(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】乳様生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241024BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20241024BHJP
C12M 3/02 20060101ALI20241024BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20241024BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20241024BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241024BHJP
C07K 14/78 20060101ALN20241024BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20241024BHJP
C07K 14/50 20060101ALN20241024BHJP
C07K 14/62 20060101ALN20241024BHJP
C07K 14/79 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
C12Q1/6876 Z
C12M3/02
A61K35/545
A61P3/02
A61P43/00
C07K14/78
C07K14/47
C07K14/50
C07K14/62
C07K14/79
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524421
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2022080088
(87)【国際公開番号】W WO2023073107
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】マルケス ド リマ, マリア
(72)【発明者】
【氏名】バッハマン, ヴィルジニー
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキ, アリアナ
(72)【発明者】
【氏名】マシンチアン, オミッド
(72)【発明者】
【氏名】クラウス, マリン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA21
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4B029CC01
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4B065CA46
4C087AA01
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4C087ZC51
4C087ZC80
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA61
4H045CA40
4H045DA37
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA72
(57)【要約】
乳腺細胞の製造方法、及び哺乳動物乳様生成物、例えばヒト乳様生成物の製造方法であって、哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)に由来する、例えば、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来するラクトサイトを生成するステップ、及び哺乳動物乳様生成物、例えばヒト乳様生成物をラクトサイトから発現させるステップを含む、方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳腺細胞集団の製造方法であって、
i)骨形成タンパク質4(BMP4)を含む培養培地中で哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)を培養して、胚様体(EB)を生成するステップ、及び
ii)前記EBを成長させて、乳腺細胞集団を生成するステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記培養ステップi)が、前記miPSCを、MammoCult培地及びBMP4中、三次元懸濁培養系において、例えば三次元懸濁条件において培養して、それによって前記iPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させることを、任意に少なくとも12日間行うステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記成長ステップii)が、前記形成されたEBを、三次元包埋系中で、例えば、マトリゲル及び/又はコラーゲンIなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル中で、少なくとも30日間、例えば32日間にわたって、成長させて、ラクトサイトを生成するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記乳腺細胞が、ヒト乳腺細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
BMP4が、0日目~10日目の間、好ましくは0日目~3日目の間に前記培養培地に添加され、0日目は、前記iPSCが前記培養培地に初めて添加される時点である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
BMP4が、3日間にわたって前記培養培地に添加される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
BMP4が、5~20ng/mL、好ましくは5ng/mL、10ng/mL、又は20ng/mLの濃度で前記培養培地に添加される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記EBが、任意にEpCAM、CD49f、MUC1、及びGATA3から選択される、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記EBでは、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける前記乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現レベルと比較して増加している、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記EBの少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、又は80%以上が、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現し、任意にEBの少なくとも50%が、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現し、任意にEBの少なくとも15%が、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現し、任意にEBの少なくとも20%が、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現し、及び/又は任意にEBの少なくとも15%が、GATA3乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記EBが、任意にTFAP2A及びTFAP2Cから選択される、1つ以上の非神経性外胚葉マーカーを発現する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記EBでは、1つ以上の非神経性外胚葉マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける前記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも2倍増加しており、任意に少なくとも3~15倍増加している、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記EBでは、1つ以上の神経性外胚葉マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける前記神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも0.5倍に減少しており、任意に、前記神経性外胚葉マーカーが、PAX6、OXT2、及びSOX11から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記EBが、1つ以上の乳特異的生物活性マーカー、任意にオステオポンチン(OPN)を発現する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記EBでは、OPNの発現が、BMP4で処理されていないEBにおけるOPNの発現レベルと比較して少なくとも2倍増加しており、任意に少なくとも4~18倍増加している、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記乳腺細胞が、ラクトサイト乳腺様腺オルガノイドを形成する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記乳腺細胞が、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して乳特異的生物活性マーカーの発現の増加を生じ、任意に、前記乳腺細胞が、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して乳特異的生物活性マーカーの発現の少なくとも2倍の増加を生じ、任意に、前記マーカーが、エストロゲン関連受容体アルファ(ESRRA)、ケラチン14(KRT14)、及びMUC1から選択される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
分化プロトコルにおいて哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)の乳腺前駆細胞への分化効率を増加させるためのBMP4の使用。
【請求項19】
哺乳動物乳様生成物の製造方法であって、
C)哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)由来のラクトサイト乳腺様腺オルガノイドを生成するステップ、
D)前記ラクトサイトから前記哺乳動物乳様生成物を分泌させるステップ、
を含み、ステップA)が、BMP4を含む培養培地中で前記miPSCを培養するステップを含む、方法。
【請求項20】
ヒト乳様生成物を製造するための方法であって、
ステップA)が、
i)hiPSCを、BMP4を含む適切な培養培地中、例えば、MammoCult培地及びBMP4中、適切な三次元培養系において、例えば三次元懸濁条件において、少なくとも12日間にわたって培養することによって、前記hiPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させるステップ、及び
ii)前記形成されたmEB(マンモスフェア)を、適切な三次元包埋系中で、例えば、マトリゲル及び/又はコラーゲンIなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル中で、少なくとも30日間、例えば32日間にわたって成長させて、ラクトサイトを生成するステップ、
を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ステップA)i)が、以下:
i)DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、ナトリウムセレン、FGF2、インスリン、NaHCO
3及びトランスフェリン、TGFβ1又はNODALを含む標準iPSC培地E8中、又は培地mTeSR(商標)中で、2日間にわたってインキュベートすることによるhiPSCからの胚様体(EB)の生成と、前記基礎培地、増殖サプリメントを含み、BMP4、ヘパリン、及びヒドロコルチゾンが添加された完全MammoCult培地中で10日間にわたってEBをインキュベートすることによる、非神経性外胚葉細胞に非常に富んだmEB(マンモスフェア)の製造と、のステップとして定義され、並びに
ステップA)ii)が、さらなるサブステップに区別され、かつ以下のステップ:ii)、iii)、及びiv):
ii)mEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント及び上皮小体ホルモン(pTHrP)を添加した完全EpiCultB培地中で5日間にわたってインキュベートするステップ、
iii)EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGFを添加したEpiCultB培地中で20日間にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートすることにより分枝及び腺房分化並びに乳腺細胞特異化を促進するステップ、並びに
iv)EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FBS、プロラクチン、プロゲステロン、及びβ-エストラジオールを添加したEpiCultB培地中で7日間にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートすることにより乳タンパク質発現を誘導するステップ、
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ステップA)i)が、以下:
i)DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、ナトリウムセレン、FGF2、インスリン、NaHCO
3及びトランスフェリン、TGFβ1又はNODALを含む標準iPSC培地E8中で2日間にわたってインキュベートすることによる、hiPSCからの胚様体(EB)の生成と、EBを、MammoCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、ヘパリン、及びBMP4を添加したMammoCultB培地中で10日間にわたってインキュベートすることによる非神経性外胚葉細胞に非常に富んだmEB(マンモスフェア)の製造と、のステップとして定義され、並びにステップA)ii)が、さらなるサブステップに区別され、かつ以下のステップ:ii)、iii)、及びiv):
ii)形成された前記mEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント及び上皮小体ホルモン(pTHrP)を添加したEpiCultB培地中に浮遊させたマトリゲル及びコラーゲンIの混合物中に5日間にわたって包埋するステップ、
iii)包埋されたmEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGFを添加したEpiCultB培地中で20日間にわたってインキュベートすることにより分枝及び腺房分化並びに乳腺細胞特異化を促進するステップ、並びに
iv)mEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FBS、プロラクチン、プロゲステロン、及びβ-エストラジオールを添加したEpiCultB培地中で7日間にわたってインキュベートすることにより乳タンパク質発現を誘導するステップ、
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
ステップA)が、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法を含む、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
ステップA)が、三次元懸濁培養条件で行われる、請求項19又は23に記載の方法。
【請求項25】
請求項19~24のいずれか一項に記載の方法に従って得ることができるヒト乳様生成物。
【請求項26】
治療に使用するための、請求項25に記載のヒト乳様生成物。
【請求項27】
請求項25に記載のヒト乳様生成物の、ヒト乳代替物としての、任意に母乳代替物としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳腺細胞の製造方法に関する。本発明はまた、哺乳動物乳様生成物、例えば、ヒト乳様生成物(product)のインビトロでの製造方法であって、哺乳動物人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来する、例えば、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来するラクトサイトを培養及び分化によって生成すること、及び/又はかかるラクトサイトを含む乳腺様腺オルガノイドを生成すること、並びに哺乳動物乳様生成物、例えばヒト乳様生成物をかかるラクトサイト及び/又は乳腺様腺オルガノイドから発現させることを含む、方法に関する。本発明はまた、哺乳動物乳様生成物、例えば、かかる方法から得ることができるヒト乳様生成物に関する。
【0002】
[背景技術]
哺乳動物の乳、特にヒトの乳は、多数の成分を含む複雑な体液であり、その成分のそれぞれは、乳児及びおそらく母体の健康に実質的に寄与し得る。少なくとも6ヶ月齢まではヒト母乳が最も適切な栄養源であることが次第に明らかになってきている。ヒト乳の多くの成分は、乳児用フォーミュラの製造の基礎となる牛乳中には全く見られないか、ほとんど見られないか、又は活性が低い。このような成分には、例えばタンパク質ラクトフェリン、増殖/成長因子、長鎖多価不飽和脂肪酸又はオリゴ糖が含まれる。ヒト乳組成物は、現在の乳児用フォーミュラを開発するためのゴールドスタンダードとして使用されているが、乳児用フォーミュラ組成物における最近の主要な開発にもかかわらず、現在の製造プロセスでヒト乳の複製物が達成されると考えることは非現実的である。
【0003】
今日、ヒト乳の唯一の供給源は、ヒトドナー(授乳中の母親)である。献乳は、非商業的使用(ヒト乳バイオバンク)及び商業的使用について報告されている。しかしながら、献乳は限られており、強い規制、安全性、及び時には倫理的又は宗教的制約を伴う。
【0004】
哺乳動物の乳、特にヒト乳中には幹細胞が見出されており、ヒト母乳幹細胞(HBsC)と呼ばれている。hBSCは、高度に可塑性であり、培養において複数の細胞種に分化し、より重要なことには、ヒト乳腺の小葉-腺房(lobulo-alveolar)構造を形成するのに必要な3つの系統に分化することが示されている(Hassiotou F.et al.Stem Cells.2012)。しかしながら、ヒト母乳を生産させるためのhBSCの使用は、ヒトドナーを必要とするため、実用的でもなく、持続可能でもない。
【0005】
人工多能性幹細胞(iPSC)と呼ばれる、幹細胞機能を有する細胞株をベースとした技術が知られている。ヒトiPSC(hiPSC)からヒト乳腺様オルガノイド(mammary like organoids)を生成するための信頼できる2ステッププロトコルが開発されている(Ying Qu et al,Stem Cell Report vol 8,205-215,February 14th,2017)。
【0006】
したがって、本発明の目的は、乳腺細胞の製造方法を改善すること、及び培養細胞において、哺乳動物乳、例えばヒト乳の発現を再現することである。本発明の目的はまた、レシピエントの特定のニーズに適合させることができる培養細胞において、カスタマイズされた哺乳動物乳様生成物、例えばヒト乳様生成物を製造すること、及び/又は乳幼児期栄養のための既存のウシベースの解決策を補完するためのヒト乳生物活性物質を製造することである。
【0007】
[発明の概要]
本発明は、上記の技術的課題を解決する。
本明細書では、乳腺細胞集団の製造方法が提供され、該方法は、
i)骨形成タンパク質4(BMP4)を含む培養培地中で哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)を培養して、胚様体(EB)を生成するステップ、及び
ii)EBを成長させて、乳腺細胞の集団を生成するステップ、
を含む。
【0008】
また、本明細書では、分化プロトコルにおいて哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)の乳腺前駆細胞への分化効率を増加させるためのBMP4の使用も提供される。
【0009】
本明細書では更に、哺乳動物乳様生成物の製造方法が提供され、該方法は、
A)哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)由来のラクトサイト乳腺様腺オルガノイドを生成するステップ、
B)上記ラクトサイトから哺乳動物乳様生成物を分泌させるステップ、
を含み、ステップA)は、BMP4を含む培養培地中でmiPSCを培養するステップを含む。
【0010】
本明細書中に記載される方法に従って得ることができるヒト乳様生成物も、本明細書において更に提供される。
【0011】
本明細書では更に、治療に使用するためのヒト乳様生成物も提供される。
【0012】
最後に、本明細書中に記載されるヒト乳様生成物の、ヒト乳代替物としての使用、任意に母乳栄養代替物としての使用が、本明細書において提供される。
【0013】
[発明を実施するための形態]
定義
本発明の文脈において、「インビトロ」という用語は、試験管、培養皿、バイオリアクター又は生きている生物の体外の任意の場所で行われるか又は生じることを意味する。
【0014】
本発明の文脈において、「哺乳動物」という用語は、哺乳動物種、例えばヒト、ウシ、サル、ラクダ、ヒツジ、ヤギなどに属する動物を指す。
【0015】
本発明の文脈において、「ラクトサイト」又は「乳腺様細胞」という用語は、CK18細胞マーカーを発現し、かつ哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)に由来する、特にヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来する、分泌上皮細胞を指す。本明細書で使用されるヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)は、市販されており、任意の適切なhiPSC株から選択されてよい。本発明の文脈における適切なヒト人工多能性幹細胞株は、例えば、本発明に従って使用される、Fujifilm Cellular Dynamics,Inc(FCDI)から市販されているhiPSC株603である。更に、適切なhiPSCは、例えば、Ying Qu et al.,(2017,上記)に記載されているように選択されてもよい。本発明の一実施形態では、hiPSCは、改変されていない(not engineered)。一実施形態では、hiPSCは、外因性核酸を含むように及び/又は外因性核酸を含む誘導性遺伝子発現系を含むようには改変されていない。ここでいう誘導性遺伝子発現系は、ホルモン又はシグナル伝達因子を発現するように構成されている。一実施形態では、外因性核酸及び/又は外因性核酸を含む誘導性遺伝子発現系が、ラクトサイトへの細胞分化を促進している。
【0016】
本発明の文脈において、「乳腺様(mammary gland like)オルガノイド」又は「乳腺様(mammary like)オルガノイド」という用語は、二次元又は三次元(2D/3D)で発達し、上記で定義されたようなラクトサイトを含む、乳腺のミニチュア化及び単純化されたバージョンを意味する。
【0017】
本発明の文脈において、「ヒト乳様生成物」という用語は、細胞培養した乳生成物である。かかる生成物は、本発明の方法に従って生成されたラクトサイト及び/又は乳腺様オルガノイドによって発現される食用生成物である。
【0018】
本発明による「ヒト乳様生成物」は、栄養状態の良好な母親のヒト母乳と同じ成分(例えば、生物活性物質、多量栄養素及び微量栄養素並びにそれらのレベルの観点による)を有することができる。これを本明細書では「標準ヒト乳生成物」と称する。別の選択肢として、本発明による「ヒト乳様生成物」は、栄養状態の良好な母親のヒト母乳中に天然に見出される成分の比率及び濃度とは変えることができる。これを本明細書では「非標準乳様生成物」と称する。本発明による「ヒト乳様生成物」は、栄養状態の良好な母親のヒト母乳中に天然には見出されない成分を含むように調整することができる(「調整(modified)乳様生成物」)。ヒト乳様生成物の非限定的な例は、サプリメント、強化剤、ヒト母乳代替物(又は代用物)、ならびに生物活性物質の1つ及び/又は一部のみが富化された原材料、栄養状態の良好な母親のヒト母乳に典型的に見出すことができる多量栄養素及び微量栄養素からなる群から選択される。
【0019】
「ヒト乳様生成物」は、天然に分泌される乳を摂取する代わりに使用することができる(「ヒト乳代替物」)。乳代替生成物は、天然に分泌された乳と組み合わせて摂取されるサプリメント(「ヒト乳サプリメント」)又は強化剤(「ヒト乳強化剤」)として使用することができる。
【0020】
一実施形態では、本発明による標準ヒト乳様生成物は、少なくとも、栄養状態の良好な母親のヒト母乳中に典型的に見出すことができる多量栄養素及び微量栄養素を含む。一実施形態では、本発明による標準ヒト乳様生成物は、タンパク質、ペプチド、脂質(リノール酸及びα-リノレン酸を含む)、炭水化物、ビタミン(ビタミンA、ビタミンD3、ビタミンE、ビタミンK、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、パントテン酸、葉酸、ビタミンC、及びビオチンを含む)、ミネラル(鉄、カルシウム、リン、マグネシウム、ナトリウム、塩化物、カリウム、マンガン、ヨウ素、セレン、銅、及び亜鉛を含む)、コリン、ミオイノシトール、及びL-カルニチンを含む。一実施形態では、本発明による標準ヒト乳様生成物は、増殖/成長因子、サイトカイン、プロバイオティクス、細胞外小胞(例えば、乳脂肪球及び/又はエキソソーム)、エキソソーム由来の生物活性物質(例えば、miRNA)、及び分泌型IgAからなる群から選択される少なくとも1つの生物活性物質も含む。本発明による標準ヒト乳様生成物は、自然に発生するヒト母乳生成物ではない。
【0021】
別の実施形態では、本発明によるヒト乳様生成物は、該生成物を摂取する乳児の具体的なニーズに適合させることができる。本発明によるヒト乳様生成物は、栄養状態の良好な母親のヒト母乳中に典型的に見出され得る、生物活性物質、多量栄養素及び微量栄養素のうちの1つのみ及び/又は一部を含み得る。かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、「非標準ヒト乳様生成物」という用語で称されることもある。一実施形態では、本発明による非標準ヒト乳様生成物は、タンパク質、ペプチド、脂質(リノール酸及びα-リノレン酸を含む)、炭水化物(ヒト乳オリゴ糖を含む)、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンD3、ビタミンE、ビタミンK、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、パントテン酸、葉酸、ビタミンC及びビオチンを含む)、ミネラル(鉄、カルシウム、リン、マグネシウム、ナトリウム、塩化物、カリウム、マンガン、ヨウ素、セレン、銅及び亜鉛を含む)、コリン、ミオイノシトール、L-カルニチン、増殖/成長因子、サイトカイン、プロバイオティクス、細胞外小胞(例えば、乳脂肪球及び/又はエキソソーム)、エキソソーム由来の生物活性物質(例えば、miRNA)及び分泌型IgAからなる群から選択される栄養素又は生物活性物質のうち1つ以上を含む。
【0022】
本発明の文脈において、「無調整ヒト乳様生成物」という用語は、ラクトサイトによって、及び/又は本発明の方法のステップA)及びステップB)に従って生成された乳腺様オルガノイドによって発現され、本発明の方法の任意のステップC)によるさらなる処理に供されていない、ヒト乳様生成物を示す。無調整ヒト乳様生成物は、標準及び非標準ヒト乳様生成物の両方を含み得る。非標準ヒト乳様生成物の非限定的な例は、サプリメント、強化剤、ならびに栄養状態の良好な母親のヒト母乳に典型的に見出され得る、生物活性物質、多量栄養素及び微量栄養素のうちの1つのみ及び/又は一部に富んだ原材料からなる群から選択される。
【0023】
本発明の文脈において、「調整ヒト乳様生成物」という用語は、ラクトサイトによって、及び/又は本発明の方法のステップA)及びステップB)に従って生成された乳腺様オルガノイドによって発現され、本発明の方法の任意のステップC)によるさらなる処理に供されている、ヒト乳様生成物を示す。
【0024】
調整ヒト乳様生成物は、標準及び非標準ヒト乳様生成物の両方を含み得る。
【0025】
本発明の文脈において、「EB」という用語は、「胚様体」を意味する。
【0026】
本発明の文脈において、「mEB」という用語は、「MammoCult培地で培養された胚様体」を意味する。
【0027】
MammoCult培地は、基礎培地、少なくとも1種類の増殖サプリメント、ヘパリン及びヒドロコルチゾンを含む、無血清培養培地を指す。
【0028】
本発明の文脈において、「胚様体(EB)」、「MammoCult培地で培養された胚様体(mEB)」、「マンモスフェア」、及び/又は「スフェロイド」という用語は、本発明の方法のステップA)下で多能性幹細胞(PSC)によって懸濁状態で形成された三次元凝集体を指す。
【0029】
本発明の文脈における「乳児」という用語は、12ヶ月齢未満、例えば9ヶ月齢未満、特に6ヶ月齢未満の小児を指す。
【0030】
本発明の文脈において、乳児は、正期産児又は早期産児のいずれかであり得る。本発明の一実施形態では、乳児は、早期産児及び正期産児の群から選択される。
【0031】
用語「正期産児」は、正期産又は37週以上の在胎齢で生まれた乳児を指す。
【0032】
用語「早期産児」は、37週未満の在胎齢で生まれた乳児を指す。
【0033】
本発明の文脈において、「出生時体重」という用語は、出生後に胎児又は新生児が獲得していた最初の体重を意味する。
【0034】
本発明の文脈において、「低出生体重」という用語は、2500g未満(2499g以下)の出生時体重を意味する。
【0035】
本発明の文脈において、「極低出生時体重」という用語は、1500g未満(1499g以下)の出生時体重を意味する。
【0036】
本発明の文脈において、「超低出生時体重」という用語は、1000g未満(999g以下)の出生時体重を意味する。
【0037】
用語「在胎不当過小児」は、在胎期間別成長チャート(gestational growth chart)の出生時体重に対する平均基準よりも2標準偏差を超えて低い出生時体重を有する乳児、又は同じ在胎齢の乳児から得られた集団ベースの体重データの10thパーセンタイル未満の出生時体重を有する乳児を指す。「在胎不当過小児」という用語には、構成的もしくは遺伝的起源のいずれかから、又は子宮内発育遅延の結果として、出生時に小さい乳児が含まれる。
【0038】
本発明の文脈において、「幼児(young children)」又は「低年齢の小児(toddler)」という用語は、1~3歳の小児を示す。
【0039】
本明細書で使用される「乳児用フォーミュラ」という用語は、乳児を対象とし、Codex Alimentarius、(Codex STAN 72-1981)、及びCodex Alimentarius、(Codex STAN 72-1981)に定義されている乳児用特別用途食品(特別医療目的用食品を含む)に定義されている栄養組成物を指す。乳児用フォーミュラはまた、出生後1ケ月の間の乳児の特定の栄養補給用途を意図する食品であって、当該フォーミュラそのものによって、このカテゴリーに該当する乳児の栄養要件(乳児用フォーミュラ及びフォローオンフォーミュラに対する、Article 2(c)of the European Commission Directive 91/321/EEC 2006/141/EC of 22 December 2006)を満たす、食品を指す。乳児用フォーミュラは、スターター乳児用フォーミュラ及びフォローアップフォーミュラ又はフォローオンフォーミュラを包含する。一般に、スターターフォーミュラは、出生時からの乳児のための母乳代替物であり、フォローアップフォーミュラ又はフォローオンフォーミュラは6ヶ月以降である。
【0040】
「グローイングアップミルク」(又はGUM)は、1年目以降から与えられる。このミルクは、概して、特に小児の栄養必要量に合わせて調整された乳系飲料である。かかる飲料は、他の食品と組み合わせて12ヶ月から2~3歳の小児に与えるために使用される栄養組成物である。
【0041】
本発明の文脈において、「強化剤」という用語は、乳児又は幼児に対して栄養上の利益を有する1つ以上の栄養素を含む組成物を指す。
【0042】
「乳強化剤」という用語は、ヒト母乳、乳児用フォーミュラ、グローイングアップミルク、又は他の栄養素で強化されたヒト母乳のいずれかを強化又は補充するために使用される任意の組成物を意味する。したがって、本発明のヒト乳強化剤は、ヒト母乳、乳児用フォーミュラ、グローイングアップミルク、又は他の栄養素で強化されたヒト母乳に溶解させた後に投与することができ、あるいは独立した組成物として投与することができる。
【0043】
独立した組成物として投与される場合、本発明のヒト乳強化剤は、「サプリメント」であると特定することもできる。一実施形態では、本発明の乳強化剤はサプリメントである。
【0044】
「ヒト乳強化剤」という用語は、ヒト母乳、又は他の栄養素で強化されたヒト母乳を強化又は補充するために使用される任意の組成物を意味する。本発明による「ヒト乳強化剤」は、極低出生時体重(very low birth weight、VLBW)又は超低出生時体重(extremely low birth weight、ELBW)を有する早産で生まれた乳児に投与されることが意図され得る。
【0045】
本発明による乳強化剤は、液体形態の粉末であってもよい。
【0046】
液体形態を有する乳強化剤組成物は、いくつかの特定の利点を示す。例えば、液体製剤は、特定の重量又は体積の較正された液滴を送達する包装と組み合わせられる場合、より便利であり得る。
【0047】
更に、液体製剤は強化される組成物と混合するのがより容易であるが、粉末製剤は場合によっては塊を形成することがある。
【0048】
本発明の文脈において、「哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)の乳腺前駆細胞への分化効率及び成熟を増加させる」という用語は、分化プロトコルを経たmiPSCの出発集団から生成された非乳腺前駆細胞と比較して乳腺前駆細胞の割合を増加させることを意味する。本発明において、上記分化プロトコルは、BMP4の使用を含む。したがって、乳腺前駆細胞の割合の上記増加は、BMP4の使用を含まないがそれ以外の点では同じである分化プロトコルを経たmiPSCの出発集団から生成された、非乳腺前駆細胞に対する乳腺前駆細胞の割合と比較され得る。
【0049】
本発明の文脈において、「乳腺前駆細胞」という用語又は類似の用語は、少なくとも2つの乳腺前駆細胞マーカーを発現する細胞を意味する。上記マーカーとしては、CD49f、EpCAM、MUC1、及びGATA3が挙げられるが、これらに限定されない。逆に、本発明の文脈において、「非乳腺前駆細胞」という用語又は類似の用語は、少なくとも2つの乳腺前駆細胞マーカーを発現しない細胞を意味する。
【0050】
本明細書におけるEpiCult培地又はEpiCultB培地への言及は、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10及びHGFを含む無血清培養培地を指す。
【0051】
本明細書中に開示される培養培地は、微生物の成長及び分化を支援するように設計された、必須栄養素を含む固体、半固体又は液体を指す。MammoCult培地は、本発明において使用され得る培養培地の一例である。
【0052】
本発明による方法及び使用
哺乳動物乳腺細胞の製造
本発明は、特定の条件下で培養され、分化したiPSCを用いた、乳腺細胞の製造方法に関する。
【0053】
驚くべきことに、本明細書中に記載される方法における骨形成タンパク質4(BMP4)の添加は、非神経性外胚葉前駆細胞の割合を増加させ、かつ神経性外胚葉前駆細胞の割合を減少させることによって、非神経性外胚葉前駆細胞のより均質な混合物を提供することが、本発明において実証された。
【0054】
また、本明細書中に記載される方法におけるBMP4の添加は、iPSCの乳腺前駆細胞への分化効率を増加させ、したがって、本明細書中に記載される方法によって製造された乳腺前駆細胞の数を増加させることも本発明において実証された。この利点としては、乳腺細胞の収率がより高いことが挙げられる。
【0055】
したがって、本発明は、乳腺細胞集団の製造方法を提供し、該方法は、
i)骨形成タンパク質4(BMP4)を含む培養培地中で哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)を培養して、胚様体(EB)を生成するステップ、及び
ii)EBを成長させて、乳腺細胞の集団を生成するステップ、
を含む。
【0056】
本発明はまた、分化プロトコルにおいて哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)の乳腺前駆細胞への分化効率を増加させるためのBMP4の使用も提供する。
【0057】
いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、ヒト乳腺細胞である。いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、ラクトサイト乳腺様腺オルガノイドを形成する。上記ラクトサイト乳腺様腺オルガノイドは、泌乳性である、すなわち、乳を産生することができる。
【0058】
BMP4は、本明細書中に記載される分化方法の初期段階において培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、0日目~10日目の間に培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、0日目~3日目の間に培養培地に添加される。0日目は、iPSCが培養培地に初めて添加される時点、すなわち、iPSCが初めて分化誘導される時点である。
【0059】
いくつかの実施形態では、BMP4は、3日間にわたって培養培地に添加される。
【0060】
いくつかの実施形態では、BMP4は、5~20ng/mLの濃度で培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、5ng/mLの濃度で培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、10ng/mLの濃度で培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、20ng/mLの濃度で培養培地に添加される。
【0061】
いくつかの実施形態では、BMP4は、0日目~3日目の間に、5~20ng/mLの濃度で培養培地に添加される。
【0062】
本明細書中に記載される方法で生成されたEBは、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、上記1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーは、EpCAM、CD49f、MUC1、及びGATA3から選択される。
【0063】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現レベルが、BMP4で処理されていないEBにおける上記乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現と比較して増加している。
【0064】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、又は80%以上が、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、EBの少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、又は80%以上が、2つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、上記乳腺陽性前駆細胞マーカーは、EpCAM、CD49f、MUC1、及びGATA3から選択される。
【0065】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも50%は、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも5ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも50%は、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、EBの少なくとも75%は、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも75%は、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。
【0066】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも15%は、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも5ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも15%は、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、EBの少なくとも20%は、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも20%は、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。
【0067】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも20%は、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも5ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも20%は、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、EBの少なくとも35%は、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも35%は、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。
【0068】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも15%は、GATA3乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも15%は、GATA3乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。
【0069】
EBはまた、非神経性外胚葉マーカーも発現し、それによって、非神経系統への富化を示す。いくつかの実施形態では、上記1つ以上の非神経性外胚葉マーカーは、TFAP2A及びTFAP2Cから選択される。
【0070】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の非神経性外胚葉マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも2倍増加している。
【0071】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の非神経性外胚葉マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも3~15倍増加している。
【0072】
いくつかの実施形態では、EBは、非神経性外胚葉マーカーTFAP2Aの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも2倍増加している。いくつかの実施形態では、EBは、非神経性外胚葉マーカーTFAP2Cの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも2倍増加している。
【0073】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の神経性外胚葉マーカーの発現が減少している。いくつかの実施形態では、上記1つ以上の神経性外胚葉マーカーは、PAX6、OTX2、及びSOX11から選択される。
【0074】
したがって、本明細書中に記載される方法は、細胞集団中に存在する細胞のタイプに関して、より均質な細胞集団を提供し、すなわち細胞集団は、非神経性外胚葉系統細胞の、より均質な集団を含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の神経性外胚葉マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも0.5倍に減少しており、すなわち、これらのマーカーの発現レベルは、半分に低減される。いくつかの実施形態では、上記神経性外胚葉マーカーは、PAX6、OXT2、及びSOX11から選択される。
【0076】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の乳特異的生物活性マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、上記乳特異的生物活性マーカーは、オステオポンチン(OPN)である。
【0077】
いくつかの実施形態では、EBは、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現の発現レベルと比較して、1つ以上の乳特異的生物活性マーカーが増加している。
【0078】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の乳特異的生物活性マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも2倍増加している。
【0079】
いくつかの実施形態では、EBは、OPNの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも2倍増加している。いくつかの実施形態では、BMP4は、5~20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBは、OPNの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも2倍増加している。
【0080】
いくつかの実施形態では、EBは、OPNの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも4倍増加している。
【0081】
いくつかの実施形態において、EBは、OPNの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも18倍増加している。
【0082】
いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、乳特異的生物活性マーカーの発現の増加を生じる。いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、乳特異的生物活性マーカーの発現における少なくとも2倍の増加を生じる。いくつかの実施形態では、上記マーカーは、エストロゲン関連受容体α(ESRRA)、ケラチン14(KRT14)、及びMUC1から選択される。いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、ESRRAの発現における少なくとも2倍の増加を生じる。いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、KRT14の発現における少なくとも2倍の増加を生じる。いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、MUC1の発現における少なくとも2倍の増加を生じる。
【0083】
本明細書中に記載される乳腺細胞集団の製造方法は、本明細書中に記載される哺乳動物乳様生成物の製造方法に、特に本明細書中に記載されるステップA)の一部として、組み合わされ得る及び/又は用いられ得る。
【0084】
例えば、本明細書中に記載される乳腺細胞集団の製造方法のいくつかの実施形態では、培養ステップi)は、miPSCを、MammoCult培地及びBMP4中、三次元懸濁培養系において、例えば三次元懸濁条件において培養して、それによってiPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させることを、任意に少なくとも12日間行うステップを含む。
【0085】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載される乳腺細胞集団の製造方法のいくつかの実施形態では、成長ステップii)は、形成されたEBを、三次元包埋系中で、例えばマトリゲル及び/又はコラーゲンIなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル中で、少なくとも30日間、例えば32日間にわたって、成長させて、ラクトサイトを生成するステップを含む。
【0086】
本明細書中に記載される乳腺細胞集団の製造方法のいくつかの実施形態では、培養ステップi)は、miPSCを、MammoCult培地及びBMP4中、三次元懸濁培養系において、例えば三次元懸濁条件において培養して、それによってiPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させることを、任意に少なくとも12日間行うステップを含み、並びに成長ステップii)は、形成されたEBを、三次元包埋系中で、例えば、マトリゲル及び/又はコラーゲンIなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル中で、少なくとも30日間、例えば32日間にわたって、成長させて、ラクトサイトを生成するステップを含む。
【0087】
哺乳動物乳様生成物の製造
本発明はまた、本明細書で定義されるステップA)及びB)のいずれか、並びに本明細書で定義される任意に行われるステップC)を含む、本明細書で定義される哺乳動物乳様生成物の製造方法にも関する。本明細書で定義される哺乳動物乳様生成物の上記製造方法はまた、ステップA)の一部として、哺乳動物乳腺細胞の製造方法も含み得る。特に、BMP4は、本明細書で定義される哺乳動物乳様生成物の製造方法のいずれかに、特にステップA)の一部として添加され得る。
【0088】
ステップA hiPSCからのラクトサイト及び/又は乳腺様オルガノイドの生成
本発明の方法によれば、乳腺様細胞及び/又はオルガノイド構造は、ステップA)下で生成される。
【0089】
このような乳腺様細胞及び/又はオルガノイド構造は、iPSCを利用する、報告された方法のいずれに従って生成されてもよい。
【0090】
一実施形態では、このような乳腺様細胞及び/又はオルガノイド構造は、その全体が本明細書に援用されるYing Qu et al.,Stem Cell Reports,Vol.8,205-215に記載の手順に従って生成され得る。
【0091】
より正確には、上述の科学刊行物(以下、「Ying Qu刊行物」又はYing Qu,et al.(2017)とも称する)に記載されている方法は、iPSCからヒト乳腺様細胞及び/又はオルガノイドを生成するための2ステップのプロトコルを表す。
【0092】
かかるプロトコルは、好ましくは、第1のステップ(ステップ1)として、iPSCからの非神経性外胚葉細胞含有スフェア(mEB/マンモスフェア)の分化及び富化、並びに第2のステップ(ステップ2)として、マトリゲル及びコラーゲンIの三次元浮遊混合ゲル培養を使用した10日目のmEB(マンモスフェア)からの乳腺様オルガノイドの生成を含む。
【0093】
ステップ1では、完全MammoCult培地(StemCell Technologies)中でhiPSCを培養することによって、hiPSCからの非神経性外胚葉細胞含有スフェア(mEB/マンモスフェア)の分化及び富化が行われる。完全MammoCult培地は、好ましくは、基礎培地、増殖サプリメント、ヘパリン(典型的には4μg/mL)、及びヒドロコルチゾン(典型的には0.48μg/mL)から構成される。培地は通常3日毎に交換される。次いで、前記ステップで得られたmEB(マンモスフェア)を非神経外胚葉細胞について富化する。
【0094】
いくつかの実施形態では、BMP4は、ステップ1において培養培地に添加される。この添加は、本明細書に記載されるように乳腺前駆細胞の割合を増加させるためである。
【0095】
BMP4は、本明細書中に記載される培養培地に添加される。
【0096】
BMP4は、本明細書中に記載される分化方法の初期段階において培養条件に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、0日目~10日目の間に培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、0日目~3日目の間に培養培地に添加される。0日目は、iPSCが培養培地に初めて添加される時点、すなわち、iPSCが初めて分化誘導される時点である。
【0097】
いくつかの実施形態では、BMP4は、3日間にわたって培養培地に添加される。
【0098】
いくつかの実施形態では、BMP4は、5~20ng/mLの濃度で培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、5ng/mLの濃度で培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、10ng/mLの濃度で培養培地に添加される。いくつかの実施形態では、BMP4は、20ng/mLの濃度で培養培地に添加される。
【0099】
いくつかの実施形態では、BMP4は、0日目~3日目の間に、5~20ng/mLの濃度で培養培地に添加される。
【0100】
ステップ2では、Ying Qu,et al.(2017)のプロトコルに従って、浮遊混合ゲル(例えば、マトリゲル及びコラーゲンI)に基づいた三次元培養物を最初に調製することによって、乳腺様オルガノイドが生成される。次に、10日目のmEB(マンモスフェア)を、上皮小体ホルモン(pTHrP)を添加した完全EpiCultB培地中に浮遊させた混合ゲル中で5日間成長させる。次いで、乳腺様オルガノイド/ラクトサイトの調製のための分枝及び腺房分化の誘導のために、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGFを添加した完全EpiCultB培地で細胞を培養する。乳タンパク質発現は、典型的には、35日目に、BSAを添加した完全EpiCultB培地にプロラクチン、ヒドロコルチゾン、及びインスリンを添加し(乳分泌培地)、5日間培養することにより誘導する。Ying Qu,et al.(2017年)のプロセスは、典型的には40日目に完了する。
【0101】
本発明の一実施形態では、ステップA)下でヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成することを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、かかるステップA)は、
i)iPSCを、適切な培養培地(例えば、MammoCult培地)中でiPSCを培養し、10日後にかかるiPSCから形成されたマンモスフェアを回収することによって、iPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させるステップ、及び
ii)かかるマンモスフェアを適切な系(例えば、Hassiotou F.et al.Stem Cells.2012に記載の浮遊混合ゲル培養系)中で少なくとも10日間成長させて、ラクトサイトを生成するステップ、
を含む。
【0102】
本発明の一実施形態では、ステップA)下でヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成することを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、かかるステップA)は、
i)本明細書中に記載される適切な培養培地(例えば、MammoCult培地)及びBMP4中でPSCを培養し、かかるiPSCから形成されたマンモスフェアを10日後に回収することによって、PSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させるステップ、及び
ii)かかるマンモスフェアを適切な系(例えば、Hassiotou F.et al.Stem Cells.2012に記載の浮遊混合ゲル培養系)中で少なくとも10日間成長させて、ラクトサイトを生成するステップ、
を含む。
【0103】
別の実施形態では、ステップA)下で、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成することを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、かかるステップA)は
i)iPSCを、適切な培養培地(例えば、MammoCult培地)中、マンモスフェア形成のための非接着条件において培養することによって、iPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させるステップ、及び
ii)かかるマンモスフェアを三次元の適切な系(例えば、マトリゲル及び/若しくはコラーゲンなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル、又は非接着性プレート中の懸濁培養物)中で少なくとも10日間成長させて、ラクトサイトを生成するステップ、
を含む。
【0104】
別の実施形態では、ステップA)下で、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成することを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、かかるステップA)は
i)iPSCを、本明細書中に記載される適切な培養培地(例えば、MammoCult培地)及びBMP4中、マンモスフェア形成のための非接着条件において培養することによって、iPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させるステップ、及び
ii)かかるマンモスフェアを三次元の適切な系(例えば、マトリゲル及び/若しくはコラーゲンなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル、又は非接着性プレート中の懸濁培養物)中で少なくとも10日間成長させて、ラクトサイトを生成するステップ、
を含む。
【0105】
一実施形態では、ステップA)下での乳腺細胞の運命決定(mammary commitment)は、特定の因子(例えば、上皮小体ホルモン(pTHrP)、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGF)を添加した条件培地(例えば、EpiCultB)を適用することによって得られる。
【0106】
本発明の一実施形態では、本方法は、ステップA)下で乳腺様オルガノイドを生成するステップを含む。
【0107】
本発明の一実施形態では、ステップA)下で乳腺様オルガノイドを生成する方法は、細胞の二次元単層、EBを付着させた二次元(2D with attached EB)、非接着性プレート中の懸濁液、及び混合浮遊ゲルからなる群から選択される条件下で細胞を培養することを含む。
【0108】
好ましい実施形態では、混合浮遊ゲルは、マトリゲル及びコラーゲンIを含む。
【0109】
別の好ましい実施形態では、ステップA)におけるマンモスフェア(mEB)は、適切な系(例えば、Hassiotou F.et al.Stem Cells.2012に記載の浮遊混合ゲル培養系)中で少なくとも15日間にわたって成長させる。
【0110】
より好ましい実施形態では、ステップA)におけるマンモスフェア(mEB)は、適切な系(例えば、Hassiotou F.et al.Stem Cells.2012に記載の浮遊混合ゲル培養系)中で20日間にわたって成長させる。
【0111】
一実施形態では、本発明による方法は、ステップA)[例えば、ステップA)i)下及び/又はステップA)ii)下]に従う培養条件を提供し、培養条件は、ヒト乳様生成物を分泌することができるヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来するラクトサイトを生成するように調整されている。
【0112】
好ましい実施形態では、ステップA)下でヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成するステップを含むヒト乳様生成物の製造方法が提供され、そのようなステップA)は、hiPSCを、適切な三次元培養系(例えば、三次元懸濁条件)において少なくとも42日間にわたって乳腺細胞(例えば、ラクトサイト)へと分化させるステップを含む。
【0113】
好ましい実施形態では、ステップA)下でヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成するステップを含むヒト乳様生成物の製造方法が提供され、かかるステップA)は、hiPSCを、本明細書中に記載されるBMP4を含む適切な三次元培養系(例えば、三次元懸濁条件)において少なくとも42日間にわたって乳腺細胞(例えば、ラクトサイト)へと分化させるステップを含む。
【0114】
別の好ましい実施形態では、ステップA)下でヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成するステップを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、かかるステップA)は、
i)hiPSCを、適切な培養培地(例えば、MammoCult培地)中、適切な三次元培養系(例えば、三次元懸濁条件)で少なくとも12日間にわたって(-2日目~10日目)培養することによって、hiPSCを非神経外胚葉細胞へと分化させるステップ、及び
ii)形成されたmEB(マンモスフェア)を、適切な三次元包埋系(例えば、マトリゲル及び/又はコラーゲンIなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル)中で少なくとも30日間、好ましくは32日間にわたって、成長させて、ラクトサイトを生成するステップ、
を含む。
【0115】
別の好ましい実施形態では、ステップA)下でヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成するステップを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、かかるステップA)は、
i)hiPSCを、本明細書中に記載される適切な培養培地(例えば、MammoCult培地)及びBMP4中、適切な三次元培養系(例えば、三次元懸濁条件)において少なくとも12日間にわたって(-2日目~10日目)培養することによって、hiPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させるステップ、及び
ii)形成されたmEB(マンモスフェア)を、適切な三次元包埋系(例えば、マトリゲル及び/又はコラーゲンIなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル)中で少なくとも30日間、好ましくは32日間にわたって、成長させて、ラクトサイトを生成するステップ、
を含む。
【0116】
本発明の特に好ましい実施形態では、ステップA)下で、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成するステップを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、ステップA)i)は、以下:
i)標準iPSC培地E8(Chen et al.,Nat Methods,2011に記載のとおり、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、ナトリウムセレン(sodium selenium)、FGF2、インスリン、NaHCO3及びトランスフェリン、TGFβ1又はNODALを含む)中、又はmTeSR(商標)中で、2日間(-2日目~0日目)にわたってインキュベートすることによるhiPSCからの胚様体(EB)の生成と、基礎培地、増殖サプリメントを含み、ヘパリン(典型的には4μg/mL)及びヒドロコルチゾン(典型的には0.48μg/mL)が添加された完全MammoCult培地(StemCell Technologies)中で10日間(0日目~10日目)にわたってEBをインキュベートすることによる非神経性外胚葉細胞に非常に富んだmEB(マンモスフェア)の製造と、のステップとして定義され、並びに
ステップA)ii)は、さらなるサブステップに区別され、かつ以下のステップ:ii)、iii)、及びiv):
ii)EpiCult増殖サプリメント及び上皮小体ホルモン(pTHrP)を添加した完全EpiCultB培地中で5日間(10日目~15日目)にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートするステップ、
iii)EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGFを添加したEpiCultB培地中で20日間(15日目~35日目)にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートすることによる分枝及び腺房分化並びに乳腺細胞特異化を促進するステップ、並びに
iv)EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FBS、プロラクチン、プロゲステロン、及びβ-エストラジオールを添加したEpiCultB培地中で7日間(35日目~42日目)にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートすることによる乳タンパク質発現を誘導するステップ、
を含む。
【0117】
本発明の特に好ましい実施形態では、ステップA)下で、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成するステップを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、ステップA)i)は、以下:
i)標準iPSC培地E8(DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、ナトリウムセレン、FGF2、インスリン、NaHCO3及びトランスフェリン、TGFβ1又はNODALを含む、Chen et al.,Nat Methods,2011に記載のとおり)中、又はmTeSR(商標)中で、2日間(-2日目~0日目)にわたってインキュベートすることによるhiPSCからの胚様体(EB)の生成と、基礎培地、増殖サプリメントを含み、ヘパリン(典型的には4μg/mL)、ヒドロコルチゾン(典型的には0.48μg/mL)、及び本明細書中に記載のBMP4が添加された、完全MammoCult培地(StemCell Technologies)中で10日間(0日目~10日目)にわたってEBをインキュベートすることによる、非神経性外胚葉細胞に非常に富んだmEB(マンモスフェア)の製造と、のステップとして定義され、
ステップA)ii)は、さらなるサブステップに区別され、かつ以下のステップ:ii)、iii)、及びiv):
ii)EpiCult増殖サプリメント及び上皮小体ホルモン(pTHrP)を添加した完全EpiCultB培地中で5日間(10日目~15日目)にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートするステップ、
iii)EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGFを添加したEpiCultB培地中で20日間(15日目~35日目)にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートすることによる分枝及び腺房分化並びに乳腺細胞特異化を促進するステップ、並びに
iv)EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FBS、プロラクチン、プロゲステロン、及びβ-エストラジオールを添加したEpiCultB培地中で7日間(35日目~42日目)にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートすることによる乳タンパク質発現を誘導するステップ、
を含む。
【0118】
ステップiv)は、好ましくは、乳タンパク質発現細胞、特にラクトサイト、及び/又は乳腺様腺オルガノイドへの分化をもたらす。
【0119】
本発明の更に特に好ましい実施形態では、ステップA)下で、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成するステップを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、ステップA)i)は、以下:
i)標準iPSC培地E8(Chen et al.,Nat Methods,2011に記載のとおり、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、ナトリウムセレン、FGF2、インスリン、NaHCO3及びトランスフェリン、TGFβ1又はNODALを含む)中、又はmTeSR(商標)中で、2日間(-2日目~0日目)にわたってインキュベートすることによるhiPSCからの胚様体(EB)の生成と、MammoCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、及びヘパリンを添加したMammoCultB培地中で10日間(0日目~10日目)にわたってEBをインキュベートすることによる非神経性外胚葉細胞に非常に富んだmEB(マンモスフェア)の製造と、のステップとして定義され、並びにステップA)のii)は、さらなるサブステップに区別され、以下のステップ:ii)、iii)、及びiv):
ii)形成されたmEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント及び上皮小体ホルモン(pTHrP)を添加したEpiCultB培地中に浮遊させたマトリゲル及びコラーゲンIの混合物中に5日間(10日目~15日目)にわたって包埋するステップ、
iii)包埋されたmEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGFを添加したEpiCultB培地中で20日間(15日目~35日目)にわたってインキュベートすることによる分枝及び腺房分化並びに乳腺細胞特異化を促進するステップ、並びに
iv)EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FBS、プロラクチン、プロゲステロン、及びβ-エストラジオールを添加したEpiCultB培地中で7日間(35日目~42日目)にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートすることによる乳タンパク質発現を誘導するステップ、
を含む。
【0120】
本発明の更に特に好ましい実施形態では、ステップA)下で、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からラクトサイトを生成するステップを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が提供され、ステップA)i)は、以下:
i)標準iPSC培地E8(DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、ナトリウムセレン、FGF2、インスリン、NaHCO3及びトランスフェリン、TGFβ1又はNODALを含む、Chen et al.,Nat Methods,2011に記載のとおり)中、又はmTeSR(商標)中で、2日間(-2日目~0日目)にわたってインキュベートすることによるhiPSCからの胚様体(EB)の生成と、MammoCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、ヘパリン、及び本明細書中に記載のBMP4を添加したMammoCultB培地中で10日間(0日目~10日目)にわたってEBをインキュベートすることによる非神経性外胚葉細胞に非常に富んだmEB(マンモスフェア)の製造と、のステップ、として定義され、並びにステップA)ii)は、さらなるサブステップに区別され、かつ次のステップ:ii)、iii)、及びiv):
ii)形成されたmEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント及び上皮小体ホルモン(pTHrP)を添加したEpiCultB培地中に浮遊させたマトリゲル及びコラーゲンIの混合物中に5日間(10日目~15日目)にわたって包埋するステップ、
iii)包埋されたmEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGFを添加したEpiCultB培地中で20日間(15日目~35日目)にわたってインキュベートすることによる分枝及び腺房分化並びに乳腺細胞特異化を促進するステップ、並びに
iv)EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FBS、プロラクチン、プロゲステロン、及びβ-エストラジオールを添加したEpiCultB培地中で7日間(35日目~42日目)にわたってmEB(マンモスフェア)をインキュベートすることによる乳タンパク質発現を誘導するステップ、
を含む。
【0121】
ステップiv)は、好ましくは、乳タンパク質発現細胞、特にラクトサイト、及び/又は乳腺様腺オルガノイドへの分化をもたらす。
【0122】
本明細書で言及される標準iPSC培地E8(Chen et al.,Nat Methods,2011に記載のとおり、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、ナトリウムセレン、FGF2、インスリン、NaHCO3及びトランスフェリン、TGFβ1又はNODALを含む)は、例えば、ThermoFischer Scientificからカタログ番号A1517001の「Essential 8(商標)培地」として市販されている(https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/A1517001#/A1517001も参照されたい)。
【0123】
mTeSR(商標)培地は、STEMCELL Technologiesから、カタログ番号85850で市販されている(https://www.stemcell.com/mtesr1.htmlも参照されたい)。Suchc培地は、「Defined,Feeder-Independent medium for human hembryonic stem cell culture」,Current protocol in Stem Cell Biology,Volume 2,Issue 1,Sept 2007にも記載されている。
【0124】
一実施形態では、特に好ましい実施形態について上記で定義されたステップiii)及び/又はiv)は、好ましくは、少なくとも乳房細胞、管腔細胞、及び基底細胞への形成/分化をもたらす。これに関連して、乳房細胞は、好ましくは、β-カゼイン、乳タンパク質、及びホルモン受容体からなる群から選択されるマーカーの1つ又は複数、好ましくはすべてを発現する。更に、管腔細胞は、好ましくは、EpCAM、MUC1、CD49F、GATA3、CK8、及びCK18からなる群から選択されるマーカーの1つ又は複数、好ましくはすべてを発現する。更に、基底細胞は、好ましくは、CK14、α-平滑筋アクチン及びP63からなる群から選択される1つ以上のマーカーを発現する。
【0125】
さらなる一実施形態では、特に好ましい実施形態について上記で定義されたステップii)及び/又はiv)におけるmEB(マンモスフェア)の誘導後に、β-カゼイン、乳タンパク質、及びホルモン受容体からなる群から選択される1つ以上のマーカーを発現する乳腺様腺オルガノイド、EpCAM、MUC1、CD49F、GATA3、CK8、CK18からなる群から選択される1つ以上のマーカーを発現する管腔細胞、並びにCK14、α-平滑筋アクチン、及びP63からなる群から選択される1つ以上のマーカーを発現する基底細胞を得ることができる。
【0126】
本発明の一実施形態では、上記の方法は、ヒト乳様生成物を製造するために提供される。
【0127】
(ステップAの)一実施形態では、栄養素及び生体模倣刺激の送達は、細胞成長、分化、及び組織形成に影響を及ぼすように制御される。(ステップAの)一実施形態では、かかる制御は、バイオリアクター内で行われる。
【0128】
本明細書中に記載される哺乳動物乳様生成物の製造方法においてBMP4が培養培地に添加される場合、本明細書中に記載される方法において生成されるEBは、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態は、上記1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーは、EpCAM、CD49f、MUC1、及びGATA3から選択される。
【0129】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現レベルと比較して増加している。
【0130】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又はそれ以上が、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、EBの少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又はそれ以上が、2つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、上記乳腺陽性前駆細胞マーカーは、EpCAM、CD49f、MUC1、及びGATA3から選択される。
【0131】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも50%は、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも5ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも50%は、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、EBの少なくとも75%は、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも75%は、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。
【0132】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも15%は、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも5ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも15%は、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、EBの少なくとも20%は、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも20%は、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。
【0133】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも20%は、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも5ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも20%は、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、EBの少なくとも35%は、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも35%は、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。
【0134】
いくつかの実施形態では、EBの少なくとも15%は、GATA3乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、BMP4は、少なくとも20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBの少なくとも15%は、GATA3乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する。
【0135】
EBはまた、非神経性外胚葉マーカーも発現し、それによって、非神経性系統への富化を示す。いくつかの実施形態では、上記1つ以上の非神経性外胚葉マーカーは、TFAP2A及びTFAP2Cから選択される。
【0136】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の非神経性外胚葉マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して少なくとも2倍増加している。
【0137】
いくつかの実施形態では、EBの1つ以上の非神経性外胚葉マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも3~15倍増加している。
【0138】
いくつかの実施形態では、EBの非神経性外胚葉マーカーTFAP2Aの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも2倍増加している。いくつかの実施形態では、EBの非神経性外胚葉マーカーTFAP2Cの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも2倍増加している。
【0139】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の神経性外胚葉マーカーの発現が減少している。いくつかの実施形態では、上記1つ以上の神経性外胚葉マーカーは、PAX6、OTX2、及びSOX11から選択される。
【0140】
したがって、本明細書中に記載される方法は、細胞集団中に存在する細胞のタイプに関して、より均質な細胞集団を提供し、すなわち細胞集団は、非神経性外胚葉系統細胞の、より均質な集団を含む。
【0141】
いくつかの実施形態では、EBの1つ以上の神経性外胚葉マーカーの発現は、BMP4で処理されていないEBにおける上記神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも0.5倍に減少しており、すなわち、これらのマーカーの発現レベルは、半分に減少される。いくつかの実施形態では、上記神経性外胚葉マーカーは、PAX6、OXT2、及びSOX11から選択される。
【0142】
いくつかの実施形態では、EBは、1つ以上の乳特異的生物活性マーカーを発現する。いくつかの実施形態では、上記乳特異的生物活性マーカーは、オステオポンチン(OPN)である。
【0143】
いくつかの実施形態では、EBの1つ以上の乳特異的生物活性マーカーの発現は、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して増加している。
【0144】
いくつかの実施形態では、EBの1つ以上の乳特異的生物活性マーカーの発現は、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも2倍増加している。
【0145】
いくつかの実施形態では、EBのOPNの発現は、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも2倍増加している。いくつかの実施形態では、BMP4は、5~20ng/mLの濃度で培養培地に添加され、EBのOPNの発現は、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも2倍増加している。
【0146】
いくつかの実施形態では、EBのOPNの発現は、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも4倍増加している。
【0147】
いくつかの実施形態において、EBのOPNの発現は、BMP4で処理されていないEBにおける上記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも18倍増加している。
【0148】
いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、乳特異的生物活性マーカーの発現の増加を生じる。いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、乳特異的生物活性マーカーの少なくとも2倍の発現の増加を生じる。いくつかの実施形態では、上記マーカーは、エストロゲン関連受容体アルファ(ESRRA)、ケラチン14(KRT14)、及びMUC1から選択される。いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、ESRRAの少なくとも2倍の発現の増加を生じる。いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、KRT14の少なくとも2倍の発現の増加を生じる。いくつかの実施形態では、乳腺細胞は、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して、MUC1の少なくとも2倍の発現の増加を生じる。
【0149】
したがって、一例として、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からステップA)下でラクトサイトを生成するステップを含む、ヒト乳様生成物の製造方法が本明細書において提供され、そのようなステップA)は、
i)iPSCを、本明細書中に記載される適切な培養培地(例えば、MammoCult培地)及びBMP4中で培養し、10日後に、かかるiPSCから形成されたマンモスフェアを回収することによって、iPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させるステップ、及び
ii)かかるマンモスフェアを適切な系(例えば、Hassiotou F.et al.Stem Cells.2012に記載の浮遊混合ゲル培養系)中で少なくとも10日間成長させて、ラクトサイトを生成するステップ、
を含み、マンモスフェア(EB)の1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現は、BMP4で処理されていないマンモスフェア(EB)における上記乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現レベルと比較して、増加している。
【0150】
本明細書に開示される任意の方法又は方法ステップは、支持体として膜マトリックスを使用するのではなく、三次元懸濁培養において行われ得ることが理解されるであろう。したがって、いくつかの実施形態では、全ての分化手順の間、細胞は懸濁培養で維持される。
【0151】
ステップB ヒト母乳様生成物の発現
本発明の一実施形態では、本方法は、好ましくはステップA)に従って調製された、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来する乳腺様オルガノイドから、ヒト乳様生成物を発現させるステップを含む。ヒト乳様生成物の発現は、好ましくは、かかるラクトサイト及び/又は乳腺様腺オルガノイドからのヒト乳様生成物の発現の誘導時に生じる。
【0152】
一実施形態では、泌乳期のラクトサイトは、催乳因子(例えば、プロラクチン、ヒドロコルチゾン、及びインスリン)を添加した特定の培地(例えば、EpiCultB)を適用することによって誘導される。
【0153】
特に、好ましくはステップA)に従って調製された、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来する乳腺様オルガノイドから得られたヒト乳様生成物は、タンパク質、脂質又はオリゴ糖、好ましくはヒト乳オリゴ糖などを含む又はそれらからなる群から選択されるヒト乳の生物活性物質を含有する。本発明者らは、特に、上記で実施されたステップAi)~iv)に従う特に好ましいプロトコルを用いて、とりわけ、オリゴ糖(ラクトース及びいくつかのHMOを含む)、脂質(4つの脂肪酸を含む)、タンパク質(カゼインを含めて検出された7つ)、及びmiRNA(HBMにおいて典型的に検出される11を含めて検出された75)を同定することができた。
【0154】
一実施形態では、好ましくはステップA)に従って調製された、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来する乳腺様オルガノイドから得られるヒト乳様生成物は、オリゴ糖、脂質、タンパク質、エキソソーム、及びmiRNAを含む又はそれらからなる群から選択されるヒト乳の生物活性物質を含有する。
【0155】
別の実施形態では、好ましくはステップA)に従って調製された、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来する乳腺様オルガノイドから得られるヒト乳様生成物は、ラクトース、6’SL、C-4:0脂肪酸、C-8:0脂肪酸、C-10:0脂肪酸、C-14:0脂肪酸、C-15:0脂肪酸、C-16:0脂肪酸、C-16:1n7脂肪酸、C-17:0脂肪酸、C-18:0脂肪酸、C-18:1 n9脂肪酸、C-18:1脂肪酸、C-18:2 n6脂肪酸、C-20:0脂肪酸、C-20:1 n9脂肪酸、C-18:3 n3脂肪酸、C-22:0脂肪酸、ラクトフェリン、アルブミン、プロラクチン、アルファS1-カゼイン、ヘモグロビンサブユニットベータ、ヘモグロビンサブユニットアルファ、α-ラクトアルブミン、アルファ-2-マクログロブリン、β-カゼイン、胆汁酸塩活性化リパーゼ、κ-カゼイン、ラクトアドヘリン、CD14、脂肪酸シンターゼ、IgA、pIgR、血清アルブミン、キサンチンデヒドロゲナーゼ、エキソソーム、miR-21-5p、miR-181a-5p、miR-30d-5p、miR-30b-5p、miR-22-3p、miR-146b-3p、miR-30c-5p、miR-30a-5p、miR-30e-5p、及びmiR-148b-3pを含む又はそれらからなる群から選択されるヒト乳の生物活性物質を含有する。
【0156】
ステップC 調整ヒト母乳様生成物を製造するためのさらなる処理
本発明の任意の一実施形態では、本明細書に記載の方法は、ステップB)から得ることができるヒト乳様生成物に対して行われ、かかる生成物に対して追加の処理を行って調整ヒト乳様生成物を提供することを含む追加のステップC)を含む。
【0157】
特定の一実施形態では、本発明のヒト母乳様生成物に対して行われる追加の処理ステップC)は、精製ステップ、単離プロセス、抽出プロセス、分画ステップ、富化プロセス、酵素処理、さらなる成分(例えば、ヒト乳腺オルガノイドによって発現され得ないもの(例えば、免疫グロブリン、プロバイオティクス及び/又はミネラルなど))の添加又はそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0158】
ヒト乳様生成物
「標準」ヒト母乳様生成物
本発明の一実施形態では、ヒト母乳様生成物は、「標準」ヒト母乳様生成物であり、すなわち、栄養状態の良好な母親のヒト母乳と同じ成分を含む。
【0159】
母乳育児の利点は科学文献において周知であり、ヒト母乳様生成物へのアクセスが可能になることで、かかる生成物を多くの同様に周知の健康上の利点のために使用可能になる。
【0160】
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、実際の授乳が不可能な状況下で、母乳代替物として使用することができる。
【0161】
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、例えば、泌乳が少ない女性、又は出産から6ヶ月後に泌乳しなくなった女性の授乳経験がより長期間になるよう支援するために使用されることが意図される。
【0162】
同様に、ヒト母乳様生成物は、例えば、病気により母親からの実際の授乳が損なわれる状況下であっても、授乳を可能にするために使用されることが意図される。
【0163】
別の実施形態では、ヒト母乳様生成物は、母乳の生産が自然に開始されない状況、例えば乳児を養子とした場合に使用されることが意図される。
【0164】
一実施形態では、本発明によるヒト乳様生成物は、天然に生じるとおりのヒト母乳授乳期の生成物ではない。
【0165】
一実施形態では、ヒト母乳様生成物は、乳児に最適な栄養を提供する際に使用するためのものである。
【0166】
一実施形態では、ヒト母乳様生成物は、乳児に健康な発育を提供する際に使用するためのものである。
【0167】
一実施形態では、ヒト母乳様生成物は、幼児における感染、肥満の予防及び免疫発達の促進に使用するためのものである。
【0168】
一実施形態では、ヒト母乳様生成物は、無調整ヒト母乳様生成物である。
【0169】
別の実施形態では、ヒト母乳様生成物は、調整ヒト母乳様生成物である。
【0170】
一実施形態では、本発明によるヒト乳様生成物は、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン及びミネラルを含む。
【0171】
別の実施形態では、本発明によるヒト乳様生成物は、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル及び生物活性物質を含む。
【0172】
一実施形態では、本発明によるヒト乳様生成物は、タンパク質、脂質(リノール酸及びα-リノレン酸を含む)、炭水化物、ビタミン(ビタミンA、ビタミンD3、ビタミンE、ビタミンK、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、パントテン酸、葉酸、ビタミンC及びビオチンを含む)、ミネラル(鉄、カルシウム、リン、マグネシウム、ナトリウム、塩化物、カリウム、マンガン、ヨウ素、セレン、銅及び亜鉛を含む)、コリン、ミオイノシトール及びL-カルニチンを含む。
【0173】
さらなる実施形態では、本発明によるヒト乳様生成物はまた、増殖/成長因子、サイトカイン、プロバイオティクス、細胞外小胞(例えば、乳脂肪球及び/又はエキソソーム)、エキソソーム由来の生物活性物質(例えば、miRNA)及び分泌型IgAからなる群において選択される少なくとも1つの生物活性物質を含む。
【0174】
かかるヒト母乳様生成物は、例えば、増殖/成長因子、サイトカイン、プロバイオティクス、細胞外小胞(例えば、乳脂肪球及び/又はエキソソーム)、エキソソーム由来の生物活性物質(例えば、miRNA)及び分泌型IgAを添加するステップC)を含めることによって、本発明の方法に従って調製され得る。
【0175】
一実施形態では、ヒト母乳様生成物は、プロバイオティクスを含有する。
【0176】
かかるヒト母乳様生成物は、例えば、いくつかの商業的に入手可能な供給源から得ることができるプロバイオティクス(例えば、B.ラクティス(B.Lactis)、B.インファンティス(B.Infantis)、L.ラムノサス(L.Ramnhosus))を含有させることにより、本発明の方法に従い調製され得る。
【0177】
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、胃腸機能を最適化するため、及び/又は免疫を促進するために使用され得る。
【0178】
一実施形態では、ヒト母乳様生成物は、分泌型IgA及びプロバイオティクスを含有する。
【0179】
かかるヒト母乳様生成物は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2009/156301号及び国際公開第2009/156367号に記載されているように調製することができるプロバイオティクスと分泌型IgAとの組合せを添加するステップC)を含めることによって、本発明の方法に従って調製することができる。かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、免疫グロブリンの欠乏を予防するために、及び/又は乳児及び幼児における再発感染の予防において使用され得る。
【0180】
「非標準」ヒト母乳様生成物
本発明の一実施形態では、ヒト乳様生成物は、栄養状態の良好な母親のヒト母乳中に天然に見出される成分比及び成分濃度とは変更することができる。このような生成物を、本明細書では「非標準乳様生成物」と称する。
【0181】
一実施形態では、本発明によるヒト乳様生成物は、乳強化剤、サプリメント、及び/又は特別な目的に適合させたヒト母乳代用物からなる群から選択され得る。
【0182】
ヒト乳強化剤及びヒト乳生物活性サプリメント
一実施形態では、本発明の方法は、授乳中の母親から自然に得られるヒト母乳を強化するために、又は乳児用フォーミュラを強化するために使用することができるヒト母乳様生成物を提供する。
【0183】
別の実施形態では、本発明の方法は、必要に応じて乳児又は幼児のためのサプリメントとして使用され得るヒト母乳様生成物を提供する。
【0184】
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、健康な発育を提供するために、及び/又は、乳児又は幼児における特定の状態(例えば、ぜんそく、アレルギー、認知変化など)に典型的に関連する病気を発症するリスクを低減するために、及び/又は、発育、免疫の発達、感染からの保護を促進するために、使用され得る。
【0185】
注目すべきことに、かかる強化剤又はサプリメント中の成分(特に生物活性成分)がヒト起源であることは、それらが本発明の方法によるものであるという事実と相まって、かかる成分にそのままの(intact)又はより高い機能性を提供すると考えられる。
【0186】
ヒト母乳様生成物は、好ましくは強化剤としての使用が意図される。かかるヒト母乳様生成物は、強化剤としての使用が意図され、例えば、ステップB)から得ることができるヒト母乳様生成物からの(特定の)生物活性物質の単離及び/又は富化のステップC)を含めることによって、本発明の方法に従って調製され得る。かかる単離ステップは、ステップB)から得ることができる無調整ヒト母乳様生成物の古典的な分画、富化及び/又は精製を介して行われてもよい。
【0187】
サプリメントとしての使用が意図されるヒト母乳様生成物は、ヒト乳オリゴ糖(例えば、2FL、3FL、LNT、LnNT、DiFl、6SL及び/又は3SL)、脂質、増殖/成長因子(例えば、上皮増殖因子(EGF)、ヘパリン結合上皮増殖因子)、サイトカイン(例えば、形質転換増殖因子-β2(TGFβ-2)、IL-1、IL-2、IL-6、IL-10、IL-18、インターフェロンガンマ(INF-γ)、TNF-α)、細胞外小胞(例えば、乳脂肪球及び/又はエキソソーム)、マイクロRNAを含むエキソソーム、及び抗菌/保護の生物活性物質(例えば、IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、ラクトアドヘリン)からなる群から選択される1つ以上の生物活性物質を含み得る。サプリメントとしての使用が意図されるかかるヒト母乳様生成物は、例えば、ステップB)から得られる無調整ヒト母乳様生成物から生物活性物質を単離するステップC)を含めることによって、本発明の方法に従って調製されてもよい。かかる単離ステップは、ステップB)から得ることができる無調整ヒト母乳様生成物の古典的な分画、富化及び/又は精製を介して行われてもよい。
【0188】
一実施形態では、ヒト母乳様生成物は、フコシル化ヒト乳オリゴ糖、例えば2FL及び/又は3FLを含有するサプリメント又は乳強化剤である。かかるサプリメント又は乳強化剤は、FUT2遺伝子が不活性であることに起因してフコシル化オリゴ糖を分泌しない女性のヒト母乳のプロファイルを充足させる際に使用するためのものである。
【0189】
強化剤又はサプリメントとしての使用が意図されるかかるヒト母乳様生成物は、例えば、ステップB)から得ることができる無調整ヒト母乳様生成物からフコシル化オリゴ糖(例えば、2FL及び/又は3FL)を単離及び/又は富化するステップC)を含めることによって、本発明の方法に従って調製されてもよい。
【0190】
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、胃腸機能を最適化するため、及び/又は免疫を促進するために使用され得る。
【0191】
遺伝的疾患を有する乳児のためのヒト母乳様生成物
一実施形態では、本発明によるヒト母乳様生成物は、遺伝的疾患を有して生まれた乳児の特異的なニーズに対処するように適合され得る。
【0192】
ガラクトース血症
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、ガラクトース血症に罹患している乳児のニーズに適合させることができる。ガラクトース血症は、乳児のガラクトース代謝能に影響を及ぼす稀な遺伝子疾患である。
【0193】
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、ラクトース及び/又はラクトース含有サッカリドを除去されるべきである。かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、ガラクトース血症に罹患した乳児に健康な発育を提供するために使用され得る。
【0194】
一実施形態では、ラクトース及び/又はラクトース含有サッカリドが除去されたヒト母乳様生成物は、ステップB)から得ることができる無調整ヒト母乳様生成物の、酵素処理(ラクターゼ処理)のステップC)、又は膜分画及び限外濾過のステップC)を含めることによって、本発明の方法に従って得られ得る。
【0195】
別の実施形態では、ラクトース及び/又はラクトース含有サッカリドが除去されたヒト母乳様生成物は、本発明の方法に従って、ステップA)下でGMOα-ラクトアルブミン欠損ヒト細胞を使用してhiPSCを生成することによって得ることができる。
【0196】
フェニルケトン尿症
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、フェニルケトン尿症(PKU)に罹患している乳児のニーズに適合させることができる。PKUは、フェニルアラニンをチロシンに変換するフェニルアラニンヒドロキシラーゼが存在しないこと又は機能不全であることに起因する。未処置では、脳毒性により重度の精神遅滞がもたらされる。
【0197】
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、フェニルアラニンを除かれる(deprived)か又は枯渇されるべきである。
【0198】
かかる実施形態では、ヒト母乳様生成物は、PKUに罹患した乳児に健康な発育を提供するために使用され得る。
【0199】
一実施形態では、ヒト母乳様生成物は、フェニルアラニン含量がかかる生成物を摂取する対象の体重1kg当たり20mg未満に維持されるようにフェニルアラニンが枯渇している。
【0200】
一実施形態では、フェニルアラニンが枯渇又は除去されたヒト母乳様生成物は、ステップB)から得ることができる無調整ヒト母乳様生成物の、酵素処理(タンパク質加水分解)又は濾過のステップC)を含めることによって、本発明の方法に従って得ることができる。
【0201】
一実施形態では、フェニルアラニンが枯渇したヒト母乳様生成物は、ステップB)から得ることができる無調整ヒト母乳様生成物の酵素処理(タンパク質加水分解)又は濾過のステップC)を含めることによって、本発明の方法に従って得ることができる。
【0202】
別の実施形態では、フェニルアラニンが枯渇したヒト母乳様生成物は、ステップB)において、限定量又はゼロ量のフェニルアラニンを提供する培養培地(例えば、乳清由来のグリコマクロペプチド(GMP)を含有する培養培地など)を提供することによって、本発明の方法に従って得ることができる。
【0203】
本発明の追加的な実施形態
以下が提供される:
【0204】
S1.乳腺細胞集団の製造方法であって、
i)骨形成タンパク質4(BMP4)を含む培養培地中で哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)を培養して、胚様体(EB)を生成するステップ、及び
ii)前記EBを成長させて、乳腺細胞集団を生成するステップ、
を含む、方法。
【0205】
S2.前記培養ステップi)が、前記miPSCを、MammoCult培地及びBMP4中、三次元懸濁培養系において、例えば三次元懸濁条件において、培養して、それによって前記iPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させることを、任意に少なくとも12日間行うステップを含む、ステートメント1に記載の方法。
【0206】
S3.前記成長ステップii)が、形成された前記EBを、三次元包埋系中、例えば、マトリゲル及び/又はコラーゲンIなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル中で、少なくとも30日間、例えば32日間にわたって、成長させて、ラクトサイトを生成するステップを含む、ステートメント1又は2に記載の方法。
【0207】
S4.前記乳腺細胞が、ヒト乳腺細胞である、ステートメント1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0208】
S5.BMP4が、0日目~10日目の間、好ましくは0日目~3日目の間に培養培地に添加され、0日目は、前記iPSCが前記培養培地に初めて添加される時点である、ステートメント1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0209】
S6.BMP4が、3日間にわたって前記培養培地に添加される、ステートメント1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0210】
S7.BMP4が、5~20ng/mL、好ましくは5ng/mL、10ng/mL、又は20ng/mLの濃度で前記培養培地に添加される、ステートメント1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0211】
S8.前記EBが、任意にEpCAM、CD49f、MUC1、及びGATA3から選択される、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する、ステートメント1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0212】
S9.前記EBでは、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける前記乳腺陽性前駆細胞マーカーの発現レベルと比較して増加している、ステートメント1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0213】
S10.前記EBの少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、又は80%以上が、1つ以上の乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現し、任意にEBの少なくとも50%が、EpCAM及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現し、任意にEBの少なくとも15%が、MUC1及びCD49f乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現し、任意にEBの少なくとも20%が、MUC1及びEpCAM乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現し、及び/又は任意にEBの少なくとも15%が、GATA3乳腺陽性前駆細胞マーカーを発現する、ステートメント1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0214】
S11.前記EBが、任意にTFAP2A及びTFAP2Cから選択される、1つ以上の非神経性外胚葉マーカーを発現する、ステートメント1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0215】
S12.前記EBの1つ以上の非神経性外胚葉マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける前記非神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも2倍増加しており、任意に少なくとも3~15倍増加している、ステートメント1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0216】
S13.前記EBの1つ以上の神経性外胚葉マーカーの発現が、BMP4で処理されていないEBにおける前記神経性外胚葉マーカーの発現レベルと比較して、少なくとも0.5倍に減少しており、任意に、前記神経性外胚葉マーカーは、PAX6、OXT2、及びSOX11から選択される、ステートメント1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0217】
S14.前記EBが、1つ以上の乳特異的生物活性マーカー、任意にオステオポンチン(OPN)を発現する、ステートメント1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0218】
S15.前記EBがのOPNの発現が、BMP4で処理されていないEBにおけるOPNの発現レベルと比較して、少なくとも2倍増加しており、任意に少なくとも4~18倍増加している、ステートメント1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0219】
S16.前記乳腺細胞が、ラクトサイト乳腺様腺オルガノイドを形成する、ステートメント1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0220】
S17.前記乳腺細胞が、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して乳特異的生物活性マーカーの発現の増加を生じ、任意に、前記乳腺細胞が、BMP4で処理されていない乳腺細胞と比較して乳特異的生物活性マーカーの発現の少なくとも2倍の増加を生じ、任意に、上記マーカーが、エストロゲン関連受容体アルファ(ESRRA)、ケラチン14(KRT14)、及びMUC1から選択される、ステートメント1~16のいずれか1つに記載の方法。
【0221】
S18.分化プロトコルにおいて哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)の乳腺前駆細胞への分化効率を増加させるためのBMP4の使用。
【0222】
S19.哺乳動物乳様生成物の製造方法であって、
A)哺乳動物人工多能性幹細胞(miPSC)由来のラクトサイト乳腺様腺オルガノイドを生成するステップ、及び
B)前記ラクトサイトから前記哺乳動物乳様生成物を分泌させるステップ、
を含み、ステップA)が、BMP4を含む培養培地中で前記miPSCを培養するステップを含む、方法。
【0223】
S20.ヒト乳様生成物を製造するための方法であって、
ステップA)が、
i)hiPSCを、BMP4を含む適切な培養培地中、例えば、MammoCult培地及びBMP4を含む培地中、適切な三次元培養系において、例えば三次元懸濁条件において、少なくとも12日間にわたって培養することによって、hiPSCを非神経性外胚葉細胞へと分化させるステップ、及び
ii)形成された前記mEB(マンモスフェア)を、適切な三次元包埋系中で、例えば、マトリゲル及び/又はコラーゲンIなどのマトリックスタンパク質から構成された混合浮遊ゲル中で、少なくとも30日間、例えば32日間にわたって、成長させて、ラクトサイトを生成するステップ、
を更に含む、ステートメント19に記載の方法。
【0224】
S21.ステップA)i)が、以下:
i)DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、ナトリウムセレン、FGF2、インスリン、NaHCO3及びトランスフェリン、TGFβ1又はNODALを含む標準iPSC培地E8中、又は培地mTeSR(商標)中で、2日間にわたってインキュベートすることによるhiPSCからの胚様体(EB)の生成と、前記基礎培地、増殖サプリメントを含み、BMP4、ヘパリン、及びヒドロコルチゾンが添加された完全MammoCult培地中で10日間にわたってEBをインキュベートすることによる非神経性外胚葉細胞に非常に富んだmEB(マンモスフェア)の製造と、のステップとして定義され、並びに
ステップA)ii)が、さらなるサブステップに区別され、かつ以下のステップ:ii)、iii)、及びiv):
ii)mEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント及び上皮小体ホルモン(pTHrP)を添加した完全EpiCultB培地中で5日間にわたってインキュベートするステップ、
iii)mEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGFを添加したEpiCultB培地中で20日間にわたってインキュベートすることによる分枝及び腺房分化並びに乳腺細胞特異化を促進するステップ、並びに
iv)mEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FBS、プロラクチン、プロゲステロン、及びβ-エストラジオールを添加したEpiCultB培地中で7日間にわたってインキュベートすることによる乳タンパク質発現を誘導するステップ、
を含む、ステートメント20に記載の方法。
【0225】
S22.ステップA)i)が、以下:
i)DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、ナトリウムセレン、FGF2、インスリン、NaHCO3及びトランスフェリン、TGFβ1又はNODALを含む標準iPSC培地E8中で、2日間にわたってインキュベートすることによるhiPSCからの胚様体(EB)の生成と、EBを、MammoCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、ヘパリン、及びBMP4を添加したMammoCultB培地中で10日間にわたってEBをインキュベートすることによる非神経性外胚葉細胞に非常に富んだmEB(マンモスフェア)の製造と、のステップ、として定義され、並びにステップA)のii)が、さらなるサブステップに区別され、かつ以下のステップ:ii)、iii)、及びiv):
ii)形成されたmEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント及び上皮小体ホルモン(pTHrP)を添加したEpiCultB培地中に浮遊させたマトリゲル及びコラーゲンIの混合物中に5日間にわたって包埋するステップ、
iii)包埋されたmEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FGF10、及びHGFを添加したEpiCultB培地中で20日間にわたってインキュベートすることによる分枝及び腺房分化並びに乳腺細胞特異化を促進するステップ、並びに
iv)mEB(マンモスフェア)を、EpiCult増殖サプリメント、ヒドロコルチゾン、インスリン、FBS、プロラクチン、プロゲステロン、及びβ-エストラジオールを添加したEpiCultB培地中で7日間にわたってインキュベートすることによる乳タンパク質発現を誘導するステップ、
を含む、ステートメント20に記載の方法。
【0226】
S23.ステップA)が、ステートメント1~17のいずれか1つに記載の方法を含む、ステートメント19~22のいずれか1つに記載の方法。
【0227】
S24.ステップA)が、三次元懸濁培養条件で行われる、ステートメント19又は23に記載の方法。
【0228】
S25.ステートメント19~24のいずれか1つに記載の方法に従って得ることができるヒト乳様生成物。
【0229】
S26.治療に使用するための、ステートメント25に記載のヒト乳様生成物。
【0230】
S27.ステートメント25に記載のヒト乳様生成物の、ヒト乳代替物、任意に母乳代替物としての使用。
【0231】
本明細書に開示するとおりの詳細な説明の様々な態様及び実施形態は、本発明を作製及び使用する特定の方法を例示するものであり、請求項及び詳細な説明と共に考慮するにあたり、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。本発明の態様及び実施形態に由来する特徴を、本発明の同じ又は異なる態様及び実施形態に由来する更なる特徴と組み合わせてもよいことも理解されたい。
【0232】
発明を実施するための形態及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「1つの」(「a」、「an」及び「the」)には、別段の指示が文脈上明確にない限り、複数の参照物も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0233】
【
図1】Ying Quに概説され、本発明の方法のステップA)における1つの代替法に適用されるプロトコルによるヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の分化を示す。
【
図2】ステップA)によるヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の分化を示す。
【
図3】本発明の方法のステップA)のための好ましい実施形態及び特に好ましい実施形態によるヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の分化を示す。
【
図4】
図2の方法に従って生産されたhiPSCの三次元器官型培養が、乳腺特異化に対して高度に許容的であることを示す。三次元分化(42日)プロトコルにおける、Nanog、TUBB3、FOXA2、TP63、KR-14、EpCAM、KRT8及びCSN2のmRNA発現を示す。マーカーは、左から右へ、多能性(Nanog)、系統(外胚葉及び内胚葉)(TUBB3、FOXA2)、基底細胞/筋上皮マーカー(TP63、KR-14)、管腔上皮マーカー(EpCAM、KRT8)、及び乳タンパク質(CSN2(カゼインベータ))、の段階を示す。
【
図5】比較例として製造された、hiPSCの二次元器官培養を示す。二次元分化(31日)プロトコルにおける、Nanog、TUBB3、FOXA2、TP63、KR-14、EpCAM、KRT8及びCSN2のmRNA発現を示す。マーカーは、左から右へ、多能性(Nanog)、系統(外胚葉及び内胚葉)(TUBB3、FOXA2)、基底細胞/筋上皮マーカー(TP63、KR-14)、管腔上皮マーカー(EpCAM、KRT8)、及び乳タンパク質(CSN2(カゼインベータ))、の段階を示す。
【
図6-1】三次元オルガノイド設定を使用した人工多能性幹細胞(iPSC)の非神経性外胚葉系統分化に対する骨形成タンパク質4(BMP4)の効果を示す。a.乳腺前駆細胞の生成及び0日目~3日目の間のBMP4処理の手順の概要を示すスキーム。b.異なる濃度のBMP4への曝露後の形態変化の顕微鏡観察。c~f.同定された様々なマーカー:EpCAM、CD49f、MUC1、及びGATA3を使用した、乳腺陽性前駆細胞数のフローサイトメトリーによる定量。g~h.主要な非神経性外胚葉マーカーとしてのヒトTFAP2A及びTFAP2CのRNA発現レベル。i~k.神経性外胚葉マーカーとしてのヒトPAX6、OTX2、及びSOX11。l.管腔マーカーとしてのヒトKRT18。m.分泌型リン酸化乳糖タンパク質としてのヒトOPN。
【
図6-2】三次元オルガノイド設定を使用した人工多能性幹細胞(iPSC)の非神経性外胚葉系統分化に対する骨形成タンパク質4(BMP4)の効果を示す。a.乳腺前駆細胞の生成及び0日目~3日目の間のBMP4処理の手順の概要を示すスキーム。b.異なる濃度のBMP4への曝露後の形態変化の顕微鏡観察。c~f.同定された様々なマーカー:EpCAM、CD49f、MUC1、及びGATA3を使用した、乳腺陽性前駆細胞数のフローサイトメトリーによる定量。g~h.主要な非神経性外胚葉マーカーとしてのヒトTFAP2A及びTFAP2CのRNA発現レベル。i~k.神経性外胚葉マーカーとしてのヒトPAX6、OTX2、及びSOX11。l.管腔マーカーとしてのヒトKRT18。m.分泌型リン酸化乳糖タンパク質としてのヒトOPN。
【
図7】BMP4処理サンプルの効果を示す。a.対照試料と比較して、二重乳腺マーカーEpCAM+/CD49f+及び二重成熟管腔ラクトサイトマーカーMUC1+/EpCAM+のより高い発現を示した。b.乳腺三次元分化の30日目~35日目の間のエストロゲン関連受容体アルファ(ESRRA)、ケラチン14(KRT14)、及びMUC1のRNA発現レベルに対する骨形成タンパク質4(BMP4)の効果。
【0234】
実験
実施例1
hiPSCの培養及びラクトサイトへの分化による、ヒト乳様生成物の取得
Ying Qu et al,Stem Cell Report vol 8,205-215 February 14th2017に記載されている手順に従って、ihPSCから出発してラクトサイトを培養し、それによって分泌されたヒト乳様生成物を回収し、本発明による治療において及び/又は母乳代替物として使用することができる。
【0235】
実施例2
hiPSCの培養及び三次元ラクトサイトへの分化による、ヒト乳様生成物の取得
本発明の方法に従ってhiPSCから出発して、上記のステップA)及びステップB)に従ってラクトサイトを培養し、それによって分泌されたヒト乳様生成物を回収して、治療において、及び/又は本発明による母乳代替物として使用することができる。
【0236】
実施例3
hiPSCの培養及びラクトサイトへの分化の代替的方法による、ヒト乳様生成物の取得
hiPSCからの効率的なラクトサイト分化は、以下に記載される条件1~4を含む代替的な培養条件から得ることができる。
1.EBに由来する細胞の単層としてビトロネクチン被覆プレート上で二次元培養し、L-グルタミン、ウシ胎児血清(FBS)、インスリン、上皮増殖因子(EGF)、ヒドロコルチゾン、Pen-Strep(ペニシリン/ストレプトマイシン:抗生物質-抗真菌剤溶液)。
【0237】
2.EBに由来する細胞の付着凝集体(EB)のビトロネクチン被覆プレート上で二次元培養し、L-グルタミン、ウシ胎児血清(FBS)、インスリン、上皮増殖因子(EGF)、ヒドロコルチゾン、Pen-Strep(抗生物質-抗真菌剤溶液)を添加したRPMI 1640を含有する培地中で少なくとも28日間培養する。
3.少なくとも10日間、MammoCult培地中懸濁液において三次元培養し、次いで、上皮小体ホルモンの存在下で、特定の培地(例えば、EpiCultB)中で更に5日間、続いてインスリン、HGF、ヒドロコルチゾン及びFGF10の存在下で25日間、混合浮遊ゲル(例えば、マトリゲル及びコラーゲン1)中で培養する。
4.MammoCult培地中懸濁液(超低接着性プレート)において少なくとも10日間、次いで上皮小体ホルモンの存在下で特定の培地(例えばEpiCultB)中で更に5日間、続いてインスリン、HGF、ヒドロコルチゾン及びFGF10の存在下で25日間、EBを三次元培養する。
【0238】
実施例4
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)株603をベースとするラクトサイトの二次元分化及び三次元分化
(a)ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)株603をベースとするラクトサイトの三次元分化:
ラクトサイトの三次元分化には、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)株603を使用した。ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)株603は、Fujifilm Cellular Dynamics,Inc(FCDI)から購入した。
【0239】
(i)三次元分化プロトコル(本発明による)のために、hiPSCの単一細胞を、10 uM rock阻害剤を含むE8培地中、37℃、5%CO2で、95rpmで回転させながら一晩インキュベートすることによって、EB(スフェロイド)を形成させた。
2日目に、培地をE8で交換した(-2日目~0日目)。
翌日、培地をMammo1培地(ペニシリン/ストレプトマイシンを添加し、増殖サプリメント、ヘパリン(4μg/mL)、及びヒドロコルチゾン(0.48μg/mL)を添加したMammoCult培地)で10日間(0日目~10日目)交換した。培地を2日毎に交換した。
【0240】
(ii)分化後、Mammo2培地(EpiCultB+サプリメント、PTHrP 100ng/ml+ペニシリン/ストレプトマイシン)中で5日間培養した。培養培地を3日毎(10日目~15日目)に交換した。
【0241】
(iii)上皮構造の枝分かれ、腺房分化及び乳腺特異化を誘導するために、mEBs(スフェロイド/マンモスフェア)にMammo3培地(完全EpiCultB、ヒドロコルチゾン(1μg/ml)、インスリン(10μg/ml)、FGF10(50ng/ml)、HGF(50ng/ml)及びペニシリン/ストレプトマイシン)を20日間フィードした。培地を3日毎に交換した(15日目~35日目)。
【0242】
(iv)最後に、乳生物活性物質生産(三次元)を誘導するために、Mammo4培地(完全EpiCultB、10%FBS、プロラクチン(10μg/ml)、ヒドロコルチゾン(1μg/ml)、インスリン(10μg/ml)、プロゲステロン、β-エストラジオール及びペニシリン/ストレプトマイシン)を7日間使用し、培地を3日毎に交換した(35日目~42日目)。全ての分化手順の間、スフェロイドを懸濁培養で維持した(95rpmで回転)。分化手順は42日目に終了した。結果を
図4に表す。
【0243】
(b)ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)株603をベースとするラクトサイトの二次元分化:
ラクトサイトの二次元分化にも、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)株603を使用した。ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)株603は、Fujifilm Cellular Dynamics,Inc(FCDI)から購入した。
【0244】
二次元分化プロトコル(比較のために使用)では、本発明者らは、全ての分化段階中にラクト(Lacto)培地(RPMI 1640、20%FBS、1mMグルタミン、4μg/mlインスリン、20ng/ml EGF、0.5μg/mlヒドロコルチゾン、ペニシリン/ストレプトマイシン添加)を使用した。細胞を37℃、5%CO2でインキュベートした。培地を2日毎に交換した。結果を
図5に表す。
【0245】
(c)結果
定量的RT-PCRを使用して、ラクトサイト誘導中の分化の各段階を捕捉した(
図4は三次元分化、
図5は二次元分化)。二次元及び三次元の設定のいずれでも、多能性のマーカーとしてのNanoG発現は、細胞が成熟及び分化するのに従い減少する。神経外胚葉マーカー及び内胚葉マーカー、TUBB3(チューブリンベータ3クラスIII)及びフォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)は、三次元フォーマットにおいて有意に発現されず、TUBB3の上昇は二次元の設定でのみ捕捉される。これは、hiPSCが非神経外胚葉系統へとパターン化され、したがって、三次元フォーマットで乳腺前駆体が富化されることを実証する。本発明者らは、p63(p53と相同性のある核タンパク質)及びサイトケラチン14(KRT-14)などの一般的に使用される基底細胞/筋上皮マーカーの発現パターンを試験した。いずれのマーカーも、両方の系において有意に検出可能である。更に、上皮細胞接着分子(EpCAM)及びサイトケラチン8(KRT8)は三次元システムでのみ追跡され、KRT8は、二次元フォーマットではごく部分的に発現された。その結果、器官タイプの設定における三次元プレートは、乳房組織マーカー、管腔マーカー、及び基底マーカーのいずれも発現した。かかる乳腺様オルガノイドは、CSN2(カゼインベータ)、乳タンパク質ペプチド、及びホルモン受容体を含むヒト乳房特異的タンパク質を発現する。管腔細胞は、EpCAM、MUC1、CD49F、GATA3、CK8、及びCK18を特異的に発現するが、基底細胞は、CK14、α-平滑筋アクチン、及びP63を特異的に発現する。最終的に、EpCAM及びCD49F二重陽性細胞は、D10とD35との間の初期前駆細胞の段階で検出することができる。興味深いことに、CSN2発現は、三次元器官系の最後の時点(D42)でのみ捕捉され、二次元の分化プラットフォームでは捕捉されない。
【0246】
乳腺様オルガノイドのセクレトームの解析は、以下に記載されるように、オリゴ糖(ラクトース及びいくつかのHMOを含む)、脂質(4つの脂肪酸を含む)、タンパク質(カゼインを含む7つが検出)、及びmiRNA(HBMにおいて典型的に検出される11を含む75が検出)を含むヒト乳特異的生物活性物質の分泌を示した。
【0247】
初代細胞の上清を、「Austin and Benet,Quantitative determination of non-lactose milk oligosaccharides,Analytica Chimica Acta 2018,1010,86-96」に記載される手順に従って、わずかな変更を加えて、ラクトース又はヒト乳オリゴ糖の存在について解析した。試料をUHPLCで解析し、検出されたラクトース又はヒト乳オリゴ糖(HMO)を、ラクトース及び7種類のHMO(2’FL、3’FL、DFL、LNT、LNnT、3’SL及び6’SL)の混合物の検量線に対して定量した。この方法は0.1mg/Lの限界を有していると推定された。初代細胞の上清では、42日目にラクトース(0.22mg/L)及び6’SL(0.32mg/L)が検出された。
【0248】
培地及び細胞上清中の脂肪酸を、水素炎イオン化検出器と連結したガスクロマトグラフィーによって分析した。簡単に説明すると、42日目に得られた上清を分析して、いくつかの脂質クラスに含まれる脂肪酸の存在を調査する。溶融シリカCP-Sil 88キャピラリーカラム(100%シアノプロピルポリシロキサン、100m、内径0.25mm、フィルム厚0.25mm)を備えた分取ステーションモジュールを有する7693オートサンプラーを備えた7890Aガスクロマトグラフを、250℃で加熱されたスプリットインジェクター(1:25比)、及び300℃で操作される水素炎イオン化検出器と共に使用する。FAME(脂肪酸メチルエステル)の調製は、メタノール性塩酸(methanolic chloridric acid)による試料の直接エステル交換によって行われる。FAMEの分離は、キャピラリーガスクロマトグラフィー-FID(GC)を使用して行われる。FAMEの同定は、保持時間(RT)及び外部標準との比較によって行われる。脂肪酸の定量は、内部標準としてメチルC11:0を使用する計算によって行われる。本方法のエステル交換性能は、第2の内部標準としてTAG C13:0を用いて制御される。内部標準の添加後、溶液を2mLのメタノール、2mLのメタノール/HCl(3N)及び1mLのヘキサンと混合した。100℃/60分で加熱した後、試料を室温まで冷却し(約15分)、2mLの水を添加することによって反応を停止させる。遠心分離後、有機相をGCに直接注入する。
【0249】
42日目における実施例4aのプロトコルからの脂肪酸の結果(培地と上清との間で観察された差)を表1に示す。
【0250】
以下の表1には、細胞上清サンプル中に発現された脂肪酸を掲載する。
【0251】
【0252】
細胞上清中のタンパク質を、SDS-PAGEプロファイリング、次いでLC-MSMSによる同一性確認のためのバンド単離を使用して解析した。SDS-PAGE解析のために、調製した試料の全量をゲルにロードした。ヒト乳サンプルを対照として比較のために添加した。選択されたゲル領域(バンド)を切断して、LC-MSMSによってヒトタンパク質を探索した。最終的に、バンドをゲル内トリプシン消化に供し、LC-MSMSによって解析した。LC-MSMSデータをPeaks Studioで分析し、ヒトタンパク質のUniProtデータベースに対して照合した。
【0253】
以下の表2には、切り出された全てのバンドについての最良の候補を掲載する。
【0254】
【0255】
ExoQuickポリマーネットを使用して、エキソソーム単離及びmiRNAプロファイリングを行った。ExoQuickポリマーは、ネットワークを形成することによってエキソソームを沈殿させるように作用し、ある程度のサイズのエキソソームを全て回収する。ExoQuickメッシュが形成されると、エキソソームは、単純な低速遠心分離によって容易にペレットとして沈殿する。エキソソームは損なわれておらず、タンパク質又はRNA分析が可能な状態であり、機能試験にあたり生物活性を有する。沈殿緩衝液を0.25倍の割合で試料に添加し、次いでボルテックスした。混合物を4℃で一晩インキュベートした。インキュベート後、試料を1500×gで30分間遠心分離した。エキソソームペレットを、QC用のBuffer XE(QIAGEN)又はmiRNAプロファイリング用のHTG EdgeSeq miRNA Whole Transcriptome AssayからのLysis Bufferを用いて初期容量でボルテックスすることによって再懸濁した。細胞外小胞(EV)の単離を評価するために、まず上清を3000gで15分間遠心分離して、細胞ペレット及び破片を除去した。次いで、100マイクロリットルの培地を使用し、ExoQuick緩衝液(0.25×比)により4℃で一晩沈殿させた。EV沈殿物を1500gで30分間の遠心分離によって回収した。各試料に対して2回の沈殿を行い、1回目のEV沈殿は、実施する可能性のあるさらなる分析のために緩衝液XE(QIAGEN)に再懸濁し、2回目の沈殿では、10倍濃縮するために50uLのHTG溶解緩衝液のみに再懸濁し、その後HTGによるmiRNAプロファイリングに供した。
【0256】
miRNAプロファイリングのために、試料を第1の溶解ステップにおいて直接使用した。したがって、全試料を直接使用し、血漿溶解緩衝液で1:1の比で溶解した。次に、プロテイナーゼK(1/10)を添加し、試料をThermomixer上で50℃、600rpmで3時間インキュベートした。EVを溶解緩衝液に再懸濁し、同じ条件で溶解し、溶解インキュベートの前には95℃で10分間のインキュベートステップを加えた。26μLの溶解物を、HTG EdgeSeq miRNA全トランスクリプトームアッセイV2手順に従って、HTGプロセッサ上で70μLの油で処理した。インデックス付け及び増幅ライブラリーのために、試料をIlluminaアダプターでタグ付けし、OneTaq(登録商標)Hot Start 2X Master Mix GC Buffer(95℃で4分;16サイクル:95℃で15秒、56℃で45秒、68℃で45秒;68℃10分;4℃で保持)でPCRし、ロボット液体ハンドラーSciClone NGS WorkStation(Perkin Elmer)上でAMPure洗浄した(2.5比)。Hamiltonロボット上で本発明者らのカスタムプーリングプログラムを用いてプールを得た。サンプルを、GXタッチチップHS定量に基づいてプールした。2回目には、AMPure Bead(1.8比)を用いて手動でプールを精製して、残っている可能性のある微量のプライマー二量体を除去し、Qubitを用いて定量して、最終濃度を2nMに調整した。最後のステップとして、MiSeq配列決定のために、5%PhiXを添加してMiSeq上に20pMのプールをロードし、150V3キットを用いて50塩基シングルリードについてMiSeq上で配列決定した。
【0257】
簡潔には、細胞上清中には974のmiRNAが検出され、そのうちの75個を超えるmiRNAが、乳試料において高度に発現されるmiRNAである。
【0258】
以下の表3には、上位10個の高度に発現されたmiRNAを掲載する。
【0259】
【0260】
本発明者らの知見は、正常な乳腺細胞の運命及び機能と、母乳生物活性物質生産との調節及び発達を研究するための新規のiPSCベースの三次元器官型モデルを提供する。
【0261】
実施例5
三次元オルガノイド設定を使用した人工多能性幹細胞(iPSC)の非神経性外胚葉系統分化に対する骨形成タンパク質4(BMP4)の効果
方法:ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)株603を、Fujifilm Cellular Dynamics,Inc(FCDI)から購入し、乳腺前駆細胞の三次元分化のために使用した。簡潔に述べると、550万個の解離したiPSCを、4.5mLの凝集培地を含有する6ウェルプレート(超低接着)に、平面シェーカープラットフォーム(95RPMに設定)を使用して播種した。異なる濃度のBMP4(314-BP-050、Bio-Techne AG)を、0日目~3日目の間に培養培地に添加した。
【0262】
結果:iPSC細胞を様々な濃度のBMP4で試験して、非神経性外胚葉分化を誘導した(
図6のa、b)。20ng/mLのBMP4は、フローサイトメトリー定量化を使用して、EpCAM(CD326)、CD49f、MUC1(CD227)、及びGATA3などの乳腺前駆細胞マーカーの発現を有意に誘導した(
図6のc~f)。主要な非神経性外胚葉マーカーとしてのヒトTFAP2A及びTFAP2C(AP2ガンマ)の発現は、対照試料と比較して、Nanostring分析を使用して分化の10日目に増加した(
図6のg~h)。更に、ペアードボックス遺伝子6(PAX6)、オルソデンティクルホメオボックス2(OTX2)、及びSRYボックス転写因子11(SOX11)などのヒト特異的神経性外胚葉マーカーの発現レベルは、分化中に減少した(
図6のi~k)。最後に、BMP4は、ヒト管腔特異的マーカーのサイトケラチン18(KRT18)及び分泌型リン酸化乳糖タンパク質オステオポンチン(OPN)の発現を誘導することができる(
図6のl~m)。
【0263】
これらの結果は、BMP4がiPSCの非神経性外胚葉系統へ向かうコミットメントを誘導し、驚くべきことに、乳腺前駆細胞特異化を有意に増加させることを実証するものである。
【0264】
実施例6
BMP4処理試料は、対照試料と比較して、二重乳腺マーカーEpCAM+/CD49f+及び二重成熟管腔ラクトサイトマーカーMUC1+/EpCAM+のより高い発現を示した(
図7a)。
【0265】
更に、エストロゲン関連受容体アルファ(ESRRA)、ケラチン14(KRT14)、及びMUC1の発現プロファイルを使用して、iPSC細胞の三次元乳腺分化の最終段階におけるBMP4の効果を評価した。驚くべきことに、BMP4は、対照試料と比較して、30日目、33日目、及び35日目に全ての遺伝子のRNA発現レベルを増加させた(
図7b)。
【0266】
本明細書で述べる現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。このような変更及び修正は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、並びに本発明の付随する利点を減らすことなく、なされてもよい。したがって、このような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
【国際調査報告】