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▶ フォンダチオーネ イエッレチチエッセ イスティテュート ナチオナーレ デイ ツモリの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】アルファ-葉酸受容体に対する抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20241018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241018BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024546361
(86)(22)【出願日】2022-10-17
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2022078842
(87)【国際公開番号】W WO2023066866
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】21425051.6
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524149230
【氏名又は名称】フォンダチオーネ イエッレチチエッセ イスティテュート ナチオナーレ デイ ツモリ
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィジニ、マリアンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】カネヴァーリ、シルヴァーナ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
(57)【要約】
α-葉酸受容体に高い特異性を有し、かつ、腫瘍の治療またはα-葉酸受容体の発現の増加を伴う他の疾患の治療に医学的に関心のあるものである新しい抗体が、記載される。本発明のすべての抗体は、VH領域およびVL領域に同じ6つの特定のCDRを共有し、これら6つのCDRは、本発明において配列番号:1~6によって定められ、α葉酸受容体特異性を担う。1つの実施形態において、Aタイプと同定されるこれら抗体のサブグループが、α-葉酸受容体への結合の長期にわたる持続期間によってさらに特徴づけられ、また、さらなる実施形態において、いくつかのアミノ酸修飾を伴いかつBタイプとして同定される別のサブグループが、ヒトの治療に対する高められた適合性によって、また特徴づけられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルファ葉酸受容体(FRα)に対するモノクロナール抗体であって、
以下のCDR、
配列番号:1によって定められる、VHCDR1、
配列番号:2によって定められる、VHCDR2、
配列番号:3によって定められる、VHCDR3、
配列番号:4によって定められる、VLCDR1、
配列番号:5によって定められる、VLCDR2、および
配列番号:6によって定められる、VLCDR3、
を含み、
配列番号:7によって定められるVHおよび配列番号:8によって定められるVLを有する抗体を除く、
モノクロナール抗体。
【請求項2】
Hが120個のアミノ酸を含みかつ以下の表1に記載の条件のうちの少なくとも10個の条件をさらに満たし、かつ、VLが107個のアミノ酸を含みかつ以下の表2に記載の条件のうちの少なくとも8個の条件をさらに満たす、請求項1記載のモノクロナール抗体。
【表1】
【表2】
【請求項3】
Hは、前記表1の条件のうちの少なくとも14個の条件を満たし、かつVLは、前記表2の条件のうちの少なくとも11個の条件を満たす、請求項2記載の抗体。
【請求項4】
前記VHにおいて以下のさらなる条件を含む、ヒトの治療に対する改善された適合性を有する請求項2~3記載の抗体。
【請求項5】
前記VLにおいて以下のさらなる条件を含む、ヒトの治療に対する改善された適合性を有する請求項2~3記載の抗体。
【請求項6】
ヒトの治療に対する改善された適合性を有する、請求項4および5の両方に記載の抗体。
【請求項7】
Hは、配列番号:9によって定められ、VLは、配列番号:10によって定められる、請求項3記載の抗体。
【請求項8】
Hは、配列番号:11によって定められ、VLは、配列番号:12によって特定められる、請求項6記載の抗体。
【請求項9】
一本鎖抗体である、請求項1~8記載の抗体。
【請求項10】
腫瘍、またはFRαの細胞発現の増加によって特徴づけられる他の疾患に有効な基質に結合された形態である、請求項1~9記載の抗体。
【請求項11】
請求項1~10記載の抗体を含む医薬組成物。
【請求項12】
治療における使用のための、請求項1~10記載の抗体。
【請求項13】
腫瘍、またはFRαの細胞発現の増加によって特徴づけられる他の疾患の治療における使用のための、請求項1~10記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの治療における使用のための抗体の分野に関し、α-葉酸受容体(FRα)に特に向けられる抗体であって、腫瘍ならびに当該受容体の活性および発現に関連している他の疾患の治療において有用性を有する抗体の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
葉酸受容体α(FRα)は、メトトレキサートおよびペメトレキセドなどの細胞内葉酸代謝を標的とする薬の開発の成功の後数十年、抗がんターゲットとして焦点が当てられてきた。FRαへの結合は、葉酸が細胞に取り込まれるいくつかの方法のうちの1つである;この受容体は、卵巣がん、肺がん、および乳がんなどの固形腫瘍の領域において過剰発現するので、魅力的な抗がん剤の創薬標的である。さらにその上、抗体薬物複合体、低分子薬物複合体、放射性免疫複合体、および、より最近では、キメラ抗原受容体T細胞などのプラットフォームを用いて効果的な抗がん剤治療をそれらの標的腫瘍に対してより良くローカライズするためにFRαを使用することは、FRαを過剰発現するがんの患者のアウトカムをさらに改善できる(Scaranti et al Nat Rev Clin Oncol 2020 Jun;17(6):349-359)。FRαは、効果予測バイオマーカーの研究に役立てることもできる。
【0003】
FRαは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合タンパク質であり、上皮性卵巣癌腫(EOC)のうちの90%超、胸膜中皮腫のような中胚葉由来のさまざまな腫瘍においても症例のうちの50%超で、過剰発現されている(Salazar. M.D. et. al., Cancer Metastasis Rev. 2007 Mar; 26(1): 141-52)。がんにおけるFRαの機能は十分に理解されてはいないが、その過剰発現は、高められた腫瘍攻撃性に関連付けられ(Toffoli G et al., Int J Cancer. 1998 Apr 17;79(2):121-6.; Elnakat H et al., Adv Drug Deliv Rev. 2004 Apr 29;56(8):1067-84)、がん細胞への葉酸の供給を高めることによって増殖優位性を付与し得る(Bottero F et al., Cancer Res. 1993 Dec 1;53(23):5791-6)。
【0004】
葉酸受容体α(FRα)は、多くの理由により有効な抗がん剤の標的である。これらの理由には、特定のがんの悪性組織における過剰発現と相まった非悪性組織における制限された発現、これにより、FRαを、抗体、抗体薬物複合体(ADC)、二重特異性抗体(Canevari S. et al Cancer Immunol Immunother. 1997 Nov-Dec;45(3-4):187-9)、またはキメラ抗原受容体(CAR)T細胞(Song DG et al. Blood. 2012 Jan 19;119(3):696-706; Song et al. Cancer Res. 2011 Jul 1;71(13):4617-27)などの複数のプラットフォームを用いる可能な標的とする、葉酸などの非生理的な葉酸塩に対する高いレベルの親和性、これにより、葉酸複合体を用いてそれを標的可能にすること、および、FRαを過剰に発現するがん細胞におけるシグナル伝達物質および生存促進シグナル伝達への、限られた程度でのその関与、が含まれる。
【0005】
3つのマウス・モノクロナール抗体(mAbs)が、2つの独立した研究グループによって開発された:卵巣腫瘍細胞に高い親和性を有する、MOv18およびMOv19(Miotti S et al., Int J Cancer. 1987 Mar 15;39(3):297-303)、ならびに、LK26(Garin-Chesa P et al., Am J Pathol. 1993 Feb;142(2):557-67)、である。これらの抗体およびそれらの誘導体が、抗体に基づく多くの試験において、現在使用されている。すべてのこれらのmABsは、FRαに向けられるが、MOv18によって認識されるエピトープは、MOv19およびLK26によって認識されるエピトープとは異なる。MOv18およびMOv19に関して、最初は、それらは、腫瘍レベルで放射性同位体を標的にする能力について評価され(Gadina M et al., Int J Rad Appl Instrum B. 1991;18(4):403-8.; Coliva A et al., Cancer Immunol Immunother. 2005 Dec;54(12):1200-13; Zacchetti A et al., Nucl Med Biol. 2009 Oct;36(7):759-70.)、その後、MOv18およびMOv19のいくつかの異なる誘導体が、さまざまな治療応用において評価された。mAbであるLK26は、前臨床試験において、皮下異種移植腫瘍モデルにおける生体内での抗腫瘍活性について評価された(Ebel W et al., Cancer Immun. 2007 Mar 9;7:6.)が、マウス由来であったために、その臨床試験は行われなかった。マウスmAbsの治療上の使用における第1の制限するものは、それらタンパク質配列の免疫原生である。実際に、これらのmABsは、後に続く治療応用のあいだにmABsの効果を低減させるヒト抗マウス抗体(HAMA)と呼ばれる免疫原生応答を引き起こし得る。第2の制限するものは、ヒトにおける比較的より速いクリアランスによる治療効果の低減であり、この治療効果の低減は、HAMA応答によって潜在的に改善される。第3は、マウスmAbsが比較的弱いエフェクター機能を示すことであり、エフェクター細胞または補体タンパク質をリクルートするその能力が、ヒトmABsと比べて低減される(Presta L.G., Adv Drug Deliv Rev. 2006 Aug 7;58(5-6):640-56)。これらの制限するものを克服するために、キメラmAbsが設計され、それらは、マウスmAbsよりも低い免疫原生を示すけれども、当該キメラバージョンは、抗キメラmAb応答を引き起こすことができる。ヒト化は、治療用mAbsの潜在的な免疫原生の低減へと導くことができる方法のうちの1つである。ファルレツズマブは、LK26のヒト化されたバージョンであり、元のマウスmAbと類似したFRαに対する高い親和性を有する試薬であり、ADC抗体として、現在、臨床試験中である(Shimizu T et al. Clin Cancer Res. 2021 Jul 15;27(14):3905-3915)。
【発明の概要】
【0006】
FRαに対する高い特異性を有し、抗腫瘍治療に有用であり、かつ、FRαの発現が増大した細胞に関連する他の疾患の治療のための、モノクロナール抗体の新しいグループが、今、特定される。本発明のすべての抗体は、それらのVH鎖またはVL鎖の内部に位置しかつ配列番号:1~6によって特定される以下の6つの相補性決定領域(CDR)によって特徴づけられる。前述の6つのCDRを含む例示する抗体は、以下のように定められる:
抗体I)配列番号:9によって定められるVHと、配列番号:10によって定められるVLと、を有し、コードしている対応するヌクレオチド配列は、配列番号:13および配列番号:14として提供される。
抗体II)配列番号:11によって定められるVHと、配列番号:12によって定められるVLとを有する。
【0007】
上記した6つのCDRを含むモノクロナール抗体は、FRαに対する特異性を示す:それらのペプチド構造、およびそれらのためのヌクレオチド配列のコードは、上記の技術においては決して開示されなかった。本願のモノクロナール抗体の好ましいサブグループは、本明細書において、「Aタイプ」と呼ばれ、時間延長されたFRαへの結合というさらなる利点を示す:この特徴は、CDR駆動型受容体特異性(即ち、標的細胞を非標的細胞と区別する能力)とは異なりかつ当該特異性に付加的であり、予想外に高い結合強度を意味する;この向上は、VH鎖およびVL鎖において特異的なアミノ酸を導入することによって、上記のCDRの外側に位置する領域において、即ち、CDRを修飾することなく、得られる。
【0008】
開発において、Aタイプの抗体は、上記CDRの外側に位置するVH鎖および/またはVL鎖の他の部分において、即ち、CDRを修飾することなく、さらに修飾され、ヒト治療に対する向上された適合性を得る;抗体のこのサブグループは、本明細書においては、「Bタイプ」と定義される。
【0009】
本明細書において報告される抗体の結合の高い特異性および改善されたカイネティクスは、一本鎖の形態(scFv)などの一価の抗体フラッグメントとして可変ドメインを使用する可能性とともに結果として生じる。scFvは、それらの標的(本明細書においては、腫瘍細胞の表面に発現されるFRα)に達するように腫瘍をよりよく貫通することができるので、エフェクター細胞のリクルートが必要でなければ、scFvの使用は、それらの縮小された大きさのために、関心のある抗腫瘍薬を運ぶのに理想的に適している。それにもかかわらず、本発明は、一本鎖抗体に限定されないが、標準的な免疫グロブリンにおける対応する可変ドメイン抗体も対象とする:これらは、それらの二価特性のために、FRαに対するさらにより高い特異性を有すると期待される。
【0010】
本発明は、治療における使用のための、および、特に、FRαの発現の増加を伴う他の疾患はもちろん腫瘍の治療のための上記したモノクロナール抗体に適用される。本発明は、本明細書に記載されるようなモノクロナール抗体を含む医薬組成物も含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A(i)】抗体I、FAb-MOv18、FAb-MOv19についてのFACS試験からの結果である。
図1A(ii)】抗体I、FAb-MOv18、FAb-MOv19についてのFACS試験からの結果である。
図1B(i)】抗体I、FAb-MOv18、FAb-MOv19についてのFACS試験からの結果である。
図1B(ii)】抗体I、FAb-MOv18、FAb-MOv19についてのFACS試験からの結果である。
図2(i)】抗体I、およびFAb-MOv18についてのBiacore結合試験からの結果であり、(A)は、50~0.4nMでの希釈における抗体IのFRαについてのカイネティクスである。
図2(ii)】抗体I、およびFAb-MOv18についてのBiacore結合試験からの結果であり、(B)は、50~0.4nMでの希釈における一価のMOv18のFRαについてのカイネティクスである。
図2(iii)】抗体I、およびFAb-MOv18についてのBiacore結合試験からの結果であり、(C)は、200nMの濃度での抗体Iの結合(青いレーン)とFab-MOv18の結合(緑のレーン)との比較である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
標準的な知識に従って、用語「モノクロナール抗体」は、本明細書において、分子量が高いペプチドであって、場合によっては3次元免疫グロブリン構造を有し、特定の抗原標的に対する特異性を有するペプチド、を指す。本抗体に対する関心のある抗原標的は、FRαである。本抗体は、可変の高分子量の鎖(VH)と可変の低分子量の鎖(VL)とを含む可変領域(Fv)、を含む。それらは、定常の高/低分子量の鎖(CH/CL)を含む定常領域、を含むことも可能であり、定常領域は、抗体の標準的な配座に応じて構造が与えられかつ配置される。本記載において、それぞれのペプチド鎖を構成するアミノ酸の番号付けは、標準的な累進的なものである、即ち、n個のアミノ酸を含むペプチド鎖に対して1からnまで変動する。
【0013】
本発明の抗体は、本明細書において、FRαに対する特異性を担うそれらの可変領域部分によって特徴づけられる。それらは、それらのVHおよびVL領域に含まれるそれらの6つのCDRによって一般的に定められ、以下の配列番号:1~6によって同定される。
配列番号:1によって定められる、VHCDR1;
配列番号:2によって定められる、VHCDR2;
配列番号:3によって定められる、VHCDR3;
配列番号:4によって定められる、VLCDR1;
配列番号:5によって定められる、VLCDR2;
配列番号:6によって定められる、VLCDR3。
【0014】
HCDR1は、好ましくは、抗体のVHフレームワーク1とVHフレームワーク2との間に位置する。
【0015】
HCDR2は、好ましくは、抗体のVHフレームワーク2とVHフレームワーク3との間に位置する。
【0016】
HCDR3は、好ましくは、抗体のVHフレームワーク3とVHフレームワーク4との間に位置する。
【0017】
LCDR1は、好ましくは、抗体のVLフレームワーク1とVLフレームワーク2との間に位置する。
【0018】
LCDR2は、好ましくは、抗体のVLフレームワーク2とVLフレームワーク3との間に位置する。
【0019】
LCDR3は、好ましくは、抗体のVLフレームワーク3とVLフレームワーク4との間に位置する。
【0020】
上記に言及されたVHフレームワーク1、2、3およびVLフレームワーク1、2、3は、IMGT/Collier-de-Perles(ドメインV)の標準的な抗体構造に従って定められるものである(Ruiz M, et al. Immunogenetics. 2002)。
【0021】
本モノクロナール抗体は、一本鎖、または古典的免疫グロブリン構造、を有することが可能であり、たとえば、古典的IgGフォーマットで変形される可変ドメインを含む:一本鎖コンフォメーションにおける場合には、6つのCDRが、1個存在し;それが古典的免疫グロブリン構造にあれば、それらは、2個存在する。
【0022】
6つのCDRによって定められるモノクロナール抗体が、本発明の主要な実施形態に相当する。これら抗体には、配列番号:7によって定められるVHと配列番号:8によって定められるVLとによって特徴づけられる抗体Mov18は、含まれない。
【0023】
上記のCDRの外側にあるVH鎖とVL鎖の特定の位置において特定のアミノ酸を含みかつ本明細書において「Aタイプ」として定義される本抗体のサブグループは、FRαへの長期にわたる結合という付加的な予期しない性質を示す。VHが120個のアミノ酸を含みかつ以下の表1に記載の条件のうちの少なくとも10個の条件を満たし、かつ、同時に、VLが107個のアミノ酸を含みかつ以下の表2に記載の条件のうちの少なくとも8つの条件を満たす、という点で、これらAタイプの抗体は、特徴づけられる。
【表1】
【表2】
【0024】
好ましい変形例において、Aタイプの抗体は、表1および2のより多くの数の条件を満たし、特に:
Hは、表1の条件のうちの少なくとも14個の条件を満たし、かつVLは、表2の条件のうちの少なくとも11個の条件を満たすか、
Hは、表1の条件のうちの少なくとも15個の条件を満たし、かつVLは、表2の条件のうちの少なくとも12個の条件を満たすか、
Hは、表1の条件のうちの少なくとも16個の条件を満たし、かつVLは、表2の条件のうちの少なくとも13個の条件を満たすか、
Hは、表1の条件のうちの少なくとも17個の条件を満たし、かつVLは、表2の条件のうちの少なくとも14個の条件を満たすか、あるいは
Hは、表1の全ての条件を満たし、かつVLは、表2の全ての条件を満たす。
【0025】
これらの基準を満たす、本明細書において抗体Iと呼ばれる好ましい抗体は、配列番号:9(VH)と配列番号:10(VL)とによって特徴づけられる。
【0026】
本抗体に導入されるときに、また、Aタイプの修飾が、抗体に、ヒト有機体との高められた程度の適合性を付与し、したがって、ヒトの治療において使用される時に自己免疫応答を生成するリスクは、伴ったとしても低いか、またはそのリスクを伴わない。
【0027】
好適な実施形態において、Aタイプの抗体は、さらにより高い程度のヒト適合性を得るそれらのVH鎖およびVL鎖の非CDR領域において、さらに修飾される。本明細書において「Bタイプ」のものと定義される抗体のこのサブグループは、VHにおいては表3の以下の修飾、および/または、VLにおいては表4の以下の修飾、を含む。
【表3】
【表4】
【0028】
好ましくは、Bタイプの抗体には、表3の修飾、および表4の修飾、の両方が含まれる。これらの基準を満たす、本明細書において抗体IIと呼ばれる好ましい抗体は、配列番号:11(VH)と配列番号:12(VL)とによって特徴づけられる。
【0029】
本発明のさらなる目的は、治療における使用のための、特に、FRαの発現の増加を伴う任意の他の疾患はもちろん腫瘍の治療のための上記したモノクロナール抗体を提供することである。標的とする好ましい腫瘍は、卵巣悪性腫瘍(たとえば、上皮性卵巣癌腫(EOC))、および、中胚葉由来の腫瘍(たとえば、胸膜中皮腫)である。標的とする非限定的なさらなる腫瘍は、卵巣、子宮、および子宮頸部の非粘液性腺癌、精巣絨毛癌、トロホブラスト腫、上衣脳腫瘍、喉頭上皮腫瘍、下垂体腺癌、結腸、腎、乳腺、肺、および腎臓の腫瘍、などである。
【0030】
本発明のさらなる目的は、FRαの発現の増加を伴う疾患に対して治療効果のある基質との本抗体の複合体である;当該複合体は、FRαへの基質の標的とする配送に有用であり;可能な基質に関して、制限はない:それは、たとえば、薬物分子、細胞または細胞成分、ナノ粒子、など、であり得る;一般には、上記の薬物分子は、抗腫瘍薬物分子である。
【0031】
本発明は、抗体または本明細書に記載されるようなその複合体を含む医薬組成物も、含む。
【0032】
本発明およびその効果は、以下の非限定的な例によって、今回説明される。
【0033】
実験項
1.FACS解析
一次抗体MOv18(配列番号:7~8)またはMOv19、および抗体I(ScFv 配列番号:9~10)(10μg/ml)の一価の形態(Fabs)が、100μlのPBS+0.03%のBSAにおいて腫瘍細胞(5×105)に添加され、当該混合物は、30分間氷の上で培養された。結合が、(マウスの中で生成された)二次抗体の抗-Hisタグによって、氷上で30分間検出された。すべての抗体の結合が、Alexa488結合抗マウス抗体を用いて、氷上30分間で示された。各サンプルに対して、5000個の細胞が、DIVAソフトウェアを用いたFACS Cantoによって、解析された。スコアが、サンプルの平均蛍光と二次抗体のみの平均蛍光との比率として算出された。結果が図Iに提示される:試験された全ての抗体が、FRαに対する特異性を示すことが理解できる。
【0034】
2.Biacore結合試験
Biacoreは、生体分子相互作用の特性評価のための、表面プラズモン共鳴に基づく器具であり(Jason-Moller L et al Curr Protoc Protein Sci. 2006 Sep; Chapter 19: Unit 19.13)、今回の場合、抗体、FRα.MOv18Fab(配列番号:7~8)、および抗体I(ScFv、配列番号:9~10)が、試験された。カイネティックス解析は、BIACORE T200機器を用いて行われた。400RUのFRαが、アミンカップリングキットを用いてCM5センサチップに共有結合され、10mMの酢酸ナトリウム中5μg/mlの抗原濃度が用いられた。残りの活性基は、1.0Mのエタノールアミン pH8.5の注入によってブロックされた。50から0.4nMの異なる濃度の抗体IまたはFab’MOv18が、30μl/分の流量で解析され、結合カイネティクスを決定するために、少なくとも5分間の解離が進行させられた。残りの結合は、10mMのグリシン-HCl pH2.7を用いて、引き離された。それぞれの親和性は、Biacore T200評価ソフトウェアを用いて、結合曲線から推定された。
【0035】
結果が、図2に提示される:解離後180秒では、抗体Iは、MOv18FAbと比べてはるかにゆっくりとした解離カイネティクスを示した。特に、300秒時点で、抗体Iの結合は、まだ、プラトーの約75%であった一方で、MOv18FAbの結合は、ほぼゼロであった。さらに興味深いことに、300秒時点の後、抗体Iの結合は、プラトーにまだ匹敵するレベルで定常状態に達し、抗体Iははるかにより強力でほとんど永久的な結合能力を示した一方で、MOv18FAbは結合能力を全く示さなかった。したがって、両方の抗体が、有用なFRα特異性を共有するけれども、抗体Iは、この受容体に対するはるかにより高い結合強度を示し、このことが、それを、この受容体の発現の増大によって特徴づけられる疾患の治療に対する改善された候補にする、ことが示される。
【0036】
3.ヒト化
ヒトへの適合性を高めるために、修飾が、抗体Iに導入された。抗体II(配列番号:11~12)を結果として生じる以下の修飾、
H:11-V;65-Q;67-R;82-E;
L:24-Q;71-F;
は、抗体の構造的なコンフォメーションと、結果として生じるその結合プロファイルと、を維持しながら「大規模なレパトアデータに機械学習の手法を用いた抗体のヒト化」(Marks C et al Bioinformatics. 2021 Jun 10:btab434)に従って測定された適合性を高める際に、最適であることが判明した。
【0037】
配列表

配列番号:1 V H CDR1
DYIFTNYD

配列番号:2 V H CDR2
IDPRSGKS

配列番号:3 V H CDR3
ATMYYYGSSPPMDY

配列番号:4 V L CDR1
QDINNF

配列番号:5 V L CDR2
YTS

配列番号:6 V L CDR3
QQSSTIPRT

配列番号:7 V H Mov18

QVQLQQSGAELARPGASVKLSCKASDYIFTNYDITWVKQRPGQGLEWIGEIDPRSGKSYYNEKFKGKSTLTADKSSSTAYMELRSLTSEDSAVYFCATMYYYGSSPPMDYWGQGTSVTVSRRE

配列番号:8 V L Mov18

DIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDINNFLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTIINLEQEDIAIYFCQQSSTIPRTFGQGTKLEIK

配列番号:9 V H 抗体I

QVQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASDYIFTNYDITWVRQAPGQGLEWMGEIDPRSGKSYYNEKFKGKSTLTADKSVSTAYLQISSLKAEDTAVYFCATMYYYGSSPPMDYWGQGTTVTVS

配列番号:10 V L 抗体I

DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDINNFLNWYQQKPGKAPKLLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYTFTISSLQPEDIATYFCQQSSTIPRTFGQGTKLEIK

配列番号:11 V H 抗体II

QVQLVQSGSEVKKPGASVKVSCKASDYIFTNYDITWVRQAPGQGLEWMGEIDPRSGKSYYNEKFQGRSTLTADKSVSTAYLEISSLKAEDTAVYFCATMYYYGSSPPMDYWGQGTTVTVS

配列番号:12 V L 抗体II

DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDINNFLNWYQQKPGKAPKLLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYFCQQSSTIPRTFGQGTKLEIK

配列番号:13 V H 抗体I(コードしているヌクレオチド配列)

CAGGTGCAGCTGGTGCAATCTGGGTCTGAGTTGAAGAAGCCTGGGGCCTCAGTGAAAGTTTCCTGCAAGGCTAGCGACTACATCTTCACTAACTATGACATAACCTGGGTGCGACAGGCCCCTGGCCAGGGGCTTGAGTGGATGGGAGAGATTGATCCTAGGAGTGGTAAGAGTTATTATAATGAGAAATTCAAGGGCAAGTCCACACTGACTGCAGACAAATCTGTCAGCACGGCATATCTGCAGATCAGCAGCCTAAAGGCTGAGGACACGGCCGTGTATTTCTGTGCGACAATGTACTACTACGGCTCGAGCCCCCCTATGGACTACTGGGGTCAAGGAACCACTGTCACCGTCTCC

配列番号:14 V L 抗体I(コードしているヌクレオチド配列)

GATATCCAGATGACCCAGAGTCCAAGCAGCCTGAGTGCTAGCGTGGGAGATCGCGTGACCATCACGTGTAGGGCCAGTCAGGACATTAACAATTTTTTAAACTGGTACCAGCAGAAGCCTGGTAAGGCTCCAAAGCTGCTGATCTACTACACCTCGAGATTACACTCAGGAGTGCCATCTCGCTTCAGCGGTTCTGGAAGCGGTACCGACTATACCTTCACCATCAGCAGCCTCCAGCCTGAGGATATCGCTACGTACTTCTGTCAACAGAGTAGTACGATTCCTAGGACGTTCGGACAGGGAACCAAGCTGGAAATCAAG
図1A(i)】
図1A(ii)】
図1B(i)】
図1B(ii)】
図2(i)】
図2(ii)】
図2(iii)】
【配列表】
2024539490000001.xml
【国際調査報告】