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特表2024-539845高いリサイクル含有量を有するアルミニウム合金ストリップで製作されたバッテリーセル筐体
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  • 特表-高いリサイクル含有量を有するアルミニウム合金ストリップで製作されたバッテリーセル筐体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】高いリサイクル含有量を有するアルミニウム合金ストリップで製作されたバッテリーセル筐体
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20241024BHJP
   C22F 1/047 20060101ALI20241024BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20241024BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20241024BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20241024BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/047
H01M50/103
H01M50/105
H01M50/107
C22F1/00 623
C22F1/00 622
C22F1/00 630A
C22F1/00 661A
C22F1/00 673
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 691C
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024520697
(86)(22)【出願日】2022-10-05
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 EP2022077702
(87)【国際公開番号】W WO2023057515
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】21201041.7
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513100910
【氏名又は名称】スペイラ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Speira GmbH
【住所又は居所原語表記】Aluminiumstrasse 1, 41515 Grevenbroich, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】マルティン クリストフ レンツ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス シーメン
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー アレッツ
(72)【発明者】
【氏名】ハルトムート ヤンセン
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー デンクマン
(72)【発明者】
【氏名】マチス リュペール
(72)【発明者】
【氏名】ティモ ブリュッゲマン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ クレーマー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルデマール クリーガー
【テーマコード(参考)】
5H011
【Fターム(参考)】
5H011AA01
5H011AA02
5H011AA09
5H011BB04
5H011BB05
5H011CC06
5H011DD03
5H011KK01
5H011KK02
5H011KK04
(57)【要約】
本発明は、アルミニウム合金ストリップまたはシートを有するバッテリーセル筐体に関する。一方でリサイクル率を達成することを可能にし、他方で特に強度、電解質安定性ならびに電気伝導率および熱伝導率に関してバッテリーセル筐体の要件を満たすアルミニウム合金ストリップまたはシートを有するバッテリーセル筐体を提供する目的は、アルミニウム合金ストリップまたはシートが重量%で以下の、
0.1%≦Si≦0.5%、
0.25%≦Fe≦0.8%、
Cu≦0.6%、
0.6%≦Mn≦1.4%、
0.5%≦Mg≦1.5%、
Cr≦0.25%、
Zn≦0.4%
Ti≦0.2%、
残部はAl、および個別で多くとも0.05%および全体で多くとも0.15%の不可避不純物である、合金成分を有するアルミニウム合金を有することで達成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金ストリップまたはシートを有するバッテリーセル筐体(11、21、31)であって、
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、重量%で以下の、
0.1%≦Si≦0.5%、
0.25%≦Fe≦0.8%、
Cu≦0.6%、
0.6%≦Mn≦1.4%、
0.5%≦Mg≦1.5%、
Cr≦0.25%、
Zn≦0.4%、
Ti≦0.2%、
残部はAl、および個別で多くとも0.05%、全体で多くとも0.15%の不可避不純物である、合金成分を有するアルミニウム合金を有する、
ことを特徴とする、バッテリーセル筐体(11、21、31)。
【請求項2】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、重量%で以下の、
0.2%≦Si≦0.4%、好ましくは0.2%≦Si≦0.35%、
0.3%≦Fe≦0.7%、好ましくは0.4%≦Fe≦0.7%、
Cu≦0.3%、好ましくは0.1%≦Cu≦0.2%、
0.8%≦Mn≦1.1%、
0.8%≦Mg≦1.5%、好ましくは0.8%≦Mg≦1.2%、
Cr≦0.1%、好ましくはCr≦0.05%、
0.02%≦Zn≦0.25%、好ましくは0.04%≦Zn≦0.25%、
0.005%≦Ti≦0.1%、好ましくは0.005%≦Ti≦0.05%、
残部はAl、および個別で多くとも0.05%、全体で多くとも0.15%の不可避不純物である、合金成分を有するアルミニウム合金を有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%のリサイクル材料の割合を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項4】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、タイプH1Xの歪み硬化状態、好ましくは歪み硬化状態H18またはH19を有することを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項5】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、0.1mm~2.0mmの間、好ましくは0.2mm~1.5mmの間、特に好ましくは0.35mm~1.2mmの間の厚さを有することを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項6】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、少なくとも35%IACSの電気伝導率σを有することを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項7】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、好ましくは、前記バッテリーセル筐体を形成させるその処理の前に、少なくとも180MPa、好ましくは少なくとも220MPa、特に好ましくは少なくとも250MPaの降伏強度Rp0.2を有することを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項8】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、100℃の温度における少なくとも200MPaの降伏強度Rp0.2および/または200℃の温度における少なくとも150MPaの降伏強度Rp0.2を有することを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項9】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、前記バッテリーセル筐体を形成させるその処理の前に、1.6より大きくない、好ましくは1.4より大きくない鋼に対する肉厚比δを有することを特徴とする、請求項1~8の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項10】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、前記バッテリーセル筐体を形成させるその処理の前に、DIN EN 1669に準拠するイヤリング検査において4%より大きくない、好ましくは3%より大きくない平均百分率イヤー高さZおよび好ましくは、6%より大きくない、好ましくは5.5%より大きくない最大百分率イヤー高さZmaxを有することを特徴とする、請求項1~9の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体を製造するための、アルミニウム合金ストリップまたはシートの使用。
【請求項12】
前記バッテリーセル筐体は、二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池または固相二次電池の筐体であることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記バッテリーセル筐体は、円筒形設計、角柱形設計またはパウチ設計を有することを特徴とする、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、以下の、
- アルミニウム合金から圧延インゴットを鋳造するステップ(42)、
- 前記圧延インゴットを均質化させるステップ(44)、
- 熱間圧延されたストリップを形成させるために前記圧延インゴットを熱間圧延するステップ(46)、
- 前記熱間圧延されたストリップを冷間圧延するステップ(48)、
を含む方法(40)によって製造されることを特徴とする、請求項11~13の何れか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記熱間圧延されたストリップの厚さは、1mm~15mmの間、好ましくは2mm~12mmの間、特に好ましくは2mm~9mmの間であることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記冷間圧延時に少なくとも1回の中間焼鈍が行われることを特徴とする、請求項14または15に記載の使用。
【請求項17】
最終厚さにおける前記冷間圧延時の圧延比率、好ましくは前記最後の中間焼鈍後における圧延比率は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも70%であることを特徴とする、請求項14~16の何れか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金ストリップまたはシートを有するバッテリーセル筐体と、バッテリーセル筐体を製造するためのアルミニウム合金ストリップまたはシートの使用と、に関する。
【背景技術】
【0002】
電気消費者に電気エネルギーを供給するために、多種多様な技術的用途においてバッテリーセルが用いられている。バッテリーセルにとっての利用分野は、ほんのいくつかを挙げれば、たとえば電気的移動手段、特に電気自動車、電動自転車および電動スクーターに、消費者向け電子機器、特にラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、携帯電話、デジタルカメラ、およびビデオカメラに、あるいはエネルギー技術、特にバッテリー蓄電にある。バッテリーモジュールまたはバッテリーシステムを形成するために、多くの場合にいくつかのバッテリーセルが直列または並列に接続される。しかし、単一のバッテリーセルがエネルギー源として用いられる用途もある。
【0003】
バッテリーセルは、基本的に、一度しか放電させることができず繰り返し充電することができない一次電池と、繰り返し充電可能な二次電池とに区別することができる。バッテリーセルの機能を提供する必要な電気化学プロセスは、一次電池と二次電池との両方において多種多様な種々の材料を用いて実施され得る。この文脈における一次電池の例は、ほんのいくつかを挙げれば、アルカリ-マンガン電池、亜鉛-炭素電池、ニッケル-オキシ水酸化物電池またはリチウム-硫化鉄電池である。二次電池の例は、ほんのいくつかを挙げれば、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素化金属電池またはニッケル-亜鉛電池である。
【0004】
何年にもわたり、とりわけ電気的移動手段および消費者向け電子機器の分野において特に、リチウムイオン二次電池がその比較的高い重量エネルギー密度および体積エネルギー密度のために、ますます用いられるようになってきた。他のタイプのバッテリーセルのように、リチウムイオン二次電池は、バッテリーセル筐体を有する。これは、バッテリーセルの外部形状を形成し、とりわけアノード材料、カソード材料および電解質を収容する空洞を囲んでいる。バッテリーセル筐体の様々な設計の間で区分けが行われることがある。円筒形バッテリーセル筐体は、基本的に円筒の形状を有する。円筒の高さが直径より大きければ円形電池、そうでなければボタン電池と呼ばれる。角柱形設計のバッテリーセル筐体は、基本的に角柱、特に直方体の形状を有する。別の変化形は、バッテリーセル筐体が基本的にポケットまたはパウチの形状を有するパウチ設計である。
【0005】
強度および機械的安定性への高い要求ならびにバッテリーセル筐体に対して腐食的に作用する電解質に対する電気化学的安定性への高い要求のために、特に、ニッケルメッキ鋼から円筒形バッテリーセル筐体が一般に今日まで製造されてきた。しかし、増加しつつあるセル形式、たとえば電気的移動手段の分野において増加しつつあるタイプ21700の円形セルによるタイプ18650の円形セルの置き換えと、予測されるタイプ46800の円形セルによるタイプ21700の円形セルの将来の置き換えとは、散逸させる必要があるより大きな量の熱が発生するため、電気および熱伝導率に対してより高い要求を課しつつある。潜在的なアルミニウム材料は、筐体材料の強度への高い要求を一層満たさなければならない。
【0006】
円筒形バッテリーセル筐体のためにアルミニウム合金を使用する手法は、既に公知であるが、アルミニウム合金AA3003に限られている。この例として特許文献1が言及され得る。他方、角柱形バッテリーセル筐体ではアルミニウム合金AA3003が標準的であるが、角柱形セル筐体の分野における使用もこの合金に限られている。
【0007】
特許文献2は、プラスチック外層とタイプAA8079、1N30、AA8021、AA3003、AA3004、AA3104またはAA3105のアルミニウム合金で製作されたアルミニウム箔とを有する複合材料からなる高強度バッテリー筐体を開示している。
【0008】
同じアルミニウム合金類は、特許文献3から公知であるが、特許文献3は、タイプAA3003のアルミニウム合金の使用が好ましいとしている。
【0009】
特許文献4は、バッテリー筐体の強度および濡れ性に焦点を合わせ、タイプAA3003、AA3203、AA3004、AA3104、AA3005またはAA3105のアルミニウム合金の使用を提案している。
【0010】
前述の文献のどれもバッテリーセル筐体の強度、電解質安定性ならびに電気伝導率および熱伝導率についての要件を考慮したリサイクル可能性の課題に対処していない。
【0011】
しかし、近年大いに増大した持続可能性要件は、できる限り小さなCOフットプリントでのバッテリーセル筐体の製造を求めつつある。もっとも効果的な方法は、二次アルミニウムとも呼ばれるリサイクル材料の使用の増加によってエネルギー集約的な一次アルミニウムの使用を減らすことである。二次アルミニウムは、アルミニウムスクラップを融解させることによって得られる。アルミニウムスクラップの場合、プレコンシューマスクラップとポストコンシューマスクラップとの間で区分けが行われる。プレコンシューマスクラップとは、可能な多種多様なプロセスにおいてアルミニウムまたはアルミニウム合金から製作される半製品または最終製品の製造時に発生する廃棄物である。プレコンシューマスクラップは、さらに、一方でアルミニウムストリップまたはシートを製造するプロセス内で不可避的に発生する内部プロセススクラップ、たとえばスプルー、切れ端、切り屑、製造残部または製造不合格品と、他方で最終製品を形成するさらなる加工において不可避的に発生する外部プロセススクラップ、たとえば穿孔スクラップ、切り屑または製造不合格品と、に分けられることがある。ポストコンシューマスクラップとは、ライフサイクルをすべて完了し、使用された後に廃棄物となる最終製品である。それが末端使用者によって用いられたかどうかは問題ではなく、そのことは、たとえば工業施設または商業施設において用いられたものであってもよいことを意味する。ポストコンシューマスクラップの例は、食品包装物、特に飲料缶、窓枠、平版印刷版キャリア、ケーブル芯および自動車構成部品を含む。
【0012】
国際規格によれば、バッテリーセル筐体のためにこれまで用いられて来たアルミニウム合金AA3003の合金組成は、たとえば標準合金元素の銅、マグネシウム、クロム、亜鉛およびチタンに関して比較的制約される。したがって、この合金を使用するときは高い割合の一次アルミニウムの使用が必要であり、ひいては高いリサイクル率の達成を妨げる。アルミニウム合金AA3003から製作された先行技術のバッテリーセル筐体は、したがって、それらの持続可能性に関して改善される必要がある。
【0013】
この背景に対して、本発明の目的は、高いリサイクル率を達成することを可能にし、同時に特に強度、電解質安定性ならびに電気および熱伝導率に関してバッテリーセル筐体の要件を満たすアルミニウム合金ストリップまたはシートを有するバッテリーセル筐体を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、バッテリーセル筐体を製造するためのアルミニウム合金ストリップまたはシートの対応する使用を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6,258,480(B1)号
【特許文献2】米国特許第2006/093908(A1)号
【特許文献3】韓国特許出願第2016 005673(A)号
【特許文献4】特開2015-125886(A)号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の教示によれば、アルミニウム合金ストリップまたはシートを有するバッテリーセル筐体についての前述の目的は、該アルミニウム合金ストリップまたはシートが、重量%で以下の、
0.1%≦Si≦0.5%、
0.25%≦Fe≦0.8%、
Cu≦0.6%、
0.6%≦Mn≦1.4%、
0.5%≦Mg≦1.5%、
Cr≦0.25%、
Zn≦0.4%、
Ti≦0.2%、
残部はAl、および個別で多くとも0.05%、全体で多くとも0.15%の不可避不純物である、
合金成分を有するアルミニウム合金を有することで達成される。
【0017】
驚くべきことに、本発明者は、本発明によるアルミニウム合金ストリップまたはシートを有するバッテリーセル筐体が、特に強度、電解質安定性ならびに電気および熱伝導率に関して、対応する要件を満たすことを検査において見いだした。何よりも、驚くべきことに、既に公知の合金AA3003と比較して電解質安定性および溶接性が低下しないかまたは顕著に低下しないことが見いだされた。同時に、本発明によるバッテリーセル筐体は、該アルミニウム合金の指定された銅およびマグネシウム含有量のために高いリサイクル率を達成するのに適している。このことは、UBCスクラップ(UBC:使用済み飲料缶)、すなわち顕著な含有量のマグネシウムおよび銅を有し、該バッテリーセル筐体のアルミニウムストリップまたはシートのアルミニウム合金を製造するのに適しているアルミニウム合金で製作された飲料缶の使用に特にあてはまる。前述の利点のすべては、該バッテリーセル筐体のアルミニウム合金ストリップまたはシートの合金組成によって達成される。該アルミニウム合金は、さらに、標準的な合金元素だけを含有するので、それ自体も良好にリサイクルさせることができ、そのため本発明によるバッテリーセル筐体は、既存のスクラップリサイクル業務に容易に加えられ得る。
【0018】
本発明によれば、本アルミニウム合金のケイ素含有量は、0.1重量%≦Si≦0.5重量%の範囲内である。本発明によるバッテリーセル筐体の一実施形態において、本アルミニウム合金のケイ素含有量は、0.2重量%≦Si≦0.4重量%、好ましくは0.2重量%≦Si≦0.35重量%の範囲内である。指定された量における本発明による鉄およびマンガン含有量と組み合わされると、0.1重量%≦Si≦0.5重量%のケイ素含有量は、特に、比較的均一に分布する四元α-Al(Fe、Mn)Si相の緻密な粒子をもたらす。沈殿したこれらの粒子は、腐食挙動、すなわち電解質安定性または成形性などの他の特性に悪影響を及ぼすことなく固溶体から鉄およびマンガンを除去するので、本アルミニウム合金の強度とその電気および熱伝導率との両方を増大させる。0.1重量%未満のケイ素含有量は、α-Al(Fe、Mn)Si相の沈殿減少をもたらし、そのことが溶解しているマンガンのために電気および熱伝導率を低下させ得る。さらに、α-Al(Fe、Mn)Si相がないと工具摩耗に悪影響を及ぼす。0.5重量%より多いケイ素含有量は、マグネシウムと組み合わされるとMgSi相の形成をもたらすことがあり、そのことがマグネシウムの固溶体硬化に悪影響を及ぼす。0.2重量%≦Si≦0.4重量%、好ましくは0.2重量%≦Si≦0.35重量%という前述の実施形態のケイ素含有量の通路は、高い強度と高い電気および熱伝導率との間の理想的な妥協を表す。
【0019】
本発明によれば、本アルミニウム合金の鉄含有量は、0.25重量%≦Fe≦0.8重量%の範囲内である。本発明によるバッテリーセル筐体の一実施形態において、本アルミニウム合金の鉄含有量は、0.3重量%≦Fe≦0.7重量%、好ましくは0.4重量%≦Fe≦0.7重量%の範囲内である。指定された量における本発明によるマンガン含有量と組み合わされると、0.25重量%≦Fe≦0.8重量%の鉄含有量は、Al(Mn、Fe)相の形成をもたらし、上記で既に説明されたように、指定された量における本発明によるケイ素およびマンガン含有量と組み合わされると、四元α-Al(Fe、Mn)Si相の粒子の沈殿をもたらす。この場合における鉄は、アルミニウム中のマンガンの溶解度を低下させることに貢献し、そのため、より多くのマンガンが金属間相に束縛され、そのことが電気および熱伝導率に対して正の効果を及ぼす。さらに、金属間相は、回復および再結晶プロセスに影響を及ぼし、機械的特性の熱安定性を改善する。0.8重量%より多い鉄含有量は、深絞り成形プロセスにおいて成形性を低下させ得る粗い金属間相の形成を促進する。他方、0.25重量%未満の鉄含有量は、従来のスクラップグレードが概して顕著な割合の鉄を有するので、鉄系スクラップに対する本アルミニウム合金の許容度を過度に限定する。鉄含有量を過度に限定することは、したがって、高いリサイクル率の達成を妨げ得る。したがって、0.3重量%≦Fe≦0.7重量%、好ましくは0.4重量%≦Fe≦0.7重量%という前述の実施形態の鉄含有量の通路は、リサイクル可能性、高い割合のリサイクル材料の使用、熱安定性、電気および熱伝導率ならびに成形性の理想的な組み合わせを表す。
【0020】
本発明によれば、本アルミニウム合金の銅含有量は、Cu≦0.6重量%の範囲内である。本発明によるバッテリーセル筐体の一実施形態において、本アルミニウム合金の銅含有量は、Cu≦0.3重量%、好ましくは0.1重量%≦Cu≦0.2重量%の範囲内である。最大0.6重量%の銅含有量が許されるという事実は、銅含有アルミニウム合金スクラップに対するアルミニウム合金の許容度の増大を生む結果となり、そのことが本バッテリー筐体の製造におけるリサイクル材料の高い割合の達成を促進する。しかし、過度に高い銅含有量は、腐食特性に悪影響を及ぼし得るので、本発明によれば十分に高い電解質安定性を達成するために銅含有量は多くとも0.6重量%に限定される。電解質安定性の改善および十分に高い電気および熱伝導率のために、前述の実施形態における銅含有量は、0.3重量%に限定される。しかし、銅の存在は、0.1重量%の含有量を超えて初めて顕著になるものではあるが固溶体硬化によるアルミニウム合金の強度の増大も惹き起こす。したがって、0.1重量%≦Cu≦0.2重量%という好ましい範囲は、高強度、十分に高い電気および熱伝導率ならびに一層改善された電解質安定性と十分なリサイクル許容度との間の妥協を表す。
【0021】
本発明によれば、本アルミニウム合金のマンガン含有量は、0.6重量%≦Mn≦1.4重量%の範囲内である。本発明によるバッテリーセル筐体の一実施形態において、本アルミニウム合金のマンガン含有量は、0.8重量%≦Mn≦1.1重量%の範囲内である。上記で既に説明されたように、指定された量のケイ素および鉄含有量と組み合わされた0.6重量%≦Mn≦1.4重量%または0.8重量%≦Mn≦1.1重量%のマンガン含有量は、四元α-Al(Fe、Mn)Si相ならびにAl(Mn、Fe)相の粒子の沈殿をもたらす。これらの金属間相は、回復および再結晶過程を妨げ、したがって機械的特性の熱安定性を改善する。0.8重量%未満のマンガン含有量は、既に分散質および固溶体硬化に起因して強度の増大を低下させる。0.6重量%未満のマンガン含有量は、分散質および固溶体硬化に起因して強度の不十分な増大をもたらすが、1.1重量%より多い、特に1.4重量%より多いマンガン含有量は、深絞り成形プロセスにおける成形特性に好ましくない影響を及ぼす粗い金属間相の形成を促進する。さらに、1.1重量%より多い、特に1.4重量%より多いマンガン含有量は、バッテリーセル筐体の電気および熱伝導率を大幅に低下させるため熱管理が非効率的になる。
【0022】
本発明によれば、本アルミニウム合金のマグネシウム含有量は、0.5重量%≦Mg≦1.5重量%の範囲内である。本発明によるバッテリーセル筐体の一実施形態において、アルミニウム合金のマグネシウム含有量は、0.8重量%≦Mg≦1.5重量%、好ましくは0.8重量%≦Mg≦1.2重量%の範囲内である。最大1.5重量%のマグネシウム含有量が許されるという事実は、UBCスクラップなどのマグネシウム含有アルミニウム合金スクラップに対するアルミニウム合金の許容度の増大を生む結果となり、そのことが本バッテリーセル筐体の製造におけるリサイクル材料の高い割合の達成をさらに促進する。さらに、少なくとも0.5重量%の含有量を超えるマグネシウムの存在は、冷間硬化の増加に貢献し、したがって強度を増大させる効率的な固溶体硬化をもたらす。しかし、過度に高いマグネシウム含有量は、電気および熱伝導率に悪影響を及ぼすので、マグネシウム含有量は、本発明によれば多くとも1.5重量%に限定される。改善された機械的特性を達成するために、前述の実施形態におけるマグネシウム含有量は、少なくとも0.8重量%に増加される。0.8%≦Mg≦1.2%という好ましい範囲は、高い強度、良好な成形挙動ならびに高い電気および熱伝導率と良好なリサイクル許容度との間の妥協を表す。
【0023】
本発明によれば、本アルミニウム合金のクロム含有量は、Cr≦0.25重量%の範囲内である。本発明によるバッテリーセル筐体の一実施形態において、本アルミニウム合金のクロム含有量は、Cr≦0.1重量%、好ましくはCr≦0.05重量%の範囲内である。最大0.25重量%のクロム含有量が許されるという事実は、クロム含有アルミニウム合金スクラップに対するアルミニウム合金の許容度の増加を生む結果となり、そのことが本バッテリーセル筐体の製造におけるリサイクル材料の高い割合の達成を促進する。さらに、クロムは、強度増大効果も有し、分散質を形成する。分散質は、熱安定性を増大させ、再結晶または回復に起因して軟化を妨げる。しかし、過度に高いクロム含有量は、本アルミニウム合金の電気伝導率に悪影響を及ぼし得るので、クロム含有量は、本発明によれば多くとも0.25重量%に限定される。依然十分であるリサイクル許容度および強度を伴う伝導率の改善のために、前述の実施形態におけるクロム含有量は、0.1重量%、好ましくは0.05重量%に限定される。
【0024】
本発明によれば、本アルミニウム合金の亜鉛含有量は、Zn≦0.4重量%の範囲内である。本発明によるバッテリーセル筐体の一実施形態において、本アルミニウム合金の亜鉛含有量は、0.02重量%≦Zn≦0.25重量%、好ましくは0.04重量%≦Zn≦0.25重量%の範囲内である。最大0.4重量%の亜鉛含有量が許されるという事実は、亜鉛含有アルミニウム合金スクラップに対する本アルミニウム合金の許容度の増大を生む結果となり、このことが高いリサイクル率の達成をさらに促進する。亜鉛は、強度増大効果も有する。しかし、過度に高い亜鉛含有量は、本アルミニウム合金の溶接性、電気および熱伝導率ならびに耐食性を低下させるので、本発明によれば亜鉛含有量は多くとも0.4重量%に限定される。前述の実施形態において、亜鉛含有量は、0.02重量%≦Zn≦0.25重量%、好ましくは0.04重量%≦Zn≦0.25重量%の通路内で調整され、そのため高い強度、良好な溶接性および良好な電解質安定性と良好なままであるリサイクル許容度との間の最適な妥協が達成される。
【0025】
本発明によれば、本アルミニウム合金のチタン含有量は、Ti≦0.2重量%の範囲内である。本発明によるバッテリーセル筐体の一実施形態において、本アルミニウム合金のチタン含有量は、0.005重量%≦Ti≦0.1重量%、好ましくは0.005重量%≦Ti≦0.05重量%の範囲内である。最大0.2重量%のチタン含有量が許されるという事実は、チタン含有アルミニウム合金スクラップに対する本アルミニウム合金の許容度の増大を生む結果となり、そのことが本バッテリーセル筐体の製造におけるリサイクル材料の高い割合の達成を促進する。しかし、過度に高いチタン含有量は、本アルミニウム合金の成形特性に悪影響を及ぼし、電気および熱伝導率を顕著に低下させることがあり、そのため、チタン含有量は、本発明によれば多くとも0.2重量%に限定される。逆に、0.005重量%の含有量を超えるチタンは、本アルミニウム合金を鋳造するとき結晶粒微細化を改善する。良好な結晶粒微細化を良好な成形性、十分に高い電気および熱伝導率ならびに十分なリサイクル許容度と共存させるために、前述の実施形態におけるチタン含有量は、したがって0.005重量%≦Ti≦0.1重量%、好ましくは0.005重量%≦Ti≦0.05重量%の通路内で調整される。
【0026】
上述の合金成分に加えて、本発明によるバッテリーセル筐体のアルミニウム合金の残部は、アルミニウムおよび不可避不純物からなる。不可避不純物とは、意図的に加えられたものではないが製造に起因してアルミニウム合金中に不可避的に含有される合金成分である。本発明によれば、個々の不可避不純物の含有量は、0.05重量%に限定され、すべての不可避不純物の含有量は、合計で0.15重量%に限定される。このことは、不可避不純物が、たとえば望ましくない相形成によって本アルミニウム合金の特性に対して悪影響を及ぼさないかまたは顕著な悪影響を及ぼさないことを確実にする。
【0027】
本発明によるバッテリーセル筐体のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%の割合のリサイクル材料を有する。本アルミニウム合金の上記に記載の高いリサイクル許容度に起因して、本発明によるバッテリーセル筐体について少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%の高いリサイクル率を達成することが可能である。それに伴うエネルギー節約は、可能な最小のCOフットプリントおよび持続可能性の改善を伴うバッテリーセル筐体の製造を可能にする。特に、本発明によるバッテリーセル筐体のアルミニウム合金は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%の割合のポストコンシューマスクラップを有する。ポストコンシューマスクラップの使用は、特にCO効率がよいので、それによってCOフットプリントの特に大きな低減が達成され得る。さらにまたはあるいは、プレコンシューマスクラップを用いることによって、特に内部プロセススクラップおよび/または外部プロセススクラップを用いることによって、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%というリサイクル材料の割合が達成される。内部プロセススクラップでは、個々の合金の組成および量は、概して非常に良く知られており、そのため内部プロセススクラップの融解の結果得られる合金組成は、良好に決定することができる。外部プロセススクラップは、その組成の点で内部プロセススクラップより良く定義されず、さらなる処理を必要とすることがあるが、たとえば穿孔部品の製造において大きな割合で発生し、そのためリサイクルは、経済的におよび持続可能性の点で関連性が高い。外部プロセススクラップをリサイクルすることによって、一次金属への需要を低減することができ、そのことが全体的なCOバランスを低下させる。
【0028】
本発明によるバッテリーセル筐体のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、タイプH1Xの歪み硬化状態を有する。詳しくは、これらは、当業者が精通している状態H12、H14、H16、H18およびH19である。好ましくは、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、歪み硬化状態H18またはH19を有する。前述の状態、特にH18およびH19は、特に高い機械的安定度を特徴とし、そのため特に高い強度がバッテリーセル筐体のために提供され得る。
【0029】
本発明によるバッテリーセル筐体のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、0.1mm~2.0mmの間の厚さを有する。この厚さ範囲によって、バッテリーセル筐体にとっての典型的な肉厚は、基本的に十分に包含される。この厚さを0.1mm未満まで小さくするとバッテリーセル筐体の機械的安定性が低下しすぎる。反対に、2.0mmより多い厚さではもはや材料の効率的な利用が可能でない。さらに、本バッテリーセル筐体のアルミニウム合金ストリップまたはシートが2.0mmより大きな厚さを有することになったら、本バッテリーセルまたはバッテリーモジュール、あるいはバッテリーシステムの重量エネルギー密度および体積エネルギー密度は低くなりすぎるだろう。好ましくは、本アルミニウム合金ストリップまたはシートの厚さは、0.2mm~1.5mmの間、特に0.35mm~1.2mmの間である。
【0030】
本発明によるバッテリーセル筐体のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、少なくとも35%IACSの電気伝導率σを有する。したがって、ニッケルメッキ鋼で製作されたこれまで用いられてきたバッテリーセル筐体と比較すると、この電気伝導率は、より速い充電時間、より低い電気損失およびしたがってバッテリーセルの動作時のより少ない熱の発生も達成されるように顕著に増大する。金属の電気伝導率と熱伝導率との間に直接的な関係があるとするウィーデマン-フランツの法則に起因して、電気伝導率の増加は、ニッケルメッキ鋼と比較して増大した熱伝導率とさらに関連付けられる。このことは、バッテリーセルの動作時に発生した無駄な熱がより効率的に散逸されることを可能にする。さらに、より高い熱伝導率は、セルの内部におけるより均一な温度分布をもたらし、そのことが時効化に正の効果を及ぼす。したがって、少なくとも35%IACSの電気伝導率σは、全体として本バッテリーセルの性能の改善をもたらす。
【0031】
本発明によるバッテリーセル筐体のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、少なくとも180MPa、好ましくは少なくとも220MPa、特に少なくとも250MPaの降伏強度Rp0.2を有する。このことは、本バッテリーセル筐体のために高い強度が提供されることを可能にする。好ましくは、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、本バッテリーセル筐体を形成させるその加工の前に、たとえば状態H16、H18またはH19において前述の降伏強度の値を有する。さらに、典型的に冷間成形、たとえば深絞りによって実行される本アルミニウム合金ストリップまたはシートの加工は、概して強度の増大と関連するので、降伏強度について指定された最小値が、仕上がり状態における本発明によるバッテリーセル筐体に同じように適用されると仮定され得る。
【0032】
本発明によるバッテリーセル筐体のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、少なくとも190MPa、好ましくは少なくとも230MPa、特に少なくとも260MPaの引張強度Rを有する。このことも、バッテリーセル筐体のために高い強度を提供することを可能にする。ここでも、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、好ましくは、本バッテリーセル筐体を形成するその加工の前に、たとえば状態H16、H18またはH19において引張強度のための前述の値を既に有し、それらの値は、仕上がり状態における本発明によるバッテリーセル筐体に同じように適用されるとも仮定され得る。
【0033】
本発明によるバッテリーセル筐体のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、100℃の温度において少なくとも200MPaの降伏強度Rp0.2を有する。同時にまたはあるいは、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、200℃の温度において少なくとも150MPaの降伏強度Rp0.2を有する。欠陥、損傷または不適切な使用の影響があった場合にはバッテリーセルが時として室温より顕著に高い温度に加熱されるので、100℃または200℃における前述の降伏強度は、本バッテリーセル筐体のために高い熱安定性も提供し得る。ここでも、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、好ましくは、本バッテリーセル筐体を形成するその加工の前に、100℃または200℃における降伏強度のための前述の値を既に有し、それらの値は、仕上がり状態における本発明によるバッテリーセル筐体に同じように適用されるとも仮定され得る。
【0034】
本発明によるバッテリーセル筐体のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、本バッテリーセル筐体を形成するその加工の前に、1.6より大きくない、好ましくは1.4より大きくない鋼に対する肉厚比δを有する。鋼に対する肉厚比δは、タイプAISI1020のニッケルメッキ鋼ストリップの降伏強度Rp0.2、Stをアルミニウム合金ストリップの降伏強度Rp0.2、Alで除することによって決定され、Rp0.2、Stには典型的な350MPaの値が設定される。肉厚比δを導くために、実際にバッテリーセル筐体に関連する内圧負荷シナリオが考慮される。簡略化のために、本バッテリーセル筐体は、閉じられかつ薄肉の円筒であると仮定される。これに基づいて、鋼に対する肉厚比δの計算は、弾性静力学から公知のバーロウの式σφ=p・R/s、ここでσφ:周方向における応力成分、p:内圧、R:内半径、s:肉厚を用いることにより、およびトレスカによる比較応力σV、Tresca=σmax-σmin=σφ-0=p・R/s、ここで、負荷に対する設計は、流れの始まりによって制限される、すなわちσV、Tresca≦Rp0.2を用いることにより実行される。同じ最大内圧p=Rp0.2、Al・sAl/Ri、Al=Rp0.2、St・sSt/Ri、Stの仮定とセルの同じ内半径Riの仮定とを用いると、これは、Rp0.2、Al・sAl=Rp0.2、St・sAlを与え、そのため肉厚比δは、前述の降伏強度比から計算され得る:δ=sAl/sSt=Rp0.2、St/Rp0.2、Al。鋼に対する肉厚比δは、鋼をアルミニウムで置き換えるときのバッテリーセル筐体の肉厚における増大の指標であり、特に、種々のアルミニウム合金ストリップまたはシートを互いに比較するために用いられ得る。1.6より大きくない、好ましくは1.4より大きくない本発明によるδ値は、本アルミニウム合金ストリップまたはシートによって占有される空間の体積がそれによって同じ機械的安定性で最小化されるので、バッテリーセルの体積エネルギー密度に対して正の効果を及ぼす。さらに、鋼と比較して低いアルミニウムの密度と組み合わせて肉厚比を限定すると重量エネルギー密度が最大化される。
【0035】
本発明によるバッテリーセル筐体のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、本バッテリーセル筐体を形成するその加工の前に、4%より大きくない、好ましくは3%より大きくない平均百分率イヤー高さ(独:Zipfelhoehe,英:ear height)Zと、好ましくは6%より大きくない、好ましくは5.5%より大きくない最大百分率イヤー高さZmaxと、を有する。イヤリングパラメータ(独:Zipfelkenngroessen,英:earing parameter)ZおよびZmaxは、60mmの直径、33mmの穿孔直径および潤滑油ラノリンを有するブランクを用いるDIN EN 1669に準拠するイヤリング検査において決定される。4%より大きくない、好ましくは3%より大きくない平均百分率イヤー高さZと6%より大きくない、好ましくは5.5%より大きくない好ましくは達成された最大百分率イヤー高さZmaxとは、本アルミニウム合金ストリップまたはシートが最小限のプロセススクラップ発生での深絞り、ひいては本発明によるバッテリーセル筐体の効率的な製造に非常に適していることを意味する。
【0036】
本発明の第2の教示によれば、バッテリーセル筐体を製造するためのアルミニウム合金ストリップまたはシートの使用についての前述の目的は、本アルミニウム合金ストリップまたはシートが本発明の第1の教示によるバッテリーセル筐体を製造するために用いられることで達成される。したがって、本アルミニウム合金ストリップまたはシートの前述の有利な特性に起因して、先行技術と比較して改善されているバッテリーセル筐体が提供され得る。
【0037】
本発明による使用の一実施形態において、本バッテリーセル筐体は、二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池またはナトリウムイオン二次電池の筐体である。二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、現在、電気移動手段および消費者電子機器の分野においてますます用いられるようになりつつあるので、本発明によって用いられるアルミニウム合金ストリップまたはシートの有利な特性は、特にこのタイプのバッテリーセルのために用いられ得る。このことは、現在はまだ研究の対象であり、ナトリウムのより良好な経済性および良好な入手しやすさにより将来は特定の用途においてリチウムイオン二次電池を置き換えるかもしれないナトリウムイオン二次電池にもあてはまる。本発明によるバッテリーセル筐体の使用は、さらに、特に固相電解質を有する固相二次電池のためのこの筐体の使用を含む。
【0038】
本発明による使用のさらなる実施形態において、本バッテリーセル筐体は、円筒形設計、角柱形設計またはパウチ設計を有する。したがって、本発明によって用いられるアルミニウム合金ストリップまたはシートの有利な特性は、バッテリーセル筐体についての現時点で通常のすべての設計において使用され得る。
【0039】
本発明による使用のさらなる実施形態において、本アルミニウム合金ストリップまたはシートは、以下の、
- アルミニウム合金から圧延インゴットを鋳造するステップ、
- 該圧延インゴットを均質化させるステップ、
- 熱間圧延されたストリップを形成させるために該圧延インゴットを熱間圧延するステップ、
- 該熱間圧延されたストリップを冷間圧延するステップ、
を含む方法によって製造される。
【0040】
前述のプロセスステップは、好ましくは、特定された順序で実行され、その場合、圧延インゴットの均質化は、別個に実行されるかまたは熱間圧延のための圧延インゴットの予熱に統合され得る。上記に記載の方法を用いると、本発明によって用いられたとき特に強度、電解質安定性ならびに電気および熱伝導率に関するバッテリーセル筐体の要件を満たすことができると同時に高いリサイクル率を達成することができるアルミニウム合金ストリップまたはシートを製造することが可能であることが見いだされた。さらに、このプロセスは、本アルミニウム合金ストリップまたはシートの経済的な製造を可能にする。
【0041】
アルミニウム合金からの圧延インゴットの鋳造は、好ましくはDC連続鋳造とも呼ばれる直接チル連続鋳造において実行され、そのため製造プロセスの経済的な実施可能性がさらに増大され得る。
【0042】
圧延インゴットを均質化させることによって、本アルミニウム合金ストリップまたはシートの微細構造の改善が達成され、この改善は、強度および成形性に正の効果を及ぼす。好ましくは、均質化は、480℃~620℃、特に550℃~610℃の温度で少なくとも0.5時間、好ましくは少なくとも1時間、特に少なくとも2時間の継続時間で行われる。
【0043】
熱間圧延されたストリップを形成させる圧延インゴットの熱間圧延は、好ましくは280℃~550℃の間の温度で実行され、最後の熱間圧延パス後のホットストリップ温度は、280℃~380℃の間、好ましくは310℃~360℃の間である。圧延インゴットの熱間圧延は、一つのロールスタンドにおいて逆方向またはタンデムスタンドにおいて順方向のいずれかで行われ得る。詳しくは、熱間圧延は、20mm~50mmの間のスラブ厚さまでは逆方向に行われ、次に、タンデムスタンドにおいてホットストリップ厚さまでスラブが圧延され得る。ホットストリップ厚さ、すなわち熱間圧延されたストリップの厚さは、本方法の一実施形態において1mm~15mmの間、好ましくは2mm~12mmの間、特に2mm~9mmの間である。このことが、本アルミニウム合金ストリップまたはシートの強度および成形性ならびに結晶学的組織、ひいてはイヤープロファイルがともども決定される十分に高い圧延率を後続の冷間圧延時に調整することができることを確実にする。
【0044】
本アルミニウム合金ストリップまたはシートの冷間圧延は、1回以上のパスで実行され得る。いくつかの冷間圧延パスが実行される本方法の実施形態において、冷間圧延時に少なくとも1回の中間焼鈍が任意選択として実行される。本方法の一実施形態において、中間焼鈍は、150℃~450℃の間、好ましくは200℃~400℃の間、特に300℃~400℃の間の温度範囲で行われる。好ましくは、中間焼鈍は、再結晶化された微細構造体が後続の冷間圧延パスのために提供される、再結晶焼鈍として実行される。この冷間圧延パスは、次に、仕上がり圧延アルミニウム合金ストリップまたはシートに対して強度増大効果を及ぼす、より高い圧延比率で実行され得る。しかし、代替法として、硬化低下を生む結果となる回復焼鈍が再結晶焼鈍の代りに実行され得る。
【0045】
本方法の一実施形態において、最終厚さにおける冷間圧延時の圧延比率は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に少なくとも70%である。本方法が冷間圧延時に中間焼鈍を用いて実行される場合、最後の中間焼鈍後の最終厚さにおける冷間圧延の圧延比率は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に少なくとも70%である。少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に少なくとも70%の最終厚さにおける冷間圧延時の圧延比率のために、製造されたアルミニウム合金ストリップまたはシートの強度は、本発明による使用に特に適するように増大させることができる。高い圧延比率のために、45°位置においてイヤリングが起こる。それでも、イヤリングは、再結晶されたホットストリップが製造されるように熱間圧延パラメータを選ぶことによって補償され得る。その場合、再結晶されたホットストリップは、0°/90°位置においてイヤリングを有し、したがって45°位置におけるイヤリングを補償することができる。それによって平均百分率イヤー高さZおよび最大百分率イヤー高さZmaxが限定されることがあり、そのことが深絞りプロセスにおける生産性に対して正の効果を及ぼし、深絞りプロセスにおいて発生するスクラップの量を低下させる。
【0046】
本発明は、例示的な実施形態を用いて下記でより詳細に説明され、図面への参照も行われる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明によるバッテリーセル筐体を有する円筒形設計のバッテリーセルの概略図を示す。
図2】本発明によるバッテリーセル筐体を有する角柱形設計のバッテリーセルの概略図を示す。
図3】本発明によるバッテリーセル筐体を有するパウチ設計のバッテリーセルの概略図を示す。
図4】本発明による使用のためのアルミニウム合金ストリップまたはシートを製造するための方法の流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、円筒形設計のバッテリーセル10を概略図において示す。バッテリーセル10は、本発明によるバッテリーセル筐体11と、それに隣接してアノード端子12およびカソード端子13と、を含む。
【0049】
図2は、角柱形設計のバッテリーセル20を概略図において示す。バッテリーセル20は、本発明によるバッテリーセル筐体21と、それに隣接してアノード端子22およびカソード端子23と、を含む。
【0050】
図3は、パウチ設計のバッテリーセル30を概略図において示す。バッテリーセル30は、本発明によるバッテリーセル筐体31と、それに隣接してアノード端子32およびカソード端子33と、を含む。
【0051】
図4は、本発明による使用のためのアルミニウム合金ストリップまたはシートを製造するための方法40の流れ図を示す。方法40は、以下の、
- アルミニウム合金から圧延インゴットを鋳造するステップ42、
- 該圧延インゴットを均質化させるステップ44、
- 熱間圧延されたストリップを形成するために該圧延インゴットを熱間圧延するステップ46、
- 該熱間圧延されたストリップを冷間圧延するステップ48、
を含む。
【0052】
本発明の範囲内で、下記でストリップ1~7と呼ばれる合計で7種類のアルミニウム合金ストリップをさまざまなアルミニウム合金から製造した。ストリップ1~7のそれぞれの合金組成を下表1に要約する。個々の合金元素の含有量を重量%で指定している。残部、すなわち100重量%からの差は、アルミニウムと個別で多くとも0.05重量%、全体で多くとも0.15重量%の不可避不純物とからなる。ストリップ1、2、3、7は、本発明に対応する合金組成を有する本発明による例示的な実施形態であり、合金組成は、ストリップ1とストリップ2とで同一である。逆に、ストリップ4、5、6は、タイプAA3003のアルミニウム合金を有する比較例である。
【0053】
【表1】
【0054】
アルミニウム合金ストリップ1~7を図4に示した方法で検査した。詳しくは、DC連続鋳造においてそれぞれのアルミニウム合金から圧延インゴットを鋳造した。本発明によるストリップ1、2、3、7の圧延インゴットを製造するために、少なくとも70重量%の割合のリサイクル材料を選んだ。比較例4、5、6では30重量%の最大リサイクル率を達成した。鋳造後に圧延インゴットを均質化させ、次に熱間圧延されたストリップを形成させるために熱間圧延した。次に、熱間圧延されたストリップを0.5mm~1.0mmの間の最終厚さまでそれぞれ歪み圧延した。次表2は、ストリップ1~7の製造のための様々な方法パラメータを示している。詳しくは、これらは、ホットストリップ厚さ、すなわち熱間圧延されたストリップのそれぞれの厚さ、冷間圧延時の任意選択の中間焼鈍のパラメータである温度、継続時間およびストリップ厚さ、ならびに最終厚さにおける冷間圧延時の圧延比率である。
【0055】
【表2】
【0056】
表2から分かるように、本発明によるストリップ1~3は中間焼鈍なしで製造したが、本発明によるストリップ7も比較用ストリップ4~6も中間焼鈍、特に再結晶焼鈍を用いて製造した。ストリップ2の場合、冷間圧延後に250℃の温度と2時間の保持時間とで最後の焼鈍を実行した。
【0057】
次に、バッテリーセル筐体に関連する様々な特性について本アルミニウム合金ストリップを調べた。これらの検証の結果を下表3に要約する。詳しくは、表3は、ストリップ1~7の材料状態、冷間圧延後の最終厚さとしての厚さd、電気伝導率σ、降伏強度Rp0.2、引張強度R、鋼に対する肉厚比δ、平均百分率イヤー高さZならびに最大百分率イヤー高さZmaxを示す。降伏強度Rp0.2および引張強度Rは、DIN EN ISO 6892-1による引張検査において決定した。鋼に対する肉厚比δは、ニッケルメッキしたタイプAISI1020の鋼ストリップの典型的な値である350MPaの降伏強度Rp0.2、Stをアルミニウム合金ストリップ1~7のそれぞれの降伏強度Rp0.2、Alで除することによって決定した。平均百分率イヤー高さZおよび最大百分率イヤー高さZmaxは、60mmの直径、33mmの穿孔直径および潤滑油ラノリンを有するブランクを用いるDIN EN 1669によるイヤリング検査において決定した。
【0058】
【表3】
【0059】
表3が示すように、アルミニウム合金AA3003で製作した比較用ストリップ4、5、6のものより高い降伏強度と引張強度とを本発明によるストリップ1、2、3、7によって達成することができる。タイプH1Xの歪み硬化状態、特に状態H18またはH19は、本発明によるストリップ1、2、3、7の間の比較によって示されるように強度に対して一層の正の効果を及ぼす。したがって、ストリップ1と同一の合金組成を有する(表1参照)が歪み硬化され、かつ焼鈍された状態H24にあるストリップ2の降伏強度および引張り強度は、比較用ストリップ3、4、5を上回るが、歪み硬化しただけの状態H18にあるストリップ1より低い。
【0060】
表3がさらに示しているように、本発明によるストリップ1、2、3、7は、少なくとも180MPaの降伏強度Rp0.2と少なくとも190MPaの引張強度Rとを有する。したがって、それらは、本発明によるバッテリーセル筐体の製造における使用に特に適している。表3に示した降伏強度および引張強度の値は、バッテリーセル筐体を形成するように加工する前のストリップ1、2、3、7に適用されるが、ストリップ1、2、3、7から製造したバッテリーセル筐体は、仕上がり状態において少なくとも同等に高い値を有すると仮定され得る。これは、典型的に冷間成形、たとえば深絞りによって実行される加工は、一般に強度の増大を伴うという事実に起因する。
【0061】
室温を参照する、表3に含まれる降伏強度に加えて、本発明によるストリップ3ならびに比較用ストリップ4では100℃における降伏強度および200℃における降伏強度もDIN EN ISO 6892-2によって決定した。本発明によるストリップ3は、100℃における270MPaの値および200℃における161MPaの値に達した。比較用ストリップ4は、100℃における151MPaの値および200℃における92MPaの値に達した。欠陥、損傷または不適切な使用の影響がある場合、バッテリーセルは、時には室温より顕著に高い温度まで熱くなるので、本発明によるストリップ3は、比較用ストリップ4と比較して顕著に高いその熱安定性のために、本発明によるバッテリーセル筐体の製造における使用に特に適している。100℃および200℃における降伏強度の前述の値は、バッテリーセル筐体を形成するように加工する前のストリップ3に適用されるが、ここでもストリップ3から製造したバッテリーセル筐体は、仕上がり状態において少なくとも同等に高い値を有すると仮定され得る。
【0062】
表3がさらに示しているように、本発明によるストリップ1、3、7は、1.6より高くない鋼に対する肉厚比δを有する。バッテリーセル筐体を製造するための前述のストリップの本発明による使用の場合、それによって本アルミニウム合金ストリップによって占有される空間の体積およびバッテリーセルの重量は、同じ機械的安定性で最小になるので、この値は、仕上がりバッテリーセルの体積ならびに重量エネルギー密度に正の効果を及ぼす。したがって、本発明によるストリップ1、3、7は、本発明によるバッテリーセル筐体の製造における使用に特に適している。
【0063】
表3がさらに示しているように、本発明によるストリップ1、2、3は、4%より大きくない平均百分率イヤー高さZおよび6%より大きくない最大百分率イヤー高さZmaxを有する。このため、それらは、深絞り、ひいては最小限のスクラップ発生で本発明によるバッテリーセル筐体を製造するのに非常に適している。ZおよびZmaxの値は、比較用ストリップ4、5、6のものと同程度かまたはわずかに良好である。
【0064】
表3がさらに示しているように、本発明によるストリップ1、2、3、7は、少なくとも35%IACSの電気伝導率σを有する。したがって、電気伝導率は、ニッケルメッキ鋼で製作された今まで用いられてきたバッテリーセル筐体と比較してより速い充電時間、より低い電気損失、ひいてはまたバッテリーセルの動作時における熱のより少ない発生が達成されるように顕著に増大する。本発明によるストリップ1、2、3、7の電気伝導率σは、比較用ストリップ4、5、6のものよりわずかに劣っているが、それでもバッテリーセル筐体の要件を容易に満たす。金属における電気伝導率と熱伝導率との間に直接的な関係があるとするウィーデマン-フランツの法則によって、同様な考察が熱伝導率にも適用される。ニッケルメッキ鋼と比較して改善された本発明によるアルミニウム合金ストリップの熱伝導率は、特に、急速充電時に起こる高いCレートにおける顕著に効率の向上したバッテリーセルの冷却ならびにパッケージ上のより均一な温度分布を可能にし、そのためバッテリーセルの時効化が限定される。
【0065】
表3がさらに示しているように、本発明によるストリップ1、2、3、7は、0.1mm~2.0mmの間の厚さを有する。したがって、本発明によるバッテリーセル筐体を製造するための使用時に、材料の機械的安定性と効率的な使用との間の良好な妥協が達成される。さらに、対応するバッテリーセルまたはバッテリーモジュールまたはバッテリーシステムの重量および体積エネルギー密度はあまり大きく低下しない。
【0066】
ヘキサフルオロリン酸リチウム電解質を用いるDIN 50918:2018-09による循環分極測定によって本発明によるストリップ3および比較用ストリップ4の腐食挙動を評価した。最初にこの電解質中の脱脂ストリップの静止電位を測定し、次に以下の分極、
1.カソード方向に1mV/sで600mVまでの静止電位の分極、
2.カソード領域からアノード方向に1mV/sで1mA/cmの腐食電流に対応する電位までの分極、
3.カソード方向に戻る1mV/sでの逆分極
を実行した。
【0067】
これらの測定の評価から腐食挙動の特性評価のために下表4に示すパラメータを得た。詳しくは、表4は、カソード電流密度、交換電流密度および分極抵抗を示す。本表が示すように、本発明によるストリップ3と比較用ストリップ4とは、実際的に同じカソード電流密度、交換電流密度および分極抵抗を有し、そのため本発明によるストリップ3は、先行技術の角柱形バッテリーセル筐体に典型的な合金-状態組み合わせを有する参照用ストリップ4と同じように電解質安定性のための要件を満たしている。
【0068】
【表4】
【0069】
電解質安定性は、基本的に、一方で本発明によるストリップ1、2、3、7と他方で比較用ストリップ4、5、6とで非常に類似している化学組成によって決定されるので、DIN 50918:2018-09による循環分極測定は、全体として、本発明によるストリップ1、2、3、7についての電解質安定性がアルミニウム合金AA3003で製作された比較用ストリップ4、5、6のものと基本的に同じであることを示している。したがって、本発明によるストリップは、電解質安定性のための要件を同じように満たし、したがって本発明によるバッテリーセル筐体の製造における使用に適している。
【0070】
詳しく記載したばかりである本発明によるストリップ1、2、3、7、特にストリップ1、3の有利な特性に起因して、それらは、バッテリーセル筐体を製造するための本発明による使用に特に適している。こうして、例として図1図3に示した本発明によるバッテリーセル筐体を製造することが可能である。
【0071】
図1図3に示したバッテリーセル(10、20、30)は、二次電池、特にリチウムイオン二次電池またはナトリウムイオン二次電池のことがあり、そのため本発明によるバッテリーセル筐体(11、21、31)は、それぞれ二次電池、特にリチウムイオン二次電池またはナトリウムイオン二次電池の筐体である。したがって、本発明によって用いられるアルミニウム合金ストリップの有利な特性は、特にこれらのタイプのバッテリーセルのために使用され得る。
【0072】
さらに、図1図3に示した本発明によるバッテリーセル筐体(11、21、31)は、特に円筒形設計、角柱形設計またはパウチ設計を有することがある。図1は、円筒形設計における本発明によるバッテリーセル筐体(11)を示し、図2は、角柱形設計における本発明によるバッテリーセル筐体(21)を示し、図3は、パウチ設計における本発明によるバッテリーセル筐体(31)を示す。したがって、本発明によって用いられるアルミニウム合金ストリップの有利な特性は、バッテリーセル筐体の現在典型的なすべての設計において用いられ得る。
【0073】
さらに、図1図3に示した本発明によるバッテリーセル筐体(11、21、31)が土台とするアルミニウム合金は、好ましくは少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%の割合のリサイクル材料を有する。このリサイクル率は、好ましくはポストコンシューマスクラップを用いることによって達成される。関連するエネルギー節約は、可能な最小のCOフットプリントでのバッテリーセル筐体の製造を可能にし、バッテリーセル筐体の持続可能性を増大させる。このことは、本発明によるバッテリーセル筐体(11、21、31)がそれらの合金組成のために高いリサイクル率を達成するのに非常に適しているので可能である。さらに、またはあるいは、このリサイクル率は、内部プロセススクラップまたは外部プロセススクラップを用いることによっても達成され得、一次アルミニウムに依拠する製造と比較してCOフットプリントの低減も同じように達成され得る。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-10-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6,258,480(B1)号
【特許文献2】米国特許第2006/093908(A1)号
【特許文献3】韓国特許出願第2016 0056731(A)号
【特許文献4】特開2015-125886(A)号
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
本発明によれば、本アルミニウム合金のチタン含有量は、0.005重量%≦Ti≦0.2重量%の範囲内である。本発明によるバッテリーセル筐体の一実施形態において、本アルミニウム合金のチタン含有量は、0.005重量%≦Ti≦0.1重量%、好ましくは0.005重量%≦Ti≦0.05重量%の範囲内である。最大0.2重量%のチタン含有量が許されるという事実は、チタン含有アルミニウム合金スクラップに対する本アルミニウム合金の許容度の増大を生む結果となり、そのことが本バッテリーセル筐体の製造におけるリサイクル材料の高い割合の達成を促進する。しかし、過度に高いチタン含有量は、本アルミニウム合金の成形特性に悪影響を及ぼし、電気および熱伝導率を顕著に低下させることがあり、そのため、チタン含有量は、本発明によれば多くとも0.2重量%に限定される。逆に、0.005重量%の含有量を超えるチタンは、本アルミニウム合金を鋳造するとき結晶粒微細化を改善する。良好な結晶粒微細化を良好な成形性、十分に高い電気および熱伝導率ならびに十分なリサイクル許容度と共存させるために、前述の実施形態におけるチタン含有量は、したがって0.005重量%≦Ti≦0.1重量%、好ましくは0.005重量%≦Ti≦0.05重量%の通路内で調整される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金ストリップまたはシートを有するバッテリーセル筐体(11、21、31)であって、
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、重量%で以下の、
0.1%≦Si≦0.5%、
0.25%≦Fe≦0.8%、
Cu≦0.6%、
0.6%≦Mn≦1.4%、
0.5%≦Mg≦1.5%、
Cr≦0.25%、
Zn≦0.4%、
0.005%≦Ti≦0.2%、
残部はAl、および個別で多くとも0.05%、全体で多くとも0.15%の不可避不純物である、合金成分を有するアルミニウム合金を有する、
ことを特徴とする、バッテリーセル筐体(11、21、31)。
【請求項2】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、重量%で以下の、
0.2%≦Si≦0.4%、好ましくは0.2%≦Si≦0.35%、
0.3%≦Fe≦0.7%、好ましくは0.4%≦Fe≦0.7%、
Cu≦0.3%、好ましくは0.1%≦Cu≦0.2%、
0.8%≦Mn≦1.1%、
0.8%≦Mg≦1.5%、好ましくは0.8%≦Mg≦1.2%、
Cr≦0.1%、好ましくはCr≦0.05%、
0.02%≦Zn≦0.25%、好ましくは0.04%≦Zn≦0.25%、
0.005%≦Ti≦0.1%、好ましくは0.005%≦Ti≦0.05%、
残部はAl、および個別で多くとも0.05%、全体で多くとも0.15%の不可避不純物である、合金成分を有するアルミニウム合金を有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%のリサイクル材料の割合を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項4】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、タイプH1Xの歪み硬化状態、好ましくは歪み硬化状態H18またはH19を有することを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項5】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、0.1mm~2.0mmの間、好ましくは0.2mm~1.5mmの間、特に好ましくは0.35mm~1.2mmの間の厚さを有することを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項6】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、少なくとも35%IACSの電気伝導率σを有することを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項7】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、好ましくは、前記バッテリーセル筐体を形成させるその処理の前に、少なくとも180MPa、好ましくは少なくとも220MPa、特に好ましくは少なくとも250MPaの、DIN EN ISO 6892-1によって測定された降伏強度Rp0.2を有することを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項8】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、100℃の温度における少なくとも200MPaの、DIN EN ISO 6892-2によって測定された降伏強度Rp0.2および/または200℃の温度における少なくとも150MPaの降伏強度Rp0.2を有することを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項9】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、前記バッテリーセル筐体を形成させるその処理の前に、1.6より大きくない、好ましくは1.4より大きくない鋼に対する肉厚比δを有することを特徴とする、請求項1~8の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項10】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、前記バッテリーセル筐体を形成させるその処理の前に、DIN EN 1669に準拠するイヤリング検査において4%より大きくない、好ましくは3%より大きくない平均百分率イヤー高さZおよび好ましくは、6%より大きくない、好ましくは5.5%より大きくない最大百分率イヤー高さZmaxを有することを特徴とする、請求項1~9の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載のバッテリーセル筐体を製造するための、アルミニウム合金ストリップまたはシートの使用。
【請求項12】
前記バッテリーセル筐体は、二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池または固相二次電池の筐体であることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記バッテリーセル筐体は、円筒形設計、角柱形設計またはパウチ設計を有することを特徴とする、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、以下の、
- アルミニウム合金から圧延インゴットを鋳造するステップ(42)、
- 前記圧延インゴットを均質化させるステップ(44)、
- 熱間圧延されたストリップを形成させるために前記圧延インゴットを熱間圧延するステップ(46)、
- 前記熱間圧延されたストリップを冷間圧延するステップ(48)、
を含む方法(40)によって製造されることを特徴とする、請求項11~13の何れか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記熱間圧延されたストリップの厚さは、1mm~15mmの間、好ましくは2mm~12mmの間、特に好ましくは2mm~9mmの間であることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記冷間圧延時に少なくとも1回の中間焼鈍が行われることを特徴とする、請求項14または15に記載の使用。
【請求項17】
最終厚さにおける前記冷間圧延時の圧延比率、好ましくは前記最後の中間焼鈍後における圧延比率は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも70%であることを特徴とする、請求項14~16の何れか一項に記載の使用。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金ストリップまたはシートを有するバッテリーセル筐体(11、21、31)であって、
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、重量%で以下の、
0.1%≦Si≦0.5%、
0.25%≦Fe≦0.8%、
Cu≦0.6%、
0.6%≦Mn≦1.4%、
0.5%≦Mg≦1.5%、
Cr≦0.25%、
Zn≦0.4%、
0.005%≦Ti≦0.2%、
残部はAl、および個別で多くとも0.05%、全体で多くとも0.15%の不可避不純物である、合金成分を有するアルミニウム合金を有する、
ことを特徴とする、バッテリーセル筐体(11、21、31)。
【請求項2】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、重量%で以下の、
0.2%≦Si≦0.4%、好ましくは0.2%≦Si≦0.35%、
0.3%≦Fe≦0.7%、好ましくは0.4%≦Fe≦0.7%、
Cu≦0.3%、好ましくは0.1%≦Cu≦0.2%、
0.8%≦Mn≦1.1%、
0.8%≦Mg≦1.5%、好ましくは0.8%≦Mg≦1.2%、
Cr≦0.1%、好ましくはCr≦0.05%、
0.02%≦Zn≦0.25%、好ましくは0.04%≦Zn≦0.25%、
0.005%≦Ti≦0.1%、好ましくは0.005%≦Ti≦0.05%、
残部はAl、および個別で多くとも0.05%、全体で多くとも0.15%の不可避不純物である、合金成分を有するアルミニウム合金を有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%のリサイクル材料の割合を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項4】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、タイプH1Xの歪み硬化状態、好ましくは歪み硬化状態H18またはH19を有することを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項5】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、0.1mm~2.0mmの間、好ましくは0.2mm~1.5mmの間、特に好ましくは0.35mm~1.2mmの間の厚さを有することを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項6】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、少なくとも35%IACSの電気伝導率σを有することを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項7】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、好ましくは、前記バッテリーセル筐体を形成させるその処理の前に、少なくとも180MPa、好ましくは少なくとも220MPa、特に好ましくは少なくとも250MPaの、DIN EN ISO 6892-1によって測定された降伏強度Rp0.2を有することを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項8】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、100℃の温度における少なくとも200MPaの、DIN EN ISO 6892-2によって測定された降伏強度Rp0.2および/または200℃の温度における少なくとも150MPaの降伏強度Rp0.2を有することを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項9】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、前記バッテリーセル筐体を形成させるその処理の前に、1.6より大きくない、好ましくは1.4より大きくない鋼に対する肉厚比δを有することを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項10】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、前記バッテリーセル筐体を形成させるその処理の前に、DIN EN 1669に準拠するイヤリング検査において4%より大きくない、好ましくは3%より大きくない平均百分率イヤー高さZおよび好ましくは、6%より大きくない、好ましくは5.5%より大きくない最大百分率イヤー高さZmaxを有することを特徴とする、請求項1に記載のバッテリーセル筐体。
【請求項11】
請求項1に記載のバッテリーセル筐体を製造するための、アルミニウム合金ストリップまたはシートの使用。
【請求項12】
前記バッテリーセル筐体は、二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池または固相二次電池の筐体であることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記バッテリーセル筐体は、円筒形設計、角柱形設計またはパウチ設計を有することを特徴とする、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
前記アルミニウム合金ストリップまたはシートは、以下の、
- アルミニウム合金から圧延インゴットを鋳造するステップ(42)、
- 前記圧延インゴットを均質化させるステップ(44)、
- 熱間圧延されたストリップを形成させるために前記圧延インゴットを熱間圧延するステップ(46)、
- 前記熱間圧延されたストリップを冷間圧延するステップ(48)、
を含む方法(40)によって製造されることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
前記熱間圧延されたストリップの厚さは、1mm~15mmの間、好ましくは2mm~12mmの間、特に好ましくは2mm~9mmの間であることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記冷間圧延時に少なくとも1回の中間焼鈍が行われることを特徴とする、請求項14または15に記載の使用。
【請求項17】
最終厚さにおける前記冷間圧延時の圧延比率、好ましくは前記最後の中間焼鈍後における圧延比率は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも70%であることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【国際調査報告】