(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマー
(51)【国際特許分類】
C12N 15/115 20100101AFI20241022BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
C12N9/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529755
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-16
(86)【国際出願番号】 US2022080254
(87)【国際公開番号】W WO2023092128
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】505092968
【氏名又は名称】インテグレーティッド ディーエヌエイ テクノロジーズ インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】ラップ,スーザン・マリー
(72)【発明者】
【氏名】シュブハム,シャンバヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ローズ,スコット
(72)【発明者】
【氏名】ケーグル,ブリアナ
(57)【要約】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を改善するための方法および組成物が、本明細書に記述される。一態様において、本方法および組成物は、ポリメラーゼ酵素のポリメラーゼおよびエキソヌクレアーゼ活性を可逆的に阻害するための改善されたアプタマーを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱安定性DNAポリメラーゼおよびアプタマーを含む組成物であって;前記アプタマーが、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される、組成物。
【請求項2】
前記アプタマーが、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記熱安定性DNAポリメラーゼが、Phusion DNAポリメラーゼである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記Phusion DNAポリメラーゼが、Pfu-sso7dである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択されるアプタマー。
【請求項6】
前記アプタマーが、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される、請求項5に記載のアプタマー。
【請求項7】
標的DNA配列を増幅するための方法であって、前記方法が:
(a)
(i)熱安定性DNAポリメラーゼ、
(ii)配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーであって、前記熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーが、前記熱安定性DNAポリメラーゼに結合して遮断された熱安定性DNAポリメラーゼを形成する熱安定性DNAポリメラーゼアプタマー;
(iii)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマ、
(iv)前記少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマに相補的な標的配列を含んでもまたは含まなくてもよい1つもしくは複数の試料核酸
を含む反応混合物を準備する工程と;
(b)前記少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマに相補的な標的DNA配列を含む前記試料核酸に前記少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマをハイブリダイズさせる工程と;
(c)温度を上昇させて前記遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから前記熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させる工程と;
(d)DNAポリメラーゼ活性を開始し、前記DNAポリメラーゼで前記プライマを伸長させる工程とを含む、方法。
【請求項8】
前記熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーが、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記熱安定性DNAポリメラーゼが、Phusion DNAポリメラーゼである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記Phusion DNAポリメラーゼが、Pfu-sso7dである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから前記熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させるための上昇させた温度が、45℃より高い、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから前記熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させるための上昇させた温度が、50~55℃である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記DNAポリメラーゼ活性を開始し、前記DNAポリメラーゼで前記プライマを伸長させる工程が、65℃を超える温度で実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記反応混合物が、緩衝混合物およびdNTPをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記緩衝混合物が:10mMトリス-HCl(25℃でpH8.4)、1.5mM MgCl
2、110mM KCl、0.08%(重量/容積)Brij-58、0.2%(重量/容積)PEG-8000、および0.1%(容積/容積)プロピレングリコールを含み;前記dNTPが、0.8mM dNTPを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマーを選択するための方法であって:
(a)アプタマー配列のライブラリを1つまたは複数のDNAポリメラーゼとインキュベートして、アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を形成する工程と;
(b)前記アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を単離する工程と;
(c)前記アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体からの前記アプタマー配列を増幅する工程と;
(d)前記工程(a)~(c)を何度も反復して、アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を形成する能力がある前記アプタマーを富化する工程と;
(e)前記アプタマー配列を配列決定して、DNAポリメラーゼ結合活性を有するアプタマーを同定する工程とを含む、方法。
【請求項17】
単離する工程が、厳しさの高い条件下における洗浄を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法によって作製されるDNAポリメラーゼの可逆的阻害能力があるアプタマー。
【請求項19】
前記アプタマーが、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される、請求項18に記載のアプタマー。
【請求項20】
前記アプタマーが、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される、請求項18に記載のアプタマー。
【請求項21】
熱安定性DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月22日に出願の米国特許仮出願第63/281,872号の優先権を主張し、その全体を参照により本明細書に組み込む。
配列表に対する参照
【0002】
本出願は、37 C.F.R.§1.831によるST.26 XML形式の配列表XMLと共に出願された。USPTO Patent Centerに提出された配列表XMLファイル、「013670-0011-WO01_sequence_listing_xml_21-NOV-2022.xml」は、2022年11月21日に作成され、9配列を含有し、ファイルサイズ12.1Kバイトを有し、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0003】
アプタマー遮断された熱安定性DNAポリメラーゼを使用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を改善するための方法および組成物が、本明細書に記述される。熱安定性DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマー組成物が、本明細書にさらに記述される。
【背景技術】
【0004】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、指数関数的増幅によって微量のDNAを検出するために広く使用されている技術である。PCRは、熱サイクルプロトコールの間に高温(94℃またはより高い)に耐えることになるポリメラーゼを必要とする。この目的のために最も一般的に使用されるポリメラーゼの1つは、好熱菌サーマスアクアチクスから単離されたTaq DNAポリメラーゼである。Taq DNAポリメラーゼは、室温で活性を保有するが、減少する。この活性は、より低い温度では、非特異的増幅およびプライマ二量体形成をもたらすという点で問題を含みうる。対照的に、熱サイクルの間、非特異的結合は、アニーリングがより厳しくなるので、より高い温度で減少する。反応特異性は、PCRにおける標的増幅の成功に極めて重要なので、より低温でのTaq DNAポリメラーゼの非特異的増幅は、特異性の減少および望ましくない結果をもたらしうる。
【0005】
低温でのTaq DNAポリメラーゼの活性を防止するためにいくつかの技術が利用されてきた。そのような方法の1つは、反応がより高温に達するまで反応成分(ポリメラーゼ、dNTP、プライマ、等)を物理的に分離することである。より高い温度が達成されたら、使用者は反応を始め、これら追加成分をスパイクインして、反応を進行させる必要がある。この方法は手間がかかり、汚染の可能性がある。続いての方法は、ワックス層の使用によって反応成分を分離するが、この方法は一般に広く使用されていない。
【0006】
今日使用されているより最近の方法は、酵素相互作用を使用して活性を遮断する工程を含む。この方法のために普及している手法は、Taq DNAポリメラーゼに特異的な抗体の使用による。抗体は、低温でTaqを不活性化するが、高温の初期変性工程の間にタンパク質から変性し、解離する。抗体手法の短所のいくつかは、抗体の費用、生産されたバッチにおける一貫性を維持すること、および安定した供給を維持することである。別の手法は、化学物質の無水物を使用して、ポリメラーゼのアミノ酸側鎖を可逆的に修飾することである。化学的修飾は、有効で抗体より低価格であるが、ポリメラーゼを再活性化するのにより長いインキュベーション時間およびより高い温度を必要とし、元の活性の一部分しか回復することができない。これら手法の両方とも、抗体および化学物質の無水物は、一度解離したらより低い温度で酵素を再結合することができないという点で限定されている。
【0007】
アプタマーの使用は、酵素にホットスタート能力を追加する別の方法であり、これまでに言及されてきた方法を超える改善を提示する。アプタマーは、タンパク質、ペプチド、炭水化物、小分子、毒素および生細胞などの特定の標的に選択的に結合する短いssDNAまたはssRNAオリゴヌクレオチドである。アプタマーは、らせんおよび一本鎖ループを形成する傾向があるため様々な形状を取り、したがって、結合はアプタマーの三次構造によって決定される。それらは、長い貯蔵寿命を有し、高い選択性および特異性で結合する。アプタマーは、SELEX、Systematic Evolution of Ligands through Exponential Enrichmentとして公知であるワンタイム選択プロセスによって同定される。そのような教示のために参照により本明細書に組み込む、Wangら、Biotech.Adv.37:28~50頁(2019年)を参照されたい。抗体および化学的方法とは異なり、アプタマーは、低温でその標的を再結合する能力がある。この特性の有益性の1つは、Taq DNAポリメラーゼを含有するマスター混合物を周囲温度で輸送する可能性である。輸送の間に温度が増大する場合、温度が再び低下したら、アプタマーはポリメラーゼを容易に再結合してそれを不活性化することになる。
【0008】
物理的分離方法、または抗体もしくは化学物質の無水物の使用を含む以前の研究とは異なり、本発明はアプタマーを利用し、アプタマーは、非ホットスタートWT Phusionポリメラーゼと比較してエキソヌクレアーゼとポリメラーゼ両方の阻害を明白に示す。アプタマーはインハウスで作製することができるため、費用が下がり、他の供給元への依存がなくなる。
【0009】
必要なものは、熱安定性DNAポリメラーゼの可逆的阻害用のアプタマーである。
【発明の概要】
【0010】
アプタマー構築物のための組成物および方法ならびにPCRの方法が、本明細書に記述される。酵素組成物は、熱安定性DNAポリメラーゼおよびアプタマーを含み、アプタマーは、配列番号8または配列番号9からなる群から選択される。一態様において、DNAポリメラーゼは、Phusion DNAポリメラーゼである。別の態様において、Phusion DNAポリメラーゼは、Pfu-sso7dである。
【0011】
別の実施形態において、組成物はアプタマーである。一態様においてアプタマーは、配列番号8または配列番号9からなる群から選択される。
【0012】
一実施形態において、本方法は、標的DNA配列を増幅するための方法を含む。本方法は:DNAポリメラーゼ;遮断されたDNAポリメラーゼを形成するための配列番号8または配列番号9からなる群から選択されるDNAポリメラーゼアプタマー;少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマ;標的配列を有するまたは有さない場合がある試料核酸を含む反応混合物を準備する工程と;反応混合物中で標的DNA配列にオリゴヌクレオチドプライマをハイブリダイズさせる工程と;温度を上昇させて遮断されたDNAポリメラーゼからDNAポリメラーゼアプタマーを遊離させる工程と;DNAポリメラーゼでプライマを伸長させる工程とを含む。
【0013】
本明細書に記述される一実施形態は:熱安定性DNAポリメラーゼおよびアプタマーを含む組成物であり;アプタマーは、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される。一態様において、アプタマーは、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される。別の態様において、熱安定性DNAポリメラーゼは、Phusion DNAポリメラーゼである。別の態様において、Phusion DNAポリメラーゼは、Pfu-sso7dである。
【0014】
本明細書に記述される別の実施形態は、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択されるアプタマーである。一態様において、アプタマーは、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される。
【0015】
本明細書に記述される別の実施形態は、標的DNA配列を増幅するための方法であって、前記方法は:(a)(i)熱安定性DNAポリメラーゼ、(ii)配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーであって、熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーが、熱安定性DNAポリメラーゼに結合して遮断された熱安定性DNAポリメラーゼを形成する熱安定性DNAポリメラーゼアプタマー;(iii)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマ、(iv)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマに相補的な標的配列を含んでもまたは含まなくてもよい1つもしくは複数の試料核酸を含む反応混合物を準備する工程と;(b)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマに相補的な標的DNA配列を含む試料核酸に少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマをハイブリダイズさせる工程と;(c)温度を上昇させて遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させる工程と;(d)DNAポリメラーゼ活性を開始し、DNAポリメラーゼでプライマを伸長させる工程とを含む。一態様において、熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーは、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される。別の態様において、熱安定性DNAポリメラーゼは、Phusion DNAポリメラーゼである。別の態様において、Phusion DNAポリメラーゼは、Pfu-sso7dである。別の態様において、遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させるための上昇させた温度は、45℃より高い。別の態様において、遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させるための上昇させた温度は、50~55℃である。別の態様において、DNAポリメラーゼ活性を開始し、DNAポリメラーゼでプライマを伸長させる工程は、65℃を超える温度で実行される。別の態様において、反応混合物は、緩衝混合物およびdNTPをさらに含む。別の態様において、緩衝混合物は:10mMトリス-HCl(25℃でpH8.4)、1.5mM MgCl2、110mM KCl、0.08%(重量/容積)Brij-58、0.2%(重量/容積)PEG-8000、および0.1%(容積/容積)プロピレングリコールを含み;dNTPは、0.8mM dNTPを含む。
【0016】
本明細書に記述される別の実施形態は、DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマーを選択するための方法であって、本方法は:(a)アプタマー配列のライブラリを1つまたは複数のDNAポリメラーゼとインキュベートして、アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を形成する工程と;(b)アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を単離する工程と;(c)アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体からのアプタマー配列を増幅する工程と;(d)工程(a)~(c)を何度も反復して、アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を形成する能力があるアプタマーを富化する工程と;(e)アプタマー配列を配列決定して、DNAポリメラーゼ結合活性を有するアプタマーを同定する工程とを含む。一態様において、単離工程は、厳しさの高い条件下における洗浄を含む。
【0017】
本明細書に記述される別の実施形態は、本明細書に記述される方法によって作製されるDNAポリメラーゼの可逆的阻害能力があるアプタマーである。一態様において、アプタマーは、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される。別の態様において、アプタマーは、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される。
【0018】
本明細書に記述される別の実施形態は、熱安定性DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマーの使用である。
【0019】
特許または出願ファイルは、色付きで作成された図面を少なくとも1つ含有する。カラー図面を含む本特許または特許出願公開のコピーは、請求および必要な料金の支払いにより事務局によって提供されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】比1:3(ポリメラーゼ:アプタマー)における3時間のパーセント活性を示す図である。左パネル(Exo)は、30℃で測定したエキソヌクレアーゼ阻害を示す。右パネル(Pol)は、45℃で測定したポリメラーゼ阻害を示す。Sub Only=基質。118640は、配列番号8で遮断されたポリメラーゼであり、1130048は、配列番号9で遮断されたポリメラーゼ、WT(非ホットスタート野生型ポリメラーゼ)である。
【
図2】相対的蛍光単位(RFU)によって測定した45℃(上パネル)、50℃(中パネル)または55℃(下パネル)におけるポリメラーゼからのアプタマー解離を示す図である。アッセイ条件は、データが、30秒間毎に合計5.5時間収集されたことを除いてポリメラーゼ阻害アッセイに使用した条件と同じであった。ポリメラーゼ:アプタマー比1:3(左パネル)または比1:5(右パネル)。基質のみ(短い点線)、ポリメラーゼのみ(WT、非ホットスタートポリメラーゼ、長い点線)、アプタマー118640+ポリメラーゼ(実線)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
別段の規定がない限り、本明細書に使用される全ての技術的および科学的用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。例えば、本明細書に記述される生化学、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、細胞および組織培養、およびタンパク質および核酸化学に関して使用されるあらゆる命名法ならびに技術は、当業者に周知であり、一般的に使用されている。矛盾がある場合、定義を含めて本開示が支配することになる。典型的な方法および材料について以下で記述されるが、本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料が、本明細書に記述される実施形態および態様の実施または試験において使用されうる。
【0022】
本明細書では、用語「アミノ酸」、「ヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」、「ベクター」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、当技術分野において通常の技能を有する生化学者に理解されることになる一般的な意味を有するものとする。標準的な1文字のヌクレオチド(A、C、G、T、U)および標準的な1文字のアミノ酸(A、C、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、またはY)が、本明細書において使用される。
【0023】
本明細書では、「含む(include)」、「含む(including)」、「含有する(contain)」、「含有する(containing)」、「有する(having)」、等のような用語は、「含む(comprising)」を意味する。明示的に述べられているか否かに関わらず、本開示は、本明細書に示される実施形態または要素「を含む(comprising)」、「からなる(consisting of)」、および「から本質的になる(consisting essentially of)」他の実施形態も意図するものである。
【0024】
本明細書では、本明細書において指示されない限りまたは文脈によって明らかに否定されない限り、本開示の文脈(特に特許請求の範囲)において使用される用語「a」、「an」、「the」および類似の用語は、単数と複数の両方を網羅するものと解釈されることになる。加えて、特に明記しない限り、「a」、「an」または「the」は、「1つまたは複数」を意味するものとする。
【0025】
本明細書では、用語「または」は接続的または分離的でありうる。
【0026】
本明細書では、用語「実質的に」は、より大きなまたは有意な程度を意味するが、完全ではないことを意味する。
【0027】
本明細書では、対象の1つまたは複数の値に適用される用語「約」もしくは「およそ」とは、記載される参照値と類似の、または当業者によって決定される特定の値の許容可能な誤差範囲内の値のことを指し、その値は、測定系の限界など、その値がどのように測定または決定されるかによって一部には決まることになる。一態様において、用語「約」とは、用語「約」によって修飾される値の最大±10%の変動内にある整数と分数成分の両方を含めた任意の値のことを指す。あるいは、「約」は、当技術分野での実施当たり3またはより大きい標準偏差内を意味しうる。あるいは、生物学的システムまたはプロセスに関してなど、用語「約」は、規模の1桁以内、一部の実施形態において5倍以内、および一部の実施形態において2倍以内の値を意味することができる。本明細書では、記号「~」は、「約」または「およそ」を意味する。
【0028】
本明細書に開示される範囲の全ては、別々の値として両方の端点ならびに範囲内で指定される整数および分数の全てを含む。例えば、範囲0.1~2.0は、0.1、0.2、0.3、0.4...2.0を含む。端点が、用語「約」によって修飾されている場合、指定される範囲は、端点を含めた、範囲内または3もしくはより大きい標準偏差内の任意の値の最大±10%の変動まで拡大される。
【0029】
本明細書では、用語「ハイブリダイゼーション」とは、2本の相補的な一本鎖核酸分子を組み合わせ、塩基対形成によって単一の二本鎖ハイブリッド分子を形成させるプロセスのことを指す。
【0030】
本明細書では、核酸に関する用語「標的富化」は、試料中の特定の核酸種の相対濃度を増大させることを指すものとする。
【0031】
本明細書では、用語「核酸」とは、標的および非標的配列を含有する、DNA、RNA、dsDNA、dsRNA、ssDNA、ssRNA、または任意の供給源から得られるDNA/RNA複合体もしくは配列のハイブリッドのことを指すことができる。例えば、核酸試料は、人工的供給源からもしくは化学合成によって、またはウイルス、微生物を含めた原核生物細胞もしくは真核生物細胞から得ることができる。生体試料は、ヒトを含めたもしくはヒトを除外した脊椎動物、無脊椎動物、植物、微生物、ウイルス、マイコプラズマ、真菌または古細菌でもよい。
【0032】
核酸試料は、全ゲノム配列、ゲノム配列の部分、染色体配列、ミトコンドリア配列、PCR産物、全ゲノム増幅産物またはそれだけには限らないが、cDNA配列、mRNA配列、全トランスクリプトーム配列、エクソンもしくはイントロンなど、他の増幅プロトコールの産物を含みうる。これらの例は、本明細書に記述される態様に適用可能な試料の型を限定するものと解釈されるものではない。
【0033】
アプタマー遮断されたポリメラーゼを使用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を改善するための方法および組成物が、本明細書に記述される。SELEXによって同定されたssDNA Taq DNAポリメラーゼアプタマー候補が、本明細書にさらに記述される。SELEX実験は、最大1015個の異なる標的核酸鎖のライブラリから一般に始め、その鎖は、最良の標的結合配列を富化する様々な選択圧に曝露される。これら標的配列は、PCRによって増幅され、富化されたライブラリは、次の選択サイクルにおいて使用される。ここで記述されるアプタマー候補は、抗体ホットスタートに対して低コストの代替手段を可能にし、インハウスで大量に作製されえ、長い貯蔵寿命を有する。
【0034】
Phusion DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性とエキソヌクレアーゼ活性の両方を低温で不活性化する方法および組成物が、本明細書に記述される。アプタマー選択プロセスは、低費用で、インハウスでアプタマーを作製することができ、長い貯蔵寿命を有する。温度が増大すると、アプタマーは遊離し、ポリメラーゼは活性を回復する。ポリメラーゼに、ホットスタートをもたらす抗体および化学修飾とは異なり、アプタマーは、低温で再結合する固有の能力を有する。この能力により、ホットスタートPhusion
【0035】
DNAポリメラーゼを含有するマスター混合物を周囲温度で輸送することが可能になる。また、アプタマーは、陰性試料のベースラインリードに影響を及ぼすおそれがある反応完了後の望ましくないポリメラーゼ活性を消去する。
【0036】
本明細書に記述される一実施形態は、アプタマー遮断されたDNAポリメラーゼを含む組成物である。一態様において、アプタマーは、配列番号8または配列番号9に対して90~100%の同一性を含む配列を含むヌクレオチド配列である。一態様において、ヌクレオチド配列は、配列番号8または配列番号9を含む。別の態様において、アプタマーは、Phusion DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性とエキソヌクレアーゼ活性の両方を可逆的に不活性化する。
【0037】
本明細書に記述される一実施形態は:熱安定性DNAポリメラーゼおよびアプタマーを含む組成物であって;アプタマーは、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される。一態様において、アプタマーは、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される。別の態様において、熱安定性DNAポリメラーゼは、Phusion DNAポリメラーゼである。別の態様において、Phusion DNAポリメラーゼは、Pfu-sso7dである。
【0038】
本明細書に記述される別の実施形態は、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択されるアプタマーである。一態様において、アプタマーは、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される。
【0039】
本明細書に記述される別の実施形態は、標的DNA配列を増幅するための方法であって、前記方法は:(a)(i)熱安定性DNAポリメラーゼ、(ii)配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーであって、熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーが、熱安定性DNAポリメラーゼに結合して遮断された熱安定性DNAポリメラーゼを形成する熱安定性DNAポリメラーゼアプタマー;(iii)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマ、(iv)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマに相補的な標的配列を含んでもまたは含まなくてもよい1つもしくは複数の試料核酸を含む反応混合物を準備する工程と;(b)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマに相補的な標的DNA配列を含む試料核酸に少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマをハイブリダイズさせる工程と;(c)温度を上昇させて遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させる工程と;(d)DNAポリメラーゼ活性を開始し、DNAポリメラーゼでプライマを伸長させる工程とを含む。一態様において、熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーは、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される。別の態様において、熱安定性DNAポリメラーゼは、Phusion DNAポリメラーゼである。別の態様において、Phusion DNAポリメラーゼは、Pfu-sso7dである。別の態様において、遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させるための上昇させた温度は、45℃より高い。別の態様において、遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させるための上昇させた温度は、50~55℃である。別の態様において、DNAポリメラーゼ活性を開始し、DNAポリメラーゼでプライマを伸長させる工程は、65℃を超える温度で実行される。別の態様において、反応混合物は、緩衝混合物およびdNTPをさらに含む。別の態様において、緩衝混合物は:10mMトリス-HCl(25℃でpH8.4)、1.5mM MgCl2、110mM KCl、0.08%(重量/容積)Brij-58、0.2%(重量/容積)PEG-8000、および0.1%(容積/容積)プロピレングリコールを含み;dNTPは、0.8mM dNTPを含む。
【0040】
本明細書に記述される別の実施形態は、DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマーを選択するための方法であって、方法は:(a)アプタマー配列のライブラリを1つまたは複数のDNAポリメラーゼとインキュベートして、アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を形成する工程と;(b)アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を単離する工程と;(c)アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体からのアプタマー配列を増幅する工程と;(d)工程(a)~(c)を何度も反復して、アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を形成する能力があるアプタマーを富化する工程と;(e)アプタマー配列を配列決定して、DNAポリメラーゼ結合活性を有するアプタマーを同定する工程とを含む。一態様において、単離工程は、厳しさの高い条件下における洗浄を含む。
【0041】
本明細書に記述される別の実施形態は、本明細書に記述される方法によって作製されるDNAポリメラーゼの可逆的阻害能力があるアプタマーである。一態様において、アプタマーは、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される。別の態様において、アプタマーは、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される。
【0042】
本明細書に記述される別の実施形態は、熱安定性DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマーの使用である。
【0043】
本明細書に記述される別の実施形態は、本明細書に記述される1つもしくは複数のヌクレオチド配列を製造するためのプロセスまたは手段であり、そのプロセスは:本明細書に記述されるヌクレオチド配列を含む核酸で細胞を形質転換またはトランスフェクトする工程と;細胞を成長させる工程と;本明細書に記述されるヌクレオチド配列の追加量を任意選択で単離する工程と;本明細書に記載されるヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドの発現を誘導する工程と;本明細書に記述されるヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを単離する工程とを含む。
【0044】
本明細書に記述される別の実施形態は、本明細書に記述される方法または手段によって作製されるヌクレオチド配列である。
【0045】
本明細書に記述される別の実施形態は、本明細書に記述されるヌクレオチド配列を含む研究ツールである。
【0046】
本明細書に記述される別の実施形態は、本明細書に記述されるヌクレオチド配列を含む試薬である。
【0047】
本明細書に記述される別の実施形態は、本明細書に記述される1つまたは複数のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドベクターである。
【0048】
本明細書に記述される別の実施形態は、本明細書に記述される1つもしくは複数のヌクレオチド配列または本明細書に記述されるポリヌクレオチドベクターを含む細胞である。
【0049】
本明細書に記述されるさらなる実施形態は、(a)配列番号8もしくは9のヌクレオチド配列;または(b)配列番号8もしくは9にハイブリダイズする能力があるヌクレオチド配列に対して、約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一性、より好ましくは少なくとも約90~99%もしくは100%同一性を有する配列を含むヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含む核酸分子を含む。
【0050】
配列番号8もしくは9の参照ヌクレオチド配列に対して少なくとも、例えば90~99%「同一の」ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによって、ポリヌクレオチド配列が、ポリヌクレオチド配列の機能もしくは活性に影響を及ぼすことなく参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチド当たり最大約10~1個の点突然変異、追加もしくは欠失を含みうることを除いて、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、参照配列と同一であることが意図される。
【0051】
言い換えれば、参照ヌクレオチド配列に対して約少なくとも90~99%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るには、参照配列中のヌクレオチドの10%までは、別のヌクレオチドで欠失、追加、もしくは置換されえ、または参照配列中の全ヌクレオチドの10%までのいくつかのヌクレオチドが、参照配列内に挿入されうる。参照配列のこれら突然変異は、参照ヌクレオチド配列の5’もしくは3’末端位置で、または参照配列内か参照配列範囲内の1つもしくは複数の連続する群内かいずれかのヌクレオチドの中で個々に点在するこれら末端位置間のどこかで起こりうる。
【0052】
上記したように、2つ以上のポリヌクレオチド配列は、そのパーセント同一性を決定することによって比較されうる。2つの配列のパーセント同一性は、整列させた2つの配列間の正確に一致した数を短い方の配列の長さで割り、100を掛けたものとして一般に記述される。核酸配列のおおよその整列化は、SmithおよびWaterman、Advances in Applied Mathematics 2:4 82~489頁(1981年)の局所的相同性アルゴリズムによって得られる。
【0053】
本明細書に記述されるポリヌクレオチドは、突然変異、変形、置換、追加、欠失、および本明細書に記述されるポリヌクレオチドの特定の例を含むものを含む。加えて、ポリヌクレオチドは、リボヌクレオチド(RNA)、デオキシリボヌクレオチド(DNA)またはその組合せでありえ、配列は、1つもしくは複数のリボヌクレオチド、またはデオキシリボヌクレオチドを含む。配列は、類似体DNA配列との一致を維持するためにウリジンヌクレオチドの代わりに例えばリボチミジンヌクレオチドを持つリボヌクレオチドを含むことができる。
【0054】
本明細書に記述される組成物、処方、方法、プロセスおよび適用に対する適切な修飾ならびに適合が、いかなる実施形態またはその態様の範囲からも逸脱することなく行われうることは、関連する技術の当業者に明らかであろう。提供される組成物および方法は、典型的なものであり、指定される実施形態のいかなる範囲も限定することを意図しない。本明細書に開示される様々な実施形態、態様および選択肢の全ては、任意の変形または反復で組み合わせられうる。本明細書に記述される組成物、処方、方法およびプロセスの範囲は、本明細書に記述される実施形態、態様、選択肢、例および優先度の実際のまたは潜在的な組合せを全て含む。本明細書に記述される典型的な組成物および処方は、任意の成分を除外してもよく、本明細書に開示される任意の成分を置換してもよく、または本明細書の他の場所で開示される任意の成分を含んでもよい。本明細書に開示される組成物もしくは処方のうちのいずれかの任意の成分の量と処方中の他の任意の成分の量または処方中の他の成分の全量との比は、あたかもそれらが明示的に開示されるかのようにここに開示される。参照により組み込まれた特許または刊行物のいずれかにあるいずれかの用語の意味が、本開示において使用される用語の意味と矛盾する場合、本開示中の用語または熟語の意味が支配するべきである。さらに、前述の考察は、単なる典型的な実施形態を開示し、記述するものである。本明細書に引用される特許および刊行物の全ては、その特定の教示のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
本明細書に記述される発明の様々な実施形態および態様が、以下の条項に要約される:
条項1. 熱安定性DNAポリメラーゼおよびアプタマーを含む組成物であって;
アプタマーが、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される、組成物。
条項2. アプタマーが、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される、条項1の組成物。
条項3. 熱安定性DNAポリメラーゼが、Phusion DNAポリメラーゼである、条項1または2の組成物。
条項4. Phusion DNAポリメラーゼが、Pfu-sso7dである、条項2の組成物。
条項5. 配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択されるアプタマー。
条項6. アプタマーが、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される、条項5のアプタマー。
条項7. 標的DNA配列を増幅するための方法であって、前記方法が:
(a)
(i)熱安定性DNAポリメラーゼ、
(ii)配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーであって、熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーが、熱安定性DNAポリメラーゼに結合して遮断された熱安定性DNAポリメラーゼを形成する熱安定性DNAポリメラーゼアプタマー;
(iii)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマ、
(iv)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマに相補的な標的配列を含んでもまたは含まなくてもよい1つもしくは複数の試料核酸
を含む反応混合物を準備する工程と;
(b)少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマに相補的な標的DNA配列を含む試料核酸に少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマをハイブリダイズさせる工程と;
(c)温度を上昇させて遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させる工程と;
(d)DNAポリメラーゼ活性を開始し、DNAポリメラーゼでプライマを伸長させる工程とを含む、方法。
条項8. 熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーが、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される、条項7の方法。
条項9. 熱安定性DNAポリメラーゼが、Phusion DNAポリメラーゼである、条項7または8の方法。
条項10. Phusion DNAポリメラーゼが、Pfu-sso7dである、条項9の方法。
条項11. 遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させるための上昇させた温度が、45℃より高い、条項7~10のいずれか1つの方法。
条項12. 遮断された熱安定性DNAポリメラーゼから熱安定性DNAポリメラーゼアプタマーを遊離させるための上昇させた温度が、50~55℃である、条項7~11のいずれか1つの方法。
条項13. DNAポリメラーゼ活性を開始し、DNAポリメラーゼでプライマを伸長させる工程が、65℃を超える温度で実行される、条項7~12のいずれか1つの方法。
条項14. 反応混合物が、緩衝混合物およびdNTPをさらに含む、条項7~13のいずれか1つの方法。
条項15. 緩衝混合物が:10mMトリス-HCl(25℃でpH8.4)、1.5mM MgCl2、110mM KCl、0.08%(重量/容積)Brij-58、0.2%(重量/容積)PEG-8000、および0.1%(容積/容積)プロピレングリコールを含み;dNTPが、0.8mM dNTPを含む、条項7~14のいずれか1つの方法。
条項16. DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマーを選択するための方法であって:
(a)アプタマー配列のライブラリを1つまたは複数のDNAポリメラーゼとインキュベートして、アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を形成する工程と;
(b)アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を単離する工程と;
(c)アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体からのアプタマー配列を増幅する工程と;
(d)工程(a)~(c)を何度も反復して、アプタマー-DNAポリメラーゼ複合体を形成する能力があるアプタマーを富化する工程と;
(e)アプタマー配列を配列決定して、DNAポリメラーゼ結合活性を有するアプタマーを同定する工程とを含む方法。
条項17. 単離工程が、厳しさの高い条件下における洗浄を含む、条項16の方法。
条項18. 条項16または17の方法によって作製されるDNAポリメラーゼの可逆的阻害能力があるアプタマー。
条項19. アプタマーが、配列番号8または配列番号9に対して少なくとも90%の同一性を含むヌクレオチド配列から選択される、条項18のアプタマー。
条項20. アプタマーは、配列番号8または配列番号9を含むヌクレオチド配列から選択される、条項18のアプタマー。
条項21. 熱安定性DNAポリメラーゼの可逆的阻害のためのアプタマーの使用。
【実施例】
【0056】
実施例1
Phusionアプタマー候補の選択
本例は、ポリメラーゼのポリメラーゼ活性とエキソヌクレアーゼ活性の両方を阻害するためのアプタマーの選択を実証する。
【0057】
SELEXプロセスは、一本鎖アプタマーのライブラリを、固定化した標的に結合させることからなる。結合していない配列は洗浄され、標的に結合している配列が溶出される。溶出された配列を採取したら、それらをPCRによって増幅し、次のラウンドの選択に使用するためのssDNAに変換する。選択のラウンドを反復する(一般に5~10回)。選択の最終ラウンドの後、配列を配列決定し、標的分子に対して最も大きな親和性を持つ配列の富化について分析する。
【0058】
Phusionポリメラーゼ(PFU-sso7d融合)に対する阻害性配列を選択するために、選択のための異なる2つの手法を、異なる3つの標的に対して実行した。3つの標的ポリメラーゼは、野生型(WT)、エキソヌクレアーゼ突然変異体(D215A)およびポリメラーゼ突然変異体Phusionポリメラーゼ(D405A)であった。選択のために、アプタマーライブラリを使用した。ライブラリは、定常のプライミング領域によって挟まれた40ヌクレオチドのランダムな領域を含有する複数のオリゴヌクレオチド(核酸ライブラリ)からなった(表1、配列番号1を参照のこと)。配列番号1は、2つの定常プライミング領域に挟まれる40ヌクレオチドのランダムな領域(N40)を含有する。
【0059】
(A)選択戦略1
最初に、選択は、異なる2つの標的ポリメラーゼ(WTポリメラーゼおよび不活性化されたエキソヌクレアーゼドメインを持つポリメラーゼ)を含んだ。これら標的の両方に対して、3つの異なる選択条件を使用した。
【0060】
1.選択基準1
標的を、1×HiFi緩衝液[1×HiFi IDT緩衝液#3:10mMトリス-HCl(25℃でpH8.4);1.5mM MgCl2;110mM KCl;0.08%(重量/容積)Brij-58;0.2%(重量/容積)PEG-8000;および0.1%(容積/容積)プロピレングリコール](Integrated DNA Technologies社、Coralville、IA)中で核酸ライブラリだけとインキュベートし、結合している複合体を、1×HiFi緩衝液で洗浄した。
【0061】
2.選択基準2
標的を、0.5mMデキストラン硫酸の存在下で核酸ライブラリとインキュベートし、結合している複合体を、1×HiFi緩衝液で洗浄した。
【0062】
3.選択基準3
標的を、いかなる競合剤(デキストラン)も含まない1×HiFi緩衝液中で核酸ライブラリとインキュベートしたが、結合した複合体は、2mMデキストラン硫酸で洗浄した。
【0063】
(B)選択戦略2
一方、第2の選択の場合、3つの標的ポリメラーゼを使用した(WTポリメラーゼ、不活性化されたエキソヌクレアーゼドメインを持つポリメラーゼ、および活性なエキソヌクレアーゼドメインを持つがポリメラーゼドメインが不活性化されたポリメラーゼ)。この選択の場合、複合体を、いかなる競合剤も含まないまたは洗浄においてはデキストラン硫酸を含む1×緩衝液中で標的とインキュベートした。
【0064】
上の選択戦略のそれぞれに対して、5ラウンドのSELEXを完了した。各SELEXラウンドは、ポリメラーゼ貯蔵緩衝液中でアプタマーを折り畳み、折り畳まれたアプタマーライブラリを、Phusion DNAポリメラーゼ(Integrated DNA Technologies社、Coralville、IA)と45℃で1時間インキュベートすることから開始した。結合後、ポリメラーゼ-DNAアプタマー複合体を、Dynabeads(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MD)上に固定した。選択の間の厳しさを、各ラウンドにおける洗浄を増大させ、タンパク質対DNA比を変化させることによって増強した。結合している画分を、表1に示されるプライマ(配列番号2および配列番号3)を使用して増幅し、ラムダエキソヌクレアーゼ(NEW England Biolabs、Ipswich、MA)を使用してssDNAに変換した。変換したssDNAライブラリを、次のラウンドの選択におけるプールされた核酸ライブラリの出発材料として次いで使用した。その後の増幅の各ラウンド後に、アリコートを保存した。5ラウンドの選択の終了時に、増幅された材料を、Illumina Mi-Seqプラットフォームで配列決定した。配列分析をAptaSuiteによって実行して、富化を示した配列を同定した。
【0065】
配列分析後、120配列を、5ラウンドのSELEX選択から得、ポリメラーゼのポリメラーゼ活性およびポリメラーゼエキソヌクレアーゼ活性に対する阻害について別々に試験した。
【0066】
【0067】
実施例2
ポリメラーゼ阻害アッセイ
この例は、120個の選択されたアプタマーが、ポリメラーゼ(PFU-sso7dまたはPhusion)のポリメラーゼ活性を阻害する能力を実証する。
【0068】
基質は、内部ヌクレオチドに連結されたフルオロフォアおよび5’暗消光剤を含有するオリゴヌクレオチドからなる(表1、配列番号5を参照のこと)。ネイティブコンホメーションでは、ヘアピン基質は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)による消光のため、蛍光をほとんど呈しない。活性なポリメラーゼの存在下では、プライマ(配列番号4)から伸長が起こることになり、ヘアピンが展開し、定量化可能な蛍光の増大を得られるようになる。異なるモル比(1:3、1:5、1:10、1:20および1:30)のPhusion:アプタマー複合体を試験して、ポリメラーゼおよびエキソヌクレアーゼドメインの両方に対する阻害活性について調べた。選択したアプタマーを、ポリメラーゼ貯蔵緩衝液中で、95℃で5分間最初に折り畳み、次いで4℃で10分間および25℃で10分間スナップ冷却し、次いで室温で1時間ポリメラーゼとインキュベートした。阻害を評価するために、0.2μM PE_pol_Inhib_1(配列番号5)、0.2μM PE_pol_Inhib_FOR(配列番号4)、0.8mM全dNTP、0.02U/μLホットスタートPhusionポリメラーゼ、および1×HiFi緩衝液(Integrated DNA Technologies社)を、氷上で混合した。試料は、5秒毎にデータを収集しながらLight cycler 480において3つ組で、45℃で合計3時間実行された。
【0069】
実施例3
エキソヌクレアーゼ阻害アッセイ
この例は、120個の選択されたアプタマーが、ポリメラーゼ(PFU-sso7dまたはPhusion)のエキソヌクレアーゼ活性を阻害する能力を実証する。
【0070】
基質は、相補配列(配列番号6)にハイブリダイズするフルオロフォアおよび消光剤(配列番号7)を含む短いオリゴからなる。相補配列は、ポリメラーゼのエキソヌクレアーゼドメインによって切断されるミスマッチ塩基対を含有する。切断は、フルオロフォアの放出を引き起こし、活性は、蛍光の変化によって測定されうる。阻害を評価するために、0.2μM SS2_T4DNA polミスマッチ(配列番号6)および0.2μM SS3(配列番号7)を、ポリメラーゼ阻害アッセイで使用したものと同じ折り畳みおよび緩衝液条件で使用した。試料は、5秒毎にデータを収集しながらLight cycler 480において3つ組で、45℃で合計3時間実行された。
【0071】
阻害分析から、2つの候補アプタマー(配列番号8および配列番号9)が明らかになった。ポリメラーゼ活性の90%およびエキソヌクレアーゼ活性の70%が、Seq 118640(配列番号9)によって阻害された。一方、配列1130048(配列番号8)は、ポリメラーゼおよびエキソヌクレアーゼ活性を70%阻害した(
図1を参照のこと)。阻害試験を、モル比1:3(ポリメラーゼ対アプタマー)で実行した(
図1)。パーセント阻害を、60サイクルにおけるホットスタート試料のバックグラウンドを減算した相対的蛍光単位を、60サイクルにおけるアプタマーのない試料(ポリメラーゼのみ)のバックグラウンドを減算した相対的蛍光単位で割り、100を掛けてパーセンテージ(%)に変換することによって算出した。
【0072】
図1に示すように、配列番号8および配列番号9は、45℃および30℃でポリメラーゼ活性(最高80%)およびエキソヌクレアーゼ活性(最高70%)を阻害する。
【0073】
アプタマーがDNAポリメラーゼを解離する温度は、45℃より高い。一部の態様において、解離温度は、範囲内の全ての整数を含めた45~60℃である。一部の態様において、解離温度は、範囲内の全ての整数を含めた50~55℃である。一態様において、解離温度は、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59または60℃である。
【配列表】
【国際調査報告】