(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】核酸切断のための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6806 20180101AFI20241024BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241024BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20241024BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241024BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20241024BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241024BHJP
C07D 401/14 20060101ALI20241024BHJP
C07D 417/14 20060101ALI20241024BHJP
C07D 403/12 20060101ALI20241024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20241024BHJP
A61K 31/4192 20060101ALI20241024BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241024BHJP
C07D 409/14 20060101ALI20241024BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C12Q1/6806 Z ZNA
A61P31/04
A61P31/12
A61P31/14
A61P11/00
A61P13/02 105
A61P1/04
C07D401/14 CSP
C07D417/14
C07D403/12
A61P35/00
A61K31/4709
A61K31/4192
A61P43/00 111
C07D409/14
A61K31/551
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525379
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2022080220
(87)【国際公開番号】W WO2023073181
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルデス ゴンサロ
(72)【発明者】
【氏名】ミクティス シギタス
(72)【発明者】
【氏名】シブ アンナ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS34
4B063QX02
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC60
4C086BC82
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA31
4C086MA32
4C086MA34
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA56
4C086MA57
4C086MA58
4C086MA59
4C086MA60
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA82
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC02
(57)【要約】
本発明は、標的核酸分子を切断するための方法を提供する。本方法は、標的核酸分子を式(I)、C-L-Bの二官能性分子(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、二官能性分子が標的核酸分子に非共有結合するための非共有結合基である)と接触させるステップ、及び、二官能性分子に、それに結合した標的核酸分子を切断させるステップを含む。本発明はまた、標的核酸内の二次構造又は三次構造を同定する方法、並びに、二官能性分子、及び治療方法において使用するための二官能性分子も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸分子を切断するための方法であって、
前記標的核酸分子を、式(I)の二官能性分子又はその塩若しくは溶媒和物:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC
1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、二官能性分子が前記標的核酸分子に非共有結合するための非共有結合基である)
と接触させるステップ、及び、
前記二官能性分子に、それに結合した前記標的核酸分子を切断させるステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
非共有結合基がポリヌクレオチド基ではない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非共有結合基が、1000kDa以下の分子量を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
非共有結合基が、標的核酸内の二次構造又は三次構造に結合している、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
非共有結合基が、四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
二官能性分子が、10000nM以下の解離定数(k
D)で四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
二官能性分子が、5:1の選択性で四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
非共有結合基が式(B-I)~(B-III):
【化1】
(式中、
XはO又はNHであり、かつ
*はリンカーとの結合点である)
から選択される、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
切断基が式(C-I)~(C-III):
【化2】
(式中、
R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、
R
Nは水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、かつ
*は、分子の残り部分(典型的にはリンカーユニットL)との結合位置を表す)
によって表される基から選択される、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
切断基が、式(C-I)によって表される基である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
切断基が、置換されていないイミダゾールである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
リンカーがポリアルキレングリコール基を含む、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
標的核酸分子がRNA分子である、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
標的核酸分子を細胞内で二官能性分子と接触させる、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
標的核酸分子内の二次構造又は三次構造を同定するための方法であって、
第1及び第2の核酸分子集団を提供するステップであって、前記の各集団が前記標的核酸分子を含む、前記ステップ、
前記第1の核酸分子集団に、式(I)の二官能性分子又はその塩若しくは溶媒和物:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC
1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、前記二官能性分子が前記標的核酸分子に非共有結合するための非共有結合基である)
を導入するステップ、
前記二官能性分子に、前記第1の集団に存在する前記標的核酸分子を切断させるステップ、並びに
前記第2の集団よりも前記第1の集団において少ない量で存在している核酸分子を同定するステップ
を含む、前記方法。
【請求項16】
非共有結合基がポリヌクレオチド基ではない、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
非共有結合基が、1000kDa以下の分子量を有する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
非共有結合基が、標的核酸内の二次構造又は三次構造に結合している、請求項15~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
非共有結合基が、四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
二官能性分子が、10000nM以下の解離定数(k
D)で四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
二官能性分子が、5:1の選択性で四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
非共有結合基が式(B-I)~(B-III):
【化3】
(式中、
XはO又はNHであり、かつ
*はリンカーとの結合点である)
から選択される、請求項15~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
切断基が、式(C-I)~(C-III):
【化4】
(式中、
R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、
R
Nは水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、かつ
*は、分子の残り部分(典型的にはリンカーユニットL)との結合位置を表す)
によって表される基から選択される、請求項15~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
切断基が式(C-I)によって表される基である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
切断基が、置換されていないイミダゾールである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
リンカーがポリアルキレングリコール基を含む、請求項15~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
標的核酸分子がRNA分子である、請求項15~26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
標的核酸分子を細胞内で二官能性分子と接触させる、請求項15~27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
治療方法における使用のための、式(I)の二官能性分子又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC
1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、標的核酸分子に結合する非共有結合基である)。
【請求項30】
非共有結合基がポリヌクレオチド基ではない、請求項29に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項31】
非共有結合基が1000kDa以下の分子量を有する、請求項29又は30に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項32】
非共有結合基が標的核酸内の二次構造又は三次構造に結合している、請求項29~31のいずれかに記載の使用のための二官能性分子。
【請求項33】
非共有結合基が四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項29~32のいずれかに記載の使用のための二官能性分子。
【請求項34】
二官能性分子が10000nM以下の解離定数(k
D)で四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項33に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項35】
二官能性分子が5:1の選択性で四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項33又は34に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項36】
非共有結合基が式(B-I)~(B-III):
【化5】
(式中、
XはO又はNHであり、かつ
*はリンカーとの結合点である)
から選択される、請求項29~35のいずれかに記載の使用のための二官能性分子。
【請求項37】
切断基が、式(C-I)~(C-III):
【化6】
(式中、
R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、
R
Nは水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、かつ
*は、分子の残り部分(典型的にはリンカーユニットL)との結合位置を表す)
によって表される基から選択される、請求項29~36のいずれかに記載の使用のための二官能性分子。
【請求項38】
切断基が式(C-I)によって表される基である、請求項37に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項39】
切断基が、置換されていないイミダゾールである、請求項38に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項40】
リンカーがポリアルキレングリコール基を含む、請求項29~39のいずれかに記載の使用のための二官能性分子。
【請求項41】
標的核酸分子がRNA分子である、請求項29~40のいずれかに記載の使用のための二官能性分子。
【請求項42】
治療が、細菌感染又はウイルス感染の治療である、請求項29~41のいずれかに記載の使用のための二官能性分子。
【請求項43】
治療が、RNAウイルスへの感染の治療である、請求項42に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項44】
ウイルスがコロナウイルスである、請求項43に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項45】
治療が、気道感染、尿路感染、又は胃腸炎の治療である、請求項29~41のいずれかに記載の使用のための二官能性分子。
【請求項46】
式(I)の二官能性分子又はその塩若しくは溶媒和物:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC
1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、核酸分子に結合する非共有結合基である)。
【請求項47】
非共有結合基がポリヌクレオチド基ではない、請求項46に記載の二官能性分子。
【請求項48】
非共有結合基が1000kDa以下の分子量を有する、請求項46又は47に記載の二官能性分子。
【請求項49】
非共有結合基が四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項46~48のいずれかに記載の二官能性分子。
【請求項50】
非共有結合基が式(B-I)~(B-III):
【化7】
(式中、
XはO又はNHであり、かつ
*はリンカーとの結合点である)
から選択される、請求項46~49のいずれかに記載の二官能性分子。
【請求項51】
切断基が、式(C-I)~(C-III):
【化8】
(式中、
R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、
R
Nは水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、かつ
*は、分子の残り部分(典型的にはリンカーユニットL)との結合位置を表す)
によって表される基から選択される、請求項46~50のいずれかに記載の二官能性分子。
【請求項52】
切断基が式(C-I)によって表される基である、請求項51に記載の二官能性分子。
【請求項53】
切断基が、置換されていないイミダゾールである、請求項52に記載の二官能性分子。
【請求項54】
リンカーがポリアルキレングリコール基を含む、請求項46~53のいずれかに記載の二官能性分子。
【請求項55】
リンカーが、式(L-I):
【化9】
(式中、
L
1は、共有結合又はC
1-2アルキレン基であり、
L
2は、C
1-6アルキレン基又はC1-6ヘテロアルケン基であり、
L
3は、C
1-6アルキレン基であり、
nは1~8であり、
*は、非共有結合基(-B)との結合点であり、かつ
**は、切断基(-C)との結合点である)
によって表される基を含む、請求項46~54のいずれかに記載の二官能性分子。
【請求項56】
L
1はメチレンであり、
L
2はエチレンオキシドであり、
L
3はエチレンであり、かつ
nは2~5である、
請求項55に記載の二官能性分子。
【請求項57】
式Deg-I~Deg-V:
【化10】
の化合物から選択される、請求項46に記載の二官能性分子。
【請求項58】
二官能性分子が、10mM以下の解離定数(k
D)で四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項5又は19に記載の方法。
【請求項59】
二官能性分子が、10mM以下の解離定数(k
D)でシュードノットに結合している、請求項5又は19に記載の方法。
【請求項60】
二官能性分子が、10mM以下の解離定数(k
D)で四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項33に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項61】
二官能性分子が、10mM以下の解離定数(k
D)でシュードノットに結合している、請求項33に記載の使用のための二官能性分子。
【請求項62】
治療ががんの治療である、請求項29~41、60、及び61のいずれかに記載の使用のための二官能性分子。
【請求項63】
二官能性分子が、10mM以下、例えば10000nM以下の解離定数(kD)で四重鎖又はシュードノットに結合している、請求項49に記載の二官能性分子。
【請求項64】
二官能性分子が、10000nM以下の解離定数(kD)で四重鎖に結合する、請求項63に記載の二官能性分子。
【請求項65】
二官能性分子が、10mM以下の解離定数(kD)でシュードノットに結合する、請求項63に記載の二官能性分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に繋がるプロジェクトは、マリー・スクウォドフスカ-キュリー補助金契約第889922号の下で、欧州連合ホライズン(European Union’s Horizon)2020研究及びイノベーションプログラムからの財政的支援を受けている。
【0002】
関連出願
本願は、2021年10月28日(28/10/2021)に出願された英国特許出願第2115540.3号の利益、及びこれに対する優先権を主張し、当該出願の内容は、参照によってその全体が組み込まれる。
【0003】
本願は、例えばエピゲノミクスマッピング及びエピトランスクリプトミクスマッピングにおける使用、並びに治療法、例えば抗微生物療法及び抗ウイルス療法における使用のための、標的核酸の非酵素的切断のための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
核酸の操作及び編集の技術における進歩は、生物学的研究の実施方法に大変革をもたらした。RNA干渉系及びshRNA発現系が、標的の検証にとって、及び、特定の遺伝子が分子疾患において担う役割の解明にとって、非常に貴重であることが証明されている(Zamore, et al., 2000)。さらに最近では、CRISPRベースの技術が、DNA(Gasiunas, et al., 2012; Jinek, et al., 2012)及びRNA(Cox, et al., 2017)を操作する能力を強化させており、遺伝子ノックアウト細胞などのさらに単純なシステムをさらに強化し、大規模で精巧なCRISPR-Cas9ベースの遺伝子スクリーニングアプローチを可能にしている(Tzelepis, et al., 2016)。しかし、最も一般的に使用される核酸操作技術は遺伝子的なものであり、これらを、稀な集団、動物モデル、及び全組織などの、より複雑な生物学的システムに適用することは、絶対に不可能ではないにしても困難であり、これらの技術に基づいた治療法を開発することはさらに困難である(Bobbin, et al., 2016)。したがって、未だ開拓されていない状況での核酸の操作を可能にする新規な低分子ベースの技術を開発することが必要とされている。
【0005】
Mikutis et al., 2020は、クリックケミストリーを介してRNA種に共有結合することができ、こうして、結合したRNA分子を切断することができる、低分子の「クリック分解剤」を記載している。著者らは、RNA配列内でのN6-メチルアデノシン(m6A)の存在を同定するためのメチル化CLICK分解シーケンシング方法(meCLICK-Seq、methylation CLICK degradation sequencing method)を記載している。この方法は、RNAにメチル基の代わりにアルキン部分を導入するために、RNAメチルトランスフェラーゼを制御不能にする。その後の銅(I)触媒型のアジド-アルキン環付加反応がクリック分解剤分子を組み込み、RNA切断を生じさせる。この方法は、メチル化された転写産物を同定し、RNAメチラーゼの特異性を判定し、そしてイントロン領域及び遺伝子間領域における修飾部位を確実にマッピングする。
【0006】
クリック分解剤分子は共有結合によって標的RNAに組み込まれるため、これら分子は、適切なクリック反応性基(典型的にはアルキン)を有するように編集され得るRNA種を分解するためだけに使用することができる。さらに、RNAの編集が必要であることによって、治療法へのこの技術の適用が制限されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zamore, et al., Cell, 2000, Vol. 101, pp. 25-33
【非特許文献2】Gasiunas, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 2012, Vol. 109, E2579-E2586
【非特許文献3】Jinek, et al., Science, 2012, Vol. 337, pp. 816-821
【非特許文献4】Cox, et al., Science, 2017, Vol. 358, pp. 1019-1027
【非特許文献5】Tzelepis, et al., Cell Reports, 2016, Vol. 17, pp. 1193-1205
【非特許文献6】Bobbin, et al., Annual Review of Pharmacology and Toxicology, 2016, Vol. 56, pp. 103-122
【非特許文献7】Mikutis et al., ACS Cent. Sci., 2020, Vol. 6, pp. 2196-2208
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の懸案事項に照らして案出された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、本明細書で分解剤として記載される二官能性分子を、標的核酸分子に非共有結合しこれを切断するための触媒剤として使用することができる、という発見に関する。本明細書で開示されている分解剤は、非共有結合による相互作用を介して標的核酸に結合する。驚くべきことに、本発明者らは、標的核酸の選択的分解を可能にするためには非共有結合で十分であることを発見した。したがって、分解剤は、標的核酸へのクリック反応性基の組み込みを必要としない。本明細書で記載される分解剤を使用する標的核酸分子の選択的切断は、エピジェネティクス及びエピトランスクリプトミクスによる分析、二官能性のマッピング、並びに治療法、例えば、抗細菌療法及び抗ウイルス療法、及びさらには抗がんにおいて有用であり得る。
【0010】
したがって、本発明の第1の態様では、標的核酸分子を切断するための方法であって、
標的核酸分子を、式(I)の二官能性分子:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基(cleavage group)であり、-L-はリンカーであり、-Bは、二官能性分子が標的核酸分子に非共有結合するための非共有結合基である)
と接触させるステップ、及び、
二官能性分子に、それに結合した標的核酸分子を切断させるステップ
を含む、前記方法が提供される。
【0011】
好ましくは、非共有結合基(-B)は、ポリヌクレオチド基ではない。
【0012】
好ましくは、非共有結合基(-B)は、1000kDa以下、さらに好ましくは800kDa以下の分子量を有する。
【0013】
好ましくは、非共有結合基(-B)は、標的核酸内の二次構造又は三次構造、例えば、四重鎖、シュードノット、三重鎖、テトラループ、ステップループ、又はヘアピンループに結合している。さらに好ましくは、非共有結合基(-B)は、四重鎖又はシュードノットに結合している。
【0014】
好ましくは、二官能性分子は、例えばSPRによって、又は或いはマイクロスケール熱泳動(MST、microscale thermophoresis)によって、又は蛍光クエンチングアッセイによって決定すると10000nM以下の解離定数(kD)で二次構造又は三次構造に結合する。好ましくは、二官能性分子は、1000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは200nM以下、そして最も好ましくは100nM以下のkDで二次構造又は三次構造に結合する。
【0015】
加えて、又は或いは、二官能性分子は、例えばマイクロスケール熱泳動(MST)によって決定すると10mM以下の解離定数(kD)で二次構造又は三次構造に結合する。好ましくは、二官能性分子は、8mM以下、さらに好ましくは7mM以下、さらに好ましくは6mM以下、さらに好ましくは5mM以下のkDで二次構造又は三次構造に結合する。
【0016】
好ましくは、非共有結合基(-B)は、以下に示す式(B-I)~(B-III)から選択される。
【0017】
好ましくは、標的核酸分子は、ウイルスRNA又は細菌リボザイムなどのRNA分子である。
【0018】
好ましくは、標的核酸分子は、細胞内で二官能性分子と接触させられる。
【0019】
本発明の第2の態様では、標的核酸分子内の二次構造又は三次構造を同定するための方法であって、
第1及び第2の核酸分子集団を提供するステップであって、前記の各集団が前記標的核酸分子を含む、前記ステップ、
第1の核酸分子集団に、式(I)の二官能性分子:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、二官能性分子が標的核酸分子に非共有結合するための非共有結合基である)
を導入するステップ、
二官能性分子に、第1の集団に存在する標的核酸分子を切断させるステップ、並びに
第2の集団よりも第1の集団において少ない量で存在している核酸分子を同定するステップ
を含む方法が提供される。
【0020】
第1の態様について示された式(I)の二官能性分子の好ましい実施形態は、第2の態様にも適用される。
【0021】
本発明の第3の態様では、治療の方法において使用するための、式(I)の二官能性分子:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは非共有結合基である)
を提供する。
【0022】
第1の態様について示された式(I)の二官能性分子の好ましい実施形態は、第3の態様にも適用される。
【0023】
好ましくは、治療は、細菌感染又はウイルス感染の治療である。
【0024】
好ましくは、ウイルス感染は、RNAウイルス、さらに好ましくは(+)ssRNAウイルス、さらに好ましくはコロナウイルスへの感染である。
【0025】
好ましくは、治療は、気道感染、尿路感染、又は胃腸炎の治療である。
【0026】
加えて、又は或いは、治療はがんの治療である。
【0027】
本発明の第4の態様では、式(I)の二官能性分子:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、核酸分子に結合する非共有結合基である)
を提供する。
【0028】
第1の態様について示された式(I)の二官能性分子の好ましい実施形態は、第4の態様にも適用される。
【0029】
好ましくは、二官能性分子は、化合物Deg-I~Deg-Vから選択される。
【0030】
本発明のこれらの及び他の態様並びに実施形態を、以下でさらに詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明を、以下に列挙する図面を参照して説明する。
【
図1】分解剤の作用態様の略図である。
図1は、コロナウイルスシュードノットの分解戦略における分解剤の使用を示している。シュードノット分解剤は、他の薬剤を必要とせずに、シュードノットを有するコロナウイルス領域を結合し、次いでこれを直接分解する。
【
図2】rG4分解剤が、インビトロで、rG4含有オリゴマー及びSARS-CoV-2ゲノムを切断することを示す図である。(a)rG4コンピテントオリゴマーに対するrG4分解剤の効果を示している。分解剤は、rG4形成を促進する条件下でオリゴマーを切断する。n=3。(b)rG4を形成しないオリゴマーに対するrG4分解剤の効果を示している。分解は見られなかった。n=3。(c)そのORF1bにおいてrG4分解剤PDS-deg6(9A)で処理した際の、SARS-CoV-2ゲノムに対する広い分解を示す、ナノポアシーケンシングデータを示している。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.005、n.s.有意ではない。
【
図3】G4分解剤の抗SARS-CoV-2活性のインビトロでの予備調査結果を示す図である。(a)50μMのPDS-deg4(9B)、PDS-deg6(9A)、及びPDS-DegALK(8)で処理した試料でのプラーク形成単位(PFU、plaque forming units)の阻害を示す。(b)ウイルスRNAのPCR測定値を示している。結果は、5μM及び50μMのPDS-deg6(9A)によるウイルス複製の阻害を示している。示されているように、PDS-Imi6(9A)は、PDS-deg4(9B)よりも一層、ウイルス増殖を阻害すると考えられる。(c)G4分解剤の濃度を増加させて24時間、インキュベーションした後の細胞の生存率を示している。いずれの化合物も、50μMまで細胞毒性を示さなかった。
【
図4】G4分解剤のインビボでの抗SARS-CoV-2活性を示す図である。(a)PDS-deg4(9B)を投与したマウス(紫色、三角の記号)は、感染後1日目に10%の体重減少を示し、これは、1日目から3日目の間で安定しており、その後再び低下して、媒体(水中で0.1%のDMSO)で処理した動物(灰色、四角の記号)で見られるように、5日目に75%の閾値に達した。コントロール(丸の記号)としての、媒体(水中で0.1%のDMSO)で処理した無感染マウスは、体重減少を示さなかった。(b)プラークアッセイによる5日目の肺ウイルス負荷の定量は、媒体コントロール群(灰色、左側)と比較して、PDS-deg4(9B)で処理した動物(紫、右側)で低い負荷を示した。
*p<0.01。
【
図5】MTDB分解剤(16a)がインビトロでコロナウイルスシュードノットを切断することを示す図である。(a)MTDB-deg(16a)の合成設計を示す。(b)弱いシュードノットバインダー及びイミダゾール切断部分を特徴とするコントロール分子TDB-deg(16b)の構造を示している。(c)コントロールと比較した、分解剤の存在下でのシュードノットの破壊を示す、LC-MSデータである。n=3。(d)シュードノット分解剤の活性を確認するゲル写真を示している。(e)シュードノットシステムの1つが変異してシュードノットの二次構造が乱れるとシュードノット分解剤の効率が弱まることを示す、LCMSデータである。n=3。(f)コントロールと比較した、MTDB-deg(16a)による、SARS-CoV-2から抽出されたネイティブRNAの分解を示すゲル写真である。n.s.有意ではない。
【
図6】直接的なRNAナノポアシーケンシングが、MTDB-degで分解されるゲノム位置を明らかにすることを示す図である。(a)minimap2でのアラインメントに基づく、コントロール(水中で0.1%のDMSO)又はMTDB-degで処理したSARS-CoV-2 RNAについての、シュードノット区域に隣接するアラインされたリードの分布及び存在量を示す。b. minimap2でのアラインメントに基づく、コントロール又はMTDB-degで処理したSARS-CoV-2 RNAについての、S sgRNA領域について排他的にマッピングされた、アラインされたリードの分布及び存在量。
【
図7】MTDB-degでの処理がサブゲノムのSARS-CoV-2 RNAに対して効果を有していないことを示す図である。minimap2でのアラインメントに基づく、コントロール(水中で0.1%のDMSO)又はMTDB-degで処理したSARS-CoV-2 RNAについての、示されているsgRNA領域について排他的にマッピングされた、アラインされたリードの分布及び存在量。
【
図8】MTDB分解剤が細胞内でのSARS-CoV-2の複製を阻害することを示す図である。(a)、(b)シュードノット分解剤(MTDB-deg(16a))並びにコントロール分子(MTDB及びTDB-deg(16b))の濃度を増加させてインキュベーションした後の、媒体コントロール(破線)に対して正規化された、ウイルス複製の阻害のパーセンテージを示す。ウイルス複製を、24時間の感染(感染多重度(MOI、multiplicity of infection)0.05)後に、E遺伝子及びシュードノット領域のRNAレベルに基づいて評価した。MTDB-deg(16a)の抗ウイルス活性は、0.05MOIのSARS-CoV-2での感染前(a)及び感染後(b)の両方で見られた。3セットの平均±SDが示されており、p<0.01の平均間の差が示されている。
*p<0.05、
**p<0.01、対応のある両側t検定。(c)薬物が感染後に添加されるとシュードノット分解剤MTDB-deg(16a)の50%阻害濃度(IC
50、50% inhibitory concentration)が低下することを示している。(d)6uMのMTDB-deg(16a)、MTDB、及びTDB-deg(16b)で24時間処理したウイルス培養物の上清と4日間インキュベートした後の細胞単層の写真である。6mMのMTDB-deg(16a)での24時間の処理は、感染前の添加又は感染後の添加の両方で、媒体コントロールと比較してウイルスプラーク数の減少を示した。コントロール分子MTDBは、感染前の添加でウイルスプラーク数の減少を示しただけであり、TDB-deg(16b)は減少を示さなかった。(e)いずれの化合物も24時間後にVeroCCL81細胞で細胞毒性を示さなかったことを示す細胞生存率アッセイ。(f)分解剤を含有する培地を除去した24時間後の、媒体コントロールと比較したウイルス複製のパーセンテージを示す。MTDB-deg(16a)での24時間の処理は、ウイルスの、薬物曝露から生存する能力を低下させた。
【
図9】MTDB-deg、MTDB、及びTDB-degの用量応答曲線を示す図である。(a)、(b)感染前及び感染後のシュードノット分解剤MTDB-deg(16a)の50%阻害濃度(IC
50)値を示している。コントロール分子(MTDB及びTDB-deg(16b)はウイルス複製を阻害せず、したがって、IC
50値は決定されなかった。(c)用量応答曲線(E遺伝子を標的化するPCRによって決定される)であり、これは、増大したIC
50を示す、より高い濃度の18μMを含んでいる。
【
図10】MTDB分解剤曝露の後のウイルス生存及び殺ウイルス活性を示す図である。(a)シュードノット領域を標的化するqPCRによって決定される、MTDB-deg(16a)並びにコントロール分子MTDB及びTDB-deg(16b)と24時間インキュベートした後の、ウイルスの生存能力。ウイルスの生存は、MTDB-deg(16b)で処理した試料で低下したが、コントロール分子MTDB及びTDB-deg(16b)で処理した試料では低下しなかった。(b)殺ウイルス活性を、1000PFUのSARS-CoV-2を6μMの化合物と37℃で1時間インキュベートすることによって評価し、その後、残りのウイルスの感染性をプラークアッセイによって決定した。MTDB-deg(16a)、MTDB、及びTDB-deg(16b)は、セルフリービリオンに対する殺ウイルス効果を示さず、このことは、MTDB-deg(16a)の抗ウイルス活性がセルフリービリオンの不活化ではなく宿主細胞内でのウイルス複製の阻害によって媒介されることを示唆している。
【
図11】リボソーム分解アッセイのアガロースゲル分析を示す図である。左側:エチルリンカー、分解は見られない。中央左側:ジエチレングリコールリンカー、15mM濃度で分解が見られる。中央右側:ヘキサエチレングリコールリンカー、分解は見られない。右側:コントロールであるクロラムフェニコール、分解なし。B=ブランク(分解剤なし)、分解剤濃度:1a/1b=15mM、2a/2b=7.5mM、3a/3b=3.75mM、4a/4b=1.88mM、5a/5b=0.94mM、6a/6b=0.47mM。
【
図12】K18-hACE2マウスにおけるSARS-CoV-2感染に対するMTDB分解剤のインビボでの活性を示す図である。(a)8~12週齢のメスのK18-hACE2-トランスジェニックマウスを10
4プラーク形成単位(PFU)のSARS-CoV-2に鼻腔内感染させ、感染の1時間前及び感染の3時間後に、MTDB-deg 16a(25mg/kg)(n=6)、MTDB(10mg/kg、所与の限界溶解度で投与することができた最大用量)(n=3)、TDB-deg 16b(25mg/kg)(n=5)、及び媒体コントロール(n=6)で鼻腔内処理した。(b)MTDB-deg 16aの投与は、SARS-CoV-2に感染したK18-hACE2マウスの肺ウイルス負荷を低下させる。媒体コントロール処理マウスとMTDB処理マウス及びTDB-deg 16b処理マウスとの間の肺ウイルス負荷の間に差は見られなかった。平均±SDが示されている。
*p<0.05、対応のないt検定。(c)感染の1時間前並びに感染の1日及び2日後(n=2)に3用量の10mg/kgの媒体(V1、V2)又はMTDB-deg 16a(D1、D2)で処理したトランスジェニックK18-hACE2マウスの肺抽出物のホスホ-p38のウェスタンブロット分析。
【
図13】細胞システムにおける分解特異性のRT-qPCRでの検証を示す図である。SARS-CoV-2に感染したVero CCL-81細胞を、6μMのMTDB-deg又は媒体(H2O)コントロールのいずれかで24時間処理した(n=3)。ステューデントt検定。3回の独立した反復の平均+SDが示されている。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図14】PDSファミリーの分子及びMTDBファミリーの分子の、それらの標的に対する結合親和性を示す図である。(a)蛍光クエンチングアッセイを介して決定される、G4形成NRASオリゴヌクレオチドに対するPDSファミリーのリガンドの結合親和性。(b)MSTを介して測定される、シュードノットオリゴヌクレオチドに対するMTDBファミリーのリガンドの結合親和性。(c)MSTを介して測定される、破壊されたシュードノットオリゴヌクレオチドに対する、MTDBファミリーのリガンド結合親和性。n=3。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、本明細書で分解剤としても記載される二官能性分子を、標的核酸分子に非共有結合しこれを切断するための触媒剤として使用することができる、という発見に関する。本明細書で開示されている分解剤は、非共有結合による相互作用を介して標的核酸に結合する。したがって、分解剤は、標的核酸へのクリック反応性基の組み込みを必要としない。本明細書で記載される分解剤を使用する標的核酸分子の選択的な切断は、エピジェネティクス及びエピトランスクリプトミクスによる分析、二官能性のマッピング、並びに治療法、例えば、抗細菌療法及び抗ウイルス療法、及びさらには抗がんにおいて有用であり得る。
【0033】
分解剤は、式(I):
C-L-B(I)
(式中、Cは切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは非共有結合基である)
を有する。
【0034】
切断基(-C)
切断基はイミダゾール(1,3-ジアゾール)であり、これは、本明細書で記載されるように置換されていてもよい。
【0035】
分解剤のイミダゾール切断基は、標的核酸分子と反応して標的核酸分子を切断することができる。典型的には、イミダゾールは、リボース糖の2’位のヒドロキシル基からプロトンを取り除くことができる。場合によって、イミダゾールは、銅を結合して、銅介在性のRNA分解を誘導することができる(Li, Zhong-Rui, et al. Nat Chem 11.10 (2019):880-889、Wong, K, et al. Can J Biochem 52.11 (1974): 950-958、Subramaniam, Siddharth, et al. F1000Research 4 (2015))。
【0036】
イミダゾールは塩基性基である。すなわち、イミダゾールは、水素カチオン(H+)を受け取ることができる。イミダゾールはまた、電子対を付与することもできる。
【0037】
基の塩基性は、会合した共役酸のpKaを使用して定量的に評価することができる。すなわち、塩基性基の塩基性[Ba]は、共役酸[BaH]+のpKaを使用して評価することができる。共役酸のpKaは分かっていても、酸塩基滴定などの標準的な技術を使用して決定してもよい。理論に拘束されることは望まないが、本発明者らは、pKa値がある特定の閾値を超えている、例えばpKaが6.5以上、例えば6.8以上の共役酸を有する塩基性残基は、リボース糖の2’位のヒドロキシル基を脱プロトン化して、標的核酸内でのホスホジエステル骨格の切断を可能にし得ると考えている。イミダゾールは、7に近いpKaを有する。
【0038】
イミダゾールは、孤立電子対を有する窒素原子を含む。孤立電子対を有する窒素原子を含む基は、典型的には、銅が配位していてよい。イミダゾールは、銅をキレート化することが分かっている。
【0039】
イミダゾールは置換されていなくても、又は、同一であっても異なっていてもよい1つ、2つ、又は3つのC1-6アルキル基によって置換されていてもよい。
【0040】
アルキル基は、一価の飽和炭化水素基である。アルキル基は、C1-6アルキル基、例えばC1-4アルキル基であり得る。この状況では、接頭語(例えばC1-6)は、炭化水素骨格内の炭素原子数を示す。アルキル基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。
【0041】
C1-6直鎖状アルキル基の例としては、メチル(-Me)、エチル(-Et)、n-プロピル(-nPr)、n-ブチル(-nBu)、n-ペンチル(-Amyl)、及びn-ヘキシルが含まれる。C1-6分枝状アルキル基の例としては、イソプロピル(-iPr)、イソブチル(-iBu)、sec-ブチル(-sBu)、tert-ブチル(-tBu)、イソペンチル、ネオペンチル、イソヘキシル、及びネオヘキシルが含まれる。
【0042】
一部の好ましい実施形態では、イミダゾールは、式(C-I)~(C-III):
【化1】
(式中、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、
R
Nは水素原子又はC
1-6アルキル基を表し、かつ
*は、分子の残り部分(典型的にはリンカーユニットL)との結合位置を表す)
によって表される基から選択される。
【0043】
このようなケースでは、分解剤はイミダゾール分解剤と記載され得る。
【0044】
好ましくは、R1、R2、R3、及びRNはそれぞれ独立して水素原子又はC1-4アルキル基を表す。
【0045】
さらに好ましくは、切断基は、式(C-I)によって表される基である。
【0046】
さらに好ましくは、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素を表す。このようなケースでは、切断基は、置換されていないイミダゾール基である。すなわち、切断基は、式(C-IV):
【化2】
(式中、
*は、分解剤の残り部分(典型的にはリンカーユニットL)との結合位置を表す)
によって表される。
【0047】
リンカー及び結合基を介して標的核酸分子に非共有結合すると、イミダゾール基は標的核酸分子と反応して、1又は2以上のホスホジエステル結合を切断し、これによって、標的核酸分子の分解を生じさせる。例えば、結合した分解剤のイミダゾール基は、核酸分子上の2’OH位からプロトンを取り除いて、標的核酸分子内のホスホジエステル結合の切断を生じさせ得る。さらに、イミダゾール基は、標的核酸分子内のホスホジエステル結合を切断する銅錯体を形成し得る。
【0048】
リンカー(-L-)
分解剤のリンカーLは、切断基(C)が非共有結合基(B)に結合(すなわち共有結合)するための基を含む。適切なリンカーは、当技術分野において周知である。
【0049】
典型的には、リンカーは、遊離原子価の1つが切断基(C)への単結合の一部を形成し、残りの遊離原子価が非共有結合基(B)への単結合の一部を形成している、二価の基を含む。
【0050】
好ましくは、リンカーは安定なリンカーである。すなわち、リンカーは、インビボで実質的に切断も分解もされない基を含む。安定なリンカーは、典型的には、生理学的pHで非反応性であり、インビボで酵素作用によって実質的に分解されない。
【0051】
典型的には、リンカーは可動性(flexible)リンカーである。すなわち、リンカーは、切断基(C)及び結合基(B)が高い自由度で互いに対して動くことを可能にする。
【0052】
典型的なリンカーは、アルキレン、ヘテロアルキレン、シクロアルキレン、ヘテロシクロアルキレン、アリレン、及びヘテロアリレンから選択される基を含む。共有結合している異なる基、例えばアルキレン-アリレン(アラルキレン)及びヘテロアルキレン-アリレンを含む混合リンカーも可能である。
【0053】
アルキレン(アルカンジイル)基は、2つの遊離原子価がそれぞれ、隣接している原子への単結合の一部を形成している、二価の飽和炭化水素基である。アルキレン基は、C1-6アルキレン基、例えば、C1-4、C1-3、又はC1-2アルキレン基であり得る。この状況では、接頭語(例えばC1-6)は、炭化水素骨格内の原子数を示す。アルキレン基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。直鎖状アルキレン基の例としては、メタンジイル(メチレン架橋)、エタン-1,2-ジイル(エチレン架橋)、プロパン-1,3-ジイル、ブタン-1,4-ジイル、ペンタン-1,5-ジイル、及びヘキサン-1,6-ジイルが含まれる。分枝状アルキレン基の例としては、エタン-1,1-ジイル及びプロパン-1,2-ジイルが含まれる。
【0054】
ヘテロアルキレン基は、1又は2以上の炭素原子がN、O、及びSなどのヘテロ原子で置換されているアルキレン基である。ヘテロアルキレン基は、C1-6ヘテロアルキレン基、例えば、C1-4、C1-3、又はC1-2ヘテロアルキレン基であり得る。この状況では、接頭語(例えばC1-6)は、炭素原子又はヘテロ原子のいずれかの、ヘテロアルキレン骨格内の原子数を示す。ヘテロアルキレン基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。直鎖状ヘテロアルキレン基の例としては、オキシメチレン(例えば、ポリオキシメチレン(POM、polyoxymethylene))、エチレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール(PEG、polyethylene glycol))、エチレンイミン(例えば、直鎖状ポリエチレンイミン(PEI、polyethyleneimine)、ポリアジリジン)、及びテトラメチレングリコール(例えば、ポリテトラメチレングリコール(PTMEG、polytetramethylene glycol)、ポリテトラヒドロフラン)から誘導されるものが含まれる。分枝状ヘテロアルキレン基の例としては、プロピレングリコール(例えば、ポリプロピレングリコール(PPG、polypropylene glycol))から誘導されるものが含まれる。窒素原子がヘテロアルキレン基内に存在する場合、この窒素原子は、置換されていなくても(NH)、又はC1-4アルキル基などのアルキル基で置換されていてもよい。硫黄原子がヘテロアルキル基内に存在している場合、この硫黄原子は、S、S(O)、又はS(O)2であり得る。
【0055】
シクロアルキレン基は、1つの環を含む二価の飽和炭化水素基であり、当該環では、環原子の全てが炭素原子であり、2つの遊離原子価がそれぞれ、隣接している原子への単結合の一部を形成している。シクロアルキレン基は、C5-6シクロアルキレン基であり得る。この状況では、接頭語(例えばC5-6)は、環原子の数又は範囲を示す。シクロアルキレン基は単環であり得る。単環シクロアルキレン基の例としては、1,3-シクロペンチレン及び1,4-シクロヘキシレンが含まれる。
【0056】
ヘテロシクロアルキレン(ヘテロシクレン)基は、1又は2以上の炭素原子がヘテロ原子、例えば、N、O、及びSで置換されているか、又は1若しくは2以上の炭素原子がオキソ置換基(=O)を有している、シクロアルキレン基である。ヘテロシクロアルキレン基は、C5-6ヘテロシクロアルキレン基であり得る。この状況では、接頭語(例えばC5-6)は、炭素原子又はヘテロ原子のいずれかの、環原子の数又は範囲を示す。ヘテロシクロアルキレン基は、単環であり得る。窒素原子がヘテロアルキレン基内に存在する場合、この窒素原子は、置換されていなくても(NH)、又はC1-4アルキル基などのアルキル基で置換されていてもよい。硫黄原子がヘテロアルキル基内に存在している場合、この硫黄原子は、S、S(O)、又はS(O)2であり得る。
【0057】
アリレン基は、1つの芳香環を含む二価の炭化水素基であり、当該芳香環では、環原子の全てが炭素原子であり、2つの遊離原子価がそれぞれ、隣接している原子への単結合の一部を形成している。アリレン基は、C6-10アリレン基であり得る。この状況では、接頭語(例えばC6-10)は、環原子の数又は範囲を示す。アリレン基は単環であっても、2又は3以上の環を含んでいてもよい。単環アリレン基の例としては、1,4-フェニレンが含まれる。二環アリレン基の例としては、2,6-ナフチレンが含まれる。
【0058】
ヘテロアリレン基は、1つの芳香環を含むアリレン基であり、当該芳香環では、1若しくは2以上の環原子がヘテロ原子、例えば、N、O、及びSであるか、又は1若しくは2以上の炭素原子がオキソ置換基(=O)を有している。ヘテロアリレン基は、C6-10ヘテロアリレン基であり得る。この状況では、接頭語(例えばC6-10)は、炭素又はヘテロ原子のいずれかの、環原子の数又は範囲を示す。ヘテロアリレン基は単環であっても、2又は3以上の環を含んでいてもよい。単環ヘテロアリレン基の例としては、ピロリレン及びピリジレンが含まれる。
【0059】
好ましいリンカーは、アルキレン及びヘテロアルキレンから選択される基を含む。さらに好ましいリンカーは、ヘテロアルキレン基を含む。さらに好ましいリンカーは、アルキレンエーテル基を含む。最も好ましいリンカーは、エチレンオキシド基(例えば、ポリエチレングリコール、PEGから誘導される)を含む。
【0060】
好ましい実施形態では、リンカーは、式(L-I):
【化3】
(式中、
L
1は、共有結合又はC
1-2アルキレン基であり、
L
2は、C
1-6アルキレン基又はC
1-6ヘテロアルケン基であり、
L
3は、C
1-6アルキレン基であり、
nは1~8であり、
*は、非共有結合基(-B)との結合点であり、かつ
**は、切断基(-C)との結合点である)
によって表される基であるか、又はこれを含む。
【0061】
適切なC1-2アルキレン基としては、メチレン(メタンジイル)、エチレン(エタン-1,2-ジイル)が含まれる。
【0062】
適切なC1-6アルキレン基としては、メチレン(メタンジイル)、エチレン(エタン-1,2-ジイル)、プロピレン(プロパン-1,3-ジイル)、ブチレン(ブタン-1,4-ジイル)、ペンチレン(ペンタン-1,5-ジイル)、及びヘキシレン(ヘキサン-1,6-ジイル)が含まれる。
【0063】
好ましくは、L1は、共有結合又はメチレンである。
【0064】
好ましくは、L3はC1-4アルキレンである。さらに好ましくは、L3はエチレンである。
【0065】
好ましくは、nは2~5である。
【0066】
適切なC1-6ヘテロアルケン基としては、アルキレンエーテル基、例えばエチレンオキシド(-CH2CH2O-)、プロピレンオキシド(-CH2CH2CH2O-)、及びテトラメチレンオキシド(-CH2CH2CH2CH2O-)が含まれる。
【0067】
好ましくは、L
2はエチレンオキシドである。このようなケースでは、リンカーは、式(L-II):
【化4】
(式中、L
1、L
3、n、
*、及び
**は、式(L-I)について記載した通りであり、同じ優先傾向が適用される)
によって表される基であるか、又はこれを含む。
【0068】
代替的な実施形態では、リンカーは、式(L-III):
【化5】
(式中、
L
4は、C
1-6アルキレン基であり、
L
5は、C
1-6アルキレン基又はC
1-6ヘテロアルケン基であり、
L
6は、共有結合又はC
1-2アルキレン基であり、
mは1~8であり、
*は、非共有結合基(-B)との結合点であり、かつ
**は、切断基(-C)との結合点である)
によって表される基であるか、又はこれを含む。
【0069】
好ましくは、L4はC1-4アルキレンである。さらに好ましくは、L3はエチレンである。
【0070】
好ましくは、L6はメチレン又はエチレンである。
【0071】
好ましくは、mは2~5である。
【0072】
好ましくは、L
5はエチレンオキシドである。このようなケースでは、リンカーは、式(L-IV):
【化6】
(式中、L
4、L
6、m、
*、及び
**は、式(L-III)で記載した通りであり、同じ優先傾向が適用される)
によって表される基であるか、又はこれを含む。
【0073】
非共有結合基(-B)
分解剤の結合基は、標的核酸分子に結合し得る基を含む。結合基は、非共有結合を介して標的核酸分子に結合する。
【0074】
ある特定の低分子リガンドは、核酸に非共有結合することが分かっており、したがって、非共有結合基の基礎を形成し得る。
【0075】
非共有結合基は、ポリヌクレオチド(例えば核酸)基ではない。共有結合基はヌクレオチドではなく、またヌクレオチドを含まない。
【0076】
非共有結合基は抗体ではない。
【0077】
典型的には、非共有結合基は、1000kDa以下の分子量を有する。好ましくは、非共有結合基は、800kDa以下の分子量を有する。
【0078】
典型的には、非共有結合基は、標的核酸内の二次構造又は三次構造に結合する。適切な二次構造又は三次構造としては、四重鎖、シュードノット、三重鎖、テトラループ、ステップループ、及びヘアピンループが含まれる。好ましくは、非共有結合基は、四重鎖又はシュードノットに結合する。
【0079】
好ましくは、非共有結合基は、標的核酸内の二次構造又は三次構造に選択的に結合する。このようなケースでは、非共有結合基は、直鎖状の又は構造化されていない核酸よりも、標的核酸内の二次構造又は三次構造に優先的に結合する。好ましくは、非共有結合基は、四重鎖又はシュードノットに選択的に結合する。
【0080】
好ましくは、非共有結合基は、リボ核酸(RNA、ribonucleic acid)に選択的に結合する。したがって、非共有結合基は、非共有RNA結合基として知られている場合がある。
【0081】
非共有結合基は、静電気的相互作用、例えばイオン相互作用、水素結合、及びハロゲン結合;ファンデルワールス相互作用、例えば永続性の双極子間相互作用、双極子誘導型の双極子相互作用、及び誘導双極子誘導型の双極子相互作用;並びにΠ効果、例えばΠ-Π相互作用、Π-カチオン相互作用、及び極性-Π相互作用を介して、標的核酸に結合し得る。
【0082】
非共有結合基は、以下の低分子核酸結合分子に基づき得る。
【表1】
【0083】
非共有結合基は、任意の適切な位置でリンカーに結合することができる。典型的には、非共有結合基は、ヘテロ原子(O若しくはNHなど)を介してリンカーに結合しているか、又はカルボニル基(C=O)に隣接している。
【0084】
好ましくは、結合基は、式(B-I)~(B-III)から選択される。
【0085】
動態特性
分解剤と標的核酸との間の相互作用は、解離定数(kD)を使用して定量することができる。所与の非共有結合基を含む分解剤と核酸との間の解離定数は公知であり得るか、又は、この定数は、表面プラズモン共鳴(SPR、surface plasmon resonance)、例えばBiacore(Santos et al., 2021)などの標準的な技術を使用して決定することができる。解離定数を測定するための適切なシステムには、Biacore T200が含まれる。
【0086】
典型的には、分解剤は、例えばSPRによって決定すると、10000nM以下の解離定数(kD)で標的核酸に結合する。好ましくは、分解剤は、1000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは200nM以下、そして最も好ましくは100nM以下のkDで標的核酸に結合する。
【0087】
上記のように、分解剤の非共有結合基は、典型的には、標的核酸内の二次構造又は三次構造に結合する。したがって、分解剤は、例えばSPRによって決定すると、典型的には、10000nM以下の解離定数(kD)で二次構造又は三次構造に結合する。好ましくは、分解剤は、1000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは200nM以下、そして最も好ましくは100nM以下のkDで二次構造又は三次構造に結合する。
【0088】
一部の実施形態では、分解剤は、例えばSPRによって決定すると、10000nM以下の解離定数(kD)で四重鎖に結合する。このようなケースでは、分解剤は、好ましくは、1000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは200nM以下、そして最も好ましくは100nM以下のkDで四重鎖に結合する。
【0089】
一部の実施形態では、分解剤は、例えばSPRによって決定すると、10000nM以下の解離定数(kD)でシュードノットに結合する。このようなケースでは、分解剤は、好ましくは、1000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは200nM以下、そして最も好ましくは100nM以下のkDでシュードノットに結合する。
【0090】
追加の又は代替的な実施形態では、分解剤は、例えばマイクロスケール熱泳動(MST、microscale thermophoresis)によって決定すると、100mM以下の解離定数(kD)で標的核酸に結合する。このようなケースでは、kDは、50mM以下、例えば25mM以下、例えば20mM以下、例えば15mM以下、例えば10mM以下、例えば9mM以下、例えば8mM以下、例えば7mM以下、例えば6mM以下、例えば5mM以下、例えば4mM以下、例えば3mM以下、例えば2mM以下であり得る。好ましくは、分解剤は、10mM以下、さらに好ましくは5mM以下の解離定数(kD)で標的核酸に結合する。
【0091】
kDは、例えば以下の実施例で記載されているように、標準的な技術を使用して、例えばマイクロスケール熱泳動(MST)によって、決定することができる。測定は、分解剤とインキュベートされる、蛍光でタグ付けされた核酸、例えばFAM機能化核酸を使用して行うことができる。核酸は50nMの濃度であり得、バッファー、例えばpH7.4のHEPESバッファー中で提供してよい。分解剤は、最大8mM、例えば最大250μMの最大濃度で、連続希釈で試験することができる。測定は、25℃の温度で行うことができる。MST測定は、30%のMST出力で行うことができる。解離定数を測定するための適切なシステムには、NanoTemper Monolith NT.115が含まれる。
【0092】
好ましくは、分解剤は、20nM以下、さらに好ましくは15nM以下、さらに好ましくは10mM以下、さらに好ましくは5mM以下のkDで標的核酸内の二次構造又は三次構造に結合する。
【0093】
一部の実施形態では、分解剤は、20mM以下、さらに好ましくは15mM以下、さらに好ましくは10mM以下、さらに好ましくは5mM以下、そして最も好ましくは2mM以下の解離定数(kD)でシュードノットに結合する。
【0094】
さらに、又は或いは、分解剤と標的核酸との間の相互作用は、50%最大有効定数(EC50)を使用して定量することができる。EC50は解離定数(kD)と同一であり得るか、又はEC50は異なっていてもよい。EC50についての優先傾向は、解離定数(kD)について上記で記載した通りである。
【0095】
所与の非共有結合基を含む分解剤と核酸との間の50%最大有効定数(EC50)は公知であるか、又は、例えば蛍光クエンチングアッセイを使用して実験的に決定することができる(Di Antonio et al., 2012、及び以下の実施例で記載されている方法を参照されたい)。EC50を測定するための適切なシステムとしては、蛍光を測定するためのシステム、例えばプレートリーダー、例えばBMG CLARIOstarが挙げられる。核酸は、蛍光でタグ付けされた核酸であり得、これは、例えば4℃の温度でのインキュベーションで、例えば40分の時間にわたり、分解剤で処理され得る。測定は、25℃の温度で行うことができる。核酸の濃度は50nMであり得、場合によって、核酸は、pH7.4のHEPESバッファーなどのバッファー中にあってもよい。分解剤の濃度は、分解剤をおよそ2nMからおよそ10μMまでの連続希釈で処理するなど、最大10μMであり得る。
【0096】
典型的には、分解剤は、例えば蛍光クエンチングアッセイによって決定すると、10000nM以下の50%最大有効定数(EC50)で標的核酸に結合する。好ましくは、分解剤は、1000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは200nM以下、そして最も好ましくは100nM以下のEC50で標的核酸に結合する。
【0097】
上記のように、分解剤の非共有結合基は、典型的には、標的核酸内の二次構造又は三次構造に結合する。したがって、分解剤は、典型的には、10000nM以下の50%最大有効定数(EC50)で二次構造又は三次構造に結合する。好ましくは、分解剤は、1000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは200nM以下、そして最も好ましくは100nM以下のEC50で二次構造又は三次構造に結合する。
【0098】
一部の実施形態では、分解剤は、例えば本明細書で記載される蛍光クエンチングアッセイによって決定すると、10000nM以下の50%最大有効定数(EC50)で四重鎖に結合する。このようなケースでは、分解剤は、好ましくは、1000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは200nM以下、最も好ましくは100nM以下のEC50で四重鎖に結合する。
【0099】
一部の実施形態では、分解剤は、例えば本明細書で記載される蛍光クエンチングアッセイによって決定すると、10000nM以下の50%最大有効定数(EC50)でシュードノットに結合する。このようなケースでは、分解剤は、好ましくは、1000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、さらに好ましくは200nM以下、そして最も好ましくは100nM以下のEC50でシュードノットに結合する。
【0100】
一部の実施形態では、分解剤は、100mM以下、例えば50mM以下、例えば25mM以下、例えば20mM以下、例えば15mM以下、例えば10mM以下、例えば9mM以下、例えば8mM以下、例えば7mM以下、例えば6mM以下、例えば5mM以下、例えば4mM以下、例えば3mM以下、例えば2mM以下の50%最大有効定数(EC50)で標的核酸に結合する。好ましくは、分解剤は、10mM以下、さらに好ましくは5mM以下の50%最大有効定数(EC50)で標的核酸に結合する。
【0101】
好ましくは、分解剤は、20nM以下、さらに好ましくは15nM以下、さらに好ましくは10mM以下、さらに好ましくは5mM以下の50%最大有効定数(EC50)で標的核酸内の二次構造又は三次構造に結合する。
【0102】
一部の実施形態では、分解剤は、20mM以下、例えば15mM以下、さらに好ましくは10mM以下、さらに好ましくは5mM以下、最も好ましくは2mM以下の50%最大有効定数(EC50)でシュードノットに結合する。
【0103】
上記のように、分解剤の非共有結合基は、好ましくは、標的核酸内の二次構造又は三次構造に選択的に結合する。結合選択性は、直鎖状の又は構造化されていない核酸、例えば直鎖状の又は構造化されていないRNAへの結合の解離定数に対する、所与の二次構造又は三次構造への結合の解離定数の比率を使用して定量化することができる。典型的には、比較用の直鎖状の又は構造化されていない核酸は、所望の二次構造又は三次構造内の1又は2以上の残基を変異させて、配列の残り部分は維持しながら二次構造又は三次構造が形成されないようにすることによって、調製される。例えば、RNAのG四重鎖への結合の選択性は、1又は2以上のGGGモチーフがAUCモチーフに変わっている比較用のRNAを使用することによって評価することができる。
【0104】
典型的には、所与の二次構造又は三次構造と直鎖状の又は構造化されていない核酸との間の結合選択性は、「5:1」以上である。好ましくは、所与の二次構造又は三次構造と直鎖状の又は構造化されていない核酸との間の選択性は、「10:1」以上、さらに好ましくは「20:1」以上、さらに好ましくは「50:1」以上、そして最も好ましくは「100:1」以上である。
【0105】
一実施形態では、四重鎖と直鎖状の又は構造化されていない核酸との間の結合選択性は、「5:1」以上である。好ましくは、四重鎖と直鎖状の又は構造化されていない核酸との間の選択性は、「10:1」以上、さらに好ましくは「20:1」以上、さらに好ましくは「50:1」以上、そして最も好ましくは「100:1」以上である。
【0106】
一実施形態では、四重鎖と直鎖状の又は構造化されていない核酸との間の結合選択性は、「5:1」以上である。好ましくは、四重鎖と直鎖状の又は構造化されていない核酸との間の選択性は、「10:1」以上、さらに好ましくは「20:1」以上、さらに好ましくは「50:1」以上、そして最も好ましくは「100:1」以上である。
【0107】
好ましい実施形態
好ましい実施形態では、分解剤は、化合物Deg-I~Deg-Vから選択される。
【表2】
【0108】
塩及び溶媒和物
式(I)の分解剤は、遊離塩基形態で提供され得る。
【0109】
式(I)の分解剤は、塩、好ましくは薬学的に許容される塩の形態で提供され得る。
【0110】
一部の実施形態では、本明細書で開示されている分解剤は、適切なカウンターアニオンを伴うプロトン化された形態の塩として提供され得る。
【0111】
適切な対イオンには、有機アニオン及び無機アニオンの両方が含まれる。無機アニオンの例としては、クロライド(Cl-)、ブロマイド(Br-)、ヨード(I-)、スルフェート(SO4
2-)、スルファイト(SO3
2-)、ニトレート(NO3
-)、ニトライト(NO2
-)、ホスフェート(PO4
3-)、及びホスファイト(PO3
3-)を含む、無機酸から誘導されるものが含まれる。有機のアニオンの例としては、2-アセトキシベンゾエート(2-acetoxybenzoate)、アセテート(acetate)、アスコルベート(ascorbate)、アスパルテート(aspartate)、ベンゾエート(benzoate)、カンファースルホネート(camphorsulfonate)、シンナメート(cinnamate)、シトレート(citrate)、エデテート(edetate)、エタンジスルホネート(ethanedisulfonate)、エタンスルホネート(ethanesulfonate)、ホルメート(formate)、フマレート(fumarate)、グルコネート(gluconate)、グルタメート(glutamate)、グリコレート(glycolate)、ヒドロキシマレート(hydroxymalate)、カルボキシレート(carboxylate)、ラクテート(lactate)、ラウレート(laurate)、ラクテート(lactate)、マレエート(maleate)、マレート(malate)、メタンスルホネート(methanesulfonate)、オレエート(oleate)、オキサレート(oxalate)、パルミテート(palmitate)、フェニルアセテート(phenylacetate)、フェニルスルホネート(phenylsulfonate)、プロピオネート(propionate)、ピルベート(pyruvate)、サリチレート(salicylate)、ステアレート(stearate)、スクシネート(succinate)、スルファニレート(sulfanilate)、タータレート(tartarate)、トルエンスルホネート(toluenesulfonate)、及びバレレート(valerate)が含まれる。適切なポリマー性有機アニオンの例としては、タンニン酸及びカルボキシメチルセルロースから誘導されるものが含まれる。
【0112】
一部の実施形態では、本明細書で開示されている分解剤は、適切なカウンターカチオンを伴う脱プロトン化された形態の塩として提供され得る。
【0113】
適切な対イオンには、無機カチオン及び有機カチオンの両方が含まれる。適切な無機カチオンの例としては、Na+及びK+などのアルカリ金属イオン、Ca2+及びMg2+などのアルカリ土類カチオン、並びにAl3+などの他のカチオンが含まれる。適切な有機カチオンの例としては、アンモニウムイオン(すなわちNH4
+)及び置換されたアンモニウムイオン(例えば、NH3R+、NH2R2
+、NHR3
+、NR4
+)が含まれる。置換されたアンモニウムイオンの例としては、エチルアミン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミン、及びトロメタミンから誘導されるもの、並びに、リジン及びアルギニンなどのアミノ酸が含まれる。置換されたアンモニウムイオンの追加の又は代替的な例としては、プトレシン及びスペルミジンから誘導されるもの、又はテトラメチルエチレンジアミン(TEMED、tetramethylethylenediamine)などの多価アミンが含まれる。一般的な第四級アンモニウムイオンの例は、N(CH3)4
+である。
【0114】
式(I)の分解剤は、溶媒和物(溶質(例えば、化合物、化合物の塩)及び溶媒の複合体)の形態で提供され得る。溶媒和物の例としては、水和物、例えば、一水和物、二水和物、及び三水和物が含まれる。
【0115】
式(I)の分解剤は、脱溶媒された形態、例えば脱水された形態で提供され得る。
【0116】
標的核酸で切断するための方法
本発明は、標的核酸分子を切断するための方法を提供する。本方法は、
標的核酸分子を、式(I)の分解剤:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、分解剤が標的核酸分子に非共有結合するための非共有結合基である)
と接触させるステップ、及び
分解剤に、それに結合した標的核酸分子を切断させるステップ
を含む。
【0117】
式(I)の分解剤の好ましい実施形態は、上記で示されている。
【0118】
一部の実施形態では、標的核酸分子を、溶液中で分解剤と接触させてもよい。
【0119】
さらに好ましくは、標的核酸分子を、細胞の内部で(すなわち細胞内で)分解剤と接触させてもよい。細胞はインビトロであり得、また、単離された細胞、例えば、個体から(生検などの組織試料から)単離された、単離された細胞又は細胞株であり得る。
【0120】
適切な細胞には、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞が含まれ得る。細胞には体細胞及び生殖系細胞が含まれ得、また、細胞は任意の発生段階であり得、これには、成体幹細胞又は体性幹細胞、胎児幹細胞又は胚性幹細胞などの幹細胞を含む、完全に若しくは部分的に分化した細胞又は非分化細胞又は多能性細胞が含まれる。例えば、細胞には、ニューロン及びグリア細胞を含む神経細胞、収縮性筋細胞、平滑筋細胞、肝細胞、ホルモン合成細胞、脂腺細胞、膵島細胞、副腎皮質細胞、線維芽細胞、ケラチン生成細胞、内皮細胞及び尿路上皮細胞、骨細胞、並びに軟骨細胞が含まれ得る。一部の実施形態では、細胞は、疾患状態に関連し得、例えば、癌細胞、肉腫細胞、リンパ腫細胞、芽細胞腫細胞、又は生殖系腫瘍細胞などのがん細胞、及び、ハンチントン病、嚢胞性線維症、鎌状赤血球症、フェニルケトン尿症、ダウン症、又はマルファン症候群などの遺伝障害の遺伝子型を有する細胞であり得る。
【0121】
標的核酸分子は、細胞内に存在する内因性核酸であり得る。分解剤は外因性分子であり得る。本方法は、分解剤を細胞に導入するステップ、及び分解剤を標的核酸分子に結合させるステップを含み得る。
【0122】
標的核酸分子は、DNA分子又はRNA分子であり得る。適切な標的RNA分子には、mRNA及び長鎖の非コードRNA(lncRNA、long non-coding RNA)が含まれ得る。RNA分子は、イントロン領域及び遺伝子間領域を含み得る。
【0123】
標的核酸分子は、二次構造又は三次構造を含み得る。適切な二次構造及び三次構造には、四重鎖、シュードノット、テトラループ、ステップループ、及びヘアピンループが含まれる。好ましくは、標的核酸分子は、四重鎖又はシュードノットを含む。
【0124】
例えば、二次構造又は三次構造を含む標的核酸を切断するための方法は、
標的核酸分子を、式(I)の分解剤:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、二次構造又は三次構造と相互作用して分解剤を標的核酸分子に非共有結合させる非共有結合基である)
と接触させるステップステップ、及び
分解剤に、それに結合した標的核酸分子を切断させるステップ
を含み得る。
【0125】
好ましい実施形態では、二次構造又は三次構造は四重鎖である。このようなケースでは、本方法は、
四重鎖を含む標的核酸分子を、式(I)の分解剤:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、四重鎖と相互作用して分解剤を標的核酸分子に非共有結合させる非共有結合基である)
と接触させるステップ、及び、
分解剤に、それに結合した標的核酸分子を切断させるステップ
を含み得る。
【0126】
好ましい実施形態では、二次構造又は三次構造はシュードノットである。このようなケースでは、本方法は、
シュードノットを含む標的核酸分子を、式(I)の分解剤:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、シュードノットと相互作用して分解剤を標的核酸分子に非共有結合させる非共有結合基である)
と接触させるステップ、及び、
分解剤に、それに結合した標的核酸分子を切断させるステップ
を含み得る。
【0127】
標的核酸分子に非共有結合すると、分解剤は標的核酸を切断する。典型的には、分解剤は、標的核酸内の1又は2以上のホスホジエステル結合を切断する。
【0128】
標的核酸分子に非共有結合すると、切断基は、標的核酸内のヌクレオチドの2’OHからタンパク質を取り除き得る。ホスホジエステル骨格の切断は、3’位のリン酸基への分子内攻撃によって生じ得る。
【0129】
標的核酸分子に非共有結合すると、切断基は、1又は2以上の遷移金属(例えば銅)に結合し得る。分解剤は、銅を介する核酸分解を通して標的核酸を切断することができる。
【0130】
標的核酸への分解剤の結合は、中間種を介して進行し得る。すなわち、標的核酸分子は、標的核酸分子を分解剤に結合させて、式:
C-L-B~NA
(式中、-Cは、1~3のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは非共有結合基であり、~は非共有結合による相互作用であり、NAは標的核酸である)
を有する中間体を生成させるステップ、及び
分解剤に標的核酸分子を切断させるステップ
を含む方法によって、本明細書で記載されるように切断され得る。
【0131】
式(I)の分解剤の好ましい実施形態は、上記で示されている。
【0132】
二次構造又は三次構造を同定するための方法
上記の分解剤による標的核酸分子の選択的な切断の後、本方法は、標的核酸分子を同定するステップを含み得る。これは、例えば、核酸内の二次構造又は三次構造を含む部位のマッピングにおいて有用であり得る。
【0133】
本方法はまた、核酸集団内の1又は2以上の核酸分子の存在量又は量を決定するステップを含んでいてもよい。コントロールと比較した、集団内の核酸分子の存在量又は量の減少は、核酸分子が、分解剤によって選択的に切断された標的核酸分子である、ということを示している。適切なコントロールは、分解剤で処理されていない核酸の集団であり得る。
【0134】
したがって、本発明は、標的核酸分子内の二次構造又は三次構造を同定するための方法であって、
第1及び第2の核酸分子集団を提供するステップであって、前記の各集団が前記標的核酸分子を含む、前記ステップ、
第1の核酸分子集団に、式(I)の分解剤:
C-L-B(I)
(式中、-Cは、1~3個のC1-6アルキル基で置換されていてもよいイミダゾールである切断基であり、-L-はリンカーであり、-Bは、分解剤が標的核酸分子に非共有結合するための非共有結合基である)
を導入するステップ、
分解剤に、第1の集団に存在する標的核酸分子を切断させるステップ、並びに
第2の集団よりも第1の集団において少ない量で存在している核酸分子を同定するステップ
を含む、方法を提供する。
【0135】
式(I)の分解剤の好ましい実施形態は、上記で示されている。
【0136】
非共有結合基は、標的核酸分子内の二次構造又は三次構造に結合し得る。適切な二次構造又は三次構造としては、四重鎖、シュードノット、テトラループ、ステップループ、及びヘアピンループが含まれる。好ましくは、二次構造又は三次構造は、四重鎖又はシュードノットである。
【0137】
第1及び第2の核酸分子集団は、独立して、単離された(エクスビボで)核酸分子集団であり得る。或いは、核酸分子集団の1又は2以上は、細胞内に存在し得る。
【0138】
本方法は、全核酸、例えば全DNA又は全RNAを細胞から抽出するステップを含み得る。核酸は、例えば、1又は2以上の核酸分子の存在量又は量を決定するために、さらに分析され得る。例えば、抽出された全核酸はシーケンシングされ得、シーケンスリードが分析され得る。
【0139】
細胞内の核酸分子の存在量又は量を決定する適切な方法は当技術分野において周知であり、当該方法としては、RT-qPCR、RNAシーケンシング(RNA-seq、RNA-sequencing)、次世代シーケンシング(NGS、next generation sequencing)、ナノポアシーケンシング、並びに他のシーケンシング技術、例えばサンガーシーケンシング、デコンポジションによるインデルのトラッキング(TIDE、Tracking Indels by DEcomposition)(Brinkman et al Nucleic Acids Res. 2014 Dec 16; 42(22): e168)、及びPCR分析が含まれる。一部の実施形態では、方法は、核酸分子を細胞から抽出するステップ、抽出された核酸分子をシーケンシングするステップ、及び、それぞれの抽出された核分子についてのシーケンスリードの数(すなわちリードカウント)を決定して、細胞内の各核酸分子の存在量又は量を決定するステップを含み得る。一部の実施形態では、生のリードカウントを正規化し、RPKM(100万リード当たりの、1キロベースのエクソンモデル当たりのリード数、reads per kilobase of exon model per million reads)又はFPKM(マッピングした100万リード当たりの、1キロベースのエクソンモデル当たりの断片数、fragments per kilobase of exon model per million reads mapped)で表してもよい。シーケンシング及び配列分析の適切な方法は、当技術分野において良く確立されている。
【0140】
医薬における使用
上記の分解剤による標的核酸分子の選択的な切断は、標的核酸分子の下流効果を変化させ得る。このことは、例えば、標的核酸分子が介在する疾患の治療又は予防において有用であり得る。
【0141】
したがって、本発明は、療法によるヒト又は動物の身体の治療方法における使用のための、例えば、障害(例えば疾患)の治療方法における使用のための、式(I)の分解剤を提供する。
【0142】
本発明の別の態様は、治療有効量の式(I)の分解剤を、治療を必要とする対象に投与するステップを含む、治療方法、例えば、障害(例えば疾患)の治療方法に関する。
【0143】
本発明の別の態様は、障害(例えば疾患)の治療において使用するための医薬品の製造における、式(I)の分解剤の使用に関する。典型的には、医薬品は、式(I)の分解剤を含む。
【0144】
治療対象の障害
(例えば、治療の方法における使用の、医薬品の製造における使用の、治療の方法の)一実施形態では、治療は、細菌感染又はウイルス感染の治療である。
【0145】
好ましくは、ウイルス感染は、RNAウイルス(例えば、ウイルスゲノムが一本鎖又は二本鎖RNAを有するウイルス)への感染である。多くの病原性ウイルスは、タンパク質の正確な翻訳のためのメカニズムとして-1のリボソームフレームシフトを利用し、この現象は、ステムループ及びシュードノットなどの二次RNA構造によって可能となる。したがって、式(I)の分解剤でこれらの二次RNA構造を標的化することで、ウイルスRNAを切断及び不活化することができ、ウイルス感染を治療することができる。
【0146】
RNAウイルスの例としては、コロナウイルス、ピコルナウイルス、及びトガウイルスなどの(+)ssRNAウイルス;オルソミクソウイルス及びラブドウイルスなどの(-)ssRNAウイルス;並びにレオウイルスなどのdsRNAウイルスが含まれる。
【0147】
好ましくは、ウイルスは、(+)ssRNAウイルス、さらに好ましくはコロナウイルスである。コロナウイルスの例としては、伝染性胃腸炎ウイルス、ネココロナウイルス、イヌコロナウイルスなどのアルファコロナウイルス;中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV、middle east respiratory syndrome-related coronavirus)、マウスコロナウイルス(M-CoV、murine coronavirus)、及び重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARS-CoV、SARS-CoV-2、severe acute respiratory syndrome-related coronavirus)などのベータコロナウイルス;鳥類コロナウイルスなどのガンマコロナウイルス;並びにヒヨドリコロナウイルスHKU11及びブタコロナウイルスHKU15などのデルタコロナウイルスが含まれる。
【0148】
細菌感染は、グラム陰性細菌又はグラム陽性細菌への感染であり得る。いずれのクラスの細菌も、タンパク質ユニット及びRNAユニットの両方を含むリボ酵素である細菌リボソームを有する。したがって、式(I)の分解剤でRNAユニットを標的化することで、細菌リボソームを切断及び不活化することができ、細菌感染を治療することができる。
【0149】
医学的に関連するグラム陰性細菌の例としては、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、及びシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(これらは主に、呼吸器の問題に関連する);大腸菌(Escherichia coli)及びエンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)(これらは主に、泌尿器の問題に関連する);並びにヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)及びサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)(これらは主に、胃腸の問題に関連する);髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)(これは主に、髄膜炎に関連する)が含まれる。
【0150】
したがって、一実施形態では、グラム陰性細菌種は、大腸菌、エンテロバクター・クロアカ、ヘリコバクター・ピロリ、サルモネラ・エンテリカ、インフルエンザ菌、クレブシエラ・ニューモニエ、レジオネラ・ニューモニエ、レジオネラ・ニューモフィラ、緑膿菌(P. aeruginosa)、及び髄膜炎菌からなる群から選択される。
【0151】
医学的に関連するグラム陽性細菌の例としては、アクチノマイセス属(actinomyces)、バチルス属(bacillus)、クロストリジウム属(clostridium)、コリネバクテリウム属(corynebacterium)(例えば、ジフテリア菌(corynebacterium diphtheriae))、エンテロコッカス属(enterococcus)、エリジペロスリックス属(erysipelothrix)、リステリア属(listerial)(例えば、リステリア・モノサイトゲネス(listeria monocytogenes))、ノカルジア属(nocardia)、ブドウ球菌属(staphylococcal)、及び連鎖球菌属(streptococcal)(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))が含まれる。
【0152】
したがって、一実施形態では、グラム陰性細菌の属は、アクチノマイセス属、バチルス属、クロストリジウム属、コリネバクテリウム属、エンテロコッカス属、エリジペロスリックス属、リステリア属、ノカルジア属、ブドウ球菌属、及び連鎖球菌属からなる群から選択される。
【0153】
(例えば、治療の方法における使用の、医薬品の製造における使用の、治療の方法の)一実施形態では、治療は、気道感染、尿路感染、又は胃腸炎の治療である。
【0154】
(例えば、治療の方法における使用の、医薬品の製造における使用の、治療の方法の)一部の追加の又は代替的な実施形態では、治療は、がんの治療である。がんは、関連するがん遺伝子が分かっている、又は、関連するがん遺伝子が二次構造若しくは三次構造を形成していると予想されるか若しくは形成するのに適していると予想される、又は、関連するがん遺伝子が、本明細書で記載される四重鎖若しくはシュードノット構造などの二次構造若しくは三次構造を有する核酸を発現しているがん遺伝子である、がんであり得る。
【0155】
がんなどの治療対象の疾患は、とりわけ神経芽細胞腫RAS(NRAS、neuroblastoma RAS)、転移関連肺腺がん転写産物1(MALAT1、metastasis associated lung adenocarcinoma transcript 1)、EWS RNA結合タンパク質1(EWSR1、EWS RNA Binding Protein 1)、テロメアリピート含有RNA(TERRA、telomeric repeat containing RNA)、B細胞リンパ腫エクストララージ(BCL-XL、B-cell lymphoma-extra large)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR、fibroblast growth factor receptor)、及びMicroRNA 21(MIR21、MicroRNA 21)の発現、又は調節の変化(例えば上方調節)に関連し得る。
【0156】
治療対象の患者
(例えば、治療の方法における使用の、医薬品の製造における使用の、治療の方法の)一実施形態では、治療は、治療を必要とする対象に投与される。
【0157】
治療を必要とする対象(患者)は、脊索動物、脊椎動物、哺乳動物、有胎盤哺乳動物、有袋類(例えば、カンガルー、ウォンバット)、齧歯動物(例えば、モルモット、ハムスター、ラット、マウス)、ネズミ科動物(例えばマウス)、ウサギ目動物(例えばウサギ)、鳥類(例えばトリ)、イヌ科動物(例えばイヌ)、ネコ科動物(例えばネコ)、ウマ科動物(例えばウマ)、ブタ類動物(例えばブタ)、ヒツジ類動物(例えばヒツジ)、ウシ属動物(例えばウシ)、霊長類動物、形類人猿動物(例えば、サル若しくはサル科動物)、サル(例えば、マーモセット、ヒヒ)、サル科動物(例えば、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル)、又はヒトであり得る。
【0158】
治療を必要とする対象は、成体又は若年であり得る。
【0159】
好ましくは、治療を必要とする対象は、ヒト、さらに好ましくは成体のヒトである。
【0160】
或いは、治療を必要とする対象は、実験研究で使用される非ヒト動物である。好ましくは、非ヒト動物は、齧歯動物(例えば、モルモット、ハムスター、ラット、マウス)である。
【0161】
投与経路
(例えば、治療方法における使用の、医薬品の製造における使用の、治療方法の)一実施形態では、治療は、全身的に/末梢に、又は局所的に(すなわち、所望の作用のある部位で)、任意の都合の良い投与経路によって投与される。
【0162】
投与経路は、経口経路(例えば摂取による);口腔内経路;舌下経路;経皮経路(例えば、パッチ、膏薬などによるものを含む);経粘膜経路(例えば、パッチ、膏薬などによるものを含む);鼻腔内経路(例えば経鼻スプレーによる);眼経路(例えば点眼薬による);肺経路(例えばエアロゾルを介する、例えば口又は鼻を通しての、例えば吸入又は吹送療法による);直腸経路(例えば、坐剤又は浣腸による);膣経路(例えばペッサリーによる);皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、静脈内注射、動脈内注射、心臓内注射、髄腔内注射、脊髄内注射、嚢内注射、被膜下注射、眼窩内注射、腹腔内注射、気管内注射、表皮下注射、関節内注射、くも膜下注射、及び胸骨内注射を含む注射による非経口経路;例えば皮下又は筋肉内へのデポ又はリザーバーのインプラントによる非経口経路であり得る。
【0163】
製剤
(例えば、治療の方法における使用の、医薬品の製造における使用の、治療の方法の)一実施形態では、式(I)の分解剤は、単独で投与される。典型的には、しかし、本明細書で記載される少なくとも1つの分解剤を含む薬学的製剤(例えば、組成物、調製物、医薬品)中の分解剤は、限定はしないが、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、充填剤、バッファー、防腐剤、抗酸化剤、潤滑剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば湿潤剤)、マスキング剤、着色剤、着香剤、及び甘味料を含む、当業者に周知の1又は2以上の他の薬学的に許容される成分と共に存在することが好ましい。製剤は、他の活性薬剤、例えば他の治療的置又は予防的薬剤をさらに含み得る。
【0164】
したがって、本発明はさらに、医薬組成物、及び、本明細書で記載されている少なくとも1つの分解剤を当業者に周知の1又は2以上の他の薬学的に許容される成分、例えば、担体、希釈剤、賦形剤などと混合するステップを含む、医薬組成物を作製する方法を提供する。個別の単位として製剤された場合(例えば錠剤など)、各単位は、所定の量(投与量)の化合物を含有する。
【0165】
「薬学的に許容される」という用語は、本明細書で使用される場合、妥当なベネフィット/リスク比に見合った、確かな医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症も伴わずに、問題となっている対象(例えばヒト)の組織と接触させての使用に適している、化合物、成分、材料、組成物、投与形態などに関する。各担体、希釈剤、賦形剤などは、製剤の他の成分と適合するという意味でも「許容され」なくてはならない。
【0166】
適切な担体、希釈剤、賦形剤などは、標準的な薬学のテキスト、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1990、及びHandbook of Pharmaceutical Excipients, 5th edition, 25 2005で見ることができる。
【0167】
製剤は、調剤学の分野において周知の任意の方法によって調製することができる。このような方法は、分解剤を、1又は2以上の補助成分を構成する担体と一緒にするステップを含む。通常、製剤は、分解剤を担体(例えば、液体担体、細かく砕かれた固体担体など)と均一に混合し、次いで必要に応じて生成物を成形することによって調製され得る。
【0168】
製剤は、速放又は遅放;即時放出、遅延放出、長時間放出、若しくは持続放出;又はこれらの組み合わせをもたらすように調製され得る。
【0169】
製剤は、適切には、液体、溶液(例えば、水性、非水性)、懸濁液(例えば、水性、非水性)、エマルジョン(例えば、水中油型、油中水型)、エリキシル、シロップ、舐薬、マウスウォッシュ、ドロップ、錠剤(例えばコーティング錠を含む)、顆粒、粉末、薬用キャンディー剤、芳香錠、カプセル(例えばハードゼラチンカプセル及びソフトゼラチンカプセルを含む)、カシェ剤、ピル、アンプル、ボーラス、坐剤、ペッサリー、チンキ剤、ゲル、ペースト、軟膏剤、クリーム、ローション、オイル、発泡体、スプレー、ミスト、又はエアロゾルの形態であり得る。
【0170】
製剤は、適切には、1又は2以上の化合物、並びに場合によって、例えば進入増強剤、浸透増強剤、及び吸収増強剤を含む1又は2以上の他の薬学的に許容される成分を染み込ませた、パッチ、接着性膏薬、バンデージ、包帯、又はこれらに類するものとして提供され得る。製剤はまた、適切には、デポ又はリザーバーの形態で提供され得る。
【0171】
分解剤は、1又は2以上の他の薬学的に許容される成分中に溶解していても、懸濁していても、又は当該成分と混合されていてもよい。化合物は、化合物を例えば血液成分又は1若しくは2以上の器官に標的化するように設計されているリポソーム又は他の微粒子内に存在していてもよい。
【0172】
投与量
(例えば、治療方法における使用の、医薬品の製造における使用の、治療方法の)一実施形態では、治療は、治療有効量の式(I)の分解剤を、治療を必要とする対象に投与するステップを含む。
【0173】
当業者には、本明細書で記載される分解剤、及び分解剤を含む組成物の、適切な投与量が、患者ごとに変化し得ることが理解されよう。最適な投与量の決定は、一般に、あらゆるリスク又は有害な副作用に対する治療利益のレベルのバランスを取ることを伴う。選択された投与量レベルは、限定はしないが、特定の分解剤の活性、投与経路、投与時間、分解剤の排出速度、治療期間、組み合わせて使用される他の薬物、化合物、及び/又は材料、障害の重症度、並びに患者の種、性別、年齢、体重、状態、全体的健康、及びこれまでの病歴を含む、様々な因子に応じる。分解剤の量及び投与経路は、最終的には、医師、獣医師、又は臨床医の裁量であるが、一般に、投与量は、大きな有害又は有毒な副作用を生じさせずに所望の効果を達成する、作用部位での局所的濃度を達成するように選択される。
【0174】
投与は、1用量で、治療の過程を通して連続的に又は断続的に(例えば、適切な間隔での分割投与で)行うことができる。投与の最も有効な手段及び投与量を決定する方法は、当業者に周知であり、治療に使用する製剤、治療の目的、治療対象の標的細胞、及び治療の対象で変化する。単回投与又は複数回投与を、治療を担う医師、獣医師、又は臨床医によって選択される用量のレベル及びパターンで行うことができる。
【0175】
通常、分解剤の適切な用量は、1日当たり対象の体重1キログラム当たり約10μg~約250mg(さらに典型的には約100μg~約25mg)の範囲である。化合物が塩、エステル、アミド、プロドラッグ、又はこれらに類するものである場合、投与される量は親化合物に基づいて計算され、したがって、使用される実際の重量はそれに比例して増大する。
【0176】
他の優先傾向
上記の実施形態のそれぞれの及び全ての適合した組み合わせは、それぞれの及び全ての組み合わせが個別にかつ明確に記載されているかのように、明確に本明細書で開示されている。
【0177】
本発明の様々なさらなる態様及び実施形態は、本開示に照らして当業者に明らかとなろう。
【0178】
「及び/又は」は、本明細書で使用される場合、2つの特定の特徴又は構成要素の各々の、他方を伴うか又は伴わない、具体的な開示を意味する。例えば、「A及び/又はB」は、それぞれが本明細書で個別に示されているかのように、(i)A、(ii)B、及び(iii)A及びB、のそれぞれの具体的な開示を意味する。
【0179】
文脈から別段のことが示されていない限り、上記で示した特徴の説明及び定義は、本発明のいかなる特定の態様にも実施形態にも限定されず、記載されている全ての態様及び実施形態に等しく適用される。
【0180】
[実施例]
本発明のある特定の態様及び実施形態をここで、例として、及び上記の図面を参照して、記載する。
【0181】
全般的な実験プロトコル
インビトロでのシュードノットオリゴ分解反応
RNAオリゴ(20μM)を、KCl(50mM)及びEDTA(10mM)を補充したpH7.5のHEPES(20mM)バッファーに添加した。混合物を37℃で30分間インキュベートした。MTDB-deg 16a、MTDB、又はTDB-deg 16b(1mM)を次いで添加した。反応混合物を37℃で3時間インキュベートし、次いで、4℃で維持した。反応混合物をLC-MS又はゲル電気泳動によって分析した。
【0182】
オリゴヌクレオチドのLC-MS分析。
オリゴヌクレオチドを、Mikutis et al., 2020の方法に従ってLC-MSによって分析した。
【0183】
オリゴマーを、Acquity UPLC BEH C18の1.7μmカラムを使用して、Acquity UPLCシステムと組み合わせたXevo G2-S TOF質量分析計を使用して分析した。このシステムは、エレクトロスプレーイオン化(ESI、electrospray ionisation)を利用する。0.200mL/分の流量で、H2O中の16.3mMのTEA、400mMのHFIP、並びに、80:20v/vのMeCN及びH2O中の16.3mMのTEA、400mMのHFIP、という2つの移動相を使用した。RNA種の検量線は、A260又は特定のネガティブm/zシグナルの強度のいずれかに基づくものであった。組み込まれたピークの強度を、KNIMEソフトウェアプラットフォームのネイティブモジュールを使用して計算した(非特許文献33)。トータル質量スペクトルを、製造者の指示に従ってMassLynxソフトウェア(Watersのバージョン4.1)にプレインストールされたMaxEntアルゴリズムを使用してイオンシリーズから再構成した。記載されたネガティブイオンシリーズを得るために、クロマトグラムにおけるオリゴマーのピークを、組み込み及びさらなる分析のために選択した。
【0184】
RNA分解ゲル電気泳動
ゲル電気泳動を、Mikutis et al., 2020の方法に従って行った。
【0185】
インビトロでのRNA分解反応を上記のように行った。クエンチされた反応混合物を、ローディングバッファー(95%ホルムアミド、0.025%SDS、0.025%ブロモフェノールブルー(BPB、bromophenol blue)、0.025%キシレンシアノールFF、0.025%エチジウムブロマイド、0.5mMのEDTA)と1:1の比で混合し、70℃で5分間加熱し、そして0℃まで冷却した。PAGEを、1×TBEバッファー(89mMのTris、89mMのホウ酸、2mMのEDTA)の下で、15%ポリアクリルアミドを含有するNovex(商標)TBEUrea Gels上で、180Vで60分間行った。ゲル染色を、1×TBEバッファー中でSYBR Green II RNA Gel Stain(Invitrogen社製)を使用して行った。染色されたRNAを、ChemiDoc MP(Bio-Rad社、英国)を使用して可視化した。
【0186】
ウイルスストック
Vero CCL-81細胞を感染させるために使用したSARS-CoV-2ストックは、Vero CCL-81培養の4日後の、およそ1.7×106PFU/mLで、ポルトガル人患者(内部参照:606_IMM ID_5452)から単離されたSARS-CoV-2の継代4から確立された。ストックの力価をプラークアッセイによって計算した。簡潔に述べると、およそ8×105のCCL-81細胞/ウェルを6ウェルプレートに播種し、コンフルエンスになるまで24時間増殖させた。培地を除去し、ウイルス含有上清の500μLの10倍連続希釈物を37℃で1時間、2セット吸着させた。プレートを15分ごとに手で揺らして、接種材料を再分布させた。細胞に、補充されたDMEM中の1.25%カルボキシメチルセルロース(CMC、carboxymethylcellulose)を重ね、37℃で4日間インキュベートした。インキュベーションの後、CMCの重層を除去し、細胞を4%ホルムアルデヒド/PBSで固定し、そして0.1%トルイジンブルーで染色した。固定によって不活化した後、プレートをパラフィルムで密封し、消毒し、その後、BSC及びBSL3から取り出した。ウイルスプラークを計数して、感染力価(PFU(プラーク形成単位)/mL)を決定した。
【0187】
Vero CCL-81のウイルス感染
80%コンフルエンシーのVero CCL-81細胞を、SARS-CoV-2接種材料と37℃で1時間インキュベートした。インキュベーションの後、接種材料を除去し、2.5%FCSを補充したDMEM培地を24時間又は試料を採取するまで添加した。
【0188】
ゲル電気泳動分析
500ngのSARS-CoV-2 RNAを、1×HEPESバッファー中の100μMのMTDB-deg 16aを伴って又は伴わずに、穏やかに撹拌しながら37℃で2時間インキュベートした。試料を次いで、1.5%アガロースゲル上で分析した。
【0189】
ナノポアシーケンシング
500ngのSARS-CoV-2 RNAを、1×HEPESバッファー中の100μMのMTDB-deg 16aを伴って又は伴わずに、穏やかに撹拌しながら37℃で2時間インキュベートした。試料を次いで、直接RNAシーケンシング(Direct RNA Sequencing)(SQK-RNA002、ONT社)についての製造者のプロトコルに従って、シーケンシングのために調製した。調製されたライブラリーをFLO-MIN 106Dフローセル(ONT社)にロードし、MinION Mk1Cデバイス(ONT社)でシーケンシングした。
【0190】
SARS-CoV-2のWuhan-hu1株のゲノム配列(GenBank:MN908947.3)及びゲノムアノテーション(NC_45512.2)をNCBIデータベースからダウンロードした。シーケンスリードを、minimap2を使用して、パラメータ「-ax splice-N32-un-k13」で、Wuhan-hu1ゲノムに対してアラインした(Li et al.,2018)。アラインメントのCIGARストリングを、カスタマイズされたスクリプトによって処理した。リード内のスプライスジャンクションがゲノムの最初の60~120bpの間で開始する場合、リードをリーダーとしてフラグ付けした。リードが、アノテーションされた転写産物の90%超をカバーしているか、又はリード配列の90%超が転写産物内に存在していれば、リードを個々の転写産物に割り当てた。
【0191】
50%阻害濃度を決定するための薬物アッセイ
MTDB-deg 16a(0.07~25μMの範囲)の濃度を増加させて試験して、50%阻害濃度(IC50)を決定した。媒体(H2O)コントロール及びコントロール分子を並行して含めた。細胞をおよそ40%のコンフルエンシーで96ウェルプレートに播種し、その24時間後に感染させた。MTDB-deg 16a、MTDB、又はTDB-deg 16bを、感染の1時間前又は感染の1時間後に添加した。SARS-CoV-2の凍結保存ストックを室温で解凍し、これを使用して0.05感染多重度(MOI)で細胞を感染させた。細胞を感染の24後に採取することによって、ウイルス増殖の阻害を測定した。E遺伝子及びシュードノット領域を標的化するPCRによってウイルス負荷を測定することによって、ウイルス増殖を評価した。
【0192】
プラークアッセイによるウイルスプラーク形成単位の検出
およそ8×105のCCL-81細胞/ウェルを6ウェルプレートに播種し、80%のコンフルエンスになるまで24時間増殖させた。化合物で処理した培養物の上清を、2.5%FCSを補充したDMEM培地中で希釈し、事前に播種した6ウェルプレートのウェルに添加し、そして37℃で1時間インキュベートした。プレートを15分ごとに手で揺らして、接種材料を再分布させた。細胞に、補充されたDMEM中の1.25%CMCを重ね、37℃で4日間インキュベートした。インキュベーションの後、CMCの重層を除去し、細胞を4%ホルムアルデヒド/PBSで固定し、そして0.1%トルイジンブルーで染色した。固定によって不活化した後、プレートをパラフィルムで密封し、消毒し、その後、BSC及びBSL3から取り出した。ウイルスプラークを計数して、感染力価(PFU(プラーク形成単位)/mL)を決定した。
【0193】
PCRによるウイルス負荷の定量
細胞ペレットを300μLの溶解バッファー中に採取した。製造者の指示に従って、ウイルスRNAをNZY Viral RNA Isolationキット(NZYtech社)を使用して抽出し、cDNAをNZY First-Strand cDNA Synthesisキット(NZYtech社)を使用して合成した。定量RT-PCR(RT-qPCR、quantitative RT-PCR)を次いで、デフォルトのSYBR greenプログラムを伴うApplied Biosystems社製のRT-PCR 7500Fast機器によって設定された、PowerUp SYBR Green Master Mix(BIO-RAD社)を使用することによって行った。
【0194】
SARS-CoV-2の検出に使用したプライマーは以下の通りである:
E遺伝子:
5’-ACAGGTACGTTAATAGTTAATAGCGT-3’(フォワード)、
5’-ATATTGCAGCAGTACGCACACA-3’(リバース);
N遺伝子:
5’-GACCCCAAAATCAGCGAAAT-3’(フォワード)、
5’-TCTGGTTACTGCCAGTTGAATCTG-3’(リバース);
シュードノット:
5’-CCGCGAACCCATGCTTCAGTCA-3’(フォワード)、
5’-CACGGTGTAAGACGGGCTGCAC-3’(リバース);
18S:
5’-GTAACCCGTTGAACCCCATT-3’(フォワード)、
5’-CCATCCAATCGGTAGTAGCG-3’(リバース)。
【0195】
ウイルス生存アッセイ
2セットの試料を生存アッセイのために調製し、このアッセイでは、80%コンフルエンシーの細胞を、0.05MOIのSARS-CoV-2凍結保存ストックで2時間感染させた。次いで、接種材料を除去し、感染した細胞を、6μMのMTDB-deg 16a、MTDB、及びTDB-deg 16bと、37℃及び5%CO2で24時間インキュベートした。24時間後、ウイルス増殖のPCR分析のために、1セットの試料中の細胞を溶解バッファー中に採取した。他方のセットの試料では、上清中の化合物を除去し、薬物を含有しない培地で置き換え、そして37℃及び5%CO2でさらに24時間インキュベートした。24時間のインキュベーションの後(48時間の時点に対応する)、細胞を溶解バッファー中に採取し、ウイルス増殖を、E遺伝子及びシュードノット領域を標的化するPCRによって測定した。ウイルス生存のパーセンテージを、媒体コントロールに対して正規化した。
【0196】
細胞毒性アッセイ
化合物が細胞に対して毒性であったかどうかを判定するために、ウェル当たり1×104のVero E6細胞を96ウェルプレートに播種した。24時間後、細胞を、MTDB-deg 16a、MTDB、又はTDB-deg 16b(0.05μM~25μMの範囲)の濃度を増加させてインキュベートした。化合物との24時間のインキュベーションの後の細胞の生存率を、製造者のプロトコルに従って、CellTiter Blue生存率アッセイ(Promega社)によって評価した。簡潔に述べると、Cell titer blueストック溶液を1:20で希釈した。80μL容積の希釈されたcell titer blueを各ウェルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。
【0197】
動的光散乱(DLS、Dynamic Light Scattering)
各スクリーニング分子のストック溶液(10mM)を、希釈していないDMSO中に調製し、25又は12.5μMの最終濃度まで水中に連続希釈した。データを、Zetasizer Nano S(Malvern社製)で25℃で収集した。
【0198】
SARS-CoV-2感染の動物モデルでの抗ウイルス活性
10~12週齢の、特定病原体除去した、Tg(K18-ACE2)2Prlmnについてヘミ接合の(株B6.Cg-Tg(K18-ACE2)2Prlmn/J、Jackson laboratory株034860)マウスを、この研究で使用した。マウスを、50μlのPBS中の1×104PFUのSARS-CoV-2に鼻腔内感染させた。化合物を、感染の1時間前及び感染の3時間後に鼻腔内投与した。マウスを、媒体(n=6)、25mg/kgのMTDB分解剤16a(n=6)、10mg/kgのMTDB(n=3)、又は25mg/kgのTDB分解剤16b(n=5)で処理した。SARS-CoV-2感染後5日目に、動物を人道的に安楽死させ、左肺をプラークアッセイによるウイルス定量のために採取し、右肺を組織病理学的分析のために採取した。
【0199】
ウェスタンブロット分析。
インビトロでの実験では、試料を媒体(H2O)又はMTDB-deg 16a(6mM)で24時間処理した。細胞を次いで、1mMのDTT、プロテアーゼ阻害剤(Sigma社)、及びホスファターゼ阻害剤(Sigma社)を補充した全細胞溶解バッファー(50mMのTris-HCl、pH=8.0、450mMのNaCl、0.1%NP-40、1mMのEDTA)を使用して溶解した。インビボでの実験では、マウスの左肺全部を3mLのDMEM中にホモジナイズし、750μLを、上記のような補充を行った等容積の全細胞溶解バッファーに移した。タンパク質濃度を、ブラッドフォードアッセイ(BioRad社)を使用して調べた。ロードする前に、試料にLDSローディングバッファー(Life technologies社)及び試料還元剤(Sample Reducing Agent)(Life technologies社)を補充した。40μgのタンパク質をSDS-PAGEゲル上で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、polyvinylidene difluoride)膜(GE Healthcare社)にブロットした。ウェスタンブロット実験を、以下の抗体を使用して行った:抗ベータアクチン(Abcam社、ab8224)、抗ホスホ-MAPKAPK-2(Thr334)(27B7)(Cell Signalling社、3007)、抗ホスホ-p38 MAPK(Thr180/Tyr182)(D3F9)XP(登録商標)(Cell Signalling社、4511)、ヤギ抗マウスIgG H&L(HRP)(Abcam社、ab205719)、及びヤギ抗ウサギHRP(Abcam社、ab6721)。
【0200】
アジド-イミダゾールの合成
【化7】
スキーム1:アジド-イミダゾールの合成
【0201】
ヘキサエチレングリコールジ(p-トルエンスルホネート)(1)の合成
ヘキサエチレングリコール(1.0mmol)をDCM(10mL)及びp-トルエンスルホニルクロライド(2.2mmol)中に溶解し、KOH(10mmol)を0℃で添加した。反応混合物を室温で6時間撹拌し、次いで、濾過し、水で洗浄した。MgSO4上で乾燥させた後、溶媒を減圧下で蒸発させた。さらなる精製は不要であった。収量:95%(無色の油)。
【0202】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δH 7.78(d,4H)、7.33(d,4H)、4.14(t,4H)、3.67(br tr,4H,3.60(br s,8H)、3.57(br s,8H)、2.43(br s,6H)。MS:C26H39O11S2のm/z:591.19。
【0203】
物理的及び分光学的データは、文献(Mikutis et al., 2020)で記載されているものと一致した。
【0204】
ヘキサエチレングリコールp-トルエンスルホネートアジド(2a)の合成
ヘキサエチレングリコールジ(p-トルエンスルホネート)1(1.0mmol)をDMF(10mL)中に溶解し、アジ化ナトリウム(1.0mmol)を添加した。反応混合物を60℃で6時間撹拌し、次いで室温まで冷却し、そして一晩撹拌した。混合物をブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させた。DMFを除去するために、トルエンを添加し、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物を、カラムクロマトグラフィーを介して精製した(EtOAc:ヘキサン、1:1)。収量:54%(無色の油)。
【0205】
1H NMR(400MHz,CDCl3) δH 7.82(d,2H)、7.36(d,2H)、4.18(t,2H)、3.59~3.73(20H,PEG)、3.41(t,2H)、2.47(s,3H)。MS:C19H31N3NaO8Sのm/z:484.2。
【0206】
物理的及び分光学的データは、文献(Mikutis et al., 2020)で記載されているものと一致した。
【0207】
テトラエチレングリコールp-トルエンスルホネートアジド(2b)の合成
テトラエチレングリコールジ(p-トルエンスルホネート)(2.7g、5.4mmol)を、無水DMF(10ml)中に溶解した。アジ化ナトリウム(355mg、5.4mmol)を添加し、混合物をN2下に置き、そして55℃で18時間撹拌した。溶媒を真空内で除去し、生成物を、フラッシュカラムクロマトグラフィーを介して精製した(3:1のPet.エーテル:AcOEtから1:1のPet.エーテル:AcOEt)。生成物が無色の油として得られた(798mg、2.1mmol、39%)。
【0208】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ7.82(d,2H)、7.37(d,2H)、4.19(t,1H)、3.60~3.73(12H,PEG)、3.40(t,2H)、2.47(s,3H)。MS:C15H23N3NaO6Sのm/z 396.1207。
【0209】
ジエチレングリコールp-トルエンスルホネートアジド(2c)の合成
ジエチレングリコールジ(p-トルエンスルホネート)(1.0mmol)をDMF(10mL)中に溶解し、アジ化ナトリウム(1.0mmol)を添加した。反応混合物を60℃で6時間撹拌し、次いで室温まで冷却し、そして一晩撹拌した。混合物をブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させた。DMFを除去するために、トルエンを添加し、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物を、カラムクロマトグラフィーを介して精製した(EtOAc:ヘキサン、1:1)。収量:59%(無色の油)。
【0210】
1H NMR(400MHz,CDCl3) δH 7.80(d,2H)、7.35(d,2H)、4.17(t,2)、3.70(t,2H)、3.61(t,2H)、3.32(t,2H)、2.45(s,3H)。MS:C11H15N3NaO4Sのm/z:308.068。
【0211】
物理的及び分光学的データは、文献(Mikutis et al., 2020)で記載されているものと一致した。
【0212】
ヘキサエチレングリコールイミダゾレートアジド(3a)の合成
イミダゾール(1.0mmol)を、乾燥DMF(15mL)中で、不活性条件下で溶解し、水素化ナトリウム(鉱油中に60%の分散、1.2mmol)を添加した。0℃で30分間撹拌した後、2a(1.0mmol)を添加した。反応混合物を60℃で一晩撹拌し、室温まで冷却した後、混合物を水(20mL)でクエンチした。その後の、EtOAc及びDCMでの抽出、MgSO4上での乾燥、並びに減圧下での溶媒の蒸発によって、粗生成物が得られた。粗生成物を次いで、カラムクロマトグラフィーを介して精製した(EtOAc:MeOH、3:1)。収量:35%(無色の油)。
【0213】
1H NMR(400MHz,CDCl3) δH 7.52(s,1H)、7.02(s,1H)、6.98(s,1H)、4.09(t,2H)、3.72(t,2H)、3.55~3.78(18H,PEG)、3.36(t,2H)。MS:C15H28N5O5のm/z 358.21。
【0214】
物理的及び分光学的データは、文献(Mikutis et al., 2020)で記載されているものと一致した。
【0215】
テトラエチレングリコールイミダゾレートアジド(3b)の合成
イミダゾール(18mg、0.27mmol)及びNaH(鉱油中に60%の分散、12mg、0.27mmol)を、0℃の無水DMF(1ml)中に懸濁した。混合物をN2雰囲気下に置き、室温まで温め、そして30分間撹拌した。2b(100mg、0.27mmol)を無水DMF(1ml)中に溶解し、得られた溶液を最初の混合物に添加した。これを次いで55℃で20時間撹拌した。溶媒を次いで真空内で除去し、得られた残渣を、フラッシュクロマトグラフィーを介して精製した(ドライローディング、9:1のEtOAc:MeOHまでの勾配EtOAC)。生成物が無色の油として得られた(54mg、0.20mmol、74%)。
【0216】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ7.55(s,1H)、7.05(s,1H)、7.05(s,1H)、4.12(t,2H)、3.75(t,2H)、3.60~3.71(10H,PEG)、3.39(t,2H)。13C NMR(100MHz,CDCl3) δC 137.6、129.2、119.4、70.5~70.7(複数のPEGピーク)、70.0、50.7、47.1。MS:C11H19N5O3のm/z 270.1582。
【0217】
ジエチレングリコールイミダゾレートアジド(3c)の合成
イミダゾール(1.0mmol)を、乾燥DMF(15mL)中で、不活性条件下で溶解し、水素化ナトリウム(鉱油中に60%の分散、1.2mmol)を添加した。0℃で30分間撹拌した後、2c(1.0mmol)を添加した。反応混合物を60℃で一晩撹拌し、次いで室温まで冷却した。混合物を水(20mL)でクエンチした。EtOAc及びDCMでの抽出、MgSO4上での乾燥、並びに減圧下での溶媒の蒸発の後、粗生成物が得られた。粗生成物を次いで、カラムクロマトグラフィーを介して精製した(EtOAc:MeOH、3:1)。収量:38%(無色の油)。
【0218】
1H NMR(400MHz, CDCl3) δH 7.53(s,1H)、7.06(s,1H)、6.99(s,1H)、4.14(t,2H)、3.75(t,2H)、3.60(t,2H)、3.36(t,2H)。MS:C11H19N5O3のm/z 182.1
【0219】
物理的及び分光学的データは、文献(Mikutis et al., 2020)で記載されているものと一致した。
【0220】
アジド-エチルイミダゾール(4)の合成
【化8】
スキーム2:エチルアジド-イミダゾール4の合成
【0221】
ヒドロキシエチルイミダゾール(1.0mmol)を0℃のDCM(10mL)中に溶解し、KOH(10mmol)及びp-トルエンスルホニルクロライド(1.2mmol)を添加した。反応混合物を室温で6時間撹拌し、次いで濾過し、そして溶媒を減圧下で除去した。粗生成物をDMF中に溶解し、アジ化ナトリウム(1.0mmol)を添加した。これを60℃で6時間撹拌し、次いで室温まで冷却し、そして一晩撹拌した。トルエンを添加し、溶媒を減圧下で除去した。精製を、カラムクロマトグラフィーを介して行った(EtOAC:MeOH、3:1)。収量:26%(白色の固体)。
【0222】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ7.51(s,1H)、7.09(s,1H)、6.96(s,1H)、4.09(t,J=5.7Hz,1H)、3.62(t,J=5.7Hz,1H)。
【0223】
ピリドスタチン分解剤の合成
【化9】
スキーム3:ピリドスタチン誘導体の合成。
【0224】
ケリダム酸ジメチルエステル(5)の合成
ケリダム酸水和物(2.0g、11mmol)を20mlのMeOH中に懸濁した。塩化チオニル(500μL、6.9mmol)を-10℃で懸濁液に滴下して添加した。白色から茶色への色の変化が見られた。溶液をRTに温め、一晩撹拌した。茶色の溶液を2時間還流し、溶媒を真空内で除去した。茶色の粗生成物を次いで、EtOHからから再結晶化させ、ベージュ色の固体であるケリダム酸ジメチルエステル5(864mg、3.9mmol、36%)を得た。
【0225】
1H NMR(400MHz,DMSO)δ11.77(br s,1H)、7.61(s,2H)、3.88(s,6H)。13C NMR(101MHz,DMSO)δ165.97、164.88、149.37、115.33、52.68。HRMS(ES) C9H10NO5の計算値([M+H]+)m/z:212.0559、実測値212.0567。
【0226】
プロパルギルケリダム酸(6)の合成
ケリダム酸ジメチルエステル5(0.82g、3.8mmol)、プロパルギルアルコール(0.33mL、5.7mmol)、及びポリマー結合型トリフェニルホスフィン(3.47g、1.5mmolのロード/g、5.2mmol)を、55mLの新たに蒸留したTHF中に懸濁した。溶液を、凍結-ポンプ-解凍サイクル(freeze-pump-thaw cycling)を使用して脱気し、0℃まで冷却し、DIAD(1.0mL、5.1mmol)をアルゴン下で滴下して添加した。溶液をRTまで温め、3日間撹拌した。溶液を濾過し、溶媒を真空内で除去した。カラムクロマトグラフィーを介してケリダム酸ジメチルエステルが得られた(50%EtOAc、50%pet.エーテル)。これを次いで50mLのMeOHに溶解し、その後、50mLの水性NaOH(0.33g、7.5mmol)溶液を添加した。得られた混合物を5分間撹拌し、脱保護をTLCによって確認した。有機溶媒を真空内で除去した。5%ギ酸を添加して酸性にし、その後、3×100mLのEtOACで抽出した。有機層を次いでMgSO4で乾燥させ、濾過し、そして溶媒を真空内で除去した。これによって、オフホワイト色の固体であるプロパルギルケリダム酸6が得られた(0.17g、0.77mmol、20%)。
【0227】
1H NMR(400MHz,MeOD)δ7.93(s,2H)、5.02(d,J=2.4Hz,2H)、3.15(t,J=2.5Hz,1H)。13C NMR(100MHz,MeOD)δ168.12、166.98、150.54、150.43、115.73、78.97、77.90、77.88、57.74、57.68。HRMS(ES) C10H8NO5の計算値([M+H]+)m/z:222.0397、実測値222.0391。
【0228】
O-(エチル-2-N-boc-アミン)-2-アミノキノリノン(7)の合成
2-アミノキノリノン(1.0g、6.2mmol)、N-bocエタノールアミン(1.4mL、9.1mmol)、及びトリフェニルホスフィン(3.3g、13mmol)を、10mLの新たに蒸留したTHF中に溶解した。溶液を、凍結-ポンプ-解凍サイクルを使用して脱気し、0℃まで冷却し、DIAD(1.8mL、9.2mmol)をアルゴン下で滴下して添加した。溶液をRTまで温め、3日間撹拌した。溶媒を次いで真空内で除去した。生成物を、100%EtOAcから90%EtOAc、10%MeOHまででの勾配カラムクロマトグラフィーによって精製した。溶媒を真空内で除去して、オフホワイト色の固体7を得た(552mg、1.82mmol、29%)。
【0229】
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ7.98(dd,J=8.0,1.0Hz,2H)、7.60(dd,J=8.4,1.2Hz,2H)、7.55(ddd,J=8.5,6.7,1.6Hz,2H)、7.23(ddd,J=8.1,6.6,1.3Hz,2H)、6.04(s,1H)、5.01(br s,1H)、4.69(br s,2H)、4.18(t,J=5.1Hz,4H)、3.68(q,J=5.5Hz,4H)、1.46(s,9H)。13C NMR(100MHz,CDCl3)δ162.32、158.13、155.90、148.55、130.25、125.63、121.97、121.60、117.52、90.09、79.83、67.52、39.82、28.38。HRMS(ES) C16H22N3O3の計算値([M+H]+)m/z:304.1661、実測値304.1649。
【0230】
アルキン-ピリドスタチン(8)の合成
プロパルギルケリダム酸6(0.12g、0.54mol)を、1.2mLのDCM中に溶解した。次いで、Ghosez試薬(170μL、1.3mmol)を0℃で滴下して添加した。オレンジ色の溶液を次いで、RTで2時間撹拌した。塩素化をTLCによって確認した。トリエチルアミン(0.18mL、1.3mmol)を0℃で滴下して添加した。溶液を次いで、RTで1時間撹拌した。7(0.37g、1.2mmol)を1.2mLのDCM中に懸濁し、次いで、混合物に滴下して添加した。混合物は赤褐色に変化し、これをアルゴン下で一晩撹拌した。粗保護生成物8a(示されていない)を熱いMeCNから赤色の固体として沈殿させた。赤色の固体8aを次いでDCM中に溶解した。2:1のDCM:TFA混合物を添加して溶液を酸性にし、N-boc保護を除去した。溶媒を真空内で除去し、生成物がHPLC(100%H2O、0.1%FAから、100%MeCN、0.1%FAまでの勾配)を介して精製した。凍結乾燥によって、オフホワイト色の固体であるアルキン-ピリドスタチン8が得られた(51mg、86μmol、16%)。
【0231】
HRMS(ES) C32H30N7O5の計算値([M+H]+)m/z:592.2308、実測値592.2327。
【0232】
ピリドスタチン分解剤(9A~9C)の合成
アルキン-ピリドスタチン8(15mg、25μmol)を、2.5mLの2:1のH2O:tBuOH混合物中に溶解した。硫酸銅(II)五水和物溶液(250μL、100mM、25μmol)を添加し、その後、アスコルビン酸ナトリウム溶液(1.3mL、100mM、130μmol)を添加した。濁った黄色の溶液を脱気し、10分間撹拌した。適切なアジド-イミダゾール(3a、3b、又は3-アジドプロピオン酸)の溶液(3.8mL、10mM)を次いで添加した。溶液をアルゴン下で2時間撹拌した。有機溶媒を真空内で除去した。次いで、生成物を、HPLCを介して精製した(100%H2O、0.1%FAから、100%MeCN、0.1%FAまでの勾配)。生成物を、白色又はオフホワイト色の固体として得た。
【0233】
9A(PDS-deg6)。収率48%(11.3mg,12μmol)。HRMS(ES) C47H52N12O10の計算値([M+H]+)m/z:949.4321、実測値949.4344。
9B(PDS-deg4)。収率69%(14.8mg,17μmol)。HRMS(ES) C43H49N12O8の計算値([M+H]+)m/z:861.3796、実測値861.376。
9C(PDS-CBX)。収率28%(4.9mg,6.9μmol)。HRMS(ES) C35H34N10O7の計算値([M+H]+)m/z:707.2690、実測値:707.2684。
【0234】
シュードノット分解剤の合成
【化10】
スキーム4:シュードノット分解剤の合成
【0235】
化合物11aの合成
DCM(100mL)中の2-メチルチアゾール-4-カルバルデヒド(10.0g、78.6mmol、1.0当量)を、化合物10(16.5g、82.6mmol、16.2mL、1.1当量)に、25℃、N2下で一度に添加した。混合物を、25℃で3時間撹拌した。混合物にNaBH(OAc)3(25.0g、118mmol、1.5当量)を添加し、10時間撹拌した。残渣を水(50mL)中に注ぎ、10分間撹拌した。水性相をDCM(3×20mL)で抽出した。組み合わされた有機相を無水Na2SO4で乾燥させ、濾過した。溶媒を真空内で除去した。生成物を、カラムクロマトグラフィー(石油エーテルから、10/1の石油エーテル/酢酸エチルまでの勾配)を介して精製して、化合物11a(13.5g、43.4mmol、55%収量)を黄色の油として得た。
【0236】
LCMS[+スキャン]:計算値m/z C20H26N3O3S 388.2;実測値388.1。
【0237】
化合物12aの合成
TFA(40.0g、351mmol、26mL、8.4当量)を、DCM(130mL)中の化合物11a(13.0g、41.7mmol、1.0当量)に、25℃、N2で添加した。混合物を12時間撹拌した。溶媒を真空内で除去して、化合物12aのTFA塩(23.0g、粗生成物)を赤色の油として得た。
【0238】
LCMS[+スキャン]:計算値m/z C10H18N3S 212.1;実測値212.0。
【0239】
MTDB(化合物13a)の合成
DCM(200mL)中の化合物12a(20.0g、45.5mmol、1.0当量)溶液に、TEA(9.21g、91.0mmol、12.7mL、2.0当量)を、20℃、N2下で添加した。次いで、エチル2-イソシアナトベンゾエート(isocyanatobenzoate)(8.70g、45.5mmol、1.0当量)を、混合物に0℃で添加した。混合物を20℃で12時間撹拌した。溶媒を真空内で除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(100/1~20/1の石油エーテル/酢酸エチル勾配)によって精製して、MTDB(化合物13a、5.62g、14.0mmol、31%収量)をオフホワイト色の固体として得た。
【0240】
1H NMR(400MHz,CD3OD):δ8.42(br d,J=8.4Hz,1H)、8.08(br d,J=8.0Hz,1H)、7.62(s,1H)、7.52~7.59(m,1H)、7.09(br t,J=7.6Hz,1H)、4.34~4.46(m,4H)、3.93(br s,2H)、3.77(br t,J=6.0Hz,2H)、3.49(br s,4H)、3.28~3.31(m,1H)、2.74(s,3H)、2.31(br d,J=4.8Hz,2H)、1.43(t,J=7.2Hz,3H)。LCMS[+スキャン]:計算値m/z C20H27N4O3S 403.2;実測値403.1。
【0241】
化合物14aの合成
EtOH(120mL)中のMTDB(化合物13a 5.60g、13.9mmol、1.0当量)及びH2O(30mL)の混合物に、LiOH一水和物(2.34g、55.7mmol、4.0当量)を、25℃、N2下で添加した。混合物を25℃で12時間撹拌した。混合物を1MのHClでpH6に調整し、水性相を酢酸エチル(3×40mL)で抽出した。次いで、有機相を無水Na2SO4で乾燥させ、濾過し、そして真空内で濃縮して、化合物14a(2.60g、6.94mmol、50%)を黄色の固体として得た。
【0242】
LCMS[+スキャン]:計算値m/z C18H23N4O3S 375.1;実測値375.1。
【0243】
化合物15aの合成
化合物14a(2.60g、6.94mmol、1.0当量)及びDMF(200mL)中のプロパルギルアミン(1.15g、20.8mmol、1.33mL、3.0当量)の混合物に、DIEA(4.49g、34.7mmol、6.05mL、5.00当量)を、25℃、N2下で添加した。混合物に、T3P(4.42g、13.9mmol、4.13mL、2.0当量)を添加し、50℃で12時間撹拌した。混合物を水(200mL)に注ぎ、水性相を酢酸エチル(3×70mL)で抽出した。次いで、有機相をブライン(60mL)で洗浄し、有機相を無水Na2SO4で乾燥させ、濾過し、そして溶媒を真空内で除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(100/1の石油エーテル/酢酸エチルから、酢酸エチルまでの勾配)によって精製して、15a(1.20g、2.80mmol、40%収量)を得た。
【0244】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ10.54(br s,1H)、8.46(d,J=8.2Hz,1H)、7.43~7.51(m,2H)、7.11~7.11(m,1H)、6.99(q,J=7.6Hz,2H)、6.49(br s,1H)、4.22(dd,J=5.2,2.6Hz,2H)、3.72~3.83(m,4H)、3.64~3.69(m,2H)、2.77~2.96(m,4H)、2.72(s,3H)、2.32(t,J=2.6Hz,1H)、2.04(br d,J=15.2Hz,2H)。LCMS[+スキャン]:計算値m/z C21H26N5O2S 412.2;実測値412.0。
【0245】
MTDB-deg(化合物16a)の合成
DCM(5mL)中のアジド-イミダゾール3a(200mg、280μmol、1.0当量)、化合物15a(115mg、280μmol、1.0当量)、及びCuSO4(22.3mg、140μmol、21.5uL、0.5当量)、MeOH(5mL)、並びにH2O(5mL)の混合物を、20℃で0.5時間撹拌した。次いで、NaAsc(11.1mg、55.9μmol、0.2当量)を混合物に添加し、20℃で4.5時間撹拌した。混合物をH2O(10mL)で希釈し、次いで、DCM(3×10mL)で抽出した。組み合わされた有機相を無水Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、そして真空内で濃縮した。残渣を、HPLC(カラム:Phenomenex社製のGemini-NX、80×40mm×3um、移動相:[水(10mMのNH4HCO3)-ACN];B%:15%~35%、8分間)を介して精製して、MTDB-deg 16a(28.0mg、34.9μmol、13%収量)を淡黄色の油として得た。
【0246】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6):δ11.03(s,1H)、9.29(br t,J=5.2Hz,1H)、8.37(d,J=8.4Hz,1H)、7.96(s,1H)、7.74(br d,J=7.2Hz,1H)、7.63(br s,1H)、7.43(t,J=7.60Hz,1H)、7.15~7.31(m,2H)、6.99(t,J=7.6Hz,1H)、6.89(br s,1H)、4.46~4.53(m,4H)、4.10(br t,J=5.2Hz,2H)、3.77~3.81(m,2H)、3.71(br s,2H)、3.66(br t,J=5.07Hz,2H)、3.44~3.57(m,20H)、3.34(s,25H)、2.73(br s,1H)、2.62(br s,6H)、1.84(br s,2H)。HRMS[+スキャン]:計算値m/z C36H53N10O7S 769.3819;実測値769.3830。
【0247】
シュードノット実験のためのコントロール分解剤の合成
【化11】
スキーム5:シュードノットコントロール分解剤(TBD-deg)の合成
【0248】
化合物11bの合成
DCM(80mL)中のチオフェン-3-カルバルデヒド(2.00g、17.8mmol、1.63mL、1.0当量)に、化合物10(3.93g、19.6mmol、3.85mL、1.1当量)を、20℃、N2下で添加した。混合物を20℃で3時間撹拌した。次いで、NaBH(OAc)3(5.67g、26.8mmol、1.5当量)を混合物に0℃で添加し、20℃で10時間撹拌した。反応混合物を、水(60mL)を添加することによってクエンチし、DCM(2×20mL)で抽出した。組み合わされた有機層をブライン(30mL)で洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、そして真空内で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(石油エーテル/酢酸エチル=100/1~20/1の勾配)によって精製して、化合物11b(1.70g、5.73mmol、32%収量)を赤色の油として得た。
【0249】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.21~7.31(m,1H)、7.03~7.15(m,2H)、3.64(s,2H)、3.37~3.54(m,4H)、2.55~2.68(m,4H)、1.81(br dd,J=10.8,4.9Hz,2H)、1.40~1.52(m,9H)。
【0250】
化合物12bの合成
DCM(20mL)中の化合物11b(1.70g、5.73mmol、1.0当量)の溶液に、TFA(6.16g、54.0mmol、4.00mL、9.4当量)を、20℃、N2下で添加した。混合物を、20℃で8時間撹拌した。溶媒を真空内で除去して化合物12b(3.00g、粗生成物)のTFA塩を赤色の油として得、これを、さらなる精製を伴わずに次のステップで使用した。
【0251】
TDB(化合物13b)の合成
DCM(40mL)中の化合物12b(3.00g、9.67mmol、1.0当量)の混合物に、TEA(1.96g、19.3mmol、2.69mL、2.0当量)を、20℃、N2下で添加した。次いで、エチル2-イソシアナトベンゾエート(1.85g、9.67mmol、1.0当量)を、混合物に0℃で添加した。混合物を20℃で12時間撹拌した。溶媒を真空内で除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(石油エーテル/酢酸エチル=100/1~20/1の勾配)によって精製して、TDB 13b(3.30g、8.35mmol、86%収量)をオフホワイト色の固体として得た。
【0252】
1H NMR(400MHz,CDCl3):δ10.59(s,1H)、8.52(d,J=8.4Hz,1H)、7.94(dd,J=8.0,1.53Hz,1H)、7.42(t,J=7.6Hz,1H)、7.14~7.24(m,1H)、6.96~7.07(m,2H)、6.88(t,J=7.2Hz,1H)、4.28(q,J=7.2Hz,2H)、3.55~3.67(m,6H)、2.70(br s,2H)、2.53~2.65(m,2H)、1.91(br s,2H)、1.33(t,J=7.2Hz,3H)。LCMS[+スキャン]:計算値m/z C20H26N3O3S 388.2;実測値388.1。
【0253】
化合物14bの合成
EtOH(1.2mL)中のTDB21(100mg、0.26mmol、1.0当量)及びH2O(1.2mL)の混合物に、LiOH一水和物(65g、1.5mmol、6.0当量)を、25℃、N2下で添加した。混合物を25℃で16時間撹拌し、この時点の後、追加のLiOH一水和物(130g、3.1mmol、12.0当量)を添加した。2時間後、混合物を1MのHClでpH6に調整し、水性相をDCM(3×10mL)で抽出した。次いで、有機相を無水MgSO4で乾燥させ、濾過し、そして真空内で濃縮して、化合物14b(70mg、0.19mmol、76%)を黄色の油状の固体として得た。
【0254】
1H NMR(400MHz,CD3OD):δH 8.41(d,J=8.5Hz,1H)、8.08(d,J=8.5Hz,1H)、7.76(br s,1H)、7.64(m,1H)、7.53(t,J=7.5Hz,1H)、7.32(d,J=4.5Hz,1H)、7.07(t,J=7.5Hz,1H)、4.46(br s,2H)、3.95(m,2H)、3.75(tr,J=6.0Hz,2H)、3.47(m,4H)、2.34(m,2H)。13C NMR(100MHz,CD3OD)δC170.9、155.4、142.7、133.7、131.2、129.7、129.3、128.8、127.6、121.2、119.0、115.3、55.2、54.9、53.3、44.5、40.2、24.0。HRMS[+スキャン]:計算値m/z C18H22N3O3S 360.1382;実測値360.1386。
【0255】
化合物15bの合成
DMF(3mL)中の化合物14b(70mg、195μmol、1.0当量)及びプロパルギルアミン(11.2mg、200μmol、13.1μL、1.0当量)の混合物に、TEA(75.5mg、74.6μmol、104μL、4.0当量)を、25℃、N2下で添加した。混合物に、DMF(238mg、370μmol、1.9当量)中の50%T3Pを添加し、25℃で16時間撹拌した。溶媒を真空内で除去し、表題の化合物をカラム(DCMから、9:1のDCM:MeOHまでの勾配)上で精製した。残留DMFを除去するため、化合物をDCM(10mL)中に溶解し、H2O(10mL)及び1%水性NaOH溶液(10mL)で洗浄した。有機相を無水MgSO4で乾燥させ、溶媒を真空内で除去して、15b(26mg、66μmol、34%収量、4:1の比率)を得た。
【0256】
1H NMR(400MHz,CDCl3,主ジアステレオマーについて報告):δ10.42(br s,1H)、8.35(d,J=8.9Hz,1H)、7.36~7.41(m,2H)、7.26(m,1H)、7.11(m,1H)、7.06(m,1H)、6.87~6.97(m,2H)、6.49(br s,1H)、4.16(dd,J=5.2,2.5Hz,2H)、3.59~3.71(m,6H)、2.75(br s,2H)、2.65(t,J=5.5Hz,2H)、2.27(t,J=2.5Hz,1H)、1.96(br s,2H)。13C NMR(100MHz,CDCl3)δC 169.4、155.4、141.5、140.0、132.5、128.4、126.8、125.5、122.7、121.1、120.9、118.9、79.2、71.8、57.4、55.0、46.0、29.6。HRMS[+スキャン]:計算値m/z C36H52N9O7S 397.1698;実測値397.1716。
【0257】
TDB-deg(化合物16b)の合成
化合物15b(9.9mg、25μmol、1.0当量)を、H2O(1.7mL)及びtBuOH(0.8mL)の混合物中に溶解した。水性CuSO4溶液(250μL、100mM、25μmol、1.0当量)を添加し、その後、水性NaAsc溶液(1.3mL、100mM、130μmol、5.2当量)を添加した。得られた濁った黄色の混合物を、アルゴン雰囲気下に置いた。アジド-イミダゾール3a(3.8mL、10mM、38μmol、1.5当量)の水性溶液を次いで添加した。反応物を室温で1時間撹拌し、その後、この反応混合物は澄明な黄色に変化した。反応をEDTA二ナトリウム二水和物(9.3mg、25μmol、1当量)でクエンチし、有機溶媒を真空内で除去し、そしてHPLCを介して混合物を精製した。生成物を含有する画分を凍結乾燥し、得られたTDB-deg(15b)を黄色から茶色の油状の固体(10.2mg、14μmol、54%収量)として得た。
【0258】
HRMS[+スキャン]:計算値m/z C36H52N9O7S 754.3710;実測値754.3698。
【0259】
クロラムフェニコール分解剤の合成
【化12】
スキーム6:クロラムフェニコール-PEG-イミダゾール分解剤の合成
【0260】
クロラムフェニコール-6PEG-イミダゾール分解剤(18a)の合成
プロピオール酸(1.1mmol)をDMF(20mL)中に不活性条件下で溶解し、0℃まで冷却した。HATU(2.0mmol)及びDIPEA(2.0mmol)を添加し、反応混合物を0℃で30分間撹拌した。(1R,2R)-(-)-2-アミノ-1-(4-ニトロフェニル)-1,3-プロパンジオール(1.0mmol)を添加し、反応混合物を室温で24時間撹拌した。濾過した後、粗混合物を銅クリック反応に直接使用した。アジド-イミダゾール3a(1.0mmol)、CuSO4(5mol%)、アスコルビン酸ナトリウム(0.2mmol)を添加し、反応混合物を室温でさらに24時間撹拌した。トルエンを添加した後、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物を、prep-HPLCを介して精製した。収量:10%(黄色の油)。
【0261】
1H NMR(400MHz,MeOD)δ8.29(s,1H)、8.14(d,J=8.8Hz,2H)、7.79(s,1H)、7.67(d,J=8.7Hz,2H)、7.44(s,1H)、7.22(s,1H)、5.23(d,J=2.6Hz,1H)、4.61~4.56(m,2H)、4.34(s,1H)、4.22(t,J=4.9Hz,2H)、3.89~3.82(m,2H)、3.79~3.68(m,2H)、3.62~3.50(m,18H)。MS:C27H39N7O10のm/z:621.3。
【0262】
クロラムフェニコール-2PEG-イミダゾール分解剤(18b)の合成
プロピオール酸(1.1mmol)をDMF(20mL)中に不活性条件下で溶解し、0℃まで冷却した。HATU(2.0mmol)及びDIPEA(2.0mmol)を添加し、反応混合物を0℃で30分間撹拌した。(1R,2R)-(-)-2-アミノ-1-(4-ニトロフェニル)-1,3-プロパンジオール(1.0mmol)を添加し、反応混合物を室温で24時間撹拌した。濾過した後、粗混合物を銅クリック反応に直接使用した。アジド-イミダゾール3c(1.0mmol)、CuSO4(5mol%)、アスコルビン酸ナトリウム(0.2mmol)を添加し、反応混合物を室温でさらに24時間撹拌した。トルエンを添加した後、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物を、prep-HPLCを介して精製した。収量:10%(白色の固体)。
【0263】
1H NMR(400MHz,MeOD)δ8.19(s,1H)、8.16(d,J=8.8Hz,2H)、7.69(d,J=8.6Hz,2H)、7.55(s,1H)、7.00(s,1H)、6.88(s,1H)、5.25(d,J=2.8Hz,1H)、4.60(dd,J=5.5,4.5Hz,2H)、4.38(ddd,J=7.0,5.9,2.9Hz,1H)、4.14(dd,J=5.5,4.4Hz,2H)、3.89(dd,J=11.0,7.0Hz,1H)、3.84(t,J=5.1Hz,2H)、3.75(dd,J=10.9,5.9Hz,1H)、3.71(t,J=4.9Hz,2H)。MS:C19H23N7O6のm/z:445.2。
【0264】
クロラムフェニコール-エチル-イミダゾール分解剤(18c)の合成
プロピオール酸(1.1mmol)をDMF(20mL)中に不活性条件下で溶解し、0℃まで冷却した。HATU(2.0mmol)及びDIPEA(2.0mmol)を添加し、反応混合物を0℃で30分間撹拌した。(1R,2R)-(-)-2-アミノ-1-(4-ニトロフェニル)-1,3-プロパンジオール(1.0mmol)を添加し、反応混合物を室温で24時間撹拌した。濾過した後、粗混合物を銅クリック反応に直接使用した。アジド-イミダゾール4(1.0mmol)、CuSO4(5mol%)、アスコルビン酸ナトリウム(0.2mmol)を添加し、反応混合物を室温でさらに24時間撹拌した。トルエンを添加した後、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物を、prep-HPLCを介して精製した。収量:12%(白色の固体)。
【0265】
1H NMR(400MHz,MeOD)δ8.14(d,J=8.8Hz,2H)、8.03(s,1H)、7.64(d,J=8.3Hz,2H)、7.43(s,1H)、6.97(s,1H)、6.93(s,1H)、5.21(d,J=2.7Hz,1H)、4.82(dd,J=6.8,5.0Hz,2H)、4.58(dd,J=6.7,4.9Hz,2H)、4.31(ddd,J=7.2,5.9,2.8Hz,1H)、3.84(dd,J=10.9,7.2Hz,1H)、3.69(dd,J=10.9,5.9Hz,1H)。MS:C17H19N7O5のm/z:401,1。
【0266】
G-四重鎖の標的化及びRNAの分解
公知のG4バインダーであるピリドスタチンを、異なる長さのアジド-イミダゾール(9A、9B)と繋ぐことによって、2つの分解剤を、RNA G-四重鎖(rG4)を標的化するように合理的に設計した。2つの構成要素を繋ぐために使用した銅誘導型のアジド-アルキン環付加(CuAAC、copper-induced azide-alkyne cycloaddition)は大きな基質アレイに適用することができ、アミド及び生物学的システムで良く忍容される部分の生物学的等価体である、トリアゾールを生じさせる。本発明者らは、同一の戦略を利用して、RNA G-四重鎖に選択的に結合しDNA G-四重鎖には結合しないことが分かっているピリドスタチン誘導体であるCBX-PDSを合成した。2つのrG4分解剤及び結合コントロールを、インビトロ及び細胞システムで試験した。
【0267】
rG4オリゴマーのインビトロでの分解
本発明者らの分解剤がG4構造を選択的に分解できることを示すために、本発明者らは、異なるオリゴマー及びカチオンの存在下でのそれらの活性を調べた。本発明者らは、本発明者らの分解剤を、NRAS mRNAの5’UTR内のrG4構造に対応するRNAオリゴマー又はrG4を形成できなかったその変異型のいずれかとインキュベートした。さらに、本発明者らは、K
+(rG4形成のプロモーター)及びLi
+(rG4形成を阻害することが分かっている)の存在下で本発明者らの分子を試験した。rG4コンピテントオリゴマーでは、分解はK
+の存在下でのみ見られ、Li
+の存在下では見られない(
図2a)。このことは、これら分子によって標的化されるGに富んだ配列をオリゴマーが有するだけでは不十分であることを示唆している。オリゴマーは、分解されるには、G-四重鎖を形成していなくてはならない。際立ったことに、K
+又はLi
+のいずれかを伴う破壊されたrG4インコンピテントNRAS配列では分解は見られず、このことは同様に、これらの分解剤がrG4構造に対して特異的に作用することを示している(
図2b)。さらに、rG4バインダー部分であるPDSを有するが分解剤は有していないコントロール分子であるCBX-PDSでは分解は見られず、このことは、分解を達成するには結合のみでは不十分であり、分解剤部分が必要であることを示している(
図2a、
図2b)。興味深いことに、本発明者らは、6つのPEGサブユニットからなるリンカーを有する分解剤であるPDS-deg6(9A)が、4つのPEGサブユニットを有するPDS-deg4(9B)よりも速くRNAを分解していることを観察した。このことは、リンカーが長いほど、届く範囲が広いことの結果であり得る。総合すると、これらの実験は、本発明者らの分解剤がrG4種を特異的に切断するがフォールディングしていないRNA領域は切断しないことを示している。
【0268】
SARS-CoV-2ゲノム材料のインビトロでの分解
rG4分解剤がSARS-CoV-2のゲノムを分解できることを証明し、分解のメカニズムを知るために、本発明者らは、SARS-CoV-2に感染したVERO細胞からウイルスRNAを抽出し、これをPDS-deg6(9A)で処理し、次いで、直接的なRNAシーケンシングを介してこれを分析した。SARS-CoV-2ゲノムはいくつかの推定上のrG4部位を有しており(Zhao et al., 2021)、きつくパッキングされているためにそのほとんどがrG4部位に近接していることが示された(Ziv, et al., 2020)ため、本発明者らは、本発明者らの分解剤が広範なダメージを誘発することを期待した。実際、本発明者らは、ゲノムの多くの領域にわたって実質的な分解を観察し、このことは、本発明者らの分解剤がSARS-CoV-2の遺伝物質にダメージを与える点で強力であることを示している(
図2c)。この現象は、本発明者らの分解剤が細胞内のウイルスRNAを分解し、それゆえ不活化し得ることを示唆している。
【0269】
インビトロでのrG4分解剤の抗ウイルス活性
インビトロでのG4分解剤の抗ウイルス活性を試験するために、感染の1時間前に、細胞を、0.5μM、5μM、及び50μMのG4分解剤(PDS-deg6(9A)、PDS-deg4(9B)、及び分解剤を伴わないコントロール分子であるPDS-Alk(8))並びにコントロールとしての5μMのクロロキンとインキュベートした(
図3a及び
図3b)。ウイルス増殖の阻害を、感染の24時間後に上清及び細胞の両方を採取することによって測定した。ウイルス増殖を、プラークアッセイ(上清中)及びPCR(細胞中)でウイルス負荷を測定することによって評価した。G4分解剤の濃度を上昇させた(0.05μM~50μMの範囲)、24時間のインキュベーションの後の細胞の生存率を、従来の細胞生存率キット(例えば、CellTiter Blueアッセイ)を製造者のプロトコルに従って使用して評価した。
【0270】
本発明者らは、G4分解剤が5μM及び50μMでウイルス増殖を成功裏に阻害することを観察した(
図3)。PCRの結果は、PDS-deg4がウイルス複製を阻害しないと考えられる一方で、PDS-deg6(9A)はDMSOコントロールと比較して5μMでウイルス複製の70%を阻害したことを示した(
図3b)。重要なことに、いずれの化合物も、50μMまで細胞毒性を示さなかった(
図3c)。
【0271】
インビボでのrG4分解剤の抗ウイルス活性
インビボでのG4分解剤の抗ウイルス活性を評価するために、トランスジェニックK18hACE2マウス(hACE2タンパク質を発現している)に25mg/kgのPDS-deg4(9B)及びPDS-deg6(9A)を鼻腔内投与し、その40分後に感染させ、感染の3時間及び18時間後に再び投与した(
図4)。マウスをSARS-CoV-2に鼻腔内感染させ(0日目に、50μlのPBS中に2.5~5×10
4PFU/マウスで)、体重、罹患率、及び死亡率(死亡していることが発見された又は死亡の直前に安楽死させた)、並びに感染の臨床的兆候について1日に1回モニタリングした。5日目に、全てのマウスを屠殺し、プラークアッセイによるウイルス負荷の定量のために左肺を回収した。組織病理学的分析のために、右肺、心臓、肝臓、腎臓、及び脾臓を採取した。
【0272】
結果は、25mg/kgのPDS-deg6(9A)の投与が毒性であることを示し、これらの処理されたマウスは0日目を屠殺しなければならなかった。器官を組織病理学的分析のために回収した。PDS-deg4(9B)を投与されたマウスは、感染後の初日に10%の体重減少を示した(
図4a)。しかし、体重は1日目から3日目の間で安定しており、その後、媒体コントロールと同じ速度で再び減少した。PDS-deg4(9B)で処理した動物は、肺ウイルス負荷の有意な減少を示した(
図4b)。
【0273】
この試験は、G4分解剤の投与によって、SARS-CoV-2に感染したk18hACE2マウスの肺におけるウイルス負荷が減少することを示した。
【0274】
シュードノットの標的化及びRNAの分解
非共有結合分解剤分子であるMTDB-deg(16a)を、公知のシュードノットバインダーであるMTDBをアジド-イミダゾール3aと結合することによって、RNAシュードノットを標的化するように合理的に設計した(
図5a)。MTDBはエチルエステル部分を有しているが、これを、安定性を増大させるため、及び分解剤の結合のためのハンドルとして使用するために、アミドに交換した。本発明者らはアジドイミダゾール3aを使用したが、これは、6つのPEGサブユニットからなるリンカーを有しており、また、アルキニルでタグ付けされたRNAのRNA分解について、そのより短い対応物よりも有効であることを本発明者らが以前に発見している(Mikutis et al., 2020)。CuAACは、頑健(robust)で、実施が容易で、モジュール性が高く、そして本発明者らが結合ステップを変えることなく2つの断片の構造を変化させることが可能であるため、本発明者らは、これをバインダー及び分解剤断片を結合するための反応として選択した。
【0275】
3ステム型のコロナウイルスシュードノットの選択的分解
本発明者らの戦略を検証するために、本発明者らは、コロナウイルスシュードノットに対応しており、そのためそれを形成することが予想される配列を有するRNA 69-erに対して、本発明者らのシュードノット分解剤を試験した。本発明者らは、この69-erを、MTDB-deg(16a)、或いは、2つのコントロール分子の一方、すなわち、分解が不可能な親バインダー分子であるMTDB、又は、MTDBに密に関連しているがシュードノットに対する結合親和性がより低い、2-(4-(チオフェン-3-イルメチル)-[1,4]ジアゼパン-1-カルボニル]-アミノ)-安息香酸エチルエステル(TDB)から誘導された分解剤であるTDB-deg(16b)とインキュベートした(
図5b)(Park et al., 2011)。MTDB-deg(16a)と3時間インキュベートした後、RNAシュードノットは有意に分解され、未処理試料と比較してちょうど23%がインタクトなまま残り、一方、TDB-deg(16b)では不十分な分解が見られ、MTDBでは分解は見られなかった(
図5c、
図5d)。これら分子がシュードノットを特異的に結合し分解することを説明するために、本発明者らは、シュードノットに類似しているが第3のステムが大きく破壊されておりシュードノットの適正な形成が阻害されているオリゴを用いて、同一の実験を行った。予想した通り、いずれの分子も、オリゴ安定性に影響を与えなかった(
図5e)。したがって、MTDB-deg(16a)は、シュードノットを効率的かつ選択的に結合し、分解することが示された。
【0276】
MTDB-deg(16a)が機能的であり、完全長コロナウイルスRNAを切断し得ることを示すために、本発明者らは、MTDB-deg(16a)並びにコントロールのMTDB及びTDB-deg(16b)を、SARS-CoV-2から抽出されたRNAとインキュベートした。ウイルスRNAを次いで、アガロースゲル上で分析した。本発明者らは、MTDB-deg(16a)に対応するレーンでのみ分解を観察し(
図5f)、このことは、MTDB-deg(16a)がネイティブなコロナウイルスシュードノットを実際に分解する一方で、2つのコントロール分子は分解しないことをさらに裏付けており、このアプローチの特異性を際立たせている。
【0277】
MTDB-degによるコロナウイルスシュードノット分解の特異性
MTDB-deg(16a)がウイルスRNAを切断することをさらに証明するため、及び切断が生じている箇所のさらに精密な写真を得るために、本発明者らは、直接的なRNAナノポアシーケンシングによって、切断されたゲノムRNA(gRNA、genomic RNA)を分析した。予想した通り、シュードノット周辺の領域は最も影響を受けた(
図6a)。興味深いことに、シュードノット隣接部は、シュードノット自体よりも分解された。実際、SARS-Cov-2 RNAのインタラクトームでの研究では、フレームシフトしているエレメントの周辺の領域が、隣接しているORF1a及び特にORF1bと、広範囲にわたる短距離及び長距離の相互作用を形成することが明らかになった。これらのエレメントがシュードノットに近いことで、MTDB-deg(16a)がこれらを効率的に切断することが可能となる可能性が高い(
図6a)(Ziv, et al., 2020)。興味深いことに、分子による影響を受けた唯一の他の構造的エレメントはS遺伝子であり、これは、ORF1bと長距離の相互作用を形成することが示されており(Ziv, et al., 2020)、したがって、分解剤の影響の届く範囲内にあると予想される(
図6b)。際立ったことに、いずれの他のサブゲノム領域も影響を受けず、このことは、MTDB-deg(16a)の特異性を強力に証明している(
図7)。上記の結果は、MTDB-deg(16a)がSARS-Cov-2シュードノット及びその直接的なRNA-RNAインタラクトームの完全に機能的かつ選択的な分解剤であるという原理を強力に証明している(Ziv, et al., 2020)。
【0278】
SARS-CoV-2感染細胞におけるシュードノット分解の効率及び特異性
インビトロでのコロナウイルスシュードノットに対するMTDB-deg(16a)の効率を実証したことを受けて、本発明者らは、これが感染細胞内のSARS-CoV-2のゲノムを分解することができるかどうか、ひいてはウイルス複製を防ぐことができるかどうかを調べた。本発明者らはインビトロでの薬物アッセイを行い、このアッセイにおいて、本発明者らは、Vero CCL-81細胞でのSARS-CoV-2の複製を測定した。本発明者らは、低マイクロモル濃度のMTDB-deg(16a)が顕著な抗ウイルス効果を示したことを観察し(
図8a~
図8c)、感染前(
図8a、
図9a)又は感染後(
図8b、
図9b)に処理した細胞で、コロナウイルスRNAの有意な低減が見られた。これらの結果は、プラークアッセイの結果によって裏付けられた(
図8d)。重要なことに、コントロール分子MTDB及びTDB-deg(16b)は、MTDBがSARS-CoV-2のフレームシフトを乱すことが知られているにもかかわらず(Kelly et al., 2020)、抗ウイルス効果を示さなかった。さらに、本発明者らは、いずれの化合物も宿主細胞に対して細胞毒性ではなかったことを見出し、このことは、ウイルス複製に対する観察された効果が化合物の特異的な抗ウイルス活性の結果であったことを示している(
図8e)。不思議なことに、分解剤は、6μMよりも高い濃度では活性が下がった(
図9c)が、これらの読み取りの正当性を示し得るコロイド凝集は動的光散乱スクリーンでは見られなかった。さらに、ウイルスが24時間の薬物曝露から生存する能力は、MTDB-deg(16a)で処理した試料では低下したが、コントロール分子MTDB及びTDB-deg(16b)で処理した試料では低下しなかった(
図8f、
図10a)。最後に、セルフリーウイルスをMTDB-deg(16a)、MTDB、又はTDB-deg(16b)とインキュベートした場合に、殺ウイルス効果は見られず、このことは、MTDB-deg(16a)の抗ウイルス活性が、宿主細胞におけるウイルス複製の直接的な阻害によって媒介されることを示唆している(
図10b)。全体として、抗ウイルス薬物アッセイは、MTDB分解剤(16a)がSARS-CoV-2に対する効率的な抗ウイルス薬であること、及びコロナウイルスの3つのステムを有するシュードノットに対して特異的であり、不可逆的な影響を有することを示している。
【0279】
インビボでのシュードノット分解剤の抗ウイルス活性
感染のSARS-CoV-2マウスモデル(トランスジェニックK18-hACE2マウス)を使用して、MTDB-deg 16aのインビボでの抗ウイルス活性を判定した(
図12a)。MTDB-deg 16a(25mg/kg)を投与された動物は、プラークアッセイによると、媒体コントロール群と比較して肺ウイルス負荷の有意な低減を示した(
図12b)。さらに、本発明者らは、感染後3日目又は6日目にK18-hACE2トランスジェニックマウスの肺から抽出したタンパク質を使用して、MTDB-deg 16a処理又は媒体処理のインビボでの抗ウイルス能力を調べた。心強いことに、本発明者らは、感染の両時点で、MTDB-deg 16aで処理したコホートが、SARS-CoV-2の感染及び複製の重要なバイオマーカーであるp38のリン酸化型レベルの大きな低減を示したことを観察した(
図12c)。
【0280】
細菌リボソームの標的化
公知のリボソームRNAバインダーであるクロラムフェニコールを、異なる長さのアジド-イミダゾール(18a、18b、18c)と繋ぐことによって、3つの分解剤を、細菌リボソームを標的化するように合理的に設計した。HATU及びDIPEAを使用してプロパルギル酸を(1R,2R)-(-)-2-アミノ-1-(4-ニトロフェニル)-1,3-プロパンジオールとペプチド結合させること、及びその後の、銅クリック化学を使用する結合ステップによって、クロラムフェニコールバインダー部位を生じさせた。2つの構成要素を繋ぐために使用した銅誘導型のアジド-アルキン環付加(CuAAC)は大きな基質アレイに適用することができ、アミド及び生物学的システムで良く忍容される部分の生物学的等価体である、トリアゾールを生じさせる。3つのリボソーム分解剤及び結合コントロールを、インビトロ及び細胞システムで試験した。
【0281】
大腸菌リボザイムのインビトロでの分解
大腸菌リボソームを標的化して、分解活性をインビトロでのアッセイで測定した。200μMのリボザイムを、15mM~0.47mMの範囲の異なる濃度の分解剤と37℃で18時間インキュベートした。アガロースゲル分析によって評価を行った。
【0282】
最良の結果はPEG-2リンカー(18b)を使用して得られ、この場合、リボソーム分解は15mMの濃度で見られた(
図11)。
【0283】
追加の実施例
材料及び方法
RT-qPCRによるウイルス負荷の定量
ウイルス培養に由来する細胞をRLTバッファーに再懸濁し、RNeasy Mini Kitを使用して抽出した。500ngのRNAを、SuperScript(商標)VILO(商標)Master Mixを使用してcDNAに変換した。ゲノム及びサブゲノムSARS-CoV-2転写産物のレベルを、PowerUp(商標)SYBR(商標)Green Master Mix(Applied Biosciences社製)を製造者の指示に従って使用して、QuantStudio(商標)5リアルタイムPCR機器(Applied Biosystems社製)で分析した。鋳型コントロールを含む全ての試料を3セットアッセイした。標的遺伝子発現の相対的定量を、比較サイクル閾値(C
T、cycle threshold)法を使用して行った。プライマー配列を表1に列挙する。
【表3】
【0284】
結合研究のためのオリゴヌクレオチドの調製
結合研究のためのオリゴヌクレオチドを調製するために、オリゴヌクレオチドを適切なバッファーに100nMの最終濃度まで溶解し、次いで、振とうしながら95℃で5分間インキュベートした。試料を室温で少なくとも1時間冷却し、その後、さらに希釈/処理を行った。
【0285】
蛍光クエンチングアッセイ
NRAS mRNAの5’UTR上で見られるG4構造に対応する、Cy5でタグ付けされたオリゴヌクレオチド(最終濃度50nM)を、KCl(100mM)及びMgCl2(10mM)を補充した20mMのHEPESバッファー、pH7.4に溶解し、96ウェルプレートに播種した。オリゴヌクレオチドを、5nM~10μMの範囲の様々な濃度の、示されているPDSファミリーリガンド又は水媒体コントロールで処理し、その後、4℃で30分間インキュベートした。Cy5フルオロフォアに対応する蛍光を次いで、プレートリーダー(BMG社製のCLARIOstar)を使用して25.0℃で、各オリゴヌクレオチド-低分子/媒体コントロールの組み合わせについて測定した。全ての分子で、希釈比1:1の12の連続希釈物を使用し、試験した最大濃度は10μMであった。蛍光を媒体コントロールに対して正規化し、各分子の結合曲線を、ヒル傾斜の係数を1に設定することによって、シグモイダルフィットを介して得た。
【0286】
マイクロスケール熱泳動(MST)アッセイ
FAMでタグ付けされたオリゴヌクレオチド(最終濃度50nM)を、KCl(100mM)及びEDTA(10mM)を補充した20mMのHEPESバッファー、pH7.4に溶解した。オリゴヌクレオチド溶液を次いで、様々な濃度の低分子で処理し、製造者の指示に従ってMSTを介して分析した(NanoTemper Monolith NT.115)。これらのMST測定では、以下のプログラムを使用した:5秒のレーザーオフ、30秒のレーザーオン、5秒のレーザーオフ;20%LED(青色)パワー、30%MSTパワー;測定は25.0℃で行った。MTDB-Deg、TDB-Deg、及びクリック分解剤1では、希釈比5:3の12の連続希釈物を使用し、試験した最大濃度は8mMであった。MTDBでは、希釈比3:1の12の連続希釈物を使用し、試験した最大濃度は250μMであった。各分子の結合曲線を、ヒル傾斜の係数を1に設定することによって、シグモイダルフィットを介して得た。
【表4】
【0287】
MTDB-degによるシュードノットの分解
この実施例は、SARS-CoV-2の感染モデルにおける、MTDB-degとシュードノットとの間の相互作用を調べる。SARS-CoV-2に感染したベロ細胞を、MTDB-deg又は媒体コントロールのいずれかで処理し、その後、RNA抽出及びqPCR分析をSARS-CoV-2ゲノムの14の遺伝子座で行って、広範なゲノムカバレッジを得、どのセグメントが最も影響を受けたかを明らかにした。
【0288】
結果を
図13に示す。これはインビトロでの実験と大部分が合致しており、このことは、MTDB-degがシュードノット区域の隣接部に影響するが完全長のゲノム又はサブゲノムSARS-CoV-2 RNAのいかなる他の領域にも影響しないことを示している。このことは、MTDB-degがSARS-CoV-2シュードノット及びその直接的なRNA-RNAインタラクトームの機能的かつ選択的な分解剤であることを示している。
【0289】
結合親和性の判定
2つの化合物シリーズを調製し、次に、結合の親和性及び選択性に対する、分解剤での官能基化の影響を試験した。PDSは公知の蛍光クエンチャーであり、したがって、蛍光クエンチングアッセイを使用して、この足場に由来する化合物を評価した(Di Antonio et al., Angew. Chem. Int. Edit., 2012, Vol 51, pp. 11073-11078)。
【0290】
PDS及びその誘導体を、良く確立されたG4モデルであるNRASの5’UTRにおけるG-四重鎖に対応する、Cy5で官能基化されたオリゴマーとインキュベートした。蛍光クエンチングは近位で誘導されるため、Cy5に対応するシグナルはPDSが結合するとクエンチされる。このアッセイに基づいて、本発明者らは、親化合物PDSが、51nMのEC
50で(
図14a)、親化合物と比較してわずかに低い親和性を有するPDS誘導体と結合することを見出した。これは、誘導体化されていないPDSが、誘導体化されている化合物ではトリアゾールで置換されているピリジン核上に、追加のアミン基を有しているためである可能性が高い。この正に帯電したアミン基は、負に帯電したリン酸骨格とさらなる相互作用を形成し得る。
【0291】
MTDB及び由来するリガンドは蛍光をクエンチさせず、したがって、マイクロスケール熱泳動(MST)を利用して、このRNAバインダーファミリーの結合親和性を評価した。MSTワークフローでは、コロナウイルスシュードノットに対応する、FAMで官能基化されたオリゴマーを、バインダーの1つとインキュベートし、結合したオリゴマーの蛍光は、非結合オリゴマーと比較して異なる温度依存性を示す。
【0292】
MTDBの結合選択性を調べるために、シュードノットに加えて、破壊されたシュードノットに対応するオリゴヌクレオチドでアッセイを行った。破壊されたシュードノットは、そのステムの1つが、長さが同一のランダムな配列に変更されており、したがって、完全なシュードノット構造をもはや形成することができない。
【0293】
MTDBは、MSTを使用するK
Dの決定には十分に可溶性ではないことが分かったが、曲線の傾向は、187.5μM以上の濃度で顕著な結合を示した(
図14b)。変異した(破壊された)シュードノットでは十分な結合は見られなかった(
図14c)。試験した他の2つの分子であるMTDB-deg及びTDB-degは、水性培地にさらに可溶性であることが分かり、したがって、29μM~8mMの範囲の濃度を試験した。
【0294】
MSTアプローチを使用して、MTDB-deg及びTDB-degがそれぞれ1.86mM及び2.88mMのK
D値を有することが分かった(
図14b)。破壊されたシュードノットで行った場合、K
D値はそれぞれ5.13mM及び6.91mMに低下した(
図14c)。このことは、バインダー分解剤分子が選択的ではあるが弱いバインダーであることを示している。MTDBと同様に、MTDB-degの結合曲線の形状は、134μMを上回る濃度で十分な結合を示し、このことは、分解剤での官能基化がこの分子の結合親和性を低下させなかったことを示している。
【0295】
分解剤-リンカー構成要素3a(クリック分解剤1)を、シュードノットオリゴヌクレオチドへの結合についても試験した。試験した濃度では、結合はK
D値を得るには弱すぎ、このことは、この分子が、MTDB又はTDBに由来する分子よりもはるかに質の悪いバインダーであることを示唆している(
図14b、
図14c)。
【0296】
参考文献
多くの刊行物が、本発明及び本発明が属する分野の先行技術をより完全に記載及び開示するために、上記で引用されている。これらの参考文献の完全な引用を以下に示す。これらの参考文献の各々の全体が本明細書に組み込まれる。
1. Bobbin, et al., Annual Review of Pharmacology and Toxicology, 2016, Vol. 56, pp. 103-122
2. Cox, et al., Science, 2017, Vol. 358, pp. 1019-1027
3. Di Antonio et al., Angew. Chem. Int. Edit., 2012, Vol 51, pp. 11073-11078
4. Gasiunas, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 2012, Vol. 109, E2579-E2586
5. Jinek, et al., Science, 2012, Vol. 337, pp. 816-821
6. Kelly et al., J. Biol. Chem., 2020, Vol. 295, pp. 10741-10748
7. Li. Bioinformatics, 2018, Vol. 34, pp. 3094-3100
8. Mikutis et al., ACS Cent. Sci., 2020, Vol. 6, pp. 2196-2208
9. Park et al., J. Am. Chem. Soc., 2011, Vol. 133, pp. 10094-10100
10. Santos et al., Pharmaceuticals, 2021, Vol. 14, No. 769
11. Tzelepis, et al., Cell Reports, 2016, Vol. 17, pp. 1193-1205
12. Zamore, et al., Cell, 2000, Vol. 101, pp. 25-33
13. Zhao et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2021, 60 (1), 432-438
14. Ziv, et al., "Mol. Cell., 2020, Vol. 80, pp. 1067-1077
【配列表】
【国際調査報告】