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特表2024-5397502,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンアルキルアルコール誘導体及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-29
(54)【発明の名称】2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンアルキルアルコール誘導体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/28 20060101AFI20241022BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20241022BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20241022BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C07D209/28 CSP
A61K31/405
A61K33/243
A61K31/282
A61P35/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024546353
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 CN2022125293
(87)【国際公開番号】W WO2023061464
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】202111202003.X
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】524144833
【氏名又は名称】北京安健熹医藥科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】許耀
(72)【発明者】
【氏名】王海勇
(72)【発明者】
【氏名】米春来
(72)【発明者】
【氏名】梅運紅
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC14
4C086HA12
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB16
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンアルキルアルコール誘導体、該化合物を含有する医薬組成物、並びに腫瘍の予防及び治療における該化合物の使用が開示される。
[化1]
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項3】
がんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、請求項1に記載の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又は請求項2に記載の医薬組成物の使用。
【請求項4】
対象のがんを治療及び/又は予防する方法であって、請求項1に記載の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又は請求項2に記載の医薬組成物を上記対象に投与することを含む方法。
【請求項5】
がんの治療及び/又は予防に使用するための、請求項1に記載の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又は請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
上記がんが、肺がん、胃がん、食道がん及び大腸がんから選択される、請求項3に記載の使用、又は請求項4に記載の方法、又は請求項5に記載の化合物又は組成物。
【請求項7】
上記式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを含む組合せ。
【請求項8】
請求項7に記載の組合せと、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項9】
対象のがんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、請求項7に記載の組合せ、又は請求項8に記載の医薬組成物の使用。
【請求項10】
治療で同時使用、逐次使用又は個別使用をするための複合製剤としての、上記式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを含む医薬品。
【請求項11】
患者のがんを治療及び/又は予防する方法であって、上記式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを対象又は患者に同時、逐次又は個別に投与することを含む方法。
【請求項12】
対象のがんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、上記式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物との使用。
【請求項13】
対象で白金系薬物によって誘導される急性腎障害の軽減のための医薬の製造における、上記式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体の使用。
【請求項14】
対象で白金系薬物によって誘導される急性腎障害を軽減する方法であって、白金系薬物の投与と同時、逐次又は個別に上記式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体を投与することを含む方法。
【請求項15】
上記白金系薬物が、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン及びロプラチンから選択される、請求項7に記載の組合せ、請求項8に記載の医薬組成物、請求項10に記載の医薬品、請求項11に記載の方法、請求項12に記載の使用、請求項13に記載の使用、又は請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医薬分野に関するものであり、より詳細には、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンアルキルアルコール誘導体、有効成分として該化合物を含む医薬組成物、並びに腫瘍の予防及び治療における該化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの消費構造及びライフスタイルの変化、並びに生活環境の悪化に伴い、悪性腫瘍の発生率は急速に増加しており、ヒトの生命と健康を脅かす最大の脅威となっている。抗がん研究は、ライフサイエンスにおいて最も困難かつ重要な領域のうちの1つであり続けている。
【0003】
がんの標的薬物療法は素晴らしい進歩を遂げ、特に一部の肺がん及び非充実性悪性腫瘍の治療における第一選択となっている。ただし、診療には依然として主に細胞傷害性薬物が使用される。特に、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン及びロプラチンを含む白金系薬物は依然として、多くの一般的ながんにとっての一次治療薬である。しかしながら、白金系薬物は選択性に乏しく、強い副作用を有しており、とりわけ腎毒性は、最も一般的で影響が大きい副作用の1つである。シスプラチンによって引き起こされる腎毒性の発生率は28~36%であり、カルボプラチンでは27%、ネダプラチンでは10~15%である。発生率及び障害の程度は投与量に比例しており、主な臨床症状は、血清クレアチニン及び尿素窒素などの増加である。
【0004】
したがって、より安全でより効果的な新規抗腫瘍薬、特に、白金系薬物の抗腫瘍効果を高め、白金系薬物の毒性作用及び副作用を減らすこともできる抗腫瘍薬物を発見することが期待されている。
【0005】
本開示は、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンアルキルアルコール誘導体を提供するが、これは、白金系薬物の抗腫瘍効果を高め、同時に白金系薬物の毒性作用及び副作用を減らすことができ、種々の腫瘍に対する優れた治療効果を有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、式(I):
【化1】
によって表される2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンアルキルアルコール誘導体(「式(I)の化合物」、「R01」若しくは「RO1」と簡潔に称される)、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物を提供する。
【0007】
本開示の第2の態様は、第1の態様の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、及び薬学的に許容される賦形剤、及び任意選択的に他の治療薬を含む医薬組成物を提供する。
【0008】
本開示の第3の態様は、がんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、第1の態様の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又は第2の態様の医薬組成物の使用に関するものである。
【0009】
本開示の第4の態様は、対象のがんを治療及び/又は予防する方法であって、第1の態様の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又は第2の態様の医薬組成物を上記対象に投与することを含む方法に関するものである。
【0010】
本開示の第5の態様は、がんの治療及び/又は予防において使用するための、第1の態様の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又は第2の態様の医薬組成物に関するものである。
【0011】
本開示の第6の態様は、上記がんが、肺がん、胃がん、食道がん及び大腸がんから選択される、第3の態様の使用、又は第4の態様の方法、又は第5の態様の使用のための化合物又は組成物に関するものである。
【0012】
本開示の第7の態様は、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを含む組合せに関するものである。
【0013】
本開示の第8の態様は、第7の態様の組合せと、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬組成物に関するものである。
【0014】
本開示の第9の態様は、がんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における第7の態様の組合せの使用に関するものである。
【0015】
本開示の第10の態様は、治療で同時使用、逐次使用又は個別使用をするための複合製剤としての、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを含む医薬品に関するものである。
【0016】
本開示の第11の態様は、がんを治療及び/又は予防する方法であって、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを患者に同時、逐次又は個別に投与することを含む方法に関するものである。
【0017】
本開示の第12の態様は、がんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体の使用に関するものであり、上記治療は、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを患者に同時、逐次又は個別に投与することを含む。
【0018】
本開示の第13の態様は、がんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物との使用に関するものである。
【0019】
本開示の第14の態様は、がんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体の使用に関するものであり、上記医薬は、白金系薬物との併用療法で使用される。
【0020】
本開示の第15の態様は、がんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における白金系薬物の使用に関するものであり、上記医薬は、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体との併用療法で使用される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】CCK-8によって検出されたA549細胞増殖における式(I)の化合物の効果を示す。ここで、図1Aは、細胞増殖活性における24時間にわたりA549細胞と共培養された各種の濃度の式(I)の化合物の効果を示す。図1Bは、細胞増殖活性における48時間にわたりA549細胞と共培養された各種の濃度の式(I)の化合物の効果を示す。図1Cは、細胞増殖活性における72時間にわたりA549細胞と共培養された各種の濃度の式(I)の化合物の効果を示す。図1Dは、A549細胞増殖活性における各種の時間の長さにわたり共培養された各種の濃度の式(I)の化合物の効果を示す。
【0022】
図2】CCK-8によって検出されたNCI-H460細胞増殖における式(I)の化合物の効果を示す。ここで、図2Aは、細胞増殖活性における24時間にわたりNCI-H460細胞と共培養された各種の濃度の式(I)の化合物の効果を示す。図2Bは、細胞増殖活性における48時間にわたりNCI-H460細胞と共培養された各種の濃度の式(I)の化合物の効果を示す。図2Cは、細胞増殖活性における72時間にわたりNCI-H460細胞と共培養された各種の濃度の式(I)の化合物の効果を示す。図2Dは、NCI-H460細胞増殖活性における各種の時間の長さにわたり共培養された各種の濃度の式(I)の化合物の効果を示す。
【0023】
図3】EDU増殖アッセイによって検出された肺がん細胞株の増殖における式(I)の化合物の効果を示す。150μMの濃度の式(I)の化合物は、42時間にわたって細胞と共培養された後、FBS刺激ウェルのFBS濃度は20%に上昇した。細胞を更に6時間培養した後、Cell-Light EDUApollo567キットを使用して検出した。図3Aは、A549細胞の増殖における式(I)の化合物の効果を示し、図3Bは、NCI-H460細胞の増殖における式(I)の化合物の効果を示す(*P<0.05、**P<0.01)。
【0024】
図4】A549細胞及びNCI-H460細胞のコロニー形成能における各種の濃度の式(I)の化合物の効果を示す。
【0025】
図5】24時間、48時間及び72時間にわたり各種の濃度の式(I)の化合物(0μM、10μM、30μM及び90μM)で処理した後のA549細胞の細胞周期分布の代表的なフローサイトメトリプロファイルを示しており、式(I)の化合物が、A549細胞のS期の割合の減少を誘導することが分かる。
【0026】
図6】24時間、48時間及び72時間にわたり各種の濃度の式(I)の化合物(0μM、10μM、30μM及び90μM)で処理した後のNCI-H460細胞の細胞周期分布の代表的なフローサイトメトリプロファイルを示しており、式(I)の化合物が、NCI-H460細胞のS期の割合の減少を誘導することが分かる。
【0027】
図7】各種の濃度の式(I)の化合物で処理した後、フローサイトメトリで検出されたA549細胞及びNCI-H460細胞のアポトーシスの変化の散布図を示す。図7A図7B図7C及び図7Dは、72時間にわたり各種の濃度の式(I)の化合物(0μM、10μM、30μM及び90μM)で処理したA549細胞の代表的な細胞アポトーシスプロットであり、図7E図7F図7G及び図7Hは、72時間にわたり各種の濃度の式(I)の化合物(0μM、10μM、30μM及び90μM)で処理したNCI-H460細胞の代表的な細胞アポトーシスプロットであり、図7Iは、各種の濃度で式(I)の化合物と共培養された後のA549細胞の総アポトーシス細胞の割合を示し、図7Gは、各種の濃度で式(I)の化合物と共培養された後のNCI-H460細胞の総アポトーシス細胞の割合を示す(**P<0.01)。
【0028】
図8】NCI-N87腫瘍組織タンパク質のウェスタンブロット(A)及びグレースケール分析(B)の結果を示す。ヌードマウスのNCI-N87(3D_PN154004)移植腫瘍モデルでは、式(I)の化合物の溶液(2mg/kg)は、p-VEGFR2(NS)を下方制御し、VEGFR2(P<0.05)及びVEGFA(P<0.05)を下方制御し、β-カテニン(P<0.05)及びサイクリンD1(NS)を下方制御し、PCNA(NS)を上方制御し、細胞周期調節タンパク質P21(NS)を上方制御し、アポトーシス促進性Bax(P<0.01)及び抗アポトーシスタンパク質であるサバイビン(P<0.05)を下方制御した。「NS」は、薬物投与群とブランク溶媒群との間に統計学的差が存在しなかったことを示し(P>0.05)、「*」は、薬物投与群とブランク溶媒群との間に有意差が存在したことを示し(P<0.05)、「**」は、薬物投与群とブランク溶媒群との間に高い有意差が存在したことを示す(P<0.01)。
【0029】
図9】正常摂食したブランク対照群のマウスの糸球体及び尿細管が基本的には損傷を受けておらず、尿細管壁の一部の領域のみが薄くなり、わずかに損傷を受けたことを示している(写真は、PAS染色し、20倍に拡大したものである)。
【0030】
図10】モデル群のマウスにシスプラチン10mg/kgを投与した後の尿細管上皮の重度の損失を示しており、細胞の刷子縁は失われ、多数のタンパク円柱が生じた(写真は、HE染色し、20倍に拡大したものである)。
【0031】
図11】陽性対照群のマウスが、シスプラチン(10mg/kg)及びアミフォスチン(50mg/kg、シスプラチン投与の30分前に腹腔内投与)を投与した後、わずかな尿細管損傷及びぼやけた尿細管上皮縁のみを発症したことを示す(写真は、HE染色し、40倍に拡大したものである)。
【0032】
図12】アッセイ群のマウスが、シスプラチン(10mg/kg)及びR01(6mg)を投与した後、重度の尿細管損傷、上皮細胞壊死及びわずかなタンパク円柱を発症したことを示す(写真は、HE染色し、40倍に拡大したものである)。
【0033】
図13】アッセイ群のマウスが、シスプラチン(10mg/kg)及びR01(18mg)を投与した後、視認可能な上皮細胞壊死及びある程度の尿細管損傷を発症したことを示す(写真は、HE染色し、40倍に拡大したものである)。
【0034】
図14】アッセイ群のマウスが、シスプラチン(10mg/kg)及びR01(36mg)を投与した後、尿細管腔拡大、上皮細胞壊死などを含むわずかな腎障害を発症したことを示す(写真は、HE染色し、40倍に拡大したものである)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
第1の態様では、本開示は、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物を提供する。
【0036】
第2の態様では、本開示は、式(I)の化合物と、任意選択的に薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0037】
第3の態様では、本開示は、式(I)の化合物、及び薬学的に許容される賦形剤、及び任意選択的に他の治療薬を含む医薬組成物を提供する。
【0038】
第4の態様では、本開示は、式(I)の化合物と、他の治療薬と、薬学的に許容される担体、アジュバント又はビヒクルとを含むキットを提供する。
【0039】
第5の態様では、本開示は、対象のがんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における式(I)の化合物の使用を提供する。
【0040】
第6の態様では、本開示は、対象のがんを治療及び/又は予防する方法であって、式(I)の化合物、又は本開示の組成物を上記対象に投与することを含む方法を提供する。
【0041】
第7の態様では、本開示は、対象のがんの治療及び/又は予防において使用するための、式(I)の化合物、又は本開示の組成物を提供する。
【0042】
第8の態様では、本開示は、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを含む組合せを提供する。
【0043】
第9の態様では、本開示は、第8の態様の組合せと、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0044】
第10の態様では、本開示は、対象のがんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における第8の態様の組合せの使用を提供する。
【0045】
第11の態様では、本開示は、治療で同時使用、逐次使用又は個別使用をするための複合製剤としての、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを含む医薬品を提供する。
【0046】
第12の態様では、本開示は、がんを治療及び/又は予防する方法であって、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを対象又は患者に同時、逐次又は個別に投与することを含む方法を提供する。
【0047】
第13の態様では、本開示は、がんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体の使用を提供し、上記治療は、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを患者又は対象に同時、逐次又は個別に投与することを含む。
【0048】
第14の態様では、本開示は、対象のがんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物との使用を提供する。
【0049】
第15の態様では、本開示は、対象のがんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体の使用を提供し、上記医薬は、白金系薬物との併用療法で使用される。
【0050】
第16の態様では、本開示は、対象のがんの治療及び/又は予防のための医薬の製造における白金系薬物の使用を提供し、上記医薬は、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体との併用療法で使用される。
【0051】
第17の態様では、本開示は、対象で白金系薬物によって誘導される急性腎障害の軽減のための医薬品の製造における、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体の使用を提供する。
【0052】
第18の態様では、本開示は、対象で白金系薬物によって誘導される急性腎障害を軽減する方法であって、上記白金系薬物の投与と同時、逐次又は個別に式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体を投与することを含む方法を提供する。
【0053】
上記態様では、上記白金系薬物は、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン及びロプラチンから選択される。
【0054】
上記態様では、上記がんは、肺がん、胃がん、食道がん及び大腸がんから選択される。
【0055】
本開示の他の目的及び利点は、当業者には、以下の特定の実施形態、実施例及び特許請求の範囲から明らかとなる。
定義
【0056】
「がん」という用語は、以下のがん:胃がん、肺がん、食道がん及び大腸がんを含むが、これらに限定されない。より具体的には、がんとしては、HER2過剰発現転移性胃腺がん又は食道胃接合部腺がん、上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子の高感受性変異を有する非小細胞肺がん、白金含有化学療法中又は後に進行する局所進行性又は転移性扁平上皮組織型非小細胞肺がんなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本明細書で使用される「治療する」という用語は、この用語が適用される障害若しくは状態、又はかかる障害若しくは状態の1つ以上の症状の進行若しくは予防を逆転、軽減又は阻害することに関する。本明細書で使用される「治療」という名詞は、動詞である治療するという行為に関するものであり、これは先ほど定義した通りである。
【0058】
投与が企図される「対象」としては、ヒト(例えば、任意の年齢群の男性若しくは女性、例えば、小児の対象(例えば、乳児、小児、青少年)若しくは成人の対象(例えば、若年成人、中年成人若しくは高齢者))、並びに/又は非ヒト動物、例えば哺乳動物、例えば、霊長類(例えば、カニグイザル、アカゲザル)、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、げっ歯類、ネコ及び/若しくはイヌが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。いくつかの実施形態では、対象は非ヒト動物である。「ヒト」、「患者」及び「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用され得る。
【0059】
「疾患」、「障害」及び「状態」は、本明細書では互換的に使用され得る。
【0060】
特段指示しない限り、本明細書で使用される「治療」という用語は、特定の疾患、障害若しくは状態を患っている対象における効果であって、該疾患、障害若しくは状態の重症度を低下させるか、又は該疾患、障害若しくは状態の進行を遅延若しくは緩慢にする効果を含む(「治療的治療」)。この用語はまた、対象が特定の疾患、障害若しくは状態を患い始める前に起こる効果を含む(「予防的治療」)。
【0061】
一般的に、化合物の「有効量」は、標的の生物学的応答を誘発させるのに十分な量を指す。当業者に理解されるように、本開示の化合物(すなわち、式(I)の化合物)の有効量は、所望の生物学的エンドポイント、化合物の薬物動態、治療される疾患、投与様式、並びに対象の年齢、健康状態及び症状などの因子に応じて変化し得る。有効量は、治療有効量及び予防有効量を含む。
【0062】
特段指示しない限り、本明細書で使用される化合物の「治療有効量」は、疾患、障害若しくは状態を治療する過程において治療的利益をもたらすのに、又は該疾患、障害若しくは状態に関連する1つ以上の症状を遅延若しくは最小化するのに十分な量である。化合物の治療有効量は、単独で又は他の療法と組み合わせて使用される際に、疾患、障害若しくは状態の治療に治療的利益をもたらす治療薬の量を指す。「治療有効量」という用語は、治療全体を向上させるか、疾患又は状態の症状又は原因を軽減又は回避するか、又は他の治療薬の治療効果を増強する量を含み得る。
【0063】
特段指示しない限り、本明細書で使用される化合物の「予防有効量」は、疾患、障害若しくは状態を予防するのに十分な量、又は疾患、障害若しくは状態に関連する1つ以上の症状を予防するのに十分な量、又は疾患、障害若しくは状態の再発を予防するのに十分な量である。化合物の予防有効量は、単独で又は他の薬剤と組み合わせて使用される際に、疾患、障害又は状態の予防に予防的利益をもたらす治療薬の量を指す。「予防有効量」という用語は、予防全体を向上させる量、又は他の予防薬の予防効果を増強する量を含み得る。
【0064】
「組合せ」及び関連する用語は、本開示の化合物及び他の治療薬の同時投与又は逐次投与を指す。例えば、本開示の化合物は、他の治療薬と別々の単位投与量で同時若しくは逐次に投与されるか、又は他の治療薬と単一の単位投与量で同時に投与され得る。
【0065】
有機化合物が、反応するか、又は沈殿若しくは結晶化する溶媒と複合体を形成することができることは当業者によって理解されるであろう。これらの複合体は、「溶媒和物」として知られている。溶媒が水である場合、複合体は「水和物」として知られている。本開示は、本開示の化合物のすべての溶媒和物を包含する。
【0066】
「溶媒和物」という用語は、通常は加溶媒分解反応によって、溶媒と結合している化合物又はその塩の形態を指す。この物理的結合は、水素結合を含み得る。従来の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、酢酸、DMSO、THF、ジエチルエーテルなどが挙げられる。本明細書に記載の化合物は、例えば結晶形態で調製することができ、溶媒和され得る。好適な溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物が挙げられ、更に化学量論的溶媒和物と非化学量論的溶媒和物の両方を含む。いくつかの場合では、溶媒和物は、例えば1つ以上の溶媒分子が結晶固体の結晶格子へと組み込まれる場合に、単離可能となる。「溶媒和物」は、溶液相溶媒和物と単離可能な溶媒和物の両方を含む。代表的な溶媒和物としては、水和物、エタノレート及びメタノレートが挙げられる。
【0067】
「水和物」という用語は、水と結合している化合物を指す。一般には、化合物の水和物中に含有される水分子の数は、水和物の化合物分子の数に対して一定の比にある。したがって、化合物の水和物は、例えば一般式R・xHO(式中、Rは化合物であり、xは0よりも大きい数である)によって表され得る。所与の化合物は、一水和物(xは1である)、低級水和物(xは0よりも大きく、1よりも小さい数であり、例えば半水和物(R・0.5HO)である)、及び多水和物(xは1よりも大きな数であり、例えば二水和物(R・2HO)及び六水和物(R・6HO)である)などを含む、1種類を超える水和物を形成することができる。
【0068】
本開示の化合物は、非晶質又は結晶形態(多形)であり得る。更には、本開示の化合物は、1種以上の結晶形態で存在し得る。したがって、本開示は、本開示のその範囲内の化合物のすべての非晶質又は結晶形態を含む。「多形」という用語は、特定の結晶充填配置である化合物(又はその塩、水和物若しくは溶媒和物)の結晶形態を指す。すべての多形は、同じ元素組成を有する。異なる結晶形態は一般には、異なるX線回折パターン、赤外スペクトル、融点、密度、硬度、結晶形状、光学的及び電気的特性、安定性、並びに溶解度を有する。再結晶溶媒、結晶化速度、保存温度及び他の要因によって、1つの結晶形態が大半を占め得る。化合物の様々な多形は、各種の条件下での結晶化によって調製することができる。
【0069】
本開示はまた、同位体(同位体変異体)で標識されている化合物を含む。該同位体は、式(I)に記載のものと等価であるが、1個以上の原子が、自然界では一般的な原子とは異なる原子質量又は質量数を有する原子で置換されている。本開示の化合物に導入され得る同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素及び塩素の同位体、例えば、それぞれH、H、13C、11C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S、18F及び36Clが挙げられる。上記同位体及び/又は他の原子の他の同位体を含む本開示の化合物、そのプロドラッグ及び当該化合物又はプロドラッグの薬学的に許容される塩はすべて、本開示の範囲内である。放射性同位体(例えば、H及び14C)を組み込んだものなど、本開示のある特定の同位体標識化合物は、組織内の薬物及び/又は基質の分布を測定するのに使用され得る。Hであるトリチウム、及び14C同位体である炭素-14は、調製と検出が容易であることから、依然として選択肢である。更には、Hである重水素などのより重い同位体で置換されると、インビボでの半減期の延長、又は投与量要件の減少など、より高い代謝安定性による治療的利益がもたらされ得るため、いくつかの場合では選択肢であり得る。本開示の式(I)の同位体標識化合物及びそのプロドラッグは一般的には、容易に利用可能な同位体標識試薬を使用して、以下の実施例及び調製例で開示されたスキーム及び/又は手順で非同位体標識試薬を置換することで調製され得る。
【0070】
加えて、プロドラッグもまた本開示の文脈内に含まれる。本明細書で使用される「プロドラッグ」という用語は、例えば血液中での加水分解により、インビボで医学的効果を有する活性形態へと変換される化合物を指す。薬学的に許容されるプロドラッグは、T.Higuchi and V.Stella,Prodrugs as Novel Delivery Systems,A.C.S.Symposium Series,Vol.14,Edward B.Roche,ed.,Bioreversible Carriers in Drug Design,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987、及びD.Fleisher,S.Ramon and H.Barbra ‘‘Improved oral drug delivery:solubility limitations overcome by the use of prodrugs’’,Advanced Drug Delivery Reviews(1996)19(2)115-130に記載されており、これらのそれぞれは本明細書中で援用される。
【0071】
プロドラッグは、本開示の任意の共有結合した化合物であり、これらは患者への投与時に体内で親化合物を放出する。プロドラッグは典型的には、通例の操作又は体内での分解のいずれかによって修飾が切断されて親化合物が得られるように官能基を修飾することによって調製される。プロドラッグとしては例えば、ヒドロキシ基、アミノ基又はスルフヒドリル基が任意の基に結合している本開示の化合物が挙げられるが、患者への該化合物の投与時にこの結合が切断されてヒドロキシ基、アミノ基又はスルフヒドリル基が形成され得る。そのため、プロドラッグの代表的な例としては、式(I)の化合物のヒドロキシ官能基、アミノ官能基又はスルフヒドリル官能基のアセテート/アセトアミド、ホルメート/ホルムアミド及びベンゾエート/ベンズアミド誘導体が挙げられる(が、これらに限定されない)。更には、カルボン酸(-COOH)の場合には、メチルエステル及びエチルエステルなどのエステルが用いられ得る。エステルは、それ自体で活性であり得て、かつ/又はヒト体内のインビボ条件下で加水分解性であり得る。薬学的に許容され、インビボで加水分解性である好適なエステル基としては、ヒト体内で容易に分解されて親酸又はその塩を放出することができる基が挙げられる。
【0072】
本開示はまた、治療有効量の式(I)の化合物と、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬製剤を提供する。これらの形態はすべて、本開示に属する。
【0073】
本明細書で使用される「医薬の製造」という用語は、医薬の製造の任意の段階での使用に加え、医薬として本開示の成分を直接使用することを含む。
【0074】
本明細書で使用される「併用療法」という用語は、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とが、同時ではない場合には時間制限内に逐次投与され、その結果、これら両方が同じ時間制限内で治療効果を有し得る療法を指す。
【0075】
上記のように、本開示の一態様は、治療で同時使用、逐次使用又は個別使用をするための複合製剤としての、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とを含む医薬品に関するものである。
【0076】
本明細書で使用される場合、「同時に」は、2つの薬剤の同時投与を指すが、「組合せ」という用語は、2つの薬剤を、同時ではない場合には時間制限内に「逐次」投与し、その結果、これら両方が同じ時間制限内で治療効果を有するのに好適であることを指す。そのため、最初に投与された薬剤の循環半減期がどちらも治療有効量で存在することを許す限り、「逐次」投与では、一方の薬剤を投与した5分後、10分後又は約2、3時間後に他方の薬剤を投与することができる。各成分の投与間の遅延は、各成分の正確な性質、これらの相互作用、及びこれらそれぞれの半減期に応じて変化する。
【0077】
「組合せ」又は「逐次に」と比較すると、本明細書で使用される「個別に」は、一方の薬剤と他方の薬剤の投与間の明らかな間隔を指す。これはすなわち、第2の薬剤の投与時に、投与された第1の薬剤の治療有効量が血流中にもはや存在しないということである。
【0078】
別の代替的な実施形態では、個々の成分の投与と比較すると、治療量以下の式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、治療量以下の白金系薬物とがそれぞれ投与される。言い換えれば、組み合わせて投与されない場合、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とは、治療有効量で投与されない。
【0079】
代替的には、式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物とは、相乗的に相互作用する。本明細書で使用される「相乗」という用語は、組み合わせて使用される場合に、2成分による個々の効果の合計により得られる予想される効果よりも大きな効果を発揮する式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、白金系薬物との能力を指す。有利には、相乗相互作用によって、各成分がより低い投与量で患者に投与され、それによって同じ治療効果を発揮及び/又は維持しつつ、化学療法の毒性を低減することが可能となる。そのため、更に代替的な実施形態では、各成分は治療量以下で投与され得る。
医薬組成物及びキット
【0080】
別の態様では、本開示は、本開示の化合物(「有効成分」とも称される)と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、有効量の本開示の化合物を含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、治療有効量の本開示の化合物を含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、予防有効量の本開示の化合物を含む。
【0081】
本開示で使用するための薬学的に許容される賦形剤は、ともに製剤化された化合物の薬理学的活性を破壊しない非毒性担体、アジュバント又はビヒクルを指す。本開示の組成物で使用することができる薬学的に許容される担体、アジュバント又はビヒクルとしては、イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(ヒト血清タンパク質など)、緩衝物質(リン酸塩など)、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリドの混合物、水、塩又は電解質(硫酸プロタミンなど)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、シリカゲル、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール、及びラノリンが挙げられる(が、これらに限定されない)。
【0082】
本開示はキット(例えば医薬パック)も含む。提供されるキットは、本開示の化合物と、他の治療薬と、本開示の化合物及び他の治療薬を含む第1及び第2の容器(例えば、バイアル、アンプル、瓶、シリンジ及び/若しくは分散可能なパッケージ、又は他の好適な容器)とを含み得る。いくつかの実施形態では、提供されるキットはまた、本開示の化合物及び/又は他の治療薬を希釈又は懸濁させるための薬学的に許容される賦形剤を含む第3の容器を任意選択的に含み得る。いくつかの実施形態では、第1の容器中に提供される本開示の化合物、及び第2の容器中に提供される他の治療薬は、組み合わせられて単位剤形を形成する。
投与
【0083】
本開示で提供される医薬組成物は、経口投与、非経口投与、吸入投与、局所投与、直腸投与、経鼻投与、頬側投与、膣内投与、インプラントによる投与、又は他の投与手段を含むが、これらに限定されない種々の経路で投与され得る。例えば、本明細書で使用される非経口投与としては、皮下投与、皮内投与、静脈内投与、筋肉内投与、関節内投与、動脈内投与、関節滑液嚢内投与、胸骨内投与、脳室内投与、病巣内投与、及び頭蓋内注射又は注入技術が挙げられる。
【0084】
一般的に、本明細書で提供される化合物は、有効量で投与される。実際に投与される化合物の量は典型的には、治療される状態、選択される投与経路、投与される実際の化合物、個々の患者の年齢、体重及び反応、患者の症状の重症度などを含む関連する状況に照らして、医師によって決定される。
【0085】
本開示に記載の状態を予防するために使用される場合、本明細書で提供される化合物は、典型的には医師の推奨に基づき、状態を発症するリスクがある対象へ投与され、医師の監督下、上述した投与量レベルで投与される。特定の状態を発症するリスクがある対象としては、一般的には、その症状の家族歴を有する対象、又は遺伝子検査若しくはスクリーニングによってその状態を特に発症しやすいと特定された対象が挙げられる。
【0086】
本明細書で提供される医薬組成物はまた、慢性的に投与(「慢性投与」)することができる。慢性投与とは、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、3年、5年などの長期にわたる化合物又はその医薬組成物の投与を指すか、或いは対象の余命にわたってなど、無期限に連続して投与され得る。いくつかの実施形態では、慢性投与は、治療可能時間域内など、長期間、血中にて一定レベルの当該化合物を提供することを意図している。
【0087】
本開示の医薬組成物は、様々な投与方法を使用して更に送達され得る。例えば、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、例えば血中の化合物濃度を有効レベルまで上昇させるために、ボーラス注射で投与され得る。ボーラス投与量は、全身における有効成分の所望の全身レベルに応じて変化する。例えば、筋肉内又は皮下ボーラス投与によって有効成分の徐放が可能となるが、静脈に直接送達されるボーラス(例えばIV点滴)では、血中の有効成分濃度を有効レベルへと急速に上昇させる更に迅速な送達が可能となる。他の実施形態では、医薬組成物は、IV点滴などによる連続注入の形態で投与され、これによって対象体内での有効成分の定常状態濃度がもたらされ得る。更には、他の実施形態では、医薬組成物のボーラス投与量が最初に投与され、続いて連続注入が行われ得る。
【0088】
経口投与用の組成物は、バルク溶液若しくは懸濁液、又はバルク粉末の形態であり得る。だが、より一般的には、正確な投与を促進させるために、組成物は単位剤形で提供される。「単位剤形」という用語は、ヒト患者及び他の哺乳動物にとって単位投与量として好適である物理的な別個の単位であって、各単位が、好適な薬学的賦形剤とともに所望の治療効果を発揮するように計算された所定の量の有効成分を含有するものを指す。典型的な単位剤形としては、予め充填され、予め測定された液体組成物のアンプル若しくはシリンジ、又は固形組成物の場合には丸剤、錠剤、カプセル剤などが挙げられる。かかる組成物では、当該化合物は一般的には、微量成分(約0.1重量%~約50重量%、又は代替的には約1重量%~約40重量%)となり、残りは、所望の剤形を形成するのに有用な様々な担体又は賦形剤及び加工助剤である。
【0089】
経口投与については、代表的なスキームは、1日につき1~5回、特に2~4回、典型的には3回の経口投与である。これらの投与パターンを使用し、各投与によって、約0.01~約100mg/kgの本開示の化合物がもたらされ、代替的な投与ではそれぞれ、約0.1~約10mg/kg、特に約0.5~約2mg/kgがもたらされる。
【0090】
注射投与量レベルは、約1~約120時間、特に24~96時間にわたってはすべて、約0.1mg/kg/hr~少なくとも10mg/kg/hrの範囲である。十分な定常状態レベルを達成するためには、約0.1mg/kg~約10mg/kg以上の前負荷ボーラスもまた投与され得る。40~80kgのヒト患者については、最大全投与量は約2g/日を超えるべきではない。
【0091】
経口投与に好適な液体形態は、好適な水性又は非水性担体、緩衝液、懸濁剤及び分散剤、着色剤、フレーバー剤などを含み得る。固体形態は、例えば、以下の成分、又は同様の特性を有する化合物:結合剤(例えば、微結晶セルロース、トラガカントゴム若しくはゼラチン);賦形剤(例えば、デンプン若しくはラクトース);崩壊剤(例えば、アルギニン酸、Primogel若しくはトウモロコシデンプン);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム);流動化助剤(例えば、コロイド状シリカ);甘味料(例えば、スクロース若しくはサッカリン);又はフレーバー剤(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル若しくはオレンジフレーバー)のうちのいずれかを含み得る。
【0092】
注射可能な組成物は典型的には、注射可能な無菌生理食塩水若しくはリン酸緩衝食塩水、又は当技術分野で公知の他の注射可能な賦形剤に基づいている。前述のように、かかる組成物では、有効成分は典型的には微量成分(多くの場合、約0.05~10重量%)となり、残りは注射可能な賦形剤などである。
【0093】
経皮組成物は典型的には、有効成分を含有する局所用軟膏又はクリームとして製剤化される。軟膏として製剤化された場合には、有効成分は典型的には、パラフィン又は水混和性軟膏基剤と混合される。代替的には、有効成分は、水中油型クリーム基剤などとともにクリームとして製剤化され得る。かかる経皮製剤は当技術分野で周知であり、一般には、有効成分又は製剤が安定して皮膚浸透するのを増強するための他の成分を含む。かかる公知の経皮製剤及び成分はすべて、本開示の範囲内に含まれる。
【0094】
本開示の化合物はまた、経皮デバイスで投与され得る。そのため、経皮投与は、リザーバ若しくは多孔質膜型のパッチ、又は複数の固体基材のパッチを使用して達成され得る。
【0095】
経口投与、注射又は局所投与用の組成物の上記成分は、代表的なものにすぎない。他の材料及び加工技術などは、Section 8 of Remington’s Pharmaceutical Sciences,17th edition,1985,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvaniaに記載されており、これは本明細書中で援用される。
【0096】
本開示の化合物はまた、持続放出形態で、又は持続放出送達系から投与され得る。代表的な持続放出材の説明は、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに見出され得る。
治療
【0097】
したがって、本開示の化合物は、抗腫瘍薬としての価値を有する。特に、本開示の化合物は、固体及び/又は液体腫瘍疾患の封じ込め及び/又は治療における抗増殖薬、アポトーシス剤及び/又は抗侵襲薬としての価値を有する。特に、本開示の化合物は、胃がん、肺がんなどの予防又は治療に有用であることが期待される。
【0098】
患者のがんを治療するのに有用な抗がん効果としては、抗腫瘍効果、奏効率、疾患進行時間及び生存率が挙げられるが、これらに限定されない。本開示の治療方法の抗腫瘍効果としては、腫瘍増殖の阻害、腫瘍増殖の遅延、腫瘍退縮、腫瘍縮小、治療中止後の腫瘍再生の延長、及び疾患進行の緩慢化が挙げられるが、これらに限定されない。抗がん効果は、予防的治療だけでなく、既存の疾患の治療も含む。
【0099】
本開示の化合物の有効量は一般的には、患者体重の1キログラムあたり0.01mg~50mgの化合物、代替的には患者体重の1キログラムあたり0.1mg~25mgの化合物の平均1日投与量であり、単回用量又は複数回用量で投与される。一般的には、本開示の化合物は、患者あたり約1mg~約3500mg、代替的には患者あたり10mg~1000mgの1日投与量範囲でかかる治療の必要がある患者に投与され得る。例えば、各患者の1日投与量は、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、120mg、150mg、160mg、180mg、200mg、240mg、250mg、300mg、350mg、360mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mg又は1000mgであり得る。これは、1日に1回以上、週に(若しくは数日間の間隔で)1回以上、又は断続的なスケジュールで投与され得る。例えば、化合物は、毎週(例えば、毎週月曜日)、連続して、又は数週間にわたって(4~10週など)1日あたり1回以上投与され得る。代替的には、化合物は数日間(例えば2~10日間)にわたって毎日投与された後、化合物が数日間(例えば1~30日間)投与されなくともよく、サイクルは連続して、又は所与の回数(4~10サイクルなど)で繰り返されてもよい。例えば、本発明の化合物は、5日間毎日投与され、続けて9日間休薬した後、5日間毎日投与され、続けて9日間休薬するなどされ、このサイクルを連続して、又は合計4~10回繰り返してもよい。
【0100】
本開示の式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と組み合わせて使用される白金系薬物は、診療での一般的な投与量又は推奨投与量であることが推奨される。例えば、シスプラチンの一般的な投与量が50~100mg/mであるか、又は毎日15~20mg/mの静脈内注入が5日間継続され、どちらもが3~4週間にわたって繰り返し投与された。カルボプラチンについては、正常な腎機能を有する患者の推奨投与量が400mg/mであり、リスク因子を有する患者については、初回投与量を20~25%減少させることが推奨され、65歳を超える患者については、初回投与量及びその後の治療投与量が、患者の健康状態に応じて調整されるべきである。ネダプラチンについては、治療の次過程前に3~4週間の間隔を設けて、用量あたり80~100mg/mが投与される。オキサリプラチンについては、推奨投与量が単回用量として130mg/mであって、大きな毒性が存在しない状態で3週間(21日間)ごとに投与されるか、又は85mg/mであって、2週間ごとに繰り返される。ロバプラチンについては、推奨投与量が単回用量として50mg/mであり、次の使用前に血中毒性又は他の臨床的副作用からの完全回復が必要とされる。推奨される投与間隔は3週間である。副作用からの回復が緩慢である場合、投与間隔は延長することができる。
【0101】
本開示の式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体が白金系薬物と組み合わせて使用される場合、個々の成分を投与することと比較すると、治療量以下の式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体と、治療量以下の白金系薬物とが、それぞれ投与されてもよい。
【実施例
【0102】
本明細書で使用される材料又は試薬は、市販のものであるか、又は当技術分野で一般的に知られている合成方法によって調製される。
実施例1:式(I)の化合物の合成
【化2】
【0103】
無水ジクロロメタン(40mL)、6-(10-ヒドロキシデシル)-2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン(3.38g、0.01mol)及び濃硫酸(0.6mL)を丸底フラスコに入れ、混合物を撹拌して溶液を得た。次いで、4Aモレキュラーシーブ(2.5g)及び2-メチル-1-(4-クロロベンゾイル)-5-メトキシ-1H-インドール-3-酢酸(3.57g、0.01mol)を加え、10時間還流した後、濾過した。濾液を、適当な量の炭酸ナトリウム水溶液と飽和食塩水でそれぞれ洗浄し、次いで中性になるまで水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮して、黒色の粗生成物を得た。これをカラムクロマトグラフィーで精製して、3.98gの褐色の固体(収率59.7%及びHPLC純度97.9%)を得た。
【0104】
1H-NMR (400 MHz, d6DMSO): δ 7.64-7.67(d, 2H), 7.45-7.48(d, 2H), 6.96 (s, 1H), 6.85-6.87(d, 1H), 6.65-6.67(d, 1H), 4.07-4.11(t, 2H), 3.98 (s, 6H), 3.83 (s, 3H), 3.66 (s, 2H), 2.42-2.46(t, 2H), 2.39 (s, 3H), 2.0 (s, 3H), 1.58-1.64(m, 2H), 1.24-1.40(m, 14H).
【0105】
ESI-MS: 678.2 (M+1), 700.2 (M+23).
実施例2:腫瘍細胞増殖、腫瘍細胞周期及びアポトーシスにおける式(I)の化合物の効果に関する研究
【0106】
1.主な装置及び機器
【表1】
【0107】
2.試験試料及び細胞株
【0108】
ヒト肺がん細胞株A549とNCI-H460との両方は、Tongji HospitalのOncology Department Laboratoryのセルバンクからのものであった。
【0109】
3.主なアッセイ試薬
【表2】
【0110】
4.関連溶液は、10%BSA(アルブミンウシv1gを超純水で10mLに希釈した)、TBST(10xTBS50mL及びTween20 500μLを超純水で500mLに希釈した)、細胞凍結保存溶液(RPMI-1640培地28mL、FBS 8mL及びDMSO 4mLから調製し、4℃で保存)並びに細胞溶解溶液(500μM HEPES1mL、3M塩化ナトリウム500μL、500μM EDTA20μL、500μM EGTA20μL、20%トリトンX-100 250μL及びddHO7.7mLを混合し、混合物を各管に1mLずつ分け、-20℃で保存した。1M DTT(使用時に添加)1:1000、100μM PMSF(使用時に添加)1:100、及び25xカクテル(使用時に添加)1:25)を含んでいた。
【0111】
式(I)の化合物の保存溶液:式(I)の化合物は有機溶媒に容易に溶解するため、溶媒としてDMSO及びイソプロピルアルコールを3:7の比率で選択した。DMSO及びイソプロピルアルコールを含む容器を、生物学的安全キャビネットで開封した。15mL遠心管を取り、DMSO3mL及びイソプロピルアルコール7mLを加えて、混合溶媒を作製した。式(I)の化合物の分子量は678.22g/molである。式(I)の化合物の原薬40.69mgを秤量し、混合溶媒4mLを加えた。ピペッティングによって混合物を十分に混合した。薬物保存溶液は、換算すると15000μMの濃度を有し、これを1.5mLEP管に分けた。これらに対して、マーカを用いて名称、濃度及び時間をマーキングし、4℃で保存した。使用時に必要とされる濃度に従って溶液を希釈した。
【0112】
5.アッセイ方法
【0113】
細胞培養
【0114】
(1)細胞回収
【0115】
前もって電動恒温水槽の電源を入れ、温度を37℃に設定した。温度が設定温度に上昇したら、-80℃の冷凍庫から細胞凍結保存管を取り出し、37℃の水槽に入れた。凍結保存管を穏やかに振とうして、細胞を素早く融解させた。細胞凍結保存管を、速度を1200rpmに設定した低速遠心分離機へと素早く投入し、5分間遠心分離にかけた。遠心分離後、75%アルコールを凍結保存管の外側に噴霧した。凍結保存管を生物学的安全キャビネットで開封し、上清を真空吸引器で吸引した。新鮮な完全培地1mLを、ピペットを使用して凍結保存管へとピペッティングして細胞を再懸濁させた。ピペッティングによる混合後、細胞懸濁液をT25細胞培養フラスコ、又は直径6cmの培養皿に移し、次いで新鮮な培地3mLを加えた。細胞を37℃、5%COのインキュベータにて培養した。回収した細胞の接着及び増殖状態は翌日観察する必要があったが、必要に応じて細胞培地を変更した。
【0116】
(2)細胞培地の交換
【0117】
完全培地、PBSなどを37℃の水浴に入れて、前もって数分間温め、次いで75%アルコールを外側に噴霧した後に生物学的安全キャビネットに入れた。細胞を含有する6cm培養皿をインキュベータから取り出し、倒立型生物顕微鏡下で細胞状態を観察した。真空吸引器の電源を入れ、培養皿中の培地を吸引した。PBSを用いて培養皿を1、2回洗浄し、PBSを廃棄した。完全培地3mLを培養皿に加え、これを37℃、5%COのインキュベータに入れて培養を継続した。
【0118】
(3)細胞継代及び凍結保存
【0119】
倒立型生物顕微鏡下で細胞増殖状態を観察した。細胞が培養フラスコの底面積の80%~90%に増殖した場合、細胞継代を必要とした。培養フラスコを生物学的安全キャビネットに入れた。真空吸引器の電源を入れ、真空吸引器を用いて古い培地を吸引した。適当な量のPBSをピペットを用いて穏やかに加えて、細胞を1、2回すすぎ、PBSを廃棄した。適当な量のトリプシンを培養フラスコの底部に加え、培養フラスコを穏やかに振とうして、トリプシンで細胞表面を均一に覆い、37℃のインキュベータに戻した。なお、各種の細胞の消化時間はわずかに異なっており、一般的には2~3分である。細胞が顕微鏡下で観察した際に解離し、丸形及び半透明であり、培養フラスコから脱着して流動する場合、トリプシン量の5~8倍の完全培地を加えて消化を終了させた。ピペットを用いて消化細胞をゆっくりとピペッティングして、消化細胞を単一細胞懸濁液に分散させ、これを4mL遠心管に移して、1500rpmで5分間遠心分離にかけた。上清を廃棄し、完全培地を加えて細胞を再懸濁させた。適当な量の細胞懸濁液を必要に応じて培養フラスコに保持し、残った細胞懸濁液をクライオチューブに加えた。完全培地を培養フラスコに3mLまで加えて培養を継続した。1:1の容量比で凍結保存溶液をクライオチューブに加え、次いでこれを-80℃冷凍庫の凍結保存ボックスに入れ、細胞シートに更新情報を記録した。
【0120】
CCK-8アッセイ
【0121】
(1)対数増殖期の細胞を採取し、消化して、細胞懸濁液を作製した。細胞懸濁液20μLをピペットを用いて採取し、細胞計数のためのCountStar使い捨て細胞計数プレートに加え、計数結果を記録した。細胞濃度を30,000~40,000細胞/mLに調整した(注:各種の細胞は異なる増殖速度を有するため、各ウェルの細胞数はわずかに異なっていた)。
【0122】
(2)96ウェルプレートを採取した。培養プレートの最も外側の円のウェルは蒸発及び乾燥しやすく、不正確な容量を生じて誤差を増大させるため、PBS100μLを最も外側の円のウェルに加え、これらはアッセイウェルとしては使用しなかった。
【0123】
(3)調整した細胞懸濁液を、各ウェルに100μLとして96ウェルプレートに加え、各ウェルで約3000~4000個の細胞が得られた。細胞培養のためにプレートを5%COの条件下で37℃のインキュベータに入れ、細胞が壁に付着したら薬物を加えた。
【0124】
(4)薬物希釈。濃度勾配を0μM、10μM、50μM、100μM及び200μMとして設定し、各濃度について三重反復とした。加えて、細胞を含まず、培地と薬物のみを含有するブランク対照ウェルも設定した。
【0125】
(5)プレートをそれぞれ24時間、48時間及び72時間にわたってインキュベータでインキュベートした。設定時点に到達した後、96ウェルプレートをインキュベータから取り出し、気泡を避けるよう注意しながらCCK-8試薬10μLを各ウェルに加えた。プレートを振とうして均一に混合し、インキュベータに戻して更に2時間にわたって培養した。
【0126】
(6)吸光度を検出するために、96ウェルプレートを化学発光装置に入れ、450nmでの吸光度値(OD値)を検出した。データを記録した。細胞生存率=(アッセイウェルのOD値-ブランク対照ウェルのOD値)/(溶媒対照ウェルのOD値-ブランク対照ウェルのOD値)×100%。
【0127】
(7)プロットするためにデータをGraphPad Prism5にインポートした。IC50値を計算し、曲線を引いた。
【0128】
細胞EDU増殖アッセイ
【0129】
(1)対数増殖期の細胞を採取し、24ウェル培養プレートにウェルあたり1×10個の細胞として播種した。培養プレートを5%COの条件下、37℃のインキュベータで培養し、細胞が壁に付着したら、アッセイ設計に従い薬物を加えた。
【0130】
(2)薬物処理後、Cell-Light EDU Apollo567キットを用意した。キットの試薬Aを、1640完全培地で1000:1の比率で希釈して、50μM EDU培地を調製した。このうち300μLを24ウェルプレートの各ウェルに配置した。24ウェルプレートをインキュベータから取り出し、元の培地を真空吸引器を用いて吸引した。EDU培地300μLを各ウェルに加え、プレートを37℃インキュベータに戻して2時間にわたって培養を継続した。培地を廃棄した。
【0131】
(3)PBS約300μLを各ウェルに加えて、細胞を振とう機で洗浄した。細胞を各回5分間、合計で2回洗浄した。目的は、DNAに組み込まれなかったEDUを溶出することであった。
【0132】
(4)4%パラホルムアルデヒド固定液150μLを各ウェルに加え、室温で30分間インキュベートしてから、固定液を廃棄した。
【0133】
(5)2mg/mLグリシン150μLを各ウェルに加え、振とう機上で5分間インキュベートした。次いで、グリシン溶液を廃棄した(このステップを使用して、余分なアルデヒド基を中和した)。
【0134】
(6)PBS200μLを各ウェルに加えて、振とう機上で5分間洗浄してから、PBSを廃棄した。
【0135】
(7)PBS中0.5%トリトン-X100 150μLを各ウェルに加え、振とう機上で10分間インキュベートした。PBSを加えて、5分間にわたって1回洗浄した。
【0136】
(8)Apollo染色反応溶液の調製。試薬B140μL、試薬C28μL、試薬D9.3μL、試薬E25mg及び脱イオン水2400μLを採取し、完全に混合した。調製したApollo染色反応溶液200μLを各ウェルに加え、振とう機上で室温で30分間、暗所にてインキュベートした。次いで、染色反応溶液を廃棄した。
【0137】
(9)0.5%トリトン-X100 150μLを各ウェルに加えて、脱水振とう機上で2~3回、各回10分間洗浄し、透過液を廃棄した。メタノール150μLを各ウェルに加えて、1、2回、各回5分間洗浄し、メタノールを廃棄した。次いでPBSを加えて、5分間にわたって1回洗浄した。
【0138】
(10)試薬Fを超純水で100:1の比率にて希釈して、適当な量の核染色用1xHoechst33342反応溶液を調製した。
【0139】
(11)1xHoechst33342反応溶液120μLを各ウェルに加え、振とう機上で室温で30分間、暗所にてインキュベートした。染色溶液を廃棄した。
【0140】
(12)PBS150μLを各ウェルに加えて1回洗浄し、PBSを廃棄した。次いでPBS200μLを加え、プレートを倒立型蛍光顕微鏡に設置して写真を撮影した。200x視野下で各ウェルにつき6視野を撮影し、100個の細胞中のEDU陽性細胞の割合を計算した。結果をGraphPad Prism5ソフトウェアにインポートして、ヒストグラムを作成した。
【0141】
コロニー形成アッセイ
【0142】
(1)細胞状態を顕微鏡下で観察した。対数増殖期の細胞を選択し、消化して、細胞懸濁液を作製した。細胞懸濁液20μLをピペットを用いて採取し、細胞計数のためのCountStar使い捨て細胞計数プレートに加え、計数結果を記録した。
【0143】
(2)コロニー形成アッセイのために6ウェル培養プレートを使用した。約1,000個の細胞を各ウェルに播種し、完全培地を加えて、ウェルあたり2.5mLの容量とした。細胞を8の字パターンで振とうして、細胞を均一に分散させた。翌日、各種の濃度(0μM、50μM及び150μM)の式(I)の化合物を、アッセイ計画に従って対応するウェルに加え、37℃、5%COのインキュベータで約2週間インキュベートした。視認可能なコロニーが現れたら、培養を終了した。
【0144】
(3)培養プレートを取り出し、古い培地を廃棄した。細胞をPBSを用いて穏やかに2回洗浄した。
【0145】
(4)4%パラホルムアルデヒド固定液500μLを各ウェルに加えて、細胞を室温で15分間固定し、次いで固定液を廃棄した。
【0146】
(5)0.1%クリスタルバイオレット溶液500μLを各ウェルに加え、細胞を室温で少なくとも15分間染色した。クリスタルバイオレットを廃棄し、染色溶液を流水でゆっくりと洗い流した。プレートを反転させて室温で乾燥させ、写真を撮影した。
【0147】
細胞周期検出のためのフローサイトメトリ
【0148】
(1)細胞を6ウェルプレートに播種した。細胞の約50%が付着して融合したら、0μM、10μM、30μM及び90μMの濃度の式(I)の化合物をそれぞれ加えた。プレートを37℃、5%COのインキュベータに入れて培養を継続し、3つの時点をそれぞれ24時間、48時間及び72時間と設定した。
【0149】
(2)指定の時点に到達した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出し、生物学的安全キャビネットに入れた。4mL遠心管を取り出してマーキングした。各ウェルの上清をピペッティングで取り出し、対応する4mL遠心管に加えた。細胞をPBSを用いて穏やかに洗浄し、PBSを対応する遠心管に加えた。適当な量のトリプシンを各ウェルに加えて、細胞を消化した。細胞が適度に消化されたら、遠心管からの古い培地を対応するウェルに加えた。細胞をピペットを用いて穏やかにピペッティングして単一細胞懸濁液を形成し、これをピペッティングで元の遠心管に戻した。管を直ちに1500rpmで5分間遠心分離にかけた。次いで、上清を廃棄し、沈殿物を保持した。
【0150】
(3)予め冷却したPBS2mLを遠心管に加え、1500rpmで5分間再び遠心分離にかけた。上清を廃棄し、細胞片を除去した。
【0151】
(4)細胞をピペッティングしながら75%エタノール1mLを加えて、細胞を可能な限り単一になるようにした。次いで、細胞を4℃で一晩固定するか、又は長期保存(1週間保存可能)のために-20℃で保存した。
【0152】
(5)固定された細胞を取り出し、1000rpmで5分間遠心分離にかけた。エタノールを廃棄し、予め冷却したPBSを加えて細胞を洗浄した。次いで、細胞を1000rpmで5分間遠心分離にかけて、細胞に残留するエタノールを除去した。
【0153】
(6)Wuhan Promoter Biology Co.,Ltd.製の細胞周期検出キットを使用した。RNaseA100μLを加え、37℃の水浴で30分間インキュベートした。
【0154】
(7)PI400μLを加え、十分に混合し、4℃で30分間、暗所にてインキュベートした。
【0155】
(8)アップフローサイトメトリで細胞周期を検出した。
【0156】
アポトーシス検出のためのフローサイトメトリ
【0157】
(1)細胞を6ウェルプレートに播種した。細胞増殖密度が適当となったら、4つの濃度(0μM、10μM、30μM及び90μM)の式(I)の化合物を加え、37℃、5%COのインキュベータに入れて、72時間培養を継続した。
【0158】
(2)指定の時点に到達した後、細胞培養プレートをインキュベータから取り出し、生物学的安全キャビネットに入れた。4mL遠心管を取り出してマーキングした。6ウェルプレートの上清をピペッティングで取り出し、対応する4mL遠心管に加えた。細胞をPBSを用いて穏やかに洗浄し、PBSを対応する遠心管に加えた。適当な量のトリプシンを各ウェルに加えて、細胞を消化した。細胞が適度に消化されたら、遠心管の液体を対応するウェルに加えた。細胞をピペットを用いて穏やかにピペッティングして細胞を分散させ、これをピペッティングで元の遠心管に戻した。管を直ちに1500rpmで5分間遠心分離にかけた。次いで、上清を廃棄し、沈殿物を保持した。
【0159】
(3)PBS2mLを遠心管に加え、これを1000rpmで5分間再び遠心分離にかけた。上清を廃棄した。このステップを再度繰り返した。
【0160】
(4)細胞を1xBinding緩衝液を用いて懸濁させ、細胞濃度を約1×10細胞/mLに調整した。細胞懸濁液100μLをフローサイトメトリ管に加え、PI5μL及びアネキシンV-FITC5μLを各管に加えた。細胞を穏やかにボルテックスにかけ、室温で15分間、暗所にてインキュベートした。
【0161】
(5)1xBinding緩衝液400μLを各管に更に加え、フローサイトメータ上で検出を行った(検出は、1時間以内に完了させる必要があった)。
【0162】
6.結果
【0163】
式(I)の化合物は、肺がん細胞の増殖を阻害した。
【0164】
細胞増殖活性における、24時間、48時間及び72時間にわたってA549細胞及びNCI-H460細胞と共培養した各種の濃度(0μM、10μM、50μM、100μM及び200μM)の式(I)の化合物の効果を、CCK-8方法で検出した。結果は、24時間、48時間及び72時間にわたるA549細胞のIC50値が、それぞれ213.2±1.22μM(図1A)、55.5±1.84μM(図1B)及び39.7±0.98μM(図1C)であることを示した。式(I)の化合物によるA549細胞の阻害は、時間-濃度依存的であった。これはすなわち、式(I)の化合物の濃度が上昇するにつれて、阻害効果が増強し、時間が延長するにつれて、阻害効果がまた増強した。
【0165】
式(I)の化合物はまた、NCI-H460細胞の増殖においても阻害効果を有していた。結果は、24時間、48時間及び72時間にわたるNCI-H460細胞のIC50値が、それぞれ125.3±1.01μM(図2A)、66.4±0.87μM(図2B)及び48.5±1.12μM(図2C)であることを示した。式(I)の化合物によるNCI-H460細胞増殖の阻害もまた、時間-濃度依存的であった。これはすなわち、濃度が上昇し、作用時間が延長するにつれて、阻害効果が増強した。
【0166】
DNA合成の直接検出は、細胞増殖を検出するための最も正確な方法の1つである。EDUは、DNA複製中に新しく合成されたDNA鎖に組み込まれ得るが、蛍光基が、「クリック」反応を介して、EDUを含有する新しく合成されたDNAへと標識され、その結果、蛍光を検出することで、細胞の増殖を知ることができる。A549細胞及びNCI-H460細胞を、150μMの濃度の式(I)の化合物で48時間にわたって処理した。細胞増殖アッセイから、式(I)の化合物で処理した群では、CTL(式(I)の化合物が0μMであった)と比較して、増殖細胞の割合が著しく低下しており、その差は統計学的に有意であった(図3、P<0.01)。FBS刺激によって細胞増殖が促進され得るが、式(I)の化合物は、高血清濃度の刺激条件によって引き起こされる細胞増殖効果を阻害することができる(P<0.05)。
【0167】
式(I)の化合物は、肺がん細胞のコロニー形成能を阻害した。
【0168】
細胞のコロニー形成能における式(I)の化合物の効果を明らかにするために、A549細胞及びNCI-H460細胞を6ウェルプレートに播種した。次いで、3つの異なる濃度(0μM、50μM及び150μM)の式(I)の化合物を含有する培地を細胞と共培養した。図4に示されるように、0μMと比較すると、薬物濃度が上昇するにつれ、2つの肺がん細胞のコロニー形成能は濃度依存的に著しく減少した(図4)。
【0169】
式(I)の化合物は、肺がん細胞のS期の割合を低下させた。
【0170】
前述のように、式(I)の化合物は、濃度依存的に肺がん細胞の増殖を効果的に阻害した。細胞増殖を阻害した理由を更に調査するために、フローサイトメトリ技術を使用して、式(I)の化合物で処理した肺がん細胞株の細胞周期分布を検出した。A549細胞及びNCI-H460細胞を、それぞれ24時間、48時間及び72時間にわたり、各種の濃度(0μM、10μM、30μM及び90μM)の式(I)の化合物を含有する培地で処理した。75%エタノールで固定した後、細胞をPIで染色し、フローサイトメータで分析した。図5に示されるように、A549細胞では、0μM群と比較すると、式(I)の化合物は、投与量依存的にA549細胞のS期の割合を低下させた。具体的には、式(I)の化合物での処理の24時間後、0μM、10μM、30μM及び90μM群の細胞のS期の割合は、それぞれ31.91%、22.94%、12.52%及び3.92%であった。式(I)の化合物での処理の48時間後、0μM、10μM、30μM及び90μM群の細胞のS期の割合は、それぞれ25.09%、24.73%、15.96%及び4.37%であった。式(I)の化合物での処理の72時間後、0μM、10μM、30μM及び90μM群の細胞のS期の割合は、それぞれ20.64%、19.77%、10.63%及び5.42%であった。
【0171】
NCI-H460細胞の結果は、A549細胞の結果と類似していた。結果を図6に示す。式(I)の化合物でのNCI-H460細胞の処理の24時間後、0μM、10μM、30μM及び90μM群のS期細胞の割合は、それぞれ23.57%、26.03%、13.15%及び9.76%であった。式(I)の化合物での処理の48時間後、0μM、10μM、30μM及び90μM群のS期細胞の割合は、それぞれ29.09%、29.62%、16.02%及び0.97%であった。式(I)の化合物での処理の72時間後、0μM、10μM、30μM及び90μM群のS期細胞の割合は、それぞれ25.33%、21.61%、20.98%及び3.36%であった。
【0172】
式(I)の化合物は、肺がん細胞のアポトーシスを促進した。
【0173】
アポトーシス染色には、アネキシンV-FITCとPI二重染色法を使用した。FL1チャネルをFITC用に選択し、FL2チャネルをPI用に選択した。フローサイトメトリ分析を使用して、細胞アポトーシスを検出した。Q1、Q2、Q3及びQ4は、それぞれ死細胞、後期アポトーシス細胞、早期アポトーシス細胞及び正常細胞を表すものであった(図7)。72時間にわたり、各種の濃度(0μM、10μM、30μM及び90μM)の式(I)の化合物でA549細胞及びNCI-H460細胞を処理した後、フローサイトメトリの結果は以下の通りである。表1及び表2は、各種の濃度の式(I)の化合物でA549細胞及びNCI-H460細胞を処理した後の死細胞、後期アポトーシス細胞、早期アポトーシス細胞及び正常細胞の割合をそれぞれ示す。表1及び表2の結果に示されるように、式(I)の化合物の濃度が低い(10μM、30μM)場合、A549細胞及びNCI-H460細胞中の早期アポトーシス細胞及び後期アポトーシス細胞の各割合は、対照群と比較してわずかに上昇したが、その差は統計学的に有意ではなかった。しかしながら、式(I)の化合物の濃度が90μMに増大した場合、A549細胞及びNCI-H460細胞中の早期アポトーシス細胞及び後期アポトーシス細胞の各割合は、どちらも著しく上昇し、早期アポトーシス細胞の割合の上昇はより明白であった。
【表3】
【表4】
【0174】
表3は、A549細胞及びNCI-H460細胞を各種の濃度の式(I)の化合物で処理した後の全アポトーシスの割合の変化を示す。式(I)の化合物の濃度が90μMであった場合、細胞アポトーシスの割合は著しく上昇したが、この現象は、NCI-H460細胞と比較してA549細胞ではより明白であったことが分かる。
【表5】
実施例3 ヌードマウスのヒト胃がんN87移植腫瘍モデルのインビボ腫瘍増殖における、シスプラチンと比較した式(I)の化合物の阻害効果のアッセイ
【0175】
アッセイ動物
【0176】
メスのBALB/cヌードマウス(6~7週齢)をBeijing Vital River Laboratory Animal Technology Co.,Ltd.から購入した。マウスは、温度20~25℃、相対湿度40~70%、及び明所12時間と暗所12時間のサイクルでSPF動物室で飼育した。動物は、水及び食物を自由に摂取させた。約1週間の標準摂食後、獣医学検査後に健康状態が良好なマウスを本アッセイのために選択した。グループ分けの前に、マーカを使用して動物の尾の基部にマーキングを行った。グループ分けの後に、各動物は耳に切り込みを入れてマーキングした。
【0177】
シスプラチン(DDP)調製
【0178】
溶液を各投与前に調製した。適当な量のDDPを秤量し、ガラス瓶に入れた。次いで、適当な量の生理食塩水を瓶に加え、ボルテックス(50~60℃まで水浴で加温され得る)にかけて完全に薬物を溶解させた。DDP濃度が0.5mg・mLー1である溶液を調製した。
【0179】
式(I)の化合物の投与製剤の調製
【0180】
適当な量の化合物を秤量し、適当な量のジメチルアセトアミド(DMA)を加えた。混合物をボルテックスにかけて、原液(8mg・mL-1)を調製した。原液を1週間に1回調製し、各パッケージに分けてから2~8℃の冷蔵庫で保存した。各投与前に1管を取り出し、適当な量の30%Solutol及びPEG400をボルテックスにかけながら加えた。混合物をボルテックスにかけ、十分に混合した。次いで、適当な量の生理食塩水を加え、十分に混合して、濃度が0.4mg・mL-1である投与製剤を得た。そのDMA:30%Solutol:PEG400:生理食塩水の容量比は、5:20:20:55であった。
【0181】
上述の投与製剤の試料は保持する必要があり、製剤の保持された試料の実際の濃度を測定した。
【0182】
移植可能な腫瘍細胞株
【0183】
ヒト胃がん細胞NCI-N87をType Culture Collection Committee of Chinese Academy of Sciencesのセルバンクから得た(実験室では液体窒素で凍結保存)。
【0184】
NCI-N87細胞培養
【0185】
NCI-N87細胞を、37℃、5%COの培養条件下で10%ウシ胎児血清を含有するRPMI-1640培地で通例通りに培養した。細胞を0.25%トリプシンで消化し、1:3~1:5の継代比で細胞増殖条件に従って継代した。
【0186】
動物モデルの調製
【0187】
対数増殖期のNCI-N87細胞を採取して計数し、無血清RPMI-1640培地に再懸濁させ、細胞濃度を5×10細胞/mLに調整した。ピペットを用いて細胞をピペッティングしてこれらを均一に分散させ、細胞を50mL遠心管に入れ、これをアイスボックスに入れた。1mLシリンジを使用して細胞懸濁液を吸引し、これをヌードマウスの右前肢腋窩に皮下注射した。各動物に100μL(5×10細胞/マウス)を接種して、ヌードマウスのNCI-N87移植腫瘍モデルを確立した。接種後、動物の状態及び腫瘍増殖を定期的に観察し、電子ノギスを使用して腫瘍径を測定した。データをExcelスプレットシートに入力して、腫瘍体積を計算した。腫瘍体積が100~300mmに達したら、良好な健康状態で、類似した腫瘍体積を有する72匹の動物を選択し、乱塊法を使用して9つの群に分けた(n=8)。グループ分けの日をアッセイの1日目(D1)と見なした。アッセイ開始後、腫瘍径を1週間に2回測定し、腫瘍体積を計算し、動物の体重も量って記録した。
【0188】
腫瘍体積(TV)の計算式は、以下:
TV(mm)=l×w/2
(式中、lは、腫瘍の長径(mm)を表し、wは、腫瘍の短径(mm)を表す)である。
【0189】
動物のグループ分け及び薬物投与
【表6】
【0190】
アッセイの終了
【0191】
アッセイ最終日(D44)に、投与の1時間後(R01)にCO吸入を用いて動物に麻酔をかけて屠殺し、腫瘍組織を採取して秤量し、写真撮影した。
【0192】
データ記録及び計算式
【0193】
腫瘍増殖阻害率TGI(%)の計算式は、
TGI(%)=100%×[1-(TVt(T)-TVinitial(T))/(TVt(C)-TVinitial(C))]
(式中、TVt(T)は、処理群において各回測定された腫瘍体積を表し、TVinitial(T)は、投与のためにグループ分けされるときの処理群の腫瘍体積を表し、TVt(C)は、溶媒対照群において各回測定された腫瘍堆積を表し、TVinitial(C)は、投与のためにグループ分けされるときの溶媒対照群の腫瘍体積を表す)である。
【0194】
動物の体重減少率の計算式は、
動物の体重減少率=100%×(BWinitial-BW)/BWinitial
(式中、BWは、投与期間中に各回測定された動物の体重を表し、BWinitialは、投与のためにグループ分けされるときの動物の体重を表す)である。
【0195】
統計分析方法
【0196】
アッセイデータを計算し、Microsoft Office Excel2007ソフトウェアを使用して統計学的に処理した。特段明記しない限り、データを平均±標準誤差(平均±SE)として表し、t検定を2群の比較のために使用した。
【0197】
アッセイの観察
【0198】
アッセイ中、実験者及び獣医師は、アッセイ動物の身体的兆候及び健康状態を連続して観察する必要があった。疼痛、抑うつ状態、活性の低下などの動物のパフォーマンス異常を元のアッセイ記録に記録した。アッセイ動物のパフォーマンス異常が、IACUC関連動物福祉文書の要件を逸脱する場合、獣医師は、アッセイを終了させるかどうかを決定し、アッセイ担当者に通告することができた。
【0199】
アッセイ結果は以下の通りである。
【表7】
【表8】
【0200】
注:「*」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に有意差が存在したことを示し(P<0.05)、「**」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に高い有意差が存在したことを示す(P<0.01)。
【0201】
本開示の式(I)の化合物は、一般的に使用される抗胃がん薬物であるシスプラチンよりも抗腫瘍効果が良好であり、シスプラチン群の動物の体重は、ブランク対照群と比較して著しく減少したが、本開示の化合物は、動物の体重に対しては著しい効果を有さなかったことが上記表から分かる。
実施例4 複数の移植腫瘍組織におけるVEGF/VEGFR/p-VEGFR及び他のタンパク質の発現の制御に関する定量的研究
【0202】
アッセイ目的
【0203】
本アッセイでは、式(I)の化合物の抗腫瘍機構を調査する目的で、ウェスタンブロット技術を使用して、実施例3のヌードマウスの消化管腫瘍NCI-N87移植腫瘍組織での腫瘍増殖及び阻害に関連するシグナル伝達経路における式(I)の化合物の効果を定量的に研究した。
【0204】
アッセイ材料
【0205】
腫瘍組織試験片は、実施例3の動物腫瘍試験片からのものであった。
【0206】
アッセイ方法
【0207】
ウェスタンブロット技術を使用して、腫瘍組織におけるVEGF/VEGFR、サバイビン及び他のタンパク質の発現を定量的に検出した。使用した詳細なアッセイ方法及び材料については、参考文献(Molecular Cancer Research.June 2020,Volume 18,Issue 6,page 926-937)及びCell Signaling Technologyキットの説明書を参照されたい。本試験では、腫瘍組織タンパク質50μgを各ウェルに加え、抗体の作業濃度を説明書に従って希釈した。簡潔には、腫瘍組織を採取し、1%PMSD及び混合プロテアーゼ阻害剤を含有するRIPAタンパク質溶解溶液で溶解し、12000xgで20分間遠心分離にかけて、上清を採取した。タンパク質の濃度をBCA法で検出した。10%SDS-PAGEゲル電気泳動を行った。SDS-PAGEゲルから得たタンパク質を、セミドライエレクトロポレーションでPVDF膜に移した。膜を高速ブロッキング緩衝液で10分間ブロックし、対応する作業濃度の一次抗体を加え、4℃で一晩インキュベートした。膜をTBSTで3回洗浄し、二次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。膜を3回洗浄した後、現像して保存し、グレースケール値をImage labで分析した。抗ビンキュリン抗体を内部参照制御抗体として使用した。
【0208】
データ解析
【0209】
ウェスタンブロットバンドのグレースケールをImage Jソフトウェアで計算し、関連する統計処理にはGraphpad Prism5を使用した。2群間での比較には、両側t検定を使用した。P>0.05は有意性がない(NS)ことを意味し、P<0.05は*であり、P<0.001は**であり、P<0.001は***である。
【0210】
結果及び考察
【0211】
本アッセイは、ヌードマウスの消化管腫瘍NCI-N87移植腫瘍モデルでの式(I)の化合物の抗腫瘍機構を調査するが、これは、血管新生、細胞増殖及びアポトーシスを含む3つの側面から詳述される。
【0212】
ヌードマウスのNCI-N87移植腫瘍での重要な標的タンパク質の発現における式(I)の化合物の効果と考えられる腫瘍阻害機構
【0213】
ヌードマウスのNCI-N87移植腫瘍モデルにて、シスプラチン(DDP)と式(I)の化合物の抗腫瘍効果を比較した。式(I)の化合物は、p-VEGFR2(NS)を下方制御し、VEGFR2(P<0.05)及びVEGFA(P<0.05)を下方制御し、β-カテニン(P<0.05)及びサイクリンD1(NS)を下方制御し、PCNA(NS)を上方制御し、細胞周期調節タンパク質P21(NS)を上方制御し、アポトーシス促進性Bax(P<0.01)及び抗アポトーシスタンパク質であるサバイビン(P<0.05)を下方制御した。DDPは、p-VEGFR2(P<0.05)及びVEGFA(NS)を下方制御し、VEGFR2(NS)、β-カテニン(P<0.05)及びサイクリンD1(NS)を上方制御し、アポトーシス阻害タンパク質であるサバイビン(NS)を下方制御し、細胞周期調節タンパク質P21(P<0.05)を下方制御した。したがって、ヌードマウスのN87移植腫瘍モデルでは、式(I)の化合物は、DDPと比較してより強力な血管新生阻害効果を示したため、より良好な抗腫瘍効果を有した(図8)。
実施例5:経口投与された試験試料の急性毒性アッセイ
【0214】
試験試料:式(I)の化合物
【0215】
試験試料の調製
【0216】
溶媒の調製方法及び保存
【0217】
一例として1000mLの調製を取り上げると、容器に最終容量として1000mLのマークをマーキングし、最終容量の約2/3の室温の純水を容器に最初に加えた。カルボキシメチルセルロースナトリウム5gを正確に秤量し、撹拌しながら容器に加えた。容量をマークに調整し、均一に分散するまで混合物を連続して撹拌して、所望の溶液を得た。
【0218】
溶液を2℃~8℃で28日間、気密状態で保存した。
【0219】
賦形剤対照群の投与製剤の調製方法及び保存
【0220】
賦形剤対照群の投与製剤の調製:最終容量のマークを容器にマーキングし、必要な量の賦形剤を容器中に秤量した。最初に適当な量の溶媒を加え、撹拌し、完全に混合した後、溶媒を最終容量のマークまで更に加えて希釈し、混合した。視認で均一な製剤を得た。製剤を室温で24時間、暗所にて気密状態で保存するか、又は2℃~8℃で8日間、暗所にて気密状態で保存した。
【0221】
試験試料の投与製剤の調製方法及び保存
【0222】
試験試料の投与製剤の秤量及び調製は、黄色灯下で実施する必要があった。
【0223】
試験試料の投与製剤の調製:式(I)の化合物と、エタノール/酢酸エチル(v/v、1/3)との1:1.5の比率での混合物を、室温にて超音波処理で溶解させた。式(I)の化合物の2.25当量のPVPを加え、混合物を室温で20分間、激しく撹拌した。次いで、式(I)の化合物の2当量のラクトースを加え、混合物を室温で20分間、激しく撹拌した。混合物を50℃のオーブンで乾燥させた後に微粉砕して、式(I)の化合物の黄色の粉末製剤を得た。次いで、適当な量の式(I)の化合物の製剤を秤量し、適当な量の0.5%CMC-Na水溶液を加えた。混合物をボルテックスにかけ、超音波処理を行って均一に混合して(必要に応じて、せん断乳化を実施し得る)、試験試料の投与製剤を得た。投与製剤を1週間に2回調製し、毎回3又は4日間の投与量を調製した。これを分け、後の使用のために0~8℃の冷蔵庫で保存した。試験試料を使用する際、最終容量のマークを容器にマーキングし、必要な量の試験試料を清浄で乾燥した容器中に秤量した(試験試料の秤量重量=理論的投与量*換算係数)。最初に適当な量の溶媒を加え、混合物を撹拌し、完全に混合し、必要に応じて超音波処理した。溶媒を最終容量マークまで更に加えて、希釈して均一に混合して、視認で均一な製剤を得た。方法論的検証を行ったところ、試験試料の投与製剤の濃度範囲は、0.1mg/mL~60mg/mLであった。試験試料の投与製剤は、室温で暗所にて気密状態で保存される場合には24時間以内は安定であり、2℃~8℃で暗所にて気密状態で保存される場合には8日以内は安定であった。
【0224】
投与製剤を各種の色のラベルで識別した。
【0225】
試験動物:
【0226】
種:ICRマウス
【0227】
グレード:SPFグレード
【0228】
使用される動物の数及び性別:40匹、半数がオスで半数がメス
【0229】
体重:メス群の体重は25.9~29.7gであり、オス群の体重は27.7~30.8gであった
【0230】
投与時の日齢:38~44日(メス)、31~44日(オス)
【0231】
供給源:Beijing Vital River Laboratory Animal Technology Co.,Ltd.
【0232】
ライセンス番号:SCXK(Jing)2016-0006
【0233】
品質証明書番号:110011211100519578、110011211100519414
【0234】
投与量設定:
【表9】
【0235】
*は、第2群~第4群では式(I)の化合物の量を表し、第1群では賦形剤の量を表す。
【0236】
投与
【0237】
投与経路:強制経口投与
【0238】
投与経路の選択理由:臨床使用を意図した経路と同様
【0239】
投与頻度:1回/日
【0240】
投与期間:1日
【0241】
投与量は、一晩絶食(飲水可能)後にD1に量った動物の体重に基づいて計算した。薬物投与の約2時間後に摂食させた。
【0242】
各群の投与製剤を室温で少なくとも10分間撹拌し、投与前に目視にて均一に懸濁させた。投与製剤は、投与中に連続して撹拌する必要があった。
【0243】
観察指標:一般的な身体的兆候の観察、体重、食物摂取量、動物の解剖所見及び病理組織学的検査を含んでいた。
【0244】
アッセイ結果
【0245】
賦形剤対照群及び300mg/kg/d投与量群には死亡した動物がいななかった。1000mg/kg/d投与量群のオスの動物一匹(3205番)がD3に死亡したことが認められたが、死亡前に明らかな異常は認められなかった。3000mg/kg/d投与量群のオスの動物一匹(4205番)がD2及びD3に立毛症状を有し、D4に死亡したことが認められた。グループ分けされるときの体重と比較すると、D3の動物の体重は、著しく減少した。上述の死亡した動物の解剖後、肉眼での観察では明らかな異常は認められなかった。
【0246】
一般的な身体的兆候の観察
【0247】
アッセイ中、賦形剤対照群及び300mg/kg/d投与量群の動物の臨床所見では、明らかな異常症状は認められなかった。1000mg/kg/d投与量群ではオスの動物一匹が死亡したことが認められたが、死亡した動物では明らかな異常は認められなかった。明らかな異常症状は、他の動物の臨床所見では認められなかった。3000mg/kg/d投与量群ではオスの動物一匹が死亡したことが認められ、D2及びD3に立毛症状を有することが認められた。この群の他の動物は、D2~D7に立毛症状を有し、D8には正常に戻ったことが認められた。
【0248】
上記異常症状の発生率及び重症度は、用量反応関係にあると認められたが、これらは試験試料に関係すると考えられた。
【0249】
体重
【0250】
同じ期間のビヒクル対照群と比較すると、試験試料の各投与量群におけるメスの生存動物の体重に有意差は存在しなかった。試験試料の3000mg/kg/d投与量群のオスの動物は、D3に体重の著しい減少を示した(P<0.05)。他の期間での各投与量群のオスの生存動物の体重に有意差は存在しなかった。臨床症状の包括的な分析に基づき、これは試験試料に関係すると考えられた。
【0251】
食物摂取量測定
【0252】
各投与量群の動物の平均食物摂取量データを分析することで、各投与量群の食物摂取量がビヒクル対照群の食物摂取量と基本的に一致していたことが分かった。
【0253】
肉眼解剖学的検査
【0254】
各群の予期しない死亡動物及び生存動物に肉眼解剖を実施した。各群の動物の器官及び組織の色、体積、質感などにおいて、明らかな異常は肉眼観察では認められなかった。すなわち、明らかな異常毒性標的器官は肉眼観察では認められなかった。病理組織学的検査は実施しなかった。
【0255】
結論
【0256】
本アッセイの条件下では、1000mg/kg/d及び3000mg/kg/d投与量群のそれぞれでオスの動物1匹が死亡した。3000mg/kg/d投与量群の動物すべてが立毛症状を示したが、8日目に正常に戻り、この群のオスの動物の体重は、投与後、3日目にわずかに減少した。各投与量群の動物の食物摂取量に明らかな異常は認められなかった。すべての動物を解剖したが、肉眼観察では明らかな異常は認められなかった。要約すると、式(I)の化合物の単回強制経口投与後のICRマウスの最大耐量(MTD)は300mg/kg/dであり、LD50は3000mg/kgよりも大きかったが、これは式(I)の化合物が非常に安全であることを示している。
実施例6:2週間にわたるICRマウスでの式(I)の化合物の繰り返し強制経口投与の毒性投与量探索アッセイ
【0257】
式(I)の化合物を14日間にわたってICRマウスに連続して強制経口投与して、式(I)の化合物が引き起こし得る毒性反応の性質、程度及び時間-効果関係を評価し、その後の研究のための参照情報を得た。
【0258】
試験試料:投与製剤の調製
【0259】
試験試料の投与製剤の秤量及び調製は、黄色灯下で実施する必要があった。
【0260】
各投与量群の試験試料の投与製剤の調製:試験試料の調製は、実施例5と同じであった。試験試料の使用時、最終容量のマークを容器にマーキングし、必要な量の試験試料を容器中に秤量した(試験試料の秤量重量=理論的投与量*換算係数)。最初に適当な量の溶媒を加え、混合物を撹拌し、完全に混合し、必要に応じて超音波処理した。溶媒を最終容量のマークまで更に加えて、希釈して均一に混合して、視認で均一な製剤を得た。これに対して方法論的検証を行った。アッセイ結果から、0.1mg/mL~60mg/mLの濃度範囲を有する試験試料の投与製剤は、室温、暗所では24時間以内は安定であった。0.01mg/mL~60mg/mLの濃度範囲を有する試験試料の投与製剤は、2℃~8℃で暗所にて気密状態で保存される場合には8日以内は安定であった。
【表10】
【0261】
*は、式(I)の化合物の量を表す。
【0262】
試験動物:
【表11】
【0263】
アッセイ方法
【0264】
飼育場所
【0265】
購入後、試験動物をSPF動物室で飼育した。試験機関の許可証番号はSYXK(Lu)2018 0031であった。動物を、オスとメスとを分け、各ケージに5匹以下の動物を入れて、透明なマウスケージで飼育した。
【0266】
飼育環境及び条件
【0267】
1日あたり約12時間光を供給した。研究関連活動の要求により、暗時を断続的に中断することができた。動物室の環境温度及び相対湿度をモニタリングして毎日記録し、それぞれ20℃~26℃、40%~70%に制御した。
【0268】
飼料及び水
【0269】
Beijing Keao Xieli Feed Co.,Ltd.からSPFラット及びマウス用の成長及び繁殖飼料を購入した。動物は、食物を自由に摂取させた。
【0270】
Beijing Keao Xieli Feed Co.,Ltd.からコーンコブペレットの寝床を購入した。
【0271】
動物は、機関の逆浸透システムによって濾過及び滅菌した飲料水を自由に摂取した。
【0272】
購入した飼料バッチの品質検査報告書は、飼料供給業者から得た。他の検査頻度、検査指標及び検査要件をセンターのSOP要件に従って実施した。
【0273】
動物の検疫及び適応
【0274】
試験機関に到着した後、動物を検疫して適応させた。最新の動物健康状態スクリーニングに従い、プロジェクトリーダによる署名及び承認後に、100匹の健康な動物(半数がオスであり、半数がメスである)をアッセイのために選択した。
【0275】
投与経路
【0276】
投与経路:強制経口
【0277】
投与経路の選択理由:臨床使用を意図した経路と同様
【0278】
投与頻度
【0279】
同じ投与期間を毎日維持しつつ、1日に1回投与
【0280】
投与サイクル
【0281】
14日間にわたる連続投与
【0282】
投与
【0283】
投与量を、最新の動物体重に基づいて計算した。
【0284】
試験試料の投与製剤を、室温で少なくとも10分間撹拌し、投与前に目視にて均一に懸濁させた。試験試料の投与製剤は、投与中に連続して撹拌する必要があった。
【0285】
観察指標:一般的な身体的兆候の観察、詳細な臨床所見、体重及び食物摂取量を含んでいた。
【0286】
結果:
【0287】
1.1000mg/kg/d投与量群の合計4匹の動物は、D3~D6に死亡したことが認められた。この群の動物への投与を停止し、観察を継続した。
【0288】
2.1000mg/kg投与量群では13匹の動物が死亡したことが認められ、300mg/kg投与量群では10匹の動物が死亡したことが認められ、100mg/kg投与量群では3匹の動物が死亡したことが認められた。50mg/kg及び25mg/kg投与量群では動物の死亡は認められなかった。
【0289】
3.異常反応は、100mg/kg投与量群の生存動物、並びに50mg/kg及び25mg/kg投与量群の動物では認められず、それらの体重は正常に増加した。
実施例7:ヌードマウスのヒト胃がんNCI-N87移植腫瘍モデルでの式(I)の化合物の単独、及びインビボでの腫瘍増殖での化学療法薬シスプラチン(DDP)との組合せによる阻害効果のアッセイ
【0290】
アッセイ動物、ブランク溶媒調製、シスプラチン(DDP)調製、式(I)の化合物の投与製剤の調製、移植可能な腫瘍細胞株、NCI-N87細胞培養、動物モデル調製、アッセイ手順及び統計分析方法は、実施例3のものと同じであった。
【0291】
動物のグループ分け及び薬物投与
【表12】
【0292】
アッセイ結果は以下の通りである。
【表13】
【0293】
注:「*」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に有意差が存在したことを示し(P<0.05)、「**」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に高い有意差が存在したことを示す(P<0.01)。
【表14】
【表15】
【0294】
上記データから、R01単独では、本アッセイの条件下でのヌードマウスのNCI-N87移植腫瘍の増殖において著しい阻害効果を有しており、その抗腫瘍効果は、DDP単独で投与された群のものよりも大きかったことが分かる。3、6及び16mg/kg(QD)の投与量でのR01を、それぞれDDPと組み合わせて使用した。すべての組合せは、DDP単独よりも良好な有効性を有し、マウスにおける血清尿素レベルを低下させた。組合せ群における動物の血清尿素レベルは、R01の投与量と負の相関を有していたが、これはR01が、DDPによって引き起こされる腎障害にある特定の保護及び予防効果を有し得ることを示唆している。加えて、R01(8mg/kg、BID)+DDP群の有効性は、他の投与群よりもわずかに良好であるか、又はこれと同等であった。
実施例8:ヌードマウスのヒト食道がんECA109移植腫瘍モデルでのインビボでの腫瘍増殖における式(I)の化合物とDDPの相乗的阻害効果のアッセイ
【0295】
アッセイ動物、腫瘍体積(TV)の計算、アッセイの終了、データの記録、腫瘍増殖阻害率TGI(%)の計算式及び統計分析方法は、実施例3と同じであり、式(I)の化合物の投与製剤の調製は、実施例5と同じであった。
【0296】
ブランク溶媒調製
【0297】
適当な量のCMC-Na固体を秤量し、最初に適当な量の脱イオン水を加えた。混合物を、固体が完全に分散して均一に分布するまでボルテックスにかけて撹拌して、0.5%CMC-Na水溶液を得た。これを冷蔵庫で2~8℃にて保存した。
【0298】
シスプラチン(DDP)の投与試験溶液の調製
【0299】
適当な量のDDPを秤量し、ガラス瓶に入れ、適当な量の生理食塩水を瓶に加えた。混合物をボルテックスにかけ、超音波処理を行って薬物を完全に溶解し、濃度が0.5mg/mLであるDDP溶液を瓶で調製した。この溶液を各投与前に調製した。
【0300】
移植可能な腫瘍細胞株
【0301】
ヒト食道がん細胞ECA109を、Wuhan Universityのセルバンクから得た(CCTCC、実験室では液体窒素で凍結保存)。
【0302】
細胞培養
【0303】
ECA109細胞を、37℃、5%COの培養条件下で10%ウシ胎児血清を含有するRPMI-1640培地で通例通りに培養した。細胞を0.25%トリプシンで消化し、1:3~1:6の継代比で細胞増殖条件に従って継代した。
【0304】
動物モデルの調製及び腫瘍体積の決定
【0305】
対数増殖期のECA109細胞を採取して計数し、50%の無血清RPMI-1640培地及び50%のMatrigelに再懸濁させ、細胞濃度を0.5×10細胞/mLに調整した。ピペットを用いて細胞をピペッティングして、これらを均一に分散させ、細胞を50mL遠心管に入れ、これをアイスボックスに入れた。1mLシリンジを使用して細胞懸濁液を吸引し、これをNOD/SCIDマウスの右前肢腋窩に皮下注射した。各動物に200μL(1.0×10細胞/マウス)を接種して、ヌードマウスのECA109移植腫瘍モデルを確立した。接種後、動物の状態及び腫瘍増殖を定期的に観察し、電子ノギスを使用して腫瘍径を測定した。データをExcelスプレットシートに入力して、腫瘍体積を計算した。腫瘍体積が100~300mmに達したら、良好な健康状態で、類似した腫瘍体積を有する動物を選択し、乱塊法を使用して各群に分けた。グループ分けの日をアッセイの1日目(D1)と見なした。アッセイ開始後、腫瘍径を1週間に2回測定し、腫瘍体積を計算し、動物の体重も量って記録した。
【0306】
動物のグループ分け及び薬物投与
【表16】
【0307】
アッセイ結果は以下の通りである。
【表17】
【0308】
注:「*」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に有意差が存在したことを示し(P<0.05)、「**」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に高い有意差が存在したことを示す(P<0.01)。
【表18】
【表19】
【0309】
上記データから、R01製剤単独では、本アッセイの条件下でのヌードマウスのECA109移植腫瘍の増殖において著しい阻害効果を有しており、その抗腫瘍効果は、DDP単独で投与された群のものよりも大きかったことが分かる。投与量が18mg/kgであるR01製剤をDDPと組み合わせたが、これはDDP単独又はR01単独よりも良好な有効性を有した。組合せ群での動物の体重減少率は、DDP単独で投与された群のものと類似していたが、これはR01とDDPとの組合せが、DDPの毒性の増加をもたらさないことを示している。最終投与後の血清尿素試験の結果は、R01製剤+DDP群での尿素レベルが、DDP単独で投与された群よりも低いことを示したが、これはR01製剤とDDPとの組合せが、DDP投与によって引き起こされる腎障害にある特定の保護又は軽減効果を有していたことを示している。
実施例9:ヌードマウスのヒト非小細胞肺がんA549移植腫瘍モデルにおけるインビボでの腫瘍増殖における式(I)の化合物とシスプラチンの相乗的阻害効果のアッセイ
【0310】
アッセイ動物(通常摂食時間が10日間であることを除く)、ブランク溶媒の調製、シスプラチンの調製(3つの濃度を調製した:0.4mg/mL、0.5mg/mL又は0.7mg/mL)、腫瘍体積(TV)の計算、アッセイの終了、データの記録、腫瘍増殖阻害率TGI(%)の計算式、統計分析方法及びアッセイの観察は、実施例3と同じであり、式(I)の化合物の投与製剤の調製は、実施例5と同じであった。
【0311】
細胞株
【0312】
ヒト非小細胞肺がん細胞A549をType Culture Collection Committee of Chinese Academy of Sciencesのセルバンクから得た(CAS、本アッセイでは液体窒素で凍結保存)。
【0313】
細胞培養
【0314】
A549細胞を、37℃、5%COの培養条件下で10%ウシ胎児血清を含有するF12K培地で通例通りに培養した。細胞を0.25%トリプシンで消化し、1:3~1:5の継代比で細胞増殖条件に従って週に2~3回継代した。
【0315】
動物モデルの調製及び腫瘍体積の決定
【0316】
アッセイのD1では、対数増殖期のA549細胞を採取して計数し、PBSに再懸濁させ、細胞濃度を8×10細胞/mLに調整した。ピペットを用いて細胞をピペッティングして、これらを均一に分散させ、細胞を50mL遠心管に入れ、これをアイスボックスに入れた。1mLシリンジを使用して細胞懸濁液を吸引し、これをヌードマウスの右前肢腋窩に皮下注射した。各動物に100μL(8×10細胞/マウス)を接種して、ヌードマウスのA549移植腫瘍モデルを確立した。接種後、動物の状態及び腫瘍増殖を定期的に観察した。D18に、電子ノギスを使用して腫瘍径を測定した。データをExcelスプレットシートに入力して、腫瘍体積を計算した。良好な健康状態で、類似した腫瘍体積(101~156mm)を有する担がんマウスを選択し、乱塊法を使用して各群に分けた。アッセイ開始後、腫瘍径を定期的に測定し、腫瘍体積を計算し、動物の体重も量って記録した。
【0317】
試料採取
【0318】
アッセイの最終日に、投与(R01)の1時間後にCO吸入麻酔を動物に用いた。心臓から血液を採取し、抗凝固のためにEDTA-K2を全血の一部に加えた。血漿を4℃、1500gで10分間の遠心分離で分離した。血漿を採取し、-40℃~-20℃の冷凍庫で保存した(必要に応じて、血漿中薬物濃度の決定のためにこれを使用することができる)。その他の部分の全血には抗凝固剤を加えず、血液が凝固した後に遠心分離によって血清を分離し、これを血中尿素窒素の検出のために使用した。血液採取後、腫瘍組織を採取して秤量し、写真撮影した。次いで、腫瘍を二分割して液体窒素で素早く凍結保存し、保存のために-90℃~-60℃の冷凍庫に移した。両側の腎臓を採取し、10%ホルマリンで固定した。
【0319】
動物のグループ分け及び薬物投与
【表20】
【0320】
アッセイ結果は以下の通りである。
【表21】
【0321】
注:「*」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に有意差が存在したことを示し(P<0.05)、「**」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に高い有意差が存在したことを示す(P<0.01)。
【表22】
【表23】
【0322】
上記データから、投与量が4mg・kg-1(QWmg)及び5/7/7/7mg・kg-1(QW)であるDDPは、ヌードマウスのA549移植腫瘍の増殖に著しい効果がなかったことが分かる。投与量が18mg・kg-1BID及び36mg・kg-1BIDであるR01製剤単独は、ヌードマウスのA549移植腫瘍の増殖に著しい阻害効果を有していた。R01製剤(18mg・kg-1BID)+DDP(5/7/7/7mg・kg-1QW)及びR01製剤(36mg・kg-1BID)+DDP(4mg・kg-1QW)の各組合せ群は、ヌードマウスのA549移植腫瘍の増殖に著しい阻害効果を有していた。2つの組合せ群と対応する投与量のDDP単独で投与された群との相対的な腫瘍体積又は腫瘍重量には有意差(P<0.05)又は高い有意差(P<0.01)が存在した。各組合せ群の動物の体重減少率は、対応する投与量のDDP単独で投与された群と類似していたが、これはR01とDDPとの組合せがDDP毒性の増加をもたらさず、R01が、DDPによって引き起こされる腎障害にある特定の保護効果を有し得ることを示している。
実施例10:ヌードマウスのヒト大腸がんHT29移植腫瘍モデルでのインビボでの腫瘍増殖における式(I)の化合物とシスプラチンの相乗的阻害効果のアッセイ
【0323】
アッセイ動物、ブランク溶媒の調製、シスプラチン(DDP)の調製、腫瘍体積(TV)の計算、アッセイの終了、データの記録、腫瘍増殖阻害率TGI(%)の計算式、統計分析方法及びアッセイの観察は、実施例3と同じであり、式(I)の化合物の投与製剤の調製は、実施例3と同じであった。
【0324】
細胞株
【0325】
ヒト大腸がん細胞株HT-29をType Culture Collection Committee of Chinese Academy of Sciencesのセルバンクから得た(CAS、本アッセイでは液体窒素で凍結保存)。
【0326】
細胞培養
【0327】
HT-29細胞を、37℃、5%COの培養条件下で10%ウシ胎児血清を含有するMcCoy凍結保存培地で通例通りに培養した。細胞を0.25%トリプシンで消化し、1:3~1:4の継代比で細胞増殖条件に従って継代した。
【0328】
動物モデルの調製及び腫瘍体積の決定
【0329】
アッセイのD1では、対数増殖期のHT-29細胞を採取して計数し、無血清McCoyに再懸濁させ、細胞濃度を4×10細胞/mLに調整した。ピペットを用いて細胞をピペッティングして、これらを均一に分散させ、細胞を50mL遠心管に入れ、これをアイスボックスに入れた。1mLシリンジを使用して細胞懸濁液を吸引し、これをヌードマウスの右前肢腋窩に皮下注射した。各動物に100μL(4×10細胞/マウス)を接種して、ヌードマウスのHT-29移植腫瘍モデルを確立した。接種後、動物の状態及び腫瘍増殖を定期的に観察した。D12に、電子ノギスを使用して腫瘍径を測定した。データをExcelスプレットシートに入力して、腫瘍体積を計算した。良好な健康状態で、類似した腫瘍体積(103~179mm)を有する担がんマウスを選択し、乱塊法を使用して各群に分けた。アッセイ開始後、腫瘍径を定期的に測定し、腫瘍体積を計算し、動物の体重も量って記録した。
【0330】
動物のグループ分け及び薬物投与
【表24】
【0331】
アッセイ結果は以下の通りである。
【表25】
【表26】
【0332】
注:「*」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に有意差が存在したことを示し(P<0.05)、「**」は、溶媒対照群と比較して腫瘍体積に高い有意差が存在したことを示す(P<0.01)。
【0333】
上記表から、本開示の式(I)の化合物が、シスプラチンとの相乗的抗腫瘍効果を有し得ること、すなわち、併用投与によって作用のより速い発現、より良好な効果が得られ、安全性における著しい低下が見られないということが分かる。
実施例11:主な標的器官における化学療法薬であるシスプラチンの毒性に対する式(1)の化合物の拮抗効果
【0334】
アッセイ目的
【0335】
このアッセイは、R01が、マウスのシスプラチン誘発性急性腎障害を著しく減少させるかどうかを最終的に調べることと、シスプラチン誘発性腎障害に拮抗するために臨床的には第一選択で現在使用される最も確証的な薬物であるアミフォスチンと比較して、R01がシスプラチン誘発性腎障害を保護する可能性を決定することとを目的とする。
【0336】
試験試料及び試薬
【0337】
R01製剤:実施例5と同じ。
【0338】
アミフォスチン三水和物、バッチ番号:Z28N11R132596、分子量:268.27、含有量:98%、Shanghai Yuanye Biotechnology。
【0339】
シスプラチン(バッチ番号:601200804、分子量:300.05、純度≧純度≧0508、換算係数:1)をJiangsu Hansoh Pharmaceutical Group Co.,Ltd.から購入した。
【0340】
アッセイ動物
【0341】
42匹のオスC57BL/6Jマウス(6~8週齢、体重18~20g、証明書番号:11400700238365)をSi Pei Fu(Beijing)Biotechnology Co.,Ltd.から購入し、Institute of Materia Medica,Chinese Academy of Medical SciencesのSPFグレードの動物室にて温度20~25℃、相対湿度40~70%、明所12時間と暗所12時間のサイクルで飼育した。動物は、水及び食物を自由に摂取させた。通常摂食の3日後、獣医学検査後に健康状態が良好なマウスを本アッセイのために選択した。グループ分けの前に、マーカを使用して動物の尾の基部にマーキングを行った。グループ分けの後に、各動物の耳に切り込みを入れてマーキングした(各群7匹のマウス)。
【0342】
アッセイ方法
【0343】
アッセイ動物のグループ分け
【0344】
アッセイ動物:適応摂食後の動物試験には、42匹の7週齢のオスC57マウスを使用した。
【0345】
第1群:ブランク対照群、
【0346】
第2群:陽性対照薬物シスプラチン(10mg/kg)、
【0347】
第3群:シスプラチン(10mg/kg)+アミフォスチン(50mg/kg、シスプラチン投与の30分前に腹腔内投与、1回のみ投与)、
【0348】
第4群:シスプラチン(10mg/kg)+R01(6mg、BID、シスプラチンモデル化の3日前に投与)、
【0349】
第5群:シスプラチン(10mg/kg)+R01(18mg、BID、シスプラチンモデル化の3日前に投与)、
【0350】
第6群:シスプラチン(10mg/kg)+R01(36mg、BID、システプラチンモデル化の3日前に投与)。
【0351】
薬物の調製
【0352】
ブランク溶媒の調製:適当な量のカルボキシメチルセルロースナトリウムを採り、生理食塩水に加えて、カルボキシメチルセルロースナトリウムの0.5%溶液を調製した。これを高圧滅菌した。
【0353】
シスプラチン(DDP)投与試験溶液の調製:シスプラチン製剤は溶液であるが、これを直接使用し、室温で暗所にて保存した。
【0354】
R01製剤投与試験溶液の調製は、実施例5と同じであった:適当な量のR01製剤を、アッセイで設定した3つの投与量に従ってそれぞれ秤量し、適当な量の0.5%CMC-Na水溶液を加えた。混合物を、均一に混合されるまでボルテックスにかけて超音波処理して、それぞれ濃度が0.6mg・kg-1、1.8mg・kg-1及び3.6mg・kg-1である投与試験溶液を得た。これらはすぐに使える状態であった。
【0355】
動物投与及び試料採取
【0356】
動物試験期間:7日間(適応摂食を除く)、以下、D1~D7と称する。
【0357】
シスプラチン投与方法:シスプラチン溶液(10mg/kg)の1回腹腔内注射
【0358】
安楽死方法:安楽死の12時間前に絶食し、眼球から血液を採取して安楽死を実施した。
【0359】
1.第1群は溶媒対照群であった:N=7、すべてのマウスはオスであった(以下同じ)。
【0360】
a)D1~D6に、カルボキシメチルセルロースナトリウムの0.5%溶液を強制経口投与した(各動物について1日2回、午前午後間に8時間の間隔を設けた)。
【0361】
b)D4に、生理食塩水を1回腹腔内注射した。
【0362】
c)D7に、安楽死のために眼窩から血液を採取し(300μLの血清を抽出)、左腎をホルムアルデヒドで固定し、右腎を液体窒素中で保存した(WB試験を行ってもよい)。
【0363】
2.第2群はシスプラチン誘発性腎障害モデル群であった:N=7。
【0364】
a)D1~D6に、カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液を強制経口投与した(各動物について1日2回)。
【0365】
b)D4に、シスプラチン10mg/kgを1回腹腔内注射した。
【0366】
c)D7に、安楽死のために眼窩から血液を採取し(300μLの血清を抽出)、左腎をホルムアルデヒドで固定し、右腎を液体窒素中で保存した。
【0367】
3.第3群はシスプラチン(10mg/kg)+アミフォスチン(50mg/kg、シスプラチン投与の30分前に腹腔内注射)群であった:N=7。
【0368】
a)D4に、シスプラチン10mg/kgを1回腹腔内注射した(アミフォスチン50mg/kgを、シスプラチン投与の30分前に腹腔内投与)。
【0369】
b)D7に、安楽死のために眼窩から血液を採取し(300μLの血清を抽出)、左腎をホルムアルデヒドで固定し、右腎を液体窒素中で保存した。
【0370】
4.第4群~第6群はシスプラチン(10mg/kg)+R01(それぞれ6、18、36mg/kg、BID、シスプラチン投与の3日前に投与)群であった:N=7。
【0371】
a)D1~D6に、R01懸濁液を強制経口投与した(各動物について1日2回、午前午後間に8時間の間隔を設けた)。
【0372】
b)D4に、シスプラチン10mg/kgを1回腹腔内注射した。
【0373】
c)D7に、安楽死のために眼窩から血液を採取し(300μLの血清を抽出)、左腎をホルムアルデヒドで固定し、右腎を液体窒素中で保存した。
【0374】
試験項目
【0375】
1)末梢血血清中の尿素窒素濃度及びクレアチニン濃度を試験した。
【0376】
2)腎臓病理試験:HE、PAS標本、スライド走査及び報告書発行
【0377】
3)安楽死前に各動物の体重を量って記録した。安楽死後、可能な限りすぐに2個の腎臓を秤量し、重量を記録した。次いで、2個の腎臓を素早く固定又は凍結保存し、マウスの腎係数を計算した(腎臓の重量/マウスの重量)。
【0378】
データ記録及び計算
【0379】
各群で投与のためにグループ分けされるときの動物の体重を記録した。アッセイ終了時に体重及び腎臓の重量も記録し、腎係数を計算した。試験に送られる血液試料中のクレアチニン及び尿素窒素値を記録した。腎臓をHE及びPASで染色し、スライドを走査した。病理分析後に報告書を発行した。
【0380】
統計分析
【0381】
アッセイデータを計算し、Microsoft Office Excel2007ソフトウェアを使用して統計学的に処理した。特段明記しない限り、データを平均±標準誤差(平均±SE)として表し、t検定を2群の比較のために使用した。
【0382】
アッセイ結果
【表27】
【表28】
【0383】
アッセイ前後の動物の体重の変化から、シスプラチンモデル化群の体重が、各群に薬物を投与したかどうかにかかわらず、著しく減少したことが分かる(P<0.01)。アミフォスチン群とR01を使用した3つの群との間に有意差は存在しなかった。
【表29】
【表30】
【0384】
アッセイで測定した値によれば、モデル群の腎係数は著しく増加したが(P<0.01)、薬物投与群では有意差は存在しなかった。総じて、各薬物介入群の腎係数はブランク対照群と同等であり、アミフォスチン群とR01を使用した3群との間に有意差は存在しなかった。特に、R01の中投与量群及び高投与量群は、ブランク対照群とより類似していた。
【表31】
【0385】
アッセイで測定した値によれば、シスプラチンモデル化群の血清クレアチニン値は著しく増加した(P<0.01)。各薬物介入群の血清クレアチニン値はブランク対照群と同等であり、アミフォスチン群とR01を使用した3群との間に有意差は存在しなかった。
【表32】
【0386】
アッセイで測定した値によれば、シスプラチンモデル化群の血清尿素窒素値は著しく増加した(P<0.05)。アミフォスチン群の尿素窒素値は、モデル群のものよりも著しく低く(P<0.01)、R01高投与量群の尿素窒素値もまた、モデル群のものよりも著しく低かった(P<0.05)。R01低投与量群及び中投与量群の尿素窒素濃度は、モデル群のものよりも低かったものの、有意差は認められなかった(P>0.05)。
【0387】
動物の腎臓の病理学的損傷
【表33】
【表34】
【0388】
病理学的説明及び典型的な写真
【0389】
ブランク対照群:通常通り飼育したブランク対照群の7匹の動物では、糸球体及び尿細管への損傷は基本的には存在せず、尿細管腔は狭かった。一部のマウスの糸球体周辺ではいくらかの炎症細胞の浸潤のみが見られた。典型的な写真は図9に示す通りである。
【0390】
シスプラチン誘発性腎障害モデル群(10mg/kg):この群は、動物が重度の腎機能障害を有するモデル群であった。生化学アッセイは、血中尿素窒素及びクレアチニン濃度の著しい上昇を示した。病理学的特性の観点から、糸球体への病理学的損傷は重症ではなく、糸球体収縮を呈したのは数匹の動物のみであった。主な損傷は尿細管領域であったが、尿細管上皮細胞の著しい壊死とタンパク円柱の出現を伴っていた。損傷は、輸入細動脈領域で主に生じた。総じて、尿細管細胞は粗い縁及びぼやけた縁を呈し、一部の動物では重度の病理学的損傷が認められた。視野全体にわたって多数のタンパク円柱が見られた。典型的な写真は図10に示す通りである。
【0391】
シスプラチン+アミフォスチン群:この群での腎障害の程度は著しく低下した。一部のマウスのみが軽微な損傷を受けたが、他の動物には基本的には明らかな病理学的損傷がなかった。典型的な写真は図11に示す通りである。
【0392】
シスプラチン+R01 6mg群:この群のすべての動物は、ある程度の腎障害を患い、そのうち2匹は重度の腎障害を患い、その他は軽度の損傷を受けた。損傷は主に尿細管領域であった。典型的な写真は図12に示す通りである。
【0393】
シスプラチン+R01 18mg群:この群の動物では、基本的には腎臓への明らかな病理学的損傷が存在しなかった。1匹の動物のみ明らかな損傷があり、その他の動物は軽度の損傷があった。典型的な写真は図13に示す通りである。
【0394】
シスプラチン+R01 36mg群:この群のマウス一匹のみが、腎臓にわずかな病理学的損傷があった。その他のすべての動物の病理学的構造は無傷であり、細胞構造は鮮明であった。典型的な写真は図14に示す通りである。
【0395】
合計で6群のマウスをそれらの腎臓の病理学的損傷について評価した。ブランク対照群には肉眼で見える病理学的損傷がなく、組織形態は完全であった。シスプラチン腎障害モデル群には肉眼で見える著しい損傷があり、明らかな個体差が存在した。損傷の程度にはある程度の差があり、主な病理学的損傷は尿細管領域に存在した。シスプラチン+アミフォスチン群の病理学的損傷は著しく減少したが、これは陽性対照シスプラチン群とは著しく異なっていた(P<0.01)。病理学的損傷の程度は、シスプラチン+R01(6mg)群及びシスプラチン+R01(18mg)群では著しく低下した(P<0.05)。シスプラチン+R01(36mg)群は、基本的には完全な腎組織形態、わずかな損傷(P<0.01)及び最良の効果を有していたが、これは基本的にはアミフォスチン群と類似していた。
【0396】
産業上の利用可能性
【0397】
本開示の2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンアルキルアルコール誘導体は、優れた抗腫瘍効果と優れた安全性を有する。
【0398】
上記内容は、特定の代替的な実施形態に関連して本開示を更に詳細に説明したものであり、本開示の特定の実施形態がこれらの説明に限定されると結論付けることはできない。本開示が属する技術分野の当業者にとって、本開示の概念から逸脱しない限り、いくつかの単純な推論又は置換を行うことができるが、これらは本開示の保護範囲内にあると見なされるべきである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2024-06-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項3】
がんの治療及び/又は予防ための医薬組成物であって、請求項1に記載の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物を含む医薬組成物。
【請求項4】
上記がんが、肺がん、胃がん、食道がん及び大腸がんから選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物と、白金系薬物とを含む組合せ。
【請求項6】
請求項5に記載の組合せと、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項7】
んの治療及び/又は予防のための医薬組成物であって、請求項5に記載の組合せを含む医薬組成物
【請求項8】
治療で同時使用、逐次使用又は個別使用をするための複合製剤としての、請求項1に記載の式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物と、白金系薬物とを含む医薬品。
【請求項9】
んの治療及び/又は予防のための医薬組成物であって請求項1に記載の式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物と、白金系薬物とを含む医薬組成物
【請求項10】
金系薬物によって誘導される急性腎障害の軽減のための医薬組成物であって請求項1に記載の式(I)の化合物、又はその溶媒和物、水和物、多形、プロドラッグ若しくは同位体変異体、又はそれらの混合物を含む医薬組成物
【請求項11】
上記白金系薬物が、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン及びロプラチンから選択される、請求項5に記載の組合せ、請求項6に記載の医薬組成物、請求項8に記載の医薬品、請求項9に記載の医薬組成物、又は請求項10に記載の医薬組成物
【請求項12】
上記がんが、肺がん、胃がん、食道がん及び大腸がんから選択される、請求項7に記載の医薬組成物、又は請求項9に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】