(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】KRASをサイレンシングするための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20241018BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20241018BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241018BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20241018BHJP
A61K 47/16 20060101ALI20241018BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241018BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241018BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/713
A61P35/00
A61K9/51
A61K47/16
A61K48/00
A61K47/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024548519
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 US2022047291
(87)【国際公開番号】W WO2023069628
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524155633
【氏名又は名称】ナノセラ バイオサイエンシズ インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバルティ、 ラジ
(72)【発明者】
【氏名】リー、 ロバート、 ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】デラクロワ、 トーマス
(72)【発明者】
【氏名】エラスティ、 ゴーシエ
(72)【発明者】
【氏名】レブルー、 コラリエ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ、 アニシャ
(72)【発明者】
【氏名】ペトロウニア、 イオアンナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076CC27
4C076DD44
4C076DD44N
4C076DD48
4C076DD48N
4C076FF34
4C084AA07
4C084AA13
4C084MA38
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA38
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、RNA干渉(RNAi)を用いた変異体KRAS配列の阻害に関する。さらに、本発明は、RNAi剤のための送達ビヒクルとして脂質ナノ粒子(LNP)組成物と、それらを治療目的で投与する方法とを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
krasの変異体を標的化するための人工miRNA二重鎖であって、そのガイド鎖配列が以下の規則:
7番目のntが、変異体標的配列(WT配列に対しミスマッチである)にマッチすること、
前記amiRの残部が、10位または11位のどちらかに、前記対応する標的配列との追加のミスマッチを1つ有すること
に従う、人工miRNA二重鎖。
【請求項2】
KRAS G12Dを選択的に標的化するための配列番号8および9を有する人工miRNA。
【請求項3】
前記RNA二重鎖が、そのヌクレアーゼ安定性と遺伝子サイレンシングの有効性とを増強するための化学修飾を含有する、請求項1に記載の人工miRNA。
【請求項4】
krasの変異体を標的化するためのsiRNA二重鎖であって、その標的配列が、コドン10の2番目のntからコドン16の2番目のntまでであり、そのガイド鎖配列が、点変異した標的配列との0~1 ntのミスマッチ(CからAへの置換を伴う4位でのミスマッチ)と、kras wtに対する1~2 ntのミスマッチ(4位および前記点変異の箇所)とを含有する、siRNA二重鎖。
【請求項5】
KRAS G12Dを選択的に標的化するための配列番号11および12を有するsiRNA。
【請求項6】
前記RNA二重鎖が、ヌクレアーゼ安定性と遺伝子サイレンシングの有効性とを増強するための化学修飾を含有する、請求項4に記載の人工miRNA。
【請求項7】
kras点変異に関連する新生物疾患を治療するために、請求項1~3に記載の人工miRNAおよび請求項4~6に記載のsiRNAを使用する方法。
【請求項8】
kras変異標的が、G12C、G12S、G12V、およびG13Dである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
kras変異標的が、G12C、G12S、G12V、およびG13Dである、請求項1および4に記載のRNA二重鎖(人工miRNAまたはsiRNA)。
【請求項10】
前記疾患標的が、膵がん、肺がん、および結腸直腸がんから選択される、7に記載の方法。
【請求項11】
送達が、ナノ粒子内への取込みを介して達成された、請求項1~6に記載のRNA二重鎖。
【請求項12】
前記ナノ粒子が、一種のイオン化可能脂質と放出可能PEG修飾脂質とを含有する脂質ナノ粒子である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記脂質組成物が、比率46:26:26:2のイオン化可能脂質/DOPE/コレステロール/PEG
2000-DMGのものであり、前記イオン化可能脂質が、DODMA、DLin-DMA、およびDLin-MC3-DMAから選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~13に記載の医薬組成物および医薬的に許容可能な担体。
【請求項15】
請求項14に記載の組成物を用いて、KRAS変異を有するがんを治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のデータ
本願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2021年10月21日出願の米国仮特許出願第63/270,229号の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
Ras変異は、ヒトのがんの約16%に関連している。Krasは、最も頻度高く変異されるRasアイソフォームであり、全Ras関連がんの85%を占める。Krasは、ファルネシル化を介して細胞膜に繋留されている。Krasは、活性型GTP結合態と不活性型GDP結合態との間を反復する。Krasの野生型(WT)は、EGFRチロシンキナーゼを介して活性化される。一方、krasの変異体は、腫瘍細胞のサブセットにおいて恒常的に活性化される。Kras変異は、腫瘍のおよそ25%に存在し、ゆえにがんに連関する最もよくある遺伝子変異の1つである。Kras変異は、肺がん、結腸直腸がん、および膵がんの頻出の駆動因子である。KRASは、肺がんの32%、結腸直腸がんの40%、および膵がんの症例の85%から90%を駆動する。G12C、G12D、G12V、G12R、およびG13Dは、存在する特異的な変異に基づく、最もよくあるKRAS変異のいくつかである。kras変異を選択的に標的化することは、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の活性を補完し、WTのkrasを標的とすることに起因する副作用を低減することができることから、がん療法の有望な戦略である。
【0003】
RNA干渉(RNAi)は、RNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)内への取込みを介して機能する、低分子干渉RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)のどちらかに基づく遺伝子調節機構である。miRNA模倣体(mimics)または人工miRNAは、生理学的なmiR-miR*二重鎖(duplex)の合成類似体である。siRNA模倣体とmiRNA模倣体はどちらも、典型的には、ガイド鎖とパッセンジャー鎖とからなるオリゴ二重鎖として設計される。細胞内では、パッセンジャー鎖が分解され、ガイド鎖がRISCに保持されて、mRNAコード配列または5’-UTRもしくは3’-UTRの標的配列を探し出し、mRNA分解および/または翻訳阻止を介して遺伝子発現を下方制御する。siRNAベースの遺伝子サイレンシング機構は、典型的には、ガイド鎖と標的mRNAとの間に、複数の位置にいくつかのミスマッチは許容されるものの、高度な配列一致を要する。これに対し、miRNAベースの機構は、mRNA標的配列に完全に一致するシード領域(nt 2~7)に高度に依存する。厳密に言えば、miRNAは、ヒトゲノムの一部である天然の非コードRNAとして定義される。しかし、mRNA内の標的配列に相補的なシード領域を含む人工のmiRNA(amiR)を設計し、miRNA様機構に基づき遺伝子サイレンシングを達成することは可能である。同様に、siRNAを、ガイド鎖とのその配列相補性に基づき、遺伝子の特異的な領域を標的とするように設計することができる。標的配列の相補性およびシード領域の相補性の全体的な程度に応じて、amiRおよびsiRNAはそれぞれ、miRNA機構およびsiRNA機構の両方に由来する活性を有することができ、全体的な遺伝子サイレンシングの結果は、両方のタイプの活性を反映する。
【0004】
Acunzoら(非特許文献1)は、kras点変異を含有するkrasコード領域の一部にマッチするシード領域を含むamiRを設計し、各点変異について6つのamiRを作製した。さらに、中央バルジをamiR配列に導入して、siRNA様活性を減弱させるためのkras mRNA標的との3 ntのミスマッチを作製した。総じて、これらのamiRは、変異体に対し全体としては3 ntのミスマッチを伴って、kras変異体標的に完全にマッチしたシード領域を有していた。一方、このamiRは、kras wtのシード領域に対しては追加のミスマッチを含有し、結果としてwtに対しては全部で4 ntのミスマッチとなっていたため、kras wtよりもkras変異体に対する選択性が生じた。しかし、この戦略は、インビトロで供試した際に、結果として、kras変異体標的に対する活性の比較的低いamiRを生じるとともに、kras変異体についてのamiRの選択性に大きなばらつきを生じた。
【0005】
kras変異体を標的とするための別の戦略は、点変異を含有する領域に対するsiRNA分子を設計することによるものである。戦略的には、siRNAが野生型に比べて変異体に対し1つ少ないミスマッチを有するものとなるように、ミスマッチを導入することが有利である場合がある。Papkeらは、G12C、G12D、およびG13Dそれぞれに対する2つのミスマッチと、kras wtに対する3つのミスマッチとを有する、siRNAを設計した。その結果、最終的な配列EFTX-D1は、3つの変異体全てに対してサイレンシング活性を示したのに対し、kras WTに対するサイレンシング活性は大きく低減したとされている。しかしながら、本発明者らがこの具体的なsiRNAを細胞株で検討したところ、遺伝子サイレンシング活性が比較的低いこと、ならびに総じてkras変異体選択性が乏しいことしか見出されなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】PNAS 2017, 114:E4203-E4212
【発明の概要】
【0007】
既存のアプローチの制約を考慮して、本発明者らは、amiRおよびsiRNAを設計するための新規の戦略を創出し、kras野生型よりもkras変異体に対する有効性および選択性が向上したamiRおよびsiRNAを同定し、それによって、治療適用における副作用の可能性を低減した。さらに、amiR/siRNAを、インビボでの送達を増進させるために脂質ナノ粒子(LNP)内に取り込ませた。本発明者らは、amiRおよびsiRNAの送達において特に効果的である新しいLNP組成物を同定した。
【0008】
一態様では、krasの変異体を標的化するための人工miRNA二重鎖が本明細書に記載される。例えば、一部の実施形態では、kras変異体を標的化するためのmiRNA二重鎖配列は、(1)7番目のntが、変異体標的配列(WT配列に対してミスマッチである)にマッチすること、および/または(2)amiRの残りが、10位または11位のどちらかにおいて、対応する標的配列との追加のミスマッチを1つ有すること、という規則に従うガイド鎖配列を含む。別の一態様では、siRNA二重鎖は、krasの変異体を標的化するために提供される。一部の実施形態では、krasの変異体を標的化するためのsiRNA二重鎖は、(1)標的配列が、コドン10の2番目のntからコドン16の2番目のntまでであること、および/または(2)ガイド鎖配列が、点変異した標的配列との0~1 ntのミスマッチ(CからAへの置換を伴う4位でのミスマッチ)と、kras wtに対する1~2 ntのミスマッチ(4位および点変異箇所)とを含有すること、という特徴を有する。
【0009】
さらに、本明細書に記載の組成および特徴を有するamiR/siRNAを、インビボでの送達を増進させるために脂質ナノ粒子(LNP)内に取り込ませた。RNAi療法剤については、インビボでの送達が、主要な制限因子として特定されてきた。多くの認可されているsiRNA(これまでAlnylam社から5種)は、肝臓を標的としているが、肝臓は、元々高い取込み能を有し、siRNAのGalNAcコンジュゲーションを介して標的とすることができる。しかし、固形腫瘍には、LNPベースの戦略が好ましい選択肢である。LNPは、臨床においてsiRNA(例えばパチシラン(Patisiran))およびmRNA(BioNTech社およびModerna社のCOVID-19ワクチン)のための効率の良い送達ビヒクルであることが示されてきており、したがって、臨床に移すことができる可能性がある。LNPは、イオン化可能脂質、中性脂質、コレステロール、および放出可能PEG脂質を含む。イオン化可能脂質の選択は決定的に重要である。pKaおよび幾何学的構成は、生分解性と共に、主要な考慮すべき事項である。既存の製品は、DLin-MC3-DMA(Alnylam)、ALC-0315(BioNTech社)、およびSM-102(Moderna社)をイオン化可能脂質として利用している。
【0010】
新規のamiR設計戦略は、kras変異体に対するミスマッチの数を2 ntに、kras wtに対するミスマッチの数を3 ntに制限することによって開発された。これに対して、Acunzoらによる過去に公開されたamiR戦略は、kras変異体およびkras wtに対して3 ntおよび4 ntのミスマッチをそれぞれ有し、その結果、amiRの活性および選択性が最適に満たないものとなった。この新しいamiR設計戦略は、実験とソフトウェアベースのRNAi活性予想との組合せに基づくものであった。新しいamiRは、miR様活性とsiRNA様活性との両方を備えるものとなる。これは、kras変異体選択的RNAi剤を設計するための新規の戦略である。
【0011】
さらに、kras変異体標的配列との0~1 ntのミスマッチと、kras野生型配列との1~2 ntのミスマッチとを含む配列を選択することによって、新規のsiRNA設計戦略が開発された。この戦略は、結果として、活性とkras変異体選択性とのどちらも高い新規のsiRNA設計をもたらした。
【0012】
上記の設計戦略は、結果として、より数多くのミスマッチを含有する過去に公開された戦略に比肩する高い遺伝子サイレンシング活性と高いkras変異体選択性とを組み合わせて有する、amiRおよびsiRNAを生じている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】細胞株におけるKRASおよびpERKの発現レベルに及ぼすamiRの効果を示す図である。細胞を50 nMのamiR3またはamiR6でトランスフェクトした。タンパク質レベルをウェスタンブロットにより測定した。A:Kras発現のレベル。B:pEKR発現のレベル。全てのレベルは、ハウスキーピング遺伝子としてのベータアクチンに対して正規化した。
【
図2】細胞株におけるKRASおよびpERKの発現レベルに及ぼすamiRの効果を示す図である。細胞を100 nMのamiR3またはamiR6でトランスフェクトした。タンパク質レベルをウェスタンブロットにより測定した。A:Kras発現のレベル。B:pEKR発現のレベル。全てのレベルは、ハウスキーピング遺伝子としてのベータアクチンに対して正規化した。
【
図3】細胞株におけるKRASおよびpERKの発現レベルに及ぼすamiRの効果を示す図である。細胞を200 nMのamiR3またはamiR6でトランスフェクトした。タンパク質レベルをウェスタンブロットにより測定した。A:Kras発現のレベル。B:pEKR発現のレベル。全てのレベルは、ハウスキーピング遺伝子としてのベータアクチンに対して正規化した。
【
図4】NCI-H292細胞(Kras wt)に及ぼす効果に比較した際の、細胞株におけるKRASおよびpERKの発現レベルに及ぼすamiRの効果を示す図である。細胞を50 nMのamiR3またはamiR6でトランスフェクトした。タンパク質レベルをウェスタンブロットにより測定した。A:Kras発現のレベル。B:pEKR発現のレベル。全てのレベルは、ハウスキーピング遺伝子としてのベータアクチンに対して正規化した。
【
図5】NCI-H292細胞(Kras wt)に及ぼす効果に比較した際の、細胞株におけるKRASおよびpERKの発現レベルに及ぼすamiRの効果を示す図である。細胞を100 nMのamiR3またはamiR6でトランスフェクトした。タンパク質レベルをウェスタンブロットにより測定した。A:Kras発現のレベル。B:pEKR発現のレベル。全てのレベルは、ハウスキーピング遺伝子としてのベータアクチンに対して正規化した。
【
図6】NCI-H292細胞(Kras wt)に及ぼす効果に比較した際の、細胞株におけるKRASおよびpERKの発現レベルに及ぼすamiRの効果を示す図である。細胞を200 nMのamiR3またはamiR6でトランスフェクトした。タンパク質レベルをウェスタンブロットにより測定した。A:Kras発現のレベル。B:pEKR発現のレベル。全てのレベルは、ハウスキーピング遺伝子としてのベータアクチンに対して正規化した。
【
図7】標的の調節に及ぼす濃度および化学修飾の影響を示す図である。A:krasの発現。B:pERKの発現。全てのレベルは、ハウスキーピング遺伝子としてのベータアクチンに対して正規化した。
【
図8】amiRにより処理したAsPC-1(KRAS G12D)細胞のウェスタンブロットの結果を示す図である。
【
図9】amiRにより処理したNCI-H292(KRAS WT)細胞のウェスタンブロットの結果を示す図である。
【
図10】amiRにより処理したAsPC-1(KRAS G12D)細胞のウェスタンブロットの結果から得たpERKおよびKrasの相対発現レベルを示す図である。
【
図11】amiRにより処理したNCI-H292(KRAS WT)細胞のウェスタンブロットの結果から得たpERKおよびKrasの相対発現レベルを示す図である。
【
図12】pERKおよびKrasの下方制御においてWT Aspc-1 細胞と比較した際の、G12D変異体Aspc-1 に対するamiRの選択性(selectivity)を示す図である。
【
図13】amiR処理後のAspc-1細胞におけるKrasの相対発現を示す図である。3つの濃度で処理した後に、mRNAレベルをqRT-PCRによって測定した。
【
図14】amiR処理後のNCI-H292細胞におけるKrasの相対発現を示す図である。3つの濃度で処理した後に、mRNAレベルをqRT-PCRによって測定した。
【
図15】3つの濃度から得たデータを平均化した、amiR処理後のAspc-1およびNCI-H292細胞におけるKrasの相対発現を示す図である。mRNAレベルをqRT-PCRによって測定した。
【
図16】Kras mRNAの下方制御においてWT Aspc-1 細胞と比較した際の、G12D変異体Aspc-1 に対するamiRの選択性(selectivity)を示す図である。
【
図17】amiRによるAspc-1細胞の成長の阻害を示す図である。トランスフェクション剤を用いて、またはLNPに充填したamiRもしくはsiRNAを用いて処理した後に、相対的細胞生存率(Relative Cell Viability)を決定した。A:10 nM、B:20 nM。
【
図18】amiRによるNCI-H292細胞の成長の阻害を示す図である。トランスフェクション剤を用いて、またはLNPに充填したamiRもしくはsiRNAを用いて処理した後に、相対的細胞生存率を決定した。A:10 nM、B:20 nM。
【
図19】amiRまたはsiRNAを充填したLNPの調製のためのフローチャートである。
【
図20】透析した後(After dialysis)および次いで滅菌濾過した後(After sterilization)のLNPの粒子径分布を示す図である。
【
図21】amiRまたはsiRNAを充填したLNPによる、PAN0403細胞の成長の阻害を示す図である。A:50 nM、B:100 nM。L1:DODMAベース、L2:DlinDMAベース、L3:DlinMC3DMAベース。A.amiR6-10GA、B.G12Dsi、C.スクランブル対照、D.Seq-2 siRNA陽性対照。
【
図22】amiRまたはsiRNAを充填したLNPによる、BxPC-3細胞の成長の阻害を示す図である。A:50 nM、B:100 nM。L1:DODMAベース、L2:DlinDMAベース、L3:DlinMC3DMAベース。A.amiR6-10GA、B.G12Dsi、C.スクランブル対照、D.Seq-2 siRNA陽性対照。
【
図23】amiRまたはsiRNAを充填したLNPによる、HUVEC細胞の成長の阻害を示す図である。A:50 nM、B:100 nM。L1:DODMAベース、L2:DlinDMAベース、L3:DlinMC3DMAベース。A.amiR6-10GA、B.G12Dsi、C.スクランブル対照、D.Seq-2 siRNA陽性対照。
【
図24】PAN0403異種移植モデルにおけるDODMAベースLNP内amiR/siRNAの抗腫瘍活性を示す図である。
【
図25】PAN0403異種移植モデルにおけるDLInMC3DMAベースLNP内amiR/siRNAの抗腫瘍活性を示す図である。
【
図26】PAN0403異種移植モデルにおけるDODMAベースLNP内amiR/siRNAによる腫瘍成長の阻害を示す図である。正の値は、空のLNPに比較した際の腫瘍阻害を標示する。
【
図27】PAN0403異種移植モデルにおけるDlinMC3DMAベースLNP内amiR/siRNAによる腫瘍成長の阻害を示す図である。正の値は、空のLNPに比較した際の腫瘍阻害を標示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に記載される実施形態は、下記の詳細な記載ならびに実施例およびそれらの前後の記載を参照することによって、さらに容易に理解することができる。しかし、本明細書に記載の要素、装置、および方法は、詳細な記載および図面に提示される特定の実施形態に限定されない。これらの実施形態が本発明の原理の説明に過ぎないことが認識されるべきである。非常に数多くの改変および適用が、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、当業者に容易に認識されるものとなる。
【0015】
下記の非限定的な例は、前述の発明の概要に開示された詳細のさらなる開示を提供する。
【0016】
最初に、過去のamiR設計のデータを検討した。Acunzoら(2017)は、amiR設計の戦略を開示した。本発明者らは、この論文におけるkrasのウェスタンブロットデータ(
図S3、パネルC)に基づき、G12D変異を標的化する結果産物amiRを検討した。これらのamiRはkras変異体に選択的であったと主張されていたものの、実際には、ウェスタンブロットデータは、amiR候補体のいくつかで、WTに対する逆選択性、G12D krasを標的化する有効性の低さ、またはWT krasの誘導を示していた(下記のデータ概要の表を参照)。WT krasの発現の誘導も見出された。腫瘍発生を増加させる可能性があることから、このことは問題である。amiR設計の一層の改善が明らかに必要とされている。
【0017】
【0018】
この論文中のG12Dを標的化するamiR配列の中でも、KD3およびKD6は、いくらかのG12D選択的な標的化効果と中程度のWT誘導とを生じた。この観察を精査するために、KD3およびKD6に類似したamiRを合成し、CROのBioduro-Sundia社にて、下記のG12D細胞株およびWT細胞株で供試した。KD3およびKD6に基づき、二重鎖の設計を採用しかつamiRのヌクレアーゼ安定性を増すために化学修飾を加えることによって、amiR3およびamiR6を設計した。
【0019】
【0020】
供試したamiR二重鎖は以下の通りであり、Integrated DNA Technologies社(IDT)から購入した。
【0021】
【0022】
記号*はホスホロチオエート結合を表示する。さらに、amiR3aおよびamiR6aは、「mN」により標示される2-OMe修飾ヌクレオチドを含有していた。
【0023】
Bioduro-Sundia社(CRO)からのウェスタンブロットデータ
市販のトランスフェクション試薬を50 nM、100 nM、および200 nMで用いて、トランスフェクションを行った。krasの発現およびp-ERK(krasの下流標的)の発現に及ぼす様々なamiRの効果を調べるために、ウェスタンブロットを行った。使用した抗体は、変異体krasタンパク質およびwt krasタンパク質の両方を認識する。3つ全ての濃度から得たデータを
図1~
図3に示す。
【0024】
さらに、上記amiRの選択性を評価するために、wt対照であるNCI-292細胞株と比較した際の、krasおよびpERKに及ぼす上記amiRの効果を見ることも有用であった。結果を
図4~
図6に示す。
【0025】
本試験の結論:
1.amiR6は概して、上記細胞においてkrasおよびpERKへ及ぼす下方制御効果がamiR3よりも高かった。
2.amiR3が、G12Dに対する逆選択性を示したのに対し、amiR6は、G12Dに対する比較的良好な選択性を、特にG12Dホモ接合性のAspc-1細胞において有していた。この効果は、比較的低いレベルで発現していたkrasよりもpERKに顕著であった。
【0026】
amiRの濃度および化学修飾の影響を、
図7A~
図7Bに図説する。
【0027】
本試験の結論:
1.高濃度のamiRは、カチオン性脂質を含有するトランスフェクション剤の使用と、代替経路のオフターゲット活性化の可能性とにおそらく起因して、インビトロでkrasを上方制御するようであった。pERKに及ぼすamiRの濃度の影響は不明であった。
2.総じて、効果は、供試した異なるamiRのオーバーハングのデザインと化学修飾について、amiRt≧amiRa>amiRの序列となった。ゆえに、amiRtまたはamiRaが好ましいamiRの化学的構造であった。
【0028】
標的の下方制御をさらに向上させるために、次いで、kras G12D変異体配列に対するamiRのミスマッチの数が中央バルジ領域において3 ntから2 ntに低減されることを決定した。新たに設計したamiR6バリアントを、遺伝子サイレンシング活性の推定を生成するオープンソースのDesiRmソフトウェアによって評価した。この結果として、2種のamiR6バリアント、すなわちamiR6-11CUおよびamiR6-10GAを同定した。これらのamiRの配列は下記の通りである。
【0029】
【0030】
siRNAを用いたKras変異体への標的化
kras変異体にマッチし、かつkras wt配列とのミスマッチを含有するsiRNAを設計することが可能である。この場合、siRNAガイド鎖のシード領域(nt 2-7)は、kras変異体の点変異に向かい合う(opposite)領域の外側にあり、このことは、本戦略を上述のamiR戦略と区別するものであった。最近の論文(Papke et al. ACS Pharmacol. Transl. Sci. 2021, 4, 2, 703-712)では、G12Dとの2つのミスマッチと、kras wt標的配列との3つのミスマッチとを有した、EFTX-D1と名付けられたsiRNAが報告された。このsiRNAは、選択的にkras G12Dを標的化することができたことが主張された。しかし、EFTX-D1は、ミスマッチの数が多すぎてKras標的の効果的なサイレンシングを持続できなかったことから、最適には至らないことが見出された。そのため、下記に示すように、ミスマッチのより少ない、改善されたsiRNAを設計した。
【0031】
【0032】
新たに設計したamiRおよびsiRNAを、G12Dホモ接合性のAsPC-1細胞とkras wtのNCI-H292細胞とで評価した。KrasおよびpERKをウェスタンブロットにより分析し、一方で、kras mRNAをqRT-PCRにより測定した。kras wtを超えるkras G12Dへの選択性を計算した。結果を以下に示す。
【0033】
3種のamiRベースのデザインと4種のsiRNAベースのデザインとを、IDT社によって合成し、G12DのAsPC-1細胞およびWTのNCI-H292細胞で供試した。Bioduro-Sundia社で、krasおよびpERKのウェスタンブロットと、krasのqRT-PCRとを、25 nM、50 nM、および100 nMの濃度で行った。結果を
図8~
図9のウェスタンブロットデータに示す。
【0034】
Aspc-1 G12D細胞におけるpERKおよびkrasの下方制御を、
図10にまとめる。
【0035】
G12Dsiは、最大のkrasノックダウンをもたらした。amiR6-10GAおよびG12Dsi-4CAは、pERKおよびkrasの両方の下方制御について、非常に強力に作用した。
【0036】
NCI H292 kras wt細胞において、結果を
図11に示す。
【0037】
G12Dsiは、krasに最大のノックダウンを生じたが、pERKには生じなかった。amiR6-11CU、amiR10GA、およびEFTX-D1も大きなノックダウン効果を生じた。
【0038】
様々なamiR構築物およびsiRNA構築物について、WTを超えるG12Dへの選択性を
図12に示す。
【0039】
G12Dへの選択性は、高い濃度依存性があるようであり、pERKとkrasとでは異なっていた。
【0040】
25 nMでは、G12si4CAおよびamiR10GAが、最も高いkrasおよびpERK選択性を有した(EFTX-D1よりもはるかに良好であった)。
【0041】
50 nMでは、amiR6T、amiR6-10GA、sikras14、およびG12Dsi-4CAがkras選択性を示した。さらに、G12Dsiが良好なpERK選択性を示した。
【0042】
100 nMでは、G12Dsi-4CAが良好なkras選択性といくらかのpERK選択性とを示した。全てのamiRとG12Dsiが、良好なpERK選択性を示した。
【0043】
全ての濃度での効果を見ると:
・amiR-6T、amiR-6-11CU、およびamiR-6-10GAは、変異体(G12D)細胞において、KRas(WT)細胞に比較してKRasタンパク質およびpERKタンパク質の選好的な下方制御を示した。amiR-6-10GAおよびamiR-6-11CUは、amiR-6Tよりも高い効果を呈した。
・G12Dsiは、両方の細胞株でKRasをノックダウンしたが、pERKは、変異体細胞でのみ枯渇した。
・G12D-4CAは、変異体細胞において、KrasレベルとpERKレベルとの両方の低減に有望であることを示した。
・総じて、G12Dsi-4CAおよびamiR6-10GAは、WT KRasを超える変異体(G12D)への選択性が最も高かった。これらの2つの人工のsiRNA/miRNAは、KRasおよびpERKの両方への有効性および選択性という点で、過去に報告されたEFTX-D1(Silencing of Oncogenic KRAS by Mutant-Selective Small Interfering RNA. Papke B et al. ACS Pharmacol Transl Sci. 2021 Feb 4;4(2):703-712)を超えて、KRasG12Dに対する有望な治療剤候補である。
【0044】
総じて、G12Dsi-4CAおよびamiR6-10GAは、WTを超えるG12Dへの選択性が最も高く、amiR6TおよびG12Dsiも、G12Dへの有意な選択性を有した。
【0045】
WBデータに基づく結論
有効性および選択性のデータに基づき、amiR6-10GAおよびG12Dsi-4CAを、G12D選択的amiR/siRNA治療剤候補としてさらに評価することが妥当であるものと考えた。G12Dsiも、G12D変異体細胞株に対するその高いkrasノックダウン能と優れたpERK選択性ゆえに、有望であるものと思われた。これらの構築物は、krasおよびpERKに対する有効性および選択性の両方の点で、過去に報告されたEFTX-D1よりも有効であった。
【0046】
qRT-PCRにより評価したamiR/siRNAによるkras mRNAの下方制御
序論
qRT-PCRを用いて、kras mRNA標的の下方制御を直接的に測定した。amiRおよびsiRNAがmRNAの下方制御と翻訳阻止との両方を有することに留意されたい。amiRは、その機構に起因して翻訳へ及ぼす効果の方がより大きくなる可能性が高い。そのため、qRT-PCRでは、この違いに起因して、amiRよりもsiRNAの方が大きな効果を示すものとなる。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
図15および
図16に示すように、遺伝子サイレンシングデータを平均化し、G12D対WTの標的化比率を計算した。
【0054】
この試験の結論は、25 nM、50 nM、および100 nMのamiR/siRNAをトランスフェクトした細胞(WTおよび変異体)における平均qRTPCRデータに基づく。
【0055】
G12D mRNAノックダウンに基づくと、活性の序列は、G12Dsi-4CA>>G12Dsi>amiR6-11CU>amiR6-10GA=EFTX-D1となった。
【0056】
G12D対kras wtの選択性に基づくと、序列は、G12Dsi-4CA>>amiR6-11CU>amiR6-10GA=amiR6T=G12Dsiとなった。
【0057】
そのため、標的の下方制御の有効性および選択性について最上位の候補は、qRT-PCRに基づくと、G12Dsi-4CA、amiR6-11CU、G12Dsi、およびamiR6-10GAであった。
【0058】
総じて、本試験の結論は、G12Dsi-4CA、amiR6-10GA、amiR6-11CU、およびG12Dsiは全て、過去に報告されたamiR6(Acunzo et al.)およびsiRNAEFTX-D1(Papke et al.)に比べて、改善されたデザインであるということである。実際に、EFTX-D1は、効率およびG12D選択性の両方の点であまり良く機能しなかった。G12Dsi-4CAは、供試した配列の中でも最も良い全体的なG12D選択性のプロファイルを有したが、一方、その他のものも非常に有望である。
【0059】
amiRおよびsiRNAの設計の一般的アプローチ:
上記のamiRおよびsiRNAを設計するための上述の方法は、一般的に、他のkras変異体におよび点変異に容易に適用することができる。一般化された設計アプローチは以下の通りである。
【0060】
amiR設計については、ガイド鎖の7番目のntが、変異体標的配列(WT配列に対しミスマッチである)にマッチするべきである。amiRの残部は、追加のミスマッチを導入する10位または11位(例えばGからAまたはCからUへの置換を用いる)を除いて、対応する標的配列に完全にマッチするべきである。このようにして、変異体に対するミスマッチの総数は1 nt(中央におけるもの)となり、WTに対しては2 nt(シード領域に1、中央に1)となる。下記は、G12Sを標的化することに適用されるこの設計方法の例である(ガイド鎖のみを挙げる)。
【0061】
【0062】
同じアプローチを用いて、G12V、G13D、G12C、および任意の他のkras点変異バリアントを標的化するamiR配列を設計することができる。典型的なamiR設計では、2-3ホスホロチオエート結合を5’末端と3’末端との両方に導入する。パッセンジャー鎖は、ガイド鎖と完全に相補的となる。さらに、dTdTを各鎖に追加して2 ntの3’オーバーハングを生じてもよい。
【0063】
kras変異体を標的化するためのsiRNAの設計については、G12DsiおよびG12Dsi4CAのバリアントを、他のkras変異体を標的化するために容易に設計することができる。これらのバリアントは、点変異標的配列との0~1 ntのミスマッチと、kras wtに対する1~2 ntのミスマッチとを有するものとなる。例えば、kras G12Cを標的化するために、以下のガイド鎖を用いることができる。
【0064】
【0065】
同じアプローチを用いて、G12V、G13D、G12C、および他の任意のkras点変異バリアントを標的化するamiR配列を設計することができる。典型的なsiRNA設計では、2-3ホスホロチオエート結合を5’末端と3末端との両方に導入する。パッセンジャー鎖は、ガイド鎖と完全に相補的となる。さらに、dTdTを各鎖に追加して3’端の2 ntオーバーハングを生じてもよい。
【0066】
インビトロでのLNP-kras amiR/siRNAの評価
10GA、4CA、およびG12Dsiによる腫瘍細胞の阻害を、EFTX-D1、amiRscr、および陽性対照(Kopke論文由来のseq 2)と併せて、リポフェクタミントランスフェクション剤を用いたASPC-1(G12D)細胞およびNCI-H292(WT)細胞における10 nMおよび20 nMでの細胞生存性アッセイによって分析した。10GA、4CA、およびG12Dsiは、インビボ送達のために設計されたLNPフォーマットでも試験した。結果を
図17~
図18に示す。
【0067】
最初に、上記LNPについては、インビトロ活性が概ね低かった(LNPはインビボ用に設計されている)。20 nMでの10GAは、両方の細胞型に僅かな効果を有するようであった。この効果は、H292(WT)細胞においてより強かった。これは、H292の方が強いkras依存性を有することに起因する可能性がある。
【0068】
リポフェクタミントランスフェクション剤を用いた全てのamiR/siRNAについて、Aspc-1細胞における細胞毒性効果は、11CU=10GA>6T>G12Dsi>sikras14=4CA=EFTX-D1=陽性対照(seq 2)>amiRscrの順序に従った。
【0069】
リポフェクタミントランスフェクション剤を用いた全てのamiR/siRNAについて、H292細胞における細胞毒性効果は、11CU=10GA>6T>>G12Dsi=sikras14=4CA=EFTX-D1=陽性対照(seq 2)=amiRscrの順序に従った。
【0070】
したがって、インビトロでの細胞阻害に基づくと、11CUおよび10GAが、最も高い活性を有し、その活性はsiRNAベース剤よりも高かった。文献由来の配列(EFTX-D1、seq 2)は、細胞阻害の点では有効でなかった。amiRは、細胞毒性の点でより優れたRNAi剤である。
【0071】
新しいイオン化可能脂質を含みエタノールを含まない脂質ナノ粒子(LNP)の合成および特性解析
amiR試料およびsiRNA試料を、本発明者らの設計に従ってWuxiSTA社により合成し、HPLCにより精製した。
【0072】
材料および方法
1,2-ジオレイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DODMA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、コレステロール、酢酸、および酢酸ナトリウムは、Sigma社から購入した。1,2-ジリノレイルオキシ-n,n-ジメチル-3-アミノプロパン(DLin-DMA)および(6Z,9Z,28Z,31Z)-ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(Dlin-MC3-DMA)は、MedChemExpress社およびNanosoft polymers社からそれぞれ入手した。L-ヒスチジンはRoth社から購入した。エタノール、RNAse不含水、およびSlide-A-Lyzer(商標)透析カセット(10 kD、12~30 mL)は、VWR社から購入した。RNAはWuxi AppTec社から購入した。
【0073】
【0074】
LNPの調製
脂質のストック溶液をエタノール中に調製した。真空エバポレーター(Genevac EZ-2 Elite、低沸点溶媒用の自動化プログラム)を用いて、DODMAクロロホルム溶液(Sigma、890899C-100MG)を40℃で蒸発させ、次いで40℃でエタノールに20 g/Lで溶解した。DLin-DMA、DLin-MC3-DMA、DOPE、およびPEG2000-DMGを、エタノールに20 g/Lで溶解し、一方、コレステロール溶液を10 g/Lに調製した。
【0075】
比率46:26:26:2 mol/molのイオン化可能脂質/DOPE/コレステロール/PEG2000-DMGから構成される溶液を、各イオン化可能脂質(DODMA、DLin-DMA、およびDLin-MC3-DMA)について、エタノール中8 g/Lで調製し、40℃に加熱した。
【0076】
並行して、RNAse不含水に45 mM酢酸および5 mM酢酸ナトリウムを有する酢酸緩衝液を調製した。0.8 g/LのRNA溶液と20%スクロースとをRNAse不含水にて調製した。全ての溶液を40℃に加熱した。
【0077】
イオン化可能脂質/DOPE/コレステロール/PEG2000-DMG脂質溶液(2.5 mL、8 g/L)を、200 rpmの磁気撹拌下、40℃で酢酸緩衝液(2.5 mL)内に速やかに注入した。RNA溶液(5 mL、0.8 g/L)を、100 rpmの磁気撹拌下、40℃で上記混合物に速やかに添加した後、同じ条件下で20%スクロース(10 mL)を速やかに注入した。結果として得られたLNP(20 mL)を、続いて、エタノールを除去するために、Slide-A-Lyzerカセットを用いて1 Lの10%スクロースおよび10 mM L-ヒスチジン(pH=7.4)に対し2回透析した(4時間または一晩の後に浴液交換)。最後に、滅菌のために0.45μm PES滅菌フィルターを通してLNPを濾過し、-20℃で保存した。
【0078】
LNPの特性解析
DLS
He-Neレーザー(633nm)を備えたZetasizer Pro(Malvern Panalytical社)で、DLS測定を25℃、散乱角174.8°で行った。使用したソフトウェアは、ZS Explorerであった。光路長10 mmの低容量プラスチックセルを試料70μLで満たした。分散剤の粘性を、使用した溶媒または溶媒混合物に応じて補正した。測定当たりのランの数および持続時間を自動最適化した3つの異なる測定で、データを取得した。これらの測定の平均として結果を表す。対象物のDhは、各集団の平均強度である。キュムラント法を用いた自己相関関数から、PDIを計算する。
【0079】
ゼータ電位
He-Neレーザー(633nm)を備えたZetasizer Pro(Malvern Panalytical社)で、ゼータ電位測定を25℃、散乱角174.8°で行った。使用したソフトウェアは、ZS Explorerであった。折り畳みキャピラリーセル(DTS1070)を、水で1:100に希釈した試料1 mLで満たした。5つの異なる自動測定で、データを取得した。これら5つの測定の平均として結果を表す。
【0080】
図19に従い、フランスのPMC Isochem社にて下記のようにLNP調製を行った。結果として得られたLNPを、粒子径について、動的光散乱により特性解析した。平均粒子径は、<150 nmであることが見出された。
【0081】
透析後、および滅菌後に再び、粒子径を測定した。結果を
図20にプロットする。
【0082】
結果として得られたLNP産物は、下記の組成を有する。
【0083】
【0084】
【0085】
次いで、LNPを、インビトロでの腫瘍細胞の阻害について、CROのBioduro-Sandia社にて評価した。使用したプロトコールは以下の通りであった。
【0086】
LNPのトランスフェクションおよび細胞株の活性アッセイの試験デザイン
1.試験の目的:
細胞株の生存性および増殖に及ぼすLNPの効果を検出する。
【0087】
2.試験のデザイン:
LNP-siRNAをBxpc-3細胞株およびHUVEC細胞株内にトランスフェクトし、KRAS遺伝子のmRNAレベルをノックダウンし、CTG法を用いて細胞株の生存性および増殖を24時間、48時間、72時間、96時間、および120時間において検出する。
【0088】
3.材料および方法:
3.1 細胞株
【0089】
【0090】
3.2 試薬
CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega、カタログ番号G7573)。
RPMI1640培地(Gibco、カタログ番号11415-064)
トリプシン-EDTA(0.25%)(STEMCELL、カタログ番号09701)。
FBS(ExCell Bio、カタログ番号FND500)
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Gibco、カタログ番号C20012500BT)
ペニシリン/ストレプトマイシン(100×)(Gibico、カタログ番号15140-122)
ピルビン酸ナトリウム(100 mM)(Gibco、カタログ番号11360-070)
リポフェクタミンRNAi MAX(Thermo Fisher、カタログ番号13778075)
ジメチルスルホキシド(DMSO)100mL(Sigma、カタログ番号D2650-100mL)
HUVEC完全培地(Pricella、カタログ番号CM-0122)
下記の表に15のLNPを挙げる。
【0091】
【0092】
3.3 器具
細胞計数機:Counter star(Ruiyu-biotech)
CO2細胞インキュベーター:MCO-15AC(Thermo Fisher)
ピペット: BioHitマルチチャンネル、50~1200μL(RAININ Multichannel)
ピペット:0.2~10μL、10~300μL、5~50μL(Eppendorf)
遠心分離:遠心機ST 40R(Thermo Fisher)
水システム:Milli-Q Referenceシステム(Millipore)
Perkin Elmer Envision 2104 Multilabel Reader(No. 01-094-0002)
【0093】
4.アッセイプロトコール
4.1 細胞アッセイプレートの調製:1日目
1)トリプシン-EDTA(0.25%)、細胞培地を37℃の水浴で予熱する。
2)顕微鏡下で細胞を観察して、コンフルエンス度を評価するとともに、細菌および真菌の汚染がないことを確認する。
3)培地を除去し、細胞を10 mLのPBSで2回洗浄する。0.25%トリプシン/EDTA試薬2 mLをT-75フラスコに加える。フラスコをインキュベーター内に数分間、または細胞が剥がれるまで置く。10% FBSを含有する新鮮な細胞培地7 mLを加え、細胞をリンスして、遠沈管に移す。
4)採集した細胞を室温、200 gで5分間遠心分離する。
5)遠心分離後、上清を捨てる。細胞ペレットを5 mLの完全細胞培地に再懸濁する。
6)細胞を計数するために、20μLの再懸濁細胞を取り出す。Cell Counter Starを用いて、細胞懸濁液20μLを色素20μLに加えることによって、細胞を計数し、生細胞数および生存率を細胞追跡シートに記録する。
7)完全細胞培地を用いて、懸濁液の体積を調整して細胞濃度を達成する。
8)細胞株の播種密度を、96ウェルプレート中、ウェル当たり90μL中2000個とする。細胞株を5%CO2、37℃で一晩、インキュベーションする。3連で実施する。各細胞株につき10枚のプレートに播種する。
【0094】
4.2 LNPのトランスフェクション:2日目
LNPのトランスフェクションについて:
トランスフェクション前に、LNPをチップで穏やかに混合する。
下記のように、10×濃度のLNPを調製する。
【0095】
【0096】
100 nM LNPについては、プレートマップに従って、10 uLの1 uM LNPを90 uLの細胞に加える。2連で行う。
【0097】
50 nM LNPについては、プレートマップに従って、5 uLの1 uM LNP+5 uLの培地を90 uLの細胞に加える。2連で行う。
【0098】
計12枚のプレートとなり、各プレートは、1つの濃度および1つの時点および1つの細胞株についてのものである。
【0099】
4.2 CTGの検出:3~7日目(24時間、48時間、72時間、96時間、および120時間)
1)プレートを室温、遮光下で30分間インキュベーションする。
2)3バイアルのCell Titer-Glo(登録商標)試薬を室温で融解し、使用前に室温に平衡化する。遮光する。
3)各ウェルに100μL/ウェルのCell Titer-Glo(登録商標)試薬を加える。遮光する。
4)内容物をオービタルシェーカーで2分間混合する。
5)プレートを室温で10分間インキュベーションして、発光シグナルを安定化させる。プレートをEnvisionにて読み取る。
【0100】
5.結果の解析
生存率(viability)(%)=((供試物の発光-ブランク対照の発光)/(ビヒクル対照の発光-ブランク対照の発光))×100%。
【0101】
【0102】
図23は、amiRまたはsiRNAをロードしたLNPによる、HUVEC細胞の成長の阻害を示す。A:50 nM、B:100 nM。L1:DODMAベース、L2:DlinDMAベース、L3:DlinMC3DMAベース。A.amiR6-10GA、B.G12Dsi、C.スクランブル対照、D.Seq-2 siRNA陽性対照。
【0103】
結果では、amiR 10GAおよびamiR 12Dsiが、腫瘍細胞の成長を阻害することができたとともに、正常内皮HUVEC細胞において弱い阻害性を生じたことが示された。これに対して、scr対照およびseq2 siRNAは、腫瘍細胞に対しはるかに小さな選択性を示し、HUVEC細胞に比較的大きな細胞毒性を引き起こした。BxPC-3はkras wtである。HUVECは、kras wtであり、非がん性の正常ヒト血管内皮細胞である。そのため、HUVEC細胞およびBxPC-3で毒性がないことは、正常組織で毒性が低減される可能性を示している。
【0104】
次いで、LNPをBioduro-Sandia社にてインビボ効能試験で評価した。
【0105】
B-NDGマウスのPanc0403皮下モデルにおける供試薬剤のインビボ抗腫瘍効能試験のプロトコール
1.試験の目的:B-NDGマウスのPanc0403皮下モデルにおいて供試薬剤の抗腫瘍効能試験を評価する。
【0106】
2.試験のデザイン:
処置群および用量:
【0107】
【0108】
【0109】
3.材料:
3.1 動物および収容条件
種:Mus Musculus
系統:B-NDGマウス
週齢:6~8週
性別:メス
動物数:135頭
動物の供給業者:Beijing Biocytogen社
【0110】
3.2 供試物
供給業者: Nanothera Bioscience社
保存条件:-80℃
生成物の識別:
【0111】
【0112】
【0113】
各用量投与について2 mg/kgに達するように、充分な体積(約255 ulのLNP中0.157 siRNA)を与える。5バイアルについて、一度に1バイアルを開封し、融解したら使い切るまで再冷凍せずに4℃の冷蔵庫に保存する。
【0114】
4.実験方法および手順:
4.1 細胞培養
15%熱不活化ウシ胎仔血清、10 ug/mlインスリン、100 U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを補充した1640培地中で、Panc0403腫瘍細胞を、空気中5% CO2の雰囲気中、37℃で培養する。この腫瘍細胞を、ルーチンで週2~3回継代する。対数増殖期で増殖している細胞を、腫瘍接種用に収集して計数する。
【0115】
4.2 腫瘍の接種およびグループ分け
各マウスに、腫瘍を発達させるための50%マトリゲルを含むRPMI1640培地0.1 mL中のPAN0403腫瘍細胞(1頭当たり5×106個)を、右側腹部で皮下接種する。腫瘍体積(約125 mm3)に基づきExcelによるブロックランダム化を用いて、90頭をランダム化する。これにより、確実に全ての群がベースラインで同等となる。
【0116】
4.3 観察
本試験における動物の取扱い、管理、および処置に関連する全ての手順は、実験動物管理評価認証協会(AAALAC)のガイダンスに従う、BioDuro社の施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって認可されたガイドラインに従って実施される。日常的なモニタリング時に、動物を、腫瘍成長および/または処置が正常な行動に及ぼす有害な影響、例えば、可動性、食餌と水の消費(観察のみによる)、および体重の増減(体重を投与前期間に週2回、および投与期間に毎日測定し、週2回記録する)に及ぼす影響、眼/毛の艶低下、ならびに腫瘍の潰瘍形成を含む他の異常な影響などについてチェックする。予期せぬ死亡および観察された臨床徴候を、各サブセット内の動物数に基づいて記録する。動物を瀕死にさせないようにする。
【0117】
4.4 腫瘍の測定
キャリパーを用いて、腫瘍体積を週2回、2次元で測定し、式V=0.5a×b2を用いて体積をmm3で表す。式中、aおよびbは、それぞれ腫瘍の長径および短径である。
【0118】
【0119】
データは、LNP製剤が腫瘍の成長の阻害に重要な影響を及ぼすことを示した。
【0120】
DODMAに基づくLNPにより、最も良好に機能するamiR6-10GAが、ビヒクル対照を超える15%のTGIを生じた(p<0.01)。これに対し、Seq2 siRNAは、腫瘍の成長を促進することが示された(TGI=-28%)。このことは、amiR6-10GAおよびamiR6-12Dsiがどちらも、文献に報告された非選択的なsiRNAであるSeq2より優れているがことを示している。
【0121】
DLinMC3DMA/DOPE/PEG2000-DMG製剤を用いると、スクランブル対照をロードしたLNPに比べて、amiR6-10GA処置とamiR6-G12Dsi処置との両方で、33%を上回るTGIが得られた(両剤についてp=0.0001)。
【0122】
amiR/siRNA-LNPの濃度を増加させることで投薬量をさらに増加させることによって、TGIをさらに向上させることができる。LNPの濃化は、既に実験室で問題なく行われてきたタンジェンシャルフロー透析濾過(TFF)によって、容易に実現することができる。上記のamiRおよびsiRNAをロードしたLNPは、化学療法剤、キナーゼ阻害剤、血管新生阻害剤、および免疫チェックポイント阻害剤などの他の剤とさらに組み合わせて、さらに高いTGI値さえ達成することができる。
【0123】
結果の追加的な解析
DlinMC3DMAベースLNPについては、標的化API(amiR6-10GAおよびamiR6-G12Dsi)は、対照(空のLNPおよびLNP-スクランブル対照)よりも良好であり、向上の幅はインビトロよりもインビボで大きかった。
【0124】
DlinDMAベースLNPは、インビトロの結果が芳しくなかったために、インビボ試験には選択されなかった。
【0125】
インビトロでは、以下の観察がある。
1.変異体/WT選択性は、標的化API(例えばamiR6-10GAおよびsiRNA-12Dsi)については、スクランブル対照に比べて有意に高い(Panc0403細胞株対BxPC-3細胞株におけるバイオマーカー試験ならびに生存性試験により検討した)。seq2 siRNAは、HUVEC細胞に対し細胞毒性であることが見出された。MTDが増大することから、このことは、用量漸増により改善するには新たに設計したamiRおよびsiRNAを用いてTGIをさらに向上させることにより大きな可能性があることを意味する。
2.スクランブル 対照 (トランスフェクトしたもの、LNPなし)は、標的化APIに比べて、バイオマーカーの下方制御においてはるかに効果が低い。
3.スクランブル対照(トランスフェクトしたもの、LNPなし)は、標的化APIに比べて有効性が著しく低い。
4.文献で報告された変異体特異的なsiRNA(EFTX)は、本発明者らの標的化API(トランスフェクトされたもの、LNPなし)よりも選択性が低い。
【0126】
【0127】
ヌクレオチド(nucleotides)は全てRNAであり、*はホスホロチオエート結合を表示し、mNは2’-O-メチル置換ヌクレオチドを標示する。
【国際調査報告】