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特表2024-539668磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241022BHJP
   C22C 38/34 20060101ALI20241022BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/34
C21D9/46 R
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523152
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 KR2022015945
(87)【国際公開番号】W WO2023075282
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0143705
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョンフン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ムンス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハク
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジオン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037FA02
4K037FB00
4K037FF05
4K037FG00
4K037FJ07
(57)【要約】
【課題】低い外部印加磁場に対して高い透磁率を示すことにより、電磁波遮蔽に対する反応性を増加させた、磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のステンレス鋼は、重量%で、C:0%超過0.02%以下、N:0%超過0.02%以下、Si:0.5%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.3%以下、Cr:16.0%以上20.1%以下、Mo:1.0%超過2.0%以下、Ti:0.1%以上0.4%以下、残部はFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、下記式(1)の値は130以下であることを特徴とする。
式(1):30+2500*([C]+[N])-15*[Si]+2.5*[Cr]+22*[Mo] (式(1)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0%超過0.02%以下、N:0%超過0.02%以下、Si:0.5%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.3%以下、Cr:16.0%以上20.1%以下、Mo:1.0%超過2.0%以下、Ti:0.1%以上0.4%以下、残部はFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、
下記式(1)の値は130以下であることを特徴とする磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
式(1):30+2500*([C]+[N])-15*[Si]+2.5*[Cr]+22*[Mo]
(式(1)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する)。
【請求項2】
下記式(2)の値が50以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
式(2):18+800*([C]+[N])-6*[Si]+[Cr]+6*[Mo]
(式(2)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する)。
【請求項3】
重量%で、Nb:0%超過0.1%以下及びSn:0%超過0.1%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
50Hz周波数帯域で最大透磁率(magnetic permeability)が1,000以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
最大透磁率を示すための外部印加磁場が130A/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項6】
50Hz周波数帯域で最大透磁率を示す条件における保磁力が50A/m未満であることを特徴とする請求項1に記載の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項7】
孔食電位値が300mV以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項8】
硬度がHv140以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼。
【請求項9】
重量%で、C:0%超過0.02%以下、N:0%超過0.02%以下、Si:0.5%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.3%以下、Cr:16.0%以上20.1%以下、Mo:1.0%超過2.0%以下、Ti:0.1%以上0.4%以下、残部はFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、
下記式(1)の値が130以下であり、下記式(2)の値が50以下である、スラブを製造する段階と、
前記スラブを再加熱温度1050~1150℃で熱間圧延して熱間圧延材を製造する段階と、
前記熱間圧延材を冷間圧延して冷間圧延材を製造する段階と、
前記冷間圧延材を1050~1150℃で最終焼鈍する段階を含むことを特徴とする磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
式(1):30+2500*([C]+[N])-15*[Si]+2.5*[Cr]+22*[Mo]
(式(1)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。)
式(2):18+800*([C]+[N])-6*[Si]+[Cr]+6*[Mo]
(式(2)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。)
【請求項10】
前記冷間圧延は、70%以上の圧下率で行うことを特徴とする請求項9に記載の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、外部印加磁場に対する応答性を高めるために、合金成分及び製造工程を制御することにより、磁気的性質を向上させたフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、半自律走行車などの技術分野の発達により、様々な電子機器が使用されるようになり、電磁波の利用が急増した。これにより、電子機器間の電磁波による干渉が増加した。電磁波の干渉は、機器の誤動作を引き起こしたり、機器の精密な制御を困難にする。電磁波の干渉による電子機器の誤動作を防止するためには、磁場を遮蔽できる素材で重要素子を隔離しなければならない。
【0003】
低周波あるいは磁場からの遮蔽の場合、透磁率(magnetic permeability)が高い素材が遮蔽能に優れており、特に、低い外部印加磁場に対して高い透磁率を示す素材に対する要求が高まっている。
【0004】
従来は、高い外部印加磁場に対して高い透磁率を示す素材に対する研究が進められてきたが、これは外部印加磁場に対する応答性に劣るという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、低い外部印加磁場に対して高い透磁率を示すことにより、電磁波遮蔽に対する反応性を増加させた、磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0%超過0.02%以下、N:0%超過0.02%以下、Si:0.5%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.3%以下、Cr:16.0%以上20.1%以下、Mo:1.0%超過2.0%以下、Ti:0.1%以上0.4%以下、残部はFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、下記式(1)の値は130以下であることを特徴とする。
式(1):30+2500*([C]+[N])-15*[Si]+2.5*[Cr]+22*[Mo]
式(1)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0007】
また、本発明の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、下記式(2)の値が50以下であることがよい。
式(2):18+800*([C]+[N])-6*[Si]+[Cr]+6*[Mo]
式(2)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0008】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、Nb:0%超過0.1%以下及びSn:0%超過0.1%以下をさらに含むことができる。
また、本発明のステンレス鋼は、50Hz周波数帯域で最大透磁率(magnetic permeability)が1,000以上であることが好ましい。
また、本発明のステンレス鋼は、最大透磁率を示すための外部印加磁場が130A/m以下であることがよい。
【0009】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、50Hz周波数帯域で最大透磁率を示す条件における保磁力が50A/m未満であることができる。
また、本発明のステンレス鋼は、孔食電位値が300mV以上であることが好ましい。
また、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、硬度がHv140以上であることよい。
【0010】
本発明の磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0%超過0.02%以下、N:0%超過0.02%以下、Si:0.5%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.3%以下、Cr:16.0%以上20.1%以下、Mo:1.0%超過2.0%以下、Ti:0.1%以上0.4%以下、残部はFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が130以下であり、下記式(2)の値が50以下であり、スラブを製造する段階、前記スラブを再加熱温度1050~1150℃で熱間圧延して熱間圧延材を製造する段階、前記熱間圧延材を冷間圧延して冷間圧延材を製造する段階、及び前記冷間圧延材を1050~1150℃で最終焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
式(1):30+2500*([C]+[N])-15*[Si]+2.5*[Cr]+22*[Mo]
式(2):18+800*([C]+[N])-6*[Si]+[Cr]+6*[Mo]
式(1)、(2)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0011】
また、本発明の製造方法において、前記冷間圧延は、70%以上の圧下率で行うことがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施例によれば、高い透磁率を示す成分系を導出し、低い外部印加磁場に対して高い透磁率を示すことにより、電磁波遮蔽に対する反応性を増加させた、磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0%超過0.02%以下、N:0%超過0.02%以下、Si:0.5%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.3%以下、Cr:16.0%以上20.1%以下、Mo:1.0%超過2.0%以下、Ti:0.1%以上0.4%以下、残部はFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が130以下であることができる。
式(1):30+2500*([C]+[N])-15*[Si]+2.5*[Cr]+22*[Mo]
式(1)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0014】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において、通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示する実施例のみに限定されず、他の形態で具現化されてもよい。明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
単数の表現は、文脈上明らかな記載がない限り、複数の表現を含む。
【0015】
本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0%超過0.02%以下、N:0%超過0.02%以下、Si:0.5%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.3%以下、Cr:16.0%以上20.1%以下、Mo:1.0%超過2.0%以下、Ti:0.1%以上0.4%以下、残部はFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなる。
以下、本発明の実施例における合金成分含量の数値限定理由について説明する。以下、特に言及しない限り、単位は、重量%である。
【0016】
C(炭素)の含量は、0%超過0.02%以下である。
Cは、鋼中に不可避的に含まれる不純物元素であるので、なるべくその含量を下げることが好ましい。Cの含量が過剰な場合には、炭化物形成による磁気特性の低下が発生するため、透磁率が劣ることがある。また、Cの含量が過剰な場合には、不純物が増加して延伸率が低下し、加工硬化指数n値が低下し、延性-脆性遷移温度(DBTT,ductile to brittle transition temperature)が上昇して衝撃特性が低下する。これを考慮して、C含量の上限を、0.02%に制限する。加工性及び機械的特性を考慮すると、C含量の上限は、好ましくは、0.01重量%である。
【0017】
N(窒素)の含量は、0%超過0.02%以下である。
Nの含量が過剰な場合には、素材の不純物が増加して延伸率が低下し、延性-脆性遷移温度(DBTT,ductile to brittle transition temperature)が上昇して衝撃特性が低下する。また、Nの含量が過剰な場合には、棒状のAlN析出物を形成し、結晶粒微細化を引き起こすことにより、鉄損が劣る虞がある。これを考慮して、N含量の上限を、0.02%に制限する。加工性及び機械的特性を考慮すると、N含量の上限は、好ましくは、0.015重量%である。
【0018】
Si(シリコン)の含量は、0.5%以上2.0%以下である。
Siは、低い外部印加磁場に対して透磁率の向上を具現するのに有効な元素である。これを考慮して、Siは、0.5%以上添加されることがよい。しかし、Siの含量が過剰な場合には、延伸率が低下し、加工硬化指数n値が低下し、Si系介在物が増加して加工性が低下する。これを考慮すると、Si含量の上限を、2.0%に制限する。加工性を考慮して、Si含量の上限は、好ましくは、1.0重量%である。
【0019】
Mn(マンガン)の含量は、0.1%以上0.3%以下である。
Mnの含量が低い場合には、微細なMnS析出物が形成され、結晶粒微細化することにより、磁性を低下させる。したがって、MnS析出物が粗大に形成されるように、Mnは、0.1%以上添加されることがよい。しかし、Mnの含量が過剰な場合には、MnS析出物分率の増加により磁性が劣る虞がある。これを考慮して、Mn含量の上限を、0.3%に制限する。
【0020】
Cr(クロム)の含量は、16.0%以上20.1%以下である。
Crは、酸化性環境で不動態皮膜を形成して耐食性を向上させる元素である。これを考慮して、Crは、16.0%以上添加されることが好ましい。しかし、Crの含量が過剰である場合には、スラブ内のデルタ(δ)フェライトの形成を助長して延伸率及び衝撃靭性が低下し、透磁率が低下する。これを考慮して、Cr含量の上限を、20.1%に制限する。
【0021】
Mo(モリブデン)の含量は、1.0%超過2.0%以下である。
Moは、ステンレス鋼の耐食性を増加させるのに有効な元素である。これを考慮して、1.0%以上添加されることがよい。しかし、Moの含量が過剰な場合には、結晶粒界に偏析して結晶粒成長を抑制することにより結晶粒微細化を引き起こし、磁性が劣る虞がある。これを考慮して、Mo含量の上限を、2.0%に制限する。
【0022】
Ti(チタン)の含量は、0.1%以上0.4%以下である。
Tiは、析出現象を引き起こして強度を向上させるのに有効な元素である。これを考慮して、Tiは、0.1%以上添加されることがよい。しかし、Tiの含量が過剰な場合には、Ti系析出物が増えて結晶粒の大きさが十分に大きくならないため、透磁率が低下するという問題が生じる。これを考慮して、Ti含量の上限を、0.4%に制限する。
【0023】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では原料や周囲環境から意図しない不純物が不可避的に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及するものではない。
【0024】
また、本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、Nb:0%超過0.1%以下及びSn:0%超過0.1%以下をさらに含むことができる。
【0025】
Nb(ニオブ)の含量は、0%超過0.1%以下である。
Nbは、Tiのように微細析出相を形成する元素である。ただし、Tiは、相対的に高温相を形成するので、熱処理により微細析出を防止できるが、Nbは、比較的低い温度で安定した相を形成するので、熱延中に再固溶され、焼鈍時に微細析出を引き起こすことがある。したがって、Nbの含量が過剰な場合には、微細析出による磁性の低下が発生する虞があるため、不純物として管理することが好ましい。これを考慮して、Nb含量の上限を、0.1%に制限する。
【0026】
Sn(錫)の含量は、0%超過0.1%以下である。
Snは、Tiのように微細析出相を形成する元素である。ただし、Tiは、相対的に高温相を形成するので、熱処理により微細析出を防止できるが、Snは、比較的低い温度で安定した相を形成するので、熱延中に再固溶され、焼鈍時に微細析出を引き起こすことがある。したがって、Snの含量が過剰な場合には、微細析出による磁性の低下が発生する虞があるため、不純物として管理することが好ましい。これを考慮して、Sn含量の上限を、0.1%に制限する。
【0027】
本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、下記式(1)の値が130以下である。
式(1):30+2500*([C]+[N])-15*[Si]+2.5*[Cr]+22*[Mo]
式(1)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0028】
本発明は、低い外部印加磁場に対して高い透磁率を示すことにより、電磁波遮蔽に対する反応性を増加させた、磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。前記式(1)の値が130を超える場合には、比較的大きな外部印加磁場に対して高い透磁率値を示すため、電磁波遮蔽に対する反応性が低下する。したがって、前記式(1)の値は、130以下であることがよい。
前記式(1)の値を130以下に制御することにより、本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、50Hz周波数帯域で最大透磁率(magnetic permeability)が1,000以上であることができる。また、最大透磁率を示すための外部印加磁場が130A/m以下である。
【0029】
本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、下記式(2)の値が50以下であることがよい。
式(2):18+800*([C]+[N])-6*[Si]+[Cr]+6*[Mo]
式(2)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0030】
保磁力とは、磁化された磁性体を磁化されていない状態に戻すために必要な逆方向の外部磁場の大きさをいう。前記式(2)の値が50を超える場合には、保磁力が高くなるので、遮蔽能力が劣ることがある。したがって、前記式(2)の値は、50以下であることがよい。
前記式(2)を50以下に制御することにより、本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、50Hz周波数帯域で最大透磁率を示す条件における保磁力が50A/m未満であることができる。
また、本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、合金組成及び製造工程を制御して耐食性を向上させることにより、孔食電位値が300mV以上であることがよい。
また、本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼は、合金組成及び製造工程を制御して強度を向上させることにより、硬度がHv140以上であることができる。
【0031】
次に、本発明の他の一態様による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
本発明の一実施例による磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0%超過0.02%以下、N:0%超過0.02%以下、Si:0.5%以上2.0%以下、Mn:0.1%以上0.3%以下、Cr:16.0%以上20.1%以下、Mo:1.0%超過2.0%以下、Ti:0.1%以上0.4%以下、残部はFe(鉄)及びその他の不可避な不純物からなり、下記式(1)の値が130以下であり、下記式(2)の値が50以下であるスラブを製造する段階、前記スラブを再加熱温度1050~1150℃で熱間圧延して熱間圧延材を製造する段階、前記熱間圧延材を冷間圧延して冷間圧延材を製造する段階、及び前記冷間圧延材を1050~1150℃で最終焼鈍する段階を含むことがよい。
【0032】
式(1):30+2500*([C]+[N])-15*[Si]+2.5*[Cr]+22*[Mo]
式(1)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
式(2):18+800*([C]+[N])-6*[Si]+[Cr]+6*[Mo]
式(2)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0033】
前記各合金組成の成分範囲及び成分関係式の数値限定理由は上述したとおりであり、以下、各製造段階についてより詳細に説明する。
まず、前記合金組成及び成分関係式を満たすスラブを製造した後、一連の熱間圧延、冷間圧延及び最終焼鈍する工程を経る。
【0034】
前記スラブは、再加熱温度1050~1150℃で熱間圧延される。
前記スラブの再加熱温度が低すぎると、圧延ロールの負荷が大きくなり、スラブ鋳造中に生成された粗大な析出物を再分解しにくく、内部組織が均質化しにくい。これを考慮して、スラブの再加熱温度は、1050℃以上であることがよい。しかし、再加熱温度が高すぎると、スラブの結晶粒径が過度に粗大化し、強度が劣る虞がある。これを考慮して、スラブの再加熱温度の上限を、1150℃に制限する。
【0035】
前記冷間圧延は、70%以上の圧下率で行うことがよい。圧下率が70%未満の場合、所望の強度を達成しにくい。
前記冷間圧延材は、1050~1150℃で最終焼鈍することができる。
最終焼鈍温度が低ければ、所要時間が長くなり製造コストが増加する。これを考慮して、最終焼鈍温度は、1050℃以上であることが好ましい。しかし、最終焼鈍温度が高ければ、微細組織が過度に粗大化し、機械的性質が劣る虞がある。これを考慮して、最終焼鈍温度は、1150℃以下であることがよい。
【0036】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とこれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるからである。
{実施例}
【0037】
下記表1に示す様々な化学組成を有する鋼をスラブに鋳造し、鋳造したスラブを1050℃に再加熱した。再加熱されたスラブを熱間圧延し、次いで70%の圧下率で冷間圧延した後、1050℃温度で焼鈍して最終冷延製品としてステンレス鋼を製造した。
【0038】
【表1】
【0039】
式(1)及び式(2)の値、最大透磁率、印加磁場、保磁力、孔食電位及び硬度は、以下の表2に示した。式(1)の値は、30+2500*([C]+[N])-15*[Si]+2.5*[Cr]+22*[Mo]の計算値である。
前記式(1)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
式(2)の値は、18+800*([C]+[N])-6*[Si]+[Cr]+6*[Mo]の計算値である。
前記式(2)において、[C]、[N]、[Si]、[Cr]、[Mo]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0040】
最終冷延製品について、50Hz周波数帯域で外部印加磁場を徐々に増加させながら素材の磁化による磁場を測定することにより、磁気的性質を評価した。
最大透磁率は、モデル名がFerropro FP-5である非磁性透磁率測定器を用いて、直径20mm以上、厚さ5mm以上の鋼サンプルの断面に対してプローブを接触して測定した。
孔食電位(pitting potential)は、NaCl溶液に浸漬し、電位を印加して孔食が発生する電位(pitting potential)を測定した値を示した。ここで、前記NaCl溶液の温度は、30℃であり、濃度は3.5%に設定した。
硬度は、Zwick Roell社のビッカース硬度測定器を通じて測定した。
【0041】
【表2】
【0042】
表2を参照すると、実施例1~7は、いずれも式(1)の値が130以下であり、式(2)の値が50以下を満たした。したがって、50Hz周波数帯域で最大透磁率(magnetic permeability)が1,000以上であり、最大透磁率を示すための外部印加磁場が130A/m以下であり、最大透磁率を示す条件における保磁力が50A/m未満を満たした。すなわち、実施例1~7は、低い外部印加磁場に対して大きな透磁率を示すことにより、電磁波遮蔽に対する反応性が増大し、磁気的性質が向上したことが分かる。また、実施例1~7は、孔食電位値が300mV以上であり、硬度がHv140以上を満たした。すなわち、実施例1~7は、耐食性及び強度に優れていた。
【0043】
比較例1~5は、式(1)の値が130以下を満たさなかった。したがって、比較例1~5は、最大透磁率を示すための外部印加磁場が130A/m以下を満たさなかった。また、比較例1~5は、式(2)の値が50以下を満たさなかった。したがって、比較例1~5は、保磁力が50A/m未満を満たさなかった。すなわち、比較例1~5は、外部印加磁場が比較的高いので、電磁波遮蔽に対する反応性が劣ることが分かる。
また、比較例4は、Mo成分を添加せず、比較的低いレベルのCr含量により孔食電位値が300mV以上を満たさなかった。すなわち、比較例4は、耐食性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の一実施例によれば、高い透磁率を示す成分系を導出し、低い外部印加磁場に対して大きな透磁率を示すことにより、電磁波遮蔽に対する反応性を増加させた、磁気的性質が向上したフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供できるため、産業上の利用可能性が認められる。
【国際調査報告】