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特表2024-539552一時的な保護酸化物層を有するSiC種結晶を用いた、品質の向上したSiCバルク単結晶の製造方法、及び保護酸化物層を有するSiC種結晶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】一時的な保護酸化物層を有するSiC種結晶を用いた、品質の向上したSiCバルク単結晶の製造方法、及び保護酸化物層を有するSiC種結晶
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20241022BHJP
   C30B 23/06 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518465
(86)(22)【出願日】2023-05-17
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2023063347
(87)【国際公開番号】W WO2024037747
(87)【国際公開日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】22190748.8
(32)【優先日】2022-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519167232
【氏名又は名称】サイクリスタル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136744
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 佳正
(72)【発明者】
【氏名】エッカー,ベルナルド
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】シュー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ストックマイヤー,マティアス
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077DA02
4G077DA18
4G077ED01
4G077ED04
4G077ED06
4G077EE01
4G077EE02
4G077HA12
4G077SA04
4G077SA08
(57)【要約】
本発明は、保護酸化物層で被覆されたシリコンカーバイド単結晶ディスクを含む、結晶種として用いるためのシリコンカーバイド基板に関する。保護酸化物層は、シリコンカーバイド単結晶ディスクの理想的で清浄な表面を露出させるために除去されることが意図されている。また、本発明は、保護酸化物層を有するシリコンカーバイド基板を種結晶として用いた昇華成長により、少なくとも1つのシリコンカーバイドバルク単結晶を製造する方法に関する。保護酸化物層は、結晶育成るつぼ内においてその場で、すなわち、種結晶が育成るつぼの内部に配置された後かつ成長表面上の昇華堆積が開始する前に実行されるバックエッチプロセスによって、種結晶表面から除去され、下にあるシリコンカーバイド単結晶ディスクを露出させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンカーバイド種結晶(100)であって、
シリコンカーバイド単結晶ディスク(120)と、
前記シリコンカーバイド単結晶ディスク(120)の第1の表面(125)の領域を被覆する保護酸化物層(110)と、を備え、
前記保護酸化物層(110)が、前記被覆された領域に沿って、前記保護酸化物層(110)の平均厚さから上下に所定の許容値未満の厚さ変動を有することにより特徴付けられる、
シリコンカーバイド種結晶(100)。
【請求項2】
前記平均厚さが、前記保護酸化物層(110)に被覆された前記領域全体の、前記保護酸化物層の厚さの平均であり、及び/又は、
前記保護酸化物層(110)の前記平均厚さが5nm~20nmである、
請求項1に記載のシリコンカーバイド種結晶(100)。
【請求項3】
前記保護酸化物層(110)が二酸化ケイ素からなり、1nm~25nmの平均厚さを有し、前記第1の表面の前記被覆された領域の任意の位置における前記保護酸化物層の厚さが、前記保護酸化物層の前記平均厚さの上又は下に0.5nmを超えて偏差しないように、前記所定の許容値が0.5nmである、
請求項1又は2に記載のシリコンカーバイド種結晶(100)。
【請求項4】
前記保護酸化物層(110)の前記厚さの前記偏差が、前記平均厚さの上又は下に0.3nm以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のシリコンカーバイド種結晶(100)。
【請求項5】
前記保護酸化物層(110)に被覆された前記第1の表面(125)が、前記シリコンカーバイド単結晶ディスクのC面に対応し、及び/又は、
前記シリコンカーバイド単結晶ディスク(120)が、500μm~5000μm、又は800μm~3000μmの厚さを有し、及び/又は、
前記シリコンカーバイドディスク(120)が、150mm以上、好ましくは200mm以上の直径を有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のシリコンカーバイド種結晶(100)。
【請求項6】
前記シリコンカーバイド単結晶ディスク(120)の前記第1の表面が、前記シリコンカーバイド単結晶ディスクの厚さ方向に0.5nm~1nmの表面粗さを有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載のシリコンカーバイド種結晶(100)。
【請求項7】
前記シリコンカーバイド単結晶ディスク(120)が、シリコンカーバイドの4H-、6H-、15R-、及び3C変容体(modifications)のうちの1つ、好ましくは4H-SiC変容体で作製され、及び/又は、
前記シリコンカーバイド単結晶ディスク(120)が、0°から4°、好ましくは0°から2°のオフアクシス方位(off-axis orientation)のオフ角度(off-axis angle)によって特徴付けられるオフアクシス方位を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のシリコンカーバイド種結晶(100)。
【請求項8】
前記シリコンカーバイド単結晶ディスク(120)の前記第1の表面(125)が、
12000/cm未満、好ましくは8000/cm未満のエッチングピット密度、及び/又は、
2000/cm未満、好ましくは1000/cm未満のらせん転位密度を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のシリコンカーバイド種結晶。
【請求項9】
少なくとも1つの種結晶(100)を内部に配置するための少なくとも1つの結晶育成領域(320)と、粉末状又は部分的に圧密状のシリコンカーバイド材料を昇華のために貯蔵する原料物質領域(330)と、を有する育成るつぼの内部での昇華成長によって、少なくとも1つのシリコンカーバイドバルク単結晶(301)を製造する方法であって、前記方法が、
請求項1から8のいずれか一項に記載の保護酸化物層(110)を少なくとも1つのシリコンカーバイド種結晶(100)に設けて、前記少なくとも1つの種結晶として用いる工程と、
前記少なくとも1つの種結晶(100)を保持器具に固定し、前記保持器具に固定された前記種結晶(100)を前記育成るつぼの前記育成領域に挿入する工程と、
前記育成るつぼを断熱材料で外包する工程と、
前記原料物質領域から前記原料物質を昇華させ、昇華したガス状の前記物質を前記結晶育成領域内に輸送して、前記結晶育成領域内にシリコンカーバイド成長気相を生成させ、前記シリコンカーバイド成長気相から、前記結晶育成領域内に配置された前記種結晶上にシリコンカーバイドバルク単結晶を前記SiC成長気相からの堆積によって成長させる、昇華成長プロセスを実行する工程と、
を含み、
前記保護酸化物層(110)を有する前記少なくとも1つの種結晶(100)が前記結晶育成領域内に配置された後、かつ前記昇華成長プロセスを開始する前に、前記種結晶の表面から前記保護酸化物層を除去し、下にある前記シリコンカーバイド単結晶ディスク(120)を露出させるように適合されたエッチバックプロセスを、前記結晶育成領域内で実行する工程
により特徴付けられる、方法。
【請求項10】
少なくとも1つのシリコンカーバイド種結晶(100)に保護酸化物層(110)を設ける前記工程が、
前記第1の表面上の前記領域を酸化物層で被覆するために、シリコンカーバイド単結晶ディスク上に酸化プロセスを実行する工程を含み、
前記酸化プロセスは、前記シリコンカーバイド種結晶を保持器具に固定し、前記保持器具に固定された前記シリコンカーバイド種結晶を前記育成るつぼの前記育成領域に挿入する前に実行される、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
結晶種として用いられる前記少なくとも1つのシリコンカーバイド種結晶(100)に、前記シリコンカーバイド単結晶ディスクの成長表面に対応する前記第1の表面が設けられ、及び/又は、
前記製造方法に使用される前記育成るつぼが、部分的に黒鉛から形成される、
請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記エッチバックプロセスが、
エッチバック成分のガス状雰囲気を前記育成るつぼ内の前記結晶育成領域に供給する工程及び前記保護酸化物層をエッチング除去するように選択された前記エッチバックガス状雰囲気の所与の蒸気圧を設定する工程であって、前記エッチバック成分がケイ素及び/又は炭素を含む、工程と、
前記保護酸化物層によって被覆された前記第1の表面の前記領域を完全に露出させるように、前記保護酸化物層の厚さに応じた時間、前記エッチバックプロセスを維持する工程と、
を含む、
請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記エッチバックプロセスが、
(i)0.1mbar~100mbarの圧力で、
(ii)1×10-7mbar~1×10-3mbarの範囲の圧力での高真空プロセス工程において、
(iii)不活性ガスによるパージプロセス工程において、
(iv)前記育成るつぼ内の、SF、Cl、CHF、C、NF、CF、又はそれらの混合物を含む還元ガスの群から選択される還元ガスを使用して、
の条件のうちの1つ又はそれらの組み合わせの下で行われる、
請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記エッチバックプロセスが、
(i)1200℃超かつ前記原料物質の昇華温度未満、好ましくは1400℃未満の温度、及び
(ii)1650℃超かつ前記原料物質の昇華温度未満、好ましくは1850℃未満の温度
のうちいずれか1つの温度条件下で行われる、
請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化プロセスが、
(i)酸素及び場合により不活性ガスによる乾式酸化であって、前記不活性ガスが窒素及び/又はアルゴンを含む、乾式酸化、
(ii)酸素と水と場合により不活性ガスとの混合物による湿式酸化、
(iii)規定のガス雰囲気中における15℃~50℃の室温での酸化、
(iv)オゾンによる酸化、
(v)酸素プラズマによる酸化、及び/又は
(vi)NaCO、H、NaOH、KIO、KClO、KMnO及びCrOのうちの少なくとも1つによる酸化、
のうちの1つ又はそれらの組み合わせを含む、
請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華プロセスにおいて種結晶として用いられる、保護酸化物層を有するシリコンカーバイド(SiC)種結晶と、このSiC種結晶を用いた、品質の向上したSiCバルク単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンカーバイド(SiC)基板は、一般に、半導体及び電子機器の製造などの半導体産業において使用される。従来、SiC基板は、SiCバルク単結晶(インゴットとも呼ばれる)から作製され、これをマルチワイヤソー又はレーザ支援切断などの他の好適な切断プロセスを用いてスライスし、複数のSiC基板を得る。次いで、SiC又はGaNなどの材料の単結晶層を研磨されたSiC基板上に堆積させる後続のエピタキシャルプロセスに備え、多段研磨工程によってSiC基板の表面が処理される。そのような単結晶層及びそのような単結晶層から作製される機器の物理的特性は、下地のSiC基板の品質に決定的に依存し、したがって元のSiCバルク単結晶自体の品質にも決定的に依存する。
【0003】
SiCバルク単結晶は、一般に、好適な昇華原料物質及び種結晶からの物理蒸着(PVT)によって成長する。例えば、SiCバルク結晶を製造するための物理蒸着(PVT)プロセスが米国特許第8,865,324号明細書に開示されており、このプロセスはバルク単結晶を成長させるための種としてSiC単結晶ディスクを使用する。SiC単結晶種は、PVT育成系のるつぼ内に好適な原料物質と共に配置される。原料物質は、制御された温度及び圧力条件で昇華し、その結果生じる昇華物質は、適切な温度勾配の影響下でSiC種に向かい、SiC種上に堆積して結晶を成長させる。
【0004】
本開示では、異なる構成要素を識別するために以下の用語が使用されることに留意されたい。第1に、るつぼの内部に据えられ、昇華した原料物質がその上に成長するSiC出発材料は、「種結晶」又は「種」と呼ばれる。本開示において、この種結晶は、昇華プロセスにおいてSiCが堆積する成長表面を有する単結晶ディスクを構成する。また、成長した単結晶を「バルク結晶」、「シリコンカーバイドバルク単結晶」、「インゴット」又は「単結晶ブール」と呼ぶ。バルク結晶をスライスすることにより、いわゆる「基板」が得られる。これらの基板は、その基板上にエピタキシャル層を成長させ、後に半導体構造を構成することが考えられるいわゆる「ウェハ」を作製するために、集積回路製造業者によって用いられる。ウェハをダイシングすることにより、「チップ」とも呼ばれる個々の「ダイ」が製造される。
【0005】
SiC種、特に堆積表面の条件及び品質は、その上に成長する結晶の最終的な品質の主な因子である。特に、研磨処理中に、及び/又は研磨処理後の種の取り扱い中に、様々な種類の不純物、例えば汚染原子、粒子及び汚れなどがSiC種の表面に落下して付着する可能性がある。これらの表面不純物は、種上に成長したバルク結晶における各種の欠陥の生成を促し、その上に成長した結晶の品質を低下させる。例えば、種表面上に堆積した不純物原子、分子及び/又はクラスタは、成長結晶上の転位、例えば貫通らせん転位(TSD)及び貫通刃状転位(TED)などの開始点として作用し、成長プロセス中にバルク結晶へ成長し続ける。このような転位は、成長したバルク結晶、そのバルク結晶から製造されるSiC基板の品質、及び最終的にそのようなSiC基板上に成長する単結晶層のエピタキシャル品質に悪影響を及ぼす。
【0006】
更に、種の処理後にSiC種の表面に付着したままの粒子(例えば、ケイ素、炭素及びシリコンカーバイド)は、結晶成長プロセス中に過剰成長し、介在物として公知の欠陥の生成につながるか、又はそれらの寸法に応じて、成長中の結晶内に転位又はマイクロチューブを生成する可能性がある。更に、堆積した不純物及びSiC以外の材料/元素からの粒子は、不純物の化学組成に応じて、成長するバルク結晶のポリタイプ変化(例えば、4Hから6H又は15Rへの結晶構造の変化)をもたらす可能性さえある。
【0007】
上述の欠陥は全て、成長したバルク結晶及びSiC基板の品質及び歩留まりを低下させ、その結果、そのようなSiC基板上に製造されたエピ層及びそのエピ層から製造された電子部品の品質を低下させる。
【0008】
これまで、種の研磨処理中に、及び/又は処理後の種の取り扱い中に、不純物が種結晶の表面に蓄積することを考慮して、種結晶上に成長したバルク結晶の品質を改善することが試みられてきた。
【0009】
例えば、特開第2008-024554号明細書には、SiC単結晶種上に成長させた結晶の品質を改善するための方法が記載されている。この方法によれば、SiC単結晶中の転位が選択的エッチングによって露出し、次いで酸化物層及び保護膜と共に過成長する。続いて、現場外での異方性エッチバックが実行され、それにより、充填されたエッチピットと共に元の単結晶種表面が露出する。種結晶内に元々存在する転位は、後続の成長プロセスにおいて、その上に後に成長する結晶にはもはや進展できなくなる。しかしながら、この方法は、種内に形成された転位の影響を低減することを目的としているが、そのような欠陥の形成の原因を排除するものではなく、言い換えれば、実際の結晶成長プロセスを開始する前、すなわち、SiCが種の成長表面上への堆積を開始する前の、種の様々な取り扱いプロセス(例えば、育成るつぼの内部に種を設置する間)中に、不純物原子及び粒子が種の表面に蓄積することを防止するものではない。結果として、この手法を用いて処理されたSiC種の表面上の不純物の堆積は、種の取り扱い中に依然として発生する可能性があり、したがって、その上に成長する結晶内に更なる欠陥の形成、例えば新たな転位の生成などをもたらし、及び/又はSiC結晶構造のポリタイプ変化を引き起こす。特に、種結晶からその上に成長する結晶へポリタイプ情報を正確に伝達することは、SiC単結晶の多型成長の本質的な前提条件である。しかしながら、非ポリタイプ表面を有するSiC種、例えば、エッチングピットを封止するためのSiO又は他の酸化物を有する領域を含む、特開2008-024554号公報の開示に従って製造されたものは、結晶成長中のポリタイプ変化を促進し、成長した結晶を使用不可能にし、したがって歩留まりを低下させる。
【0010】
したがって、SiCバルク結晶及びSiC単結晶層上の欠陥及び/又はポリタイプ変化の発生の主な原因の1つ、すなわち実際の結晶成長プロセス、特に種成長表面上にSiCが堆積する前のSiC種結晶の表面における不純物及び汚染粒子の存在を低減することによって、SiCバルク単結晶及びSiC単結晶基板の品質及び歩留まりを改善することを可能にする技術が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開第2008-024554号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明は、従来技術の短所及び欠点に鑑みてなされたものであり、その目的は、種成長表面上にSiCが堆積する前に不純物及び汚染粒子の量が低減されたシリコンカーバイド(SiC)単結晶種結晶、及びこのシリコンカーバイド(SiC)単結晶種結晶を用いた、品質の向上したSiCバルク単結晶の製造方法を提供することである。
【0013】
この目的は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0014】
本発明によれば、シリコンカーバイド単結晶ディスクと、シリコンカーバイド単結晶ディスクの第1の表面の領域を被覆する保護酸化物層とを備えたシリコンカーバイド種結晶が提供される。第1の表面は、結晶体積成長プロセス(the volume crystal growth process)における成長表面である。更に、保護酸化物層は、被覆された領域に沿って、保護酸化物層の平均厚さから上下に所定の許容値未満の厚さ変動を有することを特徴とする。
【0015】
したがって、SiC単結晶ディスク、特に成長表面の理想的な特性は、種結晶を育成るつぼに挿入して保持するための保持具への種結晶の取り付けなどの、種結晶として用いられるシリコンカーバイドディスクの更なる取り扱い作業中に、汚れ、粒子、不純物原子などの新しい欠陥源が堆積することから、酸化物層によって保護される。酸化物層は、SiC堆積プロセスの開始直前まで、ただし少なくとも育成るつぼへの意図された設置後まで、種上に留まる。成長表面は、例えば、4H結晶成長の場合は(000-1)面であり、6H結晶成長の場合は(0001)面である。また、他の方位及び格子面も本開示に含まれることが意図されている。
【0016】
更なる発展形態によれば、平均厚さは、保護酸化物層に被覆された全領域にわたる保護酸化物層の厚さの平均であり、及び/又は、前記保護酸化物層の平均厚さは5nm~20nmである。
【0017】
更なる発展形態によれば、保護酸化物層は二酸化ケイ素からなり、平均厚さが1nm~25nmであり、所定の許容値は0.5nmであり、それにより、第1の表面の被覆された領域の任意の位置における保護酸化物層の厚さは、保護酸化物層の平均厚さよりも上又は下に0.5nmを超えて偏差しない。
【0018】
更なる発展形態によれば、保護酸化物層の厚さの偏差は、平均厚さの上又は下に0.3nm以下である。
【0019】
更なる発展形態によれば、保護酸化物層に覆われた第1の表面は、シリコンカーバイド単結晶ディスクの結晶体積成長表面(例えば、4H結晶成長のC面)に対応し、及び/又はシリコンカーバイド単結晶ディスクは、厚さが500μm~5000μm、又は800μm~3000μmであり、及び/又はシリコンカーバイドディスクは、直径が150mm以上、好ましくは200mm以上である。
【0020】
更なる発展形態によれば、シリコンカーバイド単結晶ディスクの第1の表面は、シリコンカーバイド単結晶ディスクの厚さ方向に0.5nm~1nmの表面粗さを有する。
【0021】
更なる発展形態によれば、シリコンカーバイド単結晶ディスクは、シリコンカーバイドの4H-、6H-、15R-及び3C変容体(modifications)のうちの1つ、好ましくは4H-SiC変容体で作製され、及び/又は、シリコンカーバイド単結晶ディスクは、0~4°、好ましくは0~2°のオフアクシス方位(off-axis orientation)のオフ角度(off-axis angle)によって特徴付けられるオフアクシス方位を有する。
【0022】
更なる発展形態によれば、シリコンカーバイド単結晶ディスクの第1の表面は、12000/cm未満、好ましくは8000/cm未満のエッチングピット密度、及び/又は、2000/cm未満、好ましくは1000/cm未満のらせん転位密度を有する。
【0023】
本発明はまた、少なくとも1つの種結晶を内部に配置するための少なくとも1つの結晶育成領域と、粉末状又は部分的に圧密状のシリコンカーバイド材料を昇華のために貯蔵する原料物質領域と、を有する育成るつぼの内部での昇華成長によって、少なくとも1つのシリコンカーバイドバルク単結晶を製造する方法であって、前記方法が、本発明による保護酸化物層を少なくとも1つのシリコンカーバイド種結晶に設けて、少なくとも1つの種結晶として用いる工程と、この少なくとも1つの種結晶を保持器具に固定し、保持器具に固定された種結晶を育成るつぼの育成領域に挿入する工程と、前記育成るつぼを断熱材料で外包する工程と、原料物質領域から原料物質を昇華させ、昇華したガス状物質を前記結晶育成領域内に輸送して、結晶育成領域内にシリコンカーバイド成長気相を生成させ、このシリコンカーバイド成長気相から、この結晶育成領域内に配置された種結晶上にシリコンカーバイドバルク単結晶をSiC成長気相からの堆積によって成長させる、昇華成長プロセスを実行する工程と、を含み、保護酸化物層を有する少なくとも1つの種結晶が結晶育成領域内に配置された後、かつ昇華成長プロセスを開始する前に、種結晶の表面から保護酸化物層を除去し、下にあるシリコンカーバイド単結晶ディスクを露出させるように適合されたエッチバックプロセスを、結晶育成領域内で実行する工程により特徴付けられる、方法を提供する。
【0024】
したがって、製造プロセスは、成長プロセスの開始前に、例えば成長チャンバ内に好適なケイ素及び炭素蒸気圧を設定することによって、保護酸化物層がSiC基板からその場で除去され、それによって不純物、粒子及び不純物原子を含まないSiC単結晶種の下にある面が露出するように設計される。その結果、理想的な種表面上で後続の結晶成長を開始することができ、高品質な結晶を製造することができる。
【0025】
更なる発展形態によれば、少なくとも1つのシリコンカーバイド種結晶に保護酸化物層を設ける前記工程は、第1の表面上の前記領域を酸化物層で被覆するために、シリコンカーバイド単結晶ディスク上に酸化プロセスを実行する工程を含み、酸化プロセスは、シリコンカーバイド基板を保持器具に固定し、保持器具に固定されたシリコンカーバイド基板を育成るつぼの育成領域に挿入する前に実行される。
【0026】
更なる発展形態によれば、結晶種として用いられる少なくとも1つのシリコンカーバイド種結晶に、シリコンカーバイド単結晶ディスクの成長表面に対応する第1の表面が設けられ、及び/又は、製造方法に使用される育成るつぼは、部分的に黒鉛から形成される。
【0027】
更なる発展形態によれば、エッチバックプロセスは、エッチバック成分のガス状雰囲気を育成るつぼ内の結晶育成領域に供給する工程及び保護酸化物層をエッチング除去するように選択されたエッチバックガス状雰囲気の所与の蒸気圧を設定する工程であって、エッチバック成分はケイ素及び/又は炭素を含む、工程と、保護酸化物層によって被覆された第1の表面の領域を完全に露出させるように、保護酸化物層の厚さに応じた時間、エッチバックプロセスを維持する工程とを含む。代替的に、エッチバックは単なる熱エッチングプロセスとして行われ、追加のエッチバック成分は添加されないが、高温及び真空処理を用いて保護酸化物層を除去する。
【0028】
更なる発展形態によれば、エッチバックプロセスは、(i)0.1mbar~100mbarの圧力で、(ii)1×10-7mbar~1×10-3mbarの範囲の圧力での高真空プロセス工程において、(iii)不活性ガスによるパージプロセス工程において、(iv)育成るつぼ内の、SF、Cl、CHF、C、NF、CF又はそれらの混合物を含む還元ガスの群から選択される還元ガスを使用して、の条件のうちの1つ又はそれらの組み合わせの下で行われる。
【0029】
更なる発展形態によれば、エッチバックプロセスは、1200℃超かつ原料物質の昇華温度未満、好ましくは1400℃未満の温度、及び1650℃超かつ原料物質の昇華温度未満、好ましくは1850℃未満の温度のうちいずれか1つの温度条件下で行われる。
【0030】
更なる発展形態によれば、酸化プロセスは、以下のうちの1つ又はそれらの組み合わせを含む。酸素及び場合により不活性ガスによる乾式酸化であって、不活性ガスは窒素及び/又はアルゴンを含む、乾式酸化。酸素と水と場合により不活性ガスとの混合物による湿式酸化。規定のガス雰囲気中における15℃~50℃(例えば40℃)の温度での酸化。オゾンによる酸化。酸素プラズマによる酸化。及び/又はNaCO、H、NaOH、KIO、KClO、KMnO及びCrOのうちの少なくとも1つによる酸化。
【0031】
全体として、本発明によるSiC種結晶及びこれを用いたSiCバルク単結晶の製造方法では、種結晶が育成るつぼに導入された後、実際の昇華成長を開始する前にその場で除去されるだけの一時的な保護酸化物層を有するSiC種結晶を用いることにより、より高品質のSiCバルク単結晶を製造することができる。これにより、不純物及び汚染粒子の量が低減された、エッチバックによって露出した種結晶の表面のおかげで、バルク結晶品質の実質的な改善が可能になる。したがって、バルク結晶欠陥、例えば転位、介在物、及び/又はSiC結晶構造の変化などの形成は、従来通りに製造されたSiCバルク単結晶と比較して、もはや発生しないか、又は少なくとも大幅に低減される。したがって、本発明に従って製造されたSiCバルク単結晶は、より高い品質をもたらし、ひいてはSiCウェハ及びこのSiCウェハから製造される半導体部品の歩留まり及び品質を向上させることを可能にする。
【0032】
添付の図面は、本発明の原理を説明する目的で本明細書に組み込まれ、その一部を形成する。図面は、本発明をどのように作製及び使用し得るかを示した例及び記載した例のみに本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【0033】
更なる特徴及び利点は、添付の図面に示される本発明の以下のより詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明による一時的な保護酸化物層を有するSiC種結晶の概略断面図である。
【0035】
図2】保持器具に固定され、保護酸化物層の表面に不純物が蓄積している様子を示す、本発明によるSiC種結晶の概略断面図である。
【0036】
図3】本発明による昇華成長によってSiCバルク単結晶を製造するための、図2に示すSiC種結晶を内部に配置して種結晶として用いる、育成装置の概略断面図である。
【0037】
図4】SiC種結晶から保護酸化物層をエッチバックした後かつ昇華成長プロセスを開始する前の、後続の製造段階における、図3に示す育成装置の概略断面図である。
【0038】
図5】保護酸化物層が除去された後に、SiCバルク単結晶をSiC種結晶上に成長させる昇華成長段階である後続の製造段階における、図4に示す育成装置の概略断面図である。
【0039】
図6】本発明による昇華成長によってSiCバルク単結晶を製造する方法の一連の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明の例示的な実施形態が示されている添付の図面を参照して、本発明を以下に更に十分に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全となり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。同様の番号は、全体を通して同様の要素を指す。
【0041】
図1を参照すると、本発明による保護酸化物層110を有するSiC種結晶100が示される。SiC種結晶100は、SiCバルク結晶を成長させることを意図された面である第1の表面125の全体(又は一部)が保護酸化物層110で被覆されたシリコンカーバイド単結晶ディスク120を有する。保護酸化物層110の機能は一時的な保護表面を形成することであり、この一時的な保護表面上に外部環境からの全ての不純物及び汚染粒子130が付着することができ、そうでなければ、それは後続の成長プロセスに備える間、例えば種結晶を保持器具140に固定するときなどに、SiC単結晶ディスク120の堆積表面125に必然的に落下するであろう。本発明のSiC種結晶100は、図2に示すように、不純物及び汚染粒子125を保護酸化物層110上に捕捉することを可能にする。保護酸化物層110は、実際の昇華成長プロセスの開始前、すなわち種成長表面上へのSiCの堆積の開始前の、しかし保護酸化物層110を有するSiC種結晶100が育成るつぼに導入された後にのみ、除去されることが意図されているため、不純物を含まない堆積表面125を有するSiC単結晶層種を得ることができる。
【0042】
保護酸化物層110は、後述するようなエッチバックプロセスによって容易に除去することができるため、二酸化ケイ素などの酸化物材料から作製されることが好ましい。単一のエッチバックプロセス中に、保護酸化物層110を、被覆された面125全体にわたって均一に効率的に除去するために、保護酸化物層110は、適切な酸化プロセスによって、かつ酸化物層110によって被覆された領域125全体に均一な酸化物厚さを達成することを可能にする、選択されたパラメータを用いて、SiC単結晶層110上に形成される。特に、保護酸化物層110は、表面125上の被覆された領域に沿って、保護酸化物層の平均厚さに対して上下に所定の許容値未満の厚さ変動を有して形成される。ここで、平均厚さとは、保護酸化物層に被覆された全領域における保護酸化物層の厚みの平均値である。したがって、保護酸化物層の厚さは、保護層110によって被覆された第1の表面125の領域上の任意の位置における平均厚さから、所定の許容値を超えて上下に偏差しない。
【0043】
SiCディスク120は、好ましくは4H変容(modification)のSiCで作製される。しかしながら、SiCディスク120は、他のSiC構造の変容体(ポリタイプ)、例えばシリコンカーバイドの6H、15R、及び3Cの変容体などのいずれかから作製されてもよい。例えば切断されたSiCディスク120の堆積表面125は、好ましくは(000-1)結晶面(すなわち、4H SiCバルク結晶のPVT成長のためのC面)に対応し、これはPVTによるSiCバルク結晶の成長のために半導体産業で使用される種基板の好ましい結晶面である。更に、後続の結晶成長に必要なPVT特性に応じて、SiC単結晶ディスク120は、C面の結晶軸が、SiC単結晶ディスク120の成長表面125に垂直な方向からオフアクシス方位(off-axis orientation)の分だけ傾斜するように切断及び/又は処理されてもよい。好ましくは、SiCディスク120のオフアクシス方位は、0~4°のオフ角度によって特徴付けられる。
【0044】
切断されたSiC単結晶ディスク120は、次に、当分野で一般的に用いられる処理工程、例えばSiCディスク120の表面及び/又は裏面の研削、ラッピング及び研磨(機械的及び/又は化学機械的手段による)などによって(全ての又は個々の処理を組み合わせて)処理し、スクラッチ、表面欠陥及び表面下損傷を除去することができる。その上に均一な酸化物層110を形成するために、SiCディスク120は、好ましくは、SiC層120の厚さ方向に0.5nm~1nmの表面粗さを有する滑らかな堆積表面125をもたらすように処理され、上述のように好ましくは約500μm~約5000μmの厚さを有する。切断されたSiCディスク120の表面及び裏面に面取りを加えることもできる。位置合わせノッチ又はフラットも画定され得る。SiCディスク120は、好ましくは、位置合わせノッチ及びフラットなどの特定の型の存在を除いて、実質的に円形のディスク形状を有し、自立するのに十分な機械的安定性を有する。このようにして作製されたSiCディスク120は、半導体SiCバルク結晶を製造するための工業的要件を満たすように意図されている。
【0045】
従来、そのように処理された、堆積表面125の理想的な特性を有するSiC単結晶ディスク120は、育成るつぼ内に種を保持するための保持器具140への固定などの更なる作業に供され、その上にSiCバルク単結晶を成長させるための種結晶として使用可能になる。しかしながら、これらの作業は、これらの取り扱い作業中に大気中に発生する高濃度の埃、粒子及び他の不純物のために清浄な部屋内で実行することができないため、理想的に作製されたSiCディスク110の表面125は、一般に、これらの作業中に金属及び/又は非金属不純物原子、無機若しくは有機不純物又は粒子で再び汚染される。
【0046】
SiC種結晶120の堆積表面125の理想的な特性を、種成長表面125上へのSiCの堆積が開始するまで維持するための、本発明の基礎となる概念は、したがって、SiCディスク120の上部、すなわち堆積表面125上に一時的保護酸化物層110を形成することにある。より具体的には、堆積表面125の酸化を上述のSiCスライス120の処理直後に行うことにより、種を更に取り扱う間に汚れ、不純物原子又は粒子が物理吸着又は化学吸着によってSiCスライス120の理想的な表面125上に蓄積し得る前に、保護酸化物層110が生成される。
【0047】
例えば、保護酸化物層110を有するSiC基板100は、以下のように製造することができる。最初に、高品質のSiCバルク単結晶から、好ましくは厚さ約500μm~約5000μmの単結晶スライス又はディスク120を、例えばソーイング又はレーザ補助切断によって、概してSiCバルク単結晶の長手方向軸に垂直な方向に、又は所与のオフ角度だけ傾斜した方向に切り取る。切断されたSiCディスク120は、既に、介在物、転位及び/又はマイクロチューブの密度が低く、不純物の含有量が低いポリタイプの高結晶品質を有しているため、後続の結晶成長に対する既存の欠陥の悪影響を低減するための更なる処理プロセス、例えば、特開第2008-024554号明細書に記載されている処理プロセスなどは、種上に成長する結晶の品質の著しい改善をそれ以上もたらさない。例えば、酸化物層110を適用する前に、シリコンカーバイド単結晶ディスク120は、12000/cm未満、好ましくは8000/cm未満のエッチングピット密度を有し、及び/又は2000/cm未満、好ましくは1000/cm未満のらせん転位密度を有する。
【0048】
酸化プロセスのために、SiCスライス(又はディスク)120は、従来の酸化チャンバ内に配置されてもよい。例えば、SiCスライス120は、酸化成分を供給するための入口及び出口を有する密閉チャンバ内に配置され、酸化雰囲気を、適切な組成かつ制御された圧力及び温度下で設定及び維持することによって、制御された酸化処理を受けることができる。酸化チャンバでは、酸化雰囲気のガス組成又は化学組成、並びに温度、大気圧及び酸化プロセス時間の設定を制御することができる。したがって、所望の組成及び厚さ、すなわち一定で均一な厚さを有する保護酸化物層を得ることができる。例えば、(SiCディスク120の結晶C面上で測定された)厚さ1nm~25nmの酸化物層は、そのような制御された酸化プロセスを用いて得てもよく、後続のエッチバックプロセスによって容易に除去するのに好適である。本発明による保護酸化物層110をSiC単結晶ディスク120上に形成するために、当分野で公知のいくつかの酸化プロセスを用いてもよい。例えば、以下のプロセスのうちの1つ又は複数を(単独で又は組み合わせて)用いてもよい。
(i)酸素及び場合により不活性ガスによる乾式酸化であって、不活性ガスは窒素及び/又はアルゴンを含む、乾式酸化、
(ii)酸素と水と場合により不活性ガスとの混合物による湿式酸化、
(iii)規定のガス雰囲気中における15℃~50℃の室温での酸化、
(iv)オゾンによる酸化、
(v)酸素プラズマによる酸化、及び/又は
(vi)NaCO、H、NaOH、KIO、KClO、KMnO及びCrOのうちの少なくとも1つによる酸化。
【0049】
所望の最終酸化物厚さを達成するための温度、圧力及び/又はプロセス時間のパラメータは、形成される酸化物層110の特定の組成、酸化雰囲気、並びに使用される酸化チャンバの特性、例えばチャンバ容積並びに関連する加熱及び圧力システムなど、に応じて、実験及び/又はシミュレーション分析によって決定することができる。
【0050】
SiCディスク120の被覆された領域125全体にわたって厚さの変化が小さい均一な酸化物層を作製することは、エッチバックによる酸化物層110の除去後に、SiC単結晶層120の理想的な表面125を結晶成長のために確実に完全に露出させるための重要な因子である。
【0051】
酸化物層の厚さの測定は、酸化プロセスの終了後に非破壊的に、例えばエリプソメトリーによって行うことができる。有利には、厚さ測定は、酸化チャンバの適切な設計を用いてその場で(すなわち、酸化チャンバ内のSiCディスク120で)行ってもよい。これにより、本発明による酸化物層110が所望の厚さに達した時に、酸化プロセスを終了させることができる。
【0052】
したがって、SiC単結晶ディスク120、より詳細には、結晶成長に用いられることを意図された表面125は、SiCバルク単結晶を成長させる種成長表面上へのSiCの堆積を開始する前に実行されなければならない取扱処理工程、例えば、保持器具への固定及び/又は育成るつぼ内への設置などの間の、汚れ、不純物原子及び粒子の吸着から保護される。
【0053】
次に、本発明によるSiC基板100を昇華成長用の種結晶として用いる、SiC基板100を用いた少なくとも1つのSiCバルク単結晶の製造方法について、図3から図5を用いて説明する。
【0054】
図3は、本発明による昇華成長プロセスによってSiCバルク単結晶301を製造するための、結晶育成装置300の実施形態を示す。育成装置300は、結晶育成るつぼ310を含み、この中に昇華(物理的気相輸送とも呼ばれる)によってSiCバルク単結晶を製造するためのSiC種結晶100が挿入される。具体的には、育成るつぼ310には、上述したSiC種結晶100などの種結晶が内部に配置される結晶育成領域320と、昇華成長過程で昇華する、粉末状、圧密状又は部分的に圧密状のシリコンカーバイドなどの原料物質332を収容する原料物質領域330とが設けられる。例えば、SiC粉末は、昇華成長プロセスの開始前に、予め完成した出発材料として原料物質領域314に注入されてもよい。種結晶100は、るつぼ蓋315(本例では保持器具140となる)に固定され、SiC原料物質領域330に対向して配置されるように、るつぼ310の内部に配置される。一般に、種結晶100の直径は、その上に成長させるSiCバルク単結晶とほぼ同じ直径となるように選択される。それにもかかわらず、最終的なSiCバルク単結晶直径の直径は、下にある種結晶100よりもわずかな偏差、例えば30%未満だけ小さくても大きくてもよい。特に、通常のウェハ結晶成長では、種結晶の直径は成長したバルク結晶と等しいか又はそれよりも大きい。しかしながら、バルク結晶の作製はまた、より大きな新しい種結晶を製造するために用いてもよい。このように直径を拡大する場合、種結晶は成長したバルク結晶よりも小さい。
【0055】
育成るつぼ310の壁312及び蓋315は、結晶育成領域320及び原料物質領域330を包囲して、結晶育成領域320内に制御された昇華雰囲気を生成することを可能にする。育成るつぼ310は、好ましくは、例えば少なくとも1.75g/cmの密度を有する電気伝導性及び熱伝導性の黒鉛るつぼ材料で作られる。育成装置300はまた、育成領域320内への種結晶100の挿入及び/又は原料物質領域330内へのSiC原料物質332の貯蔵の後に育成るつぼ310の周囲に配置される断熱筐体340を含む。断熱筐体340は、断熱性を改善するように、好ましくはるつぼ310の壁312及び蓋315を形成する黒鉛材料の多孔度よりも高い多孔度を有する、繊維隔離材料の発泡状黒鉛断熱材料で作製された断熱シート又はケーシングからなってもよい。断熱筐体340の上部及び底部に、好ましくはるつぼ310の長手方向中心軸355の周りに配置された追加の開口部又は入口350を設けてもよい。それにより、育成領域320からの又は育成領域320へのガス種の輸送は、高密度の黒鉛の密集によって制限される。
【0056】
次いで、育成装置300は、反応チャンバ(図示せず)内に配置され、この反応チャンバは、石英ガラス管などの管状容器として従来構成されており、原料物質を昇華させ、昇華成長プロセス中に昇華した成分を種結晶120に向かって輸送するのに必要な温度勾配を生成及び制御するためのそれぞれの冷却系及び加熱系に囲まれている。例えば、加熱手段は、制御された電流を伴う誘導加熱コイル12として提供され、中心軸355の周りで育成るつぼ310の導電性壁312内を循環する電流を誘導することによって、るつぼ310の内部に所望の温度を生成することができる。0.1mbar~100mbarの育成圧力下で、2000度超、特に約2400℃の育成温度が昇華プロセス中に達成され得る。
【0057】
昇華成長プロセス中、SiC材料は、誘導熱によって原料物質領域330から昇華し、昇華したガス状成分は、るつぼ310の内部で生成された熱勾配の影響下で結晶育成領域320に輸送される。したがって、結晶育成領域320内にSiC成長気相が生成され、そこからSiCバルク単結晶がSiC成長気相からの堆積によって種結晶上に成長する。
【0058】
図3から図5に示す育成るつぼ310は、一度に1つのSiCバルク単結晶を成長させるように設計されている。しかしながら、本発明の原理によるSiC種結晶100及びSiC種結晶100を用いたSiCバルク結晶の製造方法は、1つ以上のSiCバルク単結晶を同時に成長させるように設計された複数の育成領域を有する育成るつぼにも適用されることが意図されている。例えば、るつぼの中央領域に設けられた原料物質領域と、内部にそれぞれの種結晶を収容するために原料物質領域の両側に配置された2つの結晶育成領域とを有する育成るつぼを使用し、同じ原料物質から2つのSiCバルク結晶を同時に成長させることが想定される。
【0059】
上述したように、本発明による昇華成長によって少なくとも1つのSiCバルク単結晶を製造する方法では、昇華成長プロセスを開始する前に、保護酸化物層110をSiC単結晶ディスク120の堆積表面125上、例えば4H結晶成長の場合(000-1)(すなわち炭素)面上に最初に堆積させてから、堆積表面125を保持器具に固定して、堆積表面125の高品質を維持する。こうして、堆積表面125は、不純物原子、粒子及び不純物の堆積から一時的に保護される。次いで、SiC種結晶100は、保持器具又はるつぼ蓋315に固定され、粉末状又は(部分的に)圧密状のSiC原料物質が原料物質領域330内に配置され、育成るつぼ310は断熱筐体340で覆われ、反応チャンバに挿入される。
【0060】
その後、昇華による結晶成長を開始する前にエッチバックプロセスを実行することによって、不純物原子、不純物及び粒子が吸着された保護酸化物層110は、その場で(すなわち、SiC種結晶100が育成るつぼ310の内部に配置され、育成装置300が反応チャンバに挿入された後、るつぼ310の内部で)除去される。具体的には、結晶育成領域320内のエッチバック成分のガス雰囲気の蒸気圧を設定することを含み得るエッチバックプロセスが行われる。特に、SiCの堆積と比較して二酸化ケイ素の溶解を促進する温度勾配が必要とされる。その結果、SiCが堆積する前に二酸化ケイ素が蒸発する。
【0061】
例えば、SiC基板100が配置された育成領域320の雰囲気中の、炭素などのエッチング種の蒸気圧を低く設定することによって、エッチバックを達成することができる。このエッチング雰囲気は、以前に生成された保護酸化物層110を、その上に堆積され得る全ての汚染原子、粒子及び不純物を含めて昇華させる。
【0062】
エッチバックガス状雰囲気の組成及びそれぞれの圧力は、SiC基板100から酸化物材料を完全にエッチング除去するように、保護酸化物層110の組成に応じて選択される。特に、SiC種結晶100から保護酸化物層110をその場で除去するために、いくつかのエッチバックプロセス及び条件を用いてもよい。例えば、圧力を1mbar~100mbarに設定することによって、及び/又は核生成温度を1200℃~1400℃、又は1650℃~1850℃に設定することによって、エッチバックプロセスを実行してもよい。エッチバックは、高真空下で、又はアルゴンなどの不活性ガスによるパージ中に行うこともできる。更に、SF、Cl、CHF、C、NF、CF又はそれらの混合物などの還元ガスを育成るつぼ310に導入して、酸化物層110、したがってその上にある不純物原子、粒子及び不純物を選択的に除去することができる。最後に、エッチバックプロセスの上記の変形例のいくつかを組み合わせることができる。
【0063】
その後、エッチバックプロセスは、保護酸化物層110によって以前に被覆されたSiC単結晶ディスク120の堆積表面125の領域を完全に露出させるように、保護酸化物層の厚さ及び組成、エッチバックガス状雰囲気の反応性などのパラメータに依存した持続時間の間維持される。したがって、昇華成長、すなわち成長表面上のSiCの堆積を開始する前に育成領域320内に適切なエッチング蒸気圧を設定することによって、SiC種結晶100上に一時的に形成された保護酸化物層110を効率的に除去することができ、それによって、下にあるSiC単結晶ディスク120の理想的に準備された面125(本例ではC面である)を、更なる不純物、不純物原子又は粒子なしに露出させることができる。結果として、SiC単結晶ディスク120の更なる取り扱い作業を行わずに、より重要なことには、SiC単結晶ディスク120を育成るつぼ310から取り出して汚染物質にさらす必要なく、SiC単結晶ディスク120の露出面125上にSiCバルク単結晶の昇華成長を続けて開始することが可能である。そして、高品質で欠陥密度が非常に低いSiCバルク単結晶を製造することができる。
【0064】
要約すると、本発明は、後続の結晶成長プロセスに備えてSiC単結晶ディスク120に施される切断及び研磨処理の終了直後に種結晶面125上に形成される一時的な保護酸化物層によって、種結晶として用いられるSiC単結晶ディスク120の理想的な特性、特に、4H-SiCディスクのC面のPVT成長のための特性を、結晶成長を意図した表面125上に堆積される不純物粒子及び汚染物質によって生じる悪影響から保全することを可能にする。保護酸化物層110は、結晶成長の開始直前、すなわちSiCの堆積直前まで、少なくとも結晶育成るつぼ310内にSiC種結晶100が設置される後まで、SiC種結晶100上に留まる。その結果、成長した結晶に新たな結晶欠陥を生じさせる原因となる、SiC種結晶100の取り扱い作業時、例えば育成るつぼ310へのSiC種結晶100の固定及び挿入時などの、汚れ、粒子及び不純物原子の堆積を排除することができる。
【0065】
更に、本発明のSiCバルク単結晶の製造方法は、種結晶上のSiCバルク単結晶成長を開始する前に保護酸化物層110がその場で除去されるように設計されているため、種結晶100の一部であるSiC単結晶ディスク120の、理想的な、すなわち不純物、粒子、不純物原子を含まない表面125上での結晶成長を容易に開始することができる。これにより、高品質なSiCバルク単結晶を製造することができる。
【0066】
上記の例示的な実施形態の特定の特徴は、「上部」、「底部」、及び「上方」などの用語を使用して説明されたが、これらの用語は、光学モジュール内のそれぞれの特徴及びそれらの相対的な方位の説明を容易にする目的でのみ使用され、特許請求される発明又はその構成要素のいずれかを特定の空間的な方位に限定するものとして解釈されるべきではない。更に、上記の開示において、「約」又は「およそ」という用語が特定の値又は範囲に適用された場合、これは、それを測定するために使用される方法と同程度に正確な値又は範囲を指すと理解されるべきである。例えば、測定誤差が言及されない場合、「約500μm」という表現は、概数にして同じ「500μm」となる値を指すと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0067】
100 SiC種結晶
110 保護酸化物層
120 SiC単結晶ディスク
125 SiCディスクの堆積表面
130 不純物
140 保持器具
300 育成装置
301 SiCバルク結晶
310 結晶育成るつぼ
312 るつぼ壁
315 るつぼ蓋
320 結晶育成領域
330 原料物質領域
340 断熱筐体
350 開口部
355 中心軸
360 加熱コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】