(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】移植可能なポリマー内腔支持構造を予備形成する方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/86 20130101AFI20241018BHJP
【FI】
A61F2/86
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530421
(86)(22)【出願日】2022-11-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2022081263
(87)【国際公開番号】W WO2023094158
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521435950
【氏名又は名称】ステンティット ベスローテン フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Stentit BV
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100145791
【氏名又は名称】加藤 志麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】サンダース,バート
(72)【発明者】
【氏名】フォン バスム,ゴロ
(72)【発明者】
【氏名】トロメレン,マリア アリダ アントニア
(72)【発明者】
【氏名】リショーコ,アルトゥロ ミグエル
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA47
4C267BB26
4C267BB39
4C267BB40
4C267CC08
4C267GG02
4C267HH08
4C267HH17
(57)【要約】
本発明は、体内への送達および配置のための移植可能なポリマー内腔支持構造(20)を予備形成する方法であって、
- ポリマー繊維で作られた微小繊維管状構造(10)を形成するステップであり、前記微小繊維管状構造(10)が第1の直径を有する、ステップ、および
- 微小繊維管状構造(10)を第2の直径まで圧縮するステップであり、前記第2の直径が第1の直径より小さい、ステップ
を含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内への送達および配置のための移植可能なポリマー内腔支持構造(20)を予備形成する方法であって、
- ポリマー繊維で作られた微小繊維管状構造(10)を形成するステップであり、前記微小繊維管状構造(10)が第1の直径を有する、ステップ、および
- 前記微小繊維管状構造(10)を第2の直径まで圧縮するステップであり、前記第2の直径が前記第1の直径より小さい、ステップ
を含む、方法。
【請求項2】
圧縮が、前記ポリマー繊維の融解転移温度(T
m)より下の温度、好ましくは前記ポリマー繊維のガラス転移温度(T
g)またはその付近、より好ましくは室温で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
圧縮が、34℃から43℃の範囲、好ましくは約37℃の生理学的中心部体温で行われることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
圧縮が、約20%から100%の湿度レベルを有する環境で行われることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
圧縮が、水溶液中で行われることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶液が:
- 水、
- 等張水;
- 生理食塩水、または
- リン酸緩衝生理食塩水
の中から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
圧縮が、湿潤した微小繊維管状構造(10)の圧縮を行うことを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記微小繊維管状構造(10)を圧縮後、解放前に、圧縮状態のままにするステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記微小繊維管状構造(10)を圧縮状態のままにする前記ステップが、水溶液中に浸漬された状態で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
- 前記水溶液からエレクトロスピニングされた微小繊維管状構造(10)を取り出すステップ、および
- 前記圧縮状態のまま維持しながら、前記微小繊維管状構造(10)をガラス転移温度(T
g)より下の温度まで冷却するステップ
をさらに含むことを特徴とする、請求項3、5または6および9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマー繊維から空気が除去されて、水溶液と置換されるように、圧縮の前に、前記水溶液、好ましくは水に浸漬した状態で、前記微小繊維管状構造(10)に高い遠心力を与えるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記高い遠心力が、約15000×gの相対遠心力でおよそ30秒間、適用されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
圧縮が、前記微小繊維管状構造(10)をカテーテルアセンブリのバルーンに取り付けるため、または前記微小繊維管状構造(10)を送達シースに装填するために、行われることを特徴とする、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記内腔支持構造(20)が、エレクトロスピニングによって得られるステント(20)であることを特徴とする、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
圧縮前の第1の形態と圧縮後の第2の形態とを有し、圧縮が請求項1から14のいずれか1項に記載の方法によって行われる、微小繊維管状構造(10)。
【請求項16】
前記微小繊維管状構造(10)が:
(i)圧縮前の前記第1の形態において前記微小繊維管状構造(10)の第1の直径を有する第1の状態であり、微小繊維ネットワークが、第1の繊維分散と第1の主角度差とによって特徴付けられる第1の繊維配向、および第1の平均繊維直径によって決定される、第1の状態、ならびに
(ii)圧縮後の前記第2の形態において前記微小繊維管状構造(10)の第2の直径を有する第2の状態であり、前記微小繊維ネットワークが、第2の繊維分散と第2の主角度差とによって特徴付けられる第2の繊維配向、および第2の平均繊維直径によって決定される、第2の状態
を区別し、前記微小繊維管状構造体(10)の前記第2の直径が、微小繊維管状構造体(10)の前記第1の直径よりも小さいことを特徴とする、請求項15に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項17】
前記微小繊維ネットワークが、ランダムな繊維配向シナリオに従って編成され、前記第1の繊維分散が前記第2の繊維分散よりも小さいことを特徴とする、請求項15に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項18】
前記微小繊維ネットワークが、制御された繊維配向シナリオに従って編成され、前記第1の主角度差が、前記第2の主角度差と等しいか、またはそれよりも小さいことを特徴とする、請求項15に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項19】
圧縮前の前記第1の形態において、前記ネットワークを形成するポリマー繊維が、円周方向に整列した形態に従って編成されることを特徴とする、請求項15から18のいずれか1項に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項20】
圧縮前の前記第1の形態において、前記微小繊維管状構造(10)が100mm以下の内径を有することを特徴とする、請求項15から19のいずれか1項に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項21】
前記微小繊維管状構造(10)が、圧縮後の前記第2の形態において、圧縮前の前記第1の形態よりも増加した壁厚を有することを特徴とする、請求項15から20のいずれか1項に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項22】
圧縮後の前記第2の形態において、前記微小繊維管状構造(10)が、圧縮前の前記第1の形態と実質的に同じ長さを有することを特徴とする、請求項15から21のいずれか1項に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項23】
前記ポリマー繊維が生分解性材料、好ましくは結晶性または半結晶性の生分解性材料を含むことを特徴とする、請求項15から22のいずれか1項に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項24】
前記ポリマー繊維が:
- ポリ(L-乳酸)のポリマー、
- ポリ(D-ラクチド)、
- ポリ(DL-ラクチド)、
- ポリグリコリド、
- ポリカプロラクトン、または
- それらの組み合わせ
の中から選択されるポリマー材料を含むことを特徴とする、請求項15から23のいずれか1項に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項25】
前記ポリマー繊維が:
- ポリ(L-ラクチド/DL-ラクチド)、
- ポリ(L-ラクチド/D-ラクチド)、
- ポリ(L-ラクチド/グリコリド)、
- ポリ(L-ラクチド/カプロラクトン)、
- ポリ(DL-ラクチド/グリコリド)、または
- それらの組み合わせ
のコポリマーを含むポリマー材料を含むことを特徴とする、請求項24に記載の微小繊維管状構造(10)。
【請求項26】
前記結晶性または半結晶性ポリマー材料が、ヒトの生理学的中心部体温より上のガラス転移温度(T
g)を有することを特徴とする、請求項23から25のいずれか1項に記載の微小繊維管状構造体(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば再生心血管インターベンションにおける使用のための移植可能なポリマー内腔支持構造、例えばステントおよび/またはスキャフォールドの技術分野に属する。
【0002】
特に、本発明は、体内、例えば血管などの身体内腔内への送達および配置のための移植可能なポリマーステントを予備形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
米国特許第10,813,777号明細書は、拡張時に再編成され、支柱または支柱パターンを必要とせずに直径の拡大に対応し、生体管に一時的な支持を提供することができる、生体吸収性ポリマー繊維ネットワークで作られた管状ステントを開示している。さらに、再編成された繊維ネットワークが、拡張した状態で、細胞浸潤のスキャフォールドとして機能し、自己組織の形成を促進できるステントが提供されている。
【0004】
心血管インターベンションでは、ステントなどの移植可能な内腔支持構造が、低侵襲的に送達可能なスキャフォールドとして機能し得る。
【0005】
身体内腔内への送達および配置の目的で、小さな直径の初期的な公称形態を有するステントを使用することが知られており、このステントは配置後に(例えば、バルーンの膨張に伴って)拡張される。
【0006】
しかしながら、この既知のアプローチには、内腔支持構造、特にポリマーステントが、配置および膨張後に、初期のより小さな公称形態に戻る傾向があるという欠点がある。
【0007】
解決策として、身体内腔(例えば、血管)内の標的部位に配置された後に有し、かつ維持されるべきサイズに応じてステントを製造し、その後、配置の目的でステントをより小さな直径に圧縮させることが知られている。
【0008】
特に、ステントの直径を低減させる半径方向の圧縮を加える圧縮デバイスを使用して、ステントに圧縮処置が施される。
【0009】
次に、ステントが身体内腔内の所望の標的部位に配置された後、ステントの直径は、例えば自己拡張またはバルーンを膨張させることによって半径方向に拡張される。
【0010】
圧縮デバイスは、当該技術分野で公知であり、バルーン拡張型ステントの場合には、通常、ステントをそのようなバルーン上で圧縮するために、内腔内にカテーテルアセンブリのバルーンを含んでいる。ステントはデバイスの中央に配置され、次に半径方向の圧縮を適用して圧縮が行われ、これは、ステントの直径を所望のサイズに縮小し、ステントをカテーテルアセンブリのバルーン上にしっかりと取り付けることを可能とする。
【0011】
ステントの送達および配置は、通常、カテーテルの一端の周りにステントを配置し、カテーテルの前記一端を身体内腔(例えば、血管)内に挿入し、カテーテルを標的部位まで前進させ、標的部位でステントを拡張し、そして最後にカテーテルを内腔から取り外すことによって達成される(米国特許第8298466号明細書)。
【0012】
ステントは、その構造に構造的および/または機能的な損傷を与えることなく、圧縮および拡張を可能としなければならない。
【0013】
さらに、標的部位に配置された後、ステントに負荷および力が配置後に作用しても、ステントはそのサイズと形状を維持する必要がある。
【0014】
例えば、血管の標的部位に配置され拡張された後、ステントは、心臓の拍動または体内の(特に脚または他の末梢における)動脈の動きによって誘発される周期的な負荷以外にもさらに、血管の壁によって及ぼされる半径方向の力に耐える必要がある。
【0015】
米国特許第8298466号明細書は、身体内腔の壁に対する機械的支持能力が改善されたステントを製造する方法であって、生体吸収性ポリマー管をチャンバー内に配置するステップ;管を超臨界状態の流体と接触させるステップであり、流体がポリマー管に含浸される、ステップ;流体が亜臨界状態になるように該チャンバー内の条件を調節して、管内に多孔質構造を形成するステップ;ならびに多孔質構造の形成中に管の半径方向の拡張を低減または防止するステップを含む、方法を開示している。
【0016】
米国特許第2017348124号明細書は、スキャフォールドなどの医療デバイスを均一に圧縮および拡張する方法を開示している。カテーテルバルーンは、事前に編成されたバルーンのひだが実質的に除去されるよう、圧縮前に比較的高い圧力で加圧される。その後、バルーンが膨張状態に達すると、スキャフォールドの直径が約50%(またはそれ以上)に低減されるまで、スキャフォールドがバルーンに圧縮される。この時点で、バルーンの損傷を避け、小さなクロッシングプロファイルを達成するために、バルーンの圧力が緩和される。
【0017】
米国特許第2017252191号明細書は、ポリマーでコーティングされたステントをバルーンカテーテル上で圧縮する方法を開示している。ステントは、金属ステントでも、ポリマーとラパマイシン誘導体薬剤とを含むコーティングを有する生体吸収性ポリマーステントでもよい。圧縮は、相対湿度45%~55%、温度25度超の環境下で行われ、ステントが圧縮装置によってバルーン上に圧縮され、縮められたと見なされるまで湿度が維持される。
【0018】
しかしながら、まだ改善の余地がある。
【0019】
特に、ステントなどの内腔支持構造が、配置後にそのサイズおよび形状を維持する能力を向上させ、身体内腔、例えば血管の壁に対する前記構造の付着性を向上させ、それによって配置後の望ましくない変位の危険性を防止する必要性がある。
【発明の概要】
【0020】
この目的は、請求項1に記載の移植可能な内腔支持構造を予備形成する方法の提供によって達成される。
【0021】
したがって、体内への送達および配置のための移植可能なポリマー内腔支持構造を予備形成する方法であって、
- ポリマー繊維の微小繊維管状構造を形成するステップであり、微小繊維管状構造が第1の直径を有する、ステップ、および
- 微小繊維管状構造を第2の直径まで圧縮するステップであり、第2の直径が第1の直径より小さい、ステップ
を含む、方法が提供される。
【0022】
特に、本発明は、体内、特に血管などの身体内腔内への送達および配置のための、移植可能な内腔支持構造を予備形成する方法を提供する。
【0023】
内腔支持構造は、例えば、ポリマー微小繊維ステントであり得る。
【0024】
管状構造は、好ましくは、マイクロメートルまたはナノメートル範囲のポリマー繊維のネットワークで作られている。特に米国特許第10,813,777号明細書を参照。
【0025】
特に、管状構造は、エレクトロスピニングによって得られるステントであり得る。
【0026】
本発明は、ポリマー繊維から作られる内腔支持構造を提供することにより、配置された後には、部位にある際にそれに作用する負荷および力にかかわらず、そのサイズおよび形状を維持する能力を向上させた改良型の移植可能な構造(例えば、ポリマーステント)を得ることが可能であるという、基本的な概念に基づいている。前記構造はさらに、それが配置される身体内腔、例えば血管の壁に付着する改善された能力を示す。
【0027】
特に、主要な概念は、ステント構造などの支持構造が、より大きな第1の直径から、より小さな第2の直径へと圧縮されるというものである。例えば、米国特許第10,813,777号明細書に記載されているようなステント構造は、形状記憶性を有しており、すなわち、水または他の物質の存在など、特定の温度および環境要因によって初期形状へと戻る(ことができる)。これにより、移植後にステント構造が初期形態(血管の内壁に付着するように配置され、膨張される前の形態)に戻る傾向があるという状況(これは、ステント構造がより小さな直径に戻り、よって、血管内でその位置を維持できなくなることも意味し得る)が防止される。
【0028】
本発明の基本的な概念によれば、ステントは初期的に公称の長さおよび直径を備え、その後、より小さな直径へと圧縮され、その後、配置のために使用される。配置の際に、ステントはその公称直径、つまり通常の長さおよび直径へと戻る。このサイズおよび形態で、それは血管内の移植部位に設置される。ステント構造が公称状態および形態に戻ることを引き起こし得る温度、吸水量、およびその他の影響因子のさらなる影響は、ステントが既にその公称状態で移植および配置された状態にあるため、これ以上ステントの収縮を引き起こし得ない。
【0029】
本発明者らは、完全ポリマー微小繊維構造(ステント)で、ステント固有の反動という問題を目の当たりにした。ここで、ステントは(本発明に係る方法に付されることなく)、まず小さな直径の形態で作られ、膨らませられ、そして上昇した生理学的温度(発熱条件)に曝された。その後、ステントはその小さな公称直径の形態に戻った。ステントには「形状記憶効果」の欠陥があり、水性環境下で生理学的温度の上昇に曝されると、公称形態に戻ろうとするようである。これは、バルーンを取り除いた後にステントが小さくなり、そのために、ステント自体が動脈内において狭窄を引き起こすという問題を導いた。解決策として、本発明者らは、ステントが移植部位であるべきサイズ(新たな公称状態)で提供されるべきであることに気づいた。それから、ステントが圧縮され、その後、膨張されて高温に曝されると、ステントは再びその初期状態に戻ろうとするが、今度は直径がより大きくなる。このようにすると、ステントは移植部位で収縮しない。これは既に、研究室において確認され、証明されている。こうすることで、形状記憶効果を引き起こす要因が適用される場合に、ステント構造がいかなる場合でも圧縮前の形状に戻るように、構造に影響が与えられ得る。また、プロセス中に望ましくない不可逆的な構造の変化または材料の変化が生じないことも助ける。
【0030】
好ましくは、圧縮は、前記ポリマー繊維のガラス転移温度(Tg)またはその付近で行われる。この温度範囲では、ステント構造およびその材料の形状記憶が、非常に良好に設定され得る。
【0031】
より好ましくは、圧縮は室温で行われる。
【0032】
例えば、圧縮は34℃から43℃の範囲の温度で行われ得る。
【0033】
特に、圧縮は好ましくは、約37°(すなわち、健康なヒト対象の体温程度)で行われ得る。
【0034】
本方法を実施するには、いわゆる公称生理学的条件における温度範囲が好ましい。こうすることで、移植後にも適用される温度範囲において、本方法により材料が処理されることが保証される。
【0035】
有利には、圧縮は約20%から100%の湿度レベルを有する環境で行われ得る。
【0036】
例えば、圧縮は水溶液中で行われ得る。しかしながら、水溶液が存在しない乾燥状態で圧縮のステップを実行することも可能である。
【0037】
例えば、圧縮は、湿潤した微小繊維管状構造の圧縮を行うことを含み得る。
【0038】
水溶液を加えるか、または特定の湿度で本方法を実施することは、材料のガラス転移温度(Tg)を低下させる影響を生じさせ、それにより、ステントを圧縮する能力の向上の観点から得られるステントの構造的特徴をさらに強化することができる。
【0039】
特に、前記水溶液は水であり得る。試験では、通常の飲料水が使用された。ヒトの溶質の生理学的条件に適合する等張水、生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水を使用することも可能である。
【0040】
本方法はさらに、微小繊維管状構造を、圧縮後、解放前に、圧縮状態のままにすることを含み得る。これは、圧縮による繊維の弛緩を可能にする。
【0041】
圧縮が水溶液(例えば、水)中で行われる場合、微小繊維管状構造を圧縮状態のままにする前記ステップは、前記水溶液中に浸漬された状態で行われ得る。
【0042】
さらに、圧縮が比較的高温(例えば、34°から43°の範囲、好ましくは37°付近)の水溶液中で行われる場合、本方法は:
- 前記水溶液から微小繊維管状構造を取り出すステップ、および
- 圧縮状態のまま維持しながら、微小繊維管状構造をガラス転移温度(Tg)より下まで冷却するステップ
を含み得る。
【0043】
その後は、圧縮負荷を解放することができ、微小繊維管状構造を乾燥させる。
【0044】
あるいは、圧縮負荷を解放する前に、微小繊維管状構造を乾燥させてもよい。
【0045】
例えば、エレクトロスピニングされた管状構造の乾燥(圧縮負荷の解放前または解放後のいずれか)は、圧縮空気を用いて実施され得る。
【0046】
ステントのなどの支持構造は通常、疎水性のポリマー材料でできた多孔質構造を含む。
【0047】
したがって、水または血液などの体液に曝されても、空気が前記多孔質構造に捕捉されたままとなり、水または体液の浸透を抑制する。
【0048】
本発明者らは、圧縮前に微小繊維管状構造を湿潤させることが、繊維状メッシュの再編成を容易にし、膨張をより簡単にすることから、有益であることを見出した。さらに、材料の構造の浸潤は、構造への細胞の侵入を促進して容易にし、構造内に閉じ込められて移植後に放出される空気の塞栓を防ぎ、コーティングを支持し、または医薬品の担体としても使用され得る。さらに、湿潤はステント構造全体が均質なステント拡張特性を持つのに役立つ。
【0049】
本開示において本明細書に記載のポリマー繊維で作られたステント構造は、驚くべきことに、初期状態に戻る傾向があり、このような形状記憶性を有することが、本発明者らによって見出された。これは特に、「乾燥」ガラス転移温度(Tg)と「浸潤」ガラス転移温度(Tg)との違いに関連している。使用されるポリマーは体温より上のTgを有する。これは、体温ではポリマーがガラス状態にあることを意味し、材料が硬く、脆く、そして強いことを意味する。ステント構造には主に微小な繊維が使用されるため、ステント構造に使用される繊維の水和に水が強く影響し得る。水分子が繊維内のポリマー鎖に干渉し始めると、これはポリマーのTgの急激な低下を導き得る。それが進行すると、Tgは生理学的な体温に達するまで低下する。ここで、ポリマーはガラス転移からゴム状態に移行する。これは、ポリマー鎖が再び自由に動くことを可能とする。次に何が起こるかというと、これにより、圧縮による変形によって引き起こされ蓄積された応力および歪みが消散し得、それにより、初期の歪みや応力のない(またはより最適な)開始形態へと戻る。
【0050】
これは、ステント構造が乾燥しており、乾燥Tg未満の温度に曝される限り、それが圧縮を維持することも説明する。しかし、構造体が湿気を帯びるとすぐに、Tgが低下し、「形状記憶」効果を取り戻す。
【0051】
この目的のために、本方法は、エレクトロスピニングされたポリマー繊維のネットワークから空気が除去されて、水溶液と置換されるように、圧縮前に、水溶液、好ましくは水に浸漬した状態で、微小繊維管状構造に高い遠心力を与えることをさらに含み得る。
【0052】
特に、前記水溶液は水であり得る。
【0053】
高い遠心力は、例えば15000×gの相対遠心力(RCF)でおよそ30秒間、適用され得る。
【0054】
圧縮は、管状構造がカテーテルアセンブリの拡張可能なバルーンの周囲に既に装着された状態で行われる。このようにして、すぐに移植および配置できる製品の製造プロセスが大幅に強化される。いずれにしても、ステント構造をバルーン上に配置するには、ある種の圧縮などが必要となる。そのため、バルーンカテーテルの寸法の設定とバルーンへの装着を統合する圧縮ステップは1回のみである。そのため、バルーンカテーテルデバイスにステントを取り付けるために、圧縮法が使用され得る。いずれにせよ、ステントがバルーン上でしっかりと圧縮されていることが重要である。そのため、圧縮後、ステントは保存期間または体内への送達の間に(徐々に)拡張してはならない。また、狭く、粗く、石灰化した病変部を通して押し込む際、または導入デバイスを通してそれを前進させる際の「取り外し力」に十分に耐えられるように、それはしっかりと固定されているべきである。これは上で説明したような方法で達成される。
【0055】
本発明はさらに、請求項15の特徴を有する微小繊維管状構造を提供する。
【0056】
微小繊維管状構造は、圧縮前の第1の形態と圧縮後の第2の形態とを有し、圧縮は上述の方法によって行われる。
【0057】
特に、前記微小繊維管状構造は:
(i)圧縮前の第1の形態において微小繊維管状構造(10)の第1の直径を有する第1の状態であり、微小繊維ネットワークが、第1の繊維分散と第1の主角度差とによって特徴付けられる第1の繊維配向、および第1の平均繊維直径によって決定される、第1の状態、ならびに
(ii)圧縮後の第2の形態において微小繊維管状構造(10)の第2の直径を有する第2の状態であり、微小繊維ネットワークが、第2の繊維分散と第2の主角度差とによって特徴付けられる第2の繊維配向、および第2の平均繊維直径によって決定される、第2の状態
を区別してもよく、微小繊維管状構造の第2の直径は、微小繊維管状構造の第1の直径よりも小さい。
【0058】
微小繊維ネットワークは、ランダムな繊維配向シナリオに従って編成され得る。
【0059】
この場合、第1の繊維分散は第2の繊維分散よりも小さい。
【0060】
あるいは、微小繊維ネットワークは、制御された繊維配向シナリオに従って編成されてもよい。
【0061】
この場合、第1の主角度差は第2の主角度差と等しいか、それよりも小さい。
【0062】
あるいは、微小繊維ネットワークは、制御された繊維配向とランダムな繊維配向のシナリオの組み合わせに従って編成されてもよい。
【0063】
あるいは、微小繊維ネットワークは、制御された繊維配向もしくはランダムな繊維配向、またはその両方の組み合わせの複数の層で構成されてもよい。
【0064】
有利には、圧縮前の第1の形態において、ネットワークを形成するポリマー繊維は、円周方向に整列した形態に従って編成される。
【0065】
微小繊維管状構造が、標的部位に配置された後、元の状態に再拡張されると、ポリマー繊維の同じ編成が得られる。
【0066】
これは、微小繊維管状構造の耐負荷能力の増強と、天然に近い組織形成を可能にする。特に、細胞が構造の繊維に沿って整列して、同じ方向に組織成分(例えばコラーゲン)を産生し、天然の形態に似せることができる。
【0067】
圧縮前の第1の形態において、微小繊維管状構造は100mm以下の内径を有し得る。
【0068】
圧縮後の第2の形態において、微小繊維管状構造は、圧縮前の第1の形態よりも増加した壁厚を有し得る。
【0069】
そして、標的部位への配置後に元の状態に再拡張されると、微小繊維管状構造の壁厚は再び減少する。
【0070】
さらに、圧縮後の第2の形態において、微小繊維管状構造は、圧縮前の第1の形態と実質的に同じ長さを有し得る。
【0071】
したがって、本発明によれば、微小繊維管状構造の壁厚は、第1の形態と第2の形態との間で変化し得るが、微小繊維管状構造の長さは、実質的には変化しないままである。
【0072】
移植可能なポリマーステントの材料は、生体適合性ポリマーであり得る。生体適合性ポリマー繊維材料は、特に:
- 生体吸収性ポリマー(例えば、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D-ラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド)を含むポリ乳酸(PLA)、ならびにポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(エステルアミド)(PEA)、ポリウレタン、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン、ならびにポリ(L-ラクチド/DL-ラクチド)、ポリ(L-ラクチド/D-ラクチド)、ポリ(L-ラクチド/グリコリド)、ポリ(L-ラクチド/カプロラクトン)、ポリ(DL-ラクチド/グリコリド)などのそれらのコポリマー、
- 非生体吸収性材料(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアリールエーテルケトン、ナイロン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリブテスター、シリコーン、またはそれらのコポリマーなど)、
- 生物学的成分(ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、アルギン酸、アロエ/ペクチン、セルロース、または自己由来、アレルギー由来、異種由来のいずれかの組織に由来するその他の生物学的物質など)、
- または、それらの組み合わせ
を含み得るが、これらに限定されるものではない。
【0073】
有利には、ポリマー繊維は、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D-ラクチド)、ポリグリコリド、またはポリ(DL-ラクチド)、ポリ(ラクチド-co-グリコール酸)、もしくはポリ(DL-ラクチド-co-グリコール酸)のいずれかであるコポリマーの形態のそれらの組み合わせを含み得る。
【0074】
特に、前記結晶性または半結晶性ポリマー材料は、生理学的中心部体温より上のガラス転移温度(Tg)を有し得る。
【0075】
本発明のさらなる詳細および利点が、図面に関連して以下に開示される。
【0076】
それは以下において示される:
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】
図1a:本発明の実施形態による圧縮ステップを行う前と後の移植可能な内腔支持構造、特にステント;
図1b:
図1aと同様な図であるが、異なる視点から見た図;
【
図2】圧縮後、前記微小繊維管状構造に圧縮負荷をかけたまま、それが室温に冷却された状態;
【
図3】
図3a~3e:高い遠心力を適用することによって微小繊維管状構造から空気を除去し、微小繊維管状構造を水溶液で水和させる手順;
【
図4-1】
図4a~4f:前記ポリマー繊維がランダムな繊維配向シナリオに従って配置される例示的な実施形態における、圧縮前の第1の形態、圧縮後の第2の形態のそれぞれにおける、微小繊維管状構造を形成するポリマー繊維の編成の異なる図;
【
図5】
図5a~5b:前記ポリマー繊維が制御された繊維配向シナリオに従って配置される例示的な実施形態における、圧縮前の第1の形態、圧縮後の第2の形態のそれぞれにおける、微小繊維管状構造を形成するポリマー繊維の編成の異なる図;
【
図6】
図6a~6c:ランダムな繊維配向シナリオに従ってポリマー繊維が配置された場合において、圧縮前の第1の形態から圧縮後の第2の形態に移行する際にポリマー繊維の主角度と分散がどのように変化するかを示す、顕微鏡で得られた画像に基づく画像解析;
【
図7】
図7a~7c:制御された繊維配向シナリオに従ってポリマー繊維が配置された場合において、圧縮前の第1の形態から圧縮後の第2の形態に移行する際にポリマー繊維の主角度と分散がどのように変化するかを示す、顕微鏡で得られた画像に基づく画像解析;
【
図8】ステント固有の反動の問題(先行技術)に関する模式図;
【
図9】本発明によるステントの固有の拡張に関する模式図;
【
図11】ポリマーのガラス転移温度T
gに関する図。
【発明を実施するための形態】
【0078】
本発明は、体内、特に血管などの身体内腔内への送達および配置のための、移植可能なポリマー内腔支持構造20を予備形成する方法を提供する。
【0079】
本実施例において、前記内腔支持構造20はステント20である。
【0080】
例えば、ステント20はエレクトロスピニングによって得られ得る。
【0081】
「ステント」については、標的部位での配置後、自己拡張またはバルーン拡張に伴い、身体内腔、例えば血管に構造的支持を与えるための構造が意図されている。
【0082】
本方法は、エレクトロスピニングされたポリマー繊維のネットワークで作られる微小繊維構造10を形成するステップであって、前記管状構造10が第1の直径を有する、ステップを含む。本方法はさらに、そのようにして得られた微小繊維管状構造(10)を第2の直径まで圧縮するステップであって、前記第2の直径は、第1の直径より小さい、ステップを含む。
【0083】
図1aおよび
図1bは、それぞれ配置前の第1の形態のステント20と、配置のための第2の形態のステント20を示しており、ここで、ステント20を形成する微小繊維管状構造10がより小さな直径に圧縮されている。
【0084】
本発明は、配置後にそのサイズおよび形状を維持する能力が向上しており、一旦配置されると身体内腔、例えば血管の壁により良好に付着し、それにより望ましくない変位の発生を防止するステント20などの改良された内腔支持構造20を得ることを可能とする。
【0085】
圧縮は、前記ポリマー繊維の融解転移温度(Tm)より下の温度、好ましくは前記ポリマー繊維のガラス転移温度(Tg)またはその付近、より好ましくは室温で行われ得る。
【0086】
特に、圧縮は34℃から43℃の範囲、好ましくは約37℃の温度で行われ得る。
【0087】
圧縮は約20%から100%の湿度レベルを有する環境で行われ得る。
【0088】
本実施形態では、圧縮は水溶液中で行われる。
【0089】
本実施形態では、前記水溶液は水であり、例えば、水道水または飲料水である。
【0090】
特に、本実施形態では、圧縮は前記水溶液中で34℃から43℃の範囲の温度で行われる。
【0091】
好ましくは、圧縮は前記水溶液中で約37℃、すなわち健康なヒトの体温に近い温度で行われる。
【0092】
微小繊維管状構造10は、圧縮後、解放前に、圧縮状態のままにさせられる。
【0093】
これは、圧縮によるポリマー繊維の弛緩を可能にする。
【0094】
本実施形態では、微小繊維管状構造10を圧縮状態のままにするステップは、前記水溶液中に浸漬された状態で行われる。
【0095】
特に、本実施形態では、圧縮は前記水溶液中において比較的高温で行われる。
【0096】
特に、本実施形態では、本方法はさらに:
- 前記水溶液から微小繊維管状構造10を取り除くステップ、および
- 微小繊維管状構造10を圧縮状態に維持したまま室温で冷却させるステップ。
を含む。
【0097】
「比較的高い温度」については、34℃から43℃の範囲、好ましくは約37°(すなわち、健康なヒトの体温)の温度が意図されている。
【0098】
「室温」については、約20°の温度が意図されている。
【0099】
図2は、微小繊維管状構造10が、圧縮後、圧縮負荷が前記構造体10に依然として作用している間に、室温(例えば約20°)で冷却された状態を示している。
【0100】
圧縮前に微小繊維管状構造10を湿潤させることは、繊維状メッシュの再編成を容易にし、膨張をより簡単にすることから、有益である。
【0101】
図3a~3eは、高い遠心力を適用することによって微小繊維管状構造10から空気を除去し、微小繊維管状構造10を水溶液で水和させる手順を示している。
【0102】
特に、本実施形態では、ポリマー繊維から空気が除去されて、水溶液と置換されるように、圧縮前に、水溶液、好ましくは水に浸漬した状態で、微小繊維管状構造10は、高い遠心力を与えられる。
【0103】
図示の実施形態(
図3a~3e)において、微小繊維管状構造10(
図3a)は、前記水溶液(
図3b~3c)が充填されたバイアル12に浸漬され、次いで、水溶液(
図3d)に浸漬された状態で高い遠心力を受ける。
【0104】
例えば、前記高い遠心力は、約15000×gの相対遠心力でおよそ30秒間、適用され得る。
【0105】
微小繊維管状構造10は、その後、バイアル12の底に沈んだ状態(これは、繊維中に存在する空気が水溶液とほぼ完全に置換されたことを意味する)になるまで、バイアル12内で維持される(
図3e)。
【0106】
本発明はさらに、圧縮前の第1の形態と圧縮後の第2の形態とを有し、圧縮が上述の方法を実施することによって得られる、微小繊維管状構造10を提供する。
【0107】
本発明によれば、前記微小繊維管状構造は:
(i)圧縮前の第1の形態において微小繊維管状構造10の第1の直径を有する第1の状態であり、微小繊維ネットワークが、第1の繊維分散と第1の主角度差とによって特徴付けられる第1の繊維配向、および第1の平均繊維直径によって決定される、第1の状態、ならびに
(ii)圧縮後の第2の形態において微小繊維管状構造10の第2の直径を有する第2の状態であり、微小繊維ネットワークが、第2の繊維分散と第2の主角度差とによって特徴付けられる第2の繊維配向、および第2の平均繊維直径によって決定される、第2の状態
を区別し、第2の直径は第1の直径よりも小さい。
【0108】
1つの実施形態において、ポリマー繊維はランダムな繊維配向シナリオに従って編成され得る(
図4a~4f)。
【0109】
図4a~4fは、繊維がランダムな配向に従って配置されている場合における、配置前の第1の形態におけるポリマー繊維の編成、および配置のための第2の形態をそれぞれ示している。
【0110】
第1の繊維分散は第2の繊維分散よりも小さい。
【0111】
特に、圧縮前の第1の形態では、管状構造10は、繊維が整列しており、拡大された直径を有する。方向性ヒストグラムは、1つの好ましい配向を囲む狭いピーク領域を描写している(
図6a)。これはσの値が低下し、aの値が90度(ここでは円周方向)に近づくことによって捕捉される。繊維の整列を証明するために、繊維の分散の程度が、圧縮前の第1の形態におけるσ(σ1)と、圧縮後の第2の形態におけるσ(σ2)とを比較することによって定量化される(
図6a~6b)。
【0112】
身体内腔内の標的部位に配置されると、ステント20は(自然に、またはバルーンによる膨張時のいずれかに)再拡張されて、繊維が実質的に整列した元の状態になる。
【0113】
代替的な実施形態において、ポリマー繊維は、制御された繊維配向シナリオに従って編成されてもよい(
図5a~5b)。
【0114】
図5a~5bは、配置前の第1の形態(
図5a)、配置のための第2の形態(
図5b)のそれぞれにおけるポリマー繊維の編成を示している。第1の主角度差は第2の主角度差と等しいか、それよりも小さい。
【0115】
配置前の第1の形態(
図5a)において、管状構造10は拡大された直径を有する。方向性ヒストグラムは、円周方向の整列を示す90度に近い2つの狭いピークを描写している(
図7a)。
【0116】
有利には、圧縮前の第1の形態において、ポリマー繊維は円周方向に整列した形態に従って編成され得る。
【0117】
ステント20が標的部位に配置された後、元の状態に再拡張されると、ポリマー繊維の同じ編成が得られる。
【0118】
圧縮前の前記第1の形態において、微小繊維管状構造10は、100mm以下の内径を有し得る。
【0119】
圧縮後の第2の形態において、微小繊維管状構造10は、圧縮前の第1の形態よりも増加した壁厚を有する。
【0120】
さらに、圧縮後の第2の形態において、微小繊維管状構造は、圧縮前の第1の形態と実質的に同じ長さを有する。このことは、
図1aに示されているように、圧縮前後のステント20を観察すれば明らかである。
【0121】
つまり、管状構造10の壁厚は、第1の形態と第2の形態との間で変化するが(「スポンジ効果」による)、その一方、管状構造10の長さは実質的に不変のままである。
【0122】
有利には、ポリマー繊維は、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D-ラクチド)、ポリグリコリド、またはポリ(DL-ラクチド)、ポリ(ラクチド-co-グリコール酸)、もしくはポリ(DL-ラクチド-co-グリコール酸)のいずれかであるコポリマーの形態のそれらの組み合わせを含み得る。
【0123】
ステント20はバルーンカテーテルのバルーンの上に取り付けられ得る。
【0124】
その後、ステント20が身体内腔内の標的部位に配置されると、バルーンが膨張されて、ステント20の直径を元の形態へと再拡張させる。
【0125】
バルーンが収縮しても、ステント20は収縮することなく、その拡張した形態を維持する。
【0126】
あるいは、ステント20は自己拡張可能であってもよい。
【0127】
また、この場合、その元の形態に再拡張された後、ステント20は収縮することなく、拡張された形態を維持する。
図8は、従来技術によるステント100のステント固有の反動の問題に関する模式図である。
【0128】
ここで、ステント100は、例えば、従来技術に記載されているようにして提供され、エレクトロスピニングされたポリマー材料で作られている。初期状態(
図8の左側を参照)の直径は、膨張状態(
図8の中央と左側の部分を参照)におけるものよりも小さい。
【0129】
37度ではステント100はその形状を維持する(
図8の右上部分を参照)。
【0130】
温度が37度以上の場合、ステント100はその初期直径に反動する、すなわち、その初期状態へと戻る傾向を示すという問題を示し得る(
図8の右下部分を参照)。
【0131】
図9は、本発明に係るステント20を用いた、本発明に係るステント固有の拡張に関する模式図である。
【0132】
図9の左側に示されているように、ステント20のステント直径は、圧縮前の方が大きいが、壁厚は小さい。圧縮により、ステント20は初期状態に比べて直径が小さくなり、壁厚が増加する(
図9の中央と左側の部分を参照)。ステント20はその後、配置の際にバルーンカテーテルのバルーンによる膨張によって初期の直径へと戻る(
図9の右中段参照)。これも基本的にステント20の初期状態であるこの状態のままとなる(
図10の右側部分を参照)。
【0133】
図10は、
図8に示したステント固有の反動の例を示している(
図10の上部を参照)。ステント100の初期状態は直径1.2mmである。その後、それは膨張され、直径2.0mmとなる。47℃の温度でステント100は反動を受け、直径1.2mmへと戻ることが見出された。
【0134】
図10はまた、その下部に
図9によるステント固有の拡張も示している。ステント20の初期状態は直径2.0mmである。その後、それは圧縮され、直径1.2mmに縮小される。その後、それは膨張され、直径2.0mmとなる。47℃の温度でステント20は反動を示さず、したがって、直径2.0mmに留まることが見出された。
【0135】
図11は、ポリマーのガラス転移温度Tgに関する図を示している。左の部分とその図において、上の曲線は結晶性ポリマーの挙動を、下の曲線は非晶性ポリマーの挙動を示している。右側の部分に示されているように、Tg未満ではポリマーは配向構造を示すが、Tgを超えるとポリマーはランダムな配向を示す。
【符号の説明】
【0136】
10 微小繊維管状構造
12 バイアル
20 移植可能なポリマー内腔支持体(ステント)
100 ステント(先行技術)
【国際調査報告】