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  • 特表-グラフェン分散液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】グラフェン分散液
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20241022BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20241022BHJP
   C04B 14/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C01B32/194
C01B32/198
C04B14/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525846
(86)(22)【出願日】2022-10-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2022079980
(87)【国際公開番号】W WO2023073043
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】2115442.2
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524160291
【氏名又は名称】コンクリティーン・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Concretene Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン,クレイグ
(72)【発明者】
【氏名】スカリオン,リサ
(72)【発明者】
【氏名】イジジェ,ハピネス
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB07
4G146AC02A
4G146AD37
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB26
4G146DA07
(57)【要約】
グラフェンナノプレートレットの安定した水分散液、及びそのような分散液を製造する方法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)グラフェンナノプレートレットと、
(b)酸化グラフェンナノプレートレットと、
(c)水と、
を含む、グラフェン分散液であって、
添加剤中の前記グラフェンナノプレートレットの濃度が、29mg・ml-1~150mg・ml-1であり、添加剤中の前記酸化グラフェンナノプレートレットの濃度が、1mg・ml-1~50mg・ml-1である、前記グラフェン分散液。
【請求項2】
前記グラフェンナノプレートレットが、1μmを超える平均横方向フレーク寸法を有する、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記グラフェンナノプレートレットが、10μmを超える平均横方向フレーク寸法を有する、請求項1に記載の分散液。
【請求項4】
前記酸化グラフェンナノプレートレットが、0.9μm未満の平均横方向フレーク寸法を有する、いずれかの先行請求項に記載の分散液。
【請求項5】
酸化グラフェンナノプレートレット濃度/グラフェンナノプレートレット濃度として計算される、酸化グラフェンナノプレートレットのグラフェンナノプレートレットに対する濃度比が、0.025~1である、いずれかの先行請求項に記載の分散液。
【請求項6】
グラフェン分散液を作製する方法であって、
(i)酸化グラフェンナノプレートレット、または酸化グラフェン前駆体物質を、水と混合することと、
(ii)少なくとも4000rpmの高せん断力で少なくとも15分間混合することと、
(iii)グラフェンナノプレートレット、またはグラフェン前駆体物質を添加することと、
(iv)少なくとも4000rpmの高せん断力で少なくとも15分間混合することと、
のステップを含み、
前記ステップが、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、または(iii)、(iv)、(i)、(ii)の順序で実行される、前記方法。
【請求項7】
ステップ(i)では、酸化グラフェンのウェットケーキまたは酸化グラファイトのウェットケーキが前記水と混合される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(ii)では、混合することが、少なくとも45分間、好ましくは約1時間行われる、請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(iii)では、グラフェンナノプレートレット粉末が添加される、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(iv)では、混合することが、少なくとも45分間、好ましくは約1時間行われる、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(iv)では、平均横方向フレーク寸法が1μmを超える、好ましくは10μmを超えるグラフェンナノプレートレットが使用される、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(i)では、0.9μm未満の平均横方向フレーク寸法を有する酸化グラフェンナノプレートレットまたは酸化グラファイトが使用される、請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(i)では、前記酸化グラフェンナノプレートレットまたは前記酸化グラフェン前駆体物質が、コンクリートに含める添加剤中の酸化グラフェンナノプレートレットの濃度を、1mg・ml-1~50mg・ml-1とする量で添加される、請求項6~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(iii)では、前記グラフェンナノプレートレットまたは前記グラフェン前駆体物質が、コンクリートに含める添加剤中のグラフェンナノプレートレットの濃度を、29mg・ml-1~150mg・ml-1とする量で添加される、請求項6~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(i)及び(iii)では、前記酸化グラフェンナノプレートレットまたは前記酸化グラフェン前駆体物質、及び前記グラフェンナノプレートレットまたは前記グラフェン前駆体物質は、分散液中の、酸化グラフェンナノプレートレット濃度/グラフェンナノプレートレット濃度として計算される、酸化グラフェンナノプレートレットのグラフェンナノプレートレットに対する濃度比を、0.025~1とする量で添加される、請求項6~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン分散液、特にコンクリートなどの組成物にグラフェンを導入するための添加剤の形態のグラフェン分散液、及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは2004年に単離されて以来、多くの研究が行われてきた。例えばWO2019/175564及びWO2017/092778では、建築材料の強化ナノ材料としての可能性が示唆されている。実際、インクからポリマー複合材料に至るまで、多岐にわたる目的に有用な添加剤となる可能性があるとして、多くの議論がなされてきた。
【0003】
一般的に直面する問題は、別の組成物または材料内でのグラフェンの分散にある。一般に、グラフェンは凝集する傾向があり、(例えば)液相中へ不均一に分布する。したがって、グラフェンは、(例えば)水中に非常に低濃度で懸濁させることにしか成功していない。一般に、幅広い用途で使用できる経済的な添加剤を提供するには、はるかに高い濃度が必要とされる。そのため、より高濃度のグラフェンを含む懸濁液が依然として求められている。
【0004】
さらに、グラフェンを水中に懸濁させるこれまでの試みでは、安定性(「保存期間」)が非常に限られているという結果が出ている。凝集する傾向があるため、低濃度のグラフェンであっても、数時間程度の比較的短い時間しか均一に分散されたままにならない。つまり、このような懸濁液は、形成後すぐに使用する必要があるため、大規模に製造するには実用的でない。数日または数か月にもわたって安定性を有し、より容易に工業的に使用できるようにする懸濁液が依然として求められている。
【0005】
これらの問題は両方とも、様々な産業、例えば建設業(コンクリートなどの材料にグラフェンを含めることが望まれる)において重要となる。
【0006】
本発明は、上記の考慮事項に照らして考案された。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、最も広義には、グラフェンナノプレートレット分散液に関する。
【0008】
分散液は、グラフェンナノプレートレット(GNP)及び酸化グラフェン(GO)を含む水であって、両方とも理想的には水中に実質的に均一に分散している、水を含む。このような分散液を作製するための本発明の主題である方法は、これまでに達成されていたよりも著しく高い濃度のGNP及びGOが水中に懸濁されるようにする。さらに、この方法により、時間が経っても著しく安定した懸濁液が得られる。
【0009】
そのため、第1の態様では、本発明は、(a)グラフェンナノプレートレットと、(b)酸化グラフェンナノプレートレットと、(c)水と、を含む、グラフェン分散液であって、添加剤中のグラフェンナノプレートレットの濃度が、29mg・ml-1~150mg・ml-1であり、添加剤中の酸化グラフェンナノプレートレットの濃度が、1mg・ml-1~50mg・ml-1である、グラフェン分散液を提供する。
【0010】
GNP及びGOの分散は、水中で実質的に均一であることが好ましい。
【0011】
好ましくは、分散液中のグラフェン材料の総含有量は、30mg・ml-1以上である。
【0012】
このような添加レベルのGO及びGNPを有する安定した分散液は、先行技術では知られていない。本発明者らは、6か月以上安定して、コンクリートバッチプラントでの添加を可能にする、このタイプの分散液を作製した。このことは、より低い添加レベルであっても、さらなる組成物中での分散を可能にするために、現場で作製する必要がある、以前のあまり長寿命ではない分散液に対する重要な利点である。
【0013】
本発明者らは、GNPのフレークサイズが大きいほど好ましい可能性があることを発見した。したがって、いくつかの実施形態では、グラフェンナノプレートレットは、1μmを超える、好ましくは10μmを超える平均横方向フレーク寸法を有する。
【0014】
発明者らはまた、表面積(及び酸素原子濃度)を増加させ、したがって酸素含有基の利用可能性を高めるには、GOのフレークサイズが小さいほど好ましい可能性があることを発見した。したがって、いくつかの実施形態では、酸化グラフェンナノプレートレットは、0.9μm未満の平均横方向フレーク寸法を有する。
【0015】
以上のとおり、本発明の添加剤は、かなりのレベルのGO及びGNPを含有する。酸化グラフェンナノプレートレット濃度/グラフェンナノプレートレット濃度として計算される、酸化グラフェンナノプレートレットのグラフェンナノプレートレットに対する濃度比は、0.025~1であることが好ましい場合がある。これにより、安定性と潜在的な特性改善との理想的なバランスを得ることができる。
【0016】
本発明の第2の態様は、グラフェン分散液を作製する方法であって、(i)酸化グラフェンナノプレートレット、または酸化グラフェン前駆体物質を、水と混合することと、(ii)少なくとも4000rpmの高せん断力で少なくとも15分間混合することと、(iii)グラフェンナノプレートレット、またはグラフェン前駆体物質を添加することと、(iv)少なくとも4000rpmの高せん断力で少なくとも15分間混合することと、のステップを含む、方法に関する。
【0017】
ステップペア(i)及び(ii)と、(iii)及び(iv)との順序を入れ替える場合があることに留意されたい。つまり、ステップは、(i)、次に(ii)、次に(iii)、次に(iv)の順序で実行することがあり、または(iii)、次に(iv)、次に(i)、次に(ii)の順序で実行することがある。
【0018】
高せん断混合は、好ましくは(ステップ(ii)及び(iv)の一方または両方において)、せん断速度が少なくとも1.5×10-1となる条件下で、実施することができる。
【0019】
酸化グラフェン前駆体物質は、例えば、酸化グラファイトであってもよい。グラフェン前駆体物質は、例えば、グラファイトであってもよい。
【0020】
ステップ(i)では、酸化グラフェンまたは酸化グラファイトのウェットケーキが水と混合されてもよい。
【0021】
GOの分布を均一性に向けて改善するために、ステップ(ii)では、混合することが、少なくとも45分間、好ましくは約1時間行われることが好ましい場合がある。
【0022】
ステップ(iii)では、グラフェンナノプレートレット粉末が添加されてもよい。
【0023】
GNPの分布を均一性に向けて改善するために、ステップ(iv)では、混合することが、少なくとも45分間、好ましくは約1時間行われることが好ましい場合がある。
【0024】
上述の理由により、ステップ(iv)では、平均横方向フレーク寸法が1μmを超える、好ましくは10μmを超えるグラフェンナノプレートレットが使用されることが好ましい場合がある。
【0025】
上述の理由により、ステップ(i)では、0.9μm未満の平均横方向フレーク寸法を有する酸化グラフェンナノプレートレットまたは酸化グラファイトが使用される。
【0026】
好ましくは、ステップ(i)では、酸化グラフェンナノプレートレットまたは酸化グラフェン前駆体物質が、分散液中の酸化グラフェンナノプレートレットの濃度を、1mg・ml-1~50mg・ml-1とする量で添加される。
【0027】
好ましくは、ステップ(iii)では、グラフェンナノプレートレットまたはグラフェン前駆体物質が、分散液中のグラフェンナノプレートレットの濃度を、29mg・ml-1~150mg・ml-1とする量で添加される。
【0028】
好ましくは、ステップ(i)及び(iii)では、酸化グラフェンナノプレートレットまたは酸化グラフェン前駆体物質、及びグラフェンナノプレートレットまたはグラフェン前駆体物質は、分散液中の、酸化グラフェンナノプレートレット濃度/グラフェンナノプレートレット濃度として計算される、酸化グラフェンナノプレートレットのグラフェンナノプレートレットに対する濃度比を、0.025~1とする量で添加される。
【0029】
本発明の別の態様は、上述の方法によって取得可能な、または得られるグラフェン分散液に関する。すなわち、本態様は、(i)酸化グラフェンナノプレートレット、または酸化グラフェン前駆体物質を、水と混合することと、(ii)少なくとも4000rpmの高せん断力で少なくとも15分間混合することと、(iii)グラフェンナノプレートレット、またはグラフェン前駆体物質を添加することと、(iv)少なくとも4000rpmの高せん断力で少なくとも15分間混合することと、のステップを含む、グラフェン分散液を作製する方法であって、ステップが、(i)、次に(ii)、次に(iii)、次に(iv)の順序で行われるか、または(iii)、次に(iv)、次に(i)、次に(ii)の順序で行われる、方法によって取得可能な、または得られるグラフェン分散液に関する。
【0030】
このようにして得られたグラフェン分散液は、少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも1週間、少なくとも1か月間、または最も好ましくは少なくとも6か月間安定である可能性がある。
【0031】
本発明は、本記載の態様及び好ましい特徴の組み合わせを含むが、かかる組み合わせが、明らかに容認できない場合または明らかに回避される場合を除く。
【0032】
本発明の原理を示す実施形態及び実験を、ここで添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の例示的な分散液の7日目及び21日目の粘度プロファイルを例示する。
図2】本発明の例示的な分散液の3日目及び7日目の粘度プロファイルを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の態様及び実施形態を、添付の図面を参照してここで説明する。さらなる態様及び実施形態は、当業者には明らかであろう。本文において言及される全ての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0035】
定義
最初に、本明細書で使用される様々な用語の意味について説明した方がいいだろう。グラフェンベースの技術はまだ比較的新しいため、これまでグラフェンに関する特定の用語の使用方法には多少のばらつきがあった。
【0036】
特に、「グラフェン」は、単層グラフェンだけでなく、数層のグラフェンを指す場合にも使用される。本発明で使用されるグラフェンナノプレートレットは、好ましくは1~10層の単層グラフェンを含む。このようなグラフェン製品は、商業的に容易に入手可能であり、グラフェンを作製する様々な方法がよく知られている。
【0037】
「酸化グラフェン」とは、大量の表面結合酸素含有基を有するグラフェン(上で定義したとおり)のことをいう。例えば、ヒドロキシル(C-OH)、ケトン(C=O)、カルボキシル(COOH)、エポキシド(COC)などの化学種である。酸化グラフェンは、ハマー法などの様々な方法で得られ、商業的に容易に入手可能である。例えば、酸化グラフェンは、酸化グラファイトの層間剥離によって得ることができる。
【0038】
本明細書では、添加剤中のGNP及びGOの濃度は、添加剤の最終配合物の1ミリリットルあたりの重量含有量(mg・ml-1)を単位にして説明され得る。含有量は、最終添加剤の重量%を単位にして考察されることもある。
【0039】
分散液
本分散液は、グラフェン及び酸化グラフェンの水分散液である。本分散液は、安定した分散液内に含まれる高レベルのGNPによって特徴付けられるか、または時間の経過に伴うその安定性(つまり、グラフェンが著しい凝集を起こさずに分散したままでいる時間)によって特徴付けられる場合がある。これまでのこのような分散液は、GNPの含有量がかなり少なく、及び/または安定している時間がかなり短かった。
【0040】
分散液の安定性を判断する1つの方法は、その粘度を特定の時間間隔で測定することである(粘度は凝集、したがって分散液の不安定性から影響を受けるので、粘度の大幅な上昇は安定性の喪失を示す)。
【0041】
例えば、実験室用粘度計(例えば、AMETEK BrookfieldのDV2T粘度計、LVモデル)などの標準機器を使用して、分散液の粘度を製造後に直接測定することができる(これをVと呼ぶことがある)。次に、同じ手法(同じ条件;したがって、安定性のテストは、使用される粘度測定手法または条件とはまったく関係がない)で、「x」時間後の粘度を測定することができる(これをVと呼ぶことがある)。時間xで測定された粘度が、最初に測定された粘度の約35%以内である場合(つまり、{([V/V]*100)-100}が35以下の場合)、分散液は少なくとも「x」時間安定していると言える。
【0042】
時間xで測定される粘度は、安定性を明示するには、最初に測定された粘度の約25%以内であることが好ましく、約20%以内であることがより好ましく、約15%以内であることが最も好ましい場合がある。
【0043】
粘度測定は、例えば、30rpm、40rpm、50rpm、70rpm、90rpmまたは110rpmで、好ましくは40rpmで、21℃で行われ得る。安定性(上述のVがVの約35%以内、好ましくは約25%など)は、本発明で満足されるとみなされる、30rpm、40rpm、50rpm、70rpm及び90rpmのうちの少なくとも1つで実証されるだけでよい。しかし、それらのrpmカウントのうちの少なくとも2つで実証されるのがより好ましく、それらのrpmカウントのうちの少なくとも4つで実証されるのがより好ましく、それらのrpmカウントの全てで実証されるのが最も好ましい。
【0044】
本発明の分散液は、好ましくは少なくとも24時間、より好ましくは少なくとも72時間、さらにより好ましくは少なくとも168時間、最も好ましくは少なくとも504時間安定である。
【0045】
安定性の代替的または追加の指標は、一定時間加熱した後の分散液の目視検査を実施することによるものであってもよい。例えば、分散液は、少なくとも40℃で少なくとも5日間加熱しても外観に変化を認めることができない場合、安定していると言うことができる。また、例えば、少なくとも50℃で少なくとも7日間加熱しても外観に変化がない場合にも安定していると言える。
【0046】
(ここでの外観の変化は、分散液が分離し始めていることを示す。)
【0047】
分散液自体は、内容物に応じて様々な粘度を持ち得る。分散液は、液体またはゲルの形態をとることがある。
【0048】
本分散液は、(a)グラフェンナノプレートレットと、(b)酸化グラフェンナノプレートレットと、(c)水とを含み、添加剤中のグラフェンナノプレートレットの濃度が、29mg・ml-1~150mg・ml-1であり、添加剤中の酸化グラフェンナノプレートレートの濃度が、1mg・ml-1~50mg・ml-1である。
【0049】
このような、より高い濃度は、以下に記載する製造方法によって可能になると考えられる。GNPの濃度は、好ましくは50mg・ml-1~120mg・ml-1、より好ましくは60mg・ml-1~100mg・ml-1であり得る。GOの濃度は、好ましくは5mg・ml-1~45mg・ml-1、より好ましくは15mg・ml-1~40mg・ml-1であり得る。
【0050】
GNP/GOの添加量が高いほど、必要な添加量に達して必要な反応を達成するために添加すべき必要性が小さくなるため、使用時に、グラフェン分散液を使用しやすくなる。例えば、コンクリートバッチプラントでは、プロセス内で添加する必要のある本分散液が大幅に少なくなり、既存のハードウェアとソフトウェアとを使用できるため、既存のバッチプロセスを中断する必要がない。
【0051】
本発明の方法を使用する場合、これらの成分で安定した分散液を実現するために、追加の界面活性剤は必要ない。したがって、いくつかの実施形態では、分散液中にさらなる界面活性剤は含まれない。いくつかの実施形態では、分散液はコール酸ナトリウムを実質的に含まなくてもよい。いくつかの実施形態では、分散液は、(a)グラフェンナノプレートレットと、(b)酸化グラフェンナノプレートレットと、(c)水とからなり、添加剤中のグラフェンナノプレートレットの濃度が、29mg・ml-1~150mg・ml-1であり、添加剤中の酸化グラフェンナノプレートレートの濃度が、1mg・ml-1~50mg・ml-1であり、残りは水である。
【0052】
本分散液のグラフェン材料の総含有量は、存在する全てのグラフェン系成分の含有量を単純に加算することによって計算することができる。例えば、GNP含有量+GO含有量、である。
【0053】
グラフェン材料の総含有量が30mg・ml-1以上であることが好ましい場合がある。より多量のグラフェン材料が存在すると、その材料を効率的に送達するのに役立つ(同じだけグラフェン材料を添加するのに必要な分散液の量が少なくなる)ことが発明者らによって理解されているように、グラフェン材料の総含有量が、40mg・ml-1以上、例えば50mg・ml-1以上であることがより好ましく、または70mg・ml-1以上、例えば90mg・ml-1以上であることが最も好ましい。
【0054】
このような濃度のグラフェン材料を含む安定した分散液は、先行技術では知られていない。また、そのような分散液を作製できる方法もまた知られていない。
【0055】
分散液中のGNP及びGOの含有量の比率もまた興味深い。状況によっては、例えば、GNPの割合としてGOを少なくすること、つまり、酸化グラフェンナノプレートレットのグラフェンナノプレートレットに対する濃度比、つまり酸化グラフェンナノプレートレットの濃度/グラフェンナノプレートレットの濃度を低くして用いることが好ましい場合がある。
【0056】
その比は、0.025~1であることが好ましい。
【0057】
(比率0.025は、GO1対GNP40を表す。比率1は、GO1対GNP1を表す。)
【0058】
いくつかの実施形態では、この比率は、この範囲の下限に近いものになり得る。例えば、比率は、0.025~0.5、より好ましくは0.03~0.3、さらにより好ましくは0.04~0.2、最も好ましくは0.05~0.1であり得る。
【0059】
いくつかの他の実施形態では、より高い比率、例えば0.05~0.7、より好ましくは0.1~0.25が用いられることがある。
【0060】
さらにさらなる実施形態では、さらにより高い比率、例えば0.5~1、より好ましくは0.6~0.8が用いられることがある。
【0061】
GOは増粘剤として作用して、分散液の粘度を効果的に増加させ得ることが認識され得る。したがって、含まれるGOの量は、望ましい粘度、及び望ましい分散特性を実現するように抑えられ得る。
【0062】
もちろん、より高い粘度が望ましい場合は、より高い含有量のGOを用いることができる。
【0063】
GNPとGOとは、様々な形状及びサイズで存在するが、使用されるフレークのサイズが、添加剤によってもたらされる利点に、ある程度の影響を与えることがわかっている。具体的には、GNPの横方向のサイズを大きくすることと、GOの横方向のサイズを小さくすることとが、それぞれ単独に有益であることがわかっている。
【0064】
例えば、GNPは、1μmを超える、より好ましくは10μmを超える平均横方向フレーク寸法を有することが好ましい場合がある。
【0065】
同様にかつ別個に、GOは、0.9μm未満の平均横方向フレーク寸法を有することが好ましい場合がある。
【0066】
所与のフレークの横方向のフレーク寸法は、例えばSEMによって測定することができる。GNP及びGO両方とも、ならびに適切な前駆体は、含まれるフレークのサイズに関する情報とともに製造業者から定期的に提供される。例えば、GNP製品にフレークの横方向の寸法が30μm未満であると記載されている場合、その製品内の実質的に全てのフレークのサイズが30μm未満であると想定できる。
【0067】
(一般的に、横方向フレーク「寸法」は、フレークの最長寸法である。「平均」横方向フレーク寸法は、適切にはd50であり得る。)
【0068】
添加剤の製造
GNPが内部に実質的に均一に分散された、上述のタイプの分散液を安定した形態で提供することは、これまで不可能であった。本発明者らは、これまでに記載された分散液と比較して安定性が根本的に改善された、まさにそのような分散液の形成を可能にする方法を発見した。
【0069】
最も広範には、本発明の方法は、高せん断混合を使用して、酸化グラフェン(またはその前駆体)、グラフェンナノプレートレット(またはその前駆体)及び水を混ぜ合わせる。より具体的には、本発明の方法は、(i)酸化グラフェンナノプレートレット、または酸化グラフェン前駆体物質を、水と混合することと、(ii)少なくとも4000rpmの高せん断力で少なくとも15分間混合することと、(iii)グラフェンナノプレートレット、またはグラフェン前駆体物質を添加することと、(iv)少なくとも4000rpmの高せん断力で少なくとも15分間混合することとを含み、ステップが、(i)、(ii)、(iii)、(iv)の順序、または(iii)、(iv)、(i)、(ii)の順序で実行され得る。
【0070】
この高せん断混合の使用は、例えば、以前に実施されてきた超音波混合技術とは対照的である。驚くべきことに、これにより、はるかに高いGNP(及びGO)濃度の安定した分散液の形成が可能になる。
【0071】
ステップ(i)で使用される酸化グラフェンナノプレートレットとしては、その形状に大きな制限はない。添加剤自体に関して上で説明した基本設定及び特徴は、言うまでもなく依然として適用される。いくつかの実施形態では、酸化グラフェンをウェットケーキの形態で提供することが実際的である可能性があり、それは、30重量%~60重量%のGO固体含有量を有し得る。しかし、重要な値は、GOを添加する前の形態ではなく、GOの最終濃度を得るために、どのくらいの量のGOを、どのくらいの量の水と混合するかであることが理解されよう。
【0072】
代替形態として、酸化グラフェン前駆体を本発明の方法で使用することができる。適切な前駆体としては、例えば、酸化グラファイト、または剥離によって酸化グラフェンを形成し得る他の材料が挙げられる。発明者らは、このような前駆体は、ステップ(ii)における高せん断混合によって剥離されて、現場で混合中に酸化グラフェンナノプレートレットが効果的に形成され得ると考えている。
【0073】
ステップ(iii)で使用されるグラフェンナノプレートレットとしては、この場合もやはり、その形状に大きな制限はない。添加剤自体に関して上で説明した基本設定及び特徴は、言うまでもなく依然として適用される。いくつかの実施形態では、グラフェンナノプレートレットを粉末の形態で提供することが実際的である可能性がある。
【0074】
また、ステップ(iii)で添加されるグラフェンの量は、添加剤中の所望の最終濃度を提供するように適切に選択され、ステップ(i)で添加される酸化グラフェンの量と合わせて、酸化グラフェンとグラフェンとの所望の濃度比を提供する。
【0075】
代替形態として、グラフェン前駆体を本発明の方法で使用することができる。適切な前駆体としては、例えば、グラファイト、または剥離によってグラフェンを形成し得る他の材料が挙げられる。発明者らは、このような前駆体は、ステップ(ii)における高せん断混合によって剥離されて、現場で混合中にグラフェンナノプレートレットが効果的に形成され得ると考えている。
【0076】
高せん断下で、少なくとも4000rpmで混合すると、安定した分散液が得られることがわかっている。各混合ステップで少なくとも15分間混合を実行すると、そのことが強化される。
【0077】
当然のことながら、より高い混合速度、通常は4000~20000rpmの範囲、例えば5000~8000rpmを使用できることは明らかであろう。
【0078】
高せん断混合は、好ましくは(ステップ(ii)及び(iv)の一方または両方において)、せん断速度が少なくとも1.5×10-1、好ましくは少なくとも2×10-1、例えば少なくとも4×10-1となる条件下で実施することができる。
【0079】
好ましい実施形態では、ステップ(ii)及び(iv)のそれぞれにおける混合時間は、別々に、少なくとも約30分、例えば少なくとも約45分、またはより好ましくは少なくとも約1時間であり得る。好適には、ステップ(ii)及び(iv)のそれぞれにおける混合は、約1時間行われる。
【0080】
グラフェン分散液の使用
ここで説明するグラフェン分散液は、他の様々な組成物及び材料に含めるのに有用であり得る。
【0081】
特定の使用としては、セメント系材料を含む混合物への添加剤としての使用がある。このような混合物は、例えば、コンクリート、モルタル、グラウトなどを形成するためのものであり得る。このような混合物には、一般に、セメント系材料、水、及び少なくとも1種類の骨材(例えば、砂などの細骨材及び/または砂利などの粗骨材)が含まれる。そのような混合物及び成分は、当技術分野において極めてよく知られている。
【0082】
本発明の分散液は、グラフェンを導入し、特定の特性を改善するために、他の様々な混合物に添加することもできる。例えば、コーティング混合物に添加され、繊維強化プラスチックに使用するために樹脂と混合され、あるいはエアロゲルまたは膜の形成に使用されることがある。
【0083】
***
【0084】
前述の記載、または以下の特許請求の範囲、または添付の図面中で開示され、特定の形態で、または開示する機能を実行するための手段、または開示する結果を得るための方法もしくはプロセスと言う観点から表された特徴は、多様な形態で本発明を実現するために、必要に応じて、別々に、またはかかる特徴を任意に組み合わせて利用してもよい。
【0085】
本発明を、上記の例示的な実施形態と併せて説明してきたが、本開示が与えられた場合、多くの均等の修正及び変形が当業者には明らかであろう。したがって、上記の本発明の例示的な実施形態は、例示的であって、限定的ではないと見なされる。記載される実施形態への様々な変更を、本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに行ってもよい。
【0086】
誤解を避けるために、本明細書に提供する理論的な説明は、読者の理解を深めることを目的として提供されている。本発明者らは、これらの理論的説明のいずれにも拘束されることを望むものではない。
【0087】
本明細書で使用される任意のセクションの見出しは構成の目的のみのためであり、記載される対象物の限定として解釈されるべきではない。
【0088】
以下の請求項を含む本明細書を通して、文脈が特別に要求しない限り、「含む(comprise)」及び「包含する(include)」という単語、及び変形(「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」及び「包含すること(including)」等は、明示された整数値もしくはステップ、または整数値もしくはステップの群を包含するが、他の整数値もしくはステップ、または整数値もしくはステップの群を除外しないことを示唆すると理解される。
【0089】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明確にそうでないと示されない限り、複数の指示物を包含することに留意されたい。範囲は、「約」ある特定の値から及び/または「約」別の特定の値までとして、本明細書において表現され得る。かかる範囲が表現されるとき、別の実施形態は、1つの特定の値から及び/または他方の特定の値までを含む。同様に、値が近似として表現される場合に、先行詞「約」の使用によって、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されよう。数値に関連する「約」という用語は、任意であり、例えば、+/-10%を意味する。
【実施例
【0090】
実施例1-分散液
酸化グラファイトは、The 6th Element(https://www.c6th.com/)の製品SE2430W-Nから、固形分含有量が約45%のウェットケーキとして入手した。
【0091】
GNPは、Versarienの製品GNP-HPから調達した。
【0092】
69gの酸化グラファイトウェットケーキをガラスビーカーに入れ、そこに約700mlの水道水を加えた。次に、混合物を、高せん断ミキサー(Silverson社のスクエアホールハイシアースクリーン(商標)付きハイシアーミキサー、5000rpmで)内で約1時間混合した。
【0093】
この混合後、69gのGNP粉末を4回に分けて添加し、添加の合間に約30秒間手動で混合した。
【0094】
全てのGNPを添加した時点で、次に、最終混合物を、高せん断ミキサー(Silverson社のスクエアホールハイシアースクリーン(商標)付きハイシアーミキサー、5000rpmで)内で約1時間混合した。
【0095】
得られた混合物(約1リットル)は、標準条件下で6か月以上安定であることが判明した。
【0096】
実施例2-定性テスト
実施例2a
実施例1で述べた一般的な実験方法に従って、7%総グラフェン濃度(70mg・ml-1)を含み、GO:GNP濃度比が0.25(すなわち、GNP:GOに換算して4:1)である分散液を作製した。
【0097】
得られた分散液の粘度(cP)を、AMETEK Brookfield社のDV2T粘度計、LVモデルを使用して、様々な異なるrpmカウントで測定した。図1に、7日目及び21日目の粘度プロファイルを示すデータを示す。読み取り間の時間が長いにもかかわらず、分散液の粘度プロファイルは大幅に変化せず、分散液の長期安定性を示していることがわかる。粘度は、30rpm、40rpm、50rpm、70rpm、及び90rpmのそれぞれにおいて広範に安定していた(約15%以内)。
【0098】
実施例2b
実施例1で述べた一般的な実験方法に従って、10%総グラフェン濃度(100mg・ml-1)を含み、GO:GNP濃度比が0.25(すなわち、GNP:GOに換算して4:1)である分散液を作製した。
【0099】
得られた分散液の粘度(cP)を、AMETEK Brookfield社のDV2T粘度計、LVモデルを使用して、様々な異なるrpmカウントで測定した。図2に、3日目及び7日目の粘度プロファイルを示すデータを示す。読み取り間の時間が長いにもかかわらず、分散液の粘度プロファイルは大幅に変化せず、分散液の長期安定性を示していることがわかる。粘度は、30rpm、40rpm、50rpm、70rpm、及び110rpmのそれぞれにおいて広範に安定していた(約15%以内)。90rpmでの粘度の比較的大きな変化は異常であると考えられる。
図1
図2
【国際調査報告】