(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】耐食性と曲げ性に優れためっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20241022BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20241022BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20241022BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20241022BHJP
C23C 2/20 20060101ALI20241022BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241022BHJP
C22C 38/38 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/26
C23C2/02
C22C18/04
C23C2/20
C22C38/00 301T
C22C38/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519265
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 KR2022014438
(87)【国際公開番号】W WO2023055028
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0130130
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、 スン-ユ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ミュン-ス
(72)【発明者】
【氏名】ユ、 ボン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ヨン-キュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 イル-リョン
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AB02
4K027AB05
4K027AB44
4K027AC12
4K027AC52
4K027AC64
4K027AE02
4K027AE03
(57)【要約】
本発明は、耐食性と曲げ性に優れたZn-Mg-Al系めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板、及び
前記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Mg-Al系めっき層を含み、
前記めっき層は、MgZn
2相と、前記MgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相とを含む、めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき層は、重量%で、Mg:4.0~7.0%、Al:11.0~19.5%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含む、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項3】
前記素地鋼板と前記Zn-Mg-Al系めっき層との間に備えられたFe-Al系抑制層をさらに含む、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項4】
前記MgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相が前記MgZn
2相の外側線を占める長さの割合は30~98%である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項5】
前記MgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さは2~7μmである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項6】
前記MgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相は、面積%で、Mg固溶率が4wt%未満の第1のZn単相:10~90%と、Mg固溶率が4wt%以上の第2のZn単相:10~90%とを含む、請求項5に記載のめっき鋼板。
【請求項7】
前記第1のZn単相は、前記MgZn
2相の外側線に隣接する、請求項6に記載のめっき鋼板。
【請求項8】
めっき浴温度(T
B)に対してT
B+10℃~T
B+50℃の引き込み温度を満たすように、素地鋼板を、重量%で、Mg:4.0~7.0%、Al:11.0~19.5%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする段階、
前記溶融亜鉛めっきされた鋼板に、下記関係式1を満たすように不活性ガスを用いてエアワイピングを行う段階、及び
前記エアワイピングされた鋼板を凝固終了温度まで2~5℃/sの平均冷却速度で冷却する段階
を含む、めっき鋼板の製造方法。
[関係式1]
0.005≦P
air/(W
air×T)
(前記関係式1において、前記W
airはエアナイフの間隔を表し、単位はmmである。前記P
airはエアナイフの圧力を表し、単位はkPaである。前記Tは供給された不活性ガスの温度を表し、単位は℃である。)
【請求項9】
前記冷却する段階は、
前記エアワイピングされた鋼板に450℃以下420℃以上の温度範囲を平均冷却速度1.0~2.0℃/sで冷却する1次冷却、
前記1次冷却された鋼板に420℃未満340℃以上の温度範囲を平均冷却速度2.1~4.0℃/sで冷却する2次冷却、及び
前記2次冷却された鋼板に340℃未満150℃以上の温度範囲を平均冷却速度5.0~7.0℃/sで冷却する3次冷却
を含む、請求項8に記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷却する段階は、下記関係式2を満たす、請求項9に記載のめっき鋼板の製造方法。
[関係式2]
C
1+C
2≦C
3≦1.5×(C
1+C
2)
(前記関係式2において、C
1は1次冷却時の平均冷却速度[℃/s]を表し、C
2は2次冷却時の平均冷却速度[℃/s]を表し、C
3は3次冷却時の平均冷却速度[℃/s]を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性と曲げ性に優れた高耐食めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は、腐食環境に晒されたとき、鉄よりも酸化還元電位が低い亜鉛が先に腐食され、鋼材の腐食が抑制される犠牲防食の特性を有する。また、めっき層の亜鉛が酸化しながら鋼材の表面に緻密な腐食生成物を形成させて、酸化雰囲気から鋼材を遮断することで鋼材の耐腐食性を向上させる。このような有利な特性のために、亜鉛系めっき鋼板は、最近、建資材、家電製品及び自動車用鋼板にその適用範囲が拡大している。
【0003】
しかし、産業高度化に伴う大気汚染の増加により腐食環境が徐々に悪化しており、資源及び省エネに対する厳しい規制により、従来の亜鉛めっき鋼材よりもさらに優れた耐食性を有する鋼材の開発に対する必要性が高まっている。
【0004】
かかる問題を改善するために、亜鉛めっき浴にアルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)等の元素を添加して鋼材の耐食性を向上させる、亜鉛合金系めっき鋼板の製造技術に関する研究が様々に進められている。代表的な例としては、Zn-Alめっき組成系にMgをさらに添加したZn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板がある。
【0005】
一方、Zn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板の場合、加工されて用いられる場合が多いが、めっき層内の硬度が高い金属間化合物を多量に含み、曲げ加工時にめっき層内のクラックを引き起こすなどの曲げ加工性が悪くなるという欠点がある。
【0006】
それだけでなく、Zn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板は、めっき浴の中でめっきが行われる過程でドロスなどの酸化物が付着するか、鋼板との反応性が弱化されることにより、めっき密着性が低下され得るという問題もあった。
【0007】
したがって、耐食性だけでなく、曲げ性及びめっき密着性にも全て優れる高度な需要を満たすことができるレベルの技術は、これまで開発されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開公報第2010-0073819号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面によると、耐食性と曲げ性に優れためっき鋼板、及びその製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明のまた他の一側面によると、耐食性と曲げ性だけでなく、めっき密着性にも優れためっき鋼板、及びその製造方法を提供する。
【0011】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書の全体内容から発明の追加的な課題を理解するのに困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面は、
素地鋼板と、上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Mg-Al系めっき層とを含み、
上記めっき層は、MgZn2相と、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相とを含む、めっき鋼板を提供する。
【0013】
また本発明の他の一側面は、
めっき浴温度(TB)に対してTB+10℃~TB+50℃の引き込み温度を満たすように、素地鋼板を、重量%で、Mg:4.0~7.0%、Al:11.0~19.5%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする段階、
上記溶融亜鉛めっきされた鋼板に下記関係式1を満たすように不活性ガスを用いてエアワイピングを行う段階、及び
上記エアワイピングされた鋼板を凝固終了温度まで2~5℃/sの平均冷却速度で冷却する段階
を含む、めっき鋼板の製造方法を提供する。
[関係式1]
0.005≦Pair/(Wair×T)
(上記関係式1において、上記Wairはエアナイフの間隔を表し、単位はmmである。上記Pairはエアナイフの圧力を表し、単位はkPaである。上記Tは供給された不活性ガスの温度を表し、単位は℃である。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面によると、耐食性と曲げ性に優れためっき鋼板、及びその製造方法を提供することができる。
【0015】
また、本発明の他の一側面によると、耐食性と曲げ性だけでなく、めっき密着性にも優れためっき鋼板、及びその製造方法を提供することができる。
【0016】
本発明の多様でありながらも有意義な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1から得られためっき鋼板の表面を1,500倍率で拡大して電界放射走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope、以下「FE-SEM」という)で撮影した写真を示したものである。
【
図2】実施例3から得られためっき鋼板の表面を5,000倍率に拡大して電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM)で撮影した写真を示したものである。
【
図3】実施例4から得られためっき鋼板の表面を5,000倍率で拡大して電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM)で撮影した写真を示したものである。
【
図4】上記
図3に示した四角表示部分を拡大して示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定する意図ではない。また、本明細書において用いられる単数の形態は、関連定義がこれと明らかに反対される意味を表しない限り、複数の形態も含む。
【0019】
明細書で用いられる「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在や付加を除外するものではない。
【0020】
異なって定義しない限り、本明細書において用いられる技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。辞書で定義されている用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有するものと解釈される。
【0021】
以下、本発明の一側面に係る「めっき鋼板」について詳細に説明する。本発明において各元素の含有量を表すときには、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0022】
従来のZn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板の関連技術では、耐食性の向上のためにMgが添加される。しかし、Mgを過度に添加した場合、めっき浴浮遊ドロスの発生が多くなって、ドロスを頻繁に除去しなければならない問題があり、Mg添加量の上限を3%に制限していた。
【0023】
そこで、Mg添加量を3%よりも増加させて耐食性をさらに改善するために研究した。しかし、Mgの添加量が高くなるにつれて、めっき層内の硬度の高い金属間化合物を多量に含み、曲げ加工時にめっき層内のクラックを引き起こすなどの曲げ性(あるいは、曲げ加工性)が低下するという問題があった。
【0024】
このような曲げ性の問題だけでなく、Mg系ドロス付着の理由で、Zn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板はめっき密着性まで低下するという問題もあった。
【0025】
それ故に、従来技術では耐食性確保と同時に、曲げ性及びめっき密着性にも優れためっき鋼板を提供することは技術的に困難であった。
【0026】
そこで、本発明者らは、上述した問題を解決すると同時に、耐食性だけでなく、曲げ性及び/又はめっき密着性にも優れためっき鋼板を提供するために、鋭意検討を行った結果、めっき層の組成だけでなく、めっき層に形成されるMgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相が重要な要素であることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0027】
したがって、以下では耐食性に優れると同時に、さらに溶接性及び/または化成処理性にも優れためっき鋼板の構成について具体的に説明する。
【0028】
まず、本発明によるめっき鋼板は、素地鋼板と、上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Mg-Al系めっき層とを含む。
【0029】
本発明では、素地鋼板の種類については特に限定しないことができる。例えば、上記素地鋼板は、通常の亜鉛系めっき鋼板の素地鋼板として用いられるFe系素地鋼板、すなわち熱延鋼板または冷延鋼板とすることができるが、これに限定されない。あるいは、上記素地鋼板は、例えば、建築用、家電用、自動車用素材として用いられる炭素鋼、極低炭素鋼または高マンガン鋼とすることもできる。
【0030】
但し、一例として、上記素地鋼板は、重量%で、C:0%超過(より好ましくは、0.001%以上)0.18%以下、Si:0%超過(より好ましくは、0.001%以上)1.5%以下、Mn:0.01~2.7%、P:0%超過(より好ましくは、0.001%以上)0.07%以下、S:0%超過(より好ましくは、0.001%以上)0.015%以下、Al:0%超過(より好ましくは、0.001%以上)0.5%以下、Nb:0%超過(より好ましくは、0.001%以上)0.06%以下、Cr:0%超過(より好ましくは、0.001%以上)1.1%以下、Ti:0%超過(より好ましくは、0.001%以上)0.06%以下、B:0%超過(より好ましくは、0.001%以上)0.03%以下、及び残部Fe及びその他の不可避不純物を含む組成を有することができる。
【0031】
特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、上記素地鋼板の少なくとも一面には、Zn-Mg-Al系合金からなるZn-Mg-Al系めっき層を備えることができる。上記めっき層は、素地鋼板の一面にのみ形成されていてよく、あるいは、素地鋼板の両面に形成されていてもよい。このとき、上記Zn-Mg-Al系めっき層は、Mg及びAlを含み、Znを主に含む(すなわち、Znを50%以上含む)めっき層をいう。
【0032】
特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、上記Zn-Mg-Al系めっき層の厚さは5~100μmとすることができ、より好ましくは10~90μmとすることができる。めっき層の厚さが5μm未満であると、めっき層の厚さ偏差から生じる誤差により局部的にめっき層が非常に薄くなる場合があり、耐食性が劣る場合がある。めっき層の厚さが100μm超過であると、溶融めっき層の冷却が遅れることがあり、一例として垂れ形状などめっき層の表面に凝固欠陥が発生する余地があり、めっき層を凝固させるために鋼板の生産性が低下することがある。
【0033】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、上記素地鋼板と上記Zn-Mg-Al系めっき層との間には、Fe-Al系抑制層をさらに含むことができる。上記Fe-Al系抑制層は、FeとAlの金属間化合物を主に含む(例えば、60%以上)層であり、FeとAlの金属間化合物としては、FeAl、FeAl3、Fe2Al5等が挙げられる。その他にもZn、Mgなどのようにめっき層に由来する成分が一部、例えば40%以下で、さらに含まれてもよい。上記抑制層は、めっき初期の素地鋼板から拡散したFe及びめっき浴成分による合金化により形成された層である。上記抑制層は、素地鋼板とめっき層の密着性を向上させる役割を果たし、同時に素地鋼板からめっき層へのFe拡散を防止する役割を果たすことができる。このとき、上記抑制層は、素地鋼板とZn-Mg-Al系めっき層との間に連続的に形成されてよく、不連続的に形成されてもよい。上記抑制層については、上述した説明を除いては、該当技術分野で通常的に知られた内容を同様に適用することができる。
【0034】
特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、上記抑制層の厚さは0.02~2.5μmとすることができる。上記抑制層は、合金化を防ぎ、耐食性を確保する役割を果たすが、ブリトルであるため、加工性に影響を及ぼすことがあり、その厚さを2.5μm以下にすることができる。但し、抑制層としての役割を果たすためには、その厚さを0.02μm以上に制御することが好ましい。上述した効果をより向上させる観点から、好ましくは上記抑制層厚さの上限は、1.8μmとすることができる。また、上記抑制層厚さの下限は0.05μmとすることができる。このとき、上記抑制層の厚さは、素地鋼板の界面に対して垂直な方向への最小厚さを意味することができる。
【0035】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、上記Zn-Mg-Al系めっき層は、重量%で、Mg:4.0~7.0%、Al:11.0~19.5%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むことができる。以下では、各成分について具体的に説明する。
【0036】
(Mg:4.0%以上7.0%以下)
Mgは、めっき鋼材の耐食性を向上させる役割を果たす元素であり、本発明では目的とする優れた耐食性を確保するためにめっき層内のMg含有量を4.0%以上に制御する。一方、Mgが過度に添加される場合にはドロスが発生する可能性があるだけでなく、めっき層内の硬い硬質のMgZn2相が多量に形成されて曲げ加工時にめっき層内にクラックを引き起こすなどの曲げ性が低下することがあるため、Mg含有量を7.0%以下に制御することができる。
【0037】
(Al:11.0%以上19.5%以下)
一般的にMgが1%以上添加される場合、耐食性向上の効果は発揮されるが、Mgが2%以上添加されると、めっき浴内のMgの酸化によるめっき浴浮遊ドロス発生が増加して、ドロスを頻繁に除去する必要があるという問題がある。
【0038】
このような問題により、従来技術ではZn-Mg-Al系亜鉛合金めっきでMgを1.0%以上添加して耐食性を確保するが、Mg含有量の上限値を3.0%に設定して常用化していた。しかし、本発明では、耐食性をさらに向上させるためには、Mg含有量を4%以上に高める必要があるが、めっき層内のMgを4%以上含むと、めっき浴内のMgの酸化によるドロスが発生する問題がある。それだけでなく、ドロスに起因した酸化物が付着するか、素地鋼板との反応性が弱化することによってめっき密着性が弱化する問題が生じることもあるため、Alを11.0%以上添加させる必要がある。但し、ドロス抑制のためにAlを過度に添加すると、めっき浴の融点が高くなり、それに伴う操業温度が高すぎることによって、めっき浴構造物の浸食及び鋼材の変性が生じるなどの高温作業による問題が生じることがある。したがって、めっき層内のAl含有量の上限は19.5%に制御することが好ましい。
【0039】
(残部Zn及びその他の不可避不純物)
上述しためっき層の組成以外に、残部はZn及びその他の不可避不純物とすることができる。不可避不純物は、通常の溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程で意図せずに混入できるものであれば全て含まれることができ、該当技術分野の技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。
【0040】
本発明に係るめっき鋼板は、上記めっき層は微細組織として、MgZn2相を含む。その他にもZn単相、Al-Zn系2元共晶相、Zn-MgZn2-Al系3元共晶相、Al単相等のような様々な相もめっき層に含まれてよい。本明細書において、上記MgZn2相はMgZn2を主体とする相を意味し、上記Zn単相はZnを主体とする相であり、重量%でZnを85%以上含む相をいう。このとき、上記Zn単相にはZn成分の他にも、15%以下の範囲でAl及びMgの追加成分が固溶していてもよい。なお、上記Al単相は、Alを主体とする相であり、Alを重量%で85%以上含むが、Al成分の他にもZn及びMgなどの成分が固溶した相をいう。また、上記Zn-MgZn2-Al系3元共晶相とは、Zn相、MgZn2相及びAl相が全て混在する形態の3元共晶相をいい、上記Al-Zn系2元共晶相とはAl相及びZn相が交互にラメラあるいは不規則な混合形態を見せながら配置されたことをいう。このとき、上記3元共晶相中に含まれるZn相は、本明細書で後述するMgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相には含まれないことに留意する必要がある。
【0041】
一方、本発明によると、上記めっき層は、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相を含む。従来のZn-Mg-Al系めっき鋼板は、Mg成分が4%以上に多量含まれると、めっき層内に硬い硬質のMgZn2相が多量に形成されて曲げ加工時にめっき層内にクラックを引き起こすなどの曲げ性が低下するという問題があった。
【0042】
そこで、本発明者らは鋭意検討を行った結果、めっき組成及び製造条件を精密制御して、めっき層内の硬質相であるMgZn2相の外側線に沿って軟質相であるZn単相を形成することで、MgZn2相とZn-MgZn2-Al系3元共晶相との間の緩衝(バッファリング)として機能させ、耐食性を向上させながらも、曲げ性までも確保可能であることを見出した。
【0043】
さらに、めっき密着性の側面からも、MgZn2相の外側線に沿って軟質相であるZn単相を形成することで、Zn-MgZn2-Al系3元共晶相とMgZn2相をZn単相が連結することで、めっき密着性を改善することができることを見出した。
【0044】
このとき、上記めっき層内の上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相は、めっき鋼板の表面をFE-SEMを用いて撮影した写真を通して確認可能である。
【0045】
例えば、本発明の実施例1から得られためっき鋼板の表面組織観察のために、FE-SEMを用いて1,500倍率に拡大して撮影した写真を
図1に示した。
図1に示したように、MgZn
2を主体とするMgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相が存在することを確認することができる。
【0046】
また、上記MgZn2相の外側線に沿って形成された相がZn単相に該当するか否かは、上述したFE-SEMで撮影した断面写真を活用すると同時に、Znの重量%含有量が85%以上であるZnを主体とする相であるか否かをEDS(Energy Dispersive spectroscopy)基準で区分することができる。なお、本明細書において、上述したMgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相には、後述する第1のZn単相及び第2のZn単相を全て含むものと定義する。
【0047】
また、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、選択的に、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さは2~7μmとすることができる。
【0048】
上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さが2μm未満であると、MgZn2相とZn-MgZn2-Al系3元共晶相との間にバッファリングの役割を果たすことができるZn単相の不足により密着性が弱くて、曲げ加工性及びめっき密着性に問題が発生する可能性がある。一方、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さが7μmを超過すると、Zn相が過度に増加してMgが欠如されることで局部的な耐食性の問題が生じることがある。上述した効果をさらに改善する側面から、より好ましくは、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さの下限は5.0μmとすることができ、あるいは上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さの上限は6.9μmとすることができる。
【0049】
このとき、上述したMgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さの測定方法について特に限定するものではないが、FE-SEM及びEDSで撮影されためっき層の表面写真を用いて、5μm以上である上記MgZn2相の外側線の長さに基づいて、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さを測定することができる。
【0050】
一方、本発明によると、MgZn
2相の外側線に沿って2種類のZn単相が形成される。まず、1次的にMgZn
2相の外側線に隣接するようにMg固溶率が4wt%未満のZn単相(以下、「第1のZn単相」という)が形成される。また、2次的に上述した第1のZn単相に隣接するが、Mg固溶率が4wt%以上と高いZn単相(以下、「第2のZn単相」という)が形成される。これを確認するために、
図2に本発明の実施例3から得られためっき鋼板の表面を5,000倍率で撮影した写真を示した。
図2のAに該当する領域がMgZn
2相の外側線に隣接するように形成される上述した第1のZn単相に該当し、
図2のBに該当する上記第1のZn単相に隣接するように形成される第2のZn単相に該当する。
【0051】
したがって、上記MgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さを測定する際には、上述したFE-SEMで撮影した写真を用いて、5μm以上の上記MgZn
2相の外側線の長さを基準に、MgZn
2相の外側線から上記Mg固溶率が4wt%以上と高いZn単相までの平均距離(例えば、
図2のMgZn
2相の外側線から「B」領域を含む領域までの平均距離)を上述した「Zn単相の平均厚さ」と定義する。
【0052】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、選択的に、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相が上記MgZn2相の外側線を占める長さの割合は30~98%とすることができる。
【0053】
上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相が上記MgZn2相の外側線を占める長さの割合が30%未満であると、曲げ性と密着性の確保が全体的な鋼板に均一でないという問題が生じることがある。一方、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相が上記MgZn2相の外側線を占める長さの割合が98%を超過すると、Zn単相で先に腐食の拡散が急速に進行して耐食性が不十分となるという問題が生じることがある。
【0054】
上述した効果をさらに改善する側面から、より好ましくは、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相が上記MgZn2相の外側線を占める長さの割合の下限は60%とすることができる。あるいは、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相が上記MgZn2相の外側線を占める長さの割合の上限は90%とすることができる。
【0055】
上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相が上記MgZn2相の外側線を占める長さの割合の測定方法については、特に限定しない。但し、一例として、FE-SEMでめっき鋼板の表面を撮影した写真を用いて、5μm以上の上記MgZn2相の外側線の長さを基準に、Znの含有量が85wt%以上のZn単相が上記MgZn2相の外側線を占める長さの割合を測定することによって求めることができる。このとき、上述したように、上記Zn単相には、上述した第1のZn単相及び第2のZn単相を全て含む。
【0056】
一方、特に限定するものではないが、本発明者らは追加的に相間の密着力の向上の特性をより改善するために、鋭意検討を行った結果、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相には、Mg固溶率が4%未満であるZn単相(第1のZn単相)と、Mg固溶率が4%以上であるZn単相(第2のZn単相)の2種類が存在することを確認した。しかし、本発明者らは研究を重ねることにより、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相のうち、1)Mg固溶率が4%以上であるZn単相はZn-MgZn2-Al系3元共晶相との密着性向上に寄与し、2)Mg固溶率が4%未満のZn単相は、MgZn2相との密着性向上に寄与する点を見出した。
【0057】
具体的には、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、選択的に、Mg固溶率が4wt%未満であるZn単相(あるいは、第1のZn単相)の面積割合は、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されるZn単相の全体面積に対して10~90%とすることができる。上記Mg固溶率が4wt%未満のZn単相の割合が10%未満であると、MgZn2との連結性の向上の効果が僅かであることがある。一方、上記Mg固溶率が4wt%未満であるZn単相の割合が1%超過であると、局部的に相間の連結が不均一であるという問題が生じることがある。Zn単相とMgZn2相との密着性をさらに改善するために、より好ましくは、上記Mg固溶率が4wt%未満であるZn単相の割合の下限は12%とすることができ、あるいは上記Mg固溶率が4wt%未満のZn単相の割合の上限は75%とすることができる。
【0058】
なお、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、選択的に、Mg固溶率が4wt%以上のZn単相(あるいは、第2のZn単相)の面積割合は、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の全体面積に対して10~90%とすることができる。上記Mg固溶率が4wt%以上のZn単相の面積割合が10%未満であると、Zn-MgZn2-Al系3元共晶相との連結性の向上の効果が僅かであることがある。一方、上記Mg固溶率が4wt%以上のZn単相の面積割合が90%を超過すると、局部的に相間の連結が不均一であるという問題が生じることがある。Zn単相とZn-MgZn2-Al系3元共晶相との密着性をさらに改善するために、より好ましくは、上記Mg固溶率が4wt%以上のZn単相の面積割合の下限は25%とすることができ、あるいは上記Mg固溶率が4wt%以上のZn単相の面積割合の上限は88%とすることができる。
【0059】
したがって、本発明の一実施形態によると、選択的に、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相は、面積%で、Mg固溶率が4wt%未満の第1のZn単相:10~90%と、Mg固溶率が4wt%以上の第2のZn単相:10~90%とを含むことができる。上記第1のZn単相は上記MgZn2相の外側線に隣接することができ、あるいは上記第2のZn単相は第1のZn単相に隣接することができる。なお、上記第1のZn単相及び第2のZn単相については、上述した説明を同様に適用可能である。
【0060】
本明細書において、上述したMg固溶率が4wt%以上のZn単相と、Mg固溶率が4wt%未満のZn単相の区分方法は、FE-SEM及びEDSを用いて測定された各地点でのZn単相に対するMg重量%含有量を測定することによって区別可能である。
【0061】
一方、上記Mg固溶率が4wt%以上のZn単相の面積割合及びMg固溶率が4wt%未満のZn単相の面積割合に対する測定方法を別途限定するものではないが、例えば、めっき層の表面をFE-SEM及びEDSで撮影した写真を介して、面積10μm2以上のめっき層の表面を基準に、めっき層の全体相に対する各Zn単相の面積%を求めることで測定可能である。
【0062】
但し、本発明において、Mg固溶率が4wt%以上のZn単相は、全て連結された一つの形状で存在することもでき、互いに分離された形態の島状で存在することもできる。
【0063】
したがって、10μm
2以上のめっき層の表面の面積を基準に、1)
図2のように、Mg固溶率が4wt%以上のZn単相(B領域に該当)が全て連結された一つの形状で存在する場合には、MgZn
2相の外側線からMg固溶率が4wt%以上のZn単相までの内部領域を「MgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相」と見て、各Zn単相(第1のZn単相及び第2のZn単相)の面積割合を測定する。
【0064】
一方、2)
図3のように、Mg固溶率が4wt%以上のZn単相が互いに分離した島状に存在する場合には、互いに隣接する2つの島状の間に
図3の四角表示部分に示すように最短距離の線を描く。上記四角表示部分を拡大した写真を
図4に示し、
図4には、2つの島の間に描いた最短距離の線を示した。次いで、Mg固溶率が4wt%以上のZn単相の外側線と上述した島状との間の最短距離の線を連結した線を
図3に示したように描く。この後、MgZn
2相の外側線から上述した連結した線までの内部領域を「MgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相」とみて、各Zn単相(第1のZn単相及び第2のZn単相)の面積割合を測定する。このとき、上述した島状間に最短距離の線が同じ長さで2つ以上存在する場合には、MgZn
2相の外側線に最も近い側の最短距離の線を基準として、上述した方法により各Zn単相の面積割合を測定する。
【0065】
次に、本発明のまた他の一側面に係る「めっき鋼板の製造方法」について詳細に説明する。但し、本発明のめっき鋼板が必ずしも以下の製造方法により製造されなければならないことを意味するものではない。
【0066】
本発明の一実施形態によると、まず、素地鋼板を用意する段階をさらに含むことができ、素地鋼板の種類は特に限定されない。通常の溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板として用いられるFe系素地鋼板、すなわち熱延鋼板または冷延鋼板とすることができるが、これに限定されるものではない。また、上記素地鋼板は、例えば、建築用、家電用、自動車用素材として用いられる炭素鋼、極低炭素鋼、または高マンガン鋼とすることができるが、これに制限されるものではない。このとき、上記素地鋼板については上述した説明を同様に適用することができる。
【0067】
次いで、上記用意された素地鋼板を、めっき浴温度(TB)に対してTB+10℃~TB+50℃の引き込み温度を満たすように、重量%で、Mg:4.0~7.0%、Al:11.0~19.5%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行う。
【0068】
このとき、上述しためっき浴における成分添加理由及び含有量の限定理由については、素地鋼板から流入される余地がある少量のFeの含有量を除き、上述しためっき層の成分に対する説明を同様に適用することができる。
【0069】
一方、上述した組成のめっき浴を製造するためには、所定のZn、Al及びMgを含有する複合インゴット又は個別成分が含有されたZn-Mg、Zn-Alインゴットを用いることができる。溶融めっきで消耗されるめっき浴を補うためには、上記インゴットをさらに溶解して供給する。この場合、インゴットを直接めっき浴に浸漬して溶解する方法を選ぶこともでき、インゴットを別途のポートに溶解させた後、溶融した金属をめっき浴に補充する方法を選ぶこともできる。
【0070】
また、上記溶融亜鉛めっき時に、素地鋼板の引き込み温度は、めっき浴温度(TB)に対してTB+10℃~TB+50℃の範囲を満たすように制御する。このとき、特に限定するものではないが、上記めっき浴温度(TB)は、440~500℃の範囲で維持されることができる。めっき浴への引き込み温度を上記のように設定することにより、素地鋼板とめっき層との間の界面密着性の向上を図ることができる。
【0071】
一方、上記素地鋼板の引き込み温度がTB+10℃未満であると、界面密着性の向上が僅かであり、ドロス付着の問題が発生することがある。一方、上記素地鋼板の引き込み温度がTB+50℃超過であると、エッシュ(Znヒューム)発生が増加して鋼板に吸着することでめっき表面品質に問題が生じることがある。
【0072】
このとき、上述した効果をさらに改善する側面から、より好ましくは、上記素地鋼板の引き込み温度の下限はTB+20℃とすることができ、上記素地鋼板の引き込み温度の上限はTB+45℃の範囲とすることができる。
【0073】
次に、上記溶融亜鉛めっきされた鋼板に下記関係式1を満たすように不活性ガスを用いてエアワイピングを行う。下記関係式1を満たすようにエアワイピングの条件を制御することにより、本発明で規定するMgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相組織の確保と同時に、平滑かつ均一な表面特性を確保して、曲げ性を改善する効果が発揮される。このとき、下記関係式1は経験的に得られる値であるため、特に単位を定めないことができ、下記定義されたWairの単位であるmmと、Pairの単位であるkPaと、Tの単位である℃を満足すると十分である。
[関係式1]
0.005≦Pair/(Wair×T)
(上記関係式1において、上記Wairはエアナイフの間隔を表し、単位はmmである。上記Pairはエアナイフの圧力を表し、単位はkPaである。上記Tは供給された不活性ガスの温度を表し、単位は℃である。)
【0074】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、上記不活性ガスとしては、アルゴン(Ar)ガス、窒素(N2)ガス、またはアルゴンと窒素の混合ガスなどを用いることができ、窒素ガスを用いることがより好ましい。
【0075】
さらに、本発明の一実施形態によると、上述したエアワイピング段階において、上記エアナイフの間隔は20~45mm(より好ましくは、30~40mm)の範囲とすることができる。あるいは、上記エアナイフの圧力は8~20kPa(より好ましくは、10~18kPa)の範囲とすることができる。あるいは、上記供給されたガスの温度は30~100℃(より好ましくは、65~85℃)の範囲とすることができる。上述した範囲を満たすようにエアワイピングの条件を調整することにより、耐食性、曲げ性及びめっき密着性に優れためっき鋼板を製造することができる。
【0076】
この後、上記エアワイピングされた鋼板を凝固終了温度まで表面温度を基準として、2~5℃/sの平均冷却速度で冷却する。上記エアワイピング後の冷却段階において、平均冷却速度が2℃/s未満であると、めっき鋼板の生産性に問題が生じることがあり、5℃/s超過であると、本発明で規定するMgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相組織が生じないことがある。
【0077】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、選択的に、上記冷却時には上記エアワイピングされた鋼板に450℃以下420℃以上の温度範囲を平均冷却速度1.0~2.0℃/sで冷却する1次冷却と、上記1次冷却された鋼板に420℃未満340℃以上の温度範囲を平均冷却速度2.1~4.0℃/sで冷却する2次冷却と、上記2次冷却された鋼板に340℃未満150℃以上の温度範囲を平均冷却速度5.0~7.0℃/sで冷却する3次冷却とを含むように3段階で行われることができる。
【0078】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、徐冷を行うが、1次、2次及び3次冷却の区間に分けて、各区間で徐々に冷却速度を増加させることで曲げ性がより向上する効果があることを見出した。具体的には、上記1次冷却時に、平均冷却速度が1.0℃/s未満であると、鋼板の生産性の問題が発生することがある。一方、上記1次冷却時に、2.0℃/sを超過すると、素地鋼板とめっき層との間の均一な界面密着性の確保に問題が生じることがある。また、上記2次冷却時に、平均冷却速度が2.1℃/s未満であると、鋼板の生産性の問題が生じることがある。一方、上記2次冷却時に、平均冷却速度が4.0℃/sを超過すると、めっき層内のMgZn2とZn単相との間の密着性確保に問題が生じることがある。また、上記3次冷却時に、平均冷却速度が5.0℃/s未満であると、鋼板凝固完了時点の遅延により冷却タワートップロールにめっき層が付着する問題が生じる可能性がある。一方、上記3次冷却時に、平均冷却速度が7.0℃/sを超過すると、めっき層内のZn単相とZn-MgZn2-Al系3元共晶相との間の密着性に問題が生じることがある。
【0079】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、選択的に、上記冷却時には、下記関係式2をさらに満たすことができる。3次冷却時の平均冷却速度と、1次冷却及び2次冷却時の平均冷却速度との関係を下記関係式2のように制御することにより、MgZn2相とZn単相との間の密着性及びZn-MgZn2-Al系3元共晶相とZn単相との間の密着性向上を促進して、めっき層の曲げ性をさらに向上させることができる。
[関係式2]
C1+C2≦C3≦1.5×(C1+C2)
(上記関係式2において、C1は1次冷却時の平均冷却速度[℃/s]を表し、C2は2次冷却時の平均冷却速度[℃/s]を表し、C3は3次冷却時の平均冷却速度[℃/s]を示す。)
【0080】
上述したように、めっき組成及び製造条件を精密制御することにより、耐食性だけでなく、曲げ性及びめっき密着性のうち一つ以上の特性にも優れためっき鋼板を効果的に提供することができる。
【実施例】
【0081】
(実施例)
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は例示により本発明を説明するためのもので、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0082】
(実験例1)
C:0.018%、Si:0.01%、Mn:0.2%、P:0.009%、S:0.005%、Al:0.1%、Nb:0.02%、Cr:0.2%、Ti:0.02%、B:0.015%、残部Fe及び不純物の組成を有し、厚さ2mm、幅1300mmの素地鋼板を用意する。
【0083】
用意した素地鋼板を下記表1の条件でめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行った。次いで、上記溶融亜鉛めっきされた鋼板に下記表1に記載の条件で、窒素(N2)ガスを用いてエアワイピング処理を行った後、下記表2の条件に冷却した。
【0084】
【0085】
【表2】
C*:凝固終了温度までの平均冷却速度[℃/s]
【0086】
上記表1~2の方法で得られためっき鋼板の試験片を製作して、めっき層を塩酸溶液に溶解した後、溶解された液体を湿式分析(ICP)方法で分析してめっき層の組成を測定し、下記表3に示した(但し、残部はZn及び不純物に該当)。
【0087】
また、上記めっき層と素地鋼板の界面が観察されるように鋼板の厚さ方向(すなわち、圧延方向に垂直な方向)に切断した断面試験片を製造した後、SEMで断面を撮影して、上記素地鋼板とZn-Mg-Al系めっき層との間に0.1~1μm厚さのFe-Al系抑制層が形成されることを確認した。
【0088】
また、鋼板の表面をFE-SEM及びEDSを用いて1,500倍率で撮影し、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の存在有無を下記表3に有無[○/×]で示した。
【0089】
このとき、上記Zn単相であるか否かは、FE-SEM及びEDSを用いて、撮影された表面写真を活用しながら、Zn含量(wt%)が85%以上含むZn単相であるか否かを基準に区分した。
【0090】
また、FE-SEMを用いて上記MgZn2相の外側線長さ5μmを基準に、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相の平均厚さを測定して、下記表3に示した。
【0091】
【表3】
○:MgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相が存在
×:MgZn
2相の外側線に沿って形成されたZn単相は存在しない
【0092】
各実施例及び比較例について、下記の基準で特性を評価し、各特性の評価結果を下記表4に示した。
【0093】
<耐食性>
耐食性を評価するために、塩水噴霧試験装置(Salt Spray Tester、SST)を用いてISO14993に準じた試験方法により、下記基準によって評価した。
○:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して30倍以上40倍未満
△:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して20倍以上30倍未満
×:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して20倍未満
【0094】
<曲げ性>
曲げ部のクラックを評価するために、該当素材を30mm×100mmに切断した後、3tベンディング後の長さ10mm内に発生するクラックの個数をFE-SEMで観察し、下記基準によって曲げ性を評価した。
◎:5個未満
○:5個以上10個未満
△:10個以上20個未満
×:20個以上
【0095】
<めっき密着性>
めっき密着性を評価するために、該当素材を30mm×100mmに切断した後に各めっき鋼材を180°曲げ加工(OTベンディング)してから、曲げ加工された各試験片をテーピングした後、剥離される試験片の面積を測定し、下記基準によってめっき密着性を評価した。
めっき密着性の評価基準は以下の通りである。
◎:剥離面積なし
○:剥離面積0%超過3%未満
△:剥離面積3~10%
×:剥離面積10%以上
【0096】
【0097】
上記表4の実験結果から分かるように、本発明で規定するめっき組成及び製造条件を満たす実施例1~5の場合、耐食性、曲げ性及びめっき密着性に優れることを確認した。
【0098】
一方、本発明で規定するめっき組成及び製造条件のうち1つ以上を満たさない比較例1~14の場合、耐食性、曲げ性及びめっき密着性のうち1つ以上の特性が実施例1~5に比べて劣ることを確認した。
【0099】
(実験例2)
下記表5の条件で溶融亜鉛めっき及びエアワイピング処理を行った後、下記表6の条件で1次、2次及び3次に分けて平均冷却速度を制御して3段階の冷却を行った以外には、上述した実験例1と同様の方法でめっき鋼板を製造した。
【0100】
このとき、実験例1と同様の方法で分析を行い、上記素地鋼板とZn-Mg-Al系めっき層との間に0.3μm厚さのFe-Al系抑制層が形成されることを確認した。
【0101】
一方、めっき層組成、MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相に対する存在有無及び平均厚さは、実験例1で上述した方法と同様に測定して下記表7に示した。
【0102】
追加的に、FE-SEM及びEDSを用いて、上記MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相がMgZn2相の外側線長さ10μmを占める割合を明細書で上述した方法と同様に測定し、これを下記表7に示した。
【0103】
また、FE-SEM及びEDSを用いて撮影された面積25μm2のめっき層の表面を基準に、本明細書で上述した方法と同様に、Mg固溶率が4wt%以上のZn単相の面積割合及びMg固溶率が4wt%未満のZn単相の面積割合を測定し、これらの値を下記表7に示した。
【0104】
また、各実施例及び比較例から得られるめっき鋼板について、実験例1と同様の方法で耐食性、曲げ性及びめっき密着性を評価して下記表8に示した。
【0105】
【0106】
【表6】
1次冷却*:450℃以下420℃以上の温度範囲での冷却
2次冷却*:420℃未満340℃以上の温度範囲での冷却
3次冷却*:340℃未満150℃以上の温度範囲での冷却
【0107】
【0108】
【0109】
上記表8の実験結果から分かるように、本発明で規定するめっき組成及び製造条件を満たす実施例6~10の場合、耐食性、曲げ性及びめっき密着性に優れることを確認した。
【0110】
特に、上記実施例のうち、本発明で規定する3段階の冷却を行う実施例8~10の場合、実施例6及び7に比べて、曲げ性がさらに向上することを確認した。これは、上記実施例8~10は、MgZn2相の外側線に沿って形成されたZn単相に対する占有割合及び平均厚さが大きくて、硬質のMgZn2相の周辺に軟質のZn単相が多く形成されて曲げ性にさらに優れると推定される。また、Mg固溶率が4%以上のZn単相はZn-MgZn2-Al系3元共晶相との相間密着性の向上に寄与し、Mg固溶率が4%未満のZn単相はMgZn2相との相間密着性の向上に寄与することにより、最終的にめっき密着性の向上に寄与すると推定される。
【0111】
一方、本発明で規定するめっき組成及び製造条件を全て満たさない比較例15及び16の場合、耐食性、曲げ性及びめっき密着性のうち1つ以上の特性が実施例6~10に比べて劣ることを確認した。
【国際調査報告】