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特表2024-539678ビート値を決定する方法、及びビート値を設定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ビート値を決定する方法、及びビート値を設定する方法
(51)【国際特許分類】
   G04D 7/12 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
G04D7/12 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523566
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2022076727
(87)【国際公開番号】W WO2023066614
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】21203825.1
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グラッサー, フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンツ, セドリク
(72)【発明者】
【氏名】ハンジカー, オリヴィエ
(57)【要約】
【解決手段】
本発明は、クロックムーブメント内の発振器の、基準値を決定する、特に計算する方法であって、方法は、少なくとも、発振器をクロックムーブメントのフレームに対して発振させる、クロックムーブメントを地球引力の方向に対して複数の予め定義された姿勢に位置決めする、各姿勢について発振器の基準座標系に関するデータを決定する、先行ステップからのデータを、発振器の基準座標系の値を、特に地球引力の方向に対する時計ムーブメントの姿勢に応じた、基準座標系の配向値及びまたは基準フレームの前記配向を定義する関数を、決定するために用いる、ステップを含む、方法に関する。
【選択図】 なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ムーブメント(200)内の、発振器(2)の、特にてん輪(21)とひげぜんまい(22)発振器の、ビート値を決定する、特に計算する方法であって、前記方法は、少なくとも、
前記発振器を、前記時計ムーブメントのフレーム(99)に対して発振させる、
前記時計ムーブメントを、前記地球引力の方向に対して定義された少なくとも2つの姿勢に位置決めする、
各姿勢について、前記発振器(2)の絶対ビート値に関するデータを決定する、
先行ステップからのデータを、前記発振器(2)のビート値を、特に前記地球引力の方向に対する前記時計ムーブメントの前記姿勢に応じた、配向ビート値及びまたは前記配向ビート値を定義する関数を、決定するために用いる、
ステップを含む、方法。
【請求項2】
前記ビート値は、時間的値である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発振器は、
前記時計ムーブメントの位置決めの前記ステップの、姿勢の1つにおいて、または
前記時計ムーブメントの位置決めの前記ステップの、姿勢のいくつかにおいて、または
前記時計ムーブメントの位置決めの前記ステップの、姿勢の全てにおいて、
前記地球引力の方向に対して、少なくとも2°または少なくとも3°の角度の、発振軸を有する、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記決定された姿勢の少なくとも1つは、
前記時計ムーブメントの平面(P)上への、前記中心線(L)の前記正射影と、
前記時計ムーブメントの前記平面(P)上への、前記地球引力の方向の正射影と、
の間の前記角度が、ゼロまたは5°より小さい絶対値または10°より小さい絶対値を有するようにされる、
及びまたは、前記決定された姿勢の少なくとも1つは、
前記時計ムーブメントの平面(P)上への、前記中心線(L)の前記正射影と、
前記時計ムーブメントの前記平面(P)上への、前記地球引力の方向の正射影と、
の間の角度が、90°の値または85°と95°の間の絶対値または80°と100°の間の絶対値を有するようにされる、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも2つの決定された姿勢は、前記時計ムーブメントの垂直姿勢、及びまたは前記フレームに垂直な軸周りに、互いに約90°の角度の姿勢である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記時計ムーブメントの前記姿勢に応じた前記配向ビート値を定義する前記関数は、前記発振器の前記ビート値に関する前記データに最も良く適合する、正弦関数または多項式関数またはベジエ関数またはスプライン関数として定義される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記発振器(3)の発振振幅を決定するステップを含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
角度的ビート値を決定するために、前記発振器(2)の前記発振振幅を用いるステップを含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記発振器(2)の前記ビート値及びまたは前記発振器(2)の前記発振振幅に関する前記データは、音響信号を処理することまたは音響及び光信号を処理することで決定される、
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法の実施の段階と、前記発振器(2)の前記ビート値を設定する段階とを含む、
発振器(2)の調節方法。
【請求項11】
前記時計ムーブメントを所定姿勢に位置決めする段階と、前記所定の姿勢において、前記ビート値をゼロ値または非ゼロ値に設定する段階とを含む、
発振器(2)の調節方法。
【請求項12】
前記ビート値を設定する前記段階は、ひげぜんまい固定支持部の、フレーム(99)に対する移動を含む、
請求項10または11に記載の設定方法。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を用いて発振器(2)の前記ビート値を決定する段階を含む、特に調節または衝撃または磁化後に、2つの状態の間の時計ムーブメントのドリフトを決定する方法。
【請求項14】
時計ムーブメント(2)内の発振器(3)の配置の形状を決定する方法であって、前記方法は、
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を用いて前記時計ムーブメントの前記姿勢に応じた前記ビート値を定義する関数を決定する段階と、
前記発振器(2)の半径方向ピボット遊びを表す値及びまたは前記てん輪の前記真の前記軸方向振動を表す値及びまたは前記てん輪の前記ピボットの前記直径を表す値を、特に計算により、決定するために、前記関数を使用する段階と、
を含む、方法。
【請求項15】
請求項10から12のいずれか一項に記載の設定方法を用いて得られた、時計ムーブメント(200)。
【請求項16】
請求項15に記載の時計ムーブメント(200)を含む、時計(300)、特に腕時計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計ビート値を決定する方法に関する。本発明はまた、時計ビート値を設定する方法に関する。本発明は更に、時計ムーブメントのビート値のドリフトを決定する方法に関する。本発明は更に、時計ムーブメントの発振器の配置の形状を決定する方法に関する。本発明は更に、当該設定方法を用いて得られた時計ムーブメントまたは当該設定方法を用いて設定された時計ムーブメントに関する。本発明は最後に、当該時計ムーブメントを含む、時計に関する。
【背景技術】
【0002】
ビート値は、歩度と振幅と共に、計時的測定中に常に測定される3つの値のうちの一つである。
【0003】
通常の理論によれば、ビート値は、てん輪とひげぜんまいの回転中心と脱進機のアンクル組立体の回転中心とを結ぶ、中心線に対する、てん輪とひげぜんまいの平衡位置の整列誤差に対応するものとされる。静止時のてん輪の平衡位置は、同一持続時間の半発振を有するために、理想的には、当該線上に位置すべきである。平衡位置が、中心線上に位置しない場合、中心線と、てん輪とひげぜんまいの戻り点との間の発振角度は、中心線のいずれの側でも、同一にはならない。
【0004】
ビート値は、てん輪の発振の非対称を特徴づける大きさである。静止(伝達連鎖またはひげぜんまいにトルクがない)時には、てん輪は、その静止点に位置される。ゼロ以外のビート値での発振中、中心線のいずれの側の半発振も、異なる振幅と持続時間を有する。このため、ビート値は、伝統的には、ミリ秒で表され、(図1に示すように)解放中の衝撃のモーメントを特定することで、計算される。ビート値は、
ビート値=|t1-t2|/2
の数式で与えられる。
【0005】
例えば、図1において、期間t1の開始は、てん輪ローラのピンが、アンクル組立体のフォークの第一角と接触することに対応し、期間t1の終了は、てん輪ローラのピンが、フォークの第二角と接触することに対応する。同様に、期間t2の開始は、てん輪ローラのピンが、フォークの第二角と接触することに対応し、期間t2の終了は、てん輪ローラのピンが、フォークの第一角と接触することに対応する。
【0006】
時計職人の目標は、通常、計時機械を用いて実施される、計時測定に基づきビート値をゼロに設定することである。
【0007】
計時測定器具のサプライヤであるWitschiがオンラインに掲載し、図1がここから引用された非特許文献1は、当該非対称性は、ミリ秒[ms]で測定され、「チック」半周期と「タック」半周期との間の持続時間差異を2で割った値、即ちt1>t2である(t1-t2)/2に対応する、ビート値を用いて、計時機械上で表示可能であることを示す。当該文献はまた、高級小型時計はビート値を設定する特定の装置(ひげぜんまいスタッド保持部)を含み、ビート値はゼロに等しくあるべきであり、値の許可範囲は0.0から0.5msであることを記載する。
【0008】
非特許文献2において、ビート値は、「Controles avant le reglage(調整前の確認)」の題名の、セクション7.7及び7.11.7の短いパラグラフで取り扱われており、「この順番で、全ての姿勢において、小型時計に以下のテストを実施することが重要である...てん輪は、ビート値を取らなければならない」と特定する。これは、ビート値は、ゼロでなければならないのみならず、当該条件が全ての測定姿勢において充足されなければならないことを意味する。
【0009】
非特許文献3は、ビート値について言及し、なんら追加の詳細な説明はせず、2行で設定した。
【0010】
非特許文献4は、ビート値誤差は、小型時計の機能になんら直接の影響を与えないことを言及した。
【0011】
しかしながら、時計職人は、その訓練中に、ビート値の重要性について敏感になる。全ての姿勢においてゼロのビート値は、伝統的に、機械的小型時計の良好な機能の表れである。このため、適切に設定されたビート値は、時計製造品質の評価基準(「ビートエラー」の文言が用いられる)と見做されており、そのために設定中に特定の注意が必要となる。更に、正確に設定されていないビート値は、小型時計が落とされたまたはぶつけられたことを示すこともある。
【0012】
特許文献1は、ヒゲ玉、ひげぜんまい、及びローラが一体である、発振器に関する。当該文献では、
「...ひげぜんまいのヒゲ玉は、ひげぜんまいの死点または平衡点において、ローラのピンの中心が、てん輪の真とアンクル組立体の真とを通過する直線上に位置するように、てん真に搭載されなければならない。ひげぜんまいと大きなローラは、てん輪の真上に、互いに独立して搭載されていることから、当該条件は、事実上、達成されることはない。時計ムーブメントのコック上に、可動ひげぜんまいスタッド保持部が設けられるのは、これが理由であり、可動ひげぜんまいスタッド保持部の外端に、ひげぜんまいが固定され、可動ひげぜんまいスタッド保持部は、脱進機をビート値に設定する、すなわち上記の条件を達成可能にするため、てん真と同軸に回転可能である」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2570868号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】“Technique de mesure et analyses des defauts de la montre”(時計の欠陥の測定技術と分析) 、Witschi社、https://www.witschi.com/assets/files/sheets/Witschi%20Formation.pdf
【非特許文献2】“Theorie d’horlogerie”(時計理論)、C.-A. Reymondin et al.、L’Ecole Technique de la Vallee de Joux発行
【非特許文献3】“Theorie de la construction horlogere pour ingenieurs”(エンジニア向け時計構造理論)、M. Vermot とS. Dordor, Haute-Ecole Arc Ingenierie発行
【非特許文献4】“Theorie des echappements”(脱進機理論) 、C. Hugenin, S. Guye 及びM. Gauchet、Technicum Neuchatelois
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、従来技術から既知の時計装置を改善する方法を提供することである。特に、本発明は、ビート値の信頼性があり正確な決定の方法と、ビート値の設定を単純化し、信頼性あるものにすることを可能にする方法を提案する。更に、本発明は、時計ムーブメントのビート値のドリフトを決定する方法と、発振器配置形状を決定する方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかるビート値の決定方法は、請求項1で定義される。
【0017】
決定方法の実施形態は、請求項2から9で定義される。
【0018】
本発明にかかる第一設定方法は、請求項10で定義される。
【0019】
本発明にかかる第二設定方法は、請求項11で定義される。
【0020】
設定方法の実施形態は、請求項12で定義される。
【0021】
本発明にかかるビート値のドリフトの決定方法は、請求項13で定義される。
【0022】
本発明にかかる形状の決定方法は、請求項14で定義される。
【0023】
本発明にかかる時計ムーブメントは、請求項15で定義される。
【0024】
本発明にかかる時計は、請求項16で定義される。
【0025】
本発明の目的の、他の態様は、以下の提案で定義される。
【0026】
1. 時計ムーブメント(200)内の、発振器(2)の、特にてん輪(21)とひげぜんまい(22)発振器の、ビート値を決定する、特に計算する方法であって、前記方法は、少なくとも、
前記発振器を、前記時計ムーブメントのフレーム(99)に対して発振させる、
前記時計ムーブメントを、地球引力の方向に対して定義された少なくとも2つの別個の姿勢に位置決めする、
各姿勢について、前記発振器(2)の前記ビート値の絶対値を、測定及び処理により決定する、
先行ステップからのデータを、
前記発振器(2)の配向ビート値、及び
前記地球引力の方向に対する前記時計ムーブメントの前記姿勢に応じた、前記発振器(2)の前記配向ビート値を定義する関数
を、計算するために用いる、
ステップを含む、方法。
【0027】
2. 前記ビート値は、時間的値である、
提案1に記載の方法。
【0028】
3. 前記発振器は、
前記時計ムーブメントの位置決めの前記ステップの、姿勢の1つにおいて、または
前記時計ムーブメントの位置決めの前記ステップの、姿勢のいくつかにおいて、または
前記時計ムーブメントの位置決めの前記ステップの、姿勢の全てにおいて、
前記地球引力の方向に対して、少なくとも2°または少なくとも3°の角度の、発振軸を有する、
提案1または2に記載の方法。
【0029】
4. 前記別個且つ決定された姿勢の少なくとも1つは、
前記時計ムーブメントの平面(P)上への、前記中心線(L)の前記正射影と、
前記時計ムーブメントの前記平面(P)上への、前記地球引力の方向の正射影と、
の間の前記角度が、ゼロまたは5°より小さい絶対値または10°より小さい絶対値を有する、
及びまたは、前記別個且つ決定された姿勢の少なくとも1つは、
前記時計ムーブメントの平面(P)上への、前記中心線(L)の前記正射影と、
前記時計ムーブメントの前記平面(P)上への、前記地球引力の方向の正射影と、
の間の角度が、90°の値または85°以上95°以下の絶対値または80°以上100°以下の絶対値を有する、
提案1から3のいずれか一つに記載の方法。
【0030】
5. 少なくとも2つの別個且つ決定された姿勢は、前記時計ムーブメントの垂直姿勢、及びまたは前記フレームに垂直な軸周りに、互いに約90°の角度の姿勢である、
提案1から4のいずれか一つに記載の方法。
【0031】
6. 前記時計ムーブメントの前記姿勢に応じた前記配向ビート値を定義する前記関数は、前記発振器の前記ビート値に関する前記データに最も良く適合する、正弦関数または多項式関数またはベジエ関数またはスプライン関数として定義される、
提案1から5のいずれか一つに記載の方法。
【0032】
7. 特に少なくとも1つの定義された姿勢についてまたは各定義された姿勢についてまたは別個且つ定義された姿勢の全てについて、前記発振器(3)の発振振幅を測定及び計算により決定するステップを含む、
提案1から6のいずれか一つに記載の方法。
【0033】
8. 角度的ビート値を計算により決定するために、前記発振器(2)の前記発振振幅を用いるステップを含む、
提案7に記載の方法。
【0034】
9. 前記発振器(2)の前記ビート値及びまたは前記発振器(2)の前記発振振幅に関する前記データは、事前に測定または獲得された音響信号を処理することまたは事前に測定または獲得された音響及び光信号を処理することで決定される、
提案1から8のいずれか一つに記載の方法。
【0035】
10. 提案1から9のいずれか一つに記載の方法の実施の段階と、前記発振器(2)の前記ビート値を設定する段階とを含む、
発振器(2)の調節方法。
【0036】
11. 前記時計ムーブメントを所定姿勢に位置決めする段階と、前記所定の姿勢において、前記ビート値をゼロ値または非ゼロ値に設定する段階とを含む、
発振器(2)の調節方法。
【0037】
12. 前記ビート値を設定する前記段階は、ひげぜんまい固定支持部の、フレーム(99)に対する移動を含む、
提案10または11に記載の設定方法。
【0038】
13. 提案1から9のいずれか一つに記載の方法を用いて発振器(2)の前記ビート値を決定する段階を含む、特に調節または衝撃または磁化後に、2つの状態の間の時計ムーブメントのドリフトを決定する方法。
【0039】
14. 時計ムーブメント(2)内の発振器(3)の配置の形状を決定する方法であって、前記方法は、
提案1から9のいずれか一つに記載の方法を用いて前記時計ムーブメントの前記姿勢に応じた前記ビート値を定義する関数を決定する段階と、
前記発振器(2)のピボット半径方向遊びを表す値及びまたは前記てん輪の前記真の軸方向振動を表す値及びまたは前記てん輪の前記ピボットの前記直径を表す値を、特に計算により、決定するために、前記関数を使用する段階と、
を含む、方法。
【0040】
15. 提案10から12のいずれか一つに記載の前記設定方法を用いて得られたまたは調節された、時計ムーブメント(200)。
【0041】
16. 提案15に記載の時計ムーブメント(200)を含む、時計(300)、特に腕時計。
【0042】
添付の図面は、例として、本発明にかかる方法が実施された機構を表し、本発明にかかる方法が依拠する現象を図示する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、時計のてんぷの発振の1周期中の、時計の脱進機のレベルで検知された振動を図示する時系列である。
図2図2は、本発明にかかる方法が適用可能な、例としての時計の裏蓋からの模式図である。
図3図3は、設定システムの向きの詳細を示す、例としての時計ムーブメントの構造の文字盤側からの図である。
図4図4は、ピボット遊びと時計ムーブメントのビート値の変動との間のリンクを図示する、模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
時計ムーブメント300の一実施形態を、図2を参照して以下に詳細に説明する。時計300は、例えば小型時計、特に腕時計である。時計300は、有利には文字盤50が固定された時計ムーブメント200を含む。時計ムーブメントは、自身を外部環境から保護するために、時計ケースまたはケーシングに搭載されることが意図される。時計ムーブメント200は、機械式時計ムーブメント、特に自動式時計ムーブメントであってもよく、ハイブリッド時計ムーブメントであってもよい。
【0045】
時計ムーブメント200は、フレーム99と、設定システム100とを含む。
【0046】
設定システム100は、発振器2と、スイスアンクル脱進機3といった脱進機とを含む。
【0047】
発振器2は、てん輪21といった慣性要素21と、ひげぜんまい22といった戻しばね22とを含む。
【0048】
脱進機は、発振器2と協働するアンクル組立体31を含む。
【0049】
てん輪とひげぜんまいと脱進機のアンクル組立体の回転中心を接続する線は、通常、中心線Lと呼ばれる。
【0050】
<ビート値コンセプトの理論と実施>
ビート値は、時計職人により、時間間隔として測定されるが、図2は、ビート値が、脱進機と発振器の中立点間の角度オフセットにより定義されることを示す。歴史的理由により、当該大きさは、ミリ秒[ms]で表され、このため2つの連続する半周期間の時差の半分を特徴づける。実際には、当該時間は、発振器の速度に、そのためその振幅と振動数に依拠する。
【0051】
出願人による研究により、測定されたビート値は、時計ムーブメントの振幅と、測定中の姿勢に依拠することが実証された。こうした見解は、ビート値の再定義(符号付ビート値と、幾何学的ビート値コンセプト)と、ビート値とその符号を測定する手順の発展と、これらコンセプトを活用する応用方法の発展につながった。
【0052】
歴史的に言えば、ビート値は、(静止中のてん輪のローラのピンの中心と、てん輪のピボット軸を通過する方向で定義される)発振器の平衡姿勢と、てん輪とアンクル組立体のピボットの中心線との間の、絶対的時差に対応する、[ms]で表された、ゼロまたは正の大きさであり、設定の目的はゼロであった。
【0053】
出願人による研究に引き続き、
- ビート値を、負、ゼロ、または正であることができる値(符号付または配向ビート値)と見做す、
- ビート値を、角度、例えば[°]または[rad](幾何学的ビート値)として測定する、
- ビート値を、その符号を決定し、そこからビート値の中間点(即ち、90°で隔てられた4つの垂直姿勢でのビート値の平均値)を推定するため、複数の垂直姿勢で実験的に測定する、
- 当該向きで設定されたビート値が、中間点でのビート値と一致するよう、ビート値の設定中に、時計ムーブメントを正確に配向する、
ことが最終的に興味深いとみられる。
【0054】
物理的観点からは、ビート値は、ゼロに中心を取る大きさであり、その符号は、角度オフセットの感覚に依拠する。測定時点で、ビート値は符号がない。このため、当該大きさは正規分布がないという事実とは別に、2つの状態間の、特に同じ時計ムーブメントでの、設定作業の前後、または衝撃テストまたは磁界への露出の前後といった、2つの異なる時間での2つの測定間の、ビート値の差異またはドリフトについて誤った結論につながるというリスクを提示する。例えば、実際には(未知の)符号が変わったとしても、ゼロドリフトと結論付けること、または実際には時計ムーブメントのレベルでの分散効果があっただけであっても、2つの状態間に規則的なドリフトがあると結論付けることが可能である。
【0055】
このため、符号をつけた、幾何学的大きさの形態で、ビート値の物理的定義を制定することが望ましいとみられる。第一に、ビート値は、測定中の振幅測定値を考慮する、換算を適用することで、振幅の不変値とされてもよい。その後、当該大きさの符号は、これまで行われていたように、ひげぜんまいスタッド保持部の位置を変更する(このためビート値の調整ミスをする)必要なくして、多数の非侵襲的な方法で決定されてもよい。
【0056】
幾何学的観点からは、ビート値は、ひげぜんまいがゼロトルクを付与する、てん輪の位置における、
- 脱進機の中心線、と
- ローラピンの中心とてん輪の軸を通過する線、
との間の、(てん輪の回転の角度として測定される)角度オフセットに対応する。上述のように、ビート値は、歴史的には、ミリ秒で定義され測定された。
【0057】
当該時間は、上述の角度オフセットに対応し、中立点でのてん輪の速度に、このためその振幅と振動数に依拠する。最後に、振幅が小さいほど、2つの半周期にわたる時差は大きくなる。幾何学的ビート値への変更の目的は、一定であり、オフセットの直接の物理的原因を示す、角度差に対して、周期関数に時間差を適用することである。このため、測定の瞬間の振幅を考慮に入れることは、ビート値を、香箱の放出の全体にわたり、または経時的な振幅のドリフトにかかわらず、一定にする効果を有する。
【0058】
小さな角度での近似による数学的展開により、以下の数式を用いて、幾何学的ビート値を角度として表すことが可能になる。
Rg =π×f×Rt×A
ここで、
Rg:幾何学的ビート値[°]、
f:発振器振動数[Hz]、
A:時計ムーブメントてん輪振幅[°]
Rt:時間的ビート値[s]。
【0059】
このため、ビート値は、角度的大きさまたは時間的大きさで表すことができる。
【0060】
反対に、振幅の関数としてのビート値の変動は、以下の通り表すことができる。
小さなRg/Aについて、
Rt(A)=(sin-1(Rg/A))/(π×f)≒Rg/(A×π×f)
【0061】
このため、時間的ビート値は、時計ムーブメントのてん輪の振幅の逆数に比例することが明らかである。
【0062】
他の重要な側面は、ビート値の符号に関する。数式(t1-t2)/2を元に、ビート値は、t1とt2の値に応じて、正または負であってもよいように見える。実際には、音響測定機器は、入口関数と出口関数の間の半周期を分離することはない。この結果、当該大きさは、常に、絶対値として伝達される。
【0063】
この慣習は、データの統計的分析(非ガウス分布を有する、得られたデータ)のレベルのみだけなく、ビート値を設定すること、及び衝撃に対するドリフト、磁界への露出により引き起こされる現象、またはその他の分散的効果といった、ビート値に影響を与える現象を理解することに、問題を提示する。このため、ビート値の符号または配向を知ることは、現実的な利益を示す。
【0064】
例えば、時計ムーブメントのレベルでは、以下の慣習が選択される。ビート値は、発振器の中立点線が、アンクル組立体の軸の回転中心と発振器の軸の回転中心を通過する中心線に対して、正の角度オフセットを有する(裏蓋から見て、即ちFH方向から見て、反時計回り方向)場合に、正と定義される。反対の場合は、負となる。
【0065】
このため、図2の例では、裏蓋から見て(FH方向)反時計回り方向にひげぜんまいスタッド保持部を移動するという事実は、ビート値をより正にすることに対応する。当該定義は、時計ムーブメントが、伝統的なひげぜんまいスタッド保持部の代わりに、ビート値を設定するその他の手段を含む場合でも、有効である。
【0066】
一般的に言えば、また上記数式を元に、時間的及び幾何学的ビート値は、同じ符号であり、時間t1は出口関数の半周期に対応し、時間t2は入口関数の半周期に対応する。当該符号は、t1>t2について、正である。もちろん、こうした符号慣習は、中心線の向きに、脱進機の形状に、または時計ムーブメントの構造に依拠する。しかしながら、各キャリバーについて、類推により慣習を制定することは簡単である。
【0067】
現在まで、ビート値の感覚または符号または向きは、ひげぜんまいスタッド保持部を所定の方向に移動し、ビート値の展開を測定することのみによって決定され、これはビート値の初期設定を失うことにつながっていた。実際、現在まで既知の方法は、複数の連続する設定と測定に影響を与えることなく、ビート値の符号を決定することを、可能にしない。
【0068】
現在まで使用されていなかったものの、ビート値の符号は、当該大きさの分析と、時計ムーブメントの調整に影響を与える、根源的な重要度の情報である。以下に詳細に説明するように、符号を決定するために、多くの方法が、特に複数の音響的測定、光音響的測定、未処理信号の分析、非ガリレオ基準系での測定、等が可能である。
【0069】
以下に説明するビート値を決定する方法の実施形態は、てん輪ピボットの半径方向遊びを用いる。出願人によるデータは、当該遊びが、ビート値に影響を与えることを開示する。ビート値は、(例えば、時計の3時、6時、9時、12時姿勢における)時計ムーブメントの垂直向きに強く依拠して変化する。既知の機器により、特に音響測定機器により実施される特に簡単なモデルに従った数値調整が、ビート値とその符号の決定を可能にする。
【0070】
<ビート値を決定する方法>
時計ムーブメントの符号付きビート値を決定する方法の一実施形態を以下に詳細に説明する。方法は、複数の姿勢で、特に4つの垂直時計姿勢において実施される、音響測定を利用してもよい。慣習と、てん輪ピボットの遊びを使用する理論モデルに基づき、当初は絶対値として測定されたビート値結果に符号をつけることを可能にする。原理は、異なる姿勢で得られた測定ビート値に最も良く適合する、例えば異なる垂直姿勢で得られた4つのビート値測定に最もよく適合する、正弦回帰関数を比較し、調整することからなる。
【0071】
一般的に言えば、時計ムーブメント200内の発振器2のビート値を決定する、特に計算するために、方法は、少なくとも以下のステップを含む。
- 発振器を、時計ムーブメントのフレーム99に対して発振させる、
- 時計ムーブメントを、地球引力の方向に対して定義された(または決定された)、少なくとも2つの別個の姿勢に位置決めする、
- 各姿勢について、発振器2のビート値に関するデータ、特に発振器2の絶対ビート値を、特に測定及び処理により、決定する、
- 先行ステップからのデータを、発振器2のビート値を決定する、特に
- 発振器2の配向ビート値と、
- 地球引力の方向に対する、時計ムーブメントの姿勢に応じた、発振器2の配向ビート値を定義する関数と、
を計算するために用いる。
【0072】
姿勢は定義されている、即ち時計ムーブメントの空間的向きは、既知である。
【0073】
ビート値は、配向値または符号付き値である、即ち値は正または負であることができる。
【0074】
ビート値は、時間的値、特にミリ秒で表される時間的値であってもよい。このような値は、発振器の振動数と、てん輪の発振の振幅に依拠する。
【0075】
ビート値は、好ましくは幾何学的値、特に例えば度数で表される角度値である。このような値は、発振器の振動数や、てん輪の発振の振幅から独立するという利点を有する。
【0076】
方法は、発振器が稼働中に実施される。実際、方法は、発振器が稼働中に、様々な作用、特に測定を実施する。このため、方法は、発振器の運動を開始するステップを含む。これは、香箱が時計ムーブメントの公称機能に十分なエネルギーを蓄積するよう、香箱を再装填することで実施されてもよい。
【0077】
時計ムーブメントは、地球引力の方向に対して、少なくとも2つの決定された姿勢、即ち別個且つ定義された姿勢に、連続して位置決めされる。例えば、これら姿勢は、時計ムーブメントが垂直なビート時計姿勢、特に3時姿勢、6時姿勢、9時姿勢、12時姿勢、または上述の垂直姿勢の2つの間のあらゆる中間垂直姿勢を含んでもよい。
【0078】
方法は、時計ムーブメントを、地球引力の方向に対して、複数の別個の姿勢に位置決めすることで実施されてもよい。
【0079】
水平時計姿勢、特にFHとCH姿勢は、決定方法を実施するには望ましくない。
【0080】
各姿勢について、発振器2のビート値に関するデータが決定される。例えば、上述のように、数式|(t1-t2)/2|に従い、特に計算により、ビート値データの決定を可能にする音響データが用いられる。例えば、このために、ビート値データが、各姿勢で測定される。例えば、音響現象の強度の変動が測定され、音響信号が得られる。当該信号を処理することで、値t1とt2を決定することが可能である。これら値は、その後、絶対ビート値を決定するため、処理または計算に用いられる。
【0081】
もっとも簡単な態様で得られるビート値データは、(符号がなく、配向がない)時間的ビート値データである。
【0082】
しかしながら、方法は、有利には、ビート値データが測定または決定された瞬間の、
- 発振器3の発振の振幅を決定する、または
- 発振器の発振の振幅を測定する、
ステップを含む。方法は、有利には、発振器2の発振の振幅を用いて、時間的ビート値データに対応する角度的ビート値データを計算により決定するステップを更に含む。
【0083】
もし、発振器の発振の振幅が、各種姿勢での測定の全てにおいて、あまり変動しないまたは全く変動しない場合、発振の振幅を一度のみ、特に測定と計算により、決定し、当該振幅が各種姿勢で実施される全ての測定において一定であると推測することが可能である。
【0084】
もし、発振器の発振の振幅が、各種姿勢での測定の全てにおいて変動する場合、各姿勢における発振器の発振の振幅を決定し、各種姿勢で測定された各種振幅と、各種姿勢で得られたビート値データとを関連付けることが好ましい。
【0085】
振幅は、別個且つ定義された姿勢の1つの及びまたは両者で、決定、特に測定されてもよい。代替的に、振幅は、あらゆる他の姿勢で、決定、特に測定されてもよい。
【0086】
最後に、ビート値に関するデータ(時間的ビート値データ、また該当する場合には発振器振幅データ)は、発振器2のビート値を計算により決定するため、特に
- 発振器2の配向ビート値、及びまたは
- 地球引力の方向に対する、時計ムーブメントの姿勢に応じた、発振器2の配向ビート値を定義する関数、
を計算するために、用いられる。当該ステップは、好ましくは、得られた全てのビート値データと、その反対値を用いて、(時計ムーブメントがn個の姿勢に位置決めされ、ビート値データが各姿勢で得られたと仮定して)2のデータ組み合わせを定義する。これら全ての姿勢は、角度λと関連付けられる(NIHS95-10規格参照)。その後、角度λの関数として、ビート値を表す正弦関数と、最も良く相互に関連付けられる、組み合わせが探され、当該関数が、角度λの関数として、即ち地球引力の方向に対する、時計ムーブメントの姿勢の関数として、試験された時計ムーブメントのビート値の式として保持される。
【0087】
もし、時計ムーブメントの構造が既知であれば、以下に説明するように、異常組み合わせを決定することが可能である。例えば、組み合わせは、ビート値データが最大であるべき姿勢で決定された最小ビート値データを示す場合、保持されない。
【0088】
時計ムーブメントの姿勢が、垂直姿勢でも水平姿勢でもない場合、時計ムーブメントの向きの角度λは、
- 文字盤の中心から開始し、12時目盛りを指す向き、と
- 地球引力の方向に平行な上向きベクトルの文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面P上への、即ち時計ムーブメントのフレーム上への、正射影、と
の間の配向角度である。
当該角度は、12時目盛りを指す向きから、3時目盛りを指す向きへ、即ち文字盤にわたる時計回り方向の回転で、正の配向を有する。
【0089】
符号付きビート値コンセプトは、有利には、決定された値を、物理的原因と直接リンクし、時計ムーブメントの計時的性能を向上させる多数の利用可能性だけでなく組立及び調整操作中に改善された効率性を提供する、ビート値の新たな定義を得るために、幾何学的ビート値コンセプトと組み合わされる。特に、上述のように、符号付き幾何学的ビート値は、てん輪の発振の振幅及び発振器の振動数とは、独立した配向角度値である。
【0090】
時計ムーブメントの遊びが、特にてん輪ピボットの半径方向遊びが、地球引力の方向に対する時計ムーブメントの向きに応じたビート値を変更するように見える。実際、てん真は、揺れ(軸方向)と遊び(半径方向)を有する。垂直姿勢において、てん輪ピボットは、ピボット石に重みをかけ、その効果は、フレームに対して発振器の回転中心を移動させることである。中心線の向きもまた、これにより変更され、このためビート値を変更する。例えば、所定のキャリバーについて、中心ピボットとピボット石に重みをかけるピボットとの間の姿勢差により引き起こされるビート値の推定変動は、0.76°の値を与え、これは240°の振幅発振と、4Hzの発振器振動数について、0.25msの時間的ビート値に対応する。垂直姿勢におけるフレーム及びまたは時計ムーブメントの文字盤に垂直な軸周りの完全な回転にわたる短い間隔のビート値は、0.5ms程度のビート値の合計変動の観察を可能にする。この遊び現象は、実際に観察されるビート値変動を説明するように思われる。
【0091】
ビート値が時計ムーブメントの姿勢に依拠するため、2つの変数を関連付け、このため各種姿勢で測定されたビート値の符号の決定を可能にする、モデルを規定することが可能になる。にもかかわらず、同じ基準系で実施するという理由のため、慣習を制定することが必要とみられる。
【0092】
向きや配向(NIHS95-10規格での角度λ)の文言は、時計ムーブメントの中心に対する垂直姿勢の角度姿勢を指定するために用いられる。0°の値は、12時姿勢に対応する。向きや配向は、文字盤側から見た(方向CHの)時計ムーブメントが、12時姿勢(0°)から3時(90°)へ等、反時計回り方向に回転すると、正になる。傾斜(NIHS95-10規格での角度θ)は、地球引力の方向と反対方向に向けられた垂直軸(NIHS95-10規格での軸Z)と、時計ムーブメントの平面Pとの間で定義される角度である。文字盤側から見た姿勢は、90°と定義され、裏蓋側から見た姿勢は、-90°と定義される。
【0093】
符号の慣習を定義することもまた必要である、即ちビート値は、(発振器のピボット軸の回転中心とてん輪の静止位置でのピンの中心とを通過する)中立点の線が、脱進機線(または、発振器のピボット軸とアンクル組立体のピボット軸とを通過する、時計ムーブメントの平面Pに存在する線である、中心線)に対して、方向FHで見て反時計回りに移動されると、正で増加する。
【0094】
ビート値がピボット遊びに依拠すると知ることで、最小及び最大ビート値データに対応する向きを定義することも同じく可能になる。
【0095】
図3は、CH側から12時姿勢にある設定システム100を示す(λ=0°、θ=90°)。極値ビート値は、中心線Lが水平姿勢にあるときに得られなければならない。中心線Lが12時姿勢に対して150°で傾斜することを知ることで、極値ビート値と中央ビート値は、以下の(12時に対する)向きで得られる。
-300°または60°。ビート値は、その最小値である。
-120°または240°。ビート値は、その最大値である。
-30°または150°。ビート値は、「中間点でのビート値」と呼ばれる、中央値にある。
【0096】
(絶対値での)測定が、ビート値が最小であるべき姿勢に関連して高いビート値(他の測定値よりも高い)を示す状況において、ビート値は当該姿勢において負であり、このため負の値を検討する必要があると推論することができる。
【0097】
引力の方向に対する時計ムーブメントの姿勢の関数として、ビート値を定義する、理論モデルを制定することが可能である。第一近似において、ビート値は、以下のタイプの関数をたどる。
R(λ)=R0×sin(λ-φ)+M
ここで
R(λ):時計ムーブメントの向きの関数としての、時間的に[ms]で表されまたは幾何学的に[°]の角度で表される、(符号付きまたは配向)ビート値、
R0:常に正の、正弦関数の振幅、
λ:地球引力の方向に対する、時計ムーブメントの向き(0~360°)、
φ:時計ムーブメントの構造により決定または定義される、特に中心線の方向で決定または定義される、位相シフト、
M:(中間点でのビート値に対応する、即ち文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面P上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、地球引力の方向の正射影が、中心線に平行である)正、ゼロ、または負のオフセット。
【0098】
パラメータφは、時計ムーブメントの異なる姿勢で測定されたビート値データに基づき、時計ムーブメントの構造を元にあらかじめ定義され、地球引力の方向に対する全ての姿勢についての時計ムーブメントのビート値を定義するためには、パラメータR0及びMを計算することだけが残っている。時計ムーブメントの異なる姿勢で測定された発振器のビート値に関連するデータに最も良く適合する正弦関数を計算で決定するために、最小二乗法を用いて解決策を得てもよい。
【0099】
パラメータMは、ピボットに遊びがない場合に、発振器が有するであろう理論ビート値に対応する。パラメータMの「中間点」または「中間点でのビート値」の文言は、これがビート値の大域的挙動または平均的挙動を記述することを可能にし、90°で間隔が空けられた4つの垂直姿勢で、例えば4つの垂直時計姿勢において得られたビート値の平均と等しいため、用いられてもよい。
【0100】
上述のように、測定で得られたビート値データは全て正である。しかしながら、時計ムーブメントの調整に応じて、符号付きビート値データは、全て正または全て負であってもよく、または時計ムーブメントがビート値に正確に調整されると、データの一部は正であり一部は負であってもよい。
【0101】
例えば、第一段階において、絶対ビート値データが、4つの垂直テスト姿勢で測定される。表1は、得られた結果を示す。
【0102】
【表1】
【0103】
第二段階において、各測定の符号が決定される。実際、これら4つの測定に基づき、2=16の符号付き値の組み合わせが可能である。時計ムーブメントで実施された試験の結果に効果的に対応する、符号付き値の組み合わせを決定することが必要である。試験される時計ムーブメントの既知の構造のため、3時姿勢でのビート値データが最小に最も近く、9時姿勢でのビート値データが最大に最も近いことを規定することが可能であった。このため、保持されるべき組み合わせは、以下の条件を充足しなければならない。ビート値(3時)<ビート値(9時)。多くの場合、当該条件は、解決策の数を減らすことを可能にする。更に、データの符号は、異なる符号組み合わせを試すことで、データに関数R(λ)を適合することで、決定されてもよい。最も有望な解決策は、例えば、理論的関数R(λ)と、上述の様々なデータ組み合わせで定義された点との間の差異の二乗の合計を最小化するものである。他の最適化または回帰方法を用いてもよい。
【0104】
第三段階において、最終解決策が、以下の形態で表され、ビート値は、測定されたものに、時計ムーブメントに実施された試験中に得られたデータを用いて規定された理論モデルに応じて計算された値の符号が付された値である。
【0105】
【表2】
【0106】
規定されたモデルに基づき、中間点での(即ち、文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、地球引力の方向の正射影が、中心線に平行である、時計ムーブメントの姿勢における)ビート値を計算により決定することもまた可能である。当該中間点でのビート値は、+0.19ms(または幾何学的態様で表されるビート値について0.57°)の値を有する。このため、時計ムーブメントの姿勢(向きλ)にかかる配向角度的ビート値を定義する関数は、発振器のビート値に関するデータに最も良く適合する、(時計ムーブメントの向きλの)正弦関数として決定可能である。このような正弦関数のおかげで、(文字盤に法線の方向は、地球重力の方向に対して、少なくとも2°、好ましくは少なくとも3°の角度であるという条件で)その姿勢のいずれであっても、時計ムーブメントのビート値を補間することができる。このため、ビート値測定がなされなかった、時計ムーブメントの姿勢について、ビート値を決定することが可能である。
【0107】
上述の例は、従来のビート値の定義と、対応する測定(絶対時間的ビート値)の制限を明らかに示す。垂直姿勢での測定は、2つの値をゼロ(0.02及び0.07ms)に近づけさせ、2つの値を最大許容範囲(0.36及び0.43ms)に近づけさせる。時計職人にとって、ビート値を設定することは困難である。時計職人は、時計ムーブメントを、得られたゼロに近い測定のうちの1つに基づきそのままにすべきであろうか、または得られた他の2つの測定の1つに基づき修正すべきであろうか。更に、時計職人が修正を実施することに賭けた場合、達成することを試みるビート値はどれであるべきであろうか。実際、4つの垂直姿勢で測定された符号付ビート値の平均は、中間点でのビート値に等しいものの、これは4つの「標準」測定絶対ビート値の平均には適用されない。「全ての姿勢においてビート値をゼロに設定する」という通例の指令は、実際には単に達成不可能であることが見られる。
【0108】
上述のように、正弦関数を用いた測定の調整の代わりにまたは加えて、ビート値の符号を決定する他のアプローチも予見される。いくつかの理論的概念を以下に説明する。
【0109】
音響学的特性を用いて、符号を識別する
原則として、また特にスイスアンクル脱進機の場合に、2つの連続する半周期の間の音響学的特性は、識別が難しい。このため、音響機器は、当該基準を考慮に入れない。しかしながら、特定のキャリバーと特定の脱進機のタイプについて、この差異は非常に明らかであり、時計ムーブメントの符号を推定するのに使用可能である。このコンセプトを延長することで、各キャリバーに特有の特性の各識別は、教師付き分類アルゴリズム(K近傍法、サポートベクターマシン、またはニューラルネットワーク)を用いて達成可能である。
【0110】
光音響測定を用いて符号を識別する
ビート値の測定を失敗しても、(二重チャネル)光学的測定によって、各半周期についててん輪の通過の方向を知ることができる。当該技術を音響測定と組み合わせることで、各時間測定の半周期の方向を決定すること、このためそこからビート値の符号を推定することが可能になる。
【0111】
時計ムーブメントの励振を用いて符号を識別する
音響測定中に、「チック」音と「タック」音を識別することは一般的に可能ではない。この問題は、第一測定を静止状態(時計ムーブメントが固定)で行い、第二測定を既知の方向の角加速度で行うことで、対処可能である。てん輪とひげぜんまいの回転中心と一致する回転中心(非ガレリオ基準系)で加速が行われると、てん輪は、ひげぜんまいの高さで角度オフセットを発生するトルクに曝される。ビート値は、ひげぜんまいの高さで付された角変位に応じて歪曲される。ビート値の符号は、加速がある場合に測定中のビート値が増加するか減少するかを観察することで、推定可能である。例えば、ローラの回転中にビート値が増加すると、静止測定に比べてゼロからの離脱があることが明らかである。このため、ビート値の符号を決定することが可能である。しかしながら、ゼロに非常に近いビート値の符号は、特定が難しいかもしれない。改善の一つとして、測定の進化を検出可能なように、また可能であればトルクが増加するときに符号の変化を検出可能なように、当初は非常に低い漸進的加速を適用することである。代替的方法は、外乱が、発振器が脱進機機能に近い(半周期の中央)ときに時計ムーブメントの半周期と同期するように、非常に正確な時間に短いパルスによって時計ムーブメントを励振することからなる。パルスの向きが既知であるが、「チック」と「タック」の半周期の区別が残されたと仮定すると、一方への任意の外乱は、増加されたまたは減少された振幅のいずれかを発生する。このためアルゴリズムは、半周期を、てん輪の回転の方向と関連付ける立場にある。これを理由として、ビート値の符号を特定することができる。
【0112】
上述のように、符号付きビート値の、特に符号付幾何学的ビート値の使用は、中間点、即ち発振器の中立点と中央線との間の効果的なオフセットの決定を可能にする。従来の測定は、絶対値を生み出すことが思い出されなければならない。出願人により得られた結果は、時間的に表された当該ビート値は、振幅に依拠することを示し、このため水平及び垂直姿勢間で可変であり、典型的には、ピボット遊びを理由として、垂直姿勢で測定された極値間で0.5ms変化することを示す。
【0113】
上述のように、本発明は好ましくは、得られた測定データの符号の異なる組み合わせを試すことで、測定点に対する正弦関数のより良いフィットを求める段階を含む。このような段階は、製造の流れ内で適用されてもよい。
【0114】
各時計ムーブメントの「大域的」ビート値は、このため、中間点でのビート値を介して表すことができる(表3)。これは、符号付きビート値を用いる利点を実証する。表3は、3つの場合を示す。
ビート値は、ゼロから遠く離れ、正である。標準絶対平均値は、中間点でのビート値の良好な近似値を、または4つの垂直位置(時計ムーブメント3、5)の平均値が検討されるときには正しい値を、提供する。これは、上述の説明を元にすれば、驚くべきものではない。
【0115】
ビート値は、ゼロから遠く離れ、負である(時計ムーブメント2、4)。ここでも上記と同じ特徴が得られるが、符号は逆である。絶対値は、体系的に誤ったものになる。これは、ビート値を設定することに対する、直接の因果関係を有する。時計職人は、例えば、少なくとも2周期の調節と検証測定を実施せざるを得ない。
【0116】
ビート値は、ゼロに近い(時計ムーブメント1)。この場合、値の平均は、絶対値の平均とは異なり、ビート値に(例えば2倍の)著しい誤りを引き起こし、これもまた本明細書で展開したアプローチの利点を強調するものである。
【0117】
【表3】
【0118】
上記で詳細に説明した実施形態において、決定方法は、垂直姿勢の、即ちてん輪軸が地球引力の方向に垂直な、時計ムーブメントに適用された。出願人により行われた研究は、水平姿勢の時計ムーブメントに対して決定方法を実施することを避けることが必要であることを示した。にもかかわらず、発振器の軸と地球引力の方向との間に、約2°の、好ましくは3°の、またはそれ以上の角度が測定可能になるや否や、時計ムーブメントは、決定方法の効果的な使用に適した姿勢となる。当該条件は、ビート値データを決定するために時計ムーブメントが置かれる、1つの姿勢またはいくつかの姿勢または全ての姿勢に対して尊重される。
【0119】
時計ムーブメントが垂直姿勢にない場合、または水平姿勢にある場合、時計ムーブメントの配向角度λは、上述のように定義される、即ち、
- 文字盤のまたは時計ムーブメントの中心から、12時目盛りに向けた、配向方向と、
- 地球引力の方向に平行な上向きベクトルの、文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、正射影、
との間の配向角度として定義される。
【0120】
定義された姿勢の少なくとも1つは、好ましくは、
- 時計の文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、中心線L(発振器の発振軸と、アンクル組立体31のピボット軸とを接続する、2つの軸に垂直な、線)の正射影と、
- 時計の文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、地球引力の方向の、正射影と、
との間の角度が、ゼロである、または5°より小さい絶対値または10°より小さい絶対値を有するようにされる。
【0121】
少なくとも2つの定義された別個の姿勢は、好ましくは、フレーム及びまたは文字盤に垂直な軸(NIHS95-10規格にかかる、軸X)周りに、両者の間に約90°の角度を有した、及びまたは両者間に少なくとも90°の角度を有した、時計ムーブメントの垂直姿勢である。より一般的には、少なくとも2つの定義された別個の姿勢は、2つの姿勢の間の時計ムーブメントの配向角度λ差異が90°または約90°または少なくとも90°であるような、時計ムーブメントの姿勢である。
【0122】
時計ムーブメントの少なくとも1つの第一定義姿勢が、
- 時計の文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、中心線Lの正射影と、
- 時計の文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、地球引力の方向の、正射影と、
の間の角度がゼロである、または5°より小さい絶対値または10°より小さい絶対値を有し、
時計ムーブメントの少なくとも1つの第二姿勢が、第一及び第二姿勢間の時計ムーブメントの配向角度λ差異が、±90°または約±90°であり、任意で、
時計ムーブメントの予想される第三姿勢が、第一及び第二姿勢間の時計ムーブメントの配向角度λ差異が、±90°または約±90°であるようにされ、
第二及び第三姿勢は別個の姿勢、即ち第二及び第三姿勢間の時計ムーブメントの配向角度λ差異が180°または約180°である姿勢である、
ときに、非常に有利である。
【0123】
このため、第二及び第三姿勢は、有利には、
- 時計の文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、中心線Lの正射影と、
- 時計の文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、地球引力の方向の、正射影と、
の間の角度が、90°の値、または85°と95°の間の絶対値、または80°と100°との間の絶対値を有するような、定義された別個の姿勢である。このような第二及び第三姿勢では、極値ビート値または極値ビート値に近い値を測定することが可能である。
【0124】
原則として、ビート値の決定は、測定点の数が増加するにつれて、信頼性と正確性が増す。未知の構造の時計ムーブメントの場合、時計ムーブメントを、少なくとも3つの、好ましくは4つの、特に4つの垂直姿勢または水平に対して少なくとも2°の傾斜の姿勢に、位置決めすることが推奨される。時計ムーブメントの構造が既知の場合、このため理論的正弦関数R(λ)の最小、ゼロ、及び最大の姿勢が既知の場合、時計ムーブメントを2つの垂直姿勢(または水平に対して少なくとも2°傾斜した姿勢)のみに配置し、排除により、特に符号慣習及びまたは物理的実体(結果として得られた振幅R0が高すぎる)と適合しない、特定の符号組み合わせを除去することで、値を決定することができる。測定姿勢は、有利には、90°で、または90°より大きく間隙をあけられてもよく、または関数R(λ)が最大または最小値を有する姿勢に対応してもよい。
【0125】
方法の実施形態または変形実施にかかわらず、発振器2のビート値に関連するデータ(絶対時間的ビート値)及びまたは発振器2の発振振幅は、例えば、事前に測定されたまたは獲得された音響信号の処理により、または事前に測定されたまたは獲得された音響及び光信号の処理により、決定される。
【0126】
<ビート値を設定する方法>
ビート値は、各時計ムーブメントまたは小型時計に、(例えば、アフターサービスの実施中たは手動製造の流れ中に、時計職人によって)手動で、または(例えば自動製造施設内で)自動で、のいずれかで、体系的に設定される。現在にいたるまで、ビート値についての符号の不在は、ビート値を設定するのに問題であったのみならず、特に統計的分析を難しくすることで、当該大きさの工業的制御を限定させるものであった。
【0127】
ビート値を設定する通常のアプローチは、音響測定の反復連続を実施することからなっていた。各測定後、ひげぜんまいスタッド保持部は、先行する反復で測定されたビート値に応じた特定の角度にわたり移動され、第一周期中の運動の方向は、賭けであった。修正前後でビート値を測定し、ひげぜんまいスタッド保持部が動かされた方向を知ることで、多くの場合、ビート値を修正する方向を推定することが可能である。さらなる可能性は、ひげぜんまいスタッド保持部を、一方向に長距離移動させることであり、ビート値の符号について疑念がなくなり、ビート値を適切に設定することが可能になる。しかしながら、当該方法は、要求される値に反復する態様で到達するために、複数の測定とひげぜんまいスタッド保持部の位置の修正に依拠するため、骨が折れるものである。
【0128】
上述の解決策のおかげで、ひげぜんまいの移動の方向の問題は、最初の修正反復前に解決され、ひげぜんまいスタッド保持部の操作を限定することを可能にする。ビート値が許容範囲内に最初からあるパーツが、ビート値の符号を特定するために、調節ミスされる必要はない。例えば、上述のように、垂直姿勢での一連の測定が、ビート値の符号を特定可能にする。符号付幾何学的ビート値として表される、当該測定はまた、時計ムーブメントの全体挙動を反映する、中間点にわたるビート値を数値化することを可能にする。
【0129】
設定システム100または発振器2の調節方法を実施する一つのやり方を、以下に説明する。方法は、
- ビート値を決定する、本発明にかかる方法を実施する段階、特に上述の決定方法を実施する一つのやり方を採用する段階と、
- 発振器2のビート値を設定する段階と、
を含む。
【0130】
ビート値を設定する段階は、有利には、脱進機及びまたはフレーム99に対する、ひげぜんまい固定支持部の移動を含む。
【0131】
このため、
- 複数の垂直姿勢で、例えば4つの互いに直角な姿勢で、ビート値を測定すること、及び
- 測定点での、関数の、例えば正弦関数の、または例えば多項式、ベジエまたはスプライン関数といった適切なあらゆる関数の、調節により、中間点でのビート値を計算により決定すること、
が有効であるようにみえる。
【0132】
当該設定方法は、反復する試験を実施することなく、正しい値を直接対象にして、ビート値を単一作業で設定することを可能にする。修正は、方法が、修正のための正しい角度値と正しい方向を直接生じる、符号付幾何学的ビート値を決定する場合に、有効である。符号付ビート値を用いた、ビート値を測定し、ビート値を設定する当該手続きは、分布を正しい値にセンタリングすることのみならず、分散を制御し、減少させることを可能にする。
【0133】
上述の設定方法は、あらゆる時計ムーブメントの、信頼性があり、正確な調節を可能にするため、堅固である。しかしながら、当該方法は、調節される時計ムーブメントの構造及びまたは脱進機のタイプの知識があれば、(特に費やす時間と実施する手段の意味で)向上可能である。
【0134】
出願人が実施した研究は、時計ムーブメントがその上に載置される支持部の機能として、既知の時計ムーブメントのビート値の将来的な進化を予測することを可能にする。時計ムーブメントの設定システムの向きを知ることで、ビート値を設定する、好ましい姿勢を決定することができる。特に、保持した姿勢は、時計ムーブメントを、既知の向きλに位置決めする。この結果、ゼロ値、最大値、最小値、または他の中間値であることもある、このような姿勢で設定されるべき最適なビート値を決定することが可能となる。
【0135】
このような調節を実施するため、時計ムーブメントは、好ましくは、文字盤への法線が、少なくとも2°の、好ましくは少なくとも3°の、地球引力の方向に対して角度θであるように位置決めされる。10°より大きい、特に30°より大きい、または45°より大きい角度θもまた、人間工学の観点から、時計職人にとって特に興味深いように見える。
【0136】
このため、設定システム100または発振器2を調節する方法の実施の他のやり方は、
- 時計ムーブメントを所定の姿勢に位置決めする段階と、
- 当該所定の姿勢において、所定の値に、特にゼロまたはゼロに近い値に、ビート値を設定する段階と、
を採用する。
【0137】
特に、採用した姿勢に応じて、また従来技術から既知の情報とは反対に、非ゼロビート値の達成を試みることで、ビート値の設定に進むことができる。時計ムーブメントの向きの、ビート値の測定への影響から恩恵を受けることで、設定中の時計ムーブメントの向きを特定することが可能であり、このため、当該向きでのゼロの目標は、中間点での所定のビート値を達成することを可能にする。
【0138】
当該調節は、スイスアンクル脱進機を含む、あらゆる種類の脱進機に実施可能である。しかしながら、ビート値が歩度に影響を与える、ロビン脱進機のような、非対称脱進機について特に関連する。
【0139】
このため、設定システム100または発振器2を調節する方法を実施する他のやり方は、
- 時計ムーブメントを所定の姿勢に置く段階、及び
- 当該所定の姿勢で、ビート値を非ゼロ値に設定する段階、
を採用する。
【0140】
ビート値を設定する段階は、有利には、ひげぜんまいを固定する支持部の、フレーム99に対する移動を含む。
【0141】
設定方法を実施する様々なやり方は、有利には組み合わされてもよい。
【0142】
本発明にかかる設定方法のおかげで、時計ムーブメントは、
- 文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、中心線Lの正射影と、
- 文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、地球引力の方向の、正射影と、
の間の角度がゼロまたは実質的にゼロとなるように位置決め可能であり、
その結果、ゼロビート値設定への最も近い近似が試みられる、ビート値の設定段階を採用することができる。
【0143】
代替的に、時計ムーブメントは、その他の所定の姿勢に、特に
- 文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、中心線Lの正射影と、
- 文字盤上への、または発振器のピボット軸に垂直な平面上への、または時計ムーブメントの主平面上への、または時計ムーブメントのフレーム上への、地球引力の方向の、正射影と、
の間の角度が直角または実質的に直角となるように、位置決めされてもよく、
その結果、ゼロビート値設定への最も近い近似が試みられる、ビート値の設定段階を採用することができる。
【0144】
上述の設定方法を用いて、正しく調節された時計ムーブメント200を、または正しく調節された時計300、特に腕時計を得ることができる。
【0145】
<2つの状態間でのビート値のドリフトを決定する方法>
時計ムーブメントの試験または承認中の目的は、様々な状態で、例えば衝撃の前後や磁化の前後、より一般的には外部負荷や介入の前後に、ビート値とそのドリフトを分析することである。これは理想的には、ドリフトまたは移動の振幅と方向を決定するために、ビート値の符号の知識を必要とする。この場合、ビート値と符号を決定するためにひげぜんまいスタッド保持部を移動することは、予見できず、現在まで、絶対ビート値のみが測定可能である。この符号に関する知識の欠如は、主要な問題であった。例えば、2つの状態での測定は、ゼロドリフトの結果を導く可能性があるが、実際にはビート値は、符号を変えるにあたり初期値を倍増するよう移動されることがある。よりやっかいなことには、ドリフト値の符号のレベルでの無作為の態様が、当該結果を、衝撃にリンクした物理現象(ひげぜんまいの変形、ひげぜんまいスタッド保持部の移動、等)とリンクさせることを可能にしない、というものであった。ここで、ビート値の符号を知ることの実用性は、明らかである。
【0146】
したがって、衝撃または磁化後の時計ムーブメントのドリフトを決定する方法を実施するひとつのやり方は、ビート値を決定する上記方法を用いて、発振器2のビート値を決定する段階を含む。好ましくは、ビート値を決定する上記方法を用いて、発振器2のビート値を決定する2つの段階が実施され、第一段階は衝撃または磁化の前で、第二段階は衝撃または磁化の後である。
【0147】
<時計ムーブメント内の発振器の配置の(以前は未知の)形状を決定する方法>
地球引力の方向に対する時計ムーブメントの姿勢を関数としたビート値の変動は、設定システム100の遊び、特にてん真の半径方向遊びにリンクされる。引力の影響により、てん輪ピボットは、時計ムーブメントの向きに応じて、その石内の位置を取る。図4は、ピボット半遊びmにより特徴づけられる、中心C0から位置C1へのピボットの当該移動を示し、これは脱進機線の方向を、このためビート値を修正する。ビート値の変動は、ピボット遊びにより理論的に説明されるが、方法の逆転により、ビート値の測定に基づき、当該遊びの計算を可能にする。
【0148】
図4のイラストに基づき、ピボット遊びとビート値の間の単純な関係は、
β=arctan(m/l)
により与えられ、ここで
β:半径方向半遊びによる中心線とムーブメントの中立点との間の相対角度(符号付幾何学的ビート値を定義する正弦関数の振幅に対応する)、
m:ピボット半径方向半遊び
l:てん輪ピボットの軸とローラピンとの間の距離。
【0149】
mが8μmでlが0.6mmの公称値について、数字を適用すると、β=0.76°となり、これは完全に通常の値に対応する。
【0150】
上述の単純な関係は、ピボットが円筒状であり、ピボットの円錐状性質を考慮に入れて展開可能なことを推測し、その結果てん真の軸方向振動の推論を可能にする。
【0151】
代替的に、ピボット石の穴の直径が正確に知られる場合、ビート値測定からてん輪ピボットの直径を推定することができる。
【0152】
したがって、時計ムーブメント3内の発振器2の配置の形状を決定する方法を実施するやり方において、方法は、
- 上述のビート値を決定する方法を用いて、時計ムーブメントの姿勢に応じたビート値を定義する関数を決定する段階と、
- 発振器2の半径方向ピボット遊びを表す値、及びまたはてん真の軸方向振動を示す値、及びまたはてん輪ピボットの直径を表す値を、特に計算により、決定するため、関数を用いる段階と、
を含む。
【0153】
例えば、ビート値を決定する上述の方法を用いることで、上述の正弦関数の振幅の値を決定することが可能になる。その後、最大角度的ビート値と、てん輪ピボットの軸とローラピンとの間の既知の距離とに基づき、数式β=arctan(m/l)を用いて、発振器のピボット遊びの値を決定することができる。
【0154】
本明細書で用いる「フレーム」のコンセプトは、例えば発振器-脱進機システムが、フレーム上に後ほど組付けられることが意図される、時計モジュールに搭載及びまたは調整される場合には、「モジュール」コンセプトで代替可能である。
【0155】
本明細書中、定式化を困難にしないために、「ビート」の文言は、「ビート値」を意味するために用いることもある。
【0156】
本明細書中、「時計ムーブメントの平面」または「時計ムーブメントの主平面」は、最終輪列可動部の軸に垂直な平面を意味する。当該平面は、例えば、発振器のピボット軸に垂直である。当該平面は、好ましくは、時計ムーブメントがその上に載置される平面である。例えば、当該平面は、
- 最終輪列可動部の軸に垂直に向けられた、フレームの最大表面に接線方向である、または
- 文字盤が配置される高さで、フレームの場所を通過する。
【0157】
「値を決定する」は、値を定める、または物または現象を数値化する、少なくとも1つのステップの組を意味する。当該ステップは、
- 少なくとも1つの測定、及びまたは
- 少なくとも1つの計算、及びまたは
- 少なくとも1つの数学的または論理的またはコンピュータプロセス、
を含む。
【0158】
「関数を決定する」は、関数を、特に数学関数を、特にそしてより正確には、当該関数の係数及びまたは定数を、定めるまたは定義する少なくとも1つのステップの組を意味する。当該ステップは、
- 少なくとも1つの測定、及びまたは
- 少なくとも1つの計算、及びまたは
- 少なくとも1つの数学的または論理的またはコンピュータプロセス、
を含む。

図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】