(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】腫瘍モニタリングのための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20241022BHJP
G16B 25/10 20190101ALI20241022BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241022BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
G16B25/10
C12M1/34 B
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521051
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-05
(86)【国際出願番号】 EP2022077987
(87)【国際公開番号】W WO2023057641
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598176569
【氏名又は名称】キャンサー・リサーチ・テクノロジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CANCER RESEARCH TECHNOLOGY LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【氏名又は名称】末松 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100195408
【氏名又は名称】武藤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】フランケル,アレクサンダー・マーク
(72)【発明者】
【氏名】アボシュ,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】スワントン,ロバート・チャールズ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QS36
4B063QS40
(57)【要約】
本発明は、対象における少なくとも1つの腫瘍特異的変異のがん細胞割合(CCF)を推定するためのコンピュータにより実施される方法を提供する。腫瘍のクローン動態をモニタリングし、腫瘍の治療をモニタリングするための方法、およびがんを有する対象を治療するための方法、ならびに本発明の方法を実施するためのシステムも提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における少なくとも1つの腫瘍特異的変異のがん細胞割合(CCF)を推定するためのコンピュータにより実施される方法であって、前記方法は、
(i)前記対象からの循環腫瘍DNA(ctDNA)を含むセルフリーDNAを含む試料から得られた配列データを提供するステップであって、前記配列データは、前記腫瘍特異的変異を示す前記試料中のリードの総数を、前記腫瘍特異的変異の位置におけるリードの総数(変異型および生殖細胞系列)で除算したものに等しいバリアントアレル頻度(VAF)を含む、ステップと、
(ii)前記対象の腫瘍組織から得られたDNAを含む試料から得られた配列データを提供するステップであって、前記配列データは、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異の多重度と、前記腫瘍特異的変異の位置におけるコピー数(CN
tumour)とを含む、ステップと、
(iii)前記腫瘍特異的変異の前記位置における生殖細胞系列コピー数(CN
normal)を提供するステップと、
(iv)セルフリーDNAを含む前記試料の純度の推定値を提供するステップであって、前記純度は、腫瘍細胞であるサンプリングされたDNAに寄与する細胞の比率である、ステップと、
(v)式:
【数1】
に従って、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異のCCFの推定値を決定するステップであって、ここで、
VAFは(i)において提供され、多重度およびCN
tumourは(ii)において提供され、CN
normalは(iii)において提供され、純度は(iv)において提供されるものである、ステップと
を含む、方法。
【請求項2】
セルフリーDNAを含む前記試料の純度の推定値を提供するステップは、
クローナル変異であると以前に判断された複数の更なる腫瘍特異的変異の各々について、前記セルフリーDNAを含む試料中の前記更なる変異の前記VAF、前記更なる変異の多重度、前記更なる変異の前記CN
tumour、および前記更なる変異の前記位置における前記CN
normalを提供するステップと、
式:
【数2】
に従って、前記複数の更なる変異の各々の変異特異的純度を決定するステップと、
前記複数の更なる変異の各々の前記変異特異的純度値を平均することによって、前記試料の前記純度を推定するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異は、腫瘍細胞の単一のサブクローナル集団に属する少なくとも2、3、4個のまたは少なくとも5個の腫瘍特異的変異を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記単一のサブクローナル集団に属する前記腫瘍特異的変異の各々の前記推定CCFは、腫瘍細胞の前記サブクローナル集団のためのCCF推定値を提供するように平均される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細胞の所与のサブクローナル集団からの前記腫瘍特異的変異を示す前記試料におけるリードの数が、真正である可能性が高いかまたは配列決定誤りに起因したものであるかを推定するために、バックグラウンド配列決定誤りの訂正が適用される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(i)前記サブクローナル集団からの前記腫瘍特異的変異を示す前記試料におけるリードの総数と、(ii)前記腫瘍特異的変異の各々の前記位置におけるバックグラウンド配列決定誤り率に、前記腫瘍特異的変異の各々の前記位置におけるリードの総数を乗算したものとを比較するために、統計的検定が適用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
統計的検定のp値が0.05よりも大きい場合、前記細胞のサブクローナル集団は、前記試料中にないとみなされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記統計的検定は、二項検定、ポアソン検定、ウィルコクソンの1標本順位和検定、カイ二乗およびフィッシャーの正確検定からなる群から選択される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記対象の腫瘍組織から得られたDNAを含む前記試料は、セルフリーDNAを含む前記試料よりも早い時点に得られる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
様々な時点に、前記対象からの、循環腫瘍DNA(ctDNA)を含むセルフリーDNAを含む複数の試料から得られた配列データが提供される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記様々な時点は、前記腫瘍の治療の過程中の様々な時点を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
セルフリーDNAを含む前記または各試料の純度は、5%以下、例えば4%、3%、2%、1%または0.5%以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異は、ネオアンチゲンの疑いがあるものまたはネオアンチゲンとわかっているものを発生させ、かつ/または抗がん治療の標的を発生させる、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ユーザに、少なくとも1つの腫瘍特異的変異および/または少なくとも1つのクローナルもしくはサブクローナル腫瘍細胞集団の前記決定されたCCFを提供することを更に含み、任意選択で、前記決定されたCCFはユーザインタフェース上に表示されるか、またはネットワークを介して前記ユーザに送信される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
対象における少なくとも1つの腫瘍特異的変異のがん細胞割合(CCF)を推定するための方法であって、前記方法は、
前記対象から得られたcfDNA含有試料を提供するステップであって、前記試料はctDNAを含む、ステップと、
前記cfDNA含有試料から、または前記cfDNA含有試料から準備されたライブラリから、DNAを配列決定し、配列データを生成するステップと、
前記配列データを用いて請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実行し、それによって、前記対象における前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異のCCFを推定するステップと
を含む、方法。
【請求項16】
前記対象の腫瘍組織から得られたDNAを含む試料を提供するステップと、
腫瘍組織から得られたDNAを含む前記試料から、または腫瘍組織から得られたDNAを含む前記試料から準備されたライブラリから、DNAを配列決定し、腫瘍組織配列データを生成するステップと、
前記生成された腫瘍組織配列データを分析して、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異の多重度、および前記腫瘍特異的変異の位置におけるコピー数(CN
tumour)を決定するステップと
を更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
対象における、少なくとも1つの腫瘍特異的変異、または前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異を有する腫瘍細胞の集団を、潜在的治療標的として同定するための方法であって、前記方法は、
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法を少なくとも1回実行して、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異、または前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異を有する細胞の集団のCCFを推定するステップと、
前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異、または前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異を有する細胞の集団を、
前記CCFが少なくとも0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または少なくとも0.95であると推定されること、
前記CCFが、少なくとも2つの異なる時点において推定され、上昇していることがわかっていること、および、
前記CCFが、前記腫瘍の治療介入の前後に推定され、前記CCFが、前記治療介入後に減少していることがわかっていること
のうちの少なくとも1つが真であるならば、潜在的治療標的として選択するステップと
を含む、方法。
【請求項18】
腫瘍のクローン動態をモニタリングし、かつ/または前記腫瘍の治療をモニタリングするための方法であって、前記方法は、
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法を実行して、同じ対象について2つ以上の時点に、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異、または前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異を有する細胞の集団の前記CCFを推定するステップと、
前記2つ以上の時点における前記推定CCFを追跡して、前記CCFの経時的変化をモニタリングするステップと
を含む、方法。
【請求項19】
少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10個のもしくは少なくとも20個の腫瘍特異的変異のCCF、および/または前記腫瘍の細胞の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10個もしくは少なくとも20個のクローン的に別個の集団のCCFが推定される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異は、単一ヌクレオチドバリアント(SNV)、多重ヌクレオチドバリアント(MNV)、欠失変異、挿入変異、インデル変異、転座、ミスセンス変異、転座、融合、スプライス部位変異、または腫瘍細胞の遺伝物質の他の変化からなる群から選択される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異の結果として、変異したDNAがネオアンチゲンをエンコードし、かつ/または、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異は、抗がん治療の標的であるかもしくはこれをエンコードする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
がんを有する対象を治療するための方法であって、前記方法は、
請求項21に記載の方法を実行するステップであって、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異の前記推定CCFは、前記腫瘍特異的変異が、前記腫瘍内に、前記腫瘍特異的変異を治療の有効な標的にするのに十分なレベルでプレゼントにおいて存在することを示す、ステップと、
前記腫瘍特異的変異を標的にする抗がん治療を施すステップと
を含む、方法。
【請求項23】
前記CCFが少なくとも0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または少なくとも0.95であると推定されること、
前記CCFが、少なくとも2つの異なる時点において推定され、上昇していることがわかっていること、および、
前記CCFが、前記抗がん治療を施す前後に推定され、前記CCFが、前記治療を施した後に減少していることがわかっていること
のうちの少なくとも1つが真である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記対象における前記腫瘍は、転移したか、または転移が疑われ、
前記対象は、1つまたは複数の腫瘍の外科的除去を目的とした治療を受け、
前記対象は、1つまたは複数の抗がん治療薬を用いて治療され、かつ/または
前記対象は、がんが再発したか、または前記対象はがん再発のリスクがあることが疑われる、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
プロセッサと、
前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータ可読媒体と
を備える、システム。
【請求項26】
1つまたは複数のプロセッサによって実行されると、前記1つまたは複数のプロセッサに、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法のステップを実行させる命令を含む、1つまたは複数のコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年10月8日に出願されたGB2114434.0の優先権を主張し、その内容および要素は、参照によりあらゆる目的で本明細書に引用される。
本発明は、がん検出およびモニタリングに関し、特に、排他的ではないが、特定のゲノム事象を有する腫瘍における細胞のがん細胞割合(CCF)を推定および/または定量化するための方法に関する。時間の経過に伴う腫瘍のクローンアーキテクチャを特定することにより、時間の経過に伴う治療耐性の追跡が容易になり、クローナルであるかまたは再発時にクローナルになり、したがって最適治療標的となる事象の正確な識別が可能になる。
【背景技術】
【0002】
抵抗性がん細胞集団の増生は、腫瘍学における治療の失敗の一般的なメカニズムである。効果的な個人化された薬剤は、全ての腫瘍細胞内に存在する異常を標的化することに依拠する。しかしながら、腫瘍は不均一であり、包括的な腫瘍組織サンプリングは多くの場合に不可能である。固形腫瘍の多領域サンプリングが可能である場合であっても、空間的に制約されたクローンが過剰サンプリングまたは過小サンプリングされる場合があるため、大きなサンプリングバイアスが存在する場合がある。リキッドバイオプシーは、疾患の経過を通じて定期的間隔で代表的な腫瘍サンプリングを提供する可能性を有するが、現在のクローナルデコンボリューション方法は、ほとんどの試料を局所化または微小残存病変(MRD)設定において含む低腫瘍内容物試料(<5%)において無効である。
【0003】
単一領域または多領域バルクDNA配列決定データからがんのサブクローンアーキテクチャを再構成するための多岐にわたるアルゴリズムが開発された(例えば、Liu,L.Y.,Bhandari,V.,Salcedo,A.他「Quantifying the influence of mutation detection on tumor subclonal reconstruction(腫瘍サブクローナル再構成に対する変異検出の影響の定量化)」Nat Commun 11,6247(2020)を参照)。ヒトのがんにおける体細胞DNA変化の絶対定量化およびABSOLUTEアルゴリズムについては、Carter他「Nature Biotechnology(ネイチャーバイオテクノロジー)」2012,Vol.30,No.5,pp.413-421に記載されている。
【0004】
US2020/0248266は、通常、単一ヌクレオチドバリアント(SNV)等の腫瘍変異の多重PCRによる、対象が有する腫瘍のクローナル/サブクローナル変異プロファイルの理解、およびそれらのセルフリーDNA(cfDNA)における変異の検出に基づいて、腫瘍の再発を検出するための対象固有の方法を記述している。
【0005】
Frankell他、2022,[abstract].In:Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting 2022;2022 Apr8-13。Philadelphia(PA):AACR;Cancer Res 2022;82(12_Suppl):Abstract nr 2144は、肺TRACERxにおけるcfDNAを用いたクローン動態の全体サンプリングについて記載している。
【0006】
組織配列決定を用いて腫瘍のクローンアーキテクチャを特定するための方法が、過去10年にわたって開発されてきた。しかしながら、これらの方法は、通例、それらの超低純度、すなわち、これらの試料における非常に低いパーセンテージ、通例<1%のDNAのみが腫瘍に由来することに起因して、循環腫瘍DNA(ctDNA)試料に適用可能でない。これは、コピー数事象の正確な呼び出しを妨げ、ここで、全染色体または染色体の一部は増幅または削除されており、これは通例、全エクソームまたは全ゲノムのディープ配列決定であっても少なくとも10%の細胞充実度を要求し、ゲノム事象(すなわち、CCF)を有する腫瘍内の細胞のパーセンテージを正確に推定するために多数のこれらの事象を有するほとんどのがん腫において不可欠である。変異は、変異することが知られているゲノム位置の標的化された超ディープ配列決定を用いて超低細胞充実度試料において検出することができる。したがって、超低純度は、標準的なクローナリティ抽出方法を、大多数のctDNA試料において適用不可能であるか大きく不正確なものにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の検討事項に鑑みて考案された。本発明は、腫瘍モニタリングおよびCCF推定の従来の方法に伴う問題を緩和し、特に、或る特定の関連する利点を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、一致した腫瘍組織配列決定から、各変異位置におけるコピー数状態、および各変異が属するクローン群の推定値を取得する方法を展開し、この情報を、組織クローナリティ抽出方法からの式の再構成およびバックグラウンド配列決定ノイズの推定値と共に用いて、クローンアーキテクチャを正確にデコンボリューションする。本明細書に詳細に説明されるように、がん細胞割合(CCF)の結果として得られる推定値は、がんの治療および予後に関するサブクローナル腫瘍動態への実用的な洞察を提供することが可能である。いくつかの実施形態では、CCFのこれらの推定値は、サンプリングバイアスがより生じにくいため、組織サンプリングのみを用いて得られる推定値よりも優れている。
【0009】
したがって、本発明の第1の態様は、対象における少なくとも1つの腫瘍特異的変異のがん細胞割合(CCF)を推定するためのコンピュータにより実施される方法を提供し、この方法は、
(i)対象からの循環腫瘍DNA(ctDNA)を含むセルフリーDNAを含む試料から得られた配列データを提供することであって、配列データは、腫瘍特異的変異を示す試料中のリードの総数を、腫瘍特異的変異の位置におけるリードの総数(変異型および生殖細胞系列)で除算したものに等しいバリアントアレル頻度(VAF)を含むことと、
(ii)対象の腫瘍組織から得られたDNAを含む試料から得られた配列データを提供することであって、配列データは、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異の多重度と、腫瘍特異的変異の位置におけるコピー数(CN
tumour)とを含むことと、
(iii)腫瘍特異的変異の位置における生殖細胞系列コピー数(CN
normal)を提供することと、
(iv)セルフリーDNAを含む前記試料の純度の推定値を提供することであって、純度は、腫瘍細胞であるサンプリングされたDNAに寄与する細胞の比率であることと、
(v)式:
【数1】
に従って、少なくとも1つの腫瘍特異的変異のCCFの推定値を決定することであって、ここで、
VAFは(i)において提供され、多重度およびCN
tumourは(ii)において提供され、CN
normalは(iii)において提供され、純度は(iv)において提供されるものであることと
を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、セルフリーDNAを含む前記試料の純度の推定値を提供することは、
クローナル変異であると以前に判断された複数の更なる腫瘍特異的変異の各々について、セルフリーDNAを含む試料中の更なる変異のVAF、更なる変異の多重度、更なる変異のCN
tumour、および更なる変異の位置におけるCN
normalを提供することと、
式:
【数2】
に従って、前記複数の更なる変異の各々の変異特異的純度を決定することと、
前記複数の更なる変異の各々の変異特異的純度値を組み合わせる(例えば、平均する)ことによって、前記試料の純度を推定することと
を含む。
【0011】
いくつかの場合、少なくとも1つの腫瘍特異的変異は、腫瘍細胞の単一のサブクローナル集団に属する少なくとも2つ、3つ、4つのまたは少なくとも5つの腫瘍特異的変異を含む。
【0012】
いくつかの場合、単一のサブクローナル集団に属する前記腫瘍特異的変異の各々の推定CCFは、腫瘍細胞のサブクローナル集団のためのCCF推定値を提供するように組み合わされる(例えば、平均される)。
【0013】
本発明の方法のステップの順序、およびステップの時間間隔は特に制限されていない。例えば、腫瘍組織試料およびセルフリーDNA試料を同時に取得することができることが特に考慮されている。これは、本発明のECLIPSE方法が、腫瘍組織試料にのみ由来する変異またはがん細胞集団について行われるクローナリティの判断の信頼性を改善することができるという点で、特に利点を有することができる。いくつかの場合、セルフリーDNA試料(例えば、血漿試料)は、腫瘍組織試料と比較して、後の時点(例えば、数時間、数日、数か月または更には数年後)に取得することができる。複数のセルフリーDNA試料を、様々な時点に、例えば特にがん治療の文脈においてがんのモニタリングの一部として取得することができることが特に考慮されている。
【0014】
いくつかの場合、細胞の所与のサブクローナル集団からの腫瘍特異的変異を示す試料におけるリードの数が、真正である可能性が高いかまたは配列決定誤りに起因したものであるかを推定するために、バックグラウンド配列決定誤りの訂正が適用される。これは、(i)サブクローナル集団からの腫瘍特異的変異を示す試料におけるリードの総数と、(ii)腫瘍特異的変異の各々の位置におけるバックグラウンド配列決定誤り率に、腫瘍特異的変異の各々の位置におけるリードの総数を乗算したものとを比較するために、統計的検定を適用することを伴うことができる。統計的検定を用いて、特定のサブクローナル集団が試料内に存在するか否かを判断することができ、例えば、統計的検定のp値が0.05よりも高い場合、細胞のサブクローナル集団は、試料内に存在しないと考えることができる。いくつかの場合、統計的検定は、二項検定、ポアソン検定、ウィルコクソンの1標本順位和検定(予測バックグラウンド分布を用いる)、カイ二乗/フィッシャーの正確検定(予測基準およびバリアントカウントを、観測された基準およびバリアントカウントと比較する)からなる群から選択することができる。
【0015】
いくつかの場合、対象の腫瘍組織から得られたDNAを含む試料は、セルフリーDNAを含む試料よりも早い時点に得られる。特に、組織生検を取得し、その後、1つまたは複数のリキッドバイオプシーが続き、本発明の方法を、経時的な特定の変異および/または腫瘍クローン集団のCCFの変化を追跡するために適用することができる。
【0016】
いくつかの場合、様々な時点に、対象からの、循環腫瘍DNA(ctDNA)を含むセルフリーDNAを含む複数の試料から配列データが得られる。特に、様々な時点は、腫瘍の治療の過程中の様々な時点を含むことができる。
いくつかの場合、セルフリーDNAを含む試料は、血漿試料、血液試料、尿試料または髄液(CSF)試料等の液体試料であり得る。
【0017】
いくつかの場合、セルフリーDNAを含むそのまたは各試料の純度は、5%以下、例えば4%、3%、2%、1%または0.5%以下であり得る。本発明者らは、本発明のECLIPSE方法が、いくつかの実施形態では、微小残存病変(MRD)および術後がん治療の文脈において頻繁に遭遇するもの等の、低純度の試料における場合であっても、CCFの信頼性のある推定を可能にすることができることがわかった。
【0018】
いくつかの場合、少なくとも1つの腫瘍特異的変異は、ネオアンチゲンの疑いがあるものまたはネオアンチゲンとわかっているものを発生させ、かつ/または抗がん治療の標的を発生させる。当業者であれば理解するように、治療を受けている患者が特定の変異(例えば、EGFR変異)を有するとき、複数の抗がん剤が使用され、または優れた結果を示す。
【0019】
いくつかの場合、方法は、少なくとも1つの腫瘍特異的変異、および/または少なくとも1つのクローナルもしくはサブクローナル腫瘍細胞集団の決定されたCCFをユーザに提供することを更に含む。これは、決定されたCCF(例えば、CCFまたはクローナリティの度合いの割合もしくは小数値または他のインジケーション)をユーザインタフェース上に表示するか、またはユーザに例えばネットワークを介して送信することを伴うことができる。
【0020】
第2の態様において、本発明は、対象における少なくとも1つの腫瘍特異的変異のがん細胞割合(CCF)を推定するための方法を提供し、この方法は、
対象から得られたcfDNA含有試料を提供することであって、試料はctDNAを含むことと、
前記cfDNA含有試料から、または前記cfDNA含有試料から準備されたライブラリから、DNAを配列決定し、配列データを生成することと、
前記配列データを用いて本発明の第1の態様の方法を実行し、それによって、対象における少なくとも1つの腫瘍特異的変異のCCFを推定することと
を含む。
【0021】
いくつかの場合、方法は、
対象の腫瘍組織から得られたDNAを含む試料を提供することと、
腫瘍組織から得られたDNAを含む前記試料から、または腫瘍組織から得られたDNAを含む前記試料から準備されたライブラリから、DNAを配列決定し、腫瘍組織配列データを生成することと、
生成された腫瘍組織配列データを分析して、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異の多重度、および腫瘍特異的変異の位置におけるコピー数(CNtumour)を決定することと
を更に含む。
【0022】
第3の態様において、本発明は、対象における、少なくとも1つの腫瘍特異的変異、または前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異を有する腫瘍細胞の集団を、潜在的治療標的として同定するための方法を提供し、この方法は、
本発明の第1の態様の方法を少なくとも1回実行して、少なくとも1つの腫瘍特異的変異、または前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異を有する細胞の集団のCCFを推定することと、
前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異、または前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異を有する細胞の集団を、
CCFが少なくとも0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または少なくとも0.95であると推定されること、
CCFが、少なくとも2つの異なる時点において推定され、上昇していることがわかっていること、および、
CCFが、前記腫瘍の治療介入の前後に推定され、CCFが、前記治療介入後に減少していることがわかっていること
のうちの少なくとも1つが真であるならば、潜在的治療標的として選択することと
を含む。
【0023】
第4の態様において、本発明は、腫瘍のクローン動態をモニタリングし、かつ/または腫瘍の治療をモニタリングするための方法を提供し、この方法は、
本発明の第1の態様の方法を実行して、同じ対象について2つ以上の時点に、前記少なくとも1つの腫瘍特異的変異、または少なくとも1つの腫瘍特異的変異を有する細胞の集団のCCFを推定することと、
前記2つ以上の時点における推定CCFを追跡して、CCFの経時的変化をモニタリングすることと、
を含む。
【0024】
いくつかの場合、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10個のもしくは少なくとも20個の腫瘍特異的変異のCCF、および/または前記腫瘍の細胞の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10個もしくは少なくとも20個のクローン的に別個の集団のCCFが推定される。
【0025】
いくつかの場合、本発明の任意の態様によれば、少なくとも1つの腫瘍特異的変異は、単一ヌクレオチドバリアント(SNV)、多重ヌクレオチドバリアント(MNV)、欠失変異、挿入変異、インデル変異、転座、ミスセンス変異、転座、融合、スプライス部位変異、または腫瘍細胞の遺伝物質の他の変化からなる群から選択される。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、本発明のECLIPSE方法が、VAFおよびコピー数を或る精度で測定することができる任意の遺伝的変更に適用可能であると考える。これは、特に、SNV、多重ヌクレオチドバリアント、小さな挿入/欠損および構造バリアントを含む。或る特定の実施形態において、本明細書に詳細に記載されるように、少なくとも1つの腫瘍特異的変異は単一ヌクレオチドバリアントである。
【0026】
いくつかの場合、少なくとも1つの腫瘍特異的変異の結果として、変異したDNAがネオアンチゲンをエンコードし、かつ/または、少なくとも1つの腫瘍特異的変異は、抗がん治療の標的であるかもしくはこれをエンコードする。
【0027】
第5の態様において、本発明は、がんを有する対象を治療するための方法を提供し、この方法は、
本発明の任意の態様の方法を実行することであって、少なくとも1つの腫瘍特異的変異の推定CCFは、腫瘍特異的変異が、腫瘍内に、腫瘍特異的変異を治療の有効な標的にするのに十分なレベルでプレゼントにおいて存在することを示すことと、
前記腫瘍特異的変異を標的にする抗がん治療を施すことと
を含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、
CCFが少なくとも0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または少なくとも0.95であると推定されること、
CCFが、少なくとも2つの異なる時点において推定され、上昇していることがわかっていること、および、
CCFが、前記抗がん治療を施す前後に推定され、CCFが、前記治療を施した後に減少していることがわかっていること
のうちの少なくとも1つが真であり得る。
【0029】
いくつかの場合、対象の腫瘍は、転移したか、または転移が疑われ、対象は、1つまたは複数の腫瘍の外科的除去を目的とした治療を受け、対象は、1つまたは複数の抗がん治療薬を用いて治療され、かつ/または対象は、がんが再発したか、または対象はがん再発のリスクがあることが疑われる。
【0030】
第6の態様において、本発明はシステムを提供し、このシステムは、
プロセッサと、
プロセッサによって実行されると、プロセッサに、本発明の第1の態様の方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータ可読媒体と
を備える。
【0031】
第7の態様において、本発明は、1つまたは複数のプロセッサによって実行されると、1つまたは複数のプロセッサに、本発明の第1の態様の方法のステップを実行させる命令を含む1つまたは複数のコンピュータ可読媒体を提供する。
【0032】
本発明の任意の態様によれば、対象は任意のがんを有し得る。いくつかの実施形態では、がんは固形腫瘍(原発および/または転移)であってもよい。いくつかの場合、がんは、がん細胞の少なくとも一部分のゲノムおよび/またはエクソーム中に、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100、少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも5000、または少なくとも10,000個のがん特異的変異(すなわち、対象の1つまたは複数の非がん細胞において見られるような対象の生殖細胞系列ゲノム配列と比較した変異)を有するがんであってもよい。
【0033】
いくつかの場合、がんは、肺がん(小細胞、非小細胞および中皮腫)、卵巣がん、乳がん、子宮内膜がん、腎臓がん(腎細胞)、脳腫瘍(神経膠腫、星状細胞腫、膠芽腫)、黒色腫、メルケル細胞がん、明細胞腎細胞がん(ccRCC)、リンパ腫、小腸がん(十二指腸および空腸)、白血病、膵臓がん、肝胆道腫瘍、胚細胞がん、前立腺がん、頭頸部がん、甲状腺がんおよび肉腫であってもよい。例えば、がんは、肺腺がんまたは肺扁平上皮がんなどの肺がんであってもよい。別の例として、がんは、黒色腫であってもよい。実施形態において、がんは、黒色腫、メルケル細胞がん、腎がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、膀胱尿路上皮がん(BLAC)および頭頸部扁平上皮がん(HNSC)およびマイクロサテライト不安定性(MSI)高値がんから選択されてもよい。いくつかの実施形態では、がんは、非小細胞肺がん(NSCLC)である。他の実施形態において、がんは黒色腫である。
【0034】
本発明は、記載の態様および好ましい特徴の組み合わせが明確に許容不可能であるかまたは明確に回避される場合を除いて、そのような組み合わせを含む。
ここで、本発明の原理を示す実施形態および実験を、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】ECLIPSEアーキテクチャの図式的概観図を示す。
【
図2】組織サンプリングバイアス、および血漿サンプリングによるその組織サンプリングバイアスの潜在的回避の概略図を示す。
【
図3】ECLIPSEを用いて(A)またはECLIPSEを用いずに(B)手術前に取得された血漿中で測定されたがん細胞割合(CCF)(y軸)と、手術時に多領域組織サンプリングを用いて測定されたCCF(x軸)と間の相関関係を示す。差し込み図は、ドットサイズによる血漿純度のスケールを示す。
【
図4】(左)血漿中で検出されたクローンを、1つの領域に存在するか、または2つ以上の領域に存在するクローンのパーセンテージの棒グラフを示し、(右)血漿中で後続する変異数のボックスプロットを示す。
【
図5】「勝者の呪い」効果の概略図の描写を示し、単一領域サブクローンは、組織サンプリングを用いて過剰サンプリングされている場合がある。
【
図6】(左)(ECLIPSEを用いて)血漿から、および組織から決定されたCCFのボックスプロットを示す。これは、検出された、単一の領域に特有のサブクローンについて、CCFが通例、右側に描写された組織サンプリングバイアス効果に起因して、組織中よりも血漿中において低いことがわかったことを示す。
【
図7】血漿および組織サンプリングのCCFボックスプロットを、腫瘍体積(<20cm
3、>20cm
3かつ<100cm
3、または>100cm
3)で分割したものを示す。
【
図8】「クローナル錯覚」現象を克服するためのECLIPSEベースの血漿サンプリングの能力の描写を示す。
【
図9】ctDNAおよびECLIPSEを用いた腫瘍クローン動態を追跡する例示的な事例を示す。
【
図10】ctDNAおよびECLIPSEを用いた腫瘍クローン動態を追跡する例示的な事例を示し、ここでは、血漿サンプリングが、組織生体によって捕捉されていないサブクローン系統を検出することがわかった。
【
図11】組織サンプリングと比較して、ECLIPSEを用いてctDNAリキッドバイオプシーによって追加のサブクローンが検出されたことを示す。
【
図12】組織サンプリングと比較して、ECLIPSEを用いたctDNAサンプリングがよりクローン的に複雑なピクチャ(よりポリクローナルかつ多系統)を提供したことを示す。
【
図13】これらの試料において得られる低いctDNA割合にかかわらず、アジュバント化学療法および微小残存病変(MRD)の設定においてECLIPSEによってctDNAを用いてクローン構造を追跡することが可能であったことを示す。
【
図14】モノクローナル(青)、ポリクローナル(黄色)および多系統(赤)に分割された、全体生存(左)および再発後生存(右)についてのKM生存曲線を示す。留意すべきことに、よりクローン的に複雑な腫瘍が、より攻撃的であることがわかった。
【
図15】サブクローンサイズ(すなわち、ECLIPSEを用いて血漿ctDNA試料を用いて計算されたCCF)と、転移能との間の関係を示す。転移に進むサブクローンは、原発腫瘍においてより大きかったサブクローンであり(A)、転移を起こす患者は、それらの原発腫瘍においてより大きなサブクローンを有する傾向にある。
【
図16】ctDNAおよびECLIPSEを用いた腫瘍クローン動態を追跡する更なる例示的な事例を示し、血漿サンプリングが、組織生体によって捕捉されていないサブクローン系統を検出することがわかった。手術後の示された時点における治療が示されている。
【
図17】異なる転移性播種パターンを有する長手方向の進展の9つの例を示す。
【
図18】更なるデータ(
図14を参照)を用いた改善された分離を示す生存解析を示す。
【
図19】臨床および他の要因を制御する全体生存の多変量モデルを示す。
【
図20】サブクローンサイズ(すなわち、ECLIPSEを用いて血漿ctDNA試料を用いて計算されたCCF)と、転移能との間の関係を示す。結果は、更なる情報(
図15を参照)を用いて再発サブクローンと非再発サブクローンとの間の差をより明確に示す。
【
図21】(P=0.01における)各試料における配列決定およびバックグラウンドノイズの深さを所与として、平均サブクローンの存在を検出するのに必要とされる変異リードの推定数を試料ごとに示す。次に、リードの数は、以下にプロットされる各試料において検出可能な最小がん細胞割合を表すECLIPSEを用いてがん細胞割合に変換される。これは、0.1%において、本発明のECLIPSE方法が、20%のがん細胞割合においてサブクローンを検出することができ、それによって、ECLIPSEの検出限界(LOD)のインジケーションを提供することを示す。
【
図22】本発明のECLIPSE方法が、少なくとも0.1%のctDNA割合のctDNA試料を特性評価することができるのに対し、標準的な方法は、少なくとも10%のctDNA割合を有する試料に限定されることを示す。この文脈において、クローン再構成の「標準的な方法」は、全エクソームまたは全ゲノムのいずれかの広い配列決定に依拠する、PyClone(doi.org/10.1038/nmeth.2883)、DPClust(github.com/Wedge-lab/dpclust)、DeCiFer(github.com/raphael-group/decifer)等の腫瘍組織ベースのクローン構築の標準として用いられるものと考えられた。これらのおよび類似の方法は、クローン構造を決定するために血漿試料に適用され、最低でも>10%の腫瘍割合を要求する、唯一の有効性確認された方法である。例えば、去勢抵抗性転移性前立腺がんのNature、Herberts他、2022における最近の論文は、それらの全ゲノム配列決定ベースのクローナリティ解析について、少なくとも30%の腫瘍割合のctDNA試料を有する患者のみを含んだ。 本発明によるctDNA陽性試料の16%のみが>10%のctDNA割合であったが、64%は少なくとも0.1%のctDNA割合を有する。TRACERxの17%のみが、10%のctDNA割合の再発時のctDNA試料を有するのに対し、患者の73%は再発時に>0.1%のctDNA試料を有する。したがって、ECLIPSEは、患者のはるかにより大きな割合が、ctDNAを用いて再発時にクローン的に特性評価されることを可能にする。
【
図23】再発組織からの再発時のクローン構造を特性評価する問題を克服するための本発明のECLIPSE方法の使用を示す。 再発組織生検を得て再発時のクローン構造を特性評価することは困難である。TRACERxでは、事例の44%においてのみ再発生検を取得することが可能であるが、本発明者らは、これを、>0.1%のctDNA割合の血漿と組み合わせることによって、事例の82%を特性評価することができた。これは、組織生検を補完するために、本発明のECLIPSE方法をリキッドバイオプシー試料に適用することによって、再発クローナリティ特性評価を改善することができることを示す。
【
図24】ECLIPSEが、1/3の患者が、再発時にクローナルボトルネックを受ける、すなわち、サブクローンががん細胞の100%を占めるまで成長することを示す。これらの患者において、クローナル腫瘍遺伝子変異量(TMB)は、(以前にサブクローナルであった変異がクローナルになるため)平均で20%増大する。クローナルTMBは、免疫療法反応のマーカーとして調査されている。これらのボトルネックは、臨床試験における治療標的化のために調査されているクローナルネオアンチゲンの数も増大させる。
【
図25】「クローナル錯覚」現象を克服するためのECLIPSEベースの血漿サンプリングの能力の図を示す。パネル(A)および(B)は、
図8に示すデータを再現する。パネル(C)は、追加の解析の結果であり、血漿CCFを用いてクローナル対クローナル錯覚を予測するための0.81のAUCを示す。
【
図26】DNAコピー数を考慮に入れることによって、ECLIPSEがctDNA腫瘍純度(腫瘍細胞である、cfDNAが由来する細胞の割合)を測定することができ、入力DNA質量および血漿体積と組み合わせて、患者から取得された血漿のミリリットルあたりに存在した正常(非腫瘍)ゲノムおよび腫瘍ゲノムの数の推定を可能にすることができることを示す。これは、本発明者らの知る限り、これまで推定されてこなかった。これは、腺がんにおいて、平均クローナルvaf(当分野で用いられる共通尺度)を、ct走査により測定された腫瘍体積とより強く相関付け、コピー数および血漿体積について補正することにより、腺がんにおいてECLIPSEを用いて腫瘍疾患負荷量をより良好に測定することができることを示唆する。
【
図27】は、異なるグランドトゥルース、ctDNA割合、配列決定アッセイに入力されたナノグラムDNA、サブクローンごとに追跡される変異数、およびサブクローナルがん細胞割合にわたる、既知のアレル頻度でのスパイクイン(spike-in)変異を有する計画的な(contrived)DNA試料の配列決定を用いた、本発明のECLIPSE方法によるサブクローン検出の検出限界(LOD)推定値を示す。 アレル頻度における異なるグランドトゥルーススパイクを有する試料の対からの変異は、インシリコで組み合わされ、単一のサブクローンを表すサブクローナル変異の各集合のグランドトゥルースクローナルctDNA割合およびがん細胞割合を生成する、クローナルおよびサブクローナルバリアントとして指定された。398個の異なるスパイクイン実験(各々50個の変異)からの異なる変異集合(各々が1つのサブクローンを形成する)を組み合わせて、グランドトゥルーススパイクインデータに基づいて76,236個のサブクローンを生成し、これらの試料の配列決定において観測されたアレル頻度にECLIPSEを適用し、各サブクローンがECLIPSEによって検出可能であるか否か。条件ごとに12個の複製が利用可能であり、複製について、検出されたサブクローンの%が計算され、複製にわたる検出率の平均および95%信頼区間が計算される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
ここで、本発明の態様および実施形態が、添付の図面を参照して論考される。更なる態様および実施形態は、当業者には明らかであろう。本文において言及される全ての文書は参照により本明細書に引用される。
【0037】
「試料」は、本明細書において用いられるとき、ゲノム配列決定(例えば、全ゲノム配列決定、全エクソーム配列決定)等のゲノム解析のためにゲノム材料が得ることができる、細胞または組織試料、生体液、抽出物(例えば、対象から得られたDNA抽出物)であり得る。試料は、対象から得られた細胞、組織、生体液試料であり得る(例えば、生検)。そのような試料は、「対象試料」と呼ぶことができる。特に、試料は、血液試料、または腫瘍試料、またはそれに由来する試料であり得る。試料は、対象から新しく得られた試料であってもよく、ゲノム解析を行う前に処理および/または保管された(例えば凍結されたか、固定されたか、または1つもしくは複数の精製、濃縮、もしくは抽出ステップに供された)試料であってもよい。試料は、細胞または組織培養試料であり得る。したがって、試料は、本明細書において記載されるとき、対象から得られた生体試料からのものであろうと、例えば細胞系から得られた試料からのものであろうと、細胞、またはそれに由来するゲノム材料を含む任意のタイプの試料を指すことができる。実施形態において、試料は、ヒト対象等の対象から得られた試料である。試料は、好ましくは、哺乳類(例えば、哺乳動物細胞試料、またはネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等の哺乳類対象からの試料等)から、好ましくはヒト(例えば、ヒト細胞試料またはヒト対象からの試料)からのものである。更に、試料は輸送および/もしくは保管することができ、回収は、ゲノム配列データの取得(例えば配列決定)の場所から離れた場所で行うことができ、かつ/または、本明細書に記載の任意のコンピュータにより実施される方法のステップは、試料回収の場所から離れた場所および/もしくはゲノムデータの取得(例えば配列決定)の位置から離れた場所で行うことができる(例えば、コンピュータにより実施される方法のステップは、例えば「クラウド」プロバイダによって、ネットワークコンピュータを用いて行うことができる)。
【0038】
対象は、固形腫瘍(原発および/または転移)を含むがんを有する場合がある。いくつかの場合、がんは、がん細胞の少なくとも一部分のゲノムおよび/またはエクソーム中に、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100、少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも5000、または少なくとも10,000個のがん特異的変異(すなわち、対象の1つまたは複数の非がん細胞において見られるような対象の生殖細胞系列ゲノム配列と比較した変異)を有するがんであってもよい。いくつかの場合、がんは、肺がん(小細胞、非小細胞および中皮腫)、卵巣がん、乳がん、子宮内膜がん、腎臓がん(腎細胞)、脳腫瘍(神経膠腫、星状細胞腫、膠芽腫)、黒色腫、メルケル細胞がん、明細胞腎細胞がん(ccRCC)、リンパ腫、小腸がん(十二指腸および空腸)、白血病、膵臓がん、肝胆道腫瘍、胚細胞がん、前立腺がん、頭頸部がん、甲状腺がんおよび肉腫から選択されてもよい。例えば、がんは、肺腺がんまたは肺扁平上皮がんなどの肺がんであってもよい。別の例として、がんは、黒色腫であってもよい。実施形態において、がんは、黒色腫、メルケル細胞がん、腎がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、膀胱尿路上皮がん(BLAC)および頭頸部扁平上皮がん(HNSC)およびマイクロサテライト不安定性(MSI)高値がんから選択されてもよい。いくつかの実施形態では、がんは、非小細胞肺がん(NSCLC)である。他の実施形態において、がんは黒色腫である。
【0039】
「混合試料」は、複数の細胞型または複数の細胞型に由来する遺伝物質を含むことが想定される試料を指す。本開示の文脈において、混合試料は、典型的には、腫瘍細胞を含む試料であるか、または腫瘍細胞、もしくは腫瘍細胞に由来する遺伝物質を含むことが想定(予測)される。例えば腫瘍試料等の、対象から得られる試料は、典型的には、(1つまたは複数の精製および/または分離ステップを受けない限り)混合試料である。典型的には、試料は、腫瘍細胞および少なくとも1つの他の細胞型(および/またはそれに由来する遺伝物質)を含む。例えば、混合試料は腫瘍試料であってもよい。「腫瘍試料」は、腫瘍に由来する試料または腫瘍から得られた試料を指す。そのような試料は腫瘍細胞および正常(非腫瘍)細胞を含むことができる。正常細胞は、免疫細胞(例えば、リンパ球等)および/または他の正常(非腫瘍)細胞を含むことができる。そのような混合試料におけるリンパ球は、「腫瘍浸潤リンパ球」(TIL)と呼ぶことができる。腫瘍は、固形腫瘍または非固形もしくは血液系腫瘍であってもよい。腫瘍試料は、原発腫瘍試料、腫瘍関連リンパ節試料、または対象からの転移部からの試料であってもよい。腫瘍細胞、または腫瘍細胞由来の遺伝物質を含む試料は、体液試料であってもよい。したがって、腫瘍細胞由来の遺伝物質は、エクソーム中の循環腫瘍DNAまたは腫瘍DNAであってもよい。これの代わりに、またはこれに加えて、試料は循環腫瘍細胞を含んでもよい。混合試料は、遺伝物質を抽出するために処理された細胞、組織または体液の試料であってもよい。生体試料から遺伝物質を抽出するための方法が当該技術分野において既知である。混合試料は、試料内の複数の細胞型または複数の細胞型に由来する遺伝物質の比率を変更することができる1つまたは複数の処理ステップを経ている場合がある。例えば、腫瘍細胞を含む混合試料は、腫瘍細胞における試料を濃縮するように処理されている場合がある。したがって、精製された腫瘍細胞の試料は、試料が、特定の目的で、純粋である(すなわち、1または100%の腫瘍割合を有する)ことが想定され得る場合であっても、少量の他の型の細胞が存在し得るということに基づいて、「混合試料」と呼ぶことができる。
【0040】
本明細書において用いられるとき、「組織試料」または「腫瘍組織から得られたDNAを含む試料」という用語は、1つまたは複数の細胞または細胞物質の一部分が腫瘍から抽出される、組織生検等の腫瘍組織から直接得られた試料、またはctDNAを含むセルフリーDNA(例えば、血漿試料)等の腫瘍組織から間接的に得られた試料を指すことができる。当業者には理解されるように、いくつかの場合、特に、セルフリーDNA試料の純度が低いとき、組織試料が腫瘍から直接得られることが望ましいか更には必須となる。しかしながら、腫瘍が大きいとき、および/またはより大量のctDNAをシェディングすることが知られるがんの型において等、純度が高い(例えば、>10%)場合、セルフリーDNA試料から、がん特異的な変異およびがん特異的体細胞コピー数変化を確実に特定することが可能となる。そのような実施形態において、比較的高い純度(例えば、>10%)でctDNAを含有するセルフリーDNA試料(例えば、血漿試料)を配列決定し、例えば、バリアントコール、コピー数特定を実行し、かつ/またはがん特異的変異を特定のがん細胞クローン集団に割り当てるのに十分な深さで、全エクソームまたは全ゲノム配列を得ることができる。したがって、本発明によれば、「腫瘍組織から得られたDNAを含む試料」を参照するこれらのステップは、適切に高い純度(例えば、>5%または>10%)のセルフリーDNA試料(例えば、ctDNAを含有する血漿試料)に関して行われた、例えばCNtumourまたは多重度の決定を参照するように行うことができる。対象からの循環腫瘍DNA(ctDNA)、および対応する決定(例えば、バリアントアレル頻度(VAF))を含む、セルフリーDNAを含む試料から得られた配列データを参照するこれらのステップは、同じセルフリーDNAまたは異なるセルフリーDNA試料(後の試料または複数のセルフリーDNA試料等)から導くことができる。このようにして、腫瘍に関する「ベースライン」情報(例えば、複数のがん特異的変異のアイデンティティ、ならびにそれらの対応するCNtumourおよび多重度値を含む)を、直接腫瘍組織試料から、または十分に高い純度の血漿試料から得ることができる。次に、腫瘍の特性およびクローン動態を、低純度(<5%)の血漿試料、および本発明のECLIPS方法を用いて経時的に追跡および/またはモニタリングし、特に、がん細胞の特定の変異およびサブクローン集団のCCFを推定し、特定の変異もしくはサブクローン集団の損失を特定し、かつ/または以前のサブクローン集団が有していた特定の変異または変異の集合がクローナルになった、すなわち、100%から統計的に区別不可能なCCFを有することを特定することができる。クローナル変異は、CCFデータにおいて観測されるノイズに依拠して、そのCCFが或る特定の閾値未満に降下する場合、部分的にまたは完全に損失したものとして特定することができる。この閾値は、ノイズが非常に少ないデータにおいて0.8と高く、ノイズが大量のデータにおいて、高い特異性を保持するために0.2と低くなり得る。更に、腫瘍細胞のサブセット内にのみある(すなわち、サブクローナルである)ことが以前に推定された変異またはクローンは、100%またはほぼ100%の細胞(すなわち、クローナル)における腫瘍にわたって拡大し、優性になり得る。これは、変異のCCFまたはクローン中の変異群のCCFが、100%のCCFから、またはクローナル変異におけるCCFから区別可能でない場合、ECLIPSEによって推定されるCCFを用いて検出することができる。特に、ウィルコクソンの検定は、所与のサブクローンのCCFを、クローナルであると推定される変異からのCCFと比較するために実行することができる。結果として得られるP値が、選択された閾値を上回っている、例えば>0.05であり、このサブクローンの平均CCFが0.8を超えている場合、そのようなサブクローンにおける変異が、100%またはほぼ100%の細胞においてクローナルになる可能性が最も高いと推定することができ、これにより、例えば、これらの変異が、ネオアンチゲンであるかまたは他の形で治療的に作用可能である(例えば、EGFR変異)と判断される場合、より魅力的な治療標的となる。このようにして、本発明のECLIPSE方法は、或る特定の実施形態において、経時的に、1つまたは複数の治療発明中、またはこれに続いて(手術により、または放射線、薬剤または免疫治療のいずれであろうと)、クローン動態およびがんの進化を追跡する比較的非侵襲的方法を提供することができる。
【0041】
「純度」という用語(場合によっては、「腫瘍純度」または「腫瘍割合」もしくは「試料細胞充実度」または異常細胞割合(ACF)とも呼ばれる)は、腫瘍細胞である混合試料内のDNA含有細胞の比率、または試料内の腫瘍細胞および非腫瘍細胞からの遺伝物質の特定の混合物が結果として生じることが想定される等価な比率を指す。試料中の純度を決定するためのいくつかの方法が当該技術分野において既知である。例えば、細胞または組織試料の文脈において、純度は、病理スライド(例えば、試料の1つまたは複数の代表的エリア内の腫瘍細胞をカウントすることによる、ヘマトキシリン-エオジン(H&E)染色スライドまたは他の組織化学もしくは免疫組織化学的スライド)を解析することによって、またはフローサイトメトリー等の高スループットアッセイを用いて推定することができる。遺伝物質を含む試料の文脈において、純度は、例えばASCAT(Van Loo他、2010)、ABSOLUTE(Carter他、2012)、またはichorCNA(Adalsteinsson他、2017)等の、腫瘍および生殖細胞系列ゲノムのデコンボリューションを試みる配列解析プロセスを用いて測定されてきた。有利には、純度は、本発明のECLIPSE方法を用いて測定することができ、1つまたは複数の、好ましくはいくつかの腫瘍特異的変異は、腫瘍の全細胞内に存在するものとして、すなわち変異が真にクローナルであるものとして特定される。腫瘍変異がクローナルであるという判断は、PyClone(Roth、A.、Khattra、J,Yap他「PyClone:statistical inference of clonal population structure in cancer(PyClone:がんにおけるクローン集団の統計的推定)」Nat Methods 11,396-398(2014)、https://doi.org/10.1038/nmeth.2883)またはDPclust(Nik-Zainal、Serena他「The life history of 21 breast cancers(21の乳がんのライフヒストリー)」Cell vol.149,5(2012):994-1007.doi:10.1016/j.cell.2012.04.023.)等の既知のツールを用いて行うことができる。本明細書に記載のように、変異がクローナルである、すなわち、CCF=1であることが既知である場合、式1A(下記参照)は、所与のクローナル変異のCNnormal、多重度、VAFおよびCNtumourから純度を計算する式2(下記参照)を与えるように再構成することができる。式2によって与えられるような2つ以上の変異特異的純度値を組み合わせる(例えば、平均する)ことによって、純度が<5%である場合であっても、試料純度の(例えば、cfDNA含有試料の)信頼性のある尺度を導出することが可能である。
【0042】
「正常な試料」または「生殖細胞系列試料」は、腫瘍細胞、または腫瘍細胞に由来する遺伝物質を含まないことが想定される試料である。生殖細胞系列試料は、血液試料、組織試料、または対象からの末梢血単核細胞の試料等の精製された試料であってもよい。同様に、「正常」、「生殖細胞系列」、または「野生型」という用語は、配列または遺伝子型を指すとき、腫瘍細胞以外の細胞の配列/遺伝子型を指す。生殖細胞系列試料は、小さな比率の腫瘍細胞またはそれに由来する遺伝物質を含むことができ、それにもかかわらず、実用目的で、前記細胞または遺伝物質を含まないと想定することができる。換言すれば、全ての細胞または遺伝物質は正常であると想定することができ、かつ/または、この想定に適合しない配列データは無視することができる。
【0043】
「配列データ」という用語は、特定の配列を有する試料内のゲノム物質の存在および好ましくは量も示す情報を指す。そのような情報は、例えば次世代配列決定(NGS)、例えば全エクソーム配列決定(WES)、全ゲノム配列決定(WGS)、または捕捉ゲノム座位(標的化またはパネル配列決定)の配列決定等の配列決定技術を用いて、または、例えばコピー数変動アレイ、もしくは他の分子カウントアッセイ等のアレイ技術を用いて得ることができる。NGS技術が用いられるとき、配列データは、特定の配列を有する配列決定リードの数のカウントを含むことができる。アレイ技術等の非デジタル技術が用いられるとき、配列データは、例えば適切な対照との比較により、特定の配列を有する試料における配列数を示す信号(例えば、強度値)を含むことができる。配列データは、当該技術分野における既知の方法(例えば、Bowtie(Langmead他、2009)等)を用いて、基準配列、例えば基準ゲノムにマッピングすることができる。したがって、配列決定リードまたは等価な非デジタル信号のカウントは、特定のゲノム位置(ここで、「ゲノム位置」は、配列データがマッピングされた基準ゲノムにおける位置を指す)に関連付けることができる。更に、ゲノム位置は、変異を含むことができ、この場合、配列決定リードまたは等価な非デジタル信号のカウントは、特定のゲノム位置における可能なバリアント(「アレル」とも呼ばれる)の各々に関連付けることができる。試料中の特定の位置における変異の存在を特定するプロセスは、「バリアントコール」と呼ばれ、当該技術分野において既知の方法(例えば、GATK HaplotypeCaller、https://gatk.broadinstitute.org/hc/en-us/articles/360037225632-HaplotypeCaller等)を用いて行うことができる。例えば、配列データは、特定のゲノム位置における生殖細胞系列(「基準」と呼ばれる場合もある)アレルに一致するリード(または等価な非デジタル信号)数のカウントと、ゲノム位置における変異アレル(「代替アレル」と呼ばれる場合もある)に一致するリード(または等価な非デジタル信号)数のカウントとを含むことができる。
【0044】
更に、配列データを用いて、ゲノムに沿ったコピー数プロファイルを、当該技術分野において既知の方法を用いて推測することができる。コピー数プロファイルはアレル特異的であってもよい。本発明の文脈において、コピー数プロファイルはアレル特異的であり、かつ腫瘍/正常試料特異的である。換言すれば、本発明において用いられるコピー数プロファイルは、好ましくは、腫瘍および正常細胞の混合物を含む試料を解析し、試料中の腫瘍細胞および正常細胞のアレル特異的コピー数プロファイルを生成するように設計された方法を用いて得られる。混合試料のアレル特異的コピー数プロファイルは、例えばASCAT(Van Loo他、2010)を用いて、配列データから(例えば、上記で説明したリードカウントを用いて)得ることができる。他の方法も既知であり、等しく適している。好ましくは、本発明の文脈において、アレル特異的コピー数プロファイルを得るのに用いられる方法は、複数の可能なコピー数解決および関連する品質/確信度メトリックを報告する方法である。例えば、ASCATは、倍数性(セグメント特異的でない、全腫瘍試料の倍数性)、および対応するアレル特異的コピー数プロファイルが評価された純度の値の各組み合わせの適合度メトリックを出力する。そのような方法によって生成された腫瘍特異的コピー数は、腫瘍細胞集団全体の平均またはサマリーを表す(すなわち、腫瘍集団内の不均一性を考慮しない)ことに留意されたい。
【0045】
「総コピー数」という用語は、試料におけるゲノム領域の総コピー数を指す。「メジャーコピー数」という用語は、試料における最も優勢なアレルのコピー数を指す。逆に、「マイナーコピー数」という用語は、試料における最も優勢なアレル以外のアレルのコピー数を指す。別段の指示のない限り、これらの用語は、推測される腫瘍コピー数プロファイルについての推測されるメジャーおよびメジャーコピー数(および総コピー数)を指す。「正常コピー数」または「正常総コピー数」という用語は、試料における正常細胞内のゲノム領域のコピー数を指す。正常細胞は、通常、(細胞が遺伝的に雄性であり、かつ染色体が性染色体である場合を除いて)各染色体の2つのコピーを有し、このため、正常コピーの数は、実施形態において、(遺伝子領域がXまたはY染色体上にあり、かつ解析中の試料が男性対象からのものである場合を除く、この場合、正常コピーの数は1に等しくなると想定され得る)2に等しくなると想定され得る。代替的に、特定の遺伝子領域の正常コピーの数は、正常試料を用いて決定されてもよい。
【0046】
「腫瘍特異的変異」、「体細胞変異」または単純に「変異」は、交換可能に用いられ、同じ対象からの健康な細胞と比較した、腫瘍細胞中のヌクレオチド配列(例えば、DNAまたはRNA)における差を指す。ヌクレオチド配列における差の結果として、同じ対象からの健康な細胞によって表されないタンパク質の発現が生じる可能性がある。例えば、変異は、単一ヌクレオチドバリアント(SNV)、多重ヌクレオチドバリアント(MNV)、欠失変異、挿入変異、転座、ミスセンス変異、転座、融合、スプライス部位変異、または腫瘍細胞の遺伝物質の任意の他の変化であり得る。変異の結果として、同じ対象からの健康な細胞に存在しないタンパク質またはペプチドの発現が生じる場合がある。変異は、エクソーム配列決定、RNA配列決定、全ゲノム配列決定および/または標的遺伝子パネル配列決定および/または単一遺伝子のルーチンサンガー配列決定、それに続く配列アライメント、ならびに腫瘍試料からのDNAおよび/またはRNA配列と、基準試料または基準配列からのDNAおよび/またはRNA(例えば、生殖細胞系列DNAおよび/またはRNA配列またはデータベースからの基準配列)との比較により特定することができる。適切な方法は当該技術分野において既知である。
【0047】
「インデル変異」は、有機体のヌクレオチド配列(例えば、DNAまたはRNA)における塩基の挿入および/または欠損を指す。通常、インデル変異は、有機体のDNA、好ましくはゲノムDNAにおいて生じる。インデル変異はフレームシフト型インデル変異であり得る。フレームシフト型インデル変異は、1つまたは複数のヌクレオチドの挿入または欠損によって生じるヌクレオチド配列のリーディングフレームの変化である。そのようなフレームシフト型インデル変異は、典型的には、対象における対応する健康な細胞における非変異DNA/RNAによってエンコードされるポリペプチドと高度に別個の新規のオープンリーディングフレームを生成することができる。
【0048】
「ネオアンチゲン」(または「ネオ・アンチゲン」)とは、がん細胞内での変異の結果として生じる抗原のことである。したがって、ネオアンチゲンは、正常(すなわち、非腫瘍)細胞によって発現されない(または有意に低いレベルで発現される)。ネオアンチゲンは、MHC分子に関して提示された場合、T細胞により認識され得る特異的なペプチドを生成するように処理され得る。ネオアンチゲンをがん免疫療法の基礎として使用してもよい。本明細書における「ネオアンチゲン」の言及は、ネオアンチゲン由来のペプチドも含むことが意図される。「ネオアンチゲン」という用語は、本明細書で使用されるとき、免疫原性であるネオアンチゲンの任意の部分を包含することが意図される。「抗原性」分子は、本明細書で言及されるとき、それ自体またはその一部が、適切な方法によって免疫系または免疫細胞に提示された場合、免疫反応を刺激することができる分子である。(特定のHLAアレルによりエンコードされた)特定のMHC分子へのネオアンチゲンの結合は、当技術分野で既知の方法を使用して予測され得る。MHC結合を予測する方法の例には、Lundegaard他、O’Donnel他およびBullik-Sullivan他により記載されているものが挙げられる。例えば、ネオアンチゲンのMHC結合は、netMHC-3(Lundegaard他)およびnetMHCpan4(Jurtz他)アルゴリズムを使用して予測される。特定のMHC分子に結合すると予測されたネオアンチゲンは、それによって、前記MHC分子により細胞表面に提示されると予測される。
【0049】
「クローナルネオアンチゲン」とは、対象由来の1つまたは複数の試料中の本質的にあらゆる腫瘍細胞内に存在する(あるいは、試料中の腫瘍遺伝物質が由来する本質的にあらゆる腫瘍細胞内に存在すると推定され得る)変異から生じるネオアンチゲンのことである。同様に、「クローナル変異」とは、対象由来の1つまたは複数の試料中の本質的にあらゆる腫瘍細胞内に存在する(あるいは、試料中の腫瘍遺伝物質が由来する本質的にあらゆる腫瘍細胞内に存在すると推定され得る)変異のことである。したがって、クローナル変異は、対象由来の1つまたは複数の試料中のあらゆる腫瘍細胞内に存在する変異であり得る。「サブクローナル」ネオアンチゲンとは、対象由来の1つまたは複数の腫瘍試料中の細胞のサブセットまたは或る比率に存在する(または、試料中の腫瘍遺伝物質が由来する腫瘍細胞のサブセット内に存在すると推定され得る)変異から生じるネオアンチゲンのことである。同様に、「サブクローナル」変異とは、対象由来の1つまたは複数の腫瘍試料中の細胞のサブセットまたは或る比率に存在する(または、試料中の腫瘍遺伝物質が由来する腫瘍細胞のサブセット内に存在すると推定され得る)変異である。当業者が理解するように、ネオアンチゲンまたは変異は、対象からの1つまたは複数の試料との関連ではクローナルであり得るが、対象に存在し得る(例えば原発腫瘍および転移の全ての領域を含む)腫瘍細胞の集団全体との関連では、真にクローナルではないこともあり得る。したがって、クローナル変異とは、対象の腫瘍細胞の本質的にあらゆる腫瘍細胞に(すなわち、全ての腫瘍細胞に)存在する変異であるという意味で「真にクローナル」であり得る。これは、1つまたは複数の試料が、対象に存在する細胞のあらゆるサブセットを代表するわけではないこともあり得るためである。
【0050】
「がん細胞割合」(または「CCF」)という用語は、変異を含む腫瘍細胞の比率を指す。本発明の文脈において、がん細胞割合は、1つまたは複数の試料に基づいて推定されてもよく、そのため対象における真のがん細胞割合と等しくない場合がある。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、本明細書に記載の本発明のECLIPSE方法が、いくつかの実施形態では、腫瘍細胞の所与の変異または所与のサブクローナル集団について、組織サンプリングのみに基づくCCF推定値で見られるよりも、より代表的でよってより正確なCCFを提供することが可能であると考える。これは、cfDNA含有試料(血漿試料等)のサンプリングが、サンプリングバイアスを最小限にする傾向があり、原理上、患者の1つまたは複数の腫瘍を構成する全ての細胞によってシェディングされたctDNAを捕捉するためである。それにもかかわらず、1つまたは複数の試料に基づいて推定されるがん細胞割合は、真である可能性が高いがん細胞割合の有用なインジケーションを提供することができる。
【0051】
がん免疫療法(または単純に「免疫療法」)は、免疫原性組成物(例えばワクチン)、免疫細胞を含む組成物、または例えば治療用抗体等の免疫活性薬物の対象への投与を含む治療手法を指す。「免疫療法」という用語は、治療用組成物それ自体も指し得る。本発明の文脈において、免疫療法は、典型的にはネオアンチゲンを標的にする。例えば、免疫原性組成物またはワクチンは、ネオアンチゲン、ネオアンチゲン提示細胞またはネオアンチゲンの発現に必要な材料を含み得る。別の例として、免疫細胞を含む組成物は、ネオアンチゲンを認識するT細胞および/またはB細胞を含み得る。免疫細胞は、腫瘍または他の組織(限定はされないが、リンパ節、血液または腹水を含む)から単離され、エキソビボまたはインビトロで拡大され、および対象に再投与されてもよい(「養子細胞療法」と称されるプロセス)。代わりに、またはそれに加えて、T細胞は、対象から単離し、ネオアンチゲンを標的にするように操作し(例えば、ネオアンチゲンに結合するキメラ抗原受容体の挿入により)、および対象に再投与することができる。別の例として、治療用抗体は、ネオアンチゲンを認識する抗体であってもよい。
【0052】
本明細書に記載されるとき、組成物は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤または賦形剤を更に含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、任意選択で、1つまたは複数の更なる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を含んでもよい。そのような製剤は、例えば、静脈内注入に好適な形態であり得る。
【0053】
「免疫細胞」への言及は、免疫系の細胞、例えば、T細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞および樹状細胞を包含することが意図される。好ましい実施形態において、免疫細胞はT細胞である。ネオアンチゲンを認識する免疫細胞は、操作されたT細胞であってもよい。ネオアンチゲン特異的T細胞は、ネオアンチゲンまたはネオアンチゲンペプチドに特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)、またはネオアンチゲンもしくはネオアンチゲンペプチドに特異的に結合する親和性増強T細胞受容体(TCR)を発現し得る(本明細書において以下で更に説明する)。例えば、T細胞は、ネオアンチゲンまたはネオアンチゲンペプチドに特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)(例えば、ネオアンチゲンまたはネオアンチゲンペプチドに特異的に結合する親和性増強T細胞受容体(TCR))を発現し得る。代替的に、ネオアンチゲンを認識する免疫細胞の集団は、腫瘍を有する対象から単離されたT細胞の集団であってもよい。例えば、T細胞集団は、例えば、対象の腫瘍試料、末梢血試料または他の組織からの試料等の、対象から単離された試料中にあるT細胞から作成されてもよい。T細胞集団は、ネオアンチゲンが同定される腫瘍からの試料から作成されてもよい。換言すれば、T細胞集団は、治療しようとする患者の腫瘍に由来する試料から単離されてもよく、ここでネオアンチゲンもまた、前記腫瘍からの試料から同定されている。T細胞集団は、腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)を含んでもよい。
【0054】
「抗体」(Ab)という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および所望の生物学的活性を示す抗体断片を含む。「免疫グロブリン」(Ig)という用語は、「抗体」と同義に用いられ得る。好適なネオアンチゲンが、例えば本開示による方法によって同定された後、当該技術分野において既知の方法を用いて抗体を作成することができる。
【0055】
「免疫原性組成物」は、対象において免疫応答を誘導することが可能な組成物である。この用語は、「ワクチン」という用語と同義的に使用される。本明細書に記載される免疫原性組成物またはワクチンは、対象における免疫反応の発生につながり得る。発生させることのできる「免疫反応」は、体液性および/もしくは細胞媒介性免疫、例えば抗体産生の刺激、またはワクチン中の抗原に対応する抗原をその表面上に発現する細胞を認識して破壊し得る(または他の方法で排除し得る)細胞傷害性細胞もしくはキラー細胞の刺激であってもよい。
【0056】
本明細書において用いられるとき、「治療」は、治療下の疾患の1つまたは複数の症状を治療前の症状と比べて低減し、軽減し、または消失させることを指す。「予防(prevention)」(または予防(prophylaxis))は、疾患の症状の発生を遅延させるまたは予防することを指す。予防は、絶対的なもの(疾患が起こらないようにする)であってもよく、または一部の個体においてのみ、もしくは限られた時間にわたってのみ有効なものであってもよい。
【0057】
本明細書において用いられるとき、「コンピュータシステム」は、システムを具現化するか、または上記で説明した実施形態による方法を実行するためのハードウェア、ソフトウェアおよびデータストレージデバイスを含む。例えば、コンピュータシステムは、1つまたは複数の接続されたコンピューティングデバイスとして具現化することができる、中央処理ユニット(CPU)、入力手段、出力手段およびデータストレージを含むことができる。好ましくは、コンピュータシステムはディスプレイを有するか、または(例えばビジネスプロセスの設計において)視覚出力表示を提供するためのディスプレイを有するコンピューティングデバイスを備える。データストレージは、RAM、ディスクドライブまたは他のコンピュータ可読媒体を含むことができる。コンピュータシステムは、ネットワークによって接続され、そのネットワークを介して互いに通信することが可能な複数のコンピューティングデバイスを含むことができる。コンピュータシステムがクラウドコンピュータからなるかまたはこれを備えることが明示的に予測される。
【0058】
本明細書において用いられるとき、「コンピュータ可読媒体」という用語は、限定ではないが、コンピュータまたはコンピュータシステムによって直接読み出し、アクセスすることができる任意の非一時的媒体を含む。媒体は、限定ではないが、フロッピーディスク、ハードディスクストレージ媒体および磁気テープ;光ディスクまたはCD-ROM等の光ストレージ媒体;RAM、ROMおよびフラッシュメモリを含むメモリ等の電気ストレージ媒体;ならびに磁気/光ストレージ媒体等の上記のハイブリッドおよび組み合わせを含むことができる。
【0059】
用途
本明細書において
図2および
図3に示すように、本発明のECLIPSE方法は、通常、より容易に得られた試料(例えば、血漿試料)から、CCFの信頼性のある、かつ多くの場合に改善された推定値を提供する。腫瘍組織試料内に存在しているかまたは存在していたがん特異的変異が、血漿試料には存在しないか否かを、統計的確信を持って判断する能力等の本方法の更なる特徴は、腫瘍のクローン動態のモニタリングを容易にする。したがって、本発明は、がん治療、がん管理、診断および予後判定の分野において相当な用途が見出される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの腫瘍特異的変異の結果として、変異したDNAがネオアンチゲンをエンコードし、かつ/または、少なくとも1つの腫瘍特異的変異は、抗がん治療の標的であるかもしくはこれをエンコードする。クローナルであるかまたはクローナルになると予測されるネオアンチゲンは、典型的には、例えば、がんワクチン、T細胞治療、CAT-T治療または他の細胞治療のより魅力的な標的となる。いくつかの場合、分岐/サブクローン集団においてのみ存在することが見出されるネオアンチゲンは、ネオアンチゲンを発生させる変異がクローナリティを増大させ、かつ/またはクローナリティに近づいているため、ワクチン、T細胞治療、CAR-T等に適した標的とすることができる。他方で、本発明の方法を用いて、以前にクローナルであった変異がCCF<1を有し、もはや良好な標的であるとして予測されないことを検出することができる。
【0060】
当業者であれば理解するように、複数の最新の抗がん治療が承認されているが、治療を受けている対象が1つもしくは複数の特異的変異を有するがんを有するときである。そのような「標的化がん治療」は、参照により本明細書に組み込まれる、Baudino TA.「Targeted Cancer Therapy:The Next Generation of Cancer Treatment(標的化がん治療:次世代のがん治療)」Curr Drug Discov Technol.2015;12(1):3-20.doi:10.2174/1570163812666150602144310.PMID:26033233に記載されている。本発明のECLIPSE方法は、標的化がん治療の関連で使用法を見出すことができる。特に、1つまたは複数のがん特異的変異がそのような標的化治療の標的を表すとき、これらの変異を有するがん細胞のCCFに関する情報が価値のある治療の洞察を提供する。例えば、治療標的である変異がクローナルであるか、またはクローナリティに近づいているという知識により、対応する治療を、この対象にとってより魅力的なものにすることができる。他方で、抗がん治療に対し耐性を与える変異の高CCFは、その治療をより魅力的でないものにし、かつ/または結果としてその対象の予後を悪化させる場合がある。
【0061】
特殊な形態で、もしくは開示の機能を実行する手段の観点で表される、上記の説明、もしくは以下の特許請求の範囲、もしくは添付の図面に開示される特徴、または開示される結果を得るための方法もしくはプロセスは、適宜、本発明をその多岐にわたる形態で実現するために、別個に、またはそのような特徴の任意の組み合わせで利用することができる。
【0062】
本発明は、上記で説明した例示的な実施形態と併せて説明されたが、多くの等価な変更および変形が、この開示を与えられた当業者には明らかとなろう。したがって、上記で示された本発明の例示的な実施形態は、限定ではなく例示であるとみなされる。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、記載される実施形態に対する様々な変更を行うことができる。
【0063】
疑問を避けるために、本明細書に提供される理論的説明は、読み手の理解を改善する目的で提供される。本発明者はこれらの理論的説明のいずれにも束縛されることを望まない。
本明細書中で使用するセクションの見出しは構成目的のみであり、記載した主題を制限すると意図されるべきでない。
【0064】
後続の特許請求の範囲を含む本明細書全体を通して、文脈上特に必要としない限り、「備える」、「含む」およびこの変化形である「備えている」または「含んでいる」等は、記載されている整数もしくはステップまたは整数群もしくはステップ群を包含することを意味するが、他の整数もしくはステップまたは整数群もしくはステップ群を排除するものではないことが理解される。
【0065】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるとき、文脈が明白に別途指示しない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は複数の指示対象を含むことに留意されるべきである。本明細書において、範囲を、「約」或る特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、と表現することができる。このような範囲が表現されるとき、別の実施形態は、その或る特定の値から、および/またはその別の特定の値までを含む。同様に、値が、前に「約」を使用して、近似値として表現される場合、その特定の値は別の実施形態を形成すると理解される。「約」という用語は、数値に関連して、任意選択であり、例えば、±10%を意味する。
【実施例1】
【0066】
例示的なECLIPSEが作用した例
変異のCCFを正確に推定するために、このため、クローンアーキテクチャおよびその動態を低純度のctDNA試料において経時的に正確に推定するために、本発明者らは、一致した腫瘍組織配列決定から、各変異位置におけるコピー数状態、および各変異が属するクローン群の推定値をとる方法を展開し、この情報を、組織クローナリティ抽出方法からの式の再構成およびバックグラウンド配列決定ノイズの推定値と共に用いて、クローンアーキテクチャを正確にデコンボリューションする。より正確には、CCFは、以下の式を用いて推定することができる。
【0067】
【0068】
式1Aは、CCFについて、以下のように再整理することができる。
【数4】
【0069】
変異のVAF(バリアントアレル頻度)は、標的化ディープ配列決定を用いて、ctDNAデータから測定することができる。変異部位における変異の多重度、腫瘍コピー数および通常コピー数は、任意の時点からの腫瘍組織の全エクソーム配列決定から推定することができる。また、いずれの変異がクローナルであるかを、ctDNAにおけるVAF分布からの腫瘍組織および追加のフィルタを用いて判断することも可能である。このため、これらのクローナル変異(ここで、CCF=1)の場合、試料の純度は、この式を再整理することによって推定することができる。
【0070】
【数5】
VAFは、提供されたバックグラウンドノイズ推定値を用いて補正することもでき、このとき、全ての要素が、第1の式(すなわち、式1A/1B)について、各変異のCCFを特定するために既知である。次に、複数の追加のフィルタを、これらのCCFの分布、組織配列決定からの既知の腫瘍クローンを用いて適用して、外れ値を特定することができ、ここで、腫瘍組織から推定された、クローンアイデンティティまたは所与の変異からのコピー数情報は、このctDNA試料において誤っている場合がある。
【0071】
リキッドバイオプシーからのクローナリティの抽出(ECLIPSE:Extraction of Clonality from LIquid bioPSiEs)は、統計的検定を含む複数の他の推定を実行して、提供されたバックグラウンドノイズ推定値、および各サブクローンが(細胞の100%において)クローナルであるかまたは(少数の細胞において)サブクローナルであるかの検定を用いて、存否または各試料における各サブクローンを推定することもできる。いくつかの場合、統計的検定は、二項検定、ポアソン検定、ウィルコクソンの1標本順位和検定(予測バックグラウンド分布を用いる)、カイ二乗検定およびフィッシャーの正確検定(予測基準およびバリアントカウントを、観測された基準およびバリアントカウントと比較する)からなる群から選択することができる。
表1は、(Rパッケージとして提供される)ECLIPSEツールに入力される代表的データの9個の列(1~9)を示す。
【0072】
【0073】
・列1は、変異ごとのidである。また、染色体、位置および代替塩基も示される(例えば、10:28445525:Tは、染色体:10、位置:28445525、塩基:Tを示す)。
・列2は、血漿内の各変異について観測される変異リードの数である。
・列3は、血漿内の各変異位置の配列決定された深さである。
・列4は、血漿内の各変異のバックグラウンド誤り率(すなわち、各リードがこの変異を偶然含有する確率)である。
・列5は、変異が(全ての腫瘍細胞において)クローナルであるか否か(組織試料から測定される)を示す。変異がクローナルであるか否かの判断が以下に説明される。
・列6は、各変異がいずれのクローンに属するか(組織試料から測定される)を示す。各変異がいずれのクローンに属するかの決定は、以下に詳述するように行うことができる。
・列7は、変異の多重度(組織試料から測定される、変異のDNAコピー数)を示す。
・列8は、変異した座位(組織試料から測定される)における腫瘍細胞における総コピー数(野生型および変異コピーの数)を示す。
・列9は、非腫瘍細胞における総コピー数を示す(正常細胞が2倍体であるであるため、これは通例2であると推定されるが、組織サンプルから測定されてもよい)。
【0074】
バックグラウンド誤り率計算
この例について、バックグラウンド誤り率は、各血漿試料において配列決定された非変異ゲノム位置から計算された。本発明による血漿の配列決定は、腫瘍組織エクソーム配列決定において特定された既知の変異を標的化する。しかしながら、本発明者等は、これらの既知の変異のアップストリームおよびダウンストリームの数百の塩基対も配列決定した。組織エクソーム配列決定から変異されることがまだ知られていない血漿において配列決定された全ての位置を、非変異位置と呼ぶ。しかしながら、本明細書において、バックグラウンド誤りを、文献において既知の他の方法を用いて計算することができ、これを用いてECLIPSEに入力することができることが特に考慮されている。
【0075】
いずれの変異がいずれのクローン内にあるか、および変異がクローナルであるかクローナルでないかの判断
腫瘍組織の配列決定データにおいて、いずれの変異が何のクローンに属するかを判断するためのいくつかの方法が存在する。これらは全て、推定CCFに基づいた、これらの変異のクラスタ化に依存する。CCFは、上記で示すように式1Bを用いて計算された。ここで、コピー数および純度推定値は、エクソーム/全ゲノム中の生殖細胞系列単ヌクレオチド多態性の有効範囲を利用するASCAT(github.com/VanLoo-lab/ascat)等のツールの適用から得られる。本例において、これを行うためにPyCloneが用いられた。PyCloneツールのガイドは、サイトgithub.com/Roth-Lab/pyclone(参照により本明細書に引用される)において得ることができる。同様に必要な情報を提供するPyCloneの代替は、github.com/raphael-group/decifer(参照により本明細書に引用される)に記載のDecifierと、github.com/Wedge-lab/dpclust(参照により本明細書に引用される)に記載のDPclustとを含む。
【0076】
PyCloneまたは類似の方法(DeciferまたはDPclust等)を用いてクローンアイデンティティが確認されると、これらのクローンのうちのいずれがクローナルクラスタであるか(このため、それに割り当てられた変異がクローナル変異である)の判断を、各クローンにおける全ての変異のCCF(がん細胞割合)の平均を計算し、最も高い平均CCFを有するクローンをクローナルであるものとして割り当てることによって行うことができる。
【0077】
表2は、ECLIPSEツールによって表1の入力データから計算された7つの列(10~16)を示す。
【表2-1】
【表2-2】
【0078】
・列10は、各変異のバックグラウンド誤りに起因して偶然観測することが予期される変異したリードの数である。これは、表1の列3におけるエントリに表1の列4におけるエントリを乗算することによって計算される。
・列11は、ヌル仮説が実際に真であるときに観測結果を得る確率を示す、クローンごとのP値であり、例えば低いP値(P<0.01)は、クローンが実際には存在しない場合、観測された数のバリアントを見つける可能性が非常に低いことを意味する。ECLIPSE方法は、ユーザが適切な閾値を設定することを可能にするP値の読み出しを提供することができる。例えば、クローンは、P値が0.05よりも大きいとき、またはP値が0.01よりも大きいときに存在しないとみなされる場合がある。当業者であれば理解するように、選択されるP値の閾値は、検定数、および許容可能な型I/IIの誤り全体に依拠して、行われる解析に対し調整されるべきである。
【0079】
これは、(表1における)列2を合算して、各クローンにおける全ての変異にわたって観測されたリードの総数(例えば、クローン1の場合、2015個のバリアントリード)を与え、(表2における)列10を合算して、各クローン内の全ての変異にわたって偶然予期するリードの総数を与え、次に、統計的検定を適用することによって計算され、ここで、列10の和はバックグラウンドラムダであり、列2の和は、推定雑音よりも多くの信号を有するか否か、このためクローンが存在するか否かについてP値を与えるための、各クローンの本発明による観測である。特に、統計的検定は、二項検定、ポアソン検定、ウィルコクソンの1標本順位和検定、またはカイ二乗/フィッシャーの正確検定であり得る。
【0080】
・列12は、血漿における各変異のバリアントアレル頻度(VAF)であり、表1の列2におけるエントリを表1の列3のエントリによって除算することによって決定される。
・列13は、純度の変異特異的推定値を示す。変異特異的純度推定値は、以前の組織サンプリングからクローナルであることが既知である(すなわち、表1の列5において、「クローナルであるか?」が「真」である)クローンの変異について式2に入力される、CNnormの値(表1における列9)、多重度(表1における列7)、VAF(表2における列12)、およびCNtum(表1における列8)から導かれる。式2の出力は、純度の変異特異的推定値である。
【0081】
・列14は、試料における全てのクローナル変異にわたる表2の列13の平均、すなわち、血漿試料の純度の最終推定値である。
・列15は、式1Bを適用することによる、変異ごとのがん細胞割合(CCF)推定値である。すなわち、変異ごとに、表2の列12からVAFが取得され、表1の列7から多重度が取得され、表2の列14から純度(P)が取得され(すなわち、血漿試料の純度の最終推定値)、表1の列8からCNtumが取得され、表1の列9からCNnormが取得される。
【0082】
・列16は、所与のクローンにおける全ての変異にわたってCCFを平均することによって計算されるCCFのクローンレベル推定値を示す。
この例において、「クローナル=真」を有するクローンについて予期されるように、クローン1の推定CCFが1に非常に近い(0.996)ことがわかる。クローン3の推定CCFは0.151であり、すなわち、約15%である。クローン8の推定CCFはゼロに近く(0.01)、これは、約0.3のP値が、クローンが存在する可能性が低いことを示すために予期される(観測されるバリアントリード数が、バックグラウンド配列決定誤り率の観点で、偶然のみに起因する可能性が高いことに起因する)。
【0083】
試料は3.5%の腫瘍純度を有し、サブクローン3は、この血漿試料が取得された時点で腫瘍細胞の約15%(列16)に存在していた(列11についてp値は非常に低い)と結論付けることができるため、これらの結果は、潜在的に作用可能な臨床知識をもたらす。これは、サブクローン3における変異が、ほとんどの細胞において存在しないため、この時点において不良な標的であったことを示すが、これは経時的に変化し得る。後に、血漿試料が本発明のECLIPSEパイプラインを通じて処理される場合、サブクローン3が真にクローナルとなり、次にそこでの変異が標的化可能となることがわかり得る。本例において、サブクローン8がこの試料内に存在しないという証拠が見られなかった(列11-P値が過度に高い)。これは、サブクローン8が今後クローナルとなる(そしてその変異が標的化可能となる)可能性が低いことを意味する。
【実施例2】
【0084】
ECLIPSE妥当性確認
背景:抵抗性がん細胞集団の増生は、腫瘍学における治療の失敗の一般的なメカニズムである。有効な個人化された薬剤は、全ての腫瘍細胞に存在する異常を対象とすることに頼るが、腫瘍は不均一であり、包括的な腫瘍組織サンプリングは多くの場合に不可能である。リキッドバイオプシーは、疾患の経過を通じて定期的間隔で代表的な腫瘍サンプリングを提供する可能性を有するが、現在のクローナルデコンボリューション方法は、ほとんどの資料を局所化または微小残存病変(MRD)設定において含む低腫瘍内容物試料(<5%)において無効である。
【0085】
方法:本発明者等は、早期段階の非小細胞肺がん(NSCLS)のTRACERx研究に登録した201人の患者からの1092の血漿試料を解析した。これらの患者は、原発腫瘍および再発組織の多領域全エクソーム配列決定(WES)も受けた。個人化されたパネルは、200の変異を標的にするように設計され、血漿を、2149Xのメジアン固有深さ(median unique depth)まで配列決定した。情報科学ツールECLIPSE(リキッドバイオプシーからのクローナリティの抽出)は、血漿からのバリアントアレル頻度(VAF)およびバックグラウンドノイズ推定値を、腫瘍組織から呼び出された変異ごとのコピー数およびクローンアイデンティティと共に利用して、血漿試料収集時点の血漿試料純度、サブクローンの存否、およびがん細胞割合(CCF)を正確に推定するように設計された。シミュレーションを用いて、本発明者らは、ECLIPSEが、0.2%の純度の10%CCFのサブクローンを検出することが可能になったと推定した。>0.2%の純度を有する試料(MRD陽性試料の52%)のみが、クローナリティ解析について検討された。
【0086】
結果:腫瘍内不均一性の代表的サンプリングのためのリキッドバイオプシーおよびECLIPSEの使用を有効性確認するために、本発明者らは、手術前に収集された血漿試料内のECLIPSEを用いたクローナルデコンボリューションを、手術時の多領域エクソーム配列決定を介して推定されたものと比較した。本発明者らは、これらの試料(P<0.001、R2=0.6、平均純度=1.4%)における血漿および組織において推定されたサブクローンのCCF間の1:1の相関を得たのに対し、血漿におけるCCFのVAFのみの推定値は、組織試料と比較したとき、CCFを体系的に過小評価し、潜在的治療標的を誤分類した。ECLIPSEは、腫瘍組織にわたって複数の領域に存在するサブクローンの97%、および単一の領域に固有のサブクローンの63%を検出した。単一の領域に固有のサブクローンにおけるCCF推定値を解析することにより、本発明者らは、血漿におけるCCFが、組織(P<0.001、OR=0.33)、特に、より小さな比率の腫瘍組織がサンプリングされた、より大きな腫瘍(P<0.001、OR=0.16)において得られたものよりも一貫して低いことがわかった。この効果は、いくつかの腫瘍領域にわたって分散するサブクローンにおいて明らかでなかった。これは、血漿配列決定を用いて克服される、原発腫瘍における空間制約に起因したサンプリングバイアスと一貫している。バリアントが試料において偏在するが、サンプリングされていない腫瘍においては存在しない場合のクローナリティの錯覚は、単一組織領域サンプリングにおいて一般的である。本発明者らは、真のクローナル変異と比較して、各TRACERx患者におけるランダムに選択された領域からのクローナル錯覚変異における大幅に低い血漿CCFを得て、多領域サンプリングを要求することなく、ネオアンチゲン等の適切な治療標的を区別した。28人の患者において検出された転移におけるクローン構造は、再発時の組織およびcfDNAサンプリングの双方と比較された。本発明者らは、対応するcfDNAにおける再発組織において得られたサブクローンの28/29を検出した。再発組織に存在しない原発腫瘍からのcfDNAにおいて追跡された125個のサブクローンのうち、本発明者らは、再発時にcfDNAに存在する、7人の患者からの更なる8つのサブクローンを得た。cfDNAにおける再発点においてサブクローンとなるこれらの8つのサブクローンについて強力なバイアスが得られた(P=0.008、OR=5.5)。加えて、不十分なサンプリングに起因して、これらのサブクローンに一致するこれらの7人の患者(P=0.19)において、より多くの数の非サンプリング転移部位が、組織において見逃される傾向がわかった。ポリクローナル再発を有する患者において、本発明者らは、経時的なクローン動態を観測した。そのうちのいくつかは治療と同時であった。最終的に、本発明者らは、再発患者において、転移性コンピテントサブクローンは、転移を有しないクローン(P<0.001、OR=4.5)よりも、術前血漿において測定される、原発腫瘍における、より高いCCF、すなわちより大きなクローンサイズを有すること、および再発患者が、一般的に、非再発患者(P=0.043)よりも、原発腫瘍において大きなサブクローンを有することがわかった。
【0087】
結論:本発明者らは、本発明によれば、血漿サンプリングが、情報ツールECLIPSEを用いて経時的に腫瘍のクローン構造を正確にプロファイルすることができ、転移の生物学的決定因子、治療に応じたクローン動態を明らかにし、全ての腫瘍細胞内に存在するバリアントに対する標的化治療をより良好に調整する可能性を有するというエビデンスを得た。
【実施例3】
【0088】
ECLIPSEを用いた血漿試料のクローナルデコンボリューション
超低細胞充実度の血漿試料においてクローナルデコンボリューションを行うという課題を克服するために、情報ツールECLIPSE(リキッドバイオプシーからのクローナリティの抽出)が開発された。ECLIPSEは、超低純度試料の場合、いくつかのディープ標的化配列決定方法を、各変異のクローナルステータス、および腫瘍組織試料からのそのコピー数状態に関するデータと組み合わせて用いて評価することができる、血漿からの変異バリアントアレル頻度(VAF)の尺度を用いる。
図1を参照すると、右側に、各々が別個のクローンに属する4つの例示的な変異が示されている。この例において、腫瘍は8つの細胞を有する。青色の細胞はクローナルであり、2つの変異コピーを有し、他の3つの変異は、異なるコピー数ステータスを有する腫瘍細胞の異なるサブセットにある。予期されるように、がん細胞割合(CCF)および変異および野生型コープ数は、これらのDNA分子が、底部に示されるように血漿内に押し出されるとき、バリアントアレル頻度(VAF)に対し影響を有することがわかった。左上に示すように、これらのVAFを、この場合ベースラインにおいて収集された、腫瘍組織からのこれらの異なる変異のコピー数およびクローナルステータスと共に観測し、次に、クローナル変異を用いて試料の純度を計算し、そこから経時的な血漿試料中の変異およびクローンについてCCFを決定することができる。
【0089】
以下のステップは、ECLIPSEツールに必要な入力を得るための方法を概説する。ECLIPSEツールは、次に、所与の(例えば、サブクローナル)クローンのCCFの推定値を出力する。
【0090】
1)少なくとも1つの腫瘍試料を収集する。
2)腫瘍試料からのDNA抽出および全エクソーム配列決定(WES)(または全ゲノム配列決定(WGS))。
3)変異およびコピー数呼び出しを(例えば、MutectおよびASCATを用いて)実行し、これらの方法からの出力を用いて、いずれの変異がいずれのクローンに属するかを出力するPyClone(またはDpclust他)等のクローナルデコンボリューションツールを実行する。
【0091】
4)これらの出力を用いて、いずれの変異がクローナルであるか、および各変異座位におけるコピー数を計算する。
5)この患者について、1つまたは複数の時点における1つまたは複数のctDNA含有試料(例えば、血漿試料)を収集する。
【0092】
6)各血漿試料における組織配列決定から、関心対象の全ての変異(例えば、チロシンキナーゼ阻害薬に対する感受性を与えるもの等の、潜在的ネオアンチゲンまたは標的化可能変異)について、バリアントアレル変異(VAF)を計算するためのアッセイを実行する。これは、(特に、高い腫瘍量およびctDNA量を有する後期の患者の場合に)WESとなり得るが、好ましくは、(例えば、より多岐にわたるがんタイプにわたるより早期の患者との関連で)ArcherDx MRD方法のような誤り訂正された標的化ディープ配列決定方法であり得る。
【0093】
7)各変異のバックグラウンド配列決定ノイズを推定し、これに続いて、血漿において、ゲノム内の非変異位置を調べる(実施例1において「バックグラウンド誤り率計算」という見出しの下で示される詳細を参照)
8)ECLIPSE情報ツールに、変異および合計コピー数、バックグラウンド配列決定ノイズ、各変異のクローンメンバーシップ、および血漿バリアントアレル頻度を入力する(実施例1を参照)。
【0094】
図2に示すように、血漿サンプリングは、多重領域組織サンプリングよりも更に多くの腫瘍の不均一性を捕捉する可能性を有する。特に、組織サンプリングの結果として、空間的に制約されたサブクローンが見逃される(例えば、紫色)または過大評価される(橙および茶)可能性が高いことに起因した大きなサンプリングバイアスが生じる可能性がある。他方で、腫瘍内の全てのまたは少なくともほとんどの細胞が、ctDNAを血漿内にシェディングし、このため、時間の経過に伴う、より代表的なサンプリングを可能にする。
【0095】
図3に示すように、本発明者らは、手術前に取得された血漿において測定されたCCF(y軸)を、手術時に多領域組織配列決定を用いて測定されたCCF(x軸)と比較した。左側のパネルは、本発明のECLIPSEツールが、血漿試料からCCFを推定するのに用いられたデータを示す。右側のパネルは、血漿試料からのCCFの推定においてECLIPSEが用いられなかったデータ(すなわち、CCFはVAFのみ、すなわち、各サブクローンの平均VAFを、クローンクラスタの平均VAFで除算したもののみによって推定された)を示す(すなわち、コピー数非認識CCF)。散布図の点は、個々の特許試料であり、散布図の点のサイズは、血漿純度に比例する(0.1%の純度から10%の純度のインセットスケールを参照)。本発明者らは、血漿由来のCCF推定値と、多領域組織由来のCCF推定値との間の強力な相関が存在することがわかり、一般的に、各クローン内のクローンサイズまたは細胞数が、解放されるctDNA量に対し強力な影響を有することを示唆し、CCF推定のための方法としてECLIPSEの有効性を確認した。更に、本発明者らは、ECLIPSEがなければ、おそらくコピー数訂正の欠如に起因して、血漿中のより低いCCFに向けた体系的バイアスが存在することがわかった。クローナル変異は、ゲノム倍加の前により頻繁に生じ、このため、より高いコピー数、このためより高いVAFにある傾向にある。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、左側の外れ値が、原発腫瘍組織サンプリングにおける細胞ごとのcfDNAシェディングまたはサンプリングバイアスにおけるいずれかの差によって生じ得ると考える。
【0096】
図4に示すように、本発明者らは、血漿試料内の任意のがん細胞割合においてサブクローンを検出する能力も評価した。このデータセットにおいて、方法が、0.2の純度の試料において10%のCCFでサブクローンを検出する能力を有することが推定された。クローンが原発腫瘍内の複数の試料にわたって存在するとき、血漿における非常に高い検出率が得られた。しかしながら、クローンが単一の試料に固有である場合、検出率はより低かった。いくつかの領域にわたって拡散した、見逃されたごく少数のサブクローンの試料において、これらのサブクローンにおける単一の変異のみを追跡したことがわかった。このため、これらの変異は、偽陽性である場合があるか、または実際には割り当てられたサブクローンのメンバーでない場合がある。しかしながら、試料固有のクローンにおいて、一般的に、より少ない数の変異が後続したが、多数の追跡された変異を有する多くのクローンが存在し、ここで、組織のCCFは、これらを血漿中で検出することが可能であることを示唆した。
図5に示すように、この発見の1つの説明は、これらの単一領域サブクローンが、原発腫瘍組織におけるサンプリングバイアスに起因して過剰サンプリングされ、実際には、組織から推定するよりもはるかに小さく、血漿におけるそれらの検出が困難になっているということである。サンプリングバイアスのこの特定の形態は、「勝者の呪い」効果として知られている。
図6に示すように、そのようなサンプリングバイアスと一致して、DO検出する、単一の領域に固有のサブクローンの60%において、それらのクローンサイズ(CCF)が、組織におけるよりも、血漿において小さいことを通例推定する。
図7を参照すると、これがサンプリングデバイスに起因していた場合に行う別の予測は、この効果が腫瘍サイズと共にスケーリングするというものである。すなわち、より大きな腫瘍において、配列決定のために捕捉された質量のより小さなパーセンテージを有する可能性が高く、これはひいては、より強力なサンプリングバイアスを予期することを意味する。これは、実際、本データにおいて見られるものである。腫瘍の多くが配列決定される小さな腫瘍において、血漿における推定クローンサイズ対組織サンプリングから推定されたものにおいてほとんど減少が見られない。他方で、100cm
3を上回るより大きな腫瘍において、組織におけるクローンサイズを6倍に過大評価している場合がある強力な効果が見られる。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、この発見が、ECLIPSEツールを用いて適切に処理された場合の血漿サンプリングに一致し、組織サンプリングによって得られたものよりも正確な腫瘍不均一性の読み取りおよびCCF推定値を与えると考える。これは、血漿サンプリングが腫瘍全体にわたる、はるかに大きく、かつより代表的な細胞プールから信号を導出することに起因し得る。換言すれば、ctDNAリキッドバイオプシーに加えてECLIPSEを使用することは、より侵襲的でないのみでなく、腫瘍の組織サンプリングよりも正確なCCFの推定値を提供する可能性を有する。
【0097】
血漿を用いた代表的なサンプリングは、治療標的化のためのクローナル変異(例えば、免疫療法および/または細胞治療のために標的化可能であり得るネオアンチゲン)の正確な特定を可能にする。血漿サンプリングが、腫瘍質量のクローン組成物を良好に表すという上記の発見を考慮して、本発明者らは、血漿サンプリングを用いて、包括的腫瘍組織領域サンプリングか可能でない場合に、例えば、診断時に手術不能な患者において、ネオアジュバント療法の前に、または複数部位の転移が関与する再発時に、より正確にクローナリティを解消することが可能であり得ると考えた。現在、これらの状況において、単一の試料を用いて、患者をゲノムプロファイリングし、いくつかの場合、治療のための標的を選択する。しかしながら、そのような単一の試料は、サンプリングバイアスを高度に受けやすい場合があり、潜在的に、準最適な治療標的選択となる場合がある。
【0098】
図8Aに示すように、単一の試料は通例、クローナル錯覚を導き、ここで、取得された試料の全ての細胞に存在する変異が腫瘍全体にわたって存在するわけではなく、このため、不良な治療標的となる。本発明者らは、患者ごとに単一の試料をランダムに選択し、その試料の全ての細胞内にあるように見える変異のみを検討することによって、TRACERxを単一の領域データセット内にシミュレートした。次に、これらの見かけ上のクローナル変異を、腫瘍全体にわたって真にクローナルの変異(
図8Bの左を参照)と、クローナル錯覚を有し、実際にはサブクローナルであり、他の試料内に存在しない変異(
図8Bの右を参照)とに分割し、y軸上に推定がん細胞割合(CCF)をプロットした。これらの場合、クローナル錯覚を有する変異が、血漿においてはるかに少ないCCFを有することがわかった。なぜなら、血漿試料は、腫瘍全体にわたる細胞の比率をより良好に表すためである。これは、血漿試料が、治療標的が真にクローナルであるか否か、およびこのため治療標的化に値するか否かを判断するのに役立つことができることを示唆する。
【0099】
図9において、ECLIPSEを用いて時間経過に伴って追跡された腫瘍動態の例が見られる。このプロットにおいて、y軸は異なるクローンのサイズおよび身体内の総腫瘍質量を示す。この場合、2つの異なるクローンが術後の腫瘍において優勢であることがわかる。また、免疫療法がこの患者に適用された後、赤色のクローンがより急速に複製し、青色のクローンを打ち負かす、適応度地形における変化が見られる。がん細胞割合を用いてこれを表す場合、すなわち、総腫瘍質量を無視する場合、ここで、より早期の低い細胞充実度の時点において、赤色のサブクローンの系統が術前の細胞に高い比率に存在するが、青色のサブクローンによって最初に打ち負かされることを見て取ることができる(
図10)。しかしながら、青色のクローンのCCFは、次に、がん免疫学治療(IO)の適用時に縮小する。また、これを、このプロットの上に示す再発組織のクローン構造と比較することもできる。ここで、双方の系統は、手術時に多領域配列決定を用いて検出された原発腫瘍において表される。次に、後の時点において、青色ではなく、赤色および緑色の系統が検出され、青色の系統が、組織生検を用いてサンプリングされているのではなく、ctDNAを用いて捕捉された他の疾患部位に固有であることを示唆する。
【0100】
本発明者らが、ctDNAにおいて検出されたクローンと、TRACERxにおける再発組織プロファイルにおいて検出されたクローンとの間の一致を調べたとき、ctDNA内で追跡されるサブクローンのほとんど全て(1つを除く)について、組織内で見つかったクローンが、ctDNA内でも検出された。しかしながら、ctDNAは、検出されたサブクローンの数の28%の増大をもたらす更なるサブクローンも特定した(
図11を参照)。これらの追加のサブクローンは、サンプリングされていない転位部に存在することができ、これをサポートすることにより、本発明者らは、ctDNAにおいて発見された更なるサブクローンを有する患者が、より多数のサンプリングされていない部位に向けて有意でない傾向を有し、また、これらのクローンは、組織サンプリングを用いて見逃された、これらと一致するctDNAを用いて腫瘍細胞のサブセットにおいてのみ推定される傾向を有したことがわかった。
【0101】
TRACERxにおいて、本発明者らは、がん転移のモードに強い関心を有する(
図12Aを参照)。何人かの患者はモノクローナル再発を呈し、ここで、単一のサブクローンのみが全ての転移組織を播種した。いくつかはポリクローナル再発を呈し、ここで、複数の異なるクローンが転移組織または多系統再発を播種し、ここで、系統樹上の複数の異なる分岐からの複数のクローンが転移を播種する。本発明者らは、ctDNAを用いて検出された播種型と、組織サンプリングを用いて検出された播種型とを比較した。本発明者らは、概して、ctDNAがよりクローン的に複雑なピクチャを提供することがわかった。ここで、より多くの患者が、ctDNAにおいて検出された追加のサブクローンに起因して、ポリクローナルまたは多系統として分類された。これにもかかわらず、現在のデータに一致して、大多数の患者がモノクローナル疾患再発を有するように見える(
図12Bを参照)。
【0102】
図13におけるプロットは、各患者を、x軸にわたって時間が進む線として示し、試料は、検出された再発の型に従って着色されたドットとして表される。ほとんどの場合、再発タイプが検出されると、これは後続試料において一貫し、重要なことに、再発型は、これらの試料における低いctDNA割合にもかかわらず、補助の最小残余疾患(MRD)設定における臨床再発(灰色の垂直線によって示される)の前に多くの場合に正確に検出することができることを見て取ることができる。
【0103】
図14に示すように、よりクローン的に複雑な腫瘍は、診断から、および再発後の双方で不良な生存結果を有する傾向にあり、これによりMRD検出後の更なる予後トリアージが可能になることを示唆する。
【0104】
CCFのECLIPSE推定と結合した血漿サンプリングの使用は、本発明者らが、サブクローンサイズおよび転移能に関する興味深い洞察を行うことを導く。転移を播種するクローンの型に強力なバイアスを発見した(
図15Bを参照)。転移に進む患者において、再発クローンは、そうでないものより、はるかに高いがん細胞割合を血漿中に有する傾向にあることがわかった。これは、近時のサブクローナル拡張を受けたのが、転移の可能性が最も高い、最も大きいサブクローンであることを示唆する。転移患者および非転移患者におけるクローンサイズの分布も異なり、ここで、転移患者は、腫瘍内により大きなサブクローンが存在する傾向を有することもわかった(
図15Aを参照)。
【0105】
参考文献
本発明、および本発明が関係する従来技術をより完全に説明および開示するために、複数の公開文献が上記で引用された。これらの参考文献の各々の全体が本明細書に引用される。
【0106】
標準的な分子生物学技法についてはSambrook,J.、Russel,D.W.「Molecular Cloning(分子クローニング)」A Laboratory Manual.3 ed.2001、Cold Spring Harbor,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。
【国際調査報告】