(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】固体潤滑剤の誘起形成
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20241022BHJP
C10M 177/00 20060101ALI20241022BHJP
F16N 15/00 20060101ALI20241022BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C10M177/00
F16N15/00
C10N70:00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519022
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 SE2022050859
(87)【国際公開番号】W WO2023055274
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524116070
【氏名又は名称】トリボネクス、アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】Tribonex AB
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】ボリス、ジュムド
(72)【発明者】
【氏名】リーヌス、エーベルリード
(72)【発明者】
【氏名】ダニロ、ビベデス
(72)【発明者】
【氏名】マルティン、ベントソン
【テーマコード(参考)】
4H104
4K044
【Fターム(参考)】
4H104JA01
4K044AA01
4K044BA02
4K044BA19
4K044BB11
4K044CA51
(57)【要約】
固体潤滑剤の誘起形成のための方法およびデバイスは、処理されるべき物品(10)の提供(S10)を含む。物品は、溶媒、衝撃媒体(20)、および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含むプロセス流体(34)に暴露される(S20)。溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒である。衝撃媒体は、非研磨硬質粒子である。固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、S、P、Bのうちの少なくとも1つおよび少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物である。物品の表面(12)と衝撃媒体との間に速度差が作り出される(S30)。これは、衝撃媒体と物品との間に衝撃を引き起こす。固体潤滑剤物質は、化学反応によって表面上に形成される(S40)。化学反応は、固体潤滑剤前駆物質を含み、衝撃のエネルギーによって誘起される。化学反応は、物品の表面において発生する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品(10)上での固体潤滑剤の誘起形成のための方法であって、
-処理されるべき物品(10)を提供するステップ(S10)と、
-前記物品(10)を化学反応性プロセス流体(34)に暴露するステップ(S20)と
を含み、
前記化学反応性プロセス流体(34)は、溶媒および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含み、
前記溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒であり、
前記固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、
S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物、および少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物、ならびに
硫化添加剤と組み合わせた油溶性金属カルボキシレート
のうちの少なくとも1つであり、
露出する前記ステップ(S20)は、前記物品(10)を衝撃媒体(20)に暴露することをさらに含み、
前記衝撃媒体(20)は、非研磨硬質粒子であり、
前記方法は、
-前記物品(10)の表面(12)と前記衝撃媒体(20)との間に速度差を作り出すステップ(S30)であって、これにより、前記衝撃媒体(20)と前記物品(10)の前記表面(12)との間に衝撃を引き起こしてバニシング作用をもたらす、ステップと、
-前記化学反応性プロセス流体の存在下で前記衝撃のエネルギーによって誘起される、前記固体潤滑剤前駆物質を含む化学反応によって、前記物品(10)の前記表面(12)上に固体潤滑剤物質を形成するステップ(S40)と
をさらに含み、
前記化学反応は、前記物品(10)の前記表面(12)において発生する、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記衝撃媒体(20)は、硬化金属炭化物、金属窒化物、酸化ジルコニウム、セラミック、および/またはタングステン重合金の粒子である、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記衝撃媒体(20)は、窒化ケイ素またはタングステン炭化物粉末の粒子である、ことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記衝撃媒体(20)は、硬化タングステン炭化物粉末の粒子である、ことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記窒化ケイ素またはタングステン炭化物粉末の前記粒子は、0.1~250μmの間の平均サイズを有する、ことを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記速度差は、前記物品(10)の前記表面(12)に平行の非ゼロ成分を有する、ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記物品(10)の前記表面(12)と前記衝撃媒体(20)との間の前記衝撃は、1MJ/m
2sを超える、および好ましくは5MJ/m
2sを超える、前記物品(10)の前記表面(12)の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出す、ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記物品(10)の前記表面(12)と前記衝撃媒体(20)との間の前記衝撃は、250MJ/m
2未満、および好ましくは50MJ/m
2s未満である、前記物品(10)の前記表面(12)の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出す、ことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
速度差を作り出す前記ステップ(S30)は、前記プロセス流体(34)と前記物品(10)との間の相対回転を含む、ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
速度差を作り出す前記ステップ(S30)は、前記プロセス流体(34)と前記物品(10)との間の相対振動を含む、ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
速度差を作り出す前記ステップ(S30)は、前記物品(10)の前記表面(12)に対して衝撃媒体流を向けることを含む、ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒は、鉱油および酒精剤、合成ポリアルファオレフィン、イソパラフィン、アルキル化ナフタリン、エステル、エーテル、アルコール、カルボキシル化またはアルコキシル化ポリオール、水、ならびにイオン性液体から選択される、ことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒は、40℃で50cSt未満、および好ましくは10cSt未満の動粘度を有するように選択される、ことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記物品(10)を前記プロセス流体(34)に暴露する前記ステップ(S10)の前に前記衝撃媒体(20)を慣らし運転するステップをさらに含み、慣らし運転する前記ステップは、前記物品(10)がないまま前記プロセス流体(34)内の前記衝撃媒体(20)の間に速度差を作り出すことを含む、ことを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
速度差を作り出す前記ステップ(S30)および固体潤滑剤物質を形成する前記ステップ(S40)の後に、プロセス流体の後処理のステップをさらに含み、プロセス流体の後処理の前記ステップは、
-前記プロセス流体(34)の沈降および/またはデカント、それに続いてサイクロン内での前記プロセス流体(34)の処理を含む、ことを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
-前記固体潤滑剤前駆物質の添加剤が少なくとも部分的に枯渇するプロセス流体(34)から衝撃媒体(20)を分離するステップと、
-残っている溶媒を除去するために前記衝撃媒体(20)を洗浄するとによって前記衝撃媒体(20)を再生するステップと、
-前記再生した衝撃媒体を、新規溶媒内で、および追加の前記固体潤滑剤前駆物質の添加剤と共に再使用して、後続の固体潤滑剤形成プロセスに有用な新規プロセス流体(34)を形成するステップと
をさらに含む、ことを特徴とする請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記再生することは、前記プロセス流体(34)において使用されるものと同じ溶媒および分散剤を含む溶媒ベースの洗剤内で前記衝撃媒体(20)を洗浄することを含む、ことを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、塩および/または有機錯体である、ことを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記耐火金属は、Moおよび/またはWである、ことを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、
単純タングステート、
チオタングステート、
タングステンジチオカルバメート、
タングステンジチオホスフェート、
タングステンカルボキシレートおよびジチオカルボキシレート、
タングステンキサンタートおよびチオキサンタート、リガンドとしてカルボニル、シクロペンタジエニル、および硫黄を含有する多核性タングステン錯体、
リガンドとしてピリジン、ビピリジン、ニトリル、およびホスフィンを有するタングステンのハロゲン含有錯体、
脂肪酸グリセリド、アミド、およびアミンを有するタングステン酸の付加物から選択される、ことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、
単純モリブデート、
チオモリブデート、
モリブデンジチオカーバメイト、
モリブデンジチオホスフェート、
モリブデンカルボキシレートおよびジチオカルボキシレート、
モリブデンキサンタートおよびチオキサンタート、
リガンドとしてカルボニル、シクロペンタジエニル、および硫黄を含有する多核性モリブデン錯体、
リガンドとしてピリジン、ビピリジン、ニトリル、およびホスフィンを有するモリブデンのハロゲン含有錯体、
脂肪酸グリセリド、アミド、およびアミンを有するモリブデン酸の付加物から選択される、ことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、Sの担体としての役割を果たす表面反応性化合物である、ことを特徴とする、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
Sの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、元素硫黄である、ことを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
Sの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、有機硫化物および有機ポリ硫化物から選択される、ことを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
Sの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、ジベンジルジスルフィド、硫化イソブテン、硫化脂肪酸、およびジアルキルポリスルフィドから選択される、ことを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物、およびS、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は共に、チオカルバメート、チオホスフェート、および/またはチオキサンタートから選択される、ことを特徴とする、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記物品(10)の前記表面(12)は、鉄を含む、ことを特徴とする、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
固体潤滑剤物質を形成する前記ステップ(S40)は、前記物品(10)の前記表面(12)の表面物質をさらに含む化学反応によって実施される、ことを特徴とする、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
物品(10)上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイス(1)であって、
-化学反応性プロセス流体(34)および衝撃媒体(20)のための入口(32)を有する暴露槽(30)であって、
前記化学反応性プロセス流体(34)は、溶媒および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含み、
前記溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒であり、
前記固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、
S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物、および少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物、ならびに
硫化添加剤と組み合わせた油溶性金属カルボキシレート
のうちの少なくとも1つであり、
前記衝撃媒体(20)は、非研磨硬質粒子である、暴露槽(30)と、
-前記暴露槽(30)内に配置される前記物品(10)のための物品ホルダ装置(36)と、
-前記物品(10)の表面(12)と前記衝撃媒体(20)との間に速度差(40)を作り出すための装置と、を特徴とする、デバイス(1)。
【請求項30】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、前記物品(10)の前記表面(12)に平行の非ゼロ成分を有する速度差を作り出すように構成される、ことを特徴とする、請求項29に記載のデバイス。
【請求項31】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、1MJ/m
2sを超える、および好ましくは5MJ/m
2sを超える、前記物品(10)の前記表面(12)の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出すように構成される、ことを特徴とする、請求項29または30に記載のデバイス。
【請求項32】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、250MJ/m
2s未満、および好ましくは50MJ/m
2s未満である、前記物品(10)の前記表面(12)の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出すように構成される、ことを特徴とする、請求項29~31のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項33】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、前記プロセス流体(34)および前記物品ホルダ装置(36)のうちの少なくとも一方を回転させるための手段(41)を含む、ことを特徴とする、請求項29~32のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項34】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、前記プロセス流体(34)および前記物品ホルダ装置(36)のうちの少なくとも一方を振動させるための手段(38、39)を含む、ことを特徴とする、請求項29~32のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項35】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、前記物品(10)の前記表面(12)に対して衝撃媒体流を向けるための手段(44)を含む、ことを特徴とする、請求項29~32のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項36】
-固体潤滑剤の誘起形成に使用されているプロセス流体のための沈降装置および/またはデカント装置、ならびに
-前記沈降装置および/またはデカント装置からの出口に流体接続されるサイクロンをさらに含む、ことを特徴とする、請求項29~35のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、概して、物品の潤滑に関し、特に、物品表面上での固体潤滑剤の誘起形成のための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
可動部品を含むすべてのデバイスにおいて、摩耗および摩擦は常に問題である。場合によっては、機械的接触が回避され得、以て、摩擦および摩耗を低減する。しかしながら、大半の場合、可動部品は、デバイスの他の部品と機械的接触をして動かされる。そのような場合、相互作用領域への潤滑剤物質の提供により摩擦および摩耗を低減するための手段が一般的である。最も一般的な潤滑剤物質は、今日になっても、異なる種類の潤滑油など、液体タイプである。代替案は、機械的接触にある表面上へ固体潤滑剤を提供することである。潤滑剤は、表面を引き離しておき、それ自体が容易にせん断可能であり、このことが、相対運動を達成するために必要とされる力を低減する。
【0003】
特定の固体膜潤滑剤の使用は、かなり前から知られている。黒鉛そのもの、または結合剤内へ埋め込まれた黒鉛のいずれかが、一般的な例である。リン、硫黄、セレン、またはハロゲン原子を含有する蒸発した反応性物質も長い間使用されている。例えば、樹脂のマトリックス内に保持される二硫化モリブデンを使用する異なる手法も知られており、これは、例えば、樹脂の存在下で表面と器具との間の機械的相互作用によって堆積され得る。PVD、CVD、および/またはプラズマスパッタリングによって生産される低摩擦膜を説明する先行技術のグループについても述べることができる。
【0004】
低摩擦表面はまた、固体潤滑剤をショット媒体に追加すること、または上記固体潤滑剤粉末をショット媒体として使用することのいずれかによって、微粒子ピーニング、微粒子ショットピーニング、および超微細ショットピーニングなどの動力学的方法を使用して生産され得る。二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンは、その目的で最も一般的に使用される固体潤滑剤である(see e.g. Y. Yoshimi, et al., Surface Treatment Technology for Sliding Parts of Compressors, International Compressor Engineering Conference at Purdue, July 17-20, 2006, C063 or Y. Ishida et al., Frictional Properties of Textured Surfaces by Fine Particle Peening in Lubricated Condition. The Proceedings of the Machine Design and Tribology Division meeting in JSME. 2008. 8. 165-166.)。
【0005】
摩擦摩耗を低減するために使用される他の多数のコーティング方法も存在する(see e.g. Ali Eldemir, Low-Friction Materials and Coatings, in Multifunctional Materials for Tribological Applications (Robert J. K. Wood), Jenny Stanford Publishing, New York, 2015, Chapter 8.)。例えば、レーザクラッディング技術もまた、固体潤滑剤を組み込む耐摩耗複合コーティング層を生産するために使用され得る(中国特許出願公開第112575324号明細書を参照)。米国特許第9,162,424号明細書に説明されるようなHVOFスプレー堆積などの様々な熱スプレー法は、別の選択肢である。しかしながら、そのような手法は、コーティングされた物体の後加工なしでは厳しい精度を満たすことができない。米国特許出願公開第2011/0165331号明細書は、樹脂結合剤およびセラミック粒状充填剤を含むポリマー結合した低摩擦コーティングを製造するための方法を説明する。米国特許第10,266,783号明細書に開示される別の発明は、突出するナノチューブを特徴とする低摩擦表面を説明する。残念ながら、そこに開示される方法の実用性は、荷重と熱サイクルとの組み合わせの下での急速なコーティング損失、およびナノチューブの有害な健康安全性プロファイルにつながる、ガラス結合剤と金属ベースとの間の熱膨張係数不適合に起因して、著しく限られる。
【0006】
大半の固体潤滑剤システムに共通しているのは、潤滑剤が、純粋な潤滑剤物質または運搬物質内の潤滑剤のいずれかとして表面上へ堆積されることである。堆積の後には、異なる種類の後処理、典型的には熱処理または機械処理が続き得る。潤滑剤は、故に、潤滑されるべき表面の上に層として提供されることになる。低摩擦が近隣表面に対して示されるのと同時に表面への良好な接着を獲得するのは困難である。
【0007】
メカノケミカル表面仕上げは、低摩擦表面を製造するための別の魅力的な代替案である。メカノケミカルに依拠する産業プロセスの例は、Triboconditioning(登録商標)である(例えば、国際公開第2012/008890号を参照)。このプロセスは、構成要素表面の機械的なバニシングの要素と低摩擦トライボフィルムのトライボケミカル堆積とを組み合わせる。そうすることにより、処理した構成要素の慣らし運転挙動が改善され、耐用年数が延びる(see e.g. B. Zhmud, In-manufacture Running-in of Engine Components by Using the Triboconditioning Process, M. Abdel Wahab (Ed.): FFW 2018, LNME, pp. 671-681, 2019.)。
【0008】
Triboconditioning(登録商標)処理は、プロセス中にトライボロジ接触にある固体潤滑剤の原位置化学的生成に依拠する。これは、最適な量の固体潤滑剤が表面によって保持されることを保証し、原材料浪費および最終用途における潜在的な清潔さの問題を最小限にする。
【0009】
従来型のTriboconditioning(登録商標)方法では、著しい技術的課題が、器具整列、器具荷重平衡、および作業面摩耗補償において見られ得る。特に、特別な器具設計が、負荷荷重下での部品ねじれを最小限にするため、一定の接触圧力を維持するために器具荷重を調整するため、および器具/加工品接触を一定の条件に維持するために必要とされる。これは、不均一な湾曲および材料厚を有する表面を呈する幾何学的に複雑な部品の処理のための方法の使用を妨害する。
【0010】
したがって、不均一な湾曲および材料厚を有する表面を呈する幾何学的に複雑な部品の処理のための改善された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本技術の全体目的は、メカノケミカル表面法による固体潤滑剤形成のための改善された方法およびデバイスを提供することである。
【0012】
上記目的は、独立クレームに従う方法およびデバイスによって達成される。
好ましい実施形態は、従属クレームに規定される。
【0013】
一般的に言うと、第1の態様において、物品上での固体潤滑剤の誘起形成のための方法は、処理されるべき物品の提供を含む。物品は、化学反応性プロセス流体および衝撃媒体に暴露される。化学反応性プロセス流体は、溶媒および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含む。溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒である。固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物、および少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物、ならびに/または硫化添加剤と組み合わせた油溶性金属カルボキシレートを含む。衝撃媒体は、非研磨硬質粒子である。物品の表面と衝撃媒体との間に速度差が作り出される。これは、衝撃媒体と物品の表面との間に衝撃を引き起こし、バニシング作用をもたらす。固体潤滑剤物質は、化学反応によって物品の表面上に形成される。化学反応は、固体潤滑剤前駆物質を含み、上記化学反応性プロセス流体の存在下で衝撃のエネルギーによって誘起される。化学反応は、物品の表面において発生する。
【0014】
第2の態様において、物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイスは、暴露槽を含む。暴露槽は、化学反応性プロセス流体および衝撃媒体のための入口を有する。化学的に活性なプロセス流体は、溶媒および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含む。溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒である。固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物、および少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物、ならびに/または硫化添加剤と組み合わせた油溶性金属カルボキシレートを含む。衝撃媒体は、非研磨硬質粒子である。物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイスは、暴露槽内に配置される物品のための物品ホルダ装置、および物品の表面と衝撃媒体との間に速度差を作り出すための装置をさらに含む。
【0015】
提案した技術の1つの利点は、同じ仕上げ設備および媒体組成を使用して異種構成要素を処理することを可能にすることである。また、異なる構成要素が、同じバッチ内で同時に処理され得る。他の利点は、詳細な説明を読むときに理解されるものとする。
【0016】
本発明は、更なる目的およびその利点と一緒に、添付の図面と一緒に以下の説明を参照することにより最良に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来のTriboconditioning(登録商標)プロセスのための走行性窓を例証する図である。
【
図2A-C】造形品に対する従来のTriboconditioning(登録商標)プロセスと関連付けられた器具制御課題を例証する図である。
【
図4】物品上での固体潤滑剤の誘起形成のための方法の実施形態のステップのフロー図である。
【
図5A-B】振動運動に基づいた物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイスの実施形態の概略図である。
【
図6A-B】回転運動に基づいた物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイスの実施形態の概略図である。
【
図7】衝撃媒体流を指向することに基づいた物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイスの実施形態の概略図である。
【
図8A】本方法を用いた処理前のテストピン表面プロファイルを例証する図である。
【
図8B】本方法を用いた処理後のテストピン表面プロファイルを例証する図である。
【
図10A】ツインディスク試験における未処理の物品についてのマイクロピッチング領域および摩耗を例証する図である。
【
図10B】ツインディスク試験における処理済物品についてのマイクロピッチング領域および摩耗を例証する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面全体を通して、同じ参照番号は、同様または対応する要素のために使用される。
【0019】
提案した技術のより良好な理解のため、従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスの条件の簡単な概要から始めることが有用であり得る。従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスにおいて、プロセス走行性窓は、典型的には、各々個々の用途のために経験的に見出されることになる。基底変数は、器具スライド速度、接触圧力、および処理時間である。速度×接触圧力の積は、例えば、J/m
2sとして出される、摩擦エネルギー束を規定する。接触圧力は、表面の凸凹の塑性変形をトリガするのに十分に高くなければならないが、いかなる加工物変形も防ぐために高すぎてはならない。所与の接触圧力では、スライド速度は、トライボケミカル反応活性化のための十分なエネルギーを提供するために十分に高くなければならないが、過熱および加工品損傷を防ぐために高すぎてはならない。これは、
図1に概略的に例証される。トライボ反応を開始するための最小エネルギーは、点線100によって例証される。この限度を超える接触圧力は、前駆物質から固体潤滑剤物質を形成するための必要な条件が、接触点において利用可能であることをもたらす。点線101は、印加された接触圧力が物品への損傷を排除することができない材料降状応力にかなり近づく実用限界を示す。図のY軸は、物品における単一点と器具との間のパス回数を示す。これは、例えば、固定サイクル時間のための器具スライド速度または単位時間当たりの器具パスの回数×処理時間として表現され得る。十分な膜厚のための最小処理時間に対応する最低限度102が割り当てられ得る。摩耗および試薬浪費が顕著になり、低出力をもたらす最高限度103が割り当てられ得る。一緒に、これらの限度は、有用な固体潤滑剤コーティングの高出力作成が達成される走行性窓104を規定する。例証の目的のため、曲線105は、初期Ra=0.3umを有する60 HRC 100Cr6鋼地表と、この特定の事例では、潤滑剤として純粋なPAO2基油を使用した潤滑接触において10N荷重で10mmの100Cr6軸受鋼玉である、摩擦プローブとの間の処理後の摩擦係数(CoF)の平均値を示す。CoFは、表面粗さが減少し、低摩擦トライボフィルムが増大するにつれて減少する。
【0020】
さらには、背景技術に示されるように、器具制御は、従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスにおいて課題であり得る。
図2A~Cは、カムシャフトに従来のTriboconditioning(登録商標)固体潤滑剤層が提供されることになるときに発生する異なる状況を例証する。Triboconditioning(登録商標)器具106は、非円形断面を有する、物品10、この場合はカムシャフト、に対して押圧される。Triboconditioning(登録商標)器具106は、カムシャフトが回転される間に同じ力で押圧される場合。異なる
図2A~2C内の接触圧力は、変化し、器具106上の接触点も同様に変化する。物品10のすべての表面セグメントのために一定の動作条件を確実にするために、接触力は、故に、物品の動きと同期されなければならない。好ましくは、物品に対する器具106の方向もまた、同期して変化されるべきである。そのような配置は、複雑であり、多くの場合、各々個々の物品形状のために適合される必要がある。
【0021】
従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスの化学反応が発生するための要求は、高圧力および高温が、化学反応が起こることになる体積内で利用可能であることである。従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスにおいて、これは、処理されるべき表面に沿った器具のスライドまたはこすれ相対運動において器具と処理されるべき表面との間の機械的相互作用によって提供される。以て、化学反応のためのエネルギーは、表面にぶつかることによってではなく、摩擦によって提供される。
【0022】
しかしながら、エネルギーは、他のやり方で物品の表面における局所的な体積にも提供され得る。固定器具を、処理されるべき表面と衝突する非研磨性の分散した衝撃部材の群と置き換えることは、高エネルギー伝達を提供し得る。衝撃部材は、例えば、硬化金属炭化物ボール、セラミックビーズ、酸化アルミニウムビーズ、酸化ジルコニウムビーズ、または同様のものであり得る。連続的な器具作用とは対照的に、小さい物体の衝撃は、短い衝撃時間に起因して高い局所的な力を伝達することができる。衝撃エネルギーは、衝撃部材の運動エネルギーによって制御され得る。運動エネルギーは、衝撃部材質量×衝撃部材速度の2乗に比例する。単位面積当たりのエネルギー束は、このとき、衝撃部材密度×速度の2乗×半径に比例する。
【0023】
衝撃媒体の粒子の力学のための条件は、
図3に例証される。衝撃媒体20の粒子、典型的にはビーズは、角度α
0において速度V
0で物品10の表面12に衝突する。衝撃の後、衝撃媒体20の粒子は、角度α
1において速度V
1で、およびω
1の回転を伴って表面12から離れる。故に、衝撃作用は、衝撃が発生する前、処理されるべき表面へ向かう速度成分に関与し、衝撃が発生した後、処理されるべき表面から離れる方への速度成分に関与する。粒子の動態におけるこれらの変化は、表面12との相互作用によって引き起こされる。弾性および非弾性変形が、衝撃点における局所的な圧力の結果として表面12において引き起こされ、少なくとも部分的にこれにより、表面12において温度上昇が生じる。粒子20と表面12との間の摩擦もまた、粒子10のための変化した回転条件を課し得る。
【0024】
1MJ/m2sを超える、および好ましくは5MJ/m2sを超える、表面12の衝撃領域において伝達されるエネルギー束は、概して、固体潤滑剤物質の形成を誘起するのに十分であり得ることが推定される。しかしながら、プロセスパラメータの特定の選択および/または特定のタイプの物品にとっては、より低いエネルギー束でさえ有用であり得る。
【0025】
同時に、表面12の衝撃領域において伝達されるエネルギー束は、異なる望ましくない摩耗プロセスに有利に働き得ることから、大きすぎてはならない。ここでは、一般的には、250MJ/m2sを超える、および好ましくは50MJ/m2sものエネルギー束は回避されるべきであると考えられる。しかしながら、低い方のエネルギー束限度については、さらにより高いエネルギー束が、プロセスパラメータの特定の選択および/または特定の物品について動作可能であり得る。
【0026】
初期運動エネルギーの熱へのより大きい移行は、衝撃媒体20の速度が表面12に平行の非ゼロ成分を有する場合に発生することが分かっている。言い換えると、角度α0が90度とは異なる場合、衝撃媒体20のより多くのエネルギーが、化学反応を引き起こすために使用され得る。これは、おそらく、より小さい角度α0における摩擦寄与の重要性の増加に起因する。表面12に対する衝撃媒体20の速度方向の制御可能性が存在する場合、エネルギー移行比を選択することが可能であり得る。
【0027】
固体潤滑剤物質の形成に好適な固体潤滑剤前駆物質が物品表面に存在し、衝撃媒体によって提供されるエネルギー束が固体潤滑剤前駆物質を含む化学反応を誘起するのに十分である場合、従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスによって生産されるものと同様の固体潤滑剤物質が、物品の表面に形成され得る。
【0028】
図4は、物品上での固体潤滑剤の誘起形成のための方法の実施形態のステップのフロー図である。ステップS10において、処理されるべき物品が提供される。物品は、機械的接触目的のために使用される任意の材料のもの、典型的には、金属または金属合金であり得る。好ましくは、S、P、Bをベースにした固体潤滑剤は、多くの場合、鉄とも反応するため、物品内の材料は、鉄を含む。ステップS20において、物品は、化学反応性プロセス流体および衝撃媒体に暴露される。化学反応性プロセス流体は、溶媒および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含む。溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒である。固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物、および少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物、ならびに/または油溶性耐火金属カルボキシレートを含む。衝撃媒体は、非研磨硬質粒子である。これらの硬質粒子は、典型的には、広範囲の形状およびサイズで提供され得るセラミックまたは硬化金属炭化物製のビーズ、ボール、ピンなどである。好ましい実施形態は、以下にさらに論じられる。ステップS30において、物品の表面と衝撃媒体との間に速度差が作り出される。この速度差は、衝撃媒体と物品の表面との間に衝撃を引き起こすために使用される。速度差を達成するための異なる手法は、以下にさらに詳細に論じられる。ステップS40において、固体潤滑剤物質は、固体潤滑剤前駆物質を含む化学反応によって物品の表面上に形成される。これらの化学反応は、衝撃のエネルギーによって誘起される。化学反応は、物品の表面において発生する。好ましくは、固体潤滑剤物質を形成するステップは、物品の表面の表面物質をさらに含む化学反応によって実施される。
【0029】
物品の表面と衝撃媒体との間に速度差を作り出すための方法およびデバイスは、それ自体、先行技術において知られている。マス仕上げ(mass finishing)などの製造プロセスは、衝撃媒体と表面との間の速度差を利用する。用語“マス仕上げ”は、大量の部品が同時に仕上げ加工を施されることを可能にする製造プロセスのグループを指す。マス仕上げの1つの主なタイプは、バレル仕上げとしても知られるタンブル仕上げ、および振動仕上げである。このタイプの仕上げの目標は、磨く、デバリングする、清浄する、ラジウス加工する、バリ取りする、デスケーリングする、錆除去する、艶出しする、輝かせる、表面硬化させる、更なる仕上げのために部品を準備する、またはダイカストランナを中断することである。言い換えると、マス仕上げは、加工品と仕上げ媒体表面との研削接触を使用して、加工品のための所望の表面仕上げ品質を達成する。様々な仕上げ媒体タイプが使用され得る。マス仕上げは、乾式または湿式で実施され得る。湿式プロセスは、液体潤滑剤、冷却剤、または洗剤を研磨剤と一緒に使用する。サイクル時間は、プロセス条件、加工品材料、および使用される仕上げ媒体に応じて数分から数時間まで様々であり得る。マス仕上げプロセスは、バッチプロセスまたは連続プロセスのいずれかとして実行され得、またシーケンス化もされ得、これは、加工品を複数の異なるマス仕上げステージに通すことを伴う。
【0030】
マス仕上げ法は、一般的に、表面処理を含み、一部の表面材料が、典型的には、表面から除去される。この研磨作用は、例えば、表面硬化によって、表面の残りの部分の処理と組み合わされ得る。しかしながら、マス仕上げ法は、一般的には、表面コーティングプロセスには関与しない。
【0031】
しかしながら、物品表面がコーティングされる同様の手法、例えば、微粒子ピーニング、微粒子ショットピーニング、および超微細ショットピーニングもまた、背景技術において簡単に論じられるように、先行技術において利用可能である。これは、典型的には、固体潤滑剤をショット媒体に追加することによって、または固体潤滑剤粉末をショット媒体そのものとして使用することによって、実施される。これらの方法において、物品をコーティングすることが意図される物質は、それ自体、ショット媒体として提供されるか、またはショット媒体において提供される。任意のプロセス液体への表面反応性化合物の形態にある任意の固体潤滑剤前駆物質の添加剤は使用されない。
【0032】
半導体産業において使用される化学機械研磨(CMP)プロセスまたは機械工学において使用される等方性超仕上げ(ISF)などの周知の化学的に加速された振動仕上げとは対照的に、ここで提案されるプロセスによって使用される反応性流体の機能および組成は、完全に異なる。CMPおよびISF流体とは異なり、本技術のプロセス流体は、プロセスを加速するために表面を化学的にエッチングすることは期待されない。代わりに、それらの主な機能は、トライボフィルム生成のための化学的構造、ならびに、プロセス安定性に有利に働く任意選択の優遇的(complimentary)腐食防止および洗浄機能を提供することである。したがって、従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスならびに本技術は、概念的に、プロセス流体の組成および機能ならびに仕上げ表面の特徴において、化学的に加速された振動仕上げとは異なるということに留意されたい。
【0033】
本技術において、高密度衝撃媒体は、低密度衝撃媒体よりも高い衝撃圧力をもたらす傾向がある。斜めの衝撃角度が、スライド作用を誘起するために使用され得る一方で、平角衝撃が、衝撃圧力を最大限にするために使用され得る。異なる衝撃媒体形状もまた、必要に応じて使用され得る。
【0034】
遠心分離および振動設備は、硬化金属炭化物、窒化物、酸化ジルコニウム、またはセラミック製の小さいボールまたはビーズを使用して、ここに提示される処理を実行するのに好適であることが証明される。9~15g/cm3の密度を有する硬化タングステン炭化物ボール、3.2~3.4g/cm3の密度を有する焼結窒化ケイ素ビーズ、5.6~5.8g/cm3の密度を有する酸化ジルコニウムビーズ、およびg/cm3の密度を有する焼結ボーキサイトボールはすべて、衝撃媒体として有利に使用されている。
【0035】
これらの場合における好ましいボールサイズは、1~5mmであった。より小さいサイズが、陥凹表面を処理するために、例えば、大きい直径ピッチ歯車の場合に歯面および歯底面にアクセスするために、必要とされる。
【0036】
最大18g/cm3の密度を有するタングステン重合金製のボールもまた、衝撃媒体として使用されていた。
【0037】
さらには、軽い研磨作用を与えるために、窒化ケイ素またはタングステン炭化物粉末スラリ(粒子サイズ0.1~250um)が、他の衝撃媒体、例えば、上に列挙される衝撃媒体例の代わりに、またはそれに加えて、使用され得る。硬化タングステン炭化物媒体の使用は、炭化物ナノ粒子が媒体から放出され、加工品表面上へちりばめられることに起因して、不測の効果を示すことから、特に好ましい。ナノ粒子外被(encrustation)の可能性は、ナノダイヤモンドについて以前に説明されている(see Jiang X et al, in Mechanistic features of nanodiamonds in the lapping of magnetic heads. Scientific World Journal. 2014 (2014) 326427.)。しかしながら、焼結セラミック媒体を衝撃媒体として使用する固体潤滑剤形成プロセス中に発生することは非常に驚くべきことであった。処理済部品の表面における埋め込まれたタングステン炭化物ナノ粒子の存在は、SEM-EDX分析によって確認されている。そのような粒子は、処理済部品の慣らし運転性能および摩耗耐性に対して有益な効果を有する。
【0038】
言い換えると、1つの実施形態において、衝撃媒体は、硬化金属炭化物、金属窒化物、酸化ジルコニウム、セラミック、および/またはタングステン重合金を含む。好ましくは、衝撃媒体のサイズは、1~5mmであった。
【0039】
1つの実施形態において、衝撃媒体は、窒化ケイ素またはタングステン炭化物粉末を含む。更なる実施形態において、衝撃媒体は、硬化タングステン炭化物粉末を含む。好ましくは、窒化ケイ素またはタングステン炭化物粉末の粒子は、0.1~250μmの間の平均サイズを有する。
【0040】
本プロセスは、衝撃媒体が提供される化学反応性プロセス流体を伴う湿式プロセスである。プロセス流体は、溶媒および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含む。溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒である。これは、トライボケミカル反応のための試薬を提供する反応性流体の存在下で衝撃媒体が使用されることを可能にする。
【0041】
好ましい流体選択は、個々の用途要件および使用されるデバイスに依存する。例えば、ボーキサイトまたは窒化ケイ素ボールなどの低密度衝撃部材を取り扱うときは、低粘度ニートオイルタイプの流体が好ましいが、それは、より高い粘度の従来の流体は、過剰な衝撃減衰効果をもたらすためである。さらに、何らかのレベルの腐食防止が、改善されたトライボロジと一緒に必須であるときは、水性リン酸ジルコニウムベースの製剤が選択され得る。グラフェン、コロイダル酸化チタニウム、および無機フラーレン様の構造など、多くの微粒子系もまた、特定の性能目標を達成するために、水性および油性両方の製剤において展開され得る。
【0042】
1つの実施形態において、溶媒は、鉱油および酒精剤、合成ポリアルファオレフィン、イソパラフィン、アルキル化ナフタリン、エステル、エーテル、アルコール、カルボキシル化またはアルコキシル化ポリオール、水、ならびに/またはイオン性液体を含む。
【0043】
1つの実施形態において、溶媒は、40℃で50cSt未満、および好ましくは10cSt未満の動粘度を有するように選択される。
【0044】
好適な流体製剤のいくつかの非排他的な例は、以下に示される。
ニートオイルタイプ1
ポリアルファオレフィン2(Durasyn162、INEOS)………43
アルキル化ナフタリン8(Na-lube KR-008、King Industries)………33
油溶性オルガノタングステート(Vanlube W324、Vanderbilt)………20
硫化オレフィン(Anglamol33、Lubrizol)……………2
亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(Lubrizol1371、Lubrizol)………2
消泡剤(Viscoplex14-520、Evonik)……200ppm
特性:
動粘度@40C=14.1cSt;比重=0.88gcm-3
ニートオイルタイプ2(低粘度)
ナフサ(Exxol D100、ExxonMobil)………………86
油溶性オルガノタングステート(Vanlube W324、Vanderbilt)………10
硫化オレフィン(Additin RC2540、Rhein Chemie)………2
亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(Lubrizol1371、Lubrizol)………2
消泡剤(Viscoplex14-520、Evonik)……200ppm
特性:
動粘度@40C=3.6cSt;比重=0.83gcm-3
水性流体
リン酸、85%水溶液……………………………………15g
リン酸ジルコニウム、粉末………………………………30g
硝酸亜鉛六水和物、粉末…………………………………15g
水……………………………………………………………940g
【0045】
典型的な溶媒比重は、0.5~1.5g/cm3の範囲内にある。
【0046】
固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、上で述べたように、S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物、および少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物である。これらは、従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスのために動作可能である前駆物質のタイプである。
【0047】
1つの実施形態において、少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物は、塩および/または有機錯体である。
【0048】
1つの実施形態において、耐火金属は、Moおよび/またはWである。
【0049】
更なる実施形態において、表面反応性化合物がWを含む場合、少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物は、好ましくは、単純タングステート、チオタングステート、タングステンジチオカルバメート、タングステンジチオホスフェート、タングステンカルボキシレートおよびジチオカルボキシレート、タングステンキサンタートおよびチオキサンタート、リガンドとしてカルボニル、シクロペンタジエニル、および硫黄を含有する多核性タングステン錯体、リガンドとしてピリジン、ビピリジン、ニトリル、およびホスフィンを有するタングステンのハロゲン含有錯体、ならびに/または脂肪酸グリセリド、アミド、およびアミンを有するタングステン酸の付加物である。
【0050】
更なる実施形態において、表面反応性化合物がMoを含む場合、少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物は、好ましくは、単純モリブデート、チオモリブデート、モリブデンジチオカーバメイト、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンカルボキシレートおよびジチオカルボキシレート、モリブデンキサンタートおよびチオキサンタート、リガンドとしてカルボニル、シクロペンタジエニル、および硫黄を含有する多核性モリブデン錯体、ピリジン、ビピリジン、ニトリル、およびホスフィンを有するモリブデンのハロゲン含有錯体、ならびに/または脂肪酸グリセリド、アミド、およびアミンを有するモリブデン酸の付加物である。
【0051】
1つの実施形態において、S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物は、Sの担体としての役割を果たす表面反応性化合物である。Sの担体としての役割を果たす表面反応性化合物は、1つの実施形態において、元素硫黄であり得る。代替的に、または組み合わせで、Sの担体としての役割を果たす表面反応性化合物は、有機硫化物および/または有機ポリ硫化物である。好ましくは、Sの担体としての役割を果たす表面反応性化合物は、ジベンジルジスルフィド、硫化イソブテン、硫化脂肪酸、および/またはジアルキルポリスルフィドである。
【0052】
耐火金属ならびにS、P、および/またはBは、おそらくは物品表面からの鉄を含む、異なる化合物を形成する。そのような化合物は、典型的には、容易にせん断可能であり、したがって、有利な固体潤滑特性を提示する。これらの化合物は、典型的には、例えば、二硫化モリブデンもしくは二硫化タングステンと比較的類似しているか、またはPまたはBをベースにした同様の化合物である。しかしながら、物品表面における不均質な条件および物品表面に元々ある元素も化学反応に含める可能性に起因して、形成された化合物は、様々な強度で物品表面に結合される様々な特徴付け不可能な化合物のものであり得る。
【0053】
耐火金属ならびにS、P、および/またはBの両方のための担体である物質を使用することも可能である。言い換えると、1つの実施形態において、少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物、およびS、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物は共に、チオカルバメート、チオホスフェート、および/またはチオキサンタートである。
【0054】
固体潤滑剤前駆物質の別のグループは、油溶性金属カルボキシレートを含む。
特に、硫化脂肪、硫化酸、ジアルキルおよびジアリル多硫化物、硫化オレフィンなどの硫化添加剤と組み合わせて使用されるとき、銅および亜鉛の過塩基性カルボキシレートは、金属硫化物などの固体潤滑剤化合物を生じることを証明している。
【0055】
物品の限られた表面積に高エネルギーレベルを提供するための本技術の基本的な考え方は、大量の衝撃媒体粒子と処理されるべき物品との衝突を利用することである。衝突は、衝撃媒体と物品との間に速度差を作り出し、それぞれの経路を交差させることによって引き起こされる。これは、異なるやり方で獲得され得る。
【0056】
1つの実施形態において、物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイスは、暴露槽、暴露槽内に配置される物品のための物品ホルダ装置、および物品の表面と衝撃媒体との間に速度差を作り出すための装置を含む。暴露槽は、化学反応性プロセス流体および衝撃媒体のための入口を有する。化学的に活性なプロセス流体は、溶媒および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含む。
溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒である。衝撃媒体は、非研磨硬質粒子を含む。固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物、および少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物である。
【0057】
図5Aは、物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイス1の実施形態の1つの可能な実現を例証する。この実施形態は、振動により速度差を獲得することに基づく。物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイス1は、プロセス流体34および衝撃媒体20のための入口32を有する暴露槽30を含む。プロセス流体34は、溶媒および添加剤を含む。衝撃媒体20のごく一部だけが例証される。物品ホルダ装置36は、処理されるべき物品10を支持するために暴露槽30内に配置される。物品ホルダ装置36は、流れているプロセス流体が物品10の表面に達することを可能にするように配置される。暴露槽30内で物品10の表面と衝撃媒体20との間に速度差を作り出すための装置40は、この実施形態においては、振動装置38を含む。振動装置38は、活性化されると、物品ホルダ装置36およびその内容物である物品10をプロセス流体34に対して振動させる。言い換えると、速度差を作り出すための装置40は、物品ホルダ装置36を振動させるための手段を含む。
【0058】
図5Bは、物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイス1の別の実施形態を例証する。この実施形態もまた、振動により速度差を獲得することに基づく。大半の部品は、以前の実施形態と同様である。しかしながら、この実施形態において、暴露槽30内で物品10の表面と衝撃媒体20との間に速度差を作り出すための装置40は、2つの振動装置プレート39を含む。振動装置プレート93は、暴露槽30内のプロセス流体34へ、および特に、その中に提供される衝撃媒体20へ振動運動を加えるように配置される。言い換えると、速度差を作り出すための装置40は、プロセス流体34を振動させるための手段を含む。
【0059】
プロセスのエネルギーがさらに増大されることが要求される場合、物品ホルダ装置36は、物品10が振動する衝撃媒体を通ることを強いるために暴露槽30内で移動可能であり得る。
【0060】
更なる実施形態において、
図5Aおよび
図5Bの原理は、組み合わされ得、物品ホルダ装置36ならびにプロセス流体34の両方を振動させる。
【0061】
図6Aは、物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイス1の別の実施形態を例証する。この実施形態は、回転により速度差を獲得することに基づく。大半の部品は、以前の実施形態と同様である。しかしながら、暴露槽30は、ここでは、水平軸の周りで回転可能であることが可能にされる円筒である。この実施形態において、暴露槽30内で物品10の表面と衝撃媒体20との間に速度差を作り出すための装置40は、暴露槽を回転させ、以て、プロセス流体34およびその中の衝撃媒体20にも回転運動を与えるように配置されるモータ41を含む。言い換えると、速度差を作り出すための装置40は、プロセス流体34を回転させるための手段を含む。
【0062】
図6Bは、物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイス1の別の実施形態を例証する。この実施形態もまた、回転により速度差を獲得することに基づく。大半の部品は、以前の実施形態と同様である。しかしながら、物品ホルダ装置36は、ここでは、回転可能なシャフト45に接続される。モータ41は、ここでは、駆動手段43によってシャフト45を駆動し、物品ホルダ装置36が暴露槽内で回転されることを結果としてもたらす。言い換えると、速度差を作り出すための装置40は、物品ホルダ装置36を回転させるための手段を含む。
【0063】
更なる実施形態において、
図6Aおよび
図6Bの原理は、組み合わされ得、物品ホルダ装置36ならびにプロセス流体34の両方を反対方向に回転させる。
【0064】
速度差を達成するための回転に基づいた原理、すなわち、遠心分離手法は、振動手法と比較してより高い衝撃エネルギーを送達する傾向がある。特に、反対方向に回転されたプロセス流体および物品ホルダ装置が使用される場合、固体潤滑剤物質の効率的な形成は、典型的には、獲得するのが比較的容易である。
【0065】
図7は、物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイス1の別の実施形態を例証する。この実施形態は、有向粒子流により速度差を獲得することに基づく。速度差を作り出すための装置40として、媒体流を物品の表面に対して向けるための手段44が使用される。典型的には、ノズルと組み合わされた加圧器が使用され得る。物品ホルダ装置36は、例えば、衝撃媒体のための特定の入射角が必要とされる場合、静止していてもよい。代替的に、物品ホルダ装置36は、異なる表面を媒体流に暴露するために変位および/または回転され得る。言い換えると、速度差を作り出すための装置40は、媒体流を物品の表面に対して向けるための手段44を含む。
【0066】
回転および振動手法において、すれ違う衝撃媒体および物品の確率運動が達成される。これはさらに、方向に関して多かれ少なかれ確率的である固体潤滑剤形成を結果としてもたらす。固定物品の周りで有向衝撃媒体流を使用することにより、衝突角度などの流れ条件および選択的に露出された表面は、制御され得る。物品は、例えば、異なる表面を衝撃媒体衝撃へ優先的に暴露するために、特定の角度で取り付けられるか、または回転され得る。これは、全プロセスに対するより良好な制御を可能にする。
【0067】
衝撃媒体、プロセス流体、および処理環境の異なる組み合わせが、特定の用途のための所望の特性に応じて、異なる出力を達成するために使用され得る。
【0068】
方法またはプロセスの観点では、1つの実施形態において、速度差は、物品の表面に平行の非ゼロ成分を有する。
【0069】
1つの実施形態において、物品の表面と衝撃媒体との間の衝撃は、1MJ/m2sを超える、および好ましくは5MJ/m2sを超える、物品の表面の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出した。
【0070】
1つの実施形態において、物品の表面と衝撃媒体との間の衝撃は、250MJ/m2s未満、および好ましくは50MJ/m2s未満である、物品の表面の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出した。
【0071】
1つの実施形態において、速度差を作り出すステップは、プロセス流体と物品との間の相対回転を含む。
【0072】
1つの実施形態において、速度差を作り出すステップは、プロセス流体と物品との間の相対振動を含む。
【0073】
1つの実施形態において、速度差を作り出すステップは、媒体流を物品の表面に対して向けることを含む。
【0074】
より詳細な実施形態として、遠心分離バレル設備を使用して本処理を実行するのに好適なプロセス設定は、ここで以下に説明される。加工品、すなわち、処理されるべき物品は、衝撃媒体ならびに溶媒および必要な添加剤を含む反応性プロセス流体と一緒に、バレルの内側に置かれる。バレルの内側の衝撃媒体および流体の組み合わせた充填率は、50~90%であり、そのうち衝撃媒体充填率は、20~80%、しかしながら好ましくは40~60%である。
【0075】
バレルは、タレット上に取り付けられるクレードルの上にある。タレットは、水平軸の周りで回転し、一対一の比率のバレル回転対タレット回転で観覧車様の動きをもたらす。バレルの内側では、回転運動は、衝撃媒体と加工品との衝突を誘起し、加工品の表面状態を変化させる。衝撃媒体-加工品衝突からの熱もまた、加工品とプロセス流体との間の化学反応を刺激する。発生される熱の量は、タレット回転速度、衝撃部材サイズおよび密度、ならびに加工品寸法に依存する。
【0076】
プロセス動態は、バレルおよびタレット寸法に依存する。直径20cmのバレル、および直径60cmのタレットでは、タレットは、典型的には、150~220rpmで回転しなければならない。160~180rpmは、重密度媒体(例えば、硬化金属炭化物)のための最適窓であることが分かっている一方、180~200rpmは、より低密度を有する媒体に好ましい。速度は、係数“直径×rpmの2乗”を一定に保つために、寸法に応じて高まる。処理時間は、数分から最大1時間まで様々であり得るが、大半の場合、10~30分間隔が標的とされる。
【0077】
ここで上に説明される方法の結果を評価するときは、表面粗さ、圧縮応力、および騒音励起などの異なる態様について検討した。
【0078】
表面粗さパラメータは、ISO/TC213によって規定される幾何寸法および公差(GD&T)のための確立された規格に従って規定される。トライボフィルムの存在は、エネルギー分散方式X線分光法(SEM-EDS)、X線光電子分光法(XPS)、または蛍光X線(XRF)を用いた走査型電子顕微法など、適用可能な表面化学分析法によって確立される。残留応力計測は、従来型のX線回折法を使用して実行される。
【0079】
上に提示される方法は、固体潤滑剤膜を提供するだけでなく、物品の表面をわずかに修正する。本明細書に説明される表面処理法によってもたらされる典型的な表面粗さプロファイル修正の例は、
図8Aおよび
図8Bに示される。
図8Aは、処理前のテストピン表面プロファイルを例証し、
図8Bは、処理後の同様のテストピン表面プロファイルを例証する。
【0080】
処理の結果として、振幅粗さパラメータ(Ra、Rz、Rpk、Rk)における著しい減少、および次第に負の歪度(Rsk)を特徴とするプラトー様の表面粗さプロファイルの発展は、強調されるべきである。それ以外には、角度分解型光散乱によって測定されるAq値の低下により証明されるように、勾配粗さは減少する。高荷重で発生する境界潤滑領域において、表面の凹凸は、互いと直接接触することになり、接触中に変形される。結果として生じる摩擦係数は、凸凹を変形させるために必要とされるエネルギーに比例する。そして、このエネルギーは、変形振幅の2乗×単位長さあたりの凸凹の数に比例する。変形振幅は、振幅粗さ(Rkにより表現される)に関連し、単位長さあたりの凸凹の数は、勾配粗さ(RdqまたはAqにより表現される)に関連する。
したがって、勾配および振幅粗さの両方を減少させることによって摩擦損失を減少させることができる。
【0081】
国際公開第2012/008890号による、固定器具加工動作として実行される従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスと類似していることから、ここに提示される新規の方法もまた、深さ最大10~20μmまで延びる表面下材料層における塑性変形に起因して表面圧縮を付与する。これは、構成要素トライボロジに有益であると見なされる、ショットピーニングによって得られる変形硬化現象に結び付けられ得る(see e.g. K. Tosha, Influence of residual stresses on the hardness number in the affected layer produced by shot peening, Proc. 2
nd Asia-Pacific Forum on Precision Surface Finishing and Deburring Technology, Seoul, Korea, July 2002, pp. 48-54.)。
図9において、回転相対運動201および有向衝撃媒体流202にそれぞれ基づいた、本技術による表面処理の2つの例の圧縮応力プロファイルが示される。深さ10~20μmに至る表面圧縮が見られ得る。参照として、ショットピーニング203によって引き起こされる表面圧縮も例証される。有向衝撃媒体流202を使用した例は、最も外側の部分におけるショットピーニングよりもさらに高い圧縮を有した。
【0082】
1つの試験において、騒音低減を達成することを目標に、かさ歯車を処理した。この処理は、次第に負の歪度を伴う低減した表面粗さを結果としてもたらした。Raは、0.65から0.49へ減少し、Rzは、3.67から2.85へ減少し、Rpkは、0.71から0.53へ減少し、Rkは、1.7から1.08へ減少し、Rvkは、1.99から1.85へ減少した。さらには、900から1400MPaへの圧縮応力の増加が決定された。これらの変化は、著しく低減した騒音励起に寄与した。60℃で、最大騒音レベルは、68dBから63dBへ減少した。
【0083】
別の試験において、未処理の物品および上に説明した方法により処理された物品に対するツインディスク試験の使用によって、マイクロピッチングおよび摩耗を調査した。結果は、
図10Aおよび
図10Bに例証される。
図10Aにおいて、未処理の物品に対してツインディスク試験を行ったところ、マイクロピッチングの早期および広範の作成を提示し、これは曲線204に対応する。同時に、高い度合いの摩耗、曲線205が見出された。対応する試験を、上に説明した方法による処理後に実施し、結果は、
図10Bに例証される。未処理の物品と比較して、マイクロピッチングの開始時間が増加し(曲線206)、摩耗が減少した(曲線207)。
【0084】
高速歯車伝動装置は、本技術による処理から利益を得る物品である。その目的のため、聴覚試験を実施した。異なる表面仕上げを有する標準Aプロファイル歯車を使用して、ASTM D 5182によるFZG(Forschungsstelle fur Zahnrader und Getriebebau)スカッフィング負荷試験A/8.3/90を実行した。標準FZG歯車(Ra 0.3-0.7um)を参照として使用した。等方性仕上げ加工を施した(ISF)歯車(Ra 0.03um)およびここに提示される原理によるメカノケミカル仕上げ加工を施した歯車(Ra 0.1m)を調査した。市販のSAE 75W-90 API GL-5ハイポイドオイル、および特別に製剤された粘度整合無添加オイルという2つの異なるギヤオイルタイプを比較した。GL-5オイルでは、スカッフィング負荷に違いは観察されず、すべての歯車が、最終負荷ステージに至るまでスカッフィングを示さなかった。しかしながら、等方性仕上げ加工を施した歯車およびメカノケミカル仕上げ加工を施した歯車は、試験中、参照の43mgと比較して、10および8mgと、最低摩耗を明示した。無添加オイルでは、参照および等方性仕上げ加工を施した歯車の両方が、負荷ステージ5において故障した一方、メカノケミカル仕上げ加工を施した歯車は、ステージ7まで耐え抜いた。これは、メカノケミカル仕上げが、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)流体および電気自動車用のe-fluidなど、低添加オイルにおけるスカッフリング耐性を増加させながら、等方性仕上げ加工を施した歯車の摩耗挙動に匹敵することを可能にすることを示す。上に提示される原理によるメカノケミカル仕上げ加工を施した歯車は、故に、高速歯車ユニットにおける使用に特に好適である。
【0085】
上の例は、本技術による処理が、先行技術、例えば、古典的な研磨剤マス仕上げプロセスによって達成され得るものと比較して、明らかな利点をもたらす明白な証拠を提示する。まず初めに、作成したトライボフィルムは、向上した摩耗耐性を有する低摩擦表面を提供する。故に、本方法は、本プロセスが、例えば、国際公開第2012/008890号に開示されるものと同じ化学的構造を含む固体潤滑剤トライボフィルムを生産することから、従来型のTriboconditioning(登録商標)プロセスによって提供される利益の完全な範囲をもたらす。圧縮応力は、有益なトライボロジ特性に寄与する。第二に、表面プロファイルにおける大きな違いも存在する。低減した勾配および振幅粗さ値を伴う負に歪んだ表面粗さプロファイルが獲得される。比較として、研磨剤プロセスは、振幅粗さ(Rt、Rz、Ra)を低減する傾向があるが、勾配粗さ(RdqまたはAq)に対してはほとんど効果を有さない。徐々に細かくなる研磨剤を使用した多ステージ研磨剤プロセスは、負歪度をもたらし得るが、これには追加費用が伴う。
【0086】
本方法の最も目立った利点は、以下の通りである。
低摩擦固体潤滑剤トライボフィルムが、プロセス中にプロセス流体とのトライボケミカル反応によって生成される。
加工品マクロジオメトリは、対応可能な仕様内に順守される。
表面粗さプロファイルは、負歪度(Rsk=-0.5~-3)、低減したRpkおよびRk、ならびに低減した勾配粗さ(RdqまたはAq)を獲得することによって修正される。
圧縮応力(負の残留応力)が表面下に生成される。
【0087】
最適なプロセス安定性および一定の品質のため、初回の使用の前に、衝撃媒体は、好ましくは、専用の慣らし運転シーケンスを使用して“活性化”されるべきである。典型的な慣らし運転シーケンス持続時間は、実際の処理プロセスと同一の条件下で10~20分である。唯一の違いは、構成要素がデバイス内に装填されないことであり、衝撃媒体およびプロセス流体のみが装填され、衝撃媒体要素が、互いにこすれ合うことによって活性化される。プロセス流体は、必ずしも添加剤を含まない。慣らし運転シーケンスは、大量の粒子状物質を生成するため、衝撃媒体は、好ましくは、その後洗浄されるべきであり、新たなプロセス流体が、後続の生産ランのためにデバイス内に充填される。
【0088】
言い換えると、1つの実施形態において、物品上での固体潤滑剤の誘起形成のための方法は、物品をプロセス流体内へ浸漬させるステップの前に、衝撃媒体を慣らし運転する更なるステップを含む。慣らし運転のステップは、物品がないままプロセス流体内で衝撃媒体の間に速度差を作り出すことを含む。
これは、衝撃媒体の異なる物体の間に衝撃を引き起こす。
【0089】
上に説明したプロセスは、粒子汚染、主に、衝撃媒体および処理される部品に由来する鉄および金属セラミック細粒を発生させる傾向があるため、適切な流体管理システムが、良好なプロセス安定性および部品品質を達成するために好ましい。
【0090】
最も単純な流体再生法は、ろ過であった。残念ながら、従来型のバンドおよびプリコートフィルタの使用は、所望の結果をもたらさない場合があるが、これは、そのようなフィルタが、微小粒子状物質および添加剤分解生成物で構成されるオレオゲルによって素早くブロックされるためである。代わりに、沈降槽を含むカスケード式システム、またはサイクロンによって補完されるmultiweirシステムの使用は、この欠点を有さず、ゲルの大半を流体内に残し、故に添加剤枯渇を最小限にしながら、重粒子を除去することを可能にするということが分かっている。寿命に達した後、バニシング媒体は、再生および洗浄されなければならず、新たな流体がユニット内に充填される。後者の動作は、計画保守としてスケジュールされる。通常使用下で、そのような保守ステップは、好ましくは、およそ100~200処理サイクルの後、または表面仕上げ品質の低下に気付いたらすぐに実施される。
【0091】
物品上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイスの1つの実施形態において、本デバイスは、固体潤滑剤の形成を誘起することに使用されているプロセス流体のための沈降装置および/またはデカント装置、ならびに沈降装置および/またはデカント装置からの出口に流体接続されるサイクロンをさらに含む。
【0092】
方法態様では、1つの実施形態において、物品上での固体潤滑剤の誘起形成のための方法は、速度差を作り出すステップおよび固体潤滑剤物質を形成するステップの後、プロセス流体の後処理の更なるステップを含む。プロセス流体の後処理のステップは、プロセス流体の沈降および/またはデカント、それに続いてサイクロン内でのプロセス流体の処理を含む。
【0093】
1つの実施形態において、物品上での固体潤滑剤の誘起形成のための方法は、固体潤滑剤前駆物質の添加剤が少なくとも部分的に枯渇したプロセス流体から衝撃媒体を分離する更なるステップを含む。衝撃媒体は、再生される。衝撃媒体は、以て、好ましくは、残っている溶媒を除去するために洗浄される。好ましくは、衝撃媒体は、プロセス流体において使用されるものと同じ溶媒、および分散剤を含む溶媒ベースの洗剤内で洗浄される。この再生した衝撃媒体は、後続の固体潤滑剤形成プロセスに有用な新規プロセス流体を形成するために、新規溶媒内で、追加の固体潤滑剤前駆物質の添加剤と共に再使用される。
【0094】
上に説明される実施形態は、本発明のいくつかの例証的な例として理解されるものとする。様々な修正、組み合わせ、および変更が、本発明の範囲から逸脱することなく実施形態に対してなされ得るということが当業者により理解されるものとする。特に、異なる実施形態における異なる部分ソリューションは、技術的に可能な場合、他の構成において組み合わされ得る。しかしながら、本発明の範囲は、添付のクレームによって規定される。
【図】
【手続補正書】
【提出日】2024-04-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品(10)上での固体潤滑剤の誘起形成のための方法であって、
-処理されるべき物品(10)を提供するステップ(S10)と、
-前記物品(10)を化学反応性プロセス流体(34)に暴露するステップ(S20)と
を含み、
前記化学反応性プロセス流体(34)は、溶媒および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含み、
前記溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒であり、
前記固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、
S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物、および少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物、ならびに
硫化添加剤と組み合わせた油溶性金属カルボキシレート
のうちの少なくとも1つであり、
露出する前記ステップ(S20)は、前記物品(10)を衝撃媒体(20)に暴露することをさらに含み、
前記衝撃媒体(20)は、非研磨硬質粒子であり、
前記方法は、
-前記物品(10)の表面(12)と前記衝撃媒体(20)との間に速度差を作り出すステップ(S30)であって、これにより、前記衝撃媒体(20)と前記物品(10)の前記表面(12)との間に衝撃を引き起こしてバニシング作用をもたらす、ステップと、
-前記化学反応性プロセス流体の存在下で前記衝撃のエネルギーによって誘起される、前記固体潤滑剤前駆物質を含む化学反応によって、前記物品(10)の前記表面(12)上に固体潤滑剤物質を形成するステップ(S40)と
をさらに含み、
前記化学反応は、前記物品(10)の前記表面(12)において発生する、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記衝撃媒体(20)は、硬化金属炭化物、金属窒化物、酸化ジルコニウム、セラミック、および/またはタングステン重合金の粒子である、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記衝撃媒体(20)は、窒化ケイ素またはタングステン炭化物粉末の粒子である、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記衝撃媒体(20)は、硬化タングステン炭化物粉末の粒子である、ことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記窒化ケイ素またはタングステン炭化物粉末の前記粒子は、0.1~250μmの間の平均サイズを有する、ことを特徴とする、
請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記速度差は、前記物品(10)の前記表面(12)に平行の非ゼロ成分を有する、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記物品(10)の前記表面(12)と前記衝撃媒体(20)との間の前記衝撃は、1MJ/m
2sを超える、および好ましくは5MJ/m
2sを超える、前記物品(10)の前記表面(12)の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出す、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記物品(10)の前記表面(12)と前記衝撃媒体(20)との間の前記衝撃は、250MJ/m
2未満、および好ましくは50MJ/m
2s未満である、前記物品(10)の前記表面(12)の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出す、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
速度差を作り出す前記ステップ(S30)は、前記プロセス流体(34)と前記物品(10)との間の相対回転を含む、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
速度差を作り出す前記ステップ(S30)は、前記プロセス流体(34)と前記物品(10)との間の相対振動を含む、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
速度差を作り出す前記ステップ(S30)は、前記物品(10)の前記表面(12)に対して衝撃媒体流を向けることを含む、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒は、鉱油および酒精剤、合成ポリアルファオレフィン、イソパラフィン、アルキル化ナフタリン、エステル、エーテル、アルコール、カルボキシル化またはアルコキシル化ポリオール、水、ならびにイオン性液体から選択される、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒は、40℃で50cSt未満、および好ましくは10cSt未満の動粘度を有するように選択される、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記物品(10)を前記プロセス流体(34)に暴露する前記ステップ(S10)の前に前記衝撃媒体(20)を慣らし運転するステップをさらに含み、慣らし運転する前記ステップは、前記物品(10)がないまま前記プロセス流体(34)内の前記衝撃媒体(20)の間に速度差を作り出すことを含む、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項15】
速度差を作り出す前記ステップ(S30)および固体潤滑剤物質を形成する前記ステップ(S40)の後に、プロセス流体の後処理のステップをさらに含み、プロセス流体の後処理の前記ステップは、
-前記プロセス流体(34)の沈降および/またはデカント、それに続いてサイクロン内での前記プロセス流体(34)の処理を含む、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項16】
-前記固体潤滑剤前駆物質の添加剤が少なくとも部分的に枯渇するプロセス流体(34)から衝撃媒体(20)を分離するステップと、
-残っている溶媒を除去するために前記衝撃媒体(20)を洗浄するとによって前記衝撃媒体(20)を再生するステップと、
-前記再生した衝撃媒体を、新規溶媒内で、および追加の前記固体潤滑剤前駆物質の添加剤と共に再使用して、後続の固体潤滑剤形成プロセスに有用な新規プロセス流体(34)を形成するステップと
をさらに含む、ことを特徴とする
請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記再生することは、前記プロセス流体(34)において使用されるものと同じ溶媒および分散剤を含む溶媒ベースの洗剤内で前記衝撃媒体(20)を洗浄することを含む、ことを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、塩および/または有機錯体である、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記耐火金属は、Moおよび/またはWである、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、
単純タングステート、
チオタングステート、
タングステンジチオカルバメート、
タングステンジチオホスフェート、
タングステンカルボキシレートおよびジチオカルボキシレート、
タングステンキサンタートおよびチオキサンタート、リガンドとしてカルボニル、シクロペンタジエニル、および硫黄を含有する多核性タングステン錯体、
リガンドとしてピリジン、ビピリジン、ニトリル、およびホスフィンを有するタングステンのハロゲン含有錯体、
脂肪酸グリセリド、アミド、およびアミンを有するタングステン酸の付加物から選択される、ことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、
単純モリブデート、
チオモリブデート、
モリブデンジチオカーバメイト、
モリブデンジチオホスフェート、
モリブデンカルボキシレートおよびジチオカルボキシレート、
モリブデンキサンタートおよびチオキサンタート、
リガンドとしてカルボニル、シクロペンタジエニル、および硫黄を含有する多核性モリブデン錯体、
リガンドとしてピリジン、ビピリジン、ニトリル、およびホスフィンを有するモリブデンのハロゲン含有錯体、
脂肪酸グリセリド、アミド、およびアミンを有するモリブデン酸の付加物から選択される、ことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、Sの担体としての役割を果たす表面反応性化合物である、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項23】
Sの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、元素硫黄である、ことを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
Sの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、有機硫化物および有機ポリ硫化物から選択される、ことを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
Sの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は、ジベンジルジスルフィド、硫化イソブテン、硫化脂肪酸、およびジアルキルポリスルフィドから選択される、ことを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物、およびS、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす前記表面反応性化合物は共に、チオカルバメート、チオホスフェート、および/またはチオキサンタートから選択される、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記物品(10)の前記表面(12)は、鉄を含む、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項28】
固体潤滑剤物質を形成する前記ステップ(S40)は、前記物品(10)の前記表面(12)の表面物質をさらに含む化学反応によって実施される、ことを特徴とする、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
物品(10)上での固体潤滑剤の形成を誘起するためのデバイス(1)であって、
-化学反応性プロセス流体(34)および衝撃媒体(20)のための入口(32)を有する暴露槽(30)であって、
前記化学反応性プロセス流体(34)は、溶媒および固体潤滑剤前駆物質の添加剤を含み、
前記溶媒は、低揮発性高フラッシュ溶媒であり、
前記固体潤滑剤前駆物質の添加剤は、
S、P、Bのうちの少なくとも1つの担体としての役割を果たす表面反応性化合物、および少なくとも1つの耐火金属の担体としての役割を果たす表面反応性化合物、ならびに
硫化添加剤と組み合わせた油溶性金属カルボキシレート
のうちの少なくとも1つであり、
前記衝撃媒体(20)は、非研磨硬質粒子である、暴露槽(30)と、
-前記暴露槽(30)内に配置される前記物品(10)のための物品ホルダ装置(36)と、
-前記物品(10)の表面(12)と前記衝撃媒体(20)との間に速度差(40)を作り出すための装置と、を特徴とする、デバイス(1)。
【請求項30】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、前記物品(10)の前記表面(12)に平行の非ゼロ成分を有する速度差を作り出すように構成される、ことを特徴とする、請求項29に記載のデバイス。
【請求項31】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、1MJ/m
2sを超える、および好ましくは5MJ/m
2sを超える、前記物品(10)の前記表面(12)の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出すように構成される、ことを特徴とする、
請求項29に記載のデバイス。
【請求項32】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、250MJ/m
2s未満、および好ましくは50MJ/m
2s未満である、前記物品(10)の前記表面(12)の衝撃領域におけるエネルギー束を作り出すように構成される、ことを特徴とする、
請求項29に記載のデバイス。
【請求項33】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、前記プロセス流体(34)および前記物品ホルダ装置(36)のうちの少なくとも一方を回転させるための手段(41)を含む、ことを特徴とする、
請求項29に記載のデバイス。
【請求項34】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、前記プロセス流体(34)および前記物品ホルダ装置(36)のうちの少なくとも一方を振動させるための手段(38、39)を含む、ことを特徴とする、
請求項29に記載のデバイス。
【請求項35】
速度差(40)を作り出すための前記装置は、前記物品(10)の前記表面(12)に対して衝撃媒体流を向けるための手段(44)を含む、ことを特徴とする、
請求項29に記載のデバイス。
【請求項36】
-固体潤滑剤の誘起形成に使用されているプロセス流体のための沈降装置および/またはデカント装置、ならびに
-前記沈降装置および/またはデカント装置からの出口に流体接続されるサイクロンをさらに含む、ことを特徴とする、請求項29~35のいずれか一項に記載のデバイス。
【国際調査報告】