(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241022BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20241022BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20241022BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C21D8/06 B
C21D6/00 101K
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526892
(86)(22)【出願日】2023-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 CN2023097809
(87)【国際公開番号】W WO2023246465
(87)【国際公開日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】202210713457.1
(32)【優先日】2022-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524167072
【氏名又は名称】中国第一重型機械股▲ふん▼公司
【氏名又は名称原語表記】CHINA FIRST HEAVY INDUSTRIES
【住所又は居所原語表記】No. 9, Changqian Road, Ruby Office, Fularji District Qiqihar, Heilongjiang 161042, China
(71)【出願人】
【識別番号】524167083
【氏名又は名称】天津重型装備工程研究有限公司
【氏名又は名称原語表記】TIANJIN HEAVY EQUIPMENT ENGINEERING RESEARCH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 20 Haixing Street Binhai New Area, Tianjin 300457, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】朱 琳
(72)【発明者】
【氏名】霍 潔
(72)【発明者】
【氏名】李 暁
(72)【発明者】
【氏名】陳 楚
(72)【発明者】
【氏名】郭 秀斌
(72)【発明者】
【氏名】伊 鵬躍
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA10
4K032AA12
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA15
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA31
4K032AA33
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA02
4K032CA02
4K032CC04
4K032CF02
4K032CF03
(57)【要約】
本発明は、金属材料の技術分野に属し、630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼及びその製造方法を開示する。当該耐熱鋼は、質量百分率基準で、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.5%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.2~0.5%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.01~0.3%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である。本発明の耐熱鋼は、総合性能が良好である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼であって、
質量百分率基準で、その成分は、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.5%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.2~0.5%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.01~0.3%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である、
630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼。
【請求項2】
質量百分率基準で、その成分は、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.2%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.28~0.45%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.1~0.2%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である、
請求項1に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼。
【請求項3】
前記耐熱鋼の微細構造は、完全な焼戻しマルテンサイト組織と析出相であり、前記析出相は、分散分布したM
23C
6型炭化物、CrTaN相、ラーベス(Laves)相及びナノ分散強化Cu相を含む、
請求項1又は2に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼。
【請求項4】
成分配合における各成分の含有量で原料を秤量し、真空誘導炉の中で製錬し、流し込んでインゴットを得て、かつ、不純物元素の含有量を厳しく制限し、前記成分配合は、質量百分率基準で、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.5%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.2~0.5%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.01~0.3%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である、ステップS1と、
ステップS1で得たインゴットに高温均質化処理を行って、保温し、次に、炉ごとに室温に冷却してブランクを得る、ステップS2と、
ステップS2で得たブランクに対して、丸め工法、据込み工法又は伸ばし工法で鍛造し、鍛造プロセスで温度が仕上打ち温度より低い時に、炉に戻して加熱してから再び鍛造し、鍛造後に室温に炉冷する、ステップS3と、
ステップS3で得た鍛造棒に対して焼きならし及び2回の焼戻し熱処理を行ってクロムタンタル窒化物強化マルテンサイト系耐熱鋼を得て、ここで、1回目の焼戻しの温度は2回目の焼戻しの温度より低い、ステップS4と、を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項5】
前記ステップS2で、前記高温均質化処理の温度は1160~1200℃であり、保温時間は4~8時間である、
請求項4に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項6】
前記ステップS3で、前記鍛造プロセスで荒押し温度は1160~1200℃であり、仕上打ち温度は850~950℃である、
請求項4に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項7】
前記ステップS4は、
焼きならしであって、焼きならし工程は、前記鍛造棒を1050~1150℃に加熱昇温して保温し、次に、室温に空冷することである、ステップS401と、
1回目の焼戻しであって、1回目の焼戻し工程は、前記鍛造棒を600~700℃に加熱昇温して、保温し、次に、室温に空冷する、ステップS402と、
2回目の焼戻しであって、2回目の焼戻し工程は、前記鍛造棒を680~780℃に加熱昇温して、保温し、次に、室温に空冷する、ステップS403と、を含む、
請求項4に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項8】
前記ステップS401で、昇温速度は100℃/時間以下であり、保温時間は1~10時間である、
請求項7に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項9】
前記ステップS402で、保温時間は5~10時間である、
請求項7に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項10】
前記ステップS403で、保温時間は5~10時間である、
請求項7に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、2022年6月22日に中国国家知識産権局に提出された、出願番号が2022107134571で、発明の名称が「630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼及びその製造方法」である中国特許出願の優先権を主張し、その全体の内容が参照により本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、金属材料の技術分野に属し、具体的には、630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、省エネと排出削減の目標を達成するために、火力発電技術は、ハイパーパラメータ化、二段再熱及びクリーン化・高効率に向けて発展しており、先端的な超々臨界圧石炭火力発電技術が充分に用いられている。例えば、火力発電では、亜臨界状態から超々臨界状態に上がると、電力1キロワット時あたり石炭は68g節約され、電力供給のための石炭消費は21%低減することができるため、我が国では毎年2億3200万トンの石炭を節約することができ、これは年間CO25億1000万トンの排出削減となる。しかしながら、現在、ハイパーパラメータ化蒸気タービンの大型鋳鍛造品用のマルテンサイト系耐熱鋼材料が依然として発電所のパラメータ向上を制限する技術的なボトルネックであり、特に、630℃用の蒸気タービンのローター鍛造品としては、現在、国内外で成熟した製品がなく、620℃用の蒸気タービンのローターのほうも多くは輸入されている。
【0004】
したがって、重要なコア技術を突破するために、高性能と高信頼性の耐熱鋼材料及び製品の国産化が急務となり、ユニットパラメータの向上により材料の性能要件も一層高まり、特に、高応力及び高温条件下の強さと靭性及び耐久性要件が一層高まっている。現在、国内外の研究では、主にW、Co、B、N元素を添加することで耐熱鋼の高温耐久性及び耐酸化性を一層向上させる。しかしながら、W、Co、B、Nb、Nなどの元素を調整しても、耐熱鋼の高温耐久性及び耐酸化性を向上させるのに限界があるため、現在、新規な強化方法を開発して耐熱鋼の高温特性及び耐酸化性を一層改善することが急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の分析により、本発明の目的は、高温強度、耐衝撃性、耐永久クリープ歪み性、耐酸化性などの総合性能が良好であり、作動温度が630℃以上の超々臨界蒸気タービンのローターに適する、630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼及びその製造方法を提供することである。
【0006】
本発明では、超臨界条件下における発電所の蒸気タービンユニット用耐熱鋼の材料選択要件に対して、数多くの実験研究を行ったところ、10~12%Cr鋼における窒化物析出相の微細形態学を制限するという観点から、新規なマルテンサイト系耐熱鋼を開発し、タンタル元素を添加することにより、MXの代わりに、高温下で安定的な微細なクロムタンタル窒化物を析出強化相とする。
【0007】
本発明の目的は、主に、下記の技術的解決手段によって実現される。
本発明は、630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼を提供し、質量百分率基準で、その成分は、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.5%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.2~0.5%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.01~0.3%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である。
【0008】
さらに、630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼であって、質量百分率基準で、その成分は、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.2%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.28~0.45%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.1~0.2%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である。
【0009】
さらに、前記耐熱鋼の微細構造は、完全な焼戻しマルテンサイト組織と析出相であり、前記析出相は、分散分布したM23C6型炭化物、CrTaN相、ラーベス(Laves)相及びナノ分散強化Cu相を含む。
【0010】
従来技術と比べると、本発明の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼は、
一方では、少量のV、Nb元素を添加した他に、0.2~0.5%のTa元素も添加しており、適量のTa元素が粗大化しにくいCrTaN相を形成し、これにより、長期の過程では極めて形成しやすい粗大化するCr(V,Nb)N相の形成が避けられ、この相の粗大化は耐久性を低下させてしまい、また、当該鋼を長期に使用する過程では、MXがCr(Nb,V)Nに変態して粗大化することで性能の急激な低下をもたらすことを避ける。
他方では、本発明では、炭素含有量を比較的低いレベルに制限し、比較的低いC含有量で微細に分散したM23C6を形成させることで、分散強化の役割を果たし、所定の量のCu元素を添加して高温フェライトの形成を抑え、また、ナノ銅リッチ相の析出は、V、Nbの欠如を補い、析出強化の役割を果たして、耐熱鋼の耐久限を向上させることができ、適量のB元素を添加し、M23C6のC元素の位置で置換して、M23(C,B)6を形成させ、これにより旧オーステナイト粒界近くのM23C6の粗大化速度を低減させて、クリープ強さを著しく向上させ、適量のW元素を用いて、耐久限を向上させており、少量のNi元素を用いて、比較的高いCo含有量でマトリックスの靭性を向上させる。合理的な元素配合により、高温フェライトの形成を大きく避けることができ、これは実際の生産における鍛造及び熱処理プロセスにより広い温度範囲を提供している。
【0011】
本発明は、また、以下のステップを含む630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法を提供する。
ステップS1であって、成分配合における各成分の含有量で原料を秤量し、真空誘導炉の中で製錬し、流し込んでインゴットを得て、かつ、不純物元素の含有量を厳しく制限し、前記成分配合は、質量百分率基準で、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.5%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.2~0.5%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.01~0.3%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である。
ステップS2であって、ステップS1で得たインゴットに高温均質化処理を行って、保温し、次に、炉ごとに室温に冷却してブランクを得る。
ステップS3であって、ステップS2で得たブランクに対して、丸め工法、据込み工法又は伸ばし工法で鍛造し、鍛造プロセスで温度が仕上打ち温度より低い時に、炉に戻して加熱してから再び鍛造し、鍛造後に室温に炉冷する。
ステップS4であって、ステップS3で得た鍛造棒に対して焼きならし及び2回の焼戻し熱処理を行ってクロムタンタル窒化物強化マルテンサイト系耐熱鋼を得て、ここで、1回目の焼戻しの温度は2回目の焼戻しの温度より低い。
【0012】
さらに、前記ステップS2で、前記高温均質化処理の温度は1160~1200℃であり、保温時間は4~8時間である。
【0013】
さらに、前記ステップS3で、前記鍛造プロセスで荒押し温度は1160~1200℃であり、仕上打ち温度は850~950℃である。
【0014】
さらに、前記ステップS4は、以下のステップを含む。
ステップS401であって、焼きならしであり、焼きならし工程は、前記鍛造棒を1050~1150℃に加熱昇温して保温し、次に、室温に空冷することである。
ステップS402であって、1回目の焼戻しであり、1回目の焼戻し工程は、前記鍛造棒を600~700℃に加熱昇温して、保温し、次に、室温に空冷することである。
ステップS403であって、2回目の焼戻しであり、2回目の焼戻し工程は、前記鍛造棒を680~780℃に加熱昇温して、保温し、次に、室温に空冷することである。
【0015】
さらに、前記ステップS401で、昇温速度は100℃/時間以下であり、保温時間は1~10時間である。
【0016】
さらに、前記ステップS402で、保温時間は5~10時間である。
【0017】
さらに、前記ステップS403で、保温時間は5~10時間である。
【発明の効果】
【0018】
従来技術と比べると、本発明によって提供される630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造プロセスでは、高温均質化処理の時間及び温度、鍛造の温度、焼きならしの温度及び時間、そして2回の焼戻しの温度及び時間などの工程パラメータを正確に制限することによって、得られた微細構造は、完全な焼戻しマルテンサイト組織と析出相であることを保証し、析出相は、微細に分散分布したM23C6型炭化物、CrTaN相、少量の微細なラーベス(Laves)相及びナノ分散強化Cu相を含む。耐熱鋼の優れた室温強度、高温強度及び耐永久クリープ歪み性、耐酸化性が保証され、630℃以上用の超々臨界蒸気タービンのローターに適する。
【0019】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の明細書の記載で述べられ、また、その一部は明細書から明らかになるか、又は本発明の実施で知られる。本発明の目的及び他の利点は、明細書及び図面の記載で特に明記される内容で実現し、取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1に係る耐熱鋼の鋳放し組織である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1に係る耐熱鋼の均質化組織である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1に係る耐熱鋼の焼入れ焼戻し後組織である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施例を具体的に記述し、図面は、本発明を構成する部分であり、かつ、本発明に係る発明の概要と共に本発明の原理の説明に供する。
【0022】
本発明は、630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼を提供し、質量百分率基準で、その成分は、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.5%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.2~0.5%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.01~0.3%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である。
【0023】
一般には、9~12%Cr鋼には、長期に使用した後に、粗大なクロムバナジウム又はクロムニオブ窒化物相、即ち、CrVN及びCrNbNが形成される。従来技術と比べると、本発明によって提供される耐熱鋼は、C含有量が比較的低く、Co含有量が比較的高く、Ta、Cuなど強化元素及びCe+Y希土類元素が添加されている。本発明によって提供される耐熱鋼は、V、Nb元素が添加されず、長期の過程では極めて形成しやすい粗大化するCr(V,Nb)N相の形成を避けることができ、この相の粗大化は耐久性を低下させてしまう。
【0024】
本発明では、0.2~0.5%のTa元素が添加され、適量のTa元素が粗大化しにくいCrTaN相を形成し、長期に使用する過程では、MXがCr(Nb,V)Nに変態して粗大化することで性能の急激な低下をもたらすことを避けることができる。
【0025】
本発明によって提供される耐熱鋼は、比較的低いC含有量で微細に分散したM23C6を形成させることで、分散強化の役割を果たし、0.8~1.5%のCu元素が添加され、Cu元素は、一方ではオーステナイト形成元素として高温フェライトの形成を抑え、他方ではナノ銅リッチ相の析出がV、Nbの欠如を補い、析出強化の役割を果たして、耐熱鋼の耐久限を向上させ、適量のB元素は、M23C6のC元素の位置で置換して、M23(C,B)6を形成させることができ、これにより旧オーステナイト粒界近くのM23C6の粗大化速度を低減させて、クリープ強さを著しく向上させ、適量のW元素を用いて、耐久限を向上させており、少量のNi元素を用いて、比較的高いCo含有量でマトリックスの靭性を向上させる。合理的な元素配合により、高温フェライトの形成を大きく避けることもでき、これは実際の生産における鍛造及び熱処理プロセスにより広い温度範囲を提供している。
【0026】
本発明によって提供される耐熱鋼は、高強度、耐永久クリープ歪み性、耐酸化などの特性を備え、本発明によって製造されるマルテンサイト系耐熱鋼は、室温下の降伏強さが660MPaより大きく、引張強さが850MPaより大きく、伸びが16%以上であり、断面の収縮率が50%以上であり、衝撃エネルギーが20J以上である。630℃下の降伏強さは280MPaより大きく、引張強さが380MPaより大きく、伸びが22%以上であり、断面の収縮率が62%以上であり、650℃、180MPa下のクリープ破壊時間が3500時間より大きく、650℃下の耐酸化による重量増加(400時間)が0.3mg/m2以下である。総合性能は優れる。
【0027】
具体的には、上記の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼で、各成分の役割は次のとおりである。
Cは、重要な沈殿物強化元素であり、M23C6及びMXが分散を強化させ、耐永久クリープ歪み性を向上させる。Cは、強力なオーステナイト安定化元素であり、δフェライトの生成を低減させることができ、焼入れ性及び析出強化を向上させる。炭素含有量が高すぎると、固溶元素(例えば、Cr、W)の過剰な消費につながり、耐粒界腐食性を低下させて、溶接性能を低下させ、かつ、耐永久クリープ歪み性にマイナスの影響を与える。低すぎると強化が不充分になり、強さと硬さを低下させてしまい、したがって、本発明ではCの質量百分率を0.01~0.14%に制限する。
【0028】
Siは、材料のマトリックスの強さ及び耐蒸気腐食性を向上させることに役立つ。Si含有量が上がると、耐酸化性は急激に向上する。Si含有量の向上は高温下のフェライト生成を促進し、高温フェライトの形成温度を下げ、これは鍛造の温度区間にマイナスの影響を与え、また、Si含有量が高すぎると材料の衝撃強さに不利であり、材料の耐久限はSi含有量の増加に伴って低下する。したがって、本発明ではSiの質量百分率を0.05~0.50%に制限する。
【0029】
Mnは、強さを向上させ、熱間加工性を向上させ、また、P、Sなどを安定化する。含有量が0.2%より低い場合は、Mnは明らかな役割を果たすことができない。含有量が1%より高い場合は、組織の中には第二相が出現する可能性があり、材料の衝撃強さに不利である。したがって、本発明ではMnの質量百分率を0.05~0.70%に制限する。
【0030】
Crは、最も重要な耐食と耐酸化元素である。Cr元素自体は、優れる耐クリープ歪み特性を備えており、耐熱鋼の耐蒸気酸化及び耐腐食性能を向上させる主な元素でもあり、かつ、鋼の高温強度を向上させることができる。充分にある場合は、CrはOと反応して合金のマトリックスの表面にCr2O3保護膜を形成させて、O原子及び金属イオンの拡散を防ぐことによって、酸化の進行を遅らせることができる。また、Crは、重要な沈殿物強化元素でもあり、CとM23C6沈殿物を生成して強化することができる。Cr含有量が高すぎる場合は、δフェライトが生成され、高温強度を低下させ、したがって、Cr元素の含有量範囲を9~13%と定める。
【0031】
Wは、典型的な固溶強化元素であり、固溶強化効果はMo元素よりも明らかなであり、M23C6の微細分布を安定化し、その析出強化を促進することができる。W元素の増加は、耐熱鋼の高温強度及びクリープ特性を著しく向上させることができる。W元素が2.0%より低い場合は、温度630℃以上用の耐熱鋼の長時間のクリープ要件を満たすことができず、Wが3.5%を超えると高温下のフェライト生成が起こり、また、W含有量の増加により、耐熱鋼の溶接性能が徐々に低下する。したがって、本発明ではWの質量百分率を2.0~3.5%に制限する。
【0032】
Moに関しては、WとMoの複合添加は材料の靭性と可塑性を改善することができ、熱間加工性は良好であり、衝撃強さは向上する。
【0033】
Coは、オーステナイト安定化元素であり、δフェライトの形成を抑え、材料の高温強度を向上させ、M23C6の粗大化を抑える。本発明ではCoの質量百分率を2.8~5%に制限する。
【0034】
Cuに関しては、Cu元素は、δフェライトの形成を抑えることができる。また、Cuを加えるのは、Wの固溶強化の役割を向上させることに役立ち、W含有マルテンサイト系耐熱鋼の高温クリープ強さを向上させることができる。Cu自体は、ナノCuリッチ粒子として存在することで析出強化の役割を果たすこともできる。含有量が比較的低い場合は、Cuは主に固溶形態で存在し、強化効果が比較的弱いが、Cu含有量が比較的高い場合は、高温下の熱可塑性に大きな影響を与える。したがって、本発明ではCuの質量百分率を0.5~1.5%に制限する。
【0035】
Niは、典型的なオーステナイト形成元素であり、靭性を向上させ、材料のCr当量とバランスをとることができる。本発明ではNiの質量百分率を0.1~0.5%に制限する。
【0036】
Bに関しては、高Crマルテンサイト系耐熱鋼の場合は、B元素はM23C6のC元素の位置で置換して、M23(C,B)6を形成させることができ、M23(C,B)6は時効速度が遅く、耐久性が良好であり、これにより旧オーステナイト粒界近くのM23C6の粗大化速度を低減させて、M23C6の粗大化を抑え、鋼のクリープ強さを向上させる。Bは、粒界を浄化して、炭素ホウ化物M23(C0.85B0.15)6を形成させることができる。B含有量が高すぎると高温下の熱可塑性を低下させ、鍛造割れのリスクが上がる。したがって、本発明ではBの質量百分率を0.01~0.015%に制限する。
【0037】
Nは、V、Nb、Taと微細に分散した第二相粒子を形成して、材料の高温耐久限を著しく向上させることができる。しかしながら、N含有量が高すぎる場合は、B元素と結合して粗大なBN粒子になると、鋼の強さと靭性を大きく弱め、また、粒界強化用のB元素を消費して、鋼の高温耐久限を大きく低下させてしまう。したがって、本発明ではNの質量百分率を0.01~0.08%に制限する。
【0038】
Taは、当該鋼ではCr元素の含有量が12%前後に増加され、600~650℃で長時間時効及び使用する場合は、マトリックス中のCrがMXに凝集してさらにCr(Nb,V)Nを形成させることで、マトリックスのCr元素が消費されて、析出相の粗大化が起こり、Cr(Nb,V)Nの生成を一層促進し、12Crは9Cr鋼よりも粗大なクロムバナジウム又はクロムニオブ窒化物相を形成しやすく、転位のピン止め及びラスにとって不利であるため、鋼の耐久限に影響を与える。適量のTa元素を添加するのは、MXがCr(Nb,V)Nに変態することを抑えて、CrTaNを主とする相を形成させ、当該CrTaN相は、Cr(Nb,V)N相よりも粗大化しにくく、微細に分散した析出相として存在し、析出強化の役割を果たし、これにより、Cr元素の含有量の増加に伴う問題を解決する。Ta含有量が高すぎるとマトリックスの中に完全に固溶しにくくなって、Taリッチ粒子として存在し、製錬の難しさを増す。したがって、本発明ではTaの質量百分率を0.2~0.5%に制限する。
【0039】
Zrは、オーステナイト粒の成長は、Zr含有量の増加に伴って低減する傾向にあり、かつ、介在物のサイズを低減させる。したがって、本発明ではZrの質量百分率を0.1~0.5%に制限する。
【0040】
希土類元素に関しては、Ce+Yは希土類元素であり、少量の添加は、耐熱鋼の高温下の機械的性質及び耐食性を向上させることができる。希土類元素を混合して加えるのは、相乗効果を発揮し、粒界を浄化、強化し、介在物の数及び形態を制限することによって、高温強度及び耐酸化性を向上させることができ、本発明で総合的な希土類添加量は0.01~0.3%である。
【0041】
好ましくは、630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼において、質量百分率基準で、その成分は、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.2%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.28~0.45%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.1~0.2%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である。
【0042】
本発明は、また、以下のステップを含む630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法を提供する。
ステップS1であって、成分配合における各成分の含有量で原料を秤量し、真空誘導炉の中で製錬し、流し込んでインゴットを得て、かつ、不純物元素の含有量を厳しく制限し、前記成分配合は、質量百分率基準で、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.5%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.2~0.5%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.01~0.3%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である。
ステップS2であって、ステップS1で得たインゴットに高温均質化処理を行って、保温し、次に、炉ごとに室温に冷却してブランクを得る。
ステップS3であって、ステップS2で得たブランクに対して、丸め工法、据込み工法又は伸ばし工法で鍛造し、鍛造プロセスで温度が仕上打ち温度より低い時に、炉に戻して加熱してから再び鍛造し、鍛造後に室温に炉冷する。
ステップS4であって、ステップS3で得た鍛造棒に対して焼きならし及び2回の焼戻し熱処理を行ってクロムタンタル窒化物強化マルテンサイト系耐熱鋼を得て、ここで、1回目の焼戻しの温度は2回目の焼戻しの温度より低い。
【0043】
具体的には、上記のステップS2で、高温均質化処理の目的は、インゴット中の高温フェライト、析出相及び合金元素の偏析を解消することである。高温均質化の温度が高すぎると結晶粒が大幅に粗大化しかつ高温フェライトが形成され、低すぎると鋳造組織中のδフェライト、M3B2などの析出相及び元素偏析を効果的に解消することはできない。大量の実験研究から、高温均質化の温度を1160~1200℃に制限する。保温時間は4~8時間に制限され、保温時間が短すぎるとインゴット中の高温フェライト、析出相、元素偏析などを解消するのに不十分であり、時間が長すぎるとオーバーヒート又はオーバーバーニングを引き起こして、結晶粒が粗大化する可能性がある。
【0044】
具体的には、上記のステップS3の鍛造により欠陥を押しつぶし、結晶粒を微細化し、組織を均一化するなどの目的を達成することができ(実施例1に係る耐熱鋼の焼入れ焼戻し後組織は、
図3に示すとおりである)、これにより、耐熱鋼の総合性能を向上させるために良好な基礎を作る。荒押し温度が1200℃より高いと、高温フェライトが形成され、鍛造割れのリスクが上がり、また、荒押し温度が高すぎると結晶粒が大幅に粗大化し、これは後の鍛造プロセスで結晶粒度の制限に難しさを増し、鍛造後に結晶粒が大きすぎる又は混晶が存在する場合は、一方では最終的な機械的性質に影響を与え、他方では探傷にも影響を与える。したがって、本発明では荒押し温度を1160~1200℃に、仕上打ち温度を850~950℃に制限し、本発明で示されている鍛造の温度区間では、当該鋼は良好な可塑性を備えている。従来技術と比べると、本発明で荒押し温度は同種の鋼よりも100℃前後高いため、鍛造の温度区間が大幅に拡大する。
【0045】
具体的には、上記のステップS4は、以下のステップを含む。
ステップS401であって、焼きならしであり、焼きならし工程は、鍛造棒を1050~1150℃に加熱昇温して保温し、次に、室温に空冷することである。
ステップS402であって、1回目の焼戻しであり、1回目の焼戻し工程は、鍛造棒を600~700℃に加熱昇温して、保温し、次に、室温に空冷することである。
ステップS403であって、2回目の焼戻しであり、2回目の焼戻し工程は、鍛造棒を680~780℃に加熱昇温して、保温し、次に、室温に空冷することである。
【0046】
具体的には、上記のS401で、大型鍛造品の熱処理では昇温速度が早すぎると内外の温度差が非常に大きくなり、昇温速度が早すぎると熱割れが起こり得ることを考慮して、大型鍛造品の実際の熱処理のルールに基づいて、室温下で鍛造棒を加熱炉に入れ、昇温速度は100℃/時間以下である。
【0047】
具体的には、上記のS401で、保温時間が長すぎると結晶粒が大幅に粗大化し、短すぎると鍛造品の熱処理は不十分になる。したがって、保温時間を1~10時間に制限する。
【0048】
具体的には、上記のS402で、1回目の焼戻しの役割は、CrTaNの析出を促進して、N元素をCrTaN相に固定することである。650℃前後は、12%Cr鋼中のCrTaNが最も析出しやすい温度区間であるためである。当該温度下で焼戻しすれば、極めて微細に分散したCrTaN相を形成させることができ、当該CrTaN相は他のMX、Cr23C6、ラーベス(Laves)などの析出相よりも成長しにくい。焼戻し温度が高すぎると炭化物が多く析出して、マルテンサイト組織はラス幅が広がり、転位密度が低下することで、強さが大きく低下してしまう。焼戻し温度が低すぎるとCrTaNの析出を促進するのに不十分である。保温時間が長すぎると性能が低下し、短すぎると熱処理及び元素の拡散には不十分である。したがって、焼戻し温度を600~700℃に、保温時間を5~10時間に制限する。
【0049】
具体的には、上記のS403で、2回目の焼戻しの役割は、完全な焼戻しマルテンサイト組織を形成させて、良好な総合性能を得ることである。焼戻し温度が高すぎると、強さは不十分であり、焼戻し温度が低すぎると、衝撃強さは非常に低下してしまい、保温時間が長すぎると、析出相のサイズは大きくなり、強さと衝撃値はいずれも性能要件を満たすことができず、保温時間が短すぎると、鍛造品の熱処理及び焼戻しマルテンサイトの形成には不十分である。したがって、焼戻し温度を680~780℃に、保温時間を5~10時間に制限する。
【0050】
なお、上記の焼きならし温度は、M23C6、M3B2、ラーベス(Laves)などの析出相を完全に解消して、合金元素をマトリックスに完全に固溶させることができ、かつ、結晶粒度がグレード2以内に制限されており、また、δフェライトは形成されない。1回目の低温焼戻しは、CrTaNの析出を促進して、N元素をCrTaN相に固定することができ、2回目の高温焼戻しは、新たに変態したマルテンサイトの焼戻しにより、最終的に組織は全て均一な焼戻しマルテンサイト+析出相であることを保証し、焼戻しマルテンサイトと析出相の割合は、それぞれ、98%、2%であり、析出相は、微細に分散してラス境界及び粒界に分布して、良好な強化の役割を果たす。
【0051】
上記の熱処理を経た耐熱鋼の組織は、完全な焼戻しマルテンサイト組織+析出相であり、析出相は、主に、微細に分散分布したM23C6、CrTaN、少量の微細なラーベス(Laves)相及びナノ分散強化Cu相である。
【0052】
なお、上記の熱処理を経た耐熱鋼は、室温下の降伏強さが660MPaより大きく、引張強さが850MPaより大きく、伸びが16%以上であり、断面の収縮率が50%以上であり、衝撃エネルギーが20J以上である。630℃下の降伏強さは280MPaより大きく、引張強さが380MPaより大きく、伸びが22%以上であり、断面の収縮率が62%以上であり、650℃、180MPa下のクリープ破壊時間が3500時間より大きく、650℃下の耐酸化による重量増加(400時間)が0.3mg/m2以下である。性能は優れる。
【0053】
以下、特定の実施例及び比較例で本発明に係る鋼の成分及び工程パラメータの正確な制限の利点を示す。
【0054】
(実施例1)
本実施例は、630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼及びその製造方法を提供する。
【0055】
本実施例の化学組成は、重量百分含有量基準で、C 0.05%、Si 0.30%、Mn 0.50%、Cr 12.0%、W 3.0%、Mo 0.2%、Nb 0.05、V 0.2%、Co 4.5%、Ni 0.2%、Cu 1.0%、B 0.01%、N 0.045%、Ta 0.32%、Zr 0.3%、Ce+Y 0.15%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である。
【0056】
耐熱鋼の製造方法は、以下を含む。
ステップS1であって、合金の成分比率で、真空誘導炉の中で製錬し、流し込んでインゴットを得て、不純物元素の含有量を厳しく制限する。
ステップS2であって、ステップS1で得たインゴットに高温均質化処理を行い、次に、炉ごとに室温に冷却してブランクを得て、ここで、高温均質化の温度は1180℃であり、保温時間は5時間である。
ステップS3であって、ステップS2で得たブランクに対して、丸め工法、据込み工法又は伸ばし工法で鍛造し、荒押し温度は1180℃であり、仕上打ち温度は950℃であり、鍛造プロセスで仕上打ち温度より低いと炉に戻して加熱してから再び鍛造する必要がある。
ステップS4であって、ステップS3で得た鍛造棒に対して焼きならし及び2回の焼戻し熱処理を行ってクロムタンタル窒化物強化マルテンサイト系耐熱鋼を得て、ここで、焼きならし温度は1100℃であり、保温時間は5時間であり、1回目の焼戻しの温度は650℃であり、1回目の焼戻しの保温時間は6時間であり、2回目の焼戻しの温度は740℃であり、2回目の焼戻しの保温時間は6時間である。
【0057】
実施例1~4及び比較例1、2に係る鋼の化学組成を表1に示しており、実施例2~4の工程ステップは実施例1と同じであり、具体的な工程パラメータを表2に示しており、実施例1~4及び比較例1、2の性能を表3及び表4に、実施例1~4及び比較例1、2の金属組織を表5に示している。
【0058】
比較例1は、その化学組成にCu、Ta、Zr又は希土類元素が添加されず、比較例2は、その化学組成にTa元素が添加され、具体的な化学組成は、表1に示すとおりである。比較例1、2の工程ステップは実施例1と同じであり、具体的な工程パラメータを表2に示しており、実施例1~4とのその各性能指標の比較は、表3に示すとおりである。表3から分かるように、比較例と比べて、実施例は各性能がより優れている。
【0059】
上述したのが本発明の特定の好ましい実施形態に過ぎず、本発明の保護範囲はこれに限定されず、本発明に開示されている技術範囲において、当業者が想到しやすい変化又は置換は、本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼であって、
質量百分率基準で、その成分は、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.5%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.2~0.5%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.01~0.3%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である、
630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼。
【請求項2】
質量百分率基準で、その成分は、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.2%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.28~0.45%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.1~0.2%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である、
請求項1に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼。
【請求項3】
前記耐熱鋼の微細構造は、完全な焼戻しマルテンサイト組織と析出相であり、前記析出相は、分散分布したM
23C
6型炭化物、CrTaN相、ラーベス(Laves)相及びナノ分散強化Cu相を含む、
請求項1又は2に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼。
【請求項4】
成分配合における各成分の含有量で原料を秤量し、真空誘導炉の中で製錬し、流し込んでインゴットを得て、かつ、不純物元素の含有量を厳しく制限し、前記成分配合は、質量百分率基準で、C 0.01~0.14%、Si 0.05~0.50%、Mn 0.05~0.70%、Cr 8.5~13%、W 2.0~3.5%、Mo 0.1~0.7%、Nb 0.03~0.07%、V 0.1~0.3%、Co 2.8~5%、Cu 0.8~1.5%、Ni 0.1~0.5%、B 0.01~0.015%、N 0.01~0.08%、Ta 0.2~0.5%、Zr 0.1~0.5%、Ce+Y 0.01~0.3%を含み、残りの成分は、Fe及び不可避不純物である、ステップS1と、
ステップS1で得たインゴットに高温均質化処理を行って、保温し、次に、炉ごとに室温に冷却してブランクを得る、ステップS2と、
ステップS2で得たブランクに対して、丸め工法、据込み工法又は伸ばし工法で鍛造し、鍛造プロセスで温度が仕上打ち温度より低い時に、炉に戻して加熱してから再び鍛造し、鍛造後に室温に炉冷する、ステップS3と、
ステップS3で得た鍛造棒に対して焼きならし及び2回の焼戻し熱処理を行ってクロムタンタル窒化物強化マルテンサイト系耐熱鋼を得て、ここで、1回目の焼戻しの温度は2回目の焼戻しの温度より低い、ステップS4と、を含む、
請求項1
又は2に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項5】
前記ステップS2で、前記高温均質化処理の温度は1160~1200℃であり、保温時間は4~8時間である、
請求項4に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項6】
前記ステップS3で、前記鍛造プロセスで荒押し温度は1160~1200℃であり、仕上打ち温度は850~950℃である、
請求項4に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項7】
前記ステップS4は、
焼きならしであって、焼きならし工程は、前記鍛造棒を1050~1150℃に加熱昇温して保温し、次に、室温に空冷することである、ステップS401と、
1回目の焼戻しであって、1回目の焼戻し工程は、前記鍛造棒を600~700℃に加熱昇温して、保温し、次に、室温に空冷する、ステップS402と、
2回目の焼戻しであって、2回目の焼戻し工程は、前記鍛造棒を680~780℃に加熱昇温して、保温し、次に、室温に空冷する、ステップS403と、を含む、
請求項4に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項8】
前記ステップS401で、昇温速度は100℃/時間以下であり、保温時間は1~10時間である、
請求項7に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項9】
前記ステップS402で、保温時間は5~10時間である、
請求項7に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【請求項10】
前記ステップS403で、保温時間は5~10時間である、
請求項7に記載の630℃以上用のマルテンサイト系耐熱鋼の製造方法。
【国際調査報告】