(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】コラーゲン含有硬化性配合物
(51)【国際特許分類】
C07K 14/78 20060101AFI20241024BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20241024BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20241024BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20241024BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07K14/78 ZNA
A61L27/24
A61L27/36 430
A61L27/36 410
A61L27/60
A61L27/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525103
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 IL2022051143
(87)【国際公開番号】W WO2023073711
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510146399
【氏名又は名称】コルプラント リミテッド
【住所又は居所原語表記】4 Oppenheimer Street, 11th Floor, Rehovot, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マシアチ ロイ
【テーマコード(参考)】
4C081
4H045
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081AB11
4C081AB18
4C081AB19
4C081AB21
4C081AB36
4C081BA12
4C081BB03
4C081BB09
4C081CA181
4C081CB031
4C081CD121
4C081CE08
4C081DA01
4C081DA02
4C081DA12
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA50
4H045BA57
4H045CA40
4H045EA34
4H045FA10
4H045FA71
4H045FA74
(57)【要約】
コラーゲンとそれに共有結合している複数の硬化性弾性部分で形成されるコンジュゲート、上記コンジュゲートを含む硬化性配合物(例えば、バイオインク組成物)、及び硬化性配合物を利用した3次元物体の積層造形が提供される。また、複数の光硬化性基を有するコラーゲンを用いる積層造形の方法/プロセスであって、コラーゲンと混合する光開始剤の量を調整してコラーゲン含有配合物の粘度を決定する、方法/プロセスが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンと、前記コラーゲンに共有結合している複数の弾性部分とを含み、前記弾性部分の少なくとも一部は硬化性基を有する、コンジュゲート。
【請求項2】
前記硬化性基は、前記弾性部分の各々の末端にある、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
前記硬化性基は、光硬化性基又は光重合性基である、請求項1又は2に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
前記硬化性基は、(メタ)アクリル基である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
前記弾性部分の少なくとも一部は、ポリ(アルキレングリコール)部分である、請求項1~4のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
前記弾性部分の少なくとも一部又はその各々は、アクリル基又は(メタ)アクリル基を末端に有するポリ(アルキレングリコール)部分を含む、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
前記弾性部分の少なくとも一部は、前記コラーゲンのリジン残基に共有結合している、請求項1~6のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
前記コラーゲン内のリジン残基の少なくとも1%は、それに共有結合している前記弾性部分を有する、請求項7に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
前記コラーゲン内のリジン残基の1~20%、又は1~10%は、それに共有結合している前記弾性部分を有する、請求項7に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
前記弾性部分の少なくとも一部は、カルバメート結合によって前記リジン残基に結合している、請求項7~9のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
前記コラーゲンは複数の硬化性基を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
前記コラーゲンは複数の光硬化性基を有する、請求項11に記載のコンジュゲート。
【請求項13】
前記コラーゲンはヒトI型コラーゲンである、請求項1~11のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項14】
前記コラーゲンは組換えコラーゲンである、請求項1~13のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項15】
前記コラーゲンは植物由来の組換えコラーゲンである、請求項14に記載のコンジュゲート。
【請求項16】
前記コラーゲンは植物由来の組換えヒトI型コラーゲンである、請求項1~15のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載のコンジュゲートを含む、硬化性配合物。
【請求項18】
水性担体を更に含む、請求項17に記載の硬化性配合物。
【請求項19】
前記コンジュゲートの濃度は0.5mg/mL~50mg/mL、又は0.5mg/mL~20mg/mL、又は0.5mg/mL~10mg/mL、又は1mg/mL~10mg/mLの範囲である、請求項18に記載の硬化性配合物。
【請求項20】
少なくとも1種の追加の硬化性材料を更に含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の硬化性配合物。
【請求項21】
前記追加の材料は光硬化性基を有する、請求項20に記載の硬化性配合物。
【請求項22】
前記追加の材料は、少なくとも1個の(メタ)アクリル基を末端に有するポリ(アルキレングリコール)であるか又はそれを含む、請求項20又は21に記載の硬化性配合物。
【請求項23】
前記追加の硬化性材料の濃度は、組成物の総重量の1~20重量%、又は1~10重量%の範囲である、請求項20~22のいずれか一項に記載の硬化性配合物。
【請求項24】
前記コラーゲン以外の生物学的材料を更に含む、請求項17~23のいずれか一項に記載の硬化性配合物。
【請求項25】
前記コンジュゲートの重合を促進する試薬を更に含む、請求項17~24のいずれか一項に記載の硬化性配合物。
【請求項26】
前記硬化性基は光硬化性基であり、前記試薬は光開始剤である、請求項25に記載の硬化性配合物。
【請求項27】
300nm~800nm又は300~450nmの波長で光を吸収することができる色素物質を更に含む、請求項17~26のいずれか一項に記載の硬化性配合物。
【請求項28】
前記色素物質は複数の負に帯電した基を有する、請求項27に記載の硬化性配合物。
【請求項29】
前記色素物質はビタミンB12である、請求項27に記載の硬化性配合物。
【請求項30】
前記色素物質はキノリンである、請求項27に記載の硬化性配合物。
【請求項31】
前記色素物質はミノサイクリンである、請求項27に記載の硬化性配合物。
【請求項32】
前記色素物質の量は、前記組成物の総重量の0.01~5重量%の範囲である、請求項27~31のいずれか一項に記載の硬化性配合物。
【請求項33】
少なくとも一部分がコラーゲン系材料であることを特徴とする3次元物体を積層造形するプロセスであって、少なくとも1種のモデリング材料配合物を分注し、前記物体の形状に対応する構成パターンで複数の層を連続的に形成することを含み、
前記複数の層の少なくとも一部についての前記分注は、請求項17~32のいずれか一項に記載の硬化性配合物を含むモデリング材料配合物の分注であり、
これによって前記3次元物体を製造する、プロセス。
【請求項34】
前記複数の層の前記一部を、前記硬化性配合物を固化させるのに適した硬化条件に曝露することを更に含む、請求項33に記載のプロセス。
【請求項35】
前記複数の層の少なくとも一部についての前記分注は、前記配合物及び/又は前記物体中の前記配合で構成された部分の、機械的及び/又はレオロジー的及び/又は物理的特性を変更する試薬を含むモデリング材料配合物の更なる分注である、請求項33又は34に記載のプロセス。
【請求項36】
前記複数の層の少なくとも一部についての前記分注は、前記ヒト組換えコラーゲン以外の生物学的材料を含むモデリング材料配合物の更なる分注である、請求項33~35のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項37】
請求項33~36のいずれか一項に記載のプロセスによって得られる3次元生物学的物体。
【請求項38】
少なくとも一部分の中又は上に前記コラーゲン系材料以外の生物学的材料を更に含む、請求項37に記載の物体。
【請求項39】
損傷した組織の修復に使用する、請求項37又は38に記載の3次元生物学的物体。
【請求項40】
人工の組織又は器官として使用する、請求項37又は38に記載の3次元生物学的物体。
【請求項41】
少なくとも一部分がコラーゲン系材料で構成されることを特徴とする3次元物体を積層造形するプロセスであって、
積層造形技術を選択すること、
少なくとも複数の光硬化性基を有するコラーゲンと、光開始剤と、必要に応じて水性担体と、さらに必要に応じて他の硬化性及び/又は非硬化性成分とを混合するが、但し、前記積層造形技術で前記配合物を分注するのに適した粘度が得られるように前記光開始剤の量を選択して、モデリング材料配合物(例えば、バイオインク組成物)を調製すること、および
少なくとも1種のモデリング材料配合物を分注し、前記物体の形状に対応する構成パターンで複数の層を連続的に形成すること
を含み、
前記複数の層の少なくとも一部についての前記分注は、前記複数の光硬化性基を有するコラーゲンを含む前記モデリング材料配合物の分注であり、
これによって前記3次元物体を製造する、プロセス。
【請求項42】
前記コラーゲンはヒトI型コラーゲンである、請求項41に記載のプロセス。
【請求項43】
前記コラーゲンは組換えコラーゲンである、請求項41又は42に記載のプロセス。
【請求項44】
前記コラーゲンは植物由来の組換えコラーゲンである、請求項41に記載のプロセス。
【請求項45】
前記コラーゲンは植物由来の組換えヒトI型コラーゲンである、請求項41~44のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項46】
前記光硬化性基は(メタ)アクリル基を含む、請求項41~45のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項47】
前記光開始剤はアシルホスフィンオキシド型光開始剤である、請求項41~46のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項48】
前記光開始剤はフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド又はその塩である、請求項41~47のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2021年10月27日出願の米国仮特許出願第63/272,313号の米国特許法§119(e)の下での優先権を主張するものであり、その内容全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
配列表の記載
2022年10月17日に作成された、5,926,912バイトから構成された、本出願と同時に提出された94209.xmlという表題のファイルは、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0003】
発明の分野及び背景
本発明は、その幾つかの実施形態において、積層造形に関し、より詳細には、コラーゲン系構築材料を使用する3次元(3D)物体の3Dバイオプリンティングに関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0004】
コラーゲンは、結合組織の主成分であり、哺乳動物で最も豊富なタンパク質であり、体内に存在するタンパク質の約30%を占めている。コラーゲンは、殆どの組織細胞外マトリックス(ECM)の主成分及び主要な構造的-機械的決定因子として機能する[例えば、Kadler K. Birth Defects Res C Embryo Today. 2004; 72:1-11、Kadler KE, Baldock C, Bella J, Boot-Handford RP. J Cell Sci. 2007; 120:1955-1958.、Kreger ST. Biopolymers. 2010 93(8): 690-707を参照]。
【0005】
コラーゲンは、その独特な特徴と人体機能における多様なプロファイル故に、組織を修復して構造的完全性を支持し、細胞浸潤を誘導し、組織再生を促進するために、様々な生体適合性材料の中から選択されることが多い。5種の主要なコラーゲン型の内、I型コラーゲンは人体で最も豊富な形態である。コラーゲンは、その独特な特性によって再生医療製品に好んで使われている。
【0006】
積層造形(AM)は一般に、物体のコンピュータモデルを使用して3次元(3D)物体を製造するプロセスである。AMシステムの基本操作は、3次元コンピュータモデルを薄い断面にスライスし、結果を2次元位置データに変換し、3次元構造を層状に製造する制御装置にデータを供給することから成る。
【0007】
様々なAM技術が存在し、その中にはステレオリソグラフィー、デジタル光処理(DLP)、及び3次元(3D)印刷(3Dインクジェット印刷等)がある。このような技術は一般に、1種以上の構築材料(通常、光重合性(光硬化性)材料が含まれる)を1層ずつ堆積させ、それを硬化(例えば、固化)させて行う。
【0008】
例えば、ステレオリソグラフィーは、液状の紫外線(UV)硬化性構築材料とUVレーザーを使用する積層造形プロセスである。このようなプロセスでは、構築材料を分注した各層において、分注液体構築材料の表面に対して、部品パターンの断面をレーザー光線がトレースする。UVレーザー光への曝露によって、構築材料にトレースされたパターンが硬化して固まり、下の層に結合する。構築した後、形成した部品を化学浴に浸漬して余分な構築材料を除去した後、UVオーブンで硬化させる。
【0009】
例えば、3次元印刷プロセスでは、1組のノズル又はノズルアレイを有する分注ヘッドから構築材料を分注して受取基板に層を堆積させる。次に、構築材料に応じ、適切な装置を使用して層を硬化又は固化させることができる。
【0010】
構築材料は、モデリング材料配合物と、支持材料配合物とを含んでもよく、これらは固化時にそれぞれ、物体と構築中の物体を支持する一時的支持構造物とを形成する。モデリング材料配合物を堆積させて所望の物体を製造する。また、モデリング材料要素の有無に関わらず、支持材料配合物を使用して構築中の物体の特定領域に支持構造を設け、その後に設けられる物体層が確実且つ適切に垂直配置されるようにする。これは、例えば、物体に張り出した部分や形状(例えば、曲線形状、負の角度、隙間等)が含まれる場合に行う。
【0011】
モデリング材料配合物と支持材料配合物はいずれも、通常、分注/堆積を可能にする粘度を示し、分注すると、また場合によっては硬化/固化条件に曝露すると、より高い粘度を示す。モデリング材料と支持材料はいずれも、分注する作業温度では液体であり、その後、通常は硬化エネルギー(例えば、UV硬化)等の固化又は硬化条件に曝露すると固化し、必要な層形状を形成することが好ましい。印刷完了後、(存在する場合には)支持構造を除去し、製造した3D物体の最終形状を明らかにする。分注した材料を固化(硬化)するには、通常、重合(例えば、光重合)及び/又は架橋(例えば、光架橋)を行う。
【0012】
積層造形の最初の生物学的応用は、3次元犠牲樹脂型の形成であり、生物学的材料から3D足場が作製された。
【0013】
3Dバイオプリンティングとは、機能部品を精密に位置決めし、その配置を厳密に制御しながら、生物学的材料を必要に応じて化学物質及び/又は細胞と組み合わせて使用して、これらを層毎に印刷して3D構造を形成する積層造形方法である。
【0014】
3次元(3D)バイオプリンティングは、移植に適した複雑な足場、組織及び器官の必要性に取り組むため、多くの医療用途、特に再生医療で勢いを増している。
【0015】
一般に3D印刷には、印刷媒体(分注した構築材料)の機械的特性が、印刷後の硬化(固化)材料と大きく異なる点が内在している。
【0016】
印刷後の硬化(例えば、重合)を厳密に制御できるようにするため、構築材料には通常、分注時に(例えば、鎖伸長及び/又は架橋によって)重合する重合性(例えば、光重合性)の部分又は基が含まれており、これによって、幾何学的形状が保たれ、最終製品に必要な物性が得られる。
【0017】
3Dインクジェット印刷、押出印刷、レーザーによる印刷、デジタル光処理、及び投影ステレオリソグラフィー等、3Dバイオプリンティング用に様々な技術が開発されている[例えば、Murphy SV, Atala A, Nature Biotechnology. 2014 32(8)、Miller JS, Burdick J. ACS Biomater. Sci. Eng. 2016, 2, 1658-1661を参照]。各技術では分注した構築材料(本明細書では印刷媒体とも称される)に対して様々な要件があり、これらは、特定の塗布機構と、印刷後の足場の3D構造を維持するのに必要な硬化/ゲル化プロセスに由来する。
【0018】
全ての技術に関して、印刷の精度と効率を決定する最も重要なパラメータは、分注した構築材料の静的及び動的物性、例えば、粘度、ずり減粘及びチキソトロピー特性である。構築材料の静的及び動的特性は印刷技術にとって重要なだけでなく、細胞を含む印刷、即ち、印刷中に分注する構築材料内の細胞等を考慮する場合にも重要である。この場合、印刷(分注)中に構築材料に印加されるせん断力は、細胞の生存に大きな影響を及ぼす。従って、広範囲の条件、即ち、濃度、温度、イオン強度及びpHに亘って印刷媒体の特定の特性を良好に制御することが望ましい。
【0019】
I型コラーゲンは、3Dバイオプリンティングにおいて構築材料の主成分として使用するのに最適な候補と考えられてきた。
【0020】
コラーゲンメタクリレートを迅速に自己集合するI型コラーゲンとして使用し、組織工学用の架橋ヒドロゲルを形成することができる[例えば、Isaacson et al., Experimental Eye Research 173, 188-193 (2018)を参照]。コラーゲンメタクリレートは、間葉系幹細胞[Drzewiecki et al., A thermoreversible, photocrosslinkable collagen bio-ink for free-form fabrication of scaffolds for regenerative medicine, Technology (2017)]、線維芽細胞、脂肪由来幹細胞、上皮細胞及び更に多くの細胞と共に使用されている。コラーゲンメタクリレートは、コラーゲン濃度や硬化条件(例えば、照射強度や照射期間)を変えることによって、様々な剛性の足場を形成するのに有用である。
【0021】
組織から抽出されたコラーゲン(メタ)アクリレートは、3Dバイオプリンティング(押出、インクジェット及びフォトリソグラフィー)での有用性が広く特徴付けられている[Drzewiecki, K. E. et al. Langmuir 30, 11204-11211 (2014)、Gaudet, I. D. & Shreiber, D. I. Biointerphases 7, 25 (2012)]。
【0022】
この天然ポリマーが持つ大きな利点にも関わらず、多くの要因によってコラーゲン(メタ)アクリレート3Dバイオプリンティングの使用が妨げられている。この目的での組織抽出コラーゲンの使用は、温度とイオン強度に対する感度に起因して制限され、生理的条件下では20℃より高い温度で自発的にゲルを形成する[例えば、PureCol, Advanced BioMatrix, Inc.を参照]。組織抽出コラーゲンの典型的な温度依存によるゲル形成によって、印刷中の正確な流動性が大きく妨げられる。この現象の可能な解決策として、印刷媒体を塗布するまで低温に保つことが挙げられるが、これは重大な技術的限界を意味する。別の解決策は、このような条件下でゲル状にならない、コラーゲンの変性形態であるゼラチンの使用である。しかし、ゼラチンには天然コラーゲンの示す、組織や細胞との真の相互作用が欠けているため、重要な生物学的機能が失われる。
【0023】
本願の譲受人は、ヘテロ三量体I型コラーゲンをコードする5種のヒト遺伝子をタバコ植物に組み込むことによって、ナイーブなヒトI型コラーゲン(rhコラーゲン)の精製を可能にする技術を開発した[例えば、Stein H. (2009) Biomacromolecules; 10:2640-5を参照]。このタンパク質は、コラーゲンに独特の特性を利用した費用対効果の高い工業プロセスによって均一に精製される。国際公開2006/035442号、国際公開2009/053985号、国際公開2011/064773号、国際公開2013/093921号、国際公開2014/147622号、及びこれらに由来する特許と特許出願も参照されたい(これらの全ての内容全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)。
【0024】
本願の譲受人による国際公開2018/225076号には、3D物体の積層造形(例えば、3Dバイオプリンティング)用のモデリング材料配合物の調製に又はモデリング材料配合物として使用可能な、硬化性組換えヒトコラーゲンを含む配合物とそれを含むキットが記載されている。配合物は10℃を超える温度(例えば、室温又は37℃)で所望の粘度を示し、システム又はその一部を冷却せずに積層造形を実施することが可能となる。
【0025】
更なる背景技術としては、米国特許出願公開第2018/0193524号明細書、国際公開2015/032985号、Drzewiecki et al. (2014) Langmuir, 30(37), 11204-11211、Ravichandran et al. (2015) Journal of Materials Chemistry B, 4(2), 318-326、及びGaudet & Shreiber (2012) Biointerphases, 7(1), 25が挙げられる。
【0026】
更なる背景技術としては、Zhang et al., Burns Trauma. 2022; 10: tkac010、国際公開2022/093236号、米国特許出願公開第2020/339925号及び第2021/229364号、米国特許第10,597,289号、及びCN114958079号が挙げられる。
【発明の概要】
【0027】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、コラーゲンとコラーゲンに共有結合している複数の弾性/エラストマー部分とを含み、弾性/エラストマー部分の少なくとも一部が硬化性基を有するコンジュゲートが提供される。
【0028】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性基は弾性/エラストマー部分の各々の末端にある。
【0029】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性基は光硬化性基又は光重合性基である。
【0030】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性基は(メタ)アクリル基である。
【0031】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、弾性/エラストマー部分の少なくとも一部は、ポリ(アルキレングリコール)含有部分である。
【0032】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、弾性/エラストマー部分の少なくとも一部又はその各々は、アクリル基又は(メタ)アクリル基を末端に有するポリ(アルキレングリコール)部分を含む。
【0033】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、弾性/エラストマー部分の少なくとも一部は、コラーゲンのリジン残基に共有結合している。
【0034】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲン内のリジン残基の少なくとも1%、例えば1~20%又は1~10%は、それに共有結合している弾性/エラストマー部分を有する。
【0035】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、弾性/エラストマー部分の少なくとも一部は、カルバメート結合によってリジン残基に結合している。
【0036】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは、(硬化性弾性/エラストマー部分に加えて)複数の硬化性基、例えば光硬化性基を有する。
【0037】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンはヒトI型コラーゲンである。
【0038】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは組換えコラーゲンである。
【0039】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは植物由来の組換えコラーゲンである。
【0040】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは植物由来の組換えヒトI型コラーゲンである。
【0041】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のコンジュゲートを含む硬化性配合物が提供される。
【0042】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は水性担体を更に含む。
【0043】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コンジュゲートの濃度は、0.5mg/mL~50mg/mL、又は0.5mg/mL~20mg/mL、又は0.5mg/mL~10mg/mL、又は1mg/mL~10mg/mLの範囲である。
【0044】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は少なくとも1種の追加の硬化性材料を更に含む。
【0045】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、追加の材料は硬化性(例えば、光硬化性)基を有する。
【0046】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、追加の材料は、少なくとも1個の(メタ)アクリル基を末端に有するポリ(アルキレングリコール)であるか又はそれを含む。
【0047】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、追加の硬化性材料の濃度は、配合物の総重量の1~20重量%、又は1~10重量%の範囲である。
【0048】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、硬化性コラーゲン以外の生物学的材料を更に含む。
【0049】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、コンジュゲートの重合を促進する試薬を更に含む。
【0050】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性基は光硬化性基であり、試薬は光開始剤である。
【0051】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、300nm~800nm又は300~450nmの波長で光を吸収することができる色素物質を更に含む。
【0052】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質は複数の負に帯電した基を有する。
【0053】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質はビタミンB12である。
【0054】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質はミノサイクリンである。
【0055】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質はキノリンである。
【0056】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質の量は、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のように、組成物の総重量の0.01~5重量%の範囲である。
【0057】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、少なくとも一部分がコラーゲン系材料であることを特徴とする3次元物体を積層造形するプロセスであって、少なくとも1種のモデリング材料配合物を分注し、物体の形状に対応する構成パターンで複数の層を連続的に形成することを含み、複数の層の少なくとも一部についての分注は、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載の硬化性配合物を含むモデリング材料配合物の分注であり、これによって3次元物体を製造する、プロセスが提供される。
【0058】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、プロセスは、複数の層の少なくとも一部を、硬化性配合物を固化させるのに適した硬化条件に曝露することを更に含む。
【0059】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、複数の層の少なくとも一部に関しては、分注は、配合物及び/又は配合で構成された物物体の部分の機械的及び/又はレオロジー的及び/又は物理的特性を変更する試薬を含むモデリング材料配合物の更なる分注である。
【0060】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、複数の層の少なくとも一部についての分注は、ヒト組換えコラーゲン以外の生物学的材料を含むモデリング材料配合物の更なる分注である。
【0061】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のプロセスによって得られる3次元生物学的物体が提供される。
【0062】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、物体はその少なくとも一部分の中又は上にコラーゲン系材料以外の生物学的材料を更に含む。
【0063】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、3次元生物学的物体は損傷した組織の修復に使用する。
【0064】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、3次元生物学的物体は人工の組織又は器官として使用する。
【0065】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、3次元物体の積層造形用の硬化性配合物であって、配合物が光硬化性生物学的材料と、300nm~800nmの波長で光を吸収することができる色素物質とを含み、色素物質がビタミンB12を含む、配合物が提供される。
【0066】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質の量は組成物の総重量の0.01~5重量%の範囲である。
【0067】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、光硬化性生物学的材料は複数の光硬化性基を有するコラーゲンを含む。
【0068】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、光硬化性基は(メタ)アクリル基を含む。
【0069】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、光硬化性基はコラーゲンに直接結合している。
【0070】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンはそれに共有結合している複数の弾性/エラストマー部分を含み、弾性部分の少なくとも一部は光硬化性基を有する。
【0071】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンはヒトI型コラーゲン、例えば組換えヒトコラーゲン、例えば植物由来の組換えヒトI型コラーゲンである。
【0072】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、少なくとも一部分が生物学的材料で構成されることを特徴とする3次元物体を積層造形するプロセスであって、少なくとも1種のモデリング材料配合物を分注し、物体の形状に対応する構成パターンで複数の層を連続的に形成することを含むプロセスにおいて、複数の層の少なくとも一部についての分注は、本明細書において各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載したビタミンB12含有硬化性配合物を含むモデリング材料配合物の分注であり、これによって3次元物体を製造するプロセスが提供される。
【0073】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、プロセスは、複数の層の一部を、配合物を固化させるのに適した照射に曝露することを更に含む。
【0074】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、少なくとも一部分がコラーゲン系材料で構成されることを特徴とする3次元物体を積層造形するプロセスであって、
積層造形技術を選択すること、
少なくとも複数の光硬化性基を有するコラーゲンと、光開始剤と、必要に応じて水性担体と、さらに必要に応じて他の硬化性及び/又は非硬化性成分とを混合するが、但し、積層造形技術で配合物を分注するのに適した粘度が得られるように光開始剤の量を選択して、モデリング材料配合物(例えば、バイオインク組成物)を調製すること、および
少なくとも1種のモデリング材料配合物を分注し、物体の形状に対応する構成パターンで複数の層を連続的に形成すること
を含み、
複数の層の少なくとも一部についての分注は、複数の光硬化性基を有するコラーゲンを含むモデリング材料配合物の分注であり、
これによって3次元物体を製造する、プロセスが提供される。
【0075】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のヒトI型コラーゲンである。
【0076】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、光硬化性基は(メタ)アクリル基を含む。
【0077】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、光開始剤はアシルホスフィンオキシド型光開始剤である。
【0078】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、光開始剤はフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド又はその塩である。
【0079】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び/又は科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様の又は等価な方法及び材料を、本発明の実施形態の実践又は試験に使用することができるが、例示的な方法及び/又は材料を以下に記載する。矛盾する場合、定義を含む本特許明細書が優先する。また、材料、方法及び実施例は単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0080】
本発明の実施形態の方法及び/又はシステムを実施する際には、選択タスクを手動、自動又はそれらの組み合わせで実行又は完了することができる。更に、本発明の方法及び/又はシステムの実施形態の実際の機器や装置によれば、ハードウェア、ソフトウェア又はファームウェア、又はオペレーティングシステムを使用するそれらの組み合わせによって幾つかの選択タスクを実施することができる。
【0081】
例えば、本発明の実施形態に係る選択タスクを実行するためのハードウェアは、チップ又は回路として実装することができる。ソフトウェアの場合、本発明の実施形態に係る選択タスクは、任意の適切なオペレーティングシステムを使用してコンピュータで実行される複数のソフトウェア命令として実装することができる。本発明の例示的実施形態では、本明細書に記載の方法及び/又はシステムの例示的実施形態に係る1種以上のタスクは、複数の命令を実行するコンピューティングプラットフォーム等のデータプロセッサによって実行される。必要に応じて、データプロセッサには、命令及び/又はデータを格納する揮発性メモリ、及び/又は命令及び/又はデータを格納する不揮発性記憶装置、例えば、磁気ハードディスク及び/又はリムーバブルメディアが含まれる。必要に応じて、ネットワーク接続も設けられる。ディスプレイ及び/又はユーザー入力装置(例えば、キーボードやマウス)も必要に応じて設けられる。
【0082】
本発明の幾つかの実施形態について、その例示のみを目的として、添付の図面を参照しながら本明細書に記載する。以下、特に図面を詳細に参照して示す細部は、例示を目的とし、本発明の実施形態の詳細な説明を目的とすることを強調する。これに関して、図面と共に説明を見ることで、本発明の実施形態をどのように実行し得るか当業者には明らかとなる。
【0083】
図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】本発明の幾つかの実施形態に係る、コラーゲン(組換えヒトI型コラーゲン)のリジン残基にコンジュゲートしている(メタ)アクリレート化PEG部分の簡略化した概略描写である。
【
図2】コラーゲンと、コラーゲン-メタクリル化PEGコンジュゲート(CPM)と、表示した既知の分子量を有するタンパク質の参照混合物(「ラダー」)とを比較したSDS-PAGEを示す。
【
図3】コラーゲン-メタクリル化PEGコンジュゲート(CPM、
図3のA)を含む配合物、及びメタクリル化コラーゲン(CMR、
図3のB)を含む配合物の粘度を、せん断速度の関数として、1、3、又は5分間の緩和後に示しているプロットを示す。
【
図4】せん断力を操作した際のコラーゲン-メタクリル化PEGコンジュゲート(CPM、
図4のA)を含む配合物、及びメタクリル化コラーゲン(CMR、
図4のB)を含む配合物のそれぞれの粘度の回復性を示しており、試験した配合物の回復性を示している。
【
図5】メタクリル化rhコラーゲン(CMR)を含む配合物、本実施形態の幾つかに係る例示的なメタクリル化コラーゲン-PEGコンジュゲートを含む配合物(CPM)、タンパク質を欠く配合物のそれぞれの貯蔵弾性率(G’)を示す比較プロットを示す。
【
図6】ポリ硫酸塩色素を添加した際の、メタクリル化コラーゲンの溶液(左側のバイアル)、及び本実施形態の幾つかに係る例示的なメタクリル化コラーゲン-PEGコンジュゲートの溶液(右側のバイアル)の写真を示す。
【
図7】ビタミンB12又は4-ニトロフェノールを色素として含むCMR配合物の様々なせん断速度での粘度を示している比較プロットを示す。
【
図8】光開始剤(LAP)の量がCMRを含む配合物の粘度に及ぼす影響を示している比較プロットを示す。
【
図9】メタクリル化rh-コラーゲン(CMR、5mg/mL)と、LAP(0.5重量%)と、様々な濃度のミノサイクリンとを含む配合物の貯蔵弾性率(G’)を示す比較プロットを示す。
【
図10】リジン残基にコンジュゲートしている複数の(メタ)アクリル酸基と複数のPEG部分とを有するコラーゲン(組換えヒトI型コラーゲン)の合成(下部のスキーム)及びその調製に使用する中間体試薬(上部のスキーム)の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0085】
本発明は、その幾つかの実施形態は、積層造形、より詳細には、コラーゲン系構築材料を使用する3次元(3D)物体の3Dバイオプリンティングに関するが、これに限定されない。
【0086】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、必ずしもその用途が以下の説明及び/又は図面及び/又は実施例で例示される構造の詳細や構成要素の配置及び/又は方法に限定されるものではないことを理解すべきである。本発明は他の実施形態が可能であるか、又は様々な手段で実施若しくは実行することが可能である。
【0087】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、必ずしもその用途が以下の説明又は実施例で例示される詳細に限定されるものではないことを理解すべきである。本発明は他の実施形態が可能であるか、又は様々な手段で実施若しくは実行することが可能である。
【0088】
本発明者らは、機械的特性の改善を示し、コラーゲンを含む3次元物体の積層造形に使用可能なバイオインク組成物に有益に利用できる硬化性コラーゲン材料を調査する中で、硬化性弾性/エラストマー部分が結合しているコラーゲンを含むコンジュゲートを考案し、成功裏に調製し、実践した。このようなコンジュゲートの一例を
図1に概略的に例示する。本発明者らは、このようなコンジュゲートを含む配合物が、
図3のA~B及び
図4のA~Bに示すようにせん断下での回復性の改善及び弾性率の改善を示し、
図5に示すように固化材料の特性の改善を示し、更に、
図6に例示するように、配合物の粘稠性に悪影響を及ぼすことなく、負に帯電した基を有する吸収性色素添加剤の使用を可能にすることを示した。
【0089】
本発明の実施形態は、コラーゲンと硬化性弾性部分とのコンジュゲート、そのようなコンジュゲートを含むバイオインク組成物、及び積層造形におけるそれらの使用に関する。
【0090】
硬化性コラーゲンを含むバイオインク組成物を試験する過程で、本発明者らは、
図7に示すようにビタミンB12がそのようなバイオインク組成物の吸収性色素物質として有利に使用できることを更に見出した。
【0091】
硬化性コラーゲンを含むバイオインク組成物を試験する過程で、本発明者らは、
図9に示すようにミノサイクリンがそのようなバイオインク組成物の吸収性色素物質として有利に使用できることを更に見出した。
【0092】
従って、本発明の実施形態は、本明細書に記載のように吸収性色素物質としてビタミンB12を含む硬化性配合物(例えば、本明細書に記載のコラーゲン系バイオインク組成物)に更に関する。
【0093】
本発明者らは、本明細書に記載の硬化性コラーゲンが、一般的な種類の光開始剤(リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート(LAP)等のアシルホスフィンオキシド型光開始剤)と相互作用することにより、
図8に例示するように、光開始剤の量がそれを含む硬化性配合物の粘度(硬化照射への曝露前)に影響を及ぼすことを更に見出した。
【0094】
従って、本発明の実施形態は、可変量の光開始剤を含み、且つ本明細書に記載のそれぞれの積層造形方法に適合するように適宜設計及び/又は選択することができる、硬化性配合物に更に関する。
【0095】
コラーゲン:
本実施形態に係るコンジュゲートは、硬化性弾性部分が結合しているコラーゲンを含む。
【0096】
本明細書で使用する「コラーゲン」という用語は、三重らせん構造を有し、繰り返しGly-X-Yトリプレットを含むポリペプチドを意味し、XとYは任意のアミノ酸とすることができるが、イミノ酸(プロリンとヒドロキシプロリン)であることが多い。一実施形態によれば、コラーゲンはI型、II型、III型、V型、XI型、又はそれらに由来する生物学的に活性な断片である。
【0097】
本実施形態の幾つかに係るコラーゲンは、相同体(例えば、デフォルトパラメータを使用した全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のBlastPソフトウェアによって決定された、表Aに記載したようなコラーゲン配列と少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも89%、少なくとも91%、少なくとも93%、少なくとも95%以上、約100%相同であるポリペプチド)も意味する。相同体は、その欠失、挿入又は置換変異体(アミノ酸置換を含む)及びその生物学的に活性なポリペプチド断片を意味することもある。
【0098】
特定の実施形態によれば、コラーゲンはヒトコラーゲンである。
【0099】
他の実施形態では、コラーゲンはヒトコラーゲンの天然由来のアミノ酸配列を含む。
【0100】
以下の表AにコラーゲンのNCBI配列番号の例を示す。
表A
例示的なプロコラーゲンのNCBI配列番号 配列番号
P02452 1
P08123 2
【0101】
配列番号1の注釈は次の通りである。
アミノ酸1~22:シグナルペプチド
アミノ酸23~161:N末端ペプチド
アミノ酸162~1218:コラーゲンα-1(I)鎖
アミノ酸1219~1464:C末端ペプチド
【0102】
配列番号2の注釈は次の通りである。
アミノ酸1~22:シグナルペプチド
アミノ酸23~79:N末端ペプチド
アミノ酸80~1119:コラーゲンα-2(I)鎖
アミノ酸1120~1366:C末端ペプチド
【0103】
一実施形態によれば、コラーゲンはテロペプチドを十分に含んでおり、適切な条件下で原線維を形成することができるようになっている。
【0104】
従って、例えば、コラーゲンはアテロコラーゲン、テロコラーゲン又はプロコラーゲンとすることができる。
【0105】
本明細書で使用する「アテロコラーゲン」という用語は、プロコラーゲン及びそのテロペプチドの少なくとも一部に通常含まれるN末端及びC末端プロペプチドの両方を欠いているが、適切な条件下で原線維を形成することができるようにテロペプチドを十分に含むコラーゲン分子を意味する。
【0106】
本明細書で使用する「プロコラーゲン」という用語は、N末端プロペプチドとC末端プロペプチドのいずれか一方、又はその両方を含むコラーゲン分子(例えば、ヒト)を意味する。例示的なヒトプロコラーゲンアミノ酸配列を配列番号3、4、5及び6に示す。
【0107】
本明細書で使用する「テロコラーゲン」という用語は、プロコラーゲンに通常含まれるN末端及びC末端プロペプチドの両方を欠いているが、テロペプチドを含むコラーゲン分子を意味する。線維性コラーゲンのテロペプチドは、天然のN/Cプロテイナーゼによる消化後のN末端及びC末端プロペプチドのレムナントである。
【0108】
他の実施形態によれば、コラーゲンはそのテロペプチドを欠いており、原線維形成を経ることができない。
【0109】
他の実施形態によれば、コラーゲンは上述のコラーゲン型の混合物である。
【0110】
特定の実施形態によれば、コラーゲンは組換えDNA技術によって遺伝子操作されたもの(例えば、ヒトコラーゲン)である。
【0111】
動物からコラーゲンを単離する方法は当技術分野で知られている。天然(native)の動物コラーゲンの分散と可溶化は、コラーゲンの望ましい特性を付与する基本的な堅い三重らせん構造に影響を及ぼさずに分子間結合を破壊し、免疫原性非らせんテロペプチドを除去する様々なタンパク質分解酵素(例えば、ブタ粘膜ペプシン、ブロメライン、キモパパイン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、フィシン、パパイン、ペプチダーゼ、プロテイナーゼA、プロテイナーゼK、トリプシン、微生物プロテアーゼ、及び類似の酵素又はこのような酵素の組み合わせ)を使用して行うことができる(精製可溶性コラーゲンの一般的な調製方法については、米国特許第3,934,852号明細書、同第3,121,049号明細書、同第3,131,130号明細書、同第3,314,861号明細書、同第3,530,037号明細書、同第3,949,073号明細書、同第4,233,360号明細書及び同第4,488,911号明細書を参照)。次に、得られた可溶性コラーゲンを低pHと高イオン強度で繰り返し沈殿させた後、低pHで洗浄と再可溶化を行って精製することができる。
【0112】
コラーゲン鎖及びプロコラーゲンを発現する植物は当技術分野で知られている(例えば、WO06/035442号、Merle et al., FEBS Lett. 2002 Mar 27;515(1-3):114-8. PMID: 11943205、及びRuggiero et al., 2000, FEBS Lett. 2000 Mar 3;469(1):132-6. PMID: 10708770、及び米国特許出願公開第2002/098578号明細書及び同第2002/0142391号明細書、及び米国特許第6,617,431号明細書を参照)。これらの文献の各々を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0113】
本発明の実施形態は、コラーゲン/アテロコラーゲンの遺伝子改変体、例えば、コラゲナーゼ抵抗性コラーゲン等[例えば、Wu et al., Proc Natl. Acad Sci, Vol. 87, p.5888-5892, 1990を参照]も企図することが理解されよう。
【0114】
組換えプロコラーゲン又はテロコラーゲン(例えば、ヒト)は、任意の非動物細胞(例えば、植物細胞及び酵母や真菌等の他の真核細胞が挙げられるが、これらに限定されない)で発現できる。
【0115】
プロコラーゲン又はテロコラーゲンを産生し得る(即ち、発現し得る)植物は、低級(例えば、苔及び藻類)又は高級(維管束)植物種(例えば、組織又は単離細胞及びその抽出物(例えば、細胞懸濁液))とすることができる。好ましい植物は、大量のコラーゲン鎖、コラーゲン及び/又は本明細書で以下に記載のプロセシング酵素を蓄積することができる植物である。このような植物は、ストレス状態に対する抵抗性や発現成分又は集合コラーゲンを抽出できる容易さに従って選択することもできる。ヒトプロコラーゲンが発現し得る植物の例としては、タバコ、トウモロコシ、アルファルファ、米、ジャガイモ、大豆、トマト、小麦、大麦、キャノーラ、ニンジン、レタス及び綿が挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
組換えプロコラーゲンの産生は通常、ヒトプロコラーゲンをコードする外因性ポリヌクレオチド配列による安定な又は一過性の形質転換によって行う。
【0117】
ヒトプロコラーゲンをコードする例示的なポリヌクレオチド配列を配列番号7、8、9及び10に示す。
【0118】
ヒトテロコラーゲンの産生は、通常、ヒトプロコラーゲンをコードする外因性ポリヌクレオチド配列と関連プロテアーゼをコードする少なくとも1種の外因性ポリヌクレオチド配列による安定な又は一過性の形質転換によって行う。或いは、組換えプロコラーゲンの単離後にプロテアーゼを添加することができる。
【0119】
コラーゲンの三重らせん構造の安定性には、酵素プロリル-4-ヒドロキシラーゼ(P4H)によってプロリンをヒドロキシル化してコラーゲン鎖内にヒドロキシプロリンの残基を形成することが必要である。植物はヒドロキシプロリン含有タンパク質を合成できるが、植物細胞内のヒドロキシプロリンの合成に関与するプロリルヒドロキシラーゼは、哺乳動物P4Hと比べて、比較的緩やかな基質配列特異性を示す。従って、Gly-X-YトリプレットのY位置にのみヒドロキシプロリンを含むコラーゲンの産生には、コラーゲンとヒト又は哺乳動物P4H遺伝子の同時発現が必要である[Olsen et al, Adv Drug Deliv Rev. 2003 Nov 28;55(12):1547-67]。
【0120】
従って、一実施形態によれば、プロコラーゲン又はテロコラーゲンは内因性P4H活性を持たない植物の細胞内区画で発現する。
【0121】
本明細書で使用する「内因性P4H活性を持たない細胞内区画」という語句は、植物P4H又は植物様P4H活性を有する酵素を含まない細胞の任意の区画化された領域を意味する。一実施形態によれば、細胞内区画は液胞、アポプラスト又は葉緑体である。特定の実施形態によれば、細胞内区画は液胞である。
【0122】
他の実施形態によれば、細胞内区画はアポプラストである。
【0123】
内因性P4H活性を持たない細胞内区画における発現プロコラーゲンの蓄積は、数種のアプローチの内のいずれか1種によって行うことができる。
【0124】
例えば、発現プロコラーゲン/テロコラーゲンは、発現タンパク質をアポプラストやオルガネラ(例えば、葉緑体)等の細胞内区画に標的化するためのシグナル配列を含むことができる。
【0125】
適切なシグナル配列の例としては、葉緑体輸送ペプチド(スイスプロットエントリーP07689、アミノ酸1~57に含まれる)及びミトコンドリア輸送ペプチド(スイスプロットエントリーP46643、アミノ酸1~28に含まれる)が挙げられる。液胞への標的化は、コラーゲンをコードするポリヌクレオチド配列を液胞標的化配列に融合させて、例えば、チオールプロテアーゼアリューレイン前駆体の液胞標的化配列(NCBI受託番号P05167 GI:113603):MAHARVLLLALAVLATAAVAVASSSSFADSNPIRPVTDRAASTLA(配列番号14)を使用して行うことができる。通常、コラーゲンをコードするポリヌクレオチド配列はER標的化配列も含む。一実施形態では、ER標的化配列はコラーゲン配列に固有のものである。他の実施形態では、天然のER標的化配列を除去し、非天然のER標的化配列を添加する。非天然のER標的化配列は液胞標的化配列に含まれていてもよい。ERを横断して液胞に移動するには、コラーゲン配列はER保持配列を含むべきでないことが理解されよう。
【0126】
或いは、プロコラーゲンの配列は、植物で発現した際にプロコラーゲンの細胞局在を変化させる方法で改変することができる。
【0127】
本発明は、ヒトプロコラーゲンとP4Hの両方を同時発現する遺伝子改変細胞を企図する。一実施形態では、P4Hはプロコラーゲンα鎖を正確にヒドロキシル化する[即ち、Gly-X-Yトリプレットのプロリン(Y)位置のみをヒドロキシル化する]ことができる。P4Hは、Genbank番号P07237及びP13674に記載のαとβの2種のサブユニットで構成される酵素である。両方のサブユニットは活性酵素を形成するのに必要であるが、βサブユニットはシャペロン機能も有する。
【0128】
本発明の遺伝子改変細胞によって発現されるP4Hは、ヒトP4Hであることが好ましい。ヒトP4Hをコードする例示的なポリヌクレオチド配列は、配列番号11及び12である。更に、高い基質特異性を示すP4H変異体、又はP4H相同体も使用することができる。適切なP4H相同体の例としては、NCBI受託番号:NP_179363で特定されるアラビドプシス酸化還元酵素が挙げられる。
【0129】
P4Hは発現プロコラーゲン鎖と共蓄積することが不可欠であるため、そのコード配列を適切に(例えば、シグナル配列の付加又は欠失によって)改変することが好ましい。従って、本発明は、液胞標的化配列に融合されるP4Hポリヌクレオチド配列の使用を企図する。液胞を標的化するため、内因性ER保持配列が存在する場合には、発現の前にそれを除去する必要があることが理解されよう。
【0130】
哺乳動物細胞では、コラーゲンはリシルヒドロキシラーゼ、ガラクトシルトランスフェラーゼ及びグルコシルトランスフェラーゼによっても改変される。これらの酵素は、特定の位置のリシル残基を、特定の位置のヒドロキシリシル残基、ガラクトシルヒドロキシリシル残基及びグルコシルガラクトシルヒドロキシリシル残基に連続的に改変する。Genbank番号O60568に記載の単一のヒト酵素であるリシルヒドロキシラーゼ3(LH3)は、ヒドロキシリジン結合炭水化物の形成で見られる3つの連続改変段階全てを触媒することができる。
【0131】
従って、幾つかの実施形態に係る遺伝子改変細胞は、哺乳動物LH3(必要に応じて液胞標的化配列に融合)を発現することもできる。液胞を標的化するため、内因性ER保持配列を発現の前に除去することが理解されよう。
【0132】
配列番号13で示されるようなLH3コード配列をこのような目的に使用することができる。
【0133】
上述のプロコラーゲン及び改変用酵素は、プロコラーゲンα鎖をコードするポリヌクレオチド配列及び/又は機能性プロモーターの転写制御下に位置する改変用酵素(例えば、P4H及びLH3)を含む安定的に組み込まれた又は一時的に発現された核酸構築物から発現することができる。このような核酸構築物(本明細書では発現構築物とも称される)は、生物全体(例えば、植物、規定組織又は規定細胞)及び/又は生物の規定の発生段階での発現用に構成することができる。このような構築物は、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性)、エンハンサー要素及び細菌複製用の複製起点を含むこともできる。
【0134】
単子葉植物と双子葉植物の両方に核酸構築物を導入するための様々な方法が存在する(Potrykus, I., Annu. Rev. Plant. Physiol., Plant. Mol. Biol. (1991) 42:205-225、Shimamoto et al., Nature (1989) 338:274-276)。このような方法は、核酸構築物又はその一部の植物ゲノムへの安定した組み込み、又は核酸構築物の一過性発現に依存するが、この場合、このような配列は植物の子孫には遺伝されない。
【0135】
更に、葉緑体等のDNA含有オルガネラのDNAに核酸構築物を直接導入することができる数種の方法が存在する。
【0136】
本発明の核酸構築物内に含まれるような外因性配列を植物ゲノムへ安定してゲノム組み込みさせる2種の原理方法が存在する。
(i)アグロバクテリウム媒介の遺伝子導入:Klee et al. (1987) Annu. Rev. Plant Physiol. 38:467-486、Klee and Rogers in Cell Culture and Somatic Cell Genetics of Plants, Vol. 6, Molecular Biology of Plant Nuclear Genes, eds. Schell, J., and Vasil, L. K., Academic Publishers, San Diego, Calif. (1989) p. 2-25、Gatenby, in Plant Biotechnology, eds. Kung, S. and Arntzen, C. J., Butterworth Publishers, Boston, Mass. (1989) p. 93-112.
(ii)DNAの直接取り込み:Paszkowski et al., in Cell Culture and Somatic Cell Genetics of Plants, Vol. 6, Molecular Biology of Plant Nuclear Genes eds. Schell, J., and Vasil, L. K., Academic Publishers, San Diego, Calif. (1989) p. 52-68、プロトプラストへのDNAの直接取り込み方法も含まれる:Toriyama, K. et al. (1988) Bio/Technology 6:1072-1074。植物細胞の短時間の電気ショックにより誘導されるDNAの取り込み:Zhang et al. Plant Cell Rep. (1988) 7:379-384、Fromm et al. Nature (1986) 319:791-793。粒子衝撃による植物細胞又は植物組織へのDNA注入:Klein et al. Bio/Technology (1988) 6:559-563、McCabe et al. Bio/Technology (1988) 6:923-926、Sanford, Physiol. Plant. (1990) 79:206-209。マイクロピペットシステムの使用による方法:Neuhaus et al., Theor. Appl. Genet. (1987) 75:30-36、Neuhaus and Spangenberg, Physiol. Plant. (1990) 79:213-217、又は発芽中の花粉とのDNAの直接インキュベーションによる方法:DeWet et al. in Experimental Manipulation of Ovule Tissue, eds. Chapman, G. P. and Mantell, S. H. and Daniels, W. Longman, London, (1985) p. 197-209、およびOhta, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1986) 83:715-719。
【0137】
植物細胞への直接DNA導入には様々な方法が存在する。エレクトロポレーションでは、プロトプラストを強い電場に短時間曝露する。マイクロインジェクションでは、非常に小さなマイクロピペットを使用して、DNAを細胞に直接機械的に注入する。微粒子衝撃では、硫酸マグネシウム結晶、タングステン粒子又は金粒子等の微粒子発射物にDNAを吸着させ、微粒子発射物を細胞又は植物組織へ物理的に加速させる。
【0138】
用いられる形質転換技術に関係なく、一旦コラーゲン発現子孫が特定されると、そのような植物をその発現を最大化する条件下で更に栽培する。核酸又はタンパク質プローブ(例えば、抗体)を使用して外因性mRNA及び/又はポリペプチドの存在を確認することによって、形質転換植物から生じる子孫を選択することができる。後者のアプローチによって、(例えば、分画された植物抽出物を精査して)発現ポリペプチド成分を局在化することができるため、外来タンパク質の正確な処理や構築に対する植物の可能性も検証される。
【0139】
そのような植物を栽培した後、テロペプチド含有コラーゲンを通常は回収する。植物組織/細胞を好ましくは成熟時に回収し、抽出アプローチによってプロコラーゲン分子を単離する。プロコラーゲンがプロテアーゼ酵素で切断できる状態に留まるように回収を行うことが好ましい。一実施形態によれば、本発明の遺伝子導入植物から粗抽出物を生成させた後、プロテアーゼ酵素と接触させる。
【0140】
上述のように、プロペプチド含有又はテロペプチド含有コラーゲンをプロテアーゼとインキュベートしてアテロコラーゲン又はコラーゲンを生成させた後に可溶化することができる。プロペプチド含有又はテロペプチド含有コラーゲンをプロテアーゼとインキュベートする前に遺伝子改変細胞から精製してもよく、プロテアーゼとインキュベートした後に精製してもよいことが理解されよう。或いは、プロペプチド含有又はテロペプチド含有コラーゲンをプロテアーゼ処理の前に部分的に精製し、プロテアーゼ処理後に完全に精製することができる。或いは、プロペプチド含有又はテロペプチド含有コラーゲンをプロテアーゼで処理するのと同時に他の抽出/精製手順を行うことができる。
【0141】
本発明のテロペプチド含有コラーゲンを精製又は半精製する方法の例としては、硫酸アンモニウム等による塩析及び/又は限外濾過による小分子の除去が挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
組換えプロペプチド又はテロペプチド含有コラーゲンを切断するのに使用するプロテアーゼは、必ずしも動物に由来するものではない。例示的なプロテアーゼとしては、特定の植物由来のプロテアーゼ、例えば、フィシン(EC3.4.22.3)及び特定の細菌由来のプロテアーゼ、例えば、スブチリシン(EC3.4.21.62)やニュートラーゼが挙げられるが、これらに限定されない。本発明者らはrhトリプシンやrhペプシン等の組換え酵素の使用も企図する。このような酵素の幾つかは市販されており、例えば、イチジクの木のラテックス由来のフィシン(Sigma社、カタログ番号F4125及びEurope Biochem社)、Bacillus licheniformis由来のスブチリシン(Sigma社、カタログ番号P5459)、Bacillus amyloliquefaciens由来のニュートラーゼ(Novozymes社、カタログ番号PW201041)及びTrypZean(商標)、即ち、トウモロコシで発現の組換えヒトトリプシン(Sigma社、カタログ番号T3449)が挙げられる。
【0143】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、組換えヒトコラーゲンは組換えヒトI型コラーゲンである。
【0144】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、組換えヒトコラーゲンは植物由来の組換えヒトコラーゲンであり、幾つかの実施形態では、植物はタバコである。例示的なコラーゲンは、Stein H. (2009) Biomacromolecules;10:2640-5、国際公開2006/035442号、国際公開2009/053985号、国際公開2011/064773号、国際公開2013/093921号、及び国際公開2014/147622号に記載されている。
【0145】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、組換えヒトコラーゲンは、デフォルトパラメータを使用した全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のBlastPソフトウェアによって決定された配列番号15に記載の配列と少なくとも90%相同、少なくとも91%相同、92%相同、少なくとも93%相同、少なくとも94%相同、少なくとも95%相同、少なくとも96%相同、少なくとも97%相同、少なくとも98%相同、少なくとも99%相同又は100%相同であるアミノ酸配列を有する2個のα1ユニットと、配列番号6に記載の配列と少なくとも90%相同、少なくとも91%相同、92%相同、少なくとも93%相同、少なくとも94%相同、少なくとも95%相同、少なくとも96%相同、少なくとも97%相同、少なくとも98%相同、少なくとも99%相同又は100%相同であるアミノ酸配列を有する1個のα2ユニットを含む組換えヒトI型コラーゲンである。特定の実施形態によれば、I型コラーゲンは、デフォルトパラメータを使用した全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のBlastPソフトウェアによって決定された配列番号15に記載の配列から成る2個のα1ユニットと、配列番号6に記載の配列から成る1個のα2ユニットから成る。
【0146】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、α1ユニットは、配列番号16に記載の核酸配列と少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、例えば、100%同一であるポリヌクレオチド配列によってコードされる。α2ユニットは、配列番号10に記載の核酸配列と少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、例えば、100%同一であるポリヌクレオチド配列によってコードされる。
【0147】
同一性(例えば、パーセント相同性)は、任意の相同性比較ソフトウェア、例えば、デフォルトパラメータ等を使用する全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のBlastNソフトウェアを使用して決定することができる。
【0148】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、本明細書で各実施形態のいずれかに記載のヒト組換えコラーゲン(rhコラーゲン)は単量体rhコラーゲンである。
【0149】
「単量体」とは、水溶液に可溶であり、線維性凝集物を形成しない、本明細書に記載のrhコラーゲンを意味する。
【0150】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、本明細書で各実施形態のいずれかに記載のヒト組換えコラーゲン(rhコラーゲン)は線維性rhコラーゲンである。
【0151】
「線維性」とは、水溶液中で線維性凝集物の形態をとる、本明細書に記載のrhコラーゲンを意味する。通常、線維性rhコラーゲンは、単量体rhコラーゲンを原線維形成緩衝液(通常は塩基性pHを特徴とする)に曝露して形成するが、必ずしもそうでなくてもよい。線維性rhコラーゲンを形成するための例示的な手順は国際公開2018/225076号に記載されている。
【0152】
硬化性コラーゲン:
本発明の幾つかの実施形態は、硬化性コラーゲンに関する。
【0153】
「硬化性」とは、本明細書では、適切な硬化条件に曝露すると本明細書で定義したように硬化又は固化すること(例えば、粘度又はG’の変化)が可能な材料を意味する。
【0154】
硬化性材料は通常、重合及び/又は架橋を経て固化又は硬化する。
【0155】
硬化性材料は通常、重合性材料であり、適切な硬化条件又は適切な硬化エネルギー(適切なエネルギー源)に曝露すると重合及び/又は架橋する。或いは、硬化性材料は熱応答性材料であり、温度変化(例えば、加熱又は冷却)に曝露すると硬化又は固化する。場合によっては、硬化性材料は、硬化して固化材料を形成することができる小粒子(例えば、ナノ粒子又はナノクレイ)で形成されている。更に場合によっては、硬化性材料は、生物学的反応(例えば、酵素触媒反応)によって固化材料又は固体材料を形成する反応を経る生物学的材料である。
【0156】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、硬化性材料は光重合性材料であって、本明細書に記載のように放射線への曝露時に重合及び/又は架橋する。幾つかの実施形態では、硬化性材料は紫外線硬化性材料であって、本明細書に記載のように紫外線-可視光線への曝露時に重合又は架橋する。
【0157】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、硬化性材料を硬化条件(例えば、放射線、試薬)に曝露すると、鎖伸長、絡み合い及び架橋のいずれか又はその組み合わせによって重合する。架橋は化学的及び/又は物理的となり得る。
【0158】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、硬化性材料は単官能硬化性材料又は多官能硬化性材料とすることができる。
【0159】
本明細書では、単官能硬化性材料は1個の硬化性基、即ち、硬化条件(例えば、放射線、カルシウムイオンの存在)に曝露すると重合、絡み合い及び/又は架橋することが可能な官能基を含む。
【0160】
多官能硬化性材料は、2個以上、例えば、2個、3個、4個又はそれ以上の硬化性基を含む。多官能硬化性材料は、例えば、それぞれ2個、3個又は4個の硬化性基を含む二官能、三官能又は四官能硬化性材料とすることができる。
【0161】
「硬化性コラーゲン」とは、本明細書に定義の1個以上の硬化性基を有する、本明細書で各実施形態のいずれかに記載のコラーゲン(ヒト組換えコラーゲン)を意味する。本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性コラーゲンは、本明細書に定義の複数の硬化性基を含む多官能硬化性材料である。
【0162】
本明細書では「硬化性コラーゲン」、「硬化性rhコラーゲン」、「1個以上の(又は少なくとも1個の)硬化性基を有するコラーゲン」及び「1個以上の(又は少なくとも1個の)硬化性基を有するrhコラーゲン」という用語は交換可能に使用される。
【0163】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性コラーゲンは、本明細書で各実施形態に記載のアミノ酸配列を含み、コラーゲンを形成するアミノ酸残基の少なくとも一部で、好ましくはアミノ酸残基の側鎖の官能基への硬化性基を含む化合物の共有結合によって生成する1個以上(好ましくは複数)の硬化性基を有する。上記の代わりに、又は上記に加え、例えば、硬化性基を含む化合物をアミン又はカルボン酸へ共有結合させることによって、コラーゲンを形成する1個以上のユニットのそれぞれN末端及び/又はC末端に硬化性基を生成させることができる。
【0164】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性コラーゲンは国際公開2018/225076号に記載の通りである。
【0165】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性コラーゲンは、本明細書に記載のコラーゲン(例えば、本明細書で各実施形態のいずれかに記載のrhコラーゲン)であって、1個以上の硬化性基が(例えば、コラーゲンの各リジン残基への共有結合によって)直接結合しているもの、又は本明細書に記載の硬化性基で終端する弾性部分によって結合されていないものを表す。しかし、硬化性コラーゲンは、コンジュゲートに関連して本明細書に記載されているように、硬化性基で終端する1個以上の弾性部分を更に含むことができることに留意すべきである。
【0166】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、本明細書に記載の硬化性コラーゲンの硬化性基の少なくとも一部は架橋性基であり、硬化条件に曝露すると架橋する。
【0167】
幾つかの実施形態では、硬化性基はフリーラジカル機構によって重合及び/又は架橋することができる。
【0168】
このような硬化性基の例としては、アクリル基、例えば、アクリル酸基、メタクリル酸基、アクリルアミド基及びメタクリルアミド基が挙げられ、本明細書ではこれらはまとめて(メタ)アクリル基と称される。他のフリーラジカル硬化性基としては、チオール、ビニルエーテル、及び反応性二重結合を特徴とする他の基を挙げることができる。
【0169】
幾つかの実施形態では、硬化性基は、カチオン重合や(カチオン又はアニオン)開環重合等の他の機構によって重合及び/又は架橋することができる。このような硬化性基の例としては、エポキシ含有基、カプロラクタム、カプロラクトン、オキセタン及びビニルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0170】
他の硬化性基は、例えば、官能性カルボン酸とアミン基(各々は他方と反応して架橋することができる硬化性基である)との間のアミド結合の形成、アミンとアルデヒド基との間のイミン結合の形成、触媒の存在下及び/又は紫外線への曝露時の重縮合によるイソシアネート基とヒドロキシル基との間のウレタンの形成、及び2個のチオール間のジスルフィド結合の形成を含むことができる。
【0171】
他の如何なる硬化性基も企図される。
【0172】
硬化性コラーゲンの硬化性基の生成は、本明細書に記載のように、硬化性基を含むか又はその硬化性基を発生可能な材料とコラーゲンに存在する化学適合性官能基とを直接化学反応させる手段によって行うか、又は当技術分野で周知の化学を用いたスペーサー又はリンカーの手段によって行うことができる。例えば、硬化性基と官能基を含む材料をコラーゲンの適合性官能基(例えば、アミノ酸側鎖の官能基)と反応させて、硬化性基がアミノ酸側鎖の置換基となるようにすることができる。
【0173】
幾つかの実施形態では、適合性官能基は先ず、コラーゲンの化学基の化学修飾によってコラーゲン内に生成し、反応時に硬化性基を含むか又は生成する材料と反応する。
【0174】
硬化性コラーゲンが1個を超える硬化性基を含む場合には、硬化性基は同一であっても異なっていてもよい。
【0175】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、本実施形態の硬化性コラーゲン内の硬化性基の少なくとも一部又は全ては、本明細書に記載の照射への曝露時に重合及び/又は架橋することができる光重合性基(例えば、紫外線硬化性基)である。
【0176】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性基は光硬化性基又は光重合性基(例えば、アクリレート又はメタクリレート等の(メタ)アクリル基)である。
【0177】
上記の代わりに、又は上記に加え、硬化性基はチオール含有基であり、硬化時にジスルフィド架橋が得られる。
【0178】
上記の代わりに、又は上記に加え、硬化性基又は硬化性部分は(EDC等のカップリング剤を使用した)糖化又はコンジュゲーション等の化学反応によって硬化する。
【0179】
幾つかの実施形態によれば、硬化性基は、硬化時にペプチド結合を形成するアミン及びカルボキシル基を含む。
【0180】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、本実施形態の硬化性コラーゲン内の硬化性基の少なくとも一部又は全部は、本明細書で定義した(メタ)アクリル基である。
【0181】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、メタクリルアミド等のアクリル基は、アクリレート又はメタクリレート(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル又はメタクリルエステル、アクリル又はメタクリル無水物)を(例えば、リジン残基の)アミン官能基と反応させて生成させることができる。
【0182】
本発明の実施形態の幾つかによれば、本明細書に記載の硬化性コラーゲン内の硬化性基の数によって硬化の程度(例えば、架橋の程度)を決めることができ、その数を操作して所望の硬化度(例えば、架橋度)を得ることができる。
【0183】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性コラーゲンは、本明細書に記載のリジン残基との反応によって生成する複数のアクリルアミド又はメタクリルアミド硬化性基を有する。
【0184】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性コラーゲンは、コラーゲン内のリジン残基のアミン基を置換する複数のアクリルアミド又はメタクリルアミド硬化性基を有する。
【0185】
幾つかの実施形態では、コラーゲン内のリジン残基の少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%がメタクリルアミド又はアクリルアミド基で置換されている。幾つかの実施形態では、硬化性コラーゲンは、そのリジン残基の10%~90%、又は10%~80%、又は10%~60%、又は10~50%、又は20~90%、又は20~80%、又は20~60%、又は20~50%(その間の中間値や部分範囲を含む)がメタクリルアミド又はアクリルアミド基で置換されていることを特徴とする。
【0186】
本明細書に記載の硬化性コラーゲン(例えば、rhコラーゲン)は、例えば国際公開2018/225076号に記載されているように、硬化性基を含む材料又は硬化性基を生成する材料をコラーゲン(例えば、rhコラーゲン)と反応させて調製することができる。
【0187】
コラーゲン(例えば、rhコラーゲン)内の硬化性基の数は、コラーゲン(例えば、rhコラーゲン)と反応して硬化性基を生成させる材料の量を操作して制御することができる。
【0188】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性コラーゲンは、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載の組換えヒトI型コラーゲンである。
【0189】
コンジュゲート:
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、コラーゲンとコラーゲンに共有結合している複数の硬化性弾性部分とを含むコンジュゲートが提供される。
【0190】
本発明のこの様相の実施形態に係るコンジュゲートは、硬化性コラーゲンと見なすことができ、これは、硬化条件に曝露すると、例えば、少なくとも硬化性弾性部分の、また場合によってはコラーゲン上の他の硬化性基(硬化性コラーゲンが複数の硬化性弾性部分とコンジュゲートしている場合)の重合及び/又は架橋による、本明細書に記載の重合及び/又は架橋によって固化する。
【0191】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コンジュゲートはコラーゲンとコラーゲンに共有結合している複数の弾性部分とを含み、弾性部分の少なくとも一部は本明細書で定義した硬化性基を有する弾性部分である。
【0192】
「複数」とは、コラーゲンに結合している2個以上、好ましくは3個以上の部分を意味する。
【0193】
本明細書では、基(例えば、硬化性基)又は材料(例えば、硬化性材料)に関して示す「弾性」及び「エラストマー」という用語は交換可能に使用される。
【0194】
複数のエラストマー部分は同一であっても異なっていてもよい。異なる場合、その相違は、弾性部分の化学組成若しくは立体化学、及び/又は硬化性基の種類、及び/又は硬化性基の位置であり得る。
【0195】
硬化性基を有する弾性部分は、本明細書では「硬化性弾性部分」又は「硬化性エラストマー部分」又は「硬化性基を有するエラストマー部分」又は「硬化性基を有する弾性部分」とも交換可能に称され、全て弾性又はエラストマー部分が1個以上の硬化性基を有することを意味する。
【0196】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、エラストマー部分は各硬化性材料の重合及び/又は架橋の際に形成された固化材料に弾性を付与する部分である。このような部分は、通常、アルキル、アルキレン鎖、炭化水素鎖、アルキレングリコール基又は鎖(例えば、本明細書で定義したオリゴ又はポリ(アルキレングリコール)、本明細書で定義したウレタン、オリゴウレタン又はポリウレタン部分等(上述の任意の組み合わせ(例えば、コポリマー)を含む)を含む。
【0197】
「弾性」とは、変形した物体が、変形を引き起こした力が除去されたときに元の形状及びサイズに戻る能力を意味する。弾性は、例えば、固化材料の貯蔵弾性率、弾性率、及び/又はせん断回復速度を求めることによって決定することができる。これらのパラメータを決定する方法の例を以下の実施例の項に記載する。他の方法も当技術分野で周知であり、また企図される。
【0198】
硬化性エラストマー部分は、1個の硬化性基を含む単官能エラストマー部分又は2個以上の硬化性基を含む多官能硬化性部分とすることができる。
【0199】
本発明の幾つかの実施形態に係る単官能硬化性エラストマー部分は、式Iで表されるビニル含有化合物から誘導することができる。
【化1】
式中、R
1及びR
2の内の少なくとも一方は、本明細書に記載のエラストマー部分である、且つ/又はエラストマー部分を含む。
【0200】
式I中の(=CH2)基は、重合性基を表し、幾つかの実施形態によれば紫外線硬化性基であり、そのため、エラストマー硬化性材料及びそれに由来する部分は紫外線硬化性材料又は部分である。
【0201】
例えば、R1は、本明細書で定義したエラストマー部分であるか又はそれを含み、R2は、例えば、水素、C(1~4)アルキル、C(1~4)アルコキシ、又は他の任意の置換基であり、好ましくは水素又はアルキル(例えば、メチル)である。
【0202】
幾つかの実施形態では、R1はカルボキシレートであり、硬化性エラストマー部分は単官能(メタ)アクリレートである。これらの実施形態の幾つかでは、R2は水素であり、硬化性エラストマー部分は単官能アクリレートである。これらの実施形態の幾つかでは、R2はメチルであり、硬化性エラストマー部分は単官能メタクリレートである。R1がカルボキシレートであり、R2が水素又はメチルである硬化性部分は、本明細書ではまとめて「(メタ)アクリレート」と称される。
【0203】
これらの実施形態の幾つかでは、カルボキシレート基-C(=O)-ORaは、本明細書に記載のエラストマー部分であるか又はそれを含み且つ本明細書に記載のコラーゲンに連結している、Raを含む。幾つかの実施形態では、Raエラストマー部分は、式Iの化合物をコラーゲンのそれぞれの基にコンジュゲートさせるのに使用する反応性基(例えば、コラーゲンのリジン残基のアミン基と反応するカルボキシレート基)で終端する。
【0204】
幾つかの実施形態では、R1はアミドであり、エラストマー部分は単官能アクリルアミドである。これらの実施形態の幾つかでは、R2は水素であり、硬化性エラストマー部分は単官能アクリルアミドである。これらの実施形態の幾つかでは、R2はメチルであり、硬化性エラストマー部分は単官能メタクリルアミドである。R1がアミドであり、R2が水素又はメチルである硬化性エラストマー部分は、本明細書ではまとめて「(メタ)アクリルアミド」と称される。
【0205】
(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミドは、本明細書ではまとめて(メタ)アクリル材料と称される。
【0206】
多官能エラストマー部分では、2個以上の重合性基が本明細書に記載のエラストマー部分によって互いに連結しており、エラストマー部分はコラーゲンにも連結している。
【0207】
幾つかの実施形態では、多官能エラストマー部分は本明細書に記載の式Iで表すことができ、式中、R1は本明細書に記載の重合性基で終端するエラストマー材料を含む。
【0208】
例えば、二官能エラストマー硬化性部分は、式I*で表すことができる。
【化2】
式中、Eは本明細書に記載のエラストマー連結部分であり、R’
2はR
2について本明細書で定義した通りである。
【0209】
幾つかの実施形態では、多官能(例えば、二官能、三官能又はそれ以上)のエラストマー硬化性材料は、式IIによってまとめて表すことができる。
【化3】
式中:
Lはコラーゲンへの結合点を表し、結合、又は連結部分、例えばアルキレン若しくは炭化水素鎖であってよく、
R
2及びR’
2は本明細書で定義した通りであり、
Bは、(X
1の性質に応じて)本明細書で定義した三官能又は四官能の分岐単位であり、
X
2及びX
3は各々独立して、存在しないか、本明細書に記載のエラストマー部分であるか、又はアルキル、炭化水素、アルキレン鎖、シクロアルキル、アリール、アルキレングリコール、ウレタン部分、及びそれらの任意の組み合わせから選択され、
X
1は存在しないか、又はアルキル、炭化水素、アルキレン鎖、シクロアルキル、アリール、アルキレングリコール、ウレタン部分、及びエラストマー部分(これらは各々必要に応じてメタ(アクリレート)部分(O-C(=O)CR’’
2=CH
2)で置換(例えば、終端)されている)、及びそれらの任意の組み合わせから選択されるか、或いは、X
1は、下記式である。
【化4】
式中:
曲線は結合点を表し、
B’は分岐単位であり、Bと同じであるか又は異なっており、
X’
2及びX’
3は各々独立して、X
2及びX
3について本明細書で定義した通りであり、
R’’
2及びR’’’
2はR
2及びR’
2について本明細書で定義した通りである
(但し、X
1、X
2及びX
3の内の少なくとも1つが、本明細書に記載のエラストマー部分であるか又はそれを含むものとする)。
【0210】
本明細書で使用する「分岐単位」という用語は、マルチラジカル、好ましくは脂肪族基又は脂環式基を表す。「マルチラジカル」とは、連結部分が、2個以上の原子及び/又は基又は部分の間を連結するように2個以上の結合点を有することを意味する。
【0211】
即ち、分岐単位は、物質の単一の位置、基、又は原子に結合したときに、この単一の位置、基、又は原子に連結した2個以上の官能基を形成することにより、単一の官能基を2個以上の官能基に「分岐」させる化学部分である。
【0212】
幾つかの実施形態では、分岐単位は、2個、3個又はそれ以上の官能基を有する化学部分に由来する。幾つかの実施形態では、分岐単位は、本明細書に記載の分岐アルキル又は分岐連結部分である。
【0213】
4個以上の重合性基を有する多官能エラストマー硬化性材料も企図され、式IIに示す構造と同様の構造を有することができ、その上、例えば、分岐がより多い分岐単位Bを含むか、又は本明細書で定義した2個の(メタ)アクリレート部分を有するX1部分を含むことができる。
【0214】
幾つかの実施形態では、エラストマー部分、例えば式IのRa又は式I*及びII中にEとして示す部分は、直鎖状又は分岐状であってよいアルキルであって、好ましくは3個以上又は4個以上の炭素原子であるもの、アルキレン鎖であって、好ましくは長さが3個以上又は4個以上の炭素原子であるもの、本明細書で定義したアルキレングリコール、本明細書で定義したオリゴ(アルキレングリコール)又はポリ(アルキレングリコール)であって、好ましくは長さが4個以上の原子であるもの、本明細書で定義したウレタン、オリゴウレタン又はポリウレタンであって、好ましくは長さが4個以上の炭素原子であるもの、及び上述の任意の組み合わせであるか又はそれらを含む。
【0215】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、エラストマー硬化性材料は本明細書に記載の(メタ)アクリル硬化性材料であり、幾つかの実施形態では、エラストマー硬化性材料はアクリレートである。
【0216】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、エラストマー硬化性部分は単官能エラストマー硬化性部分であり、幾つかの実施形態では、単官能エラストマー硬化性材料は式Iで表され、式中、R1は-C(=O)-ORa又は-C(=O)-NH-Raであり、Raは本明細書で定義したポリ(アルキレングリコール)鎖(例えば、アルキレングリコール基が4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上のもの)であるか又はそれを含む。
【0217】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、エラストマー硬化性部分は単官能エラストマー硬化性部分であり、幾つかの実施形態では、単官能エラストマー硬化性材料は式Iで表され、式中、R1は-C(=O)-NH-Raであり、Raは本明細書で定義したポリ(アルキレングリコール)鎖(例えば、アルキレングリコール基が4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上のもの)であるか又はそれを含む。
【0218】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、エラストマー硬化性部分は、それが由来するエラストマー材料が固化(単独で)した際にTgが0℃未満又は-10℃未満のポリマー材料が得られるように選択される。
【0219】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性エラストマー部分の各々において、硬化性基は弾性部分の各々の末端にあり、それによって、例えば式Iでは、Raがエラストマー部分であるか又はそれを含む場合、エラストマー部分はその他の端でコラーゲンと結合している。上記の代わりに、又は上記に加え、末端以外の位置に硬化性基を有する硬化性エラストマー部分も企図されることに留意すべきである。
【0220】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性エラストマー部分の少なくとも一部又はその各々において、硬化性基は光硬化性基又は光重合性基、例えば紫外線硬化性基である。
【0221】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性エラストマー部分の少なくとも一部又はその各々において、硬化性基は(メタ)アクリル基である。これらの実施形態の幾つかでは、硬化性基は(メタ)アクリルアミドであり、幾つかの実施形態では、メタクリルアミドである。
【0222】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性エラストマー部分の少なくとも一部又はその各々において、弾性部分は本明細書に記載のポリ(アルキレングリコール)部分であるか又はそれを含み、これらの実施形態の幾つかでは、ポリ(アルキレングリコール)部分は(メタ)アクリル基(例えば、(メタ)アクリルアミド)を末端に有する。
【0223】
エラストマー部分の少なくとも一部又はその各々において、硬化性基は、連結部分によってエラストマー(例えば、ポリ(アルキレングリコール))部分に連結されており、そのため、例えば(メタ)アクリル硬化性エラストマー部分は、式Aで表される。
【化5】
式中:
R
2は本明細書で各実施形態のいずれかにおいて定義した通りであり、
Wは-(C=X)-O-又は-C=X-NRaであり、
XはO又はSであり、
Raは水素又はアルキルであり、
Lは連結部分であり、
Eはエラストマー部分、例えば、本明細書で各実施形態のいずれかにおいて定義した通りのポリ(アルキレングリコール)であり、
破線は、(例えば、本明細書に記載の共有結合による)コラーゲンへの結合点を表す。
【0224】
幾つかの実施形態では、連結部分はアルキレン鎖であるか又はそれを含み、好ましくは、長さが10個以下、又は8個以下、又は6個以下、又は4個以下の炭素原子、例えば、長さが1~6個、又は1~4個の炭素原子である短いアルキレン鎖である。
【0225】
幾つかの実施形態では、連結部分は、結合、例えばアミド結合、カルバメート結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、チオアミド結合、チオカルバメート結合、スルホンアミド結合等によってエラストマー部分(例えば、ポリ(アルキレングリコール)部分に結合している。これらの実施形態の幾つかでは、連結部分はカルバメート結合によってエラストマー部分に接続している。
【0226】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、エラストマー部分がポリ(アルキレングリコール)部分であるか又はそれを含む場合、複数のそのような部分の平均分子量は、少なくとも1000グラム/mol、又は少なくとも2000グラム/mol、又は少なくとも3000グラム/mol又は少なくとも4000グラム/mol、例えば、約1000~約20000グラム/mol、約2000~約20000グラム/mol、約3000~約20000グラム/mol、約4000~約20000グラム/mol、約1000~約15000グラム/mol、約2000~約15000グラム/mol、約3000~約15000グラム/mol、又は約4000~約15000グラム/mol、約1000~約10000グラム/mol、約2000~約10000グラム/mol、約3000~約10000グラム/mol又は約4000~約10000グラム/mol、又は約1000~約8000グラム/mol、約2000~約8000グラム/mol、約3000~約8000グラム/mol、約4000~約8000グラム/molの範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0227】
本明細書で各実施形態のいずれかに記載の硬化性エラストマー部分の各々は、硬化性エラストマー部分の官能(反応性)基とコラーゲンの官能基、好ましくはコラーゲン末端にある官能基及び/又はアミノ酸側鎖の官能基との間の共有結合によってコラーゲンに連結させることができる。硬化性エラストマー部分は、同じ又は異なる結合によってコラーゲンに連結させることができる。
【0228】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、エラストマー部分の少なくとも一部又は全てがコラーゲンのリジン残基に共有結合している。
【0229】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、エラストマー部分の少なくとも一部又は全てがカルバメート結合によってコラーゲンに共有結合している。
【0230】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、エラストマー部分の少なくとも一部又は全てが、結合、例えばアミド結合、カルバメート結合、チオアミド結合、チオカルバメート結合、スルホンアミド結合、ヒドラジン結合、ヒドラジン結合等によってコラーゲンのリジン残基に共有結合している。
【0231】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、エラストマー部分の少なくとも一部又は全てがカルバメート結合によってコラーゲンのリジン残基に共有結合している。
【0232】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲン内のリジン残基の少なくとも1%、例えば1~20%、又は1~10%、又は少なくとも2%、例えば2~20%、又は2~10%に、(例えば、カルバメート結合によって)硬化性エラストマー部分が共有結合している。
【0233】
本実施形態に係る例示的なコンジュゲートは
図1に示されており、本明細書では「CPM」とも称される。
【0234】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性エラストマー部分が結合しているコラーゲンは、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の通りである。
【0235】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは本明細書に記載のヒトI型コラーゲンである。
【0236】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは本明細書に記載の組換えコラーゲンである。
【0237】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは本明細書に記載の植物由来の組換えコラーゲンである。
【0238】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは本明細書に記載の植物由来の組換えヒトI型コラーゲン、例えばタバコ由来のコラーゲンである。
【0239】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、エラストマー硬化性基が結合しているコラーゲンは、硬化性エラストマー部分以外の複数の硬化性基、例えば光硬化性基を有しており、その結果幾つかの実施形態では、コンジュゲートは、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載の硬化性エラストマー部分が結合している、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の硬化性コラーゲンを含む。
【0240】
本実施形態に係る例示的な硬化性コラーゲンは、本明細書では「CMR」とも称される。
【0241】
硬化性エラストマー部分が結合している、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の硬化性コラーゲンを含む例示的なコンジュゲートは、本明細書では「CPMR」とも称される。
【0242】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、本明細書に記載のコンジュゲートを調製するプロセスが提供される。
【0243】
一般に、このプロセスは、一端が本明細書に記載の硬化性基で終端しており他端が第1の反応性部分で終端しているエラストマー部分を本明細書に記載のコラーゲンとカップリングさせることによって行い、その際、第1の反応性部分とコラーゲンの化学適合性部分との間の反応を可能にする条件下で接触を行う。
【0244】
幾つかの実施形態によれば、このプロセスは、カップリングの前に、一端が本明細書に記載の硬化性基で終端しており他端が第1の反応性部分で終端しているエラストマー部分を調製することを更に含む。
【0245】
例示的な合成経路を以下の実施例の項に更に詳細に記載する。
【0246】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載の硬化性コラーゲンと、硬化性コラーゲンに結合している複数の弾性部分とのコンジュゲートである、エラストマー硬化性コラーゲンが提供される。これらの実施形態の幾つかでは、弾性部分は硬化性基を有さない。弾性部分は同一であっても異なっていてもよく、各々独立して、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の弾性部分であってよい。例示的実施形態では、弾性部分の少なくとも一部は、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のポリ(アルキレングリコール)部分を含む。これらの例示的実施形態の幾つかでは、ポリ(アルキレングリコール)部分の少なくとも一部が「キャップ」されており、即ち、ヒドロキシ以外の基、例えばアルコキシ(例えば、メトキシ)で終端している。例示的実施形態では、コンジュゲートは複数のポリ(エチレングリコール)部分を含み、その各々が約5,000又は6,000グラム/molの平均分子量を有し、各々がメトキシ基で終端している。これらの実施形態に係る例示的なコンジュゲートは、以下の実施例の項の実施例6に記載されており、「PCMR」とも称される。
【0247】
硬化性配合物:
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、本明細書に記載のコンジュゲートを含む配合物(又は組成物)が提供され、これは本明細書では硬化性組成物又は硬化性配合物とも称される。幾つかの実施形態によれば、硬化性組成物は、本明細書に記載の3D物体の積層造形(例えば、バイオプリンティング)で使用可能である。幾つかの実施形態によれば、組成物は、積層造形プロセス(例えば、バイオプリンティング)用の1種以上のモデリング材料配合物の調製に又は1種以上のモデリング材料配合物として、使用可能であるか又はそれに使用するためのものである。積層造形は、本明細書に記載のコラーゲン材料をその少なくとも一部に含む3次元物体の積層造形である。
【0248】
本実施形態の幾つかによれば、本明細書に記載のコンジュゲートを含む組成物は、本明細書ではバイオインク組成物又はバイオインク配合物、又は単にバイオインクとも称される。
【0249】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は担体を更に含み、幾つかの実施形態では、担体は水性担体である。
【0250】
水性担体は水、pHが約2~約10、又は約2~約9、又は約3~約9、又は約3~約8の範囲であることを特徴とする緩衝液、塩基性水溶液又は酸性水溶液とすることができる。
【0251】
水性担体は塩や他の水溶性材料を様々な濃度で含むことができる。幾つかの実施形態では、担体中の塩の濃度は、約0.1mM~約0.2M、又は約0.1mM~約0.1M、又は約0.1mM~約100mM、又は約0.1mM~約50mM、又は約0.1mM~約20mMの範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0252】
幾つかの実施形態では、水性担体は塩を生理学的に許容し得る濃度で含んでおり、配合物が生理学的モル浸透圧濃度付近のモル浸透圧濃度を特徴とするようになっている。
【0253】
幾つかの実施形態では、水性担体はリン酸塩、例えば、一塩基性リン酸ナトリウム(NaH2PO4)及び/又は二塩基性リン酸ナトリウム(リン酸水素ナトリウム、Na2HPO4)を含む。幾つかの実施形態では、配合物中のリン酸塩の総濃度は約0.1Mである。
【0254】
幾つかの実施形態では、水性担体はNaCl又は他の任意の生理学的に許容し得る塩を含む。
【0255】
幾つかの実施形態では、水性担体はリン酸緩衝液を含み、幾つかの実施形態では、水性担体は、一塩基性リン酸ナトリウム及び/又は二塩基性リン酸ナトリウムとNaClを含むリン酸緩衝食塩水を含む。
【0256】
リン酸緩衝食塩水(PBS)は、市販のPBS(例えば、DPBS)又は望ましいpH及び/又はモル浸透圧濃度を特徴とする特注緩衝液とすることができる。
【0257】
例示的実施形態では、水性担体は、本明細書に記載のリン酸ナトリウム塩を約0.1Mの濃度で含み、NaClを約0mM~約200mMの濃度(その間の中間値や部分範囲を含む)で含むリン酸緩衝液を含む。
【0258】
他の如何なる緩衝液も本実施形態の状況で使用可能である。
【0259】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、水性担体は酸を含む。
【0260】
幾つかの実施形態では、酸の濃度は100mM未満であり、例えば、0.1mM~50mM、又は0.1mM~30mM、又は0.1mM~40mM、又は0.1mM~30mM、又は1~30mM、又は10~30Mm(その間の中間値や部分範囲を含む)とすることができる。
【0261】
酸は無機酸(例えば、HCl)又は有機酸(好ましくは上述の濃度で水溶性である(例えば、酢酸))とすることができる。
【0262】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、水性担体は培地を含む。培地は市販の培地又は特注の培地とすることができる。培地は、少なくとも細胞生存を可能にする任意の液体培地とすることができる。このような培地は、例えば、塩、糖、アミノ酸及び鉱物を適切な濃度で様々な添加剤と共に含むことができ、当業者は特定の細胞型に適した培地を決定することができる。このような培地の非限定的な例としては、リン酸緩衝食塩水、DMEM、MEM、RPMI1640、マッコイ5A培地、培地199及びIMDM(例えば、Biological Industries社(イスラエル国、ベス・ハエメック)、Gibco-Invitrogen Corporation(米国、ニューヨーク州、グランドアイランド)から入手可能)が挙げられる。
【0263】
培地には、様々な抗生物質(例えば、ペニシリンやストレプトマイシン)、増殖因子又はホルモン、特定のアミノ酸(例えば、L-グルタミン)、サイトカイン等を添加することができる。
【0264】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、pHが約2~約9、又は約3~約9、又は約3~約8.5、又は約3~約8、又は約3.5~約9、又は約3.5~約8.5、又は約3.5~約8、又は約4~約8.5、又は約4~約8、又は約4.5~約8.5、又は約4.5~約8、又は約5~約8.5、又は約5~約8、又は約5.5~約8.5、又は約5.5~約8、又は約6~約8の範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0265】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、硬化性配合物中の本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のコンジュゲートの濃度は0.5mg/mL~50mg/mL、又は0.5mg/mL~20mg/mL、又は1mg/mL~50mg/mL、又は1mg/mL~40mg/mL、又は1mg/mL~30mg/mL、又は1mg/mL~20mg/mL、又は0.5mg/mL~10mg/mL、又は1mg/mL~10mg/mLの範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0266】
硬化性配合物中のコンジュゲートの濃度は、配合物及び硬化時(例えば照射等の硬化条件への曝露時)に得られる固化材料のレオロジー特性に影響を及ぼすことがあり、用いるAM方法及び条件や最終物体又はその一部の所望の特性に応じて操作することができる。
【0267】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、(例えば、室温、例えば20~25℃の室温での)ずり減粘挙動を特徴とし、ずり減粘組成物である。
【0268】
「ずり減粘」という用語は、以下の実施例の項に記載するようにレオメータを使用して求めた場合の、指定温度での(せん断歪み下での)せん断力印加時の粘度低下(流動性上昇)に反映される流体材料の特性を表す。
【0269】
本実施形態の幾つかでは、ずり減粘材料は、せん断歪みを約1%から50%超に上げると、そのずり弾性率が大幅に(例えば、少なくとも100%)低下するようになる。従って、ずり減粘材料はせん断力依存の粘度プロファイルを示す。
【0270】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は印加されたせん断力の変化に対する回復速度の速さ(速いせん断回復性)を特徴とする。
【0271】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、1分、2分、3分、4分、5分、更には10分のせん断休止(せん断力ゼロ)後の変化が6%以下、又は10%以下であることを特徴とする。
【0272】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、少なくとも1分間(例えば、約60秒~約120秒、例えば約100秒)の期間に亘ってせん断速度を約0(1/秒)又は1(1/秒)から50(1/秒)超に上昇させた際に、その粘度が少なくとも80%回復、又は少なくとも85%回復、又は少なくとも90%回復、又は少なくとも92%回復することを特徴とする。
【0273】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、本明細書に記載のように、せん断速度10(1/秒)、室温にて、以下の実施例の項に記載のレオメータを使用して求めた粘度が200センチポアズ以下又は250センチポアズ以下であることを特徴とする。
【0274】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、硬化性コラーゲンの濃度が少なくとも2mg/mL、又は少なくとも3mg/mL、又は少なくとも4mg/mL、又は約2mg/mL~約10mg/mL、又は約2mg/mL~約5mg/mLの範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である場合に上述のいずれかの粘度/レオロジー挙動を特徴とする。
【0275】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、バイオインク組成物中のコンジュゲートの濃度は、約0.1~約20、又は0.1~約10、又は約1~約20、又は約5~約20、又は約8~約20、又は約10~約20、又は約5~約15、又は約8~約15、又は約8~約12、又は約10~約15、又は約1~約10、又は約2~約10、又は約2~約5、又は約3~約10、又は約3~約5、又は約2~約8、又は約2~約6、又は約4~約10、又は約4~約8、又は約4~約6mg/mL、又は約5~約10、又は約6~約10、又は約8~約10mg/mLの範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)とすることができる。
【0276】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は、固化すると、水性担体内のコンジュゲートの架橋によってヒドロゲル材料を形成する。
【0277】
本明細書及び当技術分野では、「ヒドロゲル」という用語は、水を少なくとも20%、通常は少なくとも50%、又は少なくとも80%、最大で約99.99%(質量%)含む3次元繊維ネットワークを表す。ヒドロゲルは、殆どが水であるが、液体分散媒内でポリマー鎖(例えば、コラーゲン鎖)によって形成された3次元架橋固体状ネットワークに起因して、固体又は半固体のような挙動を示す材料と見なすことができる。ポリマー鎖は、化学結合(共有結合、水素結合、及びイオン結合/錯体結合/金属結合、通常は共有結合)によって相互連結(架橋)している。
【0278】
本明細書全体を通して、ポリマー鎖又はポリマー材料が記載される場合には、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド及び核酸等のポリマー生物学的材料(例えば、高分子)を包含する。
【0279】
ヒドロゲルは、柔らかくて脆くて弱いものから硬くて弾力性があり丈夫なものに至る物理的な形態をとり得る。柔らかいヒドロゲルは、弾性及び粘弾性パラメータを含むレオロジーパラメータによって特徴付けられ得る一方、硬いヒドロゲルは、引張強度パラメータ、弾性率、貯蔵弾性率及び損失弾性率(これらの用語は当技術分野で知られている)によって適切に特徴付けられる。
【0280】
ヒドロゲルの柔らかさ/硬さは、特にポリマー鎖の化学組成、「架橋度」(鎖間の相互結合リンクの数)、水性媒体の含有量と組成、及び温度によって支配される。
【0281】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、バイオインク組成物は、固化した際に貯蔵弾性率(G’)が25,000Pa以下であることを特徴とする。
【0282】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、バイオインク組成物は、固化した際に、貯蔵弾性率(G’)が硬化性弾性部分を持たない硬化性コラーゲンを含む比較用バイオインク組成物の貯蔵弾性率よりも少なくとも5,000Pa、又は少なくとも6,000Pa、又は少なくとも8,000Pa、又は少なくとも10,000Pa低いことを特徴とする。これらの実施形態の幾つかによれば、比較用バイオインク組成物は、本実施形態のコンジュゲートと同量の硬化性コラーゲンと、それと同じ担体及び添加剤とを含む。
【0283】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、バイオインク組成物は、固化した際に、貯蔵弾性率(G’)が約100Pa~約50,000Pa、又は約1,000Pa~約50,000Pa、又は約100Pa~約40,000Pa、又は約1,000Pa~約40,000Pa、又は約100Pa~約30,000Pa、又は約1,000Pa~約30,000Pa、又は約100Pa~約25,000Pa、又は約1,000Pa~約25,000Pa、又は約1,000Pa~約20,000Pa、又は約100Pa~約20,000Pa、又は約1,000Pa~約20,000Pa、又は約5,000Pa~約30,000Pa、又は約5,000Pa~約25,000Pa、又は約10,000Pa~約30,000Pa又は約10,000Pa~約25,000Paの範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)であることを特徴とする。
【0284】
本発明の幾つかの実施形態によれば、ヒドロゲルは、主な架橋ネットワークに化学的に結合していない高分子ポリマー要素及び/又は繊維要素を含むこともあるが、むしろ機械的な絡み合い及び/又は浸漬を生じる。このような高分子繊維要素は、(例えば、メッシュ構造のように)織ることができるか又は不織布にすることができ、幾つかの実施形態では、ヒドロゲルの繊維ネットワークの強化材料として機能することができる。このような高分子の非限定的な例としては、ポリカプロラクトン、ゼラチン、架橋ゼラチン(例えばゼラチンメタクリレートで形成されたもの)、アルギネート、架橋アルギネート(例えばアルギネートメタクリレートで形成されたもの)、キトサン、架橋キトサン(例えばキトサンメタクリレートで形成されたもの)、グリコールキトサン、架橋グリコールキトサン(例えばグリコールキトサンメタクリレートで形成されたもの)、ヒアルロン酸(HA)、架橋ヒアルロン酸(例えばHAメタクリレートで形成されたもの)、及び他の架橋又は非架橋の天然又は合成ポリマー鎖等が挙げられる。上記の代わりに、又は上記に加え、このような高分子は、例えば、架橋剤として作用するか、又はヒドロゲルの3次元ネットワークの一部を形成することによって、ヒドロゲルの主な架橋ネットワークに化学的に結合する。
【0285】
幾つかの実施形態では、ヒドロゲルは多孔質であり、幾つかの実施形態では、ヒドロゲル中の細孔の少なくとも一部はナノ細孔であり、平均体積がナノスケール範囲である。
【0286】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性配合物は1種以上の追加の材料、例えば、1種以上の追加の硬化性材料、1種以上の非硬化性材料及び/又は1種以上の生物学的成分又は材料を更に含む。
【0287】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、印刷媒体(1種、2種、又はそれ以上のモデリング材料配合物、例えば1種以上のバイオインク配合物を含んでいてもよい、本明細書に記載の構築材料)は1種以上の追加の材料、例えば、1種以上の追加の硬化性材料、1種以上の非硬化性材料及び/又は1種以上の生物学的成分を含む。
【0288】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、追加の材料はコンジュゲート含有硬化性配合物(本明細書ではバイオインク組成物として記載)又は1種以上の他のモデリング材料配合物に含まれる。
【0289】
本実施形態に係るコンジュゲート含有硬化性配合物又は1種以上の他のモデリング材料配合物に含めることができる追加の硬化性材料は、本明細書に定義の任意の硬化性材料とすることができ、生体適合性材料であることが好ましい。
【0290】
幾つかの実施形態では、追加の硬化性材料は、本明細書に定義のヒドロゲルであるか又はそれを含み、架橋及び/又は共重合反応が生じる硬化条件に曝露すると、通常は更なる架橋及び/又は共重合によって固化モデリング材料を形成することができる。このような硬化性材料は、本明細書ではヒドロゲル硬化性材料又はヒドロゲル形成材料とも称される。
【0291】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、硬化性材料は、本明細書に定義のヒドロゲル形成材料であるか又はそれを含み、架橋、重合及び/又は共重合、及び/又は絡み合い反応が生じる硬化条件に曝露すると、通常は架橋、絡み合い、重合及び/又は共重合によって固化モデリング材料としてのヒドロゲルを形成することができる。このような硬化性材料は、本明細書ではヒドロゲル形成硬化性材料又はゲル形成材料とも称される。
【0292】
本発明の実施形態によれば、ヒドロゲルは生物起源であってもよく、合成的に調製してもよい。
【0293】
本発明の幾つかの実施形態によれば、ヒドロゲルは生体適合性であり、生物学的部分がヒドロゲルに含浸又は蓄積すると生物学的部分の活性が維持される、即ち、生物学的部分の活性の変化が生理学的媒体中の生物学的部分の活性と比較して30%以下、又は20%以下、又は10%以下となる。
【0294】
本実施形態に係るヒドロゲルを形成するのに使用可能なポリマー又はコポリマーの例としては、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルピロリドン及び上述のいずれかのコポリマーが挙げられる。他の例としては、架橋(例えば、硬化性)基によって官能化されたか、又は適合性のある架橋剤と組み合わせて使用可能なポリエーテル、ポリウレタン、及びポリ(エチレングリコール)が挙げられる。
【0295】
幾つかの具体的で非限定的な例としては、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N’-メチレンビスアクリルアミド)、ポリ(N-(N-プロピル)アクリルアミド)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(2-ヒドロキシアクリルアミド)、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、及びヒアルロン酸、デキストラン、アルギネート、アガロース等の多糖類、及び上述の任意のコポリマーが挙げられる。
【0296】
このようなポリマー鎖を形成するヒドロゲル前駆体(ヒドロゲル形成材料)(それらの任意の組み合わせを含む)が企図される。
【0297】
ヒドロゲルは通常、二官能性、三官能性又は多官能性のモノマー、オリゴマー又はポリマーで形成されるか又はその存在下で形成され、これらをまとめて、2個、3個又はそれ以上の重合性基を有するヒドロゲル前駆体又はヒドロゲル形成剤又はヒドロゲル形成材料と称する。1個を超える重合性基の存在によって、このような前駆体が架橋可能になり、3次元ネットワークの形成が可能となる。
【0298】
架橋性モノマーの例としては、2個又は3個の重合性官能基(これらの内の1個は架橋性官能基と見なすことができる)を有するジアクリレート及びトリアクリレートモノマーのファミリーが挙げられるが、これらに限定されない。ジアクリレートモノマーの例としては、メチレンジアクリレート、及びポリ(エチレングリコール)nジメタクリレート(nEGDMA)のファミリーが挙げられるが、これらに限定されない。トリアクリレートモノマーの例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、イソシアヌル酸トリス(2-アクリロイルオキシエチル)エステル、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリチルトリアクリレート及びグリセロールトリアクリレート、ホスフィニリジントリス(オキシエチレン)トリアクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0299】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、硬化性材料は、モノマーであろうとオリゴマーであろうと単官能硬化性材料又は多官能硬化性材料とすることができる。
【0300】
バイオプリンティングの分野で使用可能な硬化性材料は、主に動物又はヒト組織から単離できる天然由来の材料、例えば、マトリゲル、アルギネート、ペクチン、キサンタンガム、ゼラチン、キトサン、フィブリン、セルロース及びヒアルロン酸に基づくか、或いは組換えによって生成されたか又は合成的に調製された材料、例えば、ポリ(エチレングリコール):PEG、ゼラチンメタクリレート:GelMA、ポリ(プロピレンオキシド):PPO、ポリ(エチレンオキシド):PEO、PEG(ポリエチレングリコール)ジアクリレート、ポリグルタミン酸、PLGA/PLLA、ポリ(ジメチルシロキサン);ナノセルロース;プルロニックF127、短いジペプチド(FF)、Fmoc-FF-OH、Fmoc-FRGD-OH、Fmoc-RGDF-OH、Fmoc-2-Nal-OH、Fmoc-FG-OH等のFmoc-ペプチド系ヒドロゲル、及びポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)又はポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)等の熱可塑性ポリマーに基づく。
【0301】
本実施形態の状況で使用可能な硬化性材料の例としては、マトリゲル、ゼラチンメタクリレート(GelMA)、ナノセルロース(セルロースナノ結晶(CNC)、セルロースナノフィブリル(CNF)、及び微生物セルロースとも称される細菌セルロース(BC)等の紫外線硬化可能なナノスケール構造材料)、プルロニック(登録商標)材料、例えば、低温では流動性があり、臨界ミセル濃度(CMC)を超える高温ではゲルを形成するプルロニックF127及び紫外線硬化可能なプルロニックF127-ジアクリレート(DA)、ヒアルロン酸(HA)、アクリル化ヒアルロン酸(AHA)、メタクリル化ヒアルロン酸(MAHA)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)、アルギネート、キサンタンガム、ペクチン、グルタルアルデヒド、ゲニピン又はトリポリリン酸ナトリウム(TPP)等の化学剤で架橋できるキトサンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0302】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、追加の硬化性材料は、本実施形態のコンジュゲート内の硬化性弾性部分と同じ条件下で重合及び/又は架橋する1個以上の硬化性基を有する。これらの実施形態の幾つかでは、追加の硬化性材料は、光硬化性(例えば、紫外線硬化性)基、例えば本明細書に記載のアクリル基を有する。
【0303】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、追加の硬化性材料は、1個以上の光硬化性基、例えば本明細書に記載の1個以上のアクリル基を有するポリ(エチレングリコール)等のポリ(アルキレングリコール)であるか又はそれを含む。これらの実施形態の幾つかでは、追加の硬化性材料は、例えば、ポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレート等のポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレート、及び/又はポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート等のポリ(アルキレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、及び/又は上述のものを含むコポリマー、例えば、ポリカプロラクトン(メタ)アクリレート及び/又はジ(メタ)アクリレート/ポリ(エチレングリコール)、ポリ(乳酸)(メタ)アクリレート及び/又はジ(メタ)アクリレート/ポリ(エチレングリコール)、ポリ(乳酸コ-グリコール酸)(メタ)アクリレート及び/又はジ(メタ)アクリレート/ポリ(エチレングリコール)(上述の任意の組み合わせを含む)とすることができる。
【0304】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、追加の材料は少なくとも1個の(メタ)アクリル基を末端に有するポリ(アルキレングリコール)であるか又はそれを含む。即ち、追加の材料は少なくとも1個の(メタ)アクリル基を末端に有するポリ(アルキレングリコール)のポリマー又はコポリマーである。
【0305】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性基を有するポリ(エチレングリコール)又はそのコポリマーは、少なくとも500グラム/mol又は少なくとも700グラム/molの平均分子量を有する。幾つかの実施形態では、平均分子量は4,000グラム/mol未満、又は3,000グラム/mol未満、又は2,000グラム/mol未満、又は1,000グラム/mol未満である。幾つかの実施形態では、平均分子量は500~30,000、又は500~20,000、又は50~10,000、又は500~5,000、又は500~4,000、又は500~3,000、又は500~2,000グラム/molの範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。幾つかの実施形態では、平均分子量は3,000~約30,000、又は3,000~約20,000、又は3,000~約10,000グラム/molの範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0306】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、追加の硬化性材料の濃度は、組成物の総重量の1~30、又は1~20、又は1~10、又は5~20、又は5~15、又は10~20、又は10~30重量%の範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0307】
本明細書で説明するように、各実施形態のいずれかに係るコンジュゲート含有硬化性配合物は、以下で更に詳細に記載するように、積層造形プロセス(例えば、バイオプリンティング)用の1種以上のモデリング材料配合物として使用可能である。
【0308】
コンジュゲート含有硬化性配合物が本明細書に記載のコンジュゲート及び担体以外の成分を含むと記載されている場合、その更なる成分は、コンジュゲート含有硬化性配合物と組み合わせて積層造形に使用する同じモデリング材料配合物又は異なるモデリング材料配合物に含めることができる。
【0309】
例えば、本実施形態のコンジュゲート以外の追加の硬化性材料が記載されている場合、その追加の硬化性材料は、コンジュゲートを含む同じモデリング配合物及び/又は異なるモデリング材料配合物に含めることができる。
【0310】
総じて、バイオインク組成物に含めるものとして本明細書に記載した成分は、同じモデリング配合物に含めることも、又はバイオプリンティング媒体、構築材料内にまとめて含めることもでき、且つ、積層造形の要件を満たす限り、2種以上のモデリング材料配合物に必要に応じて分割することもできる。
【0311】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、印刷媒体(構築材料)全般又は特にコンジュゲート含有硬化性配合物は、コラーゲン以外の生物学的成分又は材料(本明細書ではまとめて生物学的材料とも称される)を更に含む。
【0312】
本明細書に記載の1種以上の硬化性(例えば、モデリング材料)配合物に含めることができる生物学的成分又は材料としては、例えば、培養細胞等の細胞成分や、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子等の他の細胞成分が挙げられると共に、他の生物学的成分、例えば、タンパク質や、細胞接着、細胞伸展、細胞増殖、細胞分化及び/又は細胞遊走を高めるように作用する剤、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、DNA、RNA、脂質及び/又はプロテオグリカンが挙げられる。
【0313】
細胞は不均一な細胞集団を含んでいてもよく、或いは細胞は均一な細胞集団を含んでいてもよい。このような細胞は、例えば、幹細胞(胚性幹細胞、骨髄幹細胞、臍帯血細胞、間葉系幹細胞、成人組織幹細胞等)、前駆細胞、又は軟骨細胞、骨芽細胞、結合組織細胞(例えば、線維細胞、線維芽細胞及び脂肪細胞)、内皮細胞及び上皮細胞等の分化細胞とすることができる。細胞は未処理であってもよく、遺伝子改変されていてもよい。
【0314】
本発明のこの様相の一実施形態によれば、細胞は哺乳動物起源である。
【0315】
更に、細胞は分娩後由来細胞(米国特許出願第10/887,012号明細書及び同第10/887,446号明細書に記載)等の自家起源又は非自家起源であってもよい。通常、細胞は所望の用途に応じて選択する。
【0316】
使用可能な適切なタンパク質としては、細胞外マトリックスタンパク質[例えば、フィブリノゲン、コラーゲン、フィブロネクチン、ビメンチン、微小管関連タンパク質1D、神経突起伸長因子(NOF)、細菌セルロース(BC)、ラミニン及びゼラチン]、細胞接着タンパク質[例えば、インテグリン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、ラミニン、細胞間接着分子(ICAM)1、N-CAM、カドヘリン、テネイシン、ギセリン、RGDペプチド及び神経損傷誘発タンパク質2(ニンジュリン2)]、増殖因子[上皮増殖因子、形質転換増殖因子-α、線維芽細胞増殖因子-酸性、骨形成タンパク質、線維芽細胞増殖因子-塩基性、エリスロポエチン、トロンボポエチン、肝細胞増殖因子、インスリン様増殖因子-I、インスリン様増殖因子-II、インターフェロン-β、血小板由来増殖因子、血管内皮増殖因子及びアンジオペプチン]、サイトカイン[例えば、M-CSF、IL-1β、IL-8、β-トロンボグロブリン、EMAP-II、G-CSF及びIL-10]、プロテアーゼ[ペプシン、低特異性キモトリプシン、高特異性キモトリプシン、トリプシン、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、プロリン-エンドペプチダーゼ、黄色ブドウ球菌V8プロテアーゼ、プロテイナーゼK(PK)、アスパラギン酸プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、ADAMTS17、トリプターゼ-γ及びマトリプターゼ-2]及びプロテアーゼ基質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0317】
更に、ヒドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム材料を、例えば、粒子の形態(ナノHAやナノTCPが挙げられるが、これらに限定されない)で使用することができる。粒子径は目詰まりを回避するために分注ヘッドに適合する必要がある。
【0318】
本明細書に記載の1種以上の硬化性(例えば、モデリング材料)配合物に含めることができる、本明細書に記載の生物学的材料以外の非硬化性材料は、配合物又は固化配合物又は固化材料及びそれによって形成された物体の一部に特定の特性を付与する材料とすることができる。このような特性は、物理的特性(例えば、透明性や不透明性等の光学的特性、色、スペクトル特性、耐熱性、電気的特性等)、又は粘度、弾性、貯蔵弾性率、損失弾性率、剛性、硬度等の機械的又はレオロジー的特性とすることができる。上記の代わりに、又は上記に加え、非硬化性材料は生物学的機能をもたらすもの、例えば、治療的に活性な薬剤とすることができる。
【0319】
非硬化性材料の例としては、チキソトロピー剤、補強材、強化剤、充填剤、着色剤、顔料、色素物質(例えば、本明細書に記載のもの)等が挙げられる。
【0320】
非硬化性材料の一例としては、二酸化チタンが挙げられる。
【0321】
非硬化性材料の一例としては、酸化セルロースが挙げられる。
【0322】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性(例えば、モデリング材料)配合物の1種以上はヒアルロン酸を含む。
【0323】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性(例えば、モデリング材料)配合物の1種以上は、本明細書に定義の硬化性基を有するヒアルロン酸を含む。
【0324】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性(例えば、モデリング材料)配合物の1種以上は、1種以上の生物学的成分又は材料(例えば、細胞、増殖因子、ペプチド、ヘパラン硫酸及びフィブロネクチンが挙げられるが、これらに限定されない)を含む。
【0325】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、硬化性(例えば、モデリング材料)配合物の1種以上は、本明細書に記載の配合物及び/又は物体の機械的特性を変更する1種以上の試薬(例えば、アルギネート、ヒアルロン酸、フィブリノゲン、エラスチン、ペプチド及びチキソトロピー剤(例えば、結晶ナノセルロース(CNC))、酸化セルロース、二酸化チタン、粘土鉱物及びカーボンナノチューブが挙げられるが、これらに限定されない)を含む。
【0326】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、コンジュゲート含有硬化性配合物は、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の1種以上の追加の硬化性材料を更に含む。
【0327】
これらの実施形態の幾つかでは、配合物中のコンジュゲートと追加の硬化性材料の重量比は、20:1~1:2、又は20:1~1:1、又は10:1~1:1、又は20:1~5:1、又は15:1~5:1の範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0328】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、コンジュゲート含有硬化性配合物は本明細書に定義のチキソトロピー剤を更に含む。
【0329】
本明細書全体を通して、「チキソトロピー」という用語は、時間依存のずり減粘に反映される流体化合物又は流体材料の特性、即ち、その粘度がせん断力の印加時間と相関して低下し、せん断力の印加を停止すると元の値に戻るという特性を表す。本実施形態の幾つかでは、チキソトロピー材料又はチキソトロピー剤は、50%歪み下でずり弾性率が大幅に(例えば、少なくとも100%)低下するようになる。
【0330】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、コンジュゲート含有硬化性配合物はゲル形成剤、例えば、本明細書に記載のヒドロゲル形成剤を更に含む。
【0331】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、コンジュゲート含有硬化性配合物は本明細書に記載の生物学的成分又は材料を更に含む。
【0332】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、コンジュゲート含有硬化性配合物は、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の、1種以上の硬化性又は非硬化性材料を更に含む。
【0333】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コンジュゲート含有硬化性配合物は1種以上の生物学的成分(例えば、ヒアルロン酸(硬化性HAを含む)、細胞、増殖因子、ペプチド、ヘパラン硫酸及び/又はフィブロネクチンが挙げられるが、これに限定されない)を更に含む。
【0334】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、コンジュゲート含有硬化性配合物は、配合物及び/又は物体の機械的特性を変更する1種以上の試薬(例えば、アルギネート、ヒアルロン酸、フィブリノゲン、エラスチン、ペプチド及びチキソトロピー剤(例えば、結晶ナノセルロース(CNC))が挙げられるが、これらに限定されない)を更に含む。
【0335】
2種以上のモデリング材料配合物を使用する実施形態の幾つかでは、2種以上の配合物は本明細書に記載のコンジュゲート含有硬化性配合物であり、そこに含まれる追加の材料の存在、種類及び/又は濃度が互いに異なる。例えば、ある配合物は本明細書に記載のコンジュゲートを含むことができ、他の配合物はコンジュゲートと本明細書に記載の生物学的材料を含むことができる。例えば、ある配合物は本明細書に記載のコンジュゲートを含むことができ、他の配合物は本明細書に記載のコンジュゲートと本明細書に記載の追加の硬化性材料を含むことができる。例えば、ある配合物は本明細書に記載のコンジュゲートと、ある追加の硬化性材料を含むことができ、他の配合物は本明細書に記載のコンジュゲートと本明細書に記載の他の追加の硬化性材料を含むことができる。例えば、ある配合物は本明細書に記載のコンジュゲートと、ある追加の硬化性材料を含むことができ、他の配合物は本明細書に記載の硬化性コンジュゲートと本明細書に記載の非硬化性材料(例えば、生物学的材料又は成分)を含むことができる。他の如何なる組み合わせも企図される。
【0336】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、構築材料中の全ての硬化性材料が同じ硬化条件下で硬化する。幾つかの実施形態では、全ての硬化性材料又は硬化性基は光硬化性である。
【0337】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、本明細書に記載の硬化性材料を含む配合物は、硬化条件に曝露すると硬化性材料の硬化又は固化を促進する試薬を更に含む。
【0338】
試薬の濃度は、硬化性材料の濃度及び所望の硬化度(例えば、所望の架橋度)に応じて決定することができる。
【0339】
光開始剤:
硬化性材料が光硬化性材料(例えば、紫外線硬化性材料、例えば1個以上の(メタ)アクリル基を有する硬化性材料)である場合、剤は光開始剤である。光開始剤は硬化機構(例えば、フリーラジカル、カチオン等)に応じて選択する。
【0340】
フリーラジカル光開始剤は、紫外線や可視光線等の放射線に曝露するとフリーラジカルを生成し、それによって重合反応を開始する任意の化合物とすることができる。適切な光開始剤の非限定的な例としては、ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、ミヒラーのケトン及びキサントン等のベンゾフェノン類(芳香族ケトン)、2,4,6-トリメチルベンゾリジフェニルホスフィンオキシド(TMPO)(例えば、リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート(LAP)、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド(TEPO)及びビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)等のアシルホスフィンオキシド型光開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン類及びベンゾインアルキルエーテルが挙げられる。光開始剤の例としては、α-アミノケトン及びビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)が挙げられる。
【0341】
光開始剤の例としては、Irgacure(登録商標)ファミリー、リボフラビン、ローズベンガル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0342】
フリーラジカル光開始剤は単独で使用してもよく、共開始剤と組み合わせて使用してもよい。共開始剤は、光硬化性フリーラジカル系で活性なラジカルを生成するのに第2の分子を必要とする開始剤と共に使用する。ベンゾフェノンは、フリーラジカルを生成するのにアミン等の第2の分子を必要とする光開始剤の例である。放射線を吸収した後、ベンゾフェノンは水素引き抜きによって三級アミンと反応し、アクリレートの重合を開始するα-アミノラジカルを生成する。共開始剤の種類の非限定的な例としては、トリエチルアミン、メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。
【0343】
適切なカチオン性光開始剤としては、例えば、重合を開始するのに十分な紫外線及び/又は可視光線への曝露時に非プロトン酸又はブレンステッド酸を形成する化合物が挙げられる。使用する光開始剤は、単一の化合物、2種以上の活性化合物の混合物、又は2種以上の異なる化合物の組み合わせ、即ち、共開始剤とすることができる。適切なカチオン性光開始剤の非限定的な例としては、アリールジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、トリアリールセレノニウム塩等が挙げられる。カチオン性光開始剤の一例はトリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート塩の混合物である。
【0344】
適切なカチオン性光開始剤の非限定的な例としては、P-(オクチルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネートUVACURE1600(Cytec Company(米国)から入手可能)、Irgacure250又はIrgacure270として知られるヨードニウム(4-メチルフェニル)(4-(2-メチルプロピル)フェニル)-ヘキサフルオロホスフェート(Ciba Specialty Chemicals社(スイス)から入手可能)、UVI6976及び6992として知られる混合アリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート塩(Lambson Fine Chemicals社(英国)から入手可能)、PC2506として知られているジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート(Polyset Company(米国)から入手可能)、Rhodorsil(登録商標)Photoinitiator2074として知られている(トリルクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Bluestar Silicones社(米国)から入手可能)、Tego PC1466として知られるヨードニウムビス(4-ドデシルフェニル)-(OC-6-11)-ヘキサフルオロアンチモネート(Evonik Industries AG(ドイツ)から入手可能)が挙げられる。
【0345】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、光開始剤は本明細書に記載のフリーラジカル光開始剤、例えばアシルホスフィンオキシド型の光開始剤である。
【0346】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、配合物中の光開始剤の量は、約0.1~約10、又は約0.1~約5、又は約0.1~約3、又は約0.1~約2、又は約0.1~約1重量%の範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0347】
本発明者らは、驚くべきことに、光開始剤の量と、本明細書に記載の硬化性コラーゲン(例えば、CMR又はCPMとして示される)と光開始剤とを含む配合物の粘度との間に直接的相関関係があることを見出した(
図8を参照)。より具体的には、本発明者らは、例示的なアシルホスフィンオキシド型光開始剤の量を操作することで、配合物の粘度を制御することができ、従って、特定のAMプロセスにとって望ましい粘度に適合させることができることを示した。如何なる特定の理論にも束縛されるものではないが、配合物の粘度に対する影響は、光開始剤と硬化性コラーゲンとの間の独特な相互作用の結果であると想定される。
【0348】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、少なくとも一部にコラーゲン系材料を含む3次元物体を積層造形する方法であって、本明細書に記載のように行い、コラーゲン含有硬化性配合物を分注する前に、選択した積層造形に適した粘度を示す硬化性コラーゲン含有配合物が得られる光開始剤の量を選択すること、選択した量の光開始剤でコラーゲン含有硬化性配合物を調製すること、及び本明細書に記載の配合物を分注することを更に含む方法が提供される。
【0349】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、少なくとも一部にコラーゲン系材料を含む3次元物体の積層造形に使用可能な配合物を調製する方法であって、
積層造形技術を選択すること、
積層造形技術に適した粘度を決定すること、
所望の粘度が得られる光開始剤の量を決定すること、及び
決定した量の光開始剤を、選択した硬化性コラーゲン(例えば、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のもの)と、また必要に応じて本明細書に記載の硬化性配合物に含まれる他の成分と混合して配合物を調製すること、を含む方法が提供される。
【0350】
本明細書全体を通して、特に積層造形に関連して、「方法」及び「プロセス」という用語は交換可能に使用される。
【0351】
本実施形態の方法は、ルックアップテーブルを使用しながら行うことができ、ルックアップテーブルは、様々なAM技術の各々に適した粘度を定義し、且つ所望の粘度が得られた光開始剤の量を定義しているものであるか、或いは各技術に適した粘度を得るために必要な光開始剤の量を既に定義している、各AM技術に適した粘度値に関する公開されている知識に基づくものである。
【0352】
従って、硬化性配合物を調製する方法は、ある量の光開始剤を、選択した硬化性コラーゲン(例えば、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のもの)と、また必要に応じて本明細書に記載の硬化性配合物に含まれる他の成分と混合して行うことができ、この量は、上述のルックアップテーブルに基づいて決定する。
【0353】
配合物の調製は、光開始剤の量を手動又は自動で計算してから、手動又は自動で行うことができる。
【0354】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、光開始剤は、2,4,6-トリメチルベンゾリジフェニルホスフィンオキシド(TMPO)又はその塩(例えば、リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート(LAP)、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド(TEPO)、及びビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)等のアシルホスフィンオキシド型光開始剤である。
【0355】
本発明のこの様相の実施形態の幾つかによれば、コラーゲンは本明細書に記載のヒトI型コラーゲン、好ましくは本明細書で各実施形態のいずれかに記載の組換えヒトI型コラーゲンである。
【0356】
以下の表1は、上で記載した望ましいルックアップテーブルの一例であり、代表的なAMプロセス用のモデリング材料配合物の望ましい粘度値、及び配合物(例えばCMRについて本明細書に記載した硬化性コラーゲンを含む)に含まれる光開始剤のそれぞれの量を示している。
【0357】
【0358】
積層造形:
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、3次元物体の積層造形(AM)のプロセス(方法)が提供される。この様相の実施形態によれば、この方法は、物体の形状に対応する構成パターンで複数の層を連続的に形成して、物体を形成する。この様相の実施形態によれば、各層の形成は、少なくとも1種の未硬化構築材料を分注し、分注した構築材料を硬化条件に曝露して固化(硬化)材料を形成することによって行う。
【0359】
本明細書全体を通して、「構築材料」という語句は、「未硬化構築材料」又は「未硬化構築材料配合物」という語句を包含し、本明細書に記載のように、層を連続的に形成することで分注される材料の総称である。この語句は、最終物体を形成する未硬化材料、即ち、1種以上の未硬化モデリング材料配合物を包含し、場合によっては、支持体の形成に使用される未硬化材料、即ち、未硬化支持材料配合物も包含する。構築材料には、好ましくはプロセス中に如何なる変化も受けない(又は受けようとしない)非硬化性材料、例えば、(本明細書に記載の硬化性コラーゲン以外の)生物学的材料又は成分及び/又は本明細書に記載の他の試薬又は添加剤も包含され得る。
【0360】
本明細書に記載のように層を連続的に形成するために分注する構築材料を、本明細書では「印刷媒体」又は「バイオプリンティング媒体」とも交換可能に称す。
【0361】
構築材料には、1種、2種、又はそれ以上のモデリング材料配合物を含めることができ、モデリング材料配合物の少なくとも1種は、本明細書に記載のコンジュゲートを含む、且つ/又は本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載の硬化性配合物である。
【0362】
未硬化構築材料は、1種以上のモデリング材料配合物を含むことができ、異なるモデリング配合物の固化(例えば、硬化)時に物体の異なる部分が形成されるように未硬化構築材料を分注することができる。従って、物体の異なる部分が、異なる固化(例えば、硬化)モデリング材料、又は固化(例えば、硬化)モデリング材料の異なる混合物で形成される。
【0363】
本実施形態の方法では、物体の形状に対応する構成パターンで複数の層を形成することによって、3次元物体を層状に製造する。
【0364】
各層の形成は、2次元表面をスキャンしてそれをパターン化する積層造形装置によって行う。スキャン中に、各標的位置又は標的位置の群に関して、装置は2次元の層又は表面の複数の標的位置に向かい、プリセットアルゴリズムに従って、その標的位置又は標的位置の群が構築材料で占有されているかどうか、また、どの種類の構築材料をそこへ送達させるかを決定する。この決定は表面のコンピュータ画像に従って行われる。
【0365】
AMを3次元インクジェット印刷によって行う場合、本明細書で定義した未硬化構築材料を、1組のノズルを有する分注ヘッドから分注し、構築材料を支持構造上に層状に堆積させる。従って、AM装置は占有対象の標的位置に構築材料を分注し、他の標的位置を空けたままにする。装置は通常、複数の分注ヘッドを有しており、各分注ヘッドは、異なる構築材料(例えば、異なるモデリング材料配合物(各々は異なる生物学的成分、又は異なる硬化性材料、又は異なる濃度の硬化性材料を含む)及び/又は異なる支持材料配合物)を分注するように構成され得る。従って、異なる標的位置は、異なる構築材料(例えば、本明細書で定義したモデリング配合物及び/又は支持配合物)で占有させることができる。
【0366】
最終3次元物体は、固化モデリング材料、又は固化モデリング材料の組み合わせ、又は固化モデリング材料と支持材料の組み合わせ、又は(例えば、硬化後の)それらの修飾物で形成されている。このような操作は全て、積層造形(固体自由成形としても知られている)の当業者には周知である。
【0367】
本発明の幾つかの例示的な実施形態では、2種以上の異なるモデリング材料配合物を含む構築材料を分注(各モデリング材料配合物をAM装置の異なる分注ヘッドから分注)して物体を製造する。複数のモデリング材料配合物は、必要に応じて、好ましくは、分注ヘッドの同一パス中に層状に堆積させる。層内のモデリング材料配合物及び/又は配合物の組み合わせは、物体の所望の特性に従って選択する。
【0368】
本発明の幾つかの実施形態に係る例示的なプロセスは、物体の形状に対応する3D印刷データを受信することによって開始する。データは、例えば、コンピュータ物体データに基づく製造指示に関するデジタルデータを送信するホストコンピュータから受信することができ、そのデータの形式は、例えば、標準テッセレーション言語(STL)又はステレオリソグラフィー輪郭(SLC)フォーマット、仮想現実モデリング言語(VRML)、積層造形ファイル(AMF)フォーマット、図面交換フォーマット(DXF)、ポリゴンファイルフォーマット(PLY)、医用におけるデジタル画像と通信(DICOM)又はコンピュータ支援設計(CAD)に適した他の任意のフォーマットとすることができる。
【0369】
印刷データに従って、1個以上の分注(例えば、印刷)ヘッドを使用し、受取媒体上に本明細書に記載のように構築材料を層状に分注することによって、プロセスが継続する。
【0370】
用いる積層造形方法と選択した構成に応じて、液滴又は連続流の形態で分注を行うことができる。
【0371】
受取媒体は、印刷システムのトレイ、又は生体適合性材料で形成又は被覆された支持体又は媒体(例えば、バイオプリンティングで一般に使用される支持媒体又は物品)、又は事前に堆積された層とすることができる。
【0372】
幾つかの実施形態では、受取媒体は、造形物を埋め込むための型として、犠牲ヒドロゲル又は他の生体適合性材料を含み、その後、化学的、機械的又は物理的(例えば、加熱又は冷却)手段によってそれは除去される。このような犠牲ヒドロゲルは、例えば、プルロニック材料又はゼラチンで形成することができる。
【0373】
一旦未硬化構築材料が3Dデータに従って受取媒体上に分注されると、本法では、必要に応じて好ましくは、次に分注された配合物を固化させる。幾つかの実施形態では、プロセスの次の工程で堆積した層を硬化条件に曝露する。好ましくは、硬化条件の各層への適用は、この層の堆積後且つ前の層の堆積前に行う。
【0374】
本明細書で使用する「硬化」という用語は、配合物が固化するプロセスを表す。配合物の固化は通常、配合物の粘度の上昇及び/又は配合物の貯蔵弾性率(G’)の上昇を伴う。幾つかの実施形態では、液体として分注される配合物は、固化すると固体又は半固体(例えば、ゲル)になる。半固体(例えば、柔らかいゲル)として分注される配合物は、固化すると固体になるか、より硬い又はより強い半固体(例えば、強いゲル)になる。
【0375】
本明細書で使用する「硬化」という用語は、例えば、モノマー材料及び/又はオリゴマー材料の重合及び/又はポリマー鎖の架橋(硬化前に存在するポリマーの架橋又はモノマー又はオリゴマーの重合で形成されるポリマー材料の架橋)を包含する。従って、硬化反応の生成物は通常、ポリマー材料及び/又は架橋材料である。本明細書で使用するこの用語は、部分硬化、例えば、配合物の少なくとも20%又は少なくとも30%又は少なくとも40%又は少なくとも50%又は少なくとも60%又は少なくとも70%の硬化も包含すると共に、配合物の100%の硬化も包含する。
【0376】
本明細書における「硬化に影響を及ぼす条件」又は「硬化を誘発するための条件」という語句は、本明細書では「硬化条件」又は「硬化誘発条件」とも交換可能に称せられ、硬化性材料を含む配合物に適用された際に、本明細書で定義した硬化を誘発する条件を表す。このような条件としては、例えば、以下に記載のような硬化性材料への硬化エネルギーの印加、及び/又は硬化性材料と化学反応性成分(例えば、触媒、共触媒及び活性化剤)との接触を挙げることができる。
【0377】
硬化を誘発する条件に硬化エネルギーの印加が含まれる場合、「硬化条件に曝露する」という語句とその文法的転用は、分注した層を硬化エネルギーに曝露することを意味し、曝露は、通常、分注した層に硬化エネルギーを印加して行う。
【0378】
「硬化エネルギー」は通常、放射線の印加又は熱の印加を包含する。
【0379】
放射線は、硬化する材料に応じて、電磁放射線(例えば、紫外線又は可視光線)、又は電子ビーム放射線、又は超音波放射線又はマイクロ波放射線とすることができる。放射線の印加(又は照射)は適切な放射線源によって行う。例えば、本明細書に記載のように、紫外線源又は可視光源又は赤外線源又はキセノン光源又は水銀光源又はランプ光源又はLED光源を使用することができる。
【0380】
放射線に曝露すると硬化する硬化性材料又は系は、本明細書では「光重合性」又は「光活性化可能」又は「光硬化性」と交換可能に称される。
【0381】
硬化エネルギーが熱を含む場合、硬化は本明細書及び当技術分野では「熱硬化」とも称され、熱エネルギーの印加を包含する。本明細書に記載のように、例えば、層が分注される受取媒体又は受取媒体を収容するチャンバを加熱することによって熱エネルギーの印加を行うことができる。幾つかの実施形態では、抵抗加熱器を使用して加熱を行う。
【0382】
幾つかの実施形態では、分注した層に熱誘導放射線を照射して加熱を行う。このような照射は、例えば、堆積層上に放射線を放出するように作動するIRランプ又はキセノンランプによって行うことができる。
【0383】
幾つかの実施形態では、セラミックランプ、例えば、約3μmから約4μm(例えば、約3.5μm)の赤外線放射をもたらすセラミックランプによる赤外線放射によって加熱を行う。
【0384】
熱に曝露すると硬化する硬化性材料又は系は、本明細書では「熱硬化性」又は「熱活性化可能」又は「熱重合性」と称される。
【0385】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、分注した配合物を固化することは、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の硬化条件、例えば、照射(照明)に対して分注した配合物を曝露することを含む。
【0386】
幾つかの実施形態では、硬化条件への曝露は、短時間、例えば、3分未満、300秒未満、例えば、10秒~240秒、又は10秒~120秒、又は10秒~60秒の期間(その間の中間値や部分範囲を含む)に亘って行う。
【0387】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、本方法は、支持材料配合物が構築材料に含まれる場合、支持材料配合物の除去の前又は後に硬化モデリング材料配合物を後処理条件に曝露することを更に含む。後処理条件は通常、硬化モデリング材料を更に固化させることを目的としている。幾つかの実施形態では、部分的に硬化した配合物を後処理によって固化させて、完全に硬化した配合物を得る。
【0388】
幾つかの実施形態では、本明細書で各実施形態のいずれかに記載のように、熱又は放射線への曝露によって後処理を行う。
【0389】
幾つかの実施形態では、異なる分注ヘッドから異なる配合物を分注して物体を製造することが企図される。このような実施形態では、特に、所定数の配合物からある配合物を選択し、選択した配合物とその特性との所望の組み合わせを定める可能性(ability)を提供する。
【0390】
本実施形態によれば、層において各配合物を堆積する空間位置を決める際には、異なる配合物が異なる3次元空間位置を占有するように行うか、又は2種以上の異なる配合物が実質的に同じ3次元位置又は隣接する3次元位置を占有して、堆積後に層内で配合物の空間的組み合わせが可能となるように行う。
【0391】
従って、本実施形態は、広範囲の材料の組み合わせを堆積することを可能とし、物体の各部分を特徴付ける望ましい特性に従って、物体の異なる部分に異なるモデリング材料配合物が配置された、複数のモデリング材料配合物の種々の組み合わせから成る物体の製造を可能とする。
【0392】
積層造形で利用されるシステムには、受取媒体と1個以上の分注ヘッドが含まれていてもよい。受取媒体は、例えば、印刷ヘッドから分注された材料を運ぶ水平面を有し得る製造トレイとすることができる。幾つかの実施形態では、受取媒体は、本明細書に記載のように、生体適合性材料で形成又は被覆されている。
【0393】
分注ヘッドは、例えば、分注ヘッドの長手方向軸に沿って1列以上のアレイに配置された複数の分注ノズルを有する印刷ヘッドとすることができる。分注ヘッドは、その長手方向軸が割出方向と実質的に平行になるように設置することができる。
【0394】
積層造形システムは、AMプロセス、例えば、所定のスキャン計画(例えば、標準テッセレーション言語(STL)フォーマットに変換され、制御装置にプログラムされたCAD構成)に従った分注ヘッドの動作を制御するマイクロプロセッサ等の制御装置を更に含むことができる。分注ヘッドは複数の噴射ノズルを含むことができる。噴射ノズルによって材料が受取媒体上に分注され、3D物体の断面を表す層が形成される。
【0395】
分注ヘッドに加えて、分注した構築材料を硬化させるための硬化エネルギー源を設けることができる。硬化エネルギーは通常、放射線であり、例えば、紫外線又は熱放射線である。或いは、電磁放射線又は熱放射線以外の硬化条件を提供する手段、例えば、分注した構築材料を冷却する手段又は硬化を促進する試薬と構築材料を接触させる手段を設けることができる。
【0396】
更に、AMシステムは、堆積と少なくとも部分的な固化を行った後、次の層を堆積する前に、各層の高さを平準化及び/又は規定するための平準化装置を含むことができる。
【0397】
本実施形態によれば、本明細書に記載の積層造形方法は、生物学的物体をバイオプリンティングするためのものである。
【0398】
本明細書で使用する「バイオプリンティング」とは、本明細書に記載の自動化又は半自動化のコンピュータ支援積層造形システム(例えば、バイオプリンタ又はバイオプリンティングシステム)と適合する方法によって、本明細書に記載の生物学的成分を含む1種以上のバイオインク配合物を利用しながら積層造形プロセスを実行することを意味する。
【0399】
本明細書全体を通して、「モデリング材料配合物」という語句(本明細書では「モデリング配合物」又は「モデリング材料組成物」又は「モデリング組成物」、又は単に「配合物」又は「組成物」とも交換可能に称される)は、本明細書に記載のように、最終物体を形成するために分注される未硬化構築材料(印刷媒体)の一部又は全てを表す。モデリング配合物は未硬化のモデリング配合物であり、硬化条件に曝露すると、物体又はその一部を形成する。
【0400】
バイオプリンティングという観点から、未硬化構築材料は、1種以上の生物学的成分又は材料(例えば、本明細書に記載のコンジュゲート)を含む少なくとも1種のモデリング配合物を含み、本明細書及び当技術分野では「バイオインク」又は「バイオインク配合物」又は「バイオインク組成物」とも称される。
【0401】
幾つかの実施形態では、バイオプリンティングは、好ましくは本明細書に記載の3次元印刷データに従った構成パターンでの未硬化構築材料の複数の層の連続形成を含む。形成された層の少なくとも1個、好ましくは大部分又は全ては(固化又は硬化前に)本明細書に記載の1種以上の生物学的成分(例えば、本明細書に記載の硬化性rhコラーゲン)を含む。必要に応じて、形成された層の少なくとも1個は(固化又は硬化前に)1種以上の非生物学的硬化性材料、及び/又は非硬化性生物学的又は非生物学的成分、好ましくは、印刷媒体及び/又はバイオインク中の生物学的成分(例えば、コラーゲン)の生物学的及び/又は構造的特徴に干渉しない(例えば、悪影響を及ぼさない)生体適合性材料を含む。
【0402】
幾つかの実施形態では、バイオインク又は印刷媒体中の成分、例えば、非硬化性及び硬化性材料、及び/又は硬化を行うために適用される硬化条件は、バイオインク又は印刷媒体中の生物学的成分の構造的及び/又は機能的特性に大きく影響を及ぼさないように選択する。
【0403】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、構築材料(例えば、印刷媒体)はモデリング材料配合物(例えば、本明細書に記載のバイオインク組成物)と必要に応じて支持材料配合物を含み、これらは全て、生物学的成分の生物学的及び/又は構造的特徴に干渉しない材料又はその材料の組み合わせを含むように選択する。
【0404】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、バイオプリンティング方法は、バイオインク組成物中の生物学的成分の構造的及び/又は機能的特性に大きく影響を及ぼさない条件下で層を形成するように構成する。
【0405】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載のバイオプリンティングプロセス/方法を行うためのバイオプリンティングシステムは、バイオインク中の生物学的成分の構造的及び/又は機能的特性に大きく影響を及ぼさない条件下で層を形成できるように構成する。
【0406】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、積層造形(例えば、バイオプリンティング)プロセス及びシステムは、プロセスパラメータ(例えば、温度、せん断力、せん断歪み速度)が生物学的成分の機能的及び/又は構造的特徴に干渉しない(実質的に影響を及ぼさない)ように構成する。
【0407】
本実施形態によれば、積層造形は、少なくとも一部分がコラーゲン系材料であることを特徴とする3次元物体の積層造形であり、少なくとも1種のモデリング材料配合物を分注し、物体の形状に対応する構成パターンで複数の層を連続的に形成することを含み、複数の層の少なくとも一部に関しては、分注は、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のバイオインク組成物を含む1種以上のモデリング材料配合物の分注である。
【0408】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、プロセスは、分注した層の少なくとも一部を、バイオインク組成物を固化させるのに適した硬化条件に曝露することを更に含む。これらの実施形態の幾つかでは、硬化条件は硬化エネルギー、例えば光エネルギー(照射、照明)を含む。
【0409】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、複数の層の少なくとも一部に関しては、分注は、配合物及び/又は配合で構成された物物体の部分の機械的及び/又はレオロジー的及び/又は物理的特性を変更する試薬を含むモデリング材料配合物の更なる分注である。
【0410】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、複数の層の少なくとも一部についての分注は、本明細書に記載のコラーゲン以外の生物学的材料を含むモデリング材料配合物の更なる分注である。
【0411】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、分注を行う温度は-10~50℃、又は-4~50℃、又は-4~37℃の範囲である。幾つかの実施形態では、温度は少なくとも10℃、又は少なくとも20℃、又は37℃である。
【0412】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、積層造形プロセス(バイオプリンティング)は、少なくとも10℃又は少なくとも20℃の温度、例えば、約10~約40℃の範囲の温度、好ましくは約10℃~37℃、又は約20℃~37℃、又は約20℃~約30℃、又は約20℃~約28℃、又は約20℃~約25℃(その間の中間値や部分範囲を含む)、又は室温、又は37℃で行う。
【0413】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、上述の温度/温度範囲は、構築材料(例えば、少なくとも本明細書に記載の生物学的成分を含むモデリング材料配合物)を分注する温度である。即ち、AMシステム内の分注ヘッドの温度及び/又は分注ヘッド内を通過する前にモデリング材料配合物が保持される温度である。
【0414】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、AMプロセスは、AMシステム(例えば、分注ヘッド及び/又はモデリング材料配合物)を室温未満の温度、例えば、20℃未満又は10℃未満の温度、又は5℃未満(例えば、4℃)まで冷却せずに行う。
【0415】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、AMシステムには、システム又はその一部(例えば、分注ヘッド及び/又はモデリング材料配合物)を室温未満の温度、例えば、20℃未満又は10℃未満の温度、又は5℃未満(例えば、4℃)まで冷却する手段がない。
【0416】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、生物学的成分(例えば、細胞)の構造的及び/又は機能的特性に悪影響を及ぼさないせん断力を印加しながら、積層造形プロセス(バイオプリンティング)を行う。せん断力の印加は、構築材料(例えば、少なくとも本明細書に記載の生物学的成分を含むモデリング材料配合物)を分注ヘッドに通すことによって行うことができ、構築材料をせん断力に付すとも見なされるべきである。
【0417】
本明細書で説明し、以下の実施例の項で示すように、本発明の実施形態によって、バイオインクに含まれる生物学的成分の機能的及び/又は構造的特徴に影響を及ぼさない条件下(例えば、低せん断力及び室温又は生理学的温度)でAMバイオプリンティングプロセスを行いながら、必要な流動性(流動性を付与する粘度、例えば、10,000センチポアズ未満又は5,000センチポアズ未満、又は2,000センチポアズ未満)を維持し、更に分注した構築材料の硬化性を維持することができる。本発明の実施形態によって、既知の方法のいずれかを用いたバイオプリンティングの操作をうまく行うことができ、且つそのような各方法に必要なプロセスパラメータに制限されることはない。
【0418】
以下、本発明の実施形態において使用可能なAMバイオプリンティング方法の例について説明する。
【0419】
バイオプリンティング方法及び対応するシステムは、積層造形を行うための当技術分野で既知の方法とシステムのいずれかとすることができ、そのようなシステムと方法の例は上述されている。適切な方法とシステムは、解像度、堆積速度、拡張性、バイオインク適合性及び使い易さ等の印刷機能を考慮して選択することができる。
【0420】
例えば、適切なバイオプリンティングシステムは通常、分注システム(温度制御モジュールを備えるか又は常温)、ステージ(受取媒体)、及びCAD-CAMソフトウェアで指示されるx軸、y軸及びz軸に沿った動作を含む。形成された層の硬化を促進するように硬化エネルギー(例えば、光線又は熱放射線を印加)又は硬化条件を堆積領域(受取媒体)に適用する硬化源(例えば、光源又は熱源)及び/又は加湿器もシステムに含めることができる。複数の分注ヘッドを使用して数種の材料の連続分注を容易にするプリンタが存在する。
【0421】
一般に、バイオプリンティングは、積層造形に関する既知の技術のいずれかを用いて行うことができる。以下に幾つかの例示的な積層造形技術を列挙するが、他の如何なる技術も企図される。
【0422】
3Dインクジェット印刷:
3Dインクジェット印刷は、非生物学的用途と生物学的(バイオプリンティング)用途の両方に使用される一般的な3Dプリンタである。インクジェットプリンタは、熱又は音響の力を利用して、最終構造の一部を支持又は形成することができる基材上に液滴を噴射する。この技術では、制御された量の液体が所定の場所に送られ、(1)インク滴の位置と(2)インク量(これは、微細構造印刷の場合、又は少量の生体反応性の試薬又は薬物を添加する際に有益となる)とが精密に制御された高解像度印刷が得られる。インクジェットプリンタは、例えば、複数種の生物学的成分及び/又は生物活性剤を含む数種のインクで使用できる。更に、印刷は高速であり、培養プレートに応用できる。
【0423】
3Dインクジェット印刷システムを利用するバイオプリンティング方法は、本明細書に記載の1種以上のバイオインクモデリング材料配合物を使用し、3D印刷データに従って、1個以上のインクジェット印刷ヘッドを使用して受取媒体上に配合物の液滴を層状に分注して行うことができる。
【0424】
押出印刷:
この技術では、液滴ではなく材料の連続ビーズを使用する。このような材料のビーズを2Dで堆積し、ステージ(受取媒体)又は押出ヘッドがz軸に沿って移動し、堆積した層が次の層の基礎として機能する。3Dバイオプリンティング用途向けの生物学的材料押出の最も一般的な方法は、空気圧式又は機械式分注システムである。
【0425】
ステレオリソグラフィー(SLA)及びデジタル光処理(DLP):
SLA及びDLPは、光源を使用した選択的硬化によって、浴中の未硬化構築材料を層毎に固化材料に変えながら、未硬化材料を固化材料から後で分離/洗浄する積層造形技術である。SLAは、バイオプリンティングを含む様々な産業でモデル、試作品、パターン及び生産部品の形成に広く用いられている。DLPは、デジタルプロジェクタからの紫外(UV)線(又は可視光線)の投影を使用し、未硬化材料全体に亘り層の単一の画像を一度にフラッシュするという点で、レーザーベースのSLAとは異なる。DLPの主要構成要素の1つは、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)チップである。これは通常、UV源からの入射光をリダイレクトさせ、設計したパターンの画像を投影する、反射性アルミニウムマイクロミラーのアレイで構成されている。高解像度の構造を得るために、例えば硬化性材料及び光開始剤の濃度及び種類を制御することによって、各層の硬化時間、層厚及び紫外線の強度等のパラメータを調整する必要がある。
【0426】
レーザーによる印刷:
3Dバイオプリンティングのために適応させた形態のレーザーによる印刷技術は、金属を転写するために開発されレーザー誘起前方転写(LIFT)の原理に基づいており、現在では生物学的材料への応用に成功している。この装置は、レーザー光線、集束系、エネルギー吸収/変換層、生体物質層(例えば、細胞及び/又はヒドロゲル)及び受取基板から成る。レーザーによるプリンタは、レーザー光線を吸収層に照射することで作動し、これによってエネルギーが機械的力に変換され、この力によって生体層から基板上に小さな液滴が押し出される。次に、光源を利用して基板上の材料を硬化させる。
【0427】
レーザーによる印刷は一連の粘度に適合し、細胞生存率や細胞機能に影響を及ぼすことなく哺乳動物細胞を印刷することができる。細胞の堆積は、最大108個/mlの密度とし、1滴当たり細胞1個のマイクロスケール解像度で行うことができる。
【0428】
エレクトロスピニング:
エレクトロスピニングは、電気力を用いてポリマー溶液又はポリマー溶融物の帯電した糸を引く繊維製造技術である。
【0429】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、積層造形(バイオプリンティング)は本明細書に記載のデジタル光処理(DLP)であるか又はそれを含む。
【0430】
物体:
本明細書全体を通して、バイオプリンティングの観点から、「物体」という用語は、少なくともその一部に生物学的成分を含む積層造形の最終生成物を表す。この用語は、本明細書に記載のバイオプリンティング方法において、未硬化構築材料の一部として支持材料を使用する場合には、支持材料を除去した後に得られる生成物を意味する。
【0431】
本明細書全体で使用される「物体」という用語は、物体全体又はその一部を意味する。
【0432】
本実施形態の状況では、物体はその少なくとも一部にコラーゲン系材料を含む。
【0433】
「コラーゲン系材料」とは、コラーゲンを含む材料、好ましくは、本明細書で各実施形態のいずれか及びその任意の組み合わせに記載の組換えヒトコラーゲンを含む材料を意味する。
【0434】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、コラーゲン系材料は足場、例えば、本明細書に記載のコラーゲン(例えば、組換えヒトコラーゲン)を含む3次元線維性ネットワークで形成されたヒドロゲル足場を含む。
【0435】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、コラーゲン系材料は、複数の単量体及び/又は線維性コラーゲンユニットが互いに連結して3次元ネットワークを形成している重合及び/又は架橋(例えば、組換えヒト)コラーゲンを含む。
【0436】
3次元ネットワーク又は足場は、所望の必要性に応じて、例えば、フィルム、スポンジ、多孔質構造、ヒドロゲル、及び他の任意の形態とすることができる。
【0437】
本明細書に記載の実施形態の幾つかでは、物体は組織又は器官の形態であり、少なくともその一部に本明細書に記載のコラーゲン系材料を含む。このような物体は、本明細書に記載の硬化性コラーゲンに加えて、本明細書に記載の追加の硬化性材料及び生物学的材料を使用して、所望の器官又は組織の各3D印刷データに従って組み立てることができる。
【0438】
幾つかの実施形態では、物体は移植可能な物体である。幾つかの実施形態では、物体は人工皮膚である。幾つかの実施形態では、物体は人工組織(例えば、結合組織、又は心臓組織や膵臓組織等の筋組織)である。結合組織の例としては、軟骨(弾性軟骨、硝子軟骨、及び線維軟骨等)、脂肪組織、網状結合組織、胚性結合組織(間葉系結合組織及び粘液結合組織等)、腱、靭帯及び骨が挙げられるが、これらに限定されない。
【0439】
幾つかの実施形態では、物体は人工器官又は人工組織の構築に使用可能であるか又は構築用である。
【0440】
物体は、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の追加の硬化性材料の1種以上、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の生物学的成分又は材料、及び/又は本明細書で各実施形態のいずれかに記載の非硬化性材料で形成された固化材料を更に含むことができる。
【0441】
幾つかの実施形態では、物体は、研究又は治療用途、例えば、損傷組織の修復(例えば、損傷組織への培養細胞の播種時)又は創傷治癒に使用可能なコラーゲン足場又はフィルムの形態である。
【0442】
足場を、それを必要とする対象に施して、結合組織等の組織、心臓組織や膵臓組織等の筋組織を再生することができる。
【0443】
フィルムを使用して生物医学装置、例えば、血液透析用のコラーゲン膜等を構築することができる。
【0444】
幾つかの実施形態によれば、フィルム又は足場を細胞培養で使用することができる。
【0445】
本明細書で使用する「細胞培養」又は「培養」という語句は、人工、例えば、インビトロ環境での細胞の維持を意味する。しかし、「細胞培養」という用語は一般用語であり、個々の原核生物(例えば、細菌)又は真核生物(例えば、動物、植物及び真菌)の細胞の培養のみならず、組織、器官、器官系又は生物全体の培養をも含むように使用可能であることを理解されたい。
【0446】
幾つかの実施形態では、フィルム又は足場を創傷治癒プロセスで使用することができる。
【0447】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載のコラーゲンフィルムを使用して、腱損傷後の癒着を防止したり、上眼瞼挙筋の眼科手術を延ばしたり、切断神経を修復したりする。更に、本明細書に記載のコラーゲンフィルムを火傷包帯や骨欠損の治癒に使用することができる。
【0448】
本実施形態の目的は無数の他の用途を含み、例えば、間質性膀胱炎、強皮症、関節リウマチ美容整形等の疾患の治療用途、火傷患者の治癒補助としての用途、創傷治癒剤としての用途、皮膚充填剤としての用途、脊椎固定手順用の用途、尿道膨張用の用途、硬膜形成手順での用途、骨再構築用の用途、及び様々な歯科、整形外科及び手術目的の用途が挙げられるが、これらに限定されない。
【0449】
キット:
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、本明細書で各実施形態のいずれかに記載のコンジュゲートを含むキットが提供される。
【0450】
幾つかの実施形態によれば、キットは、本明細書で各実施形態のいずれかに記載のコンジュゲートを含む硬化性配合物(例えば、バイオインク組成物)を含む。
【0451】
幾つかの実施形態によれば、硬化性配合物は凍結乾燥形態のコンジュゲートを含む。
【0452】
幾つかの実施形態によれば、硬化性配合物は本明細書に記載のコンジュゲート及び水溶液又は水性担体を含む。
【0453】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、キットは、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の物体の積層造形(例えば、バイオプリンティング)用のモデリング材料配合物として使用するのに特定されるか、又は使用可能である。
【0454】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、キットは、本明細書において実施形態のいずれかに記載のように、水性担体を更に含む。幾つかの実施形態では、コンジュゲート又は組成物と水性担体をキット内で個別にパッケージする。
【0455】
或いは、キットは、コンジュゲート又は組成物を水性担体と混合して本明細書に記載のモデリング材料配合物を調製するための説明書を含む。
【0456】
キットは、本明細書で各実施形態のいずれか及びそれらの任意の組み合わせに記載のバイオインク組成物又はモデリング材料配合物に含めることができる他の成分を更に含んでもよい。
【0457】
キットは、本明細書に記載の積層造形プロセスでのコンジュゲート又はバイオインク組成物又は配合物の使用方法の説明書を更に含んでもよい。
【0458】
色素物質:
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、本明細書に記載のバイオインク組成物又は硬化性(例えば、モデリング材料)配合物は、所望の波長範囲で光を吸収することができる色素物質を含むことができる。デジタル光処理バイオプリンティングには、解像度を改善し、足場の規定の多孔度及びチャネルを得るために、通常、吸収性色素物質の添加が必要である。
【0459】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質は300nm~800nm、又は300nm~600nm、又は300nm~500nm、又は300nm~450nm、又は350nm~450nm、又は好ましくは365nm~405nmの波長で光を吸収することができるようなものである。
【0460】
本明細書に記載の色素物質は、本明細書全体を通して光吸収剤又は光遮断剤とも称される。
【0461】
これらの実施形態との関連で使用するのに適した例示的な色素物質としては、食用色素、タルトラジン、サンセットイエローFCF(黄色6号)、ブリリアントブルーFCF(FD&C青色1号)、インジゴカルミン(FD&C青色2号)、ファストグリーンFCF(FD&C緑色3号)、アントシアニン、アントシアニジン、エリスロシン(FD&C赤色3号)、アルラレッドAC(FD&C赤色40号)、リボフラビン(ビタミンB2、E101、E101a、E106)、アスコルビン酸(ビタミンC)、キノリンイエローWS、カルモイシン(アゾルビン)、ポンソー4R(E124)、パテントブルーV(E131)、グリーンS(E142)、イエロー2G(E107)、オレンジGGN(E111)、レッド2G(E128)、カラメル色素、フェノールレッド、メチルオレンジ、4-ニトロフェノール、及びNADH二ナトリウム塩、クルクミン(E100)、ターメリック、αカロテン、βカロテン、カンタキサンチン(ケトカロテノイド)、コチニール抽出物、パプリカ、サフラン、エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、シトラスレッド2、アナトー抽出物、アボベンゾン、2,5-ビス(5-tert-ブチル-ベンゾオキサゾール-2-イル)チオフェン(Benetex OB+)、4,4’-ビス(2-スルホナトスチリル)ビフェニル二ナトリウム(Benetex OB-M1)、ベンゼンプロパン酸(BLS 99-2)、2,3,6,7-テトラヒドロ-9-メチル-1H,5H-キノリジノ(9,1-gh)クマリン(クマリン102)、マルチウスイエロー、モリン水和物、ニトロフラゾン、2-ニトロフェニルフェニルスルフィド(NPS)、5,12-ナフタセンキノン(NTAQ)、オクトクリレン、フェナジン、1,4-ビス(2-(5-フェニルオキサゾリル))ベンゼン(POPOP)、キノリンイエロー、3,3’,4’,5,6-ペンタヒドロキシフラボン(ケルセチン)、サリチルアルデヒド、スダンI、トリアムテレン、UV386A、1-フェニルアゾ-2-ナフトール(スダンI)、1-(2,4-ジメチルフェニルアゾ)-2-ナフトール(スダンII)、1-(4-(フェニルジアゼニル)フェニル)アゾナフタレン-2-オール(スダンIII)、1-[{2-メチル-4-[(2-メチルフェニル)ジアゼニル]フェニル}ジアゼニル]ナフタレン-2-オール(スダンIV)、2,5-ビス(5-tert-ブチル-ベンゾオキサゾール-2-イル)チオフェン、フルオレセイン、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)、オリゴチオフェン、トリ-フェニルアミン、ジケトピロロピロール誘導体、2,5-ジヒドロ-3,6-ジ-2-チエニル-ピロロ[3,4-c]ピロール-1,4-ジオン、ボロンジピロメテン誘導体、1,3,5,7-テトラメチル-8-フェニル-4,4-ジフルオロボラジアザインダセン、2,2’-(2,5-チオフェンジイル)ビス(5-tert-ブチルベンゾオキサゾール)、(±)-α-トコフェロール、2-フェニル-2H-ベンゾトリアゾール誘導体、2,2-ジメチル-1,3-ジヒドロペリミジン-6-イル)-(4-フェニルアゾ-1-ナフチル)ジアゼン(スダンブラックB)、1-(2-メトキシフェニルアゾ)-2-ナフトール(スダンレッドG)、2,5-ビス(5-tert-ブチル-ベンゾオキサゾール-2-イル)チオフェン、4-メトキシフェノール、ブチル化ヒドロキシトルエン、2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジン、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0462】
以下の実施例の項で説明するように、本明細書に記載のコンジュゲートを使用することで、コラーゲン沈殿のリスクを伴わずにこのような色素物質を使用することが可能になる。
【0463】
本発明の幾つかの実施形態によれば、色素物質は複数の負に帯電した基(生理学的pH又は色素物質を含むバイオインク組成物のpHでイオン化可能な官能基)を有する。例示的な負に帯電した基としては、ヒドロキシ、サルフェート、スルホネート、チオール、ホスフェート、ホスホネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0464】
複数の負に帯電した基を有する例示的な色素物質は、ポリ硫酸塩色素である。
【0465】
以下の実施例の項に更に示したように、本発明者らは、ビタミンB12が、本明細書に記載のバイオインク組成物中の色素物質としてうまく利用できることを見出した。
【0466】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質はビタミンB12である。
【0467】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質はキノリンである。
【0468】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質はミノサイクリンである。
【0469】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、色素物質の量は、色素物質を含む配合物又は組成物の総重量の0.01~5重量%、又は0.01~2重量%、又は0.01~1重量%、又は0.01~1重量%、又は1~5重量%、又は0.1~5重量%、又は0.1~2重量%、又は0.01~2重量%、又は0.1~1重量%、又は1~3重量%の範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0470】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、当該物質はミノサイクリンであり、その量は、ミノサイクリンを含む配合物又は組成物の総重量の0.01~5重量%、又は0.01~2重量%、又は0.01~1重量%、又は0.05~1.5重量%の範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0471】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、光硬化性生物学的材料と300nm~800nmの波長で光を吸収することができる色素物質とを含む、3次元物体の積層造形用の硬化性配合物が提供される。本発明のこの様相の実施形態によれば、色素物質はビタミンB12であるか又はそれを含む。
【0472】
本発明のこの様相に関する本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、ビタミンB12の量は、ビタミンB12を含む配合物又は組成物の総重量の0.01~5重量%、又は1~5重量%、又は0.1~5重量%、又は0.1~2重量%、又は0.01~2重量%、又は0.1~1重量%、又は1~3重量%の範囲(その間の中間値や部分範囲を含む)である。
【0473】
光硬化性生物学的材料は、本明細書に記載の複数の光硬化性基、例えば(メタ)アクリル基を有する本明細書に記載の任意の生物学的材料とすることができる。例としては、(メタ)アクリレート化ゼラチン、(メタ)アクリレート化ヒアルロン酸、(メタ)アクリレート化ヒアルロン酸、及び(メタ)アクリレート化コラーゲン、例えば、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の硬化性コラーゲン、及び/又は本明細書で各実施形態のいずれかに記載のコンジュゲートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0474】
本発明の幾つかの実施形態の一様相によれば、少なくとも一部が本明細書で各実施形態のいずれかに記載の生物学的材料であることを特徴とする3次元物体を積層造形するプロセスが提供される。積層造形は、バイオインク組成物に関連して本明細書に記載されるバイオプリンティングプロセスであり、少なくとも1種のモデリング材料配合物を分注し、物体の形状に対応する構成パターンで複数の層を連続的に形成することを含む。
【0475】
本発明のこの様相の実施形態によれば、複数の層の少なくとも一部に関しては、分注は、本明細書で各実施形態のいずれかに記載されている、ビタミンB12を色素物質として含むバイオインク組成物を含むモデリング材料配合物の分注である。
【0476】
幾つかの実施形態によれば、積層造形はDLPである。
【0477】
幾つかの実施形態によれば、プロセスは、複数の層の一部をバイオインク組成物の固化に適した照射に曝露することを更に含む。例示的実施形態によれば、照射は本明細書に記載の波長で行われる。
【0478】
本願から成熟する特許の存続期間中に、多くの関連する硬化性生体適合性材料、硬化性生物学的材料、バイオプリンティング媒体、及び/又はバイオプリンティング技術が開発されることが予想される。硬化性生体適合性材料、バイオプリンティング媒体、及び/又はバイオプリンティング技術に関する実施形態の範囲は、このような新技術を全て先験的に包含することを意図する。
【0479】
本明細書で使用する「約」という用語は、±10%又は±5%を意味する。
【0480】
「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」、「有する(having)」という用語及びその活用形は「含んでいるが、それに限定されない」ことを意味する。
【0481】
「~から成る」という用語は「含んでおり、それに限定される」ことを意味する。
【0482】
「~から本質的に成る」という用語は、組成物、方法又は構造が追加の成分、段階及び/又は部分を含み得ることを意味するが、これは、追加の成分、段階及び/又は部分が、請求項に記載の組成物、方法又は構造の基本的且つ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られる。
【0483】
本明細書で使用する、単数形を表す「a」、「an」及び「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数も対象とする。例えば、「化合物(a compound)」又は「少なくとも1種の化合物」という用語の場合には、複数の化合物が含まれ、それらの混合物も含み得る。
【0484】
本願全体を通して、本発明の様々な実施形態は範囲形式にて示すことができる。範囲形式での記載は、単に利便性や簡潔さのためであり、本発明の範囲の柔軟性を欠く制限ではないことを理解されたい。従って、範囲の記載は可能な部分範囲の全て、及びその範囲内の個々の数値を具体的に開示していると考えるべきである。例えば、1~6のような範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲だけでなく、その範囲内の個々の数値、例えば、1、2、3、4、5及び6も具体的に開示していると考えるべきである。これは範囲の大きさに関わらず適用される。
【0485】
本明細書において数値範囲を示す場合、それは示される範囲内の任意の引用数(分数又は整数)を含むことを意図する。第1の指示数と第2の指示数「との間の範囲」という表現と、第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲」という表現は、本明細書で交換可能に使用され、第1の指示数及び第2の指示数と、それらの間の分数及び整数の全てを含むことを意図する。
【0486】
本明細書で使用する「方法」という用語は、所定の課題を達成するための様式、手段、技術及び手順を意味し、化学、薬理学、生物学、生化学及び医療の各分野の従事者に既知のもの、又は既知の様式、手段、技術及び手順から従事者が容易に開発できるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0487】
本明細書で使用する「治療する」という用語は、病態の進行の抑止、実質的な阻害、遅延又は逆転、病態の臨床的又は審美的症状の実質的な寛解、或いは病態の臨床的又は審美的症状の出現の実質的な予防を包含する。
【0488】
本明細書全体を通して、「センチポアズ」又は「Cp」と示す場合には、対応するPa・秒値(1Pa・秒=1,000センチポアズ)を包含する。
【0489】
本明細書全体を通して、配合物(例えば、モデリング配合物、硬化性配合物、バイオインク組成物)の実施形態に関連して「重量パーセント」又は「重量%」又は「wt%」という語句を示す場合には、この語句は各未硬化配合物の総重量の重量パーセントを意味する。
【0490】
本明細書全体を通して、アクリル材料は、1個以上のアクリル酸基、メタクリル酸基、アクリルアミド基、及び/又はメタクリルアミド基を有する材料を総称するために使用する。
【0491】
同様に、アクリル基は、アクリル酸基、メタクリル酸基、アクリルアミド基及び/又はメタクリルアミド基、好ましくはアクリル酸基又はメタクリル酸基(本明細書では(メタ)アクリル酸基とも称される)である硬化性基を総称するために使用する。
【0492】
本明細書全体を通して、「(メタ)アクリル」という用語はアクリル及びメタクリル材料を包含する。
【0493】
本明細書全体を通して、「連結部分」又は「連結基」という語句は、化合物中の2個以上の部分又は基を接続する基を表す。連結部分は通常、二官能又は三官能化合物に由来するものであり、それぞれその2個又は3個の原子によって2個又は3個の他の部分に接続した二ラジカル又は三ラジカル部分と見なすことができる。
【0494】
例示的な連結部分としては、場合により1個以上のヘテロ原子が介在する本明細書で定義した炭化水素部分又は鎖、及び/又は以下に記載する化学基のいずれか(連結基として定義した場合)が挙げられる。
【0495】
本明細書において化学基が「末端基」と称される場合、それは、その1個の原子によって別の基に接続している置換基として解釈される。
【0496】
本明細書全体を通して、「炭化水素」という用語は、主に炭素原子及び水素原子から構成される化学基を総称する。炭化水素は、アルキル、アルケン、アルキン、アリール、及び/又はシクロアルキルから構成されてもよく、その各々は置換されていても置換されていなくてもよく、1個以上のヘテロ原子が介在していてもよい。炭素原子の数は、2~30個の範囲とすることができ、好ましくはそれより少なく、例えば、1~10個、又は1~6個、又は1~4個である。炭化水素は連結基又は末端基とすることができる。
【0497】
本明細書で使用する「アミン」という用語は、-NR’R’’基と-NR’-基の両方を表し、ここで、R’及びR’’は、各々独立して水素、アルキル、シクロアルキル、アリール(これらの用語は以下に定義する通りである)である。
【0498】
従って、アミン基は、R’とR’’の両方が水素である第一級アミン、R’が水素でありR’’がアルキル、シクロアルキル若しくはアリールである第二級アミン、又はR’及びR’’が各々独立してアルキル、シクロアルキル若しくはアリールである第三級アミンとすることができる。
【0499】
或いは、R’及びR’’は各々独立して、ヒドロキシアルキル、トリハロアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、アミン、ハロゲン化物、スルホネート、スルホキシド、ホスホネート、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、ニトロ、アゾ、スルホンアミド、カルボニル、C-カルボキシレート、O-カルボキシレート、N-チオカルバメート、O-チオカルバメート、尿素、チオ尿素、N-カルバメート、O-カルバメート、C-アミド、N-アミド、グアニル、グアニジン及びヒドラジンとすることができる。
【0500】
「アミン」という用語は、アミンが以下に定義する末端基である場合、本明細書では-NR’R’’基を表すために使用し、アミンが連結基であるか又は連結部分の一部である場合、本明細書では-NR’-基を表すために使用する。
【0501】
「アルキル」という用語は、直鎖基及び分岐鎖基を含む飽和脂肪族炭化水素を表す。好ましくは、アルキル基は1~30個、又は1~20個の炭素原子を有する。数値範囲、例えば「1~20」が本明細書に記載されている場合には、それは、基(この場合はアルキル基)が1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子等、20個までの炭素原子を含んでもよいことを意味する。アルキル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。置換アルキルは、1個以上の置換基を有していてもよく、その際、各置換基は独立して、例えば、ヒドロキシアルキル、トリハロアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、アミン、ハロゲン化物、スルホネート、スルホキシド、ホスホネート、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、ニトロ、アゾ、スルホンアミド、C-カルボキシレート、O-カルボキシレート、N-チオカルバメート、O-チオカルバメート、尿素、チオ尿素、N-カルバメート、O-カルバメート、C-アミド、N-アミド、グアニル、グアニジン及びヒドラジンとすることができる。
【0502】
アルキル基は、末端基(この語句は上記で定義した通りであり、単一の隣接原子に結合している)又は連結基(この語句は上記で定義した通りであり、その鎖内の少なくとも2個の炭素を介して2個以上の部分を接続する)であることができる。アルキルが連結基である場合、それは本明細書では「アルキレン」又は「アルキレン鎖」とも称される。
【0503】
本明細書で使用するアルケン及びアルキンは、それぞれ1個以上の二重結合又は三重結合を含む本明細書で定義したアルキルである。
【0504】
「シクロアルキル」という用語は、全炭素単環式環又は縮合環(即ち、隣接する炭素原子対を共有する環)基を表し、その環の内の1個以上は完全に共役したπ電子系を有さない。例としては、シクロヘキサン、アダマンチン、ノルボルニル、イソボルニル等が挙げられるが、これらに限定されない。シクロアルキル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。置換シクロアルキルは、1個以上の置換基を有していてもよく、その際、各置換基は独立して、例えば、ヒドロキシアルキル、トリハロアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、アミン、ハロゲン化物、スルホネート、スルホキシド、ホスホネート、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、ニトロ、アゾ、スルホンアミド、C-カルボキシレート、O-カルボキシレート、N-チオカルバメート、O-チオカルバメート、尿素、チオ尿素、N-カルバメート、O-カルバメート、C-アミド、N-アミド、グアニル、グアニジン及びヒドラジンとすることができる。シクロアルキル基は、末端基(この語句は上記で定義した通りであり、単一の隣接原子に結合している)又は連結基(この語句は上記で定義した通りであり、その2箇所以上の位置で2個以上の部分を接続している)であることができる。
【0505】
「ヘテロ脂環式」という用語は、窒素、酸素及び硫黄等の1個以上の原子を環内に有する単環式又は縮合環基を表す。環はまた、1個以上の二重結合を有していてもよい。しかし、環は完全に共役したπ電子系を有さない。代表的な例は、ピペリジン、ピペラジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリノ、オキサリジン(oxalidine)等である。
【0506】
ヘテロ脂環式は、置換されていても置換されていなくてもよい。置換ヘテロ脂環式は、1個以上の置換基を有していてもよく、その際、各置換基は独立して、例えば、ヒドロキシアルキル、トリハロアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、アミン、ハロゲン化物、スルホネート、スルホキシド、ホスホネート、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、ニトロ、アゾ、スルホンアミド、C-カルボキシレート、O-カルボキシレート、N-チオカルバメート、O-チオカルバメート、尿素、チオ尿素、O-カルバメート、N-カルバメート、C-アミド、N-アミド、グアニル、グアニジン及びヒドラジンとすることができる。ヘテロ脂環式基は、末端基(この語句は上記で定義した通りであり、単一の隣接原子に結合している)又は連結基(この語句は上記で定義した通りであり、その2箇所以上の位置で2個以上の部分を接続している)であることができる。
【0507】
「アリール」という用語は、完全に共役したπ電子系を有する全炭素単環式又は縮合環多環式(即ち、隣接する炭素原子対を共有する環)基を表す。アリール基は、置換されていても置換されていなくてもよい。置換アリールは、1個以上の置換基を有していてもよく、その際、各置換基は独立して、例えば、ヒドロキシアルキル、トリハロアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、アミン、ハロゲン化物、スルホネート、スルホキシド、ホスホネート、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、ニトロ、アゾ、スルホンアミド、C-カルボキシレート、O-カルボキシレート、N-チオカルバメート、O-チオカルバメート、尿素、チオ尿素、N-カルバメート、O-カルバメート、C-アミド、N-アミド、グアニル、グアニジン及びヒドラジンとすることができる。アリール基は、末端基(この用語は上記で定義した通りであり、単一の隣接原子に結合している)又は連結基(この用語は上記で定義した通りであり、その2箇所以上の位置で2個以上の部分を接続している)であることができる。
【0508】
「ヘテロアリール」という用語は、1個以上の原子(例えば窒素、酸素及び硫黄等)を環内に有し、更に完全に共役したπ電子系を有する単環式又は縮合環(即ち、隣接する原子対を共有する環)基を表す。ヘテロアリール基の例としては、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、及びプリンが挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロアリール基は、置換されていても置換されていなくてもよい。置換ヘテロアリールは、1個以上の置換基を有していてもよく、その際、各置換基は独立して、例えば、ヒドロキシアルキル、トリハロアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、アミン、ハロゲン化物、スルホネート、スルホキシド、ホスホネート、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、ニトロ、アゾ、スルホンアミド、C-カルボキシレート、O-カルボキシレート、N-チオカルバメート、O-チオカルバメート、尿素、チオ尿素、O-カルバメート、N-カルバメート、C-アミド、N-アミド、グアニル、グアニジン及びヒドラジンとすることができる。ヘテロアリール基は、末端基(この語句は上記で定義した通りであり、単一の隣接原子に結合している)又は連結基(この語句は上記で定義した通りであり、その2箇所以上の位置で2個以上の部分を接続している)であることができる。代表的な例は、ピリジン、ピロール、オキサゾール、インドール、プリン等である。
【0509】
「ハロゲン化物」及び「ハロ」という用語は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を表す。
【0510】
「ハロアルキル」という用語は、1個以上のハロゲン化物で更に置換されている上記で定義したアルキル基を表す。
【0511】
本明細書で使用する「カルボニル」又は「カーボネート」という用語は、-C(=O)-R’末端基又は-C(=O)-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’は本明細書で定義した通りである。
【0512】
本明細書で使用する「チオカルボニル」という用語は、-C(=S)-R’末端基又は-C(=S)-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’は本明細書で定義した通りである。
【0513】
本明細書で使用する「オキソ」という用語は、酸素原子が指定位置で二重結合によって原子(例えば、炭素原子)に連結している(=O)基を表す。
【0514】
本明細書で使用する「チオオキソ」という用語は、硫黄原子が指定位置で二重結合によって原子(例えば、炭素原子)に連結している(=S)基を表す。
【0515】
「オキシム」という用語は、=N-OH末端基又は=N-O-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表す。
【0516】
「ヒドロキシル」という用語は、-OH基を表す。
【0517】
「アルコキシ」という用語は、本明細書で定義した-O-アルキル基と-O-シクロアルキル基の両方を表す。アルコキシドという用語は、-R’O-基を表し、R’は本明細書で定義した通りである。
【0518】
「アリールオキシ」という用語は、本明細書で定義した-O-アリール基と-O-ヘテロアリール基の両方を表す。
【0519】
「チオヒドロキシ」又は「チオール」という用語は、-SH基を表す。「チオラート」という用語は、-S-基を表す。
【0520】
「チオアルコキシ」という用語は、本明細書で定義した-S-アルキル基と-S-シクロアルキル基の両方を表す。
【0521】
「チオアリールオキシ」という用語は、本明細書で定義した-S-アリール基と-S-ヘテロアリール基の両方を表す。
【0522】
「ヒドロキシアルキル」は、本明細書では「アルコール」とも称され、ヒドロキシ基で置換された本明細書で定義したアルキルを表す。
【0523】
「ハロゲン化アシル」という用語は-(C=O)R’’’’基を表し、R’’’’は上記で定義したハロゲン化物である。
【0524】
本明細書で使用する「カルボキシレート」という用語は、C-カルボキシレート及びO-カルボキシレートを包含する。
【0525】
「C-カルボキシレート」という用語は、-C(=O)-OR’末端基又は-C(=O)-O-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’は本明細書で定義した通りである。
【0526】
「O-カルボキシレート」という用語は、-OC(=O)R’末端基又は-OC(=O)-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’は本明細書で定義した通りである。
【0527】
カルボキシレートは、直鎖状又は環状とすることができる。環状の場合、R’及び炭素原子はC-カルボキシレート内で互いに連結して環を形成しており、この基はラクトンとも称される。或いは、R’及びOはO-カルボキシレート内で互いに連結して環を形成している。環状カルボキシレートは、例えば形成された環内の原子が別の基に連結している場合、連結基として機能することができる。
【0528】
本明細書で使用する「チオカルボキシレート」という用語は、C-チオカルボキシレート及びO-チオカルボキシレートを包含する。
【0529】
「C-チオカルボキシレート」という用語は、-C(=S)-OR’末端基又は-C(=S)-O-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’は本明細書で定義した通りである。
【0530】
「O-チオカルボキシレート」という用語は、-OC(=S)R’末端基又は-OC(=S)-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’は本明細書で定義した通りである。
【0531】
チオカルボキシレートは、直鎖状又は環状とすることができる。環状の場合、R’及び炭素原子はC-チオカルボキシレート内で互いに連結して環を形成しており、この基はチオラクトンとも称される。或いは、R’及びOはO-チオカルボキシレート内で互いに連結して環を形成している。環状チオカルボキシレートは、例えば形成された環内の原子が別の基に連結している場合、連結基として機能することができる。
【0532】
本明細書で使用する「カルバメート」という用語は、N-カルバメート及びO-カルバメートを包含する。
【0533】
「N-カルバメート」という用語は、R’’OC(=O)-NR’-末端基又は-OC(=O)-NR’-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’及びR’’は本明細書で定義した通りである。
【0534】
「O-カルバメート」という用語は、-OC(=O)-NR’R’’末端基又は-OC(=O)-NR’-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’及びR’’は本明細書で定義した通りである。
【0535】
カルバメートは、直鎖状又は環状とすることができる。環状の場合、R’及び炭素原子はO-カルバメート内で互いに連結して環を形成している。或いは、R’及びOはN-カルバメート内で互いに連結して環を形成している。環状カルバメートは、例えば形成された環内の原子が別の基に連結している場合、連結基として機能することができる。
【0536】
本明細書で使用する「カルバメート」という用語は、N-カルバメート及びO-カルバメートを包含する。
【0537】
本明細書で使用する「チオカルバメート」という用語は、N-チオカルバメート及びO-チオカルバメートを包含する。
【0538】
「O-チオカルバメート」という用語は、-OC(=S)-NR’R’’末端基又は-OC(=S)-NR’-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’及びR’’は本明細書で定義した通りである。
【0539】
「N-チオカルバメート」という用語は、R’’OC(=S)NR’-末端基又は-OC(=S)NR’-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’及びR’’は本明細書で定義した通りである。
【0540】
チオカルバメートは、カルバメートについて本明細書に記載したように直鎖状又は環状とすることができる。
【0541】
本明細書で使用する「ジチオカルバメート」という用語は、S-ジチオカルバメート及びN-ジチオカルバメートを包含する。
【0542】
「S-ジチオカルバメート」という用語は、-SC(=S)-NR’R’’末端基又は-SC(=S)NR’-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’及びR’’は本明細書で定義した通りである。
【0543】
「N-ジチオカルバメート」という用語は、R’’SC(=S)NR’-末端基又は-SC(=S)NR’-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’及びR’’は本明細書で定義した通りである。
【0544】
本明細書では「ウレイド」とも称される「尿素」という用語は、-NR’C(=O)-NR’’R’’’末端基又は-NR’C(=O)-NR’’-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’及びR’’は本明細書で定義した通りであり、R’’’はR’及びR’’について本明細書で定義した通りである。
【0545】
本明細書では「チオウレイド」とも称される「チオ尿素」という用語は、-NR’-C(=S)-NR’’R’’’末端基又は-NR’-C(=S)-NR’’-連結基を表し、R’、R’’及びR’’’は本明細書で定義した通りである。
【0546】
本明細書で使用する「アミド」という用語は、C-アミド及びN-アミドを包含する。
【0547】
「C-アミド」という用語は、-C(=O)-NR’R’’末端基又は-C(=O)-NR’-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’及びR’’は本明細書で定義した通りである。
【0548】
「N-アミド」という用語は、R’C(=O)-NR’’-末端基又はR’C(=O)-N-連結基(これらの語句は上記で定義した通りである)を表し、R’及びR’’は本明細書で定義した通りである。
【0549】
アミドは、直鎖状又は環状とすることができる。環状の場合、R’及び炭素原子はC-アミド内で互いに連結して環を形成しており、この基はラクタムとも称される。環状アミドは、例えば形成された環内の原子が別の基に連結している場合、連結基として機能することができる。
【0550】
本明細書で使用する「アルキレングリコール」という用語は、-O-[(CR’R’’)z-O]y-R’’’末端基又は-O-[(CR’R’’)z-O]y-連結基を表し、R’、R’’及びR’’’は本明細書で定義した通りであり、zは1~10の整数、好ましくは2~6、より好ましくは2又は3であり、yは1以上の整数である。好ましくは、R’とR’’は両方とも水素である。zが2でありyが1である場合、この基はエチレングリコールである。zが3でありyが1である場合、この基はプロピレングリコールである。yが2~4の場合、アルキレングリコールは本明細書ではオリゴ(アルキレングリコール)と称される。yが4より大きい場合、それはポリ(アルキレングリコール)である。キャップされたポリ(アルキレングリコール)はR’’’を有し、R’’’は水素以外であり、例えばアルキル(例えば、低級アルキル)、カルボニル、及び同様の部分であることができる。
【0551】
明確さのために別々の実施形態に関連して記載された本発明の複数の特徴は、単一の実施形態において、これらの特徴を組み合わせても提供できることを理解されたい。逆に、簡潔さのために単一の実施形態に関連して記載された本発明の複数の特徴は、別々に提供してもよく、又は任意の適切な部分的な組み合わせにおいて提供してもよく、本発明の他に記載された実施形態において適切に提供してもよい。様々な実施形態に関連して記載される複数の特徴は、その要素なしで実施形態が不作用ではない限り、その実施形態の本質的な特徴であると見なしてはならない。
【0552】
上述のように本明細書に記載され、後述の特許請求の範囲で請求される本発明の様々な実施形態及び様相は、以下の実施例によって実験的に支持される。
【0553】
実施例
ここで、以下の実施例を参照するが、これらの実施例は、上述の記載と共に本発明の幾つかの実施形態を非限定的に説明するものである。
【実施例1】
【0554】
反応性基と硬化性基とを有するPEGの合成
合成手順I:
スクシンイミドでキャップしたポリ(エチレングリコール)(PEG)(化合物1)の調製:
【化6】
【0555】
PEG 6000(TCI America社)(10グラム、1.66mmol)を40mLの乾燥した1,4-ジオキサン中に懸濁させ、懸濁液を50℃に加熱し、完全に溶解するまで撹拌した。得られた溶液を室温に放冷し、次に窒素流下にてN,N’-ジスクシンイミジルカーボネート(DSC)粉末(2.56グラム、10mmol)を加えた。
【0556】
4-(ジメチルアミノ)ピリジン(4-DMAP、1.23グラム、10mmol)をアセトン(30mL)に溶解させ、溶液を懸濁液に一度に加えた。懸濁液を窒素下にて室温で一晩撹拌した。
【0557】
得られた透明溶液を約30mLまで蒸発させ、150mLの冷ジエチルエーテルに注ぎ入れた。沈殿した固体をブフナーで濾過し、酢酸エチル中に10分間懸濁させた。次に、得られた白色固体をWhatmann濾紙No.4を使用してブフナーで濾過し、化合物1を白色固体(9.34グラム)として得た。生成物を高真空下で乾燥させ、アルゴン下にて-20℃で保存した。
【0558】
1H NMR(CDCl3,500mHz,δppm):4.41(dd,4H),3.58(s),2.81(s,8H)。
【0559】
【0560】
化合物1(9.34グラム、1.48mmol)を75mLの1,4-ジオキサン中に懸濁させた。懸濁液を50℃に加熱し、完全に溶解するまで撹拌した。溶液を室温に放冷した。3-アミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩(265.3mg、1.48mmol)を10mLのmQ水に溶解させ、これに4-DMAP(366mg、2.97mmol)を加え、得られた水溶液を完全に溶解するまで撹拌した。溶液のpHは10.15であった。水溶液を化合物1の溶液に滴加した。4mLを加えた後に溶液が濁った。3mLのmQ水を加えて溶解を促進させた。滴下を30分に亘って継続し、溶液を更に室温で一晩撹拌した。TLC(顕色剤としてニンヒドリン試薬を使用)により、遊離アミンは存在しないことが示された。トルエン(200mL)を加え、フラスコにディーンスターク装置を取り付けた。水がそれ以上留出しなくなるまで反応を還流した。
【0561】
ディーンスターク装置を取り外し、トルエンの体積を回転式気化器(rotavaporizer)で約30mLまで低減させた。次に、溶液を180mLの冷ジエチルエーテルに注ぎ入れ、得られた沈殿物をブフナーで濾過し、白色固体をジクロロメタン(DCM)30mLに再溶解させ、180の冷ジエチルエーテルを加えて沈殿させた。得られた白色固体をWhatmann濾紙No.4を使用してブフナーで濾過し、化合物2を白色固体(7.32グラム)として得た。生成物を高真空下で乾燥させ、アルゴン下にて-20℃で保存した。
【0562】
1H NMR(CDCl3,500mHz,δppm):6.62(m,1H) 5.74(s,1H) 5.33(s+m,2H) 4.21(m,2H) 3.37(dd,2H) 3.24(dd,2H) 1.98(s,3H) 1.69(q,2H)。
【0563】
ニトロベンゾイルでキャップしたメタクリル化PEG(化合物3)の調製:
【化8】
【0564】
化合物2(7.29グラム、1.17mmol)を乾燥DCM25mLに溶解させた。
【0565】
4-ニトロベンゾイルクロリド(237mg、1.17mmol)を乾燥ジクロロメタン(DCM)2mLに溶解させ、溶液を化合物2含有溶液に一度に加えた。
【0566】
4-DMAP(145mg、1.17mmol)を2mLの乾燥DCMに溶解させ、溶液を反応混合物に加えた。得られた溶液を窒素雰囲気下にて室温で一晩撹拌し、その後、180mLのジエチルエーテルに注ぎ入れた。得られた白色沈殿物をWhatmann濾紙No.1を使用してブフナーで濾過し、次に150mLの酢酸エチル中で再結晶させ、ブフナーで濾過して、酢酸エチル中に10分間懸濁させた。白色固体をWhatmann濾紙No.4を使用してブフナーで濾過し、化合物3を白色固体(6.63グラム)として得た。生成物を真空下で乾燥させ、アルゴン下にて-20℃で保存した。
【0567】
1H NMR(CDCl3,500mHz,δppm):8.29(d,2H) 7.38(d,2H) 6.62(m,1H) 5.74(s,1H) 5.33(s+m,2H) 4.45(m,4H) 4.21(m,4H) 3.36(dd,2H) 3.24(dd,2H) 1.98(s,3H) 1.66(q,2H)。
*2.89のシングレットは、残留する未反応NHSカーボネートを表す。
【0568】
合成手順II:
ニトロベンゾイル保護PEG(化合物11)の調製:
【化9】
【0569】
PEG 6000(20グラム、3.33mmol)を真空オーブン内にて120℃、0.1mbarで一晩乾燥させ、その後室温に放冷し、50mLの乾燥DCMに溶解させた。
【0570】
クロロギ酸4-ニトロフェニル(1.34グラム、6.66mmol)を5mLの乾燥DCMに溶解させ、溶液をPEG溶液に一度に加え、得られた反応混合物を5分間撹拌した。
【0571】
4-DMAP(821mg、6.66mmol)を5mLのDCMに溶解させ、溶液を反応混合物に滴加して、その後室温で一晩撹拌した。
【0572】
溶媒体積を蒸発によって約30mLまで低減させ、残存溶液を200mLのジエチルエーテルに注ぎ入れた。沈殿した固体をブフナー漏斗上で濾過して収集し、40mLのDCMに再溶解させ、200mLのジエチルエーテルに注ぎ入れた。得られた固体をブフナー濾過で収集し、真空下で乾燥させて、化合物1(19.35グラム)を白色固体として得た。
【0573】
1H NMR(CDCl3,500mHz,δppm):8.20(d,2H),7.32(d,2H),4.37(m,2H),3.57(s,545H)。
【0574】
メタクリル化PEG(化合物12)の調製:
【化10】
【0575】
化合物11(19.35グラム、3.03mmol)をアセトニトリル180mLに溶解させた。3-アミノプロピルメタクリレートHCl(544mg、3.05mmol)を25mLのmQ水に溶解させ、次に4-DMAP(752mg、6.10mmol)を加えて溶液を完全に溶解するまで撹拌した。次に、得られた溶液を化合物11の溶液に1時間に亘って滴加し、得られた反応混合物を室温で撹拌した。その後、溶媒体積を蒸発によって約80mLまで低減させ、150mLのDCMを加えた。MgSO4を加えて溶液を乾燥させ、濾過し、溶媒体積を約30mLまで低減させた。溶液をジエチルエーテル180mLに注ぎ入れ、ブフナー濾過で沈殿物を収集した。白色固体をDCM50mLに再溶解させ、溶液をジエチルエーテル200mLに注ぎ入れ、得られた白色固体を濾過により収集し、化合物12を白色固体(16.766グラム)として得た。
【0576】
1H NMR(CDCl3,500mHz,δppm):5.70(s,1H),5.27(s,1H),4.15(m,2H),3.57(s,545H),3.30(dd,2H),3.17(dd,2H),1.91(s,3H),1.62(q,2H)。
【0577】
ニトロ-ベンゾイルでキャップしたメタクリル化PEG(化合物3)の調製:
【化11】
【0578】
化合物12(16.76グラム、2.71mmol)を50mLの乾燥DCMに溶解させた。クロロギ酸4-ニトロフェニル(655mg、3.25mmol)を5mLの乾燥DCMに溶解させ、溶液を反応混合物に一度に加え、続いて5分間撹拌した。
【0579】
4-DMAP(334mg、2.71mmol)を5mLのDCMに溶解させ、溶液を反応混合物に滴加して、その後室温で一晩撹拌した。
【0580】
溶媒体積を蒸発によって約30mLまで低減させ、溶液を200mLのジエチルエーテルに注ぎ入れた。沈殿した固体をブフナー漏斗上で濾過して収集し、40mLのDCMに再溶解させ、200mLのジエチルエーテルに注ぎ入れた。得られた固体をブフナー濾過で収集し、真空下で乾燥させて、化合物3を白色固体(約14グラム)として得た。
【0581】
1H NMR(CDCl3,500mHz,δppm):8.21(d,1H),7.33(d,1H),5.70(s,1H),5.27(s,1H),4.38(dd,1H) 4.15(m,2H),3.57(s,545H),3.30(dd,2H),3.17(dd,2H),1.91(s,3H),1.62(q,2H)。
【0582】
【0583】
PEG 6000(20グラム、3.33mmol)を500mLの琥珀色丸底フラスコに入れ、240mLのトルエンを加えた。フラスコにディーンスターク装置を取り付け、残留水を4時間かけて留出させた。
【0584】
溶液を室温に放冷した。クロロギ酸4-ニトロフェニル(2.68グラム、13.32mmol)をトリエチルアミン(1.85mL、13.32mmol)と共に直接加え、反応混合物を一晩60℃に加熱した。溶媒体積を蒸発によって約30mLまで低減させ、残存溶液を200mLのジエチルエーテルに注ぎ入れた。沈殿した固体をブフナー漏斗上で濾過して収集し、DCM40mLに再溶解させ、200mLのジエチルエーテルに注ぎ入れた。得られた固体をブフナー濾過で収集し、真空下で乾燥させて、化合物11(19.35グラム)を白色固体として得た。
【0585】
1H NMR(CDCl3,500mHz,δppm):8.20(d,4H),7.32(d,4H),4.37(m,4H),3.57(s,545H)。
【0586】
【0587】
化合物11(19.35グラム、3.03mmol)を、琥珀色ガラス製の250mLの丸底フラスコ内で160mLのアセトニトリルに溶解させた。3-アミノプロピルメタクリレートHCl(544mg、3.05mmol)を5mLのmQ水に溶解させ、次にトリエチルアミン(850μL、6.10mmol)を加えて溶液を完全に溶解するまで撹拌した。次に、得られた水溶液を化合物11の溶液に2時間に亘って滴加し、得られた反応混合物を室温で一晩撹拌した。その後、溶媒体積を蒸発によって約30mLまで低減させ、40mLのトルエンを加えた。フラスコにディーンスターク装置を取り付け、5mLの水を留出させた。次に、溶液を蒸発させて溶媒体積を約30mLまで低減させ、200mLの冷ジエチルエーテルに注ぎ入れた。ブフナー濾過で沈殿物を収集した。次にそれを40mLのトルエンに再溶解させ、300mLの冷ジエチルエーテルに注ぎ入れた。化合物3をブフナー濾過で収集し、真空下で一晩乾燥させ、白色固体として15.75グラムを得た。
【0588】
1H NMR(CDCl3,500mHz,δppm):8.24(d,2H),7.36(d,2H),5.70(s,1H),5.31(s,1H),4.38(dd,2H)4.15(m,2H),3.57(s,545H),3.30(dd,2H),3.17(dd,2H),1.95(s,3H),1.65(q,2H)。
【実施例2】
【0589】
コラーゲン-メタクリル化PEGコンジュゲート
合成:
727mLの組換えヒトI型コラーゲン(Collplant Ltd.)(2.9mg/mL)を4℃に予冷した1リットルのシングルジャケット反応器に入れ、これに80mLの2M MOPS緩衝液(pH8.0)を34mLの4M NaClと共に加えた。10N NaOH溶液を使用して溶液をpH8.0に調整し、その後6℃に冷却した。9.3グラムの化合物3(コラーゲンのリジン残基に対するモル比が1:2)を10mLのmQ水に溶解させた。得られた溶液を、冷却した(6℃)コラーゲン溶液に撹拌しながら一度に加え、反応混合物を6℃で18時間撹拌した。次に、150mLの1M HClを加えることによって反応をクエンチし、pH3の溶液を得た。生成物を透析で精製した。この透析は、800mLの10mM HClを加え、容器内の体積を800mLに低減させることを繰り返すことによって、800mLの10mM HClで11回分行った。その後、溶液を65mLの空隙体積まで濃縮した。
【0590】
図1は化合物3(PEG-MA)とコラーゲンとの反応生成物の図解を示す。PEG-メタクリレート部分は、カルバメート結合でコラーゲンのリジン残基に結合している。
【0591】
図2はコラーゲンとCPMとを比較したSDS-PAGEを示す。
【0592】
SDS-PAGE分析により、リジン残基の少なくとも2%、例えばリジン残基の2~10%にPEG-MA部分が結合していることが示唆される。
【0593】
特性決定:
3種の配合物(各々7%のPEG-DA 3400と光開始剤としてリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート(LAP)とを含む)を調製した。配合物の内の1種には更に、メタクリル化組換えヒトI型コラーゲン(CMR)を4mg/mLの濃度で含め、配合物の内の1種には更に、
図1に示す化合物3(PEG-MA)とコラーゲンとの反応生成物(「CPM」とも称される)を4mg/mLの濃度で含め、1種はタンパク質を含まない対照として機能させた。
【0594】
粘度測定を、UHP鋼コーンプレート(40mm 1°)ジオメトリを使用し、試料を22℃でコンディショニングし、浸漬時間10秒、2.0rad/秒で20秒間の予備せん断で行った。これに続いて、流動掃引(Flow Sweep)(対数)試験を0.01~1000(1/秒)のせん断速度、1桁当たり3ポイントで適用した。定常状態の検知には、最大平衡時間60秒を使用し、サンプリング期間は5秒(許容差5%)であった。初回測定後の1、3及び5分間、印加した力を除去し、次に粘度を再測定した。試料体積:300マイクロリットル、10mM HCl緩衝溶液(pH2.5)中に9.3mg/mLのCPM又はCMRを含む。
【0595】
その際に得たデータを
図3のA(CPM配合物に関して)及び
図3のB(CMR配合物に関して)に示す。
【0596】
見て取ることができるように、CPM試料は1分間の緩和後でさえも粘度を保持するが、CMRの粘度は大きく低下し、5分間の緩和後でさえも回復しない。
【0597】
せん断下での回復性(せん断回復性)を次の通り試験した。流動ピーク測定を、UHP鋼コーンプレート(40mm 1°)ジオメトリを備えたDiscovery HR 2[TA Instruments社]を使用し、試料を22℃でコンディショニングし、浸漬時間10秒、2.0rad/秒で20秒間の予備せん断で行った。次に、流動ピーク保持(対数)試験を、せん断速度1.0(1/秒)で200秒間、続いてせん断速度100(1/秒)で100秒間、続いてせん断速度1.0(1/秒)で100秒間行った。試料体積:300マイクロリットル。
【0598】
図4のA~Bは、上述のCPMを含む配合物(
図4のA)及びCMRを含む配合物(
図4のB)に関するせん断力を操作した際の粘度の変化を示すデータを示しており、CPMはCMRよりも粘度が高いものの、せん断下での回復性も高い(CPMの97%に対し、CMRは87%)ことを示しており、PEG化コラーゲンはCMRよりもせん断力に対する耐性が著しく良好であることが示される。
【0599】
前述の配合物を硬化させた際に得た足場全ての光レオロジー特性決定を、20mmパラレルプレートジオメトリと、光源としてOmnicure(シリーズ2000)光学アタッチメントとを備えたDiscovery HR-2レオメータを使用して試験した。40μLの各試料を下部プレートにロードし、上部ジオメトリを降下させてギャップサイズを100μmにした。角周波数2Hz、歪み1%で測定期間を120秒に設定し、その中で試料を30秒間プレコンディショニングして、次いで22mW/cm
2で6秒間光を照射した(initiated)。得られたデータを
図5に示す。見て取ることができるように、CPMの貯蔵弾性率、及びそれに応じた弾性率はCMRの弾性率よりも低く、プレポリマー化コラーゲンにPEG部分を導入することで弾性が改善したことが示される。
【0600】
溶解度:
DLPバイオプリンティングでは一般に、365nm~405nmの範囲で良好に吸収する色素を含むインク配合物を使用する必要がある。これは、10マイクロメートルの解像度で微細構造を印刷するための必要条件である。DLPで使用可能な殆どの水溶性色素には、サルフェート、又は水溶性を付与する他の負に帯電した基が含まれている。
【0601】
コラーゲンは複数の正に帯電した基を有する正に帯電したタンパク質であるため、サルフェート、又は他の負に帯電した基を有する色素の存在は、物理的架橋又は単なる沈殿(ホフマイスター系列に従う)を招く可能性がある。これにより厳しい制限が生じ、水溶性、生体適合性、且つ非毒性であり、望ましい吸収性を有し、且つ負に帯電した基を有さない色素の使用が強いられる。このような色素は容易に入手できず、また使用する場合は、沈殿させることなく良好な解像度を得るために大量に必要となる。
【0602】
従って、
図6の左側バイアルに見て取ることができるように、CMRの10mg/mL溶液を例示的なポリ硫酸塩色素である1グラムのUV386aと混合すると、沈殿が観察される。
【0603】
図6の右側バイアルに更に見て取ることができるように、CPMの10mg/mL溶液を1グラムのUV386aと混合すると、溶液は透明なままであり、著しい沈殿はなかった。如何なる特定の理論にも束縛されるものではないが、この現象は、ポリ硫酸塩の存在下でさえタンパク質の溶解性を高めるPEG部分の高極性によって、及び/又はサルフェート基とコラーゲンの正に帯電した基との間の物理的架橋に対するPEG部分の干渉によって説明することができる。
【0604】
試験した2種の溶液の光学密度を600nmで測定した。CMRのO.D.は2.181、CPM溶液のO.D.は0.294であり、ほぼ1桁であった。
【0605】
これにより、適切な色素を選択する際に課される制限を回避して、負に帯電した色素を使用することが可能になる。
【0606】
メタクリル化コラーゲン-メタクリル化PEGコンジュゲートの調製:
本発明者らは、上述のコラーゲン-メタクリル化PEGコンジュゲートを次の通りにコラーゲンにメタクリル酸基を直接共有結合させることによって更に改変した、「ハイブリッド」コンジュゲートも考案した。
【0607】
上述の通り調製した10mLのCPM(3.0mg/mL)を20mLの琥珀色フラスコに加えた。次に、1.4mLの2M MOPS緩衝溶液(pH=7.5)を加え、続いて400マイクロリットルの4M NaClを加えた。溶液を4℃に冷却し、次に1.5マイクロリットルのメタクリル無水物を加えた。溶液を4℃で一晩撹拌した。修飾度が42%であることがTNBSアッセイにより示された。
【実施例3】
【0608】
本発明者は、DLPプロセスにおいて光を吸収する色素としてビタミンB12を利用することを考案した。
【0609】
ビタミンB12(180mg)又は4-ニトロフェノール(43mg)を、リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート(200mg)と共に6mLのmQ水に溶解させた。1グラムのPEG(6000)-ジアクリレートを溶液に加え、次に本明細書に記載のCMRを溶液に加えて、最終濃度が5mg/mLのCMRを得て、10mM HClを加えて総体積を20mLとした。得られた混合物を均質溶液が得られるまで各々撹拌し、Z軸に沿う50μmのチャネルとXY平面内の150μmの細孔とを有するヒドロゲルを3D印刷(DLPプリンタを使用)するために使用した。両方の配合物を用いたDLP印刷は問題なく行われた。
【0610】
2種の配合物の粘度を評価し、比較した。1°の40mmコーンプレートを備えたDiscovery HR-2レオメータで測定を行った。300μLの試料を下部ジオメトリにロードし、上部ジオメトリを降下させてギャップを32μmにした。温度を22℃に維持し、粘度値を0.01~1000(1/s)の範囲のせん断速度から取得した(1桁当たり3ポイント)。得られたデータを
図7に示す。
【0611】
見て取ることができるように、少なくとも10(1/秒)までのせん断速度では、ビタミンB12配合物は4-ニトロフェノール配合物と比較してはるかに低い粘度を示しており、そのためバイオプリンティング用途により適している。これに、危険性物質の規制要件を満たす必要なく、印刷された物体から容易に洗浄除去される色素として天然由来のビタミンB12を使用するという固有の利点が加わる。
【実施例4】
【0612】
光開始剤(PI)であるLAPの量の影響を試験するために、LAP濃度のみが異なる3種の異なる配合物を調製した。
【0613】
0.5%のLAPを含む配合物を次の通りに調製した。
【0614】
900mgのLAPをミリQ水9mLに溶解させ、これに1グラムのPCL(2000)-PEG(20K)-PCL-(2000)ジアクリレート、0.1グラムのPEG-DA 3400及び900mgのPEG-DA 700を加えた。次に3.0mLの10mM HClを加え、透明溶液が得られるまで溶液を撹拌した。次に、5.8グラムのCMR(16.9mg/mL)溶液を加え、5mg/mL溶液を得た。
【0615】
0.75%及び0.9%のLAPを含む配合物を、それぞれの量のLAPを使用して同様に調製した。
【0616】
各配合物の粘度を上述の通り測定した。得られたデータを
図8に示す。見て取ることができるように、PIの量は主に10(1/秒)までのせん断速度において配合物の粘度に影響を及ぼし、PIの量が少ないほど粘度は低くなる。
【実施例5】
【0617】
本発明者らは、3Dバイオプリンティングにおいてミノサイクリンを光吸収剤(例えば、本明細書に記載の色素物質)として使用することを考案し、コラーゲン含有硬化性配合物を用いるDLP 3Dバイオプリンティングプロセスにおけるその性能を試験した。
【0618】
例示的な試験では、複数のメタクリル酸基を有する硬化性rhコラーゲン(本明細書ではCMRとも称される)と、水性担体と、1種以上の更なる硬化性ポリマー材料(例えば、PEG-DA)と、国際公開2018/225076号に記載されているような光開始剤とを含む硬化性配合物を使用した。
【0619】
例示的な手順では、ミノサイクリン[Apollo Scientific社]をリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート(LAP、光開始剤)と共にmQ水に溶解させた。PEG(6000)ジアクリレートを溶液に加え、続いてCMR及び希釈HClを加えた。得られた混合物を均質溶液が得られるまで各々撹拌し、Z軸に沿う及びXY平面内の200μmのチャネルを有するヒドロゲルを3D印刷(DLPプリンタを使用)するために使用した。
【0620】
硬化段階中の各配合物のG’値を求めることによって、ミノサイクリンの濃度が配合物の固化速度及び固化度に及ぼす影響を試験した。
【0621】
20mmのパラレルプレートジオメトリと、光源としてOmnicure(シリーズ2000)光学アタッチメントとを備えたDiscovery HR-2レオメータを使用して測定を行った。25~90μLの各試料を下部プレートにロードし、上部ジオメトリを降下させて、液滴体積に応じてギャップサイズを50~250μmにした。角周波数2Hz、歪み1%で測定期間を120秒に設定し、その中で試料を30秒間プレコンディショニングして、次いで365nmの外部UV光源を使用して50mW/cm2で60秒間光を照射した(initiated)。
【0622】
0、0.04、0.08、0.12、0.16、及び0.2重量%のミノサイクリンを含む配合物を試験した。結果を
図9に示す。
【0623】
見て取ることができるように、全ての配合物は最大架橋レベルに達しており、使用した高い光エネルギーにおいて、ミノサイクリンは、0.08重量%という非常に低い濃度でも配合物の架橋に影響を及ぼさないことが示される。
【0624】
ミノサイクリンを含めた後に沈殿は観察されなかった。これは、ミノサイクリンが本明細書に記載されるような光吸収剤コラーゲン含有硬化性配合物として適していることを示している。
【実施例6】
【0625】
図10に示すように、リジン残基の一部に結合している複数のメタクリル基と複数のPEG部分(メトキシキャップされたもの、非硬化性)とを有するコラーゲン(本明細書に記載のrhコラーゲン)を含むコンジュゲートを合成した。
【0626】
簡潔に述べると、209.3グラムのMOPS緩衝液を200mLのmQ水に溶解させた。溶液に42mLの10N NaOHを加えてpH7.5に調整し、mQ水を加えて500mLの体積とした。溶液を0.45μmのフィルターで濾過した。10mLの1M HClを990mLのmQ水に加え、溶液を5分間撹拌した。70mLの組換えヒトI型コラーゲン(Collplant Ltd.)(20.3mg/mL)を420mLの10mM HClに注ぎ入れ、溶液を撹拌して1リットルの反応器に移し、6℃に冷却した。23mLの4M NaClを加え、続いて53mLのMOPS 2M緩衝液(pH7.5)を加え、10N NaOH(合計5.8mL)を徐々に加えて溶液をpH8.0に調整した。5.14グラムのMeO-PEG 5000-PNC(リジン残基に対して2mol当量、
図10を参照)を50mLのmQ水に溶解させ、溶液を反応器に加え、反応混合物を6℃で約24時間撹拌した。
【0627】
次に、111マイクロリットルのメタクリル無水物を加え、反応物を6℃で約24時間撹拌した。次に、115mLの1M HClを加えることによって反応をクエンチし、pH2.5の溶液を得た。生成物を透析で精製した。この透析は、500mLの10mM HClを加え、容器内の体積を500mLに低減させることを繰り返すことによって、500mLの10mM HClで10回分行った。
【0628】
得られた配合物は、粘度が約100センチポアズ、G’が約46,000Pa、せん断回復性が約93%である(全て本明細書に記載の通りに求めた)。
【0629】
本発明をその具体的な実施形態との関連で説明したが、多くの代替、修正及び変更が当業者には明らかであろう。従って、このような代替、修正及び変更は全て、添付の特許請求の範囲の趣旨と広い範囲内に含まれることを意図するものである。
【0630】
本明細書で言及した全ての刊行物、特許及び特許出願は、参照される際に、個々の刊行物、特許及び特許出願の各々が本明細書の一部を構成するものとして援用されると具体的且つ個別に記載されているかの如く、それらの全体が本明細書の一部を構成するものとして援用されることが、本出願人の意図するところである。更に、本願における如何なる参考文献の引用又は特定も、このような参考文献が本発明の先行技術として利用可能なことを容認するものとして解釈されるべきではない。各項の見出しが使用される範囲において、必ずしも限定として解釈されるべきではない。更に、本願の如何なる優先権書類も、その全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【配列表】
【国際調査報告】