(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】自動車用レーダーセンサ用途におけるマイクロ波吸収体としてのカーボンナノチューブ(CNT)を含むポリカルボナート組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20241024BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524996
(86)(22)【出願日】2022-10-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 IB2022060297
(87)【国際公開番号】W WO2023073582
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521198963
【氏名又は名称】エスエイチピーピー グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィ,ノルベルト
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002CG022
4J002CP172
4J002DA016
4J002FD070
4J002FD116
4J002GQ02
(57)【要約】
熱可塑性組成物が:(a)ポリカルボナート樹脂と;(b)少なくとも約5wt%のシロキサン含有量を有するポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーと;(c)約0.15wt%から約4.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤と、を含む。カーボンナノチューブは、約8~12ナノメートル(nm)の平均直径、約5ミクロン(μm)以下の長さ、約220平方メートル毎グラム(m2/gr)以上の表面積、および約10-2オーム・センチメートル(オーム・cm)より低い体積抵抗率を有する。この組成物は、ASTM D257に準拠して決定される少なくとも約1.0E+06オーム・cmの体積電気抵抗率を有する。組成物のモールド成形試料は、約75GHzから110GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも約60%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリカルボナート樹脂と;
(b)少なくとも約5wt%のシロキサン含有量を有するポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーと;
(c)約0.15wt%から約4.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤と、
を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記カーボンナノチューブが、約8~12ナノメートル(nm)の平均直径、約5ミクロン(μm)以下の長さ、約220平方メートル毎グラム(m
2/gr)以上の表面積、および約10
-2オーム・センチメートル(オーム・cm)より低い体積抵抗率を有し、
ASTM D257に準拠して決定される体積電気抵抗率が、少なくとも約1.0E+06オーム・センチメートル(オーム・cm)であり、
前記組成物のモールド成形試料が、約75GHzから110GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも約60%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有し、
全成分の合計重量パーセント値が100wt%を超えず、全重量パーセント値が組成物の総重量を基準にする、熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記ポリカルボナート樹脂が、ポリカルボナートホモポリマー、構成要素(b)のポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーとは異なるポリカルボナートコポリマー、またはこれらの組み合わせを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記ポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーが、約5wt%から約50wt%のシロキサン含有量を有する、請求項1または2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記組成物が、約10wt%から約40wt%のポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーを含んでなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記組成物が、約1wt%から約20wt%の総シロキサン含有量を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記組成物が、約0.15wt%から約1.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤を含んでなる、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ充填剤を、約10wt%から約20wt%のカーボンナノチューブを含んでなるポリカルボナート系マスターバッチの形態で組み込んだ、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブ充填剤が、約0.5wt%から約1.5wt%の間の量で存在し、前記組成物のモールド成形試料が、77GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも75%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ充填剤が、約0.15wt%から約1.5wt%の量で存在し、前記組成物が、ASTM D257に準拠して決定される少なくとも約1.2E+14オーム・cmの体積電気抵抗率を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項10】
ASTM D256に準拠して測定される、摂氏-30度(℃)での少なくとも400ジュール毎メートル(J/m)のノッチ付きアイゾット衝撃強度を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
構成要素(a)中のポリカルボナート樹脂が、少なくとも二種のポリカルボナートホモポリマー類を含んでなり、前記少なくとも二種のポリカルボナートホモポリマー類が、15グラム毎10分(g/10分)未満のメルトフローレート(MFR)を有する第1のポリカルボナートホモポリマーと、15g/10分より大きいMFRを有する第2のポリカルボナートホモポリマーとを含んでなり、MFRが、ASTM D1238に準拠して、1.20キログラム(kg)の荷重、および300℃の温度で測定される、請求項1から10のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項12】
前記第1のポリカルボナートホモポリマーおよび前記第2のポリカルボナートホモポリマーが、前記組成物中に1:3から3:1の比率で存在する、請求項11に記載の熱可塑性組成物。
【請求項13】
組成物が、酸掃去剤、滴下防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、鎖延長剤、着色剤、脱成型剤、流動促進剤、潤滑剤、離型剤、可塑剤、焼き入れ剤、難燃剤、UV反射添加剤、耐衝撃性改良剤、発泡剤、補強剤、またはこれらの組み合わせを含んでなる少なくとも一つの追加の添加剤をさらに含んでなる、請求項1から12のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含んでなる物品。
【請求項15】
レーダーセンサ用のマイクロ波吸収体である、請求項14に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素充填ポリカルボナート組成物に関するものであり、詳細には、改善された誘電特性を有するカーボンナノチューブ充填剤を含むポリカルボナート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業では、車間距離制御、駐車/車線変更アシスト、後退警報、死角検知機能、衝突回避機能、その他多くの機能を用いた運転支援を提供するために、電子レーダーセンサの使用が増加している。これらのセンサが効果的に動作するには、偽の電磁放射源から保護されなければならない。自動車用レーダーセンサは、マイクロ波放射に対してほとんど透明なレドーム型可塑性構成部品と、外部からの放射干渉からセンサを保護するために特定の周波数範囲のマイクロ波エネルギーを捕捉する吸収体型可塑性構成部品とを含む。これらの可塑性構成部品は通常、比較的高い射出圧力と溶融温度を用いて射出成形されて、最終部品になる。カーボンブラック粉末、グラファイト、または炭素繊維から作られたマイクロ波吸収材料は通常、電磁スペクトルのKバンドとWバンドで充分な遮蔽干渉を提供するために、比較的大量の炭素充填剤が必要である。
【0003】
国際道路安全旅行協会(Association For Safe International Road Travel(ASIRT))によれば、毎年130万人近く(うち40万人は25歳未満)が交通事故で死亡しており、加えて少なくとも2,000万人が負傷または障害を負っている。交通事故は主要な死因の第9位に入っており、世界全体での全死者の2.2%を占め、世界全体で5,180億米ドル、または各国の年間GDPの約1~2%を費やしている。対策が取られない限り、交通事故による負傷は、2030年までに主要な死因の第5位になると予測されている(Association For Safe International Road Travel - ASIRT, 2016)。こうした理由から、自動車産業では、車間距離制御、セルフ・パーキング、後退警報、死角検知機能、車線逸脱警告、衝突回避、歩行者検出、その他多くの機能で運転者を支援する先進運転支援システム(Advanced Driver Assistance Systems(ADAS))の使用が増加している。
【0004】
レーダーセンサは、そのコストが大幅に低下したこと、そしてサプライ・チェーンもいまやいっそう確かなものになったことに起因して、ほとんどの先進的なADASシステムで使用されているので、こんにちでは自動車の安全性において一般的である。これらの自動車用レーダー・システムは、その動作の距離や隔たりに応じて、短距離、中距離、長距離の三つの下位の範疇に分けることができる。これらのセンサはそれぞれ、異なる用途を有し、長距離レーダー(100メートル以上の距離)は通常、前方衝突回避や車間距離制御に使用され、主に約75ギガヘルツ(GHz)と110ギガヘルツの間の周波数での電磁スペクトルであるWバンドにおいて動作する。他方、短距離および中距離レーダー(数十メートルの距離)は、死角検出、駐車支援システム、衝突警報、または車線逸脱警告に使用され、主に約18GHzと26.5GHzの間の周波数でのKバンドにおいて動作する。Kバンドの周波数範囲は、低い周波数ほど出力に関する厳しい規制を受け、今後は使用の普及が低下すると予想されている。(出典:Burger, R., Salinero, T., Sumida, S., “Beyond The Headlights: ADAS and Autonomous Sensing”; Market Report, Woodside Capital Partners; September 2016)。
【0005】
マイクロ波放射(約1~300GHz周波数、約300~1ミリメートル(mm)波長)は、自動車用レーダーセンサの動作に使用される最も一般的な電磁エネルギー源である。自動車の安全センサを有害なマイクロ波電磁放射から遮蔽するADAS用途に使用される材料には、金属(アルミニウム、ステンレス鋼など);アルミニウムフレーク、ステンレス鋼繊維、銀コートされたポリアミド繊維などの金属充填剤を含むポリマー組成物;金属化コーティング;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどの本質的に導電性のポリマー類;炭化ケイ素、フェライト(Fe2O3+Ni/Zn/Cd/Co二次酸化物);鉄ケイ化物;およびペンタカルボニル鉄などが挙げられる。金属は、マイクロ波(MW)干渉遮蔽のための最も一般的な材料であるが、重く、高価であり、最終部品に成形するには複雑な加工を必要とする。他方で、ポリマー/炭素複合材料は、低密度、低コストで、成形が容易であり、大量のモールド成形部分品に製造可能であるので、望ましい。
【0006】
カーボン(粉末、プレートレット、繊維など)は、熱可塑性ポリマー類に電磁干渉特性を付与する望ましい充填剤として登場してきており、充填されていない場合にはマイクロ波放射に対してほとんど透明(非吸収、非反射)である。ポリマー-炭素熱可塑性組成物は、例えば自動車のボンネット内筐体に使用される場合には、筐体内部にあるセンサを保護することができ、よって、外部源からの電磁放射によるセンサの電子的性能の劣化を防止する。また、とりわけシリコーン、ポリウレタン、およびニトリルゴムなどの炭素含有エラストマーは、空洞内のセンサの正常な動作によって発生する共振周波数を減衰させるよう、高損失で保護性のある変形可能なシートやブランケットとして使用することができる。熱可塑性物やエラストマー以外でも、これらのレーダー遮蔽材料は、液体塗料、粉末塗料、独立気泡ポリマーフォームの形態でも市販されている。電気伝導率、誘電損失、磁気損失、入射する放射の周波数、および筐体壁の厚さは、これらの材料のマイクロ波干渉性能に影響を与えると予想される特徴の一部である。
【0007】
所与の状況下で使用されることになるマイクロ波遮蔽材料の選択は、保護されることになる電子部品(アンテナ、プリント回路基板、医療用途の画像装置など)を取り巻く環境に、ある程度まで依存する。抑制または最小化されることになる入射放射が、保護されることになる構成部品の外部に由来する場合には、必要とされるのは、マイクロ波反射特性を有する材料、例えば金属性プレート(アルミニウム、ステンレス鋼など)、または金属充填剤を含むポリマー組成物だけであり得る。このような場合には、筐体は、入射する放射を空洞から反射させることによって電子部品を保護する。他方では、保護されることになる空洞内部に入射放射が由来する場合には、空洞共振によって生じる定在電磁波(振動)からセンサ構成部品を隔離するために、マイクロ波エネルギーを吸収する材料を選択する必要があり得る。マイクロ波吸収体は、試験用無響室の内壁を覆うために使用することもでき、よって、その室内で試験されている材料の誘電応答にこれ以外の場合であれば負の影響を及ぼす可能性のある、不要な反射を取り除くことができる。
【0008】
レーダー設計者がマイクロ波レーダー干渉用の材料を選択する際に考慮するいくつかの誘電特性がある。複素誘電率(実数部および虚数部)、材料によって吸収、反射、または透過する放射の量、遮蔽有効度、反射損失、および減衰は、レーダーセンサ用途向けの可塑性構成部品の製造にとって対象となる材料特性の一部に過ぎない。本明細書に言及されるとおり、除去または最小化されないと自動車用電子センサの正常な動作に干渉する可能性のあるマイクロ波エネルギーを捕捉する場合には、入射する放射の周波数と材料の厚さもまた重要である。
【0009】
したがって、マイクロ波レーダー干渉用に改善された材料が望ましい。これらの欠点および他の欠点が、本開示の態様によって対処される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の態様は:(a)ポリカルボナート樹脂と;(b)少なくとも約5wt%のシロキサン含有量を有するポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーと;(c)約0.15wt%から約4.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤と、を含む熱可塑性組成物に関する。この組成物は、ASTM D257に準拠して決定される少なくとも約1.0E+06オーム・cmの体積電気抵抗率を有する。組成物のモールド成形試料は、約75GHzから110GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも約60%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有する。
【0011】
図面は、必ずしも縮尺通りに描かれておらず、それらにおいては、同様の数字は、異なる図における同様の構成部品を表し得る。異なる文字接尾辞を有する同様の数字は、同様の構成部品の異なる例を表し得る。図面は、本明細書で考察される様々な態様を、限定するものとしてではなく例として一般的に示している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aおよび1Bはそれぞれ、裏打ちされていない試料および金属で裏打ちされた試料について、自由空間法を使用して本開示の材料の誘電特性を決定するために使用される装置の概略図である。
【
図2A】
図2Aは、本開示の態様による、20%のシロキサン含有量を有するポリカルボナート-シロキサンコポリマーを含む実施例組成物および比較組成物について77GHz周波数で観測された、CNT投入量の関数としての誘電率(実数部および虚数部)を例示するグラフである。
【
図2B】
図2Bは、本開示の態様による、20%のシロキサン含有量を有するポリカルボナート-シロキサンコポリマーを含む実施例組成物および比較組成物について77GHz周波数で観測された、CNT投入量の関数としての、透過モードにおけるパーセント電力を例示するグラフである。
【
図3A】
図3Aは、本開示の態様による、40%のシロキサン含有量を有するポリカルボナート-シロキサンコポリマーを含む実施例組成物および比較組成物について77GHz周波数で観測された、CNT投入量の関数としての誘電率(実数部および虚数部)を例示するグラフである。
【
図3B】
図3Bは、本開示の態様による、40%のシロキサン含有量を有するポリカルボナート-シロキサンコポリマーを含む実施例組成物および比較組成物について77GHz周波数で観測された、CNT投入量の関数としての、透過モードにおけるパーセント電力を例示するグラフである。
【
図4A】
図4Aは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての複素誘電率の実数部を例示するグラフである。
【
図4B】
図4Bは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての複素誘電率の虚数部を例示するグラフである。
【
図5A】
図5Aは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての減衰定数を例示するグラフである。
【
図5B】
図5Bは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての全遮蔽有効度を例示するグラフである。
【
図6A】
図6Aは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての、透過モードでのパーセント吸収電力を例示するグラフである。
【
図6B】
図6Bは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての、金属裏打ちされた反射モードでのパーセント吸収電力を例示するグラフである。
【
図7A】
図7Aは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、23℃および-30℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度を例示するグラフである。
【
図7B】
図7Bは、本開示の態様による例示組成物および比較組成物の表面抵抗率および体積抵抗率を例示するグラフである。
【
図8A】
図8Aは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての複素誘電率の実数部を例示するグラフである。
【
図8B】
図8Bは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての複素誘電率の虚数部を例示するグラフである。
【
図8C】
図8Cは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての減衰定数を例示するグラフである。
【
図8D】
図8Dは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての全遮蔽有効度を例示するグラフである。
【
図8E】
図8Eは、本開示の態様による実施例組成物および比較組成物について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての、透過モードでのパーセント吸収電力を例示するグラフである。
【
図9A】
図9Aは、本開示の態様による比較組成物C3について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての吸収電力、反射電力、および透過電力を例示するグラフである。
【
図9B】
図9Bは、本開示の態様による実施例組成物E3.1について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての吸収電力、反射電力、および透過電力を例示するグラフである。
【
図9C】
図9Cは、本開示の態様による実施例組成物E3.2について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての吸収電力、反射電力、および透過電力を例示するグラフである。
【
図9D】
図9Dは、本開示の態様による実施例組成物E3.3について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての吸収電力、反射電力、および透過電力を例示するグラフである。
【
図9E】
図9Eは、本開示の態様による実施例組成物E3.4について、Wバンド(75~110GHz)における周波数の関数としての吸収電力、反射電力、および透過電力を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、自動車用レーダーセンサ用のマイクロ波吸収体の製造に使用することができる、そして一段階または二段階射出成形工程を使用して射出成形することができる、比較的低レベルの多層カーボンナノチューブを含む熱可塑性組成物に関する。
【0014】
本開示は、以下の、本開示の詳細な記載、およびそこに含まれる実施例を参照することにより、さらに容易に理解することができる。本開示の態様は:(a)ポリカルボナート樹脂と;(b)少なくとも約5wt%のシロキサン含有量を有するポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーと;(c)約0.15wt%から約4.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤と、を含む熱可塑性組成物に関する。カーボンナノチューブは、約8~12ナノメートル(nm)の平均直径、約5ミクロン(μm)以下の長さ、約220平方メートル毎グラム(m2/gr)以上の表面積、および約10-2オーム・センチメートル(オーム・cm)より低い体積抵抗率を有する。組成物は、ASTM D257に準拠して決定される少なくとも約1.0E+06オーム・cmの体積電気抵抗率を有する。組成物のモールド成形試料は、約75GHzから110GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも約60%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有する。
【0015】
本化合物、組成物、物品、システム、装置、および/または方法が開示され記載されるのに先立って、それらが、別途指定のない限り特定の合成方法に、また別途指定のない限り詳細な試薬に限定されず、よって当然ながら異なり得ることは、理解されよう。また、本明細書で使用される用語が、詳細な態様を記載する目的のためだけのものであって、限定することを意図されないことも理解されよう。
【0016】
本開示の構成要素の様々な組み合わせ、例えば、同一の独立請求項に従属する従属請求項からの構成要素の組み合わせが、本開示に包含される。
【0017】
さらに、別途明示のない限り、本明細書に記載されるいかなる方法も、そのステップが具体的な順序で実行されるよう要求していると解釈されるようなことは、決して意図されないことが理解されよう。したがって、方法の請求項が、そのステップが従うことになる順序を実際に記載していない場合には、またはそのステップが具体的な順序に限定されることが請求項または明細書において別途具体的に示されていない場合には、いかなる点においても、順序が推察されるようなことは、決して意図されない。このことは、ステップの並びまたは操作の流れに関する論理的な事項;文法的な構成や句読点から導かれる平易な意味;および本明細書に記載される態様の数またはタイプを含め、解釈上の非明示的ないかなる可能な根拠についても当てはまる。
【0018】
本明細書で言及されるあらゆる公開文献は、引用された公開文献に関連する方法および/または材料を開示し記載するために、参照により本書に組み込まれる。
定義
【0019】
また、本明細書で使用される用語が、詳細な態様を記載する目的のためだけのものであって、限定することを意図されないことも理解されよう。本明細書、および特許請求の範囲で使用されるとおり、用語「含んでなる(comprising)」は、「からなる(consisting of)、および「から本質的になる(consisting essentially of)」態様を含むことができる。別途定義されているのでない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書では、そして添付の特許請求の範囲では、本明細書で定義されるものとされる複数の用語が参照されることになる。
【0020】
本明細書で、そして添付の特許請求の範囲で使用されるとおり、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈から明らかにそうでないと指示されているのでない限り、複数の指示対照を含む。よって、例えば、「ポリカルボナート樹脂(a polycarbonate resin)」への参照があれば、二種以上のポリカルボナートレジン類(two or more polycarbonate resins)の混合物を含む。
【0021】
本明細書において使用されるとおり、用語「組み合わせ」は、ブレンド、混合物、合金、反応生成物、および同類のものを含む。
【0022】
範囲は、本明細書では、一つの値(第1の値)から別の値(第2の値)までとして表現することができる。そのような範囲が表現される場合には、その範囲は、いくつかの態様では、第1の値および第2の値のうちの一つまたは両方を含む。同様に、値が近似値として表現される場合には、先行詞「約」の使用により、その詳細な値が別の態様をなすことは理解されよう。さらに、各範囲の端点は、もう一方の端点と関係している場合、およびもう一方の端点と無関係である場合の両方において有意であることが理解されよう。また、本明細書で開示される複数の値が存在すること、そして各値が、その詳細な値そのものに加えて、「約」その値としても本明細書に開示されることも理解される。例えば、値「10」が開示される場合には、「約10」もまた開示される。また、二つの詳細な単位の間の各単位も開示されることも理解される。例えば、10と15が開示される場合には、11、12、13、14もまた開示される。
【0023】
本明細書で使用されるとおり、「約」および「のところまたはその近傍」という用語は、問題の量または値が、指定値、近似的に指定値、または指定値とほぼ同じとすることができることを意味する。本明細書で使用されるとおり、別途指示または推論されているのでない限り、その値は、表示された公称値±10%の変動であるとおおむね理解される。この用語は、特許請求の範囲に記載された均等な結果または効果がそうした類似の値によって促されることを伝えるよう意図されている。すなわち、量、サイズ、配合、パラメータ、およびその他の量および特性は、正確ではなく、正確である必要もないが、公差、換算係数、丸め、測定誤差、および同類のもの、ならびに当業者に公知のその他の要因を反映して、所望に応じて近似的であり得る、および/または大きくもしくは小さくなり得ることは理解される。概して、量、サイズ、配合、パラメータ、または他の量もしくは特性は、そのように明示的に定められているかどうかにかかわらず、「約」または「近似値」である。定量的な値の前に「約」が使用される場合には、パラメータもまた、別途具体的に定められているのでない限りその具体的で定量的な値自体をも含むと理解される。
【0024】
開示されるのは、本開示の組成物を準備するために使用される成分のみならず、本明細書に開示される方法の範囲内で使用される組成物自体である。これらの材料および他の材料は本明細書に開示されており、これらの材料の組み合わせ、部分集合、相互作用、群などを開示する場合に、これらの化合物のそれぞれ様々な個々のそして集合的な組み合わせと並び替えを具体的に参照しているものとして明示的に開示することはできないものの、本明細書においてそれぞれが具体的に企図され記載されるということは、理解される。例えば、特定の化合物が開示、考察され、化合物を含む複数の分子に対して行うことができる複数の修正形態が考察される場合には、具体的に企図されるのは、別途反対のことが具体的に指示されているのでない限り可能な、化合物および修正形態のそれぞれのそしてすべての組み合わせと並び替えである。よって、分子A、B、およびCの類のみならず、分子D、E、およびFの類が開示され、組み合わせ分子の例であるA-Dが開示されている場合には、それぞれが個別に言及されていなくても、それぞれが個別に、そして集合的に企図され、組み合わせ、A-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E、およびC-Fが開示されているとみなされることを意味する。同様に、これらのいずれの部分集合または組み合わせも開示される。よって、例えば、A-E、B-F、およびC-Eという部分群が、開示されるとみなされる可能性がある。この概念は、本開示の組成物を作るおよび使用する方法におけるステップを含むがこれらに限定されない、本出願のすべての態様に適用される。よって、実行できる様々な追加のステップがある場合には、これらの追加のステップのそれぞれが、本開示の方法のいずれの具体的な態様または態様の組み合わせを用いても実行できることが理解される。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、組成物または物品中の詳細な構成要素または成分の重量部が参照されていれば、それは、その構成要素または成分と、組成物または物品中の他の構成要素または成分との間の、重量部で表現される重量関係を示すものである。よって、2重量部の成分Xと5重量部の成分Yを含有する化合物では、XとYは2:5の重量比で存在し、化合物中に追加の成分が含有されているかどうかにかかわらず、そのような比率で存在する。
【0026】
成分の重量パーセントは、具体的に反対の記載があるのでない限り、その成分が含まれる配合物または組成物の総重量を基準にする。
【0027】
本明細書で使用されるとおり、用語「数平均分子量」または「M
n」は互換的に使用することができ、試料中の全ポリマー鎖の統計平均分子量を指し、式:
【数1】
で定義され、式中、M
iは鎖の分子量であり、N
iはその分子量の鎖の数である。M
nは、ポリマー類、例えばポリカルボナートポリマー類について、分子量標準、例えばポリカルボナート標準またはポリスチレン標準、好ましくは認証されたまたは追跡可能な分子量標準を用いて、当業者に周知の方法によって決定することができる。
【0028】
本明細書で使用されるとおり、用語「重量平均分子量」または「Mw」は互換的に使用することができ、式:
【数2】
で定義され、式中、M
iは鎖の分子量であり、N
iはその分子量の鎖の数である。M
nと比較してM
wでは、分子量平均への寄与を決定する際に、所与の鎖の分子量が考慮される。よって、所与の鎖の分子量が大きいほど、M
wへのその鎖の寄与は大きくなる。M
wは、ポリマー類、例えばポリカルボナートポリマー類について、分子量標準、例えばポリカルボナート標準またはポリスチレン標準、好ましくは認証されたまたは追跡可能な分子量標準を用いて、当業者に周知の方法によって決定することができる。
【0029】
本明細書で使用されるとおり、用語「多分散性指数」または「PDI」は互換的に使用することができ、式:
【数3】
で定義される。PDIは1以上の値を有するが、均一な鎖長にポリマー鎖が近づくにつれて、PDIは1に近づく。
【0030】
本明細書で使用される用語「BisA」、「BPA」、または「ビスフェノールA」は互換的に使用することができ、式:
【化1】
で表される構造を有する化合物を指す。BisAは、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール;p,p’-イソプロピリデンビスフェノール;または2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとも称され得る。BisAは、CAS登録番号80-05-7を有する。
【0031】
本明細書で使用されるとおり、「ポリカルボナート」は、カルボナート結合によってつながった一つまたは複数のジヒドロキシ化合物、例えばジヒドロキシ芳香族化合物の残基を含むオリゴマーまたはポリマーを指し、ホモポリカルボナート類、コポリカルボナート類、および(コ)ポリエステルカルボナート類をも包含する。
【0032】
ポリマー類の成分に関して使用される用語「残基」および「構造単位」は、本明細書を通して同義である。
【0033】
本明細書で使用されるとおり、用語「重量パーセント」、「wt%」、および「wt.%」は、互換的に使用することができ、別途指定されているのでない限り、組成物の総重量を基準にした所与の成分の重量パーセントを示す。すなわち、別途指定されているのでない限り、すべてのwt%値は、組成物の総重量を基準にする。開示された組成物または配合物中の全成分のwt%値の総和は100に等しいと理解されるのが望ましい。
【0034】
本明細書で反対のことが別途言明されているのでない限り、すべての試験基準は、本願出願時点で有効な最新の基準である。
【0035】
本明細書に開示される材料のそれぞれは、市販されている、および/またはその製造方法が当業者に公知であるものである。
【0036】
本明細書に開示される組成物は、特定の機能を有することが理解される。本明細書に開示されるのは、開示される機能を実行する特定の構造要件であり、開示される構造に関連する同一の機能を実行することができる様々な構造が存在すること、およびこれらの構造が典型的には同一の結果を実現することは理解される。
熱可塑性組成物
【0037】
いくつかの態様では、本開示は、固定された投入量の多層カーボンナノチューブを含有するポリカルボナートマスターバッチと、元のマスターバッチを希釈してナノチューブ濃度を変えたブレンドを形成するのに使用される異なるポリカルボナート樹脂の組み合わせとを含む熱可塑性組成物に関する。カーボンナノチューブは、組成物に電気伝導性とマイクロ波干渉特性を付与するために使用される。カーボンナノチューブは、比較的低投入量で充分なマイクロ波干渉性能を与えるので、炭素粉末、グラファイト、または炭素繊維よりも好ましい。例えば、炭素の投入量が下がると、高せん断速度条件下でのこうした材料の延性、衝撃強度、表面の美観、および流動性が改善される。
【0038】
本開示の他の態様は、自動車用レーダーセンサの部品(例えば、プレート、筐体、カバー)に関する。この部品は、ポリマーと、マイクロ波吸収充填剤としてのカーボンナノチューブとを含む材料からモールド成形され得る。モールド成形部分は、好適なデザイン、平均厚さ、マイクロ波吸収効率、吸収帯域幅、遮蔽有効度(Shielding Effectiveness(SE))、減衰、電気的表面抵抗率、電気的体積抵抗率特性を有する。
【0039】
本開示のさらなる態様は、マイクロ波吸収材料(吸収体)を含むモールド成形部分を含む物品(例えば、レーダーセンサ、カメラ、ECU、レーダーブラケット)を含む。この物品は、センサのプリント回路基板内/上に位置する送信アンテナと受信アンテナとの間でマイクロ波放射の伝送を可能にする少なくとも二つの開口部を有し得る。
【0040】
いくつかの態様では、熱可塑性組成物は:(a)ポリカルボナート樹脂と;(b)少なくとも約5wt%のシロキサン含有量を有するポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーと;(c)約0.15wt%から約4.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤と、を含む。組成物は、ASTM D257に準拠して決定される少なくとも約1.0E+06オーム・センチメートル(オーム・cm)の体積電気抵抗率を有する。組成物のモールド成形試料は、約75GHzから110GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも約60%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有する。全成分の合計重量パーセント値は100wt%を超えず、全重量パーセント値は組成物の総重量を基準にする。
【0041】
ポリカルボナート樹脂は、特定の態様では、ポリカルボナートホモポリマー、構成要素(b)のポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーとは異なるポリカルボナートコポリマー、またはこれらの組み合わせを含む。
【0042】
熱可塑性ホモポリマーポリカルボナート類は、固有の強靭性、剛性、透明性、耐熱性を示す非晶質で澄んだ高性能ポリマー類である。しかしいくつかの実例では、ポリマーの特性の一部のバランスが悪いことから、特定の最終用途での使用が制限され得る。例えば、携帯電話やラップトップコンピュータなどの家電製品に使用されるポリカルボナート樹脂には通常、高流動性と衝撃に対する良好な強度および靭性との間の微妙なバランスが要求される。薄い部分のモールド成形において高流動性を実現するためにこれらの用途で低分子量のポリカルボナート類を使用すると、通常、材料の衝撃に対する靭性および強度が損なわれ、特に、こうした材料が低温環境での使用を目標としている場合にはそうである。ホモポリマーポリカルボナート類の物理的特性を改善するためにポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマー樹脂が使用されるのは、このような具体的な場合である。
【0043】
したがって、詳細な態様では、ポリ(カルボナート-シロキサン)(「PC-Si」)コポリマーは、約5wt%から約50wt%のシロキサン含有量を有する。さらなる態様では、PC-Siコポリマーは、約5wt%から約45wt%、または約15wt%から約45wt%のシロキサン含有量を有する。本明細書で使用されるとおり、「シロキサン含有量」はポリ(ジメチルシロキサン)を指す。
【0044】
いくつかの態様では、組成物は、約10wt%から約40wt%のポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーを含む。組成物は、約1wt%から約20wt%の総シロキサン含有量を有し得る。さらなる態様では、組成物は、約2wt%から約18wt%、または約3wt%から約15wt%、または約4wt%から約12wt%、または約5wt%から約10wt%の総シロキサン含有量を有する。
【0045】
ポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマー類は、カルボナート単位とシロキサン単位とを含む。カルボナート単位は、ビスフェノールAポリカルボナートホモポリマーであり、シロキサン単位は、オイゲノール終端ポリジメチルシロキサンであり、ブロックコポリマーは以下の式:
【化2】
を有する。
【0046】
PC-Siコポリマー類は、架橋スチレン-ジビニルベンゼンカラムを使用するゲル浸透クロマトグラフィーによって、1ミリグラム毎1ミリリットルの試料濃度で測定された、そしてビスフェノールAポリカルボナート標準を用いて較正された、20,000g/モルと45,000g/モルの間の重量平均分子量を有するものとすることができる。
【0047】
例示的なPC-Siコポリマー類には、20wt%のシロキサンを含有する不透明PC-Siコポリマー樹脂(EXL 9030P)などが挙げられ、これはSABICから入手可能である。このPC-Siコポリマーは、約30,000g/molの重量平均分子量Mwを有する一方、シロキサン成分は、エラストマー樹脂用のオイゲノールキャップされたD45シロキサンのソフトブロックであった。D45より長いシリコーンブロック長は、ポリマー中に均一に分散してる場合でさえ、望ましくないヘイズと不透明度を有する組成物を生じる可能性がある。SABICから入手可能な別の適切なPC-Siコポリマーは、40wt%のシロキサン含有量を有する。PC-Siコポリマー樹脂は、ポリカルボナートホモポリマー類と比較して、流動性、耐薬品性、加水分解安定性、低温延性の独自の組み合わせを提供する。これらのコポリマー類では、エラストマー性シロキサンブロックが、ポリカルボナートマトリックス中に分散するナノドメインを形成している。これらの樹脂の特性のいくつかは、ナノドメインのサイズとシロキサンセグメントの分散性とに影響される。これらのコポリマー類は、公開文献において若干詳細に記載されている異なる重合法を用いて、さまざまなモノマーから準備することができる。例えば、LEXAN(商標)樹脂EXL1414は、良好な加工性と離型性を兼ね備えた極低温(-40℃)での延性を必要とする用途に使用される、中程度の流動性の不透明射出成形グレードである。
【0048】
炭素充填ポリカルボナート類は、特に導電性範囲および静電散逸性範囲でのある程度の電気伝導率を必要とする用途においてだけでなく、比較的高い周波数でのある程度のマイクロ波干渉性を必要とする用途において使用される。炭素粉末と、ポリカルボナートまたはポリカルボナート類の混合物とをマトリックスとして含む導電性組成物は通常、所望の導電性およびマイクロ波干渉レベルを達成するために比較的高い投入量の炭素導電性充填剤を必要とする。カーボンブラックの投入量が多いと、典型的には、射出成形条件下で高粘度(低流動性)となり、特にこれらの材料を室温以下の温度で使用する場合には、衝撃強度と延性が低くなる。比較的低濃度で添加されたカーボンナノチューブが、ポリカルボナート樹脂の本来の良好な特性に悪影響を与えることなく、優れた流動性、低温衝撃性、およびマイクロ波遮蔽特性を提供できるのは、このような具体的な場合である。
【0049】
よって、本開示の態様による組成物は、カーボンナノチューブ充填剤を含む。他の態様では、組成物は、約0.15wt%から約1.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤を含む。詳細な態様では、組成物は、約0.15wt%から約1.5wt%、約0.2wt%から約1.5wt%、約0.25wt%から約1.5wt%、約0.2wt%から約4wt%、約0.25wt%から約3.5wt%、約0.3wt%から約3.0wt%、約0.35wt%から約2.5wt%、約0.4wt%から約2.0wt%、または約0.5wt%から約1.5wt%を含む。
【0050】
例示的なCNT充填剤は、マスターバッチとしてPlasticyl(商標) PC1501(ナノシル社(Nanocyl)から入手可能)として入手可能であり、15重量パーセントのNanocyl NC7000(商標)カーボンナノチューブを含む多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のポリカルボナートマスターバッチである。組成物に添加されるPC-MWCNTマスターバッチの量は、約1から約50重量パーセントの範囲で変化し得て、未充填ポリカルボナート樹脂の量は、約99から約50重量パーセントの範囲で変化し得る。結果として得られる組成物は、最終配合物中に約0.1重量%から約5重量%のカーボンナノチューブを含み得る。
【0051】
特定の態様では、カーボンナノチューブ充填剤は、約5wt%から約30wt%のカーボンナノチューブ、または約5wt%から約25wt%のカーボンナノチューブ、または約10wt%から約20wt%のカーボンナノチューブ、または約11wt%から約19wt%のカーボンナノチューブ、または約12wt%から約18wt%のカーボンナノチューブ、または約13wt%から約17wt%のカーボンナノチューブ、または約14wt%から約16wt%のカーボンナノチューブ、または約15wt%のカーボンナノチューブを含む、ポリカルボナート系マスターバッチの形態で組成物に組み込まれる。
【0052】
カーボンナノチューブは、カーボンブラックなどの他の形態の炭素と比較して、本開示の態様において好ましいものである。例えば、国際出願第PCT/IB2020/062593号明細書(国際公開第WO2021/137192号明細書として公開され、その開示はその全体が本明細書に組み込まれる)で報告されているとおり、本出願に記載されているものに匹敵する吸収レベルを有する組成物を実現するためには、はるかに高い(最高12wt%またはそれ以上の)カーボンブラック含有量が概して必要である。従来の組成物中に必要であるさらに高い炭素含有量では、本組成物と比較して、表面外観の劣悪さ、流動性および延性特性の低下、およびコストの上昇を含むがこれらに限定されない、多数の欠点がある。
【0053】
いくつかの態様では、カーボンナノチューブは、約8~12ナノメートル(nm)の平均直径、約5ミクロン(μm)以下の長さ、約220平方メートル毎グラム(m2/gr)以上の表面積、および約10-2オーム・センチメートル(オーム・cm)より低い体積抵抗率を有する。詳細な態様では、カーボンナノチューブは、約9nmから約11nm、または約10nmの平均直径を有する。さらなる態様では、カーボンナノチューブは、少なくとも約225m2/gr、または少なくとも約230m2/gr、または少なくとも約235m2/gr、または少なくとも約240m2/gr、または少なくとも約245m2/grの表面積を有する。
【0054】
特定の態様では、本明細書に記載される特性を有するカーボンナノチューブは、他のタイプのカーボンナノチューブと比較して、改善された特性を有する組成物を提供する。例えば、本明細書に記載される例示的なPlasticyl(商標) PC1501マスターバッチに含まれるNanocyl NC7000(商標)カーボンナノチューブは、約9.5nmの平均直径、約1.5ミクロンの平均長さ、約250~300m2/gのBET比表面積、および約10-4オーム・cmの体積抵抗率を有する。これらのカーボンナノチューブからは、本明細書に記載される特性を有する組成物が得られた。
【0055】
他のタイプのカーボンナノチューブは、マイクロ波吸収組成物に添加される場合には、異なる挙動を示すことになる。例えば、本発明者らは、ハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社(Hyperion Catalysis International)から提供されるカーボンナノチューブが、本開示の態様によるカーボンナノチューブとして同程度の吸収値を実現するには、より多量に使用されなければならないことを見出している。ハイペリオンのカーボンナノチューブは、約240m2/gのBET比表面積、約10nmの平均直径、および約10ミクロンの平均長さを有する。その他のCNTには、平均直径約10~15nm、平均長さ約10ミクロンというCNano社のFT9000 CNTSや、平均直径約10~15nm、平均長さ1ミクロン未満というモレキュラー・レバー(Molecular Rebar(登録商標))のMR CNTなどがある。これらのCNTは、同一投入量でポリマーに添加された場合に、異なる応答(レオロジー的、物理的、誘電的なものなど)を生じる可能性がある。
【0056】
具体的な態様では、カーボンナノチューブ充填剤は、約0.5wt%と約1.5wt.%の間の量で存在し、組成物のモールド成形試料は、自由空間法にしたがって77GHzの周波数で観測される場合に、少なくとも75%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有する。
【0057】
よって、本開示の態様による熱可塑性組成物は、ホモポリマーポリカルボナート類とPC-Siコポリマー類との混合物中に均一に分散されたカーボンナノチューブを含む。PC-Siコポリマーの軟質でエラストマー性のシロキサンブロック(例えば、Tg=-123℃)は、材料の低温での耐衝撃性、流動性、耐候性、および離型性に寄与する一方、硬質で熱可塑性のポリカルボナートブロック(例えば、Tg=148℃)は、コポリマーの耐熱性および弾性率性能に寄与する。
【0058】
さらなる態様では、カーボンナノチューブ充填剤は、約0.15wt%と約1.5wt.%の間の量で存在し、組成物は、ASTM D257に準拠して決定される少なくとも約1.2E+14オーム・cmの体積電気抵抗率を有する。
【0059】
他の態様では、組成物は、ASTM D256に準拠して測定される、摂氏-30度(℃)での少なくとも400ジュール毎メートル(J/m)のノッチ付きアイゾット衝撃強度を有する。本開示の態様による組成物はまた、ASTM D256に準拠して測定される、-30℃での少なくとも1800J/mのノッチなしアイゾット衝撃強度を有し得る。
【0060】
いくつかの態様では、構成要素(a)のポリカルボナート樹脂は、15グラム毎10分(g/10分)未満のメルトフローレート(MFR)を有する第1のポリカルボナートホモポリマーと、15g/10分より大きいMFRを有する第2のポリカルボナートホモポリマーとを含め、少なくとも二種のポリカルボナートホモポリマー類を含み、MFRは、ASTM D1238に準拠して、1.20キログラム(kg)の荷重、および300℃の温度で決定される。
【0061】
異なるMFR値を有する二種のポリカルボナートホモポリマー類の混合物によって、組成物の機械的特性およびレオロジー的特性の最適化が可能になり得る。第1のポリカルボナートホモポリマーおよび第2のポリカルボナートホモポリマーは、組成物中に、1:3から3:1、または約1:2から約2:1、または約1:1.5から約1.5:1、または約1:1の比率で存在し得る。
【0062】
特定の態様では、組成物は、少なくとも一つの追加の添加剤をさらに含む。少なくとも一つの追加の添加剤には、酸掃去剤、滴下防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、鎖延長剤、着色剤、脱成型剤、流動促進剤、潤滑剤、離型剤、可塑剤、焼き入れ剤、難燃剤、UV反射添加剤、耐衝撃性改良剤、発泡剤、補強剤、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、それらには限定されない。
製造方法
【0063】
本明細書に記載される一つまたはいずれか先の成分は、最初に互いにドライブレンドするか、または先の成分のいずれかの組み合わせとドライブレンドしてもよく、次いで、シングルまたはマルチフィーダから押出機に供給するか、またはシングルまたはマルチフィーダから押出機に別個に供給してもよい。本開示で使用される充填剤はまた、最初にマスターバッチに加工し、次いで、押出機に供給してもよい。成分は、スロートホッパ(throat hopper)、またはいずれかのサイドフィーダ(side feeder)から押出機に供給してもよい。
【0064】
本開示で使用される押出機は、単軸スクリュ、複数軸スクリュ、噛み合型同方向回転または逆方向回転スクリュ、非噛み合い型同方向回転または逆方向回転スクリュ、往復動スクリュ、ピン付きスクリュ、スクリーン付きスクリュ、ピン付きバレル、ロール、ラム(ram)、ヘリカルロータ(helical rotor)、コニーダ(co-kneader)、ディスクパック・プロセッサ(disc-pack processor)、種々の他のタイプの押出装置、または前述の少なくとも一つを含む組み合わせを有してもよい。
【0065】
また成分を一緒に混合し、次いで、溶融ブレンドして熱可塑性組成物を形成させてもよい。成分を溶融ブレンドすることには、せん断力、伸長力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー、または前述の力もしくはエネルギーの形態の少なくとも一つを含む組み合わせの使用が関与する。
【0066】
コンパウンディング時の押出機上のバレル温度は、樹脂が半結晶性有機ポリマーであれば約融点以上に、または樹脂が非晶性樹脂であれば約流動点(例えばガラス転移温度)以上の温度に、ポリマーの少なくとも一部が到達するような温度に設定することができる。
【0067】
前述の成分を含む混合物は、必要に応じて複数のブレンディング・ステップおよび形成ステップに通してもよい。例えば、まず熱可塑性組成物を押出成形して、ペレットに形成してもよい。次いで、ペレットをモールド成形機に供給し、そこでいずれかの所望の形状または製造物に成形してもよい。あるいは、単一の溶融ブレンダーから吐出される熱可塑性組成物を、シートまたはストランドに形成し、アニーリング、一軸または二軸延伸などの押出後工程に通してもよい。
【0068】
本工程における溶融物の温度は、いくつかの態様では、成分の過度の熱劣化を避けるために、可能な限り低く維持される場合がある。特定の態様では、溶融温度は約230℃と約350°Cの間に維持されるが、ただし処理装置内での樹脂の滞留時間が比較的短く維持されるという条件で、さらに高い温度を使用することもできる。いくつかの態様では、溶融処理された組成物は、押出機などの処理装置からダイの小さな出口孔を通って出る。得られた溶融樹脂のストランドは、水槽に通すことによって冷却してもよい。冷却されたストランドは、包装およびさらなる取り扱いのためにペレットに切り分けることができる。
製造品
【0069】
特定の態様では、本開示は、熱可塑性組成物を含む成形された、形成された、またはモールド成形された物品に関係する。熱可塑性組成物は、射出成形、押出成形、回転成形、ブロー成形、および熱成形などの様々な手段によってモールド成形されて有用な形状の物品にされて、例えば、レーダーセンサ用のマイクロ波吸収体を含むがこれらに限定されない自動車用レーダーセンサの物品や構造部品を形成することができる。さらなる態様では、物品は押出成形される。さらに別の態様では、物品は射出成形される。
【0070】
本開示の構成要素の様々な組み合わせ、例えば、同一の独立請求項に従属する従属請求項からの構成要素の組み合わせが、本開示に包含される。
本開示の態様
【0071】
様々な態様では、本開示は、少なくとも以下の態様に関連しており、これらを含む。
【0072】
態様1. (a)ポリカルボナート樹脂と;
(b)少なくとも約5wt%のシロキサン含有量を有するポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーと;
(c)約0.15wt%から約4.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤と、
を含んでなり、これらからなり、またはこれらから本質的になり、
ASTM D257に準拠して決定される体積電気抵抗率を、少なくとも約1.0E+06オーム・センチメートル(オーム・cm)とする、熱可塑性組成物であって、
前記組成物のモールド成形試料が、約75GHzから110GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも約60%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有し、
全成分の合計重量パーセント値が100wt%を超えず、全重量パーセント値が組成物の総重量を基準にする、熱可塑性組成物。
【0073】
態様2. 前記ポリカルボナート樹脂が、ポリカルボナートホモポリマー、構成要素(b)のポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーとは異なるポリカルボナートコポリマー、またはこれらの組み合わせを含んでなる、態様1に記載の熱可塑性組成物。
【0074】
態様3. 前記ポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーが、約5wt%から約50wt%のシロキサン含有量を有する、態様1または2に記載の熱可塑性組成物。
【0075】
態様4. 前記組成物が、約10wt%から約40wt%のポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーを含んでなる、態様1から3のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0076】
態様5. 前記組成物が、約1wt%から約20wt%の総シロキサン含有量を有する、態様1から4のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0077】
態様6. 前記組成物が、約0.15wt%から約1.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤を含んでなる、態様1から5のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0078】
態様7. 前記カーボンナノチューブ充填剤が、約0.5wt%と約1.5wt%の間の量で存在し、前記組成物のモールド成形試料が、77GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも75%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有する、態様1から6のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0079】
態様8. 前記カーボンナノチューブ充填剤が、約0.15wt%から約1.5wt.%の量で存在し、前記組成物が、ASTM D257に準拠して決定される少なくとも約1.2E+14オーム・cmの体積電気抵抗率を有する、態様1から6のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0080】
態様9. ASTM D256に準拠して測定される、摂氏-30度(℃)での少なくとも400ジュール毎メートル(J/m)のノッチ付きアイゾット衝撃強度を有する、態様1から8のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0081】
態様10. 構成要素(a)中のポリカルボナート樹脂が、少なくとも二種のポリカルボナートホモポリマー類を含んでなり、前記少なくとも二種のポリカルボナートホモポリマー類が、15グラム毎10分(g/10分)未満のメルトフローレート(MFR)を有する第1のポリカルボナートホモポリマーと、15g/10分より大きいMFRを有する第2のポリカルボナートホモポリマーとを含んでなり、MFRが、ASTM D1238に準拠して、1.20キログラム(kg)の荷重、および300℃の温度で測定される、態様1から9のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0082】
態様11. 前記第1のポリカルボナートホモポリマーおよび前記第2のポリカルボナートホモポリマーが、前記組成物中に1:3から3:1の比率で存在する、態様項10に記載の熱可塑性組成物。
【0083】
態様12. 少なくとも一つの追加の添加剤をさらに含んでなる、態様1から11のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0084】
態様13. 少なくとも一つの追加の添加剤が、酸掃去剤、滴下防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、鎖延長剤、着色剤、脱成型剤、流動促進剤、潤滑剤、離型剤、可塑剤、焼き入れ剤、難燃剤、UV反射添加剤、耐衝撃性改良剤、発泡剤、補強剤、またはこれらの組み合わせを含んでなる、態様12に記載の熱可塑性組成物。
【0085】
態様14. 前記カーボンナノチューブが、約8~12ナノメートル(nm)の平均直径、約5ミクロン(μm)以下の長さ、約220平方メートル毎グラム(m2/gr)以上の表面積、および約10-2オーム・センチメートル(オーム・cm)より低い体積抵抗率を有する、態様1から13のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0086】
態様15. 前記カーボンナノチューブ充填剤を、約10wt%から約20wtのカーボンナノチューブを含んでなるポリカルボナート系マスターバッチの形態で組み込んだ、態様1から6のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物。
【0087】
態様16.態様1から15のいずれか一つに記載の熱可塑性組成物を含んでなる物品。
【0088】
態様17. レーダーセンサ用のマイクロ波吸収体である、態様16に記載の物品。
【実施例】
【0089】
以下の実施例は、本明細書で特許請求される化合物、組成物、物品、装置、および/または方法がどのように作られ評価されるかの完全な開示および記載を当業者に提供するために提示されるものであり、純粋に例示的であることが意図され、開示を制限することは意図されないものである。数(例えば、量、温度など)に関して正確性を保証するよう努力がなされているが、幾分かの誤差および偏差を考慮に入れることが望ましい。別途指示されているのでない限り、部は重量部であり、温度は℃であるか、または周囲温度であり、圧力は大気圧であるか、または大気圧に近い。別途指示されているのでない限り、組成を指すパーセンテージはwt%の単位である。
【0090】
反応条件、例えば、成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、および他の反応範囲、ならびに記載される工程から得られる製造物の純度および収率を最適化するのに使用できる条件の多数の変形形態および組み合わせが存在する。そのような工程条件を最適化するには、妥当で定型的な実験しか必要でないであろう。
【0091】
本明細書に記載の組成物の誘電特性は、自由空間法にしたがって評価され得る。自由空間法は、ベクトルネットワークアナライザと、互いに対向する二つのアンテナと、それらアンテナの間に等距離に配置された試料ホルダとを含む。自由空間法によって生成される基本的な実験的量は、散乱パラメータ、すなわちSパラメータと称され、これらは、電気的ネットワークの異なるポート間の入出力関係を、振幅および位相対周波数の観点から記述するのに使用される。Sパラメータは通常、二つの数字の添え字で特定され、添え字の第1の数字は応答ポートを指す一方、第2の数字は入射ポートを指す。よって、S21は、ポート1での信号に起因するポート2での応答を意味する。散乱パラメータは、実数部と虚数部を有する複素数であり、試料から反射されるか試料を透過するかのいずれかであるマイクロ波放射の量を記述する。例えば、反射に関する散乱パラメータS11は、アンテナ1に由来する、そして試料に衝突して反射された後に戻って同一アンテナのところで受信される信号を表す。同様に、透過に関する散乱パラメータS21は、アンテナ1に由来する、そして試験下の材料を透過した後にアンテナ2で受信される信号を表す。アンテナ2に由来する信号を表す、反射および透過に関する散乱パラメータである、反射に関するS22および透過に関するS12もまた、定義することができる。先に定義した四つのSパラメータ、S11、S22、S21、S12を2ポートネットワークに関して特定でき、Sパラメータ行列を使用して、このネットワークの両側からの反射係数と透過利得を決定することができる。次いで、ソフトウェアを使用して、ネットワーク・アナライザの散乱パラメータ出力を誘電特性に変換する。自由空間測定技術により、試験下の磁気誘電材料の誘電率と透磁率を決定する方法が得られる。これらの方法は非接触であり、これはすなわち、測定下の材料が、測定に関与する装置のいかなる起動している構成部品とも直接接触しないということである。
【0092】
自由空間法を用いて本開示の材料の誘電特性を測定するために使用される装置の概略図を、裏打ちされていない試料および金属裏打ちされた試料について、それぞれ
図1Aおよび
図1Bに示す。これらの自由空間誘電率測定には、6インチ×8インチ×1/8インチ寸法の射出成形された板状体を使用する。
【0093】
自由空間法を用いた誘電測定は、透過モードと、金属裏打ちされた反射モードという、二つの異なるモードで実行することができる。測定の透過モードでは、三とおりの放射:試料への吸収;試料からの反射;試料を通る透過、を測定する。測定の金属裏打ちされた反射モードでは、試験下の材料と受信アンテナとの間に金属性プレート(ステンレス鋼、アルミニウムなど)が置かれるので、試料を通る透過は完全に抑制され、材料へのマイクロ波の吸収と材料からのマイクロ波の反射のみを評価することができる。透過モードでの二つのアンテナの組み合わせでは、反射に関する散乱パラメータS11と透過に関する散乱パラメータS21しか測定できないので、試験下の材料に吸収された放射の量(パーセントで)は、試料に入射した全エネルギー(すなわち100%)と、試料を透過した放射(S21から測定され、受信アンテナに到達)および試料から反射された放射(S11から測定され、放射アンテナに戻る)の量(パーセントで)の総和との差として計算される。多くの用途では、透過モードを用いて測定される場合に、パーセント吸収電力を最大にしてパーセント反射電力とパーセント透過電力を最小にすることが望ましい。レーダー設計者がマイクロ波レーダー干渉用途向けに材料を選択する場合に考慮するいくつかの誘電特性がある。複素誘電率(実数部および虚数部)、材料によって吸収、反射、または透過される放射の量、遮蔽有効度、反射損失、および減衰は、レーダーセンサ用途向けの可塑性構成部品の製造にとって対象となる材料特性の一部に過ぎない。また、除去または最小化されないと自動車用電子センサの正常な動作に干渉する可能性のあるマイクロ波エネルギーを捕捉する場合には、入射する放射の周波数と材料の厚さもまた重要である。
【0094】
本明細書に記載される組成物に使用されたPC-MWCNTマスターバッチを、異なる特性を有する新品の様々な量の未充填ポリカルボナートグレードで希釈した。組成物中に使用した二種のホモポリマーポリカルボナート樹脂は、100グレードの直鎖汎用ポリカルボナートホモポリマー粉末であるSABICのLEXAN(商標) 105と、薄肉用途の射出成形に使用される直鎖高流動性ポリカルボナートホモポリマーであるML5221-111Nであった。異なる比率でのこれら二種のポリカルボナート類の混合物により、組成物の機械的特性およびレオロジー的特性を最適化することが可能になった。ポリカルボナートML5221-111Nに対するポリカルボナート105-111Nの比率は、これらの組成物について1:1に維持した。本明細書に記載される組成物に使用した特定の成分を表1に示す:
【表1】
【0095】
20wt%のシロキサン含有量を有するPC-Siコポリマーを含む実施例組成物および比較組成物を表2Aに列挙する;組成物の特性は表2Bに示す:
【表2】
【表3】
【0096】
40wt%のシロキサン含有量を有するPC-Siコポリマーを含む実施例組成物および比較組成物を表3Aに列挙する;組成物の特性は表3Bに示す:
【表4】
【表5】
【0097】
20wt%のシロキサンと0.10wt%から1.0wt%のCNTとを含むPC-Siコポリマーを含む実施例組成物よび比較組成物を表4Aに列挙する;組成物の特性は表4Bに示す:
【表6】
【表7】
【0098】
表2B、3B、および4Bに示すすべての誘電特性は77GHzの周波数で評価したが、これは、自動車用途の長距離レーダーセンサの設計に使用される特性周波数である。表2A~4Bの組成物の様々な特性を図にグラフ表示する。
図2A、2B、4A、4B、5A、5B、6A、および6Bは、20wt%のシロキサン含有量を有するPC-Siコポリマーを含む表2Aの組成物の特性を例示している。
図3A、3B、4A、4B、5A、5B、6A、および6Bは、40wt%のシロキサン含有量を有するPC-Siコポリマーを含む表3Aの組成物の特性を例示している。
図7A、7B、8A~8E、および9A~9Eは、20wt%のシロキサン含有量と、より低いCNT含有量とを有するPC-Siコポリマーを含む、表4Aの組成物の特性を例示している。
【0099】
具体的には、
図2Aおよび表2Bは、自由空間法を用いて77GHzの周波数で測定された場合の、PC-Siコポリマー(20wt%のシロキサン)と、1wt%から5wt%の間のCNT投入量とを含むE1.1~E1.4、およびC1の誘電特性を示している。これらの結果は、複素誘電率の実数部および虚数部、e’およびe”が、配合物中のカーボンナノチューブ濃度が高くなるにつれて両方とも増加したことを示している。表2Bに示されるとおり、誘電正接(e”/e’)またはtanδも同じ傾向に従った。減衰定数は約-40dB/cmと-210dB/cmの間で変化し、全遮蔽有効度は、77GHzの周波数で測定した場合に、約12dBと70dBの間であった。さらに表2Bおよび
図2Bに示されるとおり、77GHzの周波数で測定した場合に、透過モードで測定されたパーセント吸収電力は約50%と80%の間で変化し、透過モードで測定されたパーセント反射電力は約15%と50%の間で変化した。透過モードで測定されたパーセント透過電力は、調べた組成物では約2%以下であった。材料の導電性が高まる(体積抵抗率は下がる)につれて、パーセント反射電力は増加し、パーセント透過電力は減少した。
【0100】
炭素充填剤を含まない純粋なホモポリマーポリカルボナート樹脂の厚さ3.080ミリメートル(mm)の板状体上67GHzで観測されたe’とe”の測定結果である、それぞれ3.03および0.0012から計算された、67GHzでの純粋な樹脂のパーセント透過電力、パーセント反射電力、およびパーセント吸収電力は、それぞれ76.5%、23.3%、0.2%であった。これらの結果から、表2Aの組成物の透過モードにおけるパーセント吸収電力の最大値は、約1wt%以下のCNT含有率で生じることになると考えることができる。
【0101】
PC-Siコポリマー(40wt%のシロキサン含有量)を含む組成物についても、表3Bならびに
図3Aおよび3Bに示されるとおり、同様の結果が観測された。
【0102】
図8Aおよび8Bは、複素誘電率の実数部および虚数部の両方が、配合物中のCNT投入量とともに増加したことを示している。
図8Cは、インテロゲートされたWバンドの周波数に応じて、減衰定数が約-5dB/cmから-45dB/cm超まで増加したことを示しており、
図8Dは、配合物中のCNT投入量が増加すると、全遮蔽有効度が約2dBから15dB超まで増加したことを示している。
図8Eは、透過でのパーセント吸収電力が、比較組成物C3の場合の約25%から、高レベルのCNTを含有する実施例組成物の場合の60%超まで増加したことを示している。
図9Aから9Eは、Wバンド(75~110GHz)において測定した場合の、比較組成物C3および実施例組成物E3.1からE3.4について、それぞれ透過モードで測定したパーセント電力を示している。これらの図は、組成物中のCNT濃度が増加すると、パーセント吸収電力が増加し、パーセント透過電力が減少したことを示している。例えば、実施例組成物E3.4は、77GHz周波数で観測した場合に、約74%の吸収、24%の反射、2%未満の透過を示している。
【0103】
上記は、例示的なものであること、そして制限するものではないことが意図される。例えば、上記の実施例(またはそれらの一つもしくは複数の態様)は、互いに組み合わせて使用してもよい。他の態様は、例えば、当業者が上記を検討した時点で使用することができる。要約書は、米国特許法施行規則第1.72条(b)項に従って、読者が技術開示の性質を速やかに把握できるようにするために提供されるものである。それは、特許請求の範囲または意味を解釈または制限するためには使用されないとする理解のもとで提出される。また、上の、発明を実施するための形態において、様々な特徴が、本開示を効率化するためにグループ化される場合がある。そうであっても、特許請求されていない開示された特徴がいずれの請求項にとっても本質的であるということを意図するとは解釈されないのが望ましい。むしろ、発明の主題が、特定の開示された態様のあらゆる特徴よりも少ない特徴のなかにある場合がある。よって、添付の特許請求の範囲は、実施例または態様として、発明を実施するための形態に組み込まれ、各請求項は別個の態様としてそれ自体独立しており、そのような態様は、様々な組み合わせまたは並び替えで互いに組み合わせることができることが企図される。本開示の範囲は、そのような請求項の権利が及ぶ均等物の最大限の範囲と共に、添付の特許請求の範囲を参照しつつ定められるのが望ましい。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリカルボナート樹脂と;
(b)少なくとも5wt%のシロキサン含有量を有するポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーと;
(c)0.15wt%から4.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤と、
を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記カーボンナノチューブが、8~12ナノメートル(nm)の平均直径、5ミクロン(μm)以下の長さ、220平方メートル毎グラム(m2/gr)以上の表面積、および10-2オーム・センチメートル(オーム・cm)より低い体積抵抗率を有し、
ASTM D257に準拠して決定される体積電気抵抗率が、少なくとも1.0E+06オーム・センチメートル(オーム・cm)であり、
前記組成物のモールド成形試料が、75GHzから110GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも60%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有し、
全成分の合計重量パーセント値が100wt%を超えず、全重量パーセント値が組成物の総重量を基準にする、熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記ポリカルボナート樹脂が、ポリカルボナートホモポリマー、構成要素(b)のポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーとは異なるポリカルボナートコポリマー、またはこれらの組み合わせを含んでなる、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記ポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーが、5wt%から50wt%のシロキサン含有量を有する、請求項1または2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記組成物が、10wt%から40wt%のポリ(カルボナート-シロキサン)コポリマーを含んでなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記組成物が、1wt%から20wt%の総シロキサン含有量を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記組成物が、0.15wt%から1.5wt%のカーボンナノチューブ充填剤を含んでなる、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ充填剤を、10wt%から20wt%のカーボンナノチューブを含んでなるポリカルボナート系マスターバッチの形態で組み込んだ、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブ充填剤が、0.5wt%から1.5wt%の間の量で存在し、前記組成物のモールド成形試料が、77GHzの周波数で自由空間法にしたがって観測される場合に、少なくとも75%の、透過モードで測定されたパーセント吸収電力を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ充填剤が、0.15wt%から1.5wt%の量で存在し、前記組成物が、ASTM D257に準拠して決定される少なくとも1.2E+14オーム・cmの体積電気抵抗率を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項10】
ASTM D256に準拠して測定される、摂氏-30度(℃)での少なくとも400ジュール毎メートル(J/m)のノッチ付きアイゾット衝撃強度を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
構成要素(a)中のポリカルボナート樹脂が、少なくとも二種のポリカルボナートホモポリマー類を含んでなり、前記少なくとも二種のポリカルボナートホモポリマー類が、15グラム毎10分(g/10分)未満のメルトフローレート(MFR)を有する第1のポリカルボナートホモポリマーと、15g/10分より大きいMFRを有する第2のポリカルボナートホモポリマーとを含んでなり、MFRが、ASTM D1238に準拠して、1.20キログラム(kg)の荷重、および300℃の温度で測定される、請求項1から10のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項12】
前記第1のポリカルボナートホモポリマーおよび前記第2のポリカルボナートホモポリマーが、前記組成物中に1:3から3:1の比率で存在する、請求項11に記載の熱可塑性組成物。
【請求項13】
組成物が、酸掃去剤、滴下防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、鎖延長剤、着色剤、脱成型剤、流動促進剤、潤滑剤、離型剤、可塑剤、焼き入れ剤、難燃剤、UV反射添加剤、耐衝撃性改良剤、発泡剤、補強剤、またはこれらの組み合わせを含んでなる少なくとも一つの追加の添加剤をさらに含んでなる、請求項1から12のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含んでなる物品。
【請求項15】
レーダーセンサ用のマイクロ波吸収体である、請求項14に記載の物品。
【国際調査報告】