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特表2024-539562炭化水素原料を熱分解するための分解反応器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】炭化水素原料を熱分解するための分解反応器
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20241022BHJP
   C01B 3/24 20060101ALI20241022BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20241022BHJP
   B01J 19/12 20060101ALI20241022BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20241022BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B01J19/00 301D
C01B3/24
C01B32/05
B01J19/12 A
B01J19/08 E
C09C1/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518789
(86)(22)【出願日】2022-10-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 US2022045767
(87)【国際公開番号】W WO2023059707
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/252,159
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524113389
【氏名又は名称】モルテン インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブッシュ、ケヴィン・エー
(72)【発明者】
【氏名】ボイド、ケレブ・シー
【テーマコード(参考)】
4G075
4G140
4G146
4J037
【Fターム(参考)】
4G075AA03
4G075AA05
4G075AA13
4G075AA23
4G075AA63
4G075BA01
4G075BA05
4G075CA02
4G075CA26
4G075CA47
4G075CA48
4G075DA02
4G075DA18
4G075EA06
4G075EB21
4G075EB27
4G075ED04
4G075FB01
4G075FB02
4G075FB03
4G075FB04
4G140DA03
4G146AA01
4G146AB01
4G146BA12
4G146BC03
4G146DA02
4G146DA29
4J037AA02
4J037BB05
4J037BB14
4J037BB19
(57)【要約】
本開示によれば、混合物を含む様々な組成の炭化水素原料を熱化学分解(熱分解、分解、直接分解)するための多段分解反応器及び方法が提供される。加熱ステージを通過する供給流中の原料は、その性質に応じた分解温度まで昇温させることにより活性化される。加熱ステージの物理的長さ及び活性化流の速度は、活性化流の加熱滞留時間が分解温度における平均分解開始時間(例えば、原料の1%以上分解されるまでの時間)よりも短くなるように調整される。加熱ステージの後に、平均分解開始時間よりも長い分解滞留時間をサポートする分解ステージが続く。分解ステージの内部に、炭素堆積物の拭き取り(除去)を容易にするために回転させることができる溶融物質を存在させてもよい。
【選択図】図1D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素原料を熱化学的に分解するための多段分解反応器であって、
(a)炭化水素原料の供給流を多段分解反応器に供給する手段と、
(b)前記供給流を前記炭化水素原料の分解温度まで加熱して活性化流を生成するためのキャビティを有する加熱ステージであって、前記加熱ステージの長さ及び前記加熱ステージにおける前記活性化流の速度が、前記加熱ステージにおける前記活性化流の加熱滞留時間が前記分解温度での前記炭化水素原料の平均分解開始時間よりも大幅に短くなるよう調整された、該加熱ステージと、
(c)前記炭化水素原料の熱化学分解の実質的な進行を達成するために、前記活性化流の分解滞留時間が前記炭化水素原料の前記平均分解開始時間よりも長くなるようにサポートする分解ステージと、
を備える、多段分解反応器。
【請求項2】
請求項1に記載の多段分解反応器であって、
前記分解ステージは、
(a)溶融物質を収容した広断面管と、
(b)炭素の堆積を最小限に抑えるとともに、前記分解ステージを清浄するために、前記広断面管を予め定められた回転速度で回転させる回転手段と、を含む、多段分解反応器。
【請求項3】
請求項2に記載の多段分解反応器であって、
前記予め定められた回転速度は、前記溶融物質が前記広断面管の内壁の大部分を被覆するような高速度域である第1の速度域を含む、多段分解反応器。
【請求項4】
請求項2に記載の多段分解反応器であって、
前記予め定められた回転速度は、前記溶融物質の大部分が前記広断面管の内壁の底部に堆積するような低速度域である第2の速度域を含む、多段分解反応器。
【請求項5】
請求項1に記載の多段分解反応器であって、
前記分解ステージは、広断面管を含み、
前記広断面管は、多孔質または有孔の内壁を有し、
前記多孔質または有孔の内壁は、高温の不活性ガスの通過を可能にし、それにより、熱分解される前記炭化水素原料と前記広断面管との接触を防止するためのバリア層を形成する、多段分解反応器。
【請求項6】
請求項1に記載の多段分解反応器であって、
前記加熱ステージの上流側に予熱ステージをさらに備え、
前記予熱ステージは、前記炭化水素原料の前記供給流を予熱して、前記炭化水素原料の前記分解温度よりも低い温度で実質的に均一に予熱された前記供給流を生成する、多段分解反応器。
【請求項7】
請求項1に記載の多段分解反応器であって、
前記炭化水素原料は、実質的にメタンまたは天然ガスを含み、
前記炭化水素原料の分解によって生成された炭素生成物は、固体炭素を含む、多段分解反応器。
【請求項8】
請求項1に記載の多段分解反応器であって、
前記加熱ステージの前記キャビティは、前記活性化流の前記速度を10m/秒超に維持するための狭断面管を含む、多段分解反応器。
【請求項9】
請求項1に記載の多段分解反応器であって、
前記加熱ステージ及び前記分解ステージの少なくとも一方を加熱するための加熱手段をさらに備え、
前記加熱手段は、誘導加熱手段、抵抗加熱手段、熱プラズマ、非熱プラズマ、マイクロ波加熱手段、及び燃焼加熱手段から選択される、多段分解反応器。
【請求項10】
炭化水素原料を熱化学的に分解するための段階的方法であって、
(a)前記炭化水素原料の供給流を、キャビティを有する加熱ステージに供給するステップと、
(b)前記加熱ステージで前記供給流を前記炭化水素原料の分解温度まで加熱して活性化流を生成するステップと、
(c)前記加熱ステージの長さ及び前記加熱ステージにおける前記活性化流の速度を、前記加熱ステージにおける前記活性化流の加熱滞留時間が前記分解温度での前記炭化水素原料の平均分解開始時間よりも大幅に短くなるように調整するステップと、
(d)分解ステージにおける前記活性化流の分解滞留時間が前記分解温度での前記炭化水素原料の前記平均分解開始時間よりも長くなるようにサポートするステップと、
を含む、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の段階的方法であって、
(a)前記分解ステージに、溶融物質を収容した広断面管を設けるステップと、
(b)炭素の堆積を最小限に抑えるとともに、前記分解ステージを清浄するために、前記広断面管を予め定められた回転速度で回転させるステップと、をさらに含む、方法。
【請求項12】
請求項10に記載の段階的方法であって、
(a)前記分解ステージに、多孔質または有孔の壁部を有する広断面管を設けるステップと、
(b)前記炭化水素原料と前記広断面管との接触を防止するバリア層を形成するために、高温の不活性ガスの緩衝流を提供するステップと、をさらに含む、方法。
【請求項13】
炭化水素原料を熱化学的に分解するための分解反応器であって、
(a)炭化水素原料の供給流を受け取る分解ステージであって、溶融物質を収容した広断面管を有する、該分解ステージと、
(b)炭素の堆積を最小限に抑えるとともに、前記広断面管を清掃するために、前記広断面管を予め定められた回転速度で回転させる回転手段と、
を備える、分解反応器。
【請求項14】
請求項13に記載の分解反応器であって、
前記予め定められた回転速度は、前記溶融物質が前記広断面管の内壁の大部分を被覆するような高速度域である第1の速度域を含む、分解反応器。
【請求項15】
請求項13に記載の分解反応器であって、
前記予め定められた回転速度は、前記溶融物質の大部分が前記広断面管の内壁の底部に堆積するような低速度域である第2の速度域を含む、分解反応器。
【請求項16】
請求項13に記載の分解反応器であって、
前記溶融物質は、溶融金属及び溶融塩から選択される、分解反応器。
【請求項17】
請求項13に記載の分解反応器であって、
前記炭化水素原料を熱分解するためのエネルギーは、誘導加熱手段、抵抗加熱手段、熱プラズマ、非熱プラズマ、マイクロ波加熱手段、及び燃焼加熱手段から選択される加熱手段によって供給される、分解反応器。
【請求項18】
請求項13に記載の分解反応器であって、
前記炭化水素原料は、室温から前記炭化水素原料の分解温度よりも大幅に低い温度までの範囲の温度で前記広断面管に供給される、分解反応器。
【請求項19】
請求項13に記載の分解反応器であって、
前記炭化水素原料は、ガス状の炭化水素であり、
前記炭化水素原料の分解によって得られる炭素生成物は、実質的に固体炭素を含む、分解反応器。
【請求項20】
請求項13に記載の分解反応器であって、
炭化水素原料を熱化学的に分解するための熱化学的反応は、熱分解であり、
前記熱分解は、酸素の乏しい環境に維持される、分解反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2021年10月5日出願の米国仮特許出願第63/252、159号に基づく優先権を主張するものである。上記出願の開示内容の全体は、参照により本明細書中に援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、一般に、水素生成を伴う反応において、炭化水素原料を熱分解温度まで加熱する段階と、炭化水素を熱化学的に分解する段階とを分けた態様で、炭化水素原料を熱化学的に分解するための多段分解反応器に関する。
【背景技術】
【0003】
米国では、年間1000万トンの水素が生産されている。その95%は、水蒸気メタン改質(SMR)によって生産されており、その過程で1億トンのCOが排出されている(「A. Majumdar et al., "A framework for a hydrogen economy", Joule, Vol. 4, Issue 8, 18 Aug., 2021, pp 1905-1908」参照)。メタン(CH)をHとCとに熱分解するメタン熱分解は、水素生産に伴うCO排出を削減するための最も費用対効果の高い解決策となる可能性があるが、既存のアプローチでは規模を拡大するのが困難であることが証明されている(「M. Steinberg, "The direct use of natural gas for conversion of carbonaceous raw materials to fuels and chemical feedstocks", International Journal of Hydrogen Energy, Vol. 11, Issue 11, 1986, pp. 715-720」及び「S. Schneider et al., ChemBioEng Reviews, Vol. 7, 2020, pp. 1-10」参照)。メタン分解による水素生成は、水電解質による水素生成や、炭素回収を伴う既存の水蒸気メタン改質による水素生成と比べて安価であると考えられる。しかしながら、規模拡大が可能な、かつ費用対効果の高いメタン熱分解は、基本的なプロセス設計及び規模拡大に多くの課題があるため、まだ広く商業化されていない。
【0004】
水素、カーボンブラック、または、アルカンや芳香族炭化水素などの様々な炭化水素を生成する手段としての炭化水素原料の熱分解は、メタンの加水分解によるカーボンブラック生産や炭化水素分解による石油精製などを含む様々な産業の中心になっている先進的なプロセスである。炭化水素の熱分解には、熱分解や分解などとも呼ばれる様々なプロセスが含まれ、炭化水素は、高温(通常は400℃以上だが、1000℃以上になることある)で、より小さな成分に分解される。古典化学では、分解反応とは、化合物を2つ以上のより単純な物質に分解する反応であり、通常は、化学結合を切断するためにエネルギーの入力を必要とする。炭化水素の分解や熱分解は燃焼と対になる反応であり、化合物が酸素と結合して生成物として酸化物を生成する燃焼とは異なる。
【0005】
カーボンブラックは現在、ファーネスブラックプロセス(生産量の95%)またはサーマルブラックプロセス(生産量の5%未満)のいずれかを用いて製造されている。ファーネスブラックプロセスでは、天然ガスを1300℃~1500℃で燃焼させて加熱した空気流に、重質芳香油原料を連続的に注入する。重質芳香油原料を熱分解してカーボンブラックを生成し、その後、水で急冷して温度を1000℃以下に下げて反応を停止させるとともに、粒子径を制御する。サーマルブラックプロセスでは、メタンの熱分解を利用し、燃焼による予熱と熱分解による分解とを交互に行う一対の炉に天然ガスを注入する。各炉を燃焼により熱分解温度以上に加熱した後、熱分解温度以下の温度の新鮮な天然ガスを炉内に注入し、その天然ガスを熱分解温度まで加熱して熱分解し、主に水素及びカーボンブラックを生成する。
【0006】
水素はカーボンブラックプロセスでも生成されるが、生成された水素は、プロセスを加熱するための燃料として使用されるか、または大気中に放出される。水素生成のためのメタン熱分解は、炭化水素原料の熱分解と同様のプロセスであり、生成された水素と固体炭素との両方を捕捉して利用することに重点を置いている。メタン熱分解は、二酸化炭素を発生させることなく水素を製造することができる有望な技術である。したがって、この技術の主な目的は、熱分解プロセスの駆動手段として、再生可能な電気加熱を使用することである。
【0007】
メタンなどの炭化水素原料の熱分解は、活性触媒の存在の有無にかかわらず行うことができる。触媒が存在しない場合、メタンを水素及び固体炭素に熱分解する温度は、通常、1000°C以上である。触媒物質は、熱分解温度を、400°Cまたはそれ以下まで下げることができる。炭化水素を分解するための触媒物質としては、これに限定しないが、周期表のVIb族及びVIII族の元素、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、貴金属、クロム、モリブデン、それらの合金、それらを含む塩、及び、それらを含む酸化物などが挙げられる。
【0008】
触媒の有無にかかわらず、規模拡大が可能な、かつ費用対効果の高いメタン熱分解は、基本的なプロセス設計及び規模拡大に多くの課題があるため、まだ広く商業化されていない。メタン熱分解は、高温を必要とするため、反応器の構造材料の選択を制約するとともに、高スループットでの効率的な熱伝達が要求される。また、ガス状水素と固体炭素との両方が発生するため、これらを物理的に分離する必要がある。また、反応器内でのコーキング、すなわち固体炭素析出が、炭化水素原料の熱分解の実施上の主要な問題である。反応器内での固体炭素析出により、反応器内の頻繁な清掃が必要となるため、ダウンタイムが発生し、プロセスが非連続的になる。また、触媒は、固体炭素析出によって不活性化されるため、交換または清掃が必要となる。また、触媒金属や塩は、副生成物である固形炭素を汚染して、固形炭素をすべての用途に使用できないようにする可能性がある。実際、汚染の程度が非常に大きい場合は、固形炭素は有毒廃棄物として処分しなければならない。
【0009】
炭化水素分解の一般的なアプローチとしては、移動床反応器、流動床反応器、プラズマ反応器、マイクロ波反応器、溶融金属浴、流体壁反応器などがある。これらの多くは原料を予熱するが、実際の分解自体とは別の段階で、原料を分解温度まで加熱することはない。一方、特許文献1は、原料を溶融金属浴中で分解温度まで加熱した後、流動床で分解することを教示している。しかしながら、特許文献1に概説されているプロセスには、溶融浴を通過する原料の温度を均一に制御すること、炭素粒子を流動化させるのに十分な原料スループットを維持すること、及び、溶融金属から炭素を分離することを含む、明らかな短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2、749、709号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、特許文献1を含む先行技術に記載された多くの課題を克服する新規な分解反応器を提供することにある。具体的には、先行技術の欠点に鑑みて、本発明は、以下の(1)~(5)を提供することを目的とする。
(1)炭化水素原料を分解温度まで加熱する際の熱効率の改善。
(2)炭化水素原料を分解温度まで加熱する際の均一性を改善し、固体炭素粒子の形態などの製品特性の分布を狭くすること。
(3)反応炉内でのコーキング(炭素析出)を低減し、反応炉の清掃を少なくすることによって、反応炉の稼働時間を増加させるとともに、反応炉の寿命のために真に継続的なプロセスを増加させること。
(4)炭化水素原料の熱分解によって生成する生成物の純度及び均一性の向上。
(5)炭化水素原料を分解するための反応器のスループット及び空間速度の改善。
【0012】
本発明の特徴は、水素及び固体炭素を生産するためのメタン熱分解に特に有利であることは明らかであるが、固体炭素、水素、または他の炭素を生成するための任意の炭化水素原料の熱分解または触媒分解にも適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的及び利点は、炭化水素原料を熱化学的に分解するための多段分解反応器及び段階的方法によって提供される。このような熱化学的分解は、熱分解、分解、または直接分解とも呼ばれ、多くの場合、メタンや天然ガスなどの炭化水素に適用される。分解を進めるためには高温が必要なため、分解は熱分解と呼ばれる。また、分解は、一般的に、水素の生成を伴う。任意の炭化水素原料を使用することができ、そのようなものとしては、1種類以上の炭化水素を含む気体、液体、または固体、例えば、メタン、ブタン、プロパン、エタン、エチレン、アセチレン、プロピレン、天然ガス、液化石油ガス、ナフサ、シェールオイル、木材、バイオマス、有機廃棄物流、バイオガス、ガソリン、灯油、ディーゼル燃料、残渣油、原油、カーボンブラック油、コールタール、粗コールタール、ベンゼン、メチルナフタレン、多環芳香族炭化水素などが挙げられる。上記のいずれかの原料と他の炭化水素原料との混合物とを使用してもよい。または、上記のいずれかの原料と他の原料との混合物、例えば、メタンと窒素との混合物、メタンと二酸化炭素との混合物、または、メタンと一酸化炭素との混合物などを使用してもよい。好ましい実施形態では、原料として、天然ガス、または、メタンを主成分とする炭化水素原料が使用される。
【0014】
例示的な多段分解反応器は、炭化水素原料の供給流を多段分解反応器に供給する手段または装置を備える。いくつかの実施形態では、加熱ステージは、供給流を受け取り、分解温度まで加熱することにより、炭化水素原料の活性化流を生成する。触媒が存在しない場合、メタンまたは天然ガスの分解温度は、通常は1000°Cを超えることに留意されたい。一般的に、触媒が存在する場合、メタンまたは天然ガスの分解温度は400°Cを超える。したがって、炭化水素原料の分解温度は、使用される炭化水素原料と、反応器に使用される触媒物質または非触媒物質に依存する。触媒物質としては、周期表の第VIb族及び第VIII族元素、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、貴金属、クロム、モリブデン、それらの合金、及びそれらを含む塩や酸化物、あるいは、他の適切な触媒物質が挙げられる。
【0015】
これらの実施形態では、物理的長さ(本明細書では単に加熱ステージの長さと称する)、及び、加熱ステージ中の活性化流の速度は、特定の方法で調整される。具体的には、これらは、加熱ステージで活性化された活性化流の加熱ステージ内部での加熱滞留時間が、炭化水素原料が分解温度に達するまでの平均分解開始時間(例えば、炭化水素原料の1%以上が分解されるまでの時間)よりも短くなるように選択または調整される。これは、炭化水素原料が熱分解を受ける分解温度に達したにもかかわらず、そのかなりの部分が、例えば1%が分解を受ける前に、加熱ステージから出ることを意味する。
【0016】
加熱ステージの後に分解ステージが続く。分解ステージでは活性化流は減速される。さらに、分解ステージは、炭化水素原料及び触媒(存在する場合は)によって決定される分解温度における平均分解開始時間よりも長い分解滞留時間をサポートする。これにより、炭化水素原料の熱化学分解の完了に向けた実質的な進行を達成することができる。いくつかの実施形態では、分解ステージは、分解滞留時間中に熱化学分解の実質的な進行に達するのに十分な温度で炭化水素原料を維持するための放射加熱装置または機構を備える。これは、炭化水素原料がメタンまたは天然ガスであり、分解が吸熱プロセスである場合に特に重要である。
【0017】
いくつかの実施形態では、分解ステージの後に分離ステージが続く。炭化水素原料としてメタンまたは天然ガスを使用する場合、分離ステージは、炭素生成物を分離するため、及び、熱分解に伴う水素生成から得られる水素を捕捉するために設計される。炭化水素原料がメタン(CH)である実施形態では、炭素生成物は固体炭素である。炭素生成物としては、これに限定しないが、カーボンブラック、炭素繊維、グラフェン、ダイヤモンド、ガラス状炭素、高純度グラファイト、カーボンナノチューブ、コークス、活性炭、他の炭素相、及び、それらの混合物が挙げられる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、分解ステージは、好ましくは広断面管の形態のキャビティを有する。広断面管は、一般的には水平方向に沿って延びておる、その内部に、溶融物質、例えば溶融金属を収容している。また、分解ステージは、広断面管を一定の回転速度で回転させるための手段または装置、例えば、適切な駆動及び連結機構を有する。広断面管の回転動作により、炭素の堆積を最小限に抑えるとともに、溶融物質が壁部、すなわち広断面管の内壁に堆積した炭素を拭き取ることによって分解ステージを清浄することができる。
【0019】
広断面管の回転速度は変化させることができる。具体的には、回転速度は、回転速度が高速度の第1の速度域(高速度域)または、回転速度が低速度の第2の速度域(低速度域)の2つの速度域にすることができる。回転速度が高速度の第1の速度域(高速度域)で回転する場合、溶融物質は、広断面管の内壁の大部分または露出面全体を被覆する。回転速度が低速度の第2の速度域(低速度域)で回転する場合、溶融物質は、広断面管の内壁の底部に集まるかまたは堆積する。
【0020】
あるいは、広断面管は、多孔質または有孔の壁部を有し、この壁部を通って、例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、または水素(H)などの高温かつ不活性な補助ガスが流れることにより、バリア層を形成する。この高温かつ不活性な補助ガスのバリア層により、熱分解される炭化水素原料と広断面管との接触を防止することができる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、加熱ステージは狭断面管の形態のキャビティを有する。このような狭断面管は、活性化流の所望の加熱滞留時間を、より良好に調整することを可能にする。例えば、狭断面管は、加熱ステージが100m/秒以上の速度を維持することを可能にする。さらに、効率的な加熱を達成するために、加熱ステージの狭断面管は、加熱を行うための電気的手段または装置を有する。適切な電気的装置としては、誘導加熱装置、抵抗加熱装置、及びマイクロ波加熱装置が挙げられる。
【0022】
いくつかの実施形態では、多段分解反応器は、予熱ステージをさらに有する。予熱ステージは、加熱ステージの上流側に設けられ、炭化水素原料の供給流を予熱して、実質的に均一な予熱流を生成するように設計される。予熱温度は、数百度の範囲、例えば400°Cまでとすることができる。したがって、予熱温度は、前述したように、典型的には1000℃以上である分解温度よりも低い温度にされる。ただし、メタンの熱分解は1000°C以下では非常に遅いが、触媒の存在下では分解温度ははるかに低い温度まで低下することに留意されたい。例えば、鉄(Fe)は、400°C以上の温度でメタン分解の触媒として働く。
【0023】
多段分解反応器のいくつかの実施形態では、加熱ステージは、炭化水素原料の温度を分解温度まで上昇させない。その代わりに、加熱ステージは、供給流を加熱して、炭化水素原料の加熱流を分解温度以下、または非触媒分解の場合では1000°C以下にするように設計される。このような実施形態では、炭化水素原料の活性化流を生成するために、分解ステージにおいて、加熱ステージから受け取った供給流を分解温度まで加熱する。この場合も、活性化流は、分解ステージで減速される。さらに、分解ステージは、熱化学分解の実質的な進行または高収率を達成するために、活性化流が分解ステージ内に滞留する分解滞留時間が平均分解開始時間よりも長くなるようにする。
【0024】
これらの実施形態では、分解ステージは、好ましくは、溶融物質を収容した広断面管を有し、かつ、広断面管を回転させる装置を有する。この場合も、炭素の堆積を最小限に抑え、分解ステージを清浄するために、広断面管を一定の回転速度で回転させる。回転速度は、第1の速度域であってもよいし、第2の速度域であってもよい。さらに、このような実施形態では、広断面管の内壁に高温不活性ガスのバリア層を形成するようにしてもよい。
【0025】
水素生成を伴う炭化水素原料の熱化学分解の段階的方法は、いくつかのステップを含む。最初のステップは、炭化水素原料の供給流を加熱ステージに供給するステップである。加熱ステージで行われる次のステップは、供給流を分解温度まで加熱して炭化水素原料の活性化流を生成するステップである。この方法のいくつかの実施形態では、加熱ステージは、実際には、供給流を分解温度未満の温度に加熱するだけである。このような実施形態では、加熱ステージに続く分解ステージで、炭化水素原料の供給流を分解温度まで加熱する。
【0026】
加熱ステージにおいて炭化水素原料の温度を分解温度まで上昇させる実施形態では、加熱ステージで調整ステップが実施される。この調整は、加熱ステージにおける活性化流の加熱滞留時間が、分解温度における炭化水素原料の平均分解開始時間よりも大幅に短くなるように、加熱ステージの長さ及び活性化流の速度を選択することを含む。したがって、炭化水素原料が分解温度に達したにもかかわらず、加熱ステージでの分解は最小限に抑えられる。
【0027】
分解ステージでは、減速が起こる。また、分解ステージは、活性化流の分解滞留時間が平均分解開始時間よりも長くなるようにサポートする。
【0028】
好ましい任意選択の最終ステップでは、炭素生成物を分離し、炭化水素分解からの水素を捕捉する。本方法は、分解ステージに広断面管を設け、選択された回転速度で回転させ、炭素の堆積を最小限に抑えて分解ステージを清浄化することと組み合わせて実施することが好ましい。
【0029】
以下、好ましい実施形態を含む本発明を、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明において詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1A図1Aは、本発明による多段分解反応器の三次元図である。
図1B図1Bは、図1Aの多段分解反応器の加熱ステージ及び分解ステージの断面側面図であり、温度プロファイルを示している。
図1C図1Cは、図1Aの多段分解反応器の加熱ステージ及び分解ステージの断面側面図であり、速度プロファイルを示している。
図1D図1Dは、図1Aの反応器の加熱ステージ及び分解ステージの内部を示す斜視図である。
図2図2は、図1Aの多段分解反応器の運転に関与する主なステップを示す三次元図である。
図3図3は、多段分解反応器の加熱ステージ及び分解ステージの断面側面図であり、別の調整を、速度プロファイル及び温度プロファイルと共に示す。
図4図4は、図1Aの反応器の分解ステージの第1の速度域(高速度域)を示す断面軸図である。
図5A図5Aは、図1Aの反応器の分解ステージに向かって延びる、加熱ステージの複数の狭断面管を備える実施形態を示す断面軸図である。
図5B図5Bは、図1Aの反応器に類似する反応器に配置される加熱ステージの狭断面管が円形ではなく多角形である実施形態を示す断面軸図である。
図6図6は、図1Aの反応器に類似する多段分解反応器を加熱するためのシェル及びチューブ熱交換器を示す三次元図である。
図7図7は、本発明の多段分解反応器で製造された2種類のカーボンブラックの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図面及び以下の説明は、例示としてのみ、本発明の好ましい実施形態に関するものである。以下の説明から、本明細書に開示された構造及び方法の代替実施形態は、特許請求される本発明の原理から逸脱することなく採用され得る実行可能な代替案として容易に認識されることに留意されたい。
【0032】
以下、添付の図面を参照して、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明する。実施可能な限り、類似するまたは同様の参照符号を図中に使用して、類似するまたは同様の機能を示す場合があることに留意されたい。図面は、例示のみを目的として、本発明の実施形態を示す。当業者であれば、本明細書に記載された本発明の原理から逸脱することなく、本明細書に記載された構造及び方法の代替実施形態を採用できることを、以下の説明から容易に認識するであろう。
【0033】
図1Aは、本発明の一実施形態による多段分解反応器100を示す三次元図である。明確にするために、図1Aは、反応器100の主要部分、及び、その全体的なレイアウトまたは設計に焦点を当てている。本発明の具体的な態様をより良く文脈化し理解するために、反応器100の全体的な設計を最初に提示する。
【0034】
反応器100は、炭化水素原料104を収容した供給部102を備える。本実施例では、炭化水素原料104は、メタン(CH)である。実際には、メタンまたは天然ガスに類似した方法で熱分解、分解、または直接分解とも呼ばれる熱化学的分解を受ける炭化水素原料はいずれも適している。使用できる炭化水素原料としては、1種類以上の炭化水素を含む気体、液体、または固体、例えば、メタン、ブタン、プロパン、エタン、エチレン、アセチレン、プロピレン、天然ガス、液化石油ガス、ナフサ、シェールオイル、木材、バイオマス、有機廃棄物流、バイオガス、ガソリン、灯油、ディーゼル燃料、残渣油、原油、カーボンブラック油、コールタール、粗コールタール、ベンゼン、メチルナフタレン、多環芳香族炭化水素などが挙げられる。上記のいずれかの原料と他の炭化水素原料との混合物とを使用してもよい。または、上記のいずれかの原料と他の原料との混合物、例えば、メタンと窒素との混合物、メタンと二酸化炭素との混合物、または、メタンと一酸化炭素との混合物などを使用してもよい。好ましい実施形態では、原料として、天然ガス、または、メタンを主成分とする炭化水素原料が使用される。
【0035】
また、カーボンブラック、活性炭、活性チャコール、C60、C70、カーボンナノチューブ、グラファイトフレークなどのシード炭素材料を、反応器100中の炭化水素原料104に含めることが好ましい。このようなシード材料は、炭化水素分解による炭素の核生成及び成長をシードする役割を果たす。
【0036】
さらに、炭化水素原料を分解するための一般的な反応器は、熱分解に供される炭化水素原料を精製するためまたは熱分解された生成物を分離及び精製するために、熱分解ステージの上流側または熱分解反応器の下流側に、精製システム、分離システム、またはガス化システムを備え得ることに留意されたい。前処理の代表例は、天然ガスの脱硫である。生成物の分離の典型例は、メタン熱分解において固体炭素と水素とを分離するためのバッグフィルタシステムである。また、未反応原料を再利用し、出力産物から入力原料へ熱を再利用するシステムも含まれる。このような補助的なシステムの多くは当業者によく知られており、反応器100と共に使用することができる。さらに、本明細書で使用される炭化水素原料104は、補助的システムによって既に精製、分離、混合、または他の方法で処理された炭化水素を含む。
【0037】
反応器100は、本明細書において炭化水素原料104の供給流108と呼ばれる滑らかなまたは実質的に均一な流れを反応器100に供給するための供給機構または装置106を有する。より正確には、供給流108は、反応器100に属する加熱ステージ112の入口110に供給される。本実施形態では、加熱ステージ112は狭断面管114を含み、供給流108は狭断面管114の入口110から狭断面管114内に注入される。狭断面管114には熱負荷がかかるため、狭断面管114は、アルミナ、ムライト、グラファイト、炭化ケイ素などの非常に安定した、かつ熱伝導性の高い材料から作製される。
【0038】
狭断面管114は、加熱ステージ112の全長に沿って水平に延びている。加熱ステージ112が終端する出口116は、狭断面管114と水平かつ同軸に延びる分解ステージ118の内部に位置する。このことは、より良く見えるようにするために提供された加熱ステージ112の切り取り部分Aを通して見ることができる。
【0039】
加熱セクションの加熱ステージ112、及び、炭化水素原料104が最も高温になる分解ステージ118は、炭化水素原料104の分解温度以上の温度に耐えることができるアルミナ、ムライト、シリコン、カーバイド、グラファイト、サファイア、タングステン、タンタル、シリカ、ジルコニアなどの非触媒物質から作製することが望ましい。これらの非触媒物質は、加熱ステージ112または分解ステージ118の表面で触媒分解を引き起こすべきではない。具体的には、反応器100内の任意の場所で炭化水素原料104と接触する触媒物質は、熱分解温度よりもはるかに低い温度に維持されるべきである。メタン原料及びFe、Ni、Coを含む材料については、最高温度は400°C以下に保つべきである。触媒物質としては、周期表の第VIb族及び第VIII族の元素、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、貴金属、クロム、モリブデン、それらの合金、それらを含む塩、及び、それらの酸化物などが挙げられる。
【0040】
ティー継手120が、反応器100への入口に設けられている。ティー継手120は、補助ガス126のガス流124を反応器100内に注入するための補助ガス入口122を有する。本実施形態では、補助ガス126は、窒素(N)であり、リザーバ128から供給される。補助ガス126のより好ましい選択肢としては、分解ステージ118におけるシアン化水素の形成を避けるために、アルゴン(Ar)または水素ガス(H)が挙げられる。補助ガス126の目的は、そのガス流124を利用して炭化水素原料104を分解ステージ118に向けて押し出すことであり、これにより、炭化水素原料104が反応器100の上流部分に逆流して反応器100の入口部分に炭素を堆積するのを実質的に防止する。より正確には、反応器100の上流セクションは、分解ステージ118に関連して後述する、炭素の堆積を最小限に抑えるための溶融物質または補助的なガスバリア層を有してないので、炭化水素原料104が反応器100を逆流するのを許容することは望ましくない。また、上流セクションで炭素が堆積すると、後述する回転機構を含む様々な機構を損傷させる可能性がある。
【0041】
また、ティー継手120は、狭断面管114を受容するための入口130を有する。補助ガス126のガス流124がティー継手120内に注入され、反応器100内で適切に前進することを確実にするために、入口130において、狭断面管114の周囲にシール132が設けられている。具体的には、本実施例では、シール132は、対応する固定具134によって固定されたガスケット(例えば、Oリングガスケット)である。
【0042】
ティー継手120は、反応器100内に通じる出口136をさらに有する。出口136は、補助ガス126を反応器100内に向けてさらに搬送する密閉されたバリア管138を包囲する。バリア管138には機械的負荷及び熱的負荷がかかるため、バリア管138は、ステンレス鋼やインコネルなどの、機械的負荷及び熱的負荷に対する条件によく適合する材料から作製されるべきである。ティー継手120は、反応器100内での炭化水素原料104の供給流108及び補助ガス126のガス流124を誘導するための単なる1つの可能性がある機構を表すために記載されている。代替的な実施形態では、補助ガス126は、炭素、炭化ケイ素、または他のセラミックなどの多孔質材料から作製されたディフューザを通じて供給することにより、ガス流124のより均一なプロファイルを生成することができ、それらのいくつかは、反応器100の全体的な設計に依存してより好ましいものであろう。
【0043】
本実施形態では、バリア管138は狭断面管114を包囲し、実際には、狭断面管114と同軸である。機械的クランプ140は、機械的支持構造体142と協働して、加熱ステージ112の上流側でバリア管138を安定させる。クランプ140及び支持構造体142は、詳細については後述するが、後続の分解ステージ118の回転を可能にするのに十分に強固なマウントを提供するべきである。
【0044】
加熱ステージ112は、狭断面管114を包囲するバリア管138と同軸に延び、かつ、バリア管138を包囲する広断面管144を有する。広断面管144に課される機械的要件及び熱的要件は高いので、広断面管144は、石英、アルミナ、ムライト、グラファイト、または炭化ケイ素などの適切な材料から作製されるべきである。本実施形態では、広断面管144は、その中心軸を中心として回転することができるように取り付けられている。広断面管144の中心軸は、バリア管138の軸及びバリア管138内に位置する狭断面管114の軸と一致している。具体的には、広断面管144の内壁に係合して広断面管144の回転を支持するベアリング146が、バリア管138に取り付けられている。広断面管144の機械的に安定した回転を実現するために、追加のベアリングを設けてもよいことに留意されたい。ただし、追加のベアリングは、温度がそのベアリングの耐熱温度の限界を超えない位置に取り付けるか、または、熱的に安定な材料から作製する必要がある。
【0045】
本実施形態では、広断面管144を回転させるための2つの回転駆動装置148A、148Bが設けられている。回転駆動装置148A、148Bは、広断面管144の外壁に対向して配置されている。係合をより良くするために、回転駆動装置148A、148B及び広断面管144の外壁に、対応する歯車機構を設けてもよい(図1Aには図示せず)。回転方向は設計上の選択の問題であるが、本実施例では、回転駆動装置148A、148Bは矢印Rで示すように反時計回りに回転する。したがって、反応器100の運転中は、広断面管144は、矢印Dで示すように時計回りに回転する。
【0046】
反応器100は、加熱ステージ112及び分解ステージ118を取り囲むヒータ150をさらに備える。本実施形態では、ヒータ150は、主に照射によって加熱を提供する電気ヒータである。換言すれば、電気ヒータ150は、熱放射ヒータである。適切な電気ヒータとしては、抵抗加熱ヒータ、誘導加熱ヒータ、及びマイクロ波ヒータが挙げられる。電源を入れると、ヒータ150は、その内側面から加熱ステージ112及び分解ステージ118の内部に熱を放射する。図1Aは、放射152による熱放射を模式的に示している。
【0047】
切り取り部分Aを通して見ることができるように、バリア管138は加熱ステージ112の終端部よりも上流側に終端している。具体的には、バリア管138の出口154は、狭断面管114の出口116よりもかなり上流側に位置しており、一般的には、加熱ステージ112の始端部よりも上流側に位置している。したがって、バリア管138の出口154は、炭化水素原料104が狭断面管114の出口116から排出される前に、バリア管138を通って流れる補助ガス126を、広断面管144の内部に放出するように構成されている。
【0048】
分解ステージ118は、狭断面管114の出口116から始まり、広断面管144の出口156で終わる。分解ステージ118の広断面管144は、その内部に、溶融金属や溶融塩などの溶融物質158を収容している。分解ステージ118内での溶融物質158の位置及び移動は、重力及び広断面管144の回転Dの影響を受ける。
【0049】
分解ステージ118の後に、分離ステージ160が続く。分離ステージ160は、明確にするために、図1Aでは破線で部分的に示されている。冷却ステージ、急冷ステージ、及び/または熱伝達ステージなどのよく知られたステージも、広断面管144の出口156と分離ステージ160との間、または、分離ステージ160の後流側に存在し得ることに留意されたい。これらのステージは、明確にするために、また本発明の主要な態様に焦点を当てるために、図1Aでは示していない。
【0050】
分離ステージ160は、炭素生成物162を分離するとともに、炭化水素原料104の熱分解に伴う水素生成プロセスから得られる水素164を捕捉するように設計されている。本実施例では、炭化水素原料104はメタン(CH)であり、炭素生成物162は容器166内に堆積される固体炭素である。
【0051】
図1Bは、加熱ステージ112及び分解ステージ118の断面側面図であり、多段分解反応器100の設計のいくつかの重要な側面が示されている。図1Bでは、加熱ステージ112の終端と、分解ステージ118の始端とを、破線Cで区切って示している。図示のように、炭化水素原料104の供給流108は、狭断面管114を通って流れ、狭断面管114の出口116から、分解ステージ118に排出される。一方、図示のように、補助ガス126のガス流124は、バリア管138を通って流れ、バリア管138の出口154から加熱ステージ112に排出される。
【0052】
また、図1Bは、反応器100の主要部分(図1A参照)を流れる炭化水素原料104の温度プロファイル170を示している。見やすくするために、温度プロファイル170は、加熱ステージ112及び分解ステージ118の長さに沿って、同軸的に記載されている。これにより、反応器100の長さに沿って流れる炭化水素原料104の均一な供給流108が温度プロファイル170に示された温度に達する位置を容易に見て取ることができる。
【0053】
本発明の本実施形態では、電気ヒータ150(図1A参照)からの放射152は、炭化水素原料104を加熱して、狭断面管114内を流れている間に分解温度Tに到達させるのに十分である。より正確には、電気ヒータ150からの熱放射は、狭断面管114の外壁を介した熱伝達により炭化水素原料104に伝達される。狭断面管114の外壁を介した炭化水素原料104への熱伝達の速度は、供給流108に存在する乱流によって促進される対流熱伝達により加速される。
【0054】
分解温度Tに達すると、炭化水素原料104は活性化されたと見なされる。換言すれば、分解温度T以上で、炭化水素原料104の熱分解または熱化学分解を進行させることができる。分解温度Tに達すると、供給流108は、炭化水素原料104の活性化流108´となる(ここで、ダッシュ表記は活性化流を示す)。加えて、温度プロファイル170における、供給流108が十分に加熱されて活性化流108´が生成された部分は、斜線の網掛けによって明示的に示している。分解温度は、一般的に1000°C以上であり、場合によっては1200°C以上になることに留意されたい。このような分解温度では、メタンの1%以上が分解されるまでの時間として定義されるメタンの平均分解開始時間tdecは、1000分の1秒から数秒のオーダーである。さらに高温になると、例えば1600°Cでは、平均分解開始時間tdecは、1000分の1秒未満にまで短縮される。本開示の装置及び方法での使用に適した炭化水素の熱化学分解パラメータに関する情報は、文献から入手可能である(例えば、「M. Wullenkord, "Determination of Kinetic Parameters of the Thermal Dissociation of Methane", PhD Dissertation, Lehrstuhl fur Solartechnik (DLR), 2012, https://publications.rwth-aachen.de/search?p=id:%223885%22 and S. Rodat et al., "Kinetic modelling of methane decomposition in a tubular solar reactor", Chemical Engineering Journal, 146 (2009), pp. 120-127」を参照)。
【0055】
図1Cは、反応器100の主要部分(図1A参照)を流れる炭化水素原料104の望ましい速度プロファイル172を示す。温度プロファイル170の場合と同様に、速度プロファイル172も、加熱ステージ112及び分解ステージ118の長さに沿って、同軸的に記載されている。これにより、炭化水素原料104の供給流108が反応器100の長さに沿って流れる速度vを容易に見て取ることができる。
【0056】
本発明の本実施形態では、狭断面管114により、供給流108が100m/秒を超える速度(v>100m/秒)に達することが可能となる。このような速度は、図1Cに示すように、高速度域にあると見なされる。対照的に、低速度域は、図1Cに示すように、100m/秒未満の速度(v<100m/秒)であり、好ましくは、100m/秒を大幅に下回る10m/秒以下などである。100m/秒超、さらには1100m/秒超に至るまでの高速度vの均一かつ迅速な供給流108を達成すること、及び、狭断面管114内の炭化水素原料104を効率的に加熱することが、本発明にとって重要である。このような高速度域及び低速度域は絶対的なものではなく、炭化水素原料の分解温度に応じて異なる。分解温度が高いほど速度を高くすることが必要となり、分解温度が低いほど速度を低くすることが必要となる。したがって、速度域(速度範囲)は、所望の分解温度に基づいて、大幅に調整される。例えば、分解温度が1000°Cの場合には、高速度域は0.1m/秒以上、低速度域は0.01m/秒以下となり、分解温度が1300°Cの場合には、高速度域は100m/秒上、低速度域は10m/秒以下となる。
【0057】
これらの目的を同時に達成するために、狭断面管114は、例えば、1~30mmの範囲の小さな内径または断面を有するように選択される。この断面範囲では、高速度vと効率的な熱伝達とを達成することができる。なお、1200°Cでの約1050m/秒の速度vはマッハ1に相当するため、これ以上の速度は望ましくない。高速度の達成は収束/発散ノズルなしでは不可能であるが、必要であれば、そのようなノズルは、狭断面管114に設けてもよい。一方、電気ヒータ150(図1A参照)によって生成された熱の、直径1~30mmの狭断面管114内の炭化水素原料104への伝達は、一般的に、狭断面管114の管壁からの伝導性熱伝達によって、次いで、供給流108の乱流によって促進される炭化水素原料104中の対流熱伝達によって、急速に行われる。
【0058】
図1B及び図1Cに示す条件下では、狭断面管114の物理的長さ(本実施例では加熱ステージ112の長さ)、狭断面管114の内径、供給される熱152の量、及び、供給流108の高速度vは、望ましい共同効果を発揮する。すなわち、この調整(tuning)は、図1Bに示す温度プロファイル170のハッチング部分に明示されているように、均一な供給流108が炭化水素原料104の加熱によって活性化流108´になると、狭断面管114内に長く留まらないことを確実にする。供給流108の高速度vは、加熱ステージ112または狭断面管114内での活性化流108´の短い滞留時間または加熱滞留時間thr図1Cにおいて「短い加熱滞留時間」として明示され、速度プロファイル172のハッチングでも示される)を保証する。したがって、この調整は、狭断面管114の内部で、炭化水素原料104の熱分解または熱化学分解がほとんど行われないことを確実にする。より具体的には、上記のパラメータは、加熱ステージ112内における活性化流108´の加熱滞留時間thrが、狭断面管114内で達成される分解温度Tでの炭化水素原料104の平均分解開始時間tdecよりも大幅に短くなるように、例えば、10倍短くなるか、またはさらに短くなるように選択または調整される。メタンまたは天然ガスの加熱ステージ112の加熱部分における滞留時間は、厳密には限定されないが、0.000001~1秒であることが好ましい。繰り返しになるが、このことは、炭化水素原料104が熱分解を受ける分解温度Tに達したにもかかわらず、炭化水素原料104は、そのかなりの部分が、例えばその1%が分解を受ける前に、狭断面管114の出口116を通って加熱ステージ112から出ることを意味する。また、このことは、狭断面管114の内部では、加熱面への炭素の堆積や炭素析出(コーキング)がほんのわずかしか起こらないことを意味する。これらの条件は、分解を抑制するとともに、低エネルギーコストで炭化水素原料104の高スループットを可能にするのに好都合である。
【0059】
加熱ステージ112の後に分解ステージ118が続き、炭化水素原料104は、分解温度Tよりも高い温度の活性化流108´として依然として移動している。繰り返しになるが、このことは図1Bに明確に示されており、活性化流108´が温度プロファイル170に明示的に示されている。炭化水素原料104は依然として活性化された状態であり、したがって、分解ステージ118内でかなりの長さまたは距離にわたって熱分解を受ける。
【0060】
ただし、重要なことには、図1Cの速度プロファイル172から明らかなように、分解ステージ118内では活性化流108´は減速される。例えば、1m足らずのうちに、活性化流108´は減速し、その速度vは、100m/秒以下で示される低速度域に入る。そこから、速度vは、数メートル/秒の速度域まで急速に低下し続ける。この減速に起因して、活性化流108´は、その温度が依然として分解温度Tを上回っている状態で、分解ステージ118で過ごす時間が長くなる。具体的には、本明細書において分解滞留時間tdrと呼ばれるこの期間は、活性化流108´中の炭化水素を実質的に分解する、すなわち90%超の分解を達成するのに必要な時間よりも長い。分解滞留時間tdrは、1500℃では約0.1秒であり、1200℃ではそれ以上になる。分解滞留時間tdrは、図1Cの速度プロファイル172に明示的に示されている。なお、メタン及び天然ガスの分解ステージ118における滞留時間は、厳密ではないが、0.0001~100秒に制限されることが好ましい。
【0061】
実際、速度プロファイル172のクロスハッチング領域は、分解ステージ118内で炭化水素原料104の熱化学分解の実質的な進行を達成するためにこれらの有利な条件が存在する場所を示す。別の言い方をすれば、分解ステージ118は、平均分解開始時間tdecより長い分解滞留時間tdr、すなわち、tdr>tdecをサポートする。これにより、炭化水素原料の熱化学的分解と水素の生成とを実質的に進行させることができる。
【0062】
分解ステージ118は、様々な方法で活性化流108´の急速な減速を達成するように構成することができる。最も好都合なのは、分解ステージ118の容積が加熱ステージ112の容積よりもはるかに大きくなるように選択することによって減速を得ることである。本実施形態では、活性化流108´の減速は、狭断面管114の内径よりもはるかに大きい内径を有する分解ステージ118の広断面管144によって達成される。例えば、広断面管144の内径は、狭断面管114の内径の100倍以上である。本実施形態では、狭断面管114の内径が1~30mmであることを考えると、広断面管144の適切な内径は少なくとも10~300cmである。体積流量Qは、流速v×断面積Aに等しい。管の場合、断面積Aは、半径の2乗×πに等しい。すなわち、体積流量Qは、下記の方程式で表される。
【0063】
【数1】
【0064】
上記の方程式を速度vについて解くと、下記のようになる。
【0065】
【数2】
【0066】
したがって、管の直径が2mmから20mmに増加すると、流速は約100倍減少する。これは平均流速であり、分解ステージ118の中間部では流れは速くなり、広断面管144の内壁付近では流れはかなり遅くなることに留意されたい。当業者であれば、これらの一般的な関係から特定の場合の減速度を求めることができ、また、当技術分野で知られている標準的な流体モデリングソフトウェアパッケージを適用することによって、より正確な結果を得ることができるであろう。
【0067】
図1Dは、上述のように構成された多段分解反応器100の分解ステージ118のさらに別の重要な特徴を示す。より具体的には、図1Dは、加熱ステージ112の端部における、分解ステージ118の内部、及び、狭断面管114の出口116をより詳細に示した斜視視図である。加熱ステージ112と分解ステージ118との間の境界は、図1B及び図1Cと同様に、破線Cによって示されている。
【0068】
図1Dに示すように、分解ステージ118では、溶融物質158が、広断面管144の内面145の底部に堆積している。上述したように、溶融物質158は、炭素が低レベルの溶解度を示す溶融金属または溶融塩であり得る。適切な溶融物質158は、Fe、Co、Ni、Sn、Bi、Al、In、Ga、Cu、Pb、Zn、Mg、Sb、Si、Pd、Pt、Rhなどの溶融金属、または、Ni-Ga、Cu-Ga、Fe-Ga、Cu-Sn、Ni-Sn、Ni-Bi、Fe-Bi、Ni-Sn、Ni-Pbなどの金属合金から選択され得る。さらに、溶融物質158は、NaCl、NaBr、KCl、KBr、LiCl、LiBr、CaCl、MgCl、CaBr、MgBr、ZnClなどの塩から選択され得る。溶融物質158は、これらの物質のいずれかの合金または混合物であってもよいし、あるいは、融点が2000℃以下、特に融点が0℃~2000℃の範囲にあり、気化点が500℃~2000℃を超える材料であってもよい。溶融物質158は、好ましくは、融点の低い「ホスト」または「キャリア」材料と、炭化水素の分解を触媒する「触媒」材料とから構成される。「ホスト」または「キャリア」材料としては、これに限定しないが、例えば、インジウム、亜鉛、アルミニウム、スズ、及び、鉛が挙げられる。「触媒」材料としては、これに限定しないが、例えば、炭素生成物、あるいは、Co、Ni、Fe、Cr、Mo、及び、米国特許第10、857、307号明細書または米国特許出願第2020/0002165A1号明細書に記載されている貴金属などの金属を含む元素、合金、及び酸化物が挙げられる。加えて、溶融物質158は、シード炭素材料、例えば、カーボンブラック、活性炭、活性炭、C60、C70、カーボンナノチューブ、グラファイトフレーク、及び、炭素シード材料上への炭化水素分解からの炭素の核形成及び成長をシードするための他の炭素材料などを含むことができる。
【0069】
矢印Dで示す広断面管144の回転により、溶融物質158は、矢印Sで示すように、分解ステージ118において広断面管144の内面145上を摺動する。本実施形態では、広断面管144の回転速度は、低速度域(第2の速度域)で維持される。広断面管144の回転速度は角速度ωで表すことがでる。角速度ωは、下記の力平衡方程式から求めることができる。
【0070】
【数3】
【0071】
上記の方程式において、mは溶融物質158の質量であり、gは重力定数である。角速度ωは、回転速度Dを1秒当たりの回転速度で表すことによって得られる。半径rは、図1Dに示すように、広断面管144の中心から内面145までの長さである。質量への明示的な言及を避けるために、次式で与えられる無次元フルード数(F)から必要な角速度ωを求めることも可能である(質量は相殺される)。
【0072】
【数4】
【0073】
これらの方程式から、反応器100内の広断面管144の適切な角速度ωが求められる。広断面管144の回転速度には、2つの主要な速度域があり、第2の速度域とも呼ばれる低速度域では、フルード数は1未満であり、溶融物質158が受ける遠心力が重力に打ち勝つのに十分でないため、溶融物質158の大部分が広断面管144の底部に沿って留まる。第1の速度域とも呼ばれる高速度域では、フルード数は1以上であり、溶融物質158が受ける遠心力が重力に打ち勝ち、溶融物質158が広断面管144の内面145を被覆することができる。図4に示すように、広断面管144の内面145上に溶融物質158の均一なコーティングを形成するために、フルード数は1以上である必要がある。フルード数(F)が1以上の高速度域では、溶融物質158は、広断面管144の内面145上への炭素の堆積を最小限に抑えるかまたは防止し、その結果、反応器100の詰まりを効果的に最小限に抑えることができる。溶融物質158上に堆積した炭素は、広断面管144の出口156を通って、流出ガスと共に反応器100から単純に排出される。
【0074】
フルード数(F)が1未満である低速度域では、溶融物質158は、広断面管144の底部のみに留まる。溶融物質158は、広断面管144の内面145上を移動する際、炭化水素原料104の熱化学分解反応中に生成された炭素162を除去する連続的なモップとして効果的に作用する。このことによっても、広断面管144の内面145上の炭素の堆積を最小限に抑え、その結果、反応器100の詰まりを実質的に最小限に抑えることができる。
【0075】
視覚的補助として、分解ステージ118で起こる熱化学分解反応を、図1Dに符号174によって概略的に示す。炭素162を生成する分解反応は、水素164の生成も伴うことに留意されたい。反応174が進行すると、炭素162が、広断面管144の内面145に堆積する。しかしながら、有利なことに、広断面管144が回転すると、溶融物質158により、炭素162の堆積物は除去される。その後、炭素162の堆積物は、流出ガスによって運ばれる塊またはフレークとして、分解ステージ118から排出される。
【0076】
図1Aを再び参照して、水素164と炭素162との両方が、分離ステージ160で捕捉される。分離ステージ160は、重力分離に依存して、炭素162を容器166に回収する。この分離部分は、当技術分野で既知のバグハウスフィルタを用いて実施することができる。一方、分解ステージ118から排出された残りの炭化水素原料104は、当技術分野で知られているように、適切な膜や水素164(H)のH精製によって、水素164から分離される。
【0077】
図2は、本発明のいくつかの態様による図1Aの多段分解反応器100の動作に関与する主なステップを示す三次元図である。具体的には、加熱ステージ112における最小限の炭素析出(コーキング)と、溶融物質158の除去作用を伴う分解ステージ118における熱化学分解の実質的な進行とを提供する調整を確実にするように反応器100を運転することが重要である。
【0078】
反応器100の運転中に、炭化水素原料104が十分な速度で反応器100内に供給されるように、炭化水素原料104の供給流108は供給調節ユニット200によって調節される。加熱ステージ112で行われる加熱は、図1Cの速度プロファイル172に示すように、供給流108を加速するように作用するが、加熱ステージ112の狭断面管114内での活性化流108´の加熱滞留時間が短くなることを確実にするように初期流量は依然として十分に高く設定するべきである。上述したように、このことは、狭断面管114内で炭化水素原料104の熱分解または熱化学分解がほとんど行われないようにする調整の一部である。また、このことは、加熱ステージ112の内部での活性化流108´の加熱滞留時間thrを、狭断面管114内における分解温度Tでの炭化水素原料104の平均分解開始時間tdecよりもはるかに短くすることによるものである。好ましくは、供給流108は、それに対応して速度プロファイル172(図1C参照)をシフトさせ、短い加熱滞留時間thr条件が維持されるように、供給調節ユニット200によって連続的に調節可能であり、これにより、狭断面管114の内壁への炭素析出も防止される。
【0079】
反応器100は、補助ガス126のガス流124を制御する補助ガス調節ユニット202を備える。補助ガス126のガス流124は、補助ガス126が分解ステージ118に入ってバリア層124´を形成する際に、その機能を補助するのに十分であることが重要である。上述したように、高温で不活性な補助ガス126のバリア層124´の機能の1つは、熱分解される炭化水素原料104と広断面管144との接触を防止することである。この文脈における不活性とは、ガスが、広断面管144の内面145と反応しないこと、好ましくは分解される炭化水素原料104とも反応しないことを指す。
【0080】
回転可能な広断面管144の内部に溶融物質158を配置することの代替として、加熱ステージ112の出口116が、分解ステージ118内で終端するように構成してもよい。この場合、補助ガス126が、分解ステージ118に沿って移動ガス壁を形成することによって、回転可能な広断面管144の内部に溶融物質158を配置することの代替として機能することができる。このアプローチは、Matovichによる米国特許第4、059、416号明細書、Schrramによる米国特許第4、643、890A号明細書、及び、Weimerらによる米国特許第6、872、378号明細書に記載されている反応器に類似していることに留意されたい。
【0081】
本発明の本実施形態では、バリア層124´は、バリア管138から排出された、窒素(N)、アルゴン(Ar)、または水素(H)などの補助ガス126のガス流124によって形成される。バリア層124´は、分解ステージ118内の広断面管144の内壁145に沿って形成される。補助ガス126のガス流124を制御する補助ガス調節ユニット202は、補助ガス126の流量及び体積がバリア層124´を形成するのに十分であり、かつそれが有効であることを確実にする。
【0082】
バリア層124´を使用する実施形態では、炭化水素原料104の活性化流108´が流入する広断面管144の内壁145は、多孔質または有孔である。多孔質の内壁145は、補助ガス126が内壁145を通過することを可能にする。このようにして、熱分解される炭化水素原料104と広断面管144との接触を防止することにより、炭素析出を実質的に最小限に抑えることができ、その結果、分解ステージ118の詰まりを回避することができる。
【0083】
米国特許第4、643、890号明細書(JM Huber Corp)の先行研究では、有孔ガス壁は、より高い半径方向速度のガス流を分解ゾーンに流入させることができるので、米国特許第4、059、416号明細書に記載されているような多孔質ガス壁よりも好ましいと記載されている。この先行研究では、本実施形態とは異なり、流入ガス流は、反応器の壁部への炭素の堆積を防止するという目的と、炭化水素原料に熱を供給するという目的との2つの目的を果たす必要があった。
【0084】
本発明では、反応器100は、炭化水素原料104を分解温度T以上の温度に加熱するヒータ150及び加熱ステージ112を備えているので、広断面管144の内壁145を通過して流れる補助ガス126の主要な機能は、炭化水素原料104に対して熱を加えるのではなく、内壁145への炭素の堆積を最小限に抑えることである。これにより、補助ガス126の消費量を著しく低いレベルに抑えながら、多孔質の内壁145を使用することが可能になる。その結果、本発明の設計において、反応器の経済性が改善される。
【0085】
実際には、反応器100は、図5Aの断面図に示すように、分解ステージ118に向かって延びる複数の狭断面管114を備える。図5Bは、加熱ステージ112内の狭断面管114が、円形の断面形状だけでなく、多角形の断面形状を有し得ることを示している。さらに、加熱ステージ112は、図6に示すような、シェル及びチューブ型熱交換器に類似する構成であってもよい。図6に示すシェル及びチューブ型熱交換器の構成では、外側シェルの内部に複数の狭断面管308が互いに平行に配置されている。そして、外側シェルの内部で天然ガスや水素などのガスを燃焼させて発生させた熱が、狭断面管308に伝達され、次いで、狭断面管308の内部を流れる炭化水素原料に伝達される。この実施形態では、バッフルを使用することにより燃焼ガスと狭断面管との間の熱伝達を改善することができる。また、燃焼ガス反応物及び生成物のための入口及び出口は、シェル及びチューブ型熱交換器の入口及び出口とは別に設けられる。
【0086】
加熱ステージ112における加熱は、炭化水素燃料の燃焼による二酸化炭素の排出を最小限に抑えるために、電気ヒータ150による抵抗加熱または誘導加熱によって行うことが好ましい。しかしながら、電力価格が高い場合及び/または変動制の場合には、水素または炭化水素燃料を空気や純酸素などの酸化剤の存在下で燃焼させて熱を発生させることにより、ヒータ150の側を通る炭化水素原料104を分解温度T以上の温度まで加熱することができる。また、予熱ステップ及び/または加熱ステップは、プラズマ(熱または非熱)、マイクロ波エネルギー、または、炭化水素原料104を分解するのに適した他のエネルギー入力を用いるヒータ150を使用して実施することができる。
【0087】
加熱ステージ112及び分解ステージ118に供給されるエネルギーまたは熱の量を制御するために、適切な加熱調節ユニット204(ヒータ150の種類に依存する)がヒータ150に接続されている。繰り返しになるが、ヒータ150から供給される熱の量を加熱調節ユニット204によって調整することにより、反応器100を上述のように調整することができる。図示の例では、ヒータ150は電気であり、したがって、加熱調節ユニット204は、電流の供給を介してヒータ150の出力を制御する。好ましくは、ヒータ150は、ユニット204が反応器100の長さに沿って異なるステージで供給されるエネルギーまたは熱の量を調整することを可能にする。換言すれば、加熱ステージ112と分解ステージ118とで異なる熱量を設定することが好ましい。このような柔軟性により、反応器100の前述の調整に対するより良い制御を確実にすることができる。
【0088】
さらに、反応器100は、回転駆動装置148A、148Bの回転速度Rを制御する回転制御ユニット206を備えている。本実施形態では、広断面管144の断面は一定であるため、両回転駆動装置は同一の回転速度Rで回転するように、回転速度が固定されている。広断面管144の断面が反応器100の長さに沿って変化する実施形態では、両回転駆動装置の回転速度は互いに異なる。いずれの場合でも、回転速度Rは、上述したように、第1の速度域(Fが1未満の低速度域)または第2の速度域(Fが1以上の高速度域)で広断面管144の回転Dを生じさせるような速度である。
【0089】
すべてのユニット200、202、204、206は、適切な調整ユニット(図示せず)または中央制御装置によって協働して動作することができる。ユニット200、202、204、206の動作が中央制御装置または調整ユニットによって調整される実施形態では、フィードバックを使用して、本発明による反応器100の動作をさらに改善し、反応器100の効率的な調整を確実にすることができる。
【0090】
いくつかの実施形態では、多段分解反応器100は、予熱ステージをさらに含む。図1A及び図2には、予熱ステージは示されていない。予熱ステージが存在する場合、予熱ステージは、加熱ステージ112の上流側に設けられる。予熱ステージは、炭化水素原料104の供給流108を予熱して実質的に均一な予熱流を生成するように設計される。予熱温度は、数百度の範囲、例えば400°Cまでの範囲とすることができる。したがって、予熱温度は、前述したように通常は1000°C以上である分解温度Tよりも低い温度にされる。
【0091】
図3は、多段分解反応器の加熱ステージ及び分解ステージの断面側面図であり、別の調整を、速度プロファイル及び温度プロファイルと共に示す。明確にするために、図1図2で使用した符号と同一の符号を用いて、この反応器の対応する要素を示す。
【0092】
図3の実施形態では、反応器は、加熱ステージ112で狭断面管114の内部で、炭化水素原料104の温度を分解温度Tまで上昇させるようには調整されていない。その代わりに、加熱ステージ112は、供給流108を加熱して、分解温度T以下または1000℃以下(非触媒の場合)の炭化水素原料104の加熱流を生成するように設計される。加熱ステージ112で炭化水素原料104に供給される熱エネルギー152の量は、分解温度Tまで加熱するには不十分なレベルに維持される。したがって、炭化水素原料104の供給流108は、上記の実施形態のように、狭断面管114の内部で活性化流108´を形成しない。
【0093】
図3の実施形態では、分解ステージ118において、加熱ステージ112から受け取った供給流108を分解温度Tまで加熱して、炭化水素原料104の活性化流108´を生成する。そのために、分解ステージ118において炭化水素原料104に供給される熱エネルギー152の量を増加させる。その結果、供給流108は、狭断面管114から出た直後に活性化流に変化する。供給流108が活性化されて活性化流108´に変化する分解ステージ118の長さに沿った位置は、破線Gによって示される。また、破線Gは、温度プロファイル170まで延びており、温度プロファイル170における活性化流108´(ハッチングによって明示的に示す)へ変化する境界を直接的に示している。
【0094】
また、破線Gは、速度プロファイル172までさらに下方に延びており、速度プロファイル172における活性化流108´が存在する部分は、クロスハッチングによって示されている。上記の実施形態と同様に、分解ステージ118の活性化流108´が受ける減速により、分解滞留時間が長くなる。その結果、炭化水素原料104の熱化学分解の実質的な進行は、分解ステージ118において達成される。
【0095】
本発明の文脈において、分解温度Tは、炭化水素原料104の非触媒分解温度または触媒分解温度のいずれかである。触媒が存在しない場合、炭化水素原料104の非触媒分解温度を分解温度Tとする。これは、メタンや天然ガスの場合、約1000°Cである。触媒が、溶融物質158、加熱ステージ112の狭断面管114、または分解ステージ118の広断面管144の壁部に存在するか、あるいは、炭化水素原料104自体のシード物質として存在する場合は、炭化水素原料104の触媒分解温度を分解温度Tとする。これはメタンや天然ガスの場合、約400°Cである。したがって、炭化水素原料104の分解温度Tは、反応器100で使用される触媒物質または非触媒物質、及び、使用される炭化水素原料104に依存する。触媒物質としては、周期表の第VIb族及び第VIII族元素、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、貴金属、クロム、モリブデン、それらの合金、及びそれらを含む塩や酸化物、あるいは、他の適切な触媒物質が挙げられる。当業者であれば、反応器100の調整は、分解温度Tに応じて調節されることを認識するであろう。
【0096】
上記の実施形態は、必要な加熱を行うための様々な電気要素、すなわち、誘導加熱手段、抵抗加熱手段、またはマイクロ波加熱手段を用いることに焦点を当てているが、本発明では燃焼を用いることもできる。図6は、多段分解反応器の別の実施形態において、本発明による加熱ステージとして設けられるシェル及びチューブ型熱交換器300を示す三次元図である。あるいは、シェル及びチューブ型熱交換器300は、例えば図1Aを参照して上述したような多段分解反応器内に組み込むことができる。
【0097】
図6は、熱交換器300の重要な内部部分を示している。熱交換器300は、入口304及び出口306を有する円筒形の主管302を含む。複数の円形断面の狭断面管308が、主管302の中央部分を貫通するように配置されている。本実施形態では、4本の狭断面管308A~Dが示されているが、狭断面管の数は、1本だけであってよいし、5本以上であってもよい。
【0098】
狭断面管308A~Dの各々は、熱交換器300を通じて、炭化水素原料312の供給流310を搬送するように設計されている。明確にするために、狭断面管308Aを流れる炭化水素原料312の供給流310のみを明示的に示す。繰り返しになるが、この実施形態では、炭化水素原料312は、メタン(CH)である。
【0099】
主管302の内部は、バッフル314の助けを借りて、複数の領域に分けられている。4つのバッフル314が示されている。当業者であれば、上述した原理に従って本発明の実施を可能にするために、より少ない数のバッフル314を使用してもよいことを理解するであろう。
【0100】
運転中、狭断面管308A~Dを流れる炭化水素原料312の供給流310を加熱するための高温燃焼ガスの入力燃焼バーナ流316が、入口304から供給される。出口306は、冷却された燃焼ガス318を、熱交換器300から排出する。
【0101】
入力燃焼バーナ流316が炭化水素原料312の供給流310を加熱する温度は、上記の実施形態と同様に設定される。すなわち、入力燃焼バーナ流316は、炭化水素原料312の供給流310が分解温度に達し、活性化流310´に変化するように設定される。同時に、狭断面管308A~D内の活性化流310´の速度は、加熱ステージにおける活性化流310´の加熱滞留時間が、炭化水素原料312の平均分解開始時間よりも大幅に短くなるように、十分に高い。
【0102】
図7は、分解ステージを変化させることにより、本発明による多段分解反応器の2つの異なる運転で形成された、より非晶質でより黒鉛質のカーボンブラックの写真である。反応器の熱分解パラメータをユーザが変化させることにより、製造されるカーボンブラックの種類を調整できることが理解されるであろう。また、当業者であれば、どのような場合でも、温度、活性化流の流速及び滞留時間を調整することにより、ユーザの所望に応じて、カーボンブラック製品の種類を微調整できることを理解するであろう。
【0103】
本発明が他の様々な実施形態を認めることは、当業者には明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその法的均等物によって判断されるべきである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
【国際調査報告】