(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】持続可能な高密度ポリエチレンおよびその作製方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/06 20060101AFI20241024BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20241024BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20241024BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20241024BHJP
C08F 10/02 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08L23/06
C08K5/05
C08K5/01
C08L91/00
C08F10/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525318
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 US2022047688
(87)【国際公開番号】W WO2023076238
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512225379
【氏名又は名称】セラニーズ・インターナショナル・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】バルケンホルスト,ライナー
(72)【発明者】
【氏名】シュレーアー,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】リヒター,ブリッタ
(72)【発明者】
【氏名】ノルトランダー,ニナ
(72)【発明者】
【氏名】ツァミ-シュルテ,アルギリ
(72)【発明者】
【氏名】ベルトハイマー,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,ジュン
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AE00X
4J002AE05X
4J002BB021
4J002BB031
4J002EA016
4J002EC026
4J002FD206
4J002FD20X
4J002GB01
4J002GN00
4J002GQ00
4J100AA02P
4J100CA01
4J100CA03
4J100DA01
4J100DA14
4J100DA16
4J100DA42
4J100EA09
4J100FA09
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA51
(57)【要約】
少なくとも部分的にバイオベースの供給原料から作製される、高分子量および超高分子量ポリエチレンポリマーを含む高密度ポリエチレンポリマーが、開示される。バイオベースの供給原料は、高純度の用途で、例えば移植片およびリチウムイオンバッテリー用の多孔質膜の生産で用いる高密度ポリマーを生産できる高純度モノマーを生産するように選択される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー組成物であって、
高密度ポリエチレンポリマーを含むポリマー粒子を含み、
前記高密度ポリエチレンポリマーが、約200,000g/モルを超える平均分子量を有し、約0.92g/cm
3(ISO1183)を超える密度を有し、そしてエチレンモノマーから生成されており、前記エチレンモノマーの少なくとも一部が、カーボンネガティブもしくはカーボンニュートラルな成分を含むか、又は当該成分に由来する、
前記ポリマー組成物。
【請求項2】
前記高密度ポリエチレンが、約500,000g/モル超、例えば約700,000g/モル超、例えば約1,000,000g/モル超、例えば約1,300,000g/モル超、例えば約1,700,000g/モル超、例えば約2,000,000g/モル超、例えば約2,500,000g/モル超、例えば約3,000,000g/モル超、例えば約3,500,000g/モル超、例えば約4,000,000g/モル超、例えば約4,500,000g/モル超、例えば約5,000,000g/モル超、例えば約5,500,000g/モル超、例えば約6,000,000g/モル超、例えば約6,500,000g/モル超、例えば約7,000,000g/モル超、例えば約7,500,000g/モル超、例えば約8,000,000g/モル超、かつ約12,000,000g/モル未満の平均分子量を有する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記エチレンモノマーが、前記カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から生成されている、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分が、メタンを含み、前記メタンが、アセチレンを生成するための熱分解または部分酸化プロセスに供され、前記アセチレンが、エチレンに水素化されている、請求項3に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分が、エチレンに変換されるエタノールを含む、請求項3に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分が植物油または動物脂質を含み、前記植物油または動物脂質が、水素化脱酸素によってエチレンに変換されている、請求項3に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
前記カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分が、トール油を含み、前記トール油が、エチレンに変換されている、請求項3に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
前記ポリマー粒子が、約10ミクロンから約1,000ミクロンの平均粒径D50を有する、請求項1から7のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記高密度ポリエチレンポリマーが、チーグラー・ナッタ触媒で触媒されたものである、請求項1から8のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記高密度ポリエチレンポリマーが、約0.2g/cm
3から約0.54g/cm
3のかさ密度を有する、請求項1から9のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記高密度ポリエチレンポリマーが、約0g/10分から約10g/10分のMFRを有する、請求項1から10のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記高密度ポリエチレンポリマーが、エチレンと、ヘキセン、ブテン、プロピレン、またはそれらの混合物を含む少なくとも1つのコモノマーとのポリエチレンコポリマーを含む、請求項1から11のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記高密度ポリエチレンポリマーが、架橋されている、請求項1から12のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項14】
前記高密度ポリエチレンポリマーが、化石ベースのエチレンモノマーとバイオベースのエチレンモノマーとの混合物から生成されている、請求項1から13のいずれかに記載のポリマー組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載のポリマー組成物から形成される医療用移植片。
【請求項16】
請求項1から14のいずれかに記載のポリマー組成物から形成され、多孔質膜を含む、バッテリー用セパレーター。
【請求項17】
前記多孔質膜が、コーティングを備え、前記コーティングが無機コーティングまたはポリマーコーティングを含む、請求項16に記載のバッテリー用セパレーター。
【請求項18】
アノードと、カソードと、請求項16または17に記載のバッテリー用セパレーターとを備えるバッテリーであって、前記バッテリー用セパレーターが、前記アノードおよび前記カソードの間に配置されている、前記バッテリー。
【請求項19】
請求項1から14のいずれかに記載のポリマー組成物から形成されるフィルターエレメントであって、焼結製品を含む、前記フィルターエレメント。
【請求項20】
ポリマー組成物であって、
高密度ポリエチレンポリマーを含むポリマー粒子を含み、
前記高密度ポリエチレンポリマーが、約300,000g/モルを超える平均分子量を有し、約0.93g/cm
3を超える密度を有し、そしてエチレンモノマーから形成されており、
ASTM試験D6866-21に従って試験した場合、前記高密度ポリエチレンポリマーが、全有機炭素含有量の放射性炭素年代測定に基づく少なくとも10%のバイオベース含有量を有するように、前記エチレンモノマーの少なくとも一部がバイオベースのエチレンを含む、
前記ポリマー組成物。
【請求項21】
前記高密度ポリエチレンポリマーが、100%のバイオベース含有量を有する、請求項20に記載のポリマー組成物。
【請求項22】
前記高密度ポリエチレンポリマーが、化石ベースのエチレンモノマーとバイオベースのエチレンモノマーとの混合物から形成されている、請求項20に記載のポリマー組成物。
【請求項23】
前記高密度ポリエチレンポリマーが、少なくとも20%、例えば少なくとも30%、例えば少なくとも40%、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも60%のバイオベース含有量を有し、かつ約90%未満、例えば約80%未満、例えば約70%未満のバイオベース含有量を有する、請求項20または22に記載のポリマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
[0001]本出願は、2021年10月27日の出願日を有する米国仮特許出願番号第63/272,456号に基づく優先権を主張し、これを参照によって本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
[0002]高密度ポリエチレンポリマー、特に高分子量ポリエチレンポリマーおよび超高分子量ポリエチレンポリマーまたは線状ポリエチレンポリマーは、耐摩耗性、表面の潤滑性、耐薬品性、引張強度および衝撃強度の独自の組み合わせを持つ価値のあるエンジニアリングプラスチックである。高密度ポリエチレンポリマーは、当該ポリマーの当該性質が特定の用途に適合できる多数で多様な分野で使用される。
【0003】
[0003]例えば、高分子量を有するある特定の複数の高密度ポリエチレン粒子は、一緒に焼結され、さまざまな異なるフィルター装置に形成できる。フィルター装置としては、フィルター漏斗、浸漬フィルター、ろ過るつぼ、多孔質シート、ペン先、マーカーペン先、通気装置、散気装置、および軽量の成形部品が挙げられる。
【0004】
[0004]高密度ポリエチレン粒子はまた、1つまたは複数の可塑剤と組み合わせ、ゲル押出してフィルムおよび繊維にすることができる。例えば、高密度ポリエチレンポリマーは、多孔質膜を生産するために使用できる。高分子量ポリエチレンポリマーおよび超高分子量ポリエチレンポリマーで作製される多孔質膜は、電気自動車の出現のために重要性および価値が著しく高まっている。例えば、多孔質膜はリチウムイオンバッテリーにおいて、アノードとカソードとの間に配置されるバッテリー用セパレーターとして使用できる。高密度ポリエチレンポリマーから作製された膜は、最適な多孔度の特性を有するだけでなく、膜が組み込まれたバッテリーに安全性をもたらすシャットダウン温度も提示する。さらに、従来の高分子量ポリエチレンポリマーは、ポリマー膜が、バッテリー中に含有される化学成分と決して反応しないように、非常に低い不純物量で形成することができる。
【0005】
[0005]加えて、高密度ポリエチレンポリマーは、生物医学装置と一緒に使用されることが多い。高密度ポリエチレンポリマー、特に超高分子量ポリエチレンポリマーは、例えば、生物学的環境で用いるのに十分な純度を有する。例えば、当該ポリマーは、残留触媒および他の不純物の最小濃度で生産できる。その結果として、高密度ポリエチレンポリマーは、人工膝関節、人工股関節の荷重軸受構成要素として、および人体向けの他の置換用人工関節の軸受構成要素として使用できる。
【0006】
[0006]高密度ポリエチレンポリマーは典型的には、触媒の存在下でエチレンモノマーを重合することによって生産される。これまで、エチレンモノマーは、接触クラッキングプロセスを介して原油から生産されてきた。長年にわたって、エチレンモノマーを生産するために使用されるこのプロセスは、より高分子量のポリエチレンを生産するのにうまく適合する高純度モノマーの生産につながり、ここでは触媒への曝露および反応時間が、より長くなる。しかし、最近、大小さまざまな企業は、特定の期間内にカーボンニュートラルになることを約束している。企業がカーボンニュートラルになるには、大気へ放出している量と同量の二酸化炭素を除去して、炭素排出量の正味ゼロを達成しなければならない。一方、カーボンネガティブ企業は、大気に放出する炭素よりも多くの炭素を大気から除去する。
【0007】
[0007]カーボンニュートラルにするまたはカーボンネガティブになるための世界中の企業の著しい努力を考慮すると、ポリマー中の不純物量またはポリマーの他の特性を著しく変えることなく、より持続可能な方式で高密度ポリエチレンポリマーを生産するためのプロセスの必要性がある。また、持続可能な高密度ポリエチレンポリマーから作製されるポリマー組成物およびポリマー製品の必要性もある。
【発明の概要】
【0008】
[0008]本開示は、一般に、カーボンオフセットを作り出す方式で、高分子量ポリエチレンポリマーおよび超高分子量ポリエチレンポリマーを含む、高密度ポリエチレンポリマーを生産することに向けられる。
【0009】
[0009]一態様では、本開示は、高密度ポリエチレンポリマーを含むポリマー粒子を含有するポリマー組成物を対象とする。高密度ポリエチレンポリマーは、約300,000g/モルを超える分子量を有することができ、かつ約0.92g/cm3を超える密度を有することができる。高密度ポリエチレンポリマーは、エチレンモノマーから生成されている。本開示に従って、前記エチレンモノマーの少なくとも一部は、1つもしくは複数のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から作製されるバイオベースのエチレンを含む。バイオベース含有量は、一実施形態ではマスバランスアプローチを用い決定できる。あるいは、バイオベース含有量は、ASTM試験D6866-21に従って決定できる。カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から作製されるポリマーの一部は、少なくとも約1%、例えば少なくとも約10%であってよい。あるいは、バイオベース含有量は、全有機炭素含有量の放射性炭素年代測定に基づき少なくとも約1%、例えば少なくとも約10%であってよい。
【0010】
[00010]例えば、高密度ポリエチレンポリマーは、化石ベースのエチレンモノマーとバイオベースのエチレンモノマーとの混合物から生成できる。得られる高密度ポリエチレンポリマーは、少なくとも約20%、例えば少なくとも約30%、例えば少なくとも約40%、例えば少なくとも約50%、例えば少なくとも約60%、かつ一般に約90%未満、例えば約80%未満、例えば約70%未満の量の、バイオベース含有量を有するまたはカーボンネガティブもしくはカーボンニュートラルな成分を含有することができる。一実施形態では、高密度ポリエチレンポリマーは、バイオベースのエチレンモノマーのみから生成されてもよく、またはカーボンネガティブもしくはカーボンニュートラルな成分のみから生成されてもよい。
【0011】
[00011]高密度ポリエチレンポリマーは、約500,000g/モルを超える、例えば約700,000g/モルを超える、例えば約1,000,000g/モルを超える、例えば約1,300,000g/モルを超える、例えば約1,700,000g/モルを超える、例えば約2,000,000g/モルを超える、例えば約2,500,000g/モルを超える、例えば約3,000,000g/モルを超える、例えば約3,500,000g/モルを超える、例えば約4,000,000g/モルを超える、例えば約4,500,000g/モルを超える、例えば約5,000,000g/モルを超える、例えば約5,500,000g/モルを超える、例えば約6,000,000g/モルを超える、例えば約6,500,000g/モルを超える、例えば約7,000,000g/モルを超える、例えば約7,500,000g/モルを超える、例えば約8,000,000g/モルを超える、かつ約12,000,000g/モル未満の平均分子量を有し得る。本明細書の目的上、本明細書で参照される分子量は、Margolies式(「Margolies分子量」)に従って決定される。
【0012】
[00012]ポリエチレンポリマーを生成するために使用されるエチレンモノマーは、モノマーが高純度のままであり、かつ、そうでなければ高分子量および超高分子量ポリエチレンポリマーを含む高密度ポリエチレンに重合されるモノマーの能力を妨げない限り、さまざまな異なる供給源から生じ得る。バイオベースのエチレンは、例えば、カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から生成できる。一態様では、カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分は、例えばバイオマスに由来するメタンを含む。メタンは、アセチレンを生成するための熱分解または部分酸化プロセスに供され得る。その後アセチレンは、エチレンに水素化できる。あるいは、カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分は、エチレンに変換されるエタノールを含み得る。例えば、エタノールは、発酵生成物でもよい。さらに別の実施形態では、カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分は、植物油または動物脂質を含み得る。植物油または動物脂質は、水素化脱酸素によってエチレンに変換できる。別の実施形態では、カーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分は、エチレンに変換できるトール油を含み得る。
【0013】
[00013]高密度ポリエチレンポリマーは、チーグラー・ナッタ触媒で触媒されたポリマーでもよい。一実施形態では、ポリマー粒子は、約10ミクロンから約1,000ミクロンの平均粒径D50を有し得る。ポリマー粒子は、約0.2g/cm3から約0.54g/cm3のかさ密度を有し得る。高密度ポリエチレンポリマーは、約0g/10分(測定不能)から約20g/10分のメルトフローレートを有し得る。高密度ポリエチレンポリマーは、ポリエチレンホモポリマーまたはポリエチレンコポリマーでもよい。例えば、ポリエチレンポリマーは、エチレンとブテン、プロピレン、ヘキセン、またはそれらの混合物を含む少なくとも1つのコモノマーとのコポリマーでもよい。ブテン、ヘキセン、および/またはプロピレンは、バイオベースでもよい。
【0014】
[00014]さまざまな異なる物品が、ポリマー組成物で作製できる。例えば、ポリマー組成物は、医療用移植片の生産によく適している。一実施形態では、ポリマーは、多孔質膜を含むバッテリー用セパレーターを生産するために使用される。多孔質膜は、任意選択で膜の一面上にコーティングを備え得る。コーティングは、無機コーティングまたはポリマーコーティングを含み得る。バッテリー用セパレーターは、バッテリーの中のアノードとカソードとの間に配置できる。
【0015】
[00015]さらに別の実施形態において、ポリマー組成物は、焼結品、例えばフィルターエレメントを形成するために使用できる。
[00016]本開示の他の特徴および態様は、下記においてより詳細に議論される。
【0016】
[00017]本開示の十分で実施可能な開示は、添付の図の参照を含む本明細書の残りの部分においてより詳細に明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示に従って作製されるバッテリー用の膜の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[00018]本明細書および図中で繰り返し使用される参照符号は、本発明の同一または類似の特徴または要素を表すことが意図される。
[00019]本考察は、例示的な実施形態の説明にすぎず、本開示のより広範囲な態様を限定することを意図するものではないことを当業者によって理解されるべきである。
【0019】
[00020]一般に、本開示は、より持続可能な手法で高密度ポリエチレンポリマーを生産する方法および高密度ポリエチレンポリマーから作製されるポリマー組成物を対象とする。高密度ポリエチレンポリマーを生産するために使用される供給原料の少なくとも一部は、化石燃料、例えば原油に由来するものの代わりに、バイオマスまたは他の持続可能な資源に由来し得る。高密度ポリエチレンポリマーは、エチレンモノマーから生産される。本開示に従って、エチレンモノマーは、バイオベースの成分、例えばバイオガス、発酵生成物、野菜副産物、動物の副産物、セルロース由来の副産物などに由来し得る。バイオ由来の供給原料は、エチレンに変換され、その後、一般にやはり、高分子量を有する高密度ポリマーを生産するために使用できる。本開示に従って生産された高密度ポリエチレンポリマーは、はるかに小さいカーボンフットプリントを有し、総じてカーボンニュートラルなまたはカーボンネガティブともなるようにも生産できる。
【0020】
[00021]高分子量および超高分子量ポリエチレンポリマーを含む高密度ポリエチレンポリマーは、ポリマーの純度が、機械的性質とまったく同様に重要となり得る非常に特殊な用途において通常使用される。例えば、生物医学的な用途で使用される高密度ポリエチレンポリマーは、超高純度の特性を有さなければならない。それゆえにこれまで、特にモノマーが、他の資源、例えば副産物に由来する場合、ポリマーを作製するために使用されるモノマーを変更することへの抵抗があった。しかしながら、特定の利点のため、高密度ポリエチレンポリマーは、不純物レベルまたは機械的性質を犠牲にすることなく本開示に従って生産できる。
【0021】
[00022]本開示に従って作製される高密度ポリエチレンポリマーは、多くの製造業者および消費者の持続可能性の要望を満たし得る。高密度ポリエチレンポリマーは、あらゆる分野において、あらゆる種類の製品および物品を生産するために使用できる。例えば、高密度ポリエチレンポリマーは、医療分野、自動車分野、電気分野、食品を取り扱う産業、浄水分野などで用いる成形部品および物品を生産するために使用できる。製造業者は、再生可能またはバイオベース含有量に対する目標を達成するために、この高密度ポリエチレンポリマーを自社の製品に組み込み得る。総じて、本開示に従って作製される高密度ポリエチレンポリマーは、製造業者が、品質または機械的性質を決して犠牲にすることなく自社のカーボンフットプリントを削減することに役立ち得る。
【0022】
[00023]最終的に、本開示に従って作製される高密度ポリエチレンポリマーは、任意の適切な規格に従って認証できる。そうした認証の1つが、国際持続可能性カーボン認証(ISCC)である。ISCCは、全世界的に適用できる持続可能性認証システムであり、農業および林業バイオマス、循環型およびバイオベースの材料、再生可能エネルギーを含む、すべての持続可能な供給原料を網羅する。ISCCは、ポリマーの再生可能含有量が検証できるマスバランスアプローチに従う。マスバランスにおいて、再生可能供給原料は、すべての収率および損失を考慮する自社の個々の配合に従って、選択された製品に帰する。その生産のための供給原料として使用される原材料(エネルギー用ではない)のみが、マスバランス用に考慮される。マスバランスアプローチを適用するために使用される重要な基準としては、供給原料の適性、管理の連鎖、および製品主張が挙げられる。
【0023】
[00024]マスバランスアプローチは、価値連鎖における再利用されたおよび/またはバイオベースの供給原料の量ならびに持続可能性特性を追跡し、かつ検証可能な手法でそれを最終製品に帰することを可能にする。一実施形態では、本開示の高密度ポリエチレンは、マスバランスアプローチにおいてカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分のみから作製できる。あるいは、高密度ポリエチレンは、少なくとも20%のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、例えば少なくとも約30%のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、例えば少なくとも約40%のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、例えば少なくとも約50%のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、例えば少なくとも約60%のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、例えば少なくとも約70%のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、例えば少なくとも約80%のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、および最大で100%のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、例えば約80%未満のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、例えば約60%未満のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から、例えば約40%未満のカーボンネガティブまたはカーボンニュートラルな成分から作製できる。
【0024】
[00025]本開示に従って高密度ポリエチレンポリマーを生産するため、バイオベースの供給原料は、収集され、任意選択で変換され、かつ精製され、モノマー、特に上述のマスバランスアプローチに従ってカーボンネガティブまたは少なくともカーボンニュートラルであるバイオベースのエチレンモノマーを生成する。バイオベースのエチレンは、さまざまな異なる供給原料からさまざまな異なる方式で生成できる。バイオベースのエチレンを生産するための以下のプロセスは、例示的であり、多くの最終使用用途に必要な純度レベルでエチレンを生産することが可能と考えられており、得られる高密度ポリエチレンポリマーを生物医学的な用途で用いることを含む。
【0025】
[00026]一実施形態では、バイオガスは、バイオマス資源から収集され、および/または生産され、およびエチレンに変換される。一態様では、バイオガスは、固形廃棄物埋立地および嫌気性消化植物から生産されたメタンである。あるいは、メタンは、産業プロセスから再利用されたガスとして収集できる。例えば、メタンは通常、収集され、再利用されずに、周囲に放出されるか灰化される。産業プロセスから副産物ガスを収集することで、得られるモノマーのカーボンフットプリントは、大幅に削減される。
【0026】
[00027]エチレンモノマー生産用の出発供給原料としてバイオガスを用いることは、特定の用途に応じてさまざまな利点と恩恵をもたらすことがある。例えば、バイオガスは、最終製品中に不純物が現れることをも防ぐ程度の、非常にわずかな不純物しか含有しないことがあり得る。
【0027】
[00028]メタンバイオガスのエタノールへの変換は、異なるプロセスおよびステップを用い実施できる。一実施形態では、例えば、メタンは、金属含有ゼオライト触媒の存在下でメタンの部分酸化を介してエタノールへ直接変換できる。この実施形態において、2モルのメタンは、0.5モルの酸素分子と反応させて、エタノールを生成する。
【0028】
[00029]代替的な実施形態では、バイオガスのメタンは、合成ガスに変換されてもよく、合成ガスはメタンを改質する水蒸気によって生産される。例えば、合成ガスは、一酸化炭素または二酸化炭素を含有し得る。次に、エタノールは、一酸化炭素または二酸化炭素から生産できる。
【0029】
[00030]次いで、エチレンモノマーは、エタノールから生産できる。エタノールをエチレンに変換するためのさまざまな異なるプロセスおよび技術がある。一実施形態では、エタノールは、エチレンを生成するために脱水できる。例えば、一実施形態では、得られるエタノール製品は、任意選択でろ過され、1つまたは複数の蒸留塔を含むことがある濃縮機へ供給できる。蒸留塔は、その後エチレンに変換できる高エタノール流を生産し得る。例えば、エタノール高含有流は、脱水機へ供給できる。脱水は高温で行って、水およびエチレンを一緒に生産し得る。この生成物が冷却されるにつれ、エチレンとブレンドされた水は、凝縮され、除去できる。その後エチレンは、必要ならば液状に凝縮できる。凝縮されたエチレンは、さらに精製するために蒸留塔へも供給できる。
【0030】
[00031]代替的な実施形態では、メタンなどのバイオガスは、最初にエタノールに変換されることなくエチレンに変換できる。例えば、一実施形態では、バイオベースのメタンは最初に、アセチレンに変換できる。その後、アセチレンは、接触水素化でない反応を介してエチレンに変換できる。
【0031】
[00032]メタンは、例えば、熱分解または部分酸化プロセスによってアセチレンに変換できる。例えば、メタンは、準化学量論的な量で約500℃から約800℃の温度で予熱され、酸素と組み合わせ得る。混合物は、約1,400℃を超える、例えば約1,500℃を超える温度の熱分解領域へ供給できる。その後、アセチレンが生産され、部分的な急冷により冷却される。次いで、約750℃から約950℃の温度のアセチレンは、場合により、やはりバイオベースとし得るエタンの存在下で水素化され、エチレンを生産する。
【0032】
[00033]さらに別の実施形態では、エタノールは、炭素質の、例えばバイオマスの供給原料から生産される。一態様では、例えば、バイオマスは、発酵プロセスへ供給され、微生物からエタノールを生産し得る。例えば、バイオマスは、サトウキビなど任意の適した植物でもよい。バイオマスは、任意の適したセルロース由来の材料または副産物でもよい。
【0033】
[00034]一実施形態では、炭素質の供給原料は、最初に改質され、二酸化炭素、一酸化炭素、および/または水素を生産する。その後、得られるガス流は、エタノールを生産する細菌発酵に供され得る。エタノール生産に使用できる微生物としては、嫌気性細菌が挙げられる。嫌気性細菌は、クロストリジウム属の種、例えばC.ljungdahlii、C.carboxydivorans、C.ragsdaleiおよび/またはC.autoethanogenumの由来でもよい。
【0034】
[00035]一旦エタノールが生産されると、エタノールは、脱水ステップを用い上述したようなエチレンに変換できる。
[00036]さらに別の実施形態では、バイオマスは、発酵させて、直接エタノールを生産し得る。例えば、セルロース、糖およびデンプンは、発酵プロセスを用いてエタノールへ直接変換できる。
【0035】
[00037]さらに別の実施形態では、バイオマス由来の油は、エチレンに変換できる。例えば、植物油または動物脂質は、水素化脱酸素プロセスに供され得る。より詳細には、植物油および/または動物脂質は、トリグリセリドおよび他の分子をパラフィン系炭化水素、特にエチレンに変換する手法で水素化脱酸素できる。エチレンは、例えばろ過および蒸留を介して精製され、その後、本開示の高密度ポリエチレンポリマーを生産するために使用され得る。
【0036】
[00038]さらに別の実施形態では、気体のエチレンは、微生物、例えば遺伝子操作された微生物を用いるバイオベースの供給原料から生産できる。気体のエチレンを生産するために使用できる代謝経路としては、S-アデノシルメチオニン経路、4-(メチルスルファニル)-2-オキソブタノエート経路および/または2-オキソグルタル酸経路が挙げられ得る。直接エチレンガスを生産することは、いくつかの実施形態において、その後のポリマーの生産を促進し得るだけでなく不純物の低減も促進し得る。
【0037】
[00039]さらに別の実施形態では、トール油は、バイオマス供給原料から収集され、エチレンに変換できる。例えば一実施形態では、トール油は、セルロース由来の供給原料に由来し得る。
【0038】
[00040]一旦、バイオベースのモノマーが合成され、精製されれば、高密度ポリエチレンポリマーは、モノマーから生産される。この高密度ポリエチレンポリマーは、バイオベースのモノマーだけから生産できる。しかしながら、代替的な実施形態では、高密度ポリエチレンポリマーは、化石ベースのエチレンモノマーと組み合わされたバイオベースのモノマーを含むモノマーの混合物から生産できる。例えば、化石ベースのエチレンモノマーが使用されるとき、バイオベースのモノマーと化石ベースのモノマーの間の重量比は、約1:95から約95:1でもよい。
【0039】
[00041]高密度ポリエチレンは、約0.92g/cm3以上、例えば約0.94g/cm3以上、例えば約0.95g/cm3以上、および一般的に約1g/cm3未満の密度を有し得る。
【0040】
[00042]高密度ポリエチレンは、高分子量ポリエチレン、非常に高い分子量の(very-high molecular weight)ポリエチレン、および/または超高分子量ポリエチレンでもよい。「高分子量ポリエチレン」は、少なくとも約2×105g/モルの平均分子量を持つポリエチレン組成物を指し、本明細書で使用する場合、非常に高い分子量のポリエチレンおよび超高分子量ポリエチレンを含むことが意図される。本明細書の目的のために、本明細書で参照された分子量は、Margolies式に従って決定される(「Margolies分子量」)。
【0041】
[00043]「非常に高い分子量のポリエチレン」は、約1×106g/モルから約3×106g/モルの分子量を持つポリエチレン組成物を指す。
[00044]「超高分子量ポリエチレン」は、少なくとも約3×106g/モルの平均分子量を持つポリエチレン組成物を指し、ASTM D4020またはISO11542-1で定義できる。いくつかの実施形態において、超高分子量ポリエチレン組成物の分子量は、約3×106g/モルから約30×106g/モルの間で、または約3×106g/モルから約20×106g/モルの間で、または約3×106g/モルから約10×106g/モルの間で、または約3×106g/モルから約6×106g/モルの間である。
【0042】
[00045]一態様では、高密度ポリエチレンはエチレンのホモポリマーである。別の実施形態では、高密度ポリエチレンは、コポリマーでもよい。例えば、高密度ポリエチレンは、エチレンと、3~16個の炭素原子、例えば3~10個の炭素原子、例えば3~8個の炭素原子を含有する別のオレフィンとのコポリマーでもよい。これらの他のオレフィンとして、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチルペンタ-1-エン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセンなどが挙げられるが、それだけには限定されない。また本明細書において使用可能なのは、ポリエンコモノマー、例えば1,3-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、4-ビニルシクロヘキサ-1-エン、1,5-シクロオクタジエン、5-ビニリデン-2-ノルボルネンおよび5-ビニル-2-ノルボルネンである。ただし、コポリマーの中の非エチレンモノマーの量は、存在する場合、約10モル%未満、例えば約5モル%未満、例えば約2.5モル%未満、例えば約1モル%未満であってよく、モル%は、ポリマー中のモノマーの総モル数に基づく。本開示に従って、コモノマーは、バイオベースのコモノマーでもよい。
【0043】
[00046]一実施形態では、高密度ポリエチレンは、単峰性の分子量分布を有してもよい。あるいは、高密度ポリエチレンは、二峰性の分子量分布を示してもよい。例えば、二峰性の分布は、一般に、サイズ排除クロマトグラフィーまたはゲルろ過クロマトグラフィーの曲線において、明確なより高分子量と明確なより低分子量(例えば、2つの明確なピーク)とを有するポリマーを指す。別の実施形態では、高密度ポリエチレンは、多峰性(例えば、三峰性、四峰性など)の分布を示すポリエチレンのように、2つを超える分子量分布のピークを示してもよい。あるいは、高密度ポリエチレンは、幅広い分子量分布を示してよく、このポリエチレンは、サイズ排除クロマトグラフィーまたはゲルろ過クロマトグラフィーの曲線が、少なくとも2つの明確なピークを示すのではなく、個々の成分のピークよりもより広範な1つの明確なピークを示すような、より高い分子量およびより低い分子量の成分のブレンドから構成される。
【0044】
[00047]当該分野で公知の任意の方法は、ポリエチレンの合成に利用できる。ポリエチレン粉末は、典型的には、エチレンモノマーの、または任意選択で1種もしくは複数種の他の1-オレフィンコモノマーとの触媒重合によって、最終ポリマー中の1-オレフィン含有量がエチレン含有量の10%以下であるように、不均一系触媒および共触媒としての有機アルミニウムまたはマグネシウム化合物を用いて生産される。エチレンは、通常、気相またはスラリー相中で相対的に低い温度および圧力で重合される。重合反応は、50℃から100℃の間の温度で、および0.02から2MPaの範囲内の圧力で行われてもよい。
【0045】
[00048]ポリエチレンの分子量は、水素添加によって調整できる。温度ならびに/または共触媒の種類および濃度の変更も、分子量を微調整するために使用してもよい。さらに、反応は、付着物および製品の汚染を回避するために、帯電防止剤の存在下で起こしてもよい。
【0046】
[00049]好適な触媒系としては、限定されるものではないがチーグラー・ナッタタイプの触媒が挙げられる。典型的には、チーグラー・ナッタタイプの触媒は、周期表の第4族から第8族の遷移金属化合物と、周期表の第1族から第3族の金属アルキルまたは水素化物誘導体との組み合わせによって誘導される。使用される遷移金属誘導体は、通常、金属ハロゲン化物もしくはエステルまたはそれらの組み合わせを含む。例示的なチーグラー・ナッタ触媒としては、有機アルミニウムもしくはマグネシウム化合物、例えば限定はしないがアルキルアルミニウムもしくはアルキルマグネシウムと、チタン、バナジウムまたはクロムハロゲン化物もしくはエステルとの反応生成物に基づく触媒が挙げられる。不均一系触媒は、多孔質の微粒状物質、例えばシリカまたは塩化マグネシウムの上に支持されていても、されていなくてもよい。このような支持体は、触媒の合成中に加えることができ、または触媒合成自体の化学反応生成物として得られることがある。
【0047】
[00050]一実施形態では、好適な触媒系は、不活性有機溶媒中で、-40℃から100℃、好ましくは-20℃から50℃の範囲内の温度で、チタン(IV)化合物とトリアルキルアルミニウム化合物との反応によって得られ得る。出発物質の濃度は、チタン(IV)化合物については0.1から9モル/L、好ましくは0.2から5モル/Lの範囲内で、かつトリアルキルアルミニウム化合物については0.01から1モル/L、好ましくは0.02から0.2モル/Lの範囲内である。チタン成分は、0.1分から60分、好ましくは1分から30分間にわたってアルミニウム成分に添加され、最終混合物中のチタン対アルミニウムのモル比は1:0.01から1:4の範囲内になる。
【0048】
[00051]別の実施形態では、好適な触媒系は、不活性有機溶媒中で-40℃から200℃、好ましくは-20℃から150℃の範囲内の温度で、チタン(IV)化合物と、トリアルキルアルミニウム化合物との1または2段階反応によって得られる。1段階においてチタン(IV)化合物は、-40℃から100℃、好ましくは-20℃から50℃の範囲内の温度で、トリアルキルアルミニウム化合物と反応させ、チタン対アルミニウムのモル比は1:0.1から1:0.8の範囲内で用いる。出発物質の濃度は、チタン(IV)化合物については0.1から9.1モル/L、好ましくは5から9.1モル/Lの範囲内で、かつトリアルキルアルミニウム化合物については0.05から1モル/L、好ましくは0.1から0.9モル/Lの範囲内である。チタン成分は、0.1分から800分、好ましくは30分から600分間にわたってアルミニウム成分に添加される。第2段階において、適用される場合、第1段階で得られる反応生成物は、-10℃から150℃、好ましくは10℃から130℃の範囲内の温度で、トリアルキルアルミニウム化合物と処理され、チタン対アルミニウムのモル比は1:0.01から1:5の範囲内で用いる。
【0049】
[00052]さらに別の実施形態では、好適な触媒系を得る手順では、第1反応段階において、マグネシウムアルコラートを、不活性炭化水素中で50°から100℃の温度で塩化チタンと反応させる。第2反応段階において、生成された反応混合物は、約10から100時間の間で、110°から200℃の温度で熱処理に供され、さらなる塩化アルキルが発生されなくなるまで塩化アルキルの発生が伴い、その後固体は、炭化水素で数回洗浄することによって可溶性の反応生成物から遊離される。
【0050】
[00053]前述のそれぞれの触媒は、内部電子供与体をさらに含むことがある。そのような供与体は、線状および環状エーテル;エステルおよびジエステル、例えば芳香族エステル;窒素含有化合物;ならびに硫黄含有化合物、例えばチオエーテルの群から選択してもよい。一実施形態では、内部電子供与体は、コハク酸の誘導体でもよい。代替的な実施形態では、内部電子供与体は、置換されたフェニレンジエステルでもよい。
【0051】
[00054]チーグラー・ナッタ触媒は、活性剤と一緒に使用される。好適な活性剤は、アルキル金属化合物であり、特にアルキルアルミニウム化合物である。これらの化合物としては、ハロゲン化アルキルアルミニウム、例えばエチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジメチルアルミニウムクロリドが挙げられる。それらとしてはまた、トリアルキルアルミニウム化合物、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウムおよびトリ-n-オクチルアルミニウムが挙げられる。さらにそれらとしては、アルキルアルミニウムオキシ化合物、例えばメチルアルミニウムオキサン(MAO)、ヘキサイソブチルアルミニウムオキサン(HIBAO)およびテトライソブチルアルミニウムオキサン(TIBAO)が挙げられる。また、他のアルキルアルミニウム化合物、例えばイソプレニルアルミニウムを使用してもよい。とりわけ好ましい活性剤は、トリアルキルアルミニウムで、そのうち、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウムおよびトリイソブチルアルミニウムが、特に使用される。
【0052】
[00055]使用される活性剤の量は、特定の触媒および活性剤に依存する。典型的にはトリエチルアルミニウムは、Al/Tiのようなアルミニウム対遷移金属のモル比が、1から1000、好ましくは3から100、特に約5から約30モル/モルになるような量で使用される。
【0053】
[00056]触媒と一緒に外部供与体を使用することが可能である。このような供与体の使用は、当技術分野で既知である。それらは、線状および環状エーテル、エステル、シリコンエーテル、窒素含有化合物などから選択してもよい。
【0054】
[00057]上述の触媒系を利用し、高密度ポリエチレンポリマーは、スラリー重合法において生産できる。例えば、触媒は、エチレンを含有するスラリーおよび希釈剤中に導入できる。
【0055】
[00058]超高分子量ポリエチレンを生産するためのスラリー重合ステップは、30から110℃の温度で行われる。好ましくは、温度は、35から75℃、より好ましくは40から70℃、例えば42から70℃または45から70℃である。プロセスで生産されるポリマーの分子量は、温度範囲の下端で稼働させる場合、より高い傾向がある。一方、重合速度は、温度上昇に伴い増加する傾向がある。上記の範囲は、分子量的能力および生産性の間で優れた妥協点を提供する。
【0056】
[00059]超高分子量ポリエチレンを生産するためのスラリー重合ステップにおける圧力は、さほど重要ではなく、約1から約100barの範囲内(絶対圧)で自由に選択してもよい。中でも、動作圧力の選択は、重合で使用される希釈剤の選択に依存する。
【0057】
[00060]超高分子量ポリエチレンを生産するためのスラリー重合ステップ中の希釈剤は、反応条件においてエチレンを溶解するが高密度ポリエチレンを溶解しない任意の適した希釈剤でよい。さらに、希釈剤は、重合触媒と反応すべきではない。好ましくは、希釈剤は、2~8個の炭素原子を有するアルカンおよびそれらの混合物から選択される。より好ましくは、希釈剤は、プロパン、イソブタン、n-ブタンおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0058】
[00061]超高分子量ポリエチレンを生産するためのスラリー重合は、バッチ式でまたは連続的に行ってもよい。
[00062]スラリーの流体相中のエチレン含有量は、1から約50モル%、好ましくは約2から約20モル%、詳細には約2から約10モル%でもよい。高エチレン濃度を有することの利点は、触媒の生産性が高められることであるが、欠点は、その後、濃度がより低い場合よりも、より多くのエチレンが再循環される必要があることである。
【0059】
[00063]超高分子量ポリエチレンを生産するためのスラリー重合は、スラリー重合で使用される任意の既知の反応器で行ってもよい。このような反応器としては、連続撹拌槽反応器およびループ反応器が挙げられる。重合は、ループ反応器で行うことが特に好ましい。このような反応器において、スラリーは、循環ポンプを用いて閉管に沿って高速度で循環される。
【0060】
[00064]スラリー重合ステップにおける平均滞留時間は、典型的には20から120分、好ましくは30から80分である。当技術分野で周知のように、連続プロセスでの平均滞留時間Tは、下記から計算できる。
【0061】
【0062】
上式で、VRは、反応空間の容積(ループ反応器の場合には、反応器の容積)、およびQOは、生成物流の体積流速(ポリマー生成物および流体反応混合物を含む)である。
[00065]高密度ポリエチレンポリマーは、一般に約200,000g/モルを超える、例えば約300,000g/モルを超える分子量を有する。例えば、ポリエチレンポリマーは、約500,000g/モルを超える、例えば約700,000g/モルを超える、例えば約1,000,000g/モルを超える、例えば約1,300,000g/モルを超える、例えば約1,700,000g/モルを超える、例えば約2,000,000g/モルを超える、例えば約2,500,000g/モルを超える、例えば約3,000,000g/モルを超える、例えば約3,500,000g/モルを超える、例えば約4,000,000g/モルを超える、例えば約4,500,000g/モルを超える、例えば約5,000,000g/モルを超える、例えば約5,500,000g/モルを超える、例えば約6,000,000g/モルを超える、例えば約6,500,000g/モルを超える、例えば約7,000,000g/モルを超える、例えば約7,500,000g/モルを超える、例えば約8,000,000g/モルを超える、かつ約12,000,000g/モル未満の平均分子量を有し得る。
【0063】
[00066]ポリエチレンポリマーは、約0.1g/10分から約50g/10分のメルトフローレートを有し得る。ポリマーのメルトフローレートは、190℃および荷重21.5kgのASTM試験D1238に従って決定される。一実施形態では、高密度ポリエチレンポリマーは、例えば約30g/10分未満、例えば約20g/10分未満、例えば約10g/10分未満、例えば約5g/10分未満、例えば約4g/10分未満、例えば約3g/10分未満、例えば約2g/10分未満、例えば約1g/10分未満の相対的に低いメルトフローレートを有する。一実施形態では、メルトフローレートは、上述のASTM試験に従って測定され得ないほど、非常に低い。
【0064】
[00067]マスバランスアプローチに加えて、本開示に従って生産された高密度ポリエチレンポリマーは、その後、ASTM試験D6866(2021)を用いて、バイオベース含有量を測定できる。上述の分析試験は、放射性炭素年代測定を用いて固体、液体または気体のサンプルのバイオベース含有量を決定するために開発された。ASTM試験D6866は、現代のバイオマスベースの投入物に由来する炭素と、化石ベースの投入物に由来する炭素とを区別する。より詳細には、この方法は、ポリマー中の放射性炭素年代測定用同位体14C(5,730年の半減期)の量を決定することに依拠する。この方法は、ポリマー中に含有される炭素が、生物源、例えば現代の植物もしくは動物、または化石源、あるいはこれらの混合物に由来するかどうかを同定する。一般に、化石源に由来する炭素は、極めてゼロに近い14C量を有する。高密度ポリエチレンポリマーの14C同位体量の測定は、すべての、または一部の材料または物品が生物源に由来することを確かめ得る。ASTM試験D6866は、A~C法を備える。一実施形態では、B法を使用してもよい。
【0065】
[00068]本開示に従って作製される高密度ポリエチレンポリマーは、ASTM試験D6866に従って試験される場合、全有機炭素含有量の放射性炭素年代測定に基づく少なくとも10%のバイオベース含有量を有し得る。例えば、高密度ポリエチレンポリマーは、約20%を超えて、例えば約30%を超えて、例えば約40%を超えて、例えば約50%を超えて、例えば約60%を超えて、例えば約70%を超えて、例えば約80%を超えて、バイオベース含有量を有し得る。一実施形態では、高密度ポリエチレンポリマーは、バイオベースの供給原料のみから作製され、100%のバイオベース含有量を有し得る。他の実施形態では、高密度ポリエチレンポリマーは、バイオベース含有量が、約90%未満、例えば約80%未満、例えば約70%未満、例えば約60%未満、例えば約50%未満、例えば約40%未満、例えば約30%未満となるように部分的に化石ベースのエチレンから作製できる。
【0066】
[00069]一般に、本開示に従って生産される高密度ポリエチレンポリマーは、さまざまな異なる製品および物品を作製するのに用いるため、粒子の形態で収集される。
[00070]一実施形態では、ポリエチレン粒子は、DIN53466に従って測定した場合、相対的に低いかさ密度を持つポリエチレンポリマーから作製される。例えば、一実施形態では、かさ密度は、一般に約0.4g/cm3未満で、例えば約0.35g/cm3未満、例えば約0.33g/cm3未満、例えば約0.3g/cm3未満、例えば約0.28g/cm3未満、例えば約0.26g/cm3未満となる。一般に、かさ密度は、約0.1g/cm3を超え、例えば約0.15g/cm3を超える。一実施形態では、ポリマーは、約0.2g/cm3から約0.27g/cm3のかさ密度を有する。
【0067】
[00071]一実施形態では、ポリエチレン粒子は、流動性粉末でもよい。粒子は、250ミクロン未満の体積メジアン粒径(d50)を有し得る。例えば、ポリエチレン粒子のメジアン粒径(d50)は、約150ミクロン未満、例えば約125ミクロン未満でもよい。一般に、メジアン粒径(d50)は、約10ミクロンを超える。粉末の粒径は、ISO13320に従ってレーザー回折法を利用して測定できる。
【0068】
[00072]一実施形態では、ポリエチレン粒子の90%は、約250ミクロン未満の粒径を有し得る。他の実施形態では、ポリエチレン粒子の90%は、約200ミクロン未満、例えば約170ミクロン未満の粒径を有し得る。
【0069】
[00073]ポリエチレンは、0.0002g/mLのデカヒドロナフタレン中の濃度を利用するISO1628パート3に従って決定される場合、少なくとも100mL/g、例えば少なくとも500mL/g、例えば少なくとも1,500mL/g、例えば少なくとも2,000mL/g、例えば少なくとも4,000mL/gから約6,000mL/g未満、例えば約5,000mL/g未満、例えば約4000mL/g未満、例えば約3,000mL/g未満、例えば約1,000mL/g未満の粘度数を有してもよい。
【0070】
[00074]高密度ポリエチレンは、少なくとも約40%から85%、例えば45%から80%の結晶度を有してもよい。
[00075]製品および物品の生産において、高密度ポリエチレンポリマーは、さまざまな添加剤、例えば熱安定剤、光安定剤、UV吸収剤、酸捕捉剤、難燃剤、潤滑剤、着色剤などと組み合わせてもよい。
【0071】
[00076]一実施形態では、熱安定剤は、組成物中に存在してもよい。熱安定剤としては、ホスファイト、アミン抗酸化剤、フェノール性抗酸化剤、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
[00077]一実施形態では、抗酸化剤は、組成物中に存してもよい。抗酸化剤としては、2級芳香族アミン、ベンゾフラノン、立体障害フェノール、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
[00078]一実施形態では、光安定剤は、組成物中に存在してもよい。光安定剤としては、2-(2’-ヒドロキシフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-アルコキシベンゾフェノン、ニッケル含有光安定剤、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、立体障害アミン(HALS)、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
[00079]一実施形態では、UV吸収剤は、光安定剤の代わりに、または光安定剤に加えて組成物中に存在してもよい。UV吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾエート、またはそれらの組み合わせ、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
[00080]一実施形態では、ハロゲン化難燃剤は、組成物中に存在してもよい。ハロゲン化難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、テトラブロモフタル酸無水物、ドデカクロロペンタシクロオクタデカジエン(デクロラン)、ヘキサブロモシクロドデカン、塩素化パラフィン、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
[00081]一実施形態では、非ハロゲン化難燃剤は、組成物中に存在してもよい。非ハロゲン化難燃剤は、レゾルシノール二リン酸テトラフェニルエステル(RDP)、ポリリン酸アンモニウム(APP)、ホスフィン酸誘導体、リン酸トリアリール、トリクロロプロピルホスフェート(TCPP)、水酸化マグネシウム、三水酸化アルミニウム、三酸化アンチモンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
[00082]一実施形態では、潤滑剤は、組成物中に存在してもよい。潤滑剤としては、シリコーン油、ワックス、二硫化モリブデン、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
[00083]一実施形態では、着色剤は、組成物中に存在してもよい。着色剤は、無機および有機ベースの着色顔料が挙げられるが、これらに限定されない。
[00084]一態様では、酸捕捉剤は、ポリマー組成物中に存在してもよい。酸捕捉剤は、例えば、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含んでよい。この塩は、脂肪酸の塩、例えばステアレートを含み得る。他の酸捕捉剤としては、炭酸塩、酸化物塩、または水酸化物塩が挙げられる。ポリマー組成物中に組み込んでもよい特定の酸捕捉剤としては、金属ステアレート、例えばステアリン酸カルシウムが挙げられる。さらに他の酸捕捉剤としては、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0079】
[00085]これらの添加剤は、単独でまたはそれらの任意の組み合わせで使用してもよい。一般に、それぞれの添加剤は、少なくとも約0.05重量%の量、例えば少なくとも約0.1重量%、例えば少なくとも約0.25重量%、例えば少なくとも約0.5重量%、例えば少なくとも約1重量%、および一般に、約20重量%未満、例えば約10重量%未満、例えば約5重量%未満、例えば約4重量%未満、例えば約2重量%未満の量で、ポリマー組成物中または得られるポリマー物品中に存在してもよい。ポリマー組成物および物品中で利用されるすべての成分の重量%の総和は、任意の添加剤が存在する場合にはこれらを含み、100重量%となる。
【0080】
[00086]本開示に従って作製される高密度ポリエチレンポリマーは、あらゆる種類の製品および物品を生産するために、多数で多様な用途で使用できる。高密度ポリエチレンポリマーがさまざまな物品に形成される手法も、変化し得る。一実施形態では、例えば、高密度ポリエチレン粒子は、可塑剤と組み合わされ、物品、例えば繊維およびフィルムを生産するためのゲル押出プロセスを介して供給できる。ゲル押出中、ダイを通して押出することができるゲルを形成するために、著しい量の可塑剤が高密度ポリエチレンポリマーと組み合わされる。一旦ポリマー物品が形成されると、可塑剤はその後、最終製品から除去される。
【0081】
[00087]ゲル押出物品を形成するとき、高密度ポリエチレンポリマーは可塑剤と組み合わせて、ポリマー組成物を形成する。
[00088]一般に、高密度ポリエチレン粒子は、最大で約50重量%の量でポリマー組成物中に存在する。例えば、高密度ポリエチレン粒子は、約45重量%未満の量で、例えば約40重量%未満の量で、例えば約35重量%未満の量で、例えば約30重量%未満の量で、例えば約25重量%未満の量で、例えば約20重量%未満の量で、例えば約15重量%未満の量でポリマー組成物中に存在し得る。ポリエチレン粒子は、約5重量%を超える量で、例えば約10重量%を超える量で、例えば約15重量%を超える量で、例えば約20重量%を超える量で、例えば約25重量%を超える量で組成物中に存在し得る。ゲル処理中に、可塑剤は、高密度ポリエチレン粒子と組み合わされ、ポリマー物品の形成中に実質的にまたは完全に除去できる。例えば、一実施形態では、得られるポリマー物品は、約70重量%を超える量で、例えば約80重量%を超える量で、例えば約85重量%を超える量で、例えば約90重量%を超える量で、例えば約95重量%を超える量で高密度ポリエチレンポリマーを含有し得る。
【0082】
[00089]一般に、任意の適した可塑剤は、ゲル押出プロセス中に使用できる。可塑剤は、例えば、炭化水素油、アルコール、エーテル、エステル、例えばジエステル、またはそれらの混合物を含んでよい。例えば、好適な可塑剤としては、鉱油、パラフィン系油、デカリン、などが挙げられる。他の可塑剤としては、キシレン、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ジフェニルエーテル、n-デカン、n-ドデカン、オクタン、ノナン、ケロシン、トルエン、ナフタレン、テトラリンなどが挙げられる。一実施形態では、可塑剤は、ハロゲン化炭化水素、例えばモノクロロベンゼンを含んでよい。シクロアルカンおよびシクロアルケンも、使用されてよく、例えばカンフェン、メタン、ジペンテン、メチルシクロペンタンジエン、トリシクロデカン、1,2,4,5-テトラメチル-1,4-シクロヘキサジエンなどである。可塑剤はまた、上記いずれかの任意の混合物および組み合わせを含んでよい。
【0083】
[00090]可塑剤は、一般に、ポリマー物品を形成するために使用される組成物中に、約50重量%を超える量で、例えば約55重量%を超える量で、例えば約60重量%を超える量で、例えば約65重量%を超える量で、例えば約70重量%を超える量で、例えば約75重量%を超える量で、例えば約80重量%を超える量で、例えば約85重量%を超える量で、例えば約90重量%を超える量で、例えば約95重量%を超える量で、例えば約98重量%を超える量で存在する。実際に、可塑剤は、最大で約99.5%重量の量で存在し得る。
【0084】
[00091]高密度ポリエチレン粒子および可塑剤は、均質なゲル状材料を形成する。本開示に従ってポリマー物品を形成するために、高密度ポリエチレン粒子は、可塑剤と組み合わされ、所望の型のダイを通して押出される。一実施形態では、組成物は、押出機中で加熱できる。例えば、可塑剤は粒子混合物と組み合わせ、押出機中に供給できる。本開示に従って、可塑剤および粒子混合物は、不純物がほとんどないか、まったくないポリマー物品を形成するため、押出機を離れる前に均質なゲル状材料を形成する。
【0085】
[00092]一実施形態では、ゲル紡糸または押出プロセス中に、細長い物品が形成される。ポリマー物品は、例えば、繊維またはフィルム、例えば膜の形態であってもよい。
[00093]このプロセスの間、少なくとも一部の可塑剤は、最終製品から除去される。可塑剤除去のプロセスは、比較的揮発性の可塑剤が使用されるとき、蒸発により起こることがある。そうでなければ、抽出液が、可塑剤除去のために使用できる。抽出液は、例えば、炭化水素溶剤を含んでよい。例えば、抽出液の1つの例は、ジクロロメタンである。他の抽出液としては、アセトン、クロロホルム、アルカン、ヘキセン、ヘプテン、アルコール、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0086】
[00094]必要ならば、得られるポリマー物品は、ポリマー混合物の融点未満の高温で延伸して、強度およびモジュラスを増強することができる。延伸するための好適な温度は、およそ周辺温度から約155℃の範囲内である。一般に、延伸比は、約4超、例えば約6超、例えば約8超、例えば約10超、例えば約15超、例えば約20超、例えば約25超、例えば約30超でもよい。ある特定の実施形態において、延伸比は、約50超、例えば約100超、例えば約110超、例えば約120超、例えば約130超、例えば約140超、例えば約150超でもよい。一般に、延伸比は、約1,000未満で、例えば約800未満で、例えば約600未満で、例えば約400未満である。一実施形態では、より低い延伸比が使用され、例えば約4から約10である。ポリマー物品は、一軸延伸され、または二軸延伸することができる。
【0087】
[00095]本開示に従って作製されるポリマー物品は、多くの使用および用途を有する。例えば、一実施形態では、プロセスは、膜を生産するのに使用される。膜は、例えば、バッテリー用セパレーターとして使用できる。あるいは、膜は、マイクロフィルターとして使用できる。繊維を生産するとき、繊維は、不織布、ロープ、ネットなどを生産するために使用できる。一実施形態では、繊維は、弾道用衣服の充填材料として使用できる。
【0088】
[00096]
図1を参照すると、本開示に従って作製されるリチウムイオンバッテリー10の一実施形態が示されている。バッテリー10は、アノード12およびカソード14を備える。アノード12は、例えば、リチウム金属から作製できる。その一方で、カソード14は、硫黄から、またはインターカレートされたリチウム金属酸化物から作製できる。本開示に従って、バッテリー10は、さらに多孔質膜16またはアノード12とカソード14との間に配置されるセパレーターを備える。多孔質膜16は、イオン、例えばリチウムイオンの通過を可能にすると同時に2電極間での電気的短絡を最小化する。
図1で示されるように、一実施形態では、多孔質膜16は、単層ポリマー膜であり、多層構造を備えない。一態様では、単層ポリマー膜は、コーティングを備えてもよい。コーティングは、例えば、酸化アルミニウムまたは酸化チタンから作製される無機コーティングでもよい。あるいは、単層ポリマー膜は、ポリマーコーティングを備えてもよい。コーティングは、熱抵抗の増加をもたらし得る。
【0089】
[00097]代替的な実施形態では、高密度ポリエチレンポリマーは、さまざまな異なる生体材料、例えば移植片を生産するために使用できる。例えば、高密度ポリエチレンポリマーは、生体適合性とし得るので、このポリマーは、人工膝関節、人工股関節、および他の人間または動物の体用の置換用人工関節を生産するのによく適している。例えば、一実施形態では、高密度ポリエチレンは、人工股関節の寛骨臼カップのライニングとして使用できる。
【0090】
[00098]生体材料として使用される場合、高密度ポリエチレンポリマーは、ほとんど不純物がないか、またはまったく不純物を有するべきではない。これに関して、高密度ポリエチレンポリマーは、約500ppm未満、例えば約250ppm未満の、例えば約100ppm未満の、例えば約50ppm未満の、例えば約10ppm未満の灰含有量を有してもよい。実際に、ある特定の実施形態において、灰含有量は、約8ppm未満で、例えば約5ppm未満で、例えば約2ppm未満であってもよい。本明細書で使用する場合、灰含有量は、ASTM試験D5630-13に従って決定される。
【0091】
[00099]高密度ポリエチレンポリマーは、あらゆる種類の移植片を含む、あらゆる種類の生物医学的な製品を生産するために使用できる。移植片は、人体用、またはすべての脊椎動物を含む動物体用に設計できる。ポリマーは、例えば、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ウシなどのための移植片を生産するために使用できる。
【0092】
[000100]一実施形態では、焼結製品は、高密度ポリエチレンポリマーから、特に多孔質物品から作製できる。多孔質物品は、上述のポリエチレンポリマー粉末を、部分的にまたは全体的に限定された空間、例えば、金型に導入し、ポリエチレン粒子を軟化し、伸張し、互いに接触するように成形粉を十分に加熱することを含む自由焼結法により形成してもよい。好適なプロセスとしては、圧縮成形および注入成形が挙げられる。金型は、鋼、アルミニウムまたは他の金属で作製できる。成形プロセスで使用されるポリエチレンポリマー粉末は、一般に反応器の後のグレードであり、これは、粉末が金型に導入される前に、ふるい分けまたは粉砕にかけられないことを意味する。もちろん、上述の添加剤は、粉末と一緒に混合してもよい。
【0093】
[000101]金型は、対流式オーブン、油圧プレスまたは赤外線ヒーター中で、ポリマー粒子を焼結するために、焼結温度約140℃から約300℃の間で、例えば約160℃から約300℃の間で、例えば約170℃から約240℃の間で加熱される。加熱時間および温度は変化し、かつ金型の大きさおよび成形物品の形状によって決まる。しかしながら、加熱時間は、典型的には約25から約100分の範囲内にある。焼結中、個々のポリマー粒子の表面は、それらの接触点で融合し、多孔質構造を形成する。その次に、金型は、冷却され、多孔質物品は除去される。一般に、成形圧力は要しない。しかし、多孔度の調整が必要な場合には、比例的に低い圧力を粉末に加え得る。
【0094】
[000102]本開示に従って作製される多孔質基材は、優れたブレンド性質を有することが知られている。例えば、本開示に従って作製される多孔質基材は、相対的に低い圧力損失を有することがあり、優れたフィルター性質を示し、相対的に高レベルの曲げ強度と組み合わせて、より脆弱でなく、より柔軟性のある製品を示す。例えば、本開示に従って作製される多孔質基材は、10mbar未満、例えば約8mbar未満、例えば約6mbar未満、例えばさらに約4mbar未満の圧力損失を有し得る。一実施形態では、例えば、圧力損失は、約0.1mbarから約3.5mbarとし得る。
【0095】
[000103]さらに、多孔質基材は、相対的に高い曲げ強度を有し得る。曲げ強度は、例えば、DIN ISO178に従って決定できる。一般に、本開示に従って作製される多孔質基材の曲げ強度は、約1.5MPaを超え、例えば約2MPaを超え、例えば約2.2MPaを超え、例えば約2.4MPaを超え、例えば約2.6MPaを超え、例えば約2.8MPaを超え、例えば約3MPaを超え得る。一般に、曲げ強度は、約8MPa未満である。
【0096】
[000104]上の性質に加えて、本開示に従って作製される多孔質基材は、他のさまざまな有利な物理的性質を有し得る。例えば、多孔質基材は、約30%を超える、例えば約35%を超える、例えば約40%を超える多孔度を有し得る。一般に、多孔度は、約80%未満、例えば約60%未満、例えば約55%未満である。多孔度は、DIN試験66133に従って決定できる。また、DIN試験66133に従って決定できる平均細孔径は、一般に約80ミクロンを超えて、例えば約85ミクロンを超えて、例えば約90ミクロンを超えて、例えば約95ミクロンを超えて、例えば約100ミクロンを超えて、例えば約105ミクロンを超えて、例えば約110ミクロンを超えて、例えば約115ミクロンを超えて、例えば約120ミクロンを超えて、例えばさらに約125ミクロンを超え得る。一般に、平均細孔径は、約180ミクロン未満である。
【0097】
[000105]本開示に従って作製される多孔質基材は、多数で多様な用途で使用できる。具体例としては、廃水エアレーション、毛細管現象の用途およびろ過が挙げられる。
[000106]エアレーションは、微生物および激しい掻き混ぜを用いる廃水の分解方法である。微生物は、溶解および懸濁している有機物と密接に接触することで働く。エアレーションは、「通気装置」または「多孔質の散気装置」の使用によって実際に実行されている。通気装置は、多くの異なる材料から作製されており、広く受け入れられている型および形状で供給される。通気装置の製造で現在使用される材料の主な3種は、セラミック(酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウムおよびシリカを含む)、膜(主にエチレン/プロピレン二量体-EPDMのようなエラストマー)およびプラスチック(主にHDPE)である。
【0098】
[000107]本多孔質物品は、粒度分布およびかさ密度のより厳密な制御が、厳密に制御された細孔、均一な流速、より大きな気泡サイズおよびより少ない圧力損失を持つ通気装置の生産につながるという事実によって、セラミック、膜およびHDPE通気装置用の魅力的な代替品をもたらす。さらに、UV安定剤および/または抗菌性添加剤を組み入れることは、本焼結多孔質ポリエチレン通気装置の性能が、既存の通気装置の性能に対しさらなる改善を可能にするはずである。これにより、UV安定剤の組み込みは、本通気装置の屋外環境での推定寿命を延ばすために使用することができ、その一方で、抗菌剤の添加は、通気装置表面への付着物を防止し、それにより、通気装置がより長期間にわたり最大効率で機能することを可能にするはずである。
【0099】
[000108]本多孔質焼結品の毛細管現象の用途としては、筆記用具、例えば蛍光ペン、カラースケッチペン、油性マーカーおよび消せるホワイトボードマーカーが挙げられる。これらは、多孔質のペン先の毛細管作用を利用して、インクをリザーバーから筆記表面に運ぶ。現在、超高分子量ポリエチレンから形成される多孔質のペン先は、しばしば蛍光ペンおよびカラースケッチペンに使用されているが、油性およびホワイトボードマーカーは、一般にポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)、ポリオレフィン中空繊維およびアクリル多孔質材料から生産される。本焼結品の大きな細孔径は、油性マーカーおよびホワイトボードマーカーで使用されているアルコールベースの高粘度インクの毛細管輸送での使用において、それらを魅力的なものにする。
【0100】
[000109]ろ過用途に関しては、本多孔質焼結品は、例えば、生産水(掘削注入水)のろ過において有用である。これにより、原油生産では、水は、圧力を維持し、かつ水圧で油を生産井に向けて送るために海岸近くのリザーバーに注入されることが多い。注入される水は、リザーバーまたはこの目的のために使用される設備を通常より早く塞ぐことがないように、ろ過されなければならない。さらに油田が成熟するにつれ、生産水の発生は増加する。本ポリエチレン粉末から作製される多孔質チューブは、親油性であり、逆洗可能で、耐摩耗性、耐薬品性があり、耐用年数が長く、強くて安定したフィルターエレメントを形成し得るので、生産水のろ過に理想的なろ過媒体である。
【0101】
[000110]本多孔質焼結品は、油が水から分離される必要がある他のろ過用途、例えばろ過発電所のタービンおよびボイラー水のろ過、冷却水乳濁液のろ過、洗車設備からの洗浄水の油除去、プロセス水のろ過、海水からの流出油の除去、天然ガスおよび航空燃料フィルターからのグリコールの分離においても、有用性を認める。
【0102】
[000111]本多孔質焼結品の別の用途は、灌漑においてであり、灌漑では、流入水のろ過は、スプリンクラーシステムを詰まらせ、損傷ポンプを備える他の灌漑装置を損傷し得る微細な砂粒子を除去するために必要である。この問題への従来のアプローチは、ステンレス鋼スクリーン、複合型ディスクフィルター、砂媒体フィルターおよびカートリッジフィルターの使用である。これらのフィルターの重要な要件の1つは、細孔径であり、これは、通常は100μから150μの範囲であることが必要とされる。他の考慮すべき点は、高い流速、低い圧力損失、優れた耐薬品性、高いフィルター強度および長い耐用年数である。本多孔質焼結品の性質は、それらを特にそのような使用に適任したものにする。
【0103】
[000112]さらにろ過用途は、多段式の飲料水用途において錆および大きな沈降物を除去するためのプレフィルターとして使用されるセディメントフィルターの代替であり、焼結ポリエチレンフィルターは、より高価なカーボンブロック、逆浸透膜および中空繊維カートリッジを超える長い寿命を示している。これまで、必要とされるそのようなフィルターの焼結部品強度は、LDPEまたはHDPEをUHMWPE粉末と一緒にブレンドすることのみによって達成可能であった。しかし、これらのブレンドには、焼結フィルターの細孔径が小さくされ、既存のUHMWPE粉末では20μを超える細孔径および適切な部品強度を持つフィルターを生産できないという点において、いくつかの欠点がある。その一方、本ポリエチレン粉末は、細孔径>30μで適切な部品強度を示し、高速の水での使用中に優れた細孔径の維持を示すセディメントフィルターの設計を促進する。
【0104】
[000113]本多孔質焼結品の他のろ過用途としては、医学的な流体ろ過、例えば人体外での血液のろ過、化学および医薬品製造プロセスにおいて固体を除去するためのろ過、および固体汚染物質の除去のための作動油のろ過が挙げられる。
【0105】
[000114]さらなるろ過実施形態において、本ポリエチレン粉末は、カーボンブロックフィルターの生産において使用できる。カーボンブロックフィルターは、約5重量%から約80重量%、一般に約15重量%から約25重量%の熱可塑性の結合剤とブレンドされる顆粒状の活性炭粒子から生産される。このブレンドは、通常は中空円筒の型の金型に注入され、ブレンドされた材料をできるだけ密集するように圧縮される。その後、この材料は、結合剤が、軟化または溶融して炭素粒子が互いに接着する点まで加熱される。カーボンブロックフィルターは、例えば冷蔵庫の水のろ過、空気およびガスのろ過、例えばたばこの煙からの有毒な有機汚染物質の除去、有機蒸気マスクならびに重力流ろ過装置を含む、多種多様な用途で使用される。
【0106】
[000115]本発明へのこれらのおよび他の修正ならびに変形は、当業者によってなされてよく、本発明の趣旨と範囲から逸脱することなく、より詳細には添付の特許請求の範囲に表される。さらに、さまざまな実施形態の態様が、全体的にまたは部分的に相互交換してもよいことは理解すべきである。さらに、当業者は、先の説明は、単なる例にすぎず、添付の特許請求の範囲でさらに説明される本発明を制限する意図はないと認識するであろう。
【国際調査報告】