(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】閉塞性睡眠時無呼吸の処置のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20241022BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241022BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241022BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P25/00
A61K47/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522550
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 US2022046663
(87)【国際公開番号】W WO2023064528
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ガリビヤン リリット
(72)【発明者】
【氏名】ファリネリ ウィリアム エー.
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン リチャード ロックス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076BB11
4C076CC01
4C076DD38F
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA02
(57)【要約】
無菌の水、生体適合性界面活性剤、例えば、グリセリン、および生理食塩水などの成分を含む氷スラリーを標的区域内に注射することにより、患者の上気道において脂肪組織を除去しかつコラーゲン生成を増加させることによって、睡眠時無呼吸を処置することを可能にする方法が、本明細書に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と氷粒子とを含む無菌氷スラリーを製造する工程;
該無菌氷スラリーを所定の温度まで冷却する工程;および
該無菌氷スラリーを所望の組織領域内に繰り返しで注射する工程であって、該所望の組織領域が舌を含む、工程
を含む、舌における新たなコラーゲン形成を誘導することによって閉塞性睡眠時無呼吸を処置する方法。
【請求項2】
前記所定の温度が-10℃~0℃である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
氷スラリー注射の回数が1~6回注射である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
各注射のための氷スラリーの体積が5ml~50mlである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記無菌氷スラリーが生体適合性界面活性剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記生体適合性界面活性剤がグリセリンである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記無菌氷スラリーを前記所望の組織領域内に注射する工程が、
ポンプを介して、該無菌氷スラリーを該所望の組織領域に送達すること;および
融解したスラリーを該所望の組織領域から吸引すること
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記無菌氷スラリーを前記所望の組織領域内に注射する工程が、
注射器を介して、該無菌氷スラリーを該所望の組織領域に送達すること;および
融解したスラリーを該所望の組織領域から吸引すること
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記無菌氷スラリーを前記所望の組織領域内に注射する工程が、
注射口および吸引口を有するカテーテルを該所望の組織領域内に挿入すること;
該注射口を通して、該無菌氷スラリーを該所望の組織領域に送達すること;ならびに
該吸引口を通して、融解した氷スラリーを該所望の組織領域から吸引すること
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記無菌氷スラリーを前記所望の組織領域内に注射する工程が、
バルーンベースのカテーテルを該所望の組織領域内またはその周囲に挿入すること;および
該無菌氷スラリーを該バルーンベースのカテーテル内に再循環させること
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記無菌氷スラリー中の前記氷粒子が2ミリメートル未満の最大断面直径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記無菌氷スラリーの注射後に前記舌が0℃未満まで冷却される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
零下の舌温度(below zero tongue temperature)の持続時間が少なくとも5分間である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
組織温度が0℃まで再上昇した時に各再注射が実施される、請求項3記載の方法。
【請求項15】
前記無菌氷スラリーの注射が前記舌における新たなコラーゲン形成を誘導する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記無菌氷スラリーの注射が前記舌を硬化させる、請求項1記載の方法。
【請求項17】
水と氷粒子とグリセリンとを含む無菌氷スラリーを製造する工程;
該無菌氷スラリーを所定の温度まで冷却する工程;および
該無菌氷スラリーを所望の組織領域内に注射する工程であって、該所望の組織領域が上気道脂肪組織を含む、工程
を含む、上気道脂肪組織を選択的に減少させることによって、閉塞性睡眠時無呼吸を処置するための方法。
【請求項18】
前記上気道脂肪組織が前頸部脂肪パッドである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記上気道脂肪組織が舌脂肪である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記舌脂肪が舌脂肪組織の基底部である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記所定の温度が-10℃~0℃である、請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記無菌氷スラリーが生体適合性界面活性剤をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
前記生体適合性界面活性剤がグリセリンである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記無菌氷スラリーを前記所望の組織領域内に注射する工程が、
ポンプを介して、該無菌氷スラリーを該所望の組織領域に送達すること;および
融解したスラリーを該所望の組織領域から吸引すること
を含む、請求項17記載の方法。
【請求項25】
前記無菌氷スラリーを前記所望の組織領域内に注射する工程が、
注射器を介して、該無菌氷スラリーを該所望の組織領域に送達すること;および
融解したスラリーを該所望の組織領域から吸引すること
を含む、請求項17記載の方法。
【請求項26】
前記無菌氷スラリーを前記所望の組織領域内に注射する工程が、
注射口および吸引口を有するカテーテルを該所望の組織領域内に挿入すること;
該注射口を通して、該無菌氷スラリーを該所望の組織領域に送達すること;ならびに
該吸引口を通して、融解した氷スラリーを該所望の組織領域から吸引すること
を含む、請求項17記載の方法。
【請求項27】
前記無菌氷スラリーを前記所望の組織領域内に注射する工程が、
バルーンベースのカテーテルを該所望の組織領域内またはその周囲に挿入すること;および
該無菌氷スラリーを該バルーンベースのカテーテル内に再循環させること
を含む、請求項17記載の方法。
【請求項28】
前記無菌氷スラリー中の前記氷粒子が2ミリメートル未満の最大断面直径を有する、請求項17記載の方法。
【請求項29】
前記無菌氷スラリーの注射後に前記前頸部脂肪パッドが冷却される、請求項17記載の方法。
【請求項30】
前記無菌氷スラリーの注射後に前記舌が冷却される、請求項17記載の方法。
【請求項31】
前記無菌氷スラリーの注射が前記前頸部脂肪パッドの体積を減少させる、請求項17記載の方法。
【請求項32】
前記無菌氷スラリーの注射が前記舌脂肪の体積を減少させる、請求項17記載の方法。
【請求項33】
前記前頸部脂肪パッドの温度が約-10℃~約0℃の温度まで低下する、請求項29記載の方法。
【請求項34】
前記舌脂肪の温度が約-10℃~約0℃の温度まで低下する、請求項30記載の方法。
【請求項35】
前記無菌氷スラリーを前記所望の組織領域内に注射する工程が、
該無菌氷スラリーを舌または頸部脂肪パッド組織内に直接注射すること
を含む、請求項17記載の方法。
【請求項36】
水と氷粒子とを含む無菌氷スラリーを製造する工程;
該無菌氷スラリーを所定の温度まで冷却する工程;および
該無菌氷スラリーを所望の組織領域内に繰り返しで注射する工程であって、該所望の組織領域が上気道を含む、工程
を含む、舌における新たなコラーゲン形成を誘導することによって閉塞性睡眠時無呼吸を処置する方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、自動車事故の危険を高める、過度の日中の眠気および認知障害をもたらす慢性疾患である。しかし、OSAの正確な病態生理学は、未だ明らかになっていない。したがって、この患者集団における処置のための低侵襲で無痛の方法である標的治療に対するアンメットニーズが存在する。ここで、本発明者らは、OSA処置の新規の方法として、凍結脂肪分解によって、上気道脂肪を減少させ、かつ舌における新たなコラーゲン形成を誘導する方法を開示する。
【0002】
肥満は、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の最も重要な危険因子である。肥満は、様々なメカニズムによって、上気道の軟部組織構造のサイズを増加させると考えられるが、そのうちの1つが、これらの組織における脂肪の直接沈着である。上気道脂肪組織、具体的には、外側副咽頭脂肪パッド、口蓋垂、および舌に沈着したものの増加が、睡眠時無呼吸の病態形成において主要な役割を果たすと考えられる。睡眠時無呼吸を有する対象においては、咽頭壁、舌、および全軟部組織の体積が、より大きいと報告されている。
【0003】
頸部の内臓脂肪の量は、上気道軟部組織構造の肥大に関与していると考えられるが、最も重要な因子ではない可能性がある。(年齢、性別、頭蓋顔面サイズ、および民族性に加えて)肥満以外の因子が、舌および外側咽頭壁のサイズの増加の媒介において重要である可能性がある。OSAを有する患者においては、年齢およびBMIが一致する対照と比較して、舌の硬さが減少していることが示されている。これは、OSAを有する患者に見られる舌の弛緩性および虚脱性の増加をもたらし、このことは、OSAを有する患者における舌組織の機械的特性に根本的な違いが存在し、これらの変化が年齢または肥満のみの結果ではないことを示唆している。本明細書に開示される本発明は、舌の弛緩性を減少させるため、舌における新たなコラーゲン形成を誘導し、脂肪減少とは無関係に閉塞性睡眠時無呼吸を改善する新たな方法を含む。
【発明の概要】
【0004】
【図面の簡単な説明】
【0005】
本特許または出願ファイルには、当初カラーであった少なくとも1つの図面が含まれる。
【0006】
【
図1】
図1は、コラーゲン含量スコアのコードを示す。
【
図2A】
図2A~Bは、一連の氷スラリー注射の後のブタ#4の舌の基底部の組織温度および組織画像を示す。
図2Aは、氷スラリー注射を投与する針に埋め込まれた熱電対によって記録された組織温度を示す。ブタ#4は、組織温度が零度まで再上昇する度に3回、20mLの氷スラリーを逐次注射された。
図2Bは、氷スラリー処置後2ヶ月目の舌の基底部の生検材料からの組織画像を示す。青色は、脂肪が失われた場所における新たなコラーゲン形成を強調するトリクローム染色である。
【
図2C】
図2Cは、スラリーの注射前(左)および注射後(右)の舌の基底部の注射部位の代表的な超音波画像を示す。黄色矢印は、舌骨を示し、青色矢印は、舌の基底部を示す。赤色矢印は、注射針の先端を示し、白色矢印は、舌の基底部における注射されたスラリーを表す。
【
図3】
図3A~Bは、一連の氷スラリー注射の後のブタ#5の舌の基底部の組織温度および組織画像を示す。
図3Aは、針に埋め込まれた熱電対によって記録された組織温度を示す。ブタは、組織温度が零度まで再上昇する度に3回、それぞれ、20ml、17ml、および20mlの氷スラリーを逐次注射された。
図3Bは、氷スラリー処置後2ヶ月目の舌の基底部の生検材料からの組織画像を示す。
図3Bの青色は、新たなコラーゲン形成を強調している。
【
図4】
図4は、一連の氷スラリー注射の後のブタ#6の舌の基底部の組織温度および組織画像を示す。
図4Aは、針に埋め込まれた熱電対によって記録された組織温度を示す。ブタは、組織温度が零度まで再上昇する度に6回、それぞれ、17ml、12ml、5ml、14ml、5ml、および7mlの氷スラリーを逐次注射された。
図4Bは、氷スラリー後2ヶ月目の舌の基底部の生検材料からの組織画像を示す。
図4Bの青色は、新たなコラーゲン形成を強調している。
【
図5-1】
図5は、ブタ#4、#5、および#6における氷スラリー注射後のコラーゲン面積測定値および損傷スコアを示す。
【
図6】
図6は、舌の基底部への氷スラリーの注射の安全性を示す。
図6Aは、ベースラインおよび注射後8週目の氷スラリー群およびRT対照群の動物の体重を示す。
図6Bは、舌の代表的な肉眼像を示し、舌の基底部の生検部位が赤色で表されている。
図6Cは、未処置の部位、室温(RT)対照溶液を注射された部位、および氷スラリーを注射された部位における舌の基底部の代表的な組織画像を含む。H&E切片(上段)は、未処置の舌組織とRT対照の組織との間で類似した比率で、筋線維(赤色セクション)と混合された脂肪組織(白色セクション)を示している。処置のパネルは、脂肪組織の減少および線維症の増加(脂肪組織内の暗い筋線維の間のピンク色の波状の区域)を示している。トリクローム切片(上から2段目)は、水色に染色された新たに形成されたコラーゲンを示している。処置のパネル(右端の列)は、多量の新たなコラーゲン沈着を示している。ルクソールブルー切片(上から3段目)は、青色に染色された有髄線維を示している。処置のパネル(右端の列)は、未処置の切片およびRT対照の切片と比較して類似したレベルの有髄線維を示しており、これは、有髄線維がスラリー注射によって変化しないことを証明している。ニューロフィラメント免疫染色切片(上から4段目)は、ニューロンの軸索を茶色で示している。神経軸索は、全ての処置群において保存された。これらの画像におけるスケールバーは100μmである。
【
図7】
図7A~Bは、前頸部脂肪パッドへの氷スラリーまたは室温対照溶液の注射後のマウスの頸部脂肪パッドおよび隣接する唾液腺の組織画像を示す。
図7Aは、スラリーまたは室温対照溶液による処置後12週目の、前頸部脂肪パッドおよび隣接する唾液腺の代表的な組織画像を示す。
図7Aにおけるスケールバーは10μmである。
図7Bは、ベースラインおよび注射後12週目の、スラリーによって処置されたマウスおよび対照マウスの体重を示す。
【
図8】
図8A~Bは、氷スラリー注射後または室温対照溶液注射後の前頸部脂肪パッドのアキシャルMRIイメージングを示す。
図8Aは、輪郭の描かれた関心対象領域(赤色)および脂肪体積の変化(青色)を含むアキシャルMRIイメージングを示し;スケールバーは1cmである。
図8Bは、ベースラインおよび注射後12週目の、スラリーによって処置されたマウスおよび対照マウスの前頸部脂肪体積分率を示す。
図8Cは、スラリーによって処置されたマウスおよび対照マウスにおける、動物の体重あたりの前頸部脂肪体積分率の変化を示す。この研究においては、同齢の雄ニュージーランドマウスが使用された;各群n=13~14。
【
図9-1】
図9は、氷スラリー処置群およびRT対照群の間でのマウスの体重あたりの前頸部脂肪パッド体積分率のベースラインからの変化を示す。
【
図10】
図10は、前側経頸部注射のアプローチおよび経路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
以下は、本明細書において使用される用語の定義である。本明細書において群または用語について提供される最初の定義は、別段の指示がない限り、個々に、または他の群の一部として、本明細書全体を通じて、その群または用語に当てはまる。別段の定義がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。
【0008】
単数形「a」、「an」、および「the」には、文脈が明確に別段の指図をしない限り、複数形の参照が含まれる。特許請求の範囲および/または明細書において「含む」という用語と共に使用される時、「a」または「an」という単語の使用は、「1」を意味し得るが、「1または複数」、「少なくとも1」、および「1以上」の意味とも一致する。
【0009】
本明細書において使用されるように、「約」という用語は、ほぼ、大まかに、およそ、または、の近く、を意味するために、本明細書において使用される。「約」という用語は、数的範囲と共に使用される時、記載された数値の上下の境界を拡張することによって、その範囲を修飾する。一般に、「約」という用語は、記載された値の上下(高低)20パーセントの変動によって数値を修飾するために、本明細書において使用される。
【0010】
本明細書において使用されるように、「対象」という用語は、脊椎動物をさす。1つの態様において、対象は、哺乳動物または哺乳類の種である。1つの態様において、対象は、ヒトである。1つの態様において、対象は、健常ヒト成人である。他の態様において、対象は、非ヒト霊長類、実験動物、家畜、競走馬、飼育動物、および非飼育動物を含むが、これらに限定されるわけではない、非ヒト脊椎動物である。1つの態様において、「ヒト対象」という用語は、健常ヒト成人の集団を意味する。
【0011】
本明細書において使用されるように、「患者」という用語は、ヒトまたは動物をさす。
【0012】
「哺乳動物」という用語には、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、または非ヒト霊長類、例えば、サル、チンパンジー、ヒヒ、もしくはアカゲザルが含まれるが、これらに限定されるわけではない。1つの態様において、哺乳動物は、ヒトである。
【0013】
発明の詳細な説明
完全に生理的であり、周囲の組織に対して無毒である、上気道脂肪を減少させるか、または新たなコラーゲン形成を増加させることができる注射可能デバイスは、現在のところ存在しない。本開示は、使用される組成物が、無菌の水、生体適合性界面活性剤、例えば、グリセリン、および生理食塩水などの成分を含むため、生理的であり、生体適合性である方法を提供する。さらに、本明細書に開示される方法において使用される組成物は注射可能であり、したがって、標的区域に浸潤する組成物を提供する。したがって、注射の位置に関する正確な精度は必要とされず、代わりに、標的区域の近傍への注射が有効である。さらに、舌の表面への局所冷却の適用、または(全身麻酔の使用も必要とする)舌組織の外科的除去などの他の舌縮小手技には、数時間がかかるのに対して、この手技の完了には、スラリーの注射可能性および浸潤性のため、数分しかかからない。したがって、開示された方法は、診療所における数分での閉塞性睡眠時無呼吸の処置を可能にする。
【0014】
本明細書に開示される方法は、周囲の組織に損傷を与えず、脂肪組織選択的である。本明細書に開示される方法は、コラーゲンの増加をもたらす一連の注射および組織冷却持続時間を有する。さらに、本明細書に開示される方法は、瘢痕または重要な周囲の組織に対する損傷を誘導しない。したがって、本開示は、標的区域内に氷スラリーを注射することにより、患者の上気道において脂肪組織を除去しかつコラーゲン生成を増加させることによって、睡眠時無呼吸を処置するための方法を提供する。
【0015】
本明細書における方法および開示は、多くの予想外の結果を提供する。1つの態様において、開示された氷スラリーは、(
図10に示されるような)前側経頸部アプローチから注射され得る。これは、針が挿入される患者の頸部の部位から約2~4cmの位置に脂肪舌組織があるため、この注射標的への容易なアクセスを可能にするため、有利である。もう1つの態様において、氷スラリーは、他の経路を介して、例えば、舌の上表面から、注射されてもよい。もう1つの態様において、患者の解剖学的構造および注射の位置を同定するため、超音波が使用されてもよい。超音波は、注射後の氷スフェアの位置の可視化も可能にする。超音波ガイドは、そのような注射の安全性を増加させ得る。
【0016】
1つの態様において、本明細書に開示される方法は、60mLもの氷スラリーが標的部位に注射されることを可能にするという利点を提供する。好ましい態様において、60mLの氷スラリーが、一連の5mL、10mL、または20mLの量で注射される。脂肪と筋組織との混合物である舌の基底部の組織の構造は、スラリーが組織に浸潤し、拡散することを可能にする。これは、注射の部位において氷球が形成される可能性のある、他のより高密度の組織内へのスラリーの注射とは対照的である。注射され得るスラリーのこの量は、舌の基底部全体の分散的な処置を可能にする。
【0017】
1つの態様において、本明細書に開示される方法は、舌内の他の組織に損傷を与えないという利点を提供する。好ましい態様において、本明細書に開示される方法は、舌に位置する神経に損傷を与えない。これは、一部には、舌の中央への氷スラリーの注射による。1つの態様において、本明細書に開示される方法は、患者の不快感を軽減する容易な注射経路を有するという利点を提供する。患者の頸部を通して注射部位にアクセスすることによって、医師は、患者の嘔気を引き起こすことなく、容易にかつ迅速に氷スラリーを注射することができる。
【0018】
主題の非限定的な態様
本発明の態様は、上気道脂肪組織を減少させ、かつ/または舌におけるコラーゲン形成を増加させることによって、閉塞性睡眠時無呼吸を処置するために使用され得る、注射可能な氷スラリーを提供する。そのようなスラリーは、スラリーの氷部分の融解中に隣接組織から抽出される熱を通して、所望の組織を標的とし、破壊することができる。
【0019】
1つの非限定的な態様において、氷スラリーは、閉塞性睡眠時無呼吸の処置のために標的とされる上気道周囲に注射される。1つの態様において、上気道周囲への氷スラリーの注射は、上気道脂肪組織を減少させる。1つの態様において、スラリーは、前側経頸部アプローチを介して挿入される針を通して注射される。1つの態様において、スラリーは、舌の表面を穿刺することなく注射される。1つの態様において、スラリーは、患者の顎の下から患者の舌内に挿入される針を通して注射される。
【0020】
上気道周囲の脂肪の肥大は、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、具体的には、肥満患者における上気道閉塞の新たに提案された要因である。OSAは、相当の罹患率および死亡率を引き起こす。組織冷却によって、脂肪を選択的に標的とし、除去することができることが報告され、それが、脂肪吸引に代わる人気の非侵襲的な代替法をもたらした。最近、本発明者らは、皮下脂肪を除去する新規の方法として、生理食塩水およびグリセリンから構成された生体適合性注射可能氷スラリーを開発した。頸部における脂肪沈着は、患者における無呼吸の重症度との強い相関を示す頸部周囲長増加をもたらす。ニュージーランド肥満(NZO)マウスは、上気道周囲の頸部脂肪の増加した体積を有し、OSAのトランスレーショナルモデルとして使用されている。この研究は、NZOマウスにおいて、頸部の脂肪沈着物の選択的破壊における注射可能氷スラリーの安全性および有効性を証明した。
【0021】
ある特定の局面において、無菌氷スラリーは、上気道脂肪組織を減少させる。ある態様において、氷スラリーは、無菌の水および氷粒子を含む。1つの態様において、無菌氷スラリー中の氷粒子は、2ミリメートル未満の最大断面直径を有する。
【0022】
無菌氷スラリーは、所定の温度まで冷却される。1つの態様において、所定の温度は、-10℃~0℃である。1つの態様において、所望の組織領域は、上気道脂肪組織を含む。1つの態様において、上気道脂肪組織は、前頸部脂肪パッドである。1つの態様において、無菌氷スラリーの注射は、前頸部脂肪パッドの体積を減少させる。
【0023】
もう1つの態様において、上気道脂肪組織は、舌脂肪である。さらなる態様において、舌脂肪は、舌脂肪組織の基底部である。1つの態様において、注射可能スラリーは、複数の無菌氷粒子および1つまたは複数の凝固点降下剤を含む。凝固点降下剤はまた、スラリーの粘度を変化させ、氷粒子の凝集を防止し、液相の熱伝導率を増加させ、他の点でもスラリーの性能を改善することができる。1つの態様において、無菌氷スラリーの注射は、舌脂肪の体積を減少させる。
【0024】
スラリーが針またはカテーテルを通して対象内に注射され得ることを確実にするため、氷粒子のサイズを調節することができる。スラリーは、氷粒子の全部または大部分(例えば、約50数量%超、約75数量%超、約80数量%超、約90数量%超、約95数量%超、約99数量%超等)が、使用される容器(例えば、針、カニューレ、カテーテル、チューブ等)の内径の半分以下の最大断面寸法(即ち、氷粒子の表面上の任意の2点の間の最大距離)を有する場合、注射可能である。例えば、3mmの内径を有するカテーテルを使用してスラリーが注射される場合、氷粒子は、好ましくは、5約1.5mm未満のまたは5約1.5mmに等しい最大断面寸法を有するであろう。いくつかの態様において、氷粒子は、1mm以下の平均最大断面寸法を有する。
【0025】
注射可能であり続ける0℃未満のスラリーが形成されるよう、1つまたは複数の凝固点降下剤を氷と混合することができる。適当な凝固点降下剤には、生体適合性化合物、例えば、塩(例えば、塩化ナトリウム)、乳酸リンゲル液、ブドウ糖、生体適合性界面活性剤、例えば、グリセリン(glycerol)(グリセリン(glycerin)またはグリセリン(glyceline)としても公知)、他のポリオール、他の糖アルコール、および/または尿素等が含まれる。具体的には、生体適合性界面活性剤、例えば、グリセリンは、氷粒子が収縮し、より丸くなることを引き起こすと考えられ、脂質リッチではない細胞の凍結保護剤としても機能する。他の例示的な生体適合性界面活性剤には、脂肪酸のソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80としても公知であり、Croda Amelicas LLC(New Castle、Delaware)からTWEEN(登録商標)80の商品名で入手可能)、ソルビタンモノオレエートポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ポリソルベート80としても公知であり、Croda Americas LLC(New Castle、Delaware)からTWEEN(登録商標)80の商品名で入手可能)、レシチン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(BASF Corporation(Mount Olive、New Jersey)からPLURONICS(登録商標)の商品名で入手可能)、ソルビタントリオレエート(Sigma-Aldrich(St.Louis、Missouri)からSPAN(登録商標)85の商品名で入手可能)等が含まれる。注射可能スラリーは、所望の温度を有し、スラリーの体積または質量の単位あたりの所望の量の熱を抽出するよう、構成され得る。具体的には、溶質(即ち、凝固点降下剤)濃度が、スラリーの温度を規定し、スラリーの氷含量が、スラリーによって抽出される熱の量を決定する。
【0026】
脂質リッチ細胞の相対的な脆弱性を標的とする選択破壊スラリーの場合、スラリーは、好ましくは、対象の細胞に対して等張である。例えば、生理食塩水および20%グリセリンを含むスラリーは、急性の非選択的な壊死を回避しながら、脂質リッチ細胞を標的とすることができた。広範破壊スラリーは、浸透圧を通しても細胞を破壊する高張溶液が形成されるよう、溶質濃度を(例えば、20% w/v生理食塩水まで)増加させることによって、より低い温度およびより大きい破壊力を達成することができる。氷が融解するにつれ、溶質濃度は低下する。
【0027】
注射可能スラリーは、変動する割合の氷を含有することができる。例えば、スラリーは、約10重量%~約5重量%の氷、約10重量%~約20重量%の氷、約20重量%~約30重量%の氷、約30重量%~約40重量%の氷、約40重量%~約50重量%の氷、約50重量%~約60重量%の氷、約60重量%~約70重量%の氷、および約50重量%超の氷を含有することができる(固体水および液体水の密度のため、体積による割合は類似している)。
【0028】
スラリーを調製する方法
スラリーは、多様な方法を使用して調製され得る。氷スラリーを作製する任意の公知の方法が、ここで企図される。
【0029】
1つの態様において、スラリーは、市販の氷スラリー生成機、例えば、Sunwell Technologies Inc.(Woodbridge、Ontario)からMODUPAK(商標)DEEPCHILL(商標)の商品名で入手可能なものを使用して調製される。市販のスラリー生成機には、冷却された表面から(例えば、ブレード、オーガー、ブラシによって)小さい氷晶を拭い取り、水と混合する表面掻き取り式(scraped surface)生成機、非混和性の一次冷媒が蒸発して、水が過飽和し、小さい滑らかな結晶が形成される直接接触式(direct contact)生成機、および水が過冷却され、ノズルを通って保管タンクに放出される過冷却式(super cooling)生成機が含まれる。
【0030】
スラリーの保管およびさらなる処理
本明細書に記載されるスラリーおよび前駆体である氷粒子は、いずれも、溶液または氷粒子の凝固点未満に保持されれば、数年間安定していることができる。氷晶の成長または凝集を防ぐため、凝固点未満の温度でスラリーを保管し、次いで、所望の注射温度までスラリーを再加熱することが好ましい。
【0031】
前記のいずれの方法も、単一の時点で単一の場所で単一の実施者によって実施されてもよいし、または1つもしくは複数の時点で1つもしくは複数の場所で1人もしくは複数人の実施者によって実施されてもよい。例えば、小さい安定的な氷粒子は、標準的な低温輸送方法を使用して梱包され輸送され、(例えば、-20℃の)標準的な冷凍庫において保管され得る。氷粒子は、注射の少し前または直前に診療所において1つまたは複数の付加的な添加剤と組み合わせられてもよい。より詳細に本明細書に記述されるように、添加剤は、例えば、生体適合性溶液であってよく、グリセリンなどの生体適合性界面活性剤を含有していてよく、(例えば、注射時のスラリーの所望の温度に近い温度まで)予冷されていてよい。
【0032】
スラリー送達
注射可能スラリーは、重力流、注射器による注射、カニューレ、カテーテル、チューブ、および/またはポンプ等を含む、様々な非経口送達の系および技術を使用して導入され得る。調節デバイスは、注射部位に隣接する組織から所望の量の熱が抽出されるよう、注射されるスラリーの流速、体積、およびまたは圧力を調節することができる。
【0033】
任意で、注射デバイスおよび/またはスラリーの適切な位置付けを確認するため、超音波、磁気共鳴、X線等のイメージング技術を利用することができる。具体的には、氷は、超音波の極めて強い反射体であるが、脂質リッチ細胞は、超音波の弱い反射体である。
【0034】
この方法は、同じ注射部位および/または標的組織について、1回または複数回、繰り返されてよい。複数回注射は、連続的に、重複して、または平行して実施され得る。
【0035】
1つの態様において、無菌氷スラリーは、ポンプを介して所望の組織領域に送達され、融解したスラリーは、所望の組織領域から吸引される。もう1つの態様において、氷スラリーは、注射器から針を通して所望の標的領域に注射される。
【0036】
ある特定の局面において、無菌氷スラリーは、舌における新たなコラーゲン形成を増加させる。他のある特定の局面において、無菌氷スラリーは、舌中に存在する脂肪組織の量を減少させる。1つの態様において、氷スラリーは、水と氷粒子とを含む。1つの態様において、無菌氷スラリー中の氷粒子は、2ミリメートル未満の最大断面直径を有する。
【0037】
無菌氷スラリーは、所定の温度まで冷却される。1つの態様において、所定の温度は、-10℃~0℃である。1つの態様において、所望の組織領域は、舌を含む。1つの態様において、注射可能スラリーは、複数の無菌氷粒子および1つまたは複数の凝固点降下剤を含む。凝固点降下剤はまた、スラリーの粘度を変化させ、氷粒子の凝集を防止し、液相の熱伝導率を増加させ、他の点でもスラリーの性能を改善することができる。
【0038】
1つの態様において、氷スラリー注射は、同じ注射部位および/または標的組織について、1回または複数回、繰り返される。好ましい態様において、注射は、同じ注射部位および/または標的組織について、1~6回、繰り返される。1つの態様において、各注射のための氷スラリーの体積は、5ml~50mlである。1つの態様において、無菌氷スラリーの注射は、コラーゲン生成を増加させることによって舌を硬化させる。無菌氷スラリーの注射は、舌中の脂肪組織を減少させることもできる。
【実施例】
【0039】
本明細書に記載される本発明がより完全に理解されるよう、以下に実施例を記載する。本願において記載される合成例は、本明細書において提供される化合物および方法を例示するために提供されるものであって、それらの範囲を限定するものとして解釈されるべきでは決してない。
【0040】
実施例1-舌の生検部位における氷スラリーによって誘導された新たなコラーゲン形成および病理学者による組織学的段階分け
動物研究は、Massachusetts General Hospital(MGH)IACUCによって承認され、動物は、動物管理規則に従ってMGHで収容された。この研究においては、全部で6匹の4~6ヶ月齢ヨークシャー雌ブタを使用した。試験群の4匹のヨークシャーブタには、氷スラリー(-6℃)を舌の基底部に注射し、2匹の対照ブタには、室温「スラリー溶液」を注射した。生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム)および10%グリセリンから構成されたスラリーを、前記のように使用した。全身麻酔下で、14g針を前頸部から舌の基底部内に通すため、超音波(US)ガイドを使用した。ブタモデルの解剖学的ランドマークには、後側下顎骨および舌骨が含まれていた。針がプローブに対して垂直に通過する時の組織変位に注意しながら、針を、舌骨の直ぐ上に挿入し、舌の左または右の基底部内に誘導した。舌の基底部への針の配置を確認するため、喉頭鏡および硬性0度喉頭内視鏡を使用した。全部で60mlの氷スラリーまたはRT対照を、連続的な注射によって注射した。注射の部位における組織温度を、熱電対を使用して記録した(
図2C)。可能性のある有害効果について、注射後2ヶ月間、動物を臨床的に観察した。処置後2ヵ月目に、動物を屠殺し、肉眼的分析および組織学的分析のため、舌組織を採取した。舌の基底部から複数の生検標本を収集した。生検材料を10%ホルマリンで固定し、パラフィンで包埋し、5μmに切片化し、次いで、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。コラーゲン沈着を調査するため、トリクローム染色を使用した。神経の軸索およびミエリン構造を研究するため、ニューロフィラメントの免疫組織化学および特殊なルクソールブルー染色を実施した。委員会認定の病理学者が、脂肪組織、筋肉、神経、血管、唾液腺、リンパ組織、および舌の上皮における組織学的変化を評価するため、生検試料を盲検的に査定した。
【0041】
4匹のブタにおける実験は、舌の肉眼像および組織学的イメージングの調査;ならびに未処置側と比較された舌の処置側におけるコラーゲン含量スコアによって示されるように、氷スラリーの注射が、安全であり、舌中のコラーゲン含量を変化させることを証明している(
図1~6を参照すること)。この実験は、氷スラリー投与後の舌中のコラーゲン含量の増加を証明した。
【0042】
氷スラリー処置は、以下のように提供された:吸入イソフルラン(1~1.5l/分の酸素と共に1~3%)による短時間麻酔下で、針付きの注射器を使用して、全部で60mlのおよそ-6℃の氷スラリー(10%グリセリンを含む0.9%塩化ナトリウム)または60mlの室温スラリー(10%グリセリンを含む0.9%塩化ナトリウム)を、ブタの舌に注射した。ブタは、1回あたり5~20mlの氷スラリーまたは室温溶液の複数回の逐次注射を受容した。前回の注射後に組織温度が零度まで再上昇した時に、次の注射を提供した。注射には14ゲージまたは15ゲージの皮下注射針を使用した。舌基底部の12の異なる部位を、組織学的分析のために生検した(生検の位置を示す
図6Bを参照すること)。各ブタに由来する12の生検材料全てにおいて、盲検的にコラーゲン含量を定量化するため、委員会認定の病理学者によって半定量的スコアが使用された(
図1A)。
【0043】
熱電対記録は、選択的な脂肪減少を得るのに十分である、数分間の0℃未満の組織温度が達成されたことを証明した(
図2A)。注射針の位置および舌の基底部における氷球の形成を確認するため、USイメージングを使用した(
図2C)。
【0044】
図2A~Bおよび
図3A~Bに示されるように、ブタ#4および#5の舌への氷スラリーの注射後2ヶ月目に、針に埋め込まれた熱電対によって組織温度を記録した。
図2A~Bに示されるように、ブタ#4の舌の基底部への20mlの氷スラリーの3回の注射の後、組織冷却の速度および0℃未満の組織温度の持続時間を試験するため、組織温度を記録した。氷スラリー処置後2ヶ月目に舌から収集された組織試料を、コラーゲンを青色で強調するため、トリクロームで染色し、これらの試料を、新たなコラーゲン形成について半定量的にスコアリングした。熱電対記録は、選択的な脂肪減少を得るために十分である(7)数分間の0℃未満の組織温度が達成されることを証明した(
図1A)。注射針の位置および舌の基底部における氷球形成を確認するため、USイメージングを使用した(
図1B)。
図3A~Bに示されるように、ブタ#5の舌の基底部への20ml、17ml、および20mlの氷スラリーの3回の逐次注射の後、組織冷却の速度および0℃未満の組織温度の持続時間を試験するため、組織温度を記録した。氷スラリー処置後2ヶ月目に舌から収集された組織試料を、コラーゲンを青色で強調するため、トリクロームで染色し、これらの試料を新たなコラーゲン形成について半定量的にスコアリングした。
図4A~Bに示されるように、ブタ#6の舌の片側への17ml、12ml、5ml、14ml、5ml、および7mlの氷スラリーの6回の逐次注射の後、組織冷却の速度および0℃未満の組織温度の持続時間を試験するため、組織温度を記録した。氷スラリー処置後2ヶ月目に舌から収集された組織試料を、コラーゲンを青色で強調するため、トリクロームで染色し、これらの試料を新たなコラーゲン形成について半定量的にスコアリングした。
【0045】
図2~4に提示されたデータは、熱電対記録のグラフ化によって、氷スラリーを注射されたブタ#4および#5の舌組織が、毎回の注射の後に0℃未満まで冷却されたこと、組織温度が0℃未満であった持続時間が、各注射後に延長されたことを定量的に示している(
図2A、3A、4A)。ブタ#4およびブタ#5は、組織温度が0℃未満であった持続時間が最も長く、ブタ#6は、0℃未満の組織温度の持続時間が最も短かった。
図2~5に提示されるデータは、青色の強調によって示される、氷スラリー注射による新たなコラーゲン形成も、半定量的な組織学的段階分けによって示している(
図2B、3B、4B、5)。トリクローム染色の青色はコラーゲンを示した。ブタ#4およびブタ#5は、最も多いコラーゲン形成を示し、ブタ#6は、新たなコラーゲン形成をほとんどまたはほぼ全く有しておらず、このことから、冷却の温度および持続時間が重要であることが示された。コラーゲン形成の位置は、注射がなされた舌の基底部であり、このことから、コラーゲン形成は、スラリー注射の結果であり、非特異的反応ではないことが示された。
【0046】
舌の基底部への氷スラリーの注射は、合併症なしに実施された。処置アームまたは対照アームのいずれにおいても、注射後の舌壊死または気道閉塞の証拠は存在しなかった。動物は、処置後に正常な体重増加を維持し、このことから、舌の使用を必要とする摂食が変化していないことが示唆された(
図6A)。処置後2ヶ月目の舌組織標本の肉眼的調査は、瘢痕または外傷を示した(
図6B)。舌の基底部からの組織学的分析は、周囲の筋肉、神経、または血管に対する損傷を示さなかった。ニューロフィラメントの免疫組織化学およびルクソールブルー特殊染色は、正常な神経構造、軸索、およびミエリンを示した。舌組織においては、新たなコラーゲン沈着を伴う選択的脂肪減少の組織学的証拠が観察された(
図6C)。炎症、瘢痕、または壊死の兆候は観察されなかった。
【0047】
実施例2-氷スラリーによって誘導された前頸部脂肪パッドサイズ変化
マウスにおける実験は、氷スラリーの注射が、対照動物群と比較して、スラリー注射群において、頸部脂肪パッドおよび隣接する唾液腺の組織画像(
図7)ならびに前頸部のアキシャルMRIイメージング(
図8、9)によって示されるように、前頸部の脂肪を有意に減少させることを証明する。この実験は、全身体重変化とは無関係の、氷スラリー投与後の前頸部脂肪体積の減少を証明した。
【0048】
20週齢雄NZOマウスを、規則に従ってMassachusetts General Hospital動物施設で収容した。脂肪組織体積測定値を得るため、ベースラインMRIイメージングを処置前に実施した。試験群の16匹には、生理食塩水(0.9%NaCl)+10%グリセリンから構成された1.0mlの冷(-3℃~-4.8℃)氷スラリーを前頸部脂肪パッド内に注射した。溶液を凝固点未満で冷却しながら、滅菌されたブレンダー(HGB150、Waring Commercial、Torrington、CT)によってスラリーを作製し、15ゲージ針を通して注射した。スラリーの注射に加えて、処置群のマウスを局所冷却に供した。注射前に10分間、スラリー注射直後に再び10分間、氷スラリーのベッドの上に前頸部を置いた。対照群の14匹には、室温で、同じ体積および溶液組成を注射した。同じ処置手技を8週後に繰り返し、12週後の研究終了時にMRIイメージングを取得した。
【0049】
マウスをBruker Pharmascan 4.7 Tesla MRIで画像化した。アキシャルおよびコロナルのRare T1(Rareファクター:4、Tr:900ms、Te:13.59ms、マトリックス:0.156×0.156×0.5mmボクセルによる256×256×16)ならびにアキシャルディクソン(Dixon)法(Fa:80度、Tr:4.0/4.8ms、Te:500ms、同じ幾何学)のシーケンスを、処置前ベースラインおよび2回目処置後1ヶ月目に実施した。時点T1の画像を、脳切片のバイナリ画像に基づく関心対象領域差類似性測定(region of interest difference similarity measure)を使用して登録した。T1画像から得られたアフィン変換パラメータを使用して登録されたディクソン画像を使用して、脂肪を分離した。頭蓋骨構造をランドマークとして使用して、唾液腺の前側および外側に、体積分析のための関心対象前頸部3D領域を、盲検的に、観察者が手動で描画し、ディクソン画像から得られた分離された脂肪組織を、その領域から定量化した。観察者は、Amira(Thermo Scientific TM)およびMatlab(The Mathworks)ソフトウェアを使用して、盲検的に画像分析を実施した。処置された頸部区域に由来する組織生検試料を、組織学的分析のため、研究の最後に取得した。
【0050】
統計分析は、Prism 8(GraphPad Software,Inc.、La Jolla、CA)を使用して実施された。処置前後の各群の動物の体重および頸部脂肪分率を比較するため、対応のある両側スチューデントt検定を使用した。処置前後の試験群および対照群の体重を比較するため、調整済みp値による多重スチューデントt検定を使用した。各動物の測定された前頸部脂肪パッド体積分率を、MRIスキャンの時点の体重で割った(付表1)。体重あたりのベースラインからの前頸部脂肪パッド体積分率の変化を、処置群と対照群との間で比較するため、両側スチューデントt検定を使用した。0.05未満のP値が有意と見なされる。全ての棒グラフが、平均値+SEMを示す。
【0051】
図7A~Bおよび
図8A~Cに示されるように、処置後12週目に採取された試料の組織学的分析は、瘢痕、潰瘍形成、または唾液組織を含む処置部位の周囲の組織に対する非特異的損傷を示さなかった(
図6A)。対照マウス群および試験マウス群の両方において、12週目の体重は、ベースラインと比較して有意に増加していた(対照群52.11×10-3kg±1.23×10-3kgに対して12週目の58.93×10-3kg±1.70×10-3kg、対応のある両側スチューデントt検定によるp<0.01;試験群53.18×10-3kg±0.94×10-3kgに対して12週目の59.79×10-3kg±1.77×10-3kg、p<0.01)(
図6Bおよび
図8)。ベースラインまたは12週目において、処置群と対照群との間に体重の有意差はなかった。
【0052】
MRIイメージングを使用した
図7C、Eに示されるように、対照マウスは、ベースラインと比較して、初回処置後12週目に、関心対象領域における頸部組織体積あたりの前頸部脂肪パッド体積の有意な増加を示した(ベースラインの44.73%±2.00%に対して12週目の54.35%±2.89%;対応のある両側スチューデントt検定によるp<0.01)(
図6CおよびDならびに
図8)。対照的に、処置群のマウスは、ベースラインと比較して、12週目に頸部脂肪パッド体積の増加を示さなかった(ベースラインの46.94%±2.66%に対して12週目の46.31%±2.43%;対応のある両側スチューデントt検定によるp=0.78)(
図6CおよびDならびに
図8)。体重あたりのベースラインからの前頸部脂肪パッド体積分率変化の、処置群と対照群との間の差は、有意であった(-1.09/kg±0.33/kg対0.68/kg±0.37/kg;両側スチューデントt検定によるp<0.01)(
図6Eおよび
図8)。
【0053】
このデータは、氷スラリーの注射が、重要な周囲組織に対する損傷なしに、過剰の上気道脂肪組織を減少させ、かつコラーゲン生成を増加させるための、新規の低侵襲の方法として使用され得ることを支持する。この手技は、前側経頸部アプローチによって針を挿入することによって、数分で迅速に、容易に実施され得る。
【国際調査報告】