(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】浸漬冷却システム内の低GWP流体を用いた浸漬冷却の方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20241024BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241024BHJP
H01L 23/44 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C09K5/10 F
H05K7/20 M
H01L23/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522309
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 US2022045378
(87)【国際公開番号】W WO2023064123
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515269383
【氏名又は名称】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン アール.ジュハス
(72)【発明者】
【氏名】ドリュー リチャード ブラント
(72)【発明者】
【氏名】ルーク デイビッド シモーニ
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン ピー.ステーマン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィアチェスラフ エー.ペトロフ
(72)【発明者】
【氏名】グスターヴォ ポットカー
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA09
5E322AB08
5E322DA04
5E322DB01
5E322DB07
5E322FA01
5F136CB01
5F136CB27
(57)【要約】
内部空洞を画定する浸漬セルを含む、浸漬冷却ユニット。エネルギー貯蔵装置が、内部空洞内に配置されている。誘電性作動流体が、内部空洞を部分的に満たし、エネルギー貯蔵装置を少なくとも部分的に浸漬する。凝縮コイルが、誘電性作動流体の上方に配置されている。誘電性作動流体は、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、若しくは1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン及びトランス-1,2-ジクロロエチレンの共沸混合物様組成物、又は1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン及びトランス-1,2-ジクロロエチレンの共沸混合物様組成物のうちの少なくとも1つを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬冷却ユニットであって、
・内部空洞を画定する浸漬セルと、
i)前記内部空洞内の電気部品と、
ii)前記内部空洞を部分的に満たす誘電性作動流体と、
iii)前記電気部品の上方で前記内部空洞内に配置された凝縮コイルと、を備え、
・前記誘電性作動流体が、前記電気部品を少なくとも部分的に浸漬し、
・前記誘電性作動流体が、
E-1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及びE-1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つを含む、浸漬冷却ユニット。
【請求項2】
前記作動流体が、E-1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン(HFO-153-10mczz)及びE-1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つから本質的になる、請求項1に記載の浸漬冷却ユニット。
【請求項3】
前記作動流体が、E-1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセンから本質的になる、請求項1に記載の浸漬冷却ユニット。
【請求項4】
前記誘電性作動流体の抵抗率が、少なくとも約1×10
13Ω-cmである、請求項1に記載の浸漬冷却ユニット。
【請求項5】
前記誘電性作動流体の抵抗率が、少なくとも約1×10
14Ω-cmである、請求項1に記載の浸漬冷却ユニット。
【請求項6】
動作温度範囲が、40℃~65℃である、請求項1に記載の浸漬冷却ユニット。
【請求項7】
前記動作温度範囲が、45℃~55℃である、請求項1に記載の浸漬冷却ユニット。
【請求項8】
前記誘電性作動流体が、3GHz~67GHzの周波数において1.0×10
-3未満の損失正接値を有する、請求項1に記載の浸漬冷却ユニット。
【請求項9】
前記電気部品が、大容量エネルギー貯蔵装置、電子装置、データセンターサーバ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)装置、電気通信インフラストラクチャ、軍用電子機器、テレビ(TV)、携帯電話、モニタ、ドローン、自動車用バッテリ、電気自動車(EV)用パワートレイン、パワーエレクトロニクス、アビオニクス装置、電力装置、及びディスプレイからなる群から選択される、請求項1に記載の浸漬冷却ユニット。
【請求項10】
電気部品を冷却するための方法であって、
電気部品を作動流体に少なくとも部分的に浸漬する工程と、
前記作動流体を使用して、前記電気部品から熱を伝達する工程と、を含み、
前記作動流体が、
1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つを含む、方法。
【請求項11】
前記作動流体が、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つから本質的になる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記作動流体が、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン(HFO-153-10mczz)から本質的になる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記熱の伝達が、冷却される前記電気部品と接触している前記作動流体の蒸発、及びヒートシンクとの接触を通して前記作動流体を凝縮することを通して生じる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記作動流体が、約1×10
13Ω-cmの体積抵抗率を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記電気部品が、大容量エネルギー貯蔵装置、電子装置、データセンターサーバ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)装置、電気通信インフラストラクチャ、軍用電子機器、テレビ(TV)、携帯電話、モニタ、ドローン、自動車用バッテリ、電気自動車(EV)用パワートレイン、パワーエレクトロニクス、アビオニクス装置、電力装置、及びディスプレイからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
浸漬冷却システム内の高GWP誘電性流体を交換する方法であって、
高GWP作動流体とともに使用するために設計された浸漬冷却システムを、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つを含む組成物で充填する工程を含む、方法。
【請求項17】
交換用流体の電気部品対流体熱抵抗が、前記過フッ素化作動流体又は高GWP流体よりも低いか、又はそれと同等である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記交換用流体の電気部品対流体熱抵抗が、前記過フッ素化作動流体又は高GWP流体のものの20%増の値以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記置換流体の電気部品対流体熱抵抗が、前記過フッ素化作動流体又は高GWP流体のものの10%増の値以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記作動流体が、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン(HFO-153-10mczz)から本質的になる、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬冷却のための誘電性作動流体として有用な特定のハイドロフルオロオレフィンを対象とする。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の抽出、輸送、及び使用による環境影響に対する社会の認識の高まりは、大気中のCO2等量の排出の規制及び削減という形態の新しい環境維持可能性の原動力を突き動かしている。温度管理部門における既存及び新しい用途の両方のための低い地球温暖化係数(global warming potential、GWP)及びODPを有する新しい作動流体は、これらの新しい規制を遵守する必要がある。
【0003】
これらの新たに提案された作動流体の適用機会は、大容量エネルギー貯蔵装置、パワーエレクトロニクス(TV、携帯電話、モニタ、ドローン)、バッテリ温度管理(自動車及び固定)、e-パワートレイン、IGBT、コンピュータサーバシステム、コンピュータチップ、5Gネットワーク装置、ディスプレイなどの電子又は電気熱源の冷却に存在する。作動流体は、熱を輸送するための媒体、又はヒートパイプなどの受動的蒸発冷却における媒体を提供する。これらの流体の適合性のある使用に関して考慮すべき重要な要因は、誘電率、散逸率又は損失正接、体積抵抗率、絶縁耐力、及び不燃性であることを含む。これらの要因は、帯電システムと直接接触している流体が非導電性流体であるように存在しなければならない、エンベロープを提供する。分子はまた、それを不燃性、低GWP、及び短い大気寿命にする構造特性、すなわち、二重結合を有するべきである。以下で、本発明者らは、これら全ての要件を満たし、この市場のために識別された必要性を満たす、フルオロオレフィン(fluoroolefin、FO)のいくつかの分子及びそれらの化学構造を識別している。
【0004】
この解決策を採用することができる用途としては、大容量エネルギー貯蔵装置、電子装置、データセンターサーバ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(insulated-gate bipolar transistor、IGBT)装置、電気通信インフラストラクチャ、軍用電子機器、テレビ(television、TV)、携帯電話、モニタ、ドローン、自動車用バッテリ、電気自動車(electric vehicle、EV)用パワートレイン、パワーエレクトロニクス、アビオニクス装置、電力装置、及びディスプレイの冷却が挙げられる。バッテリなどのいくつかの用途では、この作動流体は、例えば、寒い天候での始動中に、加熱流体として一時的に作用することができる。本発明の技術目的は、周囲温度に近く、わずかに上昇した沸点範囲を有する、温度管理のための新規の特殊流体を提供することであり、これらの製品は、環境に優しく(低GWP及びODP)、不燃性で、非導電性であり、低い液体粘度を有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態では、内部空洞を画定する浸漬セルを含む、浸漬冷却ユニットが提供される。電子又は電気部品は、内部空洞内に配置されている。誘電性作動流体は、内部空洞を部分的に満たし、発熱電子又は電気装置を少なくとも部分的に浸漬する。凝縮コイルは、誘電性作動流体の上方で空洞の内側に配置されている。別の実施形態では、凝縮コイルは、空洞の外側に配置され、誘電性流体は、空洞から出て、ループを完成させるために空洞に戻る前に、コンデンサへのパイプ接続を通して、次いで、ポンプを通して、任意選択的な液体レシーバまで循環する。誘電性作動流体は、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つを含む。別の実施形態では、作動流体は、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つから本質的になる。
【0006】
別の実施形態では、コンピュータサーバシステム又はエネルギー貯蔵装置から選択される電気部品を冷却する方法が提供される。本方法は、電気部品を作動流体に少なくとも部分的に浸漬する工程と、作動流体を使用して、電気部品から熱を伝達する工程と、を含み、誘電性作動流体は、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つを含む。別の実施形態では、作動流体は、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つから本質的になる。
【0007】
別の実施形態では、高GWP作動流体を、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つを含む、作動流体と交換する方法が提供される。
【0008】
本発明の他の特徴及び利点は、例として本発明の原理を例示する添付図面と併せてなされる、以下のより詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態による浸漬ユニットの斜視図である。
【
図2】一実施形態による浸漬ユニットの斜視図である。
【0010】
可能な限り、同一の参照番号は、同じ部品を表すために図面全体にわたって使用される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
大規模コンピュータサーバシステムは、著しい作業負荷を実施し、その動作中に大量の熱を発生させ得る。熱の大部分は、その動作から発生される。発生される熱の量に部分的に起因して、これらのシステムは、典型的には、大型内部冷却ファン及び放熱フィンを有する積層構成で搭載される。これらのシステムのサイズ及び密度が増加するにつれて、熱的課題は更に大きくなり、最終的には強制空気システムの能力を上回る。
【0012】
二相浸漬冷却は、高性能サーバシステムに適用されるような高性能冷却市場のための新たな冷却技術である。これは、液浸流体を気体に気化するプロセスにおいて吸収される熱に依拠する。この用途で使用される流体は、使用中に実行可能であるための特定の要件を満たさなければならない。例えば、流体の沸点は、30~75℃の範囲であるべきである。一般に、この範囲は、発生した熱が外部ヒートシンクに十分に放散されることを可能にしながら、サーバ部品を十分に冷たい温度に維持することに適応する。あるいは、サーバ及び浸漬冷却システムの動作温度は、密閉システムを使用し、システム内の圧力を上昇又は低下させて所与の流体の沸点を上昇又は低下させることによって、上昇又は低下させることができる。
【0013】
単相浸漬冷却は、コンピュータサーバの冷却において長い歴史を有する。単相浸漬冷却では相変化はない。その代わりに、液体は、コンピュータサーバ及び/又は熱交換器を通って循環するときに温まり、次いで、サーバに戻る前に冷却のためにポンプで熱交換器に循環され、それによって、コンピュータサーバから熱を移動させる。単相浸漬冷却に使用される流体は、蒸発による損失を低減するために、沸点が典型的には30~75℃より高いことを除いて、典型的には、二相浸漬冷却に対するものと同様の要件を有する。
【0014】
周囲温度に近い動作温度範囲を有する浸漬冷却器が提供される。本開示の実施形態は、例えば、本明細書に開示される特徴のうちの1つ以上を含まない概念と比較して、環境に優しい(すなわち、低い地球温暖化係数(GWP)及び低いオゾン層破壊係数(ozone depletion potential、ODP)を有する)、温度管理のための流体を有する浸漬冷却器を提供する。
【0015】
また、装置が発熱部品であり、発熱部品を液体状態の浸漬冷却流体に少なくとも部分的に浸漬する工程と、浸漬冷却流体を使用して、発熱部品から熱を伝達する工程と、を含む、浸漬冷却の方法も提供される。そのような装置には、大容量エネルギー貯蔵装置、電気又は電子部品、機械部品、及び光学部品が含まれる。本開示の装置の例としては、マイクロプロセッサ、半導体素子を製造するために使用されるウエハ、電力制御半導体、配電スイッチギア、パワーエレクトロニクス及び変圧器、回路基板、マルチチップモジュール、パッケージングされた半導体素子及びパッケージングされていない半導体素子、レーザ、燃料電池、電気化学電池、及びバッテリなどのエネルギー貯蔵装置が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
ある特定の実施形態では、装置には、マイクロプロセッサを含むプロセッサなどの電子装置が含まれ得る。マイクロプロセッサは、典型的には、約85℃の最大動作温度を有するため、効果的な熱伝達が、高い処理能力、すなわち、高い排熱率の条件において必要とされる。他の実施形態では、装置には、バッテリなどのエネルギー貯蔵システムが含まれ得る。急速に充電又は放電されると、バッテリは、過熱、内部損傷、隣接するバッテリへの熱暴走、及び潜在的な発火を回避するために効果的に除去される必要がある、著しい量の熱を拒絶し得る。これらの電子及び電気装置がより高密度になり、より強力になるにつれて、単位時間及び単位体積当たりの発生される熱の量が増加する。したがって、熱伝達の機構は、プロセッサ性能において重要な役割を果たす。熱伝達流体は、典型的には、良好な熱伝達性能、良好な電気的適合性(冷却板を採用するものなどの「間接接触」用途で使用される場合でさえも)、並びに低い毒性、低い燃焼性又は不燃性、及び低い環境影響を有する。良好な電気的適合性は、熱伝達流体候補が、高い絶縁耐力、高い体積抵抗率、低い散逸率、低い誘電率、及び極性材料に対する低い溶解力を示すことを示唆する。加えて、熱伝達流体は、良好な材料適合性を示すべきであり、すなわち、典型的な構成材料に悪影響を及ぼすべきではない。
【0017】
Fluoroinert FC-72及びFC-3284などの過フッ素化液体は、2.0以下の誘電率、およそ1015オーム・cmの高い体積抵抗率、及び高い絶縁耐力などの優れた誘電特性を示し得ることが一般に理解されている。しかしながら、これらの流体はまた、一般に、多くの産業用途のための現在の要件をはるかに外れた高いGWPと関連付けられる。Fluorinert FC-72のGWPは、>9000であると報告されている。ハイドロフルオロエーテル(hydrofluoroether、HFE)は、より低いGWPを有するが、依然として満足のいくものではなく、典型的には、FC-72及びFC-3284と比較してより劣った誘電特性を有する。例えば、Novec 7100は、297のGWPを有する。したがって、典型的には150未満である、業界の現在の要件を下回るGWPを有しながら、業界の誘電用途を満たす、浸漬冷却のための作動流体の必要性が存在し続けている。別の実施形態では、作動流体のGWPは、100未満である。別の実施形態では、開示される組成物は、50以下の地球温暖化係数(GWP)を有する。本明細書で使用される場合、「GWP」は、「The Scientific Assessment of Ozone Depletion,2002,a report of the World Meteorological Association’s Global Ozone Research and Monitoring Project」で定義されるように、二酸化炭素のGWPに対して100年の計画対象期間にわたって測定される。
【0018】
新しい流体は、FC-72、FC-3284、Novec-7100、Novec-7000などのより高いGWPの既存の流体と比較して、電子表面対流体熱抵抗、臨界熱流束、及び流体対凝縮器熱抵抗を含む、同等又は優れた熱伝達特性を有するため、熱性能の著しい損失又は機械的修正がない既存のシステムにおいて、及び著しい機械的設計変更を伴わずにFC-72、FC-3284、Novec-7100のために設計された新しいシステムにおいて、これらの流体に取って代わり得ることが非常に望ましい。既存のシステムにおいて既存の流体を新しい流体と交換することの実践は、しばしば、「改造」と呼ばれる。
【0019】
また、これらの流体は、FC-72、FC-3284、Novec-7100などの高GWP流体と比較して同様の標準沸点を有するため、それらは、著しい機械的又は動作変更がない既存のシステムにおいて、及び著しい機械的設計変更がない新しいシステムにおいて、これらに取って代わるために使用され得ることも望ましい。
【0020】
また、新しい流体は、FC-72、FC-3284、HFE-7100などの既存の流体と比較して、用途によって必要とされる少なくとも最小限の誘電特性、又は更に優れた誘電特性を提供するため、著しい電気的又は機械的修正がない既存のシステムにおいて、及び著しい電気的又は機械的設計変更を伴わずにFC-72、FC-3284、Novec-7100、Novec-7000のために設計された新しいシステムにおいて、これらの流体に取って代わり得ることが非常に望ましい。望ましい誘電特性には、高い体積抵抗率、低い誘電率、高い絶縁耐力、及び低い損失正接が含まれる。
【0021】
浸漬冷却システム100の実施形態を、
図1に示す。浸漬冷却システム100は、内部空洞120を画定する浸漬セル110を含む。冷却されるエネルギー貯蔵装置130が、内部空洞120内に配置され得る。誘電性作動流体140が、内部空洞120を部分的に満たす。誘電性作動流体140は、エネルギー貯蔵装置130を少なくとも部分的に浸漬する。いくつかの実施形態では、誘電性作動流体140は、エネルギー貯蔵装置130を実質的に浸漬する。一実施形態では、誘電性作動流体140は、エネルギー貯蔵装置130を完全に浸漬する。凝縮コイル150が、内部空洞120内に、追加的に存在する。凝縮コイル150は、空間的には、誘電性作動流体140の少なくとも一部分の上方に位置し得る。
【0022】
動作中、電気部品130によって生成された熱が、誘電性作動流体140を加熱し、誘電性作動流体140の一部を気化させる。誘電性作動流体140の蒸気は、誘電性作動流体140の上方の凝縮コイル150に接触し、熱エネルギーを凝縮コイル150に伝達し、凝縮された誘電性作動流体140が、下方の液体の誘電性作動流体140内に戻って降下することを可能にする。凝縮コイル150に伝達された熱エネルギーは、浸漬セル110の外部に輸送され、熱交換器160を介して環境内又は冷却装置に放出される。放出された熱エネルギーはまた、回収し、加熱用途に、又はランキンサイクルなどのエネルギー生成に使用することもできる。
【0023】
浸漬冷却器100の誘電性作動流体は、浸漬冷却器100の動作温度範囲にわたって液体から気体状態への相転移を受けるように選択される。いくつかの実施形態では、誘電性作動流体140の組成物は、1つ以上のフッ素化化合物を含む。いくつかの実施形態では、誘電性作動流体140は、フッ素及び塩素の両方を含む、1つ以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、動作温度は、少なくとも25℃、少なくとも30℃、少なくとも40℃、少なくとも50℃、少なくとも60℃、100℃未満、90℃未満、80℃未満、70℃未満、60℃未満、及びそれらの組み合わせである。
【0024】
一実施形態では、新しい低GWP誘電性流体の標準沸点は、交換されている流体の少なくとも10℃以内であり得る。別の実施形態では、新しい低GWP誘電性流体の標準沸点は、6℃以内であり得る。更に別の実施形態では、新しい低GWP誘電性流体の標準沸点は、2℃以内であり得る。
【0025】
誘電性作動流体140はまた、電気部品との直接接触のために好適な誘電率、体積抵抗率、絶縁耐力、及び損失正接(散逸率)を示すように選択され得る。一般に、低い誘電率、低い損失正接又は散逸率、高い体積抵抗率、及び大きい絶縁耐力を示す材料は、その中に浸漬されたエネルギー貯蔵装置又は帯電部品130の増加した電気絶縁、並びに低減した信号損失を提供する。いくつかの実施形態では、作動流体140の誘電率は、動作周波数範囲(100GHzにまでなり得る)にわたって約8未満である。好適な誘電性作動流体には、動作周波数範囲(最大約100GHzまで)にわたって2.5未満、又は2.0未満、又は1.9未満の誘電率を有する化合物及び混合物が含まれる。他の実施形態は、1.0より大きく3.0未満、又は1.5より大きく2.5未満の誘電率を有する化合物及び混合物を含む。
【0026】
一実施形態では、新しい流体の誘電率は、現存の流体のものよりも10%以下高い。別の実施形態では、新しい流体の誘電率は、現存の流体のものよりも20%以下高い。更に別の実施形態では、新しい低GWP流体の誘電率は、最大約60GHz又は100GHzもの高い周波数でさえも、現存の流体のものよりも50%以下高い。
【0027】
一実施形態では、新しい流体の体積抵抗率は、現存の流体(FC-72、FC-3284、Novec 649)のものよりも1桁以下低い。別の実施形態では、新しい流体の体積抵抗率は、現存の流体のものよりも2桁以下低い。更に別の実施形態では、新しい流体の体積抵抗率は、3桁以下低い。記載される流体のうちのいくつかの電気特性を、以下の表1に要約する。
【0028】
別の実施形態では、新しい流体で観察されるケーブル損失は、空気中のもの及び現存の流体のものと同等である。
【0029】
【0030】
表1の特性から、HFOのF-22E、F13E、及びF13iEは、現行の流体Novec 649、FC-72、及びFC-3284と比較して、同様の沸点及び同様の誘電率(<2.5)を有するが、FC-72及びFC-3284よりも著しく低いGWP、並びにNovec 649よりもはるかに高い加水分解安定性を有することが分かる。
【0031】
HFOのE-F22E、E-F13iE、及びE-F13Eが各々、2.5未満の誘電率を有しても、E-F22Eは、明確かつ予想外に、他のHFOと比較して優れた体積抵抗率を有し、PFC流体FC-72及びFC-3284に匹敵し、これが、いずれの成分変更も必要とすることなく、これらの流体に取って代わる優れた候補となることを示す。E-F22Eの絶縁破壊電圧はまた、E-F13iEのものよりも約15%高いことが分かり、同様にE-F22Eの絶縁破壊電圧は、現存の流体のものと同等である。ここでの結論としては、HFOがとりわけ<2.5の誘電率を有しても、それらの間に明確かつ予想外の区別があり、E-F22Eが他のHFOと比較して優れた絶縁破壊電圧及び体積抵抗率を有し、これは、同様の標準沸点、(FCと比較して)はるかに低いGWP、及び(Novec 649と比較して)優れた加水分解安定性を有しながら、少なくとも3つの既知の現存の流体と同等であるか、又はそれよりも優れているかのいずれかである。
【0032】
HFO及び現存の流体の誘電率及び損失正接(散逸率)もまた、Rohde and Schwarz ZVA-67 Vector Network Analyzerを使用して、実験的に特性評価された。較正キットは、Rohde and Schwarz ZN-Z218であった。2つの別個の測定較正を使用した各流体の5つの試験試料が、評価された。結果を、以下の表2に要約する。
【0033】
【0034】
上記の表中の全ての流体は、広範囲の周波数の全体を通して低い非常に類似した誘電率を有する。しかしながら、E-F22Eは、驚くべきことに、E-F13iE又はE-F13Eのいずれかよりも約1桁低い損失正接値を有することが見出され、これは、信号完全性の改善された結果(より低い信号損失)を示すはずである。E-F22Eの損失正接の値はまた、驚くべきことに、現存の流体FC-72及びNovec 649のものと等しいか、又はそれよりも良好であり、それが交換可能に使用され得ることを示した。また、E-F13iEの損失正接値も、試験される周波数の範囲にわたってNovec 649と等しいか、又はそれよりも低い(良好である)ことにも留意されたい。結果が、以下の表3にある。
【0035】
ケーブル損失評価が、最大約70GHzまでの周波数において複数の流体の実験的に決定された誘電率及び損失正接(散逸率)を使用して、CST Microwave Studioにおいて100オーム差動ペアケーブルの1インチセグメントで実行された。ケーブルの1インチ当たりのdB損失の結果を、以下の表に示す。また、2、5、10又は20dBの固定ケーブル損失予算を仮定し、対応する最大ケーブル長を得ることもできる。結果を、28及び70GHzについて、以下の表4及び5に示す。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
全ての流体(空気を除く)が非常に類似した誘電率(<2.5)を有しても、ケーブル損失は、驚くべきことに、E-F22EについてはE-F13iE及びE-F13Eなどの他のHFOよりも14~17%低く、現存のNovec-649及びFC-72と同様であり、また、ケーブルが従来的に設計されている空気のベースライン媒体に非常に近い。
【0040】
同じ結論をデータ関連ケーブル長から出すことができ、1インチ当たりのより低い損失に起因して、同じ予算のためにより長いケーブルの使用を可能にすることによって、E-F13iE及びE-F13Eと比較したE-F22Eの予想外の利点を明確に見出すことができる。
【0041】
良好な作動流体の別の特徴は、それが高い体積抵抗率を保有することである。体積抵抗率は、典型的にはオーム・cm又はオーム・mの単位で表される、材料が単位断面の単位長さ当たりの電流にどれだけ強く抵抗するかを測定する、固有特性である。より高い体積抵抗率は、材料がより良好な電気絶縁体であることを意味する。材料の電気抵抗は、体積抵抗率を長さで乗算し、材料の断面積で除算することによって計算することができる。
【0042】
したがって、より高い体積抵抗率の誘電性流体は、より高い電気抵抗につながり、その結果として、より低い電流漏出につながるため、望ましい。例えば、電流漏出は、バッテリなどのエネルギー貯蔵装置の自己放電につながり得る。これはまた、所与の最小抵抗要件のために、異なる電圧を有する電気部品をより近くに配置することができ、潜在的によりコンパクトなアセンブリにつながることも意味する。一実施形態では、有効作動流体は、25℃で測定される少なくとも1×1012オーム-cmの体積抵抗率を有する。別の実施形態では、有効作動流体は、少なくとも1×1013オーム・cmの体積抵抗率を有する。更に別の実施形態では、有効作動流体は、少なくとも1×1014オーム・cmの体積抵抗率を有する。水は、はるかに低い体積抵抗率を有することで知られている。したがって、流体中に水が存在する場合、十分なレベルの実際の体積抵抗率を依然として維持するため、高い体積抵抗率を有する流体も望ましい。
【0043】
一実施形態では、新しい低GWP流体の体積抵抗率は、約1.0×1013オーム・cmよりも高くなければならない。別の実施形態では、体積抵抗率は、交換されている高GWP流体よりも約1桁以下低い。更に別の実施形態では、体積抵抗率は、約2桁以下である。
【0044】
別の重要な誘電性流体特性は、材料が、電気絶縁破壊を受けることなく、かつ導電性になることなく抵抗することができる、単位長さ当たりの最大電界又は電圧として定義される絶縁耐力である。これは、典型的には、kV/mm又はkV/0.1”ギャップの単位で測定される。所与の距離又は「ギャップ」については、材料が導電性になる電圧は、絶縁破壊電圧と呼ばれる。より高い絶縁耐力の材料は、2つの導体間でより高い電圧を可能にするか、又は2つの導体がより近くに配置されることを可能にし、潜在的によりコンパクトなアセンブリにつながるため、有利である。一実施形態では、絶縁耐力は、約30kV/0.1”ギャップよりも大きい。別の実施形態では、絶縁耐力は、約35kV/0.1”ギャップよりも大きい。更に別の実施形態では、絶縁耐力は、約40kV/0.1”ギャップよりも大きい。
【0045】
一実施形態では、新しい低GWP流体の絶縁耐力は、交換されている高GWPのものよりも約10%以下低くなければならない。別の実施形態では、新しい低GWP流体の絶縁耐力は、高GWP流体のものよりも約20%以下低い。
【0046】
散逸率と呼ばれることもある誘電損失正接は、信号減衰又は信号損失に対するその影響に起因して、特に高い周波数において別の重要な誘電特性である。これは、誘電率の相対実数成分に対する虚数成分の比である、tan(δ)で定義される。これはまた、誘電体を通して移動する電磁場(electromagnetic field、RF)によって運ばれるエネルギーがその誘電体によって吸収される速度の尺度であり、すなわち、これは、熱の形態での電磁エネルギーの散逸を定量化する。更に、損失正接は、周波数に大きく依存し、特に、データセンターサーバ、5G及びWi-fi技術などの用途で見出され得る、1GHzの周波数を上回って増加し得る。より重要なことには、典型的にはdB/cmを単位として測定される単位長さ当たりの信号損失又は減衰は、損失正接の関数である。換言すれば、誘電性流体を通して移動する信号については、流体の損失正接が高いほど、単位長さ当たりの信号損失が高くなり、その結果として、それが移動することができる距離が短くなる。したがって、誘電性流体は、1GHzを上回り、最大約100GHzまでの周波数において低い損失正接値を有することが非常に望ましい。本発明者らによって発見された流体は、高い周波数において損失正接の非常に有益な値を示している。一実施形態では、誘電性流体の損失正接値は、1GHzを上回る周波数において5×10-3未満である。別の実施形態では、損失正接値は、1GHzを上回る周波数において1×10-3未満である。更に別の実施形態では、損失正接値は、1GHz~67GHzの周波数において1×10-3未満である。
【0047】
本発明者らはまた、新しい提案された低GWP流体が、特に高い周波数において、交換されているより高いGWP流体と比較して、損失正接の同等で時にはより低い値を有することも発見した。
【0048】
前述の全ての望ましい誘電特性、高い絶縁耐力、低い誘電率、低い損失正接、及び高い体積抵抗率は、主に液相で存在しなければならないが、気相でも存在しなければならない。
【0049】
浸漬冷却流体の他の望ましい特徴は、いくつかある部品の中でも、ケーブル、ワイヤ、シール、金属などのIT及びコンピュータ部品、並びに誘電性流体に曝露されるタンクの構成材料を著しく損傷しないか、又はそれらと著しく反応しないというその能力に関する。
【0050】
また、これらの流体は、部品の交換を最小限にするように、既存の流体と比較して電子部品と同様の相互作用を有することも望ましい。
【0051】
フィルタシステムなどの汚染物質制御手段が、構成材料との反応性又は構成材料からの化学物質の抽出の結果として生成され得る固体又は液体残留物を除去するために使用され得る。汚染制御手段はまた、十分に低い酸及び水レベルを維持するために使用することもできる。
【0052】
窒素及び酸素などの典型的な非凝縮性ガスもまた、誘電性流体中に存在し得、沸騰及び凝縮熱伝達に有害であり得る。したがって、誘電性二相流体を有するシステムは、誘電性流体中の非凝縮性レベルのレベルを少なくとも部分的に除去又は制御する、補助装置を装備し得る。
【0053】
熱を輸送する作動流体140の能力は、誘電性作動流体140の気化熱に関連する。誘電性作動流体140の気化熱が大きいほど、作動流体140が気化中に吸収し、凝縮中に放出されるように凝縮コイル150に輸送するエネルギーの量が大きくなる。
【0054】
また、これらの流体は不燃性であるか、又は引火点を示さないことも望ましい。燃焼性を評価するために、ASTM D56、D1310、D92、D93及びE681などの規格を使用することができる。
【0055】
これらの流体の目的が、エネルギー貯蔵装置から熱を除去することであるため、1つの重要な考慮事項は、誘電性流体が二相熱伝達にどれだけ有益であるかである。より具体的には、これらの流体がプール沸騰条件下で熱伝達にどれだけ有益であるかである。プール沸騰熱伝達は、典型的には、異なるモード又はレジームに分けられる。
1)自由対流:流体の飽和温度と壁又は表面温度との間の差である、「壁面過熱」又は「過剰温度」の小さい値で起こる。
2)核沸騰:気泡が形成されて表面から分離するために十分に高い過熱があるときに生じ、熱伝達係数及び熱流束を著しく改善する。このモードは、典型的には、熱除去のための沸騰動作の好ましいレジームである。核沸騰領域は、kW/m2の単位を有する臨界熱流束(Critical Heat Flux、CHF)によって制限される。熱伝達装置は、通常、CHFよりも低い熱流束で動作するように設計される。臨界熱流束は、各流体に特有であり、いくつかの熱物理特性に依存する。これは、実験的に測定するか、又はZuber(1959)によるものなどの半経験的モデルを通して推定することができる。より高いCHFを有する流体は、所与の壁面過熱について、単位面積当たりより多くの熱を除去することができるため望ましい。
3)遷移沸騰:蒸気膜が表面に形成され始め、核沸騰と膜沸騰との間に振動が存在する。本レジームは、不安定であり、動作させることが望ましくない。
4)膜沸騰:この領域では、壁面過熱が非常に高いため、液体と表面との間に蒸気ブランケットが形成され、熱伝達係数を著しく低減する。この領域もまた、動作させることが望ましくない。
【0056】
【0057】
【0058】
表6は、提案されるHFOが、旧来の流体と同等であり、時にはそれよりも高いCHFを有することを示す。CHFが、海面大気圧(101.325kPa)においてZuber(1958)の相関を使用して得られた一方で、熱物理特性は、REFPROP 10を通して決定された。沸騰熱伝達の別の態様は、核沸騰領域内の熱伝達係数である。これは、(例えば、「ケルビン」の単位の)表面とバルク流体との間の単位温度差当たりの、(例えば、「cm2」の単位の)単位面積当たりの(例えば、「ワット」の単位の)除去される熱を単位として測定される。
【0059】
一実施形態では、新しい低GWP流体は、それらが取って代わる高GWP流体と同等であるか、又はそれよりも高い臨界熱流束を提供することが非常に望ましい。別の実施形態では、新しい低GWP流体は、90%以上の臨界熱流束を提供するべきである。更に別の実施形態では、新しい低GWP流体は、既存の浸漬冷却システムにおける最大熱流束散逸の著しい変化、又はより高いGWP流体のために設計された浸漬冷却システムの主要な設計変更が存在しないように、高GWP流体の臨界熱流束の80%以上の臨界熱流束を提供するべきである。
【0060】
より高い沸騰熱伝達係数は、より低い全体熱抵抗、又は冷却されている電気部品のより低い温度につながるため、望ましい。沸騰熱伝達係数及び電気部品対流体熱抵抗は、核形成部位の数を増加させる表面強化の使用によって改善することができる。
【0061】
電気部品対流体熱抵抗は、沸騰熱伝達係数と電子/電気部品の熱伝達面積との間の積の逆数によって決定することができる。
【0062】
一実施形態では、新しい流体の電気部品対流体熱抵抗は、既存の高GWP流体と比較して、より低いか、又は同等でなければならない。別の実施形態では、新しい流体の電気部品対流体熱抵抗は、既存の高GWP流体のものよりも既存の高GWP流体のものよりも10%以下高くなければならない。更に別の実施形態では、新しい流体の電気部品対流体熱抵抗は、既存の電子装置の温度の著しい上昇がないか、又は著しい機械的変更が高GWP流体のためのシステム設計に実装される必要がないように、既存の高GWP流体のものよりも20%以下高くなければならない。
【0063】
二相浸漬冷却システムで使用される流体の別の重要な態様は、その凝縮熱伝達係数である。より高い凝縮熱伝達は、蒸気対凝縮器表面熱抵抗の低減、又は凝縮蒸気と熱を除去する冷却剤との間のより低い温度差につながるため、望ましい。凝縮熱伝達はまた、表面強化により改善することもできる。
【0064】
蒸気対凝縮器表面熱抵抗は、凝縮熱伝達係数と凝縮器の熱伝達面積との間の積の逆数によって決定することができる。
【0065】
一実施形態では、新しい流体の蒸気対凝縮器熱抵抗は、既存の高GWP流体と比較して、より低いか、又は同等でなければならない。別の実施形態では、新しい流体の蒸気対凝縮器熱抵抗は、既存の高GWP流体と比較して10%以下高くなければならない。更に別の実施形態では、新しい流体の蒸気対凝縮器熱抵抗は、凝縮器性能の著しい低下が存在しないか、又は著しい機械的変更、例えば、熱伝達面積の増加が高GWP流体のために設計された凝縮器に実装される必要がないように、既存の高GWP流体と比較して20%以下高くなければならない。
【0066】
組み合わせられたより高い沸騰及び凝縮熱伝達係数は、冷却剤と電子又は電気機器との間の全体熱抵抗を低減し、2つの間の温度差を低減するため、非常に望ましい。より良好な熱伝達係数は、より良好な熱除去を生じさせ、これは、例えば、潜在的な熱暴走につながることなく、誘電性液体に浸漬されたバッテリが、より高速で充電されることを可能にすることができる。
【0067】
熱伝達係数は、実験的に測定することができるか、又は実験的に決定された熱物理特性と組み合わせられた実験的に決定された熱伝達相関を使用して計算することができる。
【0068】
【0069】
表7では、電子表面対流体熱抵抗は、プール沸騰熱伝達係数と4cm2の電子表面熱伝達面積との間の積の逆数によって決定された。プール沸騰熱伝達係数は、1マイクロメートルの粗度及び100kW/m2の熱流束とともに、海面大気圧における核沸騰のCooper(1984)の相関を使用して得られた。蒸気対凝縮器表面熱抵抗は、凝縮熱伝達係数と0.2m2の凝縮器表面積との間の積の逆数によって決定された。凝縮熱伝達係数は、海面大気圧及び8Kのバルク流体と凝縮器表面との間の温度差における管束上の外部凝縮のDhir及びLienhard(1971)の相関を使用して得られた。
【0070】
表7は、特許請求される誘電性流体が、旧来の高GWP流体と同等の熱伝達係数及び温度差を有することを示す。
【0071】
データセンターの電力使用量又は効率は、PUE(Power Utilization Effectiveness、電力利用有効性)を単位として定量化することができる。PUEが低いほど、又は1.0に近いほど、データセンターから所与の量の熱を除去するために利用されるエネルギーが低くなる。誘電性流体を有する浸漬タンクは、1.0に近いPUE値で動作するようになることが非常に望ましい。浸漬冷却タンクのPUEは、浸漬された電子機器によって放散される全エネルギー及びタンクによって消費されるエネルギーを測定することによって得ることができる。同等の誘電特性、熱力学特性、及び熱伝達特性に起因して、提案される流体はまた、しばしば「改造」と呼ばれる実践で既存の機器内の旧来の高GWP流体に取って代わるために使用することもできる。改造は、既存の流体のある割合のみが交換されるときには部分的、又は流体全体が新しい低GWP流体と交換されるときには完全であり得る。
【0072】
浸漬冷却システム200の実施形態を、
図2に示す。浸漬冷却システム200は、内部空洞220を画定する浸漬セル210を含む。冷却されるエネルギー貯蔵装置230が、内部空洞220内に配置され得る。誘電性作動流体240が、内部空洞220を部分的に満たす。誘電性作動流体240は、エネルギー貯蔵装置230を少なくとも部分的に浸漬する。いくつかの実施形態では、誘電性作動流体240は、エネルギー貯蔵装置230を実質的に浸漬する。一実施形態では、誘電性作動流体240は、エネルギー貯蔵装置230を完全に浸漬する。冷却ユニット250は、浸漬セル210の外部に配置されている。冷却ユニット250は、浸漬セル210に流体的に接続される。冷却ユニット250は、浸漬セル210から誘電性作動流体240の少なくとも一部を流体的に受容するように構成される。冷却ユニット250は、誘電性作動流体240から熱を抽出し、それによって、誘電性作動流体240の温度を低減するように更に構成される。一実施形態では、冷却ユニット250は、熱交換器を含む。一実施形態では、冷却ユニット250に伝達された熱は、環境内に放出される。冷却ユニット250は、冷却された誘電性作動流体240を浸漬冷却セル210に戻すように更に構成される。いくつかの実施形態では、原動力が、誘電性作動流体240に提供され得る。一実施形態では、原動力は、1つ以上の循環ポンプ260によって提供され得る。一実施形態では、原動力は、対流によって提供され得る。
【0073】
浸漬冷却器200の誘電性作動流体は、浸漬冷却器200の動作温度範囲にわたって液体状態であるように選択される。いくつかの実施形態では、誘電性作動流体240の組成物は、1つ以上のフッ素化化合物を含む。いくつかの実施形態では、誘電性作動流体240は、フッ素及び塩素の両方を含む、1つ以上の化合物を含む。いくつかの実施形態では、動作温度は、少なくとも25℃、少なくとも30℃、少なくとも40℃、少なくとも50℃、少なくとも60℃、100℃未満、90℃未満、80℃未満、70℃未満、及びそれらの組み合わせである。
【0074】
同等の誘電特性、熱力学特性、及び熱伝達特性に起因して、提案される流体はまた、しばしば「改造」と呼ばれる実践で既存の機器内の旧来の高GWP流体に取って代わるために使用することもできる。
【0075】
実用的観点から、液体水が、システムの始動及び動作中に装置のヘッドスペース内に押し上げられる。冷却システム内(特にヘッドスペース内)の水の存在は、望ましくない。これは、システムのヘッドスペース内の金属部品の腐食に寄与し得る。これは、システムのヘッドスペース内の金属部品の腐食に寄与し得る。誘電性流体中の水の存在は、水が著しく低い抵抗率(蒸留水については5×105オーム・cm)を有するため、その誘電特性に有害であり得る。
【0076】
本発明を1つ以上の実施形態を参照して説明してきたが、当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができ、その要素の代わりに同等物を使用することができることが理解されるであろう。加えて、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実行するために企図される最良の態様として開示される特定の実施形態に限定されないが、本発明は、添付の特許請求の範囲内に含まれる全ての実施形態を含むことが意図される。加えて、詳細な説明で特定された全ての数値は、正確な及び近似的な値が両方とも明示的に特定されているかのように解釈されるものとする。
【実施例】
【0077】
1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテンの試料を、米国特許第8,222,195号に記載されているように調製した。蒸留後、誘電率を、1kHzにおいて25℃でASTM D924に従って測定した。体積抵抗率を、500VDCにおいて25℃でASTM D1169に従って測定した。絶縁耐力を、ASTM D877に従って測定した。誘電率、絶縁耐力、及び体積抵抗率を、液相について決定した。結果を、以下の表8に要約する。HFO-153-10mczz及びHFO-153-10mzzyは、Novec 7000、7100、及び7200よりも優れた誘電特性、高い体積抵抗率、高い絶縁耐力、及び低い誘電率を有することが分かる。HFO-153-10mczz及びHFO-153-10mzzyの混合物もまた、Novec 7000、7100、及び7200よりも優れた体積抵抗率及び誘電率を有する。それらはまた、FC-3284、FC-72、及びHT-55などの著しく高いGWP流体と比較して、同等の体積抵抗率、絶縁耐力、及び誘電率を有する。
【0078】
【0079】
他の実施形態
1.浸漬冷却ユニットであって、
内部空洞を画定する浸漬セルと、
i)内部空洞内の電気部品と、
ii)内部空洞を部分的に満たす誘電性作動流体と、
iii)電気部品の上方で内部空洞内に配置された凝縮コイルと、を備え、
誘電性作動流体が、電気部品を少なくとも部分的に浸漬し、
誘電性作動流体が、
1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つを含む、浸漬冷却ユニット。
2.作動流体が、1,1,1,2,2,5,5,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つから本質的になる、実施形態1に記載の浸漬冷却ユニット。
3.作動流体が、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセンから本質的になる、実施形態1に記載の浸漬冷却ユニット。
4.誘電性作動流体の抵抗率が、少なくとも約1×1013Ω-cmである、実施形態1に記載の浸漬冷却ユニット。
5.誘電性作動流体の抵抗率が、少なくとも1×1014Ω-cmである、実施形態1に記載の浸漬冷却ユニット。
6.動作温度範囲が、40℃~65℃である、実施形態1に記載の浸漬冷却ユニット。
7.動作温度範囲が、45℃~55℃である、実施形態1に記載の浸漬冷却ユニット。
8.誘電性作動流体が、3GHz~67GHzの周波数において1.0×10-3未満の損失正接値を有する、実施形態1に記載の浸漬冷却ユニット。
9.誘電性作動流体が、50未満の地球温暖化係数(GWP)を有する、実施形態1に記載の浸漬冷却ユニット。
10.電気部品が、大容量エネルギー貯蔵装置、電子装置、データセンターサーバ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)装置、電気通信インフラストラクチャ、軍用電子機器、テレビ(TV)、携帯電話、モニタ、ドローン、自動車用バッテリ、電気自動車(EV)用パワートレイン、パワーエレクトロニクス、アビオニクス装置、電力装置、及びディスプレイからなる群から選択される、実施形態1に記載の浸漬冷却ユニット。
11.電気部品を冷却するための方法であって、
電気部品を作動流体に少なくとも部分的に浸漬する工程と、
作動流体を使用して、電気部品から熱を伝達する工程と、を含み、
作動流体が、
1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つを含む、方法。
12.作動流体が、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、及び1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzy)のうちの少なくとも1つから本質的になる、実施形態11に記載の方法。
13.作動流体が、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン(HFO-153-10mczz)から本質的になる、実施形態11に記載の方法。
14.当該熱の伝達が、冷却される電気部品から遠隔ヒートシンクへの当該作動流体のポンプ輸送を通して生じる、実施形態11に記載の方法。
15.当該熱の伝達が、冷却される電気部品と接触している当該作動流体の蒸発、及びヒートシンクとの接触を通して当該作動流体を凝縮することを通して生じる、実施形態11に記載の方法。
16.当該作動流体が、50未満の地球温暖化係数を有する、実施形態11に記載の方法。
17.当該作動流体が、約1×1013Ω-cmの体積抵抗率を有する、実施形態11に記載の方法。
18.誘電性作動流体が、3GHz~67GHzの周波数において1.0×10-3未満の損失正接値を有する、実施形態11に記載の方法。
19.当該電気部品が、大容量エネルギー貯蔵装置、電子装置、データセンターサーバ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)装置、電気通信インフラストラクチャ、軍用電子機器、テレビ(TV)、携帯電話、モニタ、ドローン、自動車用バッテリ、電気自動車(EV)用パワートレイン、パワーエレクトロニクス、アビオニクス装置、電力装置、及びディスプレイからなる群から選択される、実施形態11に記載の方法。
20.浸漬冷却システム内の高GWP作動流体を交換する方法であって、
高GWP作動流体とともに使用するために設計された浸漬冷却システムを、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン、(HFO-153-10mczz)、1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン、(HFO-153-10mzzyのうちの少なくとも1つを含む組成物で充填する工程を含む、方法。
21.交換用流体に対する電気部品の外部表面の熱抵抗が、当該高GWP作動流体よりも低いか、又はそれと同等である、実施形態20に記載の方法。
22.交換用流体の流体熱抵抗に対する電気部品の外部表面の熱抵抗が、当該高GWP作動流体のものの20%増の値以下である、実施形態20に記載の方法。
23.交換用流体に対する電気部品の外部表面の熱抵抗が、当該高GWP作動流体のものの10%増の値以下である、実施形態20に記載の方法。
24.交換用流体が、3GHz~67GHzの周波数において1.0×10-3未満の損失正接値を有する、実施形態20に記載の方法。
25.作動流体が、1,1,1,2,2,5,5,6,6,6-デカフルオロ-3-ヘキセン(HFO-153-10mczz)から本質的になる、実施形態20に記載の方法。
【国際調査報告】