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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】野菜サイドストリームの価値化
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20241024BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241024BHJP
   A23B 7/10 20060101ALI20241024BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20241024BHJP
   A23K 10/10 20160101ALI20241024BHJP
   A23K 10/37 20160101ALI20241024BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L33/10
A23B7/10 A
A23B7/10 Z
A23L23/00
A23K10/10
A23K10/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525383
(86)(22)【出願日】2022-10-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2022080007
(87)【国際公開番号】W WO2023073061
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】21205110.6
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520498620
【氏名又は名称】ウニフェルシテイト・ファン・アムステルダム
【氏名又は名称原語表記】Universiteit van Amsterdam
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100221523
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(72)【発明者】
【氏名】フーヘンホルツ,イェルン
【テーマコード(参考)】
2B150
4B016
4B018
4B036
4B169
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AB20
2B150AC06
2B150AD02
2B150AD07
2B150AD13
2B150AE01
2B150AE12
2B150AE13
2B150BE04
2B150CA40
2B150DE03
4B016LG05
4B016LG10
4B016LG11
4B016LK18
4B016LP13
4B018MD53
4B018MD86
4B018MD91
4B018MF13
4B036LC01
4B036LF01
4B036LF03
4B036LH29
4B036LH47
4B036LK01
4B036LP16
4B169DA01
4B169DA05
4B169DB04
4B169HA01
4B169HA07
4B169HA09
(57)【要約】
本発明は、野菜のサイドストリームを価値化する方法に関する。前記方法は、(a)野菜を、Lactobacillus reuteriを含む組成物と混合すること;(b)前記混合物を発酵させ、それにより野菜ペーストを得ることを含む。発酵はたった24~44時間であり、水、熱または栄養分を加える必要はない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜を発酵させる方法であって、
(a)野菜を供給すること;
(b)(a)の野菜を、ラクトバチルス・ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)を含む組成物と混合すること;
(c)(b)で得た混合物を24~44時間発酵させ、それによって野菜のペーストを得ること;
を含む方法(ここで、水、栄養分、熱または酸素を加えずに前記混合物を発酵させる)。
【請求項2】
野菜が生野菜である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
野菜が廃棄された野菜である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
発酵中の温度が20℃~30℃の範囲内である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
野菜が、トマト、ピーマン、ブロッコリー若しくはホワイトキャベツ、またはこれらの混合物である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
野菜ペーストがペースト1L当たり1~8μgのビタミンB12を含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
野菜ペーストを粉末状または液状に成形することをさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の方法によって得られうる野菜ペースト。
【請求項9】
1~8μg/LのビタミンB12、2~20g/Lの乳酸、1~5g/Lの酢酸及び0.2g/L未満のプロピオン酸を含む、請求項8に記載の野菜ペースト。
【請求項10】
1mMから50mMのロイテリンを含む、請求項8または9に記載の野菜ペースト。
【請求項11】
請求項8~10に記載の野菜ペーストを成形することで得られる粉末または液体。
【請求項12】
食品または飼料製品における、請求項9~11のいずれかに記載の野菜ペースト、粉末または液体の使用。
【請求項13】
食品が野菜製品である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
スープ、ソース、シチュー、またはスプレッドにおける、請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
食品または飼料製品の風味、栄養価または長期保存性を改良する方法における、請求項9~11のいずれかに記載の野菜ペースト、粉末または液体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フードサイドストリームを価値化する方法及びフードサイドストリームにおいて生産された価値ある製品、特に食品の栄養価、風味または長期保存性を改良するためにラクトバチルス・ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)を用いた、野菜サイドストリームの価値化に関する。
【背景技術】
【0002】
農家または小売業者によって投棄または廃棄される余剰の青果物のように、非消費の食物を指す食糧廃棄物、傷がついた青果物、または購入後に捨てられる食物は、ますます容認されない深刻な問題になりつつある。世界飢餓はいまだに増加している(国際連合 国連食糧農業機関、2011年報告書)中、世界で生産される食品の約3分の1が捨てられている。食糧廃棄物はまた、非常に腐敗しやすく、動物を引き寄せ、そして悪臭公害につながる。
【0003】
食糧は捨てられる代わりに動物飼料として使われてきた。CN104982658に、80~100℃にて3~6時間かけて殺菌し、続いて細菌混合物を用いて50~70時間にわたり発酵させることで、生物学的飼料となる青果廃棄物について記載がある。このようにして、食糧廃棄物中に存在する価値ある化合物は動物のために使われている。
【0004】
食糧廃棄物から価値を引き出す別の方法として、食糧廃棄物を発酵槽内の嫌気性消化にさらすという方法がある。EP1149805には脱水した野菜廃棄物の嫌気性消化について記載がある。嫌気性消化では、バイオガス及び 肥料が産生される。
【0005】
食物を動物飼料、バイオガスまたは肥料に変換することで、食物がただ捨てられるだけの場合よりも、食物からより多くの価値を引き出しているが、依然として食物は、人が消費するためのフードチェーンから失われている。食物をフードチェーン内に保ち、かつ人が消費するために再利用することが望ましいと思われる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(発明の詳細な説明)
本発明は、野菜を発酵させる方法であって、
(a)野菜を供給すること;
(b)(a)の野菜を、ラクトバチルス・ロイテリ菌を含む組成物と混合すること;
(c)(b)で得た混合物を24~44時間発酵させ、それによって野菜のペーストを得ること;
を含む方法(ここで、水、栄養分、熱または酸素を加えずに前記混合物を発酵させる)に関する。
【0007】
前記方法には多くの利点がある。1つ目の利点は、前記方法によって、そうでなければ廃棄され、人が消費できなくなっていたであろう食品の、高価値な利用が可能になるという点であり、つまり、野菜サイドストリームの価値化である。前記方法は環境温度にて行われ得る、つまり、加熱、エアレーション及び野菜サイドストリームの事前の滅菌処理若しくは低温殺菌はしない。さらに別の利点は、前記方法が比較的少額の投資しか必要としない点であり、これは前記方法が、高額な、または高度な設備を必要とせず、廃棄物が出るのと同じ場所で利用できるからである。これはまた、輸送を削減してもよく、現在の廃棄物を専用の場所に輸送する必要がある方法に比べてカーボンフットプリントへの寄与が小さいということを意味する。発酵槽に追加で水、熱エネルギー(熱)を加える必要がないため、本発明に係る方法は時間、費用及びエネルギーを大幅に節約する。本発明はまた、より魅力的な市場及び一次生産者に対する付加価値を創造し、そして同時に、様々な食品の機能性改良が可能になる。
【0008】
本発明に係る方法によって得られた生産物は、風味、栄養価、長期保存性の改良のために、食品の成分を含む食品に使用されてもよい。当業者には周知であるが、本発明に係る方法によって得られた生産物は、飼料原料を含めて、飼料製品を改良するために使用されてもよい。改良は、本発明に係る生産物が何も加えられていない類似食品または飼料製品と常に関連する。
【0009】
本発明の文脈中において、用語「野菜」とは、ナス、ピーマン、ブロッコリー、カリフラワー、チャイブ、ズッキーニ、キュウリ、エンダイブ、ニンニク、ニラ、レタス、トウモロコシ、タマネギ、ジャガイモ、カボチャ、トマトなどの作物を含む。一実施態様において、野菜は、トマト、ピーマン、ブロッコリー、キャベツから選択される。前記植物系材料は、1種の野菜から成っていてもよい(例えば、トマト100%w/w、ブロッコリー100%w/w、ピーマン100%w/w、またはキャベツ100%w/w)。他の実施態様において、前記植物系材料は、異なる野菜を含む、つまり野菜の混合物である。例として、野菜の総重量に基づいて、ピーマン70%w/w及びブロッコリー30%w/wまたはキャベツ30%w/w。他の実施態様において、野菜混合物は、野菜の総重量に基づいて、ピーマン10~40%w/w、ブロッコリー10~40%w/w、トマト10~40%w/w、ホワイトキャベツ10~40%w/wを含む。実際には、正確な野菜の割合はしばしば分からないものであるが、前記方法は、依然として効果的に適用でき、本発明の生産物に至るまでの良好な結果を伴う。
【0010】
前記野菜は、生の、つまり、非加熱で、殺菌処理されず、低温殺菌されず、塩漬けされず、未加工である野菜が好ましい。前処理した、または加工した野菜を、最終産物の品質を損なわずに、本発明に係る方法にて用いることはできるが、前処理は必要ではなく、前記方法を、不必要に複雑化及び高額化する。前記野菜は、好ましくはカットまたはブレンドによって、小さくなるのみである。前記野菜の大きさは、好ましくは0.1~10cm四方、より好ましくは0.1~1.0cm四方、最も好ましくは0.1~0.2cm四方である。
【0011】
野菜は開放型,半開放型,または密閉型容器のいずれに保管されてもよい。光は必要ではない。加圧、酸素添加は必要なく、または酸素から野菜を保護する必要は無い。野菜は腐敗を最小限にするために、好ましくは可能な限り早急に発酵される。
【0012】
本発明に係る方法において、好ましくは、野菜廃棄物、つまり消費できない野菜が用いられる。これには、農家や小売店によって廃棄される野菜、傷がついた野菜が含まれ、廃棄野菜と言及されることもある。このようにして、野菜サイドストリームは、本発明に係る方法を用いて価値化されてもよい。
【0013】
好ましくは、野菜は、腐敗を最小限にするために、可能な限り早急に、例として、保管、廃棄(rejection)、または投棄(abandonment)後から1~7日以内、1~3日以内、48時間以内、30時間以内、24時間以内、18時間以内、または10時間以内に、本発明に係るプロセスにおいて使用される。
【0014】
前記野菜は、44時間以内、好ましくは20~40時間または20~30時間以内、さらに好ましくは24時間または25時間以内に完全発酵を行うことができるラクトバチルス・ロイテリ菌を含む、または、から構成される組成物を除いて、何も添加されることなく、カットまたはブレンドのみの処理でそのまま使用される。混合と発酵は環境温度下で行われる。加熱及び温度コントロールは必要としない。加熱を伴わない環境温度は、その地の気候及び季節に依存すると考えられ、好ましくは18℃~35℃の範囲である。一実施態様では、前記発酵温度は20℃~30℃または20℃~25℃の範囲である。さらに好ましくは、発酵温度は23℃である。発酵は周囲酸素レベルにおいて行われる。酸素の排除または添加は必要としない。
【0015】
発酵中、pHは制御されず、酸(特に乳酸または酢酸)形成の結果として、pHは低下するものである。これらの酸は発酵中に形成され、発酵最終産物中に残存する。前記pHは、発酵の終了に際して、3.5~4.0等のように、3~4の間である。一実施態様では、前記pHはpH3.8まで低下する。典型的には、pH最低値に到達するまで44時間以内、好ましくは20~40時間以内または20~30時間以内、さらに好ましくは、24時間または25時間以内である。本発明のプロセスに依る発酵は、好ましくは開始から24時間以内における、ラクトバチルス・ロイテリ菌CFUの増加及び乳酸、酢酸並びにロイテリンレベルの増加から明らかである。一実施態様では、ラクトバチルス・ロイテリ菌濃度は、24時間以内において、10E8~10E9 CFU/mlである。発酵の終了に際して、乳酸レベルは2~20gr/l、酢酸レベルは1~5gr/l、及びロイテリンレベルは好ましくは1~50mMである。発酵後のビタミンB12レベルは、好ましくは、1ペースト当たり1~8μgであり、例えば1ペースト当たり2~5μgである。好ましくは、プロピオン酸は形成されず、かつプロピオン酸レベルは0.2g/l未満である。グルコース、フルクトース、乳酸、酢酸、プロピオン酸、マンニトールまたはロイテリンレベル等の代謝物レベルは、任意の簡便な方法によって判定されてもよい。一実施態様では、代謝物レベルはHPLCによって判定される。CFUは、好ましくは細菌プレートカウントによって判定される。
【0016】
前記野菜は、好ましくは、ラクトバチルス・ロイテリ菌を含む、または、から構成される組成物と混合される。他の細菌を添加する必要はない。ラクトバチルス・ロイテリ菌のいかなる系統が用いられてもよい。ラクトバチルス・ロイテリ菌は、グリセロール上で発酵させた場合、広域スペクトル抗生ロイテリン(3-ヒドロキシプロピオンアルデヒド)を産生可能であり、ヒトまたは動物の消化器官等の適切な供給源から単離されてもよく、または国際的な微生物系統保存機関、例としてDSMZ(DSMZ、ブラウンシュヴァイク、ドイツ)またはATCC(ATCC、マナサス、ヴァージニア州、アメリカ合衆国)等から入手してもよい。ビタミンB12を産生可能であるラクトバチルス・ロイテリ菌の系統が好ましい。そのようなラクトバチルス・ロイテリ菌の系統は、ビタミンB12の合成に必要となる全ての酵素をコードしている、機能的に活性であるビタミンB12生合成遺伝子クラスターを含む。ビタミンB12産生可能なラクトバチルス・ロイテリ菌の系統は、当技術分野において知られ、例として、Lb.reuteri ATCC 55730、Lb.reuteri ATCC 6475、Lb.reuteri CRL 1098、Lb.reuteri DSM 12246、Lb.reuteri DSM 16143、Lb.reuteri DSM 17938、Lb.reuteri DSM 20016/JCM1112、Lb.reuteri DSM 23877、Lb.reuteri DSM 23878、Lb.reuteri DSM 23879、Lb.reuteri DSM 23880等が挙げられる。
【0017】
ビタミンB12またはコバラミンは、コバルトに結合する基によって異なる、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、メチルコバラミンまたは5’-デオキシアデノシルコバラミン等の、任意のビタミンB12の形態をいう。コバラミン濃度判定のアッセイとして、バイオアッセイ、HPLCまたはLC/MS等が当技術分野において知られている。適切なバイオアッセイの例として、L.delbrueckiiアッセイのように、ビタミンB12フリーの培地において増殖にコバラミンを必要とする微生物の生育が挙げられる。LC/MSを使用する場合、Waters(登録商標)AtlantisTM C18カラムをWaters Micromass(登録商標)ZQTM 4000 シングル四重極型質量分析計に接続して検出するのが好ましい。分析条件は、アセトニトリル/水のバイナリーグラジエントモードで、バッファーまたはイオン対試薬は必要ない(Waters社、ミルフォード、アメリカ合衆国)。
【0018】
前記組成物はラクトバチルス・ロイテリ菌から成る、またはラクトバチルス・ロイテリ菌を含んでもよい。一実施態様では、前記組成物は組成物乾燥重量当たり、90%w/w~99.8%w/wまたは95%w/w~99%w/wのように、少なくとも50%w/w、少なくとも60%w/w、少なくとも70%w/w、少なくとも80%w/w、少なくとも90%w/wまたは少なくとも95%w/wの細菌を含む。前記組成物内の細菌は全てラクトバチルス・ロイテリ菌である。一実施態様では、ラクトバチルス・ロイテリ菌の一系統が使用される。他の実施態様では、ラクトバチルス・ロイテリ菌系統の混合物が使用される。
【0019】
本発明の文脈において、乾燥重量または乾燥物は当技術分野において知られる方法によって判定してもよく、典型的には、例えば代表試料を重量が一定になるまでオーブンで乾燥させ、乾燥の前後で試料重量を比較するなどして、試料中の水分を全てまたは少なくとも98%、少なくとも99%取り除くことを含む。乾燥には数分から数時間、例えば10分から24時間、かかってもよく、乾燥温度、水分含有量、試料サイズに依存する。一実施態様では、1~100mlの試料を、約2~24時間かけて90~105℃にて、従来的なオーブンで重量が一定になるまで乾燥させることで乾燥重量を判定する。湿重量の判定には乾燥を必要とせず、通常はブロスを分離するのみである。
【0020】
一実施態様では、野菜に添加する組成物は、ラクトバチルス・ロイテリ菌モノカルチャー発酵の湿潤バイオマス(またはペレット)である。一実施態様では、前記湿潤バイオマスは、野菜に添加する前に生理食塩水で洗浄した発酵バイオマスである。好ましくは、前記湿潤バイオマスは、生野菜重量当たり0.1%w/w~0.5%w/w、例えば1%w/w~5%w/wまたは3%w/w~5%w/wの濃度で生野菜に添加される。追加の水を添加する必要は無い。
【0021】
ラクトバチルス・ロイテリ菌は、葉酸、ビオチン、リボフラビン並びにビタミンB12のような様々なビタミン、及び乳酸並びに酢酸のような抗菌化合物を作るという利点がある。他の利点としてスケールアップが比較的容易であり、乳酸菌を用いて確実に成し得るという点が挙げられる。この一因として、これらの培養物はエアレーションを必要としないことが挙げられる。
【0022】
本発明に係る方法によって得られる野菜ペーストは、本発明の他の側面である。前記野菜ペーストは非常に良い発酵風味を有する。これは、ラクトバチルス・ロイテリ菌以外に追加の水、栄養分、ハーブ、スパイス若しくは調味料又は他の微生物を添加することなく達成される。前記野菜ペーストは、コバラミン、ロイテリン、乳酸及び酢酸を含むものであり、これらは、野菜ペースト最終産物の栄養価及び抗菌活性を担う。一実施態様では、前記野菜ペーストは、乾燥物含量が少なくとも50%w/wであって、好ましくは、前記野菜ペーストは、乾燥物含量が少なくとも55%w/w、少なくとも60%w/w、少なくとも65%、少なくとも70%w/wまたは少なくとも75%w/wであり、最大で80%w/wであり、例として、乾燥物含量は55%w/w~80%w/w、55%w/w~70%w/wまたは55%w/w~65%w/wである。前記ペーストの乾燥物含量は、上記で記載したように、当技術分野にて知られる方法によって決定されてもよい。
【0023】
前記野菜ペーストはそれ自体として使用されてもよく、または、液体若しくは粉末に成形されてもよい。好ましくは、前記野菜ペーストを乾燥させることで、あらゆる微生物を死滅させることも可能である。噴霧乾燥または凍結乾燥が好ましい乾燥手法である。
【0024】
得られるペースト、粉末、または液体は、食品用途または飼料用途において使用されてもよく、例えば食品成分または飼料成分を含む、食品または飼料製品であり、好ましくは野菜食品に使用されてもよい。
【0025】
適宜粉末または液体に成形後、本発明に係る前記野菜ペーストを使用することは、次の理由から、大きな利点がある:前記野菜ペーストは、風味を付加若しくは改良する、栄養価を高める、ビタミン含量を増大する、または、既存及び新規の食品の長期保存性を高める食品成分として使用されてもよく、または、前記野菜ペーストは非常に良い発酵風味を有し、ビタミンB12が豊富であることから代替肉として使用されてもよい。前記野菜ペーストは、適宜完全にまたは部分的に乾燥後、食品に添加されてもよく、例えば、スープ、ソース、及びスプレッド、特に野菜ブレンドを含む食品などである。適切な濃度は、前記食品用途または飼料用途に依存する。一実施態様では、濃度は、前記食料または飼料の乾燥重量に基づいて、1~10%w/wの間で変化する。一実施態様では、前記ペーストは、野菜の形態ではあるが、出汁と同じく風味の素として使用され、スープ、ソースまたはシチューの素に使用される。当然所望であれば、骨をペーストに添加しても構わない。他の実施態様では、前記野菜ペーストは、野菜製品またはベジタリアン製品等の代替肉のビタミンB12含量を増やすために用いられる。他の実施態様では、前記野菜ペーストは、代替肉中に、または代替肉として使用される。他の実施態様では、前記野菜ペーストは、化学療法を受けている人、高齢者または嗅覚脱失若しくは嗅覚低下を患う人のように、味覚または嗅覚を失った人のために食物の風味を増強する目的で使用される。他の実施態様では、前記ペーストは、食品の風味、ビタミン含量及び長期保存性を同時に増強するために使用される。本発明に係る粉末、ペーストまたは液体の添加によって改質され、ビタミンB12含量、風味または長期保存性が増強された、これらの改質食品または飼料製品もまた本発明の一側面である。
【実施例
【0026】
(代謝物の決定)
グルコース、フルクトース、乳酸、酢酸、プロピオン酸、マンニトールまたはロイテリン等の代謝物レベルはHPLCによって決定される。ビタミンB12の分析(表6)は、LC/MS Waters(登録商標)AtlantisTM C18カラムを、検出のために、Waters Micromass(登録商標)ZQTM 4000 シングル四重極型質量分析計(Waters社、ミルフォード、アメリカ合衆国)に接続して行った。
【0027】
実施例1:ラクトバチルス・ロイテリ菌のラボスケールでの発酵
非加熱でブレンドした(Thermomix TM5,Cnudde BV,オランダ)トマト約30gを、非加熱で培養及び洗浄したラクトバチルス・ロイテリ菌の前培養物1.5mlと共に、23℃または30℃にて、生で(F)または100℃にて10分間低温殺菌前処理をして(S)、発酵させた。結果を表1(コントロール、植菌無し)、表2(30℃)及び表3(23℃)に示し、グルコース及びフルクトースはどちらも同時に変換され、フルクトースはグルコースよりも僅かに変換が早く、生の(非加熱処理の)トマトは低温殺菌したトマトよりも発酵が早く、ラクトバチルス・ロイテリ菌を用いた発酵は23℃よりも30℃においてより早いことを示す。乳酸及び酢酸に加えて、マンニトールも、生産レベルが最大14gr/lの主要発酵産物である。
【0028】
F:生の、野菜は「そのまま」、つまり加熱処理なし、追加の水または栄養分を添加せずに、カットまたはブレンドのみで使用される;S:100℃にて10分間低温殺菌;n.d.未検出。
【表1】

【表2】

【表3】
【0029】
ラクトバチリス・ロイテリ菌による発酵後に通常産生するビタミンは残存し、特に葉酸、ビオチン、リボフラビン及びビタミンB12が残存した。ラクトバチリス・ロイテリ菌による発酵後のトマトペースト中のビタミンB12含量は、ペースト1kg当たり3μgであった。ピーマン及びホワイトキャベツの発酵においても類似する結果が得られた。
【0030】
結論として、ラクトバチリス・ロイテリ菌を用いて(ビタミンB12生産、抗菌及びロイテリン生産のために)、加熱処理さえ無く、野菜への追加の供水も無く、室温下であっても、野菜において良好な精密発酵を行い得る。
【0031】
実施例2:混合野菜の発酵
本実験は、本発明に係る方法が混合野菜に対しても機能することを実証する。
生野菜(ホワイトキャベツ、トマト、トウガラシ、ブロッコリー)を、家庭用ブレンダーを用いて、重量比1:1:1:1の割合でブレンドした。ブレンド直後に、ブレンドした野菜混合物を50gずつ滅菌プラスチックカップに取り分け、発酵実験開始まで-40℃にて保管した。ラクトバチリス・ロイテリ菌DSM系統122.46を、標準MRS培地(Sigma-Aldrich,シュタインヘイム,ドイツ)上で一晩培養した。成熟した培養物から細胞を遠心分離によって回収し、洗浄し、同量の、pH6.8の50mMリン酸カリウムバッファーに再懸濁した。発酵のために、生の、つまり非加熱処理の、ブレンドした野菜混合物に、洗浄及び一夜培養したラクトバチリス・ロイテリ菌(5%w/w、湿重量)を植菌し、これを複製し、続いて室温(22℃)及び30℃にてインキュベートした。追加のグルコース添加の必要性を調べるために、追加で2%w/w(湿重量)のグルコースを含む野菜混合物もまた、両方の温度にてインキュベートした。コントロールとして、生の、加熱殺菌されていない野菜混合物もまた、ラクトバチリス・ロイテリ菌を植菌せずに、前記二つの温度においてインキュベートした。
【0032】
実験は2回行われ、平均値を表4に示す。pHの低下は酸生成物形成の指標であり、すなわち発酵の指標である。糖を添加しなかったにもかかわらず、ブレンドした野菜混合物は、培養から24時間で殆ど完全に発酵した(pHは4.8から4.0未満に低下)。技術水準において、栄養分は、発酵を促進するために典型的に添加される。しかし、前記結果は、グルコースを添加しないことは、酸性化または細胞増殖に重大な影響を与えなかったことを示し、これは非常に実践的でかつコスト効率が良い。
【表4】

【表5】
【0033】
前記結果はまた、本発明に係る方法を用いる場合、発酵に加熱は必要ないことを示す。室温下及び30℃下のどちらにおいても、ブレンドした野菜混合物は殆ど完全に発酵した(pHの低下)。
【0034】
観測した発酵は、コントロールが殆ど酸性化を示さなかったことから、明らかにラクトバチリス・ロイテリ菌前培養物の添加によって引き起こされた。pHは、追加のグルコースの添加または無添加に関わらず、殆ど低下せず、pH4.5を超えたままであった。表5は、発酵中の酸形成及び細菌の増殖を示す。前記コントロール(植菌無し)では、乳酸または酢酸の産生は明らかではなく、細菌の増殖は非常に限定的である。
【0035】
糖の消費及び代謝物形成に関して、追加のグルコースの添加及び無添加の場合に、24時間の発酵中に消費したグルコース量は、約12~13g/Lであって、約6g/Lの乳酸、及び3g/Lの酢酸を産生するに至った。30℃下の発酵は、室温下に比べて僅かに早く、かつ僅かに広範囲であるため、グルコース利用度もまた僅かに高くなり、かつ乳酸及び酢酸の生産性もまた僅かに高くなった。
【0036】
ラクトバチリス・ロイテリ菌の細胞増殖は開始から24時間後に発生し、発酵野菜1ml当たり約10E9CFU(コロニー形成単位)になるまで続いた。より長くインキュベーションを行っても前記培養物の更なる増殖には至らず、特に室温かつ追加のグルコースがない場合において、セルカウントの明確な減少が観測された。確認した1ml当たり10E9個のラクトバチルス・ロイテリ菌によって5μg/LのビタミンB12を生産した。
【0037】
前記結果は、生の野菜及び野菜サイドストリームが、ラクトバチリス・ロイテリ菌を用いて、温度管理若しくは加熱、追加の供水若しくは糖の添加を必要とせずに、容易に発酵し得ることを実証する。前記発酵体は、追加の糖の添加及び無添加に関わらず、どちらの培養温度においても、同量の代謝物(乳酸及び酢酸)及び同数の細胞を含有した。本発明に係る方法を用いて、前記発酵野菜は非常に良い発酵風味を有し、かつラクトバチリス・ロイテリ菌の残存及び増殖の結果として、ビタミンB12が豊富であった。他の細菌、熱、酸素、または栄養分を添加する必要は無い。
【0038】
実施例3:パイロットスケールでの野菜ブレンド発酵
パイロットスケールでの発酵のために、ラクトバチリス・ロイテリ菌(DSM 1224、DSMZ、ブラウンシュヴァイク、ドイツ)の前培養物をMRS培地(Sigma-Aldrich、シュタインハイム、ドイツ)上で37℃にて、OD600=2.0に達するまで増殖させて、2リットルの一夜培養物に植菌するために使用した。翌日、2リットルの培養物である前記微生物バイオマスを遠心分離によって集め(10,000gにて10分間)、滅菌生理食塩水(0.9% NaCl)を用いて洗浄した。
【0039】
約150kgの生野菜混合物(トマト、ピーマン、ブロッコリー、ホワイトキャベツ)を、Finis Cutter pinned grater(spijkerrasp,FINIS,Ulft,オランダ)を用いて、約1~2mm角に切り分け、すりつぶし、5.1%乾燥物を含む野菜ピューレに成形した。前記ピューレを、熱処理せず、追加の供水無しで、殺菌した100リットル発酵溶液に投入した。2リットルの、一晩培養したラクトバチリス・ロイテリ菌のバイオマスを加えた。他の栄養分は加えなかった。野菜ピューレ及び微生物バイオマスの混合物を攪拌下(400rpm)で30℃にてインキュベートした。開始時点のpH値は、約5.8であった。発酵中、pH、攪拌速度及び温度は自動でモニターした。24時間以内に、前記ブロスのpHは最低値(pH3.8)に達し、これは発酵が24時間以内に完了したことを示した。44時間後、発酵は停止した。発酵終了時の酸性pHは、主に乳酸及び酢酸の形成に依るものであった。得られた野菜ペーストを分析した。
【0040】
代謝物分析から、一日後、発酵の大半はフルクトースを利用せずにグルコースを利用して起こっていることを確認した。乳酸及び酢酸が形成された。プロピオン酸は検出されなかった。
【表6】
【0041】
実施例5:本発明に係る粉末
発酵後に得られた前記野菜ペーストは、加熱蒸発によって粉末に変換される。前記粉末は、乾燥重量基準において、粉末1kg当たり15~30μgのビタミンB12、1kg当たり50~100grの乳酸、1kg当たり20~40grの酢酸、及び1kg当たり1gr未満のプロピオン酸を含んでいた。前記粉末は、長期保存性、栄養価、特にビタミンB12含量、または風味を高めるために、適切に食品または飼料に添加され得る。
【国際調査報告】