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特表2024-539917少なくとも二成分の混合相から銅リッチの発泡シリコンを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】少なくとも二成分の混合相から銅リッチの発泡シリコンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/06 20060101AFI20241024BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C01B33/06
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523896
(86)(22)【出願日】2022-11-03
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2022080662
(87)【国際公開番号】W WO2023078988
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】102021128565.8
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021134516.2
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524003563
【氏名又は名称】ノルクシ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライヒマン、ウドー
(72)【発明者】
【氏名】ヌーベール、マルセル
(72)【発明者】
【氏名】クラウゼ - バーダー、アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA20
4G072BB10
4G072BB15
4G072FF04
4G072GG03
4G072HH01
4G072JJ09
4G072NN11
4G072RR13
4G072RR23
4G072RR26
4G072UU30
5H050AA08
5H050BA17
5H050CB11
(57)【要約】
本発明は、シリコン層構造体が支持基板上に付着される、少なくとも二成分の混合相から銅リッチの発泡シリコンを製造する方法に関するものである。本発明の目的は、充電式電池の高容量電極材料として好ましく使用できる銅リッチの発泡シリコンの製造を可能にする、ナノ粒子およびナノワイヤーを使用する代替方法を提供することである。これは、シリコン層構造体の1つの層が少なくとも2つのプライと少なくとも2つの材料で作られ、それらの材料が異なる拡散定数を有し、その層に制御されたエネルギー入力で急速アニーリングプロセスが行われ、異なる直径の構造を有する空洞が形成されることによって達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンプライ構造体(10)が支持基板(15)に付着された、少なくとも二成分の混合相から銅リッチの発泡シリコンを製造する方法であって、
少なくとも2つの層(12、13)および少なくとも2つの材料から構成された前記シリコンプライ構造体(10)のプライ(11)が形成され、前記少なくとも2つの材料は、異なる拡散定数を有し、前記プライ(11)には、エネルギーの選択的入力による短サイクルアニーリング(14)が行われ、様々な直径の空洞構造(16)が形成される、方法。
【請求項2】
少なくとも銅(13)およびシリコン(12)、すなわちCu-Siから構成される前記プライ(11)が堆積されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
銅、シリコン、および他の材料、すなわちCu-X-Siから構成されるプライ(11)が堆積されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記他の材料は、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)、タングステン(W)、および/または炭素(C)であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記他の材料は、ニッケルであり、前記短サイクルアニーリング(14)は、最初にニッケルシリサイドを生成し、その後、銅シリサイドに完全に転換されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記短サイクルアニーリング(14)は、フラッシュランプアニーリングであり前記フラッシュランプアニーリングにおいて、0.3~20msの範囲のパルス幅、および/または0.3~100J/cm2の範囲のパルスエネルギーによって、かつ4℃~200℃の範囲で前記支持基板を予熱または冷却することによって、前記空洞構造(16)の形成を制御することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記短サイクルアニーリング(14)は、レーザアニーリングであり、前記レーザアニーリングは、0.01~100msの範囲のアニーリング時間を通じて、局所加熱点のスキャン速度を設定してエネルギー密度を0.1~100J/cmの範囲に設定し、前記レーザアニーリングにおいて4℃~200℃の範囲で予熱または冷却することによって、前記空洞構造(16)の形成を制御することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記シリコンプライ構造体(10)の前記支持基板(15)に複数のプライ(11)が付着され、各々のプライ(11)は、個別に調整可能な層厚で堆積されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
各々のプライ(11)には、個別の短サイクルアニーリング(14)が行われることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記シリコンプライ構造体(10)は、以前に導入されたリチウムの除去によって形成される、または、リチウムの導入と除去を通じて前記シリコンプライ構造体によって形成される電極材料からなるシリコンアノードの動作中に形成される、安定な空洞構造(16)を有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記シリコンプライ構造体(10)は、リチウムの拡散速度によって自己調整的に決定されるサイズおよび数で形成される安定な空洞構造(16)を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
リチウムイオン電池の高容量電極材料の製造のための、より具体的にはシリコンアノードのための、請求項1~11に記載の銅リッチの発泡シリコンの製造方法の使用。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって製造される、電気化学セル用の、より具体的にはリチウムイオン電池用のアノード材料。
【請求項14】
請求項13に記載のアノード材料を含む電池セル、より具体的にはリチウムイオン電池。
【請求項15】
請求項14に記載の少なくとも1つの電池セルを備える電池、より具体的にはリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンプライ構造体が支持基板に付着された、少なくとも二成分の混合相から銅リッチの発泡シリコンを製造する方法に関するものである。
【0002】
本発明はさらに、リチウムイオン電池における(より具体的には、シリコンアノードおよびアノード材料用の)高容量電極材料を製造するための本発明の方法の使用、ならびに電池セルおよびリチウムイオン電池内でのその使用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
本発明の目的は、導電性が高く、リチウムの良好な拡散を可能にする多孔質シリコンリッチ層を形成することである。層内の固有の多孔性により、支持基板との電気的接触を失うことなく、リチウムがインターカレートされるときに生じる体積膨張の継続的な補償が可能になる。また、安定で変化しない表面は、そのような層を電池用途の電極として電解質に使用する場合に有利である。
【0004】
理論的背景を、Si-Cu-Ni混合系を参照して以下に説明する。様々なニッケルシリサイド相は、その形成過程で体積変化を起こす(非特許文献1、非特許文献2)。シリコンリッチのNiSi相の体積膨張はわずかであるが、ニッケルリッチのNiSi相では、体積膨張がさらに大きくなる。特に、NiSiは、純粋な結晶シリコンよりも最大200%大きい体積を示す。
【0005】
銅-ニッケル-シリコン(Cu-Ni-Si)系では、アニーリングプロセス中に最初にニッケルシリサイドが形成され、その後、完全に銅シリサイドに転換されることが実証されている。物理的には、これらの反応の原動力となるのは、異なるシリサイドの異なる生成エンタルピーである。プロセス時間が、適切な材料輸送が不可能である(平衡状態にない)ような場合、ボイド、細孔、または空洞が残される。これにより、発泡状シリサイド構造が形成される。また、拡散速度の異なる金属が2つ以上存在すると、カーケンダル効果と呼ばれるさらなる効果が発生する。非特許文献3から、はんだ接合部の金属間化合物に、カーケンドールボイドとして知られるサブミクロン範囲の空洞が形成されることが知られている。この観察された効果は、はんだ接点の接着に悪影響を及ぼす。界面に発生するカーケンダルボイドが多すぎると、構造的な接着力が低下し、接触が失われる。
【0006】
本発明の方法が、電池製造、特にリチウムイオン電池においてどのように有利に使用できるかを分類するために、これらの電池の構造について簡単に説明する。
【0007】
電池は、電気化学エネルギー貯蔵装置であり、一次電池と二次電池は、区別される。
【0008】
一次電池は、化学エネルギーが電気エネルギーに不可逆的に変換される電気化学電源である。したがって、一次電池は充電できない。一方、二次電池は蓄電池とも呼ばれ、発生する化学反応が可逆的である再充電可能な電気化学エネルギー貯蔵装置であり、これは、繰り返し使用が可能であることを意味する。充電時には電気エネルギーが化学エネルギーに変換され、次いで放電時には化学エネルギーから電気エネルギーに変換される。
【0009】
電池は、相互に接続されたセルのアレイの総称である。セルは、2つの電極、電解質、セパレータ、およびセルハウジングからなるガルバニユニットである。図1は、放電プロセス中のリチウムイオンセルの例示的な構造および機能を示している。以下、セルの構成要素について簡単に説明する。
【0010】
各々のリチウムイオンセルは、充電状態で負に帯電する電極と、充電状態で正に帯電する電極の2つの異なる電極からなる。エネルギー放出中、すなわち放電中、イオンは、負に帯電した電極から正に帯電した電極に移動するため、正に帯電した電極は、カソード、負に帯電した電極は、アノードと呼ばれる。電極はそれぞれ、電流導体(集電体とも呼ばれる)と、その上に付けられた活物質、すなわち活性層で構成されている。電極間には、まず、必要な電荷交換を可能にするイオン伝導性電解質と、電極の電気的分離を確保するセパレータがある。
【0011】
カソードは、例えばアルミニウム集電体上に付けられた混合酸化物からなる。
【0012】
リチウムイオンセルのアノードは、集電体としての銅箔と、活物質としての炭素またはシリコンの層からなることが可能である。充電プロセス中に、リチウムイオンは、還元され、グラファイトまたはシリコン層内にインターカレートされる。
【0013】
リチウムイオン電池(LiB)の構造では、通常、カソードがアノードの充電および放電のためのリチウム原子を供給するため、電池容量は、カソード容量によって制限される。これまでに使用されている典型的なカソード材料の例は、Li(Ni,Co,Mn)OおよびLiFePOである。カソードは、セルの放電時にインターカレートされるリチウムイオンを提供するリチウム金属酸化物から形成されているため、容量を増やす余地は最小限しかない。
【0014】
電池の容量は、活性層(より具体的には、Si層)の厚さによって決まる。電池では活物質の電気伝導度を可能な限り高く設定する必要がある。シリコンは、半導体であるため、導電性グラファイトとは異なり、低い導電性しかない。したがって、シリコンには、高ドーピングまたは電気伝導度を高める構造が必要である。標準的な方法は、ナノスケールのシリコン粉末を炭素含有の足場構造に包み、集電体に固定することである。
【0015】
電極材料としてシリコンを使用する場合に生じる課題には、対応するエネルギー貯蔵デバイスの充電および放電中の可動イオン種(リチウム)のインターカレーションおよびデインターカレーション中に、ホストマトリックスの体積が時として大幅に変化すること(体積の収縮および膨張)が含まれる。体積の変化は、グラファイトでは約10%、対照的にシリコンでは最大300%、理論上のLi22Si相では400%にも達する。3579mAh/gという満タンのリチウム貯蔵量でのシリコンのこの体積膨張は避けられない。電池用途でシリコンを使用する場合、電極材料の体積の変化は、内部応力、亀裂、活物質の粉砕を引き起こし、最終的には電極容量の完全な損失につながる。
【0016】
体積の変化を補償するために、既知の電池製造プロセスでは、再充電可能なリチウム電池のアノード材料としてカーボンまたはシリコンベースのナノ粒子およびナノワイヤーが使用されている。このようなナノ材料の主な利点は、リチウムのインターカレーションおよびデインターカレーションの速度の増加に加えて、表面効果である。これは、非特許文献4に記載されているように、表面積が大きいと、電解質との接触表面積とそれに伴う界面を通るLi+イオン(ボイド)の流れが増加することを意味すると理解できる。特にシリコンベースのナノ粒子とナノワイヤーは、シリコンの最大可能貯蔵容量である3579mAh/gと比較して、約3400mAh/gと小さい貯蔵容量を有するが、非特許文献5に記載されているように、リチウムのインターカレーション後のシリコンの体積変化に関して、Si構造のあるサイズまで、より安定したシリコン構造を示す。均一な体積変化を起こせる構造限界は、アモルファスシリコンの場合は1μm、結晶シリコンの場合は100nmと考えられている。
【0017】
したがって、電極材料の体積の膨張がナノ構造間の自由空間によって吸収され得るだけでなく、構造のサイズの縮小により合金形成中の相転移が促進され、その結果、電極材料の性能が向上する。
【0018】
しかしながら、シリコンベースのナノ粒子およびナノワイヤーの利用は、非常に複雑である。Siのナノ構造体は、ボールミルでの粉砕(ボールミリング)、スパッタリングによる堆積、PVD/CVDプロセス、化学的および電気化学的エッチング、およびSiOの還元を含む、物理的プロセスと化学的プロセスの両方によって製造される(非特許文献6)。従来技術では、製造されたナノ構造体は、その後、導電性カーボンおよび結合剤と混合され、工業用アノード構築では、カレンダー加工および乾燥によって銅集電体に付けられる。これらのプロセスの欠点は、電池の動作中にナノ構造体が互いに分離し、その結果、アノード容量が失われることである。さらなる欠点は、ナノ構造体の表面積が大きいため、電解質が大量に消費され、電池が乾燥してしまうことである。
【0019】
これまで、リチウムイオン電池に適したSi-Cu空洞構造の代替製造は、複雑な炉内プロセスによってのみ可能であった(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Simon, M.ら: Lateral Extensions to Nanowires for Controlling Nickel Silicidation Kinetics: Improving Contact Uniformity of Nanoelectronic Devices(ニッケルのシリサイド化反応速度を制御するためのナノワイヤーの横方向拡張:ナノエレクトロニクスデバイスのコンタクト均一性の向上). ACS Appl. Nano Mater. 4, 4371-4378 (2021)
【非特許文献2】Tang, W., Nguyen, B.-M., Chen, R., Dayeh, S.A.: Solid-state reaction of nickel silicide and germanide contacts to semiconductor nanochannels. Semicond(半導体ナノチャネルへのニッケルシリサイドおよびゲルマニドコンタクトの固体反応). Sci. Technol. 29, 054004 (2014)
【非特許文献3】Kim, D., Chang, J., Park, J., Pak, J.J.: Formation and behavior of Kirkendall voids within intermetallic layers of solder joints(はんだ接合部の金属間層内におけるカーケンダルボイドの形成と挙動). J Mater Sci: Mater Electron 22, 703-716 (2011)
【非特許文献4】M.R. Zamfir, H.T. Nguyen, E. Moyen, Y.H. Leeac, D. Pribat: Silicon nanowires for Li-based battery anodes: a review(Li系電池負極用シリコンナノワイヤー:総説), Journal of Materials Chemistry A (a review), 1, 9566 (2013)
【非特許文献5】M. Green, E. Fielder, B. Scrosati, M. Wachtier, J.S. Moreno: Structured silicon anodes for lithium battery applications(リチウム電池用途のための構造化シリコン負極), Electrochem. Solid-State Lett, 6, A75-A79 (2003)
【非特許文献6】Feng, K.ら: Silicon-Based Anodes for Lithium-Ion Batteries: From Fundamentals to Practical Applications(リチウムイオン電池用シリコンベース負極: 基礎から実用化まで). Small 14, 1702737 (2018)
【非特許文献7】He, Y., Wang, Y., Yu, X., Li, H., Huang, X.: Si-Cu Thin Film Electrode with Kirkendall Voids Structure for Lithium-Ion Batteries(リチウムイオン電池用カーケンダルボイド構造を有するSi-Cu薄膜電極). J. Electrochem. Soc. 159, A2076 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明の目的は、ナノ粒子およびナノワイヤーの使用に代わる方法を提供し、それにより、充電式電池における高容量電極材料として好ましく使用することができる、銅リッチの発泡シリコンを製造することができる方法を提供することである。プロセスによって生成される層の特性は、プロセスパラメータの調整を通じて選択的に変更され、それぞれの用途に合わせて調整される必要があり、プロセスは、可能な限り簡単、迅速、効率的に実行可能である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、独立請求項1に記載の方法によって達成される。シリコンプライ構造体が支持基板に付着される、少なくとも二成分の混合相から銅リッチの発泡シリコンを製造する方法において、少なくとも2つの層および少なくとも2つ以上の材料から構成されるシリコンプライ構造体のプライが形成されて付着され、これらの材料は、異なる拡散定数を有し、プライには、エネルギーの選択的入力による短サイクルアニーリングが行われ、様々な直径の空洞構造が形成される。
【0023】
短サイクルアニーリングは、特にフラッシュランプアニーリングおよび/またはレーザアニーリングを意味すると理解される。フラッシュランプアニーリングは、0.3~20msの範囲のパルス幅またはアニーリング時間、および0.3~100J/cmの範囲のパルスエネルギーで実行される。レーザアニーリングでは、0.1~100J/cmのエネルギー密度が得られるように、局所加熱点の走査速度によって、アニーリング時間は、0.01~100msに調整される。短サイクルアニーリングで達成される加熱勾配は、プロセスで必要な10~10K/sの範囲内にある。フラッシュランプアニーリングでは、この目的のために可視波長範囲のスペクトルが使用されるが、レーザアニーリングでは、赤外(IR)から紫外(UV)スペクトルまでの個別の波長が使用される。
【0024】
プライは、少なくとも2つの層から形成される層スタックを意味すると理解される。したがって、プライは、少なくとも2つの層を含む。プライは、少なくとも2つの異なる材料から構成され、例えば2つのシリコン層と銅層からプライを形成することが可能であり、すなわち、この例におけるプライは、Si-Cu-Si層スタックを含む。
【0025】
短サイクルアニーリングの後、異なる層を2つ以上の材料のプライに単純に積み重ねることで、カーケンダルによって説明された効果を超える空洞が生成される。異なる密度または格子パラメータを有する様々な金属間化合物相が、時には同時に、時には連続して形成されることにより、定義された方法で調整可能なプロセスパラメータを使用した短サイクルアニーリングによって時間依存プロセスを制御することが可能になる。
【0026】
本発明の方法は、アモルファスまたはナノスケールのシリコンが空洞または細孔と共に存在する多孔質シリサイド-シリコンマトリックスの形成を可能にする。
【0027】
これらの基本的なプロセスステップにより、製造された層が使用されるアプリケーションに合わせて選択的に最適化できる膨大な範囲のパラメータが生成される。特に、短サイクルアニーリングは、選択的なエネルギー入力により決定的な利点を提供する。短サイクルアニーリングにより、混合層内の拡散プロセスを制御でき、平衡状態にない非平衡状態の安定化を可能にする。
【0028】
本発明の方法の一変形例では、少なくとも銅およびシリコン、すなわちCu-Siから構成されるプライが堆積される。CuとSiの堆積は層ごとに行われ、短サイクルアニーリングによりCuとSiが反応して二元混合相を形成する。
【0029】
本発明の方法の別の一変形例では、銅、シリコン、および他の材料、すなわちCu-Si-Xから構成されるプライが堆積される。材料は層ごとに堆積され、3つの異なる材料が使用される場合、短サイクルアニーリングにより材料が反応して三元混合相を形成する。
【0030】
本発明の方法のさらなる一変形例では、他の材料は、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)、タングステン(W)、および/または炭素(C)である。
【0031】
本発明の方法の一変形例では、CuおよびSiに加えて他の材料としてニッケルも堆積する場合、短サイクルアニーリングは、最初にニッケルシリサイドを生成し、その後、銅シリサイドに完全に転換される。
【0032】
これにより、リチウムイオン電池の安定したアノードを製造するために、リチウムイオン電池の活性層として使用するのに適した発泡状シリサイド構造が生成される。空洞が形成されても活性層と基板との機械的接触が維持されるために、フラッシュランプおよび/またはレーザのエネルギーを制御することにより、形成される空洞構造のサイズを制御することができる。そして空洞により、リチウムインターカレーションの際のシリコンアノードの体積膨張が減少する。
【0033】
本発明の方法のさらなる一変形例では、短サイクルアニーリングは、フラッシュランプアニーリングであり、フラッシュランプアニーリングにおいて、0.3~20msの範囲のパルス幅、および/または0.3~100J/cm2の範囲のパルスエネルギーによって、かつ4℃~200℃の範囲で支持基板を予熱または冷却することによって、空洞構造の形成を制御する。
【0034】
短周期アニーリングとしてレーザアニーリングを用いる場合、レーザアニーリングは、0.01~100msの範囲のアニーリング時間を通じて、局所加熱点のスキャン速度を設定してエネルギー密度を0.1~100J/cmの範囲に設定し、レーザアニーリングにおいて4℃~200℃の範囲で予熱または冷却することによって、空洞構造の形成が制御され、これにより、各々のプライ内に部分反応シリコンを生成する。
【0035】
本発明の方法では、任意の所望の層スタック、すなわち異なる拡散定数を有する金属から構成されるプライを、例えばスパッタリングまたは蒸着プロセスによって堆積させることが可能である。層スタックは、プライを形成する。プライ構造体は、2つ以上のプライから形成される。追加のアニーリングプロセスは、フラッシュ/レーザのパルスエネルギー、フラッシュ/レーザのパルス時間、および/または基板の予熱または冷却を変更することにより、幅広い選択肢で迅速かつ効率的に実行できる。
【0036】
本発明の方法の一変形例では、シリコンプライ構造体の支持基板に複数のプライが付着され、各々のプライは、個別に調整可能な層厚で堆積される。プライ内では、各々の層は、個別に調整可能な層厚で堆積される。堆積されたプライは、採用されたプロセスパラメータまたは異なるプロセスパラメータを使用して、さらなるプライとして繰り返し堆積することができる。
【0037】
本発明の方法の別の一変形例では、シリコンプライ構造体は、以前に導入されたリチウムの除去によって形成される、または、リチウムの導入と除去を通じてシリコンプライ構造体によって形成される電極材料からなるシリコンアノードの動作中に形成される、安定な空洞構造を有する。
【0038】
本発明の方法のさらなる一変形例では、シリコンプライ構造体は、リチウムの拡散速度によって自己調節的に決定されるサイズおよび数で形成される安定な空洞構造を有する。空洞構造を残すリチウムインターカレーションに加えて、これらの構造の数とサイズは、充電速度、すなわち使用の性質によって影響を受ける可能性がある。これは、より具体的には、電池の充放電速度、または電池の動作モードまたは使用法全般によって影響を受けることを意味する。文献(C. Heubner, U. Langklotz, A. Michaelis, Theoretical optimization of electrode design parameters of Si based anodes for lithium-ion batteries, J. Energy Storage(リチウムイオン電池用Si系負極の電極設計パラメータの理論的最適化), 第15巻, 2018年, 181-190頁)では、可能な拡散速度がシリコンアノードの空孔率に依存し、それが本発明の方法において自己調節的に調整されることが示されている。
【0039】
リチウムの導入により、混合相系に空洞構造の形成がもたらされる。リチウムが除去されると、各々のプライまたはプライ構造体全体の安定した空洞構造が不可逆的に形成される。中間反応の形態で他の混合相が可能である。Cu-Si(-X)混合相で構成される適切な層スタックは、ここでリチウムインターカレーション中に不可逆的に膨張するが、機械的に安定した方法で膨張する。プライ構造体全体の支持基板への高い密着性と、シリサイド構造に埋め込まれたシリコンから構成される不均一構造を有する混合相の使用により、安定した空洞構造がここで形成可能になる。リチウムの導入および除去は、電池の動作における初期サイクル(形成)中にも有利に行うことができる。空洞構造は、リチウム化および脱リチウム化中のシリコンの体積膨張を完全に吸収することができる。したがって、活性層全体によって形成される空洞構造は、純粋なケイ化リチウムの形成により、体積の300%の変化よりも大きい(Li22Siの場合、理論的には400%)可能性がある。リチウムの吸収量に応じて、シリコンの膨張は、常に同じになる。物理的には、体積の膨張が貯蔵量に等しいということである。したがって、最終的に膨張を吸収する空洞構造は、シリコンの純粋な膨張よりも大幅に大きくなる可能性がある。重要なのは、空洞構造が安定している必要があるということである。本発明の方法の特別な特徴は、空洞構造がフラッシュランププロセスでの製造中および電池の「初期」動作中の両方で製造され、その後は安定したままであることである。本発明によれば、混合相系の適切な導電性および拡張可能な足場を提供することによってこれが可能になる。これにより、プライ構造体内に可変のサイズおよび数(空孔率)の空洞が生成される。例として、サイクル後のSi-Cu混合層のプライのSEM画像が添付され(図4図6)、これらは、元の厚さ1μmのSi層が10μmの厚さになっていることを示している。高解像度のSEM調査により、巨視的細孔(100nm~2μm)に加えて、平均値10nmおよび空孔率7~15%の細孔サイズの追加測定がここで可能になった。陽電子消滅分光法による調査により、選択したプロセスパラメータに応じて、0.5~2nmの範囲のボイドも検出できた。
【0040】
電池用途における本発明の方法の利点は、追加の複雑さを伴うことなく、空洞構造を調整するための可変スタック構造を可能にすることである。形成される空洞の数を調整するために、異なる材料系を組み合わせることができる。ここでの層構造では、安定した保護層を形成するには、凹凸が最小限の平坦な表面が好都合である。サイズが、ナノスケールからマイクロスケールのサイズ範囲に及ぶ空洞は、製造中およびリチウムのインターカレーションに起因する体積膨張中の両方で安定した層を確保する。
【0041】
本発明の方法のさらなる一変形例では、各々のプライは、個別の短サイクルアニーリングが行われる。これにより、シリコンプライ構造体の各々のプライの空洞構造を個別に調整できるようになる。
【0042】
本発明の方法における短サイクルのフラッシュランプまたはレーザアニーリング技術の使用は、層へのエネルギー入力を選択的に制御することを可能にする。カーケンダル空洞の形成は、拡散駆動型プロセスであり、単位時間当たりのエネルギー入力によって調整される。
【0043】
本発明の方法は、過渡的な中間相、すなわち反応が完了まで進行していない相、および短寿命の格子構造を選択的に使用することを可能にし、この目的のために、異なる直径の空洞を形成するために、異なる拡散定数を有する材料の任意の所望の組み合わせを使用することを可能にする。
【0044】
したがって、リチウムイオン電池内の高容量電極材料を製造するために、より具体的にはシリコンアノード用に、請求項1~11に記載の本発明の銅リッチの発泡シリコンの製造方法を使用することは有利である。
【0045】
さらに、電気化学セル、より具体的にはリチウムイオン電池用のアノード材料を製造することも有利である。
【0046】
このアノード材料は、電池セルに使用することができ、次いで、電池セルは、少なくとも1つの電池セルを有する電池に取り付けることができる。
【0047】
本発明の方法の利点は、記載した特性が複雑なプロセスによって生成および達成されるのではなく、短サイクルのアニーリングを選択的に使用することで自然に得られることである。これは、単一のプロセスステップで実行され、拡張性が非常に高く、したがってコスト効率が極めて高い。他のプロセスは、さらに非常に複雑であり、フラッシュランプアニーリングよりもはるかに多くのエネルギーを必要とし、拡張性が高い方法で適用することはできない。
【0048】
本発明は、以下の例示的な実施形態でより具体的に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】放電プロセス中のリチウムイオンセルの例示的な構造および機能。
図2】2つの材料から形成されたプライと、採用された短サイクルアニーリングパラメータの関数としての銅リッチの発泡シリコンの形成の概略図。
図3】リチウムの導入および除去によって空洞構造が形成される構成における本発明の方法の概略図。
図4】CuとSiの二元混合系から形成されたSiプライ構造体の空洞構造のSEM画像。
図5】形成(初期サイクルおよびSi中のLiのインターカレーション)中の本発明のSiプライ構造体のSEM画像。
図6a】サイクル処理されたSiの複数プライアノードの高解像度SEM画像。
図6b図6aが示す、平均直径10nm、空孔率7~15%の細孔サイズ。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図2は、製造された銅リッチな発泡シリコンの概略図を示し、図示の例では、シリコンプライ構造体10のプライ11は、材料Si-Cu-Si 12-13-12から構成される3層のスタックから形成される。短サイクルアニーリング14により、リチウムインターカレーションによるシリコンの体積膨張を緩和するための高容量電極材料として理想的に適したアモルファスシリコンを多く含む多孔質シリサイドマトリックスが形成される。同時に、導電性シリサイドマトリックスが安定した足場を形成し、集電体との確実な電気接触が確保され、電池の連続動作が可能になる。Si内でのCuの拡散速度は、Cu内でのSiの拡散速度よりもはるかに速い、すなわちDCu in Si>>DSi in Cuであるため、空洞構造が形成できる。熱平衡状態では、次の近似:DCu in Si≒Dvoids+DSi in Cuが成り立つ。
【0051】
図3は、リチウムの導入および除去によって空洞構造が形成される構成における本発明の方法の概略図を示す。銅リッチの発泡シリコンを製造するための本発明の方法が、リチウムイオン電池における高容量電極材料、より具体的にはシリコンアノード用の高容量電極材料の製造に使用される場合、製造されたプライ構造体10は、リチウムの導入の結果としての初期形成の間に10倍に膨張する。安定した空洞構造が形成されているため、この体積膨張は放電中に維持される。電池をさらに動作させると、リチウムは再び、形成された空洞構造内でインターカレーションを起こすことができる。
【0052】
図4は、Siプライ構造体10内の空洞構造のSEM画像を示しており、Siプライ構造体10は、CuとSiの二元混合系から形成されている。支持基板15上にスパッタリングされたすべての層が見える。製造プロセス中に個別に調整可能なCu層の厚さ13が徐々に増加することも同様に見える。フラッシュランプアニーリングまたはレーザアニーリング14における中間フラッシュは、(一例として)CuのSi中への拡散および空洞構造16の形成をもたらす。Cu層13が厚ければ厚いほど、空洞は大きくなる。
【0053】
図5は、形成(初期サイクルおよびSi中のLiのインターカレーション)中の本発明のSiプライ構造体およびシリコンの体積膨張を吸収する微細な空洞を有する安定した空洞構造の構造のSEM画像を示す。足場は、銅の含有量が高く、これにより一定の高い導電性が保証される。
【0054】
図6は、a)電池の動作後の複数プライSiアノードの高解像度画像を示している。15%の空孔率が測定された。ここに示されている空洞のサイズは、2nm~50nmの範囲である(図6b)。視覚的評価によって決定された、描かれた空洞の中央値は、10nmである。
【0055】
一実施形態では、銅とニッケルを含むシリコンプライ構造体は、結晶化または酸化によって引き起こされる体積膨張のみに起因するものではない、短サイクルアニーリング後の層厚さの大幅な増加を示す(図5)。測定により、ナノスケールのサイズ範囲までの巨視的空洞と微視的空洞の両方を含む構造(図6)が示されている。電池内で電極材料として使用されると、形成される発泡構造は、層内のリチウムのインターカレーションによって生じる体積の変化を補償できるため、電池の性能の向上をもたらす。
【0056】
不完全な反応の場合、密度が低い、またはより大きな空間体積を占める(一時的な)中間相が発生する可能性がある。しかしながら、本発明の方法の最後には、より緻密なシリサイド構造への最終的な転換が起こる。プロセス時間が短いため、ここで不足している材料の拡散によってボイドを埋めることはできず、(マイクロスケール/ナノスケールの)発泡構造が形成される。また、これらの空洞構造は、リチウムのインターカレーション中のシリコンの体積膨張を補償することができる。本発明の方法では、材料系の層厚が5倍に増加することが実証されているが、典型的な格子膨張と酸化物の形成では、2倍または3倍が現実的である。残りの厚さまたは体積の増加は、形成される空洞構造に起因している。
【符号の説明】
【0057】
1 リチウムイオン電池
2 アノード側の集電体
3 SEI(固体電解質界面)
4 電解質
5 セパレータ
6 導電性中間相
7 カソード、陽極
8 カソード側の集電体
9 アノード、陰極
10 シリコンプライ構造体
11 プライ
12 シリコン層
13 銅層
14 短サイクルアニーリングステップ
15 支持基板
16 空洞構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】