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特表2024-540009対象者の血圧を監視する際に使用する、血圧サロゲートを校正するデバイス、システム、及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】対象者の血圧を監視する際に使用する、血圧サロゲートを校正するデバイス、システム、及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20241024BHJP
   A61B 5/022 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61B5/02 310V
A61B5/022 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525038
(86)(22)【出願日】2022-10-24
(85)【翻訳文提出日】2024-05-15
(86)【国際出願番号】 EP2022079612
(87)【国際公開番号】W WO2023072842
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】21204649.4
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ミュールステフ ジェンス
(72)【発明者】
【氏名】ブレシュ エリック
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ラース
(72)【発明者】
【氏名】ボガツ ローラ イオアナ
(72)【発明者】
【氏名】ウォーリー ピエール
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AA19
4C017AB01
4C017AC01
4C017AC26
4C017AD01
4C017BB02
4C017BB12
4C017BC11
4C017BD05
4C017DD11
4C017FF05
4C017FF08
(57)【要約】
本発明は、対象者の血圧を監視する際の使用のための血圧BPのサロゲートを校正するデバイス、システム、及び方法に関する。デバイスは、BP入力部51と、センサ入力部52と、処理ユニット53とを備え、処理ユニットは、カフの膨張中に、第1の時間依存センサ信号の第1の特徴、及び第2の時間依存センサ信号の第2の特徴を使用して、第1及び第2の時間依存センサ信号から脈拍に関係する値を計算し、脈拍に関係する値は、脈波到達時間PATの値、又は脈波伝搬時間PTTの値であり、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対を選択して、BPサロゲートの校正パラメータを計算し、対は、脈拍に関係する値と、対応する時間的に関係するカフ圧の値とを含み、BP及び/又はカフ圧に関する1つ又は複数の所定の条件が満たされる脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対だけが選択され、BP測定値、並びに脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との選択された対からBPサロゲートの校正パラメータを計算するよう構成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の血圧を監視する際の使用のための血圧BPのサロゲートを校正するデバイスであって、前記デバイスが、
前記対象者の身体部分に取り付けられた圧力送達システムのカフの膨張中の時間依存カフ圧の値を取得し、またBP測定値を取得する、BP入力部と、
前記カフの膨張中に、前記対象者の身体の相異なる部位で測定され、前記対象者の心拍に関係する第1の時間依存センサ信号及び第2の時間依存センサ信号を取得する、センサ入力部と、
処理ユニットと
を備え、
前記処理ユニットが、前記カフの膨張中に、前記第1の時間依存センサ信号の第1の特徴及び前記第2の時間依存センサ信号の第2の特徴を使用して、前記第1及び第2の時間依存センサ信号から、脈拍に関係する値を計算し、前記脈拍に関係する値が、脈波到達時間PATの値、又は脈波伝搬時間PTTの値であり、
前記処理ユニットが、前記BPサロゲートの校正パラメータを計算するための前記脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対を選択し、前記対は、脈拍に関係する前記値と、対応する時間依存の前記カフ圧の値とを含み、前記BP及び/又は前記カフ圧に関する1つ又は複数の所定の条件が満たされる前記脈拍に関係する値と、対応する前記カフ圧の値との前記対だけが選択され、
前記処理ユニットが、前記BP測定値、並びに、前記脈拍に関係する値と、対応する前記カフ圧の値との選択された前記対から前記BPサロゲートの前記校正パラメータを計算する、
デバイス。
【請求項2】
前記処理ユニットが、前記カフの部分的膨張中に測定される第1及び第2の時間依存センサ信号から計算された、BPサロゲートの校正パラメータを計算するための脈拍に関係する値と、対応するカフ圧の値との対だけを使用する、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記処理ユニットが、末梢BPが実質的に一定である、特に、変動が10%未満又は5%未満である、前記BPサロゲートの前記校正パラメータを計算するための脈拍に関係する値と、対応するカフ圧の値との対だけを使用する、
請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記処理ユニットが、第1及び/又は第2の時間依存センサ信号に基づいて、特に、第2の時間依存信号の振幅が、実質的に一定である、特に、変動が、以前に取得した平均値に対して10%未満又は5%未満である期間を判定することによって、前記末梢BPが実質的に一定であるかどうかを判定する、
請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記処理ユニットは、前記カフ圧の値が、前記対象者の拡張期BPを下回る、特に、前記対象者の測定した最新の拡張期BPを下回るか、前記対象者の平均BPを下回る、特に、前記対象者の測定した最新の平均BPを下回るか、又は設定されたカフ圧の閾値を下回る、前記BPサロゲートの校正パラメータを計算するための脈拍に関係する値と、対応するカフ圧の値との対だけを使用する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記処理ユニットは、前記カフ圧の値が、設定された最小カフ圧と設定された最大カフ圧との間の範囲にある、特に、最小カフ圧が10から30mmHgの範囲内に設定され、最大カフ圧が40から90mmHgの範囲内に設定される、前記BPサロゲートの校正パラメータを計算するための脈拍に関係する値と、対応するカフ圧の値との対だけを使用する、
請求項1から5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記処理ユニットは、前記脈拍に関係する値が実質的に一定である、特に、変動が10%未満である、前記BPサロゲートの校正パラメータを計算するための脈拍に関係する値と、対応するカフ圧の値との対だけを使用する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記処理ユニットは、前記脈拍に関係する値の曲線の経時的な勾配が閾値を超えるまでの、前記BPサロゲートの校正パラメータを計算するための脈拍に関係する値と、対応するカフ圧の値との対だけを使用する、
請求項1から7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記処理ユニットが、前記圧力送達システムのカフを膨張させる、特に前記BP測定値の取得のために前記カフを完全に膨張させたり、前記第1の時間依存センサ信号及び前記第2の時間依存センサ信号を取得するために前記カフを部分的にだけ膨張させるように、圧力送達システムを制御するための制御信号を計算する、
請求項1から8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記第1の時間依存センサ信号が、ECG信号であり、且つ/又は前記第2の時間依存センサ信号が、光電容積脈波測定法PPG信号、特に接触型PPG信号又は遠隔PPG信号である、
請求項1から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記処理ユニットが、回帰を使用して校正パラメータを計算するよう、特に、ゼロのカフ圧に対する血圧サロゲートの関数として、血圧の関係の依存性の勾配として前記校正パラメータを計算する、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記処理ユニットが、前記計算されたBPサロゲートと、前記対象者の身体部分に圧力が送達されないときの対象者の身体の様々な部位で測定される、前記測定された第1及び第2の時間依存センサ信号との使用により、前記圧力送達システムによる前記対象者の身体部分に圧力が送達されないときのBPの値を判定する、
請求項1から11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
対象者の血圧を監視する際の使用のための血圧BPのサロゲートを校正するためのシステムであって、前記システムが、
前記対象者の身体部分に取り付けられるカフであって、前記カフを膨張させることによって前記対象者の身体部分に圧力を送達する当該カフを備える圧力送達システムと、
前記対象者の身体部分に取り付けられた前記圧力送達システムの前記カフの膨張中に、時間依存のカフ圧の値を取得し、BP測定値を取得又は推定する、圧力センサと、
前記対象者の身体の第1の部位に取り付けられ、前記カフの膨張中の前記対象者の心拍に関係する第1の時間依存センサ信号を取得する第1のセンサと、
前記対象者の身体の第2の部位に取り付けられ、前記カフの膨張中間の前記対象者の心拍に関係する第2の時間依存センサ信号を取得する、第2のセンサと、
前記BP測定値、前記時間依存のカフ圧の値、並びに前記第1及び第2の時間依存センサ信号から、BPサロゲートを校正するための校正パラメータを計算するための請求項1から12のいずれか一項に記載のデバイスと
を具備する、システム。
【請求項14】
対象者の血圧を監視する際の使用のための血圧BPのサロゲートを校正するための方法であって、前記方法が、
前記対象者の身体部分に取り付けられた圧力送達システムのカフの膨張中の時間依存のカフ圧の値を取得するステップと、
BP測定値を取得するステップと、
前記カフの膨張中に、前記対象者の身体の相異なる部位で測定され、前記対象者の心拍に関係する第1の時間依存センサ信号及び第2の時間依存センサ信号を取得するステップと、
前記カフの膨張中に、前記第1の時間依存センサ信号の第1の特徴及び前記第2の時間依存前記センサ信号の第2の特徴を使用して、前記第1及び第2の時間依存センサ信号から、脈拍に関係する値を計算するステップであって、前記脈拍に関係する値が、脈波到達時間PATの値、又は脈波伝搬時間PTTの値である、前記脈拍に関係する値を計算するステップと、
前記BPサロゲートの校正パラメータを計算するための脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対を選択するステップであって、前記対は、前記脈拍に関係する値と、対応する時間的に関係するカフ圧の値とを含み、BP及び/又はカフ圧に関する1つ又は複数の所定の条件が満たされる脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対だけが選択される、前記対を選択するステップと、
前記BP測定値、並びに前記脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との選択された前記対から、BPサロゲートの校正パラメータを計算するステップと
を有する、方法。
【請求項15】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されると、前記コンピュータに、請求項14に記載の方法のステップを実行させるプログラムコード手段を有する、コンピュータプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の血圧を監視する際に使用する、血圧(BP)のサロゲートを校正するデバイス、システム、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急性期医療における血行力学的測定は、一般的に、より連続的で、あまり侵襲的でなく、あまり邪魔にならなくなる傾向にある。血圧(BP)は、患者の健康状態を評価するために、すべての病院の現場で使用される、基本的な血行力学的パラメータである。動脈圧(ABP)は、医療診断、予防ばかりでなく、治療指導にも関係する、重要な生理学的パラメータである。侵襲的測定-ゴールドスタンダード-は、最も精度の高い連続測定を可能にするが、訓練を受けた医療従事者しか行うことができず、リアルタイムの警報及び非常に厳密な監視が必要な急性の現場で主に適用される。
【0003】
血圧を非侵襲的に測定する確立されたやり方は、上腕カフを用いることである(NIBP=非観血血圧)。NIBP測定は、実用的ではあるが、ただ断続的であるため、監視用途では繰り返し、例えば手術中は数分ごとに、又はICUでは通常15分ごとに、(通常は自動的に)行う必要がある。患者を監視する際のほとんどのNIBP測定は、間欠測定を可能にする自動オシロメトリを使用した、標準的なカフベースのABP測定によって実施されている。連続的であると同時に、精度の高い非侵襲的血圧測定技術へのニーズは、満たされていない。有害な患者の転帰に関連する、低血圧(又は高血圧)症状の発現を見逃さないために、血圧測定インタバル間も連続して非侵襲的血圧情報を入手できることが、重要な差別要素となる。
【0004】
これを達成するための洗練された方法は、急性期医療の現場で既に利用可能な、連続的な生理学的信号を利用し、その信号から連続的な血圧情報(連続的なBPのサロゲートパラメータ)を推測することである。これにより、追加コストを最小限に抑えることができ、また臨床的作業の流れは、影響を受けないままである。
【0005】
連続するNIBP測定のために、例えば指カフデバイスなどの、いくつかの専用デバイスが存在する。しかし、これらはまだ病院で、広く採用されてはいない。これは、精度及びロバスト性の欠如に関係する様々な問題に起因するだけでなく、追加コスト及び臨床的作業の流れへの悪影響にも起因する。
【0006】
連続的で非侵襲的な血圧測定の手法は、BPサロゲートに基づく。BPサロゲートは、例えば脈波伝播時間(PTT)及び脈波到達時間(PAT)、脈波速度、又はこれらの組合せなどの、よく知られたパラメータである。しばしば校正と呼ばれる参照又は初期化の目的以外に外部圧力を使用せずに、これらのパラメータを用いて、非侵襲的且つ連続的に血圧を推定することができる。校正は、臨床現場及び家庭環境における実際の用途では、重要な問題である。
【0007】
米国特許出願公開第2010/160798A1号は、PTTに基づき、いかなる外部校正も必要としない、BPを連続測定する技法を開示している。この技法は、BP及び他の生体情報を測定して、遠隔のモニタにこれらを無線で送信する身体装着型モニタを使って実行される。通常、患者の右腕及び胸部に配置される身体装着型センサのネットワークが、モニタに接続され、時間依存のECG、PPG、加速度計、及び圧力波形を測定する。センサは、圧力センサに結合された膨張可能な空気袋を特徴とするカフ、3つ以上の電気センサ(例えば、電極)、3つ以上の加速度計、温度センサ、並びに患者の親指に取り付けられる光センサ(例えば、光源及びフォトダイオード)を含み得る。カフ下の経壁圧の制御されら低下の間に、専用のPTTの変化が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、BPサロゲートを使用した連続的で非侵襲的なBP測定の、精度をさらに高めることができるデバイス、システム、及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様では、対象者の血圧を監視する際に使用する、BPサロゲートを校正するデバイスが提供され、デバイスは、
対象者の身体部分に取り付けられた圧力送達システムのカフの膨張中の時間依存のカフ圧の値を取得し、またBP測定値を取得するよう構成される、BP入力部と、
対象者の心拍に関係し、カフの膨張中に、対象者の身体の相異なる部位で測定される、第1の時間依存センサ信号及び第2の時間依存センサ信号を取得するよう構成される、センサ入力部と、
処理ユニットと
を備え、処理ユニットは、
- カフの膨張中に、第1の時間依存センサ信号の第1の特徴、及び第2の時間依存センサ信号の第2の特徴を使用して、第1及び第2の時間依存センサ信号から脈拍に関係する値を計算し、脈拍に関係する値は、脈波到達時間PATの値、又は脈波伝搬時間PTTの値であり、
- BPのサロゲートの校正パラメータを計算するための脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対を選択し、対は、脈拍に関係する値と、対応する時間的に関係するカフ圧の値とを含み、BP及び/又はカフ圧に関する1つ又は複数の所定の条件が満たされる脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対だけが選択され、
- BPサロゲートの校正パラメータを、BP測定値、並びに、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との選択された対から計算する
よう構成される。
【0010】
本発明のさらなる態様では、対象者の血圧を監視する際の使用のためのBPサロゲートを校正するシステムが提供され、システムは、
対象者の身体部分に取り付けられ、カフを膨張させることによって対象者の身体部分に圧力を送達するよう構成されるカフを備える圧力送達システムと、
対象者の身体部分に取り付けられた圧力送達システムのカフの膨張中に、時間依存のカフ圧の値を取得し、BP測定値を取得又は推定するよう構成される、圧力センサと、
対象者の身体の第1の部位に取り付けられ、カフの膨張中の対象者の心拍に関係する、第1の時間依存センサ信号を取得するよう構成される、第1のセンサと、
対象者の身体の第2の部位に取り付けられ、カフの膨張中の対象者の心拍に関係する、第2の時間依存センサ信号を取得するよう構成される、第2のセンサと、
BP測定値、時間依存のカフ圧の値、並びに第1及び第2の時間依存センサ信号から、BPサロゲートを校正するための校正パラメータを計算する上記デバイスと
を備える。
【0011】
本発明のさらに別の態様では、対応する方法と、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されると、本明細書で開示する方法のステップをコンピュータに実行させる、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラムと、プロセッサによって実行されると、本明細書で開示する方法を実行させるコンピュータプログラム製品を内部に記憶する非一時的コンピュータ可読記録媒体とが提供される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項で定義される。特許請求の範囲に記載された方法、システム、コンピュータプログラム、及び媒体は、特許請求の範囲に記載されたデバイス、具体的には従属請求項で定義され、本明細書で開示するものと同様及び/又は同一の、好ましい実施形態を有することを理解されたい。
【0013】
本発明より、カフの膨張が、適切に定義された、血圧サロゲートの関連する変化を引き起こすことを利用して、信頼性の高い個人化された校正手順(開始又は初期化手順と呼ばれる場合もある)が可能となる。カフの膨張中の生理学的影響に関する洞察の結果、1つ又は複数の校正パラメータを計算するために使用される最適化された方法及び手順が得られた。信頼性高く校正された血圧サロゲートにより、血圧の高精度で非侵襲の追跡が可能である。すなわち、校正されたBPサロゲートを使用することにより、当初は未決定の/定義されていないパラメータのセットを、意味のある臨床的パラメータの血圧に変換することができる。
【0014】
本発明は、カフの加圧中のPAT(又はPTT)の変化が、下腕(又は、より一般的には、カフが配置される対象者の身体部分の末梢領域)における、静脈閉塞に起因する動的充填効果によって歪むという調査結果に基づく。この調査結果は、1つ又は複数の校正パラメータを取得するやり方法に影響を与える。例えば、1つ又は複数の校正パラメータを計算するための好ましい選択肢の1つである、パラメータ回帰は、影響を受けるが、これは感度パラメータを推定するために、対処する必要がある。この影響は、カフに対して末梢、例えばカフが上腕に配置されている場合は下腕、又はカフが上脚に配置されている場合は下肢で取得される、侵襲的に測定されたBP信号から観察及び解釈されている。
【0015】
本発明によれば、1つ又は複数の条件(又は判定基準)を使用して、後でBPを推定するためのBPサロゲートの校正パラメータを計算するのに使用される、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対が選択される。こうした条件は、BP及び/又はカフ圧に関係する。すなわち、BP及び/又はカフ圧に応じて、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対を、BPサロゲートの校正パラメータの計算に使用するかどうかが決定される。以下に詳細に説明するように、そうした条件に関する複数の実施形態が存在する。
【0016】
処理ユニットは、一実施形態によれば、カフの部分的膨張中に測定される、第1及び第2の時間依存センサ信号から計算された、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対だけを使用して、BPサロゲートの校正パラメータを計算するよう構成される。カフ圧が高い場合には、脈拍の歪みに起因して、カフが配置されている身体部分の末梢部分に、信頼性の高い脈拍信号が現れないことが判明している。これは、カフが完全膨張又はほぼ完全膨張中に測定された、センサ信号から計算された値の対が使用される場合、校正パラメータの計算に悪影響を及ぼす。この実施形態では、BPとの関係が定義された脈拍信号しか考慮されないので、こうした悪影響が回避され、これにより、校正の精度が向上し、したがって最終的には、校正されたBPサロゲートの使用により、BPの判定が改善される。
【0017】
処理ユニットは、別の実施形態によれば、末梢BPが実質的に一定である、特に変動が10%未満又は5%未満である、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対だけを使用して、BPサロゲートの校正パラメータを計算するよう構成される。他の適度な値も、同様に使用される。上記で説明したように、このやり方で、同様の効果を得ることができるが、計算するための値の対を選択するのに、別の条件が使用される。
【0018】
処理ユニットは、これにより、第1及び/又は第2の時間依存センサ信号に基づいて、末梢BPが実質的に一定であるかどうかを判定するよう構成される。この目的のために、例えば、第2の時間依存信号の振幅が実質的に一定である期間、特に変動が、以前に取得した平均値に対して、10%未満若しくは5%未満(又は事前に定められるか若しくはユーザが設定する他の任意の適度な閾値)の期間が判定される。この以前に取得した平均値とは、第2の時間依存信号の以前の平均値を指す。
【0019】
処理ユニットはさらに、カフ圧の値が、対象者の拡張期BP、特に測定した対象者の最新の拡張期BPを下回るか、対象者の平均BP、特に測定した対象者の最新の平均BPを下回るか、又は設定されたカフ圧の閾値を下回る、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対だけを使用して、BPサロゲートの校正パラメータを計算するよう構成される。これにより、開示している解決策の、かなり単純だが効率的な実施態様が可能となる。
【0020】
処理ユニットは、別の実施形態では、カフ圧力値が、設定された最小カフ圧と設定された最大カフ圧との間の範囲内にある、特に最小カフ圧が10から30mmHgの範囲内に設定され、最大カフ圧が40から90mmHgの範囲内に設定される(又は他の適度な値で定義される範囲内に設定される)、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対だけを使用して、BPサロゲートの校正パラメータを計算するよう構成される。これにより同様に、開示している解決策の、かなり単純だが効率的な実施態様が可能となる。
【0021】
処理ユニットは、またさらなる実施形態では、脈拍に関係する値が実質的に一定である、特に変動が10%未満(若しくは他の任意の適度な値)であるか、又は脈拍に関係する値の曲線の経時的な勾配が閾値を超えるまでの、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対だけを使用して、BPサロゲートの校正パラメータを計算するよう構成される。こうした実施形態では、容易に実施できる他の条件を利用する。
【0022】
処理ユニットはさらに、圧力送達システムのカフを膨張させる、特にBP測定値を取得するためにカフを完全に膨張させる、及び、第1の時間依存センサ信号及び第2の時間依存センサ信号を取得するためにカフを部分的にだけ膨張させるように圧力送達システムを制御するための制御信号を計算するよう構成される。デバイスはこれにより、BP測定又は校正パラメータの判定に使用されるセンサ信号の取得での必要性に応じて、カフの膨張を能動的に制御することができる。校正に(すなわち、校正パラメータの計算に)使用されるBP測定値は、BP測定デバイスによるBP測定を通じて取得される。
【0023】
好ましい実施形態では、第1の時間依存センサ信号は、ECG信号であり、且つ/又は第2の時間依存センサ信号は、光電容積脈波測定法PPG信号、特に接触型PPG信号又は遠隔で取得される(例えば、遠隔PPGで使用されるカメラで取得される)PPG信号である。対象者の心拍数に関係し、PAT及び/又はPTTの計算を可能にする他の信号を、追加で又は代替として使用することができる。例えば、PPG信号の代わりに、生体インピーダンス又はカフ信号が使用される。ECG及びPPG信号は、一般的に知られている信号であり、PAT及び/又はPTTを、ECG及びPPG信号から、本発明のデバイス及び方法でも同様に使用できる一般的に知られたやり方で、計算することができる。
【0024】
処理ユニットは、一実施形態では、回帰を使用して校正パラメータを計算するよう構成されることがさらに好ましい。校正パラメータは、例えば、ゼロのカフ圧での血圧サロゲートの関数である、血圧の関係の依存性の勾配として計算される。回帰により、カフが膨張していない(カフ圧がゼロの)ときの、BPサロゲートから血圧を推定する伝達関数として機能する、経壁血圧とBPサロゲートとのパラメータ化された関数関係が導出される。さらなる詳細は、例えば「Surrogate based continuous noninvasive blood pressure measurement」、Pielmus,A.G.、Muhlsteff,J.、Bresch,E.、Glos,M.、Jungen,C.、Mieke,S.、Zaunseder,S.、Biomedical Engineering/Biomedizinische Technik、66(3)、231~245頁、2021年で説明されている。
【0025】
処理ユニットは、またさらに、計算されたBPサロゲートと、対象者の身体部分に圧力が送達されないときに、対象者の身体の相異なる部位で測定される第1及び第2の時間依存センサ信号とを使用して、圧力送達システムによって対象者の身体部分に圧力が送達されないときのBPの値を判定するよう構成される。これにより、カフを膨張させることなく、対象者のBPの、他の邪魔にならない判定が可能となる。すなわち、カフの膨張により患者を悩ませたり傷つけたりすることなく、対象者のBPを連続的に監視することができる。
【0026】
特許請求の範囲に記載されたシステムは、例えば、デバイスから供給されるか又はシステムによって計算される制御信号に基づいて、圧力送達システムを制御するよう構成される、制御ユニットをさらに備える。制御ユニットは、デバイスの一部であるか、又は外部に存在するものである。
【0027】
本発明はまた、以下の実施形態のうちの1つ又は複数と組み合わせて使用される。
【0028】
処理ユニットは、一実施形態では、
- 部分的膨張で、対象者の収縮期BP未満のカフ圧まで圧力送達システムのカフを繰り返し膨張させるように、圧力送達システムを制御する制御信号を計算し、
- 第1の時間依存センサ信号の第1の特徴、及び第2の時間依存センサ信号の第2の特徴を使用して、カフの繰り返される部分的膨張中に測定される第1及び第2の時間依存センサ信号から脈拍に関係する値を計算し、脈拍に関係する値が、脈波到達時間PATの値、又は脈波伝搬時間PTTの値であり、
- BP測定値、並びにカフの繰り返される部分的膨張中に測定される第1及び第2の時間依存センサ信号から計算される脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対からBPサロゲートの校正パラメータを計算するよう構成され、対は、脈拍に関係する値と、対応する時間的に関係するカフ圧の値とを含む。
【0029】
本実施形態によれば、低いカフ圧レベルだけが校正に使用される、すなわちカフは、データ取得のために、部分的にしか膨張されない。そうした適切なカフ圧レベルで繰り返されるサンプリングは、BPレベルが安定し、校正プロセスを歪ませる変化がないように、十分に短い期間で実行可能である。さらに、膨張の傾斜の繰返し(傾斜間に一時停止があっても、ない場合でさえも)は、最大圧力が低いことによって可能となる。組織及び動脈が、高い加圧から回復するまで待つ必要はない(すなわち、ヒステリシス効果はない)。
【0030】
低いカフ圧レベル、特に拡張期圧を下回るカフ圧レベルは、患者、とりわけ覚醒している患者にとってあまり邪魔にならず、その結果、収縮期レベルを超えるまでの完全膨張の傾斜よりも、不快感及び皮膚へのストレスが少なくなる。別の利点は、NIBPデバイスの圧力送達システムに、余分な要件を課さないことである。
【0031】
校正に(すなわち、校正パラメータの計算に)使用されるBP測定値は、BP測定デバイスによるBP測定を通じて取得される。
【0032】
部分的膨張を繰り返す際に圧力送達システムを制御する方法には、様々な実施形態がある。実施形態はすべて、上記で言及した良くない動的充満効果をさらに回避しようとするため、校正の精度の向上に貢献し、これにより最終的には、校正されたBPサロゲートを使用することで、BP判定を改善する。
【0033】
処理ユニットは、一実施形態では、末梢BPが実質的に一定である、特に変動が10パーセント未満又は5パーセント未満である期間、圧力送達システムのカフを部分的膨張で膨張させるように圧力送達システムを制御するための制御信号を計算するよう構成される。他の適度な値も、同様に使用される。
【0034】
処理ユニットは、これにより、第1及び/又は第2の時間依存センサ信号に基づいて、特に第2の時間依存信号の振幅が、実質的に一定である、特に変動が、以前に取得した平均値に対して10パーセント未満若しくは5パーセント未満(又は事前に定められるか若しくはユーザが設定する、他の任意の適度な閾値)である期間を判定することによって、末梢BPが実質的に一定であるかどうかを判定するよう構成される。この以前に取得した平均値とは、第2の時間依存信号の以前の平均値を指す。
【0035】
処理ユニットは、別の実施形態によれば、部分的膨張で、対象者の拡張期BP、特に測定した対象者の最新の拡張期BPまで、対象者の平均BP、特に測定した対象者の最新の平均BPまで、又は設定された閾値BPまで、圧力送達システムのカフを膨張させるように圧力送達システムを制御するための制御信号を計算するよう構成される。これにより、特許請求の範囲に記載され、開示している解決策の、かなり単純だが効率的な実施態様が可能となる。
【0036】
処理ユニットは、圧力送達システムを制御して、圧力送達システムのカフを部分的膨張で、PATがPAT閾値、特にPATの絶対閾値、又はベースラインPATと比較されるPATの相対閾値を超えるカフ圧まで膨張させるための制御信号を計算するよう構成される。処理ユニットは、これにより、ある期間、具体的には10秒から5分の範囲の期間(他の適度な値も同様に可能である)にわたる、PAT測定値を平均化することにより、ベースラインPATを計算するよう構成される。相対変化、すなわちベースラインPATと比較したPATに関する適度な閾値は、例えば10から60ミリ秒の範囲内、例えば30ミリ秒である。
【0037】
処理ユニットは、別の実施形態では、圧力送達システムのカフを部分的膨張で、第2の時間依存信号の振幅が振幅閾値、特に絶対振幅閾値又は相対振幅閾値を超えるカフ圧まで膨張させるとうに圧力送達システムを制御するための制御信号を計算するよう構成される。かかる判定基準は、ユーザが容易に設定できるか、又は前もって定めることができる。相対変化に関する適度な閾値は、例えば5から20%の範囲内、例えば10%である。
【0038】
処理ユニットは、圧力送達システムのカフを部分的膨張で、所定の膨張速度、又は対象者の心拍数、対象者の拡張期BP、対象者の平均BP、及び対象者の収縮期BPのうちの1つ又は複数によって変わる膨張速度で膨張させるように圧力送達システムを制御するための制御信号を計算するよう構成される。
【0039】
処理ユニットは、実際の実施形態では、
- 部分的膨張の各繰り返しの後に圧力送達システムのカフを収縮させるように圧力送達システムを制御するための制御信号を計算し、
- i)各繰り返しに対して、それぞれの回帰を使用して、それぞれの繰返しで得られた脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対から、1つ又は複数の校正パラメータを計算し、2回以上の繰返しで計算されたそれぞれの校正パラメータを平均化して、BPサロゲートによる使用のための1つ又は複数の平均校正パラメータを得るか、又は
- ii)単一の回帰で、2回以上の繰返しで得られた、脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対から、1つ又は複数の校正パラメータを計算する
よう構成される。
【0040】
選択肢i)とii)との両方が、開示されているデバイス及び方法の状況及び用途に応じて、精度の向上につながる。加えられるカフ圧が、カフ下で経壁圧の変化を引き起こすことに留意されたい。
【0041】
処理ユニットは、別の実施形態では、BPサロゲートを使用して、対象者のBPを監視する際の使用のための時間依存のBP参照測定値を得るために、1回又は複数回の部分的膨張の繰返しの前及び/又は後に、対象者の収縮期BPを超える完全膨張で圧力送達システムのカフを膨張させるように圧力送達システムを制御するための制御信号を計算するよう構成される。最後に測定したBP値は、とりわけ、校正パラメータの計算に使用される。
【0042】
処理ユニットはさらに、回帰誤差と回帰誤差閾値との比較に基づいて、部分的膨張の繰返しを行う回数を制御するよう構成される。処理ユニットはさらに、固定又は可変スケジュールに従って、或いは1つ又は複数の校正パラメータが、最後の計算で、大幅に変更された場合、特に10パーセントを超えて(又は15若しくは20パーセントを超えて)変更された場合に、完全膨張を実行するかどうか、またいつ実行するかを制御するよう構成される。したがって、追加の測定時間/労力と校正の精度向上との間で、トレードオフが行われる。
【0043】
処理ユニットは、またさらに、計算されたBPサロゲートと、対象者の身体部分に圧力が送達されないときの、対象者の身体の様々な部位で測定される第1及び第2の時間依存センサ信号との使用により、圧力送達システムによる対象者の身体部分に圧力が送達されないときのBPの値を判定するよう構成される。これにより、カフを膨張させることなく、対象者のBPの、他の邪魔にならない判定が可能となる。すなわち、カフの膨張により患者を悩ませたり傷つけたりすることなく、対象者のBPを連続的に監視することができる。
【0044】
好ましい実施形態では、第1の時間依存センサ信号は、ECG信号であり、且つ/又は第2の時間依存センサ信号は、光電容積脈波測定法(photoplethysmography)PPG信号、特に接触型PPG信号又は遠隔PPG信号である。対象者の心拍数に関係し、PAT及び/又はPTTの計算を可能にする他の信号を、追加で又は代替として使用することができる。ECG及びPPG信号は、一般的に知られている信号であり、PAT及び/又はPTTを、ECG及びPPG信号から、開示しているデバイス及び方法でも同様に使用できる一般的に知られたやり方で、計算することができる。
【0045】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、これ以降に説明する実施形態から明らかになり、また実施形態を参照しながら明確化される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の全体的な概念の、一実施形態の概略図である。
図2】PATが示されている、ECG信号及びPPG信号の図である。
図3】線形モデルの場合の、ロバスト回帰対非ロバスト回帰を示す図である。
図4】カフが膨張する間に引き起こされる、PATの増加の一例の図である。
図5】校正の全体的な概念を示す図である。
図6】カフに対して末梢で取得される、侵襲的に測定されるBP信号を取得するための、一般的な概念で使用される装備の概略図である。
図7図5に示した装備を使って測定した信号の図である。
図8】カフの後方の末梢で測定される血圧に影響を与える、膨張プロセスの分析を示す図である。
図9】経壁血圧対測定されたPATの図である。
図10】本発明によるシステムの一実施形態の図である。
図11】本発明によるデバイスの一実施形態の図である。
図12】本発明による方法の一実施形態の図である。
図13】カフの全膨張プロセスの間の、PAT値対Pcuffの値の図である。
図14】本発明を使用する方法の、別の実施形態を示す図である。
図15】PPG信号の特徴が、末梢腕の血圧の脈圧変化を示していないかぎりPcuff/PAT値の対だけが使用されることを示す図である。
図16】本発明を使用する方法の、別の実施形態を示す図である。
図17】完全膨張プロセス中及び部分的膨張中に得られた測定データ対に、パラメータ化されたモデルを当てはめる一例を示す図である。
図18】本発明による方法の、別の実施形態の図である。
図19】2回の部分的膨張、及びそれに続く完全膨張を含む、カフ圧プロファイルの一実施形態を示す図である。
図20】完全膨張、及びそれに続く2回の部分的膨張を含む、カフ圧プロファイルの一実施形態を示す図である。
図21】部分的膨張の繰返しを通じて、再校正の必要性の連続した追跡を行う、カフ圧プロファイルの一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、正確で連続した血圧監視を可能にする、ABP測定技術の開発に関する。標準的なカフベースの、非侵襲的で断続的な血圧測定のインタバル間のBP追跡は、再校正/初期化された血圧サロゲートに基づく。校正は、NIBP測定自体(収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、及び平均血圧(MBP))、並びにNIBP測定の膨張/収縮プロセスを使用して行われ、これは、サロゲート信号の制御されたBPに関係する外乱を引き起こす。サロゲートは、心電図(ECG)又は光電容積脈波(PPG)など、対象者の心拍に関係する信号の特徴から、又は特徴の組合せを使って取得される。これらの信号は、そうした現場で日常的に取得される。
【0048】
センサの実施形態は、小型且つ軽量であり、快適なほぼ連続する非侵襲的なABP測定を提供するので、本発明は、脈波速度の、他の邪魔にならないABP測定の一助となる方法に焦点を当てる。この概念の実施形態を、図1に概略的に示している。この実施形態では、ECG信号及びPPG信号が得られ(ブロック100)、例えば、(これらの信号を取得する)それぞれのセンサ又は(これらの信号がバッファリング若しくは記憶された)バッファ若しくはメモリから受信又は取り出され、連続的にBPサロゲートを判定するために使用される(ブロック101)。このBPサロゲートを、次いで、BPの変化の指標(ブロック102)として使用することができる。随時、又は(トリガとして使用される)大幅なBPの変化が示されると、NIBPカフを作動させ(ブロック103)、BPサロゲートの再校正を実行し、オシロメトリ手法、例えば、認められた標準オシロメトリ手法によってBP読取り値を得る。カフ膨張の使用によって、またBPサロゲートの使用によって得られたBPの判定が、報告される(ブロック104)。
【0049】
この概念は、追加のセンサを必要としないが、入手可能なセンサを使用でき、ソフトウェアだけで実施でき、臨床的に受け入れられるための障壁は低い。利点としては、BPの変化の早期検出による早期介入、Aラインの使用を減らすことによる合併症の低減、及びより適切なBP反応の追跡による、薬物用量設定の改善がある。
【0050】
本手法の実施形態は、BPサロゲートであるPATの使用に言及している。PATは、ECGのR波のピークと末梢脈波検査の脈拍の立上りとの間の時間間隔として定義される。PATは、血圧及び血管の硬さの代用測定値として、集中的に研究されてきた。PATは、前駆出時間(PEP)とPTTとの和である。PEPは、大動脈弁開口(AVO)までの等容性心室収縮に必要な時間を指し、一方PTTは、動脈壁に沿った、長い不均一な血管経路にわたる圧脈拍の本来の通過時間である。PTTだけが、メーンズコルテベークの式によってモデル化された、圧力によって変わる動脈波の伝播に関係する。PEPは、ストレス、感情、及び身体努力の影響を受けやすい、様々な付加的な遅延である。PAT対PTTの主な利点は、場所の影響を受けやすい1個のトランスデューサ(例えばPPGセンサ)だけが正確に配置される必要があるということである。
【0051】
図2は、ECG信号110及びPPG信号111の図(「An Optimization Study of Estimating Blood Pressure Models Based on Pulse Arrival Time for Continuous Monitoring」、Shao,J.等から引用)を示しており、PATは、ECG信号のRピークと末梢のPPG信号の特徴点との間の時間遅延として示されている。この例では、最大微分係数(Dmax)が特徴点として選択されている。
【0052】
PATを使用してNIBP測定間のBPを連続的に推定するシステムは、時間同期されたPPG及びECGセンサ(及び/又は対応する信号)が利用可能であると仮定すると、追加のデバイス(ハードウェア)は不要である。このシステムはしたがって、臨床現場での連続的なBP推定に対する、ソフトウェアだけの手法を代表するものである。
【0053】
PATの変化は、BPの変化と反比例する。BPが高まると、動脈の経壁圧が増加し、動脈壁の伸展性の低下をもたらし、その結果、血液脈波の伝播時間がより速くなり、したがって、脈波が末梢に到達するまでの時間が短くなる。逆に、BPが低下すると、PATが長くなる。BPからPATへの正確な伝達関数は、患者個人の動脈の特性及び幾何形状、心臓の前駆出期間(PEP)など、多くの要因に依存する。さらに、伝達関数は静的ではなく、患者の血行力学的状態、すなわち動脈の特性(例えば、動脈平滑筋又はPEP)が変化するとき、時間と共に変わる。
【0054】
しかし、BP及びPATの伝達関数は、例えば2つ又は3つのパラメータを有するかなり単純なモデル(例えば、比例線形、対数、逆数、逆2乗など)によってモデル化することができる。例えば、単純な線形モデル(BP=m・PAT+m)を考えてみると、2つの患者固有のパラメータは、オフセットパラメータm及び感度パラメータ(勾配)mである。伝達関数を実際に適用して、連続的なPAT値から連続的に血圧を推定するためには、患者固有のパラメータを「学習」する必要がある。これは、校正と呼ばれる。さらに、これらのパラメータの変化は、追跡されることが好ましい。すなわち、校正は、モデルパラメータ(すなわち、校正パラメータ)が変化しているときに、繰り返されることが好ましい。これは、再校正と呼ばれる。
【0055】
モデルの校正は、典型的には、パラメータ回帰によって行われる。すなわち、複数の(BP、PAT)データ対が利用可能な場合、何らかの最適性基準(最小2乗など)を適用することにより、モデル曲線をデータ点に当てはめることができ、与えられたデータに基づいて、モデルパラメータの最適値が得られる。BP及びPATの値の範囲がより大きいほど、判定されるパラメータは、一層適切に(一層正確に)なる。
【0056】
図3は、線形モデルの場合のロバスト回帰対非ロバスト回帰の説明図、具体的には、血圧とサロゲートとのデータ対に当てはめられた、サロゲートの線形モデルの図を示している。2つのパラメータであるオフセット及び勾配(又は感度パラメータ)は、回帰によって判定される。回帰は、図3Aに示している図では、データ対の値(xで示している)が類似し過ぎているので、ロバストではない。図3Bの図に示している回帰は、対照的に、利用可能なデータ対の値がより広い範囲にわたり広がっているので、非常にロバストである。
【0057】
実際には、モデルのロバストな校正を実現させることは、対象者のBPの、他の邪魔にならない判定及び監視に向けて、BPサロゲートを確実に使用できるようにするための、重要な課題である。短期間に得られた複数のNIBP及びPATの測定値を使った回帰を行うことには、測定したNIBP及びPATの値が類似し過ぎるので、結果として得られた曲線の適合度が低くなるという問題がある。曲線の適合度を高めるためには、患者の血圧レベルが変更される必要があるが、通常、動脈壁の硬さを変えずにこれを行うことは不可能であり、患者に害を及ぼし、現実的ではない。
【0058】
さらに、カフ下の動脈部分の経壁圧が低下するので、加えられるカフ圧との関係で、PATの増加が測定され得る。これは、カフ膨張121中に引き起こされる、PATの増加120の一例の図を示す図4に例示されている。カフ圧が、動脈経壁圧を変化させる。PATの値は、カフ圧と同期して拍動ごとに取得される。このシーケンスは、より正確には、カフが上にある動脈部分に加えられる。BPを推定するには、遠位脈拍センサが位置する動脈部分全体をスケーリングするためのスケーリング係数が取り入れられる必要がある。
【0059】
取得したPATの対である、同期して取得されたカフ圧及びBP値を使用して、PAT/BP感度パラメータSを導出することができ、これにより、BPを追跡することが可能となる。これは、校正の全体的な概念を例示する概略図を示す図5に例示されている。カフ膨張中に、PATの増加が生じ、これから、(オシロメトリを使って)同期して取得されたカフ圧及び導出されたBPと共に、BPを追跡するための感度パラメータSが導出される。対象者固有のスケーリング係数は、式では、kとして表される。BPを追跡するために推定された感度パラメータSを使用する数学的モデルの2つの例が示され、これらは、本開示の実施形態に従って使用される。
【0060】
図6は、カフに対して末梢で取得される、侵襲的に測定されるBP信号を取得するための一般的な概念で使用される例示的な装備の概略図を示している。これにより、カフの遠位におけるBPの変化を明確にするために、ここでは主に、侵襲的BP測定が示されていることに留意されたい。感度パラメータSのロバスト且つ正確な回帰のための、校正プロセス及び基礎となる仮定に影響を与える生理学的プロセスにおける新たな洞察及び理解が判明した。とりわけ、カフ加圧の間のPATの変化は、(動脈の血圧に影響を及ぼし、悪影響の原因となる)静脈閉塞、及び腕部分に血液を蓄える静脈の容量に起因する、下腕の動的充満効果によって歪むことが判明している。この調査結果は、パラメータ回帰に影響を与え、感度パラメータSを確実に推論するために、対処する必要がある。
【0061】
図7は、図6に示した装備を使って測定した信号の図を示している。図7Aは、ECG信号を示している。図7Bは、カフ信号を示している。図7Cは、橈側BP/Aライン(radial BP/A-line)(侵襲性BP信号を表す)を示している。図7Dは、PPG信号を示している。
【0062】
現在の校正手法(カフ圧を加えて、カフ下でPATを変化させる)は、腕の末梢動脈樹で、非線形の動的充満効果の影響を受ける。観察されたプロセスは、数学的モデリング機能への影響、及びデータ対の含まれる/除外される結果に応じて、様々な段階に細分化することができる。図8は、カフの後方の末梢で測定された血圧に関する、膨張プロセスの分析を示している。PATに影響を与える、様々なプロセスを特定することができる。複雑なモデルの仮定に依存しない成功した校正のための基本的な仮定は、末梢腕の末梢血圧が一定であることであり、これは、カフ圧がより低い場合にのみ存在すると考えられる。
【0063】
これらの調査結果は、図9に示される経壁血圧(SBP-Pcuff、y軸上)対測定したPAT(x軸上)の図における様々な領域を判定する。カフ膨張中の典型的なPATの増加が観察され、少なくとも3つのゾーンA、B、及びCが区別できる。ゾーンAでは、より低いカフ圧で腕が圧迫され、腕のボリュームが大きく変化する。末梢BPは、この段階では、カフの膨張による変化はない。ゾーンBでは、動脈末梢血圧は、依然としてカフの膨張による影響を受けない。ゾーンCでは、末梢血圧信号に非線形の動的プロセスが観察される。ゾーンCは、カフ圧領域に関連し、末梢腕の血圧が変化するので、校正手順に含めるべきではない。
【0064】
しかし、回帰モデルは、脈拍の段階(例えば、収縮期、平均、拡張期)での特定の瞬間に対して、膨張中の所定の経壁圧を持つための一定のBPを仮定する。
【0065】
経壁圧は、Ptrans(t)=Parterial(t)-Pcuff(t)と定義される。カフ膨張/収縮中の信頼性の高い回帰のための重要な条件は、時間依存性のPtrans(t)が、Pcuff(t)の時間依存性に依存しなければならないことであり、(脈拍の特定の瞬間に対して)Parterial=一定であることだけを必要とする。これは、信頼性の高い回帰のためには、内部の動脈圧が、カフの膨張による影響を受けてはいけないことを示唆している(図9で詳しく説明している)。
【0066】
米国特許出願公開第2010/160798A1号で説明されている1つの例示的な回帰手法では、カフ圧がDBPより高い場合にだけ、PATの値が含まれる。しかし、図9に示され、ゾーンCとして示されているように、こうしたカフ圧では、末梢腕の血圧は、カフ圧ゼロのときのBPに対して変化し、またカフの膨張に応じて変化する。米国特許出願公開第2010/160798A1号で開示された校正の概念は、したがって、本開示の範疇では、仮に適用可能であるとしても、改善されるべきである。本発明の調査結果を考慮すると、拡張期血圧より高いカフ圧で、血管抵抗性、動脈閉鎖の影響、静脈閉塞、及び脈拍の歪みの影響に依存する複雑な非線形回帰モデルが適用される。通常、かかるパラメータは利用できない。こうした課題に対処するためには、校正方法に別の戦略が必要である。
【0067】
血圧監視への影響として、不正確な血圧校正は、関連する患者の転帰に影響する、誤った警報又は遅い介入及び介入の遅延につながる信頼性の低いBP推定をもたらす。本発明は、現況技術とは対照的に、PATを、適切に定義された判定基準が有効なときにだけ校正データとして含む、解決策を扱う。
【0068】
図10は、本発明による、対象者の血圧を監視する際に使用するBPサロゲートを校正するシステム1の一実施形態の図を示している。
【0069】
システム1は、対象者の身体部分に取り付けられ、カフを膨張させることによって対象者の身体部分に圧力を送達するよう構成される、カフ11を備える圧力送達システム10を具備する。対象者の四肢、具体的には上腕、上脚、又は手首に取り付けることができるカフ11を備え、かかる圧力送達システム10は、NIBP測定の技術分野で一般に知られている。圧力送達システムは、一般に、カフ11を膨張させるよう構成される圧力生成ユニット、例えばポンプ又は蓄圧器、カフ11を収縮させるよう構成される弁、並びに圧力生成ユニット及び弁を制御し、測定したカフ圧に基づいて対象者の血圧を判定するよう構成される、プロセッサを備える。測定したBPの値を、例えば可視及び/又は可聴形態で発するために、例えばディスプレイ、キーパッド、スピーカ、及びタッチパッドのうちの1つ又は複数を含む、ユーザインタフェースが設けられる。
【0070】
システム1は、対象者の身体部分に取り付けられた圧力送達システムのカフ膨張中の時間依存のカフ圧の値を取得し、BP測定値を取得するよう構成される圧力センサ20をさらに備える。圧力センサ20は、典型的には、対象者の身体部分に直接取り付けられるのではなく、カフ11が身体部分に取り付けられ、圧力センサ20は、カフ11からの空気管に(圧力送出システムにおいて)取り付けられる。したがって、例えば圧力変換器の形態の圧力センサ20は、カフ内に組み込まれ、従来のBPセンサで実現される。シェルカフ設計など、外部圧力を加えてカフ圧を検出する他の手段も、同様に可能である。
【0071】
システム1は、対象者の身体の第1の部位に取り付けられる第1のセンサ30であって、カフの膨張中の対象者の心拍に関係する第1の時間依存センサ信号を取得するよう構成される第1のセンサ30をさらに備える。第1のセンサ30は、ECG信号を取得するECGセンサである。第1の部位は、例えば、ECG測定のためにECG電極が取り付けられることが好ましい、対象者の胸部又は胴体である。
【0072】
システム1は、対象者の身体の第2の部位に取り付けられる第2のセンサ40であって、カフの膨張により変化した信号を取得する、対象者の心拍に関係する、第2の時間依存センサ信号を取得するよう構成される、第2のセンサ40をさらに備える。第2のセンサ40は、PPGセンサ、例えば、接触型PPGセンサ(可視範囲及び/若しくは赤外範囲の光、例えば赤色光及び赤外光を発する、1つ若しくは複数のLEDを備えるパルスオキシメトリセンサなど)、又は遠隔PPGセンサ(例えば、「Remote plethysmographic imaging using ambient light」、Verkruysse等、Optics Express、16(26)、21434~21445頁、2008年12月22日)で知られる、カメラ若しくは光検出器などである。PPGは一般に、器官又は身体部分のボリューム変化の光学測定を、具体的には、心拍ごとに対象者の身体を伝わる心血管の脈波によるボリューム変化の検出を指す。対象者の皮膚領域で反射した、又は皮膚領域を透過した放射線を、検出することができる。第2の部位は、例えば、接触型PPGセンサが取り付けられる、又は遠隔PPGセンサによって監視される、対象者の手又は指である。第2の部位は、概ね、第1の部位に対する末梢の部位である。例えば、カフが左上腕に取り付けられている場合、第2の部位は、第2のセンサが取り付けられる、又は第2のセンサによって監視される、左手又は左手の指である。
【0073】
第1及び第2の信号は、概ね、同期して取得及びサンプリングされる。心音を検出するセンサ、胸部振動を検出するセンサなど、対象者の心拍数に関係し、PAT及び/又はPTTの計算を可能にするECG及びPPG信号以外の信号が、追加で又は代替として使用されてもよい。
【0074】
システム1は、BP測定値、時間依存のカフ圧の値、並びに第1及び第2の時間依存センサ信号から、BPサロゲートを校正するための校正パラメータを計算するための本明細書で開示され以下で説明されるデバイス50をさらに備える。デバイス50は、さらに任意選択で、BPサロゲートを使用して対象者のBPを判定及び監視するよう構成される。
【0075】
システム1は、任意選択で、BPサロゲートの使用によって判定及び監視される対象者のBP値などの、任意の判定した情報を発するよう構成される、出力インタフェース60をさらに備える。出力インタフェース60は、概して、情報を視覚的又は可聴的な形態、例えばテキストの形態、画像又は図、音声又は話し言葉などで出力する、任意の手段である。出力インタフェース60は、例えば、ディスプレイ、スピーカ、タッチスクリーン、コンピュータモニタ、スマートフォン又はタブレットの画面などである。
【0076】
システム1は、任意選択で、例えば、デバイス50から供給されるか又はシステム1で計算される制御信号に基づいて、圧力送達システム10を制御するよう構成される、制御ユニット70をさらに備える。制御ユニット70は、デバイス50の一部であるか、又は外部に存在するものである。
【0077】
図11は、本発明による、対象者の血圧を監視する際に使用する、BPサロゲートを校正するデバイス50の一実施形態の図を示している。
【0078】
デバイス50は、対象者の身体部分に取り付けられた圧力送達システムのカフ11の膨張中に、時間依存のカフ圧の値を取得し、BP測定値を取得するよう構成されるBP入力部51を備える。デバイス50は、対象者の心拍に関係し、カフの膨張中に対象者の身体の相異なる部位で測定される第1の時間依存センサ信号及び第2の時間依存センサ信号を取得するよう構成されるセンサ入力部52をさらに備える。BP入力部51及びセンサ入力部52は、カフ11並びに第1及び第2のセンサ30、40に直接結合若しくは接続されるか、又は記憶装置、バッファ、ネットワーク、若しくはバスなどから、これらの信号を取得する(すなわち、取り出すか若しくは受信する)。入力部51及び52は、したがって、例えば、ブルートゥース(登録商標)インタフェース、WiFiインタフェース、LANインタフェース、HDMI(登録商標)インタフェース、直接ケーブル接続、又はデバイス50への信号伝送を可能にする他の任意の好適なインタフェースなどの、(有線又は無線の)通信インタフェース又はデータインタフェースである。
【0079】
デバイス50は、処理ユニット53をさらに備える。処理ユニット53は、信号を処理し、BPサロゲートを校正するための校正パラメータを判定するよう構成される、任意の種類の手段である。処理ユニットはさらに、BPサロゲートを使用して対象者のBPを判定及び監視するよう構成される。処理ユニットは、例えば、スマートフォン、スマートウォッチ、タブレット、ラップトップ、PC、ワークステーションなどの、ユーザデバイス上のプログラムされたプロセッサ、コンピュータ、又はアプリである、ソフトウェア及び/又はハードウェアで実現される。
【0080】
デバイス50は、任意の判定された情報を出力するよう構成される、出力部54をさらに備える。出力部54は、概して、判定された情報を供給する、例えば、判定された情報を、別のデバイスに送信するか、又は別のデバイス(例えば、スマートフォン、コンピュータ、タブレットなど)が取り出せるように提供する、任意のインタフェースである。出力部は、したがって、概して、任意の(有線又は無線の)通信又はデータインタフェースである。
【0081】
図12は、本発明による方法200の一実施形態の図を示している。方法200のステップは、デバイス50によって実行され、方法の主なステップは、処理ユニット53によって実行される。この方法は、コンピュータ又はプロセッサ上で実行される、コンピュータプログラムとして実施される。
【0082】
第1のステップ201では、対象者の身体部分に取り付けられた圧力送達システムのカフの膨張中に、時間依存のカフ圧の値が取得される。第2のステップ202では、BP測定値が取得される。第3のステップ203では、対象者の心拍に関係し、カフの膨張中に対象者の身体の相異なる部位で測定される第1の時間依存センサ信号及び第2の時間依存センサ信号が取得される。ステップ201から203の順序は、時系列的な順序を示すものではなく、これらのステップは、どのような時系列的な順序で実行されてもよいことに留意されたい。ステップ201及び203は、同時に実行され、ステップ202は、ステップ201及び203の前に又は後に実行されることが好ましい。
【0083】
第4のステップ204では、カフが膨張中に、脈拍に関係する値が、第1及び第2の時間依存センサ信号から、第1の時間依存センサ信号の第1の特徴、及び第2の時間依存センサ信号の第2の特徴を使用して計算され、脈拍に関係する値は、PATの値又はPTTの値である。PAT又はPTTの値は、第1及び第2の信号(例えば、ECG及びPPG信号)から、適切な特徴抽出技法を使って抽出される。心拍数、PPGの形態学的特徴などの他の特徴も、単一の信号から導出され得る。
【0084】
第5のステップ205では、BPサロゲートの校正パラメータが、BP測定値、並びに脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対から計算され、対には、脈拍に関係する値と、対応する時間的に関係するカフ圧の値(具体的には、同時刻の値)とが含まれる。BP及び/又はカフ圧に関する1つ又は複数の所定の条件が満たされる脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対だけが、BPサロゲートの計算に使用される。こうした条件(又は判定基準)について、下記で説明する様々な選択肢が存在する。
【0085】
このように、本発明の第1の主な態様によれば、BPサロゲートを校正でき、その後、BPを連続的に追跡することができる。判定基準が、カフ圧/BPサロゲートデータの対からBPサロゲートを確実に校正するために膨張中のカフ圧の範囲を含む実施形態において使用され、ここで、経壁圧は、Pcuff>0でのParterialが、Pcuff=0でのParterialと比較して変わらない加えられるカフ圧の関数として適切に定義されている。校正は、従来、カフの全膨張を必要とした。実施形態で使用されるように、連続的な膨張ベースのNIBP測定からのPATベースのサロゲートを校正する場合、生理学的制約を満たす適切に定義された判定基準によって与えられる、カフ圧レベルにより生じるPAT値だけが利用される。したがって、一実施形態によれば、特定のデータ(図9のゾーンCのデータ)は捨てられる。PPG信号の特徴は、適用される回帰モデルの基礎となる仮定、例えば末梢動脈部分の脈圧の変化の、違反を示すものとして使用される。振動の包絡線の特徴は、適用される回帰モデルの基礎となる仮定、例えば血圧範囲の、違反を示すものとして使用される。したがって、専用の手順及び方法を使用するカフ膨張プロセスを特徴づける、患者のBP圧力サロゲートであるPATの、信頼性の高い校正が可能である。
【0086】
BPサロゲート/カフ圧の対の回帰によるBP校正方法の以下の説明では、PATを、BPサロゲートとして使用することにする。一実施形態は、末梢血圧(すなわち、カフが上腕に配置されている場合、腕のカフの後方におけるカフ圧)が一定である、例えば変動が5又は10%未満であると仮定できる期間のカフ圧だけについて、カフ圧力値に対するPATデータに関する、データを含めることに基づく。
【0087】
BP推定を伴う完全なカフ膨張では、SBP、DBP、及びMBPのBP推定のために、オシロメトリを使用し、典型的には、収縮期のBPを超えるカフ膨張を必要とする。様々な判定基準を使用して、校正パラメータの判定に使用するための、PAT値とカフ圧の値との対を選択することができる。例えば、以下の判定基準の一方又は両方が使用される。
- 判定基準1:Pcuff<DBP又はMBPの場合だけの、PAT/Pcuffの値
- 判定基準2:pmin<Pcuff<DBP、例えばpmin=20mmHgの場合の、PAT/Pcuffの値
minは、観察された組織圧迫の影響に対して、定義することができる(図7)。組織のボリュームが大幅に変化するカフ圧では、動脈を横切る経壁圧を確実に定義することが、より困難になる可能性がある。
【0088】
図13に示される図において、カフの完全な膨張プロセス中に取得されるデータが、PAT対Pcuffのグラフにおける点として示されている。垂直の線DBPによって、PAT値(すなわち脈拍に関係する値)とカフ圧の値との、Pcuff値の対のどこまでを、校正パラメータを判定するのに使用されるかが示されている。
【0089】
図14は、本発明のこの態様を使用する方法300の、一実施形態の流れ図を示している。第1のステップ301では、BP測定が開始される。第2のステップ302では、カフの完全膨張プロセス中のPAT/Pcuffデータ対の完全なセットが取得される。第3のステップ303では、収縮期血圧、拡張期血圧、及び平均血圧などのBP値が、標準的な方法で判定される。第4のステップ304では、PAT/Pcuffデータ対のデータ範囲が、所定の判定基準に従って、例えば判定基準1又は判定基準2に従って制限される。第5のステップ305では、取得された(且つ限定された)データ対に対して回帰が実行される。最後に、第6のステップ306では、BPが、校正されたPATデータから推定される。
【0090】
別の実施形態では、例えば末梢腕のSBP(カフが上腕に取り付けられている場合)が一定に保たれている期間の、カフ圧が使用される。図15は、PPG信号の特徴が、末梢腕の血圧における脈圧の変化を示していない期間の、Pcuff/PAT値の対だけが使用されることを例示する図を示している。図15Aは、カフの膨張中のPPG信号の挙動を示している。図15Bは、膨張中のPATの増加を示している。図15Cは、膨張中のカフ圧を示している。PPGの振幅の変化は、末梢動脈部分の脈圧PPの変化を示し、回帰/校正に含まれるべき、最大のPAT/Pcuff対を定義するための判定基準として使用される。PPGの振幅は一例であり、PPGの振幅減少の始まりは、最大圧力回帰データを使用すべきであることを示している。
【0091】
図16は、本発明のこの態様を使用する方法400、具体的には、判定基準であるPPGの振幅変化の使用法の、一実施形態の流れ図を示している。第1のステップ401では、BP測定が開始される。第2のステップ402では、カフ膨張プロセス中に、PPGの振幅が一定(又は変化が、所定の割合、例えば5又は10%未満)である期間の、PAT/Pcuffデータ対のセットが取得される。第3のステップ403では、取得されたデータに対して回帰が実行される。これにより、例えば以前の完全膨張によるBPが、この回帰で使用される。最後に、第4のステップ404では、BPが、校正されたPATデータから推定される。
【0092】
上記で言及した判定基準の代替として、又はそれに加えて、他の判定基準が使用される。例示的な判定基準は、i)膨張中の、例えば、PAT-PATref<最大である場合のPAT/Pcuff値を含む、PATの最大変化の定義、及びii)PATの変化の挙動、例えばPATの勾配の観察値である。
【0093】
モデルパラメータの回帰は、概して、複数のデータ対、すなわち測定されたPAT値及び対応するカフ圧の値に基づく。これは、カフの膨張中に得られる測定されたデータ対(カフ圧力、PAT)に、パラメータ化されたモデルを当てはめる一例を示す、図17に示される図に例示されている。図17Aは、完全膨張の図を示し、一方図17Bは、よりロバスト性の低い回帰をもたらす、低いカフ圧レベルしか回帰に使用されない図を示している。PAT値は、上記で説明したように、拍動ごとに測定することができる。新しい脈拍が末梢のセンサで検出されるたびに、対応するPATを計算でき、また対応するカフ圧が測定される。言い換えると、パラメータ回帰に使用できるデータ対の数は、カフが膨張する間に検出された脈拍の数に等しい。
【0094】
しかし、測定されたPATの値は、測定誤差を伴う。したがって、実際の回帰を行うために使用できるデータ対がより多いほど、パラメータ回帰の質(すなわち精度)が向上する。したがって、上記の一実施形態で説明したように、パラメータ回帰に曲線の下側部分、すなわち特定のカフ圧レベルまでのPATとカフ圧データとの対だけを使用すると、パラメータ回帰の質に関して、さらに改善される。例えば、曲線の下側部分だけが使用される場合、パラメータ回帰に使用できるデータ対の全体的な数は減少する。さらに、回帰曲線の信号対雑音比が低下する。PATの測定における絶対誤差は、加えられるカフ圧とは無関係である。しかし、パラメータ回帰に望まれる信号成分は、PATの絶対値ではなく、カフ膨張中のベースラインPATからの、PATの変化である。ベースラインPATは、カフ圧が加えられていないPATである。これを考慮すると、低いカフ圧レベルだけが検討される場合、低いカフ圧レベルではPATの変化が小さいので、相対的なPATの測定誤差が増加する。
【0095】
したがって、本発明の第2の主な態様によれば、図10及び図11に示されたシステム及びデバイスに関して、概ね上記で説明したものと同じユニットを備えるシステム及びデバイスが使用される。しかし、処理ユニット53及び処理ユニット53によって実行される方法は、別様に構成される。図18は、本発明による方法500の一実施形態の図を示している。方法500のステップは、デバイス50によって実行され、方法の主なステップは、処理ユニット53によって実行される。この方法は、コンピュータ又はプロセッサ上で実行される、コンピュータプログラムとして実施される。
【0096】
第1のステップ501では、対象者の身体部分に取り付けられた圧力送達システムのカフの膨張中に、時間依存のカフ圧の値が取得される。第2のステップ502では、BP測定値が取得される。第3のステップ503では、対象者の心拍に関係し、カフの膨張中に対象者の身体の相異なる部位で測定される、第1の時間依存センサ信号及び第2の時間依存センサ信号が取得される。
【0097】
第4のステップ504では、圧力送達システムを制御するための制御信号が、対象者の収縮BPより下のカフ圧まで部分的膨張で、圧力送達システムのカフを繰り返し膨張させるために計算される。
【0098】
第5のステップ505では、第1の時間依存センサ信号の第1の特徴、及び第2の時間依存センサ信号の第2の特徴を使用して、カフの繰り返される部分的膨張中に測定される第1及び第2の時間依存センサ信号から、脈拍に関係する値が計算され、脈拍に関係する値は、PATの値又はPTTの値である。
【0099】
第6のステップ506では、BPサロゲートの校正パラメータが、BP測定値、並びにカフの繰り返される部分的膨張中に測定される第1及び第2の時間依存センサ信号から計算される脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対から計算され、対は、脈拍に関係する値と、対応する同時刻のカフ圧の値(又は少なくとも時間的に関係する値)とを含む。
【0100】
このように、例示的な一実施形態では、ポンプ制御は、カフ圧0mmHgから、ほぼ拡張期圧レベルまで、又はPPG信号の脈拍振幅の変化が検出されるまでの範囲にわたる短い増加圧プロファイル(圧力の傾斜)を繰り返し加えるよう構成され、この結果、カフ圧及びPATを記録する。この処理では、加えられる圧力の傾斜ごとにパラメータ回帰を行い、得られた回帰パラメータを平均化して、全体的な校正精度を高める。
【0101】
図18を参照しながら説明した実施形態は、低いカフ圧レベルだけが校正に使用されるべきであるという考えに基づいている。そうした適切なカフ圧レベルで繰り返されるサンプリングは、BPレベルが安定し、校正プロセスを歪ませる変化がないように、十分に短い期間で実行可能である。さらに、膨張の傾斜は、最大圧力が低いため、傾斜間に一時停止がない場合でさえも繰り返すことができる。組織及び動脈が、高い加圧から回復するまで待つ必要はない(すなわち、ヒステリシス効果はない)。
【0102】
別の利点は、拡張期圧を下回るカフ圧レベルが、患者、とりわけ覚醒している患者にとってあまり邪魔にならず、その結果、収縮期レベルを超えるまでの完全膨張の傾斜よりも、不快感及び皮膚へのストレスが少なくなることである。
【0103】
かかる一実施形態のさらに別の利点は、NIBPデバイスに統合される圧力ポンプに、余分な要件を課さないことである。0mmHgから拡張期血圧レベルまでの単一の緩やかな圧力の傾斜を用いて、同じ効果を達成する代替の提案では、低圧レベルで非常に少ない空気流量を実現可能なポンプが必要となり、これはポンプの設計にとってかなりの課題であり、現在、NIBPデバイスで使用されている標準ポンプではサポートされない。
【0104】
この考えは、ECG及びPPGセンサで測定されるPATを使用するシステムだけに当てはまるものではなく、より一般的には、(例えば、微分脈波伝播時間に基づく)脈拍伝播遅延を測定する代替方法を用いるシステム、及び検討される脈波の伝播経路内に加えられている、加圧可能なカフを備えるシステムに当てはまる。
【0105】
以下では、部分的膨張を繰り返すことによって改善される、BPサロゲートの校正を実現させるための、第2の態様の実施形態について説明する。PAT値は、この実施形態では、PPGセンサ及びECGセンサを使用して拍動ごとに推定される。
【0106】
PATのベースラインの値PATbaseは、一実施形態では、特定の期間にわたるPATの測定値を平均化することによって得られる。PAT測定期間は、例えば20秒、15秒、又は例えば、呼吸(典型的な周波数は、0.1~0.5Hz)、メイヤー波(典型的な周波数は、0.1~0.5Hz)、若しくは他の測定ノイズによって引き起こされる、望ましからざる変動を十分に抑制する他の十分に長い期間に、事前に定めて固定するか又はユーザが設定することができる。
【0107】
NIBPデバイスのポンプを作動させることによって、特定の亜収縮期の(sub-systolic)レベルまでの、第1の(部分的)膨張の傾斜が与えられる。第1の膨張の傾斜は、拡張期圧(最後のNIBP測定からわかる)、ある特定された亜拡張期の(sub-diastolic)レベル、特定の固定カフ圧レベル(例えば、60mmHg若しくは40mmHg)、又はPATが、PATbaseと比較して特定の閾値を超えた圧力レベル、若しくはPPGの振幅の、事前に定義された振幅変化が検出された圧力レベルである可能性がある。膨張速度は、例えば10mmHg/秒などの固定膨張速度に設定されるか、又はさもなければ例えば心拍数に応じて、膨張の傾斜の範囲内で、特定の最小の心臓拍動数を確保するように選択される。カフの膨張中に、PATの値の測定と同時にカフ圧Pcuffが測定される。ベースラインPATbaseと比較したPATの差は、ΔPATとして示され、カフの膨張中のPAT値に対して計算される。
【0108】
測定されたデータ対(ΔPAT、Pcuff)を使用して、パラメータ化されたモデル関数fの不明なモデルパラメータm、m、~mのパラメータ回帰(曲線当てはめ)が行われ、モデル関数fは、PATの変化と動作点付近の血圧の変化ΔBPとの関係をモデル化している。カフが膨張する間、カフ下の長さLcuffの動脈部分の血圧がPcuffだけ低下するので、血圧の変化はΔBP=-Pcuffである(この説明は同様に、上記で説明した手法にも当てはまる)。したがって、回帰式は以下で得られる。
ΔPAT=Lcuff・f(-Pcuff;m、m、~m
【0109】
一例として、単純な線形比例モデルでは、未知のモデルパラメータの数は2つ(f=m・ΔBP+m)となる。パラメータ回帰の好ましい判定基準は、最小2乗誤差であるが、パラメータ回帰は、例えば最小絶対誤差など、別の誤差尺度に従って行われることもある。
【0110】
パラメータ回帰を改善するために、カフを収縮させ、別の部分的膨張を行い、別のパラメータ回帰を実行する。これは、複数回繰り返すことができる。好ましい実施形態では、1回の追加の部分的膨張が行われる。その後、得られたモデルパラメータの回帰値が平均化されるため、モデルパラメータの校正の精度が向上する。得られた回帰値の変動の程度を使用して、部分的膨張を何回繰り返して行うかを決定することができる。例えば、2回の部分的膨張後に得られた回帰値が厳密に揃う場合、それ以上の部分的膨張は必要ない。
【0111】
結果的に得られる連続的なBPの推定器を校正するために、NIBP測定が行われ、血圧参照測定値BPrefが得られる。これは、標準的な膨張ベースのオシロメトリでの血圧測定値を計算できるように、最後の部分的膨張を、収縮期カフ圧レベルを超えるまで連続することによって可能となる。言い換えると、最後の膨張の傾斜は、「完全な」カフ膨張の傾斜である。図19は、モデルパラメータの校正を改善するために、完全な膨張が行われる前に、(完全膨張の前に)2回の追加の部分的膨張を行う例における、提案するカフ圧プロファイルを例示する図を示している。最後に、校正されたPATベースの連続的な血圧推定器は、以下で得られる。
【数1】
ここで、f-1は、重回帰によって得られるモデルパラメータの平均を使用する、fの逆関数を示す。Lは、集団ベースのパラメータであり、心臓から末梢PPGセンサまでの、動脈樹の長さによって決まる。Lは、例えば腕の長さから推測される。
【0112】
これらのステップは、典型的には、連続的な血圧推定器を再校正するために、随時繰り返される。再校正は、何らかの定期的なスケジュールに従って、又は血圧に大幅な変化が生じた場合に、行うことができる。一般に、図19に示しているタイプの提案した圧力プロファイル、すなわち、部分的膨張の繰返しを含む圧力プロファイルは、NIBP測定が自動又は手動でトリガされるときにいつでも、実行することができる。
【0113】
部分的膨張は、代替実施形態では、付加されるが、先頭には付加されない。図20は、(完全膨張後の)2回の追加の部分的膨張の例における、提案するカフ圧プロファイルを例示する図を示している。このプロファイルには、図19に例示する圧力プロファイルの、前の実施形態と比較して、NIBP値をより早く表示できるという利点がある。しかし、最初のパラメータ校正と2回目のパラメータ校正との間の時間間隔は、より長くなる。この間に患者の血行力学的状態が一定でない場合、すなわちモデルパラメータが変化している場合、複数回の校正イベントにわたる平均化による精度の向上は、少なくなる。
【0114】
別の代替実施形態では、パラメータ回帰の改善は、複数の部分的膨張による回帰パラメータを平均することで得られるのではなく、単一の回帰について、複数の部分的膨張によって得られたすべてのデータ対(ΔPAT、Pcuff)を使用することで得られる。この選択肢では、単一の回帰で使用できる回帰データ点をより多くすることで、精度の向上が得られる。さらに、実行される部分的膨張の回数を事前に定めるのではなく、回帰誤差の閾値比較を通じて判定することができる。回帰誤差がその閾値を下回った場合、それ以上の部分的な膨張は必要ない。
【0115】
さらに別の代替実施形態では、連続的な血圧推定器が、モデルパラメータ回帰及びNIBP参照測定によって校正された後、例えば10分ごとに、部分的膨張だけを行うことをさらに可能にする。これは、上記で説明したように行われる。NIBP参照測定による「完全な校正」は、モデルパラメータ回帰が、最後の「完全な校正」に伴うパラメータ回帰の結果と比較して、結果的にモデルパラメータm~mの重要な変化を生じる場合にのみ行われる。重要な変化が検出されない場合、現在の連続的な血圧推定器のパラメータは更新されず、NIBP測定のための完全膨張は行われない。図21は、部分的膨張の繰返しを通じて、再校正の必要性を連続して追跡する、圧力プロファイルの図を示している。この概念の利点は、長期間、他の邪魔にならずに動作する可能性があることである。これは、数日間自動でNIBP監視される患者にとって、例えば、夜間の睡眠の質の向上を通じてICUの患者の治癒プロセスをサポートするので有利である。
【0116】
本発明は、広い範囲の用途、例えば、NIBP、ECG、及びPPGセンサが既に入手可能で使用されている、病院内の監視現場で使用される。これらのセンサは実際に、例えば、OR及びICUのすべての現場で使用されており、これには、一般病棟の特定の現場ばかりでなく、神経内科などの専門病棟の現場も含まれる。より具体的には、心拍ごとの動脈の血圧を、非侵襲的に測定することが可能となる。心拍ごとの血圧監視により、患者の有害な転帰に関連する低血圧イベントの、早期検出を実現することができる。さらに、血行力学的不安定性に対する、早期警告を実現することができる。開示している装置及び方法は、長期監視、例えば24時間のBP監視、又は夜間睡眠中のBP監視にも使用される。
【0117】
本発明について、図面及び前述の説明で例示し、詳細に説明してきたが、かかる例示及び説明は、例示的又は代表的で限定的ではないと考えられるべきである。本発明は、開示している実施形態に限定されるものではない。開示している実施形態に対する他の変形形態は、特許請求の範囲に記載された発明を実践する上で、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲を研究することにより、当業者が理解し、達成することができる。
【0118】
特許請求の範囲で、「備える」という単語は、他の要素も、他のステップも排除するものではなく、また単数形の要素は、複数を除外するものではない。単一の要素又は他のユニットは、特許請求の範囲に列挙された複数の項目の機能を果たす。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが有利に使用できないことを示すものではない。
【0119】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一体に、又は他のハードウェアの一部として供給される、光記憶媒体又は固体媒体などの好適な非一時的媒体に記憶/分散されてもよく、また、インターネット又は他の有線若しくは無線の電気通信システムなどを介して、他の形態で分散されてもよい。
【0120】
特許請求の範囲内のどの参照符号も、範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0121】
特許請求の範囲に記載されるシステム、デバイス、及び方法のさらなる実施形態は、以下のように構成される。
1.本明細書で開示されるデバイスであって、処理ユニット(53)は、
- 圧力送達システム(10)を制御する制御信号を計算し、圧力送達システムのカフを、部分的膨張で、対象者の収縮期BPを下回るカフ圧まで繰り返し膨張させ、
- カフの、部分的膨張が繰り返される間に測定される、第1及び第2の時間依存センサ信号から、第1の時間依存センサ信号の第1の特徴、及び第2の時間依存センサ信号の第2の特徴を使用して、脈拍に関係する値を計算し、脈拍に関係する値が、脈波到達時間PATの値、又は脈波伝搬時間PTTの値であり、
- BPサロゲートの校正パラメータを、BP測定値、並びに脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対から計算し、対が、カフの部分的膨張が繰り返される間に測定される、第1及び第2の時間依存センサ信号から計算され、対には、脈拍に関係する値と、対応する時間的に関係するカフ圧の値とが含まれるよう構成される。
2.実施形態1で定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、末梢BPが実質的に一定である、具体的には、変動が10パーセント未満又は5パーセント未満である期間、圧力送達システム(10)を制御して、圧力送達システムのカフを部分的膨張で膨張させる、制御信号を計算するよう構成される。
3.実施形態2で定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、第1及び/又は第2の時間依存センサ信号に基づいて、特に第2の時間依存信号の振幅が、実質的に一定である、特に変動が、以前に取得した平均値に対して10パーセント未満又は5パーセント未満である期間を判定することによって、末梢BPが実質的に一定であるかどうかを判定するよう構成される。
4.実施形態1で定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、部分的膨張で、対象者の拡張期BP、特に測定した対象者の最新の拡張期BPまで、対象者の平均BP、具体的には、測定した対象者の最新の平均BPまで、又は設定された閾値カフ圧まで、圧力送達システムのカフを膨張させるように圧力送達システム(10)を制御する、制御信号を計算するよう構成される。
5.実施形態1で定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、圧力送達システム(10)を制御して、圧力送達システムのカフを部分的膨張で、PATがPAT閾値、具体的にはPATの絶対閾値、又はベースラインPATと比較されるPATの相対閾値を超えるカフ圧まで膨張させる、制御信号を計算するよう構成される。
6.実施形態5で定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、ある期間、具体的には10秒から5分の範囲の期間にわたる、PAT測定値を平均化することにより、ベースラインPATを計算するよう構成される。
7.実施形態1で定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、圧力送達システム(10)を制御して、圧力送達システムのカフを部分的膨張で、第2の時間依存信号の振幅が振幅閾値、具体的には、絶対振幅閾値又は相対振幅閾値を超えるカフ圧まで膨張させる、制御信号を計算するよう構成される。
8.実施形態1から7のいずれか1つで定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、圧力送達システム(10)を制御して、圧力送達システムのカフを部分的膨張で、所定の膨張速度、又は対象者の心拍数、対象者の拡張期BP、対象者の平均BP、及び対象者の収縮期BPのうちの1つ又は複数に依存する膨張速度で膨張させる、制御信号を計算するよう構成される。
9.実施形態1から8のいずれか1つで定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、
- 圧力送達システム(10)を制御して、圧力送達システムのカフを、部分的膨張を繰り返すたびに収縮させる、制御信号を計算し
- i)繰返しごとに、それぞれの繰返しで得られた、脈拍に関係する値と対応する、カフ圧の値との対から、別個の回帰を使用して、1つ若しくは複数の校正パラメータを計算し、2回以上の繰返しで計算されたそれぞれの校正パラメータを平均化して、BPのサロゲートで使用する1つ若しくは複数の平均校正パラメータを得るか、又は
- ii)2回以上の繰返しで得られた、脈拍に関係する値と、対応するカフ圧の値との対から、単一の回帰で、1つ又は複数の校正パラメータを計算する
よう構成される。
10.実施形態1から9のいずれか1つで定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、圧力送達システム(10)を制御して、圧力送達システムのカフを、1回又は複数回の部分的膨張の繰返しの前及び/又は後に、対象者の収縮期BPを超える完全膨張で膨張させ、BPサロゲートを使用して、対象者のBPを監視する際に使用する、時間依存のBP参照測定値を得る、制御信号を計算するよう構成される。
11.実施形態1から10のいずれか1つで定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、回帰誤差と回帰誤差閾値との比較に基づいて、部分的膨張の繰返しを行う回数を制御し、且つ/或いは固定若しくは可変スケジュールに従って、又は1つ若しくは複数の校正パラメータが、最後の計算で、実質的に変更された場合、特に10パーセントを超えて変更された場合に、完全膨張を実行するかどうか、またいつ実行するかを制御するよう構成される。
12.実施形態1から11のいずれか1つで定義されたデバイスであって、
処理ユニット(53)は、圧力送達システムによって対象者の身体部分に圧力が送達されないときに、計算されたBPサロゲートと、対象者の身体部分に圧力が送達されないときの、対象者の身体の様々な部位で測定される、測定された第1及び第2の時間依存センサ信号とを使用して、BPの値を判定するよう構成される。
13.対象者の血圧を監視する際に使用する、血圧BPのサロゲートを校正するシステムであって、システムは、
対象者の身体部分に取り付けられ、カフを膨張させることによって対象者の身体部分に圧力を送達するよう構成される、カフ(11)を備える圧力送達システム(10)、
対象者の身体部分に取り付けられた圧力送達システムのカフが膨張する間に、時間依存のカフ圧の値を取得し、BP測定値を取得又は推定するよう構成される、圧力センサ(20)、
対象者の身体の第1の部位に取り付けられ、カフが膨張する間の対象者の心拍に関係する、第1の時間依存センサ信号を取得するよう構成される、第1のセンサ(30)、
対象者の身体の第2の部位に取り付けられ、カフが膨張する間の対象者の心拍に関係する、第2の時間依存センサ信号を取得するよう構成される、第2のセンサ(40)、
本明細書で開示され、BP測定値、時間依存のカフ圧の値、並びに第1及び第2の時間依存センサ信号から、BPサロゲートを校正するための1つ又は複数の校正パラメータを計算する、デバイス(50)
を具備する。
14.本明細書で開示される方法であって、
- 圧力送達システム(10)を制御し、圧力送達システムのカフを、部分的膨張で、対象者の収縮期BP未満のカフ圧まで繰り返し膨張させる、制御信号を計算するステップ、
- カフの部分的膨張が繰り返される間に測定される、第1及び第2の時間依存センサ信号から、第1の時間依存センサ信号の第1の特徴、及び第2の時間依存センサ信号の第2の特徴を使用して、脈拍に関係する値を計算するステップであり、脈拍に関係する値が、脈波到達時間PATの値、又は脈波伝搬時間PTTの値である、脈拍に関係する値を計算するステップ、
- BPサロゲートの校正パラメータを、BP測定値、並びに脈拍に関係する値と対応するカフ圧の値との対から計算するステップであって、対は、カフの部分的膨張が繰り返される間に測定される、第1及び第2の時間依存センサ信号から計算され、対には、脈拍に関係する値と、対応する、時間的に関係する同時刻のカフ圧の値とが含まれる、校正パラメータを計算するステップ
を有する、方法。
15.コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されると、コンピュータに、実施形態14で定義された方法のステップを実行させる、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム。

図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16
図17A
図17B
図18
図19
図20
図21
【国際調査報告】