(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸と環状ケテンアセタールとのコポリマーの調製方法
(51)【国際特許分類】
C08F 220/00 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C08F220/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524395
(86)(22)【出願日】2022-11-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 US2022048517
(87)【国際公開番号】W WO2023081122
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イン、リーゲン
(72)【発明者】
【氏名】カーター、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】バーボン、ステファニー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ウェン-シュエ
(72)【発明者】
【氏名】デフェリッピス、ジェームズ
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL03P
4J100AU28Q
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100FA34
4J100HA08
4J100HB24
4J100HC04
4J100HC27
4J100HE05
4J100HE07
4J100JA15
(57)【要約】
本発明は、アクリル酸及び環状ケテンアセタールモノマーの構造単位を含むコポリマーを調製する方法に関する。このコポリマーは、生分解性分散剤として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ケテンアセタールモノマー及び(メタ)アクリル酸の構造単位を含むコポリマーを調製する方法であって、
a)有機溶媒の存在下で、環状ケテンアセタールモノマー及びt-ブチル(メタ)アクリレートを反応容器に徐々に添加し、同時にかつ別個に、前記反応容器に開始剤を徐々に添加する工程と、
前記反応容器の内容物を、前記環状ケテンアセタールモノマーと前記t-ブチル(メタ)アクリレートとの重合を促進するのに十分な温度に加熱して、前記環状ケテンアセタールモノマーと前記t-ブチル(メタ)アクリレートとのコポリマーの溶液を得る工程と、次いで
b)前記環状ケテンアセタールモノマーと前記t-ブチル(メタ)アクリレートとのコポリマーを脱保護剤と接触させて、前記環状ケテンアセタールモノマーと(メタ)アクリル酸とのコポリマーを形成する工程と、
を含み、
第1の部分及び第2の部分における前記t-ブチル(メタ)アクリレートの前記環状ケテンアセタールモノマーに対するモル:モル比が、2:1~15:1の範囲であり、
前記環状ケテンアセタールモノマーが、以下の構造:
【化1】
(式中、nは、0、1、又は2であり、
Rは、H又はC
1-C
6-アルキルであり、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、H、C
1-C
12-アルキル、フェニル、若しくはビニルであるか、又はR
1及びR
2は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、縮合ベンゼン環若しくは縮合C
3-C
7-脂環式環を形成し、
R
1’及びR
2’は、それぞれ独立して、水素若しくはC
1-C
12-アルキルであるか、又はR
1とR
1’及び/若しくはR
2とR
2’が環外二重結合を形成するが、
ただし、nが1である場合、
R
3及びR
3’は、それぞれ独立して、H、C
1-C
12-アルキル、フェニルであるか、又はR
3及びR
3’は、環外二重結合若しくはスピロシクロ脂肪族基若しくはスピロ-2-メチレン-1,3-ジオキセパン基を形成し、
更にただし、nが2である場合、
各R
3は、独立して、H、C1-C12-アルキルであるか、又はそれらが結合している炭素原子と一緒になって、内部二重結合、縮合ベンゼン環、若しくは縮合C
3-C
7-脂環式環を形成する)
を有する、方法。
【請求項2】
前記環状ケテンアセタールモノマーが、以下からなる群から選択される、請求項1に記載の方法:
【化2】
【請求項3】
前記環状ケテンアセタールモノマーが2-メチレン-1,3-ジオキセパン(MDO)であり、前記t-ブチル(メタ)アクリレートがt-ブチルアクリレートであり、t-ブチルアクリレートのMDOに対するモル対モル比が3:1~8:1の範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において、前記モノマーの前記第2の部分と共に連鎖移動剤を前記反応容器に徐々に添加する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記連鎖移動剤がn-ドデシルメルカプタンであり、工程(a)における前記容器の内容物の温度が40℃~150℃の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が酢酸エチルであり、工程(a)における前記容器の内容物の温度が50℃~80℃の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記t-ブチル(メタ)アクリレートがt--ブチルアクリレートであり、工程(b)の後に前記有機溶媒を除去し、前記環状ケテンアセタールモノマーと前記アクリル酸とのコポリマーを水に溶解させる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記環状ケテンアセタールモノマーがMDOであり、前記MDO-AAコポリマーが、以下の構造:
【化3】
(式中、xは、2~15の範囲内である)を有するオリゴマーに加水分解可能である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反応容器が、最初に、MDOの第1の部分と、反応に使用されるMDO及びt-ブチルアクリレートの合計の10~30重量パーセントの量のt-ブチルアクリレートとを含有する、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、(メタ)アクリル酸と環状ケテンアセタールとのコポリマー、より具体的にはアクリル酸と2-メチレン-1,3-ジオキセパン(2-methylene-1,3-dioxepane、MDO)との水溶液を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子量(molecular weight、MW)ポリアクリル酸(polyacrylic acid、PAA)は、ホームケア並びに石油及びガス産業において分散剤及びスケール防止剤として広く使用されている。これらの用途において、PAAは、一般に都市廃水処理プラントに入るか、又は使用後に少なくとも部分的に環境に放出される。環境におけるポリマーの運命に関して政府、規制機関、企業、及び消費者から精査されることが多くなり、新規の生分解性材料を見つけることが必要になっている。PAAは、その炭素-炭素骨格の不活性な性質に一部起因して、生分解することが困難であることが、過去の研究から確立されている。他方、1000g/モル未満の分子量を有するPAAオリゴマーは、生分解を受けやすい。(Kawai,F.,Bacterial Degradation of Acrylic Oligomers and Polymers,Applied Microbiology and Biotechnology 1993,39(3),382-385;Hayashi,T.;Mukouyama,M.;Sakano,K.;Tani,Y.,Degradation of a Sodium Acrylate Oligomer by an Arthrobacter sp.Appl Environ Microbiol 1993,59(5),1555-9;Larson,R.J.;Bookland,E.A.;Williams,R.T.;Yocom,K.M.;Saucy,D.A.;Freeman,M.B.;Swift,G.,Biodegradation of Acrylic Acid Polymers and Oligomers by Mixed Microbial Communities in Activated Sludge,Journal of environmental polymer degradation 1997,5(1),41-48.を参照)。それにもかかわらず、これらの生分解性オリゴマーは、分散剤及びスケール防止剤としては不適切である。PAAポリマー中に不安定な結合を組み込む戦略が報告されている。例えば、米国特許第4,923,941号(Bailey)には、臭化テトラブチルアンモニウムを含有する水中でアクリル酸ナトリウムをMDOと反応させることによる生分解性MDO-AAコポリマーの水性調製物が開示されている。同様に、Guoら(Guo)には、同じく臭化テトラブチルアンモニウムを含有する水中で、不完全に中和されたアクリル酸をMDOと反応させることによるMDO-AAコポリマーの調製が報告されている(Acta Polymerica Sinica2012,12,958-964)。Baileyは、コポリマー形成の証拠を「コポリマー鎖中のエステル結合の存在」によって確認することができると主張している。同様に、Guoは、ポリマー生成物の開示されたプロトンNMRスペクトルのδ=4.00ppmにおける三重項ピークを、MDO構造単位に関連するメチレンプロトンに割り当てている。しかしながら、Bailey及びGuoの主張にもかかわらず、本発明者らは、Bailey及びGuoらによって開示された類似の方法によって検出可能な量のMDO-AAコポリマーを形成することはできないことを確認した。
【0003】
したがって、生分解性分散剤の技術分野において、生分解性でありながら分散剤及びスケール防止剤として依然として有効であるPAAを調製する方法を見出す必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、環状ケテンモノマー及び(メタ)アクリル酸の構造単位を含むコポリマーを調製する方法であって、
a)有機溶媒の存在下で、環状ケテンアセタールモノマー及びt-ブチル(メタ)アクリレートを反応容器に徐々に添加し、同時にかつ別個に、当該反応容器に開始剤を徐々に添加する工程であって、
当該反応容器の内容物を、当該環状ケテンアセタールモノマーと当該t-ブチル(メタ)アクリレートとの重合を促進するのに十分な温度に加熱して、当該環状ケテンアセタールモノマーと当該t-ブチル(メタ)アクリレートとのコポリマーの溶液を得る工程と、次いで
b)当該環状ケテンアセタールモノマーと当該t-ブチル(メタ)アクリレートとのコポリマーを脱保護剤と接触させて、当該環状ケテンアセタールモノマーと(メタ)アクリル酸とのコポリマーを形成する工程と、
を含み、
第1の部分及び第2の部分における当該t-ブチル(メタ)アクリレートの当該環状ケテンアセタールモノマーに対するモル:モル比が、2:1~15:1の範囲であり、
当該環状ケテンアセタールモノマーが、以下の構造:
【0005】
【化1】
(式中、nは、0、1、又は2であり、
Rは、H又はC
1-C
6-アルキルであり、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、H、C
1-C
12-アルキル、フェニル、若しくはビニルであるか、又はR
1及びR
2は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、縮合ベンゼン環若しくは縮合C
3-C
7-脂環式環を形成し、
R
1’及びR
2’は、それぞれ独立して、H若しくはC
1-C
12-アルキルであるか、又はR
1とR
1’及び/若しくはR
2とR
2’が環外二重結合を形成するが、
ただし、nが1である場合、
R
3及びR
3’は、それぞれ独立して、H、C
1-C
12-アルキル、フェニルであるか、又はR
3及びR
3’は、環外二重結合若しくはスピロシクロ脂肪族基若しくはスピロ-2-メチレン-1,3-ジオキセパン基を形成し、
更にただし、nが2である場合、
各R
3は、独立して、H、C
1-C
12-アルキルであるか、又はそれらが結合している炭素原子と一緒になって、内部二重結合、縮合ベンゼン環、若しくは縮合C
3-C
7-脂環式環を形成する)
を有する、方法、を提供することによって、当該技術分野における必要性に対処する。
【0006】
本発明のプロセスは、生分解性であるが分散剤として有効であるアクリル酸のコポリマーを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、環状ケテンモノマー及び(メタ)アクリル酸の構造単位を含むコポリマーを調製する方法であって、
a)有機溶媒の存在下で、環状ケテンアセタールモノマー及びt-ブチル(メタ)アクリレートを反応容器に徐々に添加し、同時にかつ別個に、当該反応容器に開始剤を徐々に添加する工程と、
当該反応容器の内容物を、当該環状ケテンアセタールモノマーと当該t-(メタ)ブチルアクリレートとの重合を促進するのに十分な温度に加熱して、当該環状ケテンアセタールモノマーと当該t-(メタ)ブチルアクリレートとのコポリマーの溶液を得る工程と、次いで
b)当該環状ケテンアセタールモノマーと当該t-(メタ)ブチルアクリレートとのコポリマーを脱保護剤と接触させて、当該環状ケテンアセタールモノマーと(メタ)アクリル酸とのコポリマーを形成する工程と、
を含み、
第1の部分及び第2の部分における当該t-ブチル(メタ)アクリレートの当該環状ケテンアセタールモノマーに対するモル:モル比が、2:1~15:1の範囲であり、
当該環状ケテンアセタールモノマーが、以下の構造:
【0008】
【化2】
(式中、nは、0、1、又は2であり、
Rは、H又はC
1-C
6-アルキルであり、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、H、C
1-C
12-アルキル、フェニル、若しくはビニルであるか、又はR
1及びR
2は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、縮合ベンゼン環若しくは縮合C
3-C
7-脂環式環を形成し、
R
1’及びR
2’は、それぞれ独立して、水素若しくはC
1-C
12-アルキルであるか、又はR
1とR
1’及び/若しくはR
2とR
2’が環外二重結合を形成するが、
ただし、nが1である場合、
R
3及びR
3’は、それぞれ独立して、H、C
1-C
12-アルキル、フェニルであるか、又はR
3及びR
3’は、環外二重結合若しくはスピロシクロ脂肪族基若しくはスピロ-2-メチレン-1,3-ジオキセパン基を形成し、
更にただし、nが2である場合、
各R
3は、独立して、H、C1-C12-アルキルであるか、又はそれらが結合している炭素原子と一緒になって、内部二重結合、縮合ベンゼン環、若しくは縮合C
3-C
7-脂環式環を形成する)
を有する、方法、を提供することによって、当該技術分野における必要性に対処する。
【0009】
本明細書で使用される場合、「(メタ)アクリル酸の構造単位という用語は、以下の繰り返し単位:(式中、R4は、H又はCH3、好ましくはHである)
【0010】
【化3】
又はその塩を含有するポリマー骨格を指す。
【0011】
「環状ケテンアセタールモノマーの構造単位」という用語は、以下の繰り返し単位:
【0012】
【化4】
環状ケテンアセタールモノマーの構造単位
(式中、R、R
1、R
2、R
3、R
1’、R
2’、R
3’、及びnは、既に定義した通りである)を含有するポリマー骨格を指す。
【0013】
環状ケテンアセタールモノマーの例としては以下が挙げられる:
【0014】
【化5】
好ましい環状ケテンアセタールモノマーは、2-メチレン-1,3-ジオキセパン(MDO)である。
【0015】
【0016】
環状ケテンアセタールモノマーとアクリル酸とのコポリマーは、多段階で調製される。第1の工程では、環状ケテンアセタールモノマーとt-ブチル(メタ)アクリレート、好ましくはt-ブチルアクリレートとの混合物を、モノマー用の容器(モノマー容器)から反応容器に有機溶媒の存在下で徐々に添加する。同時に、有利にはモノマーに使用するのと同じ有機溶媒で希釈した開始剤を、開始剤用の容器(開始剤容器)から反応容器に徐々に添加する。モノマーと開始剤との混合物を、溶媒及び少量のモノマー(一般に、コポリマーを調製するために使用する全モノマーの10~30重量パーセント程度である)を収容している反応容器に徐々に添加することが望ましい場合がある。
【0017】
好適な有機溶媒としては、酢酸エチルなどの脂肪族エステル;テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンなどのエーテル;ペンタン、ヘキサン、及びイソドデカンなどのアルカン;並びにベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの芳香族溶媒が挙げられる。好適な開始剤の例としては、t-アミルペルオキシピバレート(Trigonox 125-C75開始剤として市販されている)、t-ブチルペルオキシピバレート(Trigonox 25-C75として市販されている)、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート;2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、及びジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)が挙げられる。
【0018】
n-ドデシルメルカプタンなどの連鎖移動剤をモノマー及び開始剤と同時に添加して、中間体及び最終コポリマーの分子量を制御することもできる。
【0019】
反応容器の内容物を、環状ケテンアセタールモノマーとt-ブチル(メタ)アクリレートとの共重合を促進するのに十分な温度、一般に40℃から、又は50℃から150℃まで、又は100℃まで、又は80℃までの範囲に加熱して、環状ケテンアセタールモノマーとtブチル(メタ)アクリレートとの中間体コポリマーの溶液を得る。
【0020】
第2の工程においては、中間体コポリマーを脱保護条件下で反応させて、コポリマーのt-ブチルペンダント基をカルボン酸基又はその塩に変換し、それによって、環状ケテンアセタールモノマーと(メタ)アクリル酸、好ましくはアクリル酸又はその塩とのコポリマーの溶液を形成する。脱保護条件は、中間体コポリマーを、好ましくは-2又は-1から2又は1までの範囲のpKaを有する有機酸と接触させることを含む。脱保護に好適な酸の例としては、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、及びメタンスルホン酸が挙げられる。次いで、溶媒を真空中で除去し、続いて水に溶解させるか、又は溶媒を真空中で除去し、続いて水に溶解させ、凍結乾燥させ、その後水に再溶解させるなどの従来の手段によって、環状ケテンアセタールモノマーとアクリル酸とのコポリマーの有機溶液を、環状ケテンアセタールモノマーとアクリル酸とのコポリマーの水溶液に変換することができる。
【0021】
環状ケテンアセタールモノマーがMDOである場合、MDO-AAコポリマーは、2種類の構造単位のMDOを含むことが見出されており、説明される通り、一方は塩基で処理することによって分解可能であり、他方は塩基で処理することによって容易に分解することはできない。
【0022】
【0023】
コポリマーが本発明の目的に有用であるためには、分解性構造単位である環状ケテンアセタールモノマーを含有していなければならず、非分解性構造単位の形成は望ましくないが、非分解性形態の若干の残留濃度を有することなくコポリマーを調製することは困難であることが証明されている。
【0024】
(メタ)アクリル酸の構造単位の環状ケテンアセタールモノマー(分解性及び非分解性の両方)、好ましくはMDOの合計構造単位に対するモル対モル比は、2:1から、又は3:1から、又は4:1から15:1まで、又は10:1まで、又は8:1まで、7:1までの範囲である。好ましくは、所望のコポリマーのMnは、1500g/モルから20000、又は15000、又は10,000g/モルまでの範囲である。統計的には、ポリマー骨格は、説明される通り、環状ケテンアセタールモノマーの単一の分解性構造単位によって各末端に固定された2~15個の(メタ)アクリル酸の構造単位(好ましくはアクリル酸基の断片)を含むと予測される:
【0025】
【化8】
(式中、R
4は、H又はCH
3、好ましくはHであり、xは、2から、又は3から、又は4から15まで、又は10まで、又は8まで、又は7までの範囲であり、点線は、アクリル酸基の別の断片へのMDOの構造単位の結合を表す)。
【0026】
加速劣化研究において、エステル基は、KOHなどの強塩基で加水分解されて、部分的に、以下の構造を有すると推定されるオリゴマーを含むオリゴマーの分布を与える:
【0027】
【0028】
環状ケテンアセタールモノマーの非分解性構造単位の存在は、以下のオリゴマーに加水分解可能であるコポリマーを形成すると予測される。
【0029】
【0030】
オリゴマーの正確な構造は推測可能であるが、実施例のセクションに詳述される方法によるゲル透過クロマトグラフィーによって測定したときの加水分解されたコポリマーの数平均分子量(Mn)は、144、又は200、又は400、又は500g/モルから1000、又は800、又は750g/モルまでの範囲であることを、より高い信頼度で特定することができる。
【0031】
本発明の組成物は表面上は米国特許第4,923,941号(Bailey)に開示されているが、Baileyの唯一の実施例の手順及びプロトンNMR分光分析を繰り返したところ、Baileyによるデータの解釈が誤っていることが実証され、実際には、開示された実施例によって、MDO及びAAのコポリマーを調製することはできない。
【0032】
Baileyの実施例を記載の通り繰り返し、90℃で30分間反応させた後にアクリル酸ナトリウムとMDOとの反応混合物のプロトンNMRスペクトルを記録した。4.02ppm及び3.52ppmに三重項が観察され、これらはMDOの加水分解生成物である4-ヒドロキシブチルアセテートと一致した。
【0033】
【0034】
単離された生成物のプロトンNMRスペクトルにおいて、同じ共鳴における小さな三重項も観察された。低分子の化学シフトを抑制し、ポリマーに関連する化学シフトのみを明らかにする拡散編集プロトンNMR分光法によって、これらの残留ピークがコポリマーのエステル形成に起因し得ないことが確認された。重要なことに、4ppm付近で化学シフトは観察されず、Baileyが、開示された方法によってAAとMDOとのコポリマーを検出可能なレベルで形成できなかったことが確認された。更に、室温でBaileyによって報告された初期反応条件下では、MDOが(副生成物の中でも特に)4-ヒドロキシブチルアセテートに加水分解されることがプロトンNMR分光法によって更に確認された。
【0035】
同様に、Acta Polymerica Sinica 2012,12,958-964において、Guoは、臭化テトラブチルアンモニウムを含有する水中で不完全に中和されたアクリル酸をMDOと反応させることによって、MDO-AAコポリマーを調製したと主張している。Guoの方法を記載の通り繰り返し、様々な中和度でアクリル酸を使用して追加の実験を行った。Guoによって記載された方法を再現して、Guoによって報告されたものと一致するプロトンNMR分光パターンを得ることはできなかった。対照的に、NMR分光法は、検出可能な量のMDO-AAコポリマーを示さなかった。プロトンNMR及び拡散NMR分光法により、(Guoの結論通り)MDOの構造単位の形成を示すのではなく、むしろ4-ヒドロキシブチルアセテートなどのMDO加水分解生成物に特徴的な、4.0ppmにおける小さく鋭い三重項共鳴が明らかになった。
【0036】
対照的に、本発明のプロセスによって調製され、拡散編集プロトンNMR分光法によって分析されたコポリマーでは、4ppm付近の強く広い化学シフトが明らかになり、これは環状ケテンアセタールモノマーの構造単位を含有するコポリマーの予測されるプロファイルと一致する。本発明のプロセスによって調製される組成物は、生分解性分散剤及びスケール防止剤として有用である。
【実施例】
【0037】
Mnの決定
pH7の水性20mMリン酸緩衝液中約2mg/mLの濃度でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)用の水性試料を調製した。屈折率検出器を備えたWaters UPLCシステムで分離を実施し、同じリン酸緩衝液を移動相として使用した。TOSOH Bioscience TSKgel G2500PWxl 7.8mm ID×30cm、7μmカラム及びTOSOH Bioscience TSKgel GMPWxl 7.8mm ID×30cm、13μmで構成されるAPCカラムセットを使用した。流速を1.0mL/分で維持し、カラム温度を35℃で維持した。216g/mol~1,100,000g/molのピーク分子量(Mp)の狭いpAA標準を用いて結果を較正し、二次較正曲線に当てはめた。標準物質1~15は、American Polymer Standardsから入手し、標準物質16(Mp=216のAAトリマー)は社内で調製した。流量は1.0mL/分であり、カラム温度は35℃で維持した。216g/mol~1100000g/molのピーク分子量(Mp)の狭いpAA標準を用いて結果を較正し、二次較正曲線に当てはめた。Empower Version 3ソフトウェア(Waters Corporation)を使用して、実施例のコポリマーのMnを計算した。
【0038】
16個の標準の保持時間を示すGPC較正表を表1に示す。
【0039】
【0040】
プロトンNMRスペクトル分析
Bruker zg30パルスシーケンスを用いて、5mm BBO CryoProbeを備えたBruker NEO 600MHz分光計を使用して、プロトンNMRスペクトルを得た。緩和遅延は12秒であった。パルスフィールド勾配NMR分光実験は、勾配パルス長2ms及び遅延時間20msのBruker ledbpgp2s1dパルスシーケンスを使用して行った。
【0041】
実施例1-MDO-AAコポリマーの調製
以下の手順を用いて、約1:4モル:モル比のMDO:AA構造単位でMDOとアクリル酸とのコポリマーを調製した。
【0042】
A.MDO-t-ブチルアクリレートコポリマーの調製(1:4モル:モル比のMDO:t-ブチルアクリレート)
冷却器、撹拌子、熱電対、及び2本のポリエチレン供給管のためのY字型ガラスアダプターを備えた250mLの三つ口丸底フラスコに、酢酸エチル(18.0g)を仕込み、75℃に加熱したOpti-chemホットプレートスターラー上に置いた。N2のブランケットを適用して同伴空気を除去し、撹拌を300rpmに設定した。モノマー容器にt-ブチルアクリレート(24.55g)、MDO(5.45g)、及びn-ドデシルメルカプタン(0.90g)を仕込み、開始剤容器に7.50gの酢酸エチル(7.50g)中Trigonox 125-C75開始剤(0.40g、ミネラルスピリット中75%活性物質)を仕込んだ。モノマー容器の内容物の一部(6.18g)を2分間かけて反応フラスコに添加した。数分後、開始剤容器の内容物及びモノマー容器の残りの添加が90分で完了するように、モノマー容器の内容物の残り及び開始剤容器の内容物をそれぞれ0.275g/分及び0.088g/分の速度で反応フラスコに計量供給した。モノマー容器を酢酸エチル(4.50g)ですすぎ、これを反応フラスコに添加した。15分後、酢酸エチル(2.25g)中Trigonox 125-C75開始剤の一部(0.60g)を30分かけて反応フラスコに計量供給し、続いて15分間保持し、続いて同量の開始剤の2回目の添加を同様に30分かけて反応フラスコに計量供給した。反応フラスコの内容物の加熱及び撹拌を更に30分間継続し、その後、反応物を室温に冷却した。得られたコポリマーを、更に精製することなく保存のためにガラス容器に移した。固形分含有量は、41.42重量%であることが判明した。プロトンNMR分光法によって、t-ブチルアクリレート及びMDOの転化率はいずれも定量的であると判定された。
【0043】
B.MDO-t-ブチルアクリレートコポリマーの脱保護
パートAから調製したコポリマーの一部(5.0g)を、撹拌子を備えた1オンスのガラスバイアルに移した。揮発分を真空蒸留によって除去し、その後、乾燥したポリマーを塩化メチレン(CH2Cl2-、8.0g)に再溶解させた。トリフルオロ酢酸(TFA、4.4g)をバイアルの撹拌内容物に滴下した。添加完了後、バイアルに蓋をし、反応混合物を周囲温度で18時間撹拌した。わずかに黄色の不透明な混合物が得られた。
【0044】
揮発性物質を真空中で除去し、次いで無水テトラヒドロフラン(THF、5.0g)を添加して反応混合物を再溶解させた。揮発性物質をもう一度真空中で除去し、得られた粗生成物(2.68g)を脱イオン水(10.26g)に溶解させ、1N NaOH溶液(5.73g)で中和して、pH5.86の透明な溶液を得た。中和されたポリマーを、分子量カットオフ(MWCO)100~500g/molの透析チューブ内で脱イオン水に対して透析して、低分子不純物を除去した。透析した溶液を凍結乾燥して、ふわふわした白色ポリマーを最終生成物として得た。上述のGPCによる生成物のMnは2060g/molであった(多分散性4.66)。プロトンNMR分光法を使用して、エステル含有量は18重量%であることが判明し、ポリマー骨格中のエステル保持は80重量%であることが判明し、骨格中の残留t-ブチル基は3重量%であることが判明した。
【0045】
実施例2-MDO-AAコポリマーの調製
実施例2のMDO-AAコポリマーを調製するために使用した手順は、パートAについて、t-ブチルアクリレート(26.62g)、及びMDO(3.38g)、及びn-ドデシルメルカプタン(0.34g)の量を変更して、最終的にMDO:AAのモル:モル比が約1:7であり、Mnが4080g/molである(多分散性4.61)MDO-AAコポリマーを生成したことを除いて、実施例1のMDO-AAコポリマーの調製について記載した手順と実質的に同じであった。
【0046】
生分解シミュレーション
実施例1AのMDO-t-ブチルアクリレートコポリマーを徹底的な加水分解に供して、以下のようにMDO-AAコポリマーの生分解可能能力をシミュレートした。23mLのPTFEカップを備えた汎用酸消化Parrボンベに、4~5個のKOHペレット、約ポリマー溶液(1g、固形分約40重量%)、及びエタノール(10g)を仕込んだ。ボンベをしっかり密封し、150℃のオーブンに移し、3日間平衡化した。ボンベをオーブンから取り出し、周囲温度まで冷却した。ボンベを分解すると、液体部分及び固体部分の存在が明らかになった。液体部分を分離して廃棄し、固体部分を約5gの水で希釈した。得られたポリマー溶液を上記のGPCによって分析したところ、加水分解されたポリマーのMnは677g/モルであることが判明した。加水分解研究によって、有用なMDO-AAコポリマーから生分解性オリゴマーへの分子量の劇的な減少が予測される。
【国際調査報告】