(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60L 7/24 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
B60L7/24 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525436
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-03
(86)【国際出願番号】 GB2022052679
(87)【国際公開番号】W WO2023073348
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512285801
【氏名又は名称】プロティアン エレクトリック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】リチャード フォード
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125CA01
5H125CB02
5H125CB07
5H125DD16
5H125EE51
5H125EE52
(57)【要約】
第1車輪に回生制動トルクを与えるように配置された第1電気モータと、第1車輪に摩擦制動トルクを与えるように配置された摩擦制動装置とを有する車両用のブレーキシステムであって、トルク要求の受信に応答して、前記第1電気モータによって回生制動トルクを前記第1車輪に加えるための第1制御信号であり、回生制動トルク値の指示を提供する第1制御信号と、及び前記摩擦制動装置によって前記第1車輪に前記摩擦制動トルクを加えるための第2制御信号であり、摩擦制動トルク値の指示を提供する第2制御信号と、を生成するために配置されたコントローラを備え、前記コントローラは、前記第1車輪に加えられる前記摩擦制動トルクの推定値を決定する際に、前記第2制御信号により示される前記摩擦制動トルク値と推定された摩擦制動トルクとの差に基づいて、前記第1電気モータにより前記第1車輪に加えられる前記回生制動トルクを調整するブレーキシステム。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車輪に回生制動トルクを与えるように配置された第1電気モータと、第1車輪に摩擦制動トルクを与えるように配置された摩擦制動装置とを有する車両用のブレーキシステムであって、
トルク要求の受信に応答して、前記第1電気モータによって回生制動トルクを前記第1車輪に加えるための第1制御信号であり、回生制動トルク値の指示を提供する第1制御信号と、及び前記摩擦制動装置によって前記第1車輪に前記摩擦制動トルクを加えるための第2制御信号であり、摩擦制動トルク値の指示を提供する第2制御信号と、を生成するために配置されたコントローラを備え、
前記コントローラは、前記第1車輪に加えられる前記摩擦制動トルクの推定値を決定する際に、前記第2制御信号によって示される前記摩擦制動トルク値と推定摩擦制動トルクとの差に基づいて、前記第1電気モータによって前記第1車輪に加えられる前記回生制動トルクを調整する、ブレーキシステム。
【請求項2】
請求項2に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラは、前記第2制御信号によって示される前記摩擦制動トルク値と前記推定摩擦制動トルクとの間の差を補償するために、前記第1電気モータによって適用される回生制動トルクを調整するように構成される、ブレーキシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラが、受信した制御信号に基づいて第1動作モード又は第2動作モードで動作するように構成される、ブレーキシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のブレーキシステムにおいて、前記第1動作モードは通常のブレーキ動作モードであり、前記第2動作モードはアンチロックブレーキシステム(ABS)動作モードである、ブレーキシステム。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラが、前記第1動作モードで動作しているか前記第2動作モードで動作しているかに基づいて、指示回生制動トルク及び指示摩擦制動トルクを変化させるように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項6】
請求項3~5の何れか一項に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラは、前記第1動作モードと前記第2動作モードとを切り替える際に、前記第1電気モータの回生トルク制限値に対するトルク余裕値を変化させることにより、前記指示回生制動トルクと前記指示摩擦制動トルクとの比を変化させるように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のブレーキシステムにおいて、同じ受信トルク要求に対して、低トルク余裕値は、高トルク余裕値に対して、増大した回生電流及びより低い指示摩擦制動トルクを提供するように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項8】
請求項3~7の何れか一項に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラは、前記指示摩擦制動トルク値をフィルタリングするフィルタを含む、ブレーキシステム。
【請求項9】
請求項8に記載のブレーキシステムにおいて、前記フィルタのフィルタリング特性は、前記第1動作モードと前記第2動作モードとの間で変化する、ブレーキシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のブレーキシステムにおいて、前記フィルタは、前記第2動作モードに対して前記第1動作モードにおいてより滑らかな前記摩擦制動トルクの印加を提供するように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラは、前記第1車輪の速度を最小車輪速度以上に維持するために、前記第1電気モータによって前記第1車輪に加えられる前記回生制動トルクを調節するように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項12】
請求項11に記載のブレーキシステムにおいて、前記最小車輪速度は、前記第1車輪の第1スリップ率値と車速とに基づいて決定される、ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシステム、特に電気モータで駆動される車輪を有する車両のブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両の駆動に使用される電気モータ駆動システムは、回生制動を行うためにも使用される。しかし、車両の制動要件により、電気モータ駆動システムは、必要な制動トルクのすべてを提供することはできない。そのため、電気自動車の制動システムは、摩擦制動と回生制動を組み合わせて使用するのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、トルクを集中的に作動させる制動システムでは、制動トルクの集中的な作動と、生成された制動トルクの車両への印加との間にタイムラグがあるため、性能上の制約を受けるおそれがある。
【0004】
電気自動車用モータの文脈では、電気モータが車両のホイール内に統合されている一体型インホイール電気モータ設計がますます普及している駆動設計であり、インホイールモータの使用は、トルク作動機能をホイール自体に向かうことを可能にする。
【0005】
インホイールモータは、インホイールモータコントローラ上で動作する瞬間速度制御ループをもたらすという利点も提供し、瞬間速度制御ループは、インホイールモータによって生成されるトルク作動を制御し、迅速なトルク変調を可能にする。
【0006】
しかし、常に最適なレベルの制動トルクが確実にかかるようにするために、インホイール電気モータと摩擦制動システムで動作する瞬間速度制御ループを統合することは問題となるおそれがある。
【0007】
この状況を改善することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、特許請求の範囲の請求項に記載の制動システムが提供される。
【0009】
本発明は、車両の或る運転モード、例えばアンチロックブレーキが作動していたか否かに基づいて、制動システムが摩擦制動と回生制動との間で異なるレベルの制動を調和させることを可能にするという利点を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
次に、例として添付図面を参照して、本発明を説明する。
【
図1】本発明の一実施形態によるトラクションコントロールシステムを組み込んだ車両を示す図である。
【
図2】本発明を具体化したモータの分解斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態による制動システムコントローラを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、4つの車輪101を有する、例えば自動車やローリーなどの車両100を示しており、2つの車輪は、車両の前方位置において、左側(near side)及び右側(off side)の位置にそれぞれ配置されている。同様に、2つの追加の車輪は、従来の自動車の構成に典型的であるように、車両の後方位置で、左側(near side)及び右側(off side)の位置にそれぞれ配置されている。しかし、当業者であれば理解できるように、車両は任意の数の車輪を有していてもよい。
【0012】
各車輪は、それぞれの車輪に摩擦制動トルクを加えるための摩擦制動を含む。
【0013】
車両後方位置の車輪101内に組み込まれているのは、以下に詳述するように、インホイール電気モータである。現在の実施形態では、車両後方位置に配置された車輪101に関連するインホイール電気モータを有する車両について説明するが、当業者には理解されるように、インホイール電気モータは他の車輪に配置することができる。例えば、インホイール電気モータは、前輪2輪に配置することができる。さらに、本実施形態では、インホイール電気モータの使用について説明するが、他の電気モータ構成、例えば、各電気モータが駆動シャフトを使用してそれぞれの車輪を駆動する2つのインボード(車体側)マウント電気モータを使用することもできる。
【0014】
インホイール電気モータ及び車両通信バス、例えばCANバス(図示せず)に結合された制御ユニット102は、それぞれのインホイール電気モータに取り付けられた制御装置と連動して、後述するように、インホイール電気モータによって生成される駆動トルク及び制動トルク(すなわち回生制動トルク)を制御するように配置されている。
【0015】
後述するように、制御ユニット102は、摩擦制動によって加えられる摩擦制動トルク及びインホイール電気モータによって加えられる回生制動トルクを生成するために使用されるホイール制動トルク要求を生成するように配置される。トルク要求は、通常、車両100のユーザが、例えばスロットルペダル及び/又はブレーキペダルを使用して車両の加速を増加又は減少させたいという要望を示すことによって、又は或るレベルの自律運転を提供する自律車両コントローラなど、車両の速度/加速度を自動的に制御する制御ユニット102内に組み込むことができる車両制御ユニットを介して開始される。
【0016】
説明の便宜上、インホイール電気モータは、車両に取り付けるためのステータの一部である一組のコイルのセットを有し、車輪に取り付けるための一組の磁石のセットを有するロータによって半径方向に取り囲まれているタイプのものである。しかし、当業者には理解されるように、本発明は他のタイプの電気モータにも適用可能である。通常、要求に応じて、インホイール電気モータは、駆動トルクと回生制動トルクの両方を提供するように構成される。
【0017】
本実施形態の目的のために、
図2に示されるように、インホイール電気モータは、ヒートシンクとして機能する周方向支持体253を備えるステータ252と、複数のコイル254と、コイルを駆動するためにステータの後方部分で周方向支持体253に取り付けられた2つの制御装置(図示せず)と、DCリンクコンデンサとして別称される環状のコンデンサ(図示せず)と、コイルの軸線方向端部と制御装置をコイルに結合するために周方向支持体上に形成された軸線方向フランジとの間に取り付けられる後述するリードフレーム(図示せず)とを備える。コイル254は、コイル巻線を形成するためにステータ歯積層上に形成される。ステータカバー256が、ステータ252の後部に取り付けられ、制御装置と環状コンデンサを囲んでステータ252を形成し、ステータ252は車両に固定され使用中に車両に対して回転しない。
【0018】
図3に概略的に表されているように、各制御装置400はインバータ410を含み、制御装置の一方は、両方のインバータ410の動作を制御するための、本実施形態ではプロセッサを含む制御ロジック420を含む。各インバータは、以下に説明するように、電気的に並列に配列された3組のコイル巻線のセットに結合され、3組のサブモータを形成する。
【0019】
環状コンデンサ(キャパシタ)は、インバータ410と電気モータの直流電源との間に結合され、電気モータの電源ライン(別称直流バスバー)の電圧リップルを低減し、電気モータの運転中の電圧オーバーシュートを低減する。インダクタンスを低減するために、コンデンサは制御装置400に隣接して取り付けられることが好ましい。
【0020】
ロータ240は、前部220と、ステータ252を実質的に取り囲むカバーを形成する円筒部221とを備える。ロータは、円筒部221の内側に配置された複数の永久磁石242を含む。本実施形態では、円筒部221の内側に32対の磁石が取り付けられているが、任意の数の磁石対を使用してもよい。
【0021】
磁石はステータ252のコイル巻線に近接しており、コイルによって発生する磁界がロータ240の円筒部221の内側に配置された磁石242と相互作用してロータ240を回転させるようになっている。永久磁石242は、電気モータを駆動するための駆動トルクを発生させるために利用されるため、永久磁石は通常、駆動磁石と呼ばれる。
【0022】
ロータ240は、軸受ブロック(図示せず)によってステータ252に取り付けられている。軸受ブロックは、このモータアセンブリが取り付けられる車両で使用されるような標準的な軸受ブロックとすることができる。軸受ブロックは、ステータに固定された第1部分と、ロータに固定された第2部分との2つの部分からなる。軸受ブロックは、ステータ252の壁の中央部分に固定され、ロータ240のハウジング壁220の中央部分にも固定される。従って、ロータ240は、ロータ240の中央部分で軸受ブロックを介して、使用される車両に回転可能に固定される。このことは、通常のホイールボルトを使用してホイールリム及びタイヤをロータ240の中央部分に固定し、その結果、ホイールリムを軸受ブロックの回転可能な側にしっかりと固定できるという利点がある。ホイールボルトは、ロータの中央部分を貫通して軸受ブロック自体に取り付けてもよい。ロータ240とホイールの両方が軸受ブロックに取り付けられているため、ロータとホイールの回転角度は1対1に対応する。
【0023】
ロータには、整流磁石として知られる位置検出用の磁石セット(図示せず)も含まれており、ステータに取り付けられたセンサと組み合わせてロータ磁束角を推定することができる。この磁束角は、後述するように、空間ベクトルパルス幅変調を使用してコイル内の電流フローを制御するために制御装置によって使用される。あるいは、ロータは、一組の独立した磁石の代わりに、一組の独立した磁石として機能する複数の極を持つ磁性材料のリングを含むことができる。
【0024】
整流磁石を使用してロータ磁束角を計算できるようにするために、好ましくは、各駆動磁石は、関連する整流磁石を有し、ロータ磁束角は、測定された整流磁石磁束角を較正することによって整流磁石のセットに関連する磁束角から導出される。整流磁石の磁束角とロータ磁束角との相関を単純化するために、好ましくは、整流磁石のセットは、駆動磁石対のセットと同じ数の磁石又は磁石極対を有し、整流磁石及び関連する駆動磁石は、互いにほぼ半径方向に整列する。従って、本実施形態の目的上、整流磁石のセットは32個の磁石対を有し、各磁石対はそれぞれの駆動磁石対とほぼ半径方向に整列する。
【0025】
本実施形態では、ホールセンサであるセンサが、ステータに取り付けられている。センサは、ロータが回転する際に、整流磁石リングを形成する各整流磁石がそれぞれセンサを通過して回転するように配置されている。
【0026】
ロータがステータに対して相対的に回転すると、それに応じて整流磁石も回転してセンサを通過し、ホールセンサがAC電圧信号を出力する。このときセンサは、センサを通過する各磁石ペアに対して360°の完全な電圧サイクルを出力する。ホールセンサが出力するAC電圧信号は、ロータ位置検出とロータ速度(ω)の決定の両方に使用できる。
【0027】
位置検出を向上させるために、センサは、第1センサから電気的角度で90°ずらして配置された関連する第2センサを有することが好ましい。
【0028】
本実施形態では、電気モータは6つのコイルセットを有し、各コイルセットは3つのコイルサブセットを有し、これらのサブセットは3相サブモータを形成するためにY字構成で結合され、その結果、モータは6つの3相サブモータを有し、上述したように、6つのコイルセットのそれぞれのコイルは、ステータの一部を形成する個々のステータの歯に巻かれる。それぞれのサブモータの動作は、後述する2つの制御装置300のうちの1つを介して制御される。本実施形態では、6つのコイルセット(すなわち、6つのサブモータ)を有する電気モータについて説明するが、モータは、関連する制御装置を有する1つ又は複数のコイルセットを同様に有していてもよい。同様に、各コイルセットは任意の数のコイルサブセットを有することができ、それにより各サブモータは2つ以上の相を有することができる。
【0029】
図3は、それぞれのコイルセット60と制御装置400との間の接続を示しており、3つのコイルセット60は、制御装置400に含まれるそれぞれの三相インバータ410に接続されている。当業者にはよく知られているように、三相インバータには6つのスイッチが含まれており、6つのスイッチの制御された動作によって三相交流電圧が生成される。
【0030】
しかしながら、スイッチの数は、それぞれのサブモータに印加される電圧相の数に依存し、サブモータは任意の数の相を有するように構成することができる。各制御装置400は、通信バス440を介して他の制御装置400と通信するように配置されている。
【0031】
好ましくは、制御装置400はモジュール構造である。好ましい実施形態では、電源モジュールとして知られる各制御装置は、制御プリント回路基板が搭載された電源プリント回路基板と、DCリンクコンデンサを介してDCバッテリに接続するための2つの電源バスバーと、リードフレームを介してそれぞれのコイル巻線に接続するための三相巻線バスバーと、インバータを含む電源基板アセンブリとを含む。
【0032】
電源プリント回路基板は、電源基板アセンブリ上に形成されたインバータスイッチ用のドライバを含む様々な他のコンポーネントを含み、ドライバは、制御プリント回路基板からの制御信号を電源プリント回路基板上に実装されたスイッチを動作させるのに適した形に変換するために使用されるが、これらのコンポーネントについてはこれ以上詳しく説明しない。
【0033】
制御装置400の一方は、両方の制御装置400のインバータスイッチの動作を制御するためのプロセッサ420を含む。さらに、各制御装置400は、通信バス440を介してそれぞれの制御装置400間の通信を可能にするインターフェース配置を含み、一方の制御装置400は、電気モータの外部に取り付けられた制御ユニット102と通信するように配置される。
【0034】
各制御装置400内のプロセッサ420は、各制御装置400内に搭載されたインバータスイッチの動作を制御して、各電気モータコイルセット60に三相電圧を供給できるようにし、それによって各コイルサブセットが回転磁界を発生できるように配置される。上述のように、本実施形態では、各コイルセット60が3つのコイルサブセットを有するものとして説明しているが、本発明はこれによって限定されるものではなく、各コイルセット60が1つ又は複数のコイルサブセットを有してもよい。
【0035】
プロセッサの制御の下で、各三相ブリッジインバータ410は、それぞれのコイルサブセットに亘ってPWM電圧制御を提供するように配置され、それによって、それぞれのサブモータに要求されるトルクを提供するために、それぞれのコイルサブセットに電流フローを生成する。
【0036】
PWM制御は、モータのインダクタンスを利用して印加パルス電圧を平均化し、モータコイルに必要な電流を流すことで機能する。PWM制御では、モータの巻線に印加される電圧が切り替わる。モータコイル間の電圧が切り替わっている間、電流はモータコイルのインダクタンスと印加電圧によって決まる速度で上昇する。電流が必要以上に増加する前にPWM電圧制御がオフになるため、電流を正確に制御することができる。
【0037】
所定のコイルセット60に対して、三相ブリッジインバータ310スイッチは、コイルサブセットの各々に単一の電圧位相を印加するように配置される。
【0038】
PWMスイッチングを使用して、複数のスイッチはそれぞれのコイルサブセット間に交流電圧を印加するように配置される。電気信号の電圧エンベロープと位相角は、変調電圧パルスによって決定される。
【0039】
インバータスイッチは、MOSFETやIGBTなどの半導体デバイスを含むことができる。本実施例では、スイッチはIGBTで構成されている。しかし、電流を制御するために、任意の適切な既知のスイッチング回路を採用することができる。
【0040】
一方の制御装置400の電源アセンブリに形成されたインバータ410は、3つのコイルセットに結合され、3つのサブモータの第1のセットを形成し、他方の制御装置400の電源アセンブリに形成されたインバータ410は、他のコイルセットに結合され、3つのサブモータの第2のセットを形成する。
【0041】
両インバータ410は、リードフレームを介してそれぞれのコイルセットに結合されており、それぞれのインバータの各レッグは、それぞれの相巻線バスバーを介してリードフレームに結合されている。本実施形態では、各インバータレッグによって生成される異なる電圧相をW、V及びUとする。
【0042】
コイル巻線は、後述するようにリードフレームに結合され、直流電源から制御装置内の各インバータを経由してコイル巻線に電流を流し、電気モータが駆動トルクを発生できるようにする。
【0043】
上述したように、プロセッサは、CANインターフェースを介して制御ユニット102からトルク要求を受信するように配置されているが、制御ユニット102と各モータ駆動コントローラ80との間の通信リンクの任意の形式を使用することができる。
【0044】
各インホイール電気モータは車輪に直接連結されているため、それぞれのインホイール電気モータによって発生されたトルクを瞬時に車輪に加えることができ、任意の時間における発生トルクは、インホイール電気モータに取り付けられた制御装置内の制御回路によって正確に知ることができる。したがって、インホイール電気モータは、極めて素早いトルク応答と速度検出ループの両方を持つという利点を提供する。
【0045】
上述のように、トルク要求は、通常、車両100の使用者が、例えばスロットルペダル及び/又はブレーキペダルを使用して、車両の加速度を増加又は減少させる要求を示すか、又は制御ユニット102内に組み込まれていて可能性がある車両制御ユニットを介して、車両の速度/加速度を自動的に制御する、例えば自律走行のレベルを提供する自律車両コントローラを介して、開始される。トルク要求は、制御ユニット102によって受信され、トルク要求コマンド及び/又はブレーキシステムコントローラの形で、それぞれのインホイール電気モータに直接転送される。
【0046】
次に、本発明によるブレーキシステムコントローラ600の実施形態について、
図4を参照して説明する。
【0047】
制動トルク要求は、制御ユニット102から
図4に示されるブレーキシステムコントローラ600に伝達され、ブレーキシステムコントローラ600は、モータトルク制限の入力610、トルク余裕値620、制動トルク推定値の入力630、出力モータトルク要求640、フィルタ650、トルク対圧力変換器670、モータトルク制限機能670、及びブレーキ圧力要求の出力660を含む。
【0048】
コントローラ600が受信する制動トルク要求は、インホイール電気モータと摩擦制動を有する車輪に印加する必要がある総制動トルクを示す。
【0049】
モータトルク制限に割り当てられた値は、インホイール電気モータによって印加可能な最大回生制動トルクを示す。後述するように、実効モータトルク制限値は、トルク余裕値620使用して変更することができ、トルク余裕値620はモータトルク制限値から減算され、それにより、インホイール電気モータによって印加される可能性のある回生制動量を制限する機構を提供する。モータトルク制限値に基づいて、制動トルク要求値は摩擦制動トルク成分と回生制動トルク成分とに分離される。例えば、総制動トルク要求値が1000Nmで、モータトルク制限値(すなわち、インホイール電気モータに印加可能な最大回生制動トルク)が300Nmの場合、コントローラは700Nmの摩擦制動トルク要求を発行し、残りの制動トルクは回生制動を介してインホイール電気モータによって印加される。
【0050】
摩擦制動のトルク要求は、フィルタ650とトルク-圧力変換器を使用してブレーキ圧力要求に変換され、トルク-圧力変換器はブレーキシステムの特性に基づいて摩擦制動の圧力要求を提供する。
【0051】
コントローラ600によって生成された摩擦制動トルク要求と、摩擦制動によって加えられた実際の摩擦制動トルクとの間のばらつきを補正するために、加えられた摩擦制動トルクの推定値が、任意の適切な手段、例えば、トルクに対する圧力モデルと組み合わせた実際のブレーキ圧力の推定値によって決定され、摩擦制動トルク要求と比較される。コントローラ600は、インホイール電気モータに伝達される回生制動トルク要求を調整することによって推定制動トルクと摩擦制動トルク要求との間の差を補償するように構成され、インホイール電気モータの迅速なトルク応答によって、ブレーキ性能の顕著な低下なしにこれを達成することができる。
【0052】
ブレーキシステムの効率を最大にし、ブレーキ時にインホイール電気モータから最大の回生電流が得られるようにするためには、できるだけ多くのブレーキがインホイール電気モータによって行われることが望ましい。しかし、インホイール電気モータを使用してその最大回生電流を生成する場合、推定摩擦制動トルクがコントローラ600によって生成される摩擦制動トルク要求よりも小さいと、制動トルクのこの差はインホイール電気モータを使用して補正することができず、インホイール電気モータを使用して達成されるよりも適用が遅い摩擦制動トルク要求を変化させることによって補正しなければならない。
【0053】
この問題に対処するため、ブレーキコントローラの異なる動作モードに応じてトルク要求値を変化させる。
【0054】
好ましい実施形態では、コントローラ600は、2つの動作モードで動作するように構成される。通常のブレーキモードに対応する第1の動作モードでは、コントローラ600は、回生効率を最大化することに重点を置くように配置される。アンチロックブレーキシステムモードに対応する第2の動作モードでは、コントローラ600は、ブレーキ効率を重視するように配置される。
【0055】
第1の動作モードでは、低いトルク余裕値を設定することによって回生制動効率を最大化することに重点が置かれ、上述したように、トルク余裕値はモータトルク制限に割り当てられた値を修正するために使用される。例えば、トルク余裕値をゼロに設定することにより、モータトルク制限に割り当てられた値は、トルク余裕値から修正されることなく、摩擦制動トルク要求値を決定するために使用される。例示すると、制動トルク要求値が1000Nmであり、モータトルク制限値が300Nmである場合、コントローラ600は、300Nmのモータ制動トルク要求値と700Nmの摩擦トルク要求値とを生成する。上述したように、制動トルク推定値と摩擦制動トルク要求値との間の変動は、摩擦制動トルク要求値を調整することによって対応され、通常のブレーキ操作では、摩擦制動を調整するためのブレーキ応答時間の低下は気づかれない。
【0056】
第2の動作モードでは、回生制動効率を犠牲にしてブレーキ効率を最大化することに重点が置かれ、トルク余裕値がモータトルク制限値から差し引かれる第1のモードよりも高いトルク余裕値が設定される。その結果、所与の制動トルク要求に対して、第2の動作モードでの高いトルク余裕値は、第1の動作モードの低いトルク余裕値と比較して、モータ制動トルク要求に対してより高い摩擦制動要求をもたらす。
【0057】
例えば、トルク余裕値を100Nmに設定することで、摩擦制動トルク要求値を決定するために低減されたモータトルク制限が使用される。例として、制動トルク要求値が1000Nm、モータトルク制限が300Nm、トルク余裕値が100Nmの場合、コントローラは200Nm(すなわち300-100)のモータ制動トルク要求値と800Nmの摩擦制動トルク要求値を生成する。その結果、電気モータはまだ追加の回生制動を提供する能力を有しているため、制動トルク推定値と摩擦制動要求値との間の変動は、100の値まで、モータ制動トルクを調整することによって解決することができ、それによって、電気モータによって提供される素早いトルク応答を利用して、あらゆるブレーキ補正を素早く適用することができる。モータトルク制限を超えないことを保証するために、モータトルク制限機能670は、モータ制動トルク要求がモータトルク制限と等しいか、又はそれ以下であることを保証するために、モータ制動トルク要求を監視する。
【0058】
コントローラ600は、例えば、ABSブレーキ応答が必要であることを示す制御ユニット102からの制御信号を介して、又は最小車輪速度を下回る車輪速度を有するインホイール電気モータによって駆動される車両の車輪の検出を介して、任意の適切な手段を使用して、第1の動作モードと第2の動作モードとの間を切り替えることができる。
【0059】
運転経験を改善するために、フィルタは、指示された摩擦制動トルク値をフィルタリングするために使用することができ、フィルタのフィルタリング特性は、第1の動作モードと第2の動作モードとの間で変化する。
【0060】
例えば、好ましい実施形態では、フィルタは、第2の動作モードと比較して、第1の動作モードにおいて摩擦制動トルクをより滑らかに印加するように構成される。
【0061】
好ましくは、コントローラは、第1の車輪の速度を最小車輪速度以上に維持するために、第1の電気モータによって第1の車輪に加えられる回生制動トルクを調整するように配置され、最小車輪速度は、第1の車輪の第1のスリップ率値と車速とに基づいて決定される。
【0062】
さらに、好ましい実施形態では、制御ユニット102はトラクション制御機能を提供し、制御ユニット102は車両の速度を決定するように構成される。例えば、車両の非駆動輪の速度を測定してもよいし、GPS測定値を使用して車両の速度を決定してもよいが、任意の適切な手段を使用してもよい。
【0063】
加速時及び制動時の両方で路面と車両との間の最適なトルク伝達を達成するために、制御ユニット102は、車速情報を使用して、各車輪の加速状態に対する最大の要求スリップ率限界値と、各車輪のブレーキ状態に対する最小の要求スリップ率限界値とを決定するように構成されている。
【0064】
例えば、制御ユニット102は、車速を最大/最小スリップ率にマッピングするように構成することができ、マッピング機能は、テーブルを介して、又はアルゴリズムを使用するなど、任意の数の方法で実行することができる。
【0065】
車両の速度を知り、最大及び最小の要求スリップ率制限値を有する制御ユニット102は、インホイール電気モータによって駆動される各車輪の最大及び最小速度制限値を計算するように構成される。言い換えれば、車両の所与の速度に対して、車輪の最高速度制限値(すなわち加速状態)は、最大要求スリップ率に対応する車輪に装着されたタイヤと路面との間で滑りを発生させ、車輪の最低速度制限値(すなわち制動状態)は、最小要求スリップ率に対応する車輪に装着されたタイヤと路面との間の滑りを発生される。但し、最大スリップ限界値及び最小スリップ限界値を用いて最大速度限界値及び最小速度限界値を決定するための任意の適切な手段を用いることができる。
【0066】
制御装置102は、上述のように、各駆動輪に関連するトルク要求、最大速度制限値及び最小速度制限値を、それぞれのインホイール電気モータ及び/又はコントローラに伝達するように構成されており、好ましい実施形態では、コントローラは、インホイール電気モータの一部を形成する制御装置400に組み込まれている。
【0067】
それぞれのインホイール電気モータがトルク要求を受け取ると、インホイール電気モータは、ロータの回転速度を監視しながら、上述のように、要求されたトルク要求を発生させるためにコイル巻線内の電流の流れを制御するように配置される。
【0068】
車両の質量が車輪の質量に比べて大きいため、通常、トルクが車輪に直接加わっている状況では、車両の速度変化は車輪の速度変化に比べて相対的に遅くなり、車輪がスリップ状態になる。
【0069】
その結果、制御ユニット102によって生成される車両の最高速度制限及び最低速度制限の更新速度は、インホイール電気モータの制御装置によって適用されるトルク制御に必要な更新速度に比べて、比較的ゆっくりと実行することができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車輪に回生制動トルクを与えるように配置された第1電気モータと、第1車輪に摩擦制動トルクを与えるように配置された摩擦制動装置とを有する車両用のブレーキシステムであって、
トルク要求の受信に応答して、前記第1電気モータによって回生制動トルクを前記第1車輪に加えるための第1制御信号であり、回生制動トルク値の指示を提供する第1制御信号と、及び前記摩擦制動装置によって前記第1車輪に前記摩擦制動トルクを加えるための第2制御信号であり、摩擦制動トルク値の指示を提供する第2制御信号と、を生成するために配置されたコントローラを備え、
前記コントローラは、前記第1車輪に加えられる前記摩擦制動トルクの推定値を決定する際に、前記第2制御信号によって示される前記摩擦制動トルク値と推定摩擦制動トルクとの差に基づいて、前記第1電気モータによって前記第1車輪に加えられる前記回生制動トルクを調整する、ブレーキシステム。
【請求項2】
請求項
1に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラは、前記第2制御信号によって示される前記摩擦制動トルク値と前記推定摩擦制動トルクとの間の差を補償するために、前記第1電気モータによって適用される回生制動トルクを調整するように構成される、ブレーキシステム。
【請求項3】
請求項
1に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラが、受信した制御信号に基づいて第1動作モード又は第2動作モードで動作するように構成される、ブレーキシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のブレーキシステムにおいて、前記第1動作モードは通常のブレーキ動作モードであり、前記第2動作モードはアンチロックブレーキシステム(ABS)動作モードである、ブレーキシステム。
【請求項5】
請求項
3に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラが、前記第1動作モードで動作しているか前記第2動作モードで動作しているかに基づいて、指示回生制動トルク及び指示摩擦制動トルクを変化させるように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項6】
請求項
3に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラは、前記第1動作モードと前記第2動作モードとを切り替える際に、前記第1電気モータの回生トルク制限値に対するトルク余裕値を変化させることにより、前記指示回生制動トルクと前記指示摩擦制動トルクとの比を変化させるように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のブレーキシステムにおいて、同じ受信トルク要求に対して、低トルク余裕値は、高トルク余裕値に対して、増大した回生電流及びより低い指示摩擦制動トルクを提供するように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項8】
請求項
3に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラは、前記指示摩擦制動トルク値をフィルタリングするフィルタを含む、ブレーキシステム。
【請求項9】
請求項8に記載のブレーキシステムにおいて、前記フィルタのフィルタリング特性は、前記第1動作モードと前記第2動作モードとの間で変化する、ブレーキシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のブレーキシステムにおいて、前記フィルタは、前記第2動作モードに対して前記第1動作モードにおいてより滑らかな前記摩擦制動トルクの印加を提供するように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項11】
請求項
1に記載のブレーキシステムにおいて、前記コントローラは、前記第1車輪の速度を最小車輪速度以上に維持するために、前記第1電気モータによって前記第1車輪に加えられる前記回生制動トルクを調節するように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項12】
請求項11に記載のブレーキシステムにおいて、前記最小車輪速度は、前記第1車輪の第1スリップ率値と車速とに基づいて決定される、ブレーキシステム。
【国際調査報告】