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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】CRISPRロードブロックの調節
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20241022BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241022BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529364
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 US2022080085
(87)【国際公開番号】W WO2023092039
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】63/280,448
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】510243539
【氏名又は名称】コーネル ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ミッシェル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ホール,ポーター エム.
(57)【要約】
CRISPR Casタンパク質と共に使用するための改変ガイドRNA(gRNA)が提供される。前記改変ガイドRNAは、その5'末端又は3'末端に、DNA中のスペーサー配列に標的化されるセグメントを有する逆方向リピート配列を含む少なくとも5個のヌクレオチドを含む。前記逆方向リピート配列は、DNA及びCasタンパク質が存在する場合に、前記スペーサー配列に及び前記スペーサー配列を含むDNAの相補鎖に同時にハイブリダイズできるように構成される。前記改変gRNAは、Casタンパク質とDNAとの相互作用に影響を与える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CRISPR Casタンパク質と共に使用するための改変されたガイドRNAであって、該改変ガイドRNAは、その5'末端または3'末端に、DNA中のスペーサー配列に標的化されるセグメントを有する逆方向リピート配列を含む少なくとも5個のヌクレオチドを含み、該逆方向リピート配列は、DNAおよびCasタンパク質の存在下で、前記スペーサー配列に及び前記スペーサー配列を含むDNAの相補鎖に同時にハイブリダイズできるように構成されている、改変ガイドRNA。
【請求項2】
前記逆方向リピートが、5、6又は7個のヌクレオチドを含む、請求項1に記載の改変ガイドRNA。
【請求項3】
前記CRISPR Casタンパク質が、Cas9タンパク質又はdCas9タンパク質を含む、請求項1に記載の改変ガイドRNA。
【請求項4】
前記少なくとも5個のヌクレオチドが、改変ガイドRNAの5'末端にある、請求項1に記載の改変ガイドRNA。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のCRISPR Casタンパク質と改変ガイドRNAとを含むリボ核タンパク質。
【請求項6】
改変ガイドRNAであって、DNA中のスペーサー配列に標的化されるセグメントを有する逆方向リピート配列を含む少なくとも5個のヌクレオチドをその5'末端又は3'末端に含み、ここで、前記逆方向リピート配列は、前記スペーサー配列に及び前記スペーサー配列を含むDNAの相補鎖に同時にハイブリダイズできるように構成されている、改変ガイドRNAと、
前記ガイドRNAとともに機能するCRISPR Casタンパク質とを、
前記ガイドRNA、前記DNA及び前記Casタンパク質を含む複合体が細胞内で形成されるように、細胞内に導入することを含む方法。
【請求項7】
前記逆方向リピートが、5、6又は7個のヌクレオチドを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記複合体が、前記Casタンパク質と、同じスペーサーを標的とする未改変ガイドRNAとを含む複合体に対する期間よりも長い期間、前記DNAと会合している、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記DNAが、前記スペーサー配列の5'末端にあるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記CRISPR Casタンパク質が、Cas9タンパク質又はdCas9タンパク質を含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ガイドRNA及び前記CRISPR Casタンパク質が、リボ核タンパク質複合体として細胞に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が真核細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記Casタンパク質が核局在化シグナルを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガイドRNAをコードする発現ベクター。
【請求項15】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガイドRNAに対応するcDNA。
【請求項16】
二本鎖DNA分子と、
改変ガイドRNAであって、その5'末端又は3'末端に、前記二本鎖DNA分子のスペーサー配列に標的化されるセグメントを有する逆方向リピート配列を含む少なくとも5個のヌクレオチドを含み、ここで、前記逆方向リピート配列は、前記スペーサー配列に及び前記二本鎖DNAの相補鎖に同時にハイブリダイズする、改変ガイドRNAと、
前記改変ガイドRNAとともに機能するCRISPR Casタンパク質とを
含む複合体。
【請求項17】
前記CRISPR Casタンパク質が、Cas9タンパク質又はdCas9タンパク質である、請求項16に記載の二本鎖DNA分子。
【請求項18】
前記ガイドRNAの5'末端のセグメントが、5、6又は7個のヌクレオチドを含む、請求項16又は請求項17に記載の二本鎖DNA分子。
【請求項19】
前記複合体が細胞内に存在する、請求項18に記載の二本鎖DNA複合体。
【請求項20】
前記細胞が、真核細胞を含む、請求項19に記載の二本鎖DNA複合体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年11月17日に出願された米国仮特許出願第63/280,448号の優先権を主張するものであり、その開示全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[連邦政府後援の研究開発に関する声明]
本発明は、米国国立衛生研究所から授与された認可番号R01GM136894及び全米科学財団から授与された認可番号T32GM008267による政府支援を受けて行われた。政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
[配列表]
本出願は、.xml形式で提出された配列表を含み、参照によりその全体が本出願に組み込まれる。当該.xmlファイルの名称は「018617_01388_ST26」であり、2022年11月17日に作成され、サイズは7,089バイトである。
【技術分野】
【0004】
本開示は、一般的にCasヌクレアーゼの機能に関し、より具体的には、CasヌクレアーゼによるDNA結合に影響を及ぼすガイドRNAに関する。
【背景技術】
【0005】
CRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼの利用は、DNA配列を正確に標的化し、その部位で切断する能力を提供し、原核生物系と真核生物系の両方における遺伝子編集、標的化、診断技術の大きな進歩を可能にする1-4。これを達成するために、Casタンパク質は、標的DNA配列に相補的なスペーサー領域を含むガイドRNA(gRNA)と複合体を形成する。CRISPRの有用性の一面は、標的DNA配列に対するgRNAの特異的かつ強固な結合によって決まるCas酵素の結合安定性に依存している。これは、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の認識と、gRNAのスペーサー領域と標的DNAとのハイブリダイゼーション(gRNA/DNAのハイブリッド(Rループ)を形成する)によって起こる1,5
【0006】
生体内では、DNAに結合したCasは、DNAから自然に解離するだけでなく、他の宿主のプロセスを実行するモータータンパク質によっても除去される。しかし、モータータンパク質によるCas除去を支配するメカニズムはよくわかっていない。興味深いことに、エンドヌクレアーゼ欠損Cas(dCas)を用いて転写をブロックするCRISPR干渉(CRISPRi)において、dCas除去の有効性は転写に対する結合したdCasの配向に依存する。転写の伸長は、結合したdCasのPAM-遠位側からはむしろ許容されるが、PAM-近位側からは主に阻害される6-8。不思議なことに、結合したdCasは複製に対する極性バリアにはならず9,10、このことは、極性が、モータータンパク質がどのようにdCasバリアを克服するかというダイナミクスによって決まることを示している。従って、Casタンパク質がどのようにDNAと相互作用し、Casタンパク質のDNA結合に影響を与えるかを解明し、CRISPRの文脈においてDNAへのCasタンパク質の結合に影響を与える組成物及び方法を提供することについて、現在も満たされていないニーズがある。本開示は、このニーズに関する。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、CRISPR Casタンパク質と共に使用するための改変ガイドRNA(gRNA)を提供する。改変されたガイドRNAは、その5’又は3’末端に、DNA中のスペーサー配列を標的とするセグメントを有する逆方向リピート配列を含む少なくとも5個のヌクレオチドを含む。逆方向リピート配列(逆方向反復配列)は、DNA及びCasタンパク質の存在下で、スペーサー配列に及びスペーサー配列を含むDNAの相補鎖に同時にハイブリダイズできるように構成される。特定の実施形態において、逆方向リピートは、5、6、又は7個のヌクレオチドを含む。非限定的な例では、CRISPR Casタンパク質は、ヌクレアーゼ不活性型タンパク質(nuclease dead protein)を含む。本開示はまた、改変gRNAをコードする発現ベクターを提供し、これは、1つ又は複数のCasタンパク質をコードし得る。本開示はまた、CRISPR Casタンパク質と、本明細書に記載の改変ガイドRNAとを含むリボ核タンパク質も提供する。
【0008】
複数の実施形態において、本開示は、改変ガイドRNA、DNA及びCasタンパク質を含む複合体が細胞内で形成されるように、本明細書に記載の改変ガイドRNA及びCasタンパク質を細胞に導入することを含む方法を提供する。この複合体では、逆方向リピート配列がスペーサー配列に及び二本鎖DNAの相補鎖に同時にハイブリダイズし、Casタンパク質と会合する。
【0009】
前述の実施形態を提供するために、本開示は、DNAに結合したdCas複合体の構造的特徴をマッピングするために使用される単一分子アッセイと、伸長RNAポリメラーゼ(RNAP)が結合したdCasとどのように相互作用するかの解析について記述する。この説明は、二本鎖DNAトランスロカーゼである他のモータータンパク質にも拡張可能である。この分析を通じて、本開示は、CRISPR干渉(CRISPRi)極性及びdCas除去のメカニズムの説明を提供し、結合CasのRループ安定性の影響を実証する。このメカニズムの理解は、dCasを調節するための組成物及び方法を支持し、DNAと相互作用する他のCasタンパク質の機能調節に適用可能である。複数の実施形態において、本開示は、改変gRNAを使用することによってdCasのRループ安定性を調節することが、モータータンパク質によるDNAからの除去に対するCasタンパク質抵抗性を改善し得ることを実証する。このように、本明細書に記載された改変gRNAの使用は、Casタンパク質が改変gRNA及びDNAを含む複合体中に存在する場合、Casタンパク質機能の調節を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1]DNAアンジッピングマッパー(unzipping mapper)を用いたdCasとDNAの相互作用の高分解能マップ
パネルa:DNAアンジッピングマッパーの構成。アンジッピング・テンプレートは、一端がサンプルチャンバーのカバースリップ表面に、もう一端が光学トラップに保持されたポリスチレンビーズに繋がれている。光学トラップを用いて、前記表面に対してビーズを相対的に移動させ、DNAを徐々に解きながら(二本鎖DNAを一本鎖に引き剥がしながら)、アンジッピングフォーク(分岐点)が結合タンパク質(これはアンジッピングに抵抗し、明確な力の上昇につながる)に到達するまで解き続ける。力の上昇位置はタンパク質の位置をマッピングするのに使われる。
パネルb:結合したdCas9(上)、結合したdCas12a(中)、停止した転写伸長複合体(TEC:transcription elongation complex)(下)について、代表的なアンジッピングトレース(赤)を、ネイキッドDNAのトレース(黒)とともに示す。各タンパク質について、DNAを結合タンパク質に対してどちらかの方向(黒矢印)からアンジップした。結合dCas12aタンパク質がPAM遠位側からアンジップされたとき、2つのコンフォーメーションが検出された(薄青と赤で示される)。二本の破線は、dCas9又はdCas12aの予想されるgRNA/DNAハイブリッド位置と、TECの予想されるRNA/DNAハイブリッドを挟む。赤い矢印は、アンジッピング力がネイキッドDNAのベースラインを下回った位置を示している。
パネルc:PAM遠位側からの転写リードスルーの仮説メカニズム。結合dCas9とdCas12a複合体では、gRNAがそれぞれTEC鋳型(テンプレート)鎖と非-鋳型鎖にハイブリダイズすることに注意。
【0011】
図2]結合dCas複合体の転写リードスルー(transcription read-through)の定量アッセイ
パネルa:所定のサンプルチャンバーに対する単一分子転写アッセイのフローチャート。いくつかのDNAテザー(tether)が、NTP添加前に結合タンパク質の位置をアッセイするためのコントロールとして使用された。他のテザーは、NTP追跡時間(チェイスタイム:Δt=135S)後に結合タンパク質の位置をアッセイするために使用された。DNAは常にRNAPの移動と同じ方向にアンジップされた。
パネルb:PAM遠位側から結合dCas9に遭遇したRNAPの代表的なトレース。RNAPと結合dCas9とが予想される位置で検出されたコントロールトレースの例を示す。NTP添加後、RNAPがdCas9と衝突して、dCas9をリードスルーしているトレースの例を示す。ネイキッドDNAのトレースは黒で示されている。
パネルc:PAM遠位側又はPAM近位側のどちらかから結合dCasに遭遇したRNAPの転写リードスルー効率。dCas9(上)とdCas12a(下)の両方の結果を示す。各サンプルチャンバーについて、コントロールトレースと非コントロールトレースの両方をとり、そのチャンバーのリードスルー効率を求めた。各タイプの実験は、生物学的に独立したN個のサンプルチャンバーを用いて繰り返した:dCas9 PAM-遠位、N=6(-GreB)及びN=6(+GreB);dCas9 PAM-近位、N=5(-GreB)及びN=5(+GreB);dCas12a PAM-遠位、N=5(-GreB)及びN=5(+GreB);dCas12a PAM-近位、N=6(-GreB)及びN=5(+GreB)。各サンプルチャンバーについてリードスルー値を計算し(黒点)、これらの繰り返しの平均値とSEMも示した。
【0012】
図3]結合dCas複合体をムーブスルーするMfd
パネルa:単一分子Mfdトランスロケーションアッセイのフローチャート。いくつかのDNAテザーが、ATP添加前に結合タンパク質の位置をアッセイするためのコントロールとして使用された。他のテザーは、ATP追跡時間Δt=8分後に結合タンパク質の位置をアッセイするために使用された。ATP追跡の間、MfdはDNAに沿って移動することができ、おそらくまだ非-転写RNAPと相互作用していた。DNAは常にMfdの移動と同じ方向にアンジップされた。
パネルb:PAM遠位側からdCas9に接近した際に、MfdがdCas9と衝突し、dCas9を通過して移動する際の代表的なトレース。ネイキッドDNAのトレースは黒で示されている。
パネルc:MfdがPAM遠位側又はPAM近位側のどちらかから結合dCasに遭遇した場合のMfdの移動(move-through)効率である。dCas9(上)とdCas12a(下)の両方の結果を示す。各サンプルチャンバーについて、コントロールトレースと非コントロールトレースの両方を取り、そのチャンバーの移動効率を求めた。各タイプの実験は、生物学的に独立したN=6個のサンプルチャンバーを用いて繰り返した。移動値は各サンプルチャンバー(黒点)について計算され、これらの繰り返しの平均値とSEMも示されている。
【0013】
図4]gRNAの改変による、結合dCas複合体の転写リードスルーの調節
パネルa:4種類の改変(修飾)gRNAを示す模式図。
パネルb:7-nt逆方向リピート(IR:inverted repeat)を持つ改変gRNAを含む結合dCas9と、非改変gRNAを含む結合dCas9との間のフォースシグネチャー(force signature)の違いを強調する代表的なアンジッピング・マッパートレース。縦の破線はgRNA/DNAハイブリッドの位置を挟んでいる。ネイキッドDNAのトレースは黒で示されている。x軸の矢印は、未改変gRNAを用いたトレースにおいて、ネイキッドDNAのベースラインよりもアンジッピング力が低下した位置を示している。
パネルc:PAM遠位側又はPAM近位側から結合dCasに遭遇したRNAPの転写リードスルー効率。DNAは常にRNAPの移動と同じ方向にアンジップされた。各サンプルチャンバーについて、コントロールトレースと非コントロールトレースの両方をとり、そのチャンバーのリードスルー効率を求めた。生物学的に独立したN個のサンプルチャンバーを用いて、各タイプの実験を繰り返した:dCas9 PAM-遠位、N=6(3-ntミスマッチ)、N=6(未改変)、N=5(5-nt IR)、N=8(6-nt IR)、N=8(7-nt IR);dCas9 PAM-遠位、N=5(3-ntミスマッチ)、N=5(未改変)、N=5(5-nt IR)、N=6(6-nt IR)、N=5(7-nt IR)。リードスルー値は各サンプルチャンバーについて計算し(黒点)、これらの繰り返しの平均値とSEMも示されている。
【0014】
図5]dCasの除去は、dCas RループへのRNAP侵入によって媒介される。
パネルa:dCas9除去を伴わないPAM近位側からのRNAPとdCas9の衝突。
(上) アンジッピングトレースの例。
(下) RNAPとdCas9のフォースピーク(force peak)位置。破線は、RNAPがdCas9と接触したときに予想されるRNAPのフォースピーク位置を示す(図7、パネルa)。各ボックスプロットは、N個の生物学的に独立したトレースのフォースピーク位置の25th-75thパーセンタイルを表し、エラーバーはSDを示す:N=88(3-ntミスマッチ)、N=114(未改変)、N=103(5-nt IR)、N=108(6-nt IR)、N=103(7-nt IR)。
パネルb:dCas9の除去を伴わないPAM遠位側からのRNAPとdCas9の衝突。
(上) 失速したRNAPとdCas9のフォースピークを示すアンジッピングトレースの例。
(下) dCas9との衝突後のRNAPのフォースピーク位置。各ボックスは、フォースピーク位置分布の25th-75thパーセンタイルを示し、エラーバーはSDを示す:N=14(3-ntミスマッチ)、N=77(未改変)、N=83(5-nt IR)、N=157(6-nt IR)、N=163(7-nt IR)。
パネルc:dCas9の除去を伴う、PAM遠位側からのRNAPとdCas9の衝突。
(上) dCas9のフォースピークがなく、失速したRNAPのフォースピークを示すアンジッピングトレースの例。
(下) RNAPとdCas9のフォースピークの位置。各ボックスは、フォースピーク位置分布の25th-75thパーセンタイルを示し、エラーバーはSDを示す:N=23(3-ntミスマッチ)、N=22(未改変)、N=12(5-nt IR)、N=15(6-nt IR)、N=12(7-nt IR)。
パネルd:異なるgRNA改変によるdCas9の除去効率。除去効率のうち、転写リードスルーにより除去されたトレースのパーセント(グレー、図4パネルcより)と、除去はされたがリードスルーはなかったトレースのパーセント(赤)が積み重ねられている。各サンプルチャンバーについてdCas除去パーセント値を計算し(黒点)、これらの繰り返しの平均値とSEMも示される。図4のパネルcと同じデータがこの解析に使用されたため、サンプルの統計量は図4のパネルcと同じである。
【0015】
図6]転写に対するCRISPRロードブロック(roadblock)極性のメカニズム
RNAPがPAM遠位側から結合dCasに遭遇すると、RNAPは結合dCasのDNAバブルを再ジップ(rezip)し、Rループの破壊とDNAバブルの崩壊を引き起こす可能性がある。その後のdCasの除去により、転写のリードスルーが可能になる。対照的に、RNAPがPAM近位側から結合dCasに遭遇すると、結合dCasのDNAバブルはRNAPに直接アクセスできないため、dCasは転写の強力な障壁となる。このメカニズムはdCas9の模式図を使って説明されているが、同じメカニズムはdCas12aにも当てはまる。
【0016】
図7]PAM近位側から結合dCasタンパク質に遭遇するRNAP
パネルa:TECとdCasの構造的特徴。示されている数字は、dCas918,21,23,64、dCas12a57,65、およびTEC29,55,66の公表されている構造データに基づく我々の最良の推定値である。
パネルb:dCas9又はdCas12aのPAM近位領域に接近するRNAPの模式図。
パネルc:unzipping staller法26を用いて得られた、活発に伸長するRNAPの失速力の分布を、図1のdCasタンパク質のPAM近位アンジッピング(unzipping mapper法を用いた)からの破壊力のピークと比較した。結合dCasをPAM-近位dCas側から破壊するのに必要な力は、RNAPが失速前に分岐点(fork)に対して働かせることができる力を大きく超えている。このことは、PAM近位側からのdCasのバリアは、RNAPでは越えられないことを示唆している。
【0017】
図8]転写とdCas結合の対照実験
パネルa:RNAPの速度と処理能力を決定するための対照実験の単一分子アッセイのフローチャート。
パネルb:追跡時間の関数としてのRNAPの平均移動距離。各時点で生物学的に独立したN個のトレースを解析に用いた:N=42(65秒)、N=44(90秒)、N=65(110秒)、N=18(120秒)。エラーバーはSEMである。灰色の破線は線形フィット、RNAP速度について、15.4±0.6 bp/sの勾配が得られた。
パネルc:鋳型上に残存するRNAPの割合を初期占有率で正規化したもの。各時点で生物学的に独立したN個のトレースを解析に用いた:N=58(65秒)、N=65(90秒)、N=104(110秒)、N=34(120秒)。エラーバーはSEMである。平均96%の占有率(灰色の破線)は、転写再開前の追跡時に約4%のRNAPが解離した可能性が高いことを示しているが、残りの集団はRNAPがテンプレートを移動しても結合したままであった。
パネルd:転写コンディション導入後も結合したままのdCasの割合を測定する対照実験の単一分子アッセイのフローチャート。
パネルe:クエンチ後も結合したままのdCasの%。各サンプルチャンバーについて、コントロールトレースと非コントロールトレースの両方を取り、そのチャンバーのdCas残存率を求めた。
各タイプの実験は、生物学的に独立したN個のサンプルチャンバーを用いて繰り返した:Cas9、N=4(3-ntミスマッチ)、N=4(未改変)、N=3(5-nt IR)、N=3(6-nt IR)、N=3(7-nt IR);dCas12a、N=4(未改変)。dCas残存率の値は、各サンプルチャンバーごとに計算し(黒点)、これらの繰り返しの平均値とSEMも示した。
【0018】
図9図2に示したデータについて、結合dCasタンパク質と衝突したときのRNAPの位置
図2の各条件におけるdCas9(パネルa)又はdCas12a(パネルb)のNTP添加後のRNAPのフォースピーク位置の分布。RNAPの位置は、PAM-遠位(上)又はPAM-近位(下)にて結合dCas複合体を用いた転写アッセイのクエンチ後に決定した。各dCasの配向を、追跡中にGreBが存在する場合と存在しない場合のいずれかでアッセイした。A20とPAM部位の予想される位置を破線で示す。RNAPのフォースピーク位置は、生物学的に独立したN個のトレースについてプールした:dCas9 PAM-遠位、N=217(-GreB)及びN=184(+GreB);dCas9 PAM-近位、N=174(-GreB)及びN=190(+GreB);dCas12a PAM-遠位、N=160(-GreB)及びN=177(+GreB);dCas12a PAM-近位、N=214(-GreB)及びN=192(+GreB)。
【0019】
図10]PAM近位側からdCas9に遭遇する、及び両側からdCas12aに遭遇する転写の代表的なトレース。
パネルa:転写リードスルーアッセイのフローチャート。
パネルb:PAM近位側から結合dCas9に遭遇するRNAPの代表的なトレース。RNAPと結合dCas9が予想される位置で検出されたコントロールトレースの例を示す。NTP添加後、dCas9に遭遇する前のRNAP(上)のトレースとdCas9に衝突するRNAP(下)のトレースの例を示す。
パネルc:PAM-遠位配向におけるdCas12aを用いた転写アッセイの代表的なトレース。RNAPと結合dCas12aが予想される位置で検出されたコントロールトレースの例を示す。NTP添加後、dCas12aに遭遇する前のRNAP(上)、dCas12aと衝突するRNAP(中)、及びdCas12aをリードスルーするRNAP(下)のトレースの例を示す。
【0020】
図11]転写アッセイにおけるトレース分類
追跡前(左)と追跡後(右)のサンプルチャンバーで観察された状態を模式図で表す。矢印は初期状態と最終状態の間の可能性のある遷移を示す。この図は、方法に記載されているように、初期状態と最終状態の間の遷移の異なる経路を表す方程式に情報を与え、リードスルーとdCas除去の関連パラメータを解くために使用される。
【0021】
図12]バルク転写によるdCas9とdCas12aのリードスルー極性
プロモーターに対してPAM-遠位配向又はPAM-近位配向のいずれかにおいて、結合dCas9(パネルa)又はdCas12a(パネルb)タンパク質を用いたバルク転写ランオフ(run-off)アッセイの結果を示す。1μMのGreBの存在下又は非存在下で1mMのNTPを用いて135秒間転写を行った後、ホルムアミドとEDTAでクエンチして反応を停止させた。転写物は、6%変性PAGEゲルによってアッセイした(方法)。PAM-遠位配向衝突における+1からPAM配列までの距離は、dCas9とdCas12aの両方で349bpであり、一方、PAM-近位衝突におけるこの距離は、dCas9では332bp、dCas12aでは333bpであった。A20、dCas衝突、ランオフ産物の位置を矢印で示す。これらのゲルからの転写リードスルーは、PAM-遠位dCas9衝突ではGreBなしで~35%、GreBありで~77%、PAM-近位dCas9衝突ではGreBなしで~6%、GreBありで~6%、PAM-遠位dCas12a衝突ではGreBなしで~31%、GreBありで~54%、PAM-遠位dCas12a衝突ではGreBなしで~9%、GreBありで~8%であった。各dCas複合体について追加の転写ゲルアッセイを行ったが、それらのゲルでもここに示したのと同様の結果が得られた。
【0022】
図13]Mfdの速度と処理能力
パネルa:Mfdのみの対照実験のフローチャート。図2~5と同様に、TECを20で停止したサンプルチャンバーが形成され、dCasはDNAに結合していない。図3とは対照的に、Mfdの移動を「リアルタイム」で評価するために、Mfdのトランスロケーションの間にテザーをアンジップした。
パネルb:時間に対するMfdの移動(トランスロケーション)。各時点で生物学的に独立したN個のトレースを解析に用いた:N=2(0秒)、N=10(90秒)、N=21(180秒)、N=25(270秒)、N=11(360秒)、N=6(450秒)。エラーバーは縦軸はSEM、横軸はSDである。黒の破線は線形フィットで、速度は2.2±0.35 bp/sであった。
パネルc:時間に対する結合したままのMfd率。各データポイントは、最初にMfdを含むテザーの割合に対して正規化されている。各時点で生物学的に独立したN個のトレースを解析に用いた:N=5(72秒)、N=25(137秒)、N=30(225秒)、N=31(310秒)、N=31(398秒)、N=15(476秒)。エラーバーはSEMである。
【0023】
図14図4図5に示したデータについて、結合dCasタンパク質と衝突したときのRNAPの位置。図4~5の各条件におけるNTP添加後のRNAPのフォースピーク位置の分布。A20とPAM部位の位置を破線で示す。RNAPの位置は、PAM-遠位(左)又はPAM-近位(右)結合dCas複合体を用いた転写アッセイのクエンチ後に決定した。RNAPのフォースピーク位置は、生物学的に独立したN個のトレースについてプールされた:dCas9 PAM-遠位, N=150(3-ntミスマッチ), N=217(未改変), N=151(5-nt IR), N=282(6-nt IR), N=295(7-nt IR); dCas9 PAM-近位, N=165(3-ntミスマッチ), N=174(未改変), N=175(5-nt IR), N=169(6-nt IR), N=167(7-nt IR)。
【0024】
図15]標的DNAに相補的でない6-nt伸長を含むgRNAと複合体化した結合dCas9の転写リードスルーと除去効率
パネルa:クエンチ後に結合したままのdCasの比率。この改変gRNA(補足表2)を含むdCas9が、転写コンディション導入後に結合したまま残っている割合を測定した対照実験(図2に記載した方法を使用)。各サンプルチャンバーについて、コントロールトレースと非コントロールトレースの両方を取り、そのチャンバーについて残存するdCasの比率を求めた。N=3個の生物学的に独立したサンプルチャンバーを用いて実験を繰り返した。dCas残存率は各サンプルチャンバーについて計算され(黒点)、これらの繰り返しの平均値とSEMも示されている。
パネルb:PAM-遠位配向及びPAM-近位配向の両方について、改変gRNAを用いて転写アッセイを行った。各サンプルチャンバーについて、コントロールトレースと非コントロールトレースの両方を取り、そのチャンバーのdCas除去率を求めた。生物学的に独立したN=6個のサンプルチャンバーを用いて実験を繰り返した。dCas除去率の値は各サンプルチャンバーについて計算され(黒点)、これらの繰り返しの平均値とSEMも示されている。
【0025】
図16]GreB存在下での転写中のdCas9とdCas12aの除去効率
この分析には、図2のパネルcと同じデータを使用したため、サンプルのトレース統計量は図2のパネルcと同じである。除去効率のうち、転写リードスルーにより除去されたトレースからの割合(灰色)と、除去はされたが転写リードスルーはなかったトレースからの割合(赤)が積み重ねられている。黒点は、各独立した複製について計算した除去効率である。エラーバーはSEMである。
【詳細な説明】
【0026】
本明細書において別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が関連する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0027】
反対の指定がない限り、本明細書全体を通じて与えられるすべての最大数値限定は、あたかもそのようなより低い数値限定が本明細書に明示的に記載されているかのように、すべてのより低い数値限定を含むことが意図されている。本明細書を通じて与えられるすべての最小数値限定は、あたかもそのようなより高い数値限定が本明細書に明示的に記載されているかのように、すべてのより高い数値限定を含む。本明細書を通じて与えられるすべての数値範囲は、あたかもそのようなより狭い数値範囲がすべて本明細書に明示的に記載されているかのように、そのような広い数値範囲内に入るすべてのより狭い数値範囲を含む。
【0028】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」及び「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数の参照語を含む。本明細書において、範囲は、ある特定の値の「約」から、及び/又は別の特定の値の「約」までとして表現される場合がある。このような範囲が表現される場合、別の実施形態では、1つの特定の値から、及び/又は他の特定の値までが含まれる。同様に、値が近似値として表現される場合、先行詞「約」の使用により、特定の値が別の実施形態を形成することが理解される。数値に関する「約」という用語は任意であり、例えば±10%を意味する。
【0029】
本開示の各GenBank又は他のデータベースの受入番号に関連するアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列は、本出願又は特許の有効出願日にデータベースに提示されたものを参照することにより本明細書に組み入れられる。
【0030】
本開示は、Casタンパク質とともに機能する改変gRNAを提供する。「機能的」とは、gRNAが、gRNA中のスペーサー配列に相補的な配列を含むDNA標的にCasタンパク質を標的化できることを意味する。
【0031】
本開示は、本明細書に記載されるような形態の改変(修飾)gRNA、すなわち、付加された逆方向リピート配列を含むgRNAを全て含む。逆方向リピート配列は、少なくとも5個のヌクレオチドを含む。複数の実施形態において、逆方向リピート配列は、5、6、もしくは7個のヌクレオチドを含むか、又は5、6、もしくは7個のヌクレオチドからなるが、より長い又はより短い逆方向リピート配列が含まれてもよい。記載された逆方向リピート配列における「リピート」という用語は、CRISPRアレイ中のリピート配列を意味しない。逆方向リピート配列の一部ではないヌクレオチドが、逆方向リピートとスペーサー配列との間に存在してもよい。本明細書に記載される任意の改変gRNAは、トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)及びcrRNAを含むような単一ガイドRNAであってもよい。複数の実施形態において、tracrRNA及びcrRNAは、別個の分子であってもよい。
【0032】
逆方向リピート配列は、DNAとCasタンパク質の存在下で、二本鎖DNA分子の配列とDNAの相補鎖に同時にハイブリダイズできるように構成されている。本明細書で使用する「二本鎖」DNAという用語は、DNAバブルである。
【0033】
本開示は、実施例に記載され、図に示されるような、gRNA、Casタンパク質、及びDNAを含む全ての複合体を含む。本開示は、無細胞環境、ウイルスDNAとの関連、培養中の原核細胞及び真核細胞を含む個々の細胞内、ならびに真菌、植物、及び動物を含むが必ずしもこれらに限定されない多細胞生物の細胞内におけるこのような複合体を含む。記載された組成物及び方法は、研究、診断、予防、及び治療の目的で使用され、所望により細胞に送達され得る。
【0034】
本開示のgRNAは、その5'末端又は3'末端に付加ヌクレオチドとして逆方向リピート配列を含む。逆方向リピートは、二本鎖DNA分子のDNAの第一鎖(古典的(canonical)Casエフェクター標的鎖)のスペーサー配列に標的化されるgRNAのセグメントと、相補的な、例えば、二本鎖DNAの第二鎖の配列に標的化される配列とを含む。このように、逆方向リピート配列は、DNAとCasタンパク質が存在する場合、スペーサー配列とDNAの相補鎖に同時にハイブリダイズできるように構成されている。この構成の非限定的な図が図4のパネルbに示されており、付加ヌクレオチドがgRNAの5'末端に示されている。
【0035】
本開示の実施形態は、dCas9及びdCas12aを用いて説明される。これら両タンパク質のアミノ配列は当技術分野で既知である。ヌクレアーゼデッド(dead)Casタンパク質を用いた実証は、gRNA指向的にDNA標的を認識するヌクレアーゼ活性Casタンパク質に拡張可能であると予想される。したがって、本開示は、Cas3/カスケード、Cas9、Cas12及びCas14系を含むがこれらに限定されない、クラスI及びクラスII CRISPR系に包含される全てのタイプのCasタンパク質を含む、クラスI又はクラスII CRISPR酵素である任意のCas酵素との使用に適していると期待される。
【0036】
本開示の特定の態様は、PAM配列の近位及び遠位にある領域を用いて例示される。PAM「近位」及び「遠位」の意味は、例えば、PAM遠位及びRNAPとのPAM衝突を例示する実施例及び図から当業者には明らかであろう(例えば、図6)。複数の実施形態において、PAM遠位側は、Casタンパク質がCa9である場合にはスペーサーの5'側にあり、Cas12aの場合には3'末端にある。
【0037】
本開示は、任意の目的のために記載されたCasタンパク質及びgRNAを使用することを含み、その非限定的な例としては、Rループの安定性を増大させること、DNA基質上でのCasタンパク質の滞留時間を増大させること、DNAに沿ったモータータンパク質の移動を妨げること、及びDNA切断、DNA転位、組換えによる修復テンプレートの挿入、一塩基変異又はインデルの補正、及びCas3タンパク質などによりDNAの分解を増強することなどによって遺伝子編集を増強することが挙げられる。
【0038】
一実施形態において、本開示は、1つ以上の細胞において記載された改変gRNAで標的化するためのDNAスペーサー配列を決定すること、任意でスペーサー配列に連結されるPAMを決定すること、スペーサー配列及びスペーサー配列を含むDNAの相補鎖に同時にハイブリダイズすることが可能な逆方向リピート配列を含む改変gRNAを設計すること、及び改変gRNA及びCasタンパク質を細胞に送達することを含み、これにより、Casタンパク質はスペーサー配列を含むDNAの配列に結合し、ここで、結合したCasタンパク質の1つ以上の特性は、同じスペーサーを標的とする同じCasタンパク質であるが、改変されていないgRNAと共に使用されるCasタンパク質の特性と比較して異なる。複数の実施形態において、DNAスペーサー配列は、細胞集団内のある細胞セットに特有である。そのため、記載された改変gRNA及びCasタンパク質は、より大きな細胞集団を有する細胞のあるサブセットのみを選択的に標的化することができる。より大きな集団は、混合細菌集団、正常細胞及び異常細胞(正常細胞及び癌細胞など)を含み得るが、必ずしもこれらに限定されない。
【0039】
記載されたCasタンパク質及びgRNAを細胞に送達するための方法は、in vitro又はin vivoのいずれであっても、既知のCRISPR送達システムから適合させることができる。複数の実施形態において、Casタンパク質及び/又はgRNAは、Casタンパク質及び/又はgRNAをコードするmRNA又はDNAポリヌクレオチドとして送達され得る。本明細書に記載される任意の成分をコードするDNA又はRNAを投与することは、個体又は1つ以上の細胞に成分を送達する方法でもあると考えられる。
【0040】
タンパク質をコードするDNA及びRNA並びにgRNAを送達する方法は、当該技術分野において公知であり、本開示の利益の下、記載されたCasタンパク質及びgRNAを送達するように適合させることができる。複数の実施形態において、1つ以上の発現ベクターが使用され、これにはウイルスベクターが含まれる。このように、複数の実施形態において、ウイルス発現ベクターが使用される。ウイルス発現ベクターは、ネイキッドポリヌクレオチドとして使用されてもよく、又は任意のウイルス粒子(欠陥干渉粒子もしくは他の複製欠損ウイルス構築物、及びウイルス様粒子を含むがこれらに限定されない)を含んでもよい。複数の実施形態において、発現ベクターは、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、又はレトロウイルスからのような、改変ウイルスポリヌクレオチドを含む。複数の実施形態において、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが使用され得る。特定の実施形態において、発現ベクターは、自己相補性アデノ随伴ウイルス(scAAV)である。記載された改変gRNAをコードする発現ベクターは、改変gRNAに対応するcDNAと同様に、本開示に含まれる。複数の実施形態において、記載されたCasタンパク質及びgRNAは、リボ核タンパク質の形態で細胞に導入される。
【0041】
複数の実施形態において、有効量のgRNA及びCasタンパク質が、細胞又はそれを必要とする個体に投与される。有効量は、標的配列を選択する理論的根拠、及び標的配列の存在と相関する疾患もしくは障害又は他の特性を考慮して、当業者によって決定され得る。
【0042】
複数の実施形態において、改変gRNAは、例えば、RNAヌクレアーゼに対する耐性を提供するために改変ヌクレオチドを含み得る。複数の実施形態において、Casタンパク質が改変されてもよい。例えば、真核生物での使用のために、Casタンパク質は、核局在化シグナルを含むように改変されてもよい。複数の実施形態において、改変gRNAは、内因的に発現されたCasタンパク質と組み合わせて使用され得る。複数の実施形態において、Casタンパク質は、融合タンパク質の構成要素として提供され得る。融合タンパク質は、生物学的利用能の向上、半減期の増加、DNA編集の強化、DNA上でのCas酵素の滞留時間の強化など、記載されたCRISPRシステムの1つ以上の特性を強化することができる。
【0043】
以下の実施例は、本開示を説明するためのものであるが、本開示を限定するものではない。
【実施例
【0044】
DNAに結合したdCas複合体のRループ
結合dCasの極性バリアの根底にある構造的特徴を調べるために、まず、高分解能「DNAアンジッピングマッパー(DNA unzipping mapper)」技術を用いて、結合dCasのタンパク質-核酸相互作用をマッピングした11-14(図1a)。光学トラップを用いて、結合dCasを含む二本鎖DNA(dsDNA)の二本鎖を機械的に分離することによってDNAをアンジップした(二本鎖の対合をほどいた)。アンジッピングフォークが結合dCasに出会う前は、アンジッピング力は対応するネイキッドDNAのベースラインのフォースシグネチャーに従っていたが、アンジッピングフォークが複合体に出会うと、アンジッピング力はネイキッドDNAのベースラインから逸脱し、DNAとdCasの相互作用を示した。相互作用の極性を調べるために、PAM遠位側又はPAM近位側のどちらかから、結合した複合体をスルーしてDNAをアンジップした。
【0045】
アンジッピングマッパーを用いて、最も一般的なCasタンパク質の2つであるdCas9とdCas12aのフォースシグネチャーを比較した(図1b)。gRNAの標的配列はdCas9では5'末端に、dCas12aでは3'末端に位置しているが、両者の相互作用マップは著しく似ていることがわかった。
【0046】
PAM遠位側からアンジップすると、どちらのdCas複合体もネイキッドDNAのベースラインよりも力が低下し、その後ベースラインよりも力が上昇した。この力の低下は、gRNA/DNAハイブリッド(DNAの塩基対形成を妨げ、DNAバブルを生じさせ、その結果、アンジッピング力を低下させる)の存在と一致している。サーマルDNAの「ブリージング(breathing)」フラクチュエイション(fluctuation)のために、アンジッピングフォークはDNAバブルを下流で検出する15(これは、より早い力の低下につながる)。この力の低下は、バブルの前に、dCasタンパク質とDNAとの間に強い相互作用がないことを示している。dCas9の場合、その後の力の上昇はgRNA/DNAハイブリッド領域内で検出され、その領域でのdCas9とDNA間の強い相互作用を示した。dCas12aでは、2種類のトレースが検出され(図1bの中央パネル)、測定された37のトレースの43%は、gRNA/DNAハイブリッド領域内でネイキッドDNAの力のベースラインを上回る1つの力の上昇を示し、残りのトレースは、gRNA/DNAハイブリッドの遠位端でネイキッドDNAの力のベースラインを上回る追加の力の上昇を示している。どちらのタイプのトレースも、gRNA/DNAハイブリッド領域内においてDNAベースラインより下に力の下落を示している。これらの観察から、これまでの生化学的研究で示唆されてきたように16-20、dCas9は1つの優位なコンフォメーションをとると仮定されるが、dCas12aは2つの異なるコンフォメーションをとる可能性が示唆される。対照的に、dCas9又はdCas12aのどちらかをPAM近位側からアンジップすると、PAM部位から約6bpのところで力が急に上昇し、その領域でdCasタンパク質がDNAと強固に結合していることが示された。この強固な結合部位の位置は、これらの複合体の構造から示唆される位置と一致している21-23
【0047】
興味深いことに、これらの力(フォース)の特徴は大腸菌の転写伸長複合体(TEC:transcription elongation complex)(これは、DNAアンジッピングマッパー法が以前に特徴付けたものである)のものと驚くほどよく似ている24-26。dCas複合体とのデータの直接比較を容易にするため、dCas複合体と同じ実験条件でTECをマッピングし直した(図1b)。転写の上流からアンジップすると、TECはRNA/DNAハイブリッドを含む転写バブルによる力の低下を示し、次いで活性部位付近で力が上昇した。転写の下流からアンジップすると、TECは活性部位の10~20 bp下流で力の上昇を示し、これはRNAPがその活性部位の下流でDNAと強固に結合していることを示している。
【実施例
【0048】
dCasのロードブロック極性(roadblock polarity)のメカニズム
アンジッピングマッパーのデータ(図1b)は、TECのように、DNAに結合したdCas複合体が、一端の近くに保護されていないRループを介したDNAバブルを含み、他端にしっかりとクランプされたDNAを含んでいることを明確に示している。これらの共通の構造的特徴から、これらの複合体は共通のメカニズムで除去される可能性が示唆される。以前のバルク転写研究では、転写バブルの崩壊がTECの不安定化につながることが示された27-29。したがって、特定の理論に束縛されることは意図しないが、DNAに結合したdCasも、結合dCasのDNAバブル崩壊によって同様に不安定化されるのではないかと考えた。その結果、CRISPRiの極性のメカニズムについて、以下のような非限定的な説明が導かれた。この極性は、TEC及びdCas複合体の共通の構造的特徴に固有のものであると考えられる。移動するRNAPがPAM遠位側から結合dCasに近づくと(図1c)、RNAPはまずdCas複合体のDNAバブルに遭遇する。RNAPはその下流のDNAをしっかりとクランプするため、前方への移動はdCas複合体のDNAバブルを再ジップする。これにより、dCas複合体のDNAバブルが崩壊し、gRNAとDNAのハイブリッドが破壊され、最終的にDNAからdCasが取り除かれる。従って、PAM遠位側からの転写はより寛容であると考えられる。一方、RNAPがPAM近位側から結合dCasに近づくと、RNAPはdCasロードブロック(障害)に遭遇するが、それはRNAPにとっては強すぎて乗り越えられないかもしれない(図7)。したがって、PAM近位側からの転写はより禁止的である。
【実施例
【0049】
結合dCasは高度に非対称なロードブロックとなる
PAM遠位側又はPAM近位側から、結合dCasを通って転写するRNAPの能力を定量的に測定する、DNAアンジッピングマッパーを用いた単一分子アッセイを開発した。このアッセイ(図2a)において、DNAテンプレート(鋳型)は、ヌクレオチド飢餓及び下流の結合dCasを介してA20位で停止したTECを最初に含んでいた。RNAPとdCasの占有率を決定するために、アンジッピングマッパーを用いて対照実験を行ったところ、両者とも>90%であった。続いて、NTPをサンプルチャンバーに導入することによって転写が再開され、135秒後にクエンチされた。この時間は、自発的なdCas9解離を制限しながら、大部分のRNAPが結合dCasに到達するのに十分な時間であったはずである(図8)。続いて、結合タンパク質の位置を、アンジッピングマッパーを用いて検出した。
【0050】
NTP追跡(チェイス)後に得られたアンジッピングトレースは、RNAPの動きの確率的な性質の結果としてのRNAP集団の非同期に起因していくつかのカテゴリに分類された(図9)。図2bは、転写がPAM遠位側からdCas9に接近したときの、このアッセイの代表的なトレースである。一例は、dCas9のフォースピーク(force peak)の直前に、あるフォースピークが検出されたことを示しており、これはRNAPがdCas9と衝突した後に失速したが、dCas9を除去できなかったことを示唆している。別の例のトレースは、検出された唯一の結合タンパク質がdCas9の下流であったことを示しており、これはおそらく、RNAPがdCas9を除去した後に前方に伸長したが、テンプレート末端に達しなかったためである。対照的に、RNAPがPAM近位末端からdCas9に遭遇した場合、大部分のトレースはPAM部位の約30bpと6bp手前で2つのフォース上昇を示し(図9と10b)、RNAPがdCas9と衝突した後に失速したが、dCas9を除去できなかったことと一致した。dCas12aを通る(スルーする)転写を調べるために同様の実験も行い(図9、10c、10d)、同様の結果が得られた。
【0051】
これらのトレースは、PAM-遠位衝突とPAM-近位衝突との間で全く異なる転写挙動を示し、結合dCasが転写の極性バリアであることを示している。結合dCasの両側からの転写リードスルーを正確に決定するために、いくつかの対照実験を行い、テンプレートが最初に結合RNAP又はdCasタンパク質を有していない確率(補足表1)と、RNAP又はdCasが自然に解離する確率を求めた(図8cと8e)。これらの確率は、最終的なリードスルー解析(図11)で考慮された。
【0052】
この方法を用いると、結合dCas9の転写リードスルーは、RNAPがPAM遠位側からdCas9に接近した場合には43%の効率を示し、PAM近位側からは検出されないことがわかった(図2c)。dCas12aについて、リードスルー効率はdCas9と同様であった:すなわち、RNAPがPAM遠位側からdCas12aに接近した場合には47%であり、PAM近位側からは検出されなかった(図2c)。単一分子研究からのこれらの結果をさらに検証するために、対応するバルク転写アッセイを行ったところ、バルクデータも同様の極性の程度を示した(図12)。転写に対するdCas9とdCas12aバリアの極性に関するこれらの知見は、以前のin vivo研究の結果と一致し6-8,30,31、極性の高度に定量的で制御された測定法も提供する。
【0053】
RNAPが結合dCasに遭遇したが、それをリードスルーできなかった場合、RNAPはおそらくバックトラックし24,32-34、その際RNAPは、その触媒部位がRNAの3'末端から外れた状態でDNAに沿って逆向きに移動し、転写を不活性化する35,36。大腸菌のGreBは、バックトラックした複合体をレスキューすることが知られている転写伸長因子である37-39。GreBはRNAPの内在性切断活性を刺激し、RNAの3'末端を除去し、新たに生成されたRNAの3'末端を触媒部位にアラインメントし、転写を再活性化させることができる。そのため、1μMのGreB存在下で転写アッセイを行った。RNAPがPAM遠位側からdCasに遭遇した場合、転写リードスルー効率はdCas9では43%から70%へ、dCas12aでは47%から73%へと有意に増加した。興味深いことに、RNAPがPAM近位側からdCasに遭遇した場合、リードスルー効率はdCas9とdCas12aの両方で実質的にゼロのままであった。我々のバルク転写アッセイは、転写リードスルーの極性に対するGreBの同様の効果を示している(図12)。
【0054】
このことは、バックトラックが、PAM遠位側からのdCasロードブロックでのRNAP失速の主な原因である可能性が高いことを示している。PAM-遠位側から結合dCasをスルーする転写はGreBによって促進されるが、PAM-近位側からdCasをスルーする転写はほぼ乗り越えられない障害に遭遇し、GreBによって救済されることはない。このように、GreBの存在下で、結合dCasは、転写に対してさらに高度に非対称で極性を有するバリアとなる。これは最終的には、結合dCas複合体が保護されていないDNAバブルを持ち、RNAPによって再ジップされ、崩壊する可能性があることに起因する。
【実施例
【0055】
DNAトランスロカーゼは同じ極性を示す
仮説に基づくメカニズムの重要な予測は、結合dCasはRNAPだけでなく、下流のDNAを際ジップすることができるDNAトランスロカーゼに対しても極性バリアとなるはずだということである。この可能性を検証するためには、トランスロカーゼが結合dCasに決まった方向から接近する必要があった。大腸菌のMfdは、決まった位置で行き詰っているTECと相互作用するため、この条件を満たしており、トランスロケーションの位置と方向を制御することが可能である26,40-42。ATPの存在下で、Mfdは停滞したTECに結合し、前方へ移動してTECを破壊し、その後、破壊されたTECと同じ方向へ前進的に移動を続けることができる。
【0056】
MfdをDNAにロード(load)するこの方法を用いると、最初にTECを含んでいたトレースの約85%で、MfdはDNAと会合したまま、DNAに沿って2.2bp/秒の速度で長い距離を前進的に移動することがわかった(図13)。非転写RNAPはおそらくMfdと会合していた26,43-45。この対照実験は、Mfdがトランスロカーゼとして機能することができ、ATP追跡とクエンチの制御下でトランスロケーションの開始と終了に、結合dCasにアプローチできることを示している。
【0057】
Mfdが、結合dCasを極性バリアとして経験するかどうかを調べるため、RNAPの代わりに活性のあるMfdを用いた以外は、図2に示した実験と同様の実験を行った(図3a)。Mfdの移動はRNAPの移動よりもかなり遅いので(図8bと図13bを比較)、Mfdを480秒間移動させ、反応をクエンチする前にほとんどのMfdが結合dCasに到達するようにした。次に、MfdとdCas9の衝突の結果を、アンジッピングマッパーを用いてアッセイした。
【0058】
図3bは、MfdがPAM遠位側からdCas9に接近するトレースの例を示している。トレースの一例は、dCas9の前に検出されたフォースピークを示しており、Mfdが結合dCasに到達していないことと一致している。2つ目のトレースの例は、結合dCas9の直前で検出されたフォースピークを示しており、MfdがdCas9と衝突していること一致している。3つ目のトレースの例は、dCas9結合部位の下流で検出された結合タンパク質を示しており、Mfdが介在するdCas9の除去とトランスロケーションの継続と一致している。
【0059】
MfdがPAM遠位側又はPAM近位側からdCas9又はdCas12aに遭遇したときのMfdの移動効率(move-through効率)を測定するために、トレースを異なるカテゴリーに分類した(図3c;図11)。いずれのdCasについても、Mfdの移動効率は、PAM遠位側から結合dCasに遭遇する場合には20%程度であり、PAM近位側からdCasに遭遇する場合には検出されなかった。このように、MfdはRNAPと同じ極性を感知し、dCasロードブロック極性に関する記述されたメカニズムの強力な証拠を提供する。
【0060】
また、PAM遠位側からdCasに遭遇した場合、MfdはRNAPよりも低い移動効率を示した。これは、強力なロードブロックに対抗する際の2つのモータータンパク質の安定性の違いに起因すると考えられる。RNAPは基質と安定に結合し続けることができるため、バリアを乗り越えようと何度も試みることができるが、Mfdは強力なロードブロックに対抗すると解離し26、バリアに逆らって働き続ける機会が減る傾向がある。
【実施例
【0061】
転写ロードブロックのリードスルーの調節
記載されたデータは、転写に対するdCasロードブロック極性を調節する戦略もサポートする。例えば、dCas複合体のPAM-遠位側からの転写リードスルーは、R-ループの破壊とDNAバブルの崩壊に依存しており、これはgRNAとDNAとの相互作用に依存している。従って、もしgRNAを改変してR-ループの安定性を増加(減少)させることができれば、転写リードスルーはダウン(アップ)レギュレートされるかもしれない。
【0062】
結合dCas9のR-ループの安定性を高めるために、元のgRNAの5'末端を逆方向リピート配列で拡張した(図4a)。この改変されたgRNAは、DNAバブルの2本の鎖をまたぐ拡張Rループを形成することができた。RNAPがこの改変gRNAを含むdCas9複合体をスルーして転写するためには、RNAPは、テンプレート鎖上のRNA/DNAハイブリッドと非テンプレート鎖上のRNA/DNAハイブリッドの両方を破壊しなければならない。2つのRNA/DNAハイブリッドによって抵抗性を強化することで、RNAPがdCas9複合体のDNAバブルを巻き戻し、崩壊させることがより困難になるはずである。
【0063】
結合dCas9をアンジッピングマッパーを用いてアンジッピングすることにより、このような改変gRNAが、dCas9のDNAへの結合にどのように影響するかを調べた。図4bは、5'末端に7-ntの逆方向リピート配列を持つgRNAを含む結合dCas9のトレースの一例を示している。この改変gRNAは、PAM近位側からのアンジッピングのフォースシグネチャーにほとんど変化をもたらさなかったが、PAM遠位側からのアンジッピングに対して元のgRNAで観察された力の低下はもはや存在せず、予想されるハイブリッド位置でのアンジッピング力は、ネイキッドDNAのベースラインのそれをわずかに上回った。この観察は、結合dCas9と複合体化した改変gRNAの存在により、二本のDNA鎖を橋渡しするRループが存在することの証拠となる。アンジッピングフォークが進行するためには、両DNA鎖に形成されたRNA/DNAハイブリッドが破壊され、アンジッピングに必要な力が上昇しなければならない。このgRNA配列は5'末端に短いRNAヘアピンを形成することもできるが、図4bのようにPAM遠位側からアンジッピングした場合、アンジッピングトレースの約70%は力の低下を示さなかったことから、DNAフォークをまたぐRNA配置はRNAヘアピンを持つ配置よりも安定である可能性が示唆された。
【0064】
我々はまた、5-nt、6-nt、又は7-ntの逆方向リピートを含む拡張gRNAを用いて図2で概説したアッセイを繰り返すことで、このような改変gRNAを含むdCas9が転写リードスルーをどのように調節するかを決定した(図4c;図8e及び14)。3つの改変gRNA全てにおいて、PAM近位側からの転写リードスルーは実質的にゼロのままであったが、PAM遠位側からの転写リードスルーは、5-nt、6-nt、7-nt逆方向リピートgRNAでは、それぞれ43%から18%、10%、10%に減少した。観察されたPAM-遠位バリアの増強が、単にgRNAの伸長の結果であるかどうかを調べるために、伸長した配列が結合dCas9のDNAバブル又はその近傍のDNAとハイブリダイズできないように、未改変gRNAに相補的でない伸長を有するgRNAを用いた対照実験を行った。PAM近位側からのリードスルーに検出可能な変化がないまま、PAM遠位側からのリードスルーが有意に増加したことから、伸長された非相補的配列が、結合dCas9のRループから離れてぶら下がり、RNAP侵入時にRNA-DNA分離の開始を促進することが示唆された(図15)。このように、逆方向リピートを持つ改変gRNAによるバリア強化は、gRNAの単なる伸長の結果ではないはずである。
【0065】
結合dCas9のPAM遠位側からの転写リードスルーをアップレギュレートできるかどうかを調べるために、gRNAの5'末端に3ntのミスマッチを導入した(図4c;図14)。このミスマッチがRNA/DNAハイブリッドを弱め、RNA/DNAハイブリッドを破壊することで、RNAPがバブル内のDNAを再ジップしやすくするはずである。実際、PAM遠位側からの転写リードスルーは、3-ntミスマッチgRNAにより43%から61%に増加した。リードスルー効率の増加は、dCas9の結合が弱くなったことも反映している。これと一致して、3-ntミスマッチを含む結合dCas9は、未改変gRNAを含む結合dCas9よりも、はるかに速い自然解離速度を示した(補足表2;図8e)。
【0066】
まとめると、これらの結果から、dCas9のPAM-遠位側からの転写リードスルーは、gRNA改変によってかなりの影響を受けることが明らかになった。この発見はまた、転写リードスルーのメカニズムとして、Rループの破壊とDNAバブルの崩壊を強く証明するものでもある。
【実施例
【0067】
転写ロードブロック除去の調節
先の実施例は、転写リードスルーに対するdCasロードブロックの極性を特徴付けたが、これはRNAPによるロードブロックの除去を必要とし、次いでdCas結合部位を通過する転写を必要とする。ロードブロックの極性の別の特徴は、転写ロードブロック除去の効率であり、これはRNAPによるロードブロックの除去を必要とするが、RNAPがdCas結合部位をリードスルーすることを必要としない。
【0068】
ロードブロックの除去には、転写リードスルーと、さらなるシナリオ(RNAPがdCasと衝突してdCasを除去したが、その後失速した)が含まれる。これを調べるために、予想されるdCas9結合部位の近くにRNAPのフォースシグネチャーがある転写データ(これは、dCas9と衝突後に停滞したRNAPに対応する)に注目した(図5)。これらのトレースはリードスルーをもたらさなかった。
【0069】
PAM-近位衝突では、すべてのトレースが結合RNAPとdCas9の両方を示し(図5a)、RNAPがdCas9と衝突したが、RNAPはそれを除去できなかったことを示唆した。このカテゴリーのトレースは、RNAPのフットプリントがdCas9のフットプリントと重なっていないことと一致するフォースシグネチャーを示した(図7a)。RNAPの位置の広がりは、dCas9との衝突後にRNAPがバックトラックした結果かもしれない。
【0070】
PAM-遠位衝突では、トレースは2つの異なるカテゴリーに分類される。PAM-近位衝突と同様に、トレースの1つのカテゴリーは、結合したRNAPとdCas9の両方を示しており(図5b)、RNAPのフットプリントがdCas9のフットプリントと重なっていないことと一致している。しかしながら、トレースの他方のカテゴリーは、結合したRNAPのみを示しており、これはRNAPがdCas9と衝突した後、RNAPがdCas9を除去したが、その過程でその後停滞したことを示唆している(図5c)。これらのトレースにおいて、RNAPのフットプリントは、予想されるdCas9のフットプリントと有意な重なりを示しており、これはRNAPがdCas複合体に有意に侵入し、その後解離させたことを示唆している。興味深いことに、この侵入距離はdCas9のRループの安定性が増すにつれて減少する。例えば、3-ntミスマッチgRNAを持つdCas9複合体では、dCas9のRループへの侵入は約7ntであったが、7-ntの逆方向リピートgRNAを持つdCas9複合体では、侵入は最小限であった。これらのデータは、dCas9のRループが弱ければ弱いほど、RNAPがdCas9のDNAバブルに侵入し、再ジップしやくなり、最終的にdCas9を除去することが容易になることを示している。これと一致して、dCas9が除去された衝突トレースの割合も、dCas9のRループの安定性が増すにつれて減少した(図5d)。
【0071】
衝突のトレースとリードスルーのトレースの両方を考慮した全体的なロードブロック除去効率は、dCas9除去も極性であることを示している(図5d)。リードスルー効率(図4c)と比較すると、ロードブロック除去効率はさらに大きな極性を示し、この極性はgRNA(図5d)やGreBのような転写因子(図16)の改変によっても調節できる。
【0072】
実施例についての考察
CRISPRiシステムを用いて、本開示はdCas-DNA相互作用の高分解能構造的特徴を提示し、モータータンパク質によるdCas除去の性質を解明し、gRNAの改変によるdCas除去の高度に調整可能な性質を詳述する。
【0073】
本開示は、dCasが、CRISPRiにおける転写に提示するロードブロック極性についての機構的説明を提供する(図6)。PAM遠位部位から結合dCasに接近する場合、RNAPはdCasを除去することができるかもしれない(Rループを破壊し、DNAバブルを再ジップし、dCasを除去することによって)。対照的に、PAM近位部位から結合dCasに近づく場合、R-ループはRNAPにはアクセスできないため、RNAPは乗り越えられない障害に遭遇すると思われる。この極性の説明は、gRNAの標的配列がそれぞれ5'末端と3'末端に位置するdCas9とdCas12aの両方について成り立つことを示す。我々は、他のdsDNAトランスロカーゼもRNAPと同じロードブロック極性を感知するはずだと予測し、Mfdを用いてこの予測を検証した。我々はさらに、転写リードスルーとPAM遠位側からの転写によるロードブロック除去の両方が、結合dCas9複合体のRループ安定性を変化させるgRNA改変によって調節できることを示した。
【0074】
また、RNAPがPAM遠位側から結合dCasに遭遇した場合には、GreBはRNAPリードスルーを著しく促進するが、RNAPがPAM近位側から結合dCasに遭遇した場合には、リードスルーに検出可能な影響を与えないことも示し、dCasが転写に対する高度に非対称で極性の障壁であることを示した。
【0075】
CRISPRiに加えて、dCas複合体も複製を妨害するために用いられてきた。転写とは対照的に、この妨害は極性ではないことがわかった9,10。記載のメカニズムは、転写の極性の存在と複製の極性の欠如の両方を可能にする。RNAPがPAM遠位側からdCasロードブロックをリードスルーするためには、RNAPはdCas複合体のRループを崩壊させるために下流でDNAを再ジップする必要があり、したがって再ジップ能力はリードスルーにとって重要である。対照的に、レプリソームはヘリカーゼに依存してDNAをほどいて(アンジップして)鎖を分離するので、結合dCas複合体のRループを崩壊させるために再ジップすることはできない。我々の知る限り、これは、転写と複製におけるdCasロードブロック極性に関する、これらの一見食い違った知見を説明する初めての機構論的説明である。
【0076】
CRISPRi以外にも、dCasタンパク質は多くの細胞応用に使用されている。例えば、特定の遺伝子座に誘導するために他のタンパク質と融合させることができる。本開示には、dCas9の全体的な安定性を高めるためのgRNA配列の逆リピート改変が含まれる。
【0077】
遺伝子操作されたdCasタンパク質以外にも、天然に存在する内在性ヌクレアーゼ活性を持たないCasタンパク質が、DNA転位を誘導することが知られている。これらのトランスポゾン関連CRISPR-Cas系では、Casが結合した後に他の複数の酵素が動員され、転移を指示する。これらのシステムは遺伝子編集に転用されている48-50。これらのシステムにおける結合Cas複合体の安定性は、本開示に記載されているのと同じメカニズムによって支配されると予想され、そのようなものとして、本開示は、遺伝子転移及び遺伝子編集の効率を改善するために、この安定性を調節することを含む。
【0078】
本開示は、dCasタンパク質を使用する代表的な実施形態を提供するが、本開示は他のDNA編集タンパク質を包含する。例えば、挿入/欠失が非相同末端結合(NHEJ:non-homologous end joining)を介して作成される場合、遺伝子編集は、転写機構を介した切断後のCas9の除去によって強化され得、これは、NHEJによる修復のために二本鎖切断を露出させる51。しかし、目標が相同組換え修復(HDR:homology-directed repair)を利用して正確な編集を行うことである場合、この除去は望ましくない可能性がある。Cas9除去はHDR経路よりNHEJ経路が選択される観察された高い確率に寄与している可能性がある51,52。Casヌクレアーゼの除去もまた、本明細書で述べるのと同じgRNA改変戦略を用いて調節できる可能性が高い。このように、本開示は、HDR経路とNHEJ経路との間の分配に対する改善された制御を提供するためのCas9除去の調節を含む。
【0079】
本開示は、dCasのロードブロック極性に関する機構論的説明を部分的に提供し、Rループの安定性の重要性を示す。特定の理論に拘束されることを意図することなく、本開示は、Cas結合に影響を与える2つの手段(R-ループの安定性及びR-ループへのアクセス)を示す。本開示には、gRNA/DNA相互作用を変化させるためのgRNAの改変、及びR-ループアクセシビリティを調節するためのタンパク質-DNA相互作用の調節を用いて、Cas結合を最適化及びカスタマイズすることが含まれる。Cas結合安定性を理解することは、CRISPRアプリケーションの効率に影響を与える枠組みも提供する。
【0080】
補足表1.結合dCasタンパク質の転写リードスルーをアッセイするためのトレースカテゴリー
この表は、2つの代表的なサンプルチャンバー(1つはPAM-遠位、もう1つはPAM-近位)から得られた、未改変RNAと複合体化した結合dCas9に接近するRNAPの詳細なトレースカテゴリー分類を示している。これらのフラクション(上)は、様々な確率(下)を計算するために使用される。
【0081】
[補足表1]
【0082】
補足表2
本開示で使用したgRNA。カスタムCas9 sgRNAは、Sigma-Aldrichから購入した。Cas12a gRNAは、実施例に記載されるようにインビトロ転写によって作製した。ミスマッチ及び逆方向リピートヌクレオチドは、太字で示される。
【0083】
[補足表2]
【0084】
前述の文章に関する参考文献。参考文献のリストは、いかなる参考文献も特許性にとって重要であることを示すものではない。
【0085】
方法
タンパク質の精製
大腸菌RNAPをタグ精製法で精製した26,53,54。簡単に説明すると、プラスミドpKA1で形質転換した5α-コンピテント大腸菌(Invitrogen, 18265-017)中で、RNAPを低レベルで発現させた(Superbroth(25g/Lトリプトン(Sigma, T2559)、15g/L酵母エキス(Sigma, Y1626)、5g/L NaCl(Sigma,S3014)[100ug/mLアンピシリン(Sigma, A0166)添加])中で、A600nmが2.1に達するまで4時間)。細胞をIPTG(RPI、I56000-50)で最終濃度1mMになるように4時間誘導した。細胞を溶解し、氷上で少量ずつ(<20 mL)、Branson Sonifier 250のマクロチップで60%デューティサイクル(duty cycle)にて超音波処理した。超音波処理した細胞を遠心分離して細胞残屑をペレット化し、ペレットを廃棄した。核酸とその結合タンパク質を溶液から沈殿させるために、清澄化した5%(w/v)のポリエチレンイミン(PEI)pH7.9(50%ストックから作成; Sigma, P3143)を、最終濃度0.4%(w/v)になるようにゆっくりと上清に加えた。RNAPが結合したDNAを溶液からペレット化し、350mM NaClを含むバッファー(J.T.Baker, 4058-01)で5回洗浄し、1M NaClを含むバッファーでPEIとDNAからRNAPを溶出した。溶出されたRNAPは、3つのカラム(HiPrep Heparin FF 16/10カラム[GE Healthcare、28-9365-49]、HiPrep 26/60 Sephacryl S-300 HRカラム[GE Healthcare、17-1196-01]、及びQIAGEN Ni-NTA Superflowカラム[Qiagen、30410])を用いたクロマトグラフィーで均質になるまで精製した。holo-RNAPを含むフラクションをプールし、濃縮し、RNAP保存バッファー(50mM Tris-HCl pH8.0[J.T. Baker, 4103-01 & 4109-01]、100mM NaCl、1mM EDTA[Invitrogen, 15508-013]、50%(v/v)グリセロール[J.T.Baker, 4043-00]、及び1mM DTT[Invitrogen,15508-013])に透析し、最終的に-20℃で保存した。
【0086】
E. coli greBをタグ精製法で精製した54。簡単に述べると、pET-28b(+)(4)のGreB-6xHisをコードするプラスミドpES3を、タンパク質の過剰発現のためにBL21(DE3)(Invitrogen, 44-0049)細胞に形質転換した。50μg/mlのカナマイシン(Sigma, K0254)を添加したLuria Broth(LB)(Affymetrix, 75854)中で、37℃でOD600nmが0.6~0.8になるまで細胞を増殖させた後、1mM IPTG(Roche, 10724815001)で誘導を行った。37℃で3時間後、遠心分離により細胞を回収し、-80℃で保存した。GreBを精製するために、細胞を氷上で解凍し、GreB溶解バッファー中に再懸濁した(50mM Tris-HCl(Fisher, BP154 & BP153) pH6.9, 500mM NaCl(Fisher, BP358)、及び 5%v/vグリセロール(Fisher, BP229))(リゾチーム(300μg/ml)(Sigma, 10837059001)、EDTA-フリープロテアーゼ-インヒビターカクテル(Roche, 11873580001)使用)。細胞を氷上で1時間置いた後、より完全な溶解のために短時間超音波処理した。抽出液を遠心分離し(24,000g、20分、4℃)、0.45-μmフィルターを二回通過させた。Ni-NTAアガロース(Invitrogen、R90115)カラムをGreB単離のために使用し、200mMイミダゾールを含むGreB溶解バッファーを溶出のために使用した。次いで、溶出液を、溶出バッファー(10mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、1mM DTT、1mM EDTA、及び5%v/vグリセロール)を用いてSuperdex 200カラム(Cytivia、28990944)に流した。透析はGreB保存バッファー(10mM Tris-HCl pH8.0、200mM NaCl、1mM DTT、1mM EDTA、50%v/vグリセロール)で行い、液体窒素で瞬間凍結した後、-80℃で保存した。
【0087】
大腸菌Mfdをタグ精製法で精製した55。簡単に説明すると、pETプラスミドを用いて、N末端にHis6タグを有するEco Mfdを過剰発現させた。このプラスミドをRosetta(DE3)pLysS細胞(Novagen, 70956-M)に42℃・40秒の熱ショックで形質転換した。1mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)(Goldbio, I2481C)を細胞(O.D. 0.67)に添加し、30℃で4時間、タンパク質発現を誘導した。収集のために、細胞を遠心分離し、ペレットを溶解バッファー(50mM Tris(MP, 103133)、pH8.0、500mM NaCl(Fisher, S271-500)、15mMイミダゾール(MP, 02102033-CF)、10%(v/v)グリセロール(Fisher, BP2294)、2mMβ-メルカプトエタノール(β-ME)(Sigma, M6250)、1mM PMSF(Sigma, P7626)、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(cOmplete, EDTA-free;Roche, COEDTAF-RO)に再懸濁し、その後フレンチプレスで溶解した。ライセートをNi2+-帯電Hitrap IMACカラム(Cytiva, 17524802)に流し、0~200mMのイミダゾール勾配で溶出した。ニッケルカラム後の透析は、20mM Tris、pH8.0、100mM NaCl、10%(v/v)グリセロール、5mM EDTA(Sigma、E5134)、及び10mM β-MEを含むバッファーで行い、透析したサンプルをHitrap Heparinカラム(Cytiva、28-9893-35)にロードした。溶出は100mM-2M NaCl勾配で行い、得られたサンプルを、20mM Tris、pH8.0、500mM NaCl、10mM DTT(Goldbio, DTT10)を含むバッファー中、HiLoad 16/600 Superdex200サイズ排除クロマトグラフィーカラム(Cytiva, 29-9893-35)でさらに精製した。精製したMfdにグリセロールを最終濃度が20%(v/v)になるように加え、サンプルを液体N2で瞬間凍結し、最終的に-80℃で保存した。
【0088】
gRNAの調製
Cas9 sgRNAは、Sigma Aldrichによってカスタム合成され、以前の記述16,56と同様に8%変性尿素ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Urea-PAGE)によって精製された。Cas12a gRNAは、Cas12a gRNA配列57(補足表2)を、T7プロモーターと下流のHDVリボザイム配列58を含むpUC19プラスミドにクローニングすることによって調製した(部位特異的変異誘発によって)。T7転写(IVT)テンプレートは、Q5 DNAポリメラーゼ(NEB, M0491)を用いたPCRにより、クローニングしたプラスミドから作製した。T7 RNAP(NEB, M0251)と37℃で3時間インキュベートした後、65℃で20分間インキュベートしてリボザイムの切断を促進し、3'環状ホスフェートを残すことにより、各テンプレートについてin vitro転写を行った。産物をT4 PNK(NEB, M0201)で脱リン酸化し、尿素-PAGEで精製した。
【0089】
単一分子DNAアンジッピング・テンプレート
T7A1プロモーターを含むpRL574プラスミドから、単一分子DNAアンジッピング・テンプレートを作製した。PAM-遠位Cas9テンプレートは、pRL574の+20から309bpで同定された。残りの3つのテンプレート(Cas9 PAM-近位、Cas12a PAM-近位、及びCas12a PAM-遠位)用のテンプレートを作製するために、pRL574の約60bpの領域を、NEBのプロトコルとQ5 DNAポリメラーゼを用いて部位特異的変異誘発によって改変した。それぞれのテンプレートについて、Cas9又は両方のCas12aテンプレートの+20から290bpの位置に、それぞれ63又は64bpのDNAセグメントを置換した。置換されたDNAセグメントは、関連する標的配列とPAMに加え、両側に20bpの保存されたフランキングDNAを含んでいた。
【0090】
4つのDNAアンジッピングセグメントをPCRで増幅し、ssDNAオーバーハング(TAG)を残してDraIII(NEB, R3510)で消化し、0.8%アガロースゲル電気泳動で精製した。これらのテンプレートは転写テンプレートとして、及びPAM-遠位dCas及び上流RNAPマッピングのために用いた。PAM-近位dCas及び下流PTCマッピングのために、さらに2つの逆アンジッピングセグメントを用い、PCRによって作製し、AlwNI(NEB, R0514)で消化した。これらのDNAセグメントを、接合部にCTAオーバーハングを持つ一対のdsDNAアームにそれぞれライゲーションした25,26。両方のDNAアームをpBR322(NEB, N3033)からPCRで増幅し、BamHIで消化した。一方のアームをビオチンで、他方のアームをジゴキシゲニンでそれぞれ末端標識した(ビオチン-14-dATP(Invitrogen, 19524016)及びジゴキシゲニン-11-dUTP(Roche, 11093088910)を用いた別々のKlenow反応を通じて)。各アームをBsmBi-V2(NEB, R0739S)で消化し、アニールしたアダプターオリゴにライゲーションし、ゲル精製した。最後に、アームを等モル比で互いにアニールし、アンジッピングセグメントのライゲーションに適したy-アームアダプターを作製した。
【0091】
単一分子実験のためのタンパク質複合体形成
停止転写複合体(PTC:Paused transcription complex)が、アンジッピング・テンプレート(アンジッピングセグメント中にプロモーターを含む)上にバルクで形成された。この複合体はヌクレオチド欠失によりA20の位置で停止した24,26。簡単に述べると、10nMのDNAテンプレートを、250uMのApU(Dharmacon, カスタム合成)、50uMのGTP(Roche, 11140957001)、ATP(Roche, 11140965001)及びCTP(Roche, 11140922001)、1U/μlのSuperase-in(Invitrogen, AM2694)の存在下で、転写バッファー(TB, 25mM Tris-Cl(Fisher, BP154 & BP153) pH8, 100mM KCl(P333), 4mM MgCl2(Invitrogen, AM9530G), 1mM DTT(Invitrogen, 15508-013), 3%グリセロール(Fisher, BP229), 150μg/ml AcBSA(Invitrogen, AM2614))中で、50nMのRNAPと混合した。高分解能TECマッピング実験のために、混合物はU21で複合体を休止させる1mMの3'-デオキシ-UTP(Trilink, N-3005)59も含んでいた。すべての実験において、混合物を37℃で30分間インキュベートした後、短時間氷上に置いた。混合物を1:100にすばやく希釈し、用意したサンプルチャンバーに直ちに導入した。dCas-gRNA複合体を形成するために、50nMのCas9-sgRNA又は100nMのCas12a-gRNAをRNA保存液(Invitrogen、AM7001)中で80℃にて1.5分間変性させ、その後氷上に置いた。75nMのSp-dCas9(NEB、M0652)又は300nMのAs-dCas12a(IDT、カタログ外)を1×TBとともに添加した。この混合物を37℃で10分間インキュベートした後、調製したサンプルチャンバーに導入するまで氷上に置いた。dCas-gRNA複合体を後に単一分子サンプルチャンバーに導入し、後述するようにdCasがDNAに結合できるようにした。
【0092】
単一分子実験手順
すべてのアンジッピングアッセイにおいて、DNAテザーは、既報のように24-26、洗浄したガラスカバースリップからなるサンプルチャンバー内に形成した。16.7μg/mlのTB中の抗-ジゴキシゲニン(Vector Labs, MB-7000)をチャンバーに導入し、RTで10分間インキュベートした後、10mg/mlのカゼイン(Sigma, C8654)を含む65μlのTBと交換した。RTで10分後、5pMのDNAテンプレートを導入し、RTで5分間インキュベートした後、90μlのTBと交換した。最後に、1mg/mlのカゼインを含むTB中の、0.5pMの489nmストレプトアビジンコートポリスチレンビーズを導入し、10分間、RTでインキュベートした。バッファーを80μlのTBで置換した。この結果、DNAテンプレートは、カバースリップ表面(ジオキシゲニン(dig)と抗-dig結合を介して)と、489nmのビーズ(ビオチンとストレプトアビジンの結合を介して)との間につながれた(図1a)。
【0093】
75μlの調製したdCas-gRNA複合体(25pM dCas9-sgRNA 又は 200pM dCas12a-sgRNA)を導入し、10分間インキュベートした後、チャンバーバッファーを90μlのTBで置換することにより、DNAテザー上にdCas-DNA複合体を形成させた。逆方向リピートgRNAについては、37.5pMのdCas9-sgRNAを導入した。3-bpミスマッチガイドの場合は、結合dCas9の高フラクション(>90%)を確保するために50 pMを導入した。
【0094】
ロードブロックアッセイのために、PTCとdCas-DNA複合体は、選択されたdCasターゲットに適切なアンジッピング・テンプレートを用いて、記述されたように形成された(補足表2)。遊離dCasタンパク質は、90ulのTBでサンプルチャンバーをフラッシュすることにより除去した。その後、結合した各タンパク質の占有率を、約40個のテザーをアンジッピングすることで評価した。転写再開のために、各1mMのNTP(UTP; Roche, 11140949001)と1mMのMgCl2を補充した75μlのTBバッファーをサンプルチャンバーに導入した。転写反応を135秒間追跡した後、4mMのMg2+を加えたTB 120ulをチャンバーに導入してクエンチした。Mfdトランスロカーゼ実験では、166nMのMfd(2mM ATPと4mM Mg2+含有、TB中)75ulを、サンプルチャンバーに導入した。480秒後、1mM ATPγS(Sigma-Aldrich、A1388)と5mM Mg2+を含むTB 75ulを導入して反応をクエンチした。クエンチ後、結合タンパク質を、転写反応では60、転位反応では80のテザーをアンジッピングすることによりアッセイした。
【0095】
光学トラッピング測定
我々は、表面ベースの光学トラップセットアップを用いた(図1a)60図1図4bでは、テザーは8pN/sのローディング速度(loading rate)でアンジップされた。残りの実験では、テザーは500nm/sの一定速度でアンジップされた。すべてのアッセイのデータは10kHzで取得され、平均化により1kHzにデシメーションされた。力と伸長の生データは、dsDNAとssDNAの弾性パラメータを介して、アンジップされた塩基対の数を求めるために使われた25,61。次に、結合タンパク質相互作用の位置を特定するための精度と正確さを高めるために、力-対-アンジップ塩基対数を、予想されるアンジップ理論曲線に合わせた26。データの取得と変換はCustom LabView 7ソフトウェアを用いて行い、すべての下流解析はCustom Matlab 7 Codeを用いて行った。
【0096】
DNAに結合したタンパク質のフォースピーク位置は、理論的な力(force)-対-アンジップ塩基対数から逸脱した垂直方向の力の上昇位置として同定された。転写反応後、RNAP近傍のいくつかのフォースピークで、小さいがはっきりとしたテザー短縮現象が見られた。これは、新生転写産物が露出した一本鎖DNAに部分的にアニーリングしたためと考えられた。この検出可能なシフトがあったトレースについては、このわずかな短縮をdCas9ピークの位置で補正した。
【0097】
すべての光学トラッピング測定は、23.3℃に温度制御された部屋で行われた。しかし、局所的なレーザートラップ加熱により、温度は推定25℃までわずかに上昇した62。反応もすべて室温23.3℃で行った。
【0098】
単一分子実験の転写リードスルーの計算
トランスロカーゼによるdCasのリードスルー率を正確に定量するためには、以下の点を考慮する必要がある:(1) トレースの初期状態がサンプルチャンバーごとに若干異なる可能性がある、(2) 最初にDNAと結合していたタンパク質が、非衝突メカニズムによって解離する可能性がある、(3) いくつかのトランスロカーゼが不活性であったり、衝突部位に到達できなかったりする。従って、これらのことを考慮した上でリードスルー率を計算するために、条件付き確率を用いて、追跡(chasing)後、トレースの各カテゴリーがどのように変化したかを決定した。
【0099】
追跡の前に、トレースを4つのフラクションのいずれかに分類した。あるサンプルチャンバーにおいて、A20とdCas(FA20, dCas_i)におけるPTCのフラクションは、常に支配的なフラクションであり、典型的にはトレースの90%を占め、各サンプルチャンバーについて測定された。残りのトレースは、PTCのみ、dCasのみ、又はそのどちらでもないものに分類され、そのフラクションをそれぞれ、FA20_only_i、FdCas_only_i、及びFNak_iとそれぞれ表記した。これら3つのマイナーなフラクションも、最終的に観測された様々なフラクションに寄与しており、それらの寄与を考慮する必要がある(図5)。
【0100】
さらに、TECおよび結合dCas9の小さいが有意なフラクションが、トランスロカーゼ活性の不在下で実験中に解離することが分かった。これは、TECとdCasが非衝突メカニズムで解離する確率を、それぞれPRNAP_diss及びPdCas_dissとして含めることにより説明された(図2)。
【0101】
追跡後、トレースは7つのフラクションのいずれかに分類された。まだ結合dCasに達していないTECを示すトレースは、dCasあり(FTEC_up, dCas_f)とdCasなし(FTEC_up, only_f)に分類された。dCasに到達していないTECを持つトレースは、dCas標的部位から>60bp上流にTECのフォースピークが検出されたものとして分類した。TECがdCas部位から<60bp上流で、且つdCasが存在するトレースは、dCas-RNAP衝突があったものとして分類した(FColl_f)。dCas部位から<60bp上流のTECを有するが、dCasが検出されなかったトレースは、RNAPがdCasを除去したが、その後リードスルーできなかったものとして分類された(FdCas_rem_f)。最後に、dCasが存在せず、dCas結合部位の下流にTECを持つトレース(FTEC_dn_f)、結合タンパク質のないトレース(FNak_f)、あるいはTECが検出されずdCasのみからなるトレース(FdCas_f)も分類した。
【0102】
TEC集団と結合dCasにおける不均一性により、全てのTEC複合体が結合dCasに遭遇するわけではない。我々は、RNAPが最初にA20の方向へ移動するのを逃れて、結合dCasに到達する確率を、衝突能力がある(衝突コンピテント)確率(PColl_comp)と呼ぶ。この確率は、TECが衝突不能(衝突インコンピテント)である確率、すなわち、RNAPが非衝突メカニズムにより解離しなかったと仮定した場合に、TECがA20又はdCasの上流に存在する確率から求めることができる。PColl_compは次のように計算できる:
【数1】
【0103】
TECがdCasをリードスルーできた確率を決定するために、TECに衝突能力があり、どのタンパク質も非衝突メカニズムによって解離しなかったと仮定すると、まずトレース後のネイキッドDNA(FNAK_f)とRNAP下流(FTEC_dn_f)のトレースから始め、次いでこれら2つの最終的な観察に貢献した他の経路も考慮する。これにより、PRead-throughについて以下の式が得られる:
【数2】
【0104】
同様に、TECがDNAからdCasを除去する確率は、TECがdCasを除去したことは確認できたがリードスルーできなかったトレースのフラクション(FdCas rem_f)も含めることによって求めることができる。これは、PRemovalについて以下の式をもたらす:
【数3】
【0105】
図3のMfd衝突アッセイでは、ムーブスルーの計算はほぼ同じであるが、PRNAP_dissを、トランスロケーション前に観測されたMfdの非衝突関連解離(Mfd_diss)に置き換える必要がある(図7c)。また、Mfdが衝突コンピテントであるためのカットオフは、複合体のおおよそのフットプリントに対応する<70bpと定義される26。最後に、dCas除去後、dCas結合の近くで停滞したMfdの集団は観察されず、除去効率はムーブスルー効率と同じであった。
【0106】
バルク転写アッセイ
バルク転写アッセイは、P-32標識RNAを用いて行った(尿素-PAGEゲル電気泳動で分離した)26,53,63。それぞれT7A1プロモーターとdCas結合部位を含む4つの5'-ビオチン化DNAテンプレートを、Taq Polymerase(NEB, M0273)を用いてpRL574バリアントから増幅した。テンプレートをストレプトアビジンでコートした磁気ビーズ(NEB, S1420)に100nMの濃度で結合させ、4℃で12時間回転しながら混合した。停止転写複合体(PTC)は、20nMのビーズ結合DNA、100nMのRNAP、50μMのCTP、50μMのATP、30μCiのα-32P GTP(Perkin-Elmer, BLU006H250UC)、250uMのApU、及び1U/μlのSuperase-inを組み合わせ、37℃で30分間インキュベートすることにより、上記の単一分子アッセイと同様の方法で作製した。その後、PTCを直ちにTBで3回洗浄した。磁気チューブラックを使ってPTCをプルダウンし、ペレットを洗浄してTBに再懸濁した。dCas-gRNA複合体を単一分子アッセイと同様に形成し、洗浄したPTCに加え(dCas9は40nM、dCas12aは250nM)、37℃で10分間インキュベートした。次いで、得られたPTCとdCas複合体を、遊離のdCas-gRNAを除去するために、前と同様にTBで洗浄した。最後に、結合dCas-gRNAとの衝突のためにプライムしたTECを、1mMのNTP(5mMのMgCl2を含むTB中、1μMのGreBを含む又は含まない)を添加することによって追跡した(135秒間)。反応をクエンチし、1X RNAローディング色素(NEB, B0363)及び25mM EDTA(MP, 194822)を添加することにより、転写物をTECからリリースした。磁気ビーズを、磁気ラックを用いてプルダウンした。転写物を含む上清を除去し、95℃で10分間加熱した後、Protean Xi Cell(Bio-Rad)を用いて20cmの6%尿素-PAGEゲル(55℃にプレラン)に直ちにロードした。ゲルをModel 583 gel dryer(Bio-Rad)で乾燥させ、蛍光体スクリーン(FujiFilm)に12時間露光し、Typhoon 700 Imager(Cytiva)でスキャンした。画像はImageJで線形化し、レーンプロファイルはMatlabで解析した。
【0107】
方法の例-参照のみ
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4ab
図4c
図5ab
図5cd
図6
図7ab
図7c
図8abc
図8de
図9a
図9b
図10a
図10b
図10cd
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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【国際調査報告】