(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】芳香を生成するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/26 20160101AFI20241022BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20241022BHJP
A23L 27/24 20160101ALI20241022BHJP
C11B 11/00 20060101ALI20241022BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20241022BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20241022BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20241022BHJP
C12N 1/14 20060101ALN20241022BHJP
A23K 10/16 20160101ALN20241022BHJP
【FI】
A23L27/26
A23L27/00 Z ZNA
A23L27/24
C11B11/00
A23K20/163
A23K20/142
A23K20/158
C12N1/14 A
A23K10/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523794
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 AU2022051260
(87)【国際公開番号】W WO2023064988
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2022-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2022-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523334154
【氏名又は名称】ナリシュ イングリーディエンツ プロプライアタリー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ロバートソン ペトリー
(72)【発明者】
【氏名】スリンダー パル シン
(72)【発明者】
【氏名】アナ エル ターチー
(72)【発明者】
【氏名】プシュカー シュレスタ
(72)【発明者】
【氏名】ロサンジェラ アパレシーダ デビッラ
(72)【発明者】
【氏名】ハン グエン
(72)【発明者】
【氏名】ハインリヒ クロウカンプ
【テーマコード(参考)】
2B150
4B047
4B065
【Fターム(参考)】
2B150AA06
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4B047LB07
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4B065CA43
(57)【要約】
本発明は、微生物バイオマスを含む組成物、及び微生物バイオマスを含む食料製品、飲料製品、又は飼料を提供する。加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生成するための、特にメイラード反応を受けるための、上記組成物及び食料製品、飲料製品、又は飼料の使用が、本明細書に記載される。食料様の芳香及び/又は風味を生成するための方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生成することができる組成物であって、
a)リン脂質を含むモルティエレラ(Mortierella)種バイオマス、
b)1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び
c)1つ以上のアミノ酸若しくはその誘導体若しくは塩、又はチアミン
を含み、
前記組成物が、食料製品、飲料製品、又は飼料の形態であり、前記組成物が、2.5重量%未満の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む、組成物。
【請求項2】
前記モルティエレラ種バイオマスを除く前記組成物の体積又は重量に基づいて、少なくとも約0.005%の乾燥モルティエレラ種バイオマスを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記食料様の芳香及び/又は風味が、肉らしい芳香及び/又は風味である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記リン脂質が、1つ以上のエステル化ω6脂肪酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記1つ以上のエステル化ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、又はγ-リノレン酸(GLA)を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記1つ以上のエステル化ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)を含み、任意選択で、前記ARAが、前記バイオマスの極性脂質の総脂肪酸含量の少なくとも約10%、少なくとも約15%、又は少なくとも約20%として存在する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び前記1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩が、前記組成物が加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生成するのに十分な量で前記組成物中に存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び前記1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩が、前記組成物が加熱されたときに1,3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン、及び1,3,5-チトリアンから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で前記組成物中に存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体及び前記1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩が、前記組成物が加熱されたときに2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で前記組成物中に存在する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体が、モルティエレラ種バイオマスを除く組成物の体積又は重量に基づいて、組成物1kg又は1L当たり約0.1mmol~約100mmolの量で前記組成物中に存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩が、前記モルティエレラ種バイオマスを除く前記組成物の体積又は重量に基づいて、約0.1mmol~約50mmolの量で前記組成物中に存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体が、グルコース及び/又はリボースを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体が、リボースを含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体が、リボース及びグルコースを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩が、システイン及び/又はシスチンを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩が、システインを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記1つ以上のアミノ酸が、グルタミン酸又はその塩を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
グルタミン酸又はその塩と、更なるアミノ酸、その誘導体又は塩とを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
鉄源を更に含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
酵母抽出物を更に含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が酵母抽出物を更に含まない、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
チアミンを更に含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
1つ以上のハーブ及び/又はスパイスを更に含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
水性成分を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス、
b)グルコース及び/又はリボース、
b)システイン及び/又はシスチン、
d)酵母抽出物、
e)グルタミン酸又はその塩、
f)チアミン、並びに
g)水性成分
を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
リン脂質を含むモルティエレラ種由来の抽出脂質を更に含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物が、加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生成し、任意選択で、前記食料様の芳香及び/又は風味が、肉らしい芳香及び/又は風味である、請求項1~26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、肉又は肉様製品である、請求項1~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、バーガー、ソーセージ、ホットドック、ミンチ若しくはひき肉、ステーキ、ストリーク、ストリップ、ヒレ肉、ロースト、胸肉、もも肉、手羽元、ミートローフ、フィンガー、ナゲット、カツレツ、サイコロ肉、ベーコン、スープ、肉汁、スライス肉、ミートボール、魚、フライドフィッシュ若しくはシーフード又はそれらの模倣物である、請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、動物又は動物由来原料を全く含まない、請求項1~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、動物又は動物由来原料を含み、任意選択で、前記動物又は動物由来原料が肉であり、任意選択で、前記動物又は動物由来原料が培養肉である、請求項1~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
食料製品、飲料製品、又は飼料を製造する方法であって、リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス;1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体;及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はチアミンを、1つ以上の追加の摂取可能原料と組み合わせることを含み、前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、約2.5重量%以下の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む、方法。
【請求項33】
請求項1~32のいずれか一項に記載の組成物を加熱することを含む、食料様の芳香及び/又は風味を生成する方法。
【請求項34】
食料製品、飲料製品、又は飼料に食料様の芳香及び/又は風味をもたらす、又は食料製品、飲料製品、又は飼料に関連する食料様の芳香及び/又は風味を向上させる方法であって、前記食料製品、飲料製品、又は飼料を、a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス、b)1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及びc)1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はチアミンと接触させることと、前記食料製品、飲料製品、又は飼料及びモルティエレラ種バイオマス又は組成物を加熱することとを含み、前記加熱された前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、約2.5重量%以下の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む、方法。
【請求項35】
食料製品、飲料製品、又は飼料に食料様の芳香及び/又は風味をもたらす、又は食料製品、飲料製品、又は飼料に関連する食料様の芳香及び/又は風味を向上させる方法であって、
a)i)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス、ii)1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及びiii)1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はチアミン、を含む組成物を加熱することと、次いで、
b)食料製品、飲料製品、又は飼料を、工程a)で得られた組成物と接触させることと、
を含む、方法。
【請求項36】
前記食料様の芳香及び/又は風味が、肉らしい芳香及び/又は風味である、請求項33~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が、少なくとも約130℃に加熱される、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物が、少なくとも約1時間加熱される、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
食料製品、飲料製品、又は飼料におけるリン脂質を含むモルティエレラ種バイオマスの使用であって、前記組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が、2.5重量%未満の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む、使用。
【請求項40】
加熱時に前記食料製品、飲料製品、又は飼料に食料様の芳香及び/又は風味をもたらすための、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
前記食料様の芳香及び/又は風味が、肉らしい芳香及び/又は風味である、請求項39又は40に記載の使用。
【請求項42】
前記リン脂質が、1つ以上のエステル化ω6脂肪酸を含む、請求項39~41のいずれか一項に記載の使用。
【請求項43】
前記1つ以上のエステル化ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、又はγ-リノレン酸(GLA)を含む、請求項42に記載の使用。
【請求項44】
前記1つ以上のエステル化ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)を含む、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、肉又は肉様製品である、請求項39~44のいずれか一項に記載の使用。
【請求項46】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、バーガー、ソーセージ、ホットドック、ミンチ若しくはひき肉、ステーキ、ストリーク、ストリップ、ヒレ肉、ロースト、胸肉、もも肉、手羽元、ミートローフ、フィンガー、ナゲット、カツレツ、サイコロ肉、ベーコン、スープ、肉汁、スライス肉、ミートボール、魚、フライドフィッシュ若しくはシーフード又はそれらの模倣物である、請求項39~45のいずれか一項に記載の使用。
【請求項47】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、動物又は動物由来原料を全く含まない、請求項39~46のいずれか一項に記載の使用。
【請求項48】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、動物又は動物由来原料を含み、任意選択で、前記動物又は動物由来原料が肉である、請求項39~46のいずれか一項に記載の使用。
【請求項49】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩を含む、請求項39~48のいずれか一項に記載の使用。
【請求項50】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体及び前記1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩が、前記組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生じるのに十分な量で前記組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する、請求項49に記載の使用。
【請求項51】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び前記1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩が、前記組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに1,3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン、又は1,3,5-チトリアンから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で前記組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する、請求項49又は50に記載の使用。
【請求項52】
前記1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体及び前記1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩が、前記組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で前記組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する、請求項49~51のいずれか一項に記載の使用。
【請求項53】
前記食料製品、飲料製品、又は飼料が、リン脂質を含むモルティエレラ種由来の抽出脂質を更に含む、請求項39~52のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2022年10月20日に出願されたオーストラリア仮出願第2021903367号、2021年12月22日に出願されたオーストラリア仮出願第2021904213号、2021年3月3日に出願されたオーストラリア仮出願第2022900516号、2022年5月13日に出願されたオーストラリア仮出願第2022901282号、及び2022年9月7日に出願されたオーストラリア仮出願第2022902576号に対する優先権を主張するものであり、これらの全内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、広義には、食料製品、飲料製品、又は飼料における微生物バイオマス(例えば、モルティエレラ(Mortierella)種バイオマス)の使用、バイオマスを含む組成物、及びバイオマスを含む食料製品、飲料製品、又は飼料に関する。本発明は更に、加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生成するための、特にメイラード反応を受けるための、当該組成物及び食料製品、飲料製品、又は飼料に関する。本発明は更に、食料様の芳香及び/又は風味を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
世界人口が2050年までに予測90億人に急増するにつれて、人間の栄養のための肉及び乳製品に対する需要は増加し続けると予想される。しかしながら、世界中の肉及び乳製品生産は、淡水消費の70%、総農耕地使用の38%を占め、世界の温室ガス排出の19%に寄与する。環境フットプリントがより少ないタンパク質及び脂肪の代替供給源を見出すことに対する関心が高まっている。また、より持続可能で環境に優しいと考えられる、例えば植物源からの高品質のタンパク質及び脂肪の非動物源の市場が世界中で成長している。文化的及び宗教的理由もまた、非動物性タンパク質の市場の成長に寄与している。しかしながら、肉及び乳製品のための多くの現在の植物性代替物は、ヤシ油、大豆油、及びパーム油などの植物油のブレンドから生成された脂肪を使用しており、与える風味及び機能は不十分であり得る。脂肪及び油は、食料に風味、潤滑性、及び質感を加え、摂取時の満腹感に寄与し、したがって、動物源由来の脂質を取り込んだ食料製品及び飲料製品は、依然として消費者に好まれることが多い。
【0004】
調理された肉の芳香及び風味特性は、肉の食味にとって重要な因子であり、消費者による受入及び好みとの相関性が非常に高い。芳香及び風味特性は、調理又はローストなどによる肉の加熱中に生成される多数の揮発性及び不揮発性化合物に由来する(例えば、Dashdorj et al.(2015)及びモットラム(1998)による総説を参照されたい)。これらの化合物は、いくつかのタイプの化学反応、すなわち、アミノ酸又はペプチドと還元糖とのメイラード反応、脂質酸化、メイラード反応生成物と脂質酸化生成物との間の相互作用、及び調理又はロースト中のいくつかの硫黄含有化合物などの他の化合物の分解から生じる。反応生成物、特に揮発性のものは有機的であり、アルデヒド、ケトン、アルコール、エステル、脂肪族炭化水素、チアゾール、オキサゾール及びピラジン、並びにラクトン及びアルキルフランなどの酸素化複素環式化合物を含む、低分子量のものである。これらの化合物の多くは、ヤシ油、大豆油、及びパーム油などの植物タンパク質及び脂肪を用いて製造された肉代用品の調理中に生じず、これらの非動物性製品を消費者があまり受け入れないことにつながる。
【0005】
人間の栄養のために、肉様の風味及び芳香をもたらす代替的な非動物性製品が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、少なくとも部分的に、特定のバイオマスが、強力で心地よい食料様の、特に肉様の芳香及び/又は風味を食料にもたらすことができるという予想外の判定に基づく。これは、比較的少量のバイオマスを使用して達成することができ、それによって、食料、飼料及び飲料の芳香及び風味を増強するための、効率的かつ費用効果の高い方法を提供する。特に、本発明者らは、様々な真菌単離株、特にモルティエレラ種が、風味及び芳香増強剤として有効であることを実証した。
【0007】
したがって、一態様では、加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生成することができる組成物であって、
a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス、
b)1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び
c)1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はアミノ基を含む化合物(例えば、チアミン)を含む、組成物が提供される。
【0008】
任意選択で、組成物は、モルティエレラ種バイオマスによって提供されるタンパク質以外の、5重量%未満のタンパク質を含む。
【0009】
いくつかの例では、組成物は、モルティエレラ種バイオマスを除く組成物の体積又は重量に基づいて、少なくとも約0.25mg/mL又はmg/gの乾燥モルティエレラ種バイオマスを含む。一例では、組成物は、モルティエレラ種バイオマスを除く組成物の体積又は重量に基づいて、少なくとも約10mg/mL又はmg/gの乾燥モルティエレラ種バイオマスを含む。他の例では、組成物は、モルティエレラ種バイオマスを除く組成物の体積又は重量に基づいて、約10mg/mL又はmg/g~約50mg/mL又はmg/gの乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む。特定の実施形態では、食料様の芳香及び/又は風味は、肉らしい芳香及び/又は風味である。
【0010】
一実施形態では、モルティエレラ種は、モルティエレラ・アルビナ(Mortierella alpina)、モルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)又はモルティエレラ・イサベリナ(Mortierella isabellina)である。
【0011】
特定の例では、リン脂質は、1つ以上のエステル化ω6脂肪酸、例えば、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸ω6(DPAω6)、又はγ-リノレン酸(GLA)を含む。
【0012】
一実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、組成物が加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生成するのに十分な量で組成物中に存在する。いくつかの例では、1以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、組成物が加熱されたときに1,3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン、及び1,3,5-チトリアンから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で組成物中に存在する。一例では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、組成物が加熱されたときに2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で組成物中に存在する。
【0013】
特定の実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、モルティエレラ種バイオマスを除く組成物の体積又は重量に基づいて、組成物1kg又は1L当たり約5mmol~約100mmolの量で組成物中に存在する。更なる実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、モルティエレラ種バイオマスを除く組成物の体積又は重量に基づいて、組成物1kg又は1L当たり少なくとも約15mmolの量で組成物中に存在する。
【0014】
一実施形態では、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、モルティエレラ種バイオマスを除く組成物の体積又は重量に基づいて、約5mmol~約100mmolの量で組成物中に存在する。一例では、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、モルティエレラ種バイオマスを除く組成物の体積又は重量に基づいて、組成物1kg又は1L当たり少なくとも約15mmolの量で組成物中に存在する。
【0015】
いくつかの例では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体は、グルコース及び/又はリボースを含む。特定の例では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体は、リボース及びグルコースを含む。
【0016】
更なる例では、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、システイン及び/又はシスチンを含む。1つ以上のアミノ酸は、グルタミン酸又はその塩を追加的又は代替的に含み得る。いくつかの例では、組成物は、グルタミン酸又はその塩と、更なるアミノ酸、その誘導体又は塩とを含む。
【0017】
組成物はまた、鉄源、酵母抽出物、チアミン、ハーブ及び/又はスパイス、並びに水性成分のうちの任意の1つ以上又は任意の組み合わせを含み得る。特定の実施形態では、組成物は、酵母抽出物を含まない。
【0018】
一実施形態では、組成物は、
a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス、
b)グルコース及び/又はリボース、
b)システイン及び/又はシスチン、
d)酵母抽出物、
e)グルタミン酸又はその塩、
f)チアミン、並びに
g)水性成分を含む。
【0019】
一実施形態では、組成物は、加熱されたときに肉様の芳香及び/又は風味を生成する。
【0020】
一実施形態では、組成物は、食料製品、飲料製品、又は飼料の形態である。したがって、食料製品、飲料製品、又は飼料は、加熱されたときに肉らしい芳香及び/又は風味を生成する。
【0021】
別の実施形態では、組成物は、食料製品、飲料製品、又は飼料と混合され得、又はそれらに添加され得、例えば、組成物は、粉末、粒子状物、又は顆粒混合物の形態である。組成物は、組成物を加熱する前、加熱した後、及び/又は食料製品、飲料製品、若しくは飼料を加熱した後に、食料製品、飲料製品、若しくは飼料と混合され得、又は食料製品、飲料製品、若しくは飼料に添加され得る。組成物、又は混合された組成物及び食料製品、飲料製品、又は飼料を加熱時に、肉様の芳香及び/又は風味が生成され得る。
【0022】
別の態様では、リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス、又は本発明の組成物を含む、食料製品、飲料製品、又は飼料が提供され、任意選択で、食料製品、飲料製品、又は飼料は、5重量%未満の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む。いくつかの例では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、肉様の芳香及び/又は風味を有する。特定の例では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、加熱されたときに肉様の芳香及び/又は風味を生成する。いくつかの実施形態では、モルティエレラ種は、モルティエレラ・アルビナ、モルティエレラ・エロンガタ、又はモルティエレラ・エキシグアである。
【0023】
食料製品、飲料製品、又は飼料のいくつかの実施形態では、リン脂質は、1つ以上のエステル化ω6脂肪酸、例えば、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、又はγ-リノレン酸(GLA)を含む。
【0024】
いくつかの例では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、肉又は肉様製品、例えば、バーガー、ソーセージ、ホットドック、ミンチ若しくはひき肉、ステーキ、ストリーク、ストリップ、ヒレ肉、焼肉、胸肉、もも肉、手羽元、ミートローフ、フィンガー、ナゲット、カツレツ、サイコロ肉、ベーコン、スープ、肉汁、スライス肉、ミートボール、魚、フライドフィッシュ若しくはシーフード又はそれらの模倣物である。一実施形態では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、動物又は動物由来原料を全く含まない。別の実施形態では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、動物又は動物由来原料を含み、任意選択で、動物又は動物由来原料は肉である。
【0025】
特定の例では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はアミノ基を含む化合物(例えば、チアミン)を含む。一例では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生じるのに十分な量で食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する。いくつかの実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに1,3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン、又は1,3,5-チトリアンから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する。更なる実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する。
【0026】
いくつかの例では、食品、飲料製品、又は飼料は、リン脂質を含むモルティエレラ種由来の抽出脂質を含む。
【0027】
一実施形態では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、約2.5重量%以下の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含み得る。
【0028】
また、食料製品、飲料製品、又は飼料を製造する方法であって、リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス、又は本発明の組成物を、1つ以上の追加の摂取可能原料と組み合わせることを含む、方法も提供される。
【0029】
また、食料製品、飲料製品、又は飼料を製造する方法であって、a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス;1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体;及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はチアミン、又はb)本発明による組成物を、1つ以上の追加の摂取可能原料と組み合わせることを含み、食料製品、飲料製品、又は飼料が、約2.5重量%以下の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む、方法も提供される。
【0030】
また、本発明による組成物を製造する方法であって、a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス、b)1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及びc)1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はチアミンを、1つ以上の追加の摂取可能原料と組み合わせることを含み、組成物が、約2.5重量%以下の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む、方法も提供される。
【0031】
また、食料様の芳香及び/又は風味を生成する方法であって、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を加熱することを含む、方法も提供される。また、食料様の芳香及び/又は風味を生成する方法であって、本発明による組成物を食料製品、飲料製品、又は飼料と混合又は添加することと、加熱することとを含む、方法も提供される。また、食料様の芳香及び/又は風味を生成する方法であって、本発明による組成物を加熱することと、加熱された組成物を食料製品、飲料製品、又は飼料と混合又はそれに添加することとを含む、方法も提供される。
【0032】
別の態様では、食料製品、飲料製品、又は飼料に食料様の芳香及び/又は風味をもたらす方法であって、食料製品、飲料製品、又は飼料を、リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス又は本発明の組成物と接触させることと、食料製品、飲料製品、若しくは飼料及びモルティエレラ種バイオマス又は組成物を加熱することとを含む、方法が提供される。
【0033】
更なる態様では、食料製品、飲料製品、又は飼料に関連する食料様の芳香及び/又は風味を向上させる方法であって、食料製品、飲料製品、又は飼料を、リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス又は本発明の組成物と接触させることと、食料製品、飲料製品、若しくは飼料、及びリン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス又は組成物を加熱することとを含む、方法が提供される。
【0034】
食料製品、飲料製品、又は飼料に関連する食料様の芳香及び/又は風味を向上させる方法であって、a)本発明の組成物を加熱することと、b)食料製品、飲料製品、又は飼料を、工程a)で得られた組成物と接触させることとを含む、方法も提供される。
【0035】
上記方法のいくつかの例では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、肉又は肉様製品である。更なる例では、モルティエレラ種バイオマスは、食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在し、又は5重量%未満の乾燥モルティエレラ種バイオマスの量若しくは等価量の湿潤バイオマスで食料製品、飲料製品、又は飼料と接触する。一実施形態では、食料様の芳香及び/又は風味は、肉らしい芳香及び/又は風味である。特定の実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも約130℃に及び/又は少なくとも約1時間加熱される。
【0036】
更なる態様では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料におけるリン脂質を含むモルティエレラ種バイオマスの使用であって、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が、5重量%未満の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む、使用が提供される。いくつかの例では、使用は、当該組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料に食料様(例えば、肉らしい又は肉様)の芳香及び/又は風味をもたらすためのものである。
【0037】
いくつかの例では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料におけるモルティエレラ種は、モルティエレラ・アルピナ、モルティエレラ・エロンガタ、又はモルティエレラ・エキシグアである。特定の実施形態では、リン脂質は、1つ以上のエステル化ω6脂肪酸(例えば、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、又はγ-リノレン酸(GLA))を含む。
【0038】
本発明の使用のいくつかの例では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、肉又は肉様製品、例えば、バーガー、ソーセージ、ホットドック、ミンチ若しくはひき肉、ステーキ、ストリーク、ストリップ、ヒレ肉、焼肉、胸肉、もも肉、手羽元、ミートローフ、フィンガー、ナゲット、カツレツ、サイコロ肉、ベーコン、スープ、肉汁、スライス肉、ミートボール、魚、フライドフィッシュ若しくはシーフード又はそれらの模倣物である。一例では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、動物又は動物由来原料を全く含まない。別の例では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、動物又は動物由来原料を含み、任意選択で、動物又は動物由来原料は、肉である。
【0039】
本発明の使用の特定の実施形態では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はアミノ基を含む化合物(例えば、チアミン)を含む。いくつかの例では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩(又はアミノ基を含む化合物)は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生じるのに十分な量で組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する。特定の例では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに1,3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン、又は1,3,5-チトリアンから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する。一例では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する。
【0040】
本発明の使用のいくつかの例では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、リン脂質を含むモルティエレラ種由来の抽出脂質を更に含む。
【0041】
本発明の使用の特定の実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、約2.5重量%以下の乾燥モルティエレラ種バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む。
【0042】
以下から選択されるモルティエレラ種の単離株も提供される。
i)オーストラリア国立計測研究所(National Measurement Institute Australia)に2021年10月12日にV21/019953の下で寄託されたyNI0125、
ii)オーストラリア国立計測研究所に2021年10月12日にV21/019951の下で寄託されたyNI0126、
iii)オーストラリア国立計測研究所に2021年10月12日にV21/019952の下で寄託されたyNI0127、及び
iv)オーストラリア国立計測研究所に2021年10月12日にV21/019954の下で寄託されたyNI0132。
【0043】
オーストラリア国立計測研究所に2021年2月4日に寄託受託番号V22/001757の下で寄託されたムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis)yNI0121の単離株も提供される。
【0044】
本開示の例示的な実施形態は、以下の図面を参照して、非限定的な例としてのみ本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【0046】
【0047】
【
図3】ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)によって測定した、実施例5、実験3におけるように、抽出脂質をリボース及びシステインの混合物と共に加熱することによって放出された揮発性化合物のプロファイルを示す。同定された化合物の各々のレベルは、同定された総化合物の面積百分率(%)として示す(左列、YL ARA PL%、右列、YL PL%)。
【0048】
【
図4-1】ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)によって測定された、実施例5、実験5に記載の2.5又は5.0mgの18:0/18:1-ホスファチジルコリン(PC)又はARA-PCを含む混合物のメイラード反応によって放出された揮発性化合物のプロファイルを示す。各化合物について、左から右に、Con-2.5、Con-5.0、ARA PC2.5、ARA PC5.0。
【
図4-2】ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)によって測定された、実施例5、実験5に記載の2.5又は5.0mgの18:0/18:1-ホスファチジルコリン(PC)又はARA-PCを含む混合物のメイラード反応によって放出された揮発性化合物のプロファイルを示す。各化合物について、左から右に、Con-2.5、Con-5.0、ARA PC2.5、ARA PC5.0。
【
図4-3】ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)によって測定された、実施例5、実験5に記載の2.5又は5.0mgの18:0/18:1-ホスファチジルコリン(PC)又はARA-PCを含む混合物のメイラード反応によって放出された揮発性化合物のプロファイルを示す。各化合物について、左から右に、Con-2.5、Con-5.0、ARA PC2.5、ARA PC5.0。
【0049】
【
図5】加工された植物性タンパク質及び様々な量のモルティエレラ・アルピナバイオマスを含む食料製品試料の肉らしさの官能評価の結果を示す。各量(百分率値)について、列は左から右に、芳香、味;合計である。
【0050】
【
図6】加工された植物性タンパク質及び様々な量のモルティエレラ・アルピナバイオマスを含む食料製品試料の心地よさの官能評価の結果を示す。各量(百分率値)について、列は左から右に、芳香、味;合計である。
【0051】
【
図7】加工された植物性タンパク質及び様々な量のモルティエレラ・アルピナバイオマスを含む食料製品試料の官能評価の、肉らしさと心地よさとの組み合わせの結果を示す。各列の上部は肉らしさ合計を表し、各列の下部は心地よさ合計を表す。
【0052】
【
図8】様々な濃度のメイラード反応マトリックス及びモルティエレラ・アルピナバイオマスを含む試料の官能評価の肉らしさの結果を示す。各濃度について、列は左から右に、匂い、味;合計である。
【0053】
【
図9】様々な濃度のメイラード反応マトリックス及びモルティエレラ・アルピナバイオマスを含む試料の官能評価の心地よさの結果を示す。各濃度について、列は左から右に、匂い、味;合計である。
【0054】
【
図10】様々な濃度のメイラード反応マトリックス及びモルティエレラ・アルピナバイオマスを含む試料の官能評価の、肉らしさと心地よさとの組み合わせの結果を示す。
【0055】
【
図11】モルティエレラ・アルピナバイオマス又はモルティエレラ・イサベリナバイオマスとのメイラード反応物を含む試料の官能評価の、肉らしさと心地よさとの組み合わせの結果を示す。各試料について、列は左から右に、心地よさ、肉らしさ、全体である。
【0056】
【
図12】モルティエレラ・アルピナバイオマス及び様々な量のシスチンとのメイラード反応物を含む試料の官能評価の結果を示す。A及びBでは、各試料について、列は左から右に、芳香、味;合計である。Cでは、各試料について、列は左から右に、心地よさ合計、肉らしさ合計、合計スコアである。
【0057】
【
図13】モルティエレラ・アルピナバイオマス及び様々な量のシスチンとのメイラード反応物を含む食料試料の官能評価の結果を示す。A及びBでは、各試料について、列は左から右に、芳香、味;合計である。Cでは、各試料について、列は左から右に、心地よさ合計、肉らしさ合計、合計スコアである。
【0058】
【
図14】モルティエレラ・アルピナバイオマス及び様々な量のデキストロースとのメイラード反応物を含む試料の官能評価の結果を示す。A及びBでは、各試料について、列は左から右に、芳香、味;合計である。Cでは、各試料について、列は左から右に、心地よさ合計、肉らしさ合計、合計スコアである。
【0059】
【
図15】モルティエレラ・アルピナバイオマス及び様々な量のデキストロースとのメイラード反応物を含む食料試料の官能評価の結果を示す。A及びBでは、各試料について、列は左から右に、芳香、味;合計である。Cでは、各試料について、列は左から右に、心地よさ合計、肉らしさ合計、合計スコアである。
【0060】
【
図16】モルティエレラ・アルピナバイオマス並びにシステイン、シスチン、リボース及びデキストロースの様々な組み合わせとのメイラード反応物を含む食料試料の官能評価の結果を示す。A及びBでは、各試料について、列は左から右に、芳香、味;合計である。Cでは、各試料について、列は左から右に、心地よさ合計、肉らしさ合計、合計スコアである。
【0061】
【
図17】実施例17に記載される8つの試料(表37に定義されるS1~S8)においてGC-MSによって同定された57種の揮発性化合物の相対量を示す。
【0062】
【
図18】実施例21に記載されるモルティエレラバイオマスとのメイラード反応物を含む組成物の官能評価の結果を示す。
【0063】
【
図19】実施例22に記載されるモルティエレラ種の系統発生分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
定義
特段の規定がない限り、本明細書で用いられる全ての科学技術用語は、本開示が属する技術分野における当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等の方法及び材料を本開示の実施又は試験において使用することができるが、典型的な方法及び材料を記載する。
【0065】
本明細書全体を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語句、又は「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、記載された工程若しくは要素若しくは整数又は工程若しくは要素若しくは整数の群を含むが、任意の他の工程若しくは要素若しくは整数又は工程若しくは要素若しくは整数の群を除外しないことを意味すると理解される。したがって、本明細書の文脈において、用語「含む(comprising)」は、「主に含むが、必ずしもそれらのみを含むものではない」ことを意味する。
【0066】
本明細書の文脈において、冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法的目的語の1つ又は2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指す。例として、「an element(要素)」は、1つの要素又は2つ以上の要素を意味する。
【0067】
本明細書の文脈において、「約」という用語は、当業者が、同じ機能又は結果を達成する文脈において列挙された値と同等であると考える数の範囲を指すと理解される。
【0068】
本明細書の文脈において、本明細書に開示される数の範囲(例えば、1~10)への言及はまた、その範囲内の全ての有理数(例えば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9、及び10)並びにまたその範囲内の有理数の任意の範囲(例えば、2~8、1.5~5.5、及び3.1~4.7)への言及も組み込み、したがって、本明細書に明示的に開示される全ての範囲の全ての部分範囲が、本明細書によって明示的に開示される。これらは、具体的に意図されるものの例に過ぎず、列挙された最低値と最高値との間の数値の全ての可能な組み合わせが、同様に本出願において明示的に述べられているとみなされるべきである。
【0069】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語は、「及び」若しくは「又は」、又はその両方を意味する。
【0070】
「任意選択で」という用語は、本明細書では、その後に記載される特徴が存在してもしなくてもよいこと、又はその後に記載される事象若しくは状況が起こっても起こらなくてもよいことを意味するために使用される。したがって、本明細書は、特徴が存在する実施形態及び特徴が存在しない実施形態、並びに事象又は状況が生じる実施形態及びそれが生じない実施形態を含み、包含することが理解されるであろう。
【0071】
本明細書で使用される場合、「脂質」は、エステル化されていてもエステル化されていなくてもよい脂肪酸、又はそれらの誘導体のいずれか、又はそれらを含む有機化合物のクラスのいずれかであり、水に不溶性であるが、有機溶媒、例えばクロロホルムに可溶性である。本明細書で使用される場合、「抽出脂質」という用語は、微生物細胞から抽出された脂質組成物を指す。抽出脂質は、例えば、細胞を溶解し、脂質を分離することによって得られる比較的粗製の組成物、又は細胞に由来する水、核酸、タンパク質、及び炭水化物のうちの1つ以上又は各々の、全てではないとしても大部分が除去されている、より精製された組成物であり得る。精製方法の例を以下に記載する。抽出脂質は、例えば、組成物の少なくとも約10重量%、少なくとも約20重量%、少なくとも約30重量%、少なくとも約40重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、又は少なくとも約95重量%(w/w)の脂質を含み得る。特定の実施形態では、抽出脂質は、約10重量%~95重量%の脂質、例えば、約10重量%~約50重量%、又は約50重量%~95重量%の脂質を含む。脂質は、室温(25℃)で固体若しくは液体、又はその2つの混合物であり得、液体である場合、油であると考えられ、固体である場合、脂肪であると考えられる。一実施形態では、抽出脂質は、別の供給源から生成された別の脂質、例えば動物脂質とブレンドされていない。あるいは、抽出脂質は、異なる脂質とブレンドされてもよい。抽出脂質は、微生物細胞中に最初に存在する全ての脂質を含有し得、又は微生物細胞中に最初に存在する脂質の一部分のみを含有し得、例えば、抽出脂質は、特定のタイプの脂質の一部又は全部を除去するように、例えば、中性脂質(トリアシルグリセロール(トリグリセリド、「TAG」)など)の一部又は全部を除去し、極性脂質(リン脂質など)を保持するように処理されていてもよい。
【0072】
本明細書で使用される場合、「極性脂質」という用語は、リン脂質(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール)、セファリン、スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリン及びスフィンゴ糖脂質)、ホスファチジン酸、カルジオリピン、及びグリセロ糖脂質を含む、親水性頭部及び疎水性尾部を有する両親媒性脂質分子を指す。リン脂質は、以下の主要な構造単位:脂肪酸、グリセロール、リン酸、及びアミノアルコールから構成される。それらは概して、植物、微生物、及び動物の膜の構造において重要な役割を果たす構造脂質であると考えられる。それらの化学構造から、極性脂質は双極性を示し、極性溶媒及び非極性溶媒の両方に可溶性又は部分的可溶性を示す。
【0073】
「リン脂質」という用語は、本明細書で使用される場合、親水性頭部及び疎水性尾部を有し、リン酸「頭部」基にエステル化されたグリセロール骨格及び疎水性尾部を提供する2つの脂肪酸を有する両親媒性分子を指す。リン酸基は、コリン、エタノールアミン、又はセリンなどの単純な有機分子で修飾することができる。中性pHで荷電した頭部基により、リン脂質は極性脂質であり、クロロホルムなどの溶媒に加えてエタノールなどの溶媒にいくらかの可溶性を有する。リン脂質は、全ての細胞膜の重要な成分である。それらは、両親媒性特性から脂質二重層を形成することができる。周知のリン脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ジホスファチジルグリセロール、及びカルジオリピンが挙げられる。
【0074】
本明細書で使用される場合、「非極性脂質」という用語は、有機溶媒に可溶性であるが水に不溶性である脂肪酸及びその誘導体を指す。脂肪酸は、遊離脂肪酸及び/又はエステル化形態であり得る。エステル化形態の例としては、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、モノアシルグリセロール(MAG)が挙げられるが、これらに限定されない。非極性脂質としては、ステロール、ステロールエステル、及びワックスエステルも挙げられる。非極性脂質は、「中性脂質」としても知られ、又は文脈によっては「油」と呼ばれる。非極性脂質は、非極性脂質中の脂肪酸の不飽和度に応じて、室温で液体であっても固体であってもよい。典型的には、脂肪酸内容物が飽和するほど、脂質の融解温度は高くなる。
【0075】
本明細書で使用される場合、「脂肪酸」という用語は、脂肪族炭化水素鎖及び末端カルボキシル基からなるカルボン酸を指す。炭化水素鎖は、飽和又は不飽和のいずれかであり得る。不飽和脂肪酸としては、1つの炭素-炭素二重結合のみを有する一価不飽和脂肪酸、及び少なくとも2つの炭素-炭素二重結合、典型的には2~6個の炭素-炭素二重結合を有する多価不飽和脂肪酸(PUFA)が挙げられる。脂肪酸は、遊離脂肪酸(FFA)であってもよく、又はグリセロール若しくはグリセロール-リン酸分子(例えば、リン脂質として)、CoA分子若しくは当技術分野で公知の他の頭部基にエステル化されていてもよい。
【0076】
本明細書で使用される場合、「総脂肪酸(TFA)含量」という用語又はその変形は、例えば、抽出脂質又は微生物細胞中の重量基準での脂肪酸の総量を指す。TFAは、細胞又は他の画分の重量百分率として、例えば、極性脂質の百分率として表され得る。特に明記しない限り、細胞重量に関する重量は、乾燥細胞重量(DCW)である。一実施形態では、TFA含量は、脂肪酸の脂肪酸メチルエステル(FAME)又は脂肪酸ブチルエステル(FABE)への変換及びGCによるFAME又はFABEの量の測定によって測定され、GCにおける定量標準として既知量の代表となる脂肪酸標準の添加を使用する。典型的には、C10~C24の範囲の脂肪酸のみを含む脂質又は組成物の量及び脂肪酸組成は、FAMEへの変換によって決定され、一方、C4~C10の範囲の脂肪酸を含む脂質又は組成物では、FABEへの変換によって決定される。したがって、TFAは、脂質又は組成物中の脂肪酸及びそれらの結合部分の重量ではなく、脂肪酸のみの重量を表す。
【0077】
「飽和脂肪酸」は、アシル鎖に沿って二重結合又は他の官能基を全く含まない。「飽和」という用語は、全ての炭素(カルボン酸[-COOH]基を除く)が可能な限り多くの水素を含有するという点で、水素を指す。
【0078】
「不飽和脂肪酸」は、鎖に沿って1つ以上のアルケン官能基が存在し、各アルケンが鎖の単結合「-CH2-CH2-」部分を二重結合「-CH=CH-」部分(すなわち、別の炭素に二重結合した炭素)で置換していることを除いて、飽和脂肪酸と同様の形態である。二重結合のいずれかの側に結合している鎖中の2個の隣接炭素原子は、シス又はトランス配置、好ましくはシス配置で存在することができる。
【0079】
本明細書中で使用される場合、「一価不飽和脂肪酸」という用語は、炭素鎖中に少なくとも12個の炭素原子を含み、鎖中に1つのみのアルケン基(炭素-炭素二重重結合)を含む、脂肪酸を指す。一価不飽和脂肪酸としては、C12:1Δ9、C14:1Δ9、C16:1Δ9(パルミトレイン酸)、C18:1Δ9(オレイン酸)、及びC18:1Δ11(バクセン酸)が挙げられる。
【0080】
本明細書で使用される場合、「多価不飽和脂肪酸」又は「PUFA」という用語は、典型的には炭素鎖中に少なくとも12個の炭素原子を含み、少なくとも2つのアルケン基(炭素-炭素二重結合)を含む、脂肪酸を指す。通常、脂肪酸の炭素鎖中の炭素原子の数は、非分岐炭素鎖を指す。別段の記載がない限り、炭素鎖が分岐している場合、炭素原子の数は、側基における炭素原子を除外する。特に、「ω6脂肪酸」、「オメガ6脂肪酸」、又は「n-6脂肪酸」(これら3つの用語は、本明細書において互換的に使用される)は、脂肪酸のメチル末端から6番目の炭素-炭素結合において最終不飽和化部(炭素-炭素二重結合)を有する。ω6脂肪酸の例としては、アラキドン酸(ARA、C20:4Δ5,8,11,14;ω6)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA、C20:3Δ8,11,14;ω6)、エイコサジエン酸(EDA、C20:2Δ11,14;ω6)、ドコサテトラエン酸(DTA、C22:4Δ7,10,13,16;ω6)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6、C22:5Δ4,7,10,13,16;ω6)、γ-リノレン酸(GLA、C18:3Δ6,9,12;ω6)及びリノール酸(LA、C18:2Δ9,12;ω6)が挙げられる。ω3/オメガ3/n-3脂肪酸は、脂肪酸のメチル末端から3番目の炭素-炭素結合に最終的な不飽和化部(炭素-炭素二重結合)を有する。ω3脂肪酸としては、例えば、α-リノレン酸(ALA、C18:3Δ9,12,15;ω3)、ヘキサデカトリエン酸(C16:3ω3)、エイコサペンタエン酸(EPA、C20:5Δ5,8,11,14,17;ω3)、ドコサペンタエン酸(DPA、C22:5Δ7,10,13,16,19、ω3)、ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6Δ4,7,10,13,16,19、ω3)、エイコサテトラエン酸(ETA、C20:4Δ8,11,14,17;ω3)、及びエイコサトリエン酸(ETrA、C20:3Δ11,14,17;ω3)が挙げられる。
【0081】
本明細書で使用される場合、「C12:0」は、ラウリン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C14:0」はミリスチン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C15:0」は、n-ペンタデカン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C16:0」は、パルミチン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C17:1」は、ヘプタデセン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C16:1Δ9」は、パルミトレイン酸又は-ヘキサデカ-9-エン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C18:0」はステアリン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C18:1Δ9」は、短縮して「C18:1」と呼ばれることもあり、オレイン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C18:1Δ11」は、バクセン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C20:0」はエイコサン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C20:1」はエイコセン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C22:0」はドコサン酸を指す。本明細書で使用される場合、「C22:1」はエルカ酸を指す。本明細書で使用される場合、「C24:0」はテトラコサン酸を指す。
【0082】
「トリアシルグリセリド」、「トリグリセリド」、又は「TAG」は、グリセロールが3つの脂肪酸でエステル化されているグリセリドであり、3つの脂肪酸は同じであってもよく(例えば、トリオレインにおけるように)、又は、より一般的には異なっていてもよい。脂肪酸の3つ全てが異なっていてもよく、又は脂肪酸の2つが同じであり、第3が異なっていてもよい。TAG合成のケネディ経路において、DAGは、以下に記載されるように形成され、次いで、第3のアシル基が、ジグリセリドアシルトランスフェラーゼ(DGAT)の活性によってグリセロール骨格にエステル化される。TAGは、非極性脂質の形態である。TAG分子中でエステル化された3つのアシル基は、TAG分子のグリセロール骨格中の位置を参照して、sn-1、sn-2、及びsn-3位でエステル化されていると称される。sn-1位及びsn-3位は化学的に同一であるが、生化学的には、sn-1位及びsn-3位でエステル化されたアシル基は、別々の異なるアシルトランスフェラーゼ酵素がエステル化を触媒するという点で異なる。
【0083】
「ジアシルグリセリド」、「ジグリセリド」、又は「DAG」は、グリセロールが、同じであってもよく好ましくは異なっていてもよい2つの脂肪酸でエステル化されている、グリセリドである。本明細書で使用される場合、DAGは、sn-1,3位又はsn-2位にヒドロキシル基を含み、従って、DAGは、リン酸化グリセロ脂質分子(例えば、PA又はPC)を含まない。DAG合成のケネディ経路において、前駆体sn-グリセロール-3-リン酸(G3P)は、sn-1位でグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)によって触媒される第1の反応において、脂肪酸補酵素Aエステルに各々が由来する2つのアシル基にエステル化されて、LysoPAを形成し、続いて、リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)によって触媒されるsn-2位での第2のアシル化によってホスファチジン酸(PA)を形成する。次いで、この中間体は、PAPによって脱リン酸化されて、DAGを形成する。
【0084】
本明細書で使用される場合、「油」は、主に脂質を含み、室温で液体である組成物である。
【0085】
本明細書で使用される場合、「油性」細胞又は微生物は、乾燥重量基準でその細胞質量の少なくとも20%、例えば20%~70%などの脂質を貯蔵することができるものである。脂質含量は、当該分野で公知であるように、培養条件に応じて異なり得る。微生物が少なくとも1組の培養条件下で、乾燥細胞重量基準で少なくとも20%の脂質を合成及び蓄積することができる限り、それは、異なる条件下で20%未満の脂質を蓄積する場合であっても、油性細胞と見なされると理解される。
【0086】
本明細書で使用される場合、「従属栄養性」細胞は、代謝及び増殖のための炭素源として有機物質を利用することができる細胞である。従属栄養生物はまた、好適な条件下で独立栄養的に増殖することもできることがある。
【0087】
本明細書で使用される場合、「発酵」は、酸素を欠くか又は空気と比較して酸素のレベルが低下しているかのいずれかの条件下で、細胞中の酵素の作用を介して有機基質に化学変化を生じさせる、代謝プロセスを指す。
【0088】
本明細書で使用される場合、「肉様の風味及び/又は芳香」又は「肉関連の風味及び/又は芳香」又は「肉らしい風味及び/又は芳香」は、1つ以上の肉、例えば、牛肉、ステーキ、鶏肉、例えば、ローストした鶏肉又は皮、豚肉、ラム肉、アヒル肉、鹿肉、鶏肉又は他の肉スープ、肉だし汁又は肝臓と同じ又は類似の風味及び/又は芳香を指す。このような芳香は、典型的には、人間応募者によって、例えば資格のある官能パネルによって検出される。肉様又は肉関連の風味及び/又は芳香は、組成物又は食料の調理後に生じる揮発性化合物を評価することによっても検出することができる。肉様又は肉関連の芳香及び風味を示す揮発性化合物は、当技術分野において公知であり、1,3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン、及び1,3,5-チトリアンを含むがこれに限定されない、本明細書に例示されるものが挙げられる。
【0089】
組成物、食料製品、及び飲料製品並びに飼料
本発明は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料における、リン脂質を含む微生物バイオマス、例えばリン脂質を含むモルティエレラ種バイオマスの使用に関する。本発明は更に、リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマスなどの微生物バイオマスを含む組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料に関する。本発明はまた、加熱されたときに食料様の芳香を生成することができる組成物であって、微生物バイオマス、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体を含む、組成物に関する。
【0090】
理解されるように、本発明の組成物は、食料製品、飲料製品、又は飼料を含み得る。したがって、「組成物」という用語は、非食料組成物、及び食料製品、飲料製品、又は飼料である組成物を包含する。特定の実施形態では、組成物は、所望の風味を有する食料製品、飲料製品、又は飼料を製造するために他の原料に添加することができる、濃縮液体又は固体の「風味付け組成物」である。他の実施形態では、組成物という用語は、食料製品、飲料製品、又は飼料と互換的に使用される。
【0091】
特定の実施形態では、本発明は、加熱されたときに食料様の芳香及び/又は風味を生成することができる組成物であって、
a)リン脂質を含むバイオマス、例えばモルティエレラ種バイオマス、
b)1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び
c)1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はアミノ基を含む化合物(例えば、チアミン)を含む、組成物に関する。
【0092】
本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、人間又は動物の摂取、典型的には少なくとも人間の摂取に適している。
【0093】
本発明は、組成物、並びに本発明の組成物を含む食料製品、飲料製品、又は飼料を含む、食料製品、飲料製品、又は飼料に関する。本発明の組成物は、所望の食料様の芳香をもたらすために、食料製品、飲料製品、又は飼料に取り込まれ得る。食料製品、飲料製品、又は飼料は、人間又は動物の摂取、典型的には少なくとも人間の摂取に適している。食料製品、飲料製品、又は飼料は、人間又は動物が摂取するための調製物であり、体内に取り込まれた場合に、(a)組織に栄養を与える、若しくは組織を構築する、若しくはエネルギーを供給するように機能し、及び/又は(b)適切な栄養状態若しくは代謝機能を維持、回復若しくは支持する。「食料製品」は、概して、固体、半固体、又は風味のある液体製品を含むと考えられ得、「飲料製品」は、概して、液体の飲用可能な製品を含むと考えられ得、「飼料」は、概して、家畜などの動物用食料を含むと考えられ得る。「食料製品」、「飲料製品」、及び「飼料ストック」という用語の意味には重複があり、これらの用語は、状況によっては互換的に使用され得ることが理解されるであろう。
【0094】
特定の実施形態では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、肉又は魚の代用品、すなわち、典型的には肉又は魚を含有する食料製品又は飲料製品を模倣することを意図した、例えば菜食主義者又はビーガンの食事で使用するための、食料製品又は飲料製品である。いくつかの代替的な実施形態では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、肉又は魚を含む製品であり得、本発明の組成物は、製品に追加の又は代替的な風味又は芳香をもたらすために含まれ得る。例えば、食料製品、飲料製品、又は飼料製品は、動物から得られた肉及び/又は栽培すなわち培養された肉(すなわち、インビトロで動物細胞を培養することによって製造された肉)を含み得る。いくつかの例では、食料製品、飲料製品、又は飼料製品は、肉(例えば、動物から得られた肉及び/又は栽培すなわち培養された肉)と非動物性タンパク質(例えば、植物又は微生物タンパク質)とのブレンドである。好適な食料製品、飲料製品、又は飼料としては、肉若しくは魚の代用品又は肉若しくは魚ベースの製品、スープベース、シチューベース、スナックフード、ブイヨン粉末、ブイヨンキューブ、風味パケット、調味料又は冷凍食料製品が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、いくつかの特定の実施形態では、食料製品又は飲料製品は、例えば、バーガー、ソーセージ、ホットドック、ミンチ又はひき肉、ステーキ、ストリーク、ストリップ、ヒレ肉、焼肉、胸肉、もも肉、手羽元、ミートローフ、フィンガー、ナゲット、カツレツ、サイコロ肉、ベーコン、スープ、肉汁、スライス肉、ミートボール、魚、フライドフィッシュ又はシーフードであってもよく、又はそれらを模倣することが意図されてもよい。
【0095】
特に好ましい実施形態では、食料製品は、肉又は肉様製品である。「肉様製品」は、肉製品に似ているが、必ずしも任意の肉を含有しなくてもよい製品、例えば、肉代替バーガー、ソーセージ、挽肉、ミートボール、ストリップ、又は他の製品を指すものとして容易に理解される。いくつかの例では、肉様製品は、動物性製品を含まない。他の例では、肉又は肉様製品は、培養肉(すなわち、動物細胞をインビトロで培養することによって製造された肉)を含む。
【0096】
肉代用品を含む、食料、飼料、及び飲料を製造するための原料及び方法は、当技術分野において周知であり(例えば、国際公開第2008124370号、国際公開第2013010042号、国際公開第2015153666号、及び国際公開第2017070303号を参照されたく、これらの内容全体は、参照によりその全体が組み込まれる)、食料、飼料、又は飲料を製造するために、微生物バイオマス(例えば、モルティエレラ種バイオマス)又は本発明の組成物で使用することができる。
【0097】
本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び/又は抽出脂質、及び/又は本発明の組成物は、食料製品、飲料製品、又は飼料の風味及び/又は芳香を増強又は変化させることによって、食料製品、飲料製品、又は飼料の風味及び/又は芳香を調節するために使用され得る。例えば、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質、及び/又は本開示の組成物は、例えば、肉、魚、若しくは野菜らしい風味及び/又は芳香を増強することによって、又はそのような風味及び/又は芳香を食料製品、飲料製品、又は飼料に導入することによって、食料製品、飲料製品、又は飼料の風味及び/又は芳香を増強又は変化させ得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質、又は本開示の組成物、食料製品、飲料製品、若しくは飼料は、例えば、別個の製品の肉らしさ若しくは魚らしさを増強することによって、又は製品の芳香若しくは風味を変化させることによって、それが添加される別個の製品の味及び/又は芳香を増強又は調節するために、別個の製品に原料として添加されることが意図される。本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質、又は本開示の組成物、食料製品、飲料製品、若しくは飼料を使用して、例えば、肉代替品、肉代用品、豆腐、セイタン、モックダック(mock duck)若しくはグルテンベースの野菜製品、加工大豆タンパク質などの加工植物性タンパク質、豚肉、魚、ラム肉、又は鶏肉若しくは七面鳥製品などの家禽製品の味及び/又は芳香プロファイルを増強又は変化させることによって調節することができ、調理前又は調理中に他の食料製品に適用することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質、又は本明細書に記載される組成物、食料製品、飲料製品、若しくは飼料を使用することにより、特定の肉らしい味及び匂い、例えば、牛肉の味及び匂いを非肉製品又は家禽製品にもたらすことができる。
【0098】
特に好ましい実施形態では、本開示の組成物は、モルティエレラ種(又は他の微生物)バイオマス以外の供給源に由来する20%未満のタンパク質、任意選択で15%未満、10%未満、5%未満のタンパク質を含み、又はモルティエレラ種(又は他の微生物)バイオマスによって提供されるタンパク質以外のタンパク質を含まない。対照的に、本開示の食料製品、飲料製品、及び飼料は、任意選択で5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%又は40%を超える量の添加タンパク質を含み得る。
【0099】
本明細書に例示されるように、本発明者らは、リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマスを含む、特定の微生物バイオマスが、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料において、加熱されたときにメイラード反応の発生によると考えられる食料様の芳香、特に肉らしい芳香を生成することを見出した。リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマスは、食料製品及び飲料製品及び飼料に芳香及び/又は風味をもたらすのに使用され、又は食料製品及び飲料製品及び飼料の芳香及び/又は風味、特に、肉及び魚らしい芳香及び/又は風味、例えば、動物性肉、魚、又は他の動物性製品を含むことがない肉又は魚代替食料製品における芳香及び/又は風味を増強するのに使用される。リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマスをそのような組成物又は食料製品、飲料製品、又は飼料に含めることは、肉らしい芳香などの食料様の芳香を生成するのに特に有効であることが見出された。バイオマスは、典型的には微生物の全細胞を含み、細胞と、脂質、タンパク質、糖及びグルカンなどの炭水化物、並びに核酸などの細胞由来化合物との粗混合物であってもよい。細胞は、生きていても、不活化されていても、死んでいても、又はそれらの混合であってもよい。
【0100】
本開示の組成物中の微生物(例えば、モルティエレラ種又はヤロウィア種)及び/又は抽出脂質、好ましくはリン脂質の正確な量は、例えば、微生物の同一性、微生物のバイオマスの形態及び水分含量、微生物に含まれる総脂質又はリン脂質含量及びプロファイル、所望の風味及び/又は芳香の強度、並びに組成物の意図される使用に応じて変動し得る。いくつかの例では、組成物(例えば、濃縮風味付け組成物)は、少なくとも又は約1%、2%、3%、4%、5%、5%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、若しくは25%の乾燥バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む。いくつかの例では、本発明の組成物は、1重量%~50重量%、1重量%~40重量%、1重量%~30重量%、1重量%~20重量%、5重量%~30重量%、5重量%~20重量%、若しくは5重量%~15重量%の乾燥バイオマス又は等価量の湿潤バイオマスを含む。好ましい実施形態では、本発明の食料製品、飲料製品、又は飼料は、5%未満の乾燥バイオマス(例えば、5重量%未満の乾燥モルティエレラ種)又は等価量の湿潤バイオマスを含む。本明細書で実証されるように、不快な味プロファイルは、食料製品、飲料製品、又は飼料中のバイオマスの量が特定のレベルを超える場合に生じることがある。したがって、いくつかの例では、本発明の食料製品、飲料製品、又は飼料は、約4.5重量%、4重量%、3.5重量%、3重量%、2.5重量%、2重量%、1.5重量%、1重量%、0.9重量%、0.8重量%、0.7重量%、0.6重量%、0.5重量%、0.4重量%、0.3重量%、0.2重量%。若しくは0.1重量%以下の乾燥バイオマス(例えば、乾燥モルティエレラ種バイオマス)又は等価量の湿潤バイオマスを含む。
【0101】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物(例えば、濃縮風味付け組成物)は、乾燥組成物若しくはスラリー1グラム当たり、又は液体組成物の場合には1mL当たり、少なくとも約1mgの湿潤微生物(例えば、モルティエレラ種)バイオマス、特に、少なくとも約5mg、好ましくは少なくとも約10mg、より好ましくは少なくとも約15mgの湿潤バイオマス、例えば、少なくとも約20mg、少なくとも約25mg、少なくとも約30mg、又は少なくとも約40mgの湿潤バイオマスを含む。乾燥バイオマスが使用される実施形態では、本開示の組成物は、乾燥組成物若しくはスラリー1グラム当たり、又は液体組成物の場合には1mL当たり、少なくとも約0.25mg、少なくとも約0.5mg、少なくとも約1mg、少なくとも約1.25mg、少なくとも約1.5mg、少なくとも約2mg、少なくとも約3mg、少なくとも約5mg、少なくとも約7mg、又は少なくとも約10mgの乾燥バイオマスを含み、重量又は体積は、バイオマス及び任意の抽出脂質を除いた/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて測定される。特定の実施形態では、本開示の組成物(例えば、濃縮風味付け組成物)は、乾燥組成物若しくはスラリー1グラム当たり、又は液体組成物の場合には1mL当たり、約1mg~約200mgの湿潤バイオマス、例えば、約5mg~約200mg、約7mg~約200mg、約10mg~約200mg、約20mg~約200mg、約25mg~約200mg、約30mg~約200mg、約40mg~約200mg、約30mg~約175mg、又は約40mg~約175mgの湿潤バイオマスを含む。乾燥バイオマスが使用される特定の実施形態では、本開示の組成物(例えば、濃縮風味組成物)は、乾燥組成物若しくはスラリー1グラム当たり、又は液体組成物の場合には1mL当たり、約0.25mg~約100mg、例えば約0.5mg~約100mg、例えば約1mg~約100mg、例えば約5mg~約100mg、例えば約10mg~約100mg、例えば約10mg~約80mg、例えば約10mg~約70mg、例えば約15mg~約60mg、例えば約10mg~約50mgの乾燥バイオマスを含み得る。
【0102】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、乾燥組成物若しくはスラリー1グラム当たり、又は液体組成物の場合には1mL当たり、例えば、微生物(例えば、モルティエレラ種)から抽出された少なくとも約5mgのリン脂質、例えば、微生物から抽出された少なくとも約10mg又は少なくとも約15mgのリン脂質を含む抽出脂質を含み得、重量又は体積は、バイオマス及び抽出脂質の添加を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて測定される。いくつかの実施形態によれば、組成物は、約10mg~約100mg、例えば約10mg~約80mg、例えば約10~約70mg、例えば約10~60mg、特に好ましくは約10~約50mgの、微生物から抽出されたリン脂質を含む抽出脂質を含む。いくつかの実施形態によれば、本開示の組成物は、少なくとも約15mg、例えば少なくとも約20mgの、微生物から抽出されたリン脂質を含む抽出脂質を提供する。
【0103】
本開示の食料製品、飲料製品、及び飼料、特に肉又は肉様の食料製品は、好ましい実施形態によれば、約5重量%未満の乾燥バイオマス(例えば、モルティエレラ種バイオマス)又は約20重量%未満の湿潤バイオマスを含み得る。いくつかの実施形態では、本開示の食料製品、飲料製品、又は飼料、特に肉又は肉様の食料製品は、約4.5重量%以下、約4.0重量%以下、約3.5重量%以下、約3重量%以下、約2.5重量%以下、約2重量%以下、約1.5重量%以下、約1重量%以下、若しくは約0.5重量%以下の乾燥バイオマス、又は約18重量%以下、約16重量%以下、約15重量%以下、約14重量%以下、約12重量%以下、約10重量%以下、約8重量%以下、約6重量%以下、約5重量%以下、約4重量%以下、約3重量%以下、約2重量%以下、若しくは約1重量%以下の湿潤バイオマスを含む。いくつかの特定の実施形態では、本開示の食料製品、飲料製品、又は飼料、特に肉又は肉様の食料製品は、約2.5重量%若しくはそれ未満の乾燥バイオマス又は約10重量%若しくはそれ未満の湿潤バイオマスを含む。
【0104】
本開示の食料製品、飲料製品、及び飼料、特に肉又は肉様の食料製品は、いくつかの実施形態によれば、少なくとも約0.005重量%、少なくとも約0.01重量%、少なくとも約0.025重量%、少なくとも約0.05重量%、少なくとも約0.1重量%、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約1重量%、若しくは少なくとも約1.25重量%の乾燥バイオマス(例えば、モルティエレラ種バイオマス)、又は少なくとも約0.05重量%、少なくとも約0.1重量%、少なくとも約0.25重量%、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約1重量%、少なくとも約2.5重量%、若しくは少なくとも約5重量%の湿潤バイオマスを含み得る。特定の実施形態では、本開示の食料製品、飲料製品、又は飼料、特に肉又は肉様の食料製品は、少なくとも約0.025重量%の乾燥バイオマス又は少なくとも約0.1重量%の湿潤バイオマスを含む。
【0105】
本開示の食料製品、飲料製品、及び飼料、特に肉又は肉様の食料製品は、いくつかの特定の実施形態によれば、約0.005重量%~約5重量%(又は約5重量%未満、例えば約4重量%若しくは3重量%若しくは2重量%若しくは1重量%)、約0.001重量%~約5重量%(又は約5重量%未満、例えば約4重量%若しくは3重量%若しくは2重量%若しくは1重量%)、約0.025重量%~約5重量%(又は約5重量%未満、例えば約4重量%若しくは3重量%若しくは2重量%若しくは1重量%)、例えば約0.05重量%~約5重量%(又は約5重量%未満、例えば約4重量%若しくは3重量%若しくは2重量%若しくは1重量%)、例えば約0.1重量%~約5重量%(又は約5重量%未満、例えば約4重量%若しくは3重量%若しくは2重量%若しくは1重量%)の乾燥バイオマス(例えば、モルティエレラ種バイオマス)、又は約0.05重量%~約20重量%(又は約20重量%未満)、0.1重量%~約20重量%(又は約20重量%未満)、例えば約0.25重量%~約20重量%(又は約20重量%未満)、例えば約1重量%~約20重量%(又は約20重量%)の湿潤バイオマスを含み得る。いくつかの好ましい実施形態では、本開示の食料製品、飲料製品、及び飼料、特に肉又は肉様の食料製品は、約0.025重量%~約5重量%、約0.025重量%~約4重量%、若しくは約0.025重量%~約3重量%の乾燥バイオマス、又は約0.1重量%~約20重量%、約0.1重量%~約15重量%、若しくは約0.1重量%~約10重量%の湿潤バイオマスを含む。
【0106】
本発明の組成物は、リン脂質を含む微生物バイオマス、特にモルティエレラ種バイオマス;1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体;及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はアミノ基を含む化合物(例えば、チアミン)を含む。1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はアミノ基を含む化合物(例えば、チアミン)の存在は、組成物(又は組成物が存在する食料製品、飲料製品、又は飼料)が加熱されたときに起こるメイラード反応を助けると考えられる。いくつかの実施形態では、リン脂質を含むバイオマス及び/又はリン脂質を含む抽出脂質は、食料製品、飲料製品、又は飼料に使用され、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、又はアミノ基を含む化合物(例えば、チアミン)は、食料製品、飲料製品、又は飼料の他の原料によって提供される。以下の本発明の組成物中で使用される場合の1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩の好ましい特徴への言及は、本発明による食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する場合の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及びアミノ酸又はその誘導体若しくは塩に適用され得る。
【0107】
好適な糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、当業者に周知である。これに関連して、糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体は、食料、飲料、又は飼料用途のためのメイラード反応における使用に適している。これに関連して、バイオマス又はその成分自体が糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体を含む場合であっても、糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、微生物又はその成分及びアミノ酸又はその誘導体若しくは塩以外の成分である。好適な糖、糖アルコール、糖酸、及び糖誘導体としては、グルコース、フルクトース、リボース、スクロース、アラビノース、グルコース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース1,6-二リン酸、イノシトール、マルトース、糖蜜、マルトデキストリン、グリコーゲン、ガラクトース、ラクトース、リビトール、グルコン酸及びグルクロン酸、アミロース、アミロペクチン、又はキシロースが挙げられる。特に好ましい実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、リボース、グルコース(デキストロース)、グルコースとフルクトースの組み合わせ、及びキシロースのうちの1つ以上を含む。特定の実施形態では、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、リボースを含む。他の実施形態では、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、グルコース(すなわち、デキストロース)を含む。他の実施形態では、本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、グルコース及びリボースの両方を含む。
【0108】
いくつかの実施形態によれば、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、約1mmol~約1000mmol、例えば、約5mmol~約500mmol、約5mmol~約300mmol、約20mmol~約500mmol、約20mmol~約300mmol、約5mmol~約200mmol、約5mmol~約100mmol、約5mmol~約80mmol、約5mmol~約70mmol、約10mmol~約70mmol、約15mmol~約70mmol、又は約30mmol~約60mmolの量で組成物中に存在し、この量は、バイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて測定される。いくつかの実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合は1L当たり、少なくとも約5mmol、少なくとも約10mmol、少なくとも約15mmol、少なくとも約20mmol、又は少なくとも約30mmolの量で組成物中に存在し、この量は、バイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて測定される。いくつかのそのような実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、リボース及び/又はグルコースを含む。
【0109】
いくつかの実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体は、乾燥食料若しくはスラリー1kg当たり、又は液体食料(例えば飲料)の場合には1L当たり、約0.1mmol~約100mmol、約0.5mmol~約30mmol、約0.5mmol~約50mmol、約1mmol~約50mmol、約2mmol~約40mmol、約2mmol~約30mmol、約1mmol~約25mmol、約1mmol~約20mmol、約1mmol~約10mmol、約7mmol~約20mmol、約7mmol~約15mmolの総量で食料、飼料、又は飲料中に存在し、この量は、微生物バイオマス及び/又は脂質を除く/その添加前の食料、飼料、又は飲料の重量又は体積に基づいて測定される。いくつかの例では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、乾燥食料、飼料、若しくは飲料1kg当たり、又は液体食料、飼料、若しくは飲料の場合には1L当たり、少なくとも約0.5mmol、少なくとも約1mmol、少なくとも約1.5mmol、少なくとも約2mmol、又は少なくとも約3mmolの量で食料、飼料、又は飲料中に存在し、この量は、バイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて測定される。いくつかの実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体は、リボース及び/又はグルコースを含む。
【0110】
糖「誘導体」は、例えばヒドロキシル基などの置換基の修飾による、天然に存在する糖からの修飾を含む糖を包含することが意図される。例えば、糖誘導体は、アミノ基、酸基、リン酸基、酢酸基などの代替置換基を含むように修飾されていてもよい。糖誘導体としては、アミノ糖、デオキシ糖、グリコシルアミン、及び糖リン酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
本発明において使用されるアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、食料、飲料、又は飼料用途のためのメイラード反応における使用に適している。これに関連して、アミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、バイオマス又はその成分自体がアミノ酸又はその誘導体若しくは塩を含む場合であっても、微生物(例えばモルティエレラ種バイオマス)又はその成分及び糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体以外の成分である。特定の実施形態では、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、遊離アミノ基を含有する。したがって、いくつかの実施形態では、アミノ酸又は誘導体への言及は、ペプチド又はタンパク質の文脈において存在しない遊離アミノ酸を意味する。好適なアミノ酸及びその誘導体としては、システイン、シスチン、ホモシステイン、セレノシステイン、システインスルホキシド、アリシン、セレノシステイン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、5-ヒドロキシトリプトファン、バリン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸又はグルタミン酸、グルタミン、グルタミン酸一ナトリウム、グリシン、プロリン、セリン、タウリン及びチロシンが挙げられる。特に好ましい実施形態では、アミノ酸は、システイン及び/又はシスチンである。特に好ましい実施形態では、組成物は、システインを含む。いくつかの好ましい実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、グルタミン酸又はその塩を含む。いくつかの特に好ましい実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩に加えて、グルタミン酸又はその塩(例えば、グルタミン酸一ナトリウム、又はMSG)を含む。いくつかの実施形態によれば、例えば、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、グルタミン酸又はその塩及びシステイン(又はシスチン)又はその塩を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、硫黄含有アミノ酸(例えば、システイン、メチオニン、ホモシステイン、又はタウリン)又は塩を含む。人間又は動物の摂取に適しており、したがって本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料への取り込みに適しているアミノ酸の塩は、当業者によく知られており、当業者によって容易に選択される。
【0112】
アミノ酸「誘導体」は、例えば、チロシン中にニトロ基又はチロシン中にヨウ素のように、アミノ酸の側鎖に基を導入することによって、遊離カルボキシル基をエステル基又はアミド基に変換することによって、アシル化によりアミノ基をアミドに変換することによって、ヒドロキシ基をアシル化してエステルにすることによって、第一級アミンをアルキル化して第二級アミンにすることによって、又は親水性部分のアミノ酸側鎖への結合によって、化学修飾を含むアミノ酸を包含することを意図する。他の誘導体は、アミノ酸の側鎖の酸化又は還元によって得ることができる。アミノ酸の修飾はまた、アミノ酸への/からの化学基の付加及び/又は除去によるアミノ酸の誘導を含み得、アミノアミノ酸類似体(リン酸化アミノ酸など)又はN-アルキル化アミノ酸(例えば、N-メチルアミノ酸)、D-アミノ酸、β-アミノ酸、若しくはγ-アミノ酸などの非天然アミノ酸の使用を含んでもよい。例示的な誘導体としては、誘導体部分、すなわち置換基をアミノ酸に結合させることによって得られる誘導体が挙げられる。アミノ酸の文脈における用語「誘導体」は、当業者によって容易に理解されるであろう。
【0113】
いくつかの実施形態によれば、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩の各々は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、約1mmol~約500mmol、約1mmol~約300mmol、約1mmol~約200mmol、約2mmol~約200mmol、約2mmol~約100mmol、約2mmol~約200mmol、約5mmol~約100mmol、約5mmol~約80mmol、約5mmol~約70mmol、約10mmol~約70mmol、約15mmol~約70mmol、約30mmol~約60mmol、約1mM~約50mM、又は約130mMの量で組成物中に存在し、この量は、リン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて計算される。いくつかの実施形態では、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合は1L当たり、少なくとも約1mmol、例えば少なくとも約5mmol、例えば少なくとも約10mmol、例えば少なくとも約15mmol、例えば少なくとも約20mmolの量で組成物中に存在し、この量は、バイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて測定される。いくつかのそのような実施形態では、1つ以上のアミノ酸は、システイン又はシスチンを含む。
【0114】
いくつかの実施形態によれば、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩の各々は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体食料(例えば飲料)の場合には1L当たり、約0.1mmol~約50mmol、約0.1mmol~約40mmol、約0.1mmol~約30mmol、約0.5mmol~約40mmol、約0.5mmol~約30mmol、約1mmol~約10mmol、約1.5mmol~約10mmol、約0.5~約5mmol、約1mmol~約5mmol、又は約5~約10mmolの総量で食料、飼料、又は飲料中に存在し、この量は、微生物バイオマス及び/又は脂質を除く/その添加前の食料、飼料、又は飲料の重量又は体積に基づいて計算される。好ましい実施形態では、1つ以上のアミノ酸は、システイン及び/又はシスチンを含む。
【0115】
1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩又はアミノ基を含む化合物(例えば、チアミン)は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに肉様の芳香などの食料様の芳香を生成するのに十分な量で本開示の組成物又は本開示の食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する。特定の実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料に熱が加えられたときに1,3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン及び1,3,5-チトリアンから選択される1つ以上の揮発性化合物、例えば、上記の化合物の2つ以上、3つ以上、4つ以上、又は5つ以上を生成するのに十分な量で本開示の組成物又は本開示の食料製品、飲料製品若しくは飼料中に存在する。いくつかの特定の実施形態では、1つ以上の糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体、及び1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールから選択される1つ以上の揮発性化合物を生成するのに十分な量で本開示の組成物、又は本開示の食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在する。
【0116】
いくつかの実施形態では、組成物は、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩に加えて、グルタミン酸又はその塩若しくは誘導体(例えば、MSG)を含む。いくつかの実施形態では、グルタミン酸又はその塩は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合は1L当たり、約1mmol~約200mmol又は約2mmol~約100mmol、例えば2mmol~約50mmol、例えば約2mmol~約40mmol、例えば約2mmol~約40mmol、例えば約5mmol~約40mmol、例えば約5mmol~約30mmolの量で存在し、この量は、リン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の体積に基づいて計算される。いくつかの実施形態では、グルタミン酸又はその塩は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、少なくとも約1mmol、例えば少なくとも約2mmol、例えば少なくとも約3mmol、例えば少なくとも約4mmol、例えば少なくとも約5mmol、例えば少なくとも約7mmol、例えば少なくとも約10mmolの量で存在し、この量は、バイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて測定される。いくつかの実施形態では、グルタミン酸塩は、グルタミン酸一ナトリウムである。
【0117】
いくつかの実施形態では、本発明の食料又は飲料製品又は飼料は、1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩に加えて、グルタミン酸又はその塩若しくは誘導体(例えば、MSG)を含み、グルタミン酸は乾燥組成物又はスラリー1kg当たり、又は液体組成物(例えば飲料)の場合には1L当たり、約0.1mmol~約20mmol、約0.1mmol~約15mmol、約0.3mmol~約15mmol、約0.5mmol~約10mmol、約0.5mmol~約5mmol、又は約1mmol~約5mmolの量で存在し、この量は、微生物バイオマス及び/又は脂質を除く/その添加前の食料、飼料、又は飲料の体積に基づいて計算される。
【0118】
いくつかの実施形態では、組成物は、グルタミン酸又はその塩と、システイン及びシスチンから選択される更なるアミノ酸又はその塩若しくは誘導体(又はその塩若しくは誘導体)とを含み、グルタミン酸又はその塩は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合は1L当たり、約1mmol~約200mmol又は約2mmol~約100mmol、例えば、2mmol~約50mmol、例えば、約2mmol~約40mmol、例えば、約2mmol~約40mmol、例えば、約5mmol~約40mmol、例えば、約5mmol~約30mmolの量で存在し、システイン又はシスチン(又はその塩若しくは誘導体)は、約5mmol~約200mmol又は約5mmol~約100mmol、例えば、約5mmol~約80mmol、例えば、約5mmol~約70mmol、例えば、約10mmol~約70mmol、例えば、約15mmol~約70mmol、例えば、約30mmol~約60mmolの量で存在し、その量は、リン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて計算される。いくつかの実施形態では、組成物は、グルタミン酸又はその塩と、システイン及びシスチンから選択される更なるアミノ酸又はその塩若しくは誘導体とを含み、グルタミン酸又はその塩は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合は1L当たり、少なくとも約1mmol、例えば少なくとも約2mmol、例えば少なくとも約3mmol、例えば少なくとも約4mmol、例えば少なくとも約5mmol、例えば少なくとも約7mmol、例えば少なくとも約10mmolの量で存在し、システイン又はシスチン(又はその塩若しくは誘導体)は、少なくとも約5mmol、例えば少なくとも約10mmol、例えば少なくとも約15mmol、例えば少なくとも約20mmolの量で存在し、この量は、リン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて計算される。
【0119】
いくつかの実施形態では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、グルタミン酸又はその塩と、システイン及びシスチンから選択される更なるアミノ酸又はその塩若しくは誘導体(又はその塩若しくは誘導体)とを含み、グルタミン酸又はその塩は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合は1L当たり、約0.1mmol~約20mmol又は約0.2mmol~約10mmol、例えば、0.2mmol~約5mmol、例えば、約0.2mmol~約4mmol、例えば、約0.5mmol~約4mmol、例えば、約0.5mmol~約3mmolの量で存在し、システイン又はシスチン(又はその塩若しくは誘導体)は、約0.5mmol~約50mmol又は約0.5mmol~約20mmol、例えば、約0.5mmol~約10mmol、例えば、約0.5mmol~約8mmol、例えば、約0.5mmol~約7mmol、例えば、約1mmol~約7mmol、例えば、約1.5mmol~約7mmol、例えば、約3mmol~約6mmolの量で存在し、その量は、リン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて計算される。いくつかの実施形態では、組成物は、グルタミン酸又はその塩と、システイン及びシスチンから選択される更なるアミノ酸又はその塩若しくは誘導体(又はその塩若しくは誘導体)とを含み、グルタミン酸又はその塩は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体の場合は1L当たり、少なくとも約0.1mmol、例えば少なくとも約0.2mmol、例えば少なくとも約0.3mmol、例えば少なくとも約0.4mmol、例えば少なくとも約0.5mmol、例えば少なくとも約0.7mmol、例えば少なくとも約1mmolの量で存在し、システイン又はシスチン(又はその塩若しくは誘導体)は、少なくとも約0.5mmol、例えば少なくとも約1mmol、例えば少なくとも約1.5mmol、例えば少なくとも約2mmolの量で存在し、その量は、リン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて計算される。
【0120】
本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、いくつかの好ましい実施形態によれば、鉄源を含み得る。鉄は、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料によって生成される肉らしい風味及び/又は芳香を増強し得る。いくつかの実施形態では、鉄源は、鉄塩、好ましくは第一鉄塩である。摂取に適した任意の鉄塩が使用され得、そのような塩は当業者によく知られており、例えば鉄のキレート化形態である。いくつかの実施形態では、鉄源は、フマル酸鉄(II)である。フマル酸鉄(II)は、例えば、APOHEALTH Pty Ltd(オーストラリア、ニューサウスウェールズ州)から鉄錠剤として入手可能である。バイオマス又はその成分自体が鉄を含む場合であっても、鉄源は、バイオマス又はその成分、アミノ酸又はその塩若しくは誘導体、及び糖、糖アルコール、糖酸、又は糖誘導体以外の成分である。
【0121】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、最大約100mgの元素鉄に相当する量の鉄源を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、最大約50mg、例えば約20~約50mg、例えば約30~約40mgに相当する量の鉄源を含み、濃度は、リン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の体積に基づいて計算される。
【0122】
特に好ましい実施形態では、本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、水性成分を含む。組成物中にいくらかの水分が存在すると、加熱時に食料様の風味及び/又は芳香の生成が促進される。水性成分は、水であってもよい。いくつかの実施形態では、水性成分は、例えば、リン酸緩衝液などの水性緩衝液であってもよい。特定の実施形態では、本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、微生物バイオマス中に存在する任意の水分など、他の成分中に偶発的に含有される任意の水とは別に、水性成分を含む。本開示の組成物は、いくつかの好ましい実施形態では、乾燥しておらず、又は実質的に乾燥していない。
【0123】
一実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、乾燥組成物である。別の実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、液体組成物である。一実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、粉末、溶液、懸濁液、スラリー、又はエマルジョンの形態である。いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、水性成分を除いて提供され(すなわち、乾燥組成物)、水性成分(水など)は、加熱前又は加熱と共に組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料に添加される。
【0124】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、水性緩衝液を更に含み得る。緩衝液は、組成物のpHを維持し、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料に水分を提供し、これは、上述したように、加熱時に食料様の風味及び/又は芳香の生成を促進する。いくつかの実施形態では、緩衝液は、リン酸緩衝液であり得る。いくつかの実施形態では、緩衝液は、約5.0~約7、例えば約5~約6、例えば約5.3又は約6.0のpHの緩衝液であり得る。特定の実施形態では、緩衝液は、pH約6.0のリン酸緩衝液である。
【0125】
本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、1つ以上の追加成分を更に含み得る。このような成分は、例えば、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱されたときに生じるメイラード反応に関与することが意図された風味前駆体であり得る。例えば、そのような追加成分としては、油(例えば植物油)、遊離脂肪酸、α-ヒドロキシ酸、ジカルボン酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ビタミン、ペプチド、タンパク質加水分解物、抽出物、リン脂質、レシチン、炭水化物、及び有機分子が挙げられ得る。特定の例では、本発明の組成物は、(例えば、肉様風味などの食料様風味をもたらすために食料製品、飼料、又は飲料に取り込むための)風味付け組成物であってもよく、バイオマス(例えば、モルティエレラ種バイオマス)によって提供されるタンパク質以外の、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、又は30重量%未満のタンパク質を含む。
【0126】
いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、チアミン又はその誘導体を含む。例えば、チアミンは、アミノ基を含有する化合物として存在することができ、したがってメイラード反応を可能にする。したがって、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、a)バイオマス、b)糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体、及びc)チアミンを含み得る。他の例では、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、a)バイオマス、b)糖、糖アルコール、糖酸又は糖誘導体、c)1つ以上のアミノ酸又はその誘導体若しくは塩、及びd)チアミンを含み得る。したがって、チアミンは、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料によって生成される肉らしい芳香及び/又は風味を増強し得る。いくつかの実施形態では、チアミンは、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、約0.1~約20mmol、例えば約0.1~約10mmol、例えば約0.5~約5mmol、例えば約0.5~約3mmolの量で組成物中に存在し得る。いくつかの実施形態では、チアミンは、少なくとも約0.1mmol、例えば少なくとも約0.2mmol、例えば少なくとも約0.3mmol、例えば少なくとも約0.4mmol、例えば少なくとも約0.5mmol、例えば少なくとも約0.7mmolの量で存在し、濃度は、リン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の組成物の重量又は体積に基づいて計算される。いくつかの実施形態では、チアミンは、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物(例えば飲料)の場合には1L当たり、約0.01~約2mmol、例えば約0.01~約1mol、例えば約0.05~約0.5mmol、又は約0.1~約0.3mmolの量で食料製品、飼料、又は飲料中に存在し得、この量は、微生物バイオマス及び/又は脂質を除く/その添加前の食料、飼料、又は飲料の重量又は体積に基づいて計算される。いくつかの実施形態では、チアミンは、少なくとも約0.01mmol、例えば少なくとも約0.02mmol、例えば少なくとも約0.03mmol、例えば少なくとも約0.04mmol、例えば少なくとも約0.05mmol、例えば少なくとも約0.07mmolの量で食料、飼料、又は飲料中に存在し、濃度は、リン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質を除く/その添加前の食料、飼料、又は飲料の重量又は体積に基づいて計算される。
【0127】
いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、酵母抽出物を更に含む。食料科学の分野において、「酵母抽出物」は、自己分解酵母の水溶性部分を指すと概ね理解されており、様々な供給業者から市販されている。例えば、Sigma Aldrich、カタログ番号Y1625酵母抽出物を参照されたい。酵母抽出物は、酵母全細胞バイオマスを含有しない。酵母抽出物の存在は、加熱されたときに組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料によって生成される肉らしい芳香及び/又は風味を増強し得る。酵母抽出物は、風味付けされていない酵母菌抽出物全般であってもよく、又は例えば、牛肉風味付けされた、若しくはローストした鶏皮風味付けされた酵母菌抽出物であってもよい。いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、肉様の芳香及び/又は風味である食料様の芳香及び/又は風味を生成するのに適しており、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は酵母抽出物を含む。酵母抽出物の存在は、以下の実施例において観察されるように、本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料によって生成される肉らしい芳香及び/又は風味を増強し得る。
【0128】
いくつかの実施形態では、酵母抽出物は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、約10g~約200g、例えば約15g~約200g、例えば約20g~約200g、例えば約30g~約200g、例えば約40g~約200g、例えば約50g~約200g、例えば約50g~約180g、例えば約60g~約180gの量で組成物中に存在し、この量は、微生物由来のバイオマス及び任意の抽出脂質を除いた/その添加前の組成物の体積に基づいて計算される。いくつかの実施形態では、酵母抽出物は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、少なくとも約5g、例えば少なくとも約7g、例えば少なくとも約10g、例えば少なくとも約15g、例えば少なくとも約20g、例えば少なくとも約25g、例えば少なくとも約30g、例えば少なくとも約40g、例えば少なくとも約50g、例えば少なくとも約60gの量で組成物中に存在する。特定の実施形態では、酵母抽出物は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、少なくとも約30gの量で組成物中に存在する。
【0129】
いくつかの実施形態では、酵母抽出物は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、少なくとも約5g、例えば少なくとも約7g、例えば少なくとも約10g、例えば少なくとも約15g、例えば少なくとも約20g、例えば少なくとも約25g、例えば少なくとも約30g、例えば少なくとも約40g、例えば少なくとも約50g、例えば少なくとも約60gの量で組成物中に存在する。特定の実施形態では、酵母抽出物は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合には1L当たり、少なくとも約30gの量で組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、酵母抽出物は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体の場合は1L当たり、少なくとも約0.5g、例えば少なくとも約0.7g、例えば少なくとも約1g、例えば少なくとも約1.5g、例えば少なくとも約2g、例えば少なくとも約2.5g、例えば少なくとも約3g、例えば少なくとも約4g、例えば少なくとも約5g、例えば少なくとも約6gの量で食料、飼料、又は飲料中に存在する。特定の実施形態では、酵母抽出物は、乾燥組成物若しくはスラリー1kg当たり、又は液体組成物の場合は1L当たり、少なくとも約3gの量で食料、飼料、又は飲料中に存在する。
【0130】
いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、酵母抽出物を含まない。酵母抽出物の存在は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料によって生成される肉らしい芳香及び/又は風味を増強し得るので、酵母抽出物は、例えば、魚又は野菜又はハーブらしい芳香及び/又は風味などの、代替の食料様の風味及び/又は芳香が所望である場合、省略され得る。酵母抽出物が存在しないことにより、酵母抽出物の存在によって増強された肉様の芳香及び/又は風味による魚様の芳香及び/又は風味などの所望の芳香及び/又は風味の潜在的なマスキングが防止され得る。したがって、いくつかの実施形態では、食料様の芳香及び/又は風味は、魚様の芳香及び/又は風味、野菜、及び/又はハーブらしい芳香及び/又は風味であり、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は酵母抽出物を含まない。
【0131】
いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、1つ以上のハーブ及び/又はスパイスを更に含む。本明細書の実施例によって実証されるように、例えばフェヌグリーク(トリゴネラ・フォエヌム・グラエクム(Trigonella foenum-graecum))などのハーブを含む組成物は、いくつかの例では、本発明の組成物によって生成される野菜、スープ、及び/又はハーブらしい風味及び/又は芳香を増強することが見出された。これらのハーブ、野菜、及び/又はスープらしい風味及び/又は芳香は、いくつかの実施形態では、肉/魚らしい芳香及び/又は風味を部分的に又は完全に覆い隠す(マスキングする)ことができ、本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料によって生成される全体的な芳香及び/又は芳香の調整を可能にする。ハーブ及び/又はスパイスは、当該技術分野において、芳香性を有する植物部分又は抽出物を指すと理解される。典型的には、ハーブは、植物の葉、緑色の部分、又は開花部分を指すと理解され、一方、スパイスは、典型的には、種子、樹皮、根、及び果実などの植物の他の部分(通常は乾燥している)を指すと理解される。ハーブ又はスパイスは、植物部分全体、又は切り刻まれた、粉砕された、若しくは巻かれた植物部分、又は乾燥した、例えば粉末の形態であり得る。特定の実施形態では、1つ以上のハーブ及び/又はスパイスは、フェヌグリークを含む。フェヌグリークはまた、いくつかの生理活性成分を含有し、消費者に健康上の利益をもたらすことができると主張されている。いくつかの実施形態では、1つ以上のハーブ及び/又はスパイスは、フェヌグリーク葉を含む。
【0132】
いくつかの実施形態では、組成物、食料、飼料、又は飲料は、
a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス(又は他の微生物バイオマス)、
b)グルコース及び/又はリボース、
b)システイン及び/又はシスチン及び/又はメチオニン及び/又はチアミン、並びに
e)水性成分を含む。
【0133】
いくつかの実施形態では、組成物、食料、飼料、又は飲料は、
a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス(又は他の微生物バイオマス)、
b)グルコース及び/又はリボース、
b)システイン及び/又はシスチン及び/又はメチオニン及び/又はチアミン、
c)グルタミン酸又はその塩、
並びに
d)水性成分を含む。
【0134】
いくつかの実施形態では、組成物は、
a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス(又は他の微生物バイオマス)、
b)グルコース及び/又はリボース、
b)システイン及び/又はシスチン、
d)酵母抽出物、
e)グルタミン酸又はその塩、
f)チアミン、並びに
g)水性成分を含む。
【0135】
いくつかの実施形態では、組成物は、
a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス(又は他の微生物バイオマス)、
b)グルコース及び/又はリボース、
b)システイン及び/又はシステイン、
d)鉄源、例えば鉄塩、
e)グルタミン酸又はその塩、
f)チアミン、
g)例えば約5~約6、例えば約5.3又は約6.0のpHを有する、例えば水性緩衝液、例えばリン酸緩衝液としての水性成分、
並びにh)任意選択で酵母抽出物を含む。
【0136】
いくつかの実施形態では、組成物は、
a)リン脂質を含むモルティエレラ種バイオマス(又は他の微生物バイオマス)、
b)リボース、
b)システイン、
d)鉄源、例えば鉄塩、
e)グルタミン酸又はその塩、
f)チアミン、
g)例えば約5~約6、例えば約5.3又は約6.0のpHを有する、例えば水性緩衝液、例えばリン酸緩衝液としての水性成分、及び
h)任意選択で酵母抽出物を含む。
【0137】
いくつかの実施形態では、組成物は、(バイオマス及び任意の抽出脂質とは別に)以下の表1の「マトリックスA」若しくは「マトリックスB」、又は以下の表2の「マトリックスC」に示される成分(以下に示されるストック原料から調製されるような)、又は他の方法で調製される場合には等濃度のマトリックスA、B、若しくはCBの成分を含む。
【表1】
【0138】
マトリックスベースA及びBを構成するためのストック原料/試薬/化学溶液は以下の通りである。
・リン酸カリウム緩衝液50mM、pH6.0
・システイン100mM
・リボース100mM
・チアミン44mM
・グルタミン酸100mM
・鉄(鉄錠剤、Apohealth)、65.7mg Fe
2+/100mL
・酵母菌抽出物(全般、75mg/100mL)
【表2】
【0139】
本開示は更に、食料製品、飲料製品、又は飼料を製造する方法であって、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質又は本開示の組成物を、1つ以上の追加の摂取可能原料と組み合わせることを含む、方法に関する。このような食料製品、飲料製品、又は飼料に含まれ得る好適な追加の原料は、以下で論じる。例えば、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質又は組成物は、混合することによって、他の原料の表面に適用することによって、又は他の原料を浸漬/マリネすることによって、他の摂取可能原料と組み合わせることができる。一実施形態では、食料、飼料、又は飲料製品は、(a)本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質又は本発明の組成物を加熱し、(b)(a)からの製品を他の食料、飼料、又は飲料摂取可能原料と混合することによって、又は(a)本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質又は本開示の組成物を他の食料、飼料、又は飲料摂取可能原料と混合し、(b)(a)から得られる混合物を加熱することによって、調製される。
【0140】
食料製品、飲料製品、又は飼料は、固体又は液体形態のいずれかであってもよく、調理前に冷凍、冷蔵、又は室温で保存されることが意図され得る。いくつかの実施形態では、食料製品、飲料製品、飼料、又は組成物は、水性成分を除く乾燥製品として提供され、水性成分(水など)は、加熱前、加熱中又は加熱後に、特に加熱前に、食料製品、飲料製品、飼料、又は組成物に添加される。
【0141】
いくつかの実施形態では、組成物は、組成物と食料製品若しくは飲料製品若しくは飼料との一方又は両方の加熱前に、又は加熱後に、食料製品若しくは飲料製品若しくは飼料と混合される、又はそれに添加される、固体又は液体形態であり得る。組成物は、固体又は液体形態であってもよく、例えば、食料製品、飲料製品、又は飼料と混合又はそれに添加される、濃縮混合物であってもよい。混合物は、例えば、粉末、粒子状物、又は顆粒混合物の形態であってもよい。
【0142】
食料製品、飲料製品、又は飼料は、食用主要栄養素、タンパク質、炭水化物、ビタミン、及び/又はミネラルを特定の用途に所望の量で含み得る。これらの原料の量は、組成物が正常な個体での使用を意図しているか、又は代謝疾患などに罹患している個体などの特殊な必要性を有する個体での使用を意図しているかに応じて変動する。
【0143】
いくつかの特定の実施形態によれば、本発明の食料製品、飲料製品、又は飼料は、動物由来成分を含有しない。好ましい実施形態では、原料の少なくともいくつかは、植物材料又は植物由来材料である。このような実施形態は、有利には、ビーガン又は菜食主義者の食事に適している。いくつかの実施形態では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、大豆不含、小麦不含、酵母不含、MSG不含、及び/又はタンパク質加水分解生成物不含であり得る。食料製品、飲料製品、又は飼料は、好ましくは、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質又は本開示の組成物によってもたらされるような、食料様の味又は芳香、例えば、肉又は魚らしい芳香を有する。
【0144】
栄養価を有する好適な追加の原料の例としては、食用脂肪、炭水化物及びタンパク質などの多量栄養素が挙げられるが、これらに限定されない。本開示の組成物中に含有されるリン脂質以外のこのような食用脂肪の例としては、パーム油、キャノーラ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ヤシ油、ルリヂサ油、真菌油、ブラックカラント油、大豆油、これらのブレンド並びにモノ及びジグリセリドが挙げられるが、これらに限定されない。炭水化物の例としては、グルコース、食用ラクトース、及び加水分解デンプンが挙げられる(が、これらに限定されない)。タンパク質の例としては、大豆タンパク質、菌タンパク質(マイコプロテイン)(例えば、リザ菌タンパク質)、セイタン、エンドウマメタンパク質、ジャガイモタンパク質、電気透析乳清、電気透析脱脂乳、乳清、又はこれらのタンパク質の加水分解物が挙げられる(が、これらに限定されない)。いくつかの例では、タンパク質は、肉様テクスチャを生成するタンパク質繊維網及び/又は整列タンパク質繊維を含む、加工又は構造化タンパク質製品である。それは、機械的エネルギー(例えば、押出、紡糸、撹拌、振盪、剪断、圧力、乱流、衝突、合流、叩解(ビーティング)、摩擦、波)、放射エネルギー(例えば、マイクロ波、電磁)、熱エネルギー(例えば、加熱、蒸気加工)、酵素活性(例えば、トランスグルタミナーゼ活性)、化学試薬(例えば、pH調整剤、コスモトロピック塩、カオトロピック塩、石膏、界面活性剤、乳化剤、脂肪酸、アミノ酸)、タンパク質変性及びタンパク質繊維整列をもたらす他の方法、又はこれらの方法の組み合わせの適用に続いて、繊維状及び/又は整列構造の固定(例えば、急速な温度及び/又は圧力変化、急速脱水、化学固定、レドックスによる)、並びに繊維状及び/又は整列構造が生成及び固定された後の任意選択の後処理(例えば、水和、マリネート、乾燥、着色)の後に、生地から得ることができる。
【0145】
ビタミン及びミネラルに関しては、以下の、カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、塩化物、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、セレン、ヨウ素、並びにビタミンA、E、D、C、及びB複合体が、本発明の食料製品、飲料製品、又は飼料に添加され得る。他のこのようなビタミン及びミネラルもまた添加され得る。
【0146】
食料製品若しくは飲料製品又は飼料に含まれ得る追加の原料としては、キャノーラ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、大豆油、オリーブ油、又はヤシ油などの食用油、食用塩(例えば、塩化ナトリウム若しくはカリウム)又はハーブ(例えば、ローズマリー、タイム、バジル、セージ、若しくはミント)などの調味剤、風味付剤、タンパク質(例えば、大豆タンパク質単離物、小麦グルテン、エンドウ豆ビシリン及び/又はエンドウ豆レグミン)、タンパク質濃縮物(例えば、大豆タンパク質濃縮物)、乳化剤(例えば、レシチン)、ゲル化剤(例えば、κ-カラギーナン又はゼラチン)、繊維(例えば、竹フィレール又はイヌリン)、又はミネラル(例えば、ヨウ素、亜鉛、及び/又はカルシウム)が挙げられる。
【0147】
本明細書に記載の食料製品、飲料製品、及び飼料はまた、ウコン若しくはビート汁などの天然着色剤、又はアゾ染料、トリフェニルメタン、キサンテン、キニーネ、インジゴイド、二酸化チタン、レッド#3、レッド#40、ブルー#1、若しくはイエロー#5などの人工着色剤を含み得る。
【0148】
本明細書に記載の食料製品、飲料製品、及び飼料はまた、一酸化炭素、亜硝酸塩、メタ重亜硫酸ナトリウム、ボンバル(Bombal)、ビタミンE、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物、カテキン、及び他の抗酸化剤などの肉貯蔵寿命延長剤を含むこともできる。
【0149】
本発明の食料製品、飲料製品、又は飼料に利用される成分は、半精製又は精製起源のものであってもよい。半精製又は精製とは、天然材料の精製によって、又はデノボ合成によって調製された材料を意味する。
【0150】
本明細書に記載される食料製品、飼料、飲料製品、及び組成物は、調理前又は調理中に組成物を食料製品の上に振りかけるか又は広げることができるように、個々のパケット又はシェーカー内に密封することを含む、様々な方法でパッケージングすることができる。
【0151】
本明細書に記載される組成物、食料製品、飲料製品、及び飼料は、人間のパネリストを使用して風味及び芳香について評価することができる。パネリストによる芳香の評価は、ある程度の主観性を伴い、芳香の正確な説明及びそれらが魅力的/非魅力的であるかどうかは、パネリスト間でいくらか異なり得ることが理解されるであろう。それにもかかわらず、芳香の傾向及び全般的な性質は、パネリストによって効果的に評価することができる。評価は、製品の外観、色、完全性、テクスチャ、風味、及び口当たりなどを判断するために、製品の目視、感触、咀嚼、匂い、及び食味を伴うことができ、好ましくは、芳香を評価するために、少なくとも、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を嗅ぐことを伴うことができる。パネリストに、赤色光下又は白色光下で試料を提供することができる。スケール(尺度)を使用して、食料の全体的な受容性若しくは品質、又は肉らしさ、テクスチャ、及び風味などの特定の品質属性を格付けすることができる。組成物、食料製品、飲料製品、及び飼料はまた、ペット動物などの動物に与えられて、それらの動物に対する魅力を評価することができる。
【0152】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される食料製品、飲料製品、飼料、又は組成物は、嗅覚計の読み取り値に基づいて別の製品(例えば、肉又は肉代用品)と比較され得る。様々な実施形態では、嗅覚計を使用して、臭気濃度及び臭気閾値、基準ガスと比較した臭気閾超え、賞味の程度を判定する快不快尺度スコア、又は臭気の相対強度を評価することができる。
【0153】
いくつかの実施形態では、GCMSを用いて同定された揮発性化学物質を評価することができる。例えば、人間は、特定のピークの原因である化学物質を嗅ぐ体験を格付けすることができる。この情報は、本発明の食料製品、飲料製品、飼料、又は組成物によって生成される風味及び芳香化合物のプロファイルを更に改良するために使用することができる。
【0154】
本発明は更に、バイオマスを、上記の原料のいずれか1つ以上と任意選択で上記の量にて組み合わせることによって、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を製造する方法に関する。
【0155】
食料様の芳香及び/又は風味
本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香、好ましくは肉様の風味及び/又は芳香を生成する。加熱は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料の温度を、例えば、室温を超えて、食料様の風味及び/又は芳香を生成するのに十分な任意の温度まで、任意の時間にわたって上昇させることを指す。これに関連して、温度は、組成物中のアミノ基と糖との間でメイラード反応が起こり、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料中の脂質、好ましくはリン脂質との更なる反応が起こって食料様の風味及び/又は芳香を生成するのに十分に高く十分に長く上昇する。好適な温度及び時間の選択は、当業者によって容易に実施され得る。本明細書で使用される場合、「加熱された」又は「加熱する」などは、別段の指定がない限り、食料様の芳香を生成するのに十分な条件下で加熱することを意味すると理解されるべきである。食料製品、飲料製品、又は飼料に添加される組成物に関して、熱は、本発明の組成物が食料製品、飲料製品、又は飼料と接触する前に、又は食料製品、飲料製品、又は飼料への適用後に、又はその両方で、本発明の組成物に加えられ得る。組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料のそのような加熱は、例えば、オーブン、フライパン、中華鍋などで、又はバーベキューにて行われ得る。
【0156】
組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が食料様の風味及び/又は芳香、好ましくは肉様の風味及び/又は芳香を生成するために加熱されるべき正確な温度は、例えば、正確な組成及び組成物が加熱される時間及び加熱される組成物の量に応じて変動し得るが、いくつかの実施形態では、組成物又は食料製品、飲料製品、若しくは飼料は、少なくとも約100℃、例えば少なくとも約110℃、例えば少なくとも約120℃又は少なくとも約130℃、又は少なくとも約140℃の温度に加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成する。特定の実施形態では、組成物又は食料製品、飲料製品若しくは飼料は、約140℃に加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成する。
【0157】
同様に、本開示の組成物及び食料製品、飲料製品、又は飼料は、例えば、組成物又は食料製品、飲料製品、又は飼料が加熱される温度、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料の正確な性質、及び加熱される組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料の量に応じて、様々な時間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香、好ましくは肉様の風味及び/又は芳香を生成し得る。それにもかかわらず、いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも5分間又は少なくとも10分間、例えば少なくとも15分間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成し得る。いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも約30分間、例えば少なくとも約45分間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成し得る。いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも約1時間、例えば約1時間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成し得る。好ましくは、熱は、当業者によって理解されるように、焦げた風味及び/又は芳香が生成されない長さの時間にわたって加えられる。
【0158】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも約100℃の温度で少なくとも5分間又は少なくとも10分間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香、好ましくは肉様の風味及び/又は芳香を生成し得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも約100℃の温度で少なくとも30分間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成し得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも約120℃の温度で少なくとも30分間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成し得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも約130℃の温度で少なくとも30分間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成し得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも約130℃の温度で少なくとも1時間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成し得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、少なくとも約140℃の温度で少なくとも1時間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生成し得る。いくつかの特定の実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、約140℃で約1時間加熱されたときに食料様の風味及び/又は芳香を生じ得る。
【0159】
本発明の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、いくつかの実施形態によれば、上記で概説したものとは異なる温度に及び上記で概説したものとは異なる時間にわたって加熱されたときに食料様の風味及び/又は生成することができるが、いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料が上記で考察した温度に及び/又は上記で考察した期間にわたって加熱されたときにより強い及び/又はより望ましい食料様の風味及び/又は芳香を生成することができることが理解されるであろう。
【0160】
本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料によって生成される食料様の風味及び/又は芳香としては、好ましい実施形態によれば、肉様の風味及び/又は芳香を挙げることができる。特定の実施形態では、食料様の風味及び/又は芳香は、調理された肉又は肉ベースの食料の芳香であってもよい。例えば、食料様の風味及び/又は芳香は、牛肉、ステーキ、鶏肉、例えばローストした鶏肉又は鶏肉皮、豚肉、ラム肉、アヒル、鹿肉、鶏肉又は他の肉スープ、肉だし汁、肝臓、又は「肉らしい」もの全般であってもよい。いくつかの例では、肉様の風味又は芳香は、鶏肉(例えば、ローストした又は炒めた鶏肉)、牛肉(例えば、ローストした又は炒めた牛肉)、又は豚肉(例えば、ローストした又は炒めた豚肉)の風味又は芳香である。このような芳香は、典型的には、人間応募者によって、例えば資格のある官能パネルによって検出される。これに関連して、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、味覚/匂いパネルの応募者の数の少なくとも3分の1、例えば少なくとも半数が、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料の二重盲検試験において食料様又は肉様の風味及び/又は芳香を検出する場合に、食料様又は肉様の風味及び/又は芳香を生成すると言われる。場合によっては、様々な風味及び/又は芳香が、それらの芳香を体験する異なる対象によってどのように知覚されるかにはある程度のばらつきがあり、対象は、正確な風味及び/又は芳香をわずかに異なって説明し得ることが理解されるであろう。
【0161】
本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料によって生成される食料様の風味及び/又は芳香としては、いくつかの実施形態によれば、魚様の風味及び/又は芳香、例えば調理された魚の風味及び/又は芳香、例えばフライドフィッシュの風味及び/又は芳香を挙げることができる。
【0162】
本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料によって生成される食料様の風味及び/又は芳香としては、野菜及び/又はハーブらしい風味及び/又は芳香、例えば、調理された野菜及び/又はハーブらしい風味及び/又は芳香、例えば、スープ、マッシュルーム、タマネギ、野菜、ハーブの又はローストした野菜の風味及び/又は芳香を挙げることができる。
【0163】
いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料はリボースを含み、食料様の風味及び/又は芳香としては、肉らしい、例えば調理された肉様の風味及び/又は芳香、及び/又は魚らしい、例えば調理された又はフライドフィッシュ様の風味及び/又は芳香が挙げられる。
【0164】
いくつかの実施形態では、肉様又は肉関連の芳香及び風味を示す揮発性化合物としては、例えば、1,3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン、及び1,3,5-チトリアンなどの揮発性化合物が挙げられる。いくつかの例では、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールを含む、肉様又は肉関連の芳香及び風味を示す揮発性化合物が生成される。他の実施形態では、1-ペンタナール、3-オクタノン、2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、及び1-オクタノ-ルを含む肉様又は肉関連の芳香及び風味を示す揮発性化合物、並びに任意選択で1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼンが生成される。
【0165】
いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、グルタミン酸、例えばシステインなどの更なるアミノ酸又はその塩若しくは誘導体に加えてグルタミン酸を含み、食料様の風味及び/又は芳香としては、肉らしい、例えば調理された肉様、及び/又は魚らしい、例えば調理された魚若しくはフライドフィッシュ様の風味及び/又は芳香が挙げられる。
【0166】
いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、酵母抽出物を含み、食料様の風味及び/又は芳香としては、肉、例えば調理された肉様の風味及び/又は芳香が挙げられる。いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、酵母抽出物を含まず、食料様の風味及び/又は芳香としては、魚様、例えば調理された魚若しくはフライドフィッシュ様、野菜及び/又はハーブの芳香及び/又は風味が挙げられる。
【0167】
好ましい実施形態では、微生物は、モルティエレラ種、例えばモルティエレラ・アルピナであり、食料様の風味及び/又は芳香としては、肉様の風味及び/又は芳香、例えば鶏肉様の風味及び/又は芳香、例えば調理された鶏肉の風味及び/又は芳香、例えばローストした鶏肉、鶏皮、又は鶏だし汁の風味及び/又は芳香が挙げられる。
【0168】
いくつかの実施形態では、微生物は、モルティエレラ種、例えばモルティエレラ・アルピナ、モルティエレラ・エロンガタ、又はモルティエレラ・エキシグアであり、食料様の風味及び/又は芳香としては、牛肉様の風味及び/又は芳香などの肉様の風味及び/又は芳香が挙げられる。
【0169】
いくつかの実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、1つ以上のハーブ及び/又はスパイス、例えばフェヌグリーク、例えばフェヌグリーク葉を含み、食料様の風味及び/又は芳香としては、野菜、スープ及び/又はハーブらしい風味及び/又は芳香が挙げられる。
【0170】
特定の実施形態では、本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料は、食料様風味及び食料様芳香を生成し得る。そのような食料様風味は、本明細書に開示される食料様芳香に対応する風味であってよい。したがって、本明細書における芳香への言及は、特定の態様によれば、必要に応じて芳香及び/又は風味も指すと理解され得る。
【0171】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の抽出脂質、又は本発明の組成物は、食料製品又は飲料製品が(例えば調理中に)加熱されたときに本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質又は組成物が(メイラード及び関連反応によって)関連する食料様の芳香を生成するように、加熱前又は加熱中に食料製品、飲料製品、又は飼料に取り込まれる。いくつかの実施形態では、バイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質、又は本発明の組成物は、食料製品、飲料製品、又は飼料への取り込み又は添加の前に加熱される。いくつかの例では、バイオマス及び任意選択で抽出脂質は、食料に取り込む前に、例えば、糖及びアミノ酸又は誘導体の存在下で、1つ以上(例えば、少なくとも又は約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、26、28、29、30、又は31)の、肉様又は肉関連の芳香及び風味を示す揮発性化合物、例えば、1.3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン、及び1,3,5-チトリアンなどの揮発性化合物を生成するのに適した条件下で加熱されている。いくつかの例では、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールから選択される1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、又は9つ)の揮発性化合物が生成される。他の実施形態では、1-ペンタナール、3-オクタノン、2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、及び1-オクタノ-ルから選択される1つ以上(例えば、2、3、4、又は5つ)の揮発性化合物、並びに任意選択で1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼンが生成される。理解されるように、バイオマス及び任意選択の抽出微生物脂質中の様々な脂肪酸(及び特にω6脂肪酸(例えば、ARA、GLA、DGLA、EDA、DTA、及び/又はDPA-ω6)の量及び比は、これらの揮発性化合物のうちの1つ以上が、極性脂質上の脂肪酸と、糖と、アミノ酸との間の反応から生成されるときに変化する。結果として、バイオマス中の脂質又は反応後に残っている任意選択の抽出脂質中の脂質は、「出発」バイオマス又は抽出微生物脂質と比較して異なる脂肪酸プロファイルを有し得る。したがって、いくつかの例では、本発明の食料、飲料、又は飼料は、バイオマス及び任意選択で脂質を含み、バイオマス及び任意選択で脂質は、肉関連風味及び/又は芳香を有する少なくとも2つの化合物を生成するのに適した条件下での微生物バイオマス(例えば、モルティエレラ種バイオマス)又は抽出微生物脂質、アミノ酸又は誘導体と、糖との間の反応の生成物である。特定の例では、条件は、例えば、少なくとも約100℃、110℃、120℃、130℃、又は140℃の温度で、ある期間にわたって(例えば、以下に更に記載されるように)、揮発性化合物を生成するのに十分な量又は濃度の糖及びアミノ酸又は誘導体を用いて加熱することを含む。
【0172】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を加熱することは、肉様の芳香などの食料様の芳香を有する1つ以上の化合物、好ましくは揮発性化合物の生成をもたらす。いくつかの特定の実施形態では、そのような加熱は、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス又は本開示による組成物を含まない、食料製品、飲料製品、又は飼料を加熱するよりも多い量の上記1つ以上の化合物の生成をもたらす。
【0173】
一実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料に熱を加えることは、1,3-ジメチルベンゼン;p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド;2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オール、1-オクタノ-ル、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、トランス-2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼン、2-オクテン-1-オール、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、ヘプタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、チアゾール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、アセチルアセトン、及び1,3,5-チトリアンから選択される2つ以上(例えば、少なくとも又は約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、26、28、29、30、若しくは31)の揮発性化合物の生成をもたらす。実施形態では、前述の化合物の3つ以上、4つ以上、又は5つ以上の生成は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料への熱の適用から生じる。他の実施形態では、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールから選択される1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8又は9)の揮発性化合物が生成される。他の実施形態では、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料の加熱時に1-ペンタナール、3-オクタノン、2-オクテン-1-オール、1-ノナノール及び1-オクタノ-ルから選択される1つ以上(例えば、2、3、4又は5つ)の揮発性化合物、並びに任意選択で1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼンが生成される。
【0174】
特徴的な風味及び香り成分は、植物及び肉に見出されるアミノ酸、脂肪、及び糖を含む、化学反応分子によって、調理プロセス中にほとんど生成される。したがって、いくつかの実施形態では、食料製品、飲料製品、又は飼料は、調理中又は調理後に肉との類似性について試験される。いくつかの実施形態では、人的格付け、人的評価、嗅覚計読み取り値、若しくはGC-MS測定値、又はそれらの組み合わせを使用して、肉代替品について、食料製品、飲料製品、又は飼料の嗅覚マップを作成する。同様に、肉などの比較製品の嗅覚マップを作成することができる。これらのマップを比較して、調理された食料、飲料、又は飼料が肉にどの程度類似しているかを評価することができる。
【0175】
本発明は更に、食料様の風味及び/又は芳香を生成する方法であって、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質又は本発明の組成物を含む、食料製品、飲料製品、又は飼料を加熱することを含む、方法に関する。
【0176】
本発明は更に、食料製品、飲料製品、又は飼料に食料様の風味及び/又は芳香をもたらす、又は向上させる方法であって、食料製品、飲料製品、又は飼料を、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質又は本発明による組成物と接触させることと、食料製品、飲料製品、若しくは飼料及び組成物又はリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質を加熱することとを含む、方法に関する。
【0177】
本発明は更に、摂取用の食料製品、飲料製品、又は飼料を調製する方法であって、本発明の食料製品、飲料製品、又は飼料を加熱して、食料様の風味及び/又は芳香、例えば、肉又は魚らしい風味及び/又は芳香を生成することを含む、方法に関する。
【0178】
本発明は更に、食料様の風味及び/又は芳香、特に肉又は魚らしい風味及び/又は芳香、例えば食料製品、飲料製品、又は飼料に関連する肉らしい風味及び/又は芳香を向上させる方法であって、食料製品、飲料製品原料及び本発明による組成物又は本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質を、食料様の風味及び/又は芳香を生成するのに十分な条件下で加熱することを含む、方法に関する。
【0179】
本発明は更に、食料製品、飲料製品、又は飼料に関連する肉らしい風味及び/又は芳香などの、食料様の風味及び/又は芳香、特に肉又は魚らしい風味及び/又は芳香を向上させる方法であって、食料製品、飲料製品、又は飼料を、本発明による組成物又は本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質と接触させることと、食料様の風味及び/又は芳香を生成するのに十分な条件下で加熱することとを含む、方法に関する。いくつかの実施形態では、本開示の組成物又は本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質は、加熱前に食料製品、飲料製品、又は飼料に添加又は取り込まれ、組成物又はリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質を含む、食料製品、飲料製品、又は飼料は、その後加熱され、食料様の風味及び/又は芳香を生成する。
【0180】
本開示のいくつかの代替的な実施形態では、本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質又は本開示の組成物は、食料製品、飲料製品、又は飼料に添加する前に加熱される。本明細書に開示されるリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質又は本開示の組成物は、加熱後、かつ食料製品、飲料製品、又は飼料と接触させる前に、任意選択で放冷され得る。したがって、本開示は、食料製品、飲料製品、又は飼料に関連する食料様の芳香及び/又は風味を向上させる方法であって、a)請求項6~30のいずれか一項に記載の組成物を加熱することと、次いでb)食料製品、飲料製品、又は飼料を、工程a)で得られた組成物と接触させることとを含む、方法を更に提供する。
【0181】
組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を加熱して食料様の風味及び/又は芳香を生成すべき正確な時間及び温度は、組成物の性質、食料製品、飲料製品、又は飼料の性質、並びに組成物又は食料製品、飲料製品、又は飼料に取り込まれたリン脂質を含むバイオマス及び任意の任意選択の抽出脂質の量を含む、様々な要因に応じて異なることが理解されよう。本明細書全体を通して、「加熱」は、「食料様の風味及び/又は芳香を生成するのに十分な条件下での加熱」を意味すると理解されるべきである。それにもかかわらず、いくつかの実施形態では、食料様の風味及び/又は芳香を生成する方法は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を少なくとも約100℃、例えば少なくとも約110℃、例えば少なくとも約120℃、又は少なくとも約130℃の温度に加熱することを含み得る。特定の実施形態では、本方法は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を約140℃の温度に加熱することを含む。
【0182】
いくつかの実施形態によれば、食料様の風味及び/又は芳香を生成する方法は、いくつかの実施形態によれば、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を少なくとも10分間、例えば少なくとも15分間加熱することを含み得る。いくつかの実施形態では、食料様の芳香を生成する方法は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を少なくとも約30分間、例えば少なくとも約45分間加熱することを含み得る。いくつかの実施形態では、食料様の芳香を生成する方法は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を少なくとも約1時間、例えば約1時間加熱することを含み得る。
【0183】
いくつかの実施形態では、食料様の芳香を生成する方法は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を少なくとも約100℃の温度で少なくとも10分間加熱することを含み得る。いくつかの実施形態では、食料様の芳香を生成する方法は、組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料を約140℃で約1時間加熱することを含み得る。
【0184】
微生物
本明細書で使用される場合、「微生物」という用語は、単細胞形態で生存及び繁殖することができる生物を指す。単細胞は、一緒に凝集し得、若しくはクラスタ中の他の細胞と会合し得、又は、例えば、カビなどの真菌についての菌糸形態又は菌糸体形態として、同胞細胞又は子孫細胞に付着したままであり得る。「微生物」及び「微生物細胞」という用語は、本明細書において互換的に使用され得る。
【0185】
微生物バイオマスとしてであろうとリン脂質源としてであろうと、様々な微生物を本発明において使用することができる。特定の実施形態では、微生物は発酵に適しているが、周囲酸素濃度下で培養することもできる。特定の実施形態では、微生物は、油性微生物、好ましくは油性真核微生物であり、又は、好ましくは前駆油性微生物、例えば前駆真核油性微生物に由来する。別の実施形態では、微生物は、従属栄養微生物、好ましくは従属栄養真核微生物である。微生物は、いくつかの実施形態によれば、これらの特徴の少なくとも2つを有し得、又はこれらの特徴の全てによって特徴付けられ得る。本発明に従ってバイオマスの供給源として使用される微生物は、生きていても、不活化されていても、死んでいてもよく、又は生きている不活化微生物細胞若しくは死んでいる微生物細胞の組み合わせを使用してもよい。微生物は、当業者に周知の任意の技術(例えば、加熱、低温殺菌、及び発酵が挙げられる)を使用して不活化又は死滅され得る。
【0186】
本発明に従って使用される微生物は、モルティエレラ種であってもよい。例えば、微生物は、モルティエレラ・エロンガタ、モルティエレラ・アルピナ、モルティエレラ・エクシグア、又はモルティエレラ・イサベリナであってもよい。他のモルティエレラ種の種としては、M.フミリス(M.humilis)、M.camargensi)、M.リグニコーラ(M.lignicola)、M.ゾナタ(M.zonata)、M.sepedonioides、M.stylospora、M.ポリセファラ(M.polycephala)、M.アリアセア(M.alliacea)、M.クラウセニ(M.claussenii)、M.グロバルピナ(M.globalpina)、M.globulifera、M.pusilla、M.strangulata、M.rostafinskii、M.bainieri、M.beljakovae、M.clonocystis、M.エピガマ(M.epigama)、M.ゲミフェラ(M.gemmifera)、M.ヒアリナ(M.hyalina)、M.hygrophila、M.kuhlmanii、M.marburgensis、M.ミヌチシマ(M.minutissima)、M.nigrescens、M.sarnyensis、M.sclerotiella、M.selenospora、M.ポリセファラ(M.polycephala)、M.gamsii、M.nantahalensis、M.oligospora、M.parvispora、M.プルケリア(M.pulcheria)、M.レティクラタ(reticulata)、M.スピノサ(spinosa)、M.ウンベラータ(umbellate)、及びM.zychaeが挙げられる。一実施形態では、微生物は、低レベル又は検出不能レベルのアラキドン酸を有するモルティエレラ・イサベリナではない。いくつかの好ましい実施形態では、微生物はモルティエレラ・アルピナ、モルティエレラ・エキシグア、又はモルティエレラ・エロンガタである。特に好ましい実施形態では、微生物は、モルティエレラ・アルピナである。以下の実施例によって実証されるように、M.アルピナ、M.エロンガタ、及びM.エキシグアは、食料様の芳香、特に肉様の芳香、例えば牛肉様の芳香をもたらすのに有効な組成物に取り込まれた。
【0187】
本発明で使用されるモルティエレラ種は、野生型モルティエレラ種、例えば野生型モルティエレラ・アルピナであってもよい。あるいは、本発明で使用されるモルティエレラ種は、遺伝的に改変されたモルティエレラ種であってもよい。
【0188】
モルティエレラ種、又は以下に記載される本発明において使用される他の微生物は、リン脂質を含む。いくつかの好ましい実施形態では、モルティエレラ種バイオマス(又は他の微生物バイオマス)は、少なくとも約1重量%、例えば少なくとも約2重量%のリン脂質(乾燥細胞重量百分率として)を含む。いくつかの特定の実施形態では、バイオマスは、少なくとも約3%、例えば少なくとも約4%、例えば約5%以上のリン脂質を含む。これに関連して、微生物バイオマス(例えば、モルティエレラ種バイオマス)及び/又は抽出脂質中のリン脂質の総脂肪酸含量は、リノール酸(LA)を除くω6脂肪酸を少なくとも10重量%、より好ましくはアシル鎖中に20個又は22個の炭素を有するω6脂肪酸を少なくとも10重量%含む。より好ましくは、微生物(例えば、モルティエレラ種)バイオマス及び/又は抽出脂質中のリン脂質の総脂肪酸含量は、リノール酸(LA)を除くω6脂肪酸を10重量%~70重量%、又は10重量%~60重量%、又は20重量%~70重量%、又は20重量%~60重量%、更により好ましくはアシル鎖に20個又は22個の炭素を有するω6脂肪酸を10重量%~70重量%、又は10重量%~60重量%、又は20重量%~70重量%、又は20重量%~60重量%を含む。
【0189】
微生物中に含まれるリン脂質の量は、後述するようにリン脂質を抽出し、微生物の乾燥細胞重量の割合としてリン脂質の量を測定することによって測定され得る。
【0190】
いくつかの代替的な態様では、モルティエレラ種以外の微生物由来のバイオマス、及び/又はモルティエレラ種以外の微生物由来の抽出脂質が、モルティエレラ種の代わりに使用される。微生物バイオマスとしてであろうと、リン脂質を抽出するものとしてであろうと、様々な微生物が使用され得る。一実施形態では、微生物は、単細胞生物である。本発明において使用され得る微生物の例としては、細菌細胞、並びに真菌細胞及び藻類細胞などの真核細胞が挙げられる。真核微生物は、細菌(原核)微生物よりも好ましい。いくつかの特定の実施形態では、微生物は、限定されないが、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)などのヤロウィア(Yarrowia)種などの酵母であり得る。特定の例では、酵母は、アラキドン酸を合成するように遺伝子操作されているか、又はアラキドン酸が酵母の極性脂質の総脂肪酸含量の少なくとも又は約10%、20%、30%、40%、若しくは50%の量で存在するようにアラキドン酸中で培養されている。このような方法で操作又は培養され得る他の酵母としては、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア種、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)などのカンジダ種、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス種、クリプトコックス・カルバタス(Cryptococcus curvatus)などのクリプトコックス種、リポマイセス・スターキー(Lipomyces starkeyi)などのリポマイセス種、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)などのロドスポリジウム種、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)などのロドトルラ種、及びトリコスポロン・フェルメンタンス(Trichosporon fermentans)などのトリコスポロン種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0191】
他の実施形態では、微生物は、モルティエレラ種以外の真菌、特に、酵母の極性脂質の総脂肪酸含量の少なくとも又は約10%、20%、30%、40%、又は50%の量で存在するアラキドン酸を有する真菌である。このような真菌の非限定的な例としては、ピシウム種、例えばピシウム・ウルティマム(Pithium ultimum)、ピシウム・デバリアーヌム(Pithium debaryanum)、及びピシウム・インシディオスム(Pithium insidiosum)が挙げられる。
【0192】
いくつかの実施形態では、微生物は、ヤロウィア・リポリティカ株W29又はその遺伝子改変誘導体である。以下の実施例によって実証されるように、このような微生物は、食料様の、特に肉らしい芳香を生成するのに特に有効である。
【0193】
いくつかの実施形態によれば、微生物は、微細藻類又は珪藻綱(Bacillariophyceae)などの藻類である。より具体的には、微生物は、極性脂質中でエステル化された、好ましくはリン脂質中でエステル化されたアラキドン酸を有する藻類であり、例えば、アラキドン酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の少なくとも又は約10%、20%、30%、40%、又は50%の量で存在する。このような藻類の非限定的な例としては、ポルフィリジウム・プルプレウム(Porphyridium purpureum)、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、Parietochloris incisa、パブロバ・ルセリ(Pavlova lutheri)、ポルフィリジウム・クルエンタム(Porphyridium cruentum)、セラミウムル・ブルム(Ceramium rubrum)、及びロドメラ・サブフスカ(Rodomella subfusca)が挙げられる。
【0194】
特定の実施形態では、モルティエレラ種などの本発明で利用される微生物は、アラキドン酸を含む。特定の実施形態では、アラキドン酸は、極性脂質中でエステル化され、好ましくはリン脂質中でエステル化される。いくつかの例では、モルティエレラ種などの微生物は、極性脂質中でエステル化された、好ましくはリン脂質中でエステル化されたアラキドン酸を含み、アラキドン酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の少なくとも又は約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、又は50%の量で存在する。いくつかの例では、アラキドン酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約10%~約60%(例えば、20%~50%)の量で存在し、又は極性脂質の総脂肪酸含量の少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%若しくは少なくとも約55%として存在する。任意選択で、γ-リノレン酸(GLA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、及び/又はドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)などの他のω6脂肪酸も極性脂質中に存在する。いくつかの例では、DGLAは、極性脂質の総脂肪酸含量の少なくとも0.1%(例えば、少なくとも0.2%、0.5%、1%、1.5%、2%、若しくは2.5%)、又は約0.1%~約5%の量で存在し、GLAは、極性脂質の総脂肪酸含量の少なくとも1%(例えば、少なくとも2%、3%、4%、5%、若しくは6%)、又は約1%~約10%の量で存在する。
【0195】
本発明で使用される微生物、典型的にはモルティエレラ種は、任意の好適な培養プロセス及び条件によって調製され得る。有効な培養条件は当業者に公知であり、望ましいリン脂質生成を可能にする好適な培地、バイオリアクタ、温度、pH及び酸素条件が挙げられるが、これらに限定されない。好適な培地は、本明細書で定義される微生物を生成するために細胞が培養される、任意の培地を指す。そのような培地は、典型的には、同化可能な炭素、窒素及びリン酸源、並びに適切な塩、ミネラル、金属、及びビタミンなどの他の栄養素を有する、水性培地を含む。本明細書で定義される細胞は、従来の発酵バイオリアクタ、振盪フラスコ、試験チューブ、マイクロタイタ皿、及びペトリ皿中で培養することができる。培養は、組換え細胞に適切な温度、pH及び酸素含量で行うことができる。このような培養条件は、当業者の専門知識の範囲内である。
【0196】
いくつかの実施形態では、微生物(例えば、モルティエレラ種)は、その中に含有されるリン脂質の量を増加させる若しくは最適化する条件下で、及び/又は当該リン脂質中でエステル化されるω6脂肪酸の量を増加させる若しくは最適化する条件下で培養されている。
【0197】
いくつかの実施形態では、微生物は、ω6脂肪酸を供給して、微生物中のリン脂質に取り込まれる当該ω6脂肪酸の量を増大させることを含む、プロセスによって培養されている。例えば、ヤロウィア種(例えば、ヤロウィア・リポリティカ)などの微生物は、アラキドン酸の供給物を導入することを含む培養プロセス、例えば発酵プロセスによって培養され得る(実施例において実証されるように)。供給は、典型的には、ω6脂肪酸、例えば、LA、GLA、DGLA、EDA、ARA、DTA又はDPAω6のうちの1つ以上を含む培地中で細胞を培養することによって行われる。いくつかの実施形態では、供給物ω6脂肪酸は、遊離脂肪酸又は脂肪酸塩である。
【0198】
いくつかの代替的な実施形態では、抽出脂質が抽出される微生物バイオマス又は微生物は、ヤロウィア・リポリティカ、例えば株W29であってもよく、培養プロセス、特にアラキドン酸を供給することを含む発酵プロセスによって調製され得る。
【0199】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物、食料製品、飲料製品、及び飼料は、2つ以上の異なる微生物のバイオマス、例えば、2つのモルティエレラ種のバイオマス、又は1つのモルティエレラ種及び別の微生物のバイオマスを含む。
【0200】
本発明は、本発明の組成物、食料製品、飲料製品、及び飼料が微生物バイオマスを含むように、微生物バイオマスの使用を伴う。微生物、典型的にはモルティエレラ種は、乾燥バイオマス又は湿潤バイオマス(すなわち、いくらかの水分を保持し、水が実質的に又は完全に乾燥されていないバイオマス)として存在し得る。典型的には、約10重量%未満の水を含有するバイオマスは「乾燥」とみなされ得、他方、10重量%を超える水分、例えば約70重量%以上の水を含有するバイオマスは「湿潤」とみなされ得る。典型的な実施形態では、「乾燥」バイオマスは、「湿潤」バイオマスの質量の約25%であり得る。本文脈において、及び当技術分野において理解されるように、「バイオマス」は、微生物から分離された成分のみではなく、微生物の少なくともいくつかの全細胞を含有する物質を指すが、全細胞及び細胞成分の両方を含有してもよい。発酵プロセスによって得られるものなどの微生物/バイオマスは、例えば、洗浄、乾燥、熱不活化、凍結及び/又は凍結乾燥によって処理されていてもよいが、依然として微生物の全細胞材料の少なくとも一部、好ましくは大部分を含有する。バイオマスは、「全細胞バイオマス」と称され得るが、本発明の組成物中に含有される微生物細胞は、例えば、物理的又は化学的溶解を受けた、破壊された形態で存在し得ることが理解される。バイオマス/微生物は、依然として実質的に全ての細胞材料を含有する。「バイオマス」及び「微生物」は、例えば、微生物から抽出又は単離された油又はタンパク質も、細胞の他の成分から分離された油又はタンパク質も指すものでは意味ない。以下の実施例によって実証されるように、リン脂質を含む微生物(すなわち、微生物バイオマス)を含む組成物は、加熱されたときに増強された食料様の芳香、例えば、肉又は魚らしい芳香を生成するのに特に有効であることが見出された。
【0201】
本開示の組成物中に含まれる微生物は、懸濁液、凍結形態、乾燥形態、又は任意の他の好適な形態であり得る。微生物細胞は、生きていても死んでいてもよく、又は生きている細胞と死んでいる細胞の混合物であってもよく、例えば、細胞の少なくとも99%が死んでいてもよい。細胞は、複製できないようにするために熱処理されていてもよい。
【0202】
リン脂質
リン脂質は、親水性頭部及び疎水性尾部を有する両親媒性分子であり、リン酸「頭部」基にエステル化されたグリセロール骨格及び疎水性尾部を提供する2つの脂肪酸を含む。特に好ましい実施形態によれば、本発明のリン脂質(微生物の一部としてであろうと、微生物から抽出されたものであろうと)は、1つ以上のエステル化ω6脂肪酸を含む。微細藻類、コケ類、及び真菌類などの生物におけるω6脂肪酸の生合成は、通常、一連の酸素依存性不飽和化及び伸長反応として起こる(
図1)。
【0203】
ω6脂肪酸の例としては、アラキドン酸(ARA、C20:4Δ5,8,11,14;ω6)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA、C20:3Δ8,11,14;ω6)、エイコサジエン酸(EDA、C20:2Δ11,14;ω6)、ドコサテトラエン酸(DTA、C22:4Δ7,10,13,16;ω6)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6、C22:5Δ4,7,10,13,16;ω6)、γ-リノレン酸(GLA、C18:3Δ6,9,12;ω6)及びリノール酸(LA、C18:2Δ9,12;ω6)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの好ましい実施形態によれば、リン脂質は、エステル化アラキドン酸(ARA、C20:4Δ5,8,11,14;ω6)を含む。いくつかの実施形態によれば、リン脂質は、エステル化ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6、C22:5Δ4,7,10,13,16;ω6)が挙げられる。いくつかの実施形態によれば、リン脂質は、リノール酸(LA,C18:2Δ9,12;ω6)以外の1つ以上のエステル化ω6脂肪酸を含む。
【0204】
いくつかの実施形態によれば、ω6脂肪酸は、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、又はγ-リノレン酸(GLA)を含む。いくつかの実施形態では、ω6脂肪酸は、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、又はγ-リノレン酸(GLA)のうちの2つ、3つ、又は4つを含む。
【0205】
いくつかの実施形態によれば、ω6脂肪酸は、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、及びドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)のうちの1つ又は2つ又は3つ全てを含む。
【0206】
特に好ましい実施形態によれば、ω6脂肪酸は、アラキドン酸(ARA)を含み、又はARAが、リン脂質中の主要なω6脂肪酸である。
【0207】
いくつかの例では、ARAは、極性脂質の総脂肪酸含量の約10%~約60%の量で存在し、DGLAは、極性脂質の総脂肪酸含量の約0.1%~約5%の量で存在し、GLAは、極性脂質の総脂肪酸含量の約1%~約10%の量で存在する。他の例では、ARAは、極性脂質の総脂肪酸含量の約20%~約50%の量で存在し、DGLAは、極性脂質の総脂肪酸含量の約1%~約5%の量で存在し、GLAは、極性脂質の総脂肪酸含量の約3%~約10%の量で存在する。
【0208】
いくつかの好ましい実施形態によれば、リン脂質は、各々リン脂質の総脂肪酸含量の重量百分率として、少なくとも約5重量%、例えば少なくとも約7重量%、例えば少なくとも約10重量%、例えば少なくとも約12重量%、例えば少なくとも約15重量%、例えば少なくとも約17重量%、例えば少なくとも約20重量%のω6脂肪酸を含有する。いくつかの実施形態では、リン脂質は、少なくとも約30%、例えば少なくとも約40%、例えば少なくとも約50%のω6脂肪酸を含有する。
【0209】
いくつかの実施形態では、ω6脂肪酸の量は、リノール酸(LA、C18:2Δ912;ω6)を除くω6脂肪酸を指す。
【0210】
いくつかの実施形態によれば、ARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAの量の合計は、各々、微生物(例えば、モルティエレラ種)バイオマス及び/又は抽出脂質中のリン脂質の総脂肪酸含量における、リン脂質の総脂肪酸含量の重量百分率として、リン脂質のTFA含量の少なくとも約5重量%、例えば少なくとも約10重量%である。いくつかの実施形態では、リン脂質中のARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAの量の合計は、リン脂質の総脂肪酸含量の約10重量%~約70重量%、又は約10重量%~約75重量%、又は約10重量%~約80重量%である。微生物又は抽出脂質のリン脂質中のω6脂肪酸のこれらの量は、微生物又は抽出脂質中のTAGにも適用され得る。
【0211】
いくつかの実施形態によれば、リン脂質は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)及びホスファチジルセリン(PS)のうちの少なくとも2つ、好ましくは3つ又は4つ全てを含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ以上を含むものであり、任意選択で、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)及びカルジオリピン(Car)のうちの1つ以上を含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ以上を含む。リン脂質のPC、PE、PI及びPS含量は、Zhou et al(2014)、「Lipidomic analysis of Arabidopsis seed genetically engineered to contain DHA」、Frontiers in Plant Science,5,419(https://doi.org/10.3389/fpls.2014.00419)に記載されているように、2つの溶媒系を使用する二次元薄層クロマトグラフィ(TLC)分析によって求められ得る。
【0212】
いくつかの実施形態では、(i)C20又はC22脂肪酸であるリン脂質中のω6脂肪酸の含量は、リン脂質の総脂肪酸含量の約5%~約60%、好ましくは約10%~約60%であり、及び/又は(ii)3個、4個又は5個の炭素-炭素二重結合を有するω6脂肪酸は、リン脂質の総脂肪酸含量の約5%~約70%、好ましくは約10%~約70%、より好ましくは約40%~約70%又は約45%~約70%又は約50%~約70%である。
【0213】
いくつかの好ましい実施形態によれば、リン脂質は、少なくとも約10重量%、例えば少なくとも約15重量%、例えば少なくとも約20重量%、例えば少なくとも約25重量%、例えば少なくとも約30重量%、例えば少なくとも約35重量%、例えば少なくとも約40重量%、例えば少なくとも約45重量%、例えば少なくとも約50重量%のアラキドン酸(ARA)を含有する。いくつかの実施形態では、リン脂質は、少なくとも約20重量%のARAを含有する。
【0214】
本明細書で言及される実施形態に関して、微生物試料又は脂質試料中の総脂肪酸含量中の個々の脂肪酸の量は、好ましくは、実施例1に記載されるような脂肪酸メチルエステル(FAME)のGC分析によって求められる。
【0215】
いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質(微生物(例えばモルティエレラ種)バイオマス内に含有されるか、又は抽出された極性脂質若しくはより広範な脂質として微生物から抽出されるかにかかわらず)の一部を形成し、これは、リン脂質を含み得、それから本質的になり得、又はそれからなり得、
(a)極性脂質が、ω6脂肪酸を含む総脂肪酸(TFA)含量を含み、ω6脂肪酸の少なくとも一部が、極性脂質中のリン脂質の形態でエステル化され、ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、及びγ-リノレン酸(GLA)からなる群から選択される2つ、3つ、4つ又はそれ以上の脂肪酸を含み、
(b)極性脂質中のリン脂質は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)及びホスファチジルセリン(PS)のうちの少なくとも2つ、好ましくは3つ又は4つ全てを含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ以上を含むものであり、任意選択で、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)及びカルジオリピン(Car)のうちの1つ以上を含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ以上を含むものであり、
(c)極性脂質が、パルミチン酸及びステアリン酸を含む総飽和脂肪酸含量を含み、
(d)極性脂質が、オレイン酸及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9 cis)を含む総一価不飽和脂肪酸含量を含み、
(e)ω3脂肪酸が、極性脂質に存在しないか、又は極性脂質のTFA含量の約3重量%未満の総量で存在するかのいずれかであり、及び/又は極性脂質が、C16:2、C16:3ω3、EPA、及びDHAを欠く。
【0216】
いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質(微生物バイオマス内に含有されるか、又は抽出された極性脂質若しくはより広範な脂質として微生物から抽出されるかにかかわらず)の一部を形成し、これは、リン脂質を含み得、それから本質的になり得、又はそれからなり得、
(a)極性脂質が、ω6脂肪酸を含む総脂肪酸(TFA)含量を含み、ω6脂肪酸の少なくともいくつかが、極性脂質中のリン脂質の形態でエステル化され、ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、若しくはγ-リノレン酸(GLA)、又はそれらの任意の組み合わせを含み、
(b)極性脂質中のリン脂質が、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)及びホスファチジルセリン(PS)を含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ以上を含むものであり、及び任意選択でホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、及びカルジオリピン(Car)のうちの1つ以上を含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ以上を含むものであり、
(c)極性脂質が、パルミチン酸及びステアリン酸を含む総飽和脂肪酸含量を含み、
(d)極性脂質が、オレイン酸及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9 cis)を含む総一価不飽和脂肪酸含量を含む。
【0217】
いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質(微生物バイオマス内に含有されるか、又は抽出された極性脂質若しくはより広範な脂質として微生物から抽出されるかにかかわらず)の一部を形成し、これは、リン脂質を含み得、それから本質的になり得、又はそれからなり得、
(a)極性脂質が、ω6脂肪酸を含む総脂肪酸(TFA)含量を含み、ω6脂肪酸の少なくともいくつかが、極性脂質中のリン脂質の形態でエステル化され、ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、若しくはγ-リノレン酸(GLA)、又はそれらの任意の組み合わせを含み、
(b)極性脂質が、パルミチン酸及びステアリン酸を含む総飽和脂肪酸含量を含み、
(c)極性脂質が、オレイン酸及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9 cis)を含む総一価不飽和脂肪酸含量を含み、
(d)ω3脂肪酸が、極性脂質に存在しないか、又は極性脂質のTFA含量の約3重量%未満の総量で存在するかのいずれかであり、及び/又は極性脂質が、C16:2、C16:3ω3、EPA、及びDHAを欠く。
【0218】
いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質(微生物バイオマス内に含有されるか、又は抽出された極性脂質若しくはより広範な脂質として微生物から抽出されるかにかかわらず)の一部を形成し、これは、リン脂質を含み得、それから本質的になり得、又はそれからなり得、
(a)極性脂質が、ω6脂肪酸を含む総脂肪酸(TFA)含量を含み、ω6脂肪酸の少なくともいくつかが、極性脂質中のリン脂質の形態でエステル化され、ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、若しくはγ-リノレン酸(GLA)、又はそれらの任意の組み合わせを含み、
(b)極性脂質中のリン脂質が、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)及びホスファチジルセリン(PS)を含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ以上を含むものであり、及び任意選択でホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、及びカルジオリピン(Car)のうちの1つ以上を含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ以上を含むものであり、
(c)極性脂質が、パルミチン酸及びステアリン酸を含む総飽和脂肪酸含量を含み、
(d)極性脂質が、オレイン酸及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9 cis)を含む総一価不飽和脂肪酸含量を含む。
【0219】
いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質(微生物バイオマス内に含有されるか、又は抽出された極性脂質若しくはより広範な脂質として微生物から抽出されるかにかかわらず)の一部を形成し、これは、リン脂質を含み得、それから本質的になり得、又はそれからなり得、
(a)極性脂質が、ω6脂肪酸を含む総脂肪酸(TFA)含量を含み、ω6脂肪酸の少なくともいくつかが、極性脂質中のリン脂質の形態でエステル化されており、ω6脂肪酸が、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、及びドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)のうちの1つ、又は2つ、又は3つ全てを含み、
(b)γ-リノレン酸(GLA)は、極性脂質に存在しないか、又は極性脂質中に存在するかのいずれかであり、
(c)極性脂質が、パルミチン酸及びステアリン酸を含む総飽和脂肪酸含量を含み、
(d)極性脂質が、オレイン酸及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9 cis)を含む総一価不飽和脂肪酸含量を含む。
【0220】
いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質(微生物バイオマス内に含有されるか、又は抽出された極性脂質若しくはより広範な脂質として微生物から抽出されるかにかかわらず)の一部を形成し、これは、リン脂質を含み得、それから本質的になり得、又はそれからなり得、
(a)極性脂質が、ω6脂肪酸を含む総脂肪酸(TFA)含量を含み、ω6脂肪酸の少なくとも一部が、極性脂質中のリン脂質の形態でエステル化され、ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、及びγ-リノレン酸(GLA)からなる群から選択される2つ、3つ、4つ又はそれ以上の脂肪酸を含み、
(b)極性脂質が、パルミチン酸及びステアリン酸を含む総飽和脂肪酸含量を含み、
(c)極性脂質が、オレイン酸及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9 cis)を含む総一価不飽和脂肪酸含量を含み、
(d)極性脂質が、C16:2、C16:3ω3、EPA、及びDHAを欠く。
【0221】
いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質(微生物バイオマス内に含有されるか、又は抽出された極性脂質若しくはより広範な脂質として微生物から抽出されるかにかかわらず)の一部を形成し、これは、リン脂質を含み得、それから本質的になり得、又はそれからなり得、
(a)極性脂質が、ω6脂肪酸を含む総脂肪酸(TFA)含量を含み、ω6脂肪酸の少なくとも一部が、極性脂質中のリン脂質の形態でエステル化されており、極性脂質のω6脂肪酸が、ある量のアラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)若しくはγ-リノレン酸(GLA)、又はそれらの任意の組み合わせを含み、各量が、極性脂質の総脂肪酸含量の重量百分率として表され、ARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6及びGLAの量の合計が、少なくとも約10%であり、
(b)極性脂質が、パルミチン酸及びステアリン酸を含む総飽和脂肪酸含量を含み、
(c)極性脂質が、オレイン酸及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9 cis)を含む総一価不飽和脂肪酸含量を含む。
【0222】
いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質(微生物バイオマス内に含有されるか、又は抽出された極性脂質若しくはより広範な脂質として微生物から抽出されるかにかかわらず)の一部を形成し、これは、リン脂質を含み得、それから本質的になり得、又はそれからなり得、
(a)極性脂質が、ω6脂肪酸を含む総脂肪酸(TFA)含量を含み、ω6脂肪酸の少なくとも一部が、極性脂質中でリン脂質の形態でエステル化され、極性脂質のω6脂肪酸が、ある量のアラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、若しくはγ-リノレン酸(GLA)、又はそれらの任意の組み合わせを含み、ARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6及びGLAの量の合計が、極性脂質のTFA含量の好ましくは少なくとも約5重量%、より好ましくは少なくとも約10重量%であり、
(b)極性脂質が、パルミチン酸及びステアリン酸を含む総飽和脂肪酸含量を含み、
(c)極性脂質が、オレイン酸及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9 cis)を含む総一価不飽和脂肪酸含量を含む。
【0223】
いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質(微生物バイオマス内に含有されるか、又は抽出された極性脂質若しくはより広範な脂質として微生物から抽出されるかにかかわらず)の一部を形成し、これは、リン脂質を含み得、それから本質的になり得、又はそれからなり得、
(a)極性脂質が、ω6脂肪酸を含む総脂肪酸(TFA)含量を含み、ω6脂肪酸の少なくとも一部が、極性脂質中のリン脂質の形態でエステル化され、ω6脂肪酸が、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサジエン酸(EDA)、ドコサテトラエン酸(DTA)、ドコサペンタエン酸-ω6(DPA-ω6)、及びγ-リノレン酸(GLA)からなる群から選択される1つ、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の脂肪酸を含み、
(b)極性脂質が、パルミチン酸及びステアリン酸を含む総飽和脂肪酸含量を含み、
(c)極性脂質が、オレイン酸及びパルミトレイン酸(C16:1Δ9 cis)を含む総一価不飽和脂肪酸含量を含む。
【0224】
一実施形態では、極性脂質がDPA-ω6を含む場合、GLA、DGLA、EDA、ARA、及びDTAのうちの1つ以上又は全ても存在する。
【0225】
一実施形態では、極性脂質は、EDAと、極性脂質中でエステル化されたアラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)及びγ-リノレン酸(GLA)のうちの1つ、2つ、又は3つ全てを含み、極性脂質中のEDAのレベルは、極性脂質の総脂肪酸含量の少なくとも約1%である。
【0226】
一実施形態では、極性脂質は、C16:2、C16:3ω3、EPA、及びDHAのうちの1つ、2つ、3つ、又は4つ全てを欠く。好ましい実施形態では、極性脂質は、C16:3ω3、EPA、及びDHAを欠く。更なる実施形態では、極性脂質はまた、ALAを欠くか、又は1%未満のALAを有する。
【0227】
一実施形態では、抽出脂質は、ARA、DGLA、及びGLAの組み合わせ、又はARA、DGLA、及びGLA以外の脂肪酸の組み合わせ、好ましくはARA、DGLA、GLA並びにEDA、DTA、及びDPA-ω6のうちの少なくとも1つの組み合わせなどの、ARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAからなる群から選択される3つ、4つ、又はそれ以上の脂肪酸を含む。一実施形態では、ARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAの量の合計は、約10%~約70%、又は約10%~約75%、又は約10%~約80%であり、各量は、極性脂質の総脂肪酸含量の百分率として表される。一実施形態では、極性脂質の総脂肪酸含量中に最大量で存在するω6脂肪酸は、LAでもなく、ARAでもない。一実施形態では、最大量で存在するω6脂肪酸がGLA又はDGLAである場合、極性脂質は、EDA、DTA、又はDPA-ω6のうちの1つ以上を含む。
【0228】
一実施形態では、リン脂質は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、及びホスファチジルセリン(PS)のうちの少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は4つ全てを含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ、2つ、3つ、又は3つより多くを含み、任意選択でホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、及びカルジオリピン(Car)のうちの1つ以上又は全てを含み、その各々がARA、DGLA、EDA、DTA、DPA-ω6、及びGLAのうちの1つ、2つ、3つ、又は3つより多くを含む。
【0229】
一実施形態では、極性脂質は、極性脂質の総脂肪酸含量の約2重量%未満の量のミリスチン酸(C14:0)を含む。好ましい実施形態では、極性脂質は、極性脂質の総脂肪酸含量の約1重量%未満の量のミリスチン酸(C14:0)を含む。
【0230】
いくつかの実施形態では、ステアリン酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約14%未満又は約12%未満又は約10%未満のレベルで存在する。好ましい実施形態では、ステアリン酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約7%未満又は約6%未満又は約5%未満、好ましくは4%未満又は3%未満のレベルで存在する。
【0231】
いくつかの実施形態では、ARAは、極性脂質のTFA含量の約10重量%~約60重量%、約10重量%~約30重量%、約10重量%~約25重量%、約15重量%~約60重量%、約20重量%~約60重量%、又は約30重量%~約60重量%の量で存在する。好ましい実施形態では、ARAは、極性脂質のTFA含量の約20重量%~約60重量%、又は約30重量%~約60重量%、又は約40重量%~約60重量%、又は約50重量%~約60重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、ARAは、極性脂質のTFA含量の少なくとも又は約10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、又は30重量%の量で存在する。
【0232】
一実施形態では、極性脂質は、EDA、DTA、及びDPA-ω6のうちの1つ以上又は全てを含む。
【0233】
一実施形態では、極性脂質がDGLA及びARA、又はGLA、DGLA、及びARAを含む場合、以下のうちの少なくとも1つが適用される:
(a)EDA、DTA、及びDPA-ω3のうちの少なくとも1つが、極性脂質中にも存在し、
(b)PC対PEの比又はPC対PC以外のリン脂質の比が、3:1未満、2:1未満、1.5:1未満、1.25:1未満、1:1未満、3:1~1:1、2:1~1:1、又は3:1~0.5:1である。
【0234】
一実施形態では、GLAは、(i)極性脂質中のARA、DGLA、EDA、DTA、及びDPAω6の量の合計未満、又は(ii)ARAの量未満、DGLAの量未満、EDAの量未満、DTAの量未満、及びDPA-ω6の量未満、又はそれらの任意の組み合わせのうちの1つ以上である量で極性脂質中に存在する。
【0235】
いくつかの実施形態では、極性脂質の飽和脂肪酸含量は、ラウリン酸(C12:0)、ミリスチン酸(C14:0)、C15:0脂肪酸、C20:0、C22:0及びC24:0のうちの1つ以上又は全てを含み、好ましくはC14:0及びC24:0又はC14:0、C15:0及びC24:0を含み、より好ましくはC14:0、C15:0及びC24:0を含むが、C20:0及びC22:0を含まない。
【0236】
いくつかの実施形態では、ラウリン酸及びミリスチン酸は、極性脂質に存在しないか、又はラウリン酸及び/又はミリスチン酸が極性脂質中に存在して、極性脂質中のラウリン酸及びミリスチン酸の量の合計は、極性脂質の総脂肪酸含量の約2%未満、又は約1%未満、好ましくは約0.5%未満、より好ましくは約0.2%未満である。
【0237】
いくつかの実施形態では、C15:0は極性脂質に存在しないか、又はC15:0は、極性脂質の総脂肪酸含量の約3%未満、好ましくは約2%未満又は約1%未満の量で極性脂質中に存在する。
【0238】
いくつかの実施形態では、パルミチン酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約3%~約45%、又は約10%~約40%、又は約20%~約45%の量で極性脂質中に存在する。
【0239】
いくつかの実施形態では、パルミトレイン酸は、極性脂質中に、極性脂質の総脂肪酸含量の約3%~約45%、又は約3%~約25%、又は約3%~約20%、又は約3%~約15%の量で極性脂質中に存在する。
【0240】
いくつかの実施形態では、オレイン酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約3%~約60%、又は約3%~約40%、又は約3%~約25%、又は約20%~約60%の量で極性脂質中に存在する。
【0241】
いくつかの実施形態では、バクセン酸は極性脂質に存在しないか、又はバクセン酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約2%未満、好ましくは約1%又は約0.5%未満の量で極性脂質中に存在する。
【0242】
いくつかの実施形態では、リノール酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約3%~約45%、又は約3%~約30%、又は約3%~約20%の量で極性脂質中に存在する。
【0243】
いくつかの実施形態では、γ-リノール酸は極性脂質に存在しないか、又はγ-リノール酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約3%~約12%、又は約3%~約8%、又は約3%~約6%、又は約3%未満の量で極性脂質中に存在する。
【0244】
いくつかの実施形態では、エイコサジエン酸は極性脂質に存在しないか、又はエイコサジエン酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約3%~約12%、又は約3%~約8%、又は約3%~約6%、又は約3%未満の量で極性脂質中に存在する。
【0245】
いくつかの実施形態では、ジホモ-γ-リノレン酸は極性脂質に存在しないか、又はジホモ-γ-リノレン酸は、好ましくは極性脂質の総脂肪酸含量の約2%未満、0.1%~約2%、又は約10%~約60%の量で極性脂質中に存在する。
【0246】
いくつかの実施形態では、C20:0及びC22:0は極性脂質に存在しないか、又はC20:0及び/又はC22:0は、極性脂質中に存在して、極性脂質中のC20:0及びC22:0の量の合計は、極性脂質の総脂肪酸含量の約1.0%未満又は約0.5%未満、好ましくは0.2%未満である。
【0247】
いくつかの実施形態では、C24:0は極性脂質に存在しないか、又はC24:0は、極性脂質の総脂肪酸含量の約1.0%未満、約0.5%未満、好ましくは0.3%未満又は0.2%未満の量で極性脂質中に存在する。
【0248】
いくつかの実施形態では、C17:1は極性脂質に存在しないか、又はC17:1は、極性脂質の総脂肪酸含量の約5%未満、好ましくは約4%未満若しくは約3%未満、より好ましくは約2%未満の量で極性脂質中に存在する。
【0249】
いくつかの実施形態では、C20又はC22脂肪酸である一価不飽和脂肪酸は極性脂質に存在しないか、又はC20:1及び/又はC22:1が極性脂質中に存在して、極性脂質中のC20:1及びC22:1の量の合計は、極性脂質の総脂肪酸含量の約1.0%未満、約0.5%未満、好ましくは0.2%未満である。
【0250】
いくつかの実施形態では、(i)C20又はC22脂肪酸である極性脂質中のω6脂肪酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約5%~約60%、好ましくは約10%~約60%であり、及び/又は(ii)3、4又は5個の炭素-炭素二重結合を有するω6脂肪酸は、極性脂質の総脂肪酸含量の約5%~約70%、好ましくは約10%~約70%、より好ましくは約40%~約70%又は約45%~約70%又は約50%~約70%である。
【0251】
いくつかの実施形態では、C16:3ω3は極性脂質に存在しないか、又はC16:2及びC16:3ω3の両方が、極性脂質に存在しない。
【0252】
いくつかの実施形態では、極性脂質又はより広範な抽出微生物脂質は、PCを含み、及び/又はシクロプロパン脂肪酸を欠き、好ましくはC15:0c、C17:0c、及びC19:0cを欠く。
【0253】
リン脂質/極性脂質のω6.脂肪酸含量は、例えば、以下の実施例1に記載されるように、脂肪酸メチルエステル(FAME)への脂質誘導体化及びその後のガスクロマトグラフィ(GC)分析によって測定され得る。
【0254】
リン脂質抽出
微生物バイオマスに加えて、リン脂質を含むそのような微生物からの抽出脂質が、本発明による組成物、食料製品、飲料製品、又は飼料中に存在し得る。当該抽出脂質は、好ましい実施形態によれば、典型的にはモルティエレラ種から抽出される。抽出脂質は、極性脂質のみ、例えばリン脂質のみを含んでもよく、又は他の脂質画分を含んでもよい。例えば、抽出脂質は、抽出リン脂質に加えて、TAG、DAG、及びMAGなどの非極性脂質、若しくは遊離脂肪酸、又はそれらの任意の組み合わせを含み得る。抽出脂質は、リン脂質を、単独で、ビヒクル/担体中に、及び/又は上記微生物から抽出されたより広範な抽出脂質、例えば極性脂質画分の一部として含み得、これは、リン脂質以外の極性脂質、例えばセファリン、スフィンゴ脂質(スフィンゴミエリン及びスフィンゴ糖脂質)、ホスファチジン酸、カルジオリピン、及び/又はグリセロ糖脂質を含み得る。実施形態では、リン脂質が存在する抽出脂質は、例えば、酵母細胞、エルゴステロール、及び/又はエルゴステロールエステルなどの1つ以上のステロールを含む。いくつかの実施形態では、リン脂質は、極性脂質を含み任意選択で非極性脂質を含む、より広範な抽出脂質中に存在し、いくつかの実施形態では、存在する場合、非極性脂質は、極性脂質よりも少ない量で抽出脂質中に存在する。
【0255】
脂質は、当業者に公知の任意の好適なプロセスに従って、本発明における使用のためにモルティエレラ種などの微生物から抽出され得る。このような抽出の例示的な方法は、以下の実施例1に開示される。より広範な脂質画分の成分としてなど、本明細書に開示される微生物由来のリン脂質の抽出は、例えば、Patel et al.(2018)Molecules 23:1562に記載される油性微生物からの脂質抽出のための、当業者にとって既知の方法を使用し得る。例えば、抽出は、有機溶媒(例えば、ヘキサン又はヘキサンとエタノールとの混合物、クロロホルム及び/又はクロロホルムとメタノールとの混合物)を少なくとも微生物のバイオマスと、好ましくはバイオマスを乾燥及び粉砕した後に混合する溶媒抽出によって行うことができるが、湿潤条件下でも行うことができる。溶媒は、細胞中の脂質を溶解し、次いで、この溶液は、物理的作用(例えば、超音波処理)によってバイオマスから分離され得る。超音波処理は、微生物細胞の細胞完全性を破壊するために最も広く使用されている前処理方法の1つである。他の前処理方法としては、マイクロ波照射、高速均質化、高圧均質化、ビーズビーティング、オートクレーブ処理、及び熱分解を挙げることができる。溶媒/脂質溶液は、例えば、(例えば、フィルタプレス又は同様のデバイスを用いる)濾過又は遠心分離などによってバイオマスから分離され得る。次いで、有機溶媒は、非極性脂質から(例えば、蒸留によって)分離され得る。この第2の分離工程は、細胞から非極性脂質を得るものであり、従来の蒸気回収が使用される場合、再使用可能な溶媒を得ることができる。
【0256】
リン脂質は、任意の好適な方法によって、例えば、以下の実施例2に記載されるような溶媒抽出の使用によって、微生物から抽出されたより広範な脂質画分から分離され得る。例えば、エタノール又はイソプロパノールなどの別のアルコールに溶解し、エタノール又は他のアルコールを蒸発させることによって脂質源から脂質を抽出し、次いで、冷アセトンからリン脂質を沈殿させることによってリン脂質を中性脂質から更に分離し得る。
【0257】
微生物細胞から抽出された脂質は、通常の油処理手順に供され得る。本明細書で使用される場合、用語「精製」は、本明細書に開示される脂質に関連して使用される場合、抽出脂質が、脂質成分の純度を向上させる1つ以上の処理工程に供されていることを意味する。例えば、精製工程は、以下に記載されるように、抽出された油の脱ガム、脱臭、脱色、乾燥、及び/又は分画からなる群の1つ以上又は全てを含み得る。しかしながら、本明細書で使用される場合、「精製」という用語は、総脂肪酸含量の脂肪酸組成を変化させるように本発明の脂質又は油の脂肪酸組成を変化させるエステル交換プロセス又は他のプロセスを含むものではない。換言すれば、好ましい実施形態では、精製脂質の脂肪酸組成は、未精製脂質の脂肪酸組成と本質的に同じである。
【0258】
脱ガムは、液体形態(油)の脂質の精製における初期工程であり、その主な目的は、抽出された総脂質の約1~2%として存在し得る、油からのリン脂質の大部分の分離である。典型的にはリン酸を含有する約2%の水を70~80℃で粗油に添加すると、微量金属及び色素を伴うリン脂質の大部分が分離される。除去される不溶性物質は、主にリン脂質の混合物であり、レシチンとしても知られている。脱ガムは、濃リン酸を粗抽出脂質に添加して、非水和性ホスファチドを水和性形態に変換し、存在する微量金属をキレート化することによって行うことができる。ガムを遠心分離により油から分離する。精製されたリン脂質が所望の最終生成物である場合、リン脂質を含有する不溶性物質は、例えば、噴霧乾燥によって乾燥され得る。
【0259】
アルカリ精製は、油の形態の脂質を処理するための精製プロセスの1つであり、中和と呼ばれる場合もある。それは通常、脱ガムに続き、漂白に先行する。脱ガムに続いて、脂肪酸及びリン酸の全てを滴定するのに十分な量のアルカリ溶液を添加し、こうして形成された石鹸を除去することによって、油を処理することができる。好適なアルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化アンモニウムが挙げられる。このプロセスは、典型的には室温で行われ、遊離脂肪酸画分を除去する。石鹸は、遠心分離又は石鹸用溶媒への抽出によって除去され、中和された油は水で洗浄される。必要であれば、油中の任意の過剰のアルカリを塩酸又は硫酸などの好適な酸で中和してもよい。
【0260】
漂白は、油を、90~120℃で10~30分間、漂白土(0.2~2.0%)の存在下及び酸素の非存在下で、窒素若しくは蒸気を用いて又は真空中で操作することによって加熱する精製プロセスである。油処理におけるこの工程は、不要の顔料を除去するように設計されており、このプロセスはまた、酸化生成物、微量金属、硫黄化合物、及び微量の石鹸も除去する。
【0261】
脱臭は、高温(200~260℃)及び低圧(0.1~1mmHg)での油及び脂肪の処理である。これは、典型的には、油100mL当たり約0.1mL/分の速度で油に蒸気を導入することによって達成される。約30分間スパージした後、油を真空下で放冷する。典型的には、油をガラス容器に移し、アルゴンでフラッシュした後、冷蔵下で貯蔵する。この処理は、油の色を改善し、任意の残留遊離脂肪酸、モノアシルグリセロール及び酸化生成物を含む、揮発性物質又は臭気化合物の大部分を除去する。
【0262】
本明細書で使用される場合、「エステル交換」とは、TAG(エステル交換)又はリン脂質内及び間で脂肪酸を交換するプロセス、又は脂肪酸を別のアルコールに移してエステルを形成するプロセスを意味する。これは、最初にTAG又はPLから遊離脂肪酸として脂肪酸を放出することを伴い得、又は脂肪酸エステル、好ましくは脂肪酸メチルエステル若しくはエチルエステルを直接生成し得る。TAG又はPLとメタノール又はエタノールなどのアルコールとのエステル交換反応において、アルコールのアルキル基は、TAGのアシル基(SCFAを含む)とエステル結合を形成する。
【0263】
いくつかの実施形態では、リン脂質を含有するモルティエレラ種バイオマス(又は他の微生物バイオマス)及びリン脂質を含むモルティエレラ種などの微生物由来の抽出脂質の両方が、本発明による組成物、食料製品、飲料製品、及び飼料において使用される。そのような実施形態は、増強された食料様の、例えば、肉又は魚らしい芳香をもたらし得る。いくつかのそのような実施形態では、組成物中に存在するモルティエレラ種バイオマスは、リン脂質が抽出されるモルティエレラ種と同じである。いくつかの代替的な実施形態では、組成物中に存在するモルティエレラ種バイオマスは、リン脂質を含む抽出脂質が抽出されるモルティエレラ種などの微生物とは異なる。
【0264】
本開示による微生物又は微生物から抽出されたリン脂質は、当技術分野で一般的に呼ばれる「酵母抽出物」ではない。「酵母抽出物」という用語は、概して自己分解酵母の水溶性部分を指し、典型的にはリン脂質画分を含有しないと当技術分野において理解されている(例えば、Sigma Aldrich、カタログ番号Y1625酵母抽出物を参照されたい)。本明細書で使用される場合、「酵母抽出物」という用語は、市販されており酵母抽出物としてラベル付けされている組成物を含む。これらは、アミノ酸、炭水化物、ビタミン及びミネラルを含む酵母細胞の水溶性画分であり、典型的には乾燥粉末形態で販売されている。
【0265】
遺伝子改変
本発明のいくつかの実施形態によれば、微生物は、所望の量又はプロファイルのリン脂質、例えば、増加した量のリン脂質/極性脂質及び/又は増加した量のリン脂質/極性脂質及び/又は増加した量の、リン脂質中でエステル化されたω-6脂肪酸を含有するように、好適な方法によって遺伝的に改変され得る。したがって、微生物は、1つ以上のω6脂肪酸の合成又は合成の増加、微生物における総脂肪酸合成及び/又は蓄積の増加、微生物における総極性脂質合成及び/又は蓄積の増加、微生物におけるTAG合成及び/又は蓄積の減少、又はTAGリパーゼ活性の向上などのTAG異化作用の向上、又は総脂肪酸の異化作用の減少、をもたらす1つ以上の遺伝子改変を含み得る。
【0266】
遺伝子改変としては、外因性ポリヌクレオチドの導入、遺伝子若しくは調節配列の変異若しくは欠失、又は任意の他の公知の遺伝子改変を挙げることができる。微生物を遺伝的に改変するための好適な技術は、当業者に周知である。例えば、好適な組換えDNA技術は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984),J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989),T.A.Brown(editor),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991),D.M.Glover and B.D.Hames(editors),DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1-4,IRL Press(1995 and 1996)、及びF.M.Ausubel et al.(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての更新版を含む),Ed Harlow and David Lane(editors)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory(1988)、及びJ.E.Coligan et al.(editors)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(現在までの全ての更新を含む)などの文献全体に記載され、説明されている。国際出願第PCT/AU2022/050177号も参照され、その開示はその全体が本明細書に組み込まれる。
【0267】
単に一例として、デサチュラーゼ及びエロンガーゼ酵素をコードするポリヌクレオチドを使用して、微生物を遺伝子操作して、本発明において使用するための脂質を生成することができる。本発明において使用され得るデサチュラーゼ及びエロンガーゼタンパク質、並びにそれらをコードする遺伝子は、当技術分野において公知のもののいずれか、又はそれらの相同体若しくは誘導体である。国際出願第PCT/AU2022/050177号も参照され、その開示はその全体が本明細書に組み込まれる。
【0268】
本明細書で使用される場合、「デサチュラーゼ」という用語は、典型的には例えばアシル-CoAエステルなどのエステル化形態である脂肪酸基質のアシル基に炭素-炭素二重結合を導入することができる酵素を指す。アシル基は、ホスファチジルコリン(PC)などのリン脂質に、又はアシル担体タンパク質(ACP)に、又は、好ましくはCoAにエステル化され得る。ω6脂肪酸生合成に関与することが示されているデサチュラーゼ酵素は、いわゆる「フロントエンド」デサチュラーゼの群に属する。
【0269】
脂肪酸伸長は、縮合、還元、脱水、及び第2の還元の4つの工程からなる。本発明の文脈において、「エロンガーゼ」は、好適な生理学的条件下で、伸長複合体の他のメンバーの存在下で縮合工程を触媒するポリペプチドを指す。伸長タンパク質複合体の縮合成分(「エロンガーゼ」)のみの細胞における異種又は同種発現が、それぞれのアシル鎖の伸長に必要であることが示された。
【0270】
本明細書における任意の実施形態は、特に別段の記載がない限り、任意の他の実施形態に適用されると解釈されるものとする。
【0271】
本発明はまた、本出願の明細書で言及又は指示された部分、要素及び特徴で、個別に又は包括的に、当該部分、要素又は特徴の任意の2つ以上のいずれかの又は全ての組み合わせで構成されると広く言われてもよく、本発明が関連する技術分野で既知の等価物を有する特定の整数が本明細書で言及されている場合、そのような既知の等価物は、個々に記載されている場合と同様に本明細書に組み込まれるとみなされる。
【0272】
本明細書における任意の先行する刊行物(若しくはそれに由来する情報)、又は既知の任意の事項への言及は、その先行する刊行物(若しくはそれに由来する情報)又は既知の事項が、本明細書が関連する取り組みの分野における共通の全般的知識の一部を形成することの承認若しくは容認又は任意の形態の示唆として解釈されず、またそのように解釈されるべきではない。
【0273】
ここで、以下の特定の実施例を参照して本開示を説明し、これらの実施例は、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0274】
実施例1.材料及び方法
培地及び化学物質
YPD培地は、酵母抽出物10g/L(Sigma Aldrich、カタログ番号Y1625)、ペプトン20g/L(Sigma Aldrich、カタログ番号P0556)、及びグルコース20g/L(Sigma Aldrich、カタログ番号G7021)を含有する富栄養培地である。YPDプレートは、更に、寒天20g/Lを含有する。SD-Ura培地は、リットル当たりの推奨量でYeast Synthetic Drop-out Medium(Sigma、カタログ番号Y1501)を含有していた。この培地には必要に応じてウラシルを補充した。SD寒天プレートは、酵母窒素塩基6.7g/L、グルコース20g/L、及び寒天20g/Lを含有していた。
【0275】
化学物質は、特に明記しない限り、以下のように供給された:L-システイン(Sigma、カタログ番号168149)、D-(-)リボース(Sigma、カタログ番号R7500)、チアミン塩酸塩(Sigma、カタログ番号47858)、フマル酸鉄(Fe2+、Apohealth、オーストラリア、ニューサウスウェールズ州;コード#MH/Drugs/25-KD/617)、L-グルタミン酸一ナトリウム塩水和物(Sigma、カタログ番号G5889)、リン酸二水素カリウム(Sigma、カタログ番号1048731000)。
【0276】
より大規模の酵母培養のための培地
特に明記しない限り、より大規模の酵母培養(2L以上)のための種培養物を調製するために使用した培地は、1リットル当たり10.64gのオルトリン酸二水素カリウム(KH2PO4)、4.0gのオルトリン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4)、及び1.7gのクエン酸(一水和物)を含有する基礎培地(BM)を有する基礎培地(DM-Gluc)であった。これらの原料を、逆浸透によって精製し、2MのNaOHでpH6.0に調整し、精製水を使用して必要な体積にした水の、必要な体積の約70%に溶解した。BMを121℃で20分間滅菌し、室温に冷却した。次いで、以下の原料を別々に添加した(1リットル当たり):660g/Lグルコース(オートクレーブ処理)(最終濃度20g/L)30mL、1M硫酸マグネシウム七水和物(オートクレーブ処理)10mL、微量金属溶液(下記参照、濾過滅菌)10mL、15g/Lチアミン塩酸塩(濾過滅菌)10mL、及び10%(v/v)Sigma Antifoam 204(オートクレーブ処理)3mL。
【0277】
体積2L以上の酵母培養物のための発酵培地(FM)もまた、特に明記しない限り、基礎培地としてBMを使用した。必要量をバイオリアクタに添加し、オートクレーブ処理可能なバイオリアクタについては121℃で60分間の流体サイクルで、又は定置蒸気滅菌(steam-in-place)バイオリアクタについては30分間滅菌し、30℃に冷却した。基礎培地1リットル当たり、以下の原料を添加した:660g/Lグルコース(オートクレーブ処理)(最終濃度80g/L)121mL、1M硫酸マグネシウム七水和物(オートクレーブ処理)5mL、微量金属溶液(下記参照、濾過滅菌)5mL、15g/Lチアミン塩酸塩(濾過滅菌)5mL、及び200g/L塩化アンモニウム(濾過滅菌)50mL。グルコース、マグネシウム、微量金属溶液、及びチアミン溶液を混合し、一緒にバイオリアクタに添加した。培地を処方してから、pHを確認したところ、正常に6.0よりわずかに低かった。pHコントローラを使用してアンモニア溶液を培地に添加し、pHを6.0にした。
【0278】
より多くのTAG合成を誘導するための2L以上の小規模(50mL)及びより大規模の酵母培養物もまた、8%(w/v)のグリセロールを含有し、より低い窒素含量を有する規定培地(DM-Glyc-LowN)中で増殖させた。この培地は、グルコースが炭素源として80g/Lのグリセロール(最終濃度)で置き換えられ、(NH4)2HPO4含量が記載のように2.0g/L又は更に0.5g/Lに低減されたことを除いて、DM-Glucと同じであった。より大きな酵母培養物については、スターター培養物を、ウラシル及び必要に応じて任意のアミノ酸を添加したYPD培地又はSD-Ura培地のいずれかにおいて24~48時間増殖させた。スターター培養物の試料を遠心分離し、細胞を用いてより大きな培養物に接種した。これらの培養物を48~96時間インキュベートし、特に明記しない限り、pHを6.0に維持した。
【0279】
上記の培地中で使用した微量金属ストック溶液(TMS)は、1リットル当たり、2.0gのCuSO4・5H2O、0.08gのNaI、3.0gのMnSO4・H2O、0.2gのNaMoO4・2H2O、0.02gのH3BO3、0.5gのCoCl2・6H2O、7.0gのZnCl2、22.0gのFeSO4・7H2O、0.50gのCaSO4・2H2O、及び硫酸1mLを含有していた。試薬を列挙した順序で添加した。硫酸の添加は、硫酸カルシウムの溶解をもたらした。微量金属溶液を、0.2μmフィルタを通して濾過滅菌し、アルミ箔に包んだボトル内で2~8℃で保存した。
【0280】
1つのpH制御試薬は、118mLの85%H3PO4を精製水882mLに添加することによって調製したリン酸溶液(10%w/v)であった。溶液をオートクレーブ処理により滅菌した。他方は、30%アンモニア溶液330mLを精製水670mLに添加することによって調製したアンモニア溶液(10%v/v)であった。この溶液は、自己滅菌性であると想定した。100mLのSigma antifoam 204を精製水900mLと混合することによって消泡剤溶液を調製し、10%の濃度を得た。混合物をオートクレーブ処理により滅菌した。
【0281】
濾過滅菌された200g/L塩化アンモニウム134mLを1Lのグルコース660g/Lに添加することによって供給溶液を調製し、オートクレーブ処理により滅菌した。
【0282】
微生物株
S.セレビシエ(S.cerevisiae)株D5A(ATCC200062)を、リン脂質を含む脂質の生成に関する実験のための酵母として使用した。この種ヤロウィア・リポリティカのいくつかの酵母株、例えば野生型株W29も使用し、American Type Culture Collection(米国バージニア州マナセッサ)から入手した(Casaregola et al.,2000)。
【0283】
本明細書にyNI0121(ムコール・ヒエマリス)として記載される真菌株は、ブダペスト条約の下、2021年2月4日に、オーストラリア、VIC3207、ポートメルボルンの国立計測研究所に寄託され、以下の寄託番号:yNI0121寄託受託番号V22/001757と指定されている。yNI0125(モルティエレラ・エロンガタ)、yNI0126(モルティエレラ種)、yNI0127(モルティエレラ種)、及びyNI0132(モルティエレラ・アルピナ)として本明細書に記載される真菌株は、ブダペスト条約下で2021年10月12日に、オーストラリア、VIC3207、ポートメルボルンの国立計測研究所に寄託され、yNI0125寄託受託番号V21/019953、yNI0126寄託受託番号V21/019951、yNI0127寄託受託番号V21/019952、及びyNI0132寄託受託番号V21/019954と指定されている。
【0284】
脂質分析のためのS.セレビシエ及びY.リポリティカ培養物の増殖
脂肪酸の生成、抽出、及び分析のための酵母培養のための接種物を提供するため、Y.リポリティカ又はS.セレビシエの小規模培養物を、5mL又は10mLのYPD培地中、29℃で24時間増殖させた。実験のために、接種培養物を、600nmでの光学密度(OD600)が約0.1になるように、例えば50~2000mLの体積(容量)を有する増殖培地に希釈した。より小規模の培養物を、培養物10mLについてはポリプロピレンチューブ内で、又はより大容量についてはガラスフラスコ内で増殖させ、容器は、培養物容量より少なくとも5倍大きい容量を有した。容器を3Mマイクロポア医療用テープ(カタログ番号1530-1)テープで密封し、別段の指定がない限り29℃の規定温度で、通気のために200rpmで、シェーカー内でインキュベートした。
【0285】
SD-Ura培地を使用する場合、2%グリセロール又はラフィノース(w/v)(MP Chemicals、米国、カタログ番号4010022)などの炭素源を使用した。培養物を、通気のために振盪しながら28℃で一晩インキュベートした。接種培養物を、2%(w/v)グリセロール又はラフィノースを含有するSD-Ura培地10mL、又は指定された他の容量に希釈して、0.1の初期OD600を得た。50mLチューブ又は250mLフラスコ内の培養物を、通気のために28℃、200rpmで、シェーカー内でインキュベートした。OD600を15分又は30分の時間間隔で確認し、OD600が0.3に達したとき、潜在的基質としての外因性化合物(存在する場合)を培地に添加した。
【0286】
細胞への脂質基質の供給
基質供給実験のために、酵母接種培養物を、0.1のOD600で1%テルギトール(Sigma Aldrichカタログ番号NP40S)又はTween(登録商標)100を含有するそれらのそれぞれの増殖培地中に希釈し、ある一定時間、典型的には2時間振盪しながらインキュベートした。次いで、例えば脂肪酸、油又は油加水分解物などの脂質基質を培地に添加し、培養物を異なる期間更にインキュベートした。特に明記しない限り、脂肪酸基質をエタノールに溶解し、最終濃度が0.5mg/mLとなるように培養物に供給し、又は脂肪酸のナトリウム塩を水溶液で供給した。
【0287】
より大規模の培養のための種培養物
一次種培養物のために、酵母株の凍結グリセロールストックを使用して、通気キャップを備えたプラスチック製バッフル付き1L三角フラスコ内のDM100mLに接種した。これを、通気のために200rpmで振盪しながら、28℃で24±2時間インキュベートした。600nmでの光学密度(OD600)をインキュベーションの終わりに測定した。二次種培養物は、一次種培養物を使用して、0.04の開始OD600まで、通気キャップを備えたプラスチック製バッフル付き2L三角フラスコ内のDM500mLに接種することによって調製した。第2の種培養物を、200rpmで振盪しながら、28℃で16±2時間インキュベートした。インキュベーションの終わりにOD600を測定した。この培養物を使用して大規模発酵物に接種した。
【0288】
細胞回収、洗浄、及び凍結乾燥
より小規模の培養物からの細胞を、例えば50mLチューブ内で、4600gで15分間遠心分離することによって回収し、10mLで2回洗浄し、最後にMilliQ水1mLで洗浄した。乾燥細胞重量を測定する最終洗浄のために、細胞懸濁液を予め秤量した2mLエッペンドルフチューブに移し、遠心分離し、細胞ペレットを凍結乾燥(VirTis Bench Top凍結乾燥機、SP Scientific)した後、秤量及び脂質抽出を行った。ARA、DGLA、γ-リノレン酸(GLA)、又は他の脂肪酸などの脂質基質を増殖培地に添加する場合、細胞ペレットを1mLの1%テルギトール(v/v)、1mLの0.5%テルギトールで連続して洗浄し、最後に水1mLで洗浄して、細胞の外部から残留基質を除去し、上記のように凍結乾燥した。増殖培地に油を添加した場合、細胞を上記のように遠心分離によって回収したが、細胞ペレットを5mLの10%テルギトール(v/v)、5mLの5%テルギトール、5mLの1%テルギトール、5mLの0.5%テルギトールで連続して洗浄し、最後に5mLの水で洗浄して、細胞の外部から残留油を除去した。いくつかの場合において、Bodipyで染色した後の顕微鏡観察により、細胞壁で染色された油が存在しないことが確認された。最後の洗浄で、ペレットを予め秤量した2mLエッペンドルフチューブに移し、凍結乾燥した後、秤量及び脂質抽出した。
【0289】
酵母細胞からの脂質抽出
いくつかの実験では、総細胞脂質は、Bligh及びDyer(1959)から修正された方法を使用することによって、S.セレビシエ又はY.リポリティカから調製され得る。約50mgの凍結乾燥細胞を、Bullet Blender Blue(Next Advance,Inc.)を使用して、2mLエッペンドルフチューブ内で、酸化ジルコニウムビーズ0.5g(カタログ番号ZROB05、Next Advance,Inc.、米国)を含むクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)混合物0.6mLと共に5分間、速度6で均質化した。次いで、混合物を超音波処理水浴中で5分間超音波処理し、0.1MのKCl0.3mLを添加した。混合物を10分間振盪し、10,000gで5分間遠心分離した。脂質を含有する有機下相をガラスバイアルに移し、残りの脂質を、0.4mLのクロロホルムと20分間混合し、遠心分離することによって、細胞破片を含有する上相から抽出した。下相を回収し、ガラスバイアル内で最初の抽出物と合わせた。溶媒を窒素気流下で脂質試料から蒸発させ、抽出した脂質を測定体積のクロロホルムに再懸濁した。必要に応じて、脂質試料を更なる分析まで-20℃で保存した。
【0290】
より大きなバイオマスからの脂質抽出
より大きなバイオマスから総脂質を抽出するために、特に明記しない限り、細胞均質化の異なる方法を、より大きな体積の溶媒により使用した。1つの方法では、Ultra-Turrax T25ホモジナイザ(IKA Labortechnik Staufen、ドイツ)を使用して、細胞をクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)中で3分間又は述べた回数均質化した。1容量の1MのKClを各混合物に添加した後、更なる均質化を2分間行った。混合物を6000gで3分間遠心分離した。下相を新しいチューブ(チューブB)に移し、溶媒を窒素流下、室温で蒸発させた。上相を1gのガラスビーズとVibramaxミキサー内で10分間混合し、その間、1分間激しくボルテックスした。1容量のクロロホルムを各チューブに添加し、再び3分間混合した。遠心分離後、下相をチューブBに移し、溶媒を窒素ガス流下、室温で蒸発させた。残りの脂質を抽出するために、チューブAの上相を別の体積のクロロホルムと混合し、3分間混合した。遠心分離後、下相を再びチューブBに移し、各0.5体積のメタノール及び0.1MのKClをチューブBに添加し、3分間混合した。下相をファルコンチューブに移し、溶媒を窒素ガス流下、室温で蒸発させた。抽出脂質をクロロホルム/メタノール(2/1、v/v)に溶解し、-20℃で保存した。
【0291】
総脂質を抽出するための抽出溶媒としてヘキサンを使用した場合、細胞の湿潤バイオマスを最初にエタノールで2回洗浄して、水を除去した。これが行われなかった場合、ヘキサン-水溶媒系は2相として分離する傾向があり、より少ない混合によって抽出効率を低下させ得ていた。ヘキサン/エタノール混合物(60/40又は40/60v/v)を使用した場合、このエタノールによる洗浄工程は必要なかった。溶媒を使用する類似の抽出及び破壊方法を、実施例に記載されるように使用した。
【0292】
真菌バイオマスからの脂質抽出
特に明記しない限り、以下の方法を使用して、モルティエレラ又はムコールなどの真菌のバイオマスから脂質を抽出し、この方法は、リン脂質(PL)及び中性脂質の溶解度の差に基づいて、最初に溶媒としてのエタノール中で、次いで残留脂質のためにヘキサン中で、PLを含む極性脂質を優先的に抽出する。既知重量の湿潤真菌バイオマスをエタノールで洗浄して水を除去し、次いでバイオマス1g当たり2mLのエタノールを使用してエタノールに再懸濁した。Ultra-Turraxを使用して混合物を3分間均質化し、次いで5分間超音波処理した。均質化及び超音波処理工程を更に2回繰り返して合計3回行った。試料を光学顕微鏡で観察して、菌糸体破壊が起こったことを確認した。混合物を遠心分離して細胞破片をペレットにし、それを秤量した。エタノール上清を回収し、溶媒を蒸発させて極性脂質を回収した。細胞破片をヘキサンと混合し、細胞破片1g当たり5mLのヘキサンを使用して中性脂質及び任意の残りの極性脂質を抽出した。ヘキサン中の混合物を、Ultra-Turraxを用いて3分間均質化した。次いで、混合物を2時間振盪し、遠心分離し、ヘキサン上清を回収した。溶媒を蒸発させて、主にTAGを含有する脂質を回収した。
【0293】
薄層クロマトグラフィによる脂質分画
TAG、DAG、遊離脂肪酸(FFA)、及びPLなどの極性脂質などの異なる脂質型を分析規模で分離するために、溶媒系として、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸(70/30/1 v/v/v)を使用して、総脂質を薄層クロマトグラフィ(TLC)プレート(シリカゲル60;カタログ番号1.05626.0001、MERCK、ドイツ、ダルムシュタット)上で分画した。TAG、DAG、FFA、及びMAG(Nu-Chek Prep Inc、米国)を含有する18-6Aなどの脂質標準の試料を隣接レーンに流して、異なる脂質スポットを同定した。クロマトグラフィ後、プレートに、アセトン:水(80/20 v/v)中5mg/100mLの濃度で調製したプリムリン(カタログ番号206865、Sigma、ドイツ、タウフキルヘン)溶液を噴霧し、脂質バンドをUV光下で可視化した。各スポットから脂質を含むシリカを削り取り、チューブに移した。脂質画分を、メチル化を使用する誘導体化のためにシリカから抽出し、脂肪酸組成を決定及び定量するためにGC分析に供した。
【0294】
TLCによる総脂質からのPL及びTAGの分取規模分画
PL及びTAGは、8枚のTLCプレート(シリカゲル60;カタログ番号1.05626.0001、Merck、ドイツ、ダルムシュタット)の各々の18cmライン上に脂質をロードすることによって、約100mgの総脂質から分画し、ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70:30:1、v:v:v)からなる溶媒混合物でクロマトグラフィにかけた。TAG、DAG、FFA、及びMAGを含有する脂質標準のアリコート(18-6A;NuChek Inc,米国)を、脂質バンドの同定を補助するために並行して行った。プレートをプリムリンで染色し、UV光下で可視化した後、起点に位置するPLバンド及びTAG標準と同じ移動度を有するTAGバンドを回収し、ファルコンチューブに移した。脂質/シリカ試料をクロロホルム6mLとメタノール3mLとの混合物で抽出し、5分間激しく混合し、次いで水3mLを添加し、更に5分間混合した。3000gで5分間遠心分離した後、有機下相を新しいチューブに移した。3000rcfで5分間遠心分離した後、下相をファルコンチューブに移した。上相をクロロホルム5mLと5分間混合して、任意の残っている脂質を抽出した。遠心分離後、下相を最初の抽出物と合わせた。溶媒を窒素ガス流下で蒸発させた。抽出脂質のTAG又はPLを少量のクロロホルムに溶解し、0.2μmマイクロスピンフィルタ(Chromservis、EU、カタログ番号CINY-02)を通して濾過して、任意の粒子状物を除去した。各PL及びTAG画分の脂肪酸組成及び量を、FAMEの調製及びGC分析によって求めた。そのような調製物は、例えば、PC、PE、PI、及びPSなどの異なる極性脂質クラスを分離するために、又は芳香試験のためのメイラード反応において、若しくは反応生成物としての揮発性化合物の検出のために使用された。
【0295】
脂肪酸メチルエステル(FAME)への脂質誘導体化
GCによる分析のために、脂肪酸メチルエステル(FAME)を、PTTE裏打ちスクリューキャップを有する2mLガラスバイアル内で、メタノール性HCl0.7mL 1N(Sigma Aldrich、カタログ番号90964)で、80℃で2時間処理することによって、PL試料を含む総抽出脂質又は精製TAG又は極性脂質画分から調製した。トルエンに溶解した既知量のヘプタデカノイン(Nu-Chek Prep,Inc.、カタログ番号N-7-A、米国メイン州、ウォータービル)を、定量化のための内部標準として、処理前に各試料に添加した。バイアルを冷却した後、0.9%NaCl0.3mL(w/v)及びヘキサン0.1mLを添加し、混合物を5分間ボルテックスした。混合物を1700gで5分間遠心分離し、FAMEを含有するヘキサン上相をGCにより分析した。
【0296】
GCによるFAMEの分析及び定量化
30m SGE-BPX70カラム(70%シアノプロピルポリシルフェニレン-シロキサン、内径0.25mm、膜厚0.25μm)、スプリット/スプリットレス注入器(インジェクタ)及びAgilent Technologies 7693 Seriesオートサンプラー及び注入器、並びに水素炎イオン化検出器(FID)を備えたAgilent 7890A GC(Palo Alto、米国カリフォルニア州)を使用して、個々のFAMEをGCによって同定及び定量した。試料を、150℃のオーブン温度で、分割モード(50:1比)で注入した。カラム温度を、150℃で1分間、3℃/分で210℃まで上昇させ、2分間保持し、50℃/分で240℃に到達させ、次いで240℃で0.4分間保持するようにプログラムした。注入器温度を240℃に設定し、検出器を280℃に設定した。ヘリウムをキャリアガスとして1.0mL/分の一定流量で使用した。FAMEピークは、FAME標準(GLC-411、GLC-674;NuChek Inc.、米国)に基づいて特定した。既知量の外部標準GLC-411(NuChek)及びC17:0-ME内部標準の応答に基づいて、Agilent Technologies ChemStationソフトウェア(Rev B.04.03(16)、Palo Alto、米国カリフォルニア州)を用いてピークを積分した。得られたデータは、総脂肪酸含量100%中の各脂肪酸の百分率(重量%)で、重量基準で脂肪酸組成を提供する。これらの重量基準百分率は、各脂肪酸の既知の分子量に基づいて、モル基準の百分率(モル%)に容易に変換することができた。
【0297】
GC-MSによるピーク同一性
GC-FIDクロマトグラムにおける未知又は不確かなピークの同一性を、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC-MS)分析によって確認した。試料を、70eVで電子イオン化モードにて動作するGC-MSにかけて、ピーク同一性を確認し、可能性のある混入物、分解産物、又は試薬シグナルに対応する可能性のある余分なピークを同定した。HTX-Pal液体オートサンプラーに連結されたShimadzu GC-MS QP2010 Plus(Shimadzu Corporation、日本)システムを、以下のパラメータで使用した:250℃の温度で、15:1スプリットでスプリット/スプリットレス注入口を使用して、1又は2μL注入体積。使用したオーブン温度プログラムは、GC-FIDの場合と同じであった。MSイオン源温度及び界面温度は、それぞれ200℃及び250℃であった。走査速度1000、走査範囲40~500m/zでデータを収集した。ピーク分離は、Stabilwax又はStabilwax-DA(Restek/Shimadzu)キャピラリーカラム(30m×0.25mm i.d.、0.25μmフィルム厚)によって、キャリアガスとしてHeを30cm/秒で用いてもたらされた。質量スペクトル相関を、NISTライブラリ、保持指数、及び利用可能な標準の一致する保持時間を使用して実施した。同定されるSCFAは、S/N比が10:1を超えたときに存在すると設定した。機器ブランク及び手順ブランクを品質管理目的のために実行した。
【0298】
実施例2.脂質分画
粗脂質調製物を有機溶媒で分画して、より純粋な極性脂質、又はTAGを含む大部分が中性(非極性)脂質を有する画分を提供することができる(例えば、米国特許第7,550,616号)。例えば、いくつかの報告された方法は、エタノール又はアセトンなどの有機溶媒中の中性脂質及び極性脂質の示差的溶解度を使用する。これらの方法のいくつかを試験するために、モデル系として、卵黄脂質及びオキアミ脂質を含む、実質的に中性の脂質及び極性の脂質の混合物を有する、いくつかの脂質の分画を試みた。
【0299】
鶏卵中の脂質は、主に卵黄画分に存在し、これは約33重量%の脂質を構成する。卵黄中のタンパク質と密接に関連する脂質は、大部分がTAG(66重量%)であり、リン脂質(PL、28%)並びにコレステロール及びそのエステル(6%)がより少ない量で存在する(Belitz et al.,2009)。PLは、いくらかのω3及びω6脂肪酸を含有する(Gladkowski et al.、2011)。Palacios及びWang(2005)の方法に基づいて、Gladkowski et al.(2012)は、エタノールを用いて卵黄からPLを抽出し、次いで冷アセトンを用いてPLを沈殿させることにより中性脂質を除去することによって、PLを精製した。
【0300】
新鮮な卵黄(17g)、卵レシチン粉末(20.4g;Lesen Bio-Technology Co、中国西安)、及び市販のオキアミ油カプセルから得られたナンキョクオキアミ(Euphhausia superba)(17.7g)由来のオキアミ油(Bioglan Red Krill Oil;Natural Bio Pty Ltd、オーストラリア、ニューサウスウェールズ州ウォリーウッド)を各々エタノール60mLと混合し、30分間撹拌した。混合物を遠心分離した後、エタノール上清を回収した。沈殿物を各回エタノール60mLで更に2回抽出した。抽出混合物を遠心分離し、エタノール上清を合わせた。各沈殿物を中性脂質の抽出のために保持した。合わせた上清からのエタノールを、SR-100ロータリーエバポレータ(Buchi、スイス)を使用して蒸発させた。SR-100ロータリーエバポレータは、15mbarの真空下、400rpmで動作し、冷却装置は-16℃に設定され、水浴は37℃に設定された。これにより、新鮮な卵黄17gからPL濃縮脂質抽出物3.2g、卵レシチン粉末20.4gから5.86g、及びオキアミ油から回収された濃縮PL17.83gが得られた。オキアミ油から回収された脂質は、おそらくまだ少量の溶媒を含んでいた。それにもかかわらず、本質的に100%の回収率は、カプセルからのオキアミ油が最初にPLについて高度に濃縮されたことを示した。
【0301】
回収した脂質のアリコートを、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸(70:30:1;v/v/v)を溶媒として使用して実施例1に記載したようにTLCにより分析した。新鮮な卵黄及び卵黄レシチン粉末からのエタノール抽出物は、相当な量の極性脂質及び少量のTAGを含有することが観察されたが、オキアミ油抽出物はTAGが検出されなかった。
【0302】
極性脂質を新鮮な卵黄から更に精製するために、乾燥抽出物を30mLのヘキサンに溶解し、溶液を氷浴中で0℃に冷却した。次に、60mLの冷アセトン(-20℃)を溶液に徐々に添加し、混合物を少なくとも20分間冷却し続けてPLを沈殿させた。他の実験は、混合物を0℃で一晩維持することによって、より多くの沈殿物が形成されることを示した。沈殿物を回収し、真空下で乾燥させた。脂質の試料をクロロホルムに溶解し、TLCによって分析して、極性脂質及びTAG含量を推定した。アセトン沈殿物は、いくらかのTAGを有する極性脂質を主に有することが示された。極性脂質を更に精製するために、沈殿物を20mLずつの冷アセトン(-20℃)で5回洗浄して、より多くのTAG及びコレステロールなどの他の中性脂質を除去した。残留溶媒を、室温で10時間の回転蒸発(ロータリーエバポレーション)によって、洗浄した沈殿物から除去した。脂質収率を重量測定法で測定し、少量のアリコートをFAMEのGC定量による脂肪酸組成の分析に使用した。新鮮な卵黄17gの最初の投入から、精製極性脂質1.1グラムが回収された。この抽出脂質のアリコートをTLCによって分析したところ、TAGを含む任意の中性脂質を本質的に欠いていることが観察された。これらの観察は、抽出物が96%純粋なPLであることを見出したGladkowski et al.(2012)によって報告されたものと一致した。
【0303】
卵黄及び卵黄粉末のエタノール抽出後の沈殿物から、沈殿物をヘキサン50mLで2回抽出することにより、中性脂質を抽出した。中性脂質を含有する合わせたヘキサン溶液を、各回90%エタノール50mLで4回洗浄した。次いで、ヘキサンを減圧下で蒸発させて、卵黄から精製中性脂質を得た。
【0304】
抽出脂質の脂肪酸組成を求めるため、アリコート中の総脂肪酸を、実施例1に記載されるようなGC分析のためにFAMEに変換した。これは、エタノール抽出後であるがヘキサン/アセトン沈殿前の試料(第1の沈殿物)、及びヘキサン/アセトン沈殿後の試料(第2の沈殿物)を含んでいた。結果を表3に示す。新鮮な卵黄から単離されたエタノール可溶性脂質及びそれから精製されたアセトン沈殿脂質は、主要な飽和脂肪酸としてC16:0及びC18:0を含有していた。新鮮な卵黄からの第1の脂質沈殿物は24.7%(C16:0)及び15.6%(C18:0)を含有し、より精製された極性脂質は、27%(C16:0)及び16%(C18:0)を含有した。第2の沈殿物中のLAの量は、第1の沈殿物中よりもわずかに多かった。LAは、TAGよりもPL中に多く存在する。新鮮な卵黄及びより純粋な極性脂質調製物の両方ともω6及びω3 LC-PUFAも含有していた。例えば、新鮮な卵黄の第1の沈殿物は、5.3%C20:4(ARA)、2.3%C20:5(EPA)、及び5%C22:6(DHA)を含有し、より精製された極性脂質調製物は、5.3%ARA及び4%DHAを含有していた。オキアミ油からの第1の沈殿物及びオキアミ油からのより精製された極性脂質は、それらの主要な飽和脂肪酸としてC16:0を有していた。オキアミ油の第1の沈殿物及びより精製された極性脂質はまた、かなりの量のω3 LC-PUFA、すなわち第1の沈殿物中に1.1%ARA、34.7%EPA、及び19.0%DHAを含有し、一方、より精製された極性脂質は、1.1%ARA、48.1%EPA、及び25.7%DHAを含有していた。卵黄レシチン粉末から沈殿した脂質は、17%のC16:0及び4%のC18:0を有していたが、LC-PUFA EPA及びDHAは少なかった。レシチン粉末の低LC-PUFA含量は、その生成又は貯蔵中のこれらの多価不飽和脂肪酸の酸化的分解による可能性が高いと考えられた。
【0305】
総脂質調製物からの分画によって極性脂質を精製する代替の方法は、例えば、SPEカラム(HyperSep aminopropyl、ThermoFisher、英国)の使用などのシリカベースのカラムクロマトグラフィを使用することである。
【表3】
【0306】
実施例3.メイラード反応
メイラード反応は、熱を加えることによる、還元糖と、例えば遊離アミノ酸中のアミノ基との間の化学反応である。カラメル化と同様に、それは非酵素的褐変の形態である。この反応において、アミノ基は糖のカルボニル基と反応し、N-置換グリコシルアミン及び水を生成する。不安定なグリコシルアミンは、アマドリ転位反応を受け、ケトサミンを生成する。ケトサミンは、異なる方法で更に反応して、レダクトン、ジアセチル、アスピリン、ピルブアルデヒド、及び他の短鎖加水分解性分裂生成物を生成し得る。最後に、フラン誘導体が得られることがあり、これは他の成分と反応して重合し、窒素を含有する暗色の不溶性物質になる。
【0307】
メイラード反応の結果は、温度、時間及びpHに応じて異なる。例えば、反応は、低温、低pH、及び低水分活性(Aw)レベルで遅くなる。褐変は、アミノ基が塩基性形態のままであることから、アルカリ条件下でより迅速に起こる。反応は、0、6~0.7のAwなどの中間の水分活性でピークに達する。色に加えて、多くの揮発性芳香化合物が、典型的にはメイラード反応中に形成される。風味集約化合物は、硫黄含有アミノ酸メチオニン若しくはシステイン、又はチアミンなどの他の硫黄含有化合物の存在下で形成され得る。不飽和脂肪酸及び脂肪酸から形成されるアルデヒドもまた、メイラード反応中の複素環式風味化合物の形成に寄与する(Gehard Feiner、2006)。風味及び芳香の形成に対する不飽和脂肪酸のこの寄与を考慮して、本発明者らは、メイラード反応のモデル系として、実施例2からの抽出卵黄極性脂質調製物を試験した。
【0308】
最初の実験において、メイラード反応のための26個の混合物を、基礎培地中に成分のマトリックスを含有して、15mgの抽出卵黄極性脂質を含有するか(実施例2)、又は脂質を欠く(対照)かのいずれかで組み合わせた。反応は、2mL容量で、20mLガラスバイアル内で、しっかりとねじ天蓋を密封して行った。正確な量の抽出脂質をバイアルに堆積させるために、脂質を1mg/μLの溶媒の濃度でヘキサンに溶解した。濃縮極性脂質50mgを含有する50μLの脂質溶液のアリコートを、脂質を有する反応のためにバイアルにピペットで移した。次にヘキサンを窒素流下で蒸発させた。各混合物中の他の成分を以下の順序でバイアルに添加した。成分を添加して、糖としてキシロース10mM、チアミン塩酸塩0.1mM、及び硫黄含有アミノ酸としてシステイン5mM又はシスチン5mMのいずれかの最終濃度を得た。これらの成分を、リン酸二水素カリウム及びリン酸水素二カリウムから調製した最終濃度のリン酸カリウム緩衝液32.6mM(pH6.0又は5.3)に溶解した。いくつかの混合物はまた、酵母抽出物15mg/mL、フマル酸鉄の形態の3.5mg/Lの鉄Fe2+(Apohealth、オーストラリア、ニューサウスウェールズ)及びL-グルタミン酸一ナトリウム塩水和物2mMのうちの1つ以上も含んでいた。酵母抽出物の存在又は非存在は、それが、PLを有する抽出脂質から生成される芳香を覆い隠す若しくは増強するか、又は効果を有していないかを試験することを意図した。
【0309】
組み合わせた混合物を30分間超音波処理し、次いで146℃に設定したオーブン内で15分間加熱した。熱処理中、バイアルをしっかりと密封した。バイアルを冷却し、約15分後に触ると温まり、次いで4人の応募者(P1~P4)のパネルが嗅ぐために短時間開封した。応募者は、24~65歳の範囲の年齢の2人の男性及び2人の女性を含んでいた。応募者は、内容物を嗅ぐ前にバイアルのいずれの組成も知らず、バイアルは、応募者によって選択されたランダムな順序で嗅がれた。応募者は、各試験試料を嗅ぐ間にコーヒー豆を嗅ぎ、嗅覚を元に戻した。芳香の説明は、匂いを嗅ぐことが完了するまで、コメントを共有することなく記録された。
【0310】
4人の参加者は、26の混合物の検出された芳香の説明がかなり異なっていた。これらのばらつきにもかかわらず、添加された極性脂質調製物を含有する反応混合物は、概して、極性脂質を欠く対照試料と比較して、より強い肉らしい/肉様の芳香を有すると認識され、加熱誘導性メイラード反応後に肉らしい芳香に寄与する際の脂質の役割が確認された。酵母抽出物、フマル酸鉄、又はその両方を含有する試料は、4人の参加者のうちの3人によって、牛肉又は鶏肉として記載される、より強い肉様又は肉関連の芳香を有するものとして特定された。したがって、これらの成分を有する基本組成物を更なる調査のために選択した。
【0311】
基礎培地の組成に関してメイラード反応混合物の変形を試験するために、いくつかの更なる実験を行った。1つの実験では、キシロースを、糖成分としてグルコース又はリボースのいずれかで置換した。別の実験では、フェヌグリーク(トリゴネラ・フォエヌム・グラエクム(Trigonella foenum-graecum))葉粉末を、反応物1mL当たり10mgで混合物の一部に添加した。フェヌグリーク葉粉末は、カレーにおけるものなどの料理の風味を増強するために、又はクミン及びコリアンダーなどの他のハーブ若しくはスパイスと組み合わせて、食料調理において長く使用されてきたので試験された。いくつかの反応混合物は30mgの酵母抽出物粉末を含有していたが、他のものは含有していなかった。対照反応物は、同じ基礎培地組成を有していたが、抽出された極性脂質調製物を欠いていた。反応混合物を、バイアルを浮遊泡中に入れることによってバッチとして超音波処理し、中程度の出力に設定された超音波処理器(Soniclean、Thermoline)内に30分間入れ、次いでオーブン内で、140℃で約60分間熱処理した。反応混合物を収容するバイアルを、約15分かけてゆっくりと冷却し、触れると温まった。10人の応募者の各々がバイアルを短時間開封し、内容物を嗅ぎ、芳香の説明を記録した。応募者は29~65歳の範囲であり、様々な民族背景からの人々であった。反応は、偏りを避けるためにランダムな3桁の数字でコード化されており、応募者は、前と同様に、バイアル間でコーヒー豆を嗅いだ。
【0312】
反応混合物を嗅ぐことに対する記録された応答は、前の実験の応答と概ね一致した。抽出脂質を含有する混合物の大部分は、特に、肉らしい芳香についてグルコースではなくリボースを含有するものにおいて好ましい意見(コメント)を引き出した。酵母抽出物の使用は、肉らしい芳香を増強することができたが、種特異的な芳香、例えば、牛肉の芳香対鶏肉の芳香を生成するとは考えられなかった。ハーブ粉末のフェヌグリークの、混合物への添加は、心地よい野菜のノート(香気)を有するスープ又は野菜の芳香の感覚を向上させた。種々の培地組成物及び成分を抽出脂質と共に使用することができ、糖成分としてグルコースよりもリボースが好ましいと結論付けられた。
【0313】
実施例4.酵母へのオメガ-6脂肪酸の供給及び極性脂質への取り込み
本発明者らは、微生物PLへの取り込みによって、具体的にはY.リポリティカ及びS.セレビシエ培養物にARA、GLA、及びDGLAなどのω6脂肪酸を補充することによって、ω6脂肪酸を含有するリン脂質(PL)を生成した。これは、最初に培養物の増殖中に微生物にω6脂肪酸を供給し、次いで細胞から脂質を抽出し、それらを分画して、PLを含む極性脂質を単離することによって行った。
【0314】
ARA油からの脂肪酸基質の調製
供給実験におけるARAの供給源として、総脂肪酸含量中に50%のARAを有するARA含有油をJinan Boss Chemical Industry Co.,Ltd(中国)から入手した(表4)。本発明者らは、以下のように、油の一部を加水分解して、そのTAGを遊離脂肪酸に変換した。ARAに富む油中のTAGを加水分解するために2つの類似の方法を試験し、両方ともKOHを使用して、塩形態でグリセロール骨格から遊離脂肪酸を放出させた。方法1は、Lipid Analysis book,2nd edition,Christieに基づいた。この方法では、ARAに富む油0.5gを、95%エタノール中の1MのKOH1.5mLとガラスチューブ(A)内で1時間混合した。溶液を冷却した後、水1mL及びヘキサン1mLを混合物に添加し、5分間ボルテックスした。1700gで5分間遠心分離した後、ヘキサン上相をガラスチューブ(B)に移した。脂肪酸を更に抽出するために、ヘキサン1mLを下相に添加し、5分間ボルテックスし、5分間遠心分離し、上相を取り出し、チューブBに添加した。チューブBからの溶媒を窒素流下で蒸発させ、乾燥抽出物をクロロホルム0.3mLに溶解した。Salimon 2011に基づく方法2は、ARAに富む油0.5gを90%エタノール中の1.5mLの1.75MのKOHで、65℃で1時間処理したことを除いて、方法1と同一であった。脂肪酸を方法1のようにヘキサンに抽出した。再び、ヘキサンを窒素流下で蒸発させ、乾燥した脂質をクロロホルム0.3mLに溶解した。両方の方法において、アルカリはヘキサン抽出前に中和されなかったが、これは加水分解物の後の調製のために行われた。しかしながら、この実験では、加水分解された脂肪酸をTLCによって単離し、回収したので、中和を必要としなかった。
【0315】
TAG加水分解の程度を判定するために、脂肪酸調製物のアリコート10μLを、実施例1に記載の溶媒系としてヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70/30/1;v/v/v)を用いて、TLCプレート(Silica 60、Merck)上でクロマトグラフィにかけた。いずれの方法も、TLCプレート上のFFAに対応するバンドの存在及びTAGについてのバンドの非存在によって示されるように、ARA油の効率的な加水分解をもたらした。加水分解物及びTLCによって精製された脂肪酸の脂肪酸組成は、開始ARA油とほとんど同じであり、調製物の総脂肪酸含量中に約51%のARAを有していた。
【0316】
ARA油のより大規模の加水分解のために、第3の方法が試験され、成功したことが証明された。ARAに富む油50gを、90%エタノールに溶解した1.75MのKOHを含有する300mLの溶液に添加し、十分に混合した。溶液を65℃のオーブン内で2時間加熱し、混合物を30分毎に手で振盪した。溶液を室温に冷却した後、pHをHClで7に調整し、総体積を345mLとした。溶液を冷却すると、いくらかのFFA塩を伴う280mgのKClの沈殿物がゆっくりと沈降した。TAG加水分解の程度を判定するために、上清のアリコートを、上述の溶媒系としてヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸(70/30/1;v/v/v)を用いて、TLCプレート(Silica 60、Merck)上でクロマトグラフィにかけた。ARA油の効率的な加水分解は、TLCプレート上の、FFA及びはるかに少量のDAG又はMAGに対応するバンドの存在、並びにTAGについてのバンドの非存在によって確定された。
【0317】
約131mg/mLのFFAを有する上清を使用して、酵母培養物を補充した。培地補充実験で使用するための遊離脂肪酸(FFA)、例えば、γ-リノレン酸(GLA、カタログ番号U-63-A)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA、カタログ番号U-69-A)、アラキドン酸(ARA、カタログ番号U-71-A)、ドコサテトラエン酸-N6(DTA、カタログ番号U-83-A)、及びドコサペンタエン酸-ω6(DPAω6、カタログ番号U-102-AX)もNuChek Prep(米国)から入手した。遊離脂肪酸をエタノールに溶解し、最終濃度が0.5mg/mLになるように培養物に加えた。
【0318】
培養培地の補充によるリン脂質へのω6脂肪酸の取り込み
異なるω6脂肪酸の極性脂質への取り込みについて試験するため、酵母種Y.リポリティカ株W29及びS.セレビシエ株INVSc1の細胞を、遊離脂肪酸形態のGLA、DGLA又はARAの存在下で、又は添加脂肪酸の非存在下で別々に培養した。株を、100mLボトル内のYPD培地20mLに各々接種した。4つの培地はまた、脂肪酸の可溶化を補助するために1%テルギトール(NP40)を含有していた。初期細胞密度は0.1のOD600であり、培養物を通気のために200rpmで振盪しながら、28℃でインキュベートした。2時間インキュベートした後、各々純度99%の脂肪酸GLA、DGLA、及びARA(NuChek Inc、米国)をエタノールに溶解して最終濃度0.5mg/mLとなるように添加し、インキュベートを続けた。W29及びINVSc1細胞を、それらの異なる増殖速度により、それぞれ培養の2日後及び4日後に回収した。回収した細胞を、4600gで15分間の遠心分離によってペレット化した。細胞ペレットを2回洗浄して、水への再懸濁及び遠心分離によって任意の残りのFFAを除去し、細胞ペレットを凍結乾燥した。脂質抽出並びに抽出された極性脂質及びTAGの含量及び脂肪酸組成の両方の分析を、実施例1に記載されるように行った。
【0319】
細胞からの極性脂質及びTAG画分の脂肪酸組成についてのデータを、Y.リポリティカについては表5に、S.セレビシエについては表6に提供する。異なるω6脂肪酸の高レベルの取り込みが、Y.リポリティカの極性脂質画分において観察された。GLA、DGLA、及びARAの割合はそれぞれ、これらの細胞から抽出された極性脂質画分の総脂肪酸含量の47.1%、29.4%、及び20.5%であった。S.セレビシエは、4日間のインキュベーション後に、極性脂質画分において、それぞれ60.7%、59.6%、及び50.8%という更に高いレベルのGLA、DGLA又はARA取り込みを示した(表6)。酵母細胞からのTAG画分も、高レベルのこれらのω6脂肪酸を示した。S.セレビシエ細胞は、それぞれ78.1%、80.2%、及び76.8%のGLA、DGLA、及びARAの取り込みを有するTAGを示し、これらの外因性ω6脂肪酸に対するS.セレビシエにおけるアシルトランスフェラーゼの高い活性及びTAGへの効率的な取り込みを示した。極性脂質含量はY.リポリティカ細胞においてより高く、DCWの2.0%超である一方、S.セレビシエは、乾燥重量で約1%の極性脂質を含有していた。
【表4】
【表5】
【表6】
【0320】
ω6脂肪酸を有するリン脂質のより大規模の生成(実験B005)
25Lの培養物を用いたより大規模の実験では、培地にARAを添加して、野生型Y.リポリティカ株W29をBraun発酵槽内で増殖させて、より多くの細胞バイオマスを生成し、極性脂質;TAG比を上昇させ、ω6脂肪酸の極性脂質への取り込みを向上させようとした。実験は、ω6脂肪酸をリン脂質に取り込み、より大きなPL:TAG比を提供することを目的としたので、発酵は、以下のように、静止期ではなく活発な増殖の終わりにかけて終了した。増殖培地は、TAG生成よりもバイオマス生成に有利である豊富なYPD培地に基づいた。基礎培地は、酵母抽出物3g/L、麦芽抽出物3g/L、大豆ペプトン5g/L、及び主炭素源としてのデキストロース一水和物10g/Lを含有していた。pHを最初に6.0に調整した。この培地を調製し、その場でオートクレーブ処理により発酵槽内で滅菌し、次いで発酵槽ジャケットへの直接冷却によって冷却した。培地を29℃に冷却した後、ARAを、300mLの17%Triton(登録商標)-X-100中の遊離脂肪酸として12.5gのARA(NuChek)の形態で培地に過圧によって無菌的に添加して、発酵槽内の最終濃度を0.5g/LのARA及び0.2%Triton(登録商標)-X-100とし、更に100mLの非加水分解ARA油を添加して、FFAに加えて0.4%(v/v)の非加水分解ARA油の濃度とした。180rpmで一晩振盪しながら、29℃で400mLのYM培地中、種培養物を調製し、4.23のOD600を有する接種物を得た。培地温度が29℃になったとき、400mLの種培養物を過圧によって発酵槽に移し、計算によって0.07の初期細胞密度(OD600)を得た。
【0321】
接種時の発酵初期パラメータは、DO7.92、pH7.01、空気導入10mL/分、フルスピードの5%の撹拌、及び背圧11psiであった。初期のOD600は3.35であり、ほぼ完全に界面活性剤/油エマルジョンに由来するため、DO、クエン酸生成及びpH変化を追跡して、対数増殖を追跡した。特に、これらのパラメータを、対数増殖が遅くなっていった徴候について、接種後約15時間後に追跡した。界面活性剤からの過剰な発泡を避けるために、撹拌及び空気流を低くした。背圧(11psi)を加えて、低撹拌速度での良好な酸素移動を確保した。pHは制御しなかった。この実験中、消泡剤(20%Silfax D3食料製品グレード)はほとんど使用しなかった。
【0322】
クエン酸生成によれば、指数関数的増殖は接種の6~7時間後に始まり、接種の16時間後に遅くなり始め、このときだし汁を冷却し、細胞を遠心分離によって回収した。増殖は、炭素制限によって、又は最適以下のpHに達したことから、遅くなることがあった。開始培地は、グルコース10g/L及びマルトース3g/Lを含有し、全てが最大収率で消費された場合、酵母細胞密度は、50%収率と想定して約6.5g/Lであると予想された。回収時のDCWは4.2g/Lであった。これは、炭素制限が達成されていない可能性が高いことを示し、炭素制限及びその後のARA-PLの消化を回避するために後期対数期で細胞を回収するという目的と一致した。極性脂質含量及びARA取り込みを最大にするために、対数増殖期後期に培養を終了し、発酵の終了時に熱処理しなかった。回収時に、細胞は、光学顕微鏡によって観察されるように出芽しており、メチレンブルーで染色されたものはほとんどなく、したがって油含量、ひいてはTAG含量が、意図されたほどに低かった。最終収量294gの湿潤ペーストが21Lの培養物から得られ、含水量は約72%、すなわち固形分は約28%w/wであった。細胞ペーストを凍結し、次いで3バッチで凍結乾燥して、乾燥酵母ケーキ73gを得た。乾燥酵母ケーキをミリングして微粉末にし、3つの部分、すなわち脂質分析のための3g部分、食料適用試験のための35g部分、及び粗脂質画分を得るための更なる処理のための35g部分として分配した。
【0323】
脂質を、1Lボトル内で900mLの60%ヘキサン/40%乾燥エタノールを添加することによって酵母粉末35gから抽出した。このボトルをオービタルシェーカー内で180rpm、29℃で4時間振盪した。このアプローチを用いて、酵母粉末を溶媒中に十分に懸濁させた。4時間の抽出後、セラミックブフナー漏斗及びガラスフィルタ(Advantec GA-100、直径125mm)を使用して、溶媒をガラスフラスコに濾過した。いくらかの酵母破片がフィルタを迂回したので、溶液を重力によって2L丸底フラスコに再濾過した。溶媒を真空下で蒸発させて約20mLの最終体積にし、輸送のためにガラス培養チューブに移した。
【0324】
表9に示されるように、抽出脂質からの極性脂質画分の脂肪酸組成は、16.4%のARA及び25%のLAを含んでいた。総脂肪酸含量中に存在する少量のその他のω6脂肪酸GLA、EDA及びDGLAと、微量のω3脂肪酸ALAとが存在した。存在する一価不飽和脂肪酸は、極性脂質画分中で最も優勢な脂肪酸であるオレイン酸32.7%、及びパルミトレイン酸7.4%を含んでいた。飽和脂肪酸(SFA)は、極性脂質画分の総脂肪酸含量において、より低い量で存在し、主にパルミチン酸が12.7%で存在し、驚くべきことにステアリン酸が0.5%の低レベルで存在した。対照的に、TAG画分の脂肪酸組成は異なり、22.1%のARAを含んでいた。その他のω6脂肪酸は存在しないか、又は極性脂質中よりも少なく、例えばLAは16.7%であった。ここでも、オレイン酸が、TAG画分中の主な脂肪酸であった。使用される培養条件によって多くのTAGを生成しないことを本発明者らが意図したこの実験では、TAG含量は実際に低く、総脂質含量中で約20の好ましい極性脂質対TAG比を有していた。
【0325】
ω6脂肪酸を有するリン脂質のヤロウィアにおける更なるより大規模の生成(B009)
補充後のARAのPLへの取り込みレベルを維持しながら、1リットル当たりのバイオマス収量を増加させる試みにおいて、培養培地及び条件にいくつかの修正を加えたことを除いて、25L規模でB005と同様にいくつかの実験を行った。実験B009では、Y.リポリティカがTAGリパーゼを生成及び分泌することが既知の場合であっても、ARA油の加水分解及びARAの取り込みを補助する目的で、3つの異なる真菌リパーゼ(各100mg)を培養培地に添加した。更に、FFAとしてのARA及びARA非加水分解油を最初に200mLの接種物と混合し、次いで発酵槽に移した。したがって、滅菌前に、非イオン性界面活性剤Triton(登録商標)X-100を、先に使用したのと同じ最終濃度(0.2%v/v)でYPDだし汁に添加し、だし汁と共にその場でオートクレーブ処理した。
【0326】
溶存酸素(DO)プローブは、接種20分後に予想外に低い読み取り値を提供し、したがって、pH、OD、及び乾燥重量のみが、この実験において培養物の増殖をモニターするために使用されたパラメータであった。培養培地のpHは、この実験において制御されず、細胞代謝からの酸生成により16時間でpH6.7から3.3に低下した。細胞密度(乾燥重量)は、16時間で9.4g/Lであったが、洗浄細胞試料の光学密度は、0時間及び16時間でそれぞれ0.1から29.3に上昇した。大腸菌群及びサルモネラについての試験、並びに好気性生菌数によって判定して、発酵プロセス中に細菌増殖は観察されなかった。培養物を接種16時間後に冷却し、細胞を回収し、細胞ペレットを冷脱イオン水で3回洗浄した。次いで、細胞ペーストを、細胞を不活化することを目的として、76℃を超え82℃未満の温度で3分間熱処理し、次いで、氷を含む水浴中に容器を浸漬することによって冷却した。16時間で終了した発酵は、乾燥細胞重量236gを有する湿潤細胞ペースト1390gを生成した。細胞ペーストを凍結乾燥した。
【0327】
凍結乾燥細胞1グラム当たり25mLの60%ヘキサン:40%エタノールを溶媒として用いて、30℃で3.5時間、バイオマス試料から脂質を抽出した。溶媒抽出物を真空下、50℃で蒸発させ、次いで10L/分のCO2ガス下で乾燥させた。16時間凍結乾燥した試料の総脂質含量は、乾燥重量基準で4.6%であった。抽出脂質をクロロホルム中に200mg/mLの濃度で再懸濁し、前と同様にTLCプレート上でクロマトグラフィにかけた。TLC結果は、かなりの量の極性脂質が16時間細胞から抽出されていたことを示した。GCによって分析した場合の、バイオマスから抽出された脂質中のARAレベルは、TAG及びPL中でそれぞれ7.7%及び2.6%であり、TAG画分及び極性脂質画分中の総脂肪酸含量のそれぞれ2.4%及び2.5%であった。このB009実験では、バイオマス生成ははるかに多かったが、ARA取り込み率は減少した。したがって、生成されたバイオマスの量とARA取り込みのレベルとの間には反比例関係があるようであった。
【0328】
実験B012及びB013
Y.リポリティカ株W29を用いた25L規模での以前の実験は全て、ARA油100mL及びARA10gをFFAとして可溶化するために0.2mL/LのTriton(登録商標)X-100を添加したYPDだし汁中で培養した。全ての発酵は約16時間で終了した。これらの実験は、リパーゼ添加、回収時の細胞密度、及び回収されたバイオマスの極性脂質中のARAレベルに関して変動した。実験B012では、培養中に約10ppmの溶存酸素を提供するために、リパーゼを培養物から抜き、背圧を15psiに、気流を12に設定した。接種物の細胞密度(OD600)は9.19であったので、200mLを発酵槽内で25L培地に添加して、0.08と計算された開始OD600を達成した。ARA油及びFFAを前と同様に添加した。pHは、0時間での初期の7.08から15.68時間での4.63まで低下したが、培養の最後の30分で上昇し始めた。この時点で、培養物は静止期に達し得ており、グルコースが枯渇した。グルコースが枯渇した後、細胞は維持のためにリン脂質を分解し始め得ていた。したがって、静止期に達する前に培養物を回収することが重要であると考えられた。T0で計算し、16時間で細胞を水で洗浄することによって補正した光学密度は、16時間で0.08から27.4に増加し、乾燥重量基準で9g/Lの培養物密度をもたらした。
【0329】
細胞バイオマスを培養物から回収し、ペレットを冷脱イオン水で2回洗浄した。洗浄した細胞を約95℃の温度で3分間熱不活化し、次いで容器を、氷を含む水浴中に浸漬することによって冷却した。酵母細胞の熱不活化は、平板培養したときに生存細胞がないことによって示されるように成功した。この実験では、乾燥細胞バイオマス225gが生成された。総脂質をバイオマス試料から抽出し、前と同様に分析した。凍結乾燥細胞は、約4.7%の粗脂質を含有していた。この実験からの極性脂質画分は、これらの画分の総脂肪酸含量の百分率として4.1%のARAを有し、TAG画分は4.0%のARAを有していた(表8)。総脂質はまた、TLCによって示されるように、以前の実験よりも少ないTAG、MAG、及びFFAを有していた。これは、細胞がARAを取り込み、それが規定の培養条件下で細胞膜中のPLに取り込まれたが、培地中のグルコース枯渇によりPLがある程度分解されて細胞活性を維持し得ていたことを示していると考えられた。
【0330】
別の実験(B013)を、培養条件に対して以下の調整を行って実施した。スターター培養物のOD600は4~5であり、ARA FFA及びARA油は、濃縮プレミックスとして5%Triton(登録商標)X-100を用いて処方し、次いで接種前に発酵槽に添加し、pH傾向を使用して、4.0を超えることをモニタリングすることによって最適な回収点を推定した。グルコース枯渇が発生し、pHが上昇し始める前に、培養終了及び細胞回収を確認するために、pH傾向を14時間から厳密にモニターした。この実験のための培養培地を作製するために、50mLのTriton(登録商標)X-100を脱イオン水1Lに溶解し、オートクレーブ処理した。Triton(登録商標)X-100は、滅菌溶液が一晩冷却されるにつれて水から分離し、振盪しながら約50℃に温めて再溶解する必要があった。Triton(登録商標)X-100が完全に溶解してから、それをARA10.0g及びARA油100mLと激しく混合してエマルジョンを形成し、次いで発酵槽にポンプで注入した。最後に、接種培養物400mLを過圧によって発酵槽に移した。接種時の培養物密度(OD600)の計算値は0.07であった。
【0331】
培養中、溶存酸素レベルは、空気流10L/m、圧力10psi、及びDO15.9の初期設定条件下で、接種の6時間後に0に低下した。温度は、培養物密度が熱を生成するのに不十分であったので、一晩で28℃から23℃に徐々に低下した。温度低下は、pH低下の緩やかな減少によって示される培養増殖速度の減少において有益である可能性が高かった。14時間で、気流、撹拌速度、及び背圧を変化させてDOを上昇させ、温度も上昇させた。OD600は14時間で7.4であったので、OD600が10を超え、pHがpH5で安定し始めるまで、発酵を2時間延長した。培養をpH制御なしで16時間行い、pHは細胞代謝からの酸生成によりpH6.96から5.07に自然に低下した。細胞密度(乾燥重量)は16時間で5.27g/Lであったが、OD600は16時間で0.07から12.1に上昇した。培養物は4.5g/Lのグルコースを同化し、これは開始培地に供給された8.9g/Lのグルコースの51%であった。
【0332】
回収した細胞を、前と同様に95℃の温度で3分間熱不活化し、114gの乾燥重量に相当する584gの湿重量のバイオマスを得た。凍結乾燥試料から脂質を抽出し、前と同様に分析した。16時間凍結乾燥した細胞の総脂質含量は、3.4%であった。TLC分析は、実験B012よりも多くの極性脂質が存在することを示した。極性脂質及びTAG画分中のARAレベルは、それぞれ10.2%及び13.3%であった。脂肪酸組成についてのデータを表9に提供する。
【0333】
実験B013から、両方のパラメータの更なる最適化が望まれていた場合であっても、有用なバイオマス含量及び極性脂質への妥当なレベルのARA取り込みを提供していたと結論付けられた。B013において生成された細胞バイオマス及びこれらの細胞から抽出された脂質を、以下の実施例8~10に記載されるような食料調製物をシミュレートするメイラード反応において使用した。
【表7】
【表8】
【0334】
実施例5.ω6FAを有する極性脂質を使用したメイラード反応及び揮発性物質試験
実施例4に記載されるように、ω6脂肪酸GLA、DGLA、又はARAのうちの1つ以上と共にPLを含む極性脂質を酵母細胞中で生成し、抽出し、精製した。メイラード反応がこれらの脂質抽出物で誘導され得るかどうか、及び得られた生成物がどのような特性を有するかを調べるための最初の実験において、GLA又はARAを含む極性脂質調製物を、ガラスバイアル内でシステイン及びリボースと混合し、オーブン内で、140℃で1時間加熱した。本実施例は、これらの実験及び結果を記載する。
【0335】
実験1.メイラード反応
実施例4に記載されるように、GLA又はARAを補充した酵母細胞からの抽出及び分画によって、極性脂質試料を調製した。ARAを供給した細胞からの極性脂質8.0mg、GLAを供給した細胞からの7.6mg、対照細胞からの9.0mg及び豚肉から抽出した極性脂質16.0mgの試料を、各々クロロホルムに溶解し、20mLガラスバイアルに移した。溶媒を窒素流下、室温で蒸発させた。4.5mg/mLリボース(カタログ番号R9629、Sigma-Aldrich)及び5.0mg/mLシステイン(カタログ番号30089、Sigma-Aldrich)を含有する0.1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)2mLを各バイアルに添加し、バイアルを、PTTFライナーを有する金属蓋でしっかりと閉じた。対照バイアルは、緩衝液を有していたが、極性脂質を有していなかった。バイアルを40℃の水浴中で1時間超音波処理に供し、次いでバイアルをオーブンの底部金属表面上に置くことによって140℃のオーブン内で1時間加熱した。加熱後、混合物は全て橙褐色に見え、化学反応が起こったことを示唆した。思いがけなく、ARAを供給した細胞からの極性脂質を収容するバイアルは漏出し、実験室の内部及び更に外部に拡散する明確なローストした肉様の芳香が認められた。次いで、他のバイアルを冷却し、開封し、臭いを嗅いだ。ARAを供給した極性脂質及び豚肉の極性脂質を有する加熱混合物は、心地よい肉様の芳香を発し、GLAを供給した極性脂質を含む混合物は、弱いニンニク様の芳香を有していた。対照的に、アミノ酸を供給していたY.リポリティカ由来の極性脂質を有する混合物(対照)及び脂質を欠く対照混合物は、硫黄臭を発した。本発明者らは、GLAがARAよりも極性脂質中に3倍多い量で存在していた場合でああっても、ARAを含有する極性脂質は、GLAを含有する極性脂質よりも強い肉様の芳香をもたらしたと結論付けた。本発明者らはまた、極性脂質中のARAの存在が、ARAを欠く対応する極性脂質では生じなかった肉様の芳香をもたらしたと結論付けた。
【0336】
これらの観察によって促進されて、本発明者らは、ω6脂肪酸を含有する抽出脂質を用いて、肉様の風味及び芳香の化合物を提供する能力を判定するための、並びに以下のようにGC-MSにより揮発性物質を測定するための更なる試験を実行した。実験はまた、以下のように、細胞からの抽出脂質ではなく、極性脂質中のω6脂肪酸を有する全細胞を用いて行われた。
【0337】
実験2.
第1の実験の結果によって促されて、第2の実験が行われ、これは、芳香を検出するための応募者のパネルによる官能評価を含んでいた。極性脂質は、前と同様にY.リポリティカ株W29細胞から抽出した。極性脂質の脂肪酸組成を、FAMEのGC-FIDによって求めたところ、16.3%のARAの存在を示した(表9)。極性脂質15mgの試料を実験1と同様に処理した。リボースを含むがシステインを含まない緩衝液を有する追加の対照混合物を調製して、硫黄含有アミノ酸を抜くことの効果を試験した。大豆レシチン(The Ingredients Centre、オーストラリア、ビクトリア州)又は総脂肪酸含量の百分率として50%のARAを含有するARA含有油(Jinan Boss Chemical Industry Co、中国)のいずれかを含む、他の混合物を調製した(実施例4)。前と同様に、リボース4.5mg/mL及び場合によってはシステイン5.0mg/mLを含有する0.1Mのリン酸カリウム緩衝液2.0mL(pH7.2)を各10mLのSPMEバイアルに添加し、バイアルをPTFEで裏打ちしたスクリュートップキャップでしっかりと閉じた。次いで、バイアルを40℃の水浴中で1時間超音波処理に供し、前と同様に140℃で1時間加熱した。熱処理後、リボースを有しシステインを有していない混合物は、暗褐色のコーヒー様の色を有していたが、リボース及びシステインの両方を有する混合物は、より明るい褐色であった。
【0338】
バイアルを室温に冷却した後、異なる背景の30~65歳の5人の男性及び4人の女性からなる9人の応募者によって官能分析を行った。試料の同一性は、官能評価の完了後まで明らかにされなかった。各バイアルを穏やかに振盪し、蓋を開けて芳香を嗅いだ。システインを入れず脂質及びリボースを収容するバイアルを最初に提示し、続いて、脂質、リボース及びシステインを収容するバイアルを、バイアル1、4、6、2、5、7、及び3の順序で提示した。応募者の反応を記録した(表10)。応答にいくらかの多様性があったが、バイアル3は、心地よい、肉らしい又はローストした牛肉の芳香をもたらすと一貫して言及されたことが明らかであった。
【0339】
次いで、実施例1に記載したように、揮発性物質についてHS-SPME-GCMSによって試料を分析した。GC-MS分析から、ARA供給極性脂質を含有する混合物中に存在するが、非供給細胞由来の極性脂質を含有する混合物中には存在しない揮発性化合物を明らかにした。これらの化合物は、1,3-ジメチルベンゼン、p-キシレン;エチルベンゼン;2-ヘプタノン;2-ペンチルフラン;オクタナール;1,2-オクタデカンジオール;2,4-ジエチル-1-ヘプタノール;2-ノナノン;ノナナール;1-オクテン-3-オール;2-デカノン;2-オクテン-1-オール、(E)-;2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド、及び2,3,4,5-テトラメチルシクロペンタ-2-エン-1-オールであった。これらの化合物は、バイアル3内の混合物のローストした肉様の芳香に関連していると結論付けられた。
【0340】
実験の繰り返しにおいて、リボース及びシステインの濃度を半分にして、硫黄の芳香を減少させることを試みた。前と同様の結果が得られ、芳香の硫黄成分がいくらか減少した。6人の他の応募者からの応答により、ARAを供給したY.リポリティカ由来の極性脂質が、大豆レシチン及びARA油混合物からの芳香とは異なる、ローストした牛肉様の芳香をもたらしたことが確認された。注目すべきことに、応募者のうちの1人は、芳香に大きな関心を示したペット犬を飼っていた。
【表9】
【表10】
【0341】
実験3.
別の実験では、抽出された極性脂質調製物、大豆レシチン、又はARA油の試料15mgを、SPMEバイアルではなく12mLガラスチューブ内で、リボース2.25mg/mL及びシステイン2.5mg/mLを含有するリン酸カリウム緩衝液2mL(pH7.2)と別々に混合した。Y.リポリティカ由来調製物及び大豆レシチン(未精製及びTLC精製)の脂肪酸組成を表10に提供する。試験した脂質は以下であった。
1.ARAの存在下(YlARA)で増殖させたY.リポリティカ由来の極性脂質
2.ARAの非存在下(Yl)で増殖させたY.リポリティカ由来の極性脂質(対照)
3.大豆レシチン(The Ingredients Centre)
4.ARA油(Jinan Boss Chemical Industry Co、中国)
5.無脂質(対照)
【0342】
最初の試みにおいて、混合物を、PTFEシールで裏打ちされたプラスチックキャップを有する12mLのパイレックス(登録商標)ガラスチューブ内で超音波処理し、次いで140℃で1時間加熱した。チューブは、オーブンの金属表面と接触させるのではなく、オーブン内のラックに配置した。このとき、混合物は褐色がかった色ではなく、むしろ濁っているが無色であった。GC-MS分析は、低レベルの揮発性物質のみを示し、メイラード反応が完了していなかったことを示した。本発明者らは、不十分な加熱又はチューブ内の混合物の小さくなった表面積が、反応の低下に寄与し得たと考えた。したがって、残りの混合物をSPMEバイアルに移し、バイアルをオーブン内のアルミニウム箔上に置くことによって、140℃で2時間再び加熱した。このとき、混合物の色は、先の実験と同様に淡褐色に変化した。バイアルを冷却し、-20℃で保存した。揮発性化合物のGC-MS分析のために、0.5mLの各試料をスプリット1:20モードでの注入のために新しいSPMEバイアルに移し、他の0.2mLをスプリットレスモードによる注入のために新しいバイアルに移した。
【0343】
処理によって放出された揮発性化合物
抽出脂質をリボース及びシステインの混合物と共に加熱することによって放出された揮発性化合物のプロファイルを、実施例1に記載されるように、ガスクロマトグラフィ-質量分析(HS-SPME-GCMS)と組み合わせたヘッドスペース固相マイクロ抽出によって評価した。揮発性物質の大部分は、脂質酸化及び他の分解プロセス、並びにアルデヒド、アルコール、ケトン、ピラジン、及びフランの生成を含むストレッカー反応及びメイラード反応生成物の組み合わせによって生成される。GC-MSデータを表12及び
図3に示し、これは、ARA-極性脂質(YL ARA)又は非供給極性脂質(YL)を含有する反応混合物について、同定された化合物の各々のレベルを、同定された総化合物の面積百分率(%)として示す。
【0344】
ARAを供給したY.リポリティカ細胞由来の極性脂質を含有する試料は、メイラード反応を生じる条件下、システイン及びリボースの存在下で加熱され、2-ヘプタノン、3-オクタノン、2,3-オクタンジオン、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-オクタノール、トランス-2-オクテン-1-オール、及び1-ノナノールなどの特定の揮発性化合物を生成した。これらの化合物は、ARA(YL)の非存在下で増殖させた対照Y.リポリティカ細胞由来の極性脂質抽出物からのメイラード生成物中に検出されなかった。これらのうち、3-オクタノン及び1-ノナノールは、YL ARA極性脂質を有する反応物においてのみ検出され、すなわち、他のバイアルのいずれにおいても検出されなかった。他の化合物、すなわち、2-ヘプタノン、2,3-オクタンジオン、1-ヘキサノール、及び1-オクタノールは、YL ARA及び大豆レシチンを有する反応物においてのみ検出された。ARAを含有する極性脂質との反応におけるω6脂肪酸は、脂質酸化生成物の量の増加及びピラジンなどの複素環式化合物の量の減少を伴って、応募者によって観察された官能差に関連した化学的差異を明らかに作り出した。ここで記入された特定のケトン及びアルコール化合物の存在は、脂質酸化の結果としての肉風味の揮発性プロファイルにおいても観察された。YL ARA及び大豆レシチンを含む試料中に存在するケトンである2-ヘプタノンは、脂質酸化によるものであり、エーテルのような、バター、又はスパイス風味に関連すると考えられた。揮発性化合物1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-ベンゼンは、生成された主な化合物であり(
図3)、Y.リポリティカ細胞由来の対照ARA-極性脂質と比較して、ARA極性脂質を用いて作製された反応混合物中の量が有意に増加した。この化合物は、特徴的な牛肉様の芳香を有する。
【0345】
実験からの結果は、試験され、表11に示された全ての試料に共通の化合物アセチルチアゾールが、システイン及びリボースとの反応から生じた硫黄の及びローストした肉芳香を有することを示した。アルデヒドヘキサナール及びノナナールは、「無脂質」対照試料を除く全ての混合物から生成されたものであり、脂質酸化から生成された。ヘキサナールは、LA及びARAなどのω6脂肪酸の酸化に関連する。ノナナールは、獣脂及び果実のような風味に寄与し、オクタナールと共に調理された牛肉中の重要な揮発性物質の1つである。オクタナールは、YL ARA、YL、及び大豆レシチンを含有する試料、すなわち3つ全ての極性脂質試料から生成されたが、ARA油及び無脂質試料からは生成されなかった。不飽和アルコール1-オクテン-3-オールも、試験した全ての油含有試料(YL ARA、YL、大豆レシチン、及びARA油)において生成され、リノール酸メチルヒドロパーオキシドの熱分解から生じるハーブの芳香に寄与し得る。無脂質混合物以外の全てに存在する化合物2-ペンチルフランは、LAから誘導された。フラン含有化合物も、場合により糖の熱分解から生成された。
【表11-1】
【表11-2】
【0346】
実験4.反応における脂質の量の最適化
より少量の極性脂質を熱処理することができ、反応生成物が依然としてGC-MSによって検出されるかどうかを試験するために、メイラード反応において使用される脂質の量を変化させて実験を行った。実験の目的は、化合物の大部分を同時に検出し、最大全体強度を生じる、クロマトグラムを生じる最適量を定義することであった。クロロホルム中に0.5、2.5、5.0、又は7.5mgの18:0/18:1-ホスファチジルコリン(カタログ番号850467C、Avanti Polar Lipids)を含有する試料を、20mLのSPMEバイアルに移した。2.5若しくは7.5mgの大豆レシチン粉末、又はTLCによって大豆レシチン粉末から抽出された2.5若しくは7.5mgの極性脂質のアリコートもSPMEバイアルに移した。未精製及びTLC精製大豆レシチンの脂肪酸組成を表10に示す。精製は、脂肪酸組成にほとんど影響を及ぼさなかった。窒素流下でクロロホルムを蒸発させた後、2.25mg/mLリボース及び2.5mg/mLシステインを含有する1mLの0.2 Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)をバイアルに添加し、蓋をしっかりと閉じた。バイアルを水浴中40℃で1時間超音波処理に供して混合物を乳化し、次いでバイアルをオーブン内のアルミニウム箔上に置くことによって、140℃で1時間インキュベートした。バイアルを冷却した後、各バイアルのヘッドスペース内の揮発性化合物を、前と同様にガスクロマトグラフィ-質量分析(HS-SPME-GCMS)と組み合わせた固相マイクロ抽出によって分析した。脂質0.5mgを含む反応混合物は、揮発性化合物についてのピークを示したが、所望よりも低い強度であり、いくつかの化合物は検出されなかった。中間の脂質量(2.5及び5.0mg)は、化合物のほとんどについて応答の向上を示し、一方、試験した極性脂質の最大量(7.5mg)は、おそらく過負荷による強度の全体的な減少を示した。したがって、1mLの反応物体積中に2.5mgの極性脂質を有する混合物は、いずれの欠点にも悩まされることなく最適な性能を示した。その量の極性脂質は、以降の実験に最適であると考えられた。1mLの反応容量中に極性脂質5.0mgを有する混合物も、分析に適していると考えられた。
【0347】
TLCによって精製されたか又は精製されていないかのいずれかの大豆レシチンを有する混合物中の反応生成物の比較により、精製大豆レシチンを有する反応混合物中のいくつかの炭化水素化合物の存在を明らかにし、これは、非精製大豆レシチンを用いて作製された対応する反応混合物には存在せず、したがって、調製方法のアーチファクトであると考えられた。GC-MSクロマトグラムにおいてこれらの炭化水素は、短鎖アルカン及び長鎖アルカンの両方を含んでいた。本発明者らは、TLCによって精製された他の極性脂質調製物によってもまた、これらの炭化水素化合物が得られ得たと結論付け、したがって、これらの化合物は、試料調製方法から生じるY.リポリティカ極性脂質のGC-MSトレースの定量化から除外した。この理由で分析に考慮されなかった炭化水素は、ヘキサン、2,4-ジメチル-;ドデカン、4,6-ジメチル-;ヘキサデカン;ヘプタデカン;ウンデカン、3,8-ジメチル-;トリアコンタン;ヘントリアコンタン;テトラデカン、5-メチル-;デカン、3,3,6-トリメチル-;及びヘキサデカン、2,6,10,14-テトラメチル-であった。
【0348】
実験5.ARA-PC及び18:1-PCのメイラード反応
純粋なARA-ホスファチジルコリン(PC)又は18:0/18:1-PCを比較として含む混合物に対してメイラード反応からの反応生成物を比較して、ARA-PCから特異的に生じる揮発性化合物を同定するために、別の実験を行った。2.5又は5.0mgの18:0/18:1-PC(カタログ番号850467C、Avanti Polar Lipids)又はARA-PC(Avanti Polar Lipids)を含有する試料を、先の実験と同様に1mL容量で処理した。加熱工程後に生成した揮発性物質のHS-SPME-GCMS分析は、18:0/18:1-PCを有する混合物と比較して、ARA-PCを有する混合物において増加若しくは減少した、又は1つの混合物中に存在し、他の混合物中には存在しないか若しくは検出されなかったかのいずれかである多数の化合物の存在を示した。
【0349】
結果を
図4に示す。この実験の結果は、アルコール、アルデヒド、フラン、及びチオフェンが、ARA-PC脂質を有する反応混合物中に見出される重要な揮発性化合物であることを実証した。ARA-PCから誘導された混合物は、1-ペンタナール、3-オクタノン、2-オクテン-1-オール、1-ノナノール、及び1-オクタノールなどの、先の実験で観察されたものと一致する化合物を示した。他の化合物、すなわち、アダマンタノール様化合物、ヘキサナール、2-ペンチルフラン、1-オクテン-3-オール、2-ペンチルチオフェン、1,3,5-トリアジンの存在も観察された。化合物2-ペンチルチフェンは、鶏肉、ローストしたヘーゼルナッツ、又は肉らしさとして記載されている特徴的な芳香を有する。対照的に、化合物2-ペンチルフランは、果実のような、土臭いとして記載される芳香を有し、又は植物性芳香を有する。
【0350】
実験6.
実施例4に記載されているように、Y.リポリティカ株W29のより大規模の培養物をARAの存在下で増殖させ、回収し、極性脂質を、ヘキサン/エタノール抽出を使用して湿潤細胞ペレットから単離した。エタノール相からの抽出脂質の収量は6.4gであり、そのうち1.974g(30.7%)が脂質であった。その脂質のうち、95%は極性脂質であり、5%は遊離脂肪酸(FFA)であった。抽出脂質は、TAGを全く有していないようであった。極性脂質画分の総脂肪酸含量中のARAのレベルはわずか3.2%であったので(表9)、最適値よりも低かった。それにもかかわらず、本発明者らは、ARA極性脂質の量を増加させるために、2mL容量の反応物当たり15、30又は60mgの極性脂質を使用することを除いて、実験5と同様の条件で、メイラード反応においてこの極性脂質を試験した。対照の極性脂質抽出物は、培地中にω6脂肪酸を供給していなかったY.リポリティカ細胞から調製した。対照反応物は、極性脂質抽出物のアリコートを有するが、リボース及びシステインを欠くものとして設定した。
【0351】
反応物からの芳香を3人の応募者が嗅いだ。ARA-PLを有する混合物は、「豚肉様、豚肉クラックリング、肉らしい、脂肪質」又は「焼いたあぶった鶏肉、より弱い芳香」又は「あぶった魚様」と記載された弱い芳香をもたらしたが、ARAが供給されなかったY.リポリティカ由来の極性脂質を有する対照混合物は、それらの芳香において硫黄の、又は「焦げた」と記載された。リボース及びシステインを欠く混合物は、「焦げた野菜」と記載された。
【0352】
本発明者らは、3.2%というより低いARAレベルを有する極性脂質抽出物は、肉様の芳香をもたらすことができるが、極性脂質の総脂肪酸含量中の10%以上のARAのレベルは、より強い芳香をもたらすのにより良好であると結論付けた。
【0353】
実験7.ω6-極性脂質を含有する全細胞を使用する芳香の生成
実施例4に記載されているように、PLを含む極性脂質を生成するY.リポリティカ株W29細胞を、増殖培地中のARAの存在下(Yl-ARA)又はARAの非存在下(Yl)のいずれかで、25L培養物中で増殖させた。Y.リポリティカ細胞における極性脂質の脂肪酸組成を、実験2及び3について表10に示す。注目すべきことに、ARAは極性脂質の総脂肪酸含量の16.4%で存在し、GLAは1.4%、DGLAは1.9%であった。次いで、回収した細胞を凍結乾燥し、乾燥した物質をミリングして粉末にした。細胞は、細胞を死滅させるか又は不活化するために熱処理もされず他の方法でも処理されなかった。本発明者らは、乾燥酵母細胞を糖(例えば、D-キシロース)及びアミノ酸(例えば、L-システイン)の存在下で加熱した後に、その細胞が芳香化合物を提供する能力について試験することを望んだ。様々な量の糖、アミノ酸、及び様々な量の凍結乾燥細胞の効果を試験するために、一連の反応物を調製した(表13)。簡単に説明すると、L-システイン粉末(カタログ番号30089、Sigma-Aldrich)、D-キシロース粉末(カタログ番号X1500、Sigma-Aldrich)、クエン酸ナトリウム二水和物(カタログ番号W302600、Sigma-Aldrich)、及びコムギ粉を、GCヘッドスペース分析バイアル10mL(カタログ番号23084、Restek、米国)に指示された量で秤量した後、ARAを添加した又は添加していない培養物からの凍結乾燥酵母細胞を添加した。水(2mL又は3mL)を各バイアルに添加し、蓋をしっかりと閉めた後、短時間ボルテックスすることによって混合した。バイアル番号1の混合物のpHは、クエン酸ナトリウムによる緩衝に基づいて6.0であった。次いで、バイアルを、120℃に予熱したオーブン内で60分間又は45分間インキュベートした後、氷上で冷却した。バイアルを室温に温めてから開封し、内容物の臭いを嗅いだ。各バイアルでの芳香を記録した(表12)。バイアル13のキャップが緩められていたことが認められたので、バイアル19と同様に反応を繰り返した。バイアル13上の緩められたキャップは、加熱中に揮発性化合物の一部の漏出を可能にしたと推定された。バイアル18~20の複製試料を水なしで調製し、周囲温度で5又は7日間保持した後、水を添加し、次いで120℃で60分間加熱した。これらのバイアルは、調製してすぐに加熱し、次いで一週間凍結していたバイアル18~20と同じ芳香結果を提供し、混合物を室温で少なくとも1週間安定して保存できることを示した。
【0354】
いくつかの観察結果は注目すべきものであった。5~7と比較した反応バイアル2~4は、脂質中にARAを含有しない酵母細胞と比較して、脂質中にARAを含有する全酵母細胞の効果を試験するように設計された。芳香が識別できなかったバイアル2~4と比較して、ARAを有する細胞からのローストした肉の芳香の生成に関して、差異は明らかに顕著であった。システインの量をバイアル当たり0.05gに低下させた場合(例えば、バイアル17)、所望のローストした肉の芳香を検出することも困難であった。対照的に、システインが最高レベルであった場合(例えば、バイアル20)、ローストした肉の芳香は、より識別可能であったが、硫黄の芳香によってある程度押さえ切られるか又は覆い隠された。同様の効果が、その量のキシロースで認められ、すなわち、より低いキシロース濃度が、相対的に高いシステイン濃度(例えばバイアル13)の存在下であっても、あまり目立たない望ましくない芳香をもたらしたので、これはシステイン濃度と関連していた。アミノ酸及び糖のレベルは、最適な芳香をもたらすために、すなわち、より強く臭う望ましくない化合物によって芳香揮発性物質が覆い隠されることなく、ω6-PUFAからの芳香揮発性物質の適切な生成を達成するために、経験的にバランスをとることができると結論付けられた。
【0355】
加熱時間も考慮すべき因子であった。バイアル14~16及び17~19は、この変数を45分又は60分の加熱と比較するように設計された。加熱時間が短いほど、顕著に明るい色の混合物をもたらし、一方、調理時間が長いほど、かなりの褐色を生じた。この暗色化効果はまた、システインレベルとも相関するようであり、システインが多いほど、概して、適切な糖が存在する限り、より暗い反応物を生じる。
【0356】
同様に、全細胞の濃度は、バイアル8~10によって実証されたように、望ましい芳香発生にとって重要であった。バイアル8で使用した全細胞の量が少なくなると、かすかな肉らしい芳香が生じたが、量を増加させると(バイアル9及び10)、より容易に識別できるローストした肉の芳香が生じた。したがって、十分な量の全細胞を使用して、望ましい芳香のために極性脂質に取り込まれる十分なω6-PUFAを提供することが重要であった。この場合も、この特徴は経験的に判定することができる。
【0357】
この実験ではまた、より複雑な食料様物質の存在下で酵母細胞が芳香プロファイルを変化させるかどうかを試験した。試験した反応のほとんどは、単純な化学混合物を有していたが、バイアル8~10は、植物タンパク質、炭水化物、核酸、及び他の成分の存在の効果を模倣するために、添加された全粒小麦粉も含有していた。これらのバイアルからの芳香は、小麦粉を添加していない対応するバイアルと顕著に異なっていた。不快な硫黄化合物の芳香は緩和されたが、ローストした肉の芳香は依然として存在しており、より心地よい芳香をもたらした。本発明者らは、PL中でω6脂肪酸を生成する全細胞を、植物タンパク質を含有する食料に細胞が取り込まれた場合に使用すると、望ましい芳香が得られる可能性が高いと結論付けた。
【0358】
この実験からの主要な結論は、全酵母細胞中のω6 PUFA含有リン脂質の添加が、ω6 PUFAを有するリン脂質を含有する抽出脂質の添加と同様に、肉様の芳香の生成においても作用したというものであった。すなわち、この実験は、望ましい芳香揮発性物質を生成するためにメイラード反応又はアマドリ反応において有効であるためには、生成細胞からω6含有リン脂質を抽出する必要がないことを示した。
【表12】
【0359】
実施例6.土壌試料からのモルティエレラ及びムコール株の単離
モルティエレラ・アルピナは、温帯の草地からの土壌に生息することが一般的に見出されている、接合菌科の糸状かつ腐生の真菌である。この種のいくつかの株が、多価不飽和脂肪酸(PUFA)、具体的にはω6脂肪酸アラキドン酸(C20:4;ARA)、リノール酸(C18:2;LA)、及びγ-リノレン酸(C18:3;GLA)を含有する油を生成するために、商業的に使用されている。別の真菌種ムコール・ヒエマリスは、自然界に遍在し例えば腐敗していない食料中に見出すことができる、ケカビ(Mucorales)目の接合胞子真菌である。それはまた、薬理学的及び化学的化合物の生体内変換剤として工業的に使用されており、並びにω6脂肪酸の潜在的供給源である。したがって、本発明者らは、オーストラリアのいくつかの温帯地域から得られた土壌試料から、モルティエレラ・アルピナ、ムコール・ヒエマリス、及び関連種の株を単離することを試みた。
【0360】
The Biomes of Australian Soil Environments(BASE)プロジェクトデータベースは、オーストラリア全域の902の場所から採取された1400を超える土壌試料からの微生物単離株についての微生物多様性及び機能についての統合された情報が入っているデータベースである。このデータベースは、群集における微生物の多様性を特徴付けるための、細菌16S rRNA、古細菌16S rRNA、及び真核生物18S rRNA遺伝子の系統発生マーカー配列決定からの情報を含む、広範な環境勾配にわたる土壌試料の全てについての関連メタデータを含む。真菌の多様性は、18S rRNA遺伝子アンプリコン配列によって知らされた。しかしながら、真菌は土壌の生物の重要な群であり、内部転写スペーサ(ITS)領域は多くの真菌群について18S rRNAよりも得られる情報が多いことから、真菌特異的ITSアンプリコンを配列決定して真菌群集を特徴付けることによってITS配列も含めた。これらのアンプリコンは、土壌中に生息する多様な範囲の微生物に及ぶ。
【0361】
したがって、BASEデータベースを調べて、モルティエレラ又はムコール属の真菌種が入り得る、BASEアーカイブからの土壌試料を同定した。調べるには、M.アルピナ株ATCC32222内部転写スペーサ1(ITS;配列番号1)をクエリとして使用した。12を超える土壌試料が、これらの属からのこれらの株を含む候補として同定された。102.100.100/14183と命名された1つのそのような土壌試料を同定し、真菌株の単離のためにアーカイブから検索した。更に、ナマッジ(Namadgi)試料I及びナマッジ試料IIと命名された2つの他の土壌試料を、オーストラリアのオーストラリア首都圏の温帯ナマッジ領域からの空き草地から収集した。各試料からの約5~10mgの微細な土壌を3mLのPBSに懸濁し、2分間ボルテックスした。各土壌試料について、土壌懸濁液100μLを、20g/Lの麦芽抽出物及び20g/Lの寒天を含有する麦芽抽出物寒天(MEA)の10枚のプレートの各々に広げ、暗所にて4℃でインキュベートした(Botha et al.1998)。真菌コロニーの増殖についてプレートを定期的に観察した。8~12日後、異なるコロニーの縁からの菌糸体を、寒天スライスを通して新鮮なMEAプレートに移し、コロニーが直径1~4cmになるまで4℃でインキュベートした。コロニーを更に精製するために、各コロニーの縁からの菌糸体を、寒天スライスを通して新鮮なMEAプレートに移し、周囲温度で4日間インキュベートした。目視検査によって純粋に見えたコロニーを麦芽抽出物だし汁5mLに接種し、静置培養物中、周囲温度で5日間増殖させた。それにより、3つの土壌試料から合計67の真菌株が単離された。
【0362】
YeaStarゲノムDNAキット(Zymo research、カタログ番号D2002)を使用して、各菌糸バイオマスからゲノムDNAを単離した。内部転写スペーサ(ITS)を、オリゴヌクレオチドプライマーxMaF1 GGAAGTAAAAGTCGTAACAAGG(配列番号2)及びxMaF2 TCCCCGCTTATTGATATGC(配列番号3)を使用して、Ho及びChen(2008)によって記載されたようにPCRによって増幅した。各単離株からのアンプリコンからのITSのヌクレオチド配列を、サンガー配列決定によって判定した。得られた配列を、BLASTを使用してNCBIリポジトリ内の配列と比較した。各単離株について少なくとも95%のヌクレオチド配列同一性、多くの場合98%又は99%の同一性を有する最も近いヒットを用いて、各真菌単離株についての種を同定した。ITS相同性を用いたモルティエレラなどの種の分類は、当技術分野において標準的である。
【0363】
少なくとも4つの異なる真菌種をITS相同性に基づいて同定し、これは、真菌コロニーをMEAプレート上で増殖させたときに観察された4つの明確に異なる形態学的特徴と相関した。興味深いことに、これらの種のうちの3つは、主に3つの土壌試料のうちの1つから単離されたが、他のものでは単離されなかった。ムコール・ヒエマリスは、主にナマッジI土壌に見出され、モルティエレラ・アルピナは、試料102.100.100/14183からの土壌に見出され、推定モルティエレラ種の単離株は、ナマッジII土壌に見出された。モルティエレラ・エロンガタの単一コロニーをナマッジI及びII土壌試料の各々から単離した。ナマッジII土壌試料から同定された推定モルティエレラ種単離株からのITS配列は、最小で95%の同一性レベルでNCBIデータベースにおいて見出されなかった。それにもかかわらず、ITS配列のより低い相同性ヒットに基づいて、これらの単離株は、モルティエレラ種又はモルティエレラ属に密接に関連する種である可能性が最も高いと考えられた。43種の真菌単離株のITS領域のヌクレオチド配列及び推定される種の名称を表14に列挙する。選択された単離株を、株yNI0121~yNI0131及びyNI0133~yNI0135と命名した(表13)。
【0364】
プライマーxMaF1及びxMaF2で増幅されたITS領域は、ムコール・ヒエマリス株については639と647塩基対の間の長さ、モルティエレラ・アルピナ株については668と672塩基対の間の長さ、モルティエレラ種単離株については628と652塩基対の間の長さ、及び2つのモルティエレラ・エロンガタ株について640と659の間の長さを有するアンプリコンを生成した。したがって、このITSアンプリコンの長さは、4つの種を区別するのを助けるのに有用であった。
【表13】
【0365】
真菌単離株の脂肪酸組成及び含油量
これらの真菌単離株中の脂質の分析のために、コロニーの縁からの寒天スライスを新鮮なSD寒天プレート上に置き、コロニーが直径3cmを超えるまで周囲温度にて4~6日間増殖させた。SD培地は、真菌バイオマスを混入し得るいくらかの脂質を有し得る、酵母抽出物を有していないので、この実験において使用した。菌糸バイオマスをプレートから回収し、ペレット化のために滅菌水に懸濁した。エタノールで菌糸バイオマスを洗浄した後、クロロホルム/メタノール溶媒(Bligh and Dyer,1959)を用いて脂質を抽出し、TLCプレート上で分画してTAG及び極性脂質画分を得た。TAG及び極性脂質画分の脂肪酸組成を、実施例1に記載したようにFAMEのGC分析によって求めた。
【0366】
株yNI0121~yNI0131及びyNI0133~yNI0135のデータを表14に示す。脂肪酸組成は、4つの種の間で明確な差異を示したが、いくつかの類似性もあった。4つの種全てが、18個又は20個の炭素及びアシル鎖中に3又は4個の不飽和を有する多価不飽和ω6脂肪酸、すなわち、ムコール・ヒエマリスの場合はω6脂肪酸のGLAのみ、又はモルティエレラ単離株全てについてはGLA、DGLA、及びARAの3種全てを生成した。ほぼ全ての単離株が、極性脂質画分中に、これらの画分中の総脂肪酸含量の重量百分率として、少なくとも20%、最大約38%のこのようなPUFA(GLA、DGLA、及びARAの合計)を生成した。ムコール・ヒエマリス株yNI0121~yNI0124は全て、TAGの総脂肪酸含量中に約10%のGLAを生成し、極性脂質中に26%~30%のGLAを生成した。これらのムコール株は、それらの極性脂質中にω6 PUFAを優先的に蓄積したと結論付けられた。これらの株は、極性脂質画分中に検出可能なレベルでもほんの微量でもARA若しくはDGLAレベルを生成せず、これらがGLAをDGLAに伸長する能力を有していないこと、すなわち、これらが脂肪酸Δ6エロンガーゼを欠いていることを示した。これは、ムコール株について公開された報告(Certik et al.、1993)と一致する。LA(C18:2ω6)は、ムコール株のTAG画分において最も豊富な脂肪酸であったが、3つのモルティエレラ種のいずれにおいてもそうではなかった。これらの株は、この分析のために株を培養するのに使用されるSD寒天プレート上の増殖条件下で、乾燥重量で12~18%のTAG及び比較的高い量、最大約7%の極性脂質を生成した。TLC分画を含むプロセスからの脂質画分の抽出及び回収が100%未満であったことを考慮すると、これらのムコール・ヒエマリス株の総脂質含量は20%超であり、したがってこれらの株は油性である。
【0367】
ムコール・ヒエマリス株とは対照的に、モルティエレラ・アルピナ株yNI0133~yNI0135は、豊富なARA並びにGLA及びDGLAを生成した。TAG及び極性脂質の両方におけるARAレベルは、これらの画分中の総脂肪酸含量の約30重量%であった。したがって、これらのM.アルピナ株は、TAGと比較して極性脂質中にω6 PUFAを蓄積するいかなる優先性も示さなかった。GLA及びDGLAレベルは、TAG中でそれぞれ約2%及び約6%であり、極性脂質中でそれぞれ約4~7%及び約2~4%であった。ARAレベルと比較して、これは、M.アルピナ株が、効率的なΔ6エロンガーゼ及びΔ5デサチュラーゼ酵素を有することを示した。このような酵素をコードする遺伝子は、M.アルピナの他の株から単離されている(Huang et al.,1999;Knutzon et al.,1998)。モルティエレラ・アルピナ株はまた、TAG画分中に約4~5%のC24:0を生成した。
【0368】
この場合も、ムコールとは対照的に、推定モルティエレラ種株yNI0126~yNI0130は、GLAに加えてARA及びDGLAを生成し、TAG及び極性脂質の両方中にこれらのω6 PUFAを蓄積した。しかしながら、M.アルピナ株とは対照的に、モルティエレラ種菌株は、その極性脂質中に、そのTAG中よりも2~4倍多くのARAを蓄積した。これらのモルティエレラ種株は、ムコール株と同様に、TAGと比較して極性脂質中にそれらのω6 PUFAを優先的に蓄積すると結論付けられた。2つのモルティエレラ・エロンガタ株yNI0125及びyNI0131は、GLAに加えてARA及びDGLAを生成すること、及びTAG及び極性脂質の両方中にこれらのω6 PUFAを蓄積することなど、多くの特徴においてモルティエレラ種株と類似していた。それらはまた、それらのTAG中よりもそれらの極性脂質中により多くのARAを蓄積する優先性を示す。モルティエレラ・エロンガタ株は、他の脂肪酸のいくつかのレベル、又は関連する脂肪酸の対の間の比、すなわち1つの脂肪酸から別の脂肪酸への、例えばGLAからDGLAへの変換率を反映することにおいて、モルティエレラ種と区別することができた。それにもかかわらず、モルティエレラ種株とモルティエレラ・エロンガタ株との関係を確定するために、更なる系統発生分析を行う必要がある。
【0369】
試験した全ての株は、TAG画分及び極性脂質画分の両方中にかなりの量の一価不飽和脂肪酸及び飽和脂肪酸を有していた。オレイン酸は、ムコール・ヒエマリス、モルティエレラ種、及びモルティエレラ・エロンガタ株のTAG及び極性脂質画分の両方において最も豊富な脂肪酸であったが、モルティエレラ・アルピナ株においてはそうではなく、ARAが最も豊富な脂肪酸であった。パルミチン酸は、試験した全ての株において、TAG画分及び極性脂質画分の両方において最も豊富なSFAであった。1つ又は2つの例外を除いて、ステアリン酸の量は比較的少なく、TAG中で約3~10%、極性脂質中で約2~6%であった。全ての株に存在する他のSFAは、ミリスチン酸(C14:0)、ペンタデカン酸(C15:0)、アラキジン酸(C20:0)、ベヘン酸(C22:0)、及びリグノセリン酸(C24:0)であった。一価不飽和脂肪酸C16:1Δ7、C17:1、C18:1Δ11(バクセン酸)、及びC22:1は、全ての株において少ないが検出可能なレベルで存在した。
【0370】
次に、本発明者らは、より大量の真菌バイオマスを生成して、菌糸体破壊方法を評価するために、及び食料取り込み実験に十分な量の抽出脂質を生成するために、選択された株yNI0121(ムコール・ヒエマリス)、yNI0125(モルティエレラ・エロンガタ)、yNI0127(モルティエレラ種)、及びyNI0132(モルティエレラ・アルピナ)を培養した。yNI0132も102.100.100/14183土壌試料から単離され、ITS相同性に基づき(yNI0132 ITSは配列番号47に示されている)M.アルピナとして同定され、極性脂質及びTAG画分においてyNI0133、yNI0134、及びyNI0135と同様の脂肪酸プロファイルを示した。yNI0121、yNI0125、yNI0127、及びyNI0132からの真菌バイオマスも試験して、湿潤形態か又は粉末として乾燥させたかいずれかで全細胞バイオマスをメイラード型反応に使用して、ω6脂肪酸を有するPLを含有するこれらの真菌から肉様の芳香を生成することができるかどうかを判定した。これはまた、TAG及び極性脂質画分中におよそ等しいレベルのω6脂肪酸を有する株と、TAGと比較して極性脂質中により多くのω6脂肪酸を有する株との比較を可能にする。
【0371】
より大きな培養物のための種培養物を調製するために、真菌株yNI0121、yNI0125、yNI0127、及びyNI0132を寒天スライス増殖によって新たに繁殖させ、コロニーの縁から真菌菌糸体を有する0.5×0.5cm寒天片を採取し、それらを新たなMEAプレートの中心に置いた。新しいコロニーが少なくとも直径3cmになるまで、プレートを周囲温度で3~5日間保持した。次いで、各株について、菌糸体を含有する6個の0.5×0.5cm寒天片を10mL麦芽抽出物培地に接種し、これらを振盪しながら26℃で3日間インキュベートし、次いで2日間静置することによって、中間培養物を調製した。次いで、完全培養物を使用して、250mLバッフル付きフラスコ内の50mLの麦芽抽出物培地に接種し、振盪しながら26℃で3日間インキュベートした。次いで、これらの培養物を使用して、(1リットル当たり)グルコース60g、酵母抽出物10g、麦芽抽出物5g、KH
2PO
44g、(NH
4)
2HPO
43g、及びMgSO
40.6gを含有し、2MのNaOHでpHを6.0に調整した600mLの培地に接種した。これらのより大きな培養物を26℃で振盪しながらインキュベートし、培養物を2日後にサンプリングし、バイオマスを3日後に遠心分離によって回収し、凍結乾燥し、次いで冷凍した。
【表14-1】
【表14-2】
【0372】
第1の培養物中の3つのモルティエレラ種、並びに3つのモルティエレラ種及びムコール・ヒエマリス株についての湿潤重量及び対応する乾燥重量を表15に示す。
【表15】
【0373】
真菌株のバイオマス生成の改善
培養物中で達成されたバイオマス重量を改善する試みにおいて、2つの培養培地を比較した。第1の培地を試験するために、3つのモルティエレラ単離株yNI0125、yNI0127、及びyNI0132並びにムコール・ヒエマリス株yNI00121を、(1リットル当たり)グルコース20g、酵母抽出物6g、麦芽抽出物5g、KH2PO43g、(NH4)2HPO43g、及びMgSO4・7H2O3gを含有する種培養物中で増殖させた。種培養物を使用して、培地1(1リットル当たり):グルコース20g、酵母抽出物5g、ペプトン10g中の600mL培養物に接種し、通気のために200rpmで振盪しながら、26℃でインキュベートした。800mLの並行培養物もまた、グリセロール30g、酵母抽出物0.85g、KH2PO48.7g、(NH4)2HPO41~9gを含有するpH6.2の第2の培地、培地2中で同時に増殖させ、通気のために200rpmで振盪しながら、26℃で培養した。増殖は培地1で有意により速く、70時間で約14g/L乾燥重量に達した。
【0374】
これらの株からの乾燥全細胞バイオマスをメイラード反応に使用した(実施例7)。
【0375】
真菌バイオマスからの総脂質の抽出
総脂質を、以下のように、溶媒としてヘキサンを使用して、回収された湿潤真菌バイオマス(表15、実験2)から抽出した。細胞バイオマス1グラム(湿潤重量)当たり2mLのエタノールを使用して、細胞バイオマスをエタノールで洗浄し、その後毎回遠心分離して細胞バイオマスを回収することによって、水の大部分を除去した。細胞バイオマス1グラム当たり5mLのヘキサンを用いて、ペレット化した細胞をヘキサン中に再懸濁した。懸濁液を均質化し、細胞をUltraTurrax(IKA、マレーシア)で3分間破壊し、続いて5分間超音波処理し、この対の処理を2回、合計3回繰り返した。混合物を室温で3時間振盪したが、後の実験では、混合物を一晩振盪するとより多くの脂質が抽出されることが示された。混合物からの試料の顕微鏡による観察では、細胞の全てではないが多くが処理によって破壊されたことを示した。混合物を遠心分離し、ヘキサン相を回収した。窒素流を使用して各抽出物からヘキサンを蒸発させ、乾燥脂質抽出物を秤量した。これにより、yNI0121(ムコール・ヒエマリス)から0.99g、yNI0125(モルティエレラ・エロンガタ)から1.33g、yNI0127(モルティエレラ種)から0.69g、及びyNI0132(モルティエレラ・アルピナ)から0.78gが得られた。これらの脂質の試料をTLCプレート上でクロマトグラフィにかけ、極性脂質をシリカから抽出して、実施例1に記載したようにFAMEのGCにより脂肪酸組成を分析した。
【0376】
真菌バイオマスからの部分精製極性脂質の抽出
中性脂質と比較してエタノール中の極性脂質の溶解度が大きいことに基づいて、エタノール中への抽出によって極性脂質を優先的に抽出する手段として、代替の抽出方法を試験した。モルティエレラ・アルピナの発酵後に回収した乾燥バイオマス(45.63g)及び60mLのエタノールをブレンドし、UltraTurraxホモジナイザを使用して少なくとも部分的に破壊した。次いで、試料を撹拌しながら30分間混合し、遠心分離した。エタノール上清を除去した。このエタノールによるM.アルピナバイオマスの抽出を2回繰り返し、上清を合わせた。所望であれば、中性脂質の抽出のために沈殿物を保持することができる。真空ポンプ15mbar、冷却器-16℃、水浴37℃及び400rpmでプログラムされたロータリーエバポレータ内で、合わせた上清からエタノールを蒸発させた。M.アルピナ乾燥バイオマス45.63gの初期投入量から、リン脂質に富んだ沈殿物5.7gを回収した。この段階での沈殿物もいくらかのTAGを含有していた。リン脂質に富んだ沈殿物を30mLのヘキサンに溶解し、氷浴中0℃で冷却した。次に、120mLの冷アセトン(-20℃)を撹拌混合物に添加して、リン脂質を沈殿させた。沈殿物を30mLずつの冷アセトン(-20℃)で5回洗浄した。抽出及び精製されたリン脂質調製物中の残留溶媒を、ロータリーエバポレータ内で、室温で10時間除去した。極性脂質収率を重量測定法で測定し、少量のアリコートをFAME分析に使用した。別のアリコートをTLC上でクロマトグラフィにかけて純度を確認した。45.63gのM.アルピナ乾燥バイオマスの初期投入量から、1.1gの比較的純粋なリン脂質を回収した。
【0377】
実施例7.より大規模の真菌バイオマスの生成
次に、本発明者らは、実施例6に記載の真菌単離株からのARAなどのω6脂肪酸を含有するPLを含むバイオマスから、全細胞バイオマス及び脂質抽出物を生成した。真菌単離株を35L規模で培養し、真菌塊を培養物から回収し、脂質を抽出した。いくつかの実験では、脂質を分画して、PLを含む極性脂質、並びにメイラード反応及び食料調製に使用される全細胞及び抽出脂質の両方を単離した。
【0378】
より大規模の真菌バイオマスの生成及びω6脂肪酸(B017)を有する脂質の抽出
35Lの培養物を生成するより大規模の実験において、モルティエレラ・アルピナ株yNI0132を、より多くの細胞バイオマス及び好適な極性脂質を生成することを求めて、主要な炭素源としてグルコースを含有する富栄養培地中、Braun発酵槽内で増殖させた。極性脂質に取り込まれたω6脂肪酸を有するTAG比M.アルピナが、豊富なTAGを生成することが自然にできる油性種である場合であっても、増殖培地は、TAG生成よりもバイオマス生成に有利であるリッチ酵母抽出物-麦芽抽出物培地に基づいていた。接種のための種培養物及び培養の第1相の接種に使用した培地は、(1リットル当たり)グルコース60g、酵母抽出物10g、麦芽抽出物5g、(NH4)2SO43g、KH2PO41g、MgSO4・7H2O0.6g、CaCl20.06g、及びZnSO40.001gを含有し、pH6.2であった。培養の第2段階では、(1リットル当たり)麦芽抽出物5g、(NH4)2SO47.5g、KH2PO41g、MgSO4・7H2O6.0g、CaCl20.3g、ZnSO40.005gするが酵母抽出物を含有しない、5Lの供給溶液を使用した。これらの培地は、窒素源として尿素ではなく硫酸アンモニウムを使用した。第1相培養培地を調製し、121℃で15分間、その場でオートクレーブ処理することによって発酵槽内で滅菌し、次いで発酵槽ジャケットへの直接冷却によって冷却した。グルコースストック溶液(438gグルコース一水和物+563mL水)を40%溶液として別々にオートクレーブ処理し、45℃でまだ温かいうちに発酵槽に添加した。
【0379】
接種培養物を、寒天プレートからのスターター培養物を使用して、500mLフラスコ内の4×200mLのYMだし汁中で調製した。接種培養物を、180rpmで振盪しながら、30℃で71.5時間インキュベートし、その時点で接種培養物は旺盛な増殖を示した。培養物を均質化することなく、接種培養物を発酵槽に導入した。バイオマス生成を最大化する目的での培養の第1相では、培養物に過剰な剪断力を加えることなく、高通気速度を約0.6~1.0vvm(18~30L/分)に維持し、混合を50~150rpmで低くして、溶存酸素を1ppm超に維持した。76時間の培養後、栄養供給溶液を発酵槽に添加した。NaOHの添加によりpHを常時6.0に制御し、温度を30℃に維持した。接種後24時間毎に培養物をサンプリングした(50mL)。毎日測定したパラメータは、細胞密度(乾燥細胞重量)、HPLCによるグルコースレベル、ケルダール法による総窒素レベル、比色ストリップによるリン酸及び硫酸レベル、並びに光学顕微鏡法による真菌の外観であった。乾燥重量(乾燥細胞重量)は、ブフナー漏斗及び真空ポンプを使用して20mLの培養物を濾過した後、オーブン内で乾燥させ、次いで秤量することによって得られた、ガラスマイクロファイバー上に回収された材料を秤量することによって測定した。細胞密度が19.5g/L(湿潤重量/w)に達した94時間後に培養物を回収した。バイオマスを、ナイロンガーゼ(200ミクロン)を通して濾過することによって回収した。バイオマスを再懸濁し、各回バイオマスの容量に対して2倍容量の冷水で、2回洗浄した。菌糸体バイオマスは灰色-白色であった。湿潤菌糸体ケーキを濾布に通して手で絞ることにより、過剰の水を除去した。これにより、約590gの乾燥重量を有する洗浄バイオマス2.27kgが得られた。バイオマスケーキをジップロックバッグ内で1~2cmの層に広げ、冷凍した。
【表16】
【0380】
DW及びpHによって示されるように、真菌増殖のほとんどは20~50時間の間に起こった。培養は約50時間で静止期に達したが、これはおそらく窒素の枯渇によるものであり、その時点の後に更なるpH調整は行われなかった。ケルダール法による窒素は、70.3時間で枯渇した。供給溶液による76時間での窒素の更なる添加は、グルコース消費の更なる増加及びバイオマスのDWの更なる増加をもたらした。最終グルコース濃度は23.37g/Lであったので、初期量の60%しか消費されなかった。したがって、バイオマス生成を最適化するために、窒素対炭素比の更なる調整が考慮された。表17は、バイオマスのTFA、TAG、及びPL画分の脂肪酸プロファイルを示す。
【表17】
【0381】
不活化を伴う真菌バイオマスのより大規模の生成
モルティエレラ・アルピナ株yNI0132を、Braun発酵槽内で、主な炭素源としてグルコースを含有する富栄養培地中で増殖させ、65時間で回収した。接種のための種培養物及び培養の第1相に使用した培地は、(1リットル当たり)グルコース65.6g、酵母抽出物10g、麦芽抽出物5g、(NH4)2SO43g、KH2PO41g、MgSO4・7H2O0.6g、CaCl20.06g、及びZnSO40.001gを含有し、pH6.2であり、並びに消泡剤として1.0%のポリグリコールP2000を含有していた。培養の第2段階では、(1リットル当たり)麦芽抽出物0.833g、(NH4)2SO41.25g、KH2PO40.167g、MgSO4.7H2O1g、CaCl20.05g、及びZnSO40.0008gを含有するが酵母抽出物を含有しない、供給溶液を使用した。第1相培養培地を調製し、122℃で30分間、その場でオートクレーブ処理することによって発酵槽内で滅菌し、次いで発酵槽ジャケットへの直接冷却によって冷却した。グルコースストック溶液を121℃で15分間別々に滅菌し、だし汁及びグルコースを45℃に冷却した後に発酵槽に移した。
【0382】
1Lの接種培養物を、寒天プレートからのコロニーを用いて5LのmLフラスコ内のYMだし汁中で調製した。接種培養物を、150rpmで振盪しながら、28℃で24時間インキュベートした。発酵槽をバッチ培地(グルコース不含)及び消泡剤(発酵槽内1.0%)で滅菌した。グルコースを別々に滅菌し、蠕動ポンプによって滅菌バッチ培地に添加し、pHをpH6.0に、温度を30℃に調整した。ボトルがポンプ輸送可能なコロニーの豪勢な増殖を示したとき(16~24時間)、蠕動ポンプによって発酵槽に1000mLのスターター培養物を接種した。発酵槽をT0(接種物の添加後)及び毎日(50mL)サンプリングし、細胞密度(オーブン乾燥重量(DW))、HPLCによるグルコース、並びにリン酸塩及び硫酸塩(ストリップ)について測定した。DWは、ブフナー漏斗及び真空ポンプを使用して約15gの試料を濾過した後、オーブン内で乾燥させ、次いで秤量することによって得られた、ガラスマイクロファイバー上の乾燥ペレットを秤量することによって測定した。グルコースを含まない栄養供給物を、接種の43.1時間後にボーラスとして移した。発酵槽を接種後65.2時間で回収し、回収した培養物を、ブドウ絞り器(100kPa、10分間)を用いて処理した。バイオマスを滅菌水に再懸濁し、ブドウ絞り器を100kPaで10分間使用して再処理した。バイオマスケーキをアルミニウム箔で薄層に包み、各ラップ内のペースト湿潤重量を記録し、培養物1リットル当たりのバイオマス収量を計算した。包まれたバイオマス試料をジップロックバッグに入れ、冷凍した。冷凍バイオマスを無菌水(1:4)中で再水和し、Silversson高剪断ミキサーを用いて懸濁した。次にペーストを、APVホモジナイザを用いて10000psiで10分間、流動性液体が生成されるまで均質化した。均質化した試料を76℃超で、20~30rpmのポンプ速度で低温殺菌した。低温殺菌した試料の一部を滅菌容器に詰めて冷凍し、別の試料を凍結乾燥した。バイオマスペースト(前均質化、均質化、及び低温殺菌済み)をマイクロテストのためにサブサンプリングし、100μLの各試料/処理物をYMプレート上に播種し、25℃で96時間インキュベートした。
【0383】
発酵プロセスにより湿潤バイオマス2.2kg(435gm乾燥バイオマス)を得た。均質化(任意選択で低温殺菌を伴う)により、バイオマスを完全に滅菌し、播種時に0 CFUカウントが観察された。表18は、凍結乾燥バイオマス(均質化前)のTFA、TAG、及びPL画分の脂肪酸分析を示す。
【表18】
【0384】
実施例8.真菌バイオマス及び抽出脂質を使用するメイラード反応
本発明者らは、メイラード反応において、M.アルピナ細胞、並びに極性脂質が濃縮され、ω6脂肪酸ARA、DGLA、及びGLAを含有する細胞から得られた抽出脂質を試験した。実験はまた、全て実施例7に記載されるように生成された、細胞及び抽出脂質の組み合わせを試験した。これらの反応物は、pH6.0のリン酸緩衝液中に存在するL-システイン、D-リボース、チアミン塩酸塩、フマル酸鉄、及びグルタミン酸を有し、酵母抽出物を添加していたか、又は酵母抽出物を欠いていた。これらの反応物は、風味付け及び他の官能属性のために食料調製物に多くの場合添加される複数の成分を有する、風味付け混合物の使用に近づけることを意図した。酵母抽出物の存在又は非存在は、酵母抽出物が、M.アルピナ細胞又はPLを有する抽出脂質によって生成される芳香を覆い隠すか若しくは増強するか、又はほとんど効果がないかを試験することを意図した。
【0385】
メイラード反応に使用した基礎培地は、酵母抽出物を欠く「マトリックスA」及び酵母抽出物を含む「マトリックスB」と命名され、最終濃度で水性緩衝液中に以下の組成を有していた:L-システイン10mmL、D-(-)-リボース10mM、チアミン塩酸塩2mM、フマル酸鉄(Apohealth、NSW、Australia)35μg/mL、及びL-グルタミン酸一ナトリウム塩水和物2mM。これらの成分を、リン酸二水素カリウム及びリン酸水素二カリウムから調製した、マトリックスAについてはリン酸カリウム緩衝液32.6mM(pH6.0)又はマトリックスBについてはリン酸緩衝液12.6mM(pH6.0)に溶解した。酵母抽出物を、30mg/mLの最終濃度でマトリックスBに添加した。反応は、2mL容量で、20mLガラスバイアル内で、しっかりとねじ天蓋を密封して行った。反応混合物は、M.アルピナ乾燥バイオマス(150mg)若しくは抽出された極性脂質(20mg、50mg、若しくは70mg)、又は表19に示されるような細胞及び脂質の組み合わせで構成した。M.アルピナバイオマス又は極性脂質の存在に対する対照として、他のバイアルは、S.セレビシエ細胞150mg又はS.セレビシエ細胞からの抽出脂質70mgから構成し、両方ともω6脂肪酸を含有していなかった(反応物#8~#12)。追加の反応混合物(反応#5、#9)を調製し、ボルテックスしたが、次いで一晩凍結した後、解凍し、他の反応混合物と熱処理した。
【0386】
混合物を2分間激しくボルテックスし、次いで140℃に設定したオーブン内で75分間加熱した。熱処理中、バイアルをしっかりと密封した。試料がオーブン温度に温まるのに約15分かかると推定されたので、熱処理は140℃で約60分を含んだ。バイアルを冷却し、約15分後に触ると温まり、次いで5人の応募者(P1~P5)のパネルが嗅ぐために短時間開封した。応募者は男性及び女性を含み、年齢は24~65歳の範囲であった。応募者は、内容物を嗅ぐ前にバイアルのいずれの組成も知らず、バイアルは、応募者によって選択されたランダムな順序で嗅がれた。芳香の説明は、コメントを全く共有せずに記録した。データを表20に示す。反応物#4~#7についての芳香の説明を表20にまとめ、反応物#4~#7内での任意の好みを依然として示した。反応物#8~#11に対する応答を、応募者P3及びP4について同様にまとめた。
【0387】
M.アルピナバイオマス及び/又は抽出脂質を含有する反応物#4~#7は、5人の応募者全員によって肉らしい芳香を有すると記載されたが、応募者によって異なる芳香ノートが記録され、S.セレビシエバイオマスを有する反応物からの芳香の記述は、応募者間でよりばらつきがあった。脂質抽出物を欠く対照反応混合物、及び細胞バイオマスを全く含まない脂質抽出物を有する混合物は、概して、バイオマス又はバイオマスとM.アルピナ由来の抽出脂質との組み合わせを含有する対応する試料と比較して、より低い強度の芳香を有すると知覚された。M.アルピナ由来の抽出脂質を加えたバイオマスを含有する反応混合物は、M.アルピナバイオマスのみを含有する反応物と比較して、同様の又は増強された芳香を有すると記載された。冷凍及び解凍され、次いで加熱された混合物は、同じ様式で加熱された新たに調製された混合物と同様の芳香応答をもたらした。本発明者らは、ω6脂肪酸を取り込んだ極性脂質を含有するM.アルピナバイオマスが、肉らしい芳香、特にローストした牛肉などの牛肉の芳香をもたらしたと、結論付けた。ω6脂肪酸を含有するPLについて濃縮された抽出脂質もまた、肉らしい芳香をもたらし、バイオマスと共に適用された場合に芳香を増強した。細胞バイオマスなしで使用した場合、抽出脂質に対する応答はより弱かったが、より多量の脂質を適用することによって対抗することができた。
【表19】
【表20】
【0388】
基礎培地の組成に関するメイラード反応物のばらつきを試験するために、いくつかの実験を行った。1つの実験において、4つの異なる基礎培地を、2mL反応物当たり、L-グルタミン酸5mMを含むか若しくは含まない、又は10mgの添加フェヌグリーク(トリゴネラ・フォエヌム・グラエクム)葉粉末を含むか若しくは含まないかのいずれかで調製した。フェヌグリーク葉粉末は、カレーなどの料理の風味を増強するために、又はクミン及びコリアンダーなどの他のハーブ若しくはスパイスと組み合わせて、食料調理において長く使用されてきたので試験された。全ての基礎培地は、酵母抽出物30mg/mLを含んでいた。極性脂質中にARAを取り込むY.リポリティカ細胞(実験B012又はB013からの細胞)又はM.アルピナ細胞を含む、反応物を設定した。細胞を、20mLガラスバイアル内の2mL反応物当たり200mgで湿潤細胞として適用し、しっかりと密封した。対照反応物は、同じ基礎培地組成を有していたが、Y.リポリティカ又はM.アルピナ細胞を欠いていた。反応混合物を、全てのバイアルを浮遊泡中に入れることによってバッチとして超音波処理し、中程度の出力に設定された超音波処理器(Soniclean、Thermoline)内に30分間入れ、次いでオーブン内で、140℃で60分間熱処理した。反応混合物を収容するバイアルを、約15分かけてゆっくりと冷却し、触れると温まった。各混合物の組成を知らない9人の応募者が、内容物をランダムな順序で嗅いだ。反応物は、偏りを回避するためにランダムな3桁の数字でコード化されており、応募者は、試料間にコーヒー豆を嗅ぎ、嗅覚を元に戻した。
【0389】
芳香の説明は9人の応募者の間で変動したが、グルタミン酸を有する混合物からの芳香は、概して、グルタミン酸を欠く反応物と比較して、肉らしい芳香とより関連していると説明された。例えば、グルタミン酸を有する反応混合物は、9人の参加者のうち5人によって肉らしい芳香をもたらすと記載されたが、グルタミン酸を欠く対応する試料は、2人の参加者のみによって肉らしい芳香を有すると記載された。反応物におけるフェヌグリーク葉粉末の添加は、心地よい甘いハーブ又は野菜の芳香を生成すると全般的に記載されていたが、ハーブ粉末の添加はまた、Y.リポリティカ又はM.アルピナ細胞の存在下での肉らしい芳香を緩和した。参加者のうちの何人かは、肉らしい芳香を「ローストした鶏肉」、「鶏だし汁」、又は「パリパリした鶏肉」と記述したので、何らかの形で鶏肉のような芳香として特定した。
【0390】
別の実験では、基礎培地としての、湿潤M.アルピナ細胞100mg又は極性脂質が濃縮された抽出脂質15mgを含有するマトリックスA又はマトリックスBのいずれかにおいて、試料を調製した。これらの反応混合物を20mLのガラスバイアル内に1mL容量で調製し、各々2分間激しくボルテックスした。混合物を前と同様に熱処理した。並行混合物を、より低い温度、すなわち115℃で25分間加熱した。3人の応募者からの応答は、全細胞バイオマスによって生成された芳香が、抽出脂質単独よりも強い肉らしい芳香を生成したという点で、他の実験と一致した。115℃でより短い時間処理された試料は、より弱い又はより軽い芳香をもたらすと評価され、140℃での処理が、115℃での処理よりも、肉らしい芳香の生成においてより効率的であったことを示した。
【0391】
別の実験では、乾燥粉末としてのM.アルピナバイオマスを、オーストラリアで市販されている、Deliciou植物ベースの牛肉、Deliciou植物ベースの鶏肉、Deliciou植物ベースの豚肉、Massel植物ベースのキューブ(サイコロ)牛肉、Massel植物ベースのキューブ鶏肉、Oxoストックキューブ牛肉、オキソOxoストックキューブ鶏肉、及びBonox牛肉ストックなどの、いくつかの市販の植物ベース及び肉風味付け製品と比較した。150mgの乾燥製品又は湿潤ペーストとしての製品200mgを使用して、2mL容量の反応混合物を調製し、140℃で約60分間加熱した。4人の応募者が嗅いだとき、M.アルピナ細胞バイオマスを含有する試料は、その肉らしい芳香において、市販の風味付け製品に匹敵するか又はそれよりも優れていると記載された。
【0392】
別の実験では、反応混合物を調製し、次いでバイアルを115℃で2時間、続いて82℃で更に2時間オーブンに入れることによって乾燥させた。並行実験において、対応する試料を70℃で一晩乾燥させた。加熱後、全ての試料を水2mLで再構成し、それらをよく混合して乾燥粉末を溶解し、応募者に匂いを嗅がせた。高い方の温度で処理された試料は、概して焦げた匂いをもたらしたが、低い方の温度で乾燥させた試料は、いくらかの肉らしい芳香を依然としてもたらした。これにより、低い方の温度の乾燥が、肉らしい芳香を保持するのに、高い方の温度よりも良好であったことを示した。乾燥条件を最適化するために、更なる調査を行う。
【0393】
本発明者らは、ω6脂肪酸を含有する酵母又は真菌バイオマスで様々な組成物を使用して、食料調製物において一般的に使用されるような他の風味付け成分の存在下を含めて、加熱したときに肉らしい芳香を増強することができると結論付けた。
【0394】
実施例9.真菌バイオマス及び抽出脂質を使用する更なるメイラード反応
本発明者らは、更にM.アルピナ細胞及び該細胞から得られた抽出脂質を、改変された条件下で更なるメイラード反応に供した。先の実験から、M.アルピナバイオマスを含有する資料は、多くの場合、ローストした肉/BBQ肉の芳香を有すると記載される、最も強い肉様の芳香を有すると考えられた。しかしながら、芳香試験において数人の応募者は、芳香が焦げたノートを有する、調理し過ぎた肉又は焦げた肉のようであったと記載した。「脂っこい芳香」も何人かによって認められた。別の実験では、混合物を加熱後に味見したとき、何人かの応募者が、マトリックスベースA及びBを含む試料において酸味又は苦味、特にM.アルピナを含有する試料に対して苦味を記載した。マトリックスベースA及びBを構成する個々の溶液及び原料を味見することによって、チアミン塩酸塩が苦味に寄与し、酵母抽出物溶液にはより少ない程度で寄与すると結論付けられた。鉄及びシステイン溶液(両方とも1NのHClに溶解)は、酸味に寄与した。したがって、これらの2つの成分を低減又は排除する異なるアプローチを使用するいくつかの新しい実験を実施して、焦げた匂い並びに酸味及び苦味を低減するが、肉様の芳香を保持又は増強することを目的として、芳香及び味の両方を改善した。
【0395】
実験1
この実験では、M.アルピナ単独と比較して、混合物の焦げた臭いが熱処理後に低減されたかどうかを確かめるために、M.アルピナバイオマスを、ω6脂肪酸を含有していないS.セレビシエ細胞で部分的に置換した。これを行うために、2mLのマトリックスB中に150mgの乾燥M.アルピナ細胞か若しくはS.セレビシエ細胞のいずれか、又は各真菌バイオマス75mgを含有する、試料を調製した。試料を、140℃に設定したオーブン内で75分間加熱した。前と同様に、M.アルピナ試料がローストした肉の芳香を生成する一方、S.セレビシエ試料は、より強い肉汁又は鶏だし汁の芳香を生成した。混合した試料は、ローストと肉汁との中間の芳香を生成した。応募者は、焦げた臭いが混合物では減少したが、ローストした肉の芳香の低下も認められたと記載した。酸味及び苦味は、全ての試料において依然として見出された。結果から、M.アルピナバイオマスのいくつかは、ローストした牛肉又は肉汁により近い中程度の肉らしい芳香を生成するよう、他の細胞で置き換えることができたことが示唆された。
【0396】
実験2.
この実験では、マトリックスBベースと比較するために代替の基礎培地を使用した。この代替の培地は、シスチン(33%)、グルタミン、アラニン、ロイシン、グルタミン酸、リジン、バリン、プロリン、及びメチオニンを含むアミノ酸並びに2.7重量%デキストロースの混合物を含有していた。この混合物を水性培地に7.5%(w/v)で添加し、更に0.5%(w/v)シスチン及び0.5%(w/v)デキストロースを添加した。メイラード反応のための試料は、乾燥M.アルピナバイオマス150mgか又はS.セレビシエ細胞の湿潤スラリー300mgのいずれかを使用した。対照試料は、アミノ酸及び糖のみを有し、細胞は添加されなかった。これらの混合物を、140℃のオーブン内で75分間加熱した。マトリックスBを有する対照試料は、軽い肉らしい芳香及びいくらかの旨味の後味を有すると記載されたが、酸味及び苦味も有すると知覚された。対照的に、M.アルピナを含有する試料は、肉らしい芳香を生成した。真菌バイオマスを含まない代替基礎培地を有する対照試料は、特定のタイプの肉に関連しない心地よい芳香を有していた。M.アルピナバイオマスを添加すると、異なる肉らしいノート及び後味として知覚される旨味/甘味が生成した。わずかな酸味及び苦味が、これらの試料において依然として知覚された。わずかな酸味及び苦味は、デキストロースの量を増加させることによって覆い隠すことができると考えられた。
【0397】
実験3.
別の実験では、代替基礎培地を2つの濃度:7.5%(w/v)又は0.75%(w/v)で使用した。別の試料は、2mLの混合物当たり更なるデキストロース100mgを有していた。いくつかの試料は、M.アルピナから抽出した極性脂質200mg、主にPLを含有していた。140℃で45分間の短縮された熱処理をM.アルピナに加え、他の試料については、140℃で75分間の標準的な熱処理を使用した。応募者は、より高濃度の基礎培地を有する混合物が、低濃度で調製された試料と比較して、より際立った肉様の心地よい芳香を有することを記載した。更に、より高濃度の試料は熱処理後に褐色/金褐色を有していたが、より低濃度の試料はその色を有していなかった。これらの結果に基づいて、その後の実験では、より高濃度の基礎培地を使用した。M.アルピナから単離されたPLを有する試料は、150mg/2mLでのM.アルピナバイオマスの使用と比較して、より弱いが、「より純粋な」肉らしい芳香を生成した。重要なことに、M.アルピナを含有する試料を、75分間ではなくも45分間加熱すると、焦げた臭いが減少し、苦味が実質的に減少した。デキストロースの量の増加もまた、苦味の知覚を減少させたが、いくらかは依然として認められた。
【0398】
実験4.
この実験では、真菌バイオマスの湿潤形態の使用を乾燥形態と比較した。この実験では、これまでの実験の知見に基づくM.アルピナ乾燥バイオマスは、熱処理後に焦げた臭いがなく軽い苦味のあるローストの芳香を有していた。湿潤バイオマスを有する試料は、バイオマスを欠く対照試料と同様に、焦げた臭いの気配がなく、非常にわずかな苦味を有する、心地よいローストした肉の芳香を生成した。このわずかな苦味は、基礎培地のみを有する対照混合物の味に類似し、これは、そのアミノ酸成分又はチアミン塩酸塩による可能性が最も高かった。バイオマス中の水分増加は、バイオマスが高温処理に曝露されたときに焦げるプロセスを減速させたが、それでもなおメイラード反応が起こるのに十分な条件を提供したと考えられた。
【0399】
実施例10.真菌バイオマス及び抽出脂質を用いた食料製品
次に、本発明者らは酵母及びM.アルピナ細胞並びに例示的な食料製品中の細胞から得た抽出脂質を試験し、それらの芳香及び味を試験した。味混合物のために使用された化学物質及び原料は、L-システイン塩酸塩一水和物(Fermopure、Wacker、ドイツ)、D-リボース(Epin Biotech Co、中国)、チアミン塩酸塩(Chem Supply、オーストラリア、南オーストラリア州)、グルタミン酸一ナトリウム(Ajinomoto)、Yeast extract(Sigma)及びアミノ酸/糖ブレンド(V2Foodsによって提供される)を含んでいた。使用した油及び植物性脂肪は、キャノーラ油、スーパーマーケットから入手した「Heart Smart」ベニバナ調理油及びcopha野菜ショートニング、並びに植物性ギー(Emkaiライトエステル交換植物性脂肪、Sai food products、インド、グジャラート)であった。味混合物を適用することによって試験された食料品は、地元のスーパーマーケットから入手したmacro木綿豆腐、湯葉(豆腐の皮膜、Shenzhen Ming Lee Food Manufacturing Co.Ltd.、中国、広東省)、植物性みじん切り(V2 Foods、オーストラリア)、及び加工植物性タンパク質高繊維スライス(TVP,Lamyong、オーストラリア、ニューサウスウェールズ州)であった。使用した真菌バイオマスは、約10%のARAを有するS.セレビシエの湿潤スラリー(B013、実施例4を参照)又は湿潤形態若しくは乾燥形態のいずれかのM.アルピナバイオマス(実施例7)であった。
【0400】
実験1
この実験では、極性脂質及びTAGの両方中にARAを含有する、B013酵母バイオマスを使用した(実施例4)。2mLのマトリックスB2基礎培地を含有する混合物(混合物A)を調製した。マトリックスB2は、マトリックスBと比較して10分の1の濃度のチアミン塩酸塩を含有していたが、その他は同一の組成を有していた。B013細胞スラリー0.5mL及び鶏肉風味酵母抽出物0.5mL(水2.5g/3mL、Flavex)を有する、混合物を調製した。対照混合物は、B013細胞スラリー又はマトリックスB2基礎培地のいずれかを欠いていた。豆腐片を混合物に45分間マリネし、180℃に設定されたオーブン内の焼きトレイ上で約6分間調理した。匂いを嗅いで味見したとき、全ての豆腐片は塩味/甘味/旨味を有していたが、混合物Aで処理した試験片のみが、軽いローストした鶏肉の芳香及び味を示した。旨味は、風味付けされた酵母抽出物によってもたらされた可能性が最も高いが、B013酵母バイオマスが、鶏肉の芳香に寄与したと考えられた。
【0401】
実験2.
豆腐片を6分間のみで調理することは、使用した混合物との完全なメイラード反応を誘導するのに十分な長さではないと考えられたので、以下の実験では、豆腐片に適用する前に、あぶり混合物を140℃で75分間加熱した。脂質中にARAを有するB013酵母バイオマスを含有する味見混合物を調製し、そのために2mLのマトリックスB2を300mgの湿潤酵母バイオマスと混合した。次いで、この味見混合物を、140℃に設定したオーブン内で75分間加熱した。豆腐片及び豆腐皮膜片を1mLの味混合物中で1時間マリネし、次いで180℃で6分間、オーブンで焼いた。マリネ工程中及び試料をオーブンに入れる前に、肉らしい芳香が知覚された。しかしながら、オーブン内で加熱した後、肉らしい芳香はもはや知覚されなかった。肉らしい芳香をもたらした揮発性化合物は、オーブン内での加熱中に蒸発していたと結論付けられた。
【0402】
実験3.
この実験では、酵母バイオマスを、脂質中に約30%のARAを有するM.アルピナ湿潤バイオマス200mgで置換した。混合物の組成及びベーキング(焼く)条件は、混合物を75分間ではなく45分間加熱した後豆腐片に適用したこと以外は、実験2と同じであった。それらをオーブン内で加熱した後、豆腐片を嗅ぎ、味見した。応募者は、M.アルピナバイオマスなしのマトリックスB2中でマリネした対照豆腐が心地よい軽い肉らしい芳香を有する一方、M.アルピナバイオマスを有する混合物で処理された豆腐は、強い肉らしい芳香及び味を有すると記載した。
【0403】
実施例11.肉らしい芳香及び味に対するバイオマス濃度の効果
実験1
メイラード反応物組成における芳香及び味に対するM.アルピナバイオマスの効果を調査した。M.アルピナバイオマス(水分約75%)及びマトリックスベースCを含有する8つの試料を調製した。試料は、0.1重量%~15重量%の重量百分率(0.025重量%~3.75重量%の乾燥重量と等価)のM.アルピナバイオマス、及び1つの対照(バイオマスなし、マトリックスCのみ)を含んでいた。試料組成を以下の表21に示し、マトリックスCの組成を以下の表22に示す。
【表21】
【表22】
【0404】
試料を室温で2分間激しく混合し、140℃で45分間加熱した。熱処理後、試料を冷却し、その後の官能評価全体を通して45℃で調節した。
【0405】
官能評価のために、合計6人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、表20に示す順序で試料を嗅ぎ、味見するように依頼した。試料間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、水を飲んで鼻及び舌を中立化する/すっきりさせるように依頼した。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香及び味の両方を評価するように依頼し、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0406】
バイオマスの添加は、参加者によって知覚される肉らしさを有意に向上させることが見出され、これは、湿潤バイオマスの0.1%添加(0.025%乾燥バイオマスと同等)で観察された。0.1~15%の湿潤バイオマス(0.025%~3.75%の乾燥バイオマスに相当)の濃度範囲内で、5%の湿潤バイオマスを最も肉らしい試料として、続いて15%及び10%の試料とランク付けした。更なる統計分析により、バイオマスと試料の肉らしさとの間に強い正の相関(r=0.70)が見出された。バイオマスと心地よさとの間の相関における明確な傾向は見出されなかった。心地よさ及び肉らしさの合計スコアを考慮すると、5%の湿潤バイオマスを含有する試料が最も高いスコアを有した。
【0407】
実験2.
食料中の芳香及び味に対するM.アルピナバイオマス濃度の効果を調査した。様々な濃度(水分約75%)の湿潤M.アルピナバイオマス、マトリックスベースC、及び加工植物性タンパク質(「TVP」、V2Foods、オーストラリア)、並びにバイオマスを含まない対照を含有する、8つの試料を調製した。
【0408】
試料を調製するために、M.アルピナ湿潤バイオマス(非対照試料において、0.10%~10%バイオマス/TVP w/w%で変化する濃度)、マトリックスC(表20において上述された)、及び1つの試料において、マトリックスCの代わりに水を含む、バイアルを調製した。バイアルを20000rpmで2分間ボルテックスした後、140℃で45分間の熱処理に供した。バイアルの組成を以下の表23に示す。
【表23】
【0409】
TVP130gに水320gを添加し、30分間再水和させることによって、再水和TVP450gを調製した。次いで、再水和したTVPを9つの部分に分割し、各部分を表21のバイアルの1つに添加し、混合し、約5分間徹底的にマリネした。次いで、マリネされたTVPの各部分を、キャノーラ油3mLを用いて中程度の加熱設定(1000W)で、フライパン上で2分間調理した。
【0410】
官能評価のために、合計6人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、表23に示す順序でTVP食料試料を嗅ぎ、味見するように依頼した。試料間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、水を飲んで鼻及び舌を中立化する/すっきりさせるように依頼した。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香及び味の両方を評価するように依頼し、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0411】
肉らしさ、心地よさ、及び肉らしさと心地よさとの組み合わせについての結果をそれぞれ
図5、
図6及び
図7に示す。
【0412】
全体として、バイオマスの増加は、6人の参加者によって知覚される肉らしさの向上をもたらした(
図5)。0.1%湿潤バイオマス(0.025%乾燥バイオマスに相当)を添加した場合に、肉らしさの向上が観察された。試料は、湿潤バイオマスが7.5%(1.88%乾燥バイオマスに相当)の比率で添加されたときに、最も肉らしさを有すると知覚され、知覚された肉らしさ強度は、10%湿潤バイオマス含有物でわずかに減少した。
【0413】
同様に、バイオマスの添加はまた、試料の心地よさを向上させることも見出された(
図6)。試料6(5%湿潤バイオマス、1.25%乾燥バイオマスに相当)が最も高い心地よさスコアを達成し、試料5(2.5%湿潤バイオマス)がそれに続いた。全体として、バイオマスの濃度が増加すると(0%~5%)、芳香及び味の両方の心地よさが向上し、5%を超えると減少した。
【0414】
肉らしさ及び心地よさの両方を考慮すると、7.5%の湿潤バイオマスを含有する試料が、最も高い合計スコアを示した(
図7)。
【0415】
上記の結果は、試料の肉らしさ及び心地よさに対するバイオマス濃度の効果を実証している。0.1%から5%への湿潤バイオマス濃度の増加(0.025%から1.25%への乾燥バイオマスに等しい)は、試料の心地よさ及び肉らしさの両方を向上させた。7.5%の湿潤バイオマス含有率で、肉らしさは最大レベルに達し、心地よさは減少し始めた。
【0416】
実施例12.肉らしい芳香及び味に対するマトリックス成分濃度の効果
実施例11で定義したマトリックスCを、同じ濃度の湿潤M.アルピナバイオマス(10%w/v)と異なる希釈レベルで混合した。調製した6つの試料を以下の表24に提供する。各試料中のマトリックスCの関連組成を以下の表25に示す。
【表24】
【表25】
【0417】
試料を室温で2分間激しく混合し、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料を冷却し、官能評価全体を通して45℃で調節した。
【0418】
試料の官能評価のために、合計6人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、5から1、次いで6の順序で試料を嗅ぎ、味見するように依頼した。試料間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、水を飲んで鼻及び舌を中立化する/すっきりさせるように依頼した。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香及び味の両方を評価するように依頼し、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0419】
肉らしさ、心地よさ、及び心地よさと肉らしさとの組み合わせについての6人の参加者の合計スコアをそれぞれ
図8、
図9及び
図10に示す。マトリックスを2倍希釈した場合に、試料の肉らしさ及び心地よさのわずかな向上が観察されたが、2倍を超えるマトリックスの更なる希釈は、試料の肉らしさ及び心地よさの両方を減少させたことが見出された。
【0420】
予想通り、バイオマスを含む未希釈マトリックス試料は、バイオマスを含まない未希釈マトリックス試料と比較して、肉らしさ及び心地よさについてより高いスコアを有し、マトリックスへのバイオマスの添加が、以前の実験で観察されたような肉らしい芳香を増強することが確認された。
【0421】
実施例13.メイラード反応における追加のモルティエレラ種の評価
追加のモルティエレラ種単離株を種々の土壌試料から同定し、メイラード反応において評価した。
【0422】
実験1
1つの単離株(Myu1と標示)は、ITS相同性(Myu1のITSは配列番号48に示される)に基づいてM.エロンガタとして同定され、別の単離株(S’2-1と標示)は、ITS相同性(S’2-1のITSは配列番号49に示される)に基づいてM.エキシグアとして同定された。単離株を培養し、得られたバイオマスを脂質画分中の脂肪酸含量について分析した。表26に示されるように、ARAは、Myu1脂質の総脂肪酸含量の約33%の量で、及びS’2-1脂質の総脂肪酸含量の約24%の量で存在した。Myu1単離株の油の重量百分率は10.06重量%であり、S’2-1単離株の油の重量百分率は4.08重量%であった。
【表26】
【0423】
各単離株が肉らしい芳香及び風味をもたらす能力を評価するために、各単離株の50mg乾燥物質に相当するバイオマス、及びM.アルピナ単離株を秤量し、20mLガラスバイアルに移した。次いで、マトリックスC(2mL;上記の表53に定義されている)を各バイアルに添加した。マトリックスCのみ(すなわち、バイオマスなし)の陰性対照も含めた。次いで、試料を室温で2分間激しく混合し、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料を冷却し、45℃で調節した。
【0424】
合計6人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、最初にM.アルピナ試料を嗅ぎ、それを、他の盲検試料を試験するための参照として使用するように依頼した(参加者が好む任意の順序で)。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、鼻を中立化する/すっきりさせるように求めた。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさの芳香及び心地よさを評価するように求め、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0425】
以下の表27に示されるように、モルティエレラ単離株の各々は、マトリックス成分の存在下で加熱されたときにマトリックスCのみで検出されたものを超えて、肉らしい芳香をもたらした。M.アルピナ単離株はより高いレベルの肉らしさをもたらしたが、参加者は、M.エロンガタ単離株が最も心地よい芳香を有すると考えた。
【表27】
【0426】
実験2.
追加のモルティエレラ種単離株を単離し、本質的に上記のようにメイラード反応物において試験し、NI0132(M.アルピナ)及びマトリックスのみの対照と比較した。これらの単離株は、ITS相同性に基づいてM.エロンガタとして同定されたS1-3、ITS相同性に基づいてM.ミヌチシマとして同定されたS2-2、ITS相同性に基づいてM.ミヌチシマ又はM.ゾナタとして同定されたS2-3、ITS相同性に基づいてM.M.ミヌチシマとして同定されたSS3、ITS相同性に基づいてM.エロンガタとして同定されたMyu3、ITS相同性に基づいてM.エロンガタとして同定されたBurnsen1、及びITS相同性に基づいてM.エロンガタとして同定されたBurnsen2を含んでいた。単離株からの脂質中のTFAの分析を表28に示す。
【表28】
【0427】
表29は、メイラード反応物の盲検官能評価の結果を示し、6人の参加者からの合計スコアを示す。全てのモルティエレラ株は、マトリックスのみの対照と比較して、向上した肉らしい芳香を反応物にもたらした。
【表29】
【0428】
実施例14.メイラード反応物におけるM.アルピナバイオマスとARA油との比較
以前の試験は、ARA油(すなわち、約40%のARAを含むTAG)が、糖及びアミノ酸と共に加熱されたときに、ARAを含有する極性脂質よりも弱い肉らしい芳香及び弱い心地よい芳香を生成することを示した(実施例4を参照)。これを更に評価するために、本発明者らは、メイラード反応物においてM.アルピナバイオマス及びARA油によって生成される芳香を比較した。
【0429】
NuCheck Inc.製のARA油(カタログ番号NC0632549)を使用して、表30に従って4つの試料のセットを調製した。試料Cはバイオマス中のARAと同等のARAを含有し、試料Dは10%のARA油を含有した。次いで、試料を室温で2分間激しく混合し、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料を冷却し、官能評価全体を通して45℃で調節した。
【表30】
【0430】
合計5人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、AからDまでの順序で試料を嗅ぐように依頼した。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅いで鼻を中立化する/すっきりさせるように求めた。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香を評価するように求め、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0431】
メイラードベースに添加されたARA油を有する試料は、バイオマスを有する試料と比較して、心地よさがより弱い及び肉らしさがより弱い(及びより脂っこい/より油っぽい)と知覚され、より低いスコアをもたらした(表29)。したがって、ARAを含有する極性脂質(及び中性脂質)を有するモルティエレラバイオマスは、ARAを含有する精製された中性脂質よりも肉らしく心地よい芳香を生成した。
【表31】
【0432】
実施例15.メイラード反応物におけるM.アルピナとM.イサベリナとの比較
バイオマス中のアラキドン酸の重要性を評価するために、アラキドン酸を有していないM.イサベリナを用いてメイラード反応を行った。簡単に説明すると、M.イサベリナを培養し、約200mgの量のM.イサベリナ湿潤バイオマスを15mLのファルコンチューブに移し、次いで80℃に設定したオーブン内で乾燥させた。重量が変化しないままになるまで、又は最大42時間、試料を乾燥させた。次いで、水分含量を求め、総脂質画分中の脂肪酸含量を評価した。以前に記載したように調製したM.アルピナバイオマスもまた、この試験において利用した。
【0433】
総脂質画分中の脂肪酸含量の分析により、ARAがM.イサベリナ由来の脂質に存在しないことが確認された(表32を参照)。バイオマスは、3.97重量%の総油含量を有していた。
【表32】
【0434】
8つのバイアル試料のセットを表33に従って調製した。各20mLガラスバイアルにおいて、推定含水量に基づいて50mg(又は表に詳述されるようにそれ未満)の乾燥物質に相当するバイオマスを秤量し、バイアルに移した。次いで、2mLの量のマトリックスCを各バイアルに添加した。マトリックスCのみを含み、バイオマスを含まない陰性対照も含めた。次いで、試料を2000rpmでボルテックスして、室温で2分間混合し、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料を冷却し、官能評価全体を通して45℃で調節した。
【表33】
【0435】
この評価では、5段階の快不快尺度を用いた好み試験方法と、ラベル付きの大きさ尺度を用いた計測試験とを用いた。合計6人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、#8、次いで#1から#7までの順序で試料を嗅ぎ、#1を参照として使用するように依頼した。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、臭いの感覚を中立化する/すっきりさせるように、及び前の試料からの持ち越し効果を回避するように求めた。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香を評価するように求め、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0436】
図11に示すように、M.イサベリナは、M.アルピナと比較して、より低い肉らしさ及び心地よさスコアと関連しており、アラキドン酸が肉らしい芳香を生成するのに重要であることを示唆した。陽性対照(M.アルピナ「B17」バイオマス)とM.イサベリナ試料39mgとを比較すると、後者は、心地よさにおいてより低くスコア付けされ、肉らしさレベルは、1~5の尺度で平均1.1低くスコア付けされた。この試料についての乾燥質量相当重量は、M.アルピナで使用された50mgよりも低く、特にM.イサベリナの濃度が上昇するにつれて、肉らしさの芳香の関連したわずかな減少が観察された。したがって、M.イサベリナの試料50mgは、更に弱い肉らしさの芳香を有すると想定することができた。
【0437】
実施例16.メイラード反応成分の更なる評価
様々なメイラード反応成分を評価するために、一連の試験を行った。
【0438】
実験1.システインのシスチンでの置き換え
この実験において、システインをシスチンで置き換えることの効果を、芳香及び味覚試験によって評価した。
【0439】
試料調製-濃縮物
陽性対照/参照試料(マトリックスC(MC)及び10%湿潤M.アルピナバイオマス(上記のM.アルピナ株yNI0132、B017培養物[「B17_湿潤」])を含有する6つの試料、陰性対照(マトリックスCのみ)並びに10%バイオマス及びマトリックスCを含有するが、0~200mMの範囲の異なる濃度のシスチンを有する4つの試料のセットを、表34に従って調製した。
【表34】
【0440】
全ての原料を20mLのGCヘッドスペースバイアルに添加した後、試料を室温(22~24℃)で2分間激しく混合し(2000rpm)、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料を冷却し、官能評価全体を通して45℃で調節した。
【0441】
試料調製-食料
5つの試料のセットを、以下の表35に詳述されるように調製した。シスチンの水への溶解度が低く、溶解していないシスチンの望ましくない味があることから、最初のオーブン加熱段階で30mgのシスチンをマトリックスに添加し、その後、マリネ工程中に追加のシスチン粉末をTVPに直接添加して、設定濃度にした。
【表35】
【0442】
全ての原料を20mLのGCヘッドスペースバイアルに添加した後、試料を室温(22~24℃)で2分間激しく混合し(2000rpm)、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料をベンチ上に放置して完全に冷却した。冷却後、各味混合物を再水和TVPフレーク50グラムに添加し、徹底的に混合し、15分間マリネした。
【0443】
マリネした後、各マリネされたTVP試料を、油を塗ったフライパン(3mLのベニバナ油)上、1000Wで2分間、時々撹拌しながら調理した。各試料の間に、フライパンを洗浄し、乾燥させた。全ての調理済み試料を個々の密閉容器に保存し、味見するまで60℃で1時間以下維持した。
【0444】
官能評価方法
濃縮物の芳香及び味を評価するために、5人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、試料1から試料6までの順序で試料を嗅ぎ、味見するように依頼した。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、水を飲んで鼻及び舌を中立化する/すっきりさせるように求めた。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香及び味の両方を評価するように求め、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0445】
食料試料を評価するために、5人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、試料7から試料1までの順序で試料を嗅ぎ、味見するように依頼した。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、水を飲んで鼻及び舌を中立化する/すっきりさせるように求めた。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香及び味の両方を評価するように求め、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0446】
結果
結果を、
図12及び
図13に示す。M.アルピナバイオマスと組み合わせた場合に、マトリックスC中のシステインをシスチンで置き換えることができ、それでもなお肉らしい味及び芳香の生成を促進することが観察された。しかしながら、システインの使用に関連するいくつかのより望ましい官能属性が存在するようであった。
【0447】
実験2.リボースのデキストロースでの置き換え
この実験では、リボースをデキストロースで置き換える効果を、芳香及び味覚試験によって評価した。
【0448】
試料調製-濃縮物
陰性対照(MCのみ)、2つの陽性対照(MC+10%湿潤M.アルピナバイオマス(M.アルピナ株yNI0132、上記のB017培養物[「B17_湿潤」]));シスチン12mg+10%のB17_湿潤を有する混合物A)及び陰性対照(マトリックスCのみ)、並びに10%バイオマス及びマトリックスCを含有し、但し12.5~200mMの範囲の異なる濃度のデキストロースを有する5つの試料を含有する8つの試料のセットを表36に従って調製した。
【表36】
【0449】
全ての原料を20mLのGCヘッドスペースバイアルに添加した後、試料を室温(22~24℃)で2分間激しく混合し(2000rpm)、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料を冷却し、官能評価全体を通して45℃で調節した。
【0450】
試料調製-食料
1つの陰性対照(TVP)及び1つの陽性対照(MC+B17)、並びに25~200mMの濃度のデキストロースを有する4つの選択された試料(以下の表37に指定)による、合計6つの試料のセットを調製した。
【表37】
【0451】
全ての原料を20mLのGCヘッドスペースバイアルに添加した後、試料を室温(22~24℃)で2分間激しく混合し(2000rpm)、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料をベンチ上に放置して完全に冷却した。冷却後、各味混合物を再水和TVPフレーク50グラムに添加し、徹底的に混合し、15分間マリネした。
【0452】
マリネした後、各マリネされたTVP試料を、油を塗ったフライパン(3mLのベニバナ油)上、1000Wで2分間、時々撹拌しながら調理した。各試料の間に、フライパンを洗浄し、乾燥させた。全ての調理済み試料を個々の密閉容器に保存し、味見するまで60℃で1時間以下維持した。
【0453】
官能評価方法
濃縮物の評価のために、6人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、試料1、試料4から8まで、試料2、最後に試料3の順序で試料を嗅ぎ、味見するように依頼した。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、水を飲んで鼻及び舌を中立化する/すっきりさせるように求めた。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香及び味の両方を評価するように求め、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0454】
食料試料の評価のために、5人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、試料7から試料1までの順序で試料を嗅ぎ、味見するように依頼した。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、水を飲んで鼻及び舌を中立化する/すっきりさせるように求めた。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香及び味の両方を評価するように求め、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0455】
結果
対応する結果を、
図14及び
図15に示す。M.アルピナバイオマスと組み合わせた場合、マトリックスC中のリボースをデキストロースで置き換えることができ、それでもなお肉らしい味及び芳香の生成を促進することが観察された。より高濃度のデキストロース(例えば、200mM)の使用は、強い肉らしい芳香及び味を生成することにおいてより効果的であるようであった。
【0456】
実験3-アミノ酸と糖との対合
以下のアミノ酸と糖との4つの異なる組み合わせ:システインとリボース、システインとデキストロース、シスチンとリボース、及びシスチンとデキストロースを評価した。
【0457】
試料調製
食料試料を表38に示すように調製した。この実験におけるシスチンを2回に分けて添加した。第1の部分を味混合物5mLに添加して熱処理プロセスを行い、第2の部分をマリネ化段階中に添加した。
【表38】
【0458】
全ての原料を20mLのGCヘッドスペースバイアルに添加した後、試料を室温(22~24℃)で2分間激しく混合し(2000rpm)、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料をベンチ上に放置して完全に冷却した。冷却後、各味混合物を再水和TVPフレーク50グラムに添加し、徹底的に混合し、15分間マリネした。
【0459】
マリネした後、各マリネされたTVP試料を、油を塗ったフライパン(3mLのベニバナ油)上、1000Wで2分間、時々撹拌しながら調理した。各試料の間に、フライパンを洗浄し、乾燥させた。全ての調理済み試料を個々の密閉容器に保存し、味見するまで60℃で1時間以下維持した。
【0460】
官能評価方法
5人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に、試料1から試料6までの順序で試料を嗅ぎ、味見するように依頼した。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、水を飲んで鼻及び舌を中立化する/すっきりさせるように求めた。参加者に、5段階の快不快尺度に基づいて、肉らしさ及び心地よさについて芳香及び味の両方を評価するように求め、スコアが高いほど、肉らしさ及び心地よさが向上したことを示した。
【0461】
結果
結果を
図16に示す。アミノ酸及び糖の全ての組み合わせは、M.アルピナバイオマスと組み合わせた場合に肉らしい芳香及び風味を生じたが、システイン及びデキストロースの組み合わせが最も好ましい組み合わせであり、最も高い肉らしさスコアを有していた。この試料では、鶏もも肉などの色濃くなる鶏肉、強い旨味のノート、及び全く強い苦味のないわずかな後味が認められた。
【0462】
実験4.MSGのグルタミン酸での置き換え
この実験では、MSGのグルタミン酸での置き換えの効果を、芳香及び味覚試験によって評価した。
【0463】
試料調製-濃縮物
1つは50mMグルタミン酸一ナトリウムを含み、1つは10mMグルタミン酸を含む、2つの試料を、表39に示される配合に従って三連で調製した(10mL混合物)。
【表39】
【0464】
全ての原料を20mLのGCヘッドスペースバイアルに添加した後、試料を室温(22~24℃)で2分間激しく混合し(2000rpm)、140℃で45分間加熱した。熱処理が完了した後、試料をベンチ上に放置して完全に冷却した。冷却後、各10mLの味混合物を100グラムの再水和TVPフレークに添加し、徹底的に混合し、15分間マリネした。
【0465】
マリネした後、各マリネされたTVP試料を、油を塗ったフライパン(3mLのベニバナ油)上、1000Wで2分間、時々撹拌しながら調理した。各試料の間に、フライパンを洗浄し、乾燥させた。全ての調理済み試料を個々の密閉容器に保存し、味見するまで60℃で1時間以下維持した。
【0466】
官能評価
この官能評価では三角検定を利用した。三角検定には、以下の6つの順列/変形がある:AAB、ABA、BAA、BBA、BAB、ABB。この実験では、試料Aは25mMのグルタミン酸一ナトリウムを含有し、試料Bは10mMのグルタミン酸を含有していた。各参加者には2セットの試料が提供され、各セットは3つの試料を含んでいた。3つの試料のうち、2つは同じであり、3つ目は異なっていた。
【0467】
9人の参加者が味見に参加し、各参加者に3つの試料の2セットを提供した。参加者らに、第1のセットからの試料を左から右に評価し、味及び芳香の違いによって奇数の試料を識別し、次のセットで繰り返すように指示した。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、水を飲んで鼻及び舌を中立化する/すっきりさせるように求めた。
【0468】
結果
何人かの参加者は、MSGのグルタミン酸での置換による味及び芳香の差異を検出することができたが、有意な差異に向かうようには見えず、グルタミン酸がMSGの代わりに使用され得ることを示した。
【0469】
実験4.様々な成分の省略
この試験では、メイラード反応混合物の様々な成分を省略し(抜き)、官能評価を行い、効果を評価した。8つの試料のセットを、表40に示される配合に従って5mLの味混合物の形態で調製した。陽性対照(OM、システイン50mM、グルタミン酸10mM、グルコース200mM、チアミン2mM、及び酵母抽出物15mg/100mL(0.15mg/mL)を含有する)及び陰性対照(バイオマスのみ及びプレーンTVP)を含めた。次いで、各5mLを再水和TVP50グラムに添加した(すなわち、1/10希釈)。
【表40】
【0470】
官能評価方法
この実験の官能評価は、グループディスカッション(集団討議)の形で行った。合計6人の参加者が討議に含まれ、各メンバーは、TVPのみの試料(#8)、バイオマスのみ(BM)の試料(#7)から開始し、次いで#1から#6までの順序で、各試料を#1と比較して、各試料の芳香及び味についてコメントする。
【0471】
結果
酵母抽出物が存在しない場合:試料は、より強い野菜の芳香と共に軽い鶏肉の芳香を含んでいた。それは、陽性対照(OM)と同様の芳香ノートを有するが、深み/強度を有していないことも認められた。
【0472】
システインが存在しない場合:陽性対照(OM)と比較すると、この試料は甘い芳香を有していたが、肉らしいノートを欠いていた。試料中のデキストロースは、加熱中の甘い芳香及びカラメル化の主な誘因である可能性が高い。試料はまた、マッシュルーム及び金属性(舌を刺す)などの重要な味ノートとともに苦い後味を有していた。
【0473】
グルタミン酸が存在しない場合:肉らしい芳香が存在したが、陽性対照(OM)と比較した場合、はるかに強度が低く、溯及可能な硫黄ノートを有していた。試料は、苦い後味とともに風味の良い味ノートを有し、味プロファイルは鶏肉を連想させた。
【0474】
デキストロースが存在しない場合:芳香には旨味及び肉らしいノートがなく、より強い塩味の芳香ノートがあった。OM試料と比較して、この試料は、より弱い旨味を有していたが、それでもなお甘い後味を有していた。甘い後味は、デキストロース200mMを含有するチアミン除去試料とは異なっていた。
【0475】
チアミンが存在しない場合:試料は、グルタミン酸を含まない試料と比較して異なる芳香ノートを有することが認められた。この試料は、酵母抽出物を除去した試料よりも心地よい味がするとコメントされた。これは、ローストした肉の味及び風味の良いノートと認められた。
【0476】
要約すると、システイン及びデキストロースの不存在は、肉らしい芳香に対する影響において最も顕著であるようであった。酵母抽出物及びグルタミン酸もまた、完全な肉らしい風味にとって重要であるであった。チアミンは、肉らしい風味の生成にあまり重要ではないようであった。
【0477】
実施例17.M.アルピナ画分から生成された揮発性物質の評価
M.アルピナバイオマス及び目的の画分からの揮発性芳香化合物を分析して、全体的な芳香プロファイル内の肉らしい芳香及びオフノート芳香に対する各画分の寄与を更に理解するため、試験を行った。アラキドン酸(ARA)含有脂質を欠くM.イサベリナ由来のバイオマスも評価した。
【0478】
分画
全ての抽出溶媒は食料グレードであり、使用前に少なくとも20分間の超音波処理によって脱気した。エタノール脂質抽出物は、最初に、密封されたプラスチックバッグ内で湿潤バイオマス250gを解凍することによって調製した。これに、エタノール1000mLを添加し(4:1比の溶媒:バイオマス、mL:g)、Ultra-Turex T10ハンドヘルドホモジナイザを使用して、混合物を速度5で15分間均質化した。次いで、混合物をIKA RW 20デジタルオーバーヘッド撹拌機で、1500RPMで15分間撹拌した。ブフナー漏斗及びワットマンNo.6濾紙を使用してバイオマスを濾過し、濾液を保持した。更なるエタノール500mLを濾過したバイオマスに添加し、工程を繰り返すことによって、抽出を更に3回繰り返した(合計4回の洗浄)。洗浄し濾過したバイオマスを洗浄ガラスに移し、エタノールを乾燥させた。得られたバイオマスは「脱脂バイオマス」画分であった。
【0479】
エタノール洗浄液をプールし、溶媒200mLをBuchiローターエバポレータで、真空下で蒸発させた。次いで、水相の水の部が相の約40%となるように、十分な水を添加した。次いで、これを、水アルコール相にヘキサン0.2v/vを添加することによってヘキサンで洗浄した後、プラットフォームボルテックス上で10分間振盪し、遠心分離(2000g、10分間)して相を分離した。下相(水相)及び上相(ヘキサン、脂質含有相)を回収した。水相をヘキサンで更に3回洗浄し、ヘキサン相をプールした。プールしたヘキサン相をBuchiローターエバポレータで乾燥させて、「総脂質」画分を生成した。
【0480】
中性脂質画分(「TAG」)を生成するために、総脂質画分を秤量し、30容量のアセトン(w/v)に再懸濁した後、30秒間ボルテックスし、再懸濁が目に見えるまで30秒間繰り返し超音波処理した。次いで、試料を-20℃で一晩沈殿させた後、4℃で10分間、3900gで遠心分離した。上清を回収し、試料を-20℃に少なくとも72時間かけて戻し、水相洗浄を断続的に繰り返した。次いで、上清を回収し、溶媒をローターエバポレータで蒸発させて、TAG画分を生成した。
【0481】
極性脂質(PL)画分を生成するために、総脂質画分を秤量し、30容量のアセトン(w/v)に再懸濁した後、30秒間ボルテックスし、再懸濁が目に見えるまで30秒間繰り返し超音波処理した。次いで、試料を4℃で30分間沈殿させ、次いで4℃で10分間、3900gで遠心分離した。上清を除去し、沈殿物を別の30倍容量の氷冷アセトンで更に2回洗浄した。沈殿物を一定重量に達するまで窒素ガス下で乾燥させ、それによって「PL」画分を生成した。
【0482】
全ての画分試料をTFA GC-FID分析によって分析する一方、全ての脂質画分を両方の溶媒系TLCに進めた。表41は、TFA GC-FIDによって分析された脂質画分の脂肪酸プロファイルを示す。
【表41】
【0483】
揮発性物質分析
試料調製
試料5mLを、表42に従って20mLのGCヘッドスペースバイアル内で調製した。室温(22~24℃)で2分間激しく混合(2000rpm)することによって成分を合わせた後、140℃で45分間加熱した。熱処理後、試料をベンチ上に放置して完全に冷却し、次いで酸化を防止するために窒素ガスでパージした。
【表42】
【0484】
GC分析
試料を、ディーキン大学のCASS Food Research Centreで、GC-MS(ガスクロマトグラフィ質量分析)と組み合わせたヘッドスペース固相マイクロ抽出(HS-SPME)法を用いて分析した。
【0485】
試料のガスクロマトグラフィ分析は、BP-5MSキャピラリーカラム(長さ30m×内径0.250mm×膜厚0.25mm)(Trajan Scientific and Medical、オーストラリア、メルボルン)を備え、質量選択検出器(Agilent Technologies、米国)と連結したAgilent 7890B GCシステムを用いて行った。GC入口(インレット)温度を250℃に設定した。キャリアガスは、1.4mL/分の一定流量のヘリウムガス(純度99.999%)であった。初期カラム温度を1分のホールド時間で40℃に設定し、温度を3℃/分の速度で240℃まで上昇させた。各試料の総分析時間は67.7分であった。MS条件は、走査範囲40~450m.u.、溶媒カット時間0分、電子衝撃モード70eV、MSソース230℃及びMSクワッド150℃であった。
【0486】
各クロマトグラムを、ピーク特定及び保持指数のためにトータルイオンクロマトグラムモードで処理した。分離された化合物の暫定的な同定を、国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology、NIST)データベース(750の最小類似性一致)を使用して行った。各ピークの同定後、データクリーニング及び更なる分析のために、結果をcsvファイルとしてMicrosoft Excelバージョン1708(Microsoft Corporation)にエクスポートした。
【0487】
結果
合計57個の揮発性化合物がGC-MSによって同定された(表43)。S1(‘マトリックスOM’)及びS4(‘マトリックスOM+バイオマスマイナス脂肪’)試料は、PCAプロット(図示せず)において一緒にクラスタになり、脂肪が特定の芳香の発生において重要かつ差別化する画分であり得ることを示唆した。実際、
図17に示すように、各試料によって生成された揮発性物質には明確な差異があったが、いくつかの類似性もあった。特に注目すべきことに、精製中性脂質(TAG)画分によって生成された揮発性物質は、リン脂質を含有する試料(例えば、全バイオマス又はPL画分)によって生成された揮発性物質とは全く異なることが明らかであり、これは、官能評価において検出されるように(例えば、実施例14におけるARA油対バイオマスを参照)、極性脂質画分又は全細胞バイオマスと比較して、中性脂質画分の非常に異なる芳香と一致する。
【0488】
ベンゼンアセトアルデヒド及びノナノールはS1、S4、又はS8(‘マトリックスOM+TAG’)には存在しないが、他の全ての試料には存在することが観察された。ベンゼンアセトアルデヒドは、牛肉中で(Specht et al.J Ag Food Chem 1994;42(10):2246-53)、肉らしさに望ましい芳香として同定されている(Zhang et al.Food Sci Tech.2017;82:184-91)。ノナノールは、ラム肉における主要な揮発性物質の1つであり(Luo et al.Food Sci Nutrition.2019(7):2796-805)、脂質(オレイン酸)酸化によって生成されることが示唆されている。脂質を含有しない画分におけるこれらの揮発性物質の欠如は、脂質画分(及び特に、S8におけるこれらの揮発性物質の欠如を考慮すると、極性脂質画分)が、肉らしい芳香にとって重要であり得ることを示唆する。脂っこい茹でた牛肉における重要な芳香として重要であると同定されている3-メチル-ブタナールなどの揮発性物質の存在は(Grosch.Chem Senses。2001;26(5):533-45)、S1及びS8を除く全ての試料において、極性脂質画分の重要性を更に強化する。
【0489】
更に、S1において、いずれの他の試料においても検出されなかった。5-ヘキシルジヒドロ-2(3H)-フラノン、2-メチルチエノ[2,3-b]チオフェン、及び3,3-ジチオビス-2-メチル-フランなどの揮発性物質の存在が見出された。特に後者の2つは、メイラード系において肉らしい芳香に寄与するものとして同定されている(Raza et al.Food Funct.2020;11(10):8583-601;Zhao et al.Food Chem.2019;270:436-44)が、概して本物の肉試料では同定されない。
【0490】
S2(‘マトリックスOM+M.アルピナ’)及びS3(‘マトリックスOM+M.イサベリナ’)試料は、PCAプロット上で密接にクラスタ化されたが、官能分析及び揮発性分析の両方において明確な差異が存在し、これは、ARAが「肉らしさ」において重要な役割を果たしていることを示唆していた。S3試料と比較して、S2試料中の揮発性ヘプタナールの大きな増加がある。ヘプタナールは、鶏肉脂肪(Zhao et al.Food Chem.2019;270:436-44)、牛脂(Song et al.Meat Sci.2014;96(3):1191Um et al.J Ag Food Chemistry.1992;40(9):1641-6.)、及び炒めた牛肉(Specht et al.J Ag Food Chem 1994;42(10):2246-53)において同定され、ラム肉における主要な揮発性化合物の1つであると考えられている(Luo et al.Food Sci Nutrition.2019(7):2796-805を参照)。更に、肉らしい、チアゾール(Raza et al.Food Funct.2020;11(10):8583-601;Zhao et al.Food Chem.2019;270:436-44)、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、及びアセチルアセトンなどの他の揮発物質が、S2、及びS5(‘マトリックスOM+バイオマスマイナスTAG’)及びS7(‘マトリックスOM+PL’)などの他のPL含有試料において見出されたが、S3中には存在しなかった。S2及びPL含有試料と比較した場合に、S3、S4、及びS8試料において減少したレベルで検出されるヘキサナール及び2,5-ジメチル-チオフェンについては逆のことが言える。このことは、ARA含有PLが、M.アルピナの芳香プロファイルにおいて重要な役割を果たし得ていることを示唆している。S3では検出されるが、S2では検出されない揮発性物質も存在し、これは肉以外又は非肉芳香に寄与し得、その例は2-メチル-プロパナール(ウェットシリアル)、2-アセチルチアゾール(ポップコーン)、及び2-アセチルチオフェン(硫黄、ナッツ)である。
【0491】
TAG画分がオフノートに寄与しているという官能結果の裏付けに、テトラデカン(ワックス状)、ナフタレン(防虫剤)、及び2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート(可塑剤)などのTAGを含有しない全バイオマス又は試料と比較した場合、S6(‘マトリックスOM+バイオマスマイナスPL’)及びS8においてより多量で検出される、揮発性物質が存在する。
【0492】
バイオマスの非脂質成分もまた、芳香プロファイルにおいて重要な役割を果たすようであり、脂質と相互作用して芳香に対する効果を調節する可能性が高い。これは、PCAプロットにおいて見られ、S7及びS8は、バイオマス含有試料S2~6から離れて位置しており、バイオマス含有試料S2~6は、互いにより密接にクラスタ化されている。更に、S8又はS7には、他の試料よりもはるかに高い存在量で検出される揮発性物質が存在する。S7についてのこれらの例は、ドデカナール、2-ウンデカノン、2-メチル-1-ウンデカノール、1-ヘキサデカノール2,4-ジメチル-ベンズアルデヒド、及び2-エチル-1-ヘキサノールである。S8についてのこれらの例は、1-(1H-ピロール-2-イル)-エタノン、2-ブチル1-オクタノール、ヘキサデカン;1-オクテン-3-オール;1-ペンタノール、及び1-ヘプタノールであり、これらの多くはマッシュルーム及び/又はオフノート(2、6、7、9)として同定されており、これは官能データと整合する。
【表43】
【0493】
画分の官能分析
マトリックスOM(5mL)を、表44に従って、20mLのGCヘッドスペースバイアル内でモルティエレラバイオマス(BM)又はその画分のいずれかと混合した。試料を室温(22~24℃)で2分間激しく混合し(2000rpm)、140℃で45分間加熱した。
【表44】
【0494】
4人の経験豊かな参加者(全て女性、年齢20~45歳)に、試料1から試料8までの順序で盲検試料を嗅ぐように依頼した。試料の間に、参加者に、コーヒーを嗅ぎ、鼻を中立化する/すっきりさせるように求めた。参加者に、肉らしさ及び心地よさについて芳香を評価し討議するよう、並びに試料を湿潤バイオマス及びマトリックスのみの対照と比較するように求めた。
【0495】
最も心地よく、肉らしい芳香を有する試料は、湿潤M.アルピナバイオマスであり、PL含有試料もいくらかの肉らしさを示した。‘バイオマスマイナスTAG’試料は、湿潤バイオマスほど複雑ではなく、湿潤バイオマスより低い強度を有する肉らしいノートを示し、‘PL’試料もまた、いくらかの肉らしさを有すると特定されたが、およそ湿潤バイオマスよりも更に低い強度であった。対照的に、TAG含有画分試料は、肉らしいとして特定されなかった:‘バイオマスマイナスPL’は、花の香りがし心地よいと記載されたが、「TAG」単独試料は、不快であり、「鼻を突く」及び「妙な(chemical)」との記載であった。これは、TAG画分が、バイオマス中の他の画分によって軽減され得るオフノートに寄与していることを示唆した(バイオマス又はバイオマスマイナスPL試料におけるように)。‘脱脂バイオマス’試料は心地よいものであったが、湿潤バイオマスの肉らしいノートを欠いていた。
【0496】
これらの結果は、PL画分が、M.アルピナの芳香における肉らしいノートに寄与するが、PLは、この肉らしさの完全な潜在能力を達成するためにバイオマス中の他の成分を要件とすることを示す。TAG画分は、オフ芳香に寄与する可能性が高いと思われる。
【0497】
実施例18.他の植物性食料中のM.アルピナバイオマスの評価
M.アルピナバイオマスが、様々な市販の肉代用品に対して肉様の芳香、風味、及び口当たり(例えば、なかなか消えない脂っこさ及び風味)をもたらす能力を評価するために、それらを試験した。市販の植物性「ミートボール」(A社ミートボール及びB社ミートボール)、及び1つの市販の植物性バーガーパテ(A社パテ)を、前述の実施例に本質的に記載されているM.アルピナバイオマス及びOMマトリックスを含む、予熱した(140℃、45分)濃縮メイラード溶液と組み合わせた。1組の試料では、濃縮メイラード混合物は追加のハーブ混合物も含んでいた。湿潤バイオマスは、0.8%(w/w)又は0.6%(w/w)の濃度で食料試料中に存在した。
【0498】
全ての試料を、油を塗ったフライパン(3mLのベニバナ油)上で、1000Wで3分間、時々撹拌しながら調理した。試料の間に、フライパンを洗浄し、乾燥させた。全ての調理済み試料を個々の密閉容器に保存し、味見するまで60℃で1時間以下維持した。男性及び女性のパネルは、各試料を味見し(盲検)、そのパネルに、最も好ましい試料、2番目に好ましい試料、及び3番目に好ましい試料に投票するように依頼し、また任意の味見ノートを含めるように依頼した。最も好ましいものに3の値を割り当て、2番目に好ましいものに2の値を割り当て、3番目に好ましいものに1の値を割り当て、各票をカウントした。
【0499】
表45に示すように、パネリストは、脂っこく水分の多い口当たりを有する、ローストした鶏肉又は豚肉風味のコメントによると、バイオマスを含有するミートボール又はバーガーを好む可能性が高かった。対照的に、バイオマスを含まないミートボール及びバーガーは、明確なナッツのような、豆のような、又は人工的な風味を有することが多くの場合認められた。興味深いことに、多くのパネリストは、より低いバイオマス含有率を有する試料を好んだ。
【表45】
【0500】
実施例19.予熱なしの植物性食料中のM.アルピナバイオマスの評価
これまでの試験では、M.アルピナバイオマス及びメイラードマトリックスを、(例えば、140℃で45分間)予熱した後、食料に取り込んだ。食料への適用前にメイラード組成物を加熱しなかった場合の効果を評価するために、試験を行った。
【0501】
メイラード組成物濃縮物を、マトリックスOM5mL及び湿潤M.アルピナバイオマス500mgを用いて調製した。次いで、この濃縮物を50gの再水和TVPに添加し、これをマリネした後、3mLのベニバナ油で、2分間フライパンにかけた(1000wで熱設定)。次いで、試料の盲検官能評価を実施し、参加者は芳香、味、及び口当たりを評価した。
【0502】
予熱工程がないと、バイオマス及びマトリックスOMを有するTVP試料は、脂っこい口当たり及び強い動物性ノートを有し、これは一部の参加者には不快であったが、本物の「肉」体験を与えたことが観察された。肉らしさ及び心地よさは、バイオマス及びマトリックスOMが予熱されていた試料と比較して、減少した。このことにより、バイオマス及びマトリックスを予熱すると、脂っこい口当たりとともに、強く心地よい肉らしい味及び芳香が得られるが、予熱工程は、これらの味見する植物性タンパク質についてより本物の「動物」又は「肉」の体験を提供するために必須ではないことを示した。
【0503】
最終食料組成物中に0.25%、0.5%及び1%の量の湿潤バイオマス(予熱工程なし)を有するマトリックスOM又はマトリックスCを含む組成物でTVP試料をマリネした、追跡試験を行った。バイオマスの量を減少させると、肉らしい風味及び脂っこい口当たりを保持しながら、あまり厳しくない「動物性」ノートが得られることが観察され、このことは、含有率を変更すると、特定の用途又は市場にとって望ましいバランスが得られ得ることを示唆していた。
【0504】
実施例20.メイラード熱処理前後の試料のアミノ酸プロファイル
アミノ酸及び糖は、メイラード反応における主要な成分である。この試験では、メイラード反応の前から後まで、yNI0132バイオマス及びマトリックスを含有する試料のアミノ酸プロファイルの変化を調査した。
【0505】
湿潤バイオマス1gを含む又は含まない、10mLのマトリックスCを含む試料を、140℃で45分間加熱する前後に、それらのアミノ酸含量(すなわち、20個のアミノ酸の各々の量)について分析した。システインの量の有意な減少(約25%)が、加熱後のマトリックスC対照及びマトリックスC+バイオマス組成物の両方において観察され、このことは、このアミノ酸が特にメイラード反応に利用されていることを示唆していた。アルギニン及びヒスチジンのレベルも、加熱プロセスにおいて減少したが、程度はより低かった(それぞれ11~16%及び9~12%)。
【0506】
実施例21.追加の属性を用いたモルティエレラバイオマスの評価
種々のモルティエレラ種株の官能分析を、様々な属性を用いて行った。「心地よさ」及び「肉らしさ」を評価する2つのアプローチではなく、「肉らしさ」、「ローストらしさ」、「動物らしい」、「鼻を突く」、及び「硫黄のような」を評価する、5本立てのアプローチを使用した。各属性の強度を値と共に記録し、高くなったスコアは向上した強度を示す。
【0507】
M.ゾナタSS3(配列番号50に示されるITS配列のITS配列相同性によりM.ミヌチシマとして同定される)、及びM.アルピナATCC32223、M.アルピナS11-2(配列番号51に示されるITS配列のITS相同性によりM.アルピナとして同定される)のバイオマスを、示されるように20mLのGCヘッドスペースバイアル内でマトリックスOM(2mLのマトリックスOM中50mg乾燥バイオマスに相当する)と混合した。次いで、試料を室温(22~24℃)で2分間激しく混合し(2000rpm)、140℃で45分間加熱した。
【0508】
加熱後、全ての試料を放冷し、官能評価全体を通して45℃のオーブン内で調節した。合計6人の参加者(男性及び女性の両方、年齢25~65歳)に試料を嗅ぎ、参照試料(OM laone、バイオマスなし)を最初に評価するように依頼した。参加者に、最初に試料許容性を評価し、次いで、9段階の尺度で参照と比較しながら記述属性の評価に進むように指示した。試料の間に、参加者に、参加者らの手の甲を嗅ぎ、鼻を中立化する/すっきりさせるように求めた。
【0509】
この実験で評価された芳香属性は、全体的な肉らしさ、ローストらしさ、動物らしい、鼻を突く、及び硫黄のようなというものであった。参照についての各属性についての強度は「5」と与えられ、参照と比較して高くなったスコアは向上した強度を示し、参照と比較して低くなったスコアは減少した強度を示す。
【0510】
図18に示されるように、対照メイラードマトリックス(OM)は、バイオマスを含有する他の試料と比較して、より低い許容性スコア、より低い全体的な肉らしさ、ローストらしさ、及び動物らしい(農場様)ノートを有していたが、より高い硫黄のようなノートを有し、肉らしい芳香形成におけるバイオマスの重要性を再確認した。
【0511】
全般的に、試験したバイオマスの芳香特性の差は最小限であった。試料ATCC32223は、他のバイオマスと比較した場合に、最低の許容性スコアを有し、肉らしさ、硫黄らしい、及び動物のようなノートにおいて最低のスコアを有していた。SS3からのバイオマスは、ATCC32223及びS11-2と比較して、最も高い全体的な肉らしさ及びローストらしさスコア、最も低い鼻を突く(傷んだ動物性脂肪)ノートを有していた。S11-2は、最も低いローストらしさのノート及び最も高い動物のような、鼻を突く、及び硫黄のようなノートを有していた。
【0512】
実施例22.M.アルピナ単離株の系統発生分析
上記の新規モルティエレラ種単離株、並びに種々の土壌試料から同定された更なる単離株S14-4、Myu2-1及びMyu2-3は、モルティエレラ科に入るものとして形態学的に同定され、その後、既知のモルティエレラ種とのITS相同性に基づいて種々のモルティエレラ種として分類されていた。これらの単離株のいくつかのITS配列を、GenBankから検索された81のM.アルピナITS配列並びにM.イサベリナ、M.ゾナタ、及びM.エキシグアなどの他のモルティエレラ種と比較することによって、系統発生分析を行った。配列アライメントは、ソフトウェアGeneious Prime v.2022.2.2(https://www.geneious.com)を使用して行った。
図19に示す系統発生分析は、BEAST系統発生学ソフトウェアv.2022(Bouckaert et al.,2019)を使用して実施し、得られたツリーの可視化は、双方向系統樹(Interactive Tree of Life、iTOL)ソフトウェアv6.6(Letunic and Bork,2019)を使用して実施した。円は、ベイズ事後確率としてブートストラップ支援を示す。
【0513】
単離株yNI0132、yNI0134、S11-2、Myu2-1、Myu2-3、及びS14-4は、データベースからの75のM.アルピナによって形成される大クレードに分類され(このクレードはまた、4つのM.アモエボイデア(M.amoeboidea)のサブクレードも含んでいた)、それらの分類をM.アルピナとして明示した。対照的に、S’2-1、S2-3、SS3、S1-3、Myu1、及びMyu3などの他の単離株は、予想通り、他のモルティエレラ種とクラスタ化した。
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