(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】アシル誘導体を調製する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/45 20060101AFI20241024BHJP
C07C 49/76 20060101ALI20241024BHJP
C07C 49/825 20060101ALI20241024BHJP
C07C 49/84 20060101ALI20241024BHJP
C07C 49/83 20060101ALI20241024BHJP
C07C 49/80 20060101ALI20241024BHJP
C07C 233/25 20060101ALI20241024BHJP
C07C 231/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07C45/45
C07C49/76 B
C07C49/825
C07C49/84 A
C07C49/83 A
C07C49/80
C07C233/25
C07C231/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525449
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2022080036
(87)【国際公開番号】W WO2023073080
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】520328442
【氏名又は名称】アンスティチュ・ナシオナル・デ・シアンス・サプリケ・リヨン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エステル・メテイ
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ルメール
(72)【発明者】
【氏名】マリー-クリスティーヌ・デュクロ
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ドマ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・パルディゴン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC44
4H006AC53
4H006BA66
4H006BC10
4H006BC31
4H006BJ50
4H006BN30
4H006BV25
(57)【要約】
本発明は、メタンスルホン酸を用いて式(I)の芳香族アシル誘導体を調製する方法に関する。本発明はさらに、パラセタモールなどの生物活性成分の調製方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、
R
1は
- ヒドロキシ基、
- (C
1~C
18)アルキル基、
- (C
1~C
6)アルコキシ基、および
- ハロゲン基
からなる群から選択されるラジカルであり;
R
2は
- (C
1~C
18)アルキル基、
- 少なくとも1個のヒドロキシ基で任意に置換されたフェニル、および
- (C
1~C
6)アルコキシ基
からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物を調製する方法であって、以下の工程:
a) 式(II):
【化2】
(式中、R
1は上記に定義したものである)
の化合物をメタンスルホン酸および式(III):
【化3】
(式中、
R
2は上記に定義したものであり、
R
3はヒドロキシ基、-O-CO-CH
3基、(C
1~C
6)アルコキシ基、および塩素からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物と反応させる工程;および
b) 前記式(I)の化合物を回収する工程
を含む方法。
【請求項2】
R
2が
- (C
1~C
18)アルキル基、
- フェニル基、および
- (C
1~C
6)アルコキシ基
からなる群から選択されるラジカルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程a)の反応を30℃~130℃、好ましくは40℃~60℃、より好ましくは約50℃の温度で行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)において、前記式(II)の化合物に対して、1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の前記式(III)の化合物を用いる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記式(I)の化合物はR
1がヒドロキシ基であり、R
2がメチル基であり、前記式(II)の化合物はR
1がヒドロキシ基であり、前記式(III)の化合物はR
2がメチル基であり、R
3がヒドロキシ基である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
以下の工程:
a) フェノールをメタンスルホン酸および酢酸と、約50℃の温度で、フェノールに対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の酢酸を用いて反応させる工程;および
b) 4-ヒドロキシアセトフェノンを回収する工程
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
以下の工程:
a) - b) 請求項5または6に規定の方法を行う工程;
c) 4-ヒドロキシアセトフェノンをギ酸および過酸化水素と反応させる工程;
d) 工程c)で得られた混合物を酢酸アンモニウムおよび酢酸と反応させる工程;および
e) パラセタモールを回収する工程
を含む、パラセタモールを調製する方法。
【請求項8】
以下の工程:
a) フェノールをメタンスルホン酸および酢酸と、約50℃の温度で、フェノールに対して2.5当量の酢酸を用いて反応させる工程;
b) 4-ヒドロキシアセトフェノンを回収する工程;
c) 4-ヒドロキシアセトフェノンをギ酸および過酸化水素と反応させる工程;
d) 工程c)で得られた混合物を酢酸アンモニウムおよび酢酸と反応させる工程;および
e) パラセタモールを回収する工程
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程c)の後にさらに混合物を精製してヒドロキノンを得る工程を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
以下の工程:
- ヒドロキノンを酢酸アンモニウムまたはアセトアミドおよび水と、240℃~300℃の範囲の温度で、1分間~12時間、ヒドロキノンに対して1~50当量の酢酸アンモニウムまたはアセトアミドを用いて、酢酸の非存在下で反応させる工程;および
- パラセタモールを回収する工程
を含む、パラセタモールを調製する方法。
【請求項11】
ヒドロキノンと酢酸アンモニウムを、約260℃の温度で、約1時間、ヒドロキノンに対して10当量の酢酸アンモニウムを用いて反応させる、請求項10に記載のパラセタモールを調製する方法。
【請求項12】
ヒドロキノン、アセトアミド、および水を、約260℃の温度で、約1時間、ヒドロキノンに対して10当量のアセトアミドおよび10当量の水を用いて反応させる、請求項10に記載のパラセタモールを調製する方法。
【請求項13】
前記式(I)の化合物はR
1が(C
1~C
6)アルキル基、好ましくはイソブチル基であり、R
2がメチル基であり、前記式(II)の化合物はR
1が(C
1~C
6)アルキル基、好ましくはイソブチル基であり、前記式(III)の化合物はR
2がメチル基であり、R
3が-O-CO-CH
3基である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
以下の工程:
a) 4-イソブチルベンゼンをメタンスルホン酸および無水酢酸と、約50℃の温度で、4-イソブチルベンゼンに対して2当量の無水酢酸を用いて反応させる工程;および
b) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを回収する工程
を含む、請求項1から4および13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
以下の工程:
a) 請求項14に記載の方法により1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを調製する工程;および
b) 工程a)で回収した1-(4-イソブチルフェニル)エタノン中間体からイブプロフェンを得る工程
を含む、イブプロフェンを調製する方法。
【請求項16】
前記式(I)の化合物はR
1がヒドロキシ基、メトキシ基、および塩素からなる群から選択されるラジカルであり、R
2がオクチル基および少なくとも1個のヒドロキシ基で任意に置換されたフェニル基、好ましくは3個のヒドロキシ基で置換されたフェニル基からなる群から選択されるラジカルであり、
式(II)の化合物はR
1がヒドロキシ基、メトキシ基、および塩素からなる群から選択されるラジカルであり、
式(III)の化合物はR
2がオクチル基および少なくとも1個のヒドロキシ基で任意に置換されたフェニル基、好ましくは3個のヒドロキシ基で置換されたフェニル基からなる群から選択されるラジカルであり、R
3がヒドロキシ基または塩素である、請求項1、3、および4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機化学分野に関する。より詳細には、パラセタモールやイブプロフェンなどの生物活性成分の合成中間体として有用な芳香族アシル誘導体の改良した調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物活性成分を得るために、工業的合成の観点から最も重要な反応のひとつは、芳香族基質のアシル化である。この求電子的芳香族置換は、一般に大量の無機塩の存在下で行われ、それに伴って有毒で腐食性の廃棄物が大量に発生する。ほとんどの場合、有毒溶剤(塩素系、芳香族系、またはその両方)を使用しなければならない。
【0003】
例えば、アシル化反応には一般に、AlCl3、FeCl3、SnCl4、希土類トリフラートなどのルイス酸が用いられる。しかし、これらのルイス酸は大量に使用しなければならず、高価で、毒性があり、リサイクルできない。アシル化反応は、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのブレンステッド酸を用いて行うこともできる。しかし、ルイス酸と同様に、このようなフッ素化試薬は高価で、毒性があり、操作に危険を伴うものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医薬品の工業的合成のための重要な複数の中間体を入手するために、経済性、環境への影響、安全性等を考慮した工業的規模に適する、高収率、高選択性、低環境負荷のアシル化反応を改良する必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、芳香族アシル誘導体を調製するための新しい方法を研究開発した。予想外なことに、本発明者らは、アシル化反応にメタンスルホン酸を使用することにより、芳香族アシル誘導体を高収率かつ高選択的に得ることができることを示した。このようなメタンスルホン酸の使用は、入手が容易で、フッ素酸やルイス酸に比べて操作が簡単で危険性が低く、コスト効率がよく、高価な出発物質や環境に大きな影響を与える大量の試薬を使用しなくてすむため、工業的アプローチに適合する。これらのアシル化法は、生物活性成分の合成に用いることができる。例えば、本発明者らは、パラセタモールを調製するためにメタンスルホン酸を用いたアシル化反応を実施した。本発明者らは、ヒドロキノンを出発原料としてパラセタモールを調製するための方法をさらに改良した。
【0006】
したがって、本発明は、式(I):
【化1】
(式中、
R
1は
- ヒドロキシ基、
- (C
1~C
18)アルキル基、
- (C
1~C
6)アルコキシ基、および
- ハロゲン基
からなる群から選択されるラジカルであり;
R
2は
- (C
1~C
18)アルキル基、
- 少なくとも1個のヒドロキシ基で任意に置換されたフェニル、および
- (C
1~C
6)アルコキシ基
からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物を調製する方法であって、以下の工程:
a) 式(II):
【化2】
(式中、R
1は上記に定義したものである)
の化合物を、メタンスルホン酸および式(III):
【化3】
(式中、
R
2は上記に定義したものであり、
R
3はヒドロキシ基、-O-CO-CH
3基、(C
1~C
6)アルコキシ基、および塩素からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物と反応させる工程;および
b) 前記式(I)の化合物を回収する工程
を含む方法に関する。
【0007】
好ましくは、R2は
- (C1~C18)アルキル基、
- フェニル基、および
- (C1~C6)アルコキシ基
からなる群から選択されるラジカルである。
【0008】
特定の実施形態において、工程a)における反応は、30℃~130℃、好ましくは40℃~60℃、より好ましくは約50℃の温度で行われる。さらに特定の実施形態において、式(II)の化合物に対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の式(III)の化合物が、工程a)で使用される。
【0009】
好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、R2がメチル基であり、式(II)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、式(III)の化合物は、R2がメチル基であり、R3がヒドロキシ基である。
【0010】
従って、本発明の好ましい方法は、以下の工程:
a) フェノールをメタンスルホン酸および酢酸と、約50℃の温度で、フェノールに対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の酢酸を用いて反応させる工程;および
b) 4-ヒドロキシアセトフェノンを回収する工程
を含む。
【0011】
本発明の他の目的は以下の工程:
a)-b) 上述した方法を実施する工程;
c) 4-ヒドロキシアセトフェノンをギ酸および過酸化水素と反応させる工程;
d) 工程c)で得られた混合物を酢酸アンモニウムおよび酢酸と反応させる工程;および
e) パラセタモールを回収する工程
を含むパラセタモールを調製する方法である。
【0012】
好ましくは、パラセタモールを調製する方法は以下の工程;
a) フェノールをメタンスルホン酸および酢酸と、約50℃の温度で、フェノールに対して2.5当量の酢酸を用いて反応させる工程;
b) 4-ヒドロキシアセトフェノンを回収する工程;
c) 4-ヒドロキシアセトフェノンをギ酸および過酸化水素と反応させる工程;
d) 工程c)で得られた混合物を酢酸アンモニウムおよび酢酸と反応させる工程;および
e) パラセタモールを回収する工程
を含む。
【0013】
特定の実施形態では、パラセタモールを調製するこのような方法は、さらに工程c)で得られた混合物を精製し、ヒドロキノンを回収する工程を含む。
【0014】
さらに、本発明の目的は、パラセタモールを調製する方法であって、以下の工程:
- ヒドロキノンを酢酸アンモニウムまたはアセトアミドおよび水と、240℃~300℃の範囲の温度で、1分間~12時間の反応時間で、ヒドロキノンに対して1~50当量の酢酸またはアセトアミドおよび水を用いて、酢酸の非存在下で反応させる工程;および
- パラセタモールを回収する工程
を含む方法である。
【0015】
特定の実施形態では、ヒドロキノンと酢酸アンモニウムを、約260℃の温度で約1時間、ヒドロキノンに対して10当量の酢酸アンモニウムを用いて反応させる。
【0016】
特定の実施形態では、ヒドロキノン、アセトアミドおよび水を、約260℃の温度で約1時間、ヒドロキノンに対して10当量のアセトアミドと10当量の水を用いて反応させる。
【0017】
さらに好ましい実施形態において、式(I)の化合物を調製するための方法は、式(I)の化合物は、R1が(C1~C6)アルキル基、好ましくはイソブチル基であり、R2がメチル基であり、式(II)の化合物は、R1が(C1~C6)アルキル基、好ましくはイソブチル基であり、式(III)の化合物は、R2がメチル基であり、R3が-O-CO-CH3基である。
【0018】
したがって、本発明の好ましい方法は以下の工程:
a) 4-イソブチルベンゼンをメタンスルホン酸および無水酢酸と、約50℃の温度で、4-イソブチルベンゼンに対して2当量の無水酢酸を用いて反応させる工程;および
b) 好ましくは1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを回収する工程
を含む。
【0019】
本発明の他の目的は、イブプロフェンを調製する方法であって、以下の工程:
a) 上述した方法で1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを調製する工程;および
b) 工程a)において1-(4-イソブチルフェニル)エタノン中間体からイブプロフェンを得る工程
を含む方法である。
【0020】
他の好ましい実施形態において、式(I)の化合物を調製する方法は以下に示すものである:
- 式(I)の化合物は、R1がヒドロキシ基、メトキシ基、および塩素からなる群から選択されるラジカルであり、R2がオクチル基、および少なくとも1個のヒドロキシ基、好ましくは3個のヒドロキシ基で任意に置換されたフェニルからなる群から選択されるラジカルであり、
- 式(II)の化合物は、R1が、ヒドロキシ基、メトキシ基、および塩素からなる群から選択されるラジカルであり、
- 式(III)の化合物は、R2が、オクチル基、および少なくとも1個のヒドロキシ基、好ましくは3個のヒドロキシ基で任意に置換されたフェニルからなる群から選択されるラジカルであり、R3がヒドロキシまたは塩素である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本発明によれば、以下の用語は次のような意味を有する:
例えばC1~C18のような接頭辞を有する本明細書に記載の用語は、C1~C12、C1~C6、またはC1~C2のような、より少ない数の炭素原子でも使用することができる。例えば、用語C1~C12が使用される場合、それは、対応する炭化水素鎖が1~12個の炭素原子、特に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個の炭素原子から構成され得ることを意味する。例えば、C1~C6という用語が使用される場合、それは、対応する炭化水素鎖が1~6個の炭素原子、特に1、2、3、4、5、または6個の炭素原子から構成され得ることを意味する。例えば、C1~C3という用語が使用される場合、それは、対応する炭化水素鎖が1~3個の炭素原子、特に1、2、または3個の炭素原子から構成され得ることを意味する。
【0022】
「アルキル」という用語は、飽和した、直鎖状または分枝状の脂肪族基を意味する。用語「(C1~C12)アルキル」は、より具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、ヘプチル、ヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、またはドデシルを意味する。用語「(C1~C6)アルキル」は、より具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、またはヘキシルを意味する。
【0023】
用語「アルコキシ」または「アルキルオキシ」は、-O-(エーテル)結合によって分子に結合した上記のアルキル基に対応する。(C1~C6)アルコキシには、メトキシまたはメチルオキシ、エトキシまたはエチルオキシ、プロポキシまたはプロピルオキシ、イソプロポキシまたはイソプロピルオキシ、ブトキシまたはブチルオキシ、イソブトキシまたはイソブチルオキシ、ペントキシまたはペンチルオキシ、イソペントキシまたはイソペンチルオキシ、およびヘキソキシまたはヘキシルオキシが含まれる。
【0024】
用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子に対応し、好ましくは塩素である。
【0025】
「1個の~で置換されたラジカル」および「少なくとも~で置換されたラジカル」という表現は、ラジカルがリストに記載の1個またはいくつかの基で置換されていることを意味する。例えば、「少なくとも1個のヒドロキシ基で置換されたフェニル」という表現は、1個、2個、3個、4個、および5個のヒドロキシ基、好ましくは3個のヒドロキシ基で置換されたフェニルを含み得る。
【0026】
本明細書において、「有効成分」、「活性成分」、「活性医薬成分」、「生物活性成分」、および「薬剤」という用語は同義であり、治療効果を有する医薬組成物の成分を指す。例として、パラセタモールおよびイブプロフェンが挙げられる。
【0027】
本明細書において、「約」という用語はその発明の属する技術分野の通常の知識を有する者に理解され、それが使用される文脈によってある程度変化する。その用語が使用されている文脈からその発明の属する技術分野の通常の知識を有する者にとって明確でない使用法がある場合、「約」は特定の用語のプラスマイナス20%まで、好ましくは10%までを意味する。
【0028】
アシル化
本発明は、芳香族誘導体をメタンスルホン酸と反応させることを含む、芳香族アシル誘導体の調製方法を提供する。
【0029】
より詳細には、本発明は、式(I):
【化4】
(式中、
R
1は
- ヒドロキシ基、
- (C
1~C
18)アルキル基、好ましくは(C
1~C
12)アルキル基、より好ましくは(C
1~C
12)アルキル基、
- (C
1~C
6)アルコキシ基、および
- ハロゲン基
からなる群から選択されるラジカルであり;
R
2は
- (C
1~C
18)アルキル基、好ましくは(C
1~C
12)アルキル基、
- 少なくとも一つのヒドロキシ基で任意に置換されたフェニル、および
- (C
1~C
6)アルコキシ基
からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物を調製するための方法を提供し、以下の工程:
a) 式(II):
【化5】
(式中、R
1は上記に定義したものである)
の化合物をメタンスルホン酸および式(III):
【化6】
(式中、
R
2は上記に定義したものであり、
R
3はヒドロキシ基、-O-CO-CH
3基、(C
1~C
6)アルコキシ基、および塩素からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物と反応させる工程;および
b) 前記式(I)の化合物を回収する工程
を含む。
【0030】
好ましい実施形態において、本発明は、式(I):
【化7】
(式中、
R
1は
- ヒドロキシ基、
- (C
1~C
18)アルキル基、好ましくは(C
1~C
12)アルキル基、より好ましくは(C
1~C
12)アルキル基、
- (C
1~C
6)アルコキシ基、および
- ハロゲン基
からなる群から選択されるラジカルであり;
R
2は
- (C
1~C
18)アルキル基、好ましくは(C
1~C
12)アルキル基、
- フェニル基、および
- (C
1~C
6)アルコキシ基
からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物を調製するための方法を提供し、以下の工程:
a) 式(II):
【化8】
(式中、R
1は上記に定義したものである)
の化合物をメタンスルホン酸および式(III):
【化9】
(式中、
R
2は上記に定義したものであり、
R
3はヒドロキシ基、-O-CO-CH
3基、(C
1~C
6)アルコキシ基、および塩素からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物と反応させる工程;および
b) 前記式(I)の化合物を回収する工程
を含む。
【0031】
好ましい実施形態において、R2は
- (C1~C18)アルキル基、
- (C1~C6)アルコキシ基
からなる群から選択されるラジカルである。
【0032】
特定の実施形態において、工程a)の反応は30℃~130℃、好ましくは40℃~60℃、さらに好ましくは約50℃の温度で行う。
【0033】
さらに特定の実施形態において、工程a)における反応は、式(II)の化合物に対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の式(III)の化合物を用いて行う。
【0034】
さらに好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、R2がメチル基であり、式(II)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、式(III)の化合物は、R2がメチル基であり、R3がヒドロキシ基である。
【0035】
この好ましい実施形態において、前記方法は以下の工程:
a) フェノールをメタンスルホン酸および酢酸と、約50℃の温度で、フェノールに対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の酢酸を用いて反応させる工程;および
b) 4-ヒドロキシアセトフェノンを回収する工程
を含む。
【0036】
さらに好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、R1が(C1~C6)アルキル基、好ましくはイソブチル基であり、R2がメチル基であり、式(II)の化合物は、R1が(C1~C6)アルキル基、好ましくはイソブチル基であり、式(III)の化合物は、R2がメチル基であり、R3が-O-CO-CH3基である。
【0037】
したがって、好ましい工程は以下の工程:
a) 4-イソブチルベンゼンをメタンスルホン酸および無水酢酸と、約50℃の温度で、4-イソブチルベンゼンに対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは2当量の無水酢酸を用いて反応させる工程;および
b) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを回収する工程
を含む。
【0038】
さらに好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、R2がオクチル基であり、式(II)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、式(III)の化合物は、R2がオクチル基であり、R3がヒドロキシ基である。
【0039】
したがって、好ましい方法は以下の工程:
a) フェノールをメタンスルホン酸およびノナン酸と、約50℃の温度で、フェノールに対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量のノナン酸を用いて反応させる工程;および
b) 1-(4-ヒドロキシフェニル)ノナン-1-オンを回収する工程
を含む。
【0040】
さらに好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、R2がフェニル基であり、式(II)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、式(III)の化合物は、R2がフェニル基であり、R3がヒドロキシ基である。
【0041】
したがって、好ましい方法は以下の工程:
a) フェノールをメタンスルホン酸および安息香酸と、約60℃の温度で、フェノールに対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の安息香酸を用いて反応させる工程;および
b) 4-ヒドロキシベンゾフェノンを回収する工程
を含む。
【0042】
さらに好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、R1がメトキシ基であり、R2がフェニル基であり、式(II)の化合物は、R1がメトキシ基であり、式(III)の化合物は、R2がフェニル基であり、R3がヒドロキシ基である。
【0043】
したがって、好ましい方法は以下の工程:
a) アニソールをメタンスルホン酸および安息香酸と、約60℃の温度で、アニソールに対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の安息香酸を用いて反応させる工程;および
b) 4-メトキシベンゾフェノンを回収する工程
を含む。
【0044】
さらに好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、R2が3個のヒドロキシ基で置換されたフェニル基(すなわち没食子酸)であり、式(II)の化合物は、R1がヒドロキシ基であり、式(III)の化合物は、R2が3個のヒドロキシ基で置換されたフェニル基であり、R3がヒドロキシ基である。
【0045】
したがって、好ましい方法は以下の工程:
a) フェノールをメタンスルホン酸および3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸と、約120℃の温度で、フェノールに対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を用いて反応させる工程;および
b) (4-ヒドロキシフェニル)-(3,4,5-トリヒドロキシフェニル)メタノンを回収する工程
を含む。
【0046】
さらに好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、R1が塩素であり、R2がフェニル基であり、式(II)の化合物は、R1が塩素であり、式(III)の化合物は、R2がフェニル基であり、R3が塩素である。
【0047】
したがって、好ましい方法は以下の工程:
a) クロロベンゼンをメタンスルホン酸および塩化ベンゾイルと、約120℃の温度で、クロロベンゼンに対して1~5当量、好ましくは1~3当量、より好ましくは1~2.5当量、さらにより好ましくは1、1.5、または2.5当量の塩化ベンゾイルを用いて反応させる工程;および
b) 4-クロロベンゾフェノンを回収する工程
を含む。
【0048】
特に、芳香族アシル誘導体は、回収工程を考慮することなく、単一の化学的工程で調製される。したがって、本発明の方法は、2-ヒドロキシアセトフェノンを調製するためのFries転位を使用する方法より工業スケールに適している。当該Fries転位を使用する方法は、例えばHocking(J. Chem.Tech. Biotechnol. 1980, 30, 626-641)によると、アセチルベンゼンを調製するための前段工程を要するためである。
【0049】
本明細書において、「~を含む」という用語(および他の類似の用語)は「オープンエンド」であり、具体的に述べられた特徴のすべて、および任意の、追加の、および特定されていない特徴が含まれると通常解釈され得る。特定の実施形態によれば、特に断らない限り、「本質的に~からなる」という語句は、特定の特徴および請求項の発明の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を与えない任意の、追加の、および特定されていない特徴が含まれると解釈され得、「~からなる」という語句は特定の特徴のみが含まれると解釈され得る。
【0050】
したがって、本発明の目的は、式(I):
【化10】
(式中、
R
1は
- ヒドロキシ基、
- (C
1~C
18)アルキル基、好ましくは(C
1~C
12)アルキル基、より好ましくは(C
1~C
12)アルキル基、
- (C
1~C
6)アルコキシ基、および
- ハロゲン基
からなる群から選択されるラジカルであり;
R
2は
- (C
1~C
18)アルキル基、好ましくは(C
1~C
12)アルキル基、
- 少なくとも1個のヒドロキシ基で任意に置換されたフェニル、好ましくはフェニル、および
- (C
1~C
6)アルコキシ基
からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物を調製するための方法であって、以下の工程:
a) 式(II)
【化11】
(式中、R
1は上記に定義したものである)
の化合物をメタンスルホン酸および式(III):
【化12】
(式中、
R
2は上記に定義したものであり、
R
3はヒドロキシ基、-O-CO-CH
3基、(C
1~C
6)アルコキシ基、および塩素からなる群から選択されるラジカルである)
の化合物と反応させる工程;および
b) 前記式(I)の化合物を回収する工程
を含み、本明細書に開示するように、すべての特定の、かつ好ましい実施形態を含む。
【0051】
上記で定義し、以下の実施例で例示したように、本発明者らは、メタンスルホン酸を用いて芳香族アシル誘導体を調製するための新規な方法を開発した。このような芳香族アシル誘導体は、例えば、パラセタモール(IUPAC名:N-(4-ヒドロキシフェニル)アセトアミド)およびイブプロフェン(IUPAC名:(RS)-2-(4-(2-メチルプロピル)フェニル)プロパン酸)のような、生物学的または治療のために潜在的に興味深い多数のアリールケトン誘導体の合成の中間体として使用することができる。
【0052】
パラセタモール
したがって、本発明の目的は、パラセタモールを調製する方法であって、以下の工程:
a) 式(II):
【化13】
(式中、R
1はヒドロキシ基である)
の化合物をメタンスルホン酸および式(III):
【化14】
(式中、R
2はメチル基であり、R
3はヒドロキシ基である)
の化合物と反応させる工程;
b) 式(I):
【化15】
(式中、R
1はヒドロキシ基であり、R
2はメチル基である)
の化合物を回収する工程;
c) 前記式(I)の化合物をギ酸および過酸化水素と反応させる工程;
d) 工程c)で得られた混合物を酢酸アンモニウムおよび酢酸と反応させる工程;および
e) パラセタモールを回収する工程
を含む。
【0053】
したがって、このようなパラセタモールを調製する方法は、以下の工程:
a) フェノールをメタンスルホン酸および酢酸と反応させる工程;
b) 4-ヒドロキシアセトフェノンを回収する工程;
c) 4-ヒドロキシアセトフェノンをギ酸および過酸化水素と反応させる工程;
d) 工程c)で得られた混合物を酢酸アンモニウムおよび酢酸と反応させる工程;および
e) パラセタモールを回収する工程
を含む。
【0054】
この方法では、工程c)は「バイヤー・ビリガー(Bayer-Villiger)」条件を用いた反応に相当する。特定の実施形態では、4-ヒドロキシアセトフェノンをギ酸および過酸化水素と室温で反応させる。4-ヒドロキシアセトフェノンに対して、好ましくは2~10当量、より好ましくは3~7当量、さらにより好ましくは5当量のギ酸を使用する。さらなる実施形態では、4-ヒドロキシアセトフェノンに対して1~2当量、好ましくは1~1.2当量のギ酸を用いる。
【0055】
工程d)は、酢酸アンモニウムと酢酸を用いた求核置換反応に相当する。特定の実施形態では、工程c)で得られた混合物を、200~250℃、好ましくは約230℃の温度で酢酸アンモニウムおよび酢酸と反応させる。
【0056】
好ましい実施形態において、パラセタモールを調製する方法は、以下の工程:
a) フェノールをメタンスルホン酸および酢酸と、約50℃の温度で、フェノールに対して2.5当量の酢酸を用いて反応させる工程;
b) 4-ヒドロキシアセトフェノンを回収する工程;
c) 4-ヒドロキシアセトフェノンをギ酸および過酸化水素と反応させる工程;
d) 工程c)で得られた混合物を酢酸アンモニウムおよび酢酸と反応させる工程;および
e) パラセタモールを回収する工程
を含む。
【0057】
4-ヒドロキシアセトフェノンから出発して過酸化水素とギ酸を用いる工程c)の「バイヤー・ビリガー反応」を実施すると、アセチルヒドロキノンを主生成物として、ヒドロキノンを副生成物として得ることができる。したがって、ヒドロキノンは、当業者に公知の任意の精製方法によって単離することができる。例えば、ヒドロキノンは、アセチルヒドロキノン/ヒドロキノンの混合物から加水分解および蒸留によって単離することができる。
【0058】
特定の態様において、上記で定義したパラセタモールを調製するための方法は、工程c)で得られた混合物を精製してヒドロキノンを回収する工程をさらに含む。好ましくは、ヒドロキノンは、加水分解および当業者によって現在使用されている任意の蒸留法を用いて精製および単離される。従って、工程c)の後に得られた混合物の精製から得られるヒドロキノンは、1つの化学的工程でパラセタモールを提供するための中間体として使用することができる。
【0059】
したがって、本発明のさらなる目的は、パラセタモールを調製するための方法であって、以下の工程:
- ヒドロキノンを酢酸アンモニウムと、240~300℃の範囲の温度で、1分間~12時間、ヒドロキノンに対して1~50当量の酢酸アンモニウムを用いて、酢酸の非存在下で反応させる工程;および
- パラセタモールを回収する工程
を含む。
【0060】
好ましい実施形態では、ヒドロキノンと酢酸アンモニウムを240℃~300℃の範囲の温度で、10分間~2時間、ヒドロキノンに対して5~30当量の酢酸アンモニウムを用いて反応させる。
【0061】
さらに好ましい実施形態では、ヒドロキノンと酢酸アンモニウムを約280℃の温度で、約30分間、ヒドロキノンに対して20当量の酢酸アンモニウムを用いて反応させる。
【0062】
さらに好ましい実施形態では、ヒドロキノンと酢酸アンモニウムを約260℃の温度で約1時間、ヒドロキノンに対して10当量の酢酸アンモニウムを用いて反応させる。
【0063】
本発明のさらなる目的はまた、パラセタモールを調製するための方法であって、以下の工程:
- ヒドロキノンをアセトアミドおよび水と、240℃~300℃の範囲の温度で、1分間~12時間、ヒドロキノンに対して1~50当量のアセトアミドと1~50当量の水を用いて、酢酸の非存在下で反応させる工程;および
- パラセタモールを回収する工程
を含む。
【0064】
好ましい実施形態では、ヒドロキノン、アセトアミド、および水を240℃~300℃の範囲の温度で、10分間~2時間、ヒドロキノンに対して5~30当量のアセトアミドと5~30当量の水を用いて反応させる。
【0065】
さらに好ましい実施形態では、ヒドロキノン、アセトアミド、および水を約260℃の温度で、約1時間、ヒドロキノンに対して10当量のアセトアミドと10当量の水を用いて反応させる。
【0066】
ヒドロキノンから出発し、酢酸アンモニウムまたはアセトアミドと水を用いてパラセタモールを調製するための上記に開示された方法は、高い選択性(95%以上、さらには100%)かつ非常に短時間の反応(12時間未満、さらには1時間未満)でパラセタモールを提供することを可能にする。
【0067】
特に、このような方法はさらに酢酸アンモニウムまたはアセトアミドを再利用するために回収する工程を含む。
【0068】
ヒドロキノンからパラセタモールを調製する方法において、反応は酢酸の非存在下で行う。酢酸の非存在により、ヒドロキノンからのパラセタモールの変換率を向上させ、不純物と反応時間を減らすことができる。したがって、このような方法は、連続反応器や少量の工業材料での実施が可能であるため、工業スケールによく適している。
【0069】
イブプロフェン
イブプロフェンを調製する方法は、以下の工程:
a) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを上述のとおり調製する工程;および
b) 工程a)で回収された1-(4-イソブチルフェニル)エタノン中間体からイブプロフェンを得る工程
を含む。
【0070】
したがって、本発明の目的は、イブプロフェンを調製する方法であって、以下の工程:
a) 式(II):
【化16】
(式中、R
1はイソブチル基である)
の化合物をメタンスルホン酸および式(III):
【化17】
(式中、R
2はメチル基であり、R
3は-O-CO-CH
3基である)
の化合物と反応させる工程;
b) 式(I):
【化18】
(式中、R
1はイソブチル基であり、R
2はメチル基である)
の化合物を回収する工程;および
c) 工程b)で回収した1-(4-イソブチルフェニル)エタノン中間体からイブプロフェンを得る工程
を含む。
【0071】
したがって、このようなイブプロフェンを調製するための方法は、以下の工程:
a) 4-イソブチルベンゼンをメタンスルホン酸および無水酢酸と反応させる工程;
b) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを回収する工程;および
c) 工程b)で回収した1-(4-イソブチルフェニル)エタノン中間体からイブプロフェンを得る工程
を含む。
【0072】
好ましくは、このような方法は以下の工程:
a) 4-イソブチルベンゼンをメタンスルホン酸および無水酢酸と、約50℃の温度で、4-イソブチルベンゼンに対して2当量の無水酢酸を用いて反応させる工程;
b) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを回収する工程;および
c) 工程b)で回収した1-(4-イソブチルフェニル)エタノン中間体からイブプロフェンを得る工程
を含む。
【0073】
1-(4-イソブチルフェニル)エタノン中間体からイブプロフェンを得ることは当業者にはよく知られており、James Speightによって開示された方法(Handbook of Industrial Hydrocarbon Processesの588-590頁)など、複数の方法を用いて行うことができる。1-(4-イソブチルフェニル)エタノン中間体からイブプロフェンを得る2つの主要な化学的方法は、BootプロセスとHoechstプロセスである。このような経路は、Kjonaasらの論文(J. Chem. Educ., 2011, 88, 825-828)のスキーム3に開示されているように、水素雰囲気下、Raneyニッケル触媒を用いて1-(4-イソブチルアセトフェノン)を対応するアルコールに還元した後、パラジウム触媒を用いてカルボニル化する工程を含む。
【0074】
したがって本発明の好ましい実施形態は、イブプロフェンを調製する方法であって、当該方法は以下の工程:
a) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを本明細書に記載の方法で調製する工程;
b) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを水素雰囲気下でRaneyニッケルを用いて還元し、1-(4-イソブチルフェニル)エタノールを得る工程;および
c) パラジウム触媒を用いた1-(4-イソブチルフェニル)エタノールのカルボニル化反応を行う工程;および
d) イブプロフェンを回収する工程
を含む。
【0075】
同じ論文で、Kjonaasらはさらに、酢酸中で水素化ホウ素ナトリウムを用いた1-(4-イソブチルアセトフェノン)の対応するアルコールへの還元を行い、求核置換反応により塩素誘導体を調製し、Grignard試薬を形成し、次いでカルボキシ化によりイブプロフェンを調製する4段階合成からなる代替法を開示している。
【0076】
したがって本発明の好ましい実施形態は、イブプロフェンを調製する方法であって、以下の工程:
a) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを本明細書に記載の方法で調製する工程;
b) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノンを、酢酸中で水素化ホウ素を用いて還元し、1-(4-イソブチルフェニル)エタノールを得る工程;
c) 1-(4-イソブチルフェニル)エタノールを塩酸中で反応させ1-(4-イソブチルフェニル)クロロエタンを得る工程;
e) 1-(4-イソブチルフェニル)クロロエタンをマグネシウムと反応させGrignard試薬を調製する工程;および
f) 前記Grignard試薬を二酸化炭素と反応させる工程;および
g) イブプロフェンを回収する工程
を含む。
【0077】
本発明のさらなる態様および利点は以下の実施例に開示されているが、これらは例示であって本願の範囲を限定するものではないと考えられるべきである。
【実施例】
【0078】
概論
合成に使用するすべての試薬および溶媒は市販されており、シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)製のものを用いた。
【0079】
すべての化合物は分光学的データによって特定した。核磁気共鳴スペクトルはBruker DRX 300またはBruker ALS 300 (1H: 300 MHz, 13C: 75 MHz)で記録した。測定値の単位はparts per million (ppm)で表される。化学シフトδの単位はppmで表される。化学シフトは残留DMSO-d6中心ピークを参照して得られる:プロトンは2.50 ppm、炭素は39.52 ppmである。残留CDCl3中心ピークを参照した化学シフトは、プロトンは7.26 ppm、炭素は77.16 ppmである。略号の定義は以下の通りである:s 一重線(singlet)、d 二重線(doublet)、 dd 二重線の二重線(doublet of doublets)、t 三重線(triplet),q 四重線(quadruplet)、qt 五重線(hexuplet)、hex 六重線(hexuplet)、hept 七重線(heptuplet), m 多重線(multiplet)、br 幅広線(broad)。結合定数Jの単位はヘルツ(Hz)で表される。
【0080】
マススペクトルは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)イオン源を備えたハイブリッド四重極飛行時間型質量分析計(MicroTOFQ-II、Bruker Daltonics、Bremen)を用い、ポジティブイオンモードで行った。スプレーガスの流量は0.6 barで、キャピラリー電圧は4.5 kVであった。混合溶媒(メタノール/ジクロロメタン/水=45/40/15)に溶解した溶液を180 μL/hで注入した。分析の質量範囲は50~1000 m/zで、キャリブレーションはギ酸ナトリウムを用いて行った。
【0081】
1.各種基質のアシル化
【0082】
1.1.4-ヒドロキシアセトフェノンの調製
丸底フラスコに10 gのフェノール(0.1 mol)、100 mLのメタンスルホン酸(1M)、および15 mLの酢酸(0.25 mol)を加えた。50℃で24時間反応させた後、100 mLの水を0℃の温度で加え、反応混合物を酢酸ブチルを用いて抽出し(100 mLで3回)、次に有機相をpHが6に達するまで水で洗浄した(100 mLで3回)(HPLCによる水相のコントロール)。Na2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮し、目的の生成物を83%の収率で得た(平均75~88%の収率)。HPLCの条件は以下のとおりである:カラムC18 (250×4.6 mm、粒子サイズ0.5 μm)、移動相:(水 60+CH3CN 40)+0.1% v/v H3PO4 イソクラティック、流速:1.0 mL.min-1、波長:205 nm。生成物の1H NMR(300MHz)はCDCl3: 7.93 (d, 2H), 6.90 (d, 2H), 2.58 (s, 3H)であった。
【0083】
1.2.1-(4-イソブチルフェニル)エタノンの調製
1-(4-イソブチルフェニル)エタノンは、4-イソブチルベンゼン(1当量)および無水酢酸(2当量)を用いて、上記1.1.に記載の手順に従って調製した。収率は80%であった。
1H NMR (CDCl3): d 7.8 (d, 2H, J=7.0 Hz), 7.22 (d, 2H, J=7.0 Hz), 2.50 (s, 3H), 2.45 (d, 2H, J=7.0 Hz), 1.80 (m, 1H), 0.83 (d, 6H, J=7.0 Hz).
13C NMR (CDCl3): 197.8, 147.6, 135, 129.3, 128.3, 45.4, 30.1, 26.5, 22.3.
【0084】
1.3.1-(4-ヒドロキシフェニル)ノナン-1-オンの調製
1-(4-ヒドロキシフェニル)ノナン-1-オンは、フェノールとノナン酸を用いて、上記1.1.に記載の手順に従って調製した。定量的収率であった。
1H(CDCl3): 7.84 (2H, d, J = 8.97 Hz), 6.87 (2H, d, J = 8.97 Hz), 2.86 (2H, t, J = 7.32 Hz), 1.65 (2H, m), 1.29 (10H, m), 0.79 (3H, t, J = 7.14 Hz);
13C(CDCl3): 200.4, 161, 130.8, 129.5, 115.4, 38.4, 31.8, 29.4, 29.1, 24.9, 22.65, 14.09.
【0085】
1.4.4-ヒドロキシベンゾフェノンの調製
4-ヒドロキシベンゾフェノンは、フェノールと安息香酸を用いて、60℃の温度で、上記1.1.に記載の手順に従って調製した。収率は60%であった。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ = 7.71-7.65 (m, 4H), 7.56 (tt, J = 7.4, 1.7 Hz, 1H), 7.49-7.43 (m, 2H,), 6.88 (tt, J = 9.5, 2.4 Hz, 2H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ = 197.8, 161.0, 138.0, 133.2, 132.2, 129.9, 129.4, 115.5.
【0086】
1.5.4-メトキシベンゾフェノンの調製
4-メトキシベンゾフェノンは、アニソールと安息香酸を用いて、60℃の温度で、上記1.1.に記載の手順に従って調製した。収率は65%であった。
1H NMR (CDCl3): δ = 7.83 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.75 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.56 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.46 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 6.96 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 3.87 (s, 3H).
13C NMR (CDCl3): δ = 195.5, 163.1, 138.2, 132.5, 131.8, 130.0, 129.6, 128.1, 113.5, 55.4.
【0087】
1.6.(4-ヒドロキシフェニル)-(3,4,5-トリヒドロキシフェニル)メタノンの調製
(4-ヒドロキシフェニル)-(3,4,5-トリヒドロキシフェニル)メタノンは、フェノールと3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸を用いて、120℃の温度で、上記1.1.に記載の手順に従って調製した。収率は55%であった。
1H NMR (MeOD): δ = 7.67 (d, J = 7.5Hz, 2H), 6.86 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 6.82 (s, 2H).
【0088】
1.7.4-クロロベンゾフェノンの調製
4-クロロベンゾフェノンは、クロロベンゼンと塩化ベンゾイルを用いて、120℃の温度で、上記1.1.に記載の手順に従って調製した。収率は63%であった。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.78-7.75 (m, 4 H), 7.62-7.59 (m, 1 H), 7.51-7.46 (m, 4 H).
【0089】
2.パラセタモールの調製
【0090】
2.1.工程1:フェノールのアシル化
4-ヒドロキシアセトフェノンを上記1.1.に記載の手順に従って調製した。
【0091】
2.2.工程2:4-ヒドロキシアセトフェノンに対するバイヤー・ビリガー反応
25 mL容量の三つ首丸底フラスコに、10 g (74 mmol)の4-ヒドロキシアセトフェノンと14 mL(370 mmol;5当量)のギ酸を加えた。5 mL (50%水溶液) 1.2当量の過酸化水素(H2O2)を1時間、-10℃で、シリンジポンプにより注意深く滴下した。過酸化水素の添加が完了した後、反応物をゆっくりと15時間以上かけて室温に戻した。反応混合物を酢酸エチルによって抽出し、乾燥し、濃縮した後、目的生成物は86%の収量で得られた。
1H NMR of the product, 300 MHz, CDCl3: 6.94 (d, 2H), 6.78 (d, 2H), 2.29 (s, 3H).
13C NMR: 171.3, 153.6, 143.5, 122.2, 116.1, 116.0, 20.9.
【0092】
2.3.工程3:求核置換反応
アセチルヒドロキノン/ヒドロキノン混合物(44.0 g, 0.4 mol, 1当量)、酢酸アンモニウム(63.0 g, 0.8 mol, 2当量)、および酢酸(114 mL, 2 mol, 5当量)を温度計および機械式攪拌機を備えたParr Instrument社製の300 mL容反応容器に加えた。オートクレーブはアルゴンでパージし、撹拌前に160℃まで加熱した(マントルヒーターを使用)。温度をさらに230℃まで上げ、混合物をこの温度で15時間撹拌した。反応容器を室温まで冷却し、均一な混合物を250 mL容フラスコに移した(この段階でHPLC分析を行うためのサンプルを採取した)。次に、蒸留装置を設置し、減圧下で酢酸を蒸発させた。総量98mLを回収し、これは回収率85%に相当した。反応混合物を室温まで冷却し、沈殿物を濾過し、水で洗浄し(20 mLで2回)、乾燥し、パラセタモール(53.0 g, 88%)を白色固体として得た。HPLC分析の結果、純度は99%であった。
1H NMR (CD3OD, 500 MHz): δ 7.30 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.72 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 4.86 (s, 1H), 2.08 (s, 3H); 13C NMR (CD3OD, 125 MHz): δ 171.3, 155.4, 131.7, 123.3, 116.2, 23.5.
【0093】
2.4.酢酸を使用しない代替方法
【0094】
2.4.1.酢酸アンモニウム
ヒドロキノン(5.5 g、1当量)および酢酸アンモニウム(38.5 g、10当量)を、温度センサーおよび機械式攪拌機を備えたParr Instrument社製の100 mL容反応容器に加えた。オートクレーブを260℃に加熱した。混合物をこの温度で1時間撹拌した。観測した圧力は26 barであった。反応終了時、ヒドロキノンの転化率は最大90%で、選択率は95%以上であった。
【0095】
ヒドロキノン(2.75 g、1当量)および酢酸アンモニウム(38.5 g、20当量)を、温度センサーおよび機械式攪拌機を備えたParr Instrument社製の100 mL容反応容器に加えた。オートクレーブを280℃に加熱した。混合物をこの温度で30分間撹拌した。観測された圧力は32 barであった。反応終了時、ヒドロキノンの転化率は最大95%であった。
1H NMR (CD3OD, 500 MHz): δ 7.30 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.72 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 4.86 (s, 1H), 2.08 (s, 3H); 13C NMR (CD3OD, 125 MHz): δ 171.3, 155.4, 131.7, 123.3, 116.2, 23.5.
【0096】
2.4.2.アセトアミド/水混合物
ヒドロキノン(5.5 g、1当量)およびアセトアミド(10当量)および水(10当量)を、温度センサーおよび機械式攪拌機を備えた100 mL Parr Instrument反応器中に添加した。オートクレーブを260℃に加熱した。混合物をこの温度で1時間撹拌した。観測された圧力は26 barであった。反応終了時、ヒドロキノンの転化率は最大90%、選択率は95%以上であった。
【0097】
上記のように反応混合物を分離するとパラセタモールが得られ、また他の合成に再利用できるアセトアミドが9当量得られた。
【0098】
2.4.3.EP 2 860 172:比較例(15時間、220℃)。
ヒドロキノン(1当量)および酢酸アンモニウム(10当量)を用いて、220℃で15時間、同じ手順を行うと、ヒドロキノンの転化率は96%であるが、選択率は79%に過ぎない。
【国際調査報告】