IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ モッポ ナショナル ユニバーシティ インダストリー-アカデミア コーオペレイション グループの特許一覧 ▶ ソッキョン エイ ティー シーオー エルティディーの特許一覧

特表2024-539762非晶質シリカナノ粉末を用いた透明なシリカ焼結体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-30
(54)【発明の名称】非晶質シリカナノ粉末を用いた透明なシリカ焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/14 20060101AFI20241023BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C04B35/14
C03B20/00 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527071
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 KR2021016451
(87)【国際公開番号】W WO2023080306
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】10-2021-0149555
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.学会ウェブ公開 (掲載日:2020年11月23日、https://kcers.or.kr/Conference/conference01_1.asp?AC=0&B_CATE=BBC1およびhttps://kcers.or.kr/UploadData/Editor/Conference/202011/9112AE40F6A141428FAD67645E2A136C.pdf) 2.学会ポスター発表 (発表日:2020年11月23日~2020年11月25日、2020年韓国セラミック学会 秋季学術大会) 3.学会ウェブ公開 (掲載日:2021年6月16日、https://kcers.or.kr/Conference/conference01_1.asp?AC=0&B_CATE=BBC1およびhttps://kcers.or.kr/UploadData/Editor/Conference/202209/06FBF6763F9B4DDEAB1F98FF356DD775.pdf) 4.学会ポスター発表 (発表日:2021年6月16日~2021年6月18日、2021年韓国セラミック学会 春季学術大会)
(71)【出願人】
【識別番号】524168596
【氏名又は名称】モッポ ナショナル ユニバーシティ インダストリー-アカデミア コーオペレイション グループ
【氏名又は名称原語表記】MOKPO NATIONAL UNIVERSITY INDUSTRY-ACADEMIA COOPERATION GROUP
【住所又は居所原語表記】1666, Yeongsan-ro Cheonggye-myeon, Muan-gun Jeollanam-do 58554 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】513018006
【氏名又は名称】ソッキョン エイ ティー シーオー エルティディー
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン ジン
(72)【発明者】
【氏名】イム,ヒョン ソプ
(72)【発明者】
【氏名】アン,ユ キョン
(72)【発明者】
【氏名】オ,ボク ヒョン
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AH21
(57)【要約】
本発明は、気孔径が最小化され、かつ、均質化されることから、気孔の除去が円滑なシリカ成形体の製造方法及び焼結に際して、シリカ成形体内の粘性流動による緻密化の過程が極大化されて、透明度に優れたシリカ焼結体を製造することのできる熱処理方法を提供する。したがって、本発明の製造方法を利用すれば、非晶質シリカナノ粉末を用いて、透光性が向上した透明な石英ガラスを製造することができるという長所がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粉末を用意する第1のステップと、
前記シリカ粉末を圧縮成形して成形体を製造する第2のステップと、
前記成形体を2℃/minの昇温速度にて1310~1340℃の温度において50~240分間熱処理して、あるいは、2℃/minの昇温速度にて1200~1230℃の温度において20~28時間かけて熱処理することで、透明なシリカ焼結体を製造する第3のステップと、
を含む、焼結を用いた透明なシリカ焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ粉末は、非晶質状態の球状粒子の形状を有することを特徴とする、請求項1に記載の焼結を用いた透明なシリカ焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記成形体は、前記シリカ粉末に対して一軸加圧成形(uniaxial press)により1次成形を行った後、冷間静水圧成形(cold isostatic press)により2次成形を行って製造することを特徴とする、請求項1に記載の焼結を用いた透明なシリカ焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記透明なシリカ焼結体は、前記成形体に対する熱処理後の収縮率(shrinkage)が45.5~47.5%であることを特徴とする、請求項1に記載の焼結を用いた透明なシリカ焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記透明なシリカ焼結体は、紫外線領域(200~380nmの波長)の光は19%~58%透過させ、赤外線領域(2000~2400nm)の光は84%~85%透過させることを特徴とする、請求項1に記載の透明なシリカ焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質シリカナノ粉末を用いた透明なシリカ焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラス(Silica glass)は、高純度の非晶質相(amorphous phase)からなるガラスであって、低い熱膨張係数(0.5×10-6/℃)と優れた化学的な耐久性、及び高い電気抵抗性(1,016Ω・cm)を有することから、理化学器具、絶縁体などに用いられる。また、石英ガラスは、紫外線及び可視光領域において高い透過率を有することから、レンズ、光学材料及びフォトマスク基板、エキシマーステッパー装備用のレンズ素材などの、半導体、ディスプレイ、太陽電池産業においても、最も広く用いられる工程部品用の素材である。
【0003】
石英ガラスは、製造方法に応じて、溶融石英ガラスと合成石英ガラスとに大別できる。前記2つの製造方法の間の最も大きな相違点は、出発原料にある。溶融石英ガラスは、天然石英(quartz)を高温下で溶融して製造する。したがって、金属不純物が含まれていて純度が低いため、透光性(transparency)にやや劣っているという欠点があり、1,800℃以上の高温下で溶融して加工するため、高い製造コストが求められるという欠点を有している。
【0004】
合成石英ガラス(synthetic silica glass)は、四塩化ケイ素(silicon tetrachloride;SiCl)を用いた化学気相蒸着法及びアルコキシド法などにより製造される。したがって、前記溶融石英ガラスに比べて不純物の含量が低いことから、より優れた光学的な特性を有するという長所があるものの、製造工程中に生じる有害ガスの腐食性、揮発性、毒性などに起因して、工程を進める際に、装備の耐食性及び人間に対する安全を考慮した高い費用の投資が求められるという欠点がある。
【0005】
従来の製造方法とは異なり、非晶質相を示すナノ寸法の円形シリカ粉末を用いて、成形と焼結の工程を経て、非晶質の透明な石英(silica)を製造することができる。非晶質相を示す物質の焼結挙動は、結晶質相の焼結とは異なり、粘性流動(viscous flow)を用いた緻密化(densification)挙動が主流をなしている。このような焼結挙動は、温度の上昇に伴う流動性の増加により粒子が移動して、粒界(grain boundary)及び気孔(pore)が除去されることにより、緻密化が進む。焼結の過程において非晶質相の材料が一定の温度以上に達すると、結晶化(crystallization)が起こることになり、拡散(diffusion)などの粒子移動メカニズムが発現される。しかしながら、焼結体の緻密化を進めるエネルギーは、非晶質相から結晶相に切り換えられるのに費やされるため、粘性の流動による緻密化がそれ以上起こらなくなり、このとき、焼結体の内部に除去できなかった気孔及び粒界、並びに結晶相が存在すれば、光を散乱させてしまうため、焼結体の透光性が急激に減少するという問題があった。
【0006】
本明細書において言及されている特許文献及び参考文献は、それぞれの文献が、参照によって個別的にかつ明確に特定されたものと同一の程度に、本明細書に参照として取り込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、非晶質シリカナノ粉末を焼結して透明なシリカ焼結体を製造する方法に関するものである。本発明の目的は、シリカ焼結体の内部に、除去できなかった気孔及び粒界、並びに結晶相が存在すれば、光を散乱させてしまうため、焼結体の透光性が急激に減少するという問題を解消することのできる、透明なシリカ焼結体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シリカを焼結して透明なシリカ焼結体を製造する従来の問題点を克服するために、非晶質シリカ成形体内の気孔径が最小化され、かつ、均質化されることから、気孔の除去が円滑な最適な成形条件、及び、前記成形体内の粘性流動による緻密化の過程が極大された最適な熱処理条件を含む透明なシリカ焼結体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、気孔径が最小化され、かつ、均質化されることから、気孔の除去が円滑なシリカ成形体の製造方法及び焼結に際して、シリカ成形体内の粘性の流動による緻密化の過程が極大化されて、透明度に優れたシリカ焼結体を製造することのできる熱処理方法を提供する。したがって、本発明の製造方法を利用すれば、非晶質シリカナノ粉末を用いて、透光性が向上した透明な石英ガラスを製造することができるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の非晶質シリカナノ粉末を分析した結果を示す。パネル(a)は、非晶質シリカナノ粉末の微細構造を示し、パネル(b)は、非晶質シリカナノ粉末の結晶度を示し、パネル(c)は、非晶質シリカナノ粉末のフーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)による分析結果を示す。
図2】本発明の透明なシリカ焼結体を1200~1350℃にて1時間かけて熱処理して製造した結果を示す。
図3】本発明の透明なシリカ焼結体を1350℃にて1時間かけて熱処理して製造した結果を示す。
図4】本発明の透明なシリカ焼結体の切断面を走査電子顕微鏡(SEM)により分析した結果を示す。パネル(a)は、1200℃において熱処理して製造した焼結体を示し、パネル(b)は、1250℃にて熱処理して製造した焼結体を示し、パネル(c)は、1275℃において熱処理して製造した焼結体を示し、パネル(d)は、1300℃にて熱処理して製造した焼結体を示し、パネル(e)は、1325℃にて熱処理して製造した焼結体を示し、パネル(f)は、1350℃にて熱処理して製造した焼結体を示す。
図5】本発明の透明なシリカ焼結体をX線回折法(XRD)により分析した結果を示す。
図6】本発明の透明なシリカ焼結体を1325℃にて焼結して製造した結果を示す。パネル(a)は、焼結体の写真を示し、パネル(b)は、表面の微細構造を示す。
図7】本発明の透明なシリカ焼結体を1215℃にて12時間、18時間、24時間、30時間かけて熱処理して製造した結果を示す。
図8】本発明の透明なシリカ焼結体の切断面を走査電子顕微鏡(SEM)により分析した結果を示す。パネル(a)は、1215℃にて12時間かけて熱処理して製造した焼結体を示し、パネル(b)は、1215℃にて18時間かけて熱処理して製造した焼結体を示し、パネル(c)は、1215℃にて24時間かけて熱処理して製造した焼結体を示し、パネル(d)は、1215℃にて30時間かけて熱処理して製造した焼結体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、シリカ粉末を用意する第1のステップと、前記シリカ粉末を圧縮成形して成形体を製造する第2のステップと、前記成形体を2℃/minの昇温速度にて1310~1340℃の温度において50~240分間熱処理して、あるいは、2℃/minの昇温速度にて1200~1230℃の温度において20~28時間かけて熱処理して透明なシリカ焼結体を製造する第3のステップと、を含む焼結を用いた透明なシリカ焼結体の製造方法を提供する。
【0012】
前記シリカ粉末は、非晶質状態の球状粒子の形状を有することを特徴とし、前記成形体は、前記シリカ粉末に対して、一軸加圧成形(uniaxial press)により1次成形を行った後、冷間静水圧成形(cold isostatic press)により2次成形を行って製造することを特徴とする。
【0013】
前記製造方法により製造した透明なシリカ焼結体は、前記成形体に対する熱処理の後の収縮率(shrinkage)が45.5~47.5%であることを特徴とし、紫外線領域(200~380nmの波長)の光は19%~58%を、赤外線領域(2000~2400nm)の光は84%~85%を透過させることを特徴とする。
【0014】
(発明の実施のための形態)
本発明は、下記のステップを含む、透明なシリカ焼結体の製造方法を提供する:
【0015】
シリカ粉末を用意する第1のステップと、前記シリカ粉末を圧縮成形して成形体を製造する第2のステップ、及び、前記成形体を、2℃/minの昇温速度にて1310~1340℃の温度において50~240分間熱処理して、あるいは、2℃/minの昇温速度にて1200~1230℃の温度において20~28時間かけて熱処理して、透明なシリカ焼結体を製造する第3のステップ。
【0016】
本発明の製造方法は、透光率が高くて透明度が高い透明なシリカ焼結体を提供する。このために、本発明においては、成形体内の気孔径が小さくなるように、かつ、均質になるように、最適な成形条件を確立し、前記成形体の粘性流動による緻密化が極大化されるように最適な焼結処理条件を確立した。
【0017】
前記シリカ粉末は、非晶質(amorphous)状態の球状粒子の形状を有することを特徴とし、好ましくは、平均径10~900nmの粒径の球状非晶質シリカ粉末であることを特徴とする。前記シリカ粉末は、一軸加圧成形(uniaxial press)により1次成形した後、冷間静水圧成形(cold isostatic press)により2次成形して製造することを特徴とする。前記一軸加圧成形は、弾力性のない成形型内において単一の軸方向に加圧して粉末を圧縮成形する方法を意味し、前記冷間静水圧成形は、弾力性のある成形型において液体を用いて等方圧(Isostatic Pressure)により加圧して圧縮成形する方法を意味する。前記冷間静水圧成形は、等方圧により成形することから、大きさ、形状及び位置を問わずに一定の成形密度を有するという長所がある。前記1次成形は、主として成形体の形状を形成する過程であり、前記2次成形は、成形体内の気孔径が小さくなるように、かつ、均質になるようにする過程である。
【0018】
本発明の実施形態によれば、前記一軸加圧成形により1次成形した後、冷間静水圧成形により2次成形した成形体の成形密度は、1~1.2g/cmであることが好ましく、このためには、170~230MPaの成形圧、及び3~7分の保持時間により成形することが好ましい。
【0019】
前記1次及び2次成形を用いて製造した成形体は、2℃/minの昇温速度にて1310~1340℃の温度において50~240分間熱処理して、あるいは、2℃/minの昇温速度にて1200~1230℃の温度において20~28時間かけて熱処理して透明なシリカ焼結体を製造する。
【0020】
前記1310~1340℃の温度にて焼結する条件は、50~240分間の熱処理だけで透明な焼結体を製造することができるという長所があり、焼結温度が1310℃未満であるか、あるいは、1340℃を超える温度にて熱処理を施すと、焼結体の透明度が低下する恐れがある。
【0021】
前記1200~1230℃の温度において焼結する条件は、20~28時間かけて熱処理を施すことにより透明な焼結体を製造することができ、焼結温度が1200℃未満であるか、あるいは、1230℃を超える温度にて熱処理を施すと、焼結体の透明度が低下する恐れがある。
【0022】
本発明の製造方法により製造した透明なシリカ焼結体は、前記成形体に対する熱処理後の収縮率(shrinkage)が45.5~47.5%であることを特徴とし、焼結体の密度が2.15g/cmに増加していることを特徴とする。
【0023】
本発明の製造方法により製造した透明なシリカ焼結体は、紫外線領域(200~380nmの波長)の光は19%~58%を透過させ、赤外線領域(2000~2400nm)の光は84%~85%を透過させることを特徴とする。
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述する。
【0025】
実施例
【0026】
1.実験方法
【0027】
1)シリカ原料粉末
【0028】
本発明の成形体の製造のためのシリカ原料粉末は、韓国のソッキョンAT(Sukgyung AT)社から購入した(SG-700)。前記シリカ原料粉末は、電界放出走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope, JSM-7100F、日本電子株式会社(JEOL)製)を用いて、粒径と形状を観察した。また、X線回折分析装置(X-Ray Diffractometer, Smartlab(登録商標)、株式会社リガク製)と、フーリエ変換赤外線分光計(FT-Infrared Spectrometer, Spectrum400,パーキンエルマー社製)とを用いて、出発粉末の結晶相(crystal phase)及び結合構造(bond structure)を分析した。
【0029】
2)成形体の製造
【0030】
径15mmの円形モールドに0.5gのシリカ粉末を入れて、100psiの圧力にて1分間、一軸加圧成形(uniaxial press)するという方法により、Φ15mm×2mmのサイズのディスク形状の1次成形体を製造した。前記1次成形体(green body)の充填密度(packing density)を増加させるために、150MPa~250MPaの圧力にて、5分間もしくは10分間の冷間等圧成形(cold isostatic press)を行って2次成形体(最終成形体)を得た。前記成形体は、寸法測定法を用いて成形密度(green density)を測定し、これを比較した。
【0031】
3)成形体の焼結
【0032】
前記2次成形体に対しては、大気雰囲気下で電気炉を用いて焼結を行った。前記焼結は、2℃/minの昇温速度(heating rate)にて1200~1350℃において1時間かけて熱処理する方法により行った。それぞれ温度条件を異ならせて焼結された焼結体(試片)に対してSEMとXRD分析を行って微細構造と結晶化(crystallization)の有無を考察した。
【0033】
また、結晶化が起こらない比較的に低い温度である1215℃において、それぞれ12、18、24、30時間に焼結保持時間を調節して、透明な焼結体の製造を試みたのであって、得られた試片の密度、微細構造、結晶相の分析を行った。
【0034】
焼結体の透過率は、紫外線-可視光分光光度計(UV-Vis Spectrometer,Lambda365、パーキンエルマー製)を用いて分析し、かつ比較した。
【0035】
2.実験結果
【0036】
本発明において用いたシリカ粉末は、図1でのように、非晶質状態の球状粒子の形状を示し、粒子の粒径は、約700nmを示すことが確認された。図1のパネル(c)は、粉末の構造を分析したFT-IRスペクトル結果を示す。実験の結果、シリカ構造以外の、水酸基などのピークは観察されなかった。図1のFT-IRスペクトル結果において、480cm-1のピークは、Si-O結合の曲げ振動を意味し、808cm-1のピークは、四面体の間に酸素を連結する、Si-O-Siの対称の伸縮振動を意味する。なお、1,103cm-1のピークは、四面体内の架橋酸素のSi-O-Si非対称ストレッチング構造を意味する。
【0037】
水酸基及び不純物は、非晶質シリカ粒子の核の生成を促し、これと同時に、非晶質シリカの結晶化温度を低めて結晶相の形成を促すため、緻密な透光性サンプルの製造のためには、存在しないことが好ましい。したがって、本発明において用いられたシリカ粉末は、極めて好適な粉末であることが認められる。
【0038】
前記シリカ粉末を用いた冷間静水圧成形工程に際して、成形圧(Forming pressure)(MPa)及び保持時間(Holding time)(min)を調節して、様々な成形体を製造した。表1は、これにより製造された各成形体の密度値(Green density)(g/cm)を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
200MPaの圧力にて5分間成形して製造した成形体は、成形密度が1.12g/cmであることが確認され、それ以上の圧力及び保持時間を与えても、比較的に一定の成形密度値を保持することが確認された。これにより、以降のすべての成形体は、200MPaの圧力下で5分間成形して製造することにした。
【0041】
図2は、本発明の、それぞれの焼結温度にて熱処理を施した、焼結体サンプルの透光性の度合いを、目視にて比較したものを示す。1200℃から1325℃までは、焼結温度が上がるにつれて、サンプルの透光性が増加することを確認することができる。特に、1325℃にて熱処理した時に、最も優れた透光性を示した。
【0042】
しかしながら、それ以上に焼結温度を高めると、再び不透明になることを目視にて確認することができた。特に、低温下で熱処理を施した焼結体とは異なり、1350℃にて焼結した試片は、外面は不透明であるものの、その内部は透明な状態を示している。図3は、1350℃にて焼結した試片の、表面と内部との違いを示す。
【0043】
図4は、各温度において焼結されたサンプル破断面の微細構造を示す。1200℃においては、粒子の間にネック(neck)が形成され始める様子が観察され、円形の粒子の間の気孔が比較的に均一に分布されていることが認められた。1250℃においては、粒子の間の接触面が増加して粒界(grain boundary)の面積が広くなったのであり、開気孔(open pore)の孔径が、より均一になったことが認められる。1275℃においては、気孔(pore)は、ほとんど閉気孔(closed pore)に変わり、活発な粘性流動による粒子の移動によって、粒界及び残余の気孔が徐々に消えていることが認められる。1300℃においては、粘性流動によって粒界(grain boundary)はほとんど消滅され、気孔の内部の原子の拡散が持続的に起こり続けて、円形の残留気孔が僅かに観察されたのであり、1325℃においては、粒界と気孔がいずれも観察されなかった。1350℃においては、試片の内部(Inside)と外部(Outside)とで明らかな違いを確認することができた。透光性を示す内側面は、微細構造から明らかなように、気孔及び粒界が観察されなかったものの、外側の部分においては結晶化が起こって、クリストバライト(cristobalite)相の円形の結晶が観察された。
【0044】
図5は、焼結温度に応じた試片のXRD分析結果を示す。1200℃から1250℃までは、特定のピークが観察されない非晶質状態を示しているが、1275℃から微細なクリストバライトピークが観察されており、最も透光性に優れた1325℃にて熱処理を施した試片の場合でも、クリストバライト結晶相が観察された。1350℃にて熱処理を施した試片は、表面と内部とに分けてそれぞれ分析を行った。その結果、内部(Inside)は非晶質のピークが、表面(Outside)はクリストバライト相の強いピークが、観察された。表面と内部との違いは、熱処理に際して熱が表面から内側に伝えられるため、表面から核が生成されて成長した結果であると判断される。
【0045】
フレンケルモデル(Frenkel model)の粘性流動の焼結モデルに関する関係式は、次の通りである。
【0046】
【数1】
【0047】
ρは初期密度を、ρはガラスの密度を、γはガラスの表面エネルギーを、η(T)は温度に応じた粘度値を示す。
【0048】
時間に応じた密度(ρ(t))は、温度に応じた粘度値とガラスの表面エネルギーによって左右されるが、事実上、焼結時の表面エネルギーの変化は大きくないため、結果的に、密度は、粘度を左右する温度に依存する。このような理論式は、焼結体の収縮率からも確認可能であり、温度に応じた収縮率の比較を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
焼結温度(Sintering Temp.)(℃)が高くなれば高くなるほど、収縮率(shrinkage)(%)も増加するということを確認することができたのであり、特に、1275℃と1300℃との間において大きな収縮率を示した。このことは、極めて短い温度区間において、粒子の成長とともに気孔の消滅が起こるということを意味する。
【0051】
焼結温度の他に、保持時間もまた焼結に影響を及ぼす。図6は、高い透光性を示す1325℃にて5時間の間にわたって保持して製造した焼結体を示す。実験の結果、1時間の間にわたって保持したときとは異なり、不透明な焼結体が得られた。微細構造を観察した結果、結晶化が起こって透光性が低下したと判断されるのであり、シリカの結晶化に、保持時間も重要な変数であるということが分かる。結晶化によって透光性が低下する温度差が僅か25℃に過ぎず、透光性が発現される温度においても保持時間の違いにより容易に結晶化されるシリカの特性からみて、温度の制御を用いた透光性の調節には難点があるものと判断された。したがって、透光性の低下の原因となる結晶化を防ぐために、結晶化が起こらない比較的に低い温度である1215℃において、保持時間を調節して焼結を行った。表3は、保持時間に応じた焼結体の密度値を示す。実験の結果、保持時間が長引くにつれて、焼結密度も増加することが確認された。
【0052】
【表3】
【0053】
図7は、保持時間に応じた焼結試片の透光性を比較した結果を示す。実験の結果、12時間までは不透明であったものの、18時間から透光性が発現され、24時間の保持時間において最も高い透光性が観察された。しかしながら、24時間以上の保持時間を与えたときに、再び透光性が低下するということを目視にて確認することができた。
【0054】
表4は、保持時間に応じた収縮率の比較結果を示す。表4の結果によれば、粘性流動焼結機構においては、焼結収縮の度合いが時間に比例するということが確認された。
【0055】
【表4】
【0056】
図8は、保持時間の調節に伴う焼結試片の微細構造を観察した結果を示す。実験の結果、保持時間12時間においては、粒子の間のネック(neck)のみが形成されて緻密化が起こらない結果、粒界と多量の気孔が観察された。保持時間18時間と24時間においては、気孔及び粒界が観察されなかったものの、保持時間30時間においては屈曲した部分が見られ始めた。
【0057】
上記の結果は、結晶化の発現の初期の現象であると考えられ、これを確認するために、保持時間に応じたXRD分析を行った。図9は、XRD分析結果を示す。分析の結果、12時間から24時間までは非晶質相が観察されたが、30時間においてはクリストバライト結晶のピークが観察されるということが確認された。
【0058】
図10及び表5は、目視にて判断した透光性の度合いを紫外線-可視光分光計を用いて測定した透過率を示す。
【0059】
【表5】
【0060】
測定の結果、12時間かけて焼結した試片は、すべての波長帯に対して透過率が0%であり、24時間かけて焼結した試片においては、紫外線領域(200~380nmの波長)は19%~58%、赤外線領域(2000~2400nm)は84%~85%の透過率を示した。
【0061】
4.結論
【0062】
本発明においては、不純物のない均一な粒径を有する、非晶質の球状のナノシリカ粉末を用いて、透光性シリカ焼結体を製造した。成形体の製造条件、焼結温度、保持時間などの変数を調節することで緻密化に伴う透光性を誘導したのであり、粉末成形体は、粘性流動による焼結機構挙動を示した。緻密化が進むにつれて、気孔と粒界が消え、透光性が発現されたのであり、温度と保持時間に敏感に依存するクリストバライト(cristobalite)の結晶化は透光性を低下させた。
【0063】
より安定的な非晶質焼結体の製造のために、結晶化が生じていない比較的に低い温度である、1215℃において保持時間を調節した結果、透光性が発現される非晶質のシリカ焼結体が得られた。このような焼結体は、紫外線領域(200~380nmの波長)の光は19%~58%、赤外線領域(2000~2400nm)の光は84%~85%の透過率を示しており、このような結果は、既存の石英ガラスにより製造される紫外線透過レンズの製造に活用可能であると認められる。
【0064】
本明細書において説明された具体的な実施形態は、本発明の望ましい実現例、または例示を代表するものという意味であり、これらによって本発明の範囲が何ら限定されるものではない。本発明の変形及び他の用途が、本明細書の特許請求の範囲に記載の発明の範囲から逸脱しないということは、当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、シリカ焼結体の内部に、除去できなかった気孔及び粒界、並びに結晶相が存在すれば、光を散乱させてしまうため、焼結体の透光性が急激に減少するという問題を解決することのできる、透明なシリカ焼結体の製造方法を提供するので、レンズ、光学材料及びフォトマスク基板、エキシマーステッパー装備用のレンズ素材などの、半導体、ディスプレイ、太陽電池産業に最も広く用いられる工程部品用の素材を製造することができる。
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図4(c)】
図4(d)】
図4(e)】
図4(f)】
図5
図6
図7
図8(a)】
図8(b)】
図8(c)】
図8(d)】
図9
図10
【国際調査報告】