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特表2024-539776ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の胃炎の予防及び/又は改善における使用
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  • 特表-ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の胃炎の予防及び/又は改善における使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の胃炎の予防及び/又は改善における使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/745 20150101AFI20241023BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241023BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241023BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20241023BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20241023BHJP
【FI】
A61K35/745
A61P1/04
A61K9/08
A23L33/135
C12N1/20 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532579
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 CN2022135672
(87)【国際公開番号】W WO2023098764
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】202111453430.5
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522199044
【氏名又は名称】内蒙古伊利実業集団股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Inner Mongolia Yili Industrial Group Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.1 Yili Street, Chilechuan Dairy Development Zone, Hohhot City, Inner Mongolia, 010000, China
(71)【出願人】
【識別番号】522199055
【氏名又は名称】内蒙古乳業技術研究院有限責任公司
【氏名又は名称原語表記】INNER MONGOLIA DAIRY TECH RES INSTITUTE CO LTD
【住所又は居所原語表記】No.8 Guochuang West Road, Chilechuan Dairy Development Zone, Tumote Left Banner, Hohhot City, Inner Mongolia 010000, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】趙 ▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】洪 維錬
(72)【発明者】
【氏名】劉 偉賢
(72)【発明者】
【氏名】劉 福東
(72)【発明者】
【氏名】侯 保朝
(72)【発明者】
【氏名】張 海斌
(72)【発明者】
【氏名】尹 小静
(72)【発明者】
【氏名】薛 建崗
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD87
4B018ME11
4B065AA21X
4B065AC20
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
4C076AA12
4C076BB01
4C076CC16
4C076FF11
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC59
4C087MA17
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA66
(57)【要約】
本発明は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の胃炎の予防及び/又は改善における使用に関する。本発明は、受託番号CGMCC No. 15650のビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)の胃炎を予防及び/又は改善するための組成物の調製における使用を提供する。前記ビフィドバクテリウム・ラクティスは、慢性胃炎を予防及び/又は改善でき、及び/又は胃炎に関連する胃粘膜萎縮を予防及び/又は改善できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号CGMCC No. 15650のビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)の胃炎を予防及び/又は改善するための組成物の調製における使用。
【請求項2】
前記胃炎を予防及び/又は改善することは、機能性消化不良症状の改善、ペプシノゲンI(PG1)及び/又はPGI/PGIIの指標レベルの向上、胃酸分泌量の調節、及び/又は炎症因子IL-6及び/又はTNF-αの発現の低下のうちの効果を一つ又は複数を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記胃炎を予防及び/又は改善することは、慢性胃炎を予防及び/又は改善すること、及び/又は胃炎に関連する胃粘膜萎縮を予防及び/又は改善することを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物は、食品組成物、飼料組成物又は医薬組成物を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記ビフィドバクテリウム・ラクティスは、固形又は液状の菌製剤として、前記組成物の調製に使用する、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記ビフィドバクテリウム・ラクティスは、生菌又は不活化菌として、前記組成物の調製に使用する、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬組成物は、薬学的に許容される補助材を更に含み、前記補助材は、賦形剤、希釈剤、充填剤及び/又は吸収促進剤を含む、請求項4に記載の使用。
【請求項8】
前記ビフィドバクテリウム・ラクティスの使用量は、1.0×103CFU/日-1.0×1012CFU/日であり、好ましくは、1.0×107CFU/日-1.0×1011CFU/日である、請求項4~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記組成物は、食品組成物である、請求項4~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記食品は、発酵乳製品、チーズ、乳入り飲料、固形飲料、錠菓、ミルクチップ、アイスクリーム、粉乳である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
有効量の受託番号CGMCC No. 15650のビフィドバクテリウム・ラクティスを含む、胃炎を予防及び/又は改善するための組成物。
【請求項12】
前記組成物は、食品組成物、飼料組成物又は医薬組成物を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
被験者に有効量の受託番号CGMCC No. 15650のビフィドバクテリウム・ラクティスを投与することを含む、胃炎を予防及び/又は改善する方法。
【請求項14】
前記胃炎を予防及び/又は改善することは、機能性消化不良症状の改善、ペプシノゲンI(PG1)及び/又はPGI/PGIIの指標レベルの向上、胃酸分泌量の調節、及び/又は炎症因子IL-6及び/又はTNF-αの発現の低下のうちの効果を一つ又は複数を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
被験者に投与される前記ビフィドバクテリウム・ラクティスの量は、1.0×103CFU/日-1.0×1012CFU/日であり、好ましくは、1.0×107CFU/日-1.0×1011CFU/日である、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis) BL-99(受託番号CGMCC No. 15650)の新規使用に関し、具体的には、本発明は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の胃炎を予防及び/又は改善するための組成物の調製における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性胃炎は、消化管系の一般的な疾患であり、消化性潰瘍を合併することが多く、胃癌の前癌疾患の一つとされます。近年、生活レベルの向上や仕事ストレスの増加に伴い、慢性胃炎の罹患率が年々上昇している。患者の臨床症状は、上腹部の不快感、満腹感、食欲減退、胃酸の逆流、腹部脹痛などであり、一部の患者には、さらに無力、消耗、不安、うつなどの全身的精神症状が有し得る。関連臨床研究により、慢性胃炎の進行を逆転させることも胃癌の発症を予防するためのキーポイントであることが証明されている。
【0003】
血清ペプシノゲン(pepsinogen、PG)I、II及びガストリン-17(gastrin-17)の検出は、胃粘膜萎縮の有無及び程度の判定に役立つことがある。血清PGI、PGII、PGI/PGII比と抗H.pylori抗体との合併検出は、慢性胃炎のリスク層別化管理に寄与する。
【0004】
PGレベルは、胃粘膜の機能状態を反映し、胃粘膜に萎縮が発生すると、PGI及びPGIIレベルが低下するが、PGIレベルの低下がより顕著であるため、PGI/PGII比が低下する。PGの測定は、萎縮の範囲の判定に有用である。胃体萎縮症の場合、PGI、PGI/PGII比が低下するが、血清ガストリン-17レベルが上昇する。幽門洞萎縮症の場合、血清ガストリン-17レベルが低下するが、PGI、PGI/PGII比が正常である。全胃萎縮症の場合、両方とも低下する。通常、PGIレベル≦70g/L且つPGI/PGII比≦3.0を萎縮性胃炎の診断閾値とし、これを胃癌の高リスク集団のスクリーニング基準とし、ヨーロッパ及び日本では胃癌リスクのスクリーニングに広く用いる。中国の胃癌多発地域でのスクリーニングには、PGIレベル≦70g/L且つPGI/PGII≦7.0という基準を採用することが多いが、現在、これを証明できる大規模サンプルの経過観察データが不足している。
【0005】
多くの研究により、血清PGの検出が胃癌の高リスク集団のリスク層別化に有用であることが証明されており、PG検出によって萎縮症と診断された者、及びPG検出による萎縮診断が陰性であるが、PGI/PGII比の値が低い者は、胃癌リスクが高く、更に胃内視鏡検査を行うべきである。血清PGと血清抗H.pylori抗体との合併検出によって、ヒト集団をA、B、C、Dの4群に分けられ、各群ごとに胃癌の発生率が異なり、価値のある胃癌リスクの予測指標であり、日本では、これを胃癌リスクの層別化方法(ABCD法)として、対応する検査戦略を作成する。最近、中国の研究結果は、PG、ガストリン-17及び抗H.pylori抗体の合併検出によって、胃癌の発生リスクを層別し、高リスク個体を同定して胃内視鏡検査を行うことが可能であることを示している。
【0006】
PGI/PGII比の値は、OLGA分類と負の相関があり、比の値が低いほど、分類が高く、PGI/PGII比≦3.0を境に、低リスク及び高リスクのOLGA分類を区別することができ、その感度が77%であり、特異度が85%であり、陽性予測値が45%であり、陰性予測値が96%と高い。H.pylori感染は、PGI、PGIIレベルを上昇させ、特にPGIIレベルがより顕著に上昇するため、PGI/PGII比が低下し、H.pyloriを根絶した後、PGI、PGIIレベルが低下し、PGI/PGII比が上昇する。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一つの目的は、ビフィドバクテリウム・ラクティスの新規使用を提供することにある。
【0008】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明は、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Lactobacillus paracasei) BL-99菌株の新規使用を提供しており、該ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99菌株は、2017年12月18日にCGMCC No. 15650の受託番号で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センターに寄託された。ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99菌株は、特許文献CN 110964653 Aに開示されている生物材料である。従来技術の研究から明らかなように、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99は、食用に安全なプロバイオティクスであり、胃酸及び腸液に耐える性能を有する。また、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99は、腸管免疫力の向上、腸管バリアの完全性の向上、腸管炎症因子の発生を抑制するなどの作用を有する。
【0009】
本発明者らは、研究において、受託番号CGMCC No. 15650のビフィドバクテリウム・ラクティスビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)(即ち、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99)が胃炎を予防及び/又は改善する効果を有し、具体的には、機能性消化不良症状の改善、PGI及びPGI/PGIIの指標レベルの向上、胃酸分泌量の調節、及び/又は炎症因子IL-6、TNF-αの発現の低下のうちの効果を一つ又は複数を示すことを実験的に発見した。これにより、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99は、慢性胃炎、萎縮性胃炎(胃炎に関連する胃粘膜萎縮)などの胃部疾患の予防及び/又は改善に優れた潜在力を有することが示される。
【0010】
これにより、本発明は、受託番号CGMCC No. 15650のビフィドバクテリウム・ラクティス(即ち、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99)である、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)の胃炎を予防及び/又は改善するための組成物の調製における使用を提供する。
【0011】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の使用において、前記胃炎を予防及び/又は改善することは、機能性消化不良症状の改善、ペプシノゲンI(PG1)及び/又はPGI/PGIIの指標レベルの向上、胃酸分泌量の調節、及び/又は炎症因子IL-6及び/又はTNF-αの発現の低下のうちの効果を一つ又は複数を含む。
【0012】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の使用において、前記PGI及び/又はPGI/PGIIの指標レベルの向上は、ペプシノゲンI(PG1)分泌の増加及び/又はPG1/PGII比の値の向上を含む。
【0013】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の使用において、前記胃炎を予防及び/又は改善することは、慢性胃炎を予防及び/又は改善すること、及び/又は胃炎に関連する胃粘膜萎縮を予防及び/又は改善することを含む。
【0014】
本発明に記載の「改善」は、関連症状の緩和を含む。
【0015】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の使用において、前記組成物は、食品組成物、飼料組成物又は医薬組成物を含む。
【0016】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の使用において、前記ビフィドバクテリウム・ラクティスは、固形又は液状の菌製剤として、前記組成物の調製に使用してもよい。
【0017】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の使用において、前記ビフィドバクテリウム・ラクティスは、生菌又は不活化菌として、前記組成物の調製に使用してもよい。
【0018】
本発明のいくつかの具体的な実施形態によれば、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の使用において、前記組成物は、医薬組成物である。前記医薬組成物は、薬学的に許容される補助材を更に含み、前記補助材は、賦形剤、希釈剤、充填剤及び/又は吸収促進剤を含む。
【0019】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の使用において、前記ビフィドバクテリウム・ラクティスの使用量は、1.0×103CFU/日-1.0×1012CFU/日であり、好ましくは1.0×107CFU/日-1.0×1011CFU/日である。
【0020】
本発明のいくつかの具体的な実施形態によれば、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の使用において、前記組成物は、食品組成物である。ここで、前記食品は、発酵乳製品、チーズ、乳入り飲料、固形飲料、錠菓、ミルクチップ、アイスクリーム又は粉乳であってもよい。
【0021】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明における前記組成物は、当該分野における通常原料成分を更に含んでもよい。例えば、医薬組成物について、適量な補助材を含んでもよく、前記補助材は、賦形剤、希釈剤、充填剤及び/又は吸収促進剤などであってもよい。食品組成物について、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスは、従来技術におけるビフィドバクテリウム・ラクティス含有食品に従って製造してもよい。前記組成物は、被投与者の必要に応じて異なる形態をとることができる。例えば、粉剤、錠剤、造粒剤、マイクロカプセル及び/又は液剤などである。
【0022】
他の側面において、本発明は、有効量の受託番号CGMCC No. 15650のビフィドバクテリウム・ラクティスを含む、胃炎を予防及び/又は改善するための組成物を提供する。
【0023】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明の胃炎を予防及び/又は改善するための組成物は、食品組成物、飼料組成物又は医薬組成物を含む。
【0024】
他の側面において、本発明は、被験者に有効量の受託番号CGMCC No. 15650のビフィドバクテリウム・ラクティスを投与することを含む、胃炎を予防及び/又は改善する方法を提供する。
【0025】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記胃炎を予防及び/又は改善することは、機能性消化不良症状の改善、ペプシノゲンI(PG1)及び/又はPGI/PGIIの指標レベルの向上、胃酸分泌量の調節、及び/又は炎症因子IL-6及び/又はTNF-αの発現の低下のうちの効果を一つ又は複数を含む。
【0026】
本発明の具体的な実施形態によれば、被験者に投与される前記ビフィドバクテリウム・ラクティスの量は、1.0×103CFU/日-1.0×1012CFU/日であり、好ましくは1.0×107CFU/日-1.0×1011CFU/日である。
【0027】
本発明は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の胃炎を予防及び/又は改善するための組成物の調製における新規使用を提供する。本発明は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99が機能性消化不良症状を改善し、PGI及びPGI/PGIIの指標レベルを向上し、胃酸分泌量を調節し、及び/又は炎症因子IL-6、TNF-αの発現を低下させることができることを実験的に検証している。これにより、本発明のビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99は、慢性胃炎、萎縮性胃炎(胃炎に関連する胃粘膜萎縮)などの胃部疾患の予防及び/又は改善に優れた潜在力を有することが示される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99が、ペプシノゲンI(PG1)の分泌を有意に増加させ(図A)、PG1/PGII比の値を向上させる(図B)ことを示す。
図2図2は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99が、胃酸過多症集団におけるG-17の分泌を有意に低下させることを示す。
図3図3は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99が、胃酸過少症集団におけるG-17の分泌を有意に向上させることを示す。
図4図4は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99が、炎症因子IL-6の発現を有意に低下させることを示す。
図5図5は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99が、炎症因子TNF-αの発現を有意に低下させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の技術的特徴、目的及び有益な効果をより明瞭に理解するために、具体的な実施例を参照しながら、本発明の技術案を以下に詳細に説明するが、これらの実施例は、単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。
【0030】
実施例において、各出発試薬材料は、何れも市販品として入手され得るものであり、具体的な条件を明記していない実験方法は、当分野で周知の通常方法及び通常条件であるか、又は機器メーカによって推奨される条件に従う。
【実施例1】
【0031】
1. 実験材料及び方法
1.1 菌種及び被験試料
プロバイオティクスBL-99固形飲料は、低用量(BL-99菌粉末3.34%、マルトデキストリン96.66%)が1×1010CFU/日(E群)であり、高用量(BL-99菌粉末16.67%、マルトデキストリン83.33%)が5×1010CFU/日(F群)である。固形飲料処方を参照し、その中の菌粉末を同量のマルトデキストリンで代替したもの(即ち、全てマルトデキストリンである)をプラセボ群(D群)とする。
【0032】
1.2被験対象
受け入れ基準:食後満腹感、早期満腹感、上腹部痛み、上腹部焼け、食後悪心又は嘔吐、ゲップ、上腹部膨満感、胃酸の逆流、焼け、胸骨後痛み又は不快感などの症状を一つ又は複数有し、治療経過が6か月を超え、直近3か月に症状の発作がある。
【0033】
排除基準:胃ピロリ菌感染者、急性下痢者、重篤な器質的病変による消化不良者、心血管、肝臓、腎臓及び造血系などの重篤な全身性疾患を合併した患者、体質虚弱により試験を受けられない者。
【0034】
1.3機器及び設備
Sigma 3K30低温高速遠心機、ドイツSatorious社。MS2ボルテックスシェイカー、ドイツIKA社。1万分の1電子天秤(TP-214)、米国DENVER INSTRUMENT社。ガスクロマトグラフ(Agilent GC-8860)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS,Agilent 7200-7890B Accurate-Mass Q-TOF)。
【0035】
1.4実験プロトコールの設計
300人の集団をプラセボ群(D群)、低用量群(E群、100億CFU)、高用量群(F群、500億CFU)の3群に分ける。集団ごとの実験期間は、7日間の排出期、8週間の菌粉末飲用期及び2週間の追跡期を含む11週間である。菌粉末は、2-8℃の冷蔵庫で保存し、被験者は、飲用期において、毎日昼食又は夕食後1h以内に、菌粉末を45℃の温水に溶けて、毎日1袋飲用する。それぞれ、排出期の終わり(V1期)、飲用期の4週目の終わり(V2期)及び8週目の終わり(V3期)、追跡期の2週目(V4期)の終わりに、被験者の新鮮な便サンプル及び血サンプルを収集し、医師により臨床症状スコア(表1に示す)を行い、試験開始から終了まで、被験者は、毎日に、食習慣、消化系改善スコア、腸管健康状況スコア、排便習慣満足度スコアを記録する。補助薬介入群は、実験期間において、元の薬物服用習慣及び個人生活習慣を変更しない。実験の全過程において、被験者は、いかなる発酵食品(キムチ、白菜漬け、腐乳、豆鼓、チーズ、活性発酵乳飲料などを含む)及び他のプロバイオティクス製品を飲用してはいけない。
【表1】
【0036】
1.5検査指標
1.5.1 血清サンプルの分析
被験者からの全血5mLを室温で2h程度置き、3500r/minで15分間遠心分離し、血清を測定までに-80℃で保存する。
【0037】
サンプリング当日に、空腹で採血し、ラベルを貼付して所定の時間内に医学検査センターに移送し、運搬中に激しい振とうを避ける。
【0038】
1.5.2胃消化能力の分析
ELISAキットを使用して、血清中のガストリン(G-17)の濃度を検出し、免疫比濁法キットを使用して、血清中のペプシノゲンI(PGI)及びペプシノゲンII(PGII)の濃度を検出し、最後に計算法によって、PGIとPGIIとの比値(PGR)を計算し、胃部消化能力の指標を検出することにより、BL-99によるヒト集団の胃消化能力に対する効果を判定する研究を行う。
【0039】
1.5.3細胞因子の分析
ELISAキット(excell-bio)を使用して、血清中の細胞因子IL-6及びTNF-αを検出する。
【0040】
2.データの統計分析
SPSS 20.0、GraphPad Prism 8で統計分析する。被験者の社会人口学的特徴を記述するために、記述統計(百分率、平均値及び標準偏差)を使用する。群内の比較には対応のないt検定、繰り返し測定分散分析(ANOVA)検定又はマン・ホイットニー(Mann-Whitney)検定方法をそれぞれ使用し、複数の群間の比較にはクラスカル・ウォリス(Kruskal-Wallis)検定を使用し、計数データにはカイ二乗検定及びカイ二乗傾向検定を使用する。P<0.05の場合に、有意差及び統計的意義を有する。
【0041】
3.実験結果
3.1集団実験の完成状況の統計
実験は、合計消化不良295人を募集し、37人が脱群し、258人が完成し、脱群率が14.3%である。
【0042】
3.2集団の基本情報の統計
被験者の基本情報を統計し、集団各群間の比較には有意差がない(表2に示す)。
【表2】
【0043】
3.3 BL-99による消化不良全集団の臨床症状スコアに対する影響
被験者が菌粉末を飲用する前後の臨床症状スコアを統計分析した結果、表3に示すように、BL-99を8週間飲用した(V3期)後、V1期に比べて、3群の被験者は、いずれも腹痛、腹部膨満感、早期満腹感、悪心嘔吐などの臨床症状のスコアが低下する。8週間介入した(V3期)後、プラセボ群に比べて、低用量群及び高用量群では、腹部膨満感、早期満腹感、胃酸の逆流、腹部焼け、ゲップ及び悪心嘔吐の臨床症状のスコアはいずれも低下し、BL-99高用量群では、消化不良による腹部焼け、ゲップ症状を顕著に改善でき(P<0.05)、且つ臨床症状の合計スコアが有意に低下する(P<0.05)。低用量群に比べて、高用量群では、ゲップ症状が顕著に改善される。BL-99菌粉末を飲用することにより、機能性消化不良症状を顕著に改善でき、且つ高用量のBL-99を8週間飲用することは最も効果的であることが示される。
【表3】
【0044】
ペプシノゲン(Pepsinogens、PG)は、胃粘膜細胞に由来し、免疫組織化学によって、ペプシノゲンI(PG1)とペプシノゲンII(PGII)との2群に分けられ、主に胃腔に分泌され、1%程度のPGのみが血液中を循環する。PGIは、主に底部の粘膜細胞から分泌され、PGIIは、主に主細胞、十二指腸細胞及び幽門腺から分泌される。慢性胃炎及び萎縮性胃炎の前期スクリーニング過程において、PGI指標の上昇、及びPG1/PGIIの低下は、胃酸状態及び胃ピロリ菌根絶に対する診断を含め、臨床において最も報告されている生物学的指標である。
【0045】
PGI<50の機能性消化不良の被験者に介入研究を行った結果は、図1に示す。実験結果により、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99(E群、F群)で2か月間連続的に介入した後、PGI指標が有意に増加し、正常レベルに達し、且つ用量依存的に変化することが示される。PGI/PGII指標は、同様に介入前よりも有意に増加するが、プラセボ群(D群)に比べて有意差がない。
【0046】
研究により、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99の介入により、PGI及びPGI/PGIIの指標レベルの向上に役立ち、慢性胃炎、萎縮性胃炎などの胃部疾患の予防、改善に優れた潜在力を有することが示される。
【0047】
ガストリン(G-17)は、胃腸ペプチドホルモンの一つであり、クロム親和性細胞腫からのヒスタミン放出を促進し、胃酸の大量分泌を刺激することができ、G-17値が15より大きくなると、胃炎の発生を増悪させ、胃癌への変換の先行指標の一つでもある。逆に、G-17<1であると、胃酸の分泌が低すぎて、胃の運動低下、消化能力の減退、早期満腹感、上腹部満腹感などの症状を呈する。ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99(E群、F群)により2か月介入した過程において、G-17値を検出し、結果を図2及び図3に示す。その結果から、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99(E群、F群)により2か月介入した後、G-17>15の集団におけるG-17の数値が有意に低下し、胃酸分泌が低すぎる集団では、BL-99により1か月介入した後、正常レベルに顕著に回復し、高用量群(F群、500億CFU)ではより顕著に認められることが示される。
【0048】
胃酸分泌失調は、慢性胃炎の主因の一つであり、オメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害剤を使用して胃酸分泌を抑制することも、臨床上に慢性胃炎に対する最も一般的な治療手段である。しかしながら、ますます多くの研究により、長期間にわたってプロトンポンプ阻害剤を使用すると、胃腸管栄養物質(ビタミン、ミネラルなど)の吸収異常、胃腸管粘膜の損傷、腎臓、心血管疾患の発症リスクの増加、骨代謝の異常などを引き起こすことが示される。新しい技術の発展に伴い、プロトンポンプ阻害剤の使用は、腸管菌群の乱れを引き起こしやすく、高齢者アルツハイマー病の発生とも相関がある。これにより、プロトンポンプ阻害剤の使用量の低減、副作用の緩和に寄与し、ひいてはプロトンポンプ阻害剤を代替する成分の開発は、広範な臨床的意義を有する。
【0049】
これにより、本発明は、プロバイオティクスであるビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99菌株が胃酸分泌量に対する双方向調節効果を有することを発見した。
【0050】
胃の前癌病変は、腸上皮化生及び異型増殖を含む病理的な概念であり、正常な胃組織から胃癌へ変換する過程における重要な段階である。胃癌は、変換後に初めて発見されるため、死亡率が非常に高く、従って、「炎症-癌変換」も臨床的に注目されるホットスポットである。近年、胃の前癌病変の研究進展に伴い、炎症促進因子がその過程で担う役割も定義されつつある。
【0051】
インターロイキン6(IL 6)は、生体内で炎症促進、抗炎症の二重作用を有し、炎症反応の刺激により、IL 6は大量に発現し、単球、好中球の放出を促進し、炎症部位に大量に集まることができる。TNF-αも炎症過程における重要なメディエーターであり、主に活性化された単球、マクロファージから産生され、且つ大量に発現すると、他の炎症因子の大量放出を促進する。胃粘膜の炎症反応の進行につれて、大量の炎症因子が放出されて胃細胞に浸潤し、粘膜萎縮の程度を深め、胃粘膜への侵襲をもたらし、細胞内腺によるPG分泌能力を低下させ、胃腸動態に影響を与える。炎症因子IL 6、TNF-αとPGI、PGII、G-17などと相互作用し、協同的に胃の機能に影響を及ぼす。
【0052】
研究の結果から、ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99により1か月介入した後、炎症因子IL-6(図4)、TNF-α(図5)の発現を有意に低下させることができ、且つ用量の増加に伴い、炎症因子の低下程度が増加することが示される。ビフィドバクテリウム・ラクティスBL-99は、炎症因子の低減に寄与し、胃炎に関連する胃粘膜萎縮などの症状を緩和する潜在力を有することが示される。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】