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特表2024-540145多機能性被膜、多機能性被膜の製造方法、関連する被膜付き物品及び使用
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  • 特表-多機能性被膜、多機能性被膜の製造方法、関連する被膜付き物品及び使用 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】多機能性被膜、多機能性被膜の製造方法、関連する被膜付き物品及び使用
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/52 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C23C16/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525540
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2022080209
(87)【国際公開番号】W WO2023073175
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】20216125
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510275024
【氏名又は名称】ピコサン オーワイ
【氏名又は名称原語表記】PICOSUN OY
【住所又は居所原語表記】Tietotie 3, FI-02150 Espoo, Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】イェッセ カッリオマキ
(72)【発明者】
【氏名】リーナ リタサロ
(72)【発明者】
【氏名】トム ブロムベルグ
(72)【発明者】
【氏名】イルッカ マンニネン
(72)【発明者】
【氏名】ユハニ タスキネン
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA06
4K030AA09
4K030AA11
4K030AA14
4K030BA10
4K030BA17
4K030BA22
4K030BA42
4K030BA43
4K030BA46
4K030DA02
4K030FA01
(57)【要約】
基体上に被膜を形成する方法が提供され、方法は、少なくとも1つの層を表面上に直接的又は間接的に堆積する分子層堆積(MLD)プロセスを用いること、及び原子層堆積(ALD)プロセスを用いて、少なくとも1つの層上に/少なくとも1つの層に被さるように、無機膜を堆積すること、を含んでいる。形成された被膜内で、未結合、未反応、及び/又は部分反応済みのプリカーサーが、前記被膜内の欠陥部位へ侵入した有害環境種との化学的相互作用状態に入り、そしてシーリング・コンパウンドを形成することにより前記欠陥部位をシールするのを可能にする状態が確立される。積層被膜、積層被膜の使用、及び被膜付き物品がさらに提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に被膜を形成する方法であって、
(i) 分子層堆積(MLD)プロセスを用いて、本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層を、前記基体の表面上に直接的又は間接的に堆積すること、及び
(ii) 原子層堆積(ALD)プロセスを用いて、工程(i)で形成された少なくとも1つの層上に/少なくとも1つの層に被さるように、無機膜を堆積すること、
を含み、
これにより、被膜が形成され、本質的に多孔質の材料バルクから成る前記少なくとも1つの層内で、未結合、未反応、及び/又は部分反応済みのプリカーサーが、前記被膜内の欠陥部位へ侵入した有害環境種との化学的相互作用状態に入り、そしてシーリング・コンパウンドを形成することにより前記欠陥部位をシールする、
基体上に被膜を形成する方法。
【請求項2】
工程(ii)で形成された前記無機膜が少なくとも1つの堆積層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(ii)で形成された前記無機膜が、スタックになるように配列された複数の堆積層を含み、前記スタック内の各堆積層が同じ又は異なる組成を有している、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(ii)で前記無機膜を形成する前記堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al)、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)、及び二酸化ケイ素(SiO)から成る群から選択された任意の化合物から成っている、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(ii)で前記無機膜を形成する前記複数の堆積層が、酸化アルミニウム(III)とは異なる金属酸化物化合物から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
工程(ii)で前記無機膜を形成する前記複数の堆積層が、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1種から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(ii)で前記無機膜を形成する前記複数の堆積層が、酸化ハフニウム(IV)(HfO)から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
所期の総厚を有する被膜が形成されるまで、工程(i)及び(ii)を繰り返すことを含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(ii)が工程(i)の前に実施される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記基体の前処理をさらに含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記基体の前処理が、オゾン(O)、酸素(O)のいずれか1種を用いて、且つ/又は前記基体の表面に対する工程(i)で形成された本質的に多孔質の材料層の付着力を増強するプライマー層を、選択的に前記原子層堆積プロセスを用いて前記基体の表面上へ堆積することによって、前記基体を処理することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
最上層として前記被膜上に/被膜に被さるようにポリマー膜を堆積することをさらに含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記最上層を構成する前記ポリマー膜が、ポリジメチルシロキサン(PDMS)又はポリウレタン(PU)から成る、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記有害環境種が、積層被膜で被覆された前記基体を取り囲む環境を起源とし、且つ前記被膜内の欠陥部位へ侵入する水分子、ヒドロキシルラジカル、亜酸化窒素種、生体分子、及びこれに類するもののいずれか1種を含む、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
自己回復性積層被膜であって、基体上に形成され、そして、
(a) 分子層堆積(MLD)プロセスを用いて堆積された、本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層と、
(b) 原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された無機膜と、
を含み、
本質的に多孔質の材料バルクから成る前記少なくとも1つの層内で、未結合、未反応、及び/又は部分反応済みのプリカーサーが、前記被膜内の欠陥部位へ侵入した有害環境種との化学的相互作用状態に入り、そしてシーリング・コンパウンドを形成することにより前記欠陥部位をシールする、
自己回復性積層被膜。
【請求項16】
前記無機膜(b)が少なくとも1つの堆積層を含む、請求項15に記載の積層被膜。
【請求項17】
前記無機膜(b)が、スタックになるように配列された複数の堆積層を含み、前記スタック内の各堆積層が同じ又は異なる組成を有している、請求項15に記載の積層被膜。
【請求項18】
前記無機膜(b)を形成する前記堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al)、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)、及び二酸化ケイ素(SiO)から成る群から選択された任意の化合物から成っている、請求項15から17のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項19】
前記無機膜(b)が、酸化アルミニウム(III)とは異なる金属酸化物化合物から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む、請求項15から17のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項20】
前記無機膜(b)が、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1種から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む、請求項15から17のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項21】
前記無機膜(b)が、酸化ハフニウム(IV)(HfO)から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む、請求項15から17のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項22】
前記無機膜(b)が、酸化タンタル(V)(Ta)から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む、請求項15から17のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項23】
前記無機膜(b)が、前記基体上に/基体に被さるように、且つ/又は本質的に多孔質の材料から成る前記少なくとも1つの層上に/層に被さるように堆積されている、請求項15から22のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項24】
前記基体上に/基体に被さるように原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された前記無機膜(b)を含み、前記無機膜(b)が、Al-SiO-Al-TiOの組成を有する少なくとも1つのスタックになるように配列された複数の堆積層を有する状態で形成されている、請求項15に記載の積層被膜。
【請求項25】
前記基体上に/基体に被さるように原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された前記無機膜(b)を含み、前記無機膜(b)が、Al-HfO-Al-ZrOの組成を有する少なくとも1つのスタックになるように配列された複数の堆積層を有する状態で形成されている、請求項15に記載の積層被膜。
【請求項26】
前記基体上に/基体に被さるように原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された前記無機膜(b)を含み、前記無機膜(b)が、Al-HfO-ZrOの組成を有する少なくとも1つのスタックになるように配列された複数の堆積層を有する状態で形成されている、請求項15に記載の積層被膜。
【請求項27】
前記基体上に/基体に被さるように原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された前記無機膜(b)を含み、前記無機膜(b)が、TiO+[(Al-TiO)]の組成を有する少なくとも1つのスタックになるように配列された複数の堆積層を有する状態で形成されている、請求項15に記載の積層被膜。
【請求項28】
前記基体上に/基体に被さるように原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された前記無機膜(b)を含み、前記無機膜(b)が、Al-Ta-Al-HfOの組成を有する少なくとも1つのスタックになるように配列された複数の堆積層を有する状態で形成されている、請求項15に記載の積層被膜。
【請求項29】
当該無機膜(b)内で前記堆積層が反復スタックになるように配列されている無機膜(b)を含む、請求項15から28のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項30】
分子層堆積(MLD)プロセスを用いて堆積された本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層をさらに含む、請求項24から29のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項31】
本質的に多孔質の材料バルクから成る前記少なくとも1つの層が、前記基体上に直接に、又は前記無機膜(b)の上部に、任意には前記無機膜(b)内部に設けられた前記複数の堆積層から成る第1スタックの上部に堆積されている、請求項15から30のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項32】
前記基体表面に対する本質的に多孔質の材料層(a)の付着力を増強するために、前記基体表面上に形成されたプライマー層をさらに含み、前記プライマー層が、任意には原子層堆積プロセスを用いて堆積されている、請求項15から31のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項33】
最上層として前記被膜上に/被膜に被さるように堆積されたポリマー膜をさらに含む、請求項15から31のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項34】
前記最上層を構成する前記ポリマー膜が、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から成る、請求項33に記載の積層被膜。
【請求項35】
前記基体が、医療デバイス、医療用パッケージング、有機発光ダイオード(OLED)、及びセンサから成る群から選択される、請求項15から34のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項36】
本質的に多孔質の材料バルク内に形成されたシーリング・コンパウンドが、未結合、未反応、及び/又は部分反応済みのプリカーサーと、有害環境種との生成物であり、前記有害環境種が、積層被膜で被覆された前記基体を取り囲む環境を起源とし、且つ前記被膜内の欠陥部位へ侵入する水分子、ヒドロキシルラジカル、亜酸化窒素種、及びこれに類するもののいずれか1種を含む、請求項15に記載の積層被膜。
【請求項37】
乾燥剤としての、請求項15から36のいずれか1項に記載の積層被膜の使用。
【請求項38】
パッケージングにおける、具体的には医療用パッケージングにおける、請求項15から36のいずれか1項に記載の積層被膜の使用。
【請求項39】
触媒担体、マイクロバッテリーのための固体電解質、リチウムイオンバッテリーセパレータ、自立型膜、センサ上の撥水層、蛍光薄膜、可撓性電子装置のためのバリア膜、光学素子のためのバリア膜、具体的にはLED、量子ドット、及び/又はナノロッドLED、ナノ粒子/燐光体のためのバリア膜、可撓性スマート・ウィンドウ、スマート・コンタクトレンズ、スマートセンサ、及び宇宙関連用途のいずれか1つのための用途における、請求項15から36のいずれか1項に記載の積層被膜の使用。
【請求項40】
請求項15から36のいずれか1項に記載の積層被膜で、且つ/又は請求項1から14のいずれか1項に記載の方法によって形成された被膜で被覆された表面を有する、パッケージング物品。
【請求項41】
容器、任意にはポンプ付き容器、トレイ、任意には多区画トレイ、アンプル、バイアル、シリンジ、ブリスターパック、個別ラッピング型パック、及びパウチから成る群から選択される、請求項40に記載のパッケージング物品。
【請求項42】
ガラス又はポリマー、例えばポリウレタン(PU)、液晶ポリマー(LCP)、及び/又はポリエチレンテレフタレート(PET)を含む、請求項40又は41に記載のパッケージング物品。
【請求項43】
請求項15から36のいずれか1項に記載の積層被膜で、且つ/又は請求項1から14のいずれか1項に記載の方法によって形成された被膜で被覆された表面を有する、植え込み型医療デバイスのような医療デバイス。
【請求項44】
超音波医療デバイス、任意には圧電微細機械加工型超音波トランスデューサ(PMUT)、又は容量性微細機械加工型超音波トランスデューサ(CMUT)として形成された、請求項43に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はおおまかに言えば、化学堆積法によって被膜付き物品を製造することに関する。具体的には、本発明は、鋭敏であり且つ潜在的に可撓性の基体上へ多層積層被膜を堆積することに関する。これらの多層積層被膜は保護層をもたらす。この保護層は、種々の鋭敏であり且つ可撓性の基体のための腐食バリア又は湿分バリアを含む数多くの機能を与え、そしてさらに保護バリア層は、相当な量の損傷に持ちこたえる能力を与える。
【背景技術】
【0002】
蒸気相における化学堆積法、例えば原子層堆積(ALD)及び分子層堆積(MLD)を介して種々様々な基体上に保護被膜を生成することが、当該技術分野において幅広く記述されている。
【0003】
原子層堆積技術は、交互の自己飽和表面反応に基づく。非反応性(不活性)気体状キャリア中の分子化合物又は元素として提供された種々異なる反応物質(プリカーサー)が、基体を収容する反応空間内へ連続的にパルスされる。プリカーサーの堆積に続いて、基体を不活性ガスによりパージする。コンベンショナルなALDサイクル(堆積サイクル)は2つの半反応(第1プリカーサーのパルス-パージ;第2プリカーサーのパルス-パージ)で進行し、これにより材料の単原子層が自己制限的(自己飽和的)に形成され、その厚さは典型的には0.05~0.2nmである。サイクルは、所定の厚さを有する膜を得るために必要な回数だけ繰り返される。各プリカーサーの典型的な基体暴露時間は、0.01~1秒間である。無機材料を原子レベルで成長させるためのALD技術が開発されている。最も一般的なプリカーサーは、金属酸化物、元素金属、金属窒化物、及び金属硫化物を含む。ALD堆積型の膜は完全にコンフォーマルであり、且つピンホールフリーである。
【0004】
分子層堆積はまた、(超)薄型の有機膜及びハイブリッド有機-無機膜の生産を可能にする連続的な自己制限的蒸気相堆積である。ALDと同様に、分子層堆積法の層毎の性質は、サブナノメートル厚の制御を伴う、高度にコンフォーマルな薄膜の生産を可能にする。純粋な有機(ポリマー)構造の生産に際しては、2種又は3種以上の有機プリカーサーが採用されるのに対して、ハイブリッド有機-無機膜は典型的には、無機化合物と有機ポリマーとの組み合わせを用いて合成される。一般的な有機プリカーサーは、例えば-OH、-COOH、CONH、-CHO、-NH、-SH、-CN官能基を含有するポリマー分子である。
【0005】
種々異なるパッケージング用途、具体的には医療用パッケージングにおいて利用されるパッケージング用途(容器、医薬パッケージングなど)は、滅菌パッケージング解決手段を必要とする。多くの事例では、被覆解決手段は透明であり、薄型且つ拡張可能であり、腐食性液体及び周囲湿分に対して耐性を有し、非細胞毒性であることが必要であり、そして種々異なる形状の表面をコンフォーマルで制御された形で被覆し得ることが極めて重要である。
【0006】
米国特許出願公開第2010/178481号明細書(George他)には、可撓性基体上に被着されたALD-MLD被膜が記載されている。被膜はシリカ以外の無機材料、例えば金属酸化物、金属、又は半金属窒化物から成る多重層を含む。隣接する層の少なくともいくつかは、少なくとも1つのシリカ層及び少なくとも1つの有機ポリマー層によって互いに分離されている。無機層及びシリカ層はALDによって堆積され、有機ポリマー又はハイブリッド無機-有機ポリマー層はMLDによって堆積されている。
【0007】
米国特許出願公開第2013/296988号明細書(Weber他)に記載された医療用インプラントは、ALDによって堆積された少なくとも1つのセラミック層と、MLD、ゾルゲル・プロセス、液体源ミスト化化学蒸着(LSMCD)、又はプラズマ支援型化学蒸着(PECVD)によって堆積された少なくとも1つのポリマー層とを有するナノ積層体を含む。セラミック材料に加えて、又はセラミック材料の代わりに、ナノクレイ及び/又はナノダイアモンドをポリマー材料中に組み込むことにより、強度及び耐摩耗性を改善する。
【0008】
米国特許出願公開第2013/333835号明細書(Carcia他)には、ALD技術とMLD技術とを組み合わせることにより、ハイブリッド無機-有機、ポリマー合金を含む剛性又は可撓性の保護バリア被膜を製造するプロセスが記載されている。透明な合金は、保護されるべき物体上、又は物体を保護するために続いて採用されてよいキャリア基体上に直接に形成されてよい。実際のバリア構造にはバリア・キャッピング構造が類似している。
【0009】
とはいえ、以前に認識された、上記原子層堆積法及び分子層堆積法を用いて堆積された多層被膜が効率的な耐腐食性バリアとして作用することが判っているものの、多くの事例において、これらの被膜は、被膜が機械的損傷を被った場合には、その保護能力が奪われるようになる。
【0010】
これに関して、具体的には生物医学的デバイス、例えば植え込み型生体電子解決手段の製造時における前記被膜の被着と関連する難題に対処することに照らした、保護カプセル化の製作分野における更新が今なお望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、関連技術分野の制約及び欠点から生じる問題点のそれぞれを解決すること、又は少なくとも軽減することである。この目的は、本明細書に添付のそれぞれの独立請求項に基づく、基体上に被膜を形成する方法、自己回復性積層被膜、関連する物品、及び使用によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様では、独立請求項1に記載されたものに基づく、分子層堆積プロセス及び原子層堆積を用いて、被膜を基体上に形成する方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
1実施態様では、基体上に被膜を形成する方法であって、
(i) 分子層堆積(MLD)プロセスを用いて、本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層を、前記基体の表面上に直接的又は間接的に堆積し、そして
(ii) 原子層堆積(ALD)プロセスを用いて、工程(i)で形成された少なくとも1つの層上に/少なくとも1つの層に被さるように、無機膜を堆積する、
ことを含み、
これにより、被膜が形成され、本質的に多孔質の材料バルクから成る前記少なくとも1つの層内で、未結合、未反応、及び/又は部分反応済みのプリカーサーが、前記被膜内の欠陥部位へ侵入した有害環境種との化学的相互作用状態に入り、そしてシーリング・コンパウンドを形成することにより前記欠陥部位をシールする。
【0014】
前記有害環境種は、積層被膜で被覆された前記基体を取り囲む環境を起源とし、且つ前記被膜内の欠陥部位へ侵入する水分子、ヒドロキシルラジカル、亜酸化窒素種、生体分子、例えばタンパク質、及びこれに類するもののいずれか1種を含んでよい。
【0015】
いくつかの事例では、前記被膜内で、未結合、未反応、及び/又は部分反応済みのプリカーサーが、工程(i)中に本質的に多孔質の材料バルク中へ浸透するのを可能にする状態が確立される。
【0016】
実施態様において、工程(ii)で形成された前記無機膜が少なくとも1つの堆積層を含む。
【0017】
実施態様において、工程(ii)で形成された前記無機膜が、スタックになるように配列された複数の堆積層を含み、前記スタック内の各堆積層が同じ又は異なる組成を有している。
【0018】
実施態様において、工程(ii)で前記無機膜を形成する前記堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al)、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)、及び二酸化ケイ素(SiO)から成る群から選択された任意の化合物から成っている。
【0019】
実施態様において、工程(ii)で前記無機膜を形成する前記複数の堆積層が、酸化アルミニウム(III)とは異なる金属酸化物化合物から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む。
【0020】
実施態様において、工程(ii)で前記無機膜を形成する前記複数の堆積層が、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1種から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む。
【0021】
実施態様において、工程(ii)で前記無機膜を形成する前記複数の堆積層が、酸化ハフニウム(IV)(HfO)から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む。
【0022】
実施態様において、所期の総厚を有する被膜が形成されるまで、工程(i)及び(ii)を繰り返すことを含む。実施態様において、前記工程(ii)が工程(i)の前に実施される。実施態様において、工程(i)で堆積されたMLD層が、工程(ii)で堆積された2つ又は3つ毎のALD堆積層と、交互に位置している。
【0023】
実施態様において、前記方法が前記基体の前処理をさらに含む。実施態様において、前記基体の前処理が、オゾン(O)、酸素(O)のいずれか1種を用いて、且つ/又は前記基体の表面に対する工程(i)で形成された本質的に多孔質の材料層の付着力を増強するプライマー層を、前記原子層堆積プロセスを用いて前記基体の表面上へ堆積することによって、前記基体を処理することを含む。
【0024】
実施態様において、前記方法が、最上層として前記被膜上に/被膜に被さるようにポリマー膜を堆積することをさらに含む。実施態様において、前記最上層を構成する前記ポリマー膜が、ポリジメチルシロキサン(PDMS)又はポリウレタン(PU)から成る。
【0025】
別の態様では、独立請求項14に記載されたものに基づく自己回復性積層被膜が提供される。
【0026】
実施態様において、前記自己回復性積層被膜は基体上に形成され、そして、
(a) 分子層堆積(MLD)プロセスを用いて堆積された、本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層と、
(b) 原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された無機膜と、
を含み、
本質的に多孔質の材料バルクから成る前記少なくとも1つの層内で、未結合、未反応、及び/又は部分反応済みのプリカーサーが、前記被膜内の欠陥部位へ侵入した有害環境種との化学的相互作用状態に入り、そしてシーリング・コンパウンドを形成することにより前記欠陥部位をシールする。
【0027】
実施態様において、前記無機膜(b)が少なくとも1つの堆積層を含む。
【0028】
実施態様において、前記積層被膜内では、前記無機膜(b)が、スタックになるように配列された複数の堆積層を含み、前記スタック内の各堆積層が同じ又は異なる組成を有している。
【0029】
実施態様において、前記積層被膜内では、前記無機膜(b)を形成する前記堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al)、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)、及び二酸化ケイ素(SiO)から成る群から選択された任意の化合物から成っている。
【0030】
実施態様において、前記積層被膜内では、前記無機膜(b)が、酸化アルミニウム(III)とは異なる金属酸化物化合物から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む。
【0031】
実施態様において、前記積層被膜内では、前記無機膜(b)が、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1種から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む。
【0032】
実施態様において、前記積層被膜内では、前記無機膜(b)が、酸化ハフニウム(IV)(HfO)から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む。
【0033】
実施態様において、前記積層被膜内では、前記無機膜(b)が、酸化タンタル(V)(Ta)から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む。
【0034】
実施態様において、前記積層被膜が、前記基体上に/基体に被さるように、且つ/又は本質的に多孔質の材料(a)から成る前記少なくとも1つの層上に/層に被さるように堆積された前記無機膜(b)を含む。
【0035】
実施態様において、前記積層被膜が、前記基体上に/基体に被さるように原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された前記無機膜(b)を含む。実施態様において、前記無機膜(b)が、下記組成、すなわちAl-SiO-Al-TiO;Al-HfO-Al-ZrO;Al-HfO-ZrO;又は、TiO+[(Al-TiO)]のうちのいずれか1つの組成を有する少なくとも1つのスタックになるように配列された複数の堆積層を有する状態で形成されている。実施態様において、前記無機膜(b)内の上述の一連の堆積層が、反復するスタックになるように配列されている。
【0036】
実施態様において、前記基体上に/基体に被さるようにALDプロセスを用いて堆積された前記無機膜(b)を含む前記積層被膜が、分子層堆積(MLD)プロセスを用いて堆積された本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層(a)をさらに含む。
【0037】
実施態様において、前記積層被膜が、本質的に多孔質の材料バルクから成る前記少なくとも1つの層(a)を含み、前記少なくとも1つの層が、前記基体上に直接に、又は前記無機膜(b)の上部に、任意には前記無機膜(b)内部に設けられた前記複数の堆積層から成る第1スタックの上部に堆積されている。
【0038】
実施態様において、前記積層被膜が、前記基体表面に対する本質的に多孔質の材料層(a)の付着力を増強するために、前記基体表面上に形成されたプライマー層をさらに含み、前記プライマー層が、任意には原子層堆積プロセスを用いて堆積されている。
【0039】
実施態様において、前記積層被膜が、最上層として前記被膜上に/被膜に被さるように堆積されたポリマー膜をさらに含む。前記最上層を構成する前記ポリマー膜が、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から成っていてよい。
【0040】
実施態様において、前記積層被膜内では、前記基体が、医療デバイス、医療用パッケージング、有機発光ダイオード(OLED)、及びセンサから成る群から選択される。
【0041】
実施態様において、本質的に多孔質の材料バルク(層(a))内に形成されたシーリング・コンパウンドが、未結合、未反応、及び完全には反応していない(部分反応済みの)プリカーサーと、有害環境種との生成物であり、前記有害環境種が、積層被膜で被覆された前記基体を取り囲む環境を起源とし、且つ前記被膜内の欠陥部位へ侵入する水分子、ヒドロキシルラジカル、亜酸化窒素種、及びこれに類するもののいずれか1種を含む。
【0042】
さらなる態様では、いくつかの前述の態様及び実施態様に基づく積層被膜の、乾燥剤としての使用が提供される。さらなる態様では、いくつかの前述の態様及び実施態様に基づく積層被膜の、パッケージングにおける、具体的には医療用パッケージングにおける使用が提供される。さらなる態様では、いくつかの前述の態様及び実施態様に基づく積層被膜の、触媒担体、マイクロバッテリーのための固体電解質、リチウムイオンバッテリーセパレータ、自立型膜、センサ上の撥水層、蛍光薄膜、可撓性電子装置のためのバリア膜、光学素子のためのバリア膜、具体的にはLED、量子ドット、及び/又はナノロッドLED、ナノ粒子、例えば燐光体ナノ粒子のためのバリア、可撓性スマート・ウィンドウ、スマート・コンタクトレンズ、スマートセンサ、及び宇宙関連用途のいずれか1つのための用途における使用が提供される。
【0043】
いくつかの他の態様では、パッケージング物品が、いくつかの前述の態様及び実施態様に基づく積層被膜で、且つ/又はいくつかの前述の態様及び実施態様に基づく方法によって形成された積層被膜で被覆された表面を有している。実施態様において、前記パッケージ物品が、容器、任意にはポンプ付き容器、トレイ、任意には多区画トレイ、アンプル、バイアル、シリンジ、ブリスターパック、個別ラッピング型パック、及びパウチから成る群から選択される。実施態様において、パッケージ物品は、ガラス又はポリマー、例えばポリウレタン(PU)、液晶ポリマー(LCP)、及び/又はポリエチレンテレフタレート(PET)を含む、又はこれから成る基体を有している。
【0044】
いくつかの他の態様では、植え込み型医療デバイスのような医療デバイスが提供され、前記医療デバイスがいくつかの前述の態様及び実施態様に基づく積層被膜で、且つ/又はいくつかの前述の態様及び実施態様に基づく方法によって形成された積層被膜で被覆された表面を有する。いくつかの他の態様では、前記医療デバイスが、超音波医療デバイス、任意には圧電微細機械加工型超音波トランスデューサ(PMUT)、又は容量性微細機械加工型超音波トランスデューサ(CMUT)として形成されている。
【0045】
本発明の有用性は、本発明のそれぞれの具体的な実施態様に応じて、種々の理由から生じる。
【0046】
ALDの主要な利点は、堆積プロセスの連続的な、自己飽和的なガス表面反応制御から全て導き出されることである。このような膜成長モードは、任意の形状を有する三次元物体上に、極めてコンフォーマル且つ均一な膜が被覆されるのを可能にする。したがってALD技術は、種々の用途、具体的には医療用途のために必要とされる高品質被膜の製造において高い可能性を有する。ALD堆積中に利用される温度が比較的低い(85~150℃)ことにより、被膜は、鋭敏な基体材料上にもコンフォーマルに堆積することができる。加えて、ALD被膜は概ね非晶質である(結晶性でない)ため、これらの被膜は、被膜を通る有害な、例えば腐食性種のための容易な経路を提供しない。
【0047】
全体的に見れば、本発明は、向上した耐(ミクロ)欠陥性を有し、そしてまた有害環境種、例えば湿分及び/又はイオン、UV光、熱、酸素、及びこれに類するものに対する信頼性のある低温バリアとして作用する(ナノ)積層被膜を製造する方法を提供する。本発明は、低温熱処理法と適合する、自己修復性/自己回復性の被膜を製造するための堆積法をさらに提供する。
【0048】
提示される方法はこれにより、具体的には鋭敏であり且つ任意には可撓性の基体上に、薄膜カプセル化被膜を製作することに関する。この被膜は、相当な量の損傷から自己持続し、そして自己修復することができる。
【0049】
被膜材料の徹底した選択により、極めて薄い複数の無機層をALD堆積することができる。このことは、被膜構造が可撓性であり続けるのを可能にする一方、周期的な構造が、不透過性材料(例えば金属酸化物材料)の体積を増大させることにより、良好なバリア特性を保証する。他方において、MLD層は、ALD堆積型の無機バリア膜間の「デカップリング(decoupling)」層として作用することによって、被膜を通る欠陥伝播を遮り、そして蛇行性通路を形成することにより水蒸気透過度(WVTR)ラグタイム又は透湿を増大させる。
【0050】
(ナノ)積層被膜は、保護作用を有する、非毒性の、そして長持ちする医療用被膜解決手段として役立つように、医療部門における使用、例えば心臓学及び神経学における植え込み型電子装置のための使用に特に適している。
【0051】
動作の信頼性を改善すること、及び寿命を長くすることは、植え込み型医療デバイスにとって特に重要である。それというのも、インプラントの交換はしばしば外科処置を伴うからであり、したがって性能特性とともにこのようなデバイスの信頼性を改善することは、患者及びヘルスケア・システムの双方にとって極めて有益である。
【0052】
本発明はさらに、産業用及び消費者用電子装置において使用される湿分感受性構成部分の寿命を延ばし、性能を向上させることを可能にする。
【0053】
本開示において、1マイクロメートル(μm)未満の層厚を有する材料は、「薄膜(thin films)」と呼ばれる。
【0054】
「反応性流体」及び「プリカーサー流体」という表現は、本開示では、不活性キャリア中の少なくとも1種の化合物(プリカーサー化合物)(以後プリカーサー)を含む流体流を示す。
【0055】
本開示において、「生体適合性(biocompatibility)」という用語はその一般的な意味において使用され、つまり、生物学的環境に暴露された、技術的性質を有するデバイス又はシステムが、短期及び長期の両方にわたって主要且つ臨床的に不都合な兆候を示すことなしに、その機能を発揮する能力と定義される。生体適合性の評価は主として、デバイス/システムを構成する材料が、体内に望まれない炎症又は合併症を発生させることなしに、生物学的環境と相互作用する能力を分析することを伴う。
【0056】
本開示において、別段の明示がない限り、「環境(environment)」という用語は、実施態様に基づく被膜で被覆された基体を取り囲む環境を意味する。
【0057】
本開示において、(「身体植え込み型(body implantable)」、「身体環境(body environment)」などという表現の文脈における)「身体(body)」という用語は、主として人間に関して使用される。しかしながら、本発明の概念は、人間以外の哺乳類又は他の動物に関して構成され且つ/又は使用される物品、例えば医療デバイスに十分に適用することができる。
【0058】
「いくつかの(a number of)」という用語は、本明細書中では1から出発して例えば1、2、又は3までの任意の正の整数を意味するのに対して、「複数の(a plurality of)」という用語は、本明細書中では2から出発して例えば2、3、又は4までの任意の正の整数を意味する。
【0059】
「第1」及び「第2」という表現はいかなる順番、量、又は重要性をも意味しようとするものではなく、別段の明示がない限り、1つのエレメントを別のエレメントから区別するだけのために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1図1A~1Cは、基体20上に位置する、実施態様に基づく自己回復性積層被膜10のコンセプトを符号10で示す概略図である。
図2図2は、基体20上に位置するALD-ナノ積層被膜を符号10’で示す概略図である。
図3図3A及び3Bは、実施態様に基づく積層被膜に関して得られた、水蒸気透過度(WVTR)及び欠陥面積の試験結果を、モノリシックのALD構造と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1A、1B及び1Cは、実施態様に基づく、基体20上に形成された保護積層被膜(以後、被膜)の根底を成すコンセプトを符号10で示している。いくつかの事例において、保護被膜は、自己回復機能を備えている。
【0062】
被膜10は有利には、被膜10で被覆された基体20を取り囲む環境を起源とする種々の有害環境種によって誘発される浸食又は腐食を被りやすい、任意には可撓性の構成部分(基体)のために構成されている。環境は、例えば大気、任意の気体状媒体、例えば周囲空気、及び/又は任意の湿分含有環境、例えば本質的に液状の媒体(本質的に水性の媒体、例えば水、イオン含有媒体、塩分媒体など)、又は固形媒体(例えば粉末又は粒子)であってよい。なお、明確にするために述べておくが、被膜付き基体を取り囲む雰囲気/周囲も湿分含有媒体を表し得る。いくつかの事例では、環境は種々のin vitro培養物(例えば細胞培養物)及びin vivo媒体を含む。後者は体液及び組織で表すことができる。
【0063】
「湿分(moisture)」という用語はここでは、液体、具体的には被膜付き基体を取り囲む環境中の水の存在を示すために使用される。いくつかの事例では、この用語は、雰囲気中に存在する水蒸気の量に関する。
【0064】
被膜10は、分子層堆積プロセス(MLD)及び原子層堆積(ALD)の技術を用いて、被膜10は基体(20)上に形成される。これらの堆積プロセスのためのプリカーサ(反応物質)を徹底的に選択することにより、被膜10を、自己回復機能を有するようにすることができる。被膜10は、基体の一部又は基体全体を被覆するように形成することができる。
【0065】
被膜10は、本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層又は膜11を含む。層11はまた「本質的に多孔質の層」又は「MLD」層とも呼ばれる。層11はMLDプロセスを用いて、基体20の表面上に直接的又は間接的に堆積される。直接的な堆積は、本質的に多孔質の層11を、基体20の表面上に/表面に被さるように堆積することを意味するのに対して、間接的な堆積は、さらに下記のように、基体20上に(直接に)形成されたプライマー層の表面上/表面に被さるように、当該本質的に多孔質の層を堆積することを示す。
【0066】
いくつかの形態では、MLD層11は、純粋に有機のポリマー膜として形成されている。いくつかの他の形態では、MLD層11は、ハイブリッド有機-無機膜層として形成されている。
【0067】
MLD反応及びALD反応のために用いられる堆積設定は、例えば米国特許第8211235号明細書(Lindfors)に記載されたALD設備、又はフィンランド国Picosun Oyから入手可能なPicosun R-200 Advanced ALD システムとして商標登録された設備に基づくものであってよい。このような設定は、材料を原子レベル及び分子レベルで堆積するのを可能にする。
【0068】
模範的ALD反応器は、反応空間(堆積空間)を確立する反応チャンバを含む。この反応空間内では、本明細書に記載される被膜10の製造が行われる。反応器は、流体流(プリカーサー化合物P1,P2を含有する不活性流体及び反応性流体)を反応チャンバ内へ媒介するように形成されたいくつかの器具をさらに含む。これらの器具は、例えばいくつかの取り込みライン/供給ライン、及び関連の切り換え及び/又は調整デバイス、例えば弁として提供される。未反応/未結合のプリカーサー、及び生成された副生成物は典型的には、真空ポンプによって反応チャンバから引き出される。
【0069】
典型的なMLDサイクルでは、第1プリカーサーの分子は、基体の表面上の反応性(結合)部位と反応する。これにより、第1プリカーサーの分子層が、基体表面上に生成される。パージ後に、第2プリカーサーの分子は第1プリカーサーの堆積を介して生成された新たな反応性部位と反応し、ひいては第2プリカーサーの分子層を形成する。同時に、表面化学構造は初期反応基へ戻される。サイクルは第2パージで完結する。4つの工程(MLDプリカーサー1-パージ-MLDプリカーサー2-パージ)を繰り返すことにより、ポリマー膜を分子レベルで成長させることができる。
【0070】
ハイブリッド有機-無機膜の製作を可能にするために、MLDプロセスはポリマープリカーサー(例えば金属アルコキシド材料)を、ALDにおいて典型的に使用されるいくつかの一般的なプリカーサー(例えばテトラメチルアンモニウム、TMA)との組み合わせにおいて利用する。
【0071】
ハイブリッド有機-無機膜層として、本質的に多孔質の膜11を堆積するための模範的MLDプロセスについて、以下に説明する。
【0072】
模範的MLDプロセスは、ポリマープリカーサーとして7-オクテニルトリクロロシラン(7-OTS)を利用する。堆積サイクル中、最初の7-OTSと触媒として使用される水とを、堆積反応器の反応空間内へ導入し、続いてオゾン(O)処理を行った。7-OTSは末端ビニル(-CH=CH2)基を有しており、この末端ビニルは、オゾンを使用してカルボン酸基(-COOH)へ転化することができる。反応空間内へ金属プリカーサー、続いて水を導入することにより、堆積サイクルを続けた。記載のプロセスにおいて、トリメチルアルミニウム(TMA)を金属プリカーサーとして使用した。それというのも、これはカルボン酸基と反応して、ポリマー層を一緒に結合し得るリンカーを形成するからである。TMA-HOシーケンスを1~4回繰り返すことにより、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)の単分子層を、多数の反応性Al-OH部位を有する状態で形成した。反応空間内へ7-OTS及び水を続いて堆積することにより、ハイブリッド有機-無機MLD膜(11)の構造が生じる。ここではAl層は、有機ポリマー層間に埋め込まれている。MLD堆積温度は約50℃~約200℃の範囲内にあり、主として約90℃である。
【0073】
同様に、基体をTMA及びエチレングリコール(EG)に連続的に暴露することにより、ハイブリッドポリ(アルミニウムエチレングリコール)ポリマーを成長させることができる。ハイブリッドポリ(アルミニウムエチレングリコール)ポリマーのためのMLD堆積温度は約85℃~175℃の範囲内である。
【0074】
本質的に多孔質の膜11を堆積するために使用されるTMA金属プリカーサー以外のものの一例としては、例えばチタニウムテトライソプロポキシド(TTIP,Ti(OCH(CH)、ジルコニウムブトキシド(Zr(CO))、及びジエチル亜鉛(DEZ,ZnEt)が挙げられる。
【0075】
被膜10は、本質的に多孔質の材料11から成る少なくとも1つの層の層上に/少なくとも1つの層に被さるように、原子層堆積を用いて堆積された無機膜12をさらに含む。無機膜12は一般用語において、「ALD膜/ALD層」とも呼ばれる。
【0076】
上述のように、ALDは、少なくとも2種の反応性プリカーサー種を少なくとも1つの基体へ連続的に導入することに基づいた特別な化学堆積法である。いくつかの特定の方法、例えばフォトン増強型ALD又はプラズマ増強型ALDの場合、これらの反応性プリカーサーの1つをエネルギーによって置換することができ、これは単一プリカーサーALDプロセスにつながる。例えば、純粋元素、例えば金属の堆積はただ1つのプリカーサーを必要とする。プリカーサー化学物質が堆積されるべき二元材料の元素の両方を含有すると、二元化合物、例えば酸化物を1種のプリカーサー化学物質で形成することができる。ALDによって成長させられた薄膜は緻密であり、ピンホールフリーであり、そして均一な厚さを有する。
【0077】
ALDの場合、少なくとも1つの基体を典型的には、反応容器内の一時的に分離されたプリカーサーパルスに暴露することにより、連続的な自己飽和表面反応によって基体表面上に材料を堆積する。本開示の文脈において、ALDという用語は、原子層堆積に基づくすべての適用可能な技術、及びあらゆる同等の又は密接に関連する技術、例えば次のALDサブタイプ、すなわちプラズマ支援型ALD、PEALD(プラズマ増強型原子層堆積)及びフォトン増強型原子層堆積(フォトALD又はフラッシュ増強型ALDとしても知られる)を含む。
【0078】
基本的なALD堆積サイクルは、4つの連続ステップ、すなわち第1プリカーサーと第2プリカーサーとを相前後して反応チャンバ内へ導くことを含むステップから成る。反応チャンバに入るプリカーサーは、好ましくは不活性キャリア(ガス)によって運ばれた所定のプリカーサー化学物質を含む気体状物質である。チャンバは、プリカーサーのパルス間で不活性ガスによってパージされる。反応空間内へのプリカーサー化学物質の送達、及び基体上の膜成長は、調整器具、例えば三方向ALD弁、質量流コントローラ、又はこの目的に適した任意の他のデバイスによって調整される。1つの堆積サイクル(ALDプリカーサー1-パージ-ALDプリカーサー2-パージ)は典型的には、第1プリカーサーと第2プリカーサーとの間の半反応によって形成された無機材料(単)原子層をもたらす。
【0079】
上記堆積サイクルは、堆積シーケンスが所期厚の無機薄膜、例えば膜12を製造するまで繰り返すことができる。堆積サイクルは上記のものと同様に単純であってよく、又はより複雑であってもよい。例えば、サイクルは、パージ・ステップによって分離された3つ又は4つ以上の反応物質蒸気パルスを含むことができ、或いはある特定のパージ・ステップを省くこともできる。他方において、フォト増強型ALDは、種々の選択肢、例えばただ1つの活性プリカーサーとともに、パージのための種々の選択肢を有している。これらすべての堆積サイクルは、論理ユニット又はマイクロプロセッサによって制御されるタイミング型堆積シーケンスを形成する。
【0080】
被膜を製造するために利用されるALDプロセスは、約80~250℃の範囲のいの堆積温度を採用する。約85~125℃の範囲の堆積は、熱感受性基体、例えばポリマー及び/又は電気回路を含有する基体の被覆を可能又は容易にする。
【0081】
図1A~1Cは、相応の数(ここでは2つ)のALD層12(12A,12B)と交互に位置する2つのMLD層11(11A,11B)を含む模範的な被膜10を示している。被膜10のための積層構造は、相応の数のALD層と交互に位置する1~5つのMLD層を含むことが考えられる。既存の堆積技術は、(ALD膜12と界面を形成する)5つを上回るMLD層11を含む積層被膜構造を構成するのを可能にする。しかしながら、同量のALD膜12と交互に位置する1~5つのMLD層11を含む被膜は、一般的な環境物質、例えば湿分によって誘発される腐食に対して十分な保護を提供する。
【0082】
いくつかの形態では、被膜10は周期的な層状構造として形成されていてよい。この構造において、本質的に多孔質の層11,11A,11B(MLD)は、(損傷及び/又は欠陥がない限りは)本質的に不浸透性のコンフォーマルな層12,12A,12B(ALD)と界面形成されている。
【0083】
いくつかの実施態様では、原子層堆積技術を用いて堆積された無機膜12は、が少なくとも1つの堆積層を含む。
【0084】
したがって、被膜10は、1つの堆積層(図示せず)を含む(ALD)膜によって実現することができる。このような場合には、無機膜12は、所定の材料、例えば金属酸化物から成る単一のALD堆積層を有する状態で形成されている。無機膜12はいくつかの連続堆積サイクルにおいて形成されていてもよい。この場合には、膜12は同じ材料から成るいくつかの単原子層から構成される。
【0085】
いくつかの形態では、無機膜12は、少なくとも1つのスタックになるように配列された複数の堆積層を含む。図1A~1Cに示された被膜10の場合、ALD膜12(12-A,12B)のそれぞれは、スタックを形成するように互いに上下に配列された3つの堆積層12A-1,12A-2及び12A-3(膜12Aに対応)と、12B-1,12B-2及び12B-3(膜12Bに対応)とから成っている。無機膜12(「ALD層」)を形成する堆積層12-1,12-2,12-3は、同じ又は異なる組成を有することができる。
【0086】
なお、繰り返しを避けるために、符号12-1,12-2,12-3は、膜12A内部(12A-1,12A-2及び12A-3として理解される)及び膜12B内部(12B-1,12B-2及び12B-3として理解される)の個々の堆積層を指定することに関する。
【0087】
個々の堆積層、例えば12-1,12-2,12-3(図1A~1C)は、1つの(ALD)堆積サイクル(ALDプリカーサー-パージ-ALDプリカーサー2-パージの順番を有する)内で単原子層として形成することができる。いくつかの形態では、各堆積層は、所期厚を有する堆積層(例えば12-1)を製造するいくつかの連続堆積サイクルにおいて形成することができる(これにより、堆積層はいくつかの単原子層から構成される)。
【0088】
図1A~1Cに示された被膜形態では、無機膜12はそれ自体が層状(積層体)構造を表している。第1組成を有する材料(「材料1(Material 1)」を表すM1)から成る堆積層は、第2組成を有する材料(「材料2(Material 2)」を表すM2)から成る堆積層と交互に位置する。この形態の場合、堆積層12-1及び12-3は第1材料(例えば酸化アルミニウム(III)又はアルミナAl)から形成されているのに対して、堆積層12-2は第2材料(例えば二酸化ケイ素(IV)又はシリカSiO)から形成されている。
【0089】
いくつかの実施態様では、膜12を形成する堆積層は異なる組成を有している。あるいは、同じ材料から成るすべての堆積層(例えば12-1,12-2,12-3)を含む被膜形態も考えられる。
【0090】
なお、明確にするために述べておくが、複数のALD堆積層、例えば12-1,12-2,12-3の総数(n1,n2)は、層組成、被覆されるべき基体、及び基体の適用分野に応じて変化してよい。一例としては、堆積層の総数(n1,n2)は1~100の範囲内で変化してよい。大抵の事例では、n1,n2は1~20の範囲内で変化する。各堆積層12-1,12-2,12-3の厚さは1~20nmの範囲内で変化してよく、典型的にはこれらの層は1~5nm厚である。
【0091】
いくつかの模範的な形態の場合、被膜10は、上記厚さを有する無機ALD膜12(12A,12B)と交互に位置するいくつかのMLD堆積型の有機又はハイブリッド(有機-無機)の1~20nm膜11(11A,11B)を含む。被膜10内では、無機膜12は均一な組成(例えばそれぞれが単一の金属酸化物から形成される)を有していてよい。これに加えて又はこの代わりに、膜12は、1~4つの堆積層(各堆積層につき1~20nm)から成る(ナノ)積層スタックを有する状態で形成することもできる。
【0092】
当業者には明らかなように、反応条件に応じて、例えば複数の1~3nm堆積層を堆積し、したがって結果として生じるスタック、ひいては結果として生じる無機膜12の厚さを調整してよい。
【0093】
被膜10を形成するために、所期の総厚(n)を有する積層被膜構造が形成されるまで、分子層堆積プロセス及び原子層堆積プロセスが繰り返される。被膜10の総厚は約10nm~約1000nmの範囲内にあり得る。
【0094】
ALD膜12を形成するために、堆積層は、一例として酸化アルミニウム(III)(Al)、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)、酸化ニオブ(V)(Nb)、及び二酸化ケイ素(SiO)を含む(金属)酸化物種の選択肢から製造することができる。金属窒化物化合物、例えば窒化チタン及び窒化アルミニウムを利用することもできる。いかなるその他の適宜な化合物の利用も排除されない。
【0095】
実施態様において、無機膜12を形成する複数の堆積層(例えば12-1,12-2,12-3)が、酸化アルミニウム(III)とは異なる少なくとも1種の金属酸化物化合物から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む、被膜10を提供することができる。酸化アルミニウム(III)とは異なる少なくとも1種の金属酸化物化合物は、スタック内で、半導体酸化物(例えばシリカ)によって、あるいは元素金属、窒化化合物、炭化化合物、硫化化合物、又は任意の他の適宜の化合物によって置き換えることができる。
【0096】
実施態様において、無機膜12を形成する複数の堆積層は、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、酸化タンタル(V)(Ta)、及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1種から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成る堆積層を含む。
【0097】
一例としては、被膜10は、下記形態、すなわちAl[(HfO-Al-ZrO-Al)]の形態を有する無機ALD膜スタック12と交互に位置する、いくつかの本質的に多孔質のMLD堆積型ポリマー層11を含んでよい。MLD層11は、各ALD堆積層の間毎に、すなわちより頻繁に、又は2~3つのALD堆積層の間毎に堆積することができる(図示せず)。
【0098】
膜12のためのさらなる模範的スタック形態の一例としては、下記(ナノ)積層体、すなわち、
Al-SiO-Al-TiO
Al-HfO-Al-ZrO
Al-HfO-ZrO
TiO+[(Al-TiO)];
Al-SiO
Al-HfO
Al-Ta;及び
Al-Ta-Al-HfO
が挙げられる。
【0099】
いくつかの事例において、上述の(ナノ)積層体は、反復スタックになるように配列され、x[(12-1)-(12-2)-(12-3)-(12-n)]の模範的組成を有していてよい。
【0100】
アルミナ(Al)層を得るために、TMA及び水のプリカーサーを使用した。ジルコニア(ZrO)層を得るために、テトラキス(エチルメチルアミノ)ジルコニウム(TEMAZr)及び水のプリカーサーを使用した。水と反応する他のALDプリカーサーの一例としては、ジエチル亜鉛(DEZ,ZnEt)、チタニウムテトラクロリド(TiCl4)、テトラキス(ジメチルアミド)チタニウム(TDMATi)、テトラキス(エチルメチルアミド)-ハフニウム(IV)(TEMAHf)、一般式Me(RCp)を有する金属シクロペンタジエニル(Cp)前駆体(例えばビス(エチルシクロペンタジエニル)-マグネシウムMg(EtCp))、及びtert-ブチルイミド)トリス(エチルメチルアミド)タンタル(TBTEMTA)、が挙げられる。
【0101】
ALD法を用いて形成される無機膜12は、被覆される表面に対して十分にコンフォーマルである。
【0102】
当業者であれば、所与の例に基づいて、他の無機化合物から成る層状構造12を再現し得ることがここでは想定される。
【0103】
図2は、符号10’で具体化された積層被膜で被覆された異形成形基体20を示している(S1はプラトー領域に関し、そしてS2は三次元プロフィール・パターンに関連する)。積層被膜は、無機膜12を形成する複数の堆積層を含む積層構造として実現されており、原子層堆積法を用いて製作されている。図2に示された形態は、MLD界面層の存在なしに実現されている。上記無機膜12のための模範的なスタック形態を被膜10’内で利用することができる。
【0104】
いくつかの形態では、基体20上に形成された被膜10’は、前記基体上に/基体に被さるように堆積された無機膜12を含み、前記無機膜は、少なくとも1つのスタックになるように配列された複数の堆積層を形成し、スタックは下記組成、すなわちAl-HfO、Al-Ta、Al-SiO-Al-TiO、Al-HfO-Al-ZrO、Al-HfO-ZrO、TiO+[(Al-TiO)]、及びAl-Ta-Al-HfO、のうちのいずれか1つの組成を有する。記載の形態において、各堆積層M1~M4は、酸化物化合物から成っているが、しかし他の化合物(例えば元素金属、窒化物、炭化物、硫化物、及びこれに類するもの)が利用されてもよい。2、3、4、又は5つ以上の堆積層から成るスタックが考えられ、これらのスタックは互いに上下に繰り返されてよい(図示せず)。例えば上述のものを含む、任意の他の(ナノ)積層体形態を採用することもできる。
【0105】
図2に示された積層被膜は、MLDプロセスによって堆積された、本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層11をさらに含んでよい(図示せず)。本質的に多孔質の材料バルクから成る前記少なくとも1つの層は、基体20上、又は無機膜12の上面に直接的に堆積することができる。無機堆積層(ALD層)のスタックを繰り返すことを伴う形態の場合、MLD層は(図2ではM1~M4として示されている)第1スタックの上面に堆積されてよい。あるいは、MLD層11は、2~3つのALD堆積層毎に堆積されてもよい(図示せず)。
【0106】
実施態様において、被膜10,10’は、機能性電子構成部分を含む医療デバイスとして形成された基体20上に製作される。実施態様では、被膜10,10’は、植え込み型医療デバイス、任意には小型インプラントデバイスとして形成された基体上に製作される。さらなる実施態様では、被膜10は、任意には植え込み型超音波医療デバイス、例えば圧電微細機械加工型超音波トランスデューサ(PMUT)、又は容量性微細機械加工型超音波トランスデューサ(CMUT)として形成された基体上に製作される。
【0107】
診断ソノグラフィ(超音波診断)は、腱、筋肉、関節、血管、及び内部器官を含む皮下身体構造を、存在し得る病理又は病変のために可視化するように用いられる、超音波に基づく診断画像形成技術である。この方法はまた、軟組織を画像化するのにも適している。非侵襲性超音波画像形成解決手段、及び/又は皮膚上用途とともに、超音波駆動型の植え込み型デバイスが開発されている。後者のデバイスは、誘導(近接場)リンク及びラジオ周波数(RF)リンクの代わりに、軟質の生物学的組織内の生理学的環境をリモート検知するために、音波を介した無線動力伝達を利用する。
【0108】
上述の方法の場合、トランスデューサ又はセンサデバイスのパッケージングが超音波適合性であること、すなわちパッケージングが音響信号に対して最小限にしか影響を及ぼさないことが重要である。加えて、特に植え込み型医療デバイスは、生体適合性であり且つ身体への金属イオンの漏れを防止する被膜で保護されなければならない。一例としては、PMUTデバイスはアルミニウム又はモリブテンから成る電極を含み、ひいては生体適合性のカプセル化を必要とする。
【0109】
生体適合性及びイオン漏れ防止バリア特性は、多層無機(ALD)膜スタック(12,12A,12B)を含む被膜10,10’によって達成される。超音波画像形成デバイスのために実現される被膜10,10’は、原子層堆積法を用いて製作された複数の堆積層を含む積層構造として実現することができる。このような構造は、MLD界面層の存在なしに実現することもできる(図2、符号10’)。図2に示されたALD堆積型の(ナノ)積層体10’にポリマーカバー膜22を設けることは、生体適合性デバイス、例えば組織適合性の軟質デバイスのコンフォーマルなカプセル化を強く必要とする用途において有益であり得る。
【0110】
超音波医療デバイスを被覆するのに特に適したALD堆積型膜スタック(12)の形態の一例としては、Al-HfO、Al-Ta、及びAl-HfO-Al-Taが挙げられる。これらの形態に基づくスタック12を含む被膜10,10’を備えた超音波診断デバイス(例えば上記トランスデューサ)をカプセル化することにより、デバイスの機能、例えば周波数に変化をもたらすことはない。加えて、これらの被膜は、超音波デバイス、例えばトランスデューサが0.1~10Vに設定された振幅(励起中の振動は約0.5nm/Vであった)を有するパルスによって音響的に励起されたときに無傷のままであることが観察されている。
【0111】
被膜10内では、MLD層とALD層との組み合わせは、被膜10で被覆された基体20を取り囲む局所的環境を起源とする有害環境物質が、被膜構造の欠陥部位及び/又は損傷部位30(図1B)へ侵入すること、そして基体と接触することを防止するバリアを形成する。
【0112】
環境物質はここでは、基体の完全性及び/又は機能性に対して有害な種として作用する。これらの有害な種の性質は、被膜付き基体を取り囲む環境に依存する。
【0113】
いくつかの実施態様では、被膜10は、被膜の欠陥部位及び/又は損傷部位30へ侵入した湿分を起源とする水によってもたらされる破壊から、基体を保護するように形成されている。この場合、環境水は、有害/腐食性種として作用する。いくつかの他の事例では、有害な環境種は、例えばイオン、及び/又は低分子量化合物、並びに一例としてはUV光、熱、酸素、及び/又は他のガス、及びこれに類するものを含む種々の環境因子であってよい。
【0114】
種々異なる物理特性(ポロシティ、テクスチャ)、並びに化学特性を有する堆積層を組み合わせることにより、被膜10は湿分バリアとして作用する。
【0115】
層の(化学)組成及び堆積法を選択することにより、被膜10はさらに、自己修復/自己回復機能を有するように形成される。
【0116】
被膜10を示す図1Bを参照すると、堆積中及び/又は使用中にいくつかの欠陥部位及び/又は局所的な劣化部位30が形成されている。欠陥は機械的損傷、例えばクラック、スクラッチなど、並びに局所的な層間剥離、及び/又は種々の要因、例えば湿分及び/又はイオンに対する暴露、UV光、熱、酸素、及びこれに類するものによって誘発される他の損傷を含む。
【0117】
欠陥30はマクロレベルで始まることにより、被膜からその保護特性及び/又は審美的特性を奪い得る。これに加えて又はこの代わりに、欠陥30はミクロレベル及びナノレベルで始まり、したがって人の目によっては必ずしも観察できない。無機ALD膜12は物理的バリアを形成するので、欠陥30は、主として無機(ALD)膜12内に形成されることが観察される。これは無機(ALD)膜の無孔質の性質に起因し得る。膜12が破断されると、膜はそのコンフォーマル性を失い、ひいては種々の環境種が損傷部位30を通って被膜内へ侵入するのを可能にする。積層体の種々異なる層(図1B、及び膜12A,12B内の損傷部位参照)に複数の破裂が生じた場合には、有害種は、基体20に達するまで被膜内へより深く伝播する傾向がある。有害な環境種、例えば湿分に対する基体の局所的な暴露は、保護被膜の内側で基体の腐食を引き起こす。
【0118】
被膜10は本質的に多孔質の(MLD)層11(11A,11B)を含む。これらの層は、いわゆるデカップリング層として作用することによって、コンフォーマルな無機膜12(12A,12B)を互いに分離し、そして積層バリア被膜(10)を通る欠陥伝播を遮る。
【0119】
したがって実施態様において、被膜10は環境湿分31、例えば水分子が、ミクロ欠陥30を通って積層体内へ侵入したときに下側の基体へ不都合な影響をもたらすのを防止するように形成されている。このことは、(ナノ)積層体を構成することにより達成される。(ナノ)積層体内では、本質的に遊離したプリカーサー化合物121、例えば未結合、未反応、及び/又は完全には反応していないプリカーサー化合物が、本質的に多孔質の材料バルク中へ、その堆積段階中(すなわち前記本質的に多孔質の材料バルクから成るMLD層11の堆積中)に浸透するのを可能にする状態が確立される。前記多孔質膜11のバルク内では、未結合、未反応、及び/又は部分反応済みのプリカーサー121は、被膜内の欠陥部位30へ侵入した有害環境種31との化学的相互作用状態に入り、そしてシーリング・コンパウンド32を形成することにより前記欠陥部位をシールする(図1C)。
【0120】
模範的形態において、表1によって明らかにされた構造を有する被膜10が得られた。
【表1】
【0121】
表1に示された形態においてAl層(12A-1,12A-3,12B-1,12B-3)は(湿分)バリアとして作用するのに対して、SiO層(12A-2,12B-2)は、酸化アルミニウムの加水分解を防止するためのキャッピング層として機能する。ナノ(多孔質)層11A,11Bは、(ALD)膜12から浸透した未結合/未反応のプリカーサーを保持し得る延性「デカップリング」層として役立つ。
【0122】
所与の例の被膜構造内では、未結合又は完全には反応していないプリカーサー121(例えばTMA二量体分子)は、前記本質的に多孔質の層11A,11Bの堆積段階中に、本質的に多孔質の層11A,11B内へ浸透する。ここでは、前記未結合のプリカーサー121は、無機酸化物層12A,12Bの堆積前に前記層11A,11B内に保持された「外部」水分子31と反応する(「外部」水分子とは、被膜付き基体の外側から被膜10内へ、例えば環境湿分とともに侵入した水分子を意味する)。前記未結合のプリカーサー121と、ここでは有害環境種31を表す水分子との反応は、新しいシーリング・コンパウンド32の形成をもたらす。提示された例において、TMA(121)と水(31)との反応は、シーリング・コンパウンド32として作用するAl及び/又はAl(OH)xを産出する。
【0123】
積層体深さ全体を通して欠陥部位30においてシーリング・コンパウンドによって形成されたスポット32は、シーリング・「パッチ」として見ることができる。シーリング・パッチは、有害環境種(例えば湿分を起源とする水)が層状被膜構造10を通って侵入するのをブロックする(図1Cの拡大ボックス参照)。これらの「パッチ」は、被膜10で被覆された基体が、潜在的に有害な物質を含有する環境に暴露されると、本質的に多孔質のMLD層11(11A,11B)のバルク内部で自己集合する。上述のように、環境は、貯蔵、輸送、及び/又は操作のために意図された、被覆された化合物(被膜10で被覆された基体)を取り囲むいかなる環境/周囲であってもよい。この環境は、被覆された化合物の完全性/機能性にとって潜在的に破壊的な環境種(例えば拡散された水滴)を含有する。
【0124】
前記未結合、未反応、又は完全には反応していない(部分反応済みの)プリカーサー化合物121、例えばTMA(二量体)分子は、ここでは「自己回復性物質」として作用する。
【0125】
自己修復(自己回復)し得ることに加えて、被膜10はまた乾燥剤機能を有するようにもされている。乾燥剤機能は、完全には反応していないプリカーサーと液体/蒸気、例えば水との化学的相互作用によって得られる。したがって、本発明はさらに、乾燥剤としての積層被膜10の使用に関する。
【0126】
実施態様において、積層被膜10は、本質的に多孔質の層11を堆積する前に基体20を前処理することにより生成されたプライマー層21をさらに含む。前処理は、任意にはプラズマ支援型プロセスと連携して、TMA及び水のプリカーサーを使用して、アルミナ(Al)の少なくとも1つの単原子層を(低温)ALD堆積することにより実施し得る。前処理は、基体をオゾン(O)又は酸素(O)で処理することにより、さらに実施し得る。基体に対するポリマー分子の付着力を増強することを目的とした、いかなる他の適宜の前処理法をも採用することができる。
【0127】
実施態様において、積層被膜10,10’は、積層体(10,10’)上/積層体(10,10’)に被さるように堆積されたカバー膜22を、最上層としてさらに含む。最上カバー層22は好ましくはポリマーフィルム、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)膜である(図2の符号P1参照)。他の例としては、ポリウレタン、シリコーン、及びこれに類するものが挙げられる。
【0128】
PDMSは、その高い生体適合性及び生体安定性に基づき、医療デバイス、具体的には植え込み型医療デバイスを被覆するために最も一般的に使用されるポリマーの1つである。このポリマーと関連する主要な懸念の1つは、その高い水蒸気透過性である。高い水蒸気透過性は水凝縮及びボイド形成を引き起こし、このことは(金属)基体の腐食を招く。本開示に基づく積層被膜10との組み合わせでPDMSを利用すると、このような欠点は克服される。
【0129】
ポリマーカバー膜22は、例えば浸漬被覆又は(オーバー)モールディング・プロセスを用いて堆積することができる。
【0130】
実用上の理由から、カバー膜22は典型的にはALD膜12上に/ALD膜12に被さるように堆積されている。ALD膜は多孔質ではないので、物理的バリア層として作用し、したがって、ALD堆積層12は、(カバー膜22を被着する前、又はカバー膜22なしで被膜10を実現する場合に)スタック10内のアッパー層として使用される。
【0131】
キャッピング層として例えばPDMSから成るポリマーカバー膜22を含む上記被膜10,10’は、際立った電気的絶縁特性を有している。このことは、これらの被膜を電動式医療デバイス、例えば生物医学的インプラントのカプセル化に特に適したものにする。
【0132】
PDMSカバー膜22を含む積層被膜10,10’で堆積された電子基体20を、87℃のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)媒体中に浸すことによって行われた試験により、基体は約9.5か月にわたって機能し続けることが判った。TiN又はAl導電ラインを備えたSi/SiOチップ(基体サイズはほぼ3cm x 1cm)上に150℃で、ALD膜12を含む被膜10,10’を堆積した。他の基体は、複合材料、例えばFR4等級のガラス強化エポキシ積層材料から成るプリント基板(PCB)を含んだ。
【0133】
例えば、オンライン抵抗測定による加速試験(85℃、PBS)において、(約200℃で堆積された)(ナノ)積層被膜10,10’が、(100日間の)試験終了まで機能し続けた。この期間は、体液環境(37℃)中に8年間にわたって存在する被膜付き基体の寿命と相関する。
【0134】
上述のALD堆積膜は、HfO,ZrO,TiO,SiO2,Nb,Taのうちのいずれか1種又は2種以上、及びこれらのいずれかの組み合わせから成る堆積層と交互に位置するAlから成るいくつかの堆積層を含んだ。
【0135】
引張試験では、ALD堆積膜12とPDMSとの間には優れた界面強度が存在することが示された。反対に、2種のポリマー(例えばMLD堆積型ポリマー層11とPDMS層22)の間の付着力は著しく弱い。
【0136】
図3Aは、交互のMLD層及びALD層で堆積された被膜10に関して得られた、温度(セ氏)の関数としての水蒸気透過度(WVTR)の結果を示している。図3Aは、ALD/MLD膜(B~E)が、単一(モノリシック)ALD膜(A)と比較して2桁分だけ良好なWVTRを有し、周囲においてWVTR値<1E-5 g/m*dに達し得ることを示している。5つ又は6つのダイアド(C,D,E)から成るALD/MLD被膜10は、3つのダイアド(B)から成る被膜よりも良好な結果を示す。ダイアドは、この文脈では、本質的に多孔質のMLD層11と無機ALD層12との組み合わせによって定義される。
【0137】
図3Bは、モノリシックALD構造と比較した、実施態様に基づく積層被膜10に関して得られた欠陥面積測定の結果を示す。図3Bの測定結果は、被膜10(総厚50nm)で被覆されたポリカーボネート基体20(PC、250μm)を90℃のアセトン中に浸した後、1.96%の引張歪みにおける欠陥面積(%)に関して得られたものである。基体20は、プライマー層21(界面層)を備えていてよい。MLD-ALD層(符号11及び12)から成る2つ又は3つのスタック(ダイアド)を含む被膜10は、非層状(モノリシック)ALD層(最も右側の欄)と比較して、著しく低減された欠陥面積カバー率を示している。図3Bに示された結果は、Alから成る無機ALD膜を用いて得られたものであるが、しかし他の酸化物化合物、例えば金属酸化物(例えばHfO、ZrO、TiO、Nb、Ta、又はこれらの任意の組み合わせ)、又はシリカも(Alとの組み合わせでも)同様の挙動を示す。本質的に多孔質のMLD層は、純粋な有機ポリマー層又はハイブリッドポリマー層であった。
【0138】
図3A及び3Bに示された結果は、MLD層がALD堆積型無機バリア膜間の「デカップリング」層として作用することによって、被膜を通る欠陥伝播を遮り、そして蛇行性通路を形成することにより水蒸気透過度(WVTR)ラグタイム又は透湿を増大させる。
【0139】
さらに、MLD層とALD層とを組み合わせた積層被膜10が、モノリシックALD被膜の代わりに使用されると、被膜内のクラックの検出と、基体20に対する損傷の検出との間にラグが観察された(結果は図示せず)。このことは個々のALD層が損傷及びクラックを被るようになるにもかかわらず、基体は保護されたままであるという事実を示している。
【0140】
MLD層とALD層とを組み合わせた積層被膜10で被覆された基体試料は堆積後の冷却及び分析を、巨視的欠陥を発生させることなしに約5倍乗り切りやすい。巨視的欠陥は、ベースラインと比較して透湿の活性化エネルギーが異常に低いことに基づいて検出される。このような試料を光学顕微鏡で分析することにより、マクロ欠陥の存在を裏付ける。このように、積層被膜10は、(モノリシック)ALD膜よりも耐クラック性が高い。
【0141】
本発明はさらに、パッケージングにおける、具体的には医療用パッケージングにおける、実施態様に基づく積層被膜10の使用に関する。
【0142】
1態様では、実施態様に基づく被膜10で被覆された表面を有する、パッケージング物品がこのように提供される。パッケージング物品は、固体又は液体のための容器、任意にはポンプ付き容器、トレイ、任意には多区画トレイ、アンプル、バイアル、シリンジ、ブリスターパック、個別ラッピング型パック、及びパウチのうちのいずれか1つとして形成することができる。
【0143】
ここに記載された積層被膜は、医療用パッケージング物品の内面上及び外面上に使用されてよい。アンプル、シリンジなどの内面に使用すると、積層被膜は、パッケージング済みの製品がパッケージング材料(基体)によって汚染されるのを防止し得る。パッケージ物品の外面上に使用すると、積層被膜は水分子、タンパク質分子又はクラスター、ヒドロキシルラジカル、亜酸化窒素種などからの保護をもたらす。これらは被膜付き物品を取り囲む環境を起源とし得る。
【0144】
被膜10,10’は、基体20を部分的又は完全に被覆するために実現することができる。完全なカプセル化は、医療デバイス、具体的には植え込み型医療デバイスを保護する上で有利である。これにより、例えば体液中の湿分及び/又は腐食性環境によって引き起こされるデバイスの故障を効率的に防止することができる。
【0145】
パッキング物品、具体的には医療用パッキング物品、及び/又は本明細書中に記載された医療デバイスの製造に際して使用される基体は、プラスチック又はガラスのいずれか一方を含み、又はこれから成っていてよい。プラスチックは、一例としてはポリウレタン(PU)、液晶ポリマー(LCP)、及び/又はポリエチレンテレフタレート(PET)を含むポリマー材料を含んでよい。
【0146】
実施態様において、基体上に積層被膜が形成されており、そして積層被膜は、前記基体上に/前記基体に被さるように、原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された無機膜を含み、前記無機膜が、スタックになるように配列された複数の堆積層を形成しており、堆積層は、酸化ハフニウム(IV)(HfO)から成る堆積層と交互に位置する酸化アルミニウム(III)(Al)から成っている。実施態様において、基体上に形成された積層被膜は、前記基体上に/前記基体に被さるように、原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された無機膜を含み、前記無機膜が、スタックになるように配列された複数の堆積層を形成しており、堆積層は、反復Al-SiO2-Al-TiOスタックから成っている。実施態様において、基体上に形成された積層被膜は、前記基体上に/前記基体に被さるように、原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された無機膜を含み、前記無機膜が、スタックになるように配列された複数の堆積層を形成しており、堆積層は、反復Al-HfO-Al-ZrOスタックから成っている。実施態様において、基体上に形成された積層被膜は、前記基体上に/前記基体に被さるように、原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された無機膜を含み、前記無機膜が、スタックになるように配列された複数の堆積層を形成しており、堆積層は、反復Al-HfO-ZrOスタックから成っている。実施態様において、基体上に形成された積層被膜は、前記基体上に/前記基体に被さるように、原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された無機膜を含み、前記無機膜が、スタックになるように配列された複数の堆積層を形成しており、堆積層は、反復TiO+[(Al-TiO)]スタックから成っている。実施態様において、基体上に形成された積層被膜は、前記基体上に/前記基体に被さるように、原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された無機膜を含み、前記無機膜が、スタックになるように配列された複数の堆積層を形成しており、堆積層は、反復Al-Ta-Al-HfOスタックから成っている。実施態様において、基体上に形成された積層被膜は、前記基体上に/前記基体に被さるように、原子層堆積(ALD)プロセスを用いて堆積された無機膜を含み、前記無機膜が、スタックになるように配列された複数の堆積層を形成しており、堆積層は、反復Al-Taスタックから成っている。
【0147】
実施態様において、積層被膜は任意には、MLDプロセスによる本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層を含む。実施態様において、MLDプロセスによって堆積された本質的に多孔質の材料バルクから成る少なくとも1つの層は、基体上へ直接的に、又は第1反復スタックの上面に位置することができる。
【0148】
本発明はさらに実施態様に基づく被膜10で被覆された表面を有する、被膜付き物品に関する。
【0149】
被膜付き物品は、任意にはいわゆる(生体)電子解決手段を開発するための機能性電子構成部分を含む医療デバイス、例えば身体植え込み型医療デバイスとして形成することができる。医療デバイスはこのように、電子構成部分が不在のインプラント(ワンパート又はマルチパート型インプラント)として、又は電気/電子システム、任意には電源内蔵式システムを含有する身体植え込み型医療デバイスとして形成することができる。植え込み型医療デバイスは、体内に完全に存在するように構成されてよく、あるいは体外に提供し、そして内臓器官又は別の身体部分に接続してもよい。このようなデバイスの一例としては、植え込み型心臓ペースメーカー、モニター、及び除細動器(例えば植え込み型除細動器ICD)、人工内耳、種々の神経学的インプラント及び刺激装置、輸液ポンプ、血液力学的システム、マイクロ電気機械的システム(MEMS)、及び圧力、流量、歪みなどを測定するためのバイオセンサを含む種々の(小型)センサ、並びに(生物)化学的センサ、例えば糖尿病の治療時に使用するためのセンサ(例えば連続的グルコース監視(CGM)のためのセンサ)、及び他の化学的に調整された条件において使用するためのセンサ、が挙げられる。
【0150】
機能に関しては、植え込み型デバイスは種々の監視及び/又は計測デバイス、例えば生体液中の、ある特定の疾患のためのマーカーとして役立つ化学物質のレベルを測定するデバイス、及び神経調節を介して、又は生体液中の前記化学物質のレベルを調整することを介して、ある特定の状態又は症候群の治療に適用可能なデバイス(例えば、片頭痛の治療に使用される刺激装置)を含む。
【0151】
被膜付き物品は、任意には小型のセンサ及び/又は半導体デバイスの製作に際して使用される部分又は構成部分として提供することもできる。物品はプリント基板(PCB)又はPCB集成体(PCBA)としてさらに提供することもできる。物品はさらに、非侵襲性(医療)デバイス、又はその一部(例えば着用可能なセンサ(センサシステム)又は半導体構成部分/PCB(A))として提供することもできる。
【0152】
さらに、本発明は医療デバイス、例えば身体植え込み型医療デバイスに関する。上記医療デバイス及びこれらに類似する医療デバイス、並びに体内へ植え込み可能であるように形成された任意の関連物品が考えられる。
【0153】
さらに、当業者には明らかなように、表面改質はこの方法の付加的な利点であり、この場合、1つ又は2つ以上のALD層に続いてMLD層が堆積される結果、種々の後続のプロセスのために付着力を促進する表面官能基がもたらされる。このようなものとしてこの方法は、触媒担体、マイクロバッテリーのための固体電解質のための用途を提供し、自立型膜のための鋳型として作用し、センサ上の撥水層として作用し、蛍光薄膜を形成するためのベースを提供し、トレンチ構造上の堆積に続いて石灰化を行うことによりギャップ充填を可能にし、可撓性電子装置のための保護バリア膜として作用し、光学素子、特にLED、量子ドット、及び/又はナノロッドLEDのための用途におけるバリアとして作用し、ナノ粒子、例えば燐光体ナノ粒子のためのバリアとして作用し、そしてスマート・コンタクトレンズ、及びスマートセンサを含む高アスペクト比構造及びトレンチのための保護バリア膜として作用する。これに加えて又はこの代わりに、ここに開示された方法は、可撓性スマート・ウィンドウ、リチウムイオンバッテリーセパレータ(セラミック・メンブレンを含む)の製造に、そして種々の宇宙関連用途に適合させることもできる。
【0154】
当業者には明らかなように、技術の進歩に伴って、本発明の基本理念が種々の方法で実行され組み合わされてよい。本発明及びその実施態様はこのように上記実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲の中で全体的に変化してよい。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
【国際調査報告】