(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】肺高血圧症の治療において使用するためのペンタガロイルグルコース
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7024 20060101AFI20241024BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20241024BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241024BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20241024BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K31/7024
A61P11/00
A61P9/12
A61K9/14
A61K47/68
A61K47/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525108
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2022080162
(87)【国際公開番号】W WO2023073150
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508334199
【氏名又は名称】シャリテ-ウニヴェルジテーツメディツィン・ベルリン
【氏名又は名称原語表記】CHARITE-UNIVERSITAETSMEDIZIN BERLIN
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】キューブラー ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】クチェレンコ マリヤ エム
(72)【発明者】
【氏名】クノサラ クリストフ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA95
4C076BB12
4C076BB13
4C076BB14
4C076BB25
4C076BB27
4C076BB40
4C076CC11
4C076CC15
4C076EE41
4C076EE59
4C086AA01
4C086AA02
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4C086MA05
4C086MA41
4C086MA56
4C086MA59
4C086MA65
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA42
4C086ZA59
(57)【要約】
本発明は、肺高血圧症、好ましくは、左心疾患に派生する肺高血圧症の治療又は予防において使用するための、ペンタガロイルグルコース(PGG)、その薬学的に許容可能な塩又はそれを含む医薬組成物を対象とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺高血圧症の治療又は予防において使用するための、好ましくは、前記肺高血圧症が、二次性肺高血圧症であり、より好ましくは、前記肺高血圧症が、左心疾患に派生する肺高血圧症(LHD;WHOグループII)である、ペンタガロイルグルコース(PGG)又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
肺高血圧症の治療又は予防において使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、ペンタガロイルグルコース又はその薬学的に許容可能な塩及び薬学的に許容可能な賦形剤を含み、好ましくは、前記肺高血圧症が、二次性肺高血圧症であり、より好ましくは、前記肺高血圧症が、左心疾患に派生する肺高血圧症(LHD;WHOグループII)である、医薬組成物。
【請求項3】
前記ペンタガロイルグルコースが、送達ビヒクルと組合わされている、請求項2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
前記送達ビヒクルが、微粒子、ナノ粒子、ヒドロゲル、血管周囲薬物送達ビヒクル、血管内薬物送達ビヒクル、ステント又はこれらの組合せを含む、請求項3に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
前記送達ビヒクルが、微粒子又はナノ粒子を含み、好ましくは、前記微粒子又はナノ粒子が、ペプチド、タンパク質、及び/又はポリマーを含む、請求項3~4のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
前記微粒子又はナノ粒子が、生分解性である、請求項5に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
前記PGG又はその薬学的に許容可能な塩が、前記微粒子又はナノ粒子の内部に配置され、及び/又はその表面に結合されている、請求項5又は6に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
前記薬物送達ビヒクルが、肺血管の標的化、好ましくは、肺動脈の標的化に適切なアンカー剤を含む、請求項3~7のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記アンカー剤が、薬物送達ビヒクルに共有結合されている、請求項8に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記アンカー剤が、肺血管に関連する構造、好ましくは、肺血管の細胞の構造又は肺血管の細胞外マトリックスの成分に特異的に結合する、請求項8又は9に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記肺血管に関連する構造が、エラスチン、好ましくは、ヒトエラスチンである、請求項10に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
前記アンカー剤が、抗体又はその特異的結合フラグメントを含む又はからなる、請求項8~11のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
前記アンカー剤が、リンカー分子、好ましくは、PEG-リンカーを介して送達ビヒクルに結合されている、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物が、局所投与又は全身投与用、好ましくは、血管内、静脈内、動脈内、心臓内、肺内及び/又は鼻腔投与用に構成されている、請求項3~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
成人人口の約1%が肺高血圧症(PH)に罹患している。左心疾患によるPH(PH-LHD)(WHOグループ2)は、PHの最も一般的な病型であり、症例の65~80%を占める。
肺高血圧症(PH)の特徴は、肺動脈の血圧上昇である。これは基本的に、安静時の肺動脈平均圧(mPAP)の25mmHg以上を超える上昇である。罹患患者の罹患率と死亡率は、PHの程度が高いほど高くなる。長期的には、PHは心筋に負担をかけ、特に右室の拡張と筋力低下を引き起こし、最終的には必要量の血液を輸送できなくなる。肺高血圧症の典型的な徴候は、血管壁の肥厚による肺動脈の狭窄である。直接的な結果として、体への酸素供給が減少し、これらの影響を受けた罹患者のパフォーマンスは大幅に制限される。進行すると、肺高血圧症は生命を脅かす状態にまで進展する。
【0002】
特発性肺高血圧症の診断は極めてまれである。多くの場合、PHは、左心疾患や肺疾患、及び/又は酸素不足(低酸素症)などの既往症の結果である。PHの症状には、息切れ、衰弱、重度の循環障害、及び最終的には右心不全が含まれる。PHを発症した患者は通常、右心不全で死亡する。
現在、肺高血圧症の治療薬として承認されている薬剤はわずかである。薬剤としては、プロスタノイド、sGC刺激薬(リオシグアト)、エンドセリン受容体拮抗薬、及びホスホジエステラーゼ-5阻害薬などがある。しかしながら、これらの薬物の有効性は低く、投薬は通常、治癒には至らず、疾患の経過の進行を遅らせるだけである。更に、かなりの副作用が起こる可能性があるため、薬物療法の代わりに肺移植が必要になることもある。重要なこととして、これらの薬物は現在のところ、比較的まれな症例である肺動脈性肺高血圧症(特発性肺高血圧症を含む)に対してのみ承認されており、一方、最も高頻度のPH形態、即ち左心疾患や肺疾患及び/又は酸素不足に関連するPHの治療に対しては、現在のところ承認されている薬理学的療法はない。
【発明の概要】
【0003】
よって、本発明の目的は、肺高血圧症、特に、左心疾患に派生する(secondary to)肺高血圧症の治療及び予防のための有効医薬剤を提供することである。
【0004】
本発明は、特許請求の範囲に定義される、又、以下に詳細に示されるような対象を対象とする。
本発明によれば、ペンタガロイルグルコース(PGG)又はその薬学的に許容可能な塩は、肺高血圧症の治療又は予防のために使用され、好ましくは、肺高血圧症は二次性肺高血圧症であり、より好ましくは、肺高血圧症は左心疾患に派生する肺高血圧症(LHD;WHOグループII)である。
驚くべきことに、PGGの投与は、遊離物質として、又はナノ粒子などの送達ビヒクルと結合して、PHにおける肺動脈硬化の治療に特に適していることが見出された。以下の所見は本発明の有効性と妥当性を示している。第一に、ex vivoで培養した肺動脈にPGGを適用すると、エラスターゼで処理した後にPAの肺動脈壁のエラスチン含量が増加し、エラスターゼで処理した後に肺動脈の弾力性が増加した。第二に、左心疾患によるPHのラットモデルにおけるPGGのin vivo適用は、右室圧負荷及び右室肥大を軽減し、既存のPH及び右室(RV)肥大をほぼ逆転させ、PA壁の弾性線維(elastic fiber)の組織化を改善すると共に、PAの硬化を抑制し、in vivo及びex vivoにおけるPAの生体力学を正常化した。
【0005】
よって、本発明者らは、エラスチン安定化化合物PGGを、遊離物質として、又は送達ビヒクルと結合させて適用すると、肺動脈の生体力学的特性が著しく改善され、従って、PHにおける既存の血行動態の変化及び右心負荷を正常化できることを示した。
ペンタガロイルグルコース(1,2,3,4,6-ペンタ-O-ガロイル-β-D-グルコース、PGG)は、グルコースの五没食子酸エステルであり、従って、D-グルコース分子の5つのヒドロキシル部分の総てが没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)によりでエステル化されていることを特徴とする。よって、PGGは、タンニン酸の疎水性核と複数のフェノール性水酸基を含むが、タンニン酸に関連する外側の没食子酸残基と加水分解性エステル結合を持たない。PGGはエラスチンに対して安定化効果があることが知られている。
【0006】
本発明の使用のためのPGGは、薬学的に許容可能な塩の形態で提供され得る。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容可能な塩」という用語には、酸付加塩と塩基付加塩が含まれる。このような塩は、遊離酸型又は有利塩基形態の本発明の化合物を1当量以上の適当な酸又は塩基と、任意選択により、溶媒中、又は塩が不溶性である媒体中で反応させた後、標準的な技術(例えば、真空又は凍結乾燥)を用いて、前記溶媒又は前記媒体を除去することによって形成され得る。本発明の化合物が遊離塩基形態を有する場合、化合物は、遊離塩基形態の化合物を薬学的に許容可能な無機又は有機酸、例えば、ハロゲン化水素酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸;他の無機酸及びそれらの対応する塩、例えば、硫酸、硝酸、リン酸など;並びにアルキル及びモノアリールスルホン酸、例えば、エタンスルホン酸、トルエンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸;並びに他の有機酸とそれらの対応する塩、例えば、酢酸、酒石酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸及びアスコルビン酸と反応させることにより薬学的に許容可能な酸付加塩として調製することができる。本発明の更なる酸付加塩としては、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アルギニン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩(benxenesulfonate)(ヘシレート(hesylate))、重硫酸塩、重亜硫酸塩、臭化物、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、カプリル酸塩、塩化物、クロロ安息香酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、リン酸二水素塩、ジニトロ安息香酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、ガラクテレート(galacterate)(粘液酸由来)、ガラクツロン酸塩、グルコヘプタオエート(glucoheptaoate)、グルコルレート(glucorrate)、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩(glycerophosplrate)、ヘミコハク酸塩(hemisueci- nate)、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、馬尿酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ヨウ化物、イセチオン酸塩、イソ酪酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタリン酸塩、メタンスルホン酸塩、メチル安息香酸塩、リン酸一水素塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、オレイン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、フェニル酢酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩及びフタル酸塩が含まれる。本発明の化合物が遊離形態を有する場合、薬学的に許容可能な塩基付加塩は、遊離酸形態の化合物を薬学的に許容可能な無機又は有機塩基と反応させることによって調製することができる。このような塩基の例は、水酸化カリウム、ナトリウム及びリチウムを含む水酸化アルカリ金属;水酸化バリウム及びカルシウムなどの水酸化アルカリ土類金属;アルカリ金属アルコキシド、例えば、カリウムエタノレート及びナトリウムプロパノエート;並びに水酸化アンモニウム、ピペリジン、ジエタノールアミン及びN-メチルグルタミンなどの様々な有機塩基である。又、本発明の化合物のアルミニウム塩も含まれる。本発明の更なる塩基塩としては、銅塩、第二鉄塩、第一鉄塩、リチウム塩、マグネシウム塩、第二マンガン塩、第一マンガン塩、カリウム塩、ナトリウム塩及び亜鉛塩が含まれる。有機塩基塩としては、第一級、第二級及び第三級アミン、天然置換アミンを含む置換アミン、環状アミンの塩、並びに塩基性イオン交換樹脂、例えば、アルギニン、ベタイン、カフェイン、クロロプロカイン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン(ベンザチン)、ジシクロヘキシルアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、Z-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソ-プロピルアミン、リドカイン、リシン、メグルミン、N-メチル-D-グルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン(triethylamirre)、トリメチルアミン、トリプロピルアミン及びトリス-(ヒドロキシメチル)-メチルアミン(トロメタミン)が含まれる。
【0007】
塩は又、塩の形態の本発明の化合物の対イオンを、例えば適切なイオン交換樹脂を用いて別の対イオンと交換することによって調製することもできる。塩の形態は、化合物の遊離の形態と比較して、PGGに改善された薬物動態学的特性を付与する可能性がある。薬学的に許容可能な塩形態は又、体内での治療活性に関して、化合物の薬力学にプラスの影響を与え得る。好ましい影響を受け得る薬力学的特性の一例として、化合物が細胞膜を横切って輸送される方法があり、これは化合物の吸着、分布、生体変換及び排泄に直接的且つプラスの影響を及ぼし得る。
【0008】
本発明は又、疾患、例えば、肺高血圧症の治療及び/又は予防において使用するための、有効成分としてPGG又はその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物に関し、好ましくは、肺高血圧症は、二次性肺高血圧症であり、より好ましくは、肺高血圧症は、左心疾患に派生する肺高血圧症(LHD;WHOグループII)である。
このような医薬組成物は、PGG又はその薬学的に許容可能な塩に加えて、1種類以上の薬学的に許容可能な賦形剤を含み得る。「賦形剤」という用語は、本明細書では、本発明の化合物以外のいずれの成分も表して使用される。賦形剤の選択は、大部分が特定の投与様式に依存する。賦形剤は、例えば、適切な担体、遅延剤、ブースター、延長物質、アジュバント、安定剤、結合剤、乳化剤、界面活性剤、浸透促進剤、懸濁化剤、崩壊剤、緩衝剤、塩、希釈剤、溶媒、分散媒、増量剤、滑沢剤、噴射剤、保存剤、香料又はこれらの混合物であり得る。
【0009】
本発明による使用のための医薬組成物は、好ましくは、送達ビヒクルと組合わされたペンタガロイルグルコースを含む。送達ビヒクルは、生物学的に活性なPGG又はその薬学的に許容可能な塩を、その生物活性が必要とされる又は望まれる体内の場所に送達するために適切な任意の化合物又は組成物である。適切な送達ビヒクルの例としては、微粒子(microparticles)、ナノ粒子、ヒドロゲル、血管周囲薬物送達ビヒクル、血管内薬物送達ビヒクル、ステント又はこれらの組合せが含まれる。
本発明における使用のために適切な血管周囲送達ビヒクル技術は当業者に一般に知られているので、本明細書で時間をかけて説明する必要はない。例えば、例示的な既知の血管周囲薬物送達技術としては、Chenら(米国特許出願公開第2005/0079202号)及びNathan(米国特許出願公開第2003/0228364号)によって記載されたものが挙げられる。これらの例示的な血管周囲送達システムには、特定の場所に注入できるか、又は例えば手術によって配置でき、それにより一定期間にわたって封入された、又はそうでなければそこに担持されたPGG化合物の制御放出を提供するポリマー送達ビヒクルが含まれる。
多くの血管内送達ビヒクルも同様に当技術分野で知られている。例えば、DiCarloら(米国特許第6,929,626号)は、血管の管腔内に配置され、薬物、例えば、本明細書に記載のPGG化合物をコーティング又はそうでなければ担持することができる管腔内配置可能な管状デバイスを記載している。管状部材は、対向する内部及び外部の織物表面を画定するパターンで相互接続されたヤーンを含む。織物表面の少なくとも一方は、体液に接触する内腔表面又は体腔に接触する外表である。Wuら(米国特許第6,979,347号)は、本発明のPGG化合物のような治療物質を血管内腔に送達するための装置及び関連の方法を記載している。具体的には、ステントのような、グルーブ又はトレンチが形成された移植可能な補綴を利用することができる。グルーブは、ステントの柔軟性を高めるためにステントの支柱の特定の領域に形成される。グルーブは又、移植後にデバイスからの送達のためにPGG化合物を保持する場所にもなる。例えば、PGG化合物又はその医薬組成物は、従来のスプレー技術又は改良浸漬技術を用いてグルーブに直接沈着させることができる。
【0010】
別の実施形態では、本発明の医薬組成物は、ヒドロゲル送達ビヒクルの使用によって投与することができる。ヒドロゲルは、本明細書では、構造安定性を維持しつつ高度に水和され得るポリマーマトリックスを含むように定義される。適切なヒドロゲルマトリックスは、非架橋ヒドロゲルと架橋ヒドロゲルを含む。更に、本発明の架橋ヒドロゲル送達ビヒクルは、任意選択により加水分解可能な部分を含むことができ、これにより、マトリックスは、水性環境、例えばin vivoで使用した場合に分解可能となる。例えば、送達ビヒクルは、ポリ乳酸のような加水分解可能な架橋剤を含む架橋ヒドロゲルを含むことができ、in vivoで分解可能である。本発明のヒドロゲル送達ビヒクルは、一般に当技術分野で知られているように、グリコサミノグリカン、多糖、タンパク質などの天然ポリマー、並びに合成ポリマーを含み得る。本発明のヒドロゲルの形成に使用可能な親水性ポリマー材料の限定されないリストには、デキストラン、ヒアルロン酸、キチン、ヘパリン、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、アルブミン、乳酸のポリマー及びコポリマー、グリコール酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、エポキシド、シリコーン、ポリオール(例えば、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール及びポリエチレングリコール並びにそれらの誘導体)、アルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム又は架橋アルギン酸ガム)、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ペクチン、ゼラチン、架橋タンパク質、ペプチド及び多糖類などを含み得る。
【0011】
本発明の送達ビヒクルは、1種類以上の送達ビヒクルの組合せを含み得る。例えば、ヒドロゲル送達ビヒクルは、開示される薬剤を結合組織へ送達するために、パッチ、ステント、有孔バルーン、血管グラフト、又は任意の他の適切なデバイスと組み合わせることができる。
好ましい実施形態では、送達ビヒクルは、微粒子又はナノ粒子を含む又はからなる。特に適切な微粒子及びナノ粒子は、US2014/0017263 A1に開示されている。
一般に、有用なサイズに形成可能ないずれのバルク生体適合性材料も、送達ビヒクルの微粒子又はナノ粒子の形成に使用可能である。一実施形態では、ポリマー粒子が使用可能である。例えば、ポリスチレン、ポリ(乳酸)、ポリケタール、ブタジエンスチレン、スチレン-アクリル-ビニル三元共重合体、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(シアノアクリル酸アルキル)、スチレン-マレイン酸無水物コポリマー、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ジビニルベンゼン)、ポリ(テレフタル酸ブチレン)、アクリロニトリル、塩化ビニル-アクリレート、ポリ(エチレングリコール)など、又はそのアルデヒド、カルボキシル、アミノ、ヒドロキシル、若しくはヒドラジド誘導体から形成された粒子が使用可能である。
【0012】
タンパク質のような生体ポリマーから形成された粒子が使用可能である。例えば、アルブミン、デキストラン、ゼラチン、キトサンなどから形成された粒子が使用可能であり、好ましくは、粒子を形成するためにアルブミンが使用される。このような粒子は、公知の方法に従って、有機溶媒を使用せずに形成できるので好ましいものであり得る。
開示される粒子の形成に使用可能な他の生体適合性材料としては、限定されるものではないが、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの酸化物、並びに金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属が挙げられる。一般に、これらの材料は、生体適合性且つ非免疫原性である。
これらの粒子は生分解性であり得る。例えば、多糖及び/又はポリ(乳酸)ホモポリマー及びコポリマーから形成された生分解性ポリマー粒子が使用可能である。例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)コポリマー及びこれらの誘導体から形成された粒子が使用可能である。
一実施形態では、ポリ(エチレングリコール)(PEG)/ポリ(乳酸)(PLA)ブロックコポリマーが、粒子の形成に使用可能である。PEG-PLAブロックコポリマーは、in vivoで良好な安定性を有する両親媒性ポリマーである。良好な生体適合性で、ブロックコポリマーのPEG親水性成分は、不溶性化合物の溶解度を高め、粒子表面へのタンパク質の吸収を防ぎ、粒子を網内皮系で異物として認識されないようにし、それによって長時間の循環特性を有し得る粒子を提供することができる。
【0013】
バルクナノ粒子材料の選択は、担持された粒子からの生物学的に活性な化合物の放出速度の主要な制御を提供するために利用することができる。例えば、生分解性材料の選択は、化合物の放出速度を高め、ナノ粒子の分解速度による制限は大きいがバルクナノ粒子からの活性化合物の拡散による制限は小さい放出機構を提供することができる。或いは、活性化合物の放出速度が拡散のみ(例えば、非分解性粒子)又はナノ粒子の分解速度(例えば、マトリックスのメッシュサイズが小さいために粒子を介した活性化合物の拡散が本質的にない)によって制限されるような材料を利用することもできる。
述べたように、送達剤の粒子は、微粒子又はナノ粒子であり得る。一例として、形成されたナノ粒子のサイズ、即ち平均直径は、一般に約500ナノメートル未満、例えば約200nm未満、又は約100nm未満であり得る。ある特定の実施形態では、ナノ粒子の大きさは約50nm未満、例えば平均直径約20nmであり得る。一実施形態では、約50nm~約400nm、又は約100nm~約300nmの平均直径を有するナノ粒子が形成され得る。一実施形態では、ナノ粒子は約200nmの平均直径を有し得る。
或いは、より大きな粒子を形成することもできる。例えば、他の実施形態では、約50マイクロメートル(μm)までのサイズを有する微粒子を形成することができる。一般に、粒子の好ましいサイズは、特定の適用、例えば、表面適用(クリーム又はローションの場合)を介して、呼吸器又は消化管を用いる非経口注射を介してなどの薬剤の特定の送達方法、並びに粒子からの治療化合物の所望の放出速度に依存し得る。例えば、一実施形態において、粒子は、細胞外マトリックスに留まり、損傷を受けた弾性線維との相互作用に利用できるように、細胞の取り込みを妨げる大きさにすることができる。よって、一実施形態では、粒子は約100nmより大きくてもよいが、これは粒子が小さいほど高い細胞取り込みを示すことが示されている。粒子は又、内皮を貫通し、基底膜を貫通して結合組織のエラスチン線維と接触するのに十分小さくすることもできる。例えば、粒子は、内皮及び基底膜を貫通するように、一実施形態では平均直径が約400nm未満であり得る。
【0014】
一般に、粒子は実質的に球形の形状であるが、限定されるものではないが、プレート、ロッド、バー、不規則な形状などを含むが他の形状も使用に適している。当業者には理解されるように、粒子の組成、形状、サイズ、及び/又は密度は幅広く様々であり得る。
損傷したエラスチンをよりよく標的化するように、望ましい表面電荷を有する粒子を設計することができる。例えば、正に帯電したナノ粒子は、負に帯電した粒子と比較して、優れた細胞取り込みを示している。よって、一実施形態では、粒子を細胞外マトリックスに維持し、細胞取り込みを避けるために、負の表面電荷を有する粒子を開発することができる。
開示された粒子は、任意の適切な方法に従って1以上の生物学的に活性な化合物を担持させることができる。例えば、沈殿法を用いて、一段階の形成工程で担持粒子を形成することができる。この方法によれば、粒子バルク材料(例えば、ポリ-(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)又はPGA/PLAコポリマーなどの生体適合性ポリマー)を溶媒に溶解して第一の溶液を形成することができる。適切な溶媒は、関与する特定の材料に依存し得る。例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、又はアセトニトリルを含む有機溶媒を使用することができる。この第一の溶液には、ポリマーを十分に可溶化するように、超音波処理などの標準的な処理を施すことができる。次いで、この第一の溶液を、一般に滴下して第二の溶液に添加することができる。第二の溶液は、例えば、水溶液であり得る。自然に、又は乳化法の後、例えば超音波処理の後に、ポリマーバルク材料を含む粒子が形成され得る。
【0015】
一段階形成工程によれば、生物学的に活性な化合物(例えば、ペンタガロイルグルコース(PGG))は、第一の溶液又は第二の溶液のいずれに含むこともできる。粒子の形成時に、生物学的に活性な化合物、例えば、PGGは、粒子中にポリマーバルク材料と共に組み込むことができる。
粒子内又は粒子上のPGGの初期濃度は様々であり得る。例えば、一実施形態では、粒子中の例えばPGGのような生物学的に活性な化合物の担持濃度は、粒子質量の約4質量%から約40質量%を超えるまで様々であってよく、特定の化合物、粒子バルク材料などに応じてそれより高い濃度及び低い濃度も可能である。例えば、生物学的に活性な化合物がバルク粒子材料中で高い溶解度を示す実施形態において、特に両材料の疎水性が高い場合には、非常に高い担持レベルが達成できる。
【0016】
沈殿法は、例えばPGGのような生物学的に活性な化合物を担持した単分散ポリマー粒子を提供できるので有用であり得る。更に、沈殿形成工程は、当業者に公知の処理方法に従って調整することができ、所望のサイズで、所望の濃度の生物学的に活性な化合物を含む粒子を提供することができる。例えば、粒子サイズの変更は、公知の実施に従って、受容溶液に含まれる界面活性剤の濃度及び/又は種類の変更によって得ることができる。
形成工程は、まず粒子を形成し、次いで形成された粒子にPGG又は更なる活性薬剤を担持させる第二の担持工程を行う2段階工程を含み得る。例えば、方法は、予め形成された架橋ポリマー粒子を、拡散過程を介して粒子を担持するように、生物学的に活性な化合物を含む溶液中で膨潤させることを含み得る。別の実施形態では、担持方法は二重乳化重合を含むことができ、これにより疎水性粒子への親水性化合物の担持が可能になる。
【0017】
例えばPGGのような生物学的に活性な化合物を担持した粒子を形成する方法は、沈殿法に限定されない。活性化合物を担持した粒子を形成するには、当該技術分野で知られているような他の微粒子及びナノ粒子形成工程を使用することができる。例えば、Sunに対する米国特許第7,754,243号に開示されているような超臨界流体処理法を用いて、非常に小さなナノ粒子、例えば、粒度分布が極めて狭い約20nm未満のナノ粒子を形成することができ、形成された懸濁液中に生物学的に活性な化合物を含まない粒子はほとんど又は全くない。
担持粒子は、粒子からの活性化合物の放出速度を制御するように形成することができる。適切な制御機構は当業者に知られている。例えば、放出速度は、知られているように、バルク粒子材料に対する活性化合物の相対濃度、バルクナノ粒子材料の分子量及び分解特性、ポリマー粒子マトリックスのメッシュサイズ、粒子表面と活性化合物との結合機構などに依存し得る。これらのいずれの場合でも、当業者であれば、望ましい放出速度を達成するようにシステムを構成することができる。例えば、純粋に拡散制限された放出の場合、このような制御は、粒子内の化合物濃度及び/又は粒子サイズ、粒子ポリマーメッシュサイズなどを変更することによって達成することができる。純粋に分解制限放出の場合、ポリマーモノマー単位、例えばPLGAポリマーのグリコール酸含量、及び/又は粒子バルク材料の分子量、並びに粒子サイズを、活性化合物放出速度を「微調整」するために調整することができる。例えば、グリコール酸含量が高く、分子量が低いPLGAポリマーを使用すると、そのポリマーで形成された粒子の分解速度が増大する。粒子からの活性化合物の放出速度は、上記のパラメーターを利用して調整することができ、数日から数か月までの期間、持続放出が可能な担体を製造することができ、最大放出速度は一般に数時間から数週間まで変化する。
【0018】
別の実施形態によれば、活性化合物の放出速度は、粒子内のリガンドに対する活性化合物の結合、一般には非共有結合によって制御することができる。一実施形態で使用可能な例示的方法及び材料は、参照により本明細書に援用されるMettersらに対する米国特許第8,128,952号に記載されている。この方法によれば、薬剤により送達する生物学的に活性な化合物に対して親和性を有するリガンドを選択することができる。例えば、リガンドは、この親和性を記述する所定の解離定数(KD)に従って選択することができ、リガンドを所定の濃度レベルで粒子に組み込むことができる。次に、化合物を粒子に組み込む際に確立される粒子からの活性化合物の放出速度は、これらの特定のパラメーター、即ち、KD及びリガンドの濃度に従って制御することができる。
PGGのような生物学的に活性な化合物は、バルク粒子材料内に必ずしも組み込まれる必要はない。例えば、別の実施形態では、生物学的に活性な化合物は、粒子の表面に結合させることができる。例えば、化合物は、例えばグルタルアルデヒド架橋を介して標的化抗体への結合に関して詳細に記載するものと同様の化学法を用いて、粒子の表面に結合させることができる。
【0019】
送達ビヒクルは、PGG又は弾性線維の分解を治療できる更なる活性化合物に加えて、粒子上又は粒子内に付加的な材料を含むことができる。このような材料は、生物学的に活性な化合物によって提供される安定化に加えて、組織に直接的な利益を提供する活性材料であってもよいし、又は送達剤中の他の材料の送達性、適合性、若しくは反応性を改善する補助材料であってもよい。例えば、一実施形態では、送達ビヒクルは、グルタルアルデヒドを含むことができる。グルタルアルデヒドは、結合組織に標的化されると、その組織を更に安定化させるために、タンパク質中の遊離アミン間に共有結合的架橋を形成することができる。
粒子及びPGG(及び任意選択で更なる生物学的に活性な化合物)に加えて、送達ビヒクルは、好ましくは、標的部位にPGG化合物を提供するように、分解された弾性線維に又はその近傍にアンカー剤を含む。好ましくは、アンカー剤は肺血管に関連する構造に特異的に結合し、より好ましくは、肺血管の細胞の構造又は肺血管の細胞外マトリックスの成分に結合する。好ましくは、担持された粒子は、エラスチン、好ましくはヒトエラスチンと特異的に結合することができるアンカー剤で被覆され得るが、これは、分解された弾性線維が、微小線維足場の分解のために露出したエラスチンを含むためである。従って、一実施形態では、送達ビヒクルは、分解された弾性線維にビヒクルを標的化し、固定部位において、損傷した弾性線維に送達ビヒクルのPGG化合物を供給するために、エラスチンに特異的な抗体又はそのフラグメントを表面に含むことができる。
【0020】
粒子の表面に結合されるアンカー剤は、ポリペプチドであってよく、例えば、標的部位において受容体を認識して結合することができる完全タンパク質又はそのフラグメントであり得る。これは開示されるアンカー剤の必要条件ではなく、別の実施形態では、固定機構は、非タンパク質性のアンカー剤、標的場所、例えば、弾性線維の分解のために露出したエラスチンに粒子を結合させることができる、例えば多糖を用いることができる。
アンカー剤は、天然又は合成薬剤であり得る。アンカー剤は、所望に応じてポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を含み得る。抗体は、既知の方法に従って作製することができる。好ましくは、アンカー剤は、抗体又はその抗原結合フラグメントであり得る。
本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ及びヒト又はヒト化免疫グロブリンタンパク質種に属す一本鎖、二本鎖、及び多重鎖タンパク質及び糖タンパク質を指す。「抗体」という用語は又、その合成及び遺伝子操作された変異体も含む。
【0021】
本明細書で使用する場合、抗体の「抗体フラグメント」又は「抗原結合フラグメント」という用語は、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、F(ab’)3フラグメント、Fdフラグメント、Fd’フラグメント、Fvフラグメント、scFv、二価scFv、ダイアボディ、線状抗体、一本鎖抗体、機能的重鎖抗体(ナノボディ)、並びに特異的結合に関して無傷抗体と少なくとも1つの所望のエピトープに対して特異性を有する抗体の任意の部分(例えば、エピトープに特異的に結合するために十分なフレームワーク配列を有する相補性決定領域の単離された部分)を指す。抗原結合フラグメントは、組換え技術によって、又は無傷抗体の酵素的若しくは化学的切断によって作製することができる。
本明細書で使用する場合、「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する配列を有する抗体、例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニックマウス(例えば、XENOMOUSE(商標)遺伝子操作マウス(Abgenix))、ヒトファージディスプレーライブラリーに由来する抗体、ウシ(牛乳)又はヒトB細胞中の抗体を指す。
本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」という用語は、親抗体の抗原結合特性を保持又は実質的に保持するがヒトにおける免疫原性が低い、非ヒト抗体(例えば、マウス)に由来する抗体を指す。ヒト化とは、本明細書で使用する場合、脱免疫化抗体を含むことを意図する。
【0022】
「改変」又は「組換え」抗体という用語は、本明細書で使用する場合、組換え手段によって調製、発現、作出若しくは単離された抗体、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現された抗体、組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む他のいずれかの手段によって調製、発現、作出若しくは単離された抗体を指す。このような改変抗体には、ヒト化、CDRグラフト、キメラ、in vitro生成(例えば、ファージディスプレーによる)抗体が含まれ、任意選択により、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列若しくはヒト免疫グロブリン遺伝子由来の可変領域若しくは定常領域、又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列の別の免疫グロブリン配列へのスプライシングを含む任意の手段によって調製、発現、作出若しくは単離された抗体も含み得る。
「単一特異性抗体」という用語は、特定の標的、例えば、エピトープに対して単一の結合特異性及び親和性を示す抗体を指す。この用語は、「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」を含み、これらは、本明細書で使用する場合、単一の分子組成の抗体又はそのフラグメントの調製物を指す。
「二重特異性抗体」又は「二機能性抗体」という用語は、2つのエピトープに対して二重の結合特異性を示す抗体を指し、各結合部位は異なり、異なるエピトープを認識する。
【0023】
好ましい実施形態では、アンカー剤として使用される抗体又はその抗原結合フラグメントは、エラスチン、好ましくは、ヒトエラスチンに特異的に結合する。
形成の後、アンカー剤は、送達ビヒクルの粒子とのコンジュゲーションを容易にするために更に処理することができる。例えば、アンカー剤、例えば、抗体の初期形成の後、抗体は、送達剤の粒子とより容易に結合するように更に処理することができる。例えば、抗体は、トロート試薬(2-イミノチオラン)などのチオール化化合物と反応させてチオール化抗体を作製することができる。
抗体は、任意の適切な工程に従って粒子とコンジュゲートすることができる。例えば、粒子は、粒子とアンカー剤、例えば抗体とのコンジュゲーションを容易にするために表面反応性基を含み得る。表面反応性基としては、限定されるものではないが、アルデヒド、カルボキシル、アミノ、ヒドロキシルなどを含み得る。表面反応性基は、当技術分野で一般に知られているように、形成される粒子表面に存在してもよいし、又は形成後に、例えば、形成した粒子の酸化、アミノ化などによって表面に付加されてもよい。抗体は、次に、例えば、抗体が上記のようなチオール化抗体である例示的実施形態で、マレイミドとの反応を介して粒子とコンジュゲートすることができる。
【0024】
アンカー剤は、非特異的吸着又は共有結合を介して粒子と結合させることができる。好ましい付着方法は一般に、形成されるコンジュゲートの適用に依存し得る。例えば、システムがin vivoで機能するように設計されている実施形態では、粒子は、様々な生物学的薬剤及び組織と何度も衝突することが予想できる。従って、このような実施形態では、粒子が他の物質と衝突してアンカー剤が外れないことにより確実を期すために、共有結合が好まれ得る。
アンカー剤(及び任意選択によりPGGなどの生物学的に活性な化合物)を粒子表面に結合させるために使用される特定の化学は、特に限定されない。例えば、一実施形態では、タンパク質性アンカー剤は、タンパク質アミン基と粒子の塩化アルキルとの間の求核置換反応に従って、クロロメチル化粒子に結合させることができる。別の実施形態では、可溶性カルボジイミド(EDC)及びグルタルアルデヒド化学は、カルボキシル化及びアミノ化粒子へのタンパク質性薬剤のアミン基の共有結合をそれぞれ達成するために使用することができる。更に別の実施形態によれば、タンパク質性薬剤は、粒子へのストレプトアビジン単層の最初の共有結合に続いて、所望の量のビオチン化タンパク質を制御可能に付着させることによって、粒子に結合させることができる。又、ストレプトアビジン単層の存在により、粒子が使用される環境における機能性タンパク質と粒子との直接的相互作用に関連する潜在的問題も排除することができる。更に別の実施形態によれば、タンパク質性アンカー剤は、架橋剤、例えば、Pierce社から入手可能な光反応性試薬であるスルホ-HSAB(N-ヒドロキシスルホスクシンイミジル-4-アジドベノエート)などのフェニルアジド架橋剤(これはタンパク質性アンカー剤のアミン基とポリマー粒子のC-H結合又はC-C結合を架橋することができる)を用いて粒子に共有結合させることができる。
【0025】
一実施形態では、アンカー剤と粒子をつなぐために分子スペーサー、例えば、親水性スペーサーを使用することができる。スペーサーの利用は、共有結合されたアンカー剤、例えばタンパク質と粒子表面との相互作用を防ぎ、従って、タンパク質の部分的又は完全な機能喪失に至り得るタンパク質の構造変化を防ぐことができる。スペーサーは、結合したタンパク質と粒子表面との相互作用を最小化するように、長い(例えば、約2,000~約20,000Daの質量平均分子量の)親水性ポリマーを含み得る。親水性スペーサーとしては、限定されるものではないが、ポリ(エチレングリコール)、ポリビニルアルコール、多糖類などが挙げられる。
【0026】
タンパク質性アンカー剤と粒子をポリ(エチレングリコール)(PEG)スペーサーを介して結合させる例示的方法では、PEGスペーサー及び粒子は、互いの結合を容易にするために官能基を含み得るか、含むように処理することができる。例えば、PEGスペーサーは、アルデヒド官能基を含むことができ、スペーサーのアルデヒドグループと粒子のアミン基との共有結合的反応を介してアミノ化粒子に結合させることができる。チオール化抗体は、次に、チオール化抗体を含む溶液をマレイミドの存在下で粒子の水性懸濁液と混合して送達剤を形成させることを含む簡単な工程によって、スペーサーと結合させることができる。
コンジュゲーションの最終段階では、粒子をツィーン(登録商標)20、プルロニック(登録商標)、又はデキストランなどの界面活性剤でブロックすることができ、この界面活性剤は、溶液に曝された疎水性表面をブロックし、非共有結合で結合した薬剤を置換するために粒子に吸着させることができる。低濃度のこのような物質は一般に、水溶性酵素などの薬剤の活性に干渉しない。界面活性剤の存在は、望ましくないタンパク質と粒子の相互作用を減少させ、粒子の凝集を防ぐことができる。界面活性剤は又、物質が使用される環境中の他のタンパク質による粒子表面の非選択的な「ファウリング」を防ぐことができ、ファウリングはシステムを不活性化する可能性がある。
【0027】
前述のように、アンカー剤が結合し得る粒子の表面部位は様々であり得る。例えば、一実施形態では、カルボキシル修飾粒子が使用可能である。例えば、カルボキシル修飾PLAに基づく粒子が使用可能である。そのような一実施形態によれば、NH2-PEG-COOHスペーサーは、公知の方法論に従ってカルボジイミド化学を用いてアミン基を介して粒子に結合させることができる。次いで、アンカー剤も同様に、カルボジイミド化学を用いてスペーサーのカルボキシル基に結合させることができる。次いで、粒子の表面は、上記のように適切な薬剤(例えば、ツィーン(登録商標)20、プルロニック(登録商標)、デキストランなど)でブロックすることができる。
【0028】
有益なことに、所望の適用のためにアンカー特性を示すように粒子を精密に設計することが可能である。例えば、粒子サイズ、アンカー剤のタイプ、及び/又は粒子表面上のアンカー剤濃度を変更することにより、粒子が標的組織、例えば損傷した血管系との結合を維持できる結合能及び時間を操作することができる。
一実施形態によれば、単一のアンカー剤は複数の粒子に結合し得る。例えば、アンカー剤がタンパク質のアミン基を介して粒子に結合することができる実施形態では、タンパク質分子は複数のアミン基を有するので、単一のタンパク質分子は潜在的に複数の粒子に結合することができる。その結果、粒子の二量体及びより大きな凝集体が形成される可能性がある。大きな凝集体の形成は、いくつかの実施形態では好ましいものであり得るが、例えば、いくつかのin vitroアッセイ適用又はin vivo局所適用の実施形態では、他の適用において、凝集を最小化することが好ましい場合がある。従って、一実施形態では、粒子の凝集を最小化するために、低い粒子濃度及び/又は高い濃度の界面活性剤、並びに界面活性剤の変動が形成工程中に使用できる。
【0029】
本発明においては、PGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又は本発明の医薬組成物は、疾患、例えば、肺高血圧症の治療及び/又は予防に使用され、好ましくは、肺高血圧症は二次性肺高血圧症であり、より好ましくは、肺高血圧症は、左心疾患に派生する肺高血圧症(LHD;WHOグループII)である。
WHOの分類によれば、肺高血圧症(PH)は5つのグループに分けられ、グループI(肺動脈性肺高血圧症)は更にグループI’とグループI’’に分けられる。
最新のWHO分類体系を次の用にまとめることができる:
WHOグループI-肺動脈性肺高血圧症(PAH);
WHOグループI’-肺静脈閉塞性疾患(PVOD)、肺毛細血管腫症(PCH);
WHOグループI’’-新生児の持続性肺高血圧症;
WHOグループII-左心疾患に派生する肺高血圧症;
WHOグループIII-慢性低酸素症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患、拘束性肺疾患と閉塞性肺疾患の混合型、睡眠呼吸障害、肺胞低換気障害、高所への慢性曝露、及び/又は発育異常などの肺疾患に派生する肺高血圧症;
WHOグループIV-慢性動脈閉塞症;
WHOグループV-機序が不明又は多因子性の肺高血圧症。
好ましくは、PGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又は本発明の医薬組成物は、二次性肺高血圧症、より好ましくは、左心疾患に派生する肺高血圧症(LHD;WHOグループII)の治療及び/又は予防に使用される。
【0030】
本明細書中で使用する場合、「治療する」という用語は、そのような用語が適用される疾患、障害若しくは病態の逆転、緩和若しくは進行の抑制、又はそのような疾患、障害若しくは病態の1以上の症状の改善を包含する。本明細書で使用する場合、「治療する」とは又、治療されていない対照集団と比較して、又は治療前の同じ哺乳動物と比較して、哺乳動物における疾患、障害又は病態の発生の確率又は発生率を低下させることを指す場合もある。例えば、本明細書で使用する場合、「治療する」とは、疾患、障害若しくは病態を予防することを指す場合があり、疾患、障害若しくは病態の発症を遅延若しくは予防すること、又は疾患、障害若しくは病態に関連する症状を遅延若しくは予防することを含み得る。本明細書で使用する場合、「治療する」とは、哺乳動物が疾患、障害若しくは病態に罹患する前に、疾患、障害若しくは病態の重症度、又はそのような疾患、障害若しくは病態に関連する症状を軽減することも指し得る。罹患前の疾患、障害又は病態の重症度のこのような予防又は軽減は、本明細書に記載されているような本発明の組成物の、投与の時点ではその疾患、障害又は病態に罹患していない対象への投与に関する。本明細書で使用する場合、「治療する」という用語は又、疾患、障害若しくは病態、又はそのような疾患、障害若しくは病態に関連する1以上の症状の再発を予防することも指し得る。「治療」及び「治療的に」という用語は、本明細書で使用する場合、「治療する」が上記で定義されるように、治療する行為を指す。
本発明の目的で、化合物の投与を含む治療のための方法、又は疾患の治療のための医薬の製造方法における化合物の使用への言及はいずれも、そのような方法における使用のための前記化合物への言及として理解される。
【0031】
本発明は又、肺高血圧症の治療及び/又は予防のための薬剤の製造における使用のためのPGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又は医薬組成物に関する。好ましくは、肺高血圧症は二次性肺高血圧症であり、より好ましくは、肺高血圧症は、左心疾患に派生する肺高血圧症(LHD;WHOグループII)である。
本発明は又、肺高血圧の治療方法に関し、そのような療法を必要とする患者に、治療上有効な用量のPGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又はそれを含む医薬組成物が投与される。好ましくは、肺高血圧症は二次性肺高血圧症であり、より好ましくは、肺高血圧症は、左心疾患に派生する肺高血圧症(LHD;WHOグループII)である。
本発明の医薬組成物のPGG又はその薬学的に許容可能な塩は、好ましくは有効用量で投与される。「有効用量」は、患者に投与した際に、目的疾患に関して測定可能な治療効果をもたらすPGGの用量である。本発明において、有効用量は、患者に投与した際に、前記疾患に罹患している1人又は複数の患者において、少なくとも1つの速乾関連症状に関して治療効果をもたらすPGGの用量である。好ましくは、PGGは、500mg/kg/日を超えない用量で投与される。特に、PGGは、1mg/kg/日~400mg/kg/日、好ましくは、20mg/kg/日~150mg/kg/日の用量で投与することができる。いずれにせよ、医師又は当業者は、個々の患者に適した実際の用量を決定することができ、それは、治療される特定の患者の年齢、体重、性別、及び腎機能障害又は肝機能障害のような付随する疾患及び応答によって変化する可能性がある。上記の用量は平均的な場合の例示である。当然のことながら、より高い又はより低い用量範囲が適当である個々の例が存在する場合があり、それも本発明の範囲内にある。
【0032】
本発明の使用のためのPGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又は医薬組成物は、好ましくは、薬学的に許容可能な投与形で、経口投与、静脈内投与、皮下投与、頬側投与、直腸投与、皮内投与、鼻腔投与、気管投与、気管支投与又は他の任意の非経経路若しくは吸入により投与される。本発明による使用のための医薬組成物は、例えば、局所投与又は全身投与、好ましくは、血管内投与、静脈内投与、動脈内投与、心臓内投与、肺内投与及び/又は鼻腔投与用に構成される。
本発明の使用のためのPGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又は医薬組成物は、経口投与され得る。経口投与は、化合物が消化管に入るような嚥下を含んでもよく、又は化合物が口から直接血流に入る頬側投与若しくは舌下投与が採用され得る。
【0033】
経口投与に適切な製剤としては、錠剤などの固体製剤;粒子、液体、又は粉末を含有するカプセル剤;トローチ剤(液体充填を含む);チュー剤;マルチ及びナノ微粒子;ゲル剤;固溶体;リポソーム剤;フィルム剤、オブラート剤、スプレー剤及び液体製剤が含まれる。液体製剤には、懸濁液、溶液、シロップ及びエリキシルが含まれる。このような製剤は、ソフトカプセル又はハードカプセルの充填剤として採用することができ、典型的には、担体、例えば、水、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルロース、又は適切な油、及び1種類以上の乳化剤及び/又は懸濁剤を含む。液体製剤は又、例えばサシェ剤からの固体の再構成によって調製することもできる。
錠剤剤形の場合、用量によって、化合物は、剤形の1質量%~80質量%、より一般には5質量%~60質量%を占め得る。化合物に加えて、錠剤は一般に崩壊剤を含有する。崩壊剤の例としては、グリコール酸ナトリウムデンプン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルカルシウムロース、微晶質セルロース、低級アルキル置換ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルファ化デンプン及びアルギン酸ナトリウムが挙げられる。一般に、崩壊剤は、剤形の1質量%~25%、好ましくは5質量%~20質量%を占める。
【0034】
結合剤は一般に、錠剤に凝集性を付与するために使用される。適切な結合剤としては、微晶質セルロース、ゼラチン、糖類、ポリエチレングリコール、天然及び合成ガム、ポリビニルピロリドン、アルファ化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが含まれる。錠剤は又、ラクトース(一水和物、噴霧乾燥一水和物、無水など)、マンニトール、キシリトール、デキストロース、スクロース、ソルビトール、微晶質セルロース、デンプン及び第二リン酸カルシウム二水和物などの希釈剤も含み得る。
錠剤は又、任意選択により、ラウリル硫酸ナトリウム及びポリソルベート80などの界面活性剤、並びに二酸化ケイ素及びタルクなどの流動促進剤も含み得る。存在する場合、界面活性剤は、錠剤の0.2質量%~5質量%を占めてよく、流動促進剤は、錠剤の0.2質量%~1質量%を占めてよい。
錠剤は又、一般に、テアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フマル酸ステアリルナトリウム、及びステアリン酸マグネシウムとラウリル硫酸ナトリウムの混合物などの滑沢剤を含有する。滑沢剤は一般に、錠剤の0.25質量%~10質量%、好ましくは0.5質量%~3質量%を占める。
他の可能性のある成分としては、抗酸化剤、着色剤、香味剤、保存剤及び矯味剤が含まれる。
例示的錠剤は、約80%までの化合物、約10質量%~約90質量%の結合剤、約0質量%~約85質量%の希釈剤、約2質量%~約10質量%の崩壊剤、及び約0.25質量%~約10質量%の滑沢剤を含む。
【0035】
本発明の使用のためのPGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又は医薬組成物は又、血流中、筋肉中、又は内部器官中へ直接投与され得る。非経口投与のための適切な手段としては、静脈内、動脈内、腹腔内、くも膜下腔内、脳室内、尿道内、胸骨内、頭蓋内、筋肉内及び皮下が含まれる。非経口投与のための適切なデバイスとしては、針(マイクロニードルを含む)注射器、無針注射器、及び注入技術が含まれる。
非経口製剤は一般に、塩、炭水化物及び緩衝剤(好ましくは、pH3~9)などの賦形剤を含有し得る水溶液であるが、いくつかの適用では、より適切には、無菌非水性溶液として又は無菌の発熱性物質除去水などの適切なビヒクルと一緒に使用するための乾燥形態として調剤してもよい。例えば凍結乾燥による、無菌条件下での非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製薬技術を用いて容易に達成することができる。
本発明の使用のためのPGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又は医薬組成物は又、皮膚又は粘膜に局所的に、即ち皮内又は経皮投与してもよい。この目的の典型的な製剤としては、ゲル、ヒドロゲル、ローション、溶液、クリーム、軟膏、粉剤、包帯、フォーム、フィルム、皮膚パッチ、ウェハース、インプラント、スポンジ、線維、帯具及びマイクロエマルションが含まれる。リポソームも使用可能である。典型的な担体としては、アルコール、水、鉱油、液体ワセリン、白色ワセリン、グリセリン、ポリエチレングリコール及びプロピレングリコールが含まれる。
【0036】
本発明の使用のためのPGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又は医薬組成物は又、鼻腔内に又は吸入により、一般にドライパウダー吸入器からドライパウダーの形態で(単独で、混合物として、例えば、ラクトースとのドライブレンドとして、又は混合成分粒子として、例えば、ホスファチジルコリンなどのリン脂質と混合して)、或いは与圧容器、ポンプ、スプレー、アトマイザー(好ましくは、微細ミストを生成するために電気流体力学を用いたアトマイザー)、若しくは1,1,1,2-テトラフルオロエタン又は1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンなどの適切な噴射剤の使用を伴う若しくは伴わないネブライザーからのエアロゾルスプレーの形態で投与することもできる。鼻腔内使用の場合、粉末は、生体接着剤、例えば、キトサン又はシクロデキストリンを含み得る。与圧容器、ポンプ、スプレー、アトマイザー、又はネブライザーは、例えば、エタノール、エタノール水溶液、又は活性剤の分散、溶解、若しくは放出延長のための適切な別の薬剤、溶媒としての噴射剤及び任意選択の界面活性剤、例えば、トリオレイン酸ソルビタン、オレイン酸、又はオリゴ乳酸を含む本発明の4,5-ジアリールイミダゾール誘導体の溶液又は懸濁液を含有する。
肺高血圧症、好ましくは、左心疾患に派生する肺高血圧症の治療におけるPGG若しくはその薬学的に許容可能な塩又は医薬組成物の使用は、このような化合物が前記疾患の治療のための従来技術で知られている化合物よりも有効であり、毒性が低く、長時間作用し、強力であり、副作用が少なく、より容易に吸収され、良好な薬物動態プロファイル(例えば、高い経口バイオアベイラビリティ及び/又は低いクリアランス)を有し、及び/又は他の有用な薬理学的、物理的、若しくは化学的特性を有し得るという利点を持ち得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1 PH-LHDにおける導管肺動脈の硬化A,一軸引張試験を受けた導管動脈の典型的な力-変位曲線を示す概略図。k
1、エラスチン優位材料の剛性;k
2、コラーゲン優位材料の剛性;εTrans、エラスチン優位材料特性がコラーゲン優位材料特性に移行する理論的ひずみ値。B,群データは、ドナー(n=26)、PHを伴わないLHD患者(n=28)、及びPH-LHD患者(n=22)のPAの力-変位曲線(平均±SEM)を示す。C,箱ひげ図は、ドナー、PHを伴わないLHD患者、及びPH-LHD患者それぞれのPAにおけるk
1、k
2、及びεTransを示す。統計:順位に基づくクラスカル・ウォリス一元配置ANOVAの後にペアワイズ多重比較(ダン検定)。
【
図2】
図2 肺動脈の生体力学的能力は肺動脈圧と相関する散布図はPAPmと肺動脈の生体力学的パラメーターk
1、k
2、及びεTransとの関係を示す。統計:スピアマンの相関係数Rho(r)及び対応するp値が各パネルに示される。
【
図3】
図3 PH-LHDにおける弾性線維及びコラーゲン線維の進行性リモデリングA,ドナー、PHを伴わないLHD患者、及びPH-LHD患者のEVG染色PA内壁の代表的な画像。左のパネルはエラスチン陽性領域のみを示し、右のパネルはコラーゲン陽性領域のみを示す。注目すべきは、EVG染色によるヘマトキシリン染色では細胞核も染色されるため、左のパネルのエラスチン染色シグナルに含まれていることである。B,箱ひげ図は、PHを伴わないLHDサンプルとPH-LHDサンプル中の弾性粒子とコラーゲン粒子の面積を画像面積とドナー対照に対して正規化したものを示す。C,ドナー、PHを伴わないLHD患者、及びPH-LHD患者のPAサンプルのコラーゲン対エラスチン比を示す箱ひげ図。統計:統計:順位に基づくクラスカル・ウォリス一元配置ANOVAの後にペアワイズ多重比較(ダン検定)。
【
図4】
図4 弾性線維の超微細構造と構成A,TEM画像は、ドナー、PHを伴わないLHD患者及びPH-LHD患者のサンプルのPA中膜の超微細構造を示す。el、弾性線維;白い矢印-断片化された弾性線維、黒い矢印-弾性線維内のエラスチン核。B,ウエスタンブロットと定量的デンシトメトリーデータ(箱ひげ図)は、ドナー(n=6)、PHを伴わないLHD患者(n=6)又はPH-LHD患者(n=6)のPAにおける弾性線維成分α-エラスチンとフィブリリン-1の発現を示す。統計:順位に基づくクラスカル・ウォリス一元配置ANOVAの後にペアワイズ多重比較(ダン検定)。
【
図5】
図5 PGGによるエラスチンの安定化はエラスチン分解から保護し、肺動脈の生体力学を改善するA,EVG染色で染色したドナーPA壁の代表的な画像は、対照サンプル(DMSO)、PGG処理サンプル、エラスターゼ処理サンプル、及びPGG→エラスターゼ処理サンプルの動脈中膜のエラスチン(紫色)を示す。B,群データは、それぞれエラスターゼ又はPGGの存在下又は不在下で24時間ex vivo培養した後のドナーPAの力-変位曲線(平均±SEM)を示す。箱ひげ図は力-変位曲線から算出したεTransを示す。統計:c,マン・ホイットニーU検定。
【
図6】
図6 PH-LHDのラットモデルにおけるPGGの肺動脈部位PHへの標的化送達A,試験プロトコールの概略図。動物にPGG処理の有無にかかわらず、AoBの偽手術を施し、1週間後(1w;偽手術(sham)、AoB)、3週間後(3w;偽手術、AoB)、又は5週間後(5w;偽手術、AoB、AoB-BLN、AoB-PGG)に分析した(各群n=8~12匹)。OP、手術(AoB又は偽手術);白及び濃い灰色のバーは、EL-BLN-NP又はEL-PGG-NP処置の時間枠を示す。B,代表的な心エコー画像は、偽ラットと比較したAoB動物における上行大動脈へのクリップ留置(黄色の矢印)を示す。C,代表的な明視野顕微鏡画像は、偽ラット、AoBラット、及びAoB-PGGラットのAoB5週間後のPAを示す。PGGはAoB-PGGラットのPAでFeCl
3染色により検出された。D,代表的な画像は、手術5週間後の偽ラット、AoBラット、及びAoB-PGGラットのPAにおける自家蛍光で可視化した弾性線維を示す。
【
図7】
図7 PGGの標的化送達はPH-LHDのラットモデルにおいてPAの硬化を軽減するA,群データは、手術後1、3、5週目のAoB及び偽動物のPA、並びに5週後のAoB-BLN及びAoB-PGGラットのPAの力-変位曲線(平均±SEM)を示す。B,箱ひげ図は、偽手術ラット、AoBラット、AoB-BLNラット及びAoB-PGGラットのPAのk
1、k
2及びεTransを示す。統計:順位に基づくクラスカル・ウォリス一元配置ANOVAの後にペアワイズ多重比較(ダン検定)。
【
図8】
図8 PGGの標的化送達はPH-LHDのラットモデルにおいて肺高血圧を軽減する箱ひげ図は、心臓カテーテル法で評価した左室収縮期圧(LVSP)と右室収縮期圧(RVSP)、及び左室質量を体重に対して正規化したもの(LV+Sw/Bw)と右室質量を体重に対して正規化したもの(RVw/Bw)を示す。統計:順位に基づくクラスカル・ウォリス一元配置ANOVAの後にペアワイズ多重比較(ダン検定)。
【
図9-1】
図9 PGGによる治療はPH-LHDのラットモデルにおいて肺動脈の生体力学と血行動態を改善するA,経胸壁心エコーで得られた代表的なMモード画像は、AoB-PGGラットの術後3週目及び5週目のLV壁とLV腔の寸法を示す。3週間後と比較して、LV短縮は5週間後に顕著に減少していた。B,Mモード画像は、AoB-PGGラットにおけるPGG処置前(3週)と処置後(5週)のPA拡張性を示す。矢印は大動脈上のクリップを示す。C,代表的な画像は、AoB-PGGラットにおけるPGG処置前(3w)と処置後(5w)の、パルス波及びカラードップラー心エコーで検出された肺血流、並びにPAT及び肺駆出時間(PET)パラメーターの解析を示す。D,折れ線グラフは、AoB-BLN及びAoB-PGGラットにおける、ビヒクル又はPGG処置前(3w)と処置後(5w)の左室内径短縮(LV FS)、左室駆出率(LV EF)、肺動脈半径ひずみ(PA RS)、肺動脈加速時間(PAT)、PAT/PET及び三尖弁環面収縮期間伸縮(TAPSE)の縦断的変化を示す。統計: 対応のあるウィルコクソン符号順位検定。
【
図9-2】
図9 PGGによる治療はPH-LHDのラットモデルにおいて肺動脈の生体力学と血行動態を改善するA,経胸壁心エコーで得られた代表的なMモード画像は、AoB-PGGラットの術後3週目及び5週目のLV壁とLV腔の寸法を示す。3週間後と比較して、LV短縮は5週間後に顕著に減少していた。B,Mモード画像は、AoB-PGGラットにおけるPGG処置前(3週)と処置後(5週)のPA拡張性を示す。矢印は大動脈上のクリップを示す。C,代表的な画像は、AoB-PGGラットにおけるPGG処置前(3w)と処置後(5w)の、パルス波及びカラードップラー心エコーで検出された肺血流、並びにPAT及び肺駆出時間(PET)パラメーターの解析を示す。D,折れ線グラフは、AoB-BLN及びAoB-PGGラットにおける、ビヒクル又はPGG処置前(3w)と処置後(5w)の左室内径短縮(LV FS)、左室駆出率(LV EF)、肺動脈半径ひずみ(PA RS)、肺動脈加速時間(PAT)、PAT/PET及び三尖弁環面収縮期間伸縮(TAPSE)の縦断的変化を示す。統計: 対応のあるウィルコクソン符号順位検定。
【発明を実施するための形態】
【0038】
材料及び方法:
ヒトPAサンプルの収集と臨床データ解析
ヒト組織サンプルは、ベルリン・シャリテ大学医学部倫理委員会(EA4/035/18)の承認の後、患者のインフォームド・コンセントを得て収集された。肺動脈幹からの検体(以下、PAサンプルと呼ぶ)は、ドナー(健常心臓対照群、n=33)、PHを伴わないLHD患者(PHを伴わないLHD群、n=35)、及びLHDに起因するPH患者(PH-LHD群、n=36)から、同所性心臓移植中、吻合前にPAの長さを調整した際に採取された。PHの診断は、移植前6か月以内に得られた右心カテーテル検査(RHC)からのデータによって検証され、現行のガイドラインに従って、平均PAP 25mmHgをカットオフ値とした。
年齢と性別の人口統計学的データは、健常心臓ドナーと、PHを伴わないLHD患者及びPH-LHD患者との間に有意差はなく、表1に報告されている。基礎疾患は、PHを伴わないLHD患者とPH-LHD患者の虚血性心筋症と非虚血性心筋症を含んだ(表1)。PHを伴わないLHD患者とPH-LHD患者の肺血行動態を表2にまとめている。
【0039】
ヒトPAサンプルの生体力学試験
一軸引張試験。採取後、ヒトPAサンプルは氷上で、生理食塩水中で保存し、2~4時間以内に生体力学を評価した。サンプルの穴又は裂け目を確認し、穴又は裂け目がある場合は生体力学試験から除外した。緩い結合組織と脂肪組織を注意深く除去し、サンプルの寸法(長さと幅)をデジタルノギスで測定した。MyoDynamics Muscle Strip Myograph System(840DM、Danish Myo Technology、ヒンナップ、デンマーク)を用いて、温度(37℃)と通気性を制御しながら、PAの円周方向の引張特性を評価した。この目的のために、肺動脈幹から円周方向の長方形切片(2×8mm)を切除し、長さ5mmで取り付けた。動脈組織は、エラスチン材料に損傷を与えないように、5~10mNの低い力で5回の伸展-弛緩サイクルを行うことで前処理を行った。ベースライン力1mNでサンプルを平衡化した後、4mmの自動変位(ΔL)を0.5mm/sの速度で加えた。各試験サンプルにおいて、80%全ひずみ(ε)が達成された。生じた力(F)は、データ収集システム(PowerLab、ADInstruments)によってリアルタイムで記録し、力-変位曲線として表示した。各PA2~4個の試験片を試験し、これらの技術的反復の結果を平均した。力-変位曲線は、エラスチンとコラーゲンの引張特性を反映する動脈「2成分」材料の典型的な特性を示す(
図1A)。力-変位曲線から以下のパラメーターが導かれた:エラスチンに富む動脈材料の剛性(k
1)及びコラーゲンに富む動脈材料の剛性(k
2)(それぞれつま先領域と直線領域の傾きとして計算)、剛性(k、mN/mm)はそれぞれの材料によって生じた変形に対する抵抗力(ΔF/ΔL)を反映し、耐荷重要素のエラスチンからコラーゲンへの移行が起こった際のひずみ(εTrans)は、力-変位曲線特性に基づいて、Fが100mNに達した時に加えられたひずみとして定義される。
【0040】
PAの生体力学に対するPGGの効果。PAの生体力学的特性に対するPGGの効果は、PA検体のex vivo培養とその後の一軸引張試験によって評価した。単離したばかりのPAを無菌状態で取り扱った。動脈の1片を切除し、直接一軸引張試験を行い、ベースライン時のPAの生体力学を記録した。残りのPAは、2×8mmのストリップとして準備し、ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher)を添加した無血清ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM、Gibco)中で、37℃、21%O2及び5%CO2で湿度を制御したex vivo培養用の12ウェルプレートに入れた。PGG(ペンタ-O-ガロイル-β-D-グルコース水和物、Sigma-Aldrich)は、保存溶液としてジメチルスルホキシド(DMSO、Sigma-Aldrich)に溶解し、最終濃度0.1%で培地に添加した。同様の濃度のPGGは、細胞毒性が最小であることが以前に示されている。ブタ膵臓由来のIV型エラスターゼ(E0258、Sigma-Aldrich)を、保存溶液としてダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS、Gibco)中に調製し、24時間にわたって大部分の弾性線維を効果的に消化することを示しているブタ大動脈での以前の研究結果に基づいて、1Uを培地に添加した。以下の4つの処理条件を試験した:対照、エラスターゼのみ、PGGのみ、及びエラスターゼの前にPGG。PGG処理は、エラスターゼの存在下又は不在下でPAを24時間培養する前に、37℃で1時間行った。対照サンプルは、対応する濃度のDMSOと共にインキュベートした。
【0041】
LHDに派生するPHのラットモデル
全ての動物実験は、プロトコール番号G0030/18の下、現地政府の動物飼育使用委員会(Landesamt fur Gesundheit und Soziales(LaGeSO)、ベルリン)の承認を得た。全ての実験は、ARRIVEガイドライン及び「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(Institute of Laboratory Animal Resources、第7版 1996)に従って行われた。
手術方手順。うっ血性心不全は、Janvier LabsのSprague-Dawley幼若ラット(体重約100g(bw))に、前述のように冠動脈上AoBにより外科的に誘導した。簡単に述べると、ラットはケタミン(87mg/kg bw)とキシラジン(13mg/kg bw)の腹腔内注射によって麻酔され、十分な麻酔深度かどうかは足指ピンチテストによって定期的に確認された。AoB群のラットには、内径0.8mmのチタンクリップを上行大動脈に留置した。周術期には、前述のように気管切開により、一回換気量6mL/kg bwで、室内空気で機械的に換気した。偽手術動物にはクリップ留置以外の全ての麻酔及び外科的処置を施し、対照として用いた。動物には麻酔中に目の保湿軟膏、並びに術前・術後鎮痛剤(カルプロフェン、5mg/kg bwを1週間毎日腹腔内投与)及び術後抗生物質(アモキシシリン、飲料水中に500mg/L)を投与した。術後1、3、5週目に、侵襲的血行動態モニタリング、心臓質量の測定、クリップ留置の死後管理、PAの生体力学的特性の試験、及び以下に明示するようなPA組織学的解析を含むエンドポイント測定を行った。
【0042】
PGG担持ウシ血清アルブミン(PGG-NP)及びブランクナノ粒子(BLN-NP)の調製と抗体コンジュゲーション。PGG担持ウシ血清アルブミン(BSA)NP(PGG-NP)及びブランクBSA NP(BLN-NP)は、既述の方法で調製した。簡単に述べれば、250mgのBSA(Seracare、ミルフォード、MA)を4mLの脱イオン水に溶解し、PGG溶液(125mg PGG(味の素オムニケム)を400μLのジメチルスルホキシドに溶解)を攪拌しながら添加し、続いて37μLの8%グルタルアルデヒドを添加し、室温で架橋した。1時間攪拌した後、NP混合物を連続超音波処理(Omni Ruptor 400 Ultrasonic Homogenizer、Omni International Inc、ケネソー、GA)下、24mLのエタノール(Sigma、セントルイス、MO)に30分かけてゆっくり加えた。6,000rpmで10分間遠心した後、PGG-NPのペレットを得た。ブランク(BLN)ナノ粒子は、PGG添加を省略して調製した。
このようにして調製したPGG-NPとBLN-NPを、次に、前述のように、ウサギ抗ラットエラスチンポリクローナル抗体(クレムソン大学で自家開発)を標的とする分解エラスチンと一晩結合させた。簡単に述べると、10mgのNP又はPGGを担持したNP又はブランクNPを、2.5mgのα-マレイミド-ω-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルポリ(エチレングリコール)(mPEG-NHS、M.W.2000、Nanocs、NY、U.S.A.)を用いて、穏やかにボルテックス撹拌しながら室温で1時間PEG化した。20μgの自家製抗エラスチン抗体(EL)を、(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(20mM HEPES)バッファー(pH=9.0)に溶解した68μgのトロート試薬(G-Biosciences、セントルイス、MO)でチオール化した。混合物を室温で1時間インキュベートした。次に、チオール化抗体をPEG化NPに添加し、4℃で一晩、ゆっくりとした揺動下で結合させた。
EL-PGG-NP注射。PBS中に調製したエラスチン抗体を結合させたPGG担持ナノ粒子(EL-PGG-NP)を、AoB手術3週間後と4週間後にAoBラットに尾静脈から注射した(10mg/kg bw)。対照ラットには、エラスチン抗体結合ブランクナノ粒子(EL-BLN-NP)を施した。
【0043】
経胸壁心エコー検査。心エコー図は、AoB-PGGラット又は対応する対照ラットで、EL-PGG-NP及びEL-BLN-NP処置前及び処置後に、それぞれAoB後3週目及び5週目に実施した。簡単に述べると、ラットをイソフルラン(1.5%に酸素を2L/分で補給)で麻酔し、目は保湿軟膏で保護し、体温と心電図を連続的にモニターした。画像取得は、MX250トランスデューサーを3100 Vevo(登録商標)イメージングシステム(FUJIFILM VisualSonics、アムステルダム、オランダ)と共に使用して行った。LV FSは時間運動表示(Mモード)から評価し、LV EFは傍胸骨長軸(PLAX)ビューで取得した2D超音波画像表示(Bモード)から評価した(
図6a)。PA画像は、トランスデューサープローブをRV流出路に向かってBモードでシフトさせることで得られる修正PLAXビューで行った(
図6c)。PA流はパルス波ドップラーイメージングで評価した。TAPSEは、食道正中4室図で拡張末期と収縮末期の間の三尖環の移動距離を測定することによりMモードで評価した。大動脈弓部図は、大動脈へのクリップの正確な配置を管理し、パルス波ドップラーイメージングによる上行大動脈及び下行大動脈のフロープロファイルを記録し、PAの横断面からのMモード画像を取得するために使用した(
図6b)。PA寸法(肺動脈幹の最大径と最小径)及び肺動脈血流速度特性(PAT及びPET)は、Vevo LAB(FUJIFILM VisualSonics)解析ソフトウェアを用いて解析した。肺動脈半径ひずみは、PA RS=(DMax-DMin)/DMinとして計算し、DMaxとDMin は、修正PLAXビューで測定したそれぞれ最大及び最小PA径である。
【0044】
心臓カテーテル検査と血行動態。上記のように、動物をケタミン/キシラジンで麻酔し、気管切開し、室内空気で換気した。正中開胸後、心膜を開き、マイクロチップのMillarカテーテル(PowerLab、ADInstruments)を用いて心尖部からLVSP、次いでRVSPを測定した。
心臓質量。心室肥大は、左心室(中隔を含む)と右心室の質量を体重に対して正規化したものとして評価した。
ex vivo一軸引張試験。ヒトの肺動脈サンプルと同様に、ラットPA円周方向の引張特性をMyoDynamics Muscle Strip Myograph Systemで評価した。単離したばかりの肺動脈幹をPBSで調製し、2mm幅のリングに切断した。リングは材料試験システムにフックで取り付けた。サンプルは5回の伸展-弛緩サイクル(各5~10mN)により前処理し、次いで、ベースライン前張力5mNで平衡化した。最大長5mmの変位を0.5mm/sの速度で自動的に加え、PAの生体力学的パラメーター、即ちk1、k2及びεTransを、上述のように力-変位曲線から導いた。
【0045】
組織学及び顕微鏡検査
組織学。ヒト又はラットPAサンプルをOCT Compound(Tissue-Tek)に凍結包埋し、Microm HM560クライオスタットで10μmの横断切片とした。スライドは-20℃で保存した。染色前にスライドをPBS中で解凍し、4%パラホルムアルデヒド(Alpha Aesar、Thermo Fisher Scientific)で固定した。EVG染色(Elastic Stain Kit、ab 1506667、Abcam)を用い、製造者のプロトコールに従って弾性線維とコラーゲン線維を可視化した。PGGの検出には、10μmの凍結OCT包埋切片を、正電荷をかけたスライドグラスにマウントし、水道水で5分間すすいでOCTを除去した。切片を脱イオン水中の15%FeCl3(Sigma-Aldrich)溶液で7分間染色し、洗浄し、そのまま光学顕微鏡で観察した。
明視野顕微鏡検査。明視野イメージングは、Axiocam 506カラーカメラ(Zeiss)を搭載したAxioscope 40顕微鏡(Zeiss)を用いて行い、ZEN 2(青色版)ソフトウェアを用いて記録した。
走査型共焦点顕微鏡検査。A1Rsi+共焦点顕微鏡(Nikon)及びNIS-Elementsイメージングソフトウェアを用い、自家蛍光(488nm/0.66mWレーザー)により弾性ラメラを検出した。
透過型電子顕微鏡検査。サンプルは、0.1Mカコジル酸ナトリウムバッファー中、2.5%グルタルアルデヒド(いずれもセルバ)で直ちに室温で30分間固定し、4℃で保存した。後固定は、0.1モル/Lカコジル酸バッファー中、1%四酸化オスミウム(Electron Microscopy Sciences)及び0.8%フェロシアン化カリウムII(Roth)で1.5時間行い、次いで、段階的エタノール系でサンプルを脱水し、これらのサンプルをエポン樹脂(Roth)に包埋した。最後に、厚さ70nmの超薄切片を酢酸ウラニルとクエン酸鉛で染色した。サンプルは、Zeiss EM 906電子顕微鏡(Carl Zeiss)を用い、加速電圧80kVで観察した。
画像解析。EVG染色は、Fiji-ImageJを用いて、一平面画像上の陽性染色面積に基づいて定量化した。
【0046】
ウェスタンブロッティング
患者サンプルを液体窒素中で粉末化し、組織溶解液をNP-40バッファー(300mM NaCl、100mMトリスpH8.0、1%トリトンX、10mL当たり1錠のプロテアーゼ阻害剤)中に調製した。サンプル力価は、ビシンコニン酸アッセイ(BCA Proteinアッセイキット、Pierce、ロックフォード、IL)で測定したタンパク質含量に対して正規化し、各サンプル25μgのタンパク質を8~10%SDS-PAGEゲルにロードした。電気泳動後、タンパク質を0.2μmのニトロセルロース(1620112、Bio Rad)メンブレンに転写した。タンパク質の転写は、Ponceau S Staining Solution(59803、Cell Signaling Technology)によるメンブレン染色で制御した。膜を3%乾燥牛乳(8076.3、Roth)で、室温で30分間ブロッキングし、次に、1:1,000希釈の以下の一次抗体:抗α-エラスチン(ab21607、68kDa、Abcam)又は抗フィブリリン-1(ab124334、27kDa、Abcam)で4℃にて一晩染色した。次に、メンブレンをTBST(20ミリモル/Lトリス-HCl[pH7.4]、150ミリモル/L NaCl、0.1%ツィーン-20)で各5分間3回洗浄し、1:10,000に希釈の以下の二次抗体:ヤギ抗ウサギセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)(sc-2004)のいずれかと共に室温で1時間インキュベートした。TBSTで3回洗浄後、免疫反応性バンドを化学発光及び蛍光イメージャー(Celvin(登録商標)S、Biostep)で検出した。タンパク質バンドの定量はImageJ Labソフトウェアを用いて行い、シグナルはローディング対照としてのβ-アクチン又はポンソーSに対して正規化した。
【0047】
データ解析及び統計
荷重-変位曲線及び応力-ひずみ曲線は、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として示す。その他のデータは、箱ひげ図とドットプロットを重ね合わせて示し、中央値、下方及び上方25%四分位値、最小及び最大測定値、並びに該当する場合は外れ値に関する情報を提供している。統計解析及びデータの可視化は、それぞれGraphPad Prism 7、OriginPro 8、Microsoft Excel 2016を用いて行った。
2群の統計的比較には、ノンパラメトリックマン・ホイットニーU検定及び対応のあるウィルコクソン符号順位検定を、それぞれ対応有り及び対応無しのサンプルに使用した。複数群の比較には、順位に基づくクラスカル・ウォリス一元配置分散分析(ANOVA)の後にペアワイズ多重比較(ダン検定)を適用した。2つの変数間の関係は、両側ノンパラメトリックスピアマンの順位相関係数によって評価した。統計的に有意な差(p<0.05)のp値は全て図(又は対応する図の凡例若しくは表)に示している。
【0048】
結果:
PH-LHDでは導管PAが硬化している
LHDと健常対照(ドナー心臓)の間でPAの生体力学的特性を比較するために、心臓移植中のドナー及びレシピエントから得た導管PAサンプルについて、ex vivoで円周方向の一軸引張試験を行った(LHDコホートの基礎疾患並びに年齢及び性別の分布については、表1を参照)。PH-LHD患者は、平均PAP≧25mmHg及び肺毛細血管楔入圧(PCWP)≧15mmHgであることで、PHを伴わないLHD患者と区別された(表2)。PHを伴わないLHD患者と比較して、PH-LHDコホートでは、径肺圧格差(TPG)及び肺血管抵抗(PVR)が有意に増加し、心臓指数(CI)が低下していた(表2)。
動脈力学は主として弾性線維とコラーゲン線維によって決定されるので、動脈壁は構造的に2相材料と見ることができる。従って、動脈力-変位曲線は、それぞれエラスチン相とコラーゲン相の生体力学的特性を反映する低エネルギーのつま先領域と高エネルギーの直線領域を順次明らかにする(
図1A)。ドナー及びPHを伴わないLHD対象と比較すると、PH-LHD患者の平均的な力-変位曲線は、つま先領域と直線領域の両方で急峻であった(
図1B)。定量的分析により、PH-LHD患者では、ドナー及びPHを伴わないLHD患者と比較して、k
1及びk
2が有意に増加し、εTransが減少していることが明らかになり(
図1C)。このことは、PH-LHD患者では、生体力学的PA特性の変化が、エラスチンからコラーゲンへの耐荷重性の移行と、エラスチン優位材料及びコラーゲン優位材料の剛性がより高いことの両方に関連していたことを示唆する。スピアマン分析では、PAの生体力学的特性と平均PAPの間に有意な相関が見られ(
図2)、PH-LHDにおけるPAの剛性と肺血行動態との密接な関連性が確認された。
【0049】
弾性線維の進行性の断片化と分解
生体力学的解析から、PH-LHDにおける血管硬化の可能性のある原因として、PA壁のエラスチンマトリックスとコラーゲンマトリックスのリモデリングであることが提案された。この仮説を検討するため、PAの組織切片の弾性線維とコラーゲン線維をVerhoeffのエラスチンVan Gieson(EVG)染色により可視化した。健常対照に比べ、PHを伴わないLHDサンプルでは広範なECMリモデリングが明らかであったが、PH-LHDサンプルでは更に顕著であった(
図3A)。コラーゲン染色は増加したが、弾性線維の染色はPHのないLHDサンプルで減少し、PH-LHDサンプルでは更に減少し(
図3A~B)、その結果、コラーゲン/エラスチン比の段階的増加が見られた(
図C)。PA中膜の透過型電子顕微鏡(TEM)検査では、PHを伴わないLHDサンプルでは、対照サンプルと比較して、剥離片を伴う細い弾性線維が明らかになり、一方、PH-LHDサンプルの弾性線維は大幅に分解され、断片化されていた(
図4A、白い矢印)。PHを伴わないLHDとPH-LHDの両サンプルでは、α-エラスチン又はフィブリリン-1の発現レベルに変化はなかったものの、弾性線維のエラスチン核が実質的に分解されていた(
図4A、黒い矢印)(
図4B)。これらの所見は、PHを伴わないLHDでは弾性ラメラの断片化と分解が増加し、PH-LHD PAでは更に進行することを示している。
【0050】
エラスチンの安定化によりヒトPAの生体力学がex vivoで改善される
導管PAにおける弾性線維の断片化は、肺血行動態及び血管生体力学の変化に先行するLHDの初期イベントとして出現したことから、動脈エラスチンの治療標化は、PAの硬化を予防し、反応性PHを緩和する有望な方法となる可能性がある。PGGはエラスチンを安定化させるポリフェノール化合物で、腹部大動脈瘤(AAA)動物モデルで有益であることが証明されている。PGGによる弾性線維の安定化がPAの生体力学も救済し得るかどうかを調べるために、ヒトPAをex vivoで、0.1%PGGの存在下又は不在下で培養し、1Uのブタエラスターゼと共に24時間インキュベートすることにより、エラスチン分解を誘導した。弾性線維はエラスターゼ処理によりほぼ完全に消失したが、PGGの存在下では部分的に保存された(
図5A)。重要なこととして、PGGは又、一軸引張試験でεTransが増加したこと、及びナイーブでは弾性線維が持つ荷重が更に増したこと(
図5B)により示されるように、PAエラスターゼで処理されたPAの生体力学も救済した。従って、PGGは、PH-LHDのようなエラスチン分解が増す病態において、PAの生体力学を改善するのに適している。
【0051】
PGGの標的化送達はPH-LHDのラットモデルにおいてPAの硬化及びPHを軽減する
この見解を検証するために、冠動脈上大動脈結紮(AoB)後のPH-LHDの確立されたラットモデルにおいて、PGGによるエラスチン安定化の治療可能性を検討した(
図6A~B)。in vivoで損傷した弾性線維にPGGを特異的に標的化するために、AoB後3週目と4週目、即ちPH-LHDが既に確立している時点で、エラスチン抗体に結合させたPGG担持NP(EL-PGG-NP)をラットに静脈内投与した(
図6A;AoB-PGG群)。EL-PGG-NPがPAに効果的に送達され(
図6C)、PA壁の弾性線維の正常な構造と捲縮が少なくとも部分的に回復した(
図6D)ことが、死後5週目に、それぞれポリフェノール特異的組織学的FeCl3染色及び弾性ラメラの蛍光検出によって確認された。
PH-LHDのラットモデルにおけるPAの生体力学的能力を、ex vivoで一軸引張試験により試験した。力-変位曲線は、AoB後3週目と5週目でPAの有意な硬化(k
1及びk
2の増加とεTransの減少)を明らかにした(
図7A~B)。力-変位曲線の分析により決定されたように、EL-PGG-NP処置は、全体として、PAの引張特性を正常化した(
図7A(5週目)及び
図7B)。重要なこととして、EL-PGG-NPによる処置の有益な効果は又、5週目のEL-PGG-NP処置AoBラットと3週目の未処置AoBラットを比較した場合にも明らかであり、PGGはPH-LHDのこのモデルにおいて進行を妨げるだけでなく、血管硬化を逆転させたことを示す。
【0052】
次に、肺高血圧症に対するEL-PGG-NP処置の効果に取り組んだ。偽手術動物と比較して、AoBラットは、AoB後1週目に左室収縮期圧(LVSP)と左室肥大((LV+Sw)/Bwとして測定)の増加、及びAoB後3週目に右室収縮期圧(RVSP)と右室肥大(RVw/Bwとして定量)の増加を生じた(
図8)。AoB後5週目では、AoB-PGG動物はLVSPとLV肥大がビヒクル処置したAoBラット(AoB-BLN)と同様に増加したが、RVSPとRV肥大は著しく減少し(RV肥大の場合は有意水準をわずかに下回ったが)、偽手術対照の対応する値と差がなかった(
図8)。
この見解は、縦方向経胸壁心エコー検査によって更に裏付けられた(
図9)。進行性のLV不全に伴って、左室内径短縮率及び左室駆出率(それぞれLV FS及びLV EF、
図9A、D)は、AoB後5週目の、PGGを欠くエラスチン抗体結合NP(EL-BLN-NP)処置ラット及びEL-PGG-NP処置ラットの両方で、AoB後3週目の治療前の値と比較して減少していた。EL-BLN-NPラットでは、PA伸展性(PA半径ひずみ(PA RS)として評価;
図9B、D)と三尖弁環面収縮期間伸縮(TAPSE、
図9D)が並行して減少し、進行性のPH-LHDを示し、一方、肺動脈加速時間(PAT)及びPAT/肺駆出時間(PET)比(PAT/PET、
図9C、D)は、ほとんど変化しなかった。対照的に、EL-PGG-NP処置ラットは、同じ時間間隔でPA伸展性とPATの増加、及びTAPSEの安定化を示した。従って、PGG処置は、LV機能が徐々に悪化しているにもかかわらず、PAの生体力学及び肺血行動態を改善した。
【0053】
考察:
この研究では、PAの生体力学的能力の障害がPH-LHDの特徴であること確認された。PH-LHDにおけるPAの硬化は、ECMの調節不全、即ち、弾性線維の喪失とコラーゲン量の増加に関連している。重要なこととしては、これらの変化はLHD患者のPAに既に現れており、PHの発症前にPAリモデリングプロセスが既に開始されており、最終的にPAの硬化を引き起こすことを示唆する。この過程の病態生理学的関連性は、持続的な左室不全にもかかわらず、エラスチンの安定化がPAの生体力学並びに肺動脈及びRV血行動態を正常化した前臨床実験から明らかである。従って、PAの生体力学は、PH-LHDの予後バイオマーカー及び治療標的の両方として機能し得る重要な病態生理学的過程として浮上する。
PA中膜の弾性線維のリモデリングはPHの発症前のLHD患者で明らかであり、PH-LHD患者では更にPA硬化に進行する
健康な動脈では、弾性線維は負荷に応じて真っ直ぐになり、負荷がない状態では再びコイル状となることで動脈コンプライアンスを助ける。この目的で、弾性線維は動脈壁内で円周方向に配置された連続的で蛇行したラメラとして組織化されている。ここで、弾性線維組成の変化は、PHの発症又はPAの生体力学の変化の前であっても、LHD患者のPA壁に検出され得る。具体的には、顕微鏡分析により、弾性線維の断片化と分解が明らかになった。PHを伴わないLHDとは対照的に、PH-LHD患者のPAは、円周方向の引張特性の変化を示した。具体的には、ex vivoで測定された力-変位曲線は、つま先領域と直線領域の両方のより急峻な傾き及びより低いεTransへの顕著な移行を明らかにした。つま先領域はエラスチンに富む材料の特性を反映しているので、これらの所見は、剛性の増加及び/又は残留弾性線維の線状化に伴う耐荷重性弾性線維の喪失を示唆している。顕微鏡検査により、超微細構造レベルでの線維のエラスチン核の喪失を伴った弾性線維の広範囲な希薄化が確認された。
【0054】
弾性線維の断片化-PAリモデリングの初期マーカーと潜在的な機構
本研究では、弾性線維の断片化と分解が、PH-LHDにおけるPAの硬化と動脈生体力学の障害に先行し、おそらくその原因となるPAリモデリングの初期イベントであると特定した。しかしながら、線維の分解は動脈リモデリングプロセスを媒介することが知られており、特に弾性線維への付着はSMCを収縮表現型で維持し、SMCの遊走を防ぐために重要であることから、弾性線維の分解の機能的影響は純粋な機械生物学を超えて広がる可能性がある。弾性線維の断片化により、膜結合エラスチン受容体複合体を介して作用し、一連の生物学的過程を調節する生理活性エラスチン由来ペプチド(EDP)も放出される。EDPの役割は我々の現在の研究の焦点ではなかったが、PH-LHDで観察されたPAリモデリング過程はEDP媒介シグナル伝達によって誘導又は増強され得るのではないかと推測したくなる。例えば、EDPは、サイトカインシグナル伝達を刺激し、炎症細胞を活性化することにより、正のフィードバック機構を介して弾性線維の分解を調節することができ、次いで、プロテアーゼが分泌されて弾性線維が消化される。EDPは高血糖の誘発にも関連が見出されており、その結果生じる高血糖値は、ECM架橋を媒介して硬化を促進するAGEの形成を促進し得る。EDPに加えて、弾性線維の断片化は、肺血管リモデリングの重要な駆動因子であるトランスフォーミング成長因子(TGF)-βなどの自己分泌成長因子も放出し得る。TGF-βのバイオアベイラビリティは、潜在型TGF-β結合タンパク質(LTBP)-潜在性関連ペプチド(LAP)-TGF-β複合体のフィブリリンへの結合によって調節され、その結果、エラスチン分解に応答して活性型TGF-βが放出される。
従って、弾性線維の断片化は、PAリモデリングの初期イベント並びに関連する病態生理学的機構を構成する可能性がある。具体的には、エラスチン分解は左心不全の初期に起こると思われるが、エラスチンの進行性の喪失及び線維状コラーゲンの産生増加を含む一連のリモデリング過程を誘発する可能性があり、最終的にはLHDに派生するPA硬化とPHを引き起こす。これが実際に当てはまる場合、エラスチン分解の防止は、ECMリモデリングを軽減し、動脈の生体力学を改善し、PH及びRV負荷を潜在的に低減するための有望な戦略となる可能性がある。
【0055】
弾性線維の安定化はPAの生体力学を救済しPHを軽減する
PAの生体力学及びPHに対する弾性線維の安定化の効果を調べるため、PAにおける弾性線維の分解に対抗することを目的とした。この目的で、PGG及び没食子酸エピガロカテキン(ECGC)などのポリフェノールは、エラスチンの合成、組織化、及び架橋を誘導すると同時にエラスチン分解酵素の活性をブロックする能力により、かなりの有望性が示されている。従って、PGGの局所適用は、ラットAAAモデルにおける弾性線維の変性を効果的に減少させ、動脈瘤の拡大を減少させる可能性があり、PGGが弾性線維を安定化し、in vivoにおいて動脈生体力学を改善する能力の原理証明を提供する。このアプローチは、最近、PGGをEL-PGG-NPに担持させることによって更に洗練された。これらの抗体は分解中の弾性線維に優先的に結合するため、このシステムにより血管損傷部位へのPGGの特異的標的化が可能となる。ラットAAAモデルでは、全身送達により、AAA部位でのEL-PGG-NPの特異的蓄積が生じ、マクロファージ浸潤とMMP活性の阻害及び無傷のエラスチン層の回復を伴った、in vivoにおける長期の大動脈生体力学的安定性を保証するのに有効であることが証明された。
PGGはこれまでのところPAで試験されていなかったので、まず、ヒトPAの弾性線維及び動脈生体力学に対するその効果をex vivoで評価した。ナイーブなPAとエラスターゼで処理したPAの両方で、耐荷重要素がコラーゲン線維から弾性線維に移行したことによって実証されるように、PGGはエラスチン含量を増加させ、動脈生体力学を改善し、PGGの治療上の有望性が更に実証された。次に、ヒトPH-LHDの基本的な特徴、即ち、エラスチンからコラーゲンへの耐荷重要素の移行によるPAの硬化、RVSPの増加及びRV肥大を再現するラットAoBモデルで、EL-PGG-NPのin vivo効果を証明した。EL-PGG-NPの全身投与により、AoBラットのPAへのPGGの効果的な送達が得られ、in vivoでのPAの生体力学及びRV血行動態が改善された。重要なこととして、EL-PGG-NPの分解中の線維への標的化の提案と一致して、このアプローチは治療環境、即ち、LHDだけでなく、PAの硬化、PH及びRVの肥大が明らかとなった時点でEL-PGG-NPが送達された場合に有益であることが証明された。更に、EL-PGG-NPは疾患の進行を防ぐだけでなく、PAの生体力学の障害、従ってPH及びRVの肥大を部分的に逆転させた。具体的には、EL-PGG-NP処置により、PAの力-変位曲線における機械的能力εTransがエラスチン優位からコラーゲン優位への移行を右側へシフトさせ、耐荷重要素がコラーゲンからエラスチンに戻る逆シフトを示した。この説明に一致して、EL-PGG-NP処置もin vivoでPA半径ひずみを増加させた。PAの生体力学の救済は、RV血行動態及び肥大の改善と関連しており、PHの進行におけるPAの硬化とPH-LHDにおけるRV肥大の関連性を強調している。
本研究では、PH-LHD患者において、耐荷重要素の弾性線維優位組織からコラーゲン線維優位組織への切り替えと、変化したECM組成に関連する有意のPA硬化を実証した。トランスクリプトームレベル及び顕微鏡レベルでの対応する変化は、PA硬化及びPHの発症前のLHD患者で既に明らかであり、PA ECM組成の変化が病勢進行の初期イベント及び潜在的な病理機構を構成することを示している。この見解に沿って、弾性線維の治療的安定化はPAの生体力学を救済し、PHが軽減され、従って、RVの血行力学的変化に対するPA硬化の病原的関連が確実なものとなり、ECMのリモデリング及びPA硬化に関連する肺血管疾患の治療のためのECM標的介入の治療可能性が強調される。
【0056】
要約:
本研究では、左心疾患(LHD)患者からの肺動脈(PA)サンプルの包括的な機械生物学的分析を行った。本発明者らは、PA硬化が左心疾患に派生する肺高血圧症(PH-LHD)の特徴であることを特定した。細胞外マトリックス(ECM)のリモデリングは臨床的PHの発症に先行し、進行性のエラスチンの断片化と分解、及びそれと並行したコラーゲンの増加を特徴とする。ex vivoで培養されたヒトPAでは、ポリフェノール化合物ペンタガロイルグルコース(PGG)によるエラスチンの安定化により、エラスチン分解が減少し、動脈の生体力学的能力が改善された。PH-LHDのラットモデルでは、ナノ粒子(NP)に基づくPGGの標的化送達によりPAの硬化が逆転し、PHの発症が予防されたことから、PHにおけるECMリモデリングの中核的な役割が示唆され、従って、LHD患者においてECMが有望な治療標的であることが示唆される。
【0057】
【0058】
【国際調査報告】