(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(54)【発明の名称】創傷治癒のための組成物と方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/19 20150101AFI20241018BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241018BHJP
A61P 41/00 20060101ALI20241018BHJP
A61L 26/00 20060101ALI20241018BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20241018BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20241018BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241018BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20241018BHJP
【FI】
A61K35/19
A61P17/02
A61P41/00
A61L26/00
A61K38/48 100
A61K38/36
A61P43/00 107
C12N5/078 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024548676
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 US2022047721
(87)【国際公開番号】W WO2023076262
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524157992
【氏名又は名称】リオン インコーポレイティド
(71)【出願人】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】アッタ ベーファー
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン エル.モラン
(72)【発明者】
【氏名】ブルック パラダイス
(72)【発明者】
【氏名】ローラ ベチャー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー パラダイス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BD39
4B065CA44
4C081AA07
4C081AA12
4C081BA12
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4C081DA12
4C084AA02
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4C084DC03
4C084DC10
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB221
4C084ZB222
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB38
4C087CA16
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
(57)【要約】
概して、創傷の治癒を促進するのに有効な量のPEPエクソソーム調製物を創傷に投与することを含む、創傷の治癒を促進する方法。1若しくは複数の実施形態において、PEPエクソソーム調製物は、組織シーラント又は外科用接着剤を含む。1若しくは複数の実施形態において、創傷とは、虚血性創傷、刺創、裂創、擦傷、手術創、皮膚移植片、又は外傷性創傷である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷の治癒を促進する方法であって、創傷の治癒を促進するのに有効な量のPEP調製物を創傷に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記PEP調製物が、基底膜タンパク質を含むヒドロゲルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PEP調製物が、トロンビンシーラント又はフィブリンシーラントを含むヒドロゲルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記創傷が、虚血性創傷、刺創、裂創、擦傷、手術創、皮膚移植片、又は外傷性創傷を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記PEP調製物の量が、比較可能な無処置の創傷と比較して、血管新生を増強するか、創傷への線維芽細胞の遊走を増強するか、又は創傷への角化細胞の遊走を増強するのに有効である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記PEP調製物の量が、比較可能な無処置の創傷と比較して、COL1A又はCOL3Aの発現を増強するためにTGF-βを提供するのに有効である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記PEP調製物の量が、比較可能な無処置の創傷と比較して、創傷のワグナー潰瘍分類グレードを低下させるのに有効である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記PEP調製物の量が、比較可能な無処置の創傷と比較して、反力変化(Rc)の減少又は引張力に対する抵抗性を増強するのに有効である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記PEP調製物の量が、無処理の角化細胞と比較して、角化細胞におけるSMAD2、RAS、MKK3、RHOA、P38、又はペリオスチンの発現を増強するのに有効である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記PEP調製物の量が、無処理の線維芽細胞と比較して、線維芽細胞におけるSMAD2、RAS、MKK3、ERK1、又はTAK1の発現を増強するのに有効である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月25日に出願された米国仮特許出願第63/271,486号の利益を主張するものであり、参照によりその全体は本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本出願は、2022年10月25日に作成された、31.8キロバイトのサイズを有する「0560-000014 WO01」と題されたXMLファイルとしてPatent Centerを介して米国特許商標局電子的に提出された配列表を含有する。配列表の電子的ファイリングにより、電子的に提出された配列表は、37 CFR§1.821(c)によって必要とされる紙のコピーと、§1.821(e)によって必要とされるCRFの両方として機能する。配列表に含まれる情報は、参照により本明細書に援用される。
【発明の概要】
【0003】
概要
一態様において、この開示は、創傷の治癒を促進する方法について説明する。
概して、その方法は、創傷の治癒を促進するのに有効な量のPEP調製物を創傷に投与することを含む。
1若しくは複数の実施形態において、PEP調製物は、基底膜タンパク質を包含するヒドロゲルを含む。
1若しくは複数の実施形態において、PEP調製物は、トロンビンシーラント又はフィブリンシーラントを含むヒドロゲルを含む。
1若しくは複数の実施形態において、創傷とは、虚血性創傷、刺創、裂創、擦傷、手術創、皮膚移植片、又は外傷性創傷である。
【0004】
1若しくは複数の実施形態において、創傷に投与されるPEP調製物の量は、比較可能な無処置の創傷と比較して、血管新生を増強するか、創傷への線維芽細胞の遊走を増強するか、又は創傷への角化細胞の遊走を増強するのに有効である。
1若しくは複数の実施形態において、創傷に投与されるPEP調製物の量は、比較可能な無処置の創傷と比較して、COL1A又はCOL3Aの発現を増強するためにTGF-βを提供するのに有効である。
【0005】
1若しくは複数の実施形態において、創傷に投与されるPEP調製物の量は、比較可能な無処置の創傷と比較して、創傷のワグナー潰瘍分類グレードを低下させるのに有効である。
1若しくは複数の実施形態において、創傷に投与されるPEP調製物の量は、比較可能な無処置の創傷と比較して、反力変化(Rc)の減少又は引張力に対する抵抗性を増強するのに有効である。
【0006】
1若しくは複数の実施形態において、創傷に投与されるPEP調製物の量は、無処理の角化細胞と比較して、角化細胞におけるSMAD2、RAS、MKK3、RHOA、P38、又はペリオスチンの発現を増強するのに有効である。
1若しくは複数の実施形態において、創傷に投与されるPEP調製物の量は、無処理の線維芽細胞と比較して、線維芽細胞におけるSMAD2、RAS、MKK3、ERK1、又はTAK1の発現を増強するのに有効である。
【0007】
上記の概要は、本発明のそれぞれの開示された実施形態又は本発明のすべての実施を説明することを意図するものではない。以下の説明は、例示的な実施形態をより具体的に例示するものである。当該出願の全体にわたるいくつかの箇所で、実施例のリストを通じて指針が提供され、そしてそれらの実施例は、様々な組み合わせで使用することができる。いずれの場合にも、列挙されるリストは代表的な群としてのみ機能するものであって、排他的なリストとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】PEP細胞外小胞は、エクソソーム特徴を示す。(A) PEPエクソソームの代表的な透過型電子顕微鏡像。スケールバー、200nm。(B) PEPエクソソームにおけるCD63、CD9、及びAlixの代表的なウエスタンブロット法。GAPDHが積込対照として使用された。(C) 直径105.4nmにピークを有する、Nanoparticle Tracking Analysis(NTA)によって計測されるPEPエクソソームのサイズ分布。(D) 123.49nmの平均を有する、ナノフローサイトメトリー(NanoFCM)によって計測されるPEPエクソソームのサイズ分布。
【
図2】PEP細胞外小胞は、エクソソーム表面マーカーを示す。(A) 代表的な簡易ウエスタンブロット法(Jess, ProteinSimple)は、PEPにおけるCD41(血小板マーカー)、CD9、CD63、及びFlotillin-1(EVマーカー)の存在を示す。(B) PEPのナノフローサイトメトリーからの代表的なプロットは、PEP細胞外小胞のCD41a(血小板マーカー)の存在を実証する(MemGlow488+、脂質二重層染色)。(C) CD41a+小胞のアフィニティーベースの捕獲と、その後のCD9、CD63、又はCD81表面マーカーの蛍光抗体染色(NanoView)を示す円グラフ。(D) CD41a+小胞のアフィニティーベースの捕獲と、その後のCD9、CD63、又はCD81表面マーカーの蛍光抗体染色(NanoView)を示す棒グラフ。
【
図3】PEP微小胞は、インビトロにおいて血管新生を促進する。(A) VEGF、PEP、又はスラミン(血管新生阻害剤)の存在下での、GFP-タグ付与ヒト臍血管内皮細胞(HUVEC)とヒト皮膚線維芽細胞(HDFB)の共培養を使用したインビトロ血管新生アッセイ。スケールバー、200μm。(B) 6時間の増分における管形成の定量化を示すグラフ。(C) PEP又は血清不含培地で処理したヒト角化細胞の3D類器官分化アッセイ。類器官の採取を24日目に実施し、そして、切片を顕微鏡観察のために調製した。ヘマトキシリン及びエオジン(H&E)染色を各群で実施した。上パネルの矢印:複数の表皮様層を有する組織的分化角化細胞。下パネルの矢印:非組織的角化細胞分化。(D) 無血清又はPEP条件下での細胞外マトリックスコートプレート上でのHUVECのインビトロ血管新生アッセイ培養を示す明視野顕微鏡像。(E) 無血清、FBS、又はPEP条件下での細胞外マトリックスコートプレート上でのHUVECのインビトロ血管新生アッセイ培養における管ネットワーク形成の定量。
【
図4】PEP微小胞は、インビトロにおいて創傷治癒を促進する。(A) FBS、PEP、又は血清不含培地で処理した初代線維芽細胞の遊走を評価するスクラッチアッセイ。0時間と32時間でのFBS対PEP対血清不含培地に関する創傷閉鎖の代表的な写真。(B) 2時間毎に実施された顕微鏡撮像によって測定された線維芽細胞の創傷閉鎖の定量化を示すグラフ。(C) FBS、PEP、又は血清不含培地で処置したヒト角化細胞の遊走を試験するスクラッチアッセイ。0時間と72時間でのFBS対PEP対血清不含に関する創傷閉鎖の代表的な写真。(D) 3時間毎に実施された顕微鏡撮像によって測定された角化細胞の創傷閉鎖の定量化を示すグラフ。***p<0.001、****p<0.0001。
【
図5】PEP微小胞は、インビトロにおいてTGF-β媒介性創傷治癒を刺激する。(A) インビトロにおけるPEP誘発性創傷治癒の機構に関する略図。(B) PEPエクソソームにおけるTGF-βの代表的なウエスタンブロット分析。GAPDHが積込対照として使用された。(C) 4つの異なるロットのPEP(Ella, ProteinSimple)のTGF-β濃度に関するELISAベースの分析。(D) PEP処理線維芽細胞におけるプロコラーゲンIタンパク質濃度(ELISA)。(E) PEP処理線維芽細胞におけるプロコラーゲンIIIタンパク質濃度(ELISA)。**p<0.01。
【
図6】PEP微小胞は、インビトロにおいてTGF-β媒介性創傷治癒を刺激する。(A) PEP処理角化細胞におけるSmad2、Ras、MKK3、RhoA、P38、及びペリオスチンmRNA発現の定量。(B) PEP処理線維芽細胞におけるSmad2、Ras、MKK3、Erk1、及びTAK1 mRNA発現の定量。対応のない両側スチューデントt-検定を、無処理対照群と比較した各群について使用した。*p<0.05、**p<0.01。
【
図7】PEPは、長時間かけてPEP-TISSEELバイオゲルから溶出される。(A) PEPがTISSEEL中の原線維に結合することを示す、TISSEEL単独対TISSEEL+PEPの代表的な走査電子顕微鏡(SEM)写真。(B) Nanoparticle Tracking Analysis(NTA, Nanosight NS300)によって定量化されたインビトロ溶出アッセイにおいて7日間にわたりTISSEELから溶出されるPEP細胞外小胞濃度。(C) NTA(Nanosight)によって定量化される、7日間にわたりTISSEELから溶出される平均PEP細胞外小胞サイズ。
【
図8】TISSEEL-PEPバイオゲルは、スクラッチアッセイにおいて細胞遊走を促進する。(A) Time=0でのPEP-TISSEELバイオゲルに向かうMSC遊走の代表的な明視野顕微鏡像。(B) 4時間でのPEP-TISSEELバイオゲルに向かうMSC遊走の代表的な明視野顕微鏡像。(C) 21時間でのPEP-TISSEELバイオゲルに向かうMSC遊走の代表的な明視野顕微鏡像。(D) 48時間でのPEP-TISSEELバイオゲルに向かうMSC遊走の代表的な明視野顕微鏡像。(E) 144時間でのPEP-TISSEELバイオゲルに向かうMSC遊走の代表的な明視野顕微鏡像。(F) 明視野顕微鏡像から定量化されるスクラッチ領域。
【
図9】TISSEEL-PEPバイオゲルは、インビボにおいて虚血性創傷治癒を促進する。(A) ウサギの虚血耳パンチ生検創傷モデルの図解。動脈の結紮は、虚血性創傷環境を生じさせた。動物を4つの群に分けた。皮膚の問題を、無処置のままにしておくか、PEPのみ、TISSEEL(Baxter International, Inc., Deerfield, IL)のみ、又はPEP-TISSEELバイオゲルで処置した。(B) 4つの群のそれぞれからの代表的な創傷の写真。
【
図10】TISSEEL-PEPバイオゲルは、インビボにおいて虚血性創傷治癒を促進する。(A) 創傷治癒の定量化を示す棒グラフ(
図9)。各棒グラフは、元の創傷に対するパーセンテージとして、28日目における各群の平均創傷サイズを評価する。(B) 傷害後4週間の皮膚組織の皮脂レベル。(C) 傷害後4週間の皮膚組織の水分量。異なる処置群の皮膚水分量と皮脂レベルを、計測し、そして、無処置群と比較した。正常皮膚がベースラインとしての役割を果たした。(D) 創傷閉鎖に関する臨床的評価。すべての群を、ワグナー潰瘍分類システムを使用して、正式に認定された医師によって、傷害後毎週評価した。それぞれの個別のデータポイントを、作成した平滑化スプライン曲線と共にグラフにプロットした。***p<0.001。
【
図11】PEPは、傷害組織における構造的な再組織化に貢献する。(A) ヘマトキシリン及びエオジン(H&E)染色分析を、無処置、TISSEELのみ対照、PEPのみ、TISSEEL-PEP、及び正常標準に対して実施した。組織サンプルを、分析のために、傷害後28日の屠殺時に採取した。2つの倍率にて示された各群からの代表的な写真。正常皮膚の列のスケールバーは100μmを表す。▲:治癒していない領域。黄色の矢印:毛嚢。赤色の矢印:新生血管。
【
図12】PEPは、傷害組織における構造的な再組織化に貢献する。創傷部位から採取したH&E染色組織切片(
図11)を、Image Jソフトウェアを使用して分析した。(A) 典型的に1スライドあたり10カ所の別々の位置において実施した処置の28日後の上皮層の厚さの定量化。N=4。(B) 典型的に1スライドあたり5カ所の別々の位置において実施した処置の28日後の皮層の厚さの定量化。N=4。***p<0.001。
【
図13】PEPは、傷害組織における構造的な再組織化に貢献する。処置の28日後の屠殺時に採取した傷害組織(n=3)の再構成の代表的な3D電子顕微鏡観察。黄色の矢印:線維芽細胞。赤色の矢印:組織の乱れたコラーゲン沈着。着色領域:赤血球を伴った新しい毛細血管。正常皮膚の基準バーは1μmである。
【
図14】PEPバイオゲルは、TGF-βシグナル伝達を活性化し、及びコラーゲン組織化を促進した。無処置、TISSEELのみ対照、PEPのみ、TISSEEL-PEP、及び正常皮膚のMasson Trichrome染色分析(1行目)、TGF-β免疫蛍光染色(2行目)、Col1A免疫蛍光染色(3行目)、Col3A染色(4行目)、及びCol1A/Col3A複合染色。皮膚組織を、術後28日目に入手した。スケールバー、200μm。
【
図15】PEPバイオゲルは、TGF-βシグナル伝達を活性化し、及びコラーゲン組織化を促進した。(A) TGF-βの免疫蛍光染色の定量。(B) Col1A、Col3Aの免疫蛍光染色の定量、及びCol3A:Col1Aの計算される比。(C) すべての群に関する繰り返し引張試験。無処置及びTISSEEL処置のみの群は、正常皮膚より堅く、正常皮膚のようではない。Rc=反力のバリエーション。(D) すべての群の最大引張試験。PEP-TISSEEL群は、最も高い引張力に抵抗し得る皮膚を有した。
【
図16】TISSEEL-PEP処置は、創傷治癒事象を促進する遺伝子の転写変化を媒介する。mRNAを、処置の28日後に採取した創傷部位の組織生検から単離し、そして、RNAシークエンシング(RNA-seq)を使用して分析した。得られた遺伝子発現データの第三の分析は、TISSEEL-PEP(右側の3つの列)処置群と比較して、TISSEELのみから採取した傷害組織で示差的に発現された遺伝子を実証した(N=3、遺伝子を100の正規化カウントを用いて選別し、そして、選別した遺伝子は│log
2FC│>0.5の基準を満たし、及びp<0.05を有意に変化したと見なした)。ヒートマップは、無処置対照に対する倍率変化として表される、示差的な上方制御(赤色)及び下方制御(青色)遺伝子を実証する。
【
図17】TISSEEL-PEP処置は、前創傷治癒事象に関連する遺伝子の転写変化を媒介する。RNAシークエンシング分析によって決定された有意に示差的な発現遺伝子の遺伝子オントロジーと経路解析。上方制御及び下方制御された上位10個の経路を示した(p<0.05)。それぞれの遺伝子数及びp値を有する最も有意かつ非冗長な生物学的プロセス又は経路を示す。(A) 細胞外構造の組織化にかかわる示差的な制御遺伝子のヒートマップ。(B) 血管新生の調整にかかわる示差的な制御遺伝子のヒートマップ。(C) 皮膚発生にかかわる示差的な制御遺伝子のヒートマップ。(D) VEGFシグナル伝達にかかわる示差的な制御遺伝子のヒートマップ。(E) 傷に対する応答にかかわる示差的な制御遺伝子のヒートマップ。(F) コラーゲン代謝プロセスにかかわる示差的な制御遺伝子のヒートマップ。(G) 細胞周期の正の制御にかかわる示差的な制御遺伝子のヒートマップ。(H) NIK/NF-κBシグナル伝達の調整にかかわる示差的な制御遺伝子のヒートマップ。ヒートマップは、無処置対照に対して倍率変化として表される、示差的な上方制御(赤色)及び下方制御(青色)遺伝子を実証する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
例示的な実施形態の詳細な説明
この開示は、創傷処置のための凍結乾燥した既成の再生プラットフォームとして処方される、TGF-β(トランスフォーミング成長因子ベータ)を補強した、血小板由来の臨床グレードエクソソーム生成物(PEP)の使用を説明する。虚血性創傷の処置に関して例示的な内容で以下に説明すると同時に、本明細書に記載した組成物及び方法は、これだけに限定されるものではないが、虚血性創傷(例えば、虚血性潰瘍)、刺創、裂創、擦傷、手術創、皮膚移植片、熱傷創傷、放射線照射誘発性創傷又は外傷性創傷を含めた、あらゆるタイプの創傷の処置を含み得る。
【0010】
フィブリンシーラント(TISSEEL, Baxter International, Inc., Deerfield, IL)に担持された、PEPを用いた虚血性創傷の局所処置は、毛嚢と皮脂腺の再獲得を伴った全層治癒を促進した。無処置及びTISSEELのみ処置対照を上回って、TISSEEL-PEPは、コラーゲン合成と皮膚構造の復元に関連する皮膚の治癒を駆動する。さらに、PEPは、上皮と血管の細胞活性を促進し、そして、血管新生を高めて、血流を復元し、かつ、皮膚機能を成熟させた。TISSEEL-PEP対TISSEELのみで処置された創傷のトランスクリプトーム解析は、新生血管形成、マトリックス再構成、及び組織成長を含めた再生経路を最優先させた。組成物は、凍結乾燥されると、室温にて安定しており、そしてそのため、生理活性成長因子を提供して、再生事象を駆動し得る。
【0011】
虚血性創傷は世界中で何百万人もの患者を襲い、命にかかわる切断と重篤な病的状態を招く結果となる。例えば、慢性虚血性創傷は、関連する57%の5年死亡率を有する四肢切断に進行し得る。創傷発生は、欠陥のある細胞増殖、低下した血管新生、及び限定された上皮化の結果と考えられる。現在の管理としては、創傷包帯材、局所用薬剤、及び外科手術が挙げられる。しかしながら、これまでのどんな処置も正常皮膚構造の回復を実現していない。転帰を改善するために、細胞ベースの処置法が、標準的治療を補助するものと見なされつつある。使いやすさを欠き、かつ、高コストによって妨げられる、それらの有用性は、依然として制限されたままであり、そして、実現可能かつ幅広く利用可能な再生式の代替手段の開発を支持している。
【0012】
細胞外小胞(EV)とそれらのエクソソームサブセットは、創傷治癒のために次世代の拡張性のある選択肢を提供する。エクソソームは、血管新生、細胞増殖及び遊走、並びに最終的な再上皮化を通して治癒を促進することを示した。細胞間連絡を媒介するような細胞膜を通した伝達性の、エクソソームは、直径が30~150nmに及ぶ高度に一定の細胞分泌小胞であり、細胞間の脂質カプセル封入シグナル伝達タンパク質及びヌクレオチドを輸送できる。
【0013】
PEPは完全に特徴づけされ、そして、PEPを調製する方法は、国際特許出願番号第PCT/US2018/065627号(国際公開番号第WO2019/118817号として公開)に記載されており、上記文献をその全体として参照により本明細書に援用する。簡単に言えば、例えば、PEPは一般的に、結晶構造ではなく、球状又はスフェロイド状構造を有する。球状又はスフェロイド状のエクソソーム構造は、一般に300nm以下の直径を有する。典型的には、PEP調製物は、比較的狭い粒度分布を有する球状又はスフェロイド状のエクソソーム構造体を含む。いくつかの調製物では、PEPは、約110nm±90nmの平均直径を有する球状又はスフェロイド状のエクソソーム構造を含み、エクソソーム構造のほとんどは、例えば110nm±30nmのような110nm±50nmの平均直径を有している。
【0014】
この開示は、CD63+、CD9+、Alix陽性であり、かつ、活性化血小板から調製されたPEP調製物の使用を説明する。PEP調製物は、創傷床に生理活性TGF-βを放出することによって創傷治癒を加速した。フィブリンシーラントの使用による徐放性デリバリーは、全層虚血性創傷治癒を伴った顕著な再生利益をもたらした。本明細書の結果は、創傷治癒を加速するために適用された凍結乾燥エクソソーム生成物におけるTGF-β生理活性を保持する能力に関する最初の証拠を提供する。
【0015】
PEP内に含有される細胞外小胞は、エクソソーム形質を示す
cGMP修復エクソソームの均一性を確保するために、PEP小胞を、ナノ粒子追跡解析(NTA)とナノフローサイトメトリー(NanoFCM)を使用して、小胞の形態、エクソソーム表面マーカーについて分析し、そして、評価した(
図1A~D)。透過型電子顕微鏡観察(TEM)では、PEP小胞の完全な二重膜ナノ構造を記録した(
図1A)。PEP同一性を、追加放出基準と並行して、エクソソームマーカー、CD63、CD9、及びAlixの発現(
図1B)を有する異なるcGMP製造ロットで確認した。PEPの流体力学直径は、129.7nmの平均値を有した(
図1C)。NanoFCMによるPEPの更なる分析では、123.49nmの類似した平均直径を示した(
図1D)。この多重パラメトリック品質管理評価は、PEPの均一なエクソソーム内容の正当性を確認する助けとなった。
【0016】
追加の表面マーカー特性評価を、自動ウエスタンブロット法(JESS, Protein Simple)、ナノフローサイトメトリー(Flow Nanoanalyzer, NanoFCM)、及びアフィニティー捕獲ベースのプローブ(ExoView R200, Nanoview Biosciences)を使用して実施した(
図2)。ウエスタンブロット分析では、エクソソーム表面マーカーCD9、CD63、及びFlotillin-1、並びに血小板特異的マーカーCD41の存在を実証する(
図2A)。ナノフローサイトメトリー分析では、脂質膜結合小胞(MemGlow488+)集団もまた、CD41血小板特異的表面マーカーについて陽性であり、そして、小胞が血小板起源のものであることが示されたことを示す(
図2B)。小胞のアフィニティーベースの捕獲と、その後の蛍光抗体染色では、小胞のCD41+捕獲集団でそれぞれCD9表面マーカーが濃縮されると共にCD63とCD81の両方が低レベルで検出されることを示す(
図2C~D)。
【0017】
次に、皮膚細胞治癒のPEP刺激を、新生血管形成及び細胞増殖への効果によってインビトロにおいて評価した(
図3~4)。ヒト臍血管内皮細胞(HUVEC)を、PEP、VEGF(血管内皮増殖因子)又はスラミン(VEGF阻害剤)と共に、線維芽細胞単層上で培養した。PEPは、内皮管形成の著しい増大で示されているように、VEGFより効果的にHUVECの血管新生を刺激することに留意した(
図3A~B)。PEPを伴って3Dで培養したヒト角化細胞(hKC)は、気液体界面培養においてhKCの分化を示し、そして、21日以内に正常な上皮構造を再生した(
図3C)。PEPの血管形成能を、細胞外マトリックス中でHUVECを培養し、PEPでそれらを処理することによって、さらに評価した。PEPは、FBSや無血清対照を上回って、管ネットワーク(メッシュ)を形成するHUVECの能力を有意に増強して、PEPが新しい血管系(
図3D~E)の形成を促進することを示した。さらに、PEPは、創傷スクラッチアッセイで記録されたように、初代ウサギ皮膚線維芽細胞及びhKCの遊走を促進した(
図4A~D)。
【0018】
更なる研究では、創傷治癒事象の駆動因子としてPEPカプセル化TGF-βを突き止めた(
図5A)。TGF-βの存在を、ウエスタンブロット(
図5B)とELISAベースのアッセイ(
図5C)によって確認した。PEPを用いたヒト線維芽細胞(hFB)の処置は、対照に対してI型コラーゲンとIII型コラーゲンの分泌を有意に増大させた(
図5D~E)。TGF-βの活性を確認するために、下流標的をhFB及びhKCの両方においてプローブした。対照と比較して、PEP処置hKCは、Smad2、Ras、MKK3(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ3)、RhoA(Ras相同体ファミリーメンバー)、P38、及びペリオスチンを含めたTGF-β標的を上方制御し、上皮の分化転換を容易にした(
図6A)。上方制御はまた、PEP処置hFBでも観察された(
図6B)。Smad2、Ras、MKK3、Erk1(細胞外シグナル調節キナーゼ)、及びTAK1(形質転換成長因子ベータ活性化キナーゼ1)の発現増加は、TGF-βを提供し、そして、創傷領域における線維芽細胞の活性化、増殖、及びコラーゲン沈着を促進するPEPの能力を裏付けた。
【0019】
TISSEEL-PEPバイオゲルは、インビボにおける虚血性創傷治癒を促進する
フィブリンシーラント(TISSEEL, Baxter International, Inc., Deerfield, IL)を、創傷床に細胞外小胞を投与するためのPEPの送達ビヒクルとして評価した(
図7)。PEP細胞外小胞を、フィブリンシーラントのフィブリン原線維に結合させ(
図7A)、7日間にわたる小胞の徐放を提供した(
図7B)。フィブリンシーラントとの混合、及びそこからの溶出後の小胞サイズに有意な変化はなく(
図7C)、小胞が完全性を維持し、かつ、著しい凝集が起こらないことを示した。PEP-TISSEEL組み合わせの生体適合性をさらに評価するために、インビトロスクラッチアッセイを、スクラッチ部位に投与されたPEP-TISSEL混合物を用いて実施した(
図8A~F)。生物学的強化フィブリン足場に向かう細胞の迅速な進行とスクラッチの閉鎖があった(
図8F)。
【0020】
インビトロ翻訳では、PEPが皮膚再生事象を刺激することを証明でき、臨床的に確立された創傷用外科シーラント(TISSEEL, Baxter International, Inc., Deerfield, IL)に関連したPEPの処置可能性を調査した。虚血性ウサギ耳モデルにおける創傷治癒を、無処置、TISSEELのみで処置、及びPEPのみで処置した動物を含めた対照群と比較して、PEP-生物学的強化TISSEELバイオゲル(TISSEEL-PEP)の有効性を評価するのに使用した(
図9A)。28日目には、TISSEEL-PEP群以外のすべての群で、長引く創傷が見られた(
図9B)。TISSEEL-PEPは、最速の創傷閉鎖速度をもたらした(
図10A)。
【0021】
さらに、皮膚水分量と皮脂レベルは、治癒した皮膚のマーカーである。皮脂濃度(
図10B)と水分量(
図10C)の両方がTISSEEL-PEP処置動物で有意に高く、皮膚の恒常性の回復が示唆された。結果は、TISSEEL-PEPバイオゲルの促進させられた創傷治癒を示すワグナー潰瘍分類分析によってさらに支持された(
図10D)。まとめると、これらの知見は、TISSEEL-PEPが虚血性創傷治癒を容易にすることを示唆している。
【0022】
PEPは、創傷組織の再組織化に寄与する
再生皮膚の質を評価するために、治癒した皮膚の生理を調査した。最長4週間の経過観察により、TISSEEL-PEPで処置した創傷が、正常な皮膚に匹敵する正常皮膚構造を復元したが、それに対して、対照群は異常な構造を実証した(
図11)。無処置動物の3分の1が、軟骨及び最小限のコラーゲン沈着を晒し、適用されたモデルの重症度を確認した。TISSEEL-PEP創傷はまた、毛嚢と皮脂腺も再発生したが、他の群では存在しなかった。皮膚構造の評価では、TISSEEL-PEP処置創傷が上皮層の正常化を伴った組織的表皮構造の優越性を示すことが示された(
図12A~B)。瘢痕形成を最小にし、かつ、経上皮水分損失を予防する、促進された再上皮化は、PEP刺激角化細胞遊走及び分化の結果と考えてもよい。組織構造の更なる比較のために、三次元電子顕微鏡観察(3D EM)を使用して、創傷構造の全層を可視化した(
図13)。対照群の組織は、非組織化、かつ、低密度コラーゲン線維を示し、及びPEPのみの動物は、新しい瘢痕形成に典型的である整列したコラーゲン線維を示した。対照的に、TISSEEL-PEP動物は、(正常皮膚の成熟細胞外マトリックスに類似した)バスケット織コラーゲン構造を示した(
図13)。
【0023】
PEPバイオゲルは、TGF-βシグナル伝達を駆動して、コラーゲン組織化を促進する
処置群の中のコラーゲン組織化と発現の違いにより、コラーゲン分布とTGF-β発現がインビボにおいて調査され、そして、再上皮化、コラーゲン合成、及び沈着について精査した(
図14)。インビトロにおける増大する細胞遊走(
図4、
図8)及びTGF-β下流の遺伝子発現の誘導(
図6)と一致して、TISSEEL-PEPは、TGF-βのより高度な組織発現を刺激し(
図15A)、I型コラーゲン(COL1A)及びIII型コラーゲン(COL3A)の発現を駆動した(
図15B)。類似のコラーゲン密度を有する一方で、TISSEEL-PEP群は、正常皮膚群と比較して、より高いCOL3A/COL1A比を有し、そしてそれは、COL3Aによって媒介されるより少ない瘢痕形成を伴った治癒を示唆し得る。相対的に、対照群は、瘢痕タイプの細胞整列と異常なコラーゲン分布を有する遅延性の治癒を示した(
図9B)。
【0024】
群の中でも異なるコラーゲン濃度と組織化が存在するので、コラーゲン量は皮膚の生体力学特性に影響する可能性がある。創傷皮膚が繰り返しの引き伸ばしに晒されたとき、PEPのみ及びTISSEEL-PEP組織は、無傷の皮膚に最も近い反応を示し、他の処置群に対して機能的なコラーゲン量を示した(
図15C)。対照的に、無処置及びTISSEELのみ群は、最も乏しい弾性を示した。引張強度試験では、TISSEEL-PEP組織が無傷の皮膚に類似した強度を有することが実証された(
図15D)。これらの知見は、虚血状況において、TISSEEL-PEPが、皮膚を再生でき、そして、正常皮膚に類似した生体力学的完全性を取り戻すことを示唆している。TISSEEL-PEP処置は、前創傷治癒事象の基礎となる転写による再構成を引き起こす。
【0025】
TISSEEL-PEP駆動再生転帰の基礎となる分子事象を、700超の遺伝子標的を評価するトランスクリプトームプロファイリングによって精査した(
図16)。TISSEEL群と比較して、213個の遺伝子が有意に上方制御され、そして、523個の遺伝子がPEP-TISSEEL群において下方制御された。遺伝子オントロジーエンリッチメント分析とKEGG経路解析では、PEP強化バイオゲルが、前創傷治癒に関連する遺伝子を調節することが示された(表1)。
【0026】
【0027】
具体的には、細胞外組織化、血管新生、皮膚発生、及びVEGFシグナル伝達に関連する遺伝子が上方制御された(
図17A~D)。TGF-β経路とNIK/NF-κBシグナル伝達に関連する遺伝子は、下方制御された(
図17E~H)。更なる分析では、TGF-β経路とNIK/NF-κBシグナル伝達の調整を伴ったPEP効果が突き止められた。これらの知見は、PEPが、増強されたRhoA、Smad2、TAK1、及びRas経路を含めたTGF-βの下流伝達物質を調整し(
図6)、増強された上皮化、線維芽細胞活性化、及びコラーゲン産生の基盤となるというインビボの結果と一致する。興味深いことに、抑制されたコラーゲン代謝がTISSEEL-PEP処置創傷において観察され、そしてそれが、創傷治癒の再構成相へのより早期の移行を示唆していた。これは、皮膚発生と成熟の転写及び表現型発生によってさらに裏付けられた。
【0028】
本明細書に提供された結果は、虚血性創傷治癒のための細胞非依存性の、既成の、再生プラットフォームとしてPEP生物学的強化バイオゲルの処置可能性を記録する。PEPは、生理活性TGF-βの提供によって、上皮の分化転換及び促進されたコラーゲン沈着と組織化を特徴とする、虚血性創傷の速やかな治癒を開始するような皮膚始原細胞におけるマイトジェニック事象を駆動する。さらに、TISSEEL-PEP処置創傷は、生理学的な治癒プロセスに好都合な復元構造と遺伝子発現様式を実証した。TISSEEL-PEPによって駆動される生物学的事象の調和は、組織学的、生体力学的、及び機能的評価において正常皮膚と同様の特性を有した再生組織をもたらした。
【0029】
PEPを欠く処置群対PEP強化処置群の全体的なトランスクリプトームフィンガープリントは、健康状態に向かう分子事象の正常化を強調した。総合すれば、本明細書に提示したデータは、PEPが、虚血創傷床内で創傷治癒を促進するようなTGF-β中心のプログラムを生み出す既成の再生エクソソーム生成物としての役割を果たすことを実証する。
【0030】
治癒プロセスにおける複数の生物学的活性に対する好ましい効果の証拠が、この調査で観察された。特に、そして、血管事象がTISSEEL-PEP群の組織像で観察され、PEPはまた内皮細胞活性も標的化し得ることが示唆された。これは、血管新生に関連する、VEGFシグナル伝達を含めた、遺伝子のより高度な発現を明らかにするトランスクリプトームプロファイリングとしてインビボにおいてさらに裏付けられた。さらに、組織トランスクリプトームプロファイリングでは、PEPが再生事象を駆動するように組織における多価作用を有する可能性があることを示唆する、炎症性事象及びNIK/NF-κB関連事象の下方制御を示唆した。
【0031】
要約すれば、本明細書に提示されるデータは、特化PEP生物学的強化ヒドロゲルが、TGF-β経路を介して、上皮の分化転換、コラーゲン再組織化、及び皮膚組織発生の全体的な誘導を調整することによって虚血性創傷治癒が促進されることを示す。よって、PEPは、慢性虚血性創傷を患っている患者向けの、有望な処置可能性を有する無細胞再生処置法を提供する。そのため、PEP調製物は、既成の、細胞非依存性再生処置法を提供する、技術的プラットフォームとしての役割を果たし得る。
【0032】
一態様において、この開示は、対象の創傷を処置するための組成物及び方法を説明する。様々な実施形態において、創傷とは、虚血性創傷(例えば、虚血性潰瘍)、刺創、裂創、擦傷、手術創、皮膚移植片、又は外傷性創傷であってもよい。概して、組成物は、PEP調製物と医薬として許容される担体を含む。1若しくは複数の実施形態において、医薬として許容される担体としては、例えば、外科用接着剤又は組織接着剤物質を挙げることができる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「対象」は、ヒト又は任意の非ヒト動物であり得る。例示的な非ヒト動物対象としては、これだけに限定されるものではないが、家畜動物、コンパニオン動物、又は実験動物が挙げられる。例示的な非ヒト動物被験体としては、これだけに限定されるものではないが、ヒト科(例えば、チンパンジー、ゴリラ、又はオランウータンを含む)、ウシ(例えば、牛を含む)、ヤギ(例えば、ヤギを含む)、ヒツジ(ヒツジなど)、ブタ(ブタなど)、ウマ (ウマなど)、シカ科のメンバー(シカ、エルク、ムース、カリブー、トナカイなど)、バイソン科のメンバー(例えば、バイソンを含む)、ネコ科(例えば、飼い猫、トラ、ライオンなどを含む)、イヌ科(例えば、飼い犬、オオカミなどを含む)、鳥科(例えば、七面鳥、鶏、カモ、ガチョウなどを含む)、げっ歯動物(例えば、マウス、ラットなどを含む)、ウサギ科のメンバー(例えば、ウサギ又はノウサギを含む)、イタチ科のメンバー(例えば、フェレットを含む)、又は翼手目のメンバー(例えば、コウモリを含む)が挙げられる。
【0034】
よって、その方法は、修復を必要としている創傷に有効量の組成物を投与することを含む。「有効量」とは、無処置又は異なる創傷閉鎖処置を受けたかのいずれかである好適な比較可能な創傷と比較して、創傷閉鎖までの時間を短縮するのに有効な量である。1若しくは複数の実施形態において、「有効量」とは、比較可能な無処置の創傷と比較して、血管新生を増強するか、創傷への線維芽細胞の遊走を増強するか、又は創傷への角化細胞の遊走を増強するのに有効な量である。1若しくは複数の他の実施形態において、「有効量」とは、比較可能な無処置の創傷と比較して、TGF-β、COL1A又はCOL3Aを増強するのに有効な量である。1若しくは複数の他の実施形態において、「有効量」とは、比較可能な無処置の創傷と比較して、創傷のワグナー潰瘍分類グレードを低下させるのに有効な量である。1若しくは複数の他の実施形態において、「有効量」とは、比較可能な無処置の創傷と比較して、反力変化(Rc)の減少又は引張力に対する抵抗性を増強するのに有効な量である。1若しくは複数の他の実施形態において、「有効量」とは、無処理の角化細胞と比較して、角化細胞におけるSMAD2、RAS、MKK3、RHOA、P38、又はペリオスチンの発現を増強するのに有効な量である。1若しくは複数の他の実施形態において、「有効量」とは、無処理の線維芽細胞と比較して、線維芽細胞におけるSMAD2、RAS、MKK3、ERK1、又はTAK1の発現を増強するのに有効な量である。特定の実施形態において、比較対照は、PEPを含んでいない組織シーラント又は外科用接着剤で処置された創傷、角化細胞、又は線維芽細胞であり得る。特定の実施形態において、比較対照は、組織シーラント又は外科用接着剤の不存在下、PEPで処置された創傷、角化細胞、又は線維芽細胞であり得る。
【0035】
PEPは、薬学的に許容される担体とともに製剤化され、医薬組成物を形成してもよい。本明細書で使用する場合、「担体」は、任意の溶媒、分散媒体、ビヒクル、コーティング剤、希釈剤、抗菌剤、及び/又は抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、バッファー、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含む。1若しくは複数の実施形態において、医薬として許容される担体は、ヒドロゲルを含み得る。特定の実施形態において、医薬として許容される担体としては、フィブリンシーラント(例えば、TISSEEL, Baxter International, Inc., Deerfield, IL; VISTASEAL, Johnson & Johnson Corp., New Brunswick, NJ; EVICEL, Johnson & Johnson Corp., New Brunswick, NJ; ARTISS, Baxter International, Inc., Deerfield, IL; TACHOSIL, Corza Health, Inc., Del Mar, CA; RECOTHROM, Baxter International, Inc., Deerfield, IL)、組織シーラント、又は外科用接着剤を挙げることができる。医薬活性物質に対するこのような媒体及び/又は薬剤の使用は、当技術分野でよく知られている。任意の従来の媒体又は薬剤が活性成分と不適合である場合を除いて、治療用組成物におけるその使用が企図される。補足的な活性成分もまた、本組成物に組み込むことができる。なので、例えば、医薬として許容される担体としては、基底膜タンパク質が(例えば、コラーゲン)を含めたヒドロゲルを挙げることができる。さらに、複数の医薬として許容される担体を組み合わせることができる。よって、特定の実施形態において、医薬として許容される担体としては、例えば、トロンビンシーラント、フィブリンシーラント、組織シーラント、又は外科用接着剤を含めたヒドロゲルを挙げることができる。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される」とは、生物学的又はその他の点で望ましくない材料、すなわち、望ましくないどんな生物学的効果を引き起こしたりせず、又はその材料が含まれる医薬組成物の他の成分のいずれとも有害な方法で相互作用することなく、PEPとともに個人に投与され得るものを指す。
【0036】
PEPを含む医薬組成物は、好ましい投与経路に適応した様々な形態で製剤化されてもよい。したがって、医薬組成物は、例えば、経口、非経口(例えば、皮内、経皮、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内など)、又は局所(例えば、手術中に露出した神経組織への適用、経鼻、肺内、乳腺内、膣内、子宮内、皮内、経皮、直腸など)を含む公知の経路を介して投与されてもよい。医薬組成物は、例えば、鼻粘膜又は呼吸器粘膜への投与(例えば、スプレー又はエアロゾルによる)などにより、粘膜表面に投与されてもよい。医薬組成物はまた、持続放出又は遅延放出を介して投与されることもできる。
【0037】
したがって、医薬組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、スプレー、エアゾール、又は任意の形態の混合物を含むがこれらに限定されない任意の適切な形態で提供されてもよい。本医薬組成物は、任意の薬学的に許容される賦形剤、担体、又はビヒクルとの製剤で送達されてもよい。例えば、本製剤は、例えば、クリーム、軟膏、エアゾール製剤、ノンエアゾールスプレー、ゲル、ローションなどの従来の局所投与形態で送達されてもよい。本製剤は、例えば、アジュバント、皮膚浸透促進剤、着色剤、香料、保湿剤、増粘剤などを含む1又は複数の添加剤をさらに含んでもよい。
【0038】
製剤は、単位投与形態で便利に存在していてもよく、薬学の技術分野でよく知られた方法によって調製されてもよい。薬学的に許容される担体を有する組成物を調製する方法は、PEPを1つ又は複数の付属成分を構成する担体と関連させるステップを含む。一般に、製剤は、PEPを液体担体、細かく分割された固体担体、又はその両方と均一に、及び/又は親密に関連させ、その後、必要に応じて、所望の製剤に成形することによって調製されてもよい。
【0039】
投与されるPEPの量は、投与されるPEPの内容及び/又は源、対象の体重、身体状態、及び/又は年齢、及び/又は投与経路を含むがこれらに限定されない様々な要因によって変化し得る。したがって、所定の単位投与形態に含まれるPEPの絶対重量は大きく変化してもよく、対象の種、年齢、体重、及び身体状態、及び/又は投与方法などの要因に依存する。したがって、すべての可能な用途に有効なPEPの量を構成する量を一般的に規定することは実用的ではない。しかし、当業者であれば、そのような要素を十分に考慮した上で、適切な量を容易に決定することができる。
【0040】
1若しくは複数の実施形態において、PEPの用量は、ある用量で送達されたPEPエクソソームという観点から測定されることもできる。したがって、1若しくは複数の実施形態において、本方法は、例えば、約1×106PEPエクソソームから約1×1015PEPエクソソームの用量を対象に提供するために十分量のPEPを投与することを含んでいてもよいが、1若しくは複数の実施形態において、この範囲外の用量でPEPを投与することによって、本方法を実施されてもよい。したがって、1若しくは複数の実施形態において、本方法は、少なくとも1×106PEPエクソソーム、少なくとも1×107PEPエクソソーム、少なくとも1×108PEPエクソソーム、少なくとも1×109PEPエクソソーム、少なくとも1×1010PEPエクソソーム、少なくとも1×1011PEPエクソソーム、少なくとも2×1011PEPエクソソーム、少なくとも3×1011PEPエクソソーム、少なくとも4×1011PEPエクソソーム、少なくとも5×1011PEPエクソソーム、少なくとも6×1011PEPエクソソーム、少なくとも7×1011PEPエクソソーム、少なくとも8×1011PEPエクソソーム、少なくとも9×1011PEPエクソソーム、少なくとも1×1012PEPエクソソーム、2×1012PEPエクソソーム、少なくとも3×1012PEPエクソソーム、少なくとも4×1012PEPエクソソーム、又は少なくとも5×1012PEPエクソソーム、少なくとも1×1013PEPエクソソーム、又は少なくとも1×1014PEPエクソソームの最小用量を提供するために十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。
【0041】
1若しくは複数の実施形態において、本方法は、1×1015PEPエクソソーム以下、1×1014PEPエクソソーム以下、1×1013PEPエクソソーム以下、1×1012PEPエクソソーム以下、1×1011PEPエクソソーム以下、又は1×1010PEPエクソソーム以下の最大用量を提供するのに十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。
【0042】
1若しくは複数の実施形態において、本方法は、上記で特定された任意の最小用量及び前記の選択された最小用量よりも大きい任意の最大用量によって定義される端点を有する範囲によって特徴付けられる用量を提供するために十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。例えば、1若しくは複数の実施形態において、本方法は、例えば、1×1011~5×1012のPEPエクソソームの用量、1×1012~1×1013のPEPエクソソームの用量、又は5×1012~1×1013のPEPエクソソームの用量などの1×1011~1×1013までのPEPエクソソームの用量を提供供するために十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。特定の実施形態において、本方法は、上記の任意の最小用量又は任意の最大用量に等しい用量を提供するために十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。したがって、例えば、本方法は、1×1010PEPエクソソーム、1×1011PEPエクソソーム、5×1011PEPエクソソーム、1×1012PEPエクソソーム、5×1012PEPエクソソーム、1×1013PEPエクソソーム、又は1×1014PEPエキソームの用量を投与することを含んでいてもよい。
【0043】
あるいは、1若しくは複数の実施形態において、本方法は、例えば約0.01%溶液~100%溶液までの用量を対象に提供するために十分なPEPを投与することを含むことができるが、1若しくは複数の実施形態において、本方法はこの範囲外の用量のPEPを投与することによって実施されてもよい。本明細書で使用される場合、PEPの100%溶液とは、1mlの液体又はゲルキャリア(例えば、水、リン酸緩衝生理食塩水、無血清培養液、外科用接着剤、組織接着剤など)に溶解した約75mgのPEPのことを意味する。比較対象である、0.01%PEPの用量は、標準的な細胞調節培地を用いてインビトロで細胞からエクソソームを分離するなどの従来のエクソソーム取得方法を用いて調製した標準的な用量のエクソソームにほぼ相当する。
【0044】
したがって、1若しくは複数の実施形態において、本方法は、少なくとも0.01%、少なくとも0.05%、少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%、少なくとも1.0%、少なくとも2.0%、少なくとも3.0%、少なくとも4.0%、少なくとも5.0%、少なくとも6.0%、少なくとも7.0%、少なくとも8.0%、少なくとも9.0%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、又は少なくとも70%の最小用量を提供するために、十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。
【0045】
1若しくは複数の実施形態において、本方法は、100%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、9.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下。3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、又は0.1%以下の最大用量を提供するために、十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。
【0046】
1若しくは複数の実施形態において、本方法は、上記で同定された任意の最小用量及び前記の選択された最小用量よりも大きい任意の最大用量によって定義される端点を有する範囲によって特徴付けられる用量を提供するために、十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。例えば、1若しくは複数の実施形態において、本方法は、例えば5%~20%の用量などの、1%~50%の用量を提供するために、十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。特定の実施形態において、本方法は、上記の任意の最小用量又は任意の最大用量に等しい用量を提供するために十分量のPEPを投与することを含んでいてもよい。したがって、例えば、本方法は、0.05%、0.25%、1.0%、2.0%、5.0%、20%、25%、50%、80%、又は100%の用量を投与することを含んでいてもよい。
【0047】
1回の投与量は、1度に投与されることも、所定期間継続して投与されることも、又は複数回に分けて投与されてもよい。複数回の投与が利用される場合、各投与の量は同じ又は異なっていてもよい。例えば、1日の所定量は、1回の投与として、24時間にわたって連続的に投与されてもよいし、又は、2回又はそれ以上の投与として投与されてもよく、これらは等しい又は等しくなくてもよい。1回の投与量を送達するために、複数回投与が使用されるときは、投与間隔は同じ又は異なってもよい。特定の実施形態において、PEPは、例えば、外科手術中に、1回の投与からおこなわれてもよい。
【0048】
例示的な一実施形態において、PEP組成物は、対象が修復を必要とする創傷を呈するとすぐに投与されてもよい。対象は、PEP組成物の単回投与を受けても、又はPEP組成物の複数回投与を受けてもよい。当該PEP組成物の複数の投与が対象に投与される特定の実施形態において、当該PEP組成物は、創傷が十分に治癒するまで必要に応じて投与されてもよい。あるいは、当該PEP組成物は、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、又は少なくとも10回投与されてもよい。投与間隔は、例えば、少なくとも3日、少なくとも5日、少なくとも7日、少なくとも10日、少なくとも14日、又は少なくとも21日など、少なくとも最低で1日とすることができる。投与間隔は、例えば、3ヶ月以内、2ヶ月以内、1ヶ月以内、21日以内、又は14日以内など、最大で6ヶ月以内とすることができる。
【0049】
1若しくは複数の実施形態において、本方法は、上記で特定された任意の最小間隔及び選択された最小間隔よりも大きい任意の最大間隔によって定義される端点を有する範囲によって特徴付けられる間隔(2回の投与について)又は間隔(2回超の投与について)でのPEPの複数の投与を含んでいてもよい。例えば、1若しくは複数の実施形態において、本方法は、例えば3日~10日などの1日~6ヶ月の1回の間隔又は複数回の間隔でPEPを複数回投与することを含んでいてもよい。特定の実施形態において、本方法は、上記の任意の最小間隔又は任意の最大間隔に等しい間隔でPEPを複数回投与することを含んでいてもよい。したがって、例えば、本方法は、3日、5日、7日、10日、14日、21日、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、又は6ヶ月の間隔でPEPを複数回投与することを含んでいてもよい。
【0050】
1若しくは複数の実施形態において、本方法は、様々な細胞種から調製されるPEPのカクテルを投与することを含んでいてもよく、各細胞種は、固有の創傷治癒プロファイル-例えば、タンパク質組成及び/又は遺伝子発現を有する。このように、PEP組成物は、PEP組成物が単一の細胞タイプから調製される場合よりも、より広い範囲の創傷治癒活性を提供することができる。
【0051】
前記説明及び以下の請求項において、用語「及び/又は」は、リストアップされた要素の1つ又はすべて、又はリストアップされた要素の任意の2又は複数の組み合わせを意味する。用語「含む」、「含んでいる」及びその変形は、オープンエンドとして解釈される。すなわち、追加の要素やステップはオプションであり、そして、存在していても、又は存在していなくてもよい。特に指定がない限り、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1の」は互換的に使用され、そして、1又は1超を意味する。端点による数値範囲の記載は、その範囲に含まれるすべての数値を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5など)。
【0052】
本明細書全体を通して「一実施形態」、「ある実施形態」、「特定の実施形態」、「1若しくは複数の実施形態」、又は「いくつかの実施形態」などへの言及は、本実施形態に関連して説明される特定の特徴、構成、組成、又は特性が本開示の少なくとも一実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の各所でこのようなフレーズの出現は、必ずしも本開示の同一実施形態に言及されるものではない。さらに、特定の実施形態は、明確にするために分離して説明されてもよい。したがって、特定の実施形態の特徴が別の実施形態の特徴と互換性がないことを明示的に指定しない限り、特定の特徴、構成、組成、又は特性は、1つ又は複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わされ得る。したがって、ある実施形態の文脈で説明した特徴は、その特徴が相互に排他的である場合を除き、異なる実施形態の文脈で説明した特徴と組み合わされることがあり得る。
【0053】
「好ましい」及び「好ましくは」という語は、特定の状況下で特定の利点を与えるかもしれない本発明の実施形態を意味する。しかし、他の実施形態も、同じ又は他の状況下で好ましくあり得る。さらに、1又は複数の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用でないことを意味するものではなく、そして、他の実施形態を本発明の範囲から除外することを意図されるものでもない。
【0054】
不連続なステップを含む本明細書に開示された任意の方法について、本ステップは、任意の実行可能な順序で実施され得る。また、必要に応じて、2又は複数のステップの任意の組み合わせを同時に実施されてもよい。
【0055】
本発明は、以下の実施例によって説明される。特定の実施例、材料、量、及び手順は、本明細書に記載された本発明の範囲及び精神に従って広く解釈されることが理解されるものとする。
【実施例】
【0056】
PEP調製物
臨床グレードの精製エクソソーム生成物(Rion LLC, Rochester, MN)バイアルを、MayoクリニックにてAdvanced Product Incubatorバイオマニュファクチャリング機関から入手した。簡単に言えば、PEPとは、一連の濾過、除核、及び遠心分離ステップによってアフェレーシス血小板から単離された、高度な再生エクソソーム画分を表す。最終的なカプセル封入ステップは、エクソソーム脂質二重層の完全性を維持したままでのエクソソーム集団の凍結乾燥を可能にする。追加プロセスの詳細は、米国特許第10,596,123号及び国際公開番号第WO2019/118817A1号で提供された。密閉PEP(5×1012エクソソームを表す)のバイアルを、1mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で溶解し、そしてそれを、100%(w/v)と定義した。使用の前に、PEP溶液を、STERIFLIP-GP滅菌0.22μm濾過システム(MilliporeSigma, Burlington, MA)を通して濾過した。その100%PEP溶液を、特性評価用にPBSで希釈するか、又は細胞培養用に培養培地に溶解した。
【0057】
電子顕微鏡
懸濁PEPを、電子顕微鏡検証のためにformvar炭素コートニッケル格子上に滴下した。2%の酢酸ウラニルで染色した後に、格子を風乾し、そして、透過型電子顕微鏡(TEM, H-7650 Hitachi High-Technology Science Corp., Tokyo, Japan)によって視覚化した。
【0058】
エクソソーム特性評価:NANOSIGHT、NanoView、及びNanoAnalyzer
NANOSIGHT NS300(Malvern Panalytical Ltd., Malvern, UK)をPEP小胞サイズと濃度のリアルタイム特性評価に使用した。
NanoAnalyzer(NanoFCM)をPEP小胞サイズと濃度のナノフローサイトメトリーリアルタイム特性評価に使用した。さらに、PEPを、MEMGLOW488脂質膜染色とCD41a APC抗体(血小板特異的表面マーカー)で蛍光ラベルした。
NanoView:2つのロットのPEPを再構成し、そして、1000倍にさらに希釈した。50マイクロリットルのサンプルを、CD41a捕獲チップ上で16時間インキュベートした。前述の表面マーカーを発現するPEPの蛍光ラベリングのために、チップを、洗浄し、そして、CD9、CD63、及び/又はCD81の抗体と共にインキュベートした。データを、R100リーダーを使用して収集し、EXOVIEW Scanner 3.0ソフトウェア(NanoView Biosciences, Inc., Brighton, MA)を用いて分析した。
【0059】
ウエスタンブロット分析
PEP小胞を、RIPAベースの溶解バッファーで再構成し、そして、超音波ホモゲナイザー(Branson Ultrasonics, Brookfield, CT)で均質化した。タンパク質濃度を、BCAタンパク質分析キット(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を使用して定量化した。等量のタンパク質を、SDS-PAGEゲルで分解し、そして、ODYSSEYニトロセルロース膜(LI-COR Biosciences, Inc., Lincoln, NE)上でプローブを結合させた。一晩のインキュベーションを、CD63(1:1000、Abcam ab59479, Abcam plc, Cambridge, UK)、CD9(1:1000、Cell Signaling 13174s, Cell Signaling Technology, Inc., Danvers, MA)、Alix(1:1000、Cell Signaling 2171s, Cell Signaling Technology, Inc., Danvers, MA)、GAPDH(1:1000、Cell Signaling 2118s, Cell Signaling Technology, Inc., Danvers, MA)に対する希釈抗体と共に実施し、そしてそれに続いて、適切な希釈二次抗体(Invitrogen, Carlsbad, CA)とインキュベートした。結合した抗体を、Odyssey System(LI-COR Biosciences, Inc., Lincoln, NE)を使用して検出した。
【0060】
簡易ウエスタンブロット分析
PEP小胞は、EXOEASY Maxiキット(QIAGEN, Hilden Germany)を使用して濃縮した。総タンパク質量濃度を、BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)によって定量化した。JESS自動ウエスタンブロットシステム(ProteinSimple, Santa Clara, CA)を、製造業者のプロトコールに従って使用した。タンパク質を、CD9及びFlotillin-1を検出するために1mg/mLにて、CD63を検出するために0.5mg/mLにて、及びCD41を検出するために0.02mg/mLにて装填した。使用した一次抗体としては、ウサギ抗ヒトCD9(1:30、Cell Signaling 13403S, Cell Signaling Technology, Inc., Danvers, MA)、ウサギ抗ヒトFlotillin-1(1:50、Abcam ab133497, Abcam plc, Cambridge, UK)、ウサギ抗ヒトCD63(100μg/mL、MAB50482, R&D Systems, Inc., Minneapolis, MN)、及びウサギ抗ヒトCD41(1:30、NBP1-84581, Novus Biologicals, LLC, Centennial, CO))が挙げられる。データを、COMPASSソフトウェア(ProteinSimple, Santa Clara, CA)で分析した。
【0061】
Ella, ProteinSimpleによる自動ELISA
PEP小胞を、1×RIPA溶解バッファーで再構成し、ボルテックス処理し、そして、室温にて5分間インキュベートした。サンプルを、14000rpmにて10分間遠心分離し、次に、上清を、0.22μm界面活性剤不含酢酸セルロース(SFCA)フイルターシリンジを通して濾過した。潜在TGF-βを、1NのHClで免疫反応型に活性化し、次に、1.2N NaOH/0.5M HEPESを用いて中和した。サンプルをサンプル希釈剤で希釈した。サンプルを、TGF-βカートリッジに装填し、そして、自動ELISA装置(ELLA, ProteinSimple, Santa Clara, CA)を動作させた。
【0062】
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)
ヒト角化細胞(ABC-TC536S, AcceGen, Fairfield, NJ)と線維芽細胞(C0135C, Gibco, Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)のPEP刺激遺伝子発現を、qRT-PCRによって試験した。角化細胞と線維芽細胞を、5%のPEPで3時間、12時間、又は24時間処理し、その一方で、ブランクDMEMは対照としての役割を果たした。全RNAを、製造業者の標準プロトコールに従って、TRI REAGENT(Molecular Research Center, Inc., Cincinnati, OH)を使用して、角化細胞と線維芽細胞から単離した。相補DNA(cDNA)を、iSCRIPT cDNA Synthesis Kit(Bio-Rad laboratories, Inc., Hercules, CA)によって等量のRNA(1μg)から逆転写した。すべての動作を、以下の遺伝子:Smad2、Ras、MKK3、Erk1、ペリオスチン、P38、RhoA、及びTAK1、について、サーモサイクラー(C1000 TOUCH, Bio-Rad Laboratories, Inc., Hercules, CA)によりSYBR Green PCR Master Mix(Quantabio, Beverly, MA)を使用して実施した。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を内部対照として選択した。ピペッティング誤差を管理するために、それぞれのcDNAサンプルを二連で実施した。増幅に使用したプライマーを、表2に列挙した。標的遺伝子からのデータを、GAPDHに対して正規化し、次に、2-ΔCt法を使用して計算した。
【0063】
【0064】
I型/III型コラーゲンのELISA
I型コラーゲンとIII型コラーゲンの濃度を、ELISA(R&D Systems, Inc., Minneapolis, MN)によって別々に計測した。450nmの吸収度を、マイクロプレート分光光度計(FLUOstar Omega, BMG Labtech, Ortenberg, Germany)を使用して計測した。
【0065】
共培養に関するHUVEC血管新生アッセイ
INCUCYTE96ウェル血管新生アッセイ(Essen BioScience, Inc., Ann Arbor, MI)を、製造業者のプロトコールに従って実施した。簡単に言えば、レンチウイルス感染緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するHUVEC(Essen BioScience, Inc., Ann Arbor, MI)を、96ウェルマイクロプレート内で正常ヒト皮膚線維芽細胞(Essen BioScience, Inc., Ann Arbor, MI)と共培養した。プレートを、INCUCYTEイメージャー(Essen Bioscience, inc., Ann Arbor, MI)内にセットし、そして、画像を、10日間にわたり6時間毎に位相と蛍光の両方で自動的に取得した。4日目では、低分子阻害剤を、内皮管ネットワークに添加し、そして、実験を通して保持した。Angiogenesis Analysis Module(Essen BioScience, Inc., Ann Arbor, MI)を使用して、管長と分枝点を定量した。8つの生物学的複製を、各条件について包含した。
【0066】
細胞外マトリックスにおけるHUVEC血管新生アッセイ
プレートと試薬を氷上に維持しながら、血管新生キット(Abcam plc, Cambridge, UK)を使用して、50μlの細胞外マトリックス溶液で96ウェルプレートのそれぞれのウェルをコートした。試験した各サンプルについて対照ウェルを含んだ。プレートを、1時間にわたり37℃のインキュベータに移して、細胞外マトリックス溶液にゲルを形成させた。PEPサンプルを、20%(v/v)の終濃度でヘパリン(1U/mL)を含む無血清培地で希釈した。HUVECを、1U/mLの濃度でヘパリンを含有する100μlの無血清組織培養培地中、1ウェルあたり3,200細胞の密度にて各ウェルに加えた。プレートを、3時間毎に10×倍率でINCUCYTEスキャナ(Essen Bioscience, inc., Ann Arbor, MI)を使用して写真を取得しながら、18時間にわたり37℃のインキュベータにセットした。18時間後に、血管新生アッセイキットの製造業者のプロトコールに従って、細胞を染色した。簡単に言えば、キットで提供された染色を、洗浄バッファーで希釈した。明視野と蛍光顕微鏡像を、細胞染色後に取得した。画像を、ImageJソフトウェアにアップロードし、そして、Angiogenesis Analyzerツール(Carpentier, et al., Sci Rep 10(1):11568, 2020)を使用して分析した。
【0067】
細胞遊走アッセイ
初代ウサギ皮膚線維芽細胞(FB)を、健康なウサギ(2.0~3.5kgの体重を有し、約6ヶ月齢)の耳皮膚から単離し、そして、10%のウシ胎仔血清を含有するDMEM中で維持した。初代ヒト角化細胞(KC)を、Gibco(C0055C, Thermo Fisher Scientific, Inc. Waltham, MA)から購入し、そして、維持した。細胞遊走を、(生細胞画像化システム(INCUCYTE S3, Essen BioScience Inc., Ann Arbor, MI)によって計測される)スクラッチ創傷アッセイによって分析した。FB又はKCを、96ウェルプレート(Corning, Inc., Corning, NY)内に播種した。細胞を、コンフルエントになるまで標準的な組織培養条件下で増殖させ、続いて、96ピンのWOUNDMAKERデバイス(Essen BiosScience Inc., Ann Arbor, MI)を使用して細胞単層上を引っ掻いた。2回のリン酸緩衝生理食塩水洗浄と、ブランク培地を伴った10%のPEPの添加の後に、時限式画像化のために、プレートをINCUCYTEイメージャー(Essen BiosScience Inc., Ann Arbor, MI)内にセットした。
【0068】
脂肪由来MSCを、平板培養し、80%コンフルエントまで増殖させた。遊走を、スクラッチ創傷アッセイによって計測した。創傷を、ピペットチップを使用して細胞単層を引っ掻くことによって作り出した。細胞を、PBSで洗浄し、そして、細胞遊走に対するTISSEELバイオゲル中のPEPの効果を、MSC単層に作られた引っ掻き傷の中央に細い糸状のバイオゲルを適用することによって評価した。細胞を、7日間にわたり遊走させたままにし、その間、連続した画像化を、INCUCYTE及び明視野顕微鏡観察によって実施した。スクラッチ領域を、ImageJを使用して定量した。
【0069】
皮膚組織類器官アッセイ
皮膚組織類器官アッセイ(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を、製造業者のプロトコールに従って実施した。簡単に言えば、ヒト成人皮層細胞(C0055C, Gibco, Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を、プレコート細胞培養インサートに750,000細胞/cm2になるように播種し、そして、サプリメント(Gibco, Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を伴った50μLのEPILIFE成長培地で培養した。37℃及び5%のCO2にて2日間インキュベートした後に、インサートを24ウェルプレートの所望の吊り下げ高に再配置し、そして、上部区画である細胞培養インサートの内側が空のままにしながら、培地を交換した。皮膚組織インサートを、播種後28日にわたり増殖させ、次に、4%のパラホルム中、4℃にて一晩のインキュベーションを使用して固定した。インサートを、パラフィン包埋し、切片にし、続いて、ヘマトキシリン及びエオジン(H&E)染色のために処理した。組織切片を、400×倍率にてOlympus BH-2顕微鏡(Olympus Life Science, PA)を使用して写真撮影して、細胞層の層形成を調査した。
【0070】
PEPバイオゲルの調製とSEM
TISSEEL(Baxter International, Inc., Deerfield, IL)でPEPを調製するために、2mlの標準キットを使用した。PEPを、TISSEELフィブリン接着剤調製キットのフィブリン溶解阻害剤溶液(ヒトフィブリノーゲン、アプロチニン、ヒトアルブミン、L-ヒスチジン、ニコチンアミド、クエン酸ナトリウム二水和物、ポリソルベート、水)で溶解した。次に、その溶液を、局所投与向けに、製造業者による標準的なTISSEEL調製プロトコールに従って調製し、そして、トロンビン液(500IE/ml)/CaCl2(40μmol/ml)と混合した。
【0071】
SEMのために、サンプルを、4℃にて一晩Trump’s固定液で固定し、PBSで洗浄し、その後、水で洗浄し、そして、乾くように脱水した。サンプルを、冷電界放出型走査電子顕微鏡(S-4700, Hitachi High-Tech Global, Tokyo, Japan)で画像化した。
【0072】
インビボにおける創傷治癒動物モデル
12匹の雌ニュージーランドホワイトラビット(2.0~3.5kgの体重を有し、約6ヶ月齢)をこの調査に使用した。ウサギを、順番に各処置群に割り付けた。両耳で耳の3本の血管束のうち2本を結紮することによって、虚血を誘発させた。直径2cmを測定する円形の全層皮膚欠損を、各耳で作成した。術後の耳の虚血を、SPY Elite蛍光イメージングシステム(Stryker Corp., Kalamazoo, MI)を用いたインドシアニングリーン血管造影法を使用して確認した。次に、ウサギを無作為に3つの群に割り付けた。各群では、一方の耳を、無処置のままにしておき、それに対して、別の側では、0.6mLのTISSEEL(Baxter healthcare Corp., Deerfield, IL)、0.6mLの20% PEP、又は0.6mLのTISSEEL-PEP(20%)組み合わせで処置した。4週間後にウサギを屠殺するまで、最初の1週間については毎日、その後は毎週、創傷治癒を観察し、そして、記録した。
【0073】
創傷閉鎖の臨床的評価
臨床的展望に基づいて創傷治癒を等級づけするために、すべての虚血創傷を、ワグナー潰瘍分類システムに従って、Mayoクリニックにて1週間に1度、正式に認定された形成外科医によって評価した。
【0074】
創傷の水分量レベルと皮脂レベルの計測
皮膚の水分量と皮脂レベルを、デジタル皮膚湿気/皮脂検出装置(Zinnor, Korea)を使用して客観的に評価した。すべての測定値を、標準的な気候条件下で取得した(温度、25±1℃、相対湿度、50±5パーセント)。
【0075】
生体力学試験
全層創傷の標本を、2mm幅の細長い一片に切り出した。次に、標本を、強力接着剤(Gorilla Glue Co., Sharonville, OH)を使用して引張試験デバイスに取り付けた。接着剤を、末端の剥き出しの皮膚に塗布して、標本がグリップで固定された部位にてスリップが起こることを予防した。グリップは、スリップを低減するように鋸歯状の内面を有していた。25-lbのロードセル(MLP-25, Transducer Techniques LLC, Temecula, CA)を備えたカスタム引張試験機を使用して、標本の繰り返し引張試験を実施した。標本を、20サイクルにわたる、1mmのピーク変位を有する、0.1mm/sの一定ひずみ速度にて試験した。各試験を開始する前に、1Nの前負荷を適用した。20回目のサイクル後に、標本を、0.1mm/sのひずみ速度を用いて不具合について試験した。運動制御及びデータ取得を、50Hzの速度で負荷及び置換えデータサンプリングしながら、カスタムNI LabVIEW 2018アプリケーション(National Instruments Corp., Austin, TX)を介して操作した。
【0076】
組織像
ウサギを、術後4週間までに屠殺した。元の傷害部位からの耳皮膚を、取り外し、そして、4℃にて一晩、10%の中性ホルマリンで固定し、次に、30%のスクロースと0.1%のアジ化ナトリウムを含有するPBSで4℃にて、約12時間後にPBSを交換しながら24時間すすいで、すべてのホルマリン残余物を除去した。次に、標本を、組織プロセッサ(EXCELSIOR AS, Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)によってパラフィンワックス(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)内に包埋した。次に、標本を、縦断切片(5μm)にスライスし、そして、スライド(SUPERFROST PLUS, New Erie Scientific LLC, Fremont, CA)上に調製した。包埋後に、標本を、更なる使用のために5μmで横方向に切片化した。ヘマトキシリン及びエオジン(H&E)染色とマッソンの三重染色を、標準的な手順に従って実施した。
【0077】
免疫組織化学IHC分析(TGF-β、Col I及びIII、α-平滑筋アクチン、CD31)
皮膚切片を、脱パラフィンに供し、そして、PBS中の0.5%のTriton(登録商標) X-100で5分間透過処理した。続いて、それらを、ブロッキングバッファー(PBS中、5%の正常ロバ血清、0.2%のTriton(登録商標)-X)と共にインキュベートし、その後、ブロッキングバッファーで希釈した以下の抗体:抗TGF-β(1:400、MAB240-SP, R&D Systems, Inc., Minneapolis, MN)、抗I型コラーゲン(1:200、ab24821, Abcam, Cambridge, UK)、及び抗III型コラーゲン(1:400、ab6310, Abcam, Cambridge, UK)と共に4℃にて一晩一次抗体インキュベーションをおこなった。PBS+0.05%のTriton(登録商標)-Xを用いた3回の30分間の洗浄後に、サンプルを、蛍光二次抗体(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を用いて室温にて1時間染色し、その後、PBSで2回洗浄した。スライドを、DAPIを含んだ抗フェード封入剤(h-1200, Vector Laboratories, Inc., Burlingame, CA)で封入し、回転ディスク共焦点顕微鏡(Carl Zeiss Microscopy GmbH, Jena, Germany)下で調査した。
【0078】
傷害組織の3D-EM再建
全層創傷サンプルを、固定し、染色し、そして、以前に記載されたもの(Hua et al., 2015, Nat Commun 6(1):7923)から編集したプロトコールを使用して、連続ブロック面顕微鏡観察のために調製した。簡単に言えば、組織サンプルを、2mMの塩化カルシウムを含有する0.15Mカコジル酸バッファー中の2%のグルタルアルデヒド+2%のパラホルム中にさらに加工されるまで(最短24時間)浸漬することによって固定した。固定標本を、0.15Mカコジル酸バッファーで洗浄し、そして、0.15Mカコジル酸塩中の2%の四酸化オスミウム中、室温にて1.5時間インキュベートした。すすぐことなく、サンプルを、0.15Mカコジル酸塩中の2%の四酸化オスミウム+2.5%のヘキサシアノ鉄中、室温にてさらに1.5時間インキュベートした。脱イオン水(dH2O)でのすすぎに続いて、サンプルを、H2O中の1%のチオカルボヒドラジド中、50℃にて45分間インキュベートした。dH2Oでのもう1回のすすぎ後に、サンプルを、各試薬の間にdH2Oでの数回のすすぎを伴いながら、連続してH2O中の2%の四酸化オスミウム中、室温にて1.5時間、1%の水性酢酸ウラニル中、4℃にて一晩、そして、7%の鉛アスパルタート溶液中、50℃にて1時間インキュベートした。
【0079】
一連のエタノールとアセトンによる脱水に続いて、サンプルを、ポリエポキシド樹脂(DURCUPAN, MilliporeSigma, St. Louis, MO)を浸透させ、最終的に封入し、そして、60℃にて最低24時間オーブンで重合化させた。走査電子顕微鏡への配置とその後の画像化のための封入サンプルを調製するために、1mm3のピースを、任意の余分な樹脂を大まかにトリミングし、そして、シルバーエポキシEPO-TEK(Epoxy Technology, Inc., Billerica, MA)を使用して8mmアルミニウムスタブに埋め込んだ。次に、封入サンプルを、ダイヤモンドトリミングナイフ(trimtool 45, DiATOME, Hatfield, PA)を使用して、0.5mm×0.5mm×高さ1mmのタワー状に塔に慎重にトリミングした。トリミングしたサンプルとスタブ全体を、金パラジウムでコートして、電荷消散を助けた。次に、コートしたサンプルを、連続ブロック面走査電子顕微鏡(VOLUMESCOPE Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)内に挿入し、そして、画像化開始前12時間にわたって高真空に慣らした。
【0080】
高分解性ブロック面画像を、100pAの電流を有する3.0kVのビームエネルギー及び2μsの走査滞留時間と10nmの画素サイズを使用して、低真空環境下で取得した。約500のブロック面画像のスタックを入手し、同時に、50nmのインクリメントにてブロックを切断した。次に、画像スタックを、再構築ソフトウェア(Fiala, J.C., 2005, J Microsc 218(1):52-61)を使用して実施した更なる分析と共にAmiraソフトウェア(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を使用してアラインし、そして、フィルタリングした。
【0081】
薬物放出アッセイ
0.3mLのTISSEEL(Baxter healthcare Corp., Deerfield, IL)及びTISSEEL-PEPを、調製し、そして、2mLのPBS中でインキュベートした。混合物を、37℃のインキュベータ内で保存した。上清中の小胞濃度を、1日目、3日目、7日目、14日目にNANOSIGHT NS300(Malvern Instruments, Malvern, UK)を使用して計測した。
【0082】
RNA-Seqとデータ分析
傷害組織を、稼働後28日で採取した。RNAを、プロトコールに従ってTRIZOL PLUS RNA精製キット(Thermo Fisher Scientific, Inc., Waltham, MA)を使用して抽出した。RNAライブラリー作成及びシークエンシング反応を、GENEWIZ, LLC.(South Plainfield, NJ)にて実施した。データ分析を、標準的なmRNA解析パイプラインに続いて実施した。mRNAの発現レベルを、Poisson Distributionベースの統計解析(Fang et al., 2012, Cell Biosci 2(1):26)の正規化カウント数として計算した。比較的高い発現レベル(正規化読出しカウント>100)を有する有意に変化した遺伝子(|log2FC|>0.5及びp<0.05)を、ヒートマップ視覚化と更なる分析に使用した。遺伝子オントロジー(GO)及び経路エンリッチメント分析を、clusterProfiler(V3.12.0; Yu et al., 2012, OMICS 16(5):284-287)によって実施し、そして、ヒートマップ視覚化を、pheatmap(V1.0.12; Luo, W and Brouwer, C., 2013, Bioinformatics 29(14):1830-1831)によって実施した。
【0083】
統計解析
定量結果を、平均±標準誤差として表した。統計解析を、二元配置ANOVAと対応のない両側スチューデントt-検定(SPSS Statistics 13.0, SPSS Inc., Chicago, IL; Prism 8.0, GraphPad Software, San Diego, CA)を使用して実施した。p<0.05の値を、統計的に有意であると見なした。
【0084】
本明細書で引用したすべての特許、特許出願、及び刊行物、ならびに電子的に利用可能な資料(例えば、GenBank及びRefSeqなどの塩基配列の提出、及びSwissProt、PIR、PRF、PDBなどのアミノ酸配列の提出、及びGenBank及びRefSeqの注釈付きコード領域からの翻訳を含む)の完全な開示は、援用によりその全体が組み込まれる。本願の開示と、援用により本明細書に組み込まれる文書の開示(複数可)との間に矛盾が存在する場合、本願の開示が適用されるものとする。前述の詳細な説明及び実施例は、理解を明確にするためにのみ与えられたものである。そこから不必要な制限を理解されることはない。本発明は、図示及び記載された正確な詳細に限定されるものではなく、当業者にとって明らかな変形は、特許請求の範囲によって定義される本発明に含まれるからである。
【0085】
特に断らない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、分子量等を表す全ての数値は、全ての場合において 「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるものとする。したがって、特に反対の指示がない限り、明細書及び特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性によって変化し得る近似値である。せめても、そして、均等論を特許請求の範囲に限定しようとするものではなく、各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の桁数に照らして、そして、通常の周辺技術を適用することにより解釈されるべきである。
【0086】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、具体的な実施例に記載された数値は、可能な限り正確に報告されている。しかしながら、すべての数値は、それぞれの試験測定における標準偏差に必然的に起因する範囲を本質的に含む。
【0087】
すべての見出しは、読者の便宜を図るためのものであり、特に断りのない限り、見出しに続く本文の意味を限定するために使用されるべきではない。
【配列表】
【国際調査報告】