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特表2024-539985アノード材料、電池、およびアノード材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】アノード材料、電池、およびアノード材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20241024BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241024BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/36 Z
H01M4/58
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524742
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2022079355
(87)【国際公開番号】W WO2023072748
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】102021211974.3
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596107062
【氏名又は名称】フォルクスヴァーゲン アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】VOLKSWAGEN AKTIENGESELLSCHAFT
【住所又は居所原語表記】Berliner Ring 2, 38440 Wolfsburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジェキュン スン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB01
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB29
5H050FA17
5H050FA18
(57)【要約】
いくつかの粒子(10)を有するアノード材料(2)であって、それぞれの粒子(10)がコア(12)と、前記コア(12)を取り囲むシェル(14)とを有し、前記シェル(14)がケイ素、炭素および窒素を含有する、前記アノード材料(2)が示される。さらに、電池(6)およびアノード材料(2)の製造方法が示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
いくつかの粒子(10)を有するアノード材料(2)であって、
a. それぞれの粒子(10)がコア(12)と、前記コア(12)を取り囲むシェル(14)とを有し、
b. 前記シェル(14)がケイ素、炭素および窒素を含有する、
前記アノード材料(2)。
【請求項2】
シェル(12)内のケイ素が、多数のナノ粒子(16)を形成する、請求項1に記載のアノード材料(2)。
【請求項3】
前記ナノ粒子(16)が、0.5nm~5nmの範囲の平均直径を有する、請求項2に記載のアノード材料(2)。
【請求項4】
前記シェル(14)内のケイ素が、炭素および窒素と共に不活性マトリックス(18)を形成し、そこにナノ粒子(16)が埋め込まれている、請求項1または2に記載のアノード材料(2)。
【請求項5】
前記不活性マトリックス(18)が、窒素ドープされた炭素(20)、窒化ケイ素(22)、炭化ケイ素(24)、および炭窒化ケイ素(26)製の多数の領域から形成されている、請求項4に記載のアノード材料(2)。
【請求項6】
前記コア(12)が炭素のみからなる、請求項1から5までのいずれか1項に記載のアノード材料(2)。
【請求項7】
前記粒子(10)がそれぞれ炭素製の覆い(38)を有し、そこに前記コア(12)と前記シェル(14)とが封入されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載のアノード材料(2)。
【請求項8】
それぞれの粒子(10)のコア(12)とシェル(14)とが一緒に板状または棒状に形成されている、請求項1から7までのいずれか1項に記載のアノード材料(2)。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載のアノード材料(2)から製造されるアノード(4)を有する電池(6)。
【請求項10】
いくつかの粒子(10)を有するアノード材料(2)の製造方法であって、
a. それぞれの粒子(10)が、コア(12)と、前記コア(12)を取り囲むシェル(14)とを有し、
b. 前記シェル(14)が、気相堆積を用いて、ケイ素含有ガス(42)、炭素含有ガス(44)および窒素含有ガス(46)から製造される、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアノード材料、そのようなアノード材料製のアノードを有する電池、およびアノード材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アノード材料は、電池の一部であるアノードの製造のために役立つ。電池は例えば電気自動車において使用され、この場合、電気エネルギーを電気ドライブトレインに供給する。電池についての一例は、アノード材料として例えばケイ素または炭素が使用されるリチウムイオン電池である。
【0003】
電池は1つ以上のセルを有し、各々のセルは2つの電極、つまりアノードとカソードとを有する。電池および各々の個々のセルの性能は、特に電極および使用される材料にも依存する。例えば、アノード材料として、ケイ素粒子と炭素との組み合わせを使用することが可能である。ケイ素の使用は特に高いエネルギー密度をもたらす。しかしながら、アノード材料における純粋なケイ素の使用は様々な欠点も有する。例えばケイ素は乏しい導電性を有し、従って逆に電気絶縁性である。さらに、ケイ素はリチウム化の際に劇的な体積変化を受け、リチウムの永久的な捕捉(いわゆる「リチウムトラッピング」)、並びにケイ素表面での固体電解質界面相(略してSEI、「solid electrolyte interphase」)の不安定且つ継続的な形成を受けやすい。純粋なケイ素はさらに、機械的な分解(例えば破壊または粉砕)によって危険にさらされている。
【0004】
国際公開第2020/260332号(WO2020/260332 A1)は、ケイ素に基づくコアを有し、それが異なる密度を有する2つの炭素被覆によって取り囲まれている粒子を有するアノードを記載している。
【0005】
米国特許出願公開第2010/0310941号明細書(US2010/0310941 A1)は、アノード材料の製造方法を記載している。ここではまずカーボンナノチューブ(略してCNT、「carbon nanotube」)が製造され、これが引き続きケイ素で被覆される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/260332号
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0310941号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この背景に対し、本発明の課題は、改善されたアノード材料を示すことである。ここで、冒頭で述べられた1つ以上の欠点が可能な限り回避されるか、または少なくとも低減されるべきである。さらに、相応のアノード材料を有する電池、並びにアノード材料の製造方法が示されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題は、本発明によれば、請求項1に記載の特徴を有するアノード材料によって、請求項9に記載の特徴を有する電池によって、並びに請求項10に記載の特徴を有する方法によって解決される。有利な実施態様、さらなる構成および変形形態は従属請求項の対象である。アノード材料に関する記述は、電池についても、並びに方法についても相応して該当し、逆もまた然りである。
【0009】
本発明によるアノード材料は、電池のアノードにおいて使用するために構成される。電池は有利にはリチウムイオン電池であり、以下で、一般性を限定することなく、電池はリチウムイオン電池であると想定する。アノード材料はいくつかの粒子を有する。「いくつかの」とは、「1つ以上の」と理解され、典型的にはアノード材料は多数の粒子を有する。アノード材料1グラムあたりの粒子数は、殊に個々の粒子の大きさに依存する。個々の粒子は有利には平均直径50nm~50μm、特に好ましくは1μm~20μmを有する。
【0010】
それぞれの粒子はコアと、前記コアを殊に直接的に、つまり空間または間にある層を有さずに取り囲むシェルを有する。コア自体は有利には中実であり、つまり中空ではない。シェルはケイ素、炭素および窒素を含有する。
【0011】
これは有利には、シェルがケイ素、炭素、窒素および/またはそれらの化合物のみからなり、従って他の物質、材料、および/または元素が存在しないと理解される。上記の元素のケイ素、窒素および炭素以外に、シェルは有利にはさらなる元素を有さない。従って、シェルはSiCxNy層として、つまりケイ素と、炭素および窒素との組み合わせによる層とも称され、ここでxおよびyはケイ素に対する炭素もしくは窒素の粒子数を示す。好ましい実施態様において、粒子数x=0.515であり、且つ粒子数y=0.046である。これは、Si:C:N=64原子%:33原子%:3原子%の組成に相応する。従って、炭素の割合は通常、窒素の割合よりも著しく高く(つまり少なくとも5倍)、全体としてケイ素が典型的には最大の割合を占める。上記の組成は必ずしも守られなければならないわけではなく、殊に上記の粒子数を0.5~2倍変化させることによって、さらに適した粒子数がもたらされる。
【0012】
シェルのケイ素はここでは殊に、充放電の際に相応してリチウムイオンを吸蔵および放出する(これはリチウム化および脱リチウム化と称される)活物質として役立つ。従って、アノード材料はケイ素に基づくアノード材料である。
【0013】
SiCxyに基づく上述のアノード材料は、殊に1000mAh/gを上回る特に高いエネルギー密度を有し、そのようなアノード材料を含有する電池の特に急速な充放電を可能にする。
【0014】
好ましくは、シェル中のケイ素(より正確にはシェル中のケイ素の少なくとも第1の部分)は、多数のナノ粒子を形成する。殊にナノ粒子はそれぞれケイ素のみからなり、従ってケイ素ナノ粒子とも称される。
【0015】
「ナノ粒子」とは殊に、約1nmから数100nmまでの大きさ、いずれにせよ1μm未満の空間寸法(つまり長さ、幅または直径)を有する粒子と理解される。ここでは、ナノ粒子は好ましくは0.5nm~5nm、特に好ましくは1nm~2nmの範囲の平均直径を有し、従って比較的小さいナノ粒子である。ここで、3つの空間方向におけるそれぞれの粒子の寸法は必ずしも同一であるとみなされるのではなく、互いに例えば1桁まで異なり得る。
【0016】
上記のナノ粒子は、コアとシェルとを有する上述の粒子とは異なることが強調される。つまり、ナノ粒子はシェルの一部であり、その結果、アノード材料の粒子はナノ粒子よりも典型的には1桁以上大きく、シェルは多数のナノ粒子を含有する。適した実施態様において、シェルは100nm~200nmの範囲の層厚を有し、平均層厚150nmが特に好ましい。
【0017】
好ましくは、シェル内のケイ素(厳密に言えばシェル内のケイ素の第2の部分)は炭素および窒素と共に不活性マトリックスを形成し、そこにナノ粒子が埋め込まれている。ナノ粒子は活物質であり、つまりサイクルの間にリチウム化および脱リチウム化されるケイ素を含有する。対照的に、不活性マトリックスは、サイクルの間に相応してリチウム化および脱リチウム化されない不活物質である。
【0018】
本発明はまず、基本的に電池のエネルギー密度の上昇と共に設置スペースの削減が必要であるという観察から出発している。これは、あらゆる種類の電気駆動車両に特に関連する。リチウムイオン電池について、基本的には炭素またはケイ素がアノード材料として使用されることが可能である。しかしながら、例えばグラファイト(炭素の1つの構成)は低いエネルギー密度を有し、その理論的な最大値はわずか372mAh/gである。これに対し、ケイ素についてはエネルギー密度は1桁大きく、理論的には最大3579mAh/gである。従って、ケイ素の使用は基本的にまずは有利である。しかしながら、ケイ素はいくつかの欠点、特にリチウム化および脱リチウム化の際の(つまり充放電の際、サイクルの間も)大きな体積変化、並びに低い導電率も有する。そのことから、さらなる問題、殊にリチウムの不可逆な捕捉(いわゆる「リチウムトラッピング」)、破壊または粉砕の形態でのアノード材料の機械的な分解、電気絶縁、および固体電解質界面相(いわゆるSEI、「solid electrolyte interphase」)の不安定且つ継続的な形成が生じる。全体として、乏しい電気化学的特性、特に最初のサイクル(つまり充放電サイクル)の際の、および長いサイクルの際の大きく、不可逆な容量損失、内部電気抵抗の増加、乏しいサイクル効率、およびサイクル数の進行に伴う容量の劇的な低下が生じる。
【0019】
ケイ素を使用する際の欠点を減らすために、種々の解決策が考えられ且つ有利である。適した実施態様において、ケイ素の広がりまたは大きさが適合され、特に低減されている。例えば、上記で既に有利であるとして記載したとおり、ケイ素をナノ粒子の形態で使用して、機械的負荷およびその影響(破壊および粉砕)を低減する。さらに、このようにして、リチウムイオンのより速やかな拡散並びにより速やかな電子移動が達成される。一般に活物質のケイ素を、可能な限り高い導電率を有する材料で被覆することにより、導電率を相応して全体的に改善し、それにより(一般に活物質の)ケイ素表面での副反応を減少させ、機械的な損傷のリスクをさらに低減することも有利である。さらに、リチウムに対する活物質であるケイ素を、リチウムに対する不活物質で希釈することも特に有利である。このようにしてリチウム化および脱リチウム化の際の体積変化が減少し、なぜなら、不活物質は相応してこれに寄与しないからである。活性なケイ素を不活物質で希釈することはさらに、アノード材料の導電率を全体的に改善する可能性もある。特別なボイド設計(つまり「ボイド工学技術」)、つまりアノード材料における空洞の意図的な生成がさらに有利であり、それは体積変化を吸収し、固体電解質界面相の増加も制限する。既に記載した活物質と不活物質との組み合わせと同様に、活物質として例えばグラファイトの形態の炭素を有する特別な化合物を使用することも有利である。そのようなアノード材料は通常、特に良好にカレンダー加工されるので、高い電極密度が達成される。
【0020】
上記の解決策の中で、ここでは、活物質の被覆、活物質と不活物質との組み合わせ、および特別な化合物の使用が特に有望であり且つ有利であると考えられる。これは殊に、ケイ素ナノ粒子だけのそのままの使用、およびボイド設計は不利なことに低下したエネルギー密度をみちびき、相応の電池は同じエネルギー密度でより多くの設置スペースを必要とすることからもたらされる。さらに、ボイド設計は最初のサイクルの際の大きな不可逆の容量損失をみちびく。これは、酸化ケイ素(つまりSiOx、ここでxはケイ素に対する酸素の粒子数を示す)の使用によってある程度までは回避できるが、酸化ケイ素は以下でさらに記載されるようなさらなる欠点を有する。例えば、ケイ素ナノ粒子を酸化ケイ素製の不活性マトリックス中に埋め込んで、充放電の際の体積変化を少なくとも部分的に抑制することが有利である。代替的または追加的に、不活性マトリックスは炭素、つまりグラファイトを含有する。ケイ素および炭素製の化合物の使用も相応して有利である。
【0021】
不活性マトリックス(つまり活物質を埋め込むための不活物質)はアノード材料の一部として基本的に有利であるのだが、電気化学的特性に関する欠点も生じる。例えば、酸化ケイ素を使用する場合、副反応においてLi2OおよびLi4SiO4が形成されることがあり、それがクーロン効率の低下をみちびく。このプロセスはさらに不可逆である。炭化ケイ素の場合、ケイ素ナノ粒子は例えば機械的な粉砕によって製造されるが、その際、ケイ素ナノ粒子の表面に通常、酸化ケイ素が形成し、上記の欠点を有する。さらに、炭素製の不活性マトリックスは粉砕によって脆くなり、低い機械的強度しか有さず、つまり充放電の繰り返しによって容易に破壊する。
【0022】
さらなる解決策として、電池を製造する前にアノード材料をプレリチウム化して、最初のサイクルにおけるリチウムの損失を補償することが考えられる。しかしながらリチウムの使用は一般に問題が多く且つ危険であり、そのことは量の増加によって不利な方向に厳しくなるだけである。
【0023】
ここで、ケイ素ナノ粒子を炭化ケイ素(SiCx)または窒化ケイ素(SiNx)中に埋め込むことが特に有利であり、且つ特に適したアノード材料をもたらすことが観察された。そのようなアノード材料は適した実施態様において化学気相堆積によって、従って、有利にはモノシランをエチレン(炭化ケイ素について)またはアンモニア(SiNxについて)と組み合わせて含有するガス混合物の熱分解によって製造される。そのようなアノード材料は、有利には低減された量の不可逆な反応生成物、並びにより高い可逆容量を有する。不活性マトリックスとしての炭化ケイ素を有するアノード材料はさらに、特に単純な炭素に比して、特に高い機械的強度を特徴とし、高い導電率も有する。これに対し、不活性マトリックスとしての窒化ケイ素を有するアノード材料は、特に酸化ケイ素または純粋な炭素に比して、特に高いイオン伝導率を特徴とし、改善された電気化学的挙動も有する。
【0024】
従って、ここでは、炭素および窒素をケイ素と組み合わせてアノード材料にして、それにより、これら両方の元素をケイ素と併せて使用することの上記の利点が組み合わせられる。ここで炭素および窒素は殊に不活性マトリックスの形成に関与しており、そこにケイ素の少なくとも一部が活物質として、有利にはナノ粒子として埋め込まれている。これについて、好ましい実施態様において、炭素、窒素およびケイ素は、殊に種々の化合物を形成し、次いでそれらが一緒に不活性マトリックスを形成する。好ましくは、不活性マトリックスは、窒素ドープされた炭素(つまり炭素が、窒素を散在して有する格子を形成する)、窒化ケイ素(SiN)、炭化ケイ素(SiC)、および/または炭窒化ケイ素(SiCN)製の、特に好ましくはこれらの全ての化合物製の多数の領域から形成されている。SiCxyに基づくそのような不活性マトリックスを有するアノード材料が、例えばSiNxのみ、またSiCxのみの使用に比して、ハーフセルの構成においてもフルセルの構成においても、改善されたサイクル安定性を有することが実験によって確認された。さらに、SiCxyに基づくアノード材料は、上記の他の構成に対して改善された電気化学的特性を有する。
【0025】
既に詳細に記載したシェル以外に、アノード材料の粒子はコアも有する。ここではその性質はそれほど重要ではないが、コアが炭素のみからなる実施態様が合理的である。コアが中実である実施態様も有利である。炭素は一般に、殊にシェルのための骨格を形成し、これを保持および/または安定化する。従って、炭素製のコアは、そのコアが場合により中実であるかどうかには関わらず、炭素含有骨格とも称される。コアは有利には、シェルの層厚よりも1桁~2桁大きい平均直径を有する。適した実施態様において、コアは500nm~50μmの平均直径を有し、1μm~10μm、殊に5μmの平均直径が特に適している。
【0026】
好ましい実施態様において、粒子はそれぞれ炭素製の覆いを有し、そこにコアとシェルとが封入されている。従って、コアはいわば二重に被覆されており、ここでシェルは第1の内側の層を形成し、炭素製の覆いが第2のさらなる層を形成する。覆いは有利にはシェルに直接的に接続している。炭素製の覆いは殊に様々なシェル(およびそれによって取り囲まれているコア)の間の充填材料として役立ち、それらを互いに離間させる。合理的には、粒子の覆いは一緒に成長且つ/または結合し、不活性マトリックス中にナノ粒子が埋め込まれている個々の粒子と同様に、シェルを有するコアが埋め込まれているネットワークを形成する。
【0027】
それぞれの形態のコアおよびシェルについて、多様な実施態様が考えられ且つ適している。有利には、シェルはコアの外側の輪郭に従い、各々の位置で本質的に(つまり許容差5%未満で)同じ層厚を有する。このようにして、シェルはコアのための均質な殻を形成する。それぞれの粒子のコアとシェルとが一緒に板状または棒状に形成される実施態様が好ましい。しかし、基本的に、コアとシェルとが球状であることも適している。
【0028】
本発明による電池は、上述のようなアノード材料から製造されるアノードを有する。電池は有利にはリチウムイオン電池である。前記電池は有利には車両の電気駆動装置の供給に役立つ。
【0029】
アノード材料、殊に上述のようなアノード材料の本発明による製造方法。アノード材料はいくつかの粒子を有し、それぞれの粒子はコアと、そのコアを取り囲むシェルとを有する。シェルは気相堆積、殊に化学気相堆積、つまりCVDを用いて、ケイ素含有ガス、炭素含有ガス、および窒素含有ガスから製造される。ケイ素含有ガスは有利にはモノシラン(SiH4)である。炭素含有ガスは有利にはエテン(C24)である。窒素含有ガスは有利にはアンモニア(NH3)である。適切には、3つ全てのガスが同時に、つまり共通の方法段階において用いられ、特に別々の異なる方法段階において用いられるのではない。3つのガスの互いに対する体積流量の相対的な比およびガスのそれぞれの使用量によって、アノード材料の、特に粒子の正確な組成および形態が詳細に調整され得る。製造およびそこから得られるアノード材料に影響を与えるさらなるパラメータは、製造の間の温度および時間、並びにアノード材料のコアの大きさおよびモフォロジーである。最適なパラメータはアノード材料の用途次第で異なり得る。合理的には、製造のためのそれぞれの最適なパラメータは、実験によって求められる。
【0030】
以下で本発明の実施例を図面を用いてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1はアノード材料の切り抜きを示す。
図2図2は電池を示す。
図3図3図1からのアノード材料の粒子のシェルの一部を示す。
図4図4は3つのハーフセルの電圧プロファイルを示す。
図5図5図4からの3つのハーフセルの電圧プロファイルの比容量およびクーロン効率を示す。
図6図6図4からの3つのハーフセルの蓄積能力比を示す。
図7図7は3つのフルセルについての蓄積能力比を示す。
図8図8図1からのアノード材料を製造するための化学気相堆積を示す。
【実施例
【0032】
図1は、例えば図2に示されるような電池6のアノード4において使用するように構成されているアノード材料2の切り抜きを示す。電池6はさらにカソード8を有し、ここでは例示的にリチウムイオン電池である。アノード材料2はいくつかの粒子10を有する。「いくつかの」とは、「1つ以上の」と理解され、典型的にはアノード材料2は多数の粒子10を有する。個々の粒子10は、示された実施例において、平均直径50nm~50μmを有し、これは異なる直径D1からの平均値としてもたらされる。
【0033】
図1からわかるとおり、それぞれの粒子10はコア12と、コア12を直接的に取り囲むシェル14とを有する。シェル14はケイ素、炭素および窒素を含有し、ここではケイ素、炭素、窒素および/またはそれらの化合物のみからなる。上記の元素のケイ素、窒素および炭素以外に、シェル14は有利にはさらなる元素を有さない。従って、シェル14は、SiCxy層、つまりケイ素と、炭素および窒素との組み合わせ製の層とも称される。
【0034】
シェル14のケイ素はここでは、充放電の際に相応してリチウムイオンを吸蔵および放出する(これはリチウム化および脱リチウム化と称される)活物質として役立つ。従って、アノード材料2はケイ素に基づくアノード材料2である。
【0035】
示された実施例においては、シェル14内のケイ素が多数のナノ粒子16を形成する。これは図3でわかり、図3図1の切り抜きを拡大図で示すので、粒子10のシェル14が詳細にわかる。ナノ粒子16はそれぞれケイ素のみからなり、従ってケイ素ナノ粒子とも称される。ここでは、ナノ粒子16は1nm~2nmの範囲の平均直径を有し、それは異なることがある直径D2からの平均値としてもたらされる。
【0036】
ナノ粒子16はシェル14の一部であり、その結果、アノード材料2の粒子10はナノ粒子16よりも典型的には1桁以上大きい。シェル14は例えば100nm~200nmの範囲の層厚D3を有する。
【0037】
シェル14内のケイ素は炭素および窒素と共に不活性マトリックス18を形成し、そこにナノ粒子16が埋め込まれている。ナノ粒子16は活物質であり、つまりサイクルの間にリチウム化および脱リチウム化されるケイ素を含有する。対照的に、不活性マトリックス18は、相応してサイクルの間にリチウム化および脱リチウム化されない不活物質である。
【0038】
既に示唆されたとおり、ここでは炭素および窒素がケイ素と組み合わせられてアノード材料2になる。ここで炭素および窒素は不活性マトリックス18の形成に関与しており、そこにケイ素の少なくとも一部が活物質として、ここではナノ粒子16として埋め込まれている。これについて、示された実施例において、炭素、窒素およびケイ素は種々の化合物を形成し、次いでそれらが一緒に不活性マトリックス18を形成する。ここで不活性マトリックス18は、窒素ドープされた炭素20、窒化ケイ素22、炭化ケイ素24、および炭窒化ケイ素26製の多数の領域から形成されている。図3においては、明確化のために窒素ドープされた炭素20と炭化ケイ素24との間で明示的に区別されておらず、炭素および/またはSiCN以外の炭素を有する化合物を有する領域は簡潔化のためにまとめられている。
【0039】
図4~7は、SiCxyに基づく不活性マトリックス18を有するアノード材料2が、SiNxのみ、またSiCxのみの使用に比して、ハーフセルの構成(図4~6参照)においてもフルセルの構成(図7参照)においても、改善されたサイクル安定性を有することを確認した実験結果を示す。ここで図4は3つのハーフセル、つまりSiNx、SiCxおよびSiCxy製のアノードの、最初のサイクルにおける電圧プロファイルを示す。ここでそれぞれのハーフセルの電圧28[V]は比容量30[mAh/g]の関数として示される。次に図5は、3つのハーフセルについて、左側に比容量30[mAh/g]、および右側にクーロン効率32[%]を、サイクル数34[無次元]の関数として示す。図6は3つのハーフセルについての放電率試験の結果を示す。ここで、蓄積能力比36(「容量保持率」;capacity retention ratio)、つまり最初のサイクルに比した蓄積能力を、サイクル数34の関数として示し、ここでサイクル数の進行と共に充電電流が増加する(蓄積能力比は、殊に最初のサイクルにおける元の比容量に対する特定のサイクルにおける比容量の比に相応し、従って特定のサイクル数の後に元の蓄積能力がどれだけ多くまだ保持されているかを示す)。例えば、充電電流は最初のサイクルについては0.2C(C=A/Ah)であり、2~4回目のサイクルについては0.5Cであり、5~7回目のサイクルについては1Cであり、8~10回目のサイクルについては2Cであり、11~13回目のサイクルについては3Cである。最後に図7も蓄積能力比36をサイクル数34の関数として、ただしフルセルの構成、つまり、フォームファクタ2032Rを有する、SiNx、SiCxおよびSiCxy製のアノードを有する3つのフルセルについて示す。
【0040】
既に詳細に記載したシェル14以外に、アノード材料2の粒子10はコア12も有する。示された実施例において、コア12は炭素のみからなり、それは一般にシェル14にとっての骨格を形成し、シェル14を保持および/または安定化する。コア12は例えば、シェル14の層厚D3よりも1桁~2桁大きい平均直径を有し、これは異なる直径D4の平均値としてもたらされる。
【0041】
さらに、ここに示される実施態様において、粒子10は炭素製のそれぞれ1つの覆い38を有し、その中にコア12とシェル14とが封入されている。従って、コア12は二重に被覆されており、ここでシェル14が第1の内側の層を形成し、炭素製の覆い38が第2のさらなる層を形成する。覆い38はシェル14に直接的に接続している。覆い38はさらに、様々なシェル14の間の充填材料として役立ち、図1においてよくわかるように、それらを互いに離間させる。粒子10の覆い38はここで一緒に成長且つ/または結合し、不活性マトリックス18中にナノ粒子16が埋め込まれている個々の粒子10と同様に、シェル14を有するコア12が埋め込まれているネットワークを形成する。
【0042】
それぞれの形態のコアおよびシェルについて、多様な実施態様が考えられる。ここでは、シェル14はコア12の外側の輪郭に従い、各々の位置で本質的に同じ層厚D3を有する。このようにして、シェル14はコア12のための均質な殻を形成する。さらに、ここで示される実施例においては、それぞれの粒子10のコア12とシェル14とが一緒に板状または棒状に形成されている。しかし、基本的に、コア12とシェル14とが、ここでは示されていない球状であることも可能である。
【0043】
アノード材料2の製造方法の実施例を図8に示す。ここでシェル14は、チャンバ40内で化学気相堆積(CVD)を用いて、ケイ素含有ガス42、炭素含有ガス44、および窒素含有ガス46から製造される。ケイ素含有ガス42はここではモノシラン(SiH4)である。炭素含有ガス44はここではエテン(C24)である。窒素含有ガス46はここではアンモニア(NH3)である。3つ全てのガスが同時に、つまり共通の方法段階において用いられ、特に別々の異なる方法段階において用いられるのではない。
【符号の説明】
【0044】
2 アノード材料
4 アノード
6 電池
8 カソード
10 粒子
12 コア
14 シェル
16 ナノ粒子
18 不活性マトリックス
20 窒素ドープされた炭素
22 窒化ケイ素
24 炭化ケイ素
26 炭窒化ケイ素
28 電圧
30 比容量
32 クーロン効率
34 サイクル数
36 蓄積能力比
38 覆い
40 チャンバ
42 ケイ素含有ガス
44 炭素含有ガス
46 窒素含有ガス
D1 直径(粒子)
D2 直径(ナノ粒子)
D3 層厚(シェル)
D4 直径(コア)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
いくつかの粒子(10)を有するアノード材料(2)であって、
a. それぞれの粒子(10)がコア(12)と、前記コア(12)を取り囲むシェル(14)とを有し、
b. 前記シェル(14)がケイ素、炭素および窒素を含有する、
前記アノード材料(2)。
【請求項2】
シェル(14)内のケイ素が、多数のナノ粒子(16)を形成する、請求項1に記載のアノード材料(2)。
【請求項3】
前記ナノ粒子(16)が、0.5nm~5nmの範囲の平均直径を有する、請求項2に記載のアノード材料(2)。
【請求項4】
前記シェル(14)内のケイ素が、炭素および窒素と共に不活性マトリックス(18)を形成し、そこにナノ粒子(16)が埋め込まれている、請求項1または2に記載のアノード材料(2)。
【請求項5】
前記不活性マトリックス(18)が、窒素ドープされた炭素(20)、窒化ケイ素(22)、炭化ケイ素(24)、および炭窒化ケイ素(26)製の多数の領域から形成されている、請求項4に記載のアノード材料(2)。
【請求項6】
前記コア(12)が炭素のみからなる、請求項1または2に記載のアノード材料(2)。
【請求項7】
前記粒子(10)がそれぞれ炭素製の覆い(38)を有し、そこに前記コア(12)と前記シェル(14)とが封入されている、請求項1または2に記載のアノード材料(2)。
【請求項8】
それぞれの粒子(10)のコア(12)とシェル(14)とが一緒に板状または棒状に形成されている、請求項1または2に記載のアノード材料(2)。
【請求項9】
請求項1または2に記載のアノード材料(2)から製造されるアノード(4)を有する電池(6)。
【請求項10】
いくつかの粒子(10)を有するアノード材料(2)の製造方法であって、
a. それぞれの粒子(10)が、コア(12)と、前記コア(12)を取り囲むシェル(14)とを有し、
b. 前記シェル(14)が、気相堆積を用いて、ケイ素含有ガス(42)、炭素含有ガス(44)および窒素含有ガス(46)から製造される、
前記方法。
【国際調査報告】