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特表2024-539674アルミニウム合金ならびに缶端を製造するためのアルミニウムストリップおよびその製造のための方法
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  • 特表-アルミニウム合金ならびに缶端を製造するためのアルミニウムストリップおよびその製造のための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ならびに缶端を製造するためのアルミニウムストリップおよびその製造のための方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20241022BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20241022BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20241022BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
C22C21/06
C22C1/02 503J
C22F1/047
C22F1/00 681
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 623
C22F1/00 613
C22F1/00 630A
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 673
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523384
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2022078897
(87)【国際公開番号】W WO2023066892
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】21203179.3
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513100910
【氏名又は名称】スペイラ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Speira GmbH
【住所又は居所原語表記】Aluminiumstrasse 1, 41515 Grevenbroich, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シュリューター
(72)【発明者】
【氏名】オラフ エングラー
(72)【発明者】
【氏名】ボリス クルト
(57)【要約】
本発明は、0.03重量%≦Si≦0.6重量%、0.15重量%≦Fe≦0.8重量%、0.02重量%≦Cu≦0.25重量%、0.20重量%≦Mn≦1.4重量%、3.0重量%≦Mg≦5.0重量%、Cr≦0.1重量%、Zn≦0.25重量%、Ti≦0.10重量%、個別で最大0.05重量%、全体で最大0.15重量%の不純物、残部はアルミニウム、の組成を有するアルミニウム合金に関する。本発明は、さらに、このアルミニウム合金で製作されたアルミニウムストリップ(182)とそのようなアルミニウムストリップ(182)を製造するための方法とその使用とに関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.03重量% ≦ Si ≦ 0.6重量%、
0.15重量% ≦ Fe ≦ 0.8重量%、
0.02重量% ≦ Cu ≦ 0.25重量%、
0.20重量% ≦ Mn ≦ 1.4重量%、
3.0重量% ≦ Mg ≦ 5.0重量%、
Cr ≦ 0.1重量%、
Zn ≦ 0.25重量%、
Ti ≦ 0.10重量%、
個別で最大0.05重量%、全体で最大0.15重量%の不純物、残部はアルミニウム、
の組成を有するアルミニウム合金。
【請求項2】
前記Cr含有量は、0.01~0.1重量%の範囲内であることおよび/または前記Zn含有量は、0.01~0.25重量%の範囲内であることおよび/または前記Ti含有量は、0.001~0.10重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
前記Mg含有量は、3.0~5.0重量%の範囲内、好ましくは3.5~5.0重量%の範囲内、より好ましくは4.0~5.0重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
前記アルミニウム合金は、0.20重量%を上回るSi含有量および/または0.35重量%を上回るFe含有量および/または0.15重量%を上回るCu含有量および/または0.5重量%を上回るMn含有量を有することを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のアルミニウム合金から缶端(6)および/または缶タブ(8)を製造するための、好ましくは、請求項10または11によって製造されるアルミニウムストリップ(182)。
【請求項6】
前記アルミニウムストリップ(182)は、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも30重量%のアルミニウムスクラップリサイクル材含有量、特にオールドスクラップリサイクル材含有量を有することを特徴とする、請求項5に記載のアルミニウムストリップ。
【請求項7】
前記アルミニウムストリップ(182)は、コーティング、特にストーブエナメルコーティングを有することを特徴とする、請求項5または6に記載のアルミニウムストリップ。
【請求項8】
前記アルミニウムストリップ(182)は、0.20~0.24mmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項5~7の何れか一項に記載のアルミニウムストリップ。
【請求項9】
前記アルミニウムストリップ(182)は、250~400MPaの範囲の降伏応力Rp0.2を有することを特徴とする、請求項5~8の何れか一項に記載のアルミニウムストリップ。
【請求項10】
請求項5~9の何れか一項に記載のアルミニウムストリップ(182)を製造するための方法であって、
- 請求項1~4の何れか一項に記載のアルミニウム合金の融解物(114)を提供するステップ、
- 好ましくはDC鋳造によって前記融解物(114)を鋳造してインゴット(122)にするステップ、
- 前記インゴット(122)を均質化させるステップ、
- ホットストリップ(142)を形成させるために前記インゴットを熱間圧延するステップ、
- 最終厚さのコールドストリップ(152)を形成させるために、任意選択として1回以上の中間焼なましステップを用いて、前記ホットストリップ(142)を冷間圧延するステップであって、前記最終厚さは、好ましくは0.20~0.24mmの範囲内であるステップ、
- 任意選択として前記コールドストリップ(152)を塗装する、特にストーブエナメル塗装するステップ、
を含む方法。
【請求項11】
前記融解物(114)は、オールドスクラップ(115)を融解することによって、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも30重量%の割合で提供されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
缶端(6)および/または缶タブ(8)を製造するための、請求項1~4の何れか一項に記載のアルミニウム合金または請求項5~9の何れか一項に記載のアルミニウムストリップの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金、該アルミニウム合金で製作されたアルミニウムストリップ、該アルミニウムストリップを製造するための方法および該アルミニウムストリップの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム缶は、一般に、缶体、缶端および通常は缶タブを有し、それらのものの材料は、時として製造のためにまたは製品において、たとえばそれらのものの成形性、強度などについて種々の要件を課される。
【0003】
したがって、アルミニウム缶を製造するとき、典型的には一方で缶体、他方で缶端および缶タブ用に異なるアルミニウム合金が用いられる。缶体にはAA3xxxアルミニウム合金、通常はAA3104が用いられ、缶端および缶タブにはAA5xxxアルミニウム合金、通常はAA5182が用いられる。缶体および缶端または缶タブ用のこれらのアルミニウム合金は、アルミニウム飲料缶の分野において変わることなく長年にわたり用いられてきた。
【0004】
アルミニウム製品のカーボンフットプリントを改善するには、それらの製造におけるスクラップの使用を高めることが一般的に望ましい。しかし、カーボンフットプリントに対してすべてのスクラップが同じ効果を有するわけではない。アルミニウム製品の製造時に発生するスクラップ、いわゆる製造スクラップの使用は、カーボンフットプリントに対してはわずかに好ましい効果しかないか、影響を及ぼさないかまたは好ましくない影響を及ぼすことさえある。対照的に、アルミニウムから製作された製品のライフサイクルの終わりに発生するスクラップ、いわゆるオールドスクラップを用いることによって製品のカーボンフットプリントを顕著に改善することができる。実務ではオールドスクラップは、時としてポストコンシューマースクラップまたはエンドオブライフスクラップとも呼ばれる。
【0005】
飲料缶の製造において、たとえばアルミニウムストリップの製造時に(たとえばトリミングスクラップとして)、あるいはアルミニウムストリップからの缶体、缶端または缶タブの製造時に(たとえばパンチングスクラップとして)製造スクラップが生じ得る。使用済みアルミニウム飲料缶からのオールドスクラップは、実務ではUBC(使用済み飲料缶)スクラップと呼ばれる。
【0006】
これまで、オールドスクラップ、たとえばUBCスクラップは、主としてAA3xxx合金群の新規缶体材料向けに用いられてきた。合金組成がこれを可能にするからである。
【0007】
他方、缶端ストリップまたは缶タブストリップ向けに用いられるアルミニウム合金AA5182の合金規格、特に合金元素Si、Fe、CuおよびMnの非常に低い許容限界に起因して、その製造のためにAA5xxx合金群のもの以外のスクラップを用いることは難しいことが証明されている。その結果、アルミニウム缶端ストリップまたは缶タブストリップ、すなわちそれぞれ缶端または缶タブの製造のためのアルミニウムストリップの製造において、少量のアルミニウムスクラップ、特に少量のオールドスクラップを用いることしかできない。
【0008】
このことは、特に、UBCスクラップに当てはまる。UBCスクラップは、それに含有される種々の合金、すなわち缶体の合金と缶端の合金との混合物およびその結果として典型的にスクラップ中に含まれるケイ素、亜鉛または銅の割合に起因して、現状では新規の缶端ストリップまたは缶タブストリップの製造向けに大量のそのようなスクラップを用いることを不可能にする。さもなければ合金AA5182の合金規格を満たすことができないからである。
【0009】
したがって、缶端ストリップまたは缶タブストリップの製造において、現状では缶端ストリップまたは缶タブストリップの規格限界に適応するために、高い割合の一次アルミニウムまたは清浄な、非合金スクラップを加えることが必要である。
【0010】
1990年代末に、非特許文献1に記載されているように、缶体、缶端および缶タブ向けに一種類の合金だけを用いることが検討された。しかし、この考えは、実際にはうまく行かず、そのためアルミニウム缶製造業者らは、試験・検証済みの缶体向けAA3104と缶端および缶タブ向けのAA5182との合金組み合わせから抜け出せなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】W.H.Sillekens他,“Formability of recycled aluminum alloy 5017”,Journal of Materials Processing Technology,1997年,vol.65,p252
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
この背景に対して、本発明は、スクラップ、特にオールドスクラップのより大きな使用を可能にするような方法で缶端および缶タブ用のアルミニウムストリップの製造を改善する目的に基づいている。
【0013】
本発明によれば、この目的は、
0.03重量% ≦ Si ≦ 0.6重量%、
0.15重量% ≦ Fe ≦ 0.8重量%、
0.02重量% ≦ Cu ≦ 0.25重量%、
0.20重量% ≦ Mn ≦ 1.4重量%、
3.0重量% ≦ Mg ≦ 5.0重量%、
Cr ≦ 0.1重量%、
Zn ≦ 0.25重量%、
Ti ≦ 0.10重量%、
個別で最大0.05重量%、全体で最大0.15重量%の不純物、残部はアルミニウム、
の組成を有するアルミニウム合金によって解決され、
該アルミニウム合金は、好ましくは、0.20重量%を上回るSi含有量および/または0.35重量%を上回るFe含有量および/または0.15重量%を上回るCu含有量および/または0.5重量%を上回るMn含有量を有する。
【0014】
このアルミニウム合金は、アルミニウム端ストリップおよび/またはアルミニウムタブストリップのための要件、特に機械的要件を満たし、同時に個々の合金元素について指定された含有量限界に起因してオールドスクラップの使用を高めることを可能にするアルミニウムストリップを製造するために用いることができることが見いだされた。
【0015】
詳しくは、記載される合金組成は、UBCスクラップの使用を多くすること可能にする。この方法において、アルミニウム飲料缶のサイクルを閉じることができ、その結果、缶体に加えて、缶端および缶タブ、ひいてはアルミニウム飲料缶のすべての製造部品を古い飲料缶から新たに製造することができる。このことは、アルミニウム飲料缶のリサイクル可能性を増大させ、それらのカーボンフットプリントを顕著に改善する。
【0016】
よって、前述の目的は、前述のアルミニウム合金またはその実施形態から缶端および/または缶タブを製造するためのアルミニウムストリップにより、本発明によってさらに解決される。
【0017】
さらに、前述の目的は、缶端および/または缶タブを製造するための、前述の合金またはその実施形態あるいは前述のアルミニウムストリップまたはその実施形態の使用により、本発明によって解決される。
【0018】
さらに、前述の目的は、上記記載のアルミニウムストリップを製造するための方法であって、
- 上記記載のアルミニウム合金またはその実施形態の融解物を提供するステップ、
- 該融解物を鋳造してインゴットにするステップ、
- 該インゴットを均質化させるステップ、
- ホットストリップを形成させるために該インゴットを熱間圧延するステップ、
- コールドストリップを形成させるために、任意選択として1回以上の中間焼なましステップを用いて、該ホットストリップを冷間圧延するステップ、
を含む方法により、本発明によって解決される。
【0019】
融解物は、少なくとも部分的にアルミニウムスクラップ、特にオールドスクラップを融解することによって、好ましくは少なくとも部分的にUBCスクラップを融解することによって提供される。
【0020】
融解物は、好ましくは、不連続鋳造プロセス、特にダイカスト法において、または半連続鋳造プロセス、特にDC鋳造において鋳造されてインゴットにされる。
【0021】
インゴットは、次に、鋸断するかまたは粉砕することができる。
【0022】
インゴットは、好ましくは、450~550℃、好ましくは490~550℃の保持温度で少なくとも0.5時間均質化される。均質化は、特に、プッシャータイプ炉またはるつぼ炉中で行うことができる。均質化は、好ましくは12時間未満行われる。
【0023】
熱間圧延は、好ましくは、2~4mmの範囲内のホットストリップ厚さまで行われる。熱間圧延は、たとえば、おそらくはマルチスタンド仕上げトレーンに続く、逆転熱間圧延スタンド上で行うことができる。
【0024】
冷間圧延は、中間焼なましを用いて行うかまたは用いないで行うことができる。
【0025】
ストリップは、好ましくは、冷間圧延後にトリミングされる。
【0026】
本アルミニウム合金のSi含有量は、0.03~0.6重量%の範囲内である。0.6重量%を上回るSi含有量は、強度および成形性に悪影響を及ぼす。0.03重量%を下回るSi含有量は、スクラップの使用を過度に限定する。
【0027】
さらに好ましくは、本アルミニウム合金は、0.20重量%を上回るSi含有量、好ましくは0.21~0.6重量%の範囲内、より好ましくは0.25~0.6重量%の範囲内のSi含有量を有する。これらの範囲内のSi含有量は、オールドスクラップがかなり高いSi含有量を有してよいので、より大きな割合のオールドスクラップを可能にすることが見いだされた。同時に、これらの範囲内のSi含有量であっても、本アルミニウムストリップの有利な特性を依然として実現させることができ、そのことが缶端および/または缶タブの製造のためにそれが用いられることを可能にすると認識された。
【0028】
Si含有量の増加は、MgSi相の形成の増加をもたらし得る。これらの相中で結合したMg含有量は、もはやアルミニウムストリップの強度を増大させるために利用可能ではない。このことは、特に缶端の製造の場合、アルミニウムストリップまたはアルミニウムシートの厚さを増大させることにより、Mg含有量を増大させることなく埋め合わせすることができることが認識された。さらにまたはあるいは、厚さの増大は、たとえばMg含有量の低下も埋め合わせすることができる。シミュレーションは、たとえば0.206mmから0.210mmへの、すなわち約2%のシート厚さの増大であっても約4%の強度の増加を生む結果となることを示した。
【0029】
よって、本アルミニウムストリップまたはアルミニウムシートは、特に好ましくはSi含有量が0.20重量%を上回り、たとえば0.21~0.6重量%または0.25~0.6重量%の範囲内の場合、および/またはMg含有量が3.0~4.0重量%の範囲内の場合に、好ましくは少なくとも0.210mm、より好ましくは少なくとも0.220mmの厚さを有する。
【0030】
一実施形態において、Si含有量は、好ましくは、0.35重量%の最大値に限定される。0.35重量%までのSi含有量は、本合金を製造するために非常に高い割合のオールドスクラップを用いることを依然として可能にする。同時に、0.35重量%の最大値へのSi含有量の限定は、本アルミニウム合金から製造されるアルミニウムストリップまたはアルミニウムシートの成形性の改善と、Si含有量が低くなるほどMgSi相中に結合される強度増強性Mgが減ることからの強度の高まりと、をもたらす。
【0031】
本アルミニウム合金のFe含有量は、0.15~0.8重量%の範囲内、より好ましくは0.16~0.8重量%、特に0.20~0.8重量%の範囲内である。0.8重量%を上回るFe含有量は、成形性に悪影響を及ぼす。0.15重量%を下回るFe含有量は、スクラップの使用を過度に限定する。
【0032】
さらに好ましくは、本アルミニウム合金は、0.35重量%を上回るFe含有量、好ましくは0.36~0.8重量%の範囲内、より好ましくは0.4~0.8重量%の範囲内のFe含有量を有する。これらの範囲内のFe含有量は、オールドスクラップがかなり高いFe含有量を有してよいので、より大きな割合のオールドスクラップを可能にすることが見いだされた。同時に、これらの範囲内のFe含有量であっても、本アルミニウムストリップの有利な特性を依然として実現させることができ、そのことが、缶端および/または缶タブの製造のためにそれが用いられることを可能にすると認識された。
【0033】
一実施形態において、Fe含有量は、好ましくは0.5重量%の最大値に限定される。0.5重量%までのFe含有量は、本合金を製造するために非常に高い割合のオールドスクラップを用いることを依然として可能にする。同時に、0.5重量%の最大値へのFe含有量の限定は、本アルミニウム合金から製造されるアルミニウムストリップまたはアルミニウムシートの成形性の改善をもたらす。
【0034】
本アルミニウム合金のCu含有量は、0.02~0.25重量%の範囲内である。0.25重量%を上回るCu含有量は、アルミニウムストリップの加工性を低下させる過度の強度を生む結果となる。さらに、0.25重量%を上回るCu含有量は、特定の形の腐食への傾向の増加を惹き起こす。0.02重量%というCu下限は、本アルミニウムストリップおよびそれから製作された製品の耐老化性を改善する。さらに、この方法では、粒界腐食(IC腐食)への傾向が低下する。
【0035】
さらに好ましくは、本アルミニウム合金は、0.15重量%を上回るCu含有量、好ましくは0.16~0.25重量%の範囲内、より好ましくは0.20~0.25重量%の範囲内のCu含有量を有する。これらの範囲内のCu含有量は、オールドスクラップがかなり高いCu含有量を有してよいので、より大きな割合のオールドスクラップを可能にすることが見いだされた。同時に、これらの範囲内のCu含有量であっても、本アルミニウムストリップの有利な特性を依然として実現させることができ、そのことが缶端および/または缶タブの製造のためにそれが用いられることを可能にすると認識された。
【0036】
本アルミニウム合金のMn含有量は、0.20~1.4重量%の範囲内である。マンガンは、分散質の形成をもたらし、分散質は、本アルミニウムストリップの強度を増大させる。さらに、Mnの添加は、Fe含有鋳造相の形成に有利であり、したがって成形性を向上させる。0.20重量%のMn含有量を下回るとこれらの正の効果は不十分にしか実現されない。他方、1.4重量%を上回るMn含有量は、成形性の悪化をもたらす。
【0037】
さらに好ましくは、本アルミニウム合金は、0.50重量%を上回るMn含有量、好ましくは0.51~1.4重量%の範囲内、より好ましくは0.6~1.4重量%の範囲内のMn含有量を有する。これらの範囲内のMn含有量は、オールドスクラップがかなり高いMn含有量を有してよいので、より大きな割合のオールドスクラップを可能にすることが見いだされた。同時に、これらの範囲内のMn含有量であっても、本アルミニウムストリップの有利な特性を依然として実現させることができ、そのことが缶端および/または缶タブの製造のためにそれが用いられることを可能にすると認識された。
【0038】
一実施形態において、Mn含有量は、好ましくは、0.8重量%の最大値に限定される。0.8重量%までのMn含有量は、本合金を製造するために非常に高い割合のオールドスクラップを用いることを依然として可能にする。同時に、0.8重量%の最大値へのMn含有量の限定は、本アルミニウム合金から製造されるアルミニウムストリップまたはアルミニウムシートの成形性の改善をもたらす。
【0039】
一実施形態において、本アルミニウム合金の組成は、群Si、Fe、Cu、Mnからの1種類または2種類の合金元素について規格a1)~d1)、
a1) 0.20重量% ≦ Si ≦ 0.6重量%、
b1) 0.35重量% ≦ Fe ≦ 0.8重量%、
c1) 0.15重量% ≦ Cu ≦ 0.25重量%、
d1) 0.50重量% ≦ Mn ≦ 1.4重量%、
からのそれぞれの関連規格および、群Si、Fe、Cu、Mnからの残りの合金元素について規格a2)~d2)、
a2) 0.03重量% ≦ Si ≦ 0.20重量%、
b2) 0.15重量% ≦ Fe ≦ 0.35重量%、
c2) 0.02重量% ≦ Cu ≦ 0.15重量%、
d2) 0.20重量% ≦ Mn ≦ 0.50重量%、
からの対応する規格を満たす。
【0040】
たとえば、本アルミニウム合金の組成は、SiおよびMnについて関連規格a1)およびd1)、FeおよびCuについて関連規格b2)およびc2)を満たすことができる。
【0041】
この方法において、アルミニウム端ストリップおよび/またはアルミニウムタブストリップのための要件、特に機械的要件をより良好に満たし、同時に特定の合金元素について指定される含有量限界に起因してオールドスクラップの使用を高めることを可能にするアルミニウム合金が提供される。
【0042】
本アルミニウム合金のMg含有量は、3.0~5.0重量%の範囲内である。マグネシウムの添加は、本アルミニウムストリップから製作される缶端の強度および内圧安定性を増大させる。本アルミニウムストリップの良好な強度および内圧安定性を実現するために、本アルミニウム合金は、好ましくは、少なくとも3.5重量%、より好ましくは少なくとも3.6重量%、さらに好ましくは少なくとも4.0重量%のMg含有量を有する。
【0043】
本アルミニウム合金のCr含有量は、最大0.1重量%である。好ましくは、本アルミニウム合金は、少なくとも0.01重量%のCr含有量を有する。0.01重量%を下回るCr含有量は、スクラップの使用を過度に限定するからである。
【0044】
本アルミニウム合金のZn含有量は、最大0.25重量%である。好ましくは、本アルミニウム合金は、少なくとも0.01重量%のZn含有量を有する。0.01重量%を下回るZn含有量は、スクラップの使用を過度に限定するからである。
【0045】
本アルミニウム合金のTi含有量は、最大0.10重量%である。好ましくは、本アルミニウム合金は、少なくとも0.001重量%のTi含有量を有する。0.001重量%を下回るTi含有量は、スクラップの使用を過度に制限するからである。
【0046】
本アルミニウム合金、本アルミニウムストリップ、本方法および本使用の様々な実施形態が下記に記載され、個々の実施形態は、それぞれが互いに独立に、本アルミニウム合金および本アルミニウムストリップの両方と、同じく本方法および本使用の両方とに適用される。さらに、個々の実施形態は、望まれるように互いと組み合わせることができる。
【0047】
一実施形態において、本アルミニウム合金は、0.20重量%を上回るSi含有量および/または0.35重量%を上回るFe含有量および/または0.15重量%を上回るCu含有量および/または0.5重量%を上回るMn含有量を有する。これらの含有量範囲によって、本アルミニウム合金を提供するためにより大きな割合のオールドスクラップの使用が可能である。これらの合金元素限界であっても、本アルミニウムストリップの有利な特性を依然として実現させることができ、そのことが缶端および/または缶タブの製造のためにそれが用いられることを可能にすると認識された。
【0048】
一実施形態において、本アルミニウムストリップは、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも20重量%、さらに好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも35重量%、特に少なくとも40重量%のオールドスクラップリサイクル材含有量(独:Rezyklatanteil,英:recyclate content)、特にUBCスクラップリサイクル材含有量を有する。対応する本方法の実施形態において、融解物は、オールドスクラップ、特にUBCスクラップを融解させることによって少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも35重量%、特に少なくとも40重量%の割合で提供される。記載される本アルミニウム合金は、缶端ストリップまたは缶タブストリップ向けに従来用いられている合金規格AA5182より高いオールドスクラップの使用を可能にする。特に、この方法では市場において入手可能なUBCスクラップまたはその他のスクラップを本アルミニウム合金ストリップ向けに用いることができる。少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%、特に好ましくは少なくとも35重量%、特に少なくとも40重量%のリサイクルされたスクラップ、特にリサイクルされたUBCスクラップの使用は、アルミニウム缶の製造におけるカーボンフットプリントを顕著に改善することができる。
【0049】
一実施形態において、本アルミニウムストリップは、コーティング、特にストーブエナメルコーティングを有する。対応する本方法の実施形態において、このことは、
- コールドストリップに塗装する、特にストーブエナメル塗装するステップ、
をさらに含む。
【0050】
塗装のための準備において、コールドストリップは、たとえば脱脂されてよい。ストリップは、塗装に向けて表面を調製するために、接着促進剤で処理されてもよい。
【0051】
ストーブ塗装するために、好ましくは任意選択の脱脂ステップ後にアルミニウムストリップの片面または両面に液体ラッカーが塗布されてよく、アルミニウムストリップは、次に、ストーブ塗装ステップにおいてストーブ塗装される。ラッカーは、ポリマー系ラッカー、たとえばエポキシ系ラッカーであってよい。塗料は、好ましくはオーブン、たとえば連続オーブン中で好ましくは180~320℃のPMT(ピーク金属温度)の温度でストーブ塗装される。ストーブ塗装ステップ時のアルミニウムストリップの加熱は、アルミニウムストリップの状態の変化を生じさせてよい。詳しくは、本アルミニウムストリップは、ストーブエナメル塗装後にEN 546-2に記載の状態H48を有してよい。対応する実施形態において、本アルミニウムストリップは、EN 546-2に記載の状態H48を有する。
【0052】
コーティングされた、特にストーブエナメル塗装されたストリップは、好ましくは缶端または缶タブの製造のために用いられる。この方法において、缶端または缶タブへの打ち抜きおよび成形の後に塗装プロセスの必要がない。缶端ストリップまたは缶タブストリップは、既存のラッカーコーティングにより他の目的に向けて意図されたアルミニウムストリップと区別することもできる。
【0053】
一実施形態において、本アルミニウムストリップは、0.20~0.24mmの範囲内の厚さを有する。対応する本方法の実施形態において、0.20~0.24mmの範囲内のコールドストリップの最終厚さまで冷間圧延が行われる。缶端および缶タブの製造にとってこの範囲内のストリップ厚さが特に適している。
【0054】
一実施形態において、本アルミニウムストリップは、250~400MPaの範囲内の降伏応力Rp0.2を有する。特に、記載される製造方法と組み合わされた記載される合金組成によって、この範囲内の降伏応力を実現することができる。そのような強度特性を有するアルミニウムストリップは、缶端および缶タブの製造のための機械的要件を満たす。
【0055】
一実施形態において、本アルミニウムストリップは、300~450MPaの範囲内の引張強さRmを有する。特に、記載される製造方法と組み合わされた記載される合金組成によって、この範囲内の引張強さを実現することができる。そのような強度特性を有するアルミニウムストリップは、缶端および缶タブの製造のための機械的要件を満たす。
【0056】
降伏応力Rp0.2および引張強さRmは、それぞれがDIN EN ISO6892-1:2020-06に準拠した引張試験によって決定されるべきである。
【0057】
以下の実施形態の記載において、添付の図面を参照して本装置および本方法のさらなる利点および特徴が示される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】アルミニウム飲料缶の概略図を示す。
図2】アルミニウムストリップを製造するための方法の実施形態例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1は、アルミニウム飲料缶の概略図を示す。アルミニウム飲料缶2は、缶体4、缶端6および缶タブ8を含む。
【0060】
一方で缶体4、他方で缶端6および缶タブ8は、典型的に、異なるアルミニウム合金から製作される。よって、このアルミニウム飲料缶を製造するために、異なる合金で製作されたアルミニウムストリップ、すなわちブランクが打ち抜かれ、延伸絞りによって成形されて缶体となる缶体原料と、缶端および缶タブが打ち抜かれる缶端原料または缶タブ原料と、が必要である。
【0061】
最新の技術水準においては、AA3104で製作された缶体ストリップとAA5182で製作された缶端ストリップまたは缶タブストリップとが典型的に用いられている。
【0062】
アルミニウム飲料缶2の缶体4、缶端6および缶タブ8は、互いに強固に接続され、アルミニウム飲料缶2がそのライフサイクルの終わりにスクラップにされるとき互いに分離されないので、UBCスクラップは、異なるアルミニウム合金の混合物、特にAA3104とAA5182との混合物を含んでいる。
【0063】
特定の合金元素に関する、特にSi、Fe、CuおよびMnに関するAA5182合金規格の狭い許容限界に起因して、現在、缶端ストリップおよび缶タブストリップの製造のためにスクラップ市場において入手可能なUBCスクラップまたは他のオールドスクラップのうちの顕著な割合を用いることができない。したがって、AA5182からのストリップの製造は、現在、一次アルミニウムと基本的に混ざりもののない製造スクラップとを多く用いる必要があり、そのことがカーボンフットプリントに悪影響を及ぼしている。
【0064】
図2は、アルミニウムストリップを製造するための方法の例の概略図を示す。
【0065】
第1のステップ110において、
0.03重量% ≦ Si ≦ 0.6重量%、
0.15重量% ≦ Fe ≦ 0.8重量%、
0.02重量% ≦ Cu ≦ 0.25重量%、
0.20重量% ≦ Mn ≦ 1.4重量%、
3.0重量% ≦ Mg ≦ 5.0重量%、
Cr ≦ 0.1重量%、
Zn ≦ 0.25重量%、
Ti ≦ 0.10重量%、
個別で最大0.05重量%、全体で最大0.15重量%の不純物、残部はアルミニウム、
の目標組成を有するアルミニウム融解物114が溶解炉112の中に提供され、
提供されるアルミニウム融解物114の組成は、0.20重量%を上回るSi含有量および/または0.35重量%を上回るFe含有量および/または0.15重量%を上回るCu含有量および/または0.5重量%を上回るMn含有量を有する。
【0066】
アルミニウム融解物114は、オールドスクラップ115、製造スクラップ116、一次アルミニウム117および添加物118を融解させることによって提供される。たとえば、適当な組成を有するUBCスクラップまたはその他の市場入手可能なスクラップがオールドスクラップ115として用いられてよい。融解アルミニウム114の前述の目標組成は、融解アルミニウム114を提供するためにオールドスクラップの顕著な使用を可能にする。好ましくは、オールドスクラップの量は、融解アルミニウム114の少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも30重量%である。
【0067】
第2のステップ120において、融解アルミニウム114は、DC鋳造されてインゴット122になる。インゴット122は、次に粉砕されてよい(図示せず)。
【0068】
第3のステップ130において、インゴットは、特に、プッシャータイプの炉またはるつぼ炉132の中でたとえば450~550℃の保持温度において少なくとも0.5時間均質化される。
【0069】
第4のステップ140において、インゴットは、ホットストリップ142を形成させるために、たとえば逆転熱間圧延機144の中で熱間圧延される。
【0070】
第5のステップ150において、ホットストリップ142は、コールドストリップ152を形成させるために冷間圧延される。冷間圧延は、特に、シングルパスにおいてまたは次から次に配置された2つ以上のタンデム冷間圧延スタンド154においてのどちらかでいくつかのパスにおいて実行される。任意選択として、冷間圧延は、巻かれてコイルにされたストリップがチャンバー炉156の中でたとえば300~450℃の保持温度において0.5~4時間焼きなましされる1段以上の再結晶化中間焼なましステップ155のために中断されてよい。最後の冷間圧延パスの後、コールドストリップ152は、好ましくは、0.20~0.24mmの厚さを有する。冷間圧延の後、コールドストリップは、たとえば、コールドストリップの不規則な縁を除去し、コールドストリップの幅を調整するために、トリミングされてよい(図示せず)。
【0071】
任意選択の第6のステップ160において、コールドストリップは、第7のステップ170における次段の塗装のためのストリップ表面を調製するために脱脂処理に付される。脱脂処理のために、ストリップ152は、たとえば、脱脂溶液162、たとえばアルカリ性または酸性脱脂溶液を通過させられるかまたは曝されてよい。
【0072】
任意選択の第7のステップ170において、ストリップ152は、塗装される。詳しくは、塗装は、ストーブエナメル塗装の形をとってよい。この目的のために、アルミニウムストリップは、ラッカー塗布装置172によって片側または両側に液体ラッカー174をコートされ、次に、好ましくは連続オーブンとして設計されるストーブ用炉176を通過させられてよい。
【0073】
最後のステップの後に、仕上げられたアルミニウムストリップ182は、巻かれてコイル184とされ、缶端ストリップおよび/または缶タブストリップとしてアルミニウム缶の製造業者に供給されてよい。アルミニウム融解物114の提供によれば、アルミニウムストリップ182は、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも30重量%のリサイクルされたスクラップ含有量を有する。
【0074】
このようにして製造されたアルミニウムストリップ182の、たとえば図1に示されるアルミニウム缶の缶端および/または缶タブの製造のための使用は、アルミニウム缶の製造におけるオールドスクラップの使用を減少させ、したがってアルミニウム缶のカーボンフットプリントを改善することを可能にする。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-09-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
以下の実施形態の記載において、添付の図面を参照して本アルミニウム合金、本アルミニウムストリップ、本方法および本使用のさらなる利点および特徴が示される。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0074
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0074】
このようにして製造されたアルミニウムストリップ182の、たとえば図1に示されるアルミニウム缶の缶端および/または缶タブの製造のための使用は、アルミニウム缶の製造におけるオールドスクラップの使用を増大させ、したがってアルミニウム缶のカーボンフットプリントを改善することを可能にする。
【国際調査報告】