(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】核酸シークエンシングにおけるサポニン化合物の使用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20241022BHJP
C07J 9/00 20060101ALI20241022BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20241022BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241022BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241022BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241022BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C07J9/00
C12Q1/6876 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
G01N33/50 P
G01N21/64 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520960
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(85)【翻訳文提出日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 CN2021123966
(87)【国際公開番号】W WO2023060527
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/123011
(32)【優先日】2021-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516122667
【氏名又は名称】深▲セン▼華大智造科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】MGI Tech Co.,LTD
【住所又は居所原語表記】Main Building and Second Floor of No.11 Building,Beishan Industrial Zone,Yantian District,Shenzhen,Guangdong 518083,China
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ジア, マン
(72)【発明者】
【氏名】メン, イーシン
(72)【発明者】
【氏名】スー, チョンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, インファ
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ジンジン
(72)【発明者】
【氏名】ゴン, メイファ
(72)【発明者】
【氏名】リ, ジグァン
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
4B029
4B063
4C091
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、核酸シークエンシングの分野に関する。特に、本発明は、サポニン化合物を含むスキャニング試薬、スキャニング試薬を含むキット及びスキャニング試薬を使用することによる核酸シークエンシングのための方法に関する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポニン化合物及びトリス緩衝溶液を含むスキャニング試薬であって、前記サポニン化合物が、以下の化合物:
【化1】
からなる群から選択される1種又は複数である、スキャニング試薬。
【請求項2】
前記サポニン化合物が0.01~10mM又は10~100mMの濃度を有する、請求項1に記載のスキャニング試薬。
【請求項3】
前記スキャニング試薬が、さらなる光損傷保護剤、例えば、(±)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物、L-ジチオスレイトール又はこれらの任意の組み合わせをさらに含み、
好ましくは、前記スキャニング試薬が、(±)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸を含み、
好ましくは、前記スキャニング試薬が、(±)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸及びエチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物を含み、
好ましくは、前記スキャニング試薬が、(±)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物及びL-ジチオスレイトールを含み、
好ましくは、前記スキャニング試薬中の前記(±)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物又はL-ジチオスレイトールが、それぞれ独立に5~50mMの濃度を有する、請求項1又は2に記載のスキャニング試薬。
【請求項4】
前記スキャニング試薬が、塩化ナトリウム及び/又はDNA安定化剤(例えば、Tween-20)をさらに含み、
好ましくは、前記トリス緩衝溶液が水、トリス、塩化ナトリウム、Tween-20及びトリス塩酸塩を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のスキャニング試薬。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のスキャニング試薬の使用を含む、核酸シークエンシング方法。
【請求項6】
核酸シークエンシングにおける光損傷保護剤としてのサポニン化合物の使用であって、前記サポニン化合物が、ノトギンセノシドR1、ギンセノシドRg1、ギンセノシドRd、ギンセノシドRb2、ギンセノシドRb3、ギンセノシドRc、ギンセノシドRf及びギンセノシドReからなる群から選択され、それらの構造式が請求項1に示されるとおりである、使用。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のスキャニング試薬を含む、キット。
【請求項8】
シークエンスされる核酸分子と支持体を固定化するための試薬、ヌクレオチド重合を開始するためのプライマー、ヌクレオチド重合を行うためのポリメラーゼ、1種若しくは複数の緩衝溶液、1種若しくは複数の洗浄溶液、又はこれらの任意の組み合わせをさらに含む、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
標的ポリヌクレオチドの配列を決定するための、請求項1~4のいずれか一項に記載のスキャニング試薬又は請求項7若しくは8に記載のキットの使用。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載のスキャニング試薬を調製するための方法であって、前記スキャニング試薬の各成分を超純水に溶解させて、透明且つ均一な溶液を調製し、次いで、前記溶液を濾過するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸シークエンシングの分野に関する。特に、本発明は、サポニン化合物を含むスキャニング試薬、核酸シークエンシングにおける光損傷保護剤としてのサポニン化合物の使用、及び核酸シークエンシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成によるシークエンシングは、ポリヌクレオチドのシークエンシングの理論的基礎であり、シークエンシングプロセス中に塩基を同定することが極めて重要である。一般に、塩基の同定は、異なる塩基に標識された蛍光色素の種類を同定することによって、決定される。このプロセスは、ヌクレオチドを紫外~可視光に曝露して、蛍光色素中の発色団に蛍光を発光させ、次いで、蛍光シグナルを検出し、撮影し、それによって、蛍光色素の種類を決定することを含む。
【0003】
UV~可視範囲の波長のレーザーを光源として使用することができる。しかし、レーザーは、鋳型ヌクレオチドに対して損傷を引き起こす可能性があり、これは、ポリヌクレオチドのシークエンシング品質にひどく影響を及ぼす。
【0004】
塩基の同定で使用される緩衝溶液は、スキャニング試薬又は写真撮影試薬と呼ばれる。鋳型ヌクレオチドに対するレーザー損傷は、スキャニング試薬に光損傷保護剤を添加することによって防止することができる。しかし、従来技術では、スキャニング試薬中の光損傷保護剤成分の濃度は比較的高い。高濃度の光損傷保護剤の使用は、低温で保存されるか又は長期のシークエンシングプロセスを受ける場合に、スキャニング試薬中で塩沈殿を引き起こす可能性がある。さらに、長期の保存中に、いくつかの光損傷保護剤成分は、酸化した後に退色し、それによって、スキャニング品質、したがってポリヌクレオチドのシークエンシング品質に影響を及ぼす可能性がある。さらに、高濃度の光損傷保護剤の使用は製品原価を高める。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、光損傷保護剤としてサポニン化合物(例えば、ノトギンセノシド及びギンセノシド)を使用し、これは、非常に低い使用濃度で鋳型ヌクレオチドを依然として保護することができる。本発明で使用するサポニン化合物は、紫外及び可視光領域で吸収がなく、塩基認識シグナルを妨げず、長期保存中に酸化するとしても変色しない。
【0006】
本出願は以下の発明を提供する:
一態様では、本出願は、サポニン化合物及びトリス緩衝溶液を含むスキャニング試薬であって、サポニン化合物が、以下:
【化1】
からなる群から選択される1種又は複数の化合物である、スキャニング試薬を提供する。
【0007】
本発明では、トリス緩衝溶液は、緩衝系としてトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)を使用する緩衝溶液を指す。
【0008】
トリスは、生化学及び分子生物学で使用される緩衝溶液の調製で広く使用されている。トリスは弱塩基であり、トリス塩基の水溶液のpHは約10.5である。pHを所望の値に調整するために塩酸を添加することにより、そのpHの緩衝液を得ることができる。トリス及びその塩酸塩(トリス-HCl)は、緩衝溶液を調製するために使用することもできる。
【0009】
トリス緩衝溶液の有効な緩衝範囲はpH7.0~9.2の間である。トリス緩衝溶液は、核酸を溶解させるための溶媒として使用することができる。
【0010】
本発明では、サポニン化合物は、非常に低濃度で鋳型ヌクレオチドを保護することができる。いくつかの実施形態では、サポニン化合物は、0.01~10mM又は10~100mM、例えば、0.01~0.02mM、0.02~0.03mM、0.03~0.04mM、0.04~0.05mM、0.05~0.06mM、0.06~0.07mM、0.07~0.08mM、0.08~0.09mM、0.09~0.1mM、0.1~0.2mM、0.2~0.3mM、0.3~0.4mM、0.4~0.5mM、0.5~0.6mM、0.6~0.7mM、0.7~0.8mM、0.8~0.9mM、0.9~1.0mM、1~2mM、2~3mM、3~4mM、4~5mM、5~6mM、6~7mM、7~8mM、8~9mM、9~10mM、10~20mM、20~30mM、30~40mM、40~50mM、50~60mM、60~70mM、70~80mM、80~90mM又は90~100mMの濃度を有する。
【0011】
いくつかの実施形態では、ノトギンセノシドR1は、0.01~10mM、例えば、0.01~0.5mM、0.5~1mM、1~2mM、2~3mM、3~4mM、4~5mM、5~6mM、6~7mM、7~8mM、8~9mM又は9~10mMの濃度を有していてもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、ギンセノシドRg1は、10~100mM、例えば、10~20mM、20~30mM、30~40mM、40~50mM、50~60mM、60~70mM、70~80mM、80~90mM又は90~100mMの濃度を有していてもよい。
【0013】
いくつかの実施形態では、スキャニング試薬は、さらなる光損傷保護剤、例えば、(±)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸(トロロクス(Trolox))、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物、L-ジチオスレイトール又はこれらの任意の組み合わせをさらに含む。1種より多い光損傷保護剤をスキャニング試薬に添加することは、DNAシークエンシングの品質を改善するのにより貢献するであろう。
【0014】
いくつかの実施形態では、スキャニング試薬はトロロクスを含み、例えば、ノトギンセノシドR1及びトロロクスを含むか又はギンセノシドRg1及びトロロクスを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、スキャニング試薬は、トロロクス及びエチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物を含み、例えば、ノトギンセノシドR1、トロロクス及びエチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物を含むか又はギンセノシドRg1、トロロクス及びエチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、スキャニング試薬は、トロロクス、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物及びL-ジチオスレイトールを含み、例えば、ノトギンセノシドR1、トロロクス、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物及びL-ジチオスレイトールを含むか又はギンセノシドRg1、トロロクス、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物及びL-ジチオスレイトールを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、スキャニング試薬中のトロロクス、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物又はL-ジチオスレイトールはそれぞれ独立に5~50mMの濃度を有し、例えば、それぞれ独立に5~10mM、10~20mM、20~30mM、30~40mM又は40~50mMの濃度を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、スキャニング試薬は、塩化ナトリウム及び/又はDNA安定化剤(例えば、Tween-20)をさらに含む。塩化ナトリウムの役割は、塩溶液バックグラウンドを提供すること及びシークエンシングで使用されるプライマーを保護することである。
【0019】
いくつかの実施形態では、トリス緩衝溶液は、水、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス塩基)、塩化ナトリウム、Tween-20及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(ヒドロクロリド)(トリス-HCl)を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、トリス緩衝溶液は、以下の方法によって調製される:トリス塩基(粉末)、塩化ナトリウム(粉末)、Tween-20及びトリス-HCl(粉末)をある特定の比で超純水に溶解すること。
【0021】
いくつかの実施形態では、本発明のスキャニング試薬では、各成分の濃度は、以下の表に示されるとおりである。
【表1】
【0022】
別の態様では、本出願は、核酸シークエンシングにおける光損傷保護剤としてのサポニン化合物(例えば、ノトギンセノシド又はギンセノシド)の使用であって、サポニン化合物が、ノトギンセノシドR1、ギンセノシドRg1、ギンセノシドRd、ギンセノシドRb2、ギンセノシドRb3、ギンセノシドRc、ギンセノシドRf及びギンセノシドReからなる群から選択され、各化合物の構造式が上記で示されるとおりである、使用を提供する。
【0023】
別の態様では、本出願は、本発明のスキャニング試薬を含むキットを提供する。
【0024】
いくつかの実施形態では、本発明のキットは、シークエンスされる核酸分子を支持体に固定化する(例えば、共有結合的若しくは非共有結合的な連結によって固定化する)ための試薬;ヌクレオチド重合反応を開始するためのプライマー;ヌクレオチド重合反応のためのポリメラーゼ;1種若しくは複数の緩衝溶液;1種若しくは複数の洗浄溶液;又はこれらの任意の組み合わせをさらに含むことができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明のキットは、試料から核酸分子を抽出するための試薬及び/又は装置をさらに含むことができる。試料から核酸分子を抽出するための方法は、当技術分野で周知である。したがって、必要に応じて、本発明のキットにおいて、核酸分子を抽出するための様々な試薬及び/又は装置が配置されてもよく、例としては、細胞を破壊するための試薬、DNAを沈殿させるための試薬、DNAを洗浄するための試薬、DNAを溶解させるための試薬、RNAを沈殿させるための試薬、RNAを洗浄するための試薬、RNAを溶解させるための試薬、タンパク質を除去するための試薬、DNAを除去するための試薬(例えば、標的核酸分子がRNAである場合)、RNAを除去するための試薬(例えば、標的核酸分子がDNAである場合)及びこれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、本発明のキットは、核酸分子を前処理するための試薬をさらに含む。本発明のキットでは、核酸分子を前処理するための試薬はさらなる制限を受けず、実際の必要性に従って選択することができる。核酸分子を前処理するための試薬は、例えば、核酸分子を断片化するための試薬(例えば、DNaseI)、核酸分子の末端を補足するための試薬(例えば、DNAポリメラーゼ、例えば、T4 DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼ)、アダプター分子、標識分子、アダプター分子を目的の核酸分子に連結するための試薬(例えば、リガーゼ、例えばT4 DNAリガーゼ)、核酸の末端を修復するための試薬(例えば、3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を欠くが、5’-3’エキソヌクレアーゼ活性を示すDNAポリメラーゼ)、核酸分子を増幅するための試薬(例えば、DNAポリメラーゼ、プライマー、dNTP)、核酸分子を分離及び精製するための試薬(例えば、クロマトグラフィーカラム)並びにこれらの任意の組み合わせを含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、本発明のキットは、シークエンスされる核酸分子を固定化するための支持体をさらに含む。通常の状況下では、シークエンスされる核酸分子を固定化するために使用される支持体は、取扱いを容易にするために固相の状態である。したがって、本開示では、「支持体」は、時には、「固体支持体」又は「固相支持体」とも称される。しかし、本明細書で言及される「支持体」は、固体に限定されるのではく、半固体(例えば、ゲル)であってもよいことを理解されたい。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「装填される」、「固定化される」及び「付着させられる」は、核酸に関連して使用される場合、共有結合的又は非共有結合的な結合を介した、固体支持体への直接的又は間接的な付着を意味する。本開示のいくつかの実施形態では、本発明の方法は、共有結合的付着を介して固体支持体に核酸を固定化するステップを含む。典型的には、しかし、必要なことは、固体支持体を使用することが所望される条件下で(例えば、核酸増幅及び/又はシークエンシングを必要とする適用において)、核酸が、固体支持体に固定化又は付着させられたままであることだけである。いくつかの実施形態では、固体支持体へ核酸を固定化するステップは、捕獲プライマー又は増幅プライマーとして使用されるオリゴヌクレオチドを固体支持体に固定化するステップを含むことができ、その結果、3’末端が酵素による伸長に利用可能であり、プライマー配列の少なくとも一部が相補的核酸配列にハイブリダイズすることができ;次いで、固定化される核酸が、オリゴヌクレオチドにハイブリダイズし、この場合、固定化されるオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、3’-5’の方向であり得る。いくつかの実施形態では、固体支持体に核酸を固定化するステップは、アミノ化修飾を介して核酸結合タンパク質を固体支持体に結合させ、核酸結合タンパク質を介して核酸分子を捕獲することを含むことができる。あるいは、装填は、塩基対合ハイブリダイゼーション以外の手段、例えば、上記の共有結合的付着によって、生じてもよい。固体支持体への核酸の付着の手段の非限定例は、核酸ハイブリダイゼーション、ビオチン-ストレプトアビジン結合、スルフヒドリル結合、光活性化結合、共有結合、抗体-抗原、ヒドロゲル又は他の多孔質ポリマーによる物理的閉じ込めなどを含む。核酸を固体支持体に固定化するための様々な例示的方法は、例えば、G.Steinberg-Tatmanら、Bioconjugate Chemistry 2006、17、841~848;Xu X.ら、Journal of the American Chemical Society 128(2006)9286~9287;米国特許出願、米国特許第5639603号、米国特許第5641658号、米国特許出願公開第2010248991号;国際特許出願、国際公開第2001062982号、国際公開第2001012862号、国際公開第200711937号、国際公開第0006770号に見出すことができ;すべての意図及び目的のために、特に、核酸が固定される固体支持体の調製及び形成に対するすべての教示のために、上記の文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0029】
本発明では、支持体は様々な適切な材料から作製することができる。そのような材料としては、例えば、無機物、天然ポリマー、合成ポリマー及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。具体例としては、限定されないが、セルロース、セルロース誘導体(例えば、ニトロセルロース)、アクリル、ガラス、シリカゲル、シリカ、ポリスチレン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ビニルとアクリルアミドのコポリマー、ジビニルベンゼンなどと架橋したポリスチレン(例えば、Merrifield Biochemistry 1964、3、1385~1390を参照されたい)、ポリアクリルアミド、ラテックス、デキストラン、ゴム、シリコン、プラスチック、天然スポンジ、金属プラスチック、架橋デキストラン(例えば、セファデックス(Sephadex)(商標))、アガロースゲル(例えば、セファロース(Sepharose)(商標))及び当業者に既知の他の支持体が挙げられる。
【0030】
いくつかの好ましい実施形態では、シークエンスされる核酸分子を固定化するために使用される支持体は、不活性な基材又はマトリックスを含む固体支持体(例えば、スライド、ポリマービーズなど)であってもよく、不活性な基材又はマトリックスは、例えば、ポリヌクレオチドなどの生体分子との共有結合的連結を可能にする活性基を含む中間材料の適用によって、官能化されている。そのような支持体の例としては、限定されないが、ガラスなどの不活性な基材に支持されるポリアクリルアミドヒドロゲル、特に、国際公開第2005/065814号及び米国特許出願公開第2008/0280773号に記載されているものが挙げられ、前述の特許出願の内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。そのような実施形態では、生体分子(例えば、ポリヌクレオチド)は、それ自体が基材又はマトリックス(例えば、ガラス基材)に非共有的に連結され得る中間材料(例えば、ヒドロゲル)に直接共有結合的に連結され得る。いくつかの好ましい実施形態では、支持体は、アビジン、アミノ、アクリルアミドシラン又はアルデヒドの化学基の層でその表面が修飾されているガラススライド又はシリコンチップである。
【0031】
本発明では、支持体又は固体支持体は、そのサイズ、形及び構成に制限されない。いくつかの実施形態では、支持体又は固体支持体は平面構造、例えば、スライド、チップ、マイクロチップ及び/又はアレイである。そのような支持体の表面は、平面層の形態であってもよい。
【0032】
いくつかの好ましい実施形態では、シークエンスされる核酸分子を固定化するために使用される支持体は、ビーズ又はウェルのアレイ(チップとも称される)である。アレイは、固体支持体調製するために本明細書で概要を述べる材料のうちのいずれかを使用して、調製することができ、好ましくは、アレイ上のビーズ又はウェルの表面は、核酸分子の固定化を容易にするように官能化される。アレイ上のビーズ又はウェルの数は制限されない。例えば、各アレイは、10~102、102~103、103~104、104~105、105~106、106~107、107~108、108~109、1010~1011、1011~1012個又はそれ以上のビーズ又はウェルを含むことができる。いくつかの例示的実施形態では、各ビーズ又はウェルの表面に1つ又は複数の核酸分子を固定化することができる。したがって、各アレイは、10~102、102~103、103~104、104~105、105~106、106~107、107~108、108~109、1010~1011、1011~1012個又はそれ以上の核酸分子を固定化することができる。したがって、そのようなアレイは、核酸分子のハイスループットシークエンシングのために特に好都合に使用することができる。
【0033】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明のキットは、シークエンスされる核酸分子を支持体に固定化(例えば、共有結合的又は非共有結合的な連結を介した固定化)するための試薬をさらに含む。そのような試薬は、例えば、核酸分子(例えば、その5’末端)を活性化又は修飾するための試薬、例えば、リン酸、チオール、アミン、カルボン酸又はアルデヒド;支持体の表面を活性化又は修飾するための試薬、例えば、アミノ-アルコキシシラン(例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、4-アミノブチルトリエトキシシランなど);架橋剤、例えば、無水コハク酸、フェニルジイソチオシアネート(Guoら、1994)、無水マイレン酸(Yangら、1998)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)、m-マレイミドベンゾイルオキシ-N-ヒドロキシスクシンイミド(MBS)、N-スクシンイミジル[4-ヨードアセチル]アミノベンゾエート(SIAB)、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、N-γ-マレイミドブチリルオキシ-スクシンイミド(GMBS)、スクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート(SMPB);及びこれらの任意の組み合わせを含む。
【0034】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明のキットは、ヌクレオチド重合反応を開始するためのプライマーをさらに含む。本発明では、プライマーは、標的核酸分子のある領域に特異的にアニールすることができる限り、さらなる制限を受けない。いくつかの例示的実施形態では、プライマーは、5~50bp、例えば、5~10、10~15、15~20、20~25、25~30、30~35、35~40、40~45、45~50bpの長さを有していてもよい。いくつかの例示的実施形態では、プライマーは、天然に存在する又は天然に存在しないヌクレオチドを含むことができる。いくつかの例示的実施形態では、プライマーは、天然に存在するヌクレオチドを含むか又は天然に存在するヌクレオチドからなる。いくつかの例示的実施形態では、プライマーは、修飾されたヌクレオチド、例えば、ロックド核酸(LNA)を含む。いくつかの好ましい実施形態では、プライマーは、ユニバーサルプライマー配列を含む。
【0035】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明のキットは、ヌクレオチド重合反応を行うためのポリメラーゼをさらに含む。本発明では、様々な適切なポリメラーゼ使用して、重合反応を行うことができる。いくつかの例示的実施形態では、ポリメラーゼは、鋳型としてDNAを使用して新しいDNA鎖を合成することができる(例えば、DNAポリメラーゼ)。いくつかの例示的実施形態では、ポリメラーゼは、鋳型としてRNAを使用して新しいDNA鎖を合成することができる(例えば、逆転写酵素)。いくつかの例示的実施形態では、ポリメラーゼは、鋳型としてDNA又はRNAを使用して新しいRNA鎖を合成することができる(例えば、RNAポリメラーゼ)。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ及び逆転写酵素からなる群から選択される。
【0036】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明のキットは1種又は複数の切除試薬をさらに含む。いくつかの実施形態では、切除試薬は、エンドヌクレアーゼIV及びアルカリホスファターゼからなる群から選択される。
【0037】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明のキットは1種又は複数の緩衝溶液をさらに含む。そのような緩衝溶液は、限定されないが、DNaseI用の緩衝溶液、DNAポリメラーゼ用の緩衝溶液、リガーゼ用の緩衝溶液、核酸分子の溶出用の緩衝溶液及び核酸分子の溶解用の緩衝溶液、ヌクレオチド重合反応(例えば、PCR)用の緩衝溶液並びにライゲーション反応用の緩衝溶液を含む。本発明のキットは、上記の緩衝溶液のいずれか1つ又は複数を含むことができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、DNAポリメラーゼ用の緩衝溶液は、一価塩イオン(例えば、ナトリウムイオン、塩化物イオン)及び/又は二価塩イオン(例えば、マグネシウムイオン、硫酸イオン、マンガンイオン)を含む。いくつかの実施形態では、緩衝溶液中の一価塩イオン又は二価塩イオンは、10μM~200mM、例えば、10μM、50μM、100μM、200μM、500μM、1mM、3mM、10mM、20mM、50mM、100mM、150mM又は200mMの濃度を有する。
【0039】
いくつかの実施形態では、DNAポリメラーゼ用の緩衝溶液は、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(トリス)を含む。いくつかの実施形態では、緩衝溶液中のトリスは、10mM~200mM、例えば、10mM、20mM、50mM、100mM、150mM又は200mMの濃度を有する。
【0040】
いくつかの実施形態では、DNAポリメラーゼ用の緩衝溶液は、有機溶媒、例えば、DMSO又はグリセロール(グリセロール)を含む。いくつかの実施形態では、緩衝溶液中の有機溶媒は、0.01%~10%、例えば、0.01%、0.02%、0.05%、1%、2%、5%又は10%の質量含有率を有する。
【0041】
いくつかの実施形態では、DNAポリメラーゼ用の緩衝溶液は、7.0~9.0、例えば、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9又は9.0のpHを有する。
【0042】
いくつかの実施形態では、DNAポリメラーゼ用の緩衝溶液は、一価塩イオン(例えば、ナトリウムイオン、塩素イオン)、二価塩イオン(例えば、マグネシウムイオン、硫酸イオン、マンガンイオン)、トリス及び有機溶媒(例えば、DMSO又はグリセロール)を含む。いくつかの実施形態では、緩衝溶液相は8.8のpHを有する。
【0043】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明のキットは1種又は複数の洗浄溶液をさらに含む。そのような洗浄液の例は、限定されないが、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス-HCl緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液などを含む。本発明のキットは、上記の洗浄溶液のいずれか1つ又は複数を含むことができる。
【0044】
別の態様では、本出願は、標的ポリヌクレオチドをシークエンシングするための本発明によるスキャニング試薬又はキットの使用を提供する。
【0045】
別の態様では、本出願は、本発明のスキャニング試薬を調製するための方法であって、スキャニング試薬の成分のそれぞれを超純水に溶解させて透明且つ均一な溶液を形成し、次いで、溶液を濾過して本発明のスキャニング試薬を得るステップを含む方法を提供する。溶解を補助するために超音波を使用することができる。
【0046】
別の態様では、本出願は、核酸をシークエンシングするための方法であって、本発明のスキャニング試薬を使用するステップを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明のシークエンシング方法は、スキャニング、撮影及び検出を行いながら伸長中の標的一本鎖ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを合成するステップを含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、目的の一本鎖ポリヌクレオチドの配列を決定する方法は、以下:
(a)二本鎖、ヌクレオチド、ポリメラーゼ及び切除試薬を提供するステップであって;二本鎖は、伸長中の核酸鎖及びシークエンスされる核酸分子を含むステップ;
(b)以下のステップ(i)、(ii)及び(iii)を含む反応サイクルを行うステップ:
ステップ(i):ポリメラーゼを使用してヌクレオチドを伸長中の核酸鎖中に組み込んで、ブロッキング基及び検出可能な標識を含む核酸中間体を形成するステップ;
ステップ(ii):核酸中間体上の検出可能な標識を検出するステップ;
ステップ(iii):切除試薬を使用して、核酸中間体上のブロッキング基を除去するステップ
を含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、反応サイクルは、ステップ(iv):切除試薬を使用して、核酸中間体上の検出可能な標識を除去するステップをさらに含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、方法は、以下:
ステップ1、調製したシークエンシングチップ上にDNAナノボール(DNB)を装填するステップ;
ステップ2、dNTP分子の調製された混合溶液をチップ中にポンピングし、DNAポリメラーゼを使用して、試験されるDNAの相補鎖にdNTPを組み込むステップ;
ステップ3、撮影及びスキャニングステップ。dNTPは蛍光基を有する修飾分子であるので、撮影のために励起波長のレーザーを使用し;レーザーはDNAに対して光損傷効果があるので、撮影ステップの間に、光損傷保護剤を含むスキャニング試薬を添加するステップ;
ステップ4、切除試薬を使用して塩基末端蛍光基及び3’-ブロッキング基を除去し、溶出して、反応の次のラウンドのために、3’-OHを曝露したままにするステップ;
ステップ5、写真の結果を解析して、試験される核酸分子の塩基配列を決定するステップ
のステップを含む。
【0050】
本発明では、核酸はヌクレオチド又はヌクレオチド類似体を含むことができる。ヌクレオチドは、糖、核酸塩基及び少なくとも1つのリン酸基を通常含む。ヌクレオチドとしては、デオキシリボヌクレオチド、修飾デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、修飾ペプチドヌクレオチド、修飾リン酸糖骨格ヌクレオチド及びこれらの混合物挙げられる。ヌクレオチドの例としては、例えば、アデノシン一リン酸(AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、チミジン一リン酸(TMP)、チミジン二リン酸(TDP)、チミジン二リン酸(TDP)、チミジン三リン酸(TTP)、シチジン一リン酸(CMP)、シチジン二リン酸(CDP)、シチジン三リン酸(CTP)、グアノシン一リン酸(GMP)、グアノシン二リン酸(GDP)、グアノシン三リン酸(GTP)、ウリジン一リン酸(UMP)、ウリジン二リン酸(UDP)、ウリジン三リン酸(UTP)、デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシアデノシン二リン酸(dADP)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシチミジン一リン酸(dTMP)、デオキシチミジン二リン酸(dTDP)、デオキシチミジン三リン酸(dTTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCDP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)、デオキシグアノシン二リン酸(dGDP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシウリジン一リン酸(dUMP)、デオキシウリジン二リン酸(dUDP)及びデオキシウリジン三リン酸(dUTP)が挙げられる。修飾核酸塩基を含むヌクレオチド類似体を本明細書に記載の方法で使用することもできる。ポリヌクレオチドに含まれ得る例示的修飾核酸塩基としては、天然の骨格を有するか又は同様の構造を有するかにかかわらず、例えば、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシン、イソグアニン、2-アミノプリン、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、2-アミノアデニン、6-メチルアデニン、6-メチルグアニン、2-プロピルグアニン、2-プロピルアデニン、2-チオウラシル、2-チオチミン、2-チオシトシン、15-ハロゲン化ウラシル、15-ハロゲン化シトシン、5-プロピニルウラシル、5-プロピニルシトシン、6-アゾウラシル、6-アゾシトシン、6-アゾチミン、5-ウラシル、4-チオウラシル、8-ハロゲン化アデニン又はグアニン、8-アミノアデニン又はグアニン、8-チオアデニン又はグアニン、8-チオアルキルアデニン又はグアニン、8-ヒドロキシアデニン又はグアニン、5-ハロゲン化ウラシル又はシトシン、7-メチルグアニン、7-メチルアデニン、8-アザグアニン、8-ザアデニン、7-デアザグアニン、7-デアザアデニン、3-デアザグアニン、3-デアザアデニンなどが挙げられる。当技術分野で既知であるように、アデノシン5’-ホスホリルスルフェートなどのヌクレオチド類似体などのある特定のヌクレオチド類似体は、ポリヌクレオチドに組み込むことができない。
【0051】
本発明の方法では、シークエンスされる核酸分子はその長さによって制限されない。いくつかの好ましい実施形態では、シークエンスされる核酸分子の長さは、少なくとも10bp、少なくとも20bp、少なくとも30bp、少なくとも40bp、少なくとも50bp、少なくとも100bp、少なくとも200bp、少なくとも300bp、少なくとも400bp、少なくとも500bp、少なくとも1000bp又は少なくとも2000bpであり得る。いくつかの好ましい実施形態では、シークエンスされる核酸分子の長さは、10~20bp、20~30bp、30~40bp、40~50bp、50~100bp、100~200bp、200~300bp、300~400bp、400~500bp、500~1000bp、1000~2000bp又は2000bp超であり得る。いくつかの好ましい実施形態では、シークエンスされる核酸分子の長さは、ハイスループットシークエンシングを容易にするために、10~1000bpを有していてもよい。
【0052】
いくつかの好ましい実施形態では、核酸分子を支持体上に固定化するより前に、核酸分子を前処理することができる。そのような前処理は、限定されないが、核酸分子の断片化、末端のフィルイン、アダプターの付加、タグの付加、核酸分子の増幅、核酸分子の単離及び精製並びにこれらの任意の組み合わせを含む。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「ナノボール」は、例えば、内径が典型的には約1nm~約1000nm、好ましくは、約50nm~約500nmの範囲である、コンパクトな(ほぼ)球状の形を有する巨大分子又は複合体を一般に指す。
【0054】
本明細書で使用する場合、用語「核酸ナノボール」は、一般に、複数コピーの標的核酸分子を含むコンカテマーである。これらの核酸コピーは、典型的には、ヌクレオチドの連続的な直鎖状に次々に配置されるが、本発明の核酸ナノボールは、本明細書に記載の方法を使用して任意の核酸分子から作製することもできる。DNAの一本鎖の性質とともに、このタンデムリピート構造は、ナノボールの折りたたみ構造をもたらす。一般に、核酸ナノボール中の複数コピーの標的核酸分子はそれぞれ、その増幅又はシークエンシングを容易にすることが既知の配列を有するリンカー配列を含む。各標的核酸分子のリンカー配列は通常同じであるが、異なっていてもよい。核酸ナノボールは、DNAナノボールを通常含み、これは、本明細書でDNB(DNAナノボール)とも称される。
【0055】
核酸ナノボールは、例えばローリングサークル複製(RCA)を使用して、生成することができる。RCRプロセスは、M13ゲノムの複数の連続したコピーを調製するために使用された(Blancoら、(1989)J Biol Chem 264:8935~8940)。この方法では、核酸は直鎖状コンカテマーで複製される。当業者なら、米国特許第5,426,180号、第5,854,033号、第6,143,495号及び第5,871,921号を含めたいくつかの参考文献で、RCR反応ための条件及び試薬の選択に関する手引きを見つけることができ;すべての目的のために、特に、RCR又は他の方法による核酸ナノボールの調製に関するすべての教示を利用する目的のために、これらの文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0056】
核酸ナノボールは、本明細書に記載の固体支持体の表面に装填することができる。ナノボールは、任意の適切な方法によって固体支持体の表面に付着させることができ、そのような方法の非限定例としては、核酸ハイブリダイゼーション、ビオチン-ストレプトアビジンコンジュゲーション、スルフヒドリルコンジュゲーション、光活性化コンジュゲーション、共有結合的コンジュゲーション、抗体-抗原、ヒドロゲル若しくは他の多孔質ポリマーなどによる物理的閉じ込め又はそれらの組み合わせが挙げられる。ある場合には、ナノボールをヌクレアーゼ(例えば、DNAヌクレアーゼ)で消化して、より小型のナノボール又はナノボールの断片を生成することができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、固体支持体の表面は、ポリヌクレオチド分子の相補的官能基と反応して、共有結合を形成する反応性官能基を有することができ、これは、例えば、マイクロアレイにcDNAを付着させるのと同じ技法を使用することによるものであり、この技法は、例えば、Smirnovら(2004)、Genes、Chromosomes&Cancer、40:72~77及びBeaucage(2001)、Current Medicinal Chemistry、8:1213~1244で報告されており、これらの両方とも参照により本明細書に組み込まれる。DNBはまた、低濃度の様々な反応性官能基(例えば、-OH基)によって清潔なガラス表面などの疎水性表面に効果的に付着させることができる。表面上でポリヌクレオチド分子と反応性官能基の間に形成される共有結合を介した付着は、本明細書では、「化学的付着」とも称する。
【0058】
他の実施形態では、ポリヌクレオチド分子を表面に吸着させることができる。本実施形態では、ポリヌクレオチドは、表面との非特異的相互作用を通じて、又は非共有結合的相互作用、例えば、水素結合、ファンデルワールス力などを通じて、固定化される。
【0059】
他の実施形態では、核酸ライブラリーは二本鎖核酸断片であってもよく、これは、固体支持体の表面に固定化されたオリゴヌクレオチドとのライゲーション反応を通じて固体支持体の表面に固定化され、次いで、ブリッジ増幅反応が行われて、シークエンシングライブラリーが調製される。
【発明の効果】
【0060】
有益効果
本発明は、以下の有益効果を達成することができる:
本発明は、核酸に対する光損傷保護剤としてサポニン化合物を使用し、サポニン化合物は、非常に低濃度であっても鋳型ヌクレオチドを保護することができる。本発明で使用するサポニン化合物は、紫外及び可視光領域で吸収がない。シークエンシング反応の複数ラウンド後でさえ、データ品質は依然として非常に高く、塩基認識シグナルへの干渉がなく、長期保存中の酸化によって引き起こされる退色現象がない。本発明の最適化されたスキャニング試薬を使用することによって、核酸シークエンシング、特に、ポリヌクレオチドシークエンシングの品質を大きく改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】実施例におけるシークエンシング品質に対するスキャニング試薬組成の効果を示す図である。
【
図2】実施例におけるシークエンシング品質に対するノトギンセノシドR1の濃度の効果を示す図である。
【
図3】実施例におけるシークエンシング品質に対するトロロクスの濃度の効果を示す図である。
【
図4】実施例におけるシークエンシング品質に対するEDTA-4Naの濃度の効果を示す図である。
【
図5】実施例におけるシークエンシング品質に対するDTTの濃度の効果を示す図である。
【
図6】実施例におけるシークエンシング品質に対するギンセノシドRg1の様々な濃度の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
添付の図面及び実施例を参照して、本発明の実施形態を以下に詳細に記載する。しかし、以下の図面及び実施例は本発明を例示するために使用されるのみであり、本発明の範囲を限定しないことを当業者なら理解するであろう。本発明の様々な目的及び有利な態様は、添付の図面及び好ましい実施形態の以下の詳細な説明から当業者に明らかとなるであろう。
【0063】
実施例を参照して、本発明の実施形態を以下に詳細に記載するが、以下の実施例は、本発明を例示するために使用されるのみであり、本発明の範囲を限定すると考えるべきではないことを当業者なら理解するであろう。具体的な条件が実施例で明記されていない場合、その条件は、従来の条件又は製造者によって推奨される条件に従って行われるべきである。使用される試薬又は機器の製造者が示されない場合、これらはすべて、商業的に購入することができる従来の製品である。
【実施例】
【0064】
1.実験設備
MGISEQ-2000RSシークエンサー、MGIDL-200Hローダー及びMGISEQ-2000RSシークエンシングスライド。機器の励起波長は、それぞれ532nm及び650nmである。
【0065】
2.実験で使用する試薬及び原材料
トリス塩基(粉末)、塩化ナトリウム(粉末)、Tween-20、トリス-HCl(粉末)、ノトギンセノシドR1、トロロクス、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物、L-ジチオスレイトール、ギンセノシドRg1。上記の試薬は、対応している(compliant)化学試薬供給会社から購入した。MGISEQ-2000RSハイスループットシークエンシングキットのカタログ番号は1000012536であり、ブランドはMGIであった。標準ライブラリー試薬V3.0である大腸菌(Escherichia coli)一本鎖環状DNAを鋳型として使用し、プライマー配列は、CAACTCCTTGGCTCACAGAACATGGCTACGATCCGACTTであった。さらに、可逆的ブロッキング基修飾及びCy5蛍光修飾の両方を有するアデニンヌクレオチド指すdATP-1;可逆的ブロッキング基修飾とROX蛍光修飾の両方を有するチミンヌクレオシドを指すdTTP-1;可逆的ブロッキング基修飾とCy3蛍光修飾の両方を有するグアニンヌクレオチドを指すdGTP-1;及び可逆的ブロッキング基修飾とEF700蛍光修飾の両方を有するシトシンヌクレオチドを指すdCTP-1はすべて、MGISEQ-2000RSハイスループットシークエンシングキットMGIのものである。
【0066】
3.実験方法:
(a)スキャニング試薬の調製
トリス塩基(粉末)、塩化ナトリウム(粉末)、Tween-20、トリス-HCl(粉末)、ノトギンセノシドR1、トロロクス、エチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物、L-ジチオスレイトール及びギンセノシドRg1を、実験の各セットで必要とされる比に従って超純水に溶解した。20分間の超音波により溶解を行い、上記の試薬を溶解して、透明且つ均一な溶液を形成し、後の使用のために、0.22マイクロメートルの濾過膜を通してこの溶液を濾過した。
【0067】
(b)DNAシークエンシング方法:
シークエンシングプロセス:第1のステップでは、調製したシークエンシングチップ上にDNBナノボールを装填した。
【0068】
第2のステップでは、dNTP分子の調製された混合溶液をチップ中にポンピングし、DNAポリメラーゼを使用して、DNA親鎖の相補鎖にdNTPを添加した。
【0069】
第3のステップでは、写真を撮り、スキャンした。dNTPが、蛍光基を有する修飾分子であったので、励起波長のレーザーを使用して撮影した。レーザーがDNAに光損傷を引き起こす可能性あったので、この撮影ステップで、スキャニング試薬を保護剤として使用した。撮影後、塩基の種類を特定した。
【0070】
第4のステップでは、塩基末端蛍光基及び3’-ブロッキング基を切除試薬で切除し、溶出し、反応の次のラウンドのために、3’-OHを曝露させた。
【0071】
MGISEQ-2000RSハイスループットシークエンシングキットを使用し、キットの#10ウェル試薬をスキャニング試薬の対照として使用し、上記の実験プロセスに従って、MGISEQ-2000RSシークエンシングプラットフォームでPE100+70シークエンシングを行った。要するに、各実験群において、キットの#10ウェル中のスキャニング試薬を、研究の対象物として調製したスキャニング試薬と置き換え、次いで、各サイクルについてのQ30の低下及び各サイクルについてのシークエンシングエラー率曲線を計算して、シークエンシング品質を評価した。
【0072】
実験1:シークエンシング品質に対するスキャニング試薬組成の効果の評価
表1に示す組成に従って塩基緩衝溶液を調製し、この溶液は、全体積が1Lであり、pHが7.03であった。様々な化合物を塩基緩衝液に添加することによりスキャニング試薬を調製し、次いで、これらの試薬をシークエンシングに供した。シークエンシング実験の各セットで使用したスキャニング試薬の組成を表2に示した。その中で、ノトギンセノシドR1の濃度は1.7mMであり、トロロクスの濃度は8mMであり、EDTA-4Naの濃度は10mMであり、L-ジチオスレイトールの濃度は8mMであった。
図1に、シークエンシング品質に対するスキャニング試薬組成の効果を示した。
【表2】
【表3】
【0073】
図1では、横軸はシークエンシングサイクル反応の数であり、縦軸は塩基精度が99.9%を超える確率であった。曲線のデータの縦軸の値が大きいほど、シークエンシングの品質が高く、すなわち、傾きが上向きなほど、よいデータであった。溶液が塩基緩衝溶液であった条件下で、各単一因子実験(実験2~6を参照されたい)の最適化された結果を試験のためにスーパーインポーズし、この結果によって、最適化された濃度条件下で、塩基+S+T+EDTA-4Naが最もよいシークエンシング品質を示し、第1鎖及び第2鎖のすべてのQ30値並びに保持時間が最もよいことが示された。
【0074】
実験2~6では、単一因子実験を使用して、シークエンシング品質に対する様々な添加剤の濃度の効果を研究し、使用される塩基緩衝溶液の組成は実施例1のものと同じであった。
【0075】
実験2:シークエンシング品質に対するノトギンセノシドR1の濃度の効果の評価
様々な濃度のノトギンセノシドR1を塩基緩衝溶液に添加することによってスキャニング試薬を得て、これをシークエンシングに使用した。シークエンシング実験の各セットで使用したスキャニング試薬の組成を表3に示した。
【表4】
【0076】
図2に、シークエンシング品質に対するノトギンセノシドR1の濃度の効果を示した。
図2から、シークエンシング品質は、ノトギンセノシドR1の濃度が1.70mMである場合により高く、第2鎖のQ30が緩徐に低下することが分かった。したがって、ノトギンセノシドR1の濃度が1.70mMであることが、シークエンシング品質を改善するのにより適していた。
【0077】
実験3:シークエンシング品質に対するトロロクスの濃度の効果の評価
様々な濃度のトロロクスを塩基緩衝溶液に添加することによってスキャニング試薬を得て、これをシークエンシングに使用した。シークエンシング実験の各セットで使用したスキャニング試薬の組成を表4に示した。
【表5】
【0078】
図3に、シークエンシング品質に対するトロロクスの濃度の効果を示した。
図3から、シークエンシング品質は、トロロクスの濃度が8mMである条件下でより高く、第2鎖のQ30は緩徐が低下することが分かった。したがって、トロロクスの濃度が8mMであることが、シークエンシング品質を改善するのにより適していた。
【0079】
実験4:シークエンシング品質に対するEDTA-4Naの濃度の効果の評価
8mMトロロクス、1.7mMノトギンセノシドR1及び様々な濃度のEDTA-4Naを塩基緩衝溶液に添加することによってスキャニング試薬を得て、これをシークエンシングに使用した。EDTA-4Naの濃度は、それぞれ、0mM、7mM、10mM、20mM、30mM及び50mMであった。シークエンシング実験の各セットで使用したスキャニング試薬の組成を表5に示した。
【表6】
【0080】
図4に、シークエンシング品質に対するEDTA-4Naの効果を示した。
図4から、シークエンシング品質は、EDTA-4Naの濃度が10mMである場合により高く、第1鎖のQ30が最も高く、第2鎖のQ30は緩徐に低下することが分かった。したがって、EDTA-4Naの濃度が10mMであることが、シークエンシング品質を改善するのにより適していた。
実験5:シークエンシング品質に対するDTT濃度の効果の評価
8.00mMトロロクス、1.70mMノトギンセノシドR1及び様々な濃度のDTTを塩基緩衝溶液に添加することによってスキャニング試薬を得て、これをシークエンシングに使用した。DTTの濃度は、それぞれ、0mM、5mM、8mM、10mM及び20mMであった。シークエンシング実験の各セットで使用したスキャニング試薬の組成を表6に示した。
【表7】
【0081】
図5に、シークエンシング品質に対するDTT濃度の効果を示した。
図5から、シークエンシング品質は、DTTの濃度が10mMである場合により高いことが分かった。第1鎖及び第2鎖のQ30値に基づくと、DTTの濃度が8mMであることが、シークエンシング品質を改善するのにより適していた。
【0082】
実験6:シークエンシング品質に対するギンセノシドRg1の様々な濃度の効果の評価
塩基+S+T+EDTA-4Na+D溶液(塩基緩衝溶液+1.70mMノトギンセノシドR1+8.00mMトロロクス+10.00mMエチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム塩二水和物+8.00mM L-ジチオスレイトール)を基に、様々な濃度のギンセノシドRg1をこの溶液に添加することによってスキャニング試薬を得て、シークエンシングに使用した。ギンセノシドRg1の濃度は、それぞれ、10mM、15mM、40mM及び60mMであった。シークエンシング実験の各セットで使用したスキャニング試薬の組成を表7に示した。標準的な市販キットのビタミンCナトリウム塩を光損傷保護剤として使用した。本実験では、標準的なキットの#10ウェルを対照として使用した。
【表8】
【0083】
図6に、シークエンシング品質に対するギンセノシドRg1の濃度の効果を示した。
図6から、ギンセノシドRg1の濃度が60.00mMである条件下で、光損傷保護剤としてビタミンCナトリウム塩を使用したものと比較して、本発明のスキャニング試薬を使用した場合のシークエンシング品質が、効果がより高く、第1及び第2鎖のQ30値並びに保持時間が、対照群のビタミンCナトリウム塩のものよりもすべて高いことが分かった。
【0084】
結論:最終的な最適化されたスキャニング試薬組成を表8に示した。
【表9】
【0085】
上記の実施例は本発明の技術的解決法を例示するためのみに使用されるが、それらを限定するものではない。本発明の技術的解決法の目的及び範囲を逸脱しない、本発明の技術的解決法の任意の修正又は等価な置き換えは、本発明の保護範囲内に入るものとする。
【配列表】
【国際調査報告】