(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ERK阻害剤を含んでなる組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20241024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241024BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241024BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241024BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241024BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20241024BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241024BHJP
A61K 9/28 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P35/00
A61K9/20
A61K47/32
A61K47/38
A61K47/26
A61K47/04
A61K47/12
A61K9/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523533
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 US2022047769
(87)【国際公開番号】W WO2023076305
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】アーロン、グッドウィン
(72)【発明者】
【氏名】シンドゥーリ、マッディネニ
(72)【発明者】
【氏名】ニプン、ダバー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076AA40
4C076AA44
4C076BB01
4C076CC27
4C076DD29
4C076DD41
4C076DD67
4C076EE06
4C076EE16
4C076EE31
4C076EE32
4C076EE33
4C076EE48
4C086AA01
4C086BC42
4C086GA02
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA10
4C086ZB26
(57)【要約】
本開示は、全般的に、化合物(I)を含んでなる組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物と水溶性ポリマーを含んでなる、医薬組成物。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーがポリビニルピロリドン/ビニルアセテート(PVPVA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、またはヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
化合物I遊離塩基水和物を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
化合物I遊離塩基一水和物を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
式:
【化2】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなり、
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)を含んでなるポリマーマトリックス内に分子分散されている、固体分散体。
【請求項7】
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が、固体分散体の約20%~約50重量%の量で固体分散体中に存在する、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項8】
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が、固体分散体の約20%~約40重量%の量で固体分散体中に存在する、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項9】
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が、固体分散体の約20%~約30重量%の量で固体分散体中に存在する、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項10】
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が実質的に非晶質である、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項11】
少なくとも98%の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が非晶質形態である、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項12】
化合物Iがその遊離塩基または溶媒和物である、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項13】
化合物Iが遊離塩基水和物である、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項14】
固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比が約1:1~約1:5である、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項15】
固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比が約1:2~約1:4である、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項16】
固体分散体中の化合物Iの重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比が約1:3である、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項17】
HPMCASが固体分散体の約50重量%を超える量で存在する、請求項6~16のいずれか一項に記載の固体分散体。
【請求項18】
HPMCASが固体分散体の約60%~約80重量%の量で存在する、請求項6~16のいずれか一項に記載の固体分散体。
【請求項19】
請求項6~18のいずれか一項に記載の固体分散体を含んでなる医薬組成物。
【請求項20】
組成物が錠剤として処方される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
組成物が内顆粒層と外顆粒層を含んでなる錠剤として処方される、請求項19~20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
固体分散体が錠剤の約40%~70重量%を占める、請求項19~22のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
固体分散体が錠剤の約60重量%を占める、請求項19~22のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
錠剤の内顆粒層が、
約8~18重量%の微晶質セルロース;
約8~18重量%のラクトース一水和物;
約2~8重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約0.5~2重量%の非煙霧シリカ;および
約0.1~0.5重量%のステアリン酸マグネシウム
をさらに含んでなる、請求項19~23のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
錠剤の外顆粒層が、
約0~14重量%の微晶質セルロース;
約0~14重量%のラクトース一水和物;
約2~8重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約0.5~2重量%の非煙霧シリカ;および
約0.1~0.5重量%のステアリン酸マグネシウム
を含んでなる、請求項19~24のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
錠剤がフィルムでコーティングされている、請求項19~25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
固体分散体を含んでなり、前記固体分散体は、式:
【化3】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなり、
前記化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)を含んでなるポリマーマトリックス内に分子分散され;かつ固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比が約1:1~約1:5である、錠剤。
【請求項28】
固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比が約1:2~約1:4である、請求項27に記載の錠剤。
【請求項29】
固体分散体中の化合物Iの重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比が約1:3である、請求項27に記載の錠剤。
【請求項30】
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が実質的に非晶質である、請求項27に記載の錠剤。
【請求項31】
少なくとも98%の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が非晶質形態である、請求項27に記載の錠剤。
【請求項32】
化合物Iが遊離塩基またはその溶媒和物である、請求項27に記載の錠剤。
【請求項33】
化合物Iが遊離塩基水和物である、請求項27に記載の錠剤。
【請求項34】
化合物Iが遊離塩基一水和物である、請求項27に記載の錠剤。
【請求項35】
式:
【化4】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなり、
約60重量%の、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物とHPMCASの固体分散体(化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、実質的に非晶質であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)を含んでなるポリマーマトリックス内に分子分散されており、かつ固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比は約1:3である);
約14重量%の微晶質セルロース;
約13.5重量%のラクトース一水和物;
約6重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約1重量%の非煙霧シリカ;および
約0.25重量%のステアリン酸マグネシウム
を含んでなる内顆粒部分と、
約4重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約1重量%の非煙霧シリカ;および
約0.25重量%のステアリン酸マグネシウム
を含んでなる外顆粒部分
を含んでなる、錠剤組成物。
【請求項36】
HPMCASが、HPMCASの約7~約11重量%の範囲のアセチル含量、および約10~約14重量%の範囲のスクシノイル含量を有する、請求項35に記載の錠剤組成物。
【請求項37】
癌を治療するための請求項1~36のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項38】
癌を治療する方法であって、必要とする個体に請求項1~36のいずれか一項に記載の組成物を投与することを含んでなる、方法。
【請求項39】
請求項6に記載の固体分散体を調製する工程であって、溶媒中、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物、およびHPMCASの溶液を噴霧乾燥させることを含んでなり、前記溶液が約25重量%までの固体負荷量を有する、工程。
【請求項40】
前記溶媒がアセトンまたはメタノールである、請求項39に記載の工程。
【請求項41】
前記固体分散体が、アセトン中、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物、およびHPMCASの溶液を噴霧乾燥させることによって調製され、前記アセトン溶液が約10重量%までの固体負荷量を有する、請求項39に記載の工程。
【請求項42】
化合物Iが遊離塩基水和物である、請求項39に記載の工程。
【請求項43】
化合物Iが遊離塩基一水和物である、請求項39に記載の工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年10月26日に出願された米国仮出願第63/271,977号の35 U.S.C. §119(e)に基づく利益を主張するものであり、その全体が引用することにより本明細書の一部とされる。
【0002】
本願は、ERK1/2阻害剤の組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK1/2)は、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路の主要な成分を構成する、偏在的に発現するタンパク質セリン/スレオニンキナーゼである。MAPK経路は、細胞周期の進行、細胞遊走、細胞生存、分化、代謝、増殖および転写を含む様々な細胞プロセスを調節する、進化的に保存された細胞シグナル伝達経路である。ERK1/2活性は、MAPK経路の上流成分内の活性化変異の結果として、癌において一般的にアップレギュレートされる。ERK1/2阻害剤は、治療、特に癌の治療に有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
安定であり、かつ/または製剤化が容易であり、かつ/または改善されたバイオアベイラビリティおよび/または改善された薬物動態プロファイルを有する、ERK1/2阻害剤化合物を含んでなる組成物が必要とされている。有効成分のバイオアベイラビリティは、治療効果に影響を与え得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
本開示は、1つの実施形態において、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなる組成物を提供する。
【化1】
【0006】
化合物Iは、(2R)-2-(6-{5-クロロ-2-[(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)アミノ]ピリミジン-4-イル}-1-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-2-イル)-N-[(S)-1-(3-フルオロ-5-メトキシフェニル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミドと呼称される。本明細書では、1つの側面において、式:
【化2】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物と水溶性ポリマーを含んでなる医薬組成物が提供される。
【0007】
1つの側面において、本明細書では、式:
【化3】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなり、
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)を含んでなるポリマーマトリックス内に分子分散されている、
固体分散体が提供される。
【0008】
別の側面において、本明細書では、固体分散体を含んでなり、前記固体分散体は、
式:
【化4】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなり、
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)を含んでなるポリマーマトリックス内に分子分散されており;かつ固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比が約1:3である、
錠剤が提供される。
【0009】
本明細書ではまた、癌を治療するための、本明細書に記載の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなる任意の組成物に使用も提供される。さらに、癌を治療する方法であって、必要とする個体に本明細書に記載の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなる組成物を投与することを含んでなる方法も提供される。
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら、本願の実施形態を単なる例示として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、化合物Iの特定の組成物の溶解プロファイルを示す。
【
図2】
図2は、化合物Iの特定の組成物の溶解試験後の薬物スペシエーションデータを示す。
【
図3】
図3は、化合物Iの特定の組成物の溶解プロファイルを示す。
【
図4A】
図4Aは、実施例4に記載されるようなイヌ薬物動態(PK)試験における化合物I遊離塩基水和物処方物の投与後の血漿濃度を示す。エラーバーは標準偏差を表す。
【
図4B】
図4Bは、実施例4に記載されるようなイヌPK試験における化合物I遊離塩基水和物処方物の投与後の曲線下面積(AUC)の比較を示す。エラーバーは標準偏差を表す。
【
図4C】
図4Cは、実施例4に記載されるようなイヌ薬物動態(PK)試験におけるAUCを示す。
【
図5A】
図5Aは、霊長類PK試験における化合物I遊離塩基水和物処方物の投与後のAUClastを示す。
【
図5B】
図5Bは、霊長類PK試験における化合物I遊離塩基水和物処方物の投与後のCmaxを示す。
【
図5C】
図5Cは、霊長類PK試験における化合物I遊離塩基水和物処方物の投与後の曲線下面積(AUC)の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
化合物Iは、全体が引用することにより本明細書の一部とされるWO2017/068412の実施例685として記載されている。化合物Iは、癌およびWO2017/068412に記載される他の病態の治療に有用である。化合物Iの処方において、固体分散体内の化合物Iの重量とポリマーの重量に基づく相対量が、化合物Iのバイオアベイラビリティに予想外の影響を及ぼすことが判明した。
【0013】
定義
以下の説明は、本技術の例示的な実施形態を示す。しかしながら、このような説明は、本開示の範囲の限定を意図するものではなく、代わりに例示的な実施形態の説明として提供されると認識されるべきである。
【0014】
本明細書で使用される場合、以下の語、句および記号は、それらが使用される文脈が別段のことを示す場合を除き、一般に、以下に示されるような意味を有することが意図される。
【0015】
2つの文字または記号の間にないダッシュ(「-」)は、置換基の結合点を示すために使用される。例えば、-C(O)NH2は炭素原子を介して結合している。化学基の先頭または末尾のダッシュは便宜上のものであり、化学基は通常の意味を失うことなく、1または複数のダッシュを用いて示すこともできるし、用いずに示すこともできる。構造中の引かれた波線は、基の結合点を示す。化学的または構造的に必要でない限り、化学基の書き順や命名順によって方向性が示されたり暗示されたりすることはない。
【0016】
本明細書において、「約」ある値またはあるパラメーターという場合には、その値またはパラメーター自体に向けられた実施形態を含む(説明する)。特定の実施形態において、「約」という用語は、示された量±10%を含む。他の実施形態では、「約」という用語は、示された量±5%を含む。特定の他の実施形態では、「約」という用語は、示された量±1%を含む。また、「約X」という用語には、「X」の説明も含まれる。また、単数形の「1つの(a)」および「その(the)」は、文脈が明らかに別段のことを示さない限り、複数形の指示対象を含む。従って、例えば、「化合物」という場合には、複数のそのような化合物を含み、「アッセイ」という場合には、当業者に公知の1以上のアッセイおよびその等価物への言及を含む。
【0017】
「アルキル」とは、非分岐または分岐飽和炭化水素鎖を指す。本明細書で使用される場合、アルキルは、1~20個の炭素原子(すなわち、C1-20アルキル)、1~8個の炭素原子(すなわち、C1-8アルキル)、1~6個の炭素原子(すなわち、C1-6アルキル)、または1~4個の炭素原子(すなわち、C1-4アルキル)を有する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、2-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、および3-メチルペンチルが含まれる。特定の数の炭素を有するアルキル残基が化学名称に示されるか、または分子式によって特定される場合、その炭素数を有する総ての位置異性体が包含され得、従って、例えば、「ブチル」には、n-ブチル(すなわち、-(CH2)3CH3)、sec-ブチル(すなわち、-CH(CH3)CH2CH3)、イソブチル(すなわち、-CH2CH(CH3)2)およびtert-ブチル(すなわち、-C(CH3)3)が含まれ、「プロピル」には、n-プロピル(すなわち、-(CH2)2CH3)およびイソプロピル(すなわち、-CH(CH3)2)が含まれる。
【0018】
「アルケニル」とは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み、かつ2~20個の炭素原子(すなわち、C2-20アルケニル)、2~8個の炭素原子(すなわち、C2-8アルケニル)、2~6個の炭素原子(すなわち、C2-6アルケニル)、または2~4個の炭素原子(すなわち、C2-4アルケニル)を有するアルキル基を指す。アルケニル基の例としては、エテニル、プロペニル、ブタジエニル(1,2-ブタジエニルおよび1,3-ブタジエニルを含む)が含まれる。
【0019】
「アリール」は、単環を有する(例えば、単環式)または縮合系を含む複数の環を有する(例えば、二環式または三環式)芳香族炭素環式基を指す。本明細書で使用される場合、アリールは、6~20個の環炭素原子(すなわち、C6-20アリール)、6~12個の炭素環原子(すなわち、C6-12アリール)、または6~10個の炭素環原子(すなわち、C6-10アリール)を有する。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、フルオレニル、およびアントリルが含まれる。しかしながら、アリールは、以下に定義されるヘテロアリールとは何ら包含または重複がない。1以上のアリール基がヘテロアリールと縮合している場合、生じる環系はヘテロアリールである。1以上のアリール基がヘテロシクリルと縮合している場合、生じる環系はヘテロシクリルである。
【0020】
「シクロアルキル」は、単環または縮合、架橋、およびスピロ環系を含む複数の環を有する飽和または部分不飽和の環式アルキル基を指す。「シクロアルキル」という用語は、シクロアルケニル基(すなわち、少なくとも1つの二重結合を有する環式基)を含む。本明細書で使用される場合、シクロアルキルは、3~20個の環炭素原子(すなわち、C3-20シクロアルキル)、3~12個の環炭素原子(すなわち、C3-12シクロアルキル)、3~10個の環炭素原子(すなわち、C3-10シクロアルキル)、3~8個の環炭素原子(すなわち、C3-8シクロアルキル)、または3~6個の環炭素原子(すなわち、C3-6シクロアルキル)を有する。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが含まれる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート」は、HPMCASまたはヒプロメロースアセテートスクシネート(例えば、Aquasolve(商標)、Shin-Etsu AQOAT(登録商標)、または他の市販の等価物)と互換的に呼称することができる。HPMCASは、様々な分子量(例えば、10,000~500,000da)を有し、アセチルおよびスクシノイル基の置換度ならびに粒度(例えば、FまたはG)が異なる種々の等級(例えば、L、M、またはH)で市販されている。例えば、Aquasolve(商標)のL級が市販されており、5~9%のアセチル含量、14~18%のスクシノイル含量、20~24%のメトキシル含量、および5~9%のヒドロキシプロポキシ含量を含んでなる。例えば、Aquasolve(商標)のM級が市販されており、7~11%のアセチル含量、10~14%のスクシノイル含量、21~25%のメトキシル含量、および5~9%のヒドロキシプロポキシ含量を含んでなる。例えば、Aquasolve(商標)のS級が市販されており、10~14%のアセチル含量、4~8%のスクシノイル含量、22~26%のメトキシル含量、および6~10%のヒドロキシプロポキシ含量を含んでなる。各等級は、細粒(F)および顆粒(G)の粒度で入手可能である。場合によっては、細粒(F)型は10ミクロン以下の平均粒度であり、顆粒(G)型は20ミクロン以下の平均粒度である。
【0022】
「任意選択の」または「場合により」という用語は、次に記載される事象または状況が生じても生じなくてもよく、その記載は前記の事象または状況が生じる場合と生じない場合を含むことを意味する。また、「場合により置換されていてもよい」という用語は、指定された原子または基上のいずれか1以上の水素原子が水素以外の部分で置換されていてもされていなくてもよいことを指す。
【0023】
化合物のいくつかは、互変異性体として存在してもよい。互変異性体は、互いに平衡状態にある。例えば、アミド含有化合物は、イミド酸互変異性体との平衡状態で存在得る。いずれの互変異性体が示されているかによらず、また互変異性体間の平衡の性質によらず、当業者には、化合物はアミドおよびイミド酸互変異性体の両方を含んでなると理解される。従って、アミド含有化合物は、それらのイミド酸互変異性体を含むと理解される。同様に、イミド酸含有化合物は、それらのアミド互変異性体を含むと理解される。
【0024】
本明細書で示されるいずれの式または構造も、化合物の非標識形態ならびに同位体標識形態を表すことも意図される。同位体標識化合物は、1以上の原子が、選択された原子質量または質量数を有する原子によって置換されていること以外は、本明細書に与えられた式によって示される構造を有する。本開示の化合物に組み込むことができる同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素および塩素の同位体、例えば、限定するものではないが、2H(重水素、D)、3H(トリチウム)、11C、13C、14C、15N、18F、31P、32P、35S、36Clおよび125Iが含まれる。本開示の様々な同位体標識化合物、例えば、3Hおよび14Cなどの放射性同位体が組み込まれた化合物。このような同位体標識化合物は、代謝研究、反応速度論研究、薬物もしくは基質の組織分布アッセイを含む陽電子放射断層撮影法(PET)もしくは単光子放射コンピューター断層撮影法(SPECT)などの検出もしくは画像化技術、または患者の放射性治療に有用であり得る。
【0025】
本開示はまた、炭素原子に結合した1~n個の水素が重水素で置換されている式Iの化合物の「重水素化類似体」も含み、式中、nは分子中の水素の数である。このような化合物は、代謝に対する抵抗性の増加を示し、従って、哺乳動物、特にヒトに投与した場合の式Iの化合物の半減期を延長するのに有用である。例えば、Foster, “Deuterium Isotope Effects in Studies of Drug Metabolism,” Trends Pharmacol. Sci. 5(12):524-527 (1984)を参照されたい。このような化合物は、例えば、1以上の水素が重水素で置換されている出発物質を用いるなど、当技術分野で周知の手段によって合成される。
【0026】
本開示の重水素標識または置換治療化合物は、分布、代謝および排泄(ADME)に関連する、改善されたDMPK(薬物代謝および薬物動態)特性を有し得る。重水素のような重い同位体での置換は、より高い代謝安定性、例えばin vivo半減期の延長、用量要求の低減、および/または治療指数の改善から生じる特定の治療上の利点をもたらし得る。18F標識化合物は、PETまたはSPECT研究に有用であり得る。本開示の同位体標識化合物およびそのプロドラッグは、一般に、非同位体標識試薬を容易に入手可能な同位体標識試薬に置き換えて、スキームまたは後述の実施例および調製に開示される手順を実施することによって調製することができる。この文脈における重水素は、式Iの化合物における置換基とみなされると理解される。
【0027】
このような重い同位体、具体的には重水素の濃度は、同位体濃縮係数によって定義することができる。本開示の化合物において、特定の同位体として具体的に指定されていない原子は、その原子の任意の安定同位体を表すことを意味する。特に断りのない限り、ある位置が「H」または「水素」として具体的に指定される場合、その位置は、その天然存在度同位体組成で水素を有すると理解される。従って、本開示の化合物において、重水素(D)として具体的に指定される原子は、重水素を表すことを意味する。
【0028】
多くの場合、本開示の化合物は、アミノ基および/またはカルボキシル基またはそれらと類似の基が存在するために酸塩および/または塩基塩を形成し得る。「塩」は、無機酸、無機塩基、有機酸、または有機塩基から誘導され得る。無機酸から誘導される塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などからの塩が含まれる。有機酸から誘導される塩としては、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエン-スルホン酸、サリチル酸、テトラヒドロフランカルボン酸などからのものが含まれる。無機塩基から誘導される塩としては、単に例として、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウムおよびマグネシウム塩が含まれる。有機塩基から誘導される塩としては、限定するものではないが、第1級、第2級、および第3級アミンの塩が含まれる。
【0029】
また、本明細書に記載の化合物Iの薬学上許容可能な塩、水和物、溶媒和物、および互変異性形を含んでなる組成物も提供される。「薬学上許容可能な」または「生理学的に許容可能な」とは、獣医学的またはヒト医薬的用途に好適な医薬組成物を調製する上で有用な化合物、塩、組成物、投与形および他の材料を指す。
【0030】
所与の化合物の「薬学上許容可能な塩」という用語は、その所与の化合物の生物学的有効性および特性を保持し、かつ生物学的にまたはそれ以外の点で望ましくないものではない塩を指す。「薬学上許容可能な塩」または「生理学的に許容可能な塩」には、例えば、無機酸との塩および有機酸との塩が含まれる。さらに、本明細書に記載の化合物が酸付加塩として得られる場合、遊離塩基は、その酸塩の溶液を塩基性化することによって得ることができる。逆に、生成物が遊離塩基である場合、付加塩、特に薬学上許容可能な付加塩は、塩基化合物から酸付加塩を調製するための従来の手順に従い、遊離塩基を好適な有機溶媒に溶解させ、その溶液を酸で処理することによって生成され得る。当業者は、非毒性の薬学上許容可能な付加塩を調製するために使用可能な様々な合成方法論を認識するであろう。薬学上許容可能な酸付加塩は、無機酸および有機酸から調製され得る。無機酸から誘導される塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などからのものが含まれる。有機酸からの塩としては、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエン-スルホン酸、サリチル酸などからのものが含まれる。同様に、薬学上許容可能な塩基付加塩は、無機塩基および有機塩基から調製することができる。無機塩基から誘導される塩としては、単に例として、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウムおよびマグネシウム塩が含まれる。有機塩基から誘導される塩としては、限定するものではないが、第1級、第2級、および第3級アミン、例えば、アルキルアミン(すなわち、NH2(アルキル))、ジアルキルアミン(すなわち、HN(アルキル)2)、トリアルキルアミン(すなわち、N(アルキル)3)、置換アルキルアミン(すなわち、NH2(置換アルキル))、ジ(置換アルキル)アミン(すなわち、HN(置換アルキル)2)、トリ(置換アルキル)アミン(すなわち、N(置換アルキル)3)、アルケニルアミン(すなわち、NH2(アルケニル))、ジアルケニルアミン(すなわち、HN(アルケニル)2)、トリアルケニルアミン(すなわち、N(アルケニル)3)、置換アルケニルアミン(すなわち、NH2(置換アルケニル))、ジ(置換アルケニル)アミン(すなわち、HN(置換アルケニル)2)、トリ(置換アルケニル)アミン(すなわち、N(置換アルケニル)3、モノ-、ジ-またはトリ-シクロアルキルアミン(すなわち、NH2(シクロアルキル)、HN(シクロアルキル)2、N(シクロアルキル)3)、モノ-、ジ-またはトリ-アリールアミン(すなわち、NH2(アリール)、HN(アリール)2、N(アリール)3)、または混合アミンなどが含まれる。好適なアミンの具体例としては、単に例として、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリ(イソ-プロピル)アミン、トリ(n-プロピル)アミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、N-エチルピペリジンなどが含まれる。
【0031】
本明細書で提供される遊離塩基、塩、または薬学上許容可能な塩は、溶媒と化合物の相互作用によって形成される「溶媒和物」であってもよい。本明細書に記載の化合物Iの塩および遊離塩基の溶媒和物が提供される。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。本明細書に提供される塩または薬学上許容可能な塩は、水和物であり得る。また、本明細書に記載の化合物Iの遊離塩基の「水和物」も提供される。いくつかの実施形態では、水和物は一水和物である。
【0032】
組成物
本明細書において、式:
【化5】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物と水溶性ポリマーを含んでなる医薬組成物が提供される。
【0033】
いくつかの実施形態では、水溶性ポリマーは、ポリビニルピロリドン/ビニルアセテート(PVPVA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、または任意の等級のヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)である。いくつかの実施形態では、水溶性ポリマーはHPMCASである。いくつかの実施形態では、HPMCASの等級はLであり、5~9%のアセチル含量、14~18%のスクシノイル含量、20~24%のメトキシル含量、および5~9%のヒドロキシプロポキシ含量を含んでなる。いくつかの実施形態では、HPMCASの等級はMであり、7~11%のアセチル含量、10~14%のスクシノイル含量、21~25%のメトキシル含量、および5~9%のヒドロキシプロポキシ含量を含んでなる。いくつかの実施形態では、HPMCASの等級はSであり、10~14%のアセチル含量、4~8%のスクシノイル含量、22~26%のメトキシル含量、および6~10%のヒドロキシプロポキシ含量を含んでなる。これらの実施形態のいずれにおいても、HPMCASは、Aquasolve(商標)として市販されているF粒径などの細粒粒径を有する。これらの実施形態のいずれにおいても、HPMCASは、Aquasolve(商標)として市販されているG粒径などの顆粒粒径を有する。
【0034】
いくつかの実施形態では、組成物は、化合物Iの遊離塩基水和物を含んでなる。本明細書に提供されるいくつかのまたは任意の実施形態では、組成物は、化合物Iの遊離塩基一水和物を含んでなる。本明細書に提供されるいくつかのまたは任意の実施形態では、組成物は、WO2018/193410に記載されるような化合物IのB型を含んでなる。
【0035】
本明細書ではさらに、式:
【化6】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなり、
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)を含んでなるポリマーマトリックス内に分子分散されている、
固体分散体が提供される。
【0036】
いくつかの実施形態では、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、固体分散体の約10%~約50重量%の量で固体分散体中に存在する。言い換えれば、いくつかの実施形態では、固体分散体100gにつき、固体分散体の総重量の10~50gが化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量に由来し、固体分散体の総重量の90~50gがHPMCASに由来する。いくつかの実施形態では、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、固体分散体の約20%~約50重量%の量で固体分散体中に存在する。いくつかの実施形態では、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、固体分散体の約20%~約30重量%の量で固体分散体中に存在する。
【0037】
いくつかの実施形態では、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、実質的に非晶質である。いくつかの実施形態では、固体分散体内で、少なくとも98%の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が非晶質形態である。いくつかの実施形態では、固体分散体内で、少なくとも95%の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が非晶質形態である。いくつかの実施形態では、固体分散体内で、少なくとも90%の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が非晶質形態である。いくつかの実施形態では、固体分散体内で、化合物Iは、遊離塩基またはその溶媒和物である。いくつかの実施形態では、固体分散体内で、化合物Iは、遊離塩基水和物である。
【0038】
いくつかの実施形態では、固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物とHPMCASの重量比は、約1:1~約1:5である。いくつかの実施形態では、化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物とHPMCASの重量比は、約1:2~約1:4である。いくつかの実施形態では、化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物とHPMCASの重量比は、約1:3である。いくつかの実施形態では、化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物とHPMCASの重量比は、約1:2である。いくつかの実施形態では、化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物とHPMCASの重量比は、約1:1である。
【0039】
いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約50重量%を超える量で存在する。いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約60重量%を超える量で存在する。いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約70重量%を超える量で存在する。
【0040】
いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約60%~約80重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約70%~約80重量%の量で存在する。
【0041】
いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約50重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約60重量の量で存在する。いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約70重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約75重量%の量で存在する。
【0042】
いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約50重量%の量で存在し、化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、固体分散体の約50重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約60重量%の量で存在し、化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、固体分散体の約40重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約70重量%の量で存在し、化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、固体分散体の約30重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、HPMCASは、固体分散体の約75重量%の量で存在し、化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、固体分散体の約25重量%の量で存在する。
【0043】
いくつかのまたは任意の実施形態では、固体分散体内のHPMCASは、HPMCASの約5~約14重量%の範囲のアセチル含量、および約5~約20重量%の範囲のスクシノイル含量を有する。いくつかの実施形態では、固体分散体内のHPMCASは、HPMCASの約7~約11重量%の範囲のアセチル含量、および約10~約14重量%の範囲のスクシノイル含量を有する。
【0044】
錠剤のいくつかの実施形態では、固体分散体は、錠剤の約40~70重量%を占める。錠剤のいくつかの実施形態では、固体分散体は、錠剤の約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、または約70重量%を占める。錠剤のいくつかの実施形態では、固体分散体は、錠剤の約60重量%を占める。
【0045】
本明細書では、本明細書に記載の固体分散体を含んでなる医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態では、組成物は、錠剤として処方される。いくつかの実施形態では、組成物は、内顆粒層と外顆粒層を含んでなる錠剤として処方される。いくつかのこのような実施形態では、固体分散体は内顆粒層にあり、内顆粒層はさらに、本明細書に記載されるような付加的賦形剤を含んでなる。いくつかのこのような実施形態では、固体分散体は外顆粒層にあり、外顆粒層はさらに、本明細書に記載されるような付加的賦形剤を含んでなる。いくつかのこのような実施形態では、固体分散体は内顆粒層と外顆粒層にあり、内顆粒層および/または外顆粒層はさらに、本明細書に記載されるような付加的賦形剤を含んでなる。
【0046】
錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の内顆粒層は、約8~18%、約10~18%または約12~18重量%の微晶質セルロースを含んでなる。錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の内顆粒層はさらに、約8~18%、約10~18%または約12~18重量%のラクトースを含んでなる。いくつかの実施形態では、ラクトースは、ラクトース一水和物である。いくつかの実施形態では、ラクトース一水和物は、凝集ラクトース一水和物(例えば、Tablettose(登録商標))である。錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の内顆粒層はさらに、約2~8%、約4~8%または約6~8重量%のクロスカルメロースナトリウムを含んでなる。錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の内顆粒層はさらに、約0.5~2%、または約0.5~1.5重量%の非煙霧シリカを含んでなる。錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の内顆粒層はさらに、約0.1~0.5%または約0.2~0.4重量%のステアリン酸マグネシウムを含んでなる。
【0047】
錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の内顆粒層は、
約8~18重量%の微晶質セルロース;
約8~18重量%のラクトース一水和物;
約2~8重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約0.5~2重量%の非煙霧シリカ;および
約0.1~0.5重量%のステアリン酸マグネシウム
を含んでなる。
【0048】
いくつかの実施形態では、内顆粒層中の微晶質セルロース、ラクトース一水和物、クロスカルメロースナトリウム、非煙霧シリカおよび/またはステアリン酸マグネシウム重量%量は、上記のいずれかの実施形態または実施例の節に記載される通りである。これらの実施形態のいくつかにおいて、固体分散体は、内顆粒層にある。これらの実施形態のいくつかにおいて、固体分散体は、外顆粒層にある。これらの実施形態のいくつかにおいて、固体分散体は、内顆粒層と外顆粒層にある。
【0049】
錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の外顆粒層は、約0~14%、または約5~14重量%の微晶質セルロースを含んでなる。いくつかの実施形態では、固体分散体は内顆粒層にあり、外顆粒層は、微晶質セルロースを含まない。錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の外顆粒層は、約0~14%、または約5%~約10重量%のラクトースを含んでなる。いくつかの実施形態では、ラクトースは、ラクトース一水和物である。いくつかの実施形態では、ラクトースは、凝集ラクトース一水和物(例えば、Tablettose(登録商標))である。いくつかの実施形態では、固体分散体は内顆粒層にあり、外顆粒層はラクトースを含まない。
【0050】
錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の外顆粒層は、約2~8%、または約3~5重量%のクロスカルメロースナトリウムを含んでなる。錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の外顆粒層は、約0.5~2%、または約0.5~1.5重量%の非煙霧シリカを含んでなる。錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の外顆粒層は、約0.1~0.5%、または約0.2~0.4重量%のステアリン酸マグネシウムを含んでなる。
【0051】
錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の外顆粒層は、
約0~14重量%の微晶質セルロース;
約0~14重量%のラクトース一水和物;
約2~8重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約0.5~2重量%の非煙霧シリカ;および
約0.1~0.5重量%のステアリン酸マグネシウム
を含んでなる。
【0052】
錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤の外顆粒層は、
約2~8重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約0.5~2重量%の非煙霧シリカ;および
約0.1~0.5重量%のステアリン酸マグネシウム
を含んでなる。
【0053】
いくつかの実施形態では、外顆粒層中の微晶質セルロース、ラクトース一水和物、クロスカルメロースナトリウム、非煙霧シリカおよび/またはステアリン酸マグネシウムの重量%量は、上記のいずれかの実施形態または実施例の節に記載される通りである。これらの実施形態のいくつかにおいて、固体分散体は、内顆粒層にある。これらの実施形態のいくつかにおいて、固体分散体は、外顆粒層にある。これらの実施形態のいくつかにおいて、固体分散体は、内顆粒層と外顆粒層にある。
【0054】
錠剤として処方される医薬組成物のいくつかの実施形態では、錠剤(table)は、フィルムでコーティングされている。いくつかの実施形態では、フィルムコートは、ポリマー、可塑剤および/または色素を含んでなる。錠剤フィルムコーティング中のポリマーの例としては、限定するものではないが、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(コポビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メタクリル酸コポリマー、メチルセルロース、エチルセルロースまたは他の任意の好適なフィルム形成ポリマーが含まれる。錠剤フィルムコーティング中の可塑剤の例としては、限定するものではないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール、トリアセチン、ステアリン酸、クエン酸、フタル酸エステルまたは他の任意の好適な可塑剤が含まれる。いくつかの実施形態では、フィルムコーティングは、OPADRY II(登録商標)である。
【0055】
1つの側面において、本明細書では、固体分散体を含んでなり、固体分散体は、式:
【化7】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなり、
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)を含んでなるポリマーマトリックス内に分子分散されており;かつ固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比は約1:3である、
錠剤が提供される。錠剤のいくつかの他の実施形態では、固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比は、約1:2、または約1:1である。
【0056】
錠剤のいくつかの実施形態では、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、実質的に非晶質である。錠剤のいくつかの実施形態では、少なくとも98%の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が非晶質形態である。錠剤のいくつかの実施形態では、少なくとも95%の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が非晶質形態である。錠剤のいくつかの実施形態では、少なくとも90%の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物が非晶質形態である。錠剤のいくつかの実施形態では、化合物Iは、遊離塩基またはその溶媒和物である。錠剤のいくつかの実施形態では、化合物Iは、遊離塩基水和物である。
【0057】
いくつかの実施形態において、本明細書では、式:
【化8】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなり、
約40~80重量%の、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物とHPMCASの固体分散体(化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、実質的に非晶質であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)を含んでなるポリマーマトリックス内に分子分散されており、固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比は約1:3である);
約8~18重量%の微晶質セルロース;
約8~18重量%のラクトース一水和物;
約2~8重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約0.5~2重量%の非煙霧シリカ;および
約0.1~0.5重量%のステアリン酸マグネシウム
を含んでなる内顆粒部分と、
約2~8重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約0.5~2重量%の非煙霧シリカ;および
約0.1~0.5重量%のステアリン酸マグネシウムと
を含んでなる外顆粒部分
を含んでなる、錠剤組成物が提供される。
【0058】
別の側面において、本明細書では、
式:
【化9】
を有する化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物を含んでなり、
約60重量%の、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物とHPMCASの固体分散体(化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、実質的に非晶質であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロールアセテートスクシネート(HPMCAS)を含んでなるポリマーマトリックス内に分子分散されており、固体分散体中の化合物Iまたはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の重量と固体分散体中のHPMCASの重量の比は約1:3である);
約14重量%の微晶質セルロース;
約13.5重量%のラクトース一水和物;
約6重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約1重量%の非煙霧シリカ;および
約0.25重量%のステアリン酸マグネシウム
を含んでなる内顆粒部分と、
約4重量%のクロスカルメロースナトリウム;
約1重量%の非煙霧シリカ;および
約0.25重量%のステアリン酸マグネシウム
を含んでなる外顆粒部分
を含んでなる、錠剤組成物が提供される。
【0059】
化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の錠剤組成物のいくつかの実施形態では、HPMCASは、HPMCASの約7%~約11重量%の範囲のアセチル含量、および約10%~約14重量%の範囲のスクシノイル含量を有する。
【0060】
本明細書では、癌を治療するための本明細書に記載の組成物の使用が提供される。
【0061】
また、癌を治療する方法であって、必要とする個体に本明細書に記載の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の組成物を投与することを含んでなる方法も提供される。
【0062】
本明細書では、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の固体分散体を調製するための工程であって、溶媒中、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物、およびHPMCASの溶液を噴霧乾燥させることを含んでなり、前記溶液は約20重量%までの固体負荷量を有する工程が提供される。いくつかの実施形態では、溶液は、約5%~約15%、または約10%の固体負荷量を有する。いくつかの実施形態では、溶媒はメタノールである。いくつかの実施形態では、溶媒はアセトンである。いくつかの実施形態では、溶媒は、メタノールとアセトンの混合物である。この工程のいくつかの実施形態では、化合物Iは遊離塩基である。この工程のいくつかの実施形態では、化合物Iは遊離塩基一水和物である。いくつかの実施形態では、化合物Iは、WO2018/193410に記載されるようなB型であり、ここで、B型は化合物Iの遊離塩基一水和物である。
【0063】
本明細書では、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物の固体分散体を調製するための工程であって、アセトン中、化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物、およびHPMCASの溶液を噴霧乾燥させることを含んでなり、アセトン中の溶液は、約10重量%までの固体負荷量を有する工程が提供される。いくつかの実施形態では、アセトン中の溶液は、約5%~約10%の固体負荷量を有する。この工程のいくつかの実施形態では、化合物Iは遊離塩基である。この工程のいくつかの実施形態では、化合物Iは遊離塩基水和物である。
【0064】
本開示の化合物I、またはその薬学上許容可能な塩もしくは溶媒和物は、容易に入手できる出発材料から,一般的な方法および例えばWO2017/068412に記載されている手順を用いて調製することができる。典型的または好ましいプロセス条件(すなわち、反応温度、時間、反応物のモル比、溶媒、圧力など)が与えられる場合、特に断りのない限り、他のプロセス条件も使用できることが認識されるであろう。最適な反応条件は、使用される特定の反応物または溶媒によって異なり得るが、そのような条件は、当業者ならば慣例の最適化手順によって決定することができる。
【実施例】
【0065】
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態を示すために含まれる。以下に続く実施例において開示される技術は、本開示の実施において良好に機能するための技術を表し、従って、その実施のための特定の様式を構成すると考えることができることが、当業者は理解すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示される特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、それでもなお、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、同様または類似の結果を得ることができることを理解すべきである。入手可能であれば、試薬は、例えばSigma Aldrichまたは他の化学品供給業者から商業的に購入することができる。
【0066】
実施例1-1:化合物I:HPMCAS 1:3の固体分散体の調製
この非晶質固体分散体は、化合物I:HPMCAS(信越化学工業、M級、G粒径)を1:3の比で含んでなる。固体分散体は、アセトンから、2グラムの化合物Iの遊離塩基水和物結晶形Bおよび6グラムのHPMCASの溶液を、固体負荷量10%w/w、または場合により負荷量約4%w/w~約10%w/wとして噴霧乾燥させることにより製造した。化合物Iの遊離塩基一水和物結晶形Bは、WO2018/193410に記載の通りに調製した。固体分散体は、噴霧乾燥工程を用いて調製した。この噴霧乾燥工程は、供給用液の調製、噴霧乾燥および二次乾燥の3つのステップを含んだ。供給溶液を調製するために、全アセトン量の90%を反応器に加え、次に、化合物Iを反応器に加えた。混合物を固体が溶解するまで室温で撹拌した。HPMCAS(信越化学工業、M級、G粒径)を加え、混合物を固体の大部分が溶解するまで室温で撹拌した。残りの量のアセトンを反応器に加え、固体が溶解するまでさらなる時間(30分以上)撹拌を続けた。噴霧乾燥のため、噴霧乾燥機(Bend社製BLD-35)を窒素ガスで安定化させ、次いで溶液を導入し、湿潤噴霧を袋に回収し、次いで回収した湿潤噴霧乾燥物を真空トレイで残留溶媒が1500ppm以下になるまで二次乾燥した。噴霧乾燥物は非晶質の白色から灰白色の固体であり、収率は86.8%であった。
【0067】
実施例1-2:化合物I:HPMCAS 1:1の固体分散体の調製
この非晶質固体分散体は、化合物I:HPMCAS(信越化学工業、M級、G粒径)を1:1の比で含んでなる。固体分散体は、4グラムの化合物Iの遊離塩基水和物結晶形Bと4グラムのHPMCASから、実施例1-1と同様の手順を用いて噴霧乾燥させることによって製造した。
【0068】
実施例1-3:化合物I:HPMC 1:3の固体分散体の調製
この非晶質固体分散体は、化合物I:HPMC(JRS PHARMA、E3級)を1:3の比で含んでなる。固体分散体は、2グラムの化合物Iの遊離塩基水和物結晶形Bと6グラムのHPMCから、噴霧乾燥溶液の溶媒として90%メタノール(9:1 メタノール:水)を用いたこと以外は実施例1-1と同様の手順を用いて噴霧乾燥させることによって製造した。
【0069】
実施例2:固体分散体を含んでなる錠剤の製造
錠剤投与形は、60%w/wの非晶質固体分散体と他の賦形剤を用いた乾式造粒工程を使用して開発した。非晶質固体分散体、微晶質セルロース、ラクトース一水和物、二酸化ケイ素、およびクロスカルメロースナトリウムのそれぞれの塊を崩し、ブレンドした。ステアリン酸マグネシウムはふるいに掛けることで塊を崩し、ブレンドした。これが内部顆粒ブレンドを構成した。この内部顆粒ブレンドを回転圧縮し、粉砕して顆粒とした。顆粒、微晶質セルロース、ラクトース一水和物、二酸化ケイ素、およびクロスカルメロースナトリウムそれぞれの塊を崩し、ブレンドした。ステアリン酸マグネシウムはふるいに掛けることで塊を崩し、従前の単位操作から得られたブレンドとブレンドした。これは、以下の表2に示される重量割合を用いて12kgスケールで調製された錠剤を構成した。錠剤ブレンドは、回転打錠機で打錠して所望の用量の薬物の錠剤コアとした。錠剤重量は、薬物の異なる用量を得るために変化させた。各用量強度に対して異なるサイズおよび形状の金型を使用した。錠剤コアにパンコーターで化粧コーティングを施した。
【0070】
以下の表1は、実施例1の固体分散体を含んでなる化合物Iの錠剤組成物の組成を示す。
【0071】
【0072】
実施例3-1:溶解試験
実施例1に記載の固体分散体は、処方物の様々な側面およびそれらがどのように差別化され得るかを評価するために、2つの非浸漬溶解試験で評価した。評価した2つの溶解試験には、胃から腸への(G-IB)移動微量遠心分離溶解試験および超遠心分離遊離薬物試験が含まれる。
【0073】
胃-腸間バッファー(G-IB)移動溶解試験は、粉末として、まずは空腹時の胃を模倣するためにより低いpHで媒体に投与された際のバルク薬物の溶解度を超える薬物の過飽和度を測定するために使用される。胃の媒体に30分間暴露した後、サンプルは腸を模倣してより高いpHの媒体に移される。この試験で測定される薬物濃度は、遊離薬物、ミセル中の薬物、および薬物/ポリマーコロイドとして溶液中に懸濁された薬物の混成である。
【0074】
超遠心遊離薬物分析は、各処方物に存在する溶存薬物種を決定するために使用される。この試験は、微量遠心試験中のいくつかの時点、すなわち0、30、60および90分に実施され、存在するコロイド種を除去し、遊離薬物およびミセル種中の薬物種のみを残す300,000gでの遠心工程からなる。微量遠心分離データと組み合わせることで、遊離薬物とコロイドを試験する時点で、その両方の含量を決定することができる。
【0075】
G-IB溶解試験も同様に行われるが、腸媒体への移行する前に30分間の胃内曝露を行う。G-IB溶解試験用の腸媒体は、緩衝剤と胆汁酸塩に関して二重に濃縮されているので、胃への移行工程の後、最終的なpHは6.5であり、SIF濃度は0.5wt%である。
【0076】
微量遠心溶解試験では、沈殿物(未溶解薬物)と全可溶化薬物とに分離される。全可溶化薬物は3つの可溶化種からなる:自由可溶化薬物、胆汁酸塩ミセルと会合した薬物、およびポリマーと会合した薬物(薬物-ポリマーコロイド)。これらの3種はin vivoで異なる活性を持ち、処方物を区別する。自由可溶化薬物は最も小さな種であり、吸収に最も利用しやすい。自由可溶化薬物は、攪拌されていない粘膜境界層を通過し、上皮を通して血液に吸収され得る。ミセルと会合した薬物は撹拌されていない粘膜境界層を拡散し、吸収される際に遊離薬物を再供給する。最後に、薬物-ポリマーコロイドもまた、吸収される際に遊離薬物を再供給し、有効拡散速度に寄与することができる。これらのコロイドは、吸収の律速段階によっては重要となり得る。
【0077】
両溶解試験において、固体分散体処方物は、より高い過飽和溶解度およびより良好な持続性で、化合物I単独の溶解を上回った。
【0078】
図1,2は、溶解試験の結果を示す。
図1は、組成物、すなわち、1:3 化合物I遊離塩基水和物:HPMCASの重量比の固体分散体(SD)(25%HPMCASと表示);1:1 化合物I遊離塩基水和物:HPMCASの重量比の固体分散体(SD)(50%HPMCASと表示);1:3 化合物I遊離塩基水和物:HPMCの重量比の固体分散体(SD)(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、25%HPMCと表示)の溶解データを、化合物I遊離塩基水和物単独の場合と比較して示す。エラーバーは標準偏差を表す。
図1に示されるように、化合物IとHPMCASを1:3の重量比で含んでなる化合物Iの固体分散体(25%HPMCAS)は、これらの試験条件下で、他の組成物に比べて優れた溶解プロファイルを有していた。
【0079】
図2は、溶解試験からのスペシエーションデータを示す。非晶質化合物Iの溶解度は約15μg/mLであった。結晶性化合物Iの遊離薬物濃度は、非晶質化合物Iの溶解度と同等であった。対照的に、固体分散体中の化合物Iの遊離薬物濃度は、133~142μg/mLの範囲であった。この試験について、総ての処方物が同等の濃度で試験されるように、総てのサンプルの力価を分析した。総ての固体分散体処方物は、結晶性化合物Iと比較して遊離薬物濃度が向上した。
【0080】
意外にも、25%化合物I:HPMCAS固体分散体は、薬物-ポリマーコロイドの形態の薬物の濃度がはるかに高いことも観察された。特に、50%化合物I:HPMCASの薬物-ポリマーコロイド濃度(18μg/mL)と比較して、25%化合物I:HPMCASの薬物-ポリマーコロイドの不釣り合いな高濃度(529μg/mL)が観察された。コロイド種は薬物濃度を671μg/mLに増加させ、遊離薬物値より約500μg/mL高くなった。上述したように、薬物-ポリマーコロイドは、吸収される際に遊離薬物を再供給し、有効拡散速度に寄与し得ることが知られており、コロイドは吸収の律速段階によっては重要となり得る。従って、遊離薬物形態の薬物に加えて、薬物-ポリマーコロイドの形態の薬物の驚くべき高濃度は、化合物Iのバイオアベイラビリティに寄与すると考えられる。
【0081】
実施例3-2:溶解試験
化合物I:HPMCASを1:2の比で含んでなる固体分散体(「33.3%HPMCAS」)は、2.7グラムの化合物Iの遊離塩基水和物結晶形Bおよび5.3グラムのHPMCAS(信越化学工業、L級、F粒径(≦10ミクロン粒径))から、実施例1と同様の手順を用いて調製した。簡単に述べれば、0.9mLの胃バッファー中、2mgの試験化合物/mLを、室温で、pH6.5のPBS中、0.5%SIF 1.8mL中、最終用量1mg/mLに移し、総容量1.8mLの試験溶液とした。これらのサンプルを15,800gで1分間遠心分離した。指定した時点で、50μLのアリコートサンプルを50/50 アセトニトリル/水で6倍希釈し、HPLCによってアッセイした。
【0082】
実施例3-1に記載のG-IB溶解試験を用い、固体分散体を、25%化合物I:HPMCAS固体分散体(「25%HPMCAS」)および95.3%化合物I(遊離塩基水和物、「結晶性API」)とともに評価した。結果を表2に示す。
【0083】
【0084】
図3は、溶解試験の結果を示す。ここでも、化合物IとHPMCASを1:3の重量比で含んでなる化合物Iの固体分散体(25%HPMCAS)を、これらの試験条件下で、他の組成物に比べて優れた溶解プロファイルを有していた。
【0085】
実施例4:薬物動態(PK)試験
化合物Iを、様々な非晶質噴霧乾燥分散体製剤として、10mg/kgの用量で、ビーグル犬(n=3)に経口投与した。化合物Iは、0.5%メトセル「A」懸濁ビヒクル中、25mg/mLの濃度で、0.4mL/kgの投与容量で強制経口投与(PO)し、10mg/kgの投与水準とした。「0.5%メトセル「A」」懸濁ビヒクル」は、30mLの脱イオン水を攪拌しながら約90℃に加温することにより調製した。粗熱を取った後、0.5gのメトセル「A」(Dow Methocel A4M Premium)を水に加え、よく分散するまで攪拌し、続いて70mLの脱イオン水を加え、氷浴中でさらに攪拌した。ビヒクルは冷蔵条件下で最大1週間保存した。化合物Iの懸濁液は、固体分散体を乳鉢に入れ、0.5%メトセル「A」懸濁ビヒクルを、添加間に乳棒で混ぜながら量を増しつつ加えた。懸濁液をフラスコに移し、1分間撹拌した。
【0086】
投与後、0.25、0.5、1、2、4、6、8および24時間目に、血液サンプル(約1.3mL)を頚静脈から、カリウムEDTAを含むチューブに採取した。サンプルを遠心分離し(3,000×g +4℃で10分)、生じた血漿を赤血球ペレットから分離し、生物学的分析まで-20℃で保存した。
【0087】
化合物Iを、タンパク質沈殿を用いて抽出した。血漿サンプルは、-20℃での保存の後に解凍し、50μLアリコートを、例えば、化合物Iの類似体、例えば、WO2017/068412に記載の化合物などの適当な内部標準(IS)を含有する150μLアセトニトリルで沈殿させた。較正標準および品質対照を血漿中に調製し、同様に抽出した。総てのサンプルを4700rpm、+4℃で20分間遠心分離した。上清を、逆相液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)を用いて分析した。
【0088】
ノンコンパートメント薬物動態解析は、Phoenix 6.3.0.395(登録商標)(Certara USA,Inc)ソフトウエアを用いて行った。計算したパラメーターとしては、クリアランス、最大観察濃度の時間(Tmax)、最大濃度(Cmax)、終末半減期、投与時から最終測定可能濃度までの曲線下面積(AUC)(AUC0-t)、および無限大まで外挿した値(AUC0-∞)を含んだ。
【0089】
図4Aは、本実施例のイヌPK試験における化合物Iの血漿濃度を示し、
図4Bは、試験組成物のAUCを示す。以下の表3、4は、本実施例に記載されるイヌPK試験の結果を示す。表3は、10mg/kgで噴霧乾燥分散体製剤として経口投与した後の化合物Iの平均血漿薬物動態パラメーターをまとめたものである。表4は、種々の処方物で、10mg/kgで噴霧乾燥分散体製剤として経口投与した後の化合物Iの生物学的同等性を示す。TPGSは、D-α-トコフェリルポリエチレングリコール 1000スクシネートを指す。比較処方物は、非固体分散体処方物である。
【0090】
【0091】
【0092】
表3に示されるように、最大曝露は、25%HPMCAS-Mバッチで得られ、80%プロピレングリコール、10%エタノール、10%TPGS処方物と同等の曝露を示した。しかしながら、50%HPMCASおよび25%HPMCバッチは、25%HPMCAS-Mバッチおよび80%プロピレングリコール、10%エタノール、10%TPGS処方物と比較して経口曝露の低下を示した(表3)。
【0093】
本試験は、化合物IとHPMCASを1:3の重量比で含んでなる化合物Iの固体分散体は、血漿濃度およびAUCおよびCmaxにより実証されるように、これらの試験条件下で望ましいPKプロファイルを有することを示した。予想されなかったことに、組成物はまた、
図4Bで50%HPMCAS組成物Iと比較して25%HPMCAS組成物でエラーバーが小さかったことから示されるように、小さな曝露変動を示した。
【0094】
図4Cに示されるように、50%HPMCAS-Mおよび25%HPMC試験サンプルは、25%HPMCAS-Mバッチおよび33.33%HPMCAS-Lバッチの両方と比較して経口曝露の低下を示した。試験サンプルは、10mg/Kgで投与した。Doは次のように計算した。
【数1】
【0095】
実施例5:霊長類試験
合計6匹の動物を3ウェイ(2+2+2)クロスオーバーデザインに使用し、3回の投与機会のそれぞれにおいて、2匹の動物に再構成用ビヒクル(20mg/kg)中のパウダーインボトル(PiB)懸濁液中の化合物Iを投与し、2匹の動物に実施例1の化合物I固体分散体懸濁液(20mg/kg)を投与し、別の2匹の動物に実施例2の錠剤形態の化合物I(20mg/kg)を投与した。再構成用ビヒクルは、プロピレングリコールUSP 80.0%w/w;エタノールUSP 10.0%w/w;ビタミンE TPGS USP 10.0%w/wを含んでなり、合計100.0%w/wとした。
【0096】
本試験の投与は空腹状態で行った。投与2回目および3回目(8日目および15日目)には、動物に投与するための化合物I処方物をそれぞれ逆にしたので、最終的に、6匹の動物総てが、3回の経口投与の完了後、3つの異なる処方物(再構成用ビヒクル中のPiB、固体分散体懸濁液、または錠剤)の化合物Iを受けた。固体分散体懸濁液とは、メトセル中の上記実施例1の固体分散体の5%懸濁液を指す。
【0097】
各投与の最初の12時間後および非投与日には1日1回、動物を注意深く観察した。体重を測定し、投与前に記録し、薬物動態プロファイリングのための血液サンプルを総ての動物について所定の時点で採取した。化合物I処置の結果として観察された臨床徴候はなかった。化合物Iをパウダーインボトル処方物、固体分散体懸濁液、または錠剤の形態で20mg/kg、7日間隔で3回経口投与した結果、サルの忍容性は良好であった。サンプル分析の前に、LC-MS/MSによるサル血漿中の化合物Iの濃度を決定するための方法の部分的な適格性確認が、1~2,000ng/mLのダイナミックアッセイ範囲において良好に行われた。本研究で得られた血漿サンプルは総てこの方法で分析され、化合物Iの血漿濃度はng/mLで表された。
【0098】
図5Aは、本実施形態の霊長類PK試験における、化合物Iの血漿濃度(AUClast)を示し、
図5Bは、化合物Iの血漿濃度(Cmax)を示し、
図5Cは、試験組成物のAUC(推定)を示す。エラーバーは標準偏差を表す。SDは、固体分散体を指す。PiBは、パウダーインボトルを指す。錠剤は、上記の実施例2の錠剤組成物を指す。AUClastは、投与(0時点)から最終測定濃度時(24時間)までの濃度-時間曲線下面積を指す。
【0099】
特に断りのない限り、本明細書に使用される総ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。
【0100】
本明細書に例示的に記載された発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の1または複数の要素、1または複数の限定がない場合にも好適に実施することができる。従って、例えば、「含んでなる」、「含む」、「含有する」などの用語は、限定することなく拡大的に読まれるものとする。さらに、本明細書で採用された用語および表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、このような用語および表現の使用には、示され説明された特徴またはその一部のいずれの等価物も排除する意図はなく、特許請求する本発明の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。
【0101】
本明細書で言及される総ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それぞれが個々の引用することにより本明細書の一部とされる場合と同じ程度に、その全体が引用することにより本明細書の一部とされることを明示的に示す。矛盾がある場合には、定義を含む本明細書が優先する。
【0102】
本開示を上記の実施形態と併せて説明してきたが、前述の説明および実施例は、本開示の範囲を例示することを意図しており、限定するものではないことを理解されたい。本開示の範囲内の他の側面、利点および変更は、本開示が関係する分野の当業者には明らかであろう。
【国際調査報告】