(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】癌微小環境
(51)【国際特許分類】
C12N 5/09 20100101AFI20241018BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20241018BHJP
C12N 5/095 20100101ALI20241018BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20241018BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20241018BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20241018BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20241018BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20241018BHJP
C12M 3/02 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C12N5/09
C12M3/00 A
C12N5/095
C12N5/078
C12N5/071
C12N5/079
C12N5/0786
C07K14/78
C12M3/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024547946
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 GB2022052717
(87)【国際公開番号】W WO2023073362
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524157785
【氏名又は名称】カルシノテック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】マルホトラ,イシャニ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB11
4B029EA18
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065BB18
4B065BB19
4B065BC47
4B065CA44
4B065CA46
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
本開示は、癌微小環境などのインビボ環境を模倣することができる構築物、特にバイオプリンティング構築物に関する。本開示はまた、そのような構築物を作製するための方法およびキットにも及ぶ。構築物は、薬物開発、薬物スクリーニング、および/または製剤の臨床評価のためのモデルとして特定の用途を見出し得る。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビボ癌環境などのインビボ環境を模倣するための構築物であって、以下の各々のうちの少なくとも1つを含む構築物:
(a)癌細胞;
(b)癌幹細胞;
(c)癌関連線維芽細胞;および任意に、
(f)特定の微小環境を提供するための特殊な細胞型。
【請求項2】
以下のうちの1つ以上をさらに含む、請求項1に記載の構築物:
(e)支持細胞;
(g)免疫細胞;および/または
(h)内皮細胞。
【請求項3】
細胞外マトリックスをさらに含む、請求項1または2に記載の構築物。
【請求項4】
前記癌細胞が、脳癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、前立腺癌細胞、結腸直腸癌細胞、卵巣癌細胞、膵癌細胞、皮膚癌細胞、骨癌細胞などから選択される、上記の請求項のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項5】
前記癌幹細胞が、脳癌幹細胞、肺癌幹細胞、乳癌幹細胞、前立腺癌幹細胞、結腸直腸癌幹細胞、卵巣癌幹細胞、膵癌幹細胞、皮膚癌幹細胞、骨癌幹細胞などから選択される、上記の請求項のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項6】
前記癌関連線維芽細胞が、脳癌関連線維芽細胞、肺癌関連線維芽細胞、乳癌関連線維芽細胞、前立腺癌関連線維芽細胞、結腸直腸癌関連線維芽細胞、卵巣癌関連線維芽細胞、膵癌関連線維芽細胞、皮膚癌関連線維芽細胞、骨癌関連線維芽細胞などから選択される、上記の請求項のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項7】
(a)が神経膠芽腫であり、(b)が神経膠芽腫癌幹細胞であり、(c)が神経膠芽腫癌関連線維芽細胞である、上記の請求項のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項8】
前記支持細胞が、上皮細胞および星状膠細胞から選択される、請求項2~7のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項9】
特定の微小環境を提供するための前記特殊な細胞型が、ミクログリア細胞および脂肪細胞から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項10】
前記免疫細胞が、リンパ球、マクロファージなどから選択される、請求項2~9のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項11】
神経膠芽腫、神経膠芽腫癌幹細胞、神経膠芽腫癌関連線維芽細胞、星状膠細胞およびミクログリア細胞を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項12】
乳癌細胞、乳癌幹細胞、乳癌関連線維芽細胞および脂肪細胞(ヒト脂肪細胞など)を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項13】
前記構築物が、細胞集団を含み(または細胞集団から形成され)、各細胞型が、前記インビボ癌微小環境を模倣する構築物の成長および/または発達を容易にするおよび/または促進する割合で含まれる、上記の請求項のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項14】
以下を含むか、または以下から形成される、上記の請求項のいずれか一項に記載の構築物:
(i)前記細胞集団の約20%~90%、約30%~80%、約40%~70%、約45%~65%、もしくは約50%~60%の量の癌細胞;
(ii)前記細胞集団の約0.5%~5%、約1%~2.5%、もしくは約2%の量の癌幹細胞;
(iii)前記細胞集団の約2.5%~15%、約5%~10%、もしくは約2.5%~7.5%の量の癌関連線維芽細胞;
(iv)前記細胞集団の約0%~30%、約10%~20%、もしくは約15%の量の支持細胞;および/または
(v)前記細胞集団の約10%~50%、約20%~40%、約25%~30%、もしくは約28%もしくは約23%の量の、特定の微小環境を支持するための特殊な細胞。
【請求項15】
以下を含む細胞集団を含むか、または以下を含む細胞集団から形成される、上記の請求項のいずれか一項に記載の構築物:
(a)約60%の癌細胞(例えば、神経膠芽腫細胞);
(b)約2%の癌幹細胞(例えば、神経膠芽腫癌幹細胞);
(c)約10%の癌関連線維芽細胞(例えば、神経膠芽腫癌関連線維芽細胞);および
(e)特定の微小環境を提供するための約28%の特殊な細胞型(例えば、ミクログリア)。
【請求項16】
以下を含む細胞集団を含むか、または以下を含む細胞集団から形成される、請求項1~15のいずれか一項に記載の構築物:
(a)約50%の癌細胞(例えば、神経膠芽腫細胞);
(b)約2%の癌幹細胞(例えば、神経膠芽腫癌幹細胞);
(c)約5%の癌関連線維芽細胞(例えば、神経膠芽腫癌関連線維芽細胞);
(d)約15%の支持細胞(例えば、星状膠細胞);および
(e)特定の微小環境を提供するための約28%の特殊な細胞型(例えば、ミクログリア)。
【請求項17】
以下を含む細胞集団を含むか、または以下を含む細胞集団から形成される、請求項1~14のいずれか一項に記載の構築物:
(a)約70%の癌細胞(例えば、トリプルネガティブ乳癌細胞などの乳癌細胞);
(b)約2%の癌幹細胞(例えば、乳癌幹細胞);
(c)約5%の癌関連線維芽細胞(例えば、乳癌関連線維芽細胞);および
(d)約23%の特殊な細胞型(例えば、ヒト脂肪細胞などの脂肪細胞)。
【請求項18】
前記細胞外マトリックスが、アルジネート系材料(例えば、アルギン酸ナトリウム)、セルロース(例えば、ナノフィブリルセルロース)および細胞外タンパク質(例えば、ラミニン)のうちの1つ以上を含む、請求項3~17のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項19】
インビボ癌微小環境などのインビボ環境を模倣するための構築物を作製する方法であって、以下を表面に堆積させることを含む方法:
(a)癌細胞;
(b)癌幹細胞;
(c)癌関連線維芽細胞;および任意に、
(f)特定の微小環境を提供するための特殊な細胞型。
【請求項20】
以下のうちの1つ以上を堆積させることをさらに含む、請求項19に記載の方法:
(e)支持細胞;
(g)免疫細胞;および
(h)内皮細胞。
【請求項21】
(d)細胞外マトリックス
とともに、細胞(a)~(c)が(任意に細胞(e)~(h)のうちの1つ以上とともに)前記表面に堆積される、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
堆積させる前記ステップが、前記細胞および任意に前記細胞外マトリックスを前記表面にプリンティングする(例えば、バイオプリンティングする)ことを含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
複数の構築物を表面上の一連の画定された位置および/または別個の位置に、任意に、所定のパターンでプリンティングして、構築物のアレイまたはマイクロアレイを提供することを含む、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
(i)スフェロイドを前記表面に堆積させるかもしくはプリンティングすること;
(ii)細胞を前記表面に堆積させるかもしくはプリンティングし、その後、前記細胞を培養して、前記堆積された細胞もしくはプリンティングされた細胞内でスフェロイドを形成すること;または
(iii)スフェロイドと単一細胞との混合物を前記表面に堆積させるかもしくはプリンティングすること
を含む、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
磁気バイオプリンティングをさらに含み、任意に、前記磁気バイオプリンティングを使用して、堆積またはプリンティングステップの前または後に細胞をスフェロイドになるようにプリンティングする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記構築物がインビボ癌微小環境を模倣するように、一定期間にわたって前記構築物を培養することをさらに含む、請求項19~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
バイオインク製剤の液滴を前記表面にプリンティングすることを含み、前記バイオインク製剤が、前記細胞外マトリックス(d)と予め混合されている、および/または前記細胞外マトリックス(d)に懸濁されている前記細胞(a)~(c)と任意に細胞(e)~(h))のうちの1つ以上とから構成される、請求項19~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記バイオインク製剤の総体積の約45%~75%が細胞および/もしくはスフェロイドの前記懸濁液から構成され、ならびに/または前記バイオインク製剤の総体積の約55%~25%が前記細胞外マトリックスから構成される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項1~18のいずれか一項に記載の構築物の作製に使用するための、または請求項19~27のいずれか一項に記載の方法に使用するためのバイオインク製剤であって、以下の各々のうちの少なくとも1つを含み:
(a)癌細胞;
(b)癌幹細胞;および
(c)癌関連線維芽細胞;任意に、
以下のうちの1つ以上をさらに含み:
(e)支持細胞;
(f)特定の微小環境を提供するための特殊な細胞型;
(g)免疫細胞;および/または
(h)内皮細胞;さらに任意に、
細胞外マトリックスを含むバイオインク製剤。
【請求項30】
細胞、例えば、癌幹細胞に対する試験薬剤または薬物の効果を試験する方法であって、
請求項1~18のいずれか一項に記載の構築物、または請求項19~27のいずれか一項に記載の方法に従って作製された構築物を提供すること;
前記構築物内で細胞(例えば、CSC)を維持すること;
前記細胞を試験薬剤と接触させること;および
前記試験薬剤に対する前記細胞(例えば、CSC)の応答を決定することを含む方法。
【請求項31】
(a)癌細胞;
(b)癌幹細胞;および
(c)癌関連線維芽細胞;
の各々のうちの少なくとも1つを含み、
培養培地;
使用説明書;および
堆積面またはプリント面を画定する基材
のうちの1つ以上をさらに含むキット。
【請求項32】
(d)細胞外マトリックス;
(e)支持細胞;
(f)特定の微小環境を提供するための特殊な細胞型;
(g)免疫細胞;および/または
(h)内皮細胞
のうちの1つ以上をさらに含む、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
成分(a)~(c)と、任意に成分(d)~(h)のうちの1つ以上とが:
前記キット内で別個に供給および/もしくは保存されるか;または
バイオインク製剤として前記キットに提供される、請求項31または32に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、癌微小環境などのインビボ環境を模倣することができるモデルまたは構築物に関する。本開示はまた、そのようなモデルまたは構築物を作製する方法、記載されるモデルまたは構築物を作製するためのキット、およびモデルまたは構築物の使用にも及ぶ。
【背景技術】
【0002】
癌幹細胞(CSC)は、幹細胞の特性を有し、腫瘍の開始および進行に重要な役割を果たすと考えられている腫瘍細胞である。癌幹細胞は、腫瘍微小環境内に存在し得るニッチと呼ばれる特殊な微小環境に存在する。CSCニッチは、CSCの特性を調整および調節し、CSC表現型の維持を助け、CSCを身体の免疫系から遮蔽する。
【0003】
生物工学によって作られた構築物、または人工モデルは、新たな治療法または薬物の開発では、ますます重要になっており、動物モデルへの依存を減らす機会を提供する。ただし、インビボ環境を正確に模倣する構築物またはモデルを提供することは簡単ではない。これは、極めて複雑なCSCニッチまたは腫瘍微小環境に特に当てはまる。
【0004】
多くの癌モデルは、従来のプラスチック皿内またはゲルマトリックス上での2Dおよび/または3D細胞培養を伴う。さらに近年の試験はまた、癌の3D構造、および他の細胞とのそれらの相互作用を試験するための足場の使用を伴い得る。近年の刊行物(国際公開第2020/254660号)は、癌微小環境を模倣するための特殊なマイクロ流体デバイスを提供している。さらに、Hermida et al(“Three dimensional in vitro models of cancer:Bioprinting multilineage glioblastoma models”;Advances in Biological Regulation 75(2020),100658)およびTang et al(“Three dimensional bioprinted glioblastoma microenvironments model cellular dependencies and immune interactions”;Cell Research(2020)30:833-853)は、複数の細胞型を使用した、神経膠芽腫のバイオプリンティングモデルを記載している。
【0005】
しかし、実在の癌微小環境を模倣することができ、癌の不均質性を模倣することができ、ならびに/または迅速および/もしくは経済的に作製され得る人工構築物またはモデルを提供する必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hermida et al(“Three dimensional in vitro models of cancer:Bioprinting multilineage glioblastoma models”;Advances in Biological Regulation 75(2020),100658)
【非特許文献2】Tang et al(“Three dimensional bioprinted glioblastoma microenvironments model cellular dependencies and immune interactions”;Cell Research(2020)30:833-853)
【発明の概要】
【0008】
本開示の一態様によれば、インビボ癌微小環境などのインビボ環境を模倣するための構築物が提供される。構築物は、インビボ癌微小環境を複製することができ、したがって、腫瘍の成長および発達の代表的なモデルを提供することができる腫瘍構築物であり得る。そのような構築物は、薬物アッセイ(例えば、薬物の試験および開発中)および/または前臨床試験に特定の用途を見出し得る。本開示は、多くの異なるタイプの細胞を利用して、多くの異なるタイプの癌微小環境を模倣することができる構築物を提供することができる。
【0009】
構築物は、以下の各々のうちの少なくとも1つを含み得る:
(a)癌細胞;
(b)癌幹細胞;および
(c)癌関連線維芽細胞。
【0010】
用語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」および/または「含む(comprises)」は、本発明の態様および実施形態が特定の単数または複数の特徴を「含む(comprise)」ことを示すために使用されることに留意されたい。この/これらの用語はまた、関連する単数または複数の特徴「から本質的になる(consist essentially of)」または「からなる(consist of)」態様および/または実施形態を包含し得ることを理解されたい。したがって、いくつかの例では、構築物は、上に列挙された細胞(a)~(c)の各々のうちの少なくとも1つからなり得る(または本質的になり得る)。
【0011】
本開示の構築物は、インビボ微小環境を模倣する能力を有するインビトロ微小環境または人工モデルもしくは構築物である。
【0012】
本発明者らは、予想外にも、上記の少なくとも3つのコア細胞型(a)~(c)に基づく比較的単純な構築物が、癌微小環境の現実に即したモデルを提供することができることを特定した。特に、本明細書に記載の構築物を使用して、実在の腫瘍微小環境をさらに厳密に反映する、複雑さの増大した癌モデルを提供することができる。加えて、さらに単純なモデル(例えば、2つの細胞型に基づくもの)と比較して、本明細書に開示される構築物は、はるかに迅速に調製され得る。特に、本開示の構築物は、約7~21日間で、例えば、約14日間以内に、薬物アッセイに使用する状態になり得る。
【0013】
いくつかの例では、上記の細胞型(a)~(c)に加えて、構築物は、以下のうちの1つ以上をさらに含み得る:
(e)支持細胞〔supportive cell〕;
(f)特定の微小環境を提供するための特殊な細胞型;
(g)免疫細胞;および/または
(h)内皮細胞。
【0014】
そのような例では、構築物は、以下のうちの1つ以上とともに、細胞(a)~(c)からなり得る(または本質的になり得る):
(e)支持細胞;
(f)特定の微小環境を提供するための特殊な細胞型;
(g)免疫細胞;および/または
(h)内皮細胞。
【0015】
いくつかの例では、構築物は、コア細胞型(a)~(c)(および任意に細胞(e)~(h)のうちの1つ以上)とともに、細胞外マトリックスをさらに含み得る。単なる例として、構築物は、(d)細胞外マトリックスとともに、細胞(a)~(c)(任意に細胞(e)~(h)のうちの1つ以上とともに)からなり得る(または本質的になり得る)。
【0016】
記載される構築物では、癌細胞(例えば、成分(a))は、任意の公知の癌細胞から選択されてもよく、および/または患者由来細胞型、確立された細胞型、もしくは初代細胞型であってよい。代表的な例には、限定するものではないが、脳癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、前立腺癌細胞、結腸直腸癌細胞、卵巣癌細胞、膵癌細胞、皮膚癌細胞、骨癌細胞などが挙げられる。例えば、癌細胞は、脳腫瘍細胞、乳癌細胞および肺癌細胞からなる群から選択され得る。癌細胞は、U-87(U87-MG、Uppsala 87悪性神経膠腫と呼ばれることもある)などの神経膠芽腫細胞であり得る。癌細胞は、乳癌細胞(例えば、MDA-MB-231癌細胞などのトリプルネガティブ乳癌)であり得る。MDA-MB-231は上皮性ヒト乳癌細胞株である。MDA-MB-231は、エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PR)の発現、ならびにHER2(ヒト上皮成長因子受容体2)の増幅を欠くことから、極めて攻撃的で侵襲的な低分化トリプルネガティブ乳癌(TNBC)細胞株である。
【0017】
癌幹細胞(例えば、成分(b))は、任意の公知の癌幹細胞から選択されてもよく、および/または患者由来細胞型もしくは初代細胞型であってよい。代表的な例には、限定するものではないが、脳癌幹細胞、肺癌幹細胞、乳癌幹細胞、前立腺癌幹細胞、結腸直腸癌幹細胞、卵巣癌幹細胞、膵癌幹細胞、皮膚癌幹細胞、骨癌幹細胞などが挙げられる。例えば、癌幹細胞は、脳腫瘍幹細胞、乳癌幹細胞および肺癌幹細胞からなる群から選択され得る。いくつかの例では、癌幹細胞は神経膠芽腫癌幹細胞(GBM CSC)であり得る。他の例では、癌幹細胞は乳癌幹細胞(BCSC)であり得る。
【0018】
癌関連線維芽細胞(例えば、成分(c))は、任意の公知の癌関連線維芽細胞から選択されてもよく、および/または患者由来細胞型もしくは初代細胞型であってよい。代表的な例には、限定するものではないが、脳癌関連線維芽細胞、肺癌関連線維芽細胞、乳癌関連線維芽細胞、前立腺癌関連線維芽細胞、結腸直腸癌関連線維芽細胞、卵巣癌関連線維芽細胞、膵癌関連線維芽細胞、皮膚癌関連線維芽細胞、骨癌関連線維芽細胞などが挙げられる。例えば、癌関連線維芽細胞は、脳腫瘍関連線維芽細胞、乳癌関連線維芽細胞および肺癌関連線維芽細胞からなる群から選択され得る。いくつかの例では、癌関連線維芽細胞は、神経膠芽腫癌関連線維芽細胞(GBM CAF)であり得る。いくつかの例では、癌関連線維芽細胞は乳癌関連線維芽細胞(BC CAF)であり得る。
【0019】
当業者には理解されるように、細胞(a)~(c)および任意に(e)~(h)の特定の性質は、構築物が反映することが意図される癌微小環境のタイプに従って選択され得る。単なる例として、構築物が脳腫瘍のインビボ微小環境を模倣するものである場合、成分(a)は神経膠芽腫であり得、成分(b)は神経膠芽腫癌幹細胞であり得、成分(c)は神経膠芽腫癌関連線維芽細胞であり得る。さらなる例として、構築物が乳癌(トリプルネガティブ乳癌など)のインビボ微小環境を模倣するものである場合、成分(a)は乳癌細胞であり得、成分(b)は乳癌幹細胞であり得、成分(c)は乳癌関連線維芽細胞であり得る。
【0020】
支持細胞(例えば、成分(e))は、構築物に構造的支持を提供するように機能する任意の細胞型から選択され得る。単なる例として、支持細胞は、上皮細胞および星状膠細胞(例えば、Innoprot IHACLON4から入手される不死化ヒト星状膠細胞(IM-HA))から選択され得る。
【0021】
特定の微小環境を提供するための特殊な細胞型(例えば、成分(f))は、構造が模倣または反映することが意図される癌微小環境のタイプに従って選択され得る。単なる例として、構築物が脳腫瘍のインビボ微小環境を模倣するものである場合、成分(f)は、HMC3)などのミクログリア細胞であり得る。他の例には、脂肪細胞が挙げられ得る。脂肪細胞の代表的な例には、細胞株hMAdsなどのヒト脂肪細胞がある。
免疫細胞(例えば、成分(g))を構築物に含めることは、免疫腫瘍学的試験に構築物を使用することが意図される場合、特に有用であり得る。そのような例では、免疫細胞は、リンパ球、マクロファージなどから選択され得る。単なる例として、構築物が脳腫瘍のインビボ微小環境を模倣することが意図される場合、免疫細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)および腫瘍関連マクロファージ(TAM)またはそれらの組合せから選択され得る。免疫細胞は、患者由来細胞型または初代細胞型であり得る。いくつかの例では、免疫細胞は患者由来であり得る。
【0022】
いくつかの例では、構築物は、(h)内皮細胞をさらに含み得る。内皮細胞を含めることは、構築物内の血管新生を促進するのに有用であり得る。
【0023】
単なるさらなる例として、構築物が脳腫瘍のインビボ微小環境を模倣するものである場合、構築物は、5つのコア細胞型:脳腫瘍細胞、脳腫瘍幹細胞、脳腫瘍関連線維芽細胞、星状膠細胞およびミクログリアを含み得るか、それらから本質的になり得るか、またはそれらからなり得る。一例では、成分(a)は神経膠芽腫であり、成分(b)は神経膠芽腫癌幹細胞であり、成分(c)は神経膠芽腫癌関連線維芽細胞であり、成分(e)は星状膠細胞であり、成分(f)はミクログリア細胞である。
【0024】
追加の例として、構築物が乳癌のインビボ微小環境を模倣するものである場合、構築物は、4つのコア細胞型:乳癌細胞、乳癌幹細胞、乳癌関連線維芽細胞および脂肪細胞(ヒト脂肪細胞細胞など)を含み得るか、それらから本質的になり得るか、またはそれらからなり得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、患者由来細胞とは、患者(例えば、本明細書に記載の癌のうちの1つに罹患している患者)から得られたおよび/または供給された細胞を指し得る。記載される構築物にそのような細胞を使用することは、特定の患者の腫瘍特性をさらに厳密に反映し、および/または特定の患者における臨床応答のさらに正確な予測を提供するモデルを対象とした試験薬剤のスクリーニングを容易にし得る。
【0026】
上記から理解されるように、構築物は、細胞型(a)、(b)および(c)の集団と、存在する場合、型(e)~(h)のうちの1つ以上の細胞の集団とを含み得る(またはそれらから形成され得る)。細胞集団内で、各細胞型は、インビボ癌微小環境を模倣する構築物の成長および/または発達を容易にするおよび/または促進する割合で含まれ得る。
【0027】
いくつかの例では、癌細胞は、細胞集団の約20%~90%、約30%~80%、約40%~70%、約45%~65%、または約50%~60%を構成し得る。いくつかの例では、癌細胞は、細胞集団の約60%~80%、または約65%~75%(例えば、細胞集団の約70%)を構成し得る。
【0028】
いくつかの例では、癌幹細胞は、細胞集団の約0.5%~5%、約1%~2.5%、または約2%を構成し得る。
【0029】
いくつかの例では、癌関連線維芽細胞は、細胞集団の約2.5%~15%、または約5%~10%を構成し得る。いくつかの例では、癌関連線維芽細胞は、細胞集団の約2.5%~7.5%を構成し得る。
【0030】
いくつかの例では、支持細胞(例えば、星状膠細胞)は、存在する場合、細胞集団の約0%~30%、約10%~20%、または約15%を構成し得る。
【0031】
いくつかの例では、特定の微小環境を支持するための特殊な細胞(例えば、ミクログリア)は、存在する場合、細胞集団の約10%~50%、約20%~40%、約25%~30%、または約28%を構成し得る。いくつかの例では、特殊な細胞型(脂肪細胞、例えば、ヒト脂肪細胞など)は、存在する場合、細胞集団の約10%~30%、例えば、約20%~25%、または約23%を構成し得る。
【0032】
いくつかの例では、構築物は、以下を含む細胞集団を含み得るか、または以下を含む細胞集団から形成され得る:
(a)約60%の癌細胞(例えば、神経膠芽腫細胞);
(b)約2%の癌幹細胞(例えば、神経膠芽腫癌幹細胞);
(c)約10%の癌関連線維芽細胞(例えば、神経膠芽腫癌関連線維芽細胞);および
(e)特定の微小環境を提供するための約28%の特殊な細胞型(例えば、ミクログリア)。
【0033】
別の例では、構築物は、以下を含む細胞集団を含み得るか、または以下を含む細胞集団から形成され得る:
(a)約50%の癌細胞(例えば、神経膠芽腫細胞);
(b)約2%の癌幹細胞(例えば、神経膠芽腫癌幹細胞);
(c)約5%の癌関連線維芽細胞(例えば、神経膠芽腫癌関連線維芽細胞);
(d)約15%の支持細胞(例えば、星状膠細胞);および
(e)特定の微小環境を提供するための約28%の特殊な細胞型(例えば、ミクログリア)。
【0034】
いくつかの例では、構築物は、以下を含む細胞集団を含み得るか、または以下を含む細胞集団から形成され得る:
(a)約70%の癌細胞(例えば、トリプルネガティブ乳癌細胞などの乳癌細胞);
(b)約2%の癌幹細胞(例えば、乳癌幹細胞);
(c)約5%の癌関連線維芽細胞(例えば、乳癌関連線維芽細胞);および
(d)約23%の特殊な細胞型(例えば、脂肪細胞、例えば、ヒト脂肪細胞)。
【0035】
細胞外マトリックスは、堆積/プリンティングステップで押し出され得、構築物内に存在する細胞と生体適合性であり、ならびに/または構築物の成長および/もしくは発達を補助することができる任意の好適な材料から選択され得る。
【0036】
好適なマトリックス材料には、限定するものではないが、ヒドロゲル、天然に存在するポリマー、および合成ポリマーが含まれ得る。マトリックスは、ヒドロゲル、例えば、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、ポリエチレンおよび/もしくは多糖(例えば、ヒアルロン酸、アガロース、キトサンまたはアルジネート)系ヒドロゲルであり得るか、またはそれらを含み得る。
【0037】
好適な癌細胞適合性材料(ヒドロゲルに基づく)は、以下の表に概説されるものを含み得る。
【0038】
【0039】
特定の例では、マトリックスは、アルジネート系材料(例えば、アルギン酸ナトリウム)、セルロース(例えば、ナノフィブリルセルロース)および細胞外タンパク質(例えば、ラミニン)のうちの1つ以上であり得るか、またはそれらを含み得る。好適な細胞外マトリックスの代表的な例には、Cellink Laminink 411(Cellink LifeSciencesから入手される)がある。Laminink 411の組成を以下に記載する。
【0040】
【0041】
好適な細胞外マトリックスのさらなる例には、ナノフィブリルセルロースと任意にアルジネートとを含むヒドロゲル系マトリックスであるGrowInk(商標)(UPM Biomedicalsから入手される)があり得る。
【0042】
いくつかの例では、マトリックスは、脱細胞化された細胞外マトリックス材料であり得る。例として、脱細胞化された細胞外マトリックス材料は、患者に由来し得る。
【0043】
本明細書に記載の構築物は、堆積(例えば、プリンティング)法によって調製され得る、および/または得られ得る。したがって、本開示のさらなる態様によれば、インビボ癌微小環境などのインビボ環境を模倣するための構築物を作製する方法が提供される。方法は、
(a)癌細胞;
(b)癌幹細胞;および
(c)癌関連線維芽細胞
を表面に堆積させることを含み得る。
【0044】
上記の細胞型(a)~(c)に加えて、本明細書に記載の方法は、以下のうちの1つ以上を堆積させることをさらに含み得る:
(e)支持細胞;
(f)特定の微小環境を提供するための特殊な細胞型;
(g)免疫細胞;および/または
(h)内皮細胞。
【0045】
いくつかの例では、方法は、(d)細胞外マトリックスとともに、細胞(a)~(c)(任意に細胞(e)~(h)のうちの1つ以上とともに)を堆積させることをさらに含み得る。
【0046】
堆積させるステップは、正確な位置への成分(a)~(c)(および任意に(d)~(h))の配置を容易にする任意の好適な技術によって行われ得る。代表的な例には、限定するものではないが、表面へのプリンティング(例えば、バイオプリンティング)、塗布、ピペッティング、噴霧またはコーティングが挙げられる。いくつかの例では、堆積させるステップは、細胞および細胞外マトリックスを表面にプリンティングする(例えば、バイオプリンティングする)ことを含む。
【0047】
したがって、インビボ癌微小環境などのインビボ環境を模倣するための構築物(例えば、3次元構築物)を作製する方法であって、
(a)癌細胞;
(b)癌幹細胞;および
(c)癌関連線維芽細胞
の各々のうちの少なくとも1つを表面にプリンティングして、
それによって、構築物を提供することを含む方法が提供される。
【0048】
本明細書で使用される場合、プリンティングとは、生物学的材料の3次元プリンティングを指し得る。プリンティング(またはバイオプリンティング)は、表面上の所望の位置に成分(a)~(c)を堆積させるための任意の好適な技術を含み得る。
【0049】
プリンティングは、押出に基づくプリンティング技術を含み得る。単なる例として、記載される方法は、空気圧プリンティング(空気圧を使用して材料を押し出すことを伴う)を使用してもよいか、またはシリンジプリントヘッドを使用してもよい。シリンジプリントヘッドを使用したプリンティングは、シリンジプランジャに機械的に加えられる圧力を伴う。シリンジプリントヘッドの使用は、はるかに小さい体積で作業する際に液滴サイズの一致性を高めるのに役立つことがあるが、細胞が受ける剪断応力を制御することがさらに困難になる可能性がある。
【0050】
プリンティングステップは、複数の構築物を表面上の一連の画定された位置および/または別個の位置に、例えば、所定のパターンでプリンティングして、構築物のアレイまたはマイクロアレイを提供することを含み得る。単なる例として、方法は、マルチウェルプレート、例えば、96ウェルプレートまたは384ウェルプレート上の複数のウェルにバイオインクを堆積させるかまたはプリンティングすることを含み得る。
【0051】
上記の方法および構築物のいずれかでは、構築物を提供するために、様々な成分(a)~(c)(および任意に(d)~(h))が表面に堆積される(例えば、プリンティングされる)。表面は、成分が堆積され得る一連の位置(例えば、ウェル)を画定し得る。好適な表面は、成分と適合性(例えば、生体適合性)であり、化学的に不活性であり、ならびに/または堆積後の構築物の培養および/もしくは成長を容易にする任意の表面であり得る。表面は、ガラス、プラスチックおよび/もしくはポリマー材料であり得るか、またはそれらを含み得る。いくつかの例では、表面は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、ポリカーボネートなどであり得るか、またはそれらを含み得る。
【0052】
特に、本明細書に開示される方法は、バイオインクの液滴を表面にプリンティングすることを含み得る。本開示の文脈内では、バイオインクとは、任意に細胞外マトリックス(成分(d))と予め混合されているおよび/または細胞外マトリックスに懸濁されている細胞(例えば、細胞(a)~(c)、および任意に細胞(e)~(h)のうちの1つ以上)から構成されると考えられ得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、バイオインクは、3次元プリンティング法での使用を容易にする好適なレオロジー的、機械的および生物学的特性を有する組成物であり得る。例として、バイオインクは、生体適合性であり得、混合を容易にし得、押出可能であり得、ならびに/または細胞の成長および/もしくは発達を補助し得る。そのようなバイオインクは、細胞外マトリックス環境を模倣し、プリンティング後の接着、増殖および分化などの細胞機能を補助し得る。バイオインク製剤は、癌幹細胞型に応じて変動し得ることを理解されたい。
【0054】
方法は、細胞(a)、(b)、(c)、および任意に細胞(e)~(h)のうちのいずれか1つ以上を培養して、堆積またはプリンティングステップの前にスフェロイドを提供することを含み得る。特に、方法は、細胞(a)~(c)(および任意に細胞(e)~(h)のうちのいずれか1つ以上)を共培養して、堆積またはプリンティングステップの前にスフェロイドを提供することを含み得る。したがって、記載される方法は、スフェロイドを表面に堆積させるかまたはプリンティングすることを伴い得る。
【0055】
堆積またはプリンティングステップに多細胞スフェロイド(本明細書で説明される3つ以上の細胞型から構成される)を使用すると、得られた構築物をさらに複雑で高密度にし、インビボ癌微小環境に近づけるのに役立ち得る。
【0056】
あるいは、方法は、細胞を表面に堆積させるかまたはプリンティングすることを含み得る。そのような方法は、本明細書では「単一細胞」プリンティング法と呼ばれ得る。単一細胞プリンティング法は、構築物を提供する特に一定した方法を提供し得、および/または一致性が増大した構築物を提供し得る。
【0057】
方法が細胞を表面に堆積させるかまたはプリンティングすることを含む場合、スフェロイドは、堆積物内にインサイチュで形成され得る。例えば、堆積物内の細胞は、スフェロイド(例えば、3次元スフェロイド)の形成を容易にするために、一定期間にわたって、および/または好適な培養培地中で培養され得る。
【0058】
他の例では、方法は、スフェロイドと単一細胞との混合物を表面に堆積させるかまたはプリンティングすることを含み得る。
【0059】
堆積またはプリンティングされた構築物内のスフェロイド(これらが堆積/プリンティングステップの前または後に形成されるかどうかにかかわらず)の使用は、それらが3次元構造内で細胞-細胞相互作用および/または細胞-ECM相互作用を容易にすることから、インビボ癌微小環境のさらに正確な表現を提供するのに役立つことができる。
【0060】
本明細書で使用される場合、スフェロイド(または3次元スフェロイド)とは、3次元細胞凝集体を指し得る。場合によっては、これらの凝集体は、本質的に略球状であり得る。典型的な2次元単層細胞培養物では、細胞は、それらが培養される基材と相互作用する傾向がある。対照的に、スフェロイドでは、細胞は3方向いずれでも成長することができ得、および/もしくは3方向いずれでも周囲と相互作用することができ得、ならびに/またはスフェロイドは細胞間相互作用を増強し得る。
【0061】
本明細書に記載のスフェロイドの生成には、任意の好適な技術が使用され得る。代表的な例には、限定するものではないが、低細胞接着プレート(例えば、スフェロイドがマルチウェルプレートの丸みを帯びた底部に形成される)の使用、および懸滴法(例えば、スフェロイドが細胞プレートの表面から垂れ下がる液滴中に形成される)が挙げられる。
【0062】
単なる例として、スフェロイドは、堆積またはプリンティングの前に、所定の期間(例えば、0日間~30日間、例えば、1日~21日間、または2日間~14日間)にわたって、低接着プレート内で細胞(a)~(c)および任意に(e)~(h)を共培養することによって生成され得る。細胞は、スフェロイド(または3Dスフェロイド)の形成を促進する培地によって培養され得る。単なる例として、培地は、3D腫瘍様塊培地(PromoCell,GmbHから入手される)を含み得る。
【0063】
いくつかの例では、記載される方法は、磁気バイオプリンティング〔magnetic bioprinting〕のステップをさらに含み得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、磁気バイオプリンティングとは、細胞を3次元構造または3次元パターンにプリンティングするための磁気ナノ粒子の使用を伴うプリンティング技術を指し得る。そのような方法では、磁気ナノ粒子によって細胞をタグ化してもよい。次いで、外部磁力を印加して、細胞を所望の3次元構造にプリンティングしてもよい。磁気ナノ粒子の代表的な例には、酸化鉄(金、酸化鉄およびポリ-L-リジンから本質的になる粒子、例えば、Greiner Bio-Oneから入手されるNanoShuttle-PLなど)が挙げられる。
【0065】
磁気バイオプリンティングを使用して、本明細書に記載のプリンティングまたは堆積ステップの前に細胞をスフェロイドになるようにプリンティングしてもよい。追加的または代替的に、磁気バイオプリンティングを使用して、バイオインクを表面に堆積させるかまたはプリンティングした後、細胞を3次元スフェロイドになるようにプリンティングしてもよい。
【0066】
押出に基づくプリンティングと磁気に基づくバイオプリンティングとの組合せは、インビボ癌微小環境をさらに迅速に模倣する構築物を提供するのに役立つことができ、および/または臨床試料にさらに厳密に似た構築物を提供することができる。
【0067】
記載される方法のいずれかでは、細胞(a)、(b)、(c)、および任意に細胞(e)、(f)および(h)のうちのいずれか1つ以上、ならびに/またはスフェロイド(使用される場合)は、堆積またはプリンティングステップの前に細胞外マトリックス(d)と混合され得る。言い換えれば、プリンティングまたは堆積ステップの前に、バイオインク製剤を提供するために、細胞および/またはスフェロイドは細胞外マトリックスと混合され得る。
【0068】
堆積またはプリンティングステップの後、方法は、構築物を架橋することをさらに含み得る。架橋ステップは、構築物にある程度の硬性および/または剛性を提供するのに有用であり得る。硬性および/または剛性の程度は、構築物によって模倣されている癌微小環境の性質に依存し得る。
【0069】
架橋ステップは、当技術分野で公知の方法を使用して行われ得る。いくつかの例では、架橋は、架橋剤を使用して行われ得る。好適な架橋剤は、金属塩(例えば、塩化カルシウム)を含み得る。いくつかの例では、架橋ステップは、光(UVまたは可視)依存性および/または温度依存性であり得る。
【0070】
堆積ステップの後、方法は、次いで、構築物がインビボ癌微小環境を模倣するように、一定期間にわたって構築物を培養することを含み得る。特に、構築物は、構築物がインビボ癌微小環境をさらに厳密に反映するように、細胞が成長および/または発達することを可能にする培地中で、および/または一定期間にわたって培養され得る。この段階で、構築物は、例えば、薬物試験または開発では、癌モデルとして使用する状態になっていると考えられ得る。
【0071】
いくつかの例では、構築物は、1日~30日間の任意の一定期間にわたって培養されてもよく、他の例では、構築物は、2日間~21日間または3日間~18日間の任意の一定期間にわたって培養されてもよい。いくつかの例では、構築物は、14日間~21日間の一定期間にわたって培養され得る。
【0072】
構築物は、3次元構築物の成長および/または発達を促進する任意の好適な培地(例えば、培養培地)中で培養され得る。
【0073】
培養培地は、インビボ癌微小環境を模倣するように構築物の成長および/または発達を促進するための成長因子、発達因子、サプリメント、緩衝液および/または他の成分を含み得る。単なる例として、培地は、3D腫瘍様塊培地(PromoCell,GmbHから入手される)を含み得る。代替的または追加的に、培地は、ウシ胎児血清溶液(例えば、FBS置換溶液〔FBS replacement solution〕(Hyclone FBS))、アスコルビン酸および/または上皮成長因子(EGF)成長因子を含み得る。単なる代表的な例として、培養培地は、30μlのHyclone FBSと、25ng/mlの上皮成長因子(EGF)と、50μg/mlのアスコルビン酸(AA)とを含み得る。
【0074】
細胞および/またはスフェロイドは、堆積/プリンティングステップの前に培養培地と混合され得る。特に、細胞および/またはスフェロイドは、堆積またはプリンティングステップの前に細胞および/またはスフェロイドの懸濁液を提供するために、培養培地に懸濁され得る。細胞外マトリックス(成分(d)が存在する)場合、方法は、細胞および/またはスフェロイドの懸濁液を細胞外マトリックスと混合して、プリンティングステップに使用されるバイオインク製剤を提供することを含み得る。
【0075】
バイオインク製剤内では、細胞および/またはスフェロイドの懸濁液と細胞外マトリックスとの相対的な割合は、堆積および/またはプリンティングステップを容易にするために慎重に制御され得る。細胞および/またはスフェロイドの懸濁液と細胞外マトリックスとの相対的な割合は、構築物によって模倣されている特定の癌環境に応じて選択され得る。
【0076】
いくつかの例では、バイオインク製剤の総体積の約10%~90%が、細胞および/またはスフェロイドの懸濁液から構成される。いくつかの例では、バイオインク製剤の総体積の約40%~80%が、細胞および/またはスフェロイドの懸濁液から構成される。特定の場合には、バイオインク製剤の総体積の約45%~75%が、細胞および/またはスフェロイドの懸濁液から構成される。
【0077】
いくつかの例では、バイオインク製剤の総体積の約90%~10%が、細胞外マトリックスから構成される。いくつかの例では、バイオインク製剤の総体積の約60%~20%が、細胞外マトリックスから構成される。特定の場合には、バイオインク製剤の総体積の約55%~25%が、細胞外マトリックスから構成される。
【0078】
いくつかの例では、バイオインク製剤の総体積の約40%~80%が細胞および/またはスフェロイドの懸濁液から構成され、バイオインク製剤の総体積の約60%~20%が細胞外マトリックスから構成される。そのような比の使用は、構築物内の細胞増殖の増強、および/もしくは促進を行うことができ、ならびに/または安定な構築物を提供することができる。
【0079】
一例では、バイオインク製剤は、約70体積%の細胞および/またはスフェロイドの懸濁液と、約30体積%の細胞外マトリックスとを含み得る。別の例では、バイオインク製剤は、約50体積%の細胞および/またはスフェロイドの懸濁液と、約50体積%の細胞外マトリックスとを含み得る。
【0080】
上記を考慮して、本開示のなおさらなる態様によれば、本明細書に記載の構築物の作製に使用するための、または本明細書に記載の方法に使用するためのバイオインク製剤が提供される。
【0081】
バイオインク製剤は、任意に細胞型(e)~(h)のうちの1つ以上とともに、さらに任意に細胞外マトリックス(d)(これもまた本明細書に記載される)とともに、本明細書に記載のコア細胞型(a)~(c)を含み得る。これらのバイオインク製剤中に存在する成分(a)~(h)の相対的な割合および特性は、構築物に関して本明細書に記載されている。ただし、バイオインク製剤は、押出可能であり、および/または堆積もしくはプリンティングステップに適した形態であってよいことが理解される。
【0082】
本開示の別の態様によれば、薬物開発、薬物スクリーニング、および/または製剤の臨床評価のための記載される構築物の使用が提供される。
【0083】
特に、活性薬剤が、インビボ微小環境(例えば、インビボ癌微小環境)を模倣するように設計された記載される構築物に適用され得、および/またはそれと接触され得る。インビボ癌微小環境の特徴をモニタリングして、化合物の効果および/または活性を評価してもよい。例えば、インビボ癌微小環境内の細胞増殖および/または細胞生存率をモニタリングして、化合物の有効性を決定してもよい。
【0084】
本開示の構築物は、細胞に対する薬剤、例えば、薬物の試験を可能にするために使用され得る。構築物は、使用者が試験薬剤または薬物に対する細胞の応答をモニタリングおよび決定することを可能にする。本明細書に開示される構築物の利点は、インビボ(微小)環境/ニッチの態様を複製する(微小)環境/ニッチに細胞を維持することによって、細胞がインビボで試験薬剤/薬物にどのように応答し得るかをさらによく表す方法で細胞が試験薬剤に応答することである。
【0085】
したがって、本開示は、細胞、例えば、癌幹細胞に対する試験薬剤または薬物の効果を試験する方法であって、本開示の構築物を提供すること、該構築物内で細胞(例えば、CSC)を維持すること、細胞を試験薬剤と接触させること、および試験薬剤に対する細胞(例えば、CSC)の応答を決定することを含む方法を提供する。
【0086】
本開示のさらなる態様によれば、任意に細胞型(e)~(h)のうちの1つ以上とともに、さらに任意に細胞外マトリックス(d)(本明細書に記載される)とともに、コア細胞型(a)~(c)を含むキットが提供される。これらの細胞型は、キット内で別個に供給および/または保存され得る。あるいは、様々な成分は、本明細書に記載のバイオインク製剤としてキット内に提供され得る。
【0087】
キットは、培養培地、使用説明書、および堆積面またはプリント面を画定する基材のうちの1つ以上をさらに含み得る。
【0088】
本明細書を通して、用語「含む(comprising)」は、本開示の実施形態が言及された特徴を「含み(comprise)」、したがって、他の特徴も含み(include)得ることを示すために使用されることに留意されたい。ただし、本開示の文脈では、用語「含む(comprising)」はまた、本開示が関連する特徴「から本質的になる(consists essentially of)」、または関連する特徴「からなる(consists of)」実施形態を包含し得る。
【0089】
[詳細な説明]
本開示は、以下の図を参照して、単なる例としてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
図1Aは、比較を提供するために、(本明細書に開示されるように)バイオプリンティングモデルに対して同時に設定された3Dスフェロイドモデルの明視野像を示す。3Dスフェロイドモデルは、ECMを伴わず、2つの細胞型(癌細胞および癌関連線維芽細胞)を有する。この図に示すように、それらは、癌の不均質性を表しておらず、創薬アッセイのために準備が整うまでに最大60~90日かかる。
【0091】
図1Bは、本開示の例示的なB21_012(本明細書では3D CarcinoGBM(商標)モデルと呼ばれることもある)によるバイオプリンティング構築物を写した明視野像を示す。これはECMに基づくバイオインク中の5つの異なる細胞型からなり、腫瘍全体がバイオプリンタを使用してバイオプリンティングされている。図に示す画像は、腫瘍をバイオプリンティングした日を表す0日目から、21日目の成長までの同じウェルを写している。バイオプリンティングされたミニ腫瘍は、微小環境に近い速度の細胞増殖を有し、構築物はさらに高密度になる。神経膠芽腫細胞の上記の3Dスフェロイド画像(
図1Aに例示される)と比較して、例示されたモデルは、複雑さの増加を示し、文献に見られる臨床腫瘍にさらに近く、さらに多くの関与した細胞型を有し、これにより、均質な3Dスフェロイドモデルよりも正確、迅速に癌の不均質性が内包される。
図1Bに示すモデルは、14日目までに創薬アッセイに使用する状態になり得る。
【0092】
図2は、本開示の例示的なB21_012による神経膠芽腫プリンティング腫瘍モデルのヘマトキシリンおよびエオシン染色(多くの場合、H&E染色またはHE染色と略される)を示す。図は、0日目にバイオプリンティングされた神経膠芽腫プリンティング腫瘍の成長を示し、構築物は、14~21日目に薬物試験のための準備が整っている。これらの画像では、成長、異なる細胞型ならびに腫瘍間質およびECMを容易に見ることができ、浸潤/遊走も観察される。文献と比較して、本発明者らは、この実施例のバイオプリンティング腫瘍モデルが臨床生検試料に極めて近く、強力な検証データをもたらすことを観察した。
【0093】
図3は、本開示の実施例(B21_012)によるバイオプリンティング構築物の細胞生存率試験の結果を示す。0日目は、構築物をバイオプリンティングした日に対応し、14日目は、バイオプリンティングから14日後である。図の結果から分かるように、モデルの14日目の結果は、0日目よりもはるかに高く、増殖、高い細胞生存率および成長を示している。これは、3Dバイオプリンティングモデルが、バイオプリンティングから14~21日後に薬物スクリーニングおよび試験のための準備が整っており、薬物スクリーニングのための準備が整うまで最低60日間~90日間かかる既存の3Dオルガノイド溶液およびスフェロイド溶液と比較して、はるかに短い迅速な時間枠であることを示している。
【0094】
図4は、本開示の例示的なB21_012による例示的な構築物の表現型特性評価を示す。神経膠芽腫腫瘍組織によって発現される様々な抗体マーカーが存在し、これは文献および査読論文では公知である。構築物の表現型特性評価のために、3Dでのみ発現される特定のマーカーを使用して免疫染色を行った。これらの試験により、例示的な構築物では、3D微小環境が確立されたことが確認された。具体的には以下である。
【0095】
図4Aは、幹細胞マーカーである抗CD133-SB436(ヒト細胞上のCD133マーカーを検出する)によって染色した例示的なバイオプリンティング腫瘍構築物を示す。神経膠芽腫(GBM)では、癌幹細胞マーカーとしての細胞表面CD133の役割は、それにより、ニューロスフェア成長を開始させ、不均質な腫瘍を形成することができる細胞が同定されるため、広く調査されている。(Paola Brescia.et al,2013)。図から分かるように、構築物は、2D細胞では以前に観察されなかったCD133(赤色蛍光)について陽性であり、臨床腫瘍データと一致する。
【0096】
図4Bは、Alexa Fluor(登録商標)594抗CD44抗体(ヒト細胞上のCD44マーカーを検出する)によって染色した例示的なバイオプリンティング腫瘍構築物を示す。CD44は、腫瘍細胞の浸潤、増殖、および標準的な化学放射線療法に対する抵抗性を増加させることによって、GBMの攻撃性を促進する。CD44は、GBMでは過剰発現される膜貫通分子である。CD44の標的化は、有望なGBM治療法である。(Kelly L.Mooney,et al,2016)。この図は、核色素Hoechst 33342によって対比染色したCD44陽性3D GBM微小環境(赤色蛍光)を示し、臨床腫瘍データと一致する。
【0097】
図4Cは、抗ネスチン-A488(ヒト細胞上のネスチンマーカーを検出する)によって染色した例示的なバイオプリンティング腫瘍構築物を示す。ネスチンは、発達中の中枢神経系内で豊富に産生される中間径フィラメントの1つである。ネスチンは、神経膠腫/神経膠芽腫でも検出される。ネスチンは、神経上皮幹細胞および神経膠腫細胞のマーカーであるだけでなく、急速成長中の腫瘍内皮細胞のマーカーでもある(Sugawara,Ki.,Kurihara,H.,Negishi,M.et al,2002)。
図4Cから分かるように、このモデルは、2D細胞では以前に観察されなかったネスチンについて陽性であり(緑色蛍光)、臨床腫瘍データと一致する。
【0098】
図5は、本開示の例示的なB21_012による例示的な構築物の表現型特性評価を示す。生試料および固定試料の両方を蛍光タグ付き抗体によって染色する免疫蛍光技術を使用して、本発明者らのモデルにおけるバイオマーカーを特性評価した。具体的には以下である。
【0099】
図5Aは、カルセイン-AMアッセイを使用した、例示的なバイオプリンティング構築物の細胞生存率を示す。カルセインAMアッセイ中、細胞内エステラーゼによるカルセインAMの加水分解では、細胞質に保持され、Ex/Em=485/530nmで測定され得る、親水性の強力な蛍光化合物が生成される。測定された蛍光強度(緑色)は、生細胞の数に比例する。この図から分かるように、例示的な構築物は、高い細胞生存率を有した。画像は、社内の蛍光顕微鏡を使用してライブで撮影した。
【0100】
図5Bは、ヨウ化プロピジウム(PI)とともにカルセイン-AMアッセイを使用した、例示的なバイオプリンティング構築物の細胞生存率を示す。PIは、一般的な赤色蛍光の核および染色体の対比染色剤である。ヨウ化プロピジウムは、生細胞に浸透性でないため、集団内の死細胞を検出するためにも一般的に使用される。PIは、配列優先性をほとんどまたは全く伴わずに塩基間にインターカレートすることによってDNAに結合する。カルセイン-AMとPIとの組合せは生細胞および死細胞を検出し、この画像から分かるように、例示的な構築物では、多数の生細胞と、ごくわずかな死細胞とが観察された。構築物をHoechst 33342によって対比染色する。Hoechst染色は、蛍光顕微鏡でDNAを標識するための青色蛍光染色の一群である。これらの蛍光染色はDNAを標識するため、核およびミトコンドリアを視覚化するためにも一般的に使用される。
【0101】
図6は、本開示の例示的なB21_012による例示的な構築物の表現型特性評価を示す。具体的には以下である。
【0102】
図6Aは、抗EphA2によって染色した例示的なバイオプリンティング腫瘍構築物を示す。EphA2は、GBMでは特異的に過剰発現され、そのリガンドであるエフリンA1に関して差次的に発現され、悪性神経膠腫細胞の発癌過程を検討し得る。EphA2は、GBM細胞では機能的に重要であると思われるため、GBMの病因に重要な役割を果たしている可能性がある。したがって、EphA2は、GBMに対する分子治療薬の開発のための新たなマーカーおよび新規な標的である。(Wykosky J.et al,2005)図から分かるように、例示的な構築物は、EphA2について陽性である(青色蛍光)。
【0103】
図6Bは、Alexa Fluor(登録商標)568抗GFAP抗体(ヒト細胞上のGFAPマーカーを検出する)によって染色した例示的なバイオプリンティング腫瘍構築物を示す。グリア線維酸性タンパク質(GFAP)は、Eng et al.によって1971年に最初に記載され、細胞骨格タンパク質ファミリーのメンバーであり、星状グリア細胞では広く発現される。GBM腫瘍組織試料は、一部の患者の25%から他の患者のほぼ100%に及ぶ、GFAP発現の強い変動性を示した。(C.S.Jung.et al,2007)。これは、3Dプリンティングされた腫瘍表現型の結果と一致し、例示的な構築物は、2Dではなく3DではGFAPを発現する。
図6Bは、核色素Hoechst 33342によって対比染色したGFAP陽性3Dプリンティング組織(赤色蛍光)を示す。
【0104】
図7は、シスプラチンに対する2D GBM細胞培養物、3D GBM細胞培養物、および3DバイオプリンティングGBM細胞培養物の応答を示す。
【0105】
図7Aは、神経膠腫細胞株(U-87 MG)および癌幹細胞(GBM CSC)の2D培養物におけるシスプラチン用量応答を示す。
【0106】
図7Bは、U-87 MG、GBM CSC、GBM CAFおよびミクログリア(HMC3)の共培養に由来する3D GBM腫瘍様塊〔tumorsphere〕(スフェロイド)におけるシスプラチン用量応答を示す。
【0107】
図7Cは、200μMのシスプラチンによる3D GBMバイオプリント(例示的なB21_012に従って作製)の処理を示す。
【0108】
細胞培養物を、示されたシスプラチン濃度に72時間曝露した。次いで、発光に基づくCellTiter-Gloアッセイを使用して、細胞生存率を評価した。データを平均±SEM(n≧2)として示す。2D細胞培養物および3D腫瘍様塊について
図7Aおよび7B)、用量応答曲線をフィッティングして(非線形回帰)、IC50値を計算した(実施例セクションの表1を参照)。3Dバイオプリント実験(
図7B)では、対応のないt検定を使用して、未処理対照とシスプラチン処理との間の統計学的に有意な差を決定した(****p≦0.0001)。
【0109】
図7Dは、2D GBM細胞培養物および3D GBM細胞培養物におけるシスプラチンIC
50値の比較を示す。データを平均±SEM(n≧2)として示す。Tukeyの事後検定を用いた一元配置ANOVAを使用して決定され、以下のように示される、IC
50値間の統計学的に有意な差:**p≦0.01、ns-有意でない。
【0110】
図7Eは、バイオプリント(例示的なB21_012に従って作製)のシスプラチン処理を示す。50、100、200または400μMのシスプラチン(CDDP)を用いて、バイオプリンティング構築物を72時間処理した。CellTiter-Gloアッセイを使用して生存率を評価した。
【0111】
図8は、例示的なバイオプリンティング構築物(BB21-001)の細胞生存率を示す。RealTime-Glo MTを使用して生存率を評価した。平均±SDとして示されるデータ、nは20である(nは試験した構築物の総数を表す)。
【0112】
図9は、本開示の例示的なBB21-001による乳癌プリンティング腫瘍モデルの組織学的画像、特にヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を示す。図は、0日目にバイオプリンティングされた乳癌プリンティング腫瘍の成長を示し、構築物は、14~21日目に薬物試験のための準備が整っている。これらの画像では、成長、異なる細胞型ならびに腫瘍間質および細胞外マトリックス(ECM)を容易に見ることができ、浸潤/遊走も観察される。文献と比較して、本発明者らは、この実施例のバイオプリンティング腫瘍モデルが臨床生検試料に極めて近く、強力な検証データをもたらすことを観察した。
【0113】
図10は、本開示の例示的なBB21-001による乳癌(トリプルネガティブ)プリンティング腫瘍モデルのヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色のさらなる画像を示す。4つの異なる細胞型と、乳癌微小環境に適合するECM(細胞外マトリックス)とを用いてプリンティングしたBB21-001。本発明者らは、H&E画像が文献で観察された腫瘍生検H&Eに厳密に対応することを観察した(例えば、Pareja et al,“Triple-negative breast cancer:the importance of molecular and histologic subtyping,and recognition of low-grade variants”,npj Breast Cancer,2,16036(2016)を参照)。
【0114】
図11は、本開示の例示的なBB21-001に従って作製された単一細胞バイオプリントのドキソルビシン処理を示す。0.2および1μMのドキソルビシン(Doxo)を用いて、15日齢のバイオプリンティング構築物を72時間処理した。処理前(0日目)、および処理の72時間後にRealTime-Glo MTを使用して、細胞生存率を評価した。72時間後のドキソルビシン効果を評価するために、0日目の生存率のパーセンテージを各構築物について計算した。結果を
図11Aおよび
図11Bに示す。統計学的に有意な差を、Tukeyの事後検定を用いた一元配置ANOVAを使用して決定し、以下のように示した:***p≦0.001、****p≦0.0001、、ns-有意でない。
図11Aは、平均±SD、n=4として示されるデータを示す。
図11Bは、同じデータの散布図を示す。
【0115】
図12は、72時間にわたってドキソルビシンを用いて処理したMDA-MB-231の2D細胞培養物の用量応答曲線を示す。MDA-MB-231細胞をLeibovitzのL-15培地(ATCC(登録商標))中で培養し、ATCC(登録商標)のMDA-MB-231(HTB-26(商標))製品シートに概説されている一般的手順に従って(https://www.atcc.org/products/htb-26)、ウシ胎児血清を10%の最終濃度まで加えた。
【0116】
図13は、本開示の例示的なBB21-001による単一細胞バイオプリンティング構築物のドキソルビシン処理を示す。0.2および1μMのドキソルビシン(Doxo)を用いて、15日齢のバイオプリンティング構築物を処理した。培地試料を24、48および72時間の時点で収集して、細胞傷害性のマーカーである乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出を評価した。LDH-Gloアッセイを使用した。データを平均±SD、n=3として示す。
【0117】
[例示的な方法]
一般的な製造方法
【0118】
各構築物の生成は、押出に基づく3Dバイオプリンタ(CELLINK製のBioX)を使用する。
【0119】
1.癌細胞、癌幹細胞および癌関連線維芽細胞(および使用される任意の他の細胞)を所定の比(以下の実施例に開示される特定の比)で一緒に共培養する。これらを96ウェル低接着プレート内で共培養して、3Dスフェロイドを形成する
【0120】
2.これらの3Dスフェロイドに、PromoCellと呼ばれる会社によって供給される特別な3D腫瘍様塊培地を供給する。
【0121】
3.これらの条件は、3Dスフェロイドが3つの細胞型によってウェルごとに均一な形状を形成することを可能にする。これらを14日間培養した後、微小環境条件になるようにバイオプリンティングする。
【0122】
場合によっては、磁気バイオプリンティングによる3Dスフェロイドの生成を可能にする磁気ナノ粒子によって細胞をタグ化する。そのような場合、3Dスフェロイドは、14日間と比較して5~9日間以内にバイオプリンティングのための準備が整う可能性がある。
【0123】
4.異なる細胞型を用いた3Dスフェロイドの生成後、ラミニンタンパク質を含んでいてもよい、アルジネートに基づくバイオインク(例えば、CELLINK Laminink 411、CELLINK Laminink plusおよびCELLINK RGD-A)とスフェロイドを混合する。ラミニン系バイオインクは、微小環境に良好な構造を提供し、その中で細胞を成長させ得る。シリンジを使用して3Dスフェロイドとバイオインクとを一緒に混合して、バイオプリンティングのための均一なバイオインク+生細胞スフェロイド混合物を形成する。
【0124】
5.押出に基づくプリンタでシリンジプリントヘッドを使用してプリンティングステップを行う。ウェルごとにプリンティングされる液滴のサイズを制御するようにパラメータを制御する。典型的には、96ウェルプレートのウェルごとに3~5μlのサイズの液滴がプリンティングされる。プリンタは、プレート全体を5分でプリンティングし、大量生産のための複数のプレートの生成のために優れた速度を提供する。
【0125】
6.プリンティング後、塩化カルシウム溶液を使用して各液滴を架橋してもよい。
【0126】
いくつかの例では、この段階で磁気バイオプリンティングを行ってもよい。例えば、インクと混合する前、およびウェルにプリンティングする前に、細胞を磁化してもよい。そのような例では、磁気バイオプリンティングのステップをプリンティング後に行って、構築物内にスフェロイドを迅速に生成してもよい。
【0127】
7.次いで、細胞に3D腫瘍様塊培地(PromoCell)および10%FBS置換溶液(動物質不含のHyclone FBS)を供給し、25ng/mlのEGF成長因子を加えてもよい。0、7、14、21および31日目の時点での3D構造に関する、発光ATPに基づくアッセイを使用して、細胞生存率の確認を行う。14、21、31日目および60日目に、H&E染色による染色とともにOCT凍結およびクライオスタット切片化を使用した組織学的切片化を行う。構築物は、60日間を超えて生存可能なままであり得、良好な生存率および生検腫瘍様(臨床的)組織学的結果を有し得る。
【0128】
8.バイオプリンティング構築物は、21、31または60日の時点のいずれかで薬物を用いて処理され得、様々なアッセイに利用され得る。
【0129】
9.免疫腫瘍学モデルでは、同じステップ(1)~(8)を行ってもよいが、追加の細胞型を加えてもよい(例えば、マクロファージ)。組成物の一例では、比は、60%U87MG細胞、28%ミクログリア、5%M2マクロファージ、5%GBM-CAFおよび2%GBM-CSCであり得る。
【0130】
本明細書に開示される単一細胞プリンティング法では、一般的手順は、典型的には、各異なる細胞型を規定の比で混合し、次いで、スフェロイドのプリンティングに関連して上述したステップ(4)~(6)で上述した一般的なプリンティングステップに沿ってプリンティングすることを伴う。
【0131】
[例示的な構築物]
上記で概説した一般的手順に従って、いくつかの特定の例示的な構築物を調製した。詳細を以下に提供する。
【0132】
【0133】
5×96ウェル丸底低接着プレート内で14日後にU87MG(60%)、ミクログリアHMC3(28%)、GBM-CAF(10%)およびGBM-CSC(2%)の共培養から得られた腫瘍様塊を、Falconチューブ内での沈降によって採取し、次いで、1mLシリンジに移した。培養培地を重力によって除去した。腫瘍様塊ペレットの総体積は50μLであった。270μLのバイオインクCellink Laminink 411を別の1mLシリンジに移した。コネクタを使用して両シリンジを連結した。一方の側から他方の側へ押すことによって、バイオインクと腫瘍様塊との混合を行った。1mL開始インクを予め充填した3mLシリンジに、均質な混合物である腫瘍様塊-バイオインク(約320μL)を移した。暗緑色の針(18G)をシリンジに取り付け、次いで、バイオプリントにセットした。
【0134】
【0135】
共培養したU87MG(50%)、ミクログリアHMC3(28%)、星状膠細胞-IHACLON4(15%)、GBM-CAF(5%)およびGBM-CSC(2%)を混合し、遠心し、25ng/mLのEGFを含有する30μLのFBS(105μL)に再懸濁し、次いで、370μLのバイオインクLaminink 411を含有するシリンジに充填した。別の1mLシリンジに移した。コネクタを使用して両シリンジを連結した(写真)。一方の側から他方の側へ押すことによって、バイオインクと腫瘍様塊との混合を行った。1mL開始インクを予め充填した3mLシリンジに、均質な混合物である腫瘍様塊-バイオインク(約320μL)を移した。暗緑色の針(18G)をシリンジに取り付け、次いで、バイオプリントにセットした。
注:以下の実施例で言及される星状膠細胞は、Parque Tecnologico de Bizkaia,Spain)のInnoprotから入手した不死化ヒト星状膠細胞(IM-HA)である。
【0136】
【0137】
共培養したU87MG(50%)、ミクログリアHMC3(28%)、星状膠細胞-IHACLON4(15%)、GBM-CAF(5%)およびGBM-CSC(2%)を混合し、遠心し、25ng/mLのEGFを含有する30μLのFBS(105μL)に再懸濁し、次いで、370μLのバイオインクLaminink 411を含有するシリンジに充填した。別の1mLシリンジに移した。コネクタを使用して両シリンジを連結した。一方の側から他方の側へ押すことによって、バイオインクと腫瘍様塊との混合を行った。1mL開始インクを予め充填した3mLシリンジに、均質な混合物である腫瘍様塊-バイオインク(約320μL)を移した。暗緑色の針(18G)をシリンジに取り付け、次いで、バイオプリントにセットした。
【0138】
【0139】
共培養したU87MG(50%)、ミクログリアHMC3(28%)、星状膠細胞-IHACLON4(15%)、GBM-CAF(5%)およびGBM-CSC(2%)を混合し、遠心し、25ng/mLのEGFを含有する30μLのFBS(105μL)に再懸濁し、次いで、370μLのバイオインクLaminink 411を含有するシリンジに充填した。別の1mLシリンジに移した。コネクタを使用して両シリンジを連結した。一方の側から他方の側へ押すことによって、バイオインクと腫瘍様塊との混合を行った。1mL開始インクを予め充填した3mLシリンジに、均質な混合物である腫瘍様塊-バイオインク(約320μL)を移した。暗緑色の針(18G)をシリンジに取り付け、次いで、バイオプリントにセットした。
【0140】
例示的な磁気バイオプリンティング法-例示的なB21_017
【表G】
【0141】
U87MG(60%)、ミクログリアHMC3(28%)、アストログリア(15%)、GBM-CAF(5%)およびGBM-CSC(2%)を播種し、異なる比のNanoShuttles(40μL、100μLおよび200μL)を用いて翌日に磁化し、翌日に採取し、計数した。96ウェル平底細胞忌避プレート〔〕(cell repellant plate)に、ウェルごとに1E4細胞(100μL培地中)を播種した。プレートをSpheroid Drive上に置き、1時間インキュベートした(最初の確認=>100μLおよび200μLでスフェロイド形成、ただし40μLは細胞なし)。40uL NanoShuttleから細胞を加え、次いで、さらに1時間のインキュベートをした。残りの(異なる比の)細胞を混合し、GrowInk(405μL)内でバイオプリンティングした。1mL開始インクを予め充填した3mLシリンジに、均質な混合物である腫瘍様塊-バイオインク(約320μL)を移した。暗緑色の針(18G)をシリンジに取り付け、次いで、バイオプリントにセットした。
【0142】
例示的なB21_019(バイオプリンティングの前にスフェロイドを形成するために使用した磁気バイオプリンティング)
【表H】
【0143】
1E6細胞(培養U87MG(50%)、ミクログリアHMC3(28%)、星状膠細胞-IHACLON4(15%)、GBM-CAF(5%)およびGBM-CSC(2%))をT25(02/06/21)に播種し、磁化し(40μLのNanoShuttlesを使用)、次いで、2日後に採取した。ウェルごとに1E4細胞を播種した。各プレートをSpheroid Drive上でインキュベートして、細胞をくっつけた(スフェロイド形成)。磁気バイオプリントをGrowInkに組み込む試験にプレート1を使用した。GrowInkをHycloneで50/50希釈し、バイオプリンティングし(EV=1.5uL、RV=10uL、およびR=10uL/s)、次いで、スフェロイドを上部に移し、遠心した(1500rpm、5分)。
【0144】
例示的なBB21-001(「単一細胞」プリンティング法によって得られた例示的な乳癌モデル)
【表I】
【0145】
使用したバイオインク製剤:Cellink製のLaminink 411(200μL)。
【0146】
各細胞株(MDA-MB-231、hMAds、CAFおよびBCSC)を採取し、計数し、次いで、必要な数の細胞を15ml Falconeチューブに移した。細胞を遠心し、次いで、20μLの完全3D Tumorsphere Medium XF(PromCell(登録商標)から入手)に再懸濁し、200μLのLaminink 411を予め充填したシリンジに充填した(細胞はバイオインク体積の10%に相当した)。次いで、550回混合した。均質な混合物をシリンジに移し、次いで、バイオプリントにセットした(各バイオプリントの押出体積は3μL(約50000細胞/液滴)に設定した。
【0147】
例示的なBB21-002(「単一細胞」プリンティング法によって得られた例示的な乳癌モデル)
【表J】
【0148】
使用したバイオインク製剤:Cellink製のLaminink 411(200μL)。
【0149】
各細胞株(MDA-MB-231、hMAds、CAFおよびBCSC)を採取し、計数し、次いで、必要な数の細胞を15ml Falconeチューブに移した。細胞を遠心し、次いで、20μLの完全3D Tumorsphere Medium XF(PromoCell(登録商標)から入手)に再懸濁し、200μLのLaminink 411を予め充填したシリンジに充填した。次いで、550回混合した。均質な混合物をシリンジに移し、次いで、バイオプリントにセットした(各バイオプリントの押出体積は3μLに設定した)。
【0150】
[構築物の評価-薬物試験(神経膠芽腫)]
シスプラチンは、いくつかの癌を治療するために使用される化学療法薬である。これらには、精巣癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、膀胱癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、中皮腫、脳腫瘍および神経芽細胞腫が含まれる。
【0151】
U-87 MG神経膠芽腫細胞株および神経膠芽腫癌幹細胞の2D培養物を対象として、シスプラチンに対する応答を最初に試験した(
図7Aを参照)。細胞を一定範囲のシスプラチン濃度に72時間曝露し、細胞の50%を死滅させる濃度(IC
50)を決定することによって、この薬物に対する感受性を評価した。IC
50濃度が高いほど、薬物治療に対する抵抗性が高い。両細胞株はシスプラチンに対して感受性であると考えられたが、癌幹細胞の死滅を開始させるためにはさらに高い薬物用量が必要とされた。
【0152】
次のステップでは、3D GBMスフェロイドを対象としてシスプラチンに対する応答を試験した(
図7Bを参照)。予測通り、さらに高い薬物濃度で細胞生存率の50%の低下が達成されたことから、シスプラチンに対する抵抗性の増加が観察された(2D培養物と比較して)。それにもかかわらず、シスプラチンは、3D GBM腫瘍様塊(スフェロイド)にも有効であった。
【0153】
50μmのシスプラチン(CDDP)用量は、本開示のプリンティング構築物内の細胞の30%を死滅させたにとどまったため、構築物および陽性対照についてシスプラチンのIC
50値を決定するために投与量を増加させた。投与量を100μmに増加させても、CDDP(シスプラチン)は細胞の37%を死滅させたに過ぎなかった。これは、プリンティング構築物がこの投与量での処理に抵抗性であることから、さらに高い用量が必要とされることを意味する。3Dスフェロイド(腫瘍様塊)の以前の処理では、IC
50値は111μmであると決定された。これらの結果は、ここで記載されている3Dプリンティング構築物が3Dスフェロイド(腫瘍様塊)よりもはるかに抵抗性であり、細胞の50%を死滅させるためにさらに高い投与量を必要としたことを示している。特に、
図7Cおよび
図7Dから分かるように、プリンティング構築物に対するシスプラチン処理のIC
50値は、200μmの投与量よりも高いと決定された。これは、3Dスフェロイド投与量よりもはるかに高く、患者試料投与量に近い。
【0154】
これらの結果は、実験室で一般的に使用される3Dスフェロイドと比較した場合の本明細書に記載の構築物の利点を示している。特に、結果は、プリンティング構築物が、文献に見られるように患者の生検組織/臨床組織にさらに近く、患者の生検試料のように処理に抵抗性であったことを示している。これらの結果は、このプリンティングモデルが、薬物試験に関して3Dスフェロイド/オルガノイドを超える改善をもたらし、臨床で観察されるものにさらに近い結果を提供することを示している。
【0155】
上記の結果を以下の表1にさらに示す:
【表1】
2D GBM培養物および3D GBM培養物におけるシスプラチンIC
50値を示す表1。
【0156】
上記の表から分かるように、本開示に従って作製された構築物は、シスプラチンに対する抵抗性の増加をもたらし、患者の生検試料によって得られる結果にさらに厳密に似ている。
【0157】
[構築物の評価-薬物試験(トリプルネガティブ乳癌)]
ドキソルビシンは、いくつかの癌を治療するために使用される化学療法薬である。
【0158】
トリプルネガティブ乳癌細胞(MDA-MB-M231)の2D培養物を対象として、ドキソルビシンに対する応答を最初に試験した(
図12を参照)。細胞を一定範囲のドキソルビシン濃度に72時間曝露し、細胞の50%を死滅させる濃度(IC
50)を決定することによって、この薬物に対する感受性を評価した。IC
50濃度が高いほど、薬物治療に対する抵抗性が高い。ドキソルビシン(DOX)では、0.08±0.02μMのIC
50が観察された。
【0159】
次のステップでは、本開示の例示的な構築物(BB21-001)を対象として、ドキソルビシンに対する応答を試験した(
図11Aおよび
図11Bを参照)。
【0160】
結果を以下の表2に示す:
【表2】
(i)0.2μMのドキソルビシンおよび(ii)1.0μMのドキソルビシンでの、本開示の例示的なBB21-001による単一細胞バイオプリンティング構築物と対比した2D細胞培養物の細胞生存率(未処理対照試料と比較)を示す表2。
【0161】
本発明者らは、1.0μMのドキソルビシンを用いた本開示による例示的なバイオプリント構築物の処理が、細胞生存率を有意に低下させることを観察した。本発明者らはさらに、バイオプリンティング構築物が、MDA-MB-231細胞の2D培養物によって提供されるモデルよりもドキソルビシン処理に対して抵抗性であることを観察した(例えば、
図12を参照)。
【0162】
したがって、この表は、本開示に従って作製された構築物が、ドキソルビシンに対する抵抗性の増加をもたらし、患者の生検試料によって得られる結果にさらに厳密に似ているというさらなる証拠を提供する。
【0163】
LDH放出検出によって、ドキソルビシンの細胞傷害性も評価した。本発明者らは、72時間の時点で増加傾向を観察した。これは、薬物試験のための有用なモデルとしてのこの構築物の有用性のさらなる証拠を提供する。
【国際調査報告】