(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ナトリウム又はカリウムイオン電池セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/054 20100101AFI20241022BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20241022BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241022BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20241022BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20241022BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20241022BHJP
C01C 3/12 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/058
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/1397
H01M50/105
C01C3/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523166
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2022078670
(87)【国際公開番号】W WO2023066805
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522064937
【氏名又は名称】アルトリス エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラント、ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】モーゲンセン、ロニー
(72)【発明者】
【氏名】ノルド、ティム
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン、ヘンリク
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011KK04
5H029AJ14
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5H029AL03
5H029AL08
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5H050AA19
5H050BA15
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5H050GA02
5H050GA10
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5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA18
(57)【要約】
本開示は、一般に、プルシアンブルー類似体(PBA)を正極活物質として含む、ナトリウム又はカリウムイオン電池の製造方法に関する。本開示はまた、本方法によって製造された、ナトリウム又はカリウムイオン電池に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム又はカリウムイオン電池セルの製造方法であって、以下の工程:
a)プルシアンブルー類似体を含むスラリーを提供する工程であって、前記プルシアンブルー類似体は、第一の水和相及び第二の脱水相で存在してもよく、前記スラリーは、前記プルシアンブルー類似体の前記第一の水和相を含む工程と、
b)前記スラリーを集電体に塗布してカソードを形成する工程と、
c)前記カソードをアノード及びセパレータと組立てて電極スタックを形成する工程と、
d)前記電極スタックを電池ケーシング内に配置する工程と、
e)前記プルシアンブルー類似体が前記第一の水和相から前記第二の脱水相に変換することを可能にする条件下で、前記電極スタックを含む前記電池ケーシングを乾燥させる工程と、
f)前記電池ケーシングに電解質を添加する工程と、
g)前記電池ケーシングを封止して電池セルを形成する工程と
を含み、
前記工程f)及びg)が不活性条件下で実行される、方法。
【請求項2】
前記プルシアンブルー類似体が、前記方法の前記工程f)及びg)を通して、前記第二の脱水相で維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法の前記工程a)~d)が、周囲条件で行われる、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プルシアンブルー類似体が、前記方法の前記工程a)~d)で、前記第一の水和相で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記電解質を添加する前記工程f)、及び前記電池ケーシングを封止する前記工程g)が、同一の装置内で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥の工程e)が、前記装置に接続された、又は前記装置内に含まれる、チャンバ内で行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥の工程e)が、110℃~250℃、好ましくは120℃~200℃の範囲の温度で、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも10時間行われる、請求項1~6いずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記乾燥の工程e)が、真空下で行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記プルシアンブルー類似体が、式、A
aM
b[M’
c(CN)
6]
dを有し、式中、Aが、ナトリウム又はカリウムであり、1<a≦2であり、M及びM’が遷移金属であり、好ましくは鉄及び/又はマンガンから選択され、0<b<2であり、1<c<2であり、及び1<d<2である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記プルシアンブルー類似体が、プルシアンホワイトであり、式、A
aFe[Fe(CN)
6]を有し、式中、Aが、ナトリウム又はカリウムであり、1.8<a≦2、好ましくは1.9<a≦2である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記電池ケーシングが、パウチセルである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
スラリーを提供する前記工程が、粉末の形態の前記プルシアンブルー類似体を、少なくとも導電性添加剤、及び結合剤と混合することを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記スラリーを集電体に塗布する前記工程が、5mg/cm
2~30mg/cm
2、好ましくは10mg/cm
2~20mg/cm
2のコーティング重量で、前記スラリーを前記集電体にコーティングすることを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法に従って製造された、ナトリウム又はカリウムイオン電池セル。
【請求項15】
前記電池セルが、Na
+/Naに対して4.0V超、又はK
+/Kに対して4.15V超の、電圧プラトーが存在しない、電気化学的サイクル曲線を有する、請求項14に記載のナトリウム又はカリウムイオン電池セル。
【請求項16】
前記電池セルが、Na
+/Naに対して3.2~3.9Vの間、又はK
+/Kに対して3.9~4.1 Vの間の、電圧プラトーを1つ示す、電気化学的サイクル曲線を有し、前記電気化学的サイクル曲線が、追加の電圧プラトーを欠いている、請求項14又は請求項15に記載のナトリウム又はカリウムイオン電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、プルシアンブルー類似体(PBA)を活性カソード材料として含む、ナトリウム又はカリウムイオン電池セルの製造方法に関する。本開示はまた、本方法によって製造された、ナトリウム又はカリウムイオン電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン系電池は、充電式電池の市場を支配している。しかしながら、この技術には、少なくともリチウムの資源が比較的少ないために欠点がある。二次電池技術の前世代よりも優れているが、リチウムイオン系電池は環境に優しいとは考えられておらず、リサイクルの観点からも費用がかかる。
【0003】
これらの欠点は、リチウムイオン電池の代替品の探求の引き金となっている。ナトリウム又はカリウムイオン電池は魅力的な代替案を示し、また、負荷平準化及び過剰なエネルギーの貯蔵を目的として、再生可能エネルギー源を支援する実行可能な手段でもある。
【0004】
ナトリウム又はカリウムイオン電池の性能は、電極材料の特性に大きく依存する。
【0005】
電極、例えば、カソードを製造する典型的なプロセスは、例えば、粉末の形態の活物質を、溶媒、導電性添加剤、及び結合剤と混合して、スラリーを形成することである。次いで、スラリーを、金属箔などの集電体上にコーティングする。その後、溶媒を、乾燥により除去する。次いで、カソードは、アノードと、セパレータなどの電池を形成するために使用される任意の他の構成要素と、組立てられる。
【0006】
従来の電池製造において、プロセスの全ての工程は、典型的には、ドライルーム内で行う必要がある。ドライルームとは、空気の水分量が特定のレベルに制御された部屋である。電池又はその任意の構成要素が組立て中に水分に暴露されると、品質の低下、例えば、充電容量の低下及び全体的な性能の低下につながる可能性がある。
【0007】
プルシアンブルー類似体(PBA)カソード材料は、ナトリウム又はカリウムイオン電池で使用するための、有望なカソード材料として際立っている。プルシアンブルー類似体は、開いた三次元フレームワーク及び大きな間隙空隙を有する、独特の結晶構造を有し、ナトリウム(及びカリウム)イオンを貯蔵することができる。
【0008】
PBAがカソード活物質として使用される場合、電池セルにおいて、材料がその容量を十分に利用するために、PBA構造中に存在するあらゆる水を除去する必要があるので、乾燥が特に重要である。水の存在は、カソード材料としてPBAを含む電池セルにおける、電気化学的電位及びサイクル安定性に、悪影響を及ぼし得る。
【0009】
したがって、最終電池セルで使用される場合、PBA材料中に存在するあらゆる水を除去することが不可欠である。しかしながら、一旦PBA材料から水が除去されても、PBA材料は、依然として水に対して強い親和性を有する。PBAは極めて吸湿性であり、空気又は水分に暴露されるとすぐに、無水から含水に急速に移行し得る。
【0010】
したがって、ドライルームの利用は、プルシアンブルー類似体カソード材料を利用する、ナトリウム又はカリウムイオン電池を調製するプロセスにおいて、不可欠な部分である。
【0011】
しかしながら、電池の製造におけるドライルームの利用に関連する、様々な欠点がある。第一に、ドライルームは、高い投資コストを必要とする。更に、温度制御及び乾燥が必要な大量の空気のために、エネルギー需要が高い。
【0012】
したがって、ナトリウム又はカリウムイオン電池を製造するための改善された方法であって、単純で安価であり、ドライルームの利用を必要としない方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0013】
従来技術の上記及び他の欠点を考慮して、本開示の目的は、ナトリウム又はカリウムイオン電池に関連して、特に、そのような電池を製造するための単純で安価な製造方法を提供することに関する、改善を提供することである。
【0014】
本開示の第一の態様によれば、ナトリウム又はカリウムイオン電池の製造方法であって、以下の工程:
a)プルシアンブルー類似体を含むスラリーを提供する工程であって、プルシアンブルー類似体は、第一の水和相及び第二の脱水相で存在してもよく、スラリーは、プルシアンブルー類似体の第一の水和相を含む工程と、
b)スラリーを集電体に塗布してカソードを形成する工程と、
c)カソードをアノード及びセパレータと組立てて電極スタックを形成する工程と、
d)電極スタックを電池ケーシング内に配置する工程と、
e)プルシアンブルー類似体が第一の水和相から前記第二の脱水相に変換することを可能にする条件下で、電極スタックを含む電池ケーシングを乾燥させる工程と、
f)電池ケーシングに電解質を添加する工程と、
g)電池ケーシングを封止して電池セルを形成する工程であって、工程f)及びg)が不活性条件下で行なわれる工程とを含む、方法が提供される。
【0015】
プルシアンブルー類似体(PBA)は、水和された、すなわち水和相に存在してもよく、脱水された、すなわち水が除去された無水相に存在してもよい。本発明者らは、ナトリウム又はカリウムイオン電池セルを製造する方法が、プルシアンブルー類似体の第一の水和相の第二の脱水相への変換がプロセスにおいて可能な限り遅く行われる場合、すなわち、乾燥工程が可能な限り遅く行われる場合に、大幅に改善され得ることを見出した。
【0016】
プルシアンブルー類似体の第一の水和相では、材料は、単斜晶系結晶構造を有する。PBA材料は、一般に、スラリー中、及び乾燥工程に先行する工程において、その単斜晶系構造で存在する。
【0017】
第二の脱水相では、PBA材料は、菱面体晶系結晶構造を有する。電池用途では、PBAの脱水された菱面体晶系相を利用して、望ましくは、電池セルのエネルギー密度及びサイクル安定性を最大化する。
【0018】
第一相から第二相への転移では、単斜晶系構造の結晶格子に歪みが生じ、体積が著しく変化する。相転移は、水分に対する感度の、実質的な増加に関連する。プルシアンブルー類似体の脱水菱面体晶系構造は、第一の水和相、すなわち、単斜晶系構造に復帰することが極めて起こりやすい。しかしながら、このような復帰は、PBA構造を著しく損なう可能性があり、材料を電池セルでの使用に適さなくするので、これは望ましくない。更に、相当量のナトリウム又はカリウムが、このような復帰中に喪失する可能性がある。
【0019】
したがって、PBA材料は、第二の脱水相に移行した後、この相に留まる、すなわち、本方法の残りの工程を通して、その菱面体晶系結晶構造を維持することが重要である。これは、本開示の方法によって達成される。
【0020】
本方法の工程をa~gの順序で行い、電解質を添加し、不活性条件下でケーシングを封止することによって、プルシアンブルー類似体は、本方法の工程f)及びg)を通して、第二の脱水相で維持される。
【0021】
プルシアンブルー類似体を含むスラリーは、典型的には、水性スラリーである。したがって、プルシアンブルー類似体は、スラリー中、第一の水和相に保たれる。
【0022】
本開示の方法の工程a)~d)は、周囲条件で行われてもよい。
【0023】
好ましくは、プルシアンブルー類似体は、方法の工程a)~d)で、第一の水和相で存在する。
【0024】
本発明者らは、乾燥工程(工程e)まで、すなわち、相転移が起こるところまで、プルシアンブルー類似体を第一の水和相に保つことが望ましいと、見出した。このようにして、第一の相と第二の相との間の、望ましくない転移が回避され、(乾燥工程中で)ただ1回の相転移が行われる。
【0025】
これにより、乾燥工程(工程e)に先行する工程を、周囲条件で行うことが可能となる。これは、典型的には、全ての方法工程をドライルーム内で実行する必要がある、従来の電池製造技術と比較して、かなりの利点である。
【0026】
したがって、PBAスラリーを提供する工程(工程a)、スラリーを集電体に塗布する工程(工程b)、カソードを追加の電池構成要素と組立てる工程(工程c)、及び電極スタックを電池ケーシング内に配置する工程(工程d)は、周囲条件で行うことができる。プロセスのこれらの段階において、PBA材料は、まだ第二の脱水相に変換されていないため、感受性が低い。
【0027】
本発明者らはまた、組立て工程(工程c)の後であるが、電池ケーシング内への電極スタックの配置(工程d)の前に、乾燥工程が行われる(しかし、残りの全ての工程が同様である)シナリオを、試験し、比較した。これらの試験からの結果は、方法の工程の順序が、形成された電池セルの容量に著しい影響を及ぼすことを実証している。材料性能は、材料が処理され取扱われる条件によって、著しく影響される。
【0028】
本開示の方法では、容量及びサイクル性能の著しい改善が、観察されている。周囲雰囲気への非常に短い暴露(乾燥工程後に、組立体をケーシング内に配置した、比較試験の場合のように)でさえ、電池セルの性能が損なわれる結果となった。
【0029】
本開示の方法は、電池製造のあらゆる工程中に、ドライルームの利用を必要としない。したがって、簡単で費用効率の高い方法が、提供される。
【0030】
例示的な実施形態では、電解質を添加する工程f)、及び電池ケーシングを封止する工程g)は、同一の装置内で行われる。
【0031】
これは、電極スタックの移送中に、湿気及び空気への望ましくない曝露を防止するために、有益である。
【0032】
例示的な実施形態では、乾燥の工程e)は、装置に接続された、又は装置内に含まれる、チャンバ内で行われる。
【0033】
したがって、乾燥した電池スタックの電解質注入装置への移送は、不活性条件下で行われる。これによって、湿気及び空気への望ましくない暴露が防止される。
【0034】
例示的な実施形態では、乾燥の工程e)は、110℃~250℃、好ましくは120℃~200℃の範囲の温度で、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも10時間行われる。
【0035】
これらの乾燥条件は、プルシアンブルー類似体の第一の水和相から、PBAの第二の脱水相への相転移を可能にするのに好適である。これらの乾燥条件は、PBA材料の第一相に存在するあらゆる水、及び電池セルの任意の他の部分に潜在的に存在するあらゆる水の、除去を可能にする。更に、これらの乾燥条件は、PBA構造、又は電池セルの他の構成要素に、悪影響を及ぼさない。
【0036】
いくつかの実施形態では、乾燥の工程e)は、真空下で行われる。
【0037】
乾燥工程をより低温で行うことが可能であり、乾燥時間を短縮することが可能であるので、真空を利用することが望ましい。
【0038】
例示的な実施形態では、プルシアンブルー類似体は、式、AaMb[M’c(CN)6]dを有し、式中、Aは、ナトリウム又はカリウムであり、1<a≦2であり、M及びM’は遷移金属であり、好ましくは鉄及び/又はマンガンから選択され、0<b<2であり、1<c<2であり、1<d<2である。
【0039】
実施形態では、プルシアンブルー類似体は、プルシアンホワイトであり、式、AaFe[Fe(CN)6]を有し、式中、Aは、ナトリウム又はカリウムであり、1.8<a≦2であり、好ましくは1.9<a≦2である。
【0040】
プルシアンホワイトは、高い電池容量、並びにナトリウム(及びカリウム)イオンの貯蔵能力の向上に、関連している。プルシアンホワイトも環境に優しく、低コストで製造可能である。
【0041】
例示的な実施形態では、電池ケーシングは、パウチセル又は円筒形セルである。
【0042】
典型的には、ケーシングは、パウチセルである。
【0043】
パウチセルは、箔などの、可撓性材料で形成されてもよい。したがって、電池ケーシングは、可撓性で軽量であり、様々なサイズ及び形状にすることができる。
【0044】
封止された電池ケーシングは、電池セルを周囲して封止し、電池セルの内外への、あらゆる空気又は水分の透過に対するバリアとして作用する。
【0045】
実施形態では、スラリーを提供する工程は、粉末の形態のプルシアンブルー類似体を、導電性添加剤、及び結合剤と混合することを、含んでもよい。
【0046】
スラリーを集電体に塗布する工程は、5mg/cm2~30mg/cm2、好ましくは10mg/cm2~20mg/cm2のコーティング重量で、スラリーを集電体にコーティングすることを含んでもよい。
【0047】
集電体上のコーティングの厚さは、特定の用途及び目的に応じて変化し得る。例えば、PBAコーティングの厚さは、50μm~500μm、例えば、100μm~250μmの範囲であってもよい。
【0048】
次いで、電極を、当分野で周知の技術によって、所望の形状に切断することができる。
【0049】
カソードは、電極をセパレータで積層又は巻回することによって、アノードと組立てられてもよい。
【0050】
別の態様によれば、前述の方法に従って製造された、ナトリウム又はカリウムイオン電池セルが提供される。
【0051】
電池セルは、Na+/Naに対して4.0V超、又はK+/Kに対して4.15V超の、電圧プラトーが存在しない、電気化学的サイクル曲線を有し得る。
【0052】
各々、4V(Na+/Na)超、及び4.15(K+/K)超の、電圧プラトーが存在しないことは、電池セルから水が除去され、第二の脱水相でPBA材料が存在することの指標である。このような電池セルは、その後の充放電時に安定した挙動を示し、高い初期クーロン効率を有する。各々、4V超(Na+/Na)、及び4.15(K+/K)超の、電圧プラトーは、水抽出に関連し、PBA材料がPBA材料の第一の水和相を含むことの指標である。
【0053】
好ましくは、電池セルは、Na+/Naに対して3.2~3.9Vの間、又はK+/Kに対して3.9~4.1Vの間の、電圧プラトーを1つ示す、電気化学サイクル曲線を有し、電気化学サイクル曲線は、追加の電圧プラトー(複数可)を欠いている。
【0054】
上述の範囲内の1つの明確な電圧プラトーの存在は、電池セルが水を欠いており、水又は水分によって引き起こされる副反応が発生しないことを示す。
【0055】
本開示の更なる特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲及び以下の説明を検討する際に、明らかになるであろう。当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく、本開示の異なる特徴を組合わせて、以下に記載されたもの以外の実施形態を作成することが可能であることを理解する。
【0056】
その特定の特徴及び利点を含む本開示の様々な態様は、以下の詳細な説明及び添付の図面から、容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1は、本開示の方法の工程を、概略的に示す。
【
図2】
図2は、本開示の例示的な実施形態による、ナトリウム又はカリウムイオン電池を、概略的に示す。
【
図3a】
図3aは、電池セルを電池ケーシングに挿入する前に電池セルを乾燥させた、方法に従って製造された、ナトリウムイオン電池セルのサイクルデータを示す。
【
図3b】
図3bは、本開示の方法の例示的な実施形態に従って製造された、ナトリウムイオン電池セルのサイクルデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本開示は、本開示の現在好ましい実施形態が示されている添付の図面を参照して、以下でより完全に説明される。しかしながら、本開示は、多くの異なる形態で具体化されてもよく、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、徹底性及び完全性のために提供され、本開示の範囲を当業者に完全に伝える。
【0059】
図1aは、本開示のナトリウム又はカリウムイオン電池セルを製造するための、方法(100)の工程を概略的に概説している。
【0060】
本方法は、
a)プルシアンブルー類似体を含むスラリーを提供する工程であって、プルシアンブルー類似体は、第一の水和相及び第二の脱水相で存在してもよく、スラリーは、プルシアンブルー類似体の第一の水和相を含む工程(工程101)と、
b)スラリーを集電体に塗布してカソードを形成する工程(工程102)と、
c)カソードをアノード及びセパレータと組立てて電極スタックを形成する工程(工程103)と、
d)電極スタックを電池ケーシング内に配置する工程(工程104)と、
e)プルシアンブルー類似体が第一の水和相から前記第二の脱水相に変換することを可能にする条件下で、電極スタックを含む電池ケーシングを乾燥させる工程(工程105)と、
f)電池ケーシングに電解質を添加する工程(工程106)と、
g)電池ケーシングを封止して電池セルを形成する工程(工程107)であって、工程f)及びg)が不活性条件下で行われる工程とを含む。
【0061】
本開示の方法の重要な特徴は、その電池ケーシング内の電極スタックを乾燥させ、乾燥工程に続く工程中に、水分又は空気へのいかなる暴露も許容しないことである。
【0062】
したがって、材料の膨張及び損傷をもたらし得る、PBA材料の第一の相と第二の相との間の、望ましくない復帰が防止される。
【0063】
本発明者らは、本開示の方法に従って製造された電池セルで、容量及びサイクル性能の著しい改善が得られることを見出した。安定したサイクル性能を有する電池セルが得られ、空気曝露に起因する望ましくない副反応が回避される(例2を参照)。
【0064】
スラリーを提供する工程(工程101)は、粉末の形態のプルシアンブルー類似体を、導電性添加剤、及び結合剤と混合することを含んでもよい。
【0065】
混合は、少なくとも1時間の撹拌及び/又は混合によって、行うことができる。スラリーを集電体に塗布する前に、不活性雰囲気中で混合を行って、スラリー中の潜在的な気泡を除去することができる。
【0066】
導電性添加剤は、当業者に知られている、任意の種類の導電性添加剤であってもよい。例えば、様々な種類の炭素化合物、例えば、super P、C65、C45、カーボンブラック、例えば、ケッチェンブラックを利用することができる。
【0067】
結合剤は、特定の結合剤に限定されない。例えば、アルギネート、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることができる。
【0068】
プルシアンブルー類似体(PBA)粉末は、当技術分野で公知の手段によって、調製することができる。
【0069】
プルシアンブルー類似体を含むスラリーは、典型的には、水性スラリーである。したがって、プルシアンブルー類似体は、スラリー中、第一の水和相で存在する。
【0070】
スラリーを集電体に塗布する工程(102)は、5mg/cm2~30mg/cm2、好ましくは10mg/cm2~20 mg/cm2のコーティング重量で、スラリーを集電体にコーティングすることを含んでもよい。
【0071】
スラリーは、好ましくは、集電体の少なくとも片面に均一に塗布される。集電体は、典型的には、金属箔又は金属シートである。
【0072】
集電体は、片面又は両面にコーティングされていてもよい。両面をコーティングする場合、コーティング重量を増加させることができる。例えば、コーティング重量は、30~50mg/cm2であってもよい。
【0073】
コーティングの工程は、特定のコーティング技術に限定されるものではなく、集電体上にスラリーをコーティングするための、任意の手段を利用することができる。例えば、スロットダイコーティングを、利用することができる。好ましくは、コーティングは、集電体の少なくとも片面に均一に分布している。
【0074】
集電体上のコーティングの厚さは、特定の用途及び目的に応じて変化し得る。例えば、PBAコーティングの厚さは、50μm~500μm、例えば、100μm~250μmの範囲であってもよい。
【0075】
その後、コーティングされた活性PBA材料は、例えば、ローラープレスカレンダーを用いたカレンダー加工によって、集電体上にプレス及び圧縮されてもよい。したがって、コーティングの一貫した厚さ及び密度を、達成することができる。
【0076】
次いで、電極を、当分野で周知の技術によって、所望の形状に切断することができる。例えば、任意の種類のスリット加工機を、利用することができる。
【0077】
工程103では、カソードは、電極をセパレータで積層又は巻回することによって、アノードと組立てられる。当分野で公知の任意の技術を、利用することができる。
【0078】
続いて、電池セルは、電池ケーシング内に配置される(工程104)。
【0079】
実施形態では、電池ケーシングは、円筒形セル又はパウチセルである。
【0080】
電池ケーシングは、意図される用途及び選好に応じて変化し得る。電池ケーシングは、電池セルを周囲して封止し、電池セルの内外への、あらゆる空気又は水分の透過に対するバリアとして作用する。
【0081】
好ましくは、電池ケーシングは、パウチセルである。換言すれば、電池ケーシングは、箔などの、可撓性材料で形成された、パウチの形態であってもよい。したがって、ケーシングは、可撓性で軽量であり、様々なサイズ及び形状にすることができる。
【0082】
例えば、パウチセルは、ポリマーコーティングされた金属箔を含んでもよい。金属箔は、金属箔の片面又は両面に、ポリマーコーティングを含んでもよい。
【0083】
電極スタックがパウチセルに挿入されると、パウチセルは部分的に封止され得る。
【0084】
前述のように、プロセスの工程a)~d)(
図1に、101~104で示される)は、周囲条件で行われてもよい。工程a)~d)は、室温で行われてもよい。
【0085】
本明細書で使用される場合、「周囲条件」 は、プロセスが行われている、一般的な気温及び相対湿度を意味する。工程a)~d)は、室温に関連する相対湿度(RH)レベル(例えば、40~60%RH)で、行われてもよい。プロセスは、方法のこれらの第一の工程において、特定の要件又は機器に限定されない。
【0086】
次いで、電池ケーシングは、PBA材料が第二の脱水相に変換することを可能にする条件下で、乾燥される(工程105)。
【0087】
例えば、乾燥の工程は、110℃~250℃、好ましくは120℃~200℃の範囲の温度で、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも10時間行われてもよい。
【0088】
したがって、改善された容量及びサイクル性能を有する、ナトリウム又はカリウムイオン電池を得ることができる。また、これらの乾燥条件は、PBA構造に悪影響を及ぼさない。
【0089】
好ましくは、乾燥工程は、真空下(周囲圧力より低い圧力)で行われるが、これは、乾燥中により低い温度を利用できるようにするためである。真空により、約110~160℃の範囲の温度で、乾燥を行うことができる。
【0090】
乾燥の工程は、10-3~100mbarの圧力で、行うことができる。例えば、圧力は、0.01~1mbarであってもよい。
【0091】
しかしながら、圧力は、乾燥工程で利用される温度に大きく依存する。したがって、圧力は、乾燥中に使用される温度に応じて変化し得る。
【0092】
乾燥工程は、活性PBA材料中に存在するあらゆる水、及び電池セルの任意の他の部分に潜在的に存在するあらゆる水の、除去を確実にすることが、重要である。
【0093】
脱水されたPBA材料とは、PBA材料が、PBA材料を含む電池セルの電気化学的挙動に影響を及ぼす水を含まないことを、意味する。これは、Na+/Naに対して4V以上、及びK+/Kに対して4.15V以上の、電圧プラトーが、電気化学的サイクル曲線に存在しないことによって、証明され得る。そのような電圧プラトーは、水抽出に関連し、PBAが第一の水和相から第二の脱水相に完全に移行していないことの指標である。
【0094】
本明細書で使用される場合、「Na
+/Naに対して4 V、又はK
+/Kに対して4.15V超の、電圧プラトーが存在しない」という用語は、各々、4V、及び4.15V後に、追加の容量がないことを意味する。したがって、Na
+/Naに対して4V超、又はK
+/Kに対して4.15V超の、水分によって引き起こされる反応はない。これは、
図3bでは、垂直上方に向かう電気化学サイクル曲線によって示されている。電気化学サイクル試験に使用されるアノードは、典型的には、炭素系アノード(ハードカーボン)である。
【0095】
水の存在、又は水若しくは水分によって引き起こされる副反応の存在は、Na+/Naに対して4V超の、又はK+/Kに対して4.15V超の、傾斜曲線によって証明され得る。これはまた、電気化学サイクル曲線における、2つ以上の電圧プラトーの存在によって証明され得る。
【0096】
電池セルは、Na+/Naに対して3.2~3.9Vの間、又はK+/Kに対して3.9~4.1Vの間の、電圧プラトーを1つ示す、電気化学サイクル曲線を有してもよく、電気化学サイクル曲線は、追加の電圧プラトー(複数可)を欠いている。
【0097】
したがって、水が存在しない、安定かつ高性能な電池セルが実現される。
【0098】
本開示の方法の重要な利点は、電池製造のあらゆる工程において、ドライルームが必要とされないことである。したがって、この方法は単純であり、低コストに関連する。
【0099】
この方法は、乾燥工程の後に、電解質を電池セルに添加する工程を更に含み、電解質は、不活性条件下で添加される(工程106)。
【0100】
本明細書で使用される場合、「不活性条件」 という用語は、酸素及び水が存在しない雰囲気を意味する。好ましくは、グローブボックス、すなわち、空気及び水分のない、閉鎖されたチャンバが利用される。グローブボックスは、電解質注入用の、密閉された手袋を備えてもよい。グローブボックスは、アルゴン(Ar)ガスで充填されてもよい。
【0101】
好ましくは、電解質は、非水電解質である。非水電解質は、水がPBAコーティングカソードと干渉するのを防止する。更に、非水電解質は、水性電解質と比較して、より大きな電位窓を提供する。また、電池セルは乾燥されており、PBAは脱水されているので、活性PBA材料中又は非水電解質と干渉し得る電池セル中には、水は実質的に存在しない。
【0102】
本開示は、特定の非水電解質の使用に、限定されない。非水電解液は、典型的には、溶媒又は溶媒のブレンド、及び少なくとも1つの溶解塩を含む。
【0103】
例えば、非水電解質は、例えば、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、及び/又はそれらの任意の混合物を含んでもよい。非水電解質は、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF6)、又はテトラフルオロホウ酸ナトリウム(NABF4)などの、塩を含んでもよい。非水電解質はまた、添加剤を含んでもよい。
【0104】
実施形態において、非水電解質は、アルカリ金属ビス(オキサラト)ボレート塩を含み、アルカリ金属イオンは、ナトリウム(Na+)、及びカリウム(K+)から選択される。このような非水電解液は、フッ素非含有であり、環境に優しく、安全であり、並びに高いイオン伝導性及び電気化学的安定性を有する。
【0105】
その後、不活性条件下で、電池ケーシングが封止される(工程107)。
【0106】
電解質を添加する工程f)、及び電池ケーシングを封止する工程g)は、同一の装置内で行われてもよい。例えば、グローブボックスを利用してもよい。
【0107】
乾燥の工程d)は、装置に接続された、又は装置内に含まれる、チャンバ内で行なわれてもよい。
【0108】
例えば、乾燥工程は、装置の別個の区画を形成する、チャンバ内で行なわれてもよい。
【0109】
実施形態では、電解質を添加する工程f)、及び電池ケーシングを封止する工程g)は、同一のグローブボックス内で行われる。乾燥の工程は、グローブボックスに接続された、又はグローブボックスの一部を形成する、アンテチャンバとも呼ばれ得る、移送チャンバ内で行われてもよい。移送チャンバは、真空を適用するための手段を備えてもよい。
【0110】
アンテチャンバで乾燥した後、電池ケーシングは、電解質注入及び封止のために、装置の異なる区画に移送されてもよい。
【0111】
本方法の工程e)の後に、電池ケーシングを電解質注入装置に移送する工程は、不活性条件下で行われる。したがって、電池ケーシングは、いかなる湿気又は空気にも暴露されず、PBA材料は、その第二の脱水相で保たれる。
【0112】
例示的な実施形態では、プルシアンブルー類似体は、式、AaMb[M’c(CN)6]dを有し、式中、Aは、ナトリウム又はカリウムであり、1<a≦2であり、M及びM’は遷移金属であり、好ましくは鉄及び/又はマンガンから選択され、0<b<2であり、1<c<2であり、1<d<2である。
【0113】
実施形態では、プルシアンブルー類似体は、プルシアンホワイトであり、式、AaFe[Fe(CN)6]を有し、式中、Aは、ナトリウム又はカリウムであり、1.8<a≦2であり、好ましくは1.9<a≦2である。
【0114】
プルシアンホワイトは、高い電池容量、並びにナトリウム(及びカリウム)イオンの貯蔵能力の向上に、関連している。プルシアンホワイトも環境に優しく、低コストで製造可能である。
【0115】
プルシアンブルー類似体がプルシアンホワイト材料である実施形態では、この材料は、Altris ABに譲渡された国際公開第2018/056890号に記載された方法に従って、調製することができる。
【0116】
別の態様によれば、前述の方法に従って製造された、ナトリウム又はカリウムイオン電池セルが提供される。
【0117】
図2は、ナトリウム又はカリウムイオン201を、電荷担体として利用する、ナトリウム又はカリウムイオン電池200の概略原理を示す。電池は、負極、すなわち、アノード202の化学結合に、エネルギーを貯蔵する。電池200を充電すると、Na
+又はK
+イオン201が、正極から強制的に脱インターカレートされ、すなわち、カソード203は、アノード202に向かって移動する。放電中は、そのプロセスが逆転する。回路が完了すると、電子は、アノード202からカソード203に戻り、Na
+又はK
+イオン201は、カソード203に戻る。電池の放電中は、
図2に示されるように、アノード202で酸化が起こり、一方、カソード203で還元が起こる。電流の流れは、カソード203とアノード202との間の電位差、セル電圧によって決定される。
【0118】
2つの電極は、電解質204が浸潤した、セパレータ205によって分離される。
【0119】
本明細書で使用される場合、「電池」という用語は、1つ以上の電池セルを含む装置を意味する。
【0120】
「電池セル」は、正極、すなわちカソードと、負極、すなわちアノードと、及びセパレータとを含む。電池セルでは、電極での還元及び酸化(レドックス)反応によって、化学エネルギーが電気に変換される。
【0121】
本開示のナトリウム又はカリウムイオン電池で利用されるカソード203は、上述のプルシアンブルー類似体材料でコーティングされた、集電体を含む。
【0122】
負極材料、すなわち、アノード202は、ナトリウム又はカリウムイオンを貯蔵/放出可能な材料であれば、特に限定されない。例としては、金属複合酸化物、ナトリウム金属、ナトリウム合金、ケイ素、ケイ素系合金、スズ系合金、ビスマス系合金、金属酸化物、導電性高分子、Na-Co-Ni系材料、ハードカーボンなどが、挙げられる。アノードは、活性アノード材料でコーティングされた、金属箔であってもよい。
【0123】
電池セルは、負極と正極との間の電気的短絡を防止し、セルに機械的安定性を提供するための、セパレータ205を更に備えてもよい。セパレータ材料は、化学的に安定で、電気的に絶縁性の任意の材料、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、又はこれらの組合わせから一般的に作製される、ポリマーフィルムであってもよい。セパレータは、好ましくは、250℃までの範囲の温度で熱安定性である。
【0124】
例1:ケーシング外側での乾燥
プロトタイプのプルシアンホワイトセルを、耐熱性セパレータ、及び高質量負荷電極と積層した。炭素系負極、すなわち、ハードカーボンを利用した。電極からあらゆる水を除去するために、積層されたプロトタイプを、オーブン内の高真空(2×10-2mBar未満)下で、150℃で、12時間乾燥させた。乾燥が完了した後、セルスタックを、電解質注入及び封止のために、オーブンからパウチセルケーシングに移動させた。この操作は、電極スタックを、短時間(3分未満)周囲条件に暴露し、その後、120℃で、1~3時間の乾燥工程を続けることを含んだ。
【0125】
図3aのサイクルデータは、電極スタックが、プルシアンホワイトの無水相とプルシアンホワイトの水和相の両方、すなわち、菱面体晶系構造と単斜晶系構造の両方を含むことを、示している。これは、充電の終点に現れ、カソードからの水の抽出に関連する、4ボルトのプラトーによって明確に証明されている。セル内の含水量は、セル内でガス発生を引き起こし、放電は不可能であった。
【0126】
例2:ケーシング内側での乾燥
プロトタイプのプルシアンホワイトセルを、セパレータ、及び高質量負荷電極と積層した。炭素系負極、すなわち、ハードカーボンを利用した。積層されたプロトタイプをパウチセルケーシングに移送し、電極からあらゆる水を除去するために、高真空(2×10-2mBar未満)下で、150℃で、12時間乾燥させた。乾燥が完了した後、セルスタックに電解質を注入し、周囲雰囲気に曝露することなく封止した。この操作は、電極スタックを備えたケーシングが、注入及び封止の前に、組立工程を必要としないため、可能である。
【0127】
図3bのサイクルデータは、電極スタックが、プルシアンホワイトの無水相、すなわち、菱面体晶系相のみを含むことを示している。これは、充電の終点に現れ、カソードからの水の抽出に関連する、4ボルトのプラトーが存在しないことによって明確に証明されている。水が存在しないことにより、セルは、85%超の初期クーロン効率、並びにその後の充電及び放電中の安定した挙動で、サイクルすることが可能になった。
【0128】
要約すると、材料は、乾燥しており、副反応のないサイクルである。
【0129】
本開示の全ての態様の、用語、定義、及び実施形態は、本開示の他の態様に準用される。
【0130】
本開示を、その特定の例示的な実施形態を参照して記載したが、多くの異なる変更、修正などが、当業者には明らかになるであろう。
【0131】
開示された実施形態に対する変形は、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の研究から、本開示を実施する際に、当業者によって理解及び達成され得る。更に、特許請求の範囲において、「含む」という語は、他の要素又は工程を除外せず、不定冠詞「a」、又は「an」は、複数を除外しない。
【国際調査報告】