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特表2024-539608銅系コーティングを有する高合金溶接ワイヤ
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  • 特表-銅系コーティングを有する高合金溶接ワイヤ 図1
  • 特表-銅系コーティングを有する高合金溶接ワイヤ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】銅系コーティングを有する高合金溶接ワイヤ
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20241022BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20241022BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20241022BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20241022BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B23K35/30 320A
C22C9/00
C22C9/06
C22C9/02
C22C9/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521230
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-04-09
(86)【国際出願番号】 US2022046541
(87)【国際公開番号】W WO2023064450
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/256,290
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/045,934
(32)【優先日】2022-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510202156
【氏名又は名称】リンカーン グローバル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【弁理士】
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】ナラヤナン,バドリ ケー.
(72)【発明者】
【氏名】コルヴィン,ナタナエル エム.
(72)【発明者】
【氏名】ザダック,アレクサンダー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー,ジョン ベンジャミン
(57)【要約】
溶接ワイヤは、高合金金属コアであって、高合金金属コアの約10.5重量パーセント超の、アルミニウム、ビスマス、クロム、モリブデン、クロム/モリブデン合金、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、ケイ素、チタン、タングステン、バナジウム、又はこれらの組み合わせから選択される成分を含む、高合金金属コアと、高合金金属コアを包囲する層であって、層が銅又は銅合金を含む、層と、を含み得る。溶接方法は、溶接ワイヤを溶融状態に転化させ、溶融溶接材料を生成するために十分な電流を印加することであって、溶接ワイヤが、高合金金属コアであって、約10.5%超の、アルミニウム、ビスマス、クロム、モリブデン、クロム/モリブデン合金、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、ケイ素、チタン、タングステン、バナジウム、又はこれらの組み合わせから選択される成分を含む、高合金金属コアと、高合金金属コアを包囲する層であって、層が銅又は銅合金を含む、層と、を備える、印加することと、溶融溶接材料をワークピース上に堆積させることと、を含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高合金金属コアであって、前記高合金金属コアの約10.5重量パーセント超の、アルミニウム、ビスマス、クロム、モリブデン、クロム/モリブデン合金、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、ケイ素、チタン、タングステン、バナジウム、又はこれらの組み合わせから選択される成分を含む、高合金金属コアと、
前記高合金金属コアを包囲する層であって、前記層が銅又は銅合金を含む、層と、
を備える溶接ワイヤ。
【請求項2】
前記層が前記銅合金を含み、前記銅合金が銅を最大約99.9wt%の前記銅合金の重量パーセント(wt%)で含む、請求項1に記載の溶接ワイヤ。
【請求項3】
前記銅合金が、カドミウム、クロム、ニッケル、スズ、亜鉛、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の金属の残部を含む、請求項2に記載の溶接ワイヤ。
【請求項4】
前記層が前記銅合金を含み、前記銅合金が銅を、約60wt%~約99.9wt%に及ぶ前記銅合金の重量パーセント(wt%)で含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ。
【請求項5】
前記高合金金属コアがクロムを、約12wt%~約18wt%に及ぶ前記高合金金属コアの重量パーセント(wt%)で含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ。
【請求項6】
前記高合金金属コアがオーステニックステンレス鋼を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ。
【請求項7】
前記高合金金属コアが二相鋼を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ。
【請求項8】
前記層が約0.1μm~約100μmの範囲内の厚さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ。
【請求項9】
前記層が、約0.005wt%~約3wt%に及ぶ前記溶接ワイヤの重量パーセント(wt%)で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ。
【請求項10】
前記層が前記溶接ワイヤの断面積の約0.005%~約5%を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の溶接ワイヤによって生成された溶接堆積物。
【請求項12】
溶接方法であって、
溶接ワイヤを溶融状態に転化させ、溶融溶接材料を生成するために十分な電流を印加することであって、前記溶接ワイヤが、
高合金金属コアであって、前記高合金金属コアの約10.5重量パーセント超の、アルミニウム、ビスマス、クロム、モリブデン、クロム/モリブデン合金、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、ケイ素、チタン、タングステン、バナジウム、又はこれらの組み合わせから選択される成分を含む、高合金金属コアと、
前記高合金金属コアを包囲する層であって、前記層が銅又は銅合金を含む、層と、
を備える、印加することと、
前記溶融溶接材料をワークピース上に堆積させることと、
を含む、溶接方法。
【請求項13】
前記溶接方法が、サブマージアーク溶接(SAW)、ティグ溶接(GTAW)、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項12に記載の溶接方法。
【請求項14】
前記層が前記銅合金を含み、前記銅合金が銅を最大約99.9wt%の前記銅合金の重量パーセント(wt%)で含む、請求項12又は13に記載の溶接方法。
【請求項15】
前記銅合金の残部が、カドミウム、クロム、ニッケル、スズ、亜鉛、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の金属を含む、請求項14に記載の溶接方法。
【請求項16】
前記層が前記溶接ワイヤの断面積の約0.005%~約5%を含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の溶接方法。
【請求項17】
前記高合金金属コアがクロムを約12wt%~約18wt%に及ぶ前記高合金金属コアの重量パーセント(wt%)で含む、請求項12~16のいずれか一項に記載の溶接方法。
【請求項18】
前記層が、約0.005wt%~約3wt%に及ぶ前記溶接ワイヤの重量パーセント(wt%)で存在する、請求項12~17のいずれか一項に記載の溶接方法。
【請求項19】
前記高合金金属コアがオーステニックステンレス鋼を含む、請求項12~18のいずれか一項に記載の溶接方法。
【請求項20】
前記層が、約0.1μm~約100μmに及ぶ厚さを有する、請求項12~19のいずれか一項に記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月15日に出願された「HIGH ALLOY WELDING WIRE WITH COPPER BASED COATING」と題する、米国仮特許出願第63/256,290号、及び2022年10月12日に出願された「HIGH ALLOY WELDING WIRE WITH COPPER BASED COATING」と題する、米国非仮特許出願第18/045,934号に対する優先権を主張する。これらの出願は全体が本明細書において参照により組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、消耗溶接電極、及びそれらを利用した溶接プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
溶接は、種々の適用のために工業用途において広く普及したプロセスである。プロセスに応じて、溶接ワイヤは、ワークピース上に溶接部を形成するための金属源、並びにフラックス及び他の溶接性能添加剤を提供するための機構として機能する消耗電極の役割を果たし得る。例えば、金属アーク溶接では、溶接ワイヤ(第1の電極)とワークピース(第2の電極)との間に電圧が印加されたときに、電気アークが作り出される。電流が発生されると、電極の間にアークが生じ、溶接ワイヤの先端を溶融し、ワークピース上の接触点において溶融金属の溶接ビードを生成する。概して、溶接ワイヤは溶接システム内に連続的に送給され、ワークピース上に溶接部を発生する溶融金属のストリームを提供する。
【0004】
化学組成、物理的状態、並びに溶接ワイヤ上の層及びコーティングの存在は全て、多数の溶接特性に影響を及ぼし得る。溶接ワイヤの化学的金属組成は、外観、並びに降伏強度、延性、及び破壊靭性を含む、機械的特性の両方においてビード及び溶接品質を変化させ得る。さらに、溶接ワイヤの構造特性はまた、溶接システムの他の構成要素に影響を及ぼし得る。送給システム及びコンタクトチップは、例えば、これらのシステム構成要素の機械的摩耗及び全体的有効寿命に影響を及ぼし得る、溶接ワイヤの特性に依存する摩擦及び電気抵抗を経験する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本明細書において開示される溶接ワイヤは、高合金金属コアであって、高合金金属コアの約10.5重量パーセント超の、アルミニウム、ビスマス、クロム、モリブデン、クロム/モリブデン合金、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、ケイ素、チタン、タングステン、バナジウム、又はこれらの組み合わせから選択される成分を含む、高合金金属コアと、高合金金属コアを包囲する層であって、層が銅又は銅合金を含む、層と、を含み得る。
【0006】
別の態様では、本明細書において開示される溶接方法は、溶接ワイヤを溶融状態に転化させ、溶融溶接材料を生成するために十分な電流を印加することであって、溶接ワイヤが、高合金金属コアであって、高合金金属コアの約10.5重量パーセント超の、アルミニウム、ビスマス、クロム、モリブデン、クロム/モリブデン合金、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、ケイ素、チタン、タングステン、バナジウム、又はこれらの組み合わせから選択される成分を含む、高合金金属コアと、高合金金属コアを包囲する層であって、層が銅又は銅合金を含む、層と、を備える、印加することと、溶融溶接材料をワークピース上に堆積させることと、を含み得る。
【0007】
本発明の一部の実施形態は一部の部分及び部分の配置において物理的形態を取り得、それらの好ましい実施形態が本明細書において詳細に説明され、本明細書の部分からの添付の図面において示される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係るコーティングワイヤの実施形態である。
図2図2は溶接方法の非限定的実施形態のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、概して、消耗溶接電極、及びそれらを利用した溶接プロセスに関する。本明細書において開示される溶接ワイヤ組成は、低減されたコンタクトチップ摩耗及び改善された電気特性を呈する。具体的には、本明細書において開示される溶接ワイヤ組成は、銅又は銅合金の層でコーティングされた高合金コアを含む。銅又は銅合金の層は、銅コンタクトチップとの改善された適合性も呈し、その一方で、機械的及び電気的誘起摩耗も低減する伝導層を形成し得る。
【0010】
アーク溶接の適用では、高合金溶接ワイヤは、良質な外観、耐食性、耐変色性、及び高温における耐酸化性を含む多数の利点を有し得る。しかし、高合金溶接ワイヤは、多くの場合、大抵、より軟らかい金属及び合金で構成された、溶接システムのワイヤ送給構成要素上の摩耗を増大させ得る、より高い引張強度及び表面硬度を呈する。さらに、高合金ワイヤとコンタクトチップ(多くの場合、銅から構築されている)との伝導率差は、詰まり及び送給の問題をもたらし得るアーク形成及びバーンバックにも寄与する。これらの欠点にもかかわらず、高合金溶接ワイヤは、多くの場合、耐食性を自然に有し、優れた溶接外観及び強度を有する溶接部を形成するために、無被覆の形態で、又はシリコーンなどの非金属コーティングを施して用いられる。
【0011】
伝導性金属の外面層及びコーティングが多数の溶接ワイヤのために採用されているが、潜在的な不利点も有し得る。耐食性を改善し、伝導率を向上させ、コンタクトチップの劣化を低減し、溶接装置を通した引き出し及び送給の間にワイヤを潤滑するべく、低合金ソリッド金属及びフラックス入り溶接ワイヤをコーティングするために、例えば、銅コーティングが用いられている。しかし、銅コーティングの使用は多数の不利点も伴い得る。銅金属は軟らかく、ライナ、トーチ、及びコンタクトチップを通すことを含む、溶接システムを通したワイヤの強制送給の間に銅金属のフレークを生み出す傾向を有する。これらの構成要素の各々の通過の間に、銅フレークは、ホットスポットを生じさせ得る詰まり又は電気接触点を形成する凝集体の形成を含む、多数の機械的問題を引き起こし得る。さらに悪いことに、銅フレークは、溶接部の強度を損なう、液体金属脆化の一形態、又は「銅割れ(copper cracking)」を誘起し得る。溶接の間、銅フレークは溶融スラグによって溶融され、溶接ビードへ移動させられ得る。ビード金属が及び冷却するのにつれて、銅は溶融したまま残り、固化した金属の粒界へ流動する。溶接部の粒界内において、軟らかい銅金属は、溶接部及び/又はワークピース金属を弱くする弱点部を形成する。
【0012】
当技術分野におけるこれらの知見に反して、本明細書において開示される溶接ワイヤ組成は、消耗電極を形成するために銅又は銅合金の層によって包囲された高合金金属コアを利用する。銅含有層の低い抵抗率は、ワイヤが通過させられる際のコンタクトチップへの電流の伝達を可能にし、これはトーチの熱損失を低減し、ワイヤとコンタクトチップとの間のアーク形成を最小限に抑えるか、又は解消する。銅は溶接ワイヤの高合金金属コアと比べてより軟らかいため、銅含有層は、大抵、同様の銅材料から構築された溶接システムの送給構成要素上の摩滅及び機械的摩耗も低減する。予想外に、本明細書において開示される溶接ワイヤ組成は、コンタクトチップの有効寿命を改善し、銅割れを伴うことなく溶接強度を維持しつつ、比較の無被覆高合金ワイヤと同様の、又はそれを上回るより優れた性能を呈する。
【0013】
本明細書において開示される溶接ワイヤ組成は、概して、包囲する銅含有層を有する高合金金属コアを含む。本明細書で使用するとき、用語「高合金金属」は、1種以上の金属、並びに少なくとも8重量%(例えば、約10.5%超)の、アルミニウム、ビスマス、クロム、モリブデン、クロム/モリブデン合金、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、ケイ素、チタン、タングステン、及び/又はバナジウムなどの合金元素を含む合金を指すことができる。高合金金属コアは、選択された溶接プロセスにおいて適用される電流及び条件のために十分な伝導率を有する高合金金属を含み得る。実施形態によっては、高合金コアは、鉄、並びに約10.5wt%超の、アルミニウム、ビスマス、クロム、モリブデン、クロム/モリブデン合金、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、ケイ素、チタン、タングステン、及び/又はバナジウムのうちの任意の1種以上から選択される成分を含有する高合金鋼を含み得る。高合金金属は、例えば、ステンレス鋼、マルエージ鋼、Cr-Mo合金鋼、276、625、718ニッケル合金などのニッケル合金、これらの組み合わせ、及び/又は同様のものを含み得る。高合金金属コアを組み込んだ溶接ワイヤ組成はまた、多層及び二相ステンレス鋼を含む、上述の合金のうちの任意のもののブレンドを含み得る。
【0014】
実施形態によっては、高合金コアは、例えば、クロムを約12wt%~約18wt%の高合金金属コアの重量パーセント(wt%)で含有するステンレス鋼組成を含み得る。好適なステンレス鋼は、マルテンサイト系、オーステナイト系、又はフェライト系ステンレス鋼を含む、1種以上の一般的グレード(例えば、200、300、400等)のステンレス鋼を含み得る。実施形態によっては、高合金金属コアは、302、303、304、316、310、又は321グレードステンレス鋼などの、300グレードオーステナイト系ステンレス鋼であり得る。
【0015】
高合金金属コアを覆う銅含有層を含むことはまた、溶接ワイヤの生産の間の利点も有し得る。例えば、銅又は銅合金コーティングの使用はワイヤ引き出しの間の潤滑材として機能し得、追加の添加剤又はコーティングの必要性を最小限に抑えるか、又は解消する。場合によっては、銅含有層の存在は、溶接ワイヤ組成を生成するためのより大きなストックから好適な作業直径への、及び無被覆ステンレス鋼ワイヤに比べて増大した速度での直接引き出しを可能にし得る。実施形態によっては、溶接ワイヤ組成は複数の銅含有層を含むことができる。例えば、複数の銅含有層が高合金金属コアを包囲することができる。
【0016】
1つ以上の銅含有層は、任意の適切なプロセスによって高合金金属コアに被覆され、接合される銅及び銅合金を含み得る。実施形態によっては、高合金金属コアとの適合性を向上させ得る、ニッケルなどの、追加のコーティング層が銅含有層の製作中に導入され得る。好適な銅合金は、銅、並びにニッケル、亜鉛、クロム、カドミウム、及び/又はスズから選択される金属のうちの1種以上の合金を含む。本明細書において開示される銅合金は銅を、最大約90wt%、最大約95wt%、最大約99wt%、又は最大約99.9wt%の銅合金の重量パーセント(wt%)で含み得る。実施形態によっては、銅合金は銅を、約60wt%~約95wt%、又は約60wt%~約99.9wt%に及ぶ合金の重量パーセントによる含有率で含み得る。溶接ワイヤ組成が複数の銅含有層を含む実施形態によっては、銅含有層のうちの1つ以上は代替材料組成を有することができる(例えば、溶接ワイヤ組成の第1の銅含有層内の銅含有率は、第2の銅含有層内の銅含有率よりも大きいものであることができる)。
【0017】
包囲層としての銅又は銅合金の選択は、溶接プロセスの種類、及びワークピースの金属組成を含む、多数の因子に依存し得る。場合によっては、コア内の高合金金属の性質に応じて、例えば、溶接金属の粒界内への銅の流動を最小限に抑えるために、合金の銅含有率を変更することによって、銅含有層の表面張力が調整され得る。銅含有層の厚さもまた、特定の適用に応じて異なり得る。溶接ワイヤ組成は、上に配置された銅含有層を有する高合金金属コアを含み得、銅含有層の厚さは、約0.01μm超、約0.1μm超、約1μm超、及び同様のものである。実施形態によっては、銅含有層は、約0.1μm~約100μmに及ぶ厚さを有し得る。
【0018】
銅含有層は、約0.005wt%~約3wt%、約0.005wt%~約2wt%、又は約0.005wt%~約1wt%に及ぶ溶接ワイヤの重量パーセント(wt%)で存在し得る。銅含有層は、一部の実施形態における溶接ワイヤの断面積の最大約0.01%~約5%を含む、溶接ワイヤの断面積の最大約5%を含み得る。
【0019】
本明細書においては多数のソリッドコア溶接ワイヤの実施形態が開示されるが、溶接ワイヤ組成の成分はまた、上に配置された銅コーティング層を有する高合金金属シースによって包囲されたフラックス材料を有するフラックス入り溶接ワイヤを生成するように適合され得ることも企図される。
【0020】
本明細書において開示される溶接ワイヤ組成は、選択された溶接プロセスのための任意の好適な直径(例えば、0~30ゲージ以上)に引き出されるか、又は他の仕方で製作され得る。概して、本明細書において開示される溶接方法は、溶接ワイヤ組成を溶融状態に転化させるために十分な電流を印加することであって、溶接ワイヤが、高合金金属コアと、高合金金属コアを包囲する銅含有層と、を含む、印加することと、溶融液滴をワークピース上に堆積させることと、を含み得る。溶接プロセスは、具体的に限定されると見なされず、サブマージアーク溶接(SAW(submerged-arc welding))、ティグ溶接(GTAW(gas tungsten arc welding))、ガスメタルアーク溶接(GMAW(gas metal arc welding))、被覆アーク溶接(SMAW(shielded metal arc welding))などのガス-金属アーク溶接プロセス、フラックス入りアーク溶接(FCAW(Flux-Cored Arc Welding))などのフラックス入り技術、及びこれらの組み合わせを含み得る。
【0021】
図1を参照すると、コア102と、コアを包囲する層104とを含む、コーティングされた溶接ワイヤ100の一実施形態が示されている。明確にするために、層104によってワイヤ100の長さに沿ってコーティングされた内部コア102を例示するために、層104の部分は、図1に示されるコーティング溶接ワイヤ100から除去されている。諸実施形態では、コア102は高合金金属コアであり、層104は銅又は銅合金を含む。図2を参照すると、一実施形態において、溶接方法200が示される。ステップ202は、溶接ワイヤを溶融状態に転化させ、溶融溶接材料を生成するために十分な電流を印加することを含み、溶接ワイヤ(例えば、コーティング溶接ワイヤ100)は、高合金金属コア(例えば、コア102)であって、高合金金属コアの約10.5wt%超の、アルミニウム、ビスマス、クロム、モリブデン、クロム/モリブデン合金、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、ケイ素、チタン、タングステン、バナジウム、又はこれらの組み合わせから選択される成分を含む、高合金金属コアと、銅又は銅合金を含む、高合金金属コアを包囲する層と、を備える。ステップ204は、溶融溶接材料をワークピース上に堆積させることを含む。
【0022】
本発明の実施形態のより深い理解を促進するために、好ましい、又は代表的な特徴の以下の実施例が与えられる。以下の実施例は、決して、実施形態の範囲を限定又は規定するものと解釈されてはならない。
【0023】
以下の非限定的な実施例は、本発明の実施形態をさらに例示するために提供される。当業者には、以下の実施例において開示される技術は、発明者らが、本発明の実施形態の実施においてうまく機能することを見出したアプローチを代表しており、それゆえ、その実施のための方式の実施例を構成すると考えられ得ることを理解されたい。しかし、当業者は、本発明の実施形態を考慮して、多くの変更が、開示された特定の実施形態において行われ、依然として、実施形態の趣旨及び範囲から逸脱することなく同様又は類似の結果を得ることができることを理解するはずである。
【実施例
【0024】
実施例1:Cuコーティング302グレードステンレス鋼の溶接性能
本実施例では、銅コーティングステンレスソリッドワイヤ(Cuコーティング302)及び比較の無被覆316LSiグレードステンレス鋼(無被覆316LSi)を用いて溶接部が生成された。どちらのワイヤサンプルも0.045”の直径を呈した。試験は、制御されたコンタクトチップ-母材間距離(CTWD(contact tip to work distance))において試験溶接部を適用するように構成された自動アーク溶接装置上で遂行された。試験溶接部は、開始及び停止からの測定干渉を最小限に抑えるために連続溶接によって24”径パイプ上に形成された。試験溶接は、通例、スパッタがノズルを詰まらせること、及びワークピースに接触することによって指示される、失敗が起こるまで実施された。表1に、溶接条件及び設定が要約されている。ここで、溶接は定電圧(CV(constant voltage))及びパルスを用いて行われた。
【0025】
【表1】
【0026】
Cuコーティング302サンプルのための溶接外観が、調査された全ての条件について、無被覆316LSiと並んで分析された。ある範囲のシールドガス組成も試験された。表2に、試験のための結果、及び条件が要約されている。ここで、4の評点は無被覆302の結果と同等である。概して、Cuコーティング302のビード外観は、いくらかの表面上孔食を伴い、外観がより粗かったが、さもなければ、溶接強度に影響を及ぼさなかった。
【0027】
【表2】
【0028】
実施例2-コンタクトチップ摩耗の分析
本実施例では、実施例1において上述されたとおりの自動アーク溶接装置を用いて無被覆316LSi及びCuコーティング302のためのコンタクトチップ摩耗率が研究された。試験中に毎分およそ415~417回、サンプルごとにアンペア数及び電圧測定値が記録され、実効的CTWDが監視された。研究された全ての溶接サンプル及び条件について、サンプルの間でアンペア数減少にはほとんど差がなかった。具体的には、無被覆316LSiサンプルは1時間後に7.5アンペアの降下を呈し、その一方で、Cuコーティング302サンプルは1時間後に9.9アンペアを呈した。
【0029】
溶接実施の後に、コンタクトチップ中心孔の内径の変化を測定することによって、コンタクトチップの摩耗が定量化された。アンペア数の変化は無被覆316LSiとCuコーティング302溶接ワイヤとの間でわずかであったが、無被覆316LSiは、内径から明らかなように、コンタクトチップ上の相当の機械的摩耗を呈した。表3に、結果が要約されている。
【0030】
【表3】
【0031】
表3に示されるように、経時的な孔面積の増大率は、銅コーティングワイヤサンプルについては、はるかにより小さかった。銅コーティングサンプルについての直径増大率は、2倍~3倍より小さい無被覆316LSiであるように見える。結果は、本明細書において開示される銅コーティングステンレス溶接ワイヤ組成は、溶接性能又は溶接強度の相当の変化を伴うことなく、非コーティングステンレス鋼と比べてコンタクトチップ有効寿命を改善するために用いられ得ることを指示する。
【0032】
したがって、本開示のシステム及び方法は、上述された目的及び利点、並びにそれらに固有であるものを達成するためによく適合している。本発明は、本明細書における教示の利益を有する当業者にとって明らかな、異なるが同等の様態で変更され、実施され得るため、以上において開示された特定の態様は単なる例示にすぎない。さらに、添付の請求項において記載されるとおりのもの以外に、本明細書において示された構成又は設計の詳細への限定は意図されない。したがって、以上において開示された特定の例示的な態様は改変されるか、組み合わせられるか、又は変更され得ることが明白であり、全てのこのような変形は、本発明の範囲及び趣旨に含まれると考えられる。請求項における用語は、特許権者によって、別途明示的に、及び明確に定義されていない限り、それらの明白な通常の意味を有する。
【0033】
別途記載のない限り、本明細書及び関連請求項において用いられる成分、反応条件などの量を表す全ての数は、いかなる場合でも、用語「約(about)」によって修飾されると理解されるべきである。したがって、相反する指示がない限り、以下の明細書及び添付の請求項において記載される数値パラメータは、本発明の実施形態によって得られることが求められる所望の特性に応じて異なり得る近似である。
【0034】
実施形態によっては、本開示の実施形態を説明する文脈における(特に、添付の請求項の文脈における)用語「a」、及び「an」、及び「the」、並びに同様の指示(reference)は、別途特に断りのない限り、単数形及び複数形の両方を包括すると解釈され得る。実施形態によっては、用語「又は(or)」は、請求項を含めて、本明細書で使用するとき、代替物のみを指すと明示的に指示されないか、又は代替物が相互排除的でない限り、「及び/又は(and/or)」を意味するために使用される。
【0035】
用語「備える(comprise)」、「有する(have)」、及び「含む(include)」はオープンエンドな連結動詞である。「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」などの、これらの動詞のうちの1つ以上の任意の語形又は時制もオープンエンドなものである。例えば、1つ以上のステップを「備える」、「有する」、又は「含む」任意の方法は、それらの1つ以上のステップのみを持つことに限定されず、他の列挙されていないステップを包括することもできる。同様に、1つ以上の特徴を「備える」、「有する」、又は「含む」任意の組成又はデバイスは、それらの1つ以上の実施形態のみを持つことに限定されず、他の列挙されていない実施形態を包括することができる。システム、組成、及び方法は、本明細書において、様々な構成要素又はステップを「備える」という言葉で説明され得るが、方法は様々な構成要素及びステップ「から実質的に成る(consist essentially of)」又は「から成る(consist of)」こともできる。
【0036】
本明細書において説明される全ての方法は、本明細書において別途記載がないか、又は文脈によって別途明確に否定されない限り、任意の好適な順序で遂行され得る。本明細書において一部の実施形態に関して与えられるありとあらゆる例、又は例示的な文言(例えば、「~など(such as)」)の使用は、単に、本発明の理解をより容易にすることを意図されているにすぎず、別途クレームされる本発明の範囲に限定を課すものではない。明細書中のいかなる文言も、任意の非クレーム要素が本発明の実施に不可欠であることを指示していると解釈されてはならない。
【0037】
本明細書において開示される代替的要素又は実施形態のグループ化は限定として解釈されてはならない。各グループ構成要素は、個々に、或いはグループの他の構成要素、又は本明細書において見出される他の要素との任意の組み合わせで参照され、クレームされ得る。グループの1つ以上の構成要素は、便宜又は特許性の理由のために、グループ内に含まれるか、又はそれから削除され得る。任意のこのような包含又は削除が行われるとき、明細書は、ここで、変更されたとおりのグループを包含し、それゆえ、添付の請求項において用いられる全てのマーカッシュグループの書面による記述を満たすと見なされる。
【0038】
実施形態を詳細に説明したが、添付の請求項において規定される実施形態の範囲を逸脱することなく、変更、変形、及び同等の実施形態が可能であることは明らかであろう。さらに、実施形態における全ての例は非限定例として提供されていることを理解されたい。
図1
図2
【国際調査報告】