(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】MSベースのプロテオミクスのためのジスルフィドスクランブルを防止するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20241024BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20241024BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20241024BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20241024BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G01N27/62 V ZNA
G01N27/62 X
G01N33/68
G01N30/72 C
G01N30/88 J
G01N30/06 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525647
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 US2022048242
(87)【国際公開番号】W WO2023076612
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】クラインベルク アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】マオ ユアン
(72)【発明者】
【氏名】リー ニン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041FA13
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA14
2G045DA36
2G045FA34
2G045FA36
2G045FB06
(57)【要約】
本発明は、概して、関心対象のタンパク質の非還元液体クロマトグラフィー-質量分析におけるジスルフィドスクランブルを防止する方法に関する。特に、本発明は、ジスルフィドスクランブルを防止するためのタンパク質の非還元液体クロマトグラフィー-質量分析へのマレイミドの添加に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の関心対象のタンパク質の非還元ペプチドマッピングを実施するための方法であって、
a.前記試料をNEM類似体に接触させて、関心対象のアルキル化タンパク質を形成することと、
b.前記関心対象のアルキル化タンパク質を少なくとも1つの消化酵素に接触させて、ペプチド消化物を形成することと、
c.前記ペプチド消化物を、液体クロマトグラフィー-質量分析を使用する分析に供して、前記関心対象のタンパク質の前記非還元ペプチドマッピングを得ることと
を含む、方法。
【請求項2】
前記NEM類似体が、NEMよりも疎水性が低い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記NEM類似体が、NEMの保持時間未満の保持時間を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記NEM類似体が、マレイミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記試料を接触させるために使用されるNEM類似体の濃度が、約1mM~約10mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試料を接触させるために使用されるNEM類似体の濃度が、約2mM~約8mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料を接触させるために使用されるNEM類似体の濃度が、約4mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記NEM類似体が、50℃で30分間、前記試料と接触する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記関心対象のタンパク質が、抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記試料を、少なくとも1つの変性剤に接触させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの消化酵素が、トリプシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの消化酵素が、Lys-Cである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの消化酵素が、Lys-C及びトリプシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記消化が、約7~約8のpHで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記消化が、約7~約7.5のpHで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記消化が、約5~約6のpHで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記消化が、約5.3~約7のpHで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
試料中の関心対象のタンパク質を特性評価するための方法であって、
a.前記試料をNEM類似体に接触させて、関心対象のアルキル化タンパク質を形成することと、
b.前記関心対象のアルキル化タンパク質を少なくとも1つの消化酵素に接触させて、ペプチド消化物を形成することと、
c.前記ペプチド消化物を、液体クロマトグラフィー-質量分析を使用する分析に供して、前記関心対象のタンパク質を特性評価するための非還元ペプチドマッピングを得ることと
を含む、方法。
【請求項19】
試料中の関心対象のタンパク質を特性評価するための方法であって、
a.前記試料をマレイミドに接触させて、関心対象のアルキル化タンパク質を形成することと、
b.前記関心対象のアルキル化タンパク質を少なくとも1つの消化酵素に接触させて、ペプチド消化物を形成することと、
c.前記ペプチド消化物を、液体クロマトグラフィー-質量分析を使用する分析に供して、前記関心対象のタンパク質を特性評価するための非還元ペプチドマッピングを得ることと
を含む、方法。
【請求項20】
前記試料を接触させるために使用されるマレイミドの濃度が、約4mMである、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月1日に出願された米国仮特許出願第63/274,256号の優先権及び利益を主張するものであり、この仮特許出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本出願は、関心対象のタンパク質の特性評価中に試料誘発ジスルフィドスクランブルを防止するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
質量分析(MS)は、タンパク質を分析するためのますます重要な技術となっている。一般的なボトムアップMSベースのプロテオミクスでは、還元及びアルキル化は、ペプチド同定を容易にするための通常の工程である。しかしながら、副反応が生じる可能性があり、これにより実験結果が損なわれる。
【0004】
試料調製は、ボトムアップMSベースのプロテオミクスにおける重要な工程である。MSベースのプロテオミクスの使用における重要な課題の1つは、試料調製中のジスルフィド結合スクランブルの防止である。この課題に対処するために、過去に数多くの方法が開発されている。温度、pH、及び遊離システインの利用可能性は、非天然ジスルフィド結合の形成を防止するために試料調製中に制御されなければならない重要な要因であることが注目されている。pHが、室温であっても、ジスルフィド結合又はシステイン反応性に非常に影響を及ぼし、試料調製中に慎重に制御されなければならないことが広く受け入れられている。報告された方法は、わずかに酸性のpHでの試料調製を教示しており、アルカリ性pHで、遊離チオールが脱プロトン化され、得られたチオレートアニオンが酸化されるか、又は隣接するジスルフィド結合(チオール/ジスルフィド交換)と反応して、新しい非天然ジスルフィド結合を形成することを記述している。
【0005】
低pHタンパク質アルキル化後、pHは、追加の工程を追加するタンパク質消化のために増加させることができるか、又は低pHは、消化条件のために維持することができる。完全に酸性条件下でのタンパク質消化は、ジスルフィドスクランブルを最小化するが、従来の塩基性pH消化と比較して、有意な違い(例えば、非特異的切断)を有する消化ペプチドプロファイルを生成する。したがって、低pHタンパク質アルキル化を必要とすることなく、タンパク質調製のための効率的な方法に対する長年にわたる必要性がある。
【0006】
試料調製誘発ジスルフィドスクランブルの形成を防止しながら、関心対象のタンパク質を特性評価するための方法が開発されている。この方法は、試料調製中に、天然ジスルフィド破壊を防止するために、新規のアルキル化剤、マレイミドを使用することを含む。マレイミドの使用は、ジスルフィドスクランブルを誘発することなく試料調製を可能にする。マレイミドの使用はまた、共通のペプチドピーク報告ウィンドウを干渉しない試薬UVピークを有することによって、N-エチルマレイミド(NEM)よりも疎水性の低いアルキル化剤を提供する。これにより、試料アルキル化後に緩衝液交換工程を使用する必要がなくなり、試料損失が回避される。
【発明の概要】
【0007】
概要
NEMと同様に、マレイミドは、アルキル化が酸性条件下(pH<6)で変性工程と同時に実施される場合、プロトコル誘発ジスルフィドスクランブルを防止することができる。酸性条件下でアルキル化工程を実施した後、更なるジスルフィドスクランブルを誘発することなく、トリプシン及び/又はLysCによる効率的な酵素消化のために、pHを安全に(例えば、7.5に)上昇させることができる(すなわち、遊離チオールは、試料調製中のジスルフィドスクランブル形成の主な原因である)。
【0008】
酸性アルキル化後、従来の非還元ペプチドマッピング消化物と同様のpHで消化工程を実施する(例えば、システインアルキル化にヨードアセトアミドを使用し、続いてpH7.5で酵素消化)ことで、従来の消化物と非常に類似したペプチドプロファイルが作成される。
【0009】
本開示は、試料中の関心対象のタンパク質の非還元ペプチドマッピングを実施するための方法を提供し、当該方法は、当該試料をNEM類似体に接触させて、関心対象のアルキル化タンパク質を形成することと、当該関心対象のアルキル化タンパク質を少なくとも1つの消化酵素に接触させて、ペプチド消化物を形成することと、当該ペプチド消化物を液体クロマトグラフィー-質量分析を使用する分析に供して、当該関心対象のタンパク質の当該非還元ペプチドマッピングを得ることとを含む。
【0010】
一態様では、NEM類似体は、NEMよりも疎水性が低い。別の態様では、NEM類似体は、NEMの保持時間未満の保持時間を有する。更に別の態様では、NEM類似体は、マレイミドである。
【0011】
一態様では、当該試料を接触させるために使用されるNEM類似体の濃度は、約1mM~約10mMである。別の態様では、当該試料を接触させるために使用されるNEM類似体の濃度は、約2mM~約8mMである。更に別の態様では、当該試料を接触させるために使用されるNEM類似体の濃度は、約4mMである。
【0012】
一態様では、当該NEM類似体は、50℃で30分間、当該試料と接触する。
【0013】
一態様では、当該関心対象のタンパク質は、抗体である。特定の態様では、当該関心対象のタンパク質は、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である。
【0014】
一態様では、本方法は、当該試料を、少なくとも1つの変性剤に接触させることを更に含む。特定の態様では、当該少なくとも1つの変性剤は、尿素である。別の特定の態様では、当該尿素は、約6M~約10Mで存在し、任意選択的に、当該尿素は、約8Mで存在する。別の特定の態様では、当該変性は、約37℃又は約50℃で行われる。
【0015】
一態様では、当該少なくとも1つの消化酵素は、トリプシンである。別の態様では、当該少なくとも1つの消化酵素は、Lys-Cである。更に別の態様では、当該少なくとも1つの消化酵素は、Lys-C及びトリプシンである。
【0016】
一態様では、当該消化は、約7~約8のpHで行われる。特定の態様では、当該消化は、約7~約7.5のpHで行われる。別の態様では、当該消化は、約5~約6のpHで行われる。特定の態様では、当該消化は、約5.3~約7のpHで行われる。
【0017】
一態様では、当該クロマトグラフィー工程は、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせを含む。
【0018】
一態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベース質量分析計であり、当該質量分析計は、当該液体クロマトグラフィーシステムに結合される。
【0019】
本開示は、試料中の関心対象のタンパク質を特性評価するための方法を提供し、当該方法は、当該試料をNEM類似体に接触させて、関心対象のアルキル化タンパク質を形成することと、当該関心対象のアルキル化タンパク質を少なくとも1つの消化酵素に接触させて、ペプチド消化物を形成することと、当該ペプチド消化物を液体クロマトグラフィー-質量分析を使用する分析に供して、当該関心対象のタンパク質の当該非還元ペプチドマッピングを得ることとを含む。
【0020】
一態様では、NEM類似体は、NEMよりも疎水性が低い。別の態様では、NEM類似体は、NEMの保持時間未満の保持時間を有する。更に別の態様では、NEM類似体は、マレイミドである。
【0021】
一態様では、当該試料を接触させるために使用されるNEM類似体の濃度は、約1mM~約10mMである。別の態様では、当該試料を接触させるために使用されるNEM類似体の濃度は、約2mM~約8mMである。更に別の態様では、当該試料を接触させるために使用されるNEM類似体の濃度は、約4mMである。
【0022】
一態様では、当該NEM類似体は、50℃で30分間、当該試料と接触する。
【0023】
一態様では、当該関心対象のタンパク質は、抗体である。特定の態様では、当該関心対象のタンパク質は、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である。
【0024】
一態様では、当該試料を、少なくとも1つの変性剤に接触させることを更に含む本方法。特定の態様では、当該少なくとも1つの変性剤は、尿素である。別の特定の態様では、当該尿素は、約6M~約10Mで存在し、任意選択的に、当該尿素は、約8Mで存在する。別の特定の態様では、当該変性は、約3℃又は約50℃で行われる。
【0025】
一態様では、当該少なくとも1つの消化酵素は、トリプシンである。別の態様では、当該少なくとも1つの消化酵素は、Lys-Cである。更に別の態様では、当該少なくとも1つの消化酵素は、Lys-C及びトリプシンである。
【0026】
一態様では、当該消化は、約7~約8のpHで行われる。特定の態様では、当該消化は、約7~約7.5のpHで行われる。別の態様では、当該消化は、約5~約6のpHで行われる。特定の態様では、当該消化は、約5.3~約7のpHで行われる。
【0027】
一態様では、当該クロマトグラフィー工程は、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせを含む。
【0028】
一態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベース質量分析計であり、当該質量分析計は、当該液体クロマトグラフィーシステムに結合される。
【0029】
本開示は、試料中の関心対象のタンパク質を特性評価するための方法を提供し、当該方法は、当該試料をマレイミド類似体に接触させて、関心対象のアルキル化タンパク質を形成することと、当該関心対象のアルキル化タンパク質を少なくとも1つの消化酵素に接触させて、ペプチド消化物を形成することと、当該ペプチド消化物を液体クロマトグラフィー-質量分析を使用する分析に供して、当該関心対象のタンパク質の当該非還元ペプチドマッピングを得ることとを含む。
【0030】
一態様では、当該試料を接触させるために使用されるマレイミドの濃度は、約1mM~約10mMである。別の態様では、当該試料を接触させるために使用されるマレイミドの濃度は、約2mM~約8mMである。更に別の態様では、当該試料を接触させるために使用されるマレイミドの濃度は、約4mMである。
【0031】
一態様では、当該マレイミドは、50℃で30分間、当該試料と接触する。
【0032】
一態様では、当該関心対象のタンパク質は、抗体である。特定の態様では、当該関心対象のタンパク質は、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である。
【0033】
一態様では、本方法は、当該試料を、少なくとも1つの変性剤に接触させることを更に含む。特定の態様では、当該少なくとも1つの変性剤は、尿素である。別の特定の態様では、当該尿素は、約6M~約10Mで存在し、任意選択的に、当該尿素は、約8Mで存在する。別の特定の態様では、当該変性は、約37℃又は約50℃で行われる。
【0034】
一態様では、当該少なくとも1つの消化酵素は、トリプシンである。別の態様では、当該少なくとも1つの消化酵素は、Lys-Cである。更に別の態様では、当該少なくとも1つの消化酵素は、Lys-C及びトリプシンである。
【0035】
一態様では、当該消化は、約7~約8のpHで行われる。特定の態様では、当該消化は、約7~約7.5のpHで行われる。別の態様では、当該消化は、約5~約6のpHで行われる。特定の態様では、当該消化は、約5.3~約7のpHで行われる。
【0036】
一態様では、当該クロマトグラフィー工程は、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせを含む。
【0037】
一態様では、当該質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はOrbitrapベース質量分析計であり、当該質量分析計は、当該液体クロマトグラフィーシステムに結合される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
(
図1)例示的な実施形態による、低pH非還元ペプチドマッピング条件で調製されたmAb1の非還元ペプチドマッピング分析から得られたmAb1のUVクロマトグラムを示す。
(
図2)例示的な実施形態による、低pH非還元ペプチドマッピング条件で調製されたmAb2の低pH非還元ペプチドマッピング分析から得られたmAb1のUVクロマトグラムを示す。
(
図3)例示的な実施形態による、IgG1ジスルフィドを同定する低pH非還元ペプチドマッピング条件で調製されたmAb1の低pH非還元ペプチドマッピング分析から得られたmAb1のUVクロマトグラムを示す。
(
図4)例示的な実施形態による、NEM類似体、マレイミド、N-ヒドロキシマレイミド、及びマレアミドの構造を示す。
(
図5)例示的な実施形態による、NEM、マレイミド、N-ヒドロキシマレイミド、及びマレアミドを使用するmAb1の低pH非還元ペプチドマッピング分析のUVクロマトグラムを示す。
(
図6A)例示的な実施形態による、NEM、マレイミド、N-ヒドロキシマレイミド、及びマレアミドを使用するmAb3の低pH非還元ペプチドマッピング分析からのアルキル化遊離チオール
の正規化されたピーク面積を示す。
(
図6B)例示的な実施形態による、NEM、マレイミド、N-ヒドロキシマレイミド、及びマレアミドを使用するmAb3の低pH非還元ペプチドマッピング分析からの非アルキル化遊離チオール
の正規化されたピーク面積を示す。
(
図6C)例示的な実施形態による、NEM、マレイミド、N-ヒドロキシマレイミド、及びマレアミドを使用するmAb3の低pH非還元ペプチドマッピング分析からのジスルフィドのジスルフィドスクランブル(C137H~C150H)の正規化されたピーク面積を示す。
(
図7)例示的な実施形態による、NEM及びマレイミドを使用するmAb3の低pH非還元ペプチドマッピング分析のUVクロマトグラムを示す。
(
図8A)例示的な実施形態による、対照、1mMのマレイミド、2mMのマレイミド、4mMのマレイミド、及び8mMのマレイミドを使用するmAb3の非還元ペプチドマッピング分析からのアルキル化遊離チオール
の正規化されたピーク面積を示す。
(
図8B)例示的な実施形態による、対照、1mMのマレイミド、2mMのマレイミド、4mMのマレイミド、及び8mMのマレイミドを使用するmAb3の非還元ペプチドマッピング分析からの非アルキル化遊離チオール
の正規化されたピーク面積を示す。
(
図8C)例示的な実施形態による、対照、1mMのマレイミド、2mMのマレイミド、4mMのマレイミド、及び8mMのマレイミドを使用するmAb3の非還元ペプチドマッピング分析からのジスルフィドのジスルフィドスクランブル(C137H~C150H)の正規化されたピーク面積を示す。
(
図9)例示的な実施形態による、マレイミドを使用するmAb4の低pH非還元ペプチドマッピング分析及びmAb4の従来の非還元ペプチドマッピング分析のUVクロマトグラムを示す。
(
図10)例示的な実施形態による、マレイミドを使用するmAb4の「半酸性」非還元ペプチドマッピング分析及びmAb4の従来の非還元ペプチドマッピング分析のUVクロマトグラムを示す。
(
図11)例示的な実施形態による、マレイミドを使用するmAb5の低pH非還元ペプチドマッピング分析及びmAb4の従来の非還元ペプチドマッピング分析のUVクロマトグラムを示す。
(
図12)例示的な実施形態による、マレイミドを使用するmAb5の「半酸性」非還元ペプチドマッピング分析及びmAb4の従来の非還元ペプチドマッピング分析のUVクロマトグラムを示す。
(
図13)例示的な実施形態による、(1)アルキル化しない、塩基性消化、(2)塩基性アルキル化(IAM)、塩基性消化、(3)酸性アルキル化(マレイミド)、酸性消化、及び(4)酸性アルキル化(マレイミド)、塩基性消化である、mAb4及びmAb5のペプチドのジスルフィドスクランブルに対する消化条件の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
詳細な説明
モノクローナル抗体(mAb)の製品品質属性(PQA)の特性評価は、このますます人気が高まる治療薬のクラスの大規模で複雑な不均一性のために重要である。そのような1つのPQAは、古典的なジスルフィド結合構造の適切な形成である。非古典的なジスルフィド結合(スクランブル)を含む正規のIgGジスルフィド配座からの逸脱は、mAbの構造、安定性、及び生物学的有効性に悪影響を及ぼし得る(Zhang et al.,2011,Biotechnol Adv,29(6):923-9、Liu et al.,2012,MAbs,4(1):17-23、Liu et al.,2007,Biotechnol Lett,29(11):611-22、Brych et al.,2010,J Pharm Sci,99(2):764-81;Mamathambika and Bardwell,2008,Annu Rev Cell Dev Biol,24:211-35、Zhang et al.,2012,Anal Chem,84(16):7112-23、Van Buren et al.,2009,J Pharm Sci,98(9):3013-30、Zhang et al.,2019,Protein Expr Purif,164:105459)。
【0040】
ジスルフィド結合配座は、各IgGサブクラスに従って高度に保存される(Milstein,1966,Biochem J,101(2):338-51、Pinck and Milstein,1967,Nature,216(5118):941-2、Frangione and Milstein,1968,J Mol Biol,33(3):893-906、Frangione et al.,1969,Nature,221(5176):145-8)。例えば、IgG1分子は、
図1Aに示されるように、鎖間ジスルフィド結合によって共有結合した2つの重鎖(HC)及び2つの軽鎖(LC)からなる4本鎖構造を有する。鎖間ジスルフィド結合に加えて、1つの鎖内ジスルフィド結合が存在し、HCポリペプチド及びLCポリペプチドの各βバレルドメイン内でシールドされる(Zhang et al.,2002,Anal Biochem,311(1):1-9)。ヒンジ領域では、2つのHCは、2つの鎖間ジスルフィド結合によって共有結合される。
【0041】
典型的な治療用mAbは、約140kDaの分子量を有し、NMR(Klaus et al.,1993,J Mol Biol,232(3):897-906)、X線結晶学(Jones et al.,1997,Methods Enzymol,277:173-208)、及びEdman配列決定(Haniu et al.,1994,Int J Pept Protein Res,43(1):81-6)などの従来のジスルフィド結合マッピング方法の適用性を低下させる。液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)の急速な進化、及び生体分子分析におけるその成功した実施は、ジスルフィド結合スクランブル、遊離チオール、及びトリスルフィド結合形成のような非古典的なジスルフィド特徴の正規のジスルフィド結合形成及び同定を含む、mAb PQAの詳細なプロファイリングを可能にした。非還元ペプチドマッピングとして既知の、mAbジスルフィド結合を研究するための最も一般的なLC-MSアプローチは、ジスルフィド還元工程がなく、チオールアルキル化剤の量が少ない従来の還元ペプチドマッピングアプローチの修正版である(Li et al.,2015,State-of-the-Art and Emerging Technologies for Therapeutic Monoclonal Antibody Characterization Volume 2.Biopharmaceutical Characterization:The NISTmAb Case Study,pp.119-183、Formolo et al.,2015,State-of-the-Art and Emerging Technologies for Therapeutic Monoclonal Antibody Characterization Volume 2.Biopharmaceutical Characterization:The NISTmAb Case Study,pp.1-62)。トリプシンは、その高い特異性、効率、及びMS分析のための適切な長さのペプチドを生成する傾向により、最も一般的に使用される消化酵素である。得られた方法は、いかなる潜在的なジスルフィド結合も無傷のままで、mAbをペプチド種に酵素的に切断する。次いで、全てのペプチドをLC-MSによって分析し、UV検出器は、それらの保持時間に従って溶出分析物のUV吸光度を測定することによって「ペプチドフィンガープリント」を生成し、質量分析計は、これらの分析物をイオン化し、それらの質量対電荷比(m/z)を記録する。Byonicのような高度なタンパク質/ペプチド同定アルゴリズムに結合されたタンデム質量分析(MS2)機能を有する高分解能精密質量(HRAM)質量分析計は、ペプチドマッピング分析を簡素化したため、ジスルフィド連結ペプチドの敏感な同定及び遊離チオールの部位特異的な同定さえも今や日常的である。
【0042】
非還元ペプチドマッピングの高い選択性及び感度は、還元ペプチドマッピングに関連する欠点を継承し、実験条件及び試薬は、方法が完全に最適化され、注意深く開発されていない場合、ペプチド配列への交絡化学修飾を誘発することがある。非還元ペプチドマッピングの場合、スクランブルジスルフィド人工物は、アルカリ性pHでの加熱及び/又は酵素消化条件による変性などの試料調製工程に関連していることが判明した。これらの実験的に導入されたスクランブルジスルフィド人工物は、天然の治療用mAbにおけるそれらの既存のレベルに関する誤った解釈又は結論をもたらし得る(Liu et al.,2007、Zhang et al.,2002、Anal Biochem,311(1):1-9、Wu and Watson,1997,Protein Sci,6(2):391-8)。
【0043】
非還元分析中のジスルフィドスクランブル人工物を減少させるために、いくつかの戦略が開発されている。最も簡単なアプローチは、過剰な量のヨードアセトアミドを使用して遊離システインをアルキル化することであり、これは、いかなるスクランブルも起こり得る前に、本質的に全ての内因性遊離チオール及び人工チオールをキャップする。しかしながら、この方法は、望ましくないジスルフィド破壊を防止することができず、大過剰のヨードアセトアミドは、UVクロマトグラムで見えることがある他の残基の非特異的標識を引き起こす(Boja and Fales,2001,Anal Chem,73(15):3576-82;Muller and Winter,2017,Mol Cell Proteomics,16(7):1173-1187)。
【0044】
ジスルフィドスクランブルを最小化するための別の戦略は、酸性条件下での反応性が高いため、遊離チオールをN-エチルマレイミド(NEM)でキャッピングしながら、酸性pHで変性及び消化を行うことである(Ryle et al.,1955、Biochem J,60(4):541-56、Robotham and Kelly,2019,MAbs,11(4):757-766)。酸性pHにおけるトリプシンの低活性を回避し、消化効率を高めるために、低pHで許容される活性を有するペプシンのような代替酵素が使用されているが、非特異的な不規則な切断は、ジスルフィド結合の割り当てをかなり複雑にする。
【0045】
Promega(商標)によって開拓され、AccuMAP(商標)と呼ばれる消化キットとして産生された別の溶液は、酸性pHでrLys-C及びトリプシンを利用して、スクランブルを最小化しながらアルギニン及びリジン残基を効率的に切断する。ペプチドマッピング試料調製で一般的に使用されるトリプシン及び他のプロテアーゼは、タンパク質を効率的に消化するためにアルカリ性pHを好むため、AccuMAP(商標)消化キットであるキットは、特別な、低pH耐性の組換えLys-C(rLys-C)プロテアーゼでトリプシンを補充する。しかしながら、消化特異性及び効率性は依然として損なわれており、アッセイの再現性及びロバスト性を確保するために、トリプシンの高い消化特異性及び効率性を有するジスルフィドスクランブルを最小化する単一酵素アプローチが望ましい。
【0046】
本明細書の開示は、非還元トリプシン消化条件中にタンパク質中のジスルフィド結合がスクランブルするのを防止するための見事な解決策を提供する。標準的なペプチドマッピングプロトコルを、NEMの類似体(NEM)を使用して、天然遊離チオールのアルキル化に修正した。従来の非還元ペプチドマッピングプロトコルが実施されたとき、相対的に高いレベルのスクランブルジスルフィド結合が試料中で同定されたため、5つの自社のIgG1及びIgG4 mAbがこの研究で選択された。これらのmAbを使用して、非還元ペプチドマッピングプロトコルにマレイミド(疎水性が低いNEM類似体)を添加することが、ジスルフィドスクランブル人工物を排除することを実証した。本開示はまた、酸性条件でのマレイミドの使用と塩基性条件での消化を組み合わせた「半酸性」消化物条件についても考察する。これらの方法は、トリプシン消化の利点を維持しながら、タンパク質の確信した分析を可能にする。
【0047】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法及び材料と同様又は同等の任意の方法及び材料は、実施又は試験において使用され得るが、特定の方法及び材料が、これより記載される。言及されている全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
「a」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。
【0049】
いくつかの例示的な実施形態では、本開示は、関心対象のタンパク質を特性評価するための方法を提供する。
【0050】
本明細書中で使用される場合、「タンパク質」又は「関心対象のタンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含む。タンパク質は、一般に「ポリペプチド」として当該技術分野で既知の1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸残基、関連する天然に存在する構造変異体、及びその合成非天然に存在する類似体、関連する天然に存在する構造変異体、及びその合成非天然に存在する類似体から構成されるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、非天然に存在するペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が既知である。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つ以上のポリペプチドを含有し得る。タンパク質は、生物治療用タンパク質、研究又は治療に使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のいずれかを含み得る。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、ピキア種)、哺乳類系(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)などの組換え細胞ベースの生産系を使用して産生できる。生物治療用タンパク質及びその産生について考察する総説については、Ghaderi et al.“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,”(BIOTECHNOL.GENET.ENG.REV.147-175(2012))を参照されたい。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合で連結された部分を含む。それらの修飾、付加物、及び部分には、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ニューラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖類)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識及び他の染料などが含まれる。タンパク質は組成物と溶解度に基づいて分類できるため、球状タンパク質、繊維状タンパク質などの単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、リポタンパク質などの複合タンパク質、及び一次派生タンパク質、二次派生タンパク質などの派生タンパク質を含む。
【0051】
いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、又はFc融合タンパク質であり得る。
【0052】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互連結された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、超可変性の領域へと更に細分することができる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置された3つのCDR及び4つのFRで構成される。異なる例示的な実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得、又は天然若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義することができる。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成、又は遺伝子操作されたポリペプチド若しくは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、抗体可変ドメイン及び任意選択的に抗体定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現に関与するタンパク質分解消化技法又は組換え遺伝子操作技法などの任意の好適な標準的な技法を使用して、完全抗体分子から得られ得る。そのようなDNAは既知であり、かつ/又は例えば、商業的供給元、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、若しくは合成され得る。DNAは、化学的又は分子生物学技術を使用して配列決定及び操作され、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/又は定常ドメインを好適な配置に配置すること、又はコドンを導入すること、システイン残基を作成すること、アミノ酸を修飾、追加、若しくは削除することができる。
【0053】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、無傷の抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fc断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続される組換え一本鎖ポリペプチド分子である。抗体断片は、様々な手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、無傷の抗体の断片化によって酵素的又は化学的に産生することができる、及び/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に産生することができる。代替的に、又は更に、抗体断片は、全体又は部分的に合成的に産生され得る。抗体断片は、任意選択的に、一本鎖抗体断片を含み得る。代替的に、又は更に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結された複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含み得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当該技術分野で利用可能な又は公知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一クローンに由来することができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当該技術分野で既知の広範な技術を使用して調製することができる。
【0055】
本明細書で使用される「Fc融合タンパク質」という用語は、天然の状態で融合していない2つ以上のタンパク質のうちの一部又は全部を含み、そのうちの1つは、免疫グロブリン分子のFc部分である。抗体由来ポリペプチド(Fcドメインを含む)の様々な部分に融合したある特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.ScL USA 88:10535,1991、Byrn et al.,Nature 344:677,1990、及びHollenbaugh et al.,“Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins,”in Current Protocols in Immunology,Suppl.4,pages 10.19.1-10.19.11,1992によって記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、Fc部分に連結した受容体の1つ以上の細胞外ドメインのうちの1つ以上を含み、これは、いくつかの実施形態では、ヒンジ領域、続いて免疫グロブリンのCH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、Fc融合タンパク質は、単一リガンド又は1つを超えるリガンドに結合する2つ以上の明確に異なる受容体鎖を含有する。例えば、Fc融合タンパク質は、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したIL-1R1細胞外領域に融合したIL-1RAcPリガンド結合領域を含有するRilonacept、米国特許第6,927,004号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)、又はVEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含有するAflibercept、例えば、米国特許第7,087,411号及び同第7,279,159号(それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)などのトラップである。
【0056】
本明細書で使用される場合、「翻訳後修飾」又は「PTM」という一般用語は、ポリペプチドがリボソーム合成中(翻訳時修飾)又は合成後(翻訳後修飾)のいずれかで受ける共有結合修飾を指す。PTMは、一般に、特定の酵素又は酵素経路によって導入される。多くは、タンパク質骨格内の特定の特徴的なタンパク質配列(シグネチャー配列)の部位で生じる。数百のPTMが記録されており、これらの修飾は必然的に、タンパク質の構造又は機能の一部の態様に影響を与える(Walsh,G.“Proteins”(2014)second edition,published by Wiley and Sons,Ltd.,ISBN:9780470669853)。様々な翻訳後修飾としては、切断、N末端伸長、タンパク質分解、N末端のアシル化、ビオチン化(ビオチンによるリジン残基のアシル化)、C末端のアミド化、グリコシル化、ヨード化、補欠分子基の共有結合、アセチル化(通常、タンパク質のN末端でのアセチル基の付加)、アルキル化(通常、リジン又はアルギニン残基でのアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル)の付加)、メチル化、アデニル化、ADP-リボシル化、ポリペプチド鎖内又はポリペプチド鎖間の共有架橋、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存性修飾(プロリン及びリジンヒドロキシル化及びカルボキシ末端アミド化)、ビタミンK依存性修飾(ビタミンKは、γ-カルボキシグルタメート(グルー残基)の形成をもたらすグルタミン酸残基のカルボキシル化における補因子である)、グルタミル化(グルタミン酸残基の共有結合)、グリシル化(共有結合グリシン残基)、グリコシル化(糖タンパク質をもたらす、アスパラギン、ヒドロキシリシン、セリン、又はトレオニンのいずれかへのグリコシル基の付加)、イソプレニル化(ファルネゾール及びゲラニルゲラノールなどのイソプレノイド基の付加)、リポイル化(リポエート官能基の付加)、ホスホパンテイニル化(脂肪酸、ポリケチド、非リボソームペプチド及びロイシン生合成におけるように、4′-ホスホパンテイニル部分の補酵素Aからの付加)、リン酸化(通常はセリン、チロシン、トレオニン、又はヒスチジンへのリン酸基の付加)、及び硫酸化(通常はチロシン残基への硫酸基の付加)を含むが、これらに限定されない。アミノ酸の化学的性質を変化させる翻訳後修飾には、シトルリン化(脱イミノ化によるアルギニンからシトルリンへの変換)、及び脱アミド化(グルタミンからグルタミン酸へ又はアスパラギンからアスパラギン酸への変換)が含まれるが、これらに限定されない。構造変化を伴う翻訳後修飾には、ジスルフィド架橋の形成(2つのシステインアミノ酸の共有結合)及びタンパク質分解切断(タンパク質のペプチド結合における切断)が含まれるが、これらに限定されない。ある特定の翻訳後修飾は、他のタンパク質又はペプチドの付加、例えば、ISG化(ISG15タンパク質への共有結合(インターフェロン刺激遺伝子))、SUMO化(SUMOタンパク質への共有結合(低分子ユビキチン様修飾因子))、及びユビキチン化(タンパク質ユビキチンへの共有結合)を伴う。UniProtによって精選されたPTMのより詳細な統制語彙については、European Bioinformatics Institute Protein Information ResourceSIB Swiss Institute of Bioinformatics,EUROPEAN BIOINFORMATICS INSTITUTE DRS-DROSOMYCIN PRECURSOR-DROSOPHILA MELANOGASTER(FRUIT FLY)-DRS GENE&PROTEIN、http://www.uniprot.org/docs/ptmlist(最終訪問:2019年1月15日)を参照されたい。
【0057】
本明細書で使用される場合、「クロマトグラフィー」という用語は、液体又は気体によって運ばれる化学的混合物が、静止した液相又は固相の周りを又はそれを超えて流れる際の化学物質の分布の差の結果として、成分に分離することができるプロセスを指す。クロマトグラフィーの非限定的な例としては、従来の逆相(RP)クロマトグラフィー、イオン交換(IEX)クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、及び順相クロマトグラフィー(NP)が挙げられる。
【0058】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」という用語は、具体的な分子種を同定し、それらの正確な質量を測定することができる装置を含む。当該用語は、ポリペプチド又はペプチドが検出及び/又は特性評価のために溶出され得る任意の分子検出器を含むことを意味する。質量分析計は、イオン源、質量分析器、検出器という3つの主要な部分を含むことができる。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。分析物の原子、分子、クラスタは気相に移送され、同時に(エレクトロスプレーイオン化のように)イオン化される。イオン源の選択は、用途に大きく依存する。
【0059】
本明細書で使用される場合、「質量分析器」という用語は、質量に応じて種、つまり原子、分子、又はクラスタを分離できる装置を含む。高速のタンパク質配列決定に使用され得る質量分析器の非限定的例は、飛行時間型(TOF)、磁気/電気セクタ、四重極質量フィルタ(Q)、四重極イオントラップ(QIT)、オービトラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)及び加速器質量分析(AMS)の技術である。
【0060】
いくつかの例示的な実施形態では、自動反復MS/MSは、ネイティブな条件下で実施され得る。本明細書で使用される場合、「ネイティブな条件」という用語は、分析物中の非共有結合相互作用を保存する条件下で質量分析を実施することを含み得る。ネイティブMSの詳細な総説については、総説:Elisabetta Boeri Erba&Carlo Pe-tosa,The emerging role of native mass spectrometry in characterizing the structure and dynamics of macromolecular complexes,24 PROTEIN SCIENCE1176-1192(2015)を参照されたい。
【0061】
いくつかの例示的な実施形態では、質量分析計は、タンデム質量分析計であり得る。
【0062】
本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析」という用語は、複数段階の質量選択と質量分離を使用して試料分子の構造情報を取得する技術を含む。前提条件は、試料分子を気相に移し、無傷でイオン化できること、及び第1の質量選択工程の後、ある程度の予測可能かつ制御可能な様式でバラバラになるように誘導できることである。多段階MS/MS又はMSnは、有意義な情報が得られ、又は断片イオン信号が検出可能である限り、先ず前駆体イオンを選択して分離し(MS2)、断片化し、一次断片イオンを分離し(MS3)、断片化し、二次断片を分離し(MS4)、などによって実施することができる。タンデムMSは、様々な分析器の組み合わせで成功裏に実施される。ある特定の用途にどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、速度だけでなく、サイズ、コスト、可用性など、様々な要因によって決定される。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリは、タンデムインスペース及びタンデムインタイムであるが、タンデムインタイム分析器が空間内で結合されるか、又はタンデムインスペース分析器と結合されたハイブリッドも存在する。タンデムインスペース質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化装置、及び少なくとも2つの非トラップ型質量分析器を含む。特定のm/z分離機能は、機器の1つのセクションでイオンが選択され、中間領域で解離され、生成イオンがm/z分離とデータ収集のために別の分析器に送信されるように設計することができる。タンデムインタイムでは、イオン源で産生された質量分析計イオンを同じ物理装置内で捕捉、分離、断片化し、m/z分離することができる。
【0063】
質量分析計によって同定されたペプチドは、無傷のタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代理標本(surrogate representative)として使用することができる。実験及び理論的なMS/MSデータを相関させることによってそれらをタンパク質の特性評価に使用し得、後者は、タンパク質配列データベースにおける可能性のあるペプチドから生成される。特性評価は、限定されないが、タンパク質断片のアミノ酸配列決定、タンパク質配列決定、タンパク質デノボ配列決定、翻訳後修飾の位置特定、若しくは翻訳後修飾の同定、若しくは比較可能性分析、又はそれらの組み合わせを含むことができる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「データベース」という用語は、例えば、FASTA形式のファイルの形態で、試料中に存在し得る可能性のあるタンパク質配列の編集されたコレクションを指す。関連するタンパク質配列は、研究される種のcDNA配列に由来し得る。関連するタンパク質配列を検索するために使用され得る公開データベースには、例えば、Uniprot又はSwiss-protによってホストされているデータベースが含まれた。データベースは、本明細書で「バイオインフォマティクスツール」と称されるデータベースを使用して検索され得る。バイオインフォマティクスツールは、データベース(複数可)内の全ての可能な配列に対して解釈されていないMS/MSスペクトルを検索する能力を提供し、解釈された(注釈付けられた)MS/MSスペクトルを出力として提供する。そのようなツールの非限定的な例は、Mascot(www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(www.chem.agilent.com)、PLGS(www.waters.com)、PEAKS(www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(www.sagenresearch.com)、OMSSA(www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(www.proteinmetrics.com/products/byonic)、又はSequest(fields.scripps.edu/sequest)である。
【0065】
本明細書で使用される場合、「タンパク質アルキル化剤」又は「アルキル化剤」という用語は、タンパク質中のある特定の遊離アミノ酸残基をアルキル化するために使用される薬剤を指す。市販のタンパク質アルキル化剤の非限定的な例は、ヨードアセトアミド(IOA/IAA)、クロロアセトアミド(CAA)、アクリルアミド(AA)、N-エチルマレイミド(NEM)、メタンチオスルホン酸メチル(MMTS)、及び4-ビニルピリジン、又はそれらの組み合わせである。
【0066】
いくつかの実施形態では、試料中の関心対象のタンパク質を含む試料は、還元剤を試料に添加することによって処理することができる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「タンパク質変性」又は「変性」は、分子の三次元形状をその天然の状態から変化させるプロセスを指し得る。タンパク質変性は、タンパク質変性剤を使用して実行することができる。タンパク質変性剤の非限定的な例としては、熱、高pH又は低pH、DTTなどの還元剤、又はカオトロピック剤への曝露が挙げられる。いくつかのカオトロピック剤をタンパク質変性剤として使用することができる。カオトロピック溶質は、水素結合、ファンデルワールス力、及び疎水性効果などの非共有結合力によって媒介される分子内相互作用を妨げることによって、系のエントロピーを増加させる。カオトロピック剤の非限定的な例には、ブタノール、エタノール、塩化グアニジニウム、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、プロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオ尿素、N-ラウロイルサルコシン、尿素、及びそれらの塩が挙げられる。
【0068】
本明細書で使用される場合、「消化」という用語は、タンパク質の1つ以上のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解剤、例えば、酵素消化又は非酵素消化を使用して、試料中のタンパク質の消化を実行するためのいくつかのアプローチがある。タンパク質の構成ペプチドへの消化は、「ペプチド消化物」を産生することができ、これは、ペプチドマッピング分析を使用して更に分析することができる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「消化酵素」という用語は、タンパク質の消化を実施することができる多数の異なる薬剤のうちのいずれかを指す。酵素消化を実行することができる加水分解剤の非限定的な例としては、Aspergillus Saitoiからのプロテアーゼ、エラスターゼ、サブチリシン、プロテアーゼXIII、ペプシン、トリプシン、Tryp-N、キモトリプシン、アスペルギロペプシンI、LysNプロテアーゼ(Lys-N)、LysCエンドプロテイナーゼ(Lys-C)、エンドプロテイナーゼAsp-N(Asp-N)、エンドプロテイナーゼArg-C(Arg-C)、エンドプロテイナーゼGlu-C(Glu-C)、又は外膜タンパク質T(OmpT)、化膿レンサ球菌の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、V8プロテアーゼ、若しくは生物活性断片、若しくはそれらのホモログ、又はそれらの組み合わせが挙げられる。タンパク質消化のための利用可能な技術を考察する最近の総説については、Switazar et al.,“Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(Linda Switzar,Martin Giera&Wilfried M.A.Niessen,Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments,12 JOURNAL OF PROTEOME RESEARCH 1067-1077(2013))を参照されたい。
【0070】
本明細書で使用される場合、「試料」は、細胞培養液(CCF)、採取した細胞培養液(HCCF)、下流処理における任意の工程、原薬(DS)、又は最終的に製剤化された製品を含む医薬品(DP)などのバイオプロセスの任意の工程から得ることができる。いくつかの特定の例示的な実施形態では、試料は、清澄化、クロマトグラフィー産生、又は濾過の下流プロセスの任意の工程から選択され得る。
【0071】
本発明の方法は、ジスルフィド結合を特徴とする任意のタンパク質に適用され得る。いくつかの例示的な実施形態では、特定の用途は、抗体である関心対象のタンパク質の分析を伴う。いくつかの例示的な実施形態では、関心対象のタンパク質は、モノクローナル抗体である。いくつかの例示的な実施形態では、関心対象のタンパク質は、二重特異性抗体である。いくつかの例示的な実施形態では、関心対象のタンパク質は、組換えタンパク質である。
【0072】
本発明の方法の試料調製工程には、様々な変性剤、例えば、塩酸グアニジン又は尿素が使用され得る。いくつかの例示的な実施形態では、変性剤は、尿素である。尿素は、約6M、約6.1M、約6.2M、約6.3M、約6.4M、約6.5M、約6.6M、約6.7M、約6.8M、約6.9M、約7M、約7.1M、約7.2M、約7.3M、約7.4M、約7.5M、約7.6M、約7.7M、約7.8M、約7.9M、約8M、約8.1M、約8.2M、約8.3M、約8.4M、約8.5M、約8.6M、約8.7M、約8.8M、約8.9M、約9M、約9.1M、約9.2M、約9.3M、約9.4M、約9.5M、約9.6M、約9.7M、約9.8M、約9.9M、又は約10Mの濃度で使用され得る。いくつかの例示的な実施形態では、尿素の最適な濃度は、約8Mである。
【0073】
変性は、様々な条件で行われ得る。酸性pH条件は、ジスルフィドスクランブルを低減するために使用されている。
【0074】
いくつかの例示的な実施形態では、使用されるアルキル化剤は、マレイミドなどのNEM類似体である。マレイミドは、相対的に幅広い濃度で使用することができる。マレイミドの濃度は、約1mM、約1.1mM、約1.2mM、約1.3mM、約1.4mM、約1.5mM、約1.6mM、約1.7mM、約1.8mM、約1.9mM、約2mM、約2.1mM、約2.2mM、約2.3mM、約2.4mM、約2.5mM、約2.6mM、約2.7mM、約2.8mM、約2.9mM、約3mM、約3.1mM、約3.2mM、約3.3mM、約3.4mM、約3.5mM、約3.6mM、約3.7mM、約3.8mM、約3.9mM、約4mM、約4.5mM、約5mM、約5.5mM、約6mM、約6.5mM、約7mM、約7.5mM、約8mM、約8.5mM、約9mM、約9.5mM、又は約10mMであり得る。いくつかの例示的な実施形態では、マレイミドの最適な濃度は、約4.0mMである。
【0075】
非還元ペプチドマッピングに使用される消化酵素には、例えば、トリプシン、ペプシン、又はLysCのうちの1つ以上が含まれ得る。いくつかの例示的な実施形態では、消化酵素は、トリプシンである。トリプシンは、約1:5、約1:5.5、約1:6、約1:6.5、約1:7、約1:7.5、約1:8、約1:8.5、約1:9、約1:9.5、約1:10、約1:10.5、約1:11、約1:11.5、約1:12、約1:12.5、約1:13、約1:13.5、約1:14、約1:14.5、約1:15、約1:16、約1:17、約1:18、約1:19、又は約1:20の酵素:基質比で使用され得る。いくつかの例示的な実施形態では、トリプシンの最適な酵素:基質比は、約1:10である。
【0076】
消化は、約5、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、約5.5、約5.6、約5.7、約5.8、約5.9、約6.0、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、又は約8.0のpHで行われ得る。いくつかの例示的な実施形態では、消化のための最適なpHは、約7.5である。
【0077】
上記の方法は、関心対象のタンパク質の少なくとも1つのジスルフィド結合の特性評価を列挙しているが、この方法が様々な用途に拡張され得ることを理解されたい。少なくとも1つの関心対象のタンパク質を「特性評価すること」は、例えば、当該少なくとも1つの関心対象のタンパク質を同定すること、定量化すること、及び/又は比較することを含み得ることが更に理解される。
【0078】
本発明は、限定されないが、前述のタンパク質(複数可)、関心対象のタンパク質(複数可)、抗体(複数可)、タンパク質アルキル化剤(複数可)、タンパク質変性剤(複数可)、タンパク質還元剤(複数可)、消化酵素(複数可)、試料(複数可)、クロマトグラフィー方法(複数可)、質量分析計(複数可)、データベース(複数可)、バイオインフォマティクスツール(複数可)、pH、温度(複数可)、又は濃度(複数可)のうちのいずれか、並びに任意のタンパク質(複数可)、関心対象のタンパク質(複数可)、抗体(複数可)、タンパク質アルキル化剤(複数可)、タンパク質変性剤(複数可)、タンパク質還元剤(複数可)、消化酵素(複数可)、試料(複数可)、クロマトグラフィー方法(複数可)、質量分析計(複数可)、データベース(複数可)、バイオインフォマティクスツール(複数可)、pH、温度(複数可)、又は濃度(複数可)が、任意の好適な手段によって選択することができることを理解されたい。
【0079】
本明細書で提供される方法工程の数字及び/又は文字での連続した標識は、方法又はその任意の実施形態を特定の示された順序に限定することを意味しない。
【0080】
特許、特許出願、公開特許出願、受入番号、技術論文、及び学術論文を含む様々な刊行物が、本明細書全体を通して引用される。これらの引用される参考文献の各々は、参照によって、その全体が全ての目的のために、本明細書に組み込まれる。
【0081】
本開示は、本開示をより詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。それらは、実施例を例示することを意図しており、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0082】
材料。
トリフルオロ酢酸(TFA)及びアセトニトリルは、Thermo Fisher Scientific(Rockford、IL)から購入した。尿素、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)及びシスタミン二塩酸塩は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。AccuMap低pHタンパク質消化キット及び質量分析グレードのトリプシンプラチナは、Promega(Madison,WI)から購入した。Tris-HCl緩衝液(pH7.5)は、Invitrogen(Carlsbad,CA)から得た。精製されたモノクローナル抗体は、Regeneron(Tarrytown,NY)によって内部的に産生された。
【0083】
通常の非還元ペプチドマッピング法。
通常の非還元ペプチドマッピング試料調製のために、各mAb試料の200μgのアリコートを、100mMのTris-HCl溶液中に8Mの尿素を添加することによって約3.3μg/μLに希釈した。試料希釈後、NanoDrop2000(Thermo Scientific、MA)UV-Vis分光光度計を使用して、タンパク質濃度を測定した。各試料100μgのアリコートを、2.5mMのヨードアセトアミドでアルキル化し、暗所で30分間、50℃でインキュベーションした。次いで、各試料を100mMのTris-HCl(pH7.5)で8回希釈し、トリプシン+LysCで、37℃で3時間消化した。TFAを0.3%の最終濃度に添加することによって消化をクエンチした。
【0084】
低pH非還元ペプチドマッピング法。
PromegaからのAccuMAP低pHタンパク質消化キットを、低pHペプチドマッピング試料調製に使用した。プロトコルは、わずかな修正を加えて製造元の技術マニュアルに従った。
【0085】
(1)遊離システインのブロック:5μlのタンパク質溶液(50μgのタンパク質)を20μlのAccuMAP(商標)変性溶液に添加した。これに、6μlのAccuMAP(商標)10X低pH反応緩衝液及び2μlの200mM NEMを混合し、37℃で30分間インキュベーションした。(2)消化前:25μlのAccuMAP(商標)低pH耐性rLys-Cを添加し、混合し、37℃で4時間インキュベーションした。これらの工程中のpHは、5.7当たりに維持した。(3)消化:30μlのAccuMAP(商標)10X低pH反応緩衝液を添加した。これに、AccuMAP(商標)低pH耐性rLys-C又はAccuMAP(商標)修飾トリプシン及びAccuMAP(商標)低pH耐性rLys-Cを以下のように添加した:AccuMAP(商標)低pH耐性rLys-Cによる消化;207μlのNANOpure(登録商標)水及び25μlのAccuMAP(商標)低pH耐性rLys-Cを添加し、混合し、37℃で一晩インキュベートした。AccuMAP(商標)修飾トリプシン及びAccuMAP(商標)低pH耐性rLys-Cによる消化:187μlのNANOpure(登録商標)水及び25μlのAccuMAP(商標)低pH耐性rLys-Cを添加し、混合し、37℃で一晩インキュベートした。午前中、20μlのAccuMAP(商標)修飾トリプシンを添加し、混合し、37℃で3時間インキュベートした(トリプシンとのより長いインキュベートは、トリプシンがベースラインノイズに寄与する半トリプシン性ペプチドを生成する可能性があるため、推奨されない)。(4)反応の終了:TFAを2%の最終濃度に添加した。少量の試料をpH紙でチェックして、反応が適切に酸性化されていることを確認した。これらの工程中のpHは、5.3当たりに維持した。
【0086】
LC/UV-MS分析:
Thermo Scientific Q Exactive Plus質量分析計に結合されたWaters ACQUITY UPLC I-Classシステムを使用して、非還元消化試料を分析した。トリプシンペプチド混合物を、Waters ACQUITY UPLC BEH(登録商標)130 C18カラム(1.7μm、2.1mm×150mm)によって、0.25mL/分の流量で分離した。移動相Aは水中0.05%TFA、移動相Bはアセトニトリル中0.045%TFAであった。勾配を最初の5分間0.1%Bで維持し、次いで55分間で26%Bに増加させ、続いて35分間で34.5%Bに更に増加させた。試料注入前に、カラム温度を40℃に維持した状態で、カラムを99.9%移動相Aで平衡化した。MSデータをm/z300~2000のThermo Scientific Q Exactive Plus質量分析計で70k(m/z400)の分解能で取得し、続いて17.5kの分解能で5回のデータ依存性MS/MSスキャンを行った。MSフルスキャンを、1×106自動利得制御(AGC)、及び最大注入時間50msに設定した。MS2断片化は、1×105AGCで正規化衝突エネルギーが28%であり、最大注入時間が100msであるHCDを使用して実施した。動的排除期間を15秒に設定し、反復回数は一回であった。
【0087】
データ分析。
mAbタンパク質配列に対して生ファイルを検索することによって、Protein Metrics Byonic(商標)(バージョン3.11.3)を使用して、全てのペプチド同一性割り当て及び翻訳後修飾同定を実施した。1%FDRに対してフィルタリングすることにより、ユニークペプチドの予備リストを生成した。次いで、フルスキャン(MS1)ベースの最終ID検証のために、前駆体のリスト及びスペクトルライブラリとしての元の検索結果をSkyline Dailyソフトウェア(University of Washington、WA)にインポートした。ピーク面積は、Skylineソフトウェアを通じて全ての電荷状態を合計することによって抽出された。
【0088】
実施例1.低pH消化プロトコルを使用する非還元ペプチドマッピング
mAb1(IgG1抗体)及びmAb2(IgG4抗体)のタンパク質特性評価は、PromegaのAccuMAP低pH消化産生物によって公開されている低pH消化プロトコルを使用して実行された。
【0089】
mAb1のペプチドマッピング分析のUVクロマトグラムを
図1に示す。NEMの2つのUVピークは、15分及び20分当たりに現れる。これらのUVピークは、mAb1のペプチドピーク報告ウィンドウに干渉するように見える。同様に、mAb2については、NEMピークは、そのペプチドピーク報告ウィンドウに干渉するように見える(
図2)。
【0090】
酸性pHが、試料調製中のジスルフィドスクランブルを効果的に防止することができることは周知である(Wang et al.,2016,Anal Biochem,495:21-8、Liu et al.,2014,Mol Cell Proteomics,13(10):2776-86、Sung et al.,2016,Biochim Biophys Acta,1864(9):1188-1194)。
図1に示すように、最も豊富なジスルフィドスクランブルペプチドは、低pH条件下では観察されなかった。しかしながら、mAb1報告ウィンドウは、5分当たりでUV報告可能なピークを有する、HC-LCジスルフィドのピークを含む(
図3を参照されたい、配列番号1)。これは、タンパク質特性評価が、5分当たりからのより広いUV報告ウィンドウを含むことを必要とする。
【0091】
低pH消化法による複雑な問題は、酸性pH法が、試料調製中のジスルフィドスクランブルを効果的に防止することができるが、
図3に示されるように、15分及び20分の保持時間で強力な干渉ピークがUVクロマトグラムを支配することである。NEMは、各アルキル化システイン(4)について立体異性体を生成し、結果として、NEM-アルキル化ペプチドは、LC/MS及びUV HPLCにおいて二重ピークを産生する。このピークは、N-エチルマレイミド(NEM)アルキル化試薬ピークによるものである。UVクロマトグラムの品質へのその負の影響に加えて、この強力な試薬ピークは、mAb消化からの他のトリプシンペプチドピークをマスクし得る。また、NEMはRP-HPLC勾配の初期にそのような優勢なピークを形成するため、親水性ペプチドの分析に干渉する可能性がある。
【0092】
更に、酸性pHは、最も一般的に使用される酵素にとって理想的ではないため、低pH法の潜在的に低下した消化効率は、2つの消化酵素が使用された場合であっても、方法の再現性及び精度を損なう可能性がある。酸性pH条件下での誤って切断された部位の数の増加は、クロマトグラムに無関係な特徴を付加し、ジスルフィドペプチドの割り当てを混乱させる。これらの有害因子の全ては、UVベースのペプチドマッピング法適格性評価のための低pH法に悪影響を及ぼす。したがって、塩基性pH条件で試料調製中にジスルフィドスクランブルを制限することができる方法の必要性が存在する。
【0093】
実施例2.非還元ペプチドマッピング法のためのNEM様アルキル化剤
NEMは、アルキル化剤として業界で広く使用されている。それは、ひずんだ環構造の高反応性に起因して、高速かつ完全なアルキル化を実施する。更に、任意のプロトコル誘発ジスルフィドスクランブルは、酸性pHでほぼ完全にブロックされる。しかしながら、上記実施例1のmAb1及びmAb2に見られるように、保持時間が20分かつ強いUV信号を有するNEM優性ピークは、クロマトグラムと干渉するため、懸念を提起する。
【0094】
低pHでの試料調製中にアルキル化剤としての高い反応性及び安定性を維持しながら、NEMの疎水性を低減することによって、20分間の保持時間を理論的に短縮することができる。
【0095】
mAb1のタンパク質特性評価は、PromegaのAccuMAP低pH消化産生物によって公開されている低pH消化プロトコルを使用して実行された。しかし、このプロトコルは、NEMを(a)マレイミド、(b)マレアミド、及び(c)N-ヒドロキシマレイミド(その構造を
図4に示す)に置き換えるように修正された。これらの類似体は全て、NEMよりも親水性が高い。
【0096】
(a)マレイミド、(b)マレアミド、及び(c)N-ヒドロキシマレイミドを使用するmAb1のペプチドマッピング分析のUVクロマトグラムを、NEMを使用するmAb1のペプチドマッピング分析のUVクロマトグラム上に重ねたものとして、
図5に示す。(a)マレイミド、(b)マレアミド、及び(c)N-ヒドロキシマレイミドのUVピークのうち、マレイミド及びマレアミドのUVピークは、5分の保持時間の前に現れる。したがって、これらのピークは、mAb1及び概してほとんどのタンパク質のペプチドピーク報告ウィンドウにいかなる干渉ももたらさない場合がある。
【0097】
実施例3.NEM代替物によるジスルフィドスクランブルの防止
mAb3(IgG4抗体)のタンパク質特性評価は、低pH非還元消化法によって公開されている低pH消化プロトコルを使用して実行された。加えて、プロトコルは、NEMを(a)マレイミド、(b)マレアミド、及び(c)N-ヒドロキシマレイミドに置き換えることによって繰り返された。
【0098】
PromegaからのAccuMAP低pHタンパク質消化キットを、低pH非還元ペプチドマッピング試料調製に使用した。プロトコルは、わずかな修正を加えて製造元の技術マニュアルに従った。簡潔に述べると、試料(100μg)を、8Mの塩酸グアニジン、pH約5.6溶液を使用して約5μg/μLに希釈した。希釈した試料を8mMのN-エチルマレイミド(NEM)中でアルキル化し、50℃で30分間、5.7のpHでインキュベートした。アルキル化された試料を、キットからの低pH耐性rLys-Cを使用して、37℃で1時間予め消化した。次いで、試料を低pH反応緩衝液で5倍に希釈し、製造元によって指定された酵素:基質の比率に従って、修飾トリプシン及び低pH耐性rLys-Cを添加することによって更に3時間消化した。消化を、LC-MS分析の前に、TFAを0.3%の最終濃度に添加することによってクエンチした。
【0099】
(a)マレイミド、(b)マレアミド、及び(c)N-ヒドロキシマレイミドの添加がジスルフィドスクランブルを防止する程度を試験するために、2つのジスルフィドスクランブルペプチドをmAb3:
について評価した。
【0100】
図6A及び
図6Bに示されるように、最良の結果は、NEM、マレイミド、及びN-ヒドロキシマレイミドを使用した場合に得られ、アルキル化遊離チオールとしての2つのペプチドのピーク面積は、非アルキル化遊離チオールと比較して有意であった(
図6B)。最後に、スクランブルペプチドは、NEM、マレイミド、及びN-ヒドロキシマレイミドによって、無視できるレベルに有意に低減された。したがって、NEMの代わりにマレイミド及びN-ヒドロキシマレイミドを使用することは、ジスルフィド(C137H~C150H)のジスルフィドスクランブルを同程度に防止することができる(
図6Cを参照されたい)。しかしながら、マレアミドはゆっくりと反応し、マレイミド及びN-ヒドロキシマレイミドと同様のアルキル化プロファイルを産生しなかった(
図6A~
図6C)。
【0101】
マレイミドは、スクランブルジスルフィドペプチドの完全ブロックを伴うNEMと同じくらい反応性であることが判明したため、NEMの貴重な代替物を提供した。NEM及びマレイミドによる消化プロファイルは同等である。これらの間の唯一の有意差は、試薬のピークによるものである(
図7)。また、4分(150mm C18カラム)の保持時間を有し、したがって、UVペプチド報告ウィンドウ(5~80分)がない。最後に、それはまた、日常的なタンパク質の特性評価に使用される安価な代替物を提供する。
【0102】
実施例4.非還元ペプチドマッピング消化法に対する異なる濃度のマレイミドの影響。
mAb3(IgG4抗体)のタンパク質特性評価)を、アルキル化剤を使用せず(対照)、1mMマレイミド、2mMマレイミド、及び4mMマレイミドを使用して、実施例3に記載される低pH消化プロトコルにより更に実行した。
【0103】
マレイミドの濃度がジスルフィドスクランブルを防止することができる程度を試験するために、2つのジスルフィドスクランブルペプチドを、mAb3:
について評価した。
図8A及び8Bに示されるように、最良の結果は、4mM及び8mMのマレイミドを使用した場合に得られ、アルキル化遊離チオール(
図7A)としての2つのペプチドのピーク面積は、非アルキル化遊離チオール(
図8B)と比較して有意であった。≧1mMのマレイミドの使用は、ほぼ99%のアルキル化効率を提供した。最後に、スクランブルペプチドを、2mM、4mM、及び8mMのマレイミドを使用することによって、無視できるレベルに還元した。したがって、4mM以上のマレイミドの使用は、ジスルフィド(C137H~C150H)のジスルフィドスクランブルを完全にブロックすることができる(
図7Cを参照されたい)。しかしながら、マレアミドはゆっくりと反応し、マレイミド及びN-ヒドロキシマレイミドと同様のアルキル化プロファイルを産生しなかった(
図8A~
図8C)。
【0104】
実施例5.マレイミドを使用する半酸性消化法
PromegaからのAccuMAP低pHタンパク質消化キットは、「一般的な還元剤及びアルキル化剤はアルカリ性pHを好む。アルカリ性pHは脱アミド化及びジスルフィド結合スクランブルを誘発するため、[修正された手順]は低pHに適合させられる。」という推定に基づいている。しかしながら、この方法は、
図9に見られるように(アスタリスクでマークされた)ユニークペプチド切断を同定しない消化物プロファイルをもたらす可能性がある。
【0105】
mAb4(IgG1抗体)のタンパク質特性評価は、実施例2で実施されるように、8mMのマレイミドを使用する低pH非還元タンパク質マッピング消化方法によって公開されている低pH消化プロトコルを使用して実行された。これは、任意のスクランブルが起こり得る前に、全ての内因性遊離チオール及び人工チオールを本質的にキャップするヨードアセトアミドを使用する従来の消化物(通常の非還元ペプチドマッピング法による)と比較された。この方法は、7.5のpHで実施される。
【0106】
マレイミドを使用する非還元ペプチドマッピング方法を、5.3のpHで低pH修飾トリプシン及び/又は低pH耐性rLys-Cを使用する代わりに、従来の方法で使用される消化プロトコルを適合させるように修正し、1:20E/Sのトリプシン、1:50E/SのrLysCを使用して、7.5のpHで消化を実行した。そのような半酸性プロトコル(酸性条件でのアルキル化及び非酸性条件での消化)の結果として得られたペプチドマッピングは、従来の消化物によるマッピングと同等であった(通常の非還元ペプチドマッピング法による)(
図10を参照)。半酸性法は、従来の非還元ペプチドマッピング法では観察されなかった3つの異なるペプチドを同定することができる(52分、55.5分、及び69.8分におけるペプチドを参照されたい)。
【0107】
実施例6.マレイミドを使用する半酸性消化法の再現性
IgG4抗体、mAb5の半酸性消化物プロファイル及び従来の消化物プロファイルを評価した。mAb5のタンパク質特性評価は、実施例2で実施されるように、8mMのマレイミドを使用する低pH非還元タンパク質マッピング消化法によって公開されている低pH消化プロトコルを使用して実行された。これを、トリプシン+LysC(7.5のpHで)の代わりにトリプシンのみを使用する従来の消化物(通常の非還元ペプチドマッピング方法による)と比較した。mAb4について見られるように、低pH非還元ペプチドマッピングを使用して得られた消化物プロファイルと従来のペプチドマッピングとは一致しない(
図11を参照して、非還元ペプチドマッピングによって同定されないユニークペプチドは、アスタリスクでマークされる)。
【0108】
マレイミドを使用する非還元ペプチドマッピング方法を、5.3のpHで低pH修飾トリプシン及び/又は低pH耐性rLys-Cを使用する代わりに、従来の方法によって使用される消化プロトコルを適合させるように修正し、1:20のE/Sトリプシンを使用して、7.5のpHで消化を実行した。そのような半酸性プロトコルの結果として得られたペプチドマッピングは、従来の消化物によるマッピングと同等であった(通常の非還元ペプチドマッピング法による)(
図12を参照されたい)。半酸性法は、低pH非還元ペプチドマッピング法では観察されなかった別個のペプチドを同定することができる(52.6分でのペプチドを参照されたい。
【0109】
最後に、ジスルフィドスクランブルに対する消化条件の影響を比較するために、条件の各々から得られた、mAb4からのジスルフィドスクランブルペプチドの正規化されたピーク面積と、mAb5からのジスルフィドスクランブルペプチドの正規化されたピーク面積とを比較することによって、異なる消化条件からの結果を比較した。
図13は、酸性及び塩基性消化を伴うマレイミドの使用が、無視できるレベルのジスルフィドスクランブルをもたらすことを示している。
【0110】
本明細書で開発される方法は、Promegaの「低pH消化キット」などの市販のキットよりもいくつかの利点を提供し、これは、独自の緩衝液/試薬を使用して、完全に酸性条件下で消化を実施し、ジスルフィドスクランブル及びいくつかの他のPTMを最小化するように開発され、従来の塩基性pH消化と比較して有意差(非特異的切断)を有する消化ペプチドプロファイルを作成する。そのような市販キットは、本明細書に記載の方法開発後、非還元ペプチドマッピングアッセイのためにもはや旧式となっている。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】