IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニコの特許一覧

特表2024-539951生分解性潤滑剤基剤の使用及びそれを調製するための方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】生分解性潤滑剤基剤の使用及びそれを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/38 20060101AFI20241024BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 40/32 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C10M105/38
C10N30:00 Z
C10N40:04
C10N40:02
C10N40:32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524600
(86)(22)【出願日】2022-11-03
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2022080723
(87)【国際公開番号】W WO2023079025
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】2111745
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522452592
【氏名又は名称】ニコ
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】エルヴェ グレゴワール
(72)【発明者】
【氏名】ヴァタン アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】トラヴェール イヴ
(72)【発明者】
【氏名】クロゼ デルフィーヌ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB34A
4H104LA20
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA37
(57)【要約】
本発明は、装置及び/又は機械たとえば風力タービンに潤滑作用を与えるための、少なくとも1種の、式(I)を有する生物由来で生分解性の化合物を含む流動性潤滑剤基剤の使用に関し、ここで式(I)を有する前記少なくとも1種の化合物は、その中で、R、R、及びRが、独立して、少なくとも16個の炭素原子含む直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基であり、R、R、及びRの内の少なくとも1個の基が、その炭化水素鎖の上に、少なくとも1個のエステル基O-CO-R(ここで、Rは、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基である)を含む、式(I)に相当する。その潤滑基剤は、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の範囲である酸価(単位、mgKOH/g)を有している。本発明はさらに、上で定義された潤滑剤基剤の生産方法、及びそのようにして得られる潤滑剤基剤にも関する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置及び/又は機械、たとえばギア、スターンチューブ、及び油圧系に潤滑作用を与えるための、少なくとも1種の、生物由来で生分解性の式(I)の化合物を含む流体潤滑基剤の使用であって、前記少なくとも1種の式(I)の化合物が、次式を有し:
【化1】
[式中、R、R、及びRは、独立して、少なくとも16個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基であり、R、R、及びRの内の少なくとも1個の基が、少なくとも1個のエステル基O-CO-R(ここでRは、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基である)を用いて、その炭化水素鎖の上で分岐されている]、
前記潤滑基剤が、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の範囲である酸価(単位、mgKOH/g)を有している、
使用。
【請求項2】
前記炭化水素基R、R、及びRが、18~24個の炭素原子、好ましくは18~20個の炭素原子を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記エステル基-O-CO-Rの基Rが、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピル基から選択される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記エステル基-O-CO-Rを用いて分岐されている前記少なくとも1個の炭化水素鎖R、R、及びRの上で、後者が、9位、10位、12位、又は14位に位置している、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
、R、及びRの内の少なくとも2個の炭化水素基、好ましくはそれぞれの炭化水素基R、R、及びRが、前記エステル基-O-CO-Rを用いて分岐されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記潤滑基剤がさらに、前記式(I)の化合物とは異なる、少なくとも1種の他の生分解性の潤滑性化合物たとえば、アルキル又はネオポリオールのイソステアレート、ポリアルファオレフィン(PAO)、鉱油、又はそれらの混合物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記潤滑基剤が、ASTM D 1401に従って測定して、0~30分の範囲、好ましくは0~15分の範囲、典型的には0~10分の範囲の解乳化時間を有している、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記潤滑基剤が、DEF STAN 05-50(パート61)メソッド6に従って測定して、300~3500時間の範囲、好ましくは600~3000時間、典型的には750~900時間の範囲の耐加水分解性を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の潤滑基剤を調製するためのプロセスであって、請求項1~8のいずれか1項に定義された前記少なくとも1種の式(I)の化合物を調製するためのステップ(i)を含み、前記ステップ(i)が、次の連続ステップを含み、
(a)少なくとも1種の、前もって水素化された植物油又は水素化用の植物油を備えるステップであって、前記植物油が、少なくとも50%(GPCにより求めた相対%)の、少なくとも16個の炭素原子、好ましくは少なくとも18個の炭素原子を含む、少なくとも1個の飽和又は不飽和、直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖を有する脂肪酸を含む、少なくとも1種のトリグリセリドから構成されるが、前記脂肪酸の一つが、少なくとも1個のヒドロキシル基-OHを用いて分岐されているステップ;
(b)前記少なくとも1個のヒドロキシル基-OHでの、選択的エステル化ステップであって、ステップ(a)の終了時に得られた前記水素化された植物油の前記少なくとも1種の脂肪酸を、少なくとも1種の有機酸無水物と反応させるステップ;
(c)少なくとも1種の、前記式(I)を有する植物油エステルを回収するステップ;
その結果、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の範囲の酸価(単位、mgKOH/g)を有する潤滑基剤を得る、
プロセス。
【請求項10】
ステップ(a)の前記植物油が、次式の少なくとも一種のトリグリセリドを含む、請求項9に記載の調製プロセス:
【化2】
[式中、炭化水素基のR、R、又はRは、独立して、少なくとも16個の炭素原子を含む飽和で、直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、R、R、及びRの少なくとも1個の基が、少なくとも1個のヒドロキシル基-OHを用いて、その炭化水素鎖の上で分岐されている]。
【請求項11】
前記植物油が、ヒマシ油、レスクエレラ油又は、リシノール酸(C18:1-OH)、デンシポール酸(C18:2-OH)、レシクエロール酸(C20:1-OH)、若しくはアウリコール酸(C20:2-OH)から選択される少なくとも50%(GPCにより求めた相対%)の脂肪酸を含む、その他各種の油の1種又は複数から選択される、請求項9又は10に記載の調製プロセス。
【請求項12】
前記プロセスが、前記エステル化ステップ(b)と、前記少なくとも1種の植物油エステルを回収するステップ(c)との間に、
(b1)トッピングステップ;
(b2)冷却ステップ;
(b3)場合によっては、中和ステップ;
(b4)場合によっては、精密濾過ステップ;
の中間ステップを含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の調製プロセス。
【請求項13】
前記有機酸無水物が、次の式(II)を有する、請求項9~12のいずれか1項に記載の調製プロセス:
【化3】
[式中、R及びR’は、独立して、1~12個、特には1~6個、典型的には1~4個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル鎖から選択され、好ましくは、酢酸無水物、酪酸無水物、又はイソ酪酸無水物、及びそれらの混合物からなる群より選択される]。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか1項に記載の調製プロセスによって得られる潤滑基剤であって、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の酸価(単位、mgKOH/g)を有することを特徴とする、潤滑基剤。
【請求項15】
前記潤滑基剤が、標準DEF STAN 05-50(パート61)、メソッド6に従って測定して、300~3500時間の範囲の耐加水分解性を有していることを特徴とする、請求項14に記載の潤滑基剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性潤滑剤、好ましくは生物由来の潤滑剤の技術分野に関する。
【0002】
具体的には、本発明は、潤滑用途のため、特には(たとえば風力タービンの)ギア、地上タービン、海洋分野において使用されるスターンチューブ及びその他の装置、さらには森林会社で使用されるチェーンソーの鎖に潤滑作用を与えるための、植物油エステルから構成される生分解性潤滑基剤の新規な使用に関する。本発明はさらに、この潤滑基剤を調製するためのプロセスにも関する。最後に、本発明はさらに、上述のプロセスにより得られる潤滑基剤にも関する。
【背景技術】
【0003】
潤滑とは、二つの可動部分の間での摩擦を低減させるために使用されるプロセスである。したがって、二つの部材の間に潤滑剤を導入することによって、摩擦及びそれに伴う負の影響、たとえば、摩耗、疲労、部材の腐食、破壊などを低減させることができる。
【0004】
したがって、潤滑剤組成物は、特定の技術的な要求性能、特に粘度、粘度指数、レオロジー(冷時及び熱時の両方)及び引火点に関わる要求性能に適合していなくてはならない。粘度は、潤滑対象の用途及びシステムに従って選択される。例を挙げれば、工業用ギアでは、ISO VG 220及びISO VG 320程度の粘度グレードが必要であるが、それに対して、スターンオイルでは、ISO VG 100及びISO VG 150のグレードが必要とされる。
【0005】
それと同時に、近年では、環境に配慮しそしてそれを保護することが、大きな問題となってきた。実際のところ、風力発電所、森林伐採、又は海洋環境(船舶、風力タービン、及びオフショア構造物など)で使用される潤滑剤のいくつかは、その環境の中に拡散される可能性があり、海洋、土壌、流出水、及び地下水の汚染源となり得る。例を挙げれば、チェーンソーの永続的潤滑のために使用されるオイルの場合においては、油滴が地上に絶え間なく落ちるが、これが、潤滑ロスであり、環境へ放出されたオイルの量は無視できない。同様の汚染問題が、機械で使用される油圧油の場合にも発生するが、この場合は、もはや潤滑ロスの問題には留まらず、ホースやシールの締め付け不良や不測の破損(これは、それらの機械の操作にはつきものである)が原因の漏れ出しの結果としての、周辺環境の中への潤滑剤の拡散という問題となる。
【0006】
その解決法は、従来技術においても、提供されてきた。
【0007】
例を挙げれば、アルキル又はネオポリオールのイソステアレートをベースとする潤滑組成物が開発されてきて、それらは特には、市販製品のNycobase SNG、NB 8318S、Nycobase STM、及びNycobase SMPに相当する。それらのエステルは、特には、ダイマー酸の工業生産からのイソステアリン酸(イソ-C18)から形成される。それらのエステルは、特に、ISO VG 46~ISO VG 150(標準NF ISO 3448)の範囲の粘稠なグレードであり、潤滑プロセスでのニーズには適合している。しかしながら、それらの合成は、比較的に限定されたままであり、以下の理由から制限を受けている:
- このイソステアリン酸の製造における限度;このものは、ダイマー脂肪酸製造の際の少量副生物であり、そのため、一方では、後者に依存し、他方では、より広い用途を意図して工業的にアクセスすることが困難である;
- イソステアリン酸の工業的混合物の性質の複雑さ;その純度が、60%~80%の間で変動する;
- 製造業者による品質の変動;組成が異なり(不けん化物のレベル、環構造などの変動)、そのため、供給品質の維持が困難となる;及び
- バッチごとの品質の変動;用途での性質の変動につながり、そのため、たとえば界面の性質で変動や問題が起きる。
【0008】
文献の米国特許第2,049,072号明細書(公開、1936年)には、潤滑剤を形成させるための物質を製造するためのプロセスが記載されている。具体的には、この文献の目的は、鉱油と混合される潤滑剤組成物を提供することであり、したがってその目的は、生分解性の潤滑基剤を提供することではない。
【0009】
その文献に記載されたプロセスには、以下のステップが含まれる:
- 触媒の存在下又は非存在下に、ヒドロキシル基を含む脂肪族有機物質たとえばヒマシ油を、有機酸たとえば塩化アセチルで少なくとも部分的にエステル化させるステップ;
- 場合によっては、たとえば、エステル化及び水素化されたヒマシ油を得るための水素化による安定化ステップ。
【0010】
しかしながら、下記の実験の部で説明するように、本願出願人は、比較試験を実施し、次のことを明らかにした:その文献に記載されたプロセス、特に実施例では、(現在の基準、それぞれ標準ISO 6618、標準TOST、及びASTM E222Bに従った)良好な酸価、良好な耐酸化性及び耐エージング性、並びに良好な耐加水分解性を有する高性能な潤滑基剤を得ることは不可能である。
【0011】
本出願人はさらに、次のことを指摘する:その文献の著者らは、部分エステル化によって、混合した後での鉱油の品質を改良するのに十分な性能が得られることを示唆している。しかしながら、本出願人が実験室で部分エステル化(ヒマシ油対塩化アセチルが等モル比)の再現実験をすると、その部分アセチル化反応生成物が、液状物ではなく、固形物であることが明らかとなった。したがって、部分エステル化では、風力タービンのような装置を潤滑させるのに使用可能な(すなわち、液体形状の)、潤滑基剤を得ることは困難となる。
【0012】
最後に、本出願人は次のことを指摘する:その文献は、1936年に遡るものであり、知る限りでは、潤滑剤の分野における専門家で、そのようなヒマシ油ベースの潤滑基剤を市場に提供した者は、過去にも現在でも一人もいない。したがってこの教示は、この分野における専門家によって支持されることはなかった。このことは、そこに記載された潤滑基剤が、粘度の面で満足のいく結果を与えたとしても、潤滑剤としての他の本質的な特性、たとえば、酸価、エージング、さらには耐加水分解性の面で不満足なものであるという事実が原因であると思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、従来からの石油由来の潤滑剤よりも、生分解性があり、したがって環境により優しい新規な潤滑剤組成物であって、しかも、少なくとも同等の技術的性能、すなわちISO VG 46~ISO VG 150の範囲、又はそれ以上の比較的高い粘度を有する流体組成物を提供する必要がある。
【0014】
さらには、十分な技術的性能を有し、改良された界面的性能を備え、その一方で、容易に実施可能である、すなわちその調製プロセスの面で容易に達成可能であり、そのプロセスが、水に対しても空気に対しても安定で、バッチごとに同等又は少なくとも類似の技術的特性を有する液状組成物を与えることが可能であるか又はそのように構成されている、新規な、生分解性且つ好ましくは生物由来の潤滑組成物を得ることが、現行技術において必要とされている。
【0015】
さらには、現行技術において、良好な耐加水分解性(すなわち、耐水性)、十分な酸価を有し、そしてそれによって、特に海洋用途に適用されうるような新規な潤滑組成物を得ることも必要とされる。
【0016】
したがって、本発明の目的は、上述の必要性の少なくとも一部を満たすような新規な潤滑基剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的のために、本発明は、装置及び/又は機械たとえば、風力タービン及びスターンチューブに潤滑作用を与えるための、少なくとも1種の、生物由来で生分解性の式(I)の化合物を含む潤滑基剤の使用に関するが、
ここで、前記少なくとも1種の式(I)の化合物は、次式を有し:
【化1】
[式中、R、R、及びRは、独立して、少なくとも16個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基であり、R、R、及びRの内の少なくとも1個の基が、少なくとも1個のエステル基O-CO-R(ここでRは、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基である)を用いて、その炭化水素鎖の上で分岐されている]、そして
前記潤滑基剤は、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の範囲である酸価(単位、mgKOH/g)を有している。
【0018】
本発明における使用の、さらなる非限定的で有利な特性としては、個別又は各種技術的に可能な組合せとして、以下のものが挙げられる:
- その炭化水素基R、R、及びRが、18~24個の炭素原子、好ましくは18~20個の炭素原子を含む;
- エステル基-O-CO-Rの基Rが、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピル基から選択される;
- エステル基-O-CO-Rを用いて分岐されたR、R、及びRからの、前記少なくとも1個の炭化水素鎖の上で、エステル基が、9位、10位、又は12位、又は14位に位置している;
- R、R、及びRの内の少なくとも2個の炭化水素基、好ましくは炭化水素基R、R、及びRの全部が、エステル基-O-CO-Rを用いて分岐されている;
- その潤滑基剤がさらに、式(I)の化合物とは異なる、少なくとも1種の他の生分解性又は部分的生分解性の潤滑性化合物たとえば、アルキル又はネオポリオールのイソステアレート、ポリアルファオレフィン(PAO)、鉱油、又はそれらの混合物を含む;
- その潤滑基剤が、標準ASTM D 892に従って測定して、0~200mLの範囲、好ましくは0~100mLの範囲、典型的には0~50mLの範囲の泡立ち傾向(foaming tendency)を有している;
- その潤滑基剤が、ASTM D 1401に従って測定して、0~30分の範囲、好ましくは0~15分の範囲、典型的には0~10分の範囲の解乳化時間(demulsification time)を有している;
- その潤滑基剤が、標準NF ISO 9120(1999年12月)に従って測定して、1~10分の範囲、好ましくは1~5分の範囲、典型的には1~3分の範囲の油空気放出時間(oil air release time)を有している;
- その潤滑基剤が、標準DEF STAN 05-50(パート61)、メソッド6(「国防省、防衛標準05-50(パート61)、メソッド6」)に従って測定して、300~2000時間の範囲、好ましくは600~1500時間の範囲、典型的には750~900時間の範囲の耐加水分解性を有している;
- その潤滑基剤が、その合計質量を基準にして、質量で、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、特には少なくとも90%、典型的には100%の、前記少なくとも1種の式(I)の化合物を含んでいる。
【0019】
本発明はさらに、上で定義された、前記少なくとも1種の式(I)の化合物を調製するステップ(i)を含む、上で定義された潤滑基剤を調製するためのプロセスにも関するが、前記ステップ(i)には、以下の連続ステップ、好ましくは以下の三つのステップのみを含み:
(a)少なくとも1種の、前もって水素化された植物油又は水素化用の植物油を備えるステップであって、前記植物油は、少なくとも50%(GPCにより求めた相対%)の、少なくとも16個の炭素原子、好ましくは少なくとも18個の炭素原子を含む、少なくとも1個の飽和又は不飽和、直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖を有する脂肪酸を含む、少なくとも1種のトリグリセリドから構成されるが、前記脂肪酸の一つは、少なくとも1個のヒドロキシル基-OHを用いて分岐されているステップ;
(b)ステップ(a)の終了時に得られた前記水素化された植物油を、少なくとも1種の有機酸無水物を用いて、前記少なくとも1個のヒドロキシル基-OHのところで選択的にエステル化するステップ;
(c)少なくとも1種の、式(I)に相当する植物油エステルを回収するステップ;
その結果、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の範囲の酸価(単位、mgKOH/g)を有する潤滑基剤が得られる。
【0020】
本発明におけるプロセスの、さらなる非限定的で有利な特性としては、個別又は各種技術的に可能な組合せとして、以下のものが挙げられる:
- ステップ(a)の植物油が、次式の少なくとも一種のトリグリセリドを含む:
【化2】
[式中、炭化水素基のR、R、又はRは、独立して、少なくとも16個の炭素原子を含む飽和で、直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、R、R、及びRの内の少なくとも1個の基は、少なくとも1個のヒドロキシル基-OHを用いて、その炭化水素鎖の上で分岐されている];
- 基R、R、又はRの内の少なくとも2個、典型的には3個全部が、それらの炭化水素鎖の上で、少なくとも1個のヒドロキシル基-OHを用いて分岐されている;
- 前記選択的エステル化ステップ(b)と、前記少なくとも1種の植物油エステルを回収するステップ(c)を実施する前との間で、そのプロセスが、次の中間ステップを含んでいてもよい:
(b1)トッピングステップ;
(b2)冷却ステップ;
(b3)中和ステップ;
(b4)場合によっては、精密濾過ステップ;
- その潤滑基剤が、その合計質量を基準にして、質量で、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、特には少なくとも90%、典型的には100%の、前記少なくとも1種の式(I)の化合物を含んでいる;
- そのプロセスが、ステップ(i)の終了時に得られた前記少なくとも1種の、式(I)の植物油エステルと、少なくとも1種の他の生分解性潤滑性化合物との混合を含む、ステップ(ii)を含んでいてよい;
- その植物油が、以下の油の1種又は複数から選択される:ヒマシ油、レスクエレラ油又は、少なくとも50%(GPCにより求めた相対%)の、以下のものから選択される脂肪酸を含む、その他各種の油:リシノール酸(C18:1-OH)、デンシポール酸(densipolic acid)(C18:2-OH)、レシクエロール酸(lesquerolic acid)(C20:1-OH)、又はさらにはアウリコール酸(auricolic acid)(C20:2-OH);
- その有機酸無水物が、次の式(II)を有する:
【化3】
[式中、R及びR’は、独立して、直鎖状又は分岐状の、1~12個、特には1~6個、典型的には1~4個の炭素原子を含むアルキル鎖から選択される];
- その有機酸無水物は、特には、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、又はイソ酪酸無水物、及びそれらの混合物からなる群より選択される。
【0021】
本発明はさらに、上述のプロセス(ステップ(i))に従って得られた、上で定義された、少なくとも1種の、生物由来で生分解性の式(I)の化合物を含む潤滑基剤も目的としているが、それは、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の範囲の酸価(単位、mgKOH/g)を有することを特徴としている。
【0022】
その潤滑基剤が、標準DEF STAN 05-50(パート61)、メソッド6に従って測定して、300~2000時間の範囲の耐加水分解性を有しているのが好ましい。
【0023】
言うまでもないことであるが、本発明の各種の特性、代替物、及び実施態様を相互に、それらが、適合し難かったり、相互に排他的であったりしない限りにおいて、各種の組合せに従って組み合わせてもよい。
【0024】
それに加えて、本発明の各種のその他の特性も、本発明の非限定的実施態様を説明する、さらなる記述からも明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本出願人は、機械及び/又は装置たとえば風力タービン(オンショア又はオフショア)に潤滑性を与えるための、潤滑を目的とした、熱時及び冷時両方で使用するための、長い、流動性のある、分岐状の飽和脂肪族鎖を有するエステルをベースとした、新規な潤滑組成物の開発に尽力してきた。
【0026】
本出願人はさらに、潤滑剤のためのEUエコラベル(NF511)にも適合する、新規な、生物由来で生分解性の流体潤滑剤組成物の開発にも尽力してきた。
【0027】
この目的のために、本発明は、装置及び/又は機械たとえば、風力タービン及びスターンチューブに潤滑作用を与えるための、少なくとも1種の、生物由来で生分解性の式(I)のエステル化合物を含む流体の潤滑基剤の使用に関するが、
ここで、前記少なくとも1種の式(I)の化合物は、次式を有し:
【化4】
[式中、R、R、及びRは、独立して、少なくとも16個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基であり、R、R、及びRの内の少なくとも一つが、少なくとも1個のエステル基O-CO-R(ここでRは、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基である)によって、その炭化水素鎖の上で分岐状されている]、そして
前記潤滑基剤は、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の範囲である酸価(単位、mgKOH/g)を有している。
【0028】
その特性が理由で、本発明における潤滑基剤は、十分な潤滑性能を有し、且つ環境に優しい。
【0029】
具体的には、一方では、それが、高いレベルの生分解性、高い再生可能な炭素含量、及び非塩由来(non-salt origin)を有しており、そのため、その環境的及び社会的悪影響が限定される。実際のところ、本発明における長い飽和脂肪族鎖を有するエステルは、生物由来であり、たとえば、ヒマシ油又はレスクエレラ油のような、1種又は複数の植物油から誘導される。それらのエステルはさらに、生分解性であり、潤滑剤のためのEUエコラベル(NF511)にも適合する。したがってそれらは、水性毒性が、ほとんど又は全くない。このように生態毒性が低いことは、ミジンコでの試験(EL50-48h(g/1000g)>0.11/1000、OECD 202による)及び生分解性(80.3%、OECD 301Bによる)に基づいて説明される。
【0030】
他方では、以下の実験の項でも示されるが、本発明における潤滑基剤は、特に、先に従来技術の記述で触れたように、イソステアリン酸から得られる粘稠なエステルに比較して、高い耐加水分解性及び改良された界面特性を有している。
【0031】
それに加えて、それが優れた酸価を有していて、そのために、潤滑作用を与える装置及び/又は機械の構成成分、たとえばエラストマーベースのシールとの適合性が高くなる、すなわち、それと接触状態にある材料の寿命にほとんど、又は全く影響しない(特に、機械的観点から)。
【0032】
さらには、それは、一般的に135~165cStの間の粘度グレードを有しているが、それは、市場で入手可能な最も粘稠な(単一)イソステアレート(ISO VG 150グレード)と対比可能なグレードである。
【0033】
以後において「流体(fluid)」という用語は、その潤滑基剤が、周囲温度で流動可能であり、そして通常条件の温度(すなわち、周囲温度)及び圧力(すなわち、大気圧)の下では、液状の形態にあるということを意味している。
【0034】
本発明においては、「生物由来(biosourced)」という用語は、それが、生物(たとえば、植物又は動物)起原の物質、再生可能な資源たとえば、植物油から、完全又は少なくとも部分的に製造された潤滑基剤であることを意味している。
【0035】
本発明においてはさらに、「生分解性の潤滑基剤(biodegradable lubricating base)」という用語は、自然環境の中に存在している微生物によって、それが分解され得るということを意味している。水及び酸素の存在下でバクテリアがその潤滑剤に作用すると、理想的な温度及び時間の条件下では、それを変換させて、二酸化炭素、鉱物塩、及び水となる。
【0036】
生分解性を測定するには、いくつかの方法がある。
a)CEC L33 A 93試験
主たる生分解性では、所定の時間での、出発化合物の消失を測定する。液状媒体の中で実施される、承認されたCEC L33 A 93試験が、最も一般的に使用されている。分解率が90%を超えれば、その物質は、高度に生分解性である。植物油は、120日の実験の後では、90%の分解率を有している。それとは対照的に、鉱物質ベースの潤滑剤は、同一の時間では、わずか70%の分解率である。
b)OECD 301B試験
究極的な生分解性は、所定の時間の間に放出される二酸化炭素の量に基づく(OECD 301B承認試験)。この尺度は、より限定的であり、生分解反応生成物は、一次生分解性よりは低い速度を与える。この判定基準は、製品の真の生分解性をよりよく反映するが、その理由は、それが、生物による製品のトータルな同化作用を考慮に入れているからである。土壌媒体を使用した反応器の中で求めた、究極的な生分解性は、バイオ潤滑剤では70%を超える分解率を示すが、それに対して鉱物質起原の潤滑剤では、わずかに30%である。
【0037】
本発明における潤滑基剤は、CEC L33 A93試験では、90%以上の分解率を有し、OECD 301B試験で求めると、70%以上、好ましくは75%以上、一般的には80%以上の分解率を有する。
【0038】
本発明における式(I)の化合物(エステル)の構造については、以下で説明する。
【0039】
先に述べたように、式(I)の化合物の炭化水素基R、R、及びRは、独立して、少なくとも16個の炭素原子を含む飽和、直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、それらの基の内の少なくとも一つは、エステル基O-CO-Rを用いて分岐されている(すなわち、そのエステル官能基が、炭化水素基R、R又はさらにはRの末端には存在しない)。
【0040】
「少なくとも16個の炭素原子」という用語は、次の数値、又はこれらの数値の間の各種間隔の中の炭素数を含む炭化水素鎖を意味している:16;17;18;19;20;21;22;23;24;25;26;27;28;29;30など。
【0041】
炭化水素基R、R、及びRには、一般的には18~24個の炭素原子、好ましくは18~22個の炭素原子、典型的には18~20個の炭素原子が含まれる。
【0042】
「アルキル基」という用語は、1~10個の炭素原子(C~C10)、好ましくは1~6個の炭素原子(C~C)を含む、直鎖状又は分岐状の飽和炭化水素基を意味している。本発明においては、「1~10個の炭素原子」には、次の数値、又はこれらの数値の間の各種間隔が含まれる:1;2;3;4;5;6;7;8;9;10。
【0043】
一般的には、エステル基-O-CO-Rの基Rは、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピル基から選択される。
【0044】
具体的には、R、R、及びRの中の少なくとも2個の炭化水素基、典型的には炭化水素基R、R、及びRの中の全部が、エステル基-O-CO-Rを用いて分岐されている。
【0045】
以下でも説明するように、式(I)の化合物は、少なくとも1種の、ヒドロキシル基を用いて分岐された(ヒドロキシル末端ではない)脂肪酸、たとえばヒマシ油(C18:1-OH)又はレスクエレラ油(C20:2-OH)を含む水素化された植物油から、エステル化により形成させることができる。
【0046】
そのエステル化反応は、それらの油のヒドロキシル基(-OH)で起きる。したがって、それらの炭化水素基R、R、及びRは、それらの油の中に含まれる脂肪酸の炭化水素鎖に対応させることができる。ヒマシ油を用いてエステル化反応を実施した場合、炭化水素基R、R、及びRの全部が、エステル基-O-CO-Rを用いて分岐され、そして、レスクエレラ油を用いてエステル化反応を実施した場合、炭化水素基R、R、及びRの内の二つにエステル基-O-CO-Rが含まれる。
【0047】
エステル基-O-CO-Rを用いて分岐された式(I)の単一又は複数の化合物の、前記少なくとも1種の炭化水素鎖R、R、及びRの上で、エステルが、9位、10位、12位、又は14位に位置しており、典型的には12位又は14位に位置しているのが、有利である。
【0048】
一般的には、その潤滑基剤が、その合計質量を基準にして、質量で、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、特には少なくとも90%、典型的には100%の、前記少なくとも1種の式(I)の化合物を含んでいる。
【0049】
本発明においては、「その潤滑基剤が、その合計質量を基準にして、質量で、少なくとも50%の前記少なくとも1種の式(I)の化合物を含んでいる」という文言には、次の数値、又はこれらの数値の間の各種間隔が含まれる:50;55;60;65;70;75;80;85;86;87;88;89;90;91;92;93;94;95;96;97;98;99;100。
【0050】
したがって、その潤滑基剤にはさらに、式(I)の化合物とは異なる、少なくとも1種の他の生分解性潤滑性化合物、たとえば、アルキル、たとえばC~C10若しくはネオポリオールのイソステアレート、ポリアルファオレフィン(PAO)、鉱油、又はそれらの混合物が含まれていてもよい。
【0051】
典型的には、その潤滑基剤は、前記少なくとも1種の式(I)の化合物のみから構成され/それからなっている。
【0052】
その潤滑基剤、すなわち本発明における式(I)の前記少なくとも1種の化合物が、以下の特性を有しているのが有利である:
- 1~8、好ましくは1~5、典型的には1~2の範囲にある、標準ASTM 1544に従って測定したガードナーカラー;
- 0.930~0.970の範囲、好ましくは0.940~0.960、典型的には0.950~0.960の範囲にある、標準ASTM D4052に従って測定した密度;
- 16~22mm/s、好ましくは18~20mm/sの範囲にあり、典型的には18.5~19.5mm/sである、標準ISO 3104に従い、キャノンフェンスケタイプの実験室粘度計で測定した100℃での粘度;
- 100mm/s~200mm/s、好ましくは130mm/s~170mm/s、典型的には160mm/s~165mm/sの範囲にある、ISO 3104標準に従い、キャノンフェンスケタイプの実験室粘度計で測定した40℃での粘度;
- 110~170の範囲、好ましくは125~155、典型的には130~135の範囲にある、標準ISO 2909に従って測定した粘度指数;
- 0~0.5、好ましくは0~0.20、典型的には0~0.05の範囲にある、標準ISO 6618に従って測定した酸価(単位、mgKOH/g);
- 0~10、好ましくは0~5、典型的には0~3の範囲にある、標準ASTM E 222Bに従って測定したヒドロキシル価;
- 0~10、好ましくは0~5、典型的には0~3の範囲にある、標準ISO 3961に従って測定した、ヨウ素価(単位、g/100の油);
- 250~320の範囲、好ましくは265~310、典型的には295~305の範囲にある、標準ASTM D92に従って測定したCOC引火点;
- 300~2000時間、好ましくは600~1500時間の範囲にあり、典型的には750~900時間である、標準DEF STAN 05-50(パート61)メソッド6に従って測定した耐加水分解性;
- 潤滑基剤及び/又は本発明における式(I)の前記少なくとも1種の化合物がさらに、空気及び水と接触して向上する、界面性能を有する;
- 0~200mLの範囲、好ましくは0~100mLの範囲、典型的には0~50mLの範囲にあり、そして理想的には泡立ちのない、標準ASTM D 892に従い、三つの温度シーケンス(シーケンス1;24℃、シーケンス2;93.5℃、次いで冷却して、シーケンス3;24℃)で実施して測定する、泡立ち傾向(前記潤滑基剤の中に空気を5分間吹き込んだ後で、メスシリンダーで測定した泡の体積に相当);
- 0~30分、好ましくは0~15分、典型的には0~10分の範囲の標準ASTM D 1401に従って測定した、解乳化時間(ASTM D 1401法に従い、公知の体積の油(40mL)を水(40mL)と混合し;それら二つの流体が分離するのに要する時間を、分の単位で測定する;その分離が早いほど、解乳化が良好である);
- 1~10分の範囲、好ましくは1~5分の範囲、典型的には1~3分の範囲にある、標準NF ISO 9120(1999年12月)に従って測定した、油空気放出時間(特には、空気放出は、所定の温度で、その潤滑基剤の中に分散された空気が、合計体積の0.2%にまで低下したときの時間(単位、分)であり;別の言い方をすれば、空気放出は、潤滑基剤が、それ自体で、それの中に含まれる空気を低減させることを行うのに必要とされる時間である);
- 0.0~5.0の範囲、好ましくは0.0~2.0の範囲、典型的には0.0~1.0の範囲にある、ASTM D664法(以下の例Cに記述)に従う、油の酸価の変動(mgKOH/g);
- 0.0~5.0の範囲、好ましくは0.0~2.0の範囲、典型的には0.0~1.0の範囲にある、ASTM D974法(以下の比較試験Cに記述)に従う、揮発性酸性度(volatile acidity、mgKOH/g);
- -20~+30の範囲、好ましくは-10~+10の範囲、典型的には0.0~5.0の範囲にある、ASTM D445法(以下の比較試験Cに記述)に従う、粘度の変動(%);
- 0~100の範囲、好ましくは0~50の範囲、典型的には0~20の範囲にある、重量測定法(以下の比較試験Cに記述)による、析出量(deposit、mg/100mL);
- 0.00~1.00の範囲、好ましくは0.00~0.50の範囲、典型的には0.00~0.10の範囲にある、以下の比較試験Cに記述され、秤量により求められる、金属の質量変動(単位、g)(鋼銅スパイラル)。
【0053】
以下の試験でも説明するように、本発明における油のエステルでは、特に参照製品(上述のイソステアレート、NYCO社から市販されているNYCOBASE SMP製品に相当)と比較すると耐加水分解性が向上する。標準DEF STAN 05-50(パート61)メソッド6に従った加水分解に対する安定性は、NYCOBASE SMP製品での400時間から、本発明における式(I)の化合物での、790時間~850時間の間までと向上する。
【0054】
潤滑基剤及び/又は前記少なくとも1種の式(I)の化合物は、実際のところ、海洋環境、水性環境、さらには湿潤環境で、高い加水分解抵抗性を有している。具体的には、潤滑基剤/前記少なくとも1種の本発明における式(I)の化合物は、標準DEF STAN 05-50(パート61)メソッド6に従って測定して、300時間以上、典型的には600時間以上の加水分解安定性を有している。例を挙げれば、潤滑基剤/前記少なくとも1種の本発明における式(I)の化合物は、標準DEF STAN 05-50(パート61)メソッド6に従って測定して、好ましくは650時間~2000時間、特には750時間~900時間、典型的には780時間~900時間の範囲の加水分解安定性を有している。したがって、本発明における潤滑基剤の耐加水分解性は、上で定義された同一の粘度グレードのイソステアレートのそれと比較して、25%~100%高い。
【0055】
本発明においては、「300時間以上の範囲」という表現には、次の数値、又はこれらの数値の間の各種間隔が含まれる:300;350;400;450;500;550;560;570;580;590;600;610;620;630;640;650;660;670;680;690;700;710;720;730;740;750;760;770;780;790;800;810;820;830;840;850;860;870;880;890;900;910;920;930;940;950;1000;1100;1200;1300;1400;1500;1600;1700;1800;1900;2000;2100;2200;2300;2400;2500;2600;2700;2800;2900;3000;3100;3200;3300;3400;3500など。
【0056】
本発明はさらに、上で定義された潤滑基剤を調製するためのプロセスも目的とする。
【0057】
具体的には、本発明におけるプロセスにより、特には、少なくとも1種の植物油から、本発明における潤滑基剤を作成するための式(I)の化合物、すなわち長い分岐状の脂肪族鎖を有するエステルを、単一のステップで得ることが可能となるが、これは次のようにまとめることができる;
植物油 + 有機無水物 → 植物油エステル + 有機酸
【0058】
例を挙げれば、その反応スキームは、以下のようであってよい:
【化5】
【0059】
この目的のために、本発明における潤滑基剤を調製するためのプロセスには、上述のような前記少なくとも1種の式(I)の化合物を調製する少なくとも一つのステップ(i)が含まれ、前記ステップ(i)には、下記の連続ステップそして一般的には下記の三つのステップのみが含まれる:
(a)少なくとも1種の、前もって水素化された植物油又は水素化用の植物油を備えるステップであって、前記植物油(水素化又は非水素化)は、少なくとも50%(GPCにより求めた相対%)の、少なくとも16個の炭素原子、好ましくは少なくとも18個の炭素原子を含む、少なくとも1個の飽和又は不飽和、直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖を有する脂肪酸を含む、少なくとも1種のトリグリセリドから構成されるが、前記脂肪酸の一つは、少なくとも1個のヒドロキシル基-OHを用いて分岐されているステップ;
(b)前記少なくとも1個のヒドロキシル基-OHでの、選択的エステル化ステップであって、ステップ(a)の終了時に得られた前記水素化された植物油の前記少なくとも1種の脂肪酸を、少なくとも1種の有機酸無水物と反応させるステップ;
(c)少なくとも1種の、式(I)に相当する植物油エステル及び各種の有機酸を回収するステップ;
その結果、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の範囲の酸価(単位、mgKOH/g)を有する潤滑基剤が得られる。
【0060】
ステップ(a)の植物油が、次式の少なくとも一種のトリグリセリドを含んでいるのが好ましい:
【化6】
[式中、炭化水素基R、R、又はRは、上で定義されたものであるが、但し、R、R、及びRの内の少なくとも1個の基が、その炭化水素鎖の上で、少なくとも1個のヒドロキシル基-OHを用いて分岐されている]
【0061】
一般的には、R、R、又はRの内の少なくとも2個の基、典型的には3個の基全部が、それらの炭化水素鎖の上で、少なくとも1個のヒドロキシル基-OHを用いて分岐されている。
【0062】
具体的には、エステル化ステップ(b)は、前記少なくとも1種の炭化水素鎖R、R、及びRの上、9位、10位、12位、又は14位で実施される。
【0063】
一般的には、その植物油が、以下の油の1種又は複数から選択される:ヒマシ油、レスクエレラ油又は、少なくとも50%(GPCにより求めた相対%)の、以下のものから選択される脂肪酸を含む、その他各種の油:リシノール酸(C18:1-OH)、デンシポール酸(C18:2-OH)、レシクエロール酸(C20:1-OH)、又はアウリコール酸(C20:2-OH)。
【0064】
典型的には、その選択される植物油は、ヒマシ油、レスクエレラ油、又はそれらの混合物から選択される。
【0065】
植物油を水素化するステップ(a)は、当業者には公知であり、以下でさらに詳しく説明することはないであろう。別法として、予め水素化された、上で定義された植物油を得ることも可能である。
【0066】
したがって、エステル化ステップ(b)は、水素化された植物油と有機酸無水物との間で実施される。
【0067】
その有機酸無水物が、次の式(II)に相当しているのが好ましい:
【化7】
[式中、R及びR’は、独立して、直鎖状又は分岐状の、1~12個、特には1~6個、典型的には1~4個の炭素原子を含むアルキル鎖から選択される]
【0068】
具体的には、その有機酸無水物は、以下のものからなる群より選択される:酢酸(エタン酸)無水物、プロパン酸無水物、酪酸無水物又はイソ酪酸無水物、エタン酸プロパン酸無水物、ペンタン酸無水物、イソペンタン酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物、オクタン酸無水物、ノナン酸無水物、デカン酸無水物、ウンデカン酸無水物、ドデカン酸無水物。
【0069】
このものを、好ましくは連続的に、その水素化された植物油の中に、1kgの水素化された植物油あたり、以下の範囲の流量で導入する;0.05L/h/kg~0.2L/h/kg、好ましくは0.06L/h/kg~0.15L/h/kg、典型的には0.08L/h/kg~0.12L/h/kg。
【0070】
本発明においては、「0.05L/h/kg~0.2L/h/kgの範囲とすることができる、1kgの水素化された植物油あたりの流量」には、以下の数値、又はこれらの数値の間の各種間隔が含まれる:0.05;0.06;0.07;0.08;0.09;0.10;0.11;0.12;0.13;0.14;0.15;0.16;0.17;0.18;0.19;0.20。
【0071】
一般的には、有機酸無水物は、(水素化された植物油混合物に対して)、1kgの水素化された植物油あたり、0.001~1L/h/kg、好ましくは0.005~0.05L/h/kg、典型的には0.01L/h/kgの範囲で連続的に添加されるか、又は単回添加される。
【0072】
エステル化ステップ(b)は、一般的には200℃未満、特には90℃~150℃、好ましくは100℃~140℃、典型的には110℃~130℃の範囲の温度で実施される。
【0073】
このステップ(b)は、一般的には3~7時間、特には4~6時間、典型的には約5時間続けられる。この時間の長さは、たとえば静的反応器(static reactor)を通すような定流量反応では、より短かくなる可能性がある。
【0074】
理想的には、ISO 6618に従って測定して酸価をモニターし、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によってヒドロキシル価をモニターして、ヒドロキシル価IOHが1mgKOH/g以下になるまで続ける。
【0075】
エステル化ステップ(b)は、触媒の存在下又は非存在下で実施することができる。
【0076】
例を挙げれば、塩基性触媒、又は酸性触媒たとえば、強酸及びAMBERLYST又はNAFIONタイプのスルホン酸樹脂が適切であろう。一般的には、触媒を使用することによって、エステル化ステップ(b)の際に使用される温度を下げたり、及び/又は反応速度を上げたりすることが可能となる。
【0077】
このエステル化ステップ(b)と、本発明における式(I)の化合物の回収を実施するステップ(c)の前との間に、次の中間ステップを実施することもまた可能である:
(b1)トッピングステップ;
(b2)冷却ステップ;
(b3)場合によっては、中和ステップ;
(b4)場合によっては、精密濾過ステップ。
【0078】
トッピングステップ(b1)の際には、ステップ(b)の最後に得られた反応生成物を、その有機酸無水物の沸点よりも高い温度にまで加熱することにより、生成した有機酸を除去する。たとえば、酢酸無水物の沸点は、大気圧で139℃である。したがって、このステップは、140℃~200℃、好ましくは150℃~190℃、一般的には160℃~170℃の範囲の温度で実施することができる。このステップの際に、温度を下げるために、真空を適用することも可能である。選択された温度及び真空度に依存して、このステップ(b1)は、1~5時間、好ましくは2~4時間、一般的には3時間続けられる。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって反応をモニターして、ヒドロキシル価IOHを2mgKOH/g以下、そして酸価(ISO 6618)を、1mgKOH/g以下、好ましくは0.5mgKOH/g以下とするのが理想的である。
【0079】
冷却ステップ(b2)の際には、ステップ(b1)から得られた反応生成物の温度を、60℃以下、好ましくは50℃以下、典型的には40℃以下の温度にまで下げる。このステップ(b2)は、0.5時間~3時間、好ましくは0.75時間~2.5時間続けることが可能であり、一般的には1~2時間続ける。
【0080】
中和ステップ(b3)の際には、ステップ(b2)からの冷却された反応生成物を中和する。このためには、ステップ(b2)からの反応生成物の合計質量を基準にして、質量で5%未満、特には3%未満、典型的には0.5~1%の中和添加剤を使用し、次いでその反応生成物を真空反応器に入れて水を除去するが、それには、それを100℃、好ましくは90℃、典型的には80℃の最高温度にまで加熱して、その媒体を脱水し、反応生成物を、一般的には、フィルタープレスタイプのフィルター、たとえばDicalite(登録商標)のベッドの上に置く。
【0081】
精密濾過ステップ(b4)の際には、ステップ(b3)からの反応生成物を、可能であれば、精密濾過を可能とするフィルター、たとえばGauthier(登録商標)フィルターの上に、たとえば70℃の最高温度で置く。
【0082】
このステップ(b4)の後で、式(I)のエステルを、回収し(プロセスのステップ(c))、そして必要があれば、有機酸がエステル化反応の際に除去されていないような場合には、有機酸を回収する。
【0083】
本発明における調製プロセスは、いくつかの利点を有している。第一には、一般的には、慣用されるエステル化反応よりは低い温度で実施されるエステル化ステップ(b)を可能とし、それによって、慣用されるエステル化反応の場合よりは、エネルギー消費量が少ない(その温度が、慣用されるエステル化反応では220~260℃であるのに対して、120~160℃のオーダーである)。さらには、調製プロセス(エステル化ステップ(b)/トッピングステップ(b1)/冷却ステップ(b2))の際の、加熱/冷却のランプが、より短い。出発物質の抽出精製油からの、それぞれのステップの回数、特にはステップ数が、特に、従来技術の記述で示したイソステアレートの製造に比較して、さらに少なくなっている。実際のところ、イソステアレートの製造では、精製油からは、少なくとも4段の合成ステップ(すなわち:ナタネ油の脂肪酸への加水分解/二量化でのイソステアリン酸の製造/水素化及び蒸留/イソステアリン酸のエステル化)が必要であるが、それに対して、本発明におけるプロセスでは2段である。言うまでもないことであるが、式(I)の化合物の使用について上で述べた各種の実施態様をこの調製プロセスに適用することも可能であり、これ以後では繰り返さない(逆に言えば、本発明における調製プロセスで述べた各種の実施態様を、本発明における使用にも適用できる)。
【0084】
例を挙げれば、その潤滑基剤が、その合計質量を基準にして、質量で、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、特には少なくとも90%、典型的には100%の、前記少なくとも1種の式(I)の化合物を含んでいる。
【0085】
したがって、そのプロセスが、ステップ(i)の終了時に得られた前記少なくとも1種の、式(I)を有する植物油エステルと、少なくとも1種の他の生分解性潤滑性化合物との混合を含む、ステップ(ii)を含んでいてよい。
【0086】
式(I)の化合物とは異なる、前記その他の生分解性潤滑性化合物は、アルキル、たとえばC1~C10若しくはネオポリオールのイソステアレート、ポリアルファオレフィン(PAO)、鉱油、又はそれらの混合物であってよい。
【0087】
本発明はさらに、上で定義された調製プロセスによって得られる潤滑基剤も目的としているが、その特徴は、それが、標準ISO 6618に従って測定して、0~0.5の範囲の酸価(単位、mgKOH/g)を有していることである。
【0088】
その潤滑基剤が、標準DEF STAN 05-50(パート61)、メソッド6に従って測定して、300~2000時間の範囲の耐加水分解性を有しているのが好ましい。
【0089】
一般的には、その潤滑基剤が、その合計質量を基準にして、質量で、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、特には少なくとも90%、典型的には100%の、前記少なくとも1種の式(I)の化合物を含んでいる。
【0090】
言うまでもないことであるが、式(I)の化合物の使用のため、さらにはそのプロセスのための上述の各種の実施態様は、その調製プロセスによって得られる潤滑基剤にも適用され、これ以後では繰り返さない。
【0091】
言うまでもないことであるが、式(I)の化合物の使用のため、又は上述の調製プロセスのための上述の各種の実施態様は、潤滑剤組成物にも適用され(逆も同様)、これ以後では繰り返さない。
【実施例
【0092】
A)本発明における化合物(I)の調製例
実施例1:酢酸無水物を用いたヒマシ油のエステル化により得られる、式(I)の化合物(分岐状の長鎖脂肪族鎖を有するエステル)を調製するためのプロセス
そのプロセスは、下記の原料を、次の表1に記載された量で使用して、実施される。
【0093】
【表1】
【0094】
一般的には、その調製プロセスは、極めて穏やかな条件下(触媒の存在下又は非存在下)、エステル化反応の際に形成される酢酸を抜き出しながら、120℃の温度で実施される:
- 最初にヒマシ油を水素化させて、炭化水素脂肪族鎖の全部が飽和されたヒマシ油を得る;
- その水素化されたヒマシ油を加熱して、120℃で完全に融解させる(その理論融解温度は90℃である);
- 0.1L/h/kg-水素化ヒマシ油の速度で、酢酸無水物を連続的に導入する;
- 平行して、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によりヒドロキシル価をモニターして、ヒドロキシル価IOHが1mgKOH/g未満になるようにする;これらのステップ全部で、一般的には5時間かかり、透明な反応生成物が得られる;
- 次いで、温度を120℃から160℃に上げ、20mbarの圧力で3時間かけて、生成した酢酸を除去する(酢酸の沸点は118℃であり、酢酸無水物の沸点は、大気圧で139℃である);
- 得られた反応生成物を、冷却して、160℃から40℃とする;
- 得られた反応生成物を、0.5~1%(反応生成物の合計質量に対する質量%)の中和剤及びブラックを添加して中和し;そのようにして得られた反応生成物を、水を除去するための真空反応器の中に入れ;最高温度80℃にまで加熱して、媒体を脱水させ;Dicalite(登録商標)上で濾過する;
- 濾過は、Gauthier(登録商標)フィルター上、最高温度70℃で実施すると、きれいで透明な反応生成物が得られる。
【0095】
実施例2:酪酸無水物を用いたヒマシ油のエステル化により得られる、式(I)の化合物(分岐状の長鎖脂肪族鎖を有するエステル)を調製するためのプロセス
この実施例では、そのプロセスは、実施例1と同じであるが、但し、酢酸無水物を酪酸無水物に置き換え、下記の表2に示した条件で実施している。
【0096】
【表2】
【0097】
実施例3:イソ酪酸無水物を用いたヒマシ油のエステル化により得られる、式(I)の化合物(分岐状の長鎖脂肪族鎖エステル)を調製するためのプロセス
この実施例では、そのプロセスは、実施例1と同じであるが、但し、酢酸無水物をイソ酪酸無水物に置き換え、下記の表3に示した条件で実施している。
【0098】
【表3】
【0099】
実施例4~7:本発明における潤滑基剤を調製するためのプロセス
本発明における潤滑基剤を、実施例1の式(I)の化合物を、イソステアレート(NYCOBASE SMP、NYCOより市販)と、以下に記載の質量含量(そのようにして生成される潤滑基剤組成物の合計質量を基準にした、質量%)で混合することにより調製した。
【0100】
【表4】
【0101】
B)上記の実施例1~7及び比較例(イソステアレート)によるエステルの特性解析
本発明による実施例1~4に従って調製した潤滑基剤は、下記のような特性を有している(表5)。たとえば、その比較例(以後において、「Comp.1」と呼ぶ)は、上述のイソステアレート(NYCOBASE SMP製品、NYCO社から市販)100%から構成される潤滑基剤を示している。
【0102】
【表5】
【0103】
上の表5に見られるように、本発明における潤滑基剤は、特に粘度グレード、粘度指数、及び引火点の面で、比較例のComp.1(イソステアレート)に近い、十分な潤滑技術性能を示す。
【0104】
しかしながら、この表5ではさらに、本発明における潤滑基剤が、Comp.1の界面性能に比較して、改良された界面性能を示すことが認められる:泡立ちの問題がなく、解乳化及び空気放出時間が早い。さらに、それらは、加水分解(耐加水分解性)に対して、Comp.1よりも安定である。したがって、本発明における潤滑剤組成物は、海洋環境、水性環境、さらには湿潤環境での安定性が高く、そのため、たとえばオフショア又はオンショアの風力発電所におけるギアの潤滑付与には理想的である。
【0105】
下記の表6に、本発明実施例1、4~7及び比較例comp.1の潤滑剤組成物の技術的性能を示す。
【0106】
【表6】
【0107】
先に述べたように、式(I)の化合物が十分な潤滑技術性能を示す限りにおいて、それは不要である。
【0108】
C)本発明におけるプロセスと、文献の米国特許第2,049,072号明細書に記載のプロセスとの間の比較試験
本発明におけるプロセスにより得られた植物油エステルと、文献の米国特許第2,049,072号明細書(以後において、米国特許’072号と呼ぶ)に記載のプロセスにより得られた植物油エステルとの性能を比較するための比較試験が、本出願人により実施された。
【0109】
具体的には、文献の米国特許’072号に記載されたパラメーター/基準を使用して、その文献の実施例1及び2の再現実験を実施した。それらの例は、以後において、それぞれComp.2及びComp.3と呼ぶことにする。
【0110】
この比較試験の結果を、以下の表7にまとめた。第一列は、純粋なヒマシ油の特性に相当し、第二列及び第四列は、それぞれ、文献の米国特許’072号に記載の実施例1及び実施例2の特性に相当し、第三列及び第五列は、本出願人により測定されたEx.1及びEx.2の特性に相当し、そして第六列は、本発明のEx.1によるヒマシ油エステルに相当する。
【0111】
【表7】
【0112】
この比較例から、これらの例における特性測定で、文献の米国特許’072号に記載されている特性と、本出願人によって測定された特性との間では、似ているということが明らかである(ただし、100℃(SSU)での粘度測定及び粘度指数VIの測定を除く、それらでは、顕著な違いが存在する)。粘度指数の測定での違いは、いくつかの別の計算モードを使用すれば、必ず説明可能であろう。
【0113】
この試験は、米国特許’072号に記載のプロセスにより得られたヒマシ油エステルが、あまりにも高い酸価を有しているということを示している。いかなる理論にとらわれることもなく言えば、その文献のプロセス(アセチル化、次いで水素化、さらに塩化アセチルの使用との組合せ)では、ヒマシ油エステルの選択的反応を達成させることが不可能であり、その逆で、多くの酸性共反応生成物が形成されたのであろうということが明らかであろう。
【0114】
(米国特許’072号の実施例2で)得られた反応生成物の酸性度の点では、この反応生成物は適合性に欠けていて、たとえば、潤滑作用を与える対象の装置たとえば、ケーシングのエラストマーベースのシールを劣化させる可能性がある。
【0115】
この試験はさらに、文献の米国特許’072号に記載されたプロセスに従って得られたヒマシ油エステルは、耐加水分解性が極めて乏しく、水性環境、海洋環境、又はさらには湿潤環境で使用しようというのは不可能であるということも示している。
【0116】
本出願人はさらに、比較のための酸化試験及びエージング試験も実施した(下記の表8)。
【0117】
この試験は、標準NF 61125方法Cに準じ、次のパラメーターを修正して実施した:
a.ISO 4263において使用されるのは、含浸させた鋼/銅スパイラル金属
b.4263の使用酸素流量:3L/時間
c.時間168時間、温度120℃(NF 61125)。
【0118】
【表8】
【0119】
この試験は、酸化挙動において極めて鮮やかな違いを示していて、潤滑剤寿命の顕著な違いを示して、現行技術の米国特許’072号からの再現実験例では短くなっている。

【国際調査報告】