(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】腸機能および性機能のための仙骨神経調節
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522276
(86)(22)【出願日】2022-08-11
(85)【翻訳文提出日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 US2022040037
(87)【国際公開番号】W WO2023064029
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504279968
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ - オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャンフン、タイ
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ21
4C053JJ25
(57)【要約】
本明細書では、患者において結腸収縮/排便または陰茎勃起を誘発する方法であって、患者の脊髄の1以上の仙髄根を複数の電気パルスで刺激することを含んでなり、その電気パルスが約3Hz~約10Hzまたは約10Hz~約80Hzの周波数で送達される方法が提供される。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において結腸収縮および/または排便を誘発する方法であって、患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節を複数の電気パルスで刺激することを含んでなり、前記電気パルスが約3Hz~約10Hzの周波数で送達される、方法。
【請求項2】
前記1以上の仙髄根または仙髄分節が、患者のS1、S2、S3、S4、および/またはS5仙髄根または仙髄分節のうち1以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記患者の脊髄の1以上の仙髄根または仙髄分節が、患者の結腸および直腸を神経支配する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記刺激が、腹側/前側および/または背側/後側仙髄根に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記刺激が、患者のS2および/またはS3仙髄根および/または仙髄分節に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記刺激が、患者のS2および/またはS3腹側/前側仙髄根に適用される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記刺激が約7Hzの周波数で適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記刺激が、約0.1V~約20Vおよび/または約0.1mA~約20mAの範囲の、結腸/直腸収縮の誘発が可能な強度で適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記刺激が約1Vおよび/または1mAの強度で適用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記刺激が約4Vおよび/または4mAの強度で適用される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記刺激が約6Vおよび/または6mAの強度で適用される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記刺激が連続的または間欠的に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記間欠的刺激が約1分間適用された後、約1分間、刺激が適用されない、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
患者において陰茎勃起を誘発する方法であって、患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節を複数の電気パルスで刺激することを含んでなり、前記電気パルスが約10Hz~約80Hzの周波数で送達される、方法。
【請求項16】
前記1以上の仙髄根または仙髄分節が、患者のS1、S2、S3、S4、および/またはS5仙髄根または仙髄分節のうち1以上である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記患者がヒトである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記患者の脊髄の1以上の仙髄根または仙髄分節が、患者の陰茎を神経支配する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記刺激が、腹側/前側および/または背側/後側仙髄根に適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記刺激が、S1および/またはS2仙髄根および/または仙髄分節に適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記刺激が、S1および/またはS2腹側/前側仙髄根に適用される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記刺激が約30Hz~約40Hzの周波数で適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記刺激が、約0.1V~約20Vおよび/または約0.1mA~約20mAの範囲の、陰茎収縮の誘発が可能な強度で適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記刺激が約3Vおよび/または3mAの強度で適用される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記刺激が約6Vおよび/または6mAの強度で適用される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記刺激が連続的または間欠的に適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項27】
前記刺激が患者の海綿体に少なくとも50cmH
2Oの圧力上昇を生じる、請求項15に記載の方法。
【請求項28】
前記刺激が患者の海綿体に少なくとも100cmH
2Oの圧力上昇を生じる、請求項15に記載の方法。
【請求項29】
患者において結腸収縮および/または排便を誘発するためのシステムであって、
患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節に近接して配置されるように構成された少なくとも1つのリードと;
前記少なくとも1つのリードと電気的に通信するパルス発生器と;
前記パルス発生器と通信する少なくとも1つのプロセッサとを含んでなり、前記プロセッサは、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約3Hz~約10Hzの周波数で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、システム。
【請求項30】
前記プロセッサが前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約7Hzの周波数で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記プロセッサがパルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約0.1V~約20Vおよび/または約0.1mA~約20mAの範囲の、結腸/直腸収縮の誘発が可能な強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項32】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約1Vおよび/または1mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項33】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して約4Vおよび/または4mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項34】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約6Vおよび/または6mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項35】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して連続的または間欠的に1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項29に記載のシステム。
【請求項36】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、1以上の電気パルスが約1分間送達させた後、約1分間、刺激が適用されないようにプログラムまたは構成されている、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
患者において陰茎収縮を誘発するためのシステムであって、
患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節に近接して配置されるように構成された少なくとも1つのリードと;
前記少なくとも1つのリードと電気的に通信するパルス発生器と;
前記パルス発生器と通信する少なくとも1つのプロセッサとを含んでなり、前記プロセッサは、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約10Hz~約80Hzの周波数で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、システム。
【請求項38】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約30Hz~約40Hzの周波数で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項37に記載のシステム。
【請求項39】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約0.1V~約20Vおよび/または約0.1mA~約20mAの範囲の、陰茎勃起の誘発が可能な強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項37に記載のシステム。
【請求項40】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約3Vおよび/または3mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項37に記載のシステム。
【請求項41】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約6Vおよび/または6mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項37に記載のシステム。
【請求項42】
前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、1以上の電気パルスを連続的または間欠的に送達させるようにプログラムまたは構成されている、請求項37に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年10月14日出願の米国仮特許出願第63/255,606号の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書の一部として援用される。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、国防総省/国防高等研究計画局から授与された助成金番号N66001-20-C-4050として政府支援を受けて行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本明細書では、仙髄/仙髄根を刺激する方法および関連の装置、より具体的には、仙髄/仙髄根を刺激することにより腸機能および性機能を調節する方法、およびそのような方法を実施するための装置が提供される。
【背景技術】
【0004】
関連分野の説明
下部骨盤における正常な生理学的プロセスの障害から、多くの病態が生じる。尿失禁、過活動膀胱、尿閉および排尿機能障害、尿道括約筋機能障害、便失禁、便秘、過敏性腸症候群、男女両性の性機能障害、早漏、性的感覚の低下、無オルガスム症、尿道痛、前立腺痛、外陰部痛、肛門痛、直腸痛、および膀胱痛などの病態は、それらの病態のうちの一つである。これらの病態は、神経障害、または他の疾患もしくは病態、例えば脊髄損傷もしくは脳卒中、外傷、疾患(例えば、多発性硬化症)、および/または先天性欠損から生じることがある。
【0005】
過去において、このような状態は仙髄前根刺激によって治療されてきたが、これは刺激電極を移植するために仙髄根を露出させる侵襲性の大きい脊髄手術を必要とする。仙髄後根切開術は、肛門括約筋の収縮協調障害を防ぐが、脊髄反射性排便および陰茎勃起などの性機能もなくす。従って、侵襲的な脊髄手術および仙髄後根切開を必要としない、低侵襲の神経調節アプローチの必要がある。
【発明の概要】
【0006】
本明細書では、患者において結腸収縮および/または排便を誘発する方法であって、患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節を複数の電気パルスで刺激することを含んでなり、電気パルスが約3Hz~約10Hzの周波数で送達される方法が提供される。
【0007】
本明細書ではまた、患者において陰茎勃起を誘発する方法であって、患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節を複数の電気パルスで刺激することを含み、電気パルスが約10Hz~約80Hzの周波数で送達される。
【0008】
さらなる非限定的実施形態は、以下の項に示されている。
第1項 患者において結腸収縮および/または排便を誘発する方法であって、患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節を複数の電気パルスで刺激することを含んでなり、前記電気パルスが約3Hz~約10Hzの周波数で送達される、方法。
【0009】
第2項 前記1以上の仙髄根または仙髄分節が、患者のS1、S2、S3、S4、および/またはS5仙髄根または仙髄分節のうち1以上である、第1項に記載の方法。
【0010】
第3項 前記患者がヒトである、第1項または第2項に記載の方法。
【0011】
第4項 前記患者の脊髄の1以上の仙髄根または仙髄分節が、患者の結腸および直腸を神経支配する、第1項~第3項のいずれかに記載の方法。
【0012】
第5項 前記刺激が、腹側/前側および/または背側/後側仙髄根に適用される、第1項~第4項のいずれかに記載の方法。
【0013】
第6項 前記刺激が、患者のS2および/またはS3仙髄根および/または仙髄分節に適用される、第1項~第5項のいずれかに記載の方法。
【0014】
第7項 前記刺激が、患者のS2および/またはS3腹側/前側仙髄根に適用される、第6項に記載の方法。
【0015】
第8項 前記刺激が約7Hzの周波数で適用される、第1項~第7項のいずれかに記載の方法。
【0016】
第9項 前記刺激が、約0.1V~約20Vおよび/または約0.1mA~約20mAの範囲の、結腸/直腸収縮の誘発が可能な強度で適用される、第1項~第8項のいずれかに記載の方法。
【0017】
第10項 前記刺激が約1Vおよび/または1mAの強度で適用される、第9項に記載の方法。
【0018】
第11項 前記刺激が約4Vおよび/または4mAの強度で適用される、第9項に記載の方法。
【0019】
第12項 前記刺激が約6Vおよび/または6mAの強度で適用される、第9項に記載の方法。
【0020】
第13項 前記刺激が連続的または間欠的に適用される、第1項~第12項のいずれかに記載の方法。
【0021】
第14項 前記間欠的刺激が約1分間適用された後、約1分間、刺激が適用されない、第13項に記載の方法。
【0022】
第15項 患者において陰茎勃起を誘発する方法であって、患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節を複数の電気パルスで刺激することを含んでなり、前記電気パルスが約10Hz~約80Hzの周波数で送達される、方法。
【0023】
第16項 前記1以上の仙髄根または仙髄分節が、患者のS1、S2、S3、S4、および/またはS5仙髄根または仙髄分節のうち1以上である、第15項に記載の方法。
【0024】
第17項 前記患者がヒトである、第15項に記載の方法。
【0025】
第18項 前記患者の脊髄の1以上の仙髄根または仙髄分節が患者の陰茎を神経支配する、第15項~第17項のいずれかに記載の方法。
【0026】
第19項 前記刺激が、腹側/前側および/または背側/後側仙髄根に適用される、第15項~第18項のいずれかに記載の方法。
【0027】
第20項 前記刺激が、S1および/またはS2仙髄根および/または仙髄分節に適用される、第15項~第19項のいずれかに記載の方法。
【0028】
第21項 前記刺激が、S1および/またはS2腹側/前側仙髄根に適用される、第20項に記載の方法。
【0029】
第22項 前記刺激が約30Hz~約40Hzの周波数で適用される、第15項~第21項のいずれかに記載の方法。
【0030】
第23項 前記刺激が、約0.1V~約20Vおよび/または約0.1mA~約20mAの範囲の、陰茎収縮の誘発が可能な強度で適用される、第15項~第22項のいずれかに記載の方法。
【0031】
第24項 前記刺激が約3Vおよび/または3mAの強度で適用される、第23項に記載の方法。
【0032】
第25項 前記刺激が約6Vおよび/または6mAの強度で適用される、第23項に記載の方法。
【0033】
第26項 前記刺激が連続的または間欠的に適用される、第15項~第25項のいずれかに記載の方法。
【0034】
第27項 前記刺激が患者の海綿体に少なくとも50cmH2Oの圧力上昇を生じる、第15項~第26項のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
第28項 前記刺激が患者の海綿体に少なくとも100cmH2Oの圧力上昇を生じる、第15項~第27項のいずれかに記載の方法。
【0036】
第29項 患者において結腸収縮および/または排便を誘発するためのシステムであって、患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節に近接して配置されるように構成された少なくとも1つのリードと;前記少なくとも1つのリードと電気的に通信するパルス発生器と;前記パルス発生器と通信する少なくとも1つのプロセッサとを含んでなり、前記プロセッサは、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約3Hz~約10Hzの周波数で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、システム。
【0037】
第30項 前記プロセッサが前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約7Hzの周波数で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第29項に記載のシステム。
【0038】
第31項 前記プロセッサがパルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約0.1V~約20Vおよび/または約0.1mA~約20mAの範囲の、結腸/直腸収縮の誘発が可能な強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第29項または第30項に記載のシステム。
【0039】
第32項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約1Vおよび/または1mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第29項~第31項のいずれかに記載のシステム。
【0040】
第33項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して約4Vおよび/または4mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第29項~第32項のいずれかに記載のシステム。
【0041】
第34項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約6Vおよび/または6mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第29項~第33項のいずれかに記載のシステム。
【0042】
第35項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して連続的または間欠的に1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第29項~第34項のいずれかに記載のシステム。
【0043】
第36項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、1以上の電気パルスが約1分間送達させた後、約1分間、刺激が適用されないようにプログラムまたは構成されている、第29項~第35項のいずれかに記載のシステム。
【0044】
第37項 患者において陰茎収縮を誘発するためのシステムであって、患者の脊髄の1以上の仙髄根および/または患者の脊髄の1以上の仙髄分節に近接して配置されるように構成された少なくとも1つのリードと;前記少なくとも1つのリードと電気的に通信するパルス発生器と;前記パルス発生器と通信する少なくとも1つのプロセッサとを含んでなり、前記プロセッサは、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約10Hz~約80Hzの周波数で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、システム。
【0045】
第38項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約30Hz~約40Hzの周波数で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第37項に記載のシステム。
【0046】
第39項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約0.1V~約20Vおよび/または約0.1mA~約20mAの範囲の、陰茎勃起の誘発が可能な強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第37項または第38項に記載のシステム。
【0047】
第40項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約3Vおよび/または3mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第37項~第39項のいずれかに記載のシステム。
【0048】
第41項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、約6Vおよび/または6mAの強度で1以上の電気パルスを送達させるようにプログラムまたは構成されている、第37項~第40項のいずれかに記載のシステム。
【0049】
第42項 前記プロセッサが、前記パルス発生器に、前記少なくとも1つのリードを介して、1以上の電気パルスを連続的または間欠的に送達させるようにプログラムまたは構成されている、第37項~第41項のいずれかに記載のシステム。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1A】
図1A~Cは、本明細書に記載されるように、脊髄根および/または脊髄を刺激するのに使用するための外部システム(
図1Aおよび1B)、ならびに移植可能システム(
図1C)の様々な態様の概略図である。
【
図1B】
図1A~Cは、本明細書に記載されるように、脊髄根および/または脊髄を刺激するのに使用するための外部システム(
図1Aおよび1B)、ならびに移植可能システム(
図1C)の様々な態様の概略図である。
【
図1C】
図1A~Cは、本明細書に記載されるように、脊髄根および/または脊髄を刺激するのに使用するための外部システム(
図1Aおよび1B)、ならびに移植可能システム(
図1C)の様々な態様の概略図である。
【
図2】
図2は、本明細書に記載の非限定的実施形態に従って、結腸収縮を誘導するために仙髄根S1、S2、またはS3を電気刺激するための実験設定を示す。
【
図3】
図3は、種々の周波数(1~50Hz)での仙髄S1~S3腹側根の刺激に対する遠位および近位結腸応答を示す。パネルA.S1腹側根。パネルB.S2腹側根。パネルC.S3腹側根。データは同じ動物から得た。
【
図4A】
図4AおよびBは、仙髄腹側根刺激に対する遠位および近位結腸応答が周波数および脊髄分節に依存することを示す。
図4A、パネルA.S1腹側根。
図4A、パネルB.S2腹側根。
図4B.S3腹側根。種々の仙髄分節において種々の刺激周波数により誘発される収縮振幅が、同じ動物での最大応答に対して正規化されている。S2腹側根の刺激強度(4~16V)は、近位結腸の観察可能な収縮を誘発するための7Hz刺激の閾値強度の1.5~3倍であった。S1およびS3腹側根刺激で結腸収縮が誘発されなかった場合は、下半身の運動を引き起こさない最大刺激強度(8~12V)を用いて種々の周波数を試験した。
*=1Hzと有意差あり(一元配置ANOVA);#=S2腹側根と有意差あり(二元配置ANOVA)。N=ネコ7匹。
【
図4B】
図4AおよびBは、仙髄腹側根刺激に対する遠位および近位結腸応答が周波数および脊髄分節に依存することを示す。
図4A、パネルA.S1腹側根。
図4A、パネルB.S2腹側根。
図4B.S3腹側根。種々の仙髄分節において種々の刺激周波数により誘発される収縮振幅が、同じ動物での最大応答に対して正規化されている。S2腹側根の刺激強度(4~16V)は、近位結腸の観察可能な収縮を誘発するための7Hz刺激の閾値強度の1.5~3倍であった。S1およびS3腹側根刺激で結腸収縮が誘発されなかった場合は、下半身の運動を引き起こさない最大刺激強度(8~12V)を用いて種々の周波数を試験した。
*=1Hzと有意差あり(一元配置ANOVA);#=S2腹側根と有意差あり(二元配置ANOVA)。N=ネコ7匹。
【
図5】
図5は、S2腹側根および背側根の両方の間欠的(5×1分)または長時間(5分)連続刺激に対する遠位結腸および近位結腸応答を示す。パネルA.遠位結腸収縮および近位結腸収縮を示す圧力トレース。近位結腸収縮の強度閾値(T)は4Vであり、間欠的または連続的収縮の誘発には6V(1.5T)を用いた。パネルB.間欠刺激(7Hz、0.2ミリ秒、1.5~4T、T=2~4V)中も収縮振幅が維持されたことを示す結果のまとめ(N=ネコ4匹)。パネルC.最大収縮振幅が、連続5分刺激(7Hz、0.2ミリ秒、1.5~3T、T=2~4V)の終了時に平均30cmH
2Oから約18cmH
2Oへと有意に減少したことを示す結果のまとめ(N=ネコ7匹)。
*=有意に異なる(p<0.05、対応のあるt検定)。
【
図6】
図6は、S2腹側根および背側根の刺激によって誘発された排便を示す。パネルA.ネコ#1では、直腸に3個のビー玉を挿入した後、仙髄S2根刺激により誘発された排便により、それぞれ1分および2分の刺激後に2個のビー玉が排除され、最後のビー玉は6分間の刺激の最後の2分の間に部分的に排出された。パネルB.ネコ#2では、ビー玉1個を直腸に挿入した後、刺激2.5分後に排便した。ビー玉4個を挿入した後、11分間の刺激で、4.5分の時点で1個のビー玉の排便が起こり、3個のビー玉が直腸内に残存した。結腸収縮圧は、近位および遠位結腸をコンドームで覆った大型コンドームカテーテルで測定した。
【
図7】
図7は、本明細書に記載の非限定的実施形態に従って陰茎勃起を誘発するための仙髄根S1、S2、またはS3の電気刺激の実験設定を示す。
【
図8】
図8は、種々の周波数および種々の精髄分節における仙髄腹側根の電気刺激により誘発された海綿体における陰茎圧を示す。パネルA.あるネコでは、短時間(1分)のS1腹側根刺激(10~80Hz)が、陰茎圧に、刺激の終了後も数分続く増大(200cmH
2O)を誘発した。パネルB.別のネコでは、短時間(1分)のS2腹側根刺激(30~80Hz)が、陰茎圧の大きな増大(150cmH
2O)を誘発するのに最も効果的であった。パネルC.腹側根の電気刺激によって誘発される陰茎圧に対する脊髄分節効果。
*=S1腹側根との有意差あり(p<0.05、ANOVA)。刺激:30Hz、0.6~12V、0.2ミリ秒、パネルD.S1またはS2腹側根の刺激によって誘発される陰茎圧の周波数効果。
*=5Hzと有意差あり(p<0.05、ANOVA)。刺激:0.6~12V、0.2ミリ秒。
【
図9】
図9は、仙髄根(腹側根と背側根の両方)の長時間(10分)の電気刺激によって誘発される海綿体における陰茎圧を示す。パネルA.あるネコでは、S1脊髄根刺激が陰茎圧に大きな増大(160cmH
2O)を誘導し、これは10分の刺激の間維持された。パネルB.別のネコでは、S2脊髄根刺激が、最初の9分の間、陰茎圧を徐々に増大させ、その後、刺激の最後の1分で急速な圧力上昇をもたらし、刺激の終了時には陰茎圧は140cmH
2Oに達した。パネルC.平均して(N=ネコ8匹)、10分間の刺激の終了時の陰茎圧は、刺激中に生じた最大圧と同じレベルで維持された。
【
図10】
図10は、T9-T10レベルでの脊髄完全切断の前後で、仙髄根(腹側根と背側根の両方)の長時間(10分間)の電気刺激によって誘発される海綿体の陰茎圧を示す。パネルA.脊髄切断前のネコのS1脊髄根刺激は、陰茎圧に最大175cmH
2Oの増大を誘発し、その後、10分間の刺激中も高い圧力が維持された。パネルB.同じネコで、脊髄切断10分後のS1脊髄根刺激は、最初の3分に陰茎圧のわずかな(30cmH
2O)の増大を誘発し、その後、最大陰茎圧150cmH
2Oに達する急速な圧上昇を誘発した。パネルC.平均して(N=ネコ6匹)、仙髄S1/S2根刺激によって誘発された最大陰茎圧は、急性脊髄切断によって有意に低下した。
*有意差あり(p=0.0025、対応のあるt検定)。
【発明の具体的説明】
【0051】
本出願で指定された様々な範囲における数値の使用は、明示的に別段の指示がない限り、記載された範囲内の最小値および最大値の両方の前に「約」という言葉はつくかのように、近似値として記載される。このように、記載された範囲の上下のわずかな変動を使用して、範囲内の値と実質的に同じ結果を達成することができる。また、別段の指示がない限り、これらの範囲の開示は、最小値と最大値の間のあらゆる値を含む連続的な範囲として意図される。本明細書において提供される定義については、それらの定義は、それらの語または語句の語形、同義語、および文法上の変形を指す。
【0052】
本願に添付された図は、本質的に代表的なものであり、別段の指示がない限り、特定の縮尺または方向性を意味するものとして解釈されるべきではない。以下の説明のために、用語「上(upper)」、「下(lower)」、「右」、「左」、「縦」、「横」、「上(top)」、「下(bottom)」、「横」、「縦」およびこれらの派生語は、図面の図において方向が示されている場合、本発明に関するものとする。しかしながら、本発明は、別段の明示がない限り、様々な代替的変形形態および工程順序を想定し得ることを理解されたい。従って、本明細書に開示された実施形態に関連する特定の寸法および他の物理的特徴は、限定的と見なされるものではない。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「含む」および同様の用語は、オープンエンドである。用語「から本質的になる」は、特許請求の範囲を示された材料または工程および特許請求される発明の基本的な新規の特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。用語「からなる」は、特許請求の範囲に示されていないいずれの要素、工程、または成分も除外する。
【0054】
本明細書で使用する場合、用語「1つの(a)」および「1つの(an)」が、1以上を指す。
【0055】
本明細書で使用する場合、用語「患者」は、ヒトを含む任意の哺乳動物であり、「ヒト患者は、任意のヒトである。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「通信」および「通信する」は、1以上の信号、メッセージ、コマンド、または他のタイプのデータの受信、伝達、または送信を指す。あるユニットまたは装置が別のユニットまたは装置と通信するということは、そのユニットまたは装置が他のユニットまたは装置からデータを受信でき、かつ/または他のユニットまたは装置にデータを送信できることを意味する。通信は、直接的または間接的な接続を使用することができ、本質的に有線および/または無線であり得る。さらに2つのユニットまたは装置は、送信されたデータが第1のユニットまたは装置と第2のユニットまたは装置間で変更、処理、ルーティングなどされ得る場合であっても、互いに通信している状態であり得る。例えば、第1のユニットが受動的にデータを受信し、第2のユニットに能動的にデータを送信しなくても、第1のユニットは第2のユニットと通信している状態であり得る。別の例として、仲介ユニットが、あるユニットからのデータを処理し、処理されたデータを第2のユニットに送信する場合、第1のユニットは第2のユニットと通信している状態であり得る。多くの他の構成が可能であることが理解されるであろう。例えば、TCP/IP(HTTPおよび他のプロトコールを含む)、WLAN(802.1 la/b/g/nおよび他の無線周波数ベースのプロトコールおよび方法を含む)、アナログ伝送、GSM(Global System for Mobile Communications)、3G/4G/LTE、BLUETOOTH、ZigBee、EnOcean、TransferJet、ワイヤレスUSBなど、当業者に知られている任意の既知の電子通信プロトコールおよびまたはアルゴリズムを使用することができる。
【0057】
本明細書で使用する場合、本明細書で使用される「電気通信」とは、例えばパルス発生器から電極への電気パルスの送信に関して、パルス発生器によって生成された電気パルスを、本明細書に記載されるように、皮膚表面電極、電極リード、磁気コイル、または神経もしくはニューロンを刺激するための電流を生成することができる同様の装置に、典型的にはワイヤなどの導電性リードを介して送信することを指す。
【0058】
本明細書で使用する場合、「強度閾値」(T)は、結腸/直腸収縮、排便、もしくは陰茎勃起などの所望の生理学的応答の誘発が可能な最小強度ならびに/あるいは結腸の近位部分での収縮、および/または結腸もしくは海綿体での圧力上昇の誘発が可能な最小強度を意味する。
【0059】
電気パルスの「強度」は、神経またはニューロンに印加される電圧(V)および/または電流(例えば、ミリアンペアまたはmA)を指し、それらに比例し、強度の増加は、神経またはニューロンに印加される電圧の増加または電流の増加に比例する。当業者ならば、電極-組織間抵抗を1kΩと仮定すると、強度に関して1Vは1mVにほぼ等しいことが認識できるであろう。
【0060】
米国特許第8,805,510号は、その全体が参照により本明細書の一部として援用される。
【0061】
本明細書では、患者の仙髄/仙髄根を刺激して生理学的応答、特に結腸/直腸の収縮および/または排便を誘発する方法、およびそのような方法の実施に有用な装置/システムが提供される。また、本明細書では、患者の仙髄/仙髄根を刺激して生理的応答、特に陰茎勃起を誘発する方法、およびそのような方法の実施に有用な装置/システムも提供される。有用な刺激は、移植されたパルス発生器による電気的なものでもよいし、または経皮的電気刺激などの経皮的方法による非侵襲的なものでもよい。有用な刺激はまた、例えば、体外で導電性コイルを使用して、関心のある標的に電流を誘導するための磁場を発生させることにより、脊髄根/脊髄を刺激するために体内で電流を誘導するために、身体の外表面付近に配置するか、または外表面に適用することができる磁気刺激装置による非侵襲的なものであってもよい。本明細書で開示する方法および装置/システムは、他の方法/システム、例えば腹側根の刺激(例えば動物において)よりも優れているが、それは少なくともそのような他の方法はより侵襲的な電極配置を必要とするためである。
【0062】
本明細書に記載の電気刺激には、刺激が所望の生理学的応答を達成するのに有効である限り、任意の適切な特性を有し得る電気パルスを含めることができる。従って、用語「電気刺激」および「電気パルス」は、本明細書において互換的に使用される。当業者に認識されるように、電気パルスの特徴としては、限定されるものではないが、振幅(パルス強度、信号電圧または電流の大きさまたはサイズを指す)、電圧、アンペア数、持続時間(例えば、パルス幅)、周波数、極性、位相、および二相刺激における正パルスと負パルスの相対的タイミングと対称性、ならびに/または波形(例えば、方形波、正弦波、三角形波、鋸歯状波、またはそれらの変形もしくは組合せ)は、所望の生理学的応答を提供するために変化させることができる。電気信号の他の特徴(例えば、限定されるものではないが、振幅、電圧、アンペア数、持続時間、極性、位相、二相性刺激における正パルスと負パルスの相対的タイミングと対称性、および/または波形)が有用な範囲内にある限り、パルス周波数の変調は所望の生理学的応答を達成する。
【0063】
上記のように所望の応答をもたらすために使用される電気信号の1つの特徴は、電気パルスの周波数である。有効範囲(例えば、記載の効果をもたらすことができる周波数)は対象ごとに異なる可能性があり、支配因子は所望の結果を達成することであるが、特定の非限定的な例示的範囲は以下の通りであり得る。所望の生理学的応答が排便(例えば、結腸収縮)である非限定的実施形態では、周波数は、10Hzを超えない。非限定な実施形態または態様では、刺激は、約1Hz~約10Hz、約3Hz~10Hz、約5Hz~約10Hz、約7Hz~10Hz、約5Hz、約7Hz、またはその間の任意の下位範囲もしくは値の周波数で送達される。所望の生理学的応答が陰茎勃起である非限定的実施形態では、有用な周波数は、約10Hz~約80Hz、任意選択で、約20Hz~約70Hz、任意選択で、約20Hz~約50Hz、任意選択で、約30Hz~約50Hz、任意選択で、約30Hz~約40Hz、任意選択で、約30Hzの範囲、任意選択で、約40Hz(その間の全ての値および下位範囲を含む)である。非限定的実施形態では、電気パルスは、約0.2ミリ秒のパルス幅で送達される。
【0064】
上記に示されるように、電気パルスの特徴は、その強度であり、哺乳動物組織などの抵抗が安定または比較的安定した媒体では、オームの法則に基づき、電流(I、一般的にはmAで測定)または電圧(V、一般的にはmVもしくはVで測定)に関連するものとして特徴付けることができる。よって、刺激の強度はVとIの両方の問題であり、従って、刺激の強度が増加すると、両方とも、例えば、比例的にまたは実質的に比例的に増加することが理解されるべきである。従って、パルスの1つの特徴は、生理学的応答をもたらすために印加される電流である。刺激は、0.01mA~20mAおよび/または0.1V~20Vの典型的範囲(その間の全ての下位範囲および値を含む)で達成することができる。
【0065】
パルス強度の別の特徴として、電圧がある。刺激は、1mV~20Vの典型的範囲(その間の全ての下位範囲および値を含む)で達成することができる。非限定的な実施形態または態様では、刺激は、約0.8V~約16V、約2V~約16V、約4V~約16V、約6V~約16V、約0.9V、約1V、約2V、約3V、約4V、約6V、またはそれらの任意の下位範囲または値の電圧を有する電気パルスで送達される。
【0066】
上述のように、刺激中に送達される電気パルスの強度閾値(T)は、結腸/直腸収縮、排便、もしくは陰茎勃起などの所望の生理学的応答の誘発が可能な最小強度ならびに/あるいは結腸の近位部分での収縮、および/または結腸もしくは海綿体での圧力上昇の誘発が可能な最小強度として定義することができる。閾値に対して、送達可能な電気パルスの強度に関して有用な範囲は、約1T~約4T、約1.5T~約3T、約1T、約1.5T、約3T、約4T、またはその間の任意の下位範囲もしくは値を含み得る。非限定的実施形態では、電気パルスの強度は、1.5Tまたは2Tまたは2.5Tまたは3Tである。
【0067】
上記に示されるように、所望の生理学的応答が実現される限り、パルスの波形は変更可能である。当業者ならば、本発明に従って他のタイプの電気刺激も使用できることを認識するであろう。一相性刺激または二相性刺激、あるいはそれらの混合物を使用してもよい。電流の印加による神経への損傷は、当技術分野で知られているように、長期間の使用で場合によっては神経を損傷する可能性がある単相パルスまたは波形とは対照的に、二相パルスまたは二相波形を神経に印加することによって最小限にすることができる。「二相性電流」、「二相性パルス」、または「二相性波形」とは、正味電荷が等しいか実質的に等しく(従って、二相性で電荷平衡)、対称的、非対称的、または実質的に対称的であり得る、反対の極性である2つ以上のパルスを指す。これは、例えば、電極の標的に印加される正味電荷がゼロまたはほぼゼロになるように、電極を通して1以上の正パルスを印加し、その後、一般的には正パルスと同じ振幅と持続時間の1以上の負パルスを印加すること、またはその逆によって達成される。電荷平衡二相性刺激の場合、二相性パルスペア(正と負のパルスの組合せ)による正味の印加電荷がほぼゼロである限り、反対極性のパルスは異なる振幅、プロファイル、または持続時間を有してもよい。
【0068】
波形は、限定されるものではないが、正弦波、方形波、矩形波、三角波、鋸歯状波、直線波、パルス波、指数波、切断指数波、または減衰正弦波などのいずれの有用な形状であってもよい。パルスは刺激期間中、増加または減少してもよい。複数の態様では、波形は矩形である。パルスは、必要に応じて連続的または間欠的に印可することができる。例えば、刺激は、短い間隔(例えば、1~10分)、または時間、日、週、月、または年単位で、より長く持続する生理学的応答を達成するために、より長い間隔(360分、もしくはさらに長く、例えば、日、週、月、もしくはさらには年)で適用することができる。複数の態様において、刺激は少なくとも5分間適用される。非限定的実施形態では、刺激は、1分間隔で約1分間適用される(例えば、1分間の刺激と、その後、1分間の無刺激)。非限定的な実施形態では、刺激は、5分間の全刺激が送達されるまで送達される。非限定的実施形態では、連続的な刺激の期間の後に間欠的な刺激が続く。非限定的な実施形態または態様では、刺激は、生理学的応答が望まれる場合にのみ送達される。
【0069】
上記のように、刺激は、連続刺激プロトコールまたは間隔刺激プロトコールの間、間欠的に印加され得る(すなわち、パルスは、任意の時間の刺激間隔の間、交互にオンおよびオフにされる)。例えば、刺激は、例えば1~10分またはそれより長く(例えば、時間、日、週、月、年)の間隔にわたって、5秒オンおよび5秒オフで印加され得る。パルスの間欠的な印加の他の例は、最大360分の時間にわたって1~90秒のオンおよび1~90秒のオフであり得る。例えば、パルスの間欠的な印加は、パルスが所望の効果を有する限り、また、患者が望む限り(すなわち、患者にとって苦痛または有害でない限り)、連続的であってもよい。一態様では、刺激は、例えば、重度の症状、または臨床医もしくは患者が望む程度の間欠的な短期刺激に応答しない症状を治療するために、連続的に提供される。
【0070】
本明細書に記載されるような刺激は、所望の生理学的応答をもたらすために患者の脊髄の仙髄根および/または仙髄に適用することができる。非限定的実施形態では、所望の生理学的応答は、結腸/直腸収縮および/または排便である。非限定的実施形態では、所望の生理学的応答は、陰茎勃起である。非限定的実施形態または態様では、患者は、脊髄損傷を有するか、または便秘、任意選択で、慢性便秘などの状態に苦しんでいる。理論に縛られることを望むものではないが、慢性便秘などの便秘は、本明細書に記載の方法により、結腸/直腸の収縮を刺激することによって軽減される。非限定的実施形態または態様では、S1、S2、S3、S4、および/またはS5仙髄根および/または仙髄は、本明細書に記載されるようなパラメータを有するパルスで刺激される。当業者は、刺激される特定の仙髄根および/または脊髄分節は所望の生理学的応答、ならびに患者の属性、具体的には、患者の種によって異なることを認識するであろう。例えば、以下に示される実施例では、ネコが実験対象として使用され、当業者ならば、ネコの仙髄根がヒトのものとは異なり得ることが分かる。例えば、Toossi et al., Comparative neuroanatomy of the lumbosacral spinal cord of the rat, cat, pig, monkey, and human. Scientific Reports, 2021, 11(1955)参照。従って、ネコでは、S1、S2、および/またはS3腹側根、背側根、またはその両方を刺激することによって生理学的応答が生じ得るが、当業者ならば、ヒトのそれと同等のものは異なる用語(例えば、前根、後根、またはその両方)によって識別され、ヒトの脊髄にはS4およびS5の仙髄根が含まれるが、ネコの脊髄には含まれないため、異なる根の刺激を含む可能性があることを認識するであろう。さらに、ネコのS1根は、ヒトの異なる根に対応し得る。当業者ならば、重要なのは、対象とする標的組織/器官(例えば、結腸または陰茎)を神経支配する1以上の仙髄根を標的とすることであることを認識するであろう。
【0071】
非限定的実施形態では、所望の生理学的応答は排便(例えば、結腸収縮)であり、患者はヒトであり、S1、S2、S3、S4、および/又はS5前根が刺激される。非限定的実施形態では、S2根のみが刺激され、任意選択で腹側/前側根と背側/後側根の両方が、任意選択で腹側/前側S2根のみが刺激される。非限定的実施形態では、患者はヒトであり、S1~S3腹側/前側根および背側/後側根が刺激される。
【0072】
非限定的実施形態では、所望の生理学的応答は陰茎勃起であり、患者はヒトであり、S1、S2、S3、S4、および/またはS5前根が刺激される。非限定的実施形態では、S1根のみが刺激され、任意選択で腹側/前側根と背側/後側根の両方が、任意選択で腹側/前側S2根のみが刺激される。非限定的実施形態では、患者はヒトであり、S1およびS2根が刺激され、任意選択で腹側/前側根と背側/後側根の両方が刺激される。非限定的実施形態では、患者はヒトであり、S1~S3腹側/前側根と背側/後側根が刺激される。非限定的実施形態では、生理学的結果は、陰茎の海綿体の圧力上昇により、または得られた圧力として測定される。非限定的実施形態または態様では、刺激は、患者の海綿体内に少なくとも25、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも125、および/または少なくとも150cmH2O(その間の全ての値および下位範囲を含む)の上昇を生じる。非限定的実施形態または態様では、刺激は、患者の海綿体内で、少なくとも100、少なくとも125、および/または少なくとも150cmH2O(その間の全ての値および下位範囲を含む)に達するような圧力を生じる。
【0073】
図面に目を向けると、本明細書では、所望の生理学的応答を誘発するのに十分な方法で、本明細書に記載されるようなパラメータで刺激を適用するための装置も提供される。
図1Aは、本明細書に記載の方法の態様において有用な電気刺激装置10の非限定的な実施形態または態様の一般的な概略図を示す。装置10は、電源またはパルス発生器20を含む。電源/パルス発生器20は、固定出力であってもよいし、例えば本明細書に記載されるような有用な範囲内で調整可能であり得る。装置10は、第1の導電性リード30と第1の神経カフ31、および第2の神経カフ36を有する第2の導電性リード35を含む。導電性リード30および35は、神経カフ31および36を接続するために単一のリードに組み合わせることができる。実施形態(図示せず)では、神経カフ31および36も単一のカフに組み合わせることができ、または、それらを完全に除去して、導電性リード30および35上に配置されるか、または30および35の両方を組み合わせた単一のリード上に配置される導電性金属/電極で置き換えることができる。導電性リード30、35は、電源/パルス発生器20に直接配線することもできるし、またはそれぞれ電源/パルス発生器20と個々の神経カフとの間に連続した電気的接続を作り出すために、複数のリードと電気コネクタ、ファスナー、端子、またはクリップを含んでもよい。神経37も描かれている。皮膚38も示され、従って、装置10は外付けであり、手持ち式または身体装着式装置とすることができ、ホックとループファスナーバンドによるなど、ベルトまたはストラップによって所定の位置に保持されるが、複数の態様では、装置10は移植装置とすることができる(以下でさらに詳細に説明する)。
図1Aでは、リードは逆極性であり、一緒になって、本明細書に記載される任意の電気波形を印加するための回路を形成する。異なるリード、プローブ、電極、もしくは電気接点、またはそれらの組合せを有する別の設計も当業者には明らかであろう。本明細書で使用する場合、「電気接点」は、患者の皮膚など、患者の神経または組織に電流を直接印加するのに有用ないずれの構造も包含する。磁場を発生させ、従って誘導によって電流を発生させるための構造は、電気接点とはみなされない。しかしながら、複数の態様で、誘導プローブ、すなわち電流を発生させることができる磁場を発生させることができる構造は、本明細書に記載の電気パルスを発生させるために使用することができる。
【0074】
図1Bは、
図1Aの装置と同様に外部電源を備えた刺激用装置10の別の態様を概略的に示す。
図1Bで、
図1Aの参照番号と対応する参照番号は、装置10の同様の要素を指す。しかしながら、表面電極31aおよび36aは、
図1Aの神経カフ31および36に置き換わり、刺激は経皮的である。図示しないが別の態様では、表面電極31aおよび36aは、神経37のインパルスの磁気誘導刺激のための電磁石によって置き換えられる。
【0075】
図1Cは、移植される神経刺激装置110のさらなる態様を示し、移植可能なハウジング112を含む。市販の移植可能な刺激装置は、例えばMedtronic(ダブリン、IE)メドトロニック社(ダブリン、IE)からのものなど、当業者に公知であり、本明細書で示されるように刺激を送達するようにプログラムできる限り、本願で示される目的に有用であり得る。ハウジング112は、第1の神経カフ131に接続された第1のリード130に接続された電源/パルス発生器120、および神経137を刺激するための第2のカフ136に接続された第2のリード135を含む、装置の様々なサブユニットを含む。皮膚138は状態を示すために描かれている。導電性リード130および135は、神経カフ131および136を接続するために単一のリードに組み合わせることができる。上記のように、複数の態様(図示せず)において、神経カフ131および136も単一のカフに組み合わせることができ、または、それらを完全に除去して、リード130および135上に位置するか、または130および135の両方を組み合わせた単一のリード上に位置する導電性金属/電極で置き換えることもできる。単極刺激では、カフ/電極の一方をハウジング112上に配置することができる。ハウジングは、プラスチック、金属、カーボンファイバー、もしくはセラミック材料、または生体適合性ポリマーもしくはヒドロゲルで被覆された金属もしくはプラスチックハウジングのようなポリマー被覆材料など、このような移植可能な装置に使用するために医療分野で知られているような任意の生体適合性材料で構成することができる。ハウジング112はまた、プロセッサ140、一過性データ記憶装置(例えば、RAM)、およびフラッシュメモリまたはソリッドステートドライブのような非一過性データ記憶装置を含む記憶モジュール142、および任意選択で磁気誘導によって再充電可能なバッテリ144を含む、装置110の様々な接続されたサブユニットを含む。プロセッサ140は、スマートフォン、タブレット、ラップトップ、パーソナルコンピュータ、スマートウォッチ、ワークステーション、サーバ、またはコンピュータネットワークなどの外部コンピュータまたはコンピュータネットワークと、例えば、近距離無線通信によって、またはBLUETOOTH、ZigBee、Z-wave、Wi-Fiによって、またはセルラーネットワークを介して、無線通信するための無線通信モジュール150に接続することもできる。
【0076】
図1A~Cの装置は電池式とすることができ、任意選択で電池は再充電可能である。装置が移植される場合、装置は、公知のように、無線、例えば磁気誘導再充電方法によって再充電することができる。
図1A~Cの装置はまた、データを送信するため、およびスマートフォン、タブレット、ラップトップ、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ、またはコンピュータネットワーク上のコントローラアプリまたはソフトウェアなどの別のコンピューティングデバイスから命令を受信するための、無線通信インターフェースまたはモジュールなどの通信インターフェースを含むことができる。コンピュータ工学およびソフトウェア工学の分野における通常の技術者には認識されるように、多数の潜在的な装置およびシステム構成および実施スキームが、本明細書に記載されるような電気刺激を提供する装置およびシステムを制御するために使用され得る。
【0077】
図1Cを参照すると、例えば
図1Aおよび/または
図1Bの装置10など、装置のいずれの態様にも等しく適用可能であり、装置110は、電源の電気パルス出力に関連する機能を実行するためのコントローラを含む。いくつかの例では、コントローラは、ベースラインプロセッサ、メモリ、および通信機能を含む中央処理エンジンである。例えば、コントローラは、コンピュータ可読メモリを含み、メモリ上に格納された命令または他のソースから受信した命令を実行するように構成された任意の適切なプロセッサであり得る。コンピュータ可読メモリは、例えば、ディスクドライブ、ソリッドステートドライブ、光学ドライブ、テープドライブ、フラッシュメモリ(例えば、不揮発性コンピュータストレージチップ)、カートリッジドライブ、および新しいソフトウェアをロードするための制御要素であり得る。
【0078】
いくつかの例では、コントローラは、本明細書において「プログラミング命令」と呼ばれる、プログラム通りに相互作用し動作するよう装置に独立的または集合的に命令を出すための、プロセッサによって実行可能なプログラム、コード、命令セット、またはそれらの組合せを含む。いくつかの例では、コントローラは、電気パルスを開始するために電源/パルス発生器に命令を出し、仙髄/根を刺激するのに十分な方法で電源の出力パラメータを制御するように構成される。当業者ならば、本明細書に開示される装置10、110に関連するプロセッサは、本開示を通して一般に説明されるような刺激を送達するようにプログラムされ得ることを認識するであろう。いずれの場合でも、コントローラは、装置にプログラムされた、または外部ソースからの電気パルスパラメータを受信して処理し、任意選択で電源が所望の出力を生成しているかどうかを判断するためのフィードバックとして電源から得られたデータを出力するように構成される。処理には、信号アーチファクト、ノイズ、ベースライン波形、または可読性を向上させるために捕捉された信号から他の項目を除去するためのフィルタおよび他の技術を適用することを含み得る。
【0079】
上記に加えてさらに、装置10、110は、プロセッサ140によって実行されると、電源/パルス発生器120に、本明細書に記載されるような所望の生理学的応答を提供する強度で電気刺激を印加させるプログラミング命令を含むことができる。これらのパラメータは上記したが、1Hz~80Hzで、0.01mA~20mA、および/または0.01V~20Vの強度で、秒~分、時間、日の単位の持続時間で、または連続的もしくは間欠的な刺激を含むことができる(全てのパラメータについてその間の全ての下位範囲を含む)。
【実施例】
【0080】
例1
本試験における実験プロトコールおよび動物使用は、ピッツバーグ大学の動物飼育使用委員会により承認されたものである。
【0081】
材料および方法
合計9匹のネコ(雌4匹および雄5匹、4.0±0.3kg;Liberty Research、ウェイバリー、NY)を手術中はイソフルラン(酸素中2~5%)で麻酔し、その後、データ収集中はα-クロラロース麻酔(最初65mg/kg i.v.で、必要に応じて補給)に切り替えた。輸液のため左頭静脈にカテーテルを留置した。気管切開を行い、気道を確保するために挿管を行った。右頸動脈にカテーテルを挿入し、全身血圧をモニターした。心拍数と血中酸素は舌に装着したパルスオキシメーター(9847V; NONIN Medical、プリマス、MN)によりモニターした。腹部を切開し、直径1.4cm、長さ5cmのバルーンカテーテル(G15766、Cook Urological、スペンサー、IN)1本を結腸近位端の小切開部から近位結腸に挿入した(
図2)。同じサイズの2本目のバルーンカテーテルを肛門から遠位結腸に挿入した。2本のバルーンに水(5~7ml)を満たして10~15cmH
2Oの安静圧にし、7匹のネコからなる第1群で近位および遠位結腸の収縮を測定した。2匹のネコからなる第2群では、コンドーム製の大きなバルーンカテーテル(直径3.5cm、長さ15cm)を結腸近位端の小切開部から挿入し、結腸全体を占有するようにして近位および遠位の両方の結腸収縮を記録した。コンドームに水(60~70ml)を満たして10~15cmH
2Oの安静圧にした。これら2匹では、1~4個のガラスビー玉(直径1.5cm)も肛門から直腸に挿入し、結腸圧の記録と同時にこれらのビー玉の排出をビデオ撮影できるようにした。
【0082】
脊髄は、背側椎弓切除により腰椎L7から仙髄S3節まで露出させた。硬膜を開き、S1~S3の各根を確認した。背側根と腹側根を分離し、腹側根を個別に刺激するか、または背側根と腹側根の両方を一緒に刺激した。実験中、動物は腹臥位で、脊髄切開部を外科用リトラクターで開いた状態に維持し、温かい(35~37℃)鉱油で満たしたプールを形成した。ヒーティングパッドを用いて動物の体温を35℃~37℃に維持した。ステンレス製の双極型フック電極(電極間隔2~3mm)を使用し、脊髄の上にある脊髄根をわずかに持ち上げることで各仙髄根に刺激を与えた。
【0083】
7匹のネコからなる第1群では、フック電極を介して個々の仙髄腹側根(S1、S2、またはS3)に異なる強度(1~16V)で刺激(周波数7Hz、パルス幅0.2ミリ秒、持続時間1分)を与え、近位結腸に観察可能な圧力上昇を誘発する強度閾値(T)を決定した。次に、最大結腸収縮を誘発する強度(1.5~3T)を用いて、異なる刺激周波数(1~50Hz)に対する結腸応答を調べた。個々の腹側根への刺激で結腸収縮が誘発されない場合は、動物の下半身の動きを生じさせない最大刺激強度を用いて周波数応答を調べた。フック電極による仙髄根刺激で尾または後肢の局所的な動きが生じる可能性があるため、股関節および脊椎下部を固定しないことがこの試験の意図であった。しかし、最大刺激強度は、フック電極を神経からずらすことになる下部脊椎の動きによって制限された。各腹側根を刺激した後、最大の結腸収縮を誘発したS2腹側根をS2背側根と組み合わせ、その組合せを最も効果的な周波数(7Hz)で刺激した。組み合わせたS2根刺激(持続時間1分)を1分間隔で5回適用した後、結腸収縮の疲労を判定するために5分間の連続刺激を行った。
【0084】
2匹の猫からなる第2群では、S2腹側根と背側根の組合せを、最大結腸収縮を誘発する強度で、様々な時間(2.5~11分)で刺激(7Hz)し、その刺激が排便、すなわち直腸に挿入したビー玉の排出を誘発できるかどうかを調べた。S2根刺激によって誘発された排便をビデオ撮影し、ビー玉が排出された時間を結腸圧記録に印した。
【0085】
異なる腹側根を異なる周波数で刺激することにより誘発された結腸収縮を比較するため、収縮振幅は常に同じ動物で刺激して誘発された最大収縮振幅に対して正規化した。1分間の反復刺激により誘発された結腸収縮は、反復シミュレーション中に誘発された最大収縮振幅に対して正規化し、再現性を判定した。5分間の連続刺激中に誘発された最大収縮振幅と5分間の刺激の終了時の収縮振幅を比較して、連続長時間刺激中の疲労を判定した。異なる動物のデータを平均し、平均値±SEで示した。統計的有意性(p<0.05)は、一対のt検定または反復測定ANOVAとその後のダネット多重比較(一元配置)またはボンフェローニ多重比較(二元配置)により判定した。
【0086】
結果
S2腹側根の刺激は、S1またはS3腹側根の刺激よりも大きな結腸収縮を誘発し、最も効果的な刺激周波数は7~10Hzであった(
図3~4B)。
図3は同じネコから記録した遠位結腸圧と近位結腸圧のトレースを示す。S2腹側根の刺激は、周波数7~30Hzで20cmH
2Oを超える結腸収縮を誘発し、遠位結腸と近位結腸で同様の収縮振幅を示した(
図3、パネルB)。S1またはS3腹側根の刺激は、刺激期間中に非同期的に起こっていた小さな(<10cmH
2O)律動的なベースライン結腸収縮よりも大きな結腸収縮は誘発しなかった(
図3、パネルAおよびC)。このネコでは、S2腹側根刺激に用いた刺激強度は、観察可能な近位結腸収縮を誘発するために7Hz刺激中に用いた閾値強度の2倍である。S1およびS3腹側根刺激に対する結腸応答は弱いため、下部脊柱の運動を誘発する閾値のすぐ下の最大刺激強度をこれらの根に適用した。後肢(主にS1/S2刺激)および/または尾(主にS2/S3刺激)の運動は、3つの根のそれぞれの刺激により誘発された。
図3は、7~10HzのS2腹側根刺激が、S1またはS3腹側根刺激によって誘発される収縮よりも有意に(p<0.05)大きな結腸収縮をもたらすのに最適であったことを示す7匹のネコの結果をまとめたものである。遠位結腸と近位結腸の収縮振幅に有意差はなかった(
図4A~4B)。
【0087】
S2腹側根と背側根を一緒に刺激(7Hz)すると、遠位結腸と近位結腸の両方で大振幅(>20cmH
2O)の収縮が誘発された(
図5)。
図5のパネルAは、近位結腸収縮を誘発するための閾値強度の1.5倍の間欠的な1分間の刺激は、2回目の刺激期間中により強い収縮を生じ、次の3回の1分間刺激により大振幅の収縮が維持されたことを示す。しかしながら、収縮振幅は5分間の連続刺激中に徐々に減少し、結腸収縮の疲労を示した(
図5、パネルA)。平均して、遠位結腸と近位結腸の両方の収縮振幅は5回の間欠的な1分間の刺激中も維持されたが(N=4匹、
図5、パネルB)、5分間の連続刺激終了時には平均最大振幅30cmH
2Oから約18cmH
2Oまで有意に(p<0.05)減少した(N=7匹、
図5、パネルC)。
【0088】
S2腹側根と背側根を一緒に刺激すると、ネコ#1では60cmH
2O(
図6、パネルA)、ネコ#2では40cmH
2O(
図6、パネルB)の最大振幅の結腸収縮が誘発された。ネコ#1では、3個のビー玉を直腸に挿入した後、S2根刺激(7Hz、6V、0.2ミリ秒)により、刺激1分後に1個目のビー玉を排出し、刺激2分後に2個目のビー玉を排出する排便の成功を誘発した(
図6、パネルA)。6分間の刺激の最後の2分の間に始まった3個目のビー玉の排出は不完全であった(
図6、パネルA)。ネコ#2では、ビー玉1個を直腸に挿入した後、S2根刺激(7Hz、6V、0.2ミリ秒)により、2.5分の刺激後にビー玉が排出された(
図6、パネルB)。しかしながら、4個のビー玉を直腸に挿入した後では、4.5分の刺激の後に4個のビー玉のうち1個だけが刺激によって排出され、11分の刺激の終了時には3個のビー玉が直腸内にあった(
図6、パネルB)。S2腹側根と背側根を一緒に刺激しても、これら2匹のネコではビー玉が1~2個しか排出されなかったが、背側根を使わずにS2腹側根だけを刺激すると、2匹のネコでビー玉4個全ての排出に成功した。
【0089】
考察
麻酔したネコにおける本試験により、仙髄根刺激に対する結腸応答は、刺激周波数と刺激される脊髄分節に依存することが示される。7HzでのS2腹側根刺激は、近位結腸と遠位結腸の両方の収縮を誘発するのに最適である(
図3~4B)。S2腹側根と背側根を一緒に刺激することも結腸収縮の誘発に効果的であり(
図5、パネルA)、間欠的刺激(1分オン、1分オフ)は連続刺激よりも疲労耐性が高い(
図5、パネルBおよびC)。さらに重要なことは、S2脊髄根刺激によって排便を誘導できることである(
図6)。
【0090】
これらの結果は、SCI後のヒトに排便機能を回復させるための新しい神経調節装置を開発するために重要な意味を持つ。S2脊髄根全体(腹側および背側)の刺激は、腹側根のみの刺激と同程度に有効であり(
図4A~B)、排便の誘発に成功したことから(
図5)、仙髄後根切開術は必要なく、腹側根の代わりに仙髄根を刺激することが、ヒトのSCI後の排便機能の回復に有効である可能性がある。仙髄後根切開術を行う主な理由は、膀胱内に高圧を発生させ、腎障害を引き起こす可能性のある排尿筋括約筋筋失調(DSD)を除去するためである。しかしながら、結腸および/または直腸の高血圧は、腎不全を引き起こし得る膀胱の高血圧ほど有害ではないかもしれない。結腸直腸圧が肛門括約筋収縮協調障害に打ち勝つのに十分高ければ、糞便は排出されるはずである。さらに、ネコにおける最近の研究では、kHzの電気刺激を用いて陰核神経の伝導を遮断することにより、括約筋の活動を一時的に抑制する効果的な方法が開発されている。この方法は脊髄損傷ネコのDSD治療に有効であり、また、肛門括約筋協調障害を克服するのに十分な強い結腸直腸収縮が生じない場合には、排便協調障害の治療にも応用できる可能性がある。従って、新しい神経調節装置は、腹側根の代わりに仙髄根を刺激し、同時に陰核神経の伝導を遮断することによってDSDおよび/または排便協調障害を予防し、SCI後の膀胱機能ならびに排便機能を回復させる可能性がある。腹側根の代わりに仙髄根を刺激することの意義は、刺激に最小限の侵襲の外科的アプローチを採用できる可能性にある。S1~S3脊髄根には、経皮的に孔針を挿入して刺激用リード電極を配備することで接近可能である。この外科的アプローチは、過活動膀胱に対する仙骨神経調節療法で慣用されている。
【0091】
S2腹側根を刺激すると4個のビー玉は全て排除されたが、S2腹側根と背側根を一緒に刺激しても1~2個のビー玉しか排除されなかった(
図6)。この違いは、背側根の知覚神経を刺激することで、肛門括約筋へのさらなる反射が誘発され、それが排便協調障害を引き起こし、直腸が完全に空になるのを妨げた可能性を示唆している。この可能性は、肛門括約筋の収縮がビー玉をその場所に固定しているために3個目のビー玉の排出が不完全であったネコ#1において明確に示された(
図6、パネルA)。もしこの実験で陰核神経が遮断されれば、外肛門括約筋は弛緩し、3個目のビー玉は完全に排出されたかもしれない。しかしながら、排便協調障害が外肛門括約筋(線条筋)ではなく内肛門括約筋(平滑筋)の収縮によるものであれば、陰核神経遮断は効果がない。本研究では直腸内にビー玉を挿入して排便を調べるために、内肛門括約筋と直腸収縮圧は記録しなかった。排便中にバルーンが排除され、同時に圧力を測定するためには、遠位腸管に可動式の小型バルーンが必要である。従って、仙髄刺激によって誘発される排便中の直腸と肛門括約筋の協調をよりよく理解するためには、さらなる研究が必要である。
【0092】
本研究では、S2根刺激によって誘発される結腸の収縮と排便は、常に後肢および/または尾の運動を誘発する強度よりも高い刺激強度を必要とした。この結果は、ネコでは結腸を支配するS2脊髄根の求心性神経線維と遠心性神経線維は無髄の小C線維であり、大運動線維よりも興奮閾値が高いことから予想されるものである。背側根の小C線維は侵害受容の伝達にも関与しているため、排便に必要な刺激強度は、同時に痛覚も生じさせる可能性がある。完全SCI患者の場合、損傷レベルより下の感覚はないことから、このことは排便機能を回復させるために重要な問題ではないはずである。しかしながら、もしヒトの大腸の外在性神経支配がネコのそれと同様であれば、慢性便秘の非SCI者の排便を誘発することは問題となるであろう。
【0093】
慢性便秘の非SCI患者を治療するための仙骨神経調節の最近の応用では、決定的な臨床結果は得られていないが、これは部分的に、体性感覚をもたらすだけの低い刺激強度の使用によるものである可能性がある。この低い刺激強度は、おそらく大腸を支配する仙髄根の神経線維を直接刺激するものではない。しかしながら、大腸の運動を促進するように中枢機構を誘発し得る仙髄根の大きな体性感覚線維を活性化することによって、間接的に大腸の機能を調節している可能性がある。この中枢性調節機構は刺激周波数に敏感である可能性があるが、最近の臨床試験では、慢性便秘の非SCI患者を治療するために14Hzの単一刺激周波数のみが使用された。本発明者らの研究では、大腸収縮を誘発する仙髄根刺激には、より低い周波数7Hzが最適であることを示しているが、ラットおよびイヌでの他の研究では、有効周波数は5Hzまたは10Hzであることを認めている。従って、慢性便秘の非SCI患者を治療するための臨床研究では、14Hzより低い周波数を試験すべきであると思われる。
【0094】
本発明者らの研究ではまた、連続的な刺激は結腸収縮の疲労を引き起こし得るが、間欠的な刺激は疲労耐性がより高いことを示している(
図5)。このことは、慢性便秘を治療するために最近の臨床試験で用いられている仙髄根の連続刺激は最適ではない可能性があり、結腸通過時間を改善するための結腸運動調節には間欠的刺激の方が効果的であり得ることを示している。最近の動物実験では、結腸運動を促進し、慢性便秘の非SCI患者に対する仙骨神経調節療法を改善するための最適な刺激パラメータの開発に焦点が当てられ始めている。
【0095】
要約すると、ネコにおける本研究により、大腸の収縮と排便を誘発する仙髄根刺激の刺激パラメータが最適化された。この結果は、SCI後の排便機能を回復させるための新しい神経調節装置の設計、および慢性便秘の非SCI患者を治療するための仙骨神経調節パラメータの最適化にとって重要な意味を持つ。
【0096】
例2
本試験における実験プロトコールおよび動物使用は、ピッツバーグ大学の動物飼育使用委員会により承認されたものである。
【0097】
材料および方法
合計8匹の雄ネコ(4.6±0.2kg;ドメスティックショートヘア)を手術中はイソフルラン(酸素中2~5%)で麻酔し、その後、データ収集中はα-クロラロース麻酔(最初65mg/kg i.v.で、必要に応じて補給)に切り替えた。輸液のため左頭静脈にカテーテルを留置した。気管切開を行い、気道を確保するために挿管を行った。右頸動脈にカテーテルを挿入し、増幅器(TBM4M、WPI、サラソタ、FL)に接続した圧力変換器(BLPR2 WPI、サラソタ、FL)により全身血圧をモニターした。心拍数と血中酸素は舌に装着したパルスオキシメーター(9847V;NONIN Medical、プリマス、MN)によりモニターした。腹部を切開し、試験中に膀胱を排出するために尿道から膀胱にカテーテルを挿入し、尿道を縫合糸で結紮した。次に、腹部切開部を縫合糸で閉じた。
【0098】
脊髄は、背側椎弓切除により腰椎L7から仙髄S3節まで露出させた。硬膜を開き、S1~S3の各根を確認した。背側根と腹側根を分離し、腹側根を個別に刺激するか、または背側根と腹側根の両方を一緒に刺激した(
図7)。実験中、動物は腹臥位で、脊髄切開部を外科用リトラクターで開いた状態に維持し、温かい(35~37℃)鉱油で満たしたプールを形成した。ヒーティングパッドを用いて動物の体温を35℃~37℃に維持した。ステンレス製の双極型フック電極(電極間隔2~3mm)を使用し、脊髄の上にある脊髄根をわずかに持ち上げることで各仙髄根に刺激を与えた。刺激は刺激装置(S88、Grass Instruments、ウェストウォリック、RI)で発生させ、定電圧刺激アイソレーター(SIU5A、Grass Instruments、ウェストウォリック、RI)を介して与えた。
【0099】
実験開始時、フック電極を介して仙骨S1腹側根に最小強度(0.5V)で刺激(周波数30Hz、パルス幅0.2ミリ秒、持続時間1~2分)を与えた。勃起が観察されない場合は、刺激強度を上げ、その後、陰茎勃起が観察されるまで再度試験を行った。S1腹側根刺激が有効でなかった場合は、刺激電極をS2腹側根に移動し、試験を繰り返した。陰茎勃起は、陰茎の完全な突出と曲げに対する剛性として明らかであり、個々のS1およびS2腹側根の刺激によって常に観察された。陰茎勃起が観察された後、20ゲージのカテーテルが陰茎先端の小切開部から海綿体に挿入され、増幅器(TBM4M、WPI、サラソタ、FL)に接続された圧力変換器(BLPR2 WPI、サラソタ、FL)を介して勃起中の陰茎圧を記録した(
図7)。圧力データは、チャートレコーダ(TA4000、Gould、チャンドラー、AZ)に記録され、LabViewプログラム(National Instruments、オースティン、TX)を実行するコンピュータによってデジタル化された。電気的に誘発される陰茎の突出は、海綿体圧の上昇と非常によく相関しているため、本研究では陰茎勃起の定量的測定として圧力記録を用いた。
【0100】
陰茎カテーテルを留置した後(N=8匹のネコ)、フック電極を介して左右の個々の仙髄腹側根(S1、S2、またはS3)に、ある強度範囲(0.5~15V)で刺激(周波数30または40Hz、パルス幅0.2ミリ秒、持続時間1分)を与え、陰茎圧の観察可能な上昇を誘発するための強度閾値(T)を決定した。次に、最大陰茎圧(>100cmH2O)を誘発する強度(1.5~3T)を用いて、異なる刺激周波数(5~80Hz)に対する陰茎応答を試験した。個々の腹側根への刺激で100cmH2Oを超える陰茎圧が誘発されなかった場合、動物の下半身の動きを生じさせない最大刺激強度を用いて周波数応答を調べた。フック電極による仙髄根刺激で尾または後肢の局所的な動きが生じる可能性があるため、股関節および脊椎下部を固定しないことが意図された。しかし、最大刺激強度は、フック電極を神経からずらすことになる下部脊椎の動きによって制限された。各腹側根を調べた後、最大の陰茎圧を誘発した腹側根(S1またはS2)を背側根と組み合わせ、その組合せを最も効果的な周波数(30Hz)および強度で10分間連続刺激し、誘発された陰茎勃起が全刺激期間で持続可能であるかどうかを判定した。最後に、脊髄をT9-T10レベルで完全に切断した(N=6匹のネコ)。脊髄切断から約10分後、同じ脊髄根(腹側根と背側根を合わせて)に10分間連続刺激を与え、陰茎勃起を誘発する試験を再度行った。脊髄切断による血圧変化を治療するための薬剤は使用しなかった。
【0101】
異なる腹側根を異なる周波数で刺激することによって誘発された陰茎勃起応答を比較するために、刺激によって誘発された陰茎圧の最大振幅を測定し、同じ刺激条件について異なる動物間で平均した。誘発された陰茎勃起の持続性を決定するために、10分間の連続刺激によって誘発された最大陰茎圧を、10分間の刺激終了時の圧力と比較した。脊髄切断の影響を調べるため、10分間の連続刺激によって誘発された最大陰茎圧を脊髄切断の前後で比較した。異なる動物からのデータを平均し、平均値±SEで示した。ソフトウェアパッケージ(Prism 9.3.1、GraphPad Software、サンディエゴ、CA)を用いた統計解析のため、対応のあるt検定またはフリードマン検定とその後のダンネットの多重比較の繰り返し測定を行った。統計的有意性はp<0.05と定義した。
【0102】
結果
陰茎勃起は、6匹のネコでS1腹側根の刺激(S2およびS3は無効)により、および2匹のネコでS2腹側根の刺激(S1およびS3は無効)により、硬直を伴う陰茎の完全な突出として観察された。刺激パラメータは周波数30Hz、パルス幅0.2ミリ秒、強度4.3±1.0V(0.5~8V)であった。陰茎圧の記録によって定量化されたこれらの応答は、それぞれ6匹および2匹のネコで、S1またはS2腹側根刺激によって、25±1cmH
2Oのベースライン圧から177±14cmH
2O(S1)または147±2cmH
2O(S2)への陰茎圧の大きな上昇が誘発されることを示した(
図8、パネルC)。S1またはS2腹側根刺激により陰茎勃起を誘発する最適な刺激周波数は30~40Hzであったが(
図8、パネルD)、より低い周波数(10~20Hz、
図8、パネルA)またはより高い周波数(60~80Hz、
図8、パネルAおよびB)も、一部のネコにおいて陰茎圧の大きな上昇を誘発できた。陰茎圧の最大上昇を誘発する30~40HzのS1またはS2腹側根刺激の刺激強度は3.5±1.4V(0.6~12V)であり、これは常に脚筋収縮(S1)または肛門括約筋収縮(S2)を誘発する運動閾値を上回っていた。
【0103】
S1またはS2脊髄根(すなわち、腹側根と背側根を合わせたもの)を10分間連続刺激すると(30Hz)、陰茎圧の大きな上昇が誘発された(190±8cmH
2O)(
図9)。最大陰茎圧は、10分の刺激の間、持続するか(
図9、パネルA)、または徐々に発達した(
図9、パネルB)。10分の刺激の終了時の陰茎圧は、刺激中に発現した最大圧と有意な差はなかった(
図9、パネルC)。腹側根と背側根を一緒に刺激することによって誘発された最大陰茎圧もまた、腹側根のみの刺激によって誘発された最大圧力と有意差はなかった(
図8、パネルDおよび
図9、パネルC)。
【0104】
T9-T10レベルで脊髄を完全に切断した後、S1またはS2脊髄根(腹側根および背側根を合わせたもの)を10分間連続刺激しても(30Hz)、陰茎圧の大きな上昇(186±9cmH
2O)が誘発された(
図10)。脊髄切断前に見られたように、最大陰茎圧もまた、10分の刺激中、持続したか、または徐々に発達した(
図10、パネルB)。しかしながら、誘発された陰茎圧は、脊髄切断前の陰茎応答(186±9cmH
2O)と比較すると、脊髄切断後は113±19cmH
2Oに有意に(p=0.0025)低下した(
図10、パネルC)。血圧もまた、脊髄切断によって229±11cmH
2Oから186±7cmH
2Oへ有意に(p=0.0027、N=6)低下したが、仙髄根刺激では変化しなかった。
【0105】
考察
麻酔をかけたネコでのこの研究から、仙髄根刺激によって誘発される陰茎勃起は、刺激周波数と刺激される脊髄分節に依存することが示された。各動物において、1つの脊髄根、最も多くは、ネコの骨盤内臓への副交感神経遠心性性投射の小部分を含むS1が、最も顕著な応答を誘発した。陰茎圧の最大上昇は30~40Hzの刺激で起こり(
図8)、長時間(10分間)の刺激でも持続し(
図9)、脊髄の急性完全切断後も持続した(
図10)。これらのデータから、脊髄損傷者の陰茎勃起機能の改善における仙骨神経調節の有効性は、適切な脊髄根の選択と最適な刺激周波数に依存することが示唆される。
【0106】
これまでの研究で、マウス、ラット、ネコ、イヌ、サル、またはヒトにおいて、骨盤神経、海綿体神経、または陰茎背側神経の電気刺激により陰茎勃起が誘発できることが示されている。しかしながら、骨盤神経および海綿体神経は刺激電極を埋め込むための侵襲的な手術が必要であり、陰茎背側神経は性交中に刺激電極を装着するのに便利な場所ではない。そのため、これらの刺激法は勃起不全の治療に広く臨床応用されていない。仙髄腹側根刺激もまた、本研究ならびにネコおよびイヌを用いた先行研究において、陰茎勃起の誘発に有効であることが示された。さらに、仙髄前根刺激は、一部のSCI患者の膀胱機能と勃起機能の回復に用いられた。しかしながら、仙髄前根に刺激電極を移植するためには侵襲的な脊髄手術が必要であり、この効果的な治療法をSCI患者または非SCI患者に勃起不全の治療のみを目的として使用することはできない。ネコでのこの研究は、仙髄根の刺激により陰茎勃起が誘発できることを示している。イヌにおける以前の研究でも、同様の効果が示された。腹側根の代わりに仙髄根を刺激することの意義は、刺激に低侵襲の外科的アプローチを採用できる可能性にある。ヒトの仙髄根は、経皮的に孔針を挿入して刺激用リード電極を配備することで接近可能である。この外科的アプローチは、過活動膀胱に対する仙骨神経調節療法で慣用されている。従って、本研究は、SCI患者と非SCI患者の両方に対して勃起機能を回復させるために、低侵襲の外科的アプローチを用いた新しい仙骨神経調節療法を開発するために重要な意味を持つ。
【0107】
過活動膀胱の治療に仙骨神経調節療法を用いた先行研究では、SCI患者と非SCI患者の両方において、陰茎勃起に対する効果も評価されている。アンケートによると、中等度~軽度の勃起不全の被験者は、仙骨神経調節療法によって性生活の質が有意に改善した。しかしながら、これらの研究では、過活動膀胱の治療に最適化された刺激パラメータ、すなわち、感覚閾値強度で刺激周波数20Hzが使用された。この研究では、感覚閾値および運動閾値を超える強度でより高い刺激周波数(30~40Hz)を用いると、刺激をオンにした時点で陰茎勃起を速やかに誘発することができ、10分の刺激全体にわたって勃起を持続できることが示されていることから、これらの刺激パラメータは勃起不全の治療には最適ではないかもしれない。このタイプのオンデマンド勃起は、より低い周波数でより弱い刺激強度の連続的(24時間×7日間)仙骨神経調節によってもたらされる生活の質の改善よりも、患者にとってはるかに満足のいくものであるはずである。従って、勃起不全を治療するための臨床研究では、より高い周波数(30~40Hz)とより強い刺激強度(感覚閾値および運動閾値を超える)を試験すべきであると思われる。より強い刺激によって脚の運動は誘発されるが、脚の筋肉の収縮は強直性で、運動は刺激の初期にしか起こらず、性交の成功には問題がないはずである。SCI患者の陰茎勃起を誘発するために前側根刺激が用いられた場合、脚の動きも誘発されたが、性交の成功を妨げることはなかった。
【0108】
仙髄根(腹側根と背側根を合わせたもの)を刺激すると、腹側根のみの刺激によりもたらされるものと同様の陰茎圧の大きな上昇が誘発された(
図8)。この結果は、背側根のさらなる感覚神経を活性化しても、腹側根の遠心性神経を直接刺激することによって誘発される陰茎勃起は妨げられなかったことを示す。イヌにおける以前の研究でも、腹側根の刺激のみでも、または腹側根と背側根を一緒に刺激しても、誘発される陰茎勃起に差はないと報告されている。この研究では、脚の動きまたは肛門括約筋の収縮を誘発するための閾値強度は測定されておらず、陰茎勃起が誘発された際に仙髄根でどのタイプの神経線維が活性化されたかを推定することは困難である。覚醒状態下でのヒトへの応用では、感覚神経の活性化は不快感または痛みを引き起こす可能性があり、これが刺激強度を制限する可能性があるので、勃起不全の治療における刺激の有効性を制限する可能性がある。この潜在的な問題は、非SCIヒト被験者における臨床研究によってのみ解決できる。しかしながら、損傷部より下の感覚がない完全SCIの被験者にとっては、問題にならないはずである。
【0109】
この研究は、仙髄根刺激によって誘発される陰茎勃起が、10分の刺激中に持続するか、または徐々に発達することを示している(
図9、パネルA~B)。このことは、仙髄根刺激をより長時間行うと、持続時間の長い勃起が得られることを示している。これはまた、背側根の求心性神経を刺激しても、陰茎勃起を抑制し得る抑制性交感神経経路が反射的に活性化されなかったことを示している。仙髄根の刺激は、おそらく副交感神経と体性交感神経の両方の経路を活性化し、勃起と陰茎硬直を生じさせたと思われる。しかしながら、脊髄切断後は、誘発された陰茎圧の振幅が有意に減少し、おそらく脊髄ショック効果と急性脊髄切断後の血圧低下によるものであろう。それにもかかわらず、仙髄根刺激は急性脊髄切断後も陰茎圧の大きな(>100cmH
2O、
図10)持続的上昇を誘発し、この刺激がSCI後の勃起機能回復に有用であり得ることを示している。仙髄根刺激が、SCI患者において非SCI患者よりも陰茎勃起誘発効果が低いかどうかは、ヒト臨床研究によって答えられるべき問題である。しかしながら、仙髄前側根刺激がSCI患者の性交に十分な強さの陰茎勃起を誘発するのに有効であることは知られている。まとめると、ネコにおけるこの研究では、陰茎勃起を誘発するための仙髄根刺激の刺激パラメータを最適化した。この結果は、SCI後の勃起機能を回復させるための新しい神経調節装置の設計、または勃起不全の非SCI患者を治療するための仙骨神経調節パラメータの最適化にとって重要な意義を持つ。
【0110】
本発明を上記の詳細な説明に関して説明してきたが、当業者であれば、本発明の趣旨の範囲内で変更が可能であることを理解するであろう。従って、上記は限定的なものとみなされるべきではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。
【国際調査報告】