(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】膜-電極-ユニットと、拡散層と、分配器プレートと、を備える電気化学セル、および電気化学セルを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0273 20160101AFI20241022BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20241022BHJP
【FI】
H01M8/0273
H01M8/10 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524673
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2022078476
(87)【国際公開番号】W WO2023078653
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】102021212400.3
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】リングク,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】リンゲル,アントン
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA15
5H126BB06
5H126FF04
5H126FF05
5H126FF07
5H126HH01
5H126HH02
(57)【要約】
本発明は、膜-電極-ユニット(1)と、拡散層(5)と、分配器プレート(7,20)と、を備える電気化学セル(100)に関する。膜-電極-ユニット(1)は、フレーム構造(16)を有し、フレーム構造(16)は、フィルム(161)を有し、フィルム(161)は、接着手段(163)により膜(2)に接着されている。拡散層(5)と、分配器プレート(7,20)とは、部分的にフィルム(161)に当接している。フィルム(161)は、少なくとも1つの第1の空所(161a)と、少なくとも1つの第2の空所(161b)と、を有している。接着手段(163)は、両空所(161a,161b)内に配置されており、その結果、第1の空所(161a)を介して、その上に位置する拡散層(5,6)との結合を形成し、かつ第2の空所(161b)を介して、その上に位置する分配器プレート(7,8,20)との結合を形成する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜-電極-ユニット(1)と、拡散層(5)と、分配器プレート(7,20)と、を備える電気化学セル(100)であって、前記膜-電極-ユニット(1)は、フレーム構造(16)を有し、前記フレーム構造(16)は、フィルム(161)を有し、前記フィルム(161)は、接着手段(163)により膜(2)に接着されており、前記拡散層(5)と、前記分配器プレート(7,20)とは、部分的に前記フィルム(161)に当接している、
電気化学セル(100)において、
前記フィルム(161)は、少なくとも1つの第1の空所(161a)と、少なくとも1つの第2の空所(161b)と、を有し、前記接着手段(163)は、両前記空所(161a,161b)内に配置されており、その結果、前記第1の空所(161a)を介して、その上に位置する前記拡散層(5,6)との結合を形成し、かつ前記第2の空所(161b)を介して、その上に位置する前記分配器プレート(7,8,20)との結合を形成する、
ことを特徴とする、膜-電極-ユニット(1)と、拡散層(5)と、分配器プレート(7,20)と、を備える電気化学セル(100)。
【請求項2】
前記フレーム構造(16)は、別のフィルムを有し、前記フィルム(161)は、前記別のフィルム(162)に前記接着手段(163)により結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル(100)。
【請求項3】
前記フレーム構造(16)は、別のフィルムを有し、前記フィルム(161)は、前記別のフィルム(162)に前記接着手段(163)により結合されており、前記別のフィルム(162)は、少なくとも1つの第3の空所(162a)を有し、前記接着手段(163)は、前記第3の空所(162a)内に配置されており、その結果、前記第3の空所(162a)を介して、その上に位置する別の拡散層(6)との結合を形成することを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル(100)。
【請求項4】
積層方向(z)で見て、前記第1の空所(161a)は、前記第3の空所(162a)に対して側方のオフセット(a)を有することを特徴とする、請求項2に記載の電気化学セル(100)。
【請求項5】
前記第2の空所(161b)は、残余領域(24)内に形成されており、前記残余領域(24)において、前記分配器プレート(7,8,20)は、前記拡散層(5,6)を越えて突出していることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学セル(100)。
【請求項6】
電気化学セル(100)を製造する方法であって、前記電気化学セル(100)は、膜-電極-アッセンブリ(1)と、拡散層(5)と、分配器プレート(7,20)と、を有し、前記膜-電極-ユニット(1)は、フレーム構造(16)を有し、前記フレーム構造(16)は、フィルム(161)を有し、前記フィルム(161)は、接着手段(163)により膜(2)に接着されており、前記フィルム(161)は、少なくとも1つの第1の空所(161a)と、少なくとも1つの第2の空所(161b)と、を有する、
方法において、次の各ステップ、すなわち、
前記拡散層(5)を前記フレーム構造(16)上に載置し、その結果、前記第1の空所(161a)を有する前記フィルム(161)は、前記拡散層(5)に当接しているステップと、
前記接着手段(163)を前記第1の空所(161a)の領域においてホットスタンプ(30)により溶融させ、前記第1の空所(161a)に押し込むことで、前記フレーム構造(16)を前記拡散層(5)に結合するステップと、
前記フレーム構造(16)を前記分配器プレート(7,20)上に載置し、その結果、前記第2の空所(161b)を有する前記フィルム(161)は、前記分配器プレート(7,20)に当接しているステップと、
前記接着手段(163)を前記第2の空所(161b)の領域においてホットスタンプ(30)により溶融させ、前記第2の空所(161b)に押し込むことで、前記フレーム構造(16)を前記分配器プレート(7,20)に結合するステップと、
を備える、電気化学セル(100)を製造する方法。
【請求項7】
前記接着手段(163)は、UV接着剤であり、その結果、前記UV接着剤は、UV源により硬化されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜-電極-ユニットと、拡散層と、分配器プレートと、を備える電気化学セル、特に燃料電池に関する。さらに本発明は、このような電気化学セルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、例えば水素および酸素が、水、電気的なエネルギおよび熱に変換される電気化学的なエネルギコンバータである。燃料電池あるいは燃料電池積層体は、複数のパーツからなるセルから構成されており、セルは、交互に重ねて配置される膜-電極-ユニットとバイポーラプレートとを有している。この場合、バイポーラプレートは、電極に反応物を供給し、かつ燃料電池積層体を冷却するために用いられる。バイポーラプレートは、このために分配器構造を有し、分配器構造は、反応物を含む流体を電極に沿って案内する。通常、バイポーラプレートは、この場合、2つの分配器プレートからなっている。さらに分配器構造は、冷却流体を別の分配器構造に沿ってあるいはバイポーラプレート内で案内するために用いられる。分配器構造は、通常、複数の流路として形成されており、これにより、異なる流体を導くことができる。
【0003】
1つの特殊な燃料電池タイプは、高分子電解質膜型燃料電池(PEM-FC)である。PEM-FCの活性の領域において、高分子電解質膜(PEM)に対して、触媒層を有する2つの多孔質の電極が境界を接している。さらにPEM-FCは、この活性の領域にガス拡散層(GDL)を備え、ガス拡散層(GDL)は、高分子電解質膜(PEM)と、触媒層を有する2つの多孔質の電極とを両側で画定している。PEM、触媒層を有する両電極、および任意選択的には両GDLも、いわゆる膜-電極-ユニット(MEA)をPEM-FCの活性の領域内に形成し得る。対向する2つのバイポーラプレート(バイポーラプレート半部)は、他方、両側でMEAを画定している。燃料電池積層体は、交互に重ねて配置されるMEAとバイポーラプレートとから構成されている。バイポーラプレートのアノードプレートにより、燃料、特に水素の分配が行われ、バイポーラプレートのカソードプレートにより、酸化剤、特に空気/酸素の分配が行われる。隣接するバイポーラプレートを電気的に絶縁するために、MEAを形状安定化するために、かつ燃料あるいは酸化剤の意図しない漏出を防止するために、MEAは、互いに接して配置される2つのフィルムのフレーム状の開口内で囲繞され得る。通常、このフレーム構造の両フィルムは、同じ素材、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)から形成されている。同じ素材から形成される両フィルムは、冗長で省略可能な特性、例えば、両フィルムの各々の電気的な絶縁能力(電気絶縁性)および/または酸素密封性を有していることがある。
【0004】
特許文献1において、燃料電池であって、2つのバイポーラプレートを備え、バイポーラプレート間には、膜-電極-ユニットが配置され、膜-電極-ユニットとバイポーラプレートとの間には、それぞれ1つの拡散層が配置されている燃料電池が公知である。膜-電極-ユニットは、この場合、キャリアフレームあるいはフレーム構造に配置されている。膜-電極-ユニットとフレーム構造との間には、超音波溶接結合が形成されており、超音波溶接結合を介して、膜-電極-ユニットは、フレーム構造に結合されている。
【0005】
この従来技術において、フレーム構造が直接、超音波溶接結合を介してバイポーラプレートに結合されていることも、同じく公知である。同じく、超音波溶接結合の代わりに、レーザにより形成される溶接結合が使用されてもよい。この方法は、確かに、付加的な材料が必要とされないという利点を有するものの、粗面の表面が必要である。
【0006】
特許文献2において、燃料電池用の膜-電極-ユニットであって、アノード電極と、カソード電極と、その間に配置される膜と、からなる層アッセンブリを含み、層アッセンブリの上面および下面にポリマー材料が被着される膜-電極-ユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第102005058370号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10140684号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、フレーム構造を省材料に簡単かつ経済的に拡散層と分配器プレートとに結合し得る、フレーム構造を拡散層と分配器プレートあるいはバイポーラプレートとに取り付ける方法を提供することにある。本発明は、相応の電気化学セルも包含すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このために電気化学セルは、膜-電極-ユニットと、拡散層と、分配器プレートと、を備えている。膜-電極-ユニットは、フレーム構造を有し、フレーム構造は、フィルムを有し、フィルムは、接着手段により膜に接着されている。拡散層と、分配器プレートとは、部分的にフィルムに当接している。フィルムは、少なくとも1つの第1の空所と、少なくとも1つの第2の空所と、を有している。接着手段は、両空所内に配置されており、その結果、第1の空所を介して、その上に位置する拡散層との結合を形成し、かつ第2の空所を介して、その上に位置する分配器プレートとの結合を形成する。
【0010】
膜-電極-ユニットは、好ましくは、面状の膜、特に高分子電解質膜(PEM)を有している。膜-電極-ユニットは、さらに、それぞれ1つの触媒ペーストを有する2つの好ましくは多孔質の電極層を有し、電極層は、膜に配置されており、膜を両側で画定している。これを特にMEA-3と称呼することがある。付加的に膜-電極-ユニットは、2つの拡散層を有していてもよい。これらの拡散層は、特にMEA-3を両側で画定し得る。これを特にMEA-5と称呼することがある。
【0011】
本発明は、この種の電気化学セルを製造する方法も包含する。本方法は、この場合、次の方法ステップを備える。すなわち、
拡散層をフレーム構造上に載置し、その結果、第1の空所を有するフィルムは、拡散層に当接している方法ステップと、
接着手段を第1の空所の領域においてホットスタンプにより溶融させ、第1の空所に押し込むことで、フレーム構造を拡散層に結合する方法ステップと、
フレーム構造を分配器プレート上に載置し、その結果、第2の空所を有するフィルムは、分配器プレートに当接している方法ステップと、
接着手段を第2の空所の領域においてホットスタンプにより溶融させ、第2の空所に押し込むことで、フレーム構造を分配器プレートに結合する方法ステップと、
を備えている。
【0012】
これらの方法ステップのために、この場合、1つまたは複数のホットスタンプが使用可能である。本発明の意味での空所とは、特に、フィルムを貫く貫通部であって、分配器プレートあるいは拡散層との接着手段の結合を可能にする貫通部と解される。この結合は、好ましくは、簡単に実施可能なホットスタンプステップにより達成される。付加的に空所の領域内にのみ接着手段が設けられれば済む。これにより、フレーム構造を拡散層とバイポーラプレートとに取り付けるために必要とされる接着手段は、僅かである。これに応じて、必要とされる付加的な材料は、僅かにすぎない。加えて、このような方法は、これにより簡単かつ経済的に実施可能である。電気化学セルのこれにより生じた構成群は、最良に、複数の電気化学セルを積層して1つのセル積層体とするプロセスに好適である。
【0013】
電気化学セルの有利な一構成において、電気化学セルのフレーム構造は、別のフィルムを有している。上記フィルムは、上記別のフィルムに接着手段により結合されている。これにより、接着手段は、両フィルムの結合のためにも使用され、つまり、いずれにしても存在しているものである。これにより、接着手段を被着するための付加的なステップは、必要とされず、存在している接着手段が、溶融されるだけで済み、これにより、その後、拡散層および分配器プレートもフレーム構造に結合することが可能である。
【0014】
上記別のフィルムは、有利には、少なくとも1つの第3の空所を有し、接着手段は、第3の空所内に配置されており、その結果、第3の空所を介して、その上に位置する別の拡散層との結合を形成する。
【0015】
両フィルムは、つまり、接着手段により互いに結合される/結合されている。空所を通して、この領域内には、同じ接着手段が配置されている。この接着手段を介して、フレーム構造は、両拡散層と分配器プレートとに結合される。接着手段は、両フィルムを結合するために、いずれにしても被着されるので、フレーム構造を拡散層と分配器プレートとに結合するための付加的な材料は、必要とされない。これにより、このような方法は、簡単かつ経済的に実施され得る。
【0016】
有利な発展形において、第1の空所は、積層方向で見て、第3の空所に対して側方のオフセットを有している。これにより、第1および第3の空所内の接着手段は、重ねてホットスタンプされる必要がない。さらに、これにより十分に接着手段が、第1の空所のためにも、第3の空所のためにも存在している。それというのも、空所に、こうして接着手段が、それぞれ異なる領域から充填されるからである。
【0017】
好ましくは、第2の空所は、残余領域内に形成されており、残余領域において、分配器プレートは、拡散層を越えて突出している。これにより、拡散層と、分配器プレートとは、いわば相並んでフレーム構造に取り付けられ得る。
【0018】
本発明の別の好ましい一構成において、接着手段は、UV接着剤であり、その結果、UV接着剤は、UV源により硬化される。好ましくは、この場合、少なくともフィルムは、UV光透過性であり、その結果、接着手段は、UV源により硬化され得る。この方法ステップにより、フレーム構造は、拡散層に、あるいは分配器プレートに、決められた時点で結合されることができ、その結果、引き続き、位置の修正が可能である。加えて、UV光を介した硬化は、簡単な、かつコントロールされた取り付けを可能にする。
【0019】
好ましくは、接着手段は、ホットメルト接着剤であり、その結果、フィルムは、ラミネートプロセスにより互いに結合される。ホットメルト接着剤は、この場合、熱が作用すると、粘着状態へ移行する接着手段である。このような方法ステップにより、両フィルムを加熱、例えばホットスタンプを介して簡単に互いに結合することが可能である。ラミネートプロセスにおいて、両フィルムは、好ましくは、100~200℃の温度および0.5~5MPaの圧力で結合される。同じことは、フレーム構造の、拡散層および分配器プレートとの結合にも当てはまる。
【0020】
電気化学セルは、例えば燃料電池、電解セルまたはバッテリセルであってもよい。燃料電池は、特にPEM-FC(高分子電解質膜型燃料電池)である。セル積層体は、特に重ねて配置される多数の電気化学セルを有している。
【0021】
本発明の実施例を図面に示し、以下の説明の中で詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】主たる領域のみを示してある概略的な電気化学セルの断面図である。
【
図2】主たる領域のみを示してある膜-電極-アッセンブリの鉛直断面図である。
【
図3】主たる領域のみを示してある別の膜-電極-アッセンブリの鉛直断面図である。
【
図4】主たる領域のみを示してある本発明による膜-電極-アッセンブリの鉛直断面図である。
【
図5】電気化学セルの製造のための概略的なプロセスフローの斜視分解立体図である。
【
図6】1つのフレーム構造を1つのバイポーラプレート上にホットスタンプにより取り付ける例示的な方法ステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、概略的に、従来技術において公知の、燃料電池の形態の電気化学セル100を示しており、本図には、主たる領域のみを示してある。燃料電池100は、膜2、特に高分子電解質膜を備えている。膜2の一方の側には、カソード室100aが形成されており、他方の側には、アノード室100bが形成されている。
【0024】
カソード室100a内には、膜2から外側に向かって、つまり、法線方向あるいは積層方向zで、電極層3と、拡散層5と、分配器プレート7と、が配置されている。同様に、アノード室100b内には、膜2から外側に向かって、電極層4と、拡散層6と、分配器プレート8と、が配置されている。膜2と、両電極層3,4とは、膜-電極-アッセンブリ1を形成している。さらに両拡散層5,6も、膜-電極-アッセンブリ1の構成部分である。
【0025】
分配器プレート7,8は、ガス供給用の、例えば、カソード室100a内では、空気の、そしてアノード室100b内では、水素の、拡散層5,6への供給用の流路11を有している。拡散層5,6は、典型的には、流路側で、つまり、分配器プレート7,8に向かって、炭素繊維不織布からなり、電極側で、つまり、電極層3,4に向かって、微細多孔質の粒子層からなっている。
【0026】
分配器プレート7,8は、流路11を有し、これにより暗に、流路11に対して境界を接している土手12も有していることを示唆している。これらの土手12の下面は、したがって、それぞれの分配器プレート7,8の、その下に位置する拡散層5,6に対する接触面13を形成している。
【0027】
通常、カソード側の分配器プレート7と、アノード側の分配器プレート8とは、互いに区別される。有利には、1つの電気化学セル100の、カソード側の分配器プレート7と、この電気化学セル100に隣接する電気化学セルの、アノード側の分配器プレート8とは、堅固に結合、例えば溶接結合により結合され、ひいては、1つのバイポーラプレートにまとめられている。
【0028】
図2は、電気化学セル100、特に燃料電池の膜-電極-アッセンブリ1の縁部領域における鉛直断面図を示しており、本図には、主たる領域のみを示してある。膜-電極-アッセンブリ1は、面状の膜2、例示的には高分子電解質膜(PEM)と、それぞれ1つの触媒層を有する2つの多孔質の電極層3あるいは4と、を有し、電極層3あるいは4は、膜2のそれぞれ一方の側あるいは面に配置されている。さらに電気化学セル100は、両拡散層5あるいは6を備え、両拡散層5あるいは6は、構成によっては、膜-電極-アッセンブリ1に属していてもよい。
【0029】
膜-電極-アッセンブリ1は、膜-電極-アッセンブリ1の周囲において、フレーム構造16(ここではサブガスケットとも称呼される)により包囲されている。フレーム構造16は、膜-電極-アッセンブリ1の剛性および密封性に寄与し、電気化学セル100の非活性の領域である。
【0030】
フレーム構造16は、特に断面U字形あるいは断面Y字形に形成されており、このとき、U字形のフレームセクションの第1の脚片は、第1の素材W1からなるフィルム161により形成されており、かつU字形のフレームセクションの第2の脚片は、第2の素材W2からなる別のフィルム162により形成されている。付加的に、フィルム161と、別のフィルム162とは、第3の素材W3からなる接着手段163により貼り合わされている。多くの場合、第1の素材W1と、第2の素材W2とは、同一であり、熱可塑性のポリマー、例えばPEN(ポリエチレンナフタレート)から構成されている。
【0031】
両拡散層5あるいは6は、いわばフレーム構造16内に、通常は、両拡散層5あるいは6が、膜-電極-アッセンブリ1の活性の面21を介して、それぞれ1つの電極層3,4に接触しているように収容されている。電極層3,4は、それぞれ1つの触媒ペースト31,41を有し、触媒ペースト31,41内には、触媒、通常は触媒粒子が埋め込まれている。
【0032】
電極層3,4は、フレーム構造16により覆われているとき、膜-電極-アッセンブリ1の非活性の縁部領域22である。この非活性の縁部領域22において、反応流体は、電極層3,4あるいは触媒ペースト31,41内に埋め込まれた触媒に到達しない。これにより、縁部領域22において、化学反応は、行われず、電気化学セル100の電流密度は、ここでは、つまり、活性の面21に対して相対的に極めて強く降下する、あるいはそれどころかゼロである。
【0033】
図3は、電気化学セル100の別の膜-電極-アッセンブリ1の鉛直断面図を示しており、本図には、主たる領域のみを示してある。
図3の構成は、
図2の構成に類似しているが、今回は、両拡散層5,6は、フレーム構造16にオーバラップしている。これにより拡散層5,6は、縁部領域22に突入し、こうしてオーバラップ領域23を規定している。オーバラップ領域23内には、内側から外側に、膜-電極-アッセンブリ1の以下のコンポーネントが配置されている:
-膜2、
-触媒ペースト31,41を有する電極層3,4、
-接着手段163、
-フィルム161あるいは別のフィルム162、
-拡散層5,6。
【0034】
図4は、本発明による膜-電極-ユニット1の鉛直断面図を示しており、本図には、主たる領域のみを示してある。
図3の実施例におけるように、
図4の実施例においても、拡散層5,6は、フレーム構造16にオーバラップしており、その結果、オーバラップ領域23が生じる。
【0035】
オーバラップ領域23において、さて、フィルム161は、第1の空所161aを有し、かつ別のフィルム162は、第3の空所162aを有し、接着手段163は、第1の空所161aおよび第3の空所162aを通過し、こうして、その上に位置する拡散層5,6との接着結合を行う。
【0036】
縁部領域23において、分配器プレート7,8は、それぞれ、その下に位置する拡散層5,6を越えて突出している。分配器プレート7,8は、つまり、オーバラップ領域23を越えて突出している。こうして生じる残余領域24において、少なくとも、組み立てられたセル積層体の締め付け力の下、分配器プレート7,8は、その下に位置するフレーム構造16と接触し得る。残余領域24において、さて、フィルム161は、第2の空所161bを有し、かつ別のフィルム162は、第4の空所162bを有し、接着手段163は、第2の空所161bおよび第4の空所162bを通過し、こうして、その上に位置する分配器プレート7,8との接着結合を行う。
【0037】
好ましくは、カソード側の分配器プレート7と、隣接する電気化学セル100のアノード側の分配器プレート8とは、結合されて、特に好ましくは、溶接結合により結合されて、1つのバイポーラプレートを形成している。
【0038】
接着手段163は、つまり、膜2および両電極層3,4をフレーム構造16に結合するだけではなく、これにより生じた膜-電極-ユニット1を拡散層5,6と分配器プレート7,8とに、あるいは1つまたは2つのバイポーラプレート20にも結合する。
【0039】
有利な構成において、第1の空所161aと、第3の空所162aとは、積層方向zで見てオフセットaを有している。このことは、特に、接着がホットスタンプにより実施される場合、有利である。それというのも、こうして、個々の空所161a,162aに十分に接着手段163が存在し、接着手段163が、液状化した状態で空所161a,162aを通して流れ、その上に位置する拡散層5,6との結合を行い得るからである。
【0040】
図5は、斜視分解立体図で概略的に、1つの膜-電極-ユニット1と、1つのバイポーラプレート20と、を備える1つの電気化学セル100を製造するためのプロセスフローを示している。
【0041】
図5aは、膜2と、両電極層3,4と、フレーム構造16と、を有する膜-電極-ユニット1の構造を示しており、フレーム構造16は、他方、フィルム161と、別のフィルム162と、その間に配置される接着手段163と、を有している。接着手段163は、この場合、初期状態で例えばまず両フィルム161,162上に被着されていてもよい。
【0042】
図5aの構成では、フィルム161は、4つの第1の空所161aと、4つの第2の空所161bと、を有している。別のフィルム162は、4つの第3の空所162aのみを有している。それというのも、1つの膜-電極-アッセンブリ1と、1つのバイポーラプレート20と、を備える1つの電気化学セル100が製造されるべきであるからである。
【0043】
図5bは、この膜-電極-アッセンブリ1の、両拡散層5,6との結合を示している。この結合は、この場合、好ましくは、ホットスタンプにより実施され、接着手段163は、第1の空所161aおよび第3の空所162aの領域において溶融され、これらの空所161a,162aを通して流れ、あるいは押され、その後、その上に位置する拡散層5,6に接着される。
【0044】
図5cは、この膜-電極-アッセンブリ1と、バイポーラプレート20と、からなる電気化学セル100の接合を示している。膜-電極-アッセンブリ1は、このために、膜2の両側に、それぞれ1つの拡散層5,6を有している。このバイポーラプレート20の、膜-電極-アッセンブリ1との結合は、この場合、好ましくは、ホットスタンプにより実施され、接着手段163は、第2の空所161bの領域において溶融され、これらの空所161bを通して流れ、あるいは押され、その後、その上に位置するバイポーラプレート20あるいは分配器プレートに接着される。
【0045】
図6は、例示的に、フレーム構造16をバイポーラプレート20上にホットスタンプ30により取り付ける方法ステップを示している。本構成では、フレーム構造16は、バイポーラプレート20に、膜2および電極層3,4がもはや存在していない領域において結合される。本図には、第4の空所162bの領域を通る断面図を示してある。接着手段163は、膜-電極-ユニット1をバイポーラプレート20に、つまり第2のフィルム162において結合することが望ましい。このことは、膜-電極-ユニット1をバイポーラプレート20に第1のフィルム161において結合するのといわば同一の構成である。
【0046】
部分
図6aは、この場合、第1および第2のフィルム161,162間に接着手段163が配置されており、接着手段163を介して両フィルム161,162が互いに結合されることを示している。本実施例において、接着手段163は、ホットメルト接着剤であり、ホットメルト接着剤を介して、両フィルム161,162は、ラミネートプロセスにより互いに結合される。空所162bに基づき、この領域では、両フィルム161,162の結合は生じない。部分
図6aは、膜-電極-ユニット1がバイポーラプレート20上に載置される前のステップを示している。
【0047】
部分
図6bには、ホットスタンプ30によりスタンピングステップが実施されるステップを示してある。このステップにおいて、別のフィルム162は、直接、バイポーラプレート20に当接している。ホットスタンプ30は、その際、空所162bの領域に位置決めされており、スタンピング力をフィルム161に印加し、熱エネルギをこの領域において接着手段163に導入する。加熱された接着手段163は、こうしてバイポーラプレート20と接触させられる。ホットスタンプ30は、つまり昇温されており、その結果、フィルム161は、ホットメルト接着剤として形成される接着手段163を介して、バイポーラプレート20に結合される。
【0048】
スタンピングステップにより、これにより、スタンピングされた接着点164が形成され、接着点164は、実質的に、空所162bの形状と、ホットスタンプ30の形状とにより決定されている。部分
図6cは、ホットスタンプ30が除去された後の、膜-電極-アッセンブリ1の対応する部分を示している。ここには、スタンピングを行うホットスタンプ30により、凹部28が、第1のフィルム161内に形成されたことが看取可能である。この凹部28は、第2のフィルム162の空所162b内まで到達している。これにより、両フィルム161,162間の機械的な結合が、さらに改善される。
【符号の説明】
【0049】
1 膜-電極-アッセンブリ、膜-電極-ユニット
2 膜
3 電極層
4 電極層
5 拡散層
6 拡散層
7 分配器プレート
8 分配器プレート
11 流路
12 土手
13 接触面
16 フレーム構造、サブガスケット
20 バイポーラプレート
21 活性の面
22 非活性の縁部領域
23 オーバラップ領域
24 残余領域
28 凹部
30 ホットスタンプ
31 触媒ペースト
41 触媒ペースト
100 電気化学セル
100a カソード室
100b アノード室
161 フィルム
161a 第1の空所
161b 第2の空所
162 別のフィルム
162a 第3の空所
162b 第4の空所
163 接着手段
164 接着点
a オフセット
W1 第1の素材
W2 第2の素材
W3 第3の素材
z 法線方向、積層方向
【手続補正書】
【提出日】2024-06-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜-電極-ユニット(1)と、拡散層(5)と、分配器プレート(7,20)と、を備える電気化学セル(100)であって、前記膜-電極-ユニット(1)は、フレーム構造(16)を有し、前記フレーム構造(16)は、フィルム(161)を有し、前記フィルム(161)は、接着手段(163)により膜(2)に接着されており、前記拡散層(5)と、前記分配器プレート(7,20)とは、部分的に前記フィルム(161)に当接している、
電気化学セル(100)において、
前記フィルム(161)は、少なくとも1つの第1の空所(161a)と、少なくとも1つの第2の空所(161b)と、を有し、前記接着手段(163)は、両前記空所(161a,161b)内に配置されており、その結果、前記第1の空所(161a)を介して、その上に位置する前記拡散層(5,6)との結合を形成し、かつ前記第2の空所(161b)を介して、その上に位置する前記分配器プレート(7,8,20)との結合を形成する、
ことを特徴とする、膜-電極-ユニット(1)と、拡散層(5)と、分配器プレート(7,20)と、を備える電気化学セル(100)。
【請求項2】
前記フレーム構造(16)は、別のフィルムを有し、前記フィルム(161)は、前記別のフィルム(162)に前記接着手段(163)により結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル(100)。
【請求項3】
前記フレーム構造(16)は、別のフィルムを有し、前記フィルム(161)は、前記別のフィルム(162)に前記接着手段(163)により結合されており、前記別のフィルム(162)は、少なくとも1つの第3の空所(162a)を有し、前記接着手段(163)は、前記第3の空所(162a)内に配置されており、その結果、前記第3の空所(162a)を介して、その上に位置する別の拡散層(6)との結合を形成することを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル(100)。
【請求項4】
積層方向(z)で見て、前記第1の空所(161a)は、前記第3の空所(162a)に対して側方のオフセット(a)を有することを特徴とする、請求項
3に記載の電気化学セル(100)。
【請求項5】
前記第2の空所(161b)は、残余領域(24)内に形成されており、前記残余領域(24)において、前記分配器プレート(7,8,20)は、前記拡散層(5,6)を越えて突出していることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学セル(100)。
【請求項6】
電気化学セル(100)を製造する方法であって、前記電気化学セル(100)は、膜-電極-アッセンブリ(1)と、拡散層(5)と、分配器プレート(7,20)と、を有し、前記膜-電極-ユニット(1)は、フレーム構造(16)を有し、前記フレーム構造(16)は、フィルム(161)を有し、前記フィルム(161)は、接着手段(163)により膜(2)に接着されており、前記フィルム(161)は、少なくとも1つの第1の空所(161a)と、少なくとも1つの第2の空所(161b)と、を有する、
方法において、次の各ステップ、すなわち、
前記拡散層(5)を前記フレーム構造(16)上に載置し、その結果、前記第1の空所(161a)を有する前記フィルム(161)は、前記拡散層(5)に当接しているステップと、
前記接着手段(163)を前記第1の空所(161a)の領域においてホットスタンプ(30)により溶融させ、前記第1の空所(161a)に押し込むことで、前記フレーム構造(16)を前記拡散層(5)に結合するステップと、
前記フレーム構造(16)を前記分配器プレート(7,20)上に載置し、その結果、前記第2の空所(161b)を有する前記フィルム(161)は、前記分配器プレート(7,20)に当接しているステップと、
前記接着手段(163)を前記第2の空所(161b)の領域においてホットスタンプ(30)により溶融させ、前記第2の空所(161b)に押し込むことで、前記フレーム構造(16)を前記分配器プレート(7,20)に結合するステップと、
を備える、電気化学セル(100)を製造する方法。
【請求項7】
前記接着手段(163)は、UV接着剤であり、その結果、前記UV接着剤は、UV源により硬化されることを特徴とする、請求項
6に記載の方法。
【国際調査報告】