密度でHA+FNバイオインクで充填した。ゲルを豊富に含む細胞を二つの異なるノズルに送達し、ポリO被覆カバーリップ上に堆積させた。印刷直後に架橋溶液を加えた。ゲル化を室温で行った。印刷した組織を、以下の実験のために新鮮な神経分化培地中、37℃でインキュベートした。
【0064】
脳は、異なるニューロンタイプ間の相互作用を通して機能する。大脳皮質では、二つの主要なニューロンタイプ、GABA介在ニューロン及びグルタミン酸ニューロンは、シナプスであり、互いに相互作用する。GABA介在ニューロン及びグルタミン酸ニューロンが印刷された組織に組み込まれて機能的シナプスを形成するかどうかを決定するために、
図12に示すように、GFP
+及びGFP
- hPSCからのMGE(GABA)及び皮質(グルタミン酸)前駆細胞を生成し、2つの前駆細胞集団を1:4の比率で混合して、大脳皮質におけるニューロン及び皮質突起ニューロンの比を模倣し、その後で印刷した
18、19。より良好な可視化のために、2層組織を印刷し、一方の層はGFP細胞であり、他方の層は非着色細胞であり、各層は同じ比率の介在ニューロン及び皮質突起ニューロンを含有していた。皮質突起ニューロンのみを有する印刷された組織を、参照として使用した。GFP
+層及びGFP
-層の両方が、GABA
+ニューロン及びMAP2
+総ニューロンの均一な分布を示した。
【0065】
神経組織印刷の最も困難な態様は、機能的ネットワークの形成である。
図13に示すように、シナプス前マーカー及びシナプス後マーカー、SYN1及びPSD95の共発現は、印刷後20日目という早期に観察され、シナプスの形成を示した。GABA作動性ニューロンはまた、阻害性プレシナプスタンパク質vGATの発現によって示されるようにシナプスを形成した。これらの観察は、印刷された神経組織の興奮性シナプス及び阻害性シナプスの形成を示唆する。
【0066】
印刷された神経組織は、電気生理学的記録によるなどの機能評価を可能にする。GFP-グルタミン酸作動性皮質前駆細胞を、
図14に示すように、非着色のMGE GABA作動性前駆細胞で印刷した。全細胞パッチクランプは、グルタミン酸作動性ニューロンが、
図14Bに示すように、印刷の約3週間後に自発的活動電位(sAP)を示したことを示した。重要なことに、グルタミン酸作動性ニューロンは、興奮性及び阻害性のシナプス後電流(EPSC及びIPSC)を示し、グルタミン酸ニューロンとGABA介在ニューロンとの間の機能的ネットワークの形成を示唆している。更に、これらの細胞は、GABA作動性ニューロンと一緒に印刷すると、より多くのEPSC及びIPSCを受けた。これらの結果は、皮質突起ニューロン及びGABA作動性介在ニューロンの機能的成熟、並びに印刷された組織における機能的ニューラルネットワークの形成を確認した。
【0067】
全細胞パッチクランプ記録は、ヒトPSC由来の皮質グルタミン酸作動性ニューロン及びGABA作動性ニューロンから作成された。浴溶液は、135mMのNaCl、3mMのKCl、2mMのCaCl2、1mMのMgCl2、10mMのHEPES、11mMのグルコース、10mMのスクロース、pH7.4から構成された。記録ピペットを、120mMのD-グルコン酸カリウム、1mMのエチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)N,N,N’,N’-テトラ酢酸(EGTA)、10mMの4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸(HEPES)、4mMのATP-Mg、0.3mMのGTP-Na、10mMのホスホクレアチン、0.1mMのCaCl2、1mMのMgCl2、pH7.2、280~290mOsm/Lを含有する細胞内溶液で充填した。簡潔に述べると、ニューロンを-70mVに保持して、電圧クランプモデルを用いてNa+/K+チャネル活性を記録した。活動電位を記録するために、細胞を、電流クランプモデルを用いて、及び50pA~+50pAの注入電流のステップで、0pAに保持した。自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)及び自発性抑制性電流(sIPSC)を、ギャップフリーモードでそれぞれ-70mV及び0mVの保持電位で記録した。sEPSCは、グルタミン酸受容体拮抗薬6-シアノ-7-ニトロキノキサリン-2,3-ジオン(CNQX、10μM)及びD-(-)-2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸(D-APV、50μM)の適用によって遮断された。sIPSCは、GABAA受容体拮抗薬ビククリン(10μM)の適用によって遮断された。Olympus BX51WI顕微鏡を使用してニューロンを可視化した。MultiClamp 700B増幅器(Axon instruments、Molecular Devices、米国カリフォルニア州サニーベール)を使用して、電圧クランプ及び電流クランプ記録を調査した。Digidata 1550Bアナログデジタル変換器(Axon instruments)を使用して4kHZで信号を濾過し、さらなる分析のために保存した。データは、Camplfit 11.0.3(Axon instruments)、GraphPad Prism 5(GraphPad Software Inc.、La Jolla、米国カリフォルニア州)、CorelDraw 2019(Corel、カナダ)、Igor 4.0(WaveMetrics、Nakeo Oswego、米国オレゴン州)で分析された。
【0068】
適切なニューロンネットワーク機能は、星状細胞を含むグリアの存在を必要とする。次に、hPSC由来の星状細胞前駆細胞を、上記のグルタミン酸ニューロン及びGABA介在ニューロンに4:5:1の比率で組み込んだ。GFP
+細胞及びGFP
-細胞からなる二層組織も印刷され、各層は、
図16に示すように三つの細胞型を有していた。GFAP
+星状細胞及びMAP2
+ニューロンは、印刷された組織全体に分布した。
【0069】
ニューロン及び星状細胞の両方を有する印刷では、ニューロンの大部分は、
図15に示すように、印刷後30日目にNeuN
+ニューロン(>90%)となり、印刷された組織におけるニューロン成熟の強化を示した。特に、星状細胞は、より精緻なプロセスで漸進的に成熟したが、これは2D培養ではあまり見られない。GFAP染色は星状細胞のプロセスの広範な分岐を示したが、GFP標識化は微細なプロセス及びそのシートを明らかにした。特に、3D可視化は、星状細胞の分岐がmCherry
+ニューロンプロセスと絡み合ったことを示し、ニューロンと星状細胞の近接した相互作用を示唆した。
【0070】
星状細胞は、神経シグナルに応答してカルシウムシグナルを生成し、これがニューロンネットワークを調節することを可能にする。星状細胞が印刷されたニューラルネットワークに機能的に組み込まれるかどうかを決定するために、mCherry-ニューロンを、
図17に示される蛍光カルシウムセンサーであるGCaMP6に感染させた星状細胞で印刷した。ニューロンを脱分極する高濃度KCl溶液(67nM)の適用は、印刷された組織内の星状細胞においてカルシウム応答を誘発する。GCaMP6シグナルの合計ΔF/Fは、印刷後2~6週間に増加した。したがって、印刷された組織中のニューロン及び星状細胞は機能的に接続された。
【0071】
星状細胞の最も重要な機能の1つは、シナプス間隙に放出されるグルタミン酸のような神経伝達物質をリサイクルすることである。実際に、非着色hPSCから印刷された星状細胞は、
図16Eに示すように、印刷後40日目にGLT-1(グルタミン酸トランスポーター1)又は興奮性アミノ酸トランスポーター2(EAAT2)を発現し、星状細胞の成熟を示唆している。ニューロンと星状細胞との間のネットワークを、
図17に示すように、グルタミン酸インジケータiGluSnFRのライブイメージングを使用して調べた。再び、皮質ニューロンを誘発してグルタミン酸を放出するKCl溶液を適用すると、星状細胞におけるiGluSnFRシグナルが誘発された。iGluSnFRシグナルの合計ΔF/Fは、印刷後2~4週間に増加した。これらの観察は、星状細胞が印刷された組織内のニューロンから放出されたグルタミン酸を摂取することを示した。
【0072】
カルシウム及びグルタミン酸塩のライブイメージングを以下のように行った。簡潔に述べると、180日目のヒトPSC由来星状細胞前駆細胞を、Lenti-GCaMP6又はLenti-iGluSnFRに感染させた。3日後に、ウイルス感染星状細胞に、hPSC由来皮質前駆細胞及びMGE前駆細胞を4:5:1の比で印刷した。カルシウム又はグルタミン酸の撮像を、記載されたように行った(Sloan, S. A. et al. Neuron 95, 779-790 e776, doi:10.1016/j.neuron.2017.07.035 (2017))。簡潔に述べると、印刷された組織を低カリウムタイロード液(低KCl)(2mM KCl、129mM NaCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2、30mMグルコース、25mM HEPES、0.1%及びウシ血清アルブミン、pH7.4)で3回洗浄し、溶液と共に37℃で30分間インキュベートした。撮像時、試料を共焦点蛍光顕微鏡(A1、Nikon)の段階上に配置した。次いで、高カリウムタイロード液(高-KCl)(67mM KCl、67mM NaCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2、30mMグルコース、25mM HEPES、0.1%及びウシ血清アルブミン、pH7.4)を適用した。対照として、ウイルス感染星状細胞前駆細胞も単独で培養し、高KCl溶液を適用した。ImageJを以下の分析に使用した。蛍光変化は、ΔF/F(t)=(F0-F(t))/F0として定義され、式中、F0は、低KCl溶液中の試料のイメージング領域の平均蛍光強度であり、F(t)は、所与の時間での蛍光強度であった。印刷された組織のΔF/Fを、対照のΔF/Fの比較によって正規化した。
【0073】
実施例2:アレキサンダー病における印刷におけるニューロン-星状細胞の相互作用
印刷内の機能的神経グリアネットワークは、病理学的プロセスを調べるための理想的なモデルを提示する。一例として、アレキサンダー病(AxD)を、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)遺伝子の変異によって引き起こされる神経変性疾患であるニューロン-星状細胞の相互作用を、
図16に記載されるものと類似した印刷で評価した。この場合には、(グルタミン酸及びGABA)ニューロンは、正常なhESC(H9)に由来するのに対し、星状細胞は、AxD(R88C変異)又は同系(CRISPRによって補正された変異)iPSCのいずれかに由来する(Jones, J. R. et al. Cell Rep 25, 947-958 e944, doi:10.1016/j.celrep.2018.09.083 (2018))。印刷後、同系対照からのサンプルと比較して、AxD星状細胞は、
図18に示すように細胞内にGFAP凝集を示し、これはAxDの病理学的特徴を再現する。印刷されたAxD組織は、印刷後20日目に対照と比較して、GLT-1の発現が少ないことを示した。印刷の30日後までに、MAP2
+ニューロン及びGFAP
+星状細胞は、精緻なプロセス及びシナプシンの発現を有する複雑な形態を示した。興味深いことに、AxD組織は、同系の星状細胞を有する組織よりも有意に低減されたシナプス点密度を有し、シナプス形成に対するAxD星状細胞の支持効果が低いことを示唆している。
【0074】
以前には、AxD患者の星状細胞は、純粋な2D培養物においてカルシウム波を伝搬させることはできなかったことが示されている(Jones et al. Cell Rep 25, 947-958 e944, doi:10.1016/j.celrep.2018.09.083 (2018))。AxD星状細胞が神経機能に対する応答を変化させるかどうかを決定するために、
図19に示すように、GCaMP6に以前に感染させたAxD又は同系星状細胞と共に印刷物を使用した。脱分極を誘導することによってニューロン機能を刺激する高KCl(67nM)は、同系星状細胞において堅実なCa
+応答を惹起させた。対照的に、AxD星状細胞は、同系対照よりも有意に少ないカルシウム応答を示した。AxD星状細胞についてのGCaMP6シグナルの総ΔF/Fは、対照の経時的なものと比較して、KCl刺激後にはずっと低かった。AxDにおける神経グリア接続を、
図19に示すように、iGluSnFRによるグルタミン酸塩のライブイメージングを使用して調査した。高KClを用いたニューロン刺激時、AxD組織は、同系対照と比較して、iGluSnFRシグナルの変化が少ないことを示した。AxD星状細胞のiGluSnFRシグナルの総ΔF/Fは、同系組織のものと比較して、印刷後2~4週間で有意に低かった。これらの結果は、疾患に関連する機能的表現型が、印刷されたヒト神経組織において容易に表示されることを示す。
【0075】
ミクログリアはまた、
図20に示すように神経組織に印刷された。免疫染色は、ミクログリア、ニューロン、及び星状細胞が組織内で生存したことを示した。
【0076】
実施例3:機能的脳領域特異的組織の分化
本明細書に開示されるシステムを含む試薬及び方法を使用して、ヒト皮質線条体組織を作製し、皮質突起ニューロンをDARPP32+線条体中型有棘神経細胞で印刷することによって、ヒトの脳内の皮質線条体回路を模倣した。
【0077】
線条体DARPP32
+ニューロン又は中型有棘細胞を、Ma et al ., 2012 (Cell Stem Cell 10: 455.464)に記載されるように生成した。簡潔に述べると、40ng/mLの組換えヒトソニックヘッジホッグ(Shh C25II)N末端タンパク質(R&D Systems、カタログ番号464-SH-025/CF)を、二重SMAD(small mothers against decapentaplegic family)シグナル伝達 阻害剤治療の一週間後、7日目から25日目まで神経分化培地に加えた。25日目に、これらの線条体前駆細胞をバルプロ酸(VPA)(10μM、Sigma)で5日間処理し、単一線条体ニューロンを印刷用に調製した。これらの幹細胞由来の線条体ニューロンは、
図21a~cの免疫蛍光顕微鏡写真の後に示されるように、高レベルのDARPP32(>90%)を有するGABA、CAD67の発現を示した。
【0078】
ニューロンは、同じ脳領域で互いに連接するだけでなく、核又は層間で互いに結合する。印刷後、皮質ニューロンはGFPを発現し、mCherry及びDARPP32を発現する線条体ニューロンは、顕著な組織分離を示した。両方のニューロンタイプは、
図22bに示すように、2週間の印刷でMAP2の発現と共に成熟し、GFP皮質ニューロン及びmCherry線条体ニューロンをバイオプリントするための実験プロトコルを例示する。印刷された皮質及び線条体ニューロン層は、印刷後15日間良好に維持され、皮質ニューロンは線条体ニューロン層に向かって突出し、線条体ニューロンは、
図23bに示すように、皮質ニューロンドメインに向かってそれらのプロセスを拡張した。突出した皮質神経突起(軸索)は、線条体神経突起との物理的接触を形成し、接続の形成を示した。
【0079】
印刷された皮質組織中のニューロンが線条体組織中のニューロンと機能的シナプス結合を形成したかどうかを決定するために、皮質ニューロンはChR2-EYFPを発現して印刷され(Dong et al., 2020, iScience 23: 100829を参照)、線条体ニューロンは赤色カルシウム指示薬jRGECO1bを発現して印刷された(Dana et al., 2016, Elife 5)。470nm光の適用は、
図24に示すように、印刷の2週間後に線条体ニューロン層においてChR2-EYFP皮質ニューロンが誘発したカルシウム応答を刺激することが見出された。皮質層から遠い線条体ニューロンでさえも、カルシウム応答の増加を示した。
図24eに示すように、線条体ニューロン層全体のカルシウムシグナルの総ΔF/Fは、刺激と共に有意に増加し、皮質ニューロン層と線条体ニューロン層の機能的結合がこれらの印刷された組織で生成されたことを示唆している。
【0080】
印刷された皮質-線条体組織の機能的結合は、電気生理学的記録によって更に特徴付けられた。
図25aに示すように、皮質ニューロンはChR2-EYFPを発現して印刷され、線条体ニューロンはmCherryを発現して印刷された。ChR2刺激については、皿から5mmの光刺激繊維を置いた。光ファイバケーブルに結合されたカスタムメイドのLEDデバイス(1ワット、470nm、Cree lighting Inc.)を使用して、刺激を達成した。印刷された皮質線条体組織については、印刷後約5週間で、青色光刺激(ベースライン)前、青色光刺激(30~60秒、470nm、0.4mW/mm
2)前、及び青色光刺激後に、電圧クランプモード下で、自発的活動電位、EPSPS及びEPSCを記録した。印刷した皮質線条体組織中のmCherry線条体ニューロンを、記録のために無作為に選択した。
図25eに示すように、56%を超える線条体ニューロンが光刺激で応答を示した。また、EPSCの頻度は刺激と共に増加し、印刷された皮質線条体組織における機能的ネットワーク形成を示している。
【0081】
図26a~
図26dは、
図28の赤い矢印で示すように、印刷された皮質-筋組織が印刷の1か月後に収縮及び弛緩した筋細胞を示す。したがって、本発明による印刷された皮質-筋肉組織は、生物学的機能を示し、本発明は、複数の脳領域特異的組織を他の組織と組み立てて機能的結合を形成するために利用され得ることを示す。
【0082】
本明細書において言及されるすべての刊行物、特許、及び特許出願は、各個々の刊行物、特許、及び特許出願が、参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、同程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【0083】
当業者であれば、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記述される特定の実施形態に対する数多くの均等物を認識する、又は確認することができるであろう。本明細書に記載の本実施形態の範囲は、上記の記述に限定されることを意図するものではなく、むしろ添付の特許請求の範囲に記載の通りである。当業者であれば、以下の特許請求の範囲に定義される通り、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、本明細書に対する様々な変更及び修正を行うことができることを理解するであろう。当業者であれば、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記述される特定の実施形態に対する数多くの均等物を認識する、又は確認することができるであろう。本明細書に記載の本実施形態の範囲は、上記の記述に限定されることを意図するものではなく、むしろ添付の特許請求の範囲に記載の通りである。当業者であれば、以下の特許請求の範囲に定義される通り、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、本明細書に対する様々な変更及び修正を行うことができることを理解するであろう。
【国際調査報告】